2021’カトカラ5年生 ヤクヒメ編3

vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

   『陰翳礼讃』第三話

 
 2020年、初めてのヤクシマヒメキシタバ採集行は姿さえも全く見れずの惨めな2連敗に終わった。自分も小太郎くんも楽勝だと思ってたから、まさかのこの結果に声を失った。
当然、2連敗後も早いうちのリベンジは考えた。本来、汚名はソッコーで晴らしておくと云うのがオラ的セオリーだからだ。どんな事でもそうだが、早期に問題を解決して心の安寧を取り戻しておかなければならない。さもなくば、事態はドンドン悪い方向へ行きかねないからだ。悪い流れは即座に断ち切る事が肝要なのだ。キリシマミドリシジミ(註1)の時が最たる例で、泥沼の5連敗を喰らって、精神的にかなり追い込まれたからね。連戦連勝、どんな稀種であっても狙った獲物は常にその採集行のうちにシバき倒してきただけに、何が何だか解らなくなって半ばパニックに陥ったっけ…。敗退が続くと色々考え込む。しかし考えれば考えるほどドツボ。更なるズブズブの泥濘(ぬかるみ)にハマり易いのだ。去年の阪神タイガースの開幕9連敗(註2)と一緒で、負けグセがつくと止まらなくなる。いや、止められなくなるのだ。
しかし、この年は結局ヤクヒメにリベンジするのを諦めざるおえなかった。その後、二人の都合が合わず、次回に行けるのは10日以上先、つまり時期的には発生期の終盤だったからだ。下手したら、終盤どころか発生が終わっていてもオカシクはない状況でもあった。たとえ行って採れたとしても、ボロばっかでは意味がないし、採れなきゃ、ショックで再起不能になりかねない。忸怩たる思いではあるが、ならば翌年まで持ち越さざるおえない。そう判断するしかなかったのである。
 

2021年 6月28日

 臥薪嘗胆。ようやくリベンジの機会が巡ってきた。小太郎くんと待ち合せて、いざ紀伊半島南部へと向かう。
天気予報は曇りのち小雨。雨を好むというヤクヒメではあるが、かといって本降りでは何かと儘ならないから恰好の天気である。とはいえ、心配なのはワシのスーパー晴れ男振りである。去年は天気予報では雨がちだったのにも拘わらず、2度行って2度とも途中で月が出た。しかも灯火採集には最悪とされる満月。今回は、そうならない事だけを切に祈ろう。

 場所は去年最初に行った三重県の布引の滝(熊野市紀和町)と決めた。
惨敗した場所なのに何故に❓と訝る向きもござろうが、それには理由がある。小太郎くんが布引の滝でヤクヒメを採った事があるという人から重要な情報を得たからだ。それによると、採集した場所は我々が最初に陣取った滝の上部ではなく、下部の麓の方らしい。詳しい設置場所も聞いているという。文献ではない生の情報は貴重だし、こうゆう舞い込んで来たような流れは大切だ。自然な流れは物語なのだ。堰き止めてはならない。流れに任せておけば、自ずと結果が出る事は往々にして多い。ならば、ここは迷わず行っとくべきでしょう。
 採れた数は一晩で6頭との事。飛来した時は、アホほどやって来るというヤクヒメにしては数が少ないのが気になるが、それだけ採れていれば自分としては充分だ。元々バカみたいに数が欲しい人ではないからね。いっぱい採ったら、当然ながら嫌いな展翅を沢山しなきゃならないのじゃ。

ポイントには、かなり早くに着いた。まだだいぶと明るかったから、午後4時半か5時前には着いていたのではないかと思う。
空模様は曇りで、時々小雨がパラつくといった感じで悪くはない。だが、如何せん風が強い。しかも設置場所は橋の上らしいから、より風の影響を受けやすい。ライトトラップには風は大敵なのだ。基本的に風が強いと虫は飛ばないし、たとえ飛んだとしても風に流されてライトまで辿り着けない可能性だってある。それに何よりライトトラップの装置が倒れやすい。もしも倒れて電球が割れでもしたら最悪だ。ジ・エンド、その瞬間に採集が終わる。だがホントは、そんな事よりも水銀灯を失うダメージの方がデカい。水銀灯は高価であるのみならず、現在は生産中止なっているのだ。もはや製造してないんだから、再び手に入れるのは容易ではない。
とにかく暫く様子をみよう。そのうち風もおさまるだろう。2人して車の中で暫し仮眠する。

しかし日没近くになっても、風は一向におさまる気配がない。しかも風の影響なのか気温がグッと下り、かなり肌寒い。風が強くて気温が低ければ、虫たちが活動しない可能性が更に高まる。おいおいである。神よ、又しても我々に試練の道をお与えなさるのか。何故ゆえ、そのような試練をお与えなさるのだ❓意味ワカンナイ。もう半泣き太郎だよ。
仕方なく此処を諦め、風のない場所を探して移動することにした。取り敢えず上に向かって車を走らせる。

だが、特筆すべきようなコレといった良い場所は見つからない。また最初と同じ滝の上部でやる事も考えではなかったが、一度敗退してケチがついた場所だし、カワゲラとかトビケラとかヘビトンボがワンサカ飛んで来るのは気持ち悪いからパス。
そのうち日が暮れてきたので、中腹にある一番マシそうな場所に陣取ることにした。幸いにして風の影響は殆んどない。肚を据えて此処で戦おう。

 午後7時半、点灯。
いよいよ1年越しのリベンジの始まりだ。今日こそは何とかなるっしよ。たかがヤクヒメ風情に、まさかの三連敗は有り得ないだろう。そんなに連敗した話なんぞ、聞いた事がないのだ。
去年の恥ずかしい連敗は、ひとえに月のせいだ。あの全くの想定外だった満月さえ顔を覗かせなければ、採れていた筈なのだ。今日こそは月は出ない、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 

 
例によって、画像はトリミングしてある。小太郎くんから灯火装置が直接映っているのはダメと言われてるからである。

良い感じに小雨が降っているものの、集まる蛾の数は可もなく不可もなくである。顔ぶれも相変わらずの見慣れた面々だ。
唯一の新顔はヒメハルゼミくらい。アンタ、こんなとこにも居たのね。
小太郎くんは、その灯りに寄って来たヒメハルゼミをせっせせっせと摘んでいる。ヒメハルゼミは稀なセミで、各地で採集禁止種に指定、保護している場所も多い。因みに此の地は特に保護されているワケではないし、採集禁止にもなっていないようだ。
それにしても走光性が強い種とは知ってはいたが、ホントだったんだね。セミには走光性のある種が多く、珠にアブラゼミやミンミンゼミなどが灯りに寄って来るのを見ることはあるが、一度にこんなに沢山のセミが寄って来たのは初めて見た。

 
(ヒメハルゼミ♀)


(2019.7月 奈良市)

 
スマン。羽化直後の画像しかない。気になる人はネット検索してけれ。
あっ、そういやヒメハルゼミは成虫だけでなく、羽化前の幼虫にも走光性があるらしい。思わず、幼虫が光に向かってゴソゴソと歩いてるのを想像したよ。「あーっ、そっちに行っちゃダメー❗」。
٩(๑`^´๑)۶え~い、メンドくせー。ヒメハルさんの事は後で註釈欄で解説するつもりであったが、ここでやってしまえ。

 
【ヒメハルゼミ(姫春蝉)】
学名 Euterpnosia chibensis
小種名は千葉に由来する。おそらく最初に発見されたのが、千葉だったからでしょう。
体長はオスが24〜28mm、メスは21〜25mm。6月下旬頃から現れ、8月上旬まで見られる。
名はヒメハルゼミとはつくものの、ハルゼミと大きさは変わらない。外見はハルゼミよりも体色が淡く、褐色がかっている。
主に西日本で見られ、新潟県・茨城県以西の本州・四国・九州・屋久島・奄美大島・徳之島に分布する。しかし生息地が丘陵地や山地のシイ、カシ類からなる人の手があまり入っていない自然度の高い稀少な照葉樹林である事や、飛翔能力が弱く、生活圏を広げようとしない性格も相俟ってか分布は局所的。ようするに生息条件が限られた貴重なセミである。それゆえか分布の北限に近い3ヶ所の生息地(茨城県笠間市片庭、千葉県茂原市上永吉、新潟県糸魚川市・旧能生町)が国の天然記念物に指定されている。他にも自治体レベルで絶滅危惧種や天然記念物に指定されている所が数多くある。
♂が集団で合唱することが知られ、1頭の♂が鳴き出すと、それを合図に周辺に伝播するように「シャー」という合唱が起こる。特に夕刻には頻繁に鳴き、日没前には山全体が大合唱の蝉時雨となる。そのような独特の大合唱は他のセミには見あたらず、その様は「森そのものが鳴いているようだ」とも称される。
 確かに、あの蝉時雨は時に凄まじいばかりで、森の中でその音の塊に包まれていると感動すら覚える。とはいえ、おそらく多くの現代人にとっては雑音にしか聞こえないだろう。つまり、人は自身にとって必要のない音を無意識にカット、遮断するように出来ているからだ。その声をセミの声だと認識してこそ、初めて耳に入ってくる類いのものなのかもしれない。多くの外国人にはセミやコオロギの声が雑音にしか聞こえないとも言うからね。ようはメロディーとして聞こえていないのだ。だから欧米には、虫の音(ね)を愛ずるという文化もないのだろう。とにかく、あの感動は体験した者にしか味わえないものがある。

そんなレアで愛しきセミだが、でも求めているのはキミじゃないんだよねー。どうでもいいざます。欲しいのはヤクヒメだけなのだ。その事で頭が一杯でヒメハルなんぞ採る気にはなれず、自分は結局一つも持ち帰らなかった。

 雨は振ったりやんだりしていたが、やがて完全に上がった。月こそ出ないものの、天候は回復しつつありそうだ。悪い兆候だ。集まって来る虫も相変わらずショボい状況が続いている。そして、ヤクヒメは未だ飛んで来ない。

 

 
ふと思う。ところで、この日の夕方にヒメハルゼミって鳴いてたっけ❓
全然、記憶にない。雨模様だったので鳴いていない可能性は高いものの、単にヤクヒメの事で頭が埋め尽くされてて、鳴いていたのに一切耳に入ってこなかったという可能性は無きにしも非ずである。それだけ何処にライトトラップを設置するかに集中していたのだろう。でもこんな体たらくでは、その集中力や努力も何の意味も持たない。

結局、この日もヤクヒメは1頭も飛んで来なかった。
三連敗決定。地獄の連敗街道、まっしぐらだ。

 
 
2021年 6月30日

 もう小太郎くんもワシも意地になってきた。その2日後には、再び紀伊半島南部に突っ込んでいた。
但し今回はメンバーが一人増えて、藤岡くんも加わった。参戦に至った詳しい経緯は知らない。ただ、小太郎くんから「藤岡くんも一緒でもいいですかあ❓」と言われて、『いいよー。』と答えただけだ。藤岡くんとは古くから顔馴染みだし、彼が加わったトリオでの採集行は去年も経験している。マホロバキシタバが採りたいというので、小太郎くんと案内したし、同じ紀伊半島南部にルーミスとヨシノキシタバを採りにも行ったしね。それに藤岡くんは、のほほんとした何処か浮世離れした人で、控えめな性格だ。ギスギスする事もないだろう。なれば、参加を拒否する理由はない。

 目指す場所は同じ三重県だが、北牟婁郡の谷沿いである。
今回も小太郎くんが仕入れてきた新たな情報に頼る事にした。
そこは絶対に生息しているという鉄板の場所らしい。なのだが、問題がないワケではない。ポイントに向かう途中の橋が老朽化しており、通行止めになっているかもしれないそうなのだ。もしダメなら、現地でポイントを新たに探さねばならない。となると賭けである。雨の多いこの時期だけに、川が増水していて危険な可能性は高いし、それ以前に土砂崩れで前に進めない不安だってある。だけども最も採れる確率が高いのは其処なのだ。もう背水の陣で行くっきゃない。

 天気予報は完全な雨である。けれどワザワザこの日を選んだ。小太郎くんと話し合った結果、ヤクヒメは小雨程度の雨では飛んで来ないのではないかという結論に至ったのだ。

 雨の中、ようやく橋に辿り着いた。
しかし、橋は通行止めになっていた。入口を🚧車止めの看板が塞いでいる。だからといって、ここまで来て誰が引き返してなるものか❗地獄の沙汰も虫次第。絶対に採りたい、採らねばならぬという強い想いが看板を脇へと除けさせる。戻って来て橋が落ちていれば、そん時はそん時のことだ。

 暗く不気味な林道を奥へと詰め、ポイントに到着。

 

 
周囲は鬱蒼としており、深山幽谷の様相を呈している。
手つかずの照葉樹林だと直感する。今まで見てきた、どの照葉樹林よりも深い森だ。此処にヤクシマヒメキシタバが居なくて何処に居るというのだ❓そんな素晴らしいロケーションだ。もう此処で採れなきゃ、腹カッさばくしかあるまい。

 

 
瞬く間に靄が湧き立ち、山肌に天使の薄衣のような薄いヴェールが掛かる。陰翳礼讃。水墨画の世界だ。無駄を排した白と黒の織りなす世界は幽玄で美しい。
とはいえ、傍らに誰かが居てこその風雅の境地だろう。もしも一人ぼっちだったとしたならば、果たしてそんな風に思えていただろうか❓観点を変えれば、これから先に何か悪い事が起きそうな不気味な予兆と取れなくもない風景だ。そう考えれば、とてもじゃないが1人ではこんな所には居れそうにない。日があるうちでも恐ろし気な場所なのだ。ならば夜ともなれば、尋常ではない怖さだろう。絶対に漆黒の闇にイッポンダタラ(註3)とか魑魅魍魎の妖怪どもが跋扈する世界と化すに違いない。

 雨は結構降っている。
どれくらいの量が降っていれば良いのかは分からないが、土砂降りにでもならない限りは大丈夫だろう。とにかく今までの感じでは、小雨程度の雨ではダメだ。これくらいの強さの雨が間断なく振り続ける事を祈ろう。

 日没と同時に点灯。

 
 今回は小太郎くんの許可が下りたので、トリミングなしの画像全面解放である。ライトトラップの、謂わば一つの完成形との事なので、表に出しても恥ずかしくないってワケなのでせう。勝手に半分想像して言ってるけどー(笑)。
 ちなみに今回は本格的な雨を見越して、雨避け用のテント(タープ)が用意された。小太郎くんの発案で買うことになって、購入料金を3人で割った。一人あたりいくらだったっけかなあ❓正確には思い出せないけど、一人三千円くらいの負担だったかな?まあ高くても五千円以内だったと思う。でもそれで快適に採集できるのなら、安いもんだ。

 点灯後、間もなくヤクヒメと同じカトカラ属のウスイロキシタバが飛んで来る。

 
(ウスイロキシタバ♂)


(2021.6月 兵庫県西宮市)

 
が、採らずに無視する。
お前じゃない❗

藤岡くんがおずおずと尋ねてくる。
『コレって貰ってもいいですかぁ❓』
ワシも小太郎も、どーぞどーぞである。ウスイロは前翅のメリハリが効いた美しい種だが、二人とも見飽きていて、もはや眼中にはないのだ。
それにしても、蛾好きの藤岡君なのにウスイロを採ったことがないのね。まあ、紀伊半島南部を除けば分布は局所的で、いる所は限られている。自分も紀伊半島南部以外では1箇所でしか見たことがないから、それも当たり前かあ…。

藤岡くんは次々と飛んで来るウスイロをせっせと取り込んでいる。他の蛾や甲虫もジャンジャン取り込みまくっている。彼は生粋の虫マニアだ。コレクションの中心は蝶と蛾ではあるが、虫とあらば大概は収集対象なのだ。インセクトフェア、いわゆる昆虫展示即売会でも標本を購入しているのをよく見掛ける。だが特定の種類に強い執着は持つことは少ないような気がする。あっ、シジミチョウ科の一部には少しあるかもしれない。けれども特定の種のマニアって感じはしない。例えば小太郎くんだったら、ブルーと呼ばれるシジミチョウの仲間であるゴマシジミやアサマシジミ、ミヤマシジミに対して強い執着心を持っている。他にキマダラルリツバメやギフチョウ、ミヤマカラスアゲハに対する思い入れも強い。あとヒメヒカゲもか…。
自分ならば、タテハチョウ科の中のコムラサキ亜科やフタオチョウ亜科、イチモンジチョウ亜科の赤系や緑系のイナズマチョウ(Euthalia)属やオオイナズマチョウ(Lexias)属に対しての思い入れが強い。で、最近は蛾ではあるが、今回のターゲットでもあるヤクヒメも属するヤガ科Catocala(カトカラ)属にも御執心だ。でも藤岡くんが特に何かを徹底的に集めていると云う話は聞かないからね。とはいえ、羨ましい限りだ。興味の対象が広く全般に渉るのならば、生涯において飽きる心配がないもんね。オラなんか最近は蝶や蛾に対する情熱がすっかり冷めてしまっている。新たな興味対象が見つからねば、業界からフェイドアウトしていきかねない状況だ。虫を趣味にすると意外と金が掛かるし、人生を狂わせてしまうところがある。物事の判断が虫優先になってしまうのだ。例えば、晴れていたら虫採りに行ってしまい、彼女とは曇りか雨の日にしかデートしないとかさ。そりゃ彼女だって怒るわな。で、挙げ句にはフラれる。兎に角、ロクな事がないのだ。

 午後8時過ぎ。
小太郎くんが何か変なのが飛んで来たけど見失いましたー。ヤクヒメだったかも…と言い出す。しかし、灯りの周辺を丁寧に見回るも、らしき姿はない。

 午後8時半。
急に小太郎くんが大声を出す。

『五十嵐さん❗ほら、ソコーッ❗❗』

指差す先の白布の上部に見慣れない小さな蛾が静止していた。
(;・∀・)はあ❓
でも正直、それが何なのかワカンなくて、その場で固まる。

『何してるんすかあ❓ヤクヒメですよ、ヤクヒメー❗❗』

その言葉で、漸く脳のシナプス回路が繋がった。
確かに言われてみれば、ヤクシマヒメキシタバだ。だが、想像していた姿とは随分と違うような気がする。照明のせいで白っぽく見えるせいもあるのだろうが、図鑑等との印象とは相違があるのだ。何より上翅の感じがイメージとは異なる。こんなにもメリハリがあって美しいのか…。百聞は一見に如かずとはよく言ったものである。実物を見ないと、本当の姿はわからない。

『コレがヤクシマヒメキシタバかぁ…。』

絞り出すように言葉が漏れた。
とにかく会えて良かったという安堵の心が広がる。それにしても、いつの間に❓である。仙人は忍者でもあるのかえ❓

暫し見つめていると、再び小太郎くんから声が飛ぶ。
『何ぼぉーとしてるんですかあ❓早く採って下さいよー。逃げちゃいますよー❗』

『(⁠☉⁠。⁠☉⁠)⁠えっ❗❓、オラが採っていいの❓』

最初に見つけたのは小太郎くんだから、採る権利は彼にある。だから手を出さなかったのだ。
『いいですよー。譲りますよ。そのかわり次は採らせて下さいね。』

『(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠)うるうる。小太郎くーん、アンタってホントいい人だよ。』

譲ってはくれたものの、まだ手中にしたワケではない。ここでもし取り逃がせば、噴飯ものだ。何があっても失敗は許されない。息をひそめて近づき、スーッと体の力を抜いたがいなや毒瓶を上から被せる。

(⁠ノ⁠ ̄⁠皿⁠ ̄⁠)⁠ノ⁠ しゃあー❗❗

やっと採れたよ、お母ちゃん(⁠༎ຶ⁠ ⁠෴⁠ ⁠༎ຶ⁠)
長きイバラの道で御座ったよ。

 

 
毒瓶から取り出して、じっくりと眺める。
渋い美しさだ。図鑑や画像で見る姿よりも遥かに素敵だ。
陰翳礼讃。前翅が雲霧林を彷彿とさせるようなデザインだ。きっと水墨画の世界の住人なんだからだろう。そう思って、妙に納得する。

雌雄を確認するために裏返す。

 
(裏面)

 
尻先に縦にスリットが入っている。多分、♀だね。
それにしても、何だか他のカトカラの♀のスリットとは感じが違う。溝が深いのか広いせいなのかワカランが、黒っぽくてよく目立つ。

 その後、立て続けに飛んで来て、小太郎くんも藤岡くんも無事1つずつゲットした。もし自分一人だけが採れただなんて事になれば申し訳ないから、ホッとする。だが、どちらもスレた個体で、自分の採った♀が一番鮮度が良い。なので次の順番を二人にお譲りする事にする。

思うに、ずっと雨はそこそこ降っているから、やはりシッカリと雨が降らないと活動が活性化しない蛾なのかもしれない。
 
 その後、2人が1頭ずつ採ったところで、ピタリと飛来がやむ。カトカラにはよくある事で、時間を置いて又飛んで来る事は多い。だが、今回も再び活性が入る云う保証はどこにもない。兎に角まだ自分は♀だけしか採っていないから、今度は何とか♂が飛んで来て欲しいと願う。今までイヤというほどボコられてきてるのだ、せめて雌雄くらい揃わなければ、溜飲は下がらない。キイーッ٩(๑òωó๑)۶、早よ飛んで来いやバーロー❗

 午後11:15。
ようやく1頭が飛んで来た。

 

 
だか裏返すと、コチラも尻先にスリット入っている。つまり、残念ながら又♀だ。
その後、2人が1頭ずつ追加したところで、再び飛来が止まった。そして、そのままジ・エンド。雲霧林の仙人は二度と姿を現すことはなかった。

 結果は、自分が2♀。記憶は曖昧だけど、小太郎くんが1♂2♀。藤岡くんが3♂か、もしくは2♂1♀だったと思う。自分だけが♂を採れず、しかも頭数も一番少なかった。鮮度は自分の♀が一番良かったから別にいいんだけど、どこか釈然としない。苦労してやっとこさ採ったわりには、成果があまりにも少ないじゃないか。3人で計8頭というのも期待ハズレだ。ヤクヒメは稀種だが、生息地では個体数が多いと聞いていたからね。とはいえ、胸を撫で下ろしてはいる。兎にも角にも、念願のヤクヒメが採れたのだ。それで良しとすべきなのかもしれない。

 帰途の事はあまり憶えてないけど、雨に長時間濡れて体が冷え切って寒かったと云う記憶だけはある。あっ、そうだ。道の駅で休憩した時に小太郎くんと藤岡くんは着替えたのに、自分だけが着替えを持ってきてなかったのだ。断片ながら少しずつ記憶が甦る。靴の中がグショグショで気持ち悪かったのも思い出したよ。
車窓から明けゆく空を眺めていたね。
そして、心は目的を達成したのに何故か沈んでいたっけ…。

              つづく
 
 
 と、ここで一旦クローズする予定だった。しかし、次回に予定していた翌年の話も続けて書くことにした。何だか分けて書くのが邪魔くさくなってきたのである。
そうなると、もはやタイトルは『2022’カトカラ6年生』とすべきだよね(笑)。でも、まっいっか…である。

 
 
2022年 6月20日

 翌年も、小太郎くんとの紀伊半島詣では続いた。
♂が採れていないので、小太郎くんに同行を頼んだのである。彼の方も鮮度の良い♂は採れていなかったからか、二つ返事でOKが出た。

 日付は1週間早めた。去年は翅がスレや欠けの個体ばかりだったからだ。過去の文献では6月下旬から7月初め辺りが採集適期のような感じだが、地球温暖化の影響で発生が早まっているのだろう。ホンマかいな❓だけど。
場所は去年と同じ場所だ。新たな場所に行きたいのは山々だが、そんな余裕はない。ここは先ずは確実に採れる場所に行くべきだろう。採れなきゃ辛いだけなのだ。骨の髄まで、それを知らしめられたからね。

 とはいえ、新しい場所の探索を怠っていたワケではない。途中、有望そうなダムに寄る。

 

 
四方が照葉樹林に囲まれており、居てもオカシクはないだろう。それに周りが開けているから、ライトトラップを設置するには絶好の場所だ。障害物がないので虫たちが寄って来やすい。山との距離も、そう遠くないから光も充分届きそうだ。そして、下が平らなので、灯火装置も設置しやすい。斜面だと、ライトが不安定で、倒れ易いのだ。

 

 
だが、車に乗ろうとしたら、雲が切れ始めた。そして、あろう事か何と青空が顔を覗かせた。

 

 
(⁠・⁠o⁠・⁠;⁠)おいおいである。
天気予報は雨なのに、どんだけ晴れ男やねん❓
手を合せ、どうぞ雨が降りますようにと願う。農業をやってる人でもないのに雨乞いするだなんて、何か変な話だな思うが、これ以上は回復しない事を祈ろう。心の中で雨乞いの唄を歌う。🎵ピチピチ、チャプチャプ、ランランラン。

 目的地に到着したのは、午後6時前くらいだった。

 

 
相変わらず、素晴らしいロケーションである。
こういう太古から変わらない深い森は、貴重だと思う。ゴイシツバメシジミ(註4)とか、おらんかなあ❓…。紀伊半島では、もう20年くらい記録がないから絶滅したと考えられるが、いるんじゃね❓

 日没と同時に点灯。

 

 
今回も雨よけテント仕様である。
しかし、流石の小太郎くんだ。更に進化させていて、タープの三方に薄布が張られている。ようするに、飛んで来た蛾が止まる面積を大幅増させたと云うワケだ。それに、より光が届くように、ライトが更に上部に取り付けられている。ホントあんたにゃ、感心するよ。マジ偉いわ。

 午後9時半。
何かデカいのが来た。

 

 
トビモンオオエダシャクとか大型のエダシャクの仲間(Biston属)の♀だろう(註5)。たぶん♂は普通種だろうが、Biston属の♀はどれも得難く、珍品揃いと言われている。羽が破れているから迷ったが、持って帰ることにした。

 10時前に漸く最初の1頭が飛んで来た。

 

 
裏返して雌雄を確認する。

 

 
残念ながら、♀だ。それはさておき、その色に驚く。去年採ったものより、明らかに地色の黄色が濃い。となれば、よりコチラの方が鮮度が良いことを示している。この鮮やかな黄色が本来の色なのだ。去年の個体は表側がキレイだったから完品だとばかり思い込んでいたが、実際にはそうじゃなかったと云うことだ。コレってカトカラあるあるなんだけど、羽化から時間が経っているのに、意外と表翅がキレイな個体が居たりするのだ。でも裏はそれなりにスレてるなんて事は儘ある。カトカラの鮮度は、裏で見分けると云うことをすっかり忘れてたよ。

 
 10時半。
白黒の蛾(註6)が飛んで来た。ダルメシアンみたいで洒落てる。こういうシンプルな柄は好きだ。スタイリッシュでカッコいいと思う。

 

 
一瞬、タッタカモクメシャチホコかと思ったが、あんなにゴツくはないし、白っぽくもない。

 
【タッタカモクメシャチホコ】

(2023.3月 奄美大島)

 
白黒の蛾は、他にもキバラケンモンやニセキバラケンモン、ボクトウガ等々何種類か見て知っているが、そのどれとも違うような気がする。
それを合図のように、多種多様な蛾が集まり始める。でもお目当てのヤクヒメは全然飛んで来ない。そして、どんどん時間は過ぎてゆく。雨は降っているし、条件は揃っているのに、どゆ事❓雲霧林のお姫様は、気まぐれで気難しい。ブス姫は性格が悪いのだ。

 午前0時を過ぎても飛んで来ない。みるみる心がドス黒い焦燥感で染まってゆく。

 
 午前0時50分。
やっとこさ飛んで来た。

 

 
でも、又しても♀だ。
表はキレイだけど、裏はさっきの個体よりも少しスレている。
と云う事は、何日か前には既に発生していたという事だ。紀伊半島の採集記録は7月上旬が多いが、採集適期は6月半ばなのかもしれない。

 

 
5分後、また飛んで来た。
待望の♂だ。
しかし、スレ個体だ。翅にスリットも入っている。やはり、少なくとも♂は6月中旬が適期のようだ。
これをきっかけにガンガン飛んで来るかと思いきや、ピタリと飛来が止まる。

 午前1時25分。
やっとこさ飛んで来た。

 

 
裏面も黄色い。やった❗今度こそ完品の♂だ。
これで漸く完品の雌雄が揃った。心底ホッとする。完品の♂と♀が揃わなければ、自分の中の物語はクローズしない。心の何処かが、その場に置き去りにされるからだ。完品が揃うまで訪れ続けなければならないのはシンドいのだ。例えば、ナマリキシタバは未だに♂が採れてないし、ヨシノキシタバは雌雄が揃ってはいるものの、♀のメリハリが効いた美しいタイプの完品は採れてない。そういや、ハイモンキシタバやノコメキシタバも満足しうるような完品がない。

 
【ナマリキシタバ♀】


(2020.7月 長野県松本市)

マイフェバリットの一つ、カトカラBESTファイブに入る美しい種だ。前翅の独特の柄がカッコいい。けど小型種なのがちょっぴり惜しい。もっと大きければ、間違いなくマイフェバリットのNo.1だろう。そんなにゴリゴリ好きなのに。何故だか縁が薄い。今年は何とか沢山採りたいよね。

 
【ヨシノキシタバ♀】

(2020.8月 奈良県吉野郡)

望むのは、こういう型だ。カトカラ属の中でもトップクラスに美しいと思う。コヤツも勿論ベストファイブに入る。
ついでに通常の♀も載せておく。こんなフォームだ。


(2020.8月 奈良県吉野郡)

カトカラの中では、唯一雌雄の柄が違う種で、普通の♀も充分美しい。でもメリハリタイプを見た後では、あまり魅力を感じない。コレだったら、ミヤマキシタバの方がカッコいいと思う。

 
【ハイモンキシタバ】

(2019.8月 長野県上田市)

【ノコメキシタバ】

(2019.8月 長野県上田市)

どちらも背中がハゲちょろけている。カトカラは、このように直ぐにみっともない落ち武者みたくなりよる。クソ忌々しいことに、網の中で暴れただけでこうなるのだ。

 
 夜はゆっくりと更けてゆく。
だが、深き森の姫は再び姿を見せなくなってしまった。飛来時刻は比較的遅めだが、丑三つ刻には打ち止めなのかもしれない。

 午前3時になろうとした時だ。

 

 
月が出た。
小太郎くんに笑われるが、自分でも笑ってしまう。どんだけ晴れ男やねん。まあ、ゴールデンタイムではなかったから全然問題なかったんだけどね。とはいえ、危ねえ危ねえではある。もし数時間でもズレていれば、エラいコッチャだった。

月の出を合図のように片付け始める。
全ての片付けを終えると、再び漆黒の闇が訪れた。深い闇だ。冷気も降りてきているのか、すごく肌寒い。そろそろ魑魅魍魎どもがやって来るに違いない。妖怪どもが跳梁跋扈する前に、急ぎ帰ろうと思った。

                 おしまい

 
追伸
 何せ2年前の話だから、記憶は曖昧だ。思い出し思い出し慎重には書いたが、内容は正確ではないかもしれない。小太郎とも記憶に齟齬がある可能性はあるだろう。読まれた方々には申し訳ないが、それを踏まえた上での文章だと御理解いただきたい。

 ややこしくなったとは思うが、今回からタイトルを「カトカラ4年生」から「カトカラ5年生」に変えた。実質、カトカラの採集を始めて5年目になった時の話だからだ。思うに、カトカラにターゲットを絞って採集を始めた時は、まあまあ天才なんだから、狙ったターゲットを順調に落としていけるだろうと考えていた。だからがゆえに付けたタイトルだったのだろう。それが、あろう事かヤクヒメが採れなくて、まさかの年跨ぎになるとは全くの想定外だった。結果、こう云うややこしい事態を引き起こしてしまった。とはいえ、今さら嘆いたところで詮もない。この先は何とか工夫して時系列を解りやすくして書いていくしかあるまい。自信ないけどー。
と云うワケなので、御迷惑をお掛けするが、今後とも宜しくでやんす。

 
追伸の追伸
 上記は2021年の採集記に対する追伸です。その後、急に2022年の採集記も付け加えたから、追伸も付け足すことにした。だから「この先は何とか工夫して時系列を解りやすくして書いていくしかあるまい。自信ないけどー。」とは書いたが、この話はひとまずお終いなのだ。ゆえに時系列の心配も無くなった。あっ、まだ種の解説編が残ってるか…。となれば、また時系列について考えねばならない。憂鬱だなあ…。

 この採集記は本来ならば、2年前の2021年に書かれるべきものだった。しかしワードプレスの突然の不具合で、記事が全く書けなくなってしまった。アレやコレやと試してみたが、フリーズは解消されず、嫌気がさして放り出してしまったのだ。だからブログが長年更新されなかったってワケ。漸く今年になって再開したが、筆は中々進まなかった。文章と云うものは、毎日のように書いていれば、長文でも慣れでスルスルと書けるのだが、ブランクが空くとそうはいかない。全然調子が出なくて、遅々として筆が進まないのである。ボキャブラリーも浮かんでこないから表現も単調になり、上手く書けない。上手く書けないと気に入らないから益々書く気が失せる。
そいでもって悪い事に、前回を書き終えて直ぐに又してもワードプレスがフリーズした。プレビューが全く見れなくなったのだ。そうなると下書きのレイアウトや貼り付けた画像が見れなくなるので、書くのが困難となる。やる気なし蔵である。
でも、このままだと中途半端に頓挫する事になる。少なくともヤクヒメのシリーズだけでも終わらせたいので、必死に解決方法を探した。そして、回復したのが約1週間前である。長々と言い訳がましく書いたが、少しは書く苦労も解って戴きたいのさ、ガッチャピーン。

 一応、展翅した画像の一部も載っけておこう。

 
【ヤクシマヒメキシタバ♂】

【同♀】

【裏面】

こうして展翅してみると、渋いっちゃ渋いが、冷静に見れば小汚いちゃ小汚い。他の多くのカトカラの下翅は鮮やかな黄色や紅色、紫色だから、それと比べればあまりにも地味だ。お姫様と言うよりも、雲霧林に棲む老婆だ。いや山姥(やまんば)かえ❓でも珍品だと思えば、山深き森に棲む仙人様に見えてくるから不思議だ。できることなら、今年も仙人様に会いに行きたいと思う。

 
 各註釈の解説もしておこう。
 
(註1)キリシマミドリシジミ

(♂ 2010.8.6 滋賀県 霊仙山)

学名 Chrysozephyrus ataxus
前翅長18〜24㎜。シジミチョウ科 ミドリシジミ属に分類される小型の蝶で、ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)では、最も美しい種とされる。
♂の翅表は光沢のある金緑色で、♀は黒褐色の地色に青藍斑を持つものが多い。国内では神奈川県西丹沢から九州は屋久島まで見られるが、その分布は局所的。アカガシやウラジロガシ等の食樹が生育する標高400〜1400mの常緑広葉樹と落葉広葉樹の混交林を中心に生息地が知られている。
成虫は年1化、7月上旬〜9月下旬にかけて見られる。♂は午前9時〜午後3時頃に梢上を敏活に飛び回り、縄張り内に侵入した者を激しく追いかけ、再び元の位置に戻る占有性を有する。

ゼフィルス愛好家の中でも、意外と野外で成虫を採集した経験がない人が多いらしい。これは愛好家の間では野外で成虫を採集するよりも、冬場に卵を探し出して飼育する方が遥かに容易に標本が得られるからだ。しかも羽化直後の美しい個体が得られるときてる。ゼフィルス類は激しく飛ぶので、採っても汚損や破損したものが多く、中々完品個体が得られないのである。しかも多くの種が高所で活動するので、採集の難易度は高めだ。中でもキリシマミドリが最も難易度が高いとされている。多くは地上7m以上を飛翔し、しかもそのスピードはゼフィルス類最速と言われる。オマケに回遊する事が多く、あまり枝葉には止まってくれない。にも拘わらず、静止時間が他の種と比べて圧倒的に短いのだ。高い、速い、止まらないの三拍子が揃っている上に、ジッとしていてくれないんだから、お手上げである。思えば5連敗中に会った人で、採れてた人は誰一人いなかったもんね。
しかもコヤツの棲息環境は最悪で、大概がヒルだらけ。常に吸血される恐怖に怯えていなければならぬのだ。終始、気が気でなく、採集に全く集中できない。画像の、初採集した時の霊仙山なんぞはヒルの巣窟で、彼奴らが何十匹と鎌首を擡(もた)げてカモーン、カモーン。ゆらゆらと揺れてる様は阿鼻叫喚モノだった。思い出すだけても、さぶイボ(鳥肌)がサアーッである。

 
(註2)阪神タイガースの開幕9連敗
2022年、我が人生の愛憎の象徴である虎は、開幕試合のヤクルト戦で最大7点差があったにも拘わらず、終盤に大逆転されて負けた。以来、悪夢の9連敗。セ・リーグのワースト記録を塗り替えた。その後も勝てず、何と開幕17試合で1勝しか出来なかった。ホント、毎年の事ではあるが、ファンをやめたくなるよ。しかし、気がつけば今年も応援している。まるでダメ男に貢ぐ愚かなバカ女みたいではないか。いや、ワシは男だから、性悪女に引っ掛かったアホ男と言った方が正しいか。

