銀星天蛾と楮を巡るあれこれ

 
連載中の『奄美迷走物語』の最終回の予定だったが、ギンボシスズメの解説をするのを忘れていた。と云うワケで、迷走物語の番外編として書きます。

 
2021年 3月31日
上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも今度は新鮮な個体だ。下から見ても羽に破れがない完品だ。おそらく時間的にみて、コレが最後のチャンスだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

しかし、結果は見事な惨敗だった。

宿に戻ったら、午後5時半を過ぎていた。
夜間採集をするなら飯なんぞ食っているヒマなどない。今夜は朝戸峠に行くのである。今まで避けてきたのは、奄美でも超一級の心霊スポットと名高い場所だからだ。それだけに何としてでも日没前に着いておきたい。休む間もなく用意して出る。

朝戸トンネルの手前の道を右に上がってゆく。
上から朝戸トンネルの入口が見える。あのトンネルも異様に長くて充分ホラーだったが、今から行く旧朝戸トンネルはそんなの目じゃない弩級のヤバさだろう。そう思ったら背中がゾクゾクしてきた。
バイクは不安なまでにグングンと高度を上げてゆく。
眼下には亜熱帯特有のモコモコした森が見える。街のすぐそばなのに、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美有数の原生林として知られる金作原の裏側にあたるのだ。初めて来るが、環境が良いのも納得だ。

屋台を構える場所を吟味しながら走る。
午後6時半前。旧朝戸トンネルまでやってきた。

異様だ。まだ明るいのにトンネルの入口周辺だけがメチャンコ暗い。チビりそうだ。
行き交う車両は、ここまで皆無だったな…。こんなとこ誰も訪れないのだろう。とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも、ただならぬものを感じる。

昨日、一応ネットで旧朝戸トンネルの心霊現象についてチェックした事を否応なしに思い出す。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

原文そのままである。句読点が少なくて無茶苦茶だ。なだけに、かえってテンションが掛かったような文章だ。書いた本人も狂っているのでは❓と不安にさせるのだ。
流石にそんな恐ろしきトンネルの横でライト・トラップをやる勇気はない。
なのにトンネルの向こうの環境が見たくなる。もしかして何かに誘(いざな)われているのか…❓魔がさすと云う言葉があるが、それがこうゆう時なのかもしれない。ワシはドがつく程の超ビビリな男なのである。そんな怖がりのオラが、こんなトンネルを潜(くぐ)るのか❓しかも一人で❓
でも、ナゼかトンネルを潜る事を選択してしまう。

けど入ってすぐに後悔した。急に温度が下がり、あまりの冷んやりさにビクッとなった。そして、中は信じられないくらいに真っ暗だ。照明が全くないのだ。しかもピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。
でも引き返す気はない。性格的に出来ないのだ。それにトンネルは短い。たぶん50mもないだろう。日が暮れていたら怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。環境を確認しに行くなら今しかない。

抜けたら辺りは鬱蒼としており、見通しが悪くて湿度も高い。典型的にヤバい場所だ。怖くてライトトラップなんぞやれるワケがない。一秒たりともこんな所には居たくない。そう、本能が言っている。
ヾ(・д・ヾ))))))))=3=3=3 ぴゅう━━━━
デンして帰って来た。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、闇夜であのトンネルの前を通るのだけは避けたいと思ったのだ。

日没直後に道路沿いに屋台を構える。少しでも光が届くようにと、ガードレールにベタ付きだ。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た。
だが、白布の手前で反転してどっかへ消えた。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。狙いはアマミキシタバなのだ。たとえキミが採れなくても悔しくはない。

【アマミキシタバ】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

したら、5分後に又やって来た。今度はシッカリと姿を見た。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾だ。迷彩柄の戦闘機みたいなのだ。気分が⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、胴体も、もっと太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかに小さいし、翅の柄も図鑑等で見て記憶しているのとは違う。
とにかく見たことのない蛾である事は確かだ。もしかして、大珍品の迷蛾だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄まで知らしめられているのだ。

慎重に毒瓶を被せる。
しはらく放置して、気絶したところでアンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。

何者かはワカランが、(☆▽☆)渋カッケーぞー。
でも、こんなスズメガって、日本に居たっけ❓
オラ、もってる人だから大金星の大発見だったりしてね。

大阪に帰ってから調べてみると、どうやらギンボシスズメという奴みたいだ。(´ε` )なぁ〜んだである。大発見でも大金星でもない。

【ギンボシスズメ】

緑色を帯びた前翅は美しく、幾何学的模様でカッコイイ。前翅の中に色んな図形と線が入っている。
その幾何学模様に、抽象絵画の創始者とされるカンディンスキーの絵のイメージが重なる。

(カンディンスキー『On WhiteⅡ』)

(出展『note.com』)

カンディンスキーみたく原色多めじゃないけど、デザインは近いものがある。
(・o・)あっ❗、もっと近いのもあったぞ。

(カンディンスキー『インプロヴィゼーショ7』)

(出展『JUGEM』)

兎に角、このギンボシちゃんには一発でファンになったよ。
でも時間が経つと、美しい緑色は失われ、褐色に変色してしまうそうだ。残念至極である。
蛾には、蝶にはあまり見られない美しい緑色を有した種類が多い。だが、大概のモノが同じように色が保たれないみたいだ。惜しいよね。もしも緑色が保たれたなら、蛾の人気はもっと高かったろうに。実に惜しい。薬品とか使って、この美しい緑色を残す方法とか無いのかね❓マニアな人が何とかしてくれんかのう。それを切に願うよ。

これは多分♂だから、♀ってどんなだろ❓

(-_-;)ゲッ、でも頼みの綱の『日本産蛾類標準図鑑』には♂1点のみしか図示されていなかった。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

しかも汚い。死ぬと色褪せるというのは、こうゆう事なのね。
それにしても1点しか図示されてないという事は、やはりレアなのかな❓でも同亜科内だと、ハガタスズメ、ヒメウチスズメ、アジアホソバスズメ、モンホソバスズメ、フトオビホソバスズメ、タイワンクチバスズメも1点しか図示されていない。どれもソコソコ珍しいような気もするが、スズメガに詳しいワケではないから正直、レア度はワカラン。それに別な亜科であるホウジャク亜科では、普通種のブドウスズメとかハネナガブドウスズメも1点しか図示されてない。と云うことは、単にスペースの問題かもしれない。図鑑というものは効率良く並べて、スペースを上手く埋めなければならないからだ。

仕方なく他を探したら、Wikipediaにあった。


(出展『Wikipedia』)

基本的に色彩斑紋は雌雄変わらないようだが、♀の方が大型で、腹部が太くて前翅が全体的に丸み帯びる。腹先の形も違うような気がする。
比較のために、同じ並びにあった♂の画像を貼っつけておく。

裏面画像もあった。♀の方を載せておく。


(出展『Wikipedia』)

基本は表のデザインと同じだが、後翅は表側よりも複雑な斑紋となり、前翅は逆に表側の中心がシンプルになっている。あべこべで、ちょっと面白い。

和名の由来は、前翅中室に銀白斑が有ることからだろう。
漢字だと『銀星天蛾』と書くらしい。何か高貴で格調高い感じがするね。
嗚呼、でも漫画『北斗の拳』に、
「👊=3👊=3👊=3 アタタタタターッ❗、銀星天蛾昇流拳❗❗」
とか必殺拳を使う奴がいそうでもある。
でも漢字を見てから実物を見させられたらガッカリするかもしれない。漢字から受けるイメージはミッドナイトブルーみたいな濃紺の地色に、ピカピカの銀紋が散りばめられてるって感じなのだ。

余談だが、中国や台湾では『構月天蛾』と呼ばれているようだ。意味はワカランけどー。

 
【分類】
スズメガ科(Sphingidae)
ウチスズメ亜科(Smerinthinae)
Parum属

日本にはスズメガ科は76種おり、そのうちウチスズメ亜科は19種を占め、ギンボシスズメの他に以下の種が含まれる。

・ウチスズメ
・コウチスズメ
・ヒメウチスズメ
・ウンモンスズメ
・エゾスズメ
・ノコギリスズメ
・ホソバスズメ
・フトオビホソバスズメ
・モンホソバスズメ
・アジアホソバスズメ
・トビイロスズメ
・ハガタスズメ
・モモスズメ
・クチバスズメ
・ヒメクチバスズメ
・タイワンヒメクチバスズメ
・オオシモフリスズメ
・ヒサゴスズメ

わりかしカッコいいスズメガが多いグループだ。

Wikipediaに拠れば、このうち”Parum属”とされるのはギンボシスズメのみである。というか、日本だけでなく、世界を見回してもギンボシスズメだけみたい。つまり、1属1種だけで構成される属ということになるのか。だとしたら、何か孤高って感じでカッケーじゃん。
けど『日本産蛾類標準図鑑』には「Parum属は本種をタイプ種として創設された属で、アジア東部に3種が既知である‥」と書いてあった。
(-_-;)うーむ、残念だ。でもここはウィキペディアなんかよりも岸田先生を信用しよう。

 
【学名】Parum colligata (Walker, 1856)
イギリス人昆虫学者フランシス・ウォーカーによって記載された。タイプ標本の産地は中国北部。

属名の”Parum”はラテン語で「親和力」「親和性」を意味するものと思われる。
余談だが、この「Parum」はパラフィン(Paraffin)の語源になってるそうな。レピ屋ならパラフィンといえば、三角紙の素材であるパラフィン紙だよね。同じものでいいのかな❓

小種名の”colligata”は、ラテン語の動詞”colligo”に由来するものと思われる。
colligoは大きく分けて多分2つの方向性の意味がある。

①「結びつける・繋ぐ・接続」「まとめる・結合的」「引き止める」
②「集める」「得る・獲得する」「気を取り直す」「数える」「熟考する・考察する」

並べてみても、種ギンボシスズメのイメージとは今ひとつ繋がらない。何故この小種名になったのか、その意味が全然ワカランぞ。

語尾が「〜ta」に変化するのに対しても脳味噌は沈黙だ。何か法則が有りそうだけど、意味するところが探しても見つからん。何となく「〜的な」って感じがするけど、だとしても明確な意味が掴めない。前翅のデザインが図形と線とで構成されているから「結合、結びつける、繋ぐ」と云うイメージをウォーカーに喚起させたのかもしれない。全然、スッキリしないけど。

参考までにシノニム(同物異名)も並べておく。

・Daphnusa colligata Walker, 1856
・Metagastes bieti Oberthür, 1886
・Parum colligata saturata Mell, 1922
・Parum colligata tristis Bryk, 1944

下2種は亜種記載されたが、無効になったものかな❓

 
【開張(mm)】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では65〜80mmとあったが、『日本産蛾類標準図鑑』では70〜90mmとなっていた。また『Wikipedia』では69〜90mmとあった。

 
【分布】
北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島。
しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。もっと言うと、ネットで記事が出てくるのは九州・対馬以西のみだ。
思ってた以上に、そこそこ珍しいのかもなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も九州・南西諸島を含めても相対的には少ない方だからね。まあ所詮は虫、しかも蛾だから、情報量はそんなもんかもしんないけど…。

一応、レッドデータブックのリストもチェックしておこう。

大阪府:絶滅危惧種Ⅰ類
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
兵庫県:絶滅危惧種Ⅱ類
宮城県:準絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:情報不足
福島県:情報不足
島根県:情報不足

微妙なところだ。そこそこ珍しいような、そうでもなさそうな…そんな感じである。まあ、最近は蛾に興味を持つ人も増えているみたいだから、そのうち細かい分布も解明されていくだろう。
猶、国外では台湾,朝鮮半島,中国東北部〜南部,マレー半島北部,インドシナ半島,フィリピン(ルソン島)に分布する。


(出展『www.jpmoth.org』)

垂直分布は『DearLep 圖錄檢索』によると、台湾では低中海抜森林となっていた。おそらく他地域でも同じようなものだろう。食樹の植生を考えれば、あまり高所には棲息しないと思われる。

 
【成虫の出現期】 6〜9月
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には、そう書いてあった。
でも自分が採ったのは3月31日だから、全然時期が合致しないぞ。このサイト、重宝しているが鵜呑みにするといけんね。アップデートされてないので、情報が古いのだ。
(・o・)あれれ❗❓『日本産蛾類標準図鑑』でも年2化 6〜9月となってるぞ。どゆ事(?_?)❓
けど、ネットの『服部貴昭の忘備録』というサイトには、4月15日の日付で沖縄県国頭村での画像がアップされていたよな。しかも、幼虫の食樹であるカジノキが多い国頭村では個体数が多いとも書いてあったぞ。とゆうことは間違えて早めに羽化しちゃいましたというような個体ではなく、通常の発生と考えられる。ワケわかんねぇーぞ。
けど、先を読み進むと直ぐに問題は一件落着した。標準図鑑には「南西諸島では多化性の可能性がある。」という追加コメントが載っていたのである。

中国北部では年に1〜2化、5月から7月に成虫が見られる。韓国では5月中旬から9月下旬にかけて記録されている。さらに南の亜熱帯、熱帯地域では最大で年4化するのではと推測されている。
でも、台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』では5〜10月となっていた。台湾は亜熱帯で南西諸島と気候が変わらんけど、コレって合ってのかな❓

 
【成虫の生態】
『服部貴昭の忘備録』には、早い時間帯から灯火に飛来すると書いてあった。確かにワシの時も7時台の終わりに飛んで来た。

スズメガの仲間だから、どうせ花の蜜とか樹液でも吸っとるんじゃろう。そう思ったが、何とウチスズメ亜科の蛾は種により度合いの差はあるものの、口吻が退化傾向にあるらしい。とゆうことは、種によっては全くエサを摂らないということだ。尚、ギンボシスズメの口吻が他と比較してどれくらい退化しているのかを調べたら、短いとは書いてあった。けど、餌を摂る摂らないについての言及はなかった。

面白いのは止まる姿勢である。


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

海外のサイトも見たが、こうゆう止まり方をしている画像が結構多い。威嚇なのかなあ❓
指に止まらせると、絶対この止まり方になるようだ。
今度会ったら、自分も試してやろう。

 
【幼虫の食餌植物】
カジノキ、コウゾ (クワ科 コウゾ属)

コウゾといえば、紙の材料となる「コウゾ、ミツマタ」が真っ先に頭に浮かぶけど、そのコウゾなのかな❓

取り敢えず、ウィキペディアでググったら、やはりそのコウゾであった。
以下、要約、文章組み換えーの、ちょいちょいコメント挟みぃーので進めてゆく。

(コウゾ Broussonetia kazinoki )

(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

あれれ❓、学名の小種名が、もう1つの食樹であるカジノキの綴りになっておるではないか。
でも確認したら、間違いなくコレが学名のようだ。何だか錯綜してんなあ。なぞなぞかよ❓


(出展『Wikipedia』)

果実は、何か桑の実みたいだね。アレ、美味いんだよなあ。
でも考えてみれば当たり前かあ。そもそもがコウゾはクワ科の植物だもんね。

漢字だと「楮」と書く。
タイトルの漢字を読めなかった人が大半だと思うけど、「楮」はコウゾなのだ。
してからに、何とコウゾはヒメコウゾとカジノキの雑種らしい。
(☉。☉)えっ❗、雑種なの❓だったらカジノキの方が偉いじゃんか❗
でも、事はもっと複雑で、そう簡単な事でもないようだ。

雑種が作られた起源はかなり古く、いつからかも詳しくは分かっていないようなのだ。
紙の起源は中国で、紀元前2世紀頃。紙の製法が確立されて日本に伝わったのが610年とされる。つまり、大化の改新よりも前だ。その後、日本での製造が確認されているのが702年。ということはコウゾを使って本格的に紙が作られ始めたのは、おそらくそれ以降の奈良時代から平安時代だろう。ようは古すぎて、コウゾを栽培され始めた正確な記録が曖昧なのだろう。
ワザワザ雑種を作った理由は、低木のヒメコウゾをやや大型になる近縁のカジノキと掛け合わせることで、より大きく成長させ、紙を大量生産しようという試みだったのではないかと考えられる。そして雑種であるにも拘らず、コチラの方が価値が高くなり、あたかも母種であるかのごとく単にコウゾと呼ばれるようになったものと思われる。で、いつしか小さい方が元々コウゾなのにヒメコウゾと呼ばれるようになったのではあるまいか。それゆえか、ヒメコウゾの別名をコウゾとする場合もあるようだ。たぶん地方によっては本来の呼び名が残った所もあったのだろう。
ヒメコウゾは雌雄同株異花、カジノキは雌雄異株。よってコウゾはカジノキの性質である雌雄異株を継承していたり、ヒメコウゾのように雌雄同株であったりするという。そうなると、雌雄同株のコウゾとヒメコウゾの判別は難しく、よりカジノキっぽいのか、ヒメコウゾっぽいのか全体的に特徴を捉えて分類するよりない。だから情報が錯綜している感が否めないのだ。
でも所詮は雑種だ。神経質に判別して名前を付けようとする行為自体がナンセンスなのかもしれない。

(雌花)

(出展『Wikipedia』)

(雄花)

(出展『Wikipedia』)

コレが雌雄異株タイプのコウゾ。
ちなみにヒメコウゾの特徴である雌雄同株異花とは、1つの株に雄花と雌花とが両方咲くものをいう。


(出展『植物写真鑑』)

