2020’カトカラ3年生 その弍(2)

 
  vol.25 ナマリキシタバ 第ニ章

       『雷神降臨』

 
 2020年 8月8日

これが最後という気持ちで車に乗り込む。
やがて車は市街を抜け、暗い夜道を走り始めた。
車窓から夜空を見上げると、半分ほど欠けた月が冴えざえと輝いている。ぼんやりと晴れのち曇りだったらいいなと思う。
ふと時計に目をやる。針はもうすぐ午前0時を指そうとしていた。前日の夜中に奈良を出て、小太郎くんと長野へ向かっているのだ。

早朝に目的地に到着。
空は青い。天気予報は微妙だったが快晴だ。スーパー晴れ男の面目躍如といったところである。

この日は久し振りの蝶採りから始まった。
ターゲットはムモンアカシジミ(註1)。長いこと会ってない蝶だ。そして、此処はそのムモンアカを初めて採った地でもある。色んな思い出が詰まってる風景を懐かしい気持ちで眺める。確か駅からここまで歩いて来たんだよね。思った以上に遠くて、思った以上に坂がキツかった事を思い出す。奥まで歩いたらスミナガシが地面で吸水してた事や、その後オナガシジミを探して更に山を登ったのも思い出した。

小太郎くんが長竿で木の枝を叩き、ワテが飛び出した蝶を目で追って止まった場所を確認すると云う役割分担で始まったが、叩き始めて直ぐにオレンジ色の妖精が飛び出した。

 
【ムモンアカシジミ】

 
(☆▽☆)美しいねー。
やっぱ蝶は美しいんだなと改めて思う。
最近は蛾ばっか見てっから物凄く新鮮な気持ちで蝶を見てる自分がいる。蝶採りを始めた頃の気持ちが少し戻ったような気がするよ。やっぱ蝶の方が綺麗だわ。デブじゃないし、毛むくじゃらでもないからね。蝶は可憐なのだ。

蝶って綺麗だよなー。
やっぱ蝶屋に戻ろっかなー。

とボソッと言ったら、隣で小太郎くんが「(•‿•)でしょー。えっ❓、でも五十嵐さん、蝶屋を辞めてたんですかあ❓」と笑いながら返してきた。解っててワザと言ってるんである。
しまったと思って、慌てて返す。

アホー、ワシは蝶屋じゃあー❗蛾屋とちゃう❗

最近は小太郎くんから結構鋭いツッコミが入るんだよなあ(笑)
まあ、カトカラ関連で付き合いも深くなってるから、ツッコミやすくなってんだろね。ワシって、そもそもテキトーな性格だからツッコミどころ満載なとこあるしさ。

蛾屋ちゃう❗とは言ったものの、現状はシッカリ片足を突っ込んでて、半分「蛾屋」である。と云うか正確に言うと「カトカラ屋」なんだけどもね。だから今は蛾屋だと揶揄されると「ちゃう、カトカラ屋じゃ❗」と返すことにしている。蝶屋の蛾屋に対する蔑視、迫害は根強いのである。しかも執拗。
でもさあ、そうゆうのって最近はバカバカしく思えるようになってきたんだよねぇ。そもそも線引きすること自体がナンセンスだと思う。元来、蝶と蛾に上も下も無いんである。これからは堂々と「レピ屋(註2)」と名乗ることにしよう。

とにかくスタートから上々の滑り出しだ。何か今日は良い事が起こりそうな予感がする。
と言いたいところだが、まだ序盤だ。このまま今日一日、いい感じの流れが続くことを祈ろう。

叩くと、大半は高い所に逃げて見失うが、それでも取り敢えず二人共2頭ずつ確保できた。たまに地上に降りてくる奴もいるのである。

午後1時を過ぎると、テリトリー(占有行動)を張り出した。群れ飛ぶオレンジが背景の緑に鮮やかに映える。
今の図鑑ではどうなってるか知らないけど、昔の図鑑にはムモンアカは夕暮れ飛翔性だと書いてあった。けど、そんなの嘘である。それを知ったのも、そういえば此処だったね。
午後1時か2時くらいだったと思う。突然、ひらひらとオレンジ色の鱗翅類が周りを飛び始めた。鱗翅類と書いたのは、蛾だと思ったからだ。過去にそんな色の蛾が昼間に群れ飛んでいた記憶があったからだ。
当時は蛾を毛嫌いしてたから暫く無視してたけど、何となく気まぐれで網に入れてみた。
で、中を見たら、蛾がムモンアカに化けていた。キツネに馬鹿されでもしたかと思って、一瞬(・o・)キョトン顔になった。でも、どう見てもムモンちゃんである。
慌てて他のも採ってみたら、それもムモンアカだったので、そっから先はシッチャカメッチャカになった。急に必死になって網振り回して追っかけだした自分に、自分でも笑ったのを思い出したよ。

今にして思えば、図鑑に夕暮れ飛翔とあったのは、近縁種のアカシジミ、ウラナミアカシジミ、あと少し毛色は変わるがウラキンシジミなんかが夕暮れ飛翔性なので、きっとムモンもそうだろうと予断したのであろう。お粗末だよな。誰もツッコまなかったのかなあ❓
図鑑の記述を鵜呑みにしてはならない。大体は正しい事が書いてあるけれど、常に100%正しいワケではないのだ。所詮は書いた人の主観だもんね。場所によって生態が変わる蝶や蛾は結構いるから、時に疑う気持ちも必要だろう。他に盲点だったと云う事例もある。例えばクロミドリシジミだって、長いあいだ活動時刻は夕暮れ時のみだと信じられてきたが、近年になって夜明け前にも飛翔することが判明したからね。

そういや、ここでは久し振りにルリボシカミキリにも会えた。

 

 
と言っても小太郎くんが採ったもので、それをパチリと撮らしてもらっただけなんだけどもね。
思えば、見るのは滋賀県の霊仙山以来だ。
ルリボシカミキリはとても美しい。この青は特別な青だ。心がパッと開く。よしよし、何か良い感じの流れが持続してるぞ。考えてみれば、今日は八月八日。末広がりの八が二つも並んでいる日なのだ。この先もガンガンに良き事が続くに違いない。ポジティブ妄想一直線。もう何だってプラス材料にしちゃうんだもんねっ。

ムモンアカを採った事がないと云うヨタヨタの爺さんのフォローに入り、何とか採ってもらったところで早めに離脱。飯を食いに行く。
テキトーに台湾食堂に入ったけど、これも当たり。期待以上に旨かった。
その後、夕方に松本へ移動。汗を流しに行く。
スーパー銭湯の入口は人でゴッタ返していた。コロナ禍だから入場制限で入れないかと思ったが、丁度どっと団体客が帰るようで、タイミング良く入る事が出来た。ラッキーである。
色んなタイプの湯舟があって、中々に良き所でござった。お陰でリフレッシュすることができた。気分は変わらず上々だ。
とはいえ、ここから先が本番である。メインターゲットのナマリキシタバが採れなければ、全ては水泡と帰す。このままラッキー街道を走り続けられる事を切に祈ろう。

ナマリには辛酸ナメ太郎。苦々しくも現在に至るまで3年越しの9連敗を喫しており、無様なまでに負け続けている。こんな屈辱を受けたことは海外の蝶だってない。テングアゲハにだって、ここまで煮え湯を飲まされてはいない。結局、採れたからね。一方ナマリ嬢は、何せまだその姿さえも見ていないのだ。完膚なきまでに叩きのめされ、自信は完全に崩壊している。最早どうやったら採れるのかもわからなくなってる状態なのだ。
そんなあまりの敗残者振りに手を差し伸べてくれたのが、小太郎くんだった。

「長野にムモンを採りに行きますけど、後でナマリ採りに付き合ってもいいですよ」

小太郎くんは、今年になって遂に水銀灯のライトトラップを買ったのだ。だから灯火採集がいつでも出来るようになったってワケ。渡りに舟とは、この事だ。即答した。

「行くっ❗行きます❗行きます❗連れてって下せぇ、旦那〜(´ω`)」

千切れんばかりに尻尾を振る。

今思うと、小太郎くんと二人して信州方面に行ってコケた事は一度もない。連戦連勝だ。ゆえにお呼びが掛かったのかもしれない。こないだのアズミキシタバの時も絶好調だったしね。それにオラがムモンアカの詳しいポイントを知ってたというのもあるかもしれない。あっ、それよりもワシがスーパーな晴れ男だからかもね。基本、蝶採りには晴天が絶対条件なのである。

場所は去年行って惨敗したところの近くである。
日没直前にポイントに着き、屋台を設置する。時折、風がややキツく吹くのが気になるが、いい感じに曇ってもきた。灯火採集するには晴れよりも曇っている方がいいのだ。まだ天は、オラに味方している。

 

 
点灯したら、グイと気合が入った。
さあ、戦闘開始だ。今日こそ連敗地獄から脱出しようぞ。

でも場所が思ってた程には良い場所ではないんだよね。こんなとこ、本当にいるのかね❓不安が過(よぎ)るが、既に賽は振られた後だ。持ってても一文にもならん不安をうっちゃってコンセントレーションを高める。

小太郎くんがセミの幼虫を拾ってきた。エゾゼミだという。エゾゼミの羽化は見たことがないので楽しみだ。益々、ええ感じで推移してまんがな。

点灯後、早速キシタバ(C.patala)が飛んで来た。小太郎くん言うところのデブキシタバである。何処にでもいるから勿論フル無視である。せめてオニキシタバとでも改名してあげれば、株も少しは上がるのにね。石塚さん、改名してくんねぇかなあ。
次に飛んで来たのはオニベニシタバだった。おいおい、低地性のカトカラばっかじゃないか。不安が首をもたげる。しかし、キシタバは標高1300mで見たことがあるし、オニベニにいたっては標高1700mでも見たことがある。奴ら何処にだっているのだ。大丈夫、大丈夫。気にすんな、前向きでいこう。

午後8時前、見たこと無さそうなのが飛んで来た。
でも直ぐにナマリではないと思った。にしてはデカ過ぎる。

 

 
おそらくオオアオバヤガ(註3)とか云う奴だろう。
たぶん採った事が有る筈だが、緑色でキレイだし、小太郎くんが結構少ない種だと言うので一応採っておく事にした。
でも展翅したら、どうせ下翅はキチャなくて、腹がブッとくてデブなんだろなあ…。

続いてキンキラキンのコガネムシが飛んで来た。

 

 
奇しくも緑色つながりのキンスジコガネ(註4)だ。
宝石みたいに✨キラッキラだね。個人的には日本一美しいコガネムシだと思う。しかもレアな存在。滅多に会えないコガネムシとして知られている。
彼女に会うのも久し振りだ。岐阜県の新穂高にオオイチモンジを採りに行った時以来の御対面である。
何か、ええ感じの流れが続いてんじゃねぇーのー❓

しかし飛んで来るカトカラはキシタバとオニベニばかりで、あとワモンとノコメ、マメキシタバがチョロチョロ。
ワモンは基本的に好きなカトカラだが、そこそこ採った事があるのでモチベーションはとうに下がってる。ノコメにはまだモチベーションがあるが、如何せん時期が遅くてボロ。採る気にもなれない。マメはド普通種なので完無視だ。
その有様に退屈した小太郎くんが車の中で寝てしまった。夜通し運転してたし、ドッと睡魔が押し寄せてきたのだろう。ワシも殆んど寝てないが、眠るワケにはいかない。いつナマリが飛んで来るか分からないのだ。とはいえ、ナマリが飛んで来るという時間帯はまだまだ先なんだけどね。でもマオくんが早い時間帯にも飛んで来ますよと言ってたので、手は抜けないのだ。それに、小太郎くんには申しわけないが、どうしても先に採りたい。もしも彼に先に採られたとしたら、憧れの彼女を目の前でカッ拐(さら)われたような気分になるだろう。そんなの地獄だ。嫉妬の炎で自らを焼き尽くしかねない。

そういや、小太郎くんがエゾゼミと言ってた蝉は、単なるミンミンゼミだった。ロクなカトカラしか飛んで来んし、何か悪い兆しが垣間見えてると言えなくもない。不幸が何処かワシの預かり知れぬところで徐々に育っているのかもしれない。
幸福は窓際の鉢植えの花だ。水をやり、肥料をやり、日々少しずつ育っていってるのが目に見えてハッキリとわかる。一方、不幸は大概が目に見えない場所で、密かに陰湿に育っている。そして、突然おんぶお化けみたいに背中からガバッと覆いかぶさってくるのだ。不幸とは、病気や事故、相手方の浮気のように突然降って湧いてくるものであり、誰しもが対処の仕様がないものなのである(因みに浮気の話は男側の場合であって、女性は敏感なので気づいてらっしゃる)。

 

 
羽化したての姿は日本で最も美しいセミとも言われるが、こうやって袋の中で羽化させたものはバックが暗闇じゃないからコントラストが効いてないし、自然状態でもないから神秘性も失われている。何だかなあ…、コレって暗雲の兆しじゃね❓
あっ、でもコレも最終的には緑色になるから緑繋がりじゃないか。だとするならば、ナマリキシタバも緑色だから次に現れるのはナマリだ❗と言いかけて止まる。無理があるなと思ったのである。確かに画像によっては照明の加減で緑色っぽく見えるものもないではないが、基本的には鉛色で、強いて言うならば青みを帯びたグレーなのだ。自分の目で実物を見たことが無いから偉そうなことは言えないけどさ。

何だか段々雲行きが怪しくなってきた。
風も心なしか強くなってきたようだ。背中側の体の芯がキュッとなった。泣きたくなるような、それでいて恐怖にも近いような、どうにも形容し難い感情が擦過する。又しても惨敗するのでは?と云う考えが、前触れもなく去来したのである。(-_-;)ヤバい。良くない兆候だ。不幸の萌芽に敏感になってる。自信を失くしてる証左だ。
でも、良い結果を信じるしかない。せわしなく白布と周囲の地面を懐中電灯で照らしてチェックしてゆく。地面まで念入りにチェックしたのは、前回のアズミキシタバみたく地表に止まっているかもしれないと思ったのだ。

午後8時半過ぎ、いや40分くらいだったろう。
ライトトラップの裏側横で座っていたら、反対サイド正面の地面に何かカトカラらしきものが落ちたように見えた。チラッとしか見えなかったが、何か違和感のようなものを感じた。見たことのない奴のような気がしたのだ。しかし、落ちた辺りは草や蔓みたいなのが繁茂してて、よく見えない。心の内で、もしや…と云う思いと、どうせマメキシタバかクソ蛾だろうという思いが錯綜しつつも立ち上がり、よろよろと近づいていった。

だが、1.5m手前。翅の一部が見えたと思った瞬間、

( ゚д゚ )飛んだ❗

そして、アッΣ( ̄□ ̄ ||❗と思った瞬間には何処かに消えていた。何処に飛んでったのかもワカラン。
その場に固まったまま佇む。地面で一瞬しか見えなかったが、黄色い稲妻のような模様が見えたような気がする。
たぶんナマリだったんじゃないか❓しかし確信は持てない。寝てねぇし、どうしても会いたいという気持ちが強すぎて幻覚が立ち現れたのかもしれないと思ったのだ。だいち、まだ時間的にはナマリの飛来アワーではないのだ。
けれど心は走り出していた。近くに止まっていはしまいかと懸命に探す。確かに見たよね❓見た筈だ。焦燥感と期待感、もしや幻覚ではないかという猜疑心がゴタ混ぜになった気持ちでウロウロする。よほど小太郎くんを起こして報告しようかとも思ったが、やめておく事にした。確証が持てないのに起こすのは気の毒だと思ったのだ。

心が波立ったままの時間が過ぎてゆく。
(-_-メ)チキショーめがっ。蔓草が邪魔で、遠目に見てナマリかどうかちゃんと確認できなかったから採れなかったのだ。どうせクソ蛾だろうと半分思ってぞんざいに近づいたから、驚いて逃げたに違いない。これも全部テメェらのせいだ。怒りに任せて絡まった蔓草を引きちぎり、徹底的に駆逐してやった。ざまー見さらせ、糞ッタレがっ。何だったら🔥火ぃつけて燃やしたろかい(`Д´#)

そんなかんなで、いつの間にかアレから1時間近くが経っていた。でも姿なし。帰ってこない。
やはり幻覚だったのか(ب_ب)❓…。見たという自信が砂の楼閣ように崩れてゆく。
 
午後9時50分。
半ば放心したような体(てい)で何気に白布の裏を見たら、見慣れない蛾が止まっていた。もしかして…(・o・)❓
息を呑み、凝(じ)っと見る。

ナマリだっ❗間違いないっ❗❗

雷神降臨❗
そこには、夢にまで見た美しき姿があった。黄色い稲妻がギザギザに光っている。紛うことなきナマリキシタバだ。
目を離さず、ポケットからゆっくりと毒瓶を取り出す。そして息を殺して忍び寄り、瓶のフタを開ける。心臓がバクバクする中、そっと毒瓶を近づける。頼む、ジッしていてくれ。
至近距離まできた。今だ❗と思った。
しかし、被せようとした瞬間だった。

(゚∀゚)飛んだ❗

\(◎o◎)/嘘やん❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ひぃーっ、やっちまっただよー。

半泣きになりながら、慌てて後を追う。
表側に回った筈だ。素早く辺りを見回す。(-_-メ)チッ、しかし見失った。このまま惨敗で終わったら、発狂しそうだ。
振り返るが、白布にも止まっていない。続いて懐中電灯で地面を照らす。全身にザワザワと悔恨の波が広がってゆくのを必死で拭い去る。

あっ、いたっ❗

ギリ、首の皮一枚つながった。
けれども、1、2歩近づいただけで、
(⑉⊙ȏ⊙)また飛びよった❗

(´ε` )クチョー、どんだけ敏感やねんと思いつつ、ひるまず追いかける。ここで逃したら、大失恋の時みたくショックで1ヶ月間、無口な人になりかねない。

しかし、Σ(ㆁωㆁlll)ガビーン❗

お嬢は、闇の奥へと消えて行った…。

嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だーっ❗

事実を認めたくない自分の中で「嘘だ旋風」が吹き荒れる。

小太郎くんに、この悔しさを話そうかとも思ったが、グイと堪える。話したところでナマリが戻って来るワケではないのだ。だいち、そんな糞ヘタレ振りなんぞ恥ずかしくて話せない。どうせ言い訳のオンパレードだ。
何だかなあ…。まあまあ天才の名折れだよ。もしかして虫捕り下手ッピー男に堕したのかもしれん。最悪の気分だ。

けれど神様は、そんな惨めな我が身を見捨ててはいなかった。
午後10時15分。再びチャンスが巡ってきた。茫然として煙草を吸ってたら、パタパタとまた舞い戻ってきたのだ。
煙草を揉み消し、心を一本の鋼(はがね)にする。イメージは怖いくらいに冷ややかに光る日本刀だ。もしこれで逃したら、腹カッ切ってやる。今度こそ生ぬるい背水の陣なんかじゃない究極の背水の陣でもって対峙すると硬く心に決める。鋭利な刃物の心で斬るっ❗
悠々として急げ。網を持ち、ゆっくりと歩み寄る。
毒瓶なんぞ、もう使わん(-_-メ)❗武士ならば、我が愛刀虎徹で斬り捨ててくれようぞ。そもそも毒ガス攻撃なんて卑怯っぽいから、どこか自分の中で納得いってなかったのだ。網で採ってから毒瓶にブチ込むなら安楽死だと納得できるけど、最初から使う奴は洋の東西を問わず、大抵が二流のセコい敵キャラと決まっておるのだ。そう思おう。でないと、迷いが生じる。
網の柄を握り締め、距離を用心深く詰めてゆく。もしもさっきみたいに飛んだとしたら、怒濤の寄りで懐に踏み込み、シバキ倒してやるつもりだ。

射程内に入った。
静かに網を標的の下に持ってゆく。固唾を呑む。緊張感が半端ない。しかしもう迷わない。白布を網先でコツンと叩く。
予想通り驚いて、右横に飛んだっ❗

テェ────ッ( ̄皿 ̄)ノ❗

👹鬼神の如く網を左から右へとカチ上げる。
ターゲットが空中から一瞬にしてかき消えたのが見えた。すかさず網を折り返し、流れるように膝にかけ、立ったまま素早く毒瓶のフタを開ける。99%斬った手応えがあったから、そこで漸く中を確認しながら毒瓶を網に突っ込む。

(`Д´)ノよっしゃ、居るっ❗

だが、ここからが最後の勝負だ。詰めを誤ったら絶望が待っている。逃げられないように、そして暴れてハゲちょろけにならないように電光石火で毒瓶にブチ込まなくてはならない。
焦る心を封じ込め、全集中。冷静迅速に被せた。

(≧▽≦)ゲット❗❗

思いのほかスッと上手く入ってくれた。

ダア────ッ٩(๑`^´๑)۶❗

拳を夜空に突き上げる。

 

 
やっと採れた…。
指が震える。

 

 
(☆▽☆)激カッコイイ。
まるで鉛色の雷雲に稲妻の光が走ったかのようだ。
深く、長い息を吐き出す。
深窓の令嬢が、遂に我が手に落ちたのだ。幻覚じゃない。
ゆっくりと、全身の隅々にまで多幸感が広がってゆく。

採れて良かったあー…。

心の底から、そう思ったよ。

そして、やっとこさ連敗が止まった瞬間でもあった。突然、体の力が抜けて、その場にヘナヘナとヘタりこみそうになる。

見た感じ、たぶん♀だろうが、念の為に裏返してみる。

 

 
腹が短めで太く、尻先に縦にスリットが入っているし、産卵管も見えるから間違いなく♀だ。

少し迷ったが、車の中で眠っている小太郎くんを起こすことにした。勇者の凱旋の如く雄然と車へと向かう。
心を鎮め、喜びを噛み殺して窓をコツコツ叩く。
目覚めた小太郎くんに親指を立てて、軽く前へと突き出す。
それで、小太郎くんも理解したようだ。

(・o・)えっ、採れたんですか❓

ニヤけそうになるのを抑えて「採れた…。」と一言だけ言う。
そして一拍おいて、心から礼を言う。アンタのお陰だよ、小太郎くん。マジでありがとう。

これをキッカケに小太郎くんにも気合が入ったようだ。
さあ、アズミの時みたく祭りの始まりといこうじゃないか。

午後11時近くに、もう1頭飛んで来た。
小太郎くんを呼んで、コレ、コレと指さす。
勿論、小太郎くんに採ってもらう事にする。小太郎くんのお陰で、やっとこさナマリ様が採れたのだ。譲って当然だろう。
しかし、コヤツも敏感で直ぐに飛んで逃げた。あとはワシの時と同じ繰り返しになった。逃しても、何度も戻ってくるのだが、ことごとく落ち着きがなく、すぐに目の前からパッと飛び立って消えよる。

結構長い攻防が続いた。
お願いだから採ってくれと願う。二人とも採れなきゃ、心の底からは喜べないのだ。気兼ねなく喜びを爆発させたい。

小太郎くんが、やっとこさゲット出来たのは午前0時過ぎだった。♂だった。
しかしその後、ゴールデンタイムに入ったのにも拘わらず、ナマリは1頭も姿を見せなかった。
だから結局1頭ずつしか採れなかった。それでもガッカリ感は全く無かった。1頭だけでも採れたと云う事実だけで充分だった。それだけで幸福感で一杯だったのだ。

午前2時に灯りを落として終了。撤収した。
その後、コンビニまで戻り、缶ビールを買う。
小太郎くんは飲めないゆえ、ひとり駐車場の端に座って飲む。
心地好い苦みが五臓六腑にジンワリと染み渡ってゆく。
ぼんやりと、闇夜に煌々と光るコンビニに目をやる。深夜のコンビニは、とても静かだ。
やがて内側から静かな笑いが、ゆっくりと湧き上がってきた。

                         つづく

 
一応、この日採ったものの展翅画像も貼り付けておきます。
但し、スマホを替えてから展翅画像が上手く撮れなくなった。勝手に変に色補正しよるので、ヤケクソでズラッと並べておきます。

 
【ナマリキシタバ Catocaia columbina ♀】

 
一応、前のスマホでも撮ってみた。それを、Bluetoothで転送したのだが、コッチはコッチで素っ気ないような感じにしか写らない。肉眼だと、もっとメリハリがあるのだが、それが今イチ表現できてないんだよなあ…。これらも自然光で撮ったんだけど、夕方だったからなのかなあ❓…。自然光だと時間帯によって部屋に入る光の量が変わるので、そのせいかもしれない。

 

 
翌朝、納得いかないので、もう1回撮り直した。
コレらが一番近いかな。どれが良いのか分からないので、ズラッと並べておきまっさ。

 

 
採ったはいいが、3ヶ月も冷凍庫にブチ込んだままだった。
更に言うと、たった1頭の戦利品なのに行方不明になってた。小太郎くんに「どっかいったかもしれへーん。」と言ったら、冷ややかに「そんなの知りませんよー。」と言われたわ(笑)

そうゆうワケで、たった1頭の稲妻姫なので気合入れて展翅したでござんすよ。
まあ、ほぼほぼ完璧でしょう。
来年は、♂を採らなきゃなあ。
小太郎くん、来年もヨロシクね(^_-)-☆

 
ーお詫びー
前回、小太郎くんの言として、五平餅は元々は三河地方発祥のもので、長野県のパクリだと書いたが、小太郎くんから次のような指摘があった。
「あ、五平餅を愛知発祥だと言ったことはありません。飯田からの流れで地元の三河でもよく売られてるだけですよ。
名古屋名物は他のパクリが多いとは言ったけど。」

睡魔で、話がゴチャゴチャにミックスされてしまったようだ。
長野県の皆様、並びに飯田市の皆様、悪口雑言を撒き散らして、どうもすいませんでした。
よく調べずに書いて、ごめんなさいm(_ )m
あと、小太郎くんもm(
_)mごめんなさいでしたー。

 
追伸
今年最大の収穫は、このナマリキシタバだった。この一夜の事は、一生忘れないだろう。
でも、言ったようにこの1頭しか採れてないんだよね。来年はタコ採りして、深窓の令嬢から近所の煙草屋の姉ちゃんにまで引き摺り下ろしてやれと思ってる。もう1回言っちゃうけど、小太郎くん、(^_-)-☆来年もヨロシクねっ❗

尚、この話は翌日のミヤマキシタバの回(第二章「真夜中の訪問者」)に続いています。また、まだ書いてない別なカトカラの話にも繋がってゆく事になろうかと思う。

えー、次回は種の解説編っす。

 
(註1)ムモンアカシジミ

【Shirozuna jonasi ♂】

 
久し振りに蝶を展翅したら、バランスが分かんなくなった(笑)
もっと前翅を上げたいんだけど、そうすると、頭が埋まっちゃうしさあ…。結局、触角重視でこうなった。

一応、種の解説をしておこう。

鱗翅目シジミチョウ科に属するチョウ。
中国北部、朝鮮半島、アムール、ウスリー、日本に分布する。日本では北海道と東北地方から中部地方に分布し、近畿地方、四国、九州および南西諸島には生息しない(滋賀県米原市と広島県安芸太田町は除く)。冷温帯から暖温帯の人里近くの雑木林に棲息するが、発生は局地的で、個体数も少ない。これは1本~数本の特定の発生木に依存している場合が多いためで、宅地造成などの犠牲にもなりやすい。木が切られたら、姿を消すのである。
午後から夕刻にかけて占有活動し、ヒメジョオンなどの花にも吸蜜に訪れる。しかし発生木から遠く離れることは少ない。
翅の開張は40ミリ内外。和名の由来は、日本産の他のアカシジミ類(アカシジミ、ウラナミアカシジミ、チョウセンアカシジミ)と比べて、表翅の黒い紋が目立たない事からきている。
年1回の発生で、7月下旬から現れ、9月まで見られる。他のアカシジミ類に比べると発生期は遅く、8月でも新鮮な個体が多い。
卵は主としてブナ科のカシワ、ミズナラ、コナラ、クヌギ、アベマキ等に産み付けられ、卵で越冬する。幼虫は日本のチョウの中では特異な半肉食性で、これらの樹木に寄生するアブラムシやカイガラムシなどの動物性食物を摂るが、2齢からは葉を食べることもある。但し、その量は多くない。
蟻(クサアリ)との関係も密接で、幼虫は好蟻性の揮発物質を分泌してアリを誘引し、外敵から身を守ってもらっている。分布が局所的なのは、このアリとの共生関係がなくてはならないからだろう。

 
(註2)レピ屋
「レピ」とは、レピドプテラ(Lepidoptera=鱗翅目)の略。つまりは「蝶と蛾」の両方を指す言葉である。元来、蝶が好きな人は「蝶屋」、蛾が好きな人は「蛾屋」と呼ばれるが、両方好きなのでレピ屋というワケだね。ガ好きの人がよく使う言葉だそうだ。気持ち、解るような気がするよ(笑)。
実を云うと、このレピ屋という言葉、一年ほど前に知った言葉である。甲虫屋として高名な秋田さんが使っていたので「レピ屋って何すかあ?」と訊いたら、「おまえさん、レピ屋も知らんで新種(マホロバキシタバの事)見つけたんかい!」と笑われたのであった。
一応、レピドプテラという言葉くらいは如何にワシがアホでも知ってはいた。しかしレピという言葉とレピドプテラという言葉が頭の中で繋がらなかったのだ。(≧▽≦)クソーって感じ。

 
(註3)オオアオバヤガ
探したら、やっぱり過去に採ってた。

 
【Anaplectoides virens】


(2018.9月 兵庫県ハチ北高原)

 
我ながら酷い展翅だ。
前翅が上がり気味で、逆に後翅が下がり気味でブサいくだ。触角の角度も上向き過ぎるし、オマケにグニャグニャだ。
それでも蛾屋の展翅よかマシな気がするが、やっぱり許せないので冷凍庫に安置されていた今回採ったオオアオバヤガを探し出してきた。
怒られると思うが、蛾屋の展翅レベルは蝶屋と比べて相対的にも、また総体的にも低い。おそらく蛾屋の人口数が少ないからだろう。多分、展翅をとやかく言う人間が少ないのだと思われる。
一方、蝶屋は数が多いだけに、あーだこーだと云う人間も多いから厳しい目に晒される。とかく五月蝿(うるさ)い人が多いのだ。で、自然と全体的にレベルが上がると云うワケ。
自分も蝶採りを始めた頃はあまり気にしていなかったが、周りにとやかく言う人が多いので次第に影響されるようになっていった。一旦気になると、パラノイア的気質があるゆえに、以来ものスゴく気になる人になってしまった。半分はそんな自分を愚かだと解っているのだが、元来が負けず嫌いで馬鹿にされたくない人なので何処吹く風とはなれないのだ。その辺が我ながら小さいと思う。完璧主義者って窮屈でしかないのだ。岸田先生くらい大らかでありたいもんだね。

