黄昏のナルキッソス 第三話

 
第3話 黄昏のナルキッソス

この年、2023年は満を持して臨むつもりだった。
このままオメオメと負け続けるワケにはいかない。毎年のようにアッチコッチに足を運び、その都度、何の手応えもなく惨敗。辛酸を舐め続けてきたのだ。いい加減にケリをつけよう。

だから、初動は早かった。いつもなら9月初めのムラサキシタバの採集が終わってから動き出していたのに、8月に入って直ぐにはもう情報収集を開始していた。

(ムラサキシタバ)

(2020.9月 長野県白骨温泉)

先ず手始めに伊丹昆虫館に電話した。理由は過去に何度もシンジュキノカワガが発生している場所だし、学芸員と云う虫のプロがいるからだ。8月くらいから幼虫の姿が目立つようになるので、もし発生していたならば、それを見逃すワケがないと思ったのだ。

(シンジュキノカワガ Eligma narcissus ♀)

しかし学芸員の話によると、今年はまだ見ていないそうだ。
そんなに甘かないか…。仕方がない。また1から丁寧に情報を広い集めるしかないな。

9月に入って漸くして、重要な情報が手に入った。
アメブロで、姫路で発生していると云う記事を見つけたのだ。『昆虫漂流記』と云うブログの「シンジュキノカワガ 採集から飼育 2023年9月2、3日 以降の観察」と題された記事で、かなり詳細な内容が書かれていた。
9月2日とか3日といえば、ほぼ直近の情報。まだ1週間も経っていないじゃないか。テンション、💥爆跳ね上がったよ。
直ぐにでも飛んで行きたい気分だったが、ここは冷静になろう。行動を起こすのは、記事の内容を今一度精査してからでも遅くはない。

記事によると、場所は姫路市安富町皆河というところらしい。ちゃんと場所を明かしてくれて、マジ有り難う。でもって、偉いやね。昨今、ネットでは場所を明かさないのが当たり前になってるからね。でも自分も場所を極力明かすようにしているし(註1)、匂わせる事も多いから共感できる。何でもかんでも隠すのは弊害もあると思っているからだ。なぜなら、たとえそれが事実であったとしても、記録としては残らないからね。もちろん下手に発表すると、そこに人が集中し、根こそぎ採られて絶滅しかねない。そう云う危惧があるのは、自分も重々に承知している。だから、そういった場所は公表すべきではないだろう。しかし、愛好者なら誰もが知っている有名な場所や公表してもいいような理由がある場所ならば、わざわざ隠す必要性はないと考えている。例えば今回の場合だと、シンジュキノカワガは海外から飛来する偶産種であり、やがて冬が来れば死滅してしまうからだ。採ろうが採るまいが、どうせ居なくなるのだ。ひいては、翌年に同じ場所を訪れたとしても居ない可能性が高いと云う事でもある。よって公表しても問題がないと云うワケだね。さておき、ソッコーで詳しい場所を調べよう。

そこは姫路市といっても、北部の山奥だった。姫路駅からでもバスで1時間もかかる。そもそもが大阪から姫路駅までだって遠い。電車で大阪駅から1時間半以上はかかるのだ。つまりは相当に遠いと云うことだ。
運賃だってバカにならない。調べたら、最寄り駅から片道だけでも2570円だ。往復だと5140円もかかる。そして、大阪の自宅からの所要時間は最短でも3時間を要する。ゆえに、そうおいそれとは何度も行けないのだ。だからこそ、行くのなら確実に一発で仕留めたい。となれば、いつ行くかを慎重に見定めねばなるまい。

幼虫及び蛹採集だけでもいいならば、直ぐにでも行った方がいいだろう。
ブログの筆者氏は、64頭の幼虫を確認し、そのうちの23頭を持ち帰ったと書いておられる。つまり、単純計算すれば、まだ最低でも41頭の幼虫がいると云う事になる。のみならず『幼虫を樹が高すぎて確認できなかった樹もある事から、それ以上の個体数が存在すると思われます。』とも書いておられる。加えて、シンジュの木が生えている範囲は、車道沿いに横に約50mに渉っており、数十本はあるというような記述もあった。ならば、更に多数の幼虫がいる可能性がある。それだけ居れば、たとえ誰かが自分よりも先に入って持ち帰ったとしても、まだまだ残っている確率は高い。とはいえ、公にネット上に記事が出ているのだ。情報は拡散しているかもしれない。ワシと同じような事を考えている人が、他にも何人もいるやもしれぬ。いずれにせよ、幼虫目当てなら早めに行った方がいいだろう。

でも生息地の画像を見たところ、場所的に問題が有りそうだ。シンジュの木は、車道から見てガードレールの向こう側に生えている。そして、木の生え方の感じからして、おそらく斜面に立っている。しかも急斜面が予想される。谷あいの地形だと書いてあったからね。となれば、繭の採集には危険を伴うかもしれない。一人で行って、もし足を滑らせたら…と思う。谷底まで落ち、足を骨折でもしたら…。田舎の山奥だ。しかも谷底である。誰も見つけてはくれないだろう。下手したら、死ぬど。
加えて、記事では繭が確認できなかったと書かれている(註2)。これはガードレールからは位置的に繭を見つけられない事を指し示してはいまいか❓もしくは斜面がキツ過ぎて、木に近づけないとかさ。

そうとなれば、幼虫採集オンリーとなる。
けど、それも問題がないワケではない。低い所にいる幼虫は既に回収されているようだからだ。となると、ブログには最初は6mの網で枝を引き寄せて幼虫を採ったとあったし、それ以上は高くて確認できなかったとも書いてあったから、木は相当高いと云う事になる。シンジュは高いものになると、20m以上にもなるのだ。たとえギリギリ届く場所があったとしても、果たしてそんな高い所から網で幼虫を上手く引き剥がせるのだろうか❓(註3)。しがみつかれでもしたら、どうすればいいのだ❓
だいち今は適当な長さの竿がない。夏に7mの長竿を開田高原でポッキリ折ってしまったのだ。そのクラスか、それ以上の長竿となれば、有るのは10m竿だけだ。あんなもん重くて振り回したくないし、持ち運ぶのも一苦労だ。全然もって気が進まない。それに、もっともっと気が進まない理由がある。
m(_ _)mスンマセン。正直に言いますわ。ワタクシ、芋虫とか毛虫とか、あの手のモノは大の苦手なんざます。キショくてマジ怖気(オゾ)ける。ましてやシンジュキノカワガの幼虫は、ド派手な黄色と黒の縞模様の毒々しい毛虫で、どう見ても邪悪きわまる存在なのだ。普段のワシなら、
(⁠ノ⁠ ̄⁠皿⁠ ̄⁠)⁠ノ⁠⁠⁠彡⁠┻⁠━⁠┻おりゃー❗死ねっ❗死ねっ❗死ねー❗
なのだ。


(出典『円山原始林ブログ』)

それを姫路から大阪まで持って帰るだなんて、ミッションがキツ過ぎる。もしも帰りの電車内でモゾモゾと這い出して来でもしたら、どうすると云うのだ❗❓ 車内は阿鼻叫喚の嵐。怒号が飛び交い、泡を吹いて床に倒れる御婦人たちが続出。そしてオラは衆人からの白い目に2時間以上も晒され続けるのだ。…拷問だ。想像しただけでも恐ろしい。
それに幼虫を弱らさずに持って帰って来る自信もない。もしも死屍累々。全員がグッタリとなって死んでいたら、それこそ骨折り損のくたびれ儲けじゃないか。

ならば、やはり成虫採りしかあるまい。そもそも、成虫が本来のターゲットなのだ。ここは原点に帰り、素直に王道でいこう。
とはいえ、行って成虫が採れなかったら、洒落になんない。決行する日を吟味して行かねば、失敗しかねないのだ。つまり、まだ次の世代の成虫が羽化していなければダメだろうし、かといって羽化して時間が経ってしまうのもマズイ。なぜなら、羽化して暫くすると分散してしまう可能性があるからだ。流転のナルキッソスだ、馳せ参じるのが遅ければ、既に次の新天地に向かって旅立っているかもしれないのだ。

頭の中でカチャカチャ計算する。
記事によれば終齢幼虫が蛹になったのが、9月9日。となれば、蛹の期間が2週間から16日、もしくは17日と考えるならば、9月23日から27日の間がベストだ。でも平日は仕事を休めない。となると、行けるとしたら、9月23日か24日だ。でも灯火採集をするのならば、土曜日しかない。なぜなら、車を持っていないので、公共交通機関でしか移動できないからだ。したがって日曜だと翌日の月曜の朝にしか現地を離れられない。それでは仕事に間に合わない。ならば必然、9月23日が討ち入りの日となろう。
待てよ。けれど記事には9月7日の時点では幼虫は初齢から終齢幼虫までいたと書かれている。となれば、もう1週間後ろにズラした10月1日でも大丈夫だろう。いや寧ろソチラの方がベストかもしれない。その頃ならば殆んどの個体が羽化し終えている可能性が高い。さすれば、その日が現地での成虫の最盛期かもしれない。つまり個体数が最も多い時期に当たる可能性がある。どちらを選ぶべきなのか心が揺れる。
でも待てよ。灯火採集をするとなると、自ずと話は変わってくるぞ。成果は月齢と気象条件に左右されるからだ。それ如何によって、結果は大きく違ってくるだろう。

ここで少し、昆虫たちが人工光に引き寄せられるメカニズムを説明しておこう(註4)。
走光性を持つ昆虫、即ち夜間に光に引き寄せられる昆虫たちは、普段は月光を頼りに移動しているものと考えられている。月あかりに対して一定の角度で飛ぶことで、高さや方向を保つしくみを持っているのではないかと推測されているのだ。月は地球からものすごく遠くにあるために、自分がいくら動いても月のある方角は変わらず、自分の向いている方向を知る良い目印となる。そういう仕組みを持った虫たちが人工の灯りを見ると、その光の向きに対して一定の角度で飛ぼうとする。だが、月と違って人工の灯りはごく近くにあるため、それに対して一定の角度を保って飛ぼうとすれば、結果として灯りの周りをグルグルと回りながら近づいてしまう。つまり、虫たちは人工の灯りを月と勘違いして方向の目印に使ってしまったが為に、知らず知らずのうちに灯りに引き寄せられて集まってしまうのである。

そうとなると、灯火採集をするに於いて最も好条件となるのが、最大のライバルである月が出ていない日、即ち月齢が新月ということになる。補足すると、新月ならば、たとえ晴れていてもライバルは居ないから問題がない。ようは天候に最も左右されにくい日なのだ。土砂降りとか暴風にでもならない限りは、虫は光にワンサカ集まって来る。
そして、次に好条件なのが月の満ち欠けに関係ない気象状況であろう。つまり、曇りか小雨程度の天気ということだ。月が隠れていさえすれば、条件は新月の時と同じと云うワケだね。
月齢を調べてみると、9月の新月は14〜16日。その前後1日も殆んど月あかりは無さそうだ。でも残念ながら、それらの日は仕事だ。
23日の月齢は半月だった。あまり条件は良くない。そして10月1日は😰アチャー、🌕満月である。条件的には最悪じゃないか。世の中、上手くいかないよね。
そうなると、消去法で24日に決定だな。そして、もしも24日の天気予報が晴れか雨だったら10月1日にズラすと云うことになりそうだ。とはいえ、ズラして10月1日も晴れか雨なら最悪だ。そこが思案のしどころである。或いは両方とも行くことも視野に入れておくべきかもしれない。天候如何に拘わらずに24日に行き、ダメなら10月1日にリベンジと云う構図だ。
どちらにせよ、まだ先の話である。来週までは自由に動けるから、近場でシンジュが沢山生えている場所を探そう。そういや場所は特定できないけれど、淀川河川敷で繁茂していると云う情報もある。

