三日月の女神・紫檀の魁偉~泥濘編

思えば、去年シンジュサンには振り回された。
普通種だとナメてかかってたけど、連敗に次ぐ連敗で、ボコられたんだよなあ…。

 
5月22日、最初は生駒山地南端の信貴山に行った。

 

 
オオシモフリスズメの記録が多いし、有名なお寺に灯火があると睨んだからだ。
しかし、その殆んどは L.E.D.に替わっていた。

 

 
山頂部に僅かに残る蛍光灯で待つが全然ダメだった。
それで思い出したんだけど、この日は日没後しばらくしてフランス人のオバチャンが登ってきて、網を持ってるオラに英語で『何してるの❓』と尋ねてきた。

 

 
アンタこそ、こんな時間に何してんの❓と思いつつも、素直に『蛾を探してます。』と答えたら、『トレビア~ーン💮』と言われたのだった。
暫し会話して、最後に一緒に記念撮影を求められてパシャ&バイバイ👋。何だかよくワカンなかったけど楽しかったよ。それにしても、フランス人は、オバチャンでもスタイルいいよなあ。所詮、東洋人はネオテニーなのさ。

そういえば若い頃にユーラシア大陸をバイクで横断した時にも、フランス人に同じセリフを言われたっけ…。
たぶんフランスのロワール地方の古城だったと思う。

『OHー、サムラーイ( ☆∀☆)❗トリビア~ン❗』

古城内にベルナール・ビュッフェの小規模なギャラリーがあって、そこで太ったオッサンに目を丸くして言われたのだった。
当時はモトクロス用のプロテクターを着ていたので、それが戦国武将の甲冑にでも見えたのだろう。
一応、笑いながら『この無礼者がっ!』と言ってやった。日本語だから意味なんぞ解るワケがないのだ。
旅では、その後も何度かフランス人にトレビアーンと言われた。エアでバッサリ斬ってやったこともあった。もちろんフランス人は関西人ではないので、『ぎゃあ~。』とか言ってその場で倒れてはくれない。ゆえに、すかさず『It was only joking.』とフォローせねばならないのは言うまでもない。
まあ、フランス人にトレビアンと言われた日本人はそうはいないと思うよ

10時過ぎまで粘ったが、時間の無駄だった。当然、帰りのバスは既に無く、三郷駅まで歩かざるおえなかった。長い坂道を終電に間に合うよう足早に歩く。
駅まであと少しといったところで、コンビニの駐車場の強烈なライトに大きな影が舞った。
ぬおっ( ̄□||||❗❗、一瞬、目に入ったその形は、メモリーされているシンジュサン特有の鉤状に出っ張った羽先に見えた。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψおほほのほ、さすが引きの強いオレ様だい。毎度の事ながら、最後の最後にチャンスが舞い降りてきたぜ(^o^)v
強く願う心と諦めないハートを持ち続ける者だけに、神様は幸運をプレゼントしてくれるのだ。
でもコンビニに行くには目の前の道路を横断しなければならない。しかし、タイミングの悪いことに右手から車が近づいてきていて、渡りたくとも渡れない。ざわつく心で車の通過を待って、軽くダッシュ💨する。全速力ではなかったのは、余裕のヨッちゃん、どこかでもう採ったも同然の気分になっていたからだ。ドラマチックなフィナーレを想像して、おっちゃん、ヘラヘラ笑いになっていたのである。

(・。・;あれっ❓……。
しかし、いる筈のシンジュサンの姿がない。そこには、ただ強烈な光だけが在った。そう、跡形もなく忽然と消えていたのだ。慌てて周囲を見渡す。だが、やはり飛んでいる姿はどこにも無い。目を切ったのは5秒くらいだ。狐に摘ままれた気分で呆然とその場に立ち尽くす。
願望が強過ぎて幻覚でも見たのだろうか❓バカな…。にしてはリアルすぎる。

暫く此処で待とうか…。
咄嗟に腕時計に目をやると、終電の時刻が迫っていた。5分くらいは余裕があるかもしれないが、初めて来る土地だ、何があるかワカラナイ。少しでも道を間違えたら、乗り遅れかねない。ギリは避けたい。
漆黒の夜空を恨めしげに見上げる。大きな溜め息を一つ吐(つ)き、駅へと歩き出した。

惨敗だったが、でもこの時はまだ心に余裕があって、そのうち楽勝で採れると思ってた。

 
翌23日、再び三郷のコンビニを訪れた。リベンジである。しかし、天気予報に裏切られて、着いて間もなく雨が落ちてきた。小雨の中、周囲を探索するも、クソ蛾すらいなくて、リベンジどころか返り討ちの憂き目にあう。

 
5月27日は知り合いの姉さんと京都に蛍を見に行った。ついでにちょっとだけ探したが、見つからず。

 

 
おまけに蛍も見れず、晩飯を食って帰った。
ぽろぽろ( ;∀;)、何でおらんのん❓

 
5月29日は矢田丘陵方面に行ったが、見ず。
食樹のクロガネモチがギョーサン有るのに、気持ち悪いエダシャクしかおらん。(=`ェ´=)死ねや、ワレ。

 

 
何でやねん❗❓(/´△`\)
次第に焦燥に駆られる。

  
6月1日には八尾市楽音寺の大阪経済法科大学に行った。
ついでにウラジロミドリシジミの様子も見てやろうと云う算段である。
🚲キコキコキコキコー。しかも、ママちゃりで。バリ、遠かったよ。

 
【ウラジロミドリシジミ ♂】
(2013.6.10 東大阪市枚岡公園)

(2014.6.2 兵庫県猪名川町上阿古谷)

  
しかし、なぜか夕暮れになってもウラジロミドリは姿を見せなかった。
フライング❓でも今年は発生が早いと聞いていたのになあ…。

 

 
ミズイロオナガシジミしかおらず、手乗りさせて遊んでいるうちに日が暮れた。

 
【ミズイロオナガシジミ】

 
青のグラディエーションが美しい黄昏だった。
この時間帯の空が一番好きだ。心がスゥーッと落ち着く。

 

 
しかし、照明は全部 L.E.D.で、お話にもならなかった。成果、ゼロやんけ(ー。ー#)

 
6月3日は京都・南禅寺界隈に行った。そこにシンジュサンの食樹の一つであるカラスザンショウが沢山生えていると云う情報を得たからだ。
また、ここは佳蝶キマダラルリツバメの有名産地でもある。久し振りにキマルリにも会いたいし、上手くいけば一石二鳥だ。キマルリも採れて大団円で凱旋ってな展開を密かに思い描いていた。

 
【キマダラルリツバメ】

(裏面)
(2016.6.18 兵庫県神鍋高原)

 
けんど、又しても惨敗(ToT)
なぜかキマルリも1頭も飛んで来なかった。

 

 
この日も美しい黄昏だけが慰めだった。

これで5連敗だ。真剣には探してない蛍の時も入れれば6連敗である。虫採りで5連敗もしたのは、いまだかつてキリシマミドリシジミだけしかいない。まさかシンジュサンで再び喰らうとは夢にも思わなかった。
シンジュサンって、本当に普通種かよ❓もしかして、昔、普通種。今は激減してて絶滅危惧種とかじゃねえだろうなー。
悔しいやら情けないやらで、なんか半泣きになってきたよ。

今回で、蛾の採集は蝶よりも難しいと痛感した。
蝶と比べて蛾の情報量は圧倒的に少ないし、昼間飛ぶ蛾以外は飛んでいるのを見つけるのは至難だ。当たり前だが、夜は暗いのだ。だから、見つけるには灯火に飛来したものを探すか、花や樹液で待ち伏せするしかない。されど今は照明の殆んどが、L.E.D.に替わってしまっている。昆虫は紫外線の多い水銀灯や蛍光灯にしか寄ってこないのだ。L.E.D.はああ見えて紫外線量が少ないのだ。蛾を忌み嫌っている頃は有り難かったけど、まさか蛾を採る事になろうとはなあ…。青天の霹靂だよ。
また、花や樹液での採集はシンジュサンには無効だ。彼らは口が退化しており、食物を摂らないのだ。

シンジュサンどころか、ウラジロミドリやキマルリにもフラれ、挙げ句に蛍まで見れないなんて酷すぎる。
憂鬱だ。暗憺たる気分になってくる。
けれど、逃げるワケにはいかない。そんなもんはオラのプライドが許さないのだ。心を硬質化させ、いよいよ背水の陣で臨まねばならぬ。
帰り道、ヒロユキは死ね死ね団の歌を口ずさみながらママちゃりを漕ぎ漕ぎ、強くリベンジを誓ったのであった。
ゼッテー、シバく(*`Д´)ノ❗❗
 
 
                   つづく

 
追伸
2回で終わる筈だったが、終わらん。
原因は最初にメインの後半を書いてから、前半部に取り掛かったからだ。ようするに、前半が思いの外に長くなったので力尽きたのだ。
長い間ソリッドな文章を書いていないので、書けなくなっている。実を言うと、文章は短い方が書くのが難しい。長々とウダウダしか書けないのは、才能の無い証拠なんである。

えー、そう云うワケで、次回は必ずや完結させまする。

 

名古屋コーチンの手羽先

 
名古屋コーチンの手羽先が半額になっていたので買った。
揚げるか、焼くか、それとも煮るかで迷った。手羽先餃子なんてものいいなあ…。
けど、結局面倒くさくなって、めんつゆで煮ることにした。

で、使用しためんつゆがコレ。

 

 
ヤマサの『昆布つゆ』ですな。
まあまあだ。悪くない。だが、特に気に入っている銘柄ってワケではない。たまたま安かったから買っただけの事だ。って云うか、そもそもオイラはめんつゆがあまり好きじゃない。甘ったるいからだ。だから、普段は使わない。でも、この日の夜は何となく甘辛なのが食べたかったのだ。

めんつゆに手羽先を放り込む。火をつけたら、弱火でじっくりと温度が上がるまで待つ。沸騰しかけたら火を止め、あとは余熱で火をとおす。

手で食べられるくらいに冷めたら、盛りつけて完成。

 

 
一口囓じって、Σ(-∀-;)驚く。
思ってた以上に硬かったのだ。もちろん煮すぎたワケではない。火入れは完璧だ。
でも、続けて二口、三口と食べて理解した。これは硬いわけではなくて、身の弾力がスゴいのだ。ぶりんぶりんですねん。
いったん脳がそう認識すると、急にメチャクチャ美味くなってきた。もう深夜だし、太ったから1本だけにしとこうと思っていたのに、3本全部食ってしまったなりよ。

名古屋コーチンの手羽先、マジ美い(☆∀☆)❗

 

三日月の女神・紫檀の魁偉

 

先日、新たな連載『2018′ カトカラ元年』の第1回 プロローグ編を上梓した。
勢いで、そのまま本題である第2話をあらかた書き終えたところで、はたと筆が止まった。文章の流れ上、お題のカトカラの前にシンジュサンの事を書かねばならぬと強く思ったのだ。

シンジュサンを追いかけ始めた切っ掛けは単純だった。
幼少の頃から蛾は苦手だったけど、なぜかヤママユの仲間はそれほど恐くはなかった。これはたぶん、怪獣モスラの影響だろう。モスラは怪獣界のアイドル。いい奴なんである。モスラって、どこか健気だしねぇ。それが知らぬうちに良いイメージへと繋がっていたのだろう。
それゆえ小さい頃に、恐る恐るではあったが、巨大なヤママユやクスサン、オオミズアオ(註1)を採ったことがある。そこに2017年、春の三大蛾の一つであるエゾヨツメが加わった。その美しきブルーアイズ、青い眼状紋にヤママユ系への興味がグッと湧いたのだった。
それに、ヤママユの仲間は日本にはそんなに種類がいない(註2)。コンプリートするとしたら、比較的容易だ。沼にハマるにしても、底無しではない。但し、海外産に手を出さなければの話だけど…。

兎に角、日本にいるヤママユの仲間で、まだ見たことのない奴らを見てやろうと思った。何でも同じだ。実物を見ないと本当のことは解らないのだ。
このグループには大珍品はいなくて、大概は肩肘張らずに何とかなるレベルだ。ヒマつぶしくらいにはなるだろう。ゆる~い気持ちで、先ずはシンジュサンから始めることにした。

しかし、そうおいそれとはいかなかった。
思えば、シンジュサンにはまさかの惨敗に次ぐ惨敗だった…。

本章に入る前に、シンジュサンについて、ザッと解説しておこう。

子供の頃、最初はシンジュサンのサンは山田さんとか田中さんのさんだと思ってた。ようするにガキの頃から、どうしようもないおバカさんだったのである。
でも、後にこのサンは養蚕のサンのことだと知った。これはヤママユ系の仲間が、繭から生糸をとる蚕(カイコ)さんとか、その原種(註3)と親戚筋にあたるからだろう。
とはいえ、カイコは謂わば人間が作った絹糸製造マシーンで、人が長い歴史の中で改良に改良を重ねて完成させた半人工物だ。だから飛べねぇし、自然界には存在しない。
日本では、カイコ以外の野外で生糸のとれる蛾、繭、また生糸そのものを野蚕といい、ヤママユやウスタビガの繭で作った織物は、超がつく高級品だそうである。

一方、シンジュサンのシンジュは、ずっと真珠のことだと思っていた。真珠みたいに綺麗だからと解釈していたのだ。実際、羽の一部に白やピンクっぽいところがあるしさ。でも、それもハズレ。去年に、それが真珠ではなく、神樹だと知った。だから、シンジュサンのことを漢字では「神樹蚕」と書く。他に「樗蚕」の字をあてがう事もあるようだ。
シンジュサンの語源は、幼虫がこのシンジュ(神樹)を食餌植物としていることから来ている。
神の樹って、スゲーな。神の樹の葉を食うから、神の蛾じゃん❗真珠よか、神の方が上っしょ❓寧ろグレイドアップになってまんがな。

しかし、突っ込んで調べてみたら、あらあらである。
『京都園芸倶楽部のブログ』には、こう書いてあった(申し訳ないが、文章の一部に手を入れたけど)。

「神樹といっても「神様」とか「神聖」に関連しているわけではありません。元々は近縁種であるモルッカ諸島のアンボイナ島に生育するモルッカシンジュが天にも届くような高木であることから英語で「Tree of heaven」と呼ばれ、これがドイツに伝わって、ドイツ語では「Götterbaum」となり、「神の樹」と訳された。その後ドイツ語名が日本に伝わると、ニワウルシを神樹とも呼ぶようになったそうです。」

(# ̄З ̄)ちえっ、調べなけりゃよかったよ。
どこかで特別なものと思いたい心理が働いているから、ガッカリだ。
何でも知ればいいとゆうものではない。知れば知るほど不幸になることだってあるのだ。世の中には知らない方がいい事もある。「知らぬが仏」と云う言葉もあるしね。
こう云う、知ることによって不幸になることを作家 開高健は「知の悲しみ」と呼んだ。当然、知らないがゆえに不幸な事は多々あるから、知っても、知らなくとも人は不幸になりうる。二律背反、これは人類の永遠のジレンマだよね。

神樹は中国原産で、明治時代の初めに日本に入ってきたものだ。ニガキ科に属し、別名にニワウルシがある。日本では、こっちの名称の方がポピュラーかもしんない。
と云うことは、和名は比較的近年になって名付けられたものと思われる。
エリサンだったっけ❓養蚕のためにシンジュサンに改造手術、もとい品種改良を加えた奴もいた気がするから、もしかして移入されたもんが逃亡して、野生化。先祖帰りしたのかも…と一瞬思ったが、それは無いだろう。帰化昆虫ではない筈だ。だったら、おバカのオラの耳にだって情報は入ってきてる筈だもんね。

  
【シンジュ】
(大阪市 堺筋北浜近辺)

(出展『一期一会』)

