昆虫の展示即売会に行った回の続きです。
え~と、前回は本来書くべき事から脱線してしまい、そのまま終わってしまいました。理由は脱線した地点から軌道修正するのが面倒になったからです。
オデ、オデ、バカだから、そんな文章力はないのである。
展示即売会に行った一番の目的はコレです。
『タイ国の蝶 Vol.3 タテハチョウ編』¥10000
これを竹さんに頼んでいたのだ。
何か知らんけど、定価の一万円よりマケてもろた。竹さん、ありがとう。
Vol.1のセセリチョウ・アゲハチョウ・シロチョウ編とVol.2のシジミチョウ編は既に購入済みで大いに参考になった。だけど、タテハ好きとしてはこの第3巻が一番見たかった。でも、去年の秋に発売されてから、色々と紆余曲折があって、中々手元に届かなかった。だから、待ちに待った待望の第3巻なのである。
タイやラオスに何度か蝶採りに訪れているけど、正直採った蝶が何者なのか殆んど解らないと云うのが現状だった。
蝶を採ったり、撮ったりした時の楽しみの一つに、それが何という種類なのかを調べるというのがある。
その蝶が何という名で、どこのグループに属していて、どれくらい珍しいか、どんな分布をして、どんな生態をしているのかを知ることは、知的探求心を大いに刺激してくれるのだ。
早速、中身を見てみる。
(-“”-;)……。
ワケ、ワカランよ。
コレで色んな蝶の名前が判るかと思ったが、益々混迷を増幅させただけだ。
思った以上に分類が細分化されており、似たようなのが一杯いるのだ。
先ず、ミスジチョウ類がワケワカラン。
ユータリア(イナズマチョウ)とかも地味なのはワカラン。
ヒカゲチョウ類も、(゜〇゜;)はあ❓って感じ。
ウラナミジャノメにいたっては、(@_@;)じゃよ。
似たような種類が腐るほどいて、もうワケワカメさ。
竹井くんだったら大喜びだろうけど、力不足のワシには混乱の極みだ。さしづめ、ウラナミジャノメ地獄だわさ。
結構、各地でシコシコとウラナミジャノメ類は採ったけど、同定する気にもなれないや。
どうせ、ワケわかんなくなって、『(`□´)ガッデーム❗』とか叫ぶに決まっているのである。
それは置いといて、気になったのは和名。
聞き慣れないような和名のオンパレードなのだ。
多分、わざわざ図鑑の為に新たに和名をつけたのだろう。
例えば、Lexiasオオイナズマ属。
キアニパルダスオオイナズマ(Lexas cyanipardus)なんかは、最初に探した時にすぐに見つけられなかった。学名を頼りに探してようやく見つけたら、何とただの「オオイナズマ」という和名がついているではないか。
それは無いでしょうって感じだ。
大珍品なのに、名前に威厳の欠片(かけら)もござらぬ。一番デカイんだから、頭にダイオウなりオウサマなりマハラジャなり付ければ解りやすいのにさ(それはそれでダサいとは思うけど…)。
それにオオイナズマといえば、従来ならLexias dirteaかLexias pardalisを指す事が多いだろう。
補足すると、これまたややこしい話なのだが、最初はLexias dirteaにオオイナズマの和名が与えられていた。しかし、1種類だと思われていたものが、近年二種類が混じっている事が判明した。だから、現在は前者L.dirteaをヤマオオイナズマ、後者L.pardalisをサトオオイナズマと名付けて区別するようになったのだ。
混同されていただけに、見た目はほぼ同じ。
ディルテアの触角の先は黒くて、パルダリスは黄色い事から辛うじて見分けられる。
思うに、そもそもディルテアに従来のオオイナズマの和名を宛て、パルダリスにニセオオイナズマなり別の和名を宛てれば、こんなややこしい事にはならなかったのではないかと思う。
だいたい、ヤマオオイナズマやサトオオイナズマという和名もややこしい。標高の低いところにもディルテア(ヤマオオイナズマ)はいるし、反対に標高の比較的高い場所にパルダリス(サトオオイナズマ)がいたりもするのだ。同じ場所で両方とも採れる事も結構あったりする。(・┰・)メンドクセー。
じゃあ、アルボプンクタータオオイナズマ(Lexas albopunctata)は❓と思い、次のページをめくってみる。
( ̄▽ ̄;)あちゃー、クロオオイナズマとなっていた。
クロオオイナズマかあ…。確かにアルボは他のオオイナズマとは違い、♂が黒っぽいから理解できなくもない。
けど、あまりに素っ気ない名前だ。学名そのままのアルボプンクタータの方が遥かに高貴な感じの名前だし、如何にも珍品っぽいじゃないか。
それに、インドネシアのビリトン島辺りにも黒いオオイナズマ(註1)がいた筈だ。そっちの方がよっぽど黒かった記憶があるぞ。
アルボプンクタータの欄の上に、画像の無いオオイナズマの名前があった。
『スンダクロオオイナズマ』❓
何じゃ、そりゃ⁉ 聞いた事がない。
Σ( ̄ロ ̄lll)えーっ、写真も無いってことは、もしかして幻の大珍品かあ❓