とはいえ、最も信頼している小太郎くんの意見を聞いておこう。そう思って、姫路で発生していると云う記事のリンクを貼って送った。あわよくば姫路まで一緒に灯火採集に行ってくれるんじゃないかと云うスケベ心もあったしね。
したら早速にLINEが返ってきた。それに拠ると、今年は多く渡来しているようで、各地で見つかっているらしい。流石、情報通の小太郎くんである。ならば、大阪近郊でも発生している可能性はある。なので小太郎くんには、来週は近場で探すよと返信しておいた。

 
2023年 9月16日

先ずは花博記念公園鶴見緑地に行ってみることにした。


(出典『新森と暮らす』)

花博記念公園と冠されているとおり、昔ここで「花と緑の国際博覧会」が開催されていた。
広い公園で、東側の山のエリアが森になっている。


(出典『花博記念公園鶴見緑地 ホームページ』)

此処は去年、居たと云う情報があったから来てはみたものの、見事に惨敗した場所だ。とはいえ、もし本当に発生していたのならば、成虫が越冬できた可能性があると考えたのだ。公園は大阪市内にある。だから山と比べて寒暖差が少なく、遥かに温暖なのだ。他よりも生き残れる可能性が高い。

驚いた事に、去年にシンジュだとばかり思っていた幾つかの木は、別種の木だった。葉が全部落ちていたので、幹の木肌のみで判断するしかなかった。それで間違えたんだね。植物の同定は難しい。

蘖(ひこばえ)は結構見つけたものの、結局、間違いなくシンジュだと思われる木は、たったの3本しか見つけられなかった。
そのうち葉に食害跡が見受けられた木は1本だけだった。でも、ド派手な阪神タイガース模様の幼虫の姿はない。繭もない。と云うことは、おそらく食害したのは別な種の幼虫で、たぶんイラガ類(註5)あたりだろう。

(アオイラガの幼虫)

(出典『芋活.com』)

シンジュの葉を食べる蛾は、シンジュキノカワガだけではないのだ。もっともイラガの仲間は広食性で、サクラ類・ウメ・ナシ(バラ科)、クリ、クヌギ(ブナ科)、カキ(カキノキ科)、ヤナギ類(ヤナギ科)、カエデ類(ムクロジ科)、チャノキ(ツバキ科)等々、何でも食うんだけどもね。

兎に角、又しても亡霊を祓えなかった。コレで二桁に乗る10連敗だ。プロ野球のピッチャーだったら、翌年には間違いなくクビだ。ペナントレースならば、チームが1回でも10連敗すれば、優勝は不可能だという数字だ。長いプロ野球の歴史の中でも、10連敗してリーグ優勝したチームは一つたりともない。皆無なのだ。
因みに最長記録は9連敗。それでも優勝できた例は、1992年と2015年だけだ。共にヤクルト スワローズのみが成し得ている。
泥沼だ。いつになったら、この不毛な負のループから解放されるというのだ❓

 
引き続き、ネットによるシンジュキノカワガ情報の探索は続けていた。
そして、この翌日に重要な情報を得ることができた。新たに3箇所も発生している場所が分かったのである。

先ず1箇所めは、兵庫県佐用郡の佐用町昆虫舘近くの県道沿い。
そこに生えているシンジュで発生しているらしい。作用町昆虫舘のオフィシャルサイト(NPO法人こどもむしの会)で報告されていた。因みに、載っていた画像は終齢幼虫である。

2箇所めは、丹波市の丹波の森公苑である。
此処も同じく佐用町昆虫舘のサイトに載っていた。そして画像も同じく終齢幼虫であった。
尚、両者の情報公開日は、同じ9月17日。おいおい、おとといの話じゃないか❗

因みに、佐用町昆虫舘のブログでは、こんな面白い試みをやっていた。


(出典『佐用町昆虫舘オフィシャルブログ』)

ようは、今年の阪神タイガースの快進撃に凖えて、タイガースカラーのナルキッソスの幼虫を使って、お遊びで文字を描いているのだ。ちなみにアレとは「リーグ優勝」の事である。
話は第一次岡田政権時代の2008年に遡る。この年、我らが阪神タイガースは前半戦絶好調。7月9日には2位に最大13ゲームの大差をつけて首位を独走していた。にも拘わらず、最終的には巨人に追い越されてリーグ優勝を逃した。また2021年の矢野監督時代にも、前半戦が好調であったにも拘わらず失速し、優勝を逃した。
この2つの何れの年にも、マスコミによる大フライングがあった。
2008年には、日刊スポーツが9月3日に阪神の優勝を確信してフライング。「Vやねん!阪神タイガース」を発売してしまった。この時点で、巨人に5ゲーム差に迫られていたのにも拘わらずである。当然、ファンの顰蹙をかった。
2021年には、朝日放送(ABC)が2位に最大8ゲーム差を付けて独走していた6月に「虎バンスペシャル #あかん阪神優勝してまう」をフライング放送してしまう。しかし、その後に主力選手が極度の不振に陥り、失速。前半戦は首位で折り返したものの、9月22日にはヤクルトに首位を明け渡してしまった。虎と燕がシーズン最終盤まで激しいデッドヒートを繰り広げる中、更にABCは10月3日にも、緊急特番「虎バンスペシャル 16年ぶりに阪神優勝してまう!?」を放送する。だが虎は、最終的にはゲーム差なしで優勝を逃してしまう。
この2つの年の大フライングが、歴史的V逸を象徴する”V逸フラグ”として虎党の記憶に強く刻まれる事となる。振り返ってみると、皮肉にもコレらが発売・放送された後に大失速し、挙げ句には悲惨な結果になってしまったのである。呆然自失。ファンとして耐え難き事実であった。糠喜びさせといてからの、顔を思いっきし地面に叩きつけられたようなものだ。どれだけ惨めな気分にさせられたことか。そのトラウマから、阪神ファンの間では、どれだけ好調であっても「優勝」の二文字に触れることは半ばタブー、禁句となった。
そして2022年、岡田は監督就任会見で「優勝」とは一言も出さず、代替語として「アレ」を連発する。その後、報道陣とのやり取りの中でも、けっして「優勝」とは言わず、「アレ」で通した。そして、そのアレが、まさかの2023年のスローガンの文言の一部にも「ARE」として組み込まれるまでになる。
やがてシーズンが始まり、阪神の好調と共に関西のマスコミやファンの間で「アレ」ブームが盛り上がる事となるのである。呪いを解きたいがゆえの、ファン&マスコミ総出での言葉の記号化である。
そしてその後、8月、9月に「アレよアレよ」と連勝して、この日の2日前の9月14日に何とアレしてしまった。
🎉🎊阪神優勝、おめでとう❗❗

悪いクセだ。大脱線してしまったなりよ。
気を取り直して、話を本線に戻そう。

3箇所めは、兵庫県たつの市の広山だ。虫関連ではない「NPO法人ひょうご森の倶楽部」というサイトではあるが、コチラも多数の終齢幼虫が発見されたと書いてあった。但し、20日ほど前の8月30日の話だ。
3箇所とも何とか日帰りで行けそうな場所ではある。となれば、この週末に行く場所の選定は広がる。それでは、姫路市安富町も含めた4箇所を比較検討していこう。

佐用町は兵庫県の西端に位置し、限りなく岡山県に近い。遠すぎる。
たつの市も遠い。佐用町よりも近いが、姫路市のまだ向こうなのだ。

(兵庫県地図)

(出典『マピオン』)

地図で場所の確認をしたら、何と佐用町の南東側に隣接しているじゃないか。大阪からだと、さして変わらん距離だ。そして、たつの市は姫路市とも隣接している。おそらく安富町のポイントとも、そう離れてはいないだろう。となれば、中国から第一世代の成虫たちが低気圧や前線による南西からの風に乗って、この辺り一帯にまで纏まって飛んで来たのかもしれない。

一方、丹波の森公苑は丹波市の南部にあるから、兵庫県西部とはだいぶ離れている。しかし大阪からの距離は、たつの市と同じくらいか少し近いくらいだろう。
とはいえ、距離だけでは計れない。アクセスの良さの方が重要だろう。なので、各地への所要時間と交通費を調べてみた。

①姫路市安富町皆河
所要時間 3時間。 運賃 2570円。

②佐用町昆虫舘
所要時間 3時間半。運賃 2600円。

③たつの市誉田町広山
所要時間 2時間半。運賃 2420円。

④丹波の森公苑(丹波市柏原町)
所要時間 2時間半。運賃 1760円。

時間と運賃だけみれば、軍配は丹波の森公苑に上がる。しかし、ソレだけでも判断できない。他の条件も考慮しなくてはならないだろう。例えば姫路市のポイントは遠いが、最も情報量が多い。次の成虫が、いつ頃から現れるのかも予測がつく。
昆虫舘も遠いが、コチラは昆虫に詳しいスタッフがいる。情報豊富で、訊けば詳しい発生場所も教えてくれるだろう。問題は、昆虫舘近くといっても、それが距離的にどれくらい離れているかだ。もしも車で30分なら、歩いて行くのは無理だろう。15分でもキツい。それにどれ程の数の幼虫が発生しているのか、何齢くらいが多いのかもワカラナイ。とはいえ、これらも電話して訊けば分かるんだけどもね。だから、それらよりも心配なのが、既に幼虫が色んな人に持ち帰られている可能性だ。何といっても昆虫舘は、虫好きが集まる所だからね。情報を聞いて飼育をしたがる人も少なくない筈だ。
たつの市の広山は近いが、8月末の時点で終齢幼虫だったワケだから、既に成虫が羽化してしまっている可能性がある。それをどう捉えるかだ。灯火採集には、時期的に丁度良いかもしれないが、既に分散している可能性もあるのだ。となると、蛹や幼虫も得られない確率が高い。虻蜂取らずだ。それに公園のようだから、駆除されている可能性は充分ある。
最後の丹波の森公苑だが、一番近くて運賃も安いけど、駅から20分くらい歩かなければならない。しかも、おそらく登りだろう。灯火採集用のポータルバッテリーは重い。それを背負って長時間歩くのは辛いものがある。そして現時点では、情報量が最も少ない。ゆえに幼虫の状況がワカランのだ。でも、昆虫舘の人に訊けばいいか❓…。あとはコチラも公園だから駆除されている可能性もある。また昆虫舘のイヴェントで行ってるんだから、幼虫が大量にお持ち帰りされてるかもしれない。その情報は各方面に口コミで漏れているだろうから、更に誰かが行って、根こそぎ攫っていってる可能性だってある。コレも昆虫館に訊けばいいか…。

正直、帯に短し襷に長しだ。判断するのは、もう少し吟味してからでもいいだろう。いずれにせよ、最終的な判断はギャンブルとなりそうだ。

翌日の火曜日、小太郎くんに鶴見緑地で惨敗した旨のLINEを送った。姫路市以外でも発生しているのを報告しときたかったし、週末の予定を訊きたかったからだ。
したら『お疲れ様でした。鶴見には飛んで行ってないのですね。明日、代休で午後から半休なので、近所のシンジュ並木を見ておきますよ。』と云う返信が帰ってきた。有り難い事だが、さして期待はしていなかった。世の中、そんなに甘いワケがない。そんな都合よく見つかるのなら、ここまで苦労していない。とっくにワシだって遭遇している筈だ。それよりも週末の小太郎くんの動きの方が気になった。彼の動き次第で、自ずとコチラの動きも決まってくるからだ。

 
2023年 9月22日

金曜の夕方、仕事終わりに何気にLINEを見たら、小太郎くんから連絡が入っていた。
多分、週末にどうするかという話だろうと思ったら、違った。東京・大手前のインセクト・フェアに行く前に、奈良市のシンジュがそこそこ生えている場所の様子を見に行ってくれたみたいだ。ふ〜ん、でもどうせ居なかったんでしょ❓
だが更に読み進んで、w⁠(⁠°⁠o⁠°⁠)⁠wドびっくり❗❗❗
そこには何と、幼虫が居て、蛹もゲットしたと云う文言が並んでおり、写真も添えられていた。勿論、詳しい場所も書かれていた。
😝👊シャー❗思わず、拳を握ったね。もう、メチャンコ興奮したさー。
(⁠༎ຶ⁠ ⁠෴⁠ ⁠༎ຶ⁠)ダァーッ、小太郎くん、アリガトねー。

