捕虫網の円光~西へ西へ、南へ南へ

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『蝶に魅せられた旅人アーカイブス』

2012-07-26 16:41:16

沖縄真夏編の最終回もまだ書いていないのに始めてしまいます(当時一部の人にメール送信していた原文のまま)。

 

2011年 9月9日
 

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』
 
        (第一番札所)

 
2011年 9月9日。午前7時27分。
JR難波駅を出発する。
青春18切符の長い長い旅が始まった。特急、急行を使わず、在来線でひたすら走り続ける苛酷な旅である。

目指すは宮崎、齢(よわい)40代の体で、どこまで耐えられるのだろうか…。

西へ、西へ。
姫路、網干、岡山、倉敷、福山、尾道。それぞれ当時付き合っていた女の子たちと旅した土地を通過してゆく。何だか懐かしい。

だが、細かい事は忘れつつある。中には誰と一緒に行ったかさえも定かではなくなってしまった場所もある。

初めて女の子と旅行に行った場所は、福山(鞆の浦)と尾道だ。あれから四半世紀以上、人生もまた長い旅だ。

その尾道で、やっと海が見えた。
もう30年近くも訪れていないが、ほとんど変わっていないような気がする。
大林宣彦の映画じゃないが、懐かしい匂いがする。ノスタルジーそのままの風景だ。

順調に乗り換えを繰り返し、西へ西へと運ばれてゆく。

ここまではたいした事は起こらなかった。
強いて変わった事と言えば、一心不乱に鼻くそをほじり、それを食うオヤジがいた事と、前の座席に24才の若い双子の女の子たちが座ったことくらいだろうか。

双子の女の子たちは、みんな何だか素敵だ。
ふと思う。今まで双子の女の子と寝た経験は一度もないが、いったいどんな気持ちになるのだろうか?
想像してみたが、あまり上手く想像できなかった。

日差しはまだまだ強いが、秋の気配が漂い始めている。色ずき始めた稲穂がやわらかに風に揺れている。

岩国を過ぎて、やっとまた海が見えた。

柳井まで来た。ここまで8時間半。やっと半分だ。

新山口でSLを見た。

 

 
午後6時05分。下関。

関門海峡を越えるのは、これで今年何度目だろうか?

数えてみた。都合5度めになる。今まで生きてきて高校の修学旅行の一度だけなのに今年だけで5回だ。スゴいね。

あっ、電車は地下に入ってゆく。そっか、電車だと関門海峡は越えるものではなく、潜るもんなんだよね。

午後6時。九州上陸。
小倉で日豊本線に乗り換える。

広島を過ぎた辺りからだんだん都落ちするような気分になってきていたが、いよいよここまで来ると、それを越えた完全に落ちのびてゆくような心持ちになってきた。
檀ノ浦とかも通過したし、まるで平家の落武者みたいだ。南へ、南へ。

7時半。大分・中津で降りる。

 

 
次の電車まで余裕があったので、名物の唐揚げを食いにいく。
今まであまりにも接続が良すぎて、朝からお茶以外何も口にしていない。

しかし、商店街は既にゴーストタウンと化していた。
歩き回ったが、居酒屋しか発見できず、慌ててコンビニで缶ビール一本とささみの燻製、高菜のおにぎり一個だけを買い、再び電車に乗り込む。

午後8時半、ようやく初めて食べ物を口にすることができた。

途中から外はずっと真っ暗闇だった。

午後10時、大分駅着。
ここでまた乗り換えに一時間の空きがあった。時間潰しに駅の外に出る。

が、何も心を魅きつけるものがない。大分には良い思い出がない。20年近く前、ドサ回りの大衆演劇の一座に呼ばれて別府に一ヶ月いたが、最低の記憶しかない。

午後11時04分。大分発佐伯行きの最終電車がやって来た。

ホームには酔っ払いが溢れかえっている。

大阪から出発して、どんどん車両が短くなっていったが、中津で2両になり、そして大分でついに1両になった。

必然、超満員電車になった。ここにきて最後の最後にあまりにもヘヴィー過ぎる展開。

後ろのオヤジが、確実に吐きそうな雰囲気なので戦々恐々となる。これ以上惨めな気分になるわけにはいかない。

明日は朝6時20分の電車に乗らなければならないので、このままいけば睡眠時間は3~4時間しか取れないだろう。

そんなショートで、高い金を払ってホテルに泊まるのも何だか馬鹿馬鹿しい。朝までやっている居酒屋で時間を潰そうかとも思った。

だが、もうそんな気力も体力もない。素直にホテルに泊まろうと思った。

降車する人の数が次第に増え、約20分でどうにか座る事ができた。

窓外の真っ暗な闇を見つめていると、今自分が何処にいるのか、何処に向かっているのか、そして自分がいったい誰なのかさえもわからなくなってくる。

日を跨いで、24時30分にやっと佐伯駅に着いた。宮崎県は、すぐそこである。

絶望的に真っ暗だ。そして、雨が降っている。やっぱり大分は鬼門ってことか…。

雨のなか、歩き出す。

どうみてもホテルは見つけられそうもない。この雨の中を歩き回っても、ただ体力と気力を磨り減らすだけだ。

結局、ある意味当初の予定通りってことか…。睡眠は諦めよう。

しばらく歩くとマックスバリューが見えてきた。24時間営業のスーパーマーケットだ。少し安心する。これで最低何とか雨宿りと食料の確保だけはできた。

更に歩くと小さな幹線道路に出た。
雨に黄色く滲んだ明るい看板が見えた。ジョイフルという24時間営業のファミレスだった。

ここいらが限界だ。辛いが、ここで時間を潰すしかないだろう。上手くいけば、携帯の充電もして貰えるかもしれない。

とりあえず、ビールと唐揚げ定食をたのむ。

朝までいるし、充電もして貰えたことだし、ついつい気を使ってドリンクバーもチョイスした。

唐揚げ定食(499円)は、さして期待していなかったが、案外美味かった。

現在、午前4時半。
睡魔と闘いながらこれを書いている。

眠るべきかどうか迷っていたが、もう手遅れだ。何せ、6時20分の電車に乗り遅れれば、次の電車は夕方の17時14分なのだ。

何故、こういつもいつも何かと闘わなければいけないのだろうか…。

                 つづく

 

追伸
今とは違って、この頃はまだソリッドな文章を書いていた。ようするに、ロマンチストでカッコつけだったのだ。でも、今書いている説明の多い文章よりもこういう文体の方が本来は好き。
とは言いつつ、カッコつけ純文学風からこのあと、段々ボケなすエンターテイメント風にはなってゆきますからあしからず。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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