青春18切符1daytrip 春 第二章(4)

 
  第四話 流浪のプチトリッパー 後編

 

  2020年 4月6日

丹波にも福知山にも行かず、戻って三田駅で降りた。
そして、例年通りの王道コースを踏襲することにした。ご機嫌になる事が確実な選択を知ってて、むざむざそれをスルーするなんてバカバカしいと思ったのだ。どうせこの時間に田舎町の丹波に行ったところで、情報ゼロゆえ路頭に迷うのがオチだ。それでも行こうなんてのは真正M男である。オイラ、基本的にマゾっ気はないからね。マゾ的思考になる時は窮地に陥った時だけだ。状況を愉しむしか精神の平衡を保てないから、そうしてるだけにすぎない。

 

 
先ずは銭湯へ行く。極楽気分になる為のステップその1だ。
三田駅から10分ほど歩いたところに三田市唯一の銭湯『しんち湯』がある。数年前に廃業のピンチがあったそうだが、お客さん達の強い要望で何とか存続になったと聞いている。

梅の暖簾が粋だね。
ここの銭湯、昭和レトロな雰囲気があって好きなのだ。周囲の町並みの雰囲気も、そこはかとなく鄙びた感じが漂っていて落ち着く。

 

 
この小ぢんまりとしたところもいい。

 

 
湯船は中央にある瓢箪型のみしかないけれど、レトロで昭和ロマンの香りがある。こうゆう形の湯船はあまり見たことがないから相当に古そうだ。昭和でも比較的古い時代のものだろう。
それに比して、蛇口は白と赤のゴルフボールでボップだ(画像を拡大されたし)。そして壁面上部はキッチュ。普通の銭湯画ではなく、トタン板に何やらシュールな生物どもが貼り付けられておる。おそらく深海生物、いや太古の昔の原始生物だろう。悠久の世界観ですな。空間で小さな宇宙が展開している。

客はワシ一人の貸し切り状態だ。気兼ねなく湯船で大の字になって浮かぶ。
重力から開放され、四肢がゆるゆるとほどけてゆく。
スッゲー開放感。やっぱ銭湯って最高だよ(≧▽≦)❗

銭湯では、たっぶり1時間過ごした。スーパーリラックスで夕暮れ間近の外へ出る。目に見える風景全てが優しく見える。

少し駅の方向へと戻り、お目当ての居酒屋へゆく。
極楽気分になる為のステップその2だ。

 

 
大通りを少し入ったところにある『うまいもん酒房 和来(わらい)』。
四、五年前だろうか、三田でギフチョウを採って「しんち湯」に入った後、酒でも呑もうと思ってうろついてて偶然見つけた店だ。それ以来、毎年この時期にだけ訪れてる。中々良い店で、近所にあったら絶対に通うのだが、三田なんてギフチョウを採りに来るくらいしか用がないから、どうしてもそうならざるおえない。だが、完全に年中行事にはなってる。もはやギフチョウと銭湯とこの店がセットになっていて、優先順位に優劣なく、均衡を保っている。

時刻は、まだ5時40分。どうやら自分が最初の客らしい。
一番最初の客は嫌いじゃない。

「僕は店を開けたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだキレイで、何もかもがピカピカに光ってて、客を待ってるバーテンが髪が乱れていないか、蝶ネクタイが曲がってないかを確かめてる。酒の瓶がキレイに並び、グラスが美しく光って、バーテンがその晩の最初の一杯を振って、綺麗なマットの上に置き、折りたたんだ小さなナプキンをそえる。
それをゆっくりと味わう。静かなバーでの最初の静かな一杯、こんな素敵なものはないと思ってる。」

ハードボイルド小説の金字塔、レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(註1)』の一節を思い出した。大学生の頃に暗記したのだが、今でもこうして諳(そら)んじることができる。ただし、語彙の一部は自分なりの言葉に微妙に変換されてるけどね。
この小説には、他にも粋な言葉が数多(あまた)散りばめられており、このセリフのすぐ後にも名文句がある。
「アルコールは恋に似てるね。初めてのキスには魔力がある。二度目にはずっとしていたくなる。だが三度目にはもう感激がない。あとは服を脱がせるだけだ。」
話が逸れた。戻そう。

ここは勿論バーじゃない。居酒屋だ。けれど開店直後の店の空気はまだキレイであり、独特の清新さがあることには変わりはない。

カウンターに座ると、目の前に「ワンピース」のフィギュアが並んでいる。

 

 
数は年々確実に増えているようだ。現在進行中の「ワノ国編」の登場人物もいるしね。ワンピースのストーリーは同じパターンの繰り返しで、どのエピソードも結局のところ少年ジャンプ的ヒエラルキーだから飽きているのだが、アニメの方だけはまだ継続して見ている。どうせルフィーは、もう1回くらい四皇の一人であるカイドウにボゴボコにされるだろうけど、最終的には勝つに決まってるからね。

先ずは「5種造り盛り」¥1000から頼む。

 

 
何だこりゃ❓
画像を見ても全然メンツが思い出せない。マズイな。

あっ、でも探したらメニューの写真を撮ってあったわ。

 

 
酒のアテの欄がソソるねぇ〜(´▽`)
如何にも左党が好みそうなアイテムが並んでいる。店主も酒好きなのが如実に現れているラインナップだ。そういや初めて来た時は、通が喜ぶ「鯖のへしこ」なんかもあったな。アレはもう無尽蔵に何ぼでも酒が呑めるのだ。あっ、そうだ。酒といえば、この日に飲んだ酒の事も書いておこう。
(・o・)ありゃ、でも酒関係の写真を一枚も撮ってない。まあいい。どうせビールから始まって芋焼酎のロックへと移行したのであろう。こうゆうアテの美味い店ならば、大体のパターンは決まっておるのだ。せいぜいどこかで日本酒を挟むくらいしかバリエーションは無い。チェーンの居酒屋では、ビール飲んでから酎ハイレモンとハイボールを延々飲んでるけどもね。旨い料理には敬意を表して酒を選ぶが、どうでもいいような食いもんの時には、ただ酔えればいいって感じのチョイスになるのだ。

このメニューの刺身の項から類推すれば、左のサーモンみたい奴は桜マスだろう。
桜マスは渓流魚のヤマメの降海型で、鮭みたく海に下り、デカくなって川に戻って来た奴だ。尚、桜マスの名前の由来は桜の咲く頃に川を遡上するからという説とオスがメスの産卵期が近づくと体が桜色になるから(婚姻色)という説がある。
西日本では五月(サツキ)マスと呼ばれ、こちらは亜種であるアマゴの降海型である。また、海ではなく琵琶湖に下るアマゴもいて、ビワマスと呼ばれている。これら全部をひっくるめてもサケ科の中では漁獲量が最も少なく、珍重もされている高級魚だ。日本では古来から食べられており、「鱒(マス)」といえばこの魚の事を指していた。