以下は、その時のやり取りである。

『○○〜○○と広範囲に多数発生中。幼虫はあまり見られず、蛹(蛹化〜)と抜け殻ばかりです。』

『蛹を採るのに必要な道具って何?』

『脚立、容れ物(脱脂綿やティッシュ等の緩衝材を敷く)くらいですかね?木が登れる手の届く範囲だけで諦めるなら脚立は要りません。』

『脚立は(調達が)無理やなあ。繭を切り取るのはカッターでいいの?』

『指で摘んで引っ張れば破けますよ。』

青天の霹靂だ。まさかの展開である。こんな僥倖が訪れるとは夢にも思わなかった。実際、帰って姫路に行く用意をしようと思ってたからね。
こうなると当然ながら選択は、そこ一択となる。信頼できる人間からの直近のリアルな情報だし、位置的に断然近いからね。それにライバルも居ないだろうしさ。つまり、何ら不安要素が見当たらないのだ。ちょっと呆気ないけど、もう勝ったも同然の気分だ。

 
2023年 9月23日

バス停は病院前が一番近いと聞いていたから、抜かりなく路線バスの時刻を調べていた。しかし、極めて本数が少ない。病院なのに、そんなにアクセスが悪くていいのか❓と思ったので、一応病院のホームページも覗いた。したら、奈良駅から送迎バスが出ているではないか。断然、本数も多い。しかもタダだ。

朝、目覚めてカーテンを開けると、キレイな青空が広かっていた。
天気も良いし、絶好の採集日和だ。全てが良い方向に向かっているようで、自然と顔がニヤけてくる。いよいよ、この苦難続きの不毛な捜索から、やっと解放される時がやって来るのだ。
地図で、あらかたの場所も解ったし、楽勝じゃん。さして勝負に時間は必要なかろう。余裕をカマして昼過ぎに家を出た。
さあ、ちょこっと行って、蛹をガバッと持って帰ろう。

午後1時15分くらいに近鉄奈良駅に着いた。
40分台出発のバスには余裕のヨッちゃんだ。指定された発着場所にて待つ。
しかし、到着時刻を過ぎてもバスが来ない。最初は外国からの観光客が増えてるから、渋滞で遅れてるのかと思った。でも2時になってもバスは来ない。病院ゆきのバスを待っていそうな人も見当たらない。再度、病院のホームページで確認するも、バスが渋滞で遅延しているとか、故障したとかと云う情報は見当たらない。余裕のヨッちゃん気分が消し飛ぶ。そろそろ目的地に移動しなければタイムアウトになりかねない。慌てて路線バスの受付に行き、病院行きのバスの時刻を訊ねる。
しかし矢張り、この時間帯に病院へ行くバスは無いようだ。なので、一番近い別路線のバス停と出発時刻を訊く。幸い10分後に出るバスがあるようだ。

バスには乗ったものの、東大寺周辺は観光客で溢れかえっており、大渋滞。遅々として進まない。心がソワソワして落ち着かない。
ヽ(`Д´#)ノ ムキー❗❗轢き殺してでも前へ進まんかい❗、ドライバー。

午後3時半近く、漸く教えてもらったバス停で降りて歩き始める。
徒歩で20〜30分かかるようだが、空はまだ明るい。日没時刻から逆算すれば、持ち時間は2時間くらいの猶予はある。それだけあれば、見つかるだろう。

途中、小さな川の畔に、シンジュが結構生えている場所を見つけた。もしかして呆気ない唐突な出会いでフィナーレだったりして❓
しかし、幼虫の姿も食害された跡も確認できなかった。そうそう、そうでなくっちゃね。ここまで散々苦労してきたのだ。そこまで簡単に終ってしまうと、面白くない。

4時近く前に目的の県道に辿り着いた。
だが、その状況に驚く。想像してたのと全然違う。勝手に長閑な田舎道を思い描いていたのだが、長閑さなんぞ微塵もない。道は狭く、側道がない。路側帯も心細いまでに細く、特に山側は無いに等しいから歩けない。直ぐ横は側溝で、その先は崖と森なのだ。反対側も歩くには全く適さない。路側帯が細いだけでなく、所々から張り出している草木が邪魔で、車道側に入らないと前へは進めないのだ。そこをひっきりなしに両側から猛スピードで車がビュンビュン走ってくる。オマケに見通しの悪いブラインドカーブがあり、走って横断するのも命がけだ。もー、😢メチャメチャ怖いやんか。車が後ろからジャンジャン追い抜いてゆくし、常に背後にビクつきながら歩かねばならない。まだナルキッソスに一度も会えてもいないのに、車にハネられでもしたら泣くに泣けない。

ビビリつつも車道沿いのシンジュを順にチェックしていく。
だが、木は結構あるのに幼虫も居ないし、繭も見つからない。そして、山側のシンジュの木の葉が殆んど落ちているじゃないか。

何故に見つからないのだ❓ もしかして発生状況が終息に近いのかも…❓ 楽勝気分が一気に搔き消え、焦りが芽生える。マジかよ😨。まさか亡霊にでも呪われているのか❓ 急に心に黒雲が湧く。もしコレで何の成果も得られねば、糞のつくイモだ。才能なしだし、虫採り運も尽きたと云う事じゃないか。もう虫採りなんて、やめちまえだ。
さておき、これでは急遽明日、姫路へ行くことも視野に入れないといけなくなるかも…。けどなあ…、たぶん明日の天気は晴れだよな。となると、灯火採集には向かない。って云うか、明日は日曜日だ。灯火採集なんて出来ないじゃないか。ならば、そこそこ追い込まれる事になる。まさかの急転直下の😰やっべーやないの。

そこから少し進むと、20mくらい先に良さ気な木が見えた。
何故か、その瞬間に直感した。絶対にいると。

近づくにつれ、その感覚は益々強くなる。そして10mくらい手前まで来た時に確信した。視界内に、モゾモゾと上から下へと歩く物体がある。

阪神タイガースカラーの、このド派手振り。間違いなく彼奴、シンジュキノカワガの幼虫だろう。

至近で見て、相違ないことを確認する。
多分、終齢幼虫だ。蛹になるため、気にいった場所を探しているのだろう。にしても、😱キッショ❗本能的に忌避感を覚える。取り敢えず無視して繭を探そう。
けれども、視界の中でウニョウニョ動くのが気になってしょうがない。

シッシッ、あっち行け。
と言うも、ウニョウニョ〜。ウニョウニョ〜。
ヽ(`Д´#)ノ キショいんじゃ、ワレー❗❗

恫喝すると、聞こえたのか、上に向かってムニョムニョと歩き出してくれた。どもー、アリガトねー。

(⁠・⁠o⁠・⁠)んっ❗❓
幼虫が歩き出した直ぐその下あたりに、何か違和感を覚えた。
😲ありゃま❗❓
よく見ると、繭が2つ並んでいるではないか❗
コレこそ、間違いなくシンジュキノカワガの繭だろう。状況的にみて、それしか有り得ない。

樹皮と同じ色で、完全に同化してるね。
とはいえ隆起しているので、探す意志がある者にとっては楽勝レベルだ。慣れれば、見逃すことはないだろう。
(⁠・⁠o⁠・⁠;⁠)あれっ❓、けどコヤツらには真ん中に穴が空いておるではないか。
おそらくは寄生されたものだろう。寄生蜂だか寄生蝿だかワカランが、そやつらの脱出孔の跡かと思われる。チョウもガも、蛹が寄生されているケースはよくあるのだ。
一応、軽く叩いて振動を与えてやる。ナルキッソスの蛹は鳴くからだ。正確には、腹部背面にヤスリ状の器官があり、それと繭の内側の隆起条とを激しく擦り合わせる事によって音を奏でるのだ。

でも、反応なし。指に、ふにゃふにゃでペコペコした感触が返ってきただけだった。中身は空って事だろう。
続けて4、5個ほど繭を叩いてみるが、いずれも反応は無い。おいおいである。神様ぁー、ヒドいよ。ゴールまであと少しなのに、この期に及んでオアズケですか❓ ねぇー、いい加減にアチキに歓喜を与えておくれよー。
だが、冗談めかして言ったすぐ後に、最悪のシナリオが頭をよぎった。
ガビーΣ(゚∀゚ )/ーン❗神様、まさか全滅とかはないですよね❓
ソレはいくらなんでも酷すぎるでしょうよ。あっ❗そんな御無体な。それだけは御勘弁して下さいまし。やめて。やめてぇー❗それだけはやめておくんなましー❗あれぇ〜、🍥🍥🍥くるくるくるぅ〜。頭の中で、着物姿の女性が帯を強引に解かれて、駒のように回っている。しかもアニメ画像でリピートでだ。アホだ。救いようのない阿呆だ。コレ以上オカシクなったら戻って来れない。気を取り直して、繭に集中しよう。

そして、次の繭を叩いた瞬間だった。
🎵ガチャガチャガチャ、🎵ガチャガチャガチャ

予想外の大きな音に驚いて、反射的に指を引っ込める。
(*´∀`)おったがなー。

逸る気持ちを抑え、カッターを取り出す。そして、慎重に上部に切れ目を入れ、繭を少しずつ捲(めく)っていく。

ころりん。感触があった次の瞬間には、手のひらに蛹が転がっていた。

そして、激しく腹部を左右を動かし始めた。まるでダンスを踊ってるみたいだ。しかもコミカルな動きなので、フッと笑ってしまう。あんた、キュートじゃん。そっかあ…、腹を上下に動かすのではなくて、お尻振り振りの左右だったのね。
それはそうと、想像してたよりもかなり小さい。でもって、めっちゃ平べったい。ちょっと意外だ。成虫は、そこそこ大きいと云うイメージだし、蛾といえば、腹ボテだと云うイメージが強いからさ。
兎にも角にも、やっと採れた…。静かに心が震える。やっとこさ憑き物が落ちたと云う気分だ。喜びよりも、むしろ安堵の気持ちの方が強い。コレで虫採りをやめなくとも済むしね。

裏返すと、黒い小さなお目々がある。
何だか無理矢理明るい所に引き出されて、(・_・;)キョトン顔になってるみたいで可愛い。
刺激してやると、またお尻振り振りになる。今度は顔付きなので、声に出して笑ってしまった。おとぼけ顔でダンスは、反則技じゃないか😂

タッパーに、クッションがわりのティッシュを敷いて蛹を乗せ、ふわりと丸めたティッシュを上から被せる。そして『無事、羽化してねー。』と呟く。寄生されている可能性があるし、羽化に失敗して羽がキレイに伸びないケースだってあっからね。

じっくり見ていくと、繭は沢山あった。1箇所に塊となって在ることが多く、自分の胸よりも下、特に根元や根元近くに集まる傾向が強くみられた。向きは、どちらかというと東向き(山側)よりも西向きや南向きのモノの方が多かった。
しかし大半は空だった。でも、それが全て同じ世代のモノなのかはワカラナイ。或いは1つ前の世代や去年のモノも混じっているのかもしれない。

その後、別な何本かでも蛹を得ることができた。
高い所にはあまり見られず、多くは手の届く範囲だったんで助かったよ。心のどこかで、高くて届かず、指を咥えて見てるだけーみたいな事になるのではないかと、密かに恐れていたからね。

黄色いのもいた。
だが、たぶん蛹化したばかりのものと思われる。時間が経つにつれ、色が茶色へと変化してゆくのだろう。

羽が透けてる蛹も得た。羽化も近そうだ。
コレで最低でも1頭は成虫が拝めるだろう。👍やったね。
とはいえ、予断は禁物だ。この先、何が起きるかワカランからね。
🐛🤢🤮ドギャブギャワッ❗ 蛹たちが未来を憂いて、緑色のビートルジュースを吐き出して自決しないとも限らないのだ。

