去年は春の3大蛾のうち、ついぞイボタガとオオシモフリスズメを見れなかった。
なので、今年は何とか会っておきたいと思った。
【エゾヨツメ】
【オオシモフリスズメ】
【イボタガ】
しかし、箕面で灯火回りをするも惨敗。
その後はずっと天気が良く、出動できなかった。月齢も悪くて月夜続きだったのだ。天気が良いのに何でと訝(いぶか)る向きもおられるだろうから、一応説明しておく。
蝶採りの場合は晴天が好条件となるが、蛾の灯火採集の場合は反対に曇天や小雨の天候の方が好条件となるのである。
蝶と比べて蛾が気の毒なのは、夜の住人だからだ。今でこそ、夜になっても光が溢れているが、古(いにしえ)の時代はそうではなかった。昔は今よりもずっと闇は深く、人々はその闇を怖れていたのだ。その闇から湧き出る蛾は魑魅魍魎の化身であり、畏怖の対象になったとは考えられまいか。その記憶の遺伝子が現代人にも引き継がれているのではなかろうか…。そんな気がする。
我々現代人は今の時代のモノサシで全てを計ってはいけない。昔の方が今よりも闇が深かったゆえに、数々の幻想的な物語や奇っ怪な伝説、伝承が誕生したとも言えるのだ。そこに人々は想像力を掻き立てられ、ドラマツルギーにも大きな影響を与えた筈だ。
冒頭からワケのわからぬことを言ってしまった。御託はこれくらいにして、話を進めよう。
2020年 4月17日。
久々に良さげな天気予報で、曇天且つ気温も高め、翌朝は雨となっていた。灯火採集には好機である。
んなワケで小太郎くんを誘ったら、車で来ると云う。
午後8時前に奈良の富雄駅でピックアップしてもらい、近大農学部方面へ。
しかし、駐輪場の外灯には何もいない。ここの外灯は去年の春までは水銀灯で、色んな虫がバンバン寄って来ていたのだが、夏に入るとLEDライトを残して突然消灯されてしまった。秋になって復活したと思ったら、何にも寄って来なくなっていた。一見して水銀灯っぽいライトなのだが、たぶん水銀灯モドキのLEDなのだろう。早々と諦め、南へ向かう。
しかし、昨年の秋までは水銀灯にバシバシにウスタビガが飛んで来ていた葬儀場もLEDに替わっていた。そして、橋上の水銀灯は消えていた。最悪である。これで確実に水銀灯があるのは、この地域では知る限り1箇所だけとなった。
けど、泣きっ面に蜂。そこも質も量もダメでロクなもんがおらん。オオシモフリの羽が落ちていただけだった。
ならばと、新たな水銀灯を探し求めて信貴山方面を探索する。
なんとか幾つかの水銀灯を見つけたが、なぜか何にも来とらん。天気、気温、湿度共に良い筈なのに何でやのん(╥﹏╥)
仕方なしに、オオシモフリの羽が落ちていた水銀灯に戻る。
時刻は既に午後11時近くになっている。しかし遠目に見ても、水銀灯の周りにはロクすっぽ何も飛んでなくて、全く活性が入っていない。時刻的にはゴールデンタイムなんだけどなあ…。
エゾヨツメは日没直後に現れるが、オオシモフリは9時過ぎ頃から飛来が始まり、午前零時前後に個体数が多い。イボタガはオオシモフリより飛来が遅れ、午後10時以降、多くは午後11時を過ぎてから現れるのだ。
だが、近づくも状況は全くもってヨロシクないままだ。ホント、泣きたくなるくらいに何もおらん。
そんな中、小太郎くんから声が飛ぶ。
「屋根の庇に何か大きいのが止まってますよ。」。
見ると、そこには大きなスズメガが止まっていた。
