閃光のインペラトリックス

 
 
2月の初めに大阪でインセクトフェア(昆虫展示即売会)があった。
この日は余程のものがない限りは何も買うまいと決めていた。キリギリスも、いよいよ崖っぷちなんである。
しかし、そろそろ帰ろうとした時に出谷さん(註1)とこのブースで見慣れない蝶の三角紙標本を見つけてしまった。

 

 
正直、見たこともない蝶だったので、嘘でしょ❓と思った。蝶採りを始めて10年を越えているから、世界の蝶の事は凡そは知っていると云う自負があったゆえ、こんなに目立つ蝶をまさか見逃してるとは思えなかったのだ。
学名は「Cirrochroa imperatrix」とある。
学名から鑑みると、謂わば女王の蝶だ。そんなものを見逃しているなんて信じられなかった。もしかして最近見つかった新種だったりして…。でも、こんなにも凄い奴が新たに発見されていたならば、噂になって然りだ。テーゲーなワシの耳にだって入っていた筈だ。

タテハチョウの仲間であることは見た目で解るが、属名を見てもピンと来ない。Cirrochroaって何だっけ❓見たことのある属名のような気がするが思い出せない。翅形的には日本に同属のものはいないと思われる。強いて言えばヒカゲチョウの仲間、クロヒカゲなんかの翅形にやや近いような気もするが、蛇の目が無いし、本能的には違うだろうとも感じてる。

値段を見ると¥1500の値が付いていた。安い。けど出谷さんとこだと高額の部類に入る。カルナルリモンアゲハがA品で600円。アマンダベニボシイナズマはペアで1500円。あの巨大な怪蝶タンブシシアナオオゴマダラだって1200円くらいだったからね。

 
(アマンダベニボシイナズマ)

(2013.4月 スラウェシ島)

 
(タンブシシアナオオゴマダラ)

 
タンブシシアナは出谷さんとこで買って自分で展翅したものです。スラウェシ島の特産だが、細かいデータが今はちょっとワカンナイ。探すのが邪魔くさいだけなんだけどね。
たぶん、Idea tambusisiana hideoiという原名亜種よりも北部で見つかった亜種で、より黒いのが特徴。

蝶の価格は未展翅で売っているもので1500円を越えていれば、例外はあるにせよ珍品の部類だろう。とゆうことは、たとえ現地に行ったとしても、おいそれとは簡単には採れないクラスのかなり珍しい蝶だろう。それに青好きのオイラには見逃せない代物だ。買うことにした。

一つタガがハズレると、駄目だ。ついカルナとパリスの亜種も買ってしまった。ジャワ島には行ったことないから、採ったことがないのさ。

 

(右がカルナルリモンアゲハで、左がルリモンアゲハ東ジャワ亜種。)

 
青い蝶の学名の下には「Biak」とあるから、たぶんビアク島産の蝶だろう。
ところでビアクってどこだっけ❓インドネシアのどっかの島だとはわかるけど、どの辺りだったかが思い出せない。

調べてみたら、ニューギニアの方だった。

 

(出展『昆虫万華鏡』拡大すると右上にあります。)

 
地図で見た感じだと絶海の孤島とゆうワケではなくて、ニューギニア島からそんなに離れていないように見える。しかし、そう思い込むのは危険かもしれない。縮小地図だからそう見えるだけであって、実際はニューギニア島から何百キロも離れていたりするかも。淡路島とか佐渡ヶ島との距離感とはワケが違うのだ。地図の縮尺が全然違うって事を忘れてはならない。

翌日、先ずは青い蝶の学名の記載者から調べることにする。もしも記載年が近年であれば、間違いなく新種だからである。

だが、学名の後ろには Grose-Smith, 1894 とあった。
これは英国の昆虫学者グローズ・スミスによって1894年に記載されたとゆうことを示している。つまり新種ではござらんとゆう事だ。じゃあ何で今まで存在を知らなかったんだろ❓
単にワシがドアホなだけだったりして…。

三角紙を開き、中を確認してみた。

 

 
あっ、裏は青くないんだね。
さておき、コレはどう見てもヒカゲチョウの仲間ではなさそうだ。でも似たような裏面のチョウをどっかで見た気がするぞ。
えーと、たぶんネッタイヒョウモンとかミナミヒョウモンと言われてる仲間だったんじゃないかな❓でも確信がもてない。

ところで、和名は何だろう❓そこから何の仲間かが特定できるのではないかと考えたのだ。
しかし、ネットで検索しても和名では出てこない。
これはもう塚田さんの『東南アジア島嶼の蝶(註2)』で確認するしかあるまいて。

 

(出展『ばれろん堂』)

 
大阪市立自然史博物館へ行く。
ここの書庫で塚田図鑑が閲覧できるのだ。

 

(画像は第1巻のアゲハチョウ編です。)

 
タテハチョウ科はシリーズ第4巻で上下2巻あるが、たぶん下巻ではなくて上巻に載っている筈だ。下巻の方はフタオチョウやらイナズマチョウなどのスター蝶がズラリと並んでいるから何度も閲覧している。だから、もしそこに件(くだん)の蝶が載っていたならば、絶対に気づいていた筈だ。青好きのオラがスルーするワケがない。

同じものではないが、青い蝶を見つけた。
これの系統の近縁種なのかな❓

 

(出展 塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
一瞬そう思ったが、青の表面積が狭いし、翅形も違う。だいち、裏面が全く違う。

 

(出展『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
この感じの裏は、たぶんハレギチョウの仲間だろう。
ネッタイヒョウモンorミナミヒョウモンの仲間とは分類学的にはそう遠くない関係だとは思われるが、ここまで裏面が違うと、両者は別系統だろう。謎の青い蝶はハレギチョウの類ではなかろう。

解説ページを見ると、名前は、Cethosia lamarcki ラマルキィハレギチョウとあった。やはりハレギチョウの仲間だったのね。

一応、分布図も見てみよう。

 

(出展『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
分布はロンボク島とかの小スンダ列島だから、ビアク島とはかなり離れてる。

パラパラと見て、次に目に止まったのが、Vagrantini(オナガタテハ族)のコレ↙。

 

(出展『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
翅形は全然違うが青いし、それに何よりも裏面の色柄に近いものを感じる。近縁種かもしれない。
そういや、コレって自分で採ったことがある気がするぞ。

 

(2015.4月 マレー半島)

 
やはり有りましたな。
んっ❓、デザインは似てるけど、翅形が全然違う。
これはビロードタテハのマレー半島亜種かな❓(註3)
でもビロードタテハって変異幅が広いから、亜種区分はされていないかもしれない。何かややこしい分類のされ方をしてたという記憶がある。

 
(ビロードタテハ Terinos atlita miletum)

(2011.3月 ラオス)

 
初めてビロードタテハを採ったのはラオスのタボックで、このイメージだったから、マレー半島のものが同種だと分かった時にはビックリした。どうみても見た目は別種だもんね。

邪魔くさいけど、ビロードタテハ(Terinos)属の別な種の画像を探し直そう。
 
 

(2015.5月 マレー半島)

 
あった。
名前はテルパンダービロードタテハ(Terinos terpander)だったっけ❓ その名前でググッたら、自分のアメブロのブログが先頭でヒットしたよ(笑)(註4)。

 

(裏面)

(2016.3月 マレー半島)

 
たぶん上はタイ南部ラノーン辺りで採ったもので、下は更に南部のマレーシアのコタティンギ辺りのものだろう。
でもビロードタテハ類と青い蝶とは属名が違うから、やはり謎の青い者はネッタイヒョウモン(ミナミヒョウモン)の仲間なのかもしれない。

ページをめくると、チャイロタテハ(コウモリタテハ)も一連の並びにあった。和名はコウモリタテハの方が馴染みがあって、チャイロタテハなんぞと云う凡庸な和名よりも余程いいと思うのだが、塚田図鑑に従って以下チャイロタテハと表記します。

 

(出展『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
大型で、形はそれなりにカッコいい。でも東南アジアには♂はわりと何処にでもいて、ソッコーでウザい存在になる。但し、♀の方には滅多と会えない。♂は吸水に多数集まるが、♀は全く来ないのだ。花に吸蜜に来たのしか見たことがない。

 
(♂)

(2016.4月 ラオス)

(♀)

(2016.3月 タイ・チェンマイ)

  
種の解説部分を読んで思う。
今までチャイロタテハ属(Vindula)の近縁種や類縁関係なんて全く意識していなかったから軽く驚いたよ。まさかドクチョウ亜科だったとはね。

日本では西表島に土着しているタイワンキマダラも同じドクチョウ亜科にカテゴライズされ、キマダラタテハ属(Cupha)を形成している。
 
 
(タイワンキマダラ Cupha erymanthis)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)


(2016.4月 ラオス)

 
左翅が羽化不全の個体ですな。
コヤツはコウモリタテハよりもウザい。東南アジアには何処にでもいると云う印象があり、八重山諸島のものと殆んど変わらないように見える。別種も混じっていたかもしれないけど、ほぼフル無視に近い存在だった。とゆうか、むしろ憎悪の対象だった。大概は♂がテリトリー(占有行動)を張っていて、佳い蝶まで追いたててしまうのでホント邪魔なのだ。小汚いし、形も野暮だから「出しゃばりブス蝶」と呪詛を込めて呼んでたなあ…。

日本にはいないが、オナガタテハ属(Vagrans)もドクチョウ亜科に組み込まれている。

 

(出展『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
コヤツらも、そこそこ見るから次第にフル無視になりがちだ。
こちらも細かく見れば、別種も含まれていた可能性があるものの、直ぐに真面目に採らなくなった。

お次は以前日本にもいたウラベニヒョウモン属(Phalanta)。

 

(出展『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
コレも直ぐにどうでもいい存在になった。コイツにしろタイワンキマダラ、コウモリタテハにせよ、皆さん茶色で絶望的に地味なんである。真正のヒョウモンチョウからは、そんなに地味な印象はうけないのにね。より大型でオレンジっぽく見えるからかな❓
蝶採りを始めた頃にはウラベニヒョウモンは日本(八重山諸島)では既に絶滅していて、ちょっとした憧れをもっていた。しかし初めて海外で見た時は、あまりにも小さくて華奢なんでガッカリしたのをよく憶えている。
参考までに言っておくと、ヒョウモン(豹紋)とは名はつくが、見た目が似ている日本にいるウラギンヒョウモンやクモガタヒョウモンなどの真正ヒョウモンとは違う系統だ。

 
(オオウラギンスジヒョウモン♀)

(2015.7月 岐阜県高山市)

 
これは♀だから、あまりオレンジっぽくないね。
スマン、オレンジ色なのは♂の方でした。

 

(2015.7月 平湯温泉)

 
分類単位だと両者は同じドクチョウ亜科(Heliconiinae)には含まれるものの、族が違う。ヒョウモンチョウ類はオナガタテハ族(Vagrantini)ではなく、Argynnini(ヒョウモンチョウ族)に分類されている。見た目は同じに見えても、遠縁なのである。

改めてドクチョウ亜科を並べておく。

■ホソチョウ族
(Tribe Acraeini Boisduval, 1833)

■ドクチョウ族
(Tribe Heliconiini Swainson, 1822)

■ヒョウモンチョウ族
(Tribe Argynnini Swainson, 1833)

■オナガタテハ族
(Tribe Vagrantini Pinratana & Eliot, 1996)

ここ最近は急速にDNA解析による研究が進み、整理がされてきたタテハチョウの一族なのだが、グループによっては見た目が大きく違うので「ヒョウモンチョウって、ドクチョウの仲間なの?」と少なからず違和感を覚えた記憶がある。
ついでに言っておくと、最初に登場したハレギチョウもドクチョウ亜科に含まれ、ホソチョウ族ハレギチョウ(Cethosia)属に分類されている。

でもって、オナガタテハ族がまた幾つかの属に分かれる。
それが前述したビロードタテハ属(Terinos)、チャイロタテハ属(Vindula)、ウラベニヒョウモン属(Phalanta)、キマダラタテハ属(Cupha)、ミナミヒョウモン属(Cirrochroa)やアフリカビロードタテハ属(Lachnoptera)、アフリカヘリグロヒョウモン属(Smerina)、キスジヒョウモン属(Algia)、Algiachroa属に分けられている。
裏面に共通性を感じたのは同族だからなんだね。考えてみれば、日本にいるヒョウモンチョウ類の裏とは全然違うもんね。

となると裏の感じからみて、謎の青い蝶に一番近いのは多分ミナミヒョウモン(ネッタイヒョウモン)属だ。ならば、この属に含まれる種である可能性が高いだろうと推察した。
話は逸れるが、塚田図鑑では、この属の和名はミナミヒョウモン属だが、ネッタイヒョウモン属と表記される事も多い。外国の蝶は、こうゆう風に和名が幾つも存在しているケースがあって誠にややこしい。各々が勝手に和名をつけてるって感じなのだ。先の Vindula属だって、チャイロタテハと云う和名とコウモリタテハと云う2つの和名が存在するからね。
こうゆうのはホント困る。何とか統一するシステムなり、機関を作って欲しいよ。

 
(Cirrochroa tyche ティケミナミヒョウモン♂)

(出展『東南アジア島嶼の蝶』)

 
コレは結構見た記憶がある。

 

(2016.4月 ラオス)

 
一応、画像が残っていた。
いや、待てよ。こっちかもしれない。

 
(Cirrochroa thule ツーレミナミヒョウモン♂)

 
いやいや待てよ。やはりティケミナミヒョウモンみたいだ。図示した画像がページの先頭にあったから、てっきり基亜種かと思いきや、なんと”aurica”と云うマレー半島南部のアウル島にいる亜種みたいだ。そんな島には行ってないから、違うね。

基亜種はコチラ↙。

 
(ティケミナミヒョウモン原記載亜種♂)

 
本音は、何だっていいんだけどさ。
正直に吐露すると、コイツら地味だから興味が全くもって湧かないのである。

 
(Cirrochroa eremita エレミタミナミヒョウモン♀)

 
上記2種の裏面は、謎の青い蝶の裏面と近い。
なれば青い蝶は間違いなく、このグループだろう。

 
(Cirrochroa emalea エマレアミナミヒョウモン♀)

 
(Cirrochroa menones メノネスミナミヒョウモン♂)

(出展『東南アジア島嶼の蝶』第4巻(上))

 
コレは採った記憶があるな。

 

(2016.3月 ラオス)

 
やはり採ってるね。
いや、翅の外帯の太さが違うぞ。だいちメノネスの分布はフィリピンだ。
とゆう事は、エマレアの♂か Cirrochroa malaya だろう。

 
(Cirrochroa emalea エマレアミナミヒョウモン♂)

 
(Cirrochroa malaya マラヤミナミヒョウモン♂)

(出展『東南アジア島嶼の蝶』)

 
コイツら皆んな似てるから、現地だと種名がよくワカンナイんだよねー。興味があんましないから真面目に採ってなくて、何となく違うと感じたものだけは採ってた。

そういやもう1種、似てるけどもっとカッコイイのも採った筈だよな。

 
(Cirrochroa orissa)


(2015.4月 マレーシア)

 
名前も思い出した。オリッサミナミヒョウモンだ。ツマグロネッタイヒョウモンなんていう別な和名もあったと思う。
これはあまり見たことがなくて、かなり敏感だったから出会いの瞬間も憶えている。それに他のミナミヒョウモンやウラベニヒョウモン、タイワンキマダラなんかとは一線を画すところがあって、同じ茶色でも美しくて品があるから印象深い。
但し、珍しいかどうかは地域や季節にもよるだろうからワカンナイ。

