奄美迷走物語 其の九

 

 第9話『誤算のドミノ倒し』

 
2021年 3月26日

翌日も快晴だった。
でも予報では明日からまた天気が崩れるらしい。と云うことは今日もしもフタオチョウやアカボシゴマダラが採れなければ、ワヤムチャ暗黒星雲の只中に呑み込まれるやもしれぬ。こっちへ来てからの天気は基本的にグズつきがちだから、この先ずっと雨が続くことだって有り得るのだ。
そうと解っているだけに気合を入れねばイケんところだが、気持ちは「なんくるないさ」だ。昨日、フタオの飛行ルートは読めたし、経験上アカボシは発生し始めさえすれば楽勝で採れると思ってるから全然追い込まれていないのだ。サクッと終わらせて、とっととイワカワシジミの探索に力を注ごうとさえ思ってた。でもって夜にはアマミキシタバも落として、今日一日で目標を全部達成してやろうとまで企んでいたのである。

 
【Polyura weismanni フタオチョウ 春型♂】

【同♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【夏型♂】

【同♀】

 
【アカボシゴマダラ Hestina assimilis 春型♂】

【同♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【夏型♂】

【夏型♀】

 
午前10時前に根瀬部に到着。

 

 
とりあえずバナナトラップをかけて回る。昨日、用意しなかったのは単に二日酔いで頭が回らず、持って来るのを忘れたからだ。べつになくても採れると思ってたから、さして気にも留めてなかったけどさ。それにそもそも春はフタオもアカボシもトラップにあまり誘引されないと言われている。それを知っていたのも大きな精神的瑕疵にはならなかったのだ。
でも今日は確実を期してトラップを用意した。奄美在住の標本商Fさんも春はトラップには来ないと言っていたが、全く誘引されないなんて事はないだろう。春型だけが餌を摂らないなんて事は有りえへん。エナジー補給なしでは活動でけんがな。何かは食っている筈だ。だいたい春と夏とで習性がそんなにも変わるだなんて俄(にわか)には信じ難い。そんなもん、蝶における都市伝説みたいなもんじゃないのぉー(´ε` )❓
それに『蝶屋(Tefu−ya)のブログ』には、春型のフタオチョウについて、こうも書かれてあった。

「しかし、習性は異なり、1化(春型のこと)は極端に敏感で、上空を旋回、飛翔する個体に合わせてネットを持った採集者など、地上で動く人がいたら100%近くトラップどころか下方には降りてこない傾向のため、トラップ設置場所から多少離れた周辺のミカン畑でカラスアゲハ、ミカドアゲハ、ジャコウアゲハ、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハ、また、林道沿いの林縁などではスミナガシ、アオバセセリ、クロセセリ、イワカワシジミなどを採集し、1時間前後してからトラップを見回る。一方2化は周辺に採集者がいても仕掛けたトラップ前方空間を低空で旋回し、空中戦でも容易にネットイン可能である。」

ようするに春には来ないワケではなくて、単に用心深くて中々寄ってこないって事だ。ならばコチラも用心深くしていれば、何とでもなる。テリトリー待ち採集とバナナトラップの2本立てでいけば、どちらかで採れるだろう。

さておき腹が減っては戦はできぬ。
トラップをかけ終わっところで腹ごしらえ。

 

 
今日はカツカレーにした。
カツと勝つをかけたワケやね。我ながら古典的な願掛けだと思うけど、気持ちを少しでもアゲアゲにしようというささやかな努力なのだ。こういう細かな事が意外とメンタルを底支えしてたりもするからね。
しかし、テンションは1ミリも上がらない。見た目が旨そうだったから期待したのに、味は可もなく不可もなくってところで見事に裏切られた。これまた誤算だよ。旨かったら、よし今日はイケるぞ!とか士気も少しは上がるのにさ。こういう小さな躓きばっかで、今一つ波に乗れないのかもなあ。

午後11時になった。
そろそろ飛び始める時刻だが、でもフタオちゃんは姿を現さない。まあ、そのうち飛んでくんだろ。なんくるないさ。

午後12時を過ぎた。
それでも飛んで来ない。絶好の採集日和なのに、まさか1つも飛んで来ないだなんて想定外の誤算だ。( ;∀;)なしてー❓いったい何が起きているのだ❓理由がワカラナイ。まさかの鬼日❓蝶採りをやってると、たまに天気、気温、湿度、時期など全ての条件が揃っているのに、全くターゲットが姿を現さないことがある。そうゆう日を業界では鬼日と呼ぶのである。

村のおじーとおばーが歩いてきたので挨拶する。
『何、採っとるのー❓』
『蝶ちょですぅー。でも目的の奴が全然飛んできまへーん。』
『頑張りんさいねー。』
『ハーイ、頑張りますですぅー。』

ちょっと元気が出た。旅での現地の人とのふれあいは心が和むものだ。だから挨拶は大切だ。なのにロクに挨拶もできない虫屋が多すぎる。ゆえに現地の人に嫌われて採集禁止に繋がったりもするのだ。見ず知らずの人間が挨拶もなく自分の土地をウロウロしてたら、誰だっていい気はしないだろう。
過去にも度々言っているが、挨拶できない奴はクズである。

午後1時。
(◎o◎)ほぇ〜、ホント何が起こっておるのだ❓全く飛んで来ないし、トラップも閑古鳥だ。フタオどころかハエ1匹寄って来ない。
トラップに何か不具合でもあるのかと思って鼻を近づけて匂いを嗅いでみるが、良い感じに発酵していて申し分ない状態だ。なして❓ やはり春はバナナトラップに寄って来ないというのはホントだったんだね。解せないが、事実として受け容れざるおえない。
そうゆうワケで、あまりにもヒマなので少し周囲を歩き回ることにした。

道に出て暫く歩くと、木の梢から蝶が飛び立った。

( ゚д゚)いたっ❗❗

ひと目みてフタオだと解った。もう昨日みたいに他の蝶と間違うことはない。アホはアホなりにちゃんと学習しているのだ。
多分、昨日の個体に違いない。キミ、ここに居たのね。
しかし軽く旋回したかと思うと、直ぐにまた梢に戻って静止した。

 

(正面の木、右梢の一番高い所の右端に羽を閉じて止まっている。画像を拡大すると止まっているのが辛うじてわかります)

 
結構、高そうだ。とりあえず長竿を伸ばしてみる。
でも最初から薄々感づいていた事だが、6.3mでは全然もって届かない。という事は、止まっている位置は優に8m以上はありそうだ。
図鑑等には高い位置に静止すると書いてはあったが、予想以上に高い。まさかの誤算だ。誤算、誤算と、さっきからバカの1つ覚えみたいに並べ立ててる自分に情けなくなってくる。これでは、まるで自分のおバカぶりを自ら喧伝しているみたいじゃないか。いっそ情けないついでに、言い訳をカマしておこう。
実を言うと、海外を含めてもフタオの♂がテリトリーを張っているのを採った事は一度もない。吸水やバナナトラップ、獣糞に来た奴しか採ったことがないのだ。それでも充分採れるから、そんな効率の悪い採り方なんぞ試みたことさえないのだ。そもそもテリトリーを張っているところを見たことさえ殆んどない。
あっ、思い出した。そういやタイとミャンマーとの国境で見たな。あの時も10m以上の梢でドロンかエウダミップスかが何頭かで猛スピードで追い掛け合ってたわ。いやネペンテスだっけか❓まさかのホウセキフタオだったりして…。兎に角、ありゃ採れんわと思ったよ。全然、話にならないって感じ。

 
【エウダミップスフタオ Polyura eudamippus ♂】


(2016.4.14 ラオス バンビエン)

 
【ドロンフタオ Polyura dolon ♂】

(2014.4.13 タイ ファン)


(2016.4.22 ラオス ウドムサイ)

 
画像のドロンフタオのラベルを見て記憶が甦ってきた。エウダミップスの可能性もないではないが、たぶんドロンだ。なぜならタイ北部のFang(ファン)で初めてドロンに遭遇したから、よく憶えているのだ。但し、此処にはエウダミップスもいる。だから最初はエウダミップスだと思った。しかし止まっている姿に違和感があったので、再度仔細に見て『コイツ、違う奴っちゃ❗』と気づいた時には結構な衝撃だった。
海外に蝶採りに行く時は、何がいるかロクに調べて行かないので、こうゆう事はチラホラあった。ちゃんと調べてから行けよと、よくお叱りをうけるが、そっちの方が面白いから今もスタイルは変わっていない。予定調和がない分、楽しめるのだ。今回みたく目的がハッキリしている方が、採れないという事にかえって苦しめられたりもする。それはそれで楽しいのだが、その場合はあくまでも採れてこそのカタルシスであり、エクスタシーなのだ。今みたいな状態だと、殆んど拷問だ。

ネペンテスとホウセキフタオの画像も用意しちゃったんで、せっかくだから貼付しておこっと。

 
【Polyura nepenthes ♂】


(2016.3.11 タイ チェンマイ)

 
【Polyura delphis ♂】

(2015.5 マレーシア キャメロンハイランド)

 
余談だが、ホウセキフタオは裏面に宝石のような鮮やかな色が散りばめられていることから名付けられた和名です。

 

(2011.3.1 マレーシア ランカウイ島)


(2011.2 マレーシア キャメロンハイランド)

 
話を奄美のフタオに戻そう。

(-_-;)参ったなあ…。この状態だと、指を咥えて見ているしかない。再び飛んで、そのうち低いとこに止まるだろうという希望的観測で待つしかあるまい。
だとしても、今できうる事は全てしておこう。
先ずは網の色を赤から白に替える。ラオスやタイで2度ほどフタオが白網に止まったのを思い出したのだ。ちなみに赤網にはアゲハ類やツマベニチョウが寄って来るから使ってた。ターゲットのアマミカラスアゲハにはフル無視されてたけどさ。

 

 
次にトラップを全て回収してきて、フタオの止まっている木の周囲に掛け直す。目の前にいるんだからトラップの匂いに感づかない筈がなかろう。フタオといえば、食いもんに意地汚い事で知られている。吸水に来た時は夢中になってるから手掴みでも採れるし、トラップに来た時は吸汁し過ぎて腹がパンパンになって飛べなくなり、ボトッと下に落ちたりするのだ。そんな食い意地の張った奴に、目の前の御馳走を我慢できるワケがなかろう。

しかし相変わらず止まったまんまで、微動だにしない。他のオスが飛んで来ないせいもあるのだろうが、アオスジアゲハが近くを飛んでも無視だ。オスが縄張り争いをするチョウの大概はライバルである同種のみならず、縄張り内に入って来る別な種でも追い立てるのが普通だ。国蝶オオムラサキなんぞは、自分よりも大きい鳥まで追い掛け回す始末なのだ。

 
【オオムラサキ Sasakia charonda ♂】

(2020.6.26 東大阪市枚岡公園)

 
気まぐれに、たまに思い出したように飛ぶが、あまり遠くへは行かず、直ぐにまた梢に止まる。
これまた誤算である。テリトリーを張るチョウの殆んどはせわしない。興奮気味で頻繁に飛び立ち、あちこちに止まるケースが多いのだ。それによってチャンスも生まれてくる。たまに低い位置にも止まるからね。それがこんなにも不活発だなんて思いもよらなかったよ。そういや昨日も過ごした時間のわりには飛んでる姿を見た回数は少ない。ワケわからんぞ。そんなにも懶惰(ものぐさ)なチョウなのか❓ たまたまこの個体がそうなのかもしれないが、サボんなよなー、働けよ。そんなんじゃメスをゲットできひんぞ。

午後2時前。
トラップはフル無視され続けている。コレまた誤算だ。まるっきり相手にされてない。寄って来る素振りさえ見せないのだ。

午後2時15分。
そろそろテリトリーを張る時間も終わりに近づいている。悲痛な思いで、飛び立つことを願う。
したら、通じたのか飛んだ❗そしてスピードを上げて木からどんどん離れてゆく。すかさず後を追う。
見てると、昨日、Fさんと見た場所で旋回しだした。採るチャンスを求めて裏側に回る。しかし間に合わなかった。左側に旋回して奥へと飛んで行く。またあの木に戻るつもりか❓だがそっちは行き止まりになってて、追い掛けられない。慌てて来た道を引き返す。
走って元の場所まで戻ると、やはりいた。止まらすにまだ上空を飛び回っている。なるほど、ルートは読めたぞ。この木を拠点にして、時折足を伸ばしてパトロールに出るのだろう。しかし、こんな珠にしかパトロールに出ないとなると、蝶道で待つ方法は使えない。あまりにも効率が悪過ぎる。そしてトラップでも採集は望めないとなると、八方塞がりだ。ならば、ここで何とか仕留めておきたい。
やがて白き騎士は左の木に移り、少し高度を下げた。そしてチラチラと細かく羽ばたき始めた。止まりたがってるように見える。止まればチャンス到来だ。あそこならギリギリで届くかもしれない。