 
幼虫はシンジュの他にも、ニガキ(ニガキ科)、キハダ、カラスザンショウ(ミカン科)、ヌルデ(ウルシ科)、クヌギ(ブナ科)、クスノキ(クスノキ科)、リンゴ、ナシ(バラ科)、エゴノキ(エゴノキ科)、ネズミモチ,クロガネモチ、モクセイ(モクセイ科)、ゴンズイ(ミツバウツギ科)、クルミ(クルミ科)など多くの植物の葉を食べる。つまり、やはりシンジュが日本に入って来る前から、シンジュサンは日本にいたんだろね。古くから幼虫は「ミツキムシ」と呼ばれていたみたいだし、間違いないだろう。

学名:Samia cynthia pryeri。
すっかり忘れてたけど、学名の小種名は cynthia(シンシア)だったね。素敵な学名だ。
シンシアはギリシア語で「月」。ギリシャ神話に登場する月の女神アルテミスの別名キュンティアの英語読みである。英語圏における女性名としてもよく使われており、「誠実な」「心からの」という意味がある。略称は、シンディ(Cindy)。

去年当時の、Facebookの記事を見ると、こんな風に書いてあった。

「へーっ、学名はシンシアなのね。月の女神じゃ、あーりませんかー。シンシアは月の女神ディアナ(Diana)やアルテミスの別名でもある。オオミズアオとは美人セーラームーンタッグだにゃあ。月の女神は美人と相場が決まっておるのじゃ。もし、月の女神が美人じゃなかったら、ヤッさんやなくとも『怒るで、しかしー』である。
尚,吉田拓郎,かまやつひろしが南沙織に捧げた曲「シンシア」もヒットしました。」

相変わらず、フザけた文章だ(笑)。
補足すると、南沙織ちゃんは1970年代に活躍した沖縄出身の元アイドル歌手。あっという間に引退して、その後、有名カメラマンの篠山紀信氏と結婚した。
秋元康の先駈けが、モジャモジャ頭の巨匠なのだ。

シンシアは南沙織の愛称で、ミドルネーム。それが曲のタイトルとなったようだ。『🎵おー、おー、おー、シンシア~、君の声が~』というサビがいいのだ。

因みに属名の Samia(サミア)は、調べてみたら、最初に「古代ギリシアの作家メナンドロスによるギリシア喜劇の1つ」と出てきた。だが、どうもシックリこない。寧ろアラビア語で「崇高な」「最高の」という意味を持つ Sami という男性名の女性形が名前の由来ではないかと推察したい。

亜種名 pryeri は、昆虫学者 H.pryer(プライヤー・プライヤ、プライア)に献名されたもののようだ。
この pryeri は、多くの生き物の学名に見られる。
昆虫に絞れば、ウラゴマダラシジミ、ホシミスジ、ムカシヤンマ、サラサヤンマ、キイロサナエ、リュウキュウツヤハナムグリなどだ。蛾には特に多く、ミノウスバ、ブライヤオビキリガ、プライヤキリバ、プライヤアオシャチホコ、プライヤエグリシャチホコ、キオビエダシャク、ソトキナミシャク、ウコンエダシャク、ナカアカクルマメイガ、マツアカマダラメイガ、スカシノメイガ、ウスベニトガリバ、シロテンムラサキアツバなど沢山の種類がある。
それにしても、そんな名前、あんま聞いたことないぞ。(;゜∇゜)誰なんだ、プライヤー❓

これが調べるのに骨が折れた。
pryeri だと、いろんな生き物がジャンジャン出てきて埒があかない。
学名に人物の名前をつける場合、語尾に「i」とかが付いたりするから(属格語尾)、そのままではネットでヒットしないのだ。

蛾のサイトにあった H.Pryer にヒントを得て、フルネームを何とか探して漸くヒットした。

「フルネームは、Henry James Stovin Pryer。
生没年(1850年~1888年)。ロンドン生まれの英国人で、1871年来日。16年間横浜のアダムソン・ベル・海上保険会社社員として勤め、1888年2月17日に横浜で病死。」

 
日本で亡くなってはるんやね。
保険会社のサラリーマンだけど、この人で本当にあってんのかよ❓

 
「『太政大臣に届けて正式に雇用された例』としてイギリス人プライア―とアメリカ人モースがよく知られている。
もっとも、彼らを雇用したのは、内務省系ではなく、文科省系の『東京博物館』とその後継の『教育博物館』であるが、蝶類の専門家であるプライア―は1876年から翌年にかけて標本採集を目的として雇用され、国内採集旅行を行っている。ユネスコ東アジア文化センター(1975)によれば彼は、1876年7月から3ヶ月(月給75円)、そして翌1877年当初から1年間(月給60円、ただし5月で依願解約)の契約を結んでいる。」

 
なるほど、多くの献名があるのは、学者というよりも採り子(雇われ採集人)だったからなんだね。命名規約上、新種を見つけた本人が、それを新種として発表(記載)する場合、学名に本人の名前をつけられないからだ。

 
「イギリス人のプライヤー(H. Pryer)は1871年(明治4年)、またはその翌年に来日し、横浜に落ち着きました。幼少の頃より博物学に興味をもっていた彼は、昆虫類を中心に各地の資料を集め、特に日本のチョウ類のすぐれたコレクションを作りました。彼はよほど日本が気に入ったのか、何と16年間も横浜に居住し、39才の若さで死去するまで日本各地を精力的に調査したのです。
このようにして集めた資料を基に、日本では例を見ない学術的な図説の刊行が企画されました。おそらくはプライヤーの日本生活が落ち着いた1875年以降のことだったと思われます。当時の諸外国で出版されたいくつかの図鑑に匹敵するものを日本で作るには、多くの障害がありました。画家の発掘、印刷所や用紙の選定。そして費用の調達などです。しかし、プライヤーの熱意はこれらの難題を乗り越えて、1887年に第一分冊の発行にこぎつけました。そして、1888年には第二分冊、1889年には第三分冊が相次いで発行され、ついに大作が完了しました。
タイトル名は Rhopalocera Nihonica といいます(日本語版「日本蝶類図譜(ヘンリ-・ジェ-ムズ・ストヴィン・プライヤ-著 科学書院(1982))。」(出展 以上3つとも『レファレンス協同データベース』より)

 
あれっ?、図鑑も書いてる❓ということは、採り子じゃなくて学者風情だよね。
これは、おそらく最初は採り子で、最終的には図鑑も出したって云うことでいいんじゃないかな?

日本の昆虫学の礎を築いた江崎悌三さんも、その著書の中でプライヤーに触れていて、「日本人の内妻があったが、子供はなかった」と記述しているみたいだ。
結構、有名人じゃんか。ワタスの勉強不足でした。

(|| ゜Д゜)しまった。プライヤーの沼にハマって、おもいっきり寄り道しただすよ。先へ進もう。

 
チョウ目・ヤママユガ科(Saturniidae)に属し、大きさは開張110~140mmに達する。
翅の地色はオリーブ色を帯びた褐色で、白やピンクなどの綺麗な斑紋が配されている。上下の翅の中央付近に黄色い三日月模様、上翅の翅頂付近には小さな目玉模様がある。

 
【シンジュサン】
(出展『夜間飛行』)

北海道・本州・四国・九州・沖縄・朝鮮半島・中国に分布し、成虫は5~9月の間に年2回(一部年1回)現れる。
亜種は日本亜種 ssp.pryeri の他に、北海道・対馬亜種 ssp.walkeri(Felder & Felder,1862)があり、コチラが基亜種とされている。
対馬亜種は黒化型の割合が多いようだ。これが、かなりカッコいい。

 
【シンジュサン 対馬亜種】
(出展『モスはモス屋 対馬遠征記』)

 
一瞬、対馬に行ったろかい(`へ´*)ノ❗と思ったが、ツマアカスズメバチにボッコボコに刺されたのを思い出して、上げた拳を即座に下ろす。ムッチャクチャ痛かったし、今度刺されたらアナフラシキーショックで、おっ死ぬかもしれん。恐くて行けんよ。

そういえば、国産亜種を独立種 Samia pryeri とする見解もあったようだが、交尾器の差異も微弱で更にDNAによる区別もできなかったとされており、現在は同一種とする意見に落ち着いているみたいだ。

さて、ここからが本文なのだが、プライヤーの沼にハマって、ドッと疲れた。それに予想外に長くもなったので、次回に回します。スマン、スマン。

 
               後編につづく

 
 
追伸
今回も書いてるうちに、あらぬ方向にいって長くなってしもた。もう、このウダウダ癖は病気だよ。
次回は、いよいよ本編です。乞う御期待❗

記事をアップした後で、平嶋義宏さんの『蝶の学名-その語源と解説』の存在を思い出した。
それによると、プライヤーの図鑑は日本最初の原色蝶類図鑑で、日本の蝶蛾類に多大な功績があったようだ。プライヤーさん、過小評価してゴメンナサイ。
因みにホシミスジの学名はプライヤー御本人に献名されたものではなくて、兄の williams に献名されたもののようだ。お兄さんも蝶が好きだったらしい。
なんだよー、最初からこっち見ときゃよかったよ。だったら、あんな苦労しなくてよかったのにさ。
でも、最初からこっちを見ていれば、プライヤーさんに興味は湧かなかっただろう。まあ、それも間違いではなかったという事か…。良しとしませう。

 
(註1)ヤママユとクスサン、オオミズアオ

【ヤママユ】
(2018.9.8 山梨県甲州市)

 
ヤママユは、もふもふだし、(・。・;ほよ顔で可愛い。デカくて標本箱を喰うから邪魔だけど、可愛いから、つい一つ二つくらいは捕ってしまう。

探したが、クスサンとオオミズアオの手持ちの野外写真が見つからない。普通種だから、面倒で撮らなかったのだろう。と云うワケなので、画像を他からお借りしよう。

 
【クスサン】
(出展『里山の生活とmy hobby』)

普通種だが、色に豊富なバリエーションがあって、一つとして同じものはないと云う。
普通種であっても、視点を変えれば楽しめる証左の例だね。

 
【オオミズアオ】
(出展『KEI’S採集記』)

 
幽玄で美しいから、蛾嫌いでもコレは許容する人が多いようだ。近縁種に、ソックリさんのオナガミズアオがいるが、こちらの方はそこそこ珍しい。個人的にはオナガミズアオの方が、より優美で好きかな。
文中に学名的にシンジュサンと姉妹関係だと書いたが、厳密的には間違い。残念ながら、オオミズアオの学名は変わってしまい、現在は artemis、月の女神アルテミスではなく、Actias artemis から Actias aliena になっている。それを惜しむ声は多い。

ついでに、エゾヨツメの画像も添付しておこう。

 
(2019.4 大阪府箕面市)

 
いまだに♀が採れてない。でも、♀はあまり綺麗じゃないから、本音はどっちだっていいと思ってる。

 
(註2)日本には、そんなに多くの種類がいない

日本に棲むヤママユガ科は、ヤママユ、ヒメヤママユ、ハグルママヤママユ、クスサン、エゾヨツメ、シンジュサン、ヨナグニサン、ウスタビガ、クロウスタビガ、オオミズアオ、オナガミズアオの計11種とされる。この中では、わざわざ沖縄や奄美大島まで行かないと会えないハグルマヤママユが難関かな?ヨナグニサンも与那国島に行かないと会えないけど、天然記念物なので採集でけまへん。因みにヨナグニサンが日本最大の蛾で、世界最大級でもある。ドデカイ♀が強風に煽られて道路にボトッと落ちたので、拾って安全なところに移したことがあるけど、笑っちゃうくらいデケーです。次回、画像掲載予定です。

 
(註3)カイコの原種

カイコの原種は東アジアに分布するカイコガ科のクワコ(Bombyx mandarina)だと言われている。

  
【クワコ(桑子)】
(出展『玉川学園』)

 
これを品種改良しまくって作られたのが、カイコってワケだね。絹糸を得るために、スゴいことするやね。
養蚕は五千年前にクワコが中国大陸で家畜化、品種改良されたのが起源というのが有力な説である。
一応、カイコとクワコは近縁だが別種とされている。しかし、両者の交雑種は生殖能力をもち、飼育環境下で生存・繁殖できることが知られている。だが、野生状態での交雑種が見つかった例はないようだ。
実を云うと、5000年以上前の人間が、どのようにしてクワコを飼いならして、今のカイコを誕生させたかは、現在に至るも完全には解明されていないそうだ。
そうだよなあ。虫を家畜化して品種改良するだなんて、現代科学でも難しそうだもん。そんな昔に、飛べなくするために品種改良とか狂気でしょ。さすが、纏足なんぞという変態的なことを考える国だわさ。
カイコの誕生がミステリアスなせいか、カイコの祖先はクワコとは近縁だが別種の、現代人にとって未知の昆虫ではないかという説もある。ようするに、その未知なるヤツは既に絶滅してるって事を言いたいワケだね。
しかし、ミトコンドリアDNAの配列に基づき系統樹を作成すると、カイコはクワコのクレードの一部に収まることから、この仮説は支持されていないという。
やっぱ、改造しとるんだ。昔の人の知恵は凄いわ。

 
 

終いのタケノコ

 

今年もそこそこタケノコを食った。

 

 
堀りたてをそのまま焼くのが一番美味いんだけど、そうもいかない。となると、真っ先の選択肢は若竹煮やね。タケノコ独特の甘みと香り、適度なエグみが堪能できるのは、やっぱ若竹煮っしょ。

圧力鍋に糠(ぬか)と鷹の爪を入れて、筍の大きさにもよるけど1時間くらい弱火でコトコト茹でる。
で、一晩放置プレー。ほったらかしにする。
ほんでもって翌日、ザッと洗って糠を落とす。したら、ホレホレーΨ( ̄∇ ̄)Ψ、悪いオッチャンは皮をヘラヘラと剥ぎ取り、中身を取り出しにかかる。
おー(;゜∇゜)、艶やかな裸身が露(あわら)になる。と同時に、辺りに栗に煮た甘ほっこりとした香りが広がり、鼻腔をくすぐる。もしかして、自らわざわざ筍を茹でるのは、この瞬間を体験(たいげん)したいが為かもしれない。

姫皮は包丁で軽く切れるところのみを使う。硬いとこはゴミ箱にドォ━━ (ノ-_-)ノ~┻━┻ ━━ ンッじゃ❗
姫皮は酢の物にするによし、筍ごはんに入れるのもよし、御自由に使われたし。

そして、いよいよ筍本体を一刀両断、真っ二つにする。時々、中に白い洗剤みたいなのがコビり付いてるけど、タケノコ本体から出たものなので味には問題なし。神経質に取り除く必要性はないだす。
ここまでが下拵え。あとは用途により切り分ける。

若竹煮を作る場合は筍を厚めに切り、鰹昆布だし(昆布だしでもよい)に酒と薄口醤油、みりんをほんの少し入れて煮る。途中で生ワカメをサッと入れたら、火を落とす。ワカメの色が鮮やかなうちに器に盛り、有れば木の芽を飾ればよろし。否、あった方がいい。タケノコと山椒の葉の相性は絶妙とも言える切っても切れない仲だ。アッシは、そう思うね。
とはいえ、お子ちゃま舌の人は、やめなはれ。無理することないどすえ。そもそも木の芽がアカンおしたら、春先の旬のタケノコのエグみもアカンやおへんか。一生、個性の無い水煮のタケノコを食うてなはれ(-_-)

m(__)mごめんなさい、つい京風に毒づいてしまったなりよ。毒づきついでに、もう一つ。
筍の煮物でカツオ節がドバドバ掛かっていることがあるが、あれはよしてほしい。カツオ節はあってもいいけど、少量。無くても良いくらいだ。なぜなら、カツオ節って香りも味も濃くて個性が強過ぎるからだ。タケノコの良さが消える。カツオ節をドバドバかけるのは、ハッキリ言って田舎もんだ。
あっ、ゴメンなさい。人の好みは千差万別ですよね。あくまでも個人の一戯れ言として流されたし。

 

 
そんな事より、若竹煮はホント美味いよねぇ~。
食ってると、春そのものを味わってる気がして、心がほっこりする。

だが、後半は少し飽きていて、鶏肉と一緒に煮たりした。

 