 
(Cirrochroa semiramis セミラミスミナミヒョウモン♂)

(同♀)

(出展 以上『東南アジア島嶼の蝶 第4巻(上)』)

 
中でもコレの裏面が謎の青い蝶に一番似通っている。しかも外側に青い部分もある。かなりゴールに近づいてる気がするぞ。
期待を込めて次のページをめくる。
(。ŏ﹏ŏ)むにゅう〜。
しかーし、塚田図鑑には載ってにゃーい\(◎o◎)/
頭の中が(?_?)❓❓❓マークで埋め尽くされる。ナゼに載っておらんのだよー༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽❓
落ち着こう。冷静になって考えてみれば、載ってないからこそ、この青い蝶の存在を知らなかったのかもしれない。
取り敢えず、ここは図鑑のミナミヒョウモン属のページの解説を読もう。ヒントがあるかもしれない。

「和名の通り南方に生息圏をもつヒョウモンチョウ亜科(註5)の一員。北インドから中国南部、インドシナ半島、スンダランドを経て、フィリピン、セレベス(スラウェシ)、ニューギニアまで広く分布する仲間である。全18種からなる。中略。本属はビアック島の imperatrix を除いて地色は赤褐色の前後翅裏面中央部に明瞭な白又は淡褐色の帯を持ち(niasicaを除く)…」

とあった。出てきたね。コレで一挙に疑問が氷解した。
すっかり忘れていたが『東南アジア島嶼の蝶』が対象としているのは東洋区の南部〜南東部とウォーレシア(註6)に生息する蝶であって、オーストラリア区の蝶は含まれていないのである。だからヨコヅナフタオやオオルリアゲハ、トリバネアゲハは載ってないんだったわさ。

 

 
ようは、この塗り潰された地域である。すなわちマレー半島、スマトラ島、ボルネオ島、ジャワ島、バリ島、小スンダ列島、スラウェシ島、北マルク(モルッカ)諸島、スラ諸島、フィリピン諸島である。尚、南マルクのアンボン島やブル島は含まれていない。だからブルキシタアゲハやマデンシスフタオ、パンダルスムラサキという大物も載っていないのである。
但し、亜種が域外にいる場合は掲載されているケースはある。

参考までに書いておくと、ミナミヒョウモン属を塚田さんは3つの種群に分けておられる。

1.Clagia種群
(clagia、tyche、emalea、orissa、chione、aoris、nicobarica、niasica)

2.Thais種群
(thais、satellita、surya、malaya)

3.Regina種群
(regina、semiramis、imperatrix)

さて…、謎の青い蝶が何者かは解ったが、種の詳しい解説はなされていないから直ぐに行き詰まる。ネットで検索しても、日本語の解説が殆んどないのである。頼みの『ぷてろんワールド』にも図示されていない。とゆうことは、やはりかなりの珍品なのかもしれない。

ここで💡ピコン❗
妙案が浮かんだ。この博物館の書庫には手代木さんの『世界のタテハチョウ図鑑』もあった筈だ。

探したら、思った通りあった。

 

 
で、中を見たらビンゴ👍❗あった。

 

(出展 手代木求『世界のタテハチョウ図鑑』)

 
スゲー色だな。冒頭の画像よりもバッキバキにビューティフルだ。でも明らかにフラッシュを焚いて撮った写真だな。こうゆうのって過度に美しく写るから、どうかと思うよ。このままの見た目を信じる人だっているだろうに。だとすれば、問題ありでしょうに。

和名はルリネッタイヒョウモンとある。
だが、手代木さんは自分的和名をつける方なので、この和名がどこまで一般的なのかはワカラナイ。但し、ミナミヒョウモンよりもネッタイヒョウモンの方が和名としては優れているとは思う。ミナミ(南)の範囲が何処から何処までを指すかはイメージしづらい。幅が広すぎるのだ。一方、ネッタイは熱帯なんだから、もっと範囲が明確に限定される。実際、このグループの分布は赤道付近の熱帯から亜熱帯だからね。
それに「ミナミヒョウモン」で検索すると、トップにはコレが出てくる。

 

(出展『世界のウミウシ』)

 
海の生物であるウミウシくんだ。ウミウシは美しいものが多くて変異もあるから人気が結構ある。自分がダイビングインストラクターになった頃からブームか始まったのだが、直ぐに一般向けのウミウシ図鑑も発売されたくらいだから、世間的にはコチラの方が断然ポピュラーな存在なのだ。
ウミウシと混同されるのもややこしいし、個人的には和名はネッタイヒョウモンに一票を投じたい。

短い解説があったので、書き移しておく。

【成虫】
翅表全体が青藍色の金属光沢に輝き、ネッタイヒョウモンの中では特異な色彩である。

【卵】【幼虫】【蛹】【食草】
未解明。

【分布】
インドネシアのビア島 Biakのみに分布する。

『東南アジア島嶼の蝶』の時代と変わらず、現在もビアク島だけに棲む固有種なんだね。
それはさておき、蝶の和名だけでなく、島の和名までが表記がバラバラなんだね。塚田図鑑ではビアック島となってるし、この図鑑ではビア島だ。でも英語の綴りで検索すると、出てくるのは圧倒的にビアク島が多い。おそらくビアク島が最も一般的な呼称なのだろう。

この図鑑では、スラウェシ島特産の”C.semiramis”も凄い派手な色に写っている。

 

(出展『世界のタテハチョウ図鑑』)

 
そして和名はルリヘリネッタイヒョウモンとなっている。
やはり、こちらも手代木さんの独自命名のようだ。Cirrochroaと云う属名もミナミヒョウモン属ではなく、ツマグロネッタイヒョウモン属になっている。つまりは手代木さんは、C.orissa(オリッサミナミヒョウモン)を属の基準和名としたワケか。そこはネッタイヒョウモン属でいいと思うけどね。
参考までに言っておくと『ぷてろんワールド』では「オオアカネルリツヤタテハ」というまた別な和名が付けられている。コチラの方が見た目をよく表しているような気はする。しかし惜しむらくは、この名前ではタテハチョウ科の中の何グループなのかがワカラン。なので、☓な和名だろう。
それにしても、異なる和名がセミラミスミナミヒョウモン、ルリヘリネッタイヒョウモン、オオアカネルリツヤタテハと3つもあると云うのは、誠にもってややこしい。しかも全部後半まで違う。和名だけではカテゴリーまでもが違う蝶に思えてしまう。
まあ、和名が特徴をよく表していなかったり、ダサいネーミングも多いから、付け直したいという気持ちも解らないでもないけどね。
でもなあ…、例えばアンビカコムラサキ Mimathyma ambica なんぞは、他にキララコムラキとか、カグヤコムラサキ、ニジイロコムラサキ、シロコムラサキ、イチモンジコムラサキと計6つもの和名がある。学名が頭にインプットされていなければ、何でんのんそれ❓のワケワケメじゃよ。和名が幾つも存在してると何かと困るのだ。
個人的には学名そのままのアンビカコムラサキでいいと思うけどね。基本的に和名なんぞ海外では通じないのだ。学名そのままの和名で憶えておいた方が現地で困らない。和名だと現地で会った同好者やガイドには何のチョウだか通じないからね。キララやカグヤでは通じないけど、アンビカだと通じるのだ。その点、塚田さんの表記法は理にかなっている。でも、その表記法だと、どんな蝶なんだか全くイメージできないマイナスもあるんだけどもね。海外の蝶の初心者からすれば、文句の一つも言いたくもなるだろう。

 
(アンビカコムラサキ Mimathyma ambica♂)

(2011.4月 ラオス・バンビエン)

 
しつこく和名表記の相違の話を続ける。他にもティケミナミヒョウモンは『世界のタテハチョウ図鑑』では、チョイロネッタイヒョウモンと云う冴えない和名が付けられている。ちなみに冒頭部分に登場するラマルキィハレギチョウには、ルリハレギチョウと云う和名が付与されている。
あと参考までに記すと『ぷてろんワールド』だと、エマレアミナミヒョウモンはフチグロミナミヒョウモンに、ツーレミナミヒョウモンはオオミナミヒョウモンとなっている、
だが、もうこの際、個別の和名の良し悪しの是非は捨て置く。最早どれが最も優れた和名だとかを論じる気にもなれないのだ。この和名の乱立状態、マジで業界の誰か偉いさんとかが何とかしなさいよと思う。

『東南アジア島嶼の蝶』には載っていないが、Regina種群の基準種である「Cirrochroa regina」の画像もあった。

 

(出展『世界のタテハチョウ図鑑』)

 
和名は「ミイロネッタイヒョウモン」となっている。
一応言っとくけど、コチラは『ぷてろんワールド』では「アカネルリツヤタテハ」なる和名が付けられている。是非は論じないと言ったそばから言っちゃうけど、レジーナかレッジーナネッタイヒョウモンでいいと思うけどなあ…。アマンダとか女性の名前っぽい名前は、何だか素敵だもんね。蝶は基本的に女性だと思ってるからね。

種の解説もしておこう。
スラウェシ島の”semiramis”の代置種とされ、更にメリハリのある斑紋が特徴。分布はニューギニア島とその周辺の島々(オビ、バチャン、ハルマヘラ)。
ちなみに『世界のタテハチョウ図鑑』では、imperatrixだけでなく、semiramisも幼生期が未解明となっていたが、この種だけは解明が進んでいる模様だ。

【幼生期】
五十嵐・福田(2000)を参考に記載する。

【卵】
未確認。

【幼虫】
黒色で気門下線に白色斑紋を配する。黒色の長い棘状突起を有する。

【蛹】
タイワンキマダラに似ているが、地色が白色である。胸部〜腹部背面に長大な突起を生じ、先端は黒色で基部は橙色である。

【食草】
イイギリ科のFlancourtia ryparosa、ベニノキ科のHydoncarpus wightianaの記録がある。

この事から青い女帝インペラトリックスも、ハリギリ科、もしくはベニノキ科の植物を食餌植物としている可能性が高いものと思われる。
ちなみに「五十嵐・福田(2000)」とあるから、おそらくコレは五十嵐邁&福田晴夫氏共著の『アジア産蝶類生活史図鑑』からの引用であろう。

『世界のタテハチョウ図鑑』には、Cirrochroa属の幼生期の形態画は載っていなかったが、同族の別属が図示されている。概ね見た目は近いものと推測されるのでネジ込んでおく。

 
(ビロードタテハ幼生期)

 
(ヒメチャイロタテハ幼生期)

 
(タイワンキマダラ幼生期)

 
(ウラベニヒョウモン幼生期)


(出展 以上、何れも『世界のタテハチョウ図鑑』)

 
いつ見ても、手代木さんの細密画は美しいと思う。
写真なんかよりも、よっぽどいい。
細密画は載っていないが、図鑑には一応”Cirrochroa属”の幼生期について言及されてはいる。

【卵】
基本的な本族の形態で、色彩は白〜黄色。

【幼虫】
棘状突起の配列は本族内だが、著しく長くて疎らの小突起が分枝する。色彩は背面が褐色〜黒色で下腹面は白色。

いやはや、それにしても凄く奇っ怪なデザインだすなあ。特に蛹なんかは凄い事になってる。もう怪獣とか怪人だわさ(笑)。
タテハチョウ科の幼生期はデザインの宝庫だよな。凡そ考えもつかないような個性的な形態をしているものが多い。邪悪さもあるから結構楽しめる。一人で、『😱キショ❗』とか言って盛り上がれるのだ。

また、ネッタイヒョウモン族の系統図と族全体の解説もあったので、載せておこう。

【分類学的知見】
幼生期が未知な属が多いために検証は不十分であるが、Simonsen et al.(2006)による構成はほぼ次のようである。

 

 
【成虫】
色彩斑紋は多様で、必ずしも豹紋型の斑紋ではない。

【幼虫】
幼生期形態は共通し、ヒョウモンチョウ族よりも長い棘状突起を生じる種が多い。

【蛹】
原色の鮮やかな色彩だったり種々の長い突起を有していたり、この族内の特色がある。

【食草】
スミレ科、イイギリ科(ヤナギ科)、トケイソウ科などで、いずれも新エングラー植物分類体系のスミレ目に属し、ドクチョウ亜科内の食草である。

【分布】
東南アジア〜オセアニア、アフリカに分布する。

う〜ん、でも矢張りこの種群が、どんな幼虫と蛹なのか知りたい。インペラトリックスは無理だとしても、せめて『アジア産蝶類生活史図鑑』に載っているという近縁種”regina(ルリヘリネッタイヒョウモン)”だけでも見ておきたい。図鑑を探そう。

 

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
\(◎o◎)/ゲロリンコ❗この図鑑では「ヘリグロタテハ」と云う又新たな和名が付けられている。(。ŏ﹏ŏ)ったくよー。
「ヘリグロ」とはまたイージーな…。正直、わざわざ新たに付ける程のものではござらん。マジでダサいと思う。
ちなみに、同属の中では裏面が一番美しいのは、このレジーナだと思う。ネットでフラッシュが焚かれている画像はメチャメチャ綺麗だかんね。

 
(終齢幼虫)

 
真っ黒で邪悪どすなあ。トゲトゲが長いとゆうのも邪悪度に拍車が掛かっとりまんな。

 

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』蛹は頭が下に写っているが、そのままにしておく。おそらく自然状態では、こうなのだろう。)

 
オナガタテハ族の中では、タイワンキマダラの幼生期に最も似ている気がする。
それにしても凄いデザインの蛹だ。そして美しい。貴婦人を思わせるような上品さと高貴さを兼ね具(そな)えている。インペラトリックスの蛹はコレを超えるものであってほしいね。

一応、解説文を転載しておく。
「パプアニューギニアにおいて本種は平地、低山地の樹林に生息し、周年発生をくりかえす普通種である。♂は樹林の日当たりのよい空地を敏速に飛ぶ。♀の飛翔は♂にくらべてはるかに緩慢、樹林内の日だまりを食餌植物を求めて飛ぶ。そして0.5〜2mくらいの低い食餌植物を見つけて産卵する。産卵場所の決定に迷いが多く容易に決まらず、葉の上を歩き回る。そして、若い葉の裏面に翅を閉じてとまり、1卵を産みつける。また花や実にも産卵する。興味深いのはクモの巣に産むことが珍しくないことで、これは近縁の Cupha erymanthis タイワンキマダラなどでも観察されている習性である。幼虫は1齢から終齢まで食餌植物あるいは枝が相接するほかの植物の葉の裏面に静止する。刺激に対して敏感で、すぐに歩き始める。歩行は速い。若い柔らかい葉だけを食い、硬い古葉は受け容れない。」

分布図も貼り付けておこう。

 

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
ビアク島にもいるのかなあ…。
いたら一石二鳥なんだけどな。あっ、でもパプア全土にいるんだからイリアンジャヤにも当然いそうだ。たぶん何処かで会えるだろう。

図鑑には、同属の「Cirrochroa tyche ティケミナミヒョウモン」の画像もあった。

 

 
コチラにも「ウスイロタテハ」という別な和名が付けられている。申し訳ないが、これまたダサいと言わざるおえない。まあ、そもそも成虫の見た目がパッとしないから、それも仕方のない事なのかもしれないけどさ。

