奄美迷走物語 其の11

 
 第11話『ラーメンとゴア様』

 
2021年 3月28日

この日は朝から完全に雨模様だった。
当然ながら採集には出れないのだが、心の底では少しホッとしていたりもする。目的の蝶が採れない日々が続いているので心が疲れきっているのだ。むしろブレイクが入ることで、かえって気持ちがリセットされるかもしれない。心がリセットされれば、この悪い流れも良い方向へと変わるかもしれない。

午前11時前にリビングに降りる。
昨日、若者二人とラーメンを食いに行く約束をしたのだ。
そのラーメン屋というのは、第3話の『ラーメン大好き小池くん』の回でも書いたが、ゲストハウスのオジー曰く、最近できた店で行列が絶えないんだそうだ。しかし一週間ほど前の月曜にラーメン大好き小池くんと来た時は定休日で食べられなかった。今日はそのリベンジというワケである。店頭に貼ってある写真を見た限りでは二郎系の店っぽかった。
ちなみにニ郎系ラーメンとはラーメンニ郎の系列店、及びそのリスペクト店の事を指し、平打ち太麺で、野菜てんこ盛りのガッツリ豚骨醤油ラーメンの系統の事をいう。

だが、リビングの直ぐ横の若者の泊まっているドミトリー部屋からは何の物音もしない。明らかに起きている気配がない。たぶん💤絶賛爆睡中なのだろう。
外で煙草を1本吸って戻ってきたが、相変わらず中はシーンとしているのでドアを叩いて起こした。
待たされるのは死ぬほど嫌いな性格だから💢イラッときた。けれどメシは一人で食うよりも誰かと食う方が旨い。それに、よくそんだけ爆睡できるなあと思うと何だか怒るのがアホらしくなってきた。
爆睡できるのは若者の特権である。オジさんなんて直ぐに目が醒めてしまう。5時間以上は眠りたくとも眠れないのだ。きっと眠るのも体力がいるのだ。羨ましいかぎりだ。

 

 
『自家製麺 きんぐす豚』。
名前はキングストンに掛けているのだろう。キングストンとは「王の町」という意味で、アメリカをはじめ世界各地に同様な名称の土地がある。また人名にも付けられる事があるから、店主はそのどちらかに強い思い入れがあるのだろう。

 

 
午前11:15くらいに着いたが、我々が一番乗りだった。
ちなみに右が若者Aのドロムシ屋の子(東京在住)で、左の若者Bがカブクワ屋の大阪の子だ(註1)。

改めて店先に貼ってあるラーメンの写真を見ると、やはりビジュアルは二郎系に見える。3月3日にオープンしたらしいが、まさか奄美大島に二郎系のラーメン屋ができるとはね。全く頭になかったから、ちょっとした驚きだよ。きっと島民にとってはもっと衝撃的だったろうから、行列になるのも頷ける。
とはいうものの、開店15分前で一番乗りってどうよ❓通常は行列のできるラーメン屋だったら、15分前には長蛇の列になってて然りだろう。もしや早くも島民に飽きられたのか❓となると、一回食えばいい程度のクオリティーのラーメン❓
しかし10分前になると続々と客がやって来て、開店前には20人くらいの行列になった。なるほど島人のおおらかな性格が表れてるんだね。そうゆう「てーげー(テキトー)」な土地の方が好きだなあ。自分は時間にルーズではないけれど、それはあくまでも表向きであって、根はルーズだ。ゆるい方が心地よいのだ。だから南の島が好きだ。沖縄とかサイパンの時間の流れの方が自分には合ってる。

 

 
Iターンで開業した店だけあって時間通りに開店。一番に店内に入る。もしかしたら行列の先頭で店内に入るだなんて、人生初なんじゃないか❓なんだかプチ嬉しいぞ。一番を目指して前日の夜から並ぶ人の気持ちがチ○チンの先っちょ5ミリ分だけ解ったよ。そこには、確かにカタルシスとかエクスタシーがあるのだ。

店内は最近のラーメン屋らしく、そこそこにお洒落だ。今や女性が入りやすい店作りは当たり前の時代なのだ。それを否定するつもりはないが、昔ながらのラーメン屋の方が断然落ち着くんだよなあ。

席に座ると、先にこのラーメン屋に行った小池くんの感想が思い返された。
『やはり二郎系でしたね。けど二郎系にしては少し味が薄めでしたね。俺、二郎系についてはウルサイんすよー。テーブルに醤油ダレみたいなのがあるので、それ入れたら丁度良くなりました。』
流石、ラーメン大好き小池くんである。コメントからラーメン偏差値の高さが伺える。バカにしていたが、小池くんは本当にラーメン大好き小池さんだったのだ。

メニューは『豚そば』と『まぜそば』の2種類のみ。
値段はどちらも¥850。小盛は50円引きで大盛は100円増し。肉増しは+200円とある。
ここはポピュラーに定番の『豚そば』だろう。若者Bくんも同じく豚そばを選択。若者Aくんは『まぜそば』をオーダーした。えっ❓、この期に及んで❓と思ったが、さすがマイナーなドロムシなんかに興味を持つ男だ。凡人のワシとは脳ミソの構造が違うのである。ちなみにAくん曰く、まぜそばはかなり旨かったらしい。そういえば、まぜそばナゼか大盛りができなかったんだよね。彼がそれを嘆いてから憶えているのだ。

店員に背脂と野菜を増し増し(無料)にするかと尋ねられる。
ここはノーマルかなと思った。モヤシが塔のようにそそり立ってたら食えるかどうか自信かないし、背脂ギトギトだとコッテリすぎてオジサンにはキツイかもと思ったのだ。だが、若者Bの大阪の子が即座にキッパリと「お願いします❗」と言ったので、つられて「ワシもお願いします。」と言ってしまった。

 

 
想定内ではあるが、\(◎o◎)/けっこうガッツリだ。普通の店なら間違いなく大盛り仕様だ。
言っとくと、味玉はオープン記念ということで無料でした。

先ずはスープを飲む。
小池くんは薄いと言っていたが、自分にとっては濃いめかな。でも丁度良い濃さの範疇内で、期待に違わぬ味だ。旨いわ。
自家製の麺は太くて食べ応えがある。歯を押し返す弾力が心地よい。自分好みの麺で、これまた旨いと思う。
チャーシューは薄くもなく、分厚くもない。旨いが、特筆する程のものではない。味玉は、中の黄身がドロッで(≧▽≦)うみゃーい。

全体的にバランスが良くて、量に苦しむことなくワッシワッシと食べ進むことができて苦労せずに完食。スープまで飲み干してやったわい。これで¥850は安い❗ 腹パンパン、満足至極だ。
でも今後、味玉がトッピングになって+150円とかだったら安くないよなあ…。ラーメンで千円以上したら、心情的に許せないのだ。そんなの、もはや庶民の食いもんではない。だから納得できない。ラーメンが高級化していってる昨今の風潮には疑問を持たざるおえない。

店を出て歩き始めたら、すぐ目の前をキオビエダシャク(註1)が飛んでいった。
一瞬、心が曇る。そういやフタオチョウ、アカボシゴマダラ、イワカワシジミだけでなく、楽勝だろうと思っていたコヤツでさえも採れていないのだ。あかざき公園や根瀬部で、それなりの数を見ているのだが、1頭も採れていないのである。他の蝶待ちだったし、飛ぶ位置が高くて結構スピードも速いから気づいた時には射程外で見送る機会が多かったのだ。ターゲットとしては六の次くらいで、真剣には狙っていなかったとはいえ、我ながら情けない。
だが、さして悔しくはない。殴られっぱなしのような結果が続いているから心が鈍感になっているのだ。パンチドランカーは、どうせ曇ってるから活発に飛んでるんだろう程度にしか思わなかった。台湾では今日みたいな雨上がりの日に沢山飛んでいたのだ。当時は大の蛾嫌いだったから、けっこう怖気(おぞけ)る記憶だった。

宿に帰ったら、再び雨が降り出した。
今日は完全休業日だね。体も心も休めてリフレッシュしよう。

夕方に雨が上がった。
そこで、ハタと思った。もしかしたら、キオビエダシャクは住宅街の方が簡単に採れるんじゃないか❓考えてみれば、台湾でも住宅街にいたのだ。今頃気づくとは、やっぱりヤキが回ってる。

午後5時。
住宅街に入って、すぐに飛んでいる個体を発見。あとをついてゆくと複数が飛んでいる場所に出た。
そして、食樹のイヌマキもあった。家々の、そこかしこに植えられている。

 

 
九州や奄美では、イヌマキが庭木や生け垣として植栽されているようだ。ようは住宅街が発生地だったというワケだね。
で、一部の個体が山を昇ってあかざき公園にまで飛んで来るんだろうね。٩(๑`^´๑)۶よっしゃ、害虫駆除じゃ❗

あかざき公園よりもかなり低い位置を飛ぶが、それでも基本的な高さは3〜4Mくらいだ。飛ぶ速度も、そこそこ速い。おまけに蛾道みたいものはあるのだが、蝶道ほどにはコースが明確でなく、待つ立ち位置を絞り込むのに苦労する。
あとは心理的な障壁も邪魔した。大の大人が住宅街で大きな網を振り回していたら、誰しもが奇異な目で見るだろう。完全にアタマがイカれた変人のオジサンだ。恥ずかしさも相俟って集中できない。人に会えば、勿論のこと挨拶はしていたが、遠目に人の姿が見えたら、物陰にコソコソ隠れたりしていたのだ。
しかし、そんなんでは採れない。それに時刻が進めば、基本的には昼行性の蛾だから、そのうち居なくなりかねない。
恥も外聞もかなぐり捨てる。こんなもんも採れないようなら、フタオチョウもアカボシゴマダラも採れるワケがない。そんな奴は馬に蹴られて、とっとと引退した方がよかろう。

気合い一発、💥空中でシバく。

 

 
美しいとは思うが、ちょっとキショイ。どこか毒々しいのだ。おそらく体内に毒を有しているのだろう。派手な出で立ちをする事によって鳥の捕食を免れようとする生き残り戦略だ。つまり毒有りならば、当然ながら食べても不味い。知らずに食べた鳥は、その見た目と共に強烈に学習する。よって以降は見向きもしないという事だ。最初の1頭は犠牲になるものの、他は襲われにくくなるってワケだ。

この蛾を見ると、なぜかゴア様(註2)を思い出す。幼少の頃、最も怖かった存在だ。
オカンに『アンタ、そんな悪さばっかりしてたらゴア様が来るでぇー。』と言われたら、即座にいうことを聞いたらしい。ワシにとっては、それくらい恐ろしかったのだろう。

 
【ゴア】

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

 
この顔面のラメラメの感じとオバハンパーマに瞬きしないギョロ目、そして迫力あるガタイに超ビビッてた記憶がある。

 

 
♀かなあ❓

次第に慣れてきて、恥ずかしさも薄れてきた。
挙げ句には、住民に会っても、
(`・ω・´)ゞ、イヌマキの害虫のクソ蛾を採っとりまんねん。
とか言って、イヌマキがどれかを説明してたりしてた。
えー、皆さん、もしも住宅街で網を振る場合は、ちゃんと挨拶だけはしましょう。あとは住民の迷惑となる行為は慎みましょうね。それが出来ない人が多いから、虫屋は敵視されるのだ。ただでさえ虫採りなんて一般ピーポーのあいだでは市民権ゼロなんだから、これ以上嫌われるような行為はよしましょう。
それが出来ない人は、クズです。

                         つづく

 
追伸
この日は灯火採集にも行ったが、次回に回すことにしました。
思ってた以上に長くなったからです。まあ、想定以上に長くなるのは、いつもの事だけどね。

 
(註1)ドロムシ屋とカブクワ屋
水性甲虫のドロムシの愛好家とカブトムシ&クワガタ類の愛好家の呼称。

(註2)キオビエダシャク

 
シャクガ科の昼行性の蛾で、イヌマキの害虫として知られる。
成虫は濃い紺色に黄色の帯があり、それが和名の由来だろう。日本では南西諸島に多い蛾で、近年になって生息域を拡大させており、九州では定着しているようだ。おそらく地球温暖化の影響だろう。あとは南九州地方では、旧武家屋敷などで生垣としてイヌマキが植えられていることが多く、それも関係しているのかもしれない。


(2017.6.台湾 南投県埔里)
 
台湾で採ったものだ。町なかの花が咲いてる木に沢山集まってた。台湾2度目の来訪の採集初日だったんだけど天気が悪くて、つい採ってしまったのだ。メタリックで美しいとは思いつつも、当時は精神的な蛾アレルギーだったので、背中がゾワゾワで採ってたっけ…。

あれ❓、そういや展翅した覚えがないなあ…。
(;・∀・)あっ、展翅してないわ。たぶん冷凍庫で眠っておられるな。
それはさておき、奄美のものとは下翅の帯部分の感じが違うんじゃね❓黄帯が細くて、外縁にまで達していない。或いは黒斑が連なって帯状になっている。コレって亜種区分とかされてるのかな❓…。
この程度で解説を終えようと思っていたが、気になるから調べておくか…。でもメンドクセーからウィキペディアから引用&編集しよう。

【分類】
シャクガ科(Geometridae)
エダシャク亜科(Ennominae)
Milionia属

【学名】Milionia basalis Walker, 1854
成虫の開帳は50~56mm。光沢を帯びた濃紺の地色に鮮やかな黄色の帯状斑紋のある翅を有する。
幼虫はシャクトリムシ型で、終齢時の体長は45~55mm。頭部、前胸、脚および腹脚、腹部側面、尾端の橙色が目立つ。

【分布】インド、マレー半島、台湾、日本
日本には亜種”ssp. pryeri”が分布する。南西諸島および九州で発生が認められるほか、四国でも成虫が確認されたことがある。

Wikipediaの英語版には、以下のものが亜種として列記されていた。

■Milionia basalis basalis
■Milionia basalis sharpei (Borneo)
■Milionia basalis guentheri (Sumatra)
■Milionia basalis pyrozona (Peninsular,Malaysia, Burma)
■Milionia basalis pryeri (Japan)

台湾のは亜種じゃないのかな❓ Wikipediaの情報って結構間違い多いんだよなあ。だから鵜呑みにするとロクな事はないから、怪しいと思えば調べ直した方がいい。もー、メンドクセーなあ。

調べてみると、変なのが出てきたよ。

「橙帶枝尺蛾 Milionia zonea pryeri Druce, 1888」

台湾の蝶と蛾を調べる時に最も利用する「DearLep圖錄檢索」というサイトに書いてあったのだが、小種名が違うから一瞬別種かと思ったよ。だが亜種名は日本のものと全く同じだ。つまりはコレはシノニム(同物異名)って事なのか❓ クソー、又しても迷宮に足を突っ込んだみたいだ。毎度の事だが、藪ヘビ🐍だよなあ。

英語版のWikipediaにシノニムがズラリと並んでおり、そのものではないが、らしきものがあった。

Milionia zonea Moore, 1872
Milionia guentheri Butler, 1881
Milionia latifasciata Butler, 1881
Milionia pyrozonis Butler, 1882
Milionia butleri Druce, 1882
Milionia sharpei Butler, 1886
Milionia pryeri Druce, 1888
Milionia ochracea Thierry-Mieg, 1907

一番目と下から二番目が、それにあたる。
にしても、そうなるとだな、台湾のものと日本のものは同じ亜種となる。ならば、帯の相違はどう解釈すればいいのだ❓また新たなる藪ヘビ迷宮地獄じゃよ。

しかし、もしやと思い再度「DearLep圖錄檢索」にアクセス。画像を見てみると、簡単に問題解決した。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

なんの事はない。日本のモノと同じだ。つまりは自分が台湾で採って撮影したものが、たまたま変異個体だったという可能性大だ。そうゆう事にしておこう。行方不明の台湾のキオビエダシャクを冷凍庫から探し出してきて確認なんざあ、絶対やめておこう。探すこと自体がかなりの労苦だし、それをまた軟化して展翅するのが面倒だというのもある。だが何よりも恐れているのは、複数ある個体の全部が同じような特徴を有しているケースだ。もしもそうなら、亜種群の可能性が出てきて、新たな迷宮に突っ込んでゆく事になる。スマンがキオビエダシャクのために、そこまでの労苦を負いたくはないのだ。

【生態】
成虫は昼行性。花蜜を摂取するため、さまざまな植物に訪花する。夜間、人工の灯りにも飛来する。産卵は主に食樹の樹皮の裂け目や枝の付け根に行われる。
幼虫はナギ、イヌマキ、ラカンマキの葉を摂食するほか、マレーシアでは Dacridium属(マキ科)の摂食が確認されている。幼虫は振動に敏感で、振動を感知すると吐いた糸にぶら下がって植物上から離れる。また、食草から二次代謝産物のイヌマキラクトンおよびナギラクトンを取り込み、外敵に対する防御に役立てている可能性が示されている。成熟した幼虫は土中で蛹化する。
思った通り、やっば毒持ち風情なんだね。

【人との関係】
突発的に大発生し、食草を大規模に食害する傾向があり、特に生垣や防風林などに用いられるイヌマキの害虫として重要視されている。大発生時は樹皮にまで食害が及び、被害を受けた木は枯死する。南西諸島では古くから大発生が起きていたと考えられ、1910年代から断続的な大発生の記録が残されている。九州南部では1950年代ごろに初めて侵入・発生が確認されたが、当時の侵入個体群は数年で絶滅したとされる。その後、再度侵入した個体群は近年、不安定ながら継続した発生が認められている。沖縄および九州南部では最大で年4回の発生が可能であることが明らかになっているが、九州南部では、本来南方系である本種の発育調整メカニズムが気候に適応できておらず、成虫越冬ができない。にも拘らず、冬に羽化する個体が出るなどの不安定な季節消長が見られる。

 
(註3)ゴア様

(出展『特撮アラフィー!!〜50オヤジのコレがたまらん!』)

このラメラメ顔が超絶怖かったのだ。

ゴアとは、手塚治虫の漫画『マグマ大使』を原作としたテレビ特撮番組に登場する悪役のこと。
2〜3億個の星を乗っ取り、悪事を尽くしてきた征服者。アース(30億年前に地球を作った創造者で、マグマ大使も作った)と同じくらい長く生きている。人間体はあくまで仮の姿で、本体は肉食恐竜型とクモ&ムカデ合体型の2パターンを持つ。宇宙の悪魔と言われる反面、子供には甘いという一面がある。

 

奄美迷走物語 其の2

 
 第2話『沈鬱の名瀬』 後編

 
何となく物事が上手く流れてないなと感じながら店の外に出た。明日は朝仁に移動しなければならないので、取り敢えずはバスの停留所を探しに行く。
けれども郵便局前のバス停が見つからない。地元の人に声をかけて教えてもらったところは確かにバス停ではあったが、朝仁方面ゆきのバスが無いのだ。ワケわかんねー(´-﹏-`;)
なので明日泊まる宿にLINEで訊いてみた。けれど直ぐには返答がない。仕方なく今日の宿に向かって歩く。途中の入舟町が次のバス停であろうから、道すがら探せばいいだろう。

バス停を何とか見つけたところでLINEが入った。近いから明日は名瀬まで迎えに来てくれるという。✌️(•‿•)ラッキー。流れがよくなってきたんじゃないのー。

 

 
「グリーンストア」の前まで来た。
ここは24時間スーパーで、宿からも近いから随分と世話になった。よく酔っ払った帰りに寄って無駄に惣菜とか買って帰ってたよなあ…。

 

 
「旅館 あづま家」。
より色褪せたような気がするが、見覚えのある景観だ。そうそう、周囲の民家と同化してるから見落としそうになるんだったわさ。横の釣具屋の方に、つい目がいっちゃうんだよね。2011年は奄美に船で着いてからの宿探しだったから、ネットで探して電話で場所を聞いたんだけど、もしも釣具屋が目印だと聞かされていなかったら絶対見落としてたと思う。

 

この入口も懐かしい。完全に普通の民家なのだ。

中で宿の婆さんと話す。
今日の客はオラだけみたい。コロナの影響で客は激減したという。宿代は素泊まり2500円の激安だから、前は長期滞在の工事関係の人なんかも結構泊まってた。けれど公共事業も激減しているらしく、コロナとのダブルパンチで客足はサッパリだという。そんなワケだから、息子には早く宿を畳めと言われているとオバアはとつとつ喋る。
何だか悲しくなってくる。次に奄美に来た時には、きっと廃業しちゃってるんだろなあ…。こんなところにまでコロナの影響が及んでるんだね。ホント、コロナ憎しである。
 
渡された鍵は209号室だった。鍵に何となく見覚えがある。
ここは2階が客室になっており、共用の冷蔵庫なんかもあって何かと便利なんだよね。

 

 
部屋には完全に見覚えがあった。
たぶん一番最初の採集行の時には、この部屋に長期間泊まっていたのだ。

 

 
この押し入れもハッキリと記憶がある。
持ち帰ったクチナシの実をタッパーに入れて此処に置いといたら、翌日には美しいイワカワシジミ(註1)が羽化していたのだ。

 
【イワカワシジミ Artipe eryx ♂】

(2011.9.19 奄美大島)

 

(左下の個体はインドシナ半島のもので、他はたぶん日本産)

 
取り敢えず、そのイワカワシジミを探しに行くことにする。
天気は悪くともイワカワだったら採れる可能性がある。食樹であるクチナシの木に止まっていることが多いからね。それにクチナシの実があれば、蛹や幼虫が入っているものがあるかもしれないし、卵が産んであるものだって見つかるかもしれない。