サツキマスとビワマスは何度か食べた事があるけど、サクラマスって食った事あったっけかなあ❓多分、あったとは思うけど。

画像を再度見て、舌の記憶が甦ってきた。味の印象はサツキマスやビワマスとほぼ同じだったと思う。どちらも美味です。身は柔らかく、甘みと旨みが強いのが特徴だ。それでいてサーモンみたく味はしつこくなく、舌にベタベタと残らない。キレが良く、どこか上品さがあるのだ。

その奥の赤いのはマグロはマグロなんだけど、その脳天。脳天といっても脳味噌ではなくて、頭の頂部の両脇にある身で一匹の鮪から2本しか取れない希少部位である。上から見れば、漢字の「八」に見えることから、別名「八の身」とも言われてるそうだ。
マグロ(本マグロ)の頭は全体的に脂が乗っており、味はトロに近いのだが、脳天はどうじゃろう❓
あっ、味はトロだが、トロよりも弾力がある。よく動かすところなのか筋肉質で、トロの甘みの中に赤身のコクも混じってて、めちゃんこ美味い。

真ん中は生のホタルイカ、右手前の白身はイサキだろう。となると、その奥は消去法でシマアジとゆう事になる。
画像からするとイサキの質が高そうだ。けど、あまり記憶にない。逆に不味かったら記憶に残るだろうから、目を見張るほどではないが、そこそこには旨かったのだろう。

お次は「春野菜天ぷら盛合せ」¥550をチョイス。

 

 
一番左端の黒緑色なのがワカラン。大葉?ワサビ菜?
その横はウルイだね。その隣もワカランが、若ゴボウかなあ?
で、タケノコ、コゴミときて、右下はフキノトウかな。
多分、塩で食ってるな。天つゆを否定はしないが、甘ったるいので殆んど使うことがない。それに何食っても天つゆ味になりがちで味を壊しかねない。繊細な春野菜ならば、尚更だ。塩のみで食ってる確率は、100%だろう。
塩は藻塩かなあ…、自信ないけど。とにかく普通の塩ではないだろう。
不満は特にないが、ここに山菜の女王コシアブラがあればなと思う。山菜で一番美味いのはコシアブラだからね。

 

 
これは「なめろう ¥400」だな。
基本はアジ、サンマ、イワシなど青魚の刺身に味噌、生姜、ネギ、大葉、ミョウガ等を加えて細かく包丁で叩いて混ぜ合わせたものだ。
元々は房総の郷土料理で「皿まで舐めるくらいに旨い」というのが由来だったかな。
日本酒や焼酎のロックを飲みながらチビチビ食うのだが、酒バカエンドレスになるアテだ。由来に恥じないくらいに旨かったという記憶がある。

(・o・)んっ❗❓改めて画像を見て思った。
なめろうといえば、真鯵が基本だが、コレってマアジか❓
サンマは季節的に有り得ないから除外だし、イワシならばもっと銀ピカだから容易に区別できる。だからマアジだとばかり思っていたが、よく見るとマアジにしては色が白っぽくて、身に透明感がある。
もしかしたら、コレってシマアジで作った「なめろう」かもしれない。いや、刺身の項にアジは無かった筈だから、間違いなくシマアジだろう。道理で旨かったワケだ。シマアジの「なめろう」なんて贅沢だよなあ(´∀`)

 

 
だし巻き玉子。
左側は大根おろしだが、鬼おろしだから粗い。
個人的にはボソボソしているから粗い大根おろしはあまり好きではない。とはいえ、おろし方よりも辛みのエッジが如何に立っているかの方が遥かに重要だ。辛くない大根おろしは大根おろしではない。あの、世にはびこる水っぽくて味も素っ気もない大根おろしを憎悪してやまない。

店主曰く、関東と関西では巻き方が違うらしい。玉子焼き用の道具も東西では違うから何となくは知ってたけど、どっち側から巻くかまでは知らなかった。

調べてみよう。
色が濃くて甘い関東風の厚焼き玉子は焦げ目をつけて、一回で厚く卵を巻くという作り方が主流。一回で卵を巻きやすいように東(あずま)型や角型と呼ばれる正方形で幅のある大きな卵焼き器を使って、奥から手前へ折りたたむように巻いて作られる。一方、だしを多く使いフルフルの柔らかい食感が特徴の関西風だし巻き卵は、手前側から少しずつ何層にもなるように巻いて作られる。巻きやすいように西(にし)型や角長型と呼ばれる細長く長方形の卵焼き器を使うのが一般的である。
ちなみに自分は無意識に手前から奥へと巻いている。たぶんオカンの玉子焼きの作り方を小さい頃から見ていたせいである。

関西風のだし巻き玉子って、しみじみ旨いよなあ(´ω`)
酒のアテだけでなく、オカズにもなる。だから関西では「だし巻き玉子定食」とゆうのがあって、わりかしポピュラーな存在なのだ。
このあいだ「秘密のケンミンSHOW」か何かでやってたけど、関東には「だし巻き玉子定食」とゆうのが存在しないらしい。オバハンがキレ気味に「玉子焼が御飯に合うワケないよー。」と言ってたが、こっちが(  ̄皿 ̄)キレるわい❗
関東の人には申しワケないが、あんなクソ甘い玉子焼きだったら御飯に合うワケないやろ、お菓子かボケー(-_-メ)❗❗である。
そういや築地にテリー伊藤の実家の老舗玉子焼屋があって、そこで厚焼き玉子を食ったことがあるけど、💢😈ブチキレたね。
関東の人は関西に来たら、是非ホンマもんのだし巻き玉子を食べてみて戴きたい。錦市場には「三木鶏卵」とか「田中鶏卵」というだし巻き玉子専門店があるから気軽に買えますよ。
中でも「三木鶏卵」がお薦め。ここのは冷めても美味しい。いや、むしろ冷めてるヤツの方が美味い。しっとりとしていて、噛むとジュワッと出汁が口の中で広がるのだ。

店はいつ来ても多くの客で賑わっていたが、この日はずっと静かだった。
7時過ぎになって漸く新しい客がやって来たくらいだ。しかも一組だけ。やはりコロナの影響は凄まじい。
お陰で店の大将と色々話せたけどね。ここの大将は結構面白い人なのだ。曰く、実際大変な状況になってるらしい。家賃や光熱費、人件費などは黙っていても出ていくし、食材だって大半が廃棄になってしまうそうだ。自分も飲食やっていただけに、よく解る。

 

 
どうやら「サラミポテトサラダ ¥350」みたいだね。
ポテサラって大好きなんだけど、外では中々自分好みのポテサラには会えないんだよね。
多分ここのは合格の範囲内だったと思うけど、細かい味までは憶えてない。とはいえ、自分も珠にサラミ入りのポテサラを作るから味の想像はつく。あまりポピュラーではないけれど、実をいうとコレが旨いんだよね。だから旨かったのは間違いないかと思われる。

