奄美迷走物語 其の15

 

第15話『奄美ドン底迷走物語』後編

 
2021年 3月29日(夜編2)

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽってちーん。死んだ。

一旦、他のルートがあるかもしれないと先に進んでみたが、直ぐに無理だと悟った。道は益々荒れてきて、どう考えてもそんなもんはありそうにない。
仕方なくバリケードのところまで戻る。

改めて並んでいるバリケードをよく見ると、左端に空間が空いている。隙間は結構あって、スクーターなら何とか通り抜けられそうだ。
入るのは気が引けるが、んなこと言ってる場合ではニャい。
こんな時間に誰かが見回りに来るとは思えないし、それにもし誰かが来て叱られたとしても『すんませーん。暗くてよくワカンなかったでしたー。』とでも言い訳をカマせばいい。あー、でもこんなに目立つバリケードを「目に入りませんでした。」では理屈が通らんか。更に大目玉を喰らいかねない。
(ノ`Д´)ノえーい、ままよ。見つかったら見つかった時のことだ。
『(。ŏ﹏ŏ)オデ、オデ、ワガンね。』
などと脳ミソの足りない言語障害のオジサンの振りをするか、もしくは、
『リップヴァーンウィンクルの話って知ってますかあ❓』
と『野獣死すべし』の松田優作みたく瞬きなしの狂気じみた無表情で言ってやろう。不気味過ぎて向こうの方がビビるに違いない。夜の、しかもこんな人気のない場所で気が狂ってる男と対峙するのは相当恐いだろう。何なら懐中電灯を下から照らしながらでセリフを言ってやってもいい。
あっ、それはやり過ぎか…。フザけんな❗と、かえってメチャクチャ怒られかねない。

勾配のキツい坂道を一気に上がると、目の前がパッと開けた。
手前に駐車場があり、その向こうは展望広場になっている。新しく改装されたみたいで立派なテーブルと椅子が並び、全体的にとてもキレイだ。有り難いことに清潔なトイレもある。

時計を見ると、何と驚きの午後8時45分になっていた。どんだけ時間かかっとんねん。予定していた所要時間は1時間半だったのに、3時間半も要しているではないか。
大幅に時間をロスしたが、今さら悔いたところで仕方がない。辿り着けただけでも良しとしよう。

慌てて灯火採集の用意をする。
問題は何処にライトを設置するかだが、もう四の五と言ってらんない。危ないが先っちょギリギリ、防護柵を越えて設置した。落ちたら間違いなく大怪我だが、なんちゃってライトトラップなんだから、これくらいでもしないとアマミキシタバは採れやしないと思ったのだ。

午後9時過ぎ。
やっとライトを点灯することができた。

 

 
点灯と同時に蛾どもがワッと飛んで来た。
今回の旅では一番飛来数が多い。さすが世界遺産に地域指定されるであろう湯湾岳だ。なんちゃってライトでも効力ありだ。それだけ自然度が高くて、生物相が豊かなのだろう。
さあ、リベンジだ。ここから盛大な祭りといこうじゃないか。

名瀬や知名瀬とは飛んで来る蛾の種類が少し違っていて、見たことのない種類も多い。名前は全然ワカランけどー。
点灯時刻が遅かったせいなのかハグルマヤママユは飛んで来なかったが(註1)、何かと飛んで来るのでそれなりに楽しい。純粋な蛾屋ではないから各種の稀度はワカンナイ。だから殆んどの種類は採らずに無視だけどもね。
とにかく数さえ飛んで来れば、それに応じて確率も高まる。ならば、否応なしに期待値も上がろうというもの。そのうちアマミキシタバだって飛んで来るかもしれない。今までの苦労が報われることを切に祈ろう。

しかし、1時間程でピタリと飛来が止まる。光が弱いから遠くのものは引き寄せられず、周辺にいる奴しか惹きつけられないのだろう。なんちゃってライトトラップの悲しいところだ。
一応バナナトラップを柵にいくつか括り付け、背後の森にもぶら下げていたが、コチラもダメ。相変わらずの閑古鳥だ。寄ってきたのは、お馴染みのオオトモエのみ。
またしても惨敗かと、ポトリと落ちた墨汁がジワジワと広がってゆくように心が黒く染まりはじめる。見上げるこの漆黒の夜空のようにならないうちに何とかせねば…。そう思うが、思ったところで特にやれる事はない。やれる事は全部やっているのだ。あとは運まかせだ。あっ、神頼みがあるか…。
神様〜、(༎ຶ ෴ ༎ຶ)なんとかしてくだせぇーよ。
ワシ、メチャメチャ頑張ってるやないすかあ。努力もしてますやん。もうそろそろ報われたっていい頃じゃありませぬか❓

祈りが通じたのか、次第に辺りに白いヴェールのようなものが掛かってきた。霧だ。もしかして絶好のコンディションになるかも…。ガスれば光が拡散するせいなのか、格段に灯りに寄ってくる蛾の数が増えるのだ。ワチャワチャに寄ってきてくれよー。
とはいえ、天候が悪化してゆくのは好ましくない。雨にならないことを祈ろう。雨でも蛾は寄って来るのだが、アマミキシタバがベチョベチョになったら元も子もない。濡れて鱗粉がハゲちょろけになったとしたら、死んでも死にきれない。

 
【アマミキシタバ】

(出展『DearLep圖錄檢索』)

 
それに雨が降ると帰りが大変だ。雨の中、あの滑りやすい林道を降りるのはゾッとするし、なんと言っても帰り道は長いのだ。長時間にわたって雨に濡れ続ければ、体温を奪われるし、精神的にも相当辛くなる事は火を見るよりも瞭(あき)らかだ。

名前は知らんけど、見たことのないごっつカッコイイ蛾が飛んで来た。

 

 
画像は後日撮った写真である。その時は頭の中がアマミキシタバの事でいっぱいで余裕がなく、写真を撮るのをすっかり忘れていたのだ。

この画像じゃワカランので、いつも参考にしている『蛾色灯』というサイトから画像をお借りしよう。

 

(出展『蛾色灯』)

 
止まっている時は、こんな風に三角形の姿をしている。
蝶は羽を立てて止まるが、蛾の多くはこのように開いて止まるのが定番で、コレが蛾と蝶を見分けるコツの1つとされている(例外は結構ある)。だからワシの手乗り横画像は自然な状態ではない。羽の表面の鱗粉を傷めたくないゆえ、無理矢理あの形にして三角紙に入れていたので、ああなったのである。つまり自然状態では羽を立てて静止することはない。但し、羽化時に羽を伸長させる時は立てている可能性が高い。そうしないと羽をキレイに伸ばせないだろうからね。

捕まえた時に驚いたのは、身体がゴツかった事である。

 

(出展『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』)

 
胸部の体高が高くて厚みがある。横幅も広い。
そして、もふもふだ。マジ(◍•ᴗ•◍)❤可愛いっす。

帰ってから調べてみたら、どうやらタッタカモクメシャチホコ(註2)の♂のようだ。
何じゃそりゃ❓というくらいインパクトのある和名じゃないか。最初に「立ったか❓木目鯱鉾❗」と脳内変換が行われたよ。でもって『立てへんのかーい❗』という吉本新喜劇的ツッコミを入れてしまったなりよ。
次に西川のりおがオバQの姿に扮して『🎵ツッタカター、🎵ツッタカター、🎵ツッタカタッタッター』と行進する姿が目に浮かんだ。今思い返しても『俺たちひょうきん族』は凄い番組だった。面白キャラクターの宝庫だったわ。

 

 
絶対、それ由来なワケないけど…(笑)

 

(出展 2点共『エムカクon Twitter』)

 
のりおのセリフじゃないけど、
『あほ〜ぉ〜。』
である。

ネットでアレコレ見ていると、そこそこの珍品のようで「憧れの」とか「恋焦がれた」だの憧憬や称賛の修辞句が並んでいるから、蛾屋の中でも評価が高い種みたいだ。とにかく採った人は皆さん、嬉しそうなのだ。名前も知らんのに、ワシも嬉しかった。スター性があるモノは、何だってひと目で人を惹きつけるのだ。

次のコヤツも印象深かった。

 

(画像は後日展翅時に撮ったもの)

 
ユウマダラエダシャク系の白黒蛾(註3)だ。
実を言うとこの蛾は、最初に着いた時にトイレの外壁に止まっていて気にはなっていた。ユウマダラエダシャク系は本能的にキモいので普段は絶対に採らないのだが、黒っぽくてカッコイイかもしれないと思ったのだ。
しかし一刻も早くライトを設置しなければならなかったからスルーした。設置後はバナナトラップを見回る際にトイレの前を通る折にふれ、採るかどうか迷ってた。でも白黒エダシャクはキモいという概念が邪魔して踏ん切りがつけれないでいた。触るのが嫌だったのだ。で、そのうちいつの間にか姿を消していた。
だから、後々ライトに飛来した時は迷わず採った。

午後11時。
(・∀・)よっしゃー❗、いよいよアマミキシタバが飛んで来るゴールデンタイムに入った。
霧は益々濃くなってきたし、この条件なら採れるかもしれない。いや、採れるっしょ。

しかし、暫くして風も出てきた。
ちょっとヤバいかも…と思った瞬間だった。不意にブワーッと突風が吹いた。
ガッシャーン❗
\(°o°)/エーーーッ❗❗
風で三脚が倒れよった❗
一応、ビニールテープで防護柵と三脚とを繋いでいたので谷底には落ちなくて、(´ω`)セーフ。繋いどいて良かったよ。
でも、立て直した時に気づいた。
Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン❗❗
ライトが1個消えとるやないけー❗

2個あるチビライトの1つが点灯していないではないか。
(ㆁωㆁ)…白目男、茫然と立ちつくす。

戦闘力、大半減だ。でも、やっちまったもんは仕方がない。まあいい。もう1つは生きてて光ってるんだから何とかなるだろう。
だが、明らかに寄って来る蛾の数が目減りしていってる。又もやの想定外のアクシデントに、ドス黒い諦念が広がり始める。
(╯_╰)なしてー。どこまで悪い流れが続くねん。

その後、何も起こらなかった。
午前1時まで粘ったが、ついぞアマミキシタバは飛んで来ずだった。今回も擦りもせずの惨敗である。
期待値が高かっただけにショックは大きい。数々の困難を乗り越えて、こんだけ頑張っても報われないのかよ…。

1時15分。
ズタボロの心と身体を引きずるようにして撤退。

濃い霧で驚くほど前が見えにくいので、山道を慎重且つゆっくり、のろのろ運転で降りてゆく。間違ってカーブで真っ直ぐ行ってもうて、崖から落ちでもしたら洒落になんないもんね。
別に道に迷っていたワケではないのだが、次第に山を彷徨しているような気分になってきた。
あなたが落とした斧は金の斧はですかー❓ それとも鉄の斧ですかあ❓
突然、山の神様が霧の向こうからニュッと現れてもオカシクないような状況なのだ。それくらい現実離れしたような幻想的な風景が続く。
そして、山は息苦しくなるくらいに静寂だ。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで谺している。ハッキリ言って不気味だ。映画やドラマだと絶対何か良くない事が起こりそうなシチュエーションである。
いつしかエンジン音は脳内で変換され、耳の奥ではお約束のように恐ろしげな重低音の音楽が流れている。しかもそれはワシが生涯で最も怖かった映画『シャイニング(註4)』のオープニングで流れていた曲だ。カメラは上空から俯瞰で、山奥の古ホテルへと向かう一家族の車を淡々と追い続けるんだよね。ただそれだけの映像なのに、執拗にリフレインされる不気味な音楽が、これから起こるであろう惨劇を暗示しているようでメチャクチャに怖いのだ。

そんな時だった。
バサバサバサー❗
突然、その静寂を何かが破った。
ヽ((◎д◎))ゝしょえー❗
不意の金切り声と大きな羽ばたき音に激ビビる。
ヤバいもんだったら、発狂しかねないので見ちゃイケないと頭では思うのだが、裏腹に目が勝手にソチラの方を見てしまう。

