奄美迷走物語 其の19

第19話『そして、虚しき終焉』

 
2021年 4月1日

いよいよ帰阪の時が来た。

朝7時。
起きて外を見る。曇りだが、空は雨の予感を孕んでいる。
アマミキシタバもフタオチョウの♀も採れてないから、いっそ帰りのチケットを捨てて残ることも考えた。だが、これも流れだと思って素直に帰ることを決めていただけに何だかホッとする。
もし晴れでもしていたら、憾みを残したまま帰る事になる。そうじゃない事がせめてもの救いだ。

ベランダに出る。
晴れていたら、ゲストハウス涼風のベランダはこんな感じで割とお気に入りの場所だった。

ここで煙草を吸うことが多かったけど、こうゆう所で昼間っから飲むビールって最高なんだよなあ。
けど晴れてたら蝶採りに行ってっから、そうゆうワケにはいかないんだけどもね。虫採りの旅は不自由なのだ。蝶だけでなく蛾なんて採り始めた今は、夜も飲みに行けないので益々不自由だ。で、この結果なんだからアホらしい。

そんな事を思いつつ、ふと端っこを見ると、こんな奴が蹲(うずくま)っていた。

コカブト(註1)だ。コカブトムシとも言われるカブトムシの親戚だ。昨晩、おそらく宿の灯りに寄ってきたのだろう。

そういや、若者二人組のうちの一人がカブクワ屋(註2)で、このコカブトの事を激しく罵っていたな。
彼曰く、コヤツは驚いた事に肉食性らしい。コカブトなんぞには興味が無かっただけに知らなかったけど、カブトムシなのに肉食とはちょっとした青天の霹靂だ。そしてコヤツ、彼によると肉食性なだけにメチャンコ臭いらしい。
一般ピーポーなら見る機会は少ないが、真剣に虫採りをしていればそれなりに会える普通種だが、そんなにも異端児だったのね。一瞬、匂たろかとも思ったが、絶対に後悔しそうなので、やめておくことにする。

8時台に宿を出て、朝仁見取橋のバス停へ向かう。この前を通って、何度もあかざき公園に行ったよな…。苦い日々だったけどさ。

午前8時37分だったっけ❓もしかしたら、17分か27分だったかもしれないけど、とにかく空港行きのバスに乗る。

車窓を鉛色の景色が推移してゆく。
そして、ゆっくりと奄美での日々がスローモーションで頭の中を流れてゆく。でも、その殆どが苦い記憶だ。溢れ出る後悔で溺れそうになる。
でも頑張った方だと思う。少なくともサボることはなかった。ただ運がなく、メンタル面が弱かっただけだ。だから十全の結果は得られなかった。
奄美大島はダイビングインストラクター時代を含めてコレで4回目だけど、今回が一番カタルシスがなかったかもしれない。
まあ4回も来れば、そうゆう事もあるだろう。そう思わないとやってらんない日々だった。それなりに面白くはあったけどさ。

午前9時半過ぎにバスは奄美空港に着いた。
虚しき終焉が近づいている。

午前10:50発の飛行機に乗る。今回も行きと同じくピーチでの予約なのに、機体は何故かバニラエアのものだった。

窓の外を見ながら、ぼんやりと思う。
果たして又、リベンジに来るのだろうか…❓
フタオとアカボシ狙いなら次は6月末だろうが、夏型にはあまり興味がない。まだしも興味があるのはアカボシの黒化型ぐらいだ。それにアマミキシタバは、この時期にはあまり記録がなく、3〜4月の次に記録が多いのは8月なのだ。

(アマミキシタバ)

(出展『世界のカトカラ』)

つい最近、アマミキシタバは多化性である事が判明し、孵化から約1ヶ月半で成虫になる事が分かっている。なので可能性がないワケではないが、一番虫屋が集まる時期に記録が少ないという事は、返り討ちに遭う確率の方が高い。もしかしたら、その頃が丁度端境期にあたるのかもしれない。
まあそれとて先の話だ。今、考えたところで答えは出ない。

飛行機は突然重力を失ったかのように、ふわりと離陸した。
あっという間に建物がミニチュアみたいに小さくなってゆく。
さらば、奄美。迷走の日々もこれでお終いだ。
やがて機は厚い雲の中に突っ込み、島の姿は見えなくなった。

                  おしまい

 
追伸
カタルシスのあまりない連載で申し訳なかったが、結果に嘘はつけない。こうゆう時もあるさ。
もしカタルシスを求めるのならば、姉妹作『西へ西へ、南へ南へ』というシリーズを読んでくだされ。そちらの方が旅行記としても面白いです。
ゴチャゴチャ言ってますが、とにかく今回の連載を読んで下さった方には感謝です。ありがとうございました。

なお、奄美空港の写真は連載冒頭にも使いました。だからヤラセ写真です。写真を撮るつもりだったけど、出口の目の前に名瀬ゆきのバスが停まってた。で、運転手に出発する時刻を訊いたら、すぐ出ると言うので慌てて飛び乗ったのだ。バスの便がそんなに頻繁にあるワケではないので、たかが空港の写真を撮る為だけに時間を犠牲にしたくはなかったのである。

 
(註1)コカブト
調べたら、驚愕の野郎だった。少し長いが、各サイトの記事を要約して纏めておきます。

学名
Eophileurus chinensis (Faldermann, 1835)
日本のほぼ全域に分布し、日本以外にも朝鮮半島、中国、台湾に分布する(亜種を含む)。
奄美大島産は亜種 irregularis Prell, 1913 とされ、アマミコカブトと呼ばれる。分布は奄美大島の他に徳之島、与路島、請島。本土産と比べて♂の胸(前胸背板)の抉れが小さく、上翅の点刻が不規則に並ぶという相違点がある。
他に沖縄本島産も okinawanus Nomura, 1964 と云う亜種に分類されており、オキナワコカブトと呼ばれている。

英名
・Single-horn rhinoceros beetle
・Single horned beetle

意味は、一角サイみたいな甲虫って事だね。
一応言っとくけど、サイはあの動物のサイ(犀)の事ね。で、一角のサイといえばインドサイだ。他のサイは角が2つあるんじゃなかったけかな。あっ、絶滅しかけのジャワサイも一角だったね。

(インドサイ)

(出展『上野を散歩』)

この鎧のような体がインドサイの最たる特徴だ。
体は分厚く、背中が盛り上がってて重戦車みたい。


(出展『Pixabay』トリミングしてます。)

そういえばネパールのナショナルパーク(註3)でエレファントライドした時に、野生のインドサイを見た事があったな。
バーン❗と偶然に25メートルくらいの距離で突発的に対峙したんだけど、その時のオーラと迫力たるや凄まじいものがあった。サイにはおとなしいイメージがあるけど、全然違くて猛獣そのもの。闘争心の塊って感じで、闘気が朝靄にゆらゆらと立ち昇るのが見えたくらいだ。でもって、象からも静かなる闘気が立ち昇るのを感じた。もうスゲー緊迫感で、空気にピシッピシッピシッとヒビが入りそうなくらいだった。象の上にいるとはいえ、素直にメチャンコ怖かった。巻き込まれるの❓ワシら関係ないのにぃー( ;∀;)と思った記憶も甦ってきたよ。
両者が立ち止まって睨み合ってた時間は7、8秒かそこらだったと思う。なのに物凄く長く感じられたのを鮮明に憶えている。
そういやこの後、村で怒り狂った象が暴走しだしたんだよなあ…。あの時はマジ、死を覚悟した。あまりにも怖過ぎて爆笑したら、象がおとなしくなって助かったけど。人間、怖過ぎると爆笑すると知ったよ。

話をコカブトくんに戻す。
「コカブト、またはコカブトムシとも言われるコウチュウ目( 鞘翅目) コガネムシ科 カブトムシ亜科 コカブト属に分類される甲虫。
漢字で書くと、小甲虫、または小兜虫となる。
低地から低山帯に棲み、亜種オキナワコカブトやアマミコカブトなどは普通種だが、本土のコカブトは個体密度は低く、個体数もそれほど多くない。」

なぁ〜んだ、本土産は普通種じゃないのね。確かに小さい頃は一度も見た事がなくて、大人になって灯火採集をするようになってから見るようになったもんな。もう少しリスペクトすべきだったね。

「体長は18mm〜26mm程度。
小型ながらカブトムシの仲間であり、雌雄ともに小さな角状突起を持つ。このように外部形態上の性差には乏しいが、胸部前胸背板にある窪みの形の違いで判別する事ができる。オスは円形、メスはスリット状になる。体つきと角状の突起からサイカブト類にも似るが、より扁平。脚部の棘は体の割には大きめである。成虫は基本的に夜行性だが、日中に路上などを歩いている姿を見かけることもある。樹液に集まることは少なく、他の昆虫の幼虫や死骸を食物とする。」

おっ、やはり肉食性だね。しかも悪食と言ってもいい。加えて節操も無さそうだ。どこかハイエナを彷彿とさせるものがあるね。
そういや、矢田丘陵で樹液に来ているのを見た事があるな。でも肉食ならば、目的が樹液だったのかどうかは微妙だ。樹液に集まる昆虫を次々と襲って、ムシャムシャ食ってたりしてね。😱怖っ。

「主に体の柔らかいものを狙うが、コガネムシ類の腹部に穴をあけて体内に侵入し、内臓などを食い荒らすこともある。」

内蔵を食い荒らすとか、もうムチャクチャだな。何だかオゾマシイよね。とてつもなくホラーな野郎だよ。カブトムシの養殖場で発生して、その幼虫を食い荒らしたという報告もあるそうだ。悪辣だよな。その映像を何となく想像して気持ち悪くなったわ。地獄絵図じゃよ。

「幼虫は広葉樹の白色腐朽した朽木を食べるが、時に他種の幼虫を襲う事もある。成長は非常に早く、孵化した幼虫は2ヵ月足らずで羽化にまで至る。ゆえに年2〜3回発生していると考えられ、秋に羽化した成虫はそのまま朽木の中で越冬する。又、一旦野外で活動を開始した成虫も再越冬能力を持ち、半年から最大2年と長い寿命をもつ。幼虫の姿では滅多に越冬せず、メスは我が子が秋までに羽化できるタイムリミットの7月末以降は殆ど産卵しない。」

おいおい、幼虫まで肉食性があるのかよ。それに孵化した幼虫が、たった2ヵ月足らずで羽化にまで至るとは大型甲虫の生態概念を超越してる。これもホラーだ。

「夏期の成虫はよく飛翔するため灯火にもしばしば見られるが、凝集対象を持たない本種は樹液場や海岸をうろついていたりすることもあるなど、まだまだ謎の多い種類である。」

たしかに灯火には来るが、いつも単独で、複数が飛来したという記憶は多分ない。

「市販のカブトマットや他のクワガタに使った産卵木を入れておけば産卵させることはできるが、難易度はやや高く、産卵は7月迄にさせる必要がある。なお肉食傾向の強い種のため幼虫や卵が確認できたらすぐに成虫を取り出す必要がある。幼虫は非常に成長が早くて2ヶ月程で成虫になるが、早く羽化した成虫がまだ羽化していない幼虫や蛹を捕食することがあるので単独飼育の方が安全である。」

まさかの子殺し&兄弟殺し昆虫だ。
何だか生々しい生態だよね。ブサいくで、異様に生命力があって臭い。そして残虐でオマケに子殺し&兄弟殺しまでするという全然愛せない面ばっかの輩じゃないか。もうケダモノだね。こんなの、人間に喩えるなら人格崩壊のサイコ野郎だ。若者が罵る気持ちも解るような気がするよ。

一応、上から見た姿も必要かと思い、図書館で探した。
ちゃんとした図鑑よりも子供向けの図鑑の方が鮮明でキレイな画像ではないかと考えてソチラのコーナで探してみた。メジャーな昆虫ならば、往々にして海外産も含めて子供向け図鑑の方が画像が美しかったりするのだ。

目論見どおり、ソッコー発見。

(アマミコカブト)

(出展『学研の図鑑LIVE カブトムシ・クワガタムシ』)

しかし、その形に違和感を覚えた。
(・o・)あれっ❓…、奄美で見たのとは違うような気がする。
そして、隣の横向き画像を見て、\(@_@)/驚愕する。

角が明らかに短い❗
アレって、もしかしてサイカブトじゃなくなくねっ❓

慌ててサイカブトの項も見る。


(出展『小学館の図鑑NEO カブトムシ クワガタムシ』)

勿論、横からの画像も確認する。

完全にサイカブトやないけー❗
考えてみれば、奄美にサイカブトがいるなんて足の爪先ほどにも思っていなかった。だから疑いもなくコカブトだと断定してしまったのだ。サイカブトの分布は沖縄以北だとばかり思い込んでたからね。道理で何かコカブトムシにしては矢鱈とデカイなと感じたのだ。最初に見た時はカブトムシの♀かと思ったくらいだからね。

しゃあないので、改めてサイカブトの解説をしまーす。

コウチュウ目(鞘翅目) コガネムシ科 カブトムシ亜科 サイカブト属に分類される甲虫の一種で、外来昆虫とされる。
漢字で書くと、犀兜虫。和名はサイのような短い角を持つことに因む。この和名は1990年代後半から2000年代前半頃に急速に使用され始めたもので、それ以前はタイワンカブトと呼ばれていた。これは日本の個体群の原産地が台湾とされる事からである。
また1970〜80年代には、一部でカンシャカブトと云う名前も使用されていた。カンシャとは甘蔗、つまりサトウキビのことである。これは本種がサトウキビの害虫として農業関係者の間では有名だった事に起因するものかと思われる。
他にヤシの木やパイナップルも食害し、その穿坑能力は極めて強く、成虫は茎頂部にトンネルを掘って潜り込んで摂食を行う。そのためヤシなどは成長点を貫通した時点で枯死する。
又、沖縄がアメリカ合衆国から日本に返還されて間もない1970年代には「サイクロンカブトムシ」という商品名で夜店やデパートで売られていたという。

学名 Oryctes rhinoceros (Linnaeus, 1758)
おっ、分類学の父とも称されるリンネの記載だね。
属名の”Oryctes”は、多分ギリシャ語の”orycho”が語源で「掘る・掘り出す」という意味だろう。これは成虫がヤシなどにトンネルを掘ることからの命名だろう。
小種名の”rhinoceros”はサイの事だね。

英名 Coconut Rhinoceros Beetle
ようするに、ココナッツ(椰子)にいるサイみたいな甲虫って事だすな。

日本に侵入したのは20世紀初頭とされ、台湾からの物資に紛れ込んで石垣島に上陸し、以降分布を北に拡大し続けており、現在では南西諸島のほぼ全域で定着。九州南部でも見つかっているという。凄まじいまでの繁殖力だね。なお奄美大島と徳之島では、1991年に初めて分布が確認されたそうだ。だから小学生の頃の知識だと、奄美には居ない事になっているのである。
本種の原産地はインドシナ半島周辺とされるが、人為的な植物の移動(主に農作植物)に伴い、東南アジアから西はインド・スリランカ、東は中国南部、台湾、果てはハワイにまで分布を拡げており、在来か外来かが判然としない地域も少なくない。
なお、日本にはもう1種この属がいて、南大東島にヒサマツサイカブト(O. hisamatui)が産する。

(ヒサマツサイカブト 久松犀兜)

(出展『画像あり。(´・ω・`)』)

2002年に新種記載されたもので、サイカブトよりもふた周りくらいデカくて分厚く、胸部背面後方が高くせり上がり、角も長い。

サイカブトの話に戻ろう。
成虫の体長は雌雄共に30〜45mm。
卵はカブトムシと同じく堆肥や落葉土に産み付けられる。孵化した幼虫は2度の脱皮を経て4ヵ月程で老熟し、それぞれ3〜4週間の前蛹期と蛹期を経て羽化する。成虫の寿命は2〜5ヵ月程だが、成虫、幼虫共に冬季の約2ヵ月を除きほぼ一年中活動している。
カブトムシと比べて全体に外皮が厚く強固であり、脚が太くて短かめである。特に前脚の脛節は幅が広く、トゲが発達している。その為、樹皮上を登る能力は十分に擁するものの、短足なことから細い枝を歩くのは苦手である。とはいえ、野生下では樹木の表面を歩行することは滅多になく、本土のカブトムシのように樹液に来ることも殆どない。基本は地面を這って生活しているようだ。
♂の大型個体は弓なりの細長い角を頭部に1本持つが、♀も短い角を備えるため、小型個体では雌雄の見分けがつきにくい。但し♀は尾端が毛で覆われていることから、慣れれば判別は比較的容易である。
夜行性で、しばしば街灯に飛来し、路上でひっくり返ってもがいている姿をよく見かけるという。

サイカブトなら、肉食性じゃないから触っても良かったなあ。ちょっと惜しい事をした。
因みに、生き虫を本土に持ち帰ることは厳に謹しむべきである。ましてや野に放つことは厳禁だ。紛れもなく害を及ぼし、下手したら後々には甚大なる被害を引き起こしかねないからね。
『可愛いそうだから、放してあげようよ。』とか、己のオナニー的優しさと正義感を押し付けてくる人が多いけど、この場合はクズだ。そのオナニー的正義感が時に犯罪行為になるのである。何でもかんでも可愛いそう視点の、昨今のヌルい優しさが蔓延する風潮は愚かとしか言いようがない。そのせいでアライグマは爆発的に増え、カミツキガメも急速に増えて各地で大問題になっているのだ。
一般ピーポーは、外来生物であるアメリカザリガニやブラックバスがどれだけ此の国の従来からある生態系を破壊し続けてきているのかをコレっぽちも知らんのである。

余談だがコカブトの話に戻ると『学研の図鑑 カブトムシ・クワガタムシ』のアマミコカブトの欄には、分布地として奄美諸島の他に伊豆諸島の八丈島やトカラ列島も挙げられていた。


(出展『学研の図鑑 カブトムシ・クワガタムシ』)

なぬ❓トカラ列島なら位置的にまだしも理解できるが、遥か離れた八丈島まで分布に含まれるのは解せない。
調べたら『ZUKAN 生きもの愛が図鑑になる』というサイトに、トカラ列島産(口之島・中之島・平島)も伊豆諸島産も名義タイプ亜種に含まれていた。しかし、よく見ると伊豆諸島は御蔵島以北とある。八丈島って御蔵島より南だったよな…。まさか…だよね。
でも読み進めると、そのまさかの答えがあった。
「八丈島では、2006年に2頭の雌が記録されているが、これらは奄美亜種の特徴を有しているという。同島では奄美大島などから植物とともに移入されたと考えられるカミキリムシなどが多く記録されており、コカブトムシも移入種の可能性がある。」
なるほどね。そういう事だったのか。ならば納得である。
危ねえ危ねえ。「子供の図鑑とはいえ、情報に正確性を欠くのはよくないと思うよー。」とか書きそうになってたから、危うく恥をかくとこだったよ。まあ、トカラ列島は間違いみたいだけどさ。あー、でもコレとて奄美諸島からの移入種という見解もあったりしてね。

 
(註2)カブクワ屋
カブトムシ&クワガタムシのディープな愛好家のことをこう呼ぶ。参考までに言っとくと、例えばクワガタ好きは「クワガタ屋」、カミキリムシ好きは「カミキリ屋」、蝶好きは「蝶屋」、蛾好きは「蛾屋」、蝶も蛾もやる人のことを「レピ屋」と呼ぶ。レピはレピドプテラ(Lepidoptera)の略で、蝶と蛾を含む上位分類である鱗翅目の昆虫の事を指す。ようするに愛好する虫の後ろに「屋」をつけるのが習わしなのだ。そしてそれらを総称して、虫好きの人は全て「虫屋」と呼ばれる。
但しコレは業界用語で、己の事や同じレベルの虫好きの事を指して言う。虫屋は己の事を何があっても「昆虫マニア」とか「昆虫愛好家」「昆虫オタク」とは言わないのだ。これらは一見して同じ意味に聞こえるが、それは世間の人が使う言葉であり、そこには蔑視が入っているからだ。

(註3)ナショナルパーク
ネパール南部に位置するチトワン国立公園でした。
東西80km、南北23km、総面積932㎡に及ぶ広大な国立公園のエリアは鬱蒼としたジャングルや草原からなるが、標高は低く、50m~200m程度で亜熱帯気候である。平原の彼方には、マナスルをはじめとするヒマラヤ山脈が遠望できる。
かつて王族たちの狩猟地だった為に開発を免れ、大自然が手付かずのまま残っており、1984年には世界遺産に登録された。
絶滅寸前のインドサイの他にベンガルトラ、ヒョウなど哺乳類は約40種おり、コウノトリ、サギ、インコなど野鳥の種類は500を数え、世界一の種類数だとも言われている。公園内の川では、絶滅の恐れの高いヌマワニや淡水イルカ、インドガビアルの生息が確認されている。朝には必ずといってよいほど朝靄が立ち込める。また、緩衝地帯にあるビスハザーリー湖などはラムサール条約の湿地に登録されている。
ゾウの背中に乗って回るジャングルサファリや、更に広大な範囲を探索できるジープサファリがあり、他にもラフティング、カヌー、バードウォッチングなどのアクティビティを楽しむことができる。

 
最後に、この旅で採った蛾と蝶を紹介して終わります。だだし全て展翅しているワケではないので一部の紹介になります。
と、ここまで書いて各種を並べて短い解説を添えていたのだが、またぞろ問題とか疑問にぶつかりバカ長くなってしまった。加えてアップ直前、最後にコカブトの画像を入れたところで、何とサイカブトだったと云うのが発覚して、更に徒らに長くなってしまった。拠って、ソチラはオマケ編として次回に回します。

 
参考文献
◆『学研の図鑑 カブトムシ・クワガタムシ』
◆『小学館の図鑑NEO カブトムシ クワガタムシ』
◆高田兼太『「虫屋」とは?ーリフレームによる言葉の分析』きべりはむし 37号(1),2014
◆石塚克己『世界のカトカラ』

インターネット
◆『Wikipedia』
◆『尾張の蛾、長話』
◆『ZUKAN 生きもの愛が図鑑になる』
◆『画像あり。(´・ω・`)』
◆東 和明『南大東島まるごとミュージアムを確立する』
◆『http;//www.pref.okinawa.jp』

 

銀星天蛾と楮を巡るあれこれ

 
連載中の『奄美迷走物語』の最終回の予定だったが、ギンボシスズメの解説をするのを忘れていた。と云うワケで、迷走物語の番外編として書きます。

 
2021年 3月31日
上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも今度は新鮮な個体だ。下から見ても羽に破れがない完品だ。おそらく時間的にみて、コレが最後のチャンスだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

しかし、結果は見事な惨敗だった。

宿に戻ったら、午後5時半を過ぎていた。
夜間採集をするなら飯なんぞ食っているヒマなどない。今夜は朝戸峠に行くのである。今まで避けてきたのは、奄美でも超一級の心霊スポットと名高い場所だからだ。それだけに何としてでも日没前に着いておきたい。休む間もなく用意して出る。

朝戸トンネルの手前の道を右に上がってゆく。
上から朝戸トンネルの入口が見える。あのトンネルも異様に長くて充分ホラーだったが、今から行く旧朝戸トンネルはそんなの目じゃない弩級のヤバさだろう。そう思ったら背中がゾクゾクしてきた。
バイクは不安なまでにグングンと高度を上げてゆく。
眼下には亜熱帯特有のモコモコした森が見える。街のすぐそばなのに、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美有数の原生林として知られる金作原の裏側にあたるのだ。初めて来るが、環境が良いのも納得だ。

屋台を構える場所を吟味しながら走る。
午後6時半前。旧朝戸トンネルまでやってきた。

異様だ。まだ明るいのにトンネルの入口周辺だけがメチャンコ暗い。チビりそうだ。
行き交う車両は、ここまで皆無だったな…。こんなとこ誰も訪れないのだろう。とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも、ただならぬものを感じる。

昨日、一応ネットで旧朝戸トンネルの心霊現象についてチェックした事を否応なしに思い出す。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

原文そのままである。句読点が少なくて無茶苦茶だ。なだけに、かえってテンションが掛かったような文章だ。書いた本人も狂っているのでは❓と不安にさせるのだ。
流石にそんな恐ろしきトンネルの横でライト・トラップをやる勇気はない。
なのにトンネルの向こうの環境が見たくなる。もしかして何かに誘(いざな)われているのか…❓魔がさすと云う言葉があるが、それがこうゆう時なのかもしれない。ワシはドがつく程の超ビビリな男なのである。そんな怖がりのオラが、こんなトンネルを潜(くぐ)るのか❓しかも一人で❓
でも、ナゼかトンネルを潜る事を選択してしまう。

けど入ってすぐに後悔した。急に温度が下がり、あまりの冷んやりさにビクッとなった。そして、中は信じられないくらいに真っ暗だ。照明が全くないのだ。しかもピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。
でも引き返す気はない。性格的に出来ないのだ。それにトンネルは短い。たぶん50mもないだろう。日が暮れていたら怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。環境を確認しに行くなら今しかない。

抜けたら辺りは鬱蒼としており、見通しが悪くて湿度も高い。典型的にヤバい場所だ。怖くてライトトラップなんぞやれるワケがない。一秒たりともこんな所には居たくない。そう、本能が言っている。
ヾ(・д・ヾ))))))))=3=3=3 ぴゅう━━━━
デンして帰って来た。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、闇夜であのトンネルの前を通るのだけは避けたいと思ったのだ。

日没直後に道路沿いに屋台を構える。少しでも光が届くようにと、ガードレールにベタ付きだ。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た。
だが、白布の手前で反転してどっかへ消えた。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。狙いはアマミキシタバなのだ。たとえキミが採れなくても悔しくはない。

【アマミキシタバ】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

したら、5分後に又やって来た。今度はシッカリと姿を見た。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾だ。迷彩柄の戦闘機みたいなのだ。気分が⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、胴体も、もっと太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかに小さいし、翅の柄も図鑑等で見て記憶しているのとは違う。
とにかく見たことのない蛾である事は確かだ。もしかして、大珍品の迷蛾だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄まで知らしめられているのだ。

慎重に毒瓶を被せる。
しはらく放置して、気絶したところでアンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。

何者かはワカランが、(☆▽☆)渋カッケーぞー。
でも、こんなスズメガって、日本に居たっけ❓
オラ、もってる人だから大金星の大発見だったりしてね。

大阪に帰ってから調べてみると、どうやらギンボシスズメという奴みたいだ。(´ε` )なぁ〜んだである。大発見でも大金星でもない。

【ギンボシスズメ】

緑色を帯びた前翅は美しく、幾何学的模様でカッコイイ。前翅の中に色んな図形と線が入っている。
その幾何学模様に、抽象絵画の創始者とされるカンディンスキーの絵のイメージが重なる。

(カンディンスキー『On WhiteⅡ』)

(出展『note.com』)

カンディンスキーみたく原色多めじゃないけど、デザインは近いものがある。
(・o・)あっ❗、もっと近いのもあったぞ。

(カンディンスキー『インプロヴィゼーショ7』)

(出展『JUGEM』)

兎に角、このギンボシちゃんには一発でファンになったよ。
でも時間が経つと、美しい緑色は失われ、褐色に変色してしまうそうだ。残念至極である。
蛾には、蝶にはあまり見られない美しい緑色を有した種類が多い。だが、大概のモノが同じように色が保たれないみたいだ。惜しいよね。もしも緑色が保たれたなら、蛾の人気はもっと高かったろうに。実に惜しい。薬品とか使って、この美しい緑色を残す方法とか無いのかね❓マニアな人が何とかしてくれんかのう。それを切に願うよ。

これは多分♂だから、♀ってどんなだろ❓

(-_-;)ゲッ、でも頼みの綱の『日本産蛾類標準図鑑』には♂1点のみしか図示されていなかった。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

しかも汚い。死ぬと色褪せるというのは、こうゆう事なのね。
それにしても1点しか図示されてないという事は、やはりレアなのかな❓でも同亜科内だと、ハガタスズメ、ヒメウチスズメ、アジアホソバスズメ、モンホソバスズメ、フトオビホソバスズメ、タイワンクチバスズメも1点しか図示されていない。どれもソコソコ珍しいような気もするが、スズメガに詳しいワケではないから正直、レア度はワカラン。それに別な亜科であるホウジャク亜科では、普通種のブドウスズメとかハネナガブドウスズメも1点しか図示されてない。と云うことは、単にスペースの問題かもしれない。図鑑というものは効率良く並べて、スペースを上手く埋めなければならないからだ。

仕方なく他を探したら、Wikipediaにあった。


(出展『Wikipedia』)

基本的に色彩斑紋は雌雄変わらないようだが、♀の方が大型で、腹部が太くて前翅が全体的に丸み帯びる。腹先の形も違うような気がする。
比較のために、同じ並びにあった♂の画像を貼っつけておく。

裏面画像もあった。♀の方を載せておく。


(出展『Wikipedia』)

基本は表のデザインと同じだが、後翅は表側よりも複雑な斑紋となり、前翅は逆に表側の中心がシンプルになっている。あべこべで、ちょっと面白い。

和名の由来は、前翅中室に銀白斑が有ることからだろう。
漢字だと『銀星天蛾』と書くらしい。何か高貴で格調高い感じがするね。
嗚呼、でも漫画『北斗の拳』に、
「👊=3👊=3👊=3 アタタタタターッ❗、銀星天蛾昇流拳❗❗」
とか必殺拳を使う奴がいそうでもある。
でも漢字を見てから実物を見させられたらガッカリするかもしれない。漢字から受けるイメージはミッドナイトブルーみたいな濃紺の地色に、ピカピカの銀紋が散りばめられてるって感じなのだ。

余談だが、中国や台湾では『構月天蛾』と呼ばれているようだ。意味はワカランけどー。

 
【分類】
スズメガ科(Sphingidae)
ウチスズメ亜科(Smerinthinae)
Parum属

日本にはスズメガ科は76種おり、そのうちウチスズメ亜科は19種を占め、ギンボシスズメの他に以下の種が含まれる。

・ウチスズメ
・コウチスズメ
・ヒメウチスズメ
・ウンモンスズメ
・エゾスズメ
・ノコギリスズメ
・ホソバスズメ
・フトオビホソバスズメ
・モンホソバスズメ
・アジアホソバスズメ
・トビイロスズメ
・ハガタスズメ
・モモスズメ
・クチバスズメ
・ヒメクチバスズメ
・タイワンヒメクチバスズメ
・オオシモフリスズメ
・ヒサゴスズメ

わりかしカッコいいスズメガが多いグループだ。

Wikipediaに拠れば、このうち”Parum属”とされるのはギンボシスズメのみである。というか、日本だけでなく、世界を見回してもギンボシスズメだけみたい。つまり、1属1種だけで構成される属ということになるのか。だとしたら、何か孤高って感じでカッケーじゃん。
けど『日本産蛾類標準図鑑』には「Parum属は本種をタイプ種として創設された属で、アジア東部に3種が既知である‥」と書いてあった。
(-_-;)うーむ、残念だ。でもここはウィキペディアなんかよりも岸田先生を信用しよう。

 
【学名】Parum colligata (Walker, 1856)
イギリス人昆虫学者フランシス・ウォーカーによって記載された。タイプ標本の産地は中国北部。

属名の”Parum”はラテン語で「親和力」「親和性」を意味するものと思われる。
余談だが、この「Parum」はパラフィン(Paraffin)の語源になってるそうな。レピ屋ならパラフィンといえば、三角紙の素材であるパラフィン紙だよね。同じものでいいのかな❓