そうゆうワケで、新たに展翅したのがコレ↙。

 

 
こうしてキッチリ展翅すると、渋カッコイイ。
美しいと言ってもいいかもしれない。これなら雌雄揃えてやってもいいやと思う。
でも♂か♀かが今イチわかんない。たぶん♂だと思うけど。

 
(註4)キンスジコガネ

【Mimela holosericea】

(2015.7.20 岐阜県高山市新穂高)

 
北海道から九州まで分布する大型の美しいコガネムシの仲間。
低山地〜山地の豊かな森に生息し、大型の美しい種でありながらも目にすることは稀で、分布が広いのにも拘わらず何れの地方でも珍しくて個体数も少ないとされる。
本種を含むスジコガネ属は日本から11種が知られているが、深いメタリックグリーンに粗い溝が点刻され、まるで宝石のような美しい姿をしているので容易に区別できる。上翅の縦隆条は第1条だけが幅広く明瞭であるが、時にこの第1条もほとんど消失する。腹面は緑色光沢のある銅赤色で、長い細毛が疎らに生えている。脚は黄褐色で、各脚の爪は先端に切れ込みを欠く。

成虫は針葉樹の葉、幼虫は根を食する。成虫は7~8月頃に見られ,針葉樹を食害しているものを見るよりも日暮れ前に林道などを低く飛翔しているものが捕えられることの方が多い。
灯火にも飛来するが,夕暮れの薄明かりの時間帯だけで、深夜には来ない。尚、灯火に飛来するものは♀が多いという。

個体数は少ないというが、真っ昼間に沢山採ったことがある。山の中の明るい砂利道を歩いていたら、低空飛行しているのが結構いて、テキトーに摘んでたら、いつの間にか全部で10頭くらいになっていた。
でも、その日だけで、翌日には殆んど見なくなり、翌々日には全く見掛けなくなった。

 
 

2020’カトカラ3年生 其の弐(1)

 
 
  vol.25 ナマリキシタバ 第一章

汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん

 
2018年 8月13日

ずっと蝶屋だったが、この年から本格的に蛾のカトカラ(シタバガ亜属)も集めだした。蛾は苦手だけど、カトカラは綺麗なモノが多いし、胴体もあんまし太くないから抵抗感があまりなかったのだろう。
そうゆうワケで、謂わばこの2018年が自分の中での「カトカラ元年」と相成った。

ナマリキシタバも初年度から狙いにいった。関西には武田尾渓谷という手軽に電車で行ける有名な産地があったからである。
最初はまだカトカラをそんなに真面目に集める気はなかったけど、この1か月程前に稀種カバブキシタバを採ったあたりから集める気持ちが加速した。その流れの中で、ネットの『兵庫県カトカラ図鑑(註1)』というサイトを見つけた。そこに載ってたナマリキシタバの画像が無茶苦茶に渋カッコ良かった。しかも稀少度は最高ランクの★5つになっていた。
そこからナマリへの憧憬の旅路が始まった。

 
【ナマリキシタバ Catocala columbina ♂】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
その後、ナマリの画像をネットで探してみたが、あんなに美しいナマリキシタバの標本画像は他に見たことがない。前翅の複雑な模様の中に、ビカビカの稲妻のような黄色い線がギザギザに走っているのだ。
残念ながら、その画像は取り込めないゆえ掲載できないけど、文末にURLを載せておいたので、興味のある方はアクセスされたし。
あっ、そんな事しなくとも「兵庫県カトカラ図鑑」と打つだけでもヒットはするんだけどもね。

この日はA木くんを焚き付けて、武田尾温泉近くで灯火採集をした。彼は蝶と蛾の二刀流だが、まだナマリは採ったことがないと知っていたから乗ってきてくれると思ったのである。

 

 
そこまでは目論見通りだったが、蛾は沢山飛んで来たのにも拘わらず、ナマリの姿はついぞ見られずじまいだった。
たぶん午前0時くらいには撤退したかと思う。こっから先の時間帯がナマリの飛来タイムである事すら知らなかったのだ。
でもまだ、この時点では楽勝気分だった。自称「まあまあ天才」。蝶なら大概の種は一発で仕留めてきた男なのだ。ゲット数250種くらいある中で、採りに行って連敗した蝶は片手にも満たないのだ。

 
2018年 8月15日

翌々日、渓谷の反対側(南)に行った。
ライト・トラップは持っていないので、糖蜜トラップで採れないかと思ったのである。まあまあ天才なのだ、いくらナマリキシタバがカッコ良くて珍しかろうとも、たかが蛾だ。とっとと片付けてやろう。

後ほど図鑑等で知ったのだが、環境的には絶好の場所で、如何にもナマリが居そうなところである。

 

 
周辺には、幼虫の食樹であるイブキシモツケも沢山生えている。

 

 
やがて、闇が訪れた。

 

 
ここは旧国鉄福知山線の跡地で、今はハイキング道になっており、線路とトンネルがそのまま残っている。
そのトンネルの奥は真っ暗だ。闇が尋常でなく濃い。

 

 
あんぐりと開いた不気味な黒い口の先は、背中に悪寒が走るほど深い闇だ。
怖がりで小心もんのワシには、チビるに充分なシチュエーションじゃよ。

昼間だと、↙こんな感じだが、それでも充分に怖い。

  

 
何てったって、出口の明かりさえ見えない長いトンネルだってあるのだ。昼間でも懐中電灯が無ければ歩けないようなレベルの暗さなのだ。

時々、と云うか頻繁にトンネルの方に目を遣る。

だって、奥から魑魅魍魎どもが走ってきたら、ワシのマイライフはジ・エンドなんだもーん༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

いつでも全速力で逃げられる用意をしておかなくてはならんのだ。一歩でも逃げ出すスピードが遅れれば、致命的な結果になりかねない。

しかし、そこまで必死こいて頑張ったのにも拘わらず、糖蜜に来たのはムクゲコノハとアケビコノハ、それとオオトモエくらいだった。

 
【ムクゲコノハ】

(2019.8月 岐阜県高山市)

 
乙女のカッチャンは「ねっ、ねっ、コイツ綺麗だよね。」と言ってたけど、正直なところ毒々しくて気持ち悪い。元来、蛾はキモいから苦手なのだ。ってゆうか、怖い。餓鬼の頃からの蛾=邪悪と云う図式の刷り込みは容易な事では拭い去られるものではない。

コイツと次のアケビコノハは、よく糖蜜に寄ってくるが、妙に敏感ですぐ逃げよる。これが💢イラッとくる。だから、しばしばバイオレンスな気持ちになる。まだシバき倒してやった事はないけどさ。

 
【アケビコノハ】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
普通種だが、素直な気持ちで見るとカッコ美しい。
でも前述したように、しばしば殺意を抱(いだ)く存在。

 
【オオトモエ】

(2018.8月 奈良県大和郡山市)

 
個人的には「マスカレード」と呼んでいる。
仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだからだ。大きくて見栄えも良いから割りと好きな蛾だが、翅が薄くて直ぐにボロボロになりよる。たぶん藪の中とか変なとこを飛ぶせいもあるのだろう。パッと見キレイそうだからと採ってみたら、大概が縁がボロボロになっとる。羽化直後のような新鮮な個体でも、どこか破れているのだ。そんなワケだから採る度ごとに一々ガッカリするし、コヤツも敏感な奴が多くて直ぐ逃げるのも何だかムカつく。だから最近は見てもフル無視だ。

それにしても展翅がなあ…。よくよく見ると下手クソだわさ。まだ蛾の展翅には慣れてない初期の頃のモノだから、前翅が上がり過ぎてるし、触角の角度も上向き過ぎてる。蝶と蛾とでは羽の形が微妙に異なるから、蝶とは勝手が違うのだ。来年は改めて採り直して、完璧なのを作ろっと。
あっ、全然関係ないけど、台湾の青いトモエガは超カッコイイから是非とも自分の手で採りたいね。

 
【Erebus albicincta obscurata 玉邊目夜蛾】

(出典『飛蛾資訊分享站』)

 
美しいだけでなく、結構デカいらしい。
これはマジで採りたいから、どなたかポイントを教えてくれんかのう。

 
2019年 7月24日

2019年の一発目は、武田尾駅の1つ先の道場だった。
ここにもナマリキシタバの幼虫採集の記録があるからである。去年、武田尾で2連敗した教訓から、場所を変えてみようと考えたのだ。ターゲットを落とす為には、ありとあらゆる可能性を考えて戦略を練らなくてはならない。女の子を落とすのと同じだ。
あっ、でもワシって、いつもその場その場の出たとこ勝負だわさ。まあ、それも戦略っちゃ戦略かもなあ…。

場所は謂うなれば前回とは反対側の渓谷の北の外れにあたり、ここから武田尾渓谷を経て生瀬まで幼虫の採集記録がある。
でも、見たところ幼虫採集のみの記録しかなくて、成虫が採れたと云う話は聞いたことがない。そこんとこは気になるところではある。皆さん、成虫は中々採れないゆえに幼虫採集をしやはるみたいだ。どうやら標本を得るためには、終齢幼虫を採ってきて親にするのが一番手っ取り早いらしいのだ。
でも、蝶を採り始めた時からファーストコンタクトは成虫採集でなければならぬと云う強い拘りがある。はなから幼虫を採ってきて羽化させてハイ採れましたじゃ、卑怯な気がするのだ。どこか正々堂々と対峙してないと感じてしまう。
ことわっとくが、これは別に他人のやり方を誹謗中傷しているワケではない。単に自分は、そうゆう主義なのである。そこは己の生き方にも通じるところがあるから曲げれない。それだけの事だ。他人がどうあろうと関係ないし、興味もない。

 

 
千刈ダムまで行って引き返す。
周囲に灯りは全く無さそうで、日が沈めは真っ暗になると思ったからだ。それに何か辺りの風景が不気味だったので怖かったのだ。ダムってお化けとか幽霊が出そうなんだよなあ…。絶対に誰かが沈められてると思う。アッシ、自慢じゃないが、ウルトラ根性なしの怖がり屋で、チキンハート野郎なのさ。子供の頃、夜中に便所に行くのが怖くて妹に30円払ってついてきて貰ってたような男なのだ。

だいぶ手前の桜並木まで戻り、糖蜜を吹き付けてゆく。
何処であろうとも、採れりゃいいのである。異界の者に会うリスクは出来るだけ避けるべきじゃろう。

午後9時半くらいだったと思う。林縁の高い所を飛ぶカトカラを発見。
裏側は黄色いから、ナマリも含まれるキシタバ類に違いない。
大きさ的にはデカくないからパタラ(キシタバ=C.patala)ではない。消去法でいくと、既に発生が終わっているアサマキシタバやフシキキシタバの可能性も除外していいだろう。いたとしても相当なボロだかんね。どう見ても飛んでるのは、そんなボロ風情ではない。
この時期だと、おそらくコガタキシタバもボロだろうし、関西の低地だとワモンキシタバやウスイロキシタバも同じくボロだろう。それにウスイロは裏の色が薄く、オフホワイトだから間違う可能性は低い。
クロシオキシタバは主に沿岸部に棲み、内陸にはあまり居ない種だし、大きさもキシタバに次ぐものだからデカい。コレも有り得んだろう。

 
【キシタバ ♀】

(2019.6月 奈良県大和郡山市)

 
【アサマキシタバ ♂】

(2019.5月 大阪府東大阪市)

 
【フシキキシタバ ♂】

(2019.6月 兵庫県西宮市)

 
【コガタキシタバ ♂】

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
【ワモンキシタバ ♀】

(2019.8月 長野県上田市)

 
【ウスイロキシタバ 】

(2020.6月 兵庫県西宮市)
 
 
【クロシオキシタバ ♂】

(2018.7月 兵庫県神戸市)

 
残る可能性はアミメキシタバ、カバフキシタバ、マメキシタバ、そしてナマリキシタバくらいだろう。

 
【アミメキシタバ ♀】

(2019.7月 奈良市)

 
アミメって、此処に記録があるのかなあ❓ウバメガシが有ればいるかもしれないけど、あまり聞いた事がない。でも可能性はそれなりにあるだろう。

 
【カバフキシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
カバフは稀種で、分布は局所的だ。いる可能性もないではないが、いない可能性の方が高い。

 
【マメキシタバ ♂】

(2020.7月 長野県北安曇郡)

 
マメは普通種だから間違いなく此処にも居るだろう。
でも翅形はナマリよりも細い気がする。飛んでるのはマメよりも翅が丸いような気がする。
となると、ナマリの公算は高いかもしれない。
しかし、降りて来ることはなく、やがて梢の上を優雅に越えて姿を消した。
まあいい、そのうち我がスペシャルレシピの糖蜜トラップに寄ってくるじゃろうて。何てったって、カバフを筆頭に樹液をも凌駕してきた糖蜜なのである。ドーンと来いじゃ❗

  

 
しかし、トラップには殆んど何もやって来ず、帰り際に飛んでたクソみたいな蛾(たぶんキマダラオオナミシャク)を思わず採ってしまう。
未曾有の大惨敗である。マジで心折れたね。

 
2019年 8月5日

まだ採ったことのないカトカラを求めての信州遠征5日目である。
ミヤマキシタバ、アズミキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバ、ヒメシロシタバ、ケンモンキシタバ、ヨシノキシタバを狙うも、前半は3連敗でボコボコ、漸く昨日になって何とかミヤマキシタバを仕留める事ができた。

 
【ミヤマキシタバ】


(上は♂で長野県大町市、下は♀で長野県木曽町)

 
とはいえ、連日のテント生活で疲れきっていた。おまけに新しい靴で死ぬほど歩き回ったせいで酷い靴ズレになってて、身も心もボロボロだった(註2)。

 

 
松本から新島々行きの電車に乗る。
目指すは、○○ちゃんに教えてもらった場所だ。

しかし、結構歩いた末に崖崩れで前へ進めず、ポイントには辿り着けなかった。仕方なく中途半端な場所で糖蜜を撒く。居ないとは言い切れないが、環境的にあまり期待が出来ないことは自分でも解っていた。でも糖蜜の甘い匂いに誘われて離れた所からでも飛んで来んだろう。生物の嗅覚は人間の想像する以上に優れていると言うからね。
でも(´Д⊂グスン。そうでも思わないと、やってらんないのである。

そして案の定、結果は惨憺たるもので、全くと言っていいほど何も飛んで来なかった。
もしかしたら、ナマリは糖蜜トラップでは採れないのかもしれない。となると、灯火採集用のライト・トラップが無いと無理なのか❓…。でも樹液に来たという記録は少ないながらも有るんだよなあ。

帰りに、駅で見たことがない蛾を見つける。
すわっ❗、ジョウザンヒトリか❗❓と思って採ってしまった…。

 

 
ついでにスタイリッシュな柄の別な蛾も採ってしまう。

 

 
蛾はカトカラとヤママユ系以外は採らない主義だが、何にも戦利品がないのは悲し過ぎる。なので、つい採ってしまったのである。そうでもしないと、溜飲が下がらなかったのだ。
けど、それで溜飲が下がったか?と訊かれたら、黙り込むかもしんない。所詮は己を誤魔化しているに過ぎないと、心の底では知っているからだ。

結局、帰って調べたら、別に珍しくも何ともない者たちであった。
最初のはシロオビドクガの♀みたいだ。

 

 
ドクガと名がつくが、毒はない。
♂は見た目が全然違くて、前翅の柄はもっと素っ気なく、後翅も黒くて地味。あまりにも両者の見た目が違うので、以前は別種だと考えられていたそうな。

2頭目はボクトウガの仲間である。

 

 
展翅したら、ズッコケるくらいに異様でブサいくな形(なり)だったんで、凹んだよ。
たぶん「ゴマフボクトウ」って奴だろう。

3頭目はマイマイガの仲間と知って、展翅すらしなかった。
たぶんノンネマイマイ。ノンネって何じゃらホイ?意味ワカランわい。死ねや(-_-メ)
マイマイガの仲間は時に大量発生するし、ホント気持ち悪い。触角もヤな感じだし、許せない。以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね(註3)。マジ、コイツら憎悪だ。

  

 
松本の居酒屋に入って、お通しのキャベツに味噌つけて食い、ビール飲んでテーブルに突っ伏す。
このシリーズを読んでおられる方ならお気づきだろうが、ここでも疲労と落胆で突っ伏していたのである。

 

 
店員のブス女に薦められたサラダである。
別にマズくはないのだが、如何せん量が多い。コレでソッコー腹一杯になった。
一人で居酒屋に入る時は絶対にサラダなんか頼まないのに、ブスの言うことなんて聞くんじゃなかったよ。

糞ブスめがっ(ノ`Д´)ノ彡┻━┻❗❗

やる事なすこと上手くいかなくって、オジサンは心がヤサグレてて、とっても荒(すさ)んでいるのである。女子店員に罪はない。

 

 
他にハジカミ(谷中生姜)の豚肉巻きも頼んだ。
けんど期待を下回るもので何ら感動がない。長野県って野沢菜以外にロクに旨いもんがないんだよなー。スマンが長野で食いもんに感動した事は一度だってないのだ。蕎麦は高いわりには美味くないし、馬刺は熊本の方が百万倍旨い。蜂の子とかも、さして旨くなくて、昔の人は食べるもんがないから仕方なしに食ってたんじゃないかという気さえする。五平餅はまだ許せるが、そもそも甘い味付けの食いもんは我が食のカーストでは底辺に位置するのだ。
それに、三河地方出身の小太郎くん曰く、五平餅の元々の発祥は三河で、そこと隣接する長野県南部の一部でも名物だが、それを他の長野県の地方がパクッてドサクサで長野名物にしてしまったという。どこまで本当なのかはワカランし、責任持たないけどね。真偽が知りたい方は、御自身で調べて下され。

ムカつくので、あとは只管(ひたすら)に酒をガブ呑みしてやったよ。
こういうのを、人は「ヤケ酒」と呼ぶ。

 
2019年 8月8日

この日は信州から大阪までボロボロになって戻ってきた。
にも拘らず、青春18切符だったので真っ直ぐには帰らず、根性で兵庫県の道場駅まで足を延ばした。

 

 
我ながら執念である。そこまでしてナマリに会いたいのだ。もうここまでくれば、恋愛の域だ。恋い焦がれている。

そして、今回は前回の道場のリベンジでもある。
でも全く同じ場所では返り討ちに遭うことは明白だから、ポイントを変えて前回よりも奥を目指した。そう、こないだはビビって逃げ出したあのダム・サイトだ。

この前は怖くて、それどころじゃなかったが、千刈ダムにはナマリの食樹であるイブキシモツケが山ほど有った。

よっしゃあー(ノ`Д´)ノ❗
ここで一発逆転じゃあ❗

この地でナマリさえ採れれば、逆転さよならホームラン、全ては大団円で終わるのだ。長野遠征の屈辱と疲れも一気に吹き飛ぼうぞ。

木と崖の岩に糖蜜を目一杯吹き付けてゆく。今日が旅の最終日なので、手持ちの糖蜜を全部使い切ってやる所存だ。

撒き終わった頃に日が沈み、真っ暗闇になった。
辺りには、ダムの放水音が不気味に響き渡っている。出るシチュエーションだ。そして、足を踏み外して落ちたら、土座右衛門必至である。で、朝にはプカプカと川に浮かぶのだ。旅の最後が溺死だなんて悲し過ぎるよ、ベイベェー。

だが、それだけ勇気を振り絞って頑張ったのにも拘わらず、又しても返り討ちに遭う。絶好の場所なのに、ナマリどころか殆んど何も飛んで来ん。武田尾といい、此処といい、極めて蛾の棲息密度が薄い。( ꈨຶ ˙̫̮ ꈨຶ )バカ野郎めが…。

ギザギザにササクレ立った心を抱えて、早めに離脱した。午前0時までに家の最寄りの駅まで帰らないと、青春18切符の期限が切れるのだ。
とにかく又しても負けた。しかも、未だに何の手掛かりも無いに等しい状態だ。光明が何処にも見えない。

 
写真を撮っていないので日付はハッキリしないが、実をいうと、8月12日〜17日の間にも武田尾に行ってる筈だ。北側の武田尾駅方面からトンネルを抜けて樹液採集に行った記憶が強く残っているからだ。
何故に強く脳髄に刻まれているのかと云うと、メッチャクチャ怖かったからだ。ダムの時よか遥かに恐怖はデカかった。
渓谷の南側からのアプローチはトンネル内に入らずともポイントに行けるが、北側からだとポイントに行くのにトンネルを少なくとも2つは通り抜けねばならないからだ。
トンネルといえば、心霊スポットの王道だ。ゼッテー、ヤバいのがいらっしゃるに決まっているのだ。そんな所に一人で行くなんて自殺行為だ。

 

 
昼間だって充分怖い。懐中電灯が無いと歩けないのだ。
なのに、そこを夜に通るだなんて、正気の沙汰ではない。想像しただけでも、髪の毛が立つほどに恐ろしい。
それでも意を決して行ったのは、ナマリ嬢にどうしても会いたい、手籠めにしたいと云う強い欲望の為せる業だった。いつだって恋愛は、人をどこまでも愚かにさせる。

トンネルを通った時の記憶は朧(おぼろ)だ。メモリーはフリーズされ、脳内の永久凍土に奥深く埋められているのだろう。だから、その時の事はあまり思い出せない。でも時々、今でもトンネル内の冷んやりとした空気や暗闇を切り取る懐中電灯の長い光線、背中の毛が総毛立つよな感覚がフラッシュバックする事がある。人はね、恐怖の記憶を無意識に消すように出来てるのだ。でないと、生きていけないからね。

トンネルを幾つか抜け、雑木林に入った。
6月に別なカトカラを探しに来た折りに、樹液の出ている木を何本か見つけておいたのである。もしかして糖蜜トラップは効かないのかもしれないと考え始めていて、ならば樹液だったらどうだと思ったのだ。自然のモノゆえ、少なくとも糖蜜よりかは採れる可能性は高いだろう。
汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん。採れないのなら、想像力を働かせて策を練り、一つ一つ実行に移してゆくしかないのだ。

ここまで来ると、川の音も聞こえない。
辺りは森厳としている。
トンネルに比べれば怖くはないが、それでも懐中電灯を消すと暗黒世界だ。やっぱり怖い。鳥の声にギクリとする。怪鳥ギラータかもしれん…(・o・;)
心頭滅却。ナマリの事だけを考えよう。それが恐怖に打ち勝つ最適にして最良の方法だ。

程なくして、
来たっ❗❗と思った。

大きさ的に小さいからナマリだろ❗❓
慎重に距離を詰める。ここで会ったが百年目、何があっても我が手中に収めてやるっ(ノ`Д´)ノ❗

しかし近づくと、上翅にはナマリキシタバ特有の、あの稲妻が走ったような黄色い線が無い。
(-_-;)誰だ、テメェ❓

一拍おいて漸く気づく。
なあ〜んだ、アミメキシタバだわさ。やはり、この渓谷にもアミメちゃんは居たんだね。
にしても、(´ε` )ガッカリだよ。恥ずかしいまでの糠喜びっぷりだった。スゲー損した気分だ。

1時間ほど居たが飛んで来ず、焦れてポイントを移動する事にした。壁にイブキシモツケが沢山生えている場所がある事を思い出したのだ。記憶が一部寸断しているが、多分もう1つトンネルを抜けて其処へ行った筈だ。

だが、糖蜜トラップは又しても殆んど機能せず、クソ蛾がパラパラと散発で飛んで来ただけだった。オマケに雨までポツポツ降り出してきた。泣きっ面に蜂とは、正にこの通りだ。
それで思い出したよ。その小雨の中、壁の上の方を小さめのカトカラが飛んでた。網は全然届かない高さだ。多分、アレこそがナマリだったのではないかと思う。忘れていたところをみると、自分に都合の悪い記憶だから壁に塗り込めていたのだろう。
それにしても、何で糖蜜トラップは無視なのだ❓何ゆえに誘引されないのだ❓もしかしてワシの糖蜜が無能のクズ糖蜜なのか❓いやいや、そんな筈はない。同じレシピで今まで大きな成果を上げてきたのだ。
そういや、蛾界の若手のホープである天才マオちゃんも「ナマリのポイントで何度も糖蜜やってますが、来た試しがありませんね。」と言ってたなあ…。

結局、ソヤツも何処かへ消えた。
深窓の令嬢は未(いま)だに、その姿さえまともに現してはくれないのだ。謎めいた存在のままだ。

どうあれ、又しても惨敗決定である。
終電に間に合うように撤退した。勿論、またメチャンコ怖いトンネルを通ってである。記憶にあるのは、まだ彼女に会えてさえいないのに、こんなとこで魑魅魍魎どもに襲われて死んだとしたら、泣くに泣けないと思った事だけだ。記憶はあまり無いのにも拘わらず、二度とアソコには行きたくないと思ってるところをみると、相当怖かったに違いあるまい。

結局、2019年は屈辱の4連敗で終わった。
2018年の戦績も加えれば、何と6連敗だ。蝶での連敗記録の最大数はキリシマシジミの5連敗だから、最早それをも越えている。まさかである。しかも姿さえまともに見てないんである。「まあまあ天才」の自信、完全に瓦解である。
蛾なんぞと、完全にナメ切っていたが、たぶんチョウよかガを採る方が遥かに難しいと痛感させられたよ。
蛾は夜間採集が主だから、蝶みたく飛んでるのを見つけて採るとゆうワケにはゆかぬのだ。基本的に灯火採集か樹液&糖蜜採集しか採る方法はない。オマケに蝶と比べて情報量が極めて少ない。文献の数は遥かに少なく、マニアの数も少ないから情報も入ってこないのだ。

 
2020年は、余程5月に幼虫採集に行ってやろうかと思った。連敗に次ぐ連敗で、採れる気が全くしない。心は半分以上、折れていたのである。
しかし、グッと踏み堪えた。最後の最後まで闘う矜持を失うワケにはいかない。背水の陣。今年がダメならば、来年は潔く諦めて幼虫採りでも何でもしてやるよ、バーロー。

 
2020年 7月16日

2020年、最初のナマリチャレンジである。
気合が入ってる分、例年よりも始動は早い。

去年は糖蜜には全く反応が無かったので、この為に遂にライトトラップを購入した。
といっても、水銀灯や発電機、安定器がセットとなった大掛かりなものではなく、簡易の何ちゃってライトトラップである。

 

 
高出力UV LEDライトで、めちゃんこシンブル。でもってメチャメチャ軽い。たったの130gしかないのだ。
モバイルバッテリーは200gだから、全部で驚愕の330gしかない。

 

 
とはいえ、上のバッテリーは495gある。途中でライトが消えたら泣くに泣けないので、大容量のモノに変えてもらったのだ。それでも合計は625gである。車で行けないような山奥でも楽勝で持ち運べるのだ。
尚、このバッテリーだと12時間点けっぱなしでも容量が半分以上も残っている。ゆえに一晩だけなら、もっと低い容量のバッテリーでも充分もつだろう。

既にテストで何度か試している。勿論、威力は水銀灯に比ぶべきもないが、それなりに虫は集まって来る。目安としては40Wのブラックライト蛍光灯と同程度の誘引力があるらしい。

 

 
仕様は小太郎くんに貰った三脚に本体をビニールテープで貼っつけ、下に白布を敷いただけである。

 

 
この時点までの実績は、カトカラだとウスイロキシタバとフシキキシタバ、コガタキシタバ、キシタバが寄ってきた(註4)。

布を下に引くだけでは止まる面積が少ないし、見逃しそうなので新たに蚊帳も購入した。
本来ならば、白布をパイプか何かで作った枠組にスクリーン状に張らなければならないのだが、一々セットするのは面倒臭いし、布は重たいので薄手の蚊帳にしたのである。
ホームセンターで展示品だった二千円いくらかのものが、交渉したら消費税込みで千円くらいになった。こうゆう時は生粋の大阪人で良かったなと思う。

組み立ては超簡単だし、とにかく軽い。しかし、折り畳んでもデカいので、車が無ければ邪魔なサイズではある。日帰り採集くらいなら荷物も少ないから電車でも運べるが、荷物の多い長期の採集だと厳しいかもしんない。

そして、昆虫同好会で借りてきた同じ会社で作ってる超高出力のUV LEDライトも持参した。

 

 
コチラは600gと重いが(バッテリーは650g)、それでも1キロちょっと。ザックに入れて持っていける重量だ。
誘引力の目安としては、水銀灯200〜300Wの効果があるそうだ。但し、光はそれなりに強いが、点灯時間が1時間半と短いので、ナマリが飛んで来るという午前0時前後に投入する予定である。
現時点で、出来うる限りの事はやりきった。
今日こそ、今まで溜まり溜まった憤怒のマグマを💥爆発させてやるぜ。

場所は三度目の正直の道場である。
何故に此処を選んだのかと云うと、見通しのいい拓けた場所があって、その先の川向うには如何にもナマリが居そうな崖が有るからだった。だが、心配なのは少し距離がある事だ。崖まで50mはあるだろう。けど、周りが真っ暗なんだから誘引されると踏んだ。長時間点灯してりゃあ、そのうち飛んで来んだろう。
(´ω`)ハハハハ、長時間って書いたのは朝まで灯火採集をやるつもりの覚悟だからだ。そう、言ったように背水の陣なのである。もしこれでダメなら、もう自分で打てる手は無しである。

 

 
何だか美しい。「宇宙船地球号」と呟く。
どこが宇宙船地球号なのか自分でもよくワカンナイが、何となく口から言葉が漏れた。
因みに蚊帳の中の水色の丸いのが蚊帳のケースである。

宇宙船地球号の意外な程の美しさに暫しハシャいでいたが、点灯後すぐに死ぬほど羽蟻が飛んで来やがった。ガッデーム。正直、キモい。これも令嬢の嫌がらせかよと思ってしまう。
あとは何故かコガネムシが大量に飛んで来た。ウザいわ、ボケッ❗

一応、ダメ元で糖蜜も木に吹き付けておく。
これでナマリがライトにではなく、糖蜜に寄ってきたとしたら、お笑い草だよな。ライトした意味ねぇーじゃんかあ(+_+)
けどこの際、採れりゃ何だっていい。