照らされた方向には鳥がいた。
邪悪な怪鳥だったら、💧涙チョチョギレもんだが、結構デカいものの、ただの鳥じゃないか。驚かせやがってアホンダラー。ホッとして、強張っていた身体の力が一挙に弛む。
とはいえ、顔だけは強張ったままだ。だいたいにおいて夜に鳥が羽ばたいて鳴く時は映画でもドラマでも何かが起こる前兆と相場が決まっている。鵺の鳴く夜は恐ろしいのだ。

見慣れない鳥だが、思い出した。写真で見たことがある。たぶんアマミヤマシギ(註5)っていうシギ(鴫)の1種だ。
そうと分かれば、さらに心は落ち着く。名前なき未知なる異形のモノは恐ろしいが、名前が特定されてしまえば怖るるに足りずである。

その後もアマミヤマシギは現れた。でもって、その度に驚かされた。けど何度も驚かされてると、そのうち慣れてくる。そうなると次第に沸々と怒りが込み上げてきた。
このバカ鳥ども、結構そこいらにいて、誠にもってウザい。敏感にすぐ飛んで逃げてくれればいいのだが、バカだから直前になって目の前で飛びよる。だから瞬間こっちの方がビックリして、その度に肝が冷やされる。コッチは霧で前が見えないゆえ、鳥がいるだなんてワカランのだ。一方、オマエらはバイクのエンジン音が遠くからでも聞こえてる筈だから事前に逃げれんだろうに。鈍クサいこと、極まりない。そんなだからマングースや猫に食われるのだ。おバカ鳥めがっ💢
心がササくれだっているから、マジで轢いたろかと思う。まあ、人として流石にそれはしないけど。

時間はかかったものの、何とか麓まで下りてきた。
でも帰る場所は気が遠くなる程、まだ遥か先だ。
そして眼前には大きな問題が立ちはだかっている。ずっとどっちにするか迷ってた帰るコースを、いよいよ決断せねばならぬ時が来たのだ。
問題は来しなに使った北側のルートと半分未知の南側ルートのどちらで帰るかなのだが、選択を間違えれば地獄が待っている。
そう言いつつも、どちらを選んでも地獄である事には変わりはないんだけどもね。少しだけ、どちらかがマシなだけである。でもその少しの差が今は大きい。それだけ弱っているのだ。少しでも楽な方法で帰りたいという思いが強い。
はてさて、どうしたものか(-_-;)…。
又あの山道を登り降りして帰るのは正直しんどい。どころか道はグネグネでカーブが多いから危険さえ感じる。それを、この心身ともに衰弱しきった状態で走りきる自信はない。
となれば南側ルートだが、コチラは長いトンネルが何本もある。コレがホント長くて辛い。いつまで経っても出口が見えてこないので、心が徐々に蝕まれてゆき、気づいた時には鈍くて重い精神的ダメージをうけているのだ。
それに長いトンネルは睡魔を呼ぶ。ましてや丑三つ時のこの時間帯だ。眠くならないワケがない。けど眠ったら確実に事故る。側溝に突っ込んでバイクもろとも💥大破。運が悪けりゃ、あの世ゆきだ。
あの世で思い出した。こんな夜更けに、そんなトンネルを走るのは全然もって気が進まない理由が他にもある。山のトンネルといえば、イコール心霊スポットだ。あたしゃ、自慢じゃないが、お化け大嫌いの超怖がり男なのだ。
チキンハート野郎は想像する。奄美の妖怪ケンムンを筆頭に魑魅魍魎どもがワンサカ湧いて出てきて、追いかけ回されでもしたら、チビる。いや、チビるどころか小便垂れ流しで泣きじゃくりながら逃げるよ。
ほらね、どっちを選んでも地獄じゃないか。
嗚呼、何もかもがウンザリだ。できれば、その辺に倒れ込んじまって、そのまま深い眠りに落ちてしまいたい。
そうしたくなるような心を必死に抱きかかえて、のろのろと南に向かって走り出す。

南側ルートを選んだのは、アップダウンと急カーブが少ない事と、単に同じルートを走りたくなかったからだ。
あと付け加えると、コチラのルートだと最後には名瀬を通るので、コンビニが幾つかあり、24時間スーパーまであるからだ。酒とツマミを買って帰らないとやってらんない気分だし、酒の力を借りなければ今夜は眠れそうにない。

先ずは住用町役勝を目指す。だが北に行きたいのにルートは一旦、反対方向の南へと針路をとる。コレがスゲー遠回り感がある。ルートはかなり南に下ってから一転、今度は北へ向かうという道筋になっているのだ。理不尽にも、無駄にV字の軌跡を描いて走らねばならない。宇検村から住用町西仲間までを直線距離で結ぶと12kmくらいだが、このルートだと倍以上の30kmくらいを走らねばならんのだ。大きな山塊があるから仕方がないんだけどさ。そもそもアソコにトンネルを通すのは無理があるだろう。技術的には可能だろうが、莫大な費用が掛かるだろうし、通したところで見合うような経済効果は有りそうにない。それに世界遺産になった今なら、そんな計画には許可がおりないだろう。

役勝トンネル辺りで早くも睡魔が襲ってきた。
そして、道は街灯が少なくて暗いから、遠近感までオカシクなってくる。
ワシ、実を言うと夜の運転は苦手がち。鳥目ではないと思うけど、夜はモノを認識する能力が格段に落ちる。で、挙げ句の果てには時々幻覚を見たりもする。トンネルの入口が巨神兵や超巨大なC3POに見えたり、ガードレールにゴブリンが座っていたりするのだ。だからスピードも出せない。

それにしても笑っちゃうくらいに対向車がいない。もちろん人など誰一人として歩いていない。時空が歪んだ別な世界、まるてバラレルワールドにいるような錯覚を覚える。いよいよもってヤバい事になってきた。

住用町の三太郎トンネルの手前辺りで、睡魔が猛烈にやって来て朦朧となる。
意識が半分飛んだまま、トンネルに入る。
この長いトンネル、アホほど長いと知ってるだけに辛い。知らぬまに蛇行運転になってて、堪らずトンネルの真ん中の退避スペースで停まる。

 

 
トンネルの真ん中で停まるのって、あまり気持ちがいいものではない。こうゆう時にもしケンムンや魑魅魍魎どもが襲ってきたりしたら最悪じゃないか。死を覚悟して戦うか、恐怖で脱糞しながら必死で逃げるしかない。何か、さっきも同じような思考回路になっていなかったか❓たぶん、そうだろう。脳ミソが溶け始めている証拠だ。
でも怖いもんは怖い。怖さに耐えきれず、大声を出してみた。自分の声が洞内に反響して奇妙に増幅され、やがて壁に吸い込まれていった。
少しだけだが気分が落ち着き、思い出したように煙草に火を点ける。

煙草を吸いながら、ぼんやりと思う。この上の三太郎峠でもアマミキシタバが採れてる記録があるんだよなあ…。三太郎峠で灯火採集しとけば良かったかなあ…。近くはないが、湯湾岳よりもだいぶ楽な距離だ。
だが、すぐさまその考えを否定する。今さら後悔したってしようがないのだ。それに、こんなに悪い流れ続きだったら、どうせ採れなかっただろうし、また別な大きなトラブルに見舞われてたに違いない。
あー、ダメダメだ。珍しく完全にマイナス思考に囚われているよ。

この時点で、既に時計の針は午前3時を指そうとしていた。ここまで2時間か…。思ってた以上に時間を費やしている。

次の新和賀トンネルは何とか通り抜けたが、朝戸トンネルで再び強い睡魔に見舞われて停車した。
まあいい。今さら急ぐ理由なんて無いのだ。それにこのクソ長いトンネルさえ抜ければ、名瀬の街だ。宿までそう遠くはない。

午前4時。
やっとこさ朝仁まて戻ってきた。安堵と疲労とが同時に全身の隅々にまで広がってゆく。
コンビニの駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いだら、更なる安堵と疲労感、そして敗北感とが加わった何とも形容し難いような感情に包まれた。
或る種のトランス状態だったのかもしれない。全身がヘトヘトだけど、ヘラヘラ半笑いで、ふらつきながらコンビニに入る。
で、酒を買って、ついこんなもんまで買っちまう。

 

 
結局、マイフェバリットの鶏飯屋『みなとや』には行けてないし、無性に鶏飯を食いたくなったのだ。
だが、宿に帰って敗北感にまみれて酒を飲み始めたら、秒殺でそのまま昏倒してしまった。

しょっぱい夜だった。

                    つづく

 
追伸
この日が、奄美大島で最も過酷な1日だった。
昼間は蝶を採りいーの、夜は蛾を採りいーのの二足の草鞋は正直キツイ。体力的にも精神的にもシンドイのだが、中でも夜に酒飲みに行けないのが辛い。店で美味いもん食いながら酒を飲み、地元の人とワーワーやるのが大いなるカタルシスになっていたんだなと今更ながらしみじみ感じる。虫ばっか採ってると旅が味気なくなる事を痛感したよ。

 
(註1)点灯時刻か遅かったせいかハグルマは飛んで来なかった
Sくん曰く、ハグルマヤママユの灯火への飛来は日没後から1時間くらいが勝負らしい。エゾヨツメと同じで、それ以降は殆んど飛んで来ないらしい。もちろん例外も有るんだろうけどさ。

(エゾヨツメ♂)

(ハグルマヤママユ♂)

 
(註2)タッタカモクメシャチホコ
シャチホコガ科(Notodontidae)に属する中大型蛾。
前翅の地色は純白で、黒い内横線はジグザクで太い。

展翅してみてもカッコイイ。こうゆう白黒のスタイリッシュな蛾はノンネマイマイやキバラケンモンなど科を跨いでいくつかいるが、中でもコヤツはデカくてゴツいから他とは存在感がまるで違う。圧倒的な風格があるのだ。しかも他のものは下翅が純粋に白黒ではなくて、上翅とのデザインの連動性をあまり感じない。一方タッタカは下翅も白黒柄で上翅とデザインが一体化していて、全体に違和感がない。それに背中の柄の黒は、よく見ると群青色なのだ。これが高貴な感じがして♥️萌える。尚、展翅画像はピンチアウトで拡大できるので、そのコバルトブルーを是非とも確認されたし。

(ノンネマイマイ)

(2019.8月 長野県松本市新島々)

(キバラケンモン)

(2020.8月 長野県木曽町開田高原)

(ニセキバラケンモン)

(2020.9月 長野県松本市白骨温泉)

キバラケンモンとニセキバラケンモンは好きだけど、ノンネマイマイはキショイ。カッコイイかもと思って採ったけど、展翅してみたら残念な形と下翅でガッカリした。オマケに腹がピンク色で妙に色っぽいのが許せない。言ってしまえば安っぽい遊女みたいなのだ。
しかも大嫌いなマイマイガの仲間だと知ってからは憎悪さえ抱くようになった。マイマイガは大嫌いだから、成虫も幼虫も一切関わりたくない。
(´ε` )そんなこと言うなよーと言う人もいると思うけど、生理的に受け付けないんだから仕様がないんである。断固、キミたちとは袂を分かつ。

ノンネさんの事はどうでもいい。タッタカさんに話を戻そう。

【学名】Paracerura tattakana (Matsumura,1927)
小種名は、台湾の立鷹峰に由来する。おそらく最初に採集されたのが其処だったのだろう。和名もそれに連動しての命名だと思われる。
立鷹峰は台湾中部の南投県仁愛郷にある山で、蝶の採集地として有名な翠峰や梅峰近辺にあるようだ。ということは標高2000m以上ってことだ。おそらく2300m前後くらいはありそうだ。
尚、この地域にはホッポアゲハやアケボノアゲハ、アサクラアゲハ、スギタニイチモンジ、ダイミョウキゴマダラ、タカサゴミヤマクワガタなどがいる。

余談だが、台湾では「尖鋸舟蛾」と呼ばれている。
も1つピンとこないネーミングだが、コレは触角が鋸状なところからきているようだ。で、舟蛾はシャチホコガ全般を指す言葉なのだろう。確かに横から見れば、舟だと言われれば、そう見えなくもない。