止まれ。
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれー

心の中で、エヴァンの「ダメだダメだ逃げちゃダメだ」の碇シンジばりに連発で唱え続ける。

(☆▽☆)止まった❗
この千載一遇のチャンス、逃してなるものか❗大急ぎで長竿をスルスルと伸ばす。

Σ(゚口゚;)ギャヒーン❗でも微妙に届かん❗

30cmだか50cmだか、あと少しだけ届かんのだ。
クソッ、なり振り構ってらんない。かくなる上は恥も外聞も捨てちゃるわい。スクーターの置いてあるもとへと走る。

─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ ブゥィーン
乗って戻って来て、道路の端ギリッギリに停める。そしてキッと上を見据えて、まだ同じ場所に止まっているかを確かめる。
(◠‿・)—☆いるっ❗
驚かせないようにゆっくりとバイクをさらに前へと進め、位置を調整する。心の中のわさわさ感が急沸騰する中、焦るように長靴を脱ぎ、シートの上によじ登る。
だがスペースは思ってた以上に狭い。おまけに真っ平らではなくて微妙に傾いている。慎重にバランスをとりながら竿をそろりそろりと上へと伸ばしてゆく。しかし竿を伸ばせば伸ばすほどバランスを取るのが難しくなってくる。竿を一段伸ばすごとに重さが腕に乗しかかり、少しの風にもあおられて、生まれたての子鹿みたく足がワナワナするのだ。焦るなオレ、落ち着けオレ。ここで落っこちるワケにはゆかぬ。

あと一段を残したところで、止まっている位置を確かめる。
(*゜0゜)ゲッ❗真下すぎて枝先が被さって蝶の姿が見えない。

だからといってバイクの位置を後ろに下げれば、今度は届かない可能性が出てくる。それに、そうなると竿を一旦縮め直してから再度伸ばさねばならない。もしも、あたふたしている間に飛ばれでもしたら、泣くに泣けない。

肝を据える。ゆっくりと息を吐き、最後の一段を伸ばす。
えーい(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ままよ。
伸ばしきったところで、だいたいのアタリをつけてバサッと上から被せた。

コンマ何秒かが過ぎた。
入ったのか…❓
そう思ったのも束の間、真上をゆっくりとスローモーションのように飛び立ってゆく姿が見えた。


∑( ̄皿 ̄;;)ヒィーッ、やらかしイガ十郎(༎ຶ ෴ ༎ຶ)

採れたと思ったのに、大大誤算じゃないか。

彼はさして驚かされたという風でもなく、王者の如くゆっくりと旋回して、また最初の高い梢に戻って静止した。
なぜハズした❓コースは間違ってなかった筈だ。だとすれば高さだ。もしかしたらアレでもまだ届いていなかったのかもしれない…。となれば、あの位置でも7mはあった事になる。クソッ、持ってくる長竿の選択を完全にミスった。6.3mもあれば充分だろうとナメてかかったのが激しく悔やまれる。

茫然とその場で立ちすくんでいると、さっきのおばーが又戻って来た。
『採れたかねぇ❓』
『採れましぇーん。今さっき逃げられましたー༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

その後、30分近く待ったが、彼は眠りについたかのように強い風が吹いても微動だにせず、二度と舞い上がることはなかった。

                         つづく

 
ここで、キリよく終わりたいところなのだが、話はまだ続く。
2回に分けるとレイアウトをやり直さなければならないし、他にも何だかんだと面倒ごとが増えるのだ。

ショックを引きずったまま、あかざき公園へと向かう。

  

 
慰霊塔でアカボシを待つ。でも心ここにあらずで、半ば呆けてベンチに座っていた。さっきのショックを引き摺ったままで、気力萎え萎えである。

午後4時。
そんな状況下、奥から格子模様の大型の蝶が飛んできた。
でも緩やかな飛び方だったし、リュウキュウアサギマダラだと思った。大きさ的にもそう見えた。アカボシのオスは、もう少し小さかった筈だ。それに此処でメスを見た事はないし、時期的にも未だメスは発生していないだろう。ということは、やっぱリュウアサだろう。だったら無視だ。リュウアサなんて何処にでもいる普通種だから、んなもんを採るためにわざわざ立つ気にもなりゃしない。

 
【リュウキュウアサギマダラ】

 
けど近づいて来たら、にしては地色が白いような気がしてきた。でも立ち上がるのが邪魔くさかった。心が折れているので「わざわざ行ってみたら、リュウキュウアサギマダラでしたー」じゃ、傷口に塩を塗るようなものなのだ。下手すりゃ、立ち直れなくなる。
蝶は6、7m横を通り過ぎて東屋に向かって飛んでゆく。アホ蝶だな、そのまんまだと壁にぶつかるぞと思ってたら、直前で慌てたように左に軌道を変えた。ざまあない。
だが次の瞬間、赤い紋がハッキリと見えた。
(,,゚Д゚)ハッ、じゃなくてアカボシだ❗
そう気づいた時には、時すでに遅し。
慌てて追い掛けるが、早くも壁の左側の空間を抜けようとしている。必死で距離を詰めたはものの、どうみても届きそうにない。網を振るチャンスを逸して見送るしかなかった。

誤算のドミノ倒し。誤算も極まれりの大誤算だ。
そして、フタオの♀が飛んで来た時と同じようなシチュエーションでもあった。つまり初動が遅れて、大チャンスをみすみす逃してしまったワケだ。学習能力ゼロじゃないか。アホは、やっぱり何処までいってもアホだ。
あれだけ大きかったという事は、たぶん♀だったのだろう。♂さえまだ見てないのに、やや遅れて発生する♀がまさかもう飛んでいるだなんて、これっぽっちも考え及ばなかった…。痛恨のボーンベッドである。♀は♂と比べて、そうは採れない。♂ならば、まだまだチャンスもあるだろうが、♀に又会える保証はないのである。それを考えると忸怩たる思いだ。ここぞという時に力を発揮できない者には、神様はけっして果実をお与えにはならないのだ。
アカボシの♀は毒のあるリュウキュウアサギマダラに擬態していて、飛び方までソックリ似せていると言われている。その擬態精度は高いと評価されており、標本商の森さんでさえも騙されたと言ってた。けれど、自分は一度も奄美で騙された事はなかった。んなもん、楽勝で見破れるわいと思っていたのだ。その後、台湾のアカボシゴマダラ(註1)の擬態精度の高さには一瞬は騙されたものの、ソレとて直ぐに違うと気づいた。だから騙されるワケがないという自負があったのだ。

 
【台湾産アカボシゴマダラ♂】

【同♀】

(2016.7 台湾南投県仁愛郷)

 
それがこの期に及んで騙されるとは何たる恥辱、まさかの失態だ。我が絶不調ぶりに、もう膝から崩れ落ちそうだよ。認めたくなかったけど、珍しいくらいに今のオラって何やってもダメダメだ。メンタルとか、もうそうゆうレベルの話ではない。たぶんメフィラス星人(註2)が、何らかの理由でワシのことを悪質な手で妨害しているのだろう。

その後、予想通り二度とアカボシは姿を見せなかった。
これを予想通りって言ってる時点で、メンタルが破壊されてる証拠だ。
もう、┐(´д`)┌お手上げでござんすよ。

                         つづく

 

女の子たちが使いきれなかったタコと伊勢エビを冷蔵庫に残していったので、折角だから調理することにした。
ここ「ゲストハウス涼風」には台所と冷蔵庫があって、自分で食材を持ち込んで料理をすることもできるのである。
とはいうものの、心はボロボロなのだ。わざわざ買物にまで行く気は起こらない。とりあえずは誰かが残していった調味料と食材とで何とかしよう。

①これまた女の子たちが残していったサラダ用の野菜があったので、それをサッと洗ってザルにあげ、水を切って皿に盛っておく。

②伊勢海老を一口大に切る。そこに辛うじて残っていた小麦粉を申し訳程度にまぶす。ちなみに、有れば片栗粉を使ってたと思う。

③フライパンを弱火にかける。温まったところで胡麻油を入れる。そしてそこに冷蔵庫の隅で1万光年は忘却されていたであろうチューブ生姜を少量入れる。

④香りが立ったところで、ガチ戦闘態勢に入る。さあ、こっからが本番だ。一気呵成に攻めねばならぬ。伊勢海老を半生に仕上げたいから、時間との勝負なのだ。
火を強め、煙が出たら伊勢海老を投与。続けて塩、黒胡椒、オイスターソースを怒涛の如く立て続けにブチ込み、奥義を繰り出す。アタタタタタタタ…、電光石火で炒める。おそらくこの間、30秒くらいだったろう。気分は超絶高速で両腕を動かし、残像で千手観音みたくなっとる感じだ。

 

(出展『満天握り月太郎』)

 
千手観音の如くフライパンを振ってる漫画を探したが、見つかんなくて『満天握り月太郎』から拝借させて戴いた。
月太郎は満月の夜にしか必殺技「満月握り」が出せないサイコパス寿司職人なのら〜。
ちなみに本日は満月で、しかもスーパームーンの皆既月蝕だという稀有な日である。何と24年振りの事らしい。
おそらく月太郎は超絶奥義の「月蝕スーパー満月握り」を繰り出すことであろう。

 

 
たぶん、これくらいのサイコ野郎にはなってくれるだろう。

⑤あとは野菜の上に盛って出来上がり。

  
【伊勢海老の怒涛千手観音炒め】

 
(◠‿・)—☆我ながら上出来だ。美味い。制約ある中でのベストなプレーだろう。中々にフレキシブルなパフォーマンスだったと思う。
食べながら、ぼんやりと思う。その優れた資質がナゼにフィールドでは反映されないのだ。今日もスクーターの上に乗っかるとか柔軟でフレキシブルな対応はしていた筈だ。なのに結果が伴わない。
考えてみれば、奄美に来てからずっと誤算続きだ。この迷走のループ、いつまで続くのだろう。

                         つづく

 
追伸
「つづく」が連続して続くという異例の展開だったが、今回は註釈が少ないので、書くのは楽だった。
でも古い展翅標本を多く載せたので、別な意味でのストレスがあった。気にくわない展翅画像がいくつかあるのだ。例えばリュウキュウアサギマダラなんて、今だったら前翅をあんなにも上げないからさ。
それで思い出したよ。後々わかるのだが、この日に見たアカボシは、よくよく考えてみれば、メスではなくてオスだった可能性もある。春型は夏以降に出てくるものよりもデカいのだ。夏以降の個体しか見たことがない者には、その大きさから初見はオスでもメスに見えてしまうのである。もしそれに直ぐ気づいていたならば、リュウアサと見間違うなんていう恥ずかしいミステイクは犯さなかった筈だ。

 
(註1)台湾産アカボシゴマダラ
学名「Hestina assimilis formosana (Moore,1895)」。台湾特産の亜種として記載されている。
台湾産のアカボシについては、拙ブログの『発作的台湾蝶紀行』の42話「気分は上々」等に書いとります。興味のある方は、読まれたし。

 
(註2)メフィラス星人

(出展『メタボの気まぐれ』)

 
『ウルトラマン』の第33話「禁じられた言葉」をはじめ、ウルトラシリーズに度々登場する宇宙人。別名「悪質宇宙人」。
ボスキャラ的存在で、知能が高くて紳士的だが、自分の思い通りに事が運ばないと激昂する。
名言も多く、ハヤタ隊員(ウルトラマン)に対して『お前は宇宙人なのか❓、人間なのか❓』と問いかけたり、『宇宙人同士が戦ってもしようがない。私が欲しいのは地球の心だったのだ。だが私は負けた。子供にさえ負けてしまった。しかし私はあきらめたわけではない。いつか私に地球を売り渡す人間が必ずいるはずだ。また来るぞ。』と言い残して去ったりもする。
だが、一方では『卑怯もラッキョウもあるものか❗』という知性のカケラもない迷言も残している。

 

奄美迷走物語 其の八

 
  第8話『白き騎士』

 
2021年 3月25日

今日も腐ったアタマで起きる。
時計を見ると既に10時。また痛飲でござるよ。
まあどうせ予報通り雨だろうと思ってカーテンに目を移すと、何だか様子がオカシイ。もしやと思ってベランダに出ると、何と快晴だった。

 

 
そういえば昨夜、酔っ払って小池くんに『明日は晴れる❗まっかせなさーい❗』とか言ってたが、半分希望的観測で言ってただけなのだ。何となくそんな気がして口走ったのだが、夜は採集に出ずで空を見てないから確信があったワケではない。スーパー晴れ男の面目躍如と言いたいところだが、南国の天気はワケわからんわい。こっちの天気予報って何なん❓全然信用でけんやないの。

大急ぎで支度してバイクを駆って西へ。
今回は知名瀬林道をスルーして、更に西へと進む。
毎回、同じポイントに行くのは、実を言うと好きではない。本来的には飽き性なのだ。何度も通ったのは単に知名瀬がアマミカラスアゲハの♀が採れる可能性が一番高いと判断したからにすぎない。でも♀は昨日採れたから、自分的にはもう行かなくても済むやって気持ちなのだ。

やがて、右手に海が広がり始めた。
まだ白波が立っているから奄美本来の海の青さではないが、それでも青い。ワンテンポ遅れて潮の香りが鼻腔にカウンターパンチを送ってくる。海だなあ…。心がほわっとゆるむ。
いい感じに地平線の上も青空だ。本来は海の男ゆえ、俄然テンションが上がる。やっぱ南の島は、こうでなくっちゃね。

午前11時過ぎ、根瀬部の集落へと入ってゆく。
懐かしい風景だ。昔と殆んど変わっていない。

林道の入口横にバイクを停め、小道に入る。先ずはイワカワシジミを探そう。この道の途中にイワカワシジミの食樹であるクチナシがあった筈だ。
足元が覚束ない。何だかヽ((◎д◎))ゝフラフラする。正直言って、体調は奄美に来てから最悪のコンディションだ。まさか晴れるとは思っていなかったら、調子に乗って飲み過ぎた。風景は微妙にゆらゆらするし、自分でもまだ酔っ払ってるのがワカる。
腐った脳ミソで川沿いに歩くと、フェンスのある明るい場所に出た。そこにはまだクチナシの木があった。この木で何度かイワカワシジミを採っているのだ。