 
(卵と若齢幼虫)

 
(幼虫)

 
より邪悪な見てくれである。もしフィールドで出会ったなら、間違いなく飛び退くだろう。毛虫はマジで苦手なのだ。

 
(蛹)

(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
コチラの蛹も個性的なデザインだ。
まるでウミウシみたい。実際、こうゆうデザインの奴もいたような気がする。
どうやら、この”Cirrochroa属”は蛹が白いのが特徴みたいだね。だとしたら女王インペラトリックスも白い可能性が高い。なれば相当美しいものじゃろう。白地に青の斑紋だったら、悶絶必至だ。是非とも見てみたいやね。

長々と書いたが納得したので、漸く展翅する気になった。
引っ張るつもりはなかったけど、展翅するのが億劫とゆうのもあって、こうゆう順番の展開になった。スマン、スマン。

改めて見るが、裏も美しい。

 

 
軟化展翅するのは久し振り。
針を根元に刺して、筋肉を破壊してボンドを薄めたのを染み込ませてから翅を開く。

 

 
\(◎o◎)/ワオッ❗
ビカビカの青やんか❗❗
これは陽光の下で見てみたくなるね。外に出て検証しよう。

 

 
光が当たっていないと、青黒い紺色というか藍色だ。
曇りだったが、徐々に光が射してきた。晴れ男が望めば晴れるのである(笑)。

 

 
光が当たってる部分が輝き始めた。
どうやら構造色のようだ。光の角度によって色が違って見えるのだろう。

 

 
完全に晴れたら、とてつもない色になった。モルフォチョウの輝きと遜色ないピッカリ✨ブルーに仰け反る。
『世界のタテハチョウ図鑑』の標本画像を批判したけど、フラッシュを焚いてはいるのだろうが近いものがある。

構造色ならば、反対からの方が輝きは強いのでないかと考えて、上下を返してみる。

 

 
凄い色だね。海よりも青いコバルトブルーにゾクゾクくる。
これは展翅が楽しみじゃよ(☆▽☆)
さあ、気合を入れてキメるぜ。

ガビー∑( ̄皿 ̄;;)ーン❗❗❗❗❗😱😱😱😱
しかし、( ≧Д≦)やっちまっただよー。
頭が真っ直ぐならないのでコチャコチャやってたらば、ダアーッ༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽、あろうことか知らぬうちに触角が折れてもうてたー。
しかも折れた部分は行方不明。
(╥﹏╥)痛恨の極みである。海よりも深い溜息をつく。

覆水、盆に帰らず。やっちまったものはどうしようもない。クソッ、メタクソにしたろか(-_-;)…。心はささくれだってヤケ糞になりそうになる。だが、グッと堪え、キレずに完璧を期して展翅する。

 
(Cirrochroa imperatrix ♂)


(jan.20 Biak)

 
ネットで出てくる展翅標本の中では、文句なく一番美しいと言い切れる出来なのに…( ;∀;)うるうる。
みんな、💀死ねばいいのだ。心はウルトラダークの、フォースの暗黒面に真っ逆さまじゃよ。

スマホが勝手に補正して撮りよるので凄く青く写っているが、実際に部屋で肉眼で見ると、こんな感じが近い。

 

 
でも再現性は低い。納得いかないので、前のスマホで撮りなおすことにした。

 

 
コレが一番実物に近い。
普通の写真を撮った時はそうでもないのだが、標本写真を撮ると何故だかオート補正が強くなるんだよなあ。だから最近はあとで彩度を抑え気味に補正し直すことも多い。

٩(๑`^´๑)۶えーい、オラもフラッシュ焚いてやれ❗

 

 
ドえりゃあ〜色に写りよったよ(笑)。

下記のサイトの画像を見ると雌雄同型で、♀は♂よりも遥かに大型のようだ。
何故かリンクを貼り付けられないので、興味のある人はコピペして検索してね。

https://insectnet.proboards.com/thread/3495/cirrochroa-imperatrix

また、画像だと♀は外縁近くの帯が淡くて水色に見える。
他の♀画像が見れてないので、雌雄の違いが本当にそうなのかはワカンナイけどさ。

心がまだ折れてるので書く気があまりしないけど、一応、種の解説をしとくか…。
 
【学名】Cirrochroa imperatrix Grose-Smith, 1894

平嶋義宏氏の『蝶の学名‐その語源と由来』に拠ると、属名の「Cirrochroa(キロクロア)」はギリシャ語の女性名詞で、kirrhos(黄色の)+chroa(皮膚・色)の合成語。ただし、正しい綴りは「cirrhroa」であるべき云々とあった。
小種名の「imperatrix(イムペラトリックス)」はラテン語由来で、意味は「女帝」。綴りでググると「皇后」「后」という訳も出てくる。
毎回、学名にイチャモンをつけがちだけど、この小種名に関しては不満はない。相応しいと思う。この属の中では圧倒的に美しいんだから当然だ。
ちなみにインペラトリックスの方は英語読みだと思われる。タイトルに英語読みの方を採用したのは、そっちの方が音の響きが良いと思ったからです。

この蝶について日本語で言及されているものは極めて少ない。他に見つけられたのは、森中定治氏の『Cirrochroa imperatrix GROSE−SMITH(Nymphalidae)との出会い』と題したものくらいしかヒットしなかった。1980年12月にビアク島に実際に採集に行かれた時のことを書いたもので、そこには生態についての記述もあるので一部抜粋しよう。

「裏面はやはりグループ特有の模様・色調をもつものの表面は紺一色、メタリックな輝きをもつ美しい色調の変わり種である。このグループはDOHERTYの時代から特異な色彩をもつものとして知られ、PAUL SMARTの百科にも、D’ABRERAの図鑑にも示されている。中略。小道を挾んで片側はやや急な斜面の草原であり、もう片側はブッシュとなっていた。午前7:30〜8:30分頃、ここを”C.imperatrix”が飛翔した。一方通行である。斜面の上方から、一頭、また一頭、ビュンビュンともう片側のブッシュへ突っ込む。地上スレスレの50cm〜1m位の高さである。この飛翔は9時頃には全く見られなくなった。もう一度、このチョウを見た。昼下がり、どこからか飛んできて、民家付近の樹木の葉に止まった。地上2〜3mである。採集しようと、そっと近づいたが、あっという間に力強く一直線に飛び去ってしまった。Biakでの採集全日程を通して、このチョウを見たのは、後にもに先にもこのニ度だけであった。」

ネッタイ(ミナミ)ヒョウモンの類に、そんなに速い飛翔イメージはないから少し驚いた。でも、そっちの方がむしろ望むところではある。チョウやトンボ、甲虫でも憧れの入っているものは簡単には採れない方がいい。手強い方がファイトが湧くし、物語にロマン性が生まれる。それに何よりドラマチックな展開になった方が、採った時のエクスタシーも大きいのだ。

タイトルに「閃光」とつけたキッカケは『InsectNet Forum』というサイトだった。そこのコメント欄を見てたら、突然、バァーンと「blue flashs」という文字が目に飛び込んできたのである。

「 I caught one on Biak in 2009, it is a fascinating lep who launchs blue flashs when flying. Very impressive.
And really hard to find on Biak, we were 5 collectors collecting all day long during one week and we found only 2 of them. 」

和訳すると、以下のようになる。
「私は2009年にビアクで1頭を捕えた。飛んでいる時に青い閃光を放つ魅力的な鱗翅類で、とても印象的なものだった。
そして、ビアクで見つけるのは本当に困難だった。我々5人は1週間にわたり一日中採集していたが、そのうちの2人しか見つけることが出来なかった。」

このサイトの記述からも、森中さんの文章と同じく遭遇のチャンスは極めて少ないことが伺える。オマケに飛翔も速いとなれば、採りに行くとしたらワクワク度と不安が入り混じった状態からの旅が始まるだろう。女帝に強い想いを馳せるだろうから、島に行くまでのプロセスから既に物語が始まっていそうだ。そうゆうプロローグって好きだ。浪漫があるではないか。
ビアク島は地図上ではニューギニア島西部のイリアンジャヤからは、そう離れてはいない。だからイリアンジャヤでトリバネアゲハどもをしこたまシバき倒した後で、ついでに寄って採れるんじゃないかと思ったりもする。上手くすれば、reginaも手ごめに出来るんじゃないかとまで思う。イメージは、毎度の凱旋将軍なのさ。
ニューギニアには、死ぬまでに一度は行きたいね。

                        おしまい

 
追伸
『THE Insect Collector’s Forum』と云う別なサイトのコメント欄でも下のような記述を見つけた。

「 If you are interested in knowing more about it, this is the biotope where I have found it in Biak (a Papuan island in the North of W. Papua). It was a very hot and humid day in a rather dense forest. It was very tiring to hunt, and after one month in Papua, I was very tired. But I have seen some blue “flashes” inside a bush (I guess Morpho are doing the same kind of flashes) and it was him. Delias dohertyi also flies there. 」

必要なところだけを意訳する。
「その日はとても​​蒸し暑い日だった。そこはかなり鬱蒼とした森の中で、私はそのブッシュ内で幾つかの青い閃光を見た。それは、私にはモルフォと同じような輝きに見えた。それが彼だった。そこには、Delias dohertyi(ドヘルティシロチョウ)も飛んでいた。」

また、他のコメント欄には晴れの日の熱帯の強い陽光の中ではモルフォのように光るみたいな事も書いてあったし、「私が人生で飛んでいる蝶を見た中では、最も素晴らしいものの一つである。」とも書いてあった。
こうなると、益々フィールドで飛ぶ姿を見たくなるってもんじゃないか。ドヘルティーにも会ってみたいし、誰か一緒に行ってくんねぇかなあ❓

タイトルは「青い閃光」にしようかとも思ったが、躊躇した。自らの眼で生きてる実物を見たこともないくせに、おこがましいと云うか厚顔無恥というか、そこまであざとくはなれない。流石に己の良心が許さなかったのだ。だから自分で捕らまえない限りは、タイトルとしては使えないと思った。おバカでも、それくらいの矜持はある。
で、閃光だけ使うことにした。展翅するために翅を開いた時のインパクトは、閃光と云う言葉に相応しいと思ったからだ。
 
(註1)出谷さん
バリ島在住の標本商、出谷裕見氏の事。
標本商として世界的に有名な方であり、デタニツマベニチョウやセタンフタオなどを発見した伝説の人でもある。
いつもは息子さんしか来日しないが、この日は珍しく御本人もいらっしゃった。

 
(註2)『東南アジア島嶼の蝶』
1980年から刊行が始まった塚田悦造氏による全5巻からなる図鑑。日本が世界に誇るべき図鑑であり、東南アジアの蝶関連の図鑑では最も信頼できうるものでもある。
内訳は、第1巻がアゲハチョウ編。第2巻はシロチョウ・マダラチョウ編。第3巻はジャノメチョウ・ワモンチョウ・テングチョウ編。第4巻はタテハチョウ科で、上・下巻に分かれている。
しかし発刊は1991年で止まっており、シジミチョウとセセリチョウの巻は発行されておらず、未完結となっている。
理由は知らないが、おそらくシジミもセセリも種類数が膨大である事と、種の同定が困難なグループだからではないかと推察する。どちらのグループも似たようなものだらけだからね。あと、セセリは人気がないから発売しても売れそうにないとゆうのも理由としてはあっただろう。

 
(註3)ビロードタテハのマレー半島亜種かな❓
木村勇之助氏の図鑑、『タイ国の蝶 vol.3』で確認したら、黄色い紋がない全体的に紫色のビロードタテハは、どうやら別種 Terinos clarissa になっているようだ。
塚田図鑑の記述はうろ覚えだから、亜種区分云々は単なるワシの思い違いだったのかもしれないし、後に別種に分けられたのかもしれない。
でも南部には黄色い紋が淡い紫色になっているビロードタテハ(T.atlita)もいるからなあ…。しかも黄色いものとは亜種区分はされていない。手許に塚田図鑑が無いから確認出来ないし、木村図鑑は全体的に色の発色が悪くて画像も小さいから、細かい部分がよくワカンナイんだよなあ…。
おまけに、一方の Terinos clarissaも色彩や斑紋の変異幅が大きいんだよなあ…。
すまぬが、詳細を知りたい方は、御自分で真偽の程を確認して下され。

 
(註4)自分のアメブロのブログ
このワードプレスのブログの前にはアメブロでブログを書いていた。その中の東南アジア蝶紀行のシリーズに『熱帯の憂鬱、ときどき微笑』と題した一連の文章がある。そのマレーシア編の41話等にテルパンダービロードタテハが登場するようだ。
「ようだ」と書いたのは、自分でも書いたことを、すっかり忘れていたからだ。6年前の旅だが、スマホがブッ壊れたり、移動で苦労したりと結構大変な旅だったように思う。
まあ、ダンフォルディーフタオやキャステルナウイホソカバタテハ、シコラックスハゲタカアゲハの♀など結構佳い蝶が採れたから楽しかったけどもね。

 
【ダンフォルディーフタオ♂】

 
【キャステルナウイホソカバタテハ♂】

 
【シコラックスハゲタカアゲハ♀】

 
これらを久し振りに見て思った。4年ほど海外にも行ってないし、最近は今回みたいな形体の文章が多いけど、自分は本当は紀行文、それも長い旅の紀行文を書きたい人なんだなと思う。

 
(註5)ヒョウモンチョウ亜科
『東南アジア島嶼の蝶』は、1980年代に発行された古い図鑑なので、当時はヒョウモンチョウ亜科に分類されていたのだろう。

 
(註6)ウォーレシア
深い海峡によって東南アジアともオーストラリア大陸の大陸棚とも隔てられたインドネシアの島嶼の一群を指す言葉。
ワラセア(Wallacea)とも呼ばれ、生物地理学的な区分では東洋区とオーストラリア区との境界部分にあたる。
スンダランド(マレー半島,スマトラ,ボルネオ,ジャワ島,バリ島)の東側であり、オーストラリアやニューギニアを含むニア・オセアニアの北側、西側に位置する。

 

『出展『Wikipedia』』

 
赤い部分がウォーレシアである。 青線は生物境界線の一つウェーバー線。
ウォーレシアの名前の由来は、19世紀に活躍したイギリス人の生物学者であり、探検家でもあったアルフレッド・ラッセル・ウォレスの名から。
ウォレスはダーウィンとも親交があり、ダーウィンの進化論に大きな刺激を与えた。同時代にダーウィンはガラパゴスで、ウォレスはウォーレシアで生物進化の自然選択説に行き着いた。

 

(出展『進化の歴史 科学の』)

 
簡潔に言ってしまうと、ウォレスはスラウェシ島から東と西とでは全く生物相が違う事に気づいた。それが自然選択説(進化論)に辿り着くキッカケとなった。ウェーバー線は、後にウェーバ氏ーによって新たに引かれた生物境界線である。
この2つの線は、どちらの境界線が正しいとか間違っているとかと云うワケではなくて、この両線の間には東洋区、オーストラリア区両方の生物がいて、独自に特異な進化をしたというのが現状だろう。線ではなく、帯とするのが妥当じゃないかな。