コレがその雌雄同株タイプのコウゾである。

高さ2〜5mの落葉低木で、古来から和紙の材料として知られており、今日でも和紙の主要な原料になっている。
幹の皮を剥いで、それを色んな工程を経て紙にするそうだ。

樹皮は褐色。葉は互生する。6月頃にキイチゴ状の実をつける。赤く熟したものは甘味があって食べられる。ただし、花糸部分が残っていて、ネバ付いて舌触りが悪い。なのでクワの実のような商品価値はない。

扠て、次はカジノキだ。
 
(カジノキ Broussonetia papyrifera)

(出展『Wikipedia』)

何かスゴい見てくれだな。実は、かなり変わってる。

(葉)

(出展『Wikipedia』)

(雌花)

(出展『Wikipedia』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

(雄花)

(出展『松江の花図鑑』)

このように雌雄異株である。

(幹)

(出展『Wikipedia』)

漢字では梶の木と書き、単にカジ(梶)、コウ(構)とも呼ばれる。
梶って、梶原さんとか名字でよく見掛けるけど、そんな木は見たことないぞと思ってた。それが、まさかのカジノキの事だったんだね。

落葉高木とされるが樹高はあまり高くならず、10mほど。葉は大きくて、浅く三裂するか、楕円形。毛が一面に生える。左右どちらかしか裂けない葉も存在し、同じ株でも葉の変異は多い。大木になればなるほど、葉は楕円形になるみたいだけどね。

神道では、古代から神に捧げる神聖な木として尊ばれている。その為、神社の境内などに多く植えられた。主として神事に用いられ、葉が供え物の敷物として使われた。
また、その葉を象った紋様が諏訪神社などの神紋や武家の家紋(梶紋)としても描かれている。


(出展『Wikipedia』)

江戸時代には諏訪氏をはじめ、松浦氏、安部氏など四家の大名と四十余家の幕臣が用いている。また、苗字に「梶」の字のある家が用いる場合もある。

樹皮はコウゾと同様に紙の原料となる。中国の伝統紙である画仙紙(宣紙)は主にカジノキを用いる。又、昔は七夕飾りの短冊の代わりとしても使われたそうだ。
葉は豚や牛、羊などの飼料(飼い葉)になる。また中国では、煙に強いことから工場や鉱山の緑化にも用いられている。

ここまで書いて気づく。
(・o・;)あれれ❓、ウィキペディアには、カジノキもコウゾも分布が書かれてないぞ。コウゾはカジノキとヒメコウゾとの雑種だから、それも理解できるけど、カジノキまで記述がないのはおかしいよね。

『庭木図鑑 植木ペディア』というサイトで確認したら、ありました。本州中南部から九州にかけて自生するらしい。
おいおい、奄美大島とか沖縄本島が含まれていないぞ。コレって、どゆ事〜(´ε` )❓
でも「同類のコウゾ、ヒメコウゾと共に樹皮が和紙や縄、布等の材料になるため各地で栽培され、後に野生化した。」とも書いてあった。けど、奄美や沖縄で紙が作られていたなんて聞いたことがないぞ。

別なサイトでも確認しておこう。
『植物図鑑 エバーグリーン』というサイトには、こう書いてあった。
「中国中南部~マレーシア、太平洋諸島などで広く栽培され、野生化し、正確な原産地は不詳です。日本以外にもアジア全般に分布する。」
ところで、奄美や沖縄にカジノキやコウゾって自生してるのかな❓
いや、待てよ。その前に元々自然状態で自生するヒメコウゾはどうなんだ❓図鑑では食樹には挙げられてないけど、幼虫は間違いなくヒメコウゾも利用している筈だ。ならば、ヒメコウゾの分布もチェックしといた方がいいだろう。

(ヒメコウゾ Broussonetia monoica)

(出展『mirusiru.jp』)

花は雌雄同株だ。


(出展『北信州の道草図鑑』)

ヒメコウゾの分布は、本州(岩手県以南)、四国、九州、奄美大島、朝鮮、中国中南部とあった。
(◠‿◕)やりぃ❗、読み通りだ。奄美には生えてる。
因みに奄美にはコウゾは見られず、カジノキは限られた場所にしか生育していないようだ。となると、奄美に生息するギンボシスズメはヒメコウゾを食樹としている可能性が極めて高い。
ついでに沖縄県での分布についても調べてみた。
結果は、ヒメコウゾは分布しないようだ。でもコウゾはあるみたい。カジノキは成虫の出現期でも触れたように国頭村に自生していて、ギンボシスズメの発生地ともなっている。沖縄ではカジノキのことを古くからガビキと呼んでいるそうだから、今でも各地に見られるのだろう。とゆうことは、ギンボシスズメは沖縄本島では主にカジノキを食樹としていると思われる。

でも、ここで大きく躓く。
『Wikipedia』でのヒメコウゾの学名を見ると、何とコウゾと同じ「Broussonetia kazinoki」という学名になっているではないか❗
気になるから他のサイトを片っ端に見たら、学名がそうなってるものが大半だった。おいおいである。
まあ、コウゾは雑種だし、何かと問題ありなのかもしれないなあ…。雑種の場合は学名はどうなるのだ❓そもそも雑種に学名とか普通に付けていいものなのか❓だったら園芸種のバラなんて無数の雑種があるじゃないか。それらにも学名が付いているのか❓その辺のルールはどうなってるのかね❓もしかして学名に雑種を表す特別な表記法とかあるのかな❓

捜しまくって、漸く『広島の植物ノート』と云うサイトで、その謎が解けた。
江戸を訪れたシーボルト(1830)が日本のコウゾやカジノキに学名を付けて発表した際、彼が聞いた日本名に混乱があったようで両者を混同してしまい、日本名のカジノキの名がコウゾの学名に付けられてしまったようなのだ。
その後、Blume(1852)が、Broussonetia sieboldiiというシーボルトの名を冠した名をコウゾの新たな学名として発表した。しかし、命名規約上は先に発表された名が優先されるため、これは無効となり、錯綜した学名がそのままとなった。
後々、当時実際にコウゾと呼ばれていた植物は純粋な野生種ではなく、カジノキとの雑種である事が判明した。拠って現在では野生種にはヒメコウゾの和名を与えて、栽培種と区別している。
そして、シーボルトが記載した B.kazinokiは、ヒメコウゾにあたるものと考えられていたが、Ohba & Akiyama (2014)によれば、これは雑種のコウゾであることが分かった。それにより雑種コウゾが、B.kazinokiとなり、野生種のヒメコウゾの学名は、Broussonetia monoica Hance(1882)となったそうだ。
『Wikipedia』も十全ではない。100%信用は出来ないという事だ。

台湾のサイトには、以下のものが食樹として挙げられていた。

・小構樹 Broussonetia kazinoki
・Broussonetia monoica
・構樹  Broussonetia papyrifera

一番上が、ようするにコウゾだ。二番目がヒメコウゾ、そして三番目カジノキである。やっぱヒメコウゾも食べるようだね。

それと、これでギンボシスズメの台湾名が、なぜに「構月天蛾」なのかも分かったね。ようするに食樹を指していたワケだ。補足すると、月天蛾は属名である。

 
【幼生期】
(卵)

(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

(幼虫)


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

いわゆるイモ虫型である。
一番上が弱齢幼虫、二番目が中齢幼虫、三番目が終齢幼虫かと思われる。頭はそれぞれ右側、下側、左側です。


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

これを見ると、齢数は全部で4齢(終齢)かなあ❓
でも、5齢の可能性もありそうだ。

(蛹)


(出展『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』)

蛹は所謂スズメガ型で、土中で蛹化する。

                  おしまい

 
追伸
えー、前半の採集シーンは前回の『奄美迷走物語』18話の縮小版です。しかし、お気づきの方もいるかもしれないが、同じ内容だが文章は結構書き直している。ヒマな人は見比べてくれれば、言葉のチョイスが違うことがワカルだろう。

それから、ギンボシスズメの解説がこのような別稿になったのは、ひとえにこの長くなった食樹の部分のせいです。こりゃ迷宮になるなとすぐに思ったので、いったん切り離して他の部分を書いた。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』

インターネット
◆『Sphingidae of the Eastern Palaearctic』
◆『服部貴昭の忘備録』
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『Wikipedia』
◆『みんなで作る日本産蛾類標準図鑑』
◆『www.jpmoth.org』
◆『広島の植物ノート』
◆『松江の花図鑑』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『植物写真鑑』

 

奄美迷走物語 其の18

 第18話『呪われた夜』

 
2021年 3月31日(夜編)

上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも下から見ると羽には全く損傷がない。今度こそ完品だ。おそらく時間的にコレが最後のチャンスとなるだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

【フタオチョウ♀】

だが、逆光で見えにくい。しかも止まる素振りはあるものの、止まりそうで止まってくれない。そのせいか飛ぶ軌道が不安定だ。読み切れない。どうする❓判断に迷う。最後のひと振りだと思っているから中々踏ん切りがつかない。ヘタに振れば、どっかへ飛び去って二度とチャンスはないのだ。でも時間のリミットは近づいている。夕暮れ近くの今が、そろそろ飛び終わる時間なのだ。
焦る中、網の切っ先がキッと動いた。でも、急に軌道を変えやがった。振りかけてグッと手首と腕で急制動させる。経験で、このまま振っても空振りすると感じたからだ。
でもこの10数秒後には突然プイと舞い上がり、山に向かって勇壮に飛び去って行った。それを茫然と見送る。
ネットを振る事なく、勝負は終わった。慚愧に堪えない。

その後、30分ほど粘ったが、待ち人来たらず。ついぞチャンスは巡っては来なかった。
(´-﹏-`;)惨敗だ…。
暮れゆくトパーズ色の光の中、立ちすくむ。
こんな事ってあるか❓…。蝶採りをやってきて最も半端な終わり方だったかもしれない。状況的に致し方なしと何とか言い訳はできるかもしれないが、自分自身では無理があると認識している。逃した時には人に言い訳しがちだけれど、極力、他人から見て無理があるようなダサい言い訳だけはしないようにしている。口には出さなくとも、意外と人はそれが事実なのか苦し紛れの嘘なのかを見抜いているものだ。
今日の敗因は、ずっと今回の旅で自分に言い聞かせてきた迷わずに振り抜くという当たり前の事が出来なかったからだ。迷ってはならないと頭では解っているのに、いざという時には決断できなかった。結局、メンタルをいつものように余裕のヨッチャン無敵モードには持っていけなかったのだ。
考えてみれば、2019年の夏に日本で初めてマホロバキシタバを採ってから何だかオカシクなったと云うか、潮目が変わったような気がする。その後、何となくスランプ気味なのだ。狙った獲物が全く採れてないワケではないのだが、前みたく連戦連勝とまではいかない。今にして思えば、あの時を境に憑き物が落ちたように虫へのモチベーションが下がった気がする。欲しいと強く思わない者には、欲しい物は手に入らない。なのに希求する心は以前ほどには強くはない。正直なところ、滅多な事では心が跳ねないのだ。
とはいえ、何と言おうがコレとて言いワケだ。ここぞと云うところで、ここぞと云う力を発揮できない人間はニ流だ。そうゆうことだ。オリンピックしかり、最高クラスのカテゴリーのプロスポーツの世界しかり、結局は己のメンタルの強さと迅速な判断が勝敗を分けるのだ。
歳、喰ったかなあ…。老いると云う事は、人を肉体面だけでなく、精神面をも衰退させるのかもしれない。
認めよう、惨敗だ。嘗て最終戦で言いワケ出来ずに惨敗に終わった事などあったっけ…❓あのキリシマミドリシジミの時の5連敗に近い屈辱だ。でも、アレはまだ言いワケできた。どの場所でも一緒に行った人は誰も採れていないのだ。
所詮はコレもまた言いワケにすぎないんだけどもね。とにかく己の虫を採る能力は確実に落ちてきてる。その証左のような終わり方だった。

宿に戻ったら、5時半を過ぎていた。
心は重い。灯火採集に行く気も萎えている。ここは飯でも食ってリセットする事が必要だが、もし予定していた場所に行くならば、飯なんぞ食っているヒマはない。行くなら、今日だけは何があっても日没前にポイントに着いておきたいのだ。
なぜなら、遂に今までは恐ろしくて避けてきた朝戸峠へ行くのである。そしてそこには、奄美でも超一級の心霊スポットとして名高い「旧朝戸トンネル」がある。場合によっては其処を通り抜けねばならないのだ。日があるうちならまだしも、日没後なら絶対に無理だ。きっと背中に天井から何か得体の知れないモノがパサリと落ちてきたりするのだ。そして密かに背中に宿り、人面瘡となるのだ。そんなの想像するだに怖ろしい。
自分で言うのも何だが、アチキは超怖がり男なんである。怖い系のテレビ番組は絶対に見ないし、たまたま映ろうものならマッハでチャンネルを変える。映画も、そうゆう系はできるだけ避ける。観に行くとしても、若い女の子、しかも美人限定だ。なぜなら、怖いから女の子の方から寄ってくるし、じゃない場合は素直に「僕、超怖がり屋さんでしゅー」などと正直に吐露すればよいのだ。
意外と女の子の方が♘ホワイトナイト、白い騎士だから『アタシがついてるからね。』とか言ってくれるのだ。そんな状況下なだけに『😍守ってね。』とでも言って手を握ることなんて事も容易いのだ。流石にオジサンになった今ではキモ過ぎて使えないけど…(笑)。
また👻怪談話も絶対に耳には入れない。ワシにはタブーだ。過去には、ワイが怖がるのを面白がって無理やり耳元で話そうとしてきた輩をタコ殴りにしてやった事だってある。恐ろしさが怒りに転化したのだ。そんなだから、心霊スポットに行く事も殆んどなかった。ワザワザ自分からそんな所に行く気がしれん、バッカじゃないのーと、ずーっと思ってた。
それが何の因果か、今や自分から夜の山に入り、遂には自ら心霊スポットへ行こうとしているのだ。それも、たった一人で。
げに恐ろしきは、憧れの虫を採りたいという強い欲望だ。採りたいという欲望が恐怖をも凌駕してしまっているのである。
それほどまでに、アマミキシタバ(註1)を採りたいのだ。

【アマミキシタバ】

(出展『世界のカトカラ』)

にも拘らず、奄美大島に来て6回も灯火採集をしているのに、いまだ1頭たりとも見ていないのだ。いくらライトトラップが何ちゃっての簡易なもので戦力が低いとはいえ、カスリもしてないのだ。だから今日こそはと思ってる。というか願ってる。チャンスはもう今日しかないんである。明日には大阪に帰らねばならんのだ。

超特急で用意して出る。
無事、日没前までに到着できることを祈ろう。

名瀬市街を抜け、朝戸トンネルの手前を右に入り、坂道を上がってゆく。
上から、あの長い朝戸トンネルの入口が見える。このトンネルも充分ホラーだったが、今から行くトンネルはそれを遥かに超える恐ろしき隧道の筈だ。そう思ったら、背中がビビビッときた。武者震いってヤツだ。
バイクはグングン高度を上げてゆく。
眼下には、こんもりとした森が見える。街からは近いが、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美でも有数の原生林として知られる金作原のちょうど裏側にあたる。環境が良いのも納得だ。あとは灯火採集の屋台を何処に据えるかだ。場所を吟味しながら走る。

候補地を2箇所ほど見つけ、更に上へと登る。
それにしても、さっきから行き交う車やバイクが1台もない。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで響く。それがホラー映画の何かが起こる前の雰囲気みたいで、ゾワゾワくる。

午後6時半前。
旧朝戸トンネルまでやってきた。

暗渠。地獄の口がパックリとあいている。
まだ明るいのに相当に暗くて、佇まいは異様だ。そして行き交う車は皆無だから、とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも辺りに何かただならぬものが漂っているような気がする。

暗すぎてトンネルの入口がよく見えない。ネットで見た画像よか凄くね❓
参考までにネットの画像を貼付しておきます。


(出展『わきゃしま大好き』)

この画像よりもだいぶ木が大きくなってて、入口を隠すように繁ってるって事だね。下草もボーボーだ。益々、😱怖なっとるやないけ。

因みに、もし何か起こってもいけないと思って、昨日にどのような心霊現象が起こっているのかチェックしておいた。原文のまま貼っつけておく。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

何だ、この違和感バリバリの変な文章は。書いてる奴まで狂っとるやないけ。トンネルの呪いかね❓
流石に、このようなトンネルのすぐ近くで灯火採集をやる勇気はない。採集中にトンネルの奥からオドロオドロしい呻き声が聞こえてこないとも限らないし、闇の中から白装束のお歯黒の女がボワ〜っと浮いて出てきたりしたら阿鼻叫喚、ムンクちゃんだ。

【上村松園『焔』】

(出展『東京国立博物館』この絵の実物の存在感は凄いです)

でも、もしかしたらトンネルの向こうに灯火採集するのには絶好のポイントがあるかもしれない。そう思うと、どうしてもトンネルの先の環境が見たくなってきた。日が暮れていたら、怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。行くなら今しかない。中々の緊張感だが、勇気を振り絞って潜(くぐ)る事にする。