本土産のものが、magniguttata (Nakamura,1978)として亜種記載された事があるが、現在はシノニム(同物異名)扱いになっている。

【開張】 ♂65〜72mm内外。 ♀72〜80mm内外
自分の採ったものは68mmだったから、矢張り♂だろう。

一応、♀の画像も貼り付けておこう。


(出展『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

どうやら♀は♂と比して大きく、上翅の幅が広くて翅形が全体的に丸くなるようだ。

【分布】
分布は意外にも広く、ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』によると、本州、四国、九州、対馬、屋久島、沖縄本島、西表島、台湾とあった。おいおい、奄美大島が抜けとるぞー。
このサイトは蛾を種名で検索すると、どの種でも必ずと言っていい程に真っ先に出てくる。だから基本情報を知るのには重宝するし、有り難いのだが、重大な問題点もある。どうやら全くアップデートがなされていないようで、情報が致命的に古いのだ。ゆえに概要を知るのはいいとは思うけれど、それをまるっきり鵜呑みにする事はお勧めできない。一応フォローしておくと、何千種といる蛾の殆んど種の画像と解説があるから、その執筆の労苦たるや大変なものだったろう事は想像に難くない。それには素直に頭が下がるし、立派な業績だと思う。礎の役割は十ニ分に果たされておられると言っていいだろう。でもだからといってアップデートされないままの弊害は見過ごせない。間違った情報が流布し、混乱を引き起こすからだ。改善されることを望みます。

そうゆうワケなので、ここからは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の解説を混ぜて書き進めていく。この図鑑の情報が現在のところ最も信頼できるからだ。
その標準図鑑によると、分布は上記の他に「奄美大島とその属島」とシッカリ書いてあった。ほらね。
主に西日本に多く見られるが、分布は局所的。国外ではミャンマー、タイ、ベトナム、中国南東部、台湾に分布している。
知る限りでは垂直分布について言及されている文献は見当たらない。唯一見つけられたのが、ブログの記事で、『高知の自然 Nature Column In Kochi』というサイトに「高知県では低山地から標高の高い山まで広く分布している。」書いてあった。図鑑等で垂直分布についての記述がないのは、低地から高地まで広い範囲で得られているからなのだろう。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)
京都府:要注目種
岡山県:希少種

【成虫の出現期】 5〜8月
アレっ❓、採ったのは3月下旬だから、かなりズレがある。だから、みんなで作る図鑑は鵜呑みにはできないのだ。
コレに関しても直ぐに標準図鑑で解決した。南西諸島では3月と6月に採れ、本土では6月に出現するとあった。

【成虫の生態】
大概の文献には、夜間に灯火に誘引される事くらいしか書かれていない。それとて、飛来時刻の傾向さえも特には言及されていない。たぶん飛来はアトランダムで、傾向と言えるようなものはないんだろうけどさ。
昼間の静止場所とかも書かれてあるものは知り得ないし、成虫が何を餌にしているのかもワカラナイ。まあ、タッタカに限らず、蝶と違って蛾の生態はまだまだ解明されてない種類だらけなんだけどもね。
んっ❗❓、待てよ。とはいうものの、🎵もしかしてだけどー、🎵もしかしてだけどー、🎵シャチホコ蛾って何も食わんないんじゃないの〜❓

調べてみたら、何と近縁のオオモクメシャチホコの成虫は何も餌を摂らないそうだ。だからタッタカも何も食べない可能性が高い。どうやらシャチホコガ科全般がそうみたい。へぇー、デカいクセに何も食べないんだ…。
更にデカいヤママユの仲間は何も食わないとは知ってたけど、シャチホコくんもそうなんだ…。蝶をやってきた者としては、餌を摂らないなんていう概念は無いから驚きだよ。蝶で餌を摂らない種はいない筈たもんね。だから思ってしまう。
ヤママユもシャチホコも大型蛾だから、そんなんでエナジー保つのかよ❓ある意味、蝶よか進化しているのかもしれない。
ということは、タッタカって寿命は短いのかなあ❓

唯一、成虫の生態の一端を見つけられたのがネットからだ。
ブログ『昆虫ある記』に、タッタカちゃんを手に取ると、時に脚を縮めて腹部を大きく内側に曲げた状態が長く続く事があり、どうやら擬死行動のように見受けられるとの印象が書かれている。


(出展『昆虫ある記』)

自分が採った時には、そのような傾向は一切みうけられなかったが、画像を見ると自分にもそのように見える。
死んだふりする生き物って、わりと好感がもてる。何か健気で可愛いもんね。

【幼虫の食餌植物】ヤナギ科 イイギリ属:イイギリ(飯桐)
葉が大きく、昔は飯をこの葉でくるんだ事から名付けられたようだ。また別名にナンテンギリ(南天桐)があり、コチラは実が南天の実に似ていることに由来する。

標準図鑑によると、イイギリの分布とタッタカの分布は、ほぼ重なるらしい。だから主に西日本に見られるんだね。

(イイギリの分布)

(出展『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」』)

コレを見て、西日本ではこんなにも普通に生えてる木なのかと思った。だったら探せば意外と何処にでもいて、新たな産地がジャンジャンに見つかるんじゃないかと思った。
しかし調べ進めると、わりかし珍しい木のようで、山地でもあまり見られないそうだ。でないとタッタカが珍しいという説明がつかないもんね。但し、最近は公園樹として植栽されることも増えているらしい。
垂直分布はブナ帯下部らしい。もしタッタカの分布もそれに準ずるならば、標高1200m以下に棲息するものと考えられる。

(イイギリ)

(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『葉と枝による樹木図鑑』)


(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

多分、この木の実は見たこと事がない筈だから、やはり珍しい木なのかもしれない。因みに葉の印象は見たことがあるような無いような微妙な感じだ。でも桐の葉か何かと混同しているかもしれない。ようは同定に自信がないのだ。言い訳させて戴くと、植物の葉は遠縁の種であっても似たような形のものがワンサカある。どころか同じ種内であっても葉の形に変異が多いから、ワシらみたいな素人には植物の同定は容易(たやす)くはないのだ。

幼虫は、どんなだろ❓
でも蛾の幼虫は邪悪な姿をしたものが多いんだよねー。どうせ怖気(おぞけ)るから探すのやめとこっかなあ…。とはいえ気になり始めたら捨て置けない。恐る恐るで探してみたら、😱スゲーのが出てきた。


(出展『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』)

\(◎o◎)/何じゃ、こりゃ❗❓
である。見た瞬間は変過ぎてどっちが頭なのかさえ解らなかった。左側が頭なのだが、ワケわからんくらいに形が歪(いびつ)で、ニョキっとした手を含めての姿勢も何だか変だ。そして何よりも変なのは、その尾っぽである。まるで『帰ってきたウルトラマン』の怪獣、ツインテールみたいな奴ではないか。

(ツインテール)

(出展『怪獣ブログ』)

ツインテールって相当に変テコな奴だと思っていたが、タッタカベイビーの前では地味にさえ感じるじゃないか。自然が造りしもののデザインは、人間の想像力なんぞ遥かに超越しているのである。だいたいツインテールのデザインだって、そのオリジナル性は疑わしい。きっと何かの生物をモチーフにしたパクリもんだろう。
余談だが、ツインテールには「三つ編み(おさげ)」という意味もある。小さい女の子から女子高生とかまでに見られる髪型の事ね。そういや最近は三つ編みの女子高生って見掛けないよね。きっと絶滅危惧種だやね。

越冬態は蛹で、木の枝を噛み砕いて繭を作り、その中で蛹化するそうだ。全然関係ないけど、繭の中でひと冬を越すのって、どうゆう気分なのだろう❓
快適に惰眠を貪れて幸せそうだが、実際はそうでもないかもね。外の気象状況が気になって、おちおち眠れやしなかったりして…。寒波が来襲したり、大雨が降ったり等々、状況如何によっては生死に関わるからさ。生きるって大変なのだ。

尚、言い忘れたが、残念なことに標本からは油が大変出やすいそうだ。だとしたら悲しいよね。今のとこ、出てないけど。

 
(註3)白黒のユウマダラエダシャク系の蛾
このタイプの斑紋を持ったエダシャクは沢山いるからややこしいのだが、どうやらクロフシロエダシャクという種のようだ。

どうやらと書いたのは、にしては黒っぽいからだ。でも調べ進めると、この種は黒色斑紋の大小にかなりの変化があり、個体によっては外縁部が広く暗色で、白色の部分が極めて狭い者もいるらしい。で、ネットで色々と画像を見ると、確かに皆こんなに黒くなくて、そこいらにいる白黒エダシャクとさして変わらないように見える。正直なところ、ワシの嫌いなタイプの白黒エダシャクそのものだ。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

これがノーマルタイプだろう。もしも黒さがこの程度だったならば、絶対に無視していた筈だ。

似ていて同定間違いしやすいのが、クロフオオシロエダシャクとタイワンオオシロエダシャク。こっちの方が基本的に黒い。

(クロフオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
(タイワンオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

この2種と比べてクロフシロエダシャクは、前翅の横脈紋がより明瞭で、その外側の黒色の小紋からなる外横帯をそなえる。後翅は外縁部と亜外縁部がより小型で、並び方は不規則。
専門用語だらけでワケわからんが、ようするに違いは後翅には黒斑が少なくて白い部分が多い。あと一番わかり易いのが、背中側から見た腹部の地色が黄色いことである。他2種は、ここの地色が白いから容易に区別できる。ただ、ボロ個体だと色褪せするから同定は困難になるかもしれない。
変わった見分け方もあって、灯火採集などの折に白布に静止している時は多くの個体が触角を後ろ向き(背中側)にしている事だ。大概の蛾は静止時には触角を前側か真横にしている。エダシャク亜科に属する蛾も、その例に漏れない。だからコレは例外中の例外の事らしい。但し全ての個体がそうではなく、たまに横向きにしているものもいるようだ。

一応、♀の画像も貼付しておこう。

(クロフシロエダシャク♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

雌雄の違いは♂の触角は繊毛状なのに対し、♀は微毛状。また♂の前翅基部に刻孔があり、中脚の基部と腹部基部側面に一対の黒い毛束があるそうだ。
本文中の横向き画像だけでは心許ないので、参考までに反対側の横向き画像も貼り付けておく。

見ると、厳密には確認できないものの、♂っぽい。また♂には脚に毛束があるとも言うし、それはあるみたいだから♂かなあ…。
触角は繊毛っぽいけど、微毛にも見えなくもない。そもそもが繊毛と微毛の定義って何じゃらホイ❓どこまでが繊毛で、どこからが微毛なのだ❓両者の境界が今イチわからん。まあ、♂で間違いなかろうかとは思うけど。

後回しになってしまったが、主たる種解説をしておく。

【学名】Dilophodes eleganus (Butler,1878)
日本産が原記載亜種で、中国西部、インド、ボルネオ島から、それぞれ別亜種が記載されている。
参考までに付記しておくと、Dilophodes属の基準となるタイプ種は本種で、他に本属に含まれるものはインド北部から1種が知られているのみである。

【開張】35〜48mm
『日本産蛾類標準図鑑』ではそうなっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には39〜43mmとなっている。
因みに今回採集したものを測ると49mmもあった。とゆう事は、もしかして♀❓まあ、どっちだっていいけど。

【分布】
本州、御蔵島(伊豆諸島)、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島、石垣島、西表島で、関東地方より西に多産するそうだ。
(´ε` )チッ、何だ普通種かよ。ガッカリだな。きっと黒いタイプじゃないノーマル型は、知らぬうちに何処かで見ているのだろう。たぶん興味がないから頭の中では厳密には区別されておらず、皆同じに見えているものと思われる。
参考までに書いておくと、以前は北海道も分布地に挙げられていた。しかし確実に分布する地域が見つかっておらず、よって除外されたという経緯があるそうだ。
国外では、台湾、中国、インド、ボルネオ島に分布する。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)

【成虫の出現期】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、4E-7E,9Mとなっていた。つまり4月下旬から7月下旬と9月中旬に見られるということだ。しかし『日本産蛾類標準図鑑』には3〜5月と7〜8月となっていた。但し、発生は地域によって多少異なるとも書かれてある。おそらく標準図鑑の方が概ね正しく、一部が9月にも見られるのだろう。ザツいけど(笑)。
尚、2化目の個体は1化目と比べて明らかに小型らしい。見つけたのが1化目で良かったよ。これよか小さかったら、たとえ黒くとも無視だったろう。

 
(註4)『シャイニング』


(出展『映画.com』)