 
【クチナシの実と卵】

 
【幼虫の開けた穿孔跡のある実】

 
だが、丹念に見るも姿無し。
実もどれも黄色く変色してしまっていて、どうみても既に成虫が羽化した後のものだ。しかも時間がだいぶ経っている古いモノのように見える。
最後に民家のクチナシの大木を見に行く。2011年、そこでイワカワの蛹が入っている実を沢山採ったんだよね。そういや家のオジーとオバーがとても親切で、有難いことにわざわざ高枝切り鋏を持ってきて、指定した枝をジャンジャン切り落としてくれたんだよね。

だが、此処も全く姿なし。蛹や幼虫が入っていそうな実は1つも無く、卵が付いてそうな実も全く無かった。そして、家には人の気配がなく、ひっそりとしている。おそらく廃屋になっているのだろう。オジーとオバーは高齢だったので亡くなられたのかもしれない…。
寂寥感に満たされ、佇んで悄然と空を仰ぐ。胸が痛む。
それに此処にイワカワが居なければ、厳しい状況下にあることを受け止めざるおえない。此処が一番有望なイワカワのポイントなのだ。何だかなあ…。

一応、夜に灯火採集する場所の下見にも行く。
あわよくばアカボシゴマダラ(註2)が飛んで来ないかという淡い期待を持ちつつ登山口に取り付く。

 
【アカボシゴマダラ Hestina assimlis ♂】

(2011.9月 奄美大島)

 
懐かしい急坂を登り、山へ上がる。2011年は何度もこの坂を上がったっけ…。宿から近いから、帰りがけによく寄った。
しかし海から近いゆえ尾根にはモロに風が当たっており、平地と比べてかなり強い風が吹いている。勿論、アカボシの姿はない。これだけ風が強いと蝶が飛ぶことなど望むべくもない。
何だかなあ…。

部屋に帰り、ぼんやりとTVを眺める。
いっそライトトラップなんてやめてやろうかと思う。
日が暮れたら、とっと居酒屋「脇田丸」に行って、酒かっくらって板前のタケさんとバカ話でもしたいというのが正直な気持ちだ。そもそも、わざわざ名瀬に一泊したのはその為でもある。脇田丸に行き、タケさんに会い、アバスの唐揚げを食わねば奄美に来たことにはならない。

だが、グッとその誘惑を抑え込み、日暮れ前に灯火採集の仕度をして出る。
こうゆうツマラン場所でトットとアマミキシタバ(註3)を採って、蝶採りに専念したいところだ。ただでさえ夜の山は怖いのに、ここ奄美には本ハブ殿がいらっしゃるのだ。しかも奄美大島の本ハブ(註4)は最強だと言われており、沖縄本島の本ハブよりも巨大で、性格も凶暴。オマケに毒性も強いとされておるのだ。本ハブは夜行性だかんね。オジサン、涙チョチョ切れ(T_T)で、チビりそうじゃよ。

車に轢かれた直後のものだが、コレ見てよ。

 

(2011.9月 奄美大島)

 
蒲生崎だったけど、優に2mはあったんじゃないかな。
太さは軽くワテの手首以上くらいはあったから、もう大蛇と言っても差し支えないようなものだったっすよ。マジでぇー。

あのねー、あまりにも怖いから、今回は流石にワークマンで折りたたみの長靴を買って履いてきたもんねー。

 

 
風が強いので、当初予定していた場所を諦めて、鞍部にライトを設置する。

 

 
フラッシュを焚かないで撮ると下の写真みたいな感じになる。
周りが如何に暗いか御理解戴けるかと思う。街から近くとも、山へ入るとこれだけ暗いのだ。原始林なんかだと、きっともっと真っ暗けなんだろなあ…。ヤだなあ。

 

 
正直、光量がメチャンコしょぼい何ちゃってライトトラップである。でも、コレしか持ってないんじゃもーん。

点灯後に周りの木に糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
いつもは普通の酢を使っているが、今回は奮発して効果が高いとされる黒酢をふんだんにブチ込んでやったスペシャルレシピだっぺよ。アマミキシタバは糖蜜トラップやフルーツトラップにも来るということだから、ライトトラップがダメでもコレで何とかなるっしょ。

しかし、何ちゃってライトには笑けるくらい蛾が寄って来んぞなもし。
やっと大きな蛾が来たと思ったら、オオトモエだった。しかも折からの強風に煽られ、(^。^;)あらら…、飛ばされていってもうた。

 
【オオトモエ Erebus ephesperis】

 
別にオオトモエなんぞどうでもいいけど、何か小さかったから亜種かもしんないと考えたのよ。なんで一応採っておこうかなと思ったのさ。

そして糖蜜トラップに至っては全く何も来ん。
何だかなあ…。

午後9時前には一旦諦めて、ライトをそのままにして脇田丸へと向かう。タケさんと話して楽しく過ごせたら、流れも少しは良くなるかもしれない。もしかしたら11時くらいに様子を見に戻ってみたら、死ぬほどアマミキシタバが集まって来ているやもしれぬ。で、とっと撤収。タケさんと飲みに行くのだ。そうだ、吉田拓郎大好きのダメ男フクちゃんも呼ぼう。でもって朝まで痛飲じゃい❗何事も前向きでいこうじゃないか。

 

 
店構えは概ね同じだが、雰囲気が前と少し違う。たぶん暖簾が新しくなっているからだろう。

再会を期待して店内へ入る。
けど、厨房にタケさんの姿が見えない。休みかなあ…。
確認のために店員を呼び止め、訊いてみる。

(ノ゚0゚)ノえーっ❗、タケさんやめたってかあー❗

腱鞘炎になって1年半ほど前にやめて、今は土方をやっているらしい。
呆然としたままヨロヨロとカウンターに座り、オーダーを取りにやって来た店員に力なく生ビールと答える。

 

 
ヤケクソ気味で一気にゴクゴク飲む。
悲しいかなビールだけは何があっても旨い。裏を返せば有難いことだ。まあビール飲んでりゃ、そのうち御機嫌になるだろう。そう思わなきゃ、やってらんない。
でも追い打ちをかけるように、出されたお通しの大根が信じられないくらいにスジだらけだった。史上サイテーにクソ不味くって半泣きになる。

 

 
キレそうになるが、気持ちを切り替えてメニューを見る。

 

 
幸い「アバスの唐揚げ」は、まだメニューにあった。
けれど値段が690円と高なっとるやないけ。前は490円だった筈だよな。
(-_-メ)ったくよー。どこまでも逆風アゲインストじゃないか。
まあいい。アバスさえ食えれば、そんな瑣末事なんぞ簡単に許せる。アバス様はブリブリの歯応えで、味はとっても上品なんだけど旨味があり、下手なフグの唐揚げなんかよりも数段旨い代物なのだ。
言っておくと、アバスとは奄美の方言でハリセンボンの事をいう。但し、厳密的にはハリセンボンそのものではなくて、近縁のネズミフグやイシガキフグとかの大型フグだろう。タケさんにアバスで作ったフグ提灯みたいなのを見せられたけどデカかったもん。ハリセンボンみたく体型は丸くなく、もっと細長かったから間違いないだろう。

やがて待望の「アバスの唐揚げ」が運ばれてきた。

 

 
見た瞬間に悪い予感がした。
見た目が記憶とは全然違くて、あまりヨロシクないのだ。色が悪いし、匂いからすると、おそらく悪い油で揚げたものだろう。しかも揚げ加減は明らかに技術未熟な者の仕事のように見える。盛り付けにも微塵のセンスも感じられない。

食うと案の定だった。
アバスそのもののポテンシャルは悪くないのだが、解体の仕方が悪いから食べにくいし、油っぽくて揚げ方は最低レベルだ。

因みに、タケさんの調理だとこんな感じだった。

 

 
盛り付け的にも如何にも美味そうだし、下に網があるから油切れも良い。っていうか、それ以前にカラッと揚がってた。
怒りを超えて悲しくなってくる。

コレだけではお腹は満たされない。次に何を頼もうかと迷ったが、メニューを眺めていても何ら期待させられるモノがない。お通しとアバスの唐揚げの状態からして、どうせ結果は目に見えている。憤ること確実だ。

さんざん考えた挙句、「漁師めし」を頼むことにした。
刺身系ならば、まだしも失敗は少ないと判断したのである。

 

 
こんなんだったっけ❓
コレも見た目は違ってたような気がするぞ。
まあいい。腹が減ってるから取り敢えず食べよう。醤油をブッかけて食う。
(ー_ー;)……。

 

 
気を取り直して、真ん中の黄身を潰して食べる。
(ー_ー;)……。
何だか甘ったるくて、全然旨くない。何ゆえにこんなにも甘いのだ❓明らかに記憶の味とは違う。
じゃあ、十年前のアレは何だったの❓スマホで、その時の画像を探す。

 

 
あったけど、(・o・)アレっ❓ご飯がないぞ。
でもコレ見て思い出してきた。この時は漁師めしの飯抜きにしてもらって、ツマミにしたんだったわさ。あと、確かこの時は海がシケ続きで魚が入ってこなくて、タケさんが養殖の黒マグロの良いところをふんだんに使ってくれたんだった。量も多くてトロ鉄火みたいになってたんだよね。
この記憶から甘いという疑問も解けた。タケさんが、いつも特別に普通の醤油を出してくれていたのだ。スッカリ忘れてたけど、実を言うとコッチの醤油は砂糖が大量に入っていて、ベタ甘なのだ。人のせいにはできないけど、何か腹立つわ。

腹はそれなりに膨れたが、虚しい。
11時くらいまでは居るつもりだったが、耐えられなくて10時には店を出た。

再び夜の山へと戻る。
勿論、アマミキシタバが大量にやって来るなんて奇跡は起こらず、ショボい蛾が数頭いただけだった。
取り敢えず見たこと無さそうな奴(註5)を投げやり気分で毒瓶にブチ込む。

 

 
暗闇から街を望み見る。

 

 
何処か違う世界、異次元空間に知らないうちに迷い込んだかのような錯覚に陥る。闇はいつでも人間社会との境界を曖昧にする。

やがて風が益々強くなってきた。たぶん風速は軽く10mは越えていて、最大瞬間風速は18mくらいはありそうだ。
༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽逆風烈風やんけ。

 

 
オマケに灯火採集の敵、月まで出てきやがった。

11時半、撤収。
何だかなあ……。

                         つづく

 
追伸
サラッと書くつもりが、どんどん思い出すことが出てきて長くなった。(◡ ω ◡)先が思いやられるよ。
尚、当ブログに『西へ西へ、南へ南へ』という2011年の奄美旅の文章があります。よろしければ、ソチラも読んで下され。
あっ、ついでに言っとくと、イワカワシジミについては第十三番札所『梔子(くちなし)の妖精』の回にて取り上げとります。

 
(註1)イワカワシジミ

【奄美大島産 春型】

 
(裏面)

(出典 2点とも『日本産蝶類標準図鑑』)

 
イワカワシジミは、日本では奄美以南に棲息し(現在は屋久島にも生息するが放蝶由来との噂あり)、蝶好きの間では人気の高い美蝶だ。裏面は日本には他に類を見ない綺麗な翡翠色で、優雅な長い尾っぽを持ち、南国の妖精という言葉がピッタリで可愛らしい。

奄美大島のイワカワシジミは亜種にこそなっていないが、かなり特徴的な姿をしており、表の前翅と後翅の亜外縁に白斑列に表れる。特に第1化の春型の♀の下翅はそれが顕著で、気品があって美しい。

国外ではインドからインドネシア、中国、台湾などの東洋熱帯区に広く分布する。日本でも個体数はそう多くはないが、インドシナ半島では更に少なくて珍品とされているようだ。
とはいえ、ラオスとかタイでちょこちょこ採っているから、ホントなのかな?と思う。因みに日本のイワカワシジミより遥かにデカイゆえ、とても同種とは思えまへん。

 

(2014.4.7 Laos oudmxay)

 
これじゃ、大きさがワカランね。
でも、しっぽ(尾状突起)がより長いのはお解りなられるかと思う。しかも太くて白いし、白帯の領域も明らかに広い。

他にも画像があった筈だから、探してみよう。

 

(2016.4.28 Laos oudmxay )

 
この画像なら、大きさも解って戴けるのではないかと思う。とはいっても、蝶好きな人しかワカランか…。

 

 
これは同日に採った別個体。天女のように美しいね。
どうやらインドシナ半島とかのクチナシの実は大きいから、その分だけデカくなるらしい。噂では超バカみたいにデカイ亜種だか近縁種だかがいるらしい。
意外だったのは、何れも川辺に吸水に来た個体だった事だ。そういえばタイでもそうだった。イワカワが吸水に来るなんて日本では殆んど聞いたことがなかったから驚かされた記憶がある。確か画像の個体は全て3時以降の夕方近くにやって来たような覚えがある。

 
(註2)アカボシゴマダラ
従来、日本では奄美大島と加計呂麻島、徳之島のみに分布していたが、近年になって関東地方で中国の原記載亜種が放蝶され、凄い勢いで分布を拡大している。
この亜種、赤紋がピンクで、しかも輪が醜く崩れているというアカボシゴマダラの名前を穢す許し難いブサいくな奴である。放した者は万死に値すると言いたい。どうせ放すなら、あんなドブスじゃなくて、クロオオムラサキとか放せよなあー。
それはそれで問題あるとは思うけど…(笑)。

 
(註3)アマミキシタバ

【Catocala macula】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』岸田泰則)

 
開張60〜66mm。国内の他のカトカラ(シタバガ属)よりも前翅長が突出する。
従来は別属とされていたが、現在はカトカラ(Catocala)属に分類されている。
分布は主に奄美大島だが、他に徳之島、屋久島、沖縄本島でも記録がある。そういや去年には九州南部からも記録が出ていた筈だね。国外では台湾、中国南部からインド北部、スリランカ、インドシナ半島、フィリピン、インドネシアに分布する。

 
(註4)奄美大島の本ハブ
何かで読んだけど、奄美大島の本ハブと沖縄本島の本ハブとでは毒の成分が違うらしく、奄美の方が毒性が強いようだ。DNA解析の結果でも両者はかなり古い時代に分岐したようで、近い将来、両者は別種扱いになる可能性もあるという。
あっ、うろ憶えの情報だから、間違ってたらゴメンナサイ。

 
(註5)取り敢えず見たことの無い奴
たぶん上の画像がカワムラトガリバで、下はツマジロエダシャクかな。コレも間違ってたらゴメンナサイ。

 

奄美迷走物語 其の1

 
 第1話『沈鬱の名瀬』前編

 
 2021年 3月21日

 

 
空はたっぷりの水分を孕んで、どんよりと曇っている。
一瞬、嫌な予感が走った。それを慌てて打ち消す。何でもそうだが、強い心を持ち続けることが肝要だ。マイナス思考に囚われてはならない。どんどん悪い方向へと行きかねないからだ。メンタルが壊れれば、良い結果など得られるワケがないのだ。
とはいえ、行先の奄美大島の天候を案じざるおえない。予報は1週間ずっと雨か曇りなのだ。蝶採りはひとえに天気にかかっている。結局のところ、天気如何で大幅に成果は左右されるのだ。

うだうだ考えているうちにバスは関空第2ターミナルへと到着した。相変わらず素っ気なくて、ショボいターミナルだ。店とか何もあらへん。

ピーチの午前10:15発の便に搭乗する。

 

 
(・∀・)あれっ❗❓
ピーチの筈なのに機体カラーがパープルピンクじゃないぞ。この機体カラーってバニラエアっぽいくねぇか❓

 

 
厚い雲を突き抜けると、雲の海が広がっていた。
空の青が濃い。

何気に翼の先に目をやると、バニラエアのマークがある。やはりバニラエアの機体だったのだ。提携とかしてんのかな?まあ、どっちだっていいけど。

12時過ぎ、無事に奄美空港に降り立った。

 

 
奄美に飛行機で来るのは初めてだけど、あまりにも早く着いたんで何だか拍子抜けする。
(・∀・)ん❗❓、違うな。そういや奄美に最初に来たのはダイビングインストラクター時代で、飛行機でだったわ。ダイビングの時と虫採りの時との記憶が完全に切り離されてメモリーされてる。

当初の計画ではレンタルバイクを借りて、先ずは「みなとや」へ行って鶏飯(註1)を食べ、それから蒲生崎の蝶の様子を見に行く予定だった。
「みなとや」は鶏飯発祥の店で、ここの鶏飯がイッチャン美味いのである。そして、蒲生崎にはアカボシゴマダラ、フタオチョウ、イワカワシジミ、アマミカラスアゲハがいる。上手くすれば、初日に今回のターゲットである蝶が全て採れてしまう可能性だってあるのだ。美味いもん食って、蝶もシッカリ採るという幸せ一直線の算段なのさ。密かに引きだけは強いまあまあ天才ならば、それも可能だと思ってた。所詮は。◕‿◕。オホホ星人、基本は根拠のない自信に満ちたオメデタい性格なのさ。
しかし生憎のところ、天気は悪い。奄美でも鉛色の雲が低く垂れ込めている。風も強いし、オマケに気温も低くて肌寒いくらいだ。

諦めてバスに乗り、名瀬へと向かう。

 

 
車窓を懐かしい風景が流れてゆく。考えてみれば、バスで名瀬に向かうのは初めてだ。コチラの記憶は間違いない。インストラクター時代は空港に夏美ちゃんが車で迎えに来てくれたのだ。
夏美ちゃん、可愛かったなあ(´ω`)…。もう結婚して子供とかもいるんだろなあ。ホント、光陰矢の如しだ。
あと2回の虫採りの時は鹿児島からの船便での来訪だったゆえ、名瀬港に着いたもんね。だから奄美初バスなのは間違いない。

1時間程で名瀬の街に入った。
予定では郵便局前で降りるつもりだったが、発作的に「鳥しん」で鶏飯を食おうと思った。でもって急遽、バスの運転手に訊いて末広町で降りることにした。そちらで降車した方が近いと読んだのさ。良い感じだ。ちょっとしたキッカケで流れが変わるから、こうゆう些末にみえる事だって大事なのだ。判断がビシッと決まりだしたら、自然とノッてくるものだ。

だが、少し道に迷った。何だかなあ…。ペースが掴めないとゆうか、ズレを感じる。全てが何か今ひとつ上手くいってないって感じなのだ。
歩いていると、やがて見覚えのある風景になった。
この辺に確かレンタルバイク屋があったんだよなあ。と思ったら、案内の看板があった。しかしマジックで上から棒線が引かれている。どうやら廃業したようだ。だからネットで探しても見つからなかったのね。お陰で計画がだいぶ狂ったんだよなあ…。
いつもなら名瀬を拠点にバイクで動くのだが、そのせいで明日には朝仁に移動しなければならない。

 

 
取り敢えず「鳥しん」に到着。
レンタルバイク屋からは、こんなにも近かったのね。一度も「鳥しん」で鶏飯食べようと思ったことがないから、探したことないのだ。昼間は虫採りで山ん中だし、夜は居酒屋「脇田丸」に入り浸ってたからね。

 

 
屋根の薄汚れたニワトリが怖い。
何だか心まで暗くなるわ。

 

 
店内はガラガラだった。
カウンターに座り、迷わず鶏飯(1200円)をたのむ。
ここ「鳥しん」と「みなとや」「ひさ倉」が奄美大島三大鶏飯店である。鶏飯は何処でも食べられるのだが、どのガイドブックでも、だいたいこの3店が真っ先に出てくるのだ。

最初にお通しみたいなのが出てきた。

 

 
得体のしれない見てくれだ。ゴーヤの素揚げが乗っているのも怪しい。
おそるおそる食べてみると、もろみ味噌(金山寺味噌・なめ味噌)っぽいものだった。
甘いが、味はそこそこ旨い。おそらく店では酒のツマミ的なものとして提供しているのだろう。甘いもん好きではないから酒のツマミとしては敬遠させてもらうけどさ。
初めて食べるが、たぶんコレが蘇鉄味噌とか粒味噌(註2)と呼ばれているものではなかろうか。

 

 
先ずは、この鍋に入った鶏の出汁じる(丸鶏スープ)とお櫃に入った御飯が運ばれてくる。ちなみに御飯は、おかわり自由である。

そして、次にコレが運ばれてきた。

 

 
左上から陳皮(柑橘類(タンカン)を乾燥させた果皮)、鶏肉をほぐしたもの、錦糸玉子、ネギ、パパイヤの漬物、甘辛く煮た椎茸。そして真ん中は海苔である。
コレを御飯の上に乗っけるのだが、「みなとや」と比べて何だかショボい。まずもって鶏肉と陳皮の量が少ないし、椎茸も干し椎茸ではなくて、甘辛く煮たヤツだ。椎茸は特に気にくわないなあ。何でもかんでも甘くしておけばいいと云う昨今の風潮には、断固反対する。

 

 
で、その上から鍋の汁をブッかけて食うのだ。

 

 
まあまあかなあ…。
不味くはないのだが、期待したほどの旨さではない。
「みなとや」では、その旨さに毎回唸ってしまうからガッカリだ。全体的に何かが足りないとゆうか、メリハリがないんだよなあ…。もしかしたら、鶏のスープにパンチが足りないからなのかもしれない。スープ自体は旨いんだけど、どうにも淡白すぎるのだ。
まあ、とはいえ好みの問題だけどもね。「みなとや」よりも「鳥しん」の方が旨いと感じる人だっているだろう。