けど、入ってすぐ後悔した。中は驚くほど冷んやりとしており、信じられないくらいに真っ暗なのである。照明が全くないのだ。
下に何が横たわっているかワカランので、ゆっくりとバイクを走らせる。死体なんかあったら、動物や鳥でもコトだ。チビるよ。
ピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。マジで気持ち悪い。
でも、ここまで来て引き返すのは癪だ。入った勇気が無駄になる。それにトンネルは短い。たぶん50mくらいだろう。いや、もっと短いかもしれない。ここは我慢だ。

トンネルの向こうに出ると、辺りは驚くほど鬱蒼としており、暗くてジメジメだった。その先には荒れた林道が続いている。不気味さ、マックスである。こんなとこ、怖すぎて夜には居れるワケがない。2秒で撤退を決意し、ゾクゾクしながら、もう1回トンネルを潜って戻る。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、暗い中であのトンネルの前を通るのだけは何があっても避けたいと思ったのだ。

午後6時40分、日没時刻になった。
慌てて道路沿いの開けた場所に、ガードレールにベタ付きでライトを設置する。
正面には原始の森が上から下まで広がっている。ここなら、アマミキシタバも絶対にいるだろう。そもそも日本で最初に彼奴(きゃつ)が発見されたのは此処なのだ。
幸いにも空はいつしか雲に覆われている。天気は下り坂だ。流石に今日は月に邪魔されないだろう。何か採れるような気がしてきた。フタオチョウの完品の♀は採れなかったが、♂は採れてるし、アカボシゴマダラは♂♀両方採れているのだ。まだ運は残ってる筈だ。

【フタオチョウ♂】

【アカボシゴマダラ♂】

【アカボシゴマダラ♀】

それにフタオの♀が採れなくとも、アマミキシタバさえ採れればいい。それで帳消しどころか、お釣りがくる。そもそも奄美に来た理由の第一義はアマミキシタバのゲットなのである。そのミッションさえ果たされれば、他の事には目をつむれる。

後ろ側、道路の山側の枝にはバナナトラップを吊り下げた。
辺りに甘い香りが広がる。発酵が進んで、虫を呼び寄せるのには最高の状態だ。アマミキシタバもこれならライトには寄ってこなくとも、こっちには寄ってくるだろう。

闇の侵食が強くなり始めたところで、ライトを点灯する。
さあ、最後の夜会の始まりだ。

真っ暗になったら、すぐに蛾どもがワンサカ飛んで来た。
ライトが一灯だけになってるのにも拘らず、なんか良さげな兆候だ。最終日で一発逆転があるかもしれない。って云うか、そうなるっしょ❗ものすごく採れそうな気がしてきた。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た(註2)。
だが、白布の手前で反転してどっかへ飛んで行っちゃう。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。スズメガなんぞ二の次だから、そうガッカリする程の事ではない。

したら、5分後に又やって来た。今度は姿がちゃんと見えた。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗(註3)
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾の一つだ。迷彩柄の戦闘機、いや重爆撃機みたいでカッケーのだ。テンションが急激に⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、もっと胴体も太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかにキョウチクトウにしては小さいし、翅の柄も図鑑等で見た記憶とは違う。
兎に角、見たことない蛾である事は確かだ。もしかして大珍品の迷蛾(註4)だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄の髄まで知らしめられているのだ。それにコレを逃したら、また流れは確実に悪い方向へ行くだろう。何としてでもそれは阻止せねばならぬ。

慎重に毒瓶を被せる。
暫く放置して気絶したところで、アンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。気分はマッドサイエンティストだ。

何者かはワカランが、カッコいいぞー(☆▽☆)
気分は上々。今日こそ、この調子で辛酸の日々に幕を下ろそうぞ。

8時過ぎ。
気づいたら、白布に苺ミルクみたいなのがいた(註5)。

とても小さくて可愛い。

プリティーちゃんだ。
こういうのを見ると、蝶よりも蛾の方がデザイン性は高いのではないかと思う。バリエーションも豊富だしさ。

8時15分。
もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た(註6)。

柄が何だかウルトラマン怪獣のシーボーズみたいだね。
あの回は『ウルトラマン』の中でも最も心あたたまるストーリーだろう。シーボーズが駄々をこねてイヤイヤするのが可愛いかったよね。

【シーボーズ】

(出展『怪獣ブログ』)


(出展『円谷プロ』)

下の画像は、たぶん拗ねて土とか蹴ってトボトボ歩いてるシーンだよな。
えー、シーボーズとは第35話「怪獣墓場」に登場する亡霊怪獣。「怪獣墓場」から月ロケットにしがみついて地球に落ちてきた迷い子の怪獣だす。戦闘意欲は全くなく、単に宇宙に帰りたがっていただけなのに、パニくって建物とか壊してしまう。やがてそれが解って、科学特捜隊が月ロケットをウルトラマンの姿に変えた「ウルトラマンロケット」で宇宙へ帰す作戦を実行。ウルトラマンの協力もあり、無事に宇宙へと帰っていったのらー。
いい奴だけど、もしも今この姿で現れられたら、メチャメチャ怖いだろうなあ…。いい奴とはいえ、見た目は完全に骸骨だもん。シーボーズだと解ってても、腰抜かすわ。
いかん、いかん。また話が逸れた。シーボーズの事など、どーでもよろし。

その後も何かと飛んで来たが、肝心のアマミキシタバは現れない。バナナトラップの方も閑古鳥だ。まあ、オオトモエしか寄って来ないんだから、コチラにはホントはあまり期待してなかったんだけどもね。
それにしても何でこうも効果がないんだろう❓フタオもアカボシもフル無視だったし、そういやスミナガシも来てない。春にはどれも寄って来ないとは聞いてはいたが、その理由がサッパリわからない。
まあいい。ライト・トラップの方は良い感じなんだから何とかなるだろう。時間はまだまだあるし、アマミキシタバが飛んで来る時間は午後11時以降が多いというから気長に待とう。大体いつでも最後の最後には何とかなって、大団円で終わるのだ。だってオラ、引きが強いもーん<( ̄︶ ̄)>

9時を過ぎると、急に風が出てきた。
おいおい、よろしくない兆候だぞ。ライト・トラップには月が一番よろしくないが、風が強いのもあまりよろしくないのだ。飛来する蛾の数が滅法減るのだ。

9時10分。
突然、突風が吹いた。と思ったら、三脚がグラリと傾いた。慌ててコケるすんでのところでギリで手で抑えた。流石、反射神経の良いオイラだ。危ねえ、危ねえ。危うく大惨事になるところじゃったよ。神様は悪戯好きだよね。意地悪にも程があるよ。でもそんなもんには負けないのだ。

しかし暫くして気づいた。何か寄って来る蛾の数が極端に減ってきてねぇか❓
何気にライトを見る。

ガビ━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━ン❗❗
ライト、消えとるやないけー❗

道理で飛んで来なくなったワケだ。
たぶん、倒れはしなかったが、手で抑えた時に何らかの衝撃を与えてしまったのだろう…。

配線とかイジるも、灯りは点かない…。
( ꒪⌓꒪)…やっちまったな。

唖然とする。
まさかのサドンデス。突然降って湧いたようにゲームセットになった。想像だにしてなかった何という終わり方なのだ…。心を何処に持っていけばいいのかワカラナイ。
でもどんだけ嘆こうが現実を受け容れるしかない。バナナトラップだけで最後まで闘おうかとも思ったが、そこまで暢気になれる強靭なメンタリティーは持ち合わせてはいない。心は完全にバンザイしていた。お手上げだ。
早々と白旗をあげるなんて、らしくない。けど今回の旅で続いてきた酷い体たらくの流れだと、半ば納得の結末だ。
結局、アマミキシタバの姿を一度も見る事なく、奄美大島を去ることになりそうだ。それが信じられない。頭の中のストーリーには全く無かったからだ。でも結果は厳然と出たのだ。どれだけ受け容れ難くとも事実からは目を背けられない。

脳が停止したままの状態で、のろのろと後片付けをし、さらに思考を凍土化してバイクに跨がる。これで、敗残者確定だ。
大きく息を吐き出し、エンジンをかける。認めたくはないけど、長い勝負の11日間が、今ここに完全に終わった。屈辱感と、これから先はもう頑張らなくともいいのだと云う安堵感とが入り混じるが、その感情も捨てた。無になる。

それでも、山を降りる途中、ずっと頭の中で何故かイーグルスの『呪われた夜(註7)』がリフレインで流れ続けていた。

 
https://youtu.be/ESc2Tq2HzhQ
イーグルス『呪われた夜』リンク先

 
ワン オブ ディーズ ナイト……
ドン・ヘンリーが嗄(しゃが)れた声で何度もシャウトする。
そして途中、狂おしいギターソロが入る。
頭の中を、ソリッドなギターのメロディーがズタズタに切り裂く。そして、歌詞も相俟ってか、奄美大島での夜会の日々が走馬灯のようにコマ切れでフラッシュバックしてゆく。
ワン オブ ディーズ クレイジー、クレイジー クレイジー ナイツ……。数多(あまた)ある夜の中の一夜(ひとよ)。そのたった一つの夜なのに何かが狂っちまってる…

空を見上げる。
夜空はどこまでも暗く、梢を渡る風は強かった。

                   つづく

 
追伸
フタオの♀に関しては、前回から引っ張いといて、こんなカタルシスのない結末で誠に申し訳ないと思ってる。
言いワケだらけでスマンが、この回との連続性を重視したのだ。夕方の惨敗が夜の惨敗と通底しているという一連の流れは必要だと思ったのだ。それが今回のラストとも繫がる。惨敗で始まり、惨敗で終わるのが、今回の採集行を象徴しているように思えたからだ。
また、前回は結末を先延ばしにして期待を持たせる事によって、次回も読んでもらおうというセコい下心もあった。スンマセン。

この日の、その後の話を少し付け加えておきます。

午後10時前には、ゲストハウスに帰り着いた。
空しさに包まれて晩飯の用意をする。

誰かが冷蔵庫に置いていった豆腐があった。
賞味期限を2日ほど過ぎていたが、火を入れれば大丈夫だろう。取り敢えず、他にも誰かが置いていったものを駆使して何かを作ることにした。

何ちゃって麻婆豆腐、完成。
調味料は何を入れたか全然憶えてないが、置き去りにされたスルメを前日に出汁か何かに入れて、ふやかしたものを使ったのだけは記憶にある。

ご飯は何日か前に自分で買ったものだ。
これをレンチンする。
二度と作れない『何ちゃって麻婆豆腐定食』だ。

食べてみると、自分がいつも作っている麻婆豆腐には遥かに劣るが、それなりに旨い。誰か居たら、そこそこ褒めてくれたかもしれない。でも、宿の共有スペースには誰もいない。ワシ、一人だ。虫屋の若者二人は今朝には帰ったし、この宿に泊まっているのはワシとSくんだけなのである。そのSくんは、おそらく夜間採集に出掛けているのだろう。
とにかく不必要なほどに、シーンとしている。
静寂の中、何ちゃって麻婆豆腐を力なく口に運ぶ。
改めて、全て終わったんだなあ…と思った。

 
(註1)アマミキシタバ
学名 Catocala macula (Hampson, 1891)
屋久島、奄美大島、沖縄本島に分布する”Catocala属”の蛾。
国外ではインドシナ半島北部から中国南部、フィリピン、台湾などに分布する。
以前は、Ulothrichopus属に分類されていたが、近年になってカトカラ属に編入された。しかし、この種をカトカラとして扱うかどうかについては今だに議論がある。

 
(註2)見慣れないスズメガが飛んで来た
帰ってから調べると、どうやらコイツみたいだ。

【ギンボシスズメ】

北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島に記録がある。しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。
そこそこ珍しいのかもしれないなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も相対的に少ないからね。
この後、書いてるうちに様々な疑問が生じ、解説があまりにも長くなってしまった。なので、この項は別個に回を設けてソチラに詳しく書く予定です。

 
(註3)キョウチクトウスズメ
漢字で書くと「夾竹桃雀蛾」となる。和名は、幼虫の食樹がキョウチクトウであることから名付けられた。
南方系の蛾で、開張約10センチ。アフリカからインド、東南アジアなどの熱帯に分布し、日本では九州以南に生息している。しかし飛翔力が強く、四国や紀伊半島南部でも珠に採集され、時に繁殖する事もある。

学名 Daphnis nerii (Linnaeus, 1758)
記載はリンネだね。コレもアカボシと同じくリンネが1758年に出版した『自然の体系』第10版で創設したニ名式学名の最初の記載種の中の1つってワケだね。その後、このニ名式学名があらゆる生物の学名の命名法を統一させる事になってゆくのである。
尚、リンネは最初、鱗翅目を「Papilio(蝶)」「Sphinx(スズメガ)」「Phalenae(その他の蛾)」の3つの属に分類している。
つまり、キョウチクトウスズメの最初の学名は今とは違っていて、Sphinx nerii (Linnaeus, 1758)だったと云うワケだ。
Sphinxは、あのスフィンクスの事だよね。何かカッコイイぞ。スズメガの蛹はエジプトの棺の中のグルグル巻きにされたミイラみたいな形だから、それと関係あるのかな❓

英名 Oleander Hawk-moth
Oleanderとは夾竹桃のこと。だから幼虫が夾竹桃を食う鷹みたいな蛾って意味だね。

(分類)
スズメガ科 Sphingidae
ホウジャク亜科 Macroglossinae
Daphnis属

幼虫の食樹は、キョウチクトウの他にニチニチソウ(キョウチクトウ科)が知られている。キョウチクトウには毒があり、それを体内に取り込むことによって鳥の捕食から身を守っているものと考えられている。勿論、幼虫は毒に対する耐性を持っているために中毒死することはない。

 
(註4)迷蛾
本来はそこには分布しない蛾が台風や偏西風等に乗って、遠方地や外国から運ばれてきた場合、その蛾を迷蛾と呼ぶ。したがって蝶の場合は迷蝶となる。
生存戦略の1つともされ、時にその地に定着し、更には分布を拡大する場合もある。しかし、大概は気候風土に適応できずに死滅する。

 
(註5)苺ミルクみたいのがいた。
調べたら、アマミハガタベニコケガという種だった。


(出展『www.jpmoths.jp』)

ギザギザ模様からの歯型紅苔蛾ってワケね。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

昔は、アマミハガタキコケガ(奄美歯型黄苔蛾)と呼ばれていたそうな。黄色というよりも紅色が印象的だから、改名は妥当だよね。

学名 Miltochrista ziczac (Walker, 1856)
ヒトリガ科(Arctiidae) コケガ亜科(Lithosiinae) Miltochrista属に分類されている。

展翅すらしてないけど、分布は奄美大島と徳之島のみだから結構レアな奴かもしれない。ちなみに以前は奄美大島のみに分布するとされてきたが、2009年に徳之島でも見つかっている。
国外では台湾、朝鮮半島、中国に分布しているが、特に亜種区分はされていないようだ。
4月と8月に採集されているので、おそらく年2化だろう。幼虫の食餌植物は未知。
開張20mm。♂は前翅前縁が中央で出っ張る。
出っ張る❓よくワカラン。図鑑には♀1つのみしか標本が図示されていなかったから、何を言わんとしてるのかが掴めない。

でも調べ直したら、らしき画像を台湾のサイトで見つけた。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

確かに出っ張ってる。とゆうことは、採ったのは♀かな❓
でも同じサイトの標本画像を見たら、今一つよくワカラン。


(出展『DearLep圖錄檢索』画像はトリミング拡大している)

腹部の形からすれば、おそらく上が♂で下が♀だろうが、出っ張りがそれほど顕著には見えないのだ。

 
(註6)もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た
Facebookで、この画像をアップして「コレ、何すかぁ❓」とコメントしたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。ムラサキアミメケンモンという名の蛾らしい。
早速でネットでググったら、情報量が極めて少なくて、たった4点しかヒットしなかった。案外、かなりのレア物なのかもしれない。でも先生からは他に特にはコメントがなかっから、そうでもないのかもしれない。

【ムラサキアミメケンモン】


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

学名 Lophonycta nigropurpurata Sugi, 1985
ヤガ科 アミメケンモン亜科 Lophonycta属に分類されている。
開張33〜35mm。近縁種のアミメケンモンと比べて前翅の地色は暗い紫灰色。環・腎状紋が明瞭。翅幅は少し狭く、後角の淡色紋は小さい。後翅は純白で外半が翅脈に沿って暗色となり、わずかに横脈紋と外横線が認められる。
奄美大島と沖縄本島に分布する日本固有種。分布域が狭いから、やはりレアものなのかもしれない。
成虫は4〜5月と8〜10月に見られ、少なくとも年2化以上の発生と考えられている。
幼虫の食餌植物は未知。

コチラも展翅すらしてないと思ってたが、してた。

たぶん、♂だろう。
(・o・)んっ❓でも(-_-;)あれれ❗❓、後翅が白くねぇぞ。
もしかして、まさかのアミメケンモン❓

(アミメケンモン Lophonycta confusa)

(出展『www.jpmoth.org』)

でも、細かく柄を比べて見たが、下翅は白くはないものの、他の特徴はムラサキアミメケンモンだ。特に後角の淡色紋はアミメケンモンと比べて明らかに小さいことで判別できる。自分の採ったものはムラサキアミメケンモンで間違いなかろう。