 
ー参考文献ー

◼塚田悦造『東南アジア島嶼の蝶』第4巻(上) プラパック

◼手代木求『世界のタテハチョウ図鑑』北海道大学出版会

◼木村勇之助『THE BUTTERFLIES OF THAILAND タイ国の蝶 vol.3』木曜社

◼森中定治『Cirrochroa imperatrix GROSE−SMITH(Nymphalidae)との出会い』やどりが 1989年 136号

◼平嶋義宏『蝶の学名−その語源と解説』九州大学出版会

◼五十嵐邁・福田晴夫『アジア産蝶類生活史図鑑』東海大学出版会

 
(インターネット)
◼『InsectNet Forum』

◼『THE Insect Collector’s Forum』

◼『ぷてろんワールド』

◼蝶に魅せられた旅人
東南アジア蝶紀行『熱帯の憂鬱、ときどき微笑』

◼『Wikipedia』

 

紅テントの胎内宇宙

 
2月16日、NHK BSプレミアム「アナザーストーリーズ〜運命の分岐点〜」で、『越境する紅テント~唐十郎の大冒険~』と題して唐十郎と紅テントのことが取り上げられていた。

 


(出展『ステージナタリー』)

 
唐十郎を知らない人もいると思われるので、解説しておく。
1940年東京生まれ。劇作家、作家、演出家、俳優、横浜国立大学教授。
21歳で舞踏家 土方巽の門下生となり、その後、劇団「状況劇場」を旗揚げ、現在は劇団「唐組」を主宰。全国各地で紅テントでの公演を続けている。

 

(出展 NHKBSP『アナザーストリーズ』)

 
「少女仮面」で岸田国士戯曲賞、「海星・河童」で泉鏡花文学賞、「佐川君からの手紙」で芥川賞、「泥人魚」で紀伊國屋演劇賞、読売文学賞、鶴屋南北戯曲賞を受賞した。
主な著書に「ベンガルの虎」「夜叉綺想」「蛇姫様」「秘密の花園」などがある。
そして、その作品は今も数々の名優や蜷川幸雄などの名演出家たちによって上演され、刺激を与え続けている。

でも大鶴義丹のトーちゃんで、『北の国から 2002遺言』のトド撃ち名人の豪快なオヤジ役を演じた人といった方が解りやすいだろう。純(吉岡秀隆)が好きになる結(内田有紀)の旦那(岸谷五朗)の父親っていう設定だったかな。
しかし演劇界では唐十郎といえば、寺山修司(註1)の天井桟敷と共にアングラと呼ばれた前衛演劇の代表的存在であり、世間を騒がす武闘派というイメージがある。
唐十郎の喧嘩武勇伝については枚挙に暇がない。1968年、金粉ショーなどで紅テントの公演は話題を呼ぶが、公序良俗に反するとして新宿の地元商店連合会などから排斥運動が起こる。やがて新宿・花園神社での上演も出来なくなり、無許可で新宿西口中央公園にゲリラ的に紅テントを建て、問題作の「腰巻お仙 振袖火事の巻」を上演。公演中に機動隊300名にテントの周りを囲まれる。そして公演終了後には乱闘。逮捕、連行されている。
1969年、劇団「天井桟敷」の寺山修司は状況劇場のテント興業の初日に、冗談のつもりで祝儀の花輪を葬式用の花輪にした(これは寺山の天井桟敷の旗揚げ公演の際に中古の花輪を送られた事への意趣返しだった)。一週間後、唐は劇団員を引き連れて天井桟敷を襲撃。大立ち回りを演じ、乱闘事件を起こしたかどで唐と寺山を含む双方の劇団員が暴力行為の現行犯で逮捕される。
また、作家 野坂昭如とも新宿ゴールデン街の飲み屋で大喧嘩し、包丁を俎板に突き立てたこともある。
赤塚不二夫の著書によれば、酒場で喧嘩があると聞くと乱入し、大立ち回りをして見得を切ることもしばしばだったという。
小林薫が状況劇場を退団したいという話を聞いた唐は、小林のことを高く買っていたが為、退団を考え直すよう説得するために包丁持参で小林の住んでいたアパートへと向かう。しかし危機を察知した小林は既に逃亡しており、説得はできずに結局は小林の退団をなし崩しに認めてしまったという逸話がある。

また、この劇団からは前述した小林薫以外にも燦びやかな才能が開花している。
役者では、小林の他に根津甚八、佐野史郎、不破万作、六平直政、渡辺いっけい、麿赤児(大森南朋のお父さん)、大久保鷹、李礼仙、菅田俊らを輩出している。また石橋蓮司と緑魔子の『劇団第七病棟』には「ビニールの城」などの新作戯曲を提供し続けている。
芸術家では、横尾忠則、金子國義、赤瀬川原平、クマさんことゲージュッカの篠原勝之などが美術を担当し、ポスターを描いている。

 
(横尾忠則による紅テントのポスター)

(出展『FASHIONSNAP.COM』)

 
また音楽を小室等が担当していた。他に人形作家として知られる四谷シモンも役者として状況劇場に参加していた。

番組を見ていると当時の事が甦ってきた。
唐さんの紅テント芝居は何度か見ている。「状況劇場」の時代と「唐組」の時代を合わせて3回や4回観ている筈だ。
でも公演タイトルが全然思い出せない。

取り敢えずググる。
したら、唐十郎のウィキペディアに作品欄があった。そこから時代的に考えられうるものを並べてみる。

『ジャガーの眼』(1985年)
『少女都市からの呼び声』(1985年)
『ねじの回転』(1986年)
『さすらいのジェニー』(1988年)
『電子城-背中だけの騎士-』(1989年)
『セルロイドの乳首』(1990年)
『透明人間』(1990年)
『電子城II』(1991年)
『ビンローの封印』(1992年)
『桃太郎の母』(1993年)
『動物園が消える日』(1993年)

何となくタイトルに記憶があるのは『ジャガーの眼』『少女都市からの呼び声』『さすらいのジェニー』『電子城』『セルロイドの乳首』『ビンローの封印』だ。しかし候補が6つもある。そんなには観ていないから、このうちのどれか3つか4つとゆう事になる。

最初に観たのは『ジャガーの眼』の可能性が高い。
場所は生國魂神社(註2)だろうか❓

 

(出展『オークフリー』)

 
でもチラシには「生國魂神社」とは書いてなくて、「大阪・南港フェリーターミナル前広場」とある。南港になんて芝居を観に行った記憶は全くない。もしも、そんな特異なとこに行ってたら、絶対に憶えている筈だ。となると、別な芝居であろう。
それに1985年といえば、まだ当時の彼女とクリスマス頃までは付き合っていた筈だ。そんな幸せな時代にアングラなんて観に行くワケがない。振られて心がズタズタになっていないと、アングラ芝居なんて観に行くワケがないのだ。たぶん観たのは別れた翌年の1986年だろう。

でもウィキペディアには、1986年は『ねじの回転』とある。そんな題名は全く憶えにない。どう考えても最初に観たものではないだろう。そもそも、そんな題名には全然そそられない。どう考えても観に行ったとは思えない。
じゃあ、いったい何なのだ❓記憶の波の中で溺れそうだ。

ネットで探しまくって、漸く分かった。

 

(出展『ヤフオク!』)

 
このチラシで記憶がパチンとスイッチが入ったように甦った。
初めて観たのは『少女仮面』の再演だ。まさかの、考えもしなかった再演とはね。劇団ってのは、よく再演するとゆうのを完全に忘れてたよ。ウィキペディアには、そんな細かい事まで書いてるワケないやね。もっと早く気づくべきだったよ。
気づいたところで、見つけられたかどうかはワカンナイけど。

客演に「第三エロチカ」の座長である川村毅の名前がある。確かに老婆の役で出ていたね。無茶苦茶、顔がデカかったから憶えているのだ。

『🎵時はゆくゆく〜 乙女は婆に〜 それでも時が〜 ゆく〜ならば〜 』

ポロッと挿入歌のメロディーまで口元から溢れ出たから、絶対に間違いなかろう。
そういえば、初めて生で見た唐十郎はペテン師みたいだなと思ったんだよね。エネルギッシュで胡散臭かった。でも、その背中には物語が流れていた。

 

(出展 NHKBSP『アナザーストリーズ』)

 
しかし、このチラシには東京公演(新宿・花園神社)の事しか書かれていない。じゃあ、どこで観たのだ❓ 再びネットサーフィンが始まった。

で、だいぶと苦労した揚げ句、漸く関西公演についての記述を見つけた。
どうやら場所は生國魂神社ではなく、また大阪でもなくて、京都だったようだ。「今宮神社御霊」とある。そんなとこ行ったっけ❓ 別な芝居か❓ じゃあ初めて観たのは何処で何だったのだ❓と脳ミソが一瞬パニックになりかけた。(´-﹏-`;)エーッ❗❓、ワシの記憶装置って、そこまでポンコツなの〜❓
だが、徐々に記憶が戻ってきた。
そうだ、結構遅い時間に芝居がハネたので、帰るのはまあまあ終電ギリだったのだ。今宮神社は紫野の船岡山近くにあり、最寄りの駅は無くて、基本はバスで行くしかないのた。うん、確かに京都に観に行ったわ。

戯曲『少女仮面』は、唐が鈴木忠志が主宰する早稲田小劇場に書き下し、1969年10月に初演。翌70年に岸田戯曲賞を受賞。71年には唐自身の演出で状況劇場でも上演された。謂わば代表作だ。調べた中では、この公演が「状況劇場」としては最後の公演だったようだ。最後の公演だからこそ代表作をもってきたのだろう。そして、最後の公演だからこそ、わざわざ自分も京都まで足を伸ばしたんだと思う。

物語のストーリーは全然憶えていない。憶えていたところで、解りやすい明確な起承転結など無かっただろう。だが、そこに意味はない。テント芝居は頭で理解するものではなく、感じるものだからである。
演劇に限らず、芸術やアートはとかく「わかるorわからない」で捉えられがちだが、テント内の空間には「わかる・わからない」を超越したものがある。照明が落ち、闇が訪れる。暗闇に心がざわめく。この、ほんの僅かな一刻(ひととき)に、何とも言えない心持ちにさせられるのだ。不安とも期待とも違う形容し難いザラザラとした気持ちだ。
そして闇の奥から音楽が流れ出し、灯りがついた次の瞬間には異空間に放り込まれる。一気に空間は怪しく猥雑な世界に蹂躙され、観客はその胎内宇宙に閉じ込められて、ワケもわからず否が応でも五感を激しく揺さぶられるのだ。

番組では、過去のインタビューも挿入されていて、そこで唐さんは『芝居は、観客を現実原則の外に連れ出すための麻薬。』だと語っている。確かに映画なんかよりも芝居の方が、そうゆう要素が強い。映画館では、空間が異次元化することはない。現実と虚構に、ちゃんとした線引きがされている。おそらく、そこにはリアルな役者の肉体が在るからだろう。ゆえに現実と虚構が混じり合うのだ。

観ていて、正直言って皆下手クソだなと思った。マシンガンのように早口でまくし立てられる役者たちのセリフは滑舌が悪くて、何言ってるか解らない。でも、それでいいのである。言ってしまえば、おどろおどろしい見世物小屋なのだ。言葉と肉体が躍動する異次元世界に、ただただ身を任せればいい。
思うに、演劇の原点である河原乞食の時代は、このような世界だったのではなかったか。きっと歌舞伎なんかも元々はこうゆうものだったのだろう。そういや番組では紅テントが、故・中村勘三郎に多大な影響を与え、それが「平成中村座(註3)」の旗揚げに繋がった事も取り上げられてたな。
勘三郎さんは紅テントの芝居に触発され、それが歌舞伎の原点だと考えた。そして、念願の歌舞伎本来の客席と舞台との距離が近く、演者と客が一体化できるような空間を作り上げたのである。

 

(出展『Wikipedia』)

 
勘三郎さんが亡くなったのは57歳だ。そのあまりにも早い死はショックだった。今でも残念でならない。もしまだ生きていたら、歌舞伎界の枠をはみ出して活躍していたに違いない。

何度も流されるメリー・ポプキン「悲しき天使Those were the days my friend」がとても素敵だった。
切ない旋律は美しくて同時に力強く、ロマンと旅情に溢れている。たぶんジプシー音楽だ。流浪の民の香りがする。紅テントも全国を旅していたワケだから、謂わばジプシーみたいなものだ。日本だけでなく戒厳令下のソウル(韓国)、独立したばかりで混乱していたバングラデシュ、レバノン・シリアのパレスチナ難民キャンプなどでも公演が行われている。紅テントは忽然と現れ、忽然と姿を消すのだ。心を揺さぶられる。たぶん放浪の旅には、自分は終生憧れ続けるだろう。

 
メリー・ホプキン『悲しき天使』

(タップすると曲が流れます。)

 
唐さんは、このレコードをかけっ放しにして、カレンダーの裏に『少女仮面』を二日間で一気に書き切ったという。

そして、この曲が流れる中でのエンディングだった。しかも屋台崩し。最後には突然、舞台後ろのテントの奥が開き、外の風景と繋がるのだ。
一瞬だが、母の胎内から外界に出た嬰児(みどりご)の如く、世界が真新しく見えたのを憶えている。

2回目に観た紅テントの芝居は何だろうか❓
頭の中にある紅テントの風景は、大阪だと前述した生國魂神社と精華小学校だ。

 

(出展『Het大阪建築』)

 
精華小学校はミナミのド真ん中、高島屋からも近い戎橋商店街沿いに入口があった歴史ある小学校で、レトロな雰囲気がとても好きだった。今は取り壊されてエディオンになっちゃったけどね。歴史的建造物が電気屋になるだなんて悲し過ぎるよ。
日本は古い建物にもっと敬意を払うべきだし、遺す努力をすべきだ。でも平気で簡単にブッ壊しよる。そうやって日本全国の風景が平準化されてゆくのだろう。それってクソみたいな事で、唾棄すべき愚かなことだと思う。

色んな検索ワードで試して、何とか1989年に生國魂神社で『ジャガーの眼』が再演されているのを見つける事ができた。
たぶん紅テントを生國魂神社で観たという記憶は、この時のものだろう。これで『ジャガーの眼』というタイトルが頭に残っていたという理由にも解決がつく。

 

(出展『amazon』)

 
ならば精華小学校の紅テントの記憶は何なんだろう❓
校庭に紅テントが張られていたという記憶は絶対に在るのだ。写真だと、白いワゴンがある辺りにテントが張られていた筈だ。これは幻の記憶ではないと断言できる。
或いは当日券で観ようと思ったが、入れなかったとか…。そういや、その時は一人ではなかったような気がする。だとすれば、或いはユーラシア大陸をバイクで横断した時の相棒と、後にその嫁となるシノブちゃん辺りと吉本新喜劇を観た帰りにでも冷やかしで様子見に寄ったのかもしれない。
段々『ジャガーの眼』も本当に観たのかどうかの自信が無くなってきた。この頃には既に東京に住んで三年目になっていたからね。
もう、こうゆう曖昧模糊とした記憶の霧の中を彷徨うのはよそう。そんな事、今となってはどっちだっていい事じゃないか。

次に観た唐組の芝居は、ちゃんと憶えている。
1991年、京都の円山公園で観た『電子城Ⅱ』だ。

 

(出展『路地裏 誠志堂』)

 
この白黒のチラシは、よく憶えている。
だって写真で見ても、下に並ぶ三人の役者陣の個性が強烈なんだもん。化け物屋敷かよと思った。ちなみに左から麿赤児、大久保鷹、唐十郎の並びである。