 
(註3)イッポンダタラ

(出典 『Amazon』)

一本だたら(一本踏鞴)。日本に伝わる妖怪の一種で、熊野地方など紀伊半島南部の山中に棲む。一つ目で一本足の姿とされるが、各地方によって伝承内容に相違が見られる。
和歌山と奈良の県境の果無山脈では、皿のような目を持つ一本足の妖怪とされ、12月20日のみに現れて襲ってくるという。この日は「果ての二十日」と呼ばれる厄日で、果無山脈の名前の由来にもなっている。
奈良県の伯母ヶ峰山でも同様に12月20日に山中に入ると一本だたらに遭うといい、この日は山に入らないよう戒められている。こちらの一本だたらは電柱に目鼻をつけたような姿で、雪の日に宙返りしながら一本足の足跡を残すという。見た目が奇怪な姿の妖怪だが、人間には危害を加えないという。又、この地方では鬼神である猪笹王と同一視される事もある。猪笹王とは、背中に熊笹の生えた大イノシシが猟師に撃ち倒された後に亡霊となったもので、一本足の鬼の姿で山を旅する人々を襲っていたという。しかし丹誠上人という高僧によって封印され、凶行はおさまったと伝わる。但し、封印の条件として年に一度、12月20日だけは猪笹王を解放することを条件とした為、この日は峰の厄日とされたという。
和歌山県の熊野山中では、一本だたらの姿、形を見た者はなく、雪の降り積もった上に残っている幅1尺ほどの足跡を見るのみだという。
和歌山県西牟婁郡では、カッパの一種である「ゴーライ」が山に入ると、山童の一種である「カシャンボ」となり、このカシャンボのことを一本だたらと呼ぶという。
他にも、人間を襲うという伝承が多い中で、郵便屋だけは襲わないという説や源義経の愛馬が山に放たれてこの妖怪に化けたと云う説など、一本だたらの伝承は名前は同じでも、土地ごとによって違いがある。尚、紀伊半島南部以外にも、各地方に似たような妖怪伝承が残されているようだ。
名称の「一本だたら」の「だたら」はタタラ師(鍛冶師)に通ずるが、これは鍛冶師が片足で鞴を踏むことで片脚が萎え、片目で炉を見るため片目の視力が落ちること、一本だたらの出没場所が鉱山跡に近いことに関連するとの説もあるようだ。又、一つ目の鍛冶神、天目一箇神(あめのまひとつのかみ)の零落した姿であるとも考えられている。猶、熊野地方を治める熊野国造は製鉄氏族である物部氏の支流であるそうな。
ちなみに画像の右側の文章は、おそらく水木しげる先生的な一本だたらの解釈であろう。

 
(註4)ゴイシツバメシジミ

(出典『環境省』)

学名 Shijimia moorei moorei
開張19〜26mm。基本的には年1化、7月上旬〜8月上旬に見られるが、部分的に8月上旬から中旬にかけて第2化が羽化する。
和名は翅裏に黒い斑紋が碁石状に並んでいる事に由来する。
1973年に熊本県の市房山で発見され、1975年には国の特別天然記念物に指定された。又、1996年には種の保存法にも指定されており、採集も標本の売買・譲渡も禁止されている。クソが考えたクソ法律、死ねや。
日本では、紀伊半島の奈良県川上村及び九州の熊本県、宮崎県にのみ分布する。しかし、熊本県では毎年発生が確認されているものの、奈良県と宮崎県においては近年その生息が確認できておらず、絶滅したと考えられている。奈良県での発見は1980年で、たしか尊敬を込めて「蝶乞食」とも称される浜さんが最初に見つけたんじゃなかったけかな。
生息地はカシ類などの大木が繁茂する暖帯照葉樹林の原生林の渓流沿いで、幼虫の餌となるシシンランが樹上に着生している場所にのみ見られる。幼虫はシシンランの花や蕾だけを食べて育ち、成虫はノリウツギ、リョウブ、アカメガシワなどの花を訪れて吸蜜する。又、時にヘビやカエルなどの死体、鶏糞から吸汁することもある。

 
(註5)エダシャクの仲間
調べてみたら、オオアヤシャクという名の蛾でした。

【オオアヤシャク♀】

でもって分類は、Biston属ではなくてアオシャク亜科であった。失礼しやした。
開張は♂が42~53mm、♀は58~65mmもあり、アヤシャクの仲間では最大種なんだそうな。北海道,本州,四国,九州に分布し、6~9月に現れる。矢張り♀はともかく、♂は普通種のようだ。確かに、この日も♂は沢山飛んで来た。
幼虫の食樹はモクレン科(モクレン,ホオノキ,タムシバ,オオヤマレンゲ,シデコブシ)とムクロジ科(トチノキ)。
 
 
(註6)白黒の蛾
後で調べてみたら、カラフトゴマケンモンと云う名の蛾でした。

【カラフトゴマケンモン】

学名 Panthea coenobita idae
ヤガ科 ウスベリケンモンガ亜科に属する。
開張43〜52mm。成虫は、年2化。 5〜7月と9月に現れる。
幼虫の食餌植物は、マツ科のトウヒ、モミ、カラマツ。
名前にカラフト(樺太)とつくが、北海道以外の本州,四国,九州,対馬にも分布する。西日本では標高の高い所で得られることが多いようだ。これは西では幼虫の食樹が比較的高い標高にある為だと思われる。しかし、モミの木なんかは低い場所でも時々見掛ける。この採集地も標高は高くはなかった。つまり、特に冷涼な気候を好む種というワケではなさそうだ。
尚、稀種とまでは言えないが、少ない種らしい。

 
ー参考文献ー
◆『日本のCatocala』西尾規孝
◆『世界のカトカラ』石塚勝己
◆『Wikipedia』
◆『日本産蝶類標準図鑑』白水隆
◆『日本産蝶類標準図鑑』岸田泰則
 

2021’カトカラ4年生 其の壱

 
vol.28 ヤクシマヒメキシタバ

   『陰翳礼讃』第一話

 超久し振りのカトカラシリーズである。
下手すりゃ二年半振りくらいの更新やもしれぬ。どんだけサボってんねんである。頓挫していた理由は色々あるのだが、そんな事をつらつらと書いたところで読者にはツマラナイと思われるので書かない。勿論、書けと言われれば幾らでも書けるが、第一章がワタクシの言いワケだけで終わっても知らんでぇ(ー_ー)。んなもん誰も望まんでしょうよ❓

 それはさておき、書くにはのっけから問題山積である。
先ずタイトルからして問題ありきだ。ヤクシマヒメキシタバを最初に採りに行ったのは2020年だから、タイトルは『2020’ カトカラ3年生』とすべきではないかと云うツッコミが入りかねない。まあ、それは甘んじて受けるとしても、読む側にとっては時系列を把握しにくい面がある。その年(2020年)に書いておけば良かったのだが、サボったせいで時系列の整合性がとれるどうか自信ないよ。まだしも2021年に書いておけば何とかなったのになあ…。でも今はもう2023年なんであ〜る、ψ(`∇´)ψケケケケ…。オデ、オデ、頭パー。早くも追い詰められてプレッシャーかかってのヤケクソ笑いじゃよ。
それに当時から既に2年と9ヶ月もの月日が経っているのだ。記憶も薄いヴェールが掛かったかのように曖昧模糊となりつつある。そして当然ながら、ちゃらんぽらん男にメモをとる習慣などなーい。🎵記憶たどれなーい。
そう云うワケだから、勝手な思い込みの、事実とは乖離した間違いだらけの文章になりかねないし、時系列もメチャメチャになるかも…。記憶が欠落してるがゆえに、書くことが無くて文章がスカスカになる可能性だって否めない。「たぶん」とか「おそらく」とか「かもしれない」等々のファジーな文言だらけにもなるやもしれぬ。そして何よりも長い間まともな文章を書いてないんで、クソおもろない駄文になる確率高しでしょう。
皆様方はそれを踏まえた上で読まれたし。期待してはならんのだ。そこんとこヨロシク〜(^o^)v

 
2020年 7月2日

 車中から外に目をやる。こんもりとした照葉樹林の明るい黄緑色が目に眩しい。ようやく森の仙人が棲む領域に入ってきたのだと実感する。

奇しくも、この日はオイラの誕生日だった。
正直、やっぱオラって持ってる男だよなーと思ったね。もしかして神様の計らいで、この日に導いてくれたんじゃないか。だとしたら、もう神様からのプレゼントを貰ったも同然じゃないか。しかもヤクシマヒメキシタバ(以下ヤクヒメ)は深山幽谷に棲む珍種とはいえ、ポイントに行けさえすれば絶対に採れるみたいな話も聞いていたからスーパー楽勝気分だった。そういや道すがら、余裕の心持ちで「おー、ここが高校野球の名門、智弁和歌山高校かあー」とか言ってた憶えがあるもんなあ。

【ヤクシマヒメキシタバ】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)


(出典『世界のカトカラ』)

 申し訳ないが、下翅が黄色や赤、オレンジ、ピンク、紫色など色鮮やかに彩られるものが多いカトカラグループの中においては、最も小汚い種だ。そう言わざるおえないような地味な見てくれのカトカラなのである。
オマケにチビッ子ときてる。国内では最小クラスの小人カトカラでもあるのだ。チビでブス。純粋に見たら魅力的ではない(あっ、チビとかブスとかってコンプライアンス的に言っちゃマズかったかしら❓)。
されど、屋久島、九州南部、対馬、四国、紀伊半島南部等に局所的に棲む種ゆえに、簡単には会えない珍種とされている。また、標高は高くはないものの、深山幽谷の様相を呈するような環境、いわゆる原生林、もしくはそれに準ずるような自然度の高い照葉樹林でしか見られないことから、愛好家の間では憧れられていたりもする。どこか神秘的なものを感じるのだろう。その深山幽谷のイメージとリンクして、お爺ちゃんみたいな見てくれでさえも、視点を変えれば”仙人”の風情を湛えているように見えなくもない。そうゆう目で改めて見ると、落ち着いた渋い魅力があるような気もする。ゆえに高貴で格調高いと評する人もいるのだろう。
とはいえ、オラはそもそもが美人好きであり、美食を好み、美しい絵画、美しい風景etc…、世のあらゆる正統派の美をこよなく愛する男なのだ。当然、蝶や蛾も美しい者に強く惹かれる。つまり、パッパラパーのミーハー男なのさ。だから今までヤクヒメにはあまり食指が動かなかった。
それに関西からでも紀伊半島南部の山奥は直線距離以上に遠いんである。山深いから、所要時間的には飛行機で北海道や沖縄に行くのと変わらんのだ。場所によったら、下手すればもっと時間がかかる。謂わば陸の孤島なのだ。ゆえに腰も重くもなる。
加えて、ヤクヒメは灯火採集でないと殆んど得られないと言われている。だからワシのようなライトトラップの道具を持ちあわせておらず、糖蜜トラップのみに頼るような採集では極めて分が悪い。惨敗濃厚だ。なのに小汚いブス蛾に誰が会いに行けるかっつーのである。ブスに会いに行って告白して、挙げ句の果てにはフラれるなんざ目も当てられない。ワシの人生経験には、んなもん皆無なのだ。つまりワシ的辞書には無いって事。なので後回し。そのうち行く機会もあるだろう程度に思っていた。

 そんな折り、カトカラ採集の盟友である小太郎くんからヤクヒメ採集のお声が掛かった。遂に灯火採集のセットを購入したらしい。因みに、この年はコロナウイルスが日本中を恐怖に陥れた最初の年だった。で、全国民に等しく給付金10万円が配られた。彼は、そのあぶく銭(笑)をドーンと注ぎ込んだというワケだね。嫌味ではなく、もうコロナ様々である。この年は、後々その小太郎くんのライトトラップのお陰で、アズミキシタバ、ヒメシロシタバ、ナマリキシタバ、ヨシノキシタバと、未採集のカトカラを次々と撃破できたからね(これらの採集記は既に書いてあるので、興味のある方は遡って読まれたし)。

 採集ポイントは、最初はヤクヒメが最も得られている和歌山県田辺市の大塔渓谷にターゲットを絞っていた。単純に個体数が多ければ多いほど採れる確率が高まると考えたからだ。知り合いの爺さんも、大塔に行けば楽勝で採れると言ってたしさ。
しかし、数日前に谷が土砂崩れで通行不能になっていると云う情報が入り断念。なので1から計画を練り直さざるおえなくなった。そこで新たに候補に挙がったのが、三重県熊野市紀和町の布引の滝と三重県北牟婁郡紀北町(旧海山町)の千尋峠、奈良県上北山村の貯水池だった。
で、小太郎くんとディスカッションして最終的に選んだのが布引の滝。アクセスの良さとかもあるのだが、決め手は西尾規孝氏の名著『日本のCatocala』に載っている写真だった。


(出典『日本のCatocala』)

背後の森の感じとか環境が良さげなのは勿論だが、一番の理由は橋が架かっている事である。この手の橋があると云う事は、地面がほぼ平らであることを示している。つまり、ライトトラップが設置しやすくて安全度が高い。傾斜がある所だと安定感を欠くのだ。となれば強い風が吹けば倒れかねない。もしも小太郎くんのライトトラップのデビューの日に、三脚がコケて高価な水銀灯が割れでもしたら最悪である。小太郎くん本人の落ち込みは当然激しいだろうし、ワシの申し訳ないという気持ちもマックスになる事は想像に難くない。それだけは何としてでも避けたかったのだ。縁起が悪いからと、コンビを解消されたら悲しすぎる。
他にも理由はある。実を言うと、以前この場所には一度だけ来たことがある。Mr紀伊半島。紀伊半島の蝶に造詣が深く、ワシの兄貴分でもある河辺さんに珍蝶ルーミスシジミの採集に連れて来てもらったことがあるのだ。

【ルーミスシジミ】

(2017.6月 三重県熊野市紀和町)

ルーミスといえば、空中湿度の高い場所に棲息する蝶だ。そして、ヤクヒメも雨が多くて湿度が高い雲霧林的な環境を好むと言われている。ならば、採れる確率は高い。更に言えば、橋は駐車場に隣接しているから利便性も良い。荷物運びが楽だかんね。水銀灯用の安定器や発電機はバリ重いのだ。勿論、近いと時間の節約になるのは言うまでもない。設置や撤収に無駄な時間を要しないということだ。つまり、布引の滝は申し分ないくらいの好条件が揃っている地なのだ。

 まだ空が明るい夕方近くにポイントに到着した。
ここは紀和町の中央に位置し、一族山(標高801m)の南側の登山口にもなっており、楊枝川の上流部に辺る。そして、少し下った所には高さ29mの「布引の滝」がある。三段からなる優雅で気品ある美しい滝で、日本の滝百選にも選ばれている。

【布引の滝】

(出典『滝ガール』)

調べてみると、この周辺は自然度の高い天然林と原生林が広がっており、1991年6月には「紀和町切らずの森」と名付けられて、20.1haにわたる面積が保護される事になったようだ。
生物相も豊かで、キツネ、タヌキ、シカ、ノウサギ、ニホンザル、イノシシ等の哺乳類が多く生息し、稀少種であるワカヤマヤチネズミもこの周辺では数多くみられるという。鳥類も多く、猛禽類のハチクマ、サシバをはじめ、アオゲラ、コゲラ、ルリビタキ、キビタキ、アカハラ、ミソサザイ、オオルリ、キバシリ等々が確認されているそうな。そして沢沿いや渓流には、アマゴやオオダイガハラサンショウウオも棲むという。
昆虫は蝶で言えば、ルーミスの他には、同じく珍品とされるヒサマツミドリシジミや美麗なるキリシマミドリシジミ、メスアカミドリシジミなど「森の宝石」とも称されるゼフィルス(ミドリシジミの仲間)も豊富にいると書いてあった。まあコレは蝶屋なんだから、さすがに知ってたけどさ。

【ヒサマツミドリシジミ】

(2014.6月 京都市左京区杉峠)

あと、特筆すべき記述も見つけた。何と此処は幻のヘビ、あの「ツチノコ」の伝説が残る里でもあるらしい。
バチヘビじゃ、バチヘビ〜❗テンション、バキ上がるわ〜🤩
あっ、バチヘビとはツチノコの別名ね。ちなみにツチノコ(槌の子)とは、日本に生息すると言い伝えられる未確認動物(UMA)の1つで、形が横槌に似ていて、胴が太くて短い蛇の事やね。北海道と南西諸島を除く日本全国で目撃例があるという。ワシも、小学生の頃に九頭竜で見たでぇー。あっという間に石の隙間に潜り込みよったけど、アレは絶対にツチノコだったわさ。

【ツチノコ】

(出典『海洋堂』)

そういや昔、ツチノコブームってのがあって、スゲー額の懸賞金がかかってたよなー。あの頃は他にも中国山地の類人猿ヒバゴンとか、屈斜路湖の首長竜クッシーとかも話題になってたなあ…。なので子供心にも、日本ってどんだけ謎の怪物がおるねんと思ったものだ。昭和の時代って、夢のある幸せな時代だったんだね。
嗚呼、ツチノコ見てぇー🤩❗お~し、ツチノコもヤクヒメも一網打尽じゃあ〜。

おっと、肝心の植物のことを書き忘れてたよ。
滝周辺は、アラカシ、アカガシをはじめとするカシ類を中心に、シイノキ、ヤブツバキ、クスノキ、トチノキ、各種カエデ類などの落葉樹が混生する天然林となっているそうだ。原生林じゃないのは気になるが、まあ大丈夫っしょ。

 天気は上々。有り難いことに望んだような極上の曇り空だ。雲が厚めだから、これだと月が顔を出すことは無いだろう。ヤクヒメは曇りか雨の日にしか飛んで来ないとされている。月夜には姿を現さないのだ。そして、雨を降らせるような雲も見当たらない。雨に濡れるのは嫌だし、かといって晴れられると困る。そう云う意味では、ワシ的にはまるで誕生日を祝うかのような絶好の天気なのだ。

 小太郎くんは橋の中央部に、ワシは何ちゃってライトトラップを駐車場に設置。日没後に同時点灯した。

【小太郎くんのライト】

尚、上の画像は大幅にトリミングしていて、小太郎くんの屋台(ライトトラップの事)は除外してある。初期の屋台組みなのでプロフェッショナルな人から見ればダサいからとの理由で、本体は載せないでくれと言われたのだ。小太郎くん、バラしてゴメンね、ゴメンねー。
さておき、緑色に映ってるから、メチャメチャ紫外線が出とる証拠やねぇー。水銀灯は肉眼では普通の色の灯りに見えるが、スマホで写すと緑色に映る。なので外灯回りで虫採りする場合には、とても役に立つのだ。一見、水銀灯に見えても、殆んど紫外線が出ていない外灯もあったりするのである。もっとも最近では水銀灯は絶滅しつつあり、世はLEDライトだらけになってしまったから、あんま意味ないんだけどね。ようは普通のLEDライトは紫外線がカットされていて、虫が誘引されないってことね。

 駐車場の脇に鳥居があり、その奥の環境が良さげなので、一応ワシのスペシャル糖蜜を木に撒いておいた。ヤクヒメは糖蜜トラップには来ないと言われ、吸汁したという記録がないのは知っている。けれども、まあまあ天才のワシの作ったスペシャルレシピである。悪いが、大どんでん返しさせてもらうえー。

暫くして様子を見に行ったら、早速ウスイロキシタバが来ていた。しかも2頭も。流石、ワシのスペシャル糖蜜じゃよ。ここまで良い流れできてるし、この調子だとヤクヒメも楽勝で採れんじゃないのー😙

【ウスイロキシタバ Catocala intacta】


(2020.6月 兵庫県西宮市)

まだウスイロを一度も採ったことのない小太郎くんを呼びに行き、無事ゲットしてもらう。
しかし、如何せん鮮度が悪い。羽も一部が欠けている。となると、ヤクヒメの鮮度も気になるところだ。完品が採れることを祈ろう。

 時間が経つに連れ、小太郎くんのライトトラップは虫だらけの阿鼻叫喚状態と化す。けれど、圧倒的に多いのはカワゲラやトビケラなどの気持ちの悪い羽虫どもだ。中でも巨大なヘビトンボどもは邪悪な成りで超絶気持ち悪い。

【ヘビトンボ】

(出典『Wikipedia』)

 コヤツは昔から敵視してきた。生態はロクに知らんが、見てくれからして絶対邪悪な奴に決まってるからだ。(⁠⁠´⁠ω⁠`⁠⁠)デヘデヘ、お嬢ちゃん、ちぃとばかし股開きんしゃい。きっと、か弱き者たちに不埒な悪戯(いたずら)をしているに違いない。
しっかし、シクったなあ…。体中、羽虫にタカられるとは想定外だったわい。でも普通に考えれば、川のそばなんだから当たり前なんだよなー。奴らの生活圏の真っ只中なんだからさ。

虫は羽虫ども以外にもコガネムシなどの甲虫や各種の蛾が大量に飛んで来るのだが、カトカラは普通種のキシタバ(Catocala patala)しかやって来ない。当然、フル無視である。

【キシタバ】

 コヤツは市街地近くから標高2000m近くの深山に至るまで、ホント何処でも見掛ける普通種だ。灯火にも樹液にも一番集まるから節操がない感じがするし、オマケに図体がデカくてデブだから邪魔で💢マジむかつく。時に他の良いカトカラをパワーで追い散らかしたりもするので憤りの対象になるのだ。
とはいえ、外国、特にヨーロッパ圏では人気が高いらしいんだよね。確かに大きくてゴツいから、見方によっては重厚感や風格があるようにも見える。たとえ我々にとってはド普通種ゆえに評価が低くとも、そんなのヨーロッパの人々にとっては当て嵌まらないのだ。だってヨーロッパには生息していないんだからね。
所変われば品変わるというが、場所により評価も変わる。そんなものは容易に変容するものなのだ。そういや北海道では南部の一部にしか分布していないから珍しいのだ。だから北海道の虫屋の間では「おー、キシタバやんけー❗カッケー🤩」的扱いになってるやもしれん。
色眼鏡や珍稀度に惑わされずに、純粋な姿、形のみで評価ができる人間になりたいけど、ワシって人間できてないもんなあ…。

【ワシの何ちゃってライト】

 この日がデビュー2戦目の5w UV LEDライトである。
小太郎くんがライトトラップを買ったのに刺激されて、ワシも買ってもうた。とはいえ威力は遥かに及ばない。でも車では入れない場所でも灯りを焚けるような機動力の有る携帯タイプの方が、自分には合ってると思ったのさ。
本体重量は超軽量の130g。モバイルバッテリーが200gだから、合わせてもたったの330gしかない。それでいて一応、謳い文句には40wのブラックライト蛍光灯と同程度の威力があると書いてあった。
まあ、それくらいの効力はあるかもしれない。ちなみに、この日はコチラにはウスイロキシタバも飛んで来た。にしても、矢張りこっちにもヤクヒメは飛んで来ない。
不安がよぎる。でもヤクヒメは雨の日じゃないかぎりは遅い時間帯にしか飛んで来ないという説もあるようだし、気長に待とう。

 とはいえ退屈なので、橋を渡った向こう側にも糖蜜を撒きに行く事にする。鳥居周辺は疎林だからヤクヒメはいなくて、もっと深い森に居るんじゃないかと思ったのだ。小太郎くんも誘うが、リー即で却下された。冷たいよねー。
まあ、いつ突風が吹いてライトが倒れるやもしれぬから、離れられないってのもあるんだろうけどね。

一人、橋を渡り、暗黒世界に足を踏み入れる。直ぐにライトトラップの光は届かなくなり、真っ暗闇になる。
背中に緊張感がサッと広がる。メチャメチャ不気味なのだ。そもそもルーミスの生息地は気持ちの悪い場所が多い。そういや大塔渓谷にルーミスを採りに行った際には、プーさんが子供の声が聞こえたと騒いでたな。で、声がした方に行ってみたら、子供用の靴が片方だけ落ちてたらしい。けれど子供の姿なんて影も形もなかったという。あんな奥まった不気味な谷に、子供が一人ぼっちでいるワケがない。非現実的だ。或いは、その場に埋められてたりなんかしたりして…。で、その霊が呼んでたとか…。余談だが、その何日か前にはルーミス採集に来ていた人が、このすぐ近くの滝の横崖から墜落して死んだらしい…。
そんな事を思い出しながら歩く。良くない兆候だ。だが思念を止めたくとも止めれない。他にもアレやコレや想像してしまう。そして、とてもじゃないが此処には書けないような恐ろしい事まで想像して、ビクッ⁠( ꒪⌓꒪)❗悪寒が走る。ヤバい。我ながら相当ビビっている。元来、オラは超がつくウルトラ怖がり屋なのだ。チビりそうだ。懸命に意識を滅却させる。考えてはならない。考えれば考えるほど恐怖は膨張するのだ。
だが、空気がジメジメしていて重く澱んでいるし、足元には水が流れていてビチャビチャで気持ちが悪い。そして…、静か過ぎる。自分の歩く足音だけが奇妙に反響し、強調される。心頭なんて滅却できるワケがない。😱怖ぇー。
早く戻りたい一心で、あたふたと霧吹で糖蜜を木に吹き付け、慌てて引き返す。

橋まであと少しというところで、目の前の闇から突然光がぼわ〜っと浮き上がり、すう〜っと横切って消えた。足がピタリと止まる。😨すわっ❗鬼火🔥かぁ❗❓全身の血が逆流する。何じゃ❓何が起こっておるのだ❗❓必死で状況を把握しようと頭の中が高速で回転しているのが自分でもわかる。
暫くして、また光った。それを身じろぎもせずに凝視する。刹那、答えを求める脳ミソのシナプスが繋がる。この動きは何処かで見た事があるような気がする。
ホタル❓ でも見慣れたゲンジボタルやヘイケボタルよりも遥かに小さくて弱い光だ。色も少し違う気がするし、点滅の間隔も異なるように感じる。じゃあ、何❓
次の瞬間には無意識に体が勝手に動き、光を追い求めて夢遊病者の如くふらふらとついて行っていた。
そして、気がついたら両手で光を覆い包んでいた。
ゆっくりと掌を開く。と、そこには見たことのない小さな蛍が静かにゆっくりと明滅していた。もう恐怖は無かったが、幻想的で不思議な感覚だった。よく蛍の灯は死者の魂になぞらえるが、或いはそうなのかもしれない。そう思った。

橋まで戻って小太郎くんにそのホタルを見せると、即座に「これ、ヒメボタルですよ。」という答えが返ってきた。

【ヒメボタル】

(出典『東京にそだつホタル』)

ゲンジボタルやヘイケボタルのように幼虫時代を水中で過ごす水棲ホタルではなく、陸棲のホタルなんだそうだ。
欲しいって言うから進呈したけど、小太郎くんが欲しがるくらいだから、それなりに稀少なホタルなのだろう。

 午後11時を過ぎた。さあ、ここからが正念場だ。そろそろ飛んで来てもいい時刻だ。彼奴を見逃すまいと周囲にせわしなく目を配る。

でもヤクヒメは11時半になっても、いっこうに姿を現さない。
時間は刻一刻と削られてゆく。(⁠゜⁠o⁠゜⁠;マジかぁ❓楽勝じゃなかったんじゃないのー❓神様〜、アチキへの誕生日プレゼントはどうなっちゃってんのよー❓

小太郎くんと相談して、12時半に店じまいすると決める。
素早く後片付けして午前1時に此処を出られたとしても、それでも帰ったら明け方近くにはなっているだろう。もっと居たいのはやまやまだったが、妥当な判断だ。反対はできない。

午前0時。東側の空が少し明るくなってきた。まさかと思って見ていたら、やがて山の端から朧月(おぼろづき)が顔を覗かせ始めた。
小太郎くんが笑う。
「マジっすか❓ 五十嵐さん、どんだけ晴れ男なんすかあ。天気予報では曇り時々雨だったのにー。」
そうなのだ、彼の中ではオイラはスーパー晴れ男なのだ。彼の前だけに限ったことではないが、たとえ雨の予報でも「晴れるでー」とワシが宣言したら本当に晴れるのだ。だから周囲にはしばしば驚かれる。ゆえに小太郎くんには重宝されている面がある。蝶採りには晴れが絶対条件だかんね。だが今回に至っては、それが完全に裏目になった。せやけどワシ、今日は晴れさせるなんて一言も言ってないからね。
こりゃ終わったなと思いながらも、それでも一縷の望みをもって待つ。

0時半になった。しかし、ヤクヒメはついぞ飛んで来なかった。惨敗決定だ。呆然とした面持ちで後片付けを始める。
そんな中でも、頭の中ではずっと
(⁠・⁠o⁠・⁠)何で❓(⁠☉⁠。⁠☉⁠)⁠何で❓
(⁠@⁠⁠@⁠)何で❓ヽ⁠(⁠(⁠◎⁠д⁠◎⁠)⁠)⁠ゝ何で❓
щ⁠(⁠゜⁠ロ⁠゜⁠щ⁠)何で❓w⁠(⁠°⁠o⁠°⁠)⁠w何で❓
༼⁠⁰⁠o⁠⁰⁠;⁠༽何でぇー❓(⁠●⁠
⁠_⁠●⁠)何でやねーん❓

の、あらゆる何でやねん嵐が吹き荒れ続けていた。

                   つづく

追伸
 久々に虫の話を書いたが、大変じゃったよ。
文章の書き方を忘れてて、調子が出るまでだいぶ時間がかかったし、画像の貼付方法や字のフォントの大きさの変更等々とか技術的な事も忘れてて困った。それに、ロクに構成も考えずに行き当たりバッタリで書き進めていったから、筆が止まる事もしばしばだった。で、アレコレ文章をイジくってるうちに長くなったってワケ。予定では解説編を除く全2話に収めるつもりだったが、この調子だと少なくとも3話以上にはなりそうだ。
まあ、いつもの如く長丁場になるとは思うが、これからも気長に付き合ってつかあさい。

 
《参考文献》 
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則編『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆新宮市教育委員会 文化振興課『熊野学』
◆Wikipedia
 

『2022年以前の丼の献立』

 
 何と一年半振りのブログ更新である。
再開を望む叱咤激励の声を掛けて下さった皆様方、ホンマすんません。まさか、そんなに読んでる人がいたとは知らなんだ。反省です。
こんなにも長く放置された理由は色々あるのだが、それを羅列し始めるとキリがないし、ちゃらんぽらんグダグダ言いワケ男と言われかねないので割愛させて戴きやす。

 えー、再開第1回は虫の話ではありませぬ。
虫の話は、あまりいい加減なことは書けないから調べモノが結構あって時間がかかるのだ。ゆえに長文になるケースが常態なので、多大なエネルギーと気力が必要なんざます、ワレー。
と云うワケで、先ずは食いもんの話でも書いてリハビリしようかと思います。ちゃんと虫の話も書きますんで、申し訳ござらんが暫し待たれたし。

 少し前の話だがスマホの画像が溜まりに溜まって、ストレージを何とかせんとメールも受け取れないような状態になった。なので慌ててFacebookに1月と2月の食いもん画像を何回かに分けて一挙放出した。それでもまだ、以前の画像が大量にある。消せるものは消してはいたのだが、いつかは文章にしようと思っていたモノを残していたら、それも気づけば塵ツモ。
ならば、ここいらで何とか文章化し、スマホから画像を葬り去りたいと思う。

 

『海老のちらし寿司』
丼と言いながら、いきなりちらし寿司である(笑)。
でも画像を貼付した時点では丼だと思っていたのだ。まあ、丼鉢に入ってんだからコレも丼と言っても差し支えなかろう。海鮮丼だって酢飯仕様のモノはあるからね。

多分これは、ちらし寿司に入ってる海老が好きだからソレだけを食いたいと云う願望を具現化したものだ。海老オンリーのちらし寿司って、有りそうで無い。全く無いワケではないのだろうが、あまり見掛けない。大体は椎茸だの、絹さやなど余計な者共が入っている。子供の頃は、それが不満だった。雑魚キャラどもでカサ増ししやがって(⁠`⁠Д⁠´⁠)⁠バーローと思っていたのである。

酢飯の上に少し甘めに味付けした錦糸玉子を敷き、その上にサッと酒で火を通した海老を並べた。尚、海老は包丁で裏に切れ目を入れ、手で腰折れ部分の筋肉も潰して真っ直ぐにしてある。

(⁠・⁠∀⁠・⁠)メチャ旨〜❗
でも二度と作らないと思う。なぜかと言うと、旨いんだけど味が単調で段々飽きてくるのだ。ちらし寿司に色んな具が入っているのが解ったような気がするよ。アレはアレで意味があったのね。

 

『牡蠣の天津飯』
厳密に言うと、貝の天津飯。しかも塩味の天津飯である。
御飯は牡蠣と浅利、あとは帆立?ハマグリ?も入ってたかもしれない炊き込み御飯である。そこに、ふわふわの玉子焼を乗せて銀餡をかけた。美しい仕上がりでおますな。
因みに上に乗ってる牡蠣は、炊き込み御飯からチョイスしたものである。そうしないと、何の天津飯かワカランからね。
コレ、🤩スゲー旨かったです。

 

『牛タン麦とろ丼』
コレも、めちゃんこ旨かったなー😄。

先ずは押麦50gと米2〜3合を混ぜて炊く。

その上に長芋ではなくて山芋を出汁で伸ばしたのをかける。長芋ではなく、山芋を使うのが肝。山芋の方がネバネバ度が圧倒的に強くて、旨味も強いのだ。コレはもう歴然たる違いがあるから、是非とも試されたし。
そこに軽く焼いた牛タンを乗せ、青海苔をかける。
牛タンは火を入れ過ぎると固くなるので、炙る程度で良ろし。あっ、1枚目はやや厚めの牛タン、2枚目は普通の厚さのモノにしました。どちらが旨いかは好みだと思うが、個人的には厚めの方が好きかな。
青海苔は絶対に入れた方がいい。味に素晴らしいアクセントを与えてくれるからだ。色が綺麗な緑で、香りの良いものを選ばれたし。
で、最後に1枚目には木の芽、2枚目には大葉をあしらった。これも好みが分かれそうだが、自分的には木の芽の方を圧倒的に推す。

 

『百合根の玉子丼』
コレって、コロナで大騒ぎになった最初の年の画像だ。
たしかギフチョウを西脇市に採りに行った帰りに、明石の魚棚商店街に寄ったんだよね。

(その時のギフチョウ)

でもいつもは人混みでごった返しなのに、びっくりのウルトラ閑古鳥だった。あの頃はコロナが怖くて誰しもが外に出られなかったのだ。おバカなワシには関係ないけどねー😄✌️

そういやこの日は、大阪のミナミも今では考えられないようなゴーストタウンと化していた。

話を元に戻そう。その時に、魚棚の八百屋で百合根が驚愕の1パック30円で売っていたのである。しかも量もかなり多かった。おつとめ品だったとはいえ、ヤケクソの価格である。思わずオバチャンに「コレって0が1つ抜けてませんか?」と訊いたくらいだもんね。いや、あの量ならば300円でも安すぎるよ。

あの頃は毎日、その百合根をせっせと食ってたんだよなあ。でもって、百合根の旨さに開眼したのであった。それまでは茶碗蒸しに一片か二片だけ入っているボソボソとした食感のヤツというイメージしかなかった。ハッキリ言って要らん存在である。しかし、この時期に認識が一変した。どうやら原因は茶碗蒸しの百合根の量が少な過ぎるからみたいなのだ。少しがゆえに他の具材との違和感が、より強調されたものと思われる。それなりの量を食ってこそ分かったのだが、今は上品なジャガイモみたいなもんなんだと思う。そして、玉子との相性がとても良い。茶碗蒸しも、百合根のみのものならば、また評価も変わるかと思われる。なので、色々試して最終的には玉子丼にしたんだろう。そういや、コレ旨かったなあ。玉子丼にするなら、百合根は沢山入れた方がいいよー。ホクホク感が良いのだ。
あっ、けどジャガイモと玉子が特別に相性が良いとは思わないぞ。ならば、やはりジャガイモとは別物かあ…。

 

『鱒の筋子丼』
たぶん自家製の鱒の筋子だったと思うが、もしかしたら市販のモノかもしれない。
最近は寿司屋でイクラをたのんでも、鮭じゃなくて鱒のイクラが出てくることが多い。粒が小さいから、一見してすぐわかる。どうやら何年か前からシャケの不漁が続いているのが原因らしい。ゆえに年々高値になってるのだ。そうなると出せなくなって、鱒の子で代用せざるおえなくなると云うワケだ。
そういやここ2、3年は自分でイクラの醤油漬けも作ってないもんね。それくらい高いのである。

イクラや筋子には焼海苔がよく合う。必須アイテムと言ってもいいくらいだ。
御飯は白飯でも酢飯でもよろし。で、炙った焼海苔を毟って敷き、小分けにした筋子を乗せ、木の芽を添えて出来上がり。
あまり使われる事はないが、木の芽と筋子の組合せはGoodだと思う。イクラよりも味は濃厚だからね。あー、今思ったんだけど、ワシってイクラよりも筋子の方が好きな人のような気がする。

 