そういえば、店の大将が言ってたけど、作ろうと思えばもっと旨い究極のポテサラが作れるらしい。ただし、大変手間がかかるから3日前には電話してほしいと言ってたなあ…。
普段は予約とかしない人だけど、次回はマジで電話してそのポテサラを作っておいてもらおっかなあ。
でも来年も店が有るかどうかはワカラナイ。今は先が全く見えないという御時世なのだ。
たとえそうじゃなくとも、一人だけなのに予約するのは恥ずかしい。それに一人だと食べられる品数に限りがあるんだよね。ワタシャ、出来れば沢山の種類をちょっとずつ食べたい人なのだ。
なれば、元カノでも誘おっかなあ…。でも、こないだドタキャン喰らったからなあ…。かといって、こうゆう良い店には心を許した人でないと誘えない。それに食いもんの好みが合わない人だと、楽しいどころか寧ろマイナスになりかねない。相談もなく、勝手に自分の食べたいものだけを頼むような人間とか抹殺したくなるもんな。
まあ、場所も場所だし、誘っても断られるのがオチかもしんないけどさ。チッ、それはそれで癪じゃないか。

 

 
ほろ酔い気分で午後8時半に店を出た。
春のやわらかな風が頬を撫でる。

午後8:43の高槻行き普通電車に乗る。

 

 
午後9時前、又しても武田尾駅に降り立った。
山の中だけあって夜気が冷たい。夜桜も心なしか寒そうだ。
それにしても夜に見る桜はどこか妖艶だ。そして死の匂いがする。
ましてや今宵は朧月(おぼろづき)だ。余計にそう見える。

 

 
だが、蛾の採集には最悪のコンディションである。虫は月夜の夜にはあまり灯火に飛来しないのである。天気予報では夜から曇ると言ってたのになあ…。
この周辺には春の三大蛾(註2)が確実に生息しているから、どれか一つくらいは飛んで来ると期待してたけど、芳しくない傾向だ。

割と虫が集まる灯火までやって来た。

 

 
しかし、見事なまでに何あ〜んもおらん。春の三大蛾どころか、クソ蛾さえおらん始末。
寒いし退屈だし、早々と午後10時くらいには諦め、電車に乗って大阪駅まで戻ってきた。

 

 
これで、青春18切符もあと2回分だ。さて、次は何処へ行こう。

                         つづく

 
追伸

JR難波駅⇒武田尾駅¥770
武田尾駅⇒相野駅¥330
相野駅⇒三田駅¥240
三田駅⇒武田尾駅¥200
武田尾駅⇒JR難波駅¥770
             計¥2310

 

 
青春18切符なんだから、もっと遠くへ行こうかなと思ったが、切符の期日が迫っていたので使うことにした。宝の持ち腐れが一番最悪だからである。
まあ、上のように正規の電車運賃は、買った青春18切符の1回分(4回分で5千円だから1回分¥1250)よりかは高いので、損はしてないからね。

家に帰ってから、前編で登場した相野駅近くの「肉のマルセ」で買ったコロッケとかメンチカツとかの残りを食った。

 

 
冷えても、そこそこ旨い。

この文章を書いている時点では、まだ『和来』は店の営業を続けているようだ。4月にまた大将の顔を拝めればいいなと切に願う。

 
(註1)『長いお別れ』
原題は『The Long Goodbye)』。
1953年に刊行されたアメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするシリーズの第6作にあたる。
『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』と並ぶ、チャンドラーの長編小説の代表作の一つである。感傷的でクールな独特の乾いた文体と登場人物たちの台詞回し、作品の世界観に魅了されるファンは多い。チャンドラーの小説は、その殆んどが一人称によって語られる形式だが、本作によりハードボイルド小説というジャンルの文体が確立されたと言っても過言ではあるまい。謂わばハードボイルド小説の礎的作品である(始祖は『マルタの鷹』で知られるダシール・ハメット)。そして、今やこの形式が模倣を超えて定番化したと言える。まあ、謂わばハードボイルド小説のお手本みたいになっている。

1995年出版のアメリカ探偵作家協会によるベスト100では13位にランクされている。日本ではハヤカワミステリーベスト100など多くのランキングで、チャンドラー作品の中では1位に選ばれ、雑誌「ミステリマガジン」が2006年に行なった「オールタイム・ベスト」でも堂々の第1位を獲得しており、傑作とする人が多い。

ハヤカワ・ミステリ文庫の清水俊二訳では「ギムレットにはまだ早すぎるね」や「さよならを言うのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官にさよならを言う方法はまだ発明されていない」「君はいったい何を求めてる。薔薇色の霧の中に飛んでいる金色の蝶々か」など多くの粋なセリフで知られる。
尚、村上春樹もこの作品を2007年にタイトルを『ロング・グッバイ』と変えて翻訳している(早川書房)。
村上春樹は最も影響を受けた小説として『カラマーゾフの兄弟』『グレート・ギャツビー(華麗なるギャッビー)』、そして本作を挙げており、評論家は初期の代表作『羊をめぐる冒険』は本作の影響が色濃い事を指摘している。
春樹さんの小説は好きだけど、この翻訳はハッキリ言って嫌い。台詞が粋じゃなくなってて心が動かされない。何か会話に色気がないんだよなあ。どこか村上春樹の小説の登場人物と似ていて、虚無的な感じなのだ。気障な軽口じゃなくなってる
から全然ハードボイルドっぽくないのである。テリー・レノックスとマーロウとの会話が好きなのに、あれじゃ、あんまりだ。

1973年にロバート・アルトマン監督により、原題と同じ『The Long Goodbye』のタイトルで映画化もされている(日本では『ロング・グッドバイ』のタイトルで公開)。
時代設定を現代(1970年代)に変えており、公開当時はマーロウが全然カッコ良くないので、チャンドラーファンからは酷評されたらしい。だが、その後再評価され、カルト映画の1つとして名を連ねている。
確かにファンとして観れば不満のある映画ではあるが、それを取っ払って純粋な映画として観れば面白い。中でも飼っている猫とのシーンが印象に残っている。

 
(註2)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメの大型蛾3種の事を指す。何れも個性的な姿で、蛾マニアの間では人気が高い。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 武田尾)

 
ヤママユガの中では、唯一春先に現れる。
闇の中で照らされる青い紋は美しく、ハッとさせられる。

 
【イホタガ】

(2018.4 武田尾)

 
国外に酷似した近縁種が数種いるようだが、数ある蝶と蛾の中でも類するものが無く、唯一無二とも言える個性的なデザインだ。極めてスタイリッシュだと思う。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 武田尾)