しかし待つも、糖蜜にもライトにも来やしない。
少しずつ追い詰められてゆく。

午前0時。
満を持して、デカい方のライトも点灯する。

 

 
今度こそ、頼んますと手を合わせる。もう採れるのなら、神頼みだって何だってしてやる所存だ。

そして、時々糖蜜トラップの様子も見に行く。

 

 
(☉。☉)ありゃま❗
アンタ、こんなとこにも居たのね。
相変わらず糖蜜トラップにはロクなもんが飛んで来なくて1頭もカトカラは寄って来なかったが、ナゼかレアなカバブキシタバが採れてしまった。まさか、こんなとこにも居るとは思いも寄らなかったよ。カバブは局所的分布で珍しいと言われてるけど、探せば案外どこにでもいるのかもしれん。食樹のカマツカは、さして珍しい木ではないからさ。但し、何処でも個体数は少ないのかもしれないけどね。

(-_-;)……。
でも、お嬢は姿をチラリとも見せない。
心が、どんどんドス黒く染まってゆく。正直、泣きそうだ。

午前2時過ぎ。
業を煮やして場所を変える事にした。
そこなら崖の真ん前だ。イブキシモツケも結構生えてた筈だ。

 

 
去年、謎のカトカラが飛んでいた場所のすぐ近くだ。

 

 
午前3時。
見たことがあるまあまあカッコイイ蛾が大量に飛んで来た。
初めて京都で見た時も午前0時を過ぎてから現れたので、活動時刻が遅い蛾なのかもしれない。

 

(2018.7月 京都市)

 
たぶん、ツマキシャチホコって名前じゃなかったかな?
でも、オマエらなんかどうでもいい。採る気さえ起こらない。
活性が入り、他の蛾も飛んで来て期待値が上がるも、チャンチャン。結局また、お嬢に袖にされた。
白み始めた道を引きずるような足取りで駅まで歩いた。
コロンビーナ(columbina)は、何処にいるのだ❓
思わず、ボロっと口ずさむ。

🎵ビーナ、ビーナス
🎵何処にいるのか ビーナ〜
🎵誰か ビーナを知ら〜な〜いかあ〜❓(註5)

 
2020年 7月18日

明後日にも出動した。

 
再びの宇宙船地球号である。
やるっきゃない。もうヤケクソを超えた意地である。

今度は武田尾渓谷の南側にやって来た。
前回の反省から、もっと棲息地に近そうな場所を選んだのだ。道場は崖まで50mくらいあったが、ここなら20mくらいだろう。もし居れば、必ずや飛んで来る筈だ。いや、最も居る可能性の高い環境なのだ、居ない筈はなかろう。

どうせダメだとは思うが、一応周囲に糖蜜トラップも撒く。
こんだけ効果がないと、もはや期待なんか全然しない。全然してないと言ったけど、心の底の底ではどっかで期待してるんだけどね。奇跡を信じなきゃ、救われないもんね。
でも考えてみりゃ、ここでは1頭たりともカトカラはトラップに寄って来てない。何処でも必ず現れるタダのキシタバさえも見てないのだ。

午後9時半だった。

ビクッΣ(・ω・;|||❗

何か気配のようなものがしたので、振り向く。
見ると、トンネルの奥で灯りが揺れ動いている。
一瞬、🔥鬼火かと思った。だとしたら、お終いだ。
皆さん、ありがとうございました。そしてサヨウナラと心の中で呟く。
けど、ここで死ぬワケにはいかぬ。まだナマリ嬢を落としていないのだ。よし、もしも化け物なら、(-_-メ)ブッ殺してやる。網の柄を強く握り締める。これでタコ殴りして、マシンガンキックを喰らわしてやろうぞ。この溜まりに溜まった鬱憤を暗い怒りに転化してくれるわ( `Д´)ノ❗

よく見ると、灯りは1つではなく、2つだった。もしかして巨大な顔だけの👹鬼だったりして…。水木しげる先生の描いた妖怪に、そんな奴いなかったっけ❓

近づいて来る灯りが、やがてトンネルを出た。
どう考えても懐中電灯だ。とゆう事は、人だ。人間の形の影も見える。ホッとする。
しかし、こんな時間に、こんな場所に人❓
もしかしたら、殺人鬼兄弟が逃亡しているのやもしれん😱
再び全身の筋肉が緊張する。

どんどん近づいて来る。
あと15mってところだ。

こんばんわ〜。

気がついたら、朗らかな声で言っていた。
咄嗟に、殺人鬼ならば懐柔しようと思ったのである。殺されたくないという一心が、いい奴だと思われようとしているのである。だから明るい朗らかな声を掛けたのだ。上手くいけば、殺人鬼に見逃してもらえるかもしれない。
それに考えてみれば、アッチだって怖いかもしれないのだ。たとえ殺人鬼でも闇に浮かぶ宇宙船地球号の傍らに立つ男だなんて、どう見ても怪しい。怪訝に思って然りだろう。だから、それを解消するためにコッチから早めに声を掛けたのだった。一応、網の柄は逆さまに持っていて、いつでもブッた斬る姿勢は崩してなかったけどもね。

直ぐにアチラからも「こんばんわ〜。」と云う挨拶が返ってきた。
良かったあ〜。殺人鬼ではなさそうだ。
見ると、男性の若者二人組だった。

暫く立ち話をする。
聞くと、二人は廃線マニアらしい。鉄ちゃんには、そうゆうジャンルもあるらしい。こんなとこで蛾を探してる自分だって人の事は言えた義理じゃないけど、世の中には変わった人もいるんだね。それにしても。なして夜なの❓
尋ねると、たまたま夜になっただけらしい。なあ〜んだ、廃線マニアで、心霊マニアなのかと思ってたよ。

二人が去ると、再び辺りに静寂が訪れた。
いや、脳が消去していたが、川の流れる音は聞こえている。寧ろ、かえって音は強くなったような気がする。

時々、ライトの角度を変えるも効果なし。
何も起こらなかった。強いて言えば、カブトムシが飛んで来た事くらいか…。

虚しく、夜が明けた。

 

 
目の前は如何にもナマリが居そうな環境なのに、何で飛んでけぇへんの〜(ToT)❓
ホントに此処に居るのかよ❓絶滅したんじゃないのか❓
もう、そう思わずにはやってらんない。

 
2020年 7月19日

翌日と云うか、その日の昼過ぎに小太郎くんから電話があった。プーさんと一緒に灯火採集するけど、来ます?というお誘いだった。小太郎くんは、今年になって遂に水銀灯のライトトラップセットを買ったのである。

場所は能勢方面である。小太郎くんが、ここにはユキヤナギではなくてイブキシモツケ食いのホシミスジがいるからナマリもいる筈だと言い出したのだ。
本音では、そんなとこおるワケあるかーいと思ってたし、今朝の今日だから正直なところ行くのは億劫だった。昨日の惨敗で身も心も疲れきっていたのだ。
でも、その誘いに乗ることにした。ナゼかと云うと、すっごくセコい理由からである。もし行かなくて、本当に採れでもしたらメチャメチャ口惜しいからだ。我ながら、心が狭い。

夕方、川西能勢口でピックアップしてもらい、ポイントへと移動する。

確かにイブキシモツケはあった。しかし、数は少ない。
それに、あまり環境は良さそうには思えない。

日没と共に点灯。

 
やはり水銀灯は光量が強い。
ワシの何ちゃってLEDとは雲泥の差がある。やっぱ、コレくらい光が強くないとダメなのかなあ…。

前から存在が気になっていたムラサキシャチホコを初めて見た。小太郎くんが見つけてくれたのだ。彼には、前から会ってみたいとは言ってたからね。

 

 
こんなの、どう見ても丸まった枯葉にしか見えん。
自然の造形物の妙に、ただただ驚愕する。
別角度から見れば、そうでもないんだけどもね。

 

 
まるで「ダダ」とかオカッパの宇宙人の顔みたいだ。
コレも擬態❓(笑)

 

 
でも、よくよく考えてみれば、コレって昨日もいたよなあ…。
まさかムラサキシャチホコだとは思いもよらなかったので、無視した。頭の中はナマリキシタバで一杯だったのである。他の蛾は全て眼中になかったのだ。

勝手に「白い鷹グリフィス(註6)」と呼んでいるヒトツメオオシロヒメシャクもやって来た。

 

 
結局、カトカラの飛来はナマリどころか、宇宙船地球号に止まったコシロシタバ2頭のみだった。
やっぱりね。こんなとこ居ねえよ。

 
【コシロシタバ ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
プーさんが欲しそうにしてたので、どうぞとお譲りする。
ワシを、蝶屋じゃなくて「蛾屋」だと散々に揶揄してきたプーさんだったが、今年からカトカラも集め始めているのである。面倒くさい人だ。

んな事は、どうだっていい。
これで9連敗。状況は、もう泥沼だ。しかも底なし沼である。弱小阪神タイガースかよ(´ε` )
ライト・トラップにも寄って来ないとなれぱ、どうすればいいのだ❓八方塞がりじゃないか…。

プーさんを神戸まで送り、小太郎くんと大阪に戻って来たのは明け方近くだった。夜遊びしまくってた頃だって朝帰りの2連チャンなんて記憶にない。(ㆁωㆁ)何やってんだ、俺…。
菫色の空を茫然と仰いで、深い深い溜息をつく。
もう一生、お嬢には会えないんじゃないかと思った。

                         つづく
 
 
ーお詫びー
小太郎くんの言として五平餅は元々は三河地方発祥のもので、長野県のパクリだと書いたが、小太郎くんから次のような指摘があった。
「あ、五平餅を愛知発祥だと言ったことはありません。飯田からの流れで地元の三河でもよく売られてるだけですよ。
名古屋名物は他のパクリが多いとは言ったけど。」

睡魔で、話がゴチャゴチャにミックスされてしまったようだ。
長野県の皆様、並びに飯田市の皆様、悪口雑言を撒き散らして、どうもすいませんでした。
よく調べずに書いて、ごめんなさいm(_ )m
あと、小太郎くんもm( _)mごめんなさいでしたー。

 
追伸
タイトルの『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』は推理小説の大家、松本清張の言葉をパクったものである。
数十年前に清張から石見銀山の若者に贈られた色紙に書かれた言葉で、そこに「汝、」を付け足しただけだ。
NHKのBSで清張と鉄道をモチーフにした番組の再放送をやっていて、そこに出てきた。タイトルを付けあぐねていたので、それに飛びついたってワケ。
少々、仰々しいタイトルだが、ナマリへの想いとチャレンジし続けなくては果実は得れないと云うことを表現したかったから、まっいっかとなったのさ。
或いは、『何処にいるのか、コロンビーナ』とでもした方が良かったのかもしれない。邪魔くさいから変えないけど。

 
(註1)『兵庫県カトカラ図鑑』
URLは、www.konchunkan.net.pdf
兵庫県昆虫同好会誌「きべりはむし(39(2)」に、2017年に掲載されたもので、兵庫県のカトカラについて書かれた決定版とも言える内容である。
著者は、阪上洸多・徳平拓朗・松尾隆人各氏の連名になっている。
兵庫県内のカトカラについて精査されており、記録地も書かれてあって、各カトカラに何処へ行けば会えるのかも分かるようになっている。
昨今はネット上では過剰なまでに産地が隠されているから、初心者の身としては誠に助かりもうした。
正直、幾らキレイな写真を御満悦にネットで載せようとも、そんなの記録には残らないからオナニーと同じなんじゃないかと思う。勿論ネットで公開すれば、あっという間に情報が広がり、トラブルの原因にもなることは理解できる。虫屋はモラルに欠ける人間が多いからね。
かといって、蛾なんて人気種のカトカラでさえも記録が少ないのだ。あらゆる面で、記録は後世に残していかなくてはいけないのは当たり前の話で、コレについては異論はなかろう。
記録を積極的に残せて、産地を荒れなくするような何か良い解決法は無いものかね❓そう、いつも思うのだが、妙案は未だ浮かばない。

『兵庫県カトカラ図鑑』の話に戻ろう。
前半はカトカラの概要と、その採集法が書いてあり、カトカラの入門編としての役割も果たしている。次にメインである各種の解説があり、最後には新たに兵庫県で発見される可能性のあるカトカラ(ケンモンキシタバ・ミヤマキシタバ)にまで言及されている。お世辞抜きにバイブルにも成りうる優れたものだと思う。特に近畿地方の人には拝読必須の文献だ。

 
(註2)身も心もボロボロだった
この辺の事については拙ブログに『薄紅色の天女』『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『突っ伏しDiary』と題して書いた。
一応言っとくと、それぞれベニシタバ、アズミキシタバ、ミヤマキシタバの回です。

 
(註3)以前、カシワマイマイには一杯喰わされたしね
これについては、拙ブログに『人間ができてない』と題して書いた。誠にもって大人気(おとなげ)ないと云う話。

 
(註4)何ちゃってライトトラップの実績
9月に試した時はシロシタバ、ゴマシオキシタバ、エゾシロシタバが飛来した。ムラサキシタバも近くまでは飛んで来た。
このライトトラップは、おそらく尾根や山頂などの拓けた場所ではなく、森の中や林縁で効果を発揮するのではないかと思われる。遠くに居る者を引き寄せるというのではなく、近くに居る者を引き寄せると云う考え方をした方がいいかもしれない。

因みに値段は、バッテリー込みで3万円だが、五十嵐さんから聞きまたしと言えば安くしてくれるかもよ。

一応、連絡先を載せておきます。

 

 
(註5)誰か、ビーナを知ら〜な〜いかあ〜
「上海リル」の替え歌です。ビーナとは学名「columbina」の、その場で思いついた略称。ビーナスは勿論あのヴィーナス、美神の事である。ナマリキシタバの美しさと掛けたのだ。
何でこんな世代でもない古い歌を知ってるのかは、自分でもワカンナイ。

 
(註6)「白い鷹」グリフィス
三浦建太郎の漫画『ベルセルク』の重要な登場人物。
戦場で恐れられる傭兵団「鷹の団」の団長。白銀の長い髪をなびかせる中性的な美貌の騎士で、鷹の頭を象った兜と白を基調とした出で立ちから「白い鷹」と云う異名がある。

 

(出典『moemee.jp』)

 
また平民出身でありながらも本物の貴族よりも貴公子然としており、民衆にも人気がある(だったと思う)。
だが、「自分の国を持つ」という夢を果たす為であれば、冷徹なことも平然とやってのける。
書き忘れたが、勿論のこと剣の腕前は超一流である。

 

2020’カトカラ3年生 其の壱 後編

 
    vol.24 アズミキシタバ

      『黄衣の侏儒』

 
後編は種の解説編でごわす。
毎度の事ながら、カトカラ界の両巨匠である石塚勝己さんの『世界のカトカラ』と西尾規孝さんの『日本のCatocala』の画像をふんだんに拝借させて戴きます。礼❗m(_ _)m

 
【アズミキシタバ♂❓】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
小さいけれど美しいカトカラだと思う。
特に下翅のレモンイエローは素敵だね。しかも、その黄色の面積が広い。日本のキシタバ類では、この明るい黄色を有しているのは他にカバフキシタバとハイモンキシタバくらいだ。ジョナスやゴマシオも明るめの黄色だが、その色がくすんでいたり、黒帯が太くて黄色が目立たなかったりするからね。

 
【同♀❓】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
【裏面♂❓】

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
【裏面♀❓】

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
日本では最も小さなカトカラである。
腹部は僅かに黄色味を帯びた灰色。前翅はわずかに金属光沢を帯びた暗い灰褐色で、亜外縁に縦長の灰白紋を有し、ワモンキシタバ(C.xarippe)やキララキシタバ(C.fulminea)のように黒い腎状紋の下の線が大きく湾曲する。後翅はレモンイエロー(明るい黄色)で、中央黒帯と外縁黒帯は繋がらず、外縁黒帯は途中で分離する。また翅頂にはハッキリとした黄斑がある。
前翅はワモン&キララやナマリキシタバと似るが、後翅の柄は何れも似ておらず、また遥かに小型ゆえ、判別は容易。

 
(ワモンキシタバ Catocala xarippe)

(2020.8 長野県木曽町)

前翅の斑紋は似るが、色が違う。

 
(ナマリキシタバ Catocala columbina)

(出典『世界のカトカラ』)

前翅の色は似ているが斑紋が違う。また後翅の帯の形も違う。
大きさは近いものがあるが、相対的にナマリの方が少し大きい。

反対に後翅が似ているハイモンキシタバとは前翅の色柄が全く違う。

 
(ハイモンキシタバ Catocala mabella)

(出典『世界のカトカラ』)

同じく大きさに格段の差もあるから、これまた判別は容易である。

 
【雌雄の判別】

基本的なカトカラの雌雄の違いは、♂は腹部が細くて長い。また尻先に毛が多く、筆状(毛束)に見える。
一方、♀は腹部が太くて短い。そして尻先に毛が少なくて尖って見える。また翅形が丸みを帯びる傾向がある。
しかし現地で採ってても、今イチ雌雄の区別がつかんかった。ならばと『世界のカトカラ』のアズミの写真を見たら、コレが驚いた事に微妙なんである。

 
(♂)

 
腹が細くて細いけど、尻先の毛束の量が思った以上に多くなくて、雌雄に大きな差がなかったりするのだ。
図の右は毛が有るのが明確に分かるが、左はよくワカラン。冒頭の展翅した♂とおぼしきものも、他のカトカラの♂と比べて毛があまり無い。

  
(♀)

(出典 2点とも『世界のカトカラ』)

 
そして、♀は毛束こそ目立たないが腹が細くて長く、一見して♂っぼく見えるのだ。あとは尻先が毛束がない分、尖って見える。これは他のカトカラの♀も同じような特徴を持つものが多いから理解できる。
翅形はやや丸みを帯びるが、例外も多いので決定的な判別には使えそうにない。あくまでも補足事項なのだ。

ならば裏面から尻先を見たらと思った。多くのカトカラの雌雄の違いは此処に縦にスリットが入っているか否かで分かる。スリットが入っており、その下に黄色い産卵管が見えていれば、間違いなく♀だからだ。しかし図鑑やネットで裏面写真を掲載しているものは極めて少ない。そして尚悪いことに干からびたような標本写真が多いので、判別が困難なものばかりなのだ。

取り敢えず冷凍庫にブチ込んだままの残りのアズミを展翅しよう。でないと埓が開かない。まだたったの2頭しか展翅していないのだ。それも3ヶ月も前の話だ。展翅が嫌いなのだ。だから億劫にもなる。
それはそうと、ろくに展翅もせずに文章を書いてるって初めてなんじゃないか❓あっ、言っとくと、この時点では実をいうと後編の解説編の方から先に書きだしておるのだ。で、この項の途中で投げだして前編の採集記の方を書いたのである。たとえ展翅したものが無くても前編は書けたってワケ。

さて、邪魔くさいけど展翅すっか。
その前に、前回載せた展翅個体の展翅する前の画像が出てきたから載せておこう。

 

 
冒頭の♂とおぼしき個体の展翅画像と、おそらく同一個体であろう。
尻先にあまり毛がないから♀に見えなくもない。いや、♀かも…。
何か早くも迷宮世界に入っちゃった気がするぞ(ー_ー;)💦

お次は前回に♀とおぼしきものと書いたものだ。

 

 
何度も画像を貼り付けるのが恥ずかしくなるくらいのハゲちょろけ、MAXハゲだ。
腹が太くて全体的に羽に丸みがあるので♀に間違いないと思うんだよね。
その同一個体がコレ↙。

 

 
画像だと何となく腹が短いような気がする。ならば♀か❓
でも尻先に毛束があるようにも見える。そして、反対側の面の画像を見て、あれっ❓と思った。

 

 
尻が長いので♂にも見える。
いや待てよ。アズミの♀って腹が長かったよね。ならば尻先はどうだ❓
┐(´д`)┌ありゃあー、毛がないように見える。あっ、♀なら無い方がいいのか…。頭の中がグジャグジャで、段々自分でもワケわかんなくなってるぞ。完全にラビリンスだ。

取り敢えず、新たに展翅してみよう。
先ずは腹先にスリットが入っているかどうか確かめよう。

 

 
あちゃま、腹の部分だけ黒く映っとるやないの。
撮り直しだね。

 

 
尻先にスリットは無いように見える。産卵管も見受けられない。けど小さいから、よく分かんねぇぞ。ん〜、毛束も有るみたいだから♂かえ❓

横からの画像も撮る。

 

 
w(°o°)wゲッ、全然ピント合っとらへんやないけー。
尻先は一応、毛束があるように見える。でも他のカトカラの♂と比べて、やっぱり少ない。(´-﹏-`;)何なんだよ〜、おまえー。

展翅してみる。

 

 
しっかり毛束があるから、たぶん♂だね。
となると、♀であると言い切れるようなものを探せば、この迷宮から脱出できるってワケだ。

 

 
毛束が結構あるように見える。
とゆうことは♂❓

ひっくり返す。

 

 
スリットは無い。って事は♂なのか…❓
腹も細くみえるしね。

 

 
コレは腹が細いし、毛束もあるから♂だろう。
ん❓ちょっと待てよ。さっきのは尻先に毛束が有ったけど、腹はもっと太かったような気もするぞ。
まあいい。ならば、♀を早く見つけるのが先決だ。一つ一つアテなくチビチビ展翅してらんない。よし、ここは取り敢えず全部の三角紙を開けて、♀らしきもんを探して展翅していこう。自ずとそれで答えに辿り着けるだろう。

おっ❗、あった。

 

 
ちょっと大きめで腹が太いからコレは絶対♀だろう。鮮度も抜群に良さそうだし、ラッキー✌️

しかし展翅しようと羽を開いたら、ヽ((◎д◎))ゝガビーン❗
何と、まさかのマメキシタバの♀であった。どうりで大きくて裏面の黄色が鮮やかなワケだ。変だなあとは薄々思ってたんだよなあ…。(-_-メ)ケッ、即座に冷凍庫にお帰り願おう。

 
(Catocala duplicata マメキシタバ♀)

(2019.8月 大阪府)

 
そうゆうワケで展翅はしてない。なので、さっきの個体ではないが、代わりの画像を貼っつけておく。コレを見れば、カトカラの♀の典型的な形が御理解戴けるかと思ったのである。
すなわち腹部が太くて尻先の毛が少ない。また毛が少ないゆえに尻の先端が尖ったように見える。
比較のために♂の画像も貼付しておく。

 

(2020.8月 長野県木曽町)

 
既に前述しているが、通常のカトカラの♂は腹部が長くて細く、尻先に毛束がある。ねっ、コレ見ると、アズミが全部♂に見えてくるざましょ。

他に♀っぽいものはないかと探したが、コレというものが見つからない。何かどれも微妙なのだ。
気を取り直して地道に展翅してゆくことにした。

 

 
毛束も無いようだし、胴体に厚みがあるように見えるから♀っぽいような気がする。

反対向きでも撮ってみる。

 

 
えっ❓、何か毛があるように思えてきたぞ。腹部も長く見える。
ん❓、長さは関係ないんだっけか…。
何かまた自信が無くなってきた。

裏返す。

 

 
腹が太いから♀っぽい。
でもスリットは入ってないよなあ…。
もしかしてアズミって、♀もスリットが無いのか❓

展翅してみる。

 

 
♀っぽいような気もするし、♂っぽいような気もする。
もうアンタ、どっちなんだよー(≧▽≦)❓全員、オカマとちゃいますのん❓

脳ミソがパニくりながらも、次へと挑む。

 

 
ヤケに胴体が長いなあ。
尻先は毛があまり無くて、尖ってる。

 

 
コレは♀なんじゃないか。
尻先に僅かにスリットが入っているようにも見える。それに尻先に毛束が無く、先端もカトカラの♀特有の形をしているように見える。もしかしてコレこそが正真正銘の♀❓
早る心で展翅する。

 

 
だから気合入れて触角を真っ直ぐにしたよ。
でもさあ…、特別♀って感じがしないんだよなあ…。

ここで、ふと思う。スリットが入っているように見えたが、単に毛に分け目が出来てただけかもしんない。改めて他の種類のカトカラで、スリットが入っているモノを確認してみよう。

 

 
上がウスイロキシタバで下がハイモンキシタバである。
どちらも縦にスリットが入り、その下に黄色い産卵管が見えるのが御理解いただけるかと思う。とはいえ、分かりづらい種もいたとは思う。何だっけかなあ…、ミヤマキシタバかなあ。ちょっと思い出せないけど、ここではこれ以上触れない。今はスリットが有るのはどんなものなのかと云う話なので、また別な機会にでも取り上げよう。

参考までに、もう一点だけ貼付しておきます。

 

 
中でも最も分かりやすいのが、このムラサキシタバであろう。
これでよく解ったよ。スリットはどれもハッキリと見える。さっきのアズミのスリットとおぼしきものは、これらから見たら、とてもじゃないがスリットが入ってるなんて言えない。ただの毛の分け目だよ。
\(◎o◎)/ゲロゲロー、と云う事はだな、どれもスリットが入っておらん❗とゆう事になる。
何なんだ❓この展開は❗❓
もう1回、ネットで裏面画像を探そう。それでスリットが入ってる奴が見つかれば、今回採ったものは全て♂とゆう事になる。まさかそんな事はあるまいとは思うが、だとしたら奇跡的偶然だろう。いや、背中ハゲちょろけのスーパー落武者の♀とおぼしきものが有るか…。アレは絶対に♀だと思うんだよね。
(+_+)クソー、どちらにせよ、来年また♀を採り直しに行かねばならぬと思うと、暗澹たる気分になるよ。

先ずは『みんなで作る日本産蛾類図鑑』で確認しよう。確か裏面画像があった筈だ。

画像は貼り付けないが、確かにあった…。
しかし、のっけから奈落へ。そこにはオスとの表記があり、確かに腹が細くてオスっぽいのだが、何と尻先に毛束がない。だから『世界のカトカラ』のメスの腹端に似てる。これって或いは♀なんじゃねえの❓もしや誤表示❓でも蛾のプロかプロ的な人が執筆しておられる筈なんだから、そんな事ってある❓
とはいえ、やはり腹先にはスリットも産卵管も認められない。とゆう事は♂で合ってんのか…。
まあいい。それも含めて雌雄が明記されている画像を他から探そう。

(-_-;)…。
しかし、スリットや産卵管がある画像は一つも見つけられなかった。そして驚いたことに標本如何にかかわらず、雌雄が明示されているサイトが殆んどない。怠慢❓いや、皆さん自信がないのかもしれない。それくらい雌雄の判別が難しいとか…❓考えてみれば、そもそもアズミの雌雄の判別について言及された資料を一つも見てないのだ。

そんな中、雌雄が明記されたサイトに漸くヒットした。
2012年に中国から近縁の新種(C.borthi)が記載されており、そこにアズミの画像もあった。


(出典『A new species of Catocala Schrank,1802 from china』)

 
どうやら記載論文のようだ。その”Catocala borthi”が一番上で左が♂、右が♀である。以下各種、雌雄が左右同じ法則の並びになっている。
2列目がアズミキシタバだ。因みに3列目と4列目の左はキララキシタバ、4列目右は C.invasa(ヒカルキシタバ)である。
さて、アズミキシタバである。カトカラを見慣れたものからすると、どう見ても雌雄が逆になっているように見える。すなわち右は腹部が長くて尻先に毛束があり、カトカラ全般の♂の形だ。一方、左は腹部が短くて尻先に毛束がなく、先が尖っていて、♀的な形なのだ。まさか、また誤表示❓
( •́ ε •̀ #)ったくよー。頭の中が益々グシャグシャだ。
尚、この中では交尾器&DNA解析の結果、新種と一番近縁なのがアズミなんだそうだ。

ここで、んなワケなかろうとサイトを見直してみた。どう見ても、左は♀でしょうに。
(´ε` ) あちゃー、驚いた事に何と”C.borthi”の♀以外は全て♂ではないか。キララが3つも並んでいるから当然♀も図示されているかと思いきや、単にリトアニアとロシア、中国の亜種らしきものが並んでいただけだった。そんな表記の仕方なんて全く頭に無かったから、オートマチックで左が♂、右が♀だと思い込んでしもうた。普通、そんな表記の仕方はせんでしょうに…。

だとしても、これで問題が解決したワケではない。解決するどころか、かえって謎はより深まったかもしれん。
なぜなら両方とも♂と言われれば、雌雄の違いが益々ワカランくなってくるからだ。腹部の長さとか、尻先の毛束とか形とかに更なる混迷を呼んどるやないけー。それに右側の♂の翅形は丸くて♀っぽいんだよねー。羽だけみれば、とてもじゃないが♂には見えない。こんなの見ると、また悩まざるおえない。アズミにおいては翅形の違いは雌雄とは関係ないのかもしれん。
ならば『世界のカトカラ』と『みんなで作る日本産蛾類図鑑』のどっちの雌雄表記が正しいのだ❓
どっちも正しかったりして…。もう何を基準にすればよいのかワカらぬよ。

もう1つ雌雄表記が有るものを見つけた。
岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』のものだ。

 

 
しかし、混迷は増すばかり。
図鑑には♂しか載ってないのだ。
でも一応検証しておこう。
腹部は長いが、細いとも太いとも言えない。尻先の形と毛束も微妙で、尖ってるとも丸いとも言えないし、毛束は有るとも無いとも判断し難い。いや、丸いか❓
自分でも何言ってるのかワカラナイ。何か脳が基準を見失って判断不能に陥ってるぞ。

『日本のCatocala』にも裏面画像があった。

 

 
コレは腹が太いから♀だろう。
だとしたら問題はスリットと産卵管だ。画像が小さくて粗いから、腹端にスリットが無いようでいて有るような感じだ。けど、無いと思うんだよなあ。すると、やはり♀はスリットも産卵管も見た目では確認できないのか❓けど、この画像に雌雄の表記は無いから♀とは断定できないんだよね。やれやれである。

一応、小太郎くんに電話で確認したけど、彼もワカランと嘆いておった。小太郎くんでさえも♂♀がワカランのかあ…。
なればカトカラ3年生のワシには、乁( . ര ʖ̯ ര . )ㄏお手上げじゃよ、せにょ〜る。まだまだカトカラ・カーストの底辺に在るアッシには無理ざんす。