しかし、大きいとはいえどもオオシモフリと比べれば小さいし、遥かに迫力に欠ける。邪悪性も感じられない。オオシモフリくんはバケモン的存在で、ネズミくらいはあるのだ。下手したら、ネズミよかデカイかもしんない。もうオーラが全然違うのだ。またチューチュー鳴いてくれよ、オオシモフリちゃん。
それはそうと、このスズメガって何じゃらホイ(・o・)
この時期にいるスズメガっていたっけ 見たことも聞いたこともないぞ。普通スズメガの仲間って、コスズメとかベニスズメ、キイロスズメなど早いものでも5月に入ってから現れると云うイメージしか持ち合わせていない。
取り敢えず、もっと近くで見てみようと下から網で突っついたら、イヤイヤしよる。何ゆえ、そんなところに固執するのかね?キミにはキミの事情があるかもしれないが、許しません
更に強引に突っついたら、網の縁にポテッと落ちよった。
で、動かない。
(ー_ー゛)うーむ、何じゃこりゃ
上翅の柄がオシャレっちゃオシャレで、まあまあ渋カッケーかもしんない。たぶん見たことがないスズメガだ。小太郎くんに何ぞや?と訊いてみたが、彼もワカラナイと言う。
もしかしたら、稀少種とか海外から飛来した迷蛾かもしれないと云う考えが頭を掠(かす)める。マホロバキシタバ(註1)に引き続き、又してもイガハヤコンビで新発見とちゃうかーと云うスケベ心がムクムクと湧き上がってくる。
とはいえ、ススメガは蛾を噛り始めた2018年は一応採っていたものの、次第に無視するようになった。普通種は一通り採ったと云うのもあるが、所詮はデフだと解ったので興味を失ったのだ。ススメガの仲間は止まっている姿はシャープで結構カッコいいから、つい採ってしまってたんだけど、展翅するとイマイチ格好良くないのだ。それを思い出して、上がったテンションがソッコー下がる。
と云うワケで、持ち帰るかどうか迷った。殺すのが面倒くさいし、持ち帰ったら展翅しなければならない。それもまた面倒くさいからだ。
だが、まあまあカッコイイし、採らないと後に正確な同定が出来ない。それに、もしも珍品だったら後々に地団駄を踏みかねない。しゃあない。持ち帰ることにした。
12時過ぎまで待ったが、他に飛んできたのはボロボロのアケビコノハだけだった。一瞬でも、すわっエゾヨツメのメスかと思った自分が呪わしいよ。
【アケビコノハ】
その後、天理、山添村と足を伸ばしたが、悲しいくらいに何もいなかった。そのうち無情の雨が降り出し、ジ・エンド。吉野家で牛丼食って、始発で帰った。
あ〜あ、今年もオオシモフリ、イボタガには会えずじまいで終わりそうだ。
翌日、小太郎くんからLINEが入った。
彼の言によると、あのスズメガ、どうやらハネナガブドウスズメという名前らしい。
ネットでググると画像がいっばい出てきた。なんじゃい、って事は普通種やんけー(ノ´・ω・)ノ ミ ┻━┻。
一瞬、捨てたろかと思ったが、殺めといてそれもしのびない。それに画像検索しても生態写真ばかりで、展翅画像が殆んどない。だから、どんな奴なのか全体像がイマイチ把握しきれない。というワケで、超久し振り、2年振りにスズメガを展翅してみた。
【ハネナガブドウスズメ】
スマホを買い替えたら、勝手に補正して色がドギつく映りよる。茶褐色で、やや紫がかってはいるが、本当はこんなに赤っぽくは見えない。
なので、前のスマホで撮り直した画像も貼り付けておく。
(2020.4.21 奈良県生駒郡平群町)
十全とは言えないが、こっちの方がまだ実物に近い。
ところで、コレってオスなのかなあ?メスなのかなあ?