 
タケノコの個性は少し失われるけど、旨味は格段にアップするから、これはこれで美味しいんだよね。春先の筍が苦手な人でも、これだったら食えるかもしんない。

 
筍ごはんもよく作った。

 

 
筍ごはんのタケノコは、あんまり細かく切らないのがモットーだ。大きめ、厚めにした方が歯応えを楽しめる。
好みによるが、自分は油揚げも入れる。コクが出るからだ。出来れば油揚げは京揚げがよろし。その方が味に深みが出るような気がする。
油抜きは、したりしなかったり。そん時の気分だ。味の強いのが食べたい時は油抜きしないかなあ…。あと面倒くさい時も。
油揚げは細かく切る。これは、あくまでもタケノコが主役だからだ。お揚げさんは脇役なんだから、目立ってはいけない。

出汁は自分で1から作る時と市販の白だしを使う時と半々。これまた気分だ。
出来上がりの味は、どちらも旨い。どちらが美味しいかは、人それぞれの好みだろう。
但し、白だしは使うメーカーにより味が変わる。
今回はコレを使った。

 
【創味 創味の白だし】

 
結構、美味しくできた。
他にキッコーマンの香り白だしも仕上がりは良かったと思う。

 
【キッコーマン 割烹 香り白だし】

【キッコーマン 本つゆ 香り白だし】

 
でも、どっちだったか覚えてない。
パッケージの削り節の写真に何となく記憶があるので、たぶん割烹白だしの方かなあ。
 
一方、自分で出汁を作る時は仕上がりにムラがある。断トツに美味くなる時もあれば、市販の白だしに劣る場合もあるのだ。まあ美味しく出来りゃ、何だっていいんだけどね。

勿論、筍ごはんにも木の芽は不可欠だ。軽く手のひらでポンと叩いて添えると、香りが引き立つ。

 

 
採ってきた花山椒を乗せた日もあった。

 

 
そういえば後半、鶏のミンチを隠し味に使った時もあったな。コクと旨味が増すと思ったからだ。
勿論、それはそれで旨かった。けど、やっぱり筍の良さが損なわれるんだよな。

 

  
それにしても、結構たくさんの筍ごはんを食べたなあ…。
我ながら、よほど筍ごはんがお好きとみえる。
とはいえ、流石に後半は飽きてきて、イレギュラーなものも作ってた。

 

 
パスタだね。
これは竹の子とハモの子とのコラボだから、植物系と魚介系のダブルお子ちゃまタッグだ。
筍の良さは歯応えくらいしか残っていないが、味はメッチャ美味い。
作り方はオリーブオイルに少量のニンニクを入れて弱火で油に香りを移す。ニンニクを取り出したら、ハモの子とタケノコを入れて軽く炒める。そこにパスタを入れ、茹で汁も少し加える。味付けは塩のみと言いたいところだが、隠し味に少しだけ薄口醤油を入れて整える。最後にオリーブオイルを少し加えて混ぜ、乳化させたら出来上がり。

  

 
竹の子オムライスも作った。
これはねー、母胎は筍ごはん。そこに木の芽をメチャンコ混ぜる。といっても限度はあるけどさ…。それを炒めてチャーハンにする。味付けはそのままでもいいが、味見して薄ければ、塩なり醤油なりを足して濃くしてもよい。あとは玉子でくるみ、さらにタケノコの煮物をユルい餡掛け状にして掛けたら出来上がり。
これも果たして春先の筍を使ってまで作るもんかいな❓という疑問符がつくが、味はかなりイケる。玉子にタケノコが隠れがちだから、一口めはその歯応えに驚いた。歯応えがあるオムライスって楽しい。
でも裏を返せば、季節に関係なくタケノコの水煮さえあれば、いつでも作れるって事だ。味の差は、そう無いだろう。
これが終いの筍料理で、10日ほど前だった。

 
そういえば、今年は一度もお外でタケノコを食ってないよなあ…。天ぷらとかも食いたかったよ。
まっ、いっか。そんな年もある。

 
                 おしまい

 
追伸
もっと早くに書くべき文章だったのだが、キアケハの記事にかかりっきりになってて書けなかった。虫の記事は下手なことが書けないので、どうしても時間がかかる。食べ物の記事なら毎日だって書けるのに、そうはいかないのだ。誠に鬱陶しい。

外でタケノコを食ってないと言ったけど、考えてみれば1回だけある。
4月の後半、三草山に行った折り、道の駅で筍ごはんを買ったわ。

  

 
お店じゃなく、ホントの外やんか(笑)
あまご飯が予想以上に旨かったなあ…(о´∀`о)

 

クロカタビロちゃんが、樹液に来た

 

先日5月18日、蛾の夜間採集に行った折りに樹液にクロカタビロオサムシ Calosoma maximowiczi が来ていて驚いた。
クロカタビロオサムシといえば、樹上性のオサムシで毛虫を食うことで知られているが、樹液を吸うなんて聞いたことがなかったからだ(註1)。

 

 
最初、遠目から見た時はキマワリかと思った。
けど、近づくにつれ、形も鞘羽の質感も違うと感じて直感的にクロカタビロだと思った。

普通、オサムシの多くは羽が退化しており、飛べないんだけど、このカタビロオサムシの仲間にはちゃんと羽があって飛べるんだよね。
目の前で飛んだらヤだなと思いつつ、グッと寄る。スマホで写真を撮るのには相当近づかないと撮れないのだ。したら、嫌がりはって移動。

 

 
わかりにくいので、トリミングしときます。

 

 
これでクロカタビロだと誰が見てもわかるだろうと思って、その場を一旦離れた。
しかし、暇なのでベンチに座って撮った写真をチェックしてみたら、これが酷い。あとで何を言われるか堪ったもんではないので、撮りなおすことにした。

 

 
それでも小さいから、一応トリミングしとくか…。

 

 
前脚の跗節の形からすると、♂みたいだね。
♂はここが幅広いが、♀は細いので判別しやすい。

場所は奈良県大和郡山市の矢田丘陵。
時刻は午後7時過ぎ。この日の日没時刻は7時半くらいだったが、天候がダダ曇りだったせいか辺りは完全に日没後の様相だった。吸汁時間は20~30分くらいだったかと思われる。

クロカタビロオサムシと云えば、アッシのガキの頃は関西では珍品だった。能勢で珠に採れるくらいで、確実に産しているのは兵庫県佐用町の大撫山くらいだったと記憶している。
それが2014年だったか、関西で大発生したんだよね。この年は各地でマイマイガの幼虫が大発生していて、餌が豊富だったからそれに連動してクロカタビロも大発生したのだと言われている。

でも、それって何か変なんだよなあ…。
確かクロカタビロオサムシって成虫越冬だよね。夏の終わりだか秋の初めに幼虫が土中に潜り込み、蛹から成虫になる筈だ。つーことは前年に既に沢山の幼虫がいた事になる。しかし、前年にマイマイガは大量発生していたワケではないよね。他の蛾の幼虫が大発生したというのも聞いていない。だったら計算が合わないじゃないか。前年にクロカタビロの幼虫が大量に生き残るには、餌となる芋虫だの毛虫だのが沢山必要となる。けど、マイマイガの幼虫が大発生するのは翌年なのだ。何でクロカタビロがそんなに生き残ったのかが、よくワカンナイ。
調べてみたら、クロカタビロオサムシは寿命が2年もあるらしい。越冬成虫には前年の成虫と新成虫の両方がいるようだ。一瞬、大発生の前年と前々年との成虫が合わさって、たまたま偶然にスゴい数の成虫が現れたのかと思った。しかし、東北なんかでは蛾の幼虫の大量発生(シャチホコガの1種)とクロカタビロの大発生は連動するらしい。どうやら偶然では無さそうだ。実際、今年も大量の毛虫が湧いてて、各地でクロカタビロオサが頻繁に見掛けられ始めているようだ。

それはさておき、何でクロカタビロちゃんは来年にマイマイガが大発生するって解ってたんだ❓予知能力でもあんのかよ❓
予知能力があるんだったら、スゴいよね。
理解不能だわさ。虫って、宇宙人だな。

 
                 おしまい

 
追伸
情が湧いたのか、このクロカタビロオサムシは採集しなかった。それに尻から臭い液を噴射されんのがヤだったというのもある。
因みに、樹液に来ていたワケではないが、もう1頭樹幹に静止していた個体も見ました。どちらも日没後まもなくだった。或いは夜はその時間帯くらいまでしか行動しないのかもしれない。ワカンナイけど。

一応、参考までに標本写真も添付しようと思ったが
手持ちのものがある筈だが行方不明。仕様がないので、綺麗な展足写真をお借りしよう。

 
【クロカタビロオサムシ♂】
(出展『日本産環境指標ゴミムシ類データベース 里山のゴミムシ』)

 
オサムシにしては、ズングリ型なのが特徴。
カッコイイ。オサムシはフォルムがスタイリッシュなので、基本的に好きだ。北海道にはオオルリオサムシやアイヌキンオサムシなど、美麗な金属光沢に輝くものもいて「歩く宝石」なんて言われたりもする。

 
【オオルリオサムシ】
(出展『井村有希・水沢清行 著『世界のオサムシ大図鑑』』以下、同じ)

 
色のバリエーションが様々なのも魅力だ。

 

 
【アイヌキンオサムシ】

 
似ているが、オオルリオサムシよりも一回り小さい。

   
(註1)樹液を吸うなんて聞いたことがなかった…

クロカタビロオサムシは聞いたことがなかったが、オサムシの仲間ではマイマイカブリやツシマカブリモドキが樹液や果実を発酵させたトラップに集まることが知られている。去年、山梨の大菩薩ではクロナガオサムシの仲間(コクロナガオサムシ?)がトラップに2頭寄って来てた。
 

2018′ カトカラ元年 プロローグ

 

突然、去年からカトカラ(Catocala)に嵌まっている。
そのキッカケとなったのが、あるカトカラだった。

カトカラとは、ヤガ上科 シタバガ(catocala)属に属する蛾の1グループのことで、学名の属名が総称として使われることが多い。以前はヤガ科 Noctuidae シタバガ亜科に属していたが,現在では Erebinae トモエガ亜科に属するとされる(Zahiri,2011;Regier, 2017)。
Catocala の語源は、ギリシャ語の kato(下、下の)と kalos(美しい)を組み合わせた造語。つまり、後翅が美しい蛾ということだね。
ついでに言っとくと、英名は「underwing」。コチラも下翅に注視したネーミングだ。
日本には31種類がいて、美しいものが多いことから人気の高いグループだ。
とは言っても、所詮は蛾愛好者の間だけのことで、一般の虫好きには見向きもされないと云うのが現状だろう。自分も元々は蝶屋だから、存在は知ってはいたものの、さして興味は無かった。というか、元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌いだから(註1)、おぞましいとさえ思っていた。

しかし、2017年に春の三大蛾の灯火採集に連れて行ってもらってから、少し蛾に興味を持ち始めた。
この辺のことは当ブログに『2017’春の三大蛾祭り(註2)』と題して書いたので、よろしければ併せて読んで戴きたい。格調高い純文学風に仕上げてみました(笑)。いや、ホラー小説風かな❓
えー、ワシが如何に蛾嫌いだったのかも、読めばわかりますです、ハイ。

そういうワケで、その年の秋にはAくんにカトカラで最も人気の高いムラサキシタバの灯火採集に連れて行ってもらった。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini】
(2017.9.23 兵庫県美方郡香美町)

 
とは云うものの、カトカラ全体に対しての興味は未だ薄かった。ムラサキシタバはカトカラの帝王とも言われ、最も美しくてデカいと云うから、一度くらいは実物を見てみたかっただけだ。

その日、結局ムラサキシタバは1頭しか飛んで来ず、それを空中でシバいたAくんが手に乗せて見せてくれた。それで充分だった。一度でも見とけば、『あれ、デカくてカッコイイですねー。』と言えるのである。ミーハーなので、昆虫界のスター的な種は一応実物を見ておきたい派なのだ。

この日はムラサキシタバ以外にもシロシタバ、ベニシタバ、キシタバ、ジョナスキシタバが飛来した。
持って帰る気はあまりなかったが、Aくんの薦めで一応ムラサキシタバ以外は持って帰った。だから、カトカラの標本は一応持ってはいる。けど、所詮は蛾。わざわざ集めたいとは全然思わなかった。

しかし、6月に奈良県大和郡山の矢田丘陵にシンジュサンを探しに行った折りに、気持ちが一変したのであった。

 
                  つづく

 
追伸
台湾の蝶シリーズも取り上げねばならぬ蝶がまだまだあるというのに、新たなシリーズを始めてしまうのである。節操がないのだ。
でも、こないだのキアゲハですっかり疲弊しちゃったので、リハビリが必要なのである。そのうち気が向いたら、そっちの方も再開する予定です。

ムラサキシタバの画像が酷いので、彼女の名誉のために美しい画像も貼り付けておきます。

 
(出展『昆虫情報センター』)

 
たぶん♀だね。
下翅の美しさはもとより、上翅の複雑な柄も渋美しい。

 
(註1)元来は一般ピーポーと同じく生粋の蛾嫌い

世間が蛾嫌いなのは、たぶん幼少の頃の刷り込みからだろう。
周囲が、蛾を見て『Σ( ̄ロ ̄lll)ひっ❗』とか呻いて仰け反るのを見て、子供は蛾って気持ち悪いもんなんだと学習しちゃうんだろね。海老とか蟹とか雲丹やナマコだって、冷静に見れば相当グロい。我々はそれが食って旨いと知っているから、美味しそうに見えるだけだ。
話が逸れた。ようはファーストインプレッションで学習したそこに、蝶より地味で汚い、主に夜に活動するので不気味、目が光って妖しい、胴体が太くて気持ち悪い、家に飛び込んできて粉(鱗粉)を撒き散らす、毒を持ってそう、毛虫が醜い等々の悪いイメージが重なり、どんどん補完されてゆくと云うワケだ。それにしても、見事なまでの負のイメージのてんこ盛りだすなあ(笑)。
大人になって蝶採りを始めた頃も蛾嫌いなのは変わらず、突然飛び出してきたら一々飛び退いて背中に悪寒を走らせていた。
蛾も蝶と同じ鱗翅目に含まれ、分類学的にも両者の境界は曖昧だ。だから、ヨーロッパでは厳密に区別せず、蝶も蛾も庶民の間では同じものとして認識されているようだ。なのに、日本では何故か蝶は善、蛾は悪というレッテルが貼られている。驚いたことに、蝶屋(蝶愛好家)でさえも蛾嫌いは結構多い。
何で(・。・;❓
これは、おそらく近親憎悪ではあるまいか❓
蝶をこよなく愛する者にとっては、蛾は汚ないし、気持ち悪いし、世間のイメージが悪いから、深層心理で鱗翅類の面汚しだとでも思っているのかもしれない。視点を変えれば、蛾にも美しいものは多いんだけどね。

 
(註2)2017’春の三大蛾祭り

その壱.青天の霹靂編、その弐.悪鬼暗躍編、その参.闇の絵巻編、その四.魑魅魍魎編の四部作で構成された長編。
他に姉妹作『2018’春の三大蛾祭り』というのもあるので注意されたし。
 

春を送る鰆のたたき

 
2週間前の話。

 
季節は、もうすっかり初夏の趣である。
魚辺に春と書く鰆(さわら)の季節も、そろそろ終わりである。

 

 
上は韓国産の鰆のたたき。国産のもあったけど、値段が倍近くしたので断念。それに、見た感じでは韓国産の方が元の魚体が大きくて美味しそうに見えたというのもある。

( ☆∀☆)うみゃーい❗
鰆のたたきって、ホント美味いよねー。
最初、ねっとりとした食感が歯にからみつき、香ばしい香りが鼻に抜けたかと思ったら、あとから旨味のつまった濃密な脂が口に中にじんわりと広がる。
(о´∀`о)溜まんないよね。