1980年に劇場公開されたホラー映画の金字塔。ホラー映画のみならず、ジャンルを超えて、その後の多くの作品に多大な影響を与えたと言われている。
監督は、巨匠スタンリー・キューブリック。天才キューブリックがホラー映画を撮ると、こうなるんだと感銘を受けたのをよく憶えている。キューブリックは難解だとよく言われるが、この作品は比較的わかり易い方なので猿でも楽しめるだろう。
主役を演じるのは、名優であり、怪優でもあるジャック・ニコルソン。あの鬼気迫る表情が、まさかのノーメイクで演じられていたという伝説が残っている。

この映画、何が怖いかって、先ずは子供の乗る三輪車がホテルの廊下を走るシーンだろう。それを背後から追いかけるローアングルの映像が心臓バクバクものなのだ。
幻のBarのシーンも怖い。ジャックとバーテンダーの交わされる会話は一見普通なのだが、ズレがあって、それが見てる側の動揺を誘う。そして、そこには何とも言えない静謐な緊張感が漂っており、表面的な驚かし系の怖さとはまた違ったうすら寒いような怖さがあるのだ。
勿論、徐々に気が狂ってゆくジャック・ニコルソンも怖い。あまりにも怖すぎて、それが突き抜けてしまい、笑っちゃうくらいだ。奥さんの絶叫する顔も恐ろしい。けど一番怖いのは、何といっても双子の女の子だ。アレにはマジで心臓が止まりそうになった。

言い忘れたが、原作はこれまた巨匠であるスティーブン・キングだ。但し小説と映画とでは内容が異なり、キューブリックによって大幅にストーリーが改変されている。キングはコレに激怒し、事あるごとに、この映画とキューブリックを執拗に攻撃し続けている。まあ、全然別な話にすり替えられたようなもんだから、キングが怒るのも理解できる。キングが小説で伝えたかった事が完全に無視されてるからね。
尚、小説の方も読んだけど面白かった。内容は映画と比べて、もっとスピリチュアルな話で、超能力を題材にしたものだったという記憶がある。そうゆう意味では小説の方が奥深い内容ではある。だいぶ昔に読んだので、間違ってたらゴメンナサイだけど。

 
(註5)アマミヤマシギ

(出展『おきなわカエル商会BLOG』)

全長約40cm程のシギ科の鳥で、全身は茶色、頭部に黒い横斑をもつ太ったシギである。日本の固有種で、奄美群島と沖縄諸島にのみ分布する。だが繁殖が確認されているのは奄美群島だけで、同島で繁殖したものの一部が沖縄に渡るのではないかと推測されている。
成熟した常緑広葉樹林に生息し、冬の終わりから春にかけて地上で営巣する。活動は主に夜間で、ミミズなどを捕食する。個体数に関するデータは乏しいが、1990年代になって激減している事が推察され、特に名瀬や龍郷町ではほとんど見られなくなったという。減少要因として、森林の伐採、ネコやマングースなどの外来種による捕食が指摘されている。種の保存法により、1993年に国内希少野生動植物種に指定されており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種II類(VU)に指定されている。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑1』
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『蛾色灯』
◆『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』
◆『昆虫ある記』
◆『高知の自然 Nature Column In Kochi』
◆『DearLep圖錄檢索』
◆ Wikipedia
◆『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」
◆『葉と枝による樹木図鑑』
◆『plantidentifier.ec.ne.jp』
◆『エムカクon Twitter』
◆『怪獣ブログ』
◆『映画.com』
◆『おきなわカエル商会BLOG』

 

初めて作るソースカツ丼

 
ブログのプロバイダーであるワードプレスの管理画面に不具合が生じてホワイトアウトになった。どうやら外観を作成するテーマが破壊されてるようだ。で、仕方なくテーマを別なのに変えたら、作動はしたがレイアウトが変わってしまった。1行の文字数も変わってしまったので、見た目がメチャメチャになっとる。エラいこっちゃである。で、前回の文章を再構成してみた。それでマシにはなった。でも既存の文章を全て書き直すだなんて出来っこない。もう読みにくかろうが知ったこっちゃないもんねー。
とゆうワケで、今のレイアウト外観で書く練習の為に久し振りに食いもんの事を書きます。食いもんの話なら短くて済むからだ。
ではでは、書いてみよう。

 
初めてソースカツ丼を作ってみた。
といっても初めからソースカツ丼を作ろうと思ったワケではない、キッカケは100g 118円のメキシコ産豚フィレ肉を塊で買った事に始まる。つい安かったので買ってしまったのだ。
買ったはいいが、フィレ肉料理ってあんまレパートリーがないんだよね。フィレカツくらいしか浮かばないので、もういいやって感じで全部まとめて揚げてやった。
で、当然の如く食べきれずに余った。

 

 
翌日、コレをカツ丼にでもしようと思ったのだが、見ると冷蔵庫に玉ねぎが無かった。わざわざ買いに行くのが邪魔くさかったし、丼汁を作るのも面倒くさかったので急遽ソースカツ丼にする事にした。
でも考えてみればソースカツ丼なんて作った事がないし、食べた事だって記憶ではせいぜい二度くらいしかない。しかも随分と昔の事で、15年とか20年も前じゃないかな。
しかも、そもそもワシってソースカツ丼の存在そのものに懐疑的なのである。二度ほど食った事があると書いたが、何れの時も記憶にあるのは、
『(-_-;)何じゃこりゃ❓、こんなもん、カツにソースを付けて白飯を食ってるのと一緒やんけ❗』
という大いなる疑問である。
それってソースをつけたカツを単に白飯に乗っけただけじゃないか。そんなもん、丼と呼べるのかよ❓よくぞそんなのを料理として売り出したなと思う。料理人として恥ずかしくないのかと思うし、食べる方も食べる方だ。んなもん、家で食えばいいじゃないか。別にオカンとか嫁に作って貰えずとも、惣菜のカツを買ってきて誰でも作れる。多分、猿でも作れる。そげなもんを店でわざわざ金出して喜んで食う人間がおるから存在し続けているのだろうが、その理由が解せない。ソースにシャブでも入っとるんちゃうかー❓とか言いたくもなる。
いや、待てよ。シャブは冗談だが、ソースに秘密があるのかもしれない。ソースが普通のウスターソースではなくて、特別なレシピで作られたものなのかもしれない。ゆえに中毒性があるのかも。

ソースカツ丼といえば、福井と山梨である。この2つの地方ではカツ丼といえばソースカツ丼の事で、店で単に「カツ丼一丁❗」と頼めば、ソースカツ丼が出てくるらしい。それくらいソースカツ丼愛が強い土地柄なのだ。ちなみに普通のカツ丼の事は「玉子カツ丼」などと呼ばれているそうだ。

ソースカツ丼で最も有名なのが、福井の『ヨーロッパ軒』であろう。その元祖だとも言われている。
よし、そのソースのレシピを調べてやろう。

そのもののレシピは見つからなかったが、クックパッドにヨーロッパ軒風のレシピがあった。

ウスターソース お玉2
中濃ソース お玉1
ケチャップ お玉3分の1
オイスターソース 小さじ1
みりん お玉1
醤油 大さじ1
砂糖 お玉2分の1
顆粒出汁 適宜
赤ワイン お玉1

メチャクチャ色んなもんが入ってる複雑なレシピである。
なるほど、これなら特別なカツ丼になり得るし、中毒性があってもオカシクはない。
中でも驚いたのは醤油が入っている事だった。醤油とソースを混ぜるだなんて考えられへん。邪道である。だが、かける調味料の2大巨頭であるソースと醤油がタッグを組むんだから、スゲー相乗効果があったりして…。だとしたら、目から鱗だ。

しかし、作ろうにも赤ワインは無いし、こないだケチャップと中濃ソースは使いきったばかりだ。となると、買いに行かねばならぬ。元々は普通のカツ丼を作るのに玉ねぎがなくてソースカツ丼を作ることにしたのに、それでは本末転倒である。他のレシピを探そう。

醤油 大さじ1
ウスターソース 大さじ1
味醂 大さじ1
砂糖 大さじ1
酒 大さじ11/2

これなら作れそうである。
但し、砂糖が気になる。味醂が入ってるのに更に砂糖というのは甘過ぎだろう。甘みが強過ぎる味付けはお子ちゃま的で嫌いなのだ。なので砂糖を除外して作ることにした。

①ソースの材料を鍋に入れ、ひと煮立ちさせて冷ます。
②お米を炊く。
③炊き上がるのを見計らってカツをトースターで温める。
④丼にご飯をよそう。そして、③のカツを①のソースにじゃぶんと浸けて、御飯の上にオリャと乗っける。してからに九条葱を添えて出来上がり。
おっと、辛子を添えるのを忘れてはならない。まあ、コレはお好みだけどもね。

ソースカツ丼といえば、キャベツの千切りを下に敷くのが定番だが、今回はパスした。中途半端に温まったキャベツの千切りと御飯の組み合わせが、あんま好きじゃないのである。

さあ、食べよう。

 

 
イケる。思った以上に旨い。ソースカツ丼を偏愛する人たちの気持ちも解らないでもない。コレはコレで有りでしょう。
けど、メニューに定番の玉子カツ丼とソースカツ丼が並んでいたら、間違いなく定番のカツ丼を選ぶけどもね。

                   おしまい

 
追伸
今回はカツをザブンとソースに浸けただけの画像だが、余ったソースをドバドバかけた方がいいかも。味がやや薄いので、あとで余ったソースをかけたからね。ビジュアル的にもその方が良いと思う。ようは、味がワカランかったから最初から大胆にはソースをダボダボには掛けれなかったのだ。

尚、本ブログに姉妹作?の『男は黙ってカツ丼』という文章があります。よろしければソチラも併せて読んで下されば幸いです。

 
 

奄美迷走物語 其の14

 

第14話『奄美迷走ドン底物語』前編

 
2021年 3月29日(夜編)

『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』
『\(◎o◎)/マジー❗』

この期に及んで約束反故かよ。(´ω`)そりゃないよ。
口には出さなかったが、そう思った。若い頃のオラなら『おどれ、キンタマついとんかい❗❗』とか凄んでたかもね(笑)。
きっと今時の若者の間では、今や「男の約束」とかって言葉は死語なんだろね。昔は男同士の約束はそう簡単には破れなかったものだ。男の約束は絶対だとガキの頃から教えられてきたからね。破ったら男としての価値がダダ下がりになった。彼女との約束よりも男同士の約束の方が重要視されていたりしてたのだ。そもそもが幼少の頃からオカンとかに『アンタ、男でしょう❗泣きなさんなー❗❗』と言われ続けてきたのだ。他の家庭でも大体そんな感じだった。男は人前で泣いてはならない時代でもあったのだ。とはいえ、ワシらの世代が成人した前後くらいから泣く男が急増したんだけどもね。いかんいかん、いつもながらの事だが完全に脱線マンじゃよ。m(_ _)mすまぬー。
まあ、昔とは時代が違うからね。今の若者には理解不能のルールだから仕方ないよね。怒ることじゃない。とにかく、彼は断る理由を言わなかったし、コチラも訊かなかった。大方、行くのが面倒くさくなったのだろう。それは理解できる。湯湾岳までは遠いのだ。だから『マジー❗❓』とは言ったが、それ以上は何も言えなかったのだ。
まあ言ったところでどうにかなるとも思わなかったし、ごちゃごちゃ文句を垂れれば垂れるほどカッコ悪いだけだ。また、どれだけ巧妙に説得したところで、Sくんみたいなタイプは意志が固そうだから説得するだけ時間の無駄だとも感じた。
そもそも東京の人は情が薄いもんね。十年住んだから身に沁みて知っているのだ。いや、そうゆう言い方はヨロシクないな。単に大阪が他よか情を重視する土地柄だから、そう思ってしまうのだろう。それにドライにハッキリと物事を言うのは悪い事ではないからね。あっ、付け加えておくと、もちろん東京時代にも情に厚い人は結構いました。薄いと行ったのは、あくまでも相対的にって事ね。

(-_-;)むぅ…。やっと良い流れになったかと思ったら、フタオチョウの♀を逃して再び悪い流れに逆戻り。その後、アカボシは振り逃すし、「蝶屋(てふや)」のブログの内容(註1)が眉唾濃厚だと判明するという最悪の流れになってきてる。でも今さら湯湾岳に行かないワケにはいかない。どうしてもアマミキシタバ(註2)を採らねばならぬのだ。その可能性が一番高そうなのが湯湾岳なのである。たとえSくんの車と強力なライトがなくても行くっきゃない。条件は厳しくなるが、原チャリで行って、なんちゃってライトで勝負するしかあるまい。
正直、苦難が待ってるのが解っているのに立ち向かうってのはキツいよなあ…。