と、一旦はクローズしかけたが、ケツまくって敵前逃亡するのも口惜しい。一応、自分なりの見解を述べて、この項をクローズする事にしよう。クソッ、まさか雌雄の違いなんぞに躓くとはね。こんなとこで迷宮徘徊するとは夢にも思わなかったよ。

あえて誤解を怖れずに言えば、たぶん♀のスリットも産卵管もある筈だ。しかし毛に隠れて見えないのではあるまいか。だからパッと見では判別には使えないのかも。
翅形も例外が有り過ぎて使えないだろう。腹部の長さも微妙だから現時点では何とも言えない。腹部の太さは使えそうだけど、これまた微妙。たぶん太ければ♀だと思われるが、展翅して暫くしたら縮む奴もいたりするから困る。展翅をしても萎まなければ、♀と判定してもいいだろう。
あとは尻先の毛束だが、これまた微妙ではある。でも♂の方が僅かだが毛が多いような気がする。横から腹部を見て感じたのは、もしかして先端が尖るのが♀で、毛がやや多いから丸く見えるのが♂ではないかと思う。これとて微妙だけどね。
曖昧な着地点で申し訳ないが、この裏から見た腹部先端の毛の量と形、腹部全体の太さを総合してジャッジメントするしかないのではなかろうか❓
m(_ _)mスマン、こんな事しか言えんよ。

後で、また3つほどアズミが出てきたので展翅した。
ウンザリなところではあるが、再度検証に臨もう。

 

 
先ずは横面。
腹部は短いように思える。尻先には毛束なさそうだ。

 

 
次いで腹を正面から見るためにひっくり返す。
この腹の太さだと♀っぽいなあ…。腹先も尖って見えるしね。
ならばと腹先の毛を掻き分けてみた。しかし、スリットも産卵管らしきものも無さそうだ。とはいえ、アズミって小さ過ぎるし、こっちは老眼が入ってきてるから見落としてるかもしれない。一応、確実を期すために虫眼鏡で見ようかとも思ったが、持っていない事に気づき、もういいやの人になる。もはや全てがウンザリなのだ。

それでは展翅してみよう。

 

 
展翅すると微妙で、同定に自信が無くなってくる。
腹の太さは微妙だし、尻先に毛束が有るようにも見える。
たぶん♀だとは思ってたけど…。でも毛を掻き分けても産卵管が見つけられなかったしなあ…。♂かもしんない。
相変わらず、彷徨いラビリンスだ。

(-_-メ)クソッ、もうこうなったら翅をバラしてやろうか❓
今まで一言も言わなかったけど、実をいうと確実に雌雄を見分けられる方法が無いワケではない。かなり問題ありだけど、有るには有るのだ。
カトカラは基本的に前翅と後翅の根元の境目辺りに刺棘のようなものがあり、その本数に雌雄で差があるのだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
画像をピンチアウトで拡大してみて下され。左の♀の翅の根元には3本の刺棘が有るが、右の♂には1本しかない。
でもそれを調べるためには前翅を切り取らねばならない。コレには流石に抵抗感がある。貴重なアズミちゃんを解体する勇気がないのだ。だいち、それで分かったところでどうなのだ❓
一々、前翅を毎回切り取るだなんて、そんなの識別法としては手軽には使えない。現実的ではないし、だいち邪魔くさ過ぎる。特別なケースでもなければ、ナンセンスだ。

気を取り直して、次へと進もう。

 

 
腹部は長いような気がする。尻先の毛束は微妙。どうやらアズミは他のカトカラみたく、横からは簡単には判別できないような気がしてきた。

 

 
上手くひっくり返せなかったので、腹だけ撮った。
腹は細い。尻先は丸く見える。♂っぼいね。

 

 
腹部が細い。胴も細くて全体的に華奢だ。これは♂だと言い切ってもよさそうだ。

そして、最後となる3頭目。

 

 
腹部はやや長く、尻先にはそんなに毛は無さそうだ。

ひっくり返そう。

 

 
この張った感じの太い腹からすると、♀だね。それに尻先も尖って見えるから間違いないかと思われる。
ここで再度、毛を掻き分けるべきだったのだが、忘れた。この辺がワシの限界だ。こうゆう地道に細かいことを調べるには抜け作で、そもそも向いてない性格なんである。

 

 
 
表から見ても、やはり腹が太くて先が尖ってるから♀じゃろう。
もしかして表から見るよりも、裏から見た方が雌雄は判別しやすいのではなかろうか❓
思うに、裏からの方が腹の膨らみと太さがよく分かる。特に根元付近の張りのある太さは♀を表していると言えよう。
そして尻先は尖る傾向にある。毛が少ない分、そう見えるのだろう。これが表側からだと、よく分からない。裏からだと毛が少なく見えるのに、表からは毛束が有るようにも見えてしまうのである。この辺が雌雄の判別に迷いを生じさせる原因となっているのではあるまいか。

整理しよう。
♂は腹が細い。胴も細くて全体的に華奢に見えるものが多い。但し、腹部の長さはあまり関係がない。普通のカトカラは腹の長さに差異があり、♀は短いのだが、アズミは♀でも腹部が長いものがいるからだ。しかし、♀は腹の根元が太くてガッシリしている。裏から見れば、それが比較的よく分かる。また胴もガッシリしており、裏からだと尻先が尖って見える。毛束の量は表からだと微妙だが、裏側から見ると判別しやすい。但し、微妙なものもいる。これらは他のカトカラほどには明確な差異がないゆえ、補助的な要素として留意しておいた方がいいかもしれない。翅形からの判別もアテにならないから、これもあくまで補助的要素として考えた方がよかろう。尚、他の多くのカトカラのように♀の尻先に明確なスリットは入らなくて産卵管も見えないから、これまた識別には使えない。また横からだと♂の毛束が目立つ筈なのだが、それもアズミには完全には当てはまらないから使えない。
ホント、面倒なカトカラだよ。ようはアズミキシタバの雌雄の判別には、普通のカトカラの識別セオリーは十全には使えないものが多いってことだね。

最後に確実にオスとメスであると今の時点で言い切れる個体を並べてお終いとしよう。

 
(オス)

(メス)

 
絶対にオスとメスだと言い切れるのは、トホホな事にボロとハゲの、この2つしかないというワケだ。
スマンが、もうこれくらいで御勘弁願おう。

とは言いつつも、後悔はある。
今にして思えば、前翅をブッた切っておけば良かった。確実に♂と思(おぼ)しきものと♀と思しきものを解体すべきであったと後悔している。上に図示した奴らとか、ボロとハゲなんだから解体したとしても、そう惜しくはない。もし、それで互いの刺棘の数が違えば、オスとメスが確定できる。確定できれば、両者の特徴の違いを仔細に調べたら答えは自ずと見えて来るのではなかろうか。
とはいえ、もうウンザリMAXだから、そんな事までして確かめる気力がない。どなたか代わりに調べて教えてくんないかなあ…。
けど、刺棘の数がどっちも同じだったりしてね(笑)。

 
【学名】Catocala koreana Staudinger, 1892

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の”koreana”は「朝鮮の」という意味で、最初に朝鮮半島で発見された事に由来する命名だろう。

いつもこの学名の語源で苦しめられるのだが、今回は楽勝だったよ。その代わりに雌雄の判別で苦しめられたけどさ。なかなか上手くはいかないよね。

それにしても、つまんない学名だよなー。

 
【亜種と近縁種】 

日本のものは亜種 azumiensis Sugi,1965 とされる。
記載者は日本の蛾界に多大なる功績を残された杉 繁郎氏。最初は新種として記載されたが、後にシュタウディンガーによって1892年に既に朝鮮半島から記載済みだったことが判明し、亜種へと降格になったそうだ。

 
(原記載亜種 ssp.koreana koreana)

(出典『世界のカトカラ』)

 
日本のモノと何処が異なるんだろう❓
細かく見れば、微妙に違うような気もするが、個体変異もあるだろうから何とも言えない。交尾器に差異があるのかな?
因みにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「日本産を別亜種にするかどうかは微妙であり、今後の課題でもある。」と書かれてあった。もしや交尾器を調べてないの❓

また、この朝鮮半島のものはキララキシタバ(C.fulminea)の変種として記載され、その後にヨーロッパに産するイメンキシタバ(C.hymenaea)の亜種としても記載されたことがあるという。

 
(Catocala hymenaea Schiffermuller, 1775)

(出典『世界のカトカラ』)

 
ヨーロッパ南東部からトルコにかけて分布する。アズミに似るが、DNA解析では類縁関係は認められないという。
とはいえ似てる。亜種とした見解もわからないでもない。
こうゆう事があると、種とはいったい何ぞや❓と思ってしまう。果たしてシャカリキになってまで分類する意味ってあんのかなあ…。
勿論、必要ではあるんだけどもね。解っちゃいるが、言いたくもなるくらい「雌雄の判別」のせいで心が疲弊しておるのだ。

シノニム(同物異名)から探してみたら、あった。

◆Catocala paranympha koreana Staudinger、1892
◆Catocala hymenaea ussurica Sheljuzhko、194​​3
◆Catocala azumiensis Sugi、1965

なるほどね。
そう書きかけて引っ掛かる。
一番上の「Catocala paranympha」って何や❓
記載者も記載年も原記載されたものと同じだから、完全に同一のものだろう。
とゆうことは、最初は”paranympha”って奴の亜種として記載されたってワケ❓
あ〜あ、また面倒くさいパンドラの匣をあけちゃったよ。

調べてみると、この”paranympha”ってのは、C.fulminea、つまりはキララキシタバのシノニムみたいだ。わりと簡単に見つかって、何とかパンドラの匣のオープンは回避されたよ。
ついでだからキララキシタバの画像も貼っとくか…。

 
(Catocala fulminea)

(出典『世界のカトカラ』)

 
前翅はそこそこ似てるけど、後翅の柄は結構違う。それに何より大きさが全然違う。こんなの普通ならどう見ても別種と分かるだろうに。何で亜種にしちゃったんだろね❓

参考までに他の近縁種も紹介しておこう。

 
(Catocala invasa Leech, 1900)

(出典『BOLD SYSTEMS』)

 
和名ヒカルキシタバ。中国から朝鮮半島にかけて分布する。
キララキシタバに酷似するが、より大きく、後翅中央黒帯湾曲部が外側に突出する傾向がある。

 
(Catocala borthi Saldaitis,Ivinskis,Floriani & Babics, 2012)

 
「雌雄の判別」の項でも触れた2012年に新たに記載された新種である。
分布は中国・四川省北部の九寨溝付近。それ以外のラベルも見たが、どうやら2000m以上の高地に棲息するようだ。
書き忘れたが、画像の上が♂で下が♀である。アズミに一番近い種とされるが、雌雄の判別は簡単だ。カトカラ属特有の雌雄の差異が見てとれる。
(@_@)クソー、何なんだよ、アズミー。

 
【和名】

アズミキシタバのアズミは安曇野が由来だろうと思っていた(因みに本来の仮名遣いは「あづみの」で「あずみの」は現代的な仮名遣い)。
しかし、白馬村に安曇野と云うイメージはない。安曇野はもっと南の筈だ。違和感を感じたので調べてみると、安曇野は長野県中部(中信地方)にある松本盆地のうち、梓川・犀川の西岸から高瀬川流域の最南部にかけて広がる扇状地全体のことだそうだ。
「安曇野」が指し示す市町村範囲として明確に画定された線引きは無いが、概ね安曇野市、池田町、松川村、大町市南部の4市町村と松本市梓川地区(旧・梓川村)とされているようだ。ほらね。つまり白馬村は含まれていない。
じゃあ何でそんな名前をつけたのだ(・o・;)❓
更に調べてみると、どうやら白馬村は北安曇郡に含まれるんだそうだ。なるほどね。けど奥歯に何かが挟まったようで、完全には納得してない。どこか正確性に欠けるような気がするからだ。嫌いな和名じゃないけど、そんなんでいいのか?…。
でも『キタアズミキシタバ』だと、また変な誤解を生じさせそうだ。まあ、アズミキシタバという言葉の響きは好きだから、べつにいいんだけどね。

 
【分布】


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
例によって上が分布域図、下は県別の分布である。
長野県白馬村、新潟と福島の県境にある奥只見のみに棲息するとされてきたが、2017年に群馬県土合、2018年には長野県伊那谷での採集が報告されている。とはいえ、どちらもその後に追加記録は無いようだ。
おそらく日本では最も分布域の狭いカトカラだろう。おそらくと言ったのは、去年(2019年)にマホロバキシタバが発見されたからだ。現時点では分布の狭小性は同じくらいなのだ。けど、今後マホロバは各地で新たな分布が確認される可能性が高い。ゆえに最終的にはアズミの、その座は揺るがないだろう。

国外では朝鮮半島、アムール(ロシア南東部)、中国東北部に分布する。日本では極めて分布域が狭いけれど、大陸には広く分布するようだ。何で日本だと超局地的分布になるワケ❓全然もって理由がワカラン。
コレについては、世界的なカトカラの研究者である石塚勝己さんも自著『世界のカトカラ』で以下のように述べられている。

「地史的にはナマリキシタバより新しい時代に日本へ侵入してきたと思われるが、何故日本国内の分布がこのように狭いのかは謎である。」

石塚さんでもワカランのだから、ワシに分かるわけがないのである。
幼虫の食餌植物は、やや珍しいものではあるが、アズミほど分布が局所的ではないからね。食樹があって、気候・環境ともあまり変わらない場所は他に幾らでもあるのだ。考えられるとすれば、フォッサマグナとかかなあ…。でもハイモンキシタバとノコメキシタバの回でエラい目にあってるから、アンタッチャブルだ。どうせ素人如きでは話がデカ過ぎて答えは出ないだろうし、徒(いたずら)に文章が長くなるだけだから止めとく。
もしかして日本で独自進化した別種だとかいう論も浮かんだが、コレも深堀りは止めとく。理由は同じざます。

 
【レッドデータブック】

環境省:準絶滅危惧(NT)
新潟県:準絶滅危惧(NT)

 
【成虫出現月】 7〜8月

西尾規孝氏の『日本のCatocala』には「白馬村でのピークは7月下旬から8月上旬」とあったが、『世界のカトカラ』では「新鮮な個体は7月一杯である。」となっていた。また、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では「新鮮な個体を採集するには7月中旬頃がよさそうだ。」としている。地球温暖化で発生期が早まっているのかもしれない。
しかし、標高の高い棲息地では8月に入っても新鮮な個体が得られるとマオちゃんから聞いている。
尚、飼育下では寿命が2〜3週間と短く、野外でも発生期はそれくらいだろうと推定されている。
発生期はその年により1週間程度のズレはあるだろうから、寿命が短いだけに適期を当てるのは難しい種かもしれない。

 
【開張】 40〜45mm

日本のカトカラ属の中では最も小さいとされている。
確かにチビッコで、初めて見た時は思ってた以上に小さくて少し驚いた。

たまたま同じ展翅板にチビっ子カトカラの代表であるマメキシタバが乗っていたから、更にその小ささに驚いたよ。

 

 
ほらね。バリ小さいことが解る人には解るっしょ。
最大種であるムラサキシタバと比べればゴジラと人、巨人と侏儒(小人)ほどの差異がある。
ちなみに、真ん中はカトカラとは全然関係ないキバラケンモンでありんす。

 
【成虫の生態】

食樹イワシモツケが群生する蛇紋岩地では比較的多産する。
しかし、白馬村では姫川上流の八方尾根から下流の平川氾濫原まで広く見られたが、1980年代以降は別荘地開発や砂防工事等により激減したという。これは自然破壊により食樹そのものが減ったこともあるが、砂防工事で撹乱が起きなくなってミズナラ等が侵入して森林化が進み、イワシモツケの生育には適さなくなり衰退したからだとも言われている。

奥只見でヤナギの樹液に飛来したものが観察されているが、ごく少数のみのようだ。噂では、あまり樹液には誘引されないと聞く。糖蜜トラップで採集したという話も聞いたことがない。
ちなみに自分は糖蜜を試したことはない。ポイントに着いた頃には真っ暗だったし、荒れ地で周りに糖蜜を噴きつけるような木が見当たらなかったからだ。今思えば、岩や石に噴きつければ良かったのかもしれない。
いや待てよ。2019年に試してるわ。しかし、生息地の崖下で試してみたが、一つも飛んで来なかった。ちなみにベニシタバとキシタバは飛来したから、糖蜜そのものに問題はなかったと思われる。いや、好む配合はあるかもしれないゆえ、断言は出来ないか…。あとは日付が8月日で、しかも最も標高の低いポイントだったせいもあるかもしれない。発生が既に終わっているか、終わりかけていた可能性はある。来年、機会があったら、再挑戦しようと思う。

キク科ヒヨドリバナ属やリョウブの花に飛来した観察例がある。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
もしかしたら、樹液よりも花の蜜を好む種なのかもしれない。
とはいえ、でも生息地に両方ともあったけど、一つも見なかったな。チビだけに、あまり多くの餌を必要としない種なのかもしれない。

またアブラムシのコロニーでの目撃例もある。これはアブラムシの甘露も餌としている可能性を示唆している。

ライトには夜半過ぎに多く飛来するという。
2020年は午後10時20分頃に現れ、次第に数を増し、午前0時過ぎから1時過ぎまでが飛来のピークだった。多くは崖の下から昇ってきて、地面を這うように飛翔してライトに近寄って来た。しかし辿り着けずに地面に静止するものの方が圧倒的に多かった。そしてライトトラップの白布の下部に止まり、上部に止まるものは1つもいなかった。但し、これはブラックライトを下部に設置したのが原因かもしれない。とはいえ、他のカトカラは上部に止まっていたけどもね。印象としては地這いカトカラだ。 
そして極めて落ち着きがなく、近づくと敏感に察知して飛び、ワチャワチャに地面で暴れ回るのでたちまちボロ化する。尚、この日の天候は曇り時々雨で、小雨が降り始めると活性が入る傾向にあった。但し、多く飛んで来る時間と偶々重なっただけかもしれない。

日中は頭を下にして蛇紋岩や木の幹に静止しているが、木の幹で発見されることは少なく、大半は蛇紋岩で見つかる。とはいえ、上翅が岩肌と同化して発見は容易ではないようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
驚いて飛翔した時は、上向きに着地して直ぐに姿勢を下向きに変える。その際、後翅の黄色を見せ、それがよく目立つという。

交尾は深夜午後11時から午前0時の間に行われるようだ。
飼育では羽化時には既に♀の卵巣が成熟しており、羽化直後に交尾・産卵することが確認されている。これは寿命が2〜3週間と短いためだろう。

産卵行動は西尾氏により1993年 8月13日に白馬村で観察されている。1頭の♀がイワシモツケの株の根元のスナゴケに産卵管を差し込んでいたという。よくそんなの見つけられるよね。西尾さんって凄いと思うわ。

 
【幼虫の食餌植物】

バラ科:イワシモツケ


(出典『Wikipedia』)

 
(花)

(出典『山川草木図譜』)

 
(葉)

(裏面)

(出典『三河の植物観察』)

 
学名 Spiraea nipponica。
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字で書くと「岩下野」となる。日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若い枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で、裏面は粉白色はたは淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

幼虫は幼齢木には殆んど付かず、よく繁茂した大きな株に発生する。
野外ではイワシモツケのみからしか幼虫が発見されていないようだが、ヤブデマリ、コデマリ、ユキヤナギでも飼育は可能。累代飼育も容易に出来るようだ。

従来、食樹を同じくするナマリキシタバとの混生地は見つかっていないとされてきたが、最近になって白馬村の高標高地で混生地が見つかっている。

 
【幼生期の生態】

幼生期については、毎度の事ながら『日本のCatocala』に全面的にお頼りする。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver』)

 
卵は背の高いまんじゅう型で、縦隆起条と横隆起条は太い。環状隆起は低いが変異に富み、全く認められないものから3重になるものまである。見た目はナマリキシタバやコガタキシタバに似るが、アズミは横隆起条の間隔が広く、ナマリは狭い。またコガタは気孔がよく目立つことから判別できる。

ナマリキシタバと成虫や卵、幼虫が似ているし、食樹も同じだから両者はてっきり近縁関係にあると思っていたが、どうやら類縁関係は認められていないようだ。(・o・)えっ、そうなのー❓

一応、DNA解析図で確認してみよう。

 

(出典『Bio One complate』)

 
石塚勝己さんが新川勉氏と共にDNA解析した論文の中のものである。
図はピンチアウトして拡大できるが、ピックアップしよう。

 

 
(/ロ゜)/ありゃま。アズミの下には何と”C.nubila”、ゴマシオキシタバの名前があるじゃないか。

 
(ゴマシオキシタバ♀)

(2020.8 奈良県吉野郡)

 
全然、アズミとは見た目が似てない。ホンマに近縁種❓

ナマリ(C.columbina)とはクラスターが違ってて、図では離れた位置にあるように見える(系統図の上部)。
そしてナマリの上には”C.bella(ノコメキシタバ)”があるじゃないか。同じバラ科を食樹とするくらいで、2つの種の見た目は全然似てない。因みにワモン(C.xarippe)&キララ(C.fulminea)も大きな意味で、このクラスターに含まれる。
つまり、この図を信じるならば、アズミとナマリの両者に近縁関係はないと云うことだ。共にカトカラの中では小型だし、前翅もわりと似てるのにね。
DNA解析は、従来の見た目での分類とは随分と違う結果が出るケースもある。蝶なんかはワケわかんなくなってるものが結構いるから、見た目だけで種を分類するのには限界があるのかもしれない。オサムシを筆頭に、違う系統のものが食物や環境を同じくする事によって姿や形が似通ってくるという、いわゆる収斂されたとする例も多いみたいだしさ。
まあ、とは言うものの、DNA解析が絶対に正しいとは思わないけどもね。

飼育条件下での孵化は深夜から夜明け前。孵化時期は冬季の積雪に左右されるが、白馬村では5月下旬から6月上旬。

 
(1齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(終齢(5齢)幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は日本のカトカラでは最も小さく、野外にいる幼虫は多少の色彩変異が見られ、奥只見では黒化したものが見つかっている(白馬村では未発見)。

 
(奥只見産5齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバの幼虫とやや似るが、アズミは赤みがかり、ナマリは灰色がかる。また、頭部の斑紋が異なる。

 
(アズミキシタバ頭部)

 
(ナマリキシタバ頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
似ているが、細かに見るとかなり差異がある。やはりカトカラの幼虫の識別には顔面の模様が重要な鍵となるんだね。

一応、DNA解析では一番近い関係とされるゴマシオキシタバの幼生期も確認しておくか。

 
(ゴマシオキシタバの卵)

 
(終齡(6齡)幼虫)

(終齡幼虫頭部)

(出典 以上4点共『日本のCatocala』)

 
(⑉⊙ȏ⊙)全然、似てへんやないけー❗
こんなの近縁種とは思えない。終齢の齡数も5齡ではなく、6齡だし、そもそも食樹はバラ科ではなくてブナ科のブナだ。
だから、DNA解析って今イチ信用できないんたよねー。

アズミの幼虫の生態の話に戻ろう。
昼間、若齢幼虫は食樹の枝に静止している。6月下旬、終齢になると食樹の下方に降りるようにもなる。4、5齢幼虫は枝先の葉柄部と茎を残すので、食痕を探せは見つけやすいという。
自然状態での蛹化場所については知られていない。

アズミキシタバは分布が局地的で、貴重なカトカラだ。
自分で採っといて言うのもなんだけど、いつまでも命を繋げ続けていって欲しいと思う素敵なカトカラだ。
これ以上「黄衣の侏儒」たちの生息地が破壊されない事を切に願う。

                        おしまい

 
追伸
小タイトルの『黄衣の侏儒』は芥川龍之介の『侏儒の言葉』がモチーフになっている。
「侏儒」とは、背丈が並み外れて低い人。つまり小人の事だ。アズミキシタバは小さいので、それになぞらえたワケだが、別な意味も込められている。侏儒には他の意味もあって、見識のない人を嘲っていう言葉でもある。謂わば、長野県に対しての嫌味である。砂防ダムとオリンピック道路の建設の結果、アズミキシタバが激減したと聞いている。
まあ、砂防ダムは岩石や砂が押し寄せてくるのを防ぐためだから必要だろうし、致し方のない面はあると理解できる。でもオリンピック道路は経済のためだろう。あっ、やめておこう。言い出したら止まんなくなりそうだ。アッチにも色々と事情は有るだろうしね。

追伸を書いてる途中で、思い出した。
そういや、裏展翅した♂らしきものの展翅前の画像を載せるのを忘れてたよ。

 

 
冒頭部分のコレの事ね。
で、展翅前の画像がコレらだ↙

 

 
コレで光明が見えた。
明らかに尻先が尖らず、丸みがある。たぶん毛が多いからだ。

続いて裏返す。

 

 
腹部が細くて、尻先が尖らずに丸みがあり、毛が♀よりもやや多い。
何だよー、これらの画像をもっと早くに載せていたら、こんなに泥沼迷宮にならなかったのにぃー(>o<)ノ

ここに改めて雌雄の識別法を書こう。

 
(アズミキシタバ♂)

 
♂は横から見ると、尻先が尖らずに丸みを帯びる。

 
(アズミキシタバ♀)

 
♀は尻先が尖り、毛束が少ない。
こんなに♀らしきものばかり並べたのは、ようするに♀の時期だったとゆうこともあるが、それなりに意図するところがある。後で、それについては書く。

ひっくり返した画像も検証しよう。
個体の並びは横からの画像と同じ並びである。

 
(♂)

 
同じく尻先は尖らず丸くなり、毛がやや多い。
そして腹部は全体的に細い。

 
(♀)

 
腹部が太く、尻先が尖る。

一応♂の裏展翅の♂を除いて、それぞれの展翅画像も貼りつけておこう。

 
(♂)

 
(♀)

 
改めて展翅画像を見ても、明確な識別法はコレと言えるものがない。腹部の長さはまちまちだし、♂とした中の一番下などは尻先に毛束があるけど腹が太いから♀にも見える。冒頭で♀とした裏面画像(採集当日に野外で撮影したもの)はコレとおそらく同一個体である。もしかして♀だったりしてね。
こうして♀ばかり並べた意図はそこにある。ようするに♂はまだ比較的同定しやすいが、問題は♀なのである。カトカラを見慣れたものが同定に苦しむのは、まさにそこにある。乱暴な言い方をすれば、♂らしい♂は割りかしいても、♀らしい♀があまりいないのだ。完全に♀と言い切れるのは冒頭ハゲちょろけの♀くらいだ。何かのメタファーかよと言いたくもなる。ったくもー。

最後にコレも貼付しておこう。

 

 
方程式に従えば、これは♀とゆう事になる。
因みに上図は冒頭一番最初に♂とした個体である。
コレの事ね↙

 

 
つまりは誤同定だった可能性が高い。思うにアズミは表側からの同定は極めて難しいとも言えよう。どうりで混乱するワケだ。
とはいえ、今もって裏からの識別法が100%と合ってるかどうかはムチャクチャ自信が有るってワケでもないんだよね…。コレ、見当違いだったら相当カッコ悪いけど、そん時はまあ仕方がないよね。

まさか雌雄の識別に、ここまで翻弄され、紙数を費やすとは思いもよらなかった。想定外も想定外である。いっそのことタイトルは『呻吟、オカマ街道2020』とでもすべきだったかもしれない。いやはや、ホント疲れました。

次回、『雷神降臨』。まだ一行も書いてないけど、これまた苦行を強いられる事、想像に難くない。又もや長い道程の回になりそうだ。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』

◆石塚勝己『世界のカトカラ』

◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

 
(ネット)
◆カトカラ同好会『ギャラリー・カトカラ全集』
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆Wikipedia
◆『山川草木図鑑』
◆『三河の植物図鑑』

 

2020’カトカラ3年生 其の壱

 

    vol.24 アズミキシタバ

   『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』

 
 2019年 8月2日

一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなる。
ひと呼吸あって、黄緑色のテントの天井に焦点が合う。寝起きの澱んだ脳ミソが、それでようやく自分の置かれている状況を認識した。そうだ、長い長い電車移動の果てに、この湖までやって来たんだったわさ。
マホロバキシタバ(註1)の分布調査が一段落したので信州遠征に出たのだ。また過酷な虫捕り旅が始まったってワケだ。
目的は会ったことのないカトカラ(シタバガ属)たちを採るためである。マホロバという国内新種を見つけたのにも拘らず、カトカラの採集を始めてまだ2年目のペーペー、採ったことのないカトカラがまだまだある。新種を見つけておいて、他のカトカラはあまり採った事が無いというのではカッコがつかない。だから10月の発表までに少しでも採集種類数を増やしておこうと思ったのだ。この時点では、マホロバを含めた全32種のうちの20種しか採れておらず、あと12種類も残っていたのである。

テントから出て歯を磨きに行くと、湖が見えた。

 

 
昨日は日没間近に着いたから気づかなかったけど、こんなにも碧くて綺麗な湖だったんだね。
同時に昨日の苦い記憶が甦ってくる。湖の周辺でミヤマキシタバ(註2)を狙うも擦(かす)りもせずの惨敗だったのだ。
こんだけロケーションが良いのなら、もう1日いてもいいかなと思った。昼間はじっくりミヤマの食樹であるハンノキを探しながら湖畔を散歩するのも悪かない。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
ちなみに奴らとは↙コイツの事である。

 
(フクラスズメ Arcte coerula)

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
コヤツ、カトカラじゃないし、デブだし、醜くてマジキモい。
それに一瞬だけ佳蛾ムラサキシタバ(註3)に見えて、あらぬ期待を持ってしまうから💢イラッとくる。

 
(ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂)

(2019.9月 長野県松本市)

 
オマケに普通種のクセして妙に敏感で、こっちはさらさら採る気もないのに大袈裟に逃げてゆくのも腹立たしい。何だかそれがバカにされてるようで(-_-メ)超絶ムカッとくるのだ。なので標本は一つもない。なので岸田先生の図鑑の画像をお借りしたのである。

とにかく、此処で目的のミヤマが採れる気がまるでしない。そうゆう時は自分の勘に素直に従うべきだ。今までだってそうだし、これからだってきっとそうだ。己の勘を信じよう。湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
又してもキャンプ場なのさ。ボンビー旅行なのもあるが、宿に泊まれば自由が効かない。何てったって蛾採りは夜がメインなのだ。しかも深夜に及ぶことが多い。宿泊してると、おいそれと夜に出歩くワケにはいかぬのだ。要らぬ心配や迷惑をかけたくない。