数日後、国産ものも試してみた。
予測では値段ほど美味いものではないと思ったが、食ってみないと本当のところはわからない。

 

 
予想通りだった…。
韓国産の方が遥かに美味い。
どこが違うかというと、脂と旨味が足りないのである。これは予想した通り元の魚の大小によるところが大きいと思われる。どうゆうことかと云うと、鰆は大きければ大きいほど脂がのって美味いのである。
そう云うワケだから、その後はもっぱら韓国産のものばかり食ってた。

 

 
もちろん国産のものでも丸々と太っているものならば、そちらの方がより鮮度は良い筈だから少々お高くとも買う用意はあった。だが、なぜかそれに見合うようなものを見掛けなかったのである。
もしかしたら韓国産の方が、この時期は美味いのかもしれない。

そういえば思い出したよ。鰆はその漢字の字面から、春が旬だと云うイメージが強いが、実をいうと本当の旬は最も脂の乗る秋から冬である。だから「寒鰆(かんざわら)」なんて云う言葉もあるのだ。

それでまた思い出した。対馬で秋に食った寒鰆がメチャクチャ美味かったんだよなあ~(о´∀`о)
対馬って、かなり韓国に近いよね。ってことは韓国周辺で獲れる鰆は特別美味いのかなあ…❓
あんま、聞いたことないけどさ。

鰆の旬が春だと言われるようになったのは、どうやらその時期に瀬戸内海で鰆が沢山獲れるからみたいだ。沢山獲れるということは、庶民の口に入る機会も多い。ゆえに必然、旬と言われるようになったのだろう。また、鰆の本当の旬は冬だとは言ったが、春の鰆が極端に味が落ちると云うワケではない。春でも充分美味いのである。それも旬たる由縁になったのだろう。

鰆の刺身を普段あまり見ないのと、見てもたたきが多いのには、これも実をいうと理由がある。
先ず第一にに、鯖の親戚だからか足が早い。傷みが早いので、よほど新鮮なものでないと刺身にはならないのだ。
たたきにする理由も同じでもあるが(すぐに表面を焼くと鮮度の保ちが良い)、もっと言えば、鰆の身が割れやすいからだろう。つまり、周りを焼くことによって身崩れを防ぐためなのである。

鰆の刺身を最初に食べたのは、大学1年の時だった。
女の子と行った初めての旅行だったから、よく憶えている。
場所は広島県の鞆の浦。
レトロな町で、昭和の古い時代にタイムスリップしたかのようだった。町には、漸く寒さがゆるんだホッとした雰囲気が漂っていた。柔らかな陽射しが溢れ、赤い椿がたおやかに咲いていた。
たぶん春休みだったのだろう。ということは3月だ。

そこの旅館の夕食に出てきたのが鰆の刺身だった。
たたきではなかったと記憶する。分厚く切られたもので、四角いブロック型だった。おそらく大きな鰆の一番分厚くて良いところを贅沢に切り出したものだったのだろう。
その頃はまだ鰆の刺身なんて聞いたことがなかったし、鯛とは違う濁った白っぽい色にとまどった。そう云うものだとは知らないから、鮮度が到底良さそうには見えなかったのだ。
恐る恐る口に入れて、食べた時の驚きと衝撃は今でも忘れられない。あまりの美味さに頬っぺたが、痛いくらいギュンとなった。
彼女もその美味しさにビックリしてたっけ…。

あの時の衝撃と感動を越える鰆の刺身には、その後、出会えていない。
ファーストインプレッションにして、最高峰。
どこか恋愛にも通ずるものがある。
おそらく、あれを越えるものには、生涯出会うことはないだろう。

 
                 おしまい

 
追伸
『消えたキアゲハ 完結編』にあまりにも時間を要してしまい、書けなかった文章。
ホント、蝶の話は時間がかかってアホらしい。食べ物の文章なら、ものの30分もあれば下書きが出来上がるのにさ。

そういえば、今年は鰆の味噌焼もつくってみた。

 

 
甘いのはあまり好きじゃないし、わざわざ西京焼きの為に白味噌を買うのもイヤだし(西京焼きじたいは好き)、普通の味噌に酒と味醂少々と刻んだネギを加えて漬け込んでみた。
しかし、アホだから存在を完全に忘れてて、気づいたのは2週間後。
周りに付いた味噌を落とし、弱火でじっくり焼いてみた。それを、ややビビりながら口に運んだ。

(・。・)えっ、メッチャ旨いやんか❗
腐った様子もないし、全然イケる。普通に塩焼きしたものよりも断然に美味い。味噌の力には、とても感心したよ。発酵食品、恐るべし❗
少々、味が濃いが、むしろ日本酒のアテにはビッタリだった。勿論、白ごはんにも抜群に合う。
これからは、余った魚は味噌漬けにしょっと(^o^)v

 

台湾の蝶32『消えたキアゲハ 完結編』

  
        台湾の蝶32
  『消えたキアゲハ 完結編』

 
まさか3回もキアゲハを取り上げる事にはなろうとは夢にも思わなかった。でも取り上げたのには、それなりの理由があるのだ。

前回に少し触れたが、五十嵐 邁さんの図鑑『世界のアゲハチョウ』を見る機会があった。
そこにはキアゲハグループの幼生期の細密画も並んでいた。そのクオリティーの高さには驚かざるおえなかった。

 
       (出展『日本の古本屋』)

 
(出展『natsume-books.com』)

 
発行されたのは、51年前の1979年。アゲハチョウだけに的を絞った幼生期を含めた図鑑だが、当時の世界の蝶愛好家たちが度肝を抜かれたというのも頷ける。

この図鑑に触発されたのは確かだが、この時点ではまだ3話目を書くかどうかは微妙だった。
しかしその後、台湾のキアゲハの幼虫写真を漸く見つけることが出来た。それで書く気になった。
なぜだか、探しても探しても台湾のキアゲハの幼生期の写真が全然見つからなかったのだ。台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された内田さんの三部作(註1)にさえも、写真が載っていないのである。
ゆえに、前2回の記事中に台湾のキアゲハの幼虫写真を添付することができなかった。肝心の幼虫写真が1枚も文中に無いのは片手落ちと云うものだ。それが見つかったのだ。面倒だが、もう書かざるおえないだろう。

とはいえ、それだけでは尺が全然足りない。
折角だからこの際、併せて初回に載せたキアゲハ種群の幼虫写真と図鑑の絵図を見比べて検証していく事を思いついた。アップした幼虫写真は自分がネットで探してきたものだから、同定に疑問の残るものもあったからだ。
この図鑑の情報を加味し、もう一度全体を俯瞰して見れば、新たな地平も見えてくるかもしれない。

おさらいの意味も含めて、図鑑の成虫写真も載せて解説していこう。

 
【Papilio machaon キアゲハ】 

 

 
各亜種が並んでいるが、分布が広い分それなりに違う。と言っても、亜種にする必要性があるのか疑問なものも多いというのが現状らしい。

 
 
【Papilio machaon hippocrates 春型♂】

 
【ssp.hippocrates 春型♀】

 
【ssp.hippocrates 夏型♂】

 
【ssp.hippocrates 夏型♀】

  
日本亜種の、それぞれ春型と夏型の雌雄である。
夏型の♀は全亜種内にあって、著しく大型且つ黒っぽいゆえ、特異な位置づけにあるようだ。
我々日本人は忘れがちだが、日本は世界の極東にあり、その東には茫漠たる海原が広がっている。謂わば日本列島は、旅する命ある者の終着駅なのだ。分布の拡大を求めて移動してきた末のドン突きであり、そこにとどまるしかないのである。ゆえに独自な進化を遂げた生物も少なくない。蝶も、キアゲハ以外にも特化しているものが少なからずいるのである。それを忘れてはならない。今更ながらにそう思う。

  
(終齢幼虫)
(出展『そらいろネット』)

 
キアゲハの幼虫なんて日本の蝶屋にはお馴染みだろうが、他との比較のために幼生期の写真と絵図を添付しておこう。何事にも基準は必要なのだ。それが無ければ、比較対照とはなりえない。

お次は五十嵐図鑑の細密画。

 

 
美しい図版だ。
写真よりも味があって良い。
現代の図鑑は、殆んどが写真で構成されているから正確性は高い。だけど、面白味には欠ける。その事に改めて気づかされたよ。絵の方が想像力を掻き立てるのだ。そこには、絵画を楽しむ気持ちと相通ずるものがある。中世ヨーロッパの、絵だけで構成された図鑑なんて美しいもんね。ずっと見てても飽きない。きっと、そこに芸術性を感じているからだ。

 
(終齢幼虫)

 
キアゲハの幼虫といえば、この派手派手縞々のガチャピンみたいな終齢幼虫のイメージが強い。
実物は結構インパクトがある。❗(゜ロ゜ノ)ノ、最初はギョとしたもん。
毒は無かった筈だけど、有りそうには見えるから、まあ一種のハッタリだよね。でも、それなりの威嚇にはなるでしょう。

越冬前の秋の個体は地色の黒化傾向が強く、稀に緑色部の全く失われた個体も見られるみたいだ。但し、このような個体であっても橙色点が消失することは無いという。

 

(出展『青森の蝶たち』)

 
寒ければ寒いほど黒化しやすくなるようだ。
でも、何で寒いと黒くなんだろね❓
人間は暑い季節になるとメラニン色素が増えて肌が黒くなるのに、それって逆じゃんか。
あっ、(・。・)そっか、黒くなることによって太陽熱をより吸収しようという作戦かえ?
だとしたら、納得じゃよ。皮膚の色を自由に変えられたら、マイケル・ジャクソンもあないな苦労をしなくても済んだのにね。
 
幼虫は全部で4回脱皮を繰り返して姿を変えながら、やがて5齢(終齢)となり、その後、前蛹を経て蛹となる。

 

 
各齢が2つずつ描かれており、上から見た俯瞰図と横から見た側面図が並んでいる。
3齢の途中までは黒っぽい。これは鳥の糞に擬態しているからだと言われている。糞に化けるとは、お主やるな。ウンコ💩に化けるなんて発想は、人間様には目から鱗だよ。

それにしても4齢幼虫が4齢幼虫らしくないなあ。
4齢は、もっと白っぽかった筈なんだけどなあ…。

 

(出展『我が家の家の生き物たち』)

 
或いは図鑑に図示されているものは、終齢に脱皮する直前の幼虫かもしれない。

 
(出展『蝶の図鑑~今日の蝶』)

 
脱皮が近づくと、見た目が次第に終齢幼虫に似てくるのである。これって「おいら、ゼッテー終齢幼虫になるけんねっι(`ロ´)ノ!」と云う強い意志の表れかもしれない。
おっちゃん、「女の一念、岩をも砕く」と一人ゴチて、勝手に笑う。阿呆である。それに使い方が今いちズレとるがな。

因みに、各種、各亜種の幼虫の食草については第2話『続・消えたキアゲハ』に詳しく書いたので、今回は割愛します。気になる人は遡って前の文章を読んでくだされ。
それで思い出したんだけど、そういえば日本のキアゲハを飼っていた人が言ってた。庭にセリとパセリを植えておられるんだけど、幼虫はセリよりもパセリの方を圧倒的に好むらしい。キアゲハの食草といえばセリ科だから、てっきりセリの方が好きかと思いきや、そうじゃなかったって云う話だね。
まあ、日本ではたまたまセリが科の代表になったと云うだけだろうから、よく考えれば不思議でも何でもないんだけどね。

 

 
左上が卵、真ん中が幼虫各齢の頭部正面で、右上がその肉角だ。
肉角とは天敵に襲われそうになった時に、頭からニョキッと出すヤツだね。そこから柑橘系の嫌な匂いを発する。天敵に対して、あんま効果があるとは思えないけど、実際はどうなのかな?
まあ、こんなのを急にニョッキリ出されて、しかも臭かったりしたら、結構引くかもしんない。少なくとも、小学生のアッシはビックリした。

 
(蛹)

 
夏季の蛹は緑色で、越冬する蛹は茶色になるのは周りの環境と同化する為だ。これはよく知られた事だけど、改めて考えてみると、そんなことが出来るだなんて凄いよね。よくよく考えてみれば、神秘的だよなあ…。
だってさー、1回体内をドロドロに溶かして、全く違う形に再形成するってワケでしょ❓
異能戦士かよ。レインボーマンとか、そんな技を持ってなかったっけ?
現代人は当たり前の知識として、芋虫から蛹、そして蝶へと大きく姿を変えることを誰でも知ってはいる。だけど冷静になって考えてみたら、全く違う姿・形に変身できるだなんて驚愕モンである。不可思議としか言い様がない。昔の人たちが蝶を霊的な存在として崇めていた気持ちがよく解る。これはリーインカネーション、輪廻転生という思想とも繋がっているに違いない。

 

 
もう1つ色の違う蛹が図示されているが、よくワカンナイ。

図版にある各亜種を紹介する前に、イメージが湧き易いように改めてキアゲハの分布図を載せておこう。
キアゲハの分布は、とても広いのだ。それを踏まえて、読み進んでもらいたい。

  

 
キアゲハの分布は北半球に広く、ヨーロッパからシベリアを経て、北米にまで達している。これはきっと地史とも関係がありそうだが、壮大になるのでこれ以上触れないようにしよう。

ところで、キアゲハの祖先種は何処で誕生したのだろうか❓
それも調べた限りではワカラナイので、そもそも地史と照らし合わせて論じることには無理があるよね。迷宮に彷徨うことになりそうなので、やっぱアンタッチャブルにしておこう。首を突っ込んだら、ロクなことになりそうにない。

それでは各亜種を並べてみよう。
因みに一旦は図版の番号順に並べて各個体の解説をしてみたが、書き進めれば進めるほど不都合が生じてきた。で、その殆んどを入れ替えざるおえなくなった。番号順だと、各亜種の関連性が無茶苦茶になるのである。説明があっちこっちに飛び、相前後しまくって全く系統だてて書けないのだ。
理由は、図版内に上手く蝶をおさめる為だとか、美しい並びにしたかったのかなとも思ったが、たぶん五十嵐さんは、あんましキアゲハの分類については詳しくなかったのではないかと思う。
いや、そう云う言いぐさは後出しジャンケンみたいでヨロシクない。50年前なんだから、情報量は今よりも格段に少なかった筈だ。これでも当時の知識としては、きっと最高レベルだろう。大部分の蝶屋が、世界には様々なタイプのキアゲハがいるという事すら知らなかったに違いない。しかも、当時は多くの亜種が乱立していて、分類も錯綜していただろう。そんな時代に各亜種間の関連性まで理解して並べろというのには無理がある。順番が無茶苦茶なのも致し方ないだろう。
おかげで随分と苦労したので、いささか口が滑りもうした。五十嵐さん、ごめんなさい。

気を取り直して、次は台湾産のキアゲハである。

 
 
【ssp.sylvinus 夏型?♂】

 
【ssp.sylvinus 夏型?♀】

 
台湾産も特化している。
小型になり、翅形が縦長で上翅外縁の黒帯が細く、内側がギザキザになる傾向がある。

上翅の基半部が黒っぽくないので、おそらく夏型かと思われる。台湾のキアゲハは日本と逆で、春型が黒っぽくて、夏型の方が明るい色をしているのだ。
っていうか、世界的にはそっちの方が当たり前らしい。日本など極東地域だけが逆で、夏型の方が黒っぽくなるのだ。

 
 
【ssp.gorganus ♀】

 
フィンランド産とある。
黄色くて、別種と見紛うばかりの出で立ちだ。
(◎-◎;)何じゃ、こりゃ❗❓ もうここは、藤岡図鑑(註2)の力を借りるしかあるまいて。

スカンジナビア半島などの北方では、前翅亜外縁の黒帯が細くて一様な太さで、外側に寄っている。また、翅脈上の黒条が極めて細い。写真の個体は究極的に黒条が細くなった個体だから、矢鱈と黄色く見えるのだろう。
ヨーロッパの他地域は通常年2化の発生だが、この地域とイギリスのみが年1化だという。