何だかなあ…。のっけから細かく躓いてる気がする。
鶏飯を食って気分を上げて、良い流れを作ろうと思ったのになあ…。

                         つづく

 
追伸
えー、あまり気が進みませんが、連載開始です。そんなワケで途中で放り出して頓挫するかもです。
ちなみに随分前になるけれども、奄美大島での採集記が当ブログにも有ります。『西へ西へ、南へ南へ』と題した紀行文で、謂わば今回はその続編にあたるってワケかな。 興味のあられる方は読まれたし。今にして思えば、この頃の文体の方が自分的には好きかも。

 
(註1)鶏飯
鹿児島県奄美地方で作られる郷土料理。
鶏飯と書いて「けいはん」と読む。同じく鶏飯と表記されることも多い「とりめし」と同字異読であるために混同されやすいが、それらが炊き込み御飯や丼形式なのに対して出汁茶漬けに近い料理である。
現在、奄美大島で出されている本場の鶏飯は、茶碗に盛った白飯に、ほぐした鶏肉、錦糸卵、椎茸、パパイヤ漬けor沢庵、葱、刻み海苔、陳皮、白胡麻などの具材と薬味を乗せて丸鶏を煮て取ったスープ(鶏ガラではない)をかけて食べる。稀に紅生姜を添える例もある。白飯、具材、薬味、スープは別々の器で出され、お好みの配分で盛り付けて食べる。奄美大島には専門店も複数あり、スープの取り方、素材に地鶏を使うか否かなどの各々の特徴があり、スープの味で料理の味が大きく左右される。
居酒屋など店によっては丼や茶碗に盛ってスープを掛けた状態で客に出す例があり、これも鶏飯と呼ぶことが多いが、鶏飯丼と呼び分けて両方を出す店もある。尚、専門店の鶏飯は茶碗2~3杯分の量があり、白飯も食べ放題ではあるが、鶏飯丼は1杯分だけでお代わりはなく、そのため価格も安い。また奄美域外にもこのような類似の料理があるが、奄美大島の専門店が丸鶏でスープを取っているのに対し、域外では切り分けた鶏肉や鶏がらを使ってスープを取るなど、簡略化している場合が多く、風味に差がある。加えて薬味のパパイヤ漬けやタンカンの皮が島外では入手しづらく、これらの有無も風味に大きく影響する。

奄美大島の鶏飯は、元来は笠利町周辺にかつて存在した郷土料理で、当時はヤマシギやシロハラなどの野鳥を使用していた。江戸時代、島津藩の支配下にあった頃に北部で藩の役人をもてなすために鶏肉が用いられるようになったという。一方、19世紀半ばの島の暮らしを記録した『南島雑話』では、主に豚肉料理についてのみ記述され、鶏飯には触れられていない事から、現在の鶏飯は近代以降に成立したものであるともされる。もともと、奄美大島では正月前に黒豚を捌いて塩漬け肉にし、これと野菜を刻んで炊き込みご飯にした「豚飯」があり、これを鶏肉に代えたものという説もある。また、江戸時代の料理書『名飯部類』『料理網目調味抄』には、茹でた鶏肉を細かく裂いて飯に載せてだし汁をかけるという鶏飯の作り方が載せられており、本土から伝わった料理が奄美大島に残った可能性もあるという。

現在のスタイルの鶏飯は、奄美市笠利町赤木名で1945年に創業した旅館みなとやの館主岩城キネが、開業に際して江戸時代にあった鶏肉の炊き込みご飯にアレンジを加えて供するようにしたのが始まりとされる。
1968年4月に皇太子明仁親王、美智子妃殿下(当時)が奄美大島に来島した際に食したが、その美味しさにおかわりをしたという。その様子が伝えられると地元で観光客の人気を博し、奄美大島を代表する郷土料理となった。

 
(註2)蘇鉄味噌と粒味噌
蘇鉄味噌はソテツの実(雌花の種子)を使って作る味噌で、全国各地の味噌の中でもとりわけ個性的な味噌の1つである。主な産地は奄美諸島や沖縄県の粟国島で、奄美の方言では、なり味噌(なりみそ・なりみす)と呼ばれている。ソテツ(奄美方言すてぃち)の実から取ったデンプンと玄米と大豆を原材料にしており、麹の配合比によってソテツの種子を主原料とするものと玄米を主原料とするものとに分かれる。前者は奄美方言で「しるわーしみす(汁沸かし味噌)」と言い、多くはサツマイモも加えて熟成させ、主に調味料として用い、後者は主になめ味噌として食用にする。塩分は調味用の方が高い。
 
【蘇鉄味噌】

(出展『株式会社ヤマア』)

 
蘇鉄味噌づくりで最も特徴的なのは、微生物の働きでソテツの持つ毒素を取り除く「解毒発酵」が行われていることである。発酵でソテツの実の毒を取り除いてから麹菌を付けていくという独特の製法が用いられている。
特有の風味と甘味があり、奄美や沖縄では古くからお茶請けやツマミとして食べられているようだ。
また、蘇鉄味噌を使った料理も豊富で、魚の身をほぐして混ぜ込んだユーミソや豚の耳や内臓と混ぜたワミソなどがある。

道理で島には至るところにソテツが生えてたワケだ。かなりクロマダラソテツシジミに食害されてたけどさ。

 
【クロマダラソテツシジミ 低温期型♀】

(2018年 和歌山県白浜)

 
参考までに言っておくと、滞在中、クロマダラソテツシジミは1つも見なかった。真面目に探したワケではないが、もし発生していたならば、ソテツの周りでアホみたいな数がチラチラ飛び回ってる筈だから気づかないワケがない。それに吸蜜源のセンダングサの花は何処でも咲いていたから、いたならば1つや2つは目に入っていた筈。おそらく端境期だったのだろう。

奄美大島にはこの他にソテツの実を使わないで作る粒味噌もある。

 
【粒味噌】

(出展『株式会社ヤマア』)

 
粒味噌は島味噌とも呼ばれ、粗めに挽いた大豆を使う奄美の伝統的な味噌。塩分が少なめなのが特徴。見た目は名前のとおり粒々で、お茶うけにされたり、豚味噌や魚味噌、ニガウリ味噌などを作る際にも用いられる。

画像を見ても蘇鉄味噌と粒味噌との違いがワカラン。
見た目、ほぼ同じだもん。よって「鳥しん」で出されたものがどっちなのかは特定できない。白胡麻が振ってあるので、おそらく蘇鉄味噌だと思うんだけど…。でも粒味噌は豚味噌や魚味噌に使われるから、それを作るために店には置いてある筈だからなあ…。まあ、どちらにせよ甘いから、本音はどーだっていいんだけどさ。

-参考文献-
◆Wikipedia

  

鰊そば

 
無性に鰊(にしん)そばが食べたくなった。
きっかけはスーパーで「ソフトにしん」が半額になっていたからである。
一応言っとくと「ソフトにしん」とは、従来からある「身欠きにしん(註1)」と比べて干し時間が短く、柔らかいものの事をそう呼ぶようになったようだ。

しかし、そこのメーカーのソフトにしんって苦くて美味しくなかったという記憶が残っている。なので取り敢えず他の買物を先にしようと、一旦その場を離れた。

買物をしながら、ぼんやりと久し振りに京都は南座の隣にある『松葉(註2)』の鰊そばを食べたいなあと思った。
京都では鰊そばはポピュラーで、中でも『松葉』のものが一番有名なのだ。そういや、あまり好きじゃなかった鰊そばの本当の旨さに初めて気付かされたのは此処だったよね。

 

(出展『ことりっぷ』)

 
でも、値段が高いんだよなあ。¥1300(税込¥1430)もする。
金ねぇし、コロナの緊急事態宣言中だし、京都まで行くのは考えものだ。この際、自分で完璧な鰊そばを作ってみるっぺか。

で、一回りして戻ってきたら、(ㆁωㆁ)ゲッ、オバハンが目の前でワシのソフトにしんをカゴに入れはった。
一瞬、『それ、僕のぉー❗』と言いかけたが、そんなこと言ったら、狂人のオッサンと思われること必至だ。黙って見送る。
……(-_-;)マジかよ。一周回って漸く意を決して買おうとしただけに何だかとてもショックだ。こうなると、どうしても鰊そばが食いたくなる。それが人情ってもんだ。
けど、そんなの世の女子から見れば、子供じみてるって言われんだろなあ…。ちゃんとした大人は、そんな事で意地になったりはしないのだ。けど、どうせ未成熟とオンナどもに言われてきたオトコだもんねー。今さら治りゃしないのだ。
その代わりっちゃなんだけど、性格は変わらなくとも知恵は以前よりかはついている。棚を見ると、30%引きのがあった。賞味期限を確認すると明日になっている。
(ΦωΦ)フフフ…、勝機を見い出したぜ、マドモアゼル。
経験上、となればコヤツも明日には半額になっている筈だ。だいたいソフトにしんなんてもん、世の主婦で扱える人なんて少ないのだ。たとえ翌日に半額になっていたとしても、直ぐに売れるものではないだろう。余裕で明日来ても売れ残っいる可能性が高い。

翌日、夕方にスーパーへ行ったら、へへへ(◠‿・)—☆、あったぜ。

 

 
<( ̄︶ ̄)>オラって、かしこい〜👏
早速、調理にかかる。

①ソフトニシンは骨や血合いがあれば取り除いておく。
で、鍋に入れて緑茶をドボドボ注いでヒタヒタにする。有れば緑茶のティーバッグでもいい。っていうか、その方が経済的だろう。でも、どうせローソンの百均で買った2L百円のお茶なのだ。贅沢に使っても心は傷まないのさ。
尚、緑茶を使うのは茶葉と煮ることで身欠きにしんの臭みが消え、柔らかく煮上がるからだす。

②中火にかけ、沸騰してきたら弱火にして20分程でザルに上げる。冷めたところで、本当は『松葉』みたく半身そのままにしたかったのだが、半分に切る。「泣いて馬謖を斬る」の苦渋の決断だが、どう考えても今ある家の丼には入りきらないと判断したのだ。

③鍋にニシンとめんつゆを入れて中火にかける。煮立ったら落とし蓋をして弱火で20分程煮る。ニシンが柔らかくなり、照りが出たら火から下ろしませう。

④そばを表示時間よりも1分短めに茹でる。
 
 

 
今回はディーンのボーカルが『マツコの知らない世界』で、イラッとくるくらいに褒めていた『小諸七兵衛』。それなりに満を持したつもりだ。
茹で上がったら、冷水で締める。

⑤別の鍋に『ヒガシマルうどんスープの素』を入れて、熱湯をかけ(300ml)、ニシンの茹で汁を適当に加えて味を調整する。

 

 
⑥そこに蕎麦を投入。ひと煮立ちしたら、器に移してニシンと水菜を乗せて完成。

 

 
マジで、(☆▽☆)美味い❗
ニシンも完璧に仕上がってる。全然、苦くなくて、程好い固さだ。味付けも松葉のものと遜色ない。

旨かったので、翌日も食べた。

 

 
ニシンに蕎麦を掛ける松葉流の盛り方にしてみた。
けど、見た目は一本ニシンと比べて、何だかみっともない。
それにあまりに素っ気ないので、『松葉』では別添えである葱を乗っける。

 

 
こっちの方が見た目は、まだしも良いよね。
味は水菜が葱にチェンジしている分、微妙に違うが、やはり美味い。

まあ、それほど手間もかからないし、是非お試しあれ。

 
                        おしまい

 
(註1)身欠きにしん
干物にしたニシンのこと。冷蔵庫がない時代の魚の保存方法の一つで、ニシンの内臓や頭を取り除いて天日干しにしたもの。
干物にすることで身が引き締まり、骨にそって取れやすいとゆうことから「身欠き」と言われるようになったという。
最近では乾燥度が強くて扱いずらい身欠きニシンよりも、短時間で戻すことができて手間もかからない一夜干し程度のソフトニシンの方が主流となっているみたいだ。

 
(註2)『松葉』

(出展『360@旅行ナビ』)

 
正式名称は『総本家にしんそば 松葉』。
鰊そば発祥の店とされ、創業から百五十年を越えている老舗である。
ちなみに隣に写っているのが、顔見世興行で有名な南座。歌舞伎役者も、よく出前を頼んでいるそうな。

 

2020’青春18切符1daytrip 第四章(3)最終回

 

 第3話(最終話) 紀州の春の味

 
 2020年 4月10日(後編)

 
再び「スナック変てこネーミング愛好家」の活動が始まる。
今度は反対側から繁華街へ入ろう。

 

 
『銀ちろ専用二輪車置場』。
店の看板にチャリンコの置き場所を示すだなんて斬新だ。
でも、店本体が見当たらない。謎です。ステルス店舗なのかもしれない。地方に行くと、時空間が時々歪むからね(笑)。

『居酒屋 味心 むそう』。
「むそう」が無双の事なのか、それとも夢想を表しているのかがワカラナイ。いや、両方の意味が込められているからこその平仮名表記なのかも。だったとしたら、そんな掛け合わせをしようなんて考えた店は唯一無二だろうから、無双かもね。

『紅葉』。
「もみじ」もしくは「こうよう」という店名かと思いきや、下に「KREBA」の文字がある。「くれば」だったんだね。
けど、その読み方って無理がないかい❓普通に読めば「くれないば」、もしくは「べにば」だよね。紅に「くれ」という読み方はないのだ。
まあいい。にしても、何でわざわざ秋に限定されるようなネーミングにしたんだろね❓まさか秋限定のオープンなワケでもなかろう。う〜ん、ママさんの名前が「紅葉」でもなければ、解せませぬ。

『SEED』。
種子❓種(たね)は物事の始まりを表すものでもあるからして、理解できなくもない。
いや、まさかのママさんの名前が「タネ」だったりしてね。だとしたら、どんだけオールディーな名前やねん❓
そうじゃなければ、まさかまさかのシードの別の意味でもある「精液」や「精子」だったりしてね。(-_-;)…、だとしたら相当に奥が深い。ハプニングバーとか、とんでもない店だったらいいなあ。

『居酒屋 白百合』
「昭和」を通り越して、もう「大正」の世界だ。
一周回って大正ロマンの香りさえ漂っている。

振り返っても撮る。

 

 
どうやらこの通りは味光路(あじこうじ)というらしい。

 

 
『AGAIN』。
アゲイン。再び。
また来てねという意味か?
他に浮かばないし、段々無理からイチャモンつけるのも面倒くさくなってきたよ。

『LARME』。
ラルムというのはフランス語の「涙」「涙の雫(しずく)」の事でいいのかな。
にしても、そんなマイナス思考のネーミングでいいんすか❓

『スナック すみれ』
何ら奇抜さがない普通のネーミングだ。
でも奇を衒わないところが、かえって新鮮だ。明朗会計に違いなかろう。好感もてます。

『LUSH』。
普通に訳せば、「青々とした」「瑞々しい」だろう。
調べたら他にも意味があって、「大酒呑み」とゆうのが出てきた。たぶん由来はコレだな。
さておき、下の「a new sense bar」とゆうのが引っ掛かる。新しいセンスとは何❓
このネーミングのワケの分からなさにスナック文化の面白みがある。こうしてアレコレ想像するのは楽しい。ネーミングの裏に、その人の人となりが見え隠れするのだ。

『がらくた』。
(☆▽☆)来たー❗、自虐系ネーミング❗
けど、ストレートの平仮名表記である。普通ならば「我楽苦多」などという宛字をブチ込んでくるのがセオリーなんだけどね。その路線にいかないのは、言うほどポンコツではなさそうだ。ただの自虐的な人なのかもしれない。

後ろのビルの看板が横に写っている。気になるからコッチもコメントしておこう。

『Pino』
イタリア語かな❓ならば「松の木」とか「松ぼっくり」という意味になる。可愛さ演出かしら❓
単にお菓子のピノ好きの店主だったりして…。

『Bebe』
普通に考えれば「赤ちゃん」だよね。
ばぶばぶの赤ちゃんプレーの店だったりして…。いかん、いかん。どうしてもエロに走るクセがある。
だとしたら、フランス語の「パートナー」という意味なのかもしれない。豚が2頭向き合ってるしね。
でも、ちょっと待て❗
下には「Boys snack」という文字があるではないか❗❗
とゆうことは、モーホーの集まるスナック❓それもパートナーを探す的な❓しかも赤ちゃんプレーがメイン的な❓
頭がオカしくなってきたところで、目的の店の前に着く。

 

 
ここの向かい側が店となるのだが、惹かれる風情があって、つい写真を撮ってしまったなりよ。
あっ、でも惹かれた理由は風情だけじゃないと直ぐに気づいたよ。

 

 
🎵ホッピー(◠‿・)—☆
久し振りに看板と幟を見たので、テンションが上がる。奴は関東文化圏のもので、関西ではあまり見ないのだ。これは東京に住んでた頃に劇団の先輩に教えてもらったというか、仕込まれた。
えー、ホッピーとは下町のヤサグレ親父たちのフェバリット安酒の事である。
もとい、厳密に云うとホッピーそのものは酒ではない。

 

(出展『Wikipedia』)

 
ホッピー(Hoppy)とは、ホッピービバレッジ(旧・コクカ飲料)が1948年に発売した麦酒様清涼飲料水のこと。平たく言うと、ルートビアみたくビールテイストの炭酸飲料の事ね。でもホッピーといえば、焼酎をこれで割った飲み物を指す場合のことの方が多い。
ホッピーが発売された頃は、まだビールは高価だったそうな。なので、そのビールの代わりにホッピーで焼酎を割って飲む技が編み出された。そして、手軽にビールの満足感を得られる酒として関東圏で急速に広まっていったらしい。そう、ビールモドキなのだ。その辺からして男たちの苦い哀愁が漂うなあ。
ちなみに今でも東京の大衆酒場には必ずと言っていいほど置いてある筈だ。まあ、安く飲める酒の代表選手みたいなもんだすな。飲んでるオヤジたちもイタい人が多かったから、場末感満載なのだ。何だか懐かしい。

又しても脱線してもうた。
いざ、目的の店にゆかん。

 

 
『紀州魚介庵 かんてき』。目的地到着だす。
店はビルの奥まったところにある。

 

 
「かんてき」とは、関西では七輪(しちりん)の事だが、火がカチカチ熾る様から癇癪(かんしゃく)持ちを表す言葉でもある。つまり気が短くて怒り出したら止まらない人で、感情がコントロール出来ないってこと。
たぶん店の名の由来は、この両方で、どちらかとゆうと後者だと推察される。ならば、めんどくさい親父に決まっている。テメェで付けてるくらいなんだから、自他ともに認める性格なのだろう。

口あけだから、客はワシ以外には誰もいない。

 

 
カウンターの真ん中に座る。
店の雰囲気は昔からある居酒屋という感じだ。

 

 
目の前の大将は、よく喋る。
気は如何にも短そうだ。でも本当の癇癪持ちならば、店を長く続けてはこれなかっただろう。ようは気は短いが、気のいいオヤジさんってとこなのだろう。ヤンチャの匂いがしますな。

当然、先ずは何をおいても生ビールから入る。

 

 
付き出しは「イソモン(磯もん)」という地元で穫れる貝。
磯で穫れる貝を総称してそう呼ばれる事が多いが、見たところ1種類だけだから、どうやら地元ではそう呼ばれている貝なのだろう。一瞬、シッタカ(尻高)にも見えたが、似ているけど頂きはシッタカみたく鋭く尖ってないから別な種だね(註1)。

金串で根元を刺し、貝を手でぐるりと回しながら身を取り出す。こうすると、先っちょの肝までキレイにとれる。
味はシッタカとほぼ同じで旨い。肝のホロ苦さがよろしおまんな。所謂サザエの壺焼き系の味だ。それよか柔らかいけど。

 

 
お次は黒ビール。
黒ビールの生を置いてある店は少ないから、飲むことにした。

 

 
久し振りに飲む黒ビールは豊潤で旨い。

 

 
刺身盛合せ。
左は上からモチガツオ、モチガツオ心臓、グレの白子。右はヒトハメ、グレ、ウツボのたたきである。

モチガツオとは紀州の春の味覚の一つ。黒潮に乗って2~5月頃に紀伊半島沖に現れるカツオの中でも午後になると岸近くに寄って来るモノのことをいうそうだ。本来、カツオは遠洋にいるものとばかり思ってたけど、そうゆうカツオもいるんだね。
それを釣り上げて活け締めにして即座に陸揚げしたものは、死後硬直が始まる前のモチモチとした食感が味わえるそうだ。モチモチだからモチガツオと呼ばれてるってワケだね。付け加えておくと、モチガツオと言える状態は短く、水揚げされてから6時間以内なんだってさ。

モチガツオから食べてみる。
\(☆▽☆)/ワオッ❗、確かにモチモチの食感だ。
旨味もあって、(´ω`)うみゃーい。

お次は心臓だ。
艶々してて張りがあり、如何にも鮮度が良さそうだ。
(・o・)あっ、コリコリだ。珍味ですなあ。

続いてグレの白子。
コチラも見るからに鮮度が良い。たぶんグレの白子は初めて食べるんじゃないかな。
うん、臭みは全然ない。期待どおりの味だ。旨い。
とはいえ、鯛やフグの白子の旨さには及ばないけどね。

