2019’カトカラ2年生 其の四(2)

 
   vol.21 ミヤマキシタバ 第二章

   『灰かぶりの黄色きシンデレラ』

 
前後逆の順番で書いた2020年版の第三章を含めて今まで長々と書いてきたが、やっとこさクロージングの種解説編である。

 
【ミヤマキシタバ Catocala ella ♂】

 
【同♀】


(以上4点共 2019.8.4 長野県北部)

 
今年採った2020年の♀の画像も加えておこう。

 

 
何か微妙に写真が縒れて撮れてるなあ。撮り直して、もっと拡大しよう。

 

(2020.8.4 長野県木曽町)

 
コチラの♀は下翅の内縁部が、あまり黒くなっていないね。
こっちの方が美しい。やはりカトカラは下翅の色の領域が広い方が綺麗やね。

図鑑等による形態解説を総合すると以下のようになる。

「前翅は僅かに緑色を帯び、中剣紋は黒くて明瞭。亜外縁線が灰白色の帯状となる。後翅は濃い黄色で、内外の黒帯は共に外縁とほぼ平行して走り、中央黒帯は外縁黒帯と繋がらない。外縁に沿う黒帯の幅は太く、中央の黒帯は細い。また、帯は中央付近で殆んど折れ曲がらず、滑らかな曲線を描く。後翅第1室中の黒帯は不明瞭で、翅頂紋は黄色、もしくは白くなる。」

コレって普通の人から見れば、難解過ぎて何言ってんのかワカンないよね(笑)。ワシだって画像なしの文章のみだけなら、何のこっちゃ(@_@)❓の人になりそうだ。
ようは簡単に書くと、他の下翅が黄色いカトカラと比べて、下翅の内側の黒帯が基本的に馬蹄形(U字形)にならない。上翅は丸みのある翅形で、灰白色の帯が目立つ。以上のような特異な特徴から見分けるのは容易である。

とはいえ、馬蹄形とかU字形だって何のこっちゃかワカランか…。一応、画像を貼り付けとこ〜っと。

 
(コガタキシタバ)

(カバフキシタバ)

(ゴマシオキシタバ)

(ジョナスキシタバ)

(クロシオキシタバ)

(ワモンキシタバ)

(キシタバ)

(マホロバキシタバ)

 
内側の帯の形の事を言ってるんだけど、こんなに並べてどうする。パラノイア(偏執狂)かよ。もしくはロンブーの淳がカミングアウトしたHSP(註1)か❓とにかく、ええ加減これくらいでやめておこう。
まあ、コレで下翅が他のキシタバ類とは全然違うことは理解して戴けるでしょう。

 
【♀裏面】

(2019.8.4 長野県北部)

 


(2020.8.4 長野県木曽町)

 
野外では何故か2019年、2020年共に♀の裏面写真しか撮っていない。
『日本のCatocala』に図示されてるものも、どうやら♀みたいだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
しゃあねぇなあ。既存の標本を裏返して撮ろっと。

 
【♂裏面】

(2019.8.4 長野県北部)

 
今までブログに画像を出してない個体だけど、1年経って触角が狂っとる。カトカラって、展翅が狂いやすいからウザい。

裏面の一番の特徴は下翅の真ん中の黒帯が外側に膨らまない事だろう。あとは外縁部の斑紋の黄色が淡くて白っぽく見えがちだ。似た特徴のカトカラも居ないワケではないが、表の斑紋や大きさなどを総合すれば容易に判別できる。だから、わざわざ裏まで見て同定する必要性のないカトカラだ。
とはいえ、ブログ内で再三再四言っているけど、カトカラの裏面、ひいては蛾類全般に関して裏面は重要かと思われる。各種を同定するにあたり、重要なファクターだからだ。しかし、図鑑を筆頭に他の媒体でも図示されてないことが多い。裏面が全種ちゃんと載ってるのは『日本のCatocala』だけである(出版当時には未記載だったキララキシタバとマホロバキシタバは除く)。ネットだと『みんなで作る日本産蛾類図鑑』が約3分の2くらいを載せているくらいだ。蛾全般を載せた図鑑は種類数が多いから仕方のない面があるとは思うが、ネットまでそれに準ずる必要性は無かろう。にも拘らず、図示されてないものばかりなのは首を傾げざるおえない。裏が軽視され過ぎだよ。せめて科や属単位の図鑑くらいは裏面を載せれるだろうに。それって、裏面が軽視されてる証拠じゃねーの❓
そういえば、ネットだと雌雄が明示されていないものも多い。生態写真は難しい面はあるとは思うが、可能な限り♂か♀かを表示すべきだろう。ヨシノキシタバなんて、生態写真でも雌雄の区別はつくだろうに。
ついでだから、次に雌雄の判別の仕方も書いておく。冒頭の画像を見て比べられたし。

 
【雌雄の判別】
♂は♀と比べて腹が細くて長く。尻先に毛束がある。反対に♀は腹が太くて短めで尻先の毛が少ない。また裏返すと♀には尻先に縦のスリットが入り、産卵管が見える。表側だが冒頭の上から3番目の手のひら写真には尻先から産卵管が出ているのが見える。ちなみに3番目の♀と4番目の♀は別個体です。
あと、あんまし多くの個体を見たワケではないけど、私見だと♂と比べて♀の上翅の方が黒い部分と白い部分とのコントラストが強く、メリハリがあるように思える。
図鑑『世界のカトカラ』の図版もそうゆう傾向が見られるしさ。

 

(左♂で右が♀。)

 
とはいえ偶然かもしんないし、繰り返すが、あくまでも私見ですけど…。

 
ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』に拠ると、以前はかなりの珍品だったそうだが、食樹が判明してからは各所で採集されるようになったという。しかし今でも採集するのが難しいカトカラの一つであるとしている。おそらく分布が局所的で、灯火に飛来する時刻が夜半過ぎになることが多いゆえだろう。あとは生息地でも個体数が少ないと聞いたことがあるから、それも得難いものと言われる所以かもしれない。

 
【学名】Catocala ella Butler, 1877
記載者はバトラー(註2)で、日本のものがタイプ産地になる。つまり最初に日本で発見されたカトカラと云うワケだ。
ちなみに記載地は「yokohama」となっている。いくら当時はまだ自然が残っていたとはいえ、分布的にも横浜にミヤマキシタバが居たとは考えられない。だからこれは単に古い時代ゆえの便宜的なものだろう。ブツが横浜から送られてきたとかさ。

小種名の「ella」は英語圏の女性名で、”美しい妖精” という意味があるそうな。
女性名かあ…。女性でエラと云えば、パッと浮かぶのはジャズ歌手のエラ・フィッツジェラルド(1918~1996年)くらいか…。他に聞かない名前だし、あまりポピュラーな女性名ではないようだね。

他の虫の名前から語源を探ってみようと思って調べたら、ミヤマキシタバ以外にも同じ学名が使われているものが幾つかあった。

Hypena ella ソトムラサキアツバ
Orthosia ella ヨモギキリガ

(´ε` ) 蛾ばっかじゃん❗と思ってたら、蝶もいた。

Nephargynnis anadyomene ella(Bremer,1864)。
わりかし好きなクモガタヒョウモンの亜種名に使われているようだ。クモガタちゃんは関西では少ない種なので結構思い入れがある。中々♀が採れなくて、随分と苦労したっけ。

 
(クモガタヒョウモン)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
“ella”はロシア南東部を基産地とする亜種に宛がわれた学名のようだ。
因みに日本産は、Ssp.midas(Butler,1866)と云う別亜種とされている。おっ、コヤツもバトラーの記載だね。
でも、朝鮮半島〜ロシア南東部までの個体と区別できないことから、亜種ellaに含めるべきだとする研究者もいるみたい。

調べ進めると、予想外の”シンデレラ”と云う単語が出てきた。
シンデレラといえば、カボチャの馬車とかガラスの靴のあのシンデレラだよね。(・o・;)えっ❗❓、何でシンデレラなの❓正直そう思った。意外な展開になってきたぞ。
更に驚いたのはシンデレラの語源だ。シンデレラの綴りは英文表記の”Cinderella”と云う一つの固有名詞ではなく、本来的には”Cinder Ella”で、2つの言葉から成るものらしい。どうやら「Cinder=灰」という言葉に「ella」という女性や子供を表すときに付ける接尾語がついたものみたいだ。直訳すると「灰かぶりのエラ」、もしくは「灰まみれのエラ」。シンデレラの本当の名前は、エラちゃんだったんだね。
そして”Cinder Ella”には、シンデレラそのものを指すこと以外にも「灰かぶり姫」「隠れた美人」「隠れた人材」「継子扱いされる人」などの意味がある。
考えてみればミヤマキシタバの特徴の一つは、その灰色の渋い上翅にある。また「隠れた美人」ってのもミヤマキシタバらしい。もっと下翅が鮮やかでインパクトの強いムラサキシタバやベニシタバの鮮やかさの前では目立たないし、下翅が黄色いキシタバ系の中では充分美しいとはいえ、ヨシノキシタバやナマリキシタバの上翅の複雑な美しさの前では影に隠れてしまうところがあるからだ。謂わば「秘して花」的なところがあるのだ。そう云う意味でも”Cinderella”ならば、納得のネーミングだ。
もしもバトラーがミヤマキシタバの学名をシンデレラと掛けて名付けたのだとすれば、とっても心憎いネーミングではないか。

でも所詮は蛾だし、見てくれからも、
「シンデレラ❓どこがやねん❗」
なんてツッコミを入れる向きも有りそうだ。
けれど、もしも疑問に思って語源を調べてみたら、その意図するところに行き着くと云う仕組みならば、ちょいと粋じゃないか。ミヤマキシタバが灯火にやって来るのは午前0時前後だしね。あっ、でも逆かあ。シンデレラは午前0時までにはお家に帰らなければならないからね。
ヽ(`Д´)ノえーい、この際どっちゃでもええわい❗誰しにも心理的大きな分岐点となる特別な時刻である午前0時が重要なファクターになってんだからいいじゃないか。
常々思うのだが、ネーミングにはミステリアスな要素とストーリー性が必要だと思う。意味があるからこそ、動き出す物語はあるのだ。
奇しくも、書いてる今は丁度午前0時だ。酔っ払っているとはいえ、魔法の時刻がこんな事を書かせるのかもしれない。

スゲー妄想だ(笑)。ちょいと冷静になったところで、重大な事に気づく。
“ella”も”Cinderella”も、考えてみれば英語だわさ。学名はラテン語由来が基本だから、この仮説の可能性は低いわ。でもバトラーは英国人だぞ。可能性はゼロではないと思うんだよね。それでもこの仮説にはかなり無理があるとは思うけど…。
あ~、別な意味での午前0時のマジックに惑わされとるやないけ。深夜に文章を書くもんじゃないや。

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ー❗❗


(出典『ピクシブ百科事典』)

 
大いなる無駄な思考に、ディオのザ・ワールド(註3)ばりの無駄無駄ラッシュをしちまっただよ。イチからやり直しだ。

ラテン語で「ella」を検索しても、出てくるのは「〜ella」で「小さい」を意味する女性接尾語というのしか出てこない。こんなのを学名につけるワケないから✕だ。

他にはスペイン語の「ella(エジャ)」くらいしかヒットせえへん。意味は「彼女が、彼女は」。スペイン語はラテン語から派生したものだから可能性は無くはないけど、ピッタリって感じじゃない。学名に「彼女が」とか「彼女は」は無いっしょ。名付ける意味が、意味不明だよ。

となると、最後は女性の名前と云うことか?…。
もしかしたら、バトラーの彼女とか奥さん、姉妹、娘に献名されたものではないか❓
いや待てよ。それならば学名の最後に「ellae」と語尾に「e」が付く筈だよね。

🎵謎が謎呼ぶシンデレラ〜で「💀死んでれら」。
ホールドアップ。降参だ。
王子様はシンデレラを見つけられたのにね。オジサンはella荒野を彷徨い、おっ死んだよ。

やれやれ。前半から早くも大コケだ。先が思いやられるよ。

 
【和名】
ミヤマキシタバのミヤマとは深山の事だろうが、正確な命名由来は不明。おそらく最初に見つかった場所が深山幽谷だったのだろう。
と言いたいところだが、このミヤマと云う言葉、曲者である。日本ではミヤマと名のつく昆虫は割りとあって、ミヤマクワガタ、ミヤマカラスアゲハ、ミヤマシジミ、ミヤマカラスシジミなどがいるが、何れも深山幽谷に限定して生息しているワケではないからだ。取り敢えずミヤマと付けとけば、深山幽谷に棲む珍しい種と云うイメージがあって格が上がるから付けちゃえと考えたとしか思えないところもある。
とはいえ、この問題は面白そうだ。深堀りすれば、何らかの驚愕の事実が分かるのではないだろうか❓
しかれども、我が嗅覚がズブズブの泥沼を感じている。よって今回はパス。もうウンザリなのだ。これ以上長くなるのは極力避けたい。この件に関しては何れまた稿を改めて書くことになろう。
ゴメン、テキトーに言ってます。書くか書かないかと問われれば、7対3で書かないと言っちゃうと思う。

 
【亜種と近縁種】
亜種には以下のようなものがある。

◆ Catocala ella ella Butler, 1877
図示した日本のものが原記載亜種となっている。

 
◆ Ssp.nutrix Graeser、1889
分布 沿海州(ロシア南東部)、朝鮮半島、中国北東部


(出典『世界のカトカラ』)

 
『世界のカトカラ』に図示されてものしか見ていないが、上翅の柄にメリハリがあまりなくて、全然キレイじゃない。
同図鑑によれば、大陸のモノにこの亜種名が宛がわれている。しかし、ウィキペディアではナゼかシノニム(同物異名)扱いになっている。しかも記載年は1888年になっていた。つまり微妙に記載年が1年ズレておるのだ。コレって何か意味あんのかな❓ 正直、ワケわかんないし、どっちだっていいや。

 
◆ Catocala ella tanakai


(出典『世界のカトカラ』)

 
最近になって北海道の小型で後翅が黒化したものが、どうやら新たに亜種として記載されたようだ。
たぶん上のような奴のことなのだろうが、記載論文は見つけられなかった。よって記載年も記載者も分かりまへーん。たぶん今年(2020年)の記載で、石塚さんだとは思うけど…。

それにしても汚い奴っちゃなあ…。ミヤマキシタバは上翅の美しさに定評があるけど、下翅が汚ければ、こんなにも薄汚なく見えるのね。美しいミヤマキシタバの評判をダダ下がりにするような輩だよなあ…。まあ、この亜種自身に全然もって罪は無いんだけどもね。それにコレを渋くてカッコイイと思う人もいるだろうしさ。
ところで、何で北海道のカトカラは黒化するものが多いんだろう❓ワモンキシタバやケンモンキシタバにも同じ傾向があったんじゃなかったっけ❓…。

 
近縁種に、Catocala ellamajor Ishizuka, 2010 がいる。

 
【Catocala ellamajor オオミヤマキシタバ】

(出典『世界のカトカラ』)

 
オオミヤマキシタバって和名が付いているように、ミヤマキシタバに似ているが遥かに馬鹿デカい。
解りやすいように、もう1点画像を追加しよう。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
ほらね。パッと見、斑紋はソックリだが、これだけ大きさが違うと別種だよな。
中国の四川省から発見されたそうだ。8月頃に現れるが、分布は局地的で稀との事。これは実物を見てみたいなあ。
参考までに言っておくと、左のミヤマキシタバはロシア産亜種の♀だけど、やはり日本産と比べてメリハリに欠ける。

 
【レッドデータブック】
環境省;準絶滅危惧種(Nt)
山梨県;絶滅危惧種Ⅱ類
群馬県;絶滅危惧種Ⅱ類
栃木県;準絶滅危惧種
大阪府;準絶滅危惧種
宮城県:絶滅危惧Ⅱ類(Vu)
岩手県:Dランク

大阪府の準絶滅危惧種指定には笑ろた。んなもん、おらんつーの。いったい何年前の記録なのだ。おそらく何十年も前のものだろう。そんなクソ古い記録からの指定なんて外せよな。どうせ今もいるかどうかなんて調べてないんだろ。準絶滅というのも引っ掛かる。指定するなら絶滅危惧種か情報不足として指定を保留すべきだろう。お役所のこう云うおざなりの仕事ってアホかと思う。

 
【開張(mm)】
『原色日本産蛾類図鑑』とネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、60mmとだけあった。雑いよなあ(笑)。
岸田さんの『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』は流石にちゃんとしていて、51〜61mm内外となっている。試しに自分の採ったものを測ってみると、最大で61mm、多くのものが55mm〜60mm未満だった。

 
【分布】
北海道、本州(主に中部地方以北)。
海外ではロシア南東部(沿海州・アムール)、朝鮮半島、中国北東部に分布する。
日本での分布は一風変わっており、主に中部地方より東に産するが、近畿地方を飛び越えて広島県(芸北町東八幡原)と山口県に記録がある。しかし極めて稀なようだ。今のところ四国、九州地方では見つかっていない。
東日本でも分布は局所的で、関東の平野部には記録はないようだ。だから横浜にゃ居ねぇと言ったのさ。
食樹である湿性のハンノキや山地性のヤマハンノキが豊富にあるような環境を好むが、同じくハンノキ類を食樹とするミドリシジミ(註4)が豊産するような場所でも見られない場合も多いという。又、生息地であっても個体数は少ないらしい。青森、岩手県下には多産地があるというが、調べたらあくまでも一部であって、両県でも分布は局所的みたいだ。

ここで日本を代表するカトカラ図鑑である『日本のCatocala』と『世界のカトカラ』の分布図を並べておこう。ワシの説明なんかよりも、そっちの方が余程わかりやすいもんね。

 

(出典 西尾規孝『日本のCatocala』)

 

(出典 石塚勝己『世界のカトカラ』)

 
そうは言いつつも、両者の西側の分布が微妙に異なっているからややこしい。謎多きシンデレラなのだ。
但し『日本のCatocala』は分布域図で、『世界のカトカラ』は県別の分布図である。特に近畿は微妙だ。『日本のCatocala』では滋賀県、京都府、兵庫県中北部が入っているが、『世界のカトカラ』では空白になっている。逆に大阪府には記録があるから塗りつぶされている。
まあ、大阪府の記録は前述したように疑わしくはあるんだけどね。古い記録だしさ。ところで、大阪府の何処で採集されたのだろう?
調べてみたが、大阪府のレッドデータブックにも詳しくは書かれていない。他からのアプローチでも見つけられなかった。何十年も前の記録となると、そこそこ有名な昆虫採集地ではなかったのではないか?
だとすれば、金剛山か箕面辺りが有望か…。箕面っぽいような気もするが、でも特定は出来ないやね。古い記録だし、標本は残ってるのかなあ?…。何か段々胡散臭い記録のように思えてきたよ。
でも、ふと思う。古い記録だからといって切り捨てるのもどうだろう。かつては本当に居たのかもしれない。信じたいところではある。いや、本当は居た筈だ。なぜなら、こんなもん他のキシタバ類と判別間違いはせんでしょうよ。けど悲しいかな、今や箕面は乱開発によってズタズタだ。箕面での再発見は難しいだろう。

情報量があまりにも少ないので何とも言えないところはあるが、探せば近畿地方でも見つかる可能性は有ると思う。希望的観測ではあるが、そう願いたいものだ。広島や山口でも見つかってるんだからね。
おそらくだが東日本よりも更に局所的な分布で、標高1000m以上の高所に僅かながら生息しているのではあるまいか❓いやもっと言えば、山口県の生息地は調べても分からなかったが、広島県は標高770mくらいだ。千m以上に拘る必要性はないのかもしれない。但し、得られたのはライトトラップのようだから、周辺の高い山、例えば臥竜山(1223m)などの高い山から降りてきた可能性も無くはない。とはいえ、近畿地方だって1200mくらいの山はあるからね。同じような環境の場所もあるだろう。

 
【成虫の発生期】
7月中旬〜9月下旬。稀に10月に入っても見られる。
しかし新鮮な個体に会えるのは8月中旬までだと言われる。

そういえば西尾氏の『日本のCatocala』には、発生期について大変興味深いことが書かれてあった。ちょっと衝撃的だったので抜粋しよう。
「産地により出現時期はさまざま、標高や緯度にはそれほど関係せず、梅雨のない地方(たぶん北海道の事)での羽化時期は早い。夏に酷暑となる中部地方の低山地での出現時期の方が冷涼な山地の高原よりかなり遅れる場合がある。」
又、西尾氏は夏期休眠を蛹の期間で調整している可能性がある事を示唆されておられる。

こんな発生形態を持つカトカラは他に聞いたことがないから、かなり驚いたよ。なぜに発生がそないにバラバラなのだ❓その意味するところがワカランよ。

因みに採った場所2箇所の日付は、奇しくも同じ8月4日だった。2019年は湿地で標高は約800〜850m。2020年は高原で標高は1100〜1300mだった。但し、採集方法は2019年は糖蜜トラップ、2020年はライトトラップだった。ゆえに2020年は発生地を特定できない。
とは言いつつも近くにヤマハンノキがあり、ライト点灯後の割りかし早い時間帯、8時過ぎに飛来した者も居た。
鮮度はどちらも良かったが、あえて言うならば、高原のものの方がビカビカだった。又聞き情報だが、1週間後に同じ場所に行った人によると飛来数は多かったそうだから、この日はまだ出始めだったのだろう。一方、湿地では個体数が比較的多かった事から、おそらく最盛期だったものと思われる。

(・o・;)おいおい、これだと標高が高い所の方が発生が遅れると云う多くの鱗翅類に見受けられる普通パターンと同じじゃないか。こりゃ他の場所でも採ってみないと何とも言えないやね。
夏期休眠を蛹の期間で調整している可能性があるというのも、今ひとつ意味ワカンナイしさ。少しくらい発生期がズレたところで、どっちにせよクソ暑い時期に羽化してくるんだから、意味あんのかね❓

 
【生態】
成虫は樹液に好んで集まる。低山地では主にクヌギ、コナラの樹液を吸汁し、高原地帯など高標高地ではミズナラの樹液を利用しているようだ。

糖蜜トラップにも飛来する。最初の飛来時刻は午後8時半過ぎから8時40分の間だった。カトカラの中ではカバフキシタバと並び飛来時刻が遅い。しかし一日だけの観察なので、ホントの事はワカラナイ。偶然その日は飛来が遅かった可能性もある。
尚、飛来の最終時刻を前々回には午前0時よりも前だと書いたが、写真の撮影時刻を確認し直すと、午前1時前というのが見つかった。一年も経てば人間の記憶なんて曖昧になるんだね。勝手にイメージの中で記憶を都合よく改竄してましたわ。スンマセン。
つけ加えておくと、吸汁時は下翅を開く。敏感度は、まあまあ敏感か普通。特別に敏感だとか鈍感と云う印象はない。

他にカトカラの餌資源と知られる花蜜、果実、アブラムシの甘露や吸水に飛来した例はないようだ。

灯火にも集まるが、一説によると食樹からの移動性が低く、林内での灯火採集が効果的であるらしい。
飛来時刻は遅く。夜半過ぎに現れるとされる。ピークは午前2時という説があるが、参考にはなるものの、その日のコンディションにもよるだろう。灯火への飛来は気象条件にかなり左右されるからだ。
自分の1回だけの灯火採集の経験だと、前回述べたとおり高原では午後8時過ぎと午前1時頃に飛来した。意外と近い所に居るものは早い時間帯でも集まって来るのかもしれない。何れにしろ、引き続き観察が必要だろう。

観察経験が少ないので、以下は文献、主に『日本のCatocala』からの引用に私見を混じえたものである。

成虫は昼間、ハンノキやアカマツ、カラマツなどの樹幹に下向きに静止している。静止場所は地上数mから十数mと、やや高い位置であることが多い。全ての種類のカトカラの静止している状態を見たわけではないが、カトカラの中ではかなり高い位置での静止のように思える。静止時はやや鈍感だそうだが、これは場所にもよるだろう。
驚いて飛翔した個体は上向きに着地し、暫くしてから下向きになるという。

交尾は深夜の午後11時から午前2時の間に行われ、発生期間内の延べ交尾回数は多数回であることが示唆されている。

産卵は9月7日の日没後に観察されている(西尾, 2004)。
ハンノキの樹幹に止まり、樹皮の隙間に産卵管を挿し込み産卵していたという。
他に、ブログ「青森の蝶たち」にハンノキの根元で産卵している写真がある(岩木山麓)。ちょっと驚いたのは産卵中には下翅を開いている事。樹液吸汁中にも開くんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど、自分としては盲点だった。イメージが全く頭に無かったからね。尚、日付は8月13〜16日となっており、時刻は午後8時13分とあった。てっきり産卵は9月に入ってからではないかと思っていたが、そうでもないんだね。となると、羽化から比較的短期間に産卵する種って事かな。

 
【幼虫の食餌植物】
カバノキ科 ハンノキ属のハンノキ、ヤマハンノキ。
日本のカトカラでは幼虫がカバノキ科を食する唯一の種。また海外でもカバノキ科を食樹とする種は見つかっていない。但しオオミヤマキシタバがカバノキ科を食樹とする可能性が濃厚ではある。

山梨県西部・長野県北部ではハンノキ、長野県南西部(木曽町)ではヤマハンノキを食樹としている事が分かっている。
西尾氏が長野県上田市の平地で飼育した結果、同属のミヤマハンノキ、カワラハンノキ、ヤマハンノキ、ヤシャブシは代用食にならなかったそうである。但し他地域で色々なハンノキ属で育てたら、無事に飼育を完了したと云う話を聞いているとも書かれている。
上田市ではヤマハンノキを与えたが食べなかったようだし、地域により、それぞれ別なハンノキ属内の他種を食ってる可能性はあるかもしれないね。

それにしても、ハンノキなんぞは関西にだって何処にでもあるし、ヤマハンノキだって割りとよく見掛ける。なのに基本的には関西には居ないという事になってる。となれば、本来が冷温帯を好むカトカラなのだろうか❓にしても広島県や山口県でも見つかってるしなあ…。
ちなみに分布域内でハンノキやヤマハンノキが沢山あるところでも生息しない所が多いらしい。成虫の餌資源とか、気温や湿度、その他諸々のシビアな条件があるんでしょうな。良く言えば繊細、悪く言えば神経質なカトカラだね。

 
(ハンノキ Alnus japonica)

 
幹は直立し、樹高は15〜20mくらいのものが多いが、生育条件の良い所では最大で40m程になるそうだ。太い大木はあまり見たことないような気がするが、相対的に大きい木、正確には高い木と云うイメージがある。
材は適度に柔軟であるため鉛筆の材料に使われるが、材木としての流通は稀という。なお、建材として名高いアルダーは北米を原産とするハンノキの仲間である。

 
(ハンノキ林)

 
湿地だと大体こんな感じで纏まって生えているから、わりと目につきやすい。

 
(幹と樹皮)

 
(葉と実)

(以上4点共 出典『Wikipedia』)

 
ハンノキを探す時は生えてる場所と幹の感じ、そして小さな松ぼっくりみたいな実の有無の3つを総合して判別している。中でも実が最も重要で、下図のように古くて茶色になっているのはよく目立つ。

 

(出典『庭木図鑑・植木ペディア』)

 
夏場でもこの実が結構ついているから、コレが恰好の目印になるのである。あと、葉っぱも一応見るけど、最後の補足確認事項みたいなもんだ。葉の形には変異幅があるようだからね。葉ばっか見てるとワケわかんなくなるのだ。ゆえに目安として湿地に生えてて、樹姿、幹、実を確認してから最後に葉っぱを見るって感じ。
偉そうな事を言ってるが、ハンノキについてはそれくらいの事しか知らない。改めて詳しく調べてみよう。

北海道から九州まで(一応、沖縄でも見つかっている)分布する落葉高木。日本以外では朝鮮半島、台湾、中国東北部、ウスリー、南千島に分布する。尚、ハンノキの仲間は北半球の温帯を中心に30種以上が分布し、日本にはそのうちの10数種が分布する。
日本では山野の低地の湿地、沼や低山の川沿いに自生し、湿原のような過湿地においても森林を形成する数少ない樹木。
樹高は4〜20m。幹の直径は60cm程。湿地周辺の肥沃な土地では極めてよく育ち、高さ30m、幹回りの直径は1mを超える。
普通の樹木であれば、土壌中の水分が多いと酸欠状態になって生きられないが、ハンノキは耐水性を獲得したことで湿地でも生き残ることができる。但し、湿地中央部に生える個体は成長は減退して大きくならない。
水に埋もれても育つため、水田の脇や畦に並木状に植えて稲掛けの梁に使われたことから、古名は榛(はり)、梁(はり)の木と呼ばれ、それが転化してハンノキとなったとされる。漢字には「榛の木」の字が宛がわれるが、本来これはオオハシバミの事であったという。近年では水田耕作放棄地に繁殖する例が多く見られる。
根には放線菌(根粒菌)が共生しており、栄養の乏しい場所でも丈夫に育つ。この事から荒地の復旧対策として真っ先に植栽され、河原の護岸や砂防を目的に植えられることも多い。又、公園樹として園内の池周辺にしばしば植えられる。
ちなみに英名は、Japanese Alder。「日本ハンノキ」って事だね。
 
葉は有柄で互生し、細長い楕円形または長楕円状卵形で先端が尖り、縁には不規則なギザギザがある。葉の長さは5~13cm程だが個体差が大きい。葉に毛があるものと無いものがある。葉の寿命は短く、緑のまま次々と落葉する。春先に伸びた1葉や2葉(春葉)の寿命は以降に延びた夏葉よりも短いため、6月から7月になると春葉が集中的に落葉することが報告されている。
花期は冬の11〜4月頃で、葉に先だって単性花をつける。雌雄同株で雄花穂は枝先に1〜5個付き、黒褐色の円柱形で尾状に垂れ下がる。雌花穂は楕円形で紅紫色を帯び、雄花穂の下部の葉腋に1〜5個つける。花はあまり目立たない。またハンノキが密集する地域では花粉による喘息発生の報告がある。
実は10月頃に熟し、小さな松ぼっくり状。翌春に新たな芽が吹くまでの長い間、枝に残る。
冬芽は互生して枝先につく雄花序と、その基部につく雌花序は共に裸芽で柄があり、赤みを帯びる。仮頂芽と測芽はどちらも葉芽、有柄で3枚の芽鱗があり、樹脂で固まる。葉痕は半円形で維管束痕は3個ある。
樹皮は紫褐色から暗灰褐色で、縦に浅く裂けて剥がれる。

良質の木炭の材料となるために以前には盛んに伐採された。材に油分が含まれ、生木でもよく燃えるため、北陸地方では火葬の薪に使用された。葉の中には根粒菌から貰った窒素を多く含んでいて、そのまま葉が散るため、葉の肥料木としても重要である。材は軟質で家具や器具に使われる。樹皮や実は一部の地方で褐色の染料として使われている。また抗菌作用があり、消臭効果が期待されている。ハンノキには造血作用のある成分が含まれるため漢方薬としても用いられる。

(・o・)へぇー、結構役立っている木なんだね。( ゚д゚)ハッ❗、何か完全にハンノキの話になっとるやないけー。
いかん、いかん。ミヤマキシタバの話じゃった。もう1つの食樹であるヤマハンノキについても調べておこう。

 
(ヤマハンノキ)

(出典『はなQ』)

 
(葉の裏面)

(出典『花の日記』)

 
(樹幹)

(出典『樹木検索図鑑』)

 
幹の感じが縦溝のハンノキとは違うね。そういえば、そんなような気もしてきた。

 
(実)

(出典『四季の山野草』)

 
しかしネットで調べてみてもヒット数が少なく、ハンノキとの違いが殆んど書かれていない。さらにネットサーフィンした結果、驚愕の事実にブチ当たる。
何と、どうやらヤマハンノキはケヤマハンノキの変種らしい。ケヤマハンノキの小枝や葉裏に毛がないのがヤマハンノキと云う事らしいのだ。何じゃ、そりゃ❗❓である。
そうゆう事は蛾のサイトでは一切書かれていなかったから、名前からして寧ろケヤマハンノキがヤマハンノキの変種だと思ってたくらいだからね。ヤマハンノキを食うならば、絶対ケヤマハンノキだって食うでしょうよ。しかし、文献には食樹としてケヤマハンノキが出てくる事は殆んどなく、僅かに西尾氏が、その可能性を示唆しているにすぎない。もしかして皆さん孫引きで、だ〜れも調べてなかったりして…。ワシも孫引きだから、人のこと言えないけどさ。
こういうこと書くとまた蛾屋さんに嫌われそうだけどさあ、それってユルくね❓テキトー人間のオイラが言うのもなんだけど、テキトー過ぎなくねぇか❓誰もが情報を鵜呑みにして向上心が感じられないと言わざるおえない。蛾をやってる人は蝶を敢えて選ばなかったんだから、突き詰めて考える我が道を行くような人ばかりじゃないかと勝手に想像してたから残念だよ。蝶ではなく、白い目で見られがちな蛾をやってると云う時点で偉いと密かに尊敬していたのだ。
えー、この項(@_@)ベロベロで書いてまーす。だからこそディスれるのだー。偏見だけど、もう書いちゃったから素面(しらふ)になっても撤回するつもりはない。吐いた言葉は呑み込まないのだ。ミヤマキシタバそのものについての知見が間違ってたとしたら、直ぐに撤回するけどさ。

えー、ここからは翌日で素面です。
失礼な事ばかり宣(のたま)ってスンマセン。吐いた言葉は呑み込まないけど、少々言い過ぎたと反省しておりまする。それにしても酔っ払いの暗い心のパワーはスゴイもんですな。筆に変な推進力があるや。
素面ゆえに書くのが邪魔くさくなってきたけど、このままでは終われないので、ハンノキ属の植物をまとめて紹介してこの項を終わりとしよう

 
(ケヤマハンノキ)

 
(裏面)

(出典 3点共『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;北海道・本州・四国・九州。アジア東北部。
ヤマハンノキも分布は同じである。ヤマハンノキ、ケヤマハンノキともに山の手や溪谷の斜面に生える。
樹高はヤマハンノキと同じく10〜20m。

 
(タニガワハンノキ(コバノヤマハンノキ))


(出典『www.m-ac.jp』)

 
分布;北海道・本州(中部地方以北)
山地の渓流沿いに生える。葉が小さく、ヤマハンノキと同じく裏面に毛がない。樹高15〜20m。

 
(ミヤマハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布は北海道と本州(加賀白山以北)。飛び離れて中国地方の大山山系烏ヶ山の山頂(1448m)にも自生する。基本的には山奥の亜高山帯から高山帯の岩石が多い斜面に生える。樹高1〜2mのブッシュ状になることが多いが、条件の良い場所では10m近くになる。

 
(サクラバハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布は本州(岩手・新潟以西)・九州で、主に西日本で見られる。ハンノキに似るが、本種の方が葉の横幅が広く、側脈数が多いこと、葉の基部が心臓形になることで区別できるそうだ。樹高10〜15m。

ここで各種の違いが解りやすいように、改めてハンノキの画像を添付しておこう。

 
(ハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;北海道・本州・四国・九州・沖縄。
そうそう、こうゆう葉っぱなんだよな。でも他の科の葉っぱでも似たようなのがいっぱいあんだよね。そういや昔、サクラと間違えた事があるわ。

 
(カワラハンノキ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;本州(東海以西)・四国・九州。
名前のとおり河原や川辺の岩場に生える。樹高5〜10m。

 
(ミヤマカワラハンノキ)


(出典 以上3点共『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
東北地方や北陸地方を中心とした多雪地帯に分布し、山地のやや湿ったところに生える。樹高8〜10m。

 
(ヤハズハンノキ)

(出典『www.botanic.jp』)


(出典 以上2点共『レモちゃんのワクワク植物ランド』)

 
日本固有種で、本州の中部地方・北陸地方から東北地方の日本海側に分布する。山地から亜高山帯の沢沿いなどに生える。葉の先が切れ込み、ハート型になるのが特徴。樹高10~15m。

参考までに言っておくと、他にヤチハンノキやウスゲヒロハハンノキと云うのもあるが、ヤチハンノキはハンノキの別称で、ウスゲヒロハハンノキはハンノキとケヤマハンノキとの雑種である。

食樹としている可能性は低そうだが、一応ヤシャブシ類も紹介しておこう。

 
(ヤシャブシ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布 本州(福島県以南の太平洋側)・四国・九州。
葉に光沢がなく、実が1~3個付き、直立または斜上する。
樹高2〜17m。

 
(オオバヤシャブシ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;本州(福島県以南〜和歌山県の太平洋側)。
葉に光沢があり、幅が広くやや三角状。実は1個のみ付き、直立または斜上する。樹高5〜10m。
オオバヤシャブシも緑化によく用いられるそうだ。

 
(ヒメヤシャブシ)


(出典『葉と枝による樹木検索図鑑』)

 
分布;北海道・本州・四国。
葉が細長く、基部が楔形で側脈が20対以上と多い。実は3~6個付き、下垂する。樹高2〜7m。

ヤシャブシ類も根にはフランキア属の放線菌が共生し、窒素固定を行うようだ。そのため比較的やせた土地にも生育する。どうやらハンノキ属の多くが、この特性を持っていそうだ。ハンノキって、スゲーぞっ✧(>o<)ノ✧❗
(・o・;) あれっ❓、何かミヤマキシタバの回なのに完全にハンノキ属の話になっとるやないけー(笑)。