多分ススメガの仲間だから雌雄同型なんだろうが、ワカラン。
お手本がないので適当に展翅したが、こんなもんかなあ…。
蛾は翅の形が個性的なモノが多くて、正解を見い出しづらい。
一応、ネットからパクった裏面写真も貼付しておきます。
[裏面]
(出典『Wikipedia』)
それにしても、やっぱスズメガは胴が太くて、下翅が小さいや。だから高速で飛べるのだろうが、この胴体と翅とのバランスがどうも好きになれない。オオシモフリは上翅がジャックナイフみたいでカッコイイから許せるが、他はだいたい形がおとなしいのだ。あと許せるスズメガの仲間といえば、オオシモフリと同じく禍々しい出で立ちのメンガタスズメ、クロメンガタスズメと色柄が美しいイブキスズメ、キョウチクトウスズメくらいだ。
それはそうと、下翅がやっぱり地色一色のベタで柄が無いなあ。これは別にスズメガの仲間に限ったことではなくて、蛾の多くがこのパターンである。だから、展翅の時に翅を開いてみて、ガッカリすることが多々ある。
対して蝶は殆んどの種類が上下ともに柄がある。そこが蝶の方が人気のある理由の一つになっているのかもしれない。このハネナガブドウにしたって、上翅は中々にスタイリッシュなのに惜しい。下翅も上翅と同じようなデザインならば、印象が相当変わるだろうに。正直、上翅のデザインに関しては蛾の方がバリエーション豊富で、デザイン性が高いのではないかとさえ思うことがある。でも下翅がねぇ…。
それに蛾は裏の色柄がイマイチなモノも多い(ハネナガブドウは、まだマシな方)。そのへんも残念なところだ。
思うに、これは蛾は蝶のように翅を立てて止まるものが少なく、下翅を見せずに三角形の形で平面的に止まっているものが多いからではなかろうか 見られることが少ないゆえに下翅や裏面は手を抜いてるんじゃないか
そう疑いたくもなるよ。言っとくけど、あくまでも総体的な話で、例外は多々あるけどね。
普通種とはいえ、一応どんな奴かをザッと頭に入れておくことにした。これも一つの出会いである。知っておいて損はなかろう。
【科・属】
科:スズメガ科(Sphingidae)
ホウジャク亜科(Macroglossinae)
属:Acosmeryx Boisduval, 1875
意外にもホウジャク亜科なんだね。全然ホウジャクっぽくないけどさ。
そういえば Barをやってた頃の客の彼女に、ホウジャクかオオスカシバかはワカランが、『アタシ、近所でハチドリを見た』と強く言い張る若いバカな女がいたな。顔は可愛いが、頭が悪いクセに強情な女で大嫌いだった。思い出したら、段々腹が立ってきた。日本にハチドリはいないと何度説明しても、納得しなかったのだ。
属名のAcosmeryxは調べてみたが、その語源は手がかりさえ掴めなかった。きっと対象に対して愛がないから、調べる気合が足りないんだろう。
【学名】Acosmeryx naga (Moore, 1858)
小種名の naga(ナーガ)とはサンスクリット語(梵語)で蛇の意。
神話上では人間の顔とコブラの首、蛇の尾を持つ半神的な存在である。7つの下界の最下層のパーターラに住まわせるために聖仙カシュバの妻カドルーが産んだとされる(出典 平嶋義宏『蝶の学名‐その語源と解説‐』)。
こんなんやろか
絵心、ゼロである。
何で服着とんねん(笑)。
それはそうと、何ゆえ学名は「蛇神さま」なのだ
ちょっと理由が思いつかない。
【和名及び近似種との違い】
和名は同属の近縁種であるブドウスズメよりも翅が長いことからの命名だろう。
漢字で書くと「翅長葡萄天蛾」、もしくは「翅長葡萄雀蛾」と書くようだ。
ブドウスズメ(Acosmeryx castanea)とよく似るが、本種はより大型で、胸部背面に先端が尖った山型の茶褐色の紋があり、前翅外縁の白線が後角部まで伸びる。
ブドウスズメは2年前に武田尾で一度だけ採っている。今はなき唯一残っていた水銀灯の柱の下部に止まっていた。
[ブドウスズメ Acosmeryx castanea]
(2018.8月 兵庫県宝塚市武田尾)
確かに上翅外縁にある白線がハネナガブドウよりも明らかに短い。背中の山型紋も形が違う。
初見の印象はハネナガブドウよりも赤っぽいイメージが残っている。ハネナガはグレーに見えたから、似ているにも拘わらず、両者が繋がらなかったのだ。ただし照明の関係もあるし、両種とも一度だけしか見たことがないゆえ、色についてはあまり偉そうなことは言えない。あくまで印象です。この点は鵜呑みなされるな。