『たけのこ筋子丼』
余った筍御飯に筋子をトッピングした。
我ながら掟破りの邪道ではないかと思う。きっと単なる思いつきなんだろなあ…。
味は旨かった記憶がある。が、筋子の個性が強過ぎて、繊細な筍御飯が台無しって感じ。まあ、筍御飯に飽きてたがゆえの所業だったと思うから、べつに問題ないんだけどさ。

 

『黄色唐辛子のスタミナ丼』
母胎はコレ↓。

小松菜か何かと黄色い唐辛子をシンプルに炒めたものだ。あっ、ニンニクも入ってるね。
この黄色い唐辛子は、小太郎くんと長野県の梓川だっけ?かのミヤマシジミを採りに行った折りに道の駅で買ったもの。それにしても、120円とは激安じゃないか。

(ミヤマシジミ♂)

(同裏面)

(♀裏面)

ミヤマシジミは美しいよなあ…。裏面もこのグループの中では最も綺麗だしさ。
話が逸れた。黄色い唐辛子だったね。

コヤツが見た目は小さくてカワイイくせに、とんでもなく激辛でありんした。もう暴君と言ってもいいくらいの悶絶的代物なのだ。でもクセになる旨さで、一時期は何にでも入れてたっけ。

肉は見た感じでは豚肉かなあ…。それと玉葱を炒めたものを合体させ、御飯に乗っけただけ。
たぶん、かなり旨かったんじゃないかな。

 

『カッパ丼』
正確にはカッパ寿司だね。大量の胡瓜を消費したいが為の苦肉の策でした。発想の源はカッパ巻きからだね。胡瓜と酢飯と海苔は合うから、それを丼にしてもいいじゃないかと思ったのだ。

酢飯に鍋で使った出汁昆布を細かく切って混ぜ、その上に焼海苔を乗せ、更に胡瓜を乗せる。で、白胡麻を散らした。
でも、全然そそらないビジュアルになった。どうにも見た目が貧相なのだ。勿論、醤油をかけて食う。

😲されど食ってみて驚く。コレが真っ当に旨いのだ。
飽きずに最後まで食べられたのにも驚いた。コレはまた作ってもいいかな。わざわざ作る気にはなれないけどさ。だって貧乏くさいんだもーん。

 

『トロたく丼』
激安の本マグロのアラから肉をスプーンでこそぎ落としたモノと沢庵を合わせた。トロたくは、近年になって何処かの寿司屋が編み出したメニューだが、今や高級店でも珍しくない存在になっている。それくらい画期的な発明だと言える。だから、かなり期待した。とはいえ、あんましトロたくを食った事が無いんだけどもね。もしかしたら一度だけかもしれない。だけに、期待値が高まったという事もあるかもしれない。

作り方は簡単。酢飯の上に焼海苔、マグロ、沢庵を乗せ、白胡麻を散らしただけ。食う直前に醤油をかける。

けど期待に反して、それほど旨くない。
ならばと、途中でグジャグジャに混ぜてみた。

でも、さして評価は変わらず。
マグロは味見してるから問題ない筈だ。さすれば沢庵のせいか?それともマグロとの配合のせい?
┐⁠(⁠´⁠(⁠エ⁠)⁠`⁠)⁠┌んー、いまだに何で失敗したのかがワカラン。
もしかしたら沢庵の甘さが、そもそも口に合わないのかもしれない。基本、人工的な甘さは好きくないのだ。

 

『温玉添え豚丼』
豚肉を甘辛く焼き、御飯に乗っけて温玉を添えた。
豚肉のタレは、おそらく醤油、味醂、酒を混ぜたものだろう。隠し味に何か入れてる可能性も無くは無いが、思い出せない。
温玉は自分で作った記憶がある。ネットで調べりゃ、作り方はゴマンと出てくるから誰でも簡単に作れまっせ。
味は普通にメッチャ旨かったっす。

 
たった10個の献立なのに、書くのに半日近くもかかってしまったなりよ。やはり文章を書くのは大変だ。特に長い文章を書くには体力がいる。肉体的にも精神的にも体力が必要なのだ。普段から書き慣れていないとあきまへん。サクサク進まないのだ。ブランクが開くと駄目だね。何だか気持ちが萎えてきたよ。正直、こんな体たらくだと虫関係のブログを書けんのかよと思うよ。
とはいえ、巻頭で言っちゃったからなあ…。頑張りまふ〜。

 

奄美迷走物語 おまけ編

第20話『奄美大島の蝶と蛾 春編』

前回に、この旅で採った蛾と蝶を紹介して終わる予定だった。けど、またぞろパンドラの匣を開けてしまい、何かと問題が起きてバカ長くなってしまった。拠って、おまけ編として今回に回す次第と相成った。
だだし、採集したものを全て展翅しているワケではないので一部の紹介になります。

 
【アマミシャクドウクチバ ♀】

漢字で書くと「奄美赤銅朽葉」かな。
以下、間違いもあるかもしれないが、解る範囲で漢字表記を試みます。その方が和名の由来をイメージしやすいと思うのだ。

学名 Mecodina sugii Seino, 2003
ヤガ科 シタバガ亜科 Mecodina属に分類される。
開張35〜45mm。
オキナワマエモンヒメクチバと酷似するが、外縁は緩やかに湾曲し、前翅は紫褐色で翅頂が突出することで区別できる。

(オキナワマエモンヒメクチバ)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

奄美大島の固有種。徳之島からも記録があるようだが、『蛾類通信』でオキナワマエモンヒメクチバに訂正されていた。
尚『日本産蛾類標準図鑑』では、同属の他3種と棲み分けており、分布は重複しないとある。3,5,8月に得られており、季節型があるみたい。春型は全体的に大きく、翅表は強く褐色を帯び、翅頂の三角斑が紫白色に縁取られる。幼生期は未知。
新種記載は2003年と比較的新しく、ネットにもあまり情報がないので雌雄に自信があまりないが、♂触角は絨毛状というから、おそらくこの個体は♀だろう。

 
【オオウンモンクチバ ♂ 大雲紋朽葉】

学名 Mocis undata (Fabricius, 1775)
ヤガ科 シタバガ亜科 ウンモンクチバ属に分類される。
開張45〜50mm。日本産の同属中では最大種となる。

どうやら雌雄の斑紋は少し異なるようである。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

♂は前翅の黒点は目立つ個体が多い。また横線の縁取りが明瞭で、外縁が直線的である。対して♀は斑紋が全体的に不明瞭となる。

分布は『日本産蛾類標準図鑑』によると、本州、伊豆諸島、小笠原諸島、四国、九州、対馬、沖縄諸島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島。
(・o・)あれれ❓奄美大島がスコッと抜けてるぞ。確認のために『みんなで作る日本産蛾類図鑑』も見たが、やはり奄美が抜けてた。沖縄と九州に居るんだから、奄美にも当然いてしかりだろうに。記録漏れ❓
日本本土域では3〜9月に見られ、年2化。昼間に見る機会も多いという。
幼虫の食餌植物は、クズ、フジ、ヌスビトハギ、ヤブマメ(マメ科)。海外では、エニシダ(マメ科)、オヒシバ(イネ科)が記録されている。

 
【ホシヒトリモドキ 星火盗蛾擬】

横から見ると、蜂みたいだ。
たぶん♀かなあ。

黄色と黒の縞々は警戒色だから、天敵に対する何らかの効果はあるのかもしれない。ちなみにコヤツはもう1つ採ったが、何れも擦れ擦れの個体だった。なので、参考までに新鮮な個体の画像を貼り付けておく。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

結構スタイリッシュだ。でも如何にも蛾って感じで気持ち悪い。

学名 Asota plana lacteata (Butler, 1881)
ヤガ科 ヒトリモドキガ亜科 Asota属。
開張 56〜61mm
国内では屋久島、奄美大島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島、国外では台湾、インドシナ半島、インド、ボルネオに分布する。日本と台湾のものは、亜種 lacteata(Butler,1881)とされる。
低温期を除き、ほぼ一年中見られるが、詳しい化性は不明。
幼虫の食餌植物は、クワ科のガジュマル、アコウ。

 
【キイロヒトリモドキ 黄色火盗蛾擬】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

採ったけどボロだったので展翅してない。なので図鑑の図版をお借りする。そういやコイツ、奄美大島に到着したその日の晩にライトに飛んで来たんだよね。真っ黄っ黄ーで結構大きかったからからビックリした。でもどっか行っちゃって、何者か分からずじまいだった。鮮度は結構良かったように思う。で、最後の方でボロが採れて正体が分かった。

学名 Asota egens Walker, 1854
ヤガ科 ヒトリモドキガ亜科 Asota属
開張 57〜62mm。♀は♂よりも大きく、翅がやや太い。
分布は九州の福岡県と鹿児島県に記録があるが、確実に産するのは屋久島、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖永良部島、沖縄本島、久米島、伊江島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島、南大東島。奄美大島以南は個体数が多い。
原記載亜種はインドネシア。多数の亜種が知られており、日本・台湾・フィリピンのものは、亜種 confinis Rothschild, 1897とされる。
低温期を除き、ほぼ周年見られるが、化数は不明。
幼虫の食餌植物は、クワ科のガジュマル、イヌビワ、オオイタビ、ホソバムクイヌビワ。

【リンゴツノエダシャク ♂ 林檎角枝尺】

枝尺の由来は、おそらく幼虫が枝に擬態する尺取虫だからだろう。

学名
Phthonosema tendinosarium (Bremer, 1864)
シャクガ科 エダシャク亜科 Phthonosema属に分類される。
開張 ♂40〜52mm ♀55〜62mm。♂はトビネオオエダシャク♂に似るが、本種は翅が細長くて外横線が太くくっきり出る。
北海道、本州、伊豆諸島、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島に分布する。寒冷地から暖地に向かって色が濃くなる傾向がある。ということは、この奄美産が一番濃いってことかな。
比較の為に本土産の画像も貼り付けておく。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

成虫は北海道では年1化、7〜8月に出現するが、本州中部では5〜9月に見られるので、おそらく年2化、更に温暖な地域では年3化以上の可能性があるようだ。
幼虫の食餌植物はヤナギ科、ブナ科、ニレ科、バラ科、カエデ科、ツツジ科、キク科などの植物が記録されており、針葉樹から草本をも含む広食性。

 
【ミカンコエダシャク ♂ 蜜柑小枝尺】

学名 Hyposidra talaca (Walker, 1860)
シャクガ科 エダシャク亜科 Hyposidra属に分類される。
開張 ♂30〜38mm ♀49〜59mm。♂の触角は櫛歯状で、♀は♂よりもかなり大きいことから、雌雄の判別は容易。

分布は奄美大島、沖縄本島、久米島、小浜島、石垣島、西表島、南大東島。沖縄では1月から11月まで幼虫が観察されている事から多化性と考えられる。
幼虫は柑橘類(ミカン科)やレイシ(ムクロジ科)、ユーカリ(フトモモ科)を食べる害虫として知られる。広食性で、この他にもトウダイグサ科、ブナ科、バラ科、ミソハギ科、アカテツ科、クマツヅラ科、ヒルガオ科、マンサク科、カキノキ科などの多くの植物を食べる。

 
【ツマジロエダシャク ♂ 褄白枝尺】

学名 Krananda latimarginaria Leech, 1891
シャクガ科 エダシャク亜科 Krananda属。

開張 27〜43mm
分布 本州(関東地方、石川県以西)、伊豆諸島(伊豆大島・神津島・三宅島)、四国、九州、対馬、屋久島、トカラ列島(中之島・宝島)、種子島、奄美大島、徳之島、沖永良部島、沖縄本島。国外では、中国、朝鮮半島、済州島、台湾。
成虫は年2化。4〜5月と9〜11月上旬に見られ、クヌギやコナラ、ヤナギなどの樹液を吸汁する。
幼虫の食餌植物は、クスノキ科クスノキ、モクレン科オガタマノキ。

 
【セダカシャチホコ ♂? 背高鯱鉾蛾】

シャチホコガの命名由来は、幼虫の形態が鯱鉾に似ているから。背高は、成虫の背の部分が盛り上がってるからだろう。

写真は撮らなかったけど、このセダカシャチホコさん、とても可愛い。


(出展『もももぐらの巣』)


(出展『フォト蔵』)

モヒカン頭で、つぶらな黒い瞳。オマケにもふもふなのら。
可愛いので、SNS上では一部の女子の話題をさらっているらしい。

学名 Rabtala cristata (Butler, 1877)
シャチホコガ科 Rabtala属に分類される。

開張 ♂70-83mm内外 ♀78〜82mm内外
分布は北海道、本州、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島、沖縄本島、石垣島、西表島。色彩は北方の黄色から南西諸島の赤褐色まで変化に富む。
成虫は本土地域では5〜6月と8月に見られ、年2化だが、八重山諸島では2月から見られる。
幼虫の食餌植物はブナ科コナラ属のコナラ、ミズナラ、クヌギ、アラカシ、アカガシ、カシワ、ウバメガシ。南西諸島では、おそらくスダジイとかを食ってるんだろな。
ちなみに幼虫は糞を投げるらしい。キュートだ(笑)

 
【カワムラトガリバ ♂?】

漢字で書くと、川村尖羽❓河村尖羽❓どちらにせよ、カワムラ氏に献名されたものだろう。じゃあ、そのカワムラ氏とは誰ですかいのう❓おそらく蛾界に貢献した人であろうと思い、調べた。だが、ビンゴな情報が見つからない。
『原色図鑑 夜蛾百種;吸蛾類を中心として』の著者の一人に川村満という人を見つけたが、出版は1989年だ。でもこの種が記載されたのは1921年だ。つまり、その68年後の出版なのである。相当長生きだった人になるし、だいちそんなに若いうちに献名されたとは考えにくい。もしそのような人ならば、もっと名が残ってて然りだろう。たぶん別人に献名されたものだろう。奄美ではド普通種だし、これ以上この件に関しては掘り下げないけどね。

学名 Horithyatira decorata Moore, 1881
日本産は亜種 kawamurae (Matsumura, 1921)とされるが、以前は「Horithyatira kawamurae」という日本固有の独立種であった。しかしながら、2007年に”decorata”の亜種とされ、シノニムとなった。
カギバガ科 トガリバガ亜科 Horithyatira属。
開張 ♂31〜35mm ♀34〜36mm

分布は、本州(紀伊半島南部)、四国、九州、対馬、種子島、屋久島、奄美大島、沖縄本島。
年1化、春に現れ、3月下旬から5月に見られる。
幼虫の食餌植物は、ブナ科のアラカシ。

 
【ツマジロイラガ ♂ 褄白苛蛾】

採った時は気づかなかったけど、胴体には青が散りばめられている。画像を拡大されたし。

学名 Belippa horrida Walker, 1865
イラガ科 イラガ亜科 Belippa属。
コレがまさかイラガの仲間だとはツユほどにも思わなかった。だから図鑑で探すのに苦労したよ。
タイプ産地は中国。亜種区分はされておらず、本種がBelippa属のタイプ種になる。
この種とオガサワライラガは前翅が細長く、イラガ科としては特異な翅形をしている。
分布は、九州、奄美大島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島、与那国島。国外では、台湾、中国(南部・西部)、ベトナム。
開張 ♂♀30〜33mm。♂の触角は葉片状、♀は糸状だから、この個体は♂だね。
年2化。成虫は、4〜5月と8月に発生する。
幼虫の食餌植物は『日本産蛾類標準図鑑』では、トウダイグサ科のアカギとなっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、クマツヅラ科クサギ、トウダイグサ科アカメガシワ、アオイ科フヨウとなっていた。ちなみにアカギは以前はトウダイグサ科に分類されていたが、現在はコミカンソウ科に入れられている。

 
【ハグルマノメイガ ♂】

漢字で書くと、おそらく「歯車野螟蛾」。メイガは古(いにしえ)の時代から稲の害虫だったゆえ、このような漢字があるのだろう。にしても、虫偏に冥界の冥とはね。歯車は放射状の柄からの命名と思われる。すなわち歯車模様の野に棲む螟蛾って事かな❓考えもしなかったけど、ところでメイガの語源って何だろ❓
調べたら、古代中国の由来で、冥々(=暗愚)な役人が違法行為を行う時に発生する虫だから「螟蛾」なんだそうな。それがそのまま日本に伝来したのだろう。

灯火採集の常連ではあったが、中々にスタイリッシュだ。触角が長いのも優美でよろし。

学名 Nevrina procopia (Stoll, 1781)
ツトガ科 ノメイガ亜科 Nevrina属。
タイプ産地はインドで、本種がNevrina属のタイプ種となる。
開張 28〜35mm。
分布は『日本産蛾類標準図鑑』ではトカラ列島(宝島)、奄美大島、沖縄本島、石垣島、西表島となっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、これに九州、屋久島、久米島が加えられていた。どちらが正しいかはワカラン。
国外では台湾、中国、東南アジアに分布する。みんなで作る図鑑には、これ+アフリカとあった。これはちょっと信じられない。嘘くさいぞ、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』。
成虫の発生期は『日本産蛾類標準図鑑』には沖縄本島以北は5〜9月、八重山諸島は2月から発生していると書いてあった。たぶん真冬を除き、ほぼ周年発生に近いんじゃないのかな。一方『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には7月とあった。益々ウソ臭いぞ『みんなで作る日本産蛾類図鑑』。

幼虫の食餌植物は、ミツバウツギ科のショウベンノキとゴンズイ。小便の木❓植物って、ヘクソカズラとか、結構酷い名前が付いてるよね。

ここから先は既に連載中の何処かで解説しているので、解説は割愛します。

【タッタカモクメシャチホコ ♂ 立高木目鯱鉾】

 
【アサヒナオオエダシャク 朝比奈大枝尺】
(♂)

(♀)

 
【アマミハガタベニコケガ ♀? 奄美歯型紅苔蛾】

 
【ハグルマヤママユ ♂ 歯車山繭】

 
【ギンボシスズメ ♂ 銀星雀蛾】

 
【ムラサキアミメケンモン♂ 紫網目剣紋】

 
【クロフシロエダシャク♀ 黒斑白枝尺】

 
【ウスアオシャク♂ 薄青尺】

 
【キオビエダシャク ♂ 黄帯枝尺】

 
【キバラモンシロモドキ♀ 黄腹紋白蝶擬】

 
【オオトモエ 大巴蛾】

 
【アケビコノハ ♂ 木通木ノ葉】

こんなもんをヒメアケビコノハと間違ったかと思うと、恥ずかしい。ムカつくので、裏展翅の刑にしてやったわい。

 
ついでに、全部じゃないけど蝶も貼付しておこう。

【アカボシゴマダラ 赤星胡麻斑】
(♂)

(同♀)

 
【フタオチョウ♂ 双尾蝶】

 
【アマミカラスアゲハ 奄美鴉揚羽】
(♂)

(♀)

アマミカラスアゲハと書いたが、通称である。正式名称はオキナワカラスアゲハ奄美大島亜種となる。

 
【ナガサキアゲハ 長崎揚羽】
(♂)

(♀)

 
【モンキアケハ♂ 紋黄揚羽】

南方系の種で、分布はインド、ヒマラヤ山脈、東南アジアと周辺の島嶼、中国、台湾を経て日本にまで達する。但し、何故か八重山諸島には分布しておらず、迷蝶の扱いになっている。多くの亜種に分けられ、日本産には ssp. nicconicolens Butler, 1881 と云う亜種名が与えられている。尚、今年(2021年)になって御蔵島・神津島のモンキアゲハが新亜種として記載されている(月刊むし 2021年3月号)。記載したのは、大屋さんと強面の有田のオジキだ(笑)。確か小種名は奥さんに献じらたんじゃなかったかな?
日本では基本的に関東以西に分布し、冬は蛹で越冬する。その事から北日本では蛹が越冬出来ないとされる。なので観察された場合には、分布の北限である関東で羽化した夏型が台風などの強風に乗って飛来したと考えられてきた。しかし、2009年6月に宮城県仙台市で、春型と見られるモンキアゲハが初めて採集された事から、温暖化によって分布を北に拡げている可能性も出てきたそうな。

展翅するのが面倒なので、過去の画像を探したら、あった。

但し、コレはたぶん台湾で採ったものだ。日本とは別亜種とされ、ssp.fortunius Fruhstorfer,1908 と云う亜種名が与えられている。因みに、この台湾産も南西諸島のモノも本土産と比べて小さい。と云うか、数ある亜種の中でも日本本土のものが圧倒的にデカい。特に夏型(中でも本州北限付近)は、日本にいる蝶の中で、オオゴマダラ、ナガサキアゲハ、ミヤマカラスアゲハの第3化と並び、日本で最も大きな蝶とされているくらいに大きいのだ。

(・∀・)んっ❗❓、でも何か台湾のモンキアケハの画像に違和感がある。こんなに洗練されてたっけ❓
(☉。☉)あっ❗、ゴメン。たぶんコレ、別種のタイワンモンキアゲハだ。台湾産とはいえ、モンキアゲハなんて展翅したとしても写真なんか撮るワケがないのだ。

(日本産モンキアゲハ♂ ssp. nicconicolens)

(同♀)

(♀裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

♂の裏面画像も貼っつけておこうと思ったが、♀の裏面画像しかない。所詮はモンキアゲハ、それくらいの扱いでしかないのだろう。

(台湾産モンキアゲハ ssp.thaiwanus)

(出展『原色台湾産蝶類大図鑑』)

左が♂で、右が♀の裏面である。
一応、♂の画像も貼っつけておくか…。
でも、台湾産のモンキアゲハの標本画像が見つけられない。台湾でも、所詮はモンキアゲハなのだ。
ここは、台湾の蝶といえば杉坂美典さんの画像をお借りしよう。


(出展 杉坂美典『台湾の蝶』)

台湾産亜種の特徴は以下のとおりである。
①本土産亜種と比べて小型である。
②後翅表面の黃白紋は、その後端が第5室(第5脈)で終り、第4室、或いは更に第3、2室まで拡がる事がない。
③同黃白紋はより内側に偏し、第5室のそれは中室端脈に接し(日本産のものでは黃白紋の内側縁では中室端脈よりやや離れる)、しばしば中室端脈を越えて中室末端部に黃白鱗粉をあらわす。
④裏面より見た第5、6室の黃白紋列の外側線は内側に深く抉られる事が普通である(通常、日本産ものでは直線状に近いか或いは弱く外側に膨出する)。
⑤♀後翅表面の亜外縁にある橙赤色弦月紋はより顕著に発達すること。

要約すると、日本産と比して小型で、表側の黃白紋が縦に短くて内側に偏る。裏面は、白紋の上から2番目が深く抉られる。♀は表側の赤紋がより発達する。

(´д`)めんどくせー。
(-_-メ)クソッ、こんなことなら台湾のモンキアゲハも奄美のモンキアゲハも展翅しておけば良かった。したら、変に解説なんぞせずに済んだのに…。

一応、参考までに御蔵島・神津島のモンキアゲハの画像も貼り付けておこう。
亜種名は「P.helenus toshikoae ssp.nov」みたいだから、矢張り有田さんの奥さんの名前になってる。

(モンキアゲハ 御蔵島・神津島亜種)

(裏面)


(出展『月刊むし 2021年3月号』)

どうせ軽微な差異で、無理からに亜種記載したのだろうと思っていたが、裏が全然違うね。
説明を読むと、以下のような事が書いてあった。

「本亜種の前翅長は、♂62mm ♀66mm。本土亜種の平均前翅長は♂72mm、♀86mm。本土亜種の平均翅長より本亜種の♂は10mm、♀は20mmほど小型になる。
前翅は弧を描いて丸みかあり、先端は外方に突出せず、外縁のくびれは小さい。後翅の第6翅脈は突出せず、前後翅とも、全体的に丸みのある翅形で、尾状突起は前翅長に対して短く、細い。この翅形は本土亜種とは異なり、奄美亜種orosiusの翅形に近似している。」

ちょっと待てよ。奄美のものは亜種なの❓『日本産蝶類標準図鑑』には、特に南西諸島のものは亜種区分はされてなかった筈だぞ。
そういや、この報文の冒頭には13亜種もいるとか書いてたような気がするな。嫌な予感がする。亜種区分に関しては、研究者の間でしばしば見解の相違があって、ややこしい事になってることが多いのだ。
冒頭の部分に戻って見直すと、こう書いてあった。

「モンキアゲハの模式産地は中国の広東で、スリランカ、インド、北西ヒマラヤ、ネパール、ミャンマー、インドシナ半島、中国(海南島を含む)、大スンダ列島(スラウェシは除く)、小スンダ列島、フィリピン、台湾、朝鮮半島など東洋熱帯にも広く分布し、各島嶼を含めて13亜種に区分されている。日本産は日本本土亜種・朝鮮半島亜種 niconicolens(以下本土亜種)と、奄美・沖縄亜種(以下奄美亜種)」の2亜種が知られている。13亜種はいずれの亜種もおしなべて変異幅が小さいが、確実に変異を区別できる的確な命名がなされている。」

でも、英語版のWikipediaで調べてみたら、以下の亜種しか載っていなかった。

・P. h.daksha(南インド)
・P. h.linnaeus(インド北西部からミャンマー)
・P. h.fortunius(台湾)

これだと、日本本土産すら亜種区分されていない事になる。
けど、こんなの泥濘(ぬかるみ)ラビリンスだ。これ以上は突っ込まないようにしよう。ロクな事がない。モンキアゲハの軽微な差異など、どうだっていい。文献の転載を続けよう。

「後翅表面の亜外縁に出現する橙色の弦月紋は、♂では出現せず、♀において弱く現れる。
後翅裏面の斑紋構成は特異で、外縁の弦月紋は明るい橙色で、本土亜種の弦月紋とは異なり、典型的な馬蹄形にならず、むしろ湾曲は弱い。亜外縁の橙色斑は第1a、1b室のものは大きく、さらに第4室まで発達した個体が少なくない。本土亜種・奄美亜種の1b室の斑紋は円形ではなく、馬蹄形になる。肛角紋の赤色眼状紋と第2室の眼状紋は完全な円形となり、青灰色鱗を欠く。本土亜種・奄美亜種の肛角紋の眼状紋は楕円形で、環状にならず、さらに肛角部には青灰色の鱗粉が強く散布され、本亜種とは区別できる。裏面の白斑の1/2の大きさである。このため第7室の白紋は内側にずれ、結果的に白斑と弦月紋とは離れた位置になり、本土亜種および奄美亜種とは斑紋位置が異なり、区別点となる。
♀の前翅裏面に散布される幅広い帯状の白色鱗の出現は弱く、消失気味で全体的に黒化している。」

別に有田さんに文句を言いたいワケではないのだが、学術文って、まるで呪文だな。一般ピーポーには何言ってんのかワカンナイ。ワシらでも、一回読んだだけではワカリまへーん。
要約すると、こんな感じかな。
「本土産と比べて小型で、翅形は全体的に丸みがある。前翅の先端は外側にあまり出っ張らず、くびれも弱い。後翅の尾っぽは短くて細い。後翅表側の赤い紋は♂では現れず、♀も僅かしか現れない。後翅裏面の赤紋は明るいオレンジ色で典型的な馬蹄形にはならず、湾曲は弱い。外縁内側の赤紋は大きく、中心部近くまで達するモノも少なくない。目玉模様は本土産や南西諸島産のように馬蹄形とはならず、円形。また本土産&奄美産では、その周囲に青色の鱗粉があるが、御蔵島&神津島産には青い鱗粉がない。裏面の白斑は小さく、より赤紋と離れる。前翅裏面の白い帯は消えがちで、全体的に黒っぽく見える。」という事になる。
もっと解りやすくするために、翅部分の名称図も貼っつけておく。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

こうなると、奄美&沖縄本島産のモンキアゲハの画像を図示しなくてはならぬ。

(春型♂)

(夏型♂)

(夏型♀)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

本土産と何処がどう違うのかサッパリわからん。ホントに亜種なのかよ❓ネットで確認しよっと。

でも、何処にも亜種なんて書いてないぞ。『BINRAN(日本産蝶類和名学名便覧)』でも何も触れられていなかった。きっと、違いが軽微なので、誰もが亜種として認めていないのだろう。
さておき、問題は裏だ。御蔵島・神津島の裏面と本土産や沖縄&奄美産の裏がどう違うかだ。

(裏面)

(出展『月刊むし 2021年3月号』)

左が本土産亜種で右側が沖縄・奄美のものだ。
沖縄・奄美産は本土産よりもやや小型で、前翅裏面亜外縁の白条が本土産よりも幅広い。この辺りが亜種区分された理由だろう。
確かに3つとも裏面が違う事は認めよう。でも今後、御蔵・神津島亜種が亜種として定着するかどうかは分からない。蝶屋の皆さんたちが亜種と認めなければ、フェイドアウトしちゃうからね。で、新たな図鑑や改訂版に載らなければ消えるね。個人的には、沖縄・奄美産は亜種とは認めないが、御蔵・神津島産は亜種でもいいんじゃないかと思う。但し、もっと沢山の個体を見ないと何とも言えない面はあるけどさ。

 
【クロセセリ 黒挵蝶】

めんどくせーから展翅してない。
標本はある筈だから、それを撮影しようかと思ったが、それもまた探して撮影するのが面倒なので、図鑑から拝借させて戴く。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

学名 Notocrypta curvifascia
分布は南は沖縄から九州、中国地方西南部、四国南部にまで至る。但し、分布を拡大しているようだから、現在はもっと東でも定着しているかもしれない。因みに飛び離れて京都でも定着してたけど、アレって今でも居るのかね❓網持って哲学の道をウロウロしてたのを思い出すよ。ミョウガで発生してたんだよね。まだ蝶採りを始めた初期の頃だったので、アレはとても恥ずかしかったなあ…。
猶、以前は八重山諸島産は小型で斑紋に違いがあることから亜種 yaeyamanaとされる事があるが、認めない研究者も多く、全て原記載亜種とされる見解が大勢を占める。東洋熱帯に分布が広く、国外ではインド、スリランカからインドシナ半島、中国、台湾、マレー半島、インドネシア各島嶼まで見られ、日本がその北限にあたる。

 
【アオバセセリ♂ 青葉挵蝶】

沖縄本島や八重山諸島のものは裏面が明るい黄緑色で、よりメタリックなイメージがあるが、奄美のものはそうでもない。なので、本土産の♂を貼り付けておく。


(2020.5 大阪府四條畷市)

なお、八重山産と台湾のものは、以前までは亜種 formosanaとされていたが、本土産亜種 japonicaとそれぞれが春型と夏型に対応するとして、今では”japonica”に統一されている。

                    おしまい 

 
追伸
やっとコレで連載完結である。
このシリーズのお陰で他の文章が書けなかったし、カタルシスもあまりなかったが、とにかく漸く解放されたよ。
労多くして、益少なしだったが、まあ久し振りにブログタイトルの『蝶に魅せられた旅人』どおりの内容ではあったから、良しとしよう。

 
参考文献
◆『日本産蛾類標準図鑑』
◆『日本産蝶類標準図鑑』
◆『原色台湾産蝶類大図鑑』
◆大屋厚夫・有田 斉『東京都御蔵島・神津島のモンキアゲハ新亜種の記載』月刊むし 2021年3月号
◆高田兼太『「虫屋」とは?ーリフレームによる言葉の分析』きべりはむし 37号(1),2014

インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』

奄美迷走物語 其の18

 第18話『呪われた夜』

 
2021年 3月31日(夜編)

上を見上げる。
フタオの大きな♀だ。しかも下から見ると羽には全く損傷がない。今度こそ完品だ。おそらく時間的にコレが最後のチャンスとなるだろう。全身をアドレナリンが駆け巡る。

【フタオチョウ♀】

だが、逆光で見えにくい。しかも止まる素振りはあるものの、止まりそうで止まってくれない。そのせいか飛ぶ軌道が不安定だ。読み切れない。どうする❓判断に迷う。最後のひと振りだと思っているから中々踏ん切りがつかない。ヘタに振れば、どっかへ飛び去って二度とチャンスはないのだ。でも時間のリミットは近づいている。夕暮れ近くの今が、そろそろ飛び終わる時間なのだ。
焦る中、網の切っ先がキッと動いた。でも、急に軌道を変えやがった。振りかけてグッと手首と腕で急制動させる。経験で、このまま振っても空振りすると感じたからだ。
でもこの10数秒後には突然プイと舞い上がり、山に向かって勇壮に飛び去って行った。それを茫然と見送る。
ネットを振る事なく、勝負は終わった。慚愧に堪えない。

その後、30分ほど粘ったが、待ち人来たらず。ついぞチャンスは巡っては来なかった。
(´-﹏-`;)惨敗だ…。
暮れゆくトパーズ色の光の中、立ちすくむ。
こんな事ってあるか❓…。蝶採りをやってきて最も半端な終わり方だったかもしれない。状況的に致し方なしと何とか言い訳はできるかもしれないが、自分自身では無理があると認識している。逃した時には人に言い訳しがちだけれど、極力、他人から見て無理があるようなダサい言い訳だけはしないようにしている。口には出さなくとも、意外と人はそれが事実なのか苦し紛れの嘘なのかを見抜いているものだ。
今日の敗因は、ずっと今回の旅で自分に言い聞かせてきた迷わずに振り抜くという当たり前の事が出来なかったからだ。迷ってはならないと頭では解っているのに、いざという時には決断できなかった。結局、メンタルをいつものように余裕のヨッチャン無敵モードには持っていけなかったのだ。
考えてみれば、2019年の夏に日本で初めてマホロバキシタバを採ってから何だかオカシクなったと云うか、潮目が変わったような気がする。その後、何となくスランプ気味なのだ。狙った獲物が全く採れてないワケではないのだが、前みたく連戦連勝とまではいかない。今にして思えば、あの時を境に憑き物が落ちたように虫へのモチベーションが下がった気がする。欲しいと強く思わない者には、欲しい物は手に入らない。なのに希求する心は以前ほどには強くはない。正直なところ、滅多な事では心が跳ねないのだ。
とはいえ、何と言おうがコレとて言いワケだ。ここぞと云うところで、ここぞと云う力を発揮できない人間はニ流だ。そうゆうことだ。オリンピックしかり、最高クラスのカテゴリーのプロスポーツの世界しかり、結局は己のメンタルの強さと迅速な判断が勝敗を分けるのだ。
歳、喰ったかなあ…。老いると云う事は、人を肉体面だけでなく、精神面をも衰退させるのかもしれない。
認めよう、惨敗だ。嘗て最終戦で言いワケ出来ずに惨敗に終わった事などあったっけ…❓あのキリシマミドリシジミの時の5連敗に近い屈辱だ。でも、アレはまだ言いワケできた。どの場所でも一緒に行った人は誰も採れていないのだ。
所詮はコレもまた言いワケにすぎないんだけどもね。とにかく己の虫を採る能力は確実に落ちてきてる。その証左のような終わり方だった。

宿に戻ったら、5時半を過ぎていた。
心は重い。灯火採集に行く気も萎えている。ここは飯でも食ってリセットする事が必要だが、もし予定していた場所に行くならば、飯なんぞ食っているヒマはない。行くなら、今日だけは何があっても日没前にポイントに着いておきたいのだ。
なぜなら、遂に今までは恐ろしくて避けてきた朝戸峠へ行くのである。そしてそこには、奄美でも超一級の心霊スポットとして名高い「旧朝戸トンネル」がある。場合によっては其処を通り抜けねばならないのだ。日があるうちならまだしも、日没後なら絶対に無理だ。きっと背中に天井から何か得体の知れないモノがパサリと落ちてきたりするのだ。そして密かに背中に宿り、人面瘡となるのだ。そんなの想像するだに怖ろしい。
自分で言うのも何だが、アチキは超怖がり男なんである。怖い系のテレビ番組は絶対に見ないし、たまたま映ろうものならマッハでチャンネルを変える。映画も、そうゆう系はできるだけ避ける。観に行くとしても、若い女の子、しかも美人限定だ。なぜなら、怖いから女の子の方から寄ってくるし、じゃない場合は素直に「僕、超怖がり屋さんでしゅー」などと正直に吐露すればよいのだ。
意外と女の子の方が♘ホワイトナイト、白い騎士だから『アタシがついてるからね。』とか言ってくれるのだ。そんな状況下なだけに『😍守ってね。』とでも言って手を握ることなんて事も容易いのだ。流石にオジサンになった今ではキモ過ぎて使えないけど…(笑)。
また👻怪談話も絶対に耳には入れない。ワシにはタブーだ。過去には、ワイが怖がるのを面白がって無理やり耳元で話そうとしてきた輩をタコ殴りにしてやった事だってある。恐ろしさが怒りに転化したのだ。そんなだから、心霊スポットに行く事も殆んどなかった。ワザワザ自分からそんな所に行く気がしれん、バッカじゃないのーと、ずーっと思ってた。
それが何の因果か、今や自分から夜の山に入り、遂には自ら心霊スポットへ行こうとしているのだ。それも、たった一人で。
げに恐ろしきは、憧れの虫を採りたいという強い欲望だ。採りたいという欲望が恐怖をも凌駕してしまっているのである。
それほどまでに、アマミキシタバ(註1)を採りたいのだ。

【アマミキシタバ】

(出展『世界のカトカラ』)

にも拘らず、奄美大島に来て6回も灯火採集をしているのに、いまだ1頭たりとも見ていないのだ。いくらライトトラップが何ちゃっての簡易なもので戦力が低いとはいえ、カスリもしてないのだ。だから今日こそはと思ってる。というか願ってる。チャンスはもう今日しかないんである。明日には大阪に帰らねばならんのだ。