呪わしくも、腹ごしらえに出発前に急いで食ったカップ麺まで今イチだった。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛 塩担々麺』。スーパーマーケットのタイヨーで特売の98円で売っていたものだ。

 

(出展『グルコミ』)

 
今まで書いてこなかったが、食いもんやお茶はこのスーパーかコンビニ(ファミマ)で買う頻度が圧倒的に多かった。どちらも幹線道路沿いにあり、知名瀬方面に行く時はタイヨーへ、名瀬方面に行く時はファミマを利用していた。

まだ残っていたニラを使い切るためにブチ込んでやった。

 

 
けど、たいして旨くない。何か今を象徴しているようで泣きたくなってくる。この先、ロクな事がなさそうなことを暗示しているようではないか。前途多難だ。

奄美大島最高峰の湯湾岳のある宇検村に行くには大きく2つのルートがある。

 

(出展『ねりやかなや』)


(画像はピンチアウトすると拡大できます。)

 
朝仁からそのまま北側の道路を走るルートと朝仁から一旦名瀬に戻ってから南側を走るルートだ。どちらも距離的には同じようなものだから(註3)、どちらを選択するかは悩むところだ。北側ルートは海岸線の道で曲がりくねっており、アップダウンも多いから疲れる。一方、内陸を通る南側のルートはアップダウンが少なくて直線が多いがトンネルだらけだ。しかも長いトンネルが多いから、これまた疲れる。精神的にキツいのだ。尚、北側のルートは戸内までしか行った事しかなく、南側のルートは西仲間までしか行ったことがない。つまり、どちらもルート半ばくらい迄であり、その先は未知の世界なのだ。時間的な余裕はないだけに、ここは思案のしどころである。できれば日没前までに到着しておきたいのだ。
朝に宿のオジーとオネェーに、どっちが時間的に早いかと訊いたら、どちらも同じくらいで1時間から1時間半くらいだと言ってた。しかし二人ともあえて言うと北ルートかなと言う答えだった。地元の人がそう言うんだから、ここは素直に北側ルートを選択すべしという結論に至った。悪い流れになってるが、気持ちを切り替えて気合いを入れていこう。

午後5時15分。
大きく息を吐き、スロットルをグッと回した。

戸円までは順調だった。海沿いを走るのは気持ちがいいし、気分はアゲアゲ⤴️の御機嫌だった。この調子でいこう。良い流れになってきたんじゃないのー❓
そして名音を過ぎたところで標識が目に入った。そこには「←奄美フォレストポリス・湯湾岳」とあった。どうやら左の林道を走れば、ショートカットになりそうだ。日没前までに湯湾岳展望台に着けるかどうかはギリギリだろうと思っていたので、渡りに船だ。ラッキ〜(◍•ᴗ•◍)❤、迷わず林道に突っ込んでゆく。

20分程走ったところで、段々不安になってきた。道は次第に荒れ始め、ドンドンうら寂しくなるし、道標が出てこないのである。そんな折、前から軽トラックが走ってきた。慌てて止めて道を尋ねる。
『この道って湯湾岳に行きますか❓』
『行くよ。でも湯湾岳には行けないよー』
一瞬、オジーの野郎、この期に及んでナゾナゾをフッ掛けてきたのか❓と思った。
(?_?)はあ❓キョトン顔になる。
『✦§∇♪€#○÷<崖崩れ■〆☆¶♬∞』島言葉なので何言ってるのかよくワカンなかったが、辛うじて崖崩れという言葉を拾えた。
『崖崩れで行けないって事ですか❓』
オジーはそれに対して再び島言葉でまくし立てた。意味不明だが、ニュアンスで通れないとゆうことは理解できた。
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻ガッデーム❗
完全にやっちまったな。今から引き返すとなれば、時間的ロスは40〜50分くらいになる。どう考えても日没までには着けそうにない。

幹線道路に戻るが、既に日没が近づいていた。
午後6:25。そして志戸勘で壮絶な夕暮れになった。

 

 
怖いほどに美しい。
そして、前途を不安にさせる空だ。

程なく山道になった。きっと海岸線の地形が険しくて道路が作れず、山越えになったのだろう。しかも本格的な山越えのようだ。グングンと高度が上がってゆく。
登りきる手前で対面交通の信号で止まった。奄美って崖崩れが多いんだよなあ…、そう思った時に急に違和感を覚えた。
(゜o゜;レレレ❗❓、なーい❗
背中に袈裟がけで背負っていた筈の長竿がないのである。
おそらく夕陽の写真を撮る時に邪魔なので下にでも置いたのだろう。そして慌てていたので、そのまま地面に置きっぱなしにして出てしまったのだ。
仰天して山を下りる。更なるロスに心が折れそうになるが、そんな事よりも誰かに持って帰られる事の方が遥かに心配だった。もしも失くしたら、ただでさえ弱い戦闘能力が大幅に削がれる。となれば、惨敗色がいよいよもって濃厚になる。

(☆▽☆)あった❗❗
夕闇の中、慌てて駆け寄り、拾いあげる。
辛うじて首の皮一枚で繋がった。とはいえ、又しても大きな時間ロスである。行き場のない感情に深い溜息をつく。余程このまま帰ってやろうかとも思った。でも敵前逃亡、戦(いくさ)もせずにおめおめと帰るのは末代までの恥だ。たとえ負け戦であろうとも戦って散った方が、まだしも魂は救われる。

再び、山を登り返す。
しかし登りきっても下りにはならず、尚も山パートは続く。
そして、気がついたときには辺りは完全に闇の世界に支配されていた。心細いくらいに真っ暗だ。対向車も全くない。
いつ終わるか、いつ終わるかと思いながらスロットを開け続けるが、山道は延々と続いた。不安と焦燥で心がズタズタになってゆく。

やっと海岸に出たのは30分以上あとであった。こんなに遠いとは思いもよらなかった。ところでこの道って本当に宇検村に向かっているのか❓もしかしてタヌキ…否、奄美の妖怪ケンムン(註4)に化かされていて、永久に着けないんじゃないかとさえ思えてきた。
集中力が切れかけていたし、自分が今何処を走ってるのかさえも分からなくなっていたので、トンネルを抜けたところでバイクを停めた。
表示を見ると、生勝トンネルとなっていた。
地図で場所を確認する。宇検村までは近い。遠目に、らしき町の灯りも見える。
しかし、そこからが思った以上に遠かった。道は海岸線に沿ってウネウネと続くので、宇検村の町の灯りが全然近づいてこないのだ。しかも街灯が殆どなくて真っ暗けなので、心細さで気力が砂のように削り取られてゆく。

30分程かかって、やっとこさ宇検村に入った。さあ、あとは湯湾岳の展望台まで登るだけだ。
だが、今度は展望台に繋がる道が見つからない。そして道を尋ねたくとも人っ子一人いない。またまたの想定外の連続に💧涙チョチョギレそうになる。
入る道が見つからないまま、村を通り抜ける寸前で犬の散歩をしている御夫婦を見つけた。藁をも掴む気持ちで道を訊く。
そこで驚愕の事実が伝えられる。
『展望台へ行く道は崖崩れで通れないよ。』
ヽ((◎д◎))ゝマジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗
冗談を言ってる場合ではない。やっとの事でここまでやって来たのに、その苦労が全て水の泡になってしまうではないか。もう死にたいよ。
呆然としていると、お姉さんが少し考えてから言った。
『でも別なルートでも上がれた筈』
お姉さん曰く、遠回りだけど、この先に上がれる道が他にあるらしい。但し、そっちの道も土砂崩れで行けるかどうかの保証はないとの事。

道の入り方を詳しく訊き、礼を言って走り出す。
これこそ首の皮一枚である。運はまだある。どうなるかは分からないが、その道に賭けよう。

街灯が殆どなくて暗いので見つけられるかどうか不安だったが、わりと簡単に見つかった。この道が本当にそのルートなのかはワカンナイけど…、行くっきゃない。

最初のうちは走りやすい広めの道だったが、そのうち森深い林道になって、深山幽谷の趣きを呈してきた。道は落葉だらけで走りにくい。
途中、黒いものが道を横切って振り向いた。
特別天然記念物のアマミノクロウサギちゃん(註5)だ。奄美大島来訪4度目にして初めてお目にかかった。
しかし感動は薄い。それどころではないのだ。一刻も早く展望台に着いて灯火採集をしなければならんのだ。
されど、この道も長かった。走っても走っても辿り着かないのである。40分近く走って漸くらしき場所に差し掛かった。

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽてちーん。死んだ。

                              つづく

 
追伸
一回で終わる予定が、書いてるうちに当時の事が甦ってきて長くなった。なので2回に分けます。

 
(註1)「蝶屋(てふや)」のブログの内容
フタオチョウは、夏型はフルーツトラップに誘引されるが、春型は寄って来ないとされている。しかしブログには春型も寄って来るような事が書いてあった。稀に寄って来る事もあるのかもしれないが、基本的にはアカボシゴマダラも含めて来ないと思っていた方がいい。

 
(註2)アマミキシタバ

(出展『世界のカトカラ』)

学名 Catocala macula
ヤガ科カトカラ属の蛾で、現在のところ奄美大島、徳之島、沖縄本島、屋久島、鹿児島本土から記録がある

 
(註3)どちらも距離的には同じようなものだから
調べてみたら、南側ルートは48.4km。北側ルートが58.9kmであった。何と10kmも差があるじゃないか。おいおいである。南の島の人が言うことは、てーげー(テキトー)だという事を忘れてたよ。

 
(註4)ケンムン
奄美大島のカッパに似た伝説の妖怪。詳細は第4話『亜熱帯の夜は恐ろしい』に書いた。

 
(註5)アマミノクロウサギちゃん

(出展『あまみっけ』)

学名 Pentalagus furnessi
ウサギの1種で、奄美大島と徳之島だけに分布する。普通のウサギと比べて耳や鼻骨が短く、足も短い。この短い後肢は急峻な山を登り降りするのに適している。原始的なウサギと考えられており、メキシコウサギやアカウサギと共にムカシウサギ亜科に属し、「生きた化石」的な存在である。1921年(大正10年)に動物では初めて国の天然記念物に指定された。また1963年(昭和38)には特別天然記念物にも指定されている。夜行性で岩の下や地中に穴を掘って棲む。10~11月と4~5月の年2回の繁殖期があり、通常は1頭、稀に2頭の子供を産む。生息数は2000〜4800頭と推定されるが、森林破壊などで絶滅が心配されている。但し、最近は増加傾向にあるという。

 

奄美迷走物語 其の13

 
  第13話『君を待つ昼下り』

 
2021年 3月29日

天気はすっかり回復して、朝から青空が広がっている。
今日はSくんと一緒に宿を出発する。昨日、彼が根瀬部のポイントを教えて欲しいと言ってきたので、直接御案内申し上げる事にしたのだ。昨日は灯火採集に連れてってくれて、オマケにハグルマヤママユまで採らしてくれたし、今晩は湯湾岳の灯火採集にまで連れてってくれるのだ。そんなのお易い御用だ。
フタオチョウとアカボシゴマダラ、イワカワシジミ、ナガサキアゲハ(註1)のポイントを回って、細かい情報まで丁寧に伝えてゆく。
えっ、ナガサキアゲハ❓と思ったが、よくよく考えてみれば思い当たるフシがないでもない。ナガサキアゲハといえば無尾が基本だが、奄美大島では稀に有尾型の♀が採れるのだ。

 
【ナガサキアゲハ♀ 有尾型】

(2017.7 台湾南投県仁愛鄕)

 
彼は積極的に飼育もするようだから、♀を捕えて採卵させるつもりなのだろう。ちなみに根瀬部はナガサキアゲハが多くて、過去に自分も此処で有尾型の♀を採ったことがある。
たぶん日本で継続的に有尾型が毎年採られているのは奄美大島くらいではないかと思う。沖縄諸島や九州本土でも採れてはいるが、記録が最も多いのは奄美みたいだからね。

