2017′ 春の三大蛾祭り 其の参 闇の絵巻編

 
前回「悪鬼暗躍編」の続きである。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
巨匠のライトトラップの様子を見に行きましょうとMさんを誘ったのだが、キッパリと断られた。
で、一人で行ってこいと懐中電灯を渡されたのだった。

(-o-;)マジですか?

( ; ゜Д゜)マジですか?

( ̄□||||マジですかあ?

 
自慢じゃないが、オイラはものすごーく怖がり屋さんなのである。お化けとか幽霊とか妖怪とかがこの歳になってもメチャンコ恐いのである。ビビりのチキンハートのヘタレ野郎なのだ。
そんな男に、一人で山中の闇夜の道を歩けというのか。旦那~、ひどい、ひどすぎるよ(/´△`\)
しかも待っているのは闇の住人やら、蛾の怪物たちときてる。気がふれそうだ。

しかし、それを隠して『(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす!』とか言ってしまったのだ。今さら、口が裂けても行けませんとは言えない。
(・。・)あっ、口が裂けてるといえば「アタシ、キレイ❓」の口裂け女だよね。また、いらぬ事を思い出してしまったではないか。闇夜に口裂け女に追い掛けられる様を想像して、ブルッとくる。
おまけに映画『八つ墓村(註1)』の白塗りの山崎努まで思い出してしまう始末。恐怖は連動する。
満開の夜桜をバックに、努がスローモーションで駆けてくるのだ。鬼の形相。躍動する筋肉。凄惨であり、美しくもある稀有な映像だ。口裂け女よか、努に追いかけ回される方がよほど怖いかもしんない。
そのシーンの後だっけ?前だっけ?
とにかく努は懐中電灯2本を鉢巻きにブッさし、修羅の形相で村人を追いかけ回し、💥🔫ダキューン❗、💥🔫ダキューン❗
猟銃で、村人全員皆殺しである。
( ̄□|||| こっわ~。

時刻は午前0時過ぎ。
泣く子も黙る丑三つ刻(うしみつどき 註2)である。
うしみつ💓ドキドキとMさんにわからぬよう小さく声に出して呟いてみる。
それで少しは気が楽になるかと思ったが、そんな低レベルの駄洒落、全然もって笑えない(-“”-;)

気のせいか、少し闇が濃くなったような気がした。
懐中電灯を手に持ち、意を決してなだらかな坂道を登り始めた。
チップス先生、さようなら(;_;)/~~~(註3)

歩き出してすぐにグンと一段、気温が下がった。
ひんやりとした空気が首筋を撫でる。
相変わらず細かな霧雨は音もなく降り続いている。
辺りは幻想的な靄(もや)に包まれており、懐中電灯で照らすと、光の束が闇を貫くようにして真っ直ぐに伸び、その先で漆黒の闇へと呑み込まれている。
奥は暗くて何も見えない。背中の毛が逆立つ。五感が鋭くなる。あらゆる音に耳をすまし、全身の皮膚で気配を感じ取ろうとする。なんとしてでも戦場から生きて帰らねばならない。

闇は単一ではない。微妙な濃淡があり、何か秘密の絵が何枚もそこに描かれていて、上から黒く塗り込められているような気がしてくる。闇の絵巻…。
梶井基次郎(註4)の小説にそんなタイトルの短編があったなと思う。どんな話だったっけ?
思い出そうとするが、どうしても思い出せない。

 
『哀れなるかなイカロスが、幾度(いくたり)も来ては落っこちる。』

 
あれは別な短編、『Kの昇天』か?
一瞬、自分がもう一人いて、今ごろ部屋でTVを見ながら酒でも飲んでいるのではないかと思った。
現実感がまるでない。同時に、このシーンとシチュエーションは過去にもあったのではないかと思えてきた。妙な既視感があるのだ。でも、そんなワケはない。この土地に訪れるのは間違いなく初めてなのだ。
ドッペンゲンゲル(ドッペルゲンガー)とデジュヴュがグチャグチャに混じりあって、その錯覚世界に脳が溺れそうになる。思考的溺死…。気が狂うのも時間の問題かもしれない。