キショいけど、最終的には幼虫も4頭採った。
もっと標本が欲しいと云う欲望が勝ったのだ。あれほど気色悪がってたのにね。げに恐ろしきは、虫屋の欲深さである。
ねんのためにビニール袋を持参していたので、幹を這っている幼虫の下に恐る恐る持っていき、ビニールの端で突っついた。すると、簡単に袋内に落ちた。たぶん、葉や枝に付いてるモノも、引っ剥がさずとも揺すれば下に落ちるのではないかと思われる。
ちなみに、落ちた瞬間には😱ゾゾッときたね。全身に、さぶいぼ(鳥肌)がサアーッと出たよ。

幼木から若木、壮年木、大木と丹念に見たが、幼虫や繭が確認できた木には傾向が見られた。先ず山側の森の中にある木では1つも見つけられず、林縁部の2箇所のみに繭があった。比較的、山と反対側に多く見られ、その大半の場所が畑などに隣接していた。どうやら周りに広い空間があり、日のよく当たる明るい場所がお好みのようだ。

大木には全く見られなかった。てっきり大木につくものとばかり思い込んでいたから、コレは意外だった。壮年木でも殆んど見られず、唯一1本のみで確認できただけであった。つまり、多くは幼木と若木での発生だった。大木や壮年木の大きな葉よりも、幼木や若木の小さくて柔らかい葉を好むのかもしれない。
となれば、たとえ姫路に行っていたとしても、少なくとも幼虫採集には支障が無かったって事だね。10mの長竿も無用の長物だった可能性大だ。
とは言っても、あくまでも此処だけでの話だ。別な場所では、また違った傾向がみられるかもしれない。

いつしか空は夕焼け色になっていた。
そろそろ帰る時刻だ。恩恵を与えてくれた森に別れを告げよう。
木立ちを仰ぎ見て、ふと思う。
この彼ら彼女たちの親は、何処から来たのだろうか❓ その長い旅路に思いを馳せる。中国南部から風に乗って1,000kmの旅をして、此の地に直接辿り着いたのだろうか❓ それとも九州北部辺りに第一世代の親が辿り着き、そこで繁殖した第二世代が再び旅に出て、此の地にやって来たのだろうか❓ いずれにせよ此処で卵を産み、命を繋いだ。今その次世代が親になろうとしている。その親たちは今度は何処を目指すして飛び立つのだろうか❓
だが、そんな生を謳歌してきたナルキッソス達の身にも、やがては黄昏が訪れる。秋が深まる頃には、全て死滅してしまうと云う残酷な運命が待っているのだ。寒さに耐えきれず、蛹が繭の中で死んでしまうのである。そう、皮肉にも繭がそのまま彼らの棺桶になってしまうのだ。

黄昏どき、交通量の多い細い県道を奈良駅へと向かって歩く。
夕陽が沈んだばかりの生駒山地からトパーズ色の光が漏れている。空はまるでシンジュキノカワガの鮮やかな後翅のような綺麗な橙黄色に染まっている。祝祭と云う言葉が頭に浮かぶ。その色は、シンジュキノカワガとの邂逅を祝っているかのようにも思えてきた。
立ち止まり、空を眺めて息をゆっくりと吐く。何だかホッとする。ここまで長かった…。全身の力がゆるゆると抜け、じんわりと心の襞に歓喜が広がってゆく。まだ成虫は得ていないものの、蛹を7つ、幼虫を4頭も得る事が出来たのだ。コレだけいれば、流石に1つくらいは羽化するだろう。余程の凶事でも起きないかぎりは、念願の生きているナルキッソスに会える筈だ。
 
                 つづく

 
 
追伸
最後には、何とか第一話の冒頭部分に着地できた。ちゃんと一話と繋がって、胸を撫でおろしたよ。
とはいえ、予定よりも長い文章になった。ブランクが長いと、文章の枝葉を上手く刈り込めないのである。だから、無駄に長くなる。文章を書くのが下手クソな人間の典型だ。
記事の長さにも拠るが、昔は書き始めてから2、3日で書き終えていた。短かい記事ならば、1日で仕上げてた。それが今回は、3話分まで書くのに四苦八苦、20日以上もかかってしまった。
兎に角、アッチャコッチャ色々と衰えてきてるよね。まあ次は、少しでも短くできるように努力しますね。
あっ、それから出来れば第一話も読み返してもらいたいですな。文章が今回と、どういった経緯で繋がったか分かるからさ。どうでもいいっちゃ、どうでもいい話だけど。

次回予定、第4話(最終回)「蠱惑のナルキッソス(仮題)」。
さてさて、今度はどれだけ時間がかかることやら…。

 
(註1)自分も極力明かすようにしているし
但し、人に教えてもらった秘密の場所は基本的には明かさない。自分で見つけた場所は、匂わせる事が多いかな。だって、ヒントを元に場所を探すのは面白いからさ。読み通りに見つけられた時には達成感があるもんね。その楽しみを奪うのは不粋かなと思うのだ。

 
(註2)繭が確認できなかったと書かれている
「あの時点では全く頭になかったが、まだ幼虫が1つも蛹になっていなかったと云う可能性もある。」
そう書いていたが、この原稿の本文までを書き終えた後、一応確認した。したら、ブログの記事がアップデートされており、26日には多数の繭が確認できたそうだ。
となれば、姫路に行っていたとしても、良き結果を出せた可能性が高いね。読みは、それなりに正しかったのだ。って云うか、数は奈良よりも多く採れた可能性が高い。たらればの話だけどね。

 
(註3)網で幼虫を引き剥がせるのだろうか❓
引き剥がせます。この時はまだ、幼虫に刺激を与えてやると直ぐに落下すると云う習性を知らなかったのだ。

 
(註4)昆虫たちが人工光に引き寄せられるメカニズム
「飛んで火に入る夏の虫」。古来から虫や魚が光に集まることは知られており、自分が書いた説の他にも幾つもの仮説が提唱されてきた。しかし、それを今まで誰も証明できなかった。
だが最近になって新たな説が提唱され、それが実験によって証明されたようだ。ざっくり言うと、その原因は「背光反射」によるものであるらしい。コレは昆虫の重力に対する姿勢制御機能で、明るい方向に背中側を向けようとする反射的な行動を指す。つまり、月や太陽は上から照っているので、昆虫たちは平行、もしくは上に向かって飛ぶ。しかし、横からの光には常に背中を向けようとして、その周りをぐるぐると回ってしまう。例えば蛍光灯を上から縦にブラ下げたような状態がコレにあたる。そして下から照らされる光に対しては、地面に向かって急降下してしまうそうだ。
つまり、ライトトラップをするならば、灯りを上に向けるか、横にするのが効果的だという事になろう。但し、遠くの光には反応しないようだ。たまたま近くを通ったものが引き寄せられるだけらしい。
それがもし事実ならば、今まで良しとされてきたライトトラップの形体や設置場所の概念がグラつくよなあ…。
そうなると、自ずと新たな疑問も生じてくる。近くって、どれくらいの範囲なのだ❓
そういえば何年か前の奄美大島で、むしどり君がサーチ系のライトを山肌に照射していた時は、かなり遠くの約50m以上先からハグルマヤママユが近づいて来るのがハッキリと見えたぞ。全然、近くないじゃないか。それって、どう説明するのだ❓ 改めて問う。近くって、どれくらいの範囲なのだ❓
何か、どうやれば効果的なのかワカンなくなってきたよ。

一応、背光反射の詳しいメカニズムについては、以下にリンク先を貼っておくね。リンクを長押しして検索すれば、記事に飛びます。

「なぜ虫は光に引き寄せられてしまうのか?」がハイスピードカメラを使った研究で解明される – GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20230523-insects-attracted-artificial-lights/

 
(註5)イラガ類
前翅長30mm前後〜35mm前後くらいの小型の蛾類。
日本には30数種のイラガの仲間がおり、その約半数が幼虫時代に毒を持つ。

(アオイラガ)

(出典『芋活.com』)

おそらくイラガのイラは、草木の刺のことを指すイラか、もしくは植物の1種であるイラクサ(苛草)からの由来だろう。これらは「苛立つ、苛々する」の語源にもなっている。
因みにイラクサの茎や葉の表面には毛のようなトゲがある。そのトゲの基部にはアセチルコリンとヒスタミンを含んだ液体の入った嚢があり、触れるとその嚢が破れて皮膚につくと強い痛みを感じる。イラガ類の多くの種の幼虫も全身に毒棘と毒針毛をそなえ、触れると激痛が走る仕掛けになっている。その感電したかのような痺れるような痛みから「デンキムシ」と云う別名もあるそうだ。

 
ー参考文献ー

(インターネット)
・『昆虫漂流記』ー「シンジュキノカワガ 採集から飼育 2023年9月2、3日 以降の観察」
・『「なぜ虫は光に引き寄せられてしまうのか?」がハイスピードカメラを使った研究で解明される』- GIGAZINE
・『Wikipedia』
・『佐用町昆虫舘オフィシャルサイト(NPO法人こどもむしの会)』
・『NPO法人ひょうご森の倶楽部』
・『芋活com.』
・「みんなで作る日本産蛾類図鑑」
・『円山原始林ブログ』
 
 

黄昏のナルキッソス 第二話

第2話 亡霊ナルキッソス

 
2019年 11月5日

2019年もシンジュキノカワガを求めて伊丹市昆陽池公園に行った。

(シンジュキノカワガ Eligma narcissus)

行程は2017年と全く同じだった。先ずはママチャリで伊丹空港横の猪名川河川敷に行った。シルビアシジミの様子をみるためだ。

(猪名川河川敷)

シルビアは健在だった。
稀種シルビーちゃんが、これほど都会のド真ん中にいて、しかもこれほど沢山いる場所は他にはないだろう。

(シルビアシジミ)

そこから、えっちらおっちら昆陽池へと向かったが、結果は未発生。痕跡は全くなく、又しても惨敗に終わった。

 
2020年 9月22日

この年はJR大和路線の三郷駅へ行った。
カッちゃんが、この駅でシンジュキノカワガの死体を拾ったのである。今はどうなっているのか分からないが、まだ当時の構内の灯りは蛍光灯で、虫がそこそこ飛来していたのだ。最近は殆んどの灯りがLEDに変わってしまい、全然虫が寄ってこないから貴重な場所だった。春にはマイコトラガ、夏にはシンジュサン、秋にはウスタビガもやって来てたからね。

カッちゃん曰く、最初の1頭は踏まれてペッチャンコだったそうだ。で、二匹目のドジョウを求めて通ったらしい。そして何回目かは聞いていないが、目論見通りに2頭目に出会ったのである。しかし不幸にも、その個体もまた踏まれていた。とはいえ、まだ踏まれて間もなかったみたいで、かろうじて原形はとどめていたらしい。しかも羽化したばかりのような新鮮個体だったそうな。もう少し早く到着していれば…と随分と悔しがってたなあ。
余程もったいなかったのか、確かその個体は持って帰って修復展翅したんだよね。でも頑張りはしたものの、どうにもならんかったらしいけどさ。

それはともかく、2頭もいたと云うことは、間違いなく近辺で発生していると云うことになる。そう判断して自分も出掛けたのだった。

駅構内を地面や壁を凝視しながら歩き回る。
一般ピーポーから見れば、完全に怪しい人だよね。狂気の沙汰もシンジュキノカワガ次第なのだ。虫屋ってホント、頭オカシイわ。

結果は、又しても完封負け。戦果は地面に落ちてたナカグロクチバくらいだった。

実物を初めて見たけど、前翅の柄が幾何学模様でスタイリッシュだ。
それと比べて裏面は地味。

蛾って、表は複雑なデザインのものが多いのに、裏は概して地味なものばかりだ。その点、ナルキッソスは裏も素晴らしい。

(シンジュキノカワガ 裏面)

デニムブルーと鮮やかな黄橙色の対比が美しい。ブルーの中に、放射線状に水色が入っているのもオシャレである。まるで月と帳が下りたばかりの夜空みたいだ。どこかゴッホの絵画を彷彿とさせるところがある。糸杉とかカフェの絵とかさ。