立て直して、改めてミヤマキシタバの分布と食樹の関係について考えてみよう。
北海道亜種の食樹は、各ハンノキ属の分布からハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、タニガワハンノキ、ミヤマハンノキに限定され、その何れか、もしくは全てを利用している可能性がある。
本州の原記載亜種は、ハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキ、タニガワハンノキ、サクラバハンノキ、カワラハンノキ、ミヤマカワラハンノキ、ミヤマハンノキ、ヤハズハンノキに食樹としての可能性がある。ヤシャブシ類の可能性もないではないが、更に西寄りの分布だから二次的な利用は有り得るものの主食樹ではないだろう。少々乱暴な結論になるが、食樹の分布から、ハンノキを筆頭にヤマハンノキ、ケヤマハンノキがメインのホストプラントだろう。
でも、何れも分布に際立った局所性はなさそうだ。そうなると、シンデレラの分布が局所的な理由が説明できなくなる。食樹の分布からすれば、もっと広範囲にいて当然だからだ。局所的な種となると、ミヤマハンノキ、ミヤマカワラハンノキ、ヤハズハンノキだが、ミヤマカワラハンノキとヤハズハンノキは日本海側の分布だから、産地の木曽町などは当てはまらない。またミヤマハンノキは、亜高山帯から高山帯に生えるからミヤマキシタバの垂直分布とはズレる。カワラハンノキとサクラバハンノキは西よりの分布だから、これも除外していいだろう。
となれば、やはり主な食樹はハンノキ、ヤマハンノキ、ケヤマハンノキで、気象条件、環境が種の生息の有無のファクターに関係している可能性が高い。棲息条件が厳密で、冷温帯の狭い範囲にのみしか適応できないとか、成虫の餌資源が近くにないとダメとかさ。
或いは地史との関係もあるかもしれない。でもなあ…、羽が退化して飛べないオサムシじゃあるまいし、少々の大きな川や高い山があったとしても飛べるから大きな障壁にはなるまい。
でも待てよ。蝶の幾つかの種類はミヤマキシタバに似た分布の者もいるぞ。不思議な事に、分布が主に中部地方以北で、近畿地方の中心に分布がポッカリ空いてて、中国地方(兵庫県西部も含む)になると突然のように分布するものは多いのだ。
例を挙げれば、ハヤシミドリシジミ、クロミドリシジミ、ヒメシジミ、ゴマシジミ、オオルリシジミ(九州)、カラスシジミ、ヒメシロチョウ、ヒョウモンモドキ(東では既に絶滅)、ウラジャノメ、ホシチャバネセセリ、コキマダラセセリ、スジグロチャバネセセリ、キバネセセリ(少ないながら三重県北部に記録がある)、ヒメヒカゲ(かつては大阪府南部の岩湧山頂にのみ居たそうだ)と、かなり多い。嗚呼、w(°o°)wヤバい。この問題、そもそもよくワカンなくて突っ込めば底なし沼必至なのだ。ここは触れないでおく事にしよう。段々、自分でも何を言いたいのかワカンなくなってきたしさ。

視点を変えよう。
はたと思う。よくよく考えてみれば、野外で見るヤシャブシとヤマハンノキ類がゴッチャになってるとこがあるなあ…。山地性のミドリシジミとか、あんま興味ないしさ。
参考までに言っとくと、『日本産蝶類標準図鑑』によれば、ミドリシジミの食樹はハンノキ、ヤマハンノキの他にケヤマハンノキ、ミヤマハンノキ、サクラバハンノキ、カワラハンノキ、ヤチハンノキ(ハンノキの別称)、コバノヤマ(タニガワ)ハンノキが記録されている。また、ヤシャブシでも飼育可能だ。蝶であるミドリシジミでも色んなハンノキ属を利用しているんだから、ミヤマキシタバだって利用している可能性は高いかもしれない。基本的には蝶よりも蛾の方が食性は広いしさ。いっその事、ミヤマキシタバは紹介したハンノキ属はどれでも食うって事でどーだ。もうヤケクソだよ。
いや待てよ。ミドリシジミは普通種だが、ミヤマキシタバは普通種ではない。となると、むしろミヤマキシタバの方が狭食性で、食性が狭いがゆえに少ない種なのかもしれない。ハンノキは何処にでもあるが、或る種の条件が整ったハンノキのみしか食わないとかさ。或いはハンノキの中に隠蔽種が混じってて、見た目は同じでも別種なのがあって、そっちしか食わないとかさ。あとは標高何m以上のハンノキしか食わないとかさ。もしかして、ソヤツがハンノキとは近似種の全くの別種だったりしてね。

やめた。お手上げだ。いくら頭の中で考えたところで限界がある。自然界で利用されている食樹がもっと詳しく解明されない限りは全部が空論に過ぎないのだ。
今一つ食樹の解明が進まないのは、蛾の愛好家は少ないゆえ、食樹について調べてる人が少ないんだろね。蝶みたく愛好家が多ければ、そうゆう地道で大変そうな事を調べる人も増えるんだろうに。つまり、パーセンテージよりも分母の問題なのだ。
因みにワシって、そうゆう事には全然向いてない人なので、調べてやろうという気概は全然もって無いです、ハイ。
最近は蛾の愛好者も増えているという事だし、誰か根性のある人が出てくることを祈ろう。

 
【幼生期の生態】
これも西尾さんの『日本のCatocala』に頼りっきりで書く。
こっからはグロいので、( ̄ー ̄)おどろおどろの閲覧注意やでぇ〜。

 
(卵)

(出典『日本のCatocala』以下、この項目同じ。)

 
卵は食樹に付着した蘚苔類、地衣類、樹皮の裂け目や裏側に産み付けられる。1箇所に産まれる卵数は1〜8個であるが、1個の場合が多い。
形状は小型のまんじゅう型で、受精卵の色彩は黒褐色ないし茶褐色で黄白色の斑紋が横に走る。縦の隆起条は非常に細く、高さも低くて波状。横の隆起条は溝状で、類似した形態の種は他にはいない。とはいえ、卵は極小ゆえ、んなもん顕微鏡で見んとワカランぞい。

幼虫の齢数は5齡。若齢から中齢まで昼間は枝先の葉上や葉柄に静止している。亜終齢幼虫になると枝先の葉柄に、終齢幼虫は枝先の淡緑色をした当年枝に静止している。
種内における幼虫の色彩変異は特にはないようだ。

 
(初齡幼虫と2齡幼虫)

 
基本的に他のカトカラと同じく尺取り虫型でござる。
毛虫じゃないから、これなら飼育初心者のワシでもまだ飼えそうだ。

 
(終齢幼虫)

 
向かって右側が頭部である。
まあまあカラフル。なんだけど、飼育初心者にはかえって気持ち悪いかも…。毒々しいと触れんもん(+o+)

 
(終齢幼虫頭部)

 
😰怖っ❗邪悪なお顔でありんすなあ。芋虫でも、やっぱ苦手だよなあ…。アタシャ、愛する自信がねえや。
顔は黄色いタイプと青緑色のタイプのものがあるようだ。終齢幼虫は黄色っぽくて、カトカラの中では割りと特異なものの1つだろう。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫を刺激すると体を反らし、口から茶色の体液を吐きかけるという。∑( ̄皿 ̄;;)ひいーっ、🤮ビートルジュースやないけー❗気持ちの悪いやっちゃのうー。あっ、ビートルジュースは甲虫の体液だな。となると、キャタピラージュースか。どっちにせよ、😱阿鼻叫喚なりよ。
まあ、仕方なしの一種の天敵から身を守る防御行動だろね。生きるのに必死なのだ。とはいえ、キャタピラージュースを吐くなんざ、最悪だ。やっぱワシ、芋虫とか毛虫はダメだわさ。飼育は一生でけんかもなあ…。

蛹化場所については観察例がないようだが、おそらく落葉の下だと考えられる。

                       おしまい

 
追伸
今回も長くなった。無駄無駄パンチとかフザけ過ぎたのも理由だが、主な原因は食樹の項だ。ハンノキの事を調べてたらズブズブの泥沼にハマってしまった。ハンノキは湿地に生えるゆえ、下はズブズブの泥沼だから、何だか出来過ぎの展開だよ(笑)。

 
(註1)HSP
HSPとは、Highiy Sensitive Person(ハイリ―・センシティブ・パーソン)の頭文字をとった略称で、訳すと「ひといちばい繊細な人」という意味。
1990年代のはじめに繊細な人について研究していたエレイン・アーロン博士によって名付けられたもので、「人の気質」を表した名称の1つ。アーロン博士によると、5人に1人、人口の約20%がHSPだという。この「繊細さ」は生きるもの全てが本来的に持つ生存本能であり、生き残るための戦略の1つであると考えられている。詳しい症状等は御自分で調べてくだされ。

 
(註2)バトラー
おそらく英国人の昆虫学者、Arthur Gardiner Butler(アーサー・ガーディナー・バトラー)のことだろう。
以下、Wikipediaから抜粋、要約しよう。

 
Arthur Gardiner Butler(1844〜1925)

(出典『Wikipedia』)

 
イギリスの昆虫学者・鳥類学者。またクモの研究者としても知られ、それらの分類で足跡を残している。1844年、ロンドンのチェルシーで生まれ、父は大英博物館の次官補であるトーマス・バトラー(1809-1908)。彼自身も大英博物館に勤め、1879年に動物学のアシスタントキーパー(副室長?)、及びアシスタントライブラリアン(たぶん司書と訳すよりも、副専門的文献管理責任者と訳した方が妥当だろう)として、2つの役割を持つ役員に任命された。
彼はまた、オーストラリアのクモやガラパゴス、マダガスカル、およびその他の場所に関する記事を発表したと書かれてある。

日本のカトカラでは、ミヤマキシタバの他にシロシタバ、ゴマシオキシタバ、ノコメキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、ヨシノキシタバの記載者名に、その名がある。結構な数だ。
しかし蝶の方はもっと多い。日本でも馴染みのあるものが、ズラリと並ぶ。
調べたところ、ツマキチョウ、エゾスジグロシロチョウ、ウラキンシジミ、ウラクロシジミ、ダイセンシジミ、コツバメ、ヒメウラボシシジミ、カバイロシジミ、ヒョウモンモドキ、ホシミスジ、ウラナミジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、リュウキュウヒメジャノメ、キマダラモドキ、クロヒカゲ、ヒメキマダラヒカゲ、ヤマキマダラヒカゲ、シロオビマダラ、スジグロチャバネセセリ、アカセセリ、ミヤマチャバネセセリと、何と数えたら21種もある。(☉。☉)メチャメチャ多いやんけー。

 
(註3)ディオのザ・ワールド
荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部「スターダストクルセイダーズ」に出てくる最強の悪役ディオのスタンドのこと。「無駄無駄無駄…」を連呼してパンチを繰り出してくる。
尚現在、火曜深夜1時過ぎからBS日テレでアニメが2話ずつ放映されちょります。物語は佳境に入っており、今夜あたりザ・ワールドが登場しそうだ。

 
(註4)ミドリシジミ

【Neozephyrus japonicus ミドリシジミ♂】

(2018.5.29 京都市)

 
北海道・本州・四国・九州に分布し、全国的に広く棲息するが、西南部の暖地では局地的な稀種。小型となる北海道のものは亜種reginaに分けられている。

 
(分布図)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何となくミヤマキシタバの分布に似てるような気もしないでもない。ややコジツケくさいけどさ。それはさておき、何で紀伊半島南部にいないんだ❓ヤバい、やめとく。これ以上はもう御勘弁。

 
ー参考文献ー

◆『日本のCatocala』西尾規孝 自費出版

 
◆『世界のカトカラ』石塚勝己 むし社

 
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則編著 学研

 
◆『原色日本産蛾類図鑑』江崎悌三編著 保育社

 
インターネット
◆『青森の蝶たち』
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『葉と枝による樹木検索図鑑』

 

2020’カトカラ3年生 ミヤマキシタバ

 
   vol.21 ミヤマキシタバ 第三章

       『真夜中の訪問者』

 
あえて2020年のことは従来の『続・ミヤマキシタバ』と云う形はとらず、解説編と併せて綴りまする。

2019年はミヤマキシタバをギリ何とか採ったはものの、背中の毛をハゲちょろけにさせてしまった個体も多かった。裏展翅もしてないし、それにカトカラとしては遅い午後8時半以降という糖蜜への飛来時刻の事も気にかかってる。はたして、その行動が通常のものだったのかどうかも確かめたい。そう云うワケで、まだまだシンデレラへのモチベーションは下がってはいなかった。
だが、連日の猛暑続きで気持ちが萎えてたのと、やんごとなき個人的な事情も相俟って、うだうだと出発を決断できないままでいた。
そんな折、『(☉。☉)えーっ❗、今からあ❓』という急な小太郎くんからの長野方面へのお誘いがあった。渡りに船と言いたいところだけれど、あくまでも彼のターゲットは蝶とナマリキシタバだった。ではガッカリかといえば、そうでもなかった。なぜなら自分も優先順位としてはナマリの方がミヤマよか上だったし、久し振りに真面目に蝶採りもしたかったのだ。ゆえに二つ返事でお誘いに乗っかった。まあミヤマは来年でもよろしかろう。一人だと、熊(・(ェ)・)恐えーしさ。

それに蝶屋としての矜持も取り戻さねばとも思った。
最近はブログでも蛾の事ばかり書いてるし、実際、蝶採りも前ほどには熱を入れてやってない。なので、今では周りの蝶屋たちに蛾屋だと囃したてられ、ニヤけた顔でアレやコレやと揶揄されてる始末なのだ。
何かさあ、蝶屋と云う人種は蛾に少しでも興味を示すと、蔑んだような目で見てくる人が多いんだよねぇ。これはきっと近親憎悪みたいなもんで、蛾を「同じ鱗翅類なのに、どうしてお前らは粉だらけで、汚らしくて、ぶっとくてキモいのだ。大半が夜行性なのも気味悪いや。」とでも思われているのだろう。
本来的にはワシも蝶屋なので、その気持ちは解らないでもないけれど、「もうオマエは蝶屋じゃねぇ、蛾に染まった穢れた存在だ」的な態度は酷いやね。
まだ蛾に関しては初心者なのに偉そうに言わしてもらうと、蛾には蝶にはない渋い美しさがある。またデザインは蝶よりも多種多様で、その世界は蝶よりも奥深そうだ。
思うに、どうやら蝶屋には選民意識があるみたいだね。同じ鱗翅類なのに、蛾のことは一段も二段も下に見ているところがある。とはいえアッシも生来の蛾嫌いで、そうゆうところは多々あった。だから、ワシはあくまでもカトカラ屋であって、今のとこ蛾屋になんか転身してないと言い返している自分がいたりもする。
本当はわざわざ蝶と蛾を線引きするのって、狭小でツマンナイ概念なんだろね。とはいっても世間的にみれば、蛾=悪。蝶イコール正義という構図は厳然として存在するからね。
例えば蝶を採っていると言えば、軽蔑されたり、言われなき注意や説教をされる事がある。可愛い蝶ちょを捕まえて殺すとは何事かとゆうワケだ。一方、たとえ蝶を採っていたとしても蛾を採っていると言えば、気味悪がられるだけで文句を言われる事はまずない。むしろ頑張って殲滅してくれとハッパをかけられる事さえある。だから「何を採っているんですか❓」と尋ねられたら、邪魔くさい時はこう答えるようにしてる。

🦋蛾ですっ❗
もしくは、
(ΦωΦ)猫ですっ❗
と。
これで大体は嫌な顔か怪訝な顔をして、その場から去っていってくれる。この手は真面目に答えるのが面倒くさい時によく使うのだが、撃退法としては中々の効力でっせ。興味のある方は使ってみなはれ。結果、どうなるかは責任持たないけどさ。

話が逸れた。とにかく、その時点でミヤマの事はすんなりと諦めてた。一度でも手ゴメにした女には興味がない。とまでは言わないまでも、モチベーションは下がらずにはおえまい。
(-_-;)あっ❗、ちょっと待て。このような物言いだと、まるでワシが女性をモノ扱いしてる酷い人になるではないか。いやいや、そうゆうつもりじゃなくてー。(༎ຶ ෴ ༎ຶ)お姉さ〜ん、冗談ですよ、ジョーダン。

早くも脱線気味だが、今回はその2020年の採集記と種の解説編です。

 
2020年 8月4日

小太郎くんとの遠征二日目。
この日はオオゴマシジミに会いに長野と岐阜の県境の峠へ行った。

 
【オオゴマシジミ】

 
小太郎くん曰く、これはゴマ無しオオゴマという珍しい型らしい。上翅の黒点の大半が消失しかかっている。
参考までに通常のオオゴマシジミの画像を貼り付けておこう。

 

(2014年7月 岐阜県高山市)

 
全然違うことが御理解戴けるかと思う。
でも変異にはあまり興味がないゆえ、小太郎くんとこにお嫁入り。虫でも人でも喜ばれる所に行くのが一番だかんね。価値のわからんワシなんかが持ってても宝の持ち腐れなのだ。

午後になって奈川村へと移動し、ゴマシジミと御対面。
御対面と書いたのは、奈川ではゴマちゃんが採集禁止だからである。と云うワケで写真だけ撮った。

 
【ゴマシジミ】

 
ゴマちゃんって、何だか可愛い💕
改めてゴマシジミって好きな蝶の一つなんだなと思う。オオゴマもゴマも何故だか会うと親愛なる友だちみたいな感じに思えるのだ。だから、あまりオラオラで手ゴメにしてやろうとは思わない。

 

 
小太郎くんなんかはゴマシジミを愛し過ぎて、手乗りゴマとかまでしてた。

オオゴマにもゴマシジミにも会うのは久し振りである。たぶん4、5年振りだ。よくよく考えてみれば、一日のうちで両方とも会ったのは初めてだ。何だかんだ言っても、やっぱ蝶と戯れるのは楽しい。

奈川から松本方面か木曽方面のどっちに行くかと云う事になった。灯火採集を何処でするかと云う話なのだが、どちらも良い場所なだけに迷うところだ。でも小太郎くん所有のライトトラップなので、最終的な決定権は彼にある。
小太郎くんはヤンコウスキーキリガが採れる可能性のある松本方面に行きたそうだったけど『どっちでもいいですよ。』と言うので、遠慮なく木曽町をグイと強く推させて戴いた。なぜなら、勘が木曽に行けと言っていたからだ。自分は己の勘に絶大なる自信を持っている。だから、たいした実力も無いのに何処へ行っても良い虫が採れる。引きが強いと言われるのは、そうゆう事なのである。ようは「お告げ式採集法」なのだ(笑)。
あとは松本よりも木曽町の方が生息するとされるカトカラの種類数が多い事、少しでも関西方面に近い方が帰りが楽だというのもあった。

木曽町には4時前に着き、アイスクリーム屋でソフトクリーム食って、ヤマキチョウとツマジロウラジャノメのポイントの様子を見てから灯火採集が出来そうな場所を探した。

 

 
やがて夕日は声も無く山並みの向こうへと沈んで行った。
そして今宵も虫たちの夜会が始まる。

珍しく日没前にライトトラップを設置する事ができたので、早めに点灯。

 

 
けっして天候は灯火採集に適しているというワケではなかったが、暫くして虫がアホほど飛んで来た。流石、ワシの勘でんがな。「お告げ式採集法」、絶好調だよ(^3^🎵

 

 
小太郎くんが木曽町には多分いないでしょうと言っていたヤンコウスキーも来たもんね。
自分が先に見つけたけど、お譲りもうした。いつも小太郎くんには譲ってもらっているからさ。まっ、お互い様ちゃ、お互い様だけどもね。

午後8時過ぎ。
背後から飛んで来たカトカラがライトの2mほど手前でボトッと地面に落ちた。
止まった姿を見て、すぐに分かった。
と同時に叫んでいた。

(☆▽☆)ミヤマやっ❗❗

でも二人して慌てて近づいたら、\(◎o◎)/アチャー、驚いてどっか行っちゃった。
まあいい。そのうちまた飛んで来んだろう。

此処にミヤマの記録はあるのは知ってたけど、本当に飛んで来るとは思いもよらなかったよ。この周辺には蝶採りで何度も来てるけど、食樹であるハンノキのイメージなんて全然なかったからさ。それにミヤマは夜中にならないとライトに飛来しないと聞いていたからね。謂わば真夜中の訪問者なのだ。まさかこんな時間に飛んで来るとは思ってないゆえ、ちょい驚いたよ。ふ〜ん、こんなに早い時間帯にも来る事があんのねって感じ。

でも、ふと思う。ホントに真夜中の訪問者なのかね❓
何か蛾はあんまり調べられていないせいなのか、図鑑等に書かれてる事が間違ってる場合もチョコチョコあんだよね。だから記述を極力そのまま鵜呑みにはしないように心掛けてる。
まあ、とはいえおそらく偶然近くに居たのだろう。そういや、すぐそばに食樹であるヤマハンノキらしき木があったしさ。

その後、ミヤマっぽい奴が2度ほど飛んで来たが止まらず、どっか行っちゃった。たぶん同一個体だろう。チッ(-_-メ)、クソ忌々しいかぎりである。
どうして珍しい奴に限って、そうゆうのばかりなのだ❓
いわゆる普通種とされる何処にでもいるものは、どいつもこいつも鈍感なのにね。全く逃げない奴や、中には寄って来る奴さえいる。たぶん熱愛する蝶やカトカラの前に立つと、知らぬうちに体から殺気とかがバリバリ出てんだろね。で、体がガチガチになってるから振り逃す人が多いのかも。自分はまだミスショットは少ない方だとは思うけど、それでも時々やらかす。アレってキツいよね。持っていきようのない怒りと落胆度が半端ない。
これって何だか恋愛と似てるね。好き過ぎて全身から焦りまくりの変なオーラが出ちゃって、揚句に空回りして好きな女の子に嫌われるというのは往々にしてありそうな事だもんね。ようは蝶採りでも蛾採りでも、心に余裕がないとダメって事やね。おのが心をコントロールする強い精神力と、その場その場で臨機応変に対応する力がないと女の子にはモテないし、蝶(蛾)も採れないってことだ。勿論、その前段階での緻密な戦略も必要だろう。
あらあら、ますます恋愛と似てるじゃないか。あっ、でもワシには緻密な戦略なんて無いけどね。はじめは完璧な戦略を立てようとは思うのだが、途中で段々面倒くさくなってきて放り出し、いっつも最後は出たとこ勝負なのだ。考え過ぎると、それが呪縛になってかえって自爆しかねないので、恋も虫捕りも結局はその場その場で戦略を組み立ててくタイプみたい。

話が逸れた。自分の恋愛タイプなんぞどうでもよろし。本筋に戻そう。稀な種は敏感という話だったね。
原因は殺気だけではないだろう。もしくは少ない種は捕まえられてしまうと、即それが種の存続の重大な危機に繋がる。死なないためには敏感にならざるおえない。蝶でも個体数が多い年は全体的に鈍感だけど、反対に少ない年には矢鱈と敏感になる傾向があるからね。生きるって大変なのだ。

ようやく見つかったのが、9時ピッタリだった。ライトトラップの裏側の少し離れた所に止まっていた。
小太郎くんを呼んで、採ってもらおう。譲ったのは、彼がまだミヤマキシタバを採った事がないと知っていたからだ。
隙間の変な所に止まっていたけど、無事ゲット。小太郎くん曰く、変なとこに止まってたせいで背中が落ち武者化したそうだけど、鮮度の良い♂だったそうな。
コレで気合入った。次は譲らなくていいから、又ビシッと見つけて手ゴメにしてやろう。オジサン、変態凌辱男へと変貌す。ψ( ̄ー ̄)ψホレホレ〜、ψ( ̄ー ̄)ψホレホレ〜。ワシの毒牙にかかるがよいわ〜。

しかしその後、深夜の11時になっても、日を跨いだ午前0時を過ぎても真夜中の訪問者は現れない。
遅い時間にしか飛んで来ないって、ホントかね❓再び疑問の首がもたげてくる。

午前1時。
何か気配を感じて振り向くと、背後の闇にキシタバ系のカトカラが飛んでいた。ちょっと違和感を感じた。ようやく真夜中の訪問者のお出ましかも(・∀・)❓…
高さ約2m。羽の裏側がハッキリ見えた。次の瞬間にはミヤマだと脳が認識した。と同時に鋭いステップを切って、五、六歩前へと走って左から右へと網を撫で斬りにする。
手に真芯で捕えた感触があった。腰が入った渾身のスウィングだ。野球のバッティングと同じで、こういうキレイな軌跡で網を振れた時は、まず間違いなくスタンドインだ。

中を見る。

へへへへ(。•̀ᴗ-)✧
∠(`Д´)/シャーーーー❗❗
(^o^)v召し捕ったりぃ〜❗

立ったまま毒瓶を網に突っ込み、迅速に取り込む。去年から取り込み方法も少しは進化しているのだ。ハゲちょろけ率は格段に下がってる。

 
【ミヤマキシタバ♀】

 
たぶん新鮮な♀だ。
しかも落ち武者化してない完品だわさ。ケロケロ🐸
お美しい。前翅の複雑な紋様がベキベキに(☆▽☆)キャッコイイじゃないか。この上翅の美しさはカトカラ屈指のものだろう。中でも♀が綺麗。たぶん、絶対♀の方が紋にメリハリがあるやね。

裏返す。

 
【同裏面】

 
ミヤマキシタバは裏面の黄色味が強く、縁が白っぽく見えるのが特徴だ。だから飛んで来た時にすぐにそれと分かったのだ。
こういう裏面は知る限りではフシキキシタバくらいだろう。

 
【フシキキシタバ】

(2019年 6月 東大阪市枚岡)

 
でもこの時期にはフシキはもう姿を消している筈だから間違えることはない。あとナマリも縁が白っぽいけど、断然小さいから区別は容易だ。それにナマリの裏面はこんなに鮮やかな黄色ではない。

腹と尻先の形からすると、やはり♀だね。
♀は腹が太くて短い。また尻先が♂みたく毛ボーボーではなくて、お毛々少なめでスリットが縦に入り、産卵管らしきものがあるのだ。

帰りの事を考えて午前1時半には撤収の予定だったが、この飛来で小太郎くんから延長の申し出があった。もちろん願ったり叶ったりの吝(やぶさ)かではない。午前2時くらいが飛来のピークだと言われているし、期待値が否応なく膨らむ。
さあ、ここからが本番だ。Hey❗、щ(゜ロ゜щ)カモーン。ジャンジャン飛んで来なさーい。悪辣😈連続強姦魔として化してくれるわい❗

だが、一番飛来数が多いと言われている午前2時を過ぎても1つも飛んで来やしなかった。ホントに基本的には深夜に寄って来るカトカラなのかえ❓

疑問符を頭に抱えたまま午前3時にはクローズする事とあいなった。午前2時にバンバン飛来すると云う情報はガセかよ❓
勿論、ガセではないだろう。好んでそんな情報を流す人はいないからだ。いたとしたら、どうしようもないクズだ。クワガタじゃないんだから、ライバルを手の込んだやり口で情報撹乱する必要性があるとは思えない。蛾はマイナーだからね。
結局のところ、蝶と違って蛾の生態はまだまだ調べられてない事だらけなんじゃなかろうか❓だから、その日によって飛来時間が違うことも多いのかもしれない。
蛾ってワケわかんないや。そう思いつつ、蛾まみれの屋台をバラしていった。

 
                        つづく

 
この日、採ったミヤマキシタバの展翅画像を載っけとこう。

 

 
今回は触角を怒髪天ではなく、真っ直ぐにした。
蝶屋的な展翅だと揶揄する向きもあろうが、ほぼ理想通りの出来だ。美しい。
今年採ったのは結局この1頭のみだったので、来年はもっと採りたいな。

 
追伸
「あえて2020年のことは従来の『続・ミヤマキシタバ』と云う形はとらず、解説編と併せて綴りまする。」
冒頭にはこう書いたが、思いのほか長くなってしまったので、思い切って分けることにした。よって種の解説編は次回にまわします。
なので、この文章を『2019’カトカラ2年生 其の四(2)』から『2020’カトカラ3年生 ミヤマキシタバ』と改題して第三章とする。そして次回の解説編を第二章とし、『2019’カトカラ2年生 其の四(2)』とします。
ややこしい話で申し訳ないのだが、ようするに発表の順番が逆になると云うワケだ。ごめんなさい。解説編が上手く書けなくて、こないな事になってまっただよ(╥﹏╥)

今回も草稿を書き終えてからメチャメチャ書き直す破目になった。段々このシリーズを書くのにも飽きてきたから、調子が乗らないのである。書いてて文章に冴えがないからシックリいかず、アレやコレやといじくっているうちに収集がつかなくなった。

数えたら、まだ書いてないのが11種も残ってる。
+α、ボロしか採ってなくてロクな知見も無いのに書いた種が3種もあるから、その改訂版も書かねばならないだろう。
やれやれだ。考えたら、何だか憂鬱になってきた。とはいえ、台湾の蝶シリーズみたく頓挫するのも何だし、年内には新たに2種分くらいは何とか書きたいかなあ…。

 

2019’カトカラ2年生 其の四(1)

 
     vol.21 ミヤマキシタバ

     『突っ伏しDiary』

 
マホロバキシタバの調査が一段落したので、信州方面に出掛けることにした。

 
2019年 8月1日

大阪駅から東海道線で米原、大垣と乗り換えて名古屋へ。

 

 
名古屋からは中央本線で高蔵寺、中津川と乗り換え、塩尻へ。

 

 
そして塩尻から松本へ。
そう、今年もまた青春18切符の旅が始まったのだ。

 

 
松本駅に着いた頃には、いつの間にか日は傾き始めていた。長い旅になりそうだ。
さらに松本で大糸線に乗り換える。目的の駅までは、あと1回か2回は乗り換えなくてはならないだろう。

 

 
こうゆうローカル線に乗ると思う。嗚呼、随分と遠くまで来たんだなと。

 

 
🎵線路は続くよ、どこまでも。

 

 
駅に降りたのは午後6時過ぎだった。
日没前までには目的地に着きたいところだ。重いザックを背負って湖に向かって歩き出す。今回は普段の超軽装と比べてテントや予備も含めたトラップ用の糖蜜等々荷物が多いので、早くもストレスを感じる。案の定、ちょっと歩いただけで瞬く間に汗ダラダラになる。何だか先が思いやられるや(´ε` )

当初はカトカラの中でも難関と言われるミヤマキシタバ狙いで他の場所に行くつもりだった。けど、信頼しうる筋からの情報が入り、ここならミヤマキシタバの他にもケンモンキシタバ、エゾベニシタバも狙えると聞いた。ならば、マホロバキシタバを発見した勢いを借りて、まだ採ったことのないソヤツらも纏めて片付けてやれと思ったのだ。7月にはマホロバの発見だけでなく、稀種であるカバフキシタバもタコ採りしてやった事だし、今のところ絶好調なのだ。

キャンプ場に着いたのは日没近くだった。
先にテントを張るか、ハンノキ林を確認する為にロケハンするか迷ったが、テントを建てる方を選んだ。久し振りのテント張りだ、暗くなってから組み立てるのが不安だったのだ。暗い中でのテントの組み立ては慣れてないと大きなストレスになる。設置が遅れれば遅れるほど採集時間も削られる。それも大きなストレスになりかねない。それに長旅で疲れていた。一刻も早く落ち着ける場所が欲しかったのだ。古今東西、昔から優れた男というものは、先ずは基地を作りたがるものだしね。

テントを張り終わった頃には辺りは闇に侵食され始めていた。早速、糖蜜トラップを用意して出る。
しかし薄闇の中、湖の畔を歩き回るもハンノキ林が見つからない。まあいい。どうせ湖沿いのどこかには生えている筈だ。とりあえず良さげな木の幹に糖蜜を噴射してゆく。今はマホロバの発見で乗りに乗っているのだ。ソッコーで片付けてやるよ。

しかし飛んで来るのは、ド普通種のパタラ(C.patala)、いわゆる普通のキシタバとフクラスズメばかりだ(註1)。
ハッキリ言って、コイツら死ぬほどウザい。どちらも何処にでもいるし、クソ忌々しいデブ蛾でデカいから邪魔。どころか、特にフクラスズメなんぞは下手に敏感だから、すぐ逃げよる。それにつられて他の採りたいものまで驚いて逃げるから、誠にもって始末が悪い。
おまけにフクラの野郎、カトカラの王様であるムラサキシタバにちょとだけ似てるから、飛び出した時は一瞬だけだが心ときめいてしまうのだ。で、すぐに違うと解ってガッカリする。それが、ものスゲー腹立つ。あたしゃ、本気で奴を憎悪してるとまで言ってもいいだろう。それくらいムカつく奴なのだ。

あっ、また飛んで来やがった。

(#`皿´)おどれら、死ねや❗

よほど怒りに任せてブチ殺してやろうかとも思ったが、彼らに罪はない。だいち、そんな事したら人間のクズだ。何とか踏みとどまる。

結局、夜中まで粘ったが惨敗。姿さえ見ずで狙ってたものは1つも採れなかった。
今日の唯一の救いは、新鮮な紅ちゃんを2頭得られたことくらいだろう。

  
【ベニシタバ Catocala eleta】

(裏面)

 
ベニちゃんを見るのは初めてじゃないけど、新鮮なものはこんなにも美しいんだね。その鮮やかな下翅だけに目が行きがちだが、上翅も美しい。明るめのグレーの地に細かなモザイク模様と鋸歯状の線が刻まれ、上品な渋さを醸し出している。
上翅と下翅の色の組み合わせも綺麗だ。考えみれば、ファッションの世界でもこの明るいグレーと鮮やかなピンクのコーディネートは定番だ。美しいと感じるのも当たり前かもね。ファッションに疎い男子にはワカンないかもしんないけどさ。

 
2019年 8月2日

翌朝、湖を見て驚く。
湖といっても、どうせ池みたいなもんだろうと思ってたけど、意外にも綺麗な青緑色だった。とても美しい。

 

 
こんだけロケーションがいいのならもう1日いて、昼間はじっくりハンノキ林を探しながら湖畔を散歩しても良いかなと思った。
しかし、昨日の貧果から多くは望めないと考え直した。もう1回アレを繰り返したら、ハラワタが煮えくり返ってホントに奴らに危害を加えかねない。
湖を後にして、白馬村へと向かう。

 

 
此処ではキャンプ場を拠点にして各所を回るつもりだ。

移動して温泉入ってテント張ったら、もう夕方になった。
蜩(ひぐらし)の悲しげな声が辺りに侘しく響く。その何とも言えない余韻のある声を聞いていると、何だかこっちまで物悲しくなってくる。夏もいつかは終わるのだと気づかされてしまうからだ。でも、そんな夏の夕暮れこそが夏そのものでもある。嫌いじゃない。

岩に腰掛けて、ぼおーっと蜩たちの合唱を聞いていると、サカハチチョウがやって来た。

 

 
夕闇が訪れるまでの暫しの時間、戯れる。
こちらにフレンドリーで穏やかな心さえあれば、案外逃げないものだ。慣れれば手乗り蝶も意外と簡単。心頭を滅却して無私になれない人はダメだけど。
たぶん20分以上は遊んでたんじゃないかな。お陰で心がリセットされたよ。ありがとね、サカハっちゃん。

此処での狙いは、アズミキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバ、ヒメシロシタバ、ヨシノキシタバである。この場所も、とある筋からの情報だ。こんだけ居りゃあ、どれか1つくらいは採れんだろ。

 


 

 
🎵ズタズタボロボロ、🎵ズタボロロ~。
だが、各地でことごとく敗退。新しきカトカラは何一つ採れず、泥沼無間地獄の3連敗となる。

1日目はアズミキシタバ狙いだったが、さあこれからというと段になって⚡ガラガラピッシャーン❗ 本気の雷雨がやって来て、チャンチャンで終わる。
2日目は猿倉の奥に行くも、糖蜜には他の蛾はぎょーさん寄って来るのにも拘わらず、カトカラはスーパーにズタボロな糞ただキシタバだけだった。

 

 
思わずヨシノキシタバかと思って採ったけど、この時期にこんなにボロのヨシノは居ないよね。今なら出始めか、下手したら未発生の可能性だってある。それにヨシノはこんなにデカくはない。惨め過ぎて、コヤツにも己に対しても💢ブチ切れそうになったわい。

熊の恐怖と戦いながら闇夜を歩いて麓まで降り、夜中遅くに何とかキャンプ場に辿り着いた。途中、新しい靴で酷い靴ズレになり、両足とも血だらけ状態で見た満天の星空は一生忘れないだろう。
そうまでして頑張ったのに報われず、泣きたくなってくる。これほど連続でボコられてるのは海外だってない。
身も心もボロ雑巾でテントに倒れ込む。

 
2019年 8月4日

 

 
翌朝、テントに付いてるセミの脱け殻を見て、セミにまで馬鹿にされてる気分になった。
そして、悪代官 秋田伊勢守に”Facebook”で言われてしまう。

『マホロバで運を全部使い果たしんじゃないの〜。』

その呪いの言葉に、温厚な岸田先生まで賛同されていた。
きっと、この地は負のエネルギーに満ち満ちているに違いない。こんなに連チャンで負け倒したことは過去に記憶がない。こう見えても虫採りのまあまあ天才なのだ。って云うか、実力はさておき、運というか引きはメチャメチャ強いのである。

(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫どりゃあ〜。
もう、人に教えられたポイントなんぞ行かんわい❗
最初に自分で考えてた場所に行こう。楽して採ろうなんて考えたからバチが当たったのだ。それに我がの力で採った方が楽しい。人に採らさせてもらった感が極力ない方がカタルシスとエクスタシーは大きいのだ。