ところで、下翅が茶色ってのはどうゆう事かな❓
異常型❓それとも褐色型と云う型があるのかな❓

 
(註7)呪われた夜

(出展『hmv.co.jp』)

このオドロオドロしいアルバムジャケットは印象深くて、よく憶えている。山羊の骸骨といえば、悪魔だもんね。鷲鷹的な翼と髭みたくになってる羽根(おそらく鷲鷹のもの)は、よくワカランがインディアン関係か❓
インディアンは鷲を崇めており、最も空高く飛ぶことができる鳥であると信じられている。ゆえに神に最も近づける生物だとも考えられている。そして、鷲こそが人間と絶対神である太陽とを繋ぐ存在であり、又その間を取りもつ役割を担っていると思われているそうだ。それが呪いとどう関係するのかは知らんけどー。あっ、呪いは邦題だから関係ないか。骸骨も山羊じゃなく、牛とかバッファローだったりしてね。

原題『One of These Nights』。
アメリカのロックバンド、イーグルスの1975年に発表されたアルバム第4作『呪われた夜(One of These Nights)』のタイトル曲。
アルバムはバンド初の全米No1を獲得、シングルカットされたタイトル曲も全米ビルボードチャートの1位に輝き、名実ともにビッグバンドへ昇り詰めるキッカケとなった。
作詞ドン・ヘンリー、作曲グレン・フライ。
リード・ボーカルはドン・ヘンリー。イントロのベースとギターをファンキーなリズムにアレンジしたのは、ドン・フェルダー。

尚、最初は本文にYou Tubeと歌詞の和訳を付けていたけど、著作権法上、問題があるようなので削除しました。気になる人はネットで楽曲と訳詞を探してね。

更にクレームがきたので、英歌詞も削除です。世知辛い世の中ですなあ…。とはいえ、理解はしてる。ルールは大事だし、著作権と言われれば致し方ないもんね。

 
追伸の追伸
次回、いよいよの最終回っす。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』
◆『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『奄美市雑談』
◆『Wikipedia』

 

 奄美迷走物語其の17

 第17話『スナフキンのように』

 
2021年 3月31日
小さい頃、アニメの「ムーミン」で、スナフキンが言ってた。
『一度決めたら最後までやりぬく、それが俺の人生さ』

いよいよ、今日が最終日だ。
泣いても笑っても虫採りができるのはこの日だけ。明日には大阪に帰らなければならない。
絶不調で迷走し続けてきたが、スナフキンの言葉に倣い、一度決めことは最後までやりぬく。今までだってずっとそうだったし、これからだってきっとそうだ。こんなにボコられた採集行はあまり記憶にないが、今さら方針は変えない。変えてたまるか。

ターゲットは、まだ採れていない春型のアカボシゴマダラ(註1)の雌雄とフタオチョウの♀。

 
【アカボシゴマダラ】

【フタオチョウ♀】

(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
最後の一日だ。なだけに、もちろん場所の選定には心を砕いた。そして、出した答えが根瀬部だった。理由は午前中にアカボシゴマダラが採れるのは知る限りでは此処しかないし、ここなら♀のポイントも知っている。また、奄美でフタオチョウに会うのは今回が初めてだから経験値の絶対数が足りない。そんな中、僅かな経験は♀がヤエヤマネコノチチに産卵に来たのを見た此処しかないと思ったからだ。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
午前8時半に宿を出て、9時前にはポイントに着いた。
今までずっと背水の陣の心持ちでやってきたが、本日は正真正銘の背水の陣で臨む。

5分後、アカボシゴマダラが高い位置を優雅に飛ぶ姿を見送る。いるね。
それにしても何で昨日はリュウアサ(リュウキュウアサギマダラ)なんかをアカボシと間違えたのだろう❓

 
【リュウキュウアサギマダラ】

(出展『沖縄の自然』)

 
台湾で間違えた事はあるが、奄美で間違えたのは初めてだった。絶不調を象徴してるのかもしんない。
まあいい、気持ちを切り換えていこう。
兎に角、やっと根瀬部でもアカボシが発生し始めたようだ。取り敢えずは読み通りだ。
しかし採れなければ絵に描いた餅だ。なんとしてでも今日中に雌雄をシバかねばならぬ。もしミッションに失敗すれば、小太郎くんやSくんから笑い者にされるだろう。多分ねぎらいの優しい言葉をかけてくれるだろうが、口には出さなくともへタレだと思われるに違いない。それだけは避けたい。プライドがズタズタになる。
 
取り敢えず少し奥に入り、アカボシもフタオも狙えそうなリュウキュウエノキの大木の下に陣取る。

 
【リュウキュウエノキ】

 
午後10時前。
フタオチョウの♂が飛び始めた。

 
【フタオチョウ♂】

 
相変わらずクソ高い位置でテリトリーを張っている。あと1メートル長竿が長ければ何とか勝負できるのだが、6.3mでは話にならん。今日も無駄に時間を浪費しそうだ。それでも一度決めた事は最後までやり抜くしかない。神様だって一度や二度のチャンスくらい与えてくれるだろう。

午前10時40分。
突然、右手から視界に白黒の飛翔体がフレームインしてきた。
(☆▽☆)アカボシだっ❗
(☉。☉)デカい❗❗

想像を超えたデカさに面喰らう。あかざき公園で最初に見た奴よりもデカい。たぶん♀だ。と云うことは、あかざき公園で見た奴は♂だったのか❓…。頭の中に残ってるイメージは夏型の大きさだったから間違えたのだ。春型って、こんなに大きいんだ…。
だが見惚れている場合ではない。あの位置なら届く。絶好のチャンスだ。
たぶん産卵に来た筈だから、直ぐには逃げないだろう。じっくりとチャンスを伺い、産卵するために止まった瞬間に網を振り抜いてやろう。
しかし、中々止まらない。嫌な予感がした。このまま慎重にチャンスを待っていたら、そのうちプイと何処かに行かれかねない。今回は慎重になり過ぎて躊躇ばかりして失敗してきている。そんな風に消極的だから、採れるもんも採れないのだ。
らしくない。本来的には、思い切りの良さが取柄だったんじゃないのか❓段々、そんな自分に沸々と怒りが込み上げてきた。
勝負に出る。飛ぶ軌道を読んで、大胆に
💥ズバババババ━━━━ン❗
全身全霊で左から右へと振り抜く。

スローモーションで網に吸い込まれてゆくのが見える。ジャストミートの『ビッグフラーイ、オオタニさーん❗』だ。

あたふたと網に駆け寄り、素早く胸を押して〆る。
そして、💥しゃあ━━━━❗、雄叫びを上げ、拳を力強く握りしめる。

 

(裏面)

 
いやはや、赤紋が大きくて美しい。
これこそが正真正銘のアカボシゴマダラだ。誰かが放した中国産の屑アカボシとは月とスッポン、美しさは雲泥の差だ。

 

 
夏型よりも明らかにデカい。そして白い。
ゆっくりと爪先から全身へと安堵感が這い昇ってくる。
兎にも角にも採れて良かったぁ…。しかも一番欲しかった♀の完品だ。
心の中で『生還。』と呟く。
もしも1つも採れずに帰ることになったら…という次第に強まる恐怖とずっと闘ってきて、サドンデスの最終日を迎えたのだ。そんな間際、崖っぷちまで追い詰められた中での起死回生の逆転ホームランだった。だから生還したというような心の境地に至ったのだろう。
虫捕りはリーグ戦でもあるが、最終的にはトーナメントなのだ。負ければ終わりだ。

コレでギリ何とか面目を保てた。SNSで奄美に来ている事は公にしているので誤魔化しは効かない。たとえ黙っていたとしても結果に触れなければ採れなかった事がバレてしまう。そして、ザマー見さらせの笑い者だ。危うく晒し者になって、恥辱に塗(まみ)れるところだったわい。

さあ、次は♂だ。♀と比べればグッと採集の難易度は下がるから、気持ちはだいぶ楽である。何とかなるっしょ。コレをキッカケにジャンジャン飛んで来るかもしんないしさ。

けれども、もうすぐ正午なのにあれから1つも飛んで来ない。
午前中に採れなければ、状況はかなり厳しいものとなろう。アカボシが飛んで来るのは主に午前中なのだ。午後は夕方まで殆んど見かけない。焦燥感がジワリ、ジワリと心の余裕を削り取ってゆく。

午後12時20分。
だいぶ間があいたが、ようやく♂が飛んで来た。
やはり見た目は夏型よりも大きい。白は膨張色ゆえに、より大きく見えるのだろう。
今度も空中でイテこましてやろう。躊躇は禁物と心に言い聞かせる。攻めてくぜ(`▽´)

(-_-メ)ちっ。しかし、木の裏側に回りやがった。裏手はブッシュだから一瞬あきらめかけた。だがこの先、そうチャンスが何度もあるとは思えない。がむしゃらに突っ込んでゆく。
ブッシュを抜けると、狭いが空間があった。ワンテンポ、ツーテンポあって、そこに蝶が向こうから飛び込んできた。目測約3m。咄嗟にスィングを始める。
(・o・)えっ❗❓、でもすんでのところで軌道を右斜めに変えやがった。あかん、ハズすパターンだ。
けど、その動きに体が勝手に反応していた。右腰を落とし、体を右から左に捻りながら網先を鋭く走らせる。

蝶が視界から忽然と消えた。
解ってる。とゆうことはジャストミート、しっかり捕らえたということだ。網の中を確認せずともわかる。

 

 
我ながらヘッドの効いた鮮やかな網さばきだった。切れ味鋭いスライダーをキッチリ捉えてスタンドに放り込んでやったような気分だ。やっぱ躊躇なんかしたらダメだね。

 
(裏面)

 
♂も夏型よりも一回り大きい。思ってた以上に春型ってカッコイイぞ。

これで取り敢えずは雌雄が揃った。
それにしても、どうして毎度毎度、こうもギリギリで何とかなるんだろ❓虫捕りってそう甘くはないって事か…。ともかく諦めずに、愚直に頑張って粘ってきたからこその結果だったに違いない。虫捕りには、執着心も必須条件なのかもしれない。

さてさて、お次はフタオチョウの♀だ。今さらになっての絶好調だけど、この調子でブイブイいわしてやろうじゃないの。

同じ所にずっといるのは好きではないし、ひと仕事を終えた後だからキリもいい。潮時だ、ポイントを変えよう。ヤエヤマネコノチチがあるポイントへ移動するために歩き出す。
でも直ぐに足が止まった。ヤエヤマネコノチチだとフタオチョウしか寄ってこないが、リュウキュウエノキならばアカボシゴマダラだけでなく、フタオチョウも寄って来るのを思い出したのだ。
フタオチョウの幼虫の食樹は元来ヤエヤマネコノチチだが、近年になって食樹転換して、リュウキュウエノキも食樹として利用するようになった。謂わば新規開拓の営業マンみたいなもんだ。(・∀・)ん❓、何か変な喩えになってるぞ。まあいい。兎に角それにより、沖縄本島ではヤエヤマネコノチチが自生していない南部にまで分布を拡大しているのである。
正直、採れるものならもっとアカボシも採りたい。両方とも飛んで来るならばゲット率も高まるし、退屈せずとも済むかもしれない。少なくともフタオの♂がこの木でずっと縄張りを張っているのだ。そやつが低い所に止まってくれるのを監視しているだけでも緊張感は保てるから、退屈はしのげる。
問題は果たしてフタオが奄美でもリュウキュウエノキに産卵しに来るかどうかだ。奄美にはヤエヤマネコノチチが沢山自生しており、何もわざわざリュウキュウエノキを利用しなくてもいい環境だからである。飼育すると、本来の食樹ではないリュウキュウエノキだと失敗する例も多いというからね。ならば母蝶だって無理にリスクを冒して、リュウキュウエノキに産卵しないだろうとも考えられる。
取り敢えず、1時間は此処に居よう。それで駄目なら移動すればいい。

心配してたけど、10分で答えが出た。
目の前のリュウキュウエノキにフタオの♀がやって来たのである。読みどおりだ。絶好調じゃないか。(◠‿・)—☆、完全に良い流れに乗ったんじゃないのー。

 
【フタオチョウ♀】

 
長竿をスルスルと伸ばす。だが、ギリギリ届きそうにない。
彼女は産卵場所を吟味しているのか、葉に纏いつくようにして飛んでいる。
ドキドキしながら、高度を下げてくれる事をひたすら念じる。手に汗握るような、このヒリヒリした感じが堪んない。エクスタシーだ。そして採れれば、カタルシスを爆発させることができる。気持ち良く昇天できることを祈ろう。

降りてきた❗
その一瞬を逃すまいと網を振ろうとした刹那だった。
横から猛スピードで彼女目掛けて突っ込んでくる者があった。
w(°o°)wわっちゃー、何すんねんワリャー❗
♂が飛んで来て、♀を手ごめにしようと追いかけ回し始めたのだ。
😱NOー、Bad Timing❗
ビックリした♀は急加速、慌てて繁みの奥へと逃げてゆく。それを尚も♂は執拗に追い掛けてゆく。
そして、2頭は絡まるようにして飛んでゆき、やがて見えなくなった…。

結局、すんでのところで網を振れずじまいだった。まあ、振ったところで100%採れんかっただろう。射程外になってたからね。とはいえ、もうワンテンポ早くスィングに入ってたら採れてたかもしれない。上手くしたら♂♀一網打尽のミラクルが起きていたかもしれん。ほんの少しであれ、結局は躊躇が大きく勝敗を分けた恰好だ。

暫くして♂が帰って来た。さっきの♂だ。
(ノ ̄皿 ̄)ノおどれ、何さらしてくれとるんじゃい❗❗
怒りで網で思いっきしブン殴ってやろうかと思った。しかし罰を与えようにも長竿が届かない所に止まっていやがる。
宙に浮いた怒りを何処に持っていっていいか分からず、悔しまぎれに地面を蹴りつけた。地団駄踏むとは、まさしくこうゆう事を言うんだろね。
それにしても、この期に及んで何でノコノコ帰って来るのだ。邪魔したんだから、せめて♀のハートを射止めろよなー。それならやむなしと許せたかもしれないのに…。

その後、待ち続けるもフタオの♀は二度と姿を見せなかった。アカボシの姿も全くなし。小さなミスが又しても流れを断ち切ってしまったようだ。

午後2時半を過ぎた。
これ以上待ったところで駄目と判断して、移動することにする。
いつもなら、あかざき公園に行くところだが、アカボシは採ったからもう行く必要がない。あかざき公園は、そもそもアカボシのポイントだからね。フタオもいないワケではないが、一度しか見ていないので多くは望めないし、イワカワシジミはあれだけ食樹のクチナシがあるのにも拘らず一度も見てないから、これまた多くは望めないだろう。
となると、残された時間も考えれば、自ずと知名瀬しか選択肢はなくなってくる。でもフタオのポイントを詳しくは知らないし、たとえ知っていたとしても既に誰かがそのポイントを抑えているだろう。
まあいい。ポイントの場所が確認できるだけでも価値はある。環境が解れば、似たような場所を探して勝負する事だってできる。
それに、そういや柿澤清美名人が知名瀬でイワカワをタコ捕りしたとか言ってたな。かなりウソ臭いけど、それを確かめるのも悪かない。採れればラッキーだし、採れなきゃ採れないで、法螺(ほら)話だったと確認できる。探して損はないだろう。

午後3時過ぎ。
林道に入って暫く走ると、Sくんがいた。
張ってる場所は予想していた所とは少し違う。意外とツマンなさそうなポイントだ。まあ、道沿いで空間があいている場所ならば、何処にでもいるって感じだけどもね。

Sくんに『アカボシ、採れたよー。メスの完品もね。』と言ったら、『見せてくださいよー。』と言うので見せる。
実物を見せたら、『いいなあー。』と羨ましそうに言ったので、良し良しと思う。若いのにクールでドライだからサイボーグかよ❓と思っていたが、初めて人間らしいところが垣間見えた。純粋なリアクションで、ちょっと可愛かった。コレで少なくともへタレ呼ばわりされる事もないだろう。

Sくんに、イワカワは見た❓と尋ねる。

 
【イワカワシジミ】

 
答えは目撃なしとの事。やはりね。イワカワのポイントとフタオのポイントは全く同じではないだろうが、共に林道沿いなんだから隣接はしてるだろ。となれば、もしそんなに沢山いるなら1つくらいは見ても良さそうなものじゃないか。でも、ここへはSくんもワシも何度も訪れているのに1つも見てないのだ。となると、名人の話は眉唾くさい。そもそもが出会った採集者の意見を総合すると、今年のイワカワはどうやら不作らしいのだ。自分も今まで1つしか見ていない。そこがワシら凡人と名人との差なのかもしれないけどね、(≧▽≦)きゃは。

清美名人は林道沿いのミカン畑にいると言っていたから、中に入れる所で一番可能性が高そうな場所を選ぶ。
えー、言っとくけど、柵のあるミカン畑には入ったらあきまへんでぇ。特に挨拶もろくに出来ないようなクズ採集者は厳に慎まれよ。アンタがトラブルを起こせば、他の人にも確実に迷惑を掛ける事になるからさ。ただでさえ虫捕りしてる大人は、世間的にはキショい変人のイメージだからね。