 
【イワカワシジミ各種】

 
しかし上から見下ろしたところ、姿は見えない。
仕方なく引き返そうとしたところで、フェンスの向こうから猛烈な犬の吠え声が飛んできた。見ると、奥の檻の中で2、3匹の犬が狂ったように吠えている。
檻の中にいるから恐怖心はない。しかし犬は大っ嫌いだ。天敵と言っていいほどに相性が悪い。何処へ行っても吠えられるから、いつも憎悪を滾(たぎ)らされてる。東南アジアでは犬が放し飼いになってる事が多いから、常にバトルだもんね。
吠えられてるうちに沸々と怒りがせり上がってきた。背中からメラメラと青白き焔が沸き立ち、💢プッツンいく。

(`Д´#)黙れ❗テメェ、ブッ殺すぞー❗

大声で激烈に叫んだら、吠え声がピタリとやんだ。
(`Д´)ボケがっ❗、気合勝ちじゃ。ワシの覇王色の覇気をナメんなよ。今後ワシにまた吠えたら、あらゆる方法で恐怖を骨の髄まで植えつけてやるわ。

道路に戻って少し歩くと、川向うの木で何かが飛んで直ぐに着地した。見ると蝶が羽を広げて日光浴している。
脳ミソが腐ってるから、最初はそれが何なのか理解できなかった。ムラサキツバメ❓ムラサキシジミ❓ウラギンシジミ❓記憶のシナプスが繋がらない。
5秒ほどしてから、漸くそれが何であるのかが解った。イワカワシジミの♂だ。けど尾状突起が無くて羽も擦れてる。
少し迷ったがスルーすることにした。あんなの採っても、どうせ展翅しないだろうから無駄な殺生になる。それに欲しいのは♀なのだ。

さらに進むと曲がり角に網を持ったオジサンが立っていた。

『こんにちわー。何、採ってはるんですかあ❓』
『フタオチョウだよ。』
『えっ、此処にもいるんですか❓』
『いる、いる。分布をドンドン拡大してて、最近では瀬戸内町でも見つかってるよ。』
『もう発生してるって事ですよね。例年、春型はいつくらいから発生してるんですかね❓』
『今年は20日くらいから発生してたね。もう4♂1♀ほど採ってるよ。』
そっか♀まで発生しているのか…。そういや自分もあかざき公園で見たもんなあ。と云うことは時期的にはまだ最盛期ではないにせよ、鮮度的にはベストな時期かもしれない。

 
【フタオチョウ Polyura weismanni ♂】

(裏面)

 
【同♀】

(裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
フタオチョウ(註1)は奄美大島には本来いないチョウだった。
てっとり早く説明する為に奄美新聞社の記事をお借りしよう。

「沖縄県の県指定天然記念物のチョウ・フタオチョウが近年、奄美大島でもよく目撃されるようになってきている。奄美市笠利町から名瀬までの広範囲で目撃情報があり、特にヤエヤマネコノチチなどの樹木の周りで見られやすいという。
フタオチョウはタテハチョウ科フタオチョウ亜科フタオチョウ属のチョウ。台湾や東南アジアに生息する。幼虫のエサはヤエヤマネコノチチやクワノハエノキといった植物。成虫は樹液や腐敗した果物に飛来する。
日本では従来、沖縄本島のみに生息し、同県の指定天然記念物となっていた。2016年ごろから奄美大島北部でも目撃・捕獲されるようになった。
奄美昆虫同好会の富川賢一郎会長によると、沖縄から何らかの原因で迷蝶として飛来した可能性もあるとのこと。」

補足すると、迷蝶ではなくて誰かが沖縄産を放蝶したものが増えたと考える意見の方が多いようだ。自分もその見解を支持する。なぜならフタオチョウが迷蝶として採集された記録が少ないからだ。台湾と与那国島は近いが、台湾のフタオチョウが与那国島で見つかった例はない筈だし、沖縄本島のものが別な島で見つかった例も極めて少ないからだ。たぶん石垣島の1例のみしかなかったんじゃないかな。それも目撃情報で、しかも2018年だから奄美のモノを石垣に放した事が疑われる。
そもそもフタオチョウのような森林性の蝶はオープンランドの蝶みたく海を越えるような大移動はあまりしないと言われている。ゆえに沖縄本島から奄美まで飛んで来たという可能性は極めて低いと考えるのが妥当だろう。両島は距離にして340kmも離れているのである。
他に可能性が考えられるのは、たまたま卵や幼虫・蛹が付いた食樹が植栽されたというパターンだが、ヤエヤマネコノチチやリュウキュウエノキなんて誰も他から持ってきて植栽しないだろう。花がキレイなワケでもなく、食用にされるワケでもないから、植栽する価値のない植物だし、そもそも両方とも奄美には自生しているのだ。

ヤエヤマネコノチチには馴染みがないので、Fさんにどんな木ですか?と尋ねたら、わざわざ生えている場所まで案内してくださった。いい人である。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
奄美に入って、たぶんコレなんじゃないかと思ってた植物とは全然違ったものだった。ワシって飼育をしないから植物の同定能力がアッパッパーなのである。

ポイントに戻ってきたら、Fさんが空を指さした。
『ほらほらアソコ❗、フタオが飛んでるよ❗』
見ると、青空をバックに白い蝶が高速で飛んでいる。しかし、グルッと一周すると反転して、アッという間に何処かへ消えてしまった。
形と大きさからして、たぶんオスだろう。
いる事が分かったら何だか安心した。いる場所さえ分かれば、楽勝で採れると思ったのだ。ゆえにフタオの事はさておいて、Fさんと暫く雑談する。ここは情報収集の方が大事だろう。

Fさんは奄美在住で、標本商をされているという。奄美のフタオの最初の発見者ではないが、2017年には逸早くフタオについての報文を書いておられ、土着している事実を突き止めたのは氏らしい。
また、奄美で日本屈指の美迷蛾であるベニモンコノハ(註2)を見つけて、大量に採ったのもFさんなんだそうな。

 
【ベニモンコノハ】

(出展『世界の美しい蛾』)

 
ベニモンコノハについては、当ブログにて『未だ見ぬ日本の美しい蛾1』と題して書いたから、その時に論文を読んでいる。たぶん20頭くらいタコ採りされたんじゃなかったかな。
蝶だけでなく蛾も採られるというのは渡りに舟だ。せっかくだからアマミキシタバの事も訊いておくことにした。

 
【アマミキシタバ Catocala macula】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
『アマミキシタバって根瀬部にもいるんですかね❓』
『いるよ。数は多くないけど、この辺だったら何処にでもいるよー。』

『灯火採集だと、何時くらいに飛んで来るんすかねー❓』
『基本的には11時を過ぎないと飛んで来ないかなあ。』

『あと糖蜜とかバナナトラップにも来ますかね❓』
『来る、来る。全然寄って来るよ。』

『ところで幼虫の食樹が去年判明したみたいですけど、アレって何の木ですかね❓』
長年、アマミキシタバの幼虫の食樹は不明とされてきたが、去年に飼育下においてだが判明したそうなのだ。しかし論文が見つけられず、詳細は分からなかったのである。
『たぶん、ウドだったんじゃないかなあ。』
『えっ、ウド❗❓ウドってあのウドの大木のウドですか❓』
『いや、そのものじゃなくて、別種のウドの仲間じゃなかったかなあ。』
ウドなんて全く想定外の植物だったから驚いた。
『あともう一つ別な系統の植物を食ってた筈だよ。けど思い出せないなあ。何だったっけかなあ❓』

結局、Fさんは思い出せなかった。ウドというのも俄に信じ難いところもあるから、本当の事はワカラナイ。Fさんの記憶違いかもしれないし、自分の聞き間違いというかメモリーエラーかもしれない。何せ二日酔いで脳ミソが腐ってたからね。

他に行く所があるからと、Fさんは昼過ぎには去って行った。
色々と御教示下さり、有り難う御座いました。礼(`・ω・´)ゞ
正直、ラッキーだった。数々の重要な情報を得られたからね。昨日、アマミカラスの♀が採れた辺りから流れが良くなってきてる。Fさん曰く、オスがテリトリーを張るのは午前11時くらいから午後2時くらいまでらしい。つまり、まだまだ時間的余裕がある。この調子で楽勝街道爆進じゃい❗

誠に恥ずかしい話だが、正直に吐露しておくとフタオがテリ張りするのは、アカボシゴマダラやオオムラサキ、スミナガシなんかと同じく午後3時前くらいから夕方にかけてだとばかり思い込んでいた。タテハチョウ科のオスの縄張り争いは時刻のズレこそ多少あるものの、知る限りでは全てそうなのだ。ゴマダラチョウ然り、コムラサキ然りだし、他にもアカタテハ、ルリタテハ、メスアカムラサキ、リュウキュウムラサキも夕方なのである。だから昼間に占有行動するなんてコレっぽっちも考えなかったのだ。
それに図鑑によってはフタオチョウが占有行動をする事が書かれていない事もあり、また書かれていても時刻については言及されていないのである。あの蝶の生態について最も詳しく書かれていると云う『原色日本蝶類生態図鑑』の第2巻 タテハチョウ編でさえ占有時間帯は書かれていないのである。

雑談中もフタオは何度か飛んで来たが、何れも高い位置を飛んでおり、全く止まらなかった。とゆう事は、もっと他に採り易いポイントを探した方が良さそうだ。
とりあえず裏へ回ってみたら、ミカン畑になっていた。コチラ側の方が見通しがいい。おそらく飛び回っていた個体はコチラ側の何処かに止まっており、時折飛び出して辺りを見回っていたのだろう。ならば此処で待ってれば採れそうだ。
麓の林縁もチェックしようとしたら、左手から白い蝶が猛スピードで飛んで来た。高さは2mから3mくらい、届く範囲だ。しかし振ろうとした瞬間に軌道を変えて、射程外になった。
後ろ姿を見送りながら、❗❓と思った。大きさ的には♂のフタオと同じか少し小さいくらいだろうが、フタオにしては白すぎる。黒い紋が殆んど入っていないように見えた。とゆうことは、たぶんフタオではない。おそらくウスキシロチョウかウラナミシロチョウだろう。でもウスキシロならば、もっと黄色いからウラナミシロの可能性大だ。

 
【ウラナミシロチョウ♂】

【同♀】

(出展『Aus−lep』)

 
林縁まで来ると、今度は頭上5mくらいをタテハチョウらしき白い蝶が滑空していた。何だよコッチだったかと思ったが、飛び方が滑るようだし、フタオほど高速ではない。
暫く下から様子を見て、漸く気づいた。たぶんガッキー、イシガケチョウだろう。

 
【イシガケチョウ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何かヤキが回ってるなあ…。
どうしようもなく感覚が鈍(なま)ってる。考えてみれば、去年は蝶採りに行ったのは数えるほどだ。ギフチョウが3回、スミナガシの春型が1回、夏に長野県で小太郎くんとムモンアカシジミ&オオゴマシジミで2日間、あとは同じく小太郎くんと行った蝶採りとしてはユルい河川敷のミヤマシジミ&クロツバメシジミくらいだ。そういやルーミスにも行ったな。でも3人で行って3人とも1頭たりとも見なかったから、網を振った回数はゼロだから、行ったうちに入らない。ようは何が言いたいかというと、実戦から遠ざかると腕も鈍るという事だ。野球でも何でもそうだけど、振り込まないと実力は上がらないし、サボると下手ッピーになるのだ。

また裏側ポイントに戻ると、突然、梢から蝶が飛び出して来た。逆光だが飛び方を見てコイツかあ❗と身構えたが、直ぐにその姿はアオスジアゲハに変わった。

 
【アオスジアゲハ】

 
アゲハの仲間(Graphium)だから、厳密的にはタテハチョウとは飛び方が少し違うのだが、かなり近い飛び方なのだ。大きさ的にも同じくらいだし、逆光もあったから見間違えたのだ。逆光だと緑色が飛んで白っぽく見えてしまうのである。緑色のとこを白に塗れば、デザイン的に両者は案外似ていなくもないしさ。とはいえ、アオスジアゲハと間違えるだなんてダサ過ぎ。ヤキまわりまくりである。

そのうち曇り始めた。おいおいである。フタオチョウは基本的には光が射していないと飛ばないのだ。

いたずらに時間が過ぎてゆく。
暇つぶしにアマミカラスの♀をいくつか採った。ここはブヨもいないし、知名瀬よりも安心して採れる。先にこのボイントを見つけていれば、あんなに苦労しなかったのにね。
ガックリだが、あれはあれでいっか…。あれキッカケで奄美の教会の美しさや、その悲しい歴史を知ることができたからね。

午後2時半。
また晴れ始めたと思った途端、白い蝶が現れた。南国の青い空を背景に悠然と飛翔している。2つの剣のように尖った尾状突起もハッキリと見えた。まるで誇り高き白き騎士だ。相手にとって不足なし。瞬時に戦闘態勢に入る。
だが、睥睨するかのように頭上を飛び、飽きたように突然プイと踵(きびす)を返して梢の向こうへと消えていった。
間違いなくフタオチョウだ。もうインプットした。これから先は他の蝶と間違うこともないだろう。高さも一番低いところでは5mくらいだったから、今回持ち込んだ6.3mの長竿でも届く。たぶん此処はパトロールのルート上にあるに違いない。

その後、フタオは2度と飛んで来なかったが、これで心には余裕が生まれた。飛んで来るルートが解り、採集可能な場所さえ見つければ、コッチのものだ。明日には間違いなく採れるだろう。まあまあ天才をナメてもらっては困るのだ。