(星月夜)

(出典『CASIE MAG』)

「星月夜」もそうだけど、何と言っても、やっぱりコレだね。

(夜のカフェテラス)

(出典『巨匠の美術館〜誰もが知っている有名画まるかじり!〜』)

色合いだけでなく、その配色の構図までもナルキッソスっぽい。

それに表と裏のデザインが全然違うってのも素敵だよね。しかも両面とも色鮮やかなのだ。蝶は蛾と比べて裏も美しいものが多いと思うが、それでも裏も表もここまで華美なものは少ない。

 
一応、ナカグロクチバの解説をしておこう。

(ナカグロクチバ Grammodes geometrica)

ヤガ科 シタバ亜科 クチバ属に分類される蛾。
南方系の種で、元々は南西諸島にしかいなかった。なので昔は本州では偶産蛾扱いされてきた。それが地球温暖化に伴い急速に北上、今や北関東にまで分布を拡げている。
7~10月の夏から秋にかけて発生し、イヌタデ,エノキグサ,コミカンソウ,ブラジルコミカンソウ,ヒメミソハギ,ホソバヒメミソハギ,サルスベリ,ザクロなどの各種雑草を食餌植物としている。そのため、河川敷などでよく見られるという。
結構珍しいと云うイメージがあったが、今や本州でも普通種になってるみたいだね。ガッカリだ。

この年は、多分もう1回くらいは三郷駅へ行ったと思う。勿論、結果は言うまでもない。これで6連敗だ。

 
2021年

2021年は、画像は残っていないけど、大阪市鶴見区の鶴見緑地公園へ行っている。ネットでシンジュの木がある場所を探していたら、どなたかのブログにそこそこあるようなことが書いてあったからだ。
確か、ママチャリで行ったんだよね。昆陽池公園ほどではないにせよ、鶴見緑地も遠かったよ。

シンジュの木は確かにあった。ひこばえも各所で見つけた。でも大きな木は期待してたほどなかった。どうやら台風で何本かが倒れたらしい。

結果は、木を丹念に見回って幼虫と繭を探すも、見つけられずじまいだった。未発生の可能性が高い。
それでも一応夜までいて、灯火巡りもしてみた。だが、空振り。どうやら照明が全部LEDになってしまっているようで、虫が全然寄って来ない。LEDからは紫外線が殆んど出ないので、虫たちは誘引されないのである。昔は何処でも灯りに夥しい数の蛾が集まっていて気持ち悪いくらいだったが、今やLEDだらけで、灯火を巡っての採集なんて不可能に近い。まあ、その分死ぬ虫は減るけどもね。コウモリとかクモなどに捕食される数は減るだろうし、人に踏まれる事もない。

後で知るのだが、この年は昆陽池公園でナルキッソスが発生していたようだ。伊丹昆虫館のホームページに、10月21日に公園の生き物調査が行われた旨が書かれており、そこにシンジュキノカワガの幼虫と蛹の記録があった。ショックだった。去年は行ったのに、どうして今年は行かなかったのだ❓ 痛恨の極みである。激しく悔やんだね。でも幾ら悔やんだところで、後の祭りだ。
この頃には、流石に心が折れかけていた。ナルキッソスとは一生縁がないんじゃないかとさえ思い始めていたのだ。もはや亡霊みたいな存在だ。そして、その正体不明の亡霊を追いかけて、あてどなく彷徨っているような気分だ。でも、未だその存在のシッポさえも掴めないでいる。五里霧中。先の見えない徒手空拳の戦いは辛い。

 
2022年 10月上旬

画像が無いから正確な日付は分からないが、10月初旬辺りに昆陽池に行っている。連続で今年も発生しているのではないかと云う淡い期待を持ったのだ。

しっかし、またしても痕跡ゼロであった。これで8連敗だ。重苦しい徒労感が襲う。

 
2022年 10月下旬

この日も正確な日付はワカラナイが、鶴見緑地へ行った。ママチャリではなく、電車で行ったと思う。
情報源は小太郎くん。ツイッターだったっけか❓ 誰かがSNSに鶴見緑地で撮ったナルキッソスの画像を上げていると教えてくれたのだった。
クソッ、鶴見緑地だって去年行ったじゃないか。なのに何でよりによって今年の発生なのだ❓この悪戯なズレって、誰かの悪意すら感じる。なんだか亡霊におちょくられているような気かしてきた。

行ったら、パッと見にはシンジュらしき木が見当たらない。
一瞬、切られた❓と思った。だが、どうやら葉が全て落ちてしまっているからのようだ。幹の木肌は何となく憶えているので、らしき木の幹に繭がないか探しまわる。
しっかし、一つも見つけられなかった。夜までいようかとも思ったが、どうせLEDだから成果は望めない。諦めて、そういや中央環状線沿いの大きな釣具屋まで歩いて行ったんだよね。で、戻りしなに撤退まじかの鶴見緑地アウトレットに寄って帰ったっけ。ナルキッソスが光に集まって来てるんじゃないかと淡い期待もしたが、勿論そんな奇跡みたいな事は起こらなかった。8連敗決定である。

 
2022年 11月27日

こんな遅い時期に出動する事になったのは、幼虫好きのN女氏が8月に池田市東山でシンジュキノカワガの幼虫を見たと教えてくれたからである。同年内に、居るとか居たと云う確実な情報を得たのは初めてだ。俄然、士気が上がる。今度こそ亡霊ではなくなるかもしれない。
そうだ今回は、なんちゃってライトトラップも持っていこう。なんなら糖蜜だって用意してもいい。最善の努力を怠ってはならない。まだ其処に居ることを祈って出掛けた。

阪急池田駅からバスに乗り、山裾近くで降りる。ここは昔、クロヒカゲモドキを初めて採った思い出の場所だ。そういや同じ目的で来てた爺さんに、採ったと言ったら『お前みたいな駆け出しに採れるワケがない❗大方クロヒカゲと間違えてんだろ。見せてみろ。』と偉そうに言われたんだよねー。なので蝶の入った三角紙を見せた。中を覗いた時のジジイの表情は今でも鮮明に憶えている。それは驚愕と恥辱にまみれた醜い顔だった。そして、態度をコロッと変えて猫撫で声で「何処で採ったのー❓。」と訊いて来たんだよね。アレには笑ったよ。
場所を案内してあげたけど、もちろん採れる筈もない。だって、そっちこそド素人のセンスなしだったからだ。クロヒカゲモドキは、昼間にはススキに止まって休んでいるのだ。それすら知らなかったからね。

(クロヒカゲモドキ)

その日は他にも採集者が結構入っていたけど、結局のところ自分しか採れなかったんだよね。あの頃は連戦連勝で、超絶引きが強かった。それが今や蛾に連戦連敗の体たらくだ。多分、どうしても採らねばならぬと云う強い気持ちが薄れてきてるんだろなあ…。どうしても欲しいと云う強い欲望と絶対に採ると云う強い意志が、運をも引き寄せていたのだろう。
そのクロヒカゲモドキも今や絶滅していて、もう此処にはいないらしい。あの頃には、既に絶滅の危機に瀕していたのだろう。

師走も近い晩秋の山は、燃えるような紅葉に彩られていた。
その中をシンジュの木を探しながら登ってゆく。

でもシンジュらしき木は中々見つからない。
神社を過ぎ、更に奥へと向かう。

500mほど進んだところで、ようやくそれらしき木を見つけた。
葉は、殆んど落ちている。この時期にはさすがに幼虫は居ないだろうから、繭を探すことにする。
しかし、幹には繭なんぞ1つもへばりついとらーん。もはや新たな地を求めて旅立ったのかもしれない。いや、そうゆうマイナス思考は止めておこう。きっと別な他の木が発生木だったと考えよう。単にそれが見つけられなかっただけの話だ。だからきっとまだ此処には居る筈。そうとでも思わなければ、やってらんない。

午後5時半、ライト点灯。
さあ試合開始だ。今日こそ亡霊ナルキッソスの正体を暴き、亡霊ではなくしてしまおう。

続いて糖蜜を木の幹に撒きまくる。シンジュキノカワガが樹液に来ると云う話は聞いたことがない。だが、だからといって樹液には絶対来ないという証明にはならないからね。やれるべき事はやる。

何だか気分は、こないだのサッカーW杯の日本VSドイツの試合前みたくだ。どう考えても劣勢が予想される状況下におかれている。どころか、まだしも日本がドイツに勝つパーセンテージの方が高いんじゃねぇか❓正直この試合、奇跡でも起きなければ勝てそうにない。

暫くして何か来た。

見たことのない蛾だ。
下翅が白くて、まあまあ渋カッコイイ。もしかして、珍品だったりして…。ならば、せめて少しは報われる。少なくとも此処へ来た意味は生じる。

退屈だから、スマホのレンズ機能で画像検索でもすっか…。
けど、名前がサッパリわからんちゃ。候補の蛾がたくさん出てきてワケわからんくなった。コレだというモノが見つからないのだ。

あと20分くらいで、日本のW杯第2戦のコスタリカ戦が始まる。なのにテレビ観戦を放棄してまで、こんな人っ気のない淋しい山に一人で、しかも夜に居るだなんて、どう考えても馬鹿げている。ホント、何やってんだかなぁ……。

それにしても寒い。この時期の夜の山は冷える。
そうゆうワケだからか、灯りに集まって来る昆虫も少ない。

午後7時半。
あまりにも静かだ。
暇すぎて白布に止まっている蛾を数えたら、微小なモノも含めて15頭しかいなかった。糖蜜トラップにいたっては誘引数ゼロだ。1頭たりとも何も寄って来てない。

午後8時。
何も起こりそうにない雰囲気に、もう耐えられない。心が折れた。クソ寒いし、撤退を決める。

帰りの電車から降りて、迂闊にもスマホを開いてしまった。したら、いきなり目の中に日本0-1コスタリカの文字情報が飛び込んできた。時間的にみて、試合は既に終わってる筈だ。と云う事は、まさか日本が負けたって事か…❓ 帰って録画したのをじっくり観ようと、今まで慎重に情報を遮断してきたのに…。車内の会話でさえも聞こえないようにと、わざわざイヤホンで音楽を聴いてまでいたのだ。その努力も全て水の泡だ。ナルキッソスは採れなかっし、ダブルショックでガックリだ。
💢クソッ、速報とか別に望んでないのに勝手に送りつけてきやがって…。そうゆう一見便利なサービスは邪魔。ハッキリ言ってアリガタ迷惑なんだよなー。
それにしても、勝てるだろうと踏んでいたコスタリカに、まさか負けるとはね。ドイツに勝ったのに、何やってんだよー😓💢。

と云うワケで、帰宅後は先ずは唯一持ち帰った名前不明の蛾を展翅した(註1)。

その後、じっくりと戦犯探しをしながら試合を観た。
で、試合内容を観て、もう怒りで打ち震えたね。

(戦犯1)
コレはもう、中途半端にクリアミスしたDFの吉田でしょう。
キャプテンやろ、ワレー💢(⁠ノ⁠`⁠Д⁠´⁠)⁠ノ⁠彡⁠┻⁠━⁠┻

(戦犯2)
途中から左サイドバックに入った伊藤洋輝。バックパスばかりで、何故か前にいる三笘にパスを出さなかった。たとえ三笘が相手に囲まれていようとも、パスを通すためにチャレンジしないと勝てるワケがない。そのクソ消極振りは、万死に値する。

(戦犯3)
FW上田。下手くそ過ぎ。足元でボールをおさめられず、ポストプレーが全くできていなかった。

(戦犯4)
左ウィングの相馬。シュートをフカシまくり。

とは言っても、全てはコレらの選手を起用した森保監督のせいだよな。ちんたらした試合状況の前半のうちに手を打つべきだったと思うよ。
次の対戦相手は強国スペインだ。ドイツよりも強いだろう。コレでほぼ予選敗退は決まりだな。ドイツに歴史的勝利をおさめたから俄然盛り上がったのに、心は激しぼみだよ。