ひと通り案内したところで、Sくんは『じゃあ、行きます。』と言ってワシを残してサッサと移動していった。えっ、もう行くの❓と思ったくらいにアッサリだった。きっと人とツルむのがイヤなタイプなんだろね。心の底の何処かでは、彼は8mだか9mだかの長竿を持っているので、先ずはそれで木に居座っているフタオを採って戴いて、次に占有する奴を長竿を借りて採ろうだなんて薄っすら思ってた。だってワシの6.3mの竿では絶望的に届かないんだもーん。

 

(右端の梢、高さ約8〜9mにフタオが静止している)

 
でもそんな事、言えなかった。そうゆう雰囲気ではなかったし、セコい作戦だから恥ずかしくて口には出せなかったのだ。
まあ、此処はフタオの個体数が少ないし、こんな狭いポイントに2人いても仕方がないからね。彼的には、その辺を慮って移動してくれたのだろう。けどなあ…、そんな事は望んでなかった。正直なところ、彼にはこのポイントにそのまま入って貰っても構わないとさえ思っていたのだ。だって物理的に網が届かないんだから、此処に一人で居てもしようがないんである。なので知名瀬か小宿でポイントを探そうとも考えていたのだ。

ドラマでも現実でもそうなんだけど、いつも立ち去る側が美しい。ただ立ち去るだけなのに、どことなく優位性みたいなものさえ感じる。一方、取り残されて見送る方は何であんなにも美しくないんだろう。惨めでさえある。むしろ残る方が勇気がいるし、大変だったりするのにね。それって納得いかないよなあ…。そう思いつつ、取り残された男はとりあえず煙草に火を点ける。
はて扠て、どうしたものか❓…。
一昨日、あかざき公園では見ることさえできずに惨敗したからパスだし、蒲生崎は今からでは遠過ぎる。知名瀬も改めて考えてみると問題ありだ。有名なポイントだから、もう既に人が入っていて良いポイントは占領されている可能性が高いし、それにアソコはブヨだらけなのだ。折角やっとこさあの強い痒みと腫れが消えたばかりなのに、またむざむざボコられに行くのは気が進まない。あと、小宿は環境があまり良くないのでポイント探しに手間取りそうだし、探索自体が空振りに終わってしまう可能性だってあるから惨敗率は高そうだ。
(-_- )ノ⌒┫ ┻ ┣ ┳、考えるのヤーメタ。
移動すんのもメンドクセーし、思えばこの地でフタオに屈辱を与えられ続けているのだ。ならばリベンジだ。此処でやられた分は此処でやり返す❗

午前11時半前。
フタオが飛び始めた。でもやはり活動は鈍い。飛んでも梢から離れず、直ぐに高い所に止まって憩(やす)みやがる。でも前に来た時よりかは飛ぶ頻度は少しはマシだ。たまに遠出もする。
飛行コースを見ていると、1箇所だけ高度がやや下がるところがある。通常は8mくらいの高さを飛んでいるのだが、或るゾーンだけが木が比較的低くて、5mくらいの高さを飛ぶのだ。5mなら自分の網でも届く。しかし、そこを通るのは一瞬だ。でも他に妙案が浮かばないんだから、その一瞬のチャンスに賭けるしかない。厳しい局面だが、やるっきゃない。

もう一度、飛ぶコースをじっくりと観察する。
一発で仕留めねば、ゲームセットだ。失敗したら二度とチャンスは巡ってはこないだろう。ぞんざいに網を振るワケにはいかない。
時計を見ると、正午を少し過ぎていた。キミ待つ昼下りだ。
さあ、昼下りの情事といこうじゃないか。手ゴメにしてやる。ケダモノのようにその操をズダズタに凌辱してやるわい❗
Σ(゚∀゚ノ)ノキャー、やめておくんなましー。そんな御無体な。旦那様、後生でございますぅー。
ψ(`∇´)ψギャハハハハハー、泣くがよい、喚けばよい。どれだけ騒ごうが誰も助けに来ぬわー。(ㆁωㆁ)デヘ、デヘヘへへへー。
(/_;)/あれぇ〜〜〜

何言ってんだ俺❓翻弄され続けて頭がオカシクなってるに違いない。これじゃ、あまりにも恋焦がれ過ぎてストーカー男と化した狂人サイコ野郎と同じじゃないか。
けど、もはや髪振り乱した狂人になった方がまだしもマシかもしれない。それくらい精神的ダークサイドに身をやつさねば採れない状況下にあるのだ。それに、もし今日採れなければ、Sくんにヘタレと思われるだろう。だから何としてでも採らねばならぬ。
この際、もう何だっていい。頼めるものならば、ゼウスでもマリア様でも悪魔だって構わない。魂を売ってでも採りたい。それが本音だ。

フタオが根城にしている木から約30m離れた位置に陣取り、木を凝視する。此処ならコッチに飛んで来るまでに心の準備ができる。

暫し、ひりついた時間が流れる。
(ノ゚0゚)ノ飛んだ❗
こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い。こっち来い。こっちに来ーい。
コチラに飛んで来るのを強く願う。フタオはモノぐさで、オオムラサキやスミナガシみたいに敏感に反応して他の蝶を追いかけ回す頻度が少ないのだ。チャンスはそう多くはないだろう。
案の定、梢で小さく旋回している。腹立たしい野郎だ。無茶苦茶ムカついてきた。何でこんな目に合い続けなければならんのだ。嗜虐趣味などないから全然楽しくない。根がドS男には虫捕りは向かんわい。

彼が突然、プイという感じで気まぐれに旋回をやめて梢を離れた。そして、コチラに向かって飛んで来ようとしている。
(-_-メ)ドツキ回したる❗
怒りという名の負のエネルギーで全身が充たされる。

頭上を通るのは一瞬だ。その瞬間に全身全霊を注ごう。
来たっ❗❗
どりゃあ〜( ̄皿 ̄)ノ、ナメんなよワレ❗

渾身のフルスイングで網を蝶の背後から💥一閃する。

ジャストミート。スローモーションでハッキリと網に吸い込まれてゆくのが見えた。
すかさず逃げないように網先を捻り、右に流れた体を左に捻り返して大胆に手を離す。その動きは、さしづめバットスイングのフォロースルーだ。その流れのままに向こう側へと倒れてゆく網を追い掛けて走りだす。網が地面に向かってゆっくりと落ちてゆく。コチラも映像はスローモーションだ。気分はライトスタンドに吸い込まれてゆく白球を走りながら見送る左強打者だ。

地面に落ちた網にマッハで駆け寄り、中を確認する。
(☆▽☆)いるっ❗
完品のキレイな個体だ。でも、もしここで取り込みに失敗して逃しでもしたら最悪だ。万死に値する。暴れて羽をボロボロにさせてしまっても同罪だ。
幸い彼は何が起こったのかワカラナイといった体で、暴れる事なく網の底でジッとしている。奴が正気になる前に迅速に〆ねばならぬ。一切の躊躇を廃して胸をブチッと上から押した。

\(`Д´)ノしゃあー❗❗
天に向かって両腕を突き上げ、雄叫びを上げる。
勝ったぜ、この野郎❗ そう思った次の瞬間、急に力が抜けてヘナヘナとその場に膝を折ってヘタり込んだ。
ジーザス、マリア様、有り難う。あと、悪魔も。

網から取り出して、じっくりと見る。
紛う事なきフタオチョウだ。(☆▽☆)カッケー❗
まだ命の熾火のようなものが残っていて、その脈動が指先にジンジン伝わってくる。殺(あや)めるのは申し訳ないが、コレこそが狩りの醍醐味であり、エクスタシーだ。背中を快感がゾワゾワと這い登ってくる。

ところでフタオの♂って、こんなに大きかったっけ❓
沖縄で見た時よりも明らかに迫力があって、大きいような気がする。

 
【Polyula weismamnni♂】

 
尾状突起が短いね。近縁種の中では、この尾突が最も短いのが日本のフタオチョウの特徴なのだ。

何だか色があまりキレイに撮れていないし、大きさも分かりずらいので、手のひらの上に乗せて撮り直しー。

 

 
改めて思う。やはり自分が持っていたイメージよりも大きい。
思えば、初めて沖縄本島でトラップに止まっている夏型の♂を見た時は、インドシナ半島ものと比べてあまりにも小さかったので拍子抜けしたんだよね。また、台湾のモノよりも明らかに大きい。夏型しか見てないけどさ。

 
【Polyula eudamippus タイリクフタオチョウ♂】

(2011.4月 ラオス タボック)

 
【Polyula eudamippus formosana♂】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

 
だが今はそんなのどっちだっていい。採れたという事実さえあれば、それで満足だ。しかも大きな個体なんだから文句のありようもない。

後でSくんに訊いたら、やはり春型の方が夏型よりも大きいと言ってた(註2)。けどそんな事、どの図鑑でも一切触れられてないぞー。

昨日のハグルマヤママユのゲットあたりから、やっと流れが良くなってきた。この調子で♀も仕留めて、アカボシゴマダラも落としてやろう。そして夜にはアマミキシタバまでも我が手におさめて、今日中に全てのカタをつけてやろうじゃないか。

2頭目を待っていると、♂のフタオが根城にしている木と自分の立っている間にあるヤエヤマネコノチチの木に、突然♀がふわりと飛んで来た。たぶん産卵にやって来たのだろうが、全くの想定外な出来事であり、そのあまりにも無垢なる無警戒っぷりに刹那だがポカンとする。
やっぱ♀は♂よりも遥かにデカい。存在感も半端ない。次の瞬間には血が逆流するくらいにアドレナリンが沸騰し、心がワチャワチャになる。より欲しいのはオスよりもメスなのだ。

  
【ヤエヤマネコノチチ】


(まさにこの木であった)

 
驚かせないように小走りで距離を詰める。
止まった❗❗
イージーチャンスの到来に心が躍る。コレって完全に流れに乗っかれたんじゃないのー。
だが、近づく手前約5mでフワリと舞い上がった。(-_-;)チッ、気づかれたか❓
しかし飛び方は緩やかなままで、特に警戒されたという感じはしない。位置を変えて再び止まろうとしているように見える。
けど止まりそうで止まらない。真下まで行き、網を振るか振らざるまいか迷う。今振り抜けば採れそうだ。でも止まってくれれば確実に採れる。そう思って数秒間だが逡巡した。ダサい男の典型だ。この迷いが勝負を分けた。やがて彼女はふらふらと叢の中に潜り込んでいき、そのまま向こう側へと突き抜けた。
ヽ((◎д◎))ゝゲロリンコ、向こう側に行ってしまえば、なす術がない。ここいらは生け垣が連なっており、直に向こう側へは行けないのだ。

(-_-;)やっちまったな…。
今回の旅では全般的に判断が頗(すこぶ)る鈍い。ここ数年は蛾ばっか追い掛けてるから、感覚がズレているのかもしれない。スポーツでも何でもそうだけど、体を動かすものはブランクがあくと、感覚を取り戻すまでに結構時間がかかる。咄嗟の時は体が勝手に動いてくれるのだが、時間に少しでも余裕があると色々考えてしまうのだ。それが躊躇に繋がり、動きもぎこちなくなる。
昔は、なあーんも考えずに網を振れたのに何で❓きっと経験と知識がかえって邪魔してるんだろう。
それに見つける速度も確実に落ちている。昔は周辺視野がもっと広くて、何かが動いた気配だけでも瞬時に反応できた。見なくとも何かが飛んだら、空気の微妙な震えを感知したし、地面に影が走っただけでも反応できた。そればかりか反応と同時にもう一歩目が出ていて走り出していたのに…。
昔できてた事が出来なくなるって落ち込むよね。アスリートの蝶屋を自負してきたけど、これじゃ看板を下ろさざるおえない。もはや二流の人だ。このブログ内で度々「まあまあ天才」とノタまってきたが、この体たらくでは半分ジョークの軽口にもならない。そこそこの結果を残せてこそ「まあまあ天才」という軽口が叩けるのだ。もう封印だな。

自らチャンスを潰すと、当然流れは悪くなる。その後、♀どころか♂さえも姿を見せなくなった。ぽてちーん(ㆁωㆁ)