右側に移ろう。
わかりにくいが、一番上は「ひとはめ」という海藻である。
人をハメちゃうの❓何だか純真な田舎娘をシャブ中にしてソープに売り飛ばす悪いヤクザみたいな名前じゃないか。もしくは妖怪の名前みたい。『悪戯妖怪ひとはめ』。
「雨の日でもないのに道の角を曲がった所に水溜まりをこさえ、人がハマったのを見て、キャッキャッと喜ぶイタズラ系妖怪の事。」とかさ。
スゲー名前だなと言ったら、お女将さんが正式名称は「ヒロメ」だと言って小冊子みたいなのを見せてくれた。

 

 
「それによると、こう書いてあった」と書きかけて、邪魔クサイので画像を拡大する。

 

 
ようするにワカメの親戚みたいなものだ。
ただし細長くなくて、名前のとおり幅が広い。
ちなみに「ヒロメ」の「メ」は海藻(海布)という意味。これはワカメを漢字で書くと「若布」と書くことからも解る。
「ヒトハメ」の方は後で調べてみたら、人をハメるというヤバい由来は全然なくて、〝一つの葉〞で「一葉布」なんだそうな。

 

(出展『ぼうずコンニャクの市場魚貝図鑑』)

 
(出展『和歌山県ホームページ』)

 
葉部が大きな卵形で切れ込みがなく、メカブを作らないのがワカメとの違いみたい。

味は旨い。
シャキシャキとした食感なのに、部位によっては柔らかくてとろみがあって美味しい。粘質物に含まれる食物繊維「フコイダン」がワカメより多いそうだ。
とはいえ、生のワカメをサッと湯通ししたものと、ほぼ変わらない。黙って出されればワカランだろう。

最近は養殖も試みられており、「紀州ひろめ」というブランド名で販売促進されているという。
しかし近年は温暖化で冬場の海水温が下がらないためか、生育状況が良くなくて、収穫量は年々減少しているという。

ネクスト、その下はグレの刺身。
えー、グレとは関西での呼び名で、関東ではメジナと呼ばれている磯の代表的な魚ですな。
グレにはあまり良い印象を持ってない。磯臭いのだ。特に夏場はゲロ臭い。けど餌が違う冬場は美味であるという話も聞く。
それでも何度か食べた事はあるが、特別旨いという印象はない。
この時の味の感想の方だが、1年近く前の事なのでハッキリとした印象はない。ただ、グレにしては旨かったような記憶が残っている。

最後は「ウツボのタタキ」。
ウツボは見た目が凶暴且つグロテスクで小骨も多いので積極的に食べる地方は少なく、紀伊半島南部の一部と房総半島南部、高知県くらいだろう。
何度か食べた事があるが、タタキとはいうものの、生ではなくて火が結構入っている。レアチャーシューとか、ステーキでいえばミディアムレアみたいな感じに仕上げられたのものが多い。
色は白っぽくて鶏肉に似ていて、身は肉厚で柔らかい。味は淡白ではあるが独特の旨みがある。一方、皮は歯応えがあって弾力が強い。皮下と共にゼラチン質でコラーゲンも豊富そうだ。コチラの部位は、噛むと皮下のゼラチン質から濃厚豊潤な旨みが広がる。この身と皮の2つの異なる風味が合わさった味わいがウツボの最大の魅力かもしれない。
とはいうものの、めちゃくちゃ美味いってワケでもないけどさ。食べる機会があれば、トライしてみてはと云うレベルだ。

 

 
海老団子。
野菜も入っている。呻くほどではないが、旨い。

客は誰も来ない。
4月7日に東京や大阪など7府県に対してコロナウイルスに対する緊急事態宣言がなされていたが、和歌山県は対象外だった。
なのに、この閑古鳥の状態である。こんなとこまで影響力があったんだね。未知の病気だっただけに、当時は皆、相当にビビってたんだろう。あとは下手に調子ブッこいて外出して罹患でもすれば、周囲からの批判に晒され、病人なのに袋叩きに遭いそうな雰囲気があったせいもあるかもしれない。
尚、緊急事態宣言の対象を日本全国の都道府県にまで拡大したのは、もう少しあとの4月16日になる。

そういや、この時期には和歌山市の病院でもクラスターが発生したような気がするなあ。その影響もあったのかも。
結局、この日は他に一組の客しか来なかった。オヤジさん曰く、普段は満杯だそうで、土日などは予約しないと入れないそうだ。心なしか元気がなかったのは、そのせいかもしれない。いつもはもっと威勢がいいんだろね。

その後、和歌山県は知事の仁坂吉伸氏の適切な対応で、2021年の2月現在に至るまで感染は少数で抑えられ続けている。あまり報道されることはないが、その手腕は高く評価されているようだ。
余談だが、この仁坂さん、実を言うと蝶屋である。つまり、趣味は蝶の採集・蒐集・研究なのである。
去年の2020年10月には『ブルネイの蝶 Butterflies of Brunei』(NRC出版)という図鑑も出版されておられる。
定価10,000円+税(送料別)と結構な額の本だが、結構売れていて、在庫わずかだという。
これは蝶の雑誌『季刊 ゆずりは』に連載されていたものが下敷きになっていて、仁坂さんがブルネイ大使を務められていた2003~2006年に採集された標本を整理され、図鑑にしたものである。内容は、標本のカラー図版と各解説、巻末にブルネイの蝶663種のチェックリスト付いている。中には新種の可能性があるものも含まれているようだ。

 

(出展『Amazon』)

 
図鑑そのものは見ていないが、「季刊ゆずりは」の連載は一通り見ている。珍品もそこそこ採られておられるので、正直驚いた。どうせ片手間の何ちゃって蝶屋だと思っていたからである。
さておき、和歌山でも網を振られているのかな❓まあ、この御時世だと、それどころじゃないだろうし、見つかったらボロカス書かれるからなあ…。最近の世の中は、おおらかじゃないから揚げ足をとって、徹底的に叩いてくるからね。嫌な時代だよ。
えー、在庫わずからしいので、購入される予定の人は急ぎNRC出版か南陽堂にホームページにアクセスされたし。

話が逸れた。本道に戻そう。

 

 
お店の自家製カラスミ。
カラスミって魚卵好きには堪らんよね。何であんなに美味いんだろうと、つくづく思う。究極の酒のツマミの一つだろう。
となれば、ここは焼酎だろう。

 

 
勿論のこと、ロックである。

 

 
鹿児島県霧島市の国分酒造の芋焼酎『安田』。
店主曰く、芋麹で造られた全量芋製焼酎で、入手困難ゆえにプレミアが付きつつあるという。
通常の芋焼酎は米を使用して麹を造るのだが、これは麹造りから「芋」を使用しているから全量芋製なのだ。芋麹を用いることによって、より芋の風味が濃厚な仕上がりになるそうだ。
使用しているサツマイモも、通常使われる黄金千貫(こがねせんがん)とは異なり、蔓無源氏という品種で仕込まれている。
この芋は今から百年ほど前に食用として栽培されていたサツマイモで、わずか10本の苗から復活させたという。
尚、「安田」という銘柄の由来は、平成4年より国分酒造の杜氏となった安田宣久氏の名字を冠したものだそうだ。

飲んでみる。
あれっ❓ガツンとくるかと思いきや、優しい。香り豊かでフルーティーなのだ。芋焼酎にしては女性的だ。コレってワイングラスで飲んだ方がいいかもしんない。その方が、より香りを感じられそうだからね。
御託を抜きにして、味は素直に旨い。調子ブッこいてガンガンに飲みそうだ。でも、今日はちゃんと電車に乗って帰らねばならぬ。酒バカにならぬよう、ちっとはセーブしよう。
けどカラスミを少し囓って焼酎を口に含んだら、ブレーキホースが瞬時にブッた切れた。焼酎⇒カラスミ⇒焼酎のエンドレス運動が始まる。
この円環のためには下に敷いてある大根が邪魔だ。マイルドアイテムは要らぬ。酒呑みは口中の濃い塩味と旨味を酒で洗い流すのを旨(むね)としているのだ。大根は大根として別に食うべし。それはそれで旨いのだ。

 

 
こんなの頼んだっけ❓
たぶんカツオの心臓の煮付けだと思うが、食った記憶もない。
まあ味は大体想像つくけどさ。おそらく基本は魚の内臓の味で、ホロ苦かったんだろう。
こうゆう渋い酒のアテは、エンジンがかかりやすい。

 

 
『国分 純芋 醸酎』。
コチラも国分酒造の芋焼酎で、「現代の名工」として国から表彰された安田杜氏が手掛けたものだ。
コレも「安田」と同じく従来の製法を払拭し、麹造りの際に米を使用しないサツマイモ100%の芋焼酎だ。ただし、地元産のさつまいも黄金千貫で芋麹を造り、黄麹で仕込んだものである。蒸留後は無濾過・無調整で1年熟成。加水せずにそのまま蔵出しされたものだそうだ。ゆえなのか、アルコール度数は35度と高い。

飲んでみる。
ふくよかで華やかだ。黄金千貫を贅沢に使い、白麹ではなく黄麹を使用しているからか特徴的な甘みと、まろ味(旨味)も感じられる。こっちも旨いね。甲乙つけ難いが、どちらかというとこっちかなあ。

 

 
蛍烏賊の沖漬けだよね。
これも、あまり頼んだ記憶がない。どうせ焼酎に合うだろうと思ってオーダーしたんだろな。どうみても酒呑みが好きそうなものだもん。

あっという間に時間が過ぎた。
旨い食いもんと旨い酒は時間を忘れさせる。
何で幸せの時間は短く感じるんだろ。解るようで解らない。

すっかり外は夜になっていた。駅の光がまばゆい。
午後8時39分発の和歌山ゆきに飛び乗る。

 

  
23時40分、天王寺に到着。

 

 
23時48分発の大和路線の難波ゆきに乗る。

 

 
ようやくJR難波駅に到着。

 

 
23時56分。期限ギリギリで改札を出た。

 

 
外に出ると、まあるい満月が夜空に掛かっていた。
ここに旅の円は閉じた。
小さく息を吐き、「これにて青春18きっぷの旅、終了。」と呟く。
春のやわらかな夜気は、どこまでも穏やかだった。

                        おしまい

 
追伸
第二章の途中で頓挫していたシリーズだが、何とか再開して10ヶ月後に完結できた。基本的には中途半端なのは嫌いなので、ホッと一安心。ようやく肩の荷が下りたよ。
思えば第一章の福井編が5話、第二章の武田尾・三田編が4話、第三章の山陽道編が2話、第四章の紀州編が3話の計14話も書いている。しかも各話が長い。自分でもよく書いたなと思う。
途中で頓挫したのは、多分この長さゆえだったのではないかと思う。書いてて、進まない終わらないで自分でも途中でウンザリしてきたのだ。そこへきてカトカラシリーズの連載が再開したものだから、そっちに力を注ぐことになったのだろう。
今年度の目標は文章を短くする事かな。でも脱線癖を治さねば無理だね(笑)。
文章を書き慣れない人は長い文章を書くのが苦手だろうが、実を言うと短い文章の方が難しい。慣れれば長い文章は誰でも書けるようになるが、それを削ってコンパクトにする方が遥かに難しいのだ。付け足すよりもソリッドに削る方が、より時間もかかるし、難産なのだ。

例によって、この日の正規運賃を示しておこう。

JR難波⇒道成寺 ¥2310
道成寺⇒紀伊田辺 ¥680
紀伊田辺⇒JR難波 ¥3080

              計 ¥6070

今回のチケットは金券ショップで購入した4回分¥6000(もしかしたら¥5000かも)のものだから、1回分を¥1500とすれば、以下の計算式となる。
¥6070ー¥1500=¥4570
つまり、¥4570もお得だったワケだすな。やっぱ青春18きっぷは、とってもお得なんだね。

そろそろ春も近い。
「かんてき」には、今年も行きたいなあ…。モチガツオと自家製カラスミは、もう1回食べたい。

(註1)シッタカみたく鋭く尖ってないから別な種だね

帰って調べてみたら、正式名称はクボガイのようだ。

 


(出展『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
北海道南部以南の日本各地、朝鮮半島、中国南部にかけて分布する。潮間帯の岩礫地に棲み、藻類を食べる。
「磯もの」や「磯玉」と呼ばれ、シッタカと共に海辺の居酒屋や宿などで茹でたものが出ることがある。身は小さいが、はらわたは磯の風味があり、足は甘みがあって美味。
(『Wikipedia』より抜粋)

参考までにシッタカの画像も貼り付けておきます。

 

(出展『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
正式名称は「バテイラ」というらしい。けどあまり使われてなくて、シッタカの方がポピュラーな名前だす。
それにしても、流石のぼうずコンニャクさんだ。食べられる魚介類は調べりゃ何でも出てくる。ホンマ、重宝しとります。

 

2020’青春18切符1daytrip 第四章(1)

 
 第1話 紀州ストーカー女

 
 2020年 4月10日

午前8:19。JR難波駅発 柏原ゆきの大和路線に乗り込む。

 

 
青春18切符の旅、4日目。
期日ギリギリの、最後の1daytripが始まった。

 

 

 
天王寺駅で降り、阪和線に乗り換える。
今日は気分で南を目指すことにした。前回で、近畿地方ではギフチョウの適期はもう終わりだと実感したからね。

8:32発 日根野ゆきの快速電車に乗り込む。

 

 

 
日根野駅で、9:51発の御坊ゆき普通列車に乗り換える。
もう1時間半も電車に乗ってるのに、まだ和歌山に着かない。和歌山って、そんなに遠かったっけ❓

 

 
和歌山駅を過ぎると紀勢本線(きのくに線)に入る。
一瞬、和歌山駅で降りることも考えたが、電車は御坊まで行くんだから、そこまでは行ってみようと思った。どうせ和歌山駅から南は列車の本数がグンと減るに決まってる。行ける時に行けるところまで行っておこう。

ここから先は18切符では未知の領域だ。白浜や那智方面に行くのに特急くろしおに乗ったことは何度かあるけれど、じっくりと鈍行列車に乗って旅したことはない。特急乗車は彼女たちとの旅行だったから、イチャついてて外の景色なんてロクに見てるワケないのだ。誰と行ったか、つい数えてしまう。
たぶん3人だ。それなりに、心がキュッとなる。人生は後悔の連続だ。

和歌山駅を過ぎて暫くすると、海が見えた。

 

 
2日前にも神戸方面で見たけど、何度見ても海はいい。ずっと見てても飽きない。本来は海の人だけど、虫捕りするようになって、今やすっかり山の人だ。良かったのかなあ…。

 

 
海南市とか初島辺りだったろうか。トンネルを抜けたら、突然目の前に煙突だらけの工場群が現れた。
予測外だったので写真を撮ろうとした時には既に離れていて、奥に小さくしか写っていないけど、けっこう規模は大きそうだ。存在を知らなかったけど、さぞや夜は綺麗だろう。

気になってその場でググッたら、やっぱり凄かった。

 


(出典『工場夜景ガイド』)

 
工場の夜景を見るのは好きだ。
何か近未来的と云うか、SFの世界に通ずるスタイリッシュさがある。謂わば『ブレードランナー』とか『メトロポリス』の世界だ。

 

 
箕島駅を過ぎる。
箕島といえば高校野球の名門である箕島高校のことが真っ先に思い出される。星稜高校との延長18回に及ぶ3時間50分のナイターでの熱戦は高校野球史上最高の試合とも言われている。
箕島は首の皮一枚の二死の状況から二度もホームランで追いつき、最後にはサヨナラ勝ちするのだが、劇的な展開だらけだった。奇跡の2本のホームラン以外にも、勝利目前で星稜の一塁手が人工芝の縁に足が引っ掛かって転倒、凡フライを落球するだとか、逆に星稜は箕島のサヨナラのチャンスに三塁手の隠し玉でピンチを脱したなんて事もあったな。
そういや、この試合に勝利した箕島は、その勢いを駆って勝ち進んで優勝。公立高校として初めて春夏連覇をしたんだよね。それ以来、公立高校で春夏連覇したチームはない筈だ。
記憶が、どんどん甦ってくる。箕島のピッチャーはアンダースローの石井毅、捕手は強打で鳴らす嶋田宗彦のバッテリーだったね。卒業後、二人とも社会人野球に進み、その後プロに進み、それぞれ西武ライオンズと阪神タイガースに入団したんだっけな。対する星稜も、好投手の堅田と音がいたっけ。音も中日ドラゴンズに入ったんだな。主力としてそこそこ働いてたんじゃないかな。堅田はプロには行かなかったけれど、後に審判員となって甲子園に帰ってきた。
監督は箕島が尾藤監督で、星稜は山下監督。どちらも高校野球史の名将に讃えられている。山下監督は結局、一度も優勝できなかったけどね。
あっ、思い出したよ。バックネット裏の関係者席がガラガラだったので座って観てたら、注意されたんだよね。

『君ら、ここは関係者席やから、座ったらアカンでぇ。』

振り向いたら尾藤監督だった。もう監督を勇退して、解説者か何かで来ていたのかもしれない。優しい声が今も耳に残っている。

帰ってから、「ワシら、ビトー監督に注意されてんでー。背が思ってた以上にチッこかったわ。でも優しかったでぇー。」とか何とか周りに自慢したなあ…。
その尾藤監督も既に鬼籍に入っておられる。箕島の街に向かって、🙏合唱。

 

 
湯浅駅で、特急待ちの一時停止になった。
湯浅といえば、醤油発祥の地だ。昔の古い町並みも残っている。
だが、湯浅を車で通ったことは何度もあるけれど、観光に訪れた事はない。いっそ降りてやろうか。

 

 
車内で御坊から先の駅を確認する。
南部、田辺、白浜、周参見、串本、古座、太地、紀伊勝浦、那智と、この先も有名な観光地が続く。和歌山って、観光資産が沢山あるのだと改めて気づかされる。
そういや少し先には白い奇岩群で知られる白崎もある。スキューバダイビングの仕事で何度か訪れたが、その奇観に少なからず驚いたっけ。

でも、降りなかった。湯浅までなら、まだギリギリ日帰りでデートとかに来られる範囲内だ。この先、訪れるチャンスもあるだろう。

 

 
紀伊内原駅。
御坊の一つ前の駅で、又しても危うく降車しそうになる。
駅舎に味があって、何か引き寄せられるものがあったのだ。
でも御坊まであと一駅だったので、グッと踏み堪えた。ここで降りても何にもないだろうし、次の電車がすぐに来るとは思えない。一方、御坊駅まで行けば選択肢は複数ある。そのまま次の列車に乗り継ぐのは勿論の事、紀州鉄道に乗り換えることだって出来るし、降りて昼飯を食うと云う手だってあるのだ。

 

 
午前11時。
御坊駅で下車すると、既に乗り継ぎの電車が待っていた。

 

 
御坊も観光に来たことがないから迷うところだが、特に有名な観光地は無かった筈だ。そのまま11:03発の紀伊田辺ゆきに乗り継ぐことにした。

 

 
今までずっと同じタイプの車両だったが、やっと違うデザインの列車になった。

 

 
見ると、表示はワンマンとなっている。
いよいよ、ローカル感が出てきましたなあ。

 

 
だが乗ったはいいが、次の道成寺駅で発作的に降りてしまった。

 

 
駅は無人駅だった。
寂しくはあるが、それはそれで悪かない。
古びた平仮名のブリキみたいな柱用駅名標には似つかわしい。

 

 
道成寺といえば、紀州一の古拙であり、安珍・清姫伝説の寺として有名だ。
能や浄瑠璃、歌舞伎の演目として名高い『道成寺』『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)』『娘道成寺』の舞台となった場所なのだ。
僧の安珍に思いを寄せていた清姫が、裏切られて激怒のあまり大蛇に変化(へんげ)して追い掛け、道成寺で鐘に隠れた安珍を鐘ごと焼き殺すという物語だ。
けど、それだけ有名な寺にも拘らず、一度も訪れた事がない。その事に気づいて急遽、えいや❗と飛び降りたのだった。

 

 
まだ4月の前半なのに、もう藤の花が咲いてるんだね。
南だから、より季節が進んでいるんだろうね。

 

 
参道に入ってすぐ、「ニューふくすけ」なる店があった。

 

 
入口の素っ気ないダサさに、一瞬ひるむ。

 

 
しかし、こんな寂れた所では選択肢はそうない。短い参道の先は土産物屋ばかりに見える。
腹がとにかく減ってるし、ハズレもまた一興だと思って入ることにした。

入った横手に漫画本が沢山並んでた。こうゆう大衆的な感じの店って嫌いじゃない。本宮ひろ志の読んだことない漫画(註2)を持って席に座る。
ふらっと地元の店に入るこうゆうシチュエーションって、自分的には寧ろ旅情感があって好きなんだよね。旅の流れに素直に身を任せるのは、どこか心地良い。

メニューを開く。
 
 

 
思ってた以上にメニューが多い。そこが地元ならではかもね。
何でも作りますが、地元ニーズなのだ。
一瞬まごつくが、こうゆう時は素直であるべきだ。店員さんを呼ぶ。で、オバちゃんにお薦めを訊いた。
したら、チャンポンだと言わはるので、それに素直に従うことにした。この期に及んで自己主張なんていらないのだ。ここは柔軟に人の意見を聞くのがハッピーになるコツだ。経験上、それが正しいことの方が多いと知っているのだ。歳を喰うのも悪いことばかりじゃない。経験は正しい道筋を教えてくれる。