小種名の”colligata”は、ラテン語の動詞”colligo”に由来するものと思われる。
colligoは大きく分けて多分2つの方向性の意味がある。

①「結びつける・繋ぐ・接続」「まとめる・結合的」「引き止める」
②「集める」「得る・獲得する」「気を取り直す」「数える」「熟考する・考察する」

並べてみても、種ギンボシスズメのイメージとは今ひとつ繋がらない。何故この小種名になったのか、その意味が全然ワカランぞ。

語尾が「〜ta」に変化するのに対しても脳味噌は沈黙だ。何か法則が有りそうだけど、意味するところが探しても見つからん。何となく「〜的な」って感じがするけど、だとしても明確な意味が掴めない。前翅のデザインが図形と線とで構成されているから「結合、結びつける、繋ぐ」と云うイメージをウォーカーに喚起させたのかもしれない。全然、スッキリしないけど。

参考までにシノニム(同物異名)も並べておく。

・Daphnusa colligata Walker, 1856
・Metagastes bieti Oberthür, 1886
・Parum colligata saturata Mell, 1922
・Parum colligata tristis Bryk, 1944

下2種は亜種記載されたが、無効になったものかな❓

 
【開張(mm)】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では65〜80mmとあったが、『日本産蛾類標準図鑑』では70〜90mmとなっていた。また『Wikipedia』では69〜90mmとあった。

 
【分布】
北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島。
しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。もっと言うと、ネットで記事が出てくるのは九州・対馬以西のみだ。
思ってた以上に、そこそこ珍しいのかもなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も九州・南西諸島を含めても相対的には少ない方だからね。まあ所詮は虫、しかも蛾だから、情報量はそんなもんかもしんないけど…。

一応、レッドデータブックのリストもチェックしておこう。

大阪府:絶滅危惧種Ⅰ類
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
兵庫県:絶滅危惧種Ⅱ類
宮城県:準絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:情報不足
福島県:情報不足
島根県:情報不足

微妙なところだ。そこそこ珍しいような、そうでもなさそうな…そんな感じである。まあ、最近は蛾に興味を持つ人も増えているみたいだから、そのうち細かい分布も解明されていくだろう。
猶、国外では台湾,朝鮮半島,中国東北部〜南部,マレー半島北部,インドシナ半島,フィリピン(ルソン島)に分布する。


(出展『www.jpmoth.org』)

垂直分布は『DearLep 圖錄檢索』によると、台湾では低中海抜森林となっていた。おそらく他地域でも同じようなものだろう。食樹の植生を考えれば、あまり高所には棲息しないと思われる。

 
【成虫の出現期】 6〜9月
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、そう書いてあった。
でも自分が採ったのは3月31日だから、全然時期が合致しないぞ。このサイト、重宝しているが鵜呑みにするといけんね。アップデートされてないので、情報が古いのだ。
(・o・)あれれ❗❓『日本産蛾類標準図鑑』でも年2化 6〜9月となってるぞ。どゆ事(?_?)❓
けど、ネットの『服部貴昭の忘備録』というサイトには、4月15日の日付で沖縄県国頭村での画像がアップされていたよな。しかも、幼虫の食樹であるカジノキが多い国頭村では個体数が多いとも書いてあったぞ。とゆうことは間違えて早めに羽化しちゃいましたというような個体ではなく、通常の発生と考えられる。ワケわかんねぇーぞ。
けど、先を読み進むと直ぐに問題は一件落着した。標準図鑑には「南西諸島では多化性の可能性がある。」という追加コメントが載っていたのである。

中国北部では年に1〜2化、5月から7月に成虫が見られる。韓国では5月中旬から9月下旬にかけて記録されている。さらに南の亜熱帯、熱帯地域では最大で年4化するのではと推測されている。
でも、台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』では5〜10月となっていた。台湾は亜熱帯で南西諸島と気候が変わらんけど、コレって合ってのかな❓

 
【成虫の生態】
『服部貴昭の忘備録』には、早い時間帯から灯火に飛来すると書いてあった。確かにワシの時も7時台の終わりに飛んで来た。

スズメガの仲間だから、どうせ花の蜜とか樹液でも吸っとるんじゃろう。そう思ったが、何とウチスズメ亜科の蛾は種により度合いの差はあるものの、口吻が退化傾向にあるらしい。とゆうことは、種によっては全くエサを摂らないということだ。尚、ギンボシスズメの口吻が他と比較してどれくらい退化しているのかを調べたら、短いとは書いてあった。けど、餌を摂る摂らないについての言及はなかった。

面白いのは止まる姿勢である。


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

海外のサイトも見たが、こうゆう止まり方をしている画像が結構多い。威嚇なのかなあ❓
指に止まらせると、絶対この止まり方になるようだ。
今度会ったら、自分も試してやろう。

 
【幼虫の食餌植物】
カジノキ、コウゾ (クワ科 コウゾ属)

コウゾといえば、紙の材料となる「コウゾ、ミツマタ」が真っ先に頭に浮かぶけど、そのコウゾなのかな❓

取り敢えず、ウィキペディアでググったら、やはりそのコウゾであった。
以下、要約、文章組み換えーの、ちょいちょいコメント挟みぃーので進めてゆく。

(コウゾ Broussonetia kazinoki )

(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

あれれ❓、学名の小種名が、もう1つの食樹であるカジノキの綴りになっておるではないか。
でも確認したら、間違いなくコレが学名のようだ。何だか錯綜してんなあ。なぞなぞかよ❓


(出展『Wikipedia』)

果実は、何か桑の実みたいだね。アレ、美味いんだよなあ。
でも考えてみれば当たり前かあ。そもそもがコウゾはクワ科の植物だもんね。

漢字だと「楮」と書く。
タイトルの漢字を読めなかった人が大半だと思うけど、「楮」はコウゾなのだ。
してからに、何とコウゾはヒメコウゾとカジノキの雑種らしい。
(☉。☉)えっ❗、雑種なの❓だったらカジノキの方が偉いじゃんか❗
でも、事はもっと複雑で、そう簡単な事でもないようだ。

雑種が作られた起源はかなり古く、いつからかも詳しくは分かっていないようなのだ。
紙の起源は中国で、紀元前2世紀頃。紙の製法が確立されて日本に伝わったのが610年とされる。つまり、大化の改新よりも前だ。その後、日本での製造が確認されているのが702年。ということはコウゾを使って本格的に紙が作られ始めたのは、おそらくそれ以降の奈良時代から平安時代だろう。ようは古すぎて、コウゾを栽培され始めた正確な記録が曖昧なのだろう。
ワザワザ雑種を作った理由は、低木のヒメコウゾをやや大型になる近縁のカジノキと掛け合わせることで、より大きく成長させ、紙を大量生産しようという試みだったのではないかと考えられる。そして雑種であるにも拘らず、コチラの方が価値が高くなり、あたかも母種であるかのごとく単にコウゾと呼ばれるようになったものと思われる。で、いつしか小さい方が元々コウゾなのにヒメコウゾと呼ばれるようになったのではあるまいか。それゆえか、ヒメコウゾの別名をコウゾとする場合もあるようだ。たぶん地方によっては本来の呼び名が残った所もあったのだろう。
ヒメコウゾは雌雄同株異花、カジノキは雌雄異株。よってコウゾはカジノキの性質である雌雄異株を継承していたり、ヒメコウゾのように雌雄同株であったりするという。そうなると、雌雄同株のコウゾとヒメコウゾの判別は難しく、よりカジノキっぽいのか、ヒメコウゾっぽいのか全体的に特徴を捉えて分類するよりない。だから情報が錯綜している感が否めないのだ。
でも所詮は雑種だ。神経質に判別して名前を付けようとする行為自体がナンセンスなのかもしれない。

(雌花)

(出展『Wikipedia』)

(雄花)

(出展『Wikipedia』)

コレが雌雄異株タイプのコウゾ。
ちなみにヒメコウゾの特徴である雌雄同株異花とは、1つの株に雄花と雌花とが両方咲くものをいう。


(出展『植物写真鑑』)

コレがその雌雄同株タイプのコウゾである。

高さ2〜5mの落葉低木で、古来から和紙の材料として知られており、今日でも和紙の主要な原料になっている。
幹の皮を剥いで、それを色んな工程を経て紙にするそうだ。

樹皮は褐色。葉は互生する。6月頃にキイチゴ状の実をつける。赤く熟したものは甘味があって食べられる。ただし、花糸部分が残っていて、ネバ付いて舌触りが悪い。なのでクワの実のような商品価値はない。

扠て、次はカジノキだ。
 
(カジノキ Broussonetia papyrifera)

(出展『Wikipedia』)

何かスゴい見てくれだな。実は、かなり変わってる。

(葉)

(出展『Wikipedia』)

(雌花)

(出展『Wikipedia』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

(雄花)

(出展『松江の花図鑑』)

このように雌雄異株である。

(幹)

(出展『Wikipedia』)

漢字では梶の木と書き、単にカジ(梶)、コウ(構)とも呼ばれる。
梶って、梶原さんとか名字でよく見掛けるけど、そんな木は見たことないぞと思ってた。それが、まさかのカジノキの事だったんだね。

落葉高木とされるが樹高はあまり高くならず、10mほど。葉は大きくて、浅く三裂するか、楕円形。毛が一面に生える。左右どちらかしか裂けない葉も存在し、同じ株でも葉の変異は多い。大木になればなるほど、葉は楕円形になるみたいだけどね。

神道では、古代から神に捧げる神聖な木として尊ばれている。その為、神社の境内などに多く植えられた。主として神事に用いられ、葉が供え物の敷物として使われた。
また、その葉を象った紋様が諏訪神社などの神紋や武家の家紋(梶紋)としても描かれている。


(出展『Wikipedia』)

江戸時代には諏訪氏をはじめ、松浦氏、安部氏など四家の大名と四十余家の幕臣が用いている。また、苗字に「梶」の字のある家が用いる場合もある。

樹皮はコウゾと同様に紙の原料となる。中国の伝統紙である画仙紙(宣紙)は主にカジノキを用いる。又、昔は七夕飾りの短冊の代わりとしても使われたそうだ。
葉は豚や牛、羊などの飼料(飼い葉)になる。また中国では、煙に強いことから工場や鉱山の緑化にも用いられている。

ここまで書いて気づく。
(・o・;)あれれ❓、ウィキペディアには、カジノキもコウゾも分布が書かれてないぞ。コウゾはカジノキとヒメコウゾとの雑種だから、それも理解できるけど、カジノキまで記述がないのはおかしいよね。

『庭木図鑑 植木ペディア』というサイトで確認したら、ありました。本州中南部から九州にかけて自生するらしい。
おいおい、奄美大島とか沖縄本島が含まれていないぞ。コレって、どゆ事〜(´ε` )❓
でも「同類のコウゾ、ヒメコウゾと共に樹皮が和紙や縄、布等の材料になるため各地で栽培され、後に野生化した。」とも書いてあった。けど、奄美や沖縄で紙が作られていたなんて聞いたことがないぞ。

別なサイトでも確認しておこう。
『植物図鑑 エバーグリーン』というサイトには、こう書いてあった。
「中国中南部~マレーシア、太平洋諸島などで広く栽培され、野生化し、正確な原産地は不詳です。日本以外にもアジア全般に分布する。」
ところで、奄美や沖縄にカジノキやコウゾって自生してるのかな❓
いや、待てよ。その前に元々自然状態で自生するヒメコウゾはどうなんだ❓図鑑では食樹には挙げられてないけど、幼虫は間違いなくヒメコウゾも利用している筈だ。ならば、ヒメコウゾの分布もチェックしといた方がいいだろう。

(ヒメコウゾ Broussonetia monoica)

(出展『mirusiru.jp』)

花は雌雄同株だ。


(出展『北信州の道草図鑑』)

ヒメコウゾの分布は、本州(岩手県以南)、四国、九州、奄美大島、朝鮮、中国中南部とあった。
(◠‿◕)やりぃ❗、読み通りだ。奄美には生えてる。
因みに奄美にはコウゾは見られず、カジノキは限られた場所にしか生育していないようだ。となると、奄美に生息するギンボシスズメはヒメコウゾを食樹としている可能性が極めて高い。
ついでに沖縄県での分布についても調べてみた。
結果は、ヒメコウゾは分布しないようだ。でもコウゾはあるみたい。カジノキは成虫の出現期でも触れたように国頭村に自生していて、ギンボシスズメの発生地ともなっている。沖縄ではカジノキのことを古くからガビキと呼んでいるそうだから、今でも各地に見られるのだろう。とゆうことは、ギンボシスズメは沖縄本島では主にカジノキを食樹としていると思われる。

でも、ここで大きく躓く。
『Wikipedia』でのヒメコウゾの学名を見ると、何とコウゾと同じ「Broussonetia kazinoki」という学名になっているではないか❗
気になるから他のサイトを片っ端に見たら、学名がそうなってるものが大半だった。おいおいである。
まあ、コウゾは雑種だし、何かと問題ありなのかもしれないなあ…。雑種の場合は学名はどうなるのだ❓そもそも雑種に学名とか普通に付けていいものなのか❓だったら園芸種のバラなんて無数の雑種があるじゃないか。それらにも学名が付いているのか❓その辺のルールはどうなってるのかね❓もしかして学名に雑種を表す特別な表記法とかあるのかな❓

捜しまくって、漸く『広島の植物ノート』と云うサイトで、その謎が解けた。
江戸を訪れたシーボルト(1830)が日本のコウゾやカジノキに学名を付けて発表した際、彼が聞いた日本名に混乱があったようで両者を混同してしまい、日本名のカジノキの名がコウゾの学名に付けられてしまったようなのだ。
その後、Blume(1852)が、Broussonetia sieboldiiというシーボルトの名を冠した名をコウゾの新たな学名として発表した。しかし、命名規約上は先に発表された名が優先されるため、これは無効となり、錯綜した学名がそのままとなった。
後々、当時実際にコウゾと呼ばれていた植物は純粋な野生種ではなく、カジノキとの雑種である事が判明した。拠って現在では野生種にはヒメコウゾの和名を与えて、栽培種と区別している。
そして、シーボルトが記載した B.kazinokiは、ヒメコウゾにあたるものと考えられていたが、Ohba & Akiyama (2014)によれば、これは雑種のコウゾであることが分かった。それにより雑種コウゾが、B.kazinokiとなり、野生種のヒメコウゾの学名は、Broussonetia monoica Hance(1882)となったそうだ。
『Wikipedia』も十全ではない。100%信用は出来ないという事だ。

台湾のサイトには、以下のものが食樹として挙げられていた。

・小構樹 Broussonetia kazinoki
・Broussonetia monoica
・構樹  Broussonetia papyrifera

一番上が、ようするにコウゾだ。二番目がヒメコウゾ、そして三番目カジノキである。やっぱヒメコウゾも食べるようだね。

それと、これでギンボシスズメの台湾名が、なぜに「構月天蛾」なのかも分かったね。ようするに食樹を指していたワケだ。補足すると、月天蛾は属名である。

 
【幼生期】
(卵)

(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

(幼虫)


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

いわゆるイモ虫型である。
一番上が弱齢幼虫、二番目が中齢幼虫、三番目が終齢幼虫かと思われる。頭はそれぞれ右側、下側、左側です。


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

これを見ると、齢数は全部で4齢(終齢)かなあ❓
でも、5齢の可能性もありそうだ。

(蛹)


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

蛹は所謂スズメガ型で、土中で蛹化する。

                  おしまい

 
追伸
えー、前半の採集シーンは前回の『奄美迷走物語』18話の縮小版です。しかし、お気づきの方もいるかもしれないが、同じ内容だが文章は結構書き直している。ヒマな人は見比べてくれれば、言葉のチョイスが違うことがワカルだろう。

それから、ギンボシスズメの解説がこのような別稿になったのは、ひとえにこの長くなった食樹の部分のせいです。こりゃ迷宮になるなとすぐに思ったので、いったん切り離して他の部分を書いた。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』

インターネット
◆『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』
◆『服部貴昭の忘備録』
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『Wikipedia』
◆『みんなで作る日本産蛾類標準図鑑』
◆『www.jpmoth.org』
◆『広島の植物ノート』
◆『松江の花図鑑』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『植物写真鑑』

 

奄美迷走物語 其の18

 第18話『呪われた夜』

 
2021年 3月31日(夜編)

上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも下から見ると羽には全く損傷がない。今度こそ完品だ。おそらく時間的にコレが最後のチャンスとなるだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

【フタオチョウ♀】

だが、逆光で見えにくい。しかも止まる素振りはあるものの、止まりそうで止まってくれない。そのせいか飛ぶ軌道が不安定だ。読み切れない。どうする❓判断に迷う。最後のひと振りだと思っているから中々踏ん切りがつかない。ヘタに振れば、どっかへ飛び去って二度とチャンスはないのだ。でも時間のリミットは近づいている。夕暮れ近くの今が、そろそろ飛び終わる時間なのだ。
焦る中、網の切っ先がキッと動いた。でも、急に軌道を変えやがった。振りかけてグッと手首と腕で急制動させる。経験で、このまま振っても空振りすると感じたからだ。
でもこの10数秒後には突然プイと舞い上がり、山に向かって勇壮に飛び去って行った。それを茫然と見送る。
ネットを振る事なく、勝負は終わった。慚愧に堪えない。

その後、30分ほど粘ったが、待ち人来たらず。ついぞチャンスは巡っては来なかった。
(´-﹏-`;)惨敗だ…。
暮れゆくトパーズ色の光の中、立ちすくむ。
こんな事ってあるか❓…。蝶採りをやってきて最も半端な終わり方だったかもしれない。状況的に致し方なしと何とか言い訳はできるかもしれないが、自分自身では無理があると認識している。逃した時には人に言い訳しがちだけれど、極力、他人から見て無理があるようなダサい言い訳だけはしないようにしている。口には出さなくとも、意外と人はそれが事実なのか苦し紛れの嘘なのかを見抜いているものだ。
今日の敗因は、ずっと今回の旅で自分に言い聞かせてきた迷わずに振り抜くという当たり前の事が出来なかったからだ。迷ってはならないと頭では解っているのに、いざという時には決断できなかった。結局、メンタルをいつものように余裕のヨッチャン無敵モードには持っていけなかったのだ。
考えてみれば、2019年の夏に日本で初めてマホロバキシタバを採ってから何だかオカシクなったと云うか、潮目が変わったような気がする。その後、何となくスランプ気味なのだ。狙った獲物が全く採れてないワケではないのだが、前みたく連戦連勝とまではいかない。今にして思えば、あの時を境に憑き物が落ちたように虫へのモチベーションが下がった気がする。欲しいと強く思わない者には、欲しい物は手に入らない。なのに希求する心は以前ほどには強くはない。正直なところ、滅多な事では心が跳ねないのだ。
とはいえ、何と言おうがコレとて言いワケだ。ここぞと云うところで、ここぞと云う力を発揮できない人間はニ流だ。そうゆうことだ。オリンピックしかり、最高クラスのカテゴリーのプロスポーツの世界しかり、結局は己のメンタルの強さと迅速な判断が勝敗を分けるのだ。
歳、喰ったかなあ…。老いると云う事は、人を肉体面だけでなく、精神面をも衰退させるのかもしれない。
認めよう、惨敗だ。嘗て最終戦で言いワケ出来ずに惨敗に終わった事などあったっけ…❓あのキリシマミドリシジミの時の5連敗に近い屈辱だ。でも、アレはまだ言いワケできた。どの場所でも一緒に行った人は誰も採れていないのだ。
所詮はコレもまた言いワケにすぎないんだけどもね。とにかく己の虫を採る能力は確実に落ちてきてる。その証左のような終わり方だった。

宿に戻ったら、5時半を過ぎていた。
心は重い。灯火採集に行く気も萎えている。ここは飯でも食ってリセットする事が必要だが、もし予定していた場所に行くならば、飯なんぞ食っているヒマはない。行くなら、今日だけは何があっても日没前にポイントに着いておきたいのだ。
なぜなら、遂に今までは恐ろしくて避けてきた朝戸峠へ行くのである。そしてそこには、奄美でも超一級の心霊スポットとして名高い「旧朝戸トンネル」がある。場合によっては其処を通り抜けねばならないのだ。日があるうちならまだしも、日没後なら絶対に無理だ。きっと背中に天井から何か得体の知れないモノがパサリと落ちてきたりするのだ。そして密かに背中に宿り、人面瘡となるのだ。そんなの想像するだに怖ろしい。
自分で言うのも何だが、アチキは超怖がり男なんである。怖い系のテレビ番組は絶対に見ないし、たまたま映ろうものならマッハでチャンネルを変える。映画も、そうゆう系はできるだけ避ける。観に行くとしても、若い女の子、しかも美人限定だ。なぜなら、怖いから女の子の方から寄ってくるし、じゃない場合は素直に「僕、超怖がり屋さんでしゅー」などと正直に吐露すればよいのだ。
意外と女の子の方が♘ホワイトナイト、白い騎士だから『アタシがついてるからね。』とか言ってくれるのだ。そんな状況下なだけに『😍守ってね。』とでも言って手を握ることなんて事も容易いのだ。流石にオジサンになった今ではキモ過ぎて使えないけど…(笑)。
また👻怪談話も絶対に耳には入れない。ワシにはタブーだ。過去には、ワイが怖がるのを面白がって無理やり耳元で話そうとしてきた輩をタコ殴りにしてやった事だってある。恐ろしさが怒りに転化したのだ。そんなだから、心霊スポットに行く事も殆んどなかった。ワザワザ自分からそんな所に行く気がしれん、バッカじゃないのーと、ずーっと思ってた。
それが何の因果か、今や自分から夜の山に入り、遂には自ら心霊スポットへ行こうとしているのだ。それも、たった一人で。
げに恐ろしきは、憧れの虫を採りたいという強い欲望だ。採りたいという欲望が恐怖をも凌駕してしまっているのである。
それほどまでに、アマミキシタバ(註1)を採りたいのだ。

【アマミキシタバ】

(出展『世界のカトカラ』)

にも拘らず、奄美大島に来て6回も灯火採集をしているのに、いまだ1頭たりとも見ていないのだ。いくらライトトラップが何ちゃっての簡易なもので戦力が低いとはいえ、カスリもしてないのだ。だから今日こそはと思ってる。というか願ってる。チャンスはもう今日しかないんである。明日には大阪に帰らねばならんのだ。

超特急で用意して出る。
無事、日没前までに到着できることを祈ろう。

名瀬市街を抜け、朝戸トンネルの手前を右に入り、坂道を上がってゆく。
上から、あの長い朝戸トンネルの入口が見える。このトンネルも充分ホラーだったが、今から行くトンネルはそれを遥かに超える恐ろしき隧道の筈だ。そう思ったら、背中がビビビッときた。武者震いってヤツだ。
バイクはグングン高度を上げてゆく。
眼下には、こんもりとした森が見える。街からは近いが、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美でも有数の原生林として知られる金作原のちょうど裏側にあたる。環境が良いのも納得だ。あとは灯火採集の屋台を何処に据えるかだ。場所を吟味しながら走る。

候補地を2箇所ほど見つけ、更に上へと登る。
それにしても、さっきから行き交う車やバイクが1台もない。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで響く。それがホラー映画の何かが起こる前の雰囲気みたいで、ゾワゾワくる。

午後6時半前。
旧朝戸トンネルまでやってきた。

暗渠。地獄の口がパックリとあいている。
まだ明るいのに相当に暗くて、佇まいは異様だ。そして行き交う車は皆無だから、とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも辺りに何かただならぬものが漂っているような気がする。

暗すぎてトンネルの入口がよく見えない。ネットで見た画像よか凄くね❓
参考までにネットの画像を貼付しておきます。


(出展『わきゃしま大好き』)

この画像よりもだいぶ木が大きくなってて、入口を隠すように繁ってるって事だね。下草もボーボーだ。益々、😱怖なっとるやないけ。

因みに、もし何か起こってもいけないと思って、昨日にどのような心霊現象が起こっているのかチェックしておいた。原文のまま貼っつけておく。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

何だ、この違和感バリバリの変な文章は。書いてる奴まで狂っとるやないけ。トンネルの呪いかね❓
流石に、このようなトンネルのすぐ近くで灯火採集をやる勇気はない。採集中にトンネルの奥からオドロオドロしい呻き声が聞こえてこないとも限らないし、闇の中から白装束のお歯黒の女がボワ〜っと浮いて出てきたりしたら阿鼻叫喚、ムンクちゃんだ。

【上村松園『焔』】

(出展『東京国立博物館』この絵の実物の存在感は凄いです)

でも、もしかしたらトンネルの向こうに灯火採集するのには絶好のポイントがあるかもしれない。そう思うと、どうしてもトンネルの先の環境が見たくなってきた。日が暮れていたら、怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。行くなら今しかない。中々の緊張感だが、勇気を振り絞って潜(くぐ)る事にする。

けど、入ってすぐ後悔した。中は驚くほど冷んやりとしており、信じられないくらいに真っ暗なのである。照明が全くないのだ。
下に何が横たわっているかワカランので、ゆっくりとバイクを走らせる。死体なんかあったら、動物や鳥でもコトだ。チビるよ。
ピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。マジで気持ち悪い。
でも、ここまで来て引き返すのは癪だ。入った勇気が無駄になる。それにトンネルは短い。たぶん50mくらいだろう。いや、もっと短いかもしれない。ここは我慢だ。

トンネルの向こうに出ると、辺りは驚くほど鬱蒼としており、暗くてジメジメだった。その先には荒れた林道が続いている。不気味さ、マックスである。こんなとこ、怖すぎて夜には居れるワケがない。2秒で撤退を決意し、ゾクゾクしながら、もう1回トンネルを潜って戻る。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、暗い中であのトンネルの前を通るのだけは何があっても避けたいと思ったのだ。

午後6時40分、日没時刻になった。
慌てて道路沿いの開けた場所に、ガードレールにベタ付きでライトを設置する。
正面には原始の森が上から下まで広がっている。ここなら、アマミキシタバも絶対にいるだろう。そもそも日本で最初に彼奴(きゃつ)が発見されたのは此処なのだ。
幸いにも空はいつしか雲に覆われている。天気は下り坂だ。流石に今日は月に邪魔されないだろう。何か採れるような気がしてきた。フタオチョウの完品の♀は採れなかったが、♂は採れてるし、アカボシゴマダラは♂♀両方採れているのだ。まだ運は残ってる筈だ。

【フタオチョウ♂】

【アカボシゴマダラ♂】

【アカボシゴマダラ♀】

それにフタオの♀が採れなくとも、アマミキシタバさえ採れればいい。それで帳消しどころか、お釣りがくる。そもそも奄美に来た理由の第一義はアマミキシタバのゲットなのである。そのミッションさえ果たされれば、他の事には目をつむれる。

後ろ側、道路の山側の枝にはバナナトラップを吊り下げた。
辺りに甘い香りが広がる。発酵が進んで、虫を呼び寄せるのには最高の状態だ。アマミキシタバもこれならライトには寄ってこなくとも、こっちには寄ってくるだろう。

闇の侵食が強くなり始めたところで、ライトを点灯する。
さあ、最後の夜会の始まりだ。

真っ暗になったら、すぐに蛾どもがワンサカ飛んで来た。
ライトが一灯だけになってるのにも拘らず、なんか良さげな兆候だ。最終日で一発逆転があるかもしれない。って云うか、そうなるっしょ❗ものすごく採れそうな気がしてきた。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た(註2)。
だが、白布の手前で反転してどっかへ飛んで行っちゃう。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。スズメガなんぞ二の次だから、そうガッカリする程の事ではない。

したら、5分後に又やって来た。今度は姿がちゃんと見えた。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗(註3)
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾の一つだ。迷彩柄の戦闘機、いや重爆撃機みたいでカッケーのだ。テンションが急激に⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、もっと胴体も太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかにキョウチクトウにしては小さいし、翅の柄も図鑑等で見た記憶とは違う。
兎に角、見たことない蛾である事は確かだ。もしかして大珍品の迷蛾(註4)だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄の髄まで知らしめられているのだ。それにコレを逃したら、また流れは確実に悪い方向へ行くだろう。何としてでもそれは阻止せねばならぬ。

慎重に毒瓶を被せる。
暫く放置して気絶したところで、アンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。気分はマッドサイエンティストだ。

何者かはワカランが、カッコいいぞー(☆▽☆)
気分は上々。今日こそ、この調子で辛酸の日々に幕を下ろそうぞ。

8時過ぎ。
気づいたら、白布に苺ミルクみたいなのがいた(註5)。

とても小さくて可愛い。

プリティーちゃんだ。
こういうのを見ると、蝶よりも蛾の方がデザイン性は高いのではないかと思う。バリエーションも豊富だしさ。

8時15分。
もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た(註6)。

柄が何だかウルトラマン怪獣のシーボーズみたいだね。
あの回は『ウルトラマン』の中でも最も心あたたまるストーリーだろう。シーボーズが駄々をこねてイヤイヤするのが可愛いかったよね。

【シーボーズ】

(出展『怪獣ブログ』)


(出展『円谷プロ』)

下の画像は、たぶん拗ねて土とか蹴ってトボトボ歩いてるシーンだよな。
えー、シーボーズとは第35話「怪獣墓場」に登場する亡霊怪獣。「怪獣墓場」から月ロケットにしがみついて地球に落ちてきた迷い子の怪獣だす。戦闘意欲は全くなく、単に宇宙に帰りたがっていただけなのに、パニくって建物とか壊してしまう。やがてそれが解って、科学特捜隊が月ロケットをウルトラマンの姿に変えた「ウルトラマンロケット」で宇宙へ帰す作戦を実行。ウルトラマンの協力もあり、無事に宇宙へと帰っていったのらー。
いい奴だけど、もしも今この姿で現れられたら、メチャメチャ怖いだろうなあ…。いい奴とはいえ、見た目は完全に骸骨だもん。シーボーズだと解ってても、腰抜かすわ。
いかん、いかん。また話が逸れた。シーボーズの事など、どーでもよろし。

その後も何かと飛んで来たが、肝心のアマミキシタバは現れない。バナナトラップの方も閑古鳥だ。まあ、オオトモエしか寄って来ないんだから、コチラにはホントはあまり期待してなかったんだけどもね。
それにしても何でこうも効果がないんだろう❓フタオもアカボシもフル無視だったし、そういやスミナガシも来てない。春にはどれも寄って来ないとは聞いてはいたが、その理由がサッパリわからない。
まあいい。ライト・トラップの方は良い感じなんだから何とかなるだろう。時間はまだまだあるし、アマミキシタバが飛んで来る時間は午後11時以降が多いというから気長に待とう。大体いつでも最後の最後には何とかなって、大団円で終わるのだ。だってオラ、引きが強いもーん<( ̄︶ ̄)>

9時を過ぎると、急に風が出てきた。
おいおい、よろしくない兆候だぞ。ライト・トラップには月が一番よろしくないが、風が強いのもあまりよろしくないのだ。飛来する蛾の数が滅法減るのだ。

9時10分。
突然、突風が吹いた。と思ったら、三脚がグラリと傾いた。慌ててコケるすんでのところでギリで手で抑えた。流石、反射神経の良いオイラだ。危ねえ、危ねえ。危うく大惨事になるところじゃったよ。神様は悪戯好きだよね。意地悪にも程があるよ。でもそんなもんには負けないのだ。