 
日本最大のスズメガ。怪異な姿で、しかも鳴きよるから怖い。
おぞましくて邪悪の権化みたいな見た目だが、慣れれば鈍臭くて可愛い。もふもふだしね。

エゾヨツメは日没直後に灯火に飛来し、イボタガとオオシモフリスズメは深夜にやって来る。だからエゾヨツメは別として、本気で採りたいなら10時に帰るようではダメなのだ。採れるもんも採れん。けど、たとえ粘っていたとしてもダメだったと思う。この日は、やって来る気配みたいなものが全くなかったからね。結局、去年は1つも会えなかったし、今年は何とか会いたいね。
これら三種に関しては拙ブログに何編か詳しく書いているから、御興味のある方は探してみて下され。

 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の四 魑魅魍魎篇

 
長らく間があいたが、いよいよ最終回である。
でも、書きあぐねていたワケではなく、単に書く気が起こらなかっただけ。だから、別に練りあげた文章でも何でもないです。期待されても、その辺は無理。
えーと、今度こそ魑魅魍魎どもが登場するので、閲覧注意ですぞ😁

と、ここまで書いて、さらに1週間が経ってしまった。なので、今回は親切にも前回までのあらすじ付きなのじゃ(ヒマな人は過去3話を読み返しましょう)。
それでは、蛾嫌いでも読める手に汗にぎるノンフィクションホラーの始まり始まりぃ~\(^-^)/

 
【前回までのあらすじ】
2017年 4月上旬。ひょんなことからヒロユキは或る秘密結社の夜会に同行することとなった。その夜会とは、プロチームによるライトトラップを使った泣く子も黙るおぞましき蛾採集であった。
ヒロユキにとっては初のライトトラップにして、初の本格的蛾採集である。元来、ヒロユキは大の蛾嫌い。しかもターゲットは春の三大蛾と言われるエゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメという身の毛もよだつ凶悪な面々なのであった。
暗雲垂れ込める不気味な空。春まだき、寂たる白骨の森。とある山奥へと車はゆっくりと進んでゆく。
未知との遭遇への畏れ。武者震い。不安をかき消さんがための饒舌と過度の飲酒etc…。
やがて漆黒の闇が訪れる。戦々恐々とした中、碧い眼の妖蛾、エゾヨツメが現れる。酒の力を借りて、悪霊を退治するヒロユキ。しかし、梟男爵と闇の帝王は、いっこうにその邪悪なる姿を現さない。
真夜中、焦燥に駆られたヒロユキは、そこでついに決断した。遠く離れた巨匠のライトトラップへと一人で向かうことにしたのだ。暗黒世界に跳梁跋扈する魑魅魍魎の影に怯えるチキンハートのヒロユキ。恐怖と戦い、ようやく辿り着いた闇夜に浮かぶ宇宙船、光輝くライト・トラップ。だが、安堵も束の間。ついに戦慄の時を迎えるのであった…。

 
真夜中、丑三つ刻の山中を一人でうろうろしていたら、何が起こるかわからない。小心者のヒロユキは怯えた。闇の国の者どもに絡め取られるぬうちにとっとと戻ろう。

 

 
そう思って歩きだそうとした矢先だった。
ライト・トラップ右側の視界に違和感を覚えて、何気に杭の辺りに目をやった。
 
ドオ━━━ (◎-◎;) ━━━ ン❗❗

いきなりの強引なカットインで、おどろおどろしい映像が暴力的に網膜を支配してきた。
瞬時に全身がフリーズする。腰が抜けそうになった。

 

 
そこには、闇の将軍が夜陰に紛れて静止していた。
( ; ゜Д゜)何たる怪異なデザイン…。
デジタル悪魔じゃよ。
その特異な姿、間違いなく梟男爵イボタガだ。
一歩近づき、マジマジと見た。
((((;゜Д゜)))ブルッときた。背中から首筋にかけてゾクゾクしたものがギュンと走る。

さて、どうしたものか(-_-;)❓…。
アンモニア注射は持ってないし、網はベース基地に置いてきた。有るのは毒ビンだけである。
ということは、このバケモノを取り込む為には手で触らねばならない可能性が高い。
( ̄▽ ̄;)触るのか…。生来、大の蛾嫌いなオラに、こんな恐ろしげなものに触れというのか❓
碧眼魔女エゾヨツメは動き回っていたので、逃げられまいと思わず手が出た。だが、今回は違う。覇王色の覇気を放ち、静かに鎮座されておるから、畢境考えざるおえない。
時として思考は恐怖の敵だ。考えれば考える程にかえって怖さの実感がまざまざと這い上がってくるのだ。

だとしても、接触せねば採れない。
ここは男度胸。やるしかあるまいて(=`ェ´=)
武者震い。惑乱と恐怖が体を強(こわ)ばらせる。

しかれども、ビビって中途半端に触れて逃げられたら非常にマズイ。
Mさんに『いたんですけどぉー、掴もうとしたら逃げられちゃいました~\(・o・)/』などとホザいたところで、到底信じてはくれまい。現物が無ければ、嘘つき言いワケ野郎と云うレッテルを貼られるに決まっているのである。何があっても、根性なしの汚名を着させられるのだけは御免蒙りたい。

おもむろにスマホを取り出す。
取り敢えずは、保険として証拠写真を撮っておこうと云うワケである。イガちゃん、カシコイ。

2、3枚撮ったところで、Σ(゜Д゜)ドワッ❗❗

大きく羽を広げおった❗

 

 
闇の将軍、お怒りである。
それって、威嚇っすか❗❓
むぅ~( ̄▽ ̄;)…、目玉模様が怖い。
あながちフクロウの顔に擬態していると云うのも嘘じゃないかもしれぬ。

ブルン、ブンブンブン…。

ブルン、ブンブンブン……。

 

 
ヒッ❗❗(゜ロ゜ノ)ノ

思わず、後ずさりする。
男爵殿、ものすご~く御立腹の御様子である。

取り敢えず、ここは一旦離れて落ち着かせよう。
距離を置くために2、3歩下がったその時だった。少し離れた左下に禍々しいシルエットを感知した。視線はそのまま釘付けになる。

ドッ(◎-◎;)❗、

ドオッ(@_@;)❗、

ドオ━━ Σ( ̄ロ ̄lll) ━━━ ン❗❗

 

 
Σ( ̄ロ ̄lll)のわっ❗
慄然。マックス震撼する。

(@_@;)あわわわわ…。いつの間に❗
そこには、闇の帝王が仁王立ちするかの如く傲然と静止していた。紛れもないオオシモフリスズメだ。
きゃん玉がキュッと縮みあがる。