エラー(Eller 1936)やセイヤー(Seyer 1982)は、これを別亜種 ssp.lapponicus としているが、明確に亜種として区別できない個体も多く、分布の地理的区分も不明確のようだ。
五十嵐さんは亜種名を ssp.gorganus としているが、原記載亜種のタイプ産地はスウェーデンだから、フィンランドとは近い。亜種名は、ssp.machaon machaon が妥当かと思われる。

 
 
【ssp.gorganus ♂】

 
これもフィンランド産と同じく ssp.gorganus としているが、コチラはドイツ産とある。フランス産などもこの亜種に含まれるようだ。
フィンランド産と同様に、前翅表面亜外縁の黒帯が細く、一様な太さで、翅脈上の黒条が細い傾向があるとされる。それゆえ、五十嵐さんは両方とも同じ亜種としたのだろう。つまり、この gorganus の特徴がより進んだものがフィンランド産だと考えられたと推測される。だから、同じカテゴライズに入れたのだろう。
でも、そんなに黒帯は細いとは思えないし、一様な太さでもないよなあ…。

この他にもヨーロッパのキアゲハには多くの亜種名が与えられてきたが、何れにせよ斑紋は連続的で明確な分布の線引きが出来ないようだ。
そんな事から近年では、ライレーとヒギンズ(Riley &Higgins 1971)が提唱したように、ヨーロッパ全体を一つの亜種とする見解が主流となっている。藤岡さんも同じ見解で、その上でヨーロッパ亜種を3つの準亜種に区分(註3)しておられる。

 
 
【ssp.britanicus ♂】

 
イギリス産。
英国本土の土着個体は対岸の大陸産に比べ、前翅表面亜外縁の黒帯が太く、波状となり、翅脈上の黒条も太い。藤岡さんはこれに加えて、前翅の形に丸みがあって、尾状突起が短いという特徴も挙げておられる。

年1化が普通だが、気温の高い年には部分的に2化目が発生する。対岸の大陸側は年2化が基本だから、緯度的に変わらないのにも拘わらず年1化なのは、見てくれの違いだけでなく、生態的にも特異なものである事を示している。
しかし、大陸側のフランスから迷蝶として飛来することがあるようで、その上、大陸産を飼育して放蝶する例もあって、血が混じってきているらしい。そのせいなのか、最近では純粋な britanicus は姿を消しつつあるそうだ。また、2化目の発生例も増えてきているという。
藤岡図鑑の刊行は1997年だから、この記述からもう22年もの時が経っている。現在ではどうなっているのだろう❓何も対策していなければ、大陸産に呑み込まれてブリタニカスは確実にこの世界から消えているか、消えつつあるだろう。だとしたら、嘆かわしいことだ。
これって、遺伝子汚染の典型じゃね❓
放蝶は蝶を増やして野に放つワケだから、美談になり易い。しかし、一見その善に見える行為が如何に悪なのかが、この例でよく解るよ。そんな事をすれば、地域に固有なものがこの世から永遠に消えてしまうと云うことが解っちゃいないのだ。善だと思って頑張ってやってる奴が、一番始末に悪い。正義を振りかざす奴が、意外と手強いのと同じだ。そう云う人は論理的に説明しても、大概が納得してはくれないのだ。

 
【ssp.oreinus ♂】

 
標本写真の産地は、Altay U.S.S.R とある。
これはたぶんアルタイ山脈のことで、そのソビエト連邦側で採集されたものであろう。
一瞬、U.S.S.R って何だっけ?と思ったよ。改めて図鑑の古さを実感したね。今時の子は、かつてソビエト連邦という国があったことすら知らないかもしんない。

この亜種は、現在は中央アジア亜種 centralis に吸収されているようだ。コチラも両者の斑紋が連続的に繋がり、亜種として明確な線引きが出来ないからだろう。

 
 
【ssp.oreinus ♂】

 
【ssp.oreinus ♀】

 
これらもソビエト連邦産と同じく ssp.oreinus という亜種名になっている。
採集地は両方ともアフガニスタンとある。
相変わらずアフガンに入国するのは難しいだろうし、ましてや山野で網を振るだなんて死ぬ覚悟がないと出来ないだろうから、今や貴重な標本かもしれないね。

これらも同じく中央アジア産の亜種 ssp.centralis のタクソンに含まれる。
トルキスタン、サヤン、タジキスタン産にも亜種名がつけられているが、地中海地方と殆んど変わらない個体もあり、変異は東ヨーロッパ、南ロシアを経て完全に連続的で、ヨーロッパを一つの亜種とするならば、これらの地域も同一亜種とすべきだと考えられている。ひいてはヨーロッパ産をもひっくるめて一つとし、ssp.machaon machaon とする研究者もいるようだ。

 
 
【ssp.annae ♂】

 
産地はブータン。
黒っぽくて、尾状突起が短い。
亜種名が「annae」ってなっているが、これってどう見ても高地に棲む異質な集団で、別種に分けられたタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)だよね❓
たしかタカネキアゲハの分布域にブータンも入っていた筈だよな。別種として記載されたのは、五十嵐図鑑の刊行後だから、藤岡さんによってまだ分類が整理されていなかったかと思われる。たぶん、それまではブータンの個体群は、この亜種名が宛がわれていたのだろう。テキトーに言ってみたから、本当のところはよくワカンナイけどさ。
マズい。集中力が切れてきた。あとでちゃんと調べなおそう。

 
 
【ssp.sikkimensis ♂】

 
ネパール産とある。学名からすると、これが別種となったタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)だね。
でも、黒っぽくないし、尾状突起も短くない。むしろ尾突は普通のキアゲハよりも長いくらいだ。いや、単に細いから長く見えるだけか…。いやいや、ミャンマーなどの標高2,500m前後に棲む超長尾型ほどでないにせよ、充分に長い。
タカネキアゲハは変異幅が多いというし、厳密的に精査すれば、その変異はキアゲハと連続的で別種とは言い難くなるかもしれない。遺伝子解析の結果でも、キアゲハと同じだとする見解もあるしね(註4)。
キアゲハの分類は今も研究者によって見解がバラバラだ。他の各亜種間も見た目の違いは連続的に推移するものが多いから、亜種を廃して全部同じものだとする研究者もいるくらいだ。ようするに曖昧でワケわかんないのである。

 
【ssp.punjabensis ♂】

 
インドとしか書いてなかったが、学名からするとパンジャブ州で得られたものだろう。
しかし、ssp.punjabensis で調べてみてもヒットしない。藤岡図鑑には、ssp.pendjabensis というのがあるから、おそらく五十嵐さんの誤記であろう。
そう思ったのだが、確認し直したら、punjabensis というのも少数ながらあった。だから、五十嵐さんは他の人の誤記をそのまま使ったのかもしれない。或いは punjabensis はシノニムなのかもしれない。

この亜種を調べている仮定で、問題のタカネキアゲハ的なものも含めて疑問が解けた。
亜種 pendjabensisは、annae、sikkimensisと密接な関係にある。この辺の話は物凄くややこしいのだが、頑張って説明してみようと思う。

どうやら pendjabensis は亜種 asiaticus という種群に含まれるようだ。annae も同じくこの種群に入れられている。他に emihippocrates と云う亜種も此処に含まれている。これらは皆、Hindu Kush(ヒンドゥークシュ)、Karacoram(カラコルム)、Himalayas(ヒマラヤ)などの低地に同所的に分布するとされてきた。そして尾状突起の長いものを ssp.pendjabensis、短いものを ssp.annae として区別していた。
五十嵐さんは、それを踏まえて短尾型をssp.annae、長尾型をssp.pendjabensisとしたのであろう。
しかし、実際は短尾型は3,000m以上に棲み、低地には分布しておらず、それが混乱に拍車をかけた。
加えて問題をややこしくしたのは、当時の分類研究の大家であったタルボット(Talbot)が、春型と夏型を混同し、両者をそれぞれ別々な亜種としてしまったことだ。
asiatica はエベレスト西方の谷(Longshar valley)が基産地だが、同地の標本を検したタルボットは前後翅の黒帯が幅広く全体的に黒いものを asiatica とし、黄色い部分が広くて上翅基部が黄色鱗粉に覆われているものを中央アジア亜種の centralis とした。しかし、彼が asiatica としたのは春型で、centralis は夏型にしかすぎなかった。ようするに、これらは同じもので、その季節型でしかなく、当然ながら亜種とはなり得ない。
タルボットは更に長尾型の pendjabensis がパンジャブからクマオン、emihippocrates がネパール、短尾型の annae がシッキムからブータンに分布するとし、斑紋が異なるものが異所的にいるかのように書いた。だが、長尾型と短尾型は標高で生息を異にしているだけで、実際は同じ地域に分布しているし、長尾型同士に明確な差は見出だせない。

後にディール(Deal1977)は asiaticus がヒマラヤ南斜面の低地型キアゲハと見なすべきと論証し、更に従来は短尾型キアゲハの亜種名として用いられてきた annae も長尾型でしか有り得ないことを証明してみせた。
前述したが、つまり短尾型と長尾型は同所的に標高で棲み分けており、3000m以上に短尾型、それ以下には長尾型が棲息しているというワケだね。
そして、3000m付近では両者が混棲し、中間型が見られないことから、藤岡さんはこの短尾型を別種と考えた。で、ディールの考証に従って他の地方も含めて短尾型といわれるキアゲハの特徴を全て持ったキアゲハの中で最も古い学名を用いて新種タカネキアゲハ Papilio sikkimensis(Moore 1884)として記載したというのが当時の流れだろう。
因みに、藤岡さんは原記載亜種の産地にシッキム、雲南省を挙げている。

一応、タカネキアゲハの分布域も書いておこう。
分布の西限はパキスタン西部のバルチスタン北方で、パキスタン最西北のチトラール地方から東へはカラコルム山脈、ヒマラヤ山脈沿いに広く分布し、ヒマラヤ山脈が南限となる。北はパミール高原及びチベット高原、天山山脈、そして東は中国の雲南省、四川省、甘粛省、青海省に至るまでの高地に分布している。
それにしても、驚くほどに分布域が広いんだね。

バルチスタンとかチトラールとか懐かしいなあ…。
と云うことは、タカネキアゲハはギルギットなんかにも棲んでるんだろね。
いや、ギルギットはそんなに標高は高くなかった筈だ。思い返せば1,500mくらいかな。ならば、フンザ辺りか? でも一応調べてみたら、たったの2,500mくらいしかない。ちょっと歩いただけで息切れしたから、だいぶと空気が薄かったと感じたけどなあ…。すると、ススト辺りまで行かないといないってワケか。スストで泊まった時に眠れず、一人夜中に外に出た時の記憶が突然フィードバックしてきた。冴え冴えとした月光が水の無い河原に降り注ぐ様は、まるで別な天体にいるかのようだった。凄絶なまでに美しく、恐ろしく寂しい風景だった。

五十嵐図鑑に示された個体は、おそらくネパールでも低標高地で得られたものだから尾状突起が長いのだろう。つまりこれは厳密的にはタカネキアゲハではない。きっと採集された場所がネパールというだけで sikkimensis としたのだろう。
因みにネパールのタカネキアゲハは産地からすると、ssp.rinpoche(Wyatt,1959)という亜種となる筈だ。しかし、五十嵐図鑑の個体の見た目はどちらかというと原記載亜種 sikkimensis sikkimensis に近いような気がする。

ssp.pendjabensis(Elmer1985)だが、パンジャブ州がタイプ産地ではなく、Dehara Dun(デヘラードゥーン)とAllahabad(イラーハーバード)となっていた。
デヘラードゥーンは、日本語では「デーラドゥン」や「デラドゥン」と表記される事も多いインドのウッタラーカンド州(旧ウッタラーンチャル州)の暫定州都である。パンジャブ州と隣接し、その東側に位置する。
一方、イラーハーバードは、英語名称に由来するアラーハバードという表記されることが多いインド北部ウッタルプラデーシュ州の都市で、テラドゥンの東南にある。ようするにパンジャブ州、ウッタラーカンド州、ウッタルプラデーシュ州は連なっており、何れもヒマラヤ山脈の麓にあるのである。つまり、亜種 pendjabensis も低地の長尾型キアゲハということになる。
但し、ssp.annae や ssp.asiaticusとは、現在どういう風に関連づけされているのかはワカラナイ。
しかし、たぶんこれらは皆同じもので互いに区別できず、どれか一つの亜種名(asiaticus?)に集約されて、他はシノニム(同物異名)として使用されなくなっているものと思われる。
以上、ザックリで説明したから、細かいところは間違っているかもしんないけど、大まかにはそう云うことだろう。

パンジャブ州はインド北西部にあり、パキスタンと国境を接している。
ついでに言うと、パキスタン側の州もパンジャブ州である。今更ながらに、パキスタンはインドから独立したんだなと思い起こさせられる。つまり、それによってパンジャブ地方は分断されたって事なんだね。

昔、パキスタン側の国境の街ラホールからインド側の国境の街アムリットサルへと旅したことがある。この国境は、しょっちゅう突然閉鎖されることで有名で、ビクビクしながら国境越えした事を思い出す。
そういえばアムリットサルといえば、誇り高きシーク教徒の聖地だったな。着いて煙草を吸ってたら、デカいシーク教徒に「ここで煙草を吸うな。」と威厳に満ちた態度で、たしなめられたっけ…。シーク教徒は、みんな大柄で誇り高き戦士なのだ。
まだその頃は蝶採りなんぞしていなかったから、キアゲハの存在くらいは知ってはいたものの、こんなところにまで分布しているだなんて考えもしなかった。
思えば人間にも多くの民族がいて、それぞれ見てくれは違ったりするから、いわば亜種だらけだ。でも、その境界はキアゲハと同じで曖昧だ。何だかそう思うと、種の定義って何なんだ❓と思うよ。ワカラナクなってくる。

何だか結びの文章みたくなっちゃったが、先はまだ長い。気をとり直して次の図版に移ろう。

 
  
【ssp.schantungensis ♀】

 
標本の産地は熱河省とあった。
熱河省❓そんな省、中国にあったっけ❓
これは流石に調べた。それによると「ねっかしょう」と読み、かつて存在した省らしい。中華民国の時代にうまれ、満州時代を経て中華人民共和国の時代に入っても存続したが、1955年に廃省となったようだ。場所は現在の河北省、遼寧省及び内モンゴル自治区の交差地域に相当するみたいだ。

 
  
【ssp.chinensis ♂】

 
これも同じく中国産のキアゲハ。学名もいかにも中国って感じだ。でも、産地は特に記されていなかった。
どうやらこの亜種は、上の亜種 schantungensis に集約されているようだ。schantungensis は東中国が基産地だから、ということは中国のド真ん中、もしくは南部辺りのキアゲハなのかな?