このように2022年は、散々な結果に終わった。
コレで、フラれ続けての9連敗。亡霊は亡霊のままだ。ぼんやりと思う。一生、彼女には会えないのかもしれない。

                  つづく

 
追伸
ご存知の通り、その後日本はスペインを2ー1で撃破。奇跡的な大勝利をおさめて決勝トーナメントに進出する。そしてクロアチアに1一1と引き分けるも、PK戦で負けるのである。今度こそベスト8の壁を打ち破れると思ったのになあ…。まあ次の2026年のW杯に期待するとしよう。もし出られたとしたなら、次はタレントが揃ってるからネ。
余談だが、次回は初のカナダ・メキシコ・アメリカの3カ国開催。出場国が大幅に増えて、36カ国から48カ国になる。

 
(註1)名前不明の蛾
後にホソバハガタヨトウ Meganephria funesta と云う名前だと判明した。
開張50〜55mm。『みんなが作る日本産蛾類図鑑』ではヤガ科 ヨトウガ亜科となっているが、『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』では、ヤガ科モクメキリガ亜科に分類さるている。分布も『みんなが作る…』では本州、対馬となってるが、標準図鑑では他に四国、九州、佐渡ヶ島が追加されている。
『みんなが作る…』は、こうゆう事が多いんだよなあ…。分類が変わったり、新たに分布地が発見される事は当然あるんだから、記述内容が古くなるのも仕方のない事だ。でも変更があったり新たな知見が加わったのに書き替え、つまりアップデートが全くなされていないのだ。コレは何とかしてほしい。と云うか、種名検索したら大概が真っ先に出てくるような影響力大のサイトなんだから、間違った情報は一刻も早く書き変えるべきだろう。
幼虫の食餌植物はニレ科ケヤキ。成虫の出現月は11月で、12月まで見られるようだ。晩秋の発生なんだね。なるほど、だから見たことがなかったんだね。そんな時期まで虫採りしている人は、ごく一部だかんね。
けど、残念ながら珍品でも何でもなく、里山を生息地とする普通種みたいだ。行った意味なーし(⁠+⁠_⁠+⁠)

 
ー参考文献ー
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
・『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
・『伊丹昆虫館ブログ』

 

黄昏のナルキッソス 第一話

 
第1話 流転のナルキッソス

 黄昏どき、交通量の多い細い県道を奈良駅へと向かって歩く。
夕陽が沈んだばかりの生駒山地からトパーズ色の光が漏れている。空はまるでシンジュキノカワガの鮮やかな後翅のような綺麗な橙黄色に染まっている。祝祭と云う言葉が頭に浮かぶ。その色は、シンジュキノカワガとの邂逅を祝っているかのようにも思えてきた。
立ち止まり、空を眺めて息をゆっくりと吐く。何だかホッとする。ここまで長かった…。全身の力がゆるゆると抜け、じんわりと心の襞に歓喜が広がってゆく。まだ成虫は得ていないものの、蛹を7つ、幼虫を4頭得る事が出来たのだ。コレだけいれば、流石に1つくらいは羽化するだろう。余程の凶事でも起きないかぎりは、念願の生きているナルキッソスに会える筈だ。

シンジュキノカワガを探し始めたのは、いつの頃からだったろう❓

 
【シンジュキノカワガ】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
(静止時)

 
(横面)

 
(裏面)

前翅長63〜77mm。雌雄同型の大型美麗種。そのエキゾチックな姿が図鑑の表紙に使われたり、狙って得る事が難しい稀種である事などから、愛好家の間の中でも憧れる人は多い。

前翅は細長く、上部は緑色を帯びた黒色。中央部は白色で細かな黒斑が散りばめられている。そして下部は渋い紫灰色。一方、後翅は中央部が鮮やかな橙黄色。外縁は太い黒帯で縁取られており、その中には光沢のある青色鱗が配されている。

シンジュキノカワガの探索譚を書き始める前に、先ずは種の解説から始めよう。いつもとは逆のパターンだけど、何とかなるっしょ。

 
【分類】
Nolidaeコブガ科 Eligminaeシンジュキノカワガ亜科 Eligma属に分類される蛾。
最初はヒトリガ科のコケガ亜科に入れられていたが、後にヤガ科 キノカワガ亜科に移された。そして現在はコブガ科 シンジュキノカワガ亜科(註1)に分類されている。しかし、Holloway(2003)は、Eligma属はコブガ科ではないとしている。おそらく独立した科を新たに設けるか、もしくはヤガ科に戻すという事なのだろうが、未だ結着はついていないようだ。尚、そういった経緯の影響ゆえからなのか『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』では、亜科を所属不明としている。流転のシンジュキノカワガなのだ。

原記載亜種のタイプ産地は中国で、南部から東北部までが分布域されている。がしかし、本来の生息地は南部で、季節が進むに連れて北側に移動するのではないかと云う見解もある。台湾、朝鮮半島、日本で得られる者も、この原記載亜種に含まれる。
海外では他にフィリピン(ミンダナオ島)、インド、インドネシアのジャワ島とスラウェシ島から別亜種が知られている。

・Eligma narcissus indica Rothschild, 1896(インド亜種)
・Eligma narcissus javanica Rothschild, 1896(ジャワ島亜種)
・Eligma narcissus philippinensis Rothschild, 1896(フィリピン亜種)
・Eligma narcissus celebensis Tams, 1935(スラウェシ島亜種)

前翅または後翅の斑紋に一定の差異があるとされるようだ。とはいえ同種の亜種ではなく、別種の可能性もあるという。


(出典『www.jpmoth.org』)

亜種の画像を探してみたけど、スラウェシ島亜種の画像1点のみしか見つけられなかった。この1点のみで論じるのは問題がありそうだが、一見したところ後翅の青紋がない。また橙黄色の下部の形が違うような気がするし、より前翅の白帯も太いような気もする。別種っぽいが、分類は一筋縄ではいかなさそうな匂いがするね。

亜種はインドを除くと、その産地はかなり孤立的で、本種はアジアに普遍的に広く分布するような種ではないみたいだ。もしかしたら、亜種各々に強い特化傾向があるのかもしれない。その可能性はありそうだ。
尚、Eligma属はアフリカ、マダガスカル、アジア、オーストラリアの亜熱帯に約5種が分布するが、アジアでは本種1種のみによって代表される。

ところで、アジア以外のEligma属って、どんな感じなんだろう❓
ちょっと気になったので、調べてみた。


(出典『ftp.funet.fi』)

シンジュキノカワガとソックリじゃないか❗ で、どこが違うんだ❓
あっ、よく見ると前翅に黄色いラインが入っている。
どうやら、Eligma neumanniと云う種のようだ。なお撮影場所はアフリカのエチオピアとなっている。
こんなにソックリならば、下翅はどうなってんだろ❓ とんでもないド派手なデザインかもしれない。ちょっとワクワクしてきたよ

しかし、何故か標本写真が見つからない。けれども別な種で見つかった。


(出典『African Moths』)

コチラは、より黄色い線が太くて明瞭だね。また長くもあり、先は曲線部にまで達している。
種名は、Eligma hypsoidas。分布はカメルーン、コンゴ共和国、エチオピア、ナイジェリア、ウガンダなどと書いてあった。結構、分布は広いな。

さてさて下翅は如何なものか❓


(出典『African Moths』)

😲おー、美しい。
😲アレレー❗❓、何と外縁上部に白紋があるぞ。想定外のデザインだ。青色鱗もない。とはいえ下翅全面を見てみなければ分からない。隠れた部分に青が入っているかもしれないからね。展翅画像を探そう。


(出典『Naturalist UK』)

メリハリがあってカッコイイ。
けど矢張りシンジュキノカワガみたく青紋がない。そう云う意味では、美しさの優劣はシンジュキノカワガに軍配が上がろう。

ところで、裏はどうなっているのだ❓
しかし海外のサイトを探してみるも、何故だか裏面画像が1つも見つからない。で、やっとこさ見つけたのが、何と日本のサイトであった。アフリカから送られてきた蝶の中に混じっていたそうな。


(出典『昆虫親父日記』)

あっ😲❗、ナルキッソスと全然違うじゃないか。白紋があるし、地色も青ではなくて黒だ。それに放射線状の条がないし、外縁に縁取りもない。ちなみに、Eligma gloriosaと云う種のようだが、違う可能性もあるという。

他にもっと凄いのが居ないか探してみる。


(出典『BOLD SYSTEMS』)

Eligma gloriosa。と云う事は、さっきの裏面画像と同種の表だね。小種名からすると、大型種だろう。より前翅の横幅は広そうだ。でも基本的なデザインは、さっきの”hypsoidas”と殆どが変わらない。探したが、他の種も同じようなデザインのモノばかりだった。特異で、とんでもなくゴージャスな奴を期待してたけど、結局シンジュキノカワガを凌駕するような種は見当たらずであった。シンジュちゃんファンとしては、属中で最も美しいのはシンジュキノカワガだと云うのは誇らしくもあり、また喜ばしい事だが、一方ではちょっぴり残念でもある。いつも心の中では、まだ見ぬ凄い奴を求めているからね。

 
【学名】Eligma narcissus narcissus (Cramer, 1775)

1775年、クラマー(Cramer)により”Bombyx narcissus” として中国から記載された。だが、のちの1820年にフブナー(Hübner)によって新属Eligmaに移された。

属名のEligmaは、ギリシャ語の”eligma”に由来し、巻くとか巻き込むと云う意味である。コレはキノカワガの仲間は静止時に、翅を巻き込むような姿勢をとることからの命名だと推察される。

小種名の”narcissus”について宮田彬氏は、その著者である『日本の昆虫④ シンジュキノカワガ』の中で、「水仙のことであり、おそらく後翅の美しい黄色に由来する命名だろう。」と書かれておられる。スイセンの属名は”Narcissus”だからね。
それも有りだとは思うが、自分は寧ろギリシャ神話に登場するナルキッソスが由来ではないかと思っている。あのナルシストやナルシシズムの語源ともなった美少年のことだね。有名だから知っている人は多いとは思うが、一応ナルキッソスについても解説しておこう。

『盲目の予言者テイレシアースは、ナルキッソスを占って「己を知らないままでいれば、長生きできるであろう」と予言した。
若さと美しさを兼ね備えていたナルキッソスは、ある時アフロディーテの贈り物を侮辱する。アフロディーテは怒り、ナルキッソスを愛する者が彼を所有できないようにしてしまう。彼は女性からだけでなく男性からも愛されており、彼に恋していた者の一人であるアメイニアスは彼を手に入れられないことに絶望して自殺する。森の妖精エコーも彼に恋をしたが、エコーはゼウスがヘーラーの監視から逃れるのを歌とおしゃべりで助けたためにヘーラーの怒りをかい、自分では口をきけず、他人の言葉を繰り返すことしか出来なくさせられてしまう。エコーはナルキッソスの言葉を繰り返す事しかできなかったので、やがてナルキッソスは「退屈だ」とエコーを捨ててしまう。エコーは悲しみのあまり姿を失い、声の響きだけが残る木霊となった(echoの語源)。これを見たネメシスは、神に対する侮辱を罰する神であるがゆえ、ナルキッソスを自分だけしか愛せないようにしてしまう。
ネメシスはナルキッソスをムーサの山にある泉に呼び寄せる。そして、不吉な予言に近づいているとも知らないナルキッソスが水を飲もうと水面を見ると、そこには美しい少年がいた。もちろんそれはナルキッソス本人だった。ナルキッソスはひと目で恋に落ちた。そしてそのまま水の中の美少年から離れることができなくなり、最期には痩せ細って死んでしまう。また、水面に映った自分に口付けをしようとしてそのまま落ちて水死したという別な話も残っている。ナルキッソスが死んだ後、やがてそこに水仙の花が咲いた。
この伝承からスイセンのことを欧米ではナルキッソスやナルシスと呼び、学名にも”Narcissus”と入れられた。』