取り敢えず、ここを拠点にして各所を回るつもりだ。
狙いはアズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。この気持ち、何となくノスタルジックで嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていたら、サカハチチョウがやって来た。

 

 

夕暮れが訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰さんで心が癒やされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

この地での最初のターゲットは、アズミキシタバだ。
近くの崖にいると聞いている。だが、ぼんやりとした不安が心の隅に蹲(うずくま)っている。

 

 
何となく見覚えのある場所だと思ったら、西尾規孝さんの名著『日本のCatocala(註4)』に載っていた場所と同じだ。しかし様相は随分と変わっている。

 

(出典『日本のCatocala』からトリミング。)

 
たぶん2000年代前半以前に撮られた写真だろう。今と比べて広範囲に岩が露出しており、アズミの食樹であるイワシモツケには適した環境だ。しかし現在は周囲からミズナラなどの木が侵入してきていて、どう見ても環境は悪化している。とゆうことは確実にアズミの数は減っているという事だ。それに此処は標高が低いから発生期のピークは過ぎているものと思われる。果たして採れるんかね❓

とはいえ、悪い事ばかりじゃない。
崖の近くにはアズミが吸蜜に訪れるというヒヨドリバナとリョウブの花があった。

 
(ヒヨドリバナ)

 
(リョウブ)

 
樹液にはあまり来ないとも聞いていたから、これならたとえトラップがダメでも何とかなる可能性はある。実力はさしてないけど、引きだけは強いと言われるワタクシだ。何とかなるっしょ。

夕焼けにバイバイしてから崖下に行き、木に霧吹きで糖蜜を吹き付けてゆく。
アズミキシタバが糖蜜トラップで採れたという話は聞いた事がないが、カバフキシタバ(註5)だってタコ採りの我がスペシャルレシピだ。寄って来るじゃろう。ワシがアズミも糖蜜で採れるという事を証明してやろうではないか。ψ(`∇´)ψケケケケケ…。

幸先良く、直ぐにベニシタバ(註6)がやって来た。
٩(๑´3`๑)۶ほら、見さらせじゃ。

 

 
昨日も採れたけど、嬉しい。元来ベニシタバは💖好きだもんね。それに発生初期であろうこの時期のベニシタバは格別に美しいのだ。

しかし、さあこれからというと段になって、⚡ガラガラピッシャーン❗本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで惨敗に終わる。
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
そして、その後も此の地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。でもって、秋田さんや岸田先生に「マホロバの発見で、今年の運を全部使い果たしたんじゃないのー。」と揶揄される始末。

 
2020年には、前から買う買うと言っていた小太郎くんが遂にライトトラップのセットを購入した。
なので即座に尻尾を振りまくり、アズミ遠征の約束を取り付けた。去年の惨敗と、その後の調べでアズミはライトトラップ無しでは採るのが難しいと痛感したのだ。この際、形(なり)振りなんか構ってらんない。でも以後、小太郎くんには事あるごとに「アズミ、行くの止めよっかなあー。」などとイジメられ続けたよ。世の中、持つ者と持たざる者とでは、常に持たざる者は虐げられる運命なのだ(笑)。

問題は、お天気である。もし晴れならば、新月でもなければ効果はあまり期待できない。灯火採集に月夜はヨロシクないんである。夜間に活動する昆虫は月の光を頼りに行動していると言われている。だから曇っている方が条件的には良い。月の光に影響されないからだ。詳しい説明は長くなるので割愛するが、とにかく虫たちは月の光と間違えて人工光に吸い寄せられる。
かといって同じく月が隠れる雨もヨロシクない。雨でも蛾は平気で飛んで来るらしいのだが、雨で羽が濡れてボロ化しやすいからマズイんである。それに小太郎くん曰く、雨はライトトラップセットの故障の原因にもなりやすいそうだ。
あとは風が強くてもダメだし、気温が低過ぎるのもヨロシクないと言われている。灯火採集は案外と条件がシビアなのだ。その点、糖蜜採集は楽だ。強い雨や気温が低い以外は、あまり天候に影響されない。自分的には糖蜜トラップの方が性格的には合ってる。ライトトラップは荷物の量が多いし、用意と後片付けとか面倒くさいのだ。あとは待つのが大嫌いな性格とゆうのもある。糖蜜トラップも一見待ちの採集だが、ポイントを巡回するのでアクティブなのだ。網を使う機会も多いしね。動的な採集の方が自分には合ってる。だからライトトラップの時は、今一つ気合が入らない。とはいえ、今度ばかりは気合が入っている。アズミには、そこそこ憧れてるし、絶不調続きで今年はまだ未採集のカトカラを一つも採れてないんである。

 
 2020年 7月26日

天気予報は雨模様で微妙だったが、イチかバチかでGOする事に決定した。この機会を逃すと、時期的に鮮度が良いものは望めないからだ。いくら沢山飛んで来ても、ボロばっかじゃ意味ないのだ。
博奕を打てない奴に良い虫は採れない。でも、どちらかというと予報は悪い方に傾いている。強い雨ならば、ライトトラップは中止にせざるおえない。とはいえ、小雨程度ならガスが掛かり、むしろ絶好のコンディションになるかもしれない。謂わば、我々はゼロ百の状況下にあるのだ。
雨予報でも晴れさせてしまうスーパー晴れ男のワシの力をもってすれば大雨は有り得んとは思うが、最近は何をやっても上手い事いかんしなあ…。こんなとこまで来てダメだったら泣くに泣けんよ。いや、( ;∀;)ダダ泣きさ。どうにかなることを心から祈るよ。

白馬村に入る頃には完全に日が暮れて、夜の帳がおりた。
場所の選定は山の中腹と高地の2箇所で、まだどちらにするか決めかねている。鮮度を考えれば高標高のポイントだが、細かいポイントは知らない。一方、中腹は小太郎くんが場所を詳しく聞いているから確実性は高い。だが、鮮度は落ちている可能性が大だ。ここが運命の分かれ目、思案のしどころである。

相談の結果、高標高のポイントを目指すことにした。もしポイントが見つからなければ、中腹ポイントに変更すればいいと判断したのである。アズミのライトへの飛来は夜半過ぎだと言われている。だから時間的にそれでも何とかなると踏んだ。夜遅くに飛んで来る蛾は待つのがウザいのだが、こうゆう場合は寧ろ助かる。周囲の環境や天候等々、様子によっては、そのポイントを捨てて移動することだって可能なのである。

小雨降る中、車は山へ向かう道へと入ってゆく。
すると、ガスり始めてヘッドライトの前を蛾がワンサカ飛びだした。完全に活性が入ってるって感じで、絶好のコンディションだ。このまま天気がもてば、何とかなる。どころか大爆発だって有り得る。心が期待でグンと膨れ上がる。

しかし着いた場所は真っ暗けで、周囲の環境が全然ワカラン。どこにライトを設置すれば良いのか、さっぱりワカランぞなもし。それでもこの状況ならば、たとえポイントを少々ハズしていたとしても1つや2つは飛んで来るだろう。
けど、嫌な予感がしないでもない。今シーズンのワシはマホロバもカバフもあんまり採れてなくて、絶不調がバリ続いているのだ。何が起こるかワカランのだ。慎重に状況を把握してから決断すべきだ。
考えてみれば、標高が高ければ高いほど雨になりやすい。高い分だけ気温が低いのも気にかかる。気温が低いと虫の活動は鈍くなるのだ。ゆえに確実に採れる場所である中腹を選択すべきではないかと思った。
小太郎くんは此処でやる事を望んでそうな素振りだったけど、ここは譲ってはならぬと感じた。なので、半ば強引に中腹でやることを主張した。小太郎くん、ゴメンね。&譲ってくれてアリガトね。

一旦、山を降り、別なルートを登り返して中腹ポイントを目指す。さあ、気持ちをリセットしてアズミをテゴメにしてやろうじゃないか。

ポイントは人に詳しく聞いていなければ、夜だと絶対に辿り着けないような場所だった。マジ真っ暗けだ。さっきの比じゃない漆黒の闇だ。

幸い雨は止んでいる。
けど寒い。途中で上着を忘れたのに早めに気づき、「GU」で買っといて大正解だったよ。良い兆候だと考えよっと。今日はツイてるから大丈夫だと自分に言い聞かせる。何につけ、ちょっとした事でもメンタルを強化しとくのは大切なのだ。

時計を見ると、早くも午後8時半近くになっていた。
ソッコーで今夜の屋台を組む。

 

 
何だかんだで結局ライトが点灯したのは、たぶん9時になる10分前くらいだった。

 

 
ほぼ雨は止んでいたが、傘つきの雨仕様になっておる。
とはいえ、活躍はあまりしてくれない事を祈ろう。どうか大雨にだけはなりませぬように👏

午後10時。
小太郎くんが突然椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたの❓

慌てて、自分も後を追っかける。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。ねっ、ねっ、アズミなのー❓何か言ってくれよー。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)見たことあるぞー、ソレ。

 

 
ジョウザンヒトリである。
ワシも会ってみたかった蛾の一つだ。思ってた以上にデカいんで驚いたよ。それに想像していた以上に美しい。百聞は一見に如かずだね。何だって実物が一番美しくて、生きているオーラがある。

午後10時20分くらいだったと思う。
再び小太郎が慌てて走り出した。

いたっ❗いました❗たぶんアズミに間違いないです❗

しかし、飛んで逃げて忽然と姿を消した。(ㆁωㆁ)マジかよ❓
絶対に、まだ近くにいる筈だ。二人で辺りを探し回る。
思った通りだった。しかし何度か地面にいるのを見つけるのだが、クソ忌々しい事に直ぐに飛んで逃げよる。それを数度繰り返す。何でライトの近くまで寄ってこんの❓

暫くして、ようやくブラックライトまで近寄ってきたのを小太郎くんが見つけた。
白布で行き止まりだから、もう袋のネズミだ。余程の事がない限りは採れるだろ。これで、やっとこさ間近でじっくりと眺められる。小太郎くん、ゲットよろしくー。

しかーし、(⑉⊙ȏ⊙)あちゃま❗、何とブラックライトの隙間に入っていきよるー❗

こりゃ、ボロ化必至だな。
肉を切らして、骨を断つ。それでも小太郎くんは意地で何とか無理矢理ゲットした。

で、見せて貰ったけど、あちゃーの背中ズル剥けになってた。
小太郎くん、御愁傷様(´ε` )
それにしても、思ってた以上に小さい。マメキシタバ(註7)よか小さい。ここまでくると、もう小人ちゃんレベルだな。
とはいえ、実物を見て俄然やる気が出る。

けれど後が続かない。表情には出さないようにしてはいたが、心の中は相当波立っていた。このまま二度と飛んで来ないのではと考えると、胸が締めつけられそうだった。やっぱ絶不調のスパイラルにハマったまんまなのか…。いい加減、勘弁してくれよ、ジーザス。

11時過ぎ。
ようやく自分にもチャンスが巡ってきた。
ふと何気に地面を見たら、ペタッと止まっていたのだ。けどコヤツも同じように敏感で直ぐに飛び立った。目を切らずに姿を追い掛け、止まった辺りに目を凝らす。どこよ、どこー❓地面と同化して、よくワカンナイ。焦燥感が心を撫でる。

(☆▽☆)いたっ❗

けど、必死で毒瓶を被せようとしたら、すんでのところで逃げやがった。クソッ(-_-;)、マジかよ。でも飛びそこねて、ひっくり返りよった。

ダメー❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ボロになっちゃうー。

ヽ(`Д´#)ノえーい、もうどうなってもええわい。とにかく何でもいいから採らなきゃ来た意味がない。強引に毒瓶を被せた。

中を見ると、ちゃんと毒瓶に収まっている。
(´д`)フゥー、何とか採れたよ。
毒が回り、ほぼ動かなくなったところで、やや震える指先で手のひらに乗せる。

 

 
(・o・;)ちっちゃ❗
そして、暴れ倒したので、ワシのも背中がハゲちょろけて見事なまでの落ち武者化しとるー。(;´д`)トホホのホー。

 

 
ちっちゃいけど、後翅の黄色が鮮やかで綺麗だ。前翅も複雑な紋様でカッコイイ。

腹や羽の形からすると、♀かな❓
それに尻先に毛束があまり無いような気がするもんね。カトカラの♀は♂と比べて腹が短くて太く、尻先の毛の量が少ない傾向がある。また翅形は丸みを帯びることが多い。

確認のために裏返してみる。

 
(裏面)

 
 
裏面は、どって事ない。どう見ても美しいとは言えないやね。
それに随分と擦れてる。時期的にもう遅いのかな❓それとも暴れて擦れたせいなのかな❓判断に苦しむところだ。
あれっ❗❓、♀と思ったけど尻先に縦スリットが入ってないし、産卵管も見えない。って事は♂❓

午前0時前。
ようやくマシなのが採れた。

 

 
(・o・;)やっぱ、ちっちゃ〜。

 

 
これは腹が細く、尻先に毛束があるから♂だろう。
じゃあ、最初のはどっちだったのだ❓
まあいい。数を採ってりゃ、そのうち自ずと分かってくるだろう。

2頭目を三角紙に収めたところで、雨がパラパラと降りだした。
このまま小雨で踏み堪えることを祈ろうと思って歩き出したら、また地面に止まっているのがいた。今度は崖の縁だ。

『いたっ❗』
と言ったら、一拍おいて小太郎くんも
『こっちもいましたあー❗』
と声を上げる。そして次の瞬間には、
『あっ、アッチにもコッチにもいます❗』
と叫んだ。
目を戻すと、視界に何かが入った。
(⑉⊙ȏ⊙)わちゃっ❗❗
コッチも2つ3つ飛んどる❗

雨で活性が入ったのかもしれない。そこから先は、祭が始まった。次から次へと崖の下からアズミが湧くように這い昇って来た。
でも相変わらず白布には止まらず、落ち着きなく地這い飛びしとる。歩くと複数が地面から飛ぶし、もうワチャワチャだ。それを二人とも中腰で右往左往で追いかけ回しているから、滑稽きわまりない。もし第三者が見ていたとしたら、泥鰌掬いのおっさんショーに見えたかもしれない。そして、採っても採っても地面で暴れて次々とボロ化してゆくから、その泥鰌掬いの動きに拍車がかかる。早く採らないとボロボロになってしまうから必死なのだ。もうワシらまでワチャワチャの、わちゃわちゃダンスパーティーなのだ。

狂騒曲は午前1時過ぎまで続いた。
一段落し、何だかバカバカしくって二人して笑う。

気がつけば、いつのまにか雨は上がっていた。

                        おしまい

 
後日談を少し書く。
深夜2時くらいに撤収して山を降りたら、晴れてきて星まで出てくる始末。そして、昼間にコヒョウモンモドキの様子を見に乗鞍まで行った時にも晴れてきた。天気予報は完全に悪かったから、やはり我ながらスーパーな晴れ男なのである。
とは言うものの、その後は土砂降りだったけどね。
で、その日に帰宅したのだが、2頭だけ展翅して睡魔に勝てず、残りを冷凍庫にブチ込み昏倒。以後、今まで1つも展翅してない。
一応、その時の展翅画像と昼間に見たらこんなんです画像を添付しておこう。

 

 
昼間に見ると、よりいっそう美しいことが解る。
下翅の黄色はキシタバ類の中でもトップクラスの鮮やかさだ。上翅もカトカラの中では見たことのないような独特の渋いグレーで、複雑な模様はデザイン性が高い。
とはいえ、激ちっちゃいけどさ。もう少しデカけりゃ、評価はもっと高いのにね。せめて中型サイズくらいあればなあ…。

 
【Catocala koreana azumiensis アズミキシタバ♂】

 
【同♀】

 
スーパー落武者にさせてしまったなりよ(´ε` )
触角も真っ直ぐに出来てないし、胴体も縒れてるしさ。
まあ睡魔に勝てずに力尽きたと云うこってすな。

 
追伸
こうして文章を書いていると、改めて場所の選択は正しかったんだなと思う。高標高側のポイントだと、ずっと雨だったんじゃないかという気がする。たぶん気温も更に下がっていただろう。
それに何よりアズミキシタバは殆んどが上からではなく、下側から飛んで来たからね。

2019年の採集記は他の回とも繋がっており、今のところ前後の話はベニシタバとミヤマキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバの回と繋がっている。どっかに憎悪のフクラスズメとの戦いも書いてある。おそらく今後、ヒメシロシタバやヨシノキシタバ、ケンモンキシタバの回ともコネクトしてゆく事になろう。御興味のある方は読んで下され。

 
(註1)マホロバキシタバ

【Catocala mahoroba ♂】

(2019.7月 奈良市)

 
2019年に日本で新たに見つかったカトカラ。新種が期待されたが、結局は台湾の”Catocala naganoi”の新亜種に収まった。
拙ブログに『真秀ろばの夏(2019’カトカラ2年生 其の3)』の前・後編、『月刊むし10月号がやって来た、ヤァ❗ヤァ❗ヤァ❗』『喋くりまくりイガ十郎』の4編の文章があります。

 
(註2)ミヤマキシタバ

【Catocala ella ♀】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
詳しく知りたい方は本ブログに『突っ伏しDaiary(2019’カトカラ2年生 其の4)』と、その後編となる『灰かぶりの黄色きシンデレラ』と題した文章があるので宜しければ読んで下され。

 
(註3)ムラサキシタバ

【Catocala fraxini】

(2020.9月 長野県松本市)

 
フクラスズメとは、下翅にブルーが入っているのが共通するだけで、似ても似つかない。色、柄、フォルム、全てにおいてムラサキの方が格段に美しいのだ。しかも稀でデカいときてる。謂わば、フクラスズメとは月とスッポンくらいの身分の差があるのである。

拙ブログに『2018’カトカラ元年』シリーズの其の17として、『青紫の幻神』『憤激の蒼き焔(ほのお)』『2019’紫への道』『パープルレイン』『紫の肖像』というムラサキシタバについて書いた五章からなる大作がありんす。おいちゃん、ムラサキシタバ愛が強しなのである。

 
(註4)『日本のCatocala』

 
日本のカトカラについて書かれた図鑑の最高峰。生態図鑑としては圧倒的に群を抜いている存在だと思う。

 
(註5)カバフキシタバ

【Catocala mirifica ♀】

(2020.7月 奈良市)

 
拙ブログの『孤高の落武者(2018’カトカラ元年 其の5)』と『逆襲のモラセス(続・カバフキシタバ)』の前・後編を見られたし。

 
(註6)ベニシタバ

【Catocala electa ♀】

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
拙ブログの『薄紅色の天女(2019’カトカラ2年生 其の16)』と、その後編『紅、燃ゆる』を読まれたし。

 
(註7)マメキシタバ

【Catocala duplicata ♂】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
拙ブログの『侏儒の舞(2018’カトカラ元年 其の4)』を読まれたし。

 
 

シルバーベルベットの想念

 
2020年 7月20日

近鉄奈良駅から外に出ると、凄い夕暮れになっていた。

 

 
何かが起こることを予兆するかのような凄絶で美しい夕景だ。
何となく、きっと今日は良いことが起きそうだなと思った。

そういえばこの日は、連日マホロバキシタバの調査に動いている小太郎くんには休むようにと釘を刺したんだっけ。前の日も一緒に能勢で灯火採集をして神戸までプーさんを送って朝方に奈良まで帰って行ったしね。だから小太郎くんには言わずに一人で春日山の原始林に入った。言ったら、近くに住んでいる彼は絶対に来る筈だからさ。

今回はイチイガシの木が多い場所に糖蜜を噴きつけた。
目的は殆んど糖蜜トラップに誘引されないマホロバキシタバを何とかこの手で捕らえることだった。この時点では色んな人がトラップを仕掛けたのにも拘らず、飛来したのはこの2年でたったの2例のみだったのだ。マホロバの発見者としては、そこんとこは抑えておかないとカッコつかないからね。
ならばとマホロバの食樹として有望視されるイチイガシの大木が多くある場所で糖蜜を撒きまくってやれと考えたのだ。
ちなみに春日山原始林と奈良公園は採集禁止である。なので、許可はちゃんと得ている。

 

 
午後8時40分。
糖蜜トラップに見慣れない蛾が来ていた。
近づくと、懐中電灯の光に照らされたそれは、渋い銀色でギラギラと鈍色(にびいろ)に輝いていた。まるでラメが入ったかのような妖しい光を放っており、質感は高級なベルベットを思わせる。シルバーベルベット。銀狐の美しさだ。闇の中で想念が慄(ふる)える。
蛾はカトカラとヤママユの仲間しか採らない主義だが、渋カッコイイので採ることにした。それにオラって牽きだけは強いからさ。2匹目の泥鰌(どじょう)、又もや新種だったりしてね。そんな目論見も無きにしもあらずだった。

 

 
やはり渋カッケーや。
当然ながら名前は知らん。珍しいかどうかもワカラン。蝶のことはそこそこ知ってはいても、同じ鱗翅目である蛾のことは素人並みの知識しかないのだ。

♀っぽいなあ…。
確認のために裏返してみる。

 

 
腹の感じからすると、♀っぽいね。
そして、やっぱ裏は汚い。蛾に今一つ踏み込めないのは、この辺に理由があるのかもしれない。勿論、裏面が美しい蛾もいるけど、相対的には野暮ったくて残念な奴が多いのだ。上翅は蝶を凌駕する多種多様で魅力的なバリエーションに富むのに、下翅と裏面がねぇ…。

暫くして下から闇をノタ打つ懐中電灯の光の束が見えてきた。
体が硬化する。一瞬、死体遺棄に来た殺人鬼かと思った。こんな時間に、こんな太古の森へと入って来る者など普通はいない。いるとしたら、彼しか有り得ないだろう。そう願おう。

正体の主は、やはり小太郎くんだった。休めよなー、この野郎。虫小僧、底知れぬ体力と精神力だわさ。

小太郎くんに、さっきのシルバーベルベットを見せると、何たらかんたらと云う長ったらしい名前を言った。(`∇´)ケッ、新種じゃないと分かって、その場で脳が名前を消去する。また、くだらぬモノを採ってしまったよ…。
彼曰く、無茶苦茶珍しいワケではないが、そこそこ珍しいらしい。特に関東方面では少なく、東日本の愛好家の間では評価が高いそうだ。だったら、まっ、いっか。

翌日、展翅するために羽を開いたら、下翅に黄色い紋がある。蛾って下翅が無紋のものが多いから、ちょい驚く。

 

 
といっても、黄色い紋は淡く、鮮やかではない。正直、あんまし綺麗じゃないよね。それに、夜に見た時みたいな妖しい光を放ってはいない。光の質とか当たり具合にもよるのかもしれない。ちょっいガッカリ。
まあいい。取り敢えず展翅すっか。

 

 
丸くて、お世辞にも形はカッコイイとは言えない。
ちなみに紫色の部分は、透明展翅テープに虫ピンの頭の色が映ってるだけで、実物にこうゆう色はない。

触角はカトカラみたく真っ直ぐにはしなかった。
カトカラと比して愛情が足りないので、邪魔くさかったのだ。

取り敢えず何者かを岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』で調べてみることにする。

 

 
結果、どうやらホリシャキシタケンモンとマルバネキシタケンモンのどちらかみたいだ。
でも形からすると、おそらくマルバネキシタケンモンだろう。
驚いたのは、♂と♀とでは触角の形が違うことだ。♂は触角が鋸歯状になるそうだ。
ということは、コヤツは思った通りに♀って事だね。

 
(マルバネキシタケンモン♂)

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

 
オスとメスで触角の形が違うといえば、ヤママユの仲間が思い起こされるが、ヤガ科にも居るのね。
後翅の黄色い紋が大きいのは、たぶん異常型かと思われる。

種の解説に戻ろう。
基本的な斑紋はホリシャと同様だが、より変異の幅があり、前翅外横線と亜外縁線の間が広くて灰白色を帯びる個体も見られるそうだ。
前翅は丸みを帯び、ホリシャのように翅頂部は突出しない。腎状紋内側に沿う黒条は弧を描き(ホリシャは直線的)、前翅後角にある白斑はホリシャよりも発達する場合が多い。後翅中央の黄色紋はやや細く、縦長になる(ホリシャは横長で縦に短くて丸みを帯びる)。

比較のためにホリシャキシタケンモンの画像も貼っつけておこう。

 
(ホリシャキシタケンモン)

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

 
左が♂で右が♀である。同じく♂は触角が櫛状だ。
裏面にも明確な違いがあるようだが、以下のサイトに詳しいので、気になる方はそちらを覗いてみて下され。

http://yokonami.web.fc2.com/4kisitakenmon.html

 
【分類】

ヤガ科(Noctuidae)
ケンモンガ亜科(Pantheidae)
ウスベリケンモン属(Trisuloides)

以前はホリシャキシタケンモンと一緒くたにされていたみたいだが、1976年に別種だと判明し、分離されたそうだ。
学名の記載者名は”Sugi”となっているから、たぶん蛾界に多大な功績を残された杉 繁郎氏の慧眼だろう。

 
【学名】Trisuloides rotundipennis Sugi, 1976

属名の後半の”loides”は「のようなもの、みたいな」という意味だが、前半の”Trisu”が分からないから何みたいなのかが不明。対象物がワカランのだ。ラテン語だと「3」に関係する言葉に使われることが多いようだけど、そこで思考は止まってしまう。カトカラじゃないから、別にいいや。掘り下げる気力なしなのさ。
小種名は前半部は”rotundity”あたりが語源だろう。意味は「丸み(丸味)、円み(円味)」。
後半の”pennis”はチンポ❓一瞬そう思った。
けど、んなワケないと思って調べてみたら「penna=羽根」とゆうのが出てきた。おそらくコレだろう。「丸い羽根」ならば意味が通る。語尾の”is”は多分ラテン語の女性形で、形容詞の語尾変化だろう。

 
【開張】♂35〜40mm。♀40〜52mm

何とオスとメスとで大きさまで違うのね。ちょっと驚き。
触角が鋸歯状だというのもあるし、来年はオスも見てみたいもんだね。

 
【分布】

伊豆半島以西の太平洋側、四国、九州。
国外では朝鮮半島南部に記録がある。

 
【成虫の出現期】

『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、5〜6月と9〜10月となっているが、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』には、6〜7月と9〜10月となっている。多分、岸田先生の方が正しいかと思われる。今回の個体の鮮度状態からみれば、そう言わざるおえない。それに『みんなで作る日本産蛾類図鑑』の方は、情報の一部に正確性を欠く場合が多いからね。だから鵜呑みにしない事にしてる。
とにかく発生は年2化ってことだね。

 
【成虫の生態】

ネットや図鑑で生態について書いてあるものは見つけられなかったが、糖蜜トラップに寄ってきたんだから、間違いなく樹液には飛来するだろう。
ネット情報だと灯火採集でも飛来しているから、走光性もありそうだ。
読んでいないが『ホリシャキシタケンモンとマルバネキシタケンモンの生活史(2020 宮田)』という論文があるので、そこに詳しく書かれているかもしれない。

 
【幼虫の食餌植物】ブナ科コナラ属:イチイガシ

だからイチイガシの森に居たんだね。納得だ。同時に関東方面では稀少な種という謎も解けた。イチイガシは関東方面では殆んど見られないからね。ということは、マルバネは関西でも何処にでもいるという種ではなさそうだ。イチイガシは九州を除き、西日本でもそう多い木ではないのだ。関西だと群生しているのは奈良公園及び春日山原始林内と紀伊半島南部の一部にくらいしかない。
ちなみに近縁のホリシャキシタケンモンの食樹は同じブナ科コナラ属のウバメガシだとされている。なので分布は、より沿岸部となるようだ。ウバメガシは海岸によく群生して生えてるからね。となれば、ホリシャの方が生息域は広いと思われる。実際に大発生した記録も有るようだしさ。マルバネの方が少ないから、長年混同されてたんだね。

幼虫はヤガ科には珍しく刺毛のある毛虫型。
キモいので、画像は貼っつけないけどさ。

                       おしまい

 
追伸
タイトルのモチーフは鬼才デビッド・リンチの映画『ブルーベルベット』。闇をこれだけ意識させられた作品は他にない。ハリー・ディーン・スタントンのお菓子のピエロのシーンが特に秀逸だ。

この日、念願のマホロバキシタバも糖蜜トラップにやって来た。やはりあの凄絶な夕景は予兆だったのかもしれないね。

 
【マホロバキシタバ】

(2019年 7月 奈良市)

 
マホロバに関しては当ブログに『まほろばの夏(マホロバキシタバ発見記)』と題して書いた文章など数編があるので、興味がござる方は探して下され。

 

三角形の中の、別な三角形の世界

奈良県の某駅のホームを歩いていて、足が止まった。
足元に変なもんが見えたのである。

 

(2020.9.22 奈良県大和郡山市)

 
三角形の中に、まるで別な三角形の異次元世界があるみたいだ。一瞬、三角形の窓の黒い闇、その先にはパラレルワールドが在るのではと思った。

コレってナカグロクチバじゃね❓
蝶と違って蛾の種類はあんまよくワカンナイけど、コレは流石に特徴的な姿だけあって記憶の隅にあった。
カトカラ(シタバガ属)とヤママユガ系以外のガは綺麗だとかよほど目を惹くモノでもない限りは採らない主義だけど迷った。
でも、手塚さん(手塚治虫の弟さん)が何年か前に偶産蛾で珍しいみたいなことを話されていたのを思い出して、持ち帰ることにした。

翌日、展翅することにした。

 

 
翅を広げた方がカッコイイ。

 

 
前翅の窓みたいなとこは幾何学模様みたいにも見え、かなり変わったデザインである。シックでスタイリッシュだと言ってもいいだろう。

 
(裏面)

 
裏面は汚いねぇ。
蛾って、裏のデザインが素っ気なくてツマンナイものが多いんだよなあ。前翅は個性的で美しいデザインのものが山といるのに、下翅と裏面が残念な奴ばっかで、誠に惜しい。

展翅してみた。

 

 
カトカラじゃないんで、触角は真っ直ぐにはしない。邪魔くさいからだ。蝶よりも蛾の方が触角を真っ直ぐに整えるのが遥かに難しいのである。

あっ、後翅にも白帯があるんだね。ヤガ科の蛾の下翅は大概が黒とかグレーとか茶色一色だから、まだマシな方だ。カトカラみたく、もっと下翅が美しければ、蛾の評価も少しは上がるのにね。