 

 
大糸線、笑けるほど本数が少ない。
(´-﹏-`;)知ってはいたけどさ…。

仕方なく白馬駅近くのスーパーへ昼飯を買いに行く。
それにしても死ぬほど糞暑い。燦々と降り注ぐ強烈な太陽光が弱った心をこれでもかと云うくらいに容赦なく苛(さいな)む。

デミグラスハンバーグステーキ弁当と枝豆、発泡酒を買って、イートインコーナーへ。

 

 
全身、頭の先から足の爪先まで心身共にボロボロ状態で枝豆をふたサヤ食い、金麦をグビグビ飲んでテーブルに突っ伏す。
ハンバーグ弁当を半分食って、再び突っ伏す。

 

 
(╥﹏╥)ダメだあ〜、帰りたい。ズブズブの敗残者のメンタルや…。

でもこのあと熊がいると云う湿原に行くのだ。チップス先生、さようなら( ;∀;)

しーさんぷーたー。バラバラになった気力を何とか拾い集め、白馬から当初予定していたミヤマキシタバのポイントへと移動する。

 

 
ここはハンノキ林が多い。この場所でミヤマキシタバが採れなければ終わりだ。いよいよ本当に運を使い果たしたと認めざるおえない。

 

 
キャンプ場は無いので、今夜はテント野宿だ。
幸いにも工事用のトイレがあり、その横にスペースも結構あった。ゆえに充分な距離をおいてテントを設置できた。いくら何でもトイレの真横は嫌だもんね。
トイレ問題は重要だ。野糞は出来なくはないけど、やはりトイレは有った方がいいに決まってる。この精神状態で野糞なんかしたら、ますます惨めになるだろう。こういう一見小さな事が意外とボディーブローのように効いてきて、心の決壊に繋がることはままあるのだ。とにもかくにも1つ問題が解決してホッとする。

残る問題は奴の存在である。当初の予定通りにそこへ行くよとマオくんにLINEしたら、熊がいるから気をつけて下さいという返信があったのだ。まさかそんな標高の低い所にもいるとは思いもしなかった。完全に想定外だったよ。でも考えてみれば、湖にも熊が出まっせ看板があったもんなあ…。(༎ຶ ෴ ༎ຶ)くちょー、キミら何処にでもおるんかいのう。

湿原周辺を歩き回り、良さげなポイントを探す。
しかし、ぐるっと1周回ると思いの外(ほか)広い。ポイントらしき場所を幾つか見つけたが、そのポイント全部を回れそうにはなさそうだ。厳密的には回れなくはないのだが、移動の時間的ロスが大きい。だいち、熊が恐えよ。奥に行けば行くほど遭遇率は高まりそうだもん。
ゆえに場所を大きく2箇所に絞ることにした。一方は壮齢木の多い暗いハンノキ林内、もう一方は比較的明るい若いハンノキ林の林縁を選定した。環境を少し変えたのは、確率を考えての事だ。ミヤマキシタバを採ったことがないゆえ、どんな環境を好むか分かんないのだ。負けっぱなしなだけに慎重にならざるおえない。
その2箇所に広範囲に糖蜜かけまくりのローラー作戦を敢行することにする。もしダメなら、別なポイントに行くしかない。
にしても、どの時点で見切りをつけるかだ。ウスイロキシタバの時は見切りをつけるのが早過ぎて失敗したからね。かといって判断が遅いと手遅れになりかねない。ゴールデンタイムは8時前後から8時半なのだ。それを過ぎると一旦個体数が減る種が多い。特に9時台は止まる。つまり8時を過ぎても飛んで来なければ、ヤバい。しかし、日によっては全体的に飛来時刻が遅れる場合もあるし、カバフキシタバのように8時半になってから漸く現れる種もいるのだ。ミヤマがそっちタイプの可能性だって有り得るのである。悩ましいところだ。判断次第では大コケしかねない。選定した場所が当たりであることを祈ろう。

淋しき夕暮れが終わると、闇の世界の支配が始まった。
暗い。というか黒い。懐中電灯の光で切り取られる湿地はチビりそうなくらいに不気味だ。大体、澱んだ水のある場所ってヤバいんだよね。出ると相場が決まっている。そうゆう所は、京都の深泥池のように心霊スポットになってる場所が多いのである。😱想像して背中が怖気(おぞけ)る。お化けの恐怖と熊の恐怖に怯えながら糖蜜を木に噴きつけてゆく。

暫くしてベニシタバがやって来た。
しかも、立て続けに。

 
【ベニシタバ】

 
美しいけど白馬にもいたし、もう感動は無い。
会いたいのはアナタじゃないのよー(´ε`;)。お目にかかりたいのは、灰かぶりの黄色いシンデレラなのだ。

午後8時近くになってもシンデレラは現れない。
(ー_ー;)ヤバいかも…。
それって、マズくなくなくね❓
普通、糖蜜を撒いたら、大概のカトカラは日没後直ぐか、少し間をおいて集まってくるものだ。まさかのカバフタイプ❓けれども、そんな奴はカバフしか知らない。その確率は低そうだ。やっぱミヤマキシタバって、難関と言われるだけあって採集は難しいのかなあ…。確か「世界のカトカラ(註2)」でも採集難易度が★4つになってた筈だし、灯火採集でも深夜0時を回らないとやって来ないというしさあ。

シンデレラ〜が、死んでれら(ŎдŎ;)

思わずクズみたいな駄洒落を呟いてしまう。重症だ。連敗続きでコワれかけてる。でもクズみたいな冗談でも言ってないと、心の平静が保てないのだ。

駄洒落を言ってる間にも、時間は刻一刻と過ぎてゆく。

さっき、チビッコの死ね死ね団が足元を走っていったような気がする。

心がピンチになると珠に見る幻覚だ。いよいよ、それだけ追い詰めらてる証左って事か。ここでミヤマキシタバが採れなければ、心は完全に崩壊して、チビッコ死ね死ね団くらいでは済まないかもしれない。ダダっ子ぽよぽよ団まで登場すればお終いだ。
焦燥感に居た堪(たま)れなくなって、腕時計に目をやる。
時刻は8時15分になっていた。(-_-;)マジ、ヤバいかも…。
場所を変えるべきか悩みつつ、2箇所を往復する。此処を諦めてポイントを変えるなら8時半、少なくとも9時前までには決断しなければならないだろう。でも靴ズレの痛みが増してきてる。いよいよもって崖っぷちだ。この心と体で、はたして移動できるのだろうか…。

午後8時半過ぎ。
完全にヤバい時間になったなと思いつつ、若木ポイントへと入る。
Σ( ̄□ ̄||)ハッ❗❓
糖蜜を噴きつけた1本目の木に近づこうとして足が止まった。見慣れないカトカラが吸汁にやって来ていたのだ。

コレって、ミヤマキシタバじゃなくなくね❗❓

いや、そうだ。図鑑を何度も見て、姿を脳ミソにインプットしたのだ。間違いなかろう。急速にヤル気モードで全身が武装化される。ここで会ったが百年目、漸くチャンスが巡ってきた。武者震いが走る。
しかし問題はどう採るかだ。網を使うか毒瓶を使うかで迷う。網を使えば、中で暴れて背中がハゲちょろけになる公算が高まる。かといって毒瓶を上から被す方法だと落ち武者にはなりにくいが、逃げられる可能性大だ。
でも迷ってるヒマはない。その間に逃げられたら噴飯ものだ。コヤツが最初で最後の1頭かもしれないのだ。このチャンス、何があっても絶対に逃すわけにはいかぬ。ならば、この戦法しか有るまい。

ここは肉を切らして骨を断つ❗

よし、網で採ろう。先ずは採ることが先決だ。たとえハゲちょろけになろうとも、採れたという事実さえあれば良い。ゼロと1とでは雲泥の差なのだ。それに網で採ったからといって、ハゲちょろけになると決まったワケではない。細心の注意を払って取り込めば何とかなる。

慎重に近づく。ここで逃したら、ダダっ子👻🤡👽🤖ぽよぽよ団たちに捕まって担ぎ上げられ、エッサホイサと運ばれて沼に沈められるやもしれん。で、河童に尻子玉を抜かれるのだ。尻子玉が何たるかはよくワカランが、気合を入れ、心頭を滅却する。
網の柄をスウーッと体の中心、丹田に持ってゆく。そして右足を後ろに引いて腰を落とし、斜めに構える。な、いなや、標的の直ぐ真下に向かって撞きを繰り出す。

とぅりゃあ〜∑(#`皿´ )ノ
秘技✨撞擲ウグイス返し❗

驚いて飛び立った瞬間に💥電光石火でカチ上げ、すかさず網先を捻る。一連の鮮やかな網の軌跡が残像となって脳内に余韻を残す。

(◡ ω ◡)決まったな。

しかし、悦に入っとる場合ではない。急がなければ背中がズルむけ赤チ○ポになりよる。慌てて駆け寄り、ポケットから毒瓶を取り出して網の中に突っ込む。
しかし、驚いたワイのシンデレラちゃんが暴れ倒して逃げ回り始めた。


(@_@)NOーッ、暴れちゃダメ〜。
お願いだから大人しくしてぇー❗
(`Д´メ)テメェ、手ごめにすんぞっ❗

´Д`)ハァ、ハァ。(゚Д゚;)ぜぇー、ぜぇー。
強姦まがいの力づくで何とか毒瓶に取り込んだ。

 

 
けど、(-_-;)やっちまったな…。
見事なまでのキズ物、スーパー落ち武者にしてしまった。

どうやらメスのようだね。メスなのに落ち武者って、何だそりゃ? 自分でも何言ってるのかワカンナイ。しかもシンデレラがハゲてるって、ムチャクチャだ。想像してアホらしくなる。

 

 
翅が他のカトカラと比べて円く、上翅のデザインに独特のメリハリがあって美しい。灰色の帯やギザギザの線が絶妙な位置に配され、上品且つスタイリッシュな魅力を放っている。
思ってた以上に(☆▽☆)キャッコいいー。あっ、久し振りに指が震えとるやないけ。これこそが虫採りの醍醐味であり、エクスタシーだ。だから、こんなにもボロボロにされても網を握れるのだ。やめらんねぇ。

 
(裏面)

 
腹が太くて短いから、やはりメスのようだね。
落ち武者にさせてしまったが、とにかく採れて良かった。心の底からホッとする。全身の力がゆるゆるとぬけてゆく。
これで”Facebook”で公約した通り連敗脱出。秋田さんの呪いの言葉も拭いさられただろう。もう意地である。阪神タイガースとは違うのだよ、クソ阪神タイガースとは。普段カッコつけてる分、そうそう負け続けるワケにはいかないのだ。
ここからは、怒濤の巻き返しの倍返しじゃ(#`皿´)❗

 

 
その後、憑き物が落ちたかのように彼女たちは続けて飛んで来た。しかし、ヒットしたのはこの周辺だけだった。ハンノキ林だったら何処にでもいると云うワケではなさそうだ。そこが珍品たる所以だろう。

 

 
コチラはオスだね。
尻が長くて、先っちょに毛束がある。

その後、何頭目かに漸く落ち武者化させずに回収することができた(画像は無い)。
だが、午前0時を過ぎると、全く姿を見せなくなった。シンデレラは魔女との約束を守って舞踏会から姿を消したのかもしれない。夜中2時まで粘ったが、二度と現れることはなかった。
それでも何とか計8頭が採れた。個体数は何処でも多くないと聞いていたから、まあこの数なら御の字だろう。

疲れ切った体でテントに転がり込む。
四肢を力なく広げて突っ伏し、目を閉じる。
熊の恐怖が一瞬、脳裡を過(よぎ)る。もしかしたら寝ている間に熊に襲われるかもなあ。
だが、あまりにも疲れ過ぎていた。

ミヤマキシタバも採った事だし…。
もう熊に食われてもいいや…。

そう思いつつ、やがて意識は次第に薄れていった。

                         つづく

 
その時に採った雌雄の展翅画像を貼っつけておきます。

 
【Catocala ella ミヤマキシタバ♂】

 
下翅中央の黒帯が一本で、外縁の黒帯と繋がらないのが特徴だ。日本ではソックリさんのキシタバは他に居ないので、まあ間違えることは無かろう。

 
【同♀】

 
この♀は、下翅がやや黒化している。
私見では♀は♂と比べて上翅の柄にメリハリがあるような気がする。けど、どこにもそんな事は書いてないし、言うほど沢山の個体を見ているワケではないので断言は出来まへん。

それはさておき、♀の展翅が前脚出しいのの、触角は怒髪天の上向き仕様になっとる。この時期はまだまだ展翅に迷いがあったのだろう。模索している段階で、どれが正しいのかワカンなくなってた。今でも迷ってるところはあるけどね。

 
追伸
やっぱり一回では終らないので、つづきは何回かに分けて書きます。
なお今回、ミヤマキシタバをシンデレラに喩えているのを訝る向きもありましょうが、意味するところは後々明らかにされてゆきますですよ、旦那。

えー、どうでもいい話だけど、前回に引き続き今回もアホほど書き直す破目になった。草稿は2週間前に書き終えてのにさ。
まあ、文才がないゆえ致し方ないのだろうが、やれやれだよ。

 
(註1)ただキシタバとフクラスズメ

【キシタバ】

 
何処に行ってもいるカトカラ最普通種だが、冷静に見れば大型で見栄えは悪くない。もし稀種ならば、その立派な体躯は賞賛されているに違いなかろう。実際、欧米では人気が高いそうだ。

それにしても、この和名って何とかならんかね。他のキシタバはミヤマキシタバとかワモンキシタバとかの冠が付くのに、コヤツはただの「キシタバ」なので、一々ただキシタバとか普通キシタバなどと呼ばなければならない。それがウザい。そうゆうところも、コヤツが蔑まれる原因になってはしまいか?
ちなみにアチキは「デブキシタバ」、小太郎くんは「ブタキシタバ」と呼んでいる。アレッ?「ブスキシタバ」だっけか? まあ、どっちだっていい。とにかく、どなたか偉い方に改名して欲しいよ。それがコヤツにとっても幸せだと思うんだよね。
そういえば、この和名なんとかならんのかと小太郎くんと話し合った事がある。その時に彼が何気に言った「オニキシタバ」とゆうのが個人的には最も適していると思う。ダメなら、学名そのままのパタラキシタバでいいんじゃないかな。

 
【フクラスズメ】

(出典『http://www.jpmoth.org』

 
手持ちの標本が無いので、画像をお借りした。不便だから1つくらいは展翅しておこうと思うのだが、そのままになってる。今年も何度も見ているのだが、採ることを毎回躊躇して、結局採っていない。正直、気持ち悪いのだ。邪悪イメージの蛾の典型的フォルムだし、ブスでデブでデカいから出来れば関わりたくないと思ってしまう。奴さん、性格も悪いしね。こんなもんが、覇王ムラサキシタバと間違えられてる事がしばしばあるのも許せない

 
【ムラサキシタバ】

 
色、柄、フォルム、大きさ、品格、稀度、人気度etc…、全てにおいて遥かにフクラスズメを凌駕している。月とスッポンとは、この事だ。

 
(註2)世界のカトカラ

 
カトカラの世界的研究者である石塚勝己さんの世界のカトカラをほぼ網羅した図鑑。日本のカトカラを知る入門書ともなっている。

 

マホロバキシタバ発見記 後編

 
   vol.20 マホロバキシタバ

   『真秀ろばの夏』後編

 
まほろばの夏は終わらない。
その後も奈良通いは続いた。次の段階は、この地域での分布と生態の解明だった。

岸田先生(註1)が帰京したのが7月16日。その2日後には先生肝いりの刺客として、ラオス在住で偶々(たまたま)帰国していた小林真大(まお)くんという若者が送り込まれてきた。彼はストリートダンスをしながら世界中の蛾を採集していると云う異色且つスケールのデカいモスハンターで、体力、運動神経ともに優れ、センス、知識、根性をも持ち合わせた逸材。おまけに男前で性格も良いときている。久々に虫採りの天才を見たと感じたよ。
彼は自分や小太郎くんが家に帰った後も、夜どおし原始林を歩き回って多くの知見をもたらしてくれた。その結果、分布や生態の調査が大幅に進んだ。
 
まだ不確定要素もありますが、それら分かったことを2019年だけでなく、2020年の分も付記しておきます。但し、まだまだ調査不足なので、以下に書かれた事は今後覆される事も有り得ると思って読んで戴きたい。

 
【マホロバキシタバ♂】

 
【同♀】

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
日本では、2019年の7月に奈良市で見つかった。って云うか、見つけた。
アミメキシタバやクロシオキシタバに似るが、表側の後翅中央黒帯と外縁黒帯とが繋がらず、隙間が広く開くことで区別できる。また、三者の裏面の斑紋は全く違うので、むしろ裏面を見た方が同定は簡単だろう。3種の判別法の詳細は前回に書いたゆえ、そちらを見られたし。

 
【雌雄の判別】
♂は腹部が細長くて、尻先に毛束がある。一方、♀は腹が短く、やや太い。また尻先にあまり毛が無くて上から見ると先が尖って見えるものが多い。とはいえ、微妙なものもいる。特に発生初期の♀は腹があまり太くないので分かりづらい。
確実な判別法は、裏返して尻先の形状をみることである。今一度、上記のメス裏面画像を見て戴きたい。尻先に縦にスリットが入り、黄色い産卵管が見えていれば(わかりにくいが尻先の黄色いのがそれ)、間違いなく♀である。

 
(オス)

 
♂は尻先の毛束がよく目立つ。

 
(メス)

 
なぜかメスの腹部が見えている写真が無い。なので、お茶を濁したような画像を貼っ付けておいた。意味ないけどー(´ε` )

 
(オス)

(メス)

 
表よりも裏の方が雌雄の区別はつきやすい事は既に書いた。しかし、時にオスの腹先の毛に分け目ができ、それが縦スリットのように見えてメスと見間違えるケースが結構ある。メスだと思ったら、最後に産卵管の有無を確認されたし。

 
(オス)

(メス)

 
実を云うと、横から見るのが一番わかりやすい。腹の太さと長さ、尻先の形、毛束の量がよく分かるからだ。また、上のようにメスの産卵管が外に飛び出ていれば、一目瞭然だ。

 
【学名】Catocala naganoi mahoroba Ishizuka&Kishida, 2019

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり、下翅が美しいことを表している。マホロバのように黄色い下翅を持つものが多いが、紫や紅色、オレンジ、ピンク、白、黒、象牙色等の種もいて、バリエーション豊かである。

台湾の基亜種は蛾の研究の大家である故 杉繁郎氏により1982年に記載された。
小種名の「naganoi」は「長野氏の」と云った意味である。

「The specific name of the present new species is dedicated to Mr Kikujiro Nagano(1868-1919), a pioneer lepidopterist of Japan, inyrho contributed much to taxonorny and biology at Nawa Entomolegical Laboratory, Gifu.」

記載論文に上記のような文章があったから、日本の鱗翅類研究の黎明期に名和昆虫館を創設した名和靖氏の片腕として働いた長野菊次郎(註2)氏に献名されたものであろう。

亜種名「mahoroba」は日本の古語「まほろば」からで、「素晴らしい場所、住みよい場所、楽園、理想郷」などの意味が込められている。また奈良の都を象徴する言葉の一つでもあり、県内ではポピュラーな名称だというのも命名の決め手となった。コレも詳細は前回を読まれたし。

残念ながら新種ではなく、Catocala naganoiの亜種となったので、小種名「mahoroba」は幻に終わってしまった。
ぶっちゃけ、分布調査をしていたワシと小太郎くんとマオくんとの間では絶対に新種になるだろうと話し合っていた。なぜならば、その時点では奈良県春日山原始林とその周辺でしか見つかっていなかったからだ。原記載亜種のいる台湾と奈良市とでは、海を隔てて遥か遠く離れている。分布が隔離されてから少なくとも30万年以上(註3)の時が経っているわけだから、両者は分化している可能性が極めて高く、ゲニ(註4)には何らかの差異が見い出されて当然だろうと思っていたのである。
また、記載を担って戴いた石塚さんに「その剛腕っぷりで、何とかして新種にして下せぇ。」とジャッキアップ掛けえので懇願してたのもある。石塚さんも「任しときぃー。」ってな感じだったからね。
石塚さんはカトカラの新種記載数の横綱を目指されており、キララキシタバを新たに記載するにあたり、モノ凄い数のゲニを切って執念で別種であることを突き止めたと岸田先生から聞いてたしさ。ならば今回も執念で新種であることを証明してくれるだろうと勝手に思い込んでいたのだ。実際、石塚さんとのメールのやり取りでは、早い段階で「軽微だが違いを見つけた」とも仰ってたからね。その調子で、決定的な差異も見つけてくれはるだろうとタカを括ってたところがある。
亜種に落ち着いたのは、あくまでも推測だが、石塚さんと岸田先生とで話し合った結果なんだろね。オサムシみたいに軽微な差異のものでも無理からに別種にしてしまうのはいかがなものか?と云う事なのだろう。それに関しては自分も以前から同意見だったので、致し方ない結果だとは思っている。両者の見てくれは、普通に見れば同種なのだ。長年、分布が隔離されているゆえ、別種になっている可能性もないではないが、両者の交配実験でもしない限りはワカランだろ。
まだ試みられていないといえば、DNA解析も気になるところではある。但し、DNA解析の結果が絶対だとは思わない。そこに問題点が全く無いワケではなかろう。そりゃあ、DNA解析の結果、マホロバが別種になれば嬉しいけど、ホシミスジの亜種を沢山作っちゃったり、ウラギンヒョウモンを3つに分けたりとか、正直なところ何でも有りかよと思う。DNA解析の結果が何でもかんでもまかり通るんだとしたら、可笑しな話だわさ。

惜しむらくは亜種になったので、女の子にならなかった事だ。自分はカトカラを女性のイメージで捉えている。だから偶然だけど、mahorobaの綴りの末尾が「a」で終わっているのを嬉しく思ってた。学名の綴りの末尾が「a」ならば、ラテン語では女性名詞になるからね。
一方「naganoi」の語尾の「i」は男性単数(1名)に献名する場合に付記されるものだ。ようはオッサンなのだ。菊次郎さんには申し訳ないが、オッサンの蛾なんてヤじゃん。

 
【和名】
前回と学名の項で既に和名の命名由来については述べているが、もう少し詳しく書いておこう。
「まほろば(真秀ろ場)」とは、素晴らしい場所、理想郷、楽園といった意味だが、実際のところマホロバの棲む一帯は素晴らしい場所だ。棲息地は、ほぼ手つかずの太古の森で、ナチュラルに厳かな気持ちになってしまうような巨樹が何本も生えている。何百年、何千年と生き長らえてきた木は特別な存在だ。見上げるだけで理屈なく畏敬の念が湧いてくる。その林内には春日大社があり、森の近くには興福寺五重塔や二月堂、三月堂、そして東大寺があって、大仏様がおられる。他にも名の知れた歴史ある古い社寺が沢山あり、阿修羅像や南大門の金剛力士像、戒壇院の四天王像などの有名な仏像彫刻、また正倉院には数多(あまた)の宝物もある。加えて神様の遣いである鹿さん達も沢山いらっしゃる。謂わば、此処は八百万(やおろず)の神々の宿る特別な場所であり、掛け値なしの「まほろば」なのだ。だからこそ名付けたと云うのが心の根本にある。そして、我々に滅多とない機会と栄誉を与えてくれた素晴らしい場所でもあるという想いも込められている。これらが根底にある偽らざるコアなる想いだ。

だが、そこに至るのにはそれなりの紆余曲折があり、実をいうとマホロバ以外の候補も幾つかあった。

『アオニヨシキシタバ』
青丹(あおに)よし 寧楽(奈良)の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり (万葉集巻三328)

奈良で最初に発見されたので、奈良に因んだ和名にしようと考えた時に真っ先に頭に浮かんだのが、小野 老(おのの おゆ)の有名なこの和歌だった。
意味は「奈良の都は今、咲く花の匂うように真っ盛りである」と謂ったところである。
ここで出てくる「にほう」とは嗅ぐ匂いの事ではなく、赤や黄や白の花の色が目に鮮やかに映えて見えるという奈良の春景色の見事さを表している。色の鮮やかさを「におふ」と表現しているところに、当時の人達の粋と感性の豊かさが感じられる。マホロバキシタバも下翅が鮮やかだし、名前としては悪かないと思った。しかし、一般の人からみれば、アオニヨシと言われても何のこっちゃかワカラナイだろう。語呂もけっしていいとは思えないので断念。

『ウネメキシタバ』
ウネメとは「采女」から来ている。奈良時代に天皇の寵愛が薄らいだ事を嘆き悲しんだ天御門の女官(采女)が猿沢池に身投げしたという。その霊を慰める為に池の畔に建立されたのが采女神社の起こりとされ、入水自殺した池を見るのは忍びないと、一夜にして社殿が池に背を向けたという伝説が残っている。
古(いにしえ)の伝説というのは神秘的な感じがして、いとよろしだすな。マホロバキシタバの発見を伝説になぞらえ、重ね合わせるといった趣きもあるじゃないか。
女性というのもいい。自分の中では、基本的にカトカラは女性のイメージだからね。
それに毎年、秋(中秋の名月)になると「采女祭」が開催され、地元では名のしれた祭だと云うのもある。名前は棲息地近辺に住む人々に愛されるのが理想だからね。
しかし猿沢池となると、棲息地とはちょっと離れていて、森ではなく、町なかだ。さりとて、この神社は春日大社の末社でもあるワケだから、無理からに関連づけてしまう事も可能だ。けんどさあ、よくよく考えてみれば不幸な女の話だ。縁起が悪いのでやめておくことにした。
昔から不幸な女には近づかないようにしている。負のエネルギーの強い女をナメてはいけない。運の太いワシでも負のパワーに引きずり込まれそうになったもん。

ベタなところでは、以下のような候補もあった。

『マンヨウキシタバ』
これは「万葉(萬葉)」からだ。春日山の原始林を万葉の森と呼ぶ人もおり、また棲息地の春日大社の社域には「萬葉植物園」もあるからだ。「万葉集」に繋がるイメージも喚起されるだろうから、雅な趣きもある。
しかし、ベタ過ぎだと思って外した。なんか語呂の響きもダサいしさ。

『カスガノキシタバ』
春日大社一帯は「春日野」と呼ばれ、また住所も春日野町という事からの着想。
名前の響きは悪かない。しかし、春日と名のつく地名は全国に幾つもある。混同を避けるために却下。

そういえば、その関連で、↙こうゆうのもあったな。

『トビヒノキシタバ』
春日野からの連想である。これは棲息地が飛火野に隣接しているからだ。って云うか、少ないながらも飛火野にもいる。
飛火野とは、春日山麓に広がる原野のことを指す。ここは春日野の一部であり、また春日野の別称でもあって、風光明媚なことから鹿たちの楽園としてもよく知られている所だ。和名としては、そう悪かないと思う。しかし、漢字はカッコイイんだけど、カタカナにすると何かダサい。拠ってスルー。
因みに「飛火野」の地名は、元明天皇の時代に烽火(のろし)台が置かれたことに由来する。
ウネメもそうだけど、天皇さんに由縁する言葉は何となく高貴な気がするし、歴史を感じるんだよね。それってロマンでしょう。そこには少し拘ってたような記憶がある。

そう云う意味では「マホロバキシタバ」だって天皇とは関係がある。有名な「倭は 国の真秀ろば 畳なづく青垣 山籠れる 倭しうるわし」という歌は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が詠んだとされているからだ。日本武尊は天皇その人ではないが、天皇の皇子だもんね。つまり皇族なのだ。高貴な身の上でありんすよ。どころか古代史上の大英雄だ。スサノオがヤマタノオロチから取り出して天照大神に献上した伝説の剣「草薙の剣」をアマテラスから貰って、バッタバッタと敵をブッた斬るんだもんね。
余談だが「ヤマトタケルノミコトキシタバ」というのも考えないではなかった。けど長過ぎる。「ヤマトタケルキシタバ」でも長いくらいだ。それに捻りが無くて、あまりにも名前が仰々し過ぎるのでやめた。正直、そこまでマホロバをジャッキアップするのは恥ずかしい。もし伝説の英雄になぞらえるとするならば、よほどデカいとか孤高の美しさや異形(いぎょう)で特異な見てくれでないとダメでしょうよ。日本の何処かで、とんでもなく凄い見てくれの固有のカトカラを見つけたとしたら、つけるかもしんないけどさ(笑)。

ついでに言っとくと、絶対に命名を避けたかったのが「ナラキシタバ」と「ヤマトキシタバ」。
「ナラキシタバ」は、もちろん奈良黄下羽である。全く捻りが無くて、こんなの小学生でも思いつくレベルだ。想像力と語彙力がゼロだと罵られても致し方なかろう。また語源が木のナラ(楢)と間違われる可能性もある。食樹がミズナラやコナラ等のナラ類だと感違いする人だっているかもしれない。二重にダサいネーミングだ。

「ヤマトキシタバ」の「ヤマト(大和)」は、昆虫の名前として使い古されてる感があり、国内新種なのに新しい雰囲気がどこにも感じられない。
「アンタ、考えるのが面倒くさかったんとちゃうかあ❓それって怠慢やろが。」と言われて然りのネーミングだろう。
それに「ヤマトシジミ」や「ヤマトゴキブリ」「ヤマトオサムシ」などのド普通種の駄物イメージ満載である。ヤマトと名の付く虫は「ヤマトタマムシ」だけでヨロシ。
いっそのこと「ヤマトナデシコキシタバ(大和撫子黄下羽)」にしたろかとも思った。けれど長いし、だいち言いにくい。
「ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ、ヤマトナデシコキシタバ」と3回早口で言うてみなはれ。噛む人、絶対おるで。
ならばと「ナデシコキシタバ」も考えてみた。「なでしこ」は、女子サッカー日本代表の「なでしこJAPAN」の愛称でもあるし、いい感じではある。しかしヤマトを外してしまったら、奈良は関係なくなるから元も子もない。それこそ本末転倒だ。
それにヤマトナデシコキシタバだと「メルヘンチックだとか、ポエムかよ❗」と笑われそうだから即座に脳内から消した。「フシギノモリノオナガシジミ」とかみたく失笑されるのはヤだもんね。
名前を付けるのって、その人のセンスが問われるから大変なんだと思い知ったよ。「フシギノモリノオナガシジミ」だって、付けた方はウケ狙いではなく、一所懸命に考えられて良かれと思って付けたに違いあるまい。
あんまし人のつけた和名の悪口言うの、やめとこ〜っと…。

(´・ω・`)しまった。どうでもいいような事に膨大な紙数を費やしてもうた。スマン、スマン。話を前へ進めよう。
おっと、そうだ。でも、ちょっとその前に書いておかなきゃなんない事を思い出したよ。申し訳ないが、もう少しお付き合いくだされ。

別種ではなく亜種になったんだから、和名は先に石塚さんが台湾の名義タイプ亜種に名付けた「キリタチキシタバ」なんじゃねえの❓と云うツッコミを入れてる人もいそうだね。私見混じりだが、マホロバキシタバになった経緯についても書いておこう。
これは自分たちが絶対に新種だと思ったから「マホロバキシタバ」と名付けて使いまくってた事に起因する。つまり新種の体(てい)で話が進んでいたのだ。新種ならば、当然名前が必要となるから名づけた。その名前を気に入って戴いた方も多かったようで、やがて関係者の間では「マホロバキシタバ」が当たり前のように使われるようになった。その後、亜種になっても、何となく「マホロバキシタバ」がそのまま使われていた。特にそれについての議論なり、協議は無かったと思う。石塚さんも何も言わなかったしさ。もしかしたら、岸田先生と石塚さんの間では何らかの話し合いがあったのかもしれないけどね。
そして『月刊むし』で発見が公表されるのだが。その際の和名も「マホロバキシタバ」のままだった。結果、キリタチではなく、マホロバの方が世間的にも定着していったってワケ。
又聞きの話だが、キリタチの和名をつけた石塚さんに、そうゆうツッコミを実際に入れた人がいたようだ。でも、ツッ込まれた石塚さんが『いいんだよー、マホロバでぇー。』と仰ったらしい。石塚さん御本人がいいって言ってんだから、それでいいのだ。もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓(註5)
亜種和名があるってのは、すごく光栄なことだと思う。幸せだ。
とはいえ、ヤヤこしいからやっぱ新種になんねぇかなあ(笑)

 
【英名】
英名は勿論ない。ゆえにここでドサクサ紛れに提唱しておこう。
「まほろば」は素晴らしい場所という古(いにしえ)の言葉だから、さしづめ『Great place underwing』といったところだろうか。カトカラは下翅に特徴があるゆえ、「Underwing」と呼ばれているのだ。
しかし外国人からすれば、「Great place」なんて何の事やら分からんだろう。和歌とか知らんし。
となると、やはり形態的特徴を示すような英名が妥当かと思われる。
マホロバキシタバの一番の特徴といえば、やはり下翅の黒帯が1箇所だけ繋がらず、隙間が開いている点だろう。帯が多い系のキシタバで、こういうのは他にあまりいないようだからね。
となると、『Broken chain underwing』ではどうだろうか❓ 意味は「断ち切られた鎖」。
とはいうものの、あくまでもお遊びの範囲内での話だから、他に相応しいモノがあれば、それでも構わない。そうゆうスタンスです。
とここまで書いて、『Great place underwing』でもいいかなあと思い直した。考えてみれば、奈良の都は世界遺産である。その時点でもう世界的に素晴らしい場所だと認定されているじゃないか。昨今は多くの外国人観光客も訪れているワケだから、外国でもかなり認知されてるんじゃないかと思われる。何せ、野生の鹿とあれだけ簡単に触れ合える場所は世界的にみても珍しいからね。我々にはそうゆう概念はあまりないけど、あれは一応野生動物だかんね。野生動物と気軽に触れ合える事のない外国人は大喜びなのさ。
まあ、本音はどっちゃでもいいけどね。どっちも悪くないと思うもん。

 
【変異】
大きな変異幅は見られないが、それなりにはある。
よく見られるタイプの一つは、上翅がベタ柄なもの。

 

 
冒頭に貼付した♂の画像もこのタイプである。
或いは♂に、このタイプが多いのかもしれない。

もう一つのタイプは上翅にメリハリのあるもの。

 

 
何れも♀である。冒頭の♀もこのタイプだし、もしかしたら、ある程度は雌雄の判別に使える形質かもしれない。
でも、微妙なのもいるんだよね。

 

 
コヤツなんかはメリハリがそれなりにあるけど♂である。
まあ、傾向として有ると云う程度で心に留めて下さればよろしかろう。

稀に上翅の中央に緑がかった白斑が入る美しいものがいる。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
コヤツらもメリハリがあるけど、ちょっと自分でも雌雄がよくワカンナなくて、♂か♀かは微妙なところだ。
とはいえ、両方とも♂かなあ…。

また、上翅が蒼っぽくなった個体が1頭だけ採れている。

 

 
コレもどちらかというとベタ柄の♂だ。やっぱ、雌雄の上翅の違いは有るかもしんないね。面倒なので展翅した個体全部の画像は貼付しないけど、傾向としては有ると言ってもいいような気がする。恣意的な部分を差し引いても、そんな気がする。とはいえ、白斑が発達した奴はたぶん♂だもんなあ…。まあ、補助的な要素として頭に入れておいても損はないだろう。

帯に隙間はあるが、上翅の茶色みが強くてアミメキシタバみたいなのもいる。

 

 
と云うか、コレってアミメキシタバそのものかもしんない。或いはハイブリッド❓(笑)。まあ、それは無いとは思うけどさ。アミメかもと思ったのは上翅の柄からだ。色が茶色いというのもあるが、マホロバみたく鋸歯状の柄が目立たず、その形も違うように見えたからだ。
こういうややこしい場合は裏面を見ましょう。それで簡単に判別できるだろう。面倒だから、この個体を探し出してまで裏面写真は撮らないけどさ。前編から長い文章を書いてきて、もうウンザリなのだ。これ以上は頭を悩ませたくない。どうせアミメだしさ。

因みにパラタイプ標本に指定してもらったものは、ちょっとだけ変。だから、展翅が今イチだけど出した。パラタイプは、バリエーションがあった方がいいと思ったのである。

 

 
ベタ柄の♂だが、よく見ると上翅に丸い斑紋がある。

自分らの標本をパラタイプに指定して貰おうと云うのは小太郎くんの発案だった。全くそういう発想が無かったから有り難い。何かタイプ標本を持ってるって、自慢っぽくて(◍•ᴗ•◍)❤嬉しいや。
石塚さん、我々のワガママをお聞き下さり、誠に有難う御座いました。

 
【近縁種】
『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』と云う論文によれば、Catocala naganoi種群には、交尾器、翅のパターン、及びDNA解析(COI 5 ‘mtDNA特性)に基づいて、以下のようなものが含まれるとしている。

■Catocala naganoi Sugi、1982
キリタチキシタバ(マホロバキシタバ)
分布地 台湾・日本
ホロタイプ標本は桃園県。パラタイプには、新竹県のものが指定されている。また有名な昆虫採集地であるララ山でも採集されているみたいだ。ネットで見た限りでは稀な種のようだね。

 
■Catocala solntsevi Sviridov、1997
タムダオキシタバ
分布地 ベトナム〜中国南部
グループの中では一番分布域が広く、最近になって台湾でも見つかったそうだ。マホロバに似るが幾分大きく、前翅亜基線より内側が濃褐色になる傾向がある。
石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、成虫は5〜6月頃に出現し、あまり多くはないという。食樹は不明とのこと。

 
■Catocala naumanni Sviridov、1996
分布地 中国雲南省
雲南省北部の標高2000mを超える地域に見られる。
「naumanni」という小種名が気になる。もしかして、コレってナウマン象とか関係あんのかな?