昇天…。
(*`Д´)ノえーい、昇天とは縁起でもない。
想像が恐怖を増幅させる。恐怖とは想像だ。想像するからこそ、そこに恐怖が生まれる。何も考えるな。考えるからこそ、モノは恰(あた)かもそこに存在するかのように思えてくるのである。
普段我々が生きている現実世界でさえも、もしかしたら仮想の現実にすぎないのかもしれない。世界が本当にあるかどうかは誰にも証明出来ないのだ。

道の真ん中をゆっくりと歩く。
なぜなら横から何かが出てきても逃げられるようにする為だ。最初の一歩が肝腎なのである。距離が少しでもあれば、🚀ロケットスタートで逃げおおせる。ガキの頃から逃げ足だけはメチャンコ速いんである。

そういえば、大学時代の友人と3人で山の中で日が暮れたことがあった。熊とか何かが出たら、3人で戦おうぜとか言って手を繋がさせたんだよね。
これはホントは熊とか何だとかは関係なくて、だだオラが怖かっただけだ。
もちろんオイラは真ん中である。何かあったら、二人に守って貰わねばならないのだ。
暫く歩いた時だった。突然、横でガサガサガサーと云う音がした。
音がした瞬間の0.01秒後には、二人の手を振りほどいてロケットスタートでε=ε=ε=ε=┏( ≧∇≦)┛爆走し、彼らを遥か後方へと置き去りにしていた。
深層心理の中では、何なら彼らが熊の餌食になっている間に首尾よく逃走しようなどと思っている男なのだ。
そうです。ワタシは卑怯者なのです。
単に右隣の奴が横のススキを何気に叩いただけだったのだが、当然のことながら、あとでブチブチ文句は言われましたなあ。

懐かしい思い出だ。一瞬、和む。
だが、気を許してはならない。
時々、背後を振り向く。いつ口裂け女が追いかけてくるかワカランのだ。油断は禁物だ。

脳内モノローグは、エンドレスで目まぐるしく思念を
駆け巡らせる。
口裂け女に追いかけ回されたら死を覚悟するしかあるまい。ならば、窮鼠、猫を咬む。全身全霊をもって一矢報いようではないか。口裂け女のそのアゴの辺りに渾身のストレートを上から下に叩きこんじゃるぅ(#`皿´)❗

5分ほど歩いただろうか。遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
このクソ真夜中に、👽宇宙人めがっ、地底基地でも作っているのか❓

ゴオーッ、バババババババ……。
近づくにつれ、段々音が大きくなってくる。

100mほど先で、膨大な光が空に向かって漏れ出しているのが見えた。
この期に及んで、宇宙人までもがワシの命を亡きものにしようとしているのか?…。
だったら、受けて立ってやろうではないか。刺し違えちゃる。

しかしすぐに、もしかして…と思った。

翼よ、あれが巴里の灯だ!(註3)

坂を登りきると、ハッキリと見えてきた。
たぶん、あれが巨匠のライトトラップだ。
闇夜に浮き立つ煌々と輝くそれは、未知との遭遇の世界だ。まるで着陸した宇宙船に見える。
同時に( -。-) =3ホッとする。
光とは、なんと人の心を安寧にすることよ。
もう大丈夫だと安堵の心がじんわりと全身を包み込む。

 

 
ガガガガガカァー、ドルルルルルゥー……。
目の前まで来ると、ものスゲー爆音だ。
巨匠は強力な発電機を使っているようだ。ライトも水銀灯だろう。バッキバキの強烈な光だ。
悪いが、Mさんのライトトラップとは次元が違う。スケールがデカいのだ。さすが虫捕り王と言われたお方は違う。

大きく息を吐く。さあ、目的を果たそう。
何だか肝だめしに来たみたいだなと思いつつ、まずは白布から点検していく。集まってきた蛾たちが、この白い布に止まるようにと配慮されたものだ。
だが、降り続けた霧雨のせいか、布はぐっしょりと濡れており、滑り落ちた蛾たちが底の方で折り重なるようにして弊れこんでいた。
下には水が溜まり始めており、半ば溺死、その殆どは亡骸と化している。死体の混沌(カオス)である。