つまり最初にナルキッソスが有りきの水仙と云うワケだね。主役はナルキッソスなのだ。それに水仙は真ん中は黄色いけど、外側の花びらは白いから、シンジュキノカワガみたく強い黄色のイメージはない。


(出典『Wikipedia』)

たぶんクラマーも同様の考えで、水仙ではなく、その自らもがうっとりするようなシンジュキノカワガの美しさをナルキッソスになぞらえたのではなかろうか❓
でも黄色と云うキーワードも捨て難いなあ…。或いはクラマーはナルキッソスと水仙、両方の意味を学名に込めたのかもしれない。
ちなみに余談だが、水仙の花言葉は「うぬぼれ、自己愛、神秘」です。

ここまで書いて、ふと気づく。日本の水仙って、ニホンズイセンと呼ばれ、特異な存在なんじゃなかったっけ❓ そういや真っ黄色の水仙ってのも、あったような気もするぞ。

ありました。


(出典『Wikipedia』)

黄色いね。
でもクラマーは、学名に水仙とナルキッソスの両方の意味を込めたのだと信じよう。それでいいではないか。学名には「浪漫」があった方がいい。

 
【和名】
キノカワガは漢字で書くと、おそらく「木の皮蛾」となるだろう。つまり、キノカワガの仲間の前翅の色が樹皮に似ている事からの命名だと思われる。実際、樹皮に止まっていると、木と同化して見つけ難いらしい。
シンジュの方は、真珠のように美しいと云う意味に捉えられがちだが、幼虫の食樹に起因する。餌がニガキ科のシンジュと云う木で、そこからの命名なのだ。欧米では、この木を「Tree of heven.」と呼び、その直訳が和名になったそうな。つまり真珠ではなく、「神樹」なのだ。だから漢字で書くと「神樹木の皮蛾」ってことになる。

余談だが、和名も流転。科の推移等による変遷の歴史がある。
和名が最初に登場したのは1910年。小島銀吉が『日本産苔蛾亜科』と云う論文の中で「シンジュコケガ」と名付けたのが始まりである。しかし、松村松年の『日本通俗昆虫図説(1930年)』では、ヤガ科 キノカワガ亜科に移され、それに伴いシンジュキノカワガと変名された。されど、その後に河田党の『日本昆蟲図鑑(1950年)』に由来する「シンジュガ」と云う名前が1950年代の報文にしばしば用いられるようになる。錯綜しとりまんな。だが、1959年に保育社から出版された『原色昆虫大図鑑』では、松村松年の付けた和名シンジュキノカワガが再び採用された。それ以来、その名が定着するに至ったんだそうな。

 
【生態】
1909年、三宅恒方氏によって熊本市で採集されたのが国内最古の記録とされる。
土着種ではなく、中国南部から成虫が東進する低気圧や前線の南側に発生する南西風などを利用して飛来する偶産蛾とされる(註2)。
旅する蛾だ。それにしても随分と遠くから飛んで来るんだね。距離にすれば、千キロくらいはあるだろう。
近年は毎年のように飛来し、到着地にシンジュがあれば繁殖して、そこから次世代の成虫が拡散するものと推測されている。新天地を求めて、なおも旅を続けるのだね。流転の蛾、さすらいのナルキッソスなのだ。
沖縄を除く西日本での記録が多く、特に九州北部での発生例が多いが、北海道や東北地方でも発生したことがあり、ときに爆発的大発生する。
主に6月〜10月に見られるが、8月〜9月の目撃例が圧倒的に多く、年2〜3回発生するものと考えられている。それ故、低気圧と前線との関係が示唆される。たぶん季節をとわずには渡来はできないのだ。
例外として3月の記録が2箇所3例、福岡県大牟田市と長崎県の対馬にある。だが、基本的には日本では九州のような暖かい地方でも越冬は難しく、晩秋に蛹化した個体は大部分が羽化できずに繭の中で死滅する。この点から土着種ではないとする研究者が多い。討ち死にじゃね。謂わば、魚の死滅回遊魚みたいなもんだ。分布を拡げるために、死を賭して果敢に攻めているのだ。いつの日か突然変異で越冬できる個体が現れ、日本に定着する日を夢見て特攻する姿は素敵だ。自分も、そうありたいものだ。

孵化直後の幼虫は白色。2齢以降から黄色と黒色の虎縞模様が次第に明瞭になっていく。

(終齢幼虫)

阪神タイガースカラーの派手な出で立ちは、如何にも毒が有りそうに見えるが、意外にも毒は持っていないらしい。但しスズメ(雀)が幼虫を咥えた後に直ぐに捨ててしまうことが数回観察されている。シンジュは中国では臭椿と書き、独特の臭気がある。当然それを食す幼虫も同じ臭気を内部に具えている可能性は高い。つまり毒はないものの、不味いのではなかろうか❓ 幼虫の派手な色彩は明らかに警戒色だと思われ、この幼虫を不味いと学習した鳥は以後二度と食べないと云うことは充分有り得るだろう。派手な色は生存戦略なのである。そう考えれば、あの目立つ色彩の説明もつく。どんなものにも、そこに理由と意味があると考えるのは人間のエゴかもしれないけどね。
尚、幼虫に触れると直ぐに落下する。この習性も又、身を守るための手段の一つだと考えられるだろう。

5齢で終齢幼虫になり、多くはシンジュの樹皮を齧って材料にし、樹幹上に繭を作って中で蛹化する。ゆえに幹と同化して見つけづらい。
天敵への威嚇と思われるが、蛹が鳴くことが知られている。厳密的には鳴くのでなく、繭に震動を与えると、蛹がその尾端を繭の内壁に激しくこすり合わせて楽器のマラカスに似たカシャカシャカシャともガチャガチャガチャとも聞こえる音を発する。もう少し詳しく言えば、蛹の腹部第10節背面にヤスリ状の構造があり、それと繭の後方内側の隆起条を激しく擦り合わせることによって発音しているらしい。繭を作るのは蛾本人だから、謂わば楽器を自ら作成できる生物と言えよう。楽器を作成できる生物って、人間以外に他に例が思い浮かばない。しかも人間よりも遥か前から楽器を発明していたと云うことになるではないか❓そう考えれば、驚愕だよね。
余談だが、近縁のナンキンキノカワガも同じく鳴く。ナルキッソスよりも発音回数が多く、より連続的な音色である。しかも長きにわたり発音し続けるみたいだ。但し、シンジュキノカワガの方が繭の隆起条が太くて数も多い。もしかしたら、音はナルキッソスの方が大きいのかもしれない(註3)。

成虫の飛翔は、ややぎこちないもののかなり速く、空中で鳥の攻撃を上手くかわして飛び去ったと云う観察例もある(阿部 1982)。
指で触ったり、つつくと落下して擬死、つまり死んだ振りをする。腹を折り曲げ、暫く微動だにしないのだ。また近づくとパッと翅を広げて派手な下翅を突然見せることもある。どちらも鳥などの天敵から身を守るためのものだろう。
1つめの行動は謂わば目眩ましの術だ。そのまま地面に落ちて敵の目の前から忽然と消えてしまえるし、地面に落ちて動かなければ、周囲の風景に溶け込んで発見されにくい。また獲物を狙う捕食者は、動くものに反応して攻撃を加えようとする性質があると言われているが、相手がピクリとも動かなくなると攻撃しなくなる事がよくあるそうだ。その理由は、敵を襲って食べようとする気を失くすからではないかと考えられているそうな。死んだ振りって、思ってた以上に効果があるんだね。けど熊に襲われた場合は、死んだ振りしても効果ないらしいけどー。
2つめの行動は、相手を驚かせたり、怯ませる算段なのだろう。それで相手を退散させたり、或いは驚いている隙に逃げる事だってできると云うワケだ。
シンジュちゃん、アンタって蛹は鳴くし、脅しや死んだ振りまで出来るだなんて、盛り沢山の能力者じゃね。

 
【幼虫の食餌植物】
シンジュ Ailanthus altissima


(出典 以上3点共『庭木図鑑 植木ウィキペディア』)

ニガキ科の落葉高木。一見ウルシ(ウルシ科)に似ているので、ニワウルシと云う別名もある。だが両者は科が全く違う別モノの植物で、近縁関係にはない。そうゆうワケだから、触ってもカブれるという心配はない。カブれないから庭にも植えられるゆえにニワウルシと名付けられたのだろう。
葉は大型の羽状複葉を互生する。雌雄異株で、夏に緑白色の小花を多数円錐状につける。果実は秋に熟し、披針形で中央に種子がある。
原産地は中国。日本には明治初期に移入され、庭木や街路樹として、また絹糸を取るため養蚕に利用されるシンジュサン(神樹蚕)の幼虫が食樹として好むことから各地に盛んに植えられた。

(シンジュサン)


(2018年6月 奈良市 近畿大学農学部構内)

成長の早い植物で、樹高は10~30mにもなる。環境が悪くてもよく生育するので、前述したように庭木や街路樹、公園樹として盛んに植えられた。しかし、現在ではそれらが全国各地で野生化し、種子の飛散によって分布を急速に拡大しており、問題化している。

他に日本土着種のニガキ(ニガキ科)でも飼育ができ、シンジュと変わらず良好に育つという。自然状態でニガキで発生した記録はないようだが、食樹として利用している可能性は充分に考えられるだろう。

(ニガキ)

(出典『庭木図鑑 植木ウィキペディア』)

ニガキ科ニガキ属の落葉高木の1種で、苦木と書く。雌雄異株。東アジアの温帯から熱帯に分布する。葉の縁が鋸歯状になるのが特徴で、その点からシンジュとは容易に区別できる。
全ての部位に強い苦味がある木で、それが名前の由来ともなった。
ニガキが苦いのならば、シンジュもそれなりに苦くて不味そうだ。そのエキスの詰まったシンジュキノカワガの幼虫が、鳥に忌避される可能性は充分にあるよね。
それはさておき、待てよ。もし元々あるニガキを摂食するのならば、シンジュキノカワガは偶産種ではなく、元々いた土着種の可能性だってあるのではないか❓ と云う考えが一瞬よぎった。でも冷静に考えれば、それは有り得ない。なぜなら、たとえニガキを食樹として育った蛹であろうとも、結局は晩秋にはシンジュで育った蛹と同じ運命を辿るのだ。つまり、寒さに耐えきれずに殆どが死滅してしまうのである。と云うことは、やっぱり土着種ではなく、迷蛾の偶産種だやね。

また、中国ではカンラン科のカンラン(ラン科のカンランとは別物)も食樹としているようだ。ちなみにカンラン科の分類体系はニガキ科とミカン科の間に位置し、比較的近縁関係にあるそうな。

なお、『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』のシンジュキノカワガの解説欄には「宿主植物のニワウルシの移入に伴って日本に二次的に侵入したと推察される。」と書いてあるが、宮田彬氏は著書の中でコレを以下のような理由から否定している。
「シンジュは苗木としてではなく、種子として日本に入って来たことが判っている(註4)。したがってシンジュの苗木と一緒に本種が侵入したという説をとることはできない。仮にシンジュキノカワガが現在日本に土着しているとしても、シンジュとシンジュキノカワガは別々に入って来たものである。」と。
それに「移入によって二次的に侵入した」とするならば、その表現だとニュアンス的に現在は土着種であると云う見解を示してはいまいか❓けれども、現実的には晩秋には死滅してしまうのだ。移入した年には死んでしまっているのである。まあ、木の移入によって運ばれた年もあったかもしれないけどね。だとしても、現在はシンジュなんて邪魔者扱いされているから移入なんて皆無だろう。それでも毎年のように何処かで発生していると云うことは、矢張り風に乗って飛んで来ると云う可能性の方が圧倒的に高いと考えるのが妥当だね。まっ、見解は色々あって然りだ。だからこそ、この業界は面白い。ワシみたいな素人でも謎解きに参戦できるからさ。
 