 

 
運ばれてきたのを見て、二重に引く。
器から溢れんばかりだ。その半端ない量に驚き、ちゃんぽんといえば長崎チャンポン的なものを想像してたから、餡かけ系茶色のピジュアルにも驚く。もう、想像してたものとは全然違う代物なのだ。衝動的にオバちゃんを呼び戻しそうになったよ。

具材はキャベツ、キクラゲ、人参、タケノコ、青ネギ、もやし、豚肉ってところだろうか。これで660円なんだから値段にも仰天だ。もし食べて死ぬほどマズかったら4重に驚きだなと半笑いで割り箸を割る。

 

 
箸で下から持ち上げるように混ぜたら、重っ❗ 麺がなかなか出てこない。
餡は粘り重め。であるからにして熱々だ。そして麺は細め。熱々の餡と絡み合っておる。チャンポンの概念を根本から破壊されたよ。食いきれんのかよ、コレ❓

食ってみると普通に旨い。誰が食っても旨いと云う安心、安全レベルの味だ。或る意味では、こうゆうのが個々人の究極の美味だったりもするのではないかと思う。旨い旨くないかは記憶とも連動する。地元でガキの頃に食ってたものって、大人になっても旨いと感じるからね。幼少期に過ごした町の、今は亡き肉屋のジャガイモとウィンナーのフライは有名で特別なものではなかったが、生涯において記憶の中で生き続けてゆくのだろう。ガキの頃、ホント好きだったもんなあ…。個人的には極めて特別なものだったのだ。

過去の思い出に日和っている場合ではない。この、人を怯ませるような大盛りは謂わば挑戦状みたいなものだ。だったら逃げるワケにはいかない。プライドが許さぬ。他人にとってはどうでもいいような小さな領域での、己のプライドを賭けた戦いが始まった。

(-_-;)……。
でも、食っても食っても減らない感がある。マジに手強い。
だが、ここで白旗をあげるワケにはいかない。根が真面目なゆえ、残すのは店の人にも悪いと思っちゃうんだよね。トランザム❗根性モードに、ギアONだよ。

 

 
麺を食いきったところで、ようやくフィナーレが見えてきた。
あとは人格崩壊の逆流噴射しないことに気をつけつつ、勝利に向けて確実に躙(にじ)り寄っていこう。

 

 
(´ω`)ふぅ〜、何とか食いきった。
でも、もう腹パンパンである。汁はスマン、(ㆁωㆁ)飲めましぇーん❗

店を出て、道成寺へと向かう。

 

 
横に何か七不思議的な立て札があった。
七不思議とゆうからに、あと6つこうゆうのがあるって事ね。

 

 
中々に立派な山門だ。
両側には、ちゃんと仁王様(金剛力士像)がおる。阿吽像だ。

 

 
口が開いてるから、阿形(あぎょう)様みたいだね。

 

 
コチラは口を閉じておられるので、吽形(うんぎょう)様だ。
えー、「阿吽の呼吸」の阿吽とは、こっからきてます。

ここにも立て札があった。

 

 
ふ〜ん。解ったような解らないような心持ちで境内に入る。

 

 
正面に本堂がある。
立て札のとおり山門と一直線に配置されている。
まあ、どこの寺でもそうだけど。

 

 
左手に、花の盛りは過ぎたが立派な桜があった。
近づいてゆくと、一陣の風が吹いて桜吹雪になった。風の悪戯に頬をゆるめ、佇んで空を仰ぐ。青空を背景に淡いピンクが舞い上がってゆく。
桜の樹ってのは、散るさまも美しい。改めて、こんなにも日本人に愛されてる理由がよく解る。今の日本人に、どこまであるかはわからないが、日本の文化の根底には美意識が強くある。美を見極める能力と、そこに「ものの哀れ」を感じ、自らの美意識と重ね合わせてきたのが日本人なのだ。今の政治家とか見てると、とうにそうゆう美意識は失われているのだと思わざるおえないけど。桜が散るが如く潔さが、まるでない。

 

 
一方、本堂横の枝垂れ桜は、とうに散ってしまっている。

 

 
そして、早くも八重桜が咲いていた。

 

 
本堂の奥には、千手観音が安置されている。

 

 
改めて伝説について説明しよう。
安珍・清姫伝説とは「道成寺縁起」とも呼ばれる天台宗道成寺にまつわる平安時代の伝承にして仏教説話。若き僧安珍と清姫の悲恋と情念を主題としており、能、歌舞伎、人形浄瑠璃(文楽)を筆頭に映画、小説、絵本など様々なジャンルの題材にされてきた話である。

安珍清姫の伝説の原型は、説話として古くは平安時代の『大日本国法華験記(法華験記)』『今昔物語集』に登場する。

時は醍醐天皇の御代、延長6年(928年)の夏の頃の事である。
奥州白河より熊野に参詣に来た若い僧がいた。この僧は名を安珍といい、大変な美形であった。旅の道すがら、紀伊国牟婁郡(現在の和歌山県田辺市中辺路:熊野街道沿い)真砂の庄司清次の家に宿を借りた。清司の娘、清姫は安珍を見て一目惚れ、女だてらに夜這いをかけて迫る。安珍は参拝中の身としてはそのように迫られても困る、帰りにはきっと立ち寄るからと騙して、参拝後に立ち寄ることなくさっさと逃げてしまう。
信じて待ちわびていた娘は、騙されたことを知って怒り、裸足で追跡、道成寺までの道中で追いつく。安珍は再会を喜ぶどころか別人だと嘘に嘘を重ねる。更には熊野権現に助けを求め、清姫を金縛りにした隙に逃げ出す。ここに至り清姫の怒りは天を衝き、遂には大蛇となりて安珍のあとを追う。
安珍は日高川を渡り、渡し守に「追っ手を渡さないでくれ」と頼んで道成寺に逃げ込む。しかし蛇と化した清姫は、火を吹きながら自力で川を渡って来る。慌てた安珍は梵鐘を下ろしてもらい、その中に隠れる。しかし清姫は鐘に巻き付き、やがて最後には業火で鐘ごと焼き殺してしまう。そして蛇の姿のままで川に入水自殺する。
その後、畜生道に落ちて蛇に転生した二人は、道成寺の住持のもとに現れて供養を頼む。住持の唱える法華経の功徳により二人は成仏し、天人の姿で住持の夢に現れた。実はこの二人はそれぞれ熊野権現と観世音菩薩の化身であったのである、と法華経の有り難さを讃えて終わる。
つまり、この話は法華経の力の喧伝を目的として作られたものと考えられている。ちなみに安珍・清姫伝説の内容については伝承によって相違があり、多くのバリエーションが存在し、その後日譚もある。

安珍と共に鐘を焼かれた道成寺であるが、四百年ほど経った正平14年(1359年)の春、鐘を再興することにした。二度目の鐘が完成した後、女人禁制で鐘供養をしたところ、女人禁制の場であるにも拘らず、一人の美しい白拍子(註3)が現れる。

 
(葛飾北斎の描いた白拍子)

(出典『Wikipedia』)

 
白拍子は優雅に舞い歌う。そして周りがそれにうっとりとしている隙をみて梵鐘の下へと飛び込む。すると鐘は音を立てて落ちた。慌てた僧たちが祈祷すると、やがて鐘は徐々に持ち上がり、そして中から現れたのは蛇体に変化(へんげ)した姿であった。白拍子は清姫の怨霊だったのである。蛇は男に捨てられた怒りに火を吹き暴れ、鐘供養を妨害しようとする。清姫の怨霊を恐れた僧たちが一心不乱に祈念したところ、その祈りに大蛇は堪えきれず、やがて川に飛び込んで消える。
そして、ようやく鐘は鐘楼に上がるのだが、清姫の怨念のためか、新しくできたこの鐘は音が良くない上に、付近に災害や疫病が続いたために山の中へと打ち捨てられた。
この後日譚をモチーフに作られたのが、能の『道成寺(どうじょうじ)』である。さらにこれを元にして歌舞伎の『娘道成寺』や浄瑠璃(文楽)の『日高川入相花王』、琉球組踊の『執心鐘入』などが作られた。
そういや、三島由紀夫の『近代能楽集』の中にも、この話を下敷きにした「道成寺」と題した短編があったな。
また上田秋成の『雨月物語』の中に『道成寺』を礎にしたと思(おぼ)しき『蛇性の婬』と言う話が載っている。

後日譚は、まだある。
さらに二百年ほど後の天正年間。豊臣秀吉による根来(ねごろ)攻め(紀州征伐)が行われた際、秀吉の家臣仙石秀久が山中でこの鐘を見つけ、合戦の合図にこの鐘の音を用いた。そして、そのまま京都へと鐘を持ち帰り、清姫の怨念を解くために顕本法華宗の総本山である妙満寺に納めたという。鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にも「道成寺鐘」と題し、かつて道成寺にあった件(くだん)の鐘が、石燕の時代には妙満寺に納められていることが述べられている。

 

 
二代目の鐘楼跡とゆうことは、今は三代目の鐘なのかな❓と思って探してみた。だが現在、この寺には鐘楼は無いようである。

 

 
とゆうことは、二代目以降、現在に至るまで何百年も鐘は無かったとゆうことか…。
後日調べたら、訪れて寺に鐘が無いことにガッカリする人が多いという。その気持ちも解らないでもない。自分も少しガッカリしたからね。でも、新たな鐘がまた清姫の怨霊を呼び寄せるかもしれないと考えれば、新調はできないよね。この現代社会においては、そんなの迷信すぎないと思うのは簡単だ。けれども、ここは故事を信じ、歴史って色々あって面白いと思う方が愉しい。古(いにしえ)に心を飛ばして、あれこれ想いを泳がすのも悪かない。

 

 
三重の塔の右横に写っているのは、安珍塚だ。
ここで安珍が焼かれたという。
にしても、何やらスゴいことになっている。木が蛇の如くノタ打ち回ってるようにも見えるし、清姫の怨念が昇華した姿にも思える。
見切れてるけど真ん中に安珍塚と彫られた石碑が建っていて、その傍には三代目らしき榁の木の生木がある。
けど、この画像じゃな。しゃあない。画像を探してこよう。

 

(出典『Wikipedia』)

 
立ち枯れた木は、榁(むろ)の木(註4)だそうである。あまり耳馴れない木だ。
初代の榁の木は約600年間生きた後に枯れ、二代目は約400年間生きて枯れたという。榁の木は枯れると「蛇榁」とも呼ばれるようで、ここに安珍と鐘が埋められていると伝えられているのも解る気がするよ。

 

 
あらら、安珍塚の下に鐘が埋まってるんじゃなくて、ホントは此処だったのね。にしても、どこまでが伝説でどこまでが史実なの❓
何だか頭の中がグチャグチャになってきたよ。

その隣には、姥桜の事と文楽の『日高川入相花王』について書かれてあった。

 

 
これを見て、ふと小学生の頃に講堂で文楽を見させられたのを思い出したよ。
アレ、驚いたよなー。めちゃんこ怖かったし。

 

 
コレが、突然コレですもん。

 

(出典『遊民悠民』)

 
小学生の度肝を抜くには十分だろう。

 

(出典『関西文化.com』)

 

(出典『bokete』)

 
インパクト、半端ないよね。

 
(護摩堂)

 
他の建物も謂れがありそうだ。
だが、もうチャンポン並みにお腹いっばいだ。深堀りするとロクな事がなさそうだ。触れずにおこう。

 
(稲荷神社)

 
足元に目をやる。
瓦を埋め込んだ敷石が美しい。

 

 
山門まで戻ってきた。

 

 
寺を辞する。

 

 
階段の先に参道が真っ直ぐに続いている。
こうゆう風景は好きである。旅情だ。心が何処までも伸びやかに翔ける。家々の趣きは違うだろうが、何百年前と基本的にはあまり景色は変わってないような気もする。少なくとも構図は同じだろう。

 

 
参道で清見オレンジと白干しの梅干しを買った。
どちらも紀州の名物だから、つい買ってしまった。
後日食ったら、両方とも🎯当たりだったけどもね。

駅まで戻ってきた。

 

 
駅舎に入って驚く。

 

 
行きは気づかなかったが、駅舎の上部には、こんなもんが掛かってたんだね。シュールだ。上から4番目なんて、謎の物体だ。清姫ちゃんの歪な心を具現化したものなのか❓全般的に可愛いんだか不気味なんだかよくワカンナイ(註5)。

プラットフォームにも変なもんがあった。
コレって、ヤバくなくね❓

 

 
掲示板らしいが、何も貼ってなくて不気味な青いシミがある。一瞬、清姫の怨霊が現代に甦って、その怨念を転写させたのではあるまいかと思ってギョッとしたよ。

そして、向かい側のプラットフォームには、別な不気味な絵もあった。

 

 
こっちはこっちで怖ぇ(Ⅲ  ̄(エ) ̄ )…。
特に2枚目の追っかけられてるのはヤバいよね。着物の上が蛇だけでも恐ろしいのに火を噴きながらで来られるなんてシチュエーションは絶対に泣くな(TOT)
清姫、どう見てもイカれポンチのストーカーじゃないか。だいたい、男がチラッとサービストークしただけで蛇になってまで追いかけ回すかね❓
流れでつい、我がの過去を振り返る。女性に追いかけ回された事は何度かあるけれど、幸い怨霊とか蛇にまでなられた事はない。キワキワの寸前ってのはあったけどね(笑)。
( ゚д゚)ハッ❗いや、笑い事じゃないぞ。見た目こそ蛇には化身していないが、心は修羅になってたと思(おぼ)しき例はある。一歩間違えれば、刺されてた可能性だってあったのだ。
彼女から、おかしなメールがあった。内容までは憶えてないけど、とにかく尋常でないメールがあって、仕事中にも拘らず慌てて彼女の部屋へ行った。
合鍵でドアを開けたら、暗い部屋に彼女が佇んでいた。顔が能面のように無表情で、本能的にこりゃヤバいと思って抱きしめた。彼女を宥め、同時に動きを封じるためである。
彼女の体には手応えが無かった。心が空っぽなのだ。
恐怖を感じた。そして彼女が潮来(いたこ)の孫娘であることを思い出した。今が空っぽの状態ならば、いつ何どき別人格が憑依するとも限らない。悪鬼に豹変して、もしかしたら刺されるかもしれないとマジで思った。
様々な考えが高速で頭の中を駆け巡る。明らかに異常な状態にパニックになりそうだった。だが、パニックは何としてでも避けねばならない。そうなれば、窮地から脱け出すは出来ないだろう。
抱き締めながら、冷静に包丁のある場所を反芻する。
確か台所の抽斗(ひきだし)にあった筈だ。問題はどうやってそれを排除するかだ。しかし、どうすればいい❓
その時だった。

『大丈夫。刺さないから。』

ギクリとした。
心が読まれていることに戦慄した。何が起こっているのだ❓
と同時に安堵も少しあった。刺されないのか❓待てよ、それは刺すという事も考えてたって事なのか❓再び頭の中がパニックになりそうになる。その言葉をどこまで信じていいのかはワカラナイ。安心させといてブスリといかれるかもしれない。メチャメチャ、彼女は頭がいいのだ。罠かもしれない。

出来るだけ平静を装って言った。

『何言ってんだよー。おまえさんが俺を刺す理由なんてないじゃないかあ。もー、心配させんなよー。』

そう言って、強く抱き締めた。
彼女の体に少し生気が戻った。その期を逃さず、体を起こしてニッコリ笑いながら頭を撫でてやった。
彼女の顔に表情が戻り、少し笑みが溢れた。
この時ほど、昔に役者をやってて良かったと思ったことはないよ。我ながら名演技だ。

体を解くと、彼女は急に『おしっこ、行きたくなった。』と言ってトイレに向かって歩き出した。
一瞬、そのスキに逃げ出そうかとも思った。しかし、それでは折角おさまりかけてる事態を再び悪化させかねない。しかも、もっと酷い状態に。
いや、或いはあの笑顔の裏には何かが隠されていたのかもしれない。事態は全然もって収拾してない可能性だってあるのだ。ならば、帰り際に背中からブスリといかれかねない。
トイレのドアが閉まったと同時に、音を立てずに素早く台所へ行く。自ら運命を切り拓かねば、危機は脱せられないと判断した。電光石火で抽斗を開けて包丁を取り出し、布巾に巻いて流しの下に放り込んだ。これで、たとえ彼女が刺したくとも直ぐには刺せない。探す間の時間が稼げる。もし彼女がエスパーならば、それも読まれて無駄だけどね。いや、抽斗よか数秒は稼げる。その数秒が運命を分かつかもしれない。100メータを12秒フラットで走れた男だ。ロケットダッシュすれば、何とかなる筈だ。

彼女がトイレから出てきた。まさかトイレに包丁を隠してたとかないよね❓緊張感が増す。

彼女の顔は普段に戻っていた。
それを見て、機を逃してはならぬと『俺、仕事に戻るわ。人、待たしてるし。』と言った。
そっから後の記憶はない。おそらく全集中で背中に神経を巡らせて部屋を出たのだろう。

他にも裏で悪鬼になってた女性はいるかもしれない。
そう考えると、紙一重の事だって無いとは言えない。
つくづく、安珍みたく焼き殺されなくて良かったよ。今のところだけど…。

                      つづく

  
追伸
驚いたのは、Wikipediaでググッたら、駅のプラットフォームの絵が違う絵だったことだ。

 

(出典『Wikipedia』)

 
一年に一回とか、絵を掛け替えてるのかな❓
にしても、どちらも色褪せてて相当に古いもののように見える。謎だ。

 
(註釈1)特急くろしお
主として新大阪駅(一部京都駅発)〜新宮駅間を走る特急列車。
停車駅は、新大阪、天王寺、日根野、和歌山、海南、御坊、紀伊田辺、白浜、周参見、串本、古座、太地、紀伊勝浦、新宮。
一部の列車が西九条駅、和泉府中、和泉砂川、箕島、藤並、湯浅、南部の各駅にも停まるようだ。

 
(289系)

(出典『Wikipedia』以下、同)

 
6代目になるのかな?…、現在はこの289系が走っているようだが、自分の中での「特急くろしお」のイメージはコレかな。

 
(485系)

 
2代目である。
ちなみに初代はこんなん。

 

 
2代目は初代のカラーリングを継承しているんだね。
以下、3代目から5代目までを並べておく。

 
(381系)

 
(283系)

 
上は、いわゆるオーシャンアローと呼ばれていた車両だ。
下は、たぶん貫通型だね。

 
(287系)

 
下は🐼パンダ仕様だ。白浜アドベンチャーワールドにはパンダがいるからね。しかも沢山。マジでイッパイおる。しかも客は多くないから、ゆっくり見られる。上野なんかに行くならば、金使ってでも白浜に行く方をお薦めする。
ちなみにパンダの本当の眼はタレ目ではない。真ん中は完全にクマ目でしゅ。この電車みたく、笑ってねーからな。

 
(註2)本宮ひろ志の読んだことない漫画
『まだ、生きてる…』のこと。


(出典『manga‐diary.com』)

 
バカにされながらも38年間コツコツと家族のために働いて来て定年を迎えた60歳のサラリーマン岡田憲三が家に帰ると、家族が消えていた。妻は全財産を持ち逃げし、息子や娘とも音信不通となる。この仕打ちに生きることに未練も希望も失くした岡田は、自らの人生の幕を閉じようと故郷の山奥で首吊り自殺を図る。だが、木が折れて命拾いする。そこからオッサンの山中でのサバイバル生活が始まり、オッサンの生き方が180度変わってゆき、人生も変わってゆくというお話。
本宮ひろ志らしく、途中からどんどん破天荒な展開になってゆく。本宮ひろ志の作品って、話のスケールがデカくてロマン溢れるものが多い。だから惹かれる。でも風呂敷をデカくし過ぎて尻すぼみになる事も多いんだけどね。この作品は最後まで尻すぼみにはならないから、隠れた名作とも言われているようだ。

 
(註3)白拍子
平安時代末期から鎌倉時代にかけて起こった歌舞の一種。及びそれを演ずる芸人、遊女。

 
(註4)榁(むろ)の木
ネズ、ネズミサシ(杜松、学名: Juniperus rigida)の古名のこと。
ヒノキ科ビャクシン属に属する針葉樹で、他にムロ、モロノキの別名かある。

 


(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
杉とか桧みたいだね。

英名は、temple juniper、needle juniper。
訳すと『寺のジュニパー』『針の如きジュニパー』。
ところで「juniper」って何だっけ❓聞いたことがあるぞ。たしかジュニパーベリーって言葉があったよな。
(☉。☉)!あっ、蒸留酒のジンだよ。あのジントニックとかジンライムのジン。その独特の香りづけにジュニパーベリーが使われてた筈だ。杜松(ねず)の実とも書いてあった。ならば、間違いなかろう。
確認したら、✌️ビンゴだった。ヨーロッパのものは、セイヨウネズノミとあった。

余談だが、和名はネズの硬い針のような葉をネズミ除けに使っていたことから。「ネズミを刺す」という意で「ネズミサシ」となり、それが縮まったことに由来する。
も一つ余談だが、樹齢600年とか400年といってるわりには小さな木だなと思ってたけど、この榁の木ってのは元々が低中木で、バカみたくはデカくならないそうである。