それにしても酷い展翅だな(笑)。上翅を上げ過ぎてバンザイさんになっとる。その頃は蛾を採り始めてまだ1年目だったのでバランスが全然わかんなかったのだ。蛾はお手本になる図鑑が蝶と比べて少なく、しかも高価なのだ。加えてネット上の画像も少ないときてる。特に展翅画像は少ない。オマケにその展翅が大概はヒドいから、あんまり参考にならんのだ。
岸田先生には是非とも安価なポケット図鑑を作って戴きたいね。とは言うものの、蛾は蝶と比べて遥かに種類数が多いゆえ、そうおいそれとは簡単にはいかないだろうけどさ。
【開張(mm)】 85〜115mm
今回採集した個体は95mm。上翅をもっと下げれば、100mm近くになるかもしれない。なのにそんなに大きいとは感じないのは、横幅が広いわりには表面積が少ないからだろう。
気になったのは、85〜115mmと大きさにレンジがあるところだ。大小の差が3センチもあるじゃないか。これはオスとメスの差も関係してるのかな?と思って、ザッとそれについて調べてみた。
だが、どうやら雌雄同型で、色調や斑紋、翅形、大きさなどに差はないようだ。それゆえ雌雄を区別するには、腹端を精査する必要があるという。そう言われても、ワシにはどっちがどっちだか皆目ワカランけど。
【分布】
日本では北海道、本州、四国、九州、対馬、屋久島、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖縄本島。ようは日本全国どこにでもいるというワケだ。完全に普通種だな(-_-;)
海外では台湾、朝鮮半島、中国北部~南部、ロシア、インド、ネパール、インドシナ半島、マレー半島、アフガニスタン、タジキスタンに分布しているようだ。
( ̄皿 ̄)ケッ、アジアでも何処にでもおるやんけ。ちょっとでも珍品だと思った自分が恥ずかしいわい。
【亜種と変異】
Acosmeryx naga naga (Himalayan foothills of Pakistan, India, Nepal and China, Peninsular Malaysia, Thailand, northern Vietnam, eastern and southern China, Taiwan, Korea and Japan)
Acosmeryx naga hissarica Shchetkin, 1956 (southern Tajikistan and Afghanistan)
分布が広いから亜種も多いかと思いきや、そんな事はない。
亜種は原記載のもの以外は、南タジキスタン〜アフガニスタンに分布するものだけのようだ。
日本のものは上記のように原記載亜種に含まれる。
そういうワケだから、国内での地理的変異は知られていない。ただ、色調に若干の個体変異があるという。
【成虫出現期】
年一回の発生のようだが、ネットで見ると4〜6月とするものと6~8月とするものがあった。今回4月に採れたんだから、6〜8月というのはオカシイ。いい加減なこと書きやがってと思ったが、もしかしたら、これは北方など寒い地域での出現期なのかなあ…。
【成虫の生態】
夜行性で、日中は林縁などで休息している。
夕刻から夜半にかけて各種の花を吸蜜に訪れるが、主な飛来時刻は18:30~19:30頃。
また、灯火に飛来することも多く、飛翔は敏速。
【幼虫の食餌植物】
マタタビ科:サルナシ、シマサルナシ、キーウィフルーツ。ブドウ科:ヤブカラシ、ブドウ、ノブドウ、エビヅルなど。
【幼生期】
(出典『いもむしハンドブック』)
(出典『Return to Sphingidae of the Eastern Palaearctic species list』)
幼虫は毛虫型ではなく、芋虫型。丸々と太っておる。庭木を剪定してて、こんなもんが出てきたら絶叫発狂モノだな。世の女子は気をつけなはれ。
とは言っても、むしろ可愛いらしいわなんていう女子もいたりするから、女子はようワカラン。
ちなみに左側の尾突起のある方に目がいきがちだが、右側が頭となる。鳥などの天敵の目を逸らせる役目があると言われてそうだが、そんなもんで鳥から逃げおおせるとは思えん。二度目の攻撃でプチュやろ。
越冬態は蛹で、軟らかい土中などに土窩を作って蛹化し,そのまま冬を越す。
ここで、はたと思いつく。もしかして学名の由来は、この蛇にも似た幼虫の形態から来ているのではないかと。