しかし暫くして気づいた。何か寄って来る蛾の数が極端に減ってきてねぇか❓
何気にライトを見る。

ガビ━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━ン❗❗
ライト、消えとるやないけー❗

道理で飛んで来なくなったワケだ。
たぶん、倒れはしなかったが、手で抑えた時に何らかの衝撃を与えてしまったのだろう…。

配線とかイジるも、灯りは点かない…。
( ꒪⌓꒪)…やっちまったな。

唖然とする。
まさかのサドンデス。突然降って湧いたようにゲームセットになった。想像だにしてなかった何という終わり方なのだ…。心を何処に持っていけばいいのかワカラナイ。
でもどんだけ嘆こうが現実を受け容れるしかない。バナナトラップだけで最後まで闘おうかとも思ったが、そこまで暢気になれる強靭なメンタリティーは持ち合わせてはいない。心は完全にバンザイしていた。お手上げだ。
早々と白旗をあげるなんて、らしくない。けど今回の旅で続いてきた酷い体たらくの流れだと、半ば納得の結末だ。
結局、アマミキシタバの姿を一度も見る事なく、奄美大島を去ることになりそうだ。それが信じられない。頭の中のストーリーには全く無かったからだ。でも結果は厳然と出たのだ。どれだけ受け容れ難くとも事実からは目を背けられない。

脳が停止したままの状態で、のろのろと後片付けをし、さらに思考を凍土化してバイクに跨がる。これで、敗残者確定だ。
大きく息を吐き出し、エンジンをかける。認めたくはないけど、長い勝負の11日間が、今ここに完全に終わった。屈辱感と、これから先はもう頑張らなくともいいのだと云う安堵感とが入り混じるが、その感情も捨てた。無になる。

それでも、山を降りる途中、ずっと頭の中で何故かイーグルスの『呪われた夜(註7)』がリフレインで流れ続けていた。

 
https://youtu.be/ESc2Tq2HzhQ
イーグルス『呪われた夜』リンク先

 
ワン オブ ディーズ ナイト……
ドン・ヘンリーが嗄(しゃが)れた声で何度もシャウトする。
そして途中、狂おしいギターソロが入る。
頭の中を、ソリッドなギターのメロディーがズタズタに切り裂く。そして、歌詞も相俟ってか、奄美大島での夜会の日々が走馬灯のようにコマ切れでフラッシュバックしてゆく。
ワン オブ ディーズ クレイジー、クレイジー クレイジー ナイツ……。数多(あまた)ある夜の中の一夜(ひとよ)。そのたった一つの夜なのに何かが狂っちまってる…

空を見上げる。
夜空はどこまでも暗く、梢を渡る風は強かった。

                   つづく

 
追伸
フタオの♀に関しては、前回から引っ張いといて、こんなカタルシスのない結末で誠に申し訳ないと思ってる。
言いワケだらけでスマンが、この回との連続性を重視したのだ。夕方の惨敗が夜の惨敗と通底しているという一連の流れは必要だと思ったのだ。それが今回のラストとも繫がる。惨敗で始まり、惨敗で終わるのが、今回の採集行を象徴しているように思えたからだ。
また、前回は結末を先延ばしにして期待を持たせる事によって、次回も読んでもらおうというセコい下心もあった。スンマセン。

この日の、その後の話を少し付け加えておきます。

午後10時前には、ゲストハウスに帰り着いた。
空しさに包まれて晩飯の用意をする。

誰かが冷蔵庫に置いていった豆腐があった。
賞味期限を2日ほど過ぎていたが、火を入れれば大丈夫だろう。取り敢えず、他にも誰かが置いていったものを駆使して何かを作ることにした。

何ちゃって麻婆豆腐、完成。
調味料は何を入れたか全然憶えてないが、置き去りにされたスルメを前日に出汁か何かに入れて、ふやかしたものを使ったのだけは記憶にある。

ご飯は何日か前に自分で買ったものだ。
これをレンチンする。
二度と作れない『何ちゃって麻婆豆腐定食』だ。

食べてみると、自分がいつも作っている麻婆豆腐には遥かに劣るが、それなりに旨い。誰か居たら、そこそこ褒めてくれたかもしれない。でも、宿の共有スペースには誰もいない。ワシ、一人だ。虫屋の若者二人は今朝には帰ったし、この宿に泊まっているのはワシとSくんだけなのである。そのSくんは、おそらく夜間採集に出掛けているのだろう。
とにかく不必要なほどに、シーンとしている。
静寂の中、何ちゃって麻婆豆腐を力なく口に運ぶ。
改めて、全て終わったんだなあ…と思った。

 
(註1)アマミキシタバ
学名 Catocala macula (Hampson, 1891)
屋久島、奄美大島、沖縄本島に分布する”Catocala属”の蛾。
国外ではインドシナ半島北部から中国南部、フィリピン、台湾などに分布する。
以前は、Ulothrichopus属に分類されていたが、近年になってカトカラ属に編入された。しかし、この種をカトカラとして扱うかどうかについては今だに議論がある。

 
(註2)見慣れないスズメガが飛んで来た
帰ってから調べると、どうやらコイツみたいだ。

【ギンボシスズメ】

北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島に記録がある。しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。
そこそこ珍しいのかもしれないなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も相対的に少ないからね。
この後、書いてるうちに様々な疑問が生じ、解説があまりにも長くなってしまった。なので、この項は別個に回を設けてソチラに詳しく書く予定です。

 
(註3)キョウチクトウスズメ
漢字で書くと「夾竹桃雀蛾」となる。和名は、幼虫の食樹がキョウチクトウであることから名付けられた。
南方系の蛾で、開張約10センチ。アフリカからインド、東南アジアなどの熱帯に分布し、日本では九州以南に生息している。しかし飛翔力が強く、四国や紀伊半島南部でも珠に採集され、時に繁殖する事もある。

学名 Daphnis nerii (Linnaeus, 1758)
記載はリンネだね。コレもアカボシと同じくリンネが1758年に出版した『自然の体系』第10版で創設したニ名式学名の最初の記載種の中の1つってワケだね。その後、このニ名式学名があらゆる生物の学名の命名法を統一させる事になってゆくのである。
尚、リンネは最初、鱗翅目を「Papilio(蝶)」「Sphinx(スズメガ)」「Phalenae(その他の蛾)」の3つの属に分類している。
つまり、キョウチクトウスズメの最初の学名は今とは違っていて、Sphinx nerii (Linnaeus, 1758)だったと云うワケだ。
Sphinxは、あのスフィンクスの事だよね。何かカッコイイぞ。スズメガの蛹はエジプトの棺の中のグルグル巻きにされたミイラみたいな形だから、それと関係あるのかな❓

英名 Oleander Hawk-moth
Oleanderとは夾竹桃のこと。だから幼虫が夾竹桃を食う鷹みたいな蛾って意味だね。

(分類)
スズメガ科 Sphingidae
ホウジャク亜科 Macroglossinae
Daphnis属

幼虫の食樹は、キョウチクトウの他にニチニチソウ(キョウチクトウ科)が知られている。キョウチクトウには毒があり、それを体内に取り込むことによって鳥の捕食から身を守っているものと考えられている。勿論、幼虫は毒に対する耐性を持っているために中毒死することはない。

 
(註4)迷蛾
本来はそこには分布しない蛾が台風や偏西風等に乗って、遠方地や外国から運ばれてきた場合、その蛾を迷蛾と呼ぶ。したがって蝶の場合は迷蝶となる。
生存戦略の1つともされ、時にその地に定着し、更には分布を拡大する場合もある。しかし、大概は気候風土に適応できずに死滅する。

 
(註5)苺ミルクみたいのがいた。
調べたら、アマミハガタベニコケガという種だった。


(出展『www.jpmoths.jp』)

ギザギザ模様からの歯型紅苔蛾ってワケね。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

昔は、アマミハガタキコケガ(奄美歯型黄苔蛾)と呼ばれていたそうな。黄色というよりも紅色が印象的だから、改名は妥当だよね。

学名 Miltochrista ziczac (Walker, 1856)
ヒトリガ科(Arctiidae) コケガ亜科(Lithosiinae) Miltochrista属に分類されている。

展翅すらしてないけど、分布は奄美大島と徳之島のみだから結構レアな奴かもしれない。ちなみに以前は奄美大島のみに分布するとされてきたが、2009年に徳之島でも見つかっている。
国外では台湾、朝鮮半島、中国に分布しているが、特に亜種区分はされていないようだ。
4月と8月に採集されているので、おそらく年2化だろう。幼虫の食餌植物は未知。
開張20mm。♂は前翅前縁が中央で出っ張る。
出っ張る❓よくワカラン。図鑑には♀1つのみしか標本が図示されていなかったから、何を言わんとしてるのかが掴めない。

でも調べ直したら、らしき画像を台湾のサイトで見つけた。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

確かに出っ張ってる。とゆうことは、採ったのは♀かな❓
でも同じサイトの標本画像を見たら、今一つよくワカラン。


(出展『DearLep圖錄檢索』画像はトリミング拡大している)

腹部の形からすれば、おそらく上が♂で下が♀だろうが、出っ張りがそれほど顕著には見えないのだ。

 
(註6)もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た
Facebookで、この画像をアップして「コレ、何すかぁ❓」とコメントしたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。ムラサキアミメケンモンという名の蛾らしい。
早速でネットでググったら、情報量が極めて少なくて、たった4点しかヒットしなかった。案外、かなりのレア物なのかもしれない。でも先生からは他に特にはコメントがなかっから、そうでもないのかもしれない。

【ムラサキアミメケンモン】


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

学名 Lophonycta nigropurpurata Sugi, 1985
ヤガ科 アミメケンモン亜科 Lophonycta属に分類されている。
開張33〜35mm。近縁種のアミメケンモンと比べて前翅の地色は暗い紫灰色。環・腎状紋が明瞭。翅幅は少し狭く、後角の淡色紋は小さい。後翅は純白で外半が翅脈に沿って暗色となり、わずかに横脈紋と外横線が認められる。
奄美大島と沖縄本島に分布する日本固有種。分布域が狭いから、やはりレアものなのかもしれない。
成虫は4〜5月と8〜10月に見られ、少なくとも年2化以上の発生と考えられている。
幼虫の食餌植物は未知。

コチラも展翅すらしてないと思ってたが、してた。

たぶん、♂だろう。
(・o・)んっ❓でも(-_-;)あれれ❗❓、後翅が白くねぇぞ。
もしかして、まさかのアミメケンモン❓

(アミメケンモン Lophonycta confusa)

(出展『www.jpmoth.org』)

でも、細かく柄を比べて見たが、下翅は白くはないものの、他の特徴はムラサキアミメケンモンだ。特に後角の淡色紋はアミメケンモンと比べて明らかに小さいことで判別できる。自分の採ったものはムラサキアミメケンモンで間違いなかろう。

ところで、下翅が茶色ってのはどうゆう事かな❓
異常型❓それとも褐色型と云う型があるのかな❓

 
(註7)呪われた夜

(出展『hmv.co.jp』)

このオドロオドロしいアルバムジャケットは印象深くて、よく憶えている。山羊の骸骨といえば、悪魔だもんね。鷲鷹的な翼と髭みたくになってる羽根(おそらく鷲鷹のもの)は、よくワカランがインディアン関係か❓
インディアンは鷲を崇めており、最も空高く飛ぶことができる鳥であると信じられている。ゆえに神に最も近づける生物だとも考えられている。そして、鷲こそが人間と絶対神である太陽とを繋ぐ存在であり、又その間を取りもつ役割を担っていると思われているそうだ。それが呪いとどう関係するのかは知らんけどー。あっ、呪いは邦題だから関係ないか。骸骨も山羊じゃなく、牛とかバッファローだったりしてね。

原題『One of These Nights』。
アメリカのロックバンド、イーグルスの1975年に発表されたアルバム第4作『呪われた夜(One of These Nights)』のタイトル曲。
アルバムはバンド初の全米No1を獲得、シングルカットされたタイトル曲も全米ビルボードチャートの1位に輝き、名実ともにビッグバンドへ昇り詰めるキッカケとなった。
作詞ドン・ヘンリー、作曲グレン・フライ。
リード・ボーカルはドン・ヘンリー。イントロのベースとギターをファンキーなリズムにアレンジしたのは、ドン・フェルダー。

尚、最初は本文にYou Tubeと歌詞の和訳を付けていたけど、著作権法上、問題があるようなので削除しました。気になる人はネットで楽曲と訳詞を探してね。

更にクレームがきたので、英歌詞も削除です。世知辛い世の中ですなあ…。とはいえ、理解はしてる。ルールは大事だし、著作権と言われれば致し方ないもんね。

 
追伸の追伸
次回、いよいよの最終回っす。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』
◆『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『奄美市雑談』
◆『Wikipedia』

 

 奄美迷走物語其の17

 第17話『スナフキンのように』

 
2021年 3月31日
小さい頃、アニメの「ムーミン」で、スナフキンが言ってた。
『一度決めたら最後までやりぬく、それが俺の人生さ』

いよいよ、今日が最終日だ。
泣いても笑っても虫採りができるのはこの日だけ。明日には大阪に帰らなければならない。
絶不調で迷走し続けてきたが、スナフキンの言葉に倣い、一度決めことは最後までやりぬく。今までだってずっとそうだったし、これからだってきっとそうだ。こんなにボコられた採集行はあまり記憶にないが、今さら方針は変えない。変えてたまるか。

ターゲットは、まだ採れていない春型のアカボシゴマダラ(註1)の雌雄とフタオチョウの♀。

 
【アカボシゴマダラ】

【フタオチョウ♀】

(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
最後の一日だ。なだけに、もちろん場所の選定には心を砕いた。そして、出した答えが根瀬部だった。理由は午前中にアカボシゴマダラが採れるのは知る限りでは此処しかないし、ここなら♀のポイントも知っている。また、奄美でフタオチョウに会うのは今回が初めてだから経験値の絶対数が足りない。そんな中、僅かな経験は♀がヤエヤマネコノチチに産卵に来たのを見た此処しかないと思ったからだ。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
午前8時半に宿を出て、9時前にはポイントに着いた。
今までずっと背水の陣の心持ちでやってきたが、本日は正真正銘の背水の陣で臨む。

5分後、アカボシゴマダラが高い位置を優雅に飛ぶ姿を見送る。いるね。
それにしても何で昨日はリュウアサ(リュウキュウアサギマダラ)なんかをアカボシと間違えたのだろう❓

 
【リュウキュウアサギマダラ】

(出展『沖縄の自然』)

 
台湾で間違えた事はあるが、奄美で間違えたのは初めてだった。絶不調を象徴してるのかもしんない。
まあいい、気持ちを切り換えていこう。
兎に角、やっと根瀬部でもアカボシが発生し始めたようだ。取り敢えずは読み通りだ。
しかし採れなければ絵に描いた餅だ。なんとしてでも今日中に雌雄をシバかねばならぬ。もしミッションに失敗すれば、小太郎くんやSくんから笑い者にされるだろう。多分ねぎらいの優しい言葉をかけてくれるだろうが、口には出さなくともへタレだと思われるに違いない。それだけは避けたい。プライドがズタズタになる。
 
取り敢えず少し奥に入り、アカボシもフタオも狙えそうなリュウキュウエノキの大木の下に陣取る。

 
【リュウキュウエノキ】

 
午後10時前。
フタオチョウの♂が飛び始めた。

 
【フタオチョウ♂】

 
相変わらずクソ高い位置でテリトリーを張っている。あと1メートル長竿が長ければ何とか勝負できるのだが、6.3mでは話にならん。今日も無駄に時間を浪費しそうだ。それでも一度決めた事は最後までやり抜くしかない。神様だって一度や二度のチャンスくらい与えてくれるだろう。

午前10時40分。
突然、右手から視界に白黒の飛翔体がフレームインしてきた。
(☆▽☆)アカボシだっ❗
(☉。☉)デカい❗❗

想像を超えたデカさに面喰らう。あかざき公園で最初に見た奴よりもデカい。たぶん♀だ。と云うことは、あかざき公園で見た奴は♂だったのか❓…。頭の中に残ってるイメージは夏型の大きさだったから間違えたのだ。春型って、こんなに大きいんだ…。
だが見惚れている場合ではない。あの位置なら届く。絶好のチャンスだ。
たぶん産卵に来た筈だから、直ぐには逃げないだろう。じっくりとチャンスを伺い、産卵するために止まった瞬間に網を振り抜いてやろう。
しかし、中々止まらない。嫌な予感がした。このまま慎重にチャンスを待っていたら、そのうちプイと何処かに行かれかねない。今回は慎重になり過ぎて躊躇ばかりして失敗してきている。そんな風に消極的だから、採れるもんも採れないのだ。
らしくない。本来的には、思い切りの良さが取柄だったんじゃないのか❓段々、そんな自分に沸々と怒りが込み上げてきた。
勝負に出る。飛ぶ軌道を読んで、大胆に
💥ズバババババ━━━━ン❗
全身全霊で左から右へと振り抜く。

スローモーションで網に吸い込まれてゆくのが見える。ジャストミートの『ビッグフラーイ、オオタニさーん❗』だ。

あたふたと網に駆け寄り、素早く胸を押して〆る。
そして、💥しゃあ━━━━❗、雄叫びを上げ、拳を力強く握りしめる。

 

(裏面)

 
いやはや、赤紋が大きくて美しい。
これこそが正真正銘のアカボシゴマダラだ。誰かが放した中国産の屑アカボシとは月とスッポン、美しさは雲泥の差だ。

 

 
夏型よりも明らかにデカい。そして白い。
ゆっくりと爪先から全身へと安堵感が這い昇ってくる。
兎にも角にも採れて良かったぁ…。しかも一番欲しかった♀の完品だ。
心の中で『生還。』と呟く。
もしも1つも採れずに帰ることになったら…という次第に強まる恐怖とずっと闘ってきて、サドンデスの最終日を迎えたのだ。そんな間際、崖っぷちまで追い詰められた中での起死回生の逆転ホームランだった。だから生還したというような心の境地に至ったのだろう。
虫捕りはリーグ戦でもあるが、最終的にはトーナメントなのだ。負ければ終わりだ。

コレでギリ何とか面目を保てた。SNSで奄美に来ている事は公にしているので誤魔化しは効かない。たとえ黙っていたとしても結果に触れなければ採れなかった事がバレてしまう。そして、ザマー見さらせの笑い者だ。危うく晒し者になって、恥辱に塗(まみ)れるところだったわい。

さあ、次は♂だ。♀と比べればグッと採集の難易度は下がるから、気持ちはだいぶ楽である。何とかなるっしょ。コレをキッカケにジャンジャン飛んで来るかもしんないしさ。

けれども、もうすぐ正午なのにあれから1つも飛んで来ない。
午前中に採れなければ、状況はかなり厳しいものとなろう。アカボシが飛んで来るのは主に午前中なのだ。午後は夕方まで殆んど見かけない。焦燥感がジワリ、ジワリと心の余裕を削り取ってゆく。

午後12時20分。
だいぶ間があいたが、ようやく♂が飛んで来た。
やはり見た目は夏型よりも大きい。白は膨張色ゆえに、より大きく見えるのだろう。
今度も空中でイテこましてやろう。躊躇は禁物と心に言い聞かせる。攻めてくぜ(`▽´)

(-_-メ)ちっ。しかし、木の裏側に回りやがった。裏手はブッシュだから一瞬あきらめかけた。だがこの先、そうチャンスが何度もあるとは思えない。がむしゃらに突っ込んでゆく。
ブッシュを抜けると、狭いが空間があった。ワンテンポ、ツーテンポあって、そこに蝶が向こうから飛び込んできた。目測約3m。咄嗟にスィングを始める。
(・o・)えっ❗❓、でもすんでのところで軌道を右斜めに変えやがった。あかん、ハズすパターンだ。
けど、その動きに体が勝手に反応していた。右腰を落とし、体を右から左に捻りながら網先を鋭く走らせる。

蝶が視界から忽然と消えた。
解ってる。とゆうことはジャストミート、しっかり捕らえたということだ。網の中を確認せずともわかる。

 

 
我ながらヘッドの効いた鮮やかな網さばきだった。切れ味鋭いスライダーをキッチリ捉えてスタンドに放り込んでやったような気分だ。やっぱ躊躇なんかしたらダメだね。

 
(裏面)

 
♂も夏型よりも一回り大きい。思ってた以上に春型ってカッコイイぞ。

これで取り敢えずは雌雄が揃った。
それにしても、どうして毎度毎度、こうもギリギリで何とかなるんだろ❓虫捕りってそう甘くはないって事か…。ともかく諦めずに、愚直に頑張って粘ってきたからこその結果だったに違いない。虫捕りには、執着心も必須条件なのかもしれない。

さてさて、お次はフタオチョウの♀だ。今さらになっての絶好調だけど、この調子でブイブイいわしてやろうじゃないの。

同じ所にずっといるのは好きではないし、ひと仕事を終えた後だからキリもいい。潮時だ、ポイントを変えよう。ヤエヤマネコノチチがあるポイントへ移動するために歩き出す。
でも直ぐに足が止まった。ヤエヤマネコノチチだとフタオチョウしか寄ってこないが、リュウキュウエノキならばアカボシゴマダラだけでなく、フタオチョウも寄って来るのを思い出したのだ。
フタオチョウの幼虫の食樹は元来ヤエヤマネコノチチだが、近年になって食樹転換して、リュウキュウエノキも食樹として利用するようになった。謂わば新規開拓の営業マンみたいなもんだ。(・∀・)ん❓、何か変な喩えになってるぞ。まあいい。兎に角それにより、沖縄本島ではヤエヤマネコノチチが自生していない南部にまで分布を拡大しているのである。
正直、採れるものならもっとアカボシも採りたい。両方とも飛んで来るならばゲット率も高まるし、退屈せずとも済むかもしれない。少なくともフタオの♂がこの木でずっと縄張りを張っているのだ。そやつが低い所に止まってくれるのを監視しているだけでも緊張感は保てるから、退屈はしのげる。
問題は果たしてフタオが奄美でもリュウキュウエノキに産卵しに来るかどうかだ。奄美にはヤエヤマネコノチチが沢山自生しており、何もわざわざリュウキュウエノキを利用しなくてもいい環境だからである。飼育すると、本来の食樹ではないリュウキュウエノキだと失敗する例も多いというからね。ならば母蝶だって無理にリスクを冒して、リュウキュウエノキに産卵しないだろうとも考えられる。
取り敢えず、1時間は此処に居よう。それで駄目なら移動すればいい。

心配してたけど、10分で答えが出た。
目の前のリュウキュウエノキにフタオの♀がやって来たのである。読みどおりだ。絶好調じゃないか。(◠‿・)—☆、完全に良い流れに乗ったんじゃないのー。

 
【フタオチョウ♀】

 
長竿をスルスルと伸ばす。だが、ギリギリ届きそうにない。
彼女は産卵場所を吟味しているのか、葉に纏いつくようにして飛んでいる。
ドキドキしながら、高度を下げてくれる事をひたすら念じる。手に汗握るような、このヒリヒリした感じが堪んない。エクスタシーだ。そして採れれば、カタルシスを爆発させることができる。気持ち良く昇天できることを祈ろう。

降りてきた❗
その一瞬を逃すまいと網を振ろうとした刹那だった。
横から猛スピードで彼女目掛けて突っ込んでくる者があった。
w(°o°)wわっちゃー、何すんねんワリャー❗
♂が飛んで来て、♀を手ごめにしようと追いかけ回し始めたのだ。
😱NOー、Bad Timing❗
ビックリした♀は急加速、慌てて繁みの奥へと逃げてゆく。それを尚も♂は執拗に追い掛けてゆく。
そして、2頭は絡まるようにして飛んでゆき、やがて見えなくなった…。

結局、すんでのところで網を振れずじまいだった。まあ、振ったところで100%採れんかっただろう。射程外になってたからね。とはいえ、もうワンテンポ早くスィングに入ってたら採れてたかもしれない。上手くしたら♂♀一網打尽のミラクルが起きていたかもしれん。ほんの少しであれ、結局は躊躇が大きく勝敗を分けた恰好だ。

暫くして♂が帰って来た。さっきの♂だ。
(ノ ̄皿 ̄)ノおどれ、何さらしてくれとるんじゃい❗❗
怒りで網で思いっきしブン殴ってやろうかと思った。しかし罰を与えようにも長竿が届かない所に止まっていやがる。
宙に浮いた怒りを何処に持っていっていいか分からず、悔しまぎれに地面を蹴りつけた。地団駄踏むとは、まさしくこうゆう事を言うんだろね。
それにしても、この期に及んで何でノコノコ帰って来るのだ。邪魔したんだから、せめて♀のハートを射止めろよなー。それならやむなしと許せたかもしれないのに…。

その後、待ち続けるもフタオの♀は二度と姿を見せなかった。アカボシの姿も全くなし。小さなミスが又しても流れを断ち切ってしまったようだ。

午後2時半を過ぎた。
これ以上待ったところで駄目と判断して、移動することにする。
いつもなら、あかざき公園に行くところだが、アカボシは採ったからもう行く必要がない。あかざき公園は、そもそもアカボシのポイントだからね。フタオもいないワケではないが、一度しか見ていないので多くは望めないし、イワカワシジミはあれだけ食樹のクチナシがあるのにも拘らず一度も見てないから、これまた多くは望めないだろう。
となると、残された時間も考えれば、自ずと知名瀬しか選択肢はなくなってくる。でもフタオのポイントを詳しくは知らないし、たとえ知っていたとしても既に誰かがそのポイントを抑えているだろう。
まあいい。ポイントの場所が確認できるだけでも価値はある。環境が解れば、似たような場所を探して勝負する事だってできる。
それに、そういや柿澤清美名人が知名瀬でイワカワをタコ捕りしたとか言ってたな。かなりウソ臭いけど、それを確かめるのも悪かない。採れればラッキーだし、採れなきゃ採れないで、法螺(ほら)話だったと確認できる。探して損はないだろう。

午後3時過ぎ。
林道に入って暫く走ると、Sくんがいた。
張ってる場所は予想していた所とは少し違う。意外とツマンなさそうなポイントだ。まあ、道沿いで空間があいている場所ならば、何処にでもいるって感じだけどもね。

Sくんに『アカボシ、採れたよー。メスの完品もね。』と言ったら、『見せてくださいよー。』と言うので見せる。
実物を見せたら、『いいなあー。』と羨ましそうに言ったので、良し良しと思う。若いのにクールでドライだからサイボーグかよ❓と思っていたが、初めて人間らしいところが垣間見えた。純粋なリアクションで、ちょっと可愛かった。コレで少なくともへタレ呼ばわりされる事もないだろう。

Sくんに、イワカワは見た❓と尋ねる。

 
【イワカワシジミ】

 
答えは目撃なしとの事。やはりね。イワカワのポイントとフタオのポイントは全く同じではないだろうが、共に林道沿いなんだから隣接はしてるだろ。となれば、もしそんなに沢山いるなら1つくらいは見ても良さそうなものじゃないか。でも、ここへはSくんもワシも何度も訪れているのに1つも見てないのだ。となると、名人の話は眉唾くさい。そもそもが出会った採集者の意見を総合すると、今年のイワカワはどうやら不作らしいのだ。自分も今まで1つしか見ていない。そこがワシら凡人と名人との差なのかもしれないけどね、(≧▽≦)きゃは。

清美名人は林道沿いのミカン畑にいると言っていたから、中に入れる所で一番可能性が高そうな場所を選ぶ。
えー、言っとくけど、柵のあるミカン畑には入ったらあきまへんでぇ。特に挨拶もろくに出来ないようなクズ採集者は厳に慎まれよ。アンタがトラブルを起こせば、他の人にも確実に迷惑を掛ける事になるからさ。ただでさえ虫捕りしてる大人は、世間的にはキショい変人のイメージだからね。

けど、探し回るも全く姿なし。食樹のクチナシもない。情報は疑わしいと言わざるおえない。やっぱ、話を盛っていた可能性が高そうだ。とはいえ、こっちの場所選定が間違っている可能性もある。今度お会いしたら、こと細かに場所をお訊きしてやろう。でも、まともに答えてくれるかなあ❓…。

時刻は4時を回った。陽はだいぶと傾いてきてる。タイムリミットは近い。イワカワを諦め、再びターゲットをフタオの♀に絞りなおす。

林道を流していると、梢を飛ぶフタオチョウが目に入った。しかも100%メスだ。♀は♂と比べてかなり大きいし、翅の形も違うから、簡単に見分けられるのだ。
慌ててバイクを停める。見ると一本の木に纏わりつくように飛んでいる。おそらくヤエヤマネコノチチの木だろう。そっか、産卵に来ているのかも❗
ギリのギリ、タイムリミット寸前での千載一遇のチャンスが巡ってきた。やっぱ、俺って引きが強い。次を仕留めれば、逆転さよならホームランだ。ならばヽ(`д´;)ノやってやろうじゃん❗ ここで鮮やかに試合を決めてやる❗

逸る気持ちで長竿を伸ばす。
けれど網を振る間もなく裏に回られてしまい、姿を見失った。裏は濃い藪になってて、入れないのだ。
それでも此処で待とう。暫くしたら又飛んで来るだろうし、他のポイントを探してる時間はない。
自分に向かって言い聞かす。そんな簡単に採れては面白くない。ヒーローは、いつの時代も苦しめられて苦しめられて、最後の最後に逆転勝利すると相場が決まっているのだ。ここはドラマチックにいこうじゃないか。

しかし、またたく間にブヨの軍団にタカられる。
コイツらに喰われるとムチャクチャ腫れ上がって、めちゃんこ痒い。しかも症状が1週間は続くのを今回の旅で骨の髄まで知らしめられている。神よ、ヒーローを別な局面から苦しめてくるってかあ❓ストーリーに手が込んでるぜ。
せっせとブヨどもを網に入れては纏めて上から握り潰して、あっという間に何十頭とブチ殺してやる。
(-_-メ)ジェノサイド、大量虐殺じゃ❗
けど、殺しても殺しても湧いて出てきやがる。そして対処に忙殺されて徐々に集中力が削がれてゆく。
そんな時に限ってフタオが飛んで来た。

ブヨを気にしつつも長竿を伸ばす。両手が塞がるから手で払えなくて咬まれ放題だが、でないと採れないんだから仕方あるまい。
幸い竿は何とか届きそうだ。とはいえ慢心と躊躇は敵だ。枝先に止まることなど期待せず、空中でシバくことを固く決意する。
しかし、ふらふらとアッチャコッチャに細かくブレるような軌道で飛ぶので狙いを定めにくい。しかも逆光で距離感が上手く掴めない。けっしてイージーではない。空振り率高しだ。
そして、振るか振らざるまいか迷ってるうちに裏側に回られ、又しても見失った。結局、躊躇して網を振れなかった己の決断力の無さに、ベソをかきそうだ。

時間は刻一刻と削り取られてゆく。
午後4時45分。そろそろ飛ばなくなる時間だ。リミットは近い。チャンスは、あとワンチャンか、あってもツーチャンスだろう。さよなら逆転ホームランだとか言ってる余裕が無くなってくる。ここはスナフキンのようにクールになろう。

(☆▽☆)来たっ❗
(。ŏ﹏ŏ)でも下翅の1/3がゴッソリないボロだ❗

多分、鳥に襲われて啄まれたのだろうが、価値なしだ。んなもん採っても仕方がない。ガックリくる。

けど思い出した。すっかり忘れていたが、小太郎くんに卵を持った♀の確保を頼まれていたのだ。アレだけボロなら、間違いなく腹に卵を抱えているだろう。ボロ過ぎるかなゆえ標本にもならないから、気持ち良く御進呈できる。

高揚感もなく、躊躇なしに網に入れる。緊張さえしていなければ、簡単な事なのだ。どちらかというとプレッシャーに強いオラでもこうなんだから、スポーツ選手の大舞台での緊張感とか重圧は半端ないんだろね。想像を絶するよ。

網の中でバタつくのを見て、暫し考える。生かして持って帰らなければならぬのだ。しかも、できるだけ傷めずに。飼育をしない人だからよくワカンナイけど、きっと脚が1本でも取れれば、産卵行動に極めて悪い影響を与えるに違いない。そんな事になれば、小太郎くんに必ずや言われるだろう。
『五十嵐さん、アバウトだからなー。別に何とかはなりますけどね。』
とでもね。
まあ、その通りだから文句は言えないんだけどもさ。

取り敢えず、ボロでも♀が採れたんだから不完全ながらもミッションはクリアだ。忸怩たる想いではあるが、コレで言いワケも立つ。そう思いながら、写真を撮るためにスマホを出そうとした時だった。右上空に気配を感じた。空を見上げる。

いたっ❗また♀だ❗しかも今度は完品❗
わっ(@@)💦、わっ(@@)💦、わっ(@_@)💦、でもどうする❓どうする❓
網の中には生きたボロ♀がいるのだ。そのままでは網が振れない。となれば、大至急で生きたまま回収しなければならない。でもそうなると、その僅かな間に飛んでるアヤツが逃げて行ってしまうかもしれない。それは辛い。チャレンジもせずに敗北するだなんて、負け方として最悪だ。
ならば、中のボロ♀を放棄するしかない。
w(°o°)w💦どうする❗❓
w(°o°)w💦どうする❗❓
けど躊躇している暇はない。
どりゃあ〜(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ボロ♀放〜棄❗❗
飛んでいる♀を凝視しながら、手元には見向きもせずに網をひっくり返してリリースする。
それを目で追うこともなく、心の中で『命拾いしたんだから、二度と捕まんなよ』と独りごちて、グイと体を前へと近づけて行った……。

                    つづく

 
追伸
いよいよ残すところ、あと2話となった。たぶんだけど(笑)
このあと、いつものように註釈の解説なんだけれども、先に解説をして、最後に追伸という順番の方が正しかったかもなあ…。あと2話だから、今更の話だけど。

次回、恐怖渦巻く夜編っす。あなたは、その恐怖に耐えれますか?

