『西へ西へ、南へ南へ』22 無情の雨に

蝶に魅せられた旅人
2012-09-02 01:09:12

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

     (第十七番札所・無情の雨に)

 
2011年 9月23日

もう、自分が何をしてるのかも解らなくなってきた。

8時前に起床。
本日の予定は午前中に柑橘畑にアカボシが来ると云う情報を頼りに芦花部に行き、昼過ぎに根瀬部へ、2時過ぎには朝仁に移動すると云う計画だった。
だが、計画なんて所詮計画に過ぎない。

予報は曇り時々雨。
知らん、何とかなる。

9時半に芦花部に着いた。
山越えの思った以上に険しい道だった。
しかし、良さげな場所が見つからない。

空を見た。
気が変わった。
勘で動く。
北に行こう。
多分、その方が天気はもつと読んだ。

が、山越えの長雲峠ルートは土砂崩れで寸断。否応なしに大回りの海岸線の道を走ることになった。

大潮だろうか、潮がかなり引いている。
ちよっとした奇観だ。剥き出しになった岩々が古代恐竜の背骨のように見える。

寒い。
防寒、防風の為、奄美ダイソー(100円ショップ)で買ったぺらっぺらの雨合羽を着て走る。
風に千切れそうな感じが、風を纏っているようでキリッと心が締まる。悪くない気分だ。

遠回りになったが、前向きに考えよう、本来ならこういう道を飛ばすのは好きだ。フルスロットルで駆け抜ける。
乗れてる時は、乗用車にも絶対抜かせん(`Д´)ノ❗
ストレートで車間を詰められても、コーナーで再び差をつける。
ほれほれ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、ほれほれ~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
乗用車の人よ、(
`Д´)イライラしなはれ~。

アギャ、ぶぎゃわっ!Σ(××;)❗
ギシャジャミジャミー!Σ(×
×;)❗
一瞬、何が起きたのか解らなかった。

どうやら偶然トンボが耳とメットの間に挟まったようだ。そんな事、あるかね❓
自分の発したワケのわからない声に、思わず笑ってしまった(^_^;)

岬を抜けたら、勘は的中。北側の空は明るい。
しかし、やって来た背後は真っ黒だ。いつ追いかけてくるとも知れぬ無気味さで広がっている。

赤尾木にチラッと寄ってみたが、やっぱり知名瀬と同じくアカボシゴマダラの姿は皆無。
この有名ポイント、二つともクソだ。今後、しみったれ芋ポイントと呼ぼう( ̄^ ̄)

11時過ぎに谷村樹液ポイントに着いた。
だが、樹液にいたのは前に来た時にもいたボロ♂のみ。勿論、ムッシング。

待ったが、変化なし。
正午時過ぎには、つまんなくなって移動する。
アカボシはダメだったけど、ビシッと赤紋が入ったアマカラ(アマミカラスアゲハ)の、そこそこ鮮度の良い美しい♀が採れたから、まっいっか…。
カタチ的には無駄骨ではなかったから、判断としては正解でしょう。

本来ならそのまま蒲生崎に行くところだが、まだ時間もあるし、だいち同じ場所にとどまるのには厭きた。
左岸から右岸へと横断し、空港側の道を北上する。
アカボシの記録のある節田、宇宿、笠利、用と回るが、成果なし。
唯一の成果は、リュウキュウムラサキの大きくて綺麗な♀が採れた事くらい。

2時過ぎに蒲生崎に到着。
今日はずっと薄日の射すまあまあの天気だったが、ここにきてどんよりと雲が垂れこめてきた。

アカボシゴマダラのベストポイントに行く途中、やや高い枝先に触角を葉先から出して止まっているのが、たまたま1頭見えた。
面倒臭いが、一応網に入れてみる。

ボロだけどえらくデケえなこの♂。と思ってよく見たら、あれっ!?、お腹が萎んでいるので気付かなかったけど、こりゃ♀だわ。
何だかなあ…(*v.v)。。。

と思っていると、別な♀が頭上高くを通過して行った。羽は破れていない新鮮そうな個体に見えた。
慌てて追いかける。だが、止まらずに山の向こうに消えた。
何だかなあ…(*v.v)。。。