「乞食城より第十一指令!!
城門前で別れた者たちを集めよ!
そして少女アセトアルデヒドを捕えよ!」

こうゆう惹句的なのは結構好きだなあ。ワクワクする。
オラも一度はこんな風な感じの文面で指令を受けたいものだ。

↓下のは店販用ポスターみたいだ。大抵の劇団がチケットの販促のために居酒屋など飲食店にポスターを貼ってもらうのだ。これは、だいたいにおいて新人劇団員のお仕事なんだよね。人見知りの劇団員にとっては、もう地獄なのだ。人見知りしないワシでも結構辛いもんがあったからね。

 

(出展『オークフリー』)

 
この芝居は大学の後輩の古川と美紀ちゃんと行った。あともう一人か二人いたなあ❓菊池かなあ。あと福助さんもいたような気がする。
芝居は基本的には一人でを観に行くことにしている。だから自分から誘うことはないだろうから、きっと古川あたりに誘われて行ったんだと思う。

早く着いたので、紅テントの裏をウロついてたら、黒いスーツに黒い帽子姿の麿赤児が一人で佇んでいたのをよく憶えてる。何てったってモノ凄いオーラが出てたからね。忘れようにも忘れようがない。けど、本当は最初は麿赤児だってワカンなかったんだよね。何気にわりと至近距離まで近づいてしまってから気づいた。そういや、古川が『麿さんと知り合いかと思いましたわ。そんな近づき方でしたからね。』とか言ってたな。

この公演は初期の状況劇場の看板俳優である麿さんと大久保鷹が客演で出ていた。大久保鷹は劇団から忽然と姿を消して、長い間行方不明だった事から、キャッチフレーズは『生きていたのか、大久保鷹❗』だったんじゃないかな。

勿論、内容なんて憶えていない。
憶えているのは唐さんと麿赤児と大久保鷹だけだ。この三人がとても楽しそうに演じていた。めちゃくちゃフザけてたけどさ。
大久保鷹が、歩くとキュッキュッ、キュッキュッと鳴る幼児用のサンダルを爪先履きして出てきたのには笑ったな。麿赤児は突然、黒いスーツを脱ぎ始めたと思ったら、中はピンクのレオタードだった。そして痙攣するようにカクカク踊りだしたのだ。何だか度肝抜かれたよ。麿さんは舞踏家でもあるから(註4)解らないでもないけど、何でレオタードやねん❓もう次の瞬間にはオカシクって笑い転げていたよ。
その二人と再び同じ舞台に立った唐さんは、とても嬉しそうだった。この時の唐さんが一番生き生きとしていたように思う。

レオタードで思い出した。
この数日後には、大学の後輩たちが作った劇団の団員たちと仮装ソフトボール大会をしたんだよね。
何でそんな事になったのかとゆうと、オラがこの時期に偶々東京から大阪に帰ってきていて、後輩たちが『○○○さん、今回は何したいですか❓』と訊いてくるので、単なる思いつきで「仮装ソフトボール大会。」と答えたにすぎない。
勿論というか、多分というか『オマエら、やるからには手ぇ抜くなや。徹底的に気合い入れたれや、ワレー。』などと声にドスを効かせて言ったに違いない。
自分でゆうのも何だが、20代から30代まではやる事が破天荒のムッチャクチャだったのだ。だから大阪に帰って来ると毎回、嵐が巻き起こると言われていた。この他にも「焼肉焼いても家焼くな事件」とかハチャメチャなエピソードが結構あるのだ。
話が逸れまくっているが続ける。
この仮装ソフトボール大会には笑った。長髪に70年代風のパンタロン裾幅広ジーンズの奴がレフトで、ずうーっとギターをかき鳴らして歌ってたり(打球が飛んで来る度に足元のグローブをはめてたのも笑った)、長いドレス姿で踊ってる奴がセカンドゴロを捕ろうとして裾を踏んづけて大コケして派手にゴロゴロ転がったりとか、麻薬ジャンキーの丸サングラス盲目男がボンゴを叩きながら、時々腕を捲ってゴムで縛り、セロテープで貼り付けたスポイトを取っては注射を打って陶然となってるふりをしていた。スポイトには御丁寧にも1つずつ「覚醒剤」「ヘロイン」「LSD」「阿片」とかマジックで書いてあったのだが、ネタ切れで最後のスポイトには平仮名で「まやく」と書いてあったなあ。アレ、妙に可笑しかったよなあ。
自作の缶コーラの被りものをしてた奴もいたなあ…。そいつ、運動神経抜群だったからバッティングも良かったんだけど、被りモンを針金でガチガチに作ったもんだからバットを持っても肘が全く動かせなかった。だから変なバッティングフォームになってて、全部空振りの全打席三振。彼は本来は強打者なだけに、とても悲しそうな顔をしてたんだよね。申し訳ないけど、アレにも笑ったよ。そういや、振り逃げで走ったけどドテッとファースト前でコケてもいたな。他にはソフトボールのユニフォーム姿なんだけど超巨乳女だとかアラブ人の格好した奴とかもいたな。
そして、着物姿で刀を持ってピッチャーをしてた古川は、試合中盤、オラが打席に立ったら、突然「ワシを斬ってくだせぇー。」とかヌカし出しやがるから、刀を奪い取ってバッサー❗と思いきし斬ってやったら、アレェ〜とか言って悶え始めた。で、カクカクしながら脱皮するように服を脱ぎ始めた。何をしとんねん❓と思ったら、中は何とピンクのレオタードであった。そしてレオタード姿で麿赤児ばりに更に激しくカクカク踊りだした。😄爆笑である。
そんな姿の我々を体育会系の学生たちが、ずうーっと無表情で遠巻きに見てたんだよねー。
あっ、スマン。完全に脱線だね。話を本筋に戻そう。

唐さんの芝居を最後に観たのは、1992年の『ビンローの封印』だった。

 

(出展『日本の古本屋』)

 
唐さんの小説担当の徳間書店の編集者の人に連れて行ってもらったのだ。
たぶん場所は新宿・花園神社で、公演初日だったんじゃないかと思う。なぜなら芝居がハネたあとに招待客だけが残って車座に座り、唐さんが客一人一人に酒をついで回る儀式にもいたからである。おそらく初日に招待客を呼び、挨拶するのが習わしだったんだと思う。
周りには俳優とか作家とかの有名人が何人もいたけど、今や誰だったかは思い出せない。唯一、覚えているのは斜め後ろに映画監督の林海象がいたことくらいだ。待てよ、作家の島田雅彦もいたような気がするな。
ちなみに番組では、大江健三郎、大島渚、篠山紀信、吉本隆明、澁澤龍彦、柄谷行人、村松友視などの作家や映画監督、役者、芸術家、評論家など錚々たる人たちが引き寄せられるように集まったと紹介している。

唐さんは自分の前にも来て、一升瓶で紙コップに日本酒を注いでくれた。そして、鋭い眼光でコチラをジロリと見た。流石、武闘派で鳴らした御仁だ。オーラも凄かった。何か粗相でもしたかと、ちょっとビビったっけ。
そして、オラの目をグッと見て言った。

『おまえ、いい面構えしとるなあ。役者か❓』

気圧されて、
『はあ、川村さんとこ、第三エロチカにいました。』
と答えた。でも、こっちも負けまいとキッと唐さんの目を見て言ったけどね。
そしたら唐さんが、
『うちに来ーい❗』
と言ったんだよね。
その言葉は、番組で流された『北の国から』の映像の、純に言って海に向かって仁王立ちした時のセリフと全く同じだった。声も口調も寸分違(たが)わない。

 


(出展 NHKBSP『アナザーストリーズ』)

 
その声が、十数年振りに耳の奥でリフレインする。

でも、たぶん突然の事で『はあ…。けどそんなこと急に言われましても…』とか何とか、しどろもどろで誤魔化したような返答をしたと思う。劇団を辞めて、あまり経ってなかったから色々と行く末に迷っていた時期で、芝居を続けるか否かの岐路に立たされていた時でもあったのだ。それに元状況劇場に在席していた知り合いに、劇団の共同生活の過酷さを聞いていたというのもあったのかもしれない。家族みたいなもので、プライベートがなく、バイトも出来ないとか言ってたのだ。どこまで本当かはワカンナイけどね。

最後に唐さんは、
『その気になったら、いつでも来いや。』
と言って隣の人に酒をつぎ、話しだした。それで、ちょっとホッとしたのを憶えている。

唐さんに褒められたのは、正直嬉しかった。
今思うと、もしその懐に飛び込んでいたなら、どうなってたんだろう❓また違った人生を歩んでいたに違いない。

テントの外に出ると、もわっとした生暖かい空気に包まれた。
夏は既に終わっていたが、まだまだ残暑の厳しい年だった。
そして夜空の下の新宿の街は鮮やかなネオンに彩られていた。
新宿には、それ以来行ってない。

                        おしまい

 
追伸
番組を見て初めて知ったのだが、唐さんは2012年に自宅前で転倒して頭部を強打して緊急入院、脳挫傷と診断されたという。そして手術は成功したのだが、後遺症は残ったようだ。それから9年、今は80歳を越えておられる筈だ。番組を見た感じでは、演出を劇団員の古株に託し、第一線からは引いているようだが、稽古場には時々顔を出しているみたいだ。
元気な姿で、また舞台に立って欲しいと思う。そう、切に願う。

 
(註1)寺山修司
[1935年〜1983年」
歌人,劇作家,演出家,詩人。早稲田大学国文科中退。高校の頃から詩才が注目され,大学進学後には短歌50首『チェホフ祭』 で『短歌研究』新人賞を受賞。「私」性を排したロマンとしての短歌で戦後短歌史に新しい1ページを開いた。1960年に処女長編戯曲『血は立ったまま眠っている』を発表。 67年には横尾忠則らと実験演劇室「天井桟敷」を結成。見世物の復権を唱え,徹底した前衛性と市街の劇場化などで国内外にセンセーションを巻き起した。代表作に『毛皮のマリー』『奴婢訓』などがある。また『田園に死す』などの映画や,エッセイ,評論でも鋭い感性と独自の視点をみせた。(『ブリタニカ国際大百科事典』より抜粋)

  
(註2)生國魂神社
大阪市天王寺区生玉町にある歴史ある神社で、大阪の代表的な古社の一つである。
かつては現在の大坂城の地に鎮座し、中世にはその社地に近接して大坂本願寺も建立されて繁栄したが、石山合戦後の豊臣秀吉による大坂城築城の際に現在の地に移されている。
この生國魂神社が祭神とする生島神・足島神は、国土の神霊とされる。両神は平安時代に宮中でも常時奉斎されたほか、新天皇の即位儀礼の一つである難波での八十島祭の際にも主神に祀られた重要な神々で、生國魂神社自体もそれら宮中祭祀と深い関わりを持つとされる。また、同様に大坂城地から移されたという久太郎町の坐摩神社と共に、難波宮との関わりも推測されている。その後、中世・近世を通じても崇敬を受け、戦前の近代社格制度においては最高位の官幣大社に位置づけられたという。
新字体は「生国魂神社」。
正式名称は「いくくにたまじんじゃ」だが、周辺に住む人々の間では「いくたまじんじゃ」「いくたまさん」と呼ばれている。生玉町にあるし、生玉神社と表記されることも多いから、オラもずっと「いくたま神社」「いくたまさん」と呼んできたし、「生國魂神社」と書いて「いくたま神社」と読むのだとばかり思っていた。だから、ちょっと青天の霹靂だ。
でも、これから先も「いくたま神社」と呼び続けるけどね。「いくくにたまじんじゃ」だなんて、歯が浮いて噛みそうだもん。絶対、それ無理。

 
(註3)平成中村座
歌舞伎役者の第十八代中村勘三郎(初演時は五代目中村勘九郎)と自由劇場の演出家 串田和美らが中心となって、浅草・隅田公園内に江戸時代の芝居小屋を模した仮設劇場を設営。「平成中村座」と名付けて2000年11月に歌舞伎『隅田川続俤 法界坊』を上演したのが始まりである。

 

(出展『Wikipedia』)


(出展『歌舞伎美人』)


(出展『チルチル☆Chimei☆』)

 
翌年以降も、会場はその時々によっては異なるものの、ほぼ毎年「平成中村座」を冠した公演が行われてきた。だが、座主の勘三郎が2012年12月に他界した為、2013年は公演が行われなかった。その後、勘三郎の遺志を継いだ長男の六代目中村勘九郎が座主を引き継ぎ、2014年に実弟のニ代目中村七之助、ニ代目中村獅童と共にアメリカ合衆国・ニューヨークで平成中村座復活公演を行った。
初演から2004年のニューヨーク公演までは仮設の芝居小屋での上演を特色としていたが、2006年の名古屋平成中村座公演以降は、既存の施設を利用しての公演も行われている。

 
(註4)麿さんは舞踏家でもあるから
状況劇場を退団後、1972年に舞踏集団・大駱駝艦を旗揚げ、主宰する。海外公演も積極的に行い、舞踏を「BUTOH」として世界に広めた。

 

寒鯖で〆鯖を作る

 
2月初めの事である。
スーパー玉出で丸々と肥った鯖が売っていた。寒サバという奴であろう。三重県産とあるし、どこかの湾内でたっぷりと脂肪を蓄えたものに違いない。
でも鮮度は微妙だ。抜群に良くはないが、鯖寿司が出来る範囲内には入っていそう。でも鯖はアタるとヤバいんだよなあ。一度、鯖寿司で酷い食中毒になった事があるからね。しかも百貨店の物産展で売ってた高級鯖ずしでだ。上からも下からもリバースしっぱなし。3分に1回はトイレに駆け込むという状態で、3日間で頬はゲッソリ、廃人のようになった。その時以来、京王百貨店には行っていない。ゼッテー、京王百貨店で買い物しないと心に固く決めたのだ。

念のために店員を呼び、鯖寿司が出来るか否かを尋ねる。
「大丈夫です」と答えるので、3枚におろしてもらった。

①先ずは身の両面に、たっぷりと砂糖をまぶす。してからに斜めに傾けて1時間程おく。
塩ではなく、なぜに砂糖❓と訝る向きもあろうが、あの「分とく山」の野崎さんも砂糖で〆るを推奨されておるのだ。味が格段に良くなるらしい。
言い忘れたが、傾けるのは臭みの元となる液を折角外に出したのに再び体に付着しないためだ。

②1時間経ったら砂糖を水で洗い流し、表面の水気を拭き、今度は塩で〆る。コレも傾けて1時間ね。

③塩を水で洗い流して表面の水気を拭いて、次は米酢に漬ける。時間は、お好みの〆具合と鯖の大きさによるが、15分から1時間の間ってところだが、浅締めにしたいので裏表15分ずつの計30分浸した。

④酢から上げて水気を拭いたら、薄皮を剥く。酢に漬けてからだと簡単に剥けるのだ。中骨もこの時点で抜く。生の状態で抜くよりも酢で締めた後の方が身がボロボロになりにくい気がするのだ。あくまでも、そんな気がするというレベルだけど。

食べ切れそうにないので、半身は昆布で巻いてからラップして冷凍庫にブチ込む。コレでアニサキスも死滅じゃよ。
アニサキスが怖ければ、もう半身も冷凍庫に72時間ブチ込むべしだが、アニサキスが怖くて生ずし(〆さば)が食えるかってんだ、٩(๑òωó๑)۶バーローめがっ❗