( ; ゜Д゜)デ、デカイ…。
形も悪魔みたいである。

前門の狼、後門の虎❗
丑三つ💓ドキドキ、💓ドキッドキッ❗

いきなり魑魅魍魎に囲まれ、チビりそうになる。
(○_○)どぎゃんするとですか?
一瞬、脳死状態になる。

大きく深呼吸する。
落ち着け俺。落ち着けオレ~。

そうだ、コヤツも写真を撮っておこう。
気を取り直して、へっぴり腰で近づいてみる。

 
キャヒ ━━ Σ(T▽T;) ━━ ン❗

 
(註1)

突然、ケツをオッ立てよった❗
アナタ様も御機嫌斜めの威嚇っすか❓

それにしてもこのポーズ、パッと見は何が何ちゃら分からないムチャクチャ異形(いぎょう)なカタチだ。
気持ち悪ぅ~Σ(-∀-;)

 

 

 
(以上3点共、画像はM氏からの御提供)

 
( ; ゜Д゜)…な、何たる…。息を呑む。
羽がギザギザやんけー。見る者を充分にたじろかせる、まるで鋭利なナイフのようだ。
アナタ、モルグ街の殺人鬼ですかあー❓

脚は太くてガッシリとしており、強靭そのものだ。
その前脚でグワシと獲物をワシ掴みにして、ムシャムシャと肉を貪る残虐悪鬼さんどすか❓

体は分厚く、装甲車を思わせる。或いは屈強なる戦士の鎧か…。
( ̄∇ ̄*)ホホホホ…。あらゆるものをブチかましの粉砕ですかあー❓

フォースの暗黒面に陥りしアナキン・スカイウォーカー、頭はダースベーダーみたいだ。蛾って、蝶から暗黒面に転落した堕天使どもの成れの果てやもしれぬ…。
おまけに稲妻の如き太い線が入っておる。スーパー極悪ヤンキー兄ちゃんのパンチパーマーにソリコミじゃよ。
そこまで凄みをテッテッー的に効かせはりますかあ❓

睨みつけるような焦げ茶色の眼も凶悪そうだ。
やっぱりyouも御機嫌悪かとですか❓
(ToT)っんましぇーん。

とにかく、邪悪の極み。この世のありとあらゆる憎悪を凝縮させたような姿だ。もうモンスターとか、怪獣レベルですけん。

さてさて、問題は二大凶悪犯をどう生け捕るかだ。
一瞬、敵前逃亡が頭を過(よぎ)る。いや、敵前逃亡なんかじゃない。一旦戻って、オジサン達を呼んでくるのが得策やもしれぬ。それに、これはそもそも巨匠のトラップだ。勝手に獲物を持ち去るのは泥棒じゃないか。まずは巨匠の許可を受けるべきである。それが人の道と云うものであろう。
とか何とか考えるが、本当は言いワケである。所詮は、敵前逃亡を正当化する為の方便でしかない。どう御託を並べたところで、Mさんはこのチキンハートの敵前逃亡を見破るだろう。(ToT)くちょー、ヘタレ呼ばわりされてたまるものか!である。
それに、行って戻ってきたら姿がかき消えてましたじゃあ、後悔してもしきれない。せっかくのチャンスを自らみすみす放棄するなんざ愚か者の極みだ。
やるっきゃない(*`Д´)ノ!!!

とはいえ、毒ビンは一つ。
どうみても、デカい蛾が二つも入りそうにない。
どちらも怖いが、より怖いのは帝王オオシモフリスズメの方だ。胴体も太いから、蝶みたいに指で圧死させる事は到底不可能に思える。
それに、もし無理に試みて、

シモフリ、ブチッと押したら、白いの出た。

になったら、どーすると云うのだ。
想像して、((((;゜Д゜)))オゾ気づいた。
そりゃ、阿鼻叫喚のスプラッター地獄絵図じゃよ。
18禁どころか、永遠の発禁モノじゃわい。
ならば、毒ビンにオオシモフリを放り込み、イボタガを指で圧死させる選択しかあるまい。
でも、イボタガだって蝶と比ぶればどの蝶よりも胴体は太いぞー(;o;)

ふぅ~(* ̄◇)=3
もう一回深呼吸。
先ずはイボタガから片付けよう。
丑三つ刻の悪夢を一刻も早く終わらせて、無事帰還せねばならない。地球へ戻ろう、宇宙飛行士ヒロユキくん。

丑三つ💓ドキドキ、💓ドキッドキッ❗

この期に及んで、またしても駄洒落を言うとる場合かっ!?

 
衝撃の展開に、酔いは完全に醒めている。

ドルルルルルゥー、グガガガガガー。

突然、発電機のけたたましい騒音が耳に甦ってきた。
それで、冷静さをいくらか取り戻した。
心頭滅却。考えてはいけない。感情を殺せ。
すうーっと手を伸ばし、フクロウ男爵を掴んだと同時に胴体をブチッと力を込めて押した。そして、マッハで三角紙に放り込む。心の動きを一切おし殺した、流れるような一連の動きである。
ワタシはレイケツニンゲン、ワタシは冷血人間。

勢いそのままに闇の帝王に挑みかかる。
毒ビンのフタをあけて近寄り、電光石火で掴む。
考えていた以上にデカイ❗、重い❗と思った瞬間、

Σ(T▽T;)痛って━━━ ❗

コ、コヤツ…、咬みよったあー❗❗

思わず、手を振り離してしまう。
怪物は狂ったように円を描いて飛んだ。
ヤッベー( ̄□||||!!と思ったが、金縛りにあったようにその場で固まる。
しかし、バケモノはバタバタとよろけるように飛んで横の白布に止まった。

 

  
吸血鬼❓エイリアン❓プレデター❓
何なんだ、アンタ❓
咬むって、そんな蛾がこの世にいるのかよ?(註2)
吸血蛾❓( ̄O ̄)嘘でしょ❗❓
二流怪奇映画とかで血を吸う蛾を見た記憶があるような気がするけど(註3)、アレってフィクションじゃなかったのー❓そこまでオオシモフリって、邪悪凶暴なの❓
(-_-;)まさかである。見てくれはいくら強面(こわもて)で恐ろしくとも、本当は意外と善良なヤツなんじゃねえのと思っていたが、とんでもない。見たまんまじゃねえか。

パニックになりかけるが、ここで戦陣を引いては沽券にかかわる。もうヤケクソ、アドレナリン大量放出。思いきって再度つかみにかかる。
いやいや、待て、待て。待てーい。すんでのところで手が止まった。指先に、さっきの鋭い痛みの感覚がまだ残っている。慌てて掴んだら、また同じ轍を踏むことになる。ここは再度冷静になろう。
そうだ。毒ビンを上から頭にズッポリかぶせ、⚡電光石火でもう片方の手で一挙にケツをグイと押し込む作戦でいこう。そいでもって、すかさず蓋を閉める。これなら、最小限の接触でスムーズにミッションを完遂できる筈だ。

 
意を決して、

ズバババババアーン❗❗

頭から覆せた。

三( ゜∀゜)ひっ、

ひいーっΣ(T▽T;)❗

ゴツい脚がガッツリと布に喰い込んどるぅー❗

えーい(*`Д´)ノ、こうなったらヤケクソじゃあー!