けど、探し回るも全く姿なし。食樹のクチナシもない。情報は疑わしいと言わざるおえない。やっぱ、話を盛っていた可能性が高そうだ。とはいえ、こっちの場所選定が間違っている可能性もある。今度お会いしたら、こと細かに場所をお訊きしてやろう。でも、まともに答えてくれるかなあ❓…。

時刻は4時を回った。陽はだいぶと傾いてきてる。タイムリミットは近い。イワカワを諦め、再びターゲットをフタオの♀に絞りなおす。

林道を流していると、梢を飛ぶフタオチョウが目に入った。しかも100%メスだ。♀は♂と比べてかなり大きいし、翅の形も違うから、簡単に見分けられるのだ。
慌ててバイクを停める。見ると一本の木に纏わりつくように飛んでいる。おそらくヤエヤマネコノチチの木だろう。そっか、産卵に来ているのかも❗
ギリのギリ、タイムリミット寸前での千載一遇のチャンスが巡ってきた。やっぱ、俺って引きが強い。次を仕留めれば、逆転さよならホームランだ。ならばヽ(`д´;)ノやってやろうじゃん❗ ここで鮮やかに試合を決めてやる❗

逸る気持ちで長竿を伸ばす。
けれど網を振る間もなく裏に回られてしまい、姿を見失った。裏は濃い藪になってて、入れないのだ。
それでも此処で待とう。暫くしたら又飛んで来るだろうし、他のポイントを探してる時間はない。
自分に向かって言い聞かす。そんな簡単に採れては面白くない。ヒーローは、いつの時代も苦しめられて苦しめられて、最後の最後に逆転勝利すると相場が決まっているのだ。ここはドラマチックにいこうじゃないか。

しかし、またたく間にブヨの軍団にタカられる。
コイツらに喰われるとムチャクチャ腫れ上がって、めちゃんこ痒い。しかも症状が1週間は続くのを今回の旅で骨の髄まで知らしめられている。神よ、ヒーローを別な局面から苦しめてくるってかあ❓ストーリーに手が込んでるぜ。
せっせとブヨどもを網に入れては纏めて上から握り潰して、あっという間に何十頭とブチ殺してやる。
(-_-メ)ジェノサイド、大量虐殺じゃ❗
けど、殺しても殺しても湧いて出てきやがる。そして対処に忙殺されて徐々に集中力が削がれてゆく。
そんな時に限ってフタオが飛んで来た。

ブヨを気にしつつも長竿を伸ばす。両手が塞がるから手で払えなくて咬まれ放題だが、でないと採れないんだから仕方あるまい。
幸い竿は何とか届きそうだ。とはいえ慢心と躊躇は敵だ。枝先に止まることなど期待せず、空中でシバくことを固く決意する。
しかし、ふらふらとアッチャコッチャに細かくブレるような軌道で飛ぶので狙いを定めにくい。しかも逆光で距離感が上手く掴めない。けっしてイージーではない。空振り率高しだ。
そして、振るか振らざるまいか迷ってるうちに裏側に回られ、又しても見失った。結局、躊躇して網を振れなかった己の決断力の無さに、ベソをかきそうだ。

時間は刻一刻と削り取られてゆく。
午後4時45分。そろそろ飛ばなくなる時間だ。リミットは近い。チャンスは、あとワンチャンか、あってもツーチャンスだろう。さよなら逆転ホームランだとか言ってる余裕が無くなってくる。ここはスナフキンのようにクールになろう。

(☆▽☆)来たっ❗
(。ŏ﹏ŏ)でも下翅の1/3がゴッソリないボロだ❗

多分、鳥に襲われて啄まれたのだろうが、価値なしだ。んなもん採っても仕方がない。ガックリくる。

けど思い出した。すっかり忘れていたが、小太郎くんに卵を持った♀の確保を頼まれていたのだ。アレだけボロなら、間違いなく腹に卵を抱えているだろう。ボロ過ぎるかなゆえ標本にもならないから、気持ち良く御進呈できる。

高揚感もなく、躊躇なしに網に入れる。緊張さえしていなければ、簡単な事なのだ。どちらかというとプレッシャーに強いオラでもこうなんだから、スポーツ選手の大舞台での緊張感とか重圧は半端ないんだろね。想像を絶するよ。

網の中でバタつくのを見て、暫し考える。生かして持って帰らなければならぬのだ。しかも、できるだけ傷めずに。飼育をしない人だからよくワカンナイけど、きっと脚が1本でも取れれば、産卵行動に極めて悪い影響を与えるに違いない。そんな事になれば、小太郎くんに必ずや言われるだろう。
『五十嵐さん、アバウトだからなー。別に何とかはなりますけどね。』
とでもね。
まあ、その通りだから文句は言えないんだけどもさ。

取り敢えず、ボロでも♀が採れたんだから不完全ながらもミッションはクリアだ。忸怩たる想いではあるが、コレで言いワケも立つ。そう思いながら、写真を撮るためにスマホを出そうとした時だった。右上空に気配を感じた。空を見上げる。

いたっ❗また♀だ❗しかも今度は完品❗
わっ(@@)💦、わっ(@@)💦、わっ(@_@)💦、でもどうする❓どうする❓
網の中には生きたボロ♀がいるのだ。そのままでは網が振れない。となれば、大至急で生きたまま回収しなければならない。でもそうなると、その僅かな間に飛んでるアヤツが逃げて行ってしまうかもしれない。それは辛い。チャレンジもせずに敗北するだなんて、負け方として最悪だ。
ならば、中のボロ♀を放棄するしかない。
w(°o°)w💦どうする❗❓
w(°o°)w💦どうする❗❓
けど躊躇している暇はない。
どりゃあ〜(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ボロ♀放〜棄❗❗
飛んでいる♀を凝視しながら、手元には見向きもせずに網をひっくり返してリリースする。
それを目で追うこともなく、心の中で『命拾いしたんだから、二度と捕まんなよ』と独りごちて、グイと体を前へと近づけて行った……。

                    つづく

 
追伸
いよいよ残すところ、あと2話となった。たぶんだけど(笑)
このあと、いつものように註釈の解説なんだけれども、先に解説をして、最後に追伸という順番の方が正しかったかもなあ…。あと2話だから、今更の話だけど。

次回、恐怖渦巻く夜編っす。あなたは、その恐怖に耐えれますか?

 
(註1)春型のアカボシゴマダラ

【春型♂】

 
完品だとばかり思っていたが、右後翅の内縁が欠けている。

【春型♀】

色彩斑紋は雌雄とも同じだが、♂と比べて♀の方が遥かに大型で、翅形が幅広く横長。また全体的に丸みを帯びることから判別は比較的容易である。あとは夏型も含めて♀より♂の方が抉れが強い事でも判別できる。

【夏型♂】

【夏型♀】

(2011.9月 奄美大島)

やはり春型の方が白い部分が多い。だから飛んでいる時はより白く見えるのだろう。
あとは外縁線が夏型の方が内側に入り、抉れたように見える。
形的には夏型の方がカッコイイかもしんない。白と黒とのコントラストも夏型の方が強いから、小太郎くんなんかは夏型の方がカッコ良くて好きだと言ってる。自分はどっちも好きなので、甲乙つけがたいかな。

まだしてなかったと思うので、種の解説をしておこう。

『アカボシゴマダラ(赤星胡麻斑)』
東アジアの広域分布種で、斑紋は近縁のゴマダラチョウによく似るが、和名が示す通りに後翅に鮮やかな赤い斑紋があることで区別される。タテハチョウの仲間にしては飛翔は緩やかで、これは斑紋が似ている毒蝶のリュウキュウアサギマダラなどのマダラチョウ類に擬態していると考えられている。

【分類】
タテハチョウ科 Nymphalidae
コムラサキ亜科 Apaturinae
ゴマダラチョウ属 Hestina

【学名】Hestina assimilis(Linnaeus, 1758)
「分類学の父」と称されるリンネにより広東産の標本に基づいて記載された。あらゆるチョウの中でも最も古くに命名された種類の一つなんだそうな。たしかに1758年は古いね。約260年前だもんね。

属名の「Hestina(ヘスティナ」は、ギリシア神話の炉の女神”Hestia(ヘスティアー)”+ina(inusの女性形の接尾辞)。この接尾辞には「〜に属する」という意味がある。
ヘスティアはオリュンポスの十二神の一人で、クロノスとレアの長女として生まれた。彼女はポセイドンとアポロンの二神に求婚されたが,弟のゼウスにすがって永遠の処女を守る誓いを立てた。それにより、処女神としても知られる。

小種名の「assimilis(アシミリス)」はラテン語で、「類似の」という意味。これはきっとゴマダラチョウに対しての命名だろう。そう思いきや、ところがドッコイ違うようだ。アカボシの記載は1758年だが、ゴマダラチョウはもっとあと、約百年後の1862年に記載されているのだ。
Hestina属に含まれる他の種の記載年を調べて、アカボシよりも古い記載のモノがいたら、そいつが類似するとされたモデルの蝶となる筈だ。
検索すると、ウィキペディアでは以下のようになっていた。

・Hestina assimilis (Linnaeus, 1758)
・Hestina dissimilis Hall, 1935
・Hestina divona (Hewitson, 1861) – Sulawesi sorcerer
・Hestina japonica (C. & R. Felder, 1862)
・Hestina jermyni Druce, 1911
・Hestina mena Moore, 1858
・Hestina mimetica Butler, 1874
・Hestina nama (Doubleday, 1844) – Circe
・Hestina namoides de Nicéville, 1900
・Hestina nicevillei (Moore, [1895])
・Hestina ouvradi Riley, 1939
・Hestina persimilis (Westwood, [1850]) – Siren
Hestina risna
・Hestina waterstradti Watkins, 1928

おいおい、アカボシが圧倒的に古いじゃないか。とゆうことは、いったい何に対しての「類似の」なのだ❓ 謎である。もしかしたら、他の属、ひいては別な科のチョウの事を指しているのかもしれない。だとしても格子柄の蝶など幾らでもいるから、候補は膨大な数になるだろう。
何か大ごとになってきたなあ…。これは間違いなく迷宮地獄のドツボにハマるので、そっとしておこっと。

いや、でもやっぱ気になる。
そういや学名の記載者名と発表年が()括弧で括られてたな。これは属名が後から変更になったことを示している。じゃあ元の属名は何だったのだ❓
リンネ(Linnaeus)が最初に生物の分類を体系化して、学名を属名と種小名の2語のラテン語で表す二名法(二命名法)を考えだしたんだけど、その最初の蝶はモンシロチョウだった筈だ。えーと学名は何だっけ❓
調べたら、Pieris rapae (Linnaeus, 1758)となっていた。\(◎o◎)/❗わっ、記載年が何とアカボシと同じじゃないか❗
コレで謎が解けてきたぞ。たしかリンネは全ての蝶に、最初はアゲハチョウの属名である「Papilio」と付けたんだよね。ようは当初は世の中の蝶の全てが”Papilio属”にまとめられていたのだ。つまり、1758年にリンネがモンシロチョウに名前をつけた時は学名が「Papilio rapae Linnaeus, 1758」だったというワケ。
で、数年後には”Pieris(モンシロチョウ属)”に分類し直されて、「Pieris rapae (Linnaeus, 1758)」となったのである。
となると、最初はアカボシも「Papilio assimilis」という学名だったのね。
よし、ならばリンネが1758年に命名した蝶をピックアップし、その中からアカボシと似ている奴を探せばいいのではなかろうか❓オラって、アッタマいいーv(^o^)v

全部”Papilio”だったというのが頭に残ってたから、リンネの命名した蝶で近いのがパッと浮かんだ。アゲハチョウ属のナミアゲハ(Papilio xuthus)とキアゲハ(Papilio machon)である。

【ナミアゲハ 春型】

(2021.4 大阪府四條畷市 飯盛山)

【キアゲハ 春型】

(2019.4月 福井県南越前町 藤倉山)

ナミアゲハなんか結構似ているっちゃ似てるよね。一方、キアゲハは黄色味が強いから似てるとまでは言えないよね。
リンネが最初に記載した蝶の中からアカボシに似たのを探すだなんて相当に骨が折れそうだし、面倒臭いからもうナミアゲハで決定でいいんじゃないか❓そうゆう事にしておこう。😸🎵終了〜。
でも、ここまで調べといてやめたら、各所からお怒りの言葉を投げつけられそうだし、何となく釈然しないところもある。このままウヤムヤにするのも癪だし、調べっかあ…。早めにリストが見つかる事を祈ろう。

(◠‿・)—☆ラッキー❗
ネットで、比較的簡単に「NATURAL HISTORY MUSEUM」というサイトの『Linneus’s Butterfly Type Specimens』という文献が見つかった。
それによると、リンネによって最初に記載された蝶は約120種だったらしい。結構あるね。

見ると、いきなり冒頭でコモンタイマイ(Graphium agamemnon)が目に止まった。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

263年前のタイプ標本だ。よく残ってるよね。
でもこれじゃ本来の姿が分かり辛いので、補足のための画像も添付しておきます。

【コモンタイマイ】

(2011.4月 タイ チェンマイ)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

でも柄は似てても地色が緑色だし、形も違うから無理があるか…。そんなこと言うと、ナミアゲハだって形が違うから似てないって事になるな。早くもナミアゲハ説、危うしだ。

そしてアカボシゴマダラのタイプ標本。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

明らかに中国の名義タイプ亜種(原記載亜種)だね。
話は逸れるけど、この名義タイプ亜種とかの表記にはいつも悩まされる。名義タイプ亜種とは、ある1つの種が複数の亜種に分かれる時に自動的に定義されるもので、小種名と同じ学名の亜種のことだ。
つまり最初に記載された個体群のことを指し、アカボシならば”Hestina assimilis assimilis”となり、中国産のものがコレにあたる。
でも、その基準となる亜種名の和名表記がバラバラなのだ。古くはコレを「原名亜種」と呼んでいた筈だが、いつの間にか「原亜種」とか「基亜種」「原記載亜種」「名義タイプ亜種」と云う別表記のものが増えていた。因みに英語では、nominotypical subspeciesと表記される。
個人的には「原記載亜種」を使う事が多く、最も嫌いで使わないのが「名義タイプ亜種」。なぜなら、言語的に意味が分かり辛いからだ。「名義タイプ」って、どんなタイプやねん❓オッサン的なタイプ❓でも、字面はお爺ちゃんぽいよね。などと素人には「タイプ」の意味が誤解されやすく。正確な意味が伝わりにくい。タイプがタイプ標本(模式標本)を指すだなんて分かるワケがない。それに「名義」と云う言葉にも違和感がある。おそらく「名義を貸す」みたいなイメージなのだろうが、名義なんて言葉は今どきの若者は使わんぞ。意味さえワカランようなアンポンタンだっているだろう。どころか、言葉そのものを聞いた事がないと言う者までいかねない。
お願いだから、ややこしいのでどれか1つに纏めてほしい。で、もし統一するなら、元々使われていた「原名亜種」を推す。シンプルだけど十分に意味は伝わるからだ。「名義タイプ亜種」なんてのは言語感覚のない学者の発想だろう。ようするに正確性を強く求めるあまり、かえって意味不明になってるという図式だ。「トゲナシトゲトゲ」みたくパラドックスを内包してる。まあ「トゲナシトゲトゲ」は笑えるけどもね。棘が無いのにトゲトゲなのだ。なぞなぞ問題かよ❓みたいなネーミングだが、同時に逆説的名称でもあり、そこには哲学的な香りさえ漂っている。
たぶん意図して命名はしてないだろうが、たまたま結果的には奇跡的とも言えるお茶目過ぎるくらいお茶目な傑作ネーミングになっている。
トゲナシトゲトゲの事は、どうでもよろし。
勝手に想像すると「名義タイプ亜種」なんてのは、大方が「ウスバキチョウ」をアゲハの仲間だからといって「キイロウスバアゲハ」なんていう酷い名前に改名した九州大学の昆虫学者辺りの提唱だろう。「薄羽黄蝶」の薄羽黄という言葉は雅びだが、「黄色薄羽揚羽」の黄色薄羽はダサい。それにキイロウスバアゲハという語感がサイテーだ。リズムが悪い。それに略しにくい。おそらく「キイロウスバ」となろうが、中途半端な長さだし、何だか蛾っぽい。試しに「キイロウスバ、キイロウスバ、キイロウスバ」と3回唱えたら、(`Д´#)キレそうになったよ。
因みに、付けられたはいいが「キイロウスバアゲハ」なんて蝶好きの間では誰も使っていない。99%は以前からの「ウスバキチョウ」を使用している。人は正確性だけを求めているワケではないのだ。情緒のないような名前は愛されないし、認められないのである。

話が大幅に逸れた、本筋に戻そう。

次に目に止まったのだが、マネシアゲハ(Chilasa clytia)。最近はキベリアゲハと呼ばれることも多い。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

【マネシアゲハ(キベリアゲハ)】

(出展『Wikipedia』)

【裏面】

(2011.4月 ラオス ウドムサイ)