 
さてさて解説はこれくらいにして、本編に戻ろう。

 
シンジュキノカワガを探し始めたのは、いつの頃からだっただろう❓
調べてみると、何と2017年だった。見つけるのに六年も費やしているではないか。長かった…と感じたのも頷けるよね。

 
2017年 10月18日

最初に訪れたのは、忘れもしない兵庫県伊丹市の昆陽池公園だった。キッカケは、2010年に発表された『伊丹市昆陽池町で発生したシンジュキノカワガ』と云う報文だった。
この公園には伊丹昆虫館があり、そのコンクリート壁に繭を作る幼虫を発見した事を機に大量の幼虫を得て、多数の成虫を羽化させた旨が書いてあったからだ。しかも、3年連続で同地で発生していたらしい。ならば会える可能性は、そこそこ高いのではないかと考えたのだ。

書いてて、少しずつ記憶が甦ってきた。
確か、先ずは伊丹空港(大阪空港)に行き、シルビアシジミの様子を見てから移動したんだった。

(シルビアシジミ)

しかも、大阪の難波からママチャリで行ったんだよね。難波から伊丹空港までも相当遠かったけど、伊丹から昆陽池も遠かったなあ…。

昆虫館横の道路沿いで、街路樹として植栽されているシンジュの木々を簡単に見つけることができた。ラッキーなことに公園で先にシンジュと書かれた札が付いている木をいち早く発見できた。それで楽に木の判別ができたのだ。

ザッと見たところ、幼虫の姿はない。食害された形跡はよくワカラナイ。既に葉がだいぶ落ちかけているから、どうとも言えないのだ。

次に幹に繭が付いていないかを丹念に見ていく。
が、繭らしきものは見当たらない。木はまだまだある。気を取り直して他の木も順に見ていく。

でも結局、成虫は元より幼虫も繭も見つけられずじまいだった。初戦敗退である。けれども、さしてショックは無かった。この時点ではまだ、そのうち採れるだろうとタカを括っていたからだ。あの頃はまだまだ「まあまあ天才」で、引きの強さだけは相変わらずだったからね。それがまさかの、その後も毎年のように惨敗を喫し続けるとは思いもよらなかった。

そうだ。仕方がないので、暫しお怒りのカマキリと戯れて帰ったのも思い出したよ。

 
2018年 10月29日

翌年は先ず、この前々日に大阪中心部の堺筋沿い北浜界隈に行った。シンジュの街路樹があると知ったからである。先ずは近場から攻めていこうと云うワケだ。

しかし大木であったであろう木々は、ことごとく切り倒されていた。そして、その切り株から蘖(ひこばえ)が多数出ていた。生命力が強い植物だなと云う印象を強く持った憶えがある。
木が切られた理由は聞き得ないが、おそらくデカくなり過ぎたのではなかろうか❓知らんけどー。

その翌々日に兵庫県西宮市の甲山に行った。
元ネタは2017年に発表された『兵庫県西宮市でシンジュキノカワガの幼虫を採集、羽化の観察』と云う報文だった。去年の話だから、今年も発生しているのではないかと期待したのだ。

報文に写真が載っていた発生木を見つけたが、どうやら此処では未発生のようだった。この辺が、ナルキッソスの採集を難しくさせている。謂わば死滅回遊蛾みたいなモノなので、土着種のように其処に行けば、毎年のように確実に会えると云うワケにはいかないのだ。

今回もネームプレートがあって助かった。

植物の同定は難しい。見た目がよく似た植物は山とあるのだ。
例えばシンジュだと、ウルシ(ヤマウルシ)の他にも同じウルシ科に属するハゼ(ハゼノキ)やヤマハゼ、ヌルデ、ミカン科のカラスザンショウともよく似ている。あとタラノキ(ウコギ科)なんかも似ているかな。

(ヤマウルシ)

(出典『YAMAHACK』)

(ハゼ)

(出典『植物図鑑 エバーグリーン』)

(カラスザンショウ)

(出典『森づくりの技術』)

だから、しっかり葉や木肌をインプットして木を憶えたつもりでも、1年も経てば何が何だか分からなくなるって事は多々ある。結果、同定間違いをしやすい。一流の虫屋は、その点が優れている。植物を見分ける能力が高ければ高い程、目的の昆虫を見つけられる確率は高まるからね。自分は、その点まだまだだ。

そういえばこの日は、あまりに退屈なのでホタルガなんぞの写真を撮ってしまったんだよなあ。

にしても、見慣れたホタルガとは、ちょっと違うような気がして写真を撮ったんだと思う。♀だったからなのかなあ❓コレが♀なのかどうかもワカランけどー。

あと、此処はワシ・タカ類の渡りが観察できる有名ポイントだと初めて知ったんだよね。9月中旬から10月半ばまで、サシバやハチクマ、ハヤブサなんぞが見られると聞いた。今年は渡りがいつもの年よりも早くて、もう終盤に差し掛かってるとか言ってはったな。先週はバンバン飛んでゆくのが見れたとも言ってた。
何だかんだとバードウォッチャーの人達に色々と教えて貰い、結構楽しかった記憶がある。だけど猛禽類たちを幾つか見れはしたけれど、どえりゃー高い所を舞っていたから、実感は全然湧かなかったんだけどもね。

 
2018年 10月8日

この日は、奈良県河合町の馬見丘陵公園に行った。
この原稿を書いてて気づいたのだが、何と関連記事の欄に、この日のことを『ダリアとシンジュキノカワガ』と題して既に書いているではないか。んな事、すっかり忘れてたよ。相変わらずの、鶏脳味噌ソッコー忘却男である。
なので、それを下敷きにして書き直してみよう。とはいえ、できれば原文の『ダリアとシンジュキノカワガ』の方もあとで読んでね。

 
10月の、よく晴れた日曜は幸せそのものだと思う。

青空の下、大人も子供も、誰しもが楽しそうだ。
秋の爽やかな空気の中、あちらこちらで歓声が上がる。

原文では、コレでもかと阿呆ほどダリアの写真が出てくる。
退屈だったのだ。夜に備えて下見のために昼間っから来たのだが、アテが外れた。ついでに何か採れないかと思ったのだが、この季節には虫なんて殆んどおらんのだ。で、仕方なく時間つぶしにダリアの写真を撮り始めた。でも、果たしてコレらが同じ種なのか❓と疑いたくなるような様々な形と色の花に溢れていた。それで撮影をやめられなくなったのだった。ダリア、恐るべしである。

ススキが、とても美しかったんだよなあ。
すっくと立ち、斜光に縁取られて輝く姿は今も忘れられない。

夕日も美しかった。
完璧な10月の一日だ。もしもワシも誰かといれば、きっと幸せな時間を過ごせただろう。

おっと、何しに来たのかを書くのをウッカリ忘れるところだったよ。
えー、蛾のパイセンである植村から此所で2年前にシンジュキノカワガを採ったと聞いたからだ。しかも2頭も。トイレの灯りに飛んできたらしい。そういや、もう1頭は空中で採ったとか言ってたな。兎に角それでノコノコと出てきたワケだ。
昼間から来ていたのは幼虫の食樹であるシンジュがあるとも聞いていたからだ。この蛾は食樹のそばで見つかる事も多いみたいなので、何とかなんでねーのと思ったのさ。気分は早々と昼間には決着をつけて、凱旋気分でサッサと帰るつもりだった。
でも、流石エエかげんな性格のパイセン植田である。公園中を探してもシンジュなんて1本もありゃしない。大方、別な植物をシンジュだと思い込んでいたのだろう。公園事務所の植物担当の爺さんに訊ねても、「知らんなあ、そんな木は。たぶん園内には無いで。」と言われたよ。

結局、夜の公園を夢遊病者の如く徘徊したけれど、ナルキッソスの姿は影も形も無く、あえなく惨敗。どころか、灯りには新月なのに他の蛾さえも殆んど何〜んも飛んで来なかった。

暗い夜道をトボトボと駅に向かって歩く。
その間、ずっとダリアの花々が脳裏に浮かんでは消えていった。

                  つづく
 

追伸
猶、過去に本ブログにて『三日月の女神、紫壇の魁偉』と題してシンジュサンについて書いた文章もあります。興味がある方は、宜しければソチラもあわせて読んでくだされ。

 
(註1)シンジュキノカワガ亜科
インターネット上に於いて、蛾類に関して一番影響力のある『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、「シンジュガ亜科」となっている。そのせいかネットでは、シンジュガ亜科が使われているケースも幾つか見うけられる。自分も最初は「シンジュキノカワガ亜科」と表記していたのに、それを見て変だなあと思いつつも「シンジュガ亜科」と書き直した。でも蛾類学会の会長岸田泰則先生が、Facebookのゴマフオオホソバの記事のくだりでハッキリとシンジュキノカワガ亜科と明記されておられた(最近ヒトリガ科コケガ亜科からコブガ科シンジュキノカワガ亜科に移されたらしい)。先生がシンジュキノカワガ亜科って書いてんだから、それで間違いなかろう。
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』は、蛾類の基本情報を最も得やすいサイトだ。そこには膨大な数の種の情報があるから、自分も重宝している。どんなマイナーな蛾を検索しても、このサイトが一番最初に出てくるからね。だが正直なところ、その情報を鵜呑みにはしないようにしている。このような誤記が他にも結構あるからだ。過去にも何度か騙されかけたからね。ゆえに引用される方は、気をつけた方がいいと思う。

 
(註2)低気圧や前線などを利用して飛来する
例えばイネの害虫ウンカは、主に梅雨期に中国南部から1,000km以上を飛行して、九州をはじめ西日本各地へと多数飛来すると考えられているそうな。ウンカは体長4mmと小さく、自力では秒速1m程度の移動しかできない。なのに1,000km以上の長距離移動を可能にしているのは、梅雨時に東シナ海上で発達する南西風(下層ジェット)らしい。この風は秒速10m以上の速度で吹くので、これに運ばれたウンカはおよそ1日から1日半程度で中国から九州に到着するようだ。また蛾のハスモンヨトウも、台風や低気圧、前線の南側に発生する南西風や気流に乗って中国や台湾、韓国から日本国内に移動することが知られており、梅雨期に南西風が強まれば、飛来数が増えるという。
ナルキッソスも、この南西風や低気圧の東進に伴う風に乗ってやって来るのだろう。
さておき、チョウは移動して来ないのだろうか❓
Mimathyma schrenckii(シロモンコムラサキ)とかチョウセンコムラサキ、オオヤマミドリヒョウモンなんぞが飛んで来たら楽しいのになあ…。

 
(註3)音はナルキッソスの方が大きいのかもしれない
ネットで、ナンキンキノカワガが音を奏でる動画は見た。それで、ナルキッソスとは微妙に音色や発音時間の長さが違うとわかった。だが音の大きさまでは比較できない。なので、あくまでも想像です。

 
(註4)種子として日本に入って来たことが判っている
1875年に田中芳男と津田仙がオーストリアで植栽されていたものの種子を持ち帰り、東京は丸の内、江戸河畔、青山女学院に植えたという。また一説によると、津田がインドより種子を移入したともいわれる。津田は1879年頃に、この木を養蚕の飼料にもなると言って薦めたので、当時盛んに各地で植えられたようだ。
尚、ヨーロッパには日本よりも早く移入されている。だから名前の由来が「Tree of heven(神樹=シンジュ)」から来ているのだね。

 
 
ー参考文献ー

・宮田彬『日本の昆虫④ シンジュキノカワガ』文一総合出版
・岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』学研
・安達誠文『伊丹市昆陽池町で発生したシンジュキノカワガ』きべりはむし32号 2010
・石田佳史『兵庫県西宮市でシンジュキノカワガの幼虫を採集、羽化の観察』きべりはむし39号 2017

(インターネット)
・『Wikipedia』
・『庭木図鑑 植木ウィキペディア』
・『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
・『www.jpmoth.org』
・『ウンカの海外からの飛来を高精度に予測するシステムを開発』農研機構 プレスリリース
・『昆虫親父日記』