 
■Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017
分布地 ベトナム中央高地・中国雲南省
外観はマホロバよりもアミメキシタバに似ている。
主な分布地はベトナムで、標高1600〜1700m以上で得られている。食樹は不明。
年一化が基本のカトカラ属の中では珍しく、と云うか驚いたことに新鮮な個体が5月、6月、7月、10月、12月に得られているという。新北区(北米)では、幾つかの大型のカトカラ種が同じような発生パターンを持っているそうだ。多化性だとしたら、俄かには信じ難い。カトカラと云えば、殆んどの種が年一化だ。日本で多化性なのは、今のところはアマミキシタバだけなのだ。
余談だが、学名の小種名は世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに献名されたものである。

 

(出展『Catocala katsumii Kons Jr, Borth, Saldaitis & Didenko, 2017』)

 
上の図版には、C.naumanniの画像が入っていないので、別な図版を貼っつけておく。

 

(出展『Catocala naumanni Sviridov、1996』)

 
因みに石塚さんは、C.naumanniを同グループには入れられておられない。とはいえ、DNA解析のクラスター図にはあるので含めた。一応、その図も載せておこう。

 

(出展 2点共『FIGURE 2 in The Catocala naganoi species group (Lepidoptera: Noctuidae), with a new species from Vietnam』)

 
見た目が似ているアミメキシタバやクロシオキシタバは、クラスターには入っていない。つまり似てはいても系統は別だと云うことだ。どうやらキシタバの仲間は見た目だけでは類縁関係は分らないって事だね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(裏面)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(裏面)

 
とはいえ、DNA解析の結果が絶対ではないだろう。クラスターの中に全然見た目の違う C.kishidai なんかが入ってるしね。このアマミキシタバっぽいタイプの奴って、そもそも昔はカトカラ属に入ってなかった筈だしさ。カトカラじゃなくて、クチバの仲間だと考えてる人も多いみたい。こう云うのを見ると、DNAの解析結果を鵜呑みにしてはならないとは思う。

しかし、あとで『世界のカトカラ』を見てて、重要なミステイクに気づいた。Catocala kishidai キシダキシタバについての認識が完全に間違ってました。先の naganoiグルーブの図版の中のキシダキシタバの画像が小さいので、下翅だけを見て、うっかりアマミキシタバみたいだと思ってしまったのだ。でも、『世界のカトカラ』に載ってるキシダキシタバの上翅を見て、アマミキシタバとは全然違うことに気づいた。上翅の色、柄、形は完全にnaganoiグルーブのものだ。前言撤回です。ゴメンなさい。

 
【キシダキシタバ Catocala kishidai】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ミャンマーで発見された極珍のカトカラで、図鑑にはこのホロタイプの1個体しか知られていないと書かれていた。その後、再発見されてるのかなあ❓…。
たぶん学名の小種名は岸田泰則先生に献名されたものだろう。

 
【開張】
52~60㎜。
中型のカトカラにカテゴライズされるが、その中では大きい部類だろう。

 

 
最大級サイズものと最小個体を並べてみた。
結構、差があるね。でも大きさのバラツキは少なく、55mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
岸田先生肝いりの刺客として送り込まれてきたマオくんのおかげで、一挙に春日山周辺の分布調査が進んだ。
因みに虫採り名人秋田勝己さんも一日だけ参戦され、調査に御協力くださった。秋田さんはゴミムシダマシやカミキリムシの調査で原始林内を熟知されており、マオくんとコンビを組んでもらって彼に樹液の出る木を伝授して戴いた。調査地域は北部の若草山とその周辺をお願いした。
小太郎くんには最もしんどくてツマンなさそうな東側を担当してもらい、自分は南部から南東部を担った。
それにより、原始林の南西部や西部の他に、予想通り北西部や北部の若草山周辺、南部の滝坂の道でも見つかった。調査不充分で、まだ南東部や東部では見つかっていないが、そのうち確認されるだろう(とはいえ、個体数は少ないものと思われる)。
おそらく発生地は春日山原始林内で、その周辺の二次林には吸汁に訪れるものと思われる。あくまでも予想だが、それより離れた場所では見つからないだろう。離れれば離れるほど棲息に適した場所が無いからだ。つまり移動性は高くない種だと考えられる。否、飛翔力はあっても、移動したくとも移動できない種と言うべきか…。
尚、奈良公園、春日山原始林、春日大社所有林での昆虫採集は禁じられており、採集には許可が必要となる。

 

(改めて見ると、許可証じゃなくて許可者なんだ…)

 
その後、2020年春に岩崎郁雄氏によって宮崎県でも採れている事が分かり、月刊むし(No.589,Mar.2020)で報告された。氏の標本箱の中から見い出されたという。採集地は以下のとおりである。

「2015.7.25 宮崎県日南市北郷町北河内 1♂」

採集は氏御本人で、宮崎昆虫調査会主催の夜間採集の際に樹液の見回りにて採集されたものだ。ハルニレの樹液に飛来していたそうで、当時はアミメキシタバと同定されていたという。
他に、鹿児島県でも過去の標本から見つかったと聞いている。
どちらの場所にも、今年2020年に蛾類学会の調査が入ったようだし、地元の虫屋も探す筈だから、再発見の報が待たれるところだ。
たぶん九州には豊かな照葉樹林が比較的多いから、他の県でも見つかる可能性は高いと思われる。そのうち多産地も見つかるだろう。採りたい人は、採集禁止区域の多い奈良よりも九州に行った方がいいかもね。

見た目はアミメキシタバとクロシオキシタバに似ているから、標本箱の中をチェックした人は多かったみたいだね。でも紀伊半島南部のアミメやクロシオの標本の中からはまだ発見されていないようだ。
因みに、T中氏が紀伊半島南部にも絶対いる筈だから本格的に探すと言っておられた。しかし、まだ採ったと云う話は聞かない。紀伊半島南部にも居るとは思うけど、九州に居るのなら、むしろ四国に居る可能性の方が大かもね。他には中国地方でも良好な環境の照葉樹林があれば、居ても何らオカシクない。
あくまでも自分の想像だが、好む環境は手つかずの照葉樹林、及びそれに近い自然林で、空中湿度が高く、イチイガシのある森ではないかと思われる。謂わば、ルーミスシジミやヤクシマヒメキシタバが好む環境ではなかろうか❓(かつては春日山もルーミスの多産地だったが、台風後の農薬散布で絶滅したと言われて久しい)。

 
(ルーミスシジミ)

(2017.8.19 和歌山県東牟婁郡古座川町)

 
そう云う意味では、千葉県のルーミスシジミの多産地にも居る可能性はある。確率は低そうだけどもね。

 
【発生期】
日本では年一化と推定される。最初に見つけた7月10日の計9個体のうち、既に2頭がかなり翅が傷んでいた。この点から、おそらく7月上旬からの発生で、早いものは6月下旬から現れるものと思われる。最盛期は7月中旬で、下旬になると傷んだ個体が目立ち始める。
小太郎くんが最後に見たのが8月15日か16日で、♂はボロボロ、♀は擦れ擦れだったそうだ。現時点ではまだハッキリとは言明できないが、たぶん8月下旬くらいまでは生き残りの個体が見られるのではないかと思われる。
尚、此処にはアミメキシタバも生息しており、マホロバに遅れて7月中旬の後半から見られ始めた。他の場所はどうあれ、此処ではアミメの方がマホロバよりも小さい傾向が顕著で、両者の区別は瞬時につきやすい。また驚いたことに7月下旬になるとクロシオキシタバも1個体のみだが見つかった。

『月刊むし』にはこう書いたが、2020年の発生は予想を覆すものだった。6月下旬には見られず、7月に入っても姿が確認できなかった。小太郎くんが7月5日に確認に行っても見られず、ようやく発生が確認されたのは何と7月9日だった。去年に発見した7月10日と1日だけしか変わらない。年により発生期に多少の変動があるのだろうが、これは意外だった。となると、7月上旬ではなく、7月中旬の発生なのだろうか❓
どちらにせよ、来年の調査を待って最終的な結論を出さねばならないだろう。

個体数は2019年は多く、林内ではキシタバ(C.patala)に次ぐ数で、1日平均10頭くらいは見られた。しかし2020年は1日平均3頭以下しか見られなかった。
よくよく考えてみれば、2019年だって厳密的には個体数が多いとは言い切れないところがある。なぜなら、樹液の出てる御神木があって、林内には他に樹液の出てる木が殆んど見られなかったからだ。つまり其処に集中して飛んで来ていた可能性が高いとも言えるのだ。ゆえに、それだけの数が採れただけであって、もしかしたら元々はそんなに個体数が多い種ではないのかもしれない。
ただ、2020年はマホロバだけでなく、他のカトカラの個体数も少なかった。春日山原始林のみならず、関西全体どこでもそうゆう傾向があったから、何とも言えないところはある。春先が暖かくて、その後寒波が訪れた影響かもしれない。食樹がまだ芽吹いていないのに孵化してしまい、餓死したものが多かったのだろう。テキトーに言ってるけど。
個体数についても来年また調査しなくてはならないだろう。来年も少なければ、稀種だね。
それに、たとえ発生数が多くとも御神木の樹液が渇れてしまえば、かなり採集は困難となる(これについては後述する)。たとえ2020年と同じ発生数だったとしても、あんなには採れないだろう。何だかんだ言っても稀種かもね。

 
【生態】
クヌギ、コナラの樹液に飛来する。今のところヤナギや常緑カシ類の樹液では確認されていない。
飛来時、樹幹に止まった時は翅を閉じて静止する。その際、下翅を一瞬でも開くことはない。但し、小太郎くんが一度だけだが見たそうだ。

 

(撮影 葉山卓氏)

 
また更に特異なのは、多くのカトカラが樹液を吸汁時にも下翅を見せるのに対し、一切下翅を開かないことである。その為、木と同化して視認しづらく、しばしば姿を見失う。
樹液にとどまる時間は割りあい短く、警戒心が強くて直ぐ逃げがち。懐中電灯を幹に照らし続けていると、寄って来ない傾向がある。また、御神木ではキシタバ(Catocala patala)が下部の樹液にも集まるのに対して、2.5m以上の箇所でしか吸汁しなかった。
静止時の見た目は他のカトカラと比べて細く見える。これは上翅を上げて下翅を見せないところに起因するものと思われる。他のヤガ、特にヨトウ類とは見間違えやすいので注意が必要である。角度によっては今でも珠にヨトウガをマホロバと見間違える事がある。見たことがない人には、逆にマホロバがヨトウガにしか見えないだろう。
個体にもよるが、懐中電灯の灯りを当てると概ね緑色っぽく見える。飛来時、この点でアミメキシタバや他のカトカラとは判別できる。アミメは上翅が茶色に見えるし、小さいからね。
但し、慣れればの話であって、見慣れていない人には難しいかもしれない。

 
(マホロバキシタバ)

(画像提供 葉山卓氏)

 

 
昼間の自然光の中では、それほど緑っぽく見えない。

 

 
お次はアミメちゃん。

 
(アミメキシタバ)

(出典『里山ひきこもり−豊川市とその周辺の鳥と虫』)

 
なぜだか夜に撮った写真がないので、画像をお借りした。
懐中電灯で照らすと、大体はこんな風に茶色に見える。

 

 
昼間に見ると、当然の事だがバリ茶色い。
一応、クロシオキシタバの画像も貼っつけとくか。

 
(クロシオキシタバ)

 
クロシオは上翅の変異に幅があるのだが、青緑っぽく見えるものが標準タイプだ。

 

 
デカいので基本的にはマホロバと見間違うことはなく、むしろパタラキシタバ(C.patala)と間違えやすい。小さめのパタラに見えるのだ。但し、マホロバにも珠にデカいのがいるので、注意が必要。

樹液への飛来時刻はパタラ等と比べてやや遅れ、日没後少し間をおいて午後7時半過ぎくらいから姿を見せ始める。以降、数を増やし、8時前後がピークとなり、9時くらいになると急に減じることが多かった。他のカトカラと同じく飛来が一旦止まるのだ。そして10時前後から再び現れ始める。しかし断続的で、最初の飛来時よりも数は少ない。但し、その日によって多少の時間のズレはある。また晴れの日でも小雨の日でも関係なく見られ、天候による飛来数の差異は特に感じられなかった。
とはいえ、2020年は1頭も見られない日や飛来が午後9時半近くになって漸く始まった日もあった。両日共に特に変わった天候でもなかったから、頭の中が(?_?)❓だらけになったよ。我々の預かり知らぬ某(なにがし)かの理由があったのだろうが、全くもって不思議である。

糖蜜トラップも仕掛けたが、フル無視され続けた。マオくんのトラップにもずっと寄って来なかったが、キレて帰り間際に木にバシャっと全部ブチまけたら、一度だけだが来たらしい。彼曰く、酢が強めのレシピには反応するのかもしれないとの事。2019年は、この1例のみだった。
2020年にも糖蜜トラップを試してみた。しかし自分を含め、小太郎くんや蛾類学会の人達も糖蜜を撒いたにも拘わらず、全く寄って来ない日々が続いた。その後、漸く蛾類学会の人の糖蜜に一度だけ飛来し、2日後(7月20日)には自分の糖蜜にも一度だけ飛来した。何れも複数の飛来は無く、1頭のみである。樹液を好むカトカラは糖蜜にも寄ってくるというのが常道だから、ワケがわかんない。これだけ試しても3例のみしかないと云うのは謎である。正直なところ糖蜜で採集するのは、今のところかなり難しいと言わざるおえない。

ここまで書き終えたところで、追加情報が入った。
クワガタ用のフルーツ(腐果)トラップにも来たらしい。但し、2日間で各々1度ずつのみとの事。御神木の樹液が渇れていた状態でもその程度なんだから、やはり餌系トラップで採るのはスペシャルなレシピでも開発されない限りは困難と言えよう。

2019年には大々的な灯火採集は行っていないが、小太郎くんが樹液ポイントのすぐ横に設置した小さなブラックライトに、採り逃がした個体が2度ほど吸い寄せられた事から、おそらく灯火にも訪れるものと予想された。
2020年に蛾屋さん達を中心に調査が行われた結果、灯火トラップにも飛来することが確認されたようだ。灯火には何となく夜遅くに飛来するのではないかと予想していた。理由はユルい。大体において良いカトカラ、珍しいカトカラというものは、勿体ぶって深夜に現れるというのが相場と決まっているからだ。だが、予想に反して点灯後すぐに飛来したと聞いている。飛来数は計3頭だったかな。但し、たまたま近くにいたものが飛来した事も考えられる。詳しいことは後ほど発表があるかと思うので、興味のある方は動向に注視されたし。
尚、春日山原始林内や若草山周辺では、許可なく勝手に灯火採集は出来ないので、その点は強く留意しておいて戴きたい。

昼間の見つけ採りも困難だ。今のところ数例しか聞いていない。羽の模様と木の幹とが同化して極めて見つけづらいのだ。夜間、樹液に来てても視認しづらいくらいなんだから、その辺は想像に難くなかったけどね。
2019年はマオくんがクヌギの大木のそれほど高くない位置に静止しているものを見つけている。小太郎くんも後日、その近くで見たそうだ(何れも若草山近辺)。
2020年の小太郎くんの観察に拠ると、生木よりも立ち枯れの木を好む傾向があり、静止場所はやや高かったという。自分は昼間の見つけ採りはあまり積極的にしていないが、もしかしたら基本的には視認しづらい高い位置で静止するものが多いのかもしれない。
また、木の皮の隙間に半分体を突っ込んでいる個体もいたという。となると、木の皮の下や隙間、洞に完全に隠れている者もいるかと思われる。これらの事から昼間には見つけにくいのかもしれない。

昼間、樹幹に静止している時の姿勢は下向き。非常に敏感で、近づくと直ぐに反応して逃げ、その際の飛翔速度は速いと聞いている。また藪に向かって逃げ、再発見は困難だそうだ。一度だけ追尾に成功した際は、下向きに止まっていたらしい。その際、上向きに着地してから即座に姿勢を下向きに変えたか、それとも直接下向きに着地したのかは定かではないという。

昼間は見つけにくいと言ったが、夜だって同じようなものだ。いや、下手したら昼間よりも見つからん。ヤガの仲間は夜に懐中電灯をあてると目が赤っぽく光る。だから、昼間よりも見つけやすい。なのに、森の中を歩く時は注意して見ているのにも拘わらず、まあ見ない。見られるのは樹液の出ている木の周辺くらいで、しかも珠にだ。他の多くのカトカラと同じく、おそらく樹液を吸汁してお腹いっぱいになったら、近くの木で憩(やす)むのだろう。そして、お腹が減ったらまた吸汁に訪れると云うパターンだ。とはいえ、他のカトカラ、例えばパタラやフシキ、クロシオ、アミメなんかのように樹液の出ている木や周りの木にベタベタと止まっていると云う事はない。
そういえば、日没前に樹液近くの木に止まっている場合もあった。夜の帳が落ちるまで待機していたのかもしれない。こう云う生態はカトカラには割りと見られる。その際の姿勢は上向きだった。夜間の向きは他のカトカラと同じく上向きだから、夕刻や夕刻近くになると上下逆になるのだろう。
昼夜どちらにせよ、視認での採集は極めて効率が悪い。
但し、例外はある。2020年8月6日に小太郎くんが訪れた時は何故か結構止まっている個体がアチコチにいて、計10頭以上も見たという。一日で確認された数としては極めて突出している。見ない事が当たり前で、見ても複数例は殆んど無かったのだ。ちなみに全て飛び古した個体で、不思議なことに全部オスだったそうだ。偶然かもしんないけど、興味深い。尚、御神木の樹液は既に止まっており、そこから約70mほど離れた所から奥側にかけてだったそうな。いずれにせよ、マホロバの行動は謎だらけだよ。

その小太郎くん曰く、♀の腹が膨らむのは7月末くらいからだそうだ。おそらく産卵は8月に入ってから行われるものと思われる。今のところ、産卵の観察例は皆無で卵も見つかっていない。
参考までに言っておくと、二人からそれぞれ石塚さんに生きた♀を7月中旬と8月初旬に送ったが、7月中旬に送ったものは産卵せず、8月のものは産卵したそうだ(孵化はしなかったもよう)。交尾後から産卵するまでには一定の期間を要するものと考えられる。尚、交尾中の個体もまだ観察されていない。

 
【幼虫の食餌植物】
現時点では不明だが、おそらくブナ科コナラ属のイチイガシ( Quercus gilva)だと推察している。中でも大木を好む種ではないかと考えている。
なぜにイチイガシに目を付けたかと云うと、奈良公園や春日大社、春日山原始林内に多く自生し、大木も多く、イチイガシといえば、ここが全国的に最も有名な場所だと言っても差し支えないからだ。しかも近畿地方ではイチイガシのある場所は植栽された神社仏閣を除き、此処と紀伊半島南部くらいにしかないそうだ。つまり、何処にでも生えている木ではない。もしマホロバキシタバの幼虫が何処にでも生えているような木を主食樹としているのならば、とっくの昔に他で発見されていた筈だ。と云う事はそんじょそこらにはない木である確率が高い。ならば、この森の象徴とも言えるイチイガシと考えるのは自然な流れだろう。
また林内には他に食樹となりそうなウバメガシが殆んど自生しないことからも、イチイガシが主な食樹として利用されている可能性が濃厚だと考えた。但し、正倉院周辺にシリブカガシの森があり、ムラサキツバメもいるので、そちらの可能性もゼロとは言えないだろう。シリブカガシも近畿地方では少ない木だからね。
因みに林内にはアラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、シラカシもあるそうだ。でもアラカシとシラカシは近畿地方では何処にでもあるゆえ、主食樹ではないものと思われる。またウラジロガシはヒサマツミドリシジミ、アカガシはキリシマミドリシジミの主食樹だし、けっして多くは無いものの、各地にあるから可能性は高くはないと思われる。

前述したが、マホロバはルーミスシジミなどのように空中湿度の高い場所を好む種なのかもしれない。
とはいえ、これだけでは論理的にはまだ弱い。イチイガシについて、もう少し詳しく調べておこう。

 
【イチイガシ(一位樫) Quercus gilva】

 
ブナ科コナラ属カシ類の常緑高木。
別名:イチガシ。和名はカシ類の中で材質が最も良いこと(1位)に由来する。よく燃える木を意味する「最火」に由来するという説もある。
分布は本州(千葉県以西の太平洋側と山口県)、四国、九州、対馬、済州島、朝鮮半島、台湾、中国。
紀伊半島、四国、九州には多いが、南九州では古くから植栽されて自然分布が曖昧になっているようだ。実際、天然記念物に指定されているイチイガシ林は南九州に多い。と云うことは、南九州の山地では普通に見られる木と考えても良さそうだ。
これはある程度知ってた。だから、この点からも九州を筆頭に紀伊半島南部や四国でもマホロバの分布が確認される可能性はあるだろうとは思ってた。実際、九州南部で過去の標本が見つかったからね。遅かれ早かれ、他の地方でも今後見つかるだろう。
また、イチイガシはマホロバの原記載亜種の棲む台湾にもあるみたいだから、食樹である可能性は更に高まったのではあるまいか。
あっ、そういえば台湾の佳蝶スギタニイチモンジって、イチイガシを食樹としてなかったっけ❓(註6)

低地~山地の照葉樹林に自生し、谷底の湿潤な肥沃地に多いそうだ。と云うことは、ルーミスやマホロバが好む環境とも合致する。春日山原始林内も小さな川が縦横に流れており、基本的には空中湿度が高く、標高も低いから良好な環境なのだろう。

東海~関東地方では少なく、見られるのは殆んどが社寺林である。北限(東限)はルーミスの多産地として有名な清澄山付近。静岡県以西では、ルリミノキ、カンザブロウノキなどを交えたイチイガシ群落を構成する。
神社に植栽されることが多く、特に奈良盆地で多く見られると書いてあった。他のサイトでも奈良公園と春日大社、春日山原始林に多いと書いてあるから、やはり相当イチイガシの多い場所なのだろう。

 

 
幹は真っ直ぐに伸び、樹高は30mに達し、幹の直径が1.5mを超える大木となる。長寿で、寿命は400~600年とされる。

 
(壮齢木)

 
樹皮は灰褐色で、成長するにつれて不揃いに剥がれ落ちる。

 
(若木の幹)

 
(葉)

 
(葉の裏側)

 
葉は先端が急に尖り、縁は半ばから先端にかけて鋭い鋸歯状となる。葉はやや硬く、若葉はその表面に細かい毛が密生し、後に無毛となり深緑色になる。又、裏は白に近い黄褐色の毛で覆われる。その為、木を下から見上げると黄褐色に見える。春先に見られる新芽も同じようにクリーム色で、よく目立つ。

花は雌雄同株で4〜5月頃に開花し、実(どんぐり)は食用となり、11~12月に熟す。カシ類では例外的に実をアク抜きしなくても食べることができ、生でも食べられる。そのため、昔は救荒食として重要な木であった。縄文時代から人間の食糧となっていたことが遺跡からも判明している。

丈夫な材が船の櫓に使われたことから「ロガシ」という別名もある。材は他のカシ類に比べて軽くて軟らかく、加工しやすくて槍の柄など様々な器具の材料に使われた。
和歌山県ではごく限られた地点に点在するのみであるが、遺跡からは木材がよく出土することから、かつてはもっと広く分布していたものと考えられ、人為的な利用によって減少したと見られる。和歌山県は紀伊半島南部なのに、意外と少ないのね。
ちょっと待てよ。紀伊半島の蝶に詳しい Mr.紀伊半島の河辺さんが、紀伊半島南部には意外とイチイガシが少なくて、ルーミスはむしろウラジロガシを利用している場合が多いと言ってなかったっけ❓
だとしたら、紀伊半島南部でのマホロバの発見は簡単ではないかもしれない。
あんまり変な事をテキトーに書くとヤバいので、河辺兄貴に電話した。したら、間違ってましたー。ワシの記憶力は鶏並みなのだ。兄貴曰く、和歌山、三重、奈良県共にイチイガシは多いんちゃうかーとの事。そしてルーミスは標高400m以下ではイチイガシを食樹として利用し、それより標高の高いところではウラジロガシを利用しているらしい。また、アラカシなど他のブナ科常緑樹も食ってるようだ。

イチイガシとアラカシの交雑種(雑種)が大分県で確認されている(イチイアラカシ(Quercus gilboglauca))。この事から、或いはアラカシを稀に食樹として利用しているものもいるのかもしれない。蛾類は蝶よりも幼虫の食樹が厳密的ではなく、科を跨いで広範囲に色んな植物を食すものも多いのだ。同じ科なら、飼育下では平気で何でも食うじゃろて。

一応、2020年の5月下旬に小太郎くんと幼虫探しをした。
しかし、思ってた以上にイチイガシが多く、大木も多かったから直ぐにウンザリになった。自分は、こうゆう地道な事には向いてないなとつくづく思い知ったよ。
小太郎くんは奈良市在住なので、度々探しに行ってたみたいだけど、結局見つけられなかったそうだ。もしかしたら、幼虫はメチャメチャ高いところに静止しているのかもしれない。
また小太郎くん曰く、イチイガシは他の常緑カシ類と比べて芽吹きが大変遅いそうだ。この日(5月27日)で、まだこんな状態だった。

 

 
オラは飼育を殆んどしない人なので、そう言われても正直よくワカンナイ。なので、幼生期の解明については小太郎くんに任せっきりだった。
彼曰く、下枝はこの時期になってから漸く芽吹くそうだ。となると、成虫の発生期と計算が合わなくなってくる。成虫の発生を7月上中旬とするならば、この時期には終齢幼虫になっていないといけない筈なのだ。もし幼虫が新芽を食べるとすれば、成長速度が度を越してメチャンコ早いと云う事になっちゃうじゃないか(# ゚Д゚)
新芽の芽吹きは大木の上部から始まると云うから、それを食ってるのかもしれない。にしても、新芽を食べるのならば幼虫期間は矢張り相当短いと云う事にはなるけどね。
まあいい。高い所の新芽を食べるとして話を進めよう。もし幼虫は高い所にいるのだとしたら、探すのは大変だ。ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の卵さえロクに探しに行った事がないワシなんぞには、どだい無理な話だ。誰かが見つけてくれることを祈ろっと。

いや、待てよ。小太郎くんは新芽を食うと断定していたが、花の時期は4月から5月だ。新芽ではなく、もしかして花を食ってんじゃねえか❓そう考えられないだろうか❓ あるいは花の蕾、または硬い枝芽を食うのなら、辻褄は合う。
待て、待て。こう云う考え方も有りはしないか❓例えば弱齢期は他のブナ科常緑樹の新芽を利用し、終齢に近づくにつれ、食樹転換をしてイチイガシを利用するとかさあ…。所詮は飼育ド素人の考えだけど、ダメかなあ❓

食樹をイチイガシと予想したが、もしかして全然違うかったりしてね。だとしたら、何を食ってんだ❓ これ以上は見当もつかないや。

何れにせよ、まだまだ生態的に未知な面もあり、来年もまた調査を継続する予定である。

 
                       おしまい

        
謝辞
最後に、Facebookにアップした記事にいち早く反応され、迅速に動いてくださった岸田泰則先生、記載の役目を快諾され、ゲニタリアを仔細に精査して戴いた石塚勝己さん、発見のきっかけをくださった秋田勝己さん、分布調査で目覚ましい活躍をしてくれた小林真大くん、またこの様なフザけた文章を掲載してくれることをお許し戴いた月刊むしの矢崎さん、そして今回の相棒であり、共に発見に立ちあってくれ、殆んどの調査行に同行してくれた葉山卓くん、各氏にこの場を借りて多大なる感謝の意を表したいと思います。皆様、本当に有り難う御座いました。

ここからは編集者の矢崎さんに送ったメールです。

矢崎さんへ
奈良公園のイチイガシの大木の写真を添付しておきます。残念ながら葉っぱの写真は撮っておりません。
それから1頭だけ採れたクロシオキシタバ(註7)のことは伏せておいた方がいいかもしれません。採れた場所が採れた場所ですから石塚さんが興味を示されています。新亜種くらいにはなるかもしれません。ゆえに状況次第で、その部分は削って戴いてかまいません。石塚さんに訊いてみて下さい。尚、そのクロシオはマオくんが採り、現在葉山くんが保有しています。

以上、多々面倒かと思われますが、宜しくお願いします。
それとマホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが(註8)、いったい何処まで伏せるのでしょうか? 個人的にはどうせそのうちにバレるんだから、正直に書いて県なり市なりに働きかけて保護するなら保護した方がよいと思うんですが…。
とはいえ、クソ悪法である「種の保存法」とかにはなってもらいたくはないです。禁止区域外でもいるんだから、虫屋の採る楽しみを奪うのもどうかと思うんですよね。

                      
追伸
前編でもことわっているが、この文章のベースは『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものである。

 
【月刊むし】

 
そう云うワケだから、前編も含めて楽勝で書けると思ってた。しかし、いざ書き始めると、前・後編に分けた事もあって、大幅に書き直す破目になった。新しい知見も加わったので、レイアウトも修正しなくてはならず、思ってた以上に苦労を強いられた。たぶん50回くらいは優に書き直したんじゃないかな。文章の端々に投げやり感が出ているのは、そのせいだろう。マジで無間地獄だったよヽ((◎д◎))ゝ。結果、手を入れ過ぎて原形からだいぶと変形した大幅加筆の増補改訂版となった。

えーと、それから月刊むしの記事よりもフザけた箇所は増えちょります(特に前編)。
え〜と、あと何だっけ❓あっ、そうだ。生態面の新たな発見があれば、随時内容をアップデートしてゆく予定です。あくまでも予定ですが…。
それと参考までに言っとくと、当ブログには他にマホロバ関係の記事に『月刊むしが我が家にやって来た、ヤァ❗、ヤァ❗、ヤァ❗』と『喋べくりまくりイガ十郎』と云う拙文があります。

 
(註1)岸田先生
日本蛾類学会の会長である岸田泰則先生のこと。
国内外の多くの蛾類を記載されており、『日本産蛾類標準図鑑(1〜4)』『世界の美しい蛾』など多くの著作がある。
さんまの『ほんまでっか!? TV』で池田清彦(註9)爺さまが岸田先生を評して『アイツ、すっごく女にモテるんだよねー。』と言ってたらしい。きっとオチャメなんだろね。

 
【日本産蛾類標準図鑑(Ⅱ)】

 
【世界の美しい蛾】

 
(註2)長野菊次郎
名和昆虫研究所技師。九州で生まれ、東京の中学校で博物学を教えていたが、岐阜の中学校に移ったのを機に名和靖と交流するようになった。後に名和の研究所の技師となって、最後まで名和の仕事を支えたという。
著書に『日本鱗翅類汎論』『名和昆蟲圖説第一巻(日本天蛾圖説)』などがある。なお、天蛾とはスズメガの事を指す。
またホソバネグロシャチホコの幼性期の解明に、その名があるようだ(1916)。

 
(註3)分布が隔離されてから少なくとも30万年以上前…
おぼろげな記憶から30万年前と書いたが、実際のところはもっと幅が広く、台湾、南西諸島、日本列島の成り立ちは複雑である。

①500万年前は南西諸島全域に海が広がり、日本列島と沖縄諸島・奄美諸島を含む島と八重山諸島を含む島(台湾の一部を含む)があった。
 

(出典『蝶類DNA研究会ニュースレター「カラスアゲハ亜属の系統関係」』以下、同じ。)

 
しかし200万年〜170万年前(第三紀鮮新世末)に隆起して大陸と繋がった。

 

 
②170〜100万年前(第四紀鮮新世初期)、南西諸島の西側が沈降して海になった。だが、台湾から九州までは陸地で繋がっていた。多分この時代に、C.naganoiは台湾から日本列島に侵入したのだろう。他にも多くの種が侵入し、ヤエヤマカラスアゲハとオキナワカラスアゲハの祖先種も、この時期に渡って来たものと思われる。

 

 
③100万年~40万年前(第四紀鮮新世後期)に沖縄トラフの沈降による東シナ海の成立で、現在の南西諸島の形がほぼ出来上がると、日本列島と奄美の間、奄美と沖縄の間、与那国島と他の八重山の島々との間でさらに隔離が起こった。たぶん、この年代前後にオキナワカラスとヤエヤマカラスの分化が進んだのだろう。

 

 
カラスアゲハとオキナワカラス、ヤエヤマカラスは別種化したのに、マホロバは40万年以上も前から隔離されているのに別種にはならなかったのね。もっと進化しとけよ。おっとり屋さんだなあ。
ちなみに記載者の石塚さんは「台湾と日本の地理的位置を考慮すると、別種の可能性が高いが、今のところ決定的な形質の差異が認められないので新亜種として記載した。」と書いておられる(月刊むし 2019年10月号)。しつこいようだが何とか新種に昇格してくんねぇかなあ(笑)。新種を見つけたと云うのと、新亜種を見つけたと云うのとでは受ける印象が全然違うもんなあ…。
とはいえ、小太郎くんもマオくんも「新亜種でも大発見ですよー。国内新種だし、ましてやカトカラなんだから凄い事だと思いますよ。」と言って慰めてくれたので、まあいいのだ。

 
(註4)ゲニ
ゲニタリアの略称。ゲニタリアとはオスの交尾器の一部分で、種によって形態に差異がある事から多くの昆虫の分類の決め手となっている。

 
(註5)もう「マホロバキシタバ」でエエんでねえの❓
最近発売された岸田先生の新しい図鑑、『日本の蛾』でも和名は「マホロバキシタバ」になっている。

 

 
『日本産蛾類標準図鑑』の1〜4巻を整理して纏めた廉価版で、この中に「標準図鑑以降に公表された種」として追加掲載されている。

 

 
こんだけ既成事実があれば、もう「マホロバキシタバ」で動かないだろう。有り難いことだ。

 
(註6)スギタニイチモンジってイチイガシを食樹としてなかったっけ❓
どうやら自然状態での食樹はまだ解明されていないようだが、飼育では無事にイチイガシで羽化したそうだ。

 
【Euthalia insulae スギタニイチモンジ ♂】

(2017.6.27 台湾南投県仁愛郷)

 
【同♀】

(2016.7.14 台湾南投県仁愛郷)

 
大型のユータリア(タテハチョウ科 Euthalia属 Limbusa亜属)で、とても美しい。
しかし生きてる時にしか、この鮮やかな青や緑には拝めない。死ぬと渋いカーキーグリーンになっちゃう。それはそれで嫌いじゃないけどさ。
スギタニイチモンジについては、当ブログの『台湾の蝶』の連載の第5話に『儚き蒼』と云う文章が有ります。
そういえば『台湾の蝶』シリーズ、長い間頓挫したままだ。ネタはまだまだ沢山残ってるんだけど、キアゲハとカラスアゲハの回でウンザリになって、プッツンいってもうて書く気が萎えた。いつかは再開はするんだろうけどさ。
嗚呼、最後に台湾に行ってから、もう3年も経っちゃってるのね。行けば、間違いなく書く気も復活するんだろうな。来年辺り、行こっかなあ…。

 
(註7)1頭だけ採れたクロシオキシタバ
石塚さんは、内陸部で採れた極めて新鮮な個体だったから興味を示されたのではないかと思う。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
コレがその個体だ。
見た目は、どう見てもクロシオではある。
ようは移動個体ではない事が考えられ、棲息地には食樹であるウバメガシは殆んど無い事から、別な種類の木を食樹としている亜種ではないかと考えられたのだろう。しかし調べた結果、ゲニはクロシオそのものだったそうな。
つけ加えておくと、その後、クロシオは2020年も含めて、この1頭だけしか採れていない。
素人目には、この森で発見されたジョナス(キシタバ)の方が衝撃だったけどなあ…。標高が低くて、孤立した分布地だからね。

 

(2019.7月 奈良市白毫寺)

 
何で怒髪天的な触角にしたんだろね。一つしか採れてないのにさ。
因みに、マオくんも採っているから偶産ではなかろう。上の個体は南西部の白毫寺で採れたものだが、マオくんは原始林を挟んだ反対側、北西部の若草山の北側で採っているので広く薄く生息しているのだろう。

しかし「月刊むし」のマホロバ特集号が発売されて石塚さんと岸田先生の記載論文の末尾を読んで、石塚さんの本当の意図するところが解った気がした。たぶんだが、石塚さんはクロシオとは思っていなくて、もしやクロシオの近縁種であるデジュアンキシタバ(C.dejeani)の可能性を考えたのではなかろうか❓

 
【Catocala dejeani Mell, 1936】

(出典『世界のカトカラ』)

 
パッと見、ほぼほぼクロシオである。下翅の帯が太いのかな❓

 

(出典『世界のカトカラ』上がクロシオ、下がデジュアン。)

 
マホロバとアミメよりも、こっちの方が互いにソックリさんだ。こんなの、よく別種だと気づいたよな。いや、古い時代のことだから、どうせ先に記載されていたクロシオの存在(1931年の記載)を知らずに記載したんだろ。ろくに調べず、テキトーなこと言ってるけど。

ここへきて落とし穴と云うか泥沼の予感だ。出来るだけサクッと調べて、サラッと終わらせよう。

1936年にスズメガの研究で知られるドイツ人のルドルフ・メリ(Rudolf Mell)によって記載された。
分布は中国(四川省、陝西省、広西チワン族自治区)と台湾。生息地は局地的で少ないとされている。
一部の研究者は種としては認めず、クロシオキシタバの亜種と見なしているようだ。

Wikipediaによると、亜種として以下のようなものがあるとされている。

◆Catocala dejeani dejeani Mell, 1936
(中国 広西チワン族自治区?)