しかし、学名を見たら、Lexias bangkanaとなっている。
なあ~んだ、マレー半島南部(マレーシア)から南、スマトラ島やバンカ島、ビリトン島、ボルネオ島に分布する珍品バンカナオオイナズマの事じゃないか。
あれれ❓でもタイにはいない筈だよね。
下の解説を読む。なるほどね、一応タイ南部の記録はあるものの、どうやらそれは間違いのようで、本当はマレーシアのジョホール産のものらしい。
それにしても、何でわざわざスンダクロオオイナズマと新たに名付けんだろう❓バンカナオオイナズマの名前で充分浸透していると思うんだけど…。
Mimathyma ambica アンビカコムラサキも新たな和名がつけてあった。
(。^。^。)アハハハハ、「カグヤコムラサキ」だってさ。かぐや姫にあやかったって事❓
もうこの蝶の和名って、いっぱい有り過ぎてワヤムチャやなあ。
大図鑑『東南アジア島嶼の蝶』では、たしかイチモンジコムラサキという和名がついていた。それ以来、色んな人が勝手に和名をつけて今や全部で5個もあるってワケだね。
まあ長くなるし、この辺のことはまた別な機会に詳しく書きます。
カギバイナズマ(Dophla evelina)も新たな和名がつけられていた。
ベニモンイナズマだとさ。
ネーミングの意図は解らないでもないが、無理やりっぽい。ベニモンといっても、赤い紋はちよっとしかない。
従来、「カギバイナズマ」が一般的な和名だったと思うけど、『東南アジア産蝶類生活史図鑑』では、「トビイロイナズマ」という名が与えられていた。そう悪い名前ではないが、個人的にはカギバイナズマの方がしっくりくる。
でも、学名を冠したエヴェリナイナズマが一番優雅そうな名前だ。女性っぽい名前や王様、貴族的な名前の方がカッコイイ。
それにしても、この和名が幾つもあるのって何なのだろう❓
和名か気に入らない故の自己顕示欲合戦なの❓
最近思うんだけど、この和名の付け方に何らかのルールを設けた方がええんちゃうのん❓と思う。ルールが無いから、みんな好き勝手につけているのが現状なのだ。ピッタリな和名なら異論は無いが、ダサいのとか、混乱を招く和名は業界新参者としては正直やめて欲しい。
それに、和名なんて現地に行けば全然伝わらないのである。だから、最初は意志の疎通が出来なくて困った。当たり前だが、現地の人は余程の事がない限り和名なんて知る由もないのである。
思うんだけど、一部の有名且つ秀逸な和名以外(例えばシボリアゲハとかフトオアゲハなど)は、学名を冠した名前にプラスアルファで和名の科名や属名をつけ加えるだけでいいのではないかと思う。
つまり、Lexias albopunctataはアルボプンクタータオオイナズマ、Lexias bangkanaはバンカナオオイナズマ、Dophla evelinaはエヴェリナイナズマでいいのではないかと思うのだ。
結構ブツクサ言ったが、和名の件以外は素晴らしい図鑑だと思う。
筆頭著者の木村勇之助氏は早くからタイの蝶について精力的に調べられ、現地の研究者にも多大なる影響と恩恵をもたらした人だけに、その情報量は半端ないと思う。この図鑑を見れば、インドシナ半島からマレー半島に棲む蝶の名前はほぼわかるのではないかと思う。
きっと、この図鑑を作る為には数多のフィールドワークと膨大なる標本数を検しての種の同定、そしてそこには気の遠くなるような労力と時間が費やされてきたのだと思う。凄い事だ。とても真似の出来ることではない。
有り難いのは、各蝶の採集地名と採集年月日が添えられている事だ。これは自分で採集するなり、撮影する時の大きな参考になる。
簡単な分布図があるのも助かる。一目でどの辺りの地方に生息するか、北方由来なのか南方由来の蝶なのかが解るのだ。
巻末に採集地の地名一覧、参考文献、タイの蝶のシノニムリストがあるのも何かと役に立ちそうだ。
前半は文句ばかり並べたが、そこが本意ではない。
タイやラオス、マレーシア、ベトナムに採集・撮影に行かれる人には大いに参考になる優れた図鑑なので、是非とも手元に置かれる事をお薦めします。
追伸
まあ、和名について好き勝手に書きましたが、新参者の戯言だと思って下されば幸いです。業界には自分の預かり知らぬ事もあるやもしれませんしネ。
【註1】黒いオオイナズマ
調べたら、ビリトン島の黒いオオイナズマは、Lexias immaculataインマクラタオオイナズマというそうだ。
(出展『蝶の楽園…展翅の小部屋』)
http://s.webry.info/sp/karna1.at.webry.info/201207/article_11.html
コレ、♀なんだとさ。
♂は他のオオイナズマと少し違うが、基本的には下翅に青緑色の帯がある。
この島にはバンカナオオイナズマもいて(亜種b.nemoralis)、コチラも♀が黒いのだ。
(出展『東南アジア島嶼の蝶』)
それでもインマクラタオオイナズマの方が黒い。