 
(註1)春型のアカボシゴマダラ

【春型♂】

 
完品だとばかり思っていたが、右後翅の内縁が欠けている。

【春型♀】

色彩斑紋は雌雄とも同じだが、♂と比べて♀の方が遥かに大型で、翅形が幅広く横長。また全体的に丸みを帯びることから判別は比較的容易である。あとは夏型も含めて♀より♂の方が抉れが強い事でも判別できる。

【夏型♂】

【夏型♀】

(2011.9月 奄美大島)

やはり春型の方が白い部分が多い。だから飛んでいる時はより白く見えるのだろう。
あとは外縁線が夏型の方が内側に入り、抉れたように見える。
形的には夏型の方がカッコイイかもしんない。白と黒とのコントラストも夏型の方が強いから、小太郎くんなんかは夏型の方がカッコ良くて好きだと言ってる。自分はどっちも好きなので、甲乙つけがたいかな。

まだしてなかったと思うので、種の解説をしておこう。

『アカボシゴマダラ(赤星胡麻斑)』
東アジアの広域分布種で、斑紋は近縁のゴマダラチョウによく似るが、和名が示す通りに後翅に鮮やかな赤い斑紋があることで区別される。タテハチョウの仲間にしては飛翔は緩やかで、これは斑紋が似ている毒蝶のリュウキュウアサギマダラなどのマダラチョウ類に擬態していると考えられている。

【分類】
タテハチョウ科 Nymphalidae
コムラサキ亜科 Apaturinae
ゴマダラチョウ属 Hestina

【学名】Hestina assimilis(Linnaeus, 1758)
「分類学の父」と称されるリンネにより広東産の標本に基づいて記載された。あらゆるチョウの中でも最も古くに命名された種類の一つなんだそうな。たしかに1758年は古いね。約260年前だもんね。

属名の「Hestina(ヘスティナ」は、ギリシア神話の炉の女神”Hestia(ヘスティアー)”+ina(inusの女性形の接尾辞)。この接尾辞には「〜に属する」という意味がある。
ヘスティアはオリュンポスの十二神の一人で、クロノスとレアの長女として生まれた。彼女はポセイドンとアポロンの二神に求婚されたが,弟のゼウスにすがって永遠の処女を守る誓いを立てた。それにより、処女神としても知られる。

小種名の「assimilis(アシミリス)」はラテン語で、「類似の」という意味。これはきっとゴマダラチョウに対しての命名だろう。そう思いきや、ところがドッコイ違うようだ。アカボシの記載は1758年だが、ゴマダラチョウはもっとあと、約百年後の1862年に記載されているのだ。
Hestina属に含まれる他の種の記載年を調べて、アカボシよりも古い記載のモノがいたら、そいつが類似するとされたモデルの蝶となる筈だ。
検索すると、ウィキペディアでは以下のようになっていた。

・Hestina assimilis (Linnaeus, 1758)
・Hestina dissimilis Hall, 1935
・Hestina divona (Hewitson, 1861) – Sulawesi sorcerer
・Hestina japonica (C. & R. Felder, 1862)
・Hestina jermyni Druce, 1911
・Hestina mena Moore, 1858
・Hestina mimetica Butler, 1874
・Hestina nama (Doubleday, 1844) – Circe
・Hestina namoides de Nicéville, 1900
・Hestina nicevillei (Moore, [1895])
・Hestina ouvradi Riley, 1939
・Hestina persimilis (Westwood, [1850]) – Siren
Hestina risna
・Hestina waterstradti Watkins, 1928

おいおい、アカボシが圧倒的に古いじゃないか。とゆうことは、いったい何に対しての「類似の」なのだ❓ 謎である。もしかしたら、他の属、ひいては別な科のチョウの事を指しているのかもしれない。だとしても格子柄の蝶など幾らでもいるから、候補は膨大な数になるだろう。
何か大ごとになってきたなあ…。これは間違いなく迷宮地獄のドツボにハマるので、そっとしておこっと。

いや、でもやっぱ気になる。
そういや学名の記載者名と発表年が()括弧で括られてたな。これは属名が後から変更になったことを示している。じゃあ元の属名は何だったのだ❓
リンネ(Linnaeus)が最初に生物の分類を体系化して、学名を属名と種小名の2語のラテン語で表す二名法(二命名法)を考えだしたんだけど、その最初の蝶はモンシロチョウだった筈だ。えーと学名は何だっけ❓
調べたら、Pieris rapae (Linnaeus, 1758)となっていた。\(◎o◎)/❗わっ、記載年が何とアカボシと同じじゃないか❗
コレで謎が解けてきたぞ。たしかリンネは全ての蝶に、最初はアゲハチョウの属名である「Papilio」と付けたんだよね。ようは当初は世の中の蝶の全てが”Papilio属”にまとめられていたのだ。つまり、1758年にリンネがモンシロチョウに名前をつけた時は学名が「Papilio rapae Linnaeus, 1758」だったというワケ。
で、数年後には”Pieris(モンシロチョウ属)”に分類し直されて、「Pieris rapae (Linnaeus, 1758)」となったのである。
となると、最初はアカボシも「Papilio assimilis」という学名だったのね。
よし、ならばリンネが1758年に命名した蝶をピックアップし、その中からアカボシと似ている奴を探せばいいのではなかろうか❓オラって、アッタマいいーv(^o^)v

全部”Papilio”だったというのが頭に残ってたから、リンネの命名した蝶で近いのがパッと浮かんだ。アゲハチョウ属のナミアゲハ(Papilio xuthus)とキアゲハ(Papilio machon)である。

【ナミアゲハ 春型】

(2021.4 大阪府四條畷市 飯盛山)

【キアゲハ 春型】

(2019.4月 福井県南越前町 藤倉山)

ナミアゲハなんか結構似ているっちゃ似てるよね。一方、キアゲハは黄色味が強いから似てるとまでは言えないよね。
リンネが最初に記載した蝶の中からアカボシに似たのを探すだなんて相当に骨が折れそうだし、面倒臭いからもうナミアゲハで決定でいいんじゃないか❓そうゆう事にしておこう。😸🎵終了〜。
でも、ここまで調べといてやめたら、各所からお怒りの言葉を投げつけられそうだし、何となく釈然しないところもある。このままウヤムヤにするのも癪だし、調べっかあ…。早めにリストが見つかる事を祈ろう。

(◠‿・)—☆ラッキー❗
ネットで、比較的簡単に「NATURAL HISTORY MUSEUM」というサイトの『Linneus’s Butterfly Type Specimens』という文献が見つかった。
それによると、リンネによって最初に記載された蝶は約120種だったらしい。結構あるね。

見ると、いきなり冒頭でコモンタイマイ(Graphium agamemnon)が目に止まった。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

263年前のタイプ標本だ。よく残ってるよね。
でもこれじゃ本来の姿が分かり辛いので、補足のための画像も添付しておきます。

【コモンタイマイ】

(2011.4月 タイ チェンマイ)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

でも柄は似てても地色が緑色だし、形も違うから無理があるか…。そんなこと言うと、ナミアゲハだって形が違うから似てないって事になるな。早くもナミアゲハ説、危うしだ。

そしてアカボシゴマダラのタイプ標本。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

明らかに中国の名義タイプ亜種(原記載亜種)だね。
話は逸れるけど、この名義タイプ亜種とかの表記にはいつも悩まされる。名義タイプ亜種とは、ある1つの種が複数の亜種に分かれる時に自動的に定義されるもので、小種名と同じ学名の亜種のことだ。
つまり最初に記載された個体群のことを指し、アカボシならば”Hestina assimilis assimilis”となり、中国産のものがコレにあたる。
でも、その基準となる亜種名の和名表記がバラバラなのだ。古くはコレを「原名亜種」と呼んでいた筈だが、いつの間にか「原亜種」とか「基亜種」「原記載亜種」「名義タイプ亜種」と云う別表記のものが増えていた。因みに英語では、nominotypical subspeciesと表記される。
個人的には「原記載亜種」を使う事が多く、最も嫌いで使わないのが「名義タイプ亜種」。なぜなら、言語的に意味が分かり辛いからだ。「名義タイプ」って、どんなタイプやねん❓オッサン的なタイプ❓でも、字面はお爺ちゃんぽいよね。などと素人には「タイプ」の意味が誤解されやすく。正確な意味が伝わりにくい。タイプがタイプ標本(模式標本)を指すだなんて分かるワケがない。それに「名義」と云う言葉にも違和感がある。おそらく「名義を貸す」みたいなイメージなのだろうが、名義なんて言葉は今どきの若者は使わんぞ。意味さえワカランようなアンポンタンだっているだろう。どころか、言葉そのものを聞いた事がないと言う者までいかねない。
お願いだから、ややこしいのでどれか1つに纏めてほしい。で、もし統一するなら、元々使われていた「原名亜種」を推す。シンプルだけど十分に意味は伝わるからだ。「名義タイプ亜種」なんてのは言語感覚のない学者の発想だろう。ようするに正確性を強く求めるあまり、かえって意味不明になってるという図式だ。「トゲナシトゲトゲ」みたくパラドックスを内包してる。まあ「トゲナシトゲトゲ」は笑えるけどもね。棘が無いのにトゲトゲなのだ。なぞなぞ問題かよ❓みたいなネーミングだが、同時に逆説的名称でもあり、そこには哲学的な香りさえ漂っている。
たぶん意図して命名はしてないだろうが、たまたま結果的には奇跡的とも言えるお茶目過ぎるくらいお茶目な傑作ネーミングになっている。
トゲナシトゲトゲの事は、どうでもよろし。
勝手に想像すると「名義タイプ亜種」なんてのは、大方が「ウスバキチョウ」をアゲハの仲間だからといって「キイロウスバアゲハ」なんていう酷い名前に改名した九州大学の昆虫学者辺りの提唱だろう。「薄羽黄蝶」の薄羽黄という言葉は雅びだが、「黄色薄羽揚羽」の黄色薄羽はダサい。それにキイロウスバアゲハという語感がサイテーだ。リズムが悪い。それに略しにくい。おそらく「キイロウスバ」となろうが、中途半端な長さだし、何だか蛾っぽい。試しに「キイロウスバ、キイロウスバ、キイロウスバ」と3回唱えたら、(`Д´#)キレそうになったよ。
因みに、付けられたはいいが「キイロウスバアゲハ」なんて蝶好きの間では誰も使っていない。99%は以前からの「ウスバキチョウ」を使用している。人は正確性だけを求めているワケではないのだ。情緒のないような名前は愛されないし、認められないのである。

話が大幅に逸れた、本筋に戻そう。

次に目に止まったのだが、マネシアゲハ(Chilasa clytia)。最近はキベリアゲハと呼ばれることも多い。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

【マネシアゲハ(キベリアゲハ)】

(出展『Wikipedia』)

【裏面】

(2011.4月 ラオス ウドムサイ)

コレは似てるよね。裏も赤紋じゃないけど黄色い紋がある。今まで挙げた中では一番近い。多分コレじゃないのー❓
因みに、これは”dissmilis”という型である。余談だがマネシアゲハには幾つもの型があって、それぞれが毒蝶であるマダラチョウ類に擬態しているとされている。ワシも初めて見た時は格子柄のマダラチョウの1種に見えた。マネシアゲハの仲間の擬態度はどれも精度が極めて高く、その凄さにはいつも感服する。同時に、自然の造形の妙に唸ってしまう。

でも、最後にまさかの奴が出てきた。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

たぶん、Ideopsis similis リュウキュウアサギマダラだ。
たぶんと書いたのは、サイトに学名が載ってないからだ。このリュウアサグループにはコモンマダラ、ウスコモンマダラやミナミコモンマダラ、ヒメアサギマダラ等々、似たようなのが沢山いるのだ。

【コモンマダラ】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

【ヒメアサギマダラ】

(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

一応、図鑑で確認しておこう。
したら「Ideopsis similis (Linnaeus, 1758)」となっていた。つまり、間違いなくリンネの記載だ。

【リュウキュウアサギマダラ】

(2016年 台湾?)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

アカボシは毒蝶であるリュウアサに似ていて、これは鳥からの捕食を免れるための擬態だと言われている。確かに似てて、間違いやすい。ワシも恥ずかしながら、前回で書いたように見事に騙された。けど、まさかそんな上手い具合にキレイなオチになるだなんて思いもよらなかったから一瞬、(・∀・)キョトンとしたよ。
もしかしたら、リンネも騙されたのかもしれない。但し、パターンは逆で、アカボシに騙されたって構図だ。で、類似を意味する「assimilis」と名付けたに違いない。とはいえ、実際にフィールドで見たワケではないだろう。この時代は学者が自ら採集旅行に出るという事は少なく、各地から送られてきた標本を見て記載する事の方が多かっただろうからね。リンネがアジアに旅行したというのも調べた限りでは出てこなかったしね。

とはいえ、マネシアゲハとも相当似ている。コチラの可能性も充分ありうるだろう。となれば、どちらを対象にして名付けられたのかは微妙で特定は出来ない。記載年は3種とも同じだが、どちらがアカボシよりも先に記載されたかが分かれば、ジャッジメントできるんだけどもね。でも学名には記載月までは記されていないんである。記載論文を見れば分かるのかもしれないけど、もうそこまでして調べるような気力は残ってない。ここから先は自分で調べてケロ。
因みに、似ている蝶たちのサイトに出てくる順番は、最初がコモンタイマイで、次にアカボシゴマダラ、以下マネシアゲハ、キアゲハ、リュウキュウアサギマダラ、最後にナミアゲハの順だった。となると、コモンタイマイに対してのネーミングだったりしてね(笑)。多分、並んでる順は関係ないと思うけどさ。
ただ各ラベルには番号が振ってあった。
コモンタイマイ21&748 アカボシゴマダラ129 マネシアゲハ130 キアゲハ135 リュウキュウアサギマダラ101&772 ナミアゲハ161 だった。数字の若い順に並べると、コモンタイマイ、リュウアサ、アカボシ、マネシ、キアゲハ、ナミアゲハになるが、リュウアサには772という番号も振ってあるので何とも言えない。こりゃ迷宮入りだね。

でも、サイトをザッと見直したら、番号がなぜ2つあるのかが解った。そこに、以下のような文章を見つけたのである。

「Labels
The small labels associated with the images are by Linnaeus, while the larger ones were added subsequently by Sir James Edward Smith, who purchased Linnaeus’s collection.」

訳すと、こんな感じになる。

「ラベル
各画像と関連するラベルは、サイズの小さなものはリンネの手書きによるものだが、大きなラベルはリンネのコレクションを買ったジェームズ・エドワード・スミス卿によって追加されたものである。」

でも、そもそもこの番号が何を意味してるのかが定かではないだよね。たぶん標本番号なのだろうが、それがそのまま記載順になっているとは限らないのだ。ここで、問題解決は一旦頓挫した。
しかしながら、諦めずに調べ進めてるうちにWikipediaのページで新たな鉱脈を見つけた。
「Lepidoptera in the 10th edition of Systema Naturae」というものだ。
おそらくこれは1758年に出版されたリンネの「自然の体系」第10版の鱗翅目の巻だね。リンネ自身が書いたものだから、これだと命名順に並んでいるんじゃなかろうか。ならば期待できる。
そこには、以下の順で並んでいた。

・Papilio similis – Ideopsis similis
・Papilio assimilis – Hestina assimilis
・Papilio dissimilis – Papilio clytia

上からリュウアサ、アカボシ、マネシアゲハの順だね。
とゆうことは、やはりアカボシの学名はリュウキュウアサギマダラと比しての命名だった可能性が高い。つまり、学名の小種名「assimilis」の意味する「類似の」とは、リュウキュウアサギマダラに類似していると云うことだ。そう断言しちゃってもいいんじゃないかな。
( ´ー`)フゥー………、間違ってるかもしんないけど、もうこれくらいで勘弁してくれよ。

【英名】『Red ring skirt』
直訳すると「赤い輪のスカート」になる。おそらくスカートとは下翅を指しているのだろう。テキトーに言ってるけど(笑)

【亜種】
奄美群島、台湾の個体群は一見して他の地域の個体とは斑紋が異なり、それぞれ別亜種に分類されている。

◆奄美亜種 ssp.shirakii(Shirozu, 1955)
奄美亜種の「shirakii(シラキィー)」は昆虫学者の素木得一博士(1882―1970)に献名されたものである。
氏は直翅類・双翅類の分類の権威であると共に、応用昆虫学にも深い知識をもち、農作物の害虫であるワタフキカイガラムシの大発生に対してベダリアテントウを導入して駆除を行った。これは日本初の天敵を利用した生物的防除の成功としてよく知られている。
また、台湾帝国大学や台湾大学在職中に多くの報告・論文を発表し、多数の昆虫を新種として記載したことでも知られている。その名がシラキトビナナフシやシラキミスジ(台湾の蝶)などの和名に残っている。
晩年には『昆虫の分類』『衛生昆虫』『昆虫学辞典』などの大著を出版し、また日本応用動物昆虫学会の会長をもつとめ、昆虫学の発展に大いに寄与した。

他亜種と比べて後翅の赤紋が発達していて、最も美しい亜種。赤紋の色は濃く鮮やかで、リングは太くて大きく、形が崩れない。また輪の中の黒い部分も大きい。白斑は他亜種よりも地色が白く、面積もやや広い。

奄美大島、加計呂麻島、徳之島、請島、与路島、徳之島、喜界島に産する。他にはトカラ列島の小宝島(2000年)と中之島(2003年)に記録があり、数頭が採集されている事から一時的に発生していたものとみられる。
尚、沖縄本島からも奄美亜種の古い記録があるが、その後絶滅したのか、偶産であったのかは不明である。台湾にもいるから、間の沖縄本島にもかつては居た可能性は高いだろう。だとしたら、何で絶滅しちゃったんだろうね❓コレ以上、氏数を増やすワケにはいかないので、この問題には立ち止まらないけどさ。

奄美大島には全土に広く分布するが、近年になって個体数を減らしており、昔と比べてかなり少なくなったそうだ。
主に平地の集落内や墓地、その周辺に多く見られ、山地で見る機会は占有活動時を除き少ない。これは食樹であるニレ科 リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)が集落周辺に多く、山地ではあまり見られないからだと言われている。
3月下旬から4月上旬に現れ(春型)、以後数回にわたって発生を繰り返し、11月下旬まで見られる。発生回数は5、6回程度と推定されているが、年によってバラつきがあり、年4化の年もあるという。
6月中旬〜7月上旬に発生する第2化目が最も個体数が多く、この時期に白斑が減退した黒化異常型が得られる。


(出展『変異・異常型図鑑』)

コレはレベル5とも言える最も黒化した個体だが、黒化度合いは段階的に顕在し、軽度のものから真っ黒に近いモノまで見られる。

飛翔習性はゴマダラチョウとほぼ同じで、♂は占有活動を行い、樹冠を旋回するように飛び、高所の葉上に静止する。変わっているのは、普通の蝶は広葉樹に止まることが多いが、何故か針葉樹のリュウキュウマツに好んで静止することが多い。
飛ぶ位置は木の高さに準ずるが、ゴマダラチョウよりは低い。また飛翔速度もゴマダラチョウ程には速くない。特に♀の飛翔は緩やかである。これは毒蝶のリュウキュウアサギマダラに飛び方まで似せる事によって、鳥からの捕食を免れていると考えられている。
時に湿地に降りて吸水するが、♂のみで、♀にはそのような習性は観察されていない。
夏場にはホルトノキの花に吸蜜に訪れることが知られているが、意外にも樹液での観察例は少ないようだ。因みに自分は秋(9月)に柑橘類で3度、スダジイで3度ほど見ている。他にサルスベリでの吸汁例もあるようだ。またパパイヤでの吸汁例やアブラムシの分泌物を吸汁していた例もあるという。
バナナやパイナップルを発酵させた腐果トラップにも誘引されるが、夏期のみで春や秋には何故か殆んど誘引されない。
交尾は高い樹上で行われ、飛翔形式は⬅♀+♂であることが分かっている。
産卵は幼虫の食樹 Celtis boninensis リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)の成葉、樹幹、太い枝に1個ずつ産みつけられるが、葉に産むよりも幹や枝に産むことの方が多い。
幼虫は成葉を好み、若葉を与えても摂食しよとせずに死亡した例もある。飼育時にエノキ、エゾエノキを与えると、時に辛うじて成長し、小型の成長を生じる場合がある。
越冬態は幼虫。但し、地面の落葉下で越冬するゴマダラチョウとは違い、樹幹に静止して越冬する。

元来日本には、この固有の亜種のみが分布していたが、近年になって原記載(名義タイプ)亜種が人為的に関東地方に持ち込まれ、分布を拡大している。これについては次項にて詳しく書く。

奄美諸島亜種は、環境省レッドリストの準絶滅危惧種(NT)に指定されている。一方、移入された原記載亜種は外来生物法により、特定外来生物に指定されている。

◆原記載亜種 ssp.assimilis (Linnaeus, 1758)

(夏型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

後翅赤紋が奄美産と比べて小さく、円が崩れがちで多くがリング状にならない。また色も淡く、赤というよりもピンク色をしている。
ハッキリ言って、ブサいくなアカボシだ。品がないのが許せない。個人的にはアカボシゴマダラの価値を著しく下げた存在として激しく憎悪している。

(春型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

春型は白化し、赤色紋が多くの個体で消失する。
奄美産や台湾産には、このような型は見られない。ただ、原記載亜種に分類されている朝鮮半島産も白化型は見られないそうだ。

ベトナム北部~大陸中国南部~東部~朝鮮半島,および済州島と周辺島嶼に分布する。


(出展『原色台湾産蝶類大図鑑』)

中国や韓国では里山的環境から都市部まで広く見られるようだ。但し『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』には「韓国では人家周辺にはほとんど産せず、渓流沿いの樹林地帯のかなり高地(標高800m付近)まで生息する。このような事実は本種がもともと樹林性の蝶であることを示している。」とあった。

本来は日本にはいない亜種だが、1995年に埼玉県秋ヶ瀬公園などで突如として確認された。外見上の特徴から、これらは奄美のモノではなく、中国大陸産の名義タイプ亜種であることが判明した。自然状態の分布域から飛び離れていることから迷蝶とは考えられない事や、突如として出現したことなどから蝶マニアによる人為的な放蝶の可能性が高いと言われている。
この埼玉での発生は一時的なものに終わったが、その後1988年には神奈川県を中心とする関東地方南部でも本種が発見され、またたく間に繁殖、やがて定着するようになった。
そして2006年には東京都内でも発生し、2010年以降には関東地方北部や山梨県・静岡県・福島県、さらには愛知県・京都府、奈良県や伊豆大島からも記録され、分布の拡大が続いている。増加の原因は本州の気候風土に適していたためと考えられており、また市街地の公園など人工的な環境にもよく適応している事から、今後も分布が拡大していくと推測されている。
尚、日本ではこの移入個体群が「特定外来生物」に指定されているが、もはや手遅れの感がある。

放した奴は、どうしようもないクズである。蝶屋の風上にもおけない大馬鹿モンだ。美しい奄美産に、このブサいくなアカボシの血が混ざったら最悪だ。もしそうなったら、どう落とし前をつけるというのだ❓放した奴は首を括って死んでもらいたいくらいだ。何で、こないなドブスなアカボシを放ったのだ❓美的センス、ゼロだ。どうせ放つのなら、クロオオムラサキとか放てよな。コヤツといい、ホソオチョウといい、何で二線級の蝶をわざわざ放すのだ❓もし会ったら、タコ殴りしてやりたいくらいだ。

成虫は5月から10月まで見られ、少なくとも年3回発生する。
中国や関東地方での食樹はエノキ Celtis sinensisで、食樹を同じくするゴマダラチョウやオオムラサキ、テングチョウへの影響が懸念されている。特に類似の環境に生息するゴマダラチョウとは生態的に競合するのではないかと危惧されている。但し最近の研究結果では、ゴマダラチョウの幼虫は大木を好み、アカボシゴマダラは幼木に付くことが多い事が判ってきており、ニッチはガチンコでバッティングはしないようだ。但し糞アカボシが今後各地で個体数を増やしていけば、将来的にはどうなるかはワカンナイけどね。
越冬態は幼虫だが、稀に蛹も見つかるそうだ。又、多くは4齢幼虫での越冬だが、終齢(5齢)幼虫も見つかっている。
越冬場所は奄美では樹幹だが、この原記載亜種は樹幹のみならず、ゴマダラチョウのように落葉の裏で越冬するものも結構いるそうだ。そして、樹幹で越冬するものの殆どが木の根元、地面から30cm以内で見つかるという。

◆台湾亜種 ssp.formosana (Moore, 1895)

(夏型♂)

(2017.6 台湾南投県仁愛郷)

(夏型♀)


(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

台湾名は「紅斑脈蛺蝶」。学名の「formosana」は「台湾の」という意。
4月から11月に亘って見られ、台湾全土の平地から山地帯に広く分布するが、個体数はあまり多くないとされる。
たまたまかもしれないが、自分は人家周辺など平地ではあまり見掛けず、渓流沿いや尾根で姿を見る機会の方が多かった。

原記載亜種との違いは以下の通りである。
①後翅第2〜第4室の赤色紋の黒円斑は大型。
②その外側の青白斑は第5〜7室のものと殆んど等大か、僅かに小形で、原記載亜種のように著しく小さくはならない。
③奄美亜種よりも赤紋は小さくて細い。またリングの下半分が消失して輪状にならず、外側の白紋と合わせて楕円状に見える。

自分の印象を述べると、地色が白ではなく、淡い水色に見える。ゆえに、よりリュウキュウアサギマダラに似ており、たまに見間違えた。でも何となく違和感があるから、直ぐに違うと見破れるけどね。
尾根沿いを飛ぶ姿や吸水に集まるのをよく見た。また腐果トラップにも頻繁に訪れた。

なお、台湾産にも白斑が減退した黒化異常型が見られ、これには「ab.hirayamai Matsumura」という型名が付けられている。

食樹は「DearLep 圖錄檢索」では以下のものが挙げられてた。

◆沙楠子樹 Celtis biondii
◆石朴 Celtis formosana

上の沙楠子樹を学名で検索すると、サキシマエノキと出てきた。しかし、サキシマエノキは日本では宮古諸島にしか自生しておらず、国外ではインドネシアのスラウェシ島とニューギニアに分布しているそうだ。これをどうとるべきかはワカンナイ。
下の石朴も学名から検索したが、和名は出てこなかった。でも学名を直訳すれば、「タイワンエノキ」となる。
タイワンエノキで検索すると「Celtis tetrandra」というまた別物の学名が出てきた。植物は変種も多いし、こうなると素人にはお手上げだ。奄美亜種の項でリュウキュウエノキをニレ科と書いたが、今はアサ科に分類されてるらしいし、ワケわからん。突っつくと迷宮地獄になりそうなんで、これについて特に掘り下げるのはやめておく。
因みに、台湾にも日本と同じエノキが分布しているそうだ。

 
追伸の追伸
解説の学名の項で大脱線してしまい、予想外に長くなってしまった。ほぼ完成していたものを見直していたら、学名の意味について書くのを忘れている事に気づいた。それがキッカケだった。で、平嶋さんの『蝶の学名』を見たら、小種名は「類似の」という意外なものだった。どうせゴマダラチョウに似てるんだろうと、そのままスルーしても良かったのだが、つい記載年まで確認したのが運の尽きだった。見逃せばいいものを、何かと疑問を持ってしまうこの性格、どうにかならんかね。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蝶類標準図鑑』
◆『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆『原色台湾産蝶類大図鑑』
◆新版『蝶の学名−その語源と解説』平嶋義宏

(インターネット)
◆『変異・異常型図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『Linneus’s Butterfly Type Specimens』by「NATURAL HISTORY MUSEUM」
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『侵入生物データベース』
◆『探蝶逍遥記』

 

奄美迷走物語 其の16

 
第16話『月とデブいアンタと狼男』

 
2021年 3月30日

泥のように眠り、起きたら昼前だった。
外は雨が降っている。
残されたチャンスは少ないから複雑な気持ちだが、心の底ではどこかホッとしている自分がいる。
昨日は、というか今朝まで虫採りしてたから身も心もボロボロなのだ。正直、ここまで全く採集に出なかった日は1日たりともなかったから休みたかった。でも晴れていたら、そうゆうワケにもゆかない。行かなきゃ、逃げた事になるからだ。
とにかく、これでセコい言い訳をカマさなくてすむから心置きなく休養する事ができる。

 

 
今朝、夜明け前にファミマで買ったはいいが、力尽きて食べれなかった中 孝介(註1)監修の鶏飯(註2)を食うことにする。

 

 
ハッキリ言って全然旨くない。及第点にも遥かに及ばない。こんなのよく鶏飯のお膝元で発売したよなと思う。しかも、わざわざ「奄美鶏飯」と名打ってる厚顔無恥っぷりじゃないか。もしワシが島民だったら、絶対怒るね。最近はファミマも味のレベルがだいぶ上がったと言われるが、やっぱセブンイレブンと比べるとクオリティーが低いわ。スイーツばっか頑張ったところでダメだよ。