超特急で用意して出る。
無事、日没前までに到着できることを祈ろう。

名瀬市街を抜け、朝戸トンネルの手前を右に入り、坂道を上がってゆく。
上から、あの長い朝戸トンネルの入口が見える。このトンネルも充分ホラーだったが、今から行くトンネルはそれを遥かに超える恐ろしき隧道の筈だ。そう思ったら、背中がビビビッときた。武者震いってヤツだ。
バイクはグングン高度を上げてゆく。
眼下には、こんもりとした森が見える。街からは近いが、かなり有望な環境だ。考えてみれば、ここは奄美でも有数の原生林として知られる金作原のちょうど裏側にあたる。環境が良いのも納得だ。あとは灯火採集の屋台を何処に据えるかだ。場所を吟味しながら走る。

候補地を2箇所ほど見つけ、更に上へと登る。
それにしても、さっきから行き交う車やバイクが1台もない。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで響く。それがホラー映画の何かが起こる前の雰囲気みたいで、ゾワゾワくる。

午後6時半前。
旧朝戸トンネルまでやってきた。

暗渠。地獄の口がパックリとあいている。
まだ明るいのに相当に暗くて、佇まいは異様だ。そして行き交う車は皆無だから、とても静かだ。それだけに不気味さが際立つ。霊感がないワシでも辺りに何かただならぬものが漂っているような気がする。

暗すぎてトンネルの入口がよく見えない。ネットで見た画像よか凄くね❓
参考までにネットの画像を貼付しておきます。


(出展『わきゃしま大好き』)

この画像よりもだいぶ木が大きくなってて、入口を隠すように繁ってるって事だね。下草もボーボーだ。益々、😱怖なっとるやないけ。

因みに、もし何か起こってもいけないと思って、昨日にどのような心霊現象が起こっているのかチェックしておいた。原文のまま貼っつけておく。

『旧朝戸トンネルに女ふたりで行ってトンネルの真ん中でクラクション3回鳴らしてトンネルの先まで行ってUターンして戻る途中に車が進まなくなって後部座席を見たら女の子と女のひとがいる。その後、運転手になにか起こるよ。実際に運転手わボールペンを耳にぶっさして車の前に倒れてた。でも女ふたりぢゃないとなにも起こりません。男が行っても意味ないです
                [匿名さん]』

何だ、この違和感バリバリの変な文章は。書いてる奴まで狂っとるやないけ。トンネルの呪いかね❓
流石に、このようなトンネルのすぐ近くで灯火採集をやる勇気はない。採集中にトンネルの奥からオドロオドロしい呻き声が聞こえてこないとも限らないし、闇の中から白装束のお歯黒の女がボワ〜っと浮いて出てきたりしたら阿鼻叫喚、ムンクちゃんだ。

【上村松園『焔』】

(出展『東京国立博物館』この絵の実物の存在感は凄いです)

でも、もしかしたらトンネルの向こうに灯火採集するのには絶好のポイントがあるかもしれない。そう思うと、どうしてもトンネルの先の環境が見たくなってきた。日が暮れていたら、怖すぎて無理だろうが、幸いまだ暮れてない。行くなら今しかない。中々の緊張感だが、勇気を振り絞って潜(くぐ)る事にする。

けど、入ってすぐ後悔した。中は驚くほど冷んやりとしており、信じられないくらいに真っ暗なのである。照明が全くないのだ。
下に何が横たわっているかワカランので、ゆっくりとバイクを走らせる。死体なんかあったら、動物や鳥でもコトだ。チビるよ。
ピチャピチャと水が滴る音も聞こえる。そのせいか道はじっとりと濡れている。マジで気持ち悪い。
でも、ここまで来て引き返すのは癪だ。入った勇気が無駄になる。それにトンネルは短い。たぶん50mくらいだろう。いや、もっと短いかもしれない。ここは我慢だ。

トンネルの向こうに出ると、辺りは驚くほど鬱蒼としており、暗くてジメジメだった。その先には荒れた林道が続いている。不気味さ、マックスである。こんなとこ、怖すぎて夜には居れるワケがない。2秒で撤退を決意し、ゾクゾクしながら、もう1回トンネルを潜って戻る。

何処にライト・トラップを設置するか迷ったが、トンネルより下でやろうと思った。帰りに、暗い中であのトンネルの前を通るのだけは何があっても避けたいと思ったのだ。

午後6時40分、日没時刻になった。
慌てて道路沿いの開けた場所に、ガードレールにベタ付きでライトを設置する。
正面には原始の森が上から下まで広がっている。ここなら、アマミキシタバも絶対にいるだろう。そもそも日本で最初に彼奴(きゃつ)が発見されたのは此処なのだ。
幸いにも空はいつしか雲に覆われている。天気は下り坂だ。流石に今日は月に邪魔されないだろう。何か採れるような気がしてきた。フタオチョウの完品の♀は採れなかったが、♂は採れてるし、アカボシゴマダラは♂♀両方採れているのだ。まだ運は残ってる筈だ。

【フタオチョウ♂】

【アカボシゴマダラ♂】

【アカボシゴマダラ♀】

それにフタオの♀が採れなくとも、アマミキシタバさえ採れればいい。それで帳消しどころか、お釣りがくる。そもそも奄美に来た理由の第一義はアマミキシタバのゲットなのである。そのミッションさえ果たされれば、他の事には目をつむれる。

後ろ側、道路の山側の枝にはバナナトラップを吊り下げた。
辺りに甘い香りが広がる。発酵が進んで、虫を呼び寄せるのには最高の状態だ。アマミキシタバもこれならライトには寄ってこなくとも、こっちには寄ってくるだろう。

闇の侵食が強くなり始めたところで、ライトを点灯する。
さあ、最後の夜会の始まりだ。

真っ暗になったら、すぐに蛾どもがワンサカ飛んで来た。
ライトが一灯だけになってるのにも拘らず、なんか良さげな兆候だ。最終日で一発逆転があるかもしれない。って云うか、そうなるっしょ❗ものすごく採れそうな気がしてきた。

午後7時45分。
見慣れないスズメガが飛んで来た(註2)。
だが、白布の手前で反転してどっかへ飛んで行っちゃう。
緑色っぽく見えたけど、何だろ❓緑色のスズメガといえばウンモンスズメだが、それとは違ってたような気がする。

【ウンモンスズメ】

(2018.6.27 奈良市 近畿大学農学部)

まあ、そのうちまた飛んで来るだろう。スズメガなんぞ二の次だから、そうガッカリする程の事ではない。

したら、5分後に又やって来た。今度は姿がちゃんと見えた。
ウンモンとは明らかに違う❗そう思った。
一瞬、もしかして
キョウチクトウスズメ❗❗(註3)
と思った。
だとすれば、密かに憧れていた蛾の一つだ。迷彩柄の戦闘機、いや重爆撃機みたいでカッケーのだ。テンションが急激に⤴️上げ上げになる。

【キョウチクトウスズメ】

(出展『紀伊日報』)

でも、にしては小さい気がするぞ…。キョウチクトウスズメは結構デカいと聞いてるし、もっと胴体も太くてガッチリだった筈だ。
頭の中が(?_?)❓❓❓❓❓❓❓だらけになる。
じゃあ、何なのだ❗❓

そうこうするうちに白布に止まった。
(ー_ー)ジーッと見る。
どう見てもウンモンスズメではない。そして、キョウチクトウスズメでもない。明らかにキョウチクトウにしては小さいし、翅の柄も図鑑等で見た記憶とは違う。
兎に角、見たことない蛾である事は確かだ。もしかして大珍品の迷蛾(註4)だったりして…(*´∀`)
となると、絶対に逃せない。逃した魚は大きいという事を、今回の旅では骨の髄の髄まで知らしめられているのだ。それにコレを逃したら、また流れは確実に悪い方向へ行くだろう。何としてでもそれは阻止せねばならぬ。

慎重に毒瓶を被せる。
暫く放置して気絶したところで、アンモニア注射をブッ刺し、昇天させる。気分はマッドサイエンティストだ。

何者かはワカランが、カッコいいぞー(☆▽☆)
気分は上々。今日こそ、この調子で辛酸の日々に幕を下ろそうぞ。

8時過ぎ。
気づいたら、白布に苺ミルクみたいなのがいた(註5)。

とても小さくて可愛い。

プリティーちゃんだ。
こういうのを見ると、蝶よりも蛾の方がデザイン性は高いのではないかと思う。バリエーションも豊富だしさ。

8時15分。
もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た(註6)。

柄が何だかウルトラマン怪獣のシーボーズみたいだね。
あの回は『ウルトラマン』の中でも最も心あたたまるストーリーだろう。シーボーズが駄々をこねてイヤイヤするのが可愛いかったよね。

【シーボーズ】

(出展『怪獣ブログ』)


(出展『円谷プロ』)

下の画像は、たぶん拗ねて土とか蹴ってトボトボ歩いてるシーンだよな。
えー、シーボーズとは第35話「怪獣墓場」に登場する亡霊怪獣。「怪獣墓場」から月ロケットにしがみついて地球に落ちてきた迷い子の怪獣だす。戦闘意欲は全くなく、単に宇宙に帰りたがっていただけなのに、パニくって建物とか壊してしまう。やがてそれが解って、科学特捜隊が月ロケットをウルトラマンの姿に変えた「ウルトラマンロケット」で宇宙へ帰す作戦を実行。ウルトラマンの協力もあり、無事に宇宙へと帰っていったのらー。
いい奴だけど、もしも今この姿で現れられたら、メチャメチャ怖いだろうなあ…。いい奴とはいえ、見た目は完全に骸骨だもん。シーボーズだと解ってても、腰抜かすわ。
いかん、いかん。また話が逸れた。シーボーズの事など、どーでもよろし。

その後も何かと飛んで来たが、肝心のアマミキシタバは現れない。バナナトラップの方も閑古鳥だ。まあ、オオトモエしか寄って来ないんだから、コチラにはホントはあまり期待してなかったんだけどもね。
それにしても何でこうも効果がないんだろう❓フタオもアカボシもフル無視だったし、そういやスミナガシも来てない。春にはどれも寄って来ないとは聞いてはいたが、その理由がサッパリわからない。
まあいい。ライト・トラップの方は良い感じなんだから何とかなるだろう。時間はまだまだあるし、アマミキシタバが飛んで来る時間は午後11時以降が多いというから気長に待とう。大体いつでも最後の最後には何とかなって、大団円で終わるのだ。だってオラ、引きが強いもーん<( ̄︶ ̄)>

9時を過ぎると、急に風が出てきた。
おいおい、よろしくない兆候だぞ。ライト・トラップには月が一番よろしくないが、風が強いのもあまりよろしくないのだ。飛来する蛾の数が滅法減るのだ。

9時10分。
突然、突風が吹いた。と思ったら、三脚がグラリと傾いた。慌ててコケるすんでのところでギリで手で抑えた。流石、反射神経の良いオイラだ。危ねえ、危ねえ。危うく大惨事になるところじゃったよ。神様は悪戯好きだよね。意地悪にも程があるよ。でもそんなもんには負けないのだ。

しかし暫くして気づいた。何か寄って来る蛾の数が極端に減ってきてねぇか❓
何気にライトを見る。

ガビ━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━ン❗❗
ライト、消えとるやないけー❗

道理で飛んで来なくなったワケだ。
たぶん、倒れはしなかったが、手で抑えた時に何らかの衝撃を与えてしまったのだろう…。

配線とかイジるも、灯りは点かない…。
( ꒪⌓꒪)…やっちまったな。

唖然とする。
まさかのサドンデス。突然降って湧いたようにゲームセットになった。想像だにしてなかった何という終わり方なのだ…。心を何処に持っていけばいいのかワカラナイ。
でもどんだけ嘆こうが現実を受け容れるしかない。バナナトラップだけで最後まで闘おうかとも思ったが、そこまで暢気になれる強靭なメンタリティーは持ち合わせてはいない。心は完全にバンザイしていた。お手上げだ。
早々と白旗をあげるなんて、らしくない。けど今回の旅で続いてきた酷い体たらくの流れだと、半ば納得の結末だ。
結局、アマミキシタバの姿を一度も見る事なく、奄美大島を去ることになりそうだ。それが信じられない。頭の中のストーリーには全く無かったからだ。でも結果は厳然と出たのだ。どれだけ受け容れ難くとも事実からは目を背けられない。

脳が停止したままの状態で、のろのろと後片付けをし、さらに思考を凍土化してバイクに跨がる。これで、敗残者確定だ。
大きく息を吐き出し、エンジンをかける。認めたくはないけど、長い勝負の11日間が、今ここに完全に終わった。屈辱感と、これから先はもう頑張らなくともいいのだと云う安堵感とが入り混じるが、その感情も捨てた。無になる。

それでも、山を降りる途中、ずっと頭の中で何故かイーグルスの『呪われた夜(註7)』がリフレインで流れ続けていた。

 
https://youtu.be/ESc2Tq2HzhQ
イーグルス『呪われた夜』リンク先

 
ワン オブ ディーズ ナイト……
ドン・ヘンリーが嗄(しゃが)れた声で何度もシャウトする。
そして途中、狂おしいギターソロが入る。
頭の中を、ソリッドなギターのメロディーがズタズタに切り裂く。そして、歌詞も相俟ってか、奄美大島での夜会の日々が走馬灯のようにコマ切れでフラッシュバックしてゆく。
ワン オブ ディーズ クレイジー、クレイジー クレイジー ナイツ……。数多(あまた)ある夜の中の一夜(ひとよ)。そのたった一つの夜なのに何かが狂っちまってる…

空を見上げる。
夜空はどこまでも暗く、梢を渡る風は強かった。

                   つづく

 
追伸
フタオの♀に関しては、前回から引っ張いといて、こんなカタルシスのない結末で誠に申し訳ないと思ってる。
言いワケだらけでスマンが、この回との連続性を重視したのだ。夕方の惨敗が夜の惨敗と通底しているという一連の流れは必要だと思ったのだ。それが今回のラストとも繫がる。惨敗で始まり、惨敗で終わるのが、今回の採集行を象徴しているように思えたからだ。
また、前回は結末を先延ばしにして期待を持たせる事によって、次回も読んでもらおうというセコい下心もあった。スンマセン。

この日の、その後の話を少し付け加えておきます。

午後10時前には、ゲストハウスに帰り着いた。
空しさに包まれて晩飯の用意をする。

誰かが冷蔵庫に置いていった豆腐があった。
賞味期限を2日ほど過ぎていたが、火を入れれば大丈夫だろう。取り敢えず、他にも誰かが置いていったものを駆使して何かを作ることにした。

何ちゃって麻婆豆腐、完成。
調味料は何を入れたか全然憶えてないが、置き去りにされたスルメを前日に出汁か何かに入れて、ふやかしたものを使ったのだけは記憶にある。

ご飯は何日か前に自分で買ったものだ。
これをレンチンする。
二度と作れない『何ちゃって麻婆豆腐定食』だ。

食べてみると、自分がいつも作っている麻婆豆腐には遥かに劣るが、それなりに旨い。誰か居たら、そこそこ褒めてくれたかもしれない。でも、宿の共有スペースには誰もいない。ワシ、一人だ。虫屋の若者二人は今朝には帰ったし、この宿に泊まっているのはワシとSくんだけなのである。そのSくんは、おそらく夜間採集に出掛けているのだろう。
とにかく不必要なほどに、シーンとしている。
静寂の中、何ちゃって麻婆豆腐を力なく口に運ぶ。
改めて、全て終わったんだなあ…と思った。

 
(註1)アマミキシタバ
学名 Catocala macula (Hampson, 1891)
屋久島、奄美大島、沖縄本島に分布する”Catocala属”の蛾。
国外ではインドシナ半島北部から中国南部、フィリピン、台湾などに分布する。
以前は、Ulothrichopus属に分類されていたが、近年になってカトカラ属に編入された。しかし、この種をカトカラとして扱うかどうかについては今だに議論がある。

 
(註2)見慣れないスズメガが飛んで来た
帰ってから調べると、どうやらコイツみたいだ。

【ギンボシスズメ】

北海道,本州,四国,九州,対馬,奄美大島,沖縄本島,西表島に記録がある。しかし『日本産蛾類標準図鑑』によると、近年では中部地方南部以西からの記録しかないそうである。
そこそこ珍しいのかもしれないなあ…。今まで見たことがないし、ネットの情報も相対的に少ないからね。
この後、書いてるうちに様々な疑問が生じ、解説があまりにも長くなってしまった。なので、この項は別個に回を設けてソチラに詳しく書く予定です。

 
(註3)キョウチクトウスズメ
漢字で書くと「夾竹桃雀蛾」となる。和名は、幼虫の食樹がキョウチクトウであることから名付けられた。
南方系の蛾で、開張約10センチ。アフリカからインド、東南アジアなどの熱帯に分布し、日本では九州以南に生息している。しかし飛翔力が強く、四国や紀伊半島南部でも珠に採集され、時に繁殖する事もある。

学名 Daphnis nerii (Linnaeus, 1758)
記載はリンネだね。コレもアカボシと同じくリンネが1758年に出版した『自然の体系』第10版で創設したニ名式学名の最初の記載種の中の1つってワケだね。その後、このニ名式学名があらゆる生物の学名の命名法を統一させる事になってゆくのである。
尚、リンネは最初、鱗翅目を「Papilio(蝶)」「Sphinx(スズメガ)」「Phalenae(その他の蛾)」の3つの属に分類している。
つまり、キョウチクトウスズメの最初の学名は今とは違っていて、Sphinx nerii (Linnaeus, 1758)だったと云うワケだ。
Sphinxは、あのスフィンクスの事だよね。何かカッコイイぞ。スズメガの蛹はエジプトの棺の中のグルグル巻きにされたミイラみたいな形だから、それと関係あるのかな❓

英名 Oleander Hawk-moth
Oleanderとは夾竹桃のこと。だから幼虫が夾竹桃を食う鷹みたいな蛾って意味だね。

(分類)
スズメガ科 Sphingidae
ホウジャク亜科 Macroglossinae
Daphnis属

幼虫の食樹は、キョウチクトウの他にニチニチソウ(キョウチクトウ科)が知られている。キョウチクトウには毒があり、それを体内に取り込むことによって鳥の捕食から身を守っているものと考えられている。勿論、幼虫は毒に対する耐性を持っているために中毒死することはない。

 
(註4)迷蛾
本来はそこには分布しない蛾が台風や偏西風等に乗って、遠方地や外国から運ばれてきた場合、その蛾を迷蛾と呼ぶ。したがって蝶の場合は迷蝶となる。
生存戦略の1つともされ、時にその地に定着し、更には分布を拡大する場合もある。しかし、大概は気候風土に適応できずに死滅する。

 
(註5)苺ミルクみたいのがいた。
調べたら、アマミハガタベニコケガという種だった。


(出展『www.jpmoths.jp』)

ギザギザ模様からの歯型紅苔蛾ってワケね。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

昔は、アマミハガタキコケガ(奄美歯型黄苔蛾)と呼ばれていたそうな。黄色というよりも紅色が印象的だから、改名は妥当だよね。

学名 Miltochrista ziczac (Walker, 1856)
ヒトリガ科(Arctiidae) コケガ亜科(Lithosiinae) Miltochrista属に分類されている。

展翅すらしてないけど、分布は奄美大島と徳之島のみだから結構レアな奴かもしれない。ちなみに以前は奄美大島のみに分布するとされてきたが、2009年に徳之島でも見つかっている。
国外では台湾、朝鮮半島、中国に分布しているが、特に亜種区分はされていないようだ。
4月と8月に採集されているので、おそらく年2化だろう。幼虫の食餌植物は未知。
開張20mm。♂は前翅前縁が中央で出っ張る。
出っ張る❓よくワカラン。図鑑には♀1つのみしか標本が図示されていなかったから、何を言わんとしてるのかが掴めない。

でも調べ直したら、らしき画像を台湾のサイトで見つけた。


(出展『DearLep圖錄檢索』)

確かに出っ張ってる。とゆうことは、採ったのは♀かな❓
でも同じサイトの標本画像を見たら、今一つよくワカラン。


(出展『DearLep圖錄檢索』画像はトリミング拡大している)

腹部の形からすれば、おそらく上が♂で下が♀だろうが、出っ張りがそれほど顕著には見えないのだ。

 
(註6)もう1つ見た事のない蛾が飛んで来た
Facebookで、この画像をアップして「コレ、何すかぁ❓」とコメントしたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。ムラサキアミメケンモンという名の蛾らしい。
早速でネットでググったら、情報量が極めて少なくて、たった4点しかヒットしなかった。案外、かなりのレア物なのかもしれない。でも先生からは他に特にはコメントがなかっから、そうでもないのかもしれない。

【ムラサキアミメケンモン】


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

学名 Lophonycta nigropurpurata Sugi, 1985
ヤガ科 アミメケンモン亜科 Lophonycta属に分類されている。
開張33〜35mm。近縁種のアミメケンモンと比べて前翅の地色は暗い紫灰色。環・腎状紋が明瞭。翅幅は少し狭く、後角の淡色紋は小さい。後翅は純白で外半が翅脈に沿って暗色となり、わずかに横脈紋と外横線が認められる。
奄美大島と沖縄本島に分布する日本固有種。分布域が狭いから、やはりレアものなのかもしれない。
成虫は4〜5月と8〜10月に見られ、少なくとも年2化以上の発生と考えられている。
幼虫の食餌植物は未知。

コチラも展翅すらしてないと思ってたが、してた。

たぶん、♂だろう。
(・o・)んっ❓でも(-_-;)あれれ❗❓、後翅が白くねぇぞ。
もしかして、まさかのアミメケンモン❓

(アミメケンモン Lophonycta confusa)

(出展『www.jpmoth.org』)

でも、細かく柄を比べて見たが、下翅は白くはないものの、他の特徴はムラサキアミメケンモンだ。特に後角の淡色紋はアミメケンモンと比べて明らかに小さいことで判別できる。自分の採ったものはムラサキアミメケンモンで間違いなかろう。

ところで、下翅が茶色ってのはどうゆう事かな❓
異常型❓それとも褐色型と云う型があるのかな❓

 
(註7)呪われた夜

(出展『hmv.co.jp』)

このオドロオドロしいアルバムジャケットは印象深くて、よく憶えている。山羊の骸骨といえば、悪魔だもんね。鷲鷹的な翼と髭みたくになってる羽根(おそらく鷲鷹のもの)は、よくワカランがインディアン関係か❓
インディアンは鷲を崇めており、最も空高く飛ぶことができる鳥であると信じられている。ゆえに神に最も近づける生物だとも考えられている。そして、鷲こそが人間と絶対神である太陽とを繋ぐ存在であり、又その間を取りもつ役割を担っていると思われているそうだ。それが呪いとどう関係するのかは知らんけどー。あっ、呪いは邦題だから関係ないか。骸骨も山羊じゃなく、牛とかバッファローだったりしてね。

原題『One of These Nights』。
アメリカのロックバンド、イーグルスの1975年に発表されたアルバム第4作『呪われた夜(One of These Nights)』のタイトル曲。
アルバムはバンド初の全米No1を獲得、シングルカットされたタイトル曲も全米ビルボードチャートの1位に輝き、名実ともにビッグバンドへ昇り詰めるキッカケとなった。
作詞ドン・ヘンリー、作曲グレン・フライ。
リード・ボーカルはドン・ヘンリー。イントロのベースとギターをファンキーなリズムにアレンジしたのは、ドン・フェルダー。

尚、最初は本文にYou Tubeと歌詞の和訳を付けていたけど、著作権法上、問題があるようなので削除しました。気になる人はネットで楽曲と訳詞を探してね。

更にクレームがきたので、英歌詞も削除です。世知辛い世の中ですなあ…。とはいえ、理解はしてる。ルールは大事だし、著作権と言われれば致し方ないもんね。

 
追伸の追伸
次回、いよいよの最終回っす。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑』
◆『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『奄美市雑談』
◆『Wikipedia』

 

 奄美迷走物語其の17

 第17話『スナフキンのように』

 
2021年 3月31日
小さい頃、アニメの「ムーミン」で、スナフキンが言ってた。
『一度決めたら最後までやりぬく、それが俺の人生さ』

いよいよ、今日が最終日だ。
泣いても笑っても虫採りができるのはこの日だけ。明日には大阪に帰らなければならない。
絶不調で迷走し続けてきたが、スナフキンの言葉に倣い、一度決めことは最後までやりぬく。今までだってずっとそうだったし、これからだってきっとそうだ。こんなにボコられた採集行はあまり記憶にないが、今さら方針は変えない。変えてたまるか。

ターゲットは、まだ採れていない春型のアカボシゴマダラ(註1)の雌雄とフタオチョウの♀。

 
【アカボシゴマダラ】

【フタオチョウ♀】

(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
最後の一日だ。なだけに、もちろん場所の選定には心を砕いた。そして、出した答えが根瀬部だった。理由は午前中にアカボシゴマダラが採れるのは知る限りでは此処しかないし、ここなら♀のポイントも知っている。また、奄美でフタオチョウに会うのは今回が初めてだから経験値の絶対数が足りない。そんな中、僅かな経験は♀がヤエヤマネコノチチに産卵に来たのを見た此処しかないと思ったからだ。

 
【ヤエヤマネコノチチ】

 
午前8時半に宿を出て、9時前にはポイントに着いた。
今までずっと背水の陣の心持ちでやってきたが、本日は正真正銘の背水の陣で臨む。

5分後、アカボシゴマダラが高い位置を優雅に飛ぶ姿を見送る。いるね。
それにしても何で昨日はリュウアサ(リュウキュウアサギマダラ)なんかをアカボシと間違えたのだろう❓

 
【リュウキュウアサギマダラ】

(出展『沖縄の自然』)

 
台湾で間違えた事はあるが、奄美で間違えたのは初めてだった。絶不調を象徴してるのかもしんない。
まあいい、気持ちを切り換えていこう。
兎に角、やっと根瀬部でもアカボシが発生し始めたようだ。取り敢えずは読み通りだ。
しかし採れなければ絵に描いた餅だ。なんとしてでも今日中に雌雄をシバかねばならぬ。もしミッションに失敗すれば、小太郎くんやSくんから笑い者にされるだろう。多分ねぎらいの優しい言葉をかけてくれるだろうが、口には出さなくともへタレだと思われるに違いない。それだけは避けたい。プライドがズタズタになる。
 
取り敢えず少し奥に入り、アカボシもフタオも狙えそうなリュウキュウエノキの大木の下に陣取る。

 
【リュウキュウエノキ】

 
午後10時前。
フタオチョウの♂が飛び始めた。

 
【フタオチョウ♂】

 
相変わらずクソ高い位置でテリトリーを張っている。あと1メートル長竿が長ければ何とか勝負できるのだが、6.3mでは話にならん。今日も無駄に時間を浪費しそうだ。それでも一度決めた事は最後までやり抜くしかない。神様だって一度や二度のチャンスくらい与えてくれるだろう。

午前10時40分。
突然、右手から視界に白黒の飛翔体がフレームインしてきた。
(☆▽☆)アカボシだっ❗
(☉。☉)デカい❗❗

想像を超えたデカさに面喰らう。あかざき公園で最初に見た奴よりもデカい。たぶん♀だ。と云うことは、あかざき公園で見た奴は♂だったのか❓…。頭の中に残ってるイメージは夏型の大きさだったから間違えたのだ。春型って、こんなに大きいんだ…。
だが見惚れている場合ではない。あの位置なら届く。絶好のチャンスだ。
たぶん産卵に来た筈だから、直ぐには逃げないだろう。じっくりとチャンスを伺い、産卵するために止まった瞬間に網を振り抜いてやろう。
しかし、中々止まらない。嫌な予感がした。このまま慎重にチャンスを待っていたら、そのうちプイと何処かに行かれかねない。今回は慎重になり過ぎて躊躇ばかりして失敗してきている。そんな風に消極的だから、採れるもんも採れないのだ。
らしくない。本来的には、思い切りの良さが取柄だったんじゃないのか❓段々、そんな自分に沸々と怒りが込み上げてきた。
勝負に出る。飛ぶ軌道を読んで、大胆に
💥ズバババババ━━━━ン❗
全身全霊で左から右へと振り抜く。

スローモーションで網に吸い込まれてゆくのが見える。ジャストミートの『ビッグフラーイ、オオタニさーん❗』だ。

あたふたと網に駆け寄り、素早く胸を押して〆る。
そして、💥しゃあ━━━━❗、雄叫びを上げ、拳を力強く握りしめる。

 

(裏面)

 
いやはや、赤紋が大きくて美しい。
これこそが正真正銘のアカボシゴマダラだ。誰かが放した中国産の屑アカボシとは月とスッポン、美しさは雲泥の差だ。

 

 
夏型よりも明らかにデカい。そして白い。
ゆっくりと爪先から全身へと安堵感が這い昇ってくる。
兎にも角にも採れて良かったぁ…。しかも一番欲しかった♀の完品だ。
心の中で『生還。』と呟く。
もしも1つも採れずに帰ることになったら…という次第に強まる恐怖とずっと闘ってきて、サドンデスの最終日を迎えたのだ。そんな間際、崖っぷちまで追い詰められた中での起死回生の逆転ホームランだった。だから生還したというような心の境地に至ったのだろう。
虫捕りはリーグ戦でもあるが、最終的にはトーナメントなのだ。負ければ終わりだ。

コレでギリ何とか面目を保てた。SNSで奄美に来ている事は公にしているので誤魔化しは効かない。たとえ黙っていたとしても結果に触れなければ採れなかった事がバレてしまう。そして、ザマー見さらせの笑い者だ。危うく晒し者になって、恥辱に塗(まみ)れるところだったわい。

さあ、次は♂だ。♀と比べればグッと採集の難易度は下がるから、気持ちはだいぶ楽である。何とかなるっしょ。コレをキッカケにジャンジャン飛んで来るかもしんないしさ。

けれども、もうすぐ正午なのにあれから1つも飛んで来ない。
午前中に採れなければ、状況はかなり厳しいものとなろう。アカボシが飛んで来るのは主に午前中なのだ。午後は夕方まで殆んど見かけない。焦燥感がジワリ、ジワリと心の余裕を削り取ってゆく。

午後12時20分。
だいぶ間があいたが、ようやく♂が飛んで来た。
やはり見た目は夏型よりも大きい。白は膨張色ゆえに、より大きく見えるのだろう。
今度も空中でイテこましてやろう。躊躇は禁物と心に言い聞かせる。攻めてくぜ(`▽´)

(-_-メ)ちっ。しかし、木の裏側に回りやがった。裏手はブッシュだから一瞬あきらめかけた。だがこの先、そうチャンスが何度もあるとは思えない。がむしゃらに突っ込んでゆく。
ブッシュを抜けると、狭いが空間があった。ワンテンポ、ツーテンポあって、そこに蝶が向こうから飛び込んできた。目測約3m。咄嗟にスィングを始める。
(・o・)えっ❗❓、でもすんでのところで軌道を右斜めに変えやがった。あかん、ハズすパターンだ。
けど、その動きに体が勝手に反応していた。右腰を落とし、体を右から左に捻りながら網先を鋭く走らせる。

蝶が視界から忽然と消えた。
解ってる。とゆうことはジャストミート、しっかり捕らえたということだ。網の中を確認せずともわかる。

 

 
我ながらヘッドの効いた鮮やかな網さばきだった。切れ味鋭いスライダーをキッチリ捉えてスタンドに放り込んでやったような気分だ。やっぱ躊躇なんかしたらダメだね。

 
(裏面)

 
♂も夏型よりも一回り大きい。思ってた以上に春型ってカッコイイぞ。

これで取り敢えずは雌雄が揃った。
それにしても、どうして毎度毎度、こうもギリギリで何とかなるんだろ❓虫捕りってそう甘くはないって事か…。ともかく諦めずに、愚直に頑張って粘ってきたからこその結果だったに違いない。虫捕りには、執着心も必須条件なのかもしれない。

さてさて、お次はフタオチョウの♀だ。今さらになっての絶好調だけど、この調子でブイブイいわしてやろうじゃないの。

同じ所にずっといるのは好きではないし、ひと仕事を終えた後だからキリもいい。潮時だ、ポイントを変えよう。ヤエヤマネコノチチがあるポイントへ移動するために歩き出す。
でも直ぐに足が止まった。ヤエヤマネコノチチだとフタオチョウしか寄ってこないが、リュウキュウエノキならばアカボシゴマダラだけでなく、フタオチョウも寄って来るのを思い出したのだ。
フタオチョウの幼虫の食樹は元来ヤエヤマネコノチチだが、近年になって食樹転換して、リュウキュウエノキも食樹として利用するようになった。謂わば新規開拓の営業マンみたいなもんだ。(・∀・)ん❓、何か変な喩えになってるぞ。まあいい。兎に角それにより、沖縄本島ではヤエヤマネコノチチが自生していない南部にまで分布を拡大しているのである。
正直、採れるものならもっとアカボシも採りたい。両方とも飛んで来るならばゲット率も高まるし、退屈せずとも済むかもしれない。少なくともフタオの♂がこの木でずっと縄張りを張っているのだ。そやつが低い所に止まってくれるのを監視しているだけでも緊張感は保てるから、退屈はしのげる。
問題は果たしてフタオが奄美でもリュウキュウエノキに産卵しに来るかどうかだ。奄美にはヤエヤマネコノチチが沢山自生しており、何もわざわざリュウキュウエノキを利用しなくてもいい環境だからである。飼育すると、本来の食樹ではないリュウキュウエノキだと失敗する例も多いというからね。ならば母蝶だって無理にリスクを冒して、リュウキュウエノキに産卵しないだろうとも考えられる。
取り敢えず、1時間は此処に居よう。それで駄目なら移動すればいい。

心配してたけど、10分で答えが出た。
目の前のリュウキュウエノキにフタオの♀がやって来たのである。読みどおりだ。絶好調じゃないか。(◠‿・)—☆、完全に良い流れに乗ったんじゃないのー。

 
【フタオチョウ♀】

 
長竿をスルスルと伸ばす。だが、ギリギリ届きそうにない。
彼女は産卵場所を吟味しているのか、葉に纏いつくようにして飛んでいる。
ドキドキしながら、高度を下げてくれる事をひたすら念じる。手に汗握るような、このヒリヒリした感じが堪んない。エクスタシーだ。そして採れれば、カタルシスを爆発させることができる。気持ち良く昇天できることを祈ろう。

降りてきた❗
その一瞬を逃すまいと網を振ろうとした刹那だった。
横から猛スピードで彼女目掛けて突っ込んでくる者があった。
w(°o°)wわっちゃー、何すんねんワリャー❗
♂が飛んで来て、♀を手ごめにしようと追いかけ回し始めたのだ。
😱NOー、Bad Timing❗
ビックリした♀は急加速、慌てて繁みの奥へと逃げてゆく。それを尚も♂は執拗に追い掛けてゆく。
そして、2頭は絡まるようにして飛んでゆき、やがて見えなくなった…。

結局、すんでのところで網を振れずじまいだった。まあ、振ったところで100%採れんかっただろう。射程外になってたからね。とはいえ、もうワンテンポ早くスィングに入ってたら採れてたかもしれない。上手くしたら♂♀一網打尽のミラクルが起きていたかもしれん。ほんの少しであれ、結局は躊躇が大きく勝敗を分けた恰好だ。

暫くして♂が帰って来た。さっきの♂だ。
(ノ ̄皿 ̄)ノおどれ、何さらしてくれとるんじゃい❗❗
怒りで網で思いっきしブン殴ってやろうかと思った。しかし罰を与えようにも長竿が届かない所に止まっていやがる。
宙に浮いた怒りを何処に持っていっていいか分からず、悔しまぎれに地面を蹴りつけた。地団駄踏むとは、まさしくこうゆう事を言うんだろね。
それにしても、この期に及んで何でノコノコ帰って来るのだ。邪魔したんだから、せめて♀のハートを射止めろよなー。それならやむなしと許せたかもしれないのに…。

その後、待ち続けるもフタオの♀は二度と姿を見せなかった。アカボシの姿も全くなし。小さなミスが又しても流れを断ち切ってしまったようだ。

午後2時半を過ぎた。
これ以上待ったところで駄目と判断して、移動することにする。
いつもなら、あかざき公園に行くところだが、アカボシは採ったからもう行く必要がない。あかざき公園は、そもそもアカボシのポイントだからね。フタオもいないワケではないが、一度しか見ていないので多くは望めないし、イワカワシジミはあれだけ食樹のクチナシがあるのにも拘らず一度も見てないから、これまた多くは望めないだろう。
となると、残された時間も考えれば、自ずと知名瀬しか選択肢はなくなってくる。でもフタオのポイントを詳しくは知らないし、たとえ知っていたとしても既に誰かがそのポイントを抑えているだろう。
まあいい。ポイントの場所が確認できるだけでも価値はある。環境が解れば、似たような場所を探して勝負する事だってできる。
それに、そういや柿澤清美名人が知名瀬でイワカワをタコ捕りしたとか言ってたな。かなりウソ臭いけど、それを確かめるのも悪かない。採れればラッキーだし、採れなきゃ採れないで、法螺(ほら)話だったと確認できる。探して損はないだろう。