メリは暫くの間、広州(広東省)のドイツ人中学校の校長だったらしいから、おそらく隣の広西チワン族自治区で採集されたものを記載したのだろう。あくまでも勘だけど。

◆Catocala dejeani chogohtoku Ishizuka 2002
(中国)

ググッても、この学名では産地が出てこなかった。ほらね、やっぱり泥沼だ。
記載は石塚さんだから、御本人に直接お訊きすればいいのだろうが、こんな些事で連絡するのも気が引ける。まあ、四川省か陝西省のどっちかだろう。たぶん原記載から遠い方の四川省かな? ウンザリなので、もうどんどんテキトー男と化しておるのだ。

◆Catocala dejeani owadai Ishizuka 、2002
(台湾)

台湾では最初、クロシオキシタバとして記録されていた。でもって、その後に台湾ではクロシオは見つかっておらず、今のところ台湾にはデジュアンしかいない事になっているそうな。
ようは、石塚さんは台湾にいる C.naganoiが日本にも居たんだから、デジュアンだっているかもしれないとお考えになったのだろう。それにクロシオとデジュアンは中国では同所的に分布するところも多いというからね。日本にデジュアンが居ても不思議ではないってワケだ。

 
【台湾産デジュアンキシタバ】

(出典『www.jpmoth.org』)

 
裏面画像を見たら、どうやらクロシオとの違いは裏面にあるみたいだ。

 


(出典 2点とも『www.jpmoth.org』)

 
上翅の内側の斑紋がクロシオとは違うような気がする。何だかマホロバっぽい。それにクロシオは翅頂部の黄色い紋が大きく、個体によっては外縁にまで広がって帯状になる。本当にそれが区別点なのかはワカンナイけどさ。
いや、待てよ。下翅が全然違うわ。クロシオは一番内側の黒帯が1本無いが、コヤツにはある。
前から思ってたけど、やはりカトカラを判別するためには裏面が重要だわさ。でも裏面画像は図鑑でもネットでも載ってない事の方が多い。マジで思うけど、裏面の画像も示さないとダメじゃね❓ って云うか鱗翅類を扱った図鑑は本来そうあるべきだろう。だいたい、蛾類は蝶と違って裏面に言及されてる事じたいが少ないってのは、どゆ事❓ 何でこうもそこんとこに無頓着なのだろう。蛾は種類数が多いと云うのは解るけどさ。それに裏まで載せれば、紙数が膨大となり、値段も高くなる。蛾の図鑑なんて誰も買わねぇもんが、益々売れねぇーってか❓ あっ、ヤバい。毒、メチャ吐きそうだ。この辺でやめときます。だいち、これ以上文章が長くなるのは、もう御免なのだ。

と言いつつ書き加えておくと、春日山原始林とその周辺には今のところ14種のカトカラの生息が確認されている。内訳は以下のとおりである。
キシタバ、マホロバキシタバ、アミメキシタバ、アサマキシタバ、フシキキシタバ、コガタキシタバ、カバフキシタバ、ワモンキシタバ、マメキシタバ、ジョナスキシタバ、クロシオキシタバ、オニベニシタバ、コシロシタバ、シロシタバ。ちなみに絶対いるだろうと思ってたウスイロキシタバは見つけられなかった。とはいえ、都市部に隣接した場所で、これだけの種類がいるのは中々に凄いことだ。それだけ森が豊かな証拠なのだろう。やはり素晴らしい場所だよ。

 
(註8)マホロバの産地は伏せるとは聞いたのですが…
採集禁止区域が多いので、トラブルを避ける為の配慮かと思われる。
個人的には、四国で新たなルリクワガタが見つかった時に、「生息地 四国」と発表されたことがあったから、ああゆうダサい事だけはしたくないと思った。どうせ自分たち以外の人に採らせたくないとかケチな理由からなんだろうけど、あまりにも雑過ぎる生息域の記述だったので笑ったワ。狭小な根性が丸出しじゃないか。腹立つくらいにセコいわ。だから、ああゆう風な提言となった。
それで、思い出したんだけど、最初に”Facebook”に記事を書いた時は奈良県で採ったと書いたら、誰もが場所は紀伊半島南部を想像したみたいだね。まさか奈良市内だとはワシだって思わんもん。今まで春日山には星の数ほどの虫屋が入ってるからね。そんなもん、とっくに発見されていて然りだと考えるのが普通でしょう。でも、オラの行動範囲を知っていたA木くんだけは見破ったけどね。
因みに、産地については即座に箝口令が敷かれた。と云うワケで、Facebookの記事も奈良県から近畿地方に修正しといた。でも、色んな人が具体的な場所まで知ってたのには笑ったよ。別に誰かを批判してるワケじゃないけど、「人の口には戸は立てられない」って事だよね。まさか身をもって自分がそれを知るだなんて思いもよらなかったから、変な気分だったよ。中々に貴重な体験でした。

 
(註9)池田清彦
生物学者。評論家。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。
ダーウィンの進化論に異を唱え、構造主義を用いた進化論を提唱している。虫好きで、カミキリムシのコレクターとしても知られる。同じく虫屋であるベストセラー『バカの壁』で有名な養老(猛)さんやフランス文学者でエッセイストの奥本大三郎さんとも仲が良い。
御三方の本は昔から結構読んでる。虫屋で頭のいい人の本は面白い。

 

マホロバキシタバ発見記(2019’カトカラ2年生3)

 
   vol.20 マホロバキシタバ

     『真秀ろばの夏』

 
倭(やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山籠(こも)れる 倭し美(うるは)し

 
 ープロローグー

2019年 7月10日。曇り。
この日も蒸し暑い夜だった。

「五十嵐さぁーん、何か変なのがいますー。』
樹液の出ているクヌギの前にいる小太郎くんの声が、闇夜に奇妙に反響した。
「変って、どんなーん❓」
テキトーに言葉を返す。
「カトカラだと思うんですけど、何か細いですー。こっち来てくださぁ~い。」
どうせヤガ科のクソ蛾だと思いながら、足先をそちらへと向けた。
「どれ❓」
「これです、コレ。」
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには、翅を閉じた見慣れない蛾がいた。
「確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。」  

話は去年に遡る。
きっかけは2018年の8月の終わりに、カミキリムシ・ゴミムシダマシの研究で高名な秋田勝己さんが Facebook にアップされた記事だった。そこには奈良県でのゴミムシダマシの探索の折りに、カトカラ(シタバガ)属有数の稀種カバフキシタバを見つけたと書かれていた。

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7.7 兵庫県宝塚市 撮影 葉山卓氏)

 

(2020.7.5 兵庫県六甲山地)

  
まだその年にカトカラ採りを始めたばかりの自分は既に京都でカバフは得てはいたものの(註1)、来年はもっと近場で楽に採りたいと思い、メッセンジャーで秋田さんに連絡をとった。
秋田さんは気軽に応対して下さり、場所は若草山近辺(採集禁止区域外)だとお教え戴いた。また食樹のカマツカは奈良公園や柳生街道の入口付近、白毫寺周辺にもある旨のコメントを添えて下された(何れも採集禁止エリア外)。何れにせよ、カバフの記録はこの辺には無かった筈だ(註2)。俄然、やる気が出る。

その年の秋遅くには奈良公園へ行って、若草山から白毫寺へと歩き、カマツカと樹液の出ていそうな木を探しておいた。

 
【カマツカ(鎌束)】

(2018.11月 奈良公園)

 
カマツカは秋に赤い実をつけるから見つけやすいと思ったのだ。ちなみに春には白い花が咲かせるので、そちらで探すと云う方法もある。
   
 
 カバフキシタバを求めて

2019年 6月25日。
満を持して始動。 先ずは若草山周辺を攻める。
しかし、秋田さんに教えてもらった樹液の出る木にはゴッキーてんこ盛りで、飛んで来る気配というものがまるでない。『秋田の野郎〜٩(๑òωó๑)۶』と呟く。
もちろん秋田さんに罪はない。取り敢えず人のせいにしておけば、心は平静を保てるってもんだ。
とにかくコレはダメだと感じた。🚨ピコン、ピコン。己の中の勘と云う名のセンサーが点滅している。このまま此処に居ても多くは望めないだろう。決断は早い方がいい。午後9時過ぎには諦め、白毫寺へと向かう。

真っ暗な原始林をビクつきながら突っ切り、白毫寺に着いたのは午後10時くらいだった。目星をつけていた樹液の出ているクヌギの木を見ると、結構な数のカトカラが集まっている。しかしカバフの姿はない。
取り敢えず周辺の木に糖蜜でも吹きかけてやれと大きめの木に近づいた時だった。高さ約3m、懐中電灯の灯りの端、右上方に何かのシルエットが見えたような気がした。そっと灯りをそちらへとズラす。
w(°o°)wどひゃ❗
そこには、まさかのあの特徴的な姿があった。

 

(こんな感じで止まってました。画像提供 葉山卓氏)

 
間違いない、カバフキシタバだ❗ 後ずさりして、充分な距離を置いてから反転、ザックを置いてきた場所へと走る。
逸(はや)る心を抑えながら網を組み立てる。💦焦っちゃダメだ、焦るな俺。慌ててたら、採れるもんも採れん。
心が鎮まるにつれ、アドレナリンが体の隅々にまで充填されてゆく。やったろうじゃん❗全身に力が漲(みなぎ)り始める。
∠(`Д´)ノシャキーン。武装モード完了。行くぜ。小走りで戻り、目標物の手前7mで足を一旦止める。そこからは慎重に距離を詰めてゆく。逃げていないことを祈ろう。6m、5、4、3、2、1m。目の前まで来た。
(☆▽☆)まだいるっ❗心臓がマックスに💕バクバクだ。この緊張感、堪んねぇ。このために虫採りをやってるようなもんだ。
目を切らずに体を右側へとズラし、ネットを左に構える。必殺⚡鋼鉄斬狼剣の構えだ。武装硬化。心を一本の鋼(はがね)にする。音の無い世界で、ゆっくりと、そして静かに息を吐き出す。やいなや、慎重且つ大胆に幹を💥バチコーン叩く。
手応えはあった。素早く網先を捻る。
ドキドキしながら懐中電灯で照らすとシッカリ網の底に収まっていた。しかも暴れる事なく大人しく静止している。自称まあまあ天才なのだ。我ながら、ここぞという時はハズさない。
移動して正解だ。やっぱ俺様の読みが当たったなと思いつつ、半ば勝利に酔った気分で網の中にぞんざいに毒瓶を差し込む。
しかし、取り込むすんでのところで物凄いスピードで急に動き出して毒瓶の横をすり抜けた。
(|| ゜Д゜)ゲゲッ❗、えっ、えっ、マジ❗❓
ヤバいと思ったのも束の間、パタパタパタ~。網から脱け出し、闇の奥へと飛んでゆくのが一瞬見えた。慌てて懐中電灯で周りを照らす。だが、その姿は忽然とその場から消えていた。
(;゜∇゜)嘘やん、逃げよった…。ファラオの彫像の如く呆然とその場に立ち尽くす。
(-“”-;)やっちまったな…。大ボーンヘッドである。大事な時にこういうミスは滅多にしないので、ドッと落ち込み「何でやねん…」と闇の中で独り言(ご)ちる。

朝まで粘ったが、待てど暮らせどカバフは二度と戻っては来なかった。ファラオの呪いである。
しかし、結局このボーンヘッドが後の大発見に繋がる事になる。その時はまさか後々そんな事になろうとは遥か1万光年、想像だにしていなかった。運命とは数奇なものである。ちょっとしたズレが結果を大きく左右する。おそらくこの時、ちゃんとカバフをゲット出来ていたならば、今シーズン、この地を再び訪れる事は無かっただろう。そしてニューのカトカラを見つけるという幸運と栄誉も他の誰かの手に渡っていたに違いない。

 
 リベンジへ

その後、去年初めてカバフを採った京都市で更に惨敗するものの、六甲山地で多産地を見つけてタコ採りしてやった。思えば、これもまた僥倖だった。直ぐに奈良へリベンジに行っていたならば、彼奴が時期的には発生していたか否かは微妙のところだろう。やはり新しきカトカラの発見は無かったかもしれない。
計30頭くらい得たところで溜飲が下がり、漸くこの日、7月10日に再び白毫寺へと出撃した。屈辱は同じ地で晴らすのがモットーだ。白毫寺で享けた仇は白毫寺で返すヽ(`Д´#)ノ❗

日没の1時間半前に行って、新たに他の樹液ポイントを探す。叶うのならば、常に二の手、三の手の保険は掛けておくことにしている。手数は数多(あまた)あった方がいい。たとえ時間が短くとも下調べは必要だ。
首尾よく樹液の出ている木を数本見つけて、小太郎くんを待つ。彼は奈良市在住なので、奈良県北部方面に夜間採集に出掛ける折りにはよく声をかける。蝶屋だけど(ワテも基本は蝶屋です)、虫採り歴は自分よりも長いし、他の昆虫にも造詣が深いから頼りになる。それに夜の闇とお化けが死ぬほど怖いオイラにとっては、誰か居てくれるだけでメチャンコ心強い。

日没後に小太郎くんがやって来た。 おそらく彼が先にカバフを見つけたとしても譲ってくれるだろう。心やさしい奴なのだ。
しかし、そんな心配をよそに日没後すぐ、呆気なく見つけた。何気に樹液の出てる木の横っちょの木を見たら、止まっていたのだ。
 
難なくゲット。
 

(画像は別な個体です。背中が剥げてたから撮影せずでした)

 
早めにリベンジできたことにホッとする。
これで今日の仕事は終わったようなもんだ。急激に、ゆるゆるの人と化す。
そして、話は冒頭へと戻る。

 
 採集したカトカラの正体は?

新たに見つけた樹液ポイントで、コガタキシタバか何かを取り込んでる時だった。少し離れた小太郎くんから声が飛んできた。
『五十嵐さぁ〜ん、何か変なのがいますー。』
『コレ取り込んだら、そっち行くー。どんな〜ん❓』
『カトカラだと思うんですけど、何か細いですぅー。』
どうせヤガ科のクソ蛾だと思った。カトカラ以外のヤガには興味がない。急(せ)くこともなく取り込んで、小太郎くんの元へと行く。
『どれ❓』
『これです、コレ。』
小太郎くんが懐中電灯で照らす幹に目をやる。そこには見慣れないヤガ科らしき蛾がいた。しばし眺める。
『確かに細い感じやなあ。見たことない奴のような気がするけど…何やろ❓ でもコレってホンマにカトカラかいな❓ カトカラっぽいけど翅閉じてるしさ。』

 

(撮影 葉山卓氏)

 
『見てるヒマがあったら、採りましょうよ。』
小太郎くんから即刻ツッコミを入れられる。
<(^_^;)そりゃそーだー。確かにおっしゃるとおりである。もし採って普通種のクソ蛾だったら腹立つからと躊躇していたけど、採らなきゃ何かはワカラナイ。
止まっている位置を見定め、その下側を網先でコツンと突くと、下に飛んで勝手に網の中に飛び込んできた。カバフをしこたま採るなかで自然と覚えた方法だ。網の面を幹に叩きつけて採る⚡鋼鉄斬狼剣を使わなくともよい楽勝簡単ワザである。あちらが剛の剣ならば、こちらは謂わば静の剣。さしづめ「秘技✨撞擲鶯(どうちゃくウグイス)返し」といったところか。
網の面で幹を叩く採集方法は、その叩く強さに微妙な加減がある。弱過ぎてもダメだし、強過ぎてもヨロシクなくて、網の中に飛び込んでくれない。他の人を見てても、失敗も多いのだ。つまり、それなりに熟練を要するのである。いや、熟練よりもセンスの方が必要かな?まあ両方だ。
一方、網先で下側を軽く突いて採る方法は微妙な加減とか要らないし、視界も広いから成功率は高い。叩く方法でも滅多にハズさないけど、ハズしたらカヴァーは出来ない。横から逃げられたらブラインドになるから、返し技が使えないのだ。とにかく鶯返しの方がミスする率は少ない。飛んで、勝手に網に入ってくる場合も多いし、たとえ上や横に飛んだとしても、素早く反応して網の切っ先を鋭く振り払えばいいだけのことだ。鋭敏な反射神経さえあれば、どってことない。

網の中で黄色い下翅が明滅した。
どうやらキシタバグループのカトカラのようだ。どうせアミメキシタバあたりだろう。余裕で毒瓶に素早く取り込み、中を凝視する。
『五十嵐さん、で、何ですか❓』
小太郎くんが背後から尋ねるも、脳ミソは答えを探して右往左往する。考えてみれば、そもそも此処にアミメがいるなんて聞いた事ないぞ。
『ん~、何やろ❓ \(◎o◎)/ワッカラーン。下翅の帯が太いからアミメかなあ❓ いや、クロシオ(キシタバ)かもしんない。』
『五十嵐さん、去年アミメもクロシオも採ってませんでしたっけ❓』と小太郎くんが言う。アンタ、相変わらず鋭いねぇ。
『そうなんだけど、こっちは去年からカトカラ採りを始めたまだカトカラ2年生やでぇー。去年の事なんぞ憶えてへんがな。特定でけんわ。』と、情けない答えしか返せない。

その後もその変な奴は飛来してきたので、取り敢えず採る。だが、採れば採るほど頭の中が混乱してきた。
冷静に去年の記憶を辿ると、アミメにしては大きい。反対にクロシオにしては小さいような気がする。上翅の色もアミメはもっと茶色がかっていたような記憶があるし、クロシオはもっと青っぽかったような覚えがある。でもコヤツはそのどちらとも違う緑色っぽいのだ。しかし、採ってゆくと稀に茶色いのもいるし、青緑っぽいのもいるから益々混乱に拍車がかかる。
けど冷静に考えてみれば、クロシオは確か7月下旬前半の発生で、分布の基本は海沿いだ。移動性が強くて内陸部でも見つかる例はあった筈だが、にしても移動するのは発生後期であろう。ならば更に時期が合わない。

小太郎くんに尋ねる。
『この一帯ってウバメガシってあんの❓ クロシオの食樹がそうだからさ。』
『ウバメガシは殆んど無かった筈ですね。あるとしても民家の生け垣くらいしかないと思いますよ。』
となると、消去法でアミメキシタバと云うのが妥当な判断だろう。
でもコレって、ホントにアミメかあ❓
心が着地点を見い出せない。
とはいえ、段々考えるのが面倒くさくなってきて、その日は「暫定アミメくん」と呼ぶことにした。けれど、ずっと心の奥底のどこかでは違和感を拭えなかった。
結局、この日はオラが8頭、小太郎くんが1頭だけ持ち帰った。
 
翌日、明るい所で見てみる。

 

 
何となく変だが、どこが変なのかが今イチよく分かんない。
取り敢えず、展翅してみる。

 
【謎のカトカラ ♂】

 
【謎のカトカラ ♀】

 
展翅をしたら、明らかに変だと感じた。
見た目の印象がアミメともクロシオとも違う。確認のために去年のアミメとクロシオの展翅画像を探し出してきて見比べてみた。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa】

(兵庫県神戸市)

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis】

(兵庫県神戸市)

 
目を皿にして相違点を探す。
そして直ぐに決定的な違いを見つけた。下翅の黒帯下部が繋がらなくて、隙間があるのだ。ここがアミメはしっかりと繋がり、クロシオも辛うじて繋がっている。たまに少し隙間が開く個体も見られるが、ここまで開くものはいない。それにクロシオとアミメは真ん中の黒帯が途中で外側に突出する傾向があるが、コヤツにはそれが見うけられない。またアミメやクロシオと比べて帯がやや細いような気がする。とはいえ、最初は異常型かな?とも思った。しかし残りを見てみると、全部の個体が同じ特徴を有していた。
大きさも違う。クロシオは相対的にデカい。一方、アミメは相対的に小さい。コヤツは多少の大小はあるものの、相対的に両者の中間の大きさなのだ。

 

(後日、わざわざ神戸にアミメとクロシオを採りに行ったよ)

 
左上がアミメ、左下が別種と思われるもの、右がクロシオだ。
大きさに違いがあるのが、よく分かるかと思う。

裏を見て、更に別物だと云う意を強くした。
裏面展翅をして、比較してみる事にする。

 
【謎のキシタバ 裏面】

 
【アミメキシタバ 裏面】

 
【クロシオキシタバ 裏面】

 
上翅の胴体に近い内側の斑紋(黒帯)が他の2種とは異なる。
アミメは帯が太くて隣の縦帯と連結するから明らかに違う。全体的に黒っぽいのだ。また翅頂(翅端)の黄色部の面積が一番狭い。
クロシオとはやや似ているが、謎のカトカラは内側の黒帯の下部が横に広がり、上部に向かって細まるか消失しがちだ。クロシオはここが一定の太さである。決定的な違いは、その隣の中央の帯がクロシオは圧倒的に太いことだ。逆に一番外側の帯は細まり、外縁部と接しない。だから外縁が黄色い。またクロシオの下翅は帯が互いに繋がらないし、黒帯が一本少なくて内側の細い帯が無い。あとはアミメとクロシオは下翅中央の黒帯が途中で外側に突出して先が尖るが、謎のカトカラは尖らない(註3)。
ようは三者の裏面は全く違うのである。表よりも裏面の方が三者の差異は顕著で、間違えようのないレベルだ。
こりゃエラい事になってきたなと思い、小太郎くんに昨日持ち帰った個体の展翅画像を送ってもらった。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
やはり下翅の帯が繋がっていない。
となると、絶対に日本では未だ記録されていないカトカラだと思った。でも、じゃあコヤツはいったい何者なのだ❓ 新種の期待に心が震える。

何者かを知るにはどうしたらいいのだろう❓
足りない脳ミソをフル回転させて懸命に考える。そこで、はたと思い出す。そういえば去年、図書館で石塚勝己さんの『世界のカトカラ』のカラー図版を見開き3ページ分だけコピーしたのがあった筈だ。アレに載ってるかもしれない。

 
【世界のカトカラ】

 
でも何となく気になったページを適当にコピーしただけなので、確率は極めて低い。図版はユーラシア大陸のものだけでも20ページくらいはあった筈だ。新大陸(北米)のものまで含めると、40ページ近くはあったような気がする。見開きだから、その半分としても3/20。確率は1割5分だ。いや、そのうちの1枚はめちゃんこカッコイイ C.relicta(オビシロシタバ)の図版である事は間違いないから、確率は10%だ。となると、そこにそんなに都合よく載っているとは思えない。
そう思いつつ確認してみたら、(☆▽☆)何とあった❗❗
奇跡的にその3ページの中に同じく下翅の帯が繋がらない奴がいたのである。しかも他の2ページは北米のカトカラの図版だったから、確率は5%。まさに奇跡だ。

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
名前は Catocala naganoi キリタチキシタバとなっている。
生息地は台湾で、特産種みたいだ。台湾は日本と近いし、これは有り得るなと思った。昔は連続して分布していたが、様々な理由で棲息地が分断され、辛うじてこの森で生き残ったのかもしれない。だったら同種か近縁種の可能性大だ。
しかし、困ったことに『世界のカトカラ』には裏面の写真が載ってなかった。両面を見ないと本当にコヤツと近縁種なのかは特定できない。ならばと学名をネットでググったら、zenodo(註4)と云うサイトで、らしきものが見つかった。そこには、ちゃんと裏面の画像もあった(下図3列目)。

 

(出展『zenodo』)

 
早速見比べてみると、どう見ても同じ種の裏面に見える。Catocala naganoi と同種か近縁種に間違いあるまい。
小太郎くんに画像を送ったら、彼の見解も自分と同じだった。ならば、こりゃ絶対に日本では未知のカトカラだと思い、夕方にはドキドキしながらFacebookに記事をあげた。

「昨日、奈良県で変なカトカラを採った。クロシオキシタバにはまだ早いし、だいち奈良は海なし県である。おらん筈。となるとアミメキシタバかなと思ったが、下翅下部の帯が繋がっていない。裏もアミメと違う。採ったやつ8つ全てが同じ特徴やった。どう見ても新種か新亜種だと思うんだけど、岸田先生どう思われます? たぶん、台湾の Catocala naganoi とちゃいますかね?」

記事をアップ後、ソッコーで蛾界の重鎮である岸田泰則先生からコメントが入った。
 
「確認しますが、すごいかもしれません。」

蛾のプロ中のプロである岸田先生のコメントだから、ホンマにエライことになってきたと思った。って事は新種ちゃいまんのん❓ 期待値がパンパンに膨れ上がる。
そして、夜9時にはもうメッセンジャーを通じて先生から直接連絡があった。どえりゃあスピーディーさである。ますます夢の新種発見が現実味を帯びてきた。

内容は以下のとおりである。

「五十嵐さん このカトカラですが、専門家の石塚勝巳さんに聞いたところ、やはり、クロシオではないようです。新種または新亜種の可能性もあります。石塚さんを紹介しますので、連絡してみて下さいませんか。」

(☉。☉)ありゃま❗、カトカラの世界的研究者である石塚さんまで御登場じゃないか。蛾の中でも屈指の人気種であるカトカラのニューなんて、蛾界は激震とちゃいまんのん❓ もうニタニタ笑いが止まらない。
それにしても岸田先生の動きの早さには驚嘆せざるおえない。優れた研究者は行動が迅速だ。でないと、多くの仕事は残せない。ところで、石塚さんに連絡せよとは岸田先生御自身で記載するつもりはないのかな❓
先生に尋ねてみたら、次のような返答が返ってきた。
「新種か新亜種の記載には、近縁種を調べないと判断できません。近縁種を一番知っているのは石塚さんです」
なるほどね。それなら理解できる。にしても、記載を人に譲るだなんて、先生って器がデカいよなあ(最終的には共著で記載された。どういう経緯かは知んないけど)。

 
 奈良を再訪

その翌々日の12日。再び奈良を訪れた。
こんな奴が元々あんな何処にでもあるような普通の雑木林にいるワケがない。おそらくすぐ隣の春日山原始林が本来の生息地で、原始林内には樹液の出る木があまりないゆえコッチまで飛んで来たのではあるまいかと考えたのである。

夕方に着き、原始林内で樹液の出ている木を探したら簡単に見つかった。でも結局、樹液の出ている木はその木だけしか見つけられなかった。不安だったが、裏を返せばここに集中して飛来する可能性だってあるじゃないかと前向きに考える。おいら、実力は無いけど、昔から引きだけは強い。どうにかなるじゃろう。

日没後、少し経った午後7時33分に最初の1頭が飛来した。
その後、立て続けに飛来し、午後9時には数を減じた。個体は重複するだろうが、観察した飛来数はのべ20頭程だった。驚いたのは、その全部が樹液を吸汁中に1頭たりとも下翅を開かなかった事だ。大概のカトカラは吸汁時に下翅を見せるから、特異な性質である。

 

(画像提供 葉山卓氏)

 
知る限りでは、そんなカトカラはマメキシタバくらいしかいない(註6)。
そして、ヨトウガ達ほどではないにせよ、樹幹に止まってから樹液のある所まで、ちょっとだけ歩く。だから最初は、どうせ糞ヤガだと思ったのだ。奴らゴッキーみたいにシャカシャカ歩くからね。そういう意味でも、日本では未知のカトカラだと確信した。

この日は岸田先生から電話も戴いた。近いうちに生息地を視察したいとの事。そのレスポンスの早さに再び舌を巻く。
その後、石塚さんとも連絡をとった。石塚さん曰く、やはり見たところ Catocala naganoi に極めて近い新種か、C.naganoiの新亜種になる可能性大だそうだ。
なお、新種の場合は学名と和名は考えてくれていいよと言われた。石塚さんも太っ腹である。
「Catocala igarashii イガラシキシタバとかも有りかな❓」などと考えると、だらしのないヘラヘラ笑いが抑えきれない。
しかし、普段から和名の命名について自身のブログ(註5)で散々ぱらコキ下ろしている身なので、それはあまりにもダサ過ぎる。そんな名前をつけたとしたら、周りに陰でボロカス言われるに決まっているのだ。そんなの末代までの恥である。ゼッテー耐えられそうにない。
それで思いついたのが「マホロバキシタバ」。もしくは「マホロキシタバ」という和名だった。
「まほろ」とは「素晴らしい」という意味の日本の古語である。その後ろに「ば」を付けた「まほろば」は「素晴らしい場所」「住みよい場所」を意味する。謂わば楽園とか理想郷ってところだ。
『古事記』には「倭(大和=やまと)は 国の真秀(まほ)ろば 畳(たた)なづく青垣 山隠(籠=こも)れる 倭し美(うる)はし」というヤマトタケルノミコト(註7)が歌ったとされる有名な和歌もあり、これが最も相応しい名ではないかと思った。
そして、この言葉は「JR万葉まほろば線(註8)」など奈良県所在の企業、店舗名、施設等々の名称にもよく使われており、奈良県の東京事務所や桜井市の公式ホームページにも使用されている。つまり奈良県民のあいだではポピュラーで親しみ深い言葉でもある。また虫屋は学のある方が多いゆえ、「マホロバ」という言葉だけでピンときて、奈良県で最初に見つかったものだと容易に想像がつくだろうとも考えた。手垢の付いた言葉ではなく、且つ、そこそこ知っている人もいると云うのが名前の理想だろう。加えて雅な言葉なら、完璧だ。とにかく、出来るだけ多くの人に納得して戴くために心を砕いたつもりだ。
小太郎くんに提案すると、奇しくも彼も同じことを考えていたようだ。「マホロ」よりも「マホロバ」の方がポピュラーだし、発音しやすくて響きもいいと云うことで、すんなり二人の間では「マホロバキシタバ」で決まった。
あとは、この和名を如何にして岸田先生と石塚さんに受け入れてもらうかである。それで一計を案じた。コチラに来るという岸田先生とのやりとりの中で「一々、新種・新亜種のキシタバと言うのは面倒なので、葉山くんとの間では便宜上マホロバキシタバ(仮称)と呼んでおります。いよいよ明日、まほろば作戦決行です❗もちろんこの作戦の隊長は先生です。明日は宜しくお願いします、隊長∠(・`_´・ )❗」というメールを送っておいた。
ようは既成事実を作ってしまおうと云う巧妙な根回し作戦だ。連呼しておけば、先生とて心理的に反対しにくかろう。わしゃ、狡い男なのだ、٩(๑´3`๑)۶ぷっぷっぷー。

 
 強力メンバーで調査

7月16日。午後4時に先生と近鉄奈良駅で待ち合わせる。その後、小太郎くんも加わって、その足で奈良公園管理事務所に調査の許可申請へと向かう。原始林内は採集禁止だから、手は早めに打っておいた方がいいだろう。
その後に白毫寺へ行き、先生に採集してもらった(採集禁止区域外)。虫屋たるもの、自分の手で採らなければ納得いかないものだ。
先生は実物をひと目見て、これは新種か新亜種だねとおっしゃった。小太郎くんが先生に「マホロバを世界で三番目に採った男ですね。」と言う。その言葉に先生も笑っていらした。お陰か、和名マホロバキシタバも気に入って戴いたようだ。自分では考えもしなかったけど、その世界で何番目という称号って、いい響きだねぇ~。ということは、さしづめオラは「新種(新亜種)を世界で一番最初に採った男」ってことかい。何だか気分いいなあ。

後日、石塚さんにも、三人の間では一応仮称マホロバキシタバになっている旨を伝えたら、気に入ってくれたようだった。

早々と切り上げて、三人で居酒屋で祝杯をあげた。
短い時間だったが、とても楽しい一刻(ひととき)を過ごせた。

店の外に出て、何気に空を見上げる。そこには沈鬱な面持ちの雲が厚く垂れ込めていた。
フッと笑みが零れる。
空はどんよりだが、心はどこまでも晴れやかだった。

                       つづく

 
追伸
この文章は『月刊むし』の2019年10月号に掲載されたものを大幅増補改訂したものである。

 

 
普段のブログと構成が少し違うのは気合い入ってたのだ(笑)。
流石にいつもみたいに何も考えずに書き始めるということはせず、先ずは頭の中で構成をシッカリと考えて、文章もある程度繰ってから書きだした。結果、最近はあまり使わない倒置法的な手法になったってワケ。出来るだけドラマチックな展開にしたかったし、珍しく読み手のこともかなり意識して書いたのさ。クソ真面目な報告文なんて自分らしくないし、オモロないもん。
「だったら、毎回そうせいよ」とツッコミが入りそうだが、それは出来ませぬ。性格的に無理なのである。毎回そんな事してたら、書く前に放り出してしまうに決まってるんである。何も考えずに書き始めるからこそ書けるのであって、一行でも書いたら、完成させねばと思って何とか最後まで書き続けられるのである。

改めて記事を読み返すと、つくづく偶然の集積だらけの結果なんだなと思う。そもそもの発端を掘り起こしてゆくと、もし蝶採りに飽きてシンジュサンを採ろうなどと思わなかったら(註9)、この発見は無かった。中々採れなくて、もし小太郎くんに相談していなかったら矢田丘陵なんかには行かなかったし、そこで小太郎くんに偶然いたフシキキシタバやワモンキシタバを採ることを奨められなかったら、カトカラなんて集めていなかっただろう。また彼がカバフキシタバについて熱く語らなかったら、カバフ探しに奔走することもなかっただろう。あとは文中で語ったように、秋田さんのFacebookの記事が無かったら奈良なんて行かなかっただろうし、カバフを逃していなかったら再訪することもなかった。一旦諦めて他の場所にカバフを探しに行ったと云うのも大きい。直ぐにリベンジに行っていたら、マホロバには会えなかったような気がする。結果とは、ホント偶然の集積なんだね。もちろん二人ともボンクラで、ニューのカトカラだと気づかなかったら、この発見は無かったのは言うまでもない。バカだけど、バカなりに一所懸命頑張ってきた甲斐があったよ。
でも、こんだけ偶然が重なると、もう必然だったんではないかと不遜にも思ったりもする。実力は無いけど、昔っから何となく運だけは強いのだ。春日山原始林といえば、カミキリ屋や糞虫屋を筆頭に数多(あまた)の虫屋が通ってきた有名な場所だ。蛾類だって、調査されたことが無いワケがない。なのに今まで見つからなかったのは、奇跡としか言いようがない。申し訳ないけど、きっとワシも小太郎くんも選ばれし人なのだ。
あっ、言い忘れた。小太郎くんと秋田さんには感謝しなくてはならないね。ありがとうございました。
おっと、岸田先生と石塚さんにも感謝しなきゃいけないや。先生が直ぐにFacebookの記事を見て気づいてくれなければ、どうなってたかワカランもん。仲の良い石塚さんにソッコーで連絡して下さり、直ぐに太鼓判を押して戴いたのも大きい。もし御二人が仲が悪かったりしたら、面倒くさいことになってたかもしんないもんね。変な奴がシャシャリ出てきて、手柄を全部自分のモノにしてた事だって有り得るからさ。この業界、人としてダメな人も多いのだ。功名心ゆえのルール無用も普通にあったりするから怖い。お二人の記載で良かった良かった。蛾界の重鎮が記載者名に並ぶというのもバリュー有りだ。御両名とも、改めて有難う御座いました。

次回、後編です。主に知見のまとめ、謂わば種の解説編になる予定です。

 
ー後記ー
この改稿版を書くにあたり、色々ネタを探してたら執筆当時のメールが出てきた。月刊むしの原稿の構成を担当して下さった矢崎さんに送ったメールだ。ちょっと面白いので載せておこう。

日付は、2019年08月04日となっている。
あれからもうきっかり一年経ってるんだね。何だが懐かしい。

 
件名: マホロバキシタバ発見記① 五十嵐 弘幸・葉山 卓
To: 矢崎さん(月刊むし)

五十嵐と申します。
岸田泰則先生から発見記を是非書いて下さいとの御要請を賜り、僭越ながら、わたくし五十嵐が代表して発見の経緯を綴らさせて戴きます。
現在、PCが無いゆえ、失礼乍ら携帯メールで記事をお送りします。多々、不備があるかとは存じますが、何卒御勘弁下さいまし。

と云う前置きがあって、本文を送った。
自分でも忘れてたけど、その最後に以下のような文章が付け加えられていた。

ー矢崎さんへー
当方『蝶に魅せられた旅人(http://iga72.xsrv.jp/ )』というおバカなブログを書いておりまする。堅苦しい文章も書けなくはないのですが、気が進まない。それで岸田先生に御相談したところ『発見記なんだから自由に書けばいいんじゃない?矢崎さんという優秀な編集者もいるし、ダメなら上手く直してくれるよ。』とおっしゃてくれました。結果、こういう勝手気儘な文章になりました。で、勢いで顔文字まで入れちゃいました(笑)。流石に顔文字はマズイと思われるので削除して下さって結構です。本文も不適切なところがあれば、直して下さって構いません。あまり大幅に改変されると悲しいですが…。
とにかく掲載のほど何卒宜しくお願いします。

追伸
えー、添付写真が送りきれないので何回かに分けてお送りします。写真を入れる位置はお任せします。
それと、実を言うと文章はこれで終わりではありません。生態面など気づいたこともありますので、稿を改めてお送りします。本文の後にそれをくっつけて下されば幸いです。