食い終わって、薬局に買おう買おうと思っていた塗り薬を買いに行く。
泊まっている「ゲストハウス涼風」は周辺に飲み屋があまりないのが難点だが、それ以外は何かと便利だ。歩いて行ける距離にスーパーマーケットがあるし、コンビニもある。その横にはチェーン店らしき大型薬局店だってあるから、薬以外にもインスタント食品やスナック類、雑貨も買える。

 

(出展『ゲストハウス涼風』)

 
熱湯を胸に浴びて、北斗の拳みたく斜めザックリの傷跡になった火傷がまだ治ってなくて、ヒリヒリするのである。

メンタムを買おうかと思ったが、考えてみれば自宅にあるし、効能を見るとコッチの方が良さげだった。

 

 
一家に一つ、オロナインH軟膏である。
帰って薬つけて、もう一回💤寝よ〜っと。

だが帰って昨日の採集品を整理してたら、気づけば午後2時半。いつしか雨は上がっていた。
ベランダに出て、空を見る。晴れ間はないが、何となく天気が回復する兆しを感じた。勘で僅かな時間だけど晴れるんじゃないかと思った。その間隙をぬって起死回生の一発を放てるかもしれない。アカボシゴマダラは、ほんのひと時でも晴れてくれさえすれば、飛ぶだろう。ワンチャンあるかもしれない。

 
【アカボシゴマダラ 春型♀】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
この天気と予報ならば、殆どの人が今日の採集を諦めている筈だ。だとするなら、上手くすれば採集者全員を出し抜いてベストポジションが取れるやもしれん。思い立ったが吉日だ。ならばと慌ただしく長竿とザックを引っ掴み、バイクを駆ってあかざき公園を目指す。

走り始めて暫くしたら、サッと上から光が射した。
予測通りだ。さすが俺様である。

けどバイクを停めてポイントまで降りて行ったら、既に先客がいた。昨日、同じ場所でワシのブログを読んでいると言ってた若者だ。(´ω`)むにゅー、同じような事を考えてる人間は他にもいるんだね。
それにしてもレスポンスがいいね。彼は名瀬に泊まっていた筈だから、ワシより判断が早かったということだ。それって大切な事だよ。加えて、若いけど見た目以上に読みのセンスがある。この2つがあれば、結果も自ずと付いてくるだろうから、頑張って続けてもらいたいよね。

先を越されたが、まあいい。柿澤仙人は来てないし、奥の東屋のポイントを占有できそうだから今日こそは採れんだろ。

訊いたら、まだアカボシの姿は見ていないと言う。
でも、そろそろお出ましだろう。自然と気合が入る。二人で独占、鬼採りといこうじゃないか。

しかし立ち話を始めて5分くらいで曇り始めた。おいおいである。けど曇っていても飛ぶ時には飛ぶから何とかなるっしょ。

だが暫く待つも、飛んで来る気配がまるでない。期待だけが虚しく空回りする。忸怩たる想いで、木々の梢を睨む。

やがて二人組の採集者が上から降りて来た。
けど、二人とも全然オーラがない。採りたいという強いハートも伝わってこない。そんなんじゃ1つも採れんぞ、兄ちゃん。
10年ちょっとも蝶採りをやってると自然と解る。採るのが上手くてライバルになりそうな奴には独特のオーラがある。デキる奴には、それなりの雰囲気というものがあるのだ。

ここじゃダメだと判断して、塔のあるポイントへと移動する。
本来、待つのが死ぬほど嫌いな男なのだ。待ってもダメだと感じたら転戦も厭わない。だからこそ常に他の場所も頭の隅に入れて行動している。

 

 
着いて直ぐ、らしきもんが飛んで来た。ザマー見さらせ、読み的中じゃい❗鬼神の如くダッシュする。
だけれども、目の前まで行って気づく。似てはいるが、そやつは赤紋のない全くの別種、リュウキュウアサギマダラだった。

 
【リュウキュウアサギマダラ♀】

 
ショックで膝から崩れ落ちそうになる。
逆光のせいではあったが、我ながら情けない。勿論アカボシが毒のあるリュウアサに擬態しているという説は知っている。けど、常々あんなもん見間違うかね❓、アンタらの目は節穴かよと思ってた。ゆえに今まで見間違った事なんぞ殆んどないのだ。あったとしても一瞬だ。直ぐに違うと見破ってきた。それがコレだ。もうヤキ、回りまくりである。絶不調ここに極まれりの象徴みたいな出来事じゃないか。

その後、さっきの二人組が上がってきた。 
周りの空を見回しても晴れそうにないから、退屈しのぎに話をする。 

彼らは近畿大学の研究者だった。
なぁ〜んだ、オーラがなかったのはそうゆう事だったのね。狩猟が目的ではないからガツガツしたものを感じなかったのだ。同じ虫屋でも学究肌タイプと狩猟肌タイプがいて、両者は全く目指すベクトルが違う。当然、両者の性格の傾向も異なる。私見だが、学者肌の人は往々にして性格が穏やかな人が多い。一方、狩猟肌の人間は負けず嫌いで押し出しが強く、自分を曲げない人が多い。勿論コレはあくまでも傾向であって、例外は沢山あるだろうけどね。

二人の話によると、先輩の研究者がゴマダラチョウの幼虫を研究していて、2本の頭部突起がどうゆう役割を果たしているのかを調べたそうだ。

 
【ゴマダラチョウ♀】

(2021.5.30 東大阪市枚岡。この♀、何と開張82mmもあった)

 
世の中にはヒマな人もいるんだなと思ったが、言われてみれば確かにそうだ。ゴマダラチョウの他にもアカボシゴマダラ、オオムラサキ、コムラサキ、スミナガシ、フタオチョウetc…タテハチョウ科の幼虫の多くは頭部に角状の突起を持っている。何で皆、頭にそんなもん付けとるんや?とは、おぼろげながらにもワシだって疑問には思っていたのだ。

 
【ゴマダラチョウの幼虫】

(出展『芋活.COM』)

 
ゴマダラチョウやアカボシゴマダラ、オオムラサキなどコムラサキ亜科の幼虫って、(・∀・)ほよ?顔で可愛いよね。可愛い過ぎて、オジサンだって胸キュンだよ。

 
【オオムラサキ♂】

(2021.6.17 東大阪市枚岡)

 
話を戻そう。
で、調べた結果、角を振り回して天敵のアシナガバチから身を守っている事が証明されたらしい。それを二人はフタオチョウの幼虫でも証明しようとしているという。今のところまだ結果は出てないそうだけどね。

 
【フタオチョウ♂】

(2021.3.29 奄美大島)

【フタオチョウの幼虫】

(出展『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』)

 
完全にプレデターだよな(笑)。
にしても、こんなもん振り回したところで、はたして蜂を追っぱらえるのかね❓ゴマダラチョウの角にしてもそうだけど、蜂を半殺しにできる程の殺傷力があるワケでなし、武器としては弱すぎやろが。んなもん、後ろからブスリとかガブリとかいかれたら一貫の終わりやがな。

結局、二度と太陽は顔を出さず、アカボシもフタオも、その姿を見ることすら叶わずだった。一発逆転を狙ったが、完全に骨折り損のくたびれ儲けに終わったってワケやね。まだまだ絶賛連敗街道爆走中っす。

昼は雨模様の天気予報だったが、各サイトの予報を改めて確認すると、夜は概ね曇りになっている。とゆう事は夜間採集に出動しなければならぬ。昨日の疲れがまだズッシリと残ってるし、またしても惨敗を喰らったから気が重いが、行くっきゃないだろなあ…。
行くにしても、奄美に来てから天気予報は全然当たらないし、コロコロと目まぐるしく変わる。せめて雨にならない事だけを祈ろう。これ以上、泣きっ面に蜂みたくなるのは御免蒙りたい。ヤケクソで、露払いに角でも振り回したろかい。角、ないけどー。

腹ごしらえは今回もカップ麺。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛り 塩担々麺』。
最後に残っていたニラもブチ込む。

味は可もなく不可もなくって感じ。まあ、百円だから期待はしてなかったけどさ。とはいえ、心の底では旨かったら気分が乗るから、それでメンタルが少しでも上がる事を期待してたんだけどね。ボコられ過ぎて、もう神頼みの領域なのだ。

午後6時過ぎ、知名瀬に向けてバイクを走らせる。
今日こそ、アマミキシタバを仕留めてやろう。

 
【アマミキシタバ】 

(出展『世界のカトカラ』)

【裏面】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
そうは言いつつも、最も有望な場所である湯湾岳に行って惨敗して今朝方帰って来たばかりなのだ。言ってる言葉に力がない。もう、何をどうすればいいのかが分からなくなってる。

 

 
Sくんがハグルマヤママユ採集の折りに陣取ったポイントに、何ちゃってライトトラップを設置する。
ライトを取り付けた三脚の後ろに網を立てかける。
アマミキシタバが飛んで来たら電光石火、空中でシバいたろという算段だ。取り敢えず、らしきもんが飛んできたら迷わず何でも採る体制でいこう。ようは、もう形振(なりふ)り構ってらんないのである。

何か大型の蛾が飛んで来た。でも何ちゃってライトは暗いから、何が飛んで来たかはワカラン。アマミキシタバにしてはデカ過ぎるから心は躍らないが、一応シバく。

 

 
また、おまえかよ(´ε` )❓
毎度お馴染みのオオトモエさん(註3)だった。中々に立派だし、デザインもマスカレードみたいで渋カッコイイのだが、如何せん何処にでもいる普通種なのだ。採っても最早、喜びは皆無である。

午後10時。
あれれ❓山の向こうが何だか明るくなってきたぞ。
予報は、どのサイトでも完全に曇り。もしくは曇り時々雨だったが、又しても「スーパー晴れ男」の力を無駄に発揮してしまうのかあ❓
昼間、蝶を採る場合には断然晴れた方が良いんだけど、夜に灯火採集する時には晴れるのはヨロシクないのだ。詳しくは書かないけど、大まかな原理はこうだ。
通常、夜行性の昆虫は月光を頼りに移動している。だが、月が見えないと事情は変わる。人工光に強く影響され、やがては誘引されてしまうのだ。

 

 
午後22時12分。
遂に月が昇ってきた。どんだけ晴れ男やねん❗である。でも、全然もって嬉しくないや。

 

 
どんどん晴れてきた。
しかも満月じゃないか❓
悔し紛れで、狼の遠吠えでもしたろかと思う。
さすがにそれは思いとどまったでしょう。そう皆さん、思っただろうが、ところがどっこい。思いきし月に向かって『🐺ワォ━━━━ン❗』と遠吠えしてやった。
我ながら、かなり上手い。気分は完全に狼男。調子に乗って、もう一発吠えてやった。この森の全ての生き物たちよ、我に震撼せよ。森の王者たるワシを畏れ崇めるのだ〜。
完全にイカれポンチの阿呆だが、コレが半分冗談じゃなく真面目にやってるんだから怖い(笑)。

落ち着いたところで、静かな心持ちで月と対峙する。

 

 
原生林の上で煌々と輝く月は幻想的で美しい。そして月光は、こんなにも明るいのかと改めて思う。
懐中電灯を消しても、周囲の風景が肉眼でもよく見える。
「月夜の晩ばかりではないよ(註4)」という古い言葉を思い出す。街灯などない昔は、それくらい夜は真っ暗だったのだ。もし江戸時代の人が現代にタイムスリップすれば、その明るさにドびっくりーだろね。逆に現代人が江戸時代にタイムスリップしたとすれば、あまりの暗さにビビるだろう。現代人は夜に出歩くことに何ら恐怖を感じないが、夜の闇は本来的には恐ろしいものなのである。だからこそ妖怪や幽霊、お化けなどという魑魅魍魎どもが跳梁跋扈する世界がリアルに成立しえたのだ。そうゆう畏怖すべき謎の世界がある方が世の中、面白いのにね。明るさは、時に人の想像力を奪う。
(  ̄皿 ̄)アンタら、いっぺん山奥で懐中電灯なしで歩いてみぃーや。
(´༎ຶ۝༎ຶ)チビるで。

そんな時だった。月光が降り注ぐ中、何かデカい飛翔体が林道の左奥からコチラに向かって真っ直ぐに飛んで来た。ちょっとビビるが網を構える。もしも此の世の者ならざる存在ならば、袈裟がけで叩き斬る所存だ。
採ってみたら、悪魔の化身みたいな奴だったらどうしよう❓畏怖しつつも一歩踏み込み、前で左から右へキレイにさばいた。

網の底に手応えがある。かなりの大物だ。
中を恐る恐る見て、驚く。
\(◎o◎)/何じゃこりゃ❗❓

  

 
(☉。☉)デカっ❗
&アンタ、デブいねー❗
 

羽の柄は何日か前に似たようなのをどっかで見た事があるぞ。
たぶんアサヒナオオエダシャク(註5)って奴だ。にしても、それよか遥かに巨大だし、形も違う。

良い兆しと期待したが、その後は目ぼしいものは何も飛んで来なかった。
又しても惨敗濃厚だ。いつになったらアマミキシタバに会えるのだ❓ねぇー、ねぇー、そんなに珍しいモノなのー(ToT)❓

午前0時過ぎ。
(-_-;)終わったな…。

どうせ待ってもダメだと判断して、そろそろ店じまいしようとした時だった。
何か裏面がアマミっぽいのが飛んで来た❗俄然、心がザワつく。でも大きさ的に違うような気がする。けど採ってみないと何とも言えない。慎重に距離を詰める。
だが追い詰めたところで、暗くて見失った。
(´-﹏-`;)むぅ…、とっとと網を振っておけば良かった。判断が鈍いや。こうゆうところが絶不調の原因だろう。何でもそうだけど、躊躇して良い結果が出た試しなどないのだ。
どうあれ、今さら嘆いたところで遅い。やれる事は、また飛んで来るのを願って待つことだけだ。

15分後、たぶん同じ奴が飛んで来た。
今度は迷わず網でブン殴る。

 

 
裏の柄はアマミキシタバっぼい。
でも、にしては地色が汚い。アマミならば、もっと鮮やかな黄色の筈だ。それに大きさ的にも小さい。とはいえ、矮小個体の可能性だってある。僅かな望みを託して表に返す。

 

 
もの凄く(◡ ω ◡)ガックリくる。
全然、別物の汚い蛾だ(註6)。とんだ似非者(えせもの)じゃないか。こんなもんに少しでもワクワクした己を呪いたくなる。
帰ろう。何もかんも上手くいかないや。

月光に照らされた林道を帰る。
幽玄で美しかったが、そんなのどうでもよかった。

                   つづく

 
追伸
狼男のくだりとか、今回はバカ回でしたな。
でも久々に楽しめて書けたかも。連載が当初予定したいたよりも長丁場になって、ここんとこ書くのが苦痛だったのだ。
でも上手くいけば、あと2、3回で、その苦痛からも開放されそうだ。

 
(註1)中 孝介(あたり こうすけ)
奄美大島名瀬出身の男性歌手。その声は「地上で最も優しい歌声」とも称される。

2006年 EPIC RECORDS JAPANよりシングル「それぞれに」でデビュー。
2007年「花」をリリースし、世代を超えたヒット曲となる。
2007年 1stアルバム『ユライ花』をリリース。オリコンチャートで初登場7位を記録し、ロングセラーとなる。
2007年 台湾での単独公演も成功させる。また、台湾で公開された映画『海角七号』に中孝介本人役として出演。映画は台湾歴代興行収入を塗り替える大ヒットとなる。
2008年 中華圏でリリースしたアルバム『心絆情歌』がヒットし、台湾ヒットチャートの1位を獲得する。

 
(註2)鶏飯(けいはん)
奄美大島の郷土料理。鶏のほぐし身など数種の具が入った出汁茶漬けみたいなもの。詳しくは連載第1回で書いた。

 
(註3)オオトモエさん
羽に巴紋がある大型のヤガ。

【オオトモエ】

ねっ、マスカレードでしょ。仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだ。

多分、兵庫県武田尾で採ったものかな?
まあ、オオトモエの産地なんて知りたい人などいないだろうから、何だっていいか。

何処にでもいるが個体数はそんなに多くなく、敏感で逃げ足が早い。だから採りたい人には意外と難易度は高い種かもしれない。おまけに驚くとブッシュに潜り込んだりするから、殆んどの個体が翅のどこかを損傷していて、完品を得るのはかなり難しい。

 
(註4)月夜の晩ばかりではないよ
月夜は明るいので、まだしも警戒のしようもあるが、毎日が月夜ではないから、せいぜい身の回りには気をつけなさんな。」という意味。脅し文句の一つで、ヤのつく自由業の方々がお使いになられる常套句でもある。

 
(註5)アサヒナオオエダシャク
調べたら、やはりアサヒナオオエダシャクの♀だった。

笑けるほどデカくてデブい。

あまりにもデブだったので期待していなかったが、展翅してみるとデカいゆえかデブさがあまり気にならない。翅形も中々カッコ良くてバランスも悪かない。
で、測ってみたら開張92mmもあった。『日本産蛾類標準図鑑』では最大が88mmになっていたから、レコードになりそうなくらいにデカいかも。

比較の為に♂の画像も貼っておこう。

形が♂と♀とでは、かなり違う。

♂もそれなりに大きいが、♀は比じゃないくらいに馬鹿デカい。
ちなみに、アサヒナオオエダシャクの♀は♂と違って灯火には誘引されないそうだ。だから、そこそこの珍品とされるようだ。もしかしたらアマミキシタバよりも余程価値はあるかもしれない。
確かに見たところでは、ライトトラップに誘引されたような感じではなかった。ただ単に移動するために林道を飛んでいたのが偶々採れたというのが正しいかと思われる。或いは森の王者狼男にすり寄ってきたのかもしれない。ワシ、メスにはモテるからさ(笑)。

尚、アサヒナオオエダシャクについては第8話で解説しているので、詳しく知りたい方はソチラも合わせて読まれたし。

 
(註6)全然、別物の汚い蛾だ
Facebookに「これ、何〜❓」とあげたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。どうやらウスアオシャクという名前の蛾らしい。まさかシャクガの仲間だとはね。しかもアオシャクの系統だ。思いもよらなかったから軽く驚いた。

【ウスアオシャク】

展翅してみたら、形が良くて意外と渋カッケー。
触角の先がグッと細まるのも良い。
苔みたいな渋い緑色だけど、一応は緑色だし、アオシャクの仲間だと云うのも何とか理解できる。

(学名) Dindica virescens (Butler, 1878)

(分類)
シャクガ科(Geometridae)
アオシャク亜科(Geometrinae)
Dindica属

(開張)
♂35〜42mm ♀38〜45mm
♂の触角は櫛歯状、♀は糸状。

翅形も違うね。♀の翅には丸みがあり、♂のようなシャープさはない。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

となれば、ワシが採ったのは♂だね。

(分布)
北海道南部,奥尻島,本州,四国,九州,対馬,トカラ列島(悪石島・中之島),奄美大島,徳之島。
国外では朝鮮半島に産する。Dindica属は東南アジアの亜熱帯から熱帯域に約20種が分布するが、本種のみが温帯域にまで分布している。
垂直分布は幅広く、低山地から亜高山帯まで見られる。

(成虫の出現期)
関東周辺では4月下旬から9月下旬の間に2〜3回発生する。
春に出現するものは翅表が淡く、夏に現れるものは濃色となる傾向がある。
北海道や奥尻島のものは極めて淡色で、外横線が明瞭となる。だが、同様な個体は本州の山地帯でも得られている。また、九州南部や奄美・徳之島産は暗色となる傾向があるが、関東でも暗色の個体はそれなりに得られているようだ。

(幼虫の食餌植物)
クスノキ科のダンコウバイ、クロモジ、ヤマコウバシ、アブラチャンが記録されている。

 
ー参考文献ー
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆白水隆『日本産蛾類標準図鑑』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『OFFICE WALKER OFFICIAL SITE』
◆『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』
◆『芋活.COM』
◆『www.jpmoth.org』
◆『ゲストハウス涼風』ホームページ

 

奄美迷走物語 其の15

 

第15話『奄美ドン底迷走物語』後編

 
2021年 3月29日(夜編2)

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽってちーん。死んだ。

一旦、他のルートがあるかもしれないと先に進んでみたが、直ぐに無理だと悟った。道は益々荒れてきて、どう考えてもそんなもんはありそうにない。
仕方なくバリケードのところまで戻る。

改めて並んでいるバリケードをよく見ると、左端に空間が空いている。隙間は結構あって、スクーターなら何とか通り抜けられそうだ。
入るのは気が引けるが、んなこと言ってる場合ではニャい。
こんな時間に誰かが見回りに来るとは思えないし、それにもし誰かが来て叱られたとしても『すんませーん。暗くてよくワカンなかったでしたー。』とでも言い訳をカマせばいい。あー、でもこんなに目立つバリケードを「目に入りませんでした。」では理屈が通らんか。更に大目玉を喰らいかねない。
(ノ`Д´)ノえーい、ままよ。見つかったら見つかった時のことだ。
『(。ŏ﹏ŏ)オデ、オデ、ワガンね。』
などと脳ミソの足りない言語障害のオジサンの振りをするか、もしくは、
『リップヴァーンウィンクルの話って知ってますかあ❓』
と『野獣死すべし』の松田優作みたく瞬きなしの狂気じみた無表情で言ってやろう。不気味過ぎて向こうの方がビビるに違いない。夜の、しかもこんな人気のない場所で気が狂ってる男と対峙するのは相当恐いだろう。何なら懐中電灯を下から照らしながらでセリフを言ってやってもいい。
あっ、それはやり過ぎか…。フザけんな❗と、かえってメチャクチャ怒られかねない。

勾配のキツい坂道を一気に上がると、目の前がパッと開けた。
手前に駐車場があり、その向こうは展望広場になっている。新しく改装されたみたいで立派なテーブルと椅子が並び、全体的にとてもキレイだ。有り難いことに清潔なトイレもある。

時計を見ると、何と驚きの午後8時45分になっていた。どんだけ時間かかっとんねん。予定していた所要時間は1時間半だったのに、3時間半も要しているではないか。
大幅に時間をロスしたが、今さら悔いたところで仕方がない。辿り着けただけでも良しとしよう。

慌てて灯火採集の用意をする。
問題は何処にライトを設置するかだが、もう四の五と言ってらんない。危ないが先っちょギリギリ、防護柵を越えて設置した。落ちたら間違いなく大怪我だが、なんちゃってライトトラップなんだから、これくらいでもしないとアマミキシタバは採れやしないと思ったのだ。

午後9時過ぎ。
やっとライトを点灯することができた。

 

 
点灯と同時に蛾どもがワッと飛んで来た。
今回の旅では一番飛来数が多い。さすが世界遺産に地域指定されるであろう湯湾岳だ。なんちゃってライトでも効力ありだ。それだけ自然度が高くて、生物相が豊かなのだろう。
さあ、リベンジだ。ここから盛大な祭りといこうじゃないか。

名瀬や知名瀬とは飛んで来る蛾の種類が少し違っていて、見たことのない種類も多い。名前は全然ワカランけどー。
点灯時刻が遅かったせいなのかハグルマヤママユは飛んで来なかったが(註1)、何かと飛んで来るのでそれなりに楽しい。純粋な蛾屋ではないから各種の稀度はワカンナイ。だから殆んどの種類は採らずに無視だけどもね。
とにかく数さえ飛んで来れば、それに応じて確率も高まる。ならば、否応なしに期待値も上がろうというもの。そのうちアマミキシタバだって飛んで来るかもしれない。今までの苦労が報われることを切に祈ろう。

しかし、1時間程でピタリと飛来が止まる。光が弱いから遠くのものは引き寄せられず、周辺にいる奴しか惹きつけられないのだろう。なんちゃってライトトラップの悲しいところだ。
一応バナナトラップを柵にいくつか括り付け、背後の森にもぶら下げていたが、コチラもダメ。相変わらずの閑古鳥だ。寄ってきたのは、お馴染みのオオトモエのみ。
またしても惨敗かと、ポトリと落ちた墨汁がジワジワと広がってゆくように心が黒く染まりはじめる。見上げるこの漆黒の夜空のようにならないうちに何とかせねば…。そう思うが、思ったところで特にやれる事はない。やれる事は全部やっているのだ。あとは運まかせだ。あっ、神頼みがあるか…。
神様〜、(༎ຶ ෴ ༎ຶ)なんとかしてくだせぇーよ。
ワシ、メチャメチャ頑張ってるやないすかあ。努力もしてますやん。もうそろそろ報われたっていい頃じゃありませぬか❓

祈りが通じたのか、次第に辺りに白いヴェールのようなものが掛かってきた。霧だ。もしかして絶好のコンディションになるかも…。ガスれば光が拡散するせいなのか、格段に灯りに寄ってくる蛾の数が増えるのだ。ワチャワチャに寄ってきてくれよー。
とはいえ、天候が悪化してゆくのは好ましくない。雨にならないことを祈ろう。雨でも蛾は寄って来るのだが、アマミキシタバがベチョベチョになったら元も子もない。濡れて鱗粉がハゲちょろけになったとしたら、死んでも死にきれない。

 
【アマミキシタバ】

(出展『DearLep圖錄檢索』)

 
それに雨が降ると帰りが大変だ。雨の中、あの滑りやすい林道を降りるのはゾッとするし、なんと言っても帰り道は長いのだ。長時間にわたって雨に濡れ続ければ、体温を奪われるし、精神的にも相当辛くなる事は火を見るよりも瞭(あき)らかだ。

名前は知らんけど、見たことのないごっつカッコイイ蛾が飛んで来た。

 

 
画像は後日撮った写真である。その時は頭の中がアマミキシタバの事でいっぱいで余裕がなく、写真を撮るのをすっかり忘れていたのだ。

この画像じゃワカランので、いつも参考にしている『蛾色灯』というサイトから画像をお借りしよう。

 

(出展『蛾色灯』)

 
止まっている時は、こんな風に三角形の姿をしている。
蝶は羽を立てて止まるが、蛾の多くはこのように開いて止まるのが定番で、コレが蛾と蝶を見分けるコツの1つとされている(例外は結構ある)。だからワシの手乗り横画像は自然な状態ではない。羽の表面の鱗粉を傷めたくないゆえ、無理矢理あの形にして三角紙に入れていたので、ああなったのである。つまり自然状態では羽を立てて静止することはない。但し、羽化時に羽を伸長させる時は立てている可能性が高い。そうしないと羽をキレイに伸ばせないだろうからね。

捕まえた時に驚いたのは、身体がゴツかった事である。

 

(出展『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』)

 
胸部の体高が高くて厚みがある。横幅も広い。
そして、もふもふだ。マジ(◍•ᴗ•◍)❤可愛いっす。

帰ってから調べてみたら、どうやらタッタカモクメシャチホコ(註2)の♂のようだ。
何じゃそりゃ❓というくらいインパクトのある和名じゃないか。最初に「立ったか❓木目鯱鉾❗」と脳内変換が行われたよ。でもって『立てへんのかーい❗』という吉本新喜劇的ツッコミを入れてしまったなりよ。
次に西川のりおがオバQの姿に扮して『🎵ツッタカター、🎵ツッタカター、🎵ツッタカタッタッター』と行進する姿が目に浮かんだ。今思い返しても『俺たちひょうきん族』は凄い番組だった。面白キャラクターの宝庫だったわ。

 

 
絶対、それ由来なワケないけど…(笑)

 

(出展 2点共『エムカクon Twitter』)

 
のりおのセリフじゃないけど、
『あほ〜ぉ〜。』
である。

ネットでアレコレ見ていると、そこそこの珍品のようで「憧れの」とか「恋焦がれた」だの憧憬や称賛の修辞句が並んでいるから、蛾屋の中でも評価が高い種みたいだ。とにかく採った人は皆さん、嬉しそうなのだ。名前も知らんのに、ワシも嬉しかった。スター性があるモノは、何だってひと目で人を惹きつけるのだ。

次のコヤツも印象深かった。

 

(画像は後日展翅時に撮ったもの)

 
ユウマダラエダシャク系の白黒蛾(註3)だ。
実を言うとこの蛾は、最初に着いた時にトイレの外壁に止まっていて気にはなっていた。ユウマダラエダシャク系は本能的にキモいので普段は絶対に採らないのだが、黒っぽくてカッコイイかもしれないと思ったのだ。
しかし一刻も早くライトを設置しなければならなかったからスルーした。設置後はバナナトラップを見回る際にトイレの前を通る折にふれ、採るかどうか迷ってた。でも白黒エダシャクはキモいという概念が邪魔して踏ん切りがつけれないでいた。触るのが嫌だったのだ。で、そのうちいつの間にか姿を消していた。
だから、後々ライトに飛来した時は迷わず採った。

午後11時。
(・∀・)よっしゃー❗、いよいよアマミキシタバが飛んで来るゴールデンタイムに入った。
霧は益々濃くなってきたし、この条件なら採れるかもしれない。いや、採れるっしょ。

しかし、暫くして風も出てきた。
ちょっとヤバいかも…と思った瞬間だった。不意にブワーッと突風が吹いた。
ガッシャーン❗
\(°o°)/エーーーッ❗❗
風で三脚が倒れよった❗
一応、ビニールテープで防護柵と三脚とを繋いでいたので谷底には落ちなくて、(´ω`)セーフ。繋いどいて良かったよ。
でも、立て直した時に気づいた。
Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン❗❗
ライトが1個消えとるやないけー❗

2個あるチビライトの1つが点灯していないではないか。
(ㆁωㆁ)…白目男、茫然と立ちつくす。

戦闘力、大半減だ。でも、やっちまったもんは仕方がない。まあいい。もう1つは生きてて光ってるんだから何とかなるだろう。
だが、明らかに寄って来る蛾の数が目減りしていってる。又もやの想定外のアクシデントに、ドス黒い諦念が広がり始める。
(╯_╰)なしてー。どこまで悪い流れが続くねん。

その後、何も起こらなかった。
午前1時まで粘ったが、ついぞアマミキシタバは飛んで来ずだった。今回も擦りもせずの惨敗である。
期待値が高かっただけにショックは大きい。数々の困難を乗り越えて、こんだけ頑張っても報われないのかよ…。

1時15分。
ズタボロの心と身体を引きずるようにして撤退。

濃い霧で驚くほど前が見えにくいので、山道を慎重且つゆっくり、のろのろ運転で降りてゆく。間違ってカーブで真っ直ぐ行ってもうて、崖から落ちでもしたら洒落になんないもんね。
別に道に迷っていたワケではないのだが、次第に山を彷徨しているような気分になってきた。
あなたが落とした斧は金の斧はですかー❓ それとも鉄の斧ですかあ❓
突然、山の神様が霧の向こうからニュッと現れてもオカシクないような状況なのだ。それくらい現実離れしたような幻想的な風景が続く。
そして、山は息苦しくなるくらいに静寂だ。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで谺している。ハッキリ言って不気味だ。映画やドラマだと絶対何か良くない事が起こりそうなシチュエーションである。
いつしかエンジン音は脳内で変換され、耳の奥ではお約束のように恐ろしげな重低音の音楽が流れている。しかもそれはワシが生涯で最も怖かった映画『シャイニング(註4)』のオープニングで流れていた曲だ。カメラは上空から俯瞰で、山奥の古ホテルへと向かう一家族の車を淡々と追い続けるんだよね。ただそれだけの映像なのに、執拗にリフレインされる不気味な音楽が、これから起こるであろう惨劇を暗示しているようでメチャクチャに怖いのだ。