退屈なので、フェリー会社に電話してみる。
次の大阪行きのフェリーは、30日だと言われた。
何だかなあ…(*v.v)。。。

いい加減、ウンザリだ。
いくらアホでも、あと1週間もいられない。
飛行機でも何でもいいから、とっとと大阪に帰ろう。一刻も早く奄美の檻から脱出しないと、鹿児島県人になっちまいそうだ。でも、それはそれでいっか…。

午後3時。
無情にもテリトリーを張る時間になって、小雨が降りだした。
ますます、何だかなあ…(*v.v)。。。

小雨は10分程で上がったが、更に気温がグッと下がった。これじゃ、♂さえ翔ばない。
何だかなあ…(*v.v)。。。

今日は何かアカボシの完メスが採れそうな予感があったんだけどなあ…。やっぱ、根拠のない希望的予感じゃダメだね。

4時。プッツリと気力も切れた。
これ以上待ったところで期待できない。より天気が悪くなる前に谷村樹液ポイントに寄って帰ろう。この精神状態でズブ濡れになったら、最低最悪の気分になるのは明白だ。

道すがら、谷村樹液ポイントもどうせアカボシは居ないだろうし、面倒臭いからスルーしてやろうかとも思った。
けど、一応行ってみようと思い直した。一縷の望みでもあるのならば、その可能性を放棄してはならないと誰かが言ってた。
敗北を認めるまでは、敗北ではないとも。

4時半。谷村樹液ポイント到着。
遠目に、また同じボロ♂が同じ場所に止まっているように見えた。キミ、どんだけ食いしん坊やねん❓

しかし、近付いてみるとデカイ。
えっ(_)!?、♀ですか!?
しかも、完品っぽい((((;゜Д゜)))❗❗❗❗

やっぱ、俺の予感は正しい。
ここで会ったが百年目。祈りを込め、全身全霊、五臓六腑の矢を放とう。

アドレナリン噴火。
クワッとマインドに🔥火が入った。
慎重に近づく。

あっ( ̄□ ̄;)❗❗
あわわわわ…、警戒して翅を開いた瞬間に判ってしまった。完品かと思いきや、反対側の翅の上がザックリいっちまってる。
(´Д`)へにゃりんこ。一挙に脱力した。
緊張することも無く、ネットを幹に向かって強めに叩く。
彼女はへなへなと網の底に落ちた。

美しくて、大きい。
複雑な気持ちだ。
新鮮な個体だけに勿体ない。
o(T□T)o忸怩たる想いの超絶ガックリ。
何だかなあ…(*v.v)。。。。

この辺りが限界ってところだろうなあ…。
運も無いし、流れも悪い。

宿に着いて間も無く強い雨が降り始めた。

                  つづく

 
(subject 写真解説)

【アマミカラスアゲハ♀】
見事な♀だ。好みは青いオスだが、これだけ赤紋が綺麗に出ている♀だと、♂なんかメじゃない。

【リュウキュウムラサキ(琉球紫)】
多分♀。メスはそんなに数多く採った経験があるわけでは無いが、今まで採った中で彼女が一番美しい♀かな。しかも、一番の大型の個体。
リュウムラさんは一応迷蝶と云う扱いになっている。春、夏はあまり見掛けなくて、秋になって急に個体数が増えるので土着には至っていないと云う見解なのだろう。
だいたいは台湾やフィリピン辺りから長い旅をして飛来するのだが、他からも飛来する。だから、♀には無数の型が有り、斑紋がバリエーションに富んでいて面白い。
冬が厳しくて越せないと死滅する蝶なのだが、毎年懲りずに飛来しやはります。生き物の必死に新天地を求める姿は、時に人の心を強く震わせる。

【アカボシゴマダラ♀】

こっちから見ると、完品。
でも、反対側から見るとコレ。

(ToT)ノオ━━━━━━━━ ❗

美しい♀なのに、ホントに勿体無い。
今回は上の翅がイってますが、他は下翅が損傷している。複数の♀を合体させれば完璧な♀の標本ができるのだが、今回はそんな事は絶対にしたくないから、帰ってもしない。
フェイクは何処まで行こうが、どう誤魔化そうが、所詮フェイクに過ぎない。

【アカボシゴマダラ下♂と上♀】

並べると、♂と♀の大きさの違いが解るでしょ?
標本にすれば、上下の羽が重なり合っている部分が広がるので、より大きさの差異が明確になります。

大きさ以外にも♂♀の違いはあって、蝶の形が全体的に♀の方が丸い形のデザインになっていて、ふくよかだ。その辺は人間とも共通するところがある。
この特徴は他の蝶でもそうなんだけど、きっとメスの方が曲線的なのは何か意味あるんだろうね。何でかは明確にはワカンナイけど…。
人間でも出産の為に尻がデカくなるのは解る。健康な子供を産めるからだ。しかし、全体的に曲線になるのはよく解らない。丸くてふくよかな方が蝶のオスでもそそられるのかな?