午後3時半に、あかざき公園に移動してきた。
フタオチョウが発生しているのは解った。あとはアカボシゴマダラが発生していれば、目的は果たされるだろう。居ないもんは採れんが、居るとわかればどうにかなる。
だが、慰霊塔で待つも、ついぞアカボシもフタオも姿を現さなかった。たぶんフタオよりもアカボシの方が発生は少し遅れるのだろう。とはいえ、もうそろそろ発生するだろうから明日辺り両方まとめて採れんだろ。そう、いつものメンタルならば、いつも通りの結果が出るっしょ。

宿に帰る。
今日の宴会は蛸パーティらしい。
昨日、女の子たちのために地元のアンちゃんたちがタコと伊勢海老を獲ってきたのだ。可愛くて明るい女の子は得だよね。
その女の子たちが作ってくれた蛸の刺身を食う。

 

 
旨いんだが、少し生臭い。
たぶん塩揉みが足りなかったのだろう。タコは大量の塩でシツコイくらいに揉まないと生臭みが取れないのだ。だから一番簡単な方法は洗濯機にブチ込むことだ。とはいえ家庭では精神衛生上、中々できるものじゃないけどね。自分もそれは無理だわさ。もしシャツやパンツが生臭かったら泣くもんね。生のタコって、下手すれば魚よりも生臭かったりするのだ。

🐙蛸パーティということは、今日はたこ焼きパーティなのかなあ❓でも関西ならまだしも、奄美大島なんかにタコ焼き器とか売ってんのかね❓御存知な方もいるだろうと思うけど、関西地方、特に大阪では一家に一台たこ焼き器があるのだ。たこ焼きパーティならば、またワイの腕の見せどころだな。でもどうせ今日は夜間採集に出るから、たこ焼きパーティなろうとなかろうと関係ないか。

他の料理はまだ出てきなさそうなので、『ホームラン軒』なるカップ麺を食う。

 

 
行ったことはないけど、大阪に『ホームラン軒』という有名ラーメン店がある。そこの監修のカップ麺じゃないかと思って買ったけど、百円だったから違う可能性大だ。味もどってことない。百円で買ったカップ麺に期待してはいけないね。

再び根瀬部を目指す。
今回も日没前にポイントに入った。
先ずは林道を少し入った所に「何ちゃってライトトラップ」を設置する。でもって周囲2箇所にバナナトラップも仕掛けた。

お次は、昼間にフタオチョウが飛んでいたポイントの林縁3箇所にバナナトラップを仕掛ける。Fさん曰く、ここにもアマミキシタバがいるということだから、今日こそはお会いしたいものだ。今夜アマミキシタバが採れれば、明日にはフタオとアカボシが採れるだろうから、一挙にほぼミッション完遂だ。夜に山を徘徊しなくとも済む。

犬に吠えられるのにビクビクしながらも、バイクで2地点を行ったり来たりする。まあ吠えられれば吠えられたで現実世界にいる事が確かめられるし、お化けを追い払ってくれるかもしれないから別に構わないんだけどもね。お化けよりかはまだしも犬の方が友だちになれる。暗黒世界の住人とは、一生友だちにはなれぬよ。
とはいえ、今日はそれほど闇に対する恐怖心はない。慣れてきたというのもあるけれど、人里から近いし、ライトを設置した場所も林道に入ってからすぐの所だからだ。真っ暗な林道を奥へ行けば行くほど恐怖感が澱のように積もってゆくのだ。夜の森では、想像力を逞しくすることは禁物なのだ。

大川ダムよりかはマシだが、集まって来る蛾の数はショボい。
バナナトラップにはオオトモエだけが何頭も寄ってくる。勿論のこと無視である。コッチへ来てからずっとコヤツしか来ないってのは何なのだ❓ 呪われてんのかよ。

 
【オオトモエ】

 
午後11時。
いよいよアマミキシタバが飛んで来る時間帯に入った。
ライトに集まる蛾の数も増えてきた。否(いや)が応でも期待値もハネ上がる。

午後11時20分。
ライトに見たことのないシャクガ(註3)が飛んで来た。

 

 
普段はシャクガなんぞ無視する事が多いのだが、寄って来るのは小汚いチビ蛾ばっかだから退屈でつい採ってしまう。

シャクガを三角紙に収め、ふとバナナトラップの方に目をやると、明らかにオオトモエじゃない大型の蛾が寄ってきてる。

もしやヒメアケビコノハ❓
もしヒメアケビコノハならば、採った事がないから欲しい。
ゆっくりと近づく。この旅での4度の夜間採集の中では初めてのドキドキかもしれない。この感覚が享受できなくっちゃ、夜の森に来る意味なんてゼロだ。

目の前まで来た。いやアケビコノハか❓とも思ったが、アケビっちよりも明らかに小さい。とゆうことはヒメアケビコノハか❓
えーい、グチュグチュ考えたところで蛾のとーしろ(素人)のオイラにワカルわけがない。ここは採って確かめるしかない。

網先で蛾の止まってる少し下を軽く突っつく。

(# ゚Д゚)わりゃ、逃がすかい❗

驚いて飛んだ瞬間に、マッハロッドで💥ズババババーン❗(註4)、電光石火⚡で網を下から上へとシバキ上げる。

 

 
(・∀・)うにゃにゃ❓
何だかアケビコノハっぽいぞ。ヒメアケビコノハの前翅は、こんなに枯れ葉っぽくなかったような気がする。
裏返してみよう。

 

 
(-_-;)う〜む。アケビコノハっぽいかも…。ヒメアケビコノハは外側の黒帯がもっと太かったような気がする。でも記憶は定かでない。アケビコノハにしてはかなり小さいし、脳はヒメアケビコノハだと信じたがってる。もしそうなら、此処へ来た意味もある。
ネットで調べようかとも思ったが、どうせ山の中だから電波が届かないだろうし、帰ってからのお楽しみにしよう。

その後、アマミキシタバどころか目ぼしいモノは何も飛んで来なかった。
午前0時半には諦めて撤退。
相変わらず、今一つ波に乗れないなあ…。

                         つづく

 
追伸
宿に帰って調べてみたら、やはりヒメアケビコノハではなくて、ただのアケビコノハであった。

 
【アケビコノハ Eudocima tyrannus】

 
ヒメアケビコノハは、もっと後翅外縁の黒帯が太いし、裏面も黒っぽいのだ。

 
【ヒメアケビコノハ Eudocima phalonia ♂】

【同♀】

【裏面】

(出展『jpmoth.org』)

 
調べたら、開張は90〜100mmもあり、アケビコノハと大きさは殆んど変わらないらしい。じゅあ、何で「ヒメ」なんて小さいことを表すような和名を付けたのよ❓解せんわ。

主に南西諸島で見られる南方系の蛾だが、本州,四国,九州,対馬,北海道でも記録がある。元々は迷蛾(偶産蛾)とされていたようだが、2000年代に入ってから採集例が増えており、本州でも見つかる機会が増えているそうだ。但し、確実に土着している場所は未だ見つかってないという。
国外では、台湾,インド,南大平洋諸島,オーストラリア,アフリカなどに分布している。広域分布だし、きっと移動性が強い種なのだろう。海の真っ只中で、船の甲板から見つかった例もあるようだしね。
主に8〜10月に見られ、樹液や果物に吸汁に集まる。
幼虫の食餌植物はツヅラフジ科のコウシュウウヤク、コバノハスノハカズラ、オオツツヅラフジ。

 
(註1)フタオチョウ
フタオチョウについては、台湾の蝶のシリーズの第2回で『小僧、羽ばたく』と題して書いたものを筆頭に『エウダミップスの憂鬱』『エウダミップスの迷宮』『エウダミップスの呪縛』と全部で4編も書いている。そちらの方を読んでもらいたいのだが、長いので要約して書いておく。

 
【学名】Polyura weismanni (Dobleday, 1443)
従来まではインドを基産とする「Polyura eudamippus」とされ、日本産には”weismanni”という亜種名が宛てられていた。尚、Polyura eudamippusは、ヒマラヤ西北部(ネパール,インド北東部)からインドシナ半島,マレー半島(キャメロンハイランド),ブータン,雲南省と海南島を含む中国西部,中部,南部,台湾まで分布する。日本産はそれに連なる最東端のモノだと位置づけられていたワケだ。しかし近年になって成虫や幼虫の形態、食樹が他の産地のものとは異なる事から別種となり、学名は亜種名が小種名に昇格した形になっている。
でも、この事実を知っている蝶愛好家はまだ少ないようで、ネットに掲載されている情報では、ほぼほぼ学名が以前の古い学名のままになっている。たぶん今ある図鑑も旧学名のままの筈だ。
尚、インドの原記載亜種(基産地アッサム)やインドシナ半島のもの(亜種 nigrobasalis)と基本的には同じデザインなのだが、実際にフィールドで見ると、かなり違った印象を享ける。

 
【Polyura eudamippus nigrobasalis♂】

(2011年 4月 ラオス・タボック)

 
とにかくバカでかいんである。♂でもこの大きさなのだ。
そして白くて、尾状突起が剣のように鋭く長い。日本のモノより先にインドシナ半島の奴に会っているので、その時に白い騎士のイメージが植えつけられた感がある。

 

 
裏面は日本のものと比べて帯が細く、色も黄色みが強くなる。
個人的にはコッチの方が美しいし、迫力があるから好きだ。

 
【和名】フタオチョウ
別種となったが、和名はそのままで「ニッポンフタオチョウ」や「リュウキュウフタオチョウ」「オキナワフタオチョウ」にはなっていない。正直、ダサいから変えないのが正解だね。
逆に従来フタオチョウと呼ばれていた原名亜種には「タイリクフタオチョウ」なる和名が提唱されている。微妙な和名ではあるが、解りやすいので受け容れてもいいかなあ。

和名は「双尾蝶」「ニ尾蝶」の意で、後翅にある2本の尾状突起に基づく。
尚、日本産のタテハチョウ科の中ではニ双二対の尾突を持つものは他にはいない。日本産の全ての蝶を含めても2本以上の尾突を持つものは、他にはキマダラルリツバメしかいない。
また前翅も特異な翅形であり、色柄デザインも特異である点からも他に類する種はいない。つまり日本では唯一無二の存在であり、沖縄の天然記念物に指定されている稀少性も相俟ってか愛好家の間では人気の高い蝶の一つである。

 
【分布】沖縄本島,古宇利島,奄美大島
現在のところこうなっているが、奄美大島では分布を南部に拡大しており、そのうち加計呂麻島や徳之島でも発見されるかもしれない。
尚、近似種”Polyura eudamippus”の一番近い分布地は台湾で、かなり見た目は近い。

 
【Polyura eudamippus formosana ♂】


(2016年 7月 台湾南投県仁愛郷)

 
weismanniに似ているが、白い部分が少し広がり、尾状突起もやや長いから、慣れれば区別できる。
違いは裏面の方がより顕著だ。”weismanni”の帯は太いが、それに対して台湾産は細い。その色も微妙も違うような気がするが、個体差にもよるし、自分の印象も多分に入っているので断言はできない。
大きさ的には同じようなものだろう。さっきの項で画像を載せ忘れたが、インドシナ半島のものと比べて遥かに小さい。

 

 
おそらく大陸のモノが台湾に隔離され、さらにそれが沖縄に隔離されて長い年月の中で少しずつ形を変えていったのだろう。

 
【生態】
沖縄本島では3月下旬〜5月、6月下旬〜8月、9月〜10月の年3回見られるが、秋は個体数が少ない。
成虫の飛翔は敏速で、梢上を高飛する。樹液や腐果(パイナップルなど果物が発酵したもの)に好んで集まり、吸汁する。吸汁し始めると夢中になり、鈍感なので手で摘める事さえある。また、時に吸汁し過ぎて飛べなくなり、地上にボトッと落ちる個体もいたりする。結構、アホなのである。
オスは占有活動を行い、高い木の梢や突出した枝先などに静止して、同種の♂のみならず他の蝶が飛んで来ても追尾して追い払う。
尚、eudamippusは台湾産を含めて動物の糞尿やその死体、湿地に吸水(♂のみ)によく集まるが、weismanniでの観察例は少ない。この点からも別種説を推したい。中には、まだ別種とは認めないという人もいるのだ。

 
【幼虫の食餌植物】
ヤエヤマネコノチチ(クロウメモドキ科)
リュウキュウエノキ(ニレ科)

元々の食樹はヤエヤマネコノチチであったが、沖縄本島では食樹転換が起きており、リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)も食するようになった。それによってヤエヤマネコノチチが自生しない南部にも進出、分布を拡大している。
奄美大島ではリュウキュウエノキを食樹にするアカボシゴマダラが生息する事から競合が予想され、アカボシゴマダラの個体数に影響を及ぼすのではないかと心配されているが、今のところ特には減っていないようだ。尚、奄美にはヤエヤマネコノチチも自生しており、主にそちらを食樹としているようだ。競合を避け、棲み分けをしているのかもしれない。
参考までに書いておくと、ネットなんかの飼育例をみるとヤエヤマネコノチチでは無事に羽化するが、リュウキュウエノキで飼育すると羽化しないという記事があった。或いは先祖帰りと云うか、本来の食樹帰りしているのかもしれない。
しかし、奄美在住のFさんはリュウキュウエノキでも難なく飼育できると言ってはった。

付け加えておくと、Polyura eudamippusの食樹はマメ科である。そして多くのフタオチョウ属(Polyura属)がマメ科の植物を食樹としている。この点からも、日本の”weismanni”は特異で、別種とされたのも頷ける。