 
(註5)駅舎の安珍と清姫伝説の絵
最初は地元の小学生とか中学生が描いたのだろうと思ったが、よくよく見るとプロっぽい。調べてみたら、島嵜清史氏という宮崎県を拠点に活動しているアーティストの作品でした。

 

青春18切符1daytrip春 第三章(2)

 
 第ニ話 沈黙の街

 
 2020年 4月8日 後編

午後2時前にはギフチョウが全く飛ばなくなったので、離脱する事にした。

またバスには乗らず、えっちらおっちら1時間ほど歩いて西脇市駅まで戻ってきた。
はてさて、次は何処へ行こうか❓青春18切符なんだから、JRの急行・特急列車以外ならば今日中は乗り降り自由だ。風まかせなのだ。
「風まかせ」かあ…。何て素敵な言葉ざましょ。

路線図を見る。

 

 
(☉。☉)あっ、加古川に戻らずにそのまま北へ行けば丹波や福知山まで行けるじゃないか❗ 加古川線は福知山線と繋がってるんだね。全然、知らなかったよ。という事は前回は相野駅で引き返したけど、その先にも行けるということだ。そう、リベンジできるのだ。
しかし帰りは三田・宝塚経由で大阪へ帰るワケだから、その部分はリピートになる。それは飽き性のオラにとっては苦痛だ。
やはり加古川駅まで戻ろう。そっからどうするかは、またその時になって考えよう。何たって「風まかせ」なのだから。

加古川で、まだ一度も食べたことのない名物の「かつめし」でも食おうかとも思ったが、大阪方面の列車がタイミングよくやって来たので、つい乗ってしまった。

 

 
で、明石駅で降りた。
明石なんて何度も来てるから物珍しくもないのだが、食いもんの魅力には勝てなかった。明石といえば魚の棚という🐙タコの歩くことで有名な商店街があり、美味いもんだらけなのだ。明石の蛸や鯛は全国ブランドだし、穴子だって有名だ。そして、明石焼きもある。寿司だって当然の如く美味い。

 

 
時刻は午後3:51。
中途半端な時間だ。ランチはとっくに終わってるし、夜の営業まではまだ早くても1時間ちょっと、多くの店が開くのは2時間後だろう。
それはそうと、駅のホームの屋根の天井なんて普段は全く気にしてなかったけど、結構面白い構造になってんのね。

 

 
外に出て、取り敢えず魚の棚方面へと歩き出す。
一瞬、🐙たこフェリーに乗って淡路島まで行ったろかいと云う考えが頭をよぎったが、この時間ではどう考えてもヤンチャ過ぎる行動なので引っ込めた。オラも大人になったもんだ。ハチャメチャ度は、だいぶと減ってる。

 

 
驚くべき事に、いつもは多くの人で賑わう商店街はガランとしていた。何事かと思ったが、ひと呼吸おいてから漸く事態が呑みこめた。
昨日、2020年4月7日に安倍総理が東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に対してコロナウイルスの緊急事態宣言をしたのだった。

\(°o°)/ゲッ❗、いつも行列になってる老舗の明石焼き屋『たこ磯』の前にも誰もおらん❗❗そんな光景は見た事ないから、現在の状況が如何に異常なのかがよく解る。得体の知れないウィルスへの人々の怖れは、予想以上に大きい。これは中国発祥というのも怖さに拍車をかけているのかもしれない。何てったって段ボールでニセ肉団子を作って売るような事が横行する国なのだ。何をやっててもオカシかない。

 

  
看板が明石焼ではなく玉子焼となっているが、明石周辺から東播磨、及び神戸市西部辺りまでは元来そう呼ばれている。他の地域では、普通の玉子焼きとの混同を避けるために明石焼と呼ぶようになったのだが、そっちの名前の方がいつしか全国的にポピュラーとなっていったようだ。だから、きっと明石市民は怒ってるよね。謂わば偽モンが大手を振って偉そうにしているようなものだもんね。ゆえに昔からある老舗は、皆「玉子焼」と云う看板のままだ。プライドがあるのだろう。でもさあ…、仕方ないよね。「玉子焼」だと、殆んどの人に一々説明しなきゃならないもんね。

明石で明石焼きを食ったのは、いつの事だろう❓
もうかれこれ20年くらいは食ってない気がする。並ぶのは大嫌いだし、明石なら他に旨いもんはいくらでもあるのだ。また明石じゃなくとも、旨い明石焼き屋を食わす店はいくらでもあるのだ。
それに昼網といって、その日の朝に獲れた新鮮な魚介類が昼間には商店街に並ぶのだ。申し訳ないが、勿体なくて明石焼きなんぞ食ってるヒマはない。
しかし今は事情が違う。寿司屋も居酒屋も閉まっておるのだ。そして、並ばずに「たこ磯」に入れるとゆうのも稀有な状況である。もう今しかないとゆうタイミングなのだ。

 

 
入ったら、客はひと組だけでガラガラだった。

 

 
と思ったら、直ぐに帰ってオラの貸切り状態になった。
変な感じだ。人気店が何ぞやらかして閑古鳥なったと知らずにやって来た客みたい気分だ。

メニューには定番の蛸入り15個(700円)の他に穴子入り(880円)や両方入ったミックス(1050円)がある。
ミックスも捨て難いが、蛸入りのノーマルをたのむ。明石焼き如き、もとい、おやつ的なものに千円以上払うのは抵抗感がある。700円でも高いくらいだ。その金で定食が食える。それも明石なら、かなりコスパが高いもんが食える。だから明石焼きは普段は選択肢に入ってこないのだ。

客が他に居ないから、あまり待たずに運ばれてきた。

 

 
奥にある徳利みたいな器に出汁が入っている。

 

 
左の器に出汁を移す。薬味はネギのみだ。
えー、お約束で本体の乗っている板が傾いとります。理由は何となく知ってるが、自信がないので、あとで調べよう。

 

 
運ばれてきた時点で、明石焼きを知らない人でもタコ焼きとは別次元のものだとお解り戴けたかと思う。
とはいえ、説明が必要であろう。

一応言っとくけど、本体そのものもタコ焼きとは一線を画しておる。見た目が似ていて、中にタコも入っているが、タコ焼きとは完全に別物である。そもそも形も丸ではなく半円形だ。中身も違うが、それは後で説明する。
歴史も古く、江戸時代の終わり頃には既にあったようだから、むしろコチラが元祖だろう。タコ焼きが発明されたのは、1933年(昭和8年)〜1935年頃だと言われてるからね。ラジオ焼きを改良し、従来のこんにゃくの代わりに醤油味の牛肉を入れて肉焼きとして販売。その後、タコと卵を入れる明石焼にヒント得て、牛肉ではなくタコを入れるようになった云う説が有力のようだ。つまりラジオ焼きと明石焼きを両親に派生したのがタコ焼きであろう。謂わば明石焼きはタコ焼きのルーツでもあるワケだ。
御託はこれくらいにして食おう。

先ずは何もつけずに食う。
タコ焼きと違って柔らかい。味は小麦粉の入った玉子焼きだ。
次に出汁につけて食う。

 

 
明石焼きといえば、この味だね。やっぱ出汁あっての明石焼きだよね。安定、安心の味だ。

目の前にソースもあったので、つけて食う。
ちょっと味がタコ焼きに近づく。これはこれで有りだろう。
そういや思い出したよ。地元の人はソースつけて出汁にくぐらせて食うんだったわ。違和感はあるが、試してみよう。

あっ、コレも有りだな。
以後、出汁のみ→ソース→出汁ソースのローテーションを組んで食っていく。
\(•‿•)/ごちそうさんでしたー。

さっきの明石焼きについての説明だと不充分な気がするので、補足説明しておこう。

大阪のたこ焼きと異なる点は、以下のとおりである。

①卵をたっぷりと使うため色が黄色い。また、短時間で焼き上げられ、表面をカリカリに焦がすことはない。
また、基本的にタコ焼きみたいに生地に生姜や天かす、干し海老は入らないし、青海苔を上から掛けられることもない。

②小麦粉以外に浮粉や沈粉(じんこ)を使うので、生地がふわふわで柔らかい。

③焼器が銅製で、熱伝導率が良い。また窪みはたこ焼き用よりも浅く、球形にはならなくて、半円形に仕上がる。
裏返す際に銅製の焼器を傷つけないよう、金属製の道具を用いずに菜箸を使う。

④まな板状の木製板に盛り付けられ、添えて出される出汁に浸して食べる。

店舗によって材料がやや異なり、小麦粉を全く配合しない店舗もあるため、店舗ごとに味や柔らかさが変わるという。
焼く際に焼き器にひく油に胡麻油を用いる店舗がある。店によっては、タコ以外に同じく明石名産の穴子を入れているところもある。
出汁は熱い玉子焼を冷ますのが本来の目的だったが、現在は温めた出汁を提供する店が多い。温かい出汁を用いるようになったのは比較的新しく、1963年頃に神戸元町の店が始めたのが最初であるという。だし汁に薬味として三つ葉を浮かべるのも上記の店から広まったスタイルである。

まな板状の上げ板は手前が低く奥が高くなっている。これは皿の洗浄の際に同方向に重ねると水切りが良くなるためや、奥の柔らかい玉子焼が取りやすいためなどの諸説ある。補足すると、玉子焼が柔らかくて崩れやすく、又たこ焼きとは違い千枚通しを使わないゆえに焼き器から取り出しにくいため、焼き器の上に板をかぶせ焼板ごと裏返して乗せる。板に持ち手がついたために今のような形になったとも言われている。
Wikipediaを参考に書いてみたが、自分で書いてても分かりづらいよね。スマン、ワカラン人は2回読んどくれ。

魚の棚を少し歩くことにした。
したら、客が少ないせいか、各店舗の売り込みが半端なく激しい。しつこくて強引なのだ。明石人って、こうゆう人種だったっけ❓
にしても、気迫スゴ過ぎてウザい。その気迫と強引さは、気の弱い客には効力を発揮するだろうが、ワシみたいな気の強い人間には寧ろ逆効果だ。どんだけ安くなっても、死んでもオマエからは買うたるかい、ボケ(-_-メ)となる。

そういえば、この時は八百屋で百合根を買ったんだよね。たしか4個で35円という信じられないくらい破格の値段だった。百合根って、自分の中ではどうでもいい存在の野菜なんで、普段買うことは全くと言っていいほどないけど、思わず買っちゃったよ。

 

 
夕暮れ前、明石駅まで戻ってきた。
さて、次は何処へ行こうか。

  

 
元町駅で下車する。
時刻は午後5時。一日の終わりの始まりだ。

 

 
南京町。いわゆる中華街にやって来た。
目的は『老祥記』の豚マンである。ここの小振りの豚マンが死ぬほど旨いんである。千個くらい食える(ウソ)。
あっ、参考までに言っとくと、関東で言うところの「肉まん」は関西では「豚まん」と呼ばれている。
東京に住んでいる時に、東京生まれの彼女が半笑いで、
「豚まん❓肉まんでしょ❓それ何〜、受けるぅ〜。」と言われた時には半ギレになったね。

じゃかわしわー、おんどれ。豚の肉、使こうとるから豚まんやないけー❗コッチの方が正確に言うとんのじゃあ〜、ボケー❗❗

そう言うたら彼女、半ベソで固まったとったわ。横浜中華街のワシの四方3メートルの空気が凍りついたがな。
まあ、すかさず肩を優しく抱いて『冗談。冗談に決まっとるやないけー。』とフォローしといたけどね。服の上からオッバイ揉んで『ゆるせよー。』とも言った。
ワシのエロ話なんぞ、どうでもよろし。先を急ごう。

 

 
街は黙りこくっている。人っ子、一人いない。
中華街も普段は人でごった返しているのに全く人影がなく、死んだように静かだ。一瞬、時間が逆行して早朝にでもタイムスリップしたんじゃないかという錯覚に陥る。魚の棚商店街の静けさにも驚いたが、中華街ならば少しは人もいるだろうと思ってたから衝撃的だ。コロナの人に与えている恐怖、恐るべしである。
となると、もしや『老祥記』も閉まっているのではと不安になり、足早に歩く。

 

 
\(◎o◎)/ゲゲッ、閉まっとるぅー❗❗

 

 
何とコロナウイルスのせいで、営業時間が縮小変更になっとるやないけー。此処で豚まんを買いたいがために降車したのに、まさかの展開である。あちゃー、どうする❓どうする❓

 

 
南京町で一番の老舗『民生』は、やっていた。
しかも並んでる人はゼロ。この店もいつも長蛇の列で、こんな状態を見るのは初めてだ。
ここの「イカの天ぷら」がメチャメチャ美味いことを教えてくれたのは、小悪魔を通り越した大悪魔のRちゃんだった。そして、彼女が1番美味しい店を知ってる娘でもあった。彼女が連れてく店はどこも旨くて、唯一無二の個性的な店ばかりだった。

 

 
昔は、こんな看板なんて無なかったけど、コレって逆に名物として浸透した証なのかもしんないね。
これを見て、生唾が出た。外側はカリッ、中は柔らかいという絶妙の火入れで、イカの甘みがスゴイんだよなあ。何せイカは最も美味で甘いとされるアオリイカだかんね。

でも、やめておくことにした。一人で食べるには量が多いし、値段も高いのだ。大で2900円。小でも1800円もする。ビールをグビグビいって食ったら、悶絶級に美味いことを思い出したが、グッと踏み堪えた。
此処は誰かと来て、喜びを分かち合うべき店だろう。飽き性だからイカばっかだと辛いものがある。
少しでもガッカリするような要素があるならば、行かない方が賢明だ。またの機会に取っておこう。

あらら、アテが外れて難民化しつつあるやないの。
次に頭に浮かんだのは、絶品の海老ワンタンの入っている香港汁そばだが、何年か前に忽然と消えちゃったんだよねぇ。

取り敢えず、進路を駅へと戻そう。
歩いていると、行列が出来てる店が目に入った。

 

 
写真を撮ってる間に二人も並ばれた。

 

 
コロッケで有名な『森谷商店』じゃないか。いつの間にか改装してキレイになってるのね。だから気づかなかったのか。
前回も相野駅の『肉のマルセ』でコロッケ等の揚げ物を買ったから連続ではあるが、何か無性に腹減ってきたから列に並ぶことにした。前に二人並ばれたのも癪に触ったところもあるのは否めないけど。我ながら、一々負けず嫌いで反応するのは器の小さい証だと思う。

 

 
コロッケとミンチカツを買った。もちろん麦系あるこほる飲料の確保も怠らない。

 

 
これはコロッケ(90円)だね。
旨い。安くて旨いから行列が出来るんだね。でもオカンのコロッケを越えるものはないのだ。

 

 
そして、コチラはメンチカツ(130円)だ。
スゲー旨い。小さい頃はハンバーグの出来損ないみたいで、あまり自分の中では評価は高くなかったが、今は大好きだ。ハンバーグよりも好きかもしれない。それはそうと、ホントはミンチカツが正しいのにメンチカツってのは厳密主義者には耐えられんだろな。世の中からその名称をモーレツに駆逐したいに違いない。でもメンチカツはずっとメンチカツのままでいてもらいたい。もしも全国名称統一運動が勃興したとしたら、わしはレジスタントとして最後まで徹底抗戦する所存だ。ミンチカツなんて平板過ぎてツマランじゃないか。

 

 
午後5:45、元町駅まで戻ってきた。
次は何処へ行こうか❓考えが纏まらないうちに改札内に入り、来た電車に乗った。

午後6時半。

 

 
黄昏の淡い光の中で、ぼおーっと滲んだように爛漫の桜が咲いている。この時間帯に見る桜も美しい。

天の邪鬼な性格だから、もう一度加古川駅まで戻って「かつめし」を食うたろかと云う考えもよぎった。しかし、正直そこまでして食べたいものではない。加古川市の郷土料理「かつめし」って、洋皿に盛ったご飯の上にビフカツ(または豚カツ)をのせてドミグラス風のタレをかけ、茹でたキャベツを添えただけのものなのだ。つまり、メチャメチャ特別なものではなく、容易に味の想像がつく。新しい食べたことがない食いもんは、アバンギャルドな方がそそられる。良くも悪くも想像がつかないものの方が面白い。
そうゆうワケだから大阪方面ゆきの電車に乗った。けど何か他にアテがあったワケではない。このまま京都や滋賀辺りまで行ったろかいとも考えたが、コロナのせいで店が閉まってる可能性が高い。南京町でアレだったからね。とゆうことは、よく行く天満や福島の店も閉まっているかもしれない。それにさっきコロッケとメンチカツを食ったばかりで、腹も空いてない。それで急遽、桜ノ宮駅で夜桜を見ようと思い立ったのだ。桜ノ宮から中之島・淀屋橋方面を流れる大川は両側に桜が植えられており、桜の名所だからね。

 

 
ごった返してるとゆうことはないが、それなりに人はいた。
考えてみれば、ここの桜をわざわざ見に来たことはないような気がする。夜桜なら、尚更だろう。
桜っていいな。年々そうゆう思いが募ってきてる。

 

 
7時過ぎ。駅まで戻る。

 

 
駅構内は昔と随分変わっている。
昔は壁にズラリとピンクの木のベンチが並んでいたのだ。
「桜ノ宮」だからピンク色なのだが、昔はラブホテルも沢山あったから、中高生の頃は妙にドキドキしたものだ。カップルが降車したら、お前ら今から行くんやろと思ったし、乗ってきたカップルはお前らヤッテきただろと思ったものだ。中高生は、頭の中がエロでパンパンなのだ。

 

 
7時45分。
難波駅まで帰ってきた。
結局、天満にも福島にも行かずに真っ直ぐ帰ったのだ。店が開いてるかどうかもワカランし、腹もあまり減ってなかった。それに緊急事態宣言が発令されてるのに行くのは憚れたからだ。となると、無理して行く理由がない。

改札を出て、家に向かって歩きかけたところで、ふとミナミはどうなっているのだろう❓と思った。大阪人はアホだから、明石や神戸と違ってアホな若者と馬鹿オヤジで溢れているのではないかと思ったのだ。

 

 
しかし予想に反して、あの道頓堀の引っ掛け橋(戎橋)も心斎橋も殆んど人がいないゴーストタウンと化していた。
驚きを隠せない。こんなミナミ、一度だって見たことがない。
無敵の大阪人の動きをも止めてしまうコロナ、恐るべしである。世の中、エラい事になっているのだと実感した。

見上げると、夜空には煌々とした月があっ在った。不思議な感覚に襲われ、時空が歪んだ世界に取り残されたかのようだった。
 
                         つづく

 
追伸
道頓堀の画像は実を云うと、後日の4月20日に撮ったものである。8日は衝撃的過ぎて写真を撮るのを忘れたのだ。
でも、8日も状況的には同じだったから、まあこうして後で事実を書けば問題ないと判断して使わせて戴いた。自民党の嘘つき政治家とは違うのだ。
それはさておき、驚いたのは2週間近く後でも状況は同じだったと云う事だ。みんな通達を守って不要不急の外出は控えてたのね。

これを書いているのは、翌年の2021年 2月2日なのだが、再び緊急事態宣言下に置かれている。しかし、ミナミの街はゴーストタウンにはなっていない。

 

 
コロナ以前よりも人混みは少ないが、去年の4月に比べると遥かに増えているのは明白だ。
みんなコロナに対して慣れてきたんだろね。コロナ疲れもあるんだろう。ずっと家に籠るワケにもいかないのだ。アタマがオカシクなっては元も子もない。マスクなしで大声で喋ってるノータリンでもなければ問題はなかろう。
しかし去年の状態が2週間続いていれば、もっと早期にグッと感染者数は減った筈だ。個人的な意見としては、外出制限が弛ければ弛いほど収束、終息?が収まるのは遅くなると考えてる。だから緊急事態宣言を一ヶ月延ばすくらいなら、いっそ2週間に限定して強権発動で徹底的に外出を規制した方がいいのではないかと思う。その方が経済活動の再開も早まるだろう。
政府のやる事は何かにつけてタルい。有事の時に決断力がないリーダーってクソだ。

閑話休題。

この日、明石で買った百合根は鯛の子と一緒に玉子とじにした。

 

 
百合根は茶碗蒸しに入ってるのを食べるくらいで、あまり馴染みがない。正直、茶碗蒸しの構成員としては邪魔なものだ。一刻も早く退去してもらいたいと云うのが本音だった。見てくれは玉ねぎなのに、食感は全然違うジャガイモっぽいのが許せない。あの違和感と騙されたような気分には、軽くイラッ💢とくる。
しかし、今回で開眼した。茶碗蒸しに入ってるのは量が少ないから違和感を残したままでフェイドアウトしてゆくが、大量に食うと趣を異する。次第に違和感が薄れ、百合根本来の味が解ってくるのだ。脳が百合根とシッカリと認識さえすれば、脳に混乱は起きない。言ってしまえばデンプン質で、ジャガイモに近いものなのだ。ジャガイモは好きだから、そうとわかれば受け容れるのは早い。

 

 
最後は百合根丼にしたけど、美味いじゃないか。
ワタクシ、苦節ウン十年、完全に百合根ファンになりました。

すっかり忘れてた。えーと、今回の正規運賃を並べておきます。

JR難波➡西脇市 ¥1980
西脇市➡JR明石 ¥990
JR明石➡JR元町 ¥600
JR元町➡桜ノ宮 ¥560
桜ノ宮➡JR難波 ¥370

                  計 ¥4500

前回、青春18切符の値段を4回分で¥5000と書いたが、もしかしたら¥6000だったかもしれない。
何れにせよ、¥1250か¥1500だから、3千円以上は安く上がったってこってす。