アカボシゴマダラって、気のせいかゴマダラチョウより少し翅が薄いような気がする…。だから羽が破れやすいのかしら?
私見では、鮮度の割りにはメスの方がオスより破れている率が高いような気がする。
それはきっとメスはわりと藪を縫うようにして翔ぶ性質が関係しているのだからだと思う。
何か完品が採れない言い訳がましいけど…。

5年後にして、いくつかの♀を合体修理させてのニセ完品の製造なのだ。自分も変化しているのだね。

『西へ西へ南へ南へ』10 蒼の洗礼

蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-14 20:18:17

     ー捕虫網の円光ー
    『西へ西へ、南へ南へ』

     第八番札所 蒼の洗礼
 

2011年9月15日

朝6時前に起き、支度を始める。
天気予報では晴れのち雨。
降水確率は午前と午後、それぞれ40%と90%だ。
台風が近づいている。時間との競争だ。

24時間スーパーに行って、濡れるのは必至とみてポイントマップをcopyした。原本をcopyさせて貰ったのをそのまま持ってきたから損傷を避けたかったのだ。

昨日、酔っぱらって買ってしまった(半額だった)奄美名物・鶏飯(けいはん)をレンジで温める。これが昼兼用の朝食だ。

この先どうなるか分からない。生死を分かつトラブルに会わないとも限らない。取り敢えず何か腹に入れておいた方が良いだろう。
それにしても、久し振りに食うがやっぱり鶏飯は旨い❗

一応、カッパも探してみたがスーパーには無かった。
まあいい。どうせ今日は最初から濡れる覚悟なのだ。たとえ有ったとして、台風ならば役に立つかどうかも疑問だ。

目指すは、昨日スミナガシ(註1)がいた樹だ。
実物を見てしまうと、プライオリティーが変わった。
アマミカラスの♀もアカボシの♀もかなり魅力的だが、元々男は大の墨流し好きなのだ。

【Dichorragia nesimachus スミナガシ】(2014.5.11 大阪府東大阪市額田尾根)

すっかり忘れていたが、蝶採りを始めてまだ二年目の春だった。
大和葛城山で会った居酒屋を経営する酔っ払い爺々の家に招待された事がある。
その時見せて貰った標本箱に収まっていた奄美大島産の蒼いスミナガシが、男の胸に燦然と甦ってきた。

ジジイは、自慢気に『奄美大島のスミナガシは特別に蒼くて、珍品だよ。簡単には採集できない!』と言ってたなあ。

多分、朝早くから樹液に来ている筈だと読んだ。
進んで地獄へ向かうのだ。期待を込めてそう思わないとやってらんない。
上手く片が付けば、早めに山を降りて、そのあとアカボシ、アマカラの♀を狙えば良い。

用意にとまどい、やっと出れたのは7時。
先ずはガソリンを入れに行く。
悪天候が予想される中、ほとんど誰も通らない林道でガス欠でスタックでもしたら危険過ぎる。

天気は意に反して既に雨雲の勢力が領空を制圧しようとしている。
飛ばして一時間で着けば御の字だ。
帰りの事を考えれば顔が引きつるが、自分で決めたことだ、怯むわけにはいかない。