2時半になったので、あかざき公園へ向かう。
取り敢えずはフタオは採れたんだから、気を取り直してアカボシゴマダラを狙おう。

午後3時。駐車場にバイクを停めて下に降りてゆく。
この先でSくんと待ち合わせている。昨日、彼と話していて分かったのだが、アカボシの有名ポイントはこの下の東屋付近らしい。まさかそんなところにポイントがあるとはね。完全に盲点だったよ。上からは見えない場所だし、山頂や尾根筋が♂のテリトリーを張る場所だとばかり思ってたからね。そげな下にポイントがあるとは考えもしなかった。
どうりで知名瀬で会った爺さんにフタオのポイントを訊いても話が噛み合わなかったワケだ。にしても、だとしたら爺さんの説明はクソだな。もっと解りやすい説明はいくらでも出来た筈だろうに。虫屋は言語能力が足らない人が多いとは知ってはいたが、チ○カスだ。あっ、ゴメン。言い過ぎた。

 
【アカボシゴマダラ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
子供の遊戯施設があるとこまで降りてくると、網を持って立っている若者の背中が見えた。その先に見える木立ちは全般的に低い。なるほどね。となると当然の如く止まる位置も低いから採りやすいってワケだ。

フランクに話かける。
若者曰く、まだアカボシは姿を見せていないそうだ。周りに東屋らしき建物がないので訊いてみたら、この先のもっと奥の方に建っているらしい。でも既に人が陣取っているという。そっか…得心がいったよ。だから仕方なく此処で張ってるんだね。
ならば、そっちに行くのは後回しだ。若者から吸血鬼のように情報を吸い取ろう(笑)。ゴメン、嘘です。普通に訊きました。

自己紹介がてら名前を名乗ると、
『えっ❗❓、もしかして、あのブログを書いてる人ですか❓』
という予想外の言葉が返ってきた。
『あー、そうだけど…。』と目を逸らしてボソボソと答える。恥ずかしかったのだ。
それを意に介さず、彼は
『いつも楽しく読ませて戴いてます❗』
と朗らかに言う。
(☉。☉)ありゃあー、驚き桃の木、山椒の木。ここにもワシの糞ブログなんぞを読んでいる奇特な人がいるのか…。おったまげーだよ。恥の垂れ流しのような低能文章が読まれているのかと思うと、誠にもって照れ恥ずかしい。穴があったら入りたいという言葉があるが、ホント、穴があったら入りたいような気分だ。そして穴の底で膝小僧を抱いてずっと座っていたいよ。

彼の話によると、東屋で陣取っているのは蝶屋の間では有名なKさんらしい。
Kさんは東京を拠点とする蝶の標本商で『蝶屋(てふや)』という飲食店(スナック?)も営まれており、そこで標本も売られている。またガイドでもあり、国内外の採集ツアーも頻繁に開催されていて、採集マップも販売されている方だ。マスコミなんかには「蝶採り名人」と紹介されている。ブログもやっておられ、そのアクセス数は業界ではトップクラスではないかと思われる。
だが、駆け出しの頃に採集マップを買った事があるけれど、全然役に立たなかった。今回もブログの記事に完全に騙された形になっている。春にもトラップに来るような事が書いてあったが、全く来ない。トラップで採れると思ってたから6.3mの長竿しか持ってこなかったのだ。お陰で大苦戦じゃないか。信じたアンタが馬鹿なのさと言われてしまえば、それまでなんだけどさ。
えー、ここからは率直な意見だが、結果的に悪口になるかもしれない。とはいえ、何とか出来るだけ悪意に引っ張られないよう努めよう。

奥の東屋まで行くと、Kさんが長竿を持って立っておられた。
かなりインパクトのある風貌だったので、ちょっと驚く。白髪のロングヘアで全身黒ずくめなのだ。その特異な出で立ちに、心の中で「戸沢白雲斎かよ❗」とツッコミを入れる。
もっと解りやすく言うと、グラサンをかければ、シェキナベイベェーの内田裕也を彷彿とさせる姿だ。幸いな事に裕也さんみたく狂気性は感じられないけどね。まあ、仙人みたいな風貌だと言っときゃいいか…。

 

(出展『朝日新聞デジタル』)

 
挨拶したと同時くらいにアカボシゴマダラが飛んで来た。
しかし仙人は微動だにしない。見ると、後翅が少し欠けている。さすが名人、早々とそれを見切ったというワケか❓
『翅が少し欠けてますねー。もう何頭か採られましたか❓』
既にいくつか採っているから、欠けているのは無視なのかと思ったのだ。
『1週間前から来ているけど、ボロばっかだよ。10頭くらい採ってキレイなのは1、2頭だけかな。』
(☉。☉)えっ❗❓、と思った。アカボシはまだ出始めたばかりの筈だから、俄には信じられなかった。まず10頭も網に入れたというのが時期的には信じ難い。でも名人なら有り得るかも…という考えが一瞬頭をよぎったが、即座にかき消す。待て待て、最盛期や発生後期でもあるまいし、そのうちの8割もが欠けやボロだなんて有り得んだろう。それに1週間前だとまだ未発生の筈だ。信頼できうる複数の筋からフタオは発生しているが、アカボシは未発生だと聞いていたからだ。延べでの数だとしても多過ぎる。

気を取り直して、ぶら下がっているトラップを指して訊く。
『ところで、トラップを掛けてはりますけど、アカボシとかフタオは来てますか❓』
『ずっと1つも来てないよ。』
(・o・;)えっ❗❓これまた心の中で仰け反った。おいおい、アンタ、ブログにこう書いてたじゃないか。

「1化は2化などが見せるような(道路側の)空間を旋回することも、さらにトラップ周辺を飛翔する姿さえあまりみせない。しかし、トラップを仕掛けて根気よく観察をしていると、トラップの仕掛けてある道路側空間ではなく、枝先の密集する樹木の反対側、裏側から小枝の小さな空間を小刻みに飛翔したり、枝を歩いたりしながらだんだんとトラップに近づいてくる。多少離れた場所から見ていたのではほとんど目にとまらないように。2化以降ではトラップに飛来する個体を確認して観察できるが、1化の場合は個体数も少ないことから、ちょうどこの時期咲き乱れるシ―クワ―サ―やミカンの花に吸蜜に飛来するミカドアゲハやカラスアゲハ、青帯班の広いアオスジアゲハなどを採集していながら、時々トラップを見て回るという観察がベストである。」

けれども「枝先の密集する樹木の反対側、裏側から小枝の小さな空間を小刻みに飛翔する」ことも「枝を歩いたりしながら段々とトラップに近づいてくる」ことも一切なかった。何度試してもトラップには全く興味を示さず、フル無視だったぞ。
いくつかの文献にも春にはトラップには寄って来ないと書いてあるし、Sくんも過去に試してみたが来なかったと言っていたように思う。そして、それを裏付ける証言を最も信頼できる人からも聞いている。
奄美在住の標本商である柊田(ふきた)さんの口から直接、
『春はフタオもアカボシもトラップには来ないよ。』
というキッパリハッキリ発言を聞いているのだ。
柊田さんは奄美に長年住んでおられるから、その発言が最も信憑性が高いのは自明の理だし、また氏はベニモンコノハの論文でも知られるように一流の採集者なのである。奄美のフタオの分布も調べられていて、誰よりも詳しかった。そんな人の観察眼が節穴なワケがない。
ちなみに後でSくんに仙人のコメントを伝えたら「発生初期のこの時期に10頭も採り、しかも8頭までがボロだなんて有り得ない。」と言っていた。彼は奄美に4、5回フタオとアカボシを採りに来ていて、もちろん春にも来ているからね。その発言は信用たりうる。
そもそも最近でこそ温暖化で3月後半にもアカボシがそこそこ採れるようにはなったものの、基本は4月の蝶なのだ。個体数の比較的多い根瀬部や知名瀬でも未だ見ていないから、今が発生の走りなのは間違いないだろう。
そういえば、その会話の中で仙人にイワカワシジミのポイントについて尋ねてみたら、
『知名瀬に沢山いるよ。先日も3〜4人を案内したけど、1日で一人あたり4、5頭は採らしてやったよ。』
とか言ってたなあ…。
1人4〜5頭といえば、全部で12〜20頭だ。個体数が多い年もあるから全く可能性がないワケではないけれど、経験上からそんなに一度に沢山は採れない蝶なだけに、ちょっと信じらんない。しかも1日でその数は疑わざるおえない。知名瀬でイワカワをずっと探していた2人組の爺さん達も2日間探しているが見てないと言ってたし、自分もSくんも知名瀬では1頭たりとも見ていないのだ。仙人御一行が全く採れていないワケではないのだろうが、数を盛ってる可能性を疑いたくなる。となれば、アカボシについても情報を盛ってるんじゃなかろうか❓たとえ名人だとしても、やはり10頭は有り得んだろう。

考えてみれば、そもそも名人のブログの他の記事も全体的にホントかよ❓と思うような記述が多いのである。誰も知らないポイントに案内して、沢山採らしてやった云々と書いてあるのを度々見掛けるが、自分が買った採集マップには沢山いた所なんてない。というか、居るのを殆んど見たことがない。
思い出したけど、関西の標本商のMさんも同じような感想を漏らされていて『そのポイントに全くいないというワケではないから嘘ツキとまでは言えないんだけど、沢山いる所は知る限り1つもないからタチ悪いんだよなあ。』と言ってはったなあ。

生態面についても図鑑にはない独自な事が採集マップやブログに書いてあって、これまたホンマかいな❓と思ったことが何度かある。もしそれが本当ならば、この人、天才だなと思うような目から鱗的な事が書いてあるのだ。
描写がリアルに思える部分もあるから、これまた全くのウソではなさそうなのだが、やはり話を大袈裟に盛ってるような気がする。もしもその衝撃的な生態が事実ならば、とっくに伝播している筈なのに、周知の事実にはなっていない事だらけなのだ。
とはいえ、氏とは初対面だし、その実力や人となりを詳しく知っているワケではない。だから、これらはあくまでも自分の個人的な見解であることを断っておく。なので、間違ってたら謝ります。本当に名人ならば、それに越した事はないのだ。むしろそれを望んでいる。もしもブログの生態面の記述が正しければ、大いに採集の参考になるからね。

仙人は午後4時には若者と帰って行き、一人ぼっちになった。
この時間になってもSくんが来ないので、何かトラブルでもあったのかと心配になってきたが、4時半過ぎに漸く現れた。
フタオは2♂1♀を採ったと言う。
負けとるやないけー(笑)。でも全て翅が欠けてて、完品は無しとの事。まあ、ワシと違って8m以上の長竿を持ってるんだから、そのうち完品も採れんだろう。

喋ってると、アカボシが飛んで来て枝先に止まった。
高さ的に楽勝の位置である。しかし直ぐ飛びそうな気がしたので、慌てて網を振ったらハズした。微妙に間合いがズレてたようだ。位置的にブラインドになってて姿が見えなかったから、えいやとアタリをつけて振ったのがいけんかった。
(´-﹏-`;)あちゃーである。
どう言い訳しようがカッコ悪い事、この上ない。やっぱ調子悪りぃや。Sくんがブラインドになってるのに気づいて、位置を教えようとフォローに入ろうとしてくれてたのにね。申し訳ないよ。

バツが悪いので、誤魔化すように話題を変える。
『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』

\(◎o◎)/嘘やん❗

                         つづく

 
追伸
えー、今回は何だかベタなドロドロの昼ドラみたいなタイトルになってしまったとです(笑)。借りで暫定的につけたタイトルだったけど、他に良いタイトルが浮かばなかったし、段々気に入ってきたので、そのままにした。

前回から大幅に時間があいたのは、何かと個人的なトラブルがあったからとです。前回の5日後くらいには、ほぼ下書きは書き終わっていたのに、トラブル後は書く気になれずにほったらかしになってたのだ。
あとは名人について書いた部分を削除するかどうかも悩んだといのもある。コンプライアンス的に問題が有りはしないかと考えたのである。名人に対する憎悪の心はないが、個人攻撃と捉えられる可能性は充分にあるからだ。でも自分にとっての事実や感じた事を封じ込めるのも変な話だ。昨今の炎上を恐れて何も言えなくなっている風潮に強い違和感を覚えているしね。それに今後、ワテみたいに名人のブログを読んで、春でもフタオやアカボシがトラップで採れるんだと思い込んで長竿を持ってこない人が出てくるかもしれないとも考えた。ゆえに名人が営まれている店の名前やブログ名を悩んだ揚げ句、あえて伏せることはしなかった。長竿を持ってゆくかどうかは、名人のブログを読んでから各人で判断してもらいたい。
これを読まれた名人は御気分を害す事になるだろうから、それについては申し訳ないとは思ってる。ごめんなさい。しかし今のところ吐いた言葉を撤回するつもりはない。トラップの材料や飛来する時間帯が早朝だとか黄昏時だったりという新たなる事実が見つかりでもすれば、話はまた別だけどね。