そんな時だった。
バサバサバサー❗
突然、その静寂を何かが破った。
ヽ((◎д◎))ゝしょえー❗
不意の金切り声と大きな羽ばたき音に激ビビる。
ヤバいもんだったら、発狂しかねないので見ちゃイケないと頭では思うのだが、裏腹に目が勝手にソチラの方を見てしまう。

照らされた方向には鳥がいた。
邪悪な怪鳥だったら、💧涙チョチョギレもんだが、結構デカいものの、ただの鳥じゃないか。驚かせやがってアホンダラー。ホッとして、強張っていた身体の力が一挙に弛む。
とはいえ、顔だけは強張ったままだ。だいたいにおいて夜に鳥が羽ばたいて鳴く時は映画でもドラマでも何かが起こる前兆と相場が決まっている。鵺の鳴く夜は恐ろしいのだ。

見慣れない鳥だが、思い出した。写真で見たことがある。たぶんアマミヤマシギ(註5)っていうシギ(鴫)の1種だ。
そうと分かれば、さらに心は落ち着く。名前なき未知なる異形のモノは恐ろしいが、名前が特定されてしまえば怖るるに足りずである。

その後もアマミヤマシギは現れた。でもって、その度に驚かされた。けど何度も驚かされてると、そのうち慣れてくる。そうなると次第に沸々と怒りが込み上げてきた。
このバカ鳥ども、結構そこいらにいて、誠にもってウザい。敏感にすぐ飛んで逃げてくれればいいのだが、バカだから直前になって目の前で飛びよる。だから瞬間こっちの方がビックリして、その度に肝が冷やされる。コッチは霧で前が見えないゆえ、鳥がいるだなんてワカランのだ。一方、オマエらはバイクのエンジン音が遠くからでも聞こえてる筈だから事前に逃げれんだろうに。鈍クサいこと、極まりない。そんなだからマングースや猫に食われるのだ。おバカ鳥めがっ💢
心がササくれだっているから、マジで轢いたろかと思う。まあ、人として流石にそれはしないけど。

時間はかかったものの、何とか麓まで下りてきた。
でも帰る場所は気が遠くなる程、まだ遥か先だ。
そして眼前には大きな問題が立ちはだかっている。ずっとどっちにするか迷ってた帰るコースを、いよいよ決断せねばならぬ時が来たのだ。
問題は来しなに使った北側のルートと半分未知の南側ルートのどちらで帰るかなのだが、選択を間違えれば地獄が待っている。
そう言いつつも、どちらを選んでも地獄である事には変わりはないんだけどもね。少しだけ、どちらかがマシなだけである。でもその少しの差が今は大きい。それだけ弱っているのだ。少しでも楽な方法で帰りたいという思いが強い。
はてさて、どうしたものか(-_-;)…。
又あの山道を登り降りして帰るのは正直しんどい。どころか道はグネグネでカーブが多いから危険さえ感じる。それを、この心身ともに衰弱しきった状態で走りきる自信はない。
となれば南側ルートだが、コチラは長いトンネルが何本もある。コレがホント長くて辛い。いつまで経っても出口が見えてこないので、心が徐々に蝕まれてゆき、気づいた時には鈍くて重い精神的ダメージをうけているのだ。
それに長いトンネルは睡魔を呼ぶ。ましてや丑三つ時のこの時間帯だ。眠くならないワケがない。けど眠ったら確実に事故る。側溝に突っ込んでバイクもろとも💥大破。運が悪けりゃ、あの世ゆきだ。
あの世で思い出した。こんな夜更けに、そんなトンネルを走るのは全然もって気が進まない理由が他にもある。山のトンネルといえば、イコール心霊スポットだ。あたしゃ、自慢じゃないが、お化け大嫌いの超怖がり男なのだ。
チキンハート野郎は想像する。奄美の妖怪ケンムンを筆頭に魑魅魍魎どもがワンサカ湧いて出てきて、追いかけ回されでもしたら、チビる。いや、チビるどころか小便垂れ流しで泣きじゃくりながら逃げるよ。
ほらね、どっちを選んでも地獄じゃないか。
嗚呼、何もかもがウンザリだ。できれば、その辺に倒れ込んじまって、そのまま深い眠りに落ちてしまいたい。
そうしたくなるような心を必死に抱きかかえて、のろのろと南に向かって走り出す。

南側ルートを選んだのは、アップダウンと急カーブが少ない事と、単に同じルートを走りたくなかったからだ。
あと付け加えると、コチラのルートだと最後には名瀬を通るので、コンビニが幾つかあり、24時間スーパーまであるからだ。酒とツマミを買って帰らないとやってらんない気分だし、酒の力を借りなければ今夜は眠れそうにない。

先ずは住用町役勝を目指す。だが北に行きたいのにルートは一旦、反対方向の南へと針路をとる。コレがスゲー遠回り感がある。ルートはかなり南に下ってから一転、今度は北へ向かうという道筋になっているのだ。理不尽にも、無駄にV字の軌跡を描いて走らねばならない。宇検村から住用町西仲間までを直線距離で結ぶと12kmくらいだが、このルートだと倍以上の30kmくらいを走らねばならんのだ。大きな山塊があるから仕方がないんだけどさ。そもそもアソコにトンネルを通すのは無理があるだろう。技術的には可能だろうが、莫大な費用が掛かるだろうし、通したところで見合うような経済効果は有りそうにない。それに世界遺産になった今なら、そんな計画には許可がおりないだろう。

役勝トンネル辺りで早くも睡魔が襲ってきた。
そして、道は街灯が少なくて暗いから、遠近感までオカシクなってくる。
ワシ、実を言うと夜の運転は苦手がち。鳥目ではないと思うけど、夜はモノを認識する能力が格段に落ちる。で、挙げ句の果てには時々幻覚を見たりもする。トンネルの入口が巨神兵や超巨大なC3POに見えたり、ガードレールにゴブリンが座っていたりするのだ。だからスピードも出せない。

それにしても笑っちゃうくらいに対向車がいない。もちろん人など誰一人として歩いていない。時空が歪んだ別な世界、まるてバラレルワールドにいるような錯覚を覚える。いよいよもってヤバい事になってきた。

住用町の三太郎トンネルの手前辺りで、睡魔が猛烈にやって来て朦朧となる。
意識が半分飛んだまま、トンネルに入る。
この長いトンネル、アホほど長いと知ってるだけに辛い。知らぬまに蛇行運転になってて、堪らずトンネルの真ん中の退避スペースで停まる。

 

 
トンネルの真ん中で停まるのって、あまり気持ちがいいものではない。こうゆう時にもしケンムンや魑魅魍魎どもが襲ってきたりしたら最悪じゃないか。死を覚悟して戦うか、恐怖で脱糞しながら必死で逃げるしかない。何か、さっきも同じような思考回路になっていなかったか❓たぶん、そうだろう。脳ミソが溶け始めている証拠だ。
でも怖いもんは怖い。怖さに耐えきれず、大声を出してみた。自分の声が洞内に反響して奇妙に増幅され、やがて壁に吸い込まれていった。
少しだけだが気分が落ち着き、思い出したように煙草に火を点ける。

煙草を吸いながら、ぼんやりと思う。この上の三太郎峠でもアマミキシタバが採れてる記録があるんだよなあ…。三太郎峠で灯火採集しとけば良かったかなあ…。近くはないが、湯湾岳よりもだいぶ楽な距離だ。
だが、すぐさまその考えを否定する。今さら後悔したってしようがないのだ。それに、こんなに悪い流れ続きだったら、どうせ採れなかっただろうし、また別な大きなトラブルに見舞われてたに違いない。
あー、ダメダメだ。珍しく完全にマイナス思考に囚われているよ。

この時点で、既に時計の針は午前3時を指そうとしていた。ここまで2時間か…。思ってた以上に時間を費やしている。

次の新和賀トンネルは何とか通り抜けたが、朝戸トンネルで再び強い睡魔に見舞われて停車した。
まあいい。今さら急ぐ理由なんて無いのだ。それにこのクソ長いトンネルさえ抜ければ、名瀬の街だ。宿までそう遠くはない。

午前4時。
やっとこさ朝仁まて戻ってきた。安堵と疲労とが同時に全身の隅々にまで広がってゆく。
コンビニの駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いだら、更なる安堵と疲労感、そして敗北感とが加わった何とも形容し難いような感情に包まれた。
或る種のトランス状態だったのかもしれない。全身がヘトヘトだけど、ヘラヘラ半笑いで、ふらつきながらコンビニに入る。
で、酒を買って、ついこんなもんまで買っちまう。

 

 
結局、マイフェバリットの鶏飯屋『みなとや』には行けてないし、無性に鶏飯を食いたくなったのだ。
だが、宿に帰って敗北感にまみれて酒を飲み始めたら、秒殺でそのまま昏倒してしまった。

しょっぱい夜だった。

                    つづく

 
追伸
この日が、奄美大島で最も過酷な1日だった。
昼間は蝶を採りいーの、夜は蛾を採りいーのの二足の草鞋は正直キツイ。体力的にも精神的にもシンドイのだが、中でも夜に酒飲みに行けないのが辛い。店で美味いもん食いながら酒を飲み、地元の人とワーワーやるのが大いなるカタルシスになっていたんだなと今更ながらしみじみ感じる。虫ばっか採ってると旅が味気なくなる事を痛感したよ。

 
(註1)点灯時刻か遅かったせいかハグルマは飛んで来なかった
Sくん曰く、ハグルマヤママユの灯火への飛来は日没後から1時間くらいが勝負らしい。エゾヨツメと同じで、それ以降は殆んど飛んで来ないらしい。もちろん例外も有るんだろうけどさ。

(エゾヨツメ♂)

(ハグルマヤママユ♂)

 
(註2)タッタカモクメシャチホコ
シャチホコガ科(Notodontidae)に属する中大型蛾。
前翅の地色は純白で、黒い内横線はジグザクで太い。

展翅してみてもカッコイイ。こうゆう白黒のスタイリッシュな蛾はノンネマイマイやキバラケンモンなど科を跨いでいくつかいるが、中でもコヤツはデカくてゴツいから他とは存在感がまるで違う。圧倒的な風格があるのだ。しかも他のものは下翅が純粋に白黒ではなくて、上翅とのデザインの連動性をあまり感じない。一方タッタカは下翅も白黒柄で上翅とデザインが一体化していて、全体に違和感がない。それに背中の柄の黒は、よく見ると群青色なのだ。これが高貴な感じがして♥️萌える。尚、展翅画像はピンチアウトで拡大できるので、そのコバルトブルーを是非とも確認されたし。

(ノンネマイマイ)

(2019.8月 長野県松本市新島々)

(キバラケンモン)

(2020.8月 長野県木曽町開田高原)

(ニセキバラケンモン)

(2020.9月 長野県松本市白骨温泉)

キバラケンモンとニセキバラケンモンは好きだけど、ノンネマイマイはキショイ。カッコイイかもと思って採ったけど、展翅してみたら残念な形と下翅でガッカリした。オマケに腹がピンク色で妙に色っぽいのが許せない。言ってしまえば安っぽい遊女みたいなのだ。
しかも大嫌いなマイマイガの仲間だと知ってからは憎悪さえ抱くようになった。マイマイガは大嫌いだから、成虫も幼虫も一切関わりたくない。
(´ε` )そんなこと言うなよーと言う人もいると思うけど、生理的に受け付けないんだから仕様がないんである。断固、キミたちとは袂を分かつ。

ノンネさんの事はどうでもいい。タッタカさんに話を戻そう。

【学名】Paracerura tattakana (Matsumura,1927)
小種名は、台湾の立鷹峰に由来する。おそらく最初に採集されたのが其処だったのだろう。和名もそれに連動しての命名だと思われる。
立鷹峰は台湾中部の南投県仁愛郷にある山で、蝶の採集地として有名な翠峰や梅峰近辺にあるようだ。ということは標高2000m以上ってことだ。おそらく2300m前後くらいはありそうだ。
尚、この地域にはホッポアゲハやアケボノアゲハ、アサクラアゲハ、スギタニイチモンジ、ダイミョウキゴマダラ、タカサゴミヤマクワガタなどがいる。

余談だが、台湾では「尖鋸舟蛾」と呼ばれている。
も1つピンとこないネーミングだが、コレは触角が鋸状なところからきているようだ。で、舟蛾はシャチホコガ全般を指す言葉なのだろう。確かに横から見れば、舟だと言われれば、そう見えなくもない。

本土産のものが、magniguttata (Nakamura,1978)として亜種記載された事があるが、現在はシノニム(同物異名)扱いになっている。

【開張】 ♂65〜72mm内外。 ♀72〜80mm内外
自分の採ったものは68mmだったから、矢張り♂だろう。

一応、♀の画像も貼り付けておこう。


(出展『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

どうやら♀は♂と比して大きく、上翅の幅が広くて翅形が全体的に丸くなるようだ。

【分布】
分布は意外にも広く、ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』によると、本州、四国、九州、対馬、屋久島、沖縄本島、西表島、台湾とあった。おいおい、奄美大島が抜けとるぞー。
このサイトは蛾を種名で検索すると、どの種でも必ずと言っていい程に真っ先に出てくる。だから基本情報を知るのには重宝するし、有り難いのだが、重大な問題点もある。どうやら全くアップデートがなされていないようで、情報が致命的に古いのだ。ゆえに概要を知るのはいいとは思うけれど、それをまるっきり鵜呑みにする事はお勧めできない。一応フォローしておくと、何千種といる蛾の殆んど種の画像と解説があるから、その執筆の労苦たるや大変なものだったろう事は想像に難くない。それには素直に頭が下がるし、立派な業績だと思う。礎の役割は十ニ分に果たされておられると言っていいだろう。でもだからといってアップデートされないままの弊害は見過ごせない。間違った情報が流布し、混乱を引き起こすからだ。改善されることを望みます。

そうゆうワケなので、ここからは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の解説を混ぜて書き進めていく。この図鑑の情報が現在のところ最も信頼できるからだ。
その標準図鑑によると、分布は上記の他に「奄美大島とその属島」とシッカリ書いてあった。ほらね。
主に西日本に多く見られるが、分布は局所的。国外ではミャンマー、タイ、ベトナム、中国南東部、台湾に分布している。
知る限りでは垂直分布について言及されている文献は見当たらない。唯一見つけられたのが、ブログの記事で、『高知の自然 Nature Column In Kochi』というサイトに「高知県では低山地から標高の高い山まで広く分布している。」書いてあった。図鑑等で垂直分布についての記述がないのは、低地から高地まで広い範囲で得られているからなのだろう。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)
京都府:要注目種
岡山県:希少種

【成虫の出現期】 5〜8月
アレっ❓、採ったのは3月下旬だから、かなりズレがある。だから、みんなで作る図鑑は鵜呑みにはできないのだ。
コレに関しても直ぐに標準図鑑で解決した。南西諸島では3月と6月に採れ、本土では6月に出現するとあった。

【成虫の生態】
大概の文献には、夜間に灯火に誘引される事くらいしか書かれていない。それとて、飛来時刻の傾向さえも特には言及されていない。たぶん飛来はアトランダムで、傾向と言えるようなものはないんだろうけどさ。
昼間の静止場所とかも書かれてあるものは知り得ないし、成虫が何を餌にしているのかもワカラナイ。まあ、タッタカに限らず、蝶と違って蛾の生態はまだまだ解明されてない種類だらけなんだけどもね。
んっ❗❓、待てよ。とはいうものの、🎵もしかしてだけどー、🎵もしかしてだけどー、🎵シャチホコ蛾って何も食わんないんじゃないの〜❓

調べてみたら、何と近縁のオオモクメシャチホコの成虫は何も餌を摂らないそうだ。だからタッタカも何も食べない可能性が高い。どうやらシャチホコガ科全般がそうみたい。へぇー、デカいクセに何も食べないんだ…。
更にデカいヤママユの仲間は何も食わないとは知ってたけど、シャチホコくんもそうなんだ…。蝶をやってきた者としては、餌を摂らないなんていう概念は無いから驚きだよ。蝶で餌を摂らない種はいない筈たもんね。だから思ってしまう。
ヤママユもシャチホコも大型蛾だから、そんなんでエナジー保つのかよ❓ある意味、蝶よか進化しているのかもしれない。
ということは、タッタカって寿命は短いのかなあ❓

唯一、成虫の生態の一端を見つけられたのがネットからだ。
ブログ『昆虫ある記』に、タッタカちゃんを手に取ると、時に脚を縮めて腹部を大きく内側に曲げた状態が長く続く事があり、どうやら擬死行動のように見受けられるとの印象が書かれている。


(出展『昆虫ある記』)

自分が採った時には、そのような傾向は一切みうけられなかったが、画像を見ると自分にもそのように見える。
死んだふりする生き物って、わりと好感がもてる。何か健気で可愛いもんね。

【幼虫の食餌植物】ヤナギ科 イイギリ属:イイギリ(飯桐)
葉が大きく、昔は飯をこの葉でくるんだ事から名付けられたようだ。また別名にナンテンギリ(南天桐)があり、コチラは実が南天の実に似ていることに由来する。

標準図鑑によると、イイギリの分布とタッタカの分布は、ほぼ重なるらしい。だから主に西日本に見られるんだね。

(イイギリの分布)

(出展『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」』)

コレを見て、西日本ではこんなにも普通に生えてる木なのかと思った。だったら探せば意外と何処にでもいて、新たな産地がジャンジャンに見つかるんじゃないかと思った。
しかし調べ進めると、わりかし珍しい木のようで、山地でもあまり見られないそうだ。でないとタッタカが珍しいという説明がつかないもんね。但し、最近は公園樹として植栽されることも増えているらしい。
垂直分布はブナ帯下部らしい。もしタッタカの分布もそれに準ずるならば、標高1200m以下に棲息するものと考えられる。

(イイギリ)

(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『葉と枝による樹木図鑑』)


(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

多分、この木の実は見たこと事がない筈だから、やはり珍しい木なのかもしれない。因みに葉の印象は見たことがあるような無いような微妙な感じだ。でも桐の葉か何かと混同しているかもしれない。ようは同定に自信がないのだ。言い訳させて戴くと、植物の葉は遠縁の種であっても似たような形のものがワンサカある。どころか同じ種内であっても葉の形に変異が多いから、ワシらみたいな素人には植物の同定は容易(たやす)くはないのだ。

幼虫は、どんなだろ❓
でも蛾の幼虫は邪悪な姿をしたものが多いんだよねー。どうせ怖気(おぞけ)るから探すのやめとこっかなあ…。とはいえ気になり始めたら捨て置けない。恐る恐るで探してみたら、😱スゲーのが出てきた。


(出展『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』)

\(◎o◎)/何じゃ、こりゃ❗❓
である。見た瞬間は変過ぎてどっちが頭なのかさえ解らなかった。左側が頭なのだが、ワケわからんくらいに形が歪(いびつ)で、ニョキっとした手を含めての姿勢も何だか変だ。そして何よりも変なのは、その尾っぽである。まるで『帰ってきたウルトラマン』の怪獣、ツインテールみたいな奴ではないか。

(ツインテール)

(出展『怪獣ブログ』)

ツインテールって相当に変テコな奴だと思っていたが、タッタカベイビーの前では地味にさえ感じるじゃないか。自然が造りしもののデザインは、人間の想像力なんぞ遥かに超越しているのである。だいたいツインテールのデザインだって、そのオリジナル性は疑わしい。きっと何かの生物をモチーフにしたパクリもんだろう。
余談だが、ツインテールには「三つ編み(おさげ)」という意味もある。小さい女の子から女子高生とかまでに見られる髪型の事ね。そういや最近は三つ編みの女子高生って見掛けないよね。きっと絶滅危惧種だやね。

越冬態は蛹で、木の枝を噛み砕いて繭を作り、その中で蛹化するそうだ。全然関係ないけど、繭の中でひと冬を越すのって、どうゆう気分なのだろう❓
快適に惰眠を貪れて幸せそうだが、実際はそうでもないかもね。外の気象状況が気になって、おちおち眠れやしなかったりして…。寒波が来襲したり、大雨が降ったり等々、状況如何によっては生死に関わるからさ。生きるって大変なのだ。

尚、言い忘れたが、残念なことに標本からは油が大変出やすいそうだ。だとしたら悲しいよね。今のとこ、出てないけど。

 
(註3)白黒のユウマダラエダシャク系の蛾
このタイプの斑紋を持ったエダシャクは沢山いるからややこしいのだが、どうやらクロフシロエダシャクという種のようだ。

どうやらと書いたのは、にしては黒っぽいからだ。でも調べ進めると、この種は黒色斑紋の大小にかなりの変化があり、個体によっては外縁部が広く暗色で、白色の部分が極めて狭い者もいるらしい。で、ネットで色々と画像を見ると、確かに皆こんなに黒くなくて、そこいらにいる白黒エダシャクとさして変わらないように見える。正直なところ、ワシの嫌いなタイプの白黒エダシャクそのものだ。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

これがノーマルタイプだろう。もしも黒さがこの程度だったならば、絶対に無視していた筈だ。

似ていて同定間違いしやすいのが、クロフオオシロエダシャクとタイワンオオシロエダシャク。こっちの方が基本的に黒い。

(クロフオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
(タイワンオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

この2種と比べてクロフシロエダシャクは、前翅の横脈紋がより明瞭で、その外側の黒色の小紋からなる外横帯をそなえる。後翅は外縁部と亜外縁部がより小型で、並び方は不規則。
専門用語だらけでワケわからんが、ようするに違いは後翅には黒斑が少なくて白い部分が多い。あと一番わかり易いのが、背中側から見た腹部の地色が黄色いことである。他2種は、ここの地色が白いから容易に区別できる。ただ、ボロ個体だと色褪せするから同定は困難になるかもしれない。
変わった見分け方もあって、灯火採集などの折に白布に静止している時は多くの個体が触角を後ろ向き(背中側)にしている事だ。大概の蛾は静止時には触角を前側か真横にしている。エダシャク亜科に属する蛾も、その例に漏れない。だからコレは例外中の例外の事らしい。但し全ての個体がそうではなく、たまに横向きにしているものもいるようだ。

一応、♀の画像も貼付しておこう。

(クロフシロエダシャク♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

雌雄の違いは♂の触角は繊毛状なのに対し、♀は微毛状。また♂の前翅基部に刻孔があり、中脚の基部と腹部基部側面に一対の黒い毛束があるそうだ。
本文中の横向き画像だけでは心許ないので、参考までに反対側の横向き画像も貼り付けておく。

見ると、厳密には確認できないものの、♂っぽい。また♂には脚に毛束があるとも言うし、それはあるみたいだから♂かなあ…。
触角は繊毛っぽいけど、微毛にも見えなくもない。そもそもが繊毛と微毛の定義って何じゃらホイ❓どこまでが繊毛で、どこからが微毛なのだ❓両者の境界が今イチわからん。まあ、♂で間違いなかろうかとは思うけど。

後回しになってしまったが、主たる種解説をしておく。

【学名】Dilophodes eleganus (Butler,1878)
日本産が原記載亜種で、中国西部、インド、ボルネオ島から、それぞれ別亜種が記載されている。
参考までに付記しておくと、Dilophodes属の基準となるタイプ種は本種で、他に本属に含まれるものはインド北部から1種が知られているのみである。

【開張】35〜48mm
『日本産蛾類標準図鑑』ではそうなっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には39〜43mmとなっている。
因みに今回採集したものを測ると49mmもあった。とゆう事は、もしかして♀❓まあ、どっちだっていいけど。

【分布】
本州、御蔵島(伊豆諸島)、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島、石垣島、西表島で、関東地方より西に多産するそうだ。
(´ε` )チッ、何だ普通種かよ。ガッカリだな。きっと黒いタイプじゃないノーマル型は、知らぬうちに何処かで見ているのだろう。たぶん興味がないから頭の中では厳密には区別されておらず、皆同じに見えているものと思われる。
参考までに書いておくと、以前は北海道も分布地に挙げられていた。しかし確実に分布する地域が見つかっておらず、よって除外されたという経緯があるそうだ。
国外では、台湾、中国、インド、ボルネオ島に分布する。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)

【成虫の出現期】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、4E-7E,9Mとなっていた。つまり4月下旬から7月下旬と9月中旬に見られるということだ。しかし『日本産蛾類標準図鑑』には3〜5月と7〜8月となっていた。但し、発生は地域によって多少異なるとも書かれてある。おそらく標準図鑑の方が概ね正しく、一部が9月にも見られるのだろう。ザツいけど(笑)。
尚、2化目の個体は1化目と比べて明らかに小型らしい。見つけたのが1化目で良かったよ。これよか小さかったら、たとえ黒くとも無視だったろう。

 
(註4)『シャイニング』


(出展『映画.com』)

1980年に劇場公開されたホラー映画の金字塔。ホラー映画のみならず、ジャンルを超えて、その後の多くの作品に多大な影響を与えたと言われている。
監督は、巨匠スタンリー・キューブリック。天才キューブリックがホラー映画を撮ると、こうなるんだと感銘を受けたのをよく憶えている。キューブリックは難解だとよく言われるが、この作品は比較的わかり易い方なので猿でも楽しめるだろう。
主役を演じるのは、名優であり、怪優でもあるジャック・ニコルソン。あの鬼気迫る表情が、まさかのノーメイクで演じられていたという伝説が残っている。

この映画、何が怖いかって、先ずは子供の乗る三輪車がホテルの廊下を走るシーンだろう。それを背後から追いかけるローアングルの映像が心臓バクバクものなのだ。
幻のBarのシーンも怖い。ジャックとバーテンダーの交わされる会話は一見普通なのだが、ズレがあって、それが見てる側の動揺を誘う。そして、そこには何とも言えない静謐な緊張感が漂っており、表面的な驚かし系の怖さとはまた違ったうすら寒いような怖さがあるのだ。
勿論、徐々に気が狂ってゆくジャック・ニコルソンも怖い。あまりにも怖すぎて、それが突き抜けてしまい、笑っちゃうくらいだ。奥さんの絶叫する顔も恐ろしい。けど一番怖いのは、何といっても双子の女の子だ。アレにはマジで心臓が止まりそうになった。

言い忘れたが、原作はこれまた巨匠であるスティーブン・キングだ。但し小説と映画とでは内容が異なり、キューブリックによって大幅にストーリーが改変されている。キングはコレに激怒し、事あるごとに、この映画とキューブリックを執拗に攻撃し続けている。まあ、全然別な話にすり替えられたようなもんだから、キングが怒るのも理解できる。キングが小説で伝えたかった事が完全に無視されてるからね。
尚、小説の方も読んだけど面白かった。内容は映画と比べて、もっとスピリチュアルな話で、超能力を題材にしたものだったという記憶がある。そうゆう意味では小説の方が奥深い内容ではある。だいぶ昔に読んだので、間違ってたらゴメンナサイだけど。

 
(註5)アマミヤマシギ

(出展『おきなわカエル商会BLOG』)

全長約40cm程のシギ科の鳥で、全身は茶色、頭部に黒い横斑をもつ太ったシギである。日本の固有種で、奄美群島と沖縄諸島にのみ分布する。だが繁殖が確認されているのは奄美群島だけで、同島で繁殖したものの一部が沖縄に渡るのではないかと推測されている。
成熟した常緑広葉樹林に生息し、冬の終わりから春にかけて地上で営巣する。活動は主に夜間で、ミミズなどを捕食する。個体数に関するデータは乏しいが、1990年代になって激減している事が推察され、特に名瀬や龍郷町ではほとんど見られなくなったという。減少要因として、森林の伐採、ネコやマングースなどの外来種による捕食が指摘されている。種の保存法により、1993年に国内希少野生動植物種に指定されており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種II類(VU)に指定されている。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑1』
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『蛾色灯』
◆『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』
◆『昆虫ある記』
◆『高知の自然 Nature Column In Kochi』
◆『DearLep圖錄檢索』
◆ Wikipedia
◆『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」
◆『葉と枝による樹木図鑑』
◆『plantidentifier.ec.ne.jp』
◆『エムカクon Twitter』
◆『怪獣ブログ』
◆『映画.com』
◆『おきなわカエル商会BLOG』

 

奄美迷走物語 其の14

 

第14話『奄美迷走ドン底物語』前編

 
2021年 3月29日(夜編)

『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』
『\(◎o◎)/マジー❗』

この期に及んで約束反故かよ。(´ω`)そりゃないよ。
口には出さなかったが、そう思った。若い頃のオラなら『おどれ、キンタマついとんかい❗❗』とか凄んでたかもね(笑)。
きっと今時の若者の間では、今や「男の約束」とかって言葉は死語なんだろね。昔は男同士の約束はそう簡単には破れなかったものだ。男の約束は絶対だとガキの頃から教えられてきたからね。破ったら男としての価値がダダ下がりになった。彼女との約束よりも男同士の約束の方が重要視されていたりしてたのだ。そもそもが幼少の頃からオカンとかに『アンタ、男でしょう❗泣きなさんなー❗❗』と言われ続けてきたのだ。他の家庭でも大体そんな感じだった。男は人前で泣いてはならない時代でもあったのだ。とはいえ、ワシらの世代が成人した前後くらいから泣く男が急増したんだけどもね。いかんいかん、いつもながらの事だが完全に脱線マンじゃよ。m(_ _)mすまぬー。
まあ、昔とは時代が違うからね。今の若者には理解不能のルールだから仕方ないよね。怒ることじゃない。とにかく、彼は断る理由を言わなかったし、コチラも訊かなかった。大方、行くのが面倒くさくなったのだろう。それは理解できる。湯湾岳までは遠いのだ。だから『マジー❗❓』とは言ったが、それ以上は何も言えなかったのだ。
まあ言ったところでどうにかなるとも思わなかったし、ごちゃごちゃ文句を垂れれば垂れるほどカッコ悪いだけだ。また、どれだけ巧妙に説得したところで、Sくんみたいなタイプは意志が固そうだから説得するだけ時間の無駄だとも感じた。
そもそも東京の人は情が薄いもんね。十年住んだから身に沁みて知っているのだ。いや、そうゆう言い方はヨロシクないな。単に大阪が他よか情を重視する土地柄だから、そう思ってしまうのだろう。それにドライにハッキリと物事を言うのは悪い事ではないからね。あっ、付け加えておくと、もちろん東京時代にも情に厚い人は結構いました。薄いと行ったのは、あくまでも相対的にって事ね。

(-_-;)むぅ…。やっと良い流れになったかと思ったら、フタオチョウの♀を逃して再び悪い流れに逆戻り。その後、アカボシは振り逃すし、「蝶屋(てふや)」のブログの内容(註1)が眉唾濃厚だと判明するという最悪の流れになってきてる。でも今さら湯湾岳に行かないワケにはいかない。どうしてもアマミキシタバ(註2)を採らねばならぬのだ。その可能性が一番高そうなのが湯湾岳なのである。たとえSくんの車と強力なライトがなくても行くっきゃない。条件は厳しくなるが、原チャリで行って、なんちゃってライトで勝負するしかあるまい。
正直、苦難が待ってるのが解っているのに立ち向かうってのはキツいよなあ…。

呪わしくも、腹ごしらえに出発前に急いで食ったカップ麺まで今イチだった。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛 塩担々麺』。スーパーマーケットのタイヨーで特売の98円で売っていたものだ。