1時間10分でポイントに着いた。
横目で樹を確認した。

いる❗
読み通りだ。
いきなりのクライマックスだ。
アドレナリンが全身に駆け巡る。
サッサと片付けてやる❗

バイクを停め、早る気持ちを抑えてネットを組み立てる。
息を詰め、忍び足で近づく。

樹の下まで来た。
さあ、とっとと終わらせるぞと思ったが、白網の中に小枝が入っているのがつい気になった。蝶が枝にぶつかって羽が損傷したら元も子もない。

えっ(;゜∀゜)❓
だが、枝を取り除いて見上げたら、スミナガシの姿はもうそこにはなかった。忽然と消えていたのだ。目を外して数秒と経ってない。

あうぅ…( ̄0 ̄;
殺気が出てたのか…。
昨日に引き続き網さえ振ってない。

小雨が降り始めた…。
気を取り直して、樹の周辺に果物トラップを仕掛ける。戻ってきてくれることを祈ろう。

その後、降ったり止んだり、時々晴れ間が覗いたりの繰り返しが続く。
だが、彼女は姿を見せない。焦燥と退屈で身が引き裂かれそうだ。

9時半、ようやく翔んできた。
かなり警戒している様子だ。
周囲を気にしながらも樹液に止まった。

一回、静かに深呼吸した。
暇だったから、頭の中で作戦はシュミレーション済みだ。網を下から近づけて、翔んだ瞬間に反射神経で空中でシバいてやろうと思った。

そっと網を寄せる。
白網はもしかしたら警戒されるのではと思い、わざわざ赤に付け替え済みだ。

だが、際まで持っていったのに逃げない。
( ̄▽ ̄;)焦る。
仕方なく触れてみた。

ビュン❗
その瞬間に⚡電光石火、軌道も予想と違う無茶苦茶で翔び去った。

(-o-;)……痛恨だ。
自分を慰める術(すべ)さえない。

雲の流れる速度がドンドン速くなってきている。
リミットは、12時と決めた。
それを過ぎると、たぶん嵐に巻き込まれる。

この場所は他の蝶を採りながら待つというわけにはいかないポイントである。
アマミカラスアゲハは沢山翔んでいるが、高いし速い。採集難度が高いし、こちゃこちゃ網を振り回して、スミナガシが寄り付かなくなるのもこわい。
仕方なく、時間潰しに樹を横目で見ながら同時進行的に文章を走り書きで思いつくままにザアーっと書いてゆく。あとで推敲すればよい。

11時40分。
永かった…。
一日千秋の想いで待った甲斐があった。
2時間待ちだ。普通の生活でなら、とっくにキレてる。

また深呼吸する。
まあまあ天才なんだから、もうミステイクは許されないだろう。

今度は横からバチコーンと強く幹を叩くように被せて、驚いた反動でネットの底に入れてやろうと決めていた。
ジリジリと近づいてゆく。網を振るまでのこの瞬間は、他では味わえない堪んない緊張感だ。
今度こそ大丈夫だと自分に言い聞かせる。

照準を合わせて、思い切りよく💥バチコーンいったった❗

黒い影が一瞬網に入ったようだが、確認できない。
素早く道路に網を叩き下ろした。

慌てて近寄り中身を確認する。
あれ!? あれ!? あれ!?
居ない( ̄0 ̄;❗
嘘やん!?( ̄▽ ̄;)……。

網の口径より樹の幹の方が細いので、すんでのところで脇から逃げたのだ。

小次郎、破れたり。
原生林の中に男の哄笑が谺した。
精神の限界を超えると、笑い出すってホントだ。

                  つづく

追伸
(註1)スミナガシ
タテハチョウ科に属し、その分布は東南アジアから東アジアまでと広く、多くの亜種に分かれる。
日本では、北は東北地方から南は八重山諸島(石垣島・西表島)にまで産し、屋久島以北の本土産亜種(n.nesiotes)、沖縄本島・奄美大島亜種(n.okinawensis)、八重山亜種(n.ishigakianus)の3亜種に分けられいるが、何れの地方でも一般的に個体数は少ないとされる。
飛翔は敏速。樹液等に集まる。♂は午後2時から夕暮れにかけて山頂などで占有活動(縄張り争い)を行う。
幼虫の食樹はアワブキ、イヌビワなどのアワブキ科。
和名スミナガシの由来は、むかし、宮中で行われていた遊びの一つ”墨流し”(流水に墨を流して、その変化を見て楽しむ)からだろう。

墨流しってネーミングした人はセンスがあると思う。
だいたい学者がつける名前ってもんは、まんまで何の捻りも無くつまんないモノが多いんだよね。
アタマ、硬いんだよね。何でも遊び心が必要です。