『哀れなるかなイカロスが、幾度も来ては落っこちる。』

イカロスは太陽に向かって飛び、蝋でできた羽が溶けて墜死したが、蛾たちは人工の光に向かって飛んで、屍となった。🙏合掌。

それにしても酷いな。恐怖と闘いながらせっかくここまでやって来たというのに、目ぼしいものはまるでおらず、死屍累々とした蛾の死体の山を見させられるだなんて、サイテーだ。何かの罰だとしか思えない。

恐がり屋さんは長居などするつもりはない。ひととおりサラッと見たら、魑魅魍魎が跋扈する前に一刻も早く戻ろう。

そう思って、ふと何気に右側の杭の辺りに目をやった。

 
ドオ━━━ (◎-◎;) ━━━ン❗❗

 
いきなり強引のカットインで、おどろおどろしい映像が暴力的に網膜を支配した。
瞬時に全身がフリーズする。腰が抜けそうになった。

( ̄□||||あわわわわ…。
そこには、闇の将軍がたおやかに静止していた。

                   つづく

 
追伸
ハイ、またもや完結しませんでしたねー。
前にも言ったけど、書いてるうちに色んなことを思い出して、つい長くなるんである。
次こそは最終回です、ハイ。申しわけなかとです。

 
(註1)映画「八つ墓村」
(出典『サンダーストームのブログ』)

 
1977年に公開された日本映画。
原作は横溝正史。実際にあった事件「津山三十人殺し」をモチーフとしている。この事件はいまだに犯人が捕まっておらず、一人で人を殺した数の日本レコードである。
出演は渥美清、萩原健一、小川眞由美、山崎努など豪華キャスト。秘密は龍のアギトにあるのじゃあ~。
てっきり、努の疾駆するシーンは夜桜だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。夜明けかな?
人間の記憶は曖昧である証左だね。勝手に恐怖を増幅させているのだ。

 
(註2)泣く子も黙る丑三つ刻
本当は「草木も眠る丑三つ刻」です。しかも丑三つ刻と言われる時間帯は、正確には午前1時から3時の間である。因みに、丑三つ時と書くと、午前2時から2時半を指す。なぜそんな間違いをしたのかというと、怖くて考える余裕が無かったのである。恐怖は判断力を鈍らせる。丑三つ刻といえば、幽霊とか、この世の者ではならざる者が現れると言われているのである。で、夜中➡怖い➡丑三つ刻と頭の中で勝手に三段論法になったと云うワケですな。

 
(註3)チップス先生、さようなら
ジェームス・ヒルトンが1934年に発表したイギリス小説。名作文学の古典です。読んだことないけど。
小説の中身と本文の内容とは直接の関係はありましぇん。この世とおさらばの気分の時に、よくワテが使うフレーズです。

 
(註4)梶井基次郎
日本の小説家。1901年~1932年。
20篇あまりの短編を遺して、31歳の若さで肺結核で病没した。代表作には「檸檬」「櫻の樹の下には」「冬の蝿」などがある。

「Kの昇天」の文中の「哀れなるかな…」のくだりの句読点の位置は、本当は「哀れなるかな、」である。
自分的には「哀れなるかなイカロスが、」がしっくりくるから、そう記憶していたのであろう。
記憶では、梶井は中3か高1の頃に耽読してたと思う。ナィーヴで独特の世界観のある素敵な短編群だ。
今でも文庫本で売ってる筈なので、読まれることをお薦めする。