 
 
【ssp.orientis ♂】

 
標本の産地は、Manchuria 北部大興嶺。
これはおそらく大興安嶺山脈の事を指しているものと思われる。この山脈は火山山脈で、中国北東部、ロシア、モンゴルとの国境に沿って南北約1,200㎞にわたって連なっている。どんな所か今一つ想像がつかないが、想像するにきっと厳しい環境なのだろう。キアゲハは乾燥地帯や湿潤な温帯域、低地から高山地帯と、色んな環境に適応できたから、分布を世界に広げることが出来たんだろうね。

摸式産地はサヤン山地。シベリア、北ロシア、ウラル山脈などに分布し、藤岡さんも別亜種として扱っている。
英語の産地表記には、polar(極地)という言葉があるから、北極圏にまで分布しているものと思われる(註5)。
強えぜ、キアゲハ。だったら何で台湾では消えてしまったのだろう❓

 
  
【ssp.sachalinensis ♂】

 
【ssp.sachalinensis ♀】

 
サハリン産のもので、遺伝子解析では日本の北海道産に極めて近いようだ。

これら解説してきた亜種の幼虫の見てくれは、日本のキアゲハと殆んど変わらないようだ。但し、タカネキアゲハは保留としておく。調べた限りでは、幼生期の解明がなされていないからだ。高地に棲む特異なキアゲハだけに、見てくれに大きな違いがある可能性はある。もしも特異な幼虫ならば、遺伝子解析の結果がどうあれ別種とすべきだと思う。遺伝子解析による分類が絶対ではないと考えているからだ。見た目が同じなのに、遺伝子解析では別種という結果が出ている昆虫も最近は少なくない。目で見て全く区別できないものなんて、そんなもんに果たして名前をつける意味があるのかね❓分類とは本来、人間が生物を区別するために生まれたものだ。それを忘れたら、本末転倒だと思う。見た目で判別できないものは、同種でいいじゃん。徒(いたずら)に遺伝子解析の結果を重視するのは混乱を引き起こすだけじゃないか(# ̄З ̄)

 
ここからはキアゲハの亜種、もしくは近縁の別種とされるが、幼虫形態が違うものです。

 
 
【Papilio saharae ♂】

 
【Papilio saharae ♀】

 
【Papilio saharae ♂ 】

 
【Papilio saharae ♀ 】

 
上2つが北アフリカのアルジェリア産。下2つが地中海のマルタ諸島産である。
アフリカではサハラ砂漠北側の500~2,000m以上の山岳地帯に棲み、西からモロッコ、アルジェリアを経てチュニジアに続くアトラス山脈とリビア北東部のアカダール山地が確実な産地であるが、地中海沿いの他の場所でも迷蝶として採集されることも多いという。

年1化で2~5月に発生する地が多いが、環境の厳しくない場所に適応した産地では、年2~3回発生するところもあるという。

コヤツは従来キアゲハの亜種扱いだったが、後に別種に分けられたものだ。理由はヨーロッパのキアゲハと混棲している場所が見つかったからみたい。つまり、既に生殖的には種として分化していると云うワケだね。しかも、キアゲハが草原などの穏やかな環境を好むのに対し、サハラキアゲハはガレ地や砂漠の中のオアシスを好むというから、生態的にも差違がある。
でも、コヤツもタカネキアゲハと同じく遺伝子解析では同種という判定が出ているんだよね。

そういえばモロッコのカサブランカから内陸のマラケッシュにバイクで移動した時に見た風景は壮大だったっけ…。時刻は夕暮れ間近で、荒涼とした大地の向こうに茶色い山々がデーンと連なっていた。そこには見渡す限り道路以外の人工物は全くなく、時間が止まったかのようだった。バイクを走らせているのに、全てがスローモーションのように見えた。今でも、あれは本当に見た景色なのかと思うくらいに幻想的だった。今、自分は日本から遠く離れた土地にいるんだなと実感したのを思い出す。
あそこには、きっとサハラキアゲハもいた筈だ。

 
幼虫はこんなのである。

 
(出展『wildisrael.com』)

 
おそらく左下が4齢幼虫で、左上が終齢幼虫だろう。
かなりキアゲハとは見た目を異にする。
しかも、幼虫はキアゲハが好む食草であるセリ科 Ferula communis(オオウイキョウ)やFerula vulgare(フェンネル)を好まず、同じセリ科だが、Deverra chioranthus、Deverra scopularia、Saseli varium などを食する。これも別種とする理由になったようだ。遺伝子解析がどうあれ、別種説を推したいところだね。
因みに、五十嵐図鑑には成虫写真を4個体も載せているのに、残念ながら幼虫の絵は図示されていなかった。

 
 
【ssp.aliaska ♀】

 
北米大陸のキアゲハで、アラスカ亜種とされる。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
幼虫は初回の時に上の画像を添付したが、同定に自信が持てなかったので他の画像も探した。けれど画像は少なく、漸く見つけたものは有料だったので添付はパス。でも特徴は同じなので、この画像で問題ないと判断した。

キアゲハの幼虫と基本的なデザインは同じだが、決定的に違うのはオレンジの部分が黄色に置き換わっているところだ。しかし、別種レベルという程の相違は無いだろう。ここは五十嵐さんの見解を知りたかったところだが、残念ながら図鑑には絵図も解説も無かった。

さらに次ページの図版へと進もう。

 

 
左と真ん中の縦1列が北米大陸のキアゲハグループだ。黒いものが多いので、かなり異質に感じる。
特に♀が黒くなるものが多いようだ。これは体内に毒を持つアオジャコウアゲハに擬態していると言われている。ようは擬態することにより、鳥の捕食から免れるためだね。
おそらくユーラシア大陸のキアゲハがシベリアから北米大陸に渡り、独自の進化を遂げたものだろう。
何となくそれは理解できる。だが、ではなぜユーラシア大陸のキアゲハはそういった擬態的進化を指向してこなかったのだろうか❓
ユーラシアにも毒を持つジャコウアゲハやアケボノアゲハの仲間は沢山いる。しかし、それに擬態したキアゲハは自分の知る限りではいない。それはどうしてなの❓ 擬態した方が生き残る確率は上がる筈だけど、ユーラシアのどの地方のキアゲハもその戦略を選ばなかったということになる。
とはいえ、何でもかんでも擬態で片付けるのは、どうよ❓安易過ぎないか。そもそも北米のキアゲハは本当にアオジャコウに擬態してんのかな❓ 幼虫の食いもんの違いや極地やアラスカの厳しい環境を潜り抜けてきたせいで黒化しちゃったら、たまたまアオジャコウに似てましたーってな事って無いのかな❓ 果たしてアオジャコウの分布と黒いキアゲハの分布ってビッタリ重なるの❓ 自分も困ったら擬態を持ち出す傾向が強いから、大きなことは言えないけど、一考の余地はあると思う。

  
【Papilio machaon bairdii ♂】

 
【Papilio bairdii ♀】

 
標本はアメリカ・カリフォルニア州産のもの。
以下、他にもカリフォルニア州産のものが多いので、混乱を避けるために分布図も添付しておこう。

 

 
図鑑ではミヤマキアゲハという和名が付与されているが、あまり使われていないようだ。少なくとも、自分は聞いたことがない和名だ。
五十嵐さんは学名を Papilio bairdii としているから、キアゲハとは別種と考えていたみたいだね。しかし、藤岡さんはコレをキアゲハの亜種に含めた。

それでは幼生期を見てみよう。
初回時に添付した画像はコレ。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
図鑑の絵図と見比べてみよう。

 
(終齢幼虫)

 
微妙に違うが、基本的には合っていそうだ。
どうやら地色が緑色ではなくて、青いのが最大の特徴みたいだね。

 
(幼生期全ステージ)

 
キアゲハに極めて近いものだと思われるが、若齢期は黒ではなく、茶色。そして、4齢が白くなると云うのが特異だ。でも白くなる意味が全然ワカンナイ。白くなって得する意味ってある?

  
(4齢幼虫)

 
藤岡さんはキアゲハ(P.machaon)に含めたが、こうなると別種の可能性も有りうる。

 
(幼虫の頭部)

 
顔も青っぽいね。
実物を見ないと何とも言えないが、キアゲハの幼虫よりかはおぞましく無い。キュートで、ちょっとお洒落感さえある。

 
(蛹)

 
特に変わったところは無さそうだ。
一見したところ、キアゲハの蛹と区別がつかない。
しかし解説を見ると、頭部の突起が極めて短いという。言われてみれば、そうかもしんない。

 
 
【Papilio rudikini ♂】

 
コチラも標本はカリフォルニア州産だ。

 
(分布図)

 
和名は図鑑ではアリゾナキアゲハとなっているが、別名コロラドサバクキアゲハとも言われ、現在は次に紹介する Papilio polyxenes の亜種(ssp.coloro)とされている。
狭義のコロラドサバクキアゲハ Papilio rudikini は砂漠に限って棲息する種で、黒い型はおらず、黄色い型のみしかいないみたい。
これは以前はキアゲハの亜種 bairdii と考えられていたが、種間雑交の研究結果、別種 P.polyxenes に極めて近い事がわかった。それが polyxenesの亜種とされるキッカケとなったようだ。

polxenesの亜種とするならば、分布域は広がり、黒くなるクラーキ型が東部に行くほど増え、逆に西では黄色い型が増えるという。

 
(幼生期全ステージ)

 
色も斑紋も、キアゲハとはかなり違う印象をうける。
サハラキアゲハと似ているかも…。キアゲハとは別種とされるのも納得がいく。

 
(終齢幼虫)

 
(頭部と肉角)

 
卵が写っていないが、キアゲハと同じく淡い黄色である。

 
(蛹)

 
夏型の蛹の色が、キアゲハと比べてくすんだ緑色だ。背中に黄色い部分も無い。やはり別種くさいな。

 
 
【Papilio polyxenes ♂】

 
【Papilio polyxenes ♂】

 
【Papilio polyxenes ♀】

 
まさに黒いキアゲハだ。和名がクロキアゲハなのも理解できる。標本は全てミシシッピー州産になっているが、分布は広い。

 

 
この分布図と先のアリゾナキアゲハの分布図を重ね合わせたものが、Papilio polyxenes(クロキアゲハ)の分布になると云うワケだね。

ではでは、幼虫さんの画像。

 
(幼生期全ステージ)

 
(終齢幼虫)

 
(各齢図)

 
(幼虫の頭部)

 
顔が黄色い。アリゾナキアゲハは4齢の顔が黒かったけど、こっちはキアゲハ的な顔だ。
とはいえ、総合すればアリゾナキアゲハと殆んど同じである。アリゾナキアゲハがクロキアゲハに吸収されたのも致し方ないだろう。

 
(蛹)

 
蛹は何故か越冬仕様のものしか載っていなかった。
夏も茶色だったりしてね(笑)。
図鑑には、蛹頭部の突起がキアゲハよりも細長く尖り、両突起間の中央は顕著に凹むと書いてあった。

あっ、そういえば初回で添付した画像を載っけてなかったね。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
(◎-◎;)❗❗ゲロゲロー。
全然、違うやん❗❗❗❗
黒くなくて、Papilio machaon aliaska アラスカキアゲハ的やんかー(|| ゜Д゜)
もうワケわかんねぇぞー❗Σ(×_×;)❗

ネットで、Papilio polyxenes の写真を探しまくる。
それで漸く見えてきた。

 

 

 

 

 
黒いのもちゃんといるのである。
そして、キアゲハ的なオレンジ紋の奴までいる。

 

 
若齢幼虫も色々なタイプがいる。

 

 

 

 

 
どれがどれだかワカンナイけど、たぶん画像には緑色タイプと黒いタイプの若齢幼虫が混じってると思う。
ようするに、この Papilio polyxenes という種は多型が生じるタイプなのだ。そういえば初回にそんな事を書いた記憶が甦ってきたよ。同じ場所に黒いタイプと緑色のタイプの幼虫が混在するみたいな事を書いた筈だ。
あ~、三歩あるけば忘れてしまう鶏アタマ振りを見事に露呈してしまったわい。ちゃんと初回をシッカリ読んでから書けよなー(  ̄З ̄)。性格の問題点まで露(あらわ)にしちまっただよ。
と言いつつ、読み直すつもりはサラサラ無い。あんなクソ長い文章なんて、我ながら読みたくないのだ。
ともあれ、コヤツにキアゲハという種の根本的な特性のヒントが隠されているかもしれない。多型化しやすいがゆえに、各地で独自に形態変化が進みやすいのではなかろうか❓

 
【Papilio zelicaon ♂】

 .
【Papilio zelicaon ♀】

 
キアゲハ(P.machaon)っぽい。パッと見はキアゲハにしか見えない。
見ていると、画像は黄色いタイプが多いので、黒いタイプはいないのかと探してみたら、ユタ州なんかには黒いのもいるらしい。

五十嵐さんは別種としてアメリカキアゲハという和名をつけているが、藤岡さんは P.polyxenes の亜種とし、これら polyxenes種群にヤンキーキアゲハという和名を与えている。和名って、ホントややこしいや。

標本は2点ともカリフォルニア産となっている。
分布は特異な形で、主に西側沿岸に偏り、一部が内陸部にも侵入している。

 

 
初回で添付した画像はコレ。

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
黒いタイプなのかと思いきや、キアゲハ的である。
第4~7腹節亜背線には左右1対の顕著な突起を有するようだ。

 

 

 

 

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
調べてみたが、どうやらコヤツらには黒いタイプの幼虫はいないようだ。基本は緑色のオレンジ紋型で、黄色紋型もいるようだ。これは、どう解釈すればいいのだろう❓
緑色タイプの幼虫が所謂キアゲハ的な黄色い成虫となり、黒いタイプの幼虫が黒い成虫になるとか連動性は無いのかなあ❓ユタ州なんかには黒いタイプの成虫がいるそうだから、そこには黒い幼虫も存在するとか無いのかね❓ キアゲハとクロキアゲハは同種で、黒いタイプの幼虫が別種に分化する途上にあるのかもしれないとは考えられないだろうか…。
でもなあ…。当然、アメリカのキアゲハの遺伝子解析も終わっている筈だろうけど、論文が見つけられないので何とも言えない。
あー、これじゃダメだ。各種が交雑している場所もあるとか何とかと自分で書いた記憶もあるぞ。もう、これは初回を読み直すしかあるまい。

ザアーッと読み直しましたよ(  ̄З ̄)
どうやらクロキアゲハとキアゲハが交雑している地域も一部にはあるらしい。ということは両者は非常に近い類縁関係にあるということだ。と云うことは自分の推論も、そう大きくハズレてはいなかったワケだ。でも、論はそこから発展していかない。
考えても仕様がない。次へ進もう。

 
 
【Papilio alexanor ♂】

 
【Papilio alexanor ♀】

 
コチラは北米産ではなく南フランス産で、ヨーロッパから中央アジアにかけて分布する。この南フランス産が原記載亜種かと思われる。和名はトラフキアゲハで通っている。

一見するとキアゲハの仲間に見えるが、よく見ると毛色はかなり違う。上翅の斑紋のパターンがキアゲハとは異なり、どちらかと云うと北米のトラフアゲハ類に似ている。だが幼虫はキアゲハ的で、食草もキアゲハと同じセリ科だから長年キアゲハの仲間とされてきた。しかし近年のDNA解析の結果、キアゲハの仲間では無い事がわかってきている。

 

【Papilio alexanor orientalis ♂】

 
【Papilio alexanor orientalis ♀】

 
U.S.S.R 産とあるから、旧ソビエト連邦のものだね。分布の東端の亜種だろう。

 
【Papilio alexanor hazurajatica ♂】

 
コチラはアフガニスタン産だ。これにも亜種名がついている。

 
(幼生期全般)

 
確かにキアゲハの幼生期に似ている。
特に終齢幼虫なんかは似ているように見える。

 
(終齢幼虫)

 
けれど詳細に見ると、かなり違うことに気づかされる。先ず卵の色が黄色ではなく、青い。キアゲハは3齢まで鳥の糞に似るが、コヤツには糞に模した真ん中の白い帯が無い。

 
【各齢幼虫】

 
また、4齢幼虫が白くなるという特徴もある。一瞬、アラスカキアゲハ(Papilio machaon bairdii)の4齢幼虫のことが頭を掠めたが、他人の空似だろう。直接の類縁関係は無いと思われる。

 
(4齢幼虫)

 
(幼虫の頭部と肉角)

 
頭部はキアゲハに近いね。

 
(蛹)

 
だが蛹には凹凸が無く、明らかに系統が違うことを示している。別種であることは間違いない。下手したら亜属に分類されてもいいくらいに離れている感じだ。

次がキアゲハ関係の最後のページである。

 

 
2種が混じっているが、全部アメリカ・ミシシッピー州産のものである。

 
 
【Papilio glaucus ♂♀ 春型】

 
【Papilio glaucus yellow&black 夏型 】

 
所謂、トラフアゲハって奴だ。五十嵐図鑑ではメスグロトラフアゲハという和名がつけられていた。
しかし、メスが黒くならない地域もあって名前にそぐわない。また英名も「Tiger Swallowtail」だから、和名はトラフアゲハの方が適しているだろう。