 

(出展『グルコミ』)

 
今まで書いてこなかったが、食いもんやお茶はこのスーパーかコンビニ(ファミマ)で買う頻度が圧倒的に多かった。どちらも幹線道路沿いにあり、知名瀬方面に行く時はタイヨーへ、名瀬方面に行く時はファミマを利用していた。

まだ残っていたニラを使い切るためにブチ込んでやった。

 

 
けど、たいして旨くない。何か今を象徴しているようで泣きたくなってくる。この先、ロクな事がなさそうなことを暗示しているようではないか。前途多難だ。

奄美大島最高峰の湯湾岳のある宇検村に行くには大きく2つのルートがある。

 

(出展『ねりやかなや』)


(画像はピンチアウトすると拡大できます。)

 
朝仁からそのまま北側の道路を走るルートと朝仁から一旦名瀬に戻ってから南側を走るルートだ。どちらも距離的には同じようなものだから(註3)、どちらを選択するかは悩むところだ。北側ルートは海岸線の道で曲がりくねっており、アップダウンも多いから疲れる。一方、内陸を通る南側のルートはアップダウンが少なくて直線が多いがトンネルだらけだ。しかも長いトンネルが多いから、これまた疲れる。精神的にキツいのだ。尚、北側のルートは戸内までしか行った事しかなく、南側のルートは西仲間までしか行ったことがない。つまり、どちらもルート半ばくらい迄であり、その先は未知の世界なのだ。時間的な余裕はないだけに、ここは思案のしどころである。できれば日没前までに到着しておきたいのだ。
朝に宿のオジーとオネェーに、どっちが時間的に早いかと訊いたら、どちらも同じくらいで1時間から1時間半くらいだと言ってた。しかし二人ともあえて言うと北ルートかなと言う答えだった。地元の人がそう言うんだから、ここは素直に北側ルートを選択すべしという結論に至った。悪い流れになってるが、気持ちを切り替えて気合いを入れていこう。

午後5時15分。
大きく息を吐き、スロットルをグッと回した。

戸円までは順調だった。海沿いを走るのは気持ちがいいし、気分はアゲアゲ⤴️の御機嫌だった。この調子でいこう。良い流れになってきたんじゃないのー❓
そして名音を過ぎたところで標識が目に入った。そこには「←奄美フォレストポリス・湯湾岳」とあった。どうやら左の林道を走れば、ショートカットになりそうだ。日没前までに湯湾岳展望台に着けるかどうかはギリギリだろうと思っていたので、渡りに船だ。ラッキ〜(◍•ᴗ•◍)❤、迷わず林道に突っ込んでゆく。

20分程走ったところで、段々不安になってきた。道は次第に荒れ始め、ドンドンうら寂しくなるし、道標が出てこないのである。そんな折、前から軽トラックが走ってきた。慌てて止めて道を尋ねる。
『この道って湯湾岳に行きますか❓』
『行くよ。でも湯湾岳には行けないよー』
一瞬、オジーの野郎、この期に及んでナゾナゾをフッ掛けてきたのか❓と思った。
(?_?)はあ❓キョトン顔になる。
『✦§∇♪€#○÷<崖崩れ■〆☆¶♬∞』島言葉なので何言ってるのかよくワカンなかったが、辛うじて崖崩れという言葉を拾えた。
『崖崩れで行けないって事ですか❓』
オジーはそれに対して再び島言葉でまくし立てた。意味不明だが、ニュアンスで通れないとゆうことは理解できた。
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻ガッデーム❗
完全にやっちまったな。今から引き返すとなれば、時間的ロスは40〜50分くらいになる。どう考えても日没までには着けそうにない。

幹線道路に戻るが、既に日没が近づいていた。
午後6:25。そして志戸勘で壮絶な夕暮れになった。

 

 
怖いほどに美しい。
そして、前途を不安にさせる空だ。

程なく山道になった。きっと海岸線の地形が険しくて道路が作れず、山越えになったのだろう。しかも本格的な山越えのようだ。グングンと高度が上がってゆく。
登りきる手前で対面交通の信号で止まった。奄美って崖崩れが多いんだよなあ…、そう思った時に急に違和感を覚えた。
(゜o゜;レレレ❗❓、なーい❗
背中に袈裟がけで背負っていた筈の長竿がないのである。
おそらく夕陽の写真を撮る時に邪魔なので下にでも置いたのだろう。そして慌てていたので、そのまま地面に置きっぱなしにして出てしまったのだ。
仰天して山を下りる。更なるロスに心が折れそうになるが、そんな事よりも誰かに持って帰られる事の方が遥かに心配だった。もしも失くしたら、ただでさえ弱い戦闘能力が大幅に削がれる。となれば、惨敗色がいよいよもって濃厚になる。

(☆▽☆)あった❗❗
夕闇の中、慌てて駆け寄り、拾いあげる。
辛うじて首の皮一枚で繋がった。とはいえ、又しても大きな時間ロスである。行き場のない感情に深い溜息をつく。余程このまま帰ってやろうかとも思った。でも敵前逃亡、戦(いくさ)もせずにおめおめと帰るのは末代までの恥だ。たとえ負け戦であろうとも戦って散った方が、まだしも魂は救われる。

再び、山を登り返す。
しかし登りきっても下りにはならず、尚も山パートは続く。
そして、気がついたときには辺りは完全に闇の世界に支配されていた。心細いくらいに真っ暗だ。対向車も全くない。
いつ終わるか、いつ終わるかと思いながらスロットを開け続けるが、山道は延々と続いた。不安と焦燥で心がズタズタになってゆく。

やっと海岸に出たのは30分以上あとであった。こんなに遠いとは思いもよらなかった。ところでこの道って本当に宇検村に向かっているのか❓もしかしてタヌキ…否、奄美の妖怪ケンムン(註4)に化かされていて、永久に着けないんじゃないかとさえ思えてきた。
集中力が切れかけていたし、自分が今何処を走ってるのかさえも分からなくなっていたので、トンネルを抜けたところでバイクを停めた。
表示を見ると、生勝トンネルとなっていた。
地図で場所を確認する。宇検村までは近い。遠目に、らしき町の灯りも見える。
しかし、そこからが思った以上に遠かった。道は海岸線に沿ってウネウネと続くので、宇検村の町の灯りが全然近づいてこないのだ。しかも街灯が殆どなくて真っ暗けなので、心細さで気力が砂のように削り取られてゆく。

30分程かかって、やっとこさ宇検村に入った。さあ、あとは湯湾岳の展望台まで登るだけだ。
だが、今度は展望台に繋がる道が見つからない。そして道を尋ねたくとも人っ子一人いない。またまたの想定外の連続に💧涙チョチョギレそうになる。
入る道が見つからないまま、村を通り抜ける寸前で犬の散歩をしている御夫婦を見つけた。藁をも掴む気持ちで道を訊く。
そこで驚愕の事実が伝えられる。
『展望台へ行く道は崖崩れで通れないよ。』
ヽ((◎д◎))ゝマジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗
冗談を言ってる場合ではない。やっとの事でここまでやって来たのに、その苦労が全て水の泡になってしまうではないか。もう死にたいよ。
呆然としていると、お姉さんが少し考えてから言った。
『でも別なルートでも上がれた筈』
お姉さん曰く、遠回りだけど、この先に上がれる道が他にあるらしい。但し、そっちの道も土砂崩れで行けるかどうかの保証はないとの事。

道の入り方を詳しく訊き、礼を言って走り出す。
これこそ首の皮一枚である。運はまだある。どうなるかは分からないが、その道に賭けよう。

街灯が殆どなくて暗いので見つけられるかどうか不安だったが、わりと簡単に見つかった。この道が本当にそのルートなのかはワカンナイけど…、行くっきゃない。

最初のうちは走りやすい広めの道だったが、そのうち森深い林道になって、深山幽谷の趣きを呈してきた。道は落葉だらけで走りにくい。
途中、黒いものが道を横切って振り向いた。
特別天然記念物のアマミノクロウサギちゃん(註5)だ。奄美大島来訪4度目にして初めてお目にかかった。
しかし感動は薄い。それどころではないのだ。一刻も早く展望台に着いて灯火採集をしなければならんのだ。
されど、この道も長かった。走っても走っても辿り着かないのである。40分近く走って漸くらしき場所に差し掛かった。

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽてちーん。死んだ。

                              つづく

 
追伸
一回で終わる予定が、書いてるうちに当時の事が甦ってきて長くなった。なので2回に分けます。

 
(註1)「蝶屋(てふや)」のブログの内容
フタオチョウは、夏型はフルーツトラップに誘引されるが、春型は寄って来ないとされている。しかしブログには春型も寄って来るような事が書いてあった。稀に寄って来る事もあるのかもしれないが、基本的にはアカボシゴマダラも含めて来ないと思っていた方がいい。

 
(註2)アマミキシタバ

(出展『世界のカトカラ』)

学名 Catocala macula
ヤガ科カトカラ属の蛾で、現在のところ奄美大島、徳之島、沖縄本島、屋久島、鹿児島本土から記録がある

 
(註3)どちらも距離的には同じようなものだから
調べてみたら、南側ルートは48.4km。北側ルートが58.9kmであった。何と10kmも差があるじゃないか。おいおいである。南の島の人が言うことは、てーげー(テキトー)だという事を忘れてたよ。

 
(註4)ケンムン
奄美大島のカッパに似た伝説の妖怪。詳細は第4話『亜熱帯の夜は恐ろしい』に書いた。

 
(註5)アマミノクロウサギちゃん

(出展『あまみっけ』)

学名 Pentalagus furnessi
ウサギの1種で、奄美大島と徳之島だけに分布する。普通のウサギと比べて耳や鼻骨が短く、足も短い。この短い後肢は急峻な山を登り降りするのに適している。原始的なウサギと考えられており、メキシコウサギやアカウサギと共にムカシウサギ亜科に属し、「生きた化石」的な存在である。1921年(大正10年)に動物では初めて国の天然記念物に指定された。また1963年(昭和38)には特別天然記念物にも指定されている。夜行性で岩の下や地中に穴を掘って棲む。10~11月と4~5月の年2回の繁殖期があり、通常は1頭、稀に2頭の子供を産む。生息数は2000〜4800頭と推定されるが、森林破壊などで絶滅が心配されている。但し、最近は増加傾向にあるという。

 

奄美迷走物語 其の12

 
第12話『手のひらの中の黄色いモスラ』

 
2021年 3月28日 ―夜編―

昨晩、虫屋ツイッター界で有名なSくんに、明日は灯火採集へ連れていってくれとせがんだ。自分の何ちゃってライトトラップよりも遥かに強力なライトセットを持っていると知ったからである。彼は基本的には蝶屋で、今回の主目的はフタオチョウ&アカボシゴマダラ採集のようだが、蛾のハグルマヤママユ(註1)も狙っていて、その為にライトを持参していたのだ。
正直、度重なる惨敗により、自分のライトでは限界を感じていた。何ちゃってなだけに光が届く範囲がメチャンコ狭いのだ。

 

 
となれば、遠くの者は惹き寄せられない。イコール、集まって来る蛾の数や種類数もたかが知れている。徒手空拳だ。日々、その絶望的なまでの貧果に半ば途方に暮れていたのである。ようするに、メインターゲットの1つであるアマミキシタバを採るのは極めて困難な状況下におかれているという事だ。

 
【アマミキシタバ】

(出展『世界のカトカラ』)

 
このままだと惨敗必至だ。負け犬という名の犬が、舌を出してヘラヘラ笑いながら近づいて来るのが目に浮かぶ。いくら上手い言いワケで取り繕ったところで、採れなければ💩ウンチくんだ。もう形振(なりふ)りなんて構ってらんない。どんだけカッコ悪かろうとも千切れんばかりに尻尾を振ってやるぜ。
それに自分もハグルマヤママユは一度は見てみたかった。ヤママユの仲間は蛾にしては好きな方だし、恋い焦がれるという程ではないにせよ、そこそこには憧れてはいたのだ。アマミキシタバが採れて、ハグルマヤママユまで見られれば、万々歳じゃないか。加えて、もう夜の森に一人ぼっちで行くのはウンザリなのだ。マジ怖くて嫌なのだ。
頼むぅー、連れてってくれよー(´ε` )
心の声を、そこまで露骨には言っていないが、それとなくストレートには言った。

『自分のライトでは2時間しか保ちませんが、それでもいいですか❓ 夜遅くまでは付き合いませんよ。』
(☆▽☆)よろしゅうございますとも旦那様。連れて行って下さるのなら何だっていいでがんす。

雨が心配だったが、予報では何とかなりそうな雰囲気だったので出動決定。Sくんの車で知名瀬林道へと向かう。

午後6時半頃、日没と同時にライト点灯。
HIDライトは想像以上に強烈だった。光の束の指先が遠く離れた山肌にまで届いている。コレだけ強い光ならば、かなり遠くにいる蛾も呼び寄せることができるだろう。

実際、すぐにライトの周りは蛾だらけになった。ワシの何ちゃってライトとは効力に天と地ほどの差がある。やっぱ軽くて安いアイテムで、お手軽に済まそうなどというセコい根性では良い虫は採れない。

点灯後、10分と経たずに真っ黄っきーの蛾が向こう正面から近づいて来た。(・o・)何じゃらホイ❓ 遠いし、直ぐには脳のシナプスが繋がらなかった。

Sくんが声を上げる。
『あっ❗、ハグルマヤママユ❗❗』
(☉。☉)えっ❓、あれがそうなの❓もっと大きいものを想像してたよ。

それにしても飛び方がワチャワチャで軌道が無茶苦茶だ。ヤママユガの仲間は飛び方が雑(ザツ)くて、落ち着きがない。最後は地面を転げ回るようにしてライトへ近づいて来るケースも多い。ひっくり返ってジタバタしてたりもするからソッコーで回収しなければならない。でないと、あっという間にボロボロになりかねないのだ。
Sくんも、そのワチャワチャに翻弄されてキャッチできない。ボロにしたくはないから焦ってSくんまでもワチャワチャな動きになっとる(笑)。でも人のことは笑えない。ワシだってエゾヨツメ(註2)の時は、あんな風にドジョウすくいのオッサンみたくなってた可能性が高いからね。
彼が数度空振りして見失った。でもってライトから離れて飛んで行きそうだったゆえ、咄嗟に網を伸ばして入れてしまった。
フォローのつもりだったので、網のままSくんに差し出す。
『悪かったかな❓逃げそうだったからさ。』
人によっては自分で採らないと気が済まなくて、他人が網に入れたものを貰うのを嫌がる人もいるからね。
幸いSくんはそうゆう人ではなくて、問題なく素直に受け取ってくれた。めでたし、めでたしである。アマミキシタバが飛んで来たら貰おうという下心があるから、彼の機嫌を損なうことは絶対に避けねばならぬのじゃ。あっし、アマミキシタバの為なら滅私奉公するのも厭わない所存でごわす。

せっかくだから、写真を撮らせてもらう。

 

 
黄色いチビっ子モスラだ。
思ってた以上に鮮やかな黄色で、思ってた以上に小さい。大きさはヒメヤママユくらいだろう。いや、もっと華奢なような気がする。

彼が直ぐに2頭めを採ったところで、また飛んで来たのでネットイン。
したら、Sくんが
『いいですよ。持ってて下さい。』
と言ってくれた。
優しいねー。アリガトねー(☆▽☆)

 

 
掌の中におさまってしまうサイズだ。
ミニチュアの黄色いモスラみたいでカワイイ💖
さあ、あとはアマミキシタバ様だ。五感爆発、目を皿のようにして飛んで来る蛾たちを素早くチェックする。先に見つけて採ってしまえば、Sくんも進呈してくれるだろうというセコい算段なのだ。まあ、Sくんはアマミキシタバにはあまり興味がなさそうだから、彼が採ったとしても恵んではくれそうなんだけどもね。
でもさあ…、貰うと流石に自分で採ったとは言えないよな。あっ、この言い草ではワシの方が余っぽど自分で採らないと気が済まない主義の人じゃないか。幾つになっても心に余裕が無いわ。誠にお恥ずかしいかぎりである。

そういえばこのあと、自分に向かって飛んで来た大型の蛾がいたなあ…。まだまだ蛾は恐いので、一瞬ビビッて後ろにバックステップしたんだよね。しながらも網先は反応していて、右から左に撫で斬りにしてやった。目ぼしいものがいたら採ってお渡しするという滅私奉公の気持ちを忘れるところじゃったよ。気持ちが悪いので危うくスルーするところだったわい。
Sくんに、「こんなん採れたよー」と網ごと持ってったら、
『コレ、友だちに頼まれてたんですよー。しかも♀じゃないですかあ❗』
という意外な返答が返ってきた。まさか、んなもんに価値があるとはね。何だか知んないけど、お手柄やん、オラ。
どうぞどうぞ、持ってておくんなせぇーだったけど、今にして思えば、アレっていったい何だったのだろう❓
Sくんは種名を口にした筈だが、興味が無かったからインプットされていないのだ。シャチホコガの仲間だったような気がするが、南方系のヤガだったかもしれない。今になって急に気になってきたよ。結構、レアな奴だったかもしれん(-_-;)
べつに惜しくはないけれど、何だったかを知りたいよ。

午後8時過ぎ。月が昇ってきた。

 

 
天気予報では晴れるだなんて情報は皆無だったから驚きだ。
昼間ならば、スーパー晴れ男の面目躍如だと宣いところだが、最悪だ。Sくんも嘆いている。灯火採集に月はヨロシクないのだ。月の光に影響されて、ライトに飛んで来る虫の数がガクンと減るのである。だから曇りの日や新月などの月が隠れた条件の方が断然に良いとされている。
ってことは、
ダァーッ(T0T)、
アマミっち、飛んできぃひんがなー❗

案の定、ピタリと飛来が止まった。
そして、ついぞアマミキシタバはその姿を現す事はなかった。
又しても敗北である
でも、そんなに悪い気分ではなかった。
初めてハグルマヤママユが見れたのは嬉しかったし、Sくんが湯湾岳の灯火採集にも連れてってくれると約束してくれたからね。湯湾岳が一番アマミキシタバが採れる可能性が高いのだ。あそこに行ってSくんのライトがあれば、勝利は半分は約束されたようなものだ。月さえ出なければ何とかなるだろう。
流れは良くなってきている気がするし、
シャアー(ノ`Д´)ノ❗
明日こそは絶対にリベンジしてやる❗

まあるい月を眺めながら、そう心に固く誓った。

                         つづく

 
追伸
午後9時過ぎには撤退した。
この日に採れたハグルマヤママユは、Sくんが4♂、自分が2♂の計6頭で、♀の飛来は無かった。♂の鮮度は良かったような気がするから、或いは♀は未だ羽化していなかったのかもしれない。あくまでも素人的な考えだけどさ。

どうでもいいような事だが、この日に帰って来て食ったものを載せておく。

 
【イカ下足(げそ)とニラの炒め】

 
夕方、キオビエダシャクを採った帰りにスーパーに寄って値引されていた烏賊ゲソを買ったのだ。ニラは前日に2束60円で買ったものの残りだ。
味付けの詳細は忘れたが、旨かったという記憶だけはある。そういや「サトウの御飯」的なものをレンチンしたなあ。たぶん最初は酒の友で、最後には御飯のお友になったんだろね。
あっ、ゴメン。もといです。それは翌日だったわ。残ったものを白飯に乗っけて食ったのだ。この日の炭水化物は↙️コレでげす。

 
【高菜ラーメン】

 
コレもスーパーで買ったものだ。
値段は確か98円だったと思う。安かったのもあるが、九州ローカルのカップ麺だったからだ。
旅に出ると、日本でも海外でも割りと積極的にカップ麺を食う事にしている。その地でしか中々出会えないものだし、現地で食うと旨いような気がするのだ。遠く離れた場所にいるという確固たる証拠みたいなものだから、あ~遠くまで来たんだなあ…というしみじみ旅情にも浸れるしね。

 

 
九州といえば、高菜漬けである。と思って買ったのだが、可もなく不可もなくのフツーの味でした。っていうか、何だか虚しい気持ちになったのを思い出したよ。
考えてみれば全然外に飲みに行けてないじゃないか。行ったのは来島初日の「脇田丸」だけだ。それも小1時間だけで、タケさんも辞めてて全然楽しくなかった。改めて気づいたけど、旅の醍醐味は晩飯を何処で、そして何を食うかなんだよなあ。美味いもん食って、酒をガンガンに飲んで、現地の人たちと話すのが楽しいのだ。それが結局はカタルシスにもなっていたのだ。ひいては翌日の採集にも良い影響を与えていたに違いない。

 
(註1)ハグルマヤママユ
ヤママユガ科(Saturniidae)
ヤママユガ亜科(Saturniinae)
Loepa属

 

 
🥰美しいねー。
鮮やかな黄色にピンク色の眼状紋が配されている。このビビットなコントラストがいい。ボップだ。黄色にピンクというのは可愛らしさ感が満載なのだ。
それを引き締めるかのような黒い波状線がまた何とも心憎い。しかも波状線は黒だけでなく、白や青みを帯びた銀もある。艶やかにして粋(いき)。この美しさには誰しもが瞠目せざるおえないだろう。
ヤママユガ科の蛾は美しいものが多いが、中でもハグルマヤママユはトップクラスに美しいと思う。ヤママユガの中では小さいと云うのもキュートな感じがして好ましい。惜しむらくは尾状突起がない事だ。もしも長い尾っぽがあれば、世界の美しいヤママユたちにも引けを取らない存在になっていただろう。

 
【♂】

 
触角が上手く整形できてないから65点の展翅だな。
なんか面倒くさくなってきて、妥協したのだ。蛾の殆んどの種が触角整形ウザすぎ。ビシッと蝶みたくには決まってくれないのである。たとえ決まったとしても、時間が経つと狂ってくるしさ。そうゆうとこも忌々しい。

【学名】Loepa sakaei Inoue, 1965
属名”Loepa”の由来は調べたがワカラン。
小種名”sakai”は、たぶん人名由来で、坂江?栄?坂枝?漢字はワカランがサカエさんという方に献名されたものだろう。

【和名】
漢字で書くと、たぶん「歯車山繭」となるのだろう。
ヤママユの仲間は皆さん眼状紋があるけど、周りの波状の線のせいで動的に見えるから歯車ってつけたのかな❓いや、単純に波状線がギザギザだから、それが歯車みたく見えるって事か…❓
由来はさておき、中々良い和名だと思う。早口言葉で三回続けて言うと絶対に噛みそうだけどね。
っていうか、ワシなんて早口だと1回だけでも「ハグルママヤヤム」になってしまう。
そういや、ヒメヤママユの事を何度も「ヒメマヤヤム」と発音してしまって、小太郎くんに『それってワザとでしょう❗』とツッコまれたなあ…。しかし、断じてそのような事はござらん。少なくとも最初の頃は完全にナチュラルです。

【英名】GOLDEN EMPEROR MOTH
ゴールデンエンペラーモスということは「黄金の皇帝蛾」ってワケか…。「黄金の」というのはまだ理解できるが、「皇帝」というには小さすぎるよね。せめて”small”は入れて欲しかった。それならば、逆説的な含蓄もあって、惹きつけるネーミングだと思うけどね。

【分布】 奄美大島,徳之島,沖縄本島北部
他に最近では宮古島でも採れているみたいだ。
ハグルマヤママユの類は東南アジアに広く分布しており、似たようなのが沢山いて、従来は”tkatinka”としてひと纏めにされていた。日本のものも、その1亜種とみなされてきたのだが、近年になって分類が進み、その多くが種に昇格したという。日本産も現在は別種とされ、日本固有種となったようだ。

【レッドデータブック】
・国:準絶滅危惧(NT)
・沖縄県:D(希少種)

【開張】♂80mm内外。♀83mm内外。
♀は、より大型で翅に丸みを帯び、触角の枝が短い。また腹部も太いことから、判別は比較的容易みたいだ。

【成虫の発生期と生態】
3月から11月まで見られ、数度にわたって発生を繰り返すという。発生回数と時期は図鑑によって微妙に異なるが、概ね3〜4月、5月下旬〜6月、8〜9月の発生が基本で、10〜11月にかけても少数が発生するのだろう。だが、年3化なのか4化なのかはハッキリわかっていないらしい。
尚、個体数が多いのは5月下旬と9月だという見解があるが、鵜呑みにはしていない。場所やその年の天候にも左右されるだろうし、蛾は有名種でも蝶みたく生態が詳細には解明されていないものが多いからね。
さておき、改めて思ったんだけど、南方系の種だけあって年3化以上もするんだね。本土のヤママユガの仲間は年1化が基本で一部が2化だから、何だかイメージに齟齬を感じるよ。

山間部に見られ、麓ではあまり見られないそうだ。
灯火採集をすると、日没後すぐに飛んで来る。Sくん曰く、一挙に飛んで来て、その後は次第に数を減らし、午後9時を過ぎると殆んど飛んで来ないらしい。だとしたら、エゾヨツメと飛来パターンの傾向が同じだね。個人的見解だが、おそらく採集するには日没後1時間が勝負なのだろう。
 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、ブドウとあり、ヤブカラシ(ブドウ科)でも飼育できるとあった。しかし『日本産蛾類標準図鑑』には、シマサルナシ(マタタビ科)とあった。補足すると『いもむしハンドブック』には、ツタ(ブドウ科)でも飼育可能と書いてあった。
幼虫は5齢が終齢で、カレハガの幼虫に似ている。ヤママユらしからぬ茶色モジャだす。かなり厳(いか)つくて😱恐いだすよー。
尚、越冬態は何でか知らんけど不明のようだ。

 
(註2)エゾヨツメ


(2017.4 兵庫県宝塚市 武田尾)


(2018.4 兵庫県宝塚市 武田尾)

 
ヤママユガ科(Saturniidae)
エゾヨツメ亜科(Agliinae)
Aglia属

【学名】 Aglia japonica Leech, 1889
属名の”Aglia”は、おそらくギリシャ神話の、輝きを象徴する女神である「Aglaea(アグラエア)」あたりが語源だろう。間違ってたらゴメンやけど…。
小種名の”japonica”は「日本の」という意味である。たぶん最初に日本(北海道)で発見されたからだろうね。
以前は北海道のものを原記載亜種とし、それより南に分布するものには「microtau」という亜種名が与えられていた。しかし明確に区別が出来ない事から、現在では原記載亜種に統一され、この亜種名は使われていない。

【和名】
漢字で書くと「蝦夷四ツ目」となる。つまり北海道で最初に発見され、青い眼状紋が4つあることからの命名でしょう。

【開張】 ♂65mm内外 ♀95mm内外
♀は♂よりも大型で、地色がくすんだ茶色なので雌雄の判別は容易。
とはいえワタクシ、恥ずかしながら未だに♀を採った事がない。だから展翅画像もないんである。
一度、外灯で♂が♀を追いかけ回してるのを見た事があるんだけど、思わずキレイな方を採ってしまったなりよ。採ってから汚い方は♀だったんだと気づいたんだよね。(・o・;)あちゃーって感じだったけど、♀は汚いんでガッカリ感はあまりなかった。だからリベンジしにも行ってないんである。

【分布】 北海道,本州,四国,九州
北海道産はやや小さいそうだ。

【成虫の出現時期】 4〜5月
春の三大蛾の1つとされ(他の2つはオオシモフリスズメとイボタガ)、ヤママユガの仲間では最も早くに現れる。年1化。
猶、エゾヨツメと春の三大蛾については、拙ブログに2017年版と2018年版を書いているので、ヒマな人は読まれたし。

【幼虫の食餌植物】
カバノキ、イヌシデ、ハンノキ(カバノキ科)、ブナ、クリ、コナラ、カシワ(ブナ科)、カエデ(カエデ科)などが記録されている。

 

奄美迷走物語 其の11

 
 第11話『ラーメンとゴア様』

 
2021年 3月28日

この日は朝から完全に雨模様だった。
当然ながら採集には出れないのだが、心の底では少しホッとしていたりもする。目的の蝶が採れない日々が続いているので心が疲れきっているのだ。むしろブレイクが入ることで、かえって気持ちがリセットされるかもしれない。心がリセットされれば、この悪い流れも良い方向へと変わるかもしれない。

午前11時前にリビングに降りる。
昨日、若者二人とラーメンを食いに行く約束をしたのだ。
そのラーメン屋というのは、第3話の『ラーメン大好き小池くん』の回でも書いたが、ゲストハウスのオジー曰く、最近できた店で行列が絶えないんだそうだ。しかし一週間ほど前の月曜にラーメン大好き小池くんと来た時は定休日で食べられなかった。今日はそのリベンジというワケである。店頭に貼ってある写真を見た限りでは二郎系の店っぽかった。
ちなみにニ郎系ラーメンとはラーメンニ郎の系列店、及びそのリスペクト店の事を指し、平打ち太麺で、野菜てんこ盛りのガッツリ豚骨醤油ラーメンの系統の事をいう。

だが、リビングの直ぐ横の若者の泊まっているドミトリー部屋からは何の物音もしない。明らかに起きている気配がない。たぶん💤絶賛爆睡中なのだろう。
外で煙草を1本吸って戻ってきたが、相変わらず中はシーンとしているのでドアを叩いて起こした。
待たされるのは死ぬほど嫌いな性格だから💢イラッときた。けれどメシは一人で食うよりも誰かと食う方が旨い。それに、よくそんだけ爆睡できるなあと思うと何だか怒るのがアホらしくなってきた。
爆睡できるのは若者の特権である。オジさんなんて直ぐに目が醒めてしまう。5時間以上は眠りたくとも眠れないのだ。きっと眠るのも体力がいるのだ。羨ましいかぎりだ。

 

 
『自家製麺 きんぐす豚』。
名前はキングストンに掛けているのだろう。キングストンとは「王の町」という意味で、アメリカをはじめ世界各地に同様な名称の土地がある。また人名にも付けられる事があるから、店主はそのどちらかに強い思い入れがあるのだろう。

 

 
午前11:15くらいに着いたが、我々が一番乗りだった。
ちなみに右が若者Aのドロムシ屋の子(東京在住)で、左の若者Bがカブクワ屋の大阪の子だ(註1)。

改めて店先に貼ってあるラーメンの写真を見ると、やはりビジュアルは二郎系に見える。3月3日にオープンしたらしいが、まさか奄美大島に二郎系のラーメン屋ができるとはね。全く頭になかったから、ちょっとした驚きだよ。きっと島民にとってはもっと衝撃的だったろうから、行列になるのも頷ける。
とはいうものの、開店15分前で一番乗りってどうよ❓通常は行列のできるラーメン屋だったら、15分前には長蛇の列になってて然りだろう。もしや早くも島民に飽きられたのか❓となると、一回食えばいい程度のクオリティーのラーメン❓
しかし10分前になると続々と客がやって来て、開店前には20人くらいの行列になった。なるほど島人のおおらかな性格が表れてるんだね。そうゆう「てーげー(テキトー)」な土地の方が好きだなあ。自分は時間にルーズではないけれど、それはあくまでも表向きであって、根はルーズだ。ゆるい方が心地よいのだ。だから南の島が好きだ。沖縄とかサイパンの時間の流れの方が自分には合ってる。

 