午後3時過ぎ。
林道に入って暫く走ると、Sくんがいた。
張ってる場所は予想していた所とは少し違う。意外とツマンなさそうなポイントだ。まあ、道沿いで空間があいている場所ならば、何処にでもいるって感じだけどもね。

Sくんに『アカボシ、採れたよー。メスの完品もね。』と言ったら、『見せてくださいよー。』と言うので見せる。
実物を見せたら、『いいなあー。』と羨ましそうに言ったので、良し良しと思う。若いのにクールでドライだからサイボーグかよ❓と思っていたが、初めて人間らしいところが垣間見えた。純粋なリアクションで、ちょっと可愛かった。コレで少なくともへタレ呼ばわりされる事もないだろう。

Sくんに、イワカワは見た❓と尋ねる。

 
【イワカワシジミ】

 
答えは目撃なしとの事。やはりね。イワカワのポイントとフタオのポイントは全く同じではないだろうが、共に林道沿いなんだから隣接はしてるだろ。となれば、もしそんなに沢山いるなら1つくらいは見ても良さそうなものじゃないか。でも、ここへはSくんもワシも何度も訪れているのに1つも見てないのだ。となると、名人の話は眉唾くさい。そもそもが出会った採集者の意見を総合すると、今年のイワカワはどうやら不作らしいのだ。自分も今まで1つしか見ていない。そこがワシら凡人と名人との差なのかもしれないけどね、(≧▽≦)きゃは。

清美名人は林道沿いのミカン畑にいると言っていたから、中に入れる所で一番可能性が高そうな場所を選ぶ。
えー、言っとくけど、柵のあるミカン畑には入ったらあきまへんでぇ。特に挨拶もろくに出来ないようなクズ採集者は厳に慎まれよ。アンタがトラブルを起こせば、他の人にも確実に迷惑を掛ける事になるからさ。ただでさえ虫捕りしてる大人は、世間的にはキショい変人のイメージだからね。

けど、探し回るも全く姿なし。食樹のクチナシもない。情報は疑わしいと言わざるおえない。やっぱ、話を盛っていた可能性が高そうだ。とはいえ、こっちの場所選定が間違っている可能性もある。今度お会いしたら、こと細かに場所をお訊きしてやろう。でも、まともに答えてくれるかなあ❓…。

時刻は4時を回った。陽はだいぶと傾いてきてる。タイムリミットは近い。イワカワを諦め、再びターゲットをフタオの♀に絞りなおす。

林道を流していると、梢を飛ぶフタオチョウが目に入った。しかも100%メスだ。♀は♂と比べてかなり大きいし、翅の形も違うから、簡単に見分けられるのだ。
慌ててバイクを停める。見ると一本の木に纏わりつくように飛んでいる。おそらくヤエヤマネコノチチの木だろう。そっか、産卵に来ているのかも❗
ギリのギリ、タイムリミット寸前での千載一遇のチャンスが巡ってきた。やっぱ、俺って引きが強い。次を仕留めれば、逆転さよならホームランだ。ならばヽ(`д´;)ノやってやろうじゃん❗ ここで鮮やかに試合を決めてやる❗

逸る気持ちで長竿を伸ばす。
けれど網を振る間もなく裏に回られてしまい、姿を見失った。裏は濃い藪になってて、入れないのだ。
それでも此処で待とう。暫くしたら又飛んで来るだろうし、他のポイントを探してる時間はない。
自分に向かって言い聞かす。そんな簡単に採れては面白くない。ヒーローは、いつの時代も苦しめられて苦しめられて、最後の最後に逆転勝利すると相場が決まっているのだ。ここはドラマチックにいこうじゃないか。

しかし、またたく間にブヨの軍団にタカられる。
コイツらに喰われるとムチャクチャ腫れ上がって、めちゃんこ痒い。しかも症状が1週間は続くのを今回の旅で骨の髄まで知らしめられている。神よ、ヒーローを別な局面から苦しめてくるってかあ❓ストーリーに手が込んでるぜ。
せっせとブヨどもを網に入れては纏めて上から握り潰して、あっという間に何十頭とブチ殺してやる。
(-_-メ)ジェノサイド、大量虐殺じゃ❗
けど、殺しても殺しても湧いて出てきやがる。そして対処に忙殺されて徐々に集中力が削がれてゆく。
そんな時に限ってフタオが飛んで来た。

ブヨを気にしつつも長竿を伸ばす。両手が塞がるから手で払えなくて咬まれ放題だが、でないと採れないんだから仕方あるまい。
幸い竿は何とか届きそうだ。とはいえ慢心と躊躇は敵だ。枝先に止まることなど期待せず、空中でシバくことを固く決意する。
しかし、ふらふらとアッチャコッチャに細かくブレるような軌道で飛ぶので狙いを定めにくい。しかも逆光で距離感が上手く掴めない。けっしてイージーではない。空振り率高しだ。
そして、振るか振らざるまいか迷ってるうちに裏側に回られ、又しても見失った。結局、躊躇して網を振れなかった己の決断力の無さに、ベソをかきそうだ。

時間は刻一刻と削り取られてゆく。
午後4時45分。そろそろ飛ばなくなる時間だ。リミットは近い。チャンスは、あとワンチャンか、あってもツーチャンスだろう。さよなら逆転ホームランだとか言ってる余裕が無くなってくる。ここはスナフキンのようにクールになろう。

(☆▽☆)来たっ❗
(。ŏ﹏ŏ)でも下翅の1/3がゴッソリないボロだ❗

多分、鳥に襲われて啄まれたのだろうが、価値なしだ。んなもん採っても仕方がない。ガックリくる。

けど思い出した。すっかり忘れていたが、小太郎くんに卵を持った♀の確保を頼まれていたのだ。アレだけボロなら、間違いなく腹に卵を抱えているだろう。ボロ過ぎるかなゆえ標本にもならないから、気持ち良く御進呈できる。

高揚感もなく、躊躇なしに網に入れる。緊張さえしていなければ、簡単な事なのだ。どちらかというとプレッシャーに強いオラでもこうなんだから、スポーツ選手の大舞台での緊張感とか重圧は半端ないんだろね。想像を絶するよ。

網の中でバタつくのを見て、暫し考える。生かして持って帰らなければならぬのだ。しかも、できるだけ傷めずに。飼育をしない人だからよくワカンナイけど、きっと脚が1本でも取れれば、産卵行動に極めて悪い影響を与えるに違いない。そんな事になれば、小太郎くんに必ずや言われるだろう。
『五十嵐さん、アバウトだからなー。別に何とかはなりますけどね。』
とでもね。
まあ、その通りだから文句は言えないんだけどもさ。

取り敢えず、ボロでも♀が採れたんだから不完全ながらもミッションはクリアだ。忸怩たる想いではあるが、コレで言いワケも立つ。そう思いながら、写真を撮るためにスマホを出そうとした時だった。右上空に気配を感じた。空を見上げる。

いたっ❗また♀だ❗しかも今度は完品❗
わっ(@@)💦、わっ(@@)💦、わっ(@_@)💦、でもどうする❓どうする❓
網の中には生きたボロ♀がいるのだ。そのままでは網が振れない。となれば、大至急で生きたまま回収しなければならない。でもそうなると、その僅かな間に飛んでるアヤツが逃げて行ってしまうかもしれない。それは辛い。チャレンジもせずに敗北するだなんて、負け方として最悪だ。
ならば、中のボロ♀を放棄するしかない。
w(°o°)w💦どうする❗❓
w(°o°)w💦どうする❗❓
けど躊躇している暇はない。
どりゃあ〜(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ボロ♀放〜棄❗❗
飛んでいる♀を凝視しながら、手元には見向きもせずに網をひっくり返してリリースする。
それを目で追うこともなく、心の中で『命拾いしたんだから、二度と捕まんなよ』と独りごちて、グイと体を前へと近づけて行った……。

                    つづく

 
追伸
いよいよ残すところ、あと2話となった。たぶんだけど(笑)
このあと、いつものように註釈の解説なんだけれども、先に解説をして、最後に追伸という順番の方が正しかったかもなあ…。あと2話だから、今更の話だけど。

次回、恐怖渦巻く夜編っす。あなたは、その恐怖に耐えれますか?

 
(註1)春型のアカボシゴマダラ

【春型♂】

 
完品だとばかり思っていたが、右後翅の内縁が欠けている。

【春型♀】

色彩斑紋は雌雄とも同じだが、♂と比べて♀の方が遥かに大型で、翅形が幅広く横長。また全体的に丸みを帯びることから判別は比較的容易である。あとは夏型も含めて♀より♂の方が抉れが強い事でも判別できる。

【夏型♂】

【夏型♀】

(2011.9月 奄美大島)

やはり春型の方が白い部分が多い。だから飛んでいる時はより白く見えるのだろう。
あとは外縁線が夏型の方が内側に入り、抉れたように見える。
形的には夏型の方がカッコイイかもしんない。白と黒とのコントラストも夏型の方が強いから、小太郎くんなんかは夏型の方がカッコ良くて好きだと言ってる。自分はどっちも好きなので、甲乙つけがたいかな。

まだしてなかったと思うので、種の解説をしておこう。

『アカボシゴマダラ(赤星胡麻斑)』
東アジアの広域分布種で、斑紋は近縁のゴマダラチョウによく似るが、和名が示す通りに後翅に鮮やかな赤い斑紋があることで区別される。タテハチョウの仲間にしては飛翔は緩やかで、これは斑紋が似ている毒蝶のリュウキュウアサギマダラなどのマダラチョウ類に擬態していると考えられている。

【分類】
タテハチョウ科 Nymphalidae
コムラサキ亜科 Apaturinae
ゴマダラチョウ属 Hestina

【学名】Hestina assimilis(Linnaeus, 1758)
「分類学の父」と称されるリンネにより広東産の標本に基づいて記載された。あらゆるチョウの中でも最も古くに命名された種類の一つなんだそうな。たしかに1758年は古いね。約260年前だもんね。

属名の「Hestina(ヘスティナ」は、ギリシア神話の炉の女神”Hestia(ヘスティアー)”+ina(inusの女性形の接尾辞)。この接尾辞には「〜に属する」という意味がある。
ヘスティアはオリュンポスの十二神の一人で、クロノスとレアの長女として生まれた。彼女はポセイドンとアポロンの二神に求婚されたが,弟のゼウスにすがって永遠の処女を守る誓いを立てた。それにより、処女神としても知られる。

小種名の「assimilis(アシミリス)」はラテン語で、「類似の」という意味。これはきっとゴマダラチョウに対しての命名だろう。そう思いきや、ところがドッコイ違うようだ。アカボシの記載は1758年だが、ゴマダラチョウはもっとあと、約百年後の1862年に記載されているのだ。
Hestina属に含まれる他の種の記載年を調べて、アカボシよりも古い記載のモノがいたら、そいつが類似するとされたモデルの蝶となる筈だ。
検索すると、ウィキペディアでは以下のようになっていた。

・Hestina assimilis (Linnaeus, 1758)
・Hestina dissimilis Hall, 1935
・Hestina divona (Hewitson, 1861) – Sulawesi sorcerer
・Hestina japonica (C. & R. Felder, 1862)
・Hestina jermyni Druce, 1911
・Hestina mena Moore, 1858
・Hestina mimetica Butler, 1874
・Hestina nama (Doubleday, 1844) – Circe
・Hestina namoides de Nicéville, 1900
・Hestina nicevillei (Moore, [1895])
・Hestina ouvradi Riley, 1939
・Hestina persimilis (Westwood, [1850]) – Siren
Hestina risna
・Hestina waterstradti Watkins, 1928

おいおい、アカボシが圧倒的に古いじゃないか。とゆうことは、いったい何に対しての「類似の」なのだ❓ 謎である。もしかしたら、他の属、ひいては別な科のチョウの事を指しているのかもしれない。だとしても格子柄の蝶など幾らでもいるから、候補は膨大な数になるだろう。
何か大ごとになってきたなあ…。これは間違いなく迷宮地獄のドツボにハマるので、そっとしておこっと。

いや、でもやっぱ気になる。
そういや学名の記載者名と発表年が()括弧で括られてたな。これは属名が後から変更になったことを示している。じゃあ元の属名は何だったのだ❓
リンネ(Linnaeus)が最初に生物の分類を体系化して、学名を属名と種小名の2語のラテン語で表す二名法(二命名法)を考えだしたんだけど、その最初の蝶はモンシロチョウだった筈だ。えーと学名は何だっけ❓
調べたら、Pieris rapae (Linnaeus, 1758)となっていた。\(◎o◎)/❗わっ、記載年が何とアカボシと同じじゃないか❗
コレで謎が解けてきたぞ。たしかリンネは全ての蝶に、最初はアゲハチョウの属名である「Papilio」と付けたんだよね。ようは当初は世の中の蝶の全てが”Papilio属”にまとめられていたのだ。つまり、1758年にリンネがモンシロチョウに名前をつけた時は学名が「Papilio rapae Linnaeus, 1758」だったというワケ。
で、数年後には”Pieris(モンシロチョウ属)”に分類し直されて、「Pieris rapae (Linnaeus, 1758)」となったのである。
となると、最初はアカボシも「Papilio assimilis」という学名だったのね。
よし、ならばリンネが1758年に命名した蝶をピックアップし、その中からアカボシと似ている奴を探せばいいのではなかろうか❓オラって、アッタマいいーv(^o^)v

全部”Papilio”だったというのが頭に残ってたから、リンネの命名した蝶で近いのがパッと浮かんだ。アゲハチョウ属のナミアゲハ(Papilio xuthus)とキアゲハ(Papilio machon)である。

【ナミアゲハ 春型】

(2021.4 大阪府四條畷市 飯盛山)

【キアゲハ 春型】

(2019.4月 福井県南越前町 藤倉山)

ナミアゲハなんか結構似ているっちゃ似てるよね。一方、キアゲハは黄色味が強いから似てるとまでは言えないよね。
リンネが最初に記載した蝶の中からアカボシに似たのを探すだなんて相当に骨が折れそうだし、面倒臭いからもうナミアゲハで決定でいいんじゃないか❓そうゆう事にしておこう。😸🎵終了〜。
でも、ここまで調べといてやめたら、各所からお怒りの言葉を投げつけられそうだし、何となく釈然しないところもある。このままウヤムヤにするのも癪だし、調べっかあ…。早めにリストが見つかる事を祈ろう。

(◠‿・)—☆ラッキー❗
ネットで、比較的簡単に「NATURAL HISTORY MUSEUM」というサイトの『Linneus’s Butterfly Type Specimens』という文献が見つかった。
それによると、リンネによって最初に記載された蝶は約120種だったらしい。結構あるね。

見ると、いきなり冒頭でコモンタイマイ(Graphium agamemnon)が目に止まった。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

263年前のタイプ標本だ。よく残ってるよね。
でもこれじゃ本来の姿が分かり辛いので、補足のための画像も添付しておきます。

【コモンタイマイ】

(2011.4月 タイ チェンマイ)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

でも柄は似てても地色が緑色だし、形も違うから無理があるか…。そんなこと言うと、ナミアゲハだって形が違うから似てないって事になるな。早くもナミアゲハ説、危うしだ。

そしてアカボシゴマダラのタイプ標本。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

明らかに中国の名義タイプ亜種(原記載亜種)だね。
話は逸れるけど、この名義タイプ亜種とかの表記にはいつも悩まされる。名義タイプ亜種とは、ある1つの種が複数の亜種に分かれる時に自動的に定義されるもので、小種名と同じ学名の亜種のことだ。
つまり最初に記載された個体群のことを指し、アカボシならば”Hestina assimilis assimilis”となり、中国産のものがコレにあたる。
でも、その基準となる亜種名の和名表記がバラバラなのだ。古くはコレを「原名亜種」と呼んでいた筈だが、いつの間にか「原亜種」とか「基亜種」「原記載亜種」「名義タイプ亜種」と云う別表記のものが増えていた。因みに英語では、nominotypical subspeciesと表記される。
個人的には「原記載亜種」を使う事が多く、最も嫌いで使わないのが「名義タイプ亜種」。なぜなら、言語的に意味が分かり辛いからだ。「名義タイプ」って、どんなタイプやねん❓オッサン的なタイプ❓でも、字面はお爺ちゃんぽいよね。などと素人には「タイプ」の意味が誤解されやすく。正確な意味が伝わりにくい。タイプがタイプ標本(模式標本)を指すだなんて分かるワケがない。それに「名義」と云う言葉にも違和感がある。おそらく「名義を貸す」みたいなイメージなのだろうが、名義なんて言葉は今どきの若者は使わんぞ。意味さえワカランようなアンポンタンだっているだろう。どころか、言葉そのものを聞いた事がないと言う者までいかねない。
お願いだから、ややこしいのでどれか1つに纏めてほしい。で、もし統一するなら、元々使われていた「原名亜種」を推す。シンプルだけど十分に意味は伝わるからだ。「名義タイプ亜種」なんてのは言語感覚のない学者の発想だろう。ようするに正確性を強く求めるあまり、かえって意味不明になってるという図式だ。「トゲナシトゲトゲ」みたくパラドックスを内包してる。まあ「トゲナシトゲトゲ」は笑えるけどもね。棘が無いのにトゲトゲなのだ。なぞなぞ問題かよ❓みたいなネーミングだが、同時に逆説的名称でもあり、そこには哲学的な香りさえ漂っている。
たぶん意図して命名はしてないだろうが、たまたま結果的には奇跡的とも言えるお茶目過ぎるくらいお茶目な傑作ネーミングになっている。
トゲナシトゲトゲの事は、どうでもよろし。
勝手に想像すると「名義タイプ亜種」なんてのは、大方が「ウスバキチョウ」をアゲハの仲間だからといって「キイロウスバアゲハ」なんていう酷い名前に改名した九州大学の昆虫学者辺りの提唱だろう。「薄羽黄蝶」の薄羽黄という言葉は雅びだが、「黄色薄羽揚羽」の黄色薄羽はダサい。それにキイロウスバアゲハという語感がサイテーだ。リズムが悪い。それに略しにくい。おそらく「キイロウスバ」となろうが、中途半端な長さだし、何だか蛾っぽい。試しに「キイロウスバ、キイロウスバ、キイロウスバ」と3回唱えたら、(`Д´#)キレそうになったよ。
因みに、付けられたはいいが「キイロウスバアゲハ」なんて蝶好きの間では誰も使っていない。99%は以前からの「ウスバキチョウ」を使用している。人は正確性だけを求めているワケではないのだ。情緒のないような名前は愛されないし、認められないのである。

話が大幅に逸れた、本筋に戻そう。

次に目に止まったのだが、マネシアゲハ(Chilasa clytia)。最近はキベリアゲハと呼ばれることも多い。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

【マネシアゲハ(キベリアゲハ)】

(出展『Wikipedia』)

【裏面】

(2011.4月 ラオス ウドムサイ)

コレは似てるよね。裏も赤紋じゃないけど黄色い紋がある。今まで挙げた中では一番近い。多分コレじゃないのー❓
因みに、これは”dissmilis”という型である。余談だがマネシアゲハには幾つもの型があって、それぞれが毒蝶であるマダラチョウ類に擬態しているとされている。ワシも初めて見た時は格子柄のマダラチョウの1種に見えた。マネシアゲハの仲間の擬態度はどれも精度が極めて高く、その凄さにはいつも感服する。同時に、自然の造形の妙に唸ってしまう。

でも、最後にまさかの奴が出てきた。


(出展『Linneus’s Butterfly Type Specimens』)

たぶん、Ideopsis similis リュウキュウアサギマダラだ。
たぶんと書いたのは、サイトに学名が載ってないからだ。このリュウアサグループにはコモンマダラ、ウスコモンマダラやミナミコモンマダラ、ヒメアサギマダラ等々、似たようなのが沢山いるのだ。

【コモンマダラ】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

【ヒメアサギマダラ】

(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

一応、図鑑で確認しておこう。
したら「Ideopsis similis (Linnaeus, 1758)」となっていた。つまり、間違いなくリンネの記載だ。

【リュウキュウアサギマダラ】

(2016年 台湾?)


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

アカボシは毒蝶であるリュウアサに似ていて、これは鳥からの捕食を免れるための擬態だと言われている。確かに似てて、間違いやすい。ワシも恥ずかしながら、前回で書いたように見事に騙された。けど、まさかそんな上手い具合にキレイなオチになるだなんて思いもよらなかったから一瞬、(・∀・)キョトンとしたよ。
もしかしたら、リンネも騙されたのかもしれない。但し、パターンは逆で、アカボシに騙されたって構図だ。で、類似を意味する「assimilis」と名付けたに違いない。とはいえ、実際にフィールドで見たワケではないだろう。この時代は学者が自ら採集旅行に出るという事は少なく、各地から送られてきた標本を見て記載する事の方が多かっただろうからね。リンネがアジアに旅行したというのも調べた限りでは出てこなかったしね。

とはいえ、マネシアゲハとも相当似ている。コチラの可能性も充分ありうるだろう。となれば、どちらを対象にして名付けられたのかは微妙で特定は出来ない。記載年は3種とも同じだが、どちらがアカボシよりも先に記載されたかが分かれば、ジャッジメントできるんだけどもね。でも学名には記載月までは記されていないんである。記載論文を見れば分かるのかもしれないけど、もうそこまでして調べるような気力は残ってない。ここから先は自分で調べてケロ。
因みに、似ている蝶たちのサイトに出てくる順番は、最初がコモンタイマイで、次にアカボシゴマダラ、以下マネシアゲハ、キアゲハ、リュウキュウアサギマダラ、最後にナミアゲハの順だった。となると、コモンタイマイに対してのネーミングだったりしてね(笑)。多分、並んでる順は関係ないと思うけどさ。
ただ各ラベルには番号が振ってあった。
コモンタイマイ21&748 アカボシゴマダラ129 マネシアゲハ130 キアゲハ135 リュウキュウアサギマダラ101&772 ナミアゲハ161 だった。数字の若い順に並べると、コモンタイマイ、リュウアサ、アカボシ、マネシ、キアゲハ、ナミアゲハになるが、リュウアサには772という番号も振ってあるので何とも言えない。こりゃ迷宮入りだね。

でも、サイトをザッと見直したら、番号がなぜ2つあるのかが解った。そこに、以下のような文章を見つけたのである。

「Labels
The small labels associated with the images are by Linnaeus, while the larger ones were added subsequently by Sir James Edward Smith, who purchased Linnaeus’s collection.」

訳すと、こんな感じになる。

「ラベル
各画像と関連するラベルは、サイズの小さなものはリンネの手書きによるものだが、大きなラベルはリンネのコレクションを買ったジェームズ・エドワード・スミス卿によって追加されたものである。」

でも、そもそもこの番号が何を意味してるのかが定かではないだよね。たぶん標本番号なのだろうが、それがそのまま記載順になっているとは限らないのだ。ここで、問題解決は一旦頓挫した。
しかしながら、諦めずに調べ進めてるうちにWikipediaのページで新たな鉱脈を見つけた。
「Lepidoptera in the 10th edition of Systema Naturae」というものだ。
おそらくこれは1758年に出版されたリンネの「自然の体系」第10版の鱗翅目の巻だね。リンネ自身が書いたものだから、これだと命名順に並んでいるんじゃなかろうか。ならば期待できる。
そこには、以下の順で並んでいた。

・Papilio similis – Ideopsis similis
・Papilio assimilis – Hestina assimilis
・Papilio dissimilis – Papilio clytia

上からリュウアサ、アカボシ、マネシアゲハの順だね。
とゆうことは、やはりアカボシの学名はリュウキュウアサギマダラと比しての命名だった可能性が高い。つまり、学名の小種名「assimilis」の意味する「類似の」とは、リュウキュウアサギマダラに類似していると云うことだ。そう断言しちゃってもいいんじゃないかな。
( ´ー`)フゥー………、間違ってるかもしんないけど、もうこれくらいで勘弁してくれよ。

【英名】『Red ring skirt』
直訳すると「赤い輪のスカート」になる。おそらくスカートとは下翅を指しているのだろう。テキトーに言ってるけど(笑)

【亜種】
奄美群島、台湾の個体群は一見して他の地域の個体とは斑紋が異なり、それぞれ別亜種に分類されている。

◆奄美亜種 ssp.shirakii(Shirozu, 1955)
奄美亜種の「shirakii(シラキィー)」は昆虫学者の素木得一博士(1882―1970)に献名されたものである。
氏は直翅類・双翅類の分類の権威であると共に、応用昆虫学にも深い知識をもち、農作物の害虫であるワタフキカイガラムシの大発生に対してベダリアテントウを導入して駆除を行った。これは日本初の天敵を利用した生物的防除の成功としてよく知られている。
また、台湾帝国大学や台湾大学在職中に多くの報告・論文を発表し、多数の昆虫を新種として記載したことでも知られている。その名がシラキトビナナフシやシラキミスジ(台湾の蝶)などの和名に残っている。
晩年には『昆虫の分類』『衛生昆虫』『昆虫学辞典』などの大著を出版し、また日本応用動物昆虫学会の会長をもつとめ、昆虫学の発展に大いに寄与した。

他亜種と比べて後翅の赤紋が発達していて、最も美しい亜種。赤紋の色は濃く鮮やかで、リングは太くて大きく、形が崩れない。また輪の中の黒い部分も大きい。白斑は他亜種よりも地色が白く、面積もやや広い。

奄美大島、加計呂麻島、徳之島、請島、与路島、徳之島、喜界島に産する。他にはトカラ列島の小宝島(2000年)と中之島(2003年)に記録があり、数頭が採集されている事から一時的に発生していたものとみられる。
尚、沖縄本島からも奄美亜種の古い記録があるが、その後絶滅したのか、偶産であったのかは不明である。台湾にもいるから、間の沖縄本島にもかつては居た可能性は高いだろう。だとしたら、何で絶滅しちゃったんだろうね❓コレ以上、氏数を増やすワケにはいかないので、この問題には立ち止まらないけどさ。

奄美大島には全土に広く分布するが、近年になって個体数を減らしており、昔と比べてかなり少なくなったそうだ。
主に平地の集落内や墓地、その周辺に多く見られ、山地で見る機会は占有活動時を除き少ない。これは食樹であるニレ科 リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)が集落周辺に多く、山地ではあまり見られないからだと言われている。
3月下旬から4月上旬に現れ(春型)、以後数回にわたって発生を繰り返し、11月下旬まで見られる。発生回数は5、6回程度と推定されているが、年によってバラつきがあり、年4化の年もあるという。
6月中旬〜7月上旬に発生する第2化目が最も個体数が多く、この時期に白斑が減退した黒化異常型が得られる。


(出展『変異・異常型図鑑』)

コレはレベル5とも言える最も黒化した個体だが、黒化度合いは段階的に顕在し、軽度のものから真っ黒に近いモノまで見られる。

飛翔習性はゴマダラチョウとほぼ同じで、♂は占有活動を行い、樹冠を旋回するように飛び、高所の葉上に静止する。変わっているのは、普通の蝶は広葉樹に止まることが多いが、何故か針葉樹のリュウキュウマツに好んで静止することが多い。
飛ぶ位置は木の高さに準ずるが、ゴマダラチョウよりは低い。また飛翔速度もゴマダラチョウ程には速くない。特に♀の飛翔は緩やかである。これは毒蝶のリュウキュウアサギマダラに飛び方まで似せる事によって、鳥からの捕食を免れていると考えられている。
時に湿地に降りて吸水するが、♂のみで、♀にはそのような習性は観察されていない。
夏場にはホルトノキの花に吸蜜に訪れることが知られているが、意外にも樹液での観察例は少ないようだ。因みに自分は秋(9月)に柑橘類で3度、スダジイで3度ほど見ている。他にサルスベリでの吸汁例もあるようだ。またパパイヤでの吸汁例やアブラムシの分泌物を吸汁していた例もあるという。
バナナやパイナップルを発酵させた腐果トラップにも誘引されるが、夏期のみで春や秋には何故か殆んど誘引されない。
交尾は高い樹上で行われ、飛翔形式は⬅♀+♂であることが分かっている。
産卵は幼虫の食樹 Celtis boninensis リュウキュウエノキ(クワノハエノキ)の成葉、樹幹、太い枝に1個ずつ産みつけられるが、葉に産むよりも幹や枝に産むことの方が多い。
幼虫は成葉を好み、若葉を与えても摂食しよとせずに死亡した例もある。飼育時にエノキ、エゾエノキを与えると、時に辛うじて成長し、小型の成長を生じる場合がある。
越冬態は幼虫。但し、地面の落葉下で越冬するゴマダラチョウとは違い、樹幹に静止して越冬する。

元来日本には、この固有の亜種のみが分布していたが、近年になって原記載(名義タイプ)亜種が人為的に関東地方に持ち込まれ、分布を拡大している。これについては次項にて詳しく書く。

奄美諸島亜種は、環境省レッドリストの準絶滅危惧種(NT)に指定されている。一方、移入された原記載亜種は外来生物法により、特定外来生物に指定されている。

◆原記載亜種 ssp.assimilis (Linnaeus, 1758)

(夏型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

後翅赤紋が奄美産と比べて小さく、円が崩れがちで多くがリング状にならない。また色も淡く、赤というよりもピンク色をしている。
ハッキリ言って、ブサいくなアカボシだ。品がないのが許せない。個人的にはアカボシゴマダラの価値を著しく下げた存在として激しく憎悪している。

(春型)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

春型は白化し、赤色紋が多くの個体で消失する。
奄美産や台湾産には、このような型は見られない。ただ、原記載亜種に分類されている朝鮮半島産も白化型は見られないそうだ。

ベトナム北部~大陸中国南部~東部~朝鮮半島,および済州島と周辺島嶼に分布する。


(出展『原色台湾産蝶類大図鑑』)

中国や韓国では里山的環境から都市部まで広く見られるようだ。但し『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』には「韓国では人家周辺にはほとんど産せず、渓流沿いの樹林地帯のかなり高地(標高800m付近)まで生息する。このような事実は本種がもともと樹林性の蝶であることを示している。」とあった。

本来は日本にはいない亜種だが、1995年に埼玉県秋ヶ瀬公園などで突如として確認された。外見上の特徴から、これらは奄美のモノではなく、中国大陸産の名義タイプ亜種であることが判明した。自然状態の分布域から飛び離れていることから迷蝶とは考えられない事や、突如として出現したことなどから蝶マニアによる人為的な放蝶の可能性が高いと言われている。
この埼玉での発生は一時的なものに終わったが、その後1988年には神奈川県を中心とする関東地方南部でも本種が発見され、またたく間に繁殖、やがて定着するようになった。
そして2006年には東京都内でも発生し、2010年以降には関東地方北部や山梨県・静岡県・福島県、さらには愛知県・京都府、奈良県や伊豆大島からも記録され、分布の拡大が続いている。増加の原因は本州の気候風土に適していたためと考えられており、また市街地の公園など人工的な環境にもよく適応している事から、今後も分布が拡大していくと推測されている。
尚、日本ではこの移入個体群が「特定外来生物」に指定されているが、もはや手遅れの感がある。

放した奴は、どうしようもないクズである。蝶屋の風上にもおけない大馬鹿モンだ。美しい奄美産に、このブサいくなアカボシの血が混ざったら最悪だ。もしそうなったら、どう落とし前をつけるというのだ❓放した奴は首を括って死んでもらいたいくらいだ。何で、こないなドブスなアカボシを放ったのだ❓美的センス、ゼロだ。どうせ放つのなら、クロオオムラサキとか放てよな。コヤツといい、ホソオチョウといい、何で二線級の蝶をわざわざ放すのだ❓もし会ったら、タコ殴りしてやりたいくらいだ。

成虫は5月から10月まで見られ、少なくとも年3回発生する。
中国や関東地方での食樹はエノキ Celtis sinensisで、食樹を同じくするゴマダラチョウやオオムラサキ、テングチョウへの影響が懸念されている。特に類似の環境に生息するゴマダラチョウとは生態的に競合するのではないかと危惧されている。但し最近の研究結果では、ゴマダラチョウの幼虫は大木を好み、アカボシゴマダラは幼木に付くことが多い事が判ってきており、ニッチはガチンコでバッティングはしないようだ。但し糞アカボシが今後各地で個体数を増やしていけば、将来的にはどうなるかはワカンナイけどね。
越冬態は幼虫だが、稀に蛹も見つかるそうだ。又、多くは4齢幼虫での越冬だが、終齢(5齢)幼虫も見つかっている。
越冬場所は奄美では樹幹だが、この原記載亜種は樹幹のみならず、ゴマダラチョウのように落葉の裏で越冬するものも結構いるそうだ。そして、樹幹で越冬するものの殆どが木の根元、地面から30cm以内で見つかるという。

◆台湾亜種 ssp.formosana (Moore, 1895)

(夏型♂)

(2017.6 台湾南投県仁愛郷)

(夏型♀)


(2017.6月 台湾南投県仁愛郷)

台湾名は「紅斑脈蛺蝶」。学名の「formosana」は「台湾の」という意。
4月から11月に亘って見られ、台湾全土の平地から山地帯に広く分布するが、個体数はあまり多くないとされる。
たまたまかもしれないが、自分は人家周辺など平地ではあまり見掛けず、渓流沿いや尾根で姿を見る機会の方が多かった。

原記載亜種との違いは以下の通りである。
①後翅第2〜第4室の赤色紋の黒円斑は大型。
②その外側の青白斑は第5〜7室のものと殆んど等大か、僅かに小形で、原記載亜種のように著しく小さくはならない。
③奄美亜種よりも赤紋は小さくて細い。またリングの下半分が消失して輪状にならず、外側の白紋と合わせて楕円状に見える。

自分の印象を述べると、地色が白ではなく、淡い水色に見える。ゆえに、よりリュウキュウアサギマダラに似ており、たまに見間違えた。でも何となく違和感があるから、直ぐに違うと見破れるけどね。
尾根沿いを飛ぶ姿や吸水に集まるのをよく見た。また腐果トラップにも頻繁に訪れた。

なお、台湾産にも白斑が減退した黒化異常型が見られ、これには「ab.hirayamai Matsumura」という型名が付けられている。

食樹は「DearLep 圖錄檢索」では以下のものが挙げられてた。

◆沙楠子樹 Celtis biondii
◆石朴 Celtis formosana

上の沙楠子樹を学名で検索すると、サキシマエノキと出てきた。しかし、サキシマエノキは日本では宮古諸島にしか自生しておらず、国外ではインドネシアのスラウェシ島とニューギニアに分布しているそうだ。これをどうとるべきかはワカンナイ。
下の石朴も学名から検索したが、和名は出てこなかった。でも学名を直訳すれば、「タイワンエノキ」となる。
タイワンエノキで検索すると「Celtis tetrandra」というまた別物の学名が出てきた。植物は変種も多いし、こうなると素人にはお手上げだ。奄美亜種の項でリュウキュウエノキをニレ科と書いたが、今はアサ科に分類されてるらしいし、ワケわからん。突っつくと迷宮地獄になりそうなんで、これについて特に掘り下げるのはやめておく。
因みに、台湾にも日本と同じエノキが分布しているそうだ。

 
追伸の追伸
解説の学名の項で大脱線してしまい、予想外に長くなってしまった。ほぼ完成していたものを見直していたら、学名の意味について書くのを忘れている事に気づいた。それがキッカケだった。で、平嶋さんの『蝶の学名』を見たら、小種名は「類似の」という意外なものだった。どうせゴマダラチョウに似てるんだろうと、そのままスルーしても良かったのだが、つい記載年まで確認したのが運の尽きだった。見逃せばいいものを、何かと疑問を持ってしまうこの性格、どうにかならんかね。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蝶類標準図鑑』
◆『原色日本産蝶類生態図鑑(Ⅱ)』
◆『原色台湾産蝶類大図鑑』
◆新版『蝶の学名−その語源と解説』平嶋義宏

(インターネット)
◆『変異・異常型図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『Linneus’s Butterfly Type Specimens』by「NATURAL HISTORY MUSEUM」
◆『DearLep 圖錄檢索』
◆『侵入生物データベース』
◆『探蝶逍遥記』

 

奄美迷走物語 其の16

 
第16話『月とデブいアンタと狼男』

 
2021年 3月30日

泥のように眠り、起きたら昼前だった。
外は雨が降っている。
残されたチャンスは少ないから複雑な気持ちだが、心の底ではどこかホッとしている自分がいる。
昨日は、というか今朝まで虫採りしてたから身も心もボロボロなのだ。正直、ここまで全く採集に出なかった日は1日たりともなかったから休みたかった。でも晴れていたら、そうゆうワケにもゆかない。行かなきゃ、逃げた事になるからだ。
とにかく、これでセコい言い訳をカマさなくてすむから心置きなく休養する事ができる。

 

 
今朝、夜明け前にファミマで買ったはいいが、力尽きて食べれなかった中 孝介(註1)監修の鶏飯(註2)を食うことにする。

 

 
ハッキリ言って全然旨くない。及第点にも遥かに及ばない。こんなのよく鶏飯のお膝元で発売したよなと思う。しかも、わざわざ「奄美鶏飯」と名打ってる厚顔無恥っぷりじゃないか。もしワシが島民だったら、絶対怒るね。最近はファミマも味のレベルがだいぶ上がったと言われるが、やっぱセブンイレブンと比べるとクオリティーが低いわ。スイーツばっか頑張ったところでダメだよ。