次回、最終章です。

 

青春18切符1daytrip 春 第二章(4)

 
  第四話 流浪のプチトリッパー 後編

 

  2020年 4月6日

丹波にも福知山にも行かず、戻って三田駅で降りた。
そして、例年通りの王道コースを踏襲することにした。ご機嫌になる事が確実な選択を知ってて、むざむざそれをスルーするなんてバカバカしいと思ったのだ。どうせこの時間に田舎町の丹波に行ったところで、情報ゼロゆえ路頭に迷うのがオチだ。それでも行こうなんてのは真正M男である。オイラ、基本的にマゾっ気はないからね。マゾ的思考になる時は窮地に陥った時だけだ。状況を愉しむしか精神の平衡を保てないから、そうしてるだけにすぎない。

 

 
先ずは銭湯へ行く。極楽気分になる為のステップその1だ。
三田駅から10分ほど歩いたところに三田市唯一の銭湯『しんち湯』がある。数年前に廃業のピンチがあったそうだが、お客さん達の強い要望で何とか存続になったと聞いている。

梅の暖簾が粋だね。
ここの銭湯、昭和レトロな雰囲気があって好きなのだ。周囲の町並みの雰囲気も、そこはかとなく鄙びた感じが漂っていて落ち着く。

 

 
この小ぢんまりとしたところもいい。

 

 
湯船は中央にある瓢箪型のみしかないけれど、レトロで昭和ロマンの香りがある。こうゆう形の湯船はあまり見たことがないから相当に古そうだ。昭和でも比較的古い時代のものだろう。
それに比して、蛇口は白と赤のゴルフボールでボップだ(画像を拡大されたし)。そして壁面上部はキッチュ。普通の銭湯画ではなく、トタン板に何やらシュールな生物どもが貼り付けられておる。おそらく深海生物、いや太古の昔の原始生物だろう。悠久の世界観ですな。空間で小さな宇宙が展開している。

客はワシ一人の貸し切り状態だ。気兼ねなく湯船で大の字になって浮かぶ。
重力から開放され、四肢がゆるゆるとほどけてゆく。
スッゲー開放感。やっぱ銭湯って最高だよ(≧▽≦)❗

銭湯では、たっぶり1時間過ごした。スーパーリラックスで夕暮れ間近の外へ出る。目に見える風景全てが優しく見える。

少し駅の方向へと戻り、お目当ての居酒屋へゆく。
極楽気分になる為のステップその2だ。

 

 
大通りを少し入ったところにある『うまいもん酒房 和来(わらい)』。
四、五年前だろうか、三田でギフチョウを採って「しんち湯」に入った後、酒でも呑もうと思ってうろついてて偶然見つけた店だ。それ以来、毎年この時期にだけ訪れてる。中々良い店で、近所にあったら絶対に通うのだが、三田なんてギフチョウを採りに来るくらいしか用がないから、どうしてもそうならざるおえない。だが、完全に年中行事にはなってる。もはやギフチョウと銭湯とこの店がセットになっていて、優先順位に優劣なく、均衡を保っている。

時刻は、まだ5時40分。どうやら自分が最初の客らしい。
一番最初の客は嫌いじゃない。

「僕は店を開けたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだキレイで、何もかもがピカピカに光ってて、客を待ってるバーテンが髪が乱れていないか、蝶ネクタイが曲がってないかを確かめてる。酒の瓶がキレイに並び、グラスが美しく光って、バーテンがその晩の最初の一杯を振って、綺麗なマットの上に置き、折りたたんだ小さなナプキンをそえる。
それをゆっくりと味わう。静かなバーでの最初の静かな一杯、こんな素敵なものはないと思ってる。」

ハードボイルド小説の金字塔、レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(註1)』の一節を思い出した。大学生の頃に暗記したのだが、今でもこうして諳(そら)んじることができる。ただし、語彙の一部は自分なりの言葉に微妙に変換されてるけどね。
この小説には、他にも粋な言葉が数多(あまた)散りばめられており、このセリフのすぐ後にも名文句がある。
「アルコールは恋に似てるね。初めてのキスには魔力がある。二度目にはずっとしていたくなる。だが三度目にはもう感激がない。あとは服を脱がせるだけだ。」
話が逸れた。戻そう。

ここは勿論バーじゃない。居酒屋だ。けれど開店直後の店の空気はまだキレイであり、独特の清新さがあることには変わりはない。

カウンターに座ると、目の前に「ワンピース」のフィギュアが並んでいる。

 

 
数は年々確実に増えているようだ。現在進行中の「ワノ国編」の登場人物もいるしね。ワンピースのストーリーは同じパターンの繰り返しで、どのエピソードも結局のところ少年ジャンプ的ヒエラルキーだから飽きているのだが、アニメの方だけはまだ継続して見ている。どうせルフィーは、もう1回くらい四皇の一人であるカイドウにボゴボコにされるだろうけど、最終的には勝つに決まってるからね。

先ずは「5種造り盛り」¥1000から頼む。

 

 
何だこりゃ❓
画像を見ても全然メンツが思い出せない。マズイな。

あっ、でも探したらメニューの写真を撮ってあったわ。

 

 
酒のアテの欄がソソるねぇ〜(´▽`)
如何にも左党が好みそうなアイテムが並んでいる。店主も酒好きなのが如実に現れているラインナップだ。そういや初めて来た時は、通が喜ぶ「鯖のへしこ」なんかもあったな。アレはもう無尽蔵に何ぼでも酒が呑めるのだ。あっ、そうだ。酒といえば、この日に飲んだ酒の事も書いておこう。
(・o・)ありゃ、でも酒関係の写真を一枚も撮ってない。まあいい。どうせビールから始まって芋焼酎のロックへと移行したのであろう。こうゆうアテの美味い店ならば、大体のパターンは決まっておるのだ。せいぜいどこかで日本酒を挟むくらいしかバリエーションは無い。チェーンの居酒屋では、ビール飲んでから酎ハイレモンとハイボールを延々飲んでるけどもね。旨い料理には敬意を表して酒を選ぶが、どうでもいいような食いもんの時には、ただ酔えればいいって感じのチョイスになるのだ。

このメニューの刺身の項から類推すれば、左のサーモンみたい奴は桜マスだろう。
桜マスは渓流魚のヤマメの降海型で、鮭みたく海に下り、デカくなって川に戻って来た奴だ。尚、桜マスの名前の由来は桜の咲く頃に川を遡上するからという説とオスがメスの産卵期が近づくと体が桜色になるから(婚姻色)という説がある。
西日本では五月(サツキ)マスと呼ばれ、こちらは亜種であるアマゴの降海型である。また、海ではなく琵琶湖に下るアマゴもいて、ビワマスと呼ばれている。これら全部をひっくるめてもサケ科の中では漁獲量が最も少なく、珍重もされている高級魚だ。日本では古来から食べられており、「鱒(マス)」といえばこの魚の事を指していた。

サツキマスとビワマスは何度か食べた事があるけど、サクラマスって食った事あったっけかなあ❓多分、あったとは思うけど。

画像を再度見て、舌の記憶が甦ってきた。味の印象はサツキマスやビワマスとほぼ同じだったと思う。どちらも美味です。身は柔らかく、甘みと旨みが強いのが特徴だ。それでいてサーモンみたく味はしつこくなく、舌にベタベタと残らない。キレが良く、どこか上品さがあるのだ。

その奥の赤いのはマグロはマグロなんだけど、その脳天。脳天といっても脳味噌ではなくて、頭の頂部の両脇にある身で一匹の鮪から2本しか取れない希少部位である。上から見れば、漢字の「八」に見えることから、別名「八の身」とも言われてるそうだ。
マグロ(本マグロ)の頭は全体的に脂が乗っており、味はトロに近いのだが、脳天はどうじゃろう❓
あっ、味はトロだが、トロよりも弾力がある。よく動かすところなのか筋肉質で、トロの甘みの中に赤身のコクも混じってて、めちゃんこ美味い。

真ん中は生のホタルイカ、右手前の白身はイサキだろう。となると、その奥は消去法でシマアジとゆう事になる。
画像からするとイサキの質が高そうだ。けど、あまり記憶にない。逆に不味かったら記憶に残るだろうから、目を見張るほどではないが、そこそこには旨かったのだろう。

お次は「春野菜天ぷら盛合せ」¥550をチョイス。

 

 
一番左端の黒緑色なのがワカラン。大葉?ワサビ菜?
その横はウルイだね。その隣もワカランが、若ゴボウかなあ?
で、タケノコ、コゴミときて、右下はフキノトウかな。
多分、塩で食ってるな。天つゆを否定はしないが、甘ったるいので殆んど使うことがない。それに何食っても天つゆ味になりがちで味を壊しかねない。繊細な春野菜ならば、尚更だ。塩のみで食ってる確率は、100%だろう。
塩は藻塩かなあ…、自信ないけど。とにかく普通の塩ではないだろう。
不満は特にないが、ここに山菜の女王コシアブラがあればなと思う。山菜で一番美味いのはコシアブラだからね。

 

 
これは「なめろう ¥400」だな。
基本はアジ、サンマ、イワシなど青魚の刺身に味噌、生姜、ネギ、大葉、ミョウガ等を加えて細かく包丁で叩いて混ぜ合わせたものだ。
元々は房総の郷土料理で「皿まで舐めるくらいに旨い」というのが由来だったかな。
日本酒や焼酎のロックを飲みながらチビチビ食うのだが、酒バカエンドレスになるアテだ。由来に恥じないくらいに旨かったという記憶がある。

(・o・)んっ❗❓改めて画像を見て思った。
なめろうといえば、真鯵が基本だが、コレってマアジか❓
サンマは季節的に有り得ないから除外だし、イワシならばもっと銀ピカだから容易に区別できる。だからマアジだとばかり思っていたが、よく見るとマアジにしては色が白っぽくて、身に透明感がある。
もしかしたら、コレってシマアジで作った「なめろう」かもしれない。いや、刺身の項にアジは無かった筈だから、間違いなくシマアジだろう。道理で旨かったワケだ。シマアジの「なめろう」なんて贅沢だよなあ(´∀`)

 

 
だし巻き玉子。
左側は大根おろしだが、鬼おろしだから粗い。
個人的にはボソボソしているから粗い大根おろしはあまり好きではない。とはいえ、おろし方よりも辛みのエッジが如何に立っているかの方が遥かに重要だ。辛くない大根おろしは大根おろしではない。あの、世にはびこる水っぽくて味も素っ気もない大根おろしを憎悪してやまない。

店主曰く、関東と関西では巻き方が違うらしい。玉子焼き用の道具も東西では違うから何となくは知ってたけど、どっち側から巻くかまでは知らなかった。

調べてみよう。
色が濃くて甘い関東風の厚焼き玉子は焦げ目をつけて、一回で厚く卵を巻くという作り方が主流。一回で卵を巻きやすいように東(あずま)型や角型と呼ばれる正方形で幅のある大きな卵焼き器を使って、奥から手前へ折りたたむように巻いて作られる。一方、だしを多く使いフルフルの柔らかい食感が特徴の関西風だし巻き卵は、手前側から少しずつ何層にもなるように巻いて作られる。巻きやすいように西(にし)型や角長型と呼ばれる細長く長方形の卵焼き器を使うのが一般的である。
ちなみに自分は無意識に手前から奥へと巻いている。たぶんオカンの玉子焼きの作り方を小さい頃から見ていたせいである。

関西風のだし巻き玉子って、しみじみ旨いよなあ(´ω`)
酒のアテだけでなく、オカズにもなる。だから関西では「だし巻き玉子定食」とゆうのがあって、わりかしポピュラーな存在なのだ。
このあいだ「秘密のケンミンSHOW」か何かでやってたけど、関東には「だし巻き玉子定食」とゆうのが存在しないらしい。オバハンがキレ気味に「玉子焼が御飯に合うワケないよー。」と言ってたが、こっちが(  ̄皿 ̄)キレるわい❗
関東の人には申しワケないが、あんなクソ甘い玉子焼きだったら御飯に合うワケないやろ、お菓子かボケー(-_-メ)❗❗である。
そういや築地にテリー伊藤の実家の老舗玉子焼屋があって、そこで厚焼き玉子を食ったことがあるけど、💢😈ブチキレたね。
関東の人は関西に来たら、是非ホンマもんのだし巻き玉子を食べてみて戴きたい。錦市場には「三木鶏卵」とか「田中鶏卵」というだし巻き玉子専門店があるから気軽に買えますよ。
中でも「三木鶏卵」がお薦め。ここのは冷めても美味しい。いや、むしろ冷めてるヤツの方が美味い。しっとりとしていて、噛むとジュワッと出汁が口の中で広がるのだ。

店はいつ来ても多くの客で賑わっていたが、この日はずっと静かだった。
7時過ぎになって漸く新しい客がやって来たくらいだ。しかも一組だけ。やはりコロナの影響は凄まじい。
お陰で店の大将と色々話せたけどね。ここの大将は結構面白い人なのだ。曰く、実際大変な状況になってるらしい。家賃や光熱費、人件費などは黙っていても出ていくし、食材だって大半が廃棄になってしまうそうだ。自分も飲食やっていただけに、よく解る。

 

 
どうやら「サラミポテトサラダ ¥350」みたいだね。
ポテサラって大好きなんだけど、外では中々自分好みのポテサラには会えないんだよね。
多分ここのは合格の範囲内だったと思うけど、細かい味までは憶えてない。とはいえ、自分も珠にサラミ入りのポテサラを作るから味の想像はつく。あまりポピュラーではないけれど、実をいうとコレが旨いんだよね。だから旨かったのは間違いないかと思われる。

そういえば、店の大将が言ってたけど、作ろうと思えばもっと旨い究極のポテサラが作れるらしい。ただし、大変手間がかかるから3日前には電話してほしいと言ってたなあ…。
普段は予約とかしない人だけど、次回はマジで電話してそのポテサラを作っておいてもらおっかなあ。
でも来年も店が有るかどうかはワカラナイ。今は先が全く見えないという御時世なのだ。
たとえそうじゃなくとも、一人だけなのに予約するのは恥ずかしい。それに一人だと食べられる品数に限りがあるんだよね。ワタシャ、出来れば沢山の種類をちょっとずつ食べたい人なのだ。
なれば、元カノでも誘おっかなあ…。でも、こないだドタキャン喰らったからなあ…。かといって、こうゆう良い店には心を許した人でないと誘えない。それに食いもんの好みが合わない人だと、楽しいどころか寧ろマイナスになりかねない。相談もなく、勝手に自分の食べたいものだけを頼むような人間とか抹殺したくなるもんな。
まあ、場所も場所だし、誘っても断られるのがオチかもしんないけどさ。チッ、それはそれで癪じゃないか。

 

 
ほろ酔い気分で午後8時半に店を出た。
春のやわらかな風が頬を撫でる。

午後8:43の高槻行き普通電車に乗る。

 

 
午後9時前、又しても武田尾駅に降り立った。
山の中だけあって夜気が冷たい。夜桜も心なしか寒そうだ。
それにしても夜に見る桜はどこか妖艶だ。そして死の匂いがする。
ましてや今宵は朧月(おぼろづき)だ。余計にそう見える。

 

 
だが、蛾の採集には最悪のコンディションである。虫は月夜の夜にはあまり灯火に飛来しないのである。天気予報では夜から曇ると言ってたのになあ…。
この周辺には春の三大蛾(註2)が確実に生息しているから、どれか一つくらいは飛んで来ると期待してたけど、芳しくない傾向だ。

割と虫が集まる灯火までやって来た。

 

 
しかし、見事なまでに何あ〜んもおらん。春の三大蛾どころか、クソ蛾さえおらん始末。
寒いし退屈だし、早々と午後10時くらいには諦め、電車に乗って大阪駅まで戻ってきた。

 

 
これで、青春18切符もあと2回分だ。さて、次は何処へ行こう。

                         つづく

 
追伸

JR難波駅⇒武田尾駅¥770
武田尾駅⇒相野駅¥330
相野駅⇒三田駅¥240
三田駅⇒武田尾駅¥200
武田尾駅⇒JR難波駅¥770
             計¥2310

 

 
青春18切符なんだから、もっと遠くへ行こうかなと思ったが、切符の期日が迫っていたので使うことにした。宝の持ち腐れが一番最悪だからである。
まあ、上のように正規の電車運賃は、買った青春18切符の1回分(4回分で5千円だから1回分¥1250)よりかは高いので、損はしてないからね。

家に帰ってから、前編で登場した相野駅近くの「肉のマルセ」で買ったコロッケとかメンチカツとかの残りを食った。

 

 
冷えても、そこそこ旨い。

この文章を書いている時点では、まだ『和来』は店の営業を続けているようだ。4月にまた大将の顔を拝めればいいなと切に願う。

 
(註1)『長いお別れ』
原題は『The Long Goodbye)』。
1953年に刊行されたアメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするシリーズの第6作にあたる。
『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』と並ぶ、チャンドラーの長編小説の代表作の一つである。感傷的でクールな独特の乾いた文体と登場人物たちの台詞回し、作品の世界観に魅了されるファンは多い。チャンドラーの小説は、その殆んどが一人称によって語られる形式だが、本作によりハードボイルド小説というジャンルの文体が確立されたと言っても過言ではあるまい。謂わばハードボイルド小説の礎的作品である(始祖は『マルタの鷹』で知られるダシール・ハメット)。そして、今やこの形式が模倣を超えて定番化したと言える。まあ、謂わばハードボイルド小説のお手本みたいになっている。

1995年出版のアメリカ探偵作家協会によるベスト100では13位にランクされている。日本ではハヤカワミステリーベスト100など多くのランキングで、チャンドラー作品の中では1位に選ばれ、雑誌「ミステリマガジン」が2006年に行なった「オールタイム・ベスト」でも堂々の第1位を獲得しており、傑作とする人が多い。

ハヤカワ・ミステリ文庫の清水俊二訳では「ギムレットにはまだ早すぎるね」や「さよならを言うのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官にさよならを言う方法はまだ発明されていない」「君はいったい何を求めてる。薔薇色の霧の中に飛んでいる金色の蝶々か」など多くの粋なセリフで知られる。
尚、村上春樹もこの作品を2007年にタイトルを『ロング・グッバイ』と変えて翻訳している(早川書房)。
村上春樹は最も影響を受けた小説として『カラマーゾフの兄弟』『グレート・ギャツビー(華麗なるギャッビー)』、そして本作を挙げており、評論家は初期の代表作『羊をめぐる冒険』は本作の影響が色濃い事を指摘している。
春樹さんの小説は好きだけど、この翻訳はハッキリ言って嫌い。台詞が粋じゃなくなってて心が動かされない。何か会話に色気がないんだよなあ。どこか村上春樹の小説の登場人物と似ていて、虚無的な感じなのだ。気障な軽口じゃなくなってる
から全然ハードボイルドっぽくないのである。テリー・レノックスとマーロウとの会話が好きなのに、あれじゃ、あんまりだ。

1973年にロバート・アルトマン監督により、原題と同じ『The Long Goodbye』のタイトルで映画化もされている(日本では『ロング・グッドバイ』のタイトルで公開)。
時代設定を現代(1970年代)に変えており、公開当時はマーロウが全然カッコ良くないので、チャンドラーファンからは酷評されたらしい。だが、その後再評価され、カルト映画の1つとして名を連ねている。
確かにファンとして観れば不満のある映画ではあるが、それを取っ払って純粋な映画として観れば面白い。中でも飼っている猫とのシーンが印象に残っている。

 
(註2)春の三大蛾
エゾヨツメ、イボタガ、オオシモフリスズメの大型蛾3種の事を指す。何れも個性的な姿で、蛾マニアの間では人気が高い。

 
【エゾヨツメ】

(2018.4 武田尾)

 
ヤママユガの中では、唯一春先に現れる。
闇の中で照らされる青い紋は美しく、ハッとさせられる。

 
【イホタガ】

(2018.4 武田尾)

 
国外に酷似した近縁種が数種いるようだが、数ある蝶と蛾の中でも類するものが無く、唯一無二とも言える個性的なデザインだ。極めてスタイリッシュだと思う。

 
【オオシモフリスズメ】

(2018.4 武田尾)

 
日本最大のスズメガ。怪異な姿で、しかも鳴きよるから怖い。
おぞましくて邪悪の権化みたいな見た目だが、慣れれば鈍臭くて可愛い。もふもふだしね。

エゾヨツメは日没直後に灯火に飛来し、イボタガとオオシモフリスズメは深夜にやって来る。だからエゾヨツメは別として、本気で採りたいなら10時に帰るようではダメなのだ。採れるもんも採れん。けど、たとえ粘っていたとしてもダメだったと思う。この日は、やって来る気配みたいなものが全くなかったからね。結局、去年は1つも会えなかったし、今年は何とか会いたいね。
これら三種に関しては拙ブログに何編か詳しく書いているから、御興味のある方は探してみて下され。

 

青春18切符1daytrip 春 第二章(3)

 
去年、第二章の2話目まで書いて頓挫、長らく放置していた青春18切符 春シリーズを再開します。

 
  第三話 流浪のプチトリッパー 前編

 
 2020年 4月6日

 