名前は知ってても、本来的にどんな奴なのかは知らんから一応調べとこう。珍しいというしね。

分類は以下のとおりとなっていた。

ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
Grammodes亜属

 
【学名】
Grammodes geometrica (Fabricius, 1775)

小種名の「geometrica」は、英語の「geometric」の語源(ラテン語)だろうから「幾何学的な、幾何学模様のような」といった意味だろう。自分でもそう感じたから、学名的には納得至極である。

 
【開張(mm)】
41〜44mm。
大きさは手のひらに乗っけた画像を既に貼付してあるので、大体の想像はつくかと思う。

 
【分布】
ネット「みんなで作る日本産蛾類図鑑」によると、以下のようになっていた。

「本州,小笠原,四国,九州,対馬,種子島,屋久島,奄美大島,沖縄諸島沖縄本島,沖縄諸島慶留間島,大東諸島南大東島。」

ものスゲー離島が並んどるなあ。しかも南の島ばかりだ。小笠原とか南大東島とかからの記録もある。そんなに飛翔力があんの❓だとしたら、驚きだ。
ようは、九州、沖縄に多く生息する南方系の蛾って事だね。

しかし、ググってると、どうも変だ。関東とかの画像がいっばい出てくんぞー(゜o゜;
その謎は、わりかし早くに解決した。昔の図鑑では本州には生息しておらず、九州以南の分布となっていたようだ。2005年発行の図鑑でも本州にはいないことになっていると、どっかのサイトに書いてあった。
しかし、その後の地球温暖化に伴って急速に北上したらしく、2007年には群馬でも目撃例が出たという。やはり、とんでもなく飛翔力が強いのかもしれない。
で、今の図鑑では関東以南の分布となっているみたい。実際、ネットを見てると、新宿歌舞伎町、井の頭公園なんかからも記録されてる。何だよ、がっかりだな。
ただし個体数は多くなく、ちょっと珍しいみたいな記述もあった。なるほど。手塚さんは昔の知識で話されてたんだね。

海外では、地中海東部からインド、スリランカ、ジャワ、オーストラリアに生息するとされる。結構、どこにでもいるじゃないか。

 
【成虫出現月】
7〜8月と9〜10月。
どうやら年2化みたいだ。けど、何で春にはいないんだろ❓卵での越冬って事かな。

 
【幼虫の食餌植物】

タデ科:イヌタデ
トウダイグサ科:エノキグサ、コミカンソウ、ブラジルコミカンソウ
ミソハギ科:ヒメミソハギ、ホソバヒメミソハギ、サルスベリ
ザクロ科:ザクロ

結構、幅広い食性だね。蛾だから、こんなもんか。蛾は蝶と比べて食性が広い傾向があるからね。

ここで、思い出した。
大阪昆虫同好会の年会誌『Crude』に、手塚さんがナカグロクチバについて書かれた記事があった筈だ。探してみよう。

ありました。2019年のもの(No.63)に『蝶屋の楽蛾記(Ⅴ)』と題した連載中で触れておられる。
それによると、2017年に京都府城陽市の木津川河川敷で1頭だけ発見され、翌年には複数が採集されて発生が確認された。
ネットの画像を見てると、草に止まっているのが多いので、森林性ではなく、草原性の蛾なのかもしれないね。

その後、幼虫も確認され、飼育にも成功したそうだ(食草はエノキグサ)。
文中に、ちょっと興味深い記述があったので、紹介しておく。

「幼虫は順調に成長して蛹化に至ったが、この種のつうじょの生態から考えて蛹化場所は当然土中であろうはずが、2頭の幼虫は食草の葉を数枚綴って簡単な繭を造成してその中で蛹化し、あとの3頭は土中で蛹化するという不規則な経過を示したわ、これは、容器の中という閉鎖環境のために今回に限ってこのようになったのか、あるいは野外の自然環境の下でも一般のヤガ科の多くはそのような多様性を示すのか、調査にはかなりの面倒さを伴いそうである。」

 


(出典『Crude』No.63)

 
そんな事ってあるのね。同じヤガ科のカトカラでは、葉を使って繭らしい繭を作るのはアサマキシタバくらいだけど、このように土中と繭の両刀使いもいたりしてね。
尚、蛹の外観は多少紫色を帯びた濃褐色で、最初は艶っぽいが日時が経過すると外観は白い粉を吹いた状態に変わるそうだ。

                        おしまい

 
追伸
カトカラの事じゃないので、すぐ書けた。ハッキリ言って楽ですなあ。

 

2019’カトカラ2年生 其の六 解説編

 
    vol.23 ノコメキシタバ

       ー解説編ー

 『お黙りっ❗と、ベラは言った』

 
 
【ノコメキシタバ Catocala bella ♂】

  
【同♀】


(以上4点共 2019.8.6 長野県上田市)

 
正直、展翅をするとハイモンの方が綺麗だ。
下翅が思ってた以上に黒くて汚いのは致し方ないにしても、売りである前翅のギザギザまでもハッキリしてない。ワシの撮影技術と展翅がイマイチなせいだとはいえ、あまりにも不憫だ。ここは図鑑『世界のカトカラ』の画像をお借りしよう。

 


(出典 2点共『世界のカトカラ』)

 
上が♂で、下が♀でやんす。
ちゃんとノコギリ紋がビシッと出てるね。

雌雄の判別は、♂は腹部が細くて尻先に毛束があり、♀は腹部が太くて尻先の毛が少ない。また裏側から見ると尻先にスリットが入り、黄色い産卵管が見える。上の画像の♀なんかは尻先からピッと飛び出ているゆえに表側からでも判別可能だ。

前翅はハイモンキシタバに似るが、より暗い灰褐色で、鋸歯状の横線(ギザギザ)は黒くハッキリしている。
後翅はハイモンキシタバの明るい黄色と比べてオレンジ色に近い黄色で面積が狭い。外縁黒帯は太くて内縁に接する。内側の黒帯はやや幅広い。また後翅の翅頂の黄色紋は明瞭でない。頸部は淡い樺色、胸部は前翅と同様の色調、腹部は灰褐色。また前脚脛節にも針を有する。

 
【♂裏面】


(2019.8.6 長野県上田市)

 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
(♀裏面)


(2019.8.6 長野県上田市)

 
最近になって新たな画像が出てきて驚いた。2019年に展翅する前に撮った横向き画像である(上から2番目と1番下)。昼間なのでフラッシュは焚かれていない。今年の、ほぼ同じ条件で撮った木曽町のボロ(上から3、4番目)とは色が全然違う。
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅の色が薄くなって白くなるんだ。本来の色は淡い黄色とかクリーム色なんだね。

展翅画像はボロ個体ゆえに黒帯も薄いから、本来的なものではないだろう。なので、他から画像をお借りして貼りつけておこう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
参考までにハイモンキシタバの裏面画像も添付しておこう。

 
【ハイモンキシタバ裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
ハイモンは下翅の翅頂部の黄紋が広くて、外縁の黒帯が途中で分断される。一方、ノコメは黄色と白のコントラストが強く、翅頂黄紋が小さいので判別は容易である。

尚、ノコメとハイモンは食樹が同じで、見てくれも似ていることから近縁種だと思われがちだが、系統は全く違うとされている。遺伝子解析の結果では、驚いたことに全然似てないナマリキシタバと同じクラスターに入っていて、『世界のカトカラ』でも両者はノコメ、ナマリの順で並べられている。一方ハイモンは、ワモンキシタバ&キララキシタバのグループに入れられている。これまた見た目はあまり似てない。カトカラの遺伝子解析は蝶と違って首を傾げてしまうことが多い。見た目と結果に齟齬が多いのだ。だから、どこまで信用していいのかが分からなくなる。

 
【学名】Catocala bella Butler, 1877

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを指している。
小種名の bella(ベラ・ベッラ)は、平嶋義宏氏の『蝶の学名ーその語源と解説』によると「愛らしい、上品な、美しい」という意で、ラテン語のbellusの女性形となっていた。
まあ、これなら納得の語源だね。
ネットで更に調べると、他に「戦争」を意味する第2変化中性名詞 bellum,-īn.の複数・対格と云うのも出てきたが、これは無視してもいいだろう。たかだか蛾に「戦争」チョイスは有り得んだろう。

 
   🎵闇に隠れて生きる
    俺たーちゃ、妖怪人間なのさ
    人に姿を見せられぬ
    獣のようなこの身体
    (早く人間になりたーい)
    暗い宿命(さだめ)を吹っき飛ばっせー
    (ベム!、ベラ!、ベロー!)
    妖怪人間

ベラで思い出したのが「妖怪人間ベム」の紅一点、ベラ様だ。
子供心にも怖いオバサンだったが、何となくドキドキもしたよね。ケバいんだけどエロくて、幼少のみぎりにも何となくゾワゾワしたような記憶がある。

 

(以下3点共 出典『原寸画像検索』)

 

 
切れ長のツリ目と真っ白な肌に真っ赤な口紅。そして濃いアイシャドウがエロティックというか、艶めかしい感じがした。オッパイがデカくて肉感的なのも、それに拍車をかけていたのではなかろうか❓ いやはや、性の目覚めだねー。( ≧▽≦)σこのこの〜、マセたエロ餓鬼があー。

 

(左からベム、ベロ、ベラ。)

 
ほらね、おっぱいデカいっしょ。生地の薄い感じとドレープも男のリビドーを刺激する。
驚いたのは、その年齢だ。ググったら、ベラは20代後半らしい。どう見ても30代半ばから40代の熟女だよなあ。オマケに甲高く笑い、その口調が完全にSMの女王様のそれなのだ。もうエロ過ぎ〜♥️

そういや、このお顔で、

💥ベラのムチは痛いよー。

とか、怖い顔でおっしゃるのである。
腕にブレスレットみたいなのが巻き付いてんだけど、それをビシュッと解くとムチになんだよね。
適当な画像が見つからないので、イラスト画像を貼付しときましょう。

 

(出典『ニコニコ動画』)

 
ワシは痛いのヤだから遠慮するが、この表情でビシビシいかれたら、ドMの人は堪らんだろな。
折角ググったんだから、ベラ様の基本情報も付け加えておこ〜っと。
特殊能力満載で、蘇生術や幻術、雷を呼び起こしたり、時には口から冷気も出せる。それらで人を助けたり、悪い奴らを懲らしめるのだ。だが口が悪く、短期で感情が激しいゆえ、時にやり過ぎてベムに諌められたりする事もある。でも心は温かく、人間味あふれる素敵な女性でもある。ベラさん、いい女だす。

変身すると、こんな感じ。

 

(出典『原寸画像検索』)

 
シンプルに怖い。
まあ、妖怪人間だかんね。そういや、ベロがよく子供に「おいら、怪しい奴じゃないよ。」と言って話し掛けてたけど、「オマエ、全身真っ赤で変な髪型なんだから充分怪しいっつーの」と子供心にもツッコミ入れてたなあ…。
とはいえ、一応3人とも正義の味方なんだけどなあ…。でもどう見ても悪役キャラだよね。絵のタッチも画面背景もダークだし、鬼太郎とは対極にある異彩を放つアニメだった。今の時代ならば、コンプライアンス的に引っ掛かる描写なりセリフがテンコ盛りだったと思われる。何でもありの昭和は面白い時代だったのだ。何でもかんでも清廉潔白なのは気持ち悪い。

ちなみにアニメのリメイク版(2019年)もあるみたいだけど、エロさが全然足りない。

 

(出典『TV東京』)

 
今風だし、何だか女子高生みたいだ。オドロオドロしさが微塵も感じられない。
今どき、エログロは流行らんのだ。(`Д´#)ケッ、何でもかんでもマイルドの薄味にしやがって。昭和は酢いも辛いも包含してた良き時代だったよ。

実写版もあって、ベラを女優の杏が演じている。

 

(出典『スポニチÂANNEX』)

 
罵り方とか、かなりいい線いってたけど、如何せん細い。肉感さが足りないから、あんまエロくないのだ。深キョン(深田恭子)のボディラインで、キャラは菜々緒が理想かもね。

そういや、『ダウンタウンのごっつええ感じ』に「妖怪人間」という漫才トリオがいたなあ…。アレ、笑ったよなあ。

 

(出典『Shoの気ままなライフ』)

 
松ちゃんがベロ、今田耕司がベム、Youがベラに扮して漫才をやるのだが、これがベタな下ネタで妙に面白かった。
気になる人はYou Tubeに動画があるから探してみてね。

お黙りっ❗いい加減にしなっ。

ベラ様の声とムチの音が聞こえたような気がした。
アカン、何やってんだ俺。どんだけ大脱線しとんねん。
いいかげん、話を学名に戻そう。

記載者はバトラー。バトラーについてはシリーズ前々回のミヤマキシタバの第二章『灰かぶりの黄色きシンデレラ』に解説文がありますので割愛します。気になる人はソチラを見てくだされ。

ちなみに同じ”bella”の小種名を持つものに、チョウ目 タテハチョウ科 ヒメミスジ属の、Lasippa bella(ベラヒメミスジ)がいる。
画像は見つけられなかったが、たぶん見た目は属的にオレンジ色のちびっ子ミスジチョウだろう。

 
【和名】
どこにもその命名由来は書かれていないようだが、普通に考えれば、おそらく「鋸の目」。「目」には「〜のように見える」という意味もあるから、すなわち前翅のノコギリの刃みたいなギザギザ模様を指しての命名だろう。ノコギリの事を世間一般では「ノコ」と略すのは通例だからね。それに他に考えうる可能性って、どう考えても無いもんね。
まさかの「野米さん」という人に献名されたとかだとしたら驚きだけどもね。それって面白いけど、即座にヤッさんみたく「怒るで、しかしー。」とツッコミ入れちゃうぞ。
野米さんが蛾類界に大きな足跡を残してたのならともかく、そんな人、聞いたことないもんね。
ふと思う。脈絡なく全然関係ない人の名前を和名に付けちゃったという勇気ある人って過去にいないのかなあ。単にファンだからという理由だけで、ヒバリ(美空ひばり)とかモモエ(山口百恵)、アキナ(中森明菜)、セイコ(松田聖子)、ナナセ(相川七瀬)、あゆ(浜崎あゆみ)なんてアイドルの名前をつけちゃった人とかさ。
もしも自分が超マイナーな虫に興味を持ち、バンバンに新種を見つけたとしたら、フザけた変な名前や意味不明とか難解な和名をいっばい付けてやろうと思う。

 
【亜種】
◆Catocala bella bella Butler, 1877
(日本)

日本のものは原記載亜種とされる。ホロタイプに指定されている標本は”Yokohama”となっているようだ。だたし、まだ自然が残っていた時代とはいえ、標高的にノコメが横浜に分布していたとは考えられない。神奈川県の記録もないようだしね。おそらく採集されたのは別な地で、その標本が横浜から送られてきたとか、そうゆう事だろう。

異常型として、後翅外縁の黒帯が発達したものや中央黒帯の内側が黒化するものが知られている。

 


(出典 3点共『世界のカトカラ』)
 
 
おそらく、こうゆう型のことを言ってるのであろう。
一番下の黒化が進んだものは長野県となっているが、トリミングの問題であって、本当は群馬県で採られたものである。また一番上のものも同様で、上部の北海道の文字は無視されたし。コチラは逆に長野県産と図鑑ではなってます。

 
◆Ssp.serenides Staudinger, 1888
(ロシア南東部(沿海州)、中国中北部、朝鮮半島)

大陸のものが別亜種として記載されている。

 


(出典 2点共『世界のカトカラ』)

 
図版で見る限りでは、日本のものよりも下翅の黄色が明るめなせいか、黄色の面積が広く見えるね。こっちの方が綺麗だね。

 
【開翅長】
『原色日本産蛾類図鑑』では、58〜65mm。『日本産蛾類標準図鑑』では、55〜65mm内外となっている。

 
【分布】 北海道、本州(中部地方以北)
『原色日本産蛾類図鑑』やネットのサイトの多くが分布域に九州を入れているが、これは間違いかと思われる。記録を探せなかったし、最近の図鑑では分布地から外されているからね。
海外では、極東ロシア(アムール・ウスリー)、中国中北部、朝鮮半島に分布する。

標高500mから1700mに見られるが、冷温帯を好む寒冷地性の種で、主に標高1000m前後以上に見られる。食樹であるズミが多く生育する高原地帯では多産し、中部地方の高原では最も普通種のカトカラの一つとされるが、その他のところでは少ない。
低標高の産地は1980年代から減少し始め、1990年代には殆んど見られなくなったという。高原地帯でも以前よりも減少しているところが増えていると聞く。
東北地方での産地は散発的で、古い図鑑だと福島県を北限として東北地方のほぼ全域と北海道南部にわたって分布の空白があるとしている。しかし、その他の地域の北海道には広く分布するという。
w(°o°)wえっ❗❓、同じ寒冷地型のハイモンは東北にも万遍なくいるのに何で❓謎だよね。何かまた変なところに足を突っ込みそうだ。😱ヤバい。またしても長大になる兆候が濃厚だよ。

解りやすいように分布図を貼付しておこう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
分布を示す黒塗りされているところが微妙に違うのは『世界のカトカラ』の方が刊行年が少し遅くて、秋田県と宮城県が追加されたのと、上図は分布域を示し、下図は県別の分布図であるせいだろう。下の分布図だと或る県で1頭だけでも記録があれば、その県は塗り潰されるからである。にしても、分布域図でも北海道南部に空白が無いね。多分、北海道南部でも見つかったんじゃろう。そゆ事にしておこう。下手な疑問は抹殺じゃ。
猶、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』から東北地方の分布の空白について次のようなコメントが見つかった。
「東北地方ではほとんど採れていないのは、日本への侵入経路・時期に由来しているのかもしれない。」

とゆう事はだな。ハイモンとノコメの日本への侵入時期が違うという事か…。何だか面倒くさい事になってきたよ。HSPだけど、答えの見えない迷宮地獄になりそうなのでスルーしてコマしたろか。

でも、気づいたら「日本列島の成り立ち」で検索してた。
やれやれである。
以下、Wikipediaからの抜粋、編集したものである。ここから答えをさぐっていこう。

『現在の日本列島は、主に付加体と呼ばれる海洋で出来た堆積物からなっている。かつて日本付近はユーラシア大陸の端で、古生代には大陸から運ばれてきた砂や泥が堆積していた(現在の北陸北部、岐阜県飛騨地方、山陰北部など)。そこへ、はるか沖合で海洋プレートの上に堆積した珊瑚や放散虫などからなる岩石(石灰岩やチャート)が移動してきて、それが海溝で潜り込むときに、陸からの堆積物と混合しながらアジア大陸のプレートに押しつけられて加わった(付加)、この付加が断続的に現在まで続いたため、日本列島は日本海側が古く太平洋側に行くほど新しい岩盤でできている。

このようなメカニズムで大陸側プレートに海洋プレートが潜り込む中で、主にジュラ紀〜白亜紀に付加した岩盤を骨格に、元からあった4〜5億年前のアジア大陸縁辺の岩盤と、運ばれてきた古いプレートの破片などを巻き込みながら日本列島の原型が形作られた。この時点では日本はまだ列島ではなく、現在の南米のアンデス山脈のような状況だったと考えられる。

その後、中新世になると今度は日本列島が大陸から引き裂かれる地殻変動が発生し、大陸に低地が出来始めた。2100〜1100万年前には更に断裂は大きくなり、西南日本は長崎県対馬南西部付近を中心に時計回りに40〜50度回転し、同時に東北日本は北海道知床半島沖付近を中心に反時計回りに40〜50度回転したとされる。これにより今の日本列島の関東以北は南北に、中部以西は東西に延びる形になった。いわゆる「観音開きモデル説」である。そして、およそ1500万年前には日本海となる大きな窪みが形成され、海が侵入してきて、現在の日本海の大きさまで拡大した。』

途中だが、ここで少しでも理解しやすくするために、日本列島の成り立ちの大まかな図を貼付しておく。

 

(出典『出雲平野と神戸川をめぐる自然史』)

 
『1600万年前から1100万年前までは西南日本(今の中部地方以西)のかなり広い範囲は陸地であった。東北日本(今の東北地方)は広く海に覆われ、多島海の状況であった。』

この時期にノコメは西から日本に侵入したって事か❓
しかし、東北地方は大部分が海に沈んでいたから分布を東に拡大できなかったのかもしれない。

『その後、東北日本は太平洋プレートなどによる東西からの圧縮により隆起して陸地となり、現在の奥羽山脈・出羽丘陵が形成されるにいたった。
北海道はもともと東北日本の続き(今の西北海道)と樺太から続く南北性の地塊(中央北海道)および千島弧(東北海道)という三つの地塊が接合して形成されたものである。』

ということは北海道のノコメキシタバは北から侵入して来たのではあるまいか。そして、今の西北海道が東北日本の続きの一部であったのならば、中央北海道や東北海道とは海で隔たれており、それ以上は南下できなかったのではなかろうか。北海道西南部にノコメが分布していないとされるのは、それで何とか説明できそうだ。

『西南日本と東北日本の間は浅い海であったが、この時代以降の堆積物や火山噴出物で次第に満たされながら、東北日本が東から圧縮されることで隆起し中央高地・日本アルプスとなった。』

では何故に西日本のノコメが、この後に分布を東に拡げて東北地方に侵入しなかったのだろう❓食樹であるズミはあるのに何でざましょ❓
考えられるとすれば、フォッサマグナ(深い溝)だ。
ほらほら、やっぱ大げさな話になってきたじゃないか。

『西南日本と東北日本の間の新しい地層をフォッサマグナといい、西縁は糸魚川静岡構造線、東縁は新発田小出構造線と柏崎千葉構造線で、この構造線の両側では全く異なる時代の地層が接している。』

イメージとしては、こんな感じだろうか?

 

(出典『www.shinnshu-u-ac.jp』)

 
フォッサマグナの成り立ちだが、図CとEがそれにあたる。

そういえば、このエリアを境に東と西とでは生物相が異なるって、よく聞くよね。多くの生物種群において、東西日本での遺伝的分化が認められる研究結果が多々あった筈だ。
となれば、中部地方と北海道のノコメキシタバは別種か別亜種の可能性が高いと考えられなくはないか❓でも両者は亜種区分さえされていない。これはどうゆう事なのよ❓
『世界のカトカラ』の著者であり、カトカラの世界的研究者でもある石塚勝己さんは、キララキシタバとワモンキシタバが別種である事を証明するために、ゲニ(ゲニタリア=♂の交尾器の一部)を切りまくって、執念でその差異を見つけたと聞いている。その石塚さんが、この問題を看過するワケがない。きっと調べ済みの筈だ。って事は両者の交尾器に違いを見い出せなかったって事か…。ならば本州産のノコメも北海道産のノコメも全くの同種であるということになってしまう。密かに北海道のものは大陸の亜種”ssp.serenides”じゃねえかと思ってたんだけどねー。
(+_+)くちょー、やっぱ迷宮ラビリンスじゃねえか。

置いといて、ではハイモンキシタバはいつ日本に侵入したのだろうか❓ Wikipediaの記述を続けよう。

『こうして不完全ながらも今日の弧状列島の形として現れたのは、第三紀鮮新世の初め頃であった。その後も、特に氷期の時などには海水準が低下するなどして、大陸と陸続きになることがしばしばあった。例えば、間宮海峡は浅いため、外満州・樺太・北海道はしばしば陸橋で連絡があった。津軽・対馬両海峡は130〜140メートルと深いため、陸橋になった時期は限られていた。』

この時代のどこかでハイモンが日本列島に侵入したのかな❓にしても、ハイモンは一応、日本固有種となっている。どゆこと❓
これは、おそらくニセハイモンキシタバ(C.agitatrix)が日本に渡り、長年隔離されて分化し、別種になったのだろう。その後、陸地化した東北地方、中部地方に分布を拡げ、その過程で北海道のものとも亜種分化したとは考えられないだろうか❓
けれど、そうなればだな、それ以前に日本に侵入していたノコメよりも進化(分化)スピードが早いということになる。って事でいいのかな❓
確かに生物は、それぞれ進化のスピードが同じではない。シーラカンスのように太古の昔から殆んど姿を変えていないものもあれば、ガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチのように島ごとに進化して嘴の形が変わったものもいる。ダーウィン・フィンチは環境に合わせて適応放散的に進化したことの例証として有名だけど、これは種によって進化を促進する因子の有無や多い少ないがあるのかもしれない。
でも進化スピードは、東北地方にノコメキシタバがいない事の理由とは直接関係はない。先に進もう。

『また南西諸島ではトカラ海峡(鹿児島以南)、ケラマ海峡(沖縄島以南)は共に1000メートルを超す水深であり、第四紀後半に陸橋になった可能性はまず考えられない。南西諸島の生物相に固有種が多く、種の数が少ないなどの離島の特徴を示すことは、大陸から離れた時代が極めて古いためと考えられている。陸橋問題では、津軽海峡は鮮新世末まで開いており、対馬海峡は日本海塊開裂時代には開いていたが、その後の中新世末から鮮新世には閉じたと考えられている。
最後の氷期が終わり、マイナス約60mの宗谷海峡が海水面下に没したのは更新世の終末から完新世の初頭、すなわち約1万3000年から1万2000年前である。
中新世前期には、沈み込みによる大陸辺縁の分離が活発化する。鮮新世後期〜更新世前期には、日本海の拡大は終息して島孤は現在に近い配置になっている。更新世の終わり2万年前頃には、ほぼ現在に近い地形であるが、最終氷期最盛期のため海面が低下し日本海と外洋を繋ぐ海峡は非常に狭かった。』

今まで触れなかったが、ここで西から侵入したノコメキシタバが、なぜ中部地方から西には居なくなったかについて考えてみよう。
思うに、氷河期が終わり、気候が温暖になってゆくに伴って西日本に広く分布していたノコメキシタバの生息域は次第に狭められていったのではなかろうか。そこには食樹の減少も関係していただろう。そして、現在のように冷涼な気候の中部地方にのみ生き残ったと考えれば、一応の説明はつく。
けど、これも東北地方にノコメが居ない理由の直接的な理由とは関係ない。フォッサマグナが現在の分布に何らかの影響を与えているとしたら何なのだ❓現在は陸続きなんだから、東北に分布をナゼに拡大しないのだ❓そこには何の障壁があるのだ❓もしくはナゼに移動しようとしないのだ❓移動性が低い種だとか❓けど、だったらそもそも大陸から日本には侵入してないよね。理由が皆目ワカラン。
嗚呼、とまどうペリカンだ。自身の力の無さを痛感して、この辺でステージから降りる。グダグダの結末でスマンが、話を本道に戻して先へ進める。

ノコメの西側の分布は福井県、京都府、大阪府に僅かな記録があるのみで、それ以外の地域からは未知。
大阪府の記録は箕面のようだ。しかし標高が低く、開発も進んでいるので再発見は不可能かと思われる。それにそもそも、本当にいたのかね❓古い記録だから同定間違いなんじゃないかと疑りたくもなる。中国地方で見つかれば、信憑性も出てくるんだけどもね。発見されたらいいのになあ…。

垂直分布はハイモンキシタバよりも高く、ハイモンのように低地の渓谷や湿地には進出していない。ハイモンは名古屋市内でも発見されているが、ノコメは棲息が確認されてないからね。つまりハイモンと比べて、より冷温帯を好む種だと思われる。

 
【レッドデータブック】

宮城県:絶滅危惧II類(Vu)

東北地方で指定されているのは、宮城県のみである。
秋田県もレッドリストに指定されて然りなのにね。まあ実状はこんなもんだろ。絶滅危惧種とか準絶滅危惧種とかはアテにならんのだ。恣意的なモノもあるしね。
東北地方の他県で近年発見されてないかと調べてみたが、有望そうな岩手県ではズミのある高原や湿原でも全く見られないという。
ネットを見てると「K’s Life list」というサイトに次のような記事があった。

「こうした東北を飛ばして中部山岳と北海道に隔離分布するタイプの蛾は結構多い.亜高山・高山性のものや北東北には少ない針葉樹食いのものに多いが,本種のように普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい.」

へぇ〜、蛾ってそうゆう分布をするのが結構多いんだ。蝶にはいないからね。あと「普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい。」というのも、へぇーって感じ。
あっ、ちょっと待てぇー。蝶にもおるわ。中部地方と北海道に分布するのに東北地方には分布せえへん、もしくは点在分布しかせえへん奴がおる。シジミチョウ科のアサマシジミがそうだよね。但し、北海道では今や絶滅しかかってるけどね。
考えてみれば、他にもいるわ。コヒオドシ、ベニヒカゲ、クモマベニヒカゲ、フタスジチョウ、ヒョウモンチョウ、コヒョウモン、あとはウラジャノメが一部中国地方にもいるが、近い分布をしている。これはいったい何を意味しているのだ❓
あー、また問題を蒸し返しとるがな。
でも、その分布形態の理由が書いてある記述を見たことないがないし、聞いたこともないぞ。

調べたみたけど、やはり明確に書いてある論文は見つけられなかった。もうウンザリだから、必死には調べてないけど…。
改めて思うに、やはり中部地方のものと北海道のものとでは侵入経路が違うのではなかろうか。中国地方に僅かに残るウラジャノメは、西から侵入したものの生き残りではあるまいか。だとしたら、やはり中国地方でも見つかる可能性はあるかもしれない。でもこれも東北地方には居ない理由にはなってないけどさ。
ゴメン、やっぱリタイア(ㆁωㆁ)

 
【成虫の出現期】
7月中旬から出現し、9月中旬まで見られる。
『日本のCatocala』によれば、標高の低い場所(500〜800m)では7月上旬から見られ、8月中には没姿するという。また群馬・長野県の1500m以上の高原では8月から現れると書いてあった。
同所的に見られることの多いハイモンキシタバと比べて発生が1週間ほど遅れ、発生初期に両者の出現が重なる。

尚、『ギャラリー・カトカラ全集』には「山地帯ではかなり多く、普通種のイメージがあるが、意外と新鮮な個体を採集するのは難しい。出現期の早い時期に採れる個体はしっとりとしており、なかなかのものである。」と書かれてある。
また「この種の素晴らしさが理解できれば、カトカラ愛好者として上位者である。」とも書かれていた。

 
【成虫の生態】
クヌギ、ミズナラ、ヤナギ、ハルニレなどの樹液に好んで集まる。
糖蜜にも誘引され、高原で見られるカトカラの中では最も糖蜜に集まる種類の一つなんだそうだ。
午後7時半、深夜の午後11時15分と午前0時20分に飛来したのを見ている。