しかしながら、スズメガ科の幼虫はみんなこの芋虫型だ。ハネナガブドウスズメだけが特別に蛇っぽいワケではない。
となると、食樹のブドウからかなブドウといえば、長い蔓(つる)がある。ヤブカラシなんかもツル植物で、蛇がノタ打ち回るようにして生えているという印象がある。けど、だったら素直にブドウ的な学名にしても良さそうなものなのにね。
もしかして、ブドウ的なものは既にブドウスズメの学名に使われてたとか
けんど確認すると、ブドウとは関係なさそうな学名だ。小種名の「castanea」は、どう見たって「栗」って意味だろう。ブドウスズメって栗の木の葉っぱも食うの
それって全然系統が違う植物じゃないかと軽くパニックになる。
けど調べた結果、ブドウスズメは栗は食わないようだ。ここで漸く気づく。たぶんコレはその見てくれの色にある。成虫の色が栗みたいな茶色だってことで名付けられたに違いなかろう。
そこで、またまた気づく。何とブドウスズメの方がハネナガブドウよりも記載されたのは後ではないか。ハネナガが1858年なのに対し、ブドウスズメは1903年の記載だ。つまりは50年近く後になってからブドウスズメが発見されたと云うワケだ。完全に和名に騙されたよ。和名の慣わしからすれば、ブドウスズメが基準種だ。となれば、当然記載年もブドウスズメの方が先だと考えるのが妥当だろう。ナゼに
やめとこう。普通種のスズメガたちの名前の由来なんて、ホントはどうだっていい。
【天敵】
オオカマキリ、チョウセンカマキリ、ハラビロカマキリなどのカマキリ類。ヤブキリ、コロギス等の捕食性キリギリス類のほか、造網性クモ類など。幼虫はスズメバチ類、ジガバチ等のアナバチ類、クチブトカメムシ類、サシガメ類も天敵になる。またハチにも寄生され、ヒメバチ亜科のクロヒメバチ(Amblyjoppa cognatoria)やイヨヒメバチ(Amblyjoppa proteus satanas)に卵を産み付けられることが知られている。
以上、おしまい。
と、ここで終わりにしときゃいいのに、たぶん蝶にもこの「naga」と云う学名を持つ種がいた筈だと思ってしまい、つい探してまっただよ。
(◠‿・)—☆ビンゴ
ありました。
【Plastingia naga(de Niceville, 1884)】
(裏面)
(出典 4店共『BOLD SYSTEMS』)
あらま、コレってタイかラオスで見たわ。裏面が可愛いらしいんだよね。そっか、それが頭の隅に残ってたというワケだ。たぶんインドシナ半島北部では、かなり珍しい種だったと思う。
生態写真も貼り付けておこう。
(出典『ButterflyCicle Checklist』以下4点共同じ)
裏面の写真は沢山見つかるのだが、なぜか表側の画像があまりない。あっても上のようなものばかりでキレイに開翅しているものが皆無だ。
理由は途中で解った。このセセリチョウ、どうやら下翅だけを横に開き、上翅を立てて止まるのが特徴のようだ。こんな感じでね
でも、こうゆう風に止まっていたと云う記憶が全然ない。
所詮はセセリだと思って採ってるから、印象に残らなかったのだろう。
前述したように裏面画像は沢山あるので、厳選したのを貼り付けておこう。
(裏面)
(出典『ButterflyCicle Checklist』)
そうそう、コレ。こっちは記憶がある。
特徴的な裏面がスタイリッシュだね。
ちなみに和名はウラギントラセセリというようだ。
英語版のみだが、Wikipediaに解説があった。それによると、英名は「The chequered lancer」or「Silver-spot lancer」とあるから、さしづめ「市松模様の槍騎兵」「銀紋の槍騎兵」といったところか。何れにしろ裏面由来の命名だね。
大きさは「It has a wingspan between 33–38 mm.」とあるから、日本でいうところのイチモンジセセリとかダイミョウセセリくらいの大きさだ。もっと小さいイメージだったけどなあ…。
分布はアッサムからミャンマー、タイ、ラオス、マレーシア、シンガポール、ボルネオ島、インドネシア、フィリピン。
林内や林縁に見られ、主に午前中に活動し、日陰を好む種みたいだ。
「The species’ host plant is the Caryota mitis, also known as the fishtail palm.」