コレは似てるよね。裏も赤紋じゃないけど黄色い紋がある。今まで挙げた中では一番近い。多分コレじゃないのー❓
因みに、これは”dissmilis”という型である。余談だがマネシアゲハには幾つもの型があって、それぞれが毒蝶であるマダラチョウ類に擬態しているとされている。ワシも初めて見た時は格子柄のマダラチョウの1種に見えた。マネシアゲハの仲間の擬態度はどれも精度が極めて高く、その凄さにはいつも感服する。同時に、自然の造形の妙に唸ってしまう。

でも、最後にまさかの奴が出てきた。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

たぶん、Ideopsis similis リュウキュウアサギマダラだ。
たぶんと書いたのは、サイトに学名が載ってないからだ。このリュウアサグループにはコモンマダラ、ウスコモンマダラやミナミコモンマダラ、ヒメアサギマダラ等々、似たようなのが沢山いるのだ。

【コモンマダラ】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

【ヒメアサギマダラ】

(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

一応、図鑑で確認しておこう。
したら「Ideopsis similis (Linnaeus, 1758)」となっていた。つまり、間違いなくリンネの記載だ。

【リュウキュウアサギマダラ】

(2016年 台湾?)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

アカボシは毒蝶であるリュウアサに似ていて、これは鳥からの捕食を免れるための擬態だと言われている。確かに似てて、間違いやすい。ワシも恥ずかしながら、前回で書いたように見事に騙された。けど、まさかそんな上手い具合にキレイなオチになるだなんて思いもよらなかったから一瞬、(・∀・)キョトンとしたよ。
もしかしたら、リンネも騙されたのかもしれない。但し、パターンは逆で、アカボシに騙されたって構図だ。で、類似を意味する「assimilis」と名付けたに違いない。とはいえ、実際にフィールドで見たワケではないだろう。この時代は学者が自ら採集旅行に出るという事は少なく、各地から送られてきた標本を見て記載する事の方が多かっただろうからね。リンネがアジアに旅行したというのも調べた限りでは出てこなかったしね。

とはいえ、マネシアゲハとも相当似ている。コチラの可能性も充分ありうるだろう。となれば、どちらを対象にして名付けられたのかは微妙で特定は出来ない。記載年は3種とも同じだが、どちらがアカボシよりも先に記載されたかが分かれば、ジャッジメントできるんだけどもね。でも学名には記載月までは記されていないんである。記載論文を見れば分かるのかもしれないけど、もうそこまでして調べるような気力は残ってない。ここから先は自分で調べてケロ。
因みに、似ている蝶たちのサイトに出てくる順番は、最初がコモンタイマイで、次にアカボシゴマダラ、以下マネシアゲハ、キアゲハ、リュウキュウアサギマダラ、最後にナミアゲハの順だった。となると、コモンタイマイに対してのネーミングだったりしてね(笑)。多分、並んでる順は関係ないと思うけどさ。
ただ各ラベルには番号が振ってあった。
コモンタイマイ21&748 アカボシゴマダラ129 マネシアゲハ130 キアゲハ135 リュウキュウアサギマダラ101&772 ナミアゲハ161 だった。数字の若い順に並べると、コモンタイマイ、リュウアサ、アカボシ、マネシ、キアゲハ、ナミアゲハになるが、リュウアサには772という番号も振ってあるので何とも言えない。こりゃ迷宮入りだね。

でも、サイトをザッと見直したら、番号がなぜ2つあるのかが解った。そこに、以下のような文章を見つけたのである。

「Labels
The small labels associated with the images are by Linnaeus, while the larger ones were added subsequently by Sir James Edward Smith, who purchased Linnaeus’s collection.」

訳すと、こんな感じになる。

「ラベル
各画像と関連するラベルは、サイズの小さなものはリンネの手書きによるものだが、大きなラベルはリンネのコレクションを買ったジェームズ・エドワード・スミス卿によって追加されたものである。」

でも、そもそもこの番号が何を意味してるのかが定かではないだよね。たぶん標本番号なのだろうが、それがそのまま記載順になっているとは限らないのだ。ここで、問題解決は一旦頓挫した。
しかしながら、諦めずに調べ進めてるうちにWikipediaのページで新たな鉱脈を見つけた。
「Lepidoptera in the 10th edition of Systema Naturae」というものだ。
おそらくこれは1758年に出版されたリンネの「自然の体系」第10版の鱗翅目の巻だね。リンネ自身が書いたものだから、これだと命名順に並んでいるんじゃなかろうか。ならば期待できる。
そこには、以下の順で並んでいた。

・Papilio similis – Ideopsis similis
・Papilio assimilis – Hestina assimilis
・Papilio dissimilis – Papilio clytia

上からリュウアサ、アカボシ、マネシアゲハの順だね。
とゆうことは、やはりアカボシの学名はリュウキュウアサギマダラと比しての命名だった可能性が高い。つまり、学名の小種名「assimilis」の意味する「類似の」とは、リュウキュウアサギマダラに類似していると云うことだ。そう断言しちゃってもいいんじゃないかな。
( ´ー`)フゥー………、間違ってるかもしんないけど、もうこれくらいで勘弁してくれよ。

【英名】『Red ring skirt』
直訳すると「赤い輪のスカート」になる。おそらくスカートとは下翅を指しているのだろう。テキトーに言ってるけど(笑)

【亜種】
奄美群島、台湾の個体群は一見して他の地域の個体とは斑紋が異なり、それぞれ別亜種に分類されている。

◆奄美亜種 ssp.shirakii(Shirozu, 1955)
奄美亜種の「shirakii(シラキィー)」は昆虫学者の素木得一博士(1882―1970)に献名されたものである。
氏は直翅類・双翅類の分類の権威であると共に、応用昆虫学にも深い知識をもち、農作物の害虫であるワタフキカイガラムシの大発生に対してベダリアテントウを導入して駆除を行った。これは日本初の天敵を利用した生物的防除の成功としてよく知られている。
また、台湾帝国大学や台湾大学在職中に多くの報告・論文を発表し、多数の昆虫を新種として記載したことでも知られている。その名がシラキトビナナフシやシラキミスジ(台湾の蝶)などの和名に残っている。
晩年には『昆虫の分類』『衛生昆虫』『昆虫学辞典』などの大著を出版し、また日本応用動物昆虫学会の会長をもつとめ、昆虫学の発展に大いに寄与した。

他亜種と比べて後翅の赤紋が発達していて、最も美しい亜種。赤紋の色は濃く鮮やかで、リングは太くて大きく、形が崩れない。また輪の中の黒い部分も大きい。白斑は他亜種よりも地色が白く、面積もやや広い。

奄美大島、加計呂麻島、徳之島、請島、与路島、徳之島、喜界島に産する。他にはトカラ列島の小宝島(2000年)と中之島(2003年)に記録があり、数頭が採集されている事から一時的に発生していたものとみられる。
尚、沖縄本島からも奄美亜種の古い記録があるが、その後絶滅したのか、偶産であったのかは不明である。台湾にもいるから、間の沖縄本島にもかつては居た可能性は高いだろう。だとしたら、何で絶滅しちゃったんだろうね❓コレ以上、氏数を増やすワケにはいかないので、この問題には立ち止まらないけどさ。

奄美大島には全土に広く分布するが、近年になって個体数を減らしており、昔と比べてかなり少なくなったそうだ。
主に平地の集落内や墓地、その周辺に多く見られ、山地で見る機会は占有活動時を除き少ない。これは食樹であるニレ科 リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)が集落周辺に多く、山地ではあまり見られないからだと言われている。
3月下旬から4月上旬に現れ(春型)、以後数回にわたって発生を繰り返し、11月下旬まで見られる。発生回数は5、6回程度と推定されているが、年によってバラつきがあり、年4化の年もあるという。
6月中旬〜7月上旬に発生する第2化目が最も個体数が多く、この時期に白斑が減退した黒化異常型が得られる。


(出展『変異・異常型図鑑』)

コレはレベル5とも言える最も黒化した個体だが、黒化度合いは段階的に顕在し、軽度のものから真っ黒に近いモノまで見られる。

飛翔習性はゴマダラチョウとほぼ同じで、♂は占有活動を行い、樹冠を旋回するように飛び、高所の葉上に静止する。変わっているのは、普通の蝶は広葉樹に止まることが多いが、何故か針葉樹のリュウキュウマツに好んで静止することが多い。
飛ぶ位置は木の高さに準ずるが、ゴマダラチョウよりは低い。また飛翔速度もゴマダラチョウ程には速くない。特に♀の飛翔は緩やかである。これは毒蝶のリュウキュウアサギマダラに飛び方まで似せる事によって、鳥からの捕食を免れていると考えられている。
時に湿地に降りて吸水するが、♂のみで、♀にはそのような習性は観察されていない。
夏場にはホルトノキの花に吸蜜に訪れることが知られているが、意外にも樹液での観察例は少ないようだ。因みに自分は秋(9月)に柑橘類で3度、スダジイで3度ほど見ている。他にサルスベリでの吸汁例もあるようだ。またパパイヤでの吸汁例やアブラムシの分泌物を吸汁していた例もあるという。
バナナやパイナップルを発酵させた腐果トラップにも誘引されるが、夏期のみで春や秋には何故か殆んど誘引されない。
交尾は高い樹上で行われ、飛翔形式は⬅♀+♂であることが分かっている。
産卵は幼虫の食樹 Celtis boninensis リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)の成葉、樹幹、太い枝に1個ずつ産みつけられるが、葉に産むよりも幹や枝に産むことの方が多い。
幼虫は成葉を好み、若葉を与えても摂食しよとせずに死亡した例もある。飼育時にエノキ、エゾエノキを与えると、時に辛うじて成長し、小型の成長を生じる場合がある。
越冬態は幼虫。但し、地面の落葉下で越冬するゴマダラチョウとは違い、樹幹に静止して越冬する。

元来日本には、この固有の亜種のみが分布していたが、近年になって原記載(名義タイプ)亜種が人為的に関東地方に持ち込まれ、分布を拡大している。これについては次項にて詳しく書く。

奄美諸島亜種は、環境省レッドリストの準絶滅危惧種(NT)に指定されている。一方、移入された原記載亜種は外来生物法により、特定外来生物に指定されている。

◆原記載亜種 ssp.assimilis (Linnaeus, 1758)

(夏型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

後翅赤紋が奄美産と比べて小さく、円が崩れがちで多くがリング状にならない。また色も淡く、赤というよりもピンク色をしている。
ハッキリ言って、ブサいくなアカボシだ。品がないのが許せない。個人的にはアカボシゴマダラの価値を著しく下げた存在として激しく憎悪している。

(春型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

春型は白化し、赤色紋が多くの個体で消失する。
奄美産や台湾産には、このような型は見られない。ただ、原記載亜種に分類されている朝鮮半島産も白化型は見られないそうだ。

ベトナム北部~大陸中国南部~東部~朝鮮半島,および済州島と周辺島嶼に分布する。


(出展『原色台湾産蝶類大図鑑』)

中国や韓国では里山的環境から都市部まで広く見られるようだ。但し『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』には「韓国では人家周辺にはほとんど産せず、渓流沿いの樹林地帯のかなり高地(標高800m付近)まで生息する。このような事実は本種がもともと樹林性の蝶であることを示している。」とあった。

本来は日本にはいない亜種だが、1995年に埼玉県秋ヶ瀬公園などで突如として確認された。外見上の特徴から、これらは奄美のモノではなく、中国大陸産の名義タイプ亜種であることが判明した。自然状態の分布域から飛び離れていることから迷蝶とは考えられない事や、突如として出現したことなどから蝶マニアによる人為的な放蝶の可能性が高いと言われている。
この埼玉での発生は一時的なものに終わったが、その後1988年には神奈川県を中心とする関東地方南部でも本種が発見され、またたく間に繁殖、やがて定着するようになった。
そして2006年には東京都内でも発生し、2010年以降には関東地方北部や山梨県・静岡県・福島県、さらには愛知県・京都府、奈良県や伊豆大島からも記録され、分布の拡大が続いている。増加の原因は本州の気候風土に適していたためと考えられており、また市街地の公園など人工的な環境にもよく適応している事から、今後も分布が拡大していくと推測されている。
尚、日本ではこの移入個体群が「特定外来生物」に指定されているが、もはや手遅れの感がある。

放した奴は、どうしようもないクズである。蝶屋の風上にもおけない大馬鹿モンだ。美しい奄美産に、このブサいくなアカボシの血が混ざったら最悪だ。もしそうなったら、どう落とし前をつけるというのだ❓放した奴は首を括って死んでもらいたいくらいだ。何で、こないなドブスなアカボシを放ったのだ❓美的センス、ゼロだ。どうせ放つのなら、クロオオムラサキとか放てよな。コヤツといい、ホソオチョウといい、何で二線級の蝶をわざわざ放すのだ❓もし会ったら、タコ殴りしてやりたいくらいだ。

成虫は5月から10月まで見られ、少なくとも年3回発生する。
中国や関東地方での食樹はエノキ Celtis sinensisで、食樹を同じくするゴマダラチョウやオオムラサキ、テングチョウへの影響が懸念されている。特に類似の環境に生息するゴマダラチョウとは生態的に競合するのではないかと危惧されている。但し最近の研究結果では、ゴマダラチョウの幼虫は大木を好み、アカボシゴマダラは幼木に付くことが多い事が判ってきており、ニッチはガチンコでバッティングはしないようだ。但し糞アカボシが今後各地で個体数を増やしていけば、将来的にはどうなるかはワカンナイけどね。
越冬態は幼虫だが、稀に蛹も見つかるそうだ。又、多くは4齢幼虫での越冬だが、終齢(5齢)幼虫も見つかっている。
越冬場所は奄美では樹幹だが、この原記載亜種は樹幹のみならず、ゴマダラチョウのように落葉の裏で越冬するものも結構いるそうだ。そして、樹幹で越冬するものの殆どが木の根元、地面から30cm以内で見つかるという。

◆台湾亜種 ssp.formosana (Moore, 1895)

(夏型♂)

(2017.6 台湾南投県仁愛郷)

(夏型♀)


(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

台湾名は「紅斑脈蛺蝶」。学名の「formosana」は「台湾の」という意。
4月から11月に亘って見られ、台湾全土の平地から山地帯に広く分布するが、個体数はあまり多くないとされる。
たまたまかもしれないが、自分は人家周辺など平地ではあまり見掛けず、渓流沿いや尾根で姿を見る機会の方が多かった。

原記載亜種との違いは以下の通りである。
①後翅第2〜第4室の赤色紋の黒円斑は大型。
②その外側の青白斑は第5〜7室のものと殆んど等大か、僅かに小形で、原記載亜種のように著しく小さくはならない。
③奄美亜種よりも赤紋は小さくて細い。またリングの下半分が消失して輪状にならず、外側の白紋と合わせて楕円状に見える。

自分の印象を述べると、地色が白ではなく、淡い水色に見える。ゆえに、よりリュウキュウアサギマダラに似ており、たまに見間違えた。でも何となく違和感があるから、直ぐに違うと見破れるけどね。
尾根沿いを飛ぶ姿や吸水に集まるのをよく見た。また腐果トラップにも頻繁に訪れた。

なお、台湾産にも白斑が減退した黒化異常型が見られ、これには「ab.hirayamai Matsumura」という型名が付けられている。

食樹は「DearLep 圖錄檢索」では以下のものが挙げられてた。

◆沙楠子樹 Celtis biondii
◆石朴 Celtis formosana

上の沙楠子樹を学名で検索すると、サキシマエノキと出てきた。しかし、サキシマエノキは日本では宮古諸島にしか自生しておらず、国外ではインドネシアのスラウェシ島とニューギニアに分布しているそうだ。これをどうとるべきかはワカンナイ。
下の石朴も学名から検索したが、和名は出てこなかった。でも学名を直訳すれば、「タイワンエノキ」となる。
タイワンエノキで検索すると「Celtis tetrandra」というまた別物の学名が出てきた。植物は変種も多いし、こうなると素人にはお手上げだ。奄美亜種の項でリュウキュウエノキをニレ科と書いたが、今はアサ科に分類されてるらしいし、ワケわからん。突っつくと迷宮地獄になりそうなんで、これについて特に掘り下げるのはやめておく。
因みに、台湾にも日本と同じエノキが分布しているそうだ。

 
追伸の追伸
解説の学名の項で大脱線してしまい、予想外に長くなってしまった。ほぼ完成していたものを見直していたら、学名の意味について書くのを忘れている事に気づいた。それがキッカケだった。で、平嶋さんの『蝶の学名』を見たら、小種名は「類似の」という意外なものだった。どうせゴマダラチョウに似てるんだろうと、そのままスルーしても良かったのだが、つい記載年まで確認したのが運の尽きだった。見逃せばいいものを、何かと疑問を持ってしまうこの性格、どうにかならんかね。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蝶類標準図鑑』
◆『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆『原色台湾産蝶類大図鑑』
◆新版『蝶の学名−その語源と解説』平嶋義宏

(インターネット)
◆『変異・異常型図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『Linneus’s Butterfly Type Specimens』by「NATURAL HISTORY MUSEUM」
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『侵入生物データベース』
◆『探蝶逍遥記』

 