包丁で真ん中に切れ目を入れるべきだが、邪魔くさいので、そのまま削ぎ切りにしていく。
でもって皿に盛り、生姜と辛子を添えて完成。

 

 
先ずは、何もつけずにそのまま食う。
(≧▽≦)うんめっ❗脂がスゲーのってる。

お次は醤油をつけて。
これまた🤩うみゃーい❗
日本酒をキュッといくと、もう堪んない。身悶えする。

デカい鯖なので半身丸々は食べ切れない。残りは醤油と生姜を混ぜて一晩おくことにした。

 

 
ネギと白ごまを加えて混ぜて食べてみた。
酒のツマミにはバッチシやんけの、やんけーやんけーやんけーやんけー、そやんけ、ワレー。ワレーワレーワレー、そやんけワレー。河内のオッサンはシャウトする。
でも、はたと白飯と一緒だと、もっと美味いんじゃないかと思った。

 

 
やっぱ、旨いねぇ〜(´ω`)
正解だったよ。

数日後、冷凍してあった昆布〆ヴァージョンも食べることにした。

 

 
水分が少し抜けた感じだ。

 

 
白くなっているから、前回よりも酢が回ってる感じである。
食べてみよう。

(・∀・)なるほどね。
やはり酢が回ってるが、昆布の旨味がしっかり身に馴染んでいる。コレはコレで旨いね。どっちが美味いかと訊かれれば、浅締めだと答えるけどさ。

しかし、これは味見にすぎない。本チャンは鯖寿司なのだ。
その為に、最初に酢締めにした時の酢に軽く火を入れて冷まし、砂糖と昆布を入れた寿司酢を作り、前日からスタンバらしてある。
米を炊き、その寿司酢を混ぜて酢飯を作る。

 

 
酢飯には、ふんだんに白ごまを混ぜ合わせてある。
味は勿論のこと旨い✌️

腹一杯食ったけど半分残ったので、翌日は焼き鯖寿司にすることにした。
金串を刺して、ガス火で直火で皮目を焼く。で、今度も酢飯の上に盛り、辛子を横に添える。

 

 
焼き鯖にすると、趣きがグッと変わる。
より脂がグッと前面に押し出しきて、コレもまた旨いね。やはり寒サバだけあって脂のノリがスゴいわ。

来年もまた作ろっと。

                        おしまい

 

闇夜の絢爛

 
2020年 7月26日

ライトトラップを設置して30分くらい経った頃だったろうか。
突然、小太郎くんが椅子から立ち上がり、小走りに駆け出した。

何❓何〜❓もしかしてアズミ❓
えっ❗❓、えっ❗❓、えっ❗❓、もう飛んできたのー❓

この日はアズミキシタバ(註1)狙いで長野県を訪れていた。

 

 
慌てて自分も後を追っかける。
アズミキシタバが灯りに飛んで来るのは夜半前後と聞いていたけど、イレギュラーも有り得ると思ったのだった。

小太郎くんがライトトラップの裏へと回った。そして、深く濃い闇の手前でしゃがみこんだ。どうやらターゲットを追い込んだようだ。
ねっ、ねっ、アズミなのー❓もしかしてアズミキシタバが採れたのー(゜o゜;❓
しかし、返答がない。もー、何か言ってくれよー(・o・;)

三拍くらいおいて漸く小太郎くんは立ち上がり、振り向いて言った。

コレ、密かに狙ってたんすよー❗

見ると、手にケバいくらいの派手派手な蛾を持っている。
驚愕が走る。一瞬、その強烈な姿に仰け反りそうになった。
黄色、赤、黒。闇夜に浮かび上がる鮮やかな色のコントラストは衝撃的だった。しかも、デカい。
(⑉⊙ȏ⊙)図鑑で見たことあるぞー、ソレ。

名前は、たぶんアレだ。
『それって、もしかしてジョウザンヒトリ❓』
こともなげに小太郎くんが返答する。
『(・∀・)そうですよー。此処だと採れるんじゃないかと思ってたんですよねー。』
 
やっぱ、そうだったのね。ジョウザンヒトリはワシも会ってみたかった蛾の一つだ。俄然、奮い立つ。
思ってた以上にデカいんで驚いたけど、それ以上に驚いたのはその美しさだ。正直、図鑑で初めて見た時は毒々しくって背中がオゾった。華美が過ぎて邪悪な毒婦といった趣きに畏怖さえ感じたのを憶えている。だけど実物は絢爛ゴージャス。毒々しさを美しさが凌駕している。
百聞は一見に如かずだね。どんな生き物だって実物が一番美しい。そこには輝くような生命のオーラがある。素直にジョウザンヒトリって、こんなにも美しいんだと思った。

しかし、その時の画像はない。
写真を撮らせてもらおうかとも思ったが、負けず嫌いなんで自分で採って、自分で撮ったるわいと思ったのだ。
とはいえ小太郎くんのライトトラップなんだから、結局のところは採らせて戴くというのが正しいんだけどもね。

午後10時過ぎ。
闇の中で極彩色が明滅した。
(☆▽☆)来たっ❗❗

慌てて追いかけるがライトに飛んで来たと思ったら、スルーして地面に落ちた。で、暴れ倒している。わちゃわちゃしてるターゲットに、わちゃわちゃで駆け寄り、何とか手で抑えこんだ。

 

 
暴れ倒したせいで翅が少し擦れてしまったが、キレイだ。
小太郎くんの採ったのよりも鮮度は良い。
よく見ると、前翅の紋は黄色じゃなくて、クリーム色なんだね。地色も黒じゃなくて焦げ茶色だ。一方、後翅の紋は焦げ茶色ではなくて黒だ。そして、胴体はドギツいまでの鮮紅色である。概念を飛び越えて、豪奢に美しい。

自分は元々蝶屋で蛾は忌み嫌っていたから、こうやって蛾を手で触るだなんて、2年前なら考えられないことだ。蛾を見たら恐ろしくて飛び退いていたくらいだから、隔世の感ありだ。人生、何が起こるかわからない。そういや、あんまし好きじゃなかった女の子にいつの間にかズブズブに惚れてたって事もあったよな。

午後11時半に、もう1頭飛んで来た。

 

 
今度のは擦れていて、やや小振りだ。
時期的には少し遅いのかもしれない。アズミキシタバも♂の鮮度は落ちているものが多かったから、2021年はもう1週間早めに来た方が良さそうだ。
とは言いつつも、小太郎くんが連れてってくんないとどうしようもないんだけどね。

                         つづく

 
「つづく」としたし、次回を種の解説編として2回に分けて書くつもりだったが、後編の繋ぎの前書きを書くのが邪魔くさくなってきた。このまま続けよう。

だいぶ経った秋の終わりに漸く展翅した。

  

 
いやはや、裏もドギツいね。
あれっ(・o・)❓、採った時には全然気づかなかったけど、コヤツ、何か腹先から突起物が出ているぞ。
蛾に、こんなもんがある奴がいるとは知らなんだ。何かハサミムシの尻みたいだ。或いはナウシカに出てくるトンボとヘビトンボの合の子みたいな蟲とかさ。これって、ちょっと邪悪感ありだな。
野外写真で確認すると、1頭目の2枚目の写真にもハッキリとヤットコみたいなのが写っている。
オスかなあ❓メスなのかなあ❓
何のために、こんなもんがあるのかな❓このハサミでメスを無理矢理おさえつけ、オラオラで手ごめにする強姦蛾だったりしてね(笑)

 

 
展翅すると、ものスゲー毳(けば)い。
絢爛というよりかは、毒々しさが勝っている。ハサミムシみたいな突起物もあるし、やはり邪悪やね。それに美しいのは美しいけれど、下手したら道化の衣装みたく見えてきた。

一応、触角は真っ直ぐ系にしてみたが、何か違和感がある。あんまし蛾っぽく見えないのだ。やはり蛾は邪悪な感じでないといけんような気がする。まあ蝶屋の勝手な思い込みだけど…。
余程やり直して湾曲系の怒髪天にしてやろうかとも思った。
しかし、手のひらに乗せた横面画像では触角が真っ直ぐになっているし、採った直後の写真でも真っ直ぐっぽい。ならば、このままにしておくか…。

もう1頭の方も確認してみる。

 

 
(☉。☉)!あらま、コチラには尻に突起物がござらん。
とゆうことはだな、オスとメスとでは尻の形が違うって事だね。ちょっと驚きさんだ。じゃあ、どっちがオスでどっちがメスなんざましょ。やはり、こっちが♀で強姦される方なのかな❓

 

 
でも、こちらの方が小さいし、翅の形も全体的にシャープだから♂かなあ❓蝶や蛾の雌雄は相対的にオスよりもメスがデカい。そして翅形はオスがシャープでメスが丸みを帯びるというのが定番だからね。じゃあ、強姦どうのこうのという話は無しか…。
(´-﹏-`;)むぅ……。ならば、こうならどうだ。
メスはフェロモンでオスを誘い出し、近づいて来たところを尻のハサミでワッシと掴み、身悶えするオスを無理矢理に逆に手ごめにするとゆうのはどうだ❓男を巧みに誘い出しては屠る毒婦じゃよ。カマキリ夫人ならぬ、ペリカリア夫人だ。
Σ( ̄□ ̄lll)ハッ❗、なに言ってんだ❓、オラ。頭イカれてるぞ。何をアホみたいなことを妄想しておるのだ。想像力がクズだ。

(・o・ ) おっ、それとこっちは後翅の黒い斑紋が繋がってて、帯状になっとるね。コレも雌雄に関係あるのかな?まあ、それはないと思うけど。
ゴチャゴチャ言っても始まらない。取り敢えずは、どっちがオスでどっちが♀なのかを調べよう。

(@_@)ゲッ❗、調べたら、どうやらハサミムシみたいなのがオスみたいだ。又しても驚きだ。予想を裏切られたよ。
 
♀は、やや触角を湾曲させてみた。
でもなあ…、思ってた程にはカッコよくないんだよなあ。カトカラ(註2)みたく、ビシッと決まらない。
思うに、蛾において触角が短い種は真っ直ぐさせるよりも湾曲させた方が格好いいんではないだろうか❓
前脚も前に出した方が邪悪度は増すかもしれない。もし来年また採れたら、今度は思いっきし邪悪仕様にしてやろう。

一応、並べて撮ってみよう。

 

 
やはり明らかにメスよりもオスの方がデカイ。
普通、鱗翅類の多くの種はメスの方がデカいし、全体的に丸っぽいから違和感ありありだ。でも、たまたまこの♀が小さいだけなのかもしれないから何とも言えないけど…。

手を抜いていると言われるのも癪だから、カトカラの連載と同じく種の解説もシッカリしておこう。

 
【分類】
科:ヒトリガ科(Arctiidae) ヒトリガ亜科(Arctiinae)
属:Pericallia Hübner, 1820

 
【和名】
ジョウザンヒトリのジョウザンは北海道の温泉地として有名な定山渓の事を指しているものと思われる。おそらく最初に定山渓で発見されたから命名されたのだろう。
ヒトリはヒトリガの仲間の略称だね。

 
【学名】
Pericallia matronula (Linnaeus, 1758)

属名の”Pericallia”の語源は調べたが分からなかった。
因みに植物のシネラリア(キク科)の属名に”Pericallis”という近いものが使われている。

小種名の”matronula”は「未亡人」を意味するそうな。
これは良いネーミングセンスだと思う。ソソるね。想像力を掻き立てられる。
それにしても、えらくド派手な未亡人だなあ(笑)。
とんでもない毒婦で、金持ちの旦那を毒殺して遺産ガッポリ。派手に遊びまくってる未亡人を想像してしまったなりよ。若い男を次々と歯牙にかけてゆくのら〜。
ところで、ジョウザンヒトリって毒あんのかな❓こんだけド派手ならば、当然ながら警戒色である可能性が高い。如何にもアタシャ、毒ありますよアピールでしょうよ。
とはいえ、幼虫の食餌植物を確認しないと何とも言えない。もし餌に毒が有れば、間違いなく幼虫も成虫も有毒だからだ。
これは後で、別項でじっくりと検証しよう。

 
【亜種】
原記載(名義タイプ)亜種を含めて、現在のところ3亜種に分類されている。

◆ssp. matronula(名義タイプ亜種)


(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
前脚を出してる方がカッコイイかも。あと、ハサミの部分はちゃんと整形した方がカッコイイんだね。そこまで考えて展翅すべきたったよ。今さらなおす気はないけどさ。

 

(出展『Photo Gallery Wildlife Pictures』)

 
名義タイプ(原記載)亜種はヨーロッパに産する。但し分布が限られる稀種で、絶滅の危機に瀕しているようだ。

極東のモノとは、どう違うのだろう❓
検索してみたら、前翅が焦げ茶色の極東のものと比べて色が薄く、カーキ色というか黄土色、オリーブグリーンのものが多いような気がする。けど、それが固有の特徴なのかは分かりませぬ。あくまでも印象で言ってます。

 
◆ssp.sachalinensis Draude,1931 (サハリン亜種)


(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
コチラは♀だね。後翅の黒帯は繋がってないから、雌雄の判別とは関係ないようだ。
さておき、他に見た限りは繋がってるのはいないから、コレって珍しい型なのかもしれない。

ちなみにヨーロッパでは珍品だけど、極東では普通種なんだそうな。

 
◆ssp.helena Dubatolov & Kishida, 2004 (日本亜種)


(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
日本産は以前はサハリン亜種に含まれていたが、♂交尾器の差違により近年になって分離された。但し、外見上からは区別が殆んどつかないらしい。

尚、岸田先生の『世界の美麗ヒトリガ』には、異常型が載っている。

 

(出展『世界の美麗ヒトリガ』)

 
白骨温泉で採集されたものだが、こんなもんワシだったら直ぐにはジョウザンヒトリとは気づかんだろね。見てもスルーしてるかもしんない。

 
【シノニム(同物異名)】
シノニムとして無効になった学名がいくつかある。

・Phalaena matronula
・Pleretes matronula agassizi

 
【開張(mm)】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、73-79mmとなっている。
一方『日本産蛾類標準図鑑』には、♂70mm内外 ♀80mm内外となっていた。
(・o・;) あれっ、やっぱり基本的には♀の方がデカいじゃないか。じゃあ、ワシの採った♀は矮小型❓
でも、よくよく見ると、ワシの採った♀も胴体は小さくとも開張(前翅の横幅)は上の♂とあまり変わらないのである。そうゆう意味では間違ってはいない。
以前から常々思ってたけど、この鱗翅類の大きさを表す開張とか前翅長ってのは、時に正確な大きさを表せていないケースがある。例えば前翅が横に幅広いが、後翅は小さいスズメガの仲間などは表面積は意外とないのだ。

 
(オオシモフリスズメ♂)

(2018.4月 兵庫県宝塚市)

 
そうはいえども、表面積なんか簡単には測れないから致し方ないんだけどもね。
されどテクノロジーの発展が目覚ましい現代ならば、近い将来にはスマホをかざせば、面積を瞬時に教えてくれるようになるかもね。そのうち図鑑でも表面積で大きさを表す時代がやって来るかもしれない。