 
武田尾駅の周辺の桜は、今が盛りと咲き誇っている。朝も満開だったが、この陽気で更に開花が進んだのだろう。華やかさは増している。
よく晴れた春うららかな一日だったし、ギフチョウ(註1)にもそれなりに会えた。それによく歩いた。充実した疲れが全身を薄布のように覆っている。
思い出したように時折そよぐ風に花びらが舞うのを和やかな心で見送る。でも世の中はコロナ騒ぎで大変な事になってるんだなと思うと、妙な気分だった。

時計に目をやると、まだ午後3時前だった。
晩飯の時間まではかなりある。汗を流しに行くにしても時間潰しが必要だろう。さて、どうしたものか…。まあいい、流浪の民だ。流されるまま、気の向くままでいい。
取り敢えずは、2:57の篠山口行の列車に乗る。丹波方面をうろつくのも悪かない。

道場を過ぎ、三田駅を過ぎる。ここから先は福知山線になるのかな❓いや尼崎からか…。
毎年、道場はクロツバメシジミ、三田はギフチョウに会いに来てるから武田尾から三田までは馴染み深いが、そっから先は殆んど未知の世界だ。城崎温泉に行く際に何度か通ってはいるものの、特急ゆえに途中下車はしていないし、オネーチャンと一緒なんだから外の風景なんかロクすっぽ見てないのだ。この地方は、ほぼほぼ未知だと言っても差し支えないだろう。

車窓から外をぼんやりと眺める。
列車の両側には田畑が広がっている。しかし作物は殆んど無く、枯れた野が延々と続く。「夢は枯野を駆けめぐる。」と呟く。
このまま福知山辺りまで行って、デンして帰ってこようか❓取り敢えず流れる風景さえ見ていれば退屈することはない。時間は確実に流れてゆくのだ。電車に乗ってると時間が早く流れるような気がするのは、自分だけだろうか…。
ふと思う。電車で移動するのと歩くのとでは、物理的にスピードに雲泥の差がある。だとすれば自(おの)ずと時間の流れ方は変わるのではないか❓いや、時間は時間だ。スピードが速かろうが遅かろうが同じだ。
でも江戸時代の人と現代の人とでは、時間の流れの感じ方は違っていたのではないだろうか❓少なくとも昔はもっとゆるやかに時間が流れていたのではあるまいか❓
そんな事を考えてると、列車のスピードが突然弱まり、車内アナウンスが入った。

 『次は、あいの〜、あいの〜。』

「あいの」という地名は聞いたことがある。「あいの」って、もしかして「相野」かな❓
3、4年前だったろうか、大阪昆虫同好会の夏合宿の帰りに、兄貴こと河辺さんに肉屋に寄るからつきあえと言われて少し遠回りした事があった。兄貴曰く、そこのハンバーグが死ぬほど旨いらしい。その肉屋があったのが相野駅のすぐそばだった筈だ。

列車は駅のホームへとゆっくりと入ってゆく。すかさず駅名表示を見る。
やはり「相野」だ。でも、ホントにそれであってんのか❓
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻えーい、ままよ。降りちまえー。

 

(出典『改札画像.net』)

 
これでもし記憶違いだったら、とんだ笑いもんだが、所詮は特に行くあてのない流浪の旅なのだ。それもまた縁だ。ここで運命的な女性との出会いが無いとは言い切れないのだ。そして二人は💋ぶっちゅう〜。
まあ、そんな事は万に一つもないだろうけどさ。

スマホでググると、確かに駅近くに肉屋があった。
しかも、そこそこ有名みたいだ。店の名前でピンとはこなかったけど、そんな名前だったような気もしてきた。おそらくそこで間違いなかろう。そして、肉屋だけにコロッケやメンチカツとかもあった筈だ。それならオヤツ代わりにもなる。ハンバーグは高かった覚えがあるし、そんな生肉なんぞを持って歩く気にはなれないけど、コロッケなら1つだけ食って、あとは持って帰る事だって出来る。

5分ほどで着いた。

 

 
『肉のマルセ』。
こんな店だったかなあ。見憶えがあるような、無いような…。
まあいい。この際、たとえ別な店であっても構わん。もうコロッケさえ食えれば、それでいいや。
しかし、店内を覗いて此処で間違いないと確信した。完全に見憶えのある風景だったからだ。そいでもって、コロッケとかも売ってるぞなもし。
だが店内には入らず、スマホで近隣の酒屋とスーパーマーケットを探す。揚げ物があるとなったら、ここは当然ビールでしょうよ。
ガビー\(◎o◎)/ーン❗
しかーし、行ったらスーパーは潰れてやがった。
(--;)マジかよ❓である。
もうスマホなんぞに頼るかボケッ(ノ ̄皿 ̄)ノ❗ スーパーの斜め前の和菓子屋でビールの売ってる場所を尋ねる。すると婆さんが雑貨屋を教えてくれた。そこに売ってるらしい。雑貨屋にビール❓それってド田舎パターンだ。屋久島を思い出したよ。半信半疑で店に入ったら、奥にちゃんと売ってた。
ケッ(-
-メ)、スマホの情報なんぞを鵜呑みしたからだ。人に聞く方が早い。但し、選ぶ人を間違えれば最悪だけどね。
 
🎵コーロッケ、🎵ビール、🎵コーロッケ、🎵ビール
肉屋にマッハで戻り、コロッケを買う。

 

 
ミートコロッケじゃよ。
でもビール(発泡酒)を買った時点で、タガがハズレていた。

 

 
他のもんまで買っちまったよ。
マジックでちゃんと何なのかを書いてくれてるところが親切だ。
左上から時計回りに牛カツ、カレーコロッケ、そして下段はメンチカツである。ちょっと買い過ぎのような気もするが、すぐに腐るもんでもなし、余ったら家に持って帰ればいいのだ。

 

 
揚がるまでにビール(発泡酒)片手に突っ立っていたものだから、店員さんに笑われた。ワシも笑って軽口で返す。したら、店の端のテーブルを使って食べてもいいよと言われた。何かと得なセーカクー✌️😄

チラシを横にどけて陣地を確保して、先ずはやっぱりミートコロッケから。

 

 
(≧▽≦)うみゃーい🎉
すかさず発泡酒をグビグビいく。
(≧▽≦)うみゃーい🎊

続いて牛カツ。
(人´∀`)。゚+うみゃーい🥰
やっぱ関西人は牛好き文化なのだ。豚カツも勿論美味いけど、牛カツには敵わない。関西では串カツといえば牛カツだかんね。

お次はカレーコロッケ。
感動する程ではないが、旨いっぺよ(◠‿・)—☆

そして、最後はメンチカツ。
うま、うま、うまっ、✨💕激うま〜(☆▽☆)
他のも旨かったが、コヤツが断トツに美味い。玉ねぎと肉汁の甘みが渾然一体となってジュパ〜と襲ってくる。

午後4時半。
駅まで戻ってきた。
扠てと、どうしたものか…❓相野駅周辺に他に寄るような所はない。となると、このまま前に進むか戻るかだが、思案のしどころだ。
(ー_ー゛)う〜ん、上手い具合にだいぶ時間が潰せた事だし、時刻を考えれば、ここはやっぱワシ的王道コースかなあ。

                         つづく

 
追伸
間が9ヶ月も開いての連載再開である。別に誰も続きを待ってなかったとは思うけど、中途半端なのはどうにも心苦しい。心の片隅のどこかで頓挫したことが、ずっと気にはなっていたのだ。
とはいえ、再開したはいいが当時の事をどこまで憶えているかは心許なかった。オジンになると、忘却スピードは加速度的に早まるのだ。
けど書き始めたら、意外と憶えてた。記憶とゆうものは1つ思い出せば、数珠繋ぎに甦ってくるものだと改めてわかったよ。

えーと、頓挫した理由も書いとこう。

①カトカラ(蛾のグループの1つ)の方の連載再開の時期が迫っていたので、そっちの下書きを優先したから。
アサマキシタバの話は長くなりそうだったので、早めに2019年の分だけでも下書きをしておこうと思ったのだ。そして、そのままソチラの連載に掛かりきりになってしまったのである。

 
【アサマキシタバ Catocala streckeri】

(2020.5 東大阪市枚岡)

 
②飽きたから。
文字通りである。この連載も長くなっていた。第一章だけでも5話も要した。オマケに各話が長い。愚かなことに、いつも簡単にサラッと書けるだろうと考えてシリーズものを始めるのだが、書くうちにアレもコレもと付け加え、また脱線もしてしまうので長くなってしまう。で、結局途中で書くのがウンザリになって放り出したくなるのだ。カトカラの連載再開は、放り投げる格好の理由にもなったワケだ。

本文が一部斜めの字体になってて読みにくい箇所がありますが、どうしても治らないので、そのまましておきました。すいません。

 
(註1)ギフチョウ

 
春先にだけ現れ、「春の女神」とも呼ばれるアゲハチョウの1種。
 

2019’カトカラ2年生 其の五

 
    vol.22 ハイモンキシタバ

   『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』

 
 
2019年 8月6日

白馬で3連続惨敗に終わり、別な場所で何とかミヤマキシタバを採って溜飲を下げた。しかし、翌日には松本市でナマリキシタバを狙うも、かすりもせずで再び惨敗を喫した。
ナマリとはメチャメチャ相性が悪い。このままでは再び悪夢のような流れになりかねないので、スパッとリベンジを諦め、この日は上田市へと移動することにした。

電車だと不便そうなので、バスを選択する。

 

 
平日とはいえ、車内はガラガラだった。
途中、ナマリキシタバの産地として知られる三才山を越えて、上田盆地へと入る。

1時間半ほどで上田駅前に到着。

 

 
時刻は昼過ぎ。目的地行きのバスにはまだ時間があるし、昼飯でも食おう。

長野と云えば蕎麦である。ここ上田も蕎麦で有名だ。
観光案内所で、お薦めの蕎麦屋を幾つか教えてもらう。
で、吟味した結果、安くて量が多く、一番流行っているという店へ行くことにした。

 

 
結構、行列が出来ていた。
並ぶのが死ぬほど嫌いな男だが、せっかくここまで歩いてきたし、上田に来るのは初めてで、この先来ることなど滅多とないだろうから我慢して並ぶことにした。

 

 
意外と列は進み、思ってたほど待たなくとも済んだ。

 

 
店内はレトロな感じで好ましい。

 

 
周りの人たちに目を向ける。食べているのをチラッと見ると、田舎そばって感じだ。

 

 
メニューを見る。
ここは矢張り王道の、もりそばだろう。蕎麦といえば、もりそはに決まってんである。
650円也のもりそば(中)をたのむ。長野県にしては良心的な価格設定だ。
 
ハイハイ、きましたよ〜。

 

 
つゆと薬味の設(しつら)えも良い感じだ。期待値が跳ね上がる。

 

 
しかれども、何だかボソボソしてて全然旨くない。麺の太さもバラバラだ。素朴で野趣あふれる感じは嫌いじゃないが、それも旨いという前提があってこその話だ。
ブッちゃけ言っちゃうと、長野で蕎麦食って旨かったためしが一度もない。その上、高い店が多いから腹が立つ。関西人としては、福井のおろし蕎麦や兵庫は出石の皿そばを擁護したくもなる。
小太郎くんも同意見で、この件に関してはいつも文句タラタラだ。その憤りはワシなんかよりも遥かに強く、もう憎悪と言っても差支えないくらいだ。普段、食いもんに文句を言わない人だけに、その怨みは極めて深い。

いったい何があったのだ❓小太郎くん❗

理由は知ってるけどさ(笑)。

これで何か悪い予感がするなと思ったら、案の定、店を出たら天気は下り坂になっていた。
そして、バスに乗ったら、風雲、急を告げるってな感じになってきた。行き先はどうみてもヤバヤバの黒雲ワールドだ。

 

 
おいら、スーパー晴れ男なのに何で❓ポロポロ( ;∀;)
白馬村で辛酸を舐め、大町市で何とか持ち直して、この地へと移動してきた。なのに又しても地獄の輪廻の再開かと思うと、戦々恐々だよ。

1時間近くバスに揺られ、午後4時前にバスを降りる。
歩き始めると、雨がポツポツと落ちてきた。これは強くなるなと思ったら、案の定、すぐに本格的に降ってきた。
慌てて出荷作業中のレタス農家に飛び込み、雨宿りさせてもらう。長野県民、特に北側は不親切な人が多いけど、スタッフは皆さん親切で色々気遣いして戴いた。ありがとうございました。

雨がやんだら、急速に晴れ始めた。スーパー晴れ男の面目躍如である。基本、強く願えばワシの居るところは晴れることになっとるのだ(笑)。

ここはラグビーの夏の合宿地としてファンならば誰しもが知っている裏の聖地とも言える地だ。
ゆえに、ポイントと決めた場所には沢山の若きラガーマンたちが夕暮れまでマジ走りでランニングをしていた。
たぶん高校生だろう。地獄の合宿ってところだ。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…、血ヘドを吐くまで走りなはれ。それも時間が経てば、悪い思い出じゃなくなるんだからさ。

そういうワケで、キッチリ歩いてポイントの概要は下調べしておいた。

 

 
狙いはノコメキシタバとハイモンキシタバ、そしてケンモンキシタバである。
ノコメ、ハイモンの食樹のズミ(バラ科リンゴ属)とケンモンの食樹ハルニレ(ニレ科)の木は既に確認済みである。ミヤマキシタバで溜飲を下げ、流れも良くなってきてる。本日もミッションを遂行して凱歌をあげるつもりだ。まあまあ天才が調子に乗ったら、連戦連勝は当たり前なのだ。
Ψ( ̄◇ ̄)Ψおほほ星人が見える時は強いぜ、バーロー。

学生たちは去り、辺りは闇に包まれようとしていた。
さあ、戦闘を開始だ。ズミが多くあるところとハルニレだと思われる大木の周りに糖蜜を吹き付けてゆく。

午後7時半。日没後さして間もなく糖蜜にノコメキシタバがやって来た。幸先がいい。
とっとと採っての、とっとーとで勢いをつけて、そのままエンジン全開といこうぜ。マホロバ発見の呪いだと揶揄する秋田さんや岸田先生の期待を何が何でも裏切らねばならぬ。再び笑い者にされるのは御免蒙りたいのじゃよ。ここからは連戦連勝といこうじゃないか。

しかし、網を組み立てて、よっしゃ行くぞと気合を入れて見たら、忽然と消えていた。
……(。ŏ﹏ŏ)、嘘だろ❓マジかよ❓

おいおいだが、反応があったのは一安心だし、そのうち又飛んで来るじゃろうて。どんまいどんまい、Don’t mind.

取り敢えずは糖蜜を撒いた各所を巡回する。
次に飛んで来たのは8時15分だった。同じ木だったし、さっきのノコメが戻って来たのだろうと思った。しめしめである。
しかし何かさっきのとは、ちょっと違うような気がする。
💡ピコリン。😲あっ、ハイモンかあ…。ホントはノコメが一番欲しいんだけど、ハイモンも採ったことないし、まっ、良しとすっか…。

毒瓶を被せるか、網を使うか迷ったが、一応さっきの事もある。また逃すのは嫌だし、早く初物は何でもいいから採っておきたかったので網を選択する。ゼロと1とでは心の有りようが天と地ほどの大違いなのだ。さっさと採って、一刻も早く心を落ち着かせたい。

慎重に距離を詰め、止まってる下を網枠でコツンと軽く叩く。驚いて飛んだところを瞬時に振り抜く💥。
斜め斬り光速剣ハヤブサ❗
(. ❛ ᴗ ❛.)へへへ、決まったな。

 

 
フラッシュ焚いたら、羽が銀色に輝いた。
でもベタで斑紋にメリハリがないな。それに、けっこう素早く取り込んだつもりだったが、背中の毛を剥げチョロケにさせてしまった。(´-﹏-`;)何だかなあ…。
どうせまた飛んで来るだろうし、まっいっか。

裏返してみる。

 

 
たぶん♀だ。
裏面の外側は黄色が薄くて白っぽいんだね。カトカラではあまり見たことのない裏面かもしれない。
マオくん(註1)は時期的にハイモンは厳しいんじゃないですかね。採れても激ボロですよと言ってたから、ちょい嬉しい。
後で報告したら、お褒め戴いた。でもケンモンキシタバだと思ってた奴がワモンだと指摘されて、スゲー恥かいたけど(笑)。

結局、この日飛んで来たのは、まさかのコヤツ1頭のみだった。
まっ、いっか…。深夜ギリギリになって何とか目的のノコメキシタバが採れたしね。

しか〜し、やっちまったな(-_-;)

撤退する前に何気に戦利品を確認したら、なぜか採った筈のハイモンが無い。

無いっつったら、無いっ❗❗

もしや神隠しにでも遭ったのだろうか❓
ヽ((◎д◎))ゝもうパニック寸前てある。

ここで漸く思い当たる。
写真を撮ったあとに蘇生しそうな感じだったので、もう一度毒瓶にブチ込んだような気がする。もしかして、それを回収してなかったりとかして…(-_-;)
恐る恐る左ポケットから、今回あまり使ってなかった毒瓶を取り出す。

😱NOー❗、ガッデーム❗❗

あろう事か、同定できない程にボロッボロッになっていた。
たぶん歩きまくってたから、毒瓶の中でウルトラシャッフルされたのである。
〇¶〆〓§⊿∞✤□➷✫✘ドギャぶぎゃわ、痛恨の失態なり。

 
ぽ〜い(┛◉Д◉)┛彡┻━┻

怒りに任せて捨ててやってまっただよ。
ゆえに標本は無い。大いなる蹉跌だね。写真は撮ってあるから採ったと云うせめてもの証明にはなるが、大ボーンベッドだ。まあ、ノコメじゃなかったからいいか…。
しかし、これもまた大いなる間違いであった。正直この時点ではハイモンよりもノコメの方が珍しいと誤解してたし、上翅もノコメの方が複雑でハイモンはベタでツマラナイと思ってた。だから、のちに小太郎くんに「鮮度の良いハイモンはギラギラのシルバーでめっちゃカッコイイですよ。」と言われた時は焦った。それにノコメよりも下翅が鮮やかな黄色で美しいことも失念してた。当時は上翅ばかりに目がいってて、下翅をロクに見てなかったし、展翅もしてないから気づかなかったのだ。銀灰の蹉跌である。

だから、2020年は密かに完品を名古屋方面で狙っていた。
現地の交通の便も良さそうだし、大阪からは一番近いからサクッとリベンジしてサクッと帰ってこようと思ってた。しかし連日クソ暑いし、何やかんやとあって、その機をいつの間にか逸してしまっていた。

8月に長野県に行った時に灯火採集の外道で採れたから、一応その時の個体の写真を貼っ付けておく。

 

 
同じ個体を手の平に乗せてみる。

 

 
よりみすぼらしく見えるや(笑)
腹が細長いので♂だすな。
次の個体も♂だった。
 
 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
8月のものだから鮮度は当然良くない。
つーか、標高は1300mくらいあったのに両個体とも酷い有様でボロッボロだ。みすぼらしい事、この上ない。やっぱマオくんの言ってたとおりだね。7月中旬辺りに狙いにいかないとギンギラギンのには会えないってワケやね。
そう考えると、あの2019年唯一のハイモンの鮮度は時期的にみれば、かなり良かったということになる。返す返すも痛恨の極みである。

一応、展翅はした。
個体の順番は上の横向きの画像と同じである。

 

 
まあ、こんなもんじゃよ。
上の個体の上翅なんて銀灰色がほぼ消えて、そこだけ見たら何者かワカランくらいに小汚くて、辛うじて下翅でハイモンだと解るというレベルだ。
そうゆうワケで、情けないことにまともな展翅写真がない。
仕方がござらんので、次回の解説編は画像をお借りして話を進めてゆきます。ぽてちーん(T_T)

                         つづく

 
追伸
今回はワモンキシタバの続編『False hope knight』の文章を一部抜粋して使いました。そのワモンの続編では、このあと更にフザけた文章になっていきます。興味がある方は、そちらも併せて読んで下され。
また、この採集記の部分は前回のミヤマキシタバや次回のノコメキシタバの回にも連なっている。そして、ひいては過去のベニシタバの回や今後登場するカトカラにも連なってゆくものと思われる。謂わば隠れたシリーズものなのだ。

ちなみにタイトルの中の銀灰(ぎんかい)という言葉は世間的には馴染みが薄いが、実際にある色(銀灰色)で、文字通り銀色を帯びた灰色を指す。英語でいうところのシルバーグレーのことですな。ハイモンキシタバの上翅にはピッタリだと思って使用した。
蹉跌の方は分かると思うし、これ以上精神的にエグられるのも嫌なので割愛させて戴く。ワカンない人は自分で調べましょうね。
クソッ、何だか思い出してきて、沸々と怒りが込み上げてきたよ。来年はボッコボコにシバいちゃるからね。

 
追伸の追伸
実をいうと、今回は一回のみで終える予定だった。実際、次の解説編も含めて順調に書き進め、一応の完成はみた。しかし、いざ発表の段になって最終チェックのために読むと、これが長い。学名の項などは迷走しまくりで、エンドレス状態だ。
なので、2回に分けることにしたってワケ。

 
(註1)マオくん
ラオス在住のストリートダンサーであり、蛾の研究者でもある小林真大くんのこと。蛾界の若きホープで、一言で言うなら虫採りの天才だ。ネットで「小林真大 蛾」で検索すれば、彼のInstagramやTwitterにヒットします。