幼虫のホスト、つまり食餌植物は和名でコモタチクジャクヤシやカブダチクジャクヤシと呼ばれているものだ。
(卵)
(幼虫)
(蛹)
(出典『ButterflyCicle Checklist』)
卵はポップで、とってもオシャレさんだ。
しかし、幼虫と蛹は正直言って気持ち悪い。そもそもセセリチョウの幼虫と蛹は嫌いなのだ。幼虫はのっぺりしてて変に透けてたり、蛹は粉っぽかったりするからだ。バナナセセリの幼虫なんて許せないくらいに醜いもんなあ。
それはさておき、このセセリチョウからも「naga=蛇的」なものが一切感じられない。なのに何で「naga」と命名されたのだ
このnagaと云う小種名を持つチョウは、ジャノメチョウ亜科の Lethe属にもいる。
【Lethe naga Doherty.1889 ナガクロヒカゲ】
(出典『Wikipedia』)
取り敢えず、Wikipediaの英語版にヒットしたが、画像は無く、絵しかない。向かって左側が表、右が裏面になる。絵しかないところからも、たぶん相当な珍品かと思われる。
調べてみたら、木村勇乃助氏の『タイ国の蝶vol.3』でも短い解説文があるのみで標本写真は図示されていなかったから、その可能性は高い。
(出典『yutaka.it-n.jp』)
(出典『Butterflies of India』)
何とか画像も見つけた。
上がオスで下がメスなんだそうである。オスには白帯が無いんだね。雌雄異型とは想像してなかったから、ちょい驚き。
オスは日本のクロヒカゲモドキっぽい。メスは台湾にいるシロオビクロヒカゲとイメージが重なる。
【クロヒカゲモドキ】
(2016.6月 大阪府箕面市)
この生息地は物凄い数のダニだらけなので、これ以来行っていない。はたして今も健在なのだろうか
マジ卍で、ダニだらけだから行かないとは思うけどさ。
補足しておくと、クロヒカゲモドキは多くの地域で減少傾向にあり、絶滅危惧種に指定されている。そう云えば、奈良県の某有名産地でも極めて稀になりつつあるようだ。
【シロオビクロヒカゲ】
(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)
初めて見た時は、クロヒカゲのイケメン版やなと思った。
たしかバナナ・トラップに寄ってきたんだよね。それで幾つか採れた。ヒカゲチョウが寄ってくるのは想定外だったから、軽く驚いた記憶がある。
そういえば、マレーシアでも似たような奴を見たな。たぶん別種だとは思うけど。
Lethe nagaの話に戻ろう。
英語版のWikipediaには、こうとだけ書いてあった。
「Lethe naga, the Naga treebrown, is a species of Satyrinae butterfly found in the Indomalayan realm where it occurs from Assam to Myanmar, Thailand and Laos.It is named for the Naga hills.」
訳すと「英名は Treebrown。ジャノメチョウ亜科に属し、インド・マラヤルムで発見された。分布はアッサム、ミャンマー、タイ、ラオス。学名の由来はナガヒル(ナガ丘陵)から。」といったところか。
えっと云うことは、和名のナガクロヒカゲのナガはナガヒルの事だったのか
和名が脳内でオートマチックに「長黒日陰」に変換されていたから、目から鱗だ。となると、おそらくウラギントラセセリの学名も同じ由来の可能性が高い。
そっかあ…、学名の「naga」は蛇の意とばかり思っていたが、コヤツらはそっちだったのね、しからば、ハネナガブドウスズメもナガ族やナガヒル、ナガランド(註2)が由来という可能性も出てきたぞ。
昆虫にはナガランドやナガヒル由来のものが、わりかし多いという印象がある。ここで初めて見つかった種は結構有りそうだ。そういえばシボリアゲハが最初に見つかったのはナガヒルだったなあ。幻の蝶オナシカラスアゲハもナガヒルで採集された記録があった筈だ。今でも「ナガヒル」でネット検索すると、最初にズラズラとクワガタムシの名前が出てきたりするしね。クワガタなど甲虫も此処が原産地のものが数多くいるのだろう。
でも冷静に考えると、ハネナガブドウスズメなんて広域分布の低山地性普通種だ。秘境であるナガヒルで最初に見つかったとは考え難い。ゆえにハネナガブドウの学名の由来は、最初の見立てどうりの「蛇」「半神の蛇」「蛇神さま」でいいだろう。だからといって、この蛾に何故にこの学名が付けられたかは結局わからずじまいだけどもね。