 
(註5)翼よ、あれが巴里の灯だ!
チャールズ・リンドバーグの伝記映画「翼よ!、あれが巴里の灯だ」からの引用。
1957年に公開されたアメリカ映画で、名画の一つとされる。
監督 ビリー・ワイルダー。主演 ジェームス・スチュアート。
リンドバーグの歴史的な偉業、大西洋横断無着陸飛行を描いた作品で、歓迎に沸くパリ、ル・ブルジュ空港に凱旋飛行した時にリンドバーグが放ったとされる「翼よ、あれがパリの灯だ!」と云う台詞が、そのまま邦題となったようだ(実際はそんなカッコイイことは言ってなくて、後付けのフィクションみたいです)。
因みに原題は「Sprit of St.Louis」。これはリンドバーグの愛機、セントルイス号の事である。シンプルなタイトルで好感が持てる。だが、邦題の方がロマンティックで素敵だ。
最近の洋画の邦題は原題そのままの事が多く、邦訳のタイトルをあまり見かけなくなった。何だか寂しい。
監督の意の入った作品そのままの題名にすべきと云う意見は理解できるが、タイトルだけ見ても、瞬時には意味が解らない事ってよくあるよね?あれって、何だかもどかしい。また、調べても直訳だと全く意味が解らないという事もよくある。邦訳って、結構味があって好きだったから、復活させてほしいよね。まあ、ワケのワカンナイの和訳や行き過ぎた意訳、ベタでダサいタイトルが増えるのは困りもんだけどさ。
この辺は、蝶の和名と同じだ。名付ける人に広範な深い知識がないから、クソみたいな和名がつけられるのだろう。昔の人の方が、風情とか粋の境地の精神があったのではないかと思う。

 

2017′ 春の三大蛾祭り 其の弐(悪鬼暗躍編)

 
前回「青天の霹靂編」の続きである。
今回も先に警告しておきますね。たぶんオモロい回になるとは思うけど、💀閲覧注意です。

蝶だけではなく蛾にも詳しいMさんに拠ると、3月の末から4月上旬が春の三大蛾の採集適期だという。
しかし、今年(2017年)は寒い日が続き、ギフチョウの発生も遅れている。ギフチョウしかり、天候が安定しないこの時期の動植物の見頃を読むのは難しい。
拠って、4月上旬から半ばにかけての様子をみて、天候次第で日を決めようということになった。

因みに、天候といっても蝶採りのように晴天がグッドウェザーではない。むしろ反対の天気である。曇り、もっといえば雨上がりとか霧雨のようなコンディションが、蛾の灯火採集には最高のシチュエーションらしいのだ。
これは蛾に限らず走光性のあるカブトムシとかクワガタとかもそうで、光に向かって飛ぶ習性がある者は、月が出ていると人工の光には集まりにくいようなのだ。たぶん月光に負けてしまうからだろう。つまり晴れていても、新月のような月の無い夜には灯火効果があるとされている。
霧や霧雨の場合は、スモーク効果で光の帯がハッキリと見える。そうなると、他に光源が無ければ虫たちは光の束に向かって一直線に飛んでゆくというワケなのだ。但し、気温が低いと飛ばないとの事。
蝶とは全く違う道理に戸惑うが、愉しい。実をいうと、自分は蛾の採集も灯火採集も初めてなのだ。
未知なるものには、いつもo(^o^)oワクワクする。

 
4月7日。
いよいよ初陣の日がやってきた。
午後3時頃にMさんが車で迎えに来てくださった。
一路、兵庫県宝塚市の某所へと向かう。

今回は、Mさんと同じく標本商を生業(なりわい)とする巨匠Mさんも参加されると聞かされる。
伝説的な人で、虫を捕らしたら天才とも言われている方だ。心強い。虫捕りの天才ならば、経験とセンスは抜群じゃろう。ならば、いくらなんでもボウズは無かろうて。
しかし、相手は自然だし、生き物だ。絶対は無い。
やや不安がもたげるが、まあ、何とかなるっしょ。
ならなくとも、どうせワシはそもそも蛾屋ではない。れっきとした蝶屋なのだ。たとえ結果がダメだったとしても痛くも痒くもない。そう自らに言い聞かせる。