 
Iターンで開業した店だけあって時間通りに開店。一番に店内に入る。もしかしたら行列の先頭で店内に入るだなんて、人生初なんじゃないか❓なんだかプチ嬉しいぞ。一番を目指して前日の夜から並ぶ人の気持ちがチ○チンの先っちょ5ミリ分だけ解ったよ。そこには、確かにカタルシスとかエクスタシーがあるのだ。

店内は最近のラーメン屋らしく、そこそこにお洒落だ。今や女性が入りやすい店作りは当たり前の時代なのだ。それを否定するつもりはないが、昔ながらのラーメン屋の方が断然落ち着くんだよなあ。

席に座ると、先にこのラーメン屋に行った小池くんの感想が思い返された。
『やはり二郎系でしたね。けど二郎系にしては少し味が薄めでしたね。俺、二郎系についてはウルサイんすよー。テーブルに醤油ダレみたいなのがあるので、それ入れたら丁度良くなりました。』
流石、ラーメン大好き小池くんである。コメントからラーメン偏差値の高さが伺える。バカにしていたが、小池くんは本当にラーメン大好き小池さんだったのだ。

メニューは『豚そば』と『まぜそば』の2種類のみ。
値段はどちらも¥850。小盛は50円引きで大盛は100円増し。肉増しは+200円とある。
ここはポピュラーに定番の『豚そば』だろう。若者Bくんも同じく豚そばを選択。若者Aくんは『まぜそば』をオーダーした。えっ❓、この期に及んで❓と思ったが、さすがマイナーなドロムシなんかに興味を持つ男だ。凡人のワシとは脳ミソの構造が違うのである。ちなみにAくん曰く、まぜそばはかなり旨かったらしい。そういえば、まぜそばナゼか大盛りができなかったんだよね。彼がそれを嘆いてから憶えているのだ。

店員に背脂と野菜を増し増し(無料)にするかと尋ねられる。
ここはノーマルかなと思った。モヤシが塔のようにそそり立ってたら食えるかどうか自信かないし、背脂ギトギトだとコッテリすぎてオジサンにはキツイかもと思ったのだ。だが、若者Bの大阪の子が即座にキッパリと「お願いします❗」と言ったので、つられて「ワシもお願いします。」と言ってしまった。

 

 
想定内ではあるが、\(◎o◎)/けっこうガッツリだ。普通の店なら間違いなく大盛り仕様だ。
言っとくと、味玉はオープン記念ということで無料でした。

先ずはスープを飲む。
小池くんは薄いと言っていたが、自分にとっては濃いめかな。でも丁度良い濃さの範疇内で、期待に違わぬ味だ。旨いわ。
自家製の麺は太くて食べ応えがある。歯を押し返す弾力が心地よい。自分好みの麺で、これまた旨いと思う。
チャーシューは薄くもなく、分厚くもない。旨いが、特筆する程のものではない。味玉は、中の黄身がドロッで(≧▽≦)うみゃーい。

全体的にバランスが良くて、量に苦しむことなくワッシワッシと食べ進むことができて苦労せずに完食。スープまで飲み干してやったわい。これで¥850は安い❗ 腹パンパン、満足至極だ。
でも今後、味玉がトッピングになって+150円とかだったら安くないよなあ…。ラーメンで千円以上したら、心情的に許せないのだ。そんなの、もはや庶民の食いもんではない。だから納得できない。ラーメンが高級化していってる昨今の風潮には疑問を持たざるおえない。

店を出て歩き始めたら、すぐ目の前をキオビエダシャク(註1)が飛んでいった。
一瞬、心が曇る。そういやフタオチョウ、アカボシゴマダラ、イワカワシジミだけでなく、楽勝だろうと思っていたコヤツでさえも採れていないのだ。あかざき公園や根瀬部で、それなりの数を見ているのだが、1頭も採れていないのである。他の蝶待ちだったし、飛ぶ位置が高くて結構スピードも速いから気づいた時には射程外で見送る機会が多かったのだ。ターゲットとしては六の次くらいで、真剣には狙っていなかったとはいえ、我ながら情けない。
だが、さして悔しくはない。殴られっぱなしのような結果が続いているから心が鈍感になっているのだ。パンチドランカーは、どうせ曇ってるから活発に飛んでるんだろう程度にしか思わなかった。台湾では今日みたいな雨上がりの日に沢山飛んでいたのだ。当時は大の蛾嫌いだったから、けっこう怖気(おぞけ)る記憶だった。

宿に帰ったら、再び雨が降り出した。
今日は完全休業日だね。体も心も休めてリフレッシュしよう。

夕方に雨が上がった。
そこで、ハタと思った。もしかしたら、キオビエダシャクは住宅街の方が簡単に採れるんじゃないか❓考えてみれば、台湾でも住宅街にいたのだ。今頃気づくとは、やっぱりヤキが回ってる。

午後5時。
住宅街に入って、すぐに飛んでいる個体を発見。あとをついてゆくと複数が飛んでいる場所に出た。
そして、食樹のイヌマキもあった。家々の、そこかしこに植えられている。

 

 
九州や奄美では、イヌマキが庭木や生け垣として植栽されているようだ。ようは住宅街が発生地だったというワケだね。
で、一部の個体が山を昇ってあかざき公園にまで飛んで来るんだろうね。٩(๑`^´๑)۶よっしゃ、害虫駆除じゃ❗

あかざき公園よりもかなり低い位置を飛ぶが、それでも基本的な高さは3〜4Mくらいだ。飛ぶ速度も、そこそこ速い。おまけに蛾道みたいものはあるのだが、蝶道ほどにはコースが明確でなく、待つ立ち位置を絞り込むのに苦労する。
あとは心理的な障壁も邪魔した。大の大人が住宅街で大きな網を振り回していたら、誰しもが奇異な目で見るだろう。完全にアタマがイカれた変人のオジサンだ。恥ずかしさも相俟って集中できない。人に会えば、勿論のこと挨拶はしていたが、遠目に人の姿が見えたら、物陰にコソコソ隠れたりしていたのだ。
しかし、そんなんでは採れない。それに時刻が進めば、基本的には昼行性の蛾だから、そのうち居なくなりかねない。
恥も外聞もかなぐり捨てる。こんなもんも採れないようなら、フタオチョウもアカボシゴマダラも採れるワケがない。そんな奴は馬に蹴られて、とっとと引退した方がよかろう。

気合い一発、💥空中でシバく。

 

 
美しいとは思うが、ちょっとキショイ。どこか毒々しいのだ。おそらく体内に毒を有しているのだろう。派手な出で立ちをする事によって鳥の捕食を免れようとする生き残り戦略だ。つまり毒有りならば、当然ながら食べても不味い。知らずに食べた鳥は、その見た目と共に強烈に学習する。よって以降は見向きもしないという事だ。最初の1頭は犠牲になるものの、他は襲われにくくなるってワケだ。

この蛾を見ると、なぜかゴア様(註2)を思い出す。幼少の頃、最も怖かった存在だ。
オカンに『アンタ、そんな悪さばっかりしてたらゴア様が来るでぇー。』と言われたら、即座にいうことを聞いたらしい。ワシにとっては、それくらい恐ろしかったのだろう。

 
【ゴア】

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

 
この顔面のラメラメの感じとオバハンパーマに瞬きしないギョロ目、そして迫力あるガタイに超ビビッてた記憶がある。

 

 
♀かなあ❓

次第に慣れてきて、恥ずかしさも薄れてきた。
挙げ句には、住民に会っても、
(`・ω・´)ゞ、イヌマキの害虫のクソ蛾を採っとりまんねん。
とか言って、イヌマキがどれかを説明してたりしてた。
えー、皆さん、もしも住宅街で網を振る場合は、ちゃんと挨拶だけはしましょう。あとは住民の迷惑となる行為は慎みましょうね。それが出来ない人が多いから、虫屋は敵視されるのだ。ただでさえ虫採りなんて一般ピーポーのあいだでは市民権ゼロなんだから、これ以上嫌われるような行為はよしましょう。
それが出来ない人は、クズです。

                         つづく

 
追伸
この日は灯火採集にも行ったが、次回に回すことにしました。
思ってた以上に長くなったからです。まあ、想定以上に長くなるのは、いつもの事だけどね。

 
(註1)ドロムシ屋とカブクワ屋
水性甲虫のドロムシの愛好家とカブトムシ&クワガタ類の愛好家の呼称。

(註2)キオビエダシャク

 
シャクガ科の昼行性の蛾で、イヌマキの害虫として知られる。
成虫は濃い紺色に黄色の帯があり、それが和名の由来だろう。日本では南西諸島に多い蛾で、近年になって生息域を拡大させており、九州では定着しているようだ。おそらく地球温暖化の影響だろう。あとは南九州地方では、旧武家屋敷などで生垣としてイヌマキが植えられていることが多く、それも関係しているのかもしれない。


(2017.6.台湾 南投県埔里)
 
台湾で採ったものだ。町なかの花が咲いてる木に沢山集まってた。台湾2度目の来訪の採集初日だったんだけど天気が悪くて、つい採ってしまったのだ。メタリックで美しいとは思いつつも、当時は精神的な蛾アレルギーだったので、背中がゾワゾワで採ってたっけ…。

あれ❓、そういや展翅した覚えがないなあ…。
(;・∀・)あっ、展翅してないわ。たぶん冷凍庫で眠っておられるな。
それはさておき、奄美のものとは下翅の帯部分の感じが違うんじゃね❓黄帯が細くて、外縁にまで達していない。或いは黒斑が連なって帯状になっている。コレって亜種区分とかされてるのかな❓…。
この程度で解説を終えようと思っていたが、気になるから調べておくか…。でもメンドクセーからウィキペディアから引用&編集しよう。

【分類】
シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
Milionia属

【学名】Milionia basalis Walker, 1854
成虫の開帳は50~56mm。光沢を帯びた濃紺の地色に鮮やかな黄色の帯状斑紋のある翅を有する。
幼虫はシャクトリムシ型で、終齢時の体長は45~55mm。頭部、前胸、脚および腹脚、腹部側面、尾端の橙色が目立つ。

【分布】インド、マレー半島、台湾、日本
日本には亜種”ssp. pryeri”が分布する。南西諸島および九州で発生が認められるほか、四国でも成虫が確認されたことがある。

Wikipediaの英語版には、以下のものが亜種として列記されていた。

■Milionia basalis basalis
■Milionia basalis sharpei (Borneo)
■Milionia basalis guentheri (Sumatra)
■Milionia basalis pyrozona (Peninsular,Malaysia, Burma)
■Milionia basalis pryeri (Japan)

台湾のは亜種じゃないのかな❓ Wikipediaの情報って結構間違い多いんだよなあ。だから鵜呑みにするとロクな事はないから、怪しいと思えば調べ直した方がいい。もー、メンドクセーなあ。

調べてみると、変なのが出てきたよ。

「橙帶枝尺蛾 Milionia zonea pryeri Druce, 1888」

台湾の蝶と蛾を調べる時に最も利用する「DearLep圖錄檢索」というサイトに書いてあったのだが、小種名が違うから一瞬別種かと思ったよ。だが亜種名は日本のものと全く同じだ。つまりはコレはシノニム(同物異名)って事なのか❓ クソー、又しても迷宮に足を突っ込んだみたいだ。毎度の事だが、藪ヘビ🐍だよなあ。

英語版のWikipediaにシノニムがズラリと並んでおり、そのものではないが、らしきものがあった。

Milionia zonea Moore, 1872
Milionia guentheri Butler, 1881
Milionia latifasciata Butler, 1881
Milionia pyrozonis Butler, 1882
Milionia butleri Druce, 1882
Milionia sharpei Butler, 1886
Milionia pryeri Druce, 1888
Milionia ochracea Thierry-Mieg, 1907

一番目と下から二番目が、それにあたる。
にしても、そうなるとだな、台湾のものと日本のものは同じ亜種となる。ならば、帯の相違はどう解釈すればいいのだ❓また新たなる藪ヘビ迷宮地獄じゃよ。

しかし、もしやと思い再度「DearLep圖錄檢索」にアクセス。画像を見てみると、簡単に問題解決した。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

なんの事はない。日本のモノと同じだ。つまりは自分が台湾で採って撮影したものが、たまたま変異個体だったという可能性大だ。そうゆう事にしておこう。行方不明の台湾のキオビエダシャクを冷凍庫から探し出してきて確認なんざあ、絶対やめておこう。探すこと自体がかなりの労苦だし、それをまた軟化して展翅するのが面倒だというのもある。だが何よりも恐れているのは、複数ある個体の全部が同じような特徴を有しているケースだ。もしもそうなら、亜種群の可能性が出てきて、新たな迷宮に突っ込んでゆく事になる。スマンがキオビエダシャクのために、そこまでの労苦を負いたくはないのだ。

【生態】
成虫は昼行性。花蜜を摂取するため、さまざまな植物に訪花する。夜間、人工の灯りにも飛来する。産卵は主に食樹の樹皮の裂け目や枝の付け根に行われる。
幼虫はナギ、イヌマキ、ラカンマキの葉を摂食するほか、マレーシアでは Dacridium属(マキ科)の摂食が確認されている。幼虫は振動に敏感で、振動を感知すると吐いた糸にぶら下がって植物上から離れる。また、食草から二次代謝産物のイヌマキラクトンおよびナギラクトンを取り込み、外敵に対する防御に役立てている可能性が示されている。成熟した幼虫は土中で蛹化する。
思った通り、やっば毒持ち風情なんだね。

【人との関係】
突発的に大発生し、食草を大規模に食害する傾向があり、特に生垣や防風林などに用いられるイヌマキの害虫として重要視されている。大発生時は樹皮にまで食害が及び、被害を受けた木は枯死する。南西諸島では古くから大発生が起きていたと考えられ、1910年代から断続的な大発生の記録が残されている。九州南部では1950年代ごろに初めて侵入・発生が確認されたが、当時の侵入個体群は数年で絶滅したとされる。その後、再度侵入した個体群は近年、不安定ながら継続した発生が認められている。沖縄および九州南部では最大で年4回の発生が可能であることが明らかになっているが、九州南部では、本来南方系である本種の発育調整メカニズムが気候に適応できておらず、成虫越冬ができない。にも拘らず、冬に羽化する個体が出るなどの不安定な季節消長が見られる。

 
(註3)ゴア様

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

このラメラメ顔が超絶怖かったのだ。

ゴアとは、手塚治虫の漫画『マグマ大使』を原作としたテレビ特撮番組に登場する悪役のこと。
2〜3億個の星を乗っ取り、悪事を尽くしてきた征服者。アース(30億年前に地球を作った創造者で、マグマ大使も作った)と同じくらい長く生きている。人間体はあくまで仮の姿で、本体は肉食恐竜型とクモ&ムカデ合体型の2パターンを持つ。宇宙の悪魔と言われる反面、子供には甘いという一面がある。

 

奄美迷走物語 其の十

 
第10話『メリーゴーランドは回り続ける』

 
2021年 3月27日

夜は天気が悪かったが、朝になると再び晴れだした。
誤算続きだが、それだけがまだしもの救いだ。

連日通った根瀬部に行くか、それとも朝からあかざき公園に行くか迷ったが、あかざき公園を選択した。
理由の第一は、根瀬部でフタオチョウを狙っても網が届かない事を痛いほどに知らしめられたからだ。今のところ、それに対する打開策もない。となれば、行っても結果はまた同じで、返り討ちになりかねないと判断したのだ。
と言っても、あかざき公園のフタオのポイントは知らない。知らないが、樹高は根瀬部よりも比較的低い。ゆえにポイントを探しあてれば、何とかなるんじゃないかと考えたのだ。

 
【フタオチョウ 夏型♀】

 
第二の理由は、昨日あかざき公園でアカボシゴマダラを見たからだ。根瀬部では見ていないから、まだ発生していない可能性がある。つまり、あかざき公園ではフタオとアカボシの両方を見ているだけに、2種類とも採れるチャンスがあるのではないかと考えたのだ。

 
【アカボシゴマダラ 夏型♀】

 
第三の理由は、あかざき公園にはイワカワシジミの食樹が沢山ある。なのでフタオを早々とゲットできれば、素早くそっちの探索に切り替えられると思ったのだ。この2種が落とせれば、あとは一番難易度が低いアカボシだ。夕方に占有活動をとるから、それに会えさえすれば何とかなる。あかざき公園のアカボシは何度も採っているので、ワシの網でも届く場所を知っているのだ。判断が置きにいってるきらいもあるが、決めたならば突き進むしかなかろう。3種類とも採れれば、走者一掃の逆転スリーベースだ。今までの誤算と失態を全てチャラにできる。俺なら、それが出来る❗キャシャーンがやらねば誰がやる❗

 
【イワカワシジミ】

 
今回の旅では、朝からあかざき公園に来るのは初めてだ。
意外にもアマミカラスアゲハが結構いる。

 
【アマミカラスアゲハ 春型♀】

 
道路沿いが蝶道になっており、飛ぶ高さも低い。取り敢えず♂でもいいから採りたいという人には、お薦めの場所かもしれない。
けれどもミカンの花は見た限りではないから、♀を採るのは難しいかもしれない。ちなみにアゲハ類が好きなツツジの花は一部で沢山咲いている。しかし吸蜜に訪れたものは雌雄ともに一つも見ていない。但し、ずっと花場で張っていたワケではないから偶然見かけなかっただけなのかもしれない。ゆえにコレに関しては情報を鵜呑みにはなさらぬように。

取り敢えず、道路の一番奥まで行ってみた。ここまで入ったのは初めてだ。実を言うと、秋に来た時には直ぐにアカボシのポイントが見つかったので、ポイントを探して公園全部を隈なく歩いてはいない。

 

 
やっぱ、奄美の海はキレイだ。
たぶん半島の左側の集落が知名瀬で、山の向こう側が根瀬部だろう。
海の手前の林縁の連なりを暫し見渡す。いかにもフタオやアカボシがいそうな環境に見えたからだ。ここなら見渡しが良いから、ワシの千里眼ならば居ればすぐにワカル。段々ヤル気が出てきたよ。本気になれば、新たなポイントも見つかるだろう。

しかし、30分くらい居たけど姿なし。仕方なく他を探すことにする。(・o・)何で❓ 結構、ポイントを読む能力には自信あったのになあ…。どうやら完全に迷路の住人だ。足元の砂が波に崩れてゆくような感じだ。徐々に自信と時間が削り取られてゆく。

 

 
そういやレンタルバイクの写真を1枚も撮ってないなあ。
そう思って、今更ながらに撮る。ようするにヒマなのである。フタオもアカボシもイワカワも1つもおらん。

 

 
思うに、この赤いメットが全ての元凶なのかもしれない。以前は名瀬でレンタルバイクを借りていたのだが、その時にいつもカブっていたメットが験担ぎ(げんかつぎ)のアイテムみたいになっていた。

 

 
(-_-メ)ワリャ、シバキ倒すぞ❗
である。

 

 
この💀ドクロマークが気にいってて、当時は何かパワーの源みたいになっていたのだ。謂わば気合い注入装置みたいなもので、これをカブると心にビシッとキックが入ったのだ。でもって、バンバンに蝶が採れたのである。
だが、そのレンタルバイク屋は廃業したから、今や借りたくとも借りられない。べつにモノに頼って採集しているワケではないけれど、ある程度はモノや物事には依拠はする。自分の心を強化するために使えるものは何でも使う主義なのだ。前向きになれる材料を積極的に取り込まなくては、弱い人間は簡単に心が折れかねないのだ。
世の中には、本当の意味で強い人間は存在しない。いるのは、弱い人間と強い振りができる弱い人間だけだ。

今まで気にも止めていなかったが、ふと見るとナンバープレートが可愛い。なので、つい写真を撮ってしまう。

 

 
デザインにアマミノクロウサギとヒカゲヘゴがあしらわれている。そして下側には「世界自然遺産へGo!!」の文字がある。
そういや、宿のオジーが「島では、十年ほど前から毎年のように世界遺産、世界遺産と騒いでいるが、もはや何も期待していない」云々みたいなことを言ってたな。
その後、大阪に帰ってから奄美大島と徳之島、沖縄本島北部が世界自然遺産に7月に選定されることが5月にほぼ確実になった。喜ばしい事ではあるが、観光客がドッと押し寄せて来て、かえって自然破壊が進まないことを祈ろう。
そして正式決定すれば、どうせ採集禁止種や禁止区域がまた増えるんだろね。そのくせリゾートホテルの建設とかは野放しで、平気でバンバンに木を伐って、ポコポコ建ちそうだけどさ。所詮、世界遺産も経済の発展を目論んでのもので、それ無くしては推進されない面があるのだ。嘆かわしいが、金儲けが全てにおいて優先されるのが現代社会なのである。
エコとかも、所詮は金儲けの手段にすぎないと思ってる。ヤシの実洗剤やヤシの実石鹸のせいで、どれだけの貴重な森が伐採されてパーム椰子(アブラヤシ)畑に変えられた事か。今や東南アジアは何処もパームとゴムの木だらけだ。何が「手肌と地球に優しい」だ。偽善じゃないか。正義の御旗を偉そうに振る奴にロクな者はいない。

結局、探しあてられずに慰霊塔へ行く。

 

 
でも、見せ場なしのノールック、ノーチャンス。
結局、フタオ、アカボシ、イワカワのどれ1つとさえ見ること叶わなかった。見もしないものを採れるワケがない。
だとしても、何が「キャシャーンがやらねば誰がやる❗」だ。ちゃんちゃらオカピーだ。偉そうに啖呵(タンカ)切っといて、結果がコレかよ。
(;_:)あー、もう何をどうしたらいいのかワカンナイや。
まるで同じところを延々と回り続けるメリーゴーランドの馬に乗ってるような気分だ。何処にも行けないし、何処にも辿り着けない。

                         つづく

 
追伸

話は尚も続く。
ネットの天気予報の全てが夜からは雨マークだったので、今宵も夜間採集には出ないことにした。たとえ雨じゃなくとも、どうせ多くは望めない。こんな体たらくだと、さらなる返り討ちにあって、益々惨めな気分にさせられるだけだ。

今朝にはラーメン大好き小池くんも東京に帰ってしまったし、ゲストハウス涼風には誰も今夜も遊びに来ない。連日のパーリーがウソだったんじゃないかと云うくらいの落差だ。
それでも昨日よりかはマシか…。入れ替わりに、新しく東京から来た医大生と二人組の若者が増えた。何れも虫屋である。医大生のSくんに、若者2人が興奮していた。虫屋でツイッターをしている者ならは、誰でも知ってる有名人らしい。そうゆうSくんも、ブログやFacebookでワシのことを知っていたので驚いた。まあまあワシも有名らしい。ホンマかいな❓
若者2人は最近になってツイッターで知り合い、それぞれ大阪と東京に住んでいるのにも拘らず、奄美大島に一緒に来たという。意気投合したのだろうが、ネット上で知り合って、しかもまだ日が浅いのによく二人で旅行なんて出来るよな。知らない人がネット上でワシのことを知っているという事も含めて、オジサンには考えられない世界だ。時代は虫屋の世界でも急速に変貌しつつあるのだ。
ちなみに医大生は蝶屋、若者2人は甲虫屋で、大阪の子がカブトムシとクワガタ好きの所謂(いわゆる)カブクワ屋。東京の子は驚きの「ドロムシ屋(註1)」だった。あっ、ドロムシ云々は間違ってたらゴメン。たぶんそれであってる筈だけど、あまりにも興味がなかったゆえ、テキトーにしか話を聞いていなかったから断言はできない。それでも水溜まりとかにいる極小の甲虫だと言ってた覚えがあるので、ドロムシ&ヒメドロムシハンターであってると思う。

それはさておき、若いのにいきなりマイナーな虫から入るってのも驚きだ。通常は蝶とかカブクワとかカミキリムシなどのメジャーな虫から入って、徐々にマイナーな虫へと興味の対象が移行してゆくものだからね。小太郎くんから、最近はそうゆう若い子が増えていて、知識量も相当あるとは聞いてはいたが、ホントだったんだね。そういや、医大生くんはドロムシの話に全然ついていけてたな。小太郎くんもそうだけど、若い子はオールラウンダーが多いのかもしれない。だとしたら、ポテンシャルは高い。

若者二人組が唐揚げ(何の唐揚げだったかは忘れた。或いは天ぷらだったかもしれない)を作り始めた。でも料理作りに慣れていないせいか、見てらんないくらいの出鱈目っぷりだった。本人たちからすれば上手くいったみたいだが、オラからすれば、どうみても失敗作だ。
かなり酔っ払っていたが、それを見て若者たちに美味いもんを食わせてやろうとカッコつけたのがいけなかった。ここで、この日最後にして最大の誤算が起こる。
タコに軽く火を入れて霜降りの半生状態にしようと思い、酒と水とでサッとボイルした。それをザルにあけて冷水で冷やすために鍋をシンクに素早く移動させようとイキってノールックで振り返った時だった。

💥( ゚∀゚)o彡ガッシャーン❗

あいだにあった洗い物の山にガーンと鍋がぶつかって、その勢いで熱湯が大きくハネて、ワシの胸に思いきしかかったのだ。
酔っ払ってるので、そんなに熱くは感じなかったが、一応洗面所に行って水で冷やした。
しかし時間が経つにつれてジンジンと痛みだした。それでも酔っ払ってるので、その時はたいした事ないだろうと思ってた。でも翌朝みたら、『北斗の拳』のケンシロウみたく左胸の上から右胸の下にかけて、斜めザックリに大きな火傷キズができてた。
誤算のドミノ倒し、ここに極まれり。まさか自分が奄美大島に来て火傷を負うとはミジンコほどにも思ってなかったよ。目的の蝶が採れないのも全くもって想定外ではあったが、大きな枠組からみれば想定内ではある。天気がずっと悪かったとか、網がブッ壊れただとかのアクシデントは、パーセンテージとしては低いものの、充分あり得るからね。でも火傷するなんてウルトラ想定外の大誤算だ。又しても誤算続きの一日で、最後の最後にはコレかよ❓
(ㆁωㆁ)白目、剥きそうやわ。
迷走と誤算のループは、リインカネーションのように負のエネルギーを再生し続けている。

                     つづくのつづく

 
一応、その時の料理の画像を貼っつけておく。

 
【蛸の霜降り ニラ醤油漬け】

 
勿論、若者たちには好評であった。
しかし、今となっては細かい記憶が曖昧だ。
ニラはスーパーで2束60円くらいで売ってたものだ。それは憶えているのだが、酔っ払ってたせいか肝心の料理のレシピが思い出せない。火傷したんだから、流石にタコを霜降りにしたのは憶えてる。問題は味付けだ。ワシが醤油だけで味付けするなんて事は有り得ないから、酒とか味醂を入れたのだろう。或いは冷蔵庫にあった袋入りの何かのタレ的なものを使って醤油と混ぜて調整したのかもしれない。
あと、画像を見ると上に香辛料らしきものが乗っている。コレの正体もワカラン。全く記憶にないのだ。色からして生姜や辛子ではない。となると柚子胡椒か山葵だろう。
まあ、若者二人は喜んでくれたし、自分の記憶でも旨かったという事だけは残ってるから、まっいっか。
 
今回もカタルシスがなくて、誠に申し訳ない。特に今回は何ら盛り上がるシーンもなかったから、尚のこと読み手側はツマランかっただろう。ホンマ、すいませんm(_ _)m
しかし事実であってフィクションではないんだから、仕方がないのである。

 
(註1)ドロムシ屋
ドロムシとは、ドロムシ科とヒメドロムシ科に属する甲虫の総称。世界各地に分布し、一部を除き水生で、夜間に活動する。日本にはドロムシ科が3種、ヒメドロムシ科が45種前後産することが知られている。

 
【ムナビロツヤヒメドロムシ】

(出展『mongoriz‐2のブログ』)

 
極小昆虫だ。下に方眼紙が敷いてあるので、如何に小さいかがよくわかりますな。敬意を込めて言うが、こんなの採るなんて変態だ。裏を返すとスゴい事だと思う。探すの大変そうだもんね。とてもじゃないが、自分には真似できない。
で、そのドロムシやらヒメドロムシの愛好家のことを「ドロムシ屋」と呼ぶ。虫好きの間では、この「〜屋」という言葉がしばしば用いられ、各ジャンルのマニアの称号として後ろに付けられる。例えばワシならば「蝶屋」だ。つまり蛾好きなら「蛾屋」、カミキリムシ好きなら「カミキリ屋」、カブトムシ&クワガタ好きならば「カブクワ屋」ってワケだすな。

冒頭の説明では簡素すぎるし、ちょっと興味が湧いたので、もう少し調べてみることにした。

ネットの『山陰のヒメドロムシ図鑑』によると、以下のように書いてあった。
「分類上はコウチュウ目のヒメドロムシ科・ドロムシ科に属しています.体長1-5mmほどの小さな甲虫です.川の底にすんでいて,石や流木などに,鋭いツメでつかまっています.呼吸は水中の酸素を直接取り込むとされています.外見からはあまり水生昆虫らしく見えませんが,高度な呼吸方法を持っている昆虫なのです.山陰の川にはたくさんのヒメドロムシがすんでいますが,あまりに小さいため,これまでほとんど注目されていませんでした.さらに調査を行えば,きっとたくさんの発見をすることができるでしょう.」

高度な呼吸法について補足すると、この類は一般に体の下面に微毛が密生し、そこに蓄えられた空気の薄い層が気門と連なることによって水中で呼吸が可能なんだそうだ。なので水底にある石に付着したり、砂中に潜っていることができるんだとさ。尚、幼虫も同じく水生である。

いずれも10ミリメートル以下の小さな甲虫で、殆んどの種が長めの楕円形から細長い形であるが、卵円形のものもいる。殆んどの種が暗色だが、淡色紋を有するものや全体が明るい褐色のものもいる。肢は細長いが、ツメは大きく発達し、岩などに掴まるのに適している。触角は多くは糸状であるが、一部の種、特にドロムシ科では太くて短く、棍棒状をなす。

ドロムシ・ヒメドロ類を採集するには大きく二つの方法があるそうだ。一つは灯火採集法(ライト・トラップ)。多くの種が灯りに集まる習性があるので、それを利用するというワケだね。
しかし灯りには来ない種もいるから、そういう種は川から直接採集する。謂わば正攻法ですな。これが2つ目の採集方法。
成虫は川底の石などにくっ付いているから、川底を撹拌してやると体が浮き上がって下流へと流されてゆく。しかし鋭いツメを持っているので、すぐさま石や流木などに掴まることができる。その直ぐモノに掴まる習性を利用して、流れ下るのを底に穴をあけた目の細かなネットや手ぬぐいなどの白布を使ってキャッチするんだとさ。
ふ〜んである。世の中には色んな虫がいて、それを工夫して採られている方もいるんだね。

余談だが、以前は奄美のムナビロツヤヒメドロムシは別亜種とされてきたが、近年になって別種として分けられ(Jung&Bae 2014)、「リュウキュウムナビロツヤヒメドロムシ」という新たな和名が付けられている。東京のドロムシ屋の子は、たぶんコレを採りに来たんだろね。
それにしても、クソ長い名前だよなあ。なんと数えたら16文字もあったわい。亜種から別種に昇格したゆえ、やむなしなところはあるが、もちっとネーミングに工夫があってもいいんじゃないかと言いたくなる。このクソ長い和名問題は他にも多数あるから、そうゆうのを見るたびに軽い苛立ちを感じるよ。虫屋って全体的にセンス悪い人が多いんじゃないかと勘ぐりたくもなる。まあ、子供の名前も同じようなものだから、虫屋だけじゃないんだろうけどさ。