手で掴み、無理矢理に引き剥がす。
そして、毒ビンに頭を突っ込む。

ギヤッΣ(゜Д゜)!、

暴れて入らんo(T□T)o❗❗

パニ ━━ ック\(◎o◎)/❗❗❗

※▼☆§¢%◆β!Σ(×_×;)❗
激しい抵抗にあい、中々押し込めなーい(T_T)
デカ過ぎるんじゃ、(# ̄З ̄)ボケ~。

だりゃあーΣ( ̄皿 ̄;;、コンニャロ❗、コンニャロ❗、コンニャロ❗おどれ、魂(たま)取っちゃるけん❗

渾身の力で、強引にブチ込んだった。

 

 
はあー( -。-) =3、はあー( -。-) =3
m(。≧Д≦。)mぜぇー、m(。≧Д≦。)mぜぇー。
肩で息をする。
やってやったぜ、オカーチャン。
急に力が抜けて、その場にへなへなとへたり込む。
だが直ぐには恐怖と興奮はおさまらない。アドレナリンだだ漏れのまんまだ。全身がまだ緊張で強ばっている。指も小刻みに震えている。

しかし、本能が此処にとどまっていてはならぬと頭の後で警鐘を鳴らしている。そうなのだ。いつ闇の住人たちが、この心の隙間を狙って雪崩れこんで来るやもしれぬ。油断してたら、フォースの暗黒面に引き摺り込まれかねない。一刻も早くこの場所を離脱すべきだ。

全方位に警戒しながら、足早に坂道を下りる。
しかし、周囲の闇は深い。道を照らす懐中電灯の灯りは心もとなく、さしてスピードは上げられない。
心はざわついている。早く戻りたい。でも周囲にも警戒を怠ってはならぬ。それに、怪物たちがいつ甦生するとも限らないのだ。ここで暴れられたら、😱大絶叫するだろう。

10分後。ようやく坂の下にベース基地が見えてきた。
翼よ、あれが巴里の灯だ。

Mさんは、まだ起きていた。
興奮して、事の顛末を喋りまくる。
Mさんは笑いながら『ほーかぁー。良かったのぉー。』と言ってくれた。だが、こちらの興奮は伝播しない。
『よっしゃー、出動じゃーい(*`Д´)ノ!!!』とか雄叫びをあげるかと思いきや、余裕のよっちゃん。
『まあ、座って酒でも飲みいーや。』なのである。

30分後。
Mさんはようやく腰を上げ、巨匠を起こしにいかれる。
目をこすり、眠たげに起きてきた巨匠にダイジェストで顛末を語り、勝手に採集した非を侘びる。
巨匠は軽く『ええでぇー。かめへん、かめへん。』とおっしやった。人物がおおらかでデカいのだ。
しかし、その巨匠にも興奮は伝播しない。やはり、余裕のよっちゃんなのだ。すぐ見に行こうと云った雰囲気は全然ない。
その余裕、アンタら、魔道士かっ!?

 
一行が漸くライト・トラップに向けて出発したのは、その20分後である。

車で乗り付ける。

((((;゜Д゜)))シェーッ❗❗
どえりゃー事になっとるだがやー。

 

 
魑魅魍魎、真夜中の魔王祭りである。
しっかし、ワカランものよのう。Mさんからはオオシモフリは夜10時くらいから飛んで来ると聞いていたけど、全然飛んで来ずで、今はもう午前1時半前だもんなあ…。たぶん様々な細かい条件が重なりあって、今日は午前0時からの飛来開始になったのだろう。蝶と比べて活動時間の幅がかなり流動的だ。蛾の気持ちは、よーワカラン。

Mさんが『コイツ、鳴きよるねんでぇー。』と言って、掴んだオオシモフリを耳元に持ってきた。

『🎵チュー、チュー。』

Σ(゜Д゜)わっ!、ホンマに鳴いてる。
鳴くって、アンタ哺乳類かよ❗❓
見てくれといい、脚のゴツさといい、どこまで規格外なんじゃよ。何だか笑けてくる。ちよっと愛着が出てきたかもしんない。
と思ってたら、Mさん、必殺アンモニア注射をブチューと刺す。

 

 
鳴き声も聞こえなくなった。
哀れ、あえなく絶命じゃよ。
魔道士にかかれば、蛮王もイチコロである。
マッドサイエンティスト、恐るべし。

   

 
いやはや、それにしてもデカイよ。
でも、これはオス。メスはさらにデカくてブッといらしい。これよかデカくて太いって…、どないやねん!?恐ろし過ぎやろ。
(因みにこの日飛んで来たのは、全部♂だった。しかも、出たてらしい完品揃い。となると、♀の発生はもう少し後。う~ん、♀も見てみたかった。
それから、この日2017年の4月7日は寒い日が続いた後で、発生が例年より1週間ほど遅れていたそうな。蝶と違って蛾は発生期間が短い種が多く、且つ天候条件がシビアだから採集日和を当てるのは結構難しいようだ。同じ鱗翅類でも、蝶とはだいぶと勝手が違うんだね。)

 
Mさんから、王の遺骸をおし戴く。

  

 
昇天した帝王を膝に乗せる。
本当はこんな色なのだ。緑色に写っているのは水銀灯のせい。光の波長が違うのだろう。蛾は紫外線が好きなのだ。だから、蛍光灯なんかにも寄ってくる。でも最近は外灯のLED化が進んで、蛾も寄って来なくなったらしい。LEDからは紫外線が殆んど出ないらしいのだ。
蛾マニアには受難の時代だが、蛾たちにとっては喜ばしいことだろう。外灯なんかに寄ってきたら、車に踏んづけられたり、コウモリや猫の餌になったりして、ロクなことがないのである。

 
1頭だけだが、イボタガもいた。

 

 
掴もうとしたら、飛んで膝の上に止まりはった。

お目々、( ☆∀☆)ピッカー✴

怖い、怖い。
そして、またしてもブルン、ブンブンブンじゃ。
オオシモフリはボテーッとしてて、あまり羽ばたかないが、イボタさんはアクティブなのだ。

 
その後もオオシモフリはジャンジャン飛んで来た。
しかし、体が重いのか灯りに辿り着けずに、地面にボタボタ落ちている。
時々、誰かが気づかずに踏んづける。でも、誰も悔しがらない。それだけ飛来数が多いからなのだよ、オトーサン。

光と影のコントラストをぼんやりと眺めながら思う。
初のライト・トラップにして初の蛾採集は、どうやら成功裡に終わりそうだなあ…。
オラって実力は無いけど、引きだけは強いのだ。
春の三大蛾、一発で全部採れちゃったなあ…。
蛾好きのバカ植村だって、まだ一つも採ったことがないって言ってたもんね。あとで死ぬほど自慢してやろう。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケ…、オイラは性格が悪いのだ(笑)