車内では、エロ話の花が咲く。
虫屋には珍しくMさんも若い頃からチ○ポの先が乾くことかなかったというタイプだ。武勇伝をたくさん聞かせて戴く。Mさんは、周囲に犬と呼ばれたくらいの男なのだ。爆笑エピソードてんこ盛りなのである。
なぜか虫好きはエロ話をしないが、Mさんとワテは結構したりする。
何で虫屋はエロ話をしたがらないのだろうか?
二人して理由を考えてみたが、今イチ明快な答えは見つけられなかった。誰か良い解答があったら、教えてくれ。
花より団子。女より虫❓

車窓の外を流れる風景は寒々しい。
木々の芽吹きにはまだ早く、白骨化したようや雑木林がどこまでも連なっている。その上には、暗鬱な鉛色の空が不気味に垂れ込めていた。とても今から虫捕りに行くって云う雰囲気ではない。
でも、Mさんが『ええ感じやね。』と呟いた。
そっか…、ええ感じなんだ。プロが仰るのだから間違いない。沈みがちだった気持ちに💡ポッと灯がともる。
自分は虫捕りの実力はさしてないが、引きだけは強い。何とかなるだろう。

途中、買い物やら何やらして、午後5時過ぎ頃に現地到着。

 

 
周囲を雑木林に囲まれた窪地だ。
いよいよ、魔神たちの領域に踏み入ったというワケだ。期待と緊張でブルッとくる。

早速、ライト・トラップの用意をお手伝いする。

 

 
ぬりかべ❓いったんもめん❓(註1)
早くも魑魅魍魎の登場かあーい!と心の中でツッコミを入れる。

左は蛍光灯かな?右の青黒っぽいのはブラックライトだな。昆虫はブラックライトの光がお好きのようだ。光の波長とかが、きっと違うんだろね。
蛍光灯はそれ自体にも誘蛾効果もあるが、どちらかと云うと視認性を高める為のものだろう。ブラックライトだけでは暗くて、何が飛んできたのか今イチわからないのだ。

段々、日が暮れてきた。

 

 
ライトの色も鮮明になりつつある。

そんな折り、颯爽と巨匠が現れた。
お付の者一人も一緒だ。
ライト・トラップは来た道の途中に仕掛けてきたとおっしゃる。巨匠がどんな装備か見たかったので、ちょっぴり残念。

やがて、酒盛りが始まる。
Mさんは小さめのフライパンを出してきて、肉を焼き始めた。何だかキャンプに来たみたいだ。
今回は用意してないようだが、巨匠なんかは普段は準備万端、お好み焼きまで焼くらしい。
目から鱗だ。夜間採集には、こんな楽しみ方もあるのかあ…。
諸先輩方曰く、昼間の網を持って追い掛けまわす採集とは違い、灯火採集は謂わば待ちの採集。けっこうヒマで長丁場だから、酒でも飲んでないとやってらんないらしい。
なるほどね。オイラには合ってるかもしれんね。

生来の蛾嫌いゆえ、酒をガブ飲みする。
だって、蛾がメッチャ怖いんだもーん(# ̄З ̄)
見ただけでも、幼少から( ̄□||||オゾるのだ。
素面(しらふ)じゃ、とても耐えれそうにない。ましてや、今回は邪悪なる魔王と梟(フクロウ)男爵、そして妖鬼青眼メフィストの魔界三衆なのだ。泥酔でもしてなければ、とてもじゃないがまともに対峙できない。

ここで魔界三衆をあらためて紹介しておこう。
先ずは魔王から。

【Langia zenzeroides オオシモフリスズメ】
開張140~160㎜。日本産スズメガの中では最大種。
前翅外縁は鋸歯状。全身鼠色。胸部から腹部にかけて毛状鱗が密生し、前脚~後脚は青みを帯びる。
分布は本州中部地方以西、四国、九州、対馬。国外では台湾、朝鮮半島南部、中国南部、インドシナ半島北部からネパールにかけて分布する。基亜種は朝鮮半島産。日本産は亜種ssp.nawaiとされる。
幼虫の食餌植物はサクラ類、ウメ、アンズ、モモ、スモモなどのバラ科。

次将は梟男爵だ。
実を言うと、コヤツが今回一番見たいと思った蛾だ。
と云うか、蛾全部の中で最も実物を見てみたい蛾である。
そのモノトーンのデザインは、スタイリッシュ且つソフィスケートされたものだ。複雑怪奇のオンリーワン。他に似たデザインをもつ蛾も蝶もいなくて、異彩を放っている。とにかく、小さい頃にすぐ名前を覚えたくらいに特異なお姿なのだ。

【Brahmaea japonica イボタガ】
英名 Owl moth。つまりフクロウ蛾である。
開張90~100㎜。翅に複雑な斑紋と無数の波状紋があり、前翅後縁中央部に大きな眼状紋がある。雌雄同紋だが、♀の方が一回り大きく、前翅に丸みを帯びる。
分布は北海道、本州、四国、九州、屋久島。
以前はインド、中国、台湾に分布する巨大(140㎜もある)なBrahmaea wallichiiの亜種とされていたが、それと比べて遥かに小型であること、♂交尾器に差があることから別種とされ、現在は日本の固有独立種。
幼虫の食餌植物は、イボタノキ、キンモクセイ、トネリコ、ネズミモチ、ヒイラギなどのモクセイ科。

ここでイボタガのウルトラ邪悪なる幼虫画像を一発ブチかまして、皆をΨ( ̄∇ ̄)Ψビビらせたろかと思ったが、踏みとどまる。
なぜなら、あまりの衝撃画像ゆえ、ページから離脱されかねないと思ったからだ。話はまだ序盤なのである。この先も読んでもらわねば困る。皆さん、忘れて前へ進んでくれたまえ。

そして、最後は青き眼の妖鬼だ。

【Aglia japonica エゾヨツメ】
開張♂65㎜内外、♀100㎜内外。
オレンジ色の地に後翅に青い眼状紋を配し、日本産ヤママユガの仲間では最も小型種である。
雌雄同型だが、♀の方が大型で翅に丸みを帯び、地色が淡くなる。
分布は北海道、本州、四国、九州、サハリン。
以前はヨーロッパから朝鮮半島までのユーラシア大陸北部に分布するAglia tauの亜種とされてきたが、近年サハリンと日本産は分けられて別種となった。
幼虫の食餌植物はハンノキ(カバノキ科)、ブナ、クリ、コナラ、カシワ(ブナ科)など。

上記3種とも年一回春先に現れ、蛾愛好家の間では「春の三大蛾」と呼ばれている。3種とも特別珍しいものではないが、生息地は局所的とも言われ、けっしてどこにでもいると云うような蛾ではない。

画像は今のところ、あえて添付しない。
まあ、せいぜい脳内で姿を想像してくれたまえ。想像こそが恐怖を増幅させるのである。Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケ…。

そうこうするうちに日が暮れて、辺りが暗くなってきた。

 

 
闇の世界のお出ましである。魑魅魍魎が大挙してやって来るやもしれぬ。黒々とした森が、とっても不気味だ。闇の奥で悪鬼たちの暗躍する気配がある。
お化け怖い。妖怪怖い。蛾も怖いという怖い怖いづくしの身としては戦々恐々である。
あまり人前では言った事はないが、ガキの頃、お化けが怖くて、寝ているうちに異界に連れ去られるのではないかと思い、妹に30円を払って手を繋いで寝てもらっていたような男なのだ。喧嘩はそれなりに強かったけど、昔からお化けとか幽霊とかは大の苦手だったのだ。
そういえば女の子とお化け屋敷に入って、腰が抜けそうになった事がある。あれは情けなかったなあ…。
でも、怖いもんは怖いのである。

それにしても、オッチャンたちは凄いなあ。
今回は四人もいるけど、普段は人里離れた淋しい山の中で、夜に一人で虫捕りをしておられるんである。怖くないのかね❓
ワシだったら、恐怖のあまり悶絶発狂死するやもしれん。本気で虫捕りをするなら、狂人にならざるば一流にはなれんちゅー事か…。
それなら、オデ、オデ、二流でええだすぅー(T△T)

午後6時。
蒼き眼のメフィストが早々と現れた。
魔王の露払いとあらば、順番的には先ずは貴女でしょう。
ドラマーツルギーだね。全世界は劇場だ。然るべき役者が、然るべき時に現れるようになっているのである。

しかし、けっこう素早い。モスラさんは翅を小刻みに震わせて動き回り、全然落ち着かないのだ。

あっ( ̄∇ ̄*)ゞ……。
気づいたら、手で掴んでいた。
蛾恐怖症にしては信じられない行為だ。見ただけでもフリーズするのに、手で掴むとは何事かである。
頭のネジがフッ飛んだとしか思えぬ。これも全ては酒の為せるわざである。酒の霊力、恐るべし。

 
【エゾヨツメ♂】

 
( ☆∀☆)おーっ、コバルトブルーの紋がメッチャクチャ綺麗じゃないか❗❗
こんなに蒼いんだ…。思っていた色よりも遥かに鮮やかな深淵なるブルーだ。陳腐な表現だが、まるで宝石のサファイアのよう。その青をジッと見つめていると、引き込まれそうになる。
あんまり見ちゃダメー(>_<)、ゴーゴンの呪いみたく、石になっちゃうぞー。

でもさあ…。見れば見るほど不思議とカワゆく見えてくるんだよなあ。

 
(出典『誘色灯』)

 
(出典『fandf.exblog.jp』

 
( ・ω・)もふぅ~。
目が円(つぶ)らで、体はもふもふのモコモコなんでげすよ。ウサちゃんみたいだ。
このこのこのぅー(σ≧▽≦)σ、キャワイイぞー、お主~。

Mさんがコヤツは♂だと教えてくれる。
♂は触角が羊歯(シダ)状なんだってさ。♀は、このシダみたいなもんじゃなくて、いわゆる蛾眉、細長い触角らしい。ヤママユガの仲間の♂♀はみんなそうだという。
ふ~ん、なるほどね。
プロのおじ様たちは初心者に優しい。色々と教えてくれる。補足すると、エゾヨツメは基本的に日没直後にしか飛んで来ないんだってさ。(^o^)へぇ~。
どんな事であっても、上手な人、知識が深い人のそばにいた方がいい。その方が何でも上達が早いよね。

それを合図のように次々と小型の蛾が集まり始めた。カルナヴァル(祝祭)の予感だ。
があ~祭りの始まりじゃーい\(^o^)/
嬉しいような怖いような変な気分だが、酒飲んでるから、もうどうなったっていいのだ。蛾でも鉄砲でも飛んで来やがれと云う心持ちになってくる。

しかし、(・ω・)もふちゃんの3頭めが飛んできたところで、ピタリと飛来が止まる。以後、屑みたいな矮小蛾がポツポツとしか来なくなった。
えっ(^_^;)、フィーバー、もうおしまいなの❓
不安になってくる。この先大丈夫かよ?
エゾヨツメは勿論見たかったけど、それよりも見たいのは梟男爵と魔王なのだ。このままで終わるワケにはいかない。

ベテランのオジサンたちに訊いてみると、オオシモフリやイボタガは、もっと遅くに飛んで来るという。
そっか…、蛾によって飛来する時間帯が違うんだ。昼間と違って、夜なんて何時だって同じようなもんじゃないか?と思うんだが、蛾には、蛾にしか預かり知らぬ事情があるのだろう。

やがて、霧雨が振りだした。
絶好のコンディションである。この靄(もや)の立つ幻想的なシチュエーション、如何にも怪物が現れそうな様相ではないか。映画なら、確実にチビりそうな雰囲気である。出るね。絶対ヤバいのが来るね。
脳内でおどろおどろしい重低音が流れ始める。映画『シャイニング(註2)』のテーマ曲だ。

ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。ジャックは狂ってる。

いよいよ闇の世界の支配者が満を持してワタクシを恐怖のズンドコ、もといドン底に陥れる時がやって来るのだ。凍りつくまであと何秒