話が逸れた。ジョウザンヒトリの大きさに戻ろう。
とゆうことは、本来の大きさの♀は、この♂よかデカいって事なのか…。♂70mm内外 ♀80mm内外というならば、この♂よりも1センチもデカいワケだね。だったら、相当にデカいとゆうことになる。それって、スゲーな。ワクワクするぞ。
確認のためにコヤツらを計測することにしたっぺよ。

(◎o◎)ありゃま❗上の♂は84mmもある。って事は♂の平均が70mm前後とすれば、スーパーなデカ♂って事じゃないか。
下の♀も測ってみる。
(--;)……79mm。何だよ、それって♀の平均的な大きさじゃないか。ようは別に矮小個体でも何でもないってことか…。得したような気もするが、何だか損した気分だ。デカ♂が採れたんだと思うと嬉しいが、♀の馬鹿デカさへの期待は見事に萎んだワケだからガッカリなのだ。チェッ(--メ)

 
【分布】
ヨーロッパ(フランス東部のアルプス地方と東ヨーロッパの中央部及び南部)から極東までのユーラシア大陸北部。
日本では、北海道,国後島,本州(東北地方・中部地方)に分布している。但し、記録は滋賀県辺りまであるようだ。滋賀県も冬は雪深いし、寒冷な気候に適応した種なのだろう。

余談だが、滋賀県で採集されたものは、かなり変わったフォームをしている。

 

(出展『九重自然史研究所便り』)

 
前翅前縁の4個の黄斑が小さく、前翅下縁先端近くにあるはずの黄斑が消失している。また、後翅の斑紋も縮小している。
2011年7月11日に比良山系の滋賀県朽木小入峠で採集されたオスで、得られているのはこの1頭のみ。
この場所から一番近い記録は福井県だが、岐阜県や長野県の生息地と繋がる県東部から南部の県境の比較的標高の高い地域から得られたもののようだ。つまりは隣県とはいえ、滋賀県で得られた場所からは遠く離れており、産地は連ならない。伊吹山系で見つかれば、また少し話も違ってくるけどね。
とにかく、今のところ滋賀県の産地はジョウザンヒトリの分布の南限であり、他の産地から孤立している。また、最も低い場所で採れたものかもしれないそうだから、独自に進化した可能性はある。となると、もしも朽木で同様の斑紋を持つ個体ばかりが採れれば、亜種になる可能性があるというワケだ。
ロマンがある話だけど、探しには行かないだろうなあ…。心のどこかで、どうせ偶々採れたのが異常型だったのだろうと考えてるのだ。それにその時期に採りたいものは他にいっぱいいるのだ。そこまでジョウザンヒトリに御執心にはなれない。
でも、そうゆう考えが凡人なんだろなあ。
ロマンある人は探しに行ってほしいね。そこそこヒーローになれまっせ。そこの若い人、名をあげるチャンスですぜ。

 
【レッドデータブック】
岩手県:Dランク
福井県:分布限界種B(県レベル)

 
【成虫の出現期】
7月〜8月。

 
【幼生期】


(出展『Photo Gallery Wildlife Pictures』)

 
たぶん終齢幼虫だろう。所謂、毛虫型ですな。特にこうゆう毛だらけのタイプのものを「クマケムシ」と呼ぶそうだ。たぶん熊みたいってことだろう。
猶、日本の幼虫画像は見つけられなかったので、外国のものを使わせて戴いた。

驚いたのは、卵から成虫になるまで何と2年も要することだ。
まるで高地にいる高山蝶や高山蛾みたいな生活史じゃないか。
殆んどの鱗翅類は年一化か年二化、もしくは多化性である。親になるまで2年以上かかるものは高山などの特殊な環境に棲むものくらいなのだ。それとて、平地で飼育すると大概の種は1年で親になることが多いというから、益々ワケがわからない。高山蛾でも何でもないのに、何故に2年もかかるのだ❓そこに重大な秘密が隠されていたりしてね。
何だかジョウザンヒトリって、規格外だらけだ。そうゆうのって何だか素敵だ。好感がもてる。

 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、以下のものが挙げられていた。
ヤナギ科、キク科:タンポポ、オオバコ科、スイカズラ科。
しかし『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は全面的には信用出来ない。誤記が多く、情報も古くてアップデートが全然されてないからだ。
『日本産蛾類標準図鑑』には、キク科ヤナギタンポポ、タンポポ、スイカズラ科、オオバコ科とあった。
ほらね、やっぱり『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は間違ってたやないの。ヤナギ科ではなくて、キク科のヤナギタンポポじゃないか。このサイトには助けられているし、重宝もしているが、何度も騙されてもいる。だから今では鵜呑みにしてはならないと肝に銘じておるのじゃ。変だなと思うものは調べ直している。
まあ、それはさておき、ヤナギタンポポなんていう柳なのかタンポポなのかようワカランものが世に存在するとは夢にも思わなんだよ。

一応、海外での食餌植物の記録も調べてみた。
ヨーロッパのサイトを見ると、やはり多食性で以下のものが食餌植物として挙げられている。

・Lonicera(スイカズラ科スイカズラ属)
・Viburnum(ガマズミ科ガマズミ属)
・Rubus(バラ科キイチゴ属 ラズベリーなど)
・Corylus(カバノキ科ハシバミ属 ヘーゼルナッツの木など)
・Hieracium(キク科ヤナギタンポポ属)
・Vaccinium(ツツジ科スノキ属 ブルーベリーなどベリー系)
・Fraxinus(モクセイ科トネリコ属)
・Quercus(ブナ科コナラ属)
・Prunus padus(バラ科ウワミズサクラ属)

蝶と違い、結局のところ科を跨いで何でも食うぜの悪食蛾風情なのだ。こうゆう節操のないところが、蛾が蝶屋から蔑まされる理由の1つなのかもしれない。まあ、所詮は蝶屋の選民意識にすぎないと思うけどね。
それはさておき、見たところ毒の有りそうな植物は特に無さそうだ。とはいえ、一応チェックしておこう。

調べた結果、やはり特に毒性の強いものはなかった。むしろ殆どの植物が食用や薬用になっているくらいだ。
とゆうことは、ジョウザンヒトリには毒が無いって事なのか❓
だったらド派手に見せる必要性はない。いや、擬態か❓毒は無いのに毒のあるものに似せることによって天敵から身を守ってるのか❓
あっw(°o°)w❗、そういやドクガの仲間にジョウザンヒトリにソックリな奴がいたな。

 
(シロオビドクガ♀)


(2019.8月 長野県松本市)

 
よくよく見れば、色彩の配色パターンは同じだけど、厳密的にみると斑紋パターンが違う。
そういや、恥ずかしながら松本の新島々駅で初めて見た時はジョウザンヒトリかと思って小躍りしたんだよね。蛾は素人とはいえ、虫屋が間違うとゆうことは擬態の精度は結構それなりに高いと言ってもいいレベルなんじゃないかな。
(・∀・)んっ❓ちょっと待てよ。シロオビドクガはドクガの仲間に分類されてはいるが、毒は無かった筈だぞ。当時、名前が分からなくて調べたから、間違いない筈だ。
とゆうことは、シロオビドクガがジョウザンヒトリに擬態しているってワケか。ならば、ジョウザンヒトリには毒があるという逆証明になりはしまいか。

思い出した。このシロオビドクガ、面白いことにオスは見た目が全然違ってて、また別な蛾に擬態していた筈だよな。

 

(出展『BIGLOBE』)


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
雌雄異型なのだ。たしか見た目が違うことから、昔はそれぞれが別な種類だと考えられていた筈だ。そうだ、メスは「ハヤシヒトリ」という名で記載までされてたんじゃないかな。
過去にはヒトリガ科の1種だと思われてたんだね。ドクガの仲間とヒトリガの仲間は分類的には近いと思われるが、蛾の和名は錯綜しがちだ。ドクガとマイマイガなんて名前は違うが、同じカテゴライズ化されてる事が多いからワケわかんねえや。
他にも例えばカクモンキシタバ(Chrysorithrum amatum)という蛾がいるが、カトカラ(Catocala)属の下翅が黄色いグループ(カバフキシタバ、ナマリキシタバ、ヨシノキシタバetc…)をキシタバと呼ぶから、和名的に混同されがちだ。カクモンの属は、”Chrysorithrum”という全くの別属だったりするのだ。同じヤガ科のシタガバ亜科ではあるんだけども、ややこしい。蛾って、こうゆう人を惑わす和名が多いと思う。コレって何とかならんかね❓

♂は昼行性のホタルガに擬態していると言われている。それにしても、雌雄で擬態相手を変えてるだなんて手が込んでんな。

 
(ホタルガ)


(2018.9月 兵庫県宝塚市甲山)


(出展『対馬の蛾類』)

 
ホタルガの方が一回り小さいけど、見た目の擬態精度は高い。
昼行性とゆうことは、目立つだけに毒が有る可能性が高そうだが、一応有無を確認しておこう。

調べたら、幼虫には毒があるようだ。でも、まさかの成虫には毒が無いそうだ。だったら、擬態する意味ないじゃん❗ とゆうことは擬態しているワケではないって事❓ならば♀も別に擬態してなかったりして…。
いや、でもホタルガの幼虫に毒があるならば、それが成虫にも受け継がれてる筈だ。毒蝶や毒蛾とされるものは、知っている限りは全部子も親も毒ありなのだ。だいたいが毒をそのまま持って成虫になるというシステムになっている。だって、その方が捕食される可能性が低くなるから理に適っているからね。ホタルガの成虫に毒がないってホントかね❓何かの間違いなんじゃないかと疑いたくもなるよ。
翻って、もしジョウザンヒトリに毒が無いとすれば、何の為にド派手な姿をしているのだ❓ミミクリー(擬態)する相手に毒があるか、もしくは自身に毒が有るかでないと目立つ意味がないではないか。無駄に派手だと、どうぞ食べてございましと言っているようなもので、天敵にソッコー見つけられて捕食されるだけじゃないか。
う〜ん、ラビリンス(´-﹏-`;)、毎度の事ながら迷路に迷い込んじまったよ。

でも、ヒトリガのグループを代表するヒトリガ(ナミヒトリ)って、毒が有るって聞いたことがあるような気がするぞ。ならば、そこから突破口が見い出せるかもしれない。

 
(ヒトリガ)

(出展『Wikipedia』)

  
ジョウザンヒトリは黄色系の毳々(けばけば)しさだが、こっちは紅系のケバさだ。同じく、よく目立つ。どうみても毒ありまっせーと言ってるパターンだ。

 
【学名】
Arctia caja phaeosoma (Butler, 1877)

(・o・)あれれ❓、同じヒトリガの仲間なのに、ジョウザンとは属名が違うぞ。
(-_-;)ったくよー。こんなとこでもラビリンスに迷い込むとは思ってもみなかったよ。

調べてみたら、どうやら両種は同じArctiinae(ヒトリガ亜科)には入れられてはいるが、属は異なり、ジョウザンヒトリの属である”Pericallia”は1属1種、つまりこの属に含まれる種はジョウザンヒトリだけみたい。そしてヒトリガの属であるArctia属も、日本ではこのヒトリガ1種のみのようなのだ。これって蛾は属が細分化されてるって事なのかな❓だとしたら、それってどうよ❓って感じだなあ。

一応、標本画像も貼付しておこう。

 

(出展『オークフリー』)

 
美しいね。紅が目立つが、下翅の紋が青いというのが、またシャレオツだ。

あれっ(・o・)❓、当然、雌雄が並んでいるとばかり思っていたが、ジョウザンヒトリの♂の尻先にあるハサミムシみたいな突起物が両方ともない。まさかの2つとも♀なの❓それとも、元々ハサミムシ的な突起を持ってないとゆう事❓
気になるので、ここはハッキリさせておこう。

 

(出展『the insert collector』)

 
あった。
上が♀で下が♂のようだが、♂はハサミムシみたくなってない。他の画像でも確認したが、ハサミムシ的突起物のある個体は1つも見つけられなかった。とゆうことはヒトリガには突起物は元来ないとゆうことだ。なるほど、それなら両者の属が違うことも理解できなくもない。

極めて稀に下翅が黄色くなるものが見られ、宮崎県や長野県で得られているという。

 

(出展『世界の美麗ヒトリガ』岸田泰則 著)

 
一瞬、ジョウザンと間違えたよ。シロオビドクガとも似てる。
ヒトリガは個体変異が著しく、同じ斑紋の個体は無いに等しいらしい。それゆえか人気が高く、海外ではヨーロッパを中心に金魚みたく交配して新しい色柄を産み出しているようだ。

 
【和名】
「飛んで火に入る夏の虫」という言葉がある。
目の前に危険が待ち構えているのにも拘らず、火に飛び込んでしまう昆虫の習性を人間に置き換えたものだが、そのモデルになったのがヒトリガだと言われている。夜行性の昆虫の中でもとりわけ自ら火の光へ飛び込んでいく習性を持っているそうな。ゆえに漢字では「火取蛾・燈取蛾・火盗蛾」と表記がされるらしい。コレは目から鱗だった。勝手にヒトリガは「一人蛾」なんだと思い込んでたからね。何でロンリーなんだ?もしかして単為生殖なのかもとか色々と想像してたが、そっちかよ。
けど、蛾の中で特にヒトリガだけが火の中に飛び込みたがるとは、ちょっと信じ難い。ヒトリガの実物をまだ見たことがないから何とも言えないけど、どうにも眉唾っぽい。
そういえば有名な日本画に、飛んで火に入る夏の虫的なのがあったな。えーと、何だっけ❓そうそう、速水御舟の『炎舞』だね。あそこにはヒトリガは描かれていたっけか❓描かれていたとしたら、ヒトリガ自殺率高し説も納得なんだけどさ。

 

(出展『Wikipedia』)

 
どうやら描かれていないみたいだね。
なあ〜だ、つまんなねぇなあ。

さてさて、肝心の幼虫の食餌植物である。

 
【幼虫の食餌植物】
クワ科:クワ、スイカズラ科:ニワトコ、スグリ科:スグリ、キク科:キク類、アサ科:タイマ、雑草

『みんなで作る日本産蛾類図鑑』に書かれていた食餌植物だが、最後の”雑草”ってのにはズッコケたよ(笑)。
何じゃそりゃだし、元々このサイトは全面的には信用できないから、ここは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』でも一応確認しておこう。

以下のものが挙げられていた。
クワ(クワ科)、スグリ(スグリ科)、アサ(アサ科)、ニワトコ(レンブクソウ科)、オオバコ(オオバコ科)。
飼育ではタンポポ類(キク科)、ギシギシ、イタドリ(タデ科)、キャベツ(アブラナ科)なども食うとなってた。とにかく、科とか関係なく何でも食うってことだね。好き嫌いがないと言えば聞こえがいいが、味音痴なだけじゃないのかえ(笑)。

尚、特に毒については言及されていなかった。
ならば、自分で探すしかあるまい。先ずは『Wikipedia』から覗いてみよう。

「本種の毒性についてはまだ解明されていないが、アセチルコリン受容体をブロックする神経毒作用を示すコリンエステルであると考えられている。また、小鳥のような天敵にとって、この配色には学習効果もあると考えられる。通常、木などに留まっているとき、本種は保護色にもなっている前翅の下に後翅を隠している。
しかし、危険を感じたらすばやく後翅の朱色を示して飛び立つ。これは鮮やかな色で天敵を混乱させるだけでなく、捕食された場合であっても、中毒を経験することで鮮やかな色がかえって記憶に焼きつく効果がある。それにより、近寄らない方が無難であることを学習し、結局この色彩が天敵に対する警告となる。」