 
へい、らっしゃーい❗
オオシモフリの姿造り二丁❗❗

 

 
プロのお二人の手に、オオシモフリてんこ盛り。
凄い光景だ。蛾嫌いの女子なんぞが見たら、絶叫、発狂、失禁、卒倒しかねない。
でも、あまりのおぞましさに笑ってしまう。恐怖もマックスの線を越えてしまえば、ギャグになってしまうのである。
正確には数えていないが、踏んづけたものも含めて少なくとも30頭くらいは飛んで来たんじゃないかと思う。
プロのお二方は飄々としたものだったが、僕ちゃんだけが終始ワーキャー言っていた。蛾は怖いが面白い。

 
飛来がパタリと止まったので、ベース基地に帰還。
酒を飲みながら、ウダウダ話す(プロのお二方は車の運転があるので、コーヒーを飲んでおられた)。

やがて、うっすらと空が白み始めた。
あと少しすれば、闇の世界は閉じるだろう。都会に住む殆んどの人は、本当の夜の闇というものがどんなものなのかを知らないと思う。夜といっても、現代ではどこを見ても某(なにがし)かの灯りはあるのである。
本当の闇は距離感さえも失わせる漆黒なのだ。だから、昔の人は闇を恐れたのである。その恐怖が生み出した想像の産物が、魑魅魍魎であり、妖怪、幽霊なのだ。

妄想。惑乱。焦燥。驚愕。興奮。そして、恐怖と歓喜。いやはや、濃密な時間じゃった。
男は大きく欠伸をして、両腕を上げて背伸びするように体を反らせた。
たまたま、それが天を仰ぐかたちになった。
空のわずかな隙間に、微かに星が瞬いていた。

                 おしまい

 
 
一応、今回は登場しなかったエゾヨツメの画像と本文未使用の写真、標本写真なども並べておきます。
それから、各種の蛾の解説は第1話にあるので割愛させて戴きやす。

 
【Aglia japonica エゾヨツメ♂】

 
【エゾヨツメ裏面】

 
【標本写真】

 

 

 
考えてみれば、これが人生初の蛾の展翅じゃないか。
翅は蝶とそれほど差はないからまだいいとしても、問題は触角だよね。こんな羊歯(シダ)型の触角をした蝶はいないのだ。どうやって整形すれば良いのかワカラン。
それに、だいたいこういうヤママユ系蛾の触角って、裏表の色や構造が微妙に違ったりするのだ。
しかし、触角が基本的には立った状態なので、そもそもがどっちが表で、どっちが裏なのかさえもワカランとですよ。
それはそうと、これって裏表は合ってんのかなあ?

 
(;・ω・)もふぅ~。

 
(出展『www.jpmoth.org』)

 
エゾヨツメ、かわゆすなあ~。
もふもふなのら~。
ヤママユガ科の蛾は脚までもふもふで、全体的にもこもこしててカワユイのだ。
脚の毛だけが白いので、何だか昔流行った女子高生のルーズソックスみたいだね。キュート❗
触角もぴょーんとなってて、ウサちゃんみたい。世には意外と隠れ蛾好き女子がいると聞くが、こういうところに萌え~なのかもしんないね。

 
続いてフクロウ男爵のお出ましどすえ。

 
【Brahmaea japonica イボタガ】

 
それにしても、凄いデザインだよね。アートしてる。
この蛾に似ている蛾も蝶もいないから、唯一無二のデザインと言ってもいいかもしんない。
しかも、よく見たら厳密的にはシンメトリーではない。左右の翅の柄が微妙に違うのだ。特に目玉模様の中の斑紋が顕著に違うらしく、一つとして同じ柄は無いようだ。

 
【イボタガ裏面】

 
裏も、中々にスタイリッシュだ。
この蛾はモノトーンの蝶蛾の畢粋でしょう。
こういう柄の着物があったら、買う人は絶対いるだろね。でも着る人を選ぶ柄かもしれない。若い娘じゃダメ。年増のええ女じゃないと着こなせないでしょう。

 
【標本写真♂】

 
【標本写真♀】

 
採った時は翅の柄に目を奪われて気づかなかったが、背中は虎柄なんだね。スタイリッシュにして、攻撃的デザインなのだ。( ☆∀☆)カッケー❗

メスはオスよりも一回り以上大きく、翅形が全体的に丸くなる傾向があるようだ。

最近の蛾展翅のトレンドは前脚を前に出すのが流行りらしいので、やってみた。
触角は捻れてて整形が大変だし、前脚までもとなると、正直メンドクセー(=`ェ´=)

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 

 
もふもふではあるが、細面でちよっとキツい目だ。
何だか意地悪女みたい。顔に邪悪感ありである。
( ̄へ ̄ )むぅ…。見方によっては、よく西洋で描かれる悪魔に似てるかも。西洋の悪魔は、頭が山羊(ヤギ)なのだ。
しかれども、この写真では今イチ邪悪度が足りない。
もっと悪辣非道キャラらしい画像を何処ぞでお借りしてこよう。

  
(出展『蛾色灯』)

 
間違いなく魔界より出(いで)し邪悪なる者だ。
こんな顔だと、あのスタイリッシュとか言ってた翅の柄も、何だか魔界の魔方陣に見えてくるよ。
蛾って、現世と魔界を往復せしめる存在なのかもしれない。

そういえばイボタガの幼虫って、成虫なんて目じゃないくらいにムチャクチャ邪悪な姿なんだよねー。
この世の者とは思えないような気持ち悪さなのだ。アレは写真を見ただけで、2m後ろに幽体離脱したね。

Ψ( ̄∇ ̄)Ψ出すぞ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψ出すぞー。
画像、出しちゃうぞーΨ( ̄∇ ̄)Ψ
そりゃそりゃ、閲覧注意の最悪印の登場じゃわい。皆の衆、逃げ遅れんなよー。

 
(出展『フォト蔵』)

 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA/caption

 
( ̄□||||❗❗キッショ❗
何度見ても💫めまいがする。
(|| ゜Д゜)何なんだ、そのムチのような突起物は❓
これを振りかざして、鳥の眼を潰します(=`ェ´=)❗
と言いたいところだが、それは無いだろう。たぶん威嚇のためのものだね。こんなもん、人ならずとも鳥だって会った瞬間には激引きだろう。たぶん世の中には、生き物全員が本能的に忌避する形や色の配色と云うものがあるのだ。
因みに終齡幼虫になると、このムチは無くなるらしい。
無くなったところで、気持ちが悪いのは何ら変わらないけどね(笑)