以上なのだが、矢崎さんは有り難い事に「クソ蛾」等の不適切な箇所を除いては、ほぼ原文をそのままで載せて下さった。よくこんなフザけたような文章を載っけてくれたよ。感謝だね。
オマケに読みやすいようにと、各章に「プロローグ」「採集したカトカラの正体は?」などの小タイトルを付けて下さった。これまた感謝である。気にいったので、今回その小タイトルをそのまま使わせて戴いた。岸田せんせの「矢崎さんという優秀な編集者もいるし」と云う言葉にも納得だすよ。
この場を借りて、改めて矢崎さん、有難う御座いました。

 
(註1)京都で既にカバフは得てはいたものの
カバフの採集記は拙ブログのカトカラ元年のシリーズに『孤高の落武者』『続・カバフキシタバ(リビドー全開!逆襲のモラセス)』などの文があります。興味のある方は、そちらも併せて読んで下されば幸いです。

 
(註2)奈良公園のカバフキシタバの記録
小太郎くん曰く、過去に古い記録が残っているそうだ。

 
(註3)謎のカトカラは尖らない
但し、裏面の斑紋に関しては細かい個体変異はあるかと思われる。本当はもっと沢山の個体を図示して論じなければならないのは重々承知しているが、これはあくまでもその時の流れで書かれてある事を御理解戴きたい。

 
(註4)zenodo
https://zenodo.org/record/1067407#.XTkdVmlUs0M
学術論文のサイトみたいだね。
尚、C.naganoiは1982年に蛾の大家、杉 繁郎氏によって記載された。桃園県で発見され、バラタイプには新竹県の標本が指定されている。
台湾名は「長野氏裳蛾」。ネットでググっても情報があまり出てこないので、おそらく台湾では稀な種だと思われる。

 
(註5)自身のブログ
http://iga72.xsrv.jp/ 蝶に魅せられた旅人。
アナタが読まれている、このブログの事ですね。

 
(註6)吸汁に下翅を開かないカトカラ
全てのカトカラを観察したワケではないけれど、文献を漁った結果、マメキシタバ以外にはそうゆう生態のものは見つけられなかった。優れた生態図鑑として知られる西尾規孝氏の『日本のCatocala』にも載ってなかった。

 

 
但し、通常は下翅を開く種でも、ケースによっては閉じたまま吸汁するものもいることを書き添えておく。

 
(註7)ヤマトタケルノミコト
『古事記』『日本書紀』などに伝わる古代日本の皇族(王族)。
『日本書紀』では「日本武尊」。『古事記』では「倭建命」と表記されている。現代では、漢字表記の場合には一般的に「日本武尊」の字が用いられる場合が多い。カタカナ表記では、単にヤマトタケルと記されることも多い。
第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたり、熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄である。須佐之男命(すさのおのみこと)がヤマタノオロチ(八首の大蛇)をブッた斬った時に中から出てきた「草薙の剣」を携えている。この伝説の剣はスサノオが天照大神(あまてらすおおみかみ)に献上したもので、それをタケルくんが天照大神から貰ったってワケ。ようするに伝説だらけの人が絡んでくるバリバリの英雄なんである。
その倭建命が故郷の大和の国を離れ、戦いに疲れて病に伏す。そのさなかに大和の美しい景色を想って歌ったとされるのが「倭は 国のまほろば…」という歌なんである。
訳すと「大和は国の中で最も素晴らしい場所だ。幾重にも重なり合った青垣のような山々、その山々に囲まれた大和は本当に美しい場所だ。」といった意味になる。

 
(註9)万葉まほろば線
JR桜井線の別称。JR奈良駅から奈良県大和高田市の高田駅までを結ぶ西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線。

 
(註8)シンジュサンを採ろうなどとは思わなかったら
これについては本ブログに『三日月の女神・紫檀の魁偉』と題して書いた。

  

アンタにゃ、ガッカリだよ

 
生駒山地・枚岡で夜間に糖蜜採集してたら、見慣れぬ蛾がやって来た。
カトカラ(註1)以外はフル無視なのだが、羽を開いて吸蜜する姿が綺麗だったので、つい採ってしまった。

 

 
でも名前がワカラン。蛾は種類数が多いので調べるのが億劫だ。と云うワケでFacebookに載っけたら、カッチャンから御回答があった。
「ホソオビアシブトクチバ」という名前なんだそうな。
珍しいのかな❓と思って調べたら、ソッコーで┐(´(エ)`)┌ガックリ。バラの害虫で、園芸する人達にメッチャ嫌われとるやないけー。
という事は…とは思ったが、調べてみるとヤッパのド普通種であった。ネットで各画像を見てたら、段々見たことがあるような気がしてきた。羽を閉じた三角形のは見覚えあるかも。きっと羽を開いて吸蜜してたから、見たことない奴だと思ったんだね。その印象が強過ぎて、冒頭の三角形の画像でも気づかんかったのねんのねん。

よほど捨てたろかとも思ったが、それじゃ彼奴も浮かばれんだろう。そう思って展翅することにした。

 
【ホソオビアシブトクチバ Parallelia arctotaenia 】

 
羽を広げると、やっぱスタイリッシュでカッケーじゃんか。
珍しいか珍しくないかだけで評価するのもどうかとは思うが、惜しい。もし珍だったとしたら、きっと💗ラブリィーになってたに違いないのにね。

ゲッw(°o°)w、でも裏見たらメチャ汚い。

 

 
ほぼ文章が出来上がったので、画像を纏めて消そうと思ったら、裏側の写真が出てきたのじゃよ。記憶から完全に消されてた。そういえば帰り間際に急いで撮ったわ。
ラブリィー発言は撤回です。やっぱりアンタにゃ、ガッカリだよ。

一応、種の解説をしとくっか…。

ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)に属する開張38〜44ミリの小型の蛾である。
分布は本州、四国、九州、対馬、沖縄本島、石垣島。海外では台湾、インド、大平洋地域、オーストラリア。
日本だけでなく、海外でも何処にでもいるって感じだな。もう愛情、ゼロである。

成虫の出現期は、5〜10月。こんだけ長く見られるということは、年2回は発生するのかな❓まあ、今やどっちゃでもエエけど。

幼虫の食餌植物はバラ(バラ科)の他に、ウバメガシ(ブナ科)、サルトリイバラ(ユリ科)、トウゴマ(トウダイグサ科)なんかも食うそうだ。属レベルにとどまらず、科まで越えて餌にしとるのね。相変わらず、蛾類って食いもんに節操がない奴が多いニャアー。

レッドデータブックでは、茨城県が希少種に指定しているようだ。こんなもんまで希少種にするって、茨城県には虫がそんなにもおらんのかえ❓
あっ、つもりじゃなかったけど、結果、ディスってるな。でも、茨城県って、何が有名で珍しい奴っておったっけ❓
考えてもチャマダラセセリくらいしか頭に浮かばんよ。

 
                       おしまい

 
追伸
思い入れがないと、書くのは早いから楽ちんなのだ。蝶の事とカトカラの事は、そうはいかないけど。只今、マホロバキシタバについての原稿を書いてるけど、全然進まへんしぃ〜。

 
(註1)カトカラ
ヤガ科シタバガ亜科 シタバガ(Catocala)属の総称。
名前はギリシア語由来で、美しい下羽という意味。その名のとおり美しい下羽を持つものが多く、人気の高い蛾。現在、日本には32種が記録されている。その代表的なモノの画像をいくつか貼り付けておきましょう。

 
【ムラサキシタバ】

(2019年 9月 長野県松本市)

 
【ベニシタバ】

(2019年 9月 岐阜県高山市)

 
【カバフキシタバ】

(2020年 7月 兵庫県宝塚市)

 
【シロシタバ】

(2019年 8月 長野県大町市)

 
ここに並べたものは、上翅にもそれぞれ特徴があって美しい。
本ブログに「2018′ カトカラ元年」と「2019′ カトカラ二年生」というカトカラについて書かれた連載があります。よろしければ、ソチらも読んで下され。

 

2019’カトカラ2年生 其の2(5)

 
   vol.19 ウスイロキシタバ

   最終章『穢なきインタクタ』

 
第五章の最終章は、種の解説編である。
ここまでやっとこさ辿り着いたんだから、また迷宮に囚われてクソ長くならないことを祈ろう。

 
【ウスイロキシタバ ♂】

 
スマホの自動画像補正機能の関係で下翅の色の再現性が低い。実際に肉眼で見る新鮮な個体の下翅の色は3番目が一番近い。スマホを買い替えて機能がアップしたと喜んでたけど、まさかこんな落とし穴があるとはね。前の機種にはあった画像をシャープにする機能も見当たらないし、ピンボケ写真が増えそうだ。機能アップも考えもんだよ┐(´(エ)`)┌

 
【同♀】


  
 
前翅の地色は明るい灰白色。波状の内横線は前半が巾広い黒色で縁取られ、前縁中央に大きな黒斑がある。後翅の地色は淡い黄白色で、中央黒帯と外縁黒帯は繋がらない。以上の事から他のキシタバ類とは容易に区別できる。
ヤガの大家であった杉 繁郎氏(故人)は、このウスイロキシタバを論文(註1)の中で褒め称えており「極めて顕著で優美な蛾である。」と書いておられる。

 
【♂裏面】

 
【♀裏面】

 
何か画像が暗いから撮り直しするっぺよ。

 

 
裏面は他のキシタバ類と比べて全体的に黒帯が細く、地色はやや淡い黄色である。
近縁種と思われるヤクシマヒメキシタバ(以下ヤクヒメ)の裏面と相似するが、以下の点で容易に区別できる。

 
【ヤクシマヒメキシタバ Catocala tokui】

(出展『日本のCatocala』)

 
①ヤクヒメはウスイロと比して上翅の黒帯、特に中央の黒帯が太い。
②ウスイロは上翅の頭頂部(先端)に黄色い小紋が入るが、ヤクヒメには入らない。
③ヤクヒメは下翅中央の黒帯が外側に向かって膨らみ、丸く弧を描くような曲線を示す。また、その内側に「くの字形」の小紋が入る。
④ヤクヒメは下翅外側の黒帯が太い。一方、ウスイロはその黒帯が細く、外縁から離れて見える。また上部で帯が消失する。

 
【分類】
ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ(シタバガ)属(Catocala)

 
【学名】Catocala intacta intacta Leech, 1889

記載者は、Leech(リーチ(註2))。
冒頭の杉 繁郎氏の論文『ウスイロキシタバ(改称)の採集記録』に拠れば、1886年の7月にリーチ自身が滋賀県長浜で採った1頭により記載されたものらしい。ようは最初に日本で発見されたってワケだね。

属名の「Catocala」は、ギリシャ語のkato(下)とkalos(美しい)の2つの言葉を合わせた造語。つまり後翅が綺麗な蛾であることを表している。

小種名 intacta の語源は、頼みの綱である平嶋義宏氏の『蝶の学名―その語源と解説―』には載っていなかった。ゆえに仕方なく自分で探すことにした。

学名にはラテン語が使われることが多いので、おそらく由来はラテン語であろう。
ならば綴りの語尾が「a」で終わっていることから女性名詞かな? ラテン語の名詞には男性・女性・中性の3つの文法上の性がある。例えばラテン語で「バラ」を意味する「rosa」の(〜a・〜ア)なんかが女性名詞となる。
いや待てよ。誰か女性に献名されたとは考えられないだろうか? だとしたら、ややこしい事になる。ここは外堀から攻めずに正面突破、先に綴りだけでググッておこう。それで見つかればラッキーちょんちょん。話が早い。

調べてみると、有り難いことにラテン語から同じ綴りの言葉が見つかった。
意味は「完全なままの、失われた部分がない、手つかずの、完全なる、完璧な」とあった。意訳すると「穢(けがれ)のない」「純潔の」といったところか。
更に”intact”の語源を辿ってゆくと、”intactus”に行き着いた。in(否定)+tactus(touchに相当)=untouched という構造になっているらしい。多分これがラテン語の語源中の語源で「intacta」はそこから派生した言葉だろう。何れにせよ、おそらく学名の由来はここらへんに違いなかろう。

だとしたら、ツッコミどころ満載の学名じゃないか。
どこが完全、完璧で、穢れなき純潔な存在やねん❓と言いたいアナタ、気持ちは解らんでもない。
記載者であるリーチが自分で見つけたからって、それはジャッキアップし過ぎの贔屓(ひいき)の引き倒しだろう。図鑑の画像なんかを見ると、中途半端な下翅の色はお世辞にも美しいとは言えない。つまり完璧だとは言い難い。そう思う人も多いだろう。
でも上翅は文句なく美しいから、もしも下翅が鮮やかな黄色だったとしたら完璧かもしんない。或いは純白ならば、それこそ純潔の証、穢れなき完璧な存在だ。そう考える人だっているかもしんない。
とはいえ、たとえそうじゃなくとも冒頭で書いたように杉 繁郎氏は「極めて顕著で優美な蛾である。」と述べられておられる。御大、アンタもリーチと同じで贔屓の引き倒しかよ。と言いたくなる向きもあろう。アチキも自分て採る前なら、そう言っていたに違いない。
しかしである。そこまで贔屓の引き倒しじゃないけれど、自分で採った今はアッシも優美な蛾だと思う。標本と生きている新鮮な個体とでは、まるで印象が違うのだ。実物を見て、素直に(☆▽☆)カッケーと思った。スタイリッシュな上翅はもとより、下翅も渋い象牙色で、思ってたよりも遥かに美しいのだ。これについては「成虫の生態」の項で改めて書くつもりだ。

因みに、全然関係ないんだけど、巨大衝突で周惑星円盤を経てない衛星を「intact moon」と言うらしい。
んっ(・∀・)❗❓、何故にムーンなのだ❓
いかん、いかん。危うく早くも脱線するところであった。気になる人は自分で調べてみて下され。

 
【和名】ウスイロキシタバ

キシタバ(黄下羽)の名を冠するが、後翅は鮮やかな黄色ではなく、淡い黄白色なことから名付けられたのだろう。色の薄いキシタバってワケだね。
昔はチャイロシタバとかチャシタバなんて云う酷い名前が付けられていたそうだ。しかし故 杉 繁郎氏によって名称が変更された。その経緯を前述の論文から一部抜粋しよう。

「従来チャシタバ(三宅,動物学雑誌,15:384,1903),チャイロシタバ(松村,日本毘蟲大図鑑:775,1931)の和名があるが、余りに不適当でおそらく実物を見ずにつけられたものであろう。幸にまだ多く使われていないので私達はここに改めてこの和名を提唱しておく。」

そういえば論文には、こうも書いてあった。
「原記載の図はよくできているが、SEITZ(ザイツ)の図はきわめて出来が悪く、前翅は褐色に、後翅の地色は強い黄色に描かれていて、およそ実物とは似つかぬものとなっているから注意する必要かある。」
それって、Wikipediaに載ってたコレの事かなあ❓

 

(出展『Wikipedia』)

 
コレ見たら、確かにチャイロと付けたくもなるかもね。
ウスイロキシタバもどうかとは思うが、チャシタバとかチャイロシタバよりかは遥かにマシだ。
って云うか、そもそも「うすいろ」の使い方、間違ってないか❓ 薄色って、たぶん薄い紫っぽい色じゃなかったっけ❓

『コトバンク』には、次のような説明があった。

ー薄色(うすいろ)ー
浅紫うすむらさきともいう。薄く、ややくすんだ紫色のこと。平安時代には紫系統の色が好まれ、最高位は深紫こきむらさきであった。薄色はそれに次ぐ序列の色。

 

(出典『カラーセラピーランド』)

 
ほらね。生成り色とかオフホワイト系の色じゃないのだ。
それはさておき、もしこの淡い紫が下翅だったら、かなり優美だよね。たおやかな美しさだろうから、ムラサキシタバと人気をニ分していたかもしれない。でも「ウスイロシタバ」だと、語源を知らない人ばっかだろうから、ダサいと言われそうだ。
何で「フジイロシタバ」とちゃうねん(ノ`Д´)ノ彡┻━┻❗と怒る人もいるだろね。

それはさておき、古(いにしえ)の色の呼び名って良いよね。
古色を使って、もっと雅(みやび)で渋カッコイイ名前って付けれなかったのかなあ…。

参考までに書き添えておくと、カトカラ同好会のホームページにある『ギャラリー・カトカラ全集(註3)』には「キシタバと称されているが、後翅は黄色ではない。薄クリーム色で、ほとんど白色である。ウスキシロシタバというような和名の方が的を射ている。」と云う一文がある。
まあ、それも解らないワケでもないが、あまりピンと来ない。って云うか反論しちゃうと、採れたての新鮮な個体は標本よりも下翅が断然黄色っぽい。飛び古した個体や死んで時間が経ったものが白っぽく見えるのではないかと個人的には思っている。シロスジカミキリと同じようなもんじゃなかとね❓ シロスジカミキリは新鮮な個体だと白筋カミキリではなく、黄筋カミキリだもんね。
しかし、生きている時の色を命名の基本とするか、標本の色を命名の基本とするかはジャッジメントが難しいところではある。逆にモンキアゲハなんかは生きてる時は紋が白くて、死ぬと紋が黄色くなったりするからさ。生きている時の見た目で、もしも「モンシロアゲハ」と名付けてたとしたら、「どこがモンシロやねん。モンキやないけ、ダボがっ(-_-メ)」とツッコミが入ることは想像に難くない。
段々、頭の中がこんがらがってきて、自分でも何言ってんのかワカンなくなってきた。こんな事に正否を追い求めること自体がナンセンスなのかもしんない。

でもさあ…。
黄色いんだよなあ。

 
(♂)

(♀)

 
象牙色か、それよりやや黄色味が強い。
いっそのこと、シンプルにキナリシタバやゾウゲシタバ。或いはゾウゲキシタバとかじゃダメだったのかな❓
まっ、これとてベストとは言えないけどさ。

そういえば『日本産蛾類標準図鑑2(註4)』には、黄色い下翅の個体が図示されてたな。

 

(出展『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
ウスイロって元々は下翅が黄色くて、進化の過程で色が薄くなっていったのかな❓ だったら、基本は名前の後ろにキシタバと付けるのが妥当かしらね。
因みに変なのはコレくらいで、調べた限りでは他に顕著な異常型は見つけられなかった。この種には大きな変異幅はあまりないようだ。

話を和名に戻そう。
この際だから言っちゃうと、下翅じゃなくて美しい上翅に目を向けるという手もある。例えばモザイクシタバとかさ。
(´-﹏-`;)う〜ん、あんまシックリこないな。ダサいかも(笑)
偉そうなこと言っちゃってるけど、和名を付けるのって難しいや。簡単じゃないやね。

 
【英名】
英語では、カトカラの仲間は「〜underwing」と呼ばれているが、調べた限りではウスイロキシタバには特に英名は付けられていないようだ。
もし名付けるとするならば「Off white underwing」あたりが妥当かな? 或いは「Ivory underwing」「Ivory white underwing」とかだろね。個人的には、オフホワイトよかアイボリーの方がシックリくるな。
まあ、英名なんてどっちだっていいけどさ。

 
【亜種と近縁種】

■Catocala intacta intacta Leech, 1889(日本)
日本で発見されたので、日本産が原記載(名義タイプ)亜種となる。

■Catocala intacta taiwana Sugi, 1965(台湾)
1965年に杉 繁郎氏によって記載された台湾亜種。
日本のモノとはどう違うんだろ❓
でも『世界のカトカラ(註5)』にはナゼか台湾産の標本写真が載ってなかった。もしかして珍しいのかも❓

探したけど、画像はこんなんしか見つけれんかった。⬇
情報が少ないと云うことは、どうやら台湾では稀そうだな。

 


(出典 3点共『台湾生物多様性資訊入口網』)

 
何となく日本のものとは違うような気がするが、標本が古くて真面目に検証する気が起こらない。
そうだ。日本人の記載だし、それも蛾の大家である杉さんだったら、アホなワシでも何とか記載論文を見つけられそうだ。

(◠‿・)—☆ありましたー❗
わりかし簡単にネットで目っかったよん。

『Illustrations of the Taiwanese Catocala,with Descriptions of Two New Species :Noctuidae of Taiwan1(Lepidoptera)』と云うタイトルの論文なのだが、全面英文で書かれていた。(╯_╰)メンドくせー。

たぶん、両者の違いについて書かれているのは、この箇所あたりだろう。

「differs from the nominate subspecies in the reduced median and marginal bands of hindwing, otherwise nearly identical.」

意訳すっと「原記載亜種とは異なり、後翅中央の黒帯、並びに外側の黒帯が減じ、細くなる。それ以外はほぼ同じである。」てな感じだろうか。

確かに日本のモノと比べて明らかに下翅の黒帯が細い。
亜種となるのも納得である。
余談だが、ネットには台湾名に『白裳蛾』と云う漢字を宛がっているサイトがあった。

大陸側の中国(中国浙江省の西天目山)でも分布が確認されているが、ソヤツは特に亜種区分は為されていないようだ。
『世界のカトカラ』には台湾産は無かったけど、中国産は図示されていた。

 


(出展『世界のカトカラ』)

 
台湾産みたく下翅の黒帯は細くなく、日本のものと特に変わったところは見当たらない。亜種区分されてないのも納得だね。

近縁種に、Catocala hoferi Ishizuka&Ohshima(ヒメウスイロキシタバ)という中国南東部に分布するものがいる。
ウスイロキシタバと比べて小型で、後翅の色調は暗い。成虫は5月頃に出現するそうだ。

 
【Catocala hoferi Ishizuka&Ohshima,2003】

(出典『世界のカトカラ』)

 
ウスイロというよりも、ヤクシマヒメキシタバの方がパッと見的には近い。それにしても子汚い奴っちゃのー。★4つだから、珍品みたいだけどね。

何となくネットサーフィンしてたら、変なのが出てきた。

 
(図1)

(出典『ResearchGate』)

 
(図2)

(出典『BioOne』

 
Catocala becheri Kons&Saldaitis といい、最近になってベトナム中部から発見され、2017年に記載されたようだ。どうりで石塚さんの『世界のカトカラ』にも載ってなかったワケだね。

画像1枚目の1.2.3が新種で、4.5.6がウスイロだ。ちなみに4は日本産(多治見)、5が中国江西省・武夷山、6は中国福建省のものだ。浙江省以外にもいるんだね。
この新種、一見してウスイロとソックリだ。けど上翅の黒い斑が濃く、外側も黒ずんでてメリハリが強い。後翅は茶色っぽくて黒帯が減退しがちだ。そして外側の黒帯が太い。
論文の触り(抄録)には、ウスイロや Catocala hoferi とは♂交尾器の形態が明らかに異なると書いてあった。

試しに学名でググッたら、ラオス在住の蛾採りの天才 小林真大(まお)くんのツイッター(Moth Explorer LAOS)にヒットし、そこに灯火に飛来した C.becheri の写真があった。画像は貼っつけれないけど、物凄く黒っぽくて、ウスイロとはかなり印象を異にする。黒い魔術師と白い魔術師ってな感じだから、ちょっと自分の標本箱に並べてみたくなったよ。
発生は3月からのようで、日付は3.26となっていた。一瞬、エラく早いなと思ったが、よくよく考えてみれば3月、4月の雨季前のこの時期は蝶も多い。ラオスは亜熱帯だかんね。この時期でもクソ暑い。
あー、またラオス行きてぇー。長いこと行ってないもんね。
論文の標本写真のラベルは5月になっていたから、少なくとも2ヶ月くらいの寿命はあるのだろう。発生は3月下旬、もしくは中旬から始まるものと思われる。ビャッコイナズマだけがまだ採れてないし、行きたいなあ…。

画像2枚目は、A.B.C.Dがベトナムの新種。E.Fはラベルがネパール産となっている。G.Hが日本の原記載のウスイロ。IとJはウスイロの台湾亜種だ。
論文を読めてないので、E.Fが何なのかがよくワカンナイ。ウスイロはネパールに分布しないから、これも新種 C.becheriになるのかな? それともウスイロの新亜種なのかな? 上翅はウスイロでも新種でもない変な感じだ。強いて言えば、その中間? 但し、新種は裏面上翅の帯がウスイロよりも太い。ネパール産のモノも太い。コレって何者なんざましょ❓
 
ところで、図鑑等では並びになっている Catocala tokui ヤクシマヒメキシタバとの類縁関係はどうなっているのだろうか❓ 何となく似てるし、並んでるから近縁だと思ってたけど、他人の空似という事はないのかね❓
DNA解析では、どうなってたっけ❓

 

(出典『Molecular Phylogeny of Japanese Catocala Moths Based on Nucleotide Sequences of the Mitochondrial ND5 Gene』)

 
図は拡大できるが、探すのは大変だろうからトリミングしよう。

 

 
近いっちゃ近い。
でもクラスターは上の Catocala streckeri アサマキシタバの方が近縁に見える。
この疑問に関してはアサマキシタバの回でも書いたが、世界的カトカラの研究者である石塚勝己さんから次のような御指摘があった。

「ブログ、楽しく読ませていただきました。
引用されているDNA系統樹は、新川さんにやっていただいたミトコンドリアND5をMLで処理したものです。これでアサマとウスイロが近縁と判断するのは誤りです。ここで類縁が指摘されているのはワモンとキララ、オオシロとcerogama、ムラサキとrelicatだけです。そのほかのものは類縁関係は判断できません。おそらくミトコンドリアND5の解析ではカトカラの系統を推定するのは無理なのだと思います。😀」

つまり、ウスイロとヤクヒメの類縁関係は証明されていないとゆう事だね。

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、58-60mmとなっていた。一方、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』では54〜61mm内外となっていた。『みんなで作る〜』は古い図鑑、たぶん『原色日本産蛾類図鑑』の表記をそのまま採用していると思われるので、岸田先生の図鑑の54〜61mmを支持する。但し、58〜60mmくらいの個体が多い。

 
【分布】
本州(中部地方以西)、四国、九州、対馬、屋久島。
国外では中国南部・台湾に分布する。

 

(出展『日本のCatocala』)

 

(出展『世界のカトカラ』)

 
杉 繁郎氏の『ウスイロキシタバ(改称)の採集記録』によると、タイプ産地の滋賀県長浜でリーチが1886年7月に採集して以来、その後ほとんど採集されず、僅かにMELIが神戸で採集した1♂の記録(1936)のみしか長年無かったそうだ。つまり、嘗(かつ)ては大珍品だったのである。そんな時代、永井洋三氏が1956年に静岡市北安東にある静岡県農業試験場の予察燈で本種を採集し、その分布が意外にも本州南岸に沿って東に延びている事が知られるようになった。その後、静岡県金谷町、長野県下伊那郡など東日本の各地でも少ないながら分布が確認されるようになったようである。また、日本海側では福井県武生市山室町(北限)でも見つかっている。

暖温帯系の種で、主に九州から山梨県南部(東限)に分布する。西尾規孝氏の『日本のCatocala(註6)』には、成虫の分布は食樹であるアラカシの分布と重なると書いてあった。
この事からも、たぶん垂直分布は低くて平地から低山地に棲むカトカラだろう。

北から順に調べた範囲内での主な産地を並べてみよう。
東日本では山梨県南巨摩郡身延町、長野県下伊那郡、岐阜県美濃加茂市、愛知県豊田市、豊川市平尾町、北設楽郡に記録がある。
ネットを見ると、愛知県や岐阜県南部では比較的多く見られるようだ。

関西では、京都市八瀬、京都府美山町芦生原生林。滋賀県長浜市、八日市。大阪府能勢町、池田市、箕面市。奈良県上北山村、川上村。和歌山県田辺市中辺路町、日置川町。三重県紀伊長島町、海山町、紀和町の記録がある。
人伝ての話だと、どうやら紀伊半島南部には広く分布するようだ。この地域は植林地も多いが、原始からの暖帯照葉樹林も結構残っているから解る気がする。気になるのは沿岸部の紀伊長島町の記録。探したら、意外と沿岸部の産地が沢山見つかるかもしれない。案外、キナンウラナミシジミと分布が重なったりしてネ。でもキナンウラナミの食樹はアラカシではなくてウバメガシだからなあ…。全然、的外れかもしんない。
大阪府南部に記録がないのも気になる。それなりに暖帯照葉樹林はあるし、記録の多い紀伊半島南部とも連なるから探せば見つかるかもしれない。
兵庫県の記録も比較的多く、神戸市の他にも宝塚市、西宮市、姫路市豊富町、丹波市山南町、赤穂市上郡町、相生市矢野町、佐用郡佐用町などの記録があり、よく調べられているといった感がある。
だが『兵庫県のシタバガ(註7)』には「県下では南部の平坦地に分布するが確認されている地点は少ない。」と書かれてあった。ならばと『兵庫県のカトカラ(註8)』で確認すると、やはり★★の「分布は限られるが、産地では個体数が多い」というカテゴリーに入れられていた。
これで疑問が解けたよ。
カトカラ同好会の『ギャラリー・カトカラ全集』には「関西の愛好者にとってはなんということのない種であるが、関東以北の愛好者にとっては憧れのカトカラの一つである。」と書かれてあったから、正直採る前から楽勝気分だった。でも全然そんな事はなかったからね。カトカラ同好会に所属しているAくんも姫路でしか見たことが無いと言ってたし、小太郎くんも赤松か加西のサービスエリアで1回だけしか見たことがないと言ってた。自分も各地を探してみたが池田市と箕面市で惨敗。生駒・金剛山地では記録は無いようだし、他のカトカラを採りに行った折りに偶然出会った事も無い。それで何処にでもいると云うイメージは完全に吹っ飛んだ。食樹であるアラカシは何処にでもあるのだが、何処にでもいないのだ。分布は関西でも局所的で、そんなに簡単に採れるような普通種ではないと思う。

中国地方では、岡山県吉備中央町、倉敷市、広島県庄原市、島根県三瓶町、大田市などからの記録が拾えた。岡山県南部から中部では普通に見られ、北部では少ないという。

四国は高知県土佐市宇佐町、高松市の記録しか見つけられなかった。しかし、上の分布図によると四国全県に記録はあるみたいだ。

九州地方は福岡県のレッドデータブックによると、九州での記録は少なくて局地性が強いという。西に行けば行くほど生息地が増え、普通種となるのかと思いきや、意外とそうでもないんだね。とはいえ、コチラも分布図を見ると全県に記録があるみたいだ。
福岡県内では、過去に大牟田市勝田で記録されただけであったが、近年朝倉市山田で確認された。そして朝倉市の記録は大分県日田市内の記録の延長線上にあると考えられると添えられていた。その大分県は他に佐賀関町、深耶馬渓に記録がある。耶馬渓には個体数が多く、散発的に日田市内まで見られるという。宮崎県は延岡市に記録がある。佐賀県、熊本県の記録は見つけられなかった。但し、熊本県は耶馬渓に隣接する地域には棲息すると思われる。鹿児島県は屋久島の記録しか見つけられなかった。長崎県も対馬の記録しか見つけられなかったが、多産するみたいだ。因みに何処にも書いていないけど、対馬のものは普通の型の他に黒っぽいタイプもいるみたいだ。

 

(出展『世界のカトカラ』)
 

(出展『撮影・採集した対馬の興味ある蛾』)

 
これについては、たまたま黒っぽい個体が目についただけだから、真偽の程には自信が無いことをお断りしておく。
それはそうと、下の個体って新種 C.becheri に似てなくね❓

話を戻そう。
西尾規孝氏の論文『環境指標としてのカトカラ(やどりが 204号 2005)』には、各カトカラの希少度を数値で示した表が載っていた。それによると、希少度が一番高いのがアズミキシタバで数値は338。以下、ヤクシマヒメキシタバ331、フシキキシタバ312、カバフキシタバ311、ナマリキシタバ310、ミヤマキシタバ304、ヒメシロシタバ283。そして、ウスイロキシタバとケンモンキシタバが278という順になっていた。
この時代の日本のカトカラは全部で30種(今は32種)だった筈だから、同率だが8位って事はかなり上位にランクされている。それはそうと、昔はフシキって相当な珍品だったのね。今や関西なら何処にでも居るけどさ。あっ、フシキを除けば実質7位じゃないか。7位と云うのは、かなり珍しい部類と言えるよね。
ようは全般的にウスイロの分布は局所的で、やはり何処にでもいると云うワケではなさそうだ。情報を何でもかんでも鵜呑みにしちゃダメだね。同時に書く方も気をつけなきゃいけないと思ったよ。実際、ネットには孫引きで関西には多いと書いているブログをよく目にする。そういや、まだカトカラ1年生でウスイロを見たことがない頃、山梨で会った関東の高校生に「関西はウスイロが簡単に採れていいですよねぇ。」と言われた事があったわ。きっと東日本の人が関西へ来て、誰かに現地を案内された場合、産地には個体数が多いから何処にでも沢山居ると思い込むケースなんてのもあったのだろう。『ギャラリー・カトカラ全集』の記述とそれらが『関西では普通種』という説が伝播していった原因になったのかもしれない。

おそらく西日本でも自然度が高い環境の良い照葉樹林(常緑カシ林)にのみ生息するものと思われる。類推するに、+アルファで起源の古い大きな森でアラカシの大木があり、すぐそばには川があって湿度の高い環境を好むのではなかろうか❓ 自分が見た兵庫県と三重県の生息地は、どちらもこれらの条件を満たす環境だった。紀伊半島南部ではヤクシマヒメキシタバと同時に得られることが多く、個体数も多いと聞いたことがある。そういえば、規模が大きな林であれば個体数は少なくないようなことが何処かに書いてあったな。居ないところも多いが、居る所には沢山いるって感じなのだろう。
でもなあ…、規模の大きい照葉樹林がある奈良市春日山で探し回っても見つからんかった。もしかしてクヌギやコナラの混じる照葉樹林の方が良いのかなあ…。 けどそんな環境だったら、関西だと何処にだってある。ワケわかんねえよ(@_@)

一方、ネットのブログ『尾張の蛾、長話』の「ウスイロキシタバ覚え書き」には、愛知県豊田市では以前は居なかった場所でも見つかるようになり、分布が広がっているようなことが書かれてあった。そして以下のような一文で締め括られていた。

「近年、放棄された森林にアラカシやツブラジイが侵入し、照葉樹林化していることが分かってきているが、その影響なのか?地球温暖化もあり、北限もそのうち更新されるかもしれない。」

この文章の雰囲気だと、原生林と云うよりも放置された二次林にいるような感じだ。でも棲息環境については詳しく書かれていない。それくらい書いてくれても良さそうなものなのにね。何でこうも大概のブログは秘密主義ばっかなのだ。詳しい産地まで書く必要性はないとは思うが、生態面や観察時刻まで秘密にする必要性は無いと思うんだよね。でも、あんましそれらを書いているサイトはあらへん(この人はまだ書いてる方だ)。特に蝶の写真しかやってない人たちが酷い。露出とかシャッタースピードなんてどうでもよろし。対象物に対する観察記述が殆んど見られないから正直使えない情報ばっかで、糞オナニーかよと思う。写真だけで、何の生態データもほぼ無いに等しいものだらけなのだ。そんなの文献としての価値はゼロだ。オナニーなら、魅せるオナニーをしろよな。画期的なオナニー方法なら、オラも知りたいよ。
もし目の前で「ネットマン」とか揶揄してくる奴がいたら、その場でボッコボコにしたるわい(ノ`Д´)ノ❗
あっ、いかん、いかん。酒飲みながら書いてるから、つい熱くなってしまったなりよ。撮る人も採る人も仲良くやった方がいいよね。マナーを守って互いに情報交換すれば有益だと思うんだけどな。特に蛾なんて生態が解明されてない種が多いから、協力しあった方がいいに決まってる。一応言っとくけど、撮影する人とは何処でも上手くやってまーす。楽しい方がいいもんね。腹立つのは、カメラやってる人の網を持ってる人へのネットでの陰湿な攻撃なのさ。٩(๑`^´๑)۶プンプン。
けんど、よくよく考えてみると蛾好きに写真しかやってない人なんているのかね❓
たぶん居ないよね。だって夜だもん。蝶の写真を撮ってる人とゴッチャになっとるわ。酒、呑み過ぎー😵🥵

やっぱり脱線してまっただよ。
それはそうと、果たしてウスイロは二次林に進出したアラカシと共に分布を拡げているのだろうか❓ もし愛知県ではそうなら、関西でも事情は同じ筈だろう。放置された雑木林がカシ類の進出により各地で薮化しているからね。でも何処にでも居るような感じにはなってなさそうだ。アラカシの若木に幼虫が寄生するなら、とっくに関西でも普通種になってる筈じゃないか。でもあまり見ないし、簡単には北限なんて更新されるとは思えない。
いや待てよ。分布の端っこに行けば行くほど生態は変わるという例はよくある。或いは食樹も含めて新たな生活様式を獲得して進化しているのかもしれない。けど、愛知県は分布の端っこではないか…。ないよね。酔いが回っとるわ。
まあ、こっちはまだカトカラ三年生だし、所詮は考えの浅いド素人だ。バカの放言でしかない可能性もあるからして、蛾のベテランさん達は怒らんといてやー。アホな奴の戯言だと思って流して下され。