キアゲハを精悍にした感じで、中々カッコイイ。
デカそうだし、いつか採ってみたいね。分布は広いみたいだし、行けば採れそうだ。

 
(分布図)

 
(終齢幼虫)

 
キアゲハ的な縞々ではないね。全然違う。
これって、アオスジアゲハの幼虫っぽくね❓
とはいえ、形はグラフィウム(アオスジアゲハ属)的ではなく、Papilio属系の形をしている。

 
(アオスジアゲハ 終齢幼虫)

 
(蛹)
(出展『博物雑記』)

 
同じアゲハでも、Graffium属は蛹の形が全然違う。

 
(幼生期全ステージ)

 
(卵)

 
卵は緑色で、基本的に黄色い卵であるキアゲハとは一線を画すね。

 
(各齢幼虫)

 
若齢幼虫はキアゲハと同じく鳥の糞みたいな奴だ。

 
(幼虫の顔面)

 
(蛹)

 
蛹は勿論アオスジアゲハ的ではなく、キアゲハと同じく典型的な Papilio型だが、スリットが入ってるんだね。色は茶色型のみで、緑色型の蛹は存在しないようだ。

一応、写真も見てみよう。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
わおっ❗❗、茶色いのもいるんだ。
秋冬型❓ワケわかんねぇぞ。

でも、どうやら蛹になる前に茶色に変色するようだ。
それにしても、何で(;・ω・)❓色が変わっちゃったら、目立つでしょうに。鳥に襲われちゃうぞー。どうせ色が変わるなら、蛹になる時でもエエんでねえの❓

年1化だそうだし、異なる点だらけだから、キアゲハとは遺伝的には結構離れていそうだ。

 
 
【Papilio rutulus ♂♀ 春型】

 
コチラにはオオトラフアゲハという和名がつけられていた。しかし、この和名もそぐわない。多くの地域で本種はトラフアゲハより小型になるからだ。
英名は「Western Tiger Swallowtail」ゆえ、ニシトラフアゲハという和名もあるが、まんまのウエスタントラフアゲハにして欲しいよね。そっちの方が西部劇っぽくてカッコイイじゃんか。
北アメリカ西海岸に生息し、南部に行くほど大型になるそうだ。

 
(分布図)

 
図鑑には幼生期が載っていないので、画素を添付しておきましょう。

 
(若齢幼虫)
(出展『Rising Butterflies』以下同じ)

 
(4齢幼虫)

 
(終齢幼虫)

 
基本的に、トラフアゲハとあまり変わらない。

 

 
コチラも蛹になる前には茶色になるようだ。

 
(蛹)

 
蛹もトラフアゲハと同じようなものだ。おそらくコヤツも緑色型のものは存在しないだろう。
ようするに、やはりトラフアゲハ群はキアゲハとは遠縁にあたるってワケだ。

因みにトラフアゲハ群には、他に以下のようなものがいる。

・Papilio canadensis(カナダトラフアゲハ)
・Papilio eurymedon(ウスイロトラフアゲハ)
・Papilio multicaudata(フタオトラフアゲハ)
・Papilio pilumnus (ミツオトラフアゲハ)
・Papilio esperanza(エスペランサアゲハ)

しかし、図版には載っていないので、画像は割愛させて戴く。
そういえば、なぜか五十嵐図鑑にはヒメキアゲハも掲載されていなかった。コチラは以前の回にも載せたし、トラフアゲハよりもキアゲハに近い種だと思われるので紹介しておく。

 
【ヒメキアゲハ Papilio indra】

(出展『Raising Butterflies』)

 
小型で、クロキアゲハの近縁種とされる。
多くの亜種に分けられているが、いわゆるキアゲハ的な黄色い型はいないようだ。

幼虫写真も添付しておこう。

 
(卵)

 
色が変だが、これは孵化が近いせいなのかもしれない。

 
(1齢幼虫)

 
(2齢幼虫)

 
(3齢幼虫)

 
(4齢幼虫)

 
(終齢幼虫)
(以上 出展『Raising Butterflies』)

(出展『Butterflies and Moths of America』)

 
基本はキアゲハ系統だ。
それにしても、ウミヘビみたいで気持ち悪い。
ピンクと黒の配色って、超苦手なんだよなあ…。背中に悪寒が走ったよ。

 
(蛹)

(出展『Raising Butterflies』)

 
凹凸が少なく、キアゲハとはあまり似てないね。
色は茶色型しか見つけられなかった。コヤツも茶色型オンリーなのかなあ?

 
今まで見過ごしてて気づかなかったが、藤岡図鑑には遺伝子解析の図もちゃんとあった。相変わらずユルいよなあ…。

 

 
元ネタは『Phylogeny of Papilio machaon group by Mitochondrial DNA variation(Sperling & Harrison 1994) ミトコンドリアDNA比較によるキアゲハ群の近縁関係』という論文である。
見にくいけど、画像は拡大できます。

これによると、キアゲハの祖先種から先ずはトラフアゲハ(Papilio alexanor)が分かれる。やはり遠縁なんだね。次にヒメキアゲハ(Papilio indra)とナミアゲハ(Papilio xuthus)が分岐する。おいおい、トラフアゲハってナミアゲハよりも遠縁なのか。続いて Papilio polyxenes と Papilio zelicaon のヤンキーキアゲハ(アメリカキアゲハ)群とコルシカキアゲハ(Papilio hospiton)が分岐する。
残ったものがキアゲハ群(P.machaon)で、そこからサハラキアゲハ(saharaeとは書いていないが、Morocco(モロッコ)とあるのでそう判断した)とssp.pikei(カナダ・アルバータ州亜種)が分岐する。サハラキアゲハは解るとしても、何でカナダ産のマイナーな亜種なんかがここで突然出てくるのだ❓
次に日本のキアゲハ(ssp.hippocrates)が分かれる。やはり日本のキアゲハは古い時代に分岐したようだ。更にアラスカ産のキアゲハ(ssp.aliaska)が分岐するのだが、この辺からどんどんオカシな感じになってくる。
残ったクラスターは2つに分かれ、一方にはアメリカのキアゲハ(ssp.aliaska 、ssp.dodi、ssp.joanae、ssp.brevicauda)とフランス産キアゲハが、もう一方のグループには Czecho(チェコ)産とアメリカのキアゲハ(ssp.bairdii)が入っている。
この最後の2つのクラスターは、俄かには信じがたい。aliaskaが何度も登場するし、チェコ産とフランス産がそれぞれ別々のクラスターに分かれていて、そこに両方ともアメリカのキアゲハが入っているのはオカシイからだ。
おそらく分岐年代が新しいものは、当時の遺伝子解析の精度では正確性に欠けていたのであろう。遺伝子解析の結果を鵜呑みにしちゃなんねえって事だ。何しろ所詮は人のやる事だ、各人の解析の仕方如何によっては当然結果も違ってくる可能性がある。遺伝子解析を100%信じるのではなく、どうやら参考程度に考えた方が良さそうだ。

 
キアゲハはあまりにも亜種が多いし、おまけにシノニム(同物異名)だらけだ。ゆえに面倒だから今まで全亜種を並べてこなかったが、一応最後だし並べておこう。但し、分類は学者によって違うということに留意しておいて戴きたい。
とここまで書いて、やっぱやめることにした。確認したら、人によって見解が違い過ぎて分類がグジャグジャなのだ。やっぱワケわかんないや。ゴメンナサイ。興味のある方は自分で調べて下され。

 
長々と引っ張ってきたが、ここで漸く台湾のキアゲハの幼虫写真を添付して結びとしよう。

 

(出展『蝴蝶資料』以下同じ)

 
新たな生態写真も同サイトで見つかった。
上翅の基部が黒いから、たぶん春型だと思われる。

 
(卵)

 
色が黄色ではなくて茶色くて濃いが、おそらく撮影時の条件が悪かったのだろう。もしくは孵化が近い卵だったのかもしれない。
卵期は5~7日間とある。日本のキアゲハと変わらない。

 

 
4齢幼虫かなあ❓

 
(終齢幼虫)

 
予想はしていたが、普通のキアゲハの終齢幼虫と特に変わりはない。ちょっと残念だ。

幼虫期間は25~30日間と書いてあった。これも日本のキアゲハとほぼ同じだろう。

 
(蛹)

 
上下が逆さまである。
たまたま逆さまで蛹化したのかなあ…❓
でも、そんなこと可能なのかしら。逆さまだと蛹化に失敗しそうじゃないか。単なるミスで、天地が逆の写真を載せてしまったのかもしれない。
けど普通、そんなの気づくよね。それに誰かに指摘されるだろうから、早々と修正するよな。にも拘わらず、そのまんまということは、やはりコヤツは逆さま状態で蛹になったのだろう。
もしかして台湾のキアゲハは、みんな逆さまで蛹になったりして…。だとしたら、特殊過ぎて別種にしたくなるなあ(笑)。

冬季以外の蛹期間は15~20日間と書いてあった。
ここにも特殊性は無い。

うだうだと書いたが、台湾のキアゲハについての大発見も無いし、締まりのない結びになりそうだ。
って云うか、クロージングが思いつかないので、このまま終わりにします。

一端、それで「おしまい」の文字を入れたのだが、とはいえ三回にもわたりクソ長い文章を書いてきたのだ。これじゃあ、あんまりだ。もう少しマシな事を書いて結びとしよう。

ここまでキアゲハの事を延々と書き連ねてきたが、キアゲハという種は誠に逞しいと云う印象を強くした。
分布は北半球全般と広く、オーストラリアと南極を除く各大陸に分布する蝶なんて、そうはいない。垂直分布も海岸から3,000mを越える山地までと広い。熱帯地方には分布しないが、亜熱帯には分布し、一部は北極圏にも分布している。湿潤な気候にいるのはもちろんのこと、砂漠地帯にも適応しているのだ。
幼虫の食餌植物もセリ科を中心に広く、ミカン科やキク科、ギョリュウ科などにもその範囲を拡げている。
これだけ分布が広く、食餌植物も多いとあらば、他種との生存競争に勝ち残ってきた種という証しでもある。それなのに、なぜ台湾のキアゲハは忽然と消えたのだろう❓
地球温暖化などの気候変動はあるものの、そう急激に絶滅するとは普通では考えられない。また、幼虫の食草が絶えたワケでもない。石山渓が地震によって崩壊したから食草が無くなって絶滅したという説があるが、これも冷静に考えれば有り得ない事だろう。だって一つの渓にしか生えていないという植物ではないからだ。たとえ仮にそうだったとしても、蝶には羽がある。ミツバやニンジン(ノラニンジン)など他のセリ科植物が代用食になるから、それを求めて飛んで行けば命脈は保たれる筈だ。食草の減少が関係無いワケではないだろうが、絶滅の決定的理由とはならないだろう。
乱獲も理由としては考えられない。貴重な亜種ではあるが、キアゲハ自体は日本やヨーロッパにもいるから、唯一無二という存在ではない。見た目はそんなに変わらないのだ。特別高価で取引されていたとは思えない。同じ台湾なら、フトオアゲハの方が遥かに高値で取引されていただろう。でもフトオアゲハは絶滅してはいない。
乱開発も理由としては弱い。台湾のキアゲハは1000m以上の高地に棲息するから平地のような大規模開発は出来ないからだ。
しかし、環境がそう変わっていないのに姿を消した蝶もいないワケではない。日本でいえばオオウラギンヒョウモンなんかがそうだ。昔は広く何処にでも生息していたのに、一部を除き全国的に一斉に忽然と姿を消したと云う例もある。自然環境や食草が残っていても、絶滅はするのである。
ならば天敵が大量発生したと云うのはどうだ❓
それも鳥や蜂など目立つ天敵ではなく、矮小な寄生蝿や寄生蜂ではなかろうか❓いや、もっと微小なウィルスみたいなものに感染したのかもしれない。

どうあれ、自分は台湾のキアゲハが完全に絶滅したとは思ってはいない。
今も彼女は、台湾のどこかの山中で人知れず優雅に舞っている筈だ。

 
                  おしまい

  
追伸
またしてもクソ長くなってしまった。
長いだけでもシンドイのに、おまけに各亜種の順番を並べ替えたので、全部書き直しという労苦を味わう破目になった。ところどころ文章の時系列に整合性を欠くのも、ちょいちょいブッ込むおフザけにキレがなかったのも、そのせいである。アタマがウニってて、余裕が無かったのだ。カラスアゲハの時ほどじゃないが、キアゲハも書くのに相当疲れたよ。三話目は書くんじゃなかったと後悔してる。こういうのを世間では蛇足というんだね。

蛇足ついでに書く。
思えば、フィンランド、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、モロッコ、イラン、パキスタン、インド、ネパール、中国、台湾、カナダ、アメリカと、気せずして自分はキアゲハ・グループの特徴的な種類の故郷を幾つも旅してきているんだね。
目を閉じると、瞼の裏にそれぞれの風土が甦ってくる。北欧の森、アルプスの草原、英国のなだらかな緑の丘、地中海の青、モロッコの荒涼な大地、イランの漠たる平原、ヒマラヤやカラコルムの峻険たる山々、インドの猥雑、中国の喧騒と雄大、台湾のどこか懐かしさを感じる山河、カナダ・アメリカの青空と緑のコントラスト。そのどれもの風景には、その時々の気温や肌に感じる湿度の有無、そして風や大地の匂いの記憶が混じっている。どの土地でも実際にはキアゲハの姿は見ていないけれど、彼ら彼女たちが飛ぶであろうロケーションは容易に思い浮かべることができる。頭の中で飛ぶキアゲハたちはとても美しい。

  
(註1)内田さんの三部作
故 内田春男氏の著書『ランタナの花咲く中を行く』、『常夏の島フォルモサは招く』、『麗しき蝴蝶の島よ永えに』のこと。もちろん今や古書だが、そこそこの値がついている。

 
(註2)藤岡図鑑
藤岡知夫/築山洋『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』。

(註3)3つのヨーロッパ準亜種
おそらくイギリス亜種 britanicus 以外の以下を指すものかと思われる。

・北ヨーロッパ亜種(原記載亜種) ssp.machaon
・中央ヨーロッパ亜種 ssp.alpicus アルプス地方
・地中海亜種 ssp.sphyrus 南イタリアなど

 
(註4)キアゲハとタカネキアゲハを同種とする見解

日本列島に分布するキアゲハの遺伝的多様性と系統関係
Genetic variations and phylogenetic relationships among the populations of swallowtail
butterfly, Papilio machaon, in the Japanese Islands. (宮川美紗 2018?)