 
【幼生期の形態】


(出展『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)


(出展『浦添大公園友の会』)


(出展『(c)蝶の図鑑』)

 
見た目はプレデターだ(笑)
或いはコレがプレデターのモチーフになってたりしてね。

最も近縁とされる台湾の Polyura eudamippus formosanaの幼虫も貼付しておこう。

 


(出展『アジア産蝶類生活史図鑑』)


(出展『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑』)

 
日本のフタオの終齢幼虫には帯がないが、台湾のものには帯がある。また顔面の模様も異なる。幼虫の食樹もマメ科だし、これはもう別種レベルに分化が進んでいると言っていいだろう。

 
(註2)ベニモンコノハ
学名 Phyllodes consobrinus Westwood, 1848
Noctuidae(ヤガ科)・Catocalinae(シタバガ亜科)に分類される。

 

(出展『断虫亭日乗』)

 
(;゜∇゜)ワオッ❗、馬鹿デカイね。
開張120〜130mmもあるらしい。

宮崎県,鹿児島県(九州本土),種子島,トカラ列島宝島,奄美大島,沖縄本島などからの記録があり、従来は土着種とされ、小型なことから別亜種として記載された。しかし二町一成氏の論文によると、2011年に奄美大島で纏まって採れたのは、たまたま海外から飛来したものが、その年に二次発生した可能性が高いと述べており、現在では偶産蛾とする見解が優勢のようだ。
国外では台湾,中国南部,ベトナム,インド,インドネシアなどに分布する。尚、日本での記録は7〜8月に多い。
下翅にある紋が日の丸みたいだなと思ってたら、岸田先生の『世界の美しい蛾』には、その紋様から標本商の間では「日の丸」と呼ばれることもあると書いてあった。
生態的にちょっと変わってるなと思ったのは、ライトトラップには誘引されなくて、バナナやパイナップルなどのフルーツトラップに集まるそうだ。
ちなみに幼虫は無茶苦茶エグキモくて笑える。
気になる人は、拙ブログにある『未だ見ぬ日本の美しい蛾1』を閲覧されたし。

 
(註3)見たことないシャクガ
帰ってから調べてみると、アサヒナオオエダシャクという蛾の♂であった。

 

 
アサヒナオオエダシャク
科:シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
属:Amraica Moore, 1888

 
【学名】 Amraica asahinai (Inoue, 1964)】

小種名の”asahinai”は、トンボやゴキブリの研究で有名な朝比奈正二郎博士に献名されたものである。おそらく和名もそれに準じてつけられたものだろう。

とくに亜種区分はされていないようだ。だがウスイロオオエダシャクと似ているため、最初はその南西諸島亜種として記載されたそうだ(ウスイロは屋久島以北に生息する)。しかし下甑島と屋久島では同所的に生息していることが判明し、別種になったと云う経緯がある。

 
【ウスイロオオエダシャク Amraica superans】

(出展『むしなび』)

 
相前後するが詳細に説明すると、日本のウスイロオオエダシャクは従来ではインドの”Amraica recursaria (Walker)と同一種とされ、本土の個体群は”ssp.superans”、屋久島以南の個体群は”ssp.asahinai”として扱われてきた。
だが下甑島と屋久島にて、それぞれ同一地点で両亜種が同時に採集された事から再検討が行われた。結果、共に独立種として扱うべきであり、更にそれらは”recursaria”とも異なる種であることが明らかになった。
またウスリー・朝鮮半島の”confusa”は、”superans”の亜種であり、台湾のものも”superans”ではあるが、色彩斑紋に明らかな差があることから別亜種として扱うべきことも判明した。これによりインド北部〜インドネシアに分布するものが原名亜種(Amraica recursaria recursaria)となった(Sato,2003)。

何でこんな事が起こったのかというと、Amraica属の各種は外観に比較的安定した違いがあるにも拘らず、種による交尾器の差異が雌雄ともに少ないそうだ。その上、個体変異も多いから、この属は種の見きわめは大変難しいようなのだ。だから、こうゆう記載のバタバタが起こったんだろうね。

尚、アサヒナオオエダシャクとウスイロオオエダシャクとの違いだが、アサヒナは前翅の外縁が反り、細長く見えるのに対してウスイロは前翅の外縁が反らない等の点で区別できる。

 
【開張】 ♂49〜66mm ♀69〜88mm
雌雄の判別は、大きさ以外に前翅からも可能。♂の前翅にはメリハリのある斑紋があるが、♀は全体的に暗色で斑紋が目立たない。
決定的な違いは触角の形状。♂の触角は鋸歯状になるが、♀はそうならなくて糸状なので判別は容易である。

 
【分布】
九州(宮崎県・鹿児島県),下甑島,種子島,屋久島,トカラ列島(中之島),奄美大島,徳之島,沖縄本島,久米島,伊江島,宮古島,石垣島,西表島,与那国島。
国外では、台湾,中国南部,ミャンマー,ベトナム,ネパールに分布する。

 
【生態】
3月と8月を中心に採集されているが、徳之島で6月、石垣島では12月にも得られている。この事から年2〜3化の発生だと考えられている。
♂は灯火によく飛来するが、♀が飛来することは稀である。
ちなみに、♂は稀に黒化した個体が得られる。

 
【幼虫の食餌植物】
ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では不明となっているが、『日本産蛾類標準図鑑』にはリョウキュウマユミ(ニシキギ科)とある。尚、おそらく標準図鑑の表記は誤植で、本当はリュウキュウマユミのことだろう

 
(註4)マッハロッドで💥ズババババーン
マッハロッドとは、特撮TVドラマ「超人バロム・1」に登場するバロム・1の乗り物であるスーパーカーの事である。

 

(出展『メタボの気まぐれ』)

 
健太郎と猛がバロム・1に合体変身する際に使用するアイテムのボップが変形したもので、バロム・1が「マッハロッド、ボーップ❗」と叫んで空中に投げることで出現する。
最高速はマッハ2。飛行も可能で、水中や地中も走行できる。
マッハ2って、どないやねん(笑)。オープンカーなんだから、マッハで走ればワヤムチャになってまうやないの。空中とか水中、地中走行なんかは、もっとツッコミどころ満載である。
ちなみに画像は番組前期の車両で、ベースの車は NISSANのフェアレディZなんだそうだ。

マッハロッドはオープニングの唄に矢鱈と登場する。歌詞にも出てきて、そこに「マッハロッドでズバババーン」という文言が出てくるのだ。

You Tubeの動画を貼っつけておきます。

  

 
歌うのは、あの『ゼーット❗』の水木一郎である。
ありゃ❗、でも「マッハロッドでブロロロロー」だわさ。完全に歌詞を間違えて記憶してたわ。
歌詞を載せておきまーす。レジェンド水木さんの独自に語尾を伸ばすところが堪りまへん。
あと、擬音が萌え〜(人´∀`)。

 
『ぼくらのバロム1』
https://youtu.be/BdegVh82aFA
『ぼくらのバロム1』
 
ズババババーンは「やっつけるんだズババババーン」でごわした。スマン、スマン。

 
ー参考文献ー
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』
◆保育社『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆手代木求『日本産蝶類幼虫・成虫図鑑 1 タテハチョウ科』
◆手代木求『世界のタテハチョウ図鑑』
◆五十嵐邁・福田晴夫『アジア産蝶類生活史図鑑』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑(Ⅰ)』
◆岸田泰典『世界の美しい蛾』
◆2020.8.9『奄美新聞』
◆二町一成,柊田誠一郎,鮫島 真一『2011年奄美大島にて多数採集されたベニモンコノハ Phyllodes consobrinus Westwood, 1848』やどりが 236号(2013年)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『ピクシブ百科事典』
◆Wikipedia
◆You Tube

 

奄美迷走物語 其の七

 
  第7話『マリア様の島』

 
2021年 3月24日

今日も天気が悪い。
空は雨の予感を孕んでいる。酒がまだ残っていて、体も重い。
けれど少しでも可能性があるならば、尻っぽを振って逃げるワケにはゆかぬ。本日もバイクのレンタル代を払って知名瀬へと向かう。

 

 
朝9時半にポイントに着くが、案の定、何も飛んでいない。
する事もないので、とりあえず煙草に火を点けようとした時だった。突然、頭の中でナレーターの声が流れ始めた。

🎵チャチャッチャッチャーー。
その時、正義の味方イガ厶ワンのイガリンお天気メータの針は、ゼロを指していた❗ぽてちーん

すまぬ。わかりにくいだろうが、超人バロムワン(註1)が変身できなくてピンチに陥った時の気分なのだ。ピンチの際に必ず入るナレーションが『その時、バロムメーターの針はゼロを指していた。』なのだが、それが頭の中でテロップ付きで流れたって感じ。つまり頑張ってフィールドに出たはいいが、二日酔いと厳しい現状を目の当たりにしてパワーメーターの数値は限りなくゼロに近かったのだ。

🎵ヤゴヤゴヤ〜ゴの子守唄〜
🎵聴けば いつでも眠くなるー
🎵ふわぁ~と眠りが忍び寄るー
🎵ねんねんヤーゴよ ヤゴねむり~

しまったなり。二日酔いの腐った脳ミソはワケワカラズ、今度はいつの間にか敵の怪人ヤゴゲルゲ(註2)の唄を歌ってしまってるなりよ。

オデ、オデ、ブッ壊れそう(ㆁωㆁ)
何ら事態が好転する材料がないのである。本日の天気予報は最悪なのだ。あらゆる予報サイトが終日にわたって雨マークを示している。そして、明日も雨の予報だ。出発前の週間予報は比較的良かったのに、こっちへ来てからは信じられないくらいにドンドン悪い方向、悪い方向へと変わり続けてる。女心という女子共通の理解不能な心模様よりも酷い心変わりようじゃないか。女心を知るエキスパート&スーパー晴れ男の看板が泣いてるぜ。

1時間後、センサーが予知していたとおりポツポツ来た。
即座にコレはいかんと判断し、慌ててバイクに跨る。肌の雨センサーが動けと命じているのだ。こうゆう場合、様子見をしようだなんて悠長に構えている奴は、大概がズブ濡れになる。熱帯や亜熱帯では、雨に対する退避の決断が遅いと致命的になりかねないのだ。

慎重かつ大胆な走りで林道を引き返しながらも、冷静に頭を巡らせる。確か知名瀬の町に教会があった筈だ。民家だと気が引けるが、あそこなら問題なく雨宿りできるだろう。

 

 
教会に着き、バイクを降りたと同時にワッと雨が強くなった。急いで離れみたいな建物の下に駆け込む。ギリギリ、セーフ。我ながら迅速かつナイスな判断だった。もしも出発が1分でも遅れていれば、ここに着くまでにズブ濡れになっていただろう。それくらいの土砂降りだ。

30分程で小やみになってきたので、奥の空き地の草むらの様子を見に行くことにする。雨宿りしている間に思い出したのだが、2011年に訪れた時には、この集落の民家の庭でカバマダラが発生していた。位置的にみて、たぶん此処はそのすぐ裏手にあたる筈だと考えたのだ。飛んでいた環境も似ているしさ。

 
【カバマダラ】


(2010年 10月 大阪市福島区)

 
蝶採りを始めたばかりの頃は、カバマダラに対して普通種のイメージを持っていた。図鑑には宮古島以南では普通にいるみたいな事が書いてあったし、初めて採ったのは何と南の島ではなくて、大阪市内の淀川河川敷だったからだ。迷蝶として飛来したものが二次発生したものだろうが、そんなに遠くから飛んで来るという事は、現地には腐るほどいるものとばかり思っていたのだ。実際、その時はかなりの数が発生していた。
だがその後、実際に南西諸島に行ってみると、見るのはスジグロカバマダラばかりで、カバマダラは殆んど見かけなかった。

 
【スジグロカバマダラ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
結局、南西諸島で会ったのは、いまだに2箇所だけ。西表島で1頭と、此処で発生していた5,6頭だけだ。
翌年の春にインドシナ半島を旅して、日本で迷蝶として捕らえられる種の大半は何処にでもいる普通種なのだという事を改めて理解した。個体数か少なくて森林性の蝶が渡って来る確率は物理的に極めて低いのだ。補足すると、迷蝶はオープンランドに棲むタイプの蝶が圧倒的に多い。ちなみにカバマダラもオープンランドの蝶だ。なのにインドシナ半島でもカバマダラを見た記憶が殆んどない。他に採った明確な記憶があるのは、インドネシア・スラウェシ島の黒化した亜種だけだ。

 

(2013年 2月 Slawesi palu)

 
とはいえ、たまたまインドシナ半島では発生期の狭間だった可能性があるけどね。又はカバちゃんは人家のそばや空き地とかツマラナイ場所にいる事が多いから、そうゆう場所にはあまり行かないゆえに遭遇できなかった可能性もあるかもしれない。

草地の方向に歩いてゆくと、マリアの銅像が建っていた。

 

 
とても穏やかで、慈愛に満ちた美しい顔だ。
クリスチャンでも何でもないのに、思わず胸の前で手を組む。

おねげーですだ。アマミカラスアゲハの♀を採らせておくんなせー
 
草地を確認したが、カバマダラの姿も幼虫の食草であるトウワタも無かった。発生してないか…。また退屈に逆戻りだ。
手持ちぶたさで、教会の前までゆく。
今まで、あまりまじまじと見たことはなかったけれど、改めて前に立つと、何とも言えない風情があって美しいと思った。

 