食い終わって、薬局に買おう買おうと思っていた塗り薬を買いに行く。
泊まっている「ゲストハウス涼風」は周辺に飲み屋があまりないのが難点だが、それ以外は何かと便利だ。歩いて行ける距離にスーパーマーケットがあるし、コンビニもある。その横にはチェーン店らしき大型薬局店だってあるから、薬以外にもインスタント食品やスナック類、雑貨も買える。

 

(出展『ゲストハウス涼風』)

 
熱湯を胸に浴びて、北斗の拳みたく斜めザックリの傷跡になった火傷がまだ治ってなくて、ヒリヒリするのである。

メンタムを買おうかと思ったが、考えてみれば自宅にあるし、効能を見るとコッチの方が良さげだった。

 

 
一家に一つ、オロナインH軟膏である。
帰って薬つけて、もう一回💤寝よ〜っと。

だが帰って昨日の採集品を整理してたら、気づけば午後2時半。いつしか雨は上がっていた。
ベランダに出て、空を見る。晴れ間はないが、何となく天気が回復する兆しを感じた。勘で僅かな時間だけど晴れるんじゃないかと思った。その間隙をぬって起死回生の一発を放てるかもしれない。アカボシゴマダラは、ほんのひと時でも晴れてくれさえすれば、飛ぶだろう。ワンチャンあるかもしれない。

 
【アカボシゴマダラ 春型♀】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
この天気と予報ならば、殆どの人が今日の採集を諦めている筈だ。だとするなら、上手くすれば採集者全員を出し抜いてベストポジションが取れるやもしれん。思い立ったが吉日だ。ならばと慌ただしく長竿とザックを引っ掴み、バイクを駆ってあかざき公園を目指す。

走り始めて暫くしたら、サッと上から光が射した。
予測通りだ。さすが俺様である。

けどバイクを停めてポイントまで降りて行ったら、既に先客がいた。昨日、同じ場所でワシのブログを読んでいると言ってた若者だ。(´ω`)むにゅー、同じような事を考えてる人間は他にもいるんだね。
それにしてもレスポンスがいいね。彼は名瀬に泊まっていた筈だから、ワシより判断が早かったということだ。それって大切な事だよ。加えて、若いけど見た目以上に読みのセンスがある。この2つがあれば、結果も自ずと付いてくるだろうから、頑張って続けてもらいたいよね。

先を越されたが、まあいい。柿澤仙人は来てないし、奥の東屋のポイントを占有できそうだから今日こそは採れんだろ。

訊いたら、まだアカボシの姿は見ていないと言う。
でも、そろそろお出ましだろう。自然と気合が入る。二人で独占、鬼採りといこうじゃないか。

しかし立ち話を始めて5分くらいで曇り始めた。おいおいである。けど曇っていても飛ぶ時には飛ぶから何とかなるっしょ。

だが暫く待つも、飛んで来る気配がまるでない。期待だけが虚しく空回りする。忸怩たる想いで、木々の梢を睨む。

やがて二人組の採集者が上から降りて来た。
けど、二人とも全然オーラがない。採りたいという強いハートも伝わってこない。そんなんじゃ1つも採れんぞ、兄ちゃん。
10年ちょっとも蝶採りをやってると自然と解る。採るのが上手くてライバルになりそうな奴には独特のオーラがある。デキる奴には、それなりの雰囲気というものがあるのだ。

ここじゃダメだと判断して、塔のあるポイントへと移動する。
本来、待つのが死ぬほど嫌いな男なのだ。待ってもダメだと感じたら転戦も厭わない。だからこそ常に他の場所も頭の隅に入れて行動している。

 

 
着いて直ぐ、らしきもんが飛んで来た。ザマー見さらせ、読み的中じゃい❗鬼神の如くダッシュする。
だけれども、目の前まで行って気づく。似てはいるが、そやつは赤紋のない全くの別種、リュウキュウアサギマダラだった。

 
【リュウキュウアサギマダラ♀】

 
ショックで膝から崩れ落ちそうになる。
逆光のせいではあったが、我ながら情けない。勿論アカボシが毒のあるリュウアサに擬態しているという説は知っている。けど、常々あんなもん見間違うかね❓、アンタらの目は節穴かよと思ってた。ゆえに今まで見間違った事なんぞ殆んどないのだ。あったとしても一瞬だ。直ぐに違うと見破ってきた。それがコレだ。もうヤキ、回りまくりである。絶不調ここに極まれりの象徴みたいな出来事じゃないか。

その後、さっきの二人組が上がってきた。 
周りの空を見回しても晴れそうにないから、退屈しのぎに話をする。 

彼らは近畿大学の研究者だった。
なぁ〜んだ、オーラがなかったのはそうゆう事だったのね。狩猟が目的ではないからガツガツしたものを感じなかったのだ。同じ虫屋でも学究肌タイプと狩猟肌タイプがいて、両者は全く目指すベクトルが違う。当然、両者の性格の傾向も異なる。私見だが、学者肌の人は往々にして性格が穏やかな人が多い。一方、狩猟肌の人間は負けず嫌いで押し出しが強く、自分を曲げない人が多い。勿論コレはあくまでも傾向であって、例外は沢山あるだろうけどね。

二人の話によると、先輩の研究者がゴマダラチョウの幼虫を研究していて、2本の頭部突起がどうゆう役割を果たしているのかを調べたそうだ。

 
【ゴマダラチョウ♀】

(2021.5.30 東大阪市枚岡。この♀、何と開張82mmもあった)

 
世の中にはヒマな人もいるんだなと思ったが、言われてみれば確かにそうだ。ゴマダラチョウの他にもアカボシゴマダラ、オオムラサキ、コムラサキ、スミナガシ、フタオチョウetc…タテハチョウ科の幼虫の多くは頭部に角状の突起を持っている。何で皆、頭にそんなもん付けとるんや?とは、おぼろげながらにもワシだって疑問には思っていたのだ。

 
【ゴマダラチョウの幼虫】

(出展『芋活.COM』)

 
ゴマダラチョウやアカボシゴマダラ、オオムラサキなどコムラサキ亜科の幼虫って、(・∀・)ほよ?顔で可愛いよね。可愛い過ぎて、オジサンだって胸キュンだよ。

 
【オオムラサキ♂】

(2021.6.17 東大阪市枚岡)

 
話を戻そう。
で、調べた結果、角を振り回して天敵のアシナガバチから身を守っている事が証明されたらしい。それを二人はフタオチョウの幼虫でも証明しようとしているという。今のところまだ結果は出てないそうだけどね。

 
【フタオチョウ♂】

(2021.3.29 奄美大島)

【フタオチョウの幼虫】

(出展『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』)

 
完全にプレデターだよな(笑)。
にしても、こんなもん振り回したところで、はたして蜂を追っぱらえるのかね❓ゴマダラチョウの角にしてもそうだけど、蜂を半殺しにできる程の殺傷力があるワケでなし、武器としては弱すぎやろが。んなもん、後ろからブスリとかガブリとかいかれたら一貫の終わりやがな。

結局、二度と太陽は顔を出さず、アカボシもフタオも、その姿を見ることすら叶わずだった。一発逆転を狙ったが、完全に骨折り損のくたびれ儲けに終わったってワケやね。まだまだ絶賛連敗街道爆走中っす。

昼は雨模様の天気予報だったが、各サイトの予報を改めて確認すると、夜は概ね曇りになっている。とゆう事は夜間採集に出動しなければならぬ。昨日の疲れがまだズッシリと残ってるし、またしても惨敗を喰らったから気が重いが、行くっきゃないだろなあ…。
行くにしても、奄美に来てから天気予報は全然当たらないし、コロコロと目まぐるしく変わる。せめて雨にならない事だけを祈ろう。これ以上、泣きっ面に蜂みたくなるのは御免蒙りたい。ヤケクソで、露払いに角でも振り回したろかい。角、ないけどー。

腹ごしらえは今回もカップ麺。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛り 塩担々麺』。
最後に残っていたニラもブチ込む。

味は可もなく不可もなくって感じ。まあ、百円だから期待はしてなかったけどさ。とはいえ、心の底では旨かったら気分が乗るから、それでメンタルが少しでも上がる事を期待してたんだけどね。ボコられ過ぎて、もう神頼みの領域なのだ。

午後6時過ぎ、知名瀬に向けてバイクを走らせる。
今日こそ、アマミキシタバを仕留めてやろう。

 
【アマミキシタバ】 

(出展『世界のカトカラ』)

【裏面】

(出展『www.jpmoth.org』)

 
そうは言いつつも、最も有望な場所である湯湾岳に行って惨敗して今朝方帰って来たばかりなのだ。言ってる言葉に力がない。もう、何をどうすればいいのかが分からなくなってる。

 

 
Sくんがハグルマヤママユ採集の折りに陣取ったポイントに、何ちゃってライトトラップを設置する。
ライトを取り付けた三脚の後ろに網を立てかける。
アマミキシタバが飛んで来たら電光石火、空中でシバいたろという算段だ。取り敢えず、らしきもんが飛んできたら迷わず何でも採る体制でいこう。ようは、もう形振(なりふ)り構ってらんないのである。

何か大型の蛾が飛んで来た。でも何ちゃってライトは暗いから、何が飛んで来たかはワカラン。アマミキシタバにしてはデカ過ぎるから心は躍らないが、一応シバく。

 

 
また、おまえかよ(´ε` )❓
毎度お馴染みのオオトモエさん(註3)だった。中々に立派だし、デザインもマスカレードみたいで渋カッコイイのだが、如何せん何処にでもいる普通種なのだ。採っても最早、喜びは皆無である。

午後10時。
あれれ❓山の向こうが何だか明るくなってきたぞ。
予報は、どのサイトでも完全に曇り。もしくは曇り時々雨だったが、又しても「スーパー晴れ男」の力を無駄に発揮してしまうのかあ❓
昼間、蝶を採る場合には断然晴れた方が良いんだけど、夜に灯火採集する時には晴れるのはヨロシクないのだ。詳しくは書かないけど、大まかな原理はこうだ。
通常、夜行性の昆虫は月光を頼りに移動している。だが、月が見えないと事情は変わる。人工光に強く影響され、やがては誘引されてしまうのだ。

 

 
午後22時12分。
遂に月が昇ってきた。どんだけ晴れ男やねん❗である。でも、全然もって嬉しくないや。

 

 
どんどん晴れてきた。
しかも満月じゃないか❓
悔し紛れで、狼の遠吠えでもしたろかと思う。
さすがにそれは思いとどまったでしょう。そう皆さん、思っただろうが、ところがどっこい。思いきし月に向かって『🐺ワォ━━━━ン❗』と遠吠えしてやった。
我ながら、かなり上手い。気分は完全に狼男。調子に乗って、もう一発吠えてやった。この森の全ての生き物たちよ、我に震撼せよ。森の王者たるワシを畏れ崇めるのだ〜。
完全にイカれポンチの阿呆だが、コレが半分冗談じゃなく真面目にやってるんだから怖い(笑)。

落ち着いたところで、静かな心持ちで月と対峙する。

 

 
原生林の上で煌々と輝く月は幻想的で美しい。そして月光は、こんなにも明るいのかと改めて思う。
懐中電灯を消しても、周囲の風景が肉眼でもよく見える。
「月夜の晩ばかりではないよ(註4)」という古い言葉を思い出す。街灯などない昔は、それくらい夜は真っ暗だったのだ。もし江戸時代の人が現代にタイムスリップすれば、その明るさにドびっくりーだろね。逆に現代人が江戸時代にタイムスリップしたとすれば、あまりの暗さにビビるだろう。現代人は夜に出歩くことに何ら恐怖を感じないが、夜の闇は本来的には恐ろしいものなのである。だからこそ妖怪や幽霊、お化けなどという魑魅魍魎どもが跳梁跋扈する世界がリアルに成立しえたのだ。そうゆう畏怖すべき謎の世界がある方が世の中、面白いのにね。明るさは、時に人の想像力を奪う。
(  ̄皿 ̄)アンタら、いっぺん山奥で懐中電灯なしで歩いてみぃーや。
(´༎ຶ۝༎ຶ)チビるで。

そんな時だった。月光が降り注ぐ中、何かデカい飛翔体が林道の左奥からコチラに向かって真っ直ぐに飛んで来た。ちょっとビビるが網を構える。もしも此の世の者ならざる存在ならば、袈裟がけで叩き斬る所存だ。
採ってみたら、悪魔の化身みたいな奴だったらどうしよう❓畏怖しつつも一歩踏み込み、前で左から右へキレイにさばいた。

網の底に手応えがある。かなりの大物だ。
中を恐る恐る見て、驚く。
\(◎o◎)/何じゃこりゃ❗❓

  

 
(☉。☉)デカっ❗
&アンタ、デブいねー❗
 

羽の柄は何日か前に似たようなのをどっかで見た事があるぞ。
たぶんアサヒナオオエダシャク(註5)って奴だ。にしても、それよか遥かに巨大だし、形も違う。

良い兆しと期待したが、その後は目ぼしいものは何も飛んで来なかった。
又しても惨敗濃厚だ。いつになったらアマミキシタバに会えるのだ❓ねぇー、ねぇー、そんなに珍しいモノなのー(ToT)❓

午前0時過ぎ。
(-_-;)終わったな…。

どうせ待ってもダメだと判断して、そろそろ店じまいしようとした時だった。
何か裏面がアマミっぽいのが飛んで来た❗俄然、心がザワつく。でも大きさ的に違うような気がする。けど採ってみないと何とも言えない。慎重に距離を詰める。
だが追い詰めたところで、暗くて見失った。
(´-﹏-`;)むぅ…、とっとと網を振っておけば良かった。判断が鈍いや。こうゆうところが絶不調の原因だろう。何でもそうだけど、躊躇して良い結果が出た試しなどないのだ。
どうあれ、今さら嘆いたところで遅い。やれる事は、また飛んで来るのを願って待つことだけだ。

15分後、たぶん同じ奴が飛んで来た。
今度は迷わず網でブン殴る。

 

 
裏の柄はアマミキシタバっぼい。
でも、にしては地色が汚い。アマミならば、もっと鮮やかな黄色の筈だ。それに大きさ的にも小さい。とはいえ、矮小個体の可能性だってある。僅かな望みを託して表に返す。

 

 
もの凄く(◡ ω ◡)ガックリくる。
全然、別物の汚い蛾だ(註6)。とんだ似非者(えせもの)じゃないか。こんなもんに少しでもワクワクした己を呪いたくなる。
帰ろう。何もかんも上手くいかないや。

月光に照らされた林道を帰る。
幽玄で美しかったが、そんなのどうでもよかった。

                   つづく

 
追伸
狼男のくだりとか、今回はバカ回でしたな。
でも久々に楽しめて書けたかも。連載が当初予定したいたよりも長丁場になって、ここんとこ書くのが苦痛だったのだ。
でも上手くいけば、あと2、3回で、その苦痛からも開放されそうだ。

 
(註1)中 孝介(あたり こうすけ)
奄美大島名瀬出身の男性歌手。その声は「地上で最も優しい歌声」とも称される。

2006年 EPIC RECORDS JAPANよりシングル「それぞれに」でデビュー。
2007年「花」をリリースし、世代を超えたヒット曲となる。
2007年 1stアルバム『ユライ花』をリリース。オリコンチャートで初登場7位を記録し、ロングセラーとなる。
2007年 台湾での単独公演も成功させる。また、台湾で公開された映画『海角七号』に中孝介本人役として出演。映画は台湾歴代興行収入を塗り替える大ヒットとなる。
2008年 中華圏でリリースしたアルバム『心絆情歌』がヒットし、台湾ヒットチャートの1位を獲得する。

 
(註2)鶏飯(けいはん)
奄美大島の郷土料理。鶏のほぐし身など数種の具が入った出汁茶漬けみたいなもの。詳しくは連載第1回で書いた。

 
(註3)オオトモエさん
羽に巴紋がある大型のヤガ。

【オオトモエ】

ねっ、マスカレードでしょ。仮面舞踏会のマスクみたいなデザインだ。

多分、兵庫県武田尾で採ったものかな?
まあ、オオトモエの産地なんて知りたい人などいないだろうから、何だっていいか。

何処にでもいるが個体数はそんなに多くなく、敏感で逃げ足が早い。だから採りたい人には意外と難易度は高い種かもしれない。おまけに驚くとブッシュに潜り込んだりするから、殆んどの個体が翅のどこかを損傷していて、完品を得るのはかなり難しい。

 
(註4)月夜の晩ばかりではないよ
月夜は明るいので、まだしも警戒のしようもあるが、毎日が月夜ではないから、せいぜい身の回りには気をつけなさんな。」という意味。脅し文句の一つで、ヤのつく自由業の方々がお使いになられる常套句でもある。

 
(註5)アサヒナオオエダシャク
調べたら、やはりアサヒナオオエダシャクの♀だった。

笑けるほどデカくてデブい。

あまりにもデブだったので期待していなかったが、展翅してみるとデカいゆえかデブさがあまり気にならない。翅形も中々カッコ良くてバランスも悪かない。
で、測ってみたら開張92mmもあった。『日本産蛾類標準図鑑』では最大が88mmになっていたから、レコードになりそうなくらいにデカいかも。

比較の為に♂の画像も貼っておこう。

形が♂と♀とでは、かなり違う。

♂もそれなりに大きいが、♀は比じゃないくらいに馬鹿デカい。
ちなみに、アサヒナオオエダシャクの♀は♂と違って灯火には誘引されないそうだ。だから、そこそこの珍品とされるようだ。もしかしたらアマミキシタバよりも余程価値はあるかもしれない。
確かに見たところでは、ライトトラップに誘引されたような感じではなかった。ただ単に移動するために林道を飛んでいたのが偶々採れたというのが正しいかと思われる。或いは森の王者狼男にすり寄ってきたのかもしれない。ワシ、メスにはモテるからさ(笑)。

尚、アサヒナオオエダシャクについては第8話で解説しているので、詳しく知りたい方はソチラも合わせて読まれたし。

 
(註6)全然、別物の汚い蛾だ
Facebookに「これ、何〜❓」とあげたら、蛾界の重鎮である岸田先生から御回答があった。どうやらウスアオシャクという名前の蛾らしい。まさかシャクガの仲間だとはね。しかもアオシャクの系統だ。思いもよらなかったから軽く驚いた。

【ウスアオシャク】

展翅してみたら、形が良くて意外と渋カッケー。
触角の先がグッと細まるのも良い。
苔みたいな渋い緑色だけど、一応は緑色だし、アオシャクの仲間だと云うのも何とか理解できる。

(学名) Dindica virescens (Butler, 1878)

(分類)
シャクガ科(Geometridae)
アオシャク亜科(Geometrinae)
Dindica属

(開張)
♂35〜42mm ♀38〜45mm
♂の触角は櫛歯状、♀は糸状。

翅形も違うね。♀の翅には丸みがあり、♂のようなシャープさはない。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

となれば、ワシが採ったのは♂だね。

(分布)
北海道南部,奥尻島,本州,四国,九州,対馬,トカラ列島(悪石島・中之島),奄美大島,徳之島。
国外では朝鮮半島に産する。Dindica属は東南アジアの亜熱帯から熱帯域に約20種が分布するが、本種のみが温帯域にまで分布している。
垂直分布は幅広く、低山地から亜高山帯まで見られる。

(成虫の出現期)
関東周辺では4月下旬から9月下旬の間に2〜3回発生する。
春に出現するものは翅表が淡く、夏に現れるものは濃色となる傾向がある。
北海道や奥尻島のものは極めて淡色で、外横線が明瞭となる。だが、同様な個体は本州の山地帯でも得られている。また、九州南部や奄美・徳之島産は暗色となる傾向があるが、関東でも暗色の個体はそれなりに得られているようだ。

(幼虫の食餌植物)
クスノキ科のダンコウバイ、クロモジ、ヤマコウバシ、アブラチャンが記録されている。

 
ー参考文献ー
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆白水隆『日本産蛾類標準図鑑』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『OFFICE WALKER OFFICIAL SITE』
◆『にかいどう@レゴ機械生物図鑑』
◆『芋活.COM』
◆『www.jpmoth.org』
◆『ゲストハウス涼風』ホームページ

 

奄美迷走物語 其の15

 

第15話『奄美ドン底迷走物語』後編

 
2021年 3月29日(夜編2)

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽってちーん。死んだ。

一旦、他のルートがあるかもしれないと先に進んでみたが、直ぐに無理だと悟った。道は益々荒れてきて、どう考えてもそんなもんはありそうにない。
仕方なくバリケードのところまで戻る。

改めて並んでいるバリケードをよく見ると、左端に空間が空いている。隙間は結構あって、スクーターなら何とか通り抜けられそうだ。
入るのは気が引けるが、んなこと言ってる場合ではニャい。
こんな時間に誰かが見回りに来るとは思えないし、それにもし誰かが来て叱られたとしても『すんませーん。暗くてよくワカンなかったでしたー。』とでも言い訳をカマせばいい。あー、でもこんなに目立つバリケードを「目に入りませんでした。」では理屈が通らんか。更に大目玉を喰らいかねない。
(ノ`Д´)ノえーい、ままよ。見つかったら見つかった時のことだ。
『(。ŏ﹏ŏ)オデ、オデ、ワガンね。』
などと脳ミソの足りない言語障害のオジサンの振りをするか、もしくは、
『リップヴァーンウィンクルの話って知ってますかあ❓』
と『野獣死すべし』の松田優作みたく瞬きなしの狂気じみた無表情で言ってやろう。不気味過ぎて向こうの方がビビるに違いない。夜の、しかもこんな人気のない場所で気が狂ってる男と対峙するのは相当恐いだろう。何なら懐中電灯を下から照らしながらでセリフを言ってやってもいい。
あっ、それはやり過ぎか…。フザけんな❗と、かえってメチャクチャ怒られかねない。

勾配のキツい坂道を一気に上がると、目の前がパッと開けた。
手前に駐車場があり、その向こうは展望広場になっている。新しく改装されたみたいで立派なテーブルと椅子が並び、全体的にとてもキレイだ。有り難いことに清潔なトイレもある。

時計を見ると、何と驚きの午後8時45分になっていた。どんだけ時間かかっとんねん。予定していた所要時間は1時間半だったのに、3時間半も要しているではないか。
大幅に時間をロスしたが、今さら悔いたところで仕方がない。辿り着けただけでも良しとしよう。

慌てて灯火採集の用意をする。
問題は何処にライトを設置するかだが、もう四の五と言ってらんない。危ないが先っちょギリギリ、防護柵を越えて設置した。落ちたら間違いなく大怪我だが、なんちゃってライトトラップなんだから、これくらいでもしないとアマミキシタバは採れやしないと思ったのだ。

午後9時過ぎ。
やっとライトを点灯することができた。

 

 
点灯と同時に蛾どもがワッと飛んで来た。
今回の旅では一番飛来数が多い。さすが世界遺産に地域指定されるであろう湯湾岳だ。なんちゃってライトでも効力ありだ。それだけ自然度が高くて、生物相が豊かなのだろう。
さあ、リベンジだ。ここから盛大な祭りといこうじゃないか。

名瀬や知名瀬とは飛んで来る蛾の種類が少し違っていて、見たことのない種類も多い。名前は全然ワカランけどー。
点灯時刻が遅かったせいなのかハグルマヤママユは飛んで来なかったが(註1)、何かと飛んで来るのでそれなりに楽しい。純粋な蛾屋ではないから各種の稀度はワカンナイ。だから殆んどの種類は採らずに無視だけどもね。
とにかく数さえ飛んで来れば、それに応じて確率も高まる。ならば、否応なしに期待値も上がろうというもの。そのうちアマミキシタバだって飛んで来るかもしれない。今までの苦労が報われることを切に祈ろう。

しかし、1時間程でピタリと飛来が止まる。光が弱いから遠くのものは引き寄せられず、周辺にいる奴しか惹きつけられないのだろう。なんちゃってライトトラップの悲しいところだ。
一応バナナトラップを柵にいくつか括り付け、背後の森にもぶら下げていたが、コチラもダメ。相変わらずの閑古鳥だ。寄ってきたのは、お馴染みのオオトモエのみ。
またしても惨敗かと、ポトリと落ちた墨汁がジワジワと広がってゆくように心が黒く染まりはじめる。見上げるこの漆黒の夜空のようにならないうちに何とかせねば…。そう思うが、思ったところで特にやれる事はない。やれる事は全部やっているのだ。あとは運まかせだ。あっ、神頼みがあるか…。
神様〜、(༎ຶ ෴ ༎ຶ)なんとかしてくだせぇーよ。
ワシ、メチャメチャ頑張ってるやないすかあ。努力もしてますやん。もうそろそろ報われたっていい頃じゃありませぬか❓

祈りが通じたのか、次第に辺りに白いヴェールのようなものが掛かってきた。霧だ。もしかして絶好のコンディションになるかも…。ガスれば光が拡散するせいなのか、格段に灯りに寄ってくる蛾の数が増えるのだ。ワチャワチャに寄ってきてくれよー。
とはいえ、天候が悪化してゆくのは好ましくない。雨にならないことを祈ろう。雨でも蛾は寄って来るのだが、アマミキシタバがベチョベチョになったら元も子もない。濡れて鱗粉がハゲちょろけになったとしたら、死んでも死にきれない。

 
【アマミキシタバ】

(出展『DearLep圖錄檢索』)

 
それに雨が降ると帰りが大変だ。雨の中、あの滑りやすい林道を降りるのはゾッとするし、なんと言っても帰り道は長いのだ。長時間にわたって雨に濡れ続ければ、体温を奪われるし、精神的にも相当辛くなる事は火を見るよりも瞭(あき)らかだ。

名前は知らんけど、見たことのないごっつカッコイイ蛾が飛んで来た。

 

 
画像は後日撮った写真である。その時は頭の中がアマミキシタバの事でいっぱいで余裕がなく、写真を撮るのをすっかり忘れていたのだ。

この画像じゃワカランので、いつも参考にしている『蛾色灯』というサイトから画像をお借りしよう。

 

(出展『蛾色灯』)

 
止まっている時は、こんな風に三角形の姿をしている。
蝶は羽を立てて止まるが、蛾の多くはこのように開いて止まるのが定番で、コレが蛾と蝶を見分けるコツの1つとされている(例外は結構ある)。だからワシの手乗り横画像は自然な状態ではない。羽の表面の鱗粉を傷めたくないゆえ、無理矢理あの形にして三角紙に入れていたので、ああなったのである。つまり自然状態では羽を立てて静止することはない。但し、羽化時に羽を伸長させる時は立てている可能性が高い。そうしないと羽をキレイに伸ばせないだろうからね。

捕まえた時に驚いたのは、身体がゴツかった事である。

 

(出展『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』)

 
胸部の体高が高くて厚みがある。横幅も広い。
そして、もふもふだ。マジ(◍•ᴗ•◍)❤可愛いっす。

帰ってから調べてみたら、どうやらタッタカモクメシャチホコ(註2)の♂のようだ。
何じゃそりゃ❓というくらいインパクトのある和名じゃないか。最初に「立ったか❓木目鯱鉾❗」と脳内変換が行われたよ。でもって『立てへんのかーい❗』という吉本新喜劇的ツッコミを入れてしまったなりよ。
次に西川のりおがオバQの姿に扮して『🎵ツッタカター、🎵ツッタカター、🎵ツッタカタッタッター』と行進する姿が目に浮かんだ。今思い返しても『俺たちひょうきん族』は凄い番組だった。面白キャラクターの宝庫だったわ。

 

 
絶対、それ由来なワケないけど…(笑)

 

(出展 2点共『エムカクon Twitter』)

 
のりおのセリフじゃないけど、
『あほ〜ぉ〜。』
である。

ネットでアレコレ見ていると、そこそこの珍品のようで「憧れの」とか「恋焦がれた」だの憧憬や称賛の修辞句が並んでいるから、蛾屋の中でも評価が高い種みたいだ。とにかく採った人は皆さん、嬉しそうなのだ。名前も知らんのに、ワシも嬉しかった。スター性があるモノは、何だってひと目で人を惹きつけるのだ。

次のコヤツも印象深かった。

 

(画像は後日展翅時に撮ったもの)

 
ユウマダラエダシャク系の白黒蛾(註3)だ。
実を言うとこの蛾は、最初に着いた時にトイレの外壁に止まっていて気にはなっていた。ユウマダラエダシャク系は本能的にキモいので普段は絶対に採らないのだが、黒っぽくてカッコイイかもしれないと思ったのだ。
しかし一刻も早くライトを設置しなければならなかったからスルーした。設置後はバナナトラップを見回る際にトイレの前を通る折にふれ、採るかどうか迷ってた。でも白黒エダシャクはキモいという概念が邪魔して踏ん切りがつけれないでいた。触るのが嫌だったのだ。で、そのうちいつの間にか姿を消していた。
だから、後々ライトに飛来した時は迷わず採った。

午後11時。
(・∀・)よっしゃー❗、いよいよアマミキシタバが飛んで来るゴールデンタイムに入った。
霧は益々濃くなってきたし、この条件なら採れるかもしれない。いや、採れるっしょ。

しかし、暫くして風も出てきた。
ちょっとヤバいかも…と思った瞬間だった。不意にブワーッと突風が吹いた。
ガッシャーン❗
\(°o°)/エーーーッ❗❗
風で三脚が倒れよった❗
一応、ビニールテープで防護柵と三脚とを繋いでいたので谷底には落ちなくて、(´ω`)セーフ。繋いどいて良かったよ。
でも、立て直した時に気づいた。
Σ( ̄ロ ̄lll)ガビーン❗❗
ライトが1個消えとるやないけー❗

2個あるチビライトの1つが点灯していないではないか。
(ㆁωㆁ)…白目男、茫然と立ちつくす。

戦闘力、大半減だ。でも、やっちまったもんは仕方がない。まあいい。もう1つは生きてて光ってるんだから何とかなるだろう。
だが、明らかに寄って来る蛾の数が目減りしていってる。又もやの想定外のアクシデントに、ドス黒い諦念が広がり始める。
(╯_╰)なしてー。どこまで悪い流れが続くねん。

その後、何も起こらなかった。
午前1時まで粘ったが、ついぞアマミキシタバは飛んで来ずだった。今回も擦りもせずの惨敗である。
期待値が高かっただけにショックは大きい。数々の困難を乗り越えて、こんだけ頑張っても報われないのかよ…。

1時15分。
ズタボロの心と身体を引きずるようにして撤退。

濃い霧で驚くほど前が見えにくいので、山道を慎重且つゆっくり、のろのろ運転で降りてゆく。間違ってカーブで真っ直ぐ行ってもうて、崖から落ちでもしたら洒落になんないもんね。
別に道に迷っていたワケではないのだが、次第に山を彷徨しているような気分になってきた。
あなたが落とした斧は金の斧はですかー❓ それとも鉄の斧ですかあ❓
突然、山の神様が霧の向こうからニュッと現れてもオカシクないような状況なのだ。それくらい現実離れしたような幻想的な風景が続く。
そして、山は息苦しくなるくらいに静寂だ。バイクのエンジン音だけが奇妙な感じで谺している。ハッキリ言って不気味だ。映画やドラマだと絶対何か良くない事が起こりそうなシチュエーションである。
いつしかエンジン音は脳内で変換され、耳の奥ではお約束のように恐ろしげな重低音の音楽が流れている。しかもそれはワシが生涯で最も怖かった映画『シャイニング(註4)』のオープニングで流れていた曲だ。カメラは上空から俯瞰で、山奥の古ホテルへと向かう一家族の車を淡々と追い続けるんだよね。ただそれだけの映像なのに、執拗にリフレインされる不気味な音楽が、これから起こるであろう惨劇を暗示しているようでメチャクチャに怖いのだ。

そんな時だった。
バサバサバサー❗
突然、その静寂を何かが破った。
ヽ((◎д◎))ゝしょえー❗
不意の金切り声と大きな羽ばたき音に激ビビる。
ヤバいもんだったら、発狂しかねないので見ちゃイケないと頭では思うのだが、裏腹に目が勝手にソチラの方を見てしまう。

照らされた方向には鳥がいた。
邪悪な怪鳥だったら、💧涙チョチョギレもんだが、結構デカいものの、ただの鳥じゃないか。驚かせやがってアホンダラー。ホッとして、強張っていた身体の力が一挙に弛む。
とはいえ、顔だけは強張ったままだ。だいたいにおいて夜に鳥が羽ばたいて鳴く時は映画でもドラマでも何かが起こる前兆と相場が決まっている。鵺の鳴く夜は恐ろしいのだ。

見慣れない鳥だが、思い出した。写真で見たことがある。たぶんアマミヤマシギ(註5)っていうシギ(鴫)の1種だ。
そうと分かれば、さらに心は落ち着く。名前なき未知なる異形のモノは恐ろしいが、名前が特定されてしまえば怖るるに足りずである。

その後もアマミヤマシギは現れた。でもって、その度に驚かされた。けど何度も驚かされてると、そのうち慣れてくる。そうなると次第に沸々と怒りが込み上げてきた。
このバカ鳥ども、結構そこいらにいて、誠にもってウザい。敏感にすぐ飛んで逃げてくれればいいのだが、バカだから直前になって目の前で飛びよる。だから瞬間こっちの方がビックリして、その度に肝が冷やされる。コッチは霧で前が見えないゆえ、鳥がいるだなんてワカランのだ。一方、オマエらはバイクのエンジン音が遠くからでも聞こえてる筈だから事前に逃げれんだろうに。鈍クサいこと、極まりない。そんなだからマングースや猫に食われるのだ。おバカ鳥めがっ💢
心がササくれだっているから、マジで轢いたろかと思う。まあ、人として流石にそれはしないけど。

時間はかかったものの、何とか麓まで下りてきた。
でも帰る場所は気が遠くなる程、まだ遥か先だ。
そして眼前には大きな問題が立ちはだかっている。ずっとどっちにするか迷ってた帰るコースを、いよいよ決断せねばならぬ時が来たのだ。
問題は来しなに使った北側のルートと半分未知の南側ルートのどちらで帰るかなのだが、選択を間違えれば地獄が待っている。
そう言いつつも、どちらを選んでも地獄である事には変わりはないんだけどもね。少しだけ、どちらかがマシなだけである。でもその少しの差が今は大きい。それだけ弱っているのだ。少しでも楽な方法で帰りたいという思いが強い。
はてさて、どうしたものか(-_-;)…。
又あの山道を登り降りして帰るのは正直しんどい。どころか道はグネグネでカーブが多いから危険さえ感じる。それを、この心身ともに衰弱しきった状態で走りきる自信はない。
となれば南側ルートだが、コチラは長いトンネルが何本もある。コレがホント長くて辛い。いつまで経っても出口が見えてこないので、心が徐々に蝕まれてゆき、気づいた時には鈍くて重い精神的ダメージをうけているのだ。
それに長いトンネルは睡魔を呼ぶ。ましてや丑三つ時のこの時間帯だ。眠くならないワケがない。けど眠ったら確実に事故る。側溝に突っ込んでバイクもろとも💥大破。運が悪けりゃ、あの世ゆきだ。
あの世で思い出した。こんな夜更けに、そんなトンネルを走るのは全然もって気が進まない理由が他にもある。山のトンネルといえば、イコール心霊スポットだ。あたしゃ、自慢じゃないが、お化け大嫌いの超怖がり男なのだ。
チキンハート野郎は想像する。奄美の妖怪ケンムンを筆頭に魑魅魍魎どもがワンサカ湧いて出てきて、追いかけ回されでもしたら、チビる。いや、チビるどころか小便垂れ流しで泣きじゃくりながら逃げるよ。
ほらね、どっちを選んでも地獄じゃないか。
嗚呼、何もかもがウンザリだ。できれば、その辺に倒れ込んじまって、そのまま深い眠りに落ちてしまいたい。
そうしたくなるような心を必死に抱きかかえて、のろのろと南に向かって走り出す。

南側ルートを選んだのは、アップダウンと急カーブが少ない事と、単に同じルートを走りたくなかったからだ。
あと付け加えると、コチラのルートだと最後には名瀬を通るので、コンビニが幾つかあり、24時間スーパーまであるからだ。酒とツマミを買って帰らないとやってらんない気分だし、酒の力を借りなければ今夜は眠れそうにない。

先ずは住用町役勝を目指す。だが北に行きたいのにルートは一旦、反対方向の南へと針路をとる。コレがスゲー遠回り感がある。ルートはかなり南に下ってから一転、今度は北へ向かうという道筋になっているのだ。理不尽にも、無駄にV字の軌跡を描いて走らねばならない。宇検村から住用町西仲間までを直線距離で結ぶと12kmくらいだが、このルートだと倍以上の30kmくらいを走らねばならんのだ。大きな山塊があるから仕方がないんだけどさ。そもそもアソコにトンネルを通すのは無理があるだろう。技術的には可能だろうが、莫大な費用が掛かるだろうし、通したところで見合うような経済効果は有りそうにない。それに世界遺産になった今なら、そんな計画には許可がおりないだろう。