遺伝子解析による結果、両者を同種としているのだが、詳しい理由は見当たらない。この論文には系統図も載ってないから、別に元ネタの原稿があるのかもしれない。

(註5)北極圏にも分布している
タイミル半島基部、エニセイ河流域の北緯69度にも分布している。北極圏は66度33分以北だから、間違いなく圏内に分布しているということになる。
因みに、69度付近が人間の居住限界と言われている。

 

酒肴 黒マグロの切り落とし

 
黒マグロ(本マグロ)の切り落としといっても、刺身の端っこの見栄えが悪い部分を切り落とした寄せ集めではない。厳密的に言えば、血あいに近い筋の多い部分だ。そのまま食うと口の中に筋が残り不快だから、あまり出回らない。本来は棄てるものだろう。
そう云うワケだから、てんこ盛りで¥198だった。

そいつをスプーンで身を小削いで、筋を取り除く。
地道な作業で、コレがウザい。気が短いオイラは次第にイライラしてくる(=`ェ´=)
でも旨いもんを安くで食いたいんだから、我慢するしかない。

残った白い筋は捨てない。
そのままでは噛み切れないが、火を入れると魔法みたく食べられるようになるのである。弾力があって、普通の身に火を入れたものより寧ろ旨い。

それを小削いだ部分と混ぜあわせ、包丁でテキトーにたたく。出来ればネギトロ的部分(ミンチ状)とブツ切りの部分が半々くらいが良い。食感もあった方が旨いからだ。

そこに煮きった酒と味醂、醤油をテキトーに入れて混ぜ合わせる。比率はお好みです。自分は甘いのがイヤなので、味醂は少なめにした。
最後に太白胡麻油を混ぜて、味が馴染むまで小一時間ほど冷蔵庫で寝かせる。これも時間はお好みである。15分後くらいから食べ頃になるかな。

因みに太白胡麻油は透明な胡麻油で、普通の胡麻油よりもマイルド且つ上品である。旨味も強い気がする。少しお高い胡麻油だが、こちらを強くお薦めする。
何故なら、普通の胡麻油だと個性が強すぎて味を壊すからだ。無い場合は、普通の胡麻油を控えめに入れるか、オリーブオイルやサラダ油で代用するという方法もある。全然、別物にはなるけど…。

 

 
大葉の上に天盛りにし、白胡麻を指で潰しながら振りかければ出来上がり。
葱や玉葱を入れてもいいが、今回は邪魔なので加えなかった。こういうものには、世間では必ずネギが入るが、はたしてそんなに合うものかね❓何にでもネギを入れる風潮って、ハッキリ言って疑問。如何なものかと思うよ。

 

 
まっこと、((o(^∇^)o))美味いじゃきにぃー❗
高知の辛口の冷酒が止まんないぜよ。

 
追伸
勿論、普通の切り落としでもでけます(^o^)

 

コツバメの思ひ出

 
春先に福井県の今庄にギフチョウに会いに行ったおり、久し振りにコツバメにも会った。

 
【コツバメ Callophrys ferrea 】
(2019.4.6 福井県南越前町今庄)

 
一緒に行った姉さんが、ピュンピュン飛んでるのをコレ何?と言ったので採って見せた。羽が破れていたので、御覧いただいてからリリース。
もう1頭、ぽよぽよ飛んでいたので、ソイツも何となく網に入れた。今度は鮮度が良かったので、持って帰ることにした。それが上の展翅写真で、♂である。

そう云えば、コツバメの♂は♀をゲットする為にテリトリー(縄張り)を張るんだったね。なので1頭見つけると、同じ場所で複数見られることが多い。

ギフチョウと同じくスプリング・エフェメラルと呼ばれ、年に一度春先にだけ現れる蝶だ。
日本産は、Callophrys ferrea ferrea という学名となっているから、原名亜種(名義タイプ亜種)のようだね。日本以外ではロシア極東地域・中国東北部・朝鮮半島などにもいるようで、それぞれ別亜種とされている。
日本国内では北海道から九州までと分布は広く、特に珍しいものではない。コレは幼虫がアセビなどのツツジ科とコデマリやリンゴ、ボケなどのバラ科を中心に、ガマズミ(スイカズラ科)、アカショウマ(ユキノシタ科)、バッコヤナギ(ヤナギ科)など多くの植物の花、蕾、実を食べるからだろう。また、見た目が何処でも同じで、地方による地理的変異がコレといって無い(註1)。
だからか、人気はあまりない。
しかし、こうして改めて見ると、メタリックな鈍色(にびいろ)で、そこはかとない渋い美しさがある。
学名の小種名「ferrea(フェッレア)」は、ラテン語の ferreus の女性形で「鉄、鉄の、鉄色(の)」が語源なのも頷ける。
因みに属名の「Callophrys(カロフリュス)」は、ギリシャ語由来。「kallos(美)」と「ophrys(容貌・眉)」を合わせた言葉で、美しい容貌を意味するようだ。
蛇足だけど、このCallophrysというのは新しい属名で、昔は「Ahlbergia(アールベルギア)」という属名だったそうな。アールベルギアって、何だかカッコイイ響きだ。「アールベルギアの秘宝」とか有りそうだもん。
でも、語源はAhlbergという人に因むようだ。願わくば大海賊とかであってほしいよね。その妃とか娘に遺した秘宝とかさあ。

♂は♀と比べて蒼い領域が少ないのが特徴だ。
探せば♀の標本もある筈だが、面倒なので図鑑から画像を拝借させて戴こう。

 
(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

  
蒼い部分が増えたからといって、飛躍的にキレイになると云うワケでもない。やはり、どこか地味である。
こういうのを褒める場合、世間では「いぶし銀の美しさ」とでも讃えるんだろね。

(・。・;❓ ここで、はたと気づいた。最初に掲げた展翅写真って、もしかして♂じゃなくて♀じゃね❓
色がくすんでて明るくないので、♂だとばかり思っていたが、翅形が♂みたく縦型じゃない。♀は、どちらかというと横型なのだ。それに蒼の領域が♂ほど狭くはない。
そっかあ…、最初にピュンピュン飛んでたのが、テリトリーを張ってる♂で、ぽよぽよ飛んでたのは♀だったってことか…。何故、それに気づかなかったのだろう。そんなの多くの蝶の♂と♀に見られる基本的な生態じゃないか。
普通、蝶は♀よりも♂の方が色鮮やかで綺麗なケースが多い。顕著ではないけれど、コレがコツバメでは逆だからと云うのも勘違いした要因だろう。
(-“”-;)やっちまったな…。コツバメなんて長いこと無視してたから、そんなの忘れてたよ。
にしても、ダサダサだな。情けない(´д`|||)

♂はこんなのです⬇

  

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
♂は蒼い部分が狭くなり、色もくすんでて、更に地味だ。

 
【裏面】

 
裏もまた地味。でも、よく見ると渋いデザインとも言える。好きな人は好きだろね。

既に皆さんも感じておられるだろうが、コツバメに対してぞんざいというか、雑魚的な扱いが言外に滲み出ている。言っちゃ悪いが、その程度の存在なのだ。
でも今にして思えば、最初の1頭を採るのには思いの外、苦労したんだよなあ…。

蝶採りを始めた二年目、周囲にキッパリと宣言してしまった。日本に土着するとされる蝶、約230~240種類のうちの200種類を三年以内に採ると言い切ってしまったのだ。
これは今は亡き蝶界の巨人、小路さんがその著書の中で200種類以上を採らねば一流の蝶屋とは認めないと書いてあったのを見て、反発を覚えたからだった。ならば、んなもん三年で達成してやろうと思ったのだ。
今にして思えば、バカバカしい啖呵だ。若気の至りとしか言い様がない。恥ずかしいかぎりである。
けど、色んな人に「おまえ、蝶採りナメとんのか。」とか「無理、無理。蝶採りはそんな甘ないで。」などと言われつつも、お陰様で楽勝で達成できた。たしか三年で223種類にまで達した筈だ。怒りこそが、我がモチベーションを保つ原動力なのだ。
だから、色んな意味で小路さんには感謝している。短期間に飛躍的に知識と経験が増したし、飽き性の自分が途中で蝶採りをやめなかったのも明確な目標があってこその事だ。
小路さんといえば、国内の蝶に関してはトップだった人だ。是非とも生きておられる時に会いたかったよ。蝶採りを始めた頃には、既に他界されていたのが残念でならない。

そういうワケで、二年目の春はコツバメを必死に探していた。でもナゼか見つけることが出来なくて焦っていた記憶が甦ってきた。宣言しといて、いきなりコツバメ程度で躓くわけにはいかないのだ。

奈良県と大阪府との境界にある葛城山にギフチョウを採りに行ったおりの帰りの車中だった。既に蝶屋として実績のあったOKUくんに、必死さを隠して生意気な感じで『コツバメ、何処に行ったら採れるん❓』と尋ねたことはよく憶えている。
そういえばこの時、ツマキチョウのいる場所も尋ねたんだよね。ツマキチョウでさえもまだ採ったこともないのに啖呵を切っているような輩に対して、そりゃ周囲も冷ややかにもなるわな(笑)。今の自分だったら、『バカかぁー、おめぇ❗❓』とキレ気味で言うか、冷ややかな目で『せいぜい、お気張りやすぅ。』とでも言うに違いない。
彼はその質問に暫し考えてから『コツバメって、普通種だけど何処にでもいるってワケじゃないんだよなあ…。そこに行けば絶対採れると云う有名な場所も特に無いんじゃないかなあ。』と言った。
その時は不親切な野郎だと思ったが、今にして思えば彼の言動は正しい。
コツバメなんてものはギフチョウを採りに行った折りについでに存在を認識する程度の蝶だと、後においおい理解した。コツバメだけをターゲットにワザワザ探しにいく者なんぞは殆んどいないのである。それが現状だ。だから、彼の言動は極めて真っ当なリアクションだったといえる。それゆえ、他の人にも同じ質問をしたが、的確に答えてくれた人は誰もいなかったのだろう。

コツバメを初めて採ったのは、忘れもしない大阪と京都の県境にある鴻応山(こうのやま)だった。
記録を紐解くと、葛城山に行った二日後となっている。山頂でテリトリーを張っていたのを必死で採った。頭の中に、その時の映像はシッカリと残っている。
当時はまだ、新しい蝶を採る度にいちいち指が震えていた時代だった。だから、きっとそれなりに感動して、指も震えたに違いない。振り返れば、幸せな時代だった。今や、滅多な事では簡単に感動できなくなってしまっている。去年はとうとう蝶で指が震えることは一度もなく、何とカバフキシタバ、シロシタバ、ムラサキシタバという蛾のみだった。

そういえば、山頂で陣取っていたオジサンが必死にコツバメを採るオイラを訝しげな目で見てたっけ…。
オジサンの背後の檜の枝でテリトリーを張っていたので、一応『採っていいすかっ❓』とお声掛けしたのだった。
鴻応山といえば、鴻応山型(註1)と言われるギフチョウの異常型が稀に採れることで有名な山だった。今は鴻応山型どころか、普通のギフチョウでさえも絶滅しかかっているらしい。それに現在はギフチョウの採集が禁止されている。
だからギフチョウそっちのけで必死にコツバメを追いかけている姿は、ド素人のイモ兄ちゃんにしか見えなかっただろう。しかし、その時は鴻応山型なんかよりも、圧倒的にコツバメの方が自分にとってのプライオリティーは上だったのだ。
ゆえに、まだ誰にも言ったことはないけれど、実を言うとその時は鴻応山型を採ったのにも拘わらず、羽が欠けていたからリリースしてしまった(片方の尾突が無かった)。変なギフチョウだなあとは思ったが、価値が解らなかったのだ。あとで知って、恥ずかしいので、ずっと黙っていたのだ。
こういう場合、「今更だけど断腸の思いだ」なんぞと言うべきなのだろうが、正直あまり後悔はしていない。
変異に興味が無いワケではないけれど、心のどこかで所詮は奇形じゃんかと思っているところがある。
それに当時はイガちゃん3頭伝説と言われるくらいに、3、4つ採れれば満足して(この時も普通のギフチョウは幾つか採っていた)、あとはサボってた。元々が飽き性だし、個体数よりも種類数に重きを置いていた時代でもあった。未だ見ぬ蝶に会う事が一番面白かったのさ。それは今もあまり変わっていないような気がする。だから、蝶採り三年目の年の2月に早々と海外に一人で採集に出掛けた。
国内外を問わず、自分が見たことが無い蝶は誰よりも先に最初の1頭目を採ることが精神安定剤であり、そこに最大のモチベーションがある。数の大小は二の次だ。挑まれでもしないかぎり、今でもそれほど気にはしていない。恥ずかしくない程度に採れればいいと思ってる。
とはいえ、周りから『採れる時に採っとかないと、あとで後悔するでぇ~。』と口酸っぱく言われ続けているので、前よりかは少しは採るようにはしている。それに種類数にはとうに興味を無くしているので、モチベーションを上げるためにワザと数を競うことも増えてきているような気がする。
でも、今でも真面目さには何処か欠けるところがある。とっとと帰って、温泉なり銭湯なりにでも入って汗を流し、キンキンに冷えたピールを飲む方が人生においての最優先事項だったりするのだ。

しまった。誓ったのにも拘わらず、令和に元号が変わっても悪いクセは治らない。一発目から早くも大脱線である。話をコツバメに戻そう。

文章を書いていて、改めて思った。
コツバメという和名は中々に秀逸だ。言葉に、どこか颯爽としたイメージがある。きっとツバメさんのイメージとも重なっているのだろう。
それにしても、ツバメと名がつくのにも拘わらず、コツバメには尾突(尾状突起)が無いのは、これ如何に❓
キマダラルリツバメやツバメシジミetc…とかには皆さん尾突があって、それが名前の由来になっているのだ。
んぅー(-“”-;)、コレはおそらくコツバメの♂がピュンピュンって感じで、ツバメみたく素早く飛ぶからだろう。考えても他に理由が思い当たらないので、そう云うことにしておこう。

ふと思う。もしもコツバメじゃなく、何とかシジミと云う名前だったら、きっと酷い名前で、更なる下賤な扱いを受けてるんだろなあ…。

♂の画像と裏面の画像があまりにも酷いので、標本を探すことにした。

 

(2012.4.12 兵庫県三田市香下)

 
写真は思いの外にキレイに写っているが、実物はもっとくすんだ色です。お世辞にも美しいとは言い難い。
むしろ、裏面の方が複雑な柄でカッコイイかもしんないなあ…。
でも、きっと青みの強い美麗個体だっているだろう。
展翅も今イチだし、来年は真面目にコツバメを採ろっかなあ…。

                 おしまい

 
追伸
実を言うと、文章の下書きが終わった時点で、雌雄を間違えているのに気づいた。面倒なので、このまま押しきってやろうかと考えもしたが、簡単にバレそうだし、何を言われるかワカラナイ。仕方なく大幅に書き直した。んなワケで、令和初日に記事をアップする予定が1日ズレちった。

余談だが、国外にはコツバメの仲間(Callophrys属)が結構いて、緑色の奴なんかもいたりする。

 
【Callophrys rubi】
(出展『Learn about Butterflies』)

 
美しいねぇ(⌒‐⌒)
でも表は茶色一色。コツバメの方がまだキレイだ。
分布は広く、ヨーロッパから温帯アジア、シベリアまでいるようだから、インドシナ半島の北部辺りで会えないものかなあ?
いや、蛾みたいなホソオチョウとか、品が致命的にない中国産のアカボシゴマダラを放蝶するならば、こういうのこそ放しなさいよ。きっと定着すると思うよ。
m(__)mスンマセン、冗談です。放蝶はダメでやんす。

 
【Callophrys gryneus】
(出展『Carolina Nature』)

 
おやおや、尾突があるのもいるんだね。
無茶苦茶、( ☆∀☆)カッコイイやんかー。
但し、亜属のようだ。因みに、コツバメ属には6亜属約50種類がいるもよう。
画像はアメリカ・カロライナ州のもので、分布は北米に広そうだね。

参考までに言っとくと、Callophrys属はカラスシジミに近いらしい。上位分類は、Eumaeini カラスシジミ族になっている。何となくそうじゃないかとは思ってたから、納得だすよ。

(註1)地方による地理的な変異はコレといってない

九州産のコツバメは大型で裏面地色が濃くなり、明色部と暗色部のコントラストが弱くなる傾向があるらしい。

 
(註2)ギフチョウ鴻応山型

(出展『ギフチョウ88ヶ所めぐり』)

 
(@_@;)わちゃ❗、斑紋がエラい事になっとる。
変異のタイプとしては、有名な福井県の杣山型に相通ずるところがあるかな。

次の大阪府高槻市産も、おそらく鴻応山型だろう。
京都西部から大阪北部に連なる地域で、時折採集されたようだ。

 
   (出展『ギフチョウ 変異・異常型図鑑』)

 
因みにリリースしたのは、これほど顕著な異常型ではなかった。こんだけ異様だったら、アホのオイラであってしても、いくらなんでも持って帰る。
(ToT)くちょー、今だったらリリースなんかゼッテーしない。あの時、尾突なんぞは幾らでも修理できると知っていたなら、持って帰ったのにぃー(T△T)

追伸の追伸
ふと思ったんだけど、コツバメって、何で年1化なんざましょ❓