ナガクロヒカゲを見て、シロオビクロヒカゲを思い出し、長い間頓挫したままの連載『台湾の蝶』シリーズの事も思い出した。たぶん連載は1年くらいは止まったまんまだ。
たぶん原因は労作だったキアゲハの回で力尽きた事に始まる。その後、そろそろ連載を再開しようと、このシロオビクロヒカゲにターゲットを絞った。しかし、いざ書く段になって、まだ展翅すらしていない事に気づいた。まず先にそれを探す事から始めないといけないかと思うと、急に全てが嫌になって放り出したのだ。で、カトカラの連載を始めちゃったんだよね。そのカトカラの連載(註3)も、結局は途中でウンザリになってレームダック状態、書くのが苦痛で仕方がなかった。それでも何とか先月、第一シーズンを終わらせたけどさ。
よくよく考えてみれば、『台湾の蝶』シリーズは、まだまだ書いていないものだらけなんだよなあ…。展翅画像はちゃんと撮っているものの、ゼフィルスには手をつけていないし、ヒカゲチョウ、ジャノメチョウ、セセリチョウ、シロチョウも殆んどの種が登場を待っていると云う状態だ。書かねばならない種は山ほどあるのだ。2回しか行ってないけど、あと百話くらいは書けるんじゃないかな? 何だか、気が遠くなってきたよ。
おしまい
追伸
こんなどうでもいい事を書いているから大事な原稿が書けないのだ。
台湾は前述したように2回しか行ってないのに、珍品も含めてその時期に採れる蝶の殆んどを採った。結構、自慢だったけど、今となってはそれが重荷になってる。もう、3、4年前の事だから、台湾での記憶も薄れてきてるし、益々書く気が起こらん。1行でも書けば記憶が甦り、暫くは突っ走れそうだけど…。
こんな戯れ言を書いてる時点で調子悪りぃー(_)
(註1)マホロバキシタバ
2019年に発見された日本では32種目となるカトカラ。
日本以外では台湾のみに生息し、日本のものはその亜種として記載された。学名 Catocala naganoi mahoroba。
(註2)ナガ族とナガランド、ナガヒル
チベット・ビルマ語族。インド〜ミャンマー国境に居住し、約100万人がインド・ナガランド州に、もう100万人がミャンマーのパトカイ山脈沿いに住む。その孤立した地理的条件から独特の風習を保ち、衣服をほとんど身にまとわない代わりに、ビーズやタトゥーで身を飾る。ビーズは古くから交易によってインドやベネチアからもたらされたもので、身につけるビーズによって富や社会的地位を示している。
また、かつては首狩りの習慣を持っていた。村の繁栄を祝ったり、勇者の証しとするために首が狩られたという。太平洋戦争(第二次世界大戦)時、この地域からイギリスの勢力を排除しようとしたインパール作戦では日本軍も彼らにずいぶんと苦しめられたそうだ。
補足すると、インパール作戦とは「史上最悪の作戦」とも言われ、無謀で愚かな作戦の代名詞として、しばしば引用される。当初より軍内部でも慎重な意見があったものの、牟田口廉也中将の強硬な主張により作戦は決行された。兵站(物資の補給、負傷者の回収及び手当て等の野戦病院、移動などの後方支援)を無視し、精神論を重視した杜撰な作戦により、多数の死者と負傷者を出して歴史的な敗北を喫した。その死者数は2万4千とも、6万5千、7万2千とも言われ、これをキッカケに日本は敗戦の道をひたに走り出したとも言われている。ようは、無能な司令官、上司、リーダーが指揮すると、全員討ち死になると云う格好の例なのだ。
ナガランド州はインド東部にあり、一般外国人観光客には多くが未開放地域となっている。
面積は1万6579平方キロメートル。ミャンマー北西部に接するナガ山地に位置する。人口約199万。州都はコヒマ。
ナガ人によって独立運動が行われた結果、かつてのアッサム州ナガ山地を中心として、1957年に自治州、62年に州となった。しかし現在も独立運動は続けられており、それが観光客に対する入域規制エリアの多さに繋がっている。
焼畑農業が盛んで、大部分の住民はチベット・ビルマ語系の言語を話す。宗教は仏教徒とイスラム教徒が多い。年平均気温は24~25℃、年降水量は2000ミリメートルを超える。
(註3)カトカラの連載
『2018’カトカラ元年』のこと。現在、第一シリーズの第17章を書き終えたところで休載になっている。