奄美迷走物語 其の16

 
第16話『月とデブいアンタと狼男』

 
2021年 3月30日

泥のように眠り、起きたら昼前だった。
外は雨が降っている。
残されたチャンスは少ないから複雑な気持ちだが、心の底ではどこかホッとしている自分がいる。
昨日は、というか今朝まで虫採りしてたから身も心もボロボロなのだ。正直、ここまで全く採集に出なかった日は1日たりともなかったから休みたかった。でも晴れていたら、そうゆうワケにもゆかない。行かなきゃ、逃げた事になるからだ。
とにかく、これでセコい言い訳をカマさなくてすむから心置きなく休養する事ができる。

 

 
今朝、夜明け前にファミマで買ったはいいが、力尽きて食べれなかった中 孝介(註1)監修の鶏飯(註2)を食うことにする。

 

 
ハッキリ言って全然旨くない。及第点にも遥かに及ばない。こんなのよく鶏飯のお膝元で発売したよなと思う。しかも、わざわざ「奄美鶏飯」と名打ってる厚顔無恥っぷりじゃないか。もしワシが島民だったら、絶対怒るね。最近はファミマも味のレベルがだいぶ上がったと言われるが、やっぱセブンイレブンと比べるとクオリティーが低いわ。スイーツばっか頑張ったところでダメだよ。

食い終わって、薬局に買おう買おうと思っていた塗り薬を買いに行く。
泊まっている「ゲストハウス涼風」は周辺に飲み屋があまりないのが難点だが、それ以外は何かと便利だ。歩いて行ける距離にスーパーマーケットがあるし、コンビニもある。その横にはチェーン店らしき大型薬局店だってあるから、薬以外にもインスタント食品やスナック類、雑貨も買える。

 

(出展『ゲストハウス涼風』)

 
熱湯を胸に浴びて、北斗の拳みたく斜めザックリの傷跡になった火傷がまだ治ってなくて、ヒリヒリするのである。

メンタムを買おうかと思ったが、考えてみれば自宅にあるし、効能を見るとコッチの方が良さげだった。

 

 
一家に一つ、オロナインH軟膏である。
帰って薬つけて、もう一回💤寝よ〜っと。

だが帰って昨日の採集品を整理してたら、気づけば午後2時半。いつしか雨は上がっていた。
ベランダに出て、空を見る。晴れ間はないが、何となく天気が回復する兆しを感じた。勘で僅かな時間だけど晴れるんじゃないかと思った。その間隙をぬって起死回生の一発を放てるかもしれない。アカボシゴマダラは、ほんのひと時でも晴れてくれさえすれば、飛ぶだろう。ワンチャンあるかもしれない。

 
【アカボシゴマダラ 春型♀】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
この天気と予報ならば、殆どの人が今日の採集を諦めている筈だ。だとするなら、上手くすれば採集者全員を出し抜いてベストポジションが取れるやもしれん。思い立ったが吉日だ。ならばと慌ただしく長竿とザックを引っ掴み、バイクを駆ってあかざき公園を目指す。

走り始めて暫くしたら、サッと上から光が射した。
予測通りだ。さすが俺様である。

けどバイクを停めてポイントまで降りて行ったら、既に先客がいた。昨日、同じ場所でワシのブログを読んでいると言ってた若者だ。(´ω`)むにゅー、同じような事を考えてる人間は他にもいるんだね。
それにしてもレスポンスがいいね。彼は名瀬に泊まっていた筈だから、ワシより判断が早かったということだ。それって大切な事だよ。加えて、若いけど見た目以上に読みのセンスがある。この2つがあれば、結果も自ずと付いてくるだろうから、頑張って続けてもらいたいよね。

先を越されたが、まあいい。柿澤仙人は来てないし、奥の東屋のポイントを占有できそうだから今日こそは採れんだろ。

訊いたら、まだアカボシの姿は見ていないと言う。
でも、そろそろお出ましだろう。自然と気合が入る。二人で独占、鬼採りといこうじゃないか。

しかし立ち話を始めて5分くらいで曇り始めた。おいおいである。けど曇っていても飛ぶ時には飛ぶから何とかなるっしょ。

だが暫く待つも、飛んで来る気配がまるでない。期待だけが虚しく空回りする。忸怩たる想いで、木々の梢を睨む。

やがて二人組の採集者が上から降りて来た。
けど、二人とも全然オーラがない。採りたいという強いハートも伝わってこない。そんなんじゃ1つも採れんぞ、兄ちゃん。
10年ちょっとも蝶採りをやってると自然と解る。採るのが上手くてライバルになりそうな奴には独特のオーラがある。デキる奴には、それなりの雰囲気というものがあるのだ。

ここじゃダメだと判断して、塔のあるポイントへと移動する。
本来、待つのが死ぬほど嫌いな男なのだ。待ってもダメだと感じたら転戦も厭わない。だからこそ常に他の場所も頭の隅に入れて行動している。

 

 
着いて直ぐ、らしきもんが飛んで来た。ザマー見さらせ、読み的中じゃい❗鬼神の如くダッシュする。
だけれども、目の前まで行って気づく。似てはいるが、そやつは赤紋のない全くの別種、リュウキュウアサギマダラだった。

 
【リュウキュウアサギマダラ♀】

 
ショックで膝から崩れ落ちそうになる。
逆光のせいではあったが、我ながら情けない。勿論アカボシが毒のあるリュウアサに擬態しているという説は知っている。けど、常々あんなもん見間違うかね❓、アンタらの目は節穴かよと思ってた。ゆえに今まで見間違った事なんぞ殆んどないのだ。あったとしても一瞬だ。直ぐに違うと見破ってきた。それがコレだ。もうヤキ、回りまくりである。絶不調ここに極まれりの象徴みたいな出来事じゃないか。

その後、さっきの二人組が上がってきた。 
周りの空を見回しても晴れそうにないから、退屈しのぎに話をする。 

彼らは近畿大学の研究者だった。
なぁ〜んだ、オーラがなかったのはそうゆう事だったのね。狩猟が目的ではないからガツガツしたものを感じなかったのだ。同じ虫屋でも学究肌タイプと狩猟肌タイプがいて、両者は全く目指すベクトルが違う。当然、両者の性格の傾向も異なる。私見だが、学者肌の人は往々にして性格が穏やかな人が多い。一方、狩猟肌の人間は負けず嫌いで押し出しが強く、自分を曲げない人が多い。勿論コレはあくまでも傾向であって、例外は沢山あるだろうけどね。

二人の話によると、先輩の研究者がゴマダラチョウの幼虫を研究していて、2本の頭部突起がどうゆう役割を果たしているのかを調べたそうだ。

 
【ゴマダラチョウ♀】

(2021.5.30 東大阪市枚岡。この♀、何と開張82mmもあった)

 
世の中にはヒマな人もいるんだなと思ったが、言われてみれば確かにそうだ。ゴマダラチョウの他にもアカボシゴマダラ、オオムラサキ、コムラサキ、スミナガシ、フタオチョウetc…タテハチョウ科の幼虫の多くは頭部に角状の突起を持っている。何で皆、頭にそんなもん付けとるんや?とは、おぼろげながらにもワシだって疑問には思っていたのだ。

 
【ゴマダラチョウの幼虫】

(出展『芋活.COM』)

 
ゴマダラチョウやアカボシゴマダラ、オオムラサキなどコムラサキ亜科の幼虫って、(・∀・)ほよ?顔で可愛いよね。可愛い過ぎて、オジサンだって胸キュンだよ。

 
【オオムラサキ♂】

(2021.6.17 東大阪市枚岡)

 
話を戻そう。
で、調べた結果、角を振り回して天敵のアシナガバチから身を守っている事が証明されたらしい。それを二人はフタオチョウの幼虫でも証明しようとしているという。今のところまだ結果は出てないそうだけどね。

 
【フタオチョウ♂】

(2021.3.29 奄美大島)

【フタオチョウの幼虫】

(出展『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』)

 
完全にプレデターだよな(笑)。
にしても、こんなもん振り回したところで、はたして蜂を追っぱらえるのかね❓ゴマダラチョウの角にしてもそうだけど、蜂を半殺しにできる程の殺傷力があるワケでなし、武器としては弱すぎやろが。んなもん、後ろからブスリとかガブリとかいかれたら一貫の終わりやがな。

結局、二度と太陽は顔を出さず、アカボシもフタオも、その姿を見ることすら叶わずだった。一発逆転を狙ったが、完全に骨折り損のくたびれ儲けに終わったってワケやね。まだまだ絶賛連敗街道爆走中っす。

昼は雨模様の天気予報だったが、各サイトの予報を改めて確認すると、夜は概ね曇りになっている。とゆう事は夜間採集に出動しなければならぬ。昨日の疲れがまだズッシリと残ってるし、またしても惨敗を喰らったから気が重いが、行くっきゃないだろなあ…。
行くにしても、奄美に来てから天気予報は全然当たらないし、コロコロと目まぐるしく変わる。せめて雨にならない事だけを祈ろう。これ以上、泣きっ面に蜂みたくなるのは御免蒙りたい。ヤケクソで、露払いに角でも振り回したろかい。角、ないけどー。

腹ごしらえは今回もカップ麺。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛り 塩担々麺』。
最後に残っていたニラもブチ込む。

味は可もなく不可もなくって感じ。まあ、百円だから期待はしてなかったけどさ。とはいえ、心の底では旨かったら気分が乗るから、それでメンタルが少しでも上がる事を期待してたんだけどね。ボコられ過ぎて、もう神頼みの領域なのだ。

午後6時過ぎ、知名瀬に向けてバイクを走らせる。
今日こそ、アマミキシタバを仕留めてやろう。

 
【アマミキシタバ】 

(出展『世界のカトカラ』)

【裏面】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
そうは言いつつも、最も有望な場所である湯湾岳に行って惨敗して今朝方帰って来たばかりなのだ。言ってる言葉に力がない。もう、何をどうすればいいのかが分からなくなってる。

 

 
Sくんがハグルマヤママユ採集の折りに陣取ったポイントに、何ちゃってライトトラップを設置する。
ライトを取り付けた三脚の後ろに網を立てかける。
アマミキシタバが飛んで来たら電光石火、空中でシバいたろという算段だ。取り敢えず、らしきもんが飛んできたら迷わず何でも採る体制でいこう。ようは、もう形振(なりふ)り構ってらんないのである。

何か大型の蛾が飛んで来た。でも何ちゃってライトは暗いから、何が飛んで来たかはワカラン。アマミキシタバにしてはデカ過ぎるから心は躍らないが、一応シバく。

 

 
また、おまえかよ(´ε` )❓
毎度お馴染みのオオトモエさん(註3)だった。中々に立派だし、デザインもマスカレードみたいで渋カッコイイのだが、如何せん何処にでもいる普通種なのだ。採っても最早、喜びは皆無である。

午後10時。
あれれ❓山の向こうが何だか明るくなってきたぞ。
予報は、どのサイトでも完全に曇り。もしくは曇り時々雨だったが、又しても「スーパー晴れ男」の力を無駄に発揮してしまうのかあ❓
昼間、蝶を採る場合には断然晴れた方が良いんだけど、夜に灯火採集する時には晴れるのはヨロシクないのだ。詳しくは書かないけど、大まかな原理はこうだ。
通常、夜行性の昆虫は月光を頼りに移動している。だが、月が見えないと事情は変わる。人工光に強く影響され、やがては誘引されてしまうのだ。

 

 
午後22時12分。
遂に月が昇ってきた。どんだけ晴れ男やねん❗である。でも、全然もって嬉しくないや。

 

 
どんどん晴れてきた。
しかも満月じゃないか❓
悔し紛れで、狼の遠吠えでもしたろかと思う。
さすがにそれは思いとどまったでしょう。そう皆さん、思っただろうが、ところがどっこい。思いきし月に向かって『🐺ワォ━━━━ン❗』と遠吠えしてやった。
我ながら、かなり上手い。気分は完全に狼男。調子に乗って、もう一発吠えてやった。この森の全ての生き物たちよ、我に震撼せよ。森の王者たるワシを畏れ崇めるのだ〜。
完全にイカれポンチの阿呆だが、コレが半分冗談じゃなく真面目にやってるんだから怖い(笑)。

落ち着いたところで、静かな心持ちで月と対峙する。

 

 
原生林の上で煌々と輝く月は幻想的で美しい。そして月光は、こんなにも明るいのかと改めて思う。
懐中電灯を消しても、周囲の風景が肉眼でもよく見える。
「月夜の晩ばかりではないよ(註4)」という古い言葉を思い出す。街灯などない昔は、それくらい夜は真っ暗だったのだ。もし江戸時代の人が現代にタイムスリップすれば、その明るさにドびっくりーだろね。逆に現代人が江戸時代にタイムスリップしたとすれば、あまりの暗さにビビるだろう。現代人は夜に出歩くことに何ら恐怖を感じないが、夜の闇は本来的には恐ろしいものなのである。だからこそ妖怪や幽霊、お化けなどという魑魅魍魎どもが跳梁跋扈する世界がリアルに成立しえたのだ。そうゆう畏怖すべき謎の世界がある方が世の中、面白いのにね。明るさは、時に人の想像力を奪う。
(  ̄皿 ̄)アンタら、いっぺん山奥で懐中電灯なしで歩いてみぃーや。
(´༎ຶ۝༎ຶ)チビるで。

そんな時だった。月光が降り注ぐ中、何かデカい飛翔体が林道の左奥からコチラに向かって真っ直ぐに飛んで来た。ちょっとビビるが網を構える。もしも此の世の者ならざる存在ならば、袈裟がけで叩き斬る所存だ。
採ってみたら、悪魔の化身みたいな奴だったらどうしよう❓畏怖しつつも一歩踏み込み、前で左から右へキレイにさばいた。

網の底に手応えがある。かなりの大物だ。
中を恐る恐る見て、驚く。
\(◎o◎)/何じゃこりゃ❗❓

  

 
(☉。☉)デカっ❗
&アンタ、デブいねー❗
 

羽の柄は何日か前に似たようなのをどっかで見た事があるぞ。
たぶんアサヒナオオエダシャク(註5)って奴だ。にしても、それよか遥かに巨大だし、形も違う。

良い兆しと期待したが、その後は目ぼしいものは何も飛んで来なかった。
又しても惨敗濃厚だ。いつになったらアマミキシタバに会えるのだ❓ねぇー、ねぇー、そんなに珍しいモノなのー(ToT)❓

午前0時過ぎ。
(-_-;)終わったな…。

どうせ待ってもダメだと判断して、そろそろ店じまいしようとした時だった。
何か裏面がアマミっぽいのが飛んで来た❗俄然、心がザワつく。でも大きさ的に違うような気がする。けど採ってみないと何とも言えない。慎重に距離を詰める。
だが追い詰めたところで、暗くて見失った。
(´-﹏-`;)むぅ…、とっとと網を振っておけば良かった。判断が鈍いや。こうゆうところが絶不調の原因だろう。何でもそうだけど、躊躇して良い結果が出た試しなどないのだ。
どうあれ、今さら嘆いたところで遅い。やれる事は、また飛んで来るのを願って待つことだけだ。

15分後、たぶん同じ奴が飛んで来た。
今度は迷わず網でブン殴る。

 

 
裏の柄はアマミキシタバっぼい。
でも、にしては地色が汚い。アマミならば、もっと鮮やかな黄色の筈だ。それに大きさ的にも小さい。とはいえ、矮小個体の可能性だってある。僅かな望みを託して表に返す。

 

 
もの凄く(◡ ω ◡)ガックリくる。
全然、別物の汚い蛾だ(註6)。とんだ似非者(えせもの)じゃないか。こんなもんに少しでもワクワクした己を呪いたくなる。
帰ろう。何もかんも上手くいかないや。

月光に照らされた林道を帰る。
幽玄で美しかったが、そんなのどうでもよかった。

                   つづく

 
追伸
狼男のくだりとか、今回はバカ回でしたな。
でも久々に楽しめて書けたかも。連載が当初予定したいたよりも長丁場になって、ここんとこ書くのが苦痛だったのだ。
でも上手くいけば、あと2、3回で、その苦痛からも開放されそうだ。

 
(註1)中 孝介(あたり こうすけ)
奄美大島名瀬出身の男性歌手。その声は「地上で最も優しい歌声」とも称される。

2006年 EPIC RECORDS JAPANよりシングル「それぞれに」でデビュー。
2007年「花」をリリースし、世代を超えたヒット曲となる。
2007年 1stアルバム『ユライ花』をリリース。オリコンチャートで初登場7位を記録し、ロングセラーとなる。
2007年 台湾での単独公演も成功させる。また、台湾で公開された映画『海角七号』に中孝介本人役として出演。映画は台湾歴代興行収入を塗り替える大ヒットとなる。
2008年 中華圏でリリースしたアルバム『心絆情歌』がヒットし、台湾ヒットチャートの1位を獲得する。

 
(註2)鶏飯(けいはん)
奄美大島の郷土料理。鶏のほぐし身など数種の具が入った出汁茶漬けみたいなもの。詳しくは連載第1回で書いた。

 
(註3)オオトモエさん
羽に巴紋がある大型のヤガ。

【オオトモエ】

ねっ、マスカレードでしょ。仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだ。

多分、兵庫県武田尾で採ったものかな?
まあ、オオトモエの産地なんて知りたい人などいないだろうから、何だっていいか。

何処にでもいるが個体数はそんなに多くなく、敏感で逃げ足が早い。だから採りたい人には意外と難易度は高い種かもしれない。おまけに驚くとブッシュに潜り込んだりするから、殆んどの個体が翅のどこかを損傷していて、完品を得るのはかなり難しい。