 
【レッドデータブック】
滋賀県:絶滅危惧種
高知県:情報不足
宮崎県:情報不足

蛾類については、この情報不足と云うのが多い。
やっぱ蝶なんかと比べて愛好者が少ないんだろなあ…。

 
【雌雄の判別法】
野外の暗い中では、意外と雌雄を間違え易い種だと思う。
多くのカトカラの♂は腹が細長く、尻先に毛束がある。♀はその反対の見た目だからパッと見で大体区別がつく。それに対してウスイロはその特徴がやや弱いところがある。♂でも腹がそんなに長くないし、結構太かったりもする。加えて尻先の毛束もボーボーじゃないから、ややこしいのだ。最近は老眼も入ってきてるしさ。細かいとこが見えんのじゃ。
やっぱ決定的な差異は、裏側から見た尻先だろね。そこが判別のキモだ。

 
(♂裏面)

 
♂は尻先に毛束がある。
画像は拡大できるが、拡大図も載せておこう。

 

 
 
でも、あんまし毛束が無いのもいるから、ややこしい。

 

 
ピンボケでスマンが、♂なのにあまり毛束がないことは分かるかと思う。
一応、同じ個体の展翅画像を拡大したのも貼っつけておこう。

 

 
ねっ、♂なのに毛束があんまし無いっしょ。

 
(♀裏面)

 

 
♀は尻先に縦にスリットが入り、産卵管らしきものが見える。
コチラも画像は拡大できるが、展翅画像をトリミングしたものを貼っつけておこう。

 

 
でも、⬇こんなワケわかんないのもいる。

 

 
腹太だから一見すると♀に見えるが、尻先にスリットが無く、産卵管も見えない。となると、♂ということになる。こんなのがいるから、ワケわかんなくなるのだ。

因みに横から見ても判別は大体できる。

 
(♂横面)

 
(♀横面)

 
腹の太さと尻先の形で、おおよそは判別可能だ。
♀は腹が太くて尻先が尖って見える。この尖って見えると云うのが重要な区別点だ。それが横からだとよく分かる。
他に♂の方が前脚のモフ度がやや高いというのもあるが、アサマキシタバ程には差が無いし、飛び古した個体は毛が抜け落ちてるので補助的にしか使えない。また♀の方が翅に丸みを帯びるというのもあるが、微妙なのもいるから同様に補助的にしか使えまへん。

 
【成虫の発生期】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には6ー7。『日本産蛾類標準図鑑』では「6月上旬から出現し、7月下旬まで見られる」とあり、『世界のカトカラ』もそれと同じ発生期になっていた。『日本のCatocala』でも基本は同じだが、ごく一部の個体が8月上旬まで生き残るとあった。但し、7月上旬を過ぎると大半は姿を消す。ゆえに新鮮な個体を得たければ6月下旬までだろう。場所にもよるだろうが、7月に入ると傷んた個体ばかりになる。このカトカラは鮮度が命。新鮮な個体でなければ魅力は半減する。傷んだ個体は他のカトカラと比べて色が薄いだけに、より擦れ擦れに見えるのだ。

 
【成虫の生態】
成虫はコナラやアベマキ、クヌギなどの樹液に飛来する。
『日本のCatocala』には「一般に糖蜜採集では採集困難…」とあったが、自分の糖蜜トラップには楽勝で飛んで来た。レシピ次第では樹液をも凌駕する。ちなみに今年は常にワシの勝ちじゃったよ。カバフキシタバの時もワンサイド勝ちだったから、ワシって糖蜜トラップ作りの天才じゃね❓
けど、毎回テキトーに作ってるからレシピは自分でもワカラン。だから再現でけへんねん(笑)。ようはアホなのである。

飛来時は白っぽく見えるからウスイロだと直ぐに分かる。
白いゆえ他のカトカラと比べて上品な感じがして、(´▽`)💞萌え〜。まさに「穢れなきインタクタ」だ。リーチも最初は闇の中で飛んでいるのを見たのかもしれない。その時に無垢なる印象を強く持ったことは充分に考えられる。だったら、この学名にも納得だ。標本だけを見て、あーだこうだ言うのは考えもんだね。標本は所詮はミイラなのだ。生きている時の本当の美しさは損なわれている。

樹液に飛来した時刻は、早いもので日没後間もない7時半頃。とはいえ、フシキキシタバやコガタキシタバよりも遅れて飛来し、大体は8時くらいから活性が入り始める。暫くして飛来が一旦止まり、9時半前後からまたポツポツと飛んで来て、午後10時〜11時台にかけて再び小規模だが活性が入る。但し、これはその日の気象条件によっても変わり、午後8時半を過ぎても飛来しなかった事もあった。
尚、吸汁時には殆んどの個体が下翅を開く。敏感度は普通ってところかな。
調べた限りでは、樹液以外の餌となりうる花蜜、果実、アブラムシの甘露での観察例は無いようだ。また吸水に来た例も見つけられなかった。

灯火にもよく飛来し、一晩に何十頭と飛んで来る事もあるという。個体数が多い所では樹液や糖蜜採集よりも灯火採集の方が効果があるという説を又聞きだが聞いたことがある。
因みにアチキの何ちゃって小型ライトトラップには午後9時半頃と10時15分、11時過ぎに飛んで来た。これまた又聞きだが、灯火への飛来時刻は夜更けになってからが多いみたい。
個人的な意見だが、多数の個体を望まないなら、樹液や糖蜜トラップの方が早めに片が付く。おそらく樹液に集まるカトカラ類は、先ずは吸汁してから、その後に灯火に飛来するのだろう。

日中、成虫は頭を下にして樹幹に静止しているというが、見たことはない。驚いて飛ぶと、おそらく着地時は上向きに止まり、暫くして下向きに姿勢を変えるものと思われる。

交尾記録は、少ないながらも午後11時から午前2時の間で確認されている。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ(Quercus glauca)。
幼虫の好む樹齢については調査されていないようで不明。
自然界ではアラカシのみが知られるが、クヌギやアベマキでも代用食になり、累代飼育も可能なようだ。
思うに、自然状態でもアラカシ以外の樹種を利用しているのだろう。ガって、チョウみたいに食餌植物に対してあまり厳密的ではなく、属レベルどころか科も関係なく何でも食う奴は多いからね。

 
【幼生期の生態】
いつものように幼生期は西尾さんの『日本のCatocala』に全面的に頼らせて戴く。西尾さん、いつもすいません。

 
(卵)


(出展『日本のCatocala』以下この項の写真は同出展)

  
卵は食樹の樹皮の裏などに産まれるが、観察例は少ないという。飼育下だが、卵の孵化の時期はナラ属を餌とするカトカラの中では早い方で、アミメキシタバよりも1週間から10日ほど早く、5月中には蛹化するという。

 
(3齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

 
(5齢幼虫の頭部と、その脱皮殻)

 
終齢は5齢で、昼間は細めの枝に静止しているようだ。色彩変異は野外でも飼育下でも認められないという。
幼虫を高密度で飼育すると、4、5齢時に幼虫同士が口器で互いを噛じり合って傷をつけ、死亡する場合があるそうだ。
蛹については、よく分からないが、おそらく落葉の下で蛹化するものと思われる。

チョウやガは、互いが近縁種かどうかは幼生期の形態で大半は分かるとされている。なので、ついでだからヤクシマヒメキシタバの幼生期の写真と比較してみよう。

 
(ヤクシマヒメキシタバの卵)

 
幼虫は自然状態では見つかっておらず、食樹は不明だが、ウバメガシで良好に育つことが知られている。

(3齢幼虫)

 
(5齢(終齢)幼虫)

 
飼育下では、ウスイロと同じく色彩変異は認められていないようだ。

 
(5齢幼虫の頭部と、その脱皮殻)

 
卵は全然似ていないけど、終齢幼虫は結構似ているかも。
カトカラの幼虫の識別には頭部の柄の違いが重要だと言われているが、顔も似ている。親戚くさいぞ。
微妙ではあるが、両者は近縁関係にあると言えなくもないってところか…。

                       おしまい

 
追伸
やれやれ。今回も長おましたな。書いてて酷く疲れたよ。下書きはサラッと書けたのになあ…。

次回は2019年に目っかった新しきカトカラ、マホロバキシタバの予定。
とはいえ、今年の調査が終わってから書くかもしんない。たった一年の調査で偉そうな事を書いて恥かきたくないしさ。
どうしても知りたい人は、『月刊むし』の2019年10月号を買いましょう。その採集記に、現時点で知ってる事は全部書いてある。 

 
(註1)杉繁郎氏の論文
杉 繁郎・永井洋三『ウスイロキシタバ(改称)の採集記録』
(蝶と蛾 8(3),34-35,1957 日本鱗翅学会)

 
(註2)LEECH
John Henry Leech(ジョン・ヘンリー・リーチ)
[1862年12月5日〜1900年12月29日]


(出典『Wikipedia』)

鱗翅目と甲虫目を専門とするイギリスの昆虫学者。日本や韓国、中国の昆虫を数多く記載した。日本ではギフチョウを記載したことで知られるから、その名に記憶がある人は多いかもしれない。他にゴイシツバメシジミの記載者にも、その名がある。
日本のカトカラでは、ウスイロキシタバの他にフシキキシタバやナマリキシタバの記載を行っている。

(註3)『ギャラリー・カトカラ全集』
カトカラ同好会のネットサイト。日本のカトカラ各種についての説明がコンパクトに書かれている。カトカラについて知る入門書としては打ってつけのサイトだろう。

 
(註4)『日本産蛾類標準図鑑』

蛾類学会の会長でもある岸田泰則氏編著の、今のところ日本の蛾類について最も詳しく書かれた図鑑。全4巻からなる。2011年に学研から出版されており、ジュンク堂書店など大きな本屋に行けば売っている。

 
(註5)『世界のカトカラ』

世界的なカトカラ研究者である石塚勝己氏によって書かれた本。世界中のカトカラの標本写真が掲載されており、カトカラ属全体を俯瞰して見るには格好の書。2011年に、むし社から出版されている。

 
(註6)『日本のCatocala』

2009年に西尾規孝氏により自費出版された日本のカトカラについて最も詳しく書かれた本。生態面に関しては他の追随を許さぬ優れた生態図鑑である。

 
(註7)『兵庫県のシタバガ』
高島 昭 きべりはむし 31(2)
「きべりはむし」は兵庫昆虫同好会の機関誌だが、活動休止に伴い、2009年4月からは「NPO法人こどもとむしの会」が引き継いでPDF管理している。

 
(註8)『兵庫県のカトカラ』
阪上 洸多・徳平 拓朗・松尾 隆人 きべりはむし 39(2)

兵庫県のカトカラについては、これを読めば全て解ると言っても過言ではないくらいによく調べられている。兵庫県は関西で最もカトカラの種類が記録されているから、ひいては関西のカトカラの事もこれを読めば大体解るという優れた報文。
近年、新たに市川町でヤクシマヒメキシタバも見つかっているらしいので(※)、是非とも改訂版を執筆して戴きたい。

(※)
坪田 瑛:ヤクシマヒメキシタバを兵庫県市川町で採集
誘蛾燈No.234 2018

中身は読んでない。誰か詳しい場所を教えてくれんかのう。

 
 
 

 

2019’カトカラ2年生 その弐(4)

 
   vol.19 ウスイロキシタバ

 第四章『瓦解するイクウェジョン』

 

2020年 6月17日

取り敢えずウスイロキシタバの新鮮な個体を雌雄共に確保できたので、新たな産地を探すことにした。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
これまでの結果、ウスイロが樹液、糖蜜トラップ、ライトトラップに飛来することは分かった。となれば残る象牙色の方程式の解明は、その棲息環境だろう。予測ではアラカシの大木が有るような古い起源の照葉樹林で、且つある程度の広さを有する湿潤な環境を好むのではないかと考えていた。
そういう場所となると、近畿地方では何処だろう❓
そこで真っ先に浮かんだのが奈良県の春日山原始林だった。あそこなら、これらの条件が完璧に揃っている。広大な原始林は常緑照葉樹を主体としており、そこに落葉広葉樹が混じる。幼虫の食樹であるアラカシも有り、古い起源の森だから勿論のこと大木もみられる。またイチイガシなどのアラカシ以外のカシ類も豊富だから、それらを二次的に利用する事も充分可能な環境でもある。加えて成虫の餌である樹液の供給源、クヌギやコナラ、アベマキも点在する。そして、原始林内には川も数本流れており、湿潤な環境という要素も満たしている。ようは、ここにいなきゃ何処にいるのだ❓というような場所なのだ。もしかしたらウスイロばかりか、ヤクシマヒメキシタバ(註1)だっているかもしれない。

 
【ヤクシマヒメキシタバ】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
もしヤクヒメが見つかったら、ちょっとしたニュースだろう。マホロバキシタバ(註2)に次ぐ2匹目のドジョウじゃないか。そんな風に想像してたら、ニヤついてきた。今年も連戦、連勝じゃーいヽ(`Д´)ノ❗

ただ、一つ気掛かりなのは此処でのウスイロの記録が探しても見つけられなかった事だ。調べた範囲では奈良県の記録は上北山村ぐらいにしか無い。まあどうせ調査が行き届いてないんだろうけどさ。所詮は世の嫌われ者の蛾だ。調べた人が少なくて、しかもイモばっかだったのだろう。
あっ、でも甲虫屋とか蝶屋もよく訪れるところだから、記録があってもよさそうなもんじゃないか…。
いやいや、だったらマホロバもとっくに発見されて然りだった筈だ。それがあれだけ長年にわたり多数の虫屋が入ってきたのにも拘らず、去年まで見つからなかったのだ。ようは皆さん、蛾なんて無視なのだ。だから記録もない。そうゆう事にしておこう。

この日はマホロバの予備調査も兼ねていたので、小太郎くんも参戦してくれた。勿論、春日山と奈良公園一帯は昆虫採集は禁止されているので、公園事務所の許可を得ての調査だ。

 

 
今年、マホロバの採集を目論んでる方は、採集禁止エリアを調べてから出掛けることをお薦めします。許可なく夜の原始林内をウロウロしてトラブルを起こすリスクをわざわざ冒さなくとも、禁止エリア外でも結構採れますから。

マホロバの事も考えて、原始林とその周辺にかけて樹液の浸出状況を確認してゆく。その経過の中で、どうせウスイロも見つかるだろうと思っていたのだ。

しかし、何処でも姿は全く見られない。どころか、別なカトカラの仲間さえ殆んど見ないし、他の蛾たちも数が少ない。居るのはノコギリクワガタばっか。あまりにも何もいないので、つい普段はムッシングするクソ夜蛾を採ってしまう。

 

 
羽を閉じて止まっているのを見て、体の真ん中の白い線(上翅下辺)が目立ったから、見たことない奴だと思ったのだ。
名前がワカンなくて、Facebookに載っけたら、何と有り難いことに石塚(勝己)さんから、ノコメセダカヨトウだという御指摘を受けた。けんど驚いたでやんす。まさか奴だとは微塵も思ってなかったからね。

ノコメセダカヨトウといえば、だいたいはこんな感じだ。

 

(出展『茨城の蛾』)

 
コヤツなら、何処へ行ってもウザいくらいにアホほどいる。
なので、(⑉⊙ȏ⊙)マジか❓と思ったワケ。でもよく見ると、コヤツの上翅の下辺にも白い縁取りがある。
石塚さん曰く「普通種ですが、色調の変異は多様です。」との事。ふ〜ん、これは謂わば黒化型みたいなもんだね。
けど、ネットで検索しても、ここまで黒いのは見つけられなかった。もしかして、コレってレアな型❓
所詮はデブ蛾だから、どっちゃでもえーけど。

最後に若草山の山頂をチェックして、この日の調査を終えることにした。

 

 
若草山の山頂は夜景スポットとして人気があり、観光客が結構来ていた。
駐車場から山頂までの遊歩道の途中で、小太郎くんが上空を飛ぶカトカラを見つけた。それなりに高くて網が届かない位置だったから見送るしかなかったのだが、アレって何だったんだろう❓という話になった。かなり裏面が全体的に黄色っぽく見えたのだ。
消去法でいくと、キシタバ(C.patala)は特別大きいから可能性は低いだろう。だいち裏面はウスイロとは全然違うから間違えるワケがない。

 
(パタラキシタバ 裏面)

 
因みに、キシタバ(註3)の回で小太郎くんの事をキシタバ虐待男と書いたが、今や蔑視度は更に上がって「デブキシタバ」と呼んでいらっしゃる。但し、その憎悪も突き抜けてしまい、虐待にも値しないようだ。キシタバくん、良かったね。悪いお兄さんは、もう怖くないよ(•‿•)

あと、この時期に此処で見られるキシタバの仲間もいえば、コガタキシタバとフシキキシタバくらいしかいない。
でもコガタは裏面が黒っぽいから、ウスイロと間違うことはない。除外していいだろう。

 
(コガタキシタバ 裏面)

 
となると、フシキかウスイロのどちらかしかない。
けど、ウスイロって飛んでるのを下から見た事って、あんましないんだよね。採ってた場所は木が密生していて、上に大きな空間が無く、皆さん横に飛んで行かはるケースが多かったのだ。
しかし、小太郎くんは、アレはフシキじゃなかったと思うと言う。たしかにフシキならば、もっと黄色が濃くて鮮やかな気がする。

 
(フシキキシタバ 裏面)

 
(ウスイロキシタバ 裏面)

 
ならば、おそらくウスイロだろうと思った。あの飛んでるのを下から見たという一点だけで充分だった。居るならば、そのうち採れる。だからその後、探し回ることも無く、直ぐにワモンキシタバを求めて平群町へと移動した。
時期的に、そろそろワモンを採っとかないとボロばっかになる。優先順位はワモンさんなのだ。ウスイロはもう新鮮な個体は採ったし、ここではボロだって構わない。居るという事実さえ掴めばいいのだ。

で、帰る時間ギリで何とか採って帰った。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe ♂】

 
ワモンって、渋カッコいいから好きなのだ。
あれっ?待てよ、自分は見たことないけど、そういえば小太郎くんが若草山にもワモンがいるって言ってたな。

あの見送った奴はワモンの可能性もあるかもしれない。たぶんワモンの裏面も黄色は薄かった筈だ。

 
(ワモンキシタバ 裏面)

 
でも、こんなに黒帯は太くはなかった筈だから、ワモンでもなかったと思われる。益々、ウスイロの可能性大だ。
 
 
 
2020年 6月20日

前回は様子見だったが、この日はマジ探しだった。
一番可能性の高そうな春日山遊歩道に狙いをつけて入った。
ここは照葉樹の原始林の真っ只中だし、道の横には川が流れているからだ。予測した環境としては申し分ない。どうせ居るだろうから、まあサクッと居ることを確認して、とっとと帰ろう。

 

 
森の中、真っ暗けー。

そういえば、去年は若草山でカバフキシタバを探したが見つけられず、早めに見切ってこの道を降りたんだよね。その時も真っ暗で、相当ビビりながら歩いた。オマケに思ってた以上に道のりが長かったから、途中でバリ不安になった。もしや別な異次元世界にでも迷い込んだんじゃないかと思って、パニくり寸前の半泣きどした。
そうだ、そうだ。思い出してきたよ。その後にカバフキシタバを採ったのに、あろう事か取り込みで逃しちまったんだよな。まあそれが結局はマホロバの発見に繋がったんだけどね。人生、何が幸いするのかはワカランもんだね。

 
【カバフキシタバ】

 
樹液の出てる木は見当たらないので、取り敢えず糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
しかし、少し時間が経っても何も寄って来ない。いつもなら、このスペシャル糖蜜に何らかの虫が直ぐに寄って来る筈なのだが…。
あっ、霧吹きを振ってから、かけるの忘れてた。下にエキスが沈殿するので、振って混ぜないと効力が半減するんだったわ。
とゆうワケで、今度は振ってから掛けようとしたら、シュコシュコ、シュコシュコ。シュコシュコシュコシュコシュコシュコ…。焦って何度もやるが、暗闇にシュコ音だけが空しく響くだけで液体は全く出てこない。
(-_-;)やっちまった…。こりゃ完全にノズルが詰まったな。
慌てて霧吹きを分解するも、だが事態を打開できない。何度試してもダメ。ただ握力だけが鍛えられるのみである。

まあいい。一回分だけでも、そのうち寄ってくんだろ。我が糖蜜トラップは無敵なのじゃよ。それに今回は採るのが目的ではない。何なら写真だけでもいいのだ。とにかく1頭だけでも飛んで来て、ここに居ることさえ証明できればいいのである。

だが、待てど暮せど、見事なまでに何もいらっしゃらない。
結局、9時過ぎまで待ったが何の音沙汰もなかった。諦めて下山し、樹液や灯火に来ていないかを確認しながら駅まで歩いた。他のカトカラも殆んどおらず、パタラが1頭だけ樹液に来ているのを見たのみで終わった。

 
【Catocala patala】

 
つまり、まさかの大惨敗を喫したってワケ。
あまりの惨事に、たぶん鬼日と言われる異常な日だったんだと思う事にした。でないと、プライドが保てない。

 
 
2020年 6月22日

何で、こないだはダメだったんだろ❓
本当にあの日は、たまたま鬼日に当たっただけなのだろうか❓
もしかしたら、純然たる照葉樹林よりも少しクヌギやコナラ、アベマキなどの広葉樹が混じる環境の方が良いのではと思い始めた。成虫の餌資源が有った方が良好な環境ではないかと思い直したのである。
そうゆうワケで、この日は滝坂の道を選んだ。

ここは道の左側(北)が春日山の原始林で、右側が広葉樹の混じる森だからである。道沿いに川が流れているので、空中湿度も高い。もう此処に居なけりゃ、何処にいるのだ❓という環境なのだ。

しかし、矢張り結果は同じだった。
(・o・;)マジかよ❓である。コレで完全に心が折れた。
で、調査打ち切りにした。何にも採れないって面白くないのだ。面白くない虫探しはしないというのがオラのモットーなのだ。
別に方程式なんて解けなくてもいいや。所詮はアマチュア。そこまで調べる義理は無い。どうせワシ、根性なしの二流虫屋やけん。
(TОT)ダアーッ。

                        つづく

 
追伸
なんとも冴えない終わり方である。
想定していたイクウェジョン、方程式は見事に瓦解した。象牙色の方程式は、また来年に持ち越しだよね。
因みに6月29日にも行ったが、ついぞウスイロを見つけることは出来なかった。こんだけ探しても見つからないということは、いないのかなあ❓…。絶対いる筈なのになあ…。いるけど、めちゃめちゃレアだとか❓
それはそうと、ならば小太郎くんと見送ったアレは何だったのだ❓フシキかなあ?…。でもフシキなんかとは間違えるワケないと思うんだよなあ。
ワテは根性なしなので、もういいやと思ってるけど、誰か根性がある人に是非とも此処でウスイロを見つけて欲しいよね。

次回、解説編で閉店ざんす。

 
(註1)ヤクシマヒメキシタバ
屋久島で最初に発見され、1976年に記載された。その後、九州、対馬、四国、紀伊半島でも分布が確認されている。

 
(註2)マホロバキシタバ

【Catocala naganoi mahoroba ♂】

2020年の7月に春日山原始林とその周辺で新たに見つかったカトカラ。しかし、国内新種にとどまり、最終的には台湾特産のキリタチキシタバ(Catocala naganoi)の新亜種として記載された。

 
(註3)キシタバ

各所で何度も書いているが、Catocala patalaの、このキシタバと云う和名、何とかならんもんかと思う。
毎度説明するのが面倒クセーんだけど、しなけりゃ論が進められないので説明します。カトカラ類の中で、この下翅が黄色いグループのことを総称して、皆さんキシタバと呼んでいる。でも、この C.patala の和名がキシタバだから、誠にもってややこしい。「キシタバ」と言った場合、それがキシタバ類全体を指しているのか、それとも種としてのキシタバを指しているのかが分かりづらいのだ。だから種としてのキシタバのことをいう場合、一々「ただキシタバ」とか「普通キシタバ」「糞キシタバ」「屑キシタバ」、又は小太郎くんのように「デブキシタバ」と呼ばねばならんのだ。にしても、人によって普通とか糞とかデブの概念が違ったりするから伝わらないこともあって、それはそれでヨロシクない。
そこで、自分は学名そのままの「パタラキシタバ」を極力使うようにしていると云うワケだ。パタラだったら、パタライナズマ(註4)と云う佳蝶もいる事だし、神話の蛇神様なんだから少しは尊敬の念も出よう。
とはいえ、ずっともっと他に相応しい和名があるのではないかと思ってた。で、こないだ小太郎くんとたまたまオニユミアシゴミムシダマシの話になって、そこから「オニ」と名のつく生き物の話に発展した。そこでワイのオニ和名に対する講釈が爆発したのだが(これについては拙ブログに『鬼と名がつく生物』と題して書いた)、その流れの中で、小太郎くんがボソッと言った。

「キシタバとか、いっそオニキシタバにしたらどうですかね❓」

これには、目から鱗だった。たしかに、このグループの中では圧倒的にデカい。鬼のようにデカいし、上翅は緑っぽいから青鬼と言っても差し支えなかろう。それに鬼のパンツは黄色と黒の縞々だと相場が決まってるんだから、まさに相応しいじゃないかの灯台もと暗し。即座に「それ、いいやんか。」と返した。
だが、言った本人の小太郎くんは奴を憎んでおるから「えー、あんな奴にオニをつけるんですかあ?」と不満そうだったけどね(笑)。

カトカラ界の頂点に立たれる石塚さん辺りが、この和名を改称してくんないかなあ…❓
風の噂では新しい図鑑を出す御予定もあると云うし、ねぇ先生、この際だから和名を改称しませんか。もちろん最初に和名を付けられた方に対しての敬意を失ってはいけないのでしょうが、この問題を解決できる良い機会だと思うんだけどなあ…。
あっ、でもカトカラには他にオニベニシタバってのがいるなあ。まっ、問題はべつにないか…。オニキにオニベニの青鬼と赤鬼の揃いぶみでございやせんか。悪かないと思うよ。

 
(註4)パタライナズマ

【Euthalia patala】

(裏面)

(2016.3月 Thailand)

ユータリア(イナズマチョウ属)属、Limbusa亜属の最大種。
激カッコ良くて、裏まで美しい。そしてデカい。しかも、レアものときてる。
パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称。また、この世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされている。
パタライナズマについては、拙ブログの初期の頃に何編か書いとります。興味がある方は探してみてくだされ。

 

2019’カトカラ2年生 其の2(3)

 

  vol.19 ウスイロキシタバ

  『2020′ 象牙色の方程式』

 
2020年 6月12日

夏の扉が開いた。
日増しに陽射しも強くなり、ここのところ蒸すような暑さが続いている。いよいよ、今年もカトカラの発生が本格的に始まるんだなと思った。

去年、ウスイロキシタバは採れたものの、たった5頭のみだった。しかも新鮮な完品個体は1つも採れなかった。それにその生態、謂わば象牙色の方程式もまだ解けていなかった。今年はその答えも見つけたい。
問題はいつ先陣を切るかだ。文献に拠れば、九州や四国だと6月の上旬には発生するらしい。近畿地方ではどうなんだろ? 情報量が少ないので何とも言えないところがあるが、おそらく6月上旬の後半辺りには発生しているものと思われる。但し近年は気候の温暖化に伴い、虫たちの発生も年々早まっていると言われている。かといって春先の天候によっては発生が遅れる年もあったりするから判断が難しいところではある。今年の蝶の発生は、途中からやや遅れているとも聞いているしね。

去年、最初に採った日付が6月19日。鮮度はまずまずの♀だった。しかし、羽にスリットが入っていた。そこから逆算すると、フライング無しで新鮮な♂をゲットしたくば、その1週間前が頃合いではないかと考えた。そんなワケで、満を持してこの日に開戦することを早々と決めていた。
テキトーな性格なわりに意外と慎重なのは、単に何度も行きたくないからだ。これはあまり言った事かないけれど、金も労力も最低限で何とかしたがる効率重視の人でもあるのだ。

しかし当日にネットで天気を確認したら、夕方から夜にかけての予報は微妙だった。各社まちまちで、夕方から雨のところもあれば、そのままずっと曇りとしているところもあったりする。また雨としている予報にしても、丸っきり同じではなく、それぞれ降る時間帯にズレがある。予測雨量もバラバラだった。1mmのところもあれば30mmのところもある。それだとポツポツとザァーザァーくらいの違いがある。出掛けるとなると、博奕だろう。悩むところだ。
しかし、日が経てば経つほど彼女たちの羽はボロくなる。そろそろ行っとかないとヤバい。賭けではあるが、出掛けることにした。場所は去年と同じ武田尾渓谷。先ずは実績のあるところで確実に仕留めようという手堅い作戦だ。

車窓からずっと空の様子を見ていたが、福知山線 川西池田駅辺りで不穏な感じになってきた。北側の一部が帯のような黒雲に覆われている。悪意の塊のような不気味な雲だ。不安がよぎる。でもここは祈るしかない。現地が何とかあの雲から逸れることを願おう。

駅を降りて、歩き始める。
けんど、おら自慢のお天気センサーは判断を保留している。この先の天気が読めないのだ。おいらの肌で天気の変化を敏感に察知するセンサーは、自慢じゃないが精度が高い。だから日本でも海外でも雨でズブ濡れになったことは殆んどない。事前に察知して、早めに避難するからだ。それでも今回は何とも言えないという状況だ。この先は夜だし、森の中だし、空の微妙な変化がワカラン。

黒雲は微妙な位置にある。ここから外れてはいるが、雲の流れによっては、いつ近づいて来てもおかしくない位置関係だ。
『お願いだから、あっち行ってね。』と小さく呟く。

アラカシの森には午後7時15分くらいに着いた。
日没直後の仄かに残る光のなか、素早く網を組み立て、ヘッドライトを装着。毒瓶を両ポケットに突っ込む。網と糖蜜トラップを片手に、もう片方に懐中電灯を持って準備万端、森に入る。

 

 
さあ、夜会の始まりだ。
今宵も闇の世界で戯れよう。

去年、樹液が出ていた木には何もいなかった。どうやら今年は樹液が渇れているようだ。まあいい、ワシのスペシャルな糖蜜トラップなら何とでもなる。その威力、今回も存分に見せてくれようぞ。
( – -)/占==3 シュッシュラシュッシュッシュー。
昨年の記憶を頼りに、実績のあった木を中心に糖蜜を吹き付けてゆく。

午後7時28分。
早くも糖蜜トラップに飛来した。特徴的な上翅のデザインと色とで、すぐにウスイロだとわかった。この色の上翅のカトカラはカバフキシタバ(註1)とコヤツくらいなのだ。けど、両者は羽のデザインが全く違うし、発生時期も違う。同時期に見られることは、ほぼほぼ無いから間違えようがない。

毒瓶を上から被せるか、網で採るか迷ったが、ここは確実にゲットする為に網を選択した。毒瓶を被せる方法は未だままならない。どうしても殺気が出てしまい、相手にそれが伝わるようで結構逃げられる。下手に慎重になり過ぎてるところもヨロシクない。恋愛でも何でも自信が無い時は上手くいかないものだ。世の中、大体の事柄は心の有りようによって正否が決まるのだ。

網をターゲットの下まで持っていって軽くコツンとやり、驚いて飛んだのを⚡電光石火で左から右へ払うようにして振る。

(•‿•)難なくゲット。
(ΦωΦ)フフフ…。去年とは違うのだよ、去年とは。幹にいるカトカラを採る手法は去年のこの時期よりも格段に進歩しておるのだ。前の網ごと面で叩く方法でも高打率だったが、今やこの方法で百発百中の域だ。

 

 
やはり、上翅が美しい。コントラストが効いたオシャレなデザインだ。だが、羽が僅かに欠けている。

裏返す。

 

 
腹の感じからすると、どうやら♀だね。
♀で、やや欠けているとなると、やはり発生は6月上旬の後半には始まっていた可能性が高い。出動がやや遅かったか…。
とはいえ、幸先のいいスタートだ。このまま雨さえ降らなきゃ、タコ採りじゃねえの(◠‿・)—☆

他のキシタバたちもやって来た。
フシキ❓それともコガタ❓(註2)
けど今年はまだどちらも見ていないので、判断に迷う。フシキの季節の真っ只中だが、コガタもそろそろ出ててもおかしくない時期だ。見た感じでは、たぶん両方混じっていそうだ。どっちもべつに要らないけど、確認の為に採ってみることにする。

楽勝でゲット。
ಡ ͜ ʖ ಡデヘデヘのスカートめくりみたく、羽を持ち上げれば区別がつくのだろうが、頑な感じで閉じているので、裏返す。

 

 
黒っぽいね。フシキはこんなに黒くないし、もっと明るい黄色だった筈だから、おそらくコガキシタバだろう。

8時8分。
2頭目が飛来した。さっきとは違う木だが今度も糖蜜トラップに寄ってきた。ワシのスペシャル糖蜜、絶好調やん(^_^)v

これは毒瓶を直接カポッと被してゲット。死ぬまではタイムラグがあるので、地面に転がしておく。
移動を始めたと同時にポツリときた。雨かと思ったら、もうポツポツきだした。マイセンサーがヤバいと言っている。雨粒が大きめなので、コレは来るなと思った。慌てて折り畳み傘を取り出す。時は急を要する。毒瓶を回収しに戻る寸暇が仇になりかねない。地面に放置したまま、その場をマッハで離脱した。
トンネルに逃げ込んだところで、バケツをひっくり返したような激しい雨がやって来た。ギリ、セーフといったところだ。
雨は、あっという間に辺りを水浸しにしてゆく。無情の雨だ。これからという時に…何でやねん( ;∀;)❓ 恨めしげに空を見上げる。

恨めしいといえば、怨めしや〜である。
ここに着いた時から背後のトンネル内の漆黒の闇が気になってしかたなかった。引き摺り込まれそうな深く濃い闇で、尋常ならざるくらいにメッチャ怖い(´-﹏-`;)

 

 
暗闇の一部が、突然ぼおーっと白くなり、白い着物の幽霊が浮かび上がってきたりして…。或いは、奥からぬらりと此の世のモノならざる奴👹が出てきそうで、怖気(おぞけ)る。そして、想像力はどんどん逞しくなる。もし鎌をもった鬼首(おにこべ)おりんが高速で走ってでも来たら、ε=ε=ε=ε=ε=┌(TOT;)┘うわ〜ん、涙チョチョギレで逃げねばならぬ。捕まったら、確実に此の世とおさらばだ。見たくないけど、何度も後ろを振り返る。

雨は40分程で小雨になった。これはセンサーで予測してた。このまま止むだろう。
怖えし、出る。

森に戻る頃には、雨は完全にやんだ。
ゴールデンタイムを棒に振ったが、雨上がりには活性が入ると聞いたことがあるし、ここは一つ期待するとしよう。
でも気温はだいぶ下がったから、それがどう影響するかだ。たとえダメだとしても、それも一つの結果であって、己の経験値にはなる。けっして無駄にはならないだろう。こんなこと言えるのは、既に2つゲットしているから心に少しばかり余裕があるのだ。

先ずは転がしていた毒瓶を回収する。
中に水が侵入しているのではないかと心配していたが、大丈夫だった。胸を撫でおろす。そうゆう惨事が起こると、流れは一挙に悪い方向へと行きかねないからね。

 

 
今度も♀だった。もしかして、もう♀の時期❓だとしたら、♂は既に擦れてたりして…。
どちらかと云うと、♂が欲しいのになあ。フライング覚悟で、もっと早くに訪れるべきだったかもしんない…。

9時過ぎに1頭飛んできたが、懐中電灯を下に置いてヘッドライトを赤外線に切り替えてる隙に忽然と消えていた。
他の蛾もボチボチとしか飛んで来ないし、特に活性は入っておらんようだ。

9時40分過ぎに漸く1頭飛んできた。
(-_-メ)待たせやがって、次は何があってもシバいたるわい。

 

 
(ノ∀`)アチャー。網で採ったゆえ、取り込みにやや手間どったせいか、背中の毛が抜けとる。(-_-メ)チッ、落武者になっとるやないけー。
しかも、♂っぽくねえか?