やはり、毒はあるようだ。
でも、『Wikipedia』には同時にこうも書いてあったので、脳みそパニックを起こしそうになる。

「毛虫そのものの幼虫は、知らない人が見るといかにも毒々しいが、実際には毒はない(食草に含まれたアルカロイドを体内に含有していることがあるので、小鳥のように摂食する分には有毒ではある)。ただし幼虫の柔毛がアレルゲンとなり発疹などを引き起こすことがある。また同じヒトリガ科のヤネホソバなど近縁種の幼虫は、この毛が有毒の毒針毛になっているため、むやみに素手で触れるべきではない。」

「実際には毒はない」なんて書いてるから、一瞬ワケがわからなくなったよ。しかし、これはあくまでも手で触れても毒はないという事を言っているだけのようだ。食べない限りは毒に侵されることはないって事ね。ややこしい書き方すんなよな。

Wikipediaでは毒があるとは書いているが、推測の域でしかなく、どうにも曖昧だ。もう少し突っ込んで探そう。

ネットで探していると『胡蝶の社』というサイトに次のような文章が書かれてあった。

ヒトリガ科の幼虫の多くは広い範囲の植物質を食べます。大部分の種の幼虫は夜に活動します。幼虫は毛むくじゃらで、多くの種はジャガイモやキングサリなど、有毒物質を含む植物の葉を食べるため、毒をもっています。

ヒトリガの成虫の後翅は非常に目立つ朱色をしています。
実はこれは毒を持っていることを示す警戒色です。ヒトリガの毒を持つ経緯は次のようになります。

幼虫は毒であるピロリジジンアルカロイドを含んだ植物を優先的に食べます。しかし、幼虫は広食性でさまざまな植物から毒性化合物を取り込んでいます。

見た目が毒々しい毛虫そのものの幼虫ですが、実際に毛に毒はないといわれています。しかし、食草に含まれたアルカロイドなどの毒を体内に含有しているので、鳥のように摂食する分には有毒です。
また、幼虫の毛がアレルゲンとなり発疹や炎症などを引き起こすことがあります。
同じヒトリガ科の幼虫の中には、毛が有毒の毒針毛があるため、毛虫を素手で触れるのは危険です。

成虫
幼虫のころに蓄えた毒は成虫になっても体液などに残ったままです。翅の目立つ色と模様は捕食者への警告色として役立ちます。
ヒトリガの毒性についてはまだ解明されていませんが、アセチルコリン受容体を妨害することによって作用する神経毒作用を示すコリンエステルであると考えられています。

ヒトリガの成虫は危険を感じたらすばやく後翅の警告色を示して飛びます。
また、コリンエステルを噴霧することもあるそうです(噴射なんてヤバ過ぎだぜ。目に入れば失明だな。😱怖〜)。

この模様は他の蛾も擬態しているものと見られ、オスのシロオビドクガはホタルガに似ており、メスのシロオビドクガが羽を広げている姿はジョウザンヒトリに似ていることから、オスとメスで異なる蛾に擬態しているのではないかと考えられています。

一方、毒がないとする記述も多い。
「よく毛虫に刺されたという、被害を聞きますが、毛虫や芋虫などの昆虫の幼虫で毒があるのはごく一部。もちろん、このヒトリガの幼虫には毒毛や毒針はありません(「アウトドアの交差点」より)。」
見落としていたが『みんなで作る日本産蛾類図鑑』にも「幼虫は無毒。1971年環境衛生18-10より」とある。
ネットで更に検索したが、他も概ね毒はないと書いてある。
しかし、その殆どはワシと同じく孫引きである可能性が高いだろうから、そこのとこは留意しておいた方がいいだろう。
ちなみに幼虫に毒が無ければ、成虫にも毒はないと言っても過言ではなかろう。成虫だけに毒がある鱗翅類なんて例は自分の知る限りではいない。成虫が新たに体内に毒を有するためには何かから摂取するしかないが、そうするには毒水か毒蜜を吸うしかないけど、そんな奴がいるとは思えない。そうそうそんな場所はないし、そんな植物もないからだ。まさかの無から体内生成することが出来れば別だけど。

神奈川県衛生研究所のネットサイトで以下のように記述を見つけた。
「毒針毛などを持つグループとしてドクガ類、カレハガ類、ヒトリガ類、イラガ類などがあります。カレハガ類、ヒトリガ類、イラガ類は幼虫のみ害がありますが、ドクガ類の中には卵から成虫まで全てが害を与える種類がいます。」

ほら、こうゆうのが出てきた。
ヒトリガそのものを指してはいないが、ヒトリガ類の幼虫には毒が有るとハッキリと書いてある。ただし、問題点もある。幼虫のみ害があると書いてあるワケだから、つまりは幼虫には毒が有るが、成虫には毒が無いとゆうことだ。ホタルガと同じパターンだ。
 
Wikipediaのヒトリガ科のページにも以下のような事が書いてあった。

「発育のための栄養摂取を直接の目的としない、何らかの化学物質を摂取するための摂食行動・習性のことをpharmacophagy(薬物摂食, 薬物食性)と呼び、本科の、とくにヒトリガ亜科に関してはこの薬物摂食行動でよく知られる。幼虫期、あるいは成虫が羽化後に行う薬物摂食によって植物からピロリジジンアルカロイド、強心配糖体、イリドイド配糖体などの二次代謝産物を摂取・蓄積し、捕食者から身を守る化学防御機構に役立てるほか、雄成虫が性フェロモン合成や雌への婚姻贈呈 nuptial gift に用いる例も知られる。また、上述したような派手な体色や有毒昆虫への擬態はこの化学防御機構を捕食者に示す警戒色、およびミューラー型擬態として機能すると考えられる。」

となれば、ジョウザンヒトリの幼虫や成虫に毒があるという可能性もある。
それに10年程前(2011年)にツマベニチョウ(註3)の成虫に毒が有るってことが判明したという例もある。
オーストリアの研究チームがフィリピン、インドネシア、マレーシアで採集したツマベニチョウの羽や幼虫の体液成分を分析した。その結果、イモガイ(アンボイナ)と呼ばれる猛毒を持つ貝の毒と同じ成分であるコノトキシンが検出されたという。
イモガイはマジでヤバい。結構、日本でも死んでる人がいるみたいだからね。ダイビングインストラクターをしている時も、絶対にそれっぽいものは触らないようにしていた。ダイバーが死亡した例もあるのだ。
ツマベニチョウは日本にもいて、九州南部から南西諸島にかけて分布しているから勿論採ったことはある。それにアジア各地でも採っているから相当な数に触れている計算になる。だから当時はビビったね。羽を触った手で🍙オニギリ食ってて、誤って口に入りでもしてたら死んでたなあとか思ったもん。
しかし後に知ったが、鱗粉には毒は含まれないので、触っても全く問題ないそうだ。たぶん鱗粉じゃなくて、羽そのものの成分に毒があるのだろう。ようは食ったりしない限りは大丈夫ってことなんだろね。

 
(ツマベニチョウ♂)

(2016.7月 台湾南投県)


(2016.4月 ラオス)

 
何を言いたいかというと、まだ知られていないだけで、意外と毒を持つ鱗翅類は他にも沢山いるんじゃないかということだ。ドクガみたいに直接触れただけで被害をうけるモノなら直ぐに毒の存在がわかるが、体内にのみ毒を有するものならば、食べない限りはワカランのだ。そのうち、アレもコレも毒ありとなるかもしれない。特に派手な柄の奴は、その可能性が高いんじゃないかと思うんだよね。

「トレンドライフ」というサイトで、ヒトリガの毒をめぐる現在の状況が書かれてあった。
このサイトによると、ヒトリガの幼虫には毒があるという説と、毒はないという説の両方があり、確実なところは今もって分かってないと書かれてあった。重複部分があるが、以下に記しておく。

(毒がある説)
その毒はアセチルコリンを阻害する神経毒作用を持つコリンエステルであると考えられているという説があります。
又、体内の毒についてはまだ詳細は解明されていないが、植物由来の毒で鳥から身を守っているという説もあります。
いずれにしても、ヒトリガの幼虫の毒については、未だ研究は進んでいないようですね。

(毒がない説)
長い茶色の毛で覆われているので毒を持っているように見えますが、実際には毒は持っていないというものです。
又、成虫も毒はないと言われています。
但し、毒はないが長い毛にかぶれて炎症を起こすことは、希にあるようです。

なるほどね。
でも派手な色は鳥に何らかの警告信号を与えているに違いない。でないと、派手な色である説明がつかない。もし成虫に毒が無く、♂が♀を誘引するために派手な姿をしているのならば、理解できなくもない。鳥や蝶には、そうゆう種が沢山いるからだ。でも、そうなると派手なのは♂だけでよく、♀まで派手である必要性はない。むしろ地味な方が捕食されにくいだろうから、そうゆうケースは、♀が地味である例の方が圧倒的に多い。それにだいたいにおいてヒトリガが活動するのは夜なのだ。真っ暗な中では色彩もへったくれもない。
となると、昼間に鳥に捕食されないために警戒色を利用している可能性の方が高い。ようは鳥などの天敵に対して警告&抑止ができて、捕食を免れさえすればいいのであって、この際、毒が有ろうが無かろうかは関係ないのかもしれない。

                        おしまい

 
追伸
後からネットで、新たな文章が見つかった。
日本生態学会の大会講演の要旨みたいだ。
今さらどっちでもいいやという気分だが、一応載せておく。

一般講演(ポスター発表)P1-199(Poster presentation)

なぜシロオビドクガは雌雄で色彩が異なるのか:性によって擬態の対象が異なる可能性
Sexually different mimicry in the lymantriid moth Numenes albofascia?
*矢崎英盛, 林文男(首都大・生命)
*Hidemori Yazaki, Fumio Hayashi(TMU, Biology)

 警告色が介在する擬態は多くの昆虫で知られている。それらを雌雄に分けて理論的に再検討してみると、4つのパターンが存在する。このうち、(1) 雌雄とも同一モデル種に擬態する例(アサギマダラに擬態するカバシタアゲハなど)と(2) 雌のみが擬態する例(カバマダラに擬態するメスアカムラサキなど)は広く知られているが、(3) 雄のみが擬態する例、(4) 雌雄がそれぞれ別のモデル種に擬態する例についてはまったく研究されていない。警告色と擬態には、ベイツ型擬態(無毒の種が有毒の種に似る)とミュラー型擬態(有毒の種どうしが類似する)の2つが存在し、上記の4つのパターンの中でもこれら2つの擬態の判別を行う必要がある。
 日本に生息するシロオビドクガは、オスはホタルガに、メスはジョウザンヒトリおよびヒトリガに成虫の斑紋が酷似し、両者の成虫出現時期(初夏と初秋)は一致する。そのため、(4) の可能性がある珍しい例と考えられ、雌雄の斑紋の著しい性的二型は性選択ではなく擬態によって進化した可能性が高い。
 そこで、まず、ヒガシニホントカゲを用いた捕食実験を行い、シロオビドクガは捕食者に対して毒性がないこと、モデル種と考えられるホタルガ・ヒトリガには毒性があり忌避することが明らかになった。つまり、両者にはベイツ型擬態が成立していると考えられる。

ここにはハッキリと「ホタルガ・ヒトリガには毒性があり忌避することが明らかになった。」と書いてある。
とゆうことは、やはりヒトリガには毒が有るって事だ。ひいてはジョウザンヒトリも毒性がある可能性が高いってところだろう。とはいうものの、毒が何であるかは明示されていないし、その植物アルカロイドが何に由来しているかも書かれていない。
思考停止。最早、(ㆁωㆁ)白目ちゃんだよ。もうジョウザンヒトリは毒が有るって事でいいじゃないか。有れば全ての事が丸くおさまるんだからさ。

 
(註1)アズミキシタバ

【Catocala koreana Staudinger, 1892】


(2020.7.26 長野県白馬村)

 
日本では長野県と福島県の極めて狭い地域にのみ生息する蛾のの1種。
アズミキシタバについては拙ブログのカトカラシリーズの連載に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『黃衣の侏儒』と題して前後編を書いたので、宜しければ読んで下され。

 
(註2)カトカラ
ヤガ科 シタバガ亜科 カトカラ(Catocala)属(和名だとシタバガ属)に分類される蛾の総称。

 
(ムラサキシタバ)

(2020.9月 長野県松本市)

 
(ベニシタバ)

(2019.9月 岐阜県高山市)

 
(ミヤマキシタバ)

(2020.8月 長野県木曽町)

 
(シロシタバ)

(2020.9月 長野県松本市)

下翅が鮮やかな種類が多く、蛾では屈指の人気グループ。
日本には現在のところ32種の分布しており、註1のアズミキシタバも含まれる。アマミキシタバを除き年一化の発生。春から秋にかけて見られる。

 
(註3)ツマベニチョウ

(褄紅蝶 Hebomoia glaucippe)は、チョウ目(鱗翅目)アゲハチョウ上科シロチョウ科に分類されるチョウの一種。
開張9〜10cm。モンシロチョウの仲間では世界最大級種で、中でも石垣島など八重山諸島のものが世界最大だとされる。モンシロチョウの仲間とは思えないくらいに飛翔は力強く、高所を飛ぶ。そのため、花に吸蜜に訪れた時や吸水に地面に降りた時くらいしか採集するチャンスはない。尚、ハイビスカスに吸蜜に訪れる姿は、とってもフォトジェニックである。
アジアに広く分布し、多くの亜種がいる。特に東南アジア南部には特異な亜種がいて、コレクターも多い。
添付した画像だが、もちろん日本でもツマベニチョウを採ったことは何度もあるのだが、標本を探し出して新たに写真を撮るのが面倒なので台湾とインドシナ半島のものを使用した。大きさはさておき、見た目は殆んど同じだから、まっいっかとなったのである。
そういや、長らく連載休止の『台湾の蝶』でも、まだツマベニチョウは取り上げてなかったな。ゼフィルスやジャノメチョウ・ヒカゲチョウ類、セセリチョウ類など、まだまだ書いてない蝶はゴチャマンとあるけど、果して再開するのかね。
もう一回、台湾にでも行かないとエンジンは掛かりそうにない。でも海外一人旅にも疲れた。誰か一緒に行ってくれないかなあ…。

  
ー参考文献ー

◆『世界の美麗ヒトリガ』岸田泰則 著 むし社

世界のヒトリガを一同に集めた図鑑。
これを見れば、ヒトリガの世界が俯瞰できる。

 
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』岸田泰則 編著 学研

全4巻から成り、現在のところ日本の蛾について最も詳しく書かれている図鑑。

 
ーインターネットー
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』

◆『Wikipedia』

◆『胡蝶の社』

◆European Lepidoptera and their ecology

◆Photo Gallery Wildlife Pictures

◆九重自然史研究所便り「滋賀県で採集されたジョウザンヒトリ」

◆『アウトドアの交差点』

◆『トレンドライフ』

◆朝日新聞デジタル「美しいチョウには毒がある 東南アジアの種、羽に神経毒」

◆神奈川県衛生研究所「有毒ケムシ類ードクガとイラガ」

◆日本生態学会の大会講演要旨『なぜシロオビドクガは雌雄で色彩が異なるのか:性によって擬態の対象が異なる可能性』
矢崎英盛, 林文男