役勝トンネル辺りで早くも睡魔が襲ってきた。
そして、道は街灯が少なくて暗いから、遠近感までオカシクなってくる。
ワシ、実を言うと夜の運転は苦手がち。鳥目ではないと思うけど、夜はモノを認識する能力が格段に落ちる。で、挙げ句の果てには時々幻覚を見たりもする。トンネルの入口が巨神兵や超巨大なC3POに見えたり、ガードレールにゴブリンが座っていたりするのだ。だからスピードも出せない。

それにしても笑っちゃうくらいに対向車がいない。もちろん人など誰一人として歩いていない。時空が歪んだ別な世界、まるてバラレルワールドにいるような錯覚を覚える。いよいよもってヤバい事になってきた。

住用町の三太郎トンネルの手前辺りで、睡魔が猛烈にやって来て朦朧となる。
意識が半分飛んだまま、トンネルに入る。
この長いトンネル、アホほど長いと知ってるだけに辛い。知らぬまに蛇行運転になってて、堪らずトンネルの真ん中の退避スペースで停まる。

 

 
トンネルの真ん中で停まるのって、あまり気持ちがいいものではない。こうゆう時にもしケンムンや魑魅魍魎どもが襲ってきたりしたら最悪じゃないか。死を覚悟して戦うか、恐怖で脱糞しながら必死で逃げるしかない。何か、さっきも同じような思考回路になっていなかったか❓たぶん、そうだろう。脳ミソが溶け始めている証拠だ。
でも怖いもんは怖い。怖さに耐えきれず、大声を出してみた。自分の声が洞内に反響して奇妙に増幅され、やがて壁に吸い込まれていった。
少しだけだが気分が落ち着き、思い出したように煙草に火を点ける。

煙草を吸いながら、ぼんやりと思う。この上の三太郎峠でもアマミキシタバが採れてる記録があるんだよなあ…。三太郎峠で灯火採集しとけば良かったかなあ…。近くはないが、湯湾岳よりもだいぶ楽な距離だ。
だが、すぐさまその考えを否定する。今さら後悔したってしようがないのだ。それに、こんなに悪い流れ続きだったら、どうせ採れなかっただろうし、また別な大きなトラブルに見舞われてたに違いない。
あー、ダメダメだ。珍しく完全にマイナス思考に囚われているよ。

この時点で、既に時計の針は午前3時を指そうとしていた。ここまで2時間か…。思ってた以上に時間を費やしている。

次の新和賀トンネルは何とか通り抜けたが、朝戸トンネルで再び強い睡魔に見舞われて停車した。
まあいい。今さら急ぐ理由なんて無いのだ。それにこのクソ長いトンネルさえ抜ければ、名瀬の街だ。宿までそう遠くはない。

午前4時。
やっとこさ朝仁まて戻ってきた。安堵と疲労とが同時に全身の隅々にまで広がってゆく。
コンビニの駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いだら、更なる安堵と疲労感、そして敗北感とが加わった何とも形容し難いような感情に包まれた。
或る種のトランス状態だったのかもしれない。全身がヘトヘトだけど、ヘラヘラ半笑いで、ふらつきながらコンビニに入る。
で、酒を買って、ついこんなもんまで買っちまう。

 

 
結局、マイフェバリットの鶏飯屋『みなとや』には行けてないし、無性に鶏飯を食いたくなったのだ。
だが、宿に帰って敗北感にまみれて酒を飲み始めたら、秒殺でそのまま昏倒してしまった。

しょっぱい夜だった。

                    つづく

 
追伸
この日が、奄美大島で最も過酷な1日だった。
昼間は蝶を採りいーの、夜は蛾を採りいーのの二足の草鞋は正直キツイ。体力的にも精神的にもシンドイのだが、中でも夜に酒飲みに行けないのが辛い。店で美味いもん食いながら酒を飲み、地元の人とワーワーやるのが大いなるカタルシスになっていたんだなと今更ながらしみじみ感じる。虫ばっか採ってると旅が味気なくなる事を痛感したよ。

 
(註1)点灯時刻か遅かったせいかハグルマは飛んで来なかった
Sくん曰く、ハグルマヤママユの灯火への飛来は日没後から1時間くらいが勝負らしい。エゾヨツメと同じで、それ以降は殆んど飛んで来ないらしい。もちろん例外も有るんだろうけどさ。

(エゾヨツメ♂)

(ハグルマヤママユ♂)

 
(註2)タッタカモクメシャチホコ
シャチホコガ科(Notodontidae)に属する中大型蛾。
前翅の地色は純白で、黒い内横線はジグザクで太い。

展翅してみてもカッコイイ。こうゆう白黒のスタイリッシュな蛾はノンネマイマイやキバラケンモンなど科を跨いでいくつかいるが、中でもコヤツはデカくてゴツいから他とは存在感がまるで違う。圧倒的な風格があるのだ。しかも他のものは下翅が純粋に白黒ではなくて、上翅とのデザインの連動性をあまり感じない。一方タッタカは下翅も白黒柄で上翅とデザインが一体化していて、全体に違和感がない。それに背中の柄の黒は、よく見ると群青色なのだ。これが高貴な感じがして♥️萌える。尚、展翅画像はピンチアウトで拡大できるので、そのコバルトブルーを是非とも確認されたし。

(ノンネマイマイ)

(2019.8月 長野県松本市新島々)

(キバラケンモン)

(2020.8月 長野県木曽町開田高原)

(ニセキバラケンモン)

(2020.9月 長野県松本市白骨温泉)

キバラケンモンとニセキバラケンモンは好きだけど、ノンネマイマイはキショイ。カッコイイかもと思って採ったけど、展翅してみたら残念な形と下翅でガッカリした。オマケに腹がピンク色で妙に色っぽいのが許せない。言ってしまえば安っぽい遊女みたいなのだ。
しかも大嫌いなマイマイガの仲間だと知ってからは憎悪さえ抱くようになった。マイマイガは大嫌いだから、成虫も幼虫も一切関わりたくない。
(´ε` )そんなこと言うなよーと言う人もいると思うけど、生理的に受け付けないんだから仕様がないんである。断固、キミたちとは袂を分かつ。

ノンネさんの事はどうでもいい。タッタカさんに話を戻そう。

【学名】Paracerura tattakana (Matsumura,1927)
小種名は、台湾の立鷹峰に由来する。おそらく最初に採集されたのが其処だったのだろう。和名もそれに連動しての命名だと思われる。
立鷹峰は台湾中部の南投県仁愛郷にある山で、蝶の採集地として有名な翠峰や梅峰近辺にあるようだ。ということは標高2000m以上ってことだ。おそらく2300m前後くらいはありそうだ。
尚、この地域にはホッポアゲハやアケボノアゲハ、アサクラアゲハ、スギタニイチモンジ、ダイミョウキゴマダラ、タカサゴミヤマクワガタなどがいる。

余談だが、台湾では「尖鋸舟蛾」と呼ばれている。
も1つピンとこないネーミングだが、コレは触角が鋸状なところからきているようだ。で、舟蛾はシャチホコガ全般を指す言葉なのだろう。確かに横から見れば、舟だと言われれば、そう見えなくもない。

本土産のものが、magniguttata (Nakamura,1978)として亜種記載された事があるが、現在はシノニム(同物異名)扱いになっている。

【開張】 ♂65〜72mm内外。 ♀72〜80mm内外
自分の採ったものは68mmだったから、矢張り♂だろう。

一応、♀の画像も貼り付けておこう。


(出展『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

どうやら♀は♂と比して大きく、上翅の幅が広くて翅形が全体的に丸くなるようだ。

【分布】
分布は意外にも広く、ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』によると、本州、四国、九州、対馬、屋久島、沖縄本島、西表島、台湾とあった。おいおい、奄美大島が抜けとるぞー。
このサイトは蛾を種名で検索すると、どの種でも必ずと言っていい程に真っ先に出てくる。だから基本情報を知るのには重宝するし、有り難いのだが、重大な問題点もある。どうやら全くアップデートがなされていないようで、情報が致命的に古いのだ。ゆえに概要を知るのはいいとは思うけれど、それをまるっきり鵜呑みにする事はお勧めできない。一応フォローしておくと、何千種といる蛾の殆んど種の画像と解説があるから、その執筆の労苦たるや大変なものだったろう事は想像に難くない。それには素直に頭が下がるし、立派な業績だと思う。礎の役割は十ニ分に果たされておられると言っていいだろう。でもだからといってアップデートされないままの弊害は見過ごせない。間違った情報が流布し、混乱を引き起こすからだ。改善されることを望みます。

そうゆうワケなので、ここからは岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』の解説を混ぜて書き進めていく。この図鑑の情報が現在のところ最も信頼できるからだ。
その標準図鑑によると、分布は上記の他に「奄美大島とその属島」とシッカリ書いてあった。ほらね。
主に西日本に多く見られるが、分布は局所的。国外ではミャンマー、タイ、ベトナム、中国南東部、台湾に分布している。
知る限りでは垂直分布について言及されている文献は見当たらない。唯一見つけられたのが、ブログの記事で、『高知の自然 Nature Column In Kochi』というサイトに「高知県では低山地から標高の高い山まで広く分布している。」書いてあった。図鑑等で垂直分布についての記述がないのは、低地から高地まで広い範囲で得られているからなのだろう。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)
京都府:要注目種
岡山県:希少種

【成虫の出現期】 5〜8月
アレっ❓、採ったのは3月下旬だから、かなりズレがある。だから、みんなで作る図鑑は鵜呑みにはできないのだ。
コレに関しても直ぐに標準図鑑で解決した。南西諸島では3月と6月に採れ、本土では6月に出現するとあった。

【成虫の生態】
大概の文献には、夜間に灯火に誘引される事くらいしか書かれていない。それとて、飛来時刻の傾向さえも特には言及されていない。たぶん飛来はアトランダムで、傾向と言えるようなものはないんだろうけどさ。
昼間の静止場所とかも書かれてあるものは知り得ないし、成虫が何を餌にしているのかもワカラナイ。まあ、タッタカに限らず、蝶と違って蛾の生態はまだまだ解明されてない種類だらけなんだけどもね。
んっ❗❓、待てよ。とはいうものの、🎵もしかしてだけどー、🎵もしかしてだけどー、🎵シャチホコ蛾って何も食わんないんじゃないの〜❓

調べてみたら、何と近縁のオオモクメシャチホコの成虫は何も餌を摂らないそうだ。だからタッタカも何も食べない可能性が高い。どうやらシャチホコガ科全般がそうみたい。へぇー、デカいクセに何も食べないんだ…。
更にデカいヤママユの仲間は何も食わないとは知ってたけど、シャチホコくんもそうなんだ…。蝶をやってきた者としては、餌を摂らないなんていう概念は無いから驚きだよ。蝶で餌を摂らない種はいない筈たもんね。だから思ってしまう。
ヤママユもシャチホコも大型蛾だから、そんなんでエナジー保つのかよ❓ある意味、蝶よか進化しているのかもしれない。
ということは、タッタカって寿命は短いのかなあ❓

唯一、成虫の生態の一端を見つけられたのがネットからだ。
ブログ『昆虫ある記』に、タッタカちゃんを手に取ると、時に脚を縮めて腹部を大きく内側に曲げた状態が長く続く事があり、どうやら擬死行動のように見受けられるとの印象が書かれている。


(出展『昆虫ある記』)

自分が採った時には、そのような傾向は一切みうけられなかったが、画像を見ると自分にもそのように見える。
死んだふりする生き物って、わりと好感がもてる。何か健気で可愛いもんね。

【幼虫の食餌植物】ヤナギ科 イイギリ属:イイギリ(飯桐)
葉が大きく、昔は飯をこの葉でくるんだ事から名付けられたようだ。また別名にナンテンギリ(南天桐)があり、コチラは実が南天の実に似ていることに由来する。

標準図鑑によると、イイギリの分布とタッタカの分布は、ほぼ重なるらしい。だから主に西日本に見られるんだね。

(イイギリの分布)

(出展『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」』)

コレを見て、西日本ではこんなにも普通に生えてる木なのかと思った。だったら探せば意外と何処にでもいて、新たな産地がジャンジャンに見つかるんじゃないかと思った。
しかし調べ進めると、わりかし珍しい木のようで、山地でもあまり見られないそうだ。でないとタッタカが珍しいという説明がつかないもんね。但し、最近は公園樹として植栽されることも増えているらしい。
垂直分布はブナ帯下部らしい。もしタッタカの分布もそれに準ずるならば、標高1200m以下に棲息するものと考えられる。

(イイギリ)

(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『葉と枝による樹木図鑑』)


(出展『plantidentifier.ec.ne.jp』)


(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

多分、この木の実は見たこと事がない筈だから、やはり珍しい木なのかもしれない。因みに葉の印象は見たことがあるような無いような微妙な感じだ。でも桐の葉か何かと混同しているかもしれない。ようは同定に自信がないのだ。言い訳させて戴くと、植物の葉は遠縁の種であっても似たような形のものがワンサカある。どころか同じ種内であっても葉の形に変異が多いから、ワシらみたいな素人には植物の同定は容易(たやす)くはないのだ。

幼虫は、どんなだろ❓
でも蛾の幼虫は邪悪な姿をしたものが多いんだよねー。どうせ怖気(おぞけ)るから探すのやめとこっかなあ…。とはいえ気になり始めたら捨て置けない。恐る恐るで探してみたら、😱スゲーのが出てきた。


(出展『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』)

\(◎o◎)/何じゃ、こりゃ❗❓
である。見た瞬間は変過ぎてどっちが頭なのかさえ解らなかった。左側が頭なのだが、ワケわからんくらいに形が歪(いびつ)で、ニョキっとした手を含めての姿勢も何だか変だ。そして何よりも変なのは、その尾っぽである。まるで『帰ってきたウルトラマン』の怪獣、ツインテールみたいな奴ではないか。

(ツインテール)

(出展『怪獣ブログ』)

ツインテールって相当に変テコな奴だと思っていたが、タッタカベイビーの前では地味にさえ感じるじゃないか。自然が造りしもののデザインは、人間の想像力なんぞ遥かに超越しているのである。だいたいツインテールのデザインだって、そのオリジナル性は疑わしい。きっと何かの生物をモチーフにしたパクリもんだろう。
余談だが、ツインテールには「三つ編み(おさげ)」という意味もある。小さい女の子から女子高生とかまでに見られる髪型の事ね。そういや最近は三つ編みの女子高生って見掛けないよね。きっと絶滅危惧種だやね。

越冬態は蛹で、木の枝を噛み砕いて繭を作り、その中で蛹化するそうだ。全然関係ないけど、繭の中でひと冬を越すのって、どうゆう気分なのだろう❓
快適に惰眠を貪れて幸せそうだが、実際はそうでもないかもね。外の気象状況が気になって、おちおち眠れやしなかったりして…。寒波が来襲したり、大雨が降ったり等々、状況如何によっては生死に関わるからさ。生きるって大変なのだ。

尚、言い忘れたが、残念なことに標本からは油が大変出やすいそうだ。だとしたら悲しいよね。今のとこ、出てないけど。

 
(註3)白黒のユウマダラエダシャク系の蛾
このタイプの斑紋を持ったエダシャクは沢山いるからややこしいのだが、どうやらクロフシロエダシャクという種のようだ。

どうやらと書いたのは、にしては黒っぽいからだ。でも調べ進めると、この種は黒色斑紋の大小にかなりの変化があり、個体によっては外縁部が広く暗色で、白色の部分が極めて狭い者もいるらしい。で、ネットで色々と画像を見ると、確かに皆こんなに黒くなくて、そこいらにいる白黒エダシャクとさして変わらないように見える。正直なところ、ワシの嫌いなタイプの白黒エダシャクそのものだ。


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

これがノーマルタイプだろう。もしも黒さがこの程度だったならば、絶対に無視していた筈だ。

似ていて同定間違いしやすいのが、クロフオオシロエダシャクとタイワンオオシロエダシャク。こっちの方が基本的に黒い。

(クロフオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

 
(タイワンオオシロエダシャク♂)

(同♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

この2種と比べてクロフシロエダシャクは、前翅の横脈紋がより明瞭で、その外側の黒色の小紋からなる外横帯をそなえる。後翅は外縁部と亜外縁部がより小型で、並び方は不規則。
専門用語だらけでワケわからんが、ようするに違いは後翅には黒斑が少なくて白い部分が多い。あと一番わかり易いのが、背中側から見た腹部の地色が黄色いことである。他2種は、ここの地色が白いから容易に区別できる。ただ、ボロ個体だと色褪せするから同定は困難になるかもしれない。
変わった見分け方もあって、灯火採集などの折に白布に静止している時は多くの個体が触角を後ろ向き(背中側)にしている事だ。大概の蛾は静止時には触角を前側か真横にしている。エダシャク亜科に属する蛾も、その例に漏れない。だからコレは例外中の例外の事らしい。但し全ての個体がそうではなく、たまに横向きにしているものもいるようだ。

一応、♀の画像も貼付しておこう。

(クロフシロエダシャク♀)

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

雌雄の違いは♂の触角は繊毛状なのに対し、♀は微毛状。また♂の前翅基部に刻孔があり、中脚の基部と腹部基部側面に一対の黒い毛束があるそうだ。
本文中の横向き画像だけでは心許ないので、参考までに反対側の横向き画像も貼り付けておく。

見ると、厳密には確認できないものの、♂っぽい。また♂には脚に毛束があるとも言うし、それはあるみたいだから♂かなあ…。
触角は繊毛っぽいけど、微毛にも見えなくもない。そもそもが繊毛と微毛の定義って何じゃらホイ❓どこまでが繊毛で、どこからが微毛なのだ❓両者の境界が今イチわからん。まあ、♂で間違いなかろうかとは思うけど。

後回しになってしまったが、主たる種解説をしておく。

【学名】Dilophodes eleganus (Butler,1878)
日本産が原記載亜種で、中国西部、インド、ボルネオ島から、それぞれ別亜種が記載されている。
参考までに付記しておくと、Dilophodes属の基準となるタイプ種は本種で、他に本属に含まれるものはインド北部から1種が知られているのみである。

【開張】35〜48mm
『日本産蛾類標準図鑑』ではそうなっていたが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には39〜43mmとなっている。
因みに今回採集したものを測ると49mmもあった。とゆう事は、もしかして♀❓まあ、どっちだっていいけど。

【分布】
本州、御蔵島(伊豆諸島)、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島、石垣島、西表島で、関東地方より西に多産するそうだ。
(´ε` )チッ、何だ普通種かよ。ガッカリだな。きっと黒いタイプじゃないノーマル型は、知らぬうちに何処かで見ているのだろう。たぶん興味がないから頭の中では厳密には区別されておらず、皆同じに見えているものと思われる。
参考までに書いておくと、以前は北海道も分布地に挙げられていた。しかし確実に分布する地域が見つかっておらず、よって除外されたという経緯があるそうだ。
国外では、台湾、中国、インド、ボルネオ島に分布する。

【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧I類(CR+En)

【成虫の出現期】
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、4E-7E,9Mとなっていた。つまり4月下旬から7月下旬と9月中旬に見られるということだ。しかし『日本産蛾類標準図鑑』には3〜5月と7〜8月となっていた。但し、発生は地域によって多少異なるとも書かれてある。おそらく標準図鑑の方が概ね正しく、一部が9月にも見られるのだろう。ザツいけど(笑)。
尚、2化目の個体は1化目と比べて明らかに小型らしい。見つけたのが1化目で良かったよ。これよか小さかったら、たとえ黒くとも無視だったろう。

 
(註4)『シャイニング』


(出展『映画.com』)

1980年に劇場公開されたホラー映画の金字塔。ホラー映画のみならず、ジャンルを超えて、その後の多くの作品に多大な影響を与えたと言われている。
監督は、巨匠スタンリー・キューブリック。天才キューブリックがホラー映画を撮ると、こうなるんだと感銘を受けたのをよく憶えている。キューブリックは難解だとよく言われるが、この作品は比較的わかり易い方なので猿でも楽しめるだろう。
主役を演じるのは、名優であり、怪優でもあるジャック・ニコルソン。あの鬼気迫る表情が、まさかのノーメイクで演じられていたという伝説が残っている。

この映画、何が怖いかって、先ずは子供の乗る三輪車がホテルの廊下を走るシーンだろう。それを背後から追いかけるローアングルの映像が心臓バクバクものなのだ。
幻のBarのシーンも怖い。ジャックとバーテンダーの交わされる会話は一見普通なのだが、ズレがあって、それが見てる側の動揺を誘う。そして、そこには何とも言えない静謐な緊張感が漂っており、表面的な驚かし系の怖さとはまた違ったうすら寒いような怖さがあるのだ。
勿論、徐々に気が狂ってゆくジャック・ニコルソンも怖い。あまりにも怖すぎて、それが突き抜けてしまい、笑っちゃうくらいだ。奥さんの絶叫する顔も恐ろしい。けど一番怖いのは、何といっても双子の女の子だ。アレにはマジで心臓が止まりそうになった。

言い忘れたが、原作はこれまた巨匠であるスティーブン・キングだ。但し小説と映画とでは内容が異なり、キューブリックによって大幅にストーリーが改変されている。キングはコレに激怒し、事あるごとに、この映画とキューブリックを執拗に攻撃し続けている。まあ、全然別な話にすり替えられたようなもんだから、キングが怒るのも理解できる。キングが小説で伝えたかった事が完全に無視されてるからね。
尚、小説の方も読んだけど面白かった。内容は映画と比べて、もっとスピリチュアルな話で、超能力を題材にしたものだったという記憶がある。そうゆう意味では小説の方が奥深い内容ではある。だいぶ昔に読んだので、間違ってたらゴメンナサイだけど。

 
(註5)アマミヤマシギ

(出展『おきなわカエル商会BLOG』)

全長約40cm程のシギ科の鳥で、全身は茶色、頭部に黒い横斑をもつ太ったシギである。日本の固有種で、奄美群島と沖縄諸島にのみ分布する。だが繁殖が確認されているのは奄美群島だけで、同島で繁殖したものの一部が沖縄に渡るのではないかと推測されている。
成熟した常緑広葉樹林に生息し、冬の終わりから春にかけて地上で営巣する。活動は主に夜間で、ミミズなどを捕食する。個体数に関するデータは乏しいが、1990年代になって激減している事が推察され、特に名瀬や龍郷町ではほとんど見られなくなったという。減少要因として、森林の伐採、ネコやマングースなどの外来種による捕食が指摘されている。種の保存法により、1993年に国内希少野生動植物種に指定されており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種II類(VU)に指定されている。

 
ー参考文献ー
◆『日本産蛾類標準図鑑1』
◆『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』

(インターネット)
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『蛾色灯』
◆『服部貴照の備忘録 蛾類写真コレクション』
◆『昆虫ある記』
◆『高知の自然 Nature Column In Kochi』
◆『DearLep圖錄檢索』
◆ Wikipedia
◆『鯉太朗のお散歩日記Ⅱ』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『林弥栄「有用樹木図鑑(材木編)」
◆『葉と枝による樹木図鑑』
◆『plantidentifier.ec.ne.jp』
◆『エムカクon Twitter』
◆『怪獣ブログ』
◆『映画.com』
◆『おきなわカエル商会BLOG』

 

奄美迷走物語 其の14

 

第14話『奄美迷走ドン底物語』前編

 
2021年 3月29日(夜編)

『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』
『\(◎o◎)/マジー❗』

この期に及んで約束反故かよ。(´ω`)そりゃないよ。
口には出さなかったが、そう思った。若い頃のオラなら『おどれ、キンタマついとんかい❗❗』とか凄んでたかもね(笑)。
きっと今時の若者の間では、今や「男の約束」とかって言葉は死語なんだろね。昔は男同士の約束はそう簡単には破れなかったものだ。男の約束は絶対だとガキの頃から教えられてきたからね。破ったら男としての価値がダダ下がりになった。彼女との約束よりも男同士の約束の方が重要視されていたりしてたのだ。そもそもが幼少の頃からオカンとかに『アンタ、男でしょう❗泣きなさんなー❗❗』と言われ続けてきたのだ。他の家庭でも大体そんな感じだった。男は人前で泣いてはならない時代でもあったのだ。とはいえ、ワシらの世代が成人した前後くらいから泣く男が急増したんだけどもね。いかんいかん、いつもながらの事だが完全に脱線マンじゃよ。m(_ _)mすまぬー。
まあ、昔とは時代が違うからね。今の若者には理解不能のルールだから仕方ないよね。怒ることじゃない。とにかく、彼は断る理由を言わなかったし、コチラも訊かなかった。大方、行くのが面倒くさくなったのだろう。それは理解できる。湯湾岳までは遠いのだ。だから『マジー❗❓』とは言ったが、それ以上は何も言えなかったのだ。
まあ言ったところでどうにかなるとも思わなかったし、ごちゃごちゃ文句を垂れれば垂れるほどカッコ悪いだけだ。また、どれだけ巧妙に説得したところで、Sくんみたいなタイプは意志が固そうだから説得するだけ時間の無駄だとも感じた。
そもそも東京の人は情が薄いもんね。十年住んだから身に沁みて知っているのだ。いや、そうゆう言い方はヨロシクないな。単に大阪が他よか情を重視する土地柄だから、そう思ってしまうのだろう。それにドライにハッキリと物事を言うのは悪い事ではないからね。あっ、付け加えておくと、もちろん東京時代にも情に厚い人は結構いました。薄いと行ったのは、あくまでも相対的にって事ね。

(-_-;)むぅ…。やっと良い流れになったかと思ったら、フタオチョウの♀を逃して再び悪い流れに逆戻り。その後、アカボシは振り逃すし、「蝶屋(てふや)」のブログの内容(註1)が眉唾濃厚だと判明するという最悪の流れになってきてる。でも今さら湯湾岳に行かないワケにはいかない。どうしてもアマミキシタバ(註2)を採らねばならぬのだ。その可能性が一番高そうなのが湯湾岳なのである。たとえSくんの車と強力なライトがなくても行くっきゃない。条件は厳しくなるが、原チャリで行って、なんちゃってライトで勝負するしかあるまい。
正直、苦難が待ってるのが解っているのに立ち向かうってのはキツいよなあ…。

呪わしくも、腹ごしらえに出発前に急いで食ったカップ麺まで今イチだった。

 

 
マルちゃんの『ごつ盛 塩担々麺』。スーパーマーケットのタイヨーで特売の98円で売っていたものだ。

 

(出展『グルコミ』)

 
今まで書いてこなかったが、食いもんやお茶はこのスーパーかコンビニ(ファミマ)で買う頻度が圧倒的に多かった。どちらも幹線道路沿いにあり、知名瀬方面に行く時はタイヨーへ、名瀬方面に行く時はファミマを利用していた。

まだ残っていたニラを使い切るためにブチ込んでやった。

 

 
けど、たいして旨くない。何か今を象徴しているようで泣きたくなってくる。この先、ロクな事がなさそうなことを暗示しているようではないか。前途多難だ。

奄美大島最高峰の湯湾岳のある宇検村に行くには大きく2つのルートがある。

 

(出展『ねりやかなや』)


(画像はピンチアウトすると拡大できます。)

 
朝仁からそのまま北側の道路を走るルートと朝仁から一旦名瀬に戻ってから南側を走るルートだ。どちらも距離的には同じようなものだから(註3)、どちらを選択するかは悩むところだ。北側ルートは海岸線の道で曲がりくねっており、アップダウンも多いから疲れる。一方、内陸を通る南側のルートはアップダウンが少なくて直線が多いがトンネルだらけだ。しかも長いトンネルが多いから、これまた疲れる。精神的にキツいのだ。尚、北側のルートは戸内までしか行った事しかなく、南側のルートは西仲間までしか行ったことがない。つまり、どちらもルート半ばくらい迄であり、その先は未知の世界なのだ。時間的な余裕はないだけに、ここは思案のしどころである。できれば日没前までに到着しておきたいのだ。
朝に宿のオジーとオネェーに、どっちが時間的に早いかと訊いたら、どちらも同じくらいで1時間から1時間半くらいだと言ってた。しかし二人ともあえて言うと北ルートかなと言う答えだった。地元の人がそう言うんだから、ここは素直に北側ルートを選択すべしという結論に至った。悪い流れになってるが、気持ちを切り替えて気合いを入れていこう。

午後5時15分。
大きく息を吐き、スロットルをグッと回した。

戸円までは順調だった。海沿いを走るのは気持ちがいいし、気分はアゲアゲ⤴️の御機嫌だった。この調子でいこう。良い流れになってきたんじゃないのー❓
そして名音を過ぎたところで標識が目に入った。そこには「←奄美フォレストポリス・湯湾岳」とあった。どうやら左の林道を走れば、ショートカットになりそうだ。日没前までに湯湾岳展望台に着けるかどうかはギリギリだろうと思っていたので、渡りに船だ。ラッキ〜(◍•ᴗ•◍)❤、迷わず林道に突っ込んでゆく。

20分程走ったところで、段々不安になってきた。道は次第に荒れ始め、ドンドンうら寂しくなるし、道標が出てこないのである。そんな折、前から軽トラックが走ってきた。慌てて止めて道を尋ねる。
『この道って湯湾岳に行きますか❓』
『行くよ。でも湯湾岳には行けないよー』
一瞬、オジーの野郎、この期に及んでナゾナゾをフッ掛けてきたのか❓と思った。
(?_?)はあ❓キョトン顔になる。
『✦§∇♪€#○÷<崖崩れ■〆☆¶♬∞』島言葉なので何言ってるのかよくワカンなかったが、辛うじて崖崩れという言葉を拾えた。
『崖崩れで行けないって事ですか❓』
オジーはそれに対して再び島言葉でまくし立てた。意味不明だが、ニュアンスで通れないとゆうことは理解できた。
(ノ`Д´)ノ彡┻━┻ガッデーム❗
完全にやっちまったな。今から引き返すとなれば、時間的ロスは40〜50分くらいになる。どう考えても日没までには着けそうにない。

幹線道路に戻るが、既に日没が近づいていた。
午後6:25。そして志戸勘で壮絶な夕暮れになった。

 

 
怖いほどに美しい。
そして、前途を不安にさせる空だ。

程なく山道になった。きっと海岸線の地形が険しくて道路が作れず、山越えになったのだろう。しかも本格的な山越えのようだ。グングンと高度が上がってゆく。
登りきる手前で対面交通の信号で止まった。奄美って崖崩れが多いんだよなあ…、そう思った時に急に違和感を覚えた。
(゜o゜;レレレ❗❓、なーい❗
背中に袈裟がけで背負っていた筈の長竿がないのである。
おそらく夕陽の写真を撮る時に邪魔なので下にでも置いたのだろう。そして慌てていたので、そのまま地面に置きっぱなしにして出てしまったのだ。
仰天して山を下りる。更なるロスに心が折れそうになるが、そんな事よりも誰かに持って帰られる事の方が遥かに心配だった。もしも失くしたら、ただでさえ弱い戦闘能力が大幅に削がれる。となれば、惨敗色がいよいよもって濃厚になる。

(☆▽☆)あった❗❗
夕闇の中、慌てて駆け寄り、拾いあげる。
辛うじて首の皮一枚で繋がった。とはいえ、又しても大きな時間ロスである。行き場のない感情に深い溜息をつく。余程このまま帰ってやろうかとも思った。でも敵前逃亡、戦(いくさ)もせずにおめおめと帰るのは末代までの恥だ。たとえ負け戦であろうとも戦って散った方が、まだしも魂は救われる。

再び、山を登り返す。
しかし登りきっても下りにはならず、尚も山パートは続く。
そして、気がついたときには辺りは完全に闇の世界に支配されていた。心細いくらいに真っ暗だ。対向車も全くない。
いつ終わるか、いつ終わるかと思いながらスロットを開け続けるが、山道は延々と続いた。不安と焦燥で心がズタズタになってゆく。

やっと海岸に出たのは30分以上あとであった。こんなに遠いとは思いもよらなかった。ところでこの道って本当に宇検村に向かっているのか❓もしかしてタヌキ…否、奄美の妖怪ケンムン(註4)に化かされていて、永久に着けないんじゃないかとさえ思えてきた。
集中力が切れかけていたし、自分が今何処を走ってるのかさえも分からなくなっていたので、トンネルを抜けたところでバイクを停めた。
表示を見ると、生勝トンネルとなっていた。
地図で場所を確認する。宇検村までは近い。遠目に、らしき町の灯りも見える。
しかし、そこからが思った以上に遠かった。道は海岸線に沿ってウネウネと続くので、宇検村の町の灯りが全然近づいてこないのだ。しかも街灯が殆どなくて真っ暗けなので、心細さで気力が砂のように削り取られてゆく。

30分程かかって、やっとこさ宇検村に入った。さあ、あとは湯湾岳の展望台まで登るだけだ。
だが、今度は展望台に繋がる道が見つからない。そして道を尋ねたくとも人っ子一人いない。またまたの想定外の連続に💧涙チョチョギレそうになる。
入る道が見つからないまま、村を通り抜ける寸前で犬の散歩をしている御夫婦を見つけた。藁をも掴む気持ちで道を訊く。
そこで驚愕の事実が伝えられる。
『展望台へ行く道は崖崩れで通れないよ。』
ヽ((◎д◎))ゝマジすか❓マジすか❓マジスカポリス❗
冗談を言ってる場合ではない。やっとの事でここまでやって来たのに、その苦労が全て水の泡になってしまうではないか。もう死にたいよ。
呆然としていると、お姉さんが少し考えてから言った。
『でも別なルートでも上がれた筈』
お姉さん曰く、遠回りだけど、この先に上がれる道が他にあるらしい。但し、そっちの道も土砂崩れで行けるかどうかの保証はないとの事。

道の入り方を詳しく訊き、礼を言って走り出す。
これこそ首の皮一枚である。運はまだある。どうなるかは分からないが、その道に賭けよう。

街灯が殆どなくて暗いので見つけられるかどうか不安だったが、わりと簡単に見つかった。この道が本当にそのルートなのかはワカンナイけど…、行くっきゃない。

最初のうちは走りやすい広めの道だったが、そのうち森深い林道になって、深山幽谷の趣きを呈してきた。道は落葉だらけで走りにくい。
途中、黒いものが道を横切って振り向いた。
特別天然記念物のアマミノクロウサギちゃん(註5)だ。奄美大島来訪4度目にして初めてお目にかかった。
しかし感動は薄い。それどころではないのだ。一刻も早く展望台に着いて灯火採集をしなければならんのだ。
されど、この道も長かった。走っても走っても辿り着かないのである。40分近く走って漸くらしき場所に差し掛かった。

しかし、そこには🚧立入禁止のバリケードが並んでいた。
(ㆁωㆁ)ぽてちーん。死んだ。

                              つづく

 
追伸
一回で終わる予定が、書いてるうちに当時の事が甦ってきて長くなった。なので2回に分けます。

 
(註1)「蝶屋(てふや)」のブログの内容
フタオチョウは、夏型はフルーツトラップに誘引されるが、春型は寄って来ないとされている。しかしブログには春型も寄って来るような事が書いてあった。稀に寄って来る事もあるのかもしれないが、基本的にはアカボシゴマダラも含めて来ないと思っていた方がいい。

 
(註2)アマミキシタバ

(出展『世界のカトカラ』)

学名 Catocala macula
ヤガ科カトカラ属の蛾で、現在のところ奄美大島、徳之島、沖縄本島、屋久島、鹿児島本土から記録がある

 
(註3)どちらも距離的には同じようなものだから
調べてみたら、南側ルートは48.4km。北側ルートが58.9kmであった。何と10kmも差があるじゃないか。おいおいである。南の島の人が言うことは、てーげー(テキトー)だという事を忘れてたよ。

 
(註4)ケンムン
奄美大島のカッパに似た伝説の妖怪。詳細は第4話『亜熱帯の夜は恐ろしい』に書いた。

 
(註5)アマミノクロウサギちゃん

(出展『あまみっけ』)

学名 Pentalagus furnessi
ウサギの1種で、奄美大島と徳之島だけに分布する。普通のウサギと比べて耳や鼻骨が短く、足も短い。この短い後肢は急峻な山を登り降りするのに適している。原始的なウサギと考えられており、メキシコウサギやアカウサギと共にムカシウサギ亜科に属し、「生きた化石」的な存在である。1921年(大正10年)に動物では初めて国の天然記念物に指定された。また1963年(昭和38)には特別天然記念物にも指定されている。夜行性で岩の下や地中に穴を掘って棲む。10~11月と4~5月の年2回の繁殖期があり、通常は1頭、稀に2頭の子供を産む。生息数は2000〜4800頭と推定されるが、森林破壊などで絶滅が心配されている。但し、最近は増加傾向にあるという。

 

奄美迷走物語 其の13

 
  第13話『君を待つ昼下り』

 
2021年 3月29日

天気はすっかり回復して、朝から青空が広がっている。
今日はSくんと一緒に宿を出発する。昨日、彼が根瀬部のポイントを教えて欲しいと言ってきたので、直接御案内申し上げる事にしたのだ。昨日は灯火採集に連れてってくれて、オマケにハグルマヤママユまで採らしてくれたし、今晩は湯湾岳の灯火採集にまで連れてってくれるのだ。そんなのお易い御用だ。
フタオチョウとアカボシゴマダラ、イワカワシジミ、ナガサキアゲハ(註1)のポイントを回って、細かい情報まで丁寧に伝えてゆく。
えっ、ナガサキアゲハ❓と思ったが、よくよく考えてみれば思い当たるフシがないでもない。ナガサキアゲハといえば無尾が基本だが、奄美大島では稀に有尾型の♀が採れるのだ。