わずかながら、花(アレチマツヨイグサ)での吸蜜やアブラムシの分泌物を吸汁していた例があるようだ。

灯火にも集まる。
見たのは午後9時半以降だったと思われるが、ボロばっかだったので、あまりハッキリとは憶えてない。ナマリキシタバやアズミキシタバなど他のバラ科を食樹とする種は灯火への飛来は遅い傾向があるので、そんなに早くには飛来しないのかもしれない。ただし灯火への飛来は傾向性はあっても、その日の気象条件にかなり左右されるので、何とも言えないところはある。

成虫は昼間、頭を下にしてカラマツなどの樹幹に静止している。驚いて飛翔すると着地時には上向きに止まるが、瞬間的に体を反転させて下向きとなる。その際、後翅の黄色がよく目立つ。

交尾は深夜11時から午前2時の間に観察されている。
羽化後、数日後には交尾・産卵を繰り返すものと思われる。

産卵行動は2001年の8月6日に長野県真田町の標高1250mの高原で確認されている。日没後に1頭の♀が食樹であるズミの根元の樹皮下に産卵しようとしている様子が観察され、翌春にはその木の下の落葉から複数の受精卵が見つかったという。他のカトカラと比べて産卵はアバウトで、食樹周辺の枯葉や枝などに適当に産み付けるそうだ。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。他に野生のナシが記録されているが、ナシは暖地性の植物なので、本来の食餌植物ではないと思われる。また、時に栽培されたリンゴでも幼虫が見い出される。

ズミ、エゾノコリンゴについては、ハイモンキシタバの回で詳しく書いたので割愛する。

 
【幼生期の生態】
毎度の事ではあるが、幼生期については西尾規孝氏の『日本のCatocala』におんぶに抱っこさせてもらおう。

 
《卵》


(出典『日本のCatocala』)

 
卵はやや背が高いマンジュウ型で、ナマリキシタバとアズミキシタバに似る。だが隆起条の数が40本以上と多く、横隆起条の間隔が狭くて整然としている。
ちなみにハイモンキシタバの卵とは似てない。食樹が同じで、成虫の見た目が似ていることから両者は兄弟みたいに思われがちだが、遺伝子解析では系統的にはかなり掛け離れている。だから卵が似ていないのは当然なのかもしれない。
それにしても、顕微鏡写真まで撮るなんて西尾氏は凄いな。この『日本のCatocala』は、国内のカトカラにおいては他に追随を許さぬ最高峰の図鑑だと思う。

長野県女神湖(標高1500m)での孵化時期は5月上、中旬。5齡幼虫は6月中旬から7月上旬に見られる。同県上田市(600m)では、6月中旬に5齡幼虫が見られたという。

  
《幼虫の生態》
幼虫は比較的若い木に発生し、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない。

 
(2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
日中、若齡幼虫は葉上や付近の枝に静止している。3〜4齡期の幼虫も枝に静止している。

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
5齡が終齢。老熟幼虫の昼間の静止場所は枝や樹幹で、地表近くに潜んでいる場合も見受けられる。しかし、ハイモンキシタバほどには樹幹下部には降りないようだ。
高原のズミには多数の幼虫が群れていることかあり、5齡幼虫は昼間でも活動している事があるという。このような群生と摂食習性はハイモンキシタバには観察例がないそうだ。
野外では体色に色彩変異が見られ、側線付近の白い模様が幅広くなるものや全体に白化したものがある。

食樹を同じくするハイモンキシタバとは、顔面の模様が違うことから区別できる。

 
(5齡幼虫の頭部)

 
(ハイモンキシタバ5齡幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
だいぶ違うね。
カトカラの幼虫の同定には、この頭部が一番重要だと言われているのがよく解るね。

室内飼育では、室温が25℃以上になると死亡率が高くなることかあるという。やはり寒冷地性なんだね。

蛹化場所については未知のようだ。
蛾のなかでは人気種のカトカラであっても、蛹に関しての記述は殆どない。野外での蛹化場所が見つかっていないカトカラも多いのだ。その点、蝶と比して研究が遅れてるなと思う。たった32種類なのに食樹がまだ判明していないものだっているのだ(註1)。
最近は東京を中心に関東方面では蛾熱が高まっているともいうし、人海戦術で探せるような時代が来ればいいのにね。蝶みたく分母の人数が多ければ、生態の解明は格段に進むだろう。
こんな一銭にもならない連載を書き続けている理由の半分、いや1/3は、それを後押したい気持ちもあるからだ。ヒントが提示されなければ、人は動かないものだ。

                        おしまい

  
追伸
今年は狙って採りに行かなかったけど、来年はハイモンと一緒にシッカリ採ろう。標本が酷くて、こんなんじゃ不満なのだ。

今回のタイトルは全然浮かばなくて悩んだ。細かいところを書き直すうちに、妖怪人間ベラが降臨した。で、突如挿入。それがタイトルのヒントになった。
でもそこから中々決まらなくて、「ベラは言った、お黙りと」に始まり、「お黙り、とベラは言った」「お黙り。とベラはそう言った」「お黙り。と、ベラは言った」「お黙りっ❗そうベラは言った」とマイナーチェンジを繰り返して、最後に「お黙りっ❗と、ベラば言った」に落ち着いた。「、」に拘った結果だ。
けど、いまだもってしてどれが正解なのかはワカラナイ。

 
(註1)食樹がまだ判明していないものだっているのだ
食樹が見つかっていないのは、ヤクシマヒメキシタバとマホロバキシタバ。但し、ヤクシマヒメキシタバは既にウバメガシで飼育されており、野外でのメインの食樹として有望視されている。けど、そこからは進んでいないようで、未だ自然界では幼虫が発見されていないようだけどもね。蛾の文献は簡単には集められないので、古いものしか見れてないから間違ってたら御免だけど。
新種マホロバキシタバは現地の植物相からしてイチイガシが予想されている。たぶんイチイガシで間違いないかと思われる。卵を含めて幼性期は全くの未知。一応、今年探したけど、見つけられなかった。意外と幼虫探しは難航するかもしれない。なぜならイチイガシは大木が多く、もしも大木を好む種ならば、発見はそう簡単ではないからだ。今のところメス親からの採卵、飼育が成功したという話も聞いていない。2019年には採卵が試みられたけど、産まなかったそうだ。
ちなみにアマミキシタバも食樹が長年判明していなかったが、去年(2019年)に解明されたようだ。候補の植物を片っ端から幼虫に与えた結果、判明したんじゃなかったかな。でも自然状態での発見は為されていないかも…。論文を読んでないので詳細はワカランのだ。ネット情報で辛うじて知っただけで、正確性に欠けるかもしれない。あと知っているのはカトカラ類の基本である年1化ではなく、多化性であると云うことくらいだ。
アマミキシタバは従来カトカラには含まれていなくて、別属である Ulothrichopus属に含まれていた。それが近年になって新たにカトカラ属に加えられたものだ。アフリカに多く生息するこの属をカトカラに含めてしまうと分類に混乱をきたすと、どこかで聞いたことがあるような気がするけど細かいことは分からない。多化性だから、たぶん同じシタバガ亜科のクチバの類とかって考えている人がいるのかもしれないね。でも所詮は蝶屋なので、蛾の属のことは全然ワカリマセンというのが本音だ。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆K’s Life list

  

2019’カトカラ2年生 其の六

 
    vol.23 ノコメキシタバ

  『ギザギザハートの子守唄』

 
前々回のハイモンキシタバの採集記と基本的には途中まで同じなので、その続きとして書きます。つまり前々回と連なる文章として読んで戴きたい。
 

2019年 8月6日

闇が、より濃くなっている気がした。
ここにも熊がいることを思い出す。恐怖が心をサッと撫でる。
深夜の森の中は閑としていて、不気味なまでに静かだ。自分の足音だけが空気を震わせている。
真っ暗な道を何度往復しただろうか…。次第に焦りと後悔がどんよりと澱のように心の底に溜まってゆく。

思えば、日没後さして間もない8時15分に奴は糖蜜トラップにやって来た。なのに網を組み立てている刹那に逃げられた。
dont ‘worry.ドン・ウォリー、気にすんな。自分に言い聞かせるように軽く一人ごちる。

まだ早い時間帯だったから、そのうち戻って来るだろうと思ってたら、その5分後にまた同じ木に飛んできた。
( ̄ー ̄)しめしめ。飛んで火にいる夏の虫。食い意地はってっと、アンタ💀死ぬよ。

しかし近づくと、何かさっきのとは違うような気がするぞ。
( ̄□ ̄;)ハッ❗、ノコメキシタバじゃない❗
コレって…、見た目が似ているハイモンキシタバじゃねえの❓

ハイモンも採ったことが無かったから渡りに船ではあるけれど、その瞬間、気分が楽になった。この時点ではハイモンはノコメよりも珍しくないと思い違いをしてたからだ。こっちではハイモンは普通種だから、どうせこのあとには何んぼでも飛んで来ると思ったのだ。しかし本当は逆である。ノコメが普通種で、ハイモンの方が珍しい。それに気づくのは帰ってから暫くしてからである。我ながら情けない。考えが雑いのだ。
そうゆうワケで、リラックスして簡単にゲット。

 
【ハイモンキシタバ Catocala mabella ♀】


(2019.8.9 長野県上田市)

 
ハイモンも一応ターゲットだったのでそれなりに嬉しかったし、前後が逆になっただけで次はノコメだろうと、まだこの時点は気分上々の楽勝気分だった。
けれどその後、全く想像していなかった展開になった。それ以来、何も飛んで来なくなったのだ。
『嘘でしょ❓』と半ば冗談でウソぶくも、少しずつ自信と楽観気分が砂のように削られてゆく。
見たんだから此処に居ることは分かってる。絶対にいるのだ。もしや見間違え❓ そんなわきゃ無かろう。確かに実物を見た。まさか幻でもあるまいに。心が揺れ動く。
(-_-;)クソッ。何であの時、ターゲットから目を離したのだ。悔やんでも悔みきれない。

真っ暗な道を何度往復しただろうか。
時は徒(いたずら)に過ぎてゆく。
そして、採れない焦燥感と闇の重圧に耐えきれなくなったのか、勝手に歌が口から溢(こぼ)れ出した。ささくれ立った心の声が外に漏れたのだ。

  🎵ちっちゃな頃から悪ガキで
   15で不良と言われたよ
   ナイフみたいに尖っては
   触るものみな傷つけた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

チェッカーズのヒット曲『ギザギザハートの子守唄』だ。
それくらい心はヤサグレていたのである。

深夜午後23時になった。
いよいよ背水の陣を呈してきた。顔が歪んできてるのが自分でもわかる。
俺は深夜の森の中で、いったい一人で何をやっておるのだ❓
次第に何のために此処にいるのかも曖昧になってゆく。
半ばヤケクソで『ギザギザハートの子守唄』を呪文のように歌い続ける。

午後23時15分。
懐中電灯の光の束が指す先、遠目だが何かいるなと思った。木はノコメもハイモンも来た、あの木だ。近づくと、鮮やかな下翅の黄色を覗かせてカトカラが鎮座していた。

来たっ❗❗
でもノコメ❓ハイモン❓どっち❗❓

まだ間隔が離れてるから微妙で、よくワカラン。どっちも上の翅が同じような鈍びた灰色なのだ。
確認のために慎重にゆっくりと距離を詰める。

距離約3m。ようやく上翅に黒いギザギザの線が見えた。ハイモンじゃない。待望のノコメだっ❗
ドクン💕ドクン💕。心臓が急に脈打ち始める。
心を落ち着かせるために『ギザギザハートの子守唄』を再び口ずさむ。でもここは、あえて一番ではなく2番だろう。

  🎵恋したあの娘と二人して
   街を出ようと決めたのさー
   駅のホームで捕ま〜ってー
   力まかせに殴られた
   あーぁ わかってくれとは言わないが
   そんなに俺が悪いのか
   ララバイ ララバイ おやすみよ
   ギザギザハートの子守唄

歌い終わるやいなや、
💥チェ〜スト━━━━━━━━━━❗

気合で網先で幹の下を突き、飛んだところを空中でブン殴る。

入った❗❗
間違いなく網に吸い込まれるのが見えた。

(。•̀ᴗ-)✧やりぃ❗
見ると確かに入っている。しかし、中で狂ったようにメチャンコ暴れてる。慌てて毒瓶を中に突っ込む。しかし更に暴れまくって中々毒瓶に入ってくんない。

(༎ຶ ෴ ༎ຶ)お願━━━い。
暴れないでぇ━━━❗
ボロボロになっちゃ━━━━う❗❗

すったもんだの末になんとか取り込み、息絶えたところで手のひらに乗せる。

 

 
ハイモンと比べて上翅の黒いギザギザがよく目立つ。間違いなくノコメキシタバだ。
しょこたん(註1)風に言うと、ギザカッコイイ。
とは言っても右側だけだ。左側は擦れ擦れでギザギザが消えかかっている。しかも網の中で大暴れしたので、背中が激禿げチョロケのズルむけスーパー落ち武者にさせてしまった。
まあいい。この際、採れたには採れたんだから良しとしよう。ゼロと1とでは雲泥の差なのだ。
とにかく重圧からやっと解放された。これで自己採集のカトカラは23種目となったわけだ。

裏返してみる。

 

 
裏面はハイモンとは全然違うんだね。外側は白で、内側は明るく鮮やかな黄色だ。コントラストが強くて美しい。こんな裏面のカトカラは見たことないかも。たぶん他にはいないよね。
一見、腹が長いので♂かと思ったが、腹先には毛束がなくて産卵管が見える。どうやら♀のようだ。

最初に採ったハイモンよりもコッチの方が表も裏も断然カッコイイような気がするぞ。まあ、こっちの方が珍しいというし、苦労の末のゲットだから欲目がだいぶ入ってるかもしんないけどさ。

午前0時20分。
さらにもう1頭ゲット。

 

 
これもギザギザだから、ノコメだ。
さっきよりも鮮度はマシで、前翅のギザギザがハッキリと見える。
だが、コヤツも落ち武者になっとる。けんど、もうどうだっていいや。もはや採れればいいのである。

裏返してみる。

 

 
バンザイ姿が可愛いね。
良かった良かったの、ワシも\(^o^)/万歳じゃよ。

こちらは腹が細くて産卵管が無いので♂のようだ。
一応、オスメスの雌雄が揃ったぞい(◍•ᴗ•◍)

見上げると、木々の間から天の河が見えた。
空を見上げる余裕もなかったんだね。

暗闇で見る星空はとても綺麗だ。
スッと力が抜け、これで漸くテントに帰ってグッスリ眠れると思った。

                        おしまい

 
一応、おしまいにしたが、オマケで翌日のことも書く。
ストレージが溜まっているので画像を消したいのである。

 
翌朝、早朝から死ぬほど走らされている高校生たちをあとにして撤収、上田駅まで戻ってきた。
もう蕎麦にはウンザリなので、スーパーで昼飯を買って食う。

 

 
298円の鶏の炭火ハラミ焼(塩ダレ)を食い、🍺ラガーをグビグビいき、百円引きの海鮮バラちらし(¥298)を一口食って、またラガーをグビグビいって、ダアーッ。テーブルに突っ伏す。
途中、1日だけカプセルホテルに泊まったが、これでテント生活も5日目なのだ。うちテント野宿が2回。しかも酷い靴ズレ状態で、足は絆創膏だらけだ。それでも熊の恐怖と戦いつつ夜の森を歩き回り続けておったのだ。身も心もボロボロなのじゃよ。

駅前から巡回バスに乗る。

 

 
行き先はココだ。

 

 
(南櫓)

 
そう、上田といえば真田の上田城跡公園である。
何で城なんかに来たのかというと、単に城好きだからだ。それに上田といえば、戦国武将ランキングの常に上位にランクされる真田幸村(信繁)の故郷でもある。大阪人としては、大阪城を獅子奮迅で守った幸村に強い思い入れがあるのだ。行かねばなるまい。

上田城は天正11年(1583)、幸村の父である真田昌幸によって築城された。日本百名城にも選出されており、第一次・第二次上田合戦で徳川軍を二度にわたって撃退した難攻不落の城として知られる。城マニアの評価も高く、とあるTV番組では堂々の第1位に選ばれたこともあった筈だ。
ここ南櫓の下も、かつて千曲川の緩やかで深い分流があり、天然の堀となっていたそうだ。この場所を「尼ヶ淵」と称したことから上田城は別名「尼ヶ淵城」とも呼ばれていたという。
その後、城主は時代の変遷と共に真田氏から仙石氏、松平氏へと移っていった。

でも、訪れた理由はそれだけではない。この上田城跡に、ケンモンキシタバとエゾベニシタバ、あとノコメキシタバの記録もあるからだ。あわよくばの一石二鳥で昼間の見つけ採りも狙っていたのである。

 

 
櫓らしきものが見えてきた。
ちなみに上田城には元々天守閣がない(註2)。

 
(本丸入口)

 
いいなあ。
やっぱ、城って好きだなあ。
左が南櫓、正面が東虎口櫓門である。写っでいないが、この右側には北櫓がある。

 
(真田石)

 
石垣とかって、ずっと見てれるかもしんない。
左下の大きな石が真田石だ。この大きな石が権力と財力を示すものとして、当時の戦国武将がこぞって櫓門の石垣に大きな石を配したと言われている。

 
(真田神社)

 
真田幸村の神霊を「知恵の神様」として崇めており、試験や就職、スポーツなどの勝利祈願の神社としても知られるそうだ。
今更なあ…。昨日、蕎麦なんか食わずにコッチ来ときゃよかったかもね。

 
(北櫓)

 
(西櫓)

 
城跡だけあって、歩くと結構広い。

 

 
あっ、コレってもしかしてハルニレの大木じゃね❓植物の同定には、あんま自信ないけどさ。とにかくハルニレといえば、ケンモンの食樹だよね。どっか、止まってねぇかなあ…。
城跡の端っこのミニ農園みたいなところには、大きなリンゴの木も2、3本あった。林檎類はノコメとハイモンの食樹だね。
城内にはジョナスの食樹であるケヤキも沢山あり、エゾベニの食樹のヤナギ類も一応あった。
でも、つぶさに木を見て歩いたが、残念ながら何も見つけられなかった。あまり期待はしていなかったから、別にショックは無いんだけどね。

 

 
百日紅(さるすべり)の花が咲いている。
夏も真っ盛りだなあと思う。

 

 
城を出て街なかに戻ると、白い入道雲が湧き上がっていた。
今年のオラの夏休みも、そろそろ終りかなあ…。

                    おしまいのお終い

 
と言いつつ、話は尚も続く。

翌2020年は、8月8日(標高約700m)と8月9日(標高約1300m)に他のカトカラ目的で灯火採集した折りに何頭か見た。だが、既にズタボロばかりだった。だから殆んどスルーした。
唯一持ち帰った個体がコレ↙️

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
尻が細くて長いから♂だね。
採った時はそうでもないと思ったけど、裏を見ると超ボロい。
カトカラの鮮度は表よりも裏の方が如実に出るね。鮮度は裏で見るべしなのだ。

2019年の展翅前の横向き裏面画像も出てきた。
上の個体とは、だいぶ印象が変わる。

 
(♂)

(♀)

 
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅が白くなるんだ。本来の色は淡い黄色、クリーム色なんだね。

♀は横から見ると腹部が太いことがよくわかる。
あと、随分と前翅が丸いように見える。沢山の個体を見たワケではないが、図鑑等の画像を含めて♀にはそうゆう傾向が見受けられるような気がする。微妙な奴もいるだろうから、同定には補足としてしか使えないけどね。

これらの展翅画像は後ほど解説編に貼付します。

               おしまいのお終いのおしまい

 
追伸
今回も1回のみの掲載を試みた。実際に完成もしたのだが、やはり解説編で脱線と迷走を繰り返し、厖大な長文になったゆえに分けることにした。

えー、ハイモンキシタバの回から比較的間隔を置かずに記事をアップできたのは、ハイモンの回と同時進行で書いていたからです。同時進行の方が早く書けて、間違いも少ないと考えたワケやね。

 
(註1)しょこたん
マルチタレント・歌手の中川翔子のこと。

 

(出典『Wikipedia』)

 
『しょこたん』の愛称で知られ、オタクだけでなく一般的な知名度も獲得している。
アキバ系タレントの先駆けの1人として活動を開始した後、自身のブログが爆発的な人気を集め、「新・ブログの女王」と呼ばれた。ネット文化に影響を受けた特有の話し方はしょこたん語と呼ばれている。本文で使った「ギザ」もその一つである。

 
(註2)ちなみに上田城には元々天守閣がない
仙石氏時代の上田城には天守閣が無かったことは明らかではあるが、真田氏時代の有無は定かではなかった。しかし近年、金箔瓦が出土していることから天守が築かれていた可能性が指摘されている。
なお第一次上田合戦の際には「天守もなく小城」と徳川軍が侮ったとする記録があるので、天守があったとすれば、造営はその後だと考えられる。

 
 

2019’カトカラ2年生 其の五 弐の章

 
   vol.22 ハイモンキシタバ

          弐の章
   『銀翼のマベッラ』

 
 
 ー解説篇ー

 
【ハイモンキシタバ♂】

 
【同♀】

(以上2点共『世界のカトカラ』)

 

(2019.8.6 長野県上田市)

 
鮮度の良いものは前翅が銀色で、白灰色の紋が有るんだね。
下翅の黄色は明るく鮮やかで美しい。
ちなみに前回の採集記で書いたように激ヤラかしちまったので、手持ちの標本はこんなんしかない。

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
来年は銀々にして、ギンギンの羽化したての奴を手ゴメにしてやろう。

さてとー、気持ちをリセットして解説を始めますかね。

前翅は灰褐色で腎状紋付近から前縁にかけて、比較的大きな白灰色の斑紋を有する。後翅中央黒帯と外縁黒帯は繋がらず、後翅は明るい黄色で翅頂の黄紋は明瞭。また北海道のものを除いて後翅外縁黒帯が下部で明確に分離する。頚部は樺色、胸部は灰色、腹部は褐色を呈する。
一見ノコメキシタバに似るが、前翅に灰白紋が有ること、後翅がレモンイエローで、外縁の黒帯が繋がらないことで判別できる。
補足しておくと、ノコメキシタバの後翅の色はオレンジ系統の黄色で、より外縁黒帯が太く、外縁近くまでぴっちぴっちに広がる。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『garui.dremgate.nd.jp』)

 
(♀裏面)

(2019.8.6 長野県上田市)

 
裏面下翅の中央の黒帯はノコメと比べて細くなる傾向があるようだが、決定的な違いは何といっても外縁の黒帯にある。表と同じく途中で黒帯が分断されるのだ。また、他のカトカラと比べて外側の黄色い部分が淡く、白っぽく見える。但し、ノコメはそこが更に白く、下翅内側の黄色い部分とのコントラストが強い。
比較のためにノコメキシタバの画像も載せておこう。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
よく見れば、両者にはかなりの差異がある事が解って戴けるかと思う。
ちなみに裏面の画像は飛び古した個体ゆえ、黒帯の色がかすれて薄くなっている。

 
【学名】Catocala mabella Holland, 1889

しかしネットで見ると、学名が違う。ほとんどのサイトが学名を「Catocala agitatrix mabella」としているので、まごつく。おいおいである。冒頭からいきなり躓いたんじゃないかと思ってビクついたよ。採集記のみならず、解説編まで蹉跌パターンとなれば目も当てられない。
しかし、落ち着いて考えてみると、小種名”agitatrix”に続く後ろに、件(くだん)の”mabella”がある。と云うことは元々は亜種名に使われていた言葉みたいだね。その”mabella”が亜種名から小種名に昇格して、”agitatrix”とは別種になったのではあるまいか。たぶん、それに間違いないかと思われる。

では、”Catocala agitatrix”とは何じゃらホイ❓
調べたら、わりと簡単に見つかった。どうやら大陸側にいる近縁種のことのようだ。

 
《Catocala agitatrix Graeser, [1889]》

(出典『世界のカトカラ』)

 
上部のロシア云々というデータはキララキシタバのもので、関係ないゆえ無視して下され。
特徴は前翅の灰紋が小さくて、黒い鋸歯線がぼやけてて不鮮明なことだろう。お世辞にも綺麗だとは言えないやね。
 
よく見れば、学名の記載年が括弧で括られているぞ。って事は、これは何かあった証拠だろう。(・o・;)あっ、記載者も別な人になってる。ようは記載年が括弧に入っているので記載後に記載年が変更されたって事❓
でもハイモンキシタバの記載年も1889年になってて同じ年だぞ。変更されたのならば、どっちかが別な年にならないといけないんじゃないのか❓
それに、ナゼに記載者名が変わっておるのだ❓ハイモンキシタバの従来の記載者名は”Graeser, 1889″となっているのだ。それが如何なる理由で”Holland, 1889″となったのさ。これはいったい何を意味してんのよ❓全然ワカンないや。謎ですわ。

和名は「ニセハイモンキシタバ」となっている。
分布は中国・ロシア南東部(沿海州)・朝鮮半島。海を隔ててはいるが、それに連なる地域だ。つまりは両者は元々は同種とされていて、後年に日本のものが別種として分けられたってことか…。それゆえ日本産は固有種となったと云うわけだね。まあ最初から薄々そう思ってたけどね。
あれっ❓だったら和名は”mabella”が後から分けられたんだから「ニセハイモンキシタバ」になるんでねぇの❓
でも今更和名をハイモンキシタバからニセハイモンキシタバに変えるのも妙な話だ。和名なんだから、そこまで厳密にする必要性はないし、変えたら混乱を引き起こすからデメリットはあっても何らメリットはないもんね。これでいいだろう。
何か学名を筆頭に全体的にモヤモヤするけど、突っ込めば迷宮世界に迷い込むこと必至なので、これ以上はアンタッチャブルじゃよ。

ハイモンキシタバと似るが、本種には前翅腎状紋周辺にハイモンほどの大きな白灰紋がなく、より小さいか消失するようだ。
また、前後翅裏面が全面黄色いことからも区別できるという。
裏面の画像を探そう。

 

(出典『gorodinski.ru』)

 
(・o・)あっ、確かに裏面は全面黄色いや。
あと、この個体は前翅の白灰紋が消失してるね。

成虫は6〜8月に見られるが、あまり多くないという。
食樹はハイモンと同じくバラ科リンゴ属だと判明しているようだ。その意味でもハイモンとは極めて近縁な関係にあるものと思われる。

亜種に以下のものがある。

 
◆Catocala agitatrix shaanxiensis Ishizuka,  2010


(出典『世界のカトカラ』)

 
中国の陝西省のものだ。
これも上部のデータは関係ないゆえ、無視して下され。
さておき、下翅の帯が細いね。他の特徴は原名亜種と同じに見える。

とはいえ、調べ進めるうちにワケワカンなくなってきた。
Wikipediaでは、”Catocala mabella”が”agitatrix”のシノニム(同物異名)扱いになってんだよね。
それにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』では日本固有種と書いてあるのに、学名は”agitatrix”のままになってる。ワケわかめじゃよ(@_@) 本当のところは、現在どういう扱いになってるんざましょ❓

おっと、肝腎の学名の語源について書くのを忘れてたね。
ライフワークって程じゃないけど、学名の語源については極力知っておきたい。名前を付けた古(いにしえ)の人たちが、その種にどんな思いを込めて名付けたのか興味があるのだ。きっとそこには時代背景があり、各々に何らかの物語があろう。歴史を辿るようで、そこにロマンを感じるのだ。

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の「mabella」はラテン語読みだとマベラかな? 或いはマベッラだろう。感じとしては女性の名前っぽい。「bella」はラテン語の「美しい」の女性形だしね。そういや、ハイモンの学名は「Catocala bella」だったね。それって何か関連があんのかな?

mabellaで検索したら、最初に「美しい海」を意味すると出てきたので楽勝かと思いきや、mabellaではなく、綴りが微妙に違う「marbella」の事であった。
マルベーリャはスペイン南部のアンダルシア州の都市で、地中海に面し、コスタ・デル・ソル(太陽海岸)有数の保養地として知られている。そういえば、あっしもバイクでユーラシア大陸を横断した時に通ったよ。

次にヒットしたのは小惑星 mabella(メイベラ)。たぶん女性名っぽいから、発見した学者が恋人とか奥さんの名前を付けたのだろう。
他にないのかと探していたら、意外なものに行き着いた。
Cyrestis thyodamas mabella。何とイシガケチョウの亜種名に、この”mabella”がある。ヒマラヤ西部~中国に分布するものを指し、日本産もこの亜種に含まれる。
補足しておくと、屋久島以北のものを”kumamotensis”とする見解もある。また台湾産も亜種(ssp.formosana)とされる。
尚、原記載亜種はタイやベトナムにいるようだ。南限のマレー半島北部のモノはどうなるのかな?
『東南アジア島嶼の蝶』で調べてみっか…。
完全にパラノイアとかHSPだよな。これだから話が大幅に逸れて文章が長くなるに違いない。

 


(出典『東南アジア島嶼の蝶』)

 
この図を見ると、マレー半島北部のものも原記載亜種に含まれそうだね。

おっ、そうだ。イシガケチョウの画像を貼付しないとね。
勿論、アチキは蝶屋であるからして標本はあるのだが、探すのが面倒なので図鑑から画像をパクらせて戴こう。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
こうして改めて見ると、相当にエキゾチックだね。だからってワケじゃないけど、基本的にガッキーは好きだ。小さい頃は関西では和歌山とか紀伊半島南部にしかいなかったから憧れの蝶だったしね。

よし、これを足掛かりにして語源を探っていこう。
ここは先ず、いつもお世話になってる平嶋さんの『蝶の学名ーその語源と解説』に頼ろう。それが一番の近道の筈だ。

(。•̀ᴗ-)✧ビンゴ❗狙い通りだ。イシガケチョウの項からこの亜種の語源が見つかった。
それによると「女性名Mabella=Mabel。ヴィクトリア朝時代に好まれた名。」とあった。
納得いったような、いかないような微妙な気分だ。MabellaにしろMabelにせよ、その語源を調べなければ意味がなかろう。

さらに調べると、比較的簡単に見つかった。
メイベル(Mabel)とは、ラテン語の「愛らしい、魅力的な」と云う意味らしい。ハイモンキシタバが愛らしいかどうかはさておき、スッキリしたよ。まあ「魅力的な」と言われれば、そうとも言えるしね。