 
(註4)月夜の晩ばかりではないよ
月夜は明るいので、まだしも警戒のしようもあるが、毎日が月夜ではないから、せいぜい身の回りには気をつけなさんな。」という意味。脅し文句の一つで、ヤのつく自由業の方々がお使いになられる常套句でもある。

 
(註5)アサヒナオオエダシャク
調べたら、やはりアサヒナオオエダシャクの♀だった。

笑けるほどデカくてデブい。

あまりにもデブだったので期待していなかったが、展翅してみるとデカいゆえかデブさがあまり気にならない。翅形も中々カッコ良くてバランスも悪かない。
で、測ってみたら開張92mmもあった。『日本産蛾類標準図鑑』では最大が88mmになっていたから、レコードになりそうなくらいにデカいかも。

比較の為に♂の画像も貼っておこう。

形が♂と♀とでは、かなり違う。

♂もそれなりに大きいが、♀は比じゃないくらいに馬鹿デカい。
ちなみに、アサヒナオオエダシャクの♀は♂と違って灯火には誘引されないそうだ。だから、そこそこの珍品とされるようだ。もしかしたらアマミキシタバよりも余程価値はあるかもしれない。
確かに見たところでは、ライトトラップに誘引されたような感じではなかった。ただ単に移動するために林道を飛んでいたのが偶々採れたというのが正しいかと思われる。或いは森の王者狼男にすり寄ってきたのかもしれない。ワシ、メスにはモテるからさ(笑)。

尚、アサヒナオオエダシャクについては第8話で解説しているので、詳しく知りたい方はソチラも合わせて読まれたし。

 
(註6)全然、別物の汚い蛾だ
Facebookに「これ、何〜❓」とあげたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。どうやらウスアオシャクという名前の蛾らしい。まさかシャクガの仲間だとはね。しかもアオシャクの系統だ。思いもよらなかったから軽く驚いた。

【ウスアオシャク】

展翅してみたら、形が良くて意外と渋カッケー。
触角の先がグッと細まるのも良い。
苔みたいな渋い緑色だけど、一応は緑色だし、アオシャクの仲間だと云うのも何とか理解できる。

(学名) Dindica virescens (Butler, 1878)

(分類)
シャクガ科(Geometridae)
アオシャク亜科(Geometrinae)
Dindica属

(開張)
♂35〜42mm ♀38〜45mm
♂の触角は櫛歯状、♀は糸状。

翅形も違うね。♀の翅には丸みがあり、♂のようなシャープさはない。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

となれば、ワシが採ったのは♂だね。

(分布)
北海道南部,奥尻島,本州,四国,九州,対馬,トカラ列島(悪石島・中之島),奄美大島,徳之島。
国外では朝鮮半島に産する。Dindica属は東南アジアの亜熱帯から熱帯域に約20種が分布するが、本種のみが温帯域にまで分布している。
垂直分布は幅広く、低山地から亜高山帯まで見られる。

(成虫の出現期)
関東周辺では4月下旬から9月下旬の間に2〜3回発生する。
春に出現するものは翅表が淡く、夏に現れるものは濃色となる傾向がある。
北海道や奥尻島のものは極めて淡色で、外横線が明瞭となる。だが、同様な個体は本州の山地帯でも得られている。また、九州南部や奄美・徳之島産は暗色となる傾向があるが、関東でも暗色の個体はそれなりに得られているようだ。

(幼虫の食餌植物)
クスノキ科のダンコウバイ、クロモジ、ヤマコウバシ、アブラチャンが記録されている。

 
ー参考文献ー
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆白水隆『日本産蛾類標準図鑑』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『OFFICE WALKER OFFICIAL SITE』
◆『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』
◆『芋活.COM』
◆『www.jpmoth.org』
◆『ゲストハウス涼風』ホームページ

 

冷や汁に冷や汗

 
初めて「冷や汁」を作ってみることにした。
きっかけは豆腐。

 

 
神戸・八雲豆腐の特製木綿が半額になっていた事から始まる。

 

 
最近は、やや値段高めの美味そうな豆腐だったら、塩のみで食べる事が多い。その方が大豆本来の甘みを感じられるからである。醤油や生姜やネギ、鰹節は邪魔なのだ。安い豆腐の時は味も素っ気もないから、全員たっぷり掛けるけどね。
とはいえ、ずっと塩だけで食うのも飽きてくる。そのために茗荷も用意したってワケ。塩と茗荷の組み合わせも旨いのだ。ネギよりも好ましい。

で、残った半丁分の木綿豆腐をどうしようかと思った。いくら旨いからといったって、もう半丁を同じようにして食べるのは気持ち的に無理があるのだ。
なので、無い脳ミソで考えた。
茗荷の他に冷蔵庫には胡瓜もあるから事から、💡ピカリン、ふっと思いついた。

そうだ、冷や汁を作ろう❗

以前に丸美屋の冷や汁を食って、予想以上に旨かったという事を思い出したのもある。

 

(出展『楽天市場』)
 
 
値段は楽天市場だと300円くらいで売られているけど、自分は確か百均で買った。だから百円。他に鶏すだち味というのもあって、それも買った。ソチラも中々旨かったという記憶が何となく残っている。

しかし、単にレトルトを飯にかけて、胡瓜と茗荷を乗っけただけだから、自分で1から作ったワケではない。なので一応ネットでレシピを探ってみた。
で、ちぃーとばかし驚いた。ただの冷やした味噌汁的なものを上からブッかけただけの食いもんだとばかり思っていたが、どうやら違うようなのである。しかも浅からぬ歴史があって、何だか奥深い世界みたいなのだ。
以下、ウィキペディアの記事を参考に、冷や汁について解説しておく。

【冷や汁(ひやしる、ひやじる、冷汁とも書く)】
出汁と味噌で味を整えた冷たい汁物料理の1種で、主に夏の暑い時期に食される。
歴史は古く、鎌倉時代の『鎌倉管領家記録』に早くもその名称が見受けられる(「鎌倉管領家記録』については「国書総目録」に記載がないため実在に疑問があり、その信憑性については注意が必要らしい)。
その後、このような料理が僧侶等によって全国に伝播されてゆく。しかし、気候風土が適した地域のみに残ったとされる。

宮崎県、埼玉県、山形県など日本各所にある郷土料理であるが、各地方それぞれに別内容の料理なので混同されやすい。また別名で、中身は同様な料理も存在する。

そもそも冷や汁は大分県の郷土料理だとばかり思い込んでいたが、本場は宮崎なのね。それさえ知らんかった。

(宮崎県の冷や汁)
現在「冷や汁」と称される料理の中では、宮崎県のものが『鎌倉管領家記録』の冷や汁に最も近いとされる。おそらく知名度も一番高いと思われる。
元々は忙しい農家の食事や戦(いくさ)の陣中食で、簡単に調理でき、且つ手早く食べられる料理として重宝された。しかし第二次世界大戦以降には各家庭で工夫され、手間のかかる料理へと変遷していった。

 

(出展『せたがや日和』)

 
ー作り方ー
元来が家庭料理であるので、宮崎県内でも地域により作り方が異なるらしいが、代表的な調理法は以下の通り。

すり鉢に、いりこ、もしくは焼きほぐした鯵などの魚を入れてスリコギで擦る。このように魚を使うのが宮崎の冷や汁の最大の特徴である。そこに更に炒った胡麻と麦味噌を入れて擦る。
よく混ざったらスリ鉢の内側に薄く伸ばし、直火で軽く焦げ目が付くまで香ばしく焼く(上品さや高級感を重視する料理店では焦げを避けることも多い)。
すり混ぜながら、冷まし湯を注ぎ入れてのばす。仕上げに手でほぐした豆腐、輪切り胡瓜、千切り青紫蘇、茗荷などを混ぜて良く冷やす。冷えたら、汁を米飯や麦飯にかけて食べる。

魚は、いりこや鯵を使うのが一般的だが、淡白で癖の無い魚ならばどんなものでも可。いりこは頭と腹わたを除いたものを煎って用いる場合もある。
日向市の細島地域には、甘鯛を利用した冷や汁(別名ミソナマス)があり、より上品な味とされる。他に大分県津久見市近辺でも焼魚のほぐし身を使った「冷汁」が古くから食べられている。このように九州の各県にも同様の冷や汁料理があり、熊本県の阿蘇周辺や鹿児島県などでも家庭料理として食べられている。
又「さつま」と称される類似の料理が大分県、岡山県、広島県、愛媛県、香川県などにも存在する。これは薩摩地域の「冷や汁」が伝わっていった際、その名を取ってこう呼ばれるようになったとされる。
他に愛知県篠島で作られるニシ汁は、主要な材料がイボニシ(巻貝の1種)に限定されるものの、焼いた小魚をダシとして、イボニシと共にすり潰して湯水を加えるなど、作り方は宮崎県の冷や汁に類似している。
また静岡県御前崎市を中心とした中部地区では「ガワ」という漁師料理が存在する。元は操業中の漁船上で作られていた料理で、鍋に味噌、氷、玉ねぎ、胡瓜、カツオやアジなどをたたいた身、薬味として茗荷、ねぎ、大葉などを入れて豪快に混ぜたものである。魚の臭み消しとして梅干しを入れることもある。そのまま冷たい味噌汁として、またご飯やそうめんにかけて食べる。氷が鍋に当たる音が料理名の由来とされている。

お次は埼玉の冷や汁である。
コレには驚いた。従来持っていた冷や汁の概念が吹き飛ばされた。

(埼玉県の冷や汁)
県西、県北、県央部、さいたま市大宮地区など県内の各所で夏の家庭料理として作られる。表記は「冷汁」で、呼び名は「ひやしる」。
最大の特徴は御飯ものではなく、元々はざるうどんのつけ汁で、それが『冷汁うどん』として広まり、定着していった。
上記の地方では、昔から胡瓜の輪切りを砂糖・塩・胡麻で和えた料理が惣菜としてよく食べられており、その残り物にうどんをつけて食べたのが始まりとされる。うどん以外に素麺を用いることもある。
群馬、栃木などの北関東でも埼玉の冷や汁と同様の「冷や汁」料理がある。

 

(出展『Wikipedia』)

 
ー作り方ー
先ずは煎り胡麻をスリ鉢でする。地域や家庭により摺り方は多様で、軽く摺る程度の所もあれば、胡麻の粒を完全にスリ潰して、しっとりと仕上げる所もある。
すり鉢に、味噌を入れて更にすり混ぜる。この時、好みで砂糖を少量入れてもよい。この味噌は群馬など北関東産のものが推奨される。
胡瓜の輪切り、大葉とネギのみじん切り、お好みで紫蘇の実(穂じそ)や茗荷のみじん切りを追加してもよい。
味噌が入っているスリ鉢に上の野菜類を入れ、スリコギで突くように混ぜ込む。味噌と野菜類がなじみ、胡瓜から少し水分が出てしんなりするくらいまで混ぜる。
うどんを茹でる。手打ちが理想だが、コシがありやや太めのうどんなら特に産地は問わない。ゆで上がったら冷水で締め、ざるに上げる。
すり鉢に作った味噌だれを冷水で少しのばす。気温が高ければ、氷を加えて浮かす(その場合は氷が溶けるのを見越して濃いめの味噌だれに調整する)。
味噌だれを小鉢に取り分け、ざるに上げたうどんのつけ汁として食べる。
地域により、つけ汁は胡麻と味噌だけで、野菜類は薬味として食べる直前に加える形の場合もある。

最後は山形の冷や汁だが、これにも驚いた。これまた全然別物なのである。
 
(山形県の冷や汁)
雪菜やキャベツ、ほうれん草などの季節の野菜を、干し貝柱や干し椎茸などの乾物を戻した出汁で和えたもの。汁物料理と思われがちだが、実際は具だくさんのお浸しである。
米沢藩に古くから伝わる料理で、合戦の出陣式には配下の武将に冷や汁が振舞われたといわれている。正月料理としても知られており、その際に用いられる野菜は雪菜であることが多い。
また、新潟県長岡市栃尾地域・中越地方・十日町市・三条市・見附市などでも類似する「冷やし汁(冷し汁)」が存在する。

 

(出展『オールアバウト』)

 
ー作り方ー
凍み豆腐、凍み蒟蒻、干し椎茸、干し貝柱を水でもどす。
干し椎茸と干し貝柱の戻し汁を醤油などで味付けした出汁で乾物類を煮る。よく冷めてから、法蓮草、雪菜、小松菜などの茹で野菜の上に汁ごとかけて食べる。
乾物を煮る際に油揚げ、打ち豆、人参などの具材を入れることも多い。茹で野菜の上にかけるのではなく、全体を和えて味がしみこむようにする場合もある。

当然ながら、埼玉の冷や汁も山形の冷や汁も作る気はない。
埼玉のうどん仕様には少しソソられたが、初めて作るのに最初っから邪道に走ってどうするのだと思った。邪道なんて言ったら埼玉の人に失礼だけど、全国的に知名度があるのは九州地方の冷や汁だからね。つまり九州の冷や汁が王道なのだ。

それでは作ってみよう。
材料はいりこor焼魚以外は揃っている。問題は、いりこにするか焼魚にするかだが、いりこは何か野暮ったいのでパス。となれば、魚を何にするかだ。定番は鯵の干物だから、先ずはそれを第1候補としよう。あとはスーパーに行ってから臨機応変に考えよう。

けど、気に入るような鯵の干物がない。生の鯵も今イチ。方針転換を余儀なくされる。
サバは脂が乗りすぎてるので除外。ブリも同じ理由で除外。タラは何となく合わなさそうなのでパス。次にカマスを探すが見当たらない。シャケは邪道な気がするので、コレもパス。
そんな折、一匹丸々の小振りのタイが目に入った。鯛なら魚の王様だ。焼いて良し、煮て良し、蒸して良し、もちろん刺身でも旨いから、何らマイナスポイントはない。しかも値段は激安の298円だ。決まりである。

取り敢えず3枚におろす。したら、皮目に熱湯をかけて霜降りにする。冷や汁にはアラだけでも量は充分そうなので、半身をカルパッチョにする事にした。

 

 
削ぎ切りにして塩を振り、茗荷と大葉を散らして上からエキストラバージンオイルをかけた。
✌やっぱ、鯛は美味いね。けど途中で飽きてきたので、少量の醤油を垂らす。うん、こっちも美味い。

残りの半身は塩を振り、15分程たってから酢で洗って昆布で包んだ。で、一晩おいた。

 

 
コチラも削ぎ切りにして茗荷を散らした。
そのまま食うが、メチャンコ美味い。冷酒に抜群に合う。

さてさて冷や汁だが、先ずはアラをシッカリ焼く。
してからに身をほぐす。鯛の骨は硬いので慎重に取り除く事が肝要っす。
これで準備万端である。

①味噌は焼いて焦げ目を入れた方が香ばしくて旨いらしい。
いりこ・煎り胡麻・味噌をすり鉢でよくすり、すり鉢を逆さにして火にかざして焼くという。でもそんなの危なくて素人には無理だ。それにすり鉢で擦るのも面倒くさい。なので味噌に顆粒のイリコ出汁の素、すりゴマを混ぜる。それをアルミホイルで長方形の器を作り、そこに味噌ダネを平らに入れてトースターで焼いた。

②冷めたら取り出して昆布出汁で伸ばし、味噌汁くらいの液状にする。

③胡瓜は輪切り、茗荷と大葉は縦に千切りする。木綿豆腐は手で適当にちぎる。ナメコと霜降り平茸を酒で茹でて粗熱をとる。それらを②と合わせて冷蔵庫で冷やす。

④冷や御飯に③をかけ、鯛のほぐし身を盛り、煎り胡麻を振って完成。

 

 
ゲッΣ( ̄ロ ̄lll)❗、汁が足らん❗ 冷や汁に😓💧冷や汁やんけー。クソ駄洒落を言っとる場合ではない。

 

 
混ぜたら、(´ε` )アチャー、冷やし雑炊みたいになっとるやないけー。
食ってみると、味は悪くはないものの、まさしく味噌冷やし雑炊じゃないか。

仕切り直しだ。改めて汁をマッハで作る。しかも判断よろしく濃いめに作って氷を入れて冷やしてやった。ワシってカシコー。
で、再びかける。

 

 
それでも汁がやや足りないが、混ぜればOKじゃろう。
美味いが、所詮は(ΦωΦ)猫飯だよな(笑)。
でも、このクソ暑い中だと全然有りだね。

                   おしまい

 
追伸
タイトル『冷や汁に冷や汗』は最低レベルの駄洒落だし、陳腐過ぎてボロカス言われそうだと思ったけど、そのままにしておいた。オジサンになると、笑われたいとか恥を晒したいという自虐モードになりがちなのだ。特に若い娘の前では症状が顕現化しやすい。何ゆえ世のオジサンたちに、周りが引いてのるのを見て喜ぶという変態的精神構造が生まれるのであろうか❓
考えてみたが、よーワカラン。意味不明だ。生殖的自信の喪失が、捻れてそのような行動となって表面化するのかもしれん。

因みに残ったのを翌日に食った。

 

 
結局、最後の最後に冷や汁らしいヴィジュアルになったな(笑)