ところで、なぜに春にはトラップに寄って来ないのだろう❓
これが全くもって解せない。だって春だけ全くエサを摂らないなんて考えられないからだ。夏と活動量は同じなんだから何かは摂取している筈だ。だが、それに対する推察や解答を聞いたことがない。自分なりに考えても、もっともらしい解が見つからない。たぶん誰も説明できないから、どこにも理由が書いていないのだろう。でも、そのままスルーというのも性格的に見過ごせない。一応、有り得る可能性はさぐっておこう。

①春は餌を摂る時間帯が早朝や黄昏どきである❓
有り得るが、知る限りではフタオが古くから生息する沖縄本島でもそうゆう生態が確認された事はない筈だ。ちなみに沖縄で、夏に日没後にフタオの♂がシークヮーサーの樹液にやって来たのは見たことがある。薄闇みたいな状態だった。そういや早朝6時にトラップにいた♂も見たことがある。但し、昼間に来た頭数の方が圧倒的に多い。いや待てよ。そういや沖縄本島南部では、それまで全くトラップには来なかったのに、午後5時半になって急に何頭も来だしたという事があったな。まだ日没前で辺りは明るかったけどね。という事は、可能性はあるかもしれない。仮にだとしても、何で春だけ朝夕にしか来ないのだ❓夏がそうなら、暑い昼間を避けて朝夕にしか来ないとか説明がまだしもできるけど、春ならば気温的に朝夕にだけ来る理由にはならない。

②春は樹液にしか来ない❓
夏にだけ樹液にもトラップにも来て、春は樹液にだけしか来ない。そんな事って有り得るのか❓だとしたら、全然理由がワカラナイ。夏場はより体力が必要だから、頻繁に餌を摂取せねばならず、あんまし好みじゃないけどトラップにも来るとか❓
考えられなくはないけど、理由としては弱いよね。
尚、図鑑によるアカボシゴマダラが樹液に訪れた木の樹種の記録はスダジイ、サルスベリ。自分は秋にスダジイの他にミカン類の樹液に来たものを何度か見ている。しかし『日本産蝶類標準図鑑』には、樹液での観察例は少ないとあった。補足すると、スダジイの樹液量は3〜4月に多いそうだ。樹液で充分だから、トラップには来ないとか❓
フタオはヒラミレモン(シークヮーサー)、その他のミカン類、イジュ、タブノキ、クヌギでの吸汁記録がある。ちなみに観察例は3〜4月のミカン類を除き、他は全て7〜8月となっていた。自分は夏に沖縄でシークヮーサーの樹液に来たものを数度見ている。
参考までに付け加えておくと、トラップに来た蛾は多数のオオトモエとアケビコノハが1頭のみであった。他は一切来なかったから、もしかしたら春は蝶でも蛾でもトラップにはあまり誘引されないのかもしれない。でも理由がサッパリわからない。

③春は別なものを餌にしている❓
だとしたら真っ先に挙げられるのが花の蜜だろうが、フタオチョウには訪花の観察例がない。ちなみにアカボシゴマダラは夏場にはホルトノキでの訪花&吸蜜の報告例が比較的ある(奄美大島・徳之島以外の大陸亜種の訪花記録は除外する)。さらに調べたら、アオキの花での吸蜜例も見つかった。アオキの花期は春だから、可能性はなくはない。しかし、もしそうならば、もっと観察されていてもいいだろう。
春の腐果での観察例は知る限りない。あったとしてもフルーツトラップと内容はほぼ同じだから、腐果には来て、トラップには来ないなんて事は考えられないだろう。
尚、フタオの訪れた腐果の記録はパパイア、サンゴジュ。図鑑には書いていないが、パイナップルやバナナのトラップには好んで集まる。特にパイナップルは好きなようだ。
アカボシはパパイア、スモモ、イチジクの記録がある。とはいえ、スモモ、イチジクは夏場に熟すから除外してもいいだろう。パパイアは年中出荷され、沖縄では春の出荷量が比較的多いようだ。
フタオは獣糞、人糞、動物の死体に集まることも知られているが、そこに季節との関連性はないだろう。そもそも春だけ糞しまくる動物や野糞する人なんていないだろう。春だけ異常に死体が多いなんて事も考えられない。
残るはアブラムシの分泌物だ。アカボシに観察例がある。もしかして春はアブラムシの分泌物しか摂らなかったりして…。けど、何で❓アブラムシが特に春に分泌物を出すとか❓
参考までに書いておくと、Wikipediaのアブラムシの項には以下のような記述があった。
「春から夏にかけてはX染色体を2本持つ雌が卵胎生単為生殖により、自分と全く同じ、しかも既に胎内に子を宿している雌を産む。これにより短期間で爆発的にその数を増やし、宿主上に大きなコロニーを形成する。」
「南方系の種には広域移動を行うものも知られ、主に4月から6月に東南アジア方面から気流に乗って飛来し、野菜や果樹の新芽の茎上や葉の表面・裏面に現れ始め…」。
これにより、春にはアブラムシの個体数が多い事が伺える。アカボシには有り得るかもしれないね。

他に両種には地面での吸水行動というのもあるが、厳密的にはエネルギー補給の餌とは言い難いので除外する。だいたい吸水には♂しか来ないしね。何で♂しか来ないかというと、ザックリ言うと♂は交尾をするために精巣を成熟させねばならない。それに必要な物質を水から得ているらしい。

 
(註1)ナガサキアゲハ

(出展『Wikipedia』上が♀、下が♂で、おそらく本州産。)

学名 Papilio memnon
日本産は亜種”ssp.thunbergii”とされる。
この亜種名はシーボルトよりも前に日本にやって来て、我が国の植物学の基礎を築いたカール・ツンベルクに対して献名されたものだ。また和名はシーボルトが長崎で最初に採集したことに由来する。

開張110〜120mm内外にもなり、オオゴマダラやモンキアゲハと並ぶ日本最大級の大型蝶。
南方系の種で分布は広く、西は北インドからインドシナ半島、インドネシア島嶼、中国南部、台湾を経て日本にまで達する。
日本国内での分布は1930年代辺りまでは九州以南から南西諸島に掛けてであったが、1940年代に入って山口県西部や高知県南部に分布を拡大。1960年代には淡路島へと北上し、21世紀初頭には福井県や神奈川県西部での越冬が確認された。そして近年では更に分布を拡げ、今や東北地方でも成虫の姿が確認されているという。こうした分布の変遷から、本種は地球温暖化の象徴として取り上げられることも多い。
尚、北に行けば行くほど♀の白紋は減退し、反対に南へ行けば行くほど白くなる傾向がある。その頂点だったのが、今や絶滅して久しい西表島の幻の白いナガサキアゲハだ。確か反町さんが120万円で売れたとか言ってたけど、ホントかね❓
それはさておき、残っている標本は極めて貴重なものだろう。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

たぶん世界一白いナガサキアゲハなんじゃなかろうか。
沖縄産もかなり白いが、目じゃないくらいに白い。きっとまだ採れていた時代には「白い貴婦人」とか何とか最大級の賛辞を浴びていたのだろう。そういや沖縄本島のナガサキアゲハを、より白いの掛け合わせて続けて西表島なみに白いナガサキアゲハを作った人がいるという噂を聞いたことがあるけど、あれって本当の話なのかな❓

尚、八重山諸島では稀で、台湾等から飛来したものが一時的に発生するのではないかと云う説がある。自分もその説に賛同する。
で、その台湾では再び黒くなり始める(だから西表島以外の八重山諸島産は白くない)。


(2017.6.20 台湾南投県仁愛鄕)

下翅は白いが、前翅は黒い。
日本では上のような尾っぽのない♀がノーマルタイプ(無尾型)で、有尾型は極めて稀。台湾でも稀だが、日本よりも遥かに見る機会は多い。また極めて稀だが、他に短尾型という両者の中間的な型も存在する。

【短尾型♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

参考までに付け加えておくと、遺伝形式は有尾型が優性遺伝、無尾型が劣性遺伝だという事が判明している。

何だか自分の標本画像がないのもなあ…。
取り敢えず、超久し振りに日本のナガサキアゲハなんぞを展翅するか…。

退屈しのぎで、1頭だけ採った♀だ。
もう少し下翅を下げようかとも思ったのだが、展翅板の溝が広いのでやめた。展翅の基本は、やっぱ翅のサイズで展翅板を選ぶよりも溝に合わせて選ぶべきだよな。溝ギリギリな方が触角の調整も上手くいきやすいからね。

それはそうと、この♀は奄美産にしては黒いな。本土のモノとさして変わらん。本来、奄美産は沖縄本島ほどではないにせよ、白いのだ。

【奄美大島産♀】

【沖縄本島産♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

白いナガサキアゲハは優美だと思う。ちょっと見惚れるところがあり、立ち止まって暫く姿を目で追ってしまう存在だ。

 
(註2)春型の方が夏型よりも大きい
帰ってから『日本産蝶類標準図鑑』で確認すると、明らかに春型のフタオの方が大きいように見える。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

左上2つが春型で、残りは夏型である。
とはいえ、コレだけのサンプルでは断言はできない。でもそうゆう傾向はありそうだ。アカボシゴマダラも春型の方が大きいしさ。
う〜ん、でも待てよ。夏型の裏面個体は春型なみに大きいような気がするぞ。ようするにもっと沢山の個体を見ないと何とも言えないなあ…。

最後に、この日に採ったフタオの展翅画像を貼り付けておきます。

こんなもんかなあ…。
フタオグループの展翅、特に♂の展翅は難しい。翅のバランスがとりにくいのだ。コツは前翅の下辺を無理に真っ直ぐにしようとしない事だ。下辺が微妙に湾曲しているのに気づかないと、下辺を真っ直ぐしようと必要以上に上げがちになりやすい。頭の中で、翅の根元の起点と後角を結んで、その線が真っ直ぐになるようイメージするよう努めよう。もしも頭が翅に埋まったり、触角の角度が天突くようになってたら上げ過ぎってこってす。
あと、今回はしなかったけど生展翅でも筋肉破壊はした方がいいだろう。フタオ類は筋肉のバネが剛ゆえに元に戻る力がアホみたいに強い。だから左の翅を上げて次に右を上げたらゲロゲロ、左がズリ下がるだなんて事はよくあるのだ。
しかも前翅を無理矢理上げると、真っ直ぐ展翅板に刺した筈の針まで上に引っ張られて前に傾く。ゆえに、それを見越して針を手前に傾けて展翅板に刺すなんていう面倒くさい事もせねばならぬのじゃ。
尚、後翅を上げ過ぎないのもコツ。上げ過ぎると寸詰まりになってカッコ悪い。思い切って下げてみませう。まあ、好みもあるから強くは奨めないけどね。けど、もし下げてみて気に喰わなければ上げりゃいいんだから、1回くらいは試して下され。

 
(註3)戸沢白雲斎
元々は講談師の二代玉田玉秀斎が、その創作講談中で作り出した架空の人物で、『猿飛佐助』や『真田十勇士』などの「立川文庫」の作品に登場する。そしてその後も作品は様々な形でアレンジされて現代に至るが、常に老人として描かれている。
甲賀流忍術の名人で、諸国漫遊中に信濃国鳥居峠で出会った猿飛佐助を鍛え、その秘伝を授けた。ザックリ言ってしまえば、『スターウォーズ』のヨーダとか『ベストキッド』のお師匠さんみたいなジジイの達人的存在だ。


(出展『馬場卓也@るろうビ作家』)

画像は映画『百地三太夫』で丹波哲郎が演じる戸沢白雲斎。
高さ30mくらいの崖をひょいと飛び降り、コマ落としのようにギュンギュンで走ってくるのじゃよ。