 
あっ、ザビエルだ。フランシスコ・ザビエルの像があると云うことは、カトリックの教会っていうことかな。
考えてみれば、奄美大島って割りかし教会が多かったような気がする。島内各地で幾つか見た憶えがあるぞ。そういや、北部の笠利町にも一風変わった教会があったな。

 
【カトリック大笠利教会】

(出展『キリストとともに』)

 
なぜこの島には教会が多いのだろう❓
雨はまだ上がらなそうだし、退屈しのぎでググってみることにした。

理由はどうやら島の悲しい歴史と深い関係があるようだ。
江戸時代、薩摩藩の藩政下の奄美は年貢として黒糖の生産を厳格に課せられていた。米の栽培を一切認められず、貨幣の流通も禁止されていた。そのため島民は米などの生活に必要な物資を比率の悪い物々交換で得るしかなかった。
明治維新後、中央政府は黒糖の自由売買を認める。しかし鹿児島県はそれに先んじて県肝煎りの商社を作り、本土の商人に黒糖や大島紬の権限を牛耳らせた。西南戦争で県側が政府に負けると、ようやく島民も黒糖を自由に売買できるようになったものの、その後も県や警察による様々な圧力を受け、人種差別と仕組まれた経済格差に苦しみ続けられる。
当時の島の方言は沖縄のウチナーグチと似た方言で、本土では言葉が通じなかった。それが要因で明治初頭に起きた黒糖自由売買運動に失敗したとされ、その事がキリスト教の宣教師の招聘に繋がってゆく。
地元出身の検事や名瀬の有力者達は、このような奄美の位置付け、状況を変えるには先ずは島民意識を変える必要があると考えた。そこで「万民は平等」という西洋思想、つまりキリスト教の導入、布教を促すことにした。
1891年(明治24年)、鹿児島市ではプロテスタント、ロシア正教などのキリスト教各派が既に布教していたが、奄美からの要請にいち早く応じたのがカトリックだった。そして、その年の暮れにはザビエル教会の神父が島に渡る。教会はハンセン病などの診療所や教会建設などで島の人々に現金収入を得る機会を与えた。そして神父の知識、生活様式なども島の人々の好奇心をくすぐった。当時、島はノロやユタなど土着宗教が中心で、仏教もまだ浸透していなかったため、やがて多くの人々がこの新しい思想が信仰してゆくことになる。
しかし、不幸は終わらない。新しい宗教として島に浸透していったカトリックだが、その一方でローマを頂点とするピラミッド型の組織形態が軍部の警戒を呼ぶことになる。世界規模で拡大する戦乱により激動する時代、変わりゆく文化はやがて村落共同体の内部対立をも引き起こしてゆく。
そして大正時代になり、カナダ宣教会が入り、ミッション系女学校の大島高等女学校の運営を引き受けたことが「奄美大島カトリック迫害事件」の発端となった。
1923年にカトリック信徒の中学生2人が高千穂神社の参拝を拒否して退学となった。鹿児島新聞はこの事件にふれ「現在同島の三分の一はキリスト信者となり、その結果、過激な言動をなすものが増加し来たり」と報道した。とはいえ当時の実際の信者数は全体の5.6%にすぎなかったそうた。
さらに鹿児島新聞は、大島高女が教育勅語を奉読していないとして非難を強めた。
問題は昭和になっても燻り続け、カトリックに対する世間の風当たりは次第に強まってゆく。1933年(昭和9年)には邪教排撃運動が起こり、名瀬町民大会は国体に反するとされた大島高女の即時撤廃を求めることを決議、宣言し、それにより翌年の3月31日限りで廃校とすることが文部省により認可、1934年の臨時議会で廃校が決定される。
「スパイの学校」と非難された女学校がつぶれても、排撃運動は終わらず、宣教師には「南方要害の地、奄美大島にスパイとして送り込まれたのではないか?」という嫌疑がかけられる。地元の新聞は、その軍部などからの情報に乗っかり、スパイ視報道を展開するようになる。やがて全国紙の新聞にも「南の要塞の島で広大な土地を米英の宣教師が買い占めしている」「外国人宣教師はスパイか」「教育勅語に不敬罪か」などの過剰な見出しが紙面に踊るようになる。これは当時の政権への批判を、奄美大島が何処にあるかも知らない大多数の国民の目から逸らさせるためのスケープゴートとして捏造されたものだと言われている。
その年には、やむなくカトリック教会は時勢を鑑み、奄美大島から全ての外国宣教会、宣教師を引き上げさせる。
当時の奄美大島要塞司令部の報告書には「カ教教義は国体・国民精神と相容れず、かつ部落の統一・平和を害する」と書かれてあり、日本陸軍の教唆によるカトリック信徒への迫害が益々激化し、奄美大島は戦前最大のクリスチャン受難の地となってゆく。
1936年には、瀬戸内国防協会は大会を開いて「国土防衛の生命線たる奄美大島におけるスパイ容疑外人、並びに邪教カトリックの徹底的殲滅を期す」と決議。奄美のカトリック信者は改宗を強要され、軍幹部は各集落に出向いて「非国民だ」と恫喝して信徒を集めて監禁し、改宗しないと殺すとまで脅した。
弾圧方法は多岐にわたり「名士の啓発講座」や講演会などの名目で「全ての村民にキリスト教徒であることを止めさせれば、あなたも日本人になれる」などという姑息な方法も用いられた。「あなたも日本人になれる」というフレーズだが、補足説明すると、大正時代の奄美大島に住む小学生の夢は「日本人になりたい」だったという。つまり当時の島民は真の日本人として認められていなかったのだ。これは中央政府による巧妙な島民統治で、キリスト教徒弾圧に積極的に参加すれば「日本人になれる=民族自決権を勝ち取れる」と考えた島民もいたため、そこに目をつけて島民たちを分断させ、一致団結させないという意図があったようだ。
その統治方法は企みどおりとなる。青年団員がカトリック信者の墓を破壊したり、信徒宅に押し入って十字架、ロザリオ、祈祷書を奪い、かわりに天照大神の札を貼ったりという事件が頻発する。また憲兵たちからも迫害され「天皇とキリストのどちらが偉いか」などと詰問されたという。多くの教会が襲撃をうけ、笠利の教会は放火されて焼失した。そして11月には14のカトリック教会が鹿児島県に無償譲渡され、翌1937年には町村に無償で払い下げられた。役場となった聖心教会の十字架は切り倒され、替わりに日の丸国旗が掲げられた。改宗しないカトリック信者宅は、防空演習の標的となって消防団に放水され、家中が水浸しにされた。肺病の少女がいたカトリックの家も一連の防空演習により、少女が寝ていた布団ごと水浸しにされた。このような弾圧は第二次世界大戦が激化し、食糧事情が劣悪化するまで続いたそうだ。

現在、奄美大島にあるカトリック教会は全部で31カ所。
うち4つの教会ではミサは行われておらず、空き家のような状態で、この10年で信者の数は500人以上も減っているという。
それでも迫害時期を生き抜いた信者、その子孫は今も信仰に厚いという。

驚いたのは、暗殺されたアメリカ大統領 ジョン・F・ケネディーの葬儀で使われた祭壇が島内の教会にあるらしい。
調べると名瀬市街にある「カトリック名瀬聖心教会」だった。役場にされ、十字架を切り倒された教会だ。
それにしても、ナゼに名瀬にミスタープレジデントと縁(ゆかり)のある教会があるのだ❓
あっ、しまった。つい「ナゼに名瀬」なんてベタなダジャレを言ってしまったなりよ。

 

(出展『まだ死んでない』)

 
あら、この教会なら見たことあるぞ。と云うか、アカボシゴマダラを拝山に探しに行った帰りに何度も前を通っている。

教会内部とケネディーの祭壇の画像も貼り付けておこう。

 

 
(出展『奄美なひととき』) 

 
その由来も分かった。この祭壇は元々アメリカのワシントン大司教区、司教座聖堂聖マテオ教会にあったもので、本来は取り壊される予定だったそうだ。だが1962年に聖心教会のルカ神父が休暇でアメリカへ帰国した折りに偶々その祭壇に出会った。神父は壊してしまうならば奄美大島へ寄贈して欲しいと願い出て、譲渡の約束を取り付けたようだ。
そして、その翌年の1963年にケネディー大統領の祭壇として使用され、1964年には約束通りに奄美大島へ運ばれてきたそうだ。

ふ〜んと納得したところで、教会の敷地内に黒い車が入って来た。誰かは分からないが、教会の人だったら挨拶しておこうと思って立ち上がる。
やがて車から黒い僧衣を纏った神父さんが出てきた。まさか神父さんが出てくるとは思っていなかったので、ちょっと驚く。
その佇まいは落ち着いていて、そこはかとない厳かな雰囲気が漂っていた。慌てて、その場で頭を下げ、声をあげて雨宿りしている旨を伝える。
神父さんは静かに頷いただけだった。そして教会には入らず、直ぐにまた車内に戻り、何処かへ行ってしまった。
それを見送ると、また静寂が訪れた。何だか不思議な気分に包まれ、その穏やかに頷く表情が暫くのあいだ頭に残った。
今まで何かの宗教と深く関わるという経験とは縁なく生きてきたが、宗教を信じるという敬虔な気持ちの一端に触れたような気がした。長年、宗教を信じることに対して警戒心を抱(いだ)いてきたが、初めて信心深い人たちの気持ちを理解できたような気がしたのだ。絶対的なものを信じることで得られる安心感や喜び、そして神に感謝するという気持ちが心のうちにすんなりと入ってきたのだ。
旅情が心に広がる。次に奄美大島に来る時には、雨ならば教会巡りをしてもいいかもしれない。そして、改めて島の歴史に思いを馳せよう。

午後1時。ようやく雨が上がった。
空をグルッと見渡す。ネットのお天気サイトは相変わらず全て雨予報なのだが、雲の色や流れ方、風の方向と強弱、湿度等々の万物から感じるものを総合して、雨は暫くは降らないと思った。天気予報なんかよりもワシが肌で感じるものの方が、よっぽど正確なのだ。
幸い気温は低くない。これならアマミカラスアゲハも飛びそうだ。それに意外とこうゆう天気の方が♀が採れたりもする。秋に来た時は夕方4時以降によく見掛けたし、本土でも近縁のカラスアゲハやミヤマカラスの♀は夕方に飛ぶイメージがある。午後3時には蝶影は薄くなるから帰ってしまう採集者が多いが、アゲハ類の♀はそれ以降に現れることが多いのだ。あくまでも自分の経験値からの話だけどさ。

アゲハの集まるポイントに戻る。
ここは三度目の正直といこうじゃないか。マリア様にもお祈りした事だし、何とかしてくれるだろう。正直そうとでも思わなければ、やってらんない。今日もブヨにタカられっぱなしで、心はササクレ立っているのだ。

だが、時折アマミカラスの♂は飛んで来るが、♀はいっこうに姿を見せない。

クソがっ❗( ̄皿 ̄)マリアの野郎~
敬虔な気持ちも、結果が出なけりゃ手を返したようにフッ飛ぶわい。どうせ人としての修行が足りない男なのだ。

2時20分。諦めてそろそろ移動しようかと思った時だった。
谷の向こうから漸く♀が舞い降りて来た。
♂とは違い、その飛翔はゆるやかで優雅だし、チラッと鮮やかな赤紋が見えたから間違いない。マリア様の降臨だ。
やる気マックスのエネルギーが全身を駆け巡るが、頭は冷静だ。驚かせないように、ゆっくりと追いかける。今度は昨日みたいな無様な結果は何としてでも避けねばならぬ。心を落ち着かせながら細かいステップで距離を詰める。
そしてミカンの花に吸蜜に来た瞬間には網が下から上にカチ上げられていた。

( ゚д゚)❗
中を見ると、しっかり入っている。赤紋がデカいから紛うことなき♀だね。

 

 
やっぱアマカラの春型の♀は赤紋が凄いね。艶やかだ。夏型よりも遥かに美しいし、オキナワカラスアゲハの春型よりも綺麗だ。

 

(2011年 9月)

 
夏型は紋が赤じゃなくてオレンジ色のモノが多いし、メリハリも無くて全体的に野暮だ。春型と比べてデカくなるのも、もっちゃりでヨロシクない。
但し、夏型でも珠に凄いのもいるけどね。

 

(2011年 9月)

 
裏面も美しい。

 

 
オキナワカラスの前翅裏面の白帯は、ほぼ平行で、ミヤマカラス並みに幅広い。その亜種であるアマミカラスは白帯が更に発達し、赤い弦月紋もが大きくなるのが特徴だ。
ちなみに小太郎くんとカッちゃんが言ってたけど、稀に赤紋が二重紋になるのもいるらしい。だとしたら、ホッポアゲハみたくなるって事か。なら、相当ビューティフルだね。
(・∀・)んっ❓、よく見りゃ、この個体は赤紋の上部の隣にちょっとだけ赤紋が出てて、二重紋になりかけてるぞ。この程度では、とてもじゃないが二重紋とは呼べないけどさ。
一応、参考までにホッポアゲハの♀の裏面画像を貼っつけておきませう。

 

(2016年 7月 台湾・南投県仁愛郷)

 
世界のアゲハチョウの中で、裏面が最も美しいのはどれか❓と問われれば、このホッポアゲハを一番にあげるかもしれない。それくらい艶やかな出で立ちだ。

何はともあれ、狙い通りに♀が採れたからご機嫌だよ。
(^_^)vへへへ、してやったりだ。球際に強い、流石の猿飛のワシやんけ。
∠(`・ω・´)/バッローーーム❗❗

 

(出展『yanakazuのブログ』)