 
【ナガサキアゲハ♀ 有尾型】

(2017.7 台湾南投県仁愛鄕)

 
彼は積極的に飼育もするようだから、♀を捕えて採卵させるつもりなのだろう。ちなみに根瀬部はナガサキアゲハが多くて、過去に自分も此処で有尾型の♀を採ったことがある。
たぶん日本で継続的に有尾型が毎年採られているのは奄美大島くらいではないかと思う。沖縄諸島や九州本土でも採れてはいるが、記録が最も多いのは奄美みたいだからね。

ひと通り案内したところで、Sくんは『じゃあ、行きます。』と言ってワシを残してサッサと移動していった。えっ、もう行くの❓と思ったくらいにアッサリだった。きっと人とツルむのがイヤなタイプなんだろね。心の底の何処かでは、彼は8mだか9mだかの長竿を持っているので、先ずはそれで木に居座っているフタオを採って戴いて、次に占有する奴を長竿を借りて採ろうだなんて薄っすら思ってた。だってワシの6.3mの竿では絶望的に届かないんだもーん。

 

(右端の梢、高さ約8〜9mにフタオが静止している)

 
でもそんな事、言えなかった。そうゆう雰囲気ではなかったし、セコい作戦だから恥ずかしくて口には出せなかったのだ。
まあ、此処はフタオの個体数が少ないし、こんな狭いポイントに2人いても仕方がないからね。彼的には、その辺を慮って移動してくれたのだろう。けどなあ…、そんな事は望んでなかった。正直なところ、彼にはこのポイントにそのまま入って貰っても構わないとさえ思っていたのだ。だって物理的に網が届かないんだから、此処に一人で居てもしようがないんである。なので知名瀬か小宿でポイントを探そうとも考えていたのだ。

ドラマでも現実でもそうなんだけど、いつも立ち去る側が美しい。ただ立ち去るだけなのに、どことなく優位性みたいなものさえ感じる。一方、取り残されて見送る方は何であんなにも美しくないんだろう。惨めでさえある。むしろ残る方が勇気がいるし、大変だったりするのにね。それって納得いかないよなあ…。そう思いつつ、取り残された男はとりあえず煙草に火を点ける。
はて扠て、どうしたものか❓…。
一昨日、あかざき公園では見ることさえできずに惨敗したからパスだし、蒲生崎は今からでは遠過ぎる。知名瀬も改めて考えてみると問題ありだ。有名なポイントだから、もう既に人が入っていて良いポイントは占領されている可能性が高いし、それにアソコはブヨだらけなのだ。折角やっとこさあの強い痒みと腫れが消えたばかりなのに、またむざむざボコられに行くのは気が進まない。あと、小宿は環境があまり良くないのでポイント探しに手間取りそうだし、探索自体が空振りに終わってしまう可能性だってあるから惨敗率は高そうだ。
(-_- )ノ⌒┫ ┻ ┣ ┳、考えるのヤーメタ。
移動すんのもメンドクセーし、思えばこの地でフタオに屈辱を与えられ続けているのだ。ならばリベンジだ。此処でやられた分は此処でやり返す❗

午前11時半前。
フタオが飛び始めた。でもやはり活動は鈍い。飛んでも梢から離れず、直ぐに高い所に止まって憩(やす)みやがる。でも前に来た時よりかは飛ぶ頻度は少しはマシだ。たまに遠出もする。
飛行コースを見ていると、1箇所だけ高度がやや下がるところがある。通常は8mくらいの高さを飛んでいるのだが、或るゾーンだけが木が比較的低くて、5mくらいの高さを飛ぶのだ。5mなら自分の網でも届く。しかし、そこを通るのは一瞬だ。でも他に妙案が浮かばないんだから、その一瞬のチャンスに賭けるしかない。厳しい局面だが、やるっきゃない。

もう一度、飛ぶコースをじっくりと観察する。
一発で仕留めねば、ゲームセットだ。失敗したら二度とチャンスは巡ってはこないだろう。ぞんざいに網を振るワケにはいかない。
時計を見ると、正午を少し過ぎていた。キミ待つ昼下りだ。
さあ、昼下りの情事といこうじゃないか。手ゴメにしてやる。ケダモノのようにその操をズダズタに凌辱してやるわい❗
Σ(゚∀゚ノ)ノキャー、やめておくんなましー。そんな御無体な。旦那様、後生でございますぅー。
ψ(`∇´)ψギャハハハハハー、泣くがよい、喚けばよい。どれだけ騒ごうが誰も助けに来ぬわー。(ㆁωㆁ)デヘ、デヘヘへへへー。
(/_;)/あれぇ〜〜〜

何言ってんだ俺❓翻弄され続けて頭がオカシクなってるに違いない。これじゃ、あまりにも恋焦がれ過ぎてストーカー男と化した狂人サイコ野郎と同じじゃないか。
けど、もはや髪振り乱した狂人になった方がまだしもマシかもしれない。それくらい精神的ダークサイドに身をやつさねば採れない状況下にあるのだ。それに、もし今日採れなければ、Sくんにヘタレと思われるだろう。だから何としてでも採らねばならぬ。
この際、もう何だっていい。頼めるものならば、ゼウスでもマリア様でも悪魔だって構わない。魂を売ってでも採りたい。それが本音だ。

フタオが根城にしている木から約30m離れた位置に陣取り、木を凝視する。此処ならコッチに飛んで来るまでに心の準備ができる。

暫し、ひりついた時間が流れる。
(ノ゚0゚)ノ飛んだ❗
こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い、こっち来い。こっち来い。こっちに来ーい。
コチラに飛んで来るのを強く願う。フタオはモノぐさで、オオムラサキやスミナガシみたいに敏感に反応して他の蝶を追いかけ回す頻度が少ないのだ。チャンスはそう多くはないだろう。
案の定、梢で小さく旋回している。腹立たしい野郎だ。無茶苦茶ムカついてきた。何でこんな目に合い続けなければならんのだ。嗜虐趣味などないから全然楽しくない。根がドS男には虫捕りは向かんわい。

彼が突然、プイという感じで気まぐれに旋回をやめて梢を離れた。そして、コチラに向かって飛んで来ようとしている。
(-_-メ)ドツキ回したる❗
怒りという名の負のエネルギーで全身が充たされる。

頭上を通るのは一瞬だ。その瞬間に全身全霊を注ごう。
来たっ❗❗
どりゃあ〜( ̄皿 ̄)ノ、ナメんなよワレ❗

渾身のフルスイングで網を蝶の背後から💥一閃する。

ジャストミート。スローモーションでハッキリと網に吸い込まれてゆくのが見えた。
すかさず逃げないように網先を捻り、右に流れた体を左に捻り返して大胆に手を離す。その動きは、さしづめバットスイングのフォロースルーだ。その流れのままに向こう側へと倒れてゆく網を追い掛けて走りだす。網が地面に向かってゆっくりと落ちてゆく。コチラも映像はスローモーションだ。気分はライトスタンドに吸い込まれてゆく白球を走りながら見送る左強打者だ。

地面に落ちた網にマッハで駆け寄り、中を確認する。
(☆▽☆)いるっ❗
完品のキレイな個体だ。でも、もしここで取り込みに失敗して逃しでもしたら最悪だ。万死に値する。暴れて羽をボロボロにさせてしまっても同罪だ。
幸い彼は何が起こったのかワカラナイといった体で、暴れる事なく網の底でジッとしている。奴が正気になる前に迅速に〆ねばならぬ。一切の躊躇を廃して胸をブチッと上から押した。

\(`Д´)ノしゃあー❗❗
天に向かって両腕を突き上げ、雄叫びを上げる。
勝ったぜ、この野郎❗ そう思った次の瞬間、急に力が抜けてヘナヘナとその場に膝を折ってヘタり込んだ。
ジーザス、マリア様、有り難う。あと、悪魔も。

網から取り出して、じっくりと見る。
紛う事なきフタオチョウだ。(☆▽☆)カッケー❗
まだ命の熾火のようなものが残っていて、その脈動が指先にジンジン伝わってくる。殺(あや)めるのは申し訳ないが、コレこそが狩りの醍醐味であり、エクスタシーだ。背中を快感がゾワゾワと這い登ってくる。

ところでフタオの♂って、こんなに大きかったっけ❓
沖縄で見た時よりも明らかに迫力があって、大きいような気がする。

 
【Polyula weismamnni♂】

 
尾状突起が短いね。近縁種の中では、この尾突が最も短いのが日本のフタオチョウの特徴なのだ。

何だか色があまりキレイに撮れていないし、大きさも分かりずらいので、手のひらの上に乗せて撮り直しー。

 

 
改めて思う。やはり自分が持っていたイメージよりも大きい。
思えば、初めて沖縄本島でトラップに止まっている夏型の♂を見た時は、インドシナ半島ものと比べてあまりにも小さかったので拍子抜けしたんだよね。また、台湾のモノよりも明らかに大きい。夏型しか見てないけどさ。

 
【Polyula eudamippus タイリクフタオチョウ♂】

(2011.4月 ラオス タボック)

 
【Polyula eudamippus formosana♂】

(2016.7月 台湾南投県仁愛郷)

 
だが今はそんなのどっちだっていい。採れたという事実さえあれば、それで満足だ。しかも大きな個体なんだから文句のありようもない。

後でSくんに訊いたら、やはり春型の方が夏型よりも大きいと言ってた(註2)。けどそんな事、どの図鑑でも一切触れられてないぞー。

昨日のハグルマヤママユのゲットあたりから、やっと流れが良くなってきた。この調子で♀も仕留めて、アカボシゴマダラも落としてやろう。そして夜にはアマミキシタバまでも我が手におさめて、今日中に全てのカタをつけてやろうじゃないか。

2頭目を待っていると、♂のフタオが根城にしている木と自分の立っている間にあるヤエヤマネコノチチの木に、突然♀がふわりと飛んで来た。たぶん産卵にやって来たのだろうが、全くの想定外な出来事であり、そのあまりにも無垢なる無警戒っぷりに刹那だがポカンとする。
やっぱ♀は♂よりも遥かにデカい。存在感も半端ない。次の瞬間には血が逆流するくらいにアドレナリンが沸騰し、心がワチャワチャになる。より欲しいのはオスよりもメスなのだ。

  
【ヤエヤマネコノチチ】


(まさにこの木であった)

 
驚かせないように小走りで距離を詰める。
止まった❗❗
イージーチャンスの到来に心が躍る。コレって完全に流れに乗っかれたんじゃないのー。
だが、近づく手前約5mでフワリと舞い上がった。(-_-;)チッ、気づかれたか❓
しかし飛び方は緩やかなままで、特に警戒されたという感じはしない。位置を変えて再び止まろうとしているように見える。
けど止まりそうで止まらない。真下まで行き、網を振るか振らざるまいか迷う。今振り抜けば採れそうだ。でも止まってくれれば確実に採れる。そう思って数秒間だが逡巡した。ダサい男の典型だ。この迷いが勝負を分けた。やがて彼女はふらふらと叢の中に潜り込んでいき、そのまま向こう側へと突き抜けた。
ヽ((◎д◎))ゝゲロリンコ、向こう側に行ってしまえば、なす術がない。ここいらは生け垣が連なっており、直に向こう側へは行けないのだ。

(-_-;)やっちまったな…。
今回の旅では全般的に判断が頗(すこぶ)る鈍い。ここ数年は蛾ばっか追い掛けてるから、感覚がズレているのかもしれない。スポーツでも何でもそうだけど、体を動かすものはブランクがあくと、感覚を取り戻すまでに結構時間がかかる。咄嗟の時は体が勝手に動いてくれるのだが、時間に少しでも余裕があると色々考えてしまうのだ。それが躊躇に繋がり、動きもぎこちなくなる。
昔は、なあーんも考えずに網を振れたのに何で❓きっと経験と知識がかえって邪魔してるんだろう。
それに見つける速度も確実に落ちている。昔は周辺視野がもっと広くて、何かが動いた気配だけでも瞬時に反応できた。見なくとも何かが飛んだら、空気の微妙な震えを感知したし、地面に影が走っただけでも反応できた。そればかりか反応と同時にもう一歩目が出ていて走り出していたのに…。
昔できてた事が出来なくなるって落ち込むよね。アスリートの蝶屋を自負してきたけど、これじゃ看板を下ろさざるおえない。もはや二流の人だ。このブログ内で度々「まあまあ天才」とノタまってきたが、この体たらくでは半分ジョークの軽口にもならない。そこそこの結果を残せてこそ「まあまあ天才」という軽口が叩けるのだ。もう封印だな。

自らチャンスを潰すと、当然流れは悪くなる。その後、♀どころか♂さえも姿を見せなくなった。ぽてちーん(ㆁωㆁ)

2時半になったので、あかざき公園へ向かう。
取り敢えずはフタオは採れたんだから、気を取り直してアカボシゴマダラを狙おう。

午後3時。駐車場にバイクを停めて下に降りてゆく。
この先でSくんと待ち合わせている。昨日、彼と話していて分かったのだが、アカボシの有名ポイントはこの下の東屋付近らしい。まさかそんなところにポイントがあるとはね。完全に盲点だったよ。上からは見えない場所だし、山頂や尾根筋が♂のテリトリーを張る場所だとばかり思ってたからね。そげな下にポイントがあるとは考えもしなかった。
どうりで知名瀬で会った爺さんにフタオのポイントを訊いても話が噛み合わなかったワケだ。にしても、だとしたら爺さんの説明はクソだな。もっと解りやすい説明はいくらでも出来た筈だろうに。虫屋は言語能力が足らない人が多いとは知ってはいたが、チ○カスだ。あっ、ゴメン。言い過ぎた。

 
【アカボシゴマダラ】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
子供の遊戯施設があるとこまで降りてくると、網を持って立っている若者の背中が見えた。その先に見える木立ちは全般的に低い。なるほどね。となると当然の如く止まる位置も低いから採りやすいってワケだ。

フランクに話かける。
若者曰く、まだアカボシは姿を見せていないそうだ。周りに東屋らしき建物がないので訊いてみたら、この先のもっと奥の方に建っているらしい。でも既に人が陣取っているという。そっか…得心がいったよ。だから仕方なく此処で張ってるんだね。
ならば、そっちに行くのは後回しだ。若者から吸血鬼のように情報を吸い取ろう(笑)。ゴメン、嘘です。普通に訊きました。

自己紹介がてら名前を名乗ると、
『えっ❗❓、もしかして、あのブログを書いてる人ですか❓』
という予想外の言葉が返ってきた。
『あー、そうだけど…。』と目を逸らしてボソボソと答える。恥ずかしかったのだ。
それを意に介さず、彼は
『いつも楽しく読ませて戴いてます❗』
と朗らかに言う。
(☉。☉)ありゃあー、驚き桃の木、山椒の木。ここにもワシの糞ブログなんぞを読んでいる奇特な人がいるのか…。おったまげーだよ。恥の垂れ流しのような低能文章が読まれているのかと思うと、誠にもって照れ恥ずかしい。穴があったら入りたいという言葉があるが、ホント、穴があったら入りたいような気分だ。そして穴の底で膝小僧を抱いてずっと座っていたいよ。

彼の話によると、東屋で陣取っているのは蝶屋の間では有名なKさんらしい。
Kさんは東京を拠点とする蝶の標本商で『蝶屋(てふや)』という飲食店(スナック?)も営まれており、そこで標本も売られている。またガイドでもあり、国内外の採集ツアーも頻繁に開催されていて、採集マップも販売されている方だ。マスコミなんかには「蝶採り名人」と紹介されている。ブログもやっておられ、そのアクセス数は業界ではトップクラスではないかと思われる。
だが、駆け出しの頃に採集マップを買った事があるけれど、全然役に立たなかった。今回もブログの記事に完全に騙された形になっている。春にもトラップに来るような事が書いてあったが、全く来ない。トラップで採れると思ってたから6.3mの長竿しか持ってこなかったのだ。お陰で大苦戦じゃないか。信じたアンタが馬鹿なのさと言われてしまえば、それまでなんだけどさ。
えー、ここからは率直な意見だが、結果的に悪口になるかもしれない。とはいえ、何とか出来るだけ悪意に引っ張られないよう努めよう。

奥の東屋まで行くと、Kさんが長竿を持って立っておられた。
かなりインパクトのある風貌だったので、ちょっと驚く。白髪のロングヘアで全身黒ずくめなのだ。その特異な出で立ちに、心の中で「戸沢白雲斎かよ❗」とツッコミを入れる。
もっと解りやすく言うと、グラサンをかければ、シェキナベイベェーの内田裕也を彷彿とさせる姿だ。幸いな事に裕也さんみたく狂気性は感じられないけどね。まあ、仙人みたいな風貌だと言っときゃいいか…。

 

(出展『朝日新聞デジタル』)

 
挨拶したと同時くらいにアカボシゴマダラが飛んで来た。
しかし仙人は微動だにしない。見ると、後翅が少し欠けている。さすが名人、早々とそれを見切ったというワケか❓
『翅が少し欠けてますねー。もう何頭か採られましたか❓』
既にいくつか採っているから、欠けているのは無視なのかと思ったのだ。
『1週間前から来ているけど、ボロばっかだよ。10頭くらい採ってキレイなのは1、2頭だけかな。』
(☉。☉)えっ❗❓、と思った。アカボシはまだ出始めたばかりの筈だから、俄には信じられなかった。まず10頭も網に入れたというのが時期的には信じ難い。でも名人なら有り得るかも…という考えが一瞬頭をよぎったが、即座にかき消す。待て待て、最盛期や発生後期でもあるまいし、そのうちの8割もが欠けやボロだなんて有り得んだろう。それに1週間前だとまだ未発生の筈だ。信頼できうる複数の筋からフタオは発生しているが、アカボシは未発生だと聞いていたからだ。延べでの数だとしても多過ぎる。

気を取り直して、ぶら下がっているトラップを指して訊く。
『ところで、トラップを掛けてはりますけど、アカボシとかフタオは来てますか❓』
『ずっと1つも来てないよ。』
(・o・;)えっ❗❓これまた心の中で仰け反った。おいおい、アンタ、ブログにこう書いてたじゃないか。

「1化は2化などが見せるような(道路側の)空間を旋回することも、さらにトラップ周辺を飛翔する姿さえあまりみせない。しかし、トラップを仕掛けて根気よく観察をしていると、トラップの仕掛けてある道路側空間ではなく、枝先の密集する樹木の反対側、裏側から小枝の小さな空間を小刻みに飛翔したり、枝を歩いたりしながらだんだんとトラップに近づいてくる。多少離れた場所から見ていたのではほとんど目にとまらないように。2化以降ではトラップに飛来する個体を確認して観察できるが、1化の場合は個体数も少ないことから、ちょうどこの時期咲き乱れるシ―クワ―サ―やミカンの花に吸蜜に飛来するミカドアゲハやカラスアゲハ、青帯班の広いアオスジアゲハなどを採集していながら、時々トラップを見て回るという観察がベストである。」

けれども「枝先の密集する樹木の反対側、裏側から小枝の小さな空間を小刻みに飛翔する」ことも「枝を歩いたりしながら段々とトラップに近づいてくる」ことも一切なかった。何度試してもトラップには全く興味を示さず、フル無視だったぞ。
いくつかの文献にも春にはトラップには寄って来ないと書いてあるし、Sくんも過去に試してみたが来なかったと言っていたように思う。そして、それを裏付ける証言を最も信頼できる人からも聞いている。
奄美在住の標本商である柊田(ふきた)さんの口から直接、
『春はフタオもアカボシもトラップには来ないよ。』
というキッパリハッキリ発言を聞いているのだ。
柊田さんは奄美に長年住んでおられるから、その発言が最も信憑性が高いのは自明の理だし、また氏はベニモンコノハの論文でも知られるように一流の採集者なのである。奄美のフタオの分布も調べられていて、誰よりも詳しかった。そんな人の観察眼が節穴なワケがない。
ちなみに後でSくんに仙人のコメントを伝えたら「発生初期のこの時期に10頭も採り、しかも8頭までがボロだなんて有り得ない。」と言っていた。彼は奄美に4、5回フタオとアカボシを採りに来ていて、もちろん春にも来ているからね。その発言は信用たりうる。
そもそも最近でこそ温暖化で3月後半にもアカボシがそこそこ採れるようにはなったものの、基本は4月の蝶なのだ。個体数の比較的多い根瀬部や知名瀬でも未だ見ていないから、今が発生の走りなのは間違いないだろう。
そういえば、その会話の中で仙人にイワカワシジミのポイントについて尋ねてみたら、
『知名瀬に沢山いるよ。先日も3〜4人を案内したけど、1日で一人あたり4、5頭は採らしてやったよ。』
とか言ってたなあ…。
1人4〜5頭といえば、全部で12〜20頭だ。個体数が多い年もあるから全く可能性がないワケではないけれど、経験上からそんなに一度に沢山は採れない蝶なだけに、ちょっと信じらんない。しかも1日でその数は疑わざるおえない。知名瀬でイワカワをずっと探していた2人組の爺さん達も2日間探しているが見てないと言ってたし、自分もSくんも知名瀬では1頭たりとも見ていないのだ。仙人御一行が全く採れていないワケではないのだろうが、数を盛ってる可能性を疑いたくなる。となれば、アカボシについても情報を盛ってるんじゃなかろうか❓たとえ名人だとしても、やはり10頭は有り得んだろう。

考えてみれば、そもそも名人のブログの他の記事も全体的にホントかよ❓と思うような記述が多いのである。誰も知らないポイントに案内して、沢山採らしてやった云々と書いてあるのを度々見掛けるが、自分が買った採集マップには沢山いた所なんてない。というか、居るのを殆んど見たことがない。
思い出したけど、関西の標本商のMさんも同じような感想を漏らされていて『そのポイントに全くいないというワケではないから嘘ツキとまでは言えないんだけど、沢山いる所は知る限り1つもないからタチ悪いんだよなあ。』と言ってはったなあ。

生態面についても図鑑にはない独自な事が採集マップやブログに書いてあって、これまたホンマかいな❓と思ったことが何度かある。もしそれが本当ならば、この人、天才だなと思うような目から鱗的な事が書いてあるのだ。
描写がリアルに思える部分もあるから、これまた全くのウソではなさそうなのだが、やはり話を大袈裟に盛ってるような気がする。もしもその衝撃的な生態が事実ならば、とっくに伝播している筈なのに、周知の事実にはなっていない事だらけなのだ。
とはいえ、氏とは初対面だし、その実力や人となりを詳しく知っているワケではない。だから、これらはあくまでも自分の個人的な見解であることを断っておく。なので、間違ってたら謝ります。本当に名人ならば、それに越した事はないのだ。むしろそれを望んでいる。もしもブログの生態面の記述が正しければ、大いに採集の参考になるからね。

仙人は午後4時には若者と帰って行き、一人ぼっちになった。
この時間になってもSくんが来ないので、何かトラブルでもあったのかと心配になってきたが、4時半過ぎに漸く現れた。
フタオは2♂1♀を採ったと言う。
負けとるやないけー(笑)。でも全て翅が欠けてて、完品は無しとの事。まあ、ワシと違って8m以上の長竿を持ってるんだから、そのうち完品も採れんだろう。

喋ってると、アカボシが飛んで来て枝先に止まった。
高さ的に楽勝の位置である。しかし直ぐ飛びそうな気がしたので、慌てて網を振ったらハズした。微妙に間合いがズレてたようだ。位置的にブラインドになってて姿が見えなかったから、えいやとアタリをつけて振ったのがいけんかった。
(´-﹏-`;)あちゃーである。
どう言い訳しようがカッコ悪い事、この上ない。やっぱ調子悪りぃや。Sくんがブラインドになってるのに気づいて、位置を教えようとフォローに入ろうとしてくれてたのにね。申し訳ないよ。

バツが悪いので、誤魔化すように話題を変える。
『ところで、夜間採集の湯湾岳行きの出発は何時にする❓』
 
『やっぱ、行くのやめときます。』

\(◎o◎)/嘘やん❗

                         つづく

 
追伸
えー、今回は何だかベタなドロドロの昼ドラみたいなタイトルになってしまったとです(笑)。借りで暫定的につけたタイトルだったけど、他に良いタイトルが浮かばなかったし、段々気に入ってきたので、そのままにした。

前回から大幅に時間があいたのは、何かと個人的なトラブルがあったからとです。前回の5日後くらいには、ほぼ下書きは書き終わっていたのに、トラブル後は書く気になれずにほったらかしになってたのだ。
あとは名人について書いた部分を削除するかどうかも悩んだといのもある。コンプライアンス的に問題が有りはしないかと考えたのである。名人に対する憎悪の心はないが、個人攻撃と捉えられる可能性は充分にあるからだ。でも自分にとっての事実や感じた事を封じ込めるのも変な話だ。昨今の炎上を恐れて何も言えなくなっている風潮に強い違和感を覚えているしね。それに今後、ワテみたいに名人のブログを読んで、春でもフタオやアカボシがトラップで採れるんだと思い込んで長竿を持ってこない人が出てくるかもしれないとも考えた。ゆえに名人が営まれている店の名前やブログ名を悩んだ揚げ句、あえて伏せることはしなかった。長竿を持ってゆくかどうかは、名人のブログを読んでから各人で判断してもらいたい。
これを読まれた名人は御気分を害す事になるだろうから、それについては申し訳ないとは思ってる。ごめんなさい。しかし今のところ吐いた言葉を撤回するつもりはない。トラップの材料や飛来する時間帯が早朝だとか黄昏時だったりという新たなる事実が見つかりでもすれば、話はまた別だけどね。

ところで、なぜに春にはトラップに寄って来ないのだろう❓
これが全くもって解せない。だって春だけ全くエサを摂らないなんて考えられないからだ。夏と活動量は同じなんだから何かは摂取している筈だ。だが、それに対する推察や解答を聞いたことがない。自分なりに考えても、もっともらしい解が見つからない。たぶん誰も説明できないから、どこにも理由が書いていないのだろう。でも、そのままスルーというのも性格的に見過ごせない。一応、有り得る可能性はさぐっておこう。

①春は餌を摂る時間帯が早朝や黄昏どきである❓
有り得るが、知る限りではフタオが古くから生息する沖縄本島でもそうゆう生態が確認された事はない筈だ。ちなみに沖縄で、夏に日没後にフタオの♂がシークヮーサーの樹液にやって来たのは見たことがある。薄闇みたいな状態だった。そういや早朝6時にトラップにいた♂も見たことがある。但し、昼間に来た頭数の方が圧倒的に多い。いや待てよ。そういや沖縄本島南部では、それまで全くトラップには来なかったのに、午後5時半になって急に何頭も来だしたという事があったな。まだ日没前で辺りは明るかったけどね。という事は、可能性はあるかもしれない。仮にだとしても、何で春だけ朝夕にしか来ないのだ❓夏がそうなら、暑い昼間を避けて朝夕にしか来ないとか説明がまだしもできるけど、春ならば気温的に朝夕にだけ来る理由にはならない。

②春は樹液にしか来ない❓
夏にだけ樹液にもトラップにも来て、春は樹液にだけしか来ない。そんな事って有り得るのか❓だとしたら、全然理由がワカラナイ。夏場はより体力が必要だから、頻繁に餌を摂取せねばならず、あんまし好みじゃないけどトラップにも来るとか❓
考えられなくはないけど、理由としては弱いよね。
尚、図鑑によるアカボシゴマダラが樹液に訪れた木の樹種の記録はスダジイ、サルスベリ。自分は秋にスダジイの他にミカン類の樹液に来たものを何度か見ている。しかし『日本産蝶類標準図鑑』には、樹液での観察例は少ないとあった。補足すると、スダジイの樹液量は3〜4月に多いそうだ。樹液で充分だから、トラップには来ないとか❓
フタオはヒラミレモン(シークヮーサー)、その他のミカン類、イジュ、タブノキ、クヌギでの吸汁記録がある。ちなみに観察例は3〜4月のミカン類を除き、他は全て7〜8月となっていた。自分は夏に沖縄でシークヮーサーの樹液に来たものを数度見ている。
参考までに付け加えておくと、トラップに来た蛾は多数のオオトモエとアケビコノハが1頭のみであった。他は一切来なかったから、もしかしたら春は蝶でも蛾でもトラップにはあまり誘引されないのかもしれない。でも理由がサッパリわからない。

③春は別なものを餌にしている❓
だとしたら真っ先に挙げられるのが花の蜜だろうが、フタオチョウには訪花の観察例がない。ちなみにアカボシゴマダラは夏場にはホルトノキでの訪花&吸蜜の報告例が比較的ある(奄美大島・徳之島以外の大陸亜種の訪花記録は除外する)。さらに調べたら、アオキの花での吸蜜例も見つかった。アオキの花期は春だから、可能性はなくはない。しかし、もしそうならば、もっと観察されていてもいいだろう。
春の腐果での観察例は知る限りない。あったとしてもフルーツトラップと内容はほぼ同じだから、腐果には来て、トラップには来ないなんて事は考えられないだろう。
尚、フタオの訪れた腐果の記録はパパイア、サンゴジュ。図鑑には書いていないが、パイナップルやバナナのトラップには好んで集まる。特にパイナップルは好きなようだ。
アカボシはパパイア、スモモ、イチジクの記録がある。とはいえ、スモモ、イチジクは夏場に熟すから除外してもいいだろう。パパイアは年中出荷され、沖縄では春の出荷量が比較的多いようだ。
フタオは獣糞、人糞、動物の死体に集まることも知られているが、そこに季節との関連性はないだろう。そもそも春だけ糞しまくる動物や野糞する人なんていないだろう。春だけ異常に死体が多いなんて事も考えられない。
残るはアブラムシの分泌物だ。アカボシに観察例がある。もしかして春はアブラムシの分泌物しか摂らなかったりして…。けど、何で❓アブラムシが特に春に分泌物を出すとか❓
参考までに書いておくと、Wikipediaのアブラムシの項には以下のような記述があった。
「春から夏にかけてはX染色体を2本持つ雌が卵胎生単為生殖により、自分と全く同じ、しかも既に胎内に子を宿している雌を産む。これにより短期間で爆発的にその数を増やし、宿主上に大きなコロニーを形成する。」
「南方系の種には広域移動を行うものも知られ、主に4月から6月に東南アジア方面から気流に乗って飛来し、野菜や果樹の新芽の茎上や葉の表面・裏面に現れ始め…」。
これにより、春にはアブラムシの個体数が多い事が伺える。アカボシには有り得るかもしれないね。

他に両種には地面での吸水行動というのもあるが、厳密的にはエネルギー補給の餌とは言い難いので除外する。だいたい吸水には♂しか来ないしね。何で♂しか来ないかというと、ザックリ言うと♂は交尾をするために精巣を成熟させねばならない。それに必要な物質を水から得ているらしい。

 
(註1)ナガサキアゲハ

(出展『Wikipedia』上が♀、下が♂で、おそらく本州産。)

学名 Papilio memnon
日本産は亜種”ssp.thunbergii”とされる。
この亜種名はシーボルトよりも前に日本にやって来て、我が国の植物学の基礎を築いたカール・ツンベルクに対して献名されたものだ。また和名はシーボルトが長崎で最初に採集したことに由来する。

開張110〜120mm内外にもなり、オオゴマダラやモンキアゲハと並ぶ日本最大級の大型蝶。
南方系の種で分布は広く、西は北インドからインドシナ半島、インドネシア島嶼、中国南部、台湾を経て日本にまで達する。
日本国内での分布は1930年代辺りまでは九州以南から南西諸島に掛けてであったが、1940年代に入って山口県西部や高知県南部に分布を拡大。1960年代には淡路島へと北上し、21世紀初頭には福井県や神奈川県西部での越冬が確認された。そして近年では更に分布を拡げ、今や東北地方でも成虫の姿が確認されているという。こうした分布の変遷から、本種は地球温暖化の象徴として取り上げられることも多い。
尚、北に行けば行くほど♀の白紋は減退し、反対に南へ行けば行くほど白くなる傾向がある。その頂点だったのが、今や絶滅して久しい西表島の幻の白いナガサキアゲハだ。確か反町さんが120万円で売れたとか言ってたけど、ホントかね❓
それはさておき、残っている標本は極めて貴重なものだろう。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

たぶん世界一白いナガサキアゲハなんじゃなかろうか。
沖縄産もかなり白いが、目じゃないくらいに白い。きっとまだ採れていた時代には「白い貴婦人」とか何とか最大級の賛辞を浴びていたのだろう。そういや沖縄本島のナガサキアゲハを、より白いの掛け合わせて続けて西表島なみに白いナガサキアゲハを作った人がいるという噂を聞いたことがあるけど、あれって本当の話なのかな❓

尚、八重山諸島では稀で、台湾等から飛来したものが一時的に発生するのではないかと云う説がある。自分もその説に賛同する。
で、その台湾では再び黒くなり始める(だから西表島以外の八重山諸島産は白くない)。


(2017.6.20 台湾南投県仁愛鄕)

下翅は白いが、前翅は黒い。
日本では上のような尾っぽのない♀がノーマルタイプ(無尾型)で、有尾型は極めて稀。台湾でも稀だが、日本よりも遥かに見る機会は多い。また極めて稀だが、他に短尾型という両者の中間的な型も存在する。

【短尾型♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

参考までに付け加えておくと、遺伝形式は有尾型が優性遺伝、無尾型が劣性遺伝だという事が判明している。

何だか自分の標本画像がないのもなあ…。
取り敢えず、超久し振りに日本のナガサキアゲハなんぞを展翅するか…。

退屈しのぎで、1頭だけ採った♀だ。
もう少し下翅を下げようかとも思ったのだが、展翅板の溝が広いのでやめた。展翅の基本は、やっぱ翅のサイズで展翅板を選ぶよりも溝に合わせて選ぶべきだよな。溝ギリギリな方が触角の調整も上手くいきやすいからね。

それはそうと、この♀は奄美産にしては黒いな。本土のモノとさして変わらん。本来、奄美産は沖縄本島ほどではないにせよ、白いのだ。

【奄美大島産♀】

【沖縄本島産♀】

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

白いナガサキアゲハは優美だと思う。ちょっと見惚れるところがあり、立ち止まって暫く姿を目で追ってしまう存在だ。

 
(註2)春型の方が夏型よりも大きい
帰ってから『日本産蝶類標準図鑑』で確認すると、明らかに春型のフタオの方が大きいように見える。


(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

左上2つが春型で、残りは夏型である。
とはいえ、コレだけのサンプルでは断言はできない。でもそうゆう傾向はありそうだ。アカボシゴマダラも春型の方が大きいしさ。
う〜ん、でも待てよ。夏型の裏面個体は春型なみに大きいような気がするぞ。ようするにもっと沢山の個体を見ないと何とも言えないなあ…。

最後に、この日に採ったフタオの展翅画像を貼り付けておきます。

こんなもんかなあ…。
フタオグループの展翅、特に♂の展翅は難しい。翅のバランスがとりにくいのだ。コツは前翅の下辺を無理に真っ直ぐにしようとしない事だ。下辺が微妙に湾曲しているのに気づかないと、下辺を真っ直ぐしようと必要以上に上げがちになりやすい。頭の中で、翅の根元の起点と後角を結んで、その線が真っ直ぐになるようイメージするよう努めよう。もしも頭が翅に埋まったり、触角の角度が天突くようになってたら上げ過ぎってこってす。
あと、今回はしなかったけど生展翅でも筋肉破壊はした方がいいだろう。フタオ類は筋肉のバネが剛ゆえに元に戻る力がアホみたいに強い。だから左の翅を上げて次に右を上げたらゲロゲロ、左がズリ下がるだなんて事はよくあるのだ。
しかも前翅を無理矢理上げると、真っ直ぐ展翅板に刺した筈の針まで上に引っ張られて前に傾く。ゆえに、それを見越して針を手前に傾けて展翅板に刺すなんていう面倒くさい事もせねばならぬのじゃ。
尚、後翅を上げ過ぎないのもコツ。上げ過ぎると寸詰まりになってカッコ悪い。思い切って下げてみませう。まあ、好みもあるから強くは奨めないけどね。けど、もし下げてみて気に喰わなければ上げりゃいいんだから、1回くらいは試して下され。

 
(註3)戸沢白雲斎
元々は講談師の二代玉田玉秀斎が、その創作講談中で作り出した架空の人物で、『猿飛佐助』や『真田十勇士』などの「立川文庫」の作品に登場する。そしてその後も作品は様々な形でアレンジされて現代に至るが、常に老人として描かれている。
甲賀流忍術の名人で、諸国漫遊中に信濃国鳥居峠で出会った猿飛佐助を鍛え、その秘伝を授けた。ザックリ言ってしまえば、『スターウォーズ』のヨーダとか『ベストキッド』のお師匠さんみたいなジジイの達人的存在だ。


(出展『馬場卓也@るろうビ作家』)

画像は映画『百地三太夫』で丹波哲郎が演じる戸沢白雲斎。
高さ30mくらいの崖をひょいと飛び降り、コマ落としのようにギュンギュンで走ってくるのじゃよ。