「agitatrix」もついでに調べとくか…。
これは語尾が「〜rix」となっているので、たぶんラテン語の女性形の一つであろう。

ウィクショナリーには「Constructed as latin agitatrix feminine of agitator.」と書いてあった。どうやら英語だけでなく、ラテン語にも「agitator」という言葉があるようだ。
agitatorは、英語だと「扇動者,運動員,攪拌器」という意味だから、意訳すると「ラテン語と同じ由来で、女性のアジテーター(扇動者)」ってこと❓

「〜rix」で検索すると、Viatrixとbeatrixというのが出てきた。
Viatrixは、ラテン語の女性の名前で「旅する女」という意味がある。viatorは「旅人」の女性形で、viaは「道」を意味する名詞からの変則的な派生形とあった。beatrixは(人を)幸せにする女という意味だ。
ここから”agitatrix”にも「〜する女」という動詞的な意味合いがあるのではないかと考えた。
けど、その「〜する女」の「〜」が分からない。何をしてる女なのだ❓

あてどないネットサーフィンをしても、以下のようなものしか見つけられなかった。
agitatores=agitator(御者(馬を操る人)、騎手)の複数agitatoresの対格とか、agitatr=運転者だとか、今ひとつジャストフィットするものがない。
agitatorのラテンの語源は、名詞のactio(英語でいうところのaction, doing)で、第3変化動詞 agere(=to set in motion(動かす), drive(走らせる,御する),forward(前へ)等)の完了受動分詞actusから派生した女性名詞だと言われてもなあ…。もう何のこっちゃかわかりゃせんよ。けど、わかりゃせんなりに意地で続ける。ウザいなと思った人は、この項は飛ばしてくだしゃんせ。でも、もう少しで終わるから、もちっと我慢しておくんなまし。

「actioとagereに関連するラテン単語には、acta,activus,actus,agilis,agitatio,agitare等があります。尚、agereの現在分詞は、agens(属格はagentis)であり、英語のagent(代理人)に繋がります。」

どうやら、これら運動と関連せしめる言葉の1つとしてアジデーターがあるという事らしい。いずれにせよ、難し過ぎてワシの足りない脳ミソでは、もうついていけんよ。

ここで一旦、原点に戻ろう。
agitatorの語源とも言える「agitate」は「扇動する,心をかき乱す,動揺させる,一人で苛々する,ゆり動かす,かき混ぜる,波立たせる,(盛んに)論議する,(熱心に)検討する,関心を喚起する」といった意味がある。
ならば、ここから良さげな言葉をチョイスして、agitatrixは「心をかき乱す女」「心を揺り動かす女」「心惹かれる女」と意味とはならないかね。これらならば、この学名が名付けられた理由としては得心がいく。
第一章の『銀灰の蹉跌』で書いたように、アチキもハイモンキシタバに心をかき乱されたのだから、もうマベッラは「心かき乱す女」でいいじゃないか。
(人´∀`)。゚アハハ…。こりゃ、完全にヤケクソ男のコジ付けだな。
あ~、やめた、やめた。アタマ、雲丹じゃよ。ここいらで限界だ。白旗です。誰か分かる人は教えてくんなまし。

 
【和名】
前翅に灰白色の紋があることからつけられたものと思われる。
こういう解りやすい和名はいいね。全くもって意味がワカランような和名は、和名をつける意味がない。そんなだったら潔く学名ほぼそのまんまの、例えばジョナスキシタバとかの方が余程いいと思う。

とはいえハイモンだと、ちょっと素っ気ないところがある。灰色よりも銀色を前面に押し出した和名も有りだったんじゃないかと思えなくもない。和名には、どこか色気があって想像力を掻き立てるようなものがいい。

 
【亜種】
■Catocala mabella mabella
本州のものが原記載亜種とされる。

■Ssp.kobayashii Ishizuka, 2010
北海道のものは後翅外縁の黒帯が分離しないものが多く、亜種として分けられている。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
確かに僅かだが、黒帯が繋がっている。
亜種名の”kobayashi”は、蛾の研究者で小林という名字の人に献名されたものだろう。
まさか、マオくん(註1)の事だったりしてね。彼の名字は小林で、記載者の石塚さんとも懇意にしているみたいだからね。確かめたいところだが、こんな事で連絡するのも気がひける。何か重要な案件でもあれば、ついでに訊けるんだけど、んなもん無いし…。

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』だと58〜60mmとなっているが、『日本産蛾類標準図鑑』では56〜66mmとなっている。まあ、この範囲内と考えればいいでしょう。
意外と数値的に大きく思えるが、これは横に広い形だからだろう。表面積はそれほど広くはない。形的にはスッキリしてて、カトカラの中ではカッコイイ方だと思う。

 
【雌雄の判別】
♂は尻が細くて長く、尻先に毛が多い。♀はその反対であるからして大体の区別はつく。でも裏返してみるのが一番てっとり早い。

 

 
縦にハッキリとスリットが入っている。これがあって、この先から黄色い産卵管が覗いているか出ていれば、間違いなく♀だ。
カトカラの中には、このスリットが分かりづらい種もいるが、どうやらハイモンは分かりやすいタイプの側のようだ。

 
【分布】 北海道,本州(中部地方以北)


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
補足説明をしておくと、『日本のCatocala』は分布領域を示しているが、『世界のカトカラ』は県別の分布を示している。
どちらにせよ、今のところは愛知県尾張地方辺りが南限で、近畿地方以西では見つかっていない。
ノコメキシタバの分布のように東北地方から北海道南西部にかけての空白地帯は無く、東北地方の内陸部にも全県にわたって見られる。
引っ掛かるのは西限とされる福井県だ。県の蛾類目録では記録が有ることになっているが(具体的地名は無し)、福井市自然史博物館のPDFでは未記録になっていた。
但し、岐阜県揖斐郡藤崎村(現 揖斐川町)に記録がある。ここは福井との県境だから、福井県にも分布している可能性はあるだろう。

寒冷な高原地帯のズミによく発生し、以前は1000mを越える高原に多かったが、地球温暖化の影響か近年は減少しているという。
食樹を同じくするノコメキシタバとは共棲することも多いが、ノコメよりも遥かに個体数は少ないとされる。実際、ネットの画像も思いのほか少ない。
にも拘わらず、驚いたことにどの都道府県のレッドデータリストにも準絶滅危惧種にさえ指定されていない。環境省や各都道府県のその手の部署って、ホント糞だ。指定しなくてもいいものを指定して、指定すべきものを指定しなかったり、指定はしても、指定しただけで保護や環境保全はおざなりだったりって事も多い。
それはさておき、何で西日本には居ないのだろう。食樹であるズミは九州まで自生しているのにね。しばしば、東からきて近畿地方に入るとパッタリと分布しなくなる昆虫は見受けられるけれど、中国地方には分布するものは多いのだ。中国地方や兵庫県西部で見つかってもよさそうなものなのにね。冷涼な気候を好むからかな?と一瞬考えたが、濃尾平野の低地にも確実に棲息しているから、それだけでは説明できない。でも他に理由が全然思いあたらないよ。ものすご〜く謎だ。

 
【成虫の出現期】
低地では6月中旬から、高地では7月から出現し、8月下旬まで見られ、ノコメのように9月まで生きのびることはない。尚、新鮮な個体が得られるのは8月初めまでだとされる。

 
【生態】
寒冷地性で、標高1000〜1700mのズミの多い高原や渓谷など冷涼な気候の地で見られることが多いが、名古屋市内や尾張旭市の低地でも棲息が確認されている。

クヌギやヤナギなどの樹液に好んで集まるが、標高の高いところでの採餌行動は発生数に比べて少ないという。
他に成虫の餌として観察されているのは、花蜜(ヤナギラン)と果実(桃の腐果)。しかし、観察例は少ない。

糖蜜トラップにも誘引される。一度だけだが、自分のトラップにも飛来した(標高1250m)。尚、飛来時刻は午後8時15分だった。ゆえに樹液や糖蜜トラップに訪れる時間帯についての知見はない。幼虫がブナ科食のカトカラは日没後直ぐに集まるが、バラ科食のカトカラは一時間ほど遅れる傾向にあると思うのだが、バラ科食のハイモンくんはどうなのだろう?興味深いところだ。

灯火にも飛来する。但し、文献を見ても特に飛来時刻の傾向が書かれているものは無かった。
ちなみに2020年に木曽町で灯火に飛来した時刻はハッキリとは憶えていないが、午後9時半から10時台だったと云う覚えがある。

昼間、成虫はカラマツなどの樹幹に頭を下にして静止している。驚いて飛ぶと別な木に上向きに止まり、瞬時に姿勢を反転して下向きに変えるという。

交尾時刻は、深夜の11時から午前2時の間とされる。羽化して数日後から交尾、産卵を繰り返すものとみられており、ジョナスキシタバなどのように夏眠後からの産卵パターンではないようだ。

産卵例は、2001年8月6日の上田市の高原での記録がある。
日没後、♀が食樹であるズミを次々と渡り、樹皮下に産卵しているのが観察されている。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。

本州ではズミが基本食樹のようだが、リンゴの台木として植栽された山麓のエゾノコリンゴにもよく付くという。また放置されたリンゴ園でも見られ、時に栽培されたリンゴからも幼虫が見つかることがあるそうだ。参考までに言っておくと、1例だけだがウワミズザクラから卵が見つかっている。ちなみに孵化幼虫に同じバラ科のウメやサクラの葉を与えても摂食しない例が多いと言われている。

 
(ズミ (酸実・桷) Malus toringo)

(出典『www.forest-akita.jp』)

 
高さ10mほどの落葉小高木で、リンゴに近縁な野生種である。
同じリンゴ属のカイドウやリンゴ、ナシ属に似ていて、古くからリンゴ栽培の台木として使われてきた事から、ヒメカイドウ(姫海棠)、ミツバカイドウ(三葉海棠)、ミヤマカイドウ(深山海棠)、コリンゴ(小林檎)、コナシ(小梨)など多くの別名がある。しかし、現在は台木とされることはあまりなく、マルバカイドウ(註2)に取って代わられているそうだ。

語源は樹皮を煮出して黄色の染料にした事から染み(そみ)が転化したもの、或いは実が酸っぱいことから酢実(すみ)が訛ったものとも言われる。

北海道から九州までの広い範囲に自生する。日のよく当たる高原や湿原を好み、時に群生する。
4〜6月にかけてオオシマザクラやカイドウに似た白い小花を枝いっぱいに咲かせる。咲き始めはピンク色を帯び、徐々に純白へと変化する。

 
(花)

(出典『Wikipedia』)

 
(若葉と花)

 
(夏葉)

(2点共 出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
(幹)

(出典『ケン坊の日記』)

 
幹から直接生じる葉には切れ込みが入り、似たような木と見分ける手掛かりとなる。
小枝はトゲ状。材は硬く、斧や鉈などの柄に使われる。また樹皮は前述したように染料にもなるが、明礬などを加えて絵の具にもする。

 
(実) 

(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
9月~10月にかけて小さいリンゴのような赤または黄色の実を付ける。実は酸味が強いが、霜が降りる頃には多少の甘みが出てくるので生食のほかジャムや果実酒に用いることができる。中に含まれる種を撒くと発芽する率は高い。

盆栽などで知られるヒメリンゴは、ズミとセイヨウリンゴの雑種とされる。しかし、人工的に作られた園芸品種であり、天然の分布はない。

 
(エゾノコリンゴ(蝦夷小林檎) Malus baccata)

(出典『四季の山野草』)

 
(花)

(出典『greensnap.jp』)

 
(葉)

 
(樹幹)

 
(実)

(以上3点共 出典『四季の山野草』)

 
分布は北海道、本州(中部地方以北)で、ズミとは近縁。
和名はリンゴよりも実が小さく、北海道に多く産することに由来するという。別名サンナシ、ヒロハオオズミ。
主に山地〜海岸の湿地とその周辺に生え、5〜6月頃に白い花を付ける落葉の小高木。高さは8~10mになる。秋には1cm足らずの赤い実を沢山付ける。

材質は重くて硬く、割れにくいために斧、鍬などの柄に用いられたという。また、ズミと同じく嘗てはリンゴの台木としても用いられた。
ズミとの違いは葉で、ズミには葉の中に3~5裂するものが混じるが、エゾノコリンゴの葉は裂けないことで見分けられる。

ここで緊急的に文章をブチ込む。
追伸まで全部書き終え、さあ最終チェックという段階で、たまたまTVで『ブラタモリ』を見てたら、高尾山の樹林相(落葉広葉樹と常緑広葉樹の分布)の話になった。落葉広葉樹は冷たい気候を好み、常緑広葉樹(照葉樹)は暖かい気候を好むとかそんな話だ。常緑広葉樹は確かにそうだが、落葉広葉樹は例外だらけやんけと思ってたら、説明のための植生図が出てきた。
こんな風な図だ。

 

(出典『雑木林の遊歩道』)

 
それを見て驚いた。落葉広葉樹の植生とハイモンキシタバの分布図がソックリじゃないか❗
この図では濃いグリーンが常緑広葉樹、黄緑色が落葉広葉樹の分布を表している。
さらに驚いのは2つの広葉樹の分布は年平均気温が約13℃を境に分かれていて、13℃以上は常緑広葉樹、13℃以下は落葉広葉樹となると解説されていたことだ。この13℃云々というのは目から鱗だった。何となく感じてはいたが、こうして具体的な数値をあげられると、にわかにリアルなものに見えてくる。
ならば当然、ズミの西日本での分布は限られてくると想像される。上図でも西日本の黄緑色に塗られた地域はかなり狭い。

と云うワケで、ちゃんとズミの分布を調べてみたら、西日本では産地が内陸部の高地に限られ、数も少ないことが明らかになってきた。
となれば、ハイモンキシタバが西日本で見られない理由も自ずと解ってくる。食樹の分布が重要なファクターだからだ。
ハイモンが中国地方あたりで発見される可能性はゼロではないが、寒冷地性なので居るとしても山頂に近いごく限られた場所でしか生き延びられないだろう。勿論、食樹があっての話だ。
100%納得したワケではないが、自分の中では一応の解決にはなったかな。

 
【幼生期の生態】
例によって幼生期に関しては今回も『日本のCatocala』におんぶに抱っこである。西尾さん、いつもすいません。

 
(卵)


(2点共『日本のCatocala』)

 
円盤状で、受精卵の色彩は黒褐色ないし茶褐色。横に走る斑紋は黃白色で、ケンモンキシタバの卵に似る。
食樹の薄い表皮や樹皮の裏に1個から2、3個、稀に5〜6卵ずつ産付される。根元の苔にはあまり産卵されない。反対に食樹を同じくするノコメは、この苔の部分で卵がよく見つかるという。
但しハイモンとノコメは食樹が同じで見た目が似ていることから兄弟の如く並べて語られる事が多いが、種としての両者は系統的には掛け離れているそうだ。

 
(1齢幼虫と2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左側が1齢、右が2齢幼虫。
孵化期はかなり早く、上田市の標高500mでは4月上旬。終齢の5齢幼虫は5月中旬には見られる。尚、終齢は標高1000mでは5月中・下旬、1200〜1500mでは5月下旬から6月上旬に見られるそうだ。何れの産地でも同じくズミを餌とするノコメキシタバよりもよりも幼生期が1週間程度早く推移する。

幼虫は葉の他に花や蕾も摂食する。
比較的若い木を好み、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない傾向があるそうだ。

 
(5齢幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
5齢幼虫の昼間の静止場所は地表近くの枝や樹幹。時に地表で見つかることもあるという。

色彩変異は顕著で、寒冷地では白化して側線の模様が黒く目立つ個体がよく見られる。ノコメキシタバの白化した個体と識別が困難な場合もあるが、頭部の斑紋で判別できる。

 
(終齢幼虫頭部)

  
(ノコメキシタバの頭部)

(出典 2点共『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の同定には、この顔の模様がかなり重要みたいだね。確かに全然違う顔だわ。

幼虫の天敵として、Winthemia cruentataという寄生蝿が記録されている。他に天敵として考えられるのは、鳥を筆頭にスズメバチ、寄生バチ、クモ、サシガメ等が考えられるが、特に記録は見当たらなかった。

蛹は知る限り野外では見つかっていないが、飼育しても丈夫な繭を作らない事から、おそらく落葉の下などで蛹化するものと思われる。

                        おしまい

 
追伸
前回の追伸(の追伸)でも書いたが、ハイモンキシタバについては、いつものように複数回ではなくて1回のみで終える予定だった。実際、この解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これがクソみたいに長い。特に学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態なので2回に分けることにしたってワケ。

にも拘らず、その原因となった学名について再び書く。
“agitatrix”の語源が消化不良なまま終わり、どっか心の隅っこで気になっていた。なので図書館へ行き、ラテン語の辞書で調べ直してみることにした。我ながらシツコイ。
『羅和辞典』には、agitatrixという単語そのものは載っていなかった。載ってたのは agitatorと、その他どちらかというと動的な意味のものが並んでいた。
もう面倒くさいので画像を貼り付けちゃえ。画像を指でピッチアウトすると拡大できます。

 

 
これらを見ると、agitatrixは何らかの能動的なアクションを表している言葉だろう。

一応、agitatorの部分を拡大しておこう。

 

 
動物を駆る者❓一瞬、猟師かいなと思ったけど、後ろに農夫と出てきたので牛だの馬だのを操る人なのだと解った。それにしても戦車のドライバーとはね。これが語源だったら、相当面白いや。

どうやら「agitator」の起源は、「agito」と云う言葉らしい。アジト❓ 秘密基地かよ。
意味は以下のとおりである。

 
 
(出典 以上4点共 研究社『羅和辞典』)

 
これらのどれかが学名の語源と関係するのだろうが、やはり特定は出来ない。結局、明白な答えには行き着けなかったね。ハイモンには蹉跌つづきだったってワケだ。敗北感、濃いわ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。

 
(註2)マルバカイドウ

(出典『土の中の力持ち』)

学名:Malus prunifolia var. ringo。
中国北部・シベリア原産のバラ科リンゴ属の耐寒性落葉高木。
イヌリンゴの変種で白紅色の花を咲かせる。花が咲いた後に林檎に似た小さな赤い実を付けるが、あまり食用には適さない。
セイシ、キミノイヌリンゴ等の別名がある。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』
◆塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆庭木図鑑 植木ペディア
◆四季の山野草

 

2019’カトカラ2年生 其の五

 
    vol.22 ハイモンキシタバ

   『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』

 
 
2019年 8月6日

白馬で3連続惨敗に終わり、別な場所で何とかミヤマキシタバを採って溜飲を下げた。しかし、翌日には松本市でナマリキシタバを狙うも、かすりもせずで再び惨敗を喫した。
ナマリとはメチャメチャ相性が悪い。このままでは再び悪夢のような流れになりかねないので、スパッとリベンジを諦め、この日は上田市へと移動することにした。

電車だと不便そうなので、バスを選択する。

 

 
平日とはいえ、車内はガラガラだった。
途中、ナマリキシタバの産地として知られる三才山を越えて、上田盆地へと入る。

1時間半ほどで上田駅前に到着。

 

 
時刻は昼過ぎ。目的地行きのバスにはまだ時間があるし、昼飯でも食おう。

長野と云えば蕎麦である。ここ上田も蕎麦で有名だ。
観光案内所で、お薦めの蕎麦屋を幾つか教えてもらう。
で、吟味した結果、安くて量が多く、一番流行っているという店へ行くことにした。

 

 
結構、行列が出来ていた。
並ぶのが死ぬほど嫌いな男だが、せっかくここまで歩いてきたし、上田に来るのは初めてで、この先来ることなど滅多とないだろうから我慢して並ぶことにした。

 

 
意外と列は進み、思ってたほど待たなくとも済んだ。

 

 
店内はレトロな感じで好ましい。

 

 
周りの人たちに目を向ける。食べているのをチラッと見ると、田舎そばって感じだ。

 

 
メニューを見る。
ここは矢張り王道の、もりそばだろう。蕎麦といえば、もりそはに決まってんである。
650円也のもりそば(中)をたのむ。長野県にしては良心的な価格設定だ。
 
ハイハイ、きましたよ〜。

 

 
つゆと薬味の設(しつら)えも良い感じだ。期待値が跳ね上がる。

 

 
しかれども、何だかボソボソしてて全然旨くない。麺の太さもバラバラだ。素朴で野趣あふれる感じは嫌いじゃないが、それも旨いという前提があってこその話だ。
ブッちゃけ言っちゃうと、長野で蕎麦食って旨かったためしが一度もない。その上、高い店が多いから腹が立つ。関西人としては、福井のおろし蕎麦や兵庫は出石の皿そばを擁護したくもなる。
小太郎くんも同意見で、この件に関してはいつも文句タラタラだ。その憤りはワシなんかよりも遥かに強く、もう憎悪と言っても差支えないくらいだ。普段、食いもんに文句を言わない人だけに、その怨みは極めて深い。

いったい何があったのだ❓小太郎くん❗

理由は知ってるけどさ(笑)。

これで何か悪い予感がするなと思ったら、案の定、店を出たら天気は下り坂になっていた。
そして、バスに乗ったら、風雲、急を告げるってな感じになってきた。行き先はどうみてもヤバヤバの黒雲ワールドだ。

 

 
おいら、スーパー晴れ男なのに何で❓ポロポロ( ;∀;)
白馬村で辛酸を舐め、大町市で何とか持ち直して、この地へと移動してきた。なのに又しても地獄の輪廻の再開かと思うと、戦々恐々だよ。

1時間近くバスに揺られ、午後4時前にバスを降りる。
歩き始めると、雨がポツポツと落ちてきた。これは強くなるなと思ったら、案の定、すぐに本格的に降ってきた。
慌てて出荷作業中のレタス農家に飛び込み、雨宿りさせてもらう。長野県民、特に北側は不親切な人が多いけど、スタッフは皆さん親切で色々気遣いして戴いた。ありがとうございました。

雨がやんだら、急速に晴れ始めた。スーパー晴れ男の面目躍如である。基本、強く願えばワシの居るところは晴れることになっとるのだ(笑)。

ここはラグビーの夏の合宿地としてファンならば誰しもが知っている裏の聖地とも言える地だ。
ゆえに、ポイントと決めた場所には沢山の若きラガーマンたちが夕暮れまでマジ走りでランニングをしていた。
たぶん高校生だろう。地獄の合宿ってところだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…、血ヘドを吐くまで走りなはれ。それも時間が経てば、悪い思い出じゃなくなるんだからさ。

そういうワケで、キッチリ歩いてポイントの概要は下調べしておいた。

 

 
狙いはノコメキシタバとハイモンキシタバ、そしてケンモンキシタバである。
ノコメ、ハイモンの食樹のズミ(バラ科リンゴ属)とケンモンの食樹ハルニレ(ニレ科)の木は既に確認済みである。ミヤマキシタバで溜飲を下げ、流れも良くなってきてる。本日もミッションを遂行して凱歌をあげるつもりだ。まあまあ天才が調子に乗ったら、連戦連勝は当たり前なのだ。
Ψ( ̄◇ ̄)Ψおほほ星人が見える時は強いぜ、バーロー。

学生たちは去り、辺りは闇に包まれようとしていた。
さあ、戦闘を開始だ。ズミが多くあるところとハルニレだと思われる大木の周りに糖蜜を吹き付けてゆく。

午後7時半。日没後さして間もなく糖蜜にノコメキシタバがやって来た。幸先がいい。
とっとと採っての、とっとーとで勢いをつけて、そのままエンジン全開といこうぜ。マホロバ発見の呪いだと揶揄する秋田さんや岸田先生の期待を何が何でも裏切らねばならぬ。再び笑い者にされるのは御免蒙りたいのじゃよ。ここからは連戦連勝といこうじゃないか。

しかし、網を組み立てて、よっしゃ行くぞと気合を入れて見たら、忽然と消えていた。
……(。ŏ﹏ŏ)、嘘だろ❓マジかよ❓

おいおいだが、反応があったのは一安心だし、そのうち又飛んで来るじゃろうて。どんまいどんまい、Don’t mind.

取り敢えずは糖蜜を撒いた各所を巡回する。
次に飛んで来たのは8時15分だった。同じ木だったし、さっきのノコメが戻って来たのだろうと思った。しめしめである。
しかし何かさっきのとは、ちょっと違うような気がする。
💡ピコリン。😲あっ、ハイモンかあ…。ホントはノコメが一番欲しいんだけど、ハイモンも採ったことないし、まっ、良しとすっか…。

毒瓶を被せるか、網を使うか迷ったが、一応さっきの事もある。また逃すのは嫌だし、早く初物は何でもいいから採っておきたかったので網を選択する。ゼロと1とでは心の有りようが天と地ほどの大違いなのだ。さっさと採って、一刻も早く心を落ち着かせたい。

慎重に距離を詰め、止まってる下を網枠でコツンと軽く叩く。驚いて飛んだところを瞬時に振り抜く💥。
斜め斬り光速剣ハヤブサ❗
(. ❛ ᴗ ❛.)へへへ、決まったな。

 

 
フラッシュ焚いたら、羽が銀色に輝いた。
でもベタで斑紋にメリハリがないな。それに、けっこう素早く取り込んだつもりだったが、背中の毛を剥げチョロケにさせてしまった。(´-﹏-`;)何だかなあ…。
どうせまた飛んで来るだろうし、まっいっか。

裏返してみる。

 

 
たぶん♀だ。
裏面の外側は黄色が薄くて白っぽいんだね。カトカラではあまり見たことのない裏面かもしれない。
マオくん(註1)は時期的にハイモンは厳しいんじゃないですかね。採れても激ボロですよと言ってたから、ちょい嬉しい。
後で報告したら、お褒め戴いた。でもケンモンキシタバだと思ってた奴がワモンだと指摘されて、スゲー恥かいたけど(笑)。

結局、この日飛んで来たのは、まさかのコヤツ1頭のみだった。
まっ、いっか…。深夜ギリギリになって何とか目的のノコメキシタバが採れたしね。

しか〜し、やっちまったな(-_-;)

撤退する前に何気に戦利品を確認したら、なぜか採った筈のハイモンが無い。

無いっつったら、無いっ❗❗

もしや神隠しにでも遭ったのだろうか❓
ヽ((◎д◎))ゝもうパニック寸前てある。

ここで漸く思い当たる。
写真を撮ったあとに蘇生しそうな感じだったので、もう一度毒瓶にブチ込んだような気がする。もしかして、それを回収してなかったりとかして…(-_-;)
恐る恐る左ポケットから、今回あまり使ってなかった毒瓶を取り出す。

😱NOー❗、ガッデーム❗❗

あろう事か、同定できない程にボロッボロッになっていた。
たぶん歩きまくってたから、毒瓶の中でウルトラシャッフルされたのである。
〇¶〆〓§⊿∞✤□➷✫✘ドギャぶぎゃわ、痛恨の失態なり。

 
ぽ〜い(┛◉Д◉)┛彡┻━┻

怒りに任せて捨ててやってまっただよ。
ゆえに標本は無い。大いなる蹉跌だね。写真は撮ってあるから採ったと云うせめてもの証明にはなるが、大ボーンベッドだ。まあ、ノコメじゃなかったからいいか…。
しかし、これもまた大いなる間違いであった。正直この時点ではハイモンよりもノコメの方が珍しいと誤解してたし、上翅もノコメの方が複雑でハイモンはベタでツマラナイと思ってた。だから、のちに小太郎くんに「鮮度の良いハイモンはギラギラのシルバーでめっちゃカッコイイですよ。」と言われた時は焦った。それにノコメよりも下翅が鮮やかな黄色で美しいことも失念してた。当時は上翅ばかりに目がいってて、下翅をロクに見てなかったし、展翅もしてないから気づかなかったのだ。銀灰の蹉跌である。

だから、2020年は密かに完品を名古屋方面で狙っていた。
現地の交通の便も良さそうだし、大阪からは一番近いからサクッとリベンジしてサクッと帰ってこようと思ってた。しかし連日クソ暑いし、何やかんやとあって、その機をいつの間にか逸してしまっていた。

8月に長野県に行った時に灯火採集の外道で採れたから、一応その時の個体の写真を貼っ付けておく。

 

 
同じ個体を手の平に乗せてみる。

 

 
よりみすぼらしく見えるや(笑)
腹が細長いので♂だすな。
次の個体も♂だった。
 
 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
8月のものだから鮮度は当然良くない。
つーか、標高は1300mくらいあったのに両個体とも酷い有様でボロッボロだ。みすぼらしい事、この上ない。やっぱマオくんの言ってたとおりだね。7月中旬辺りに狙いにいかないとギンギラギンのには会えないってワケやね。
そう考えると、あの2019年唯一のハイモンの鮮度は時期的にみれば、かなり良かったということになる。返す返すも痛恨の極みである。

一応、展翅はした。
個体の順番は上の横向きの画像と同じである。

 

 
まあ、こんなもんじゃよ。
上の個体の上翅なんて銀灰色がほぼ消えて、そこだけ見たら何者かワカランくらいに小汚くて、辛うじて下翅でハイモンだと解るというレベルだ。
そうゆうワケで、情けないことにまともな展翅写真がない。
仕方がござらんので、次回の解説編は画像をお借りして話を進めてゆきます。ぽてちーん(T_T)

                         つづく

 
追伸
今回はワモンキシタバの続編『False hope knight』の文章を一部抜粋して使いました。そのワモンの続編では、このあと更にフザけた文章になっていきます。興味がある方は、そちらも併せて読んで下され。
また、この採集記の部分は前回のミヤマキシタバや次回のノコメキシタバの回にも連なっている。そして、ひいては過去のベニシタバの回や今後登場するカトカラにも連なってゆくものと思われる。謂わば隠れたシリーズものなのだ。

ちなみにタイトルの中の銀灰(ぎんかい)という言葉は世間的には馴染みが薄いが、実際にある色(銀灰色)で、文字通り銀色を帯びた灰色を指す。英語でいうところのシルバーグレーのことですな。ハイモンキシタバの上翅にはピッタリだと思って使用した。
蹉跌の方は分かると思うし、これ以上精神的にエグられるのも嫌なので割愛させて戴く。ワカンない人は自分で調べましょうね。
クソッ、何だか思い出してきて、沸々と怒りが込み上げてきたよ。来年はボッコボコにシバいちゃるからね。

 
追伸の追伸
実をいうと、今回は一回のみで終える予定だった。実際、次の解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これが長い。学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態だ。
なので、2回に分けることにしたってワケ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。