 
バロムポーズでキメてみせる。

でも本当は流石の猿飛のワシの力なんかではなくて、きっとマリア様の思し召しだ。
手を胸の前で合わせ、目を閉じる。
マリア様、ありがとう

2時半。
満ち足りた気持ちで、あかざき公園へと向かう。

昨日と同じく3時に到着。しかし雨こそ降っていないが、天気は悪くて風も強い。これではアカボシゴマダラもフタオチョウも現れそうにない。
ならばとイワカワシジミを探すことにする。あかざき公園はイワカワシジミの幼虫の食樹であるクチナシが多い。そしてイワカワは食樹とその周辺の葉に止まっている事が結構あるので、それを探そうというワケだ。

 

(2014年 9月)

 
しかし探し回るも、1頭たりとも姿を見ない。
クチナシの実に卵や幼虫がいないかと探してみたが、そちらも全く成果なし。

 

(2014年 9月)

 
どころか実が殆んど無い。古い実さえないから、もしかしたら採集者に根こそぎ持っていかれたのかもしれない。そゆ事、すんなよなあ。イワカワは去年も一昨年も大不作だったと言われてるのに益々減るじゃないか。ホント欲深い虫屋が多いわ。

夜は雨の予報だったし、昨日みたいな怖い思いをするのもイヤだったので、今日は宴会に参加することにした。

 

 
鶏肉のホイル焼と海老のアヒージョ。
ゲストハウスの娘さん(💖美人)が作ってくれた。結構美味しい。

聞くと、今夜はお好み焼パーティーらしい。

 

 
しかし、焼かれているお好み焼に何か違和感がある。
あれれっ❓よく見ると表面に豚肉の存在がない。
娘さんに『豚肉は入れないの❓』と尋ねたら、『入ってるよー。』の答え。『えっ、どこに❓』。『中にー。』
何だと❗、粉モン大好き関西人としては許しまじき行為だ。

( ̄皿 ̄)ダボがっ、ワレお好み焼をナメとんのかっ❗
とは、勿論のこと口が裂けても言わない。美人には弱いのだ。優しくレクチャーする。先ずは豚バラ肉を焼き、その上から生地を乗っける。そうすれば外側がコーティングされるから、ひっくり返す時に崩れにくくなるし、豚の脂が生地に行き渡るのだ。それに、この方法ならば無駄に油を追加しなくて済む。

ひっくり返す段になって、今日来た若者二人(虫屋)のうちの一人に、返し係を任じる。しかし見事に失敗して割れてしまう。
『ψ(`∇´)ψケケケケ…、素人じゃのう』と笑ったら、すかさず『じゃあ、次の時は御手本をみせて下さいね』と返された。
(◎o◎)ゲロリンコ、まさかの逆襲である。マジかよ❓言った手前、失敗したら超カッコ悪いじゃないか。美人さんたちも揃ってきたから、かなりのプレッシャーが掛かるよ。失敗も避けたいところだが、敵前逃亡して美人にイケてないと思われるのは、もっと最悪だ。元来のええカッコしいとしては逃げるワケにはゆかぬ。翻して考えれば、ヒーローになるチャンスでもあるからして、ここでズバッとエエとこ見せたろやないの。
でも本当は、お好み焼を返したことなど長い間ない。たぶん中学生の時以来だろう。普段、家でお好み焼なんて作らないし、店でも最近は自分で焼くシテスムは消えかかっているのだ。
衆目が注目する中、躊躇を捨てて思い切って、えいや❗と一挙に返す。

٩(๑`^´๑)۶どんなもんじゃい❗❗
思ってた以上にキレイに返り、心の中では我ながら上手くいったとホッとしつつも、さもありなんの余裕のヨッちゃんのドヤ顔で若造に目をやる。そうさ、オイラは球際に強い男なのだ。結構プレッシャーがエネルギーになるタイプなのだ。
そして、すかさず言う。
『キミとは違うのだよ、キミとは。キミみたいにビビって躊躇すると失敗するに決まっておるのじゃ。ハートが弱いのだよ。虫捕りでも恋愛でも大胆さは不可欠なのだよ、ψ(`∇´)ψウシャシャシャシャー。』

 

 
自分で言うのも何だが、旨い。やっぱ焼き方は大事だ。
ちなみに若者にはリベンジを促し、彼は次の機会には見事キレイに返した。パチパチパチパチー👏

 

 
後半はチーズを乗せた洋風お好み焼なんぞも登場した。
味は全然覚えてない。どうせ大した事なかったんだろう。やはり、お好み焼は王道の「豚玉」に限る。

 

 
楽しくって、オジサンまたしても痛飲。
まあ、流れも良くなってきてるので、コレでいいのだ。

                         つづく

 
追伸
えー、前回の文章の一部に手を入れ直しました。知名瀬林道と大川ダムとの怖さの質感の違いを伝え忘れてたからね。ものすごくヒマな人は読み直して下され。文章は、たった一言の有る無しで随分と印象が変わることもあるから難しい。

この日に採ったアマミカラスの♀と、比較のための♂とオキナワカラスの♀の画像も貼っつけておきます。

 
【春型♀】 

【春型♂】

【オキナワカラスアゲハ春型♀】

(2013.2.28 沖縄県名護市)

 
(註1)超人バロムワン
東映、よみうりテレビ制作の特撮ヒーロードラマ『超人バロム・1(ワン)』のこと。「超人バロムワン」と表記される事が多いが、正しくは「超人バロム・1」と間に「・」が入る。
1972年(昭和47年)4月2日から同年11月26日まで日本テレビ系にて毎週日曜19:30〜20:00に全35話が放映された。
原作はあの『ゴルゴ13』の、さいとう・たかをの漫画『バロム・1』。しかし設定の一部の流用を除き、タイトルをはじめ、ストーリー、バロム・1のコスチュームデザイン等々は東映側によって大幅に変更されている。

ストーリーをかい摘んで書いておきます。
宇宙で何千年ものあいだ、正義の象徴コプーと悪の象徴である魔人ドルゲは戦い続けていた。

 
【魔人ドルゲ】

(出展『改造墓場A』)

 
やがて地球の侵略を開始したドルゲに対し、コプーはそれを阻止するために地球の少年(小5)白鳥健太郎と木戸猛の2人に正義のエージェントであるバロム・1の力を与える。2人は友情のエネルギーで互いの右腕を交差(バロムクロス)させることによって超人バロム・1に合体変身、悪の化身ドルゲに立ち向かう。
二人の役割は分担され、健太郎の頭脳がバロム・1の知性となり、猛の体力がバロム・1のパワーとなる。変身が完了すると同時に両目とヘルメットのエネルギーチャージランプが矢印の方向に光り出し、身体全体にバロムエネルギーが充填される。但し両目の中で会話する場面が度々挿入され、変身前の自我も残っているため、二人が喧嘩をしたり互いを信頼しない状況に陥った場合には変身は解けてしまい、信頼関係が回復するまで再び変身することはできない。その際、2人の友情エネルギーは手の平サイズのボップの裏のバロムメーターに針で表示され、友情エネルギーが300バロム以下になればバロム・1に変身できない。

 
【ボップ】

(出展『☆月光のあれこれ日記☆』)

 
なおボッブには、ドルゲに反応するレーダーや発信機、サーチライト、バロム・1の乗物であるマッハロッドへの変型、仲間の危険を知らせる機能などがある。また武器としても使え、投げつければ戦闘員のアントマンを一撃で倒すこともできる。

作品は特異性が高く、敵の首領ドルゲの見てくれが邪悪度満載、作戦も邪悪で弱い心を持つ人間を操るものが多く、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。ドルゲによって送り込まれる魔人たちも怪奇性が強調されたグロテスクなものが多い。特に後半以降はエスカレートし、人間の身体の一部をモチーフにしたウデゲルゲやクチビルゲ、クビゲルゲ、ヒャクメルゲなどのインパクト有りまくりの魔人が次々と登場し、より怪奇性の強い展開となった。子供心にも、コレってマジィんじゃないの❓というくらいにキワドイ見ためのものが多い。

 

(出展『やさしい嘘からはじめよう』)

 
上段左上からクチビルゲ、ヒャクメルゲ。中段がツメゲルゲ、クビゲルゲ。下段はノウゲルゲ。
もう、ここまでくるとホラーだよなあ(笑)

 

(出展『SAWANP☆西荻サブカル酒場』)

 
上段左からヒャクメルゲ、タコゲルゲ、キノコルゲ。下段はカミゲルゲ、クビゲルゲ、ウデゲルゲ、ノウゲルゲ。

ムッチャクチャである。今だったら、こんなの絶対にクレームの嵐だろう。身体障害者に対する配慮が足りないとかね。
けれども何でもかんでも差別に繋げて、声高に非難する昨今の風潮って気持ち悪いし、何だか怖いよ。色んな表現があって玉石混交の作品があるからこそ、世の中オモシロいのに、それを許さない社会って懐があまりに狭すぎる。だから、毒気を抜かれた最近のテレビはツマラナイのだ。

 
(註2)ヤゴゲルゲ
「超人バロム・1」に登場したドルゲ魔人の一人。人じゃないから一人じゃなくて一体か…。そんなことはどうでもよろし。

 

(出展『とうふプードル』)


(出展『つやつやみお』)

 
1972年8月6日放送の第19話「魔人ヤゴゲルゲが子守唄で呪う」に登場する。
で、「ヤゴゲルゲの子守唄」とは、そのヤゴ魔人がお化け屋敷に入った子供達を誘拐する際に歌ったものである。それにより子供達は操られて連れ去られてしまう。また、この子守唄の破壊力は凄まじく、我がんところの戦闘員のアントマンの脳細胞を破壊し、バロム1の手足を痺れさせたり、意識を失わせる程の威力を有していた。
が、何よりも威力を発揮したのはお茶の間の子供たちに対してであった。その低く響き渡る不気味な唄に衝撃を受けたという子供達は多く、トラウマになったお子ちゃまが続出したといわれる。かくいうワタクシも、その一人である。重低音で覚えやすいメロディーなので、妙に頭にコビり付くんである。
それゆえか、ダウンタウンもネタにした事があり、探偵ナイトスクープでもヤゴゲルゲの子守唄を歌われてトラウマを植え付けられた妹が、兄に復讐したいという依頼の回もあった。
隠れた名作とも言える特撮ソングだった為、2007年に発売された放送35周年記念「超人バロム・1」音楽集にも、当初は収録予定だった。しかしマスターテープが行方不明で、結局収録される事はなかった。巷では、これはヤゴゲルゲの子守唄の呪いではないかと囁かれている。

それはさておき、何ゆえトンボとかヤンマではなくてヤゴなのだ❓トンボに比べて弱いだろうに…。
あっ、そうか。魔人たちの名前の語尾には必ず「〜ルゲ」が付く。そして大多数にはクチビルゲ、ウデゲルゲ、クビゲルゲ、ノウゲルゲ、ツメゲルゲと、ルゲの前に濁点が入るのだ。「ヤンマルゲ」では濁らないから示しがつかんのだろう。
あれっ❓でもトンボルゲならOKだぞ…。よしワカッタ。トンボルゲだとマヌケな感じがするから✖なのだ。ヤゴゲルゲの方が遥かに語呂がいい。そうゆう事にしておこう。

一応、You Tubeの『ヤゴゲルゲの唄』を貼っつけておきます。下の空白欄をタップするとサイトに飛びます。

 
ヤゴゲルゲの唄

奄美迷走物語 其の六

 
第6話
『だいたいにおいて夜のダムはヤバい』

 
 2021年 3月23日(夜編)

4時半。諦めてあかざき公園を辞して山を降りる。
意気消沈だが、今夜の予報は雨ではないから夜にも出動しないワケにはゆかない。身も心もヘトヘトなのにね。
(´ε` ) ったくよー、こんなの殆んど拷問じゃないか。思うに蝶も蛾も採るとなると、昼夜問わずのアクションとなるので体力的にも精神的にもかなりキツい。今までなら夕方には帰ってきて、シャワーを浴びてビールを飲みながら今日も一日御苦労さん。それなりに満ち足りた気分で、ゆったりとイブニングアワーを過ごせた。今にして思えば、至福の時間だったよ。
これが夜にも採集となると、そうはゆかない。ローカルな店に行って美味いもんを食いながら酒飲んで、地元の人たちと仲良くなるなんて事も諦めねはならぬ。改めて思うけど、それが旅の醍醐味の一つでもあり、カタルシスでもあったのだ。
(-_-;)クッソー、今のところロクに結果も出てないし、飲みには行けないし、まるっきり楽しくないぞー。蛾の採集の辛いところは飲みに行けないところに尽きる。だから、蛾に対して罵詈雑言を吐きがちになるのかもしれぬ。
正直なところ、アマミキシタバが採れればそれでいい。本音ではヤツが採れたら、その後は夜間採集を全放棄したっていいとさえ思ってる。つまり早めに結果を出せたら、あとはサボりまくったっていいのだ。毎夜、浴びるほど酒を飲んでも何ら問題ないのである。

 
【アマミキシタバ】


(出典『世界のカトカラ』石塚勝己)

 
但し、ハグルマヤママユにも会いたいのはヤマヤマではある。あっ、意図せず中途半端な駄洒落になっとるやないけー。カッコ悪ぅ〜┐(´д`)┌
えー、整理します。現在の立ち位置は、酒とアマミキシタバならば、アマミキシタバを取る。酒とハグルマヤママユならば、酒を取る。これでワタクシ的プライオリティは御理解戴けたかと思う。