裏返した。

 

 
腹を見ると、やはり♂だね。
クソー、折角の♂だったのに…。ガックシやわ。
けどまあいい。鮮度は悪くない。とゆうことは、まだまだチャンスはあるって事だ。ここからダイナマイト打線💥爆発といこうではないか。

(ー_ー゛)……。
だが、後が続かず、この日はこれで終わりだった。
ライトトラップならまだしも、糖蜜採集に雨上がりはヨロシクないようだ。糖蜜が流れるしさ。また一つ勉強したなりよ。

翌日、この日に採った個体を展翅した。
先ずは♂から。

 

 
やっぱり、シッカリ背中が禿チョロけておる。
よほど腹の毛を移植してやろうかと思ったが、秋田さんに叱られそうなのでやめた。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♂】

 
ハゲちょろけなので裏展翅しようかとも考えたが、表にした。しかも、蝶屋的な展翅。触角をV字にしてやったわい(笑)

 
【同♀】

 
今度は蛾屋的な展翅にした。
この中間を目指そうかな…。どうせ、どっちがいいのか途中でワカンなくなるんだろうけどさ。

 
【♀裏面】

 
3つめは裏展翅にした。鮮度が良いものを早めに裏展にしておこうと思ったのだ。

ウスイロを裏展翅するのは初めてである。
表は象牙色なのに、裏は明るめの黄色なんだね。他のカトカラとはデザインの印象がだいぶ異なる。蛾の場合、図鑑でさえも大概は裏面が載せられていないが(註3)、同定するにあたって裏面は重要である。無視できない。表よりも違いがハッキリ出たりするからね。
黒帯が細くて、黄色い領域が広い。色も、他のキシタバと比してやや薄めの黄色だ。ここまで黒帯が細い種は他に見た記憶が無い。その形もかなり変わってる。これだけ黒帯が細くて線が単純なのは、たぶん他にはヤクシマヒメキシタバ(註4)くらいしかいないだろう。実物はまだ見たこと無いけどさ。
 

2020年 6月15日

完品の♂を求めて再度武田尾渓谷へ。
そして、初のライトトラップも試みた。小太郎くん曰く「ウスイロは樹液採集よりもライトトラップの方がジャンジャン採れますよ。」と聞かされていたからである。

7時45分。無事点灯。

 

 
とはいっても、誠にもってショボい屋台でおま。
けど、高出力UV LEDライトというから期待してみよう。結果が良ければ、軽いし点灯時間もそこそこ長いようだから充分な戦力になる。

ライトトラップ設置後に糖蜜トラップを撒く。設置にそんなに戸惑ったワケではないが、散布はこないだよりも30分ほど遅れた。だったら早よ来いよという話だが、性格に難ありなので仕方がないのである。いい加減でナメた性格なもんで、この前と同じ時間に家を出たのさ。基本は、なあ〜んにも考えてないんである。

この日は8時15分に最初の飛来があった。
寄ってきたのは糖蜜である。因みに前回に渇れていると言った木は復活。少ないながらも樹液が出始めていた。

 

 
♀っぽい。(´-﹏-`;)ガッカリだよ。
メスが要らないワケじゃないけど、オスが欲しいんだよー。
やっぱもうメスの時期に入っちゃってるのかなあ❓

9時前後に活性が入って、連続で飛んで来た。
前回は途中から土砂降りになったので、飛来時間の傾向はまだハッキリとは掴めていない。とはいえ。特別顕著な傾向は無いとみる。

 

 
またメスだな。
(;´Д`)おいおいだよ。

ならば、これはどっちだ❓↙

 

 
オスっぽく見えるけど、何か段々ワカンなくなってきた。
ウスイロは他のキシタバみたく雌雄の腹の長さや太さが明らかに違うワケではないようだから、夜だと今イチ同定に自信が持てない。オスの尻先の毛もボーボーじゃないしさ。

↓コヤツはどっち❓

 

 
腹が太いからメスに見えるけど、腹先にスリットが入ってないような気もする。老眼入ってきてるんで、細かいとこまで見えないよ、せにょ〜る┐(´(エ)`)┌

9時35分。
ライトトラップの様子を見に行くと、(⑉⊙ȏ⊙)あら、いるじゃないのよー💖
しかし証拠写真を撮ろうと近寄ったら、(ノ∀`)アチャー。飛んで逃げた。しかも暗くて何処へ飛んでったかワカンナイ。💦焦る。
(@_@)アッチャッチャー、そんなに遠くへ行ってない筈だと思って辺りを探しまくるが居なーい。
諦めかけたところで、(・o・;)ありゃま。灯台もと暗しのカメラの三脚に止まっていやはった。光にターンバックしちゃう虫の悲哀だね。紫外線の力には抗えはしないのだ。

 

 
しかし、よく見ると翅の先が欠けている。写真を撮って、そのまま放置。コヤツが呼び水とかになんねえかな?

飛来が止まって退屈なので、ウスイロキシタバの好む環境について考えてみた。
幼虫の食樹であるアラカシなんて関西でも何処にだってあるのに、どうして何処にでもいないのだろう❓ ワモンキシタバ(註5)みたく個体数は少ないながらも広く分布すると云うワケでもなさそうなのだ。自分の調べた限りでは記録された場所は案外少ない。
となると、アラカシの大木があるような古い起源の照葉樹林でしか生きられないのかもしれない。しかも、ある程度の広さの森を必要とするのかも。でもって、照葉樹林といえども小さい社寺林では生きていけなかったりして…。
だとしたら、理由は何だろう❓ もう少し掘り下げてみよう。
もしかしたら、幼虫は大木を好むのかもしれない。大木好きならば、ある程度の広さの古い森が必要だろう。でも待てよ。規模の小さい社寺林にも大木はある。でも広い森ならば、林内の中心部は乾燥しにくいのではなかろうか❓ 一方、もし小規模の社寺林には居ないのだとすれば、狭いゆえに乾燥しているのが理由とはならないだろうか❓
そういえば、紀伊半島ではヤクシマヒメキシタバの採集の折りに、ウスイロもよく得られるという。つまり空中湿度が高い場所を好むのではあるまいか❓
考えてみれば、ここも直ぐ傍には川が流れている。そして、森の中は、どちらかというと湿ってる。
整理しよう。ウスイロは本来、アラカシの大木があるような古くて広い照葉樹林に棲むカトカラで、加えて渓間など空中湿度の高い湿潤な環境を好む種なのではあるまいか…。

10時前後にまた糖蜜に飛んでき始めた。
飛んで来るとなると、何でこう示し合わせたように同時的にいらっしゃるのかね❓あんたらテレパシー持ちかよ。
蝶でもそうゆうことはよくあるんだけど、その細かい条件がサッパリわからへん。それ分かったら、楽だろね。けど、つまんなくなりそうだけどさ。解らないことは面白いのだ。

 

 
こりゃ完全にメスだな。尻先から産卵管が見えている。

10時20分にライトトラップに2頭目が飛来した。
しかし、上から毒瓶を被せようとしたら、敏感に察知して逃げよった。で、暗いから又どこ行ったかワカンなくなる。補助ライトとか必要かもなあ…。でも荷物が重たくなるから絶対買わないと思うけど。
まあ、そのうち戻ってくんだろ。でもって、暫く放ったらかしにしとけば落ち着くっしょ(・∀・)
けれど帰る時間を考えれば、あと10分とか15分くらいで消灯しなければならない。何せ初めてのライトトラップだ。後片付けは余裕をもって行いたい。慣れてないから何が起こるかワカランのである。そーゆーとこは慎重なのだ。ちゃんと考えてる。己の失態で帰れんくなるとか、そーゆーのは絶対にヤな人なのだ。

煙草を吸い始めたら、また戻ってきた。それを横目で見ながら、ぷか〜( ´ー`)y-~~。
しっかし、もし誰かがこんな怪しき青白い光の横で立ってる男を見たら、怖いだろなあ…。絶対、心臓が止まりそうになんだろなあ。誰か来たら、ワザと絶叫してやろうかしら。相手はチビるどころでは済まないぞ。阿鼻叫喚、その場で絶叫して脱兎の如く逃げるやもしれん。それを全速力で怒号の声を上げながら追尾するのだ。
想像すると、何だか笑けてきた。驚かす側に回れば、闇は怖くはないのである。闇への恐怖は、おのが自身の心の有りようにこそ在る。

アホな妄想をしている間にウスイロくんは落ち着いたようだ。
難なく毒瓶を被してゲット。

 

 
今度は羽は欠けていない。
裏返してみる。

 

 
しかも、こりゃ完全にオスだね。
腹がやや細めで長いし、尻先に毛束があるように見える。
ほぇ〜(◍•ᴗ•◍)✧*。やっとオスが採れたよ。ヨッシャである。
それにライトトラップにはあまり期待してなかったから、嬉しい。2頭も来れば御の字だろう。設置場所もベストと言えるとこじゃなかったしね。頑張った方だよ。

さあ、とっとと店じまいしよう。迅速に片付けに入る。
でも、白布にはビッシリ細かな虫たちが付いている。それに全身ダニまみれのシデムシもいる。正直、むちゃンコ気持ち悪い。ライトトラップって、やっぱ向いてないかもしんない。
けど片付けなければ帰れない。ビビリながら消灯し、意を決して白布を引っぺがしてバサバサやる。矮小昆虫たちの乱舞だ。マジ、とっても(〒﹏〒)キモいでござる。

帰る間際に樹液と糖蜜トラップを確認しに行くと、また活性が入った感じだった。林内で飛んでるのを2頭も見た。けど、電車に乗り遅れそうなので一つだけゲットして毒瓶にソッコーでブチ込み、そのまま闇の帝国を脱出した。

さあ、次は他の産地で見つけて、象牙色の方程式を完全に解いてやろうじゃないか。

                         つづく

 
この日に採った個体を並べておこう。
展翅していて驚いたのは、思いの外に♂が多かった事だ。

 
【♂】

 
(♂裏面)


 
 
オスがあんま採れないと嘆いていたが、5♂も採っとるやないけー。結果は5♂3♀だったから、半数以上が♂だったワケだ。我ながら節穴メクラ男だ。あっ、メ○ラは放送禁止用語か。すまぬ。我ながら節穴盲目男だ。何かシックリこんなあ。世の中、益々言葉狩り化してて、どんどん窮屈になってる。べつに言葉がどうあれ、その意味するところは同じだよね。問題は、そこ(使う側)に悪意があるか無いかだろう。言葉そのものにではなく、問題は単に文脈にあるんだと思うんだけど…。世の中、何か色々とオカシな方向に行ってて気持ち悪いや。

雌雄が結構わかりにくいのは、オスの腹があまり細く長くないからだろう。それに毛束も他種の♂と比べて少ないような気がする。一番上の個体は野外でも直ぐに♂と判ったのは、♂の特徴がよく出ていたからだと思われる。

 
【♀】

 
何か下翅の色が肉眼で見る色と違うように写っちゃう。

 

 
まだしも実際の色に近いのはコレかな。

 

 
最後の1頭は帰り際に慌てて採ったので、上翅が欠けている事に気づかなかった。ゆえにリリースせずに持って帰ってきてしまった。なので、これは修復用に取っとこうと思って展翅しなかった。

♀は腹が太く、尻先に毛が少なくて尖ったように見える。
裏面から見て、産卵管が確認出来れば♀と断定していいだろう。しかし、野外では判別に熟練を要するかもしれない。

 
追伸
今回はザアーッと一挙に下書きを書いたのだが、その後が書き直しに次ぐ書き直しの連続でムチャクチャ時間がかかった。ウスイロの季節も終わりかけになってまって、すまぬ。

次回、2020年の続きです。で、その後の解説編で完結予定です。結局、又もや5章になっちゃうなあ…。

 
(註1)カバフキシタバ

(2019.7月 兵庫県宝塚市)

早いところでは6月下旬、通常は7月上旬に現れる。ウスイロキシタバは6月中に殆んど姿を消すので、同時に見られることは稀だろう。

  
(註2)フシキキシタバ❓コガキシタバキシタバ❓

【フシキキシタバ♂】

(出展『狭山市の昆虫』)

なぜか下翅を開いてる手持ちのパンチラ写真が一枚も無い。
なので、ネットから画像をお借りした。黄色いね。キレイに撮ってはる。

以下、この項は自分の撮った写真。


(2019.6.12 兵庫県宝塚市)

(裏面)

(2018.6月 奈良県矢田丘陵)

 
【コガタキシタバ♂】


(2020.6月 兵庫県宝塚市)

(裏面)

(2019.6月 兵庫県西宮市)

両者の上翅には差はあるものの、似てるので羽を閉じて静止してる場合は判別困難だ。下翅は展翅すると明らかに違うが、樹液吸汁時には少ししか開かない場合もあるし、これまた判別に悩むところがある。フシキの方が黄色い領域が多くて明るい色で、コガタは黒帯が太いのだが、個体差もあるから夜だと一瞬ワカラン。
だが、採ってしまえば、裏側で一発でわかる。

それにしても、酷い裏展翅だな。こりゃ今年、しっかり裏展翅をし直そうと思ったが、フシキは時期的にもう無理だすな。裏展翅が出来なくはないけれど、季節的にもう擦れているだろう。カトカラは裏から翅の鮮度が落ちるのだ。ゆえに表翅の見た目よりも裏側を見れば、本当の鮮度がわかる。

 
(註3)図鑑でさえも裏面が載せられていないが
蝶と比べて蛾は圧倒的に種類数が多い。ゆえに裏面まで載せると膨大な紙数を要する。長大になれば値段も高くなるというワケだ。それらの事情は誠にもって理解できる。しかし、蛾に興味を持つ人も増えてきてる事だし、そろそろ裏面を載せた図鑑も必要なんじゃねえの❓分冊にするだとか、従来の図鑑の装丁を見直すなど何とか工夫してやれば、出来ないことはないと思うんだよね。今の時代なら印刷にしても格段に進化してるからね。安価にあげる方法はあると思う。事情知らずが勝手なこと言いますけど…。
因みに、カトカラに関しては唯一、西尾規孝氏の『日本のCatocala』のみが裏面写真を載せておられる。

 
(註4)ヤクシマヒメキシタバ

【Catocala tokui♀】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
上翅は結構、変異の幅か広いようだ。ノーマルタイプは、こんなにカッコよくない。

 
(裏面)

(出展『日本のCatocala』)

屋久島で最初に発見され、1976年に記載されたカトカラ。
分布は紀伊半島、四国、九州、屋久島、対馬とされているが、最近になって兵庫県西部でも発見された。
裏面はウスイロに似てるね。図鑑でも並んで載ってるし、おそらく近縁関係にあるのだろう。

 
(註5)ワモンキシタバ

【Catocala xarippe ♂】

(2020.6月 奈良県平群町)

北海道から本州全土(唯一、鳥取県に記録が無い)、四国の一部までと分布は広いが、どこでも多数の個体が得られることはないと言われてる。自分も一度に沢山採ったことはない。大体が1頭で、多くて3頭しかない。

 

2019’カトカラ2年生 其の弐(2)

 
    vol.19 ウスイロキシタバ

   『象牙色の方程式』後編

 
えー、前回の2019年 6月19日の後半部分です。

 
2019年 6月19日

黒い車窓に自分の顔がぼんやりと映っている。
酷い顔だ。屈辱と焦燥が入り混じった顔は疲れきっている。
でも、やるっきゃない。出来うる限りのやれる事をやらないで敗北するのは、それこそ負け犬だ。たとえ敗北したとしても、毅然たる心持ちでいたい。でないと、己の誇りに傷がつく。

頭の中で考える。
問題は、こないだのアラカシの森とクヌギを主体とする雑木林のポイントのどちらを選ぶかだ。
ポイントで実際に使える時間は、アラカシの森だと40分か多くて50分。雑木林だと1時間10分から20分くらいだろう。どっちを選ぶかは賭けだ。両方を回ることも可能だが、せわしないし、どっちつかずで終わりかねない。それこそ虻蜂取らずだ。それに、そんな思い切りの悪い男に神様は幸運を与えてはくれないだろう。
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻えーい、ままよ。雑木林にターゲットを絞った。

駅に着いた。
時刻は午後9時40分過ぎ。
駅を出て走る。Dead or alive。背中の毛が逆立つ。

期待を込めて、雑木林の樹液が出ている木を照らす。
昆虫酒場は大盛り上がりだ。クワガタさんもいる。
しかし、鱗翅類で居たのは名前の分からないクソ蛾どもとアケビコノハ。カトカラはフシキキシタバとコガタキシタバのみ。
アケビコノハは、新鮮で美しい個体だったので、もっと近くで見ようかなと思って一歩近づいたら、嘲笑うかのようにサッと飛んで逃げて行きよった。

 
【アケビコノハ】

 
べつに欲しいとも思わなかったのに、自意識過剰な女みたいにクソ忌々しい奴めっ❗もし今度飛んで来たら、網の枠でブン殴ってやらあ(`Д´)ノ❗ナメとったらあかんど、ワレー(-_-メ)

( ゚д゚)ハッ❗、いかん、いかん。危うくアケビちゃん虐待男になるところだったわい。
冷静になろう。冷静でないと採れるものも採れなくなる。それに虐待なんかしたら、どこかで神様が見てて、罰をお与えになるかもしれない。敗北という名の、今の自分にとって一番の罰を。
もうこうなったら、採れるんなら神頼みでも何でもする。

神様の旦那あ〜、ボロでも何でもいいから、オラにウスイロを採らせて下せぇー。

もはやプライド、ゼロである。
でもこの際、採れればプライドなんぞ、どうだっていい。

しかし、時は刻一刻と残酷なまでに抉(えぐ)り取られてゆく。悲痛な思いで、頻繁に懐中電灯で木を照らすも状況は変わらない。
やはり持ち時間は少なくとも、正攻法でアラカシの森を攻めるべきだったか❓ ざわざわと漣(さざなみ)のような後悔か心の内壁で寄せては返す。

午後10時50分。
帰る電車のタイムリミットまで、あと5分か10分。いよいよ崖っぷちまで追い詰められた。

神様の野郎、ブン殴ってやろうか(`Д´)ノ

天に唾(つばき)す。
そうか解ったよ。アンタなんかにゃ頼らん❗テメェの力で何とかしてやるよ、ダボがっ( ̄皿 ̄)ノ❗❗、🔥ゴオーッ。

懐中電灯で下から順に上へと木を照らす。
この木は根元から上の方まで数か所から樹液が出ているのだ。

いなーい(--;)
いなーい(ب
ب)
いなーい(◡ ω ◡)
いなーい(ー_ー゛)

(☉。☉)何かおる❗❗

高さ4m程の1番上の樹液に見たことがない蛾がいた。
色はグレーっぽい。大きさや形的にはカトカラも含まれるヤガ科の蛾に見える。でも下からなのでハッキリわからない。確認しようと後退るが、道が狭くて大して下がれないから状況はあまり変わらない。それに斜め横向きに止まっているので、下翅の柄もチラッとしか見えない。
アナタ、誰❓ 🎵放出(はなてん)中古車センター〜〜〜(註1)。
冗談を言っとる場合かよ。

でも、直感的に思った。

『ウスイロじゃ、なくなくねっ❗❓』

考えとるヒマはない。帰るリミットは迫っている。
とっとと採って、確認しよう。違うなら、八つ当たりで木に憤怒のドロップキックをカマすまでだ。
網をするすると伸ばす。だが、緊張感はマックスではない。時間が無いのでブルッてるヒマは無いのだ。それにもしクソ蛾だったら…と思うと変に期待できない。過度な期待を掛けて糠喜びだったりしたら、それこそ怒り爆発💥オロナミシCだ。何のコッチャかワカランけど、そうゆう事だ。
ややブラインドになっていて採りにくい角度だが、逡巡はしない。

💥バチコーン、横から強く網を幹に叩きつけた。

入った❗❓、それとも逃した❗❓
手応えも無ければ、逃したという感触もない。とにかく素早く網先を捻り、そのまま大胆かつ慎重に下に落とした。その刹那に、網の中に何かの影がチラリと見えた。どうやら逃してはいないようだ。でも、ただのクソ峨だったりして…。疑心暗鬼になりつつ、慌てて駆け寄る。

彼女は暴れることも無く、何があったのか解らないといった感じで静かに鎮座していた。

(☆▽☆)ぴきゅう〜❗
ウスイロ❓だよね❗❗

その特徴的な上翅のデザイン、間違いなくウスイロキシタバだっ❗❗
(´ω`)やっと採れた…。
ヘタヘタとその場にヘタり込みそうになる。だが、そんなヒマは無い。網の上からマッハでアンモニア注射をブッ刺す。
一瞬、彼女はクワッ❗と羽を広げ、次の瞬間にはゆっくりと羽を閉じてゆき、フェイドアウトで事切れる。
ゴメンなちゃいね。哀悼の念で軽く手を合わせる。

満ち足りた気分で、三角紙に収めようとして、写真を撮っとかなきゃいけない事を思い出す。

 

 
上翅の柄が独特で、他のカトカラとは全く斑紋が違う。
図鑑などの画像では、その特異な薄黄色い下翅に目がいっていたが、上翅も特異だったんだね。

 

 
メリハリが効いてて、カッコイイかもしんない。
いんや、カッコイイと断言してしまおう。バカにしてたけど、実物は標本写真なんかよりも遥かに美しい。玄人好みの渋い魅力がある。

おそらくメスだね。
裏返す。

 

 
あっ、他のカトカラとは全然違う。明らかに黒帯が細くて黄色い領域が多い。(•‿•)いいじゃん、(^o^)いいじゃーん。

でも、ニヤけ顔で浸っている場合ではない。終電の時刻がパッツンパッツンに迫っている。
震える手で慌てて三角紙に収め、闇を小走りで離脱した。

夜空には、星が瞬いていた。
早足で歩きながら、もう少しすれば七夕だなと思った。

                        おしまい

 
と言いたいところだが、話はまだまだ続く。

翌日、展翅した。
展翅しながら思う。はたして、あの雑木林の中にアラカシが混じる環境がウスイロキシタバの棲む場所を解く方程式なのかと。例えばアラカシの純林よか、アラカシの混じる雑木林の方が寧ろ適性な環境ではないかと一瞬、考えたのだ。
でもあんな環境なら、関西でも何処にでもある。だったら、もっと何処にでも居てもよさそうなものだが、どうもそんな感じではないような気がする。ならば、あそこから比較的近いアラカシの森から飛んで来たって事か❓となると、もう1回行ってアラカシの森で確かめねばなるまい。
けど、それはあんまり気が進まないんだよなあ…。あの森、暗くて怖いんだもん(。ŏ﹏ŏ)

アレコレ考えてているうちに展翅完了。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
展翅して、よりその美しさに魅了された。
特徴的な上翅のデザインが渋カッケー。下翅の色も、そんなに汚くは見えない。象牙色だ。薄色とか薄黄色だなんて言うからババちく見えるのだ。
名前って大事だ。名付け親になる人は愛をもって命名しないといけないよね。だからセンスの悪い人は誰かに相談しましょうね。
あっ、センスが悪い人は自覚がないから人には相談しないか❓ それでいいと思ってんだから、人には相談なんかいったし〜ませーん❗

 
2019年 6月21日

一応、ウスイロは採れたが、たった1頭だけだったので、別な所で探すことにした。他にもっと多産するところを見つけて、ゴッチャリ採ってやろうと云う皮算用である。それに象牙色の方程式を解きたい。色んな環境を見ることによって、自ずとその解も見つかるだろう。

文献から大阪府池田市にターゲットを絞る。
五月山に記録があったからだ。だったら駅から近いし、何なら昼間は其処から近い東山でクロヒカゲモドキ(註2)を探してもいい。絶滅危惧種のモドキちゃんは渋カッコイイのだ。

 
【クロヒカゲモドキ】

(2016.6.20 大阪府箕面市)

 
結局、クロヒカゲモドキは探しには行かず、昼めしを食ってから出掛けた。
クロヒカゲモドキのポイントはダニだらけなので、ダニが体のどっかに食いついてんじゃないかと思いながら夜道を歩き回るのは精神衛生上ヨロシクない。そう考えたのである。

池田駅には何度か降りているが、五月山に来るのは初めてだ。
遠目に見て、意外と山は険しいんだよなあ。だから今まで避けてたところがある。

 
【五月山】

(出展『MUJI✕UR』の画像をトリミング)

 
午後3時前に登山口に到着。
五月山にもアラカシが案外あることは、ネット検索済みだ。
望海亭跡への道を登り始めると、直ぐに照葉樹林が始まり、そこを抜けるとコナラやクヌギの混じる雑木林になった。これは居そうな環境かも?と思った。ただ、林内が乾燥がちなのが気になるところではある。とはいえ、今年は空梅雨だからね。そのせいで、そう感じたのだろうと思うことにした。
何事も前向きなのさ。でないと、虫採りなんぞ、やってらんない。虫採りは基本、苦行だと思ってるもんね。欲しいものを得るための道程(みちのり)は、けっして平坦ではないのだ。

🎵タラタラッタラー、イガちゃんスペシャル甘汁〜。
<( ̄︶ ̄)>フフフフフフ…、秘密兵器の登場である。
今回は満を持して糖蜜トラップを用意したのだ。前回の六甲みたく樹液の出る木を探して彷徨うのは、もうゴメンなのだ。
何で糖蜜トラップを今まで試さなかったのかと云うと、生態に関して最も信頼できる文献『日本のCatocala(註3)』のウスイロキシタバの項には、樹液には集まるが糖蜜トラップには集まらないみたいな事が書いてあったからだ。
疑問に思わないワケでも無かったが、信頼している文献なので素直にそれに従ったのである。糖蜜が効かないなら無駄だし、だいち勿体ない。それに荷物が増えるのは大嫌いだもんね。

日が暮れ、闇の時間が訪れた。
さあ、ここでタコ採りして、方程式の答えに近づこう。

だが、寄って来るカトカラはフシキとコガタキシタバのみ。しかも、個体数は少ない。効いてんのか❓、マイトラップ。
けんど、樹液に来るのも糖蜜に来るのも、さしたる数の差はあるようには見えない。

 
【フシキキシタバ】

 
【コガキシタバ】

 
午後9時半。
何かデカいのが糖蜜トラップに飛んで来た。
一瞬、何者❓と思ったが、次の瞬間には理解した。
ただキシタバのパタラキシタバ(C.patala)だ。今年初めて見るけど、やっぱデカい。その大きさは他の黄色い下翅を持つカトカラの中にあって、頭一つ抜きん出ている。あっ、パタラとはキシタバ(註4)の事ね。

今年初めての個体だし、一応採るか…。
でも、網を構える前に逃げよった。ただキシタバの分際で生意気である。(ー_ー゛)ちっ、パタラのクセにエラく敏感じゃねえか。

パタラといえば、鈍感というイメージがある。樹液に来ている時は夢中で吸汁しているから、かなり近づいても逃げない。そして樹液を吸い終わった者は、その周辺の木にベタベタと止まっていることが多いが、その際もあまり逃げない。

 
【パタラキシタバ】

 
スマホだって、楽勝でこれくらいは近づけるのである。
距離的に10センチ以内まで寄らないと、ここまでは撮れない。
やっぱ発生初期で、個体数が少ないから敏感なのかな❓
最盛期になって個体数が増えれば、段々鈍感になってゆくのかも。だいたい虫なんてものは、発生数が多ければ大概はバカになる。こんだけいりゃあ、ワシ一人が死んだところで我が一族は滅びんやろとかテーゲーなるのかな❓人間だって周りに人がそれなりに居たら、何となく安心するもんね。それって家畜みたいで、ヤだけど。

何度か攻防があったが、最終的にはシバいたった。
でも、それでタイムリミットとなった。惨敗である。
どうにも上手くいかないや。

 
2019年 6月22日

この日は大阪府箕面市へ行った。勿論、ウスイロ探しである。
個体数は少なさそうだけど、此処にもウスイロの記録があったからだ。因みに、この場所は前回の五月山と連なる山地だ。一帯に広く薄く棲息しているのかもしれない。

でも、夕方になって人が増えてきた。その多さに訝しがる。
箕面は滝があって観光客は多いけど、もうすぐ夜だぞ。何で❓

滝への道沿いに水銀灯があるので、一応そっちの様子から見ることにした。
暫く歩くと、人が多い謎が解けた。
闇の中を、すうーっと緑色の光が走ったのだ。そうゆう事か。皆さん、蛍狩りにいらっしゃったのだ。箕面にはホタルがいるとは知ってたけど、こんなにも有名だったのね。

 
【箕面大滝】

(夜に滝なんて撮らないので、昼間の写真です)

 
一応、奥の外灯まで行ったが、何もいなかった。
降りて来ると、更に人は増えていた。こんなところで恥ずかしくて網なんか出せやしない。しかも、蛾なんて採っていようものなら、一般人から見れば完全に狂人だ。方針を転換して、展望台に登ることにした。

石段を登ってゆくと、周りは照葉樹の多い森になった。少し期待する。
それはさておき、傾斜がキツくてしんどい。普通の人たちは蛍狩りしてんのに、ワシ、何やってんだ❓と思う。つくづく、虫屋って愚かな変人だ。

展望台に着いた。
夜景が見える。そして、イチャつきカップルもいた。二人きりでイチャイチャしたいが為に、ここまで登ってきたのか。エロという名の欲望、恐るべしである。

 

 
夜景を見ながら、己のアホさ加減にガックシくる。蛍狩りよかイチャ付いてる方が、もっと楽しそうじゃないか。全てがアホくさくなる。
でも、ここまで登ってきたのだ。その労力、無駄にしたくはない。尾根筋を少し歩き、そこで糖蜜を撒きまくる。闇は濃いが、そんなことも今やどうだってよくなる。

五月山の時に書き忘れたが、液体の糖蜜トラップを使うのは、あの時が初めてだった。前年にムラサキシタバ(註5)を採りに行った時にトラップは使ったが、それは蝶屋らしく果物トラップだった(言っとくけど、ワシって基本は蝶屋だかんね)。
バナナやパインをストッキングに入れて、上から酒を掛けて発酵させたものを木に括りつけるのだ。蝶屋の間ではポピュラーなものだが、蛾屋の間ではマイナーな手法のようだ。大概の蛾屋はジュースなどに酢と酒を混ぜ合わせたものを霧吹きに詰めて、(。・_・)r鹵~<巛巛巛シュッシュラ、シュッシューと幹や葉っぱに吹き付けて、お目当てのものを誘引するのだ。
そして、この日がその糖蜜トラップの2回目ってワケ。

大いなる期待値は、時間の経過と共に無残にも萎々(しおしお)になってゆく。何かの可能性が少しづつ失われてゆくのを見るのは、とても辛いものだ。やはり、ウスイロは糖蜜に反応しないのか❓…。
けれど樹液に来て、糖蜜に来ないってのは、どう考えても変だ。理屈に合わない。それとも、オラの作った糖蜜のレシピがダメなのか❓ 他のカトカラには問題なくとも、ウスイロさんにはお気に召さないってこと❓ どんどん頭の中がウニ化する。

結局飛んで来たのは、糞チビ蛾どもと鬱陶しいアケビコノハのみだった。正直、アケビコノハに当たり散らす気力も湧かなかった。
帰りしなに、己の心を少しでも和ませたいがゆえ、何とかコケガ(苔蛾)とかいうスタイリッシュで可愛い蛾の写真を撮って帰った。
言うまでもなく、今回も惨敗決定だ。

 
【アカスジシロコケガ】

 
電車の中で確認すると、ピントまでズレとるがな。 
又しても惨敗を喫した事実をひしひしと思い出した。ダメ押しでヘコむ。

これで、象牙色の方程式が全く見えなくなった。
誰やねん❓ ウスイロキシタバは、西日本ではどって事ないって言った奴。記録地でも、かすりもせんやないけ。情報を鵜呑みにした、アチキが馬鹿だったよ。

  
2019年 6月24日

再び武田尾の渓谷にやってきた。
まだ1頭しか採れていないのだ。謎とか方程式とか、もうどうでもいい。次の1頭が欲しい。

今回は一番最初に来た時に、ここぞと思ったアラカシの森に布陣することにした。泰然自若。今度は何があっても動かない。此処で心中する覚悟で臨む。
あの時は8時半を過ぎても飛んで来なかったから、焦れて雑木林に移動したが、やはりこの環境が最もウスイロキシタバが好む場所に相応(ふさわ)しいと判断したのだ。
ここでコケれば、我が軍は総崩れである。象牙色の方程式が解けないまま、この先1年間はエレファント凍土の迷宮に閉じこめられることになる。それを避けたければ、背水の陣で結果を出すしかない。

午後7時過ぎ。
今宵は7時半前くらいが日没時刻だったような気がするが、既に森の中は闇の世界に支配されようとしている。鬱蒼とした森が覆いかぶさって光を遮っているのだ。
Σ(゚∀゚ノ)ノ暗いよ、怖いよー(TOT)

 

 
オノレ、地底星人の仕業か。おおかた魑魅魍魎どもを操っているのも、お主たちであろう。ならば、北辰一刀流免許皆伝の抜刀術で目の前の邪魔者は全て一刀両断に斬るのみ❗、斬るのみ❗殺戮のセレナーデとなろう。
あかん…。明日のジョーの「打つべし❗、打つべし❗」の変形ヴァージョンになっとるやないけ。闇が怖すぎて妄想が酷い。

(。・_・)r鹵~<巛巛巛シュッシュラ、シュッシュー。
心を落ち着かせて糖蜜を吹き付けてゆく。
これで寄ってこなけりゃ、オラの糖蜜レシピが駄作なのか、やはり樹液には寄ってきても糖蜜には反応しないのか、はたまた此処には居ないのかが、ある程度は明らかになるだろう。
どっちにせよ、今日で終わりにしよう。これ以上、心を折られたら再起不能だ。負け慣れてないので打たれ弱いのだ。

午後8時になった。
やっぱダメなのかなあと諦めて( ´ー`)y-~~煙草を吸ってたら、目の前の糖蜜トラップにパタパタとあまり見覚えない蛾が飛んできてピタッと止まった。

(⑉⊙ȏ⊙)ゲゲッ❗、ウスイロやん❗❗❗❗

ここで会ったが百年目。慌てて煙草を揉み消し、そろりそろりと近づく。緊張感はあるが、初めての1頭ではないからか、意外と心は落ち着いている。すうーっと息を吐き、💥バチコーンいったった。
次の瞬間、驚いて飛んで網に入ったのが見えた。

中を確認して、ホッとする。
これで何とかエレファント凍土に閉じ込められなくて済んだ。

この日は、結局2♂2♀が採れた。
しかも、全部が樹液ではなく、糖蜜トラップに誘引された。
(・3・)何だよー、やっぱ糖蜜にも来るじゃんか。寧ろ樹液よか効果があるぞ。こんなんだったら、最初から使っておけば良かったよ。

これで象牙色の方程式が、全部じゃないけど、ある程度は解けた。
やはり、基本的な棲息環境は照葉樹林だろう。中でも昔から在るような古い照葉樹林ではなかろうか❓
樹液にも来るが糖蜜トラップにも反応する事も分かった。飛来時刻は情報不足だが、おそらく特別遅くはないだろう。これは断言出来ないから来年の課題だけどさ。
好む環境も完全に把握できたワケではないし、他にも幾つか疑問点は残った。でも翅の傷み具合から、そろそろ発生期も終盤みたいだし、これらは又、来年の宿題としよう。

満ち足りた気分で帰途につく。
車窓に映る今日の自分の顔は悪くないなと思った。

                         つづく

 
一応、この日の個体を並べておこう。

 

 
我ながら、ド下手な展翅だすな。
完品ではなかったから、ヤル気なし蔵だったのもあるけど、理由の一番は酔っ払って展翅したせいです。酔っ払うと、ただでさえテキトーな性格が益々テキトーになるのである。
それと、ウスイロキシタバは鮮度が落ちると、途端にみすぼらしくなるというのもあった。何かメリハリが無くなるのである。モチベーション、だだ下がりだ。
ウスイロキシタバを採りたい人は、発生初期に行かれることをお薦めします。

 
追伸
今回は、後半をバタバタで書いた。
酔っ払って寝ようとしてる時に、3分の2程まで書いていた文章に少し手を入れようとしたのがマズかった。朦朧としてて、書きかけの文章をそのままアップしてしまったのだ。それでいっぺんに酔いが醒めた。で、朝までかかって残りの3分の1を書いた。最悪やったわ。

次回は解説編か、もしくは続編の『2020’カトカラ3年生』になる予定です。

 
(註1)アナタ誰❓ 🎵放出中古車センタ〜〜〜
昔、関西ローカルで、そうゆうCMが流れてた。
ちょい、セクシーなCMでした。

 
(註2)クロヒカゲモドキ

全国的に減少しており、各地で絶滅危惧種や準絶滅危惧種に指定されている。
しかも、見つけても直ぐに藪の中へ逃げ込むので、あまり採れない。産地に行っても全く採れない事もある蝶の1つだろう。
因みにオラとは相性が良くて、何処へ行っても採れなかったことはない。その日、来てる人の中でオラだけ採った事も何度もある。
そういえば、3、4年ほど採りに行ってないね。でも関西では何処でもダニとセットだから、あんまし気が進まないんだよなあ…。最後に行った時は、あまりのダニの多さにポイントに着いて30分で帰った。採集に行って家に帰った最短記録である。この超絶短い滞在記録は今後とも塗り替えられる事はないだろう。あっ、言っとくけど滞在時間30分でも、ちゃんと採ったさー。

参考までに書いとくと、クロヒカゲモドキについては昔のブログ(アメブロ)に『へろへろ(@_@;)、箕面モドキ軍団殲滅作戦』と題して書いた事がある。他にも数篇の関連文章がある筈だ。ヒマな人は探してみてね。

 
(註3)日本のCatocala

西尾規孝氏によって書かれた日本のカトカラの生態図鑑。
その生態観察力は、飛び抜けている。

 
(註4)キシタバ

(Catocala patala ♂)

(♀)

 
日本のキシタバグループの最大種。和名がただの「キシタバ」だから、ややこしい事この上ない。「キシタバ」という言葉が種としてのキシタバを指しているのか、それともグループとしてのキシタバを指しているのか、判断に一瞬迷うから誠にもってややこしいのだ。
だから、それを避けるために出来るだけ学名のパタラを使うようにしている。誰か偉い人の鶴の一声で和名を変えて欲しいよね。
キシタバ(C.patala)くん本人としても、「ただキシタバ」とか「糞キシタバ」「屑キシタバ」「デブキシタバ」なんて酷い呼ばれ方をするのは心外だろう。
パタラキシタバについてもっと詳しく知りたい人は、拙ブログの、2018’カトカラ元年シリーズのvol.3『頭の中でデビルマンの歌が流れてる』の回と続編『黃下羽虐待おとこ誕生』を読んでね。
前回の註釈の項でも、ナメたタイトルが列挙されていたが、これまたフザけたタイトルざます。けど最近はカッコつけたタイトルが多いので、またおバカなタイトルをつけたいね。

 
(註5)ムラサキシタバ

(Catocala fraxini ♂)

(同♀)

カトカラの女王。日本最大種にして最美とも言われ、人気が高い。
詳しくは、拙ブログ内の『2018′ カトカラ元年』vol.17の連載を是非とも読まれたし。