 
最後はビビビのネズミ男。もとい、闇の帝王である。

 
【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ♂】

 
【オオシモフリスズメ裏面】

 
いかにも蛾らしく太い胴体だすなあ~。
この胴体の太いところが、蛾が気持ち悪がられる要因の一つだよね。
でも何だか見慣れてきちやって、それほど怖くなくなってきた。

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
(;・ω・)もふぅ~。

 

 
凶悪な顔とか言っちゃったけど、よく見ると案外可愛らしい。
手脚も短めに見えて、ちょっと萌え系かもしんない。
毛並みの感じなんかテディベアに見えてきたよ(笑)
おいおい、大丈夫か俺❓

 
【標本写真】

 
地味な色だが、よく見るとベタなグレーではない。
細かな柄が入っており、渋い。どこか大島紬(註4)のいぶし銀の魅力に通ずるところがある。

重ねて言うが、蛾の展翅なんて今回が初めてだからバランスがよくワカンナイ。図鑑は持ってないし、ネットでも参考になる資料が少ないのだ。ましてや、スズメガみたいなこんな翅形の蝶はいないから、翅の上げ下げのバランスが今イチわからん。
触角はエゾヨツメやイボタガに比べて単純な構造だから楽だけど、その角度に悩む。まあ、取り敢えずの一発目は無難な線で攻めてみた。

翅の上下、上翅と下翅の間隔の開け方、触角の角度、その組み合わせetc…。次からは色々と試してみよう。

で、今度は触角を上げて、下翅を下げてみる。

 

 
放射能により巨大化したクリオネだな。
絶対、人に危害を加えるタイプだ。
一応言っとくけど、クリオネさんはケッコー獰猛な奴です。

 
逆に次は触角を下げてみた。

 

 
これはこれでカッコイイと思う。
必ずしも触角と翅を平行にしなくても良さそうだ。

 
お次は触角をさらにグンと上げて、先っぽを真っ直ぐにしてみた。

 

 
ちよっと👿悪魔的じゃね?
ならばと、最後は思いきし翅を上げてみた。

 

 
q(^-^q)おー、邪悪感満載じゃよ。
蛾マニアからは上げ過ぎだと叱られるだろうが、こっちの方が断然👿悪魔的でカッケーと思うんだけどなあ。
まあ、所詮はオラは蝶が専門で、蛾は初心者なのである。批判されても全然痛くも痒くもないのだ。

 
(追伸)
書いてるうちにどんどん長くなってしまったニャア。
2018年版の『2018′ 春の三大蛾 ~悪魔が来たりてチューと鳴く~』を書こうと思って、この2017年版を書き始めたんだけど、もうお腹いっぱいだすよ。完全に書く気が萎えました。書くとしてもレポート程度になりそう。こういうのを世間では本末転倒という(笑)

 
(註1)画像はMさんから提供して戴いた。ケツを上げて威嚇してきたので、その瞬間に頭が真っ白になって写真を撮り忘れたんである。

 
(註2)咬むって、そんな蛾がこの世にいるのか?
(註3)二流怪奇映画、吸血蛾
相前後するが、まとめて説明します。

結論から言うと、オオシモフリは吸血蛾なんぞではござんせん。
もし、あんなもんが襲って来たら、人類の脅威だもんね。春先に好んで野山に訪れる人はあまりいないと思う。少なくとも夜には誰も出掛けたがらないだろう。

『皆様、今年もオオシモフリの季節がやって来ました。山間部に住まわれる方は、くれぐれも御注意ください。』

などと、必ずやニュースで流される筈だ。んな事は聞いた事が無いから、吸血蛾であるワケがないのであ~る。

検分してみたが、口には強力な顎や牙などは有しておらず、ストロー状のものがあるだけである(もふぅ~の拡大画像を見てくだされば確認できるかと思う)。つまり、蝶の口と同じなのだ。
しっかし、オオシモフリって何食ってんのかねー?
けど、花の蜜や樹液に来るとか聞いた事が無いんだよなあ。単に調べ足りないだけなのかなあ?
しかし、蛾には口が退化したものも多いというし(無駄を省いて交尾さえ出来ればいいと云う生存手段)、口吻の形は残っていてもエサは一切とらない連中もいると小耳に挟んだことがある。オオシモフリもそのクチなのかもしれない。
ならば、原因は何だったのかと云うと、コレ。

 

 
何と脚に鋭利なトゲがあるのだ。ちゃんと見てないが、前脚にはたぶん無くて、中脚と後脚にだけある。中でも後脚には大小3本もあって、中脚にあるものよりも硬くて長い。やっぱバケモノだよ。

調べてみたら、吸血蛾の映画はやはりありました。
タイトルはそのものズバリの『吸血蛾』。

 
(出展『さくらいこうすけ いにしえの川』)

 
1956年公開と云う古い映画だ。主演は池部良。
全然もってまだ産まれていないので、たぶんTVの再放送なんかで見たんだろうけど、記憶は覚束ない。

因みに、DVDも発売されているようだ。

 
(出展『Amazon』)

 
何と原作はあの横溝正史である。横溝さんは若い頃にあらかた読んでいるから、たぶん原作も中学生くらいの時に読んでいるのではないかと思う。
金田一耕助は出てきたっけ?全然記憶にないや。

怪奇推理小説の方の画像もありました。

 
(出展『Amazon』)

 
この表紙、見覚えありますねー。
これは確実に読んでるなあ。でも、やはりストーリーは全く思い出せない。
調べてみっか…。

(゜ロ゜)あらまっ、金田一耕助は出てくるけど、吸血蛾そのものは出てこない。吸血蛾はあくまでも暗喩なのだ。
だったら、吸血蛾そのものが出てくる映画とかドラマって、いったい何だったんだろ?
まっ、いっか…。それほど知りたいワケじゃないしさ。

 
この時点では、まだ現実には吸血蛾なんてこの世にいないと思っていた。
しかし、これが驚いた事に本当にいるんである。
ロシアのシベリア地方に棲む蛾で、2008年に発見されたらしい。この蛾はヨーロッパ中央部から南ヨーロッパに分布する「Calyptra thalictri」という蛾の亜種なんだそうな。両者は見てくれもほとんど同じだという。だが、ヨーロッパにいる奴は果物の汁を餌としており、血は吸わないとの事。シベリアの過酷な環境が、加速度的に進化を促したのかもしれない。
それにしても、蚊じゃなくて蛾だぜー。そう大きくはない蛾だろうが、蚊よりも遥かに大きい筈だ。となると、当然ながらそこそこの量の血を吸われるワケだよね❓
ロシア人って、そんなもんに喰いつかれても気づかんのかね?
何れにせよ、シベリア地方に行かれる予定の方は、お気をつけあそあせ。

 
(註4)大島紬(おおしまつむぎ)
奄美大島で作られる泥染めの高級紬のこと。ただし、高級着物ではあるがカジュアル(訪問着)なものとされ、フォーマルな席には着て行ってはいけない事になっている。