シャワーを浴びて少し休んでたら、6時半から宴会だと報された。今日は参加しますよねと小池くんに言われたが、断腸の思いでそれを振り切って夜間採集に出る。
バイクを走らせながら思う。何やってんだか…。それって本当に正しい判断だったのか❓頭の中でエヴァのアスカ(註1)が、

『あんた、バカぁ❗❓』
『これから若い女の子たちと楽しく飲めるのに蛾を採りに行くだなんて、ホント、バッカじゃないのー❗』

と言ってる。

 

(出典『ニコニコ静画』)

 
アスカ殿、その通りでござんすよ。あたしゃ、ダメだダメだダメだダメだ…の馬鹿シンジよりも愚かな男ですよ。酒好きで女好きで通ってきたイガちゃんの名が泣くよ。クッソー、今すぐ引き返してぇー。

途中でコンビニに寄って晩飯を買う。
ちなみに奄美大島にはセブンイレブンも無ければ、ローソンも無い。おそらくヤマザキデイリーストアも無い。コンビニといえば、ファミマ(ファミリーマート)しかないのだ。

 

(出典『ペンション涼風』)

 
それに営業形体が独自だ。地元のパン屋コーナーが併設されてたり、並んでる弁当の半分は地元業者のものだったりする。まあ、そこまではいい。だけど🍙おにぎりには憤りを感じる。ナゼだか知らんが、おにぎりに限ってはファミマブランドではなくて、全部が地元業者のおにぎりなのだ。コレが許せないほどに絶望的に不味い。何も知らずに買って、パサパサであまりにも不味いので、何でや❓と思って表示を見たら地元の会社だったのだ。来島初日にそれを知って、奄美のコンビニでは死んでもおにぎりは買わないと固く心に誓ったのさ。

迷った末に結局は地元業者のBIGチキン竜田弁当(¥510)なるものを買った。おにぎりはダメでも弁当はイケてるかもしれないと思ったのだ。明らかにボリュームがあって、値段も少し安いからね。それにもしかしたら、おにぎりの業者と弁当の業者は違うかもしれないとも考えた。少々イタいめにあってもチャレンジしなくては驚きと云う果実を得られないもんね。調子が悪い時ほどアグレッシブにいこう。それが悪い波からの脱出のキッカケになるかもしれない。

名瀬の街中を突っ切って、西へと向かう。目指す先は、大川ダム。ここはアマミキシタバが日本で初めて採集された朝戸峠からも距離的に近いから選択した。
今、『じゃあ何で朝戸峠に直接行かないのだ❓』と思った人もいるでしょう。そう、そこの貴方ね。
でも、これには重大な理由がある。ネットで朝戸峠を検索したら古い旧トンネルがあり、コレがメッチャクチャに怖そうなんである。画像で見てもチビるくらいヤバい雰囲気なのだ。実際に心霊スポットとして有名なトンネルらしい。

ワキャ(ノ ̄皿 ̄)ノ、スーパーなチキンハートであるオイラが、そんな恐ろしいところに行けるワケがないのだ。

空はまだ明るい。昨日の知名瀬林道では日没後に着いてスゲー怖かったから、今回は日没前に着くように早めに出たのだ。それに明るいうちだと周囲の環境もわかる。なれば何処にライトトラップを設置するかも吟味できると云うワケやね。

朝戸トンネルに入る。

 

(出典『Amamiの書』)

 
たぶん前々回に来た時には西仲間まで行ってるから二度目だ。いや、帰りにも通っているから三度目か。
でも走っていても、いっこうに出口が見えてこない。何だか気が変になりそうだ。
このまま延々とトンネルから出られなくなったりして…。
(ToT)ダアーッ。偶然、時空の歪みにハマって帰って来れなくなるかもしれんポチー。

冷や汗の中、漸く思い出した。名瀬から西へ向かう南側のルートはトンネルだらけで、しかも長いトンネルが多いのだ。
そうと解っても気持ちは揺れ動いて安定しない。長いトンネルって、無条件に人を不安にさせるんだよなあ。

トンネルを出て直ぐに右折し、ダムへと向かう道をのぼる。
途中、民家があり、そこに住む人が訝しげにコチラを見た。こんな時間に山の中へ行くなんて…という顔だ。その驚いたような顔を見て、不安が過(よぎ)る。この先にいったい何があるというのだ❓あっちょんぷりけ。

ダムの奥まで行くと広場に出た。その先は細い山道になっており、入口にはチェーンがかかっていた。たぶんコレが滝へと向かう道なのだろう。夜の滝なんて怖いから、ゼッテー行かないけどさ。

広場の横に建物があった。
そこに何本か水銀灯らしきものが立っている。コレって当たりかもしれない。もし水銀灯が点けば、蛾たちがワンサカ寄って来る可能性がある。だとしたら、ワシの何ちゃってライトトラップの効力をバックアップして余りある強力な助太刀になるじゃないか。労せずしてアマキシGETじゃよ。

良い位置に煉瓦が積んであったので、それを利用することにした。

 

 
お陰でソッコーで屋台を組めたよ。
続いてバナナトラップを山道に仕掛けに行く。
しかし、何となく不気味な感じで、言葉に表せないような気持ち悪さが漂っている。霊感の無いワシでも本能的に身体が奥へ行くことを拒んでいるような気がする。アンタ、悪いことは言わへん。やめときなはれである。マジ怖いので、入口近くに集中して仕掛けることにした。たとえチキンと言われても構わんけん。ワシ、どうせ小心もんじゃけん。

準備が完了したところで弁当を食う。

 

 
不味くはないのだが、旨くもない。肉、かたいし。
ただし、量は多い。途中から食うのがしんどくなってきたくらいだ。

 

(出典『歩鉄の達人』)


(出典『TundaiBlog』)

 
しっかし、異様なまでに淋しい風景だ。さっきから鳥も鳴かんし、風の音さえしないから無音なのだ。オマケに空はどんよりで、辺りはどんどん暗くなってきてる。シチュエーション的に、何かか起こる時って映画でもドラマでもこうゆう異様に静かで不気味な感じなんだよねー。そして惨殺。悪魔が来たりて笛を吹くのだ。

日が完全に暮れた。
だが水銀灯は点かない。とゆう事は廃屋って事か。いや、廃墟と言った方が正しいだろう。廃墟って昼間でも充分怖いのに、夜なんてヤバすぎでしょうに。
いかん、いかん。思考を停止する。極力そうゆう事は考えないようにしよう。想像が恐怖を増幅させるのだ。一番の敵は己の想像力なのだ。暴走させてはならない。

闇が急速に侵食してくる。
(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ダム、超怖ぇー。水は真っ黒で、僅かに水面が動いている気配がする。ダムといえば、ゼッテー何か沈んでるよね。あえて、何かって濁しちゃったけど、言ってしまうとコレはもう死体だよね。あー、ワシ言ったよ、言っちゃったよ。それってタブーだよな。それに口に出した瞬間から言葉に魂が宿って言霊になり、現実化すると聞いたことがあるぞ。或いはそれが何かを呼び寄せるとも。だったらワシ、ヤバくね❓
とにかく絶対、誰か殺された人がダムに放り込まれてるに決まってる。もしくは此の世に怨みを持って自殺した人が沈んでるかもしれない。或いは、その両方かも。だから何処でも夜のダムには、ただならぬ雰囲気が醸し出されておるのだ。
だいたいにおいて水が淀んでいるような場所は昔からヨロシクないと言われている。そうゆう所には出ると相場が決まっているのだ。だから、ダムは元より池や沼、湖、川の下流、井戸とかはヤバいと言われているのだ。トンネルなんかも中は水が染み出していることが多いから出るんだろう。空気も淀んでるしね。
そういや此処は、あのスーパー恐ろしげな朝戸峠の旧トンネルからも近い。ということは、怨霊どもが其処とダムとを縦横無尽に往復してたりして…。今、ワシは怨霊黄金ルートの真っ只中に立っているのやもしれぬ。知名瀬林道も怖かったけど、その怖さとは質感が違ってて、よりリアルさを帯びている。

とはいえ、虫たちがジャンジャンに飛んで来れば、そんな恐怖も忘れるだろう。虫を採りたいという欲望は、恐怖をも凌駕するのだ。虫バカになりさえすれば、大丈夫だ。意識をそっちに集中しよう。

しかしライトトラップを点灯するも、何も飛んで来ない。どんな場所でも大体は点灯直後には近くに居た蛾が幾つかは飛んで来るものだが、白布には何も止まっていないのだ。たぶん正面にある山が遠すぎて光が届かないのだろう。でも、そのうち光に吸い寄せられて徐々に数も増えてゆくだろう。そう思うことにしよう。

バナナトラップの様子を見に行く。

 

 
完全暗闇化すると、益々不気味な場所だ。懐中電灯で足元を照らしながら、おずおずと進む。大蛇ハブが這っているかもしれないからだ。自慢じゃないが、わしゃ大のヘビ嫌いなのだ。足もないのに前に進むのが全くもって解せないし、チロチロと舌なめずりはするし、あのヌメヌメした感じもダメだ。
そういや昔、鈴鹿の方にプーさんとミホとでキリシマミドリシジミを採りに行った時に足元から突然シマヘビが出て来たので、
キャァーε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
と女の子みたいな声を出して逃げたら死ぬほど笑われたわ。オイラ、それくらいヘビ嫌いなのさ。
シマヘビ如きでそうなんだから、大蛇化する本ハブなんかに遭遇したら心音プッツリかもしれない。

 

(2014.9月 奄美大島 蒲生崎)

 
戻って何気に廃墟に目をやった瞬間だった。

Σ(゚∀゚ノ)ノ❗何か光って動いた❗❗

すわっ🔥鬼火か❓と思って、その場で石化する。そうです、ワタシは石です。生き物ではごじゃりません。だから無視してください此の世の者ならざる存在さんたち。
けれど恐る恐る懐中電灯を周囲にも照らすと、それと連動して光も動いた。そこで漸く気づく。
何のことはない、ただ懐中電灯の光と自分の姿が建物のガラスに反射したにすぎない。
びっくりしたなー、もぅー(´ε` )

午後8時を過ぎてもライトの白布は開店休業状態で閑古鳥が鳴いている。だからアマミキシタバどころかクソ蛾でさえも1つも採れていない。こんなに何も来ないなんて初めてだ。こりゃ呪われとるね。
バナナトラップも15分おきに見回りに行くが、訪問客はキショいゲジゲジしかいない。ゲジゲジは大嫌いだ。脚が多すぎるのも、それはそれで背中がオゾけるのだ。けど、この日は憤りの方が勝って棒で虐待してやった。したら、慌てて逃げていった。
何だか虚しいわ。怖ぇーし、何もおらんから退屈だし、退屈だから色々あらぬことを考えて心が少しづつフォースの暗黒面へと落ちていってる。それが自分でもよくわかる。

午後9時には、その恐怖と退屈に耐えきれなくなって撤退を決意した。これから先、どう考えても良いことが起こりそうにはないもん。目に見えないけど、きっと此処には瘴気が渦巻いているに違いない。これ以上、悪い事が起こらぬ前に帰ろう。

徒労感に包まれて夜道を下り、また朝戸トンネルを抜けて三十分後には宿に帰り着いた。
玄関を入ると、宴もたけなわであった。可愛い女の子2人の力は絶大で、宿泊客だけでなく地元の人も加わって大盛況だ。
クソー、あんな思いをするなら、最初から宴会に参加すべきであった。こうなりゃ、ヤケ酒だ。浴びるほどに飲んでやるわ。

かなり酔っ払ってるゲストハウスの息子さんに、今日は何処行ってたの❓と訊かれて『大川ダム』と答えたら、驚いたような顔で言われた。

『夜に、よくあんなとこに一人きりで行くよねー』

『(・o・)えっ、それってどゆこと❓』

『地元では有名な心霊スポットだからさ』

『Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン。マジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗』

どうりで、あんなにも気待ち悪かったのだ。
何なんだ、この負の連鎖は❓
オジサン、泥酔路線まっしぐら。

                         つづく

 
追伸
もうあんなとこには、二度と行かん。
ちなみにダムの写真をお借りしたのは、自分で撮るような精神的余裕が全くなかったんでしょなあ。真っ暗闇の画像も前日か前々日に撮った名瀬か知名瀬林道の画像を転用だしさ。

そういえば、過去にホラーとスリラーとミステリーの違いについて書いたことがあったな。たぶん初期のカトカラシリーズか春の三大蛾の回だ。3つの違いは長くなるので書かない。気になる人は、申し訳ないが自分で探しとくれ。

 
(註1)エヴァのアスカ
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の弐号機パイロットである惣流・アスカ・ラングレーのこと。性格は快活で主体性・自立心が強く、非妥協的。異常なまでにプライドが高く、自己中心的だが、一方では自己愛が欠如しており、周囲に対して過敏で傷つきやすい面を持つ。この性格は幼少期のトラウマに大きく影響されており、望んだ相手に自分を見てもらえなかったことによって欠けた自己愛を、他人に認めてもらうことで満たそうとする面が強い。謂わば、その強さは脆さと紙一重のものである。

尚、『あんた、バカぁ!?』のセリフは、壱号機のパイロットであり主人公の碇シンジに対して度々放たれる言葉で、他にも事あるごとに『バカシンジ』などと罵ることが多い。
裏腹にシンジに対して好意を持ち、愛を求めるが、彼が都合の良い逃避先として消去法で自分を求めてきた際には強く拒絶した。
アスカ役の声優宮村優子はアスカについて「今で言うところのツンデレ。異性として気になるのはシンジだけど、なかなかそれを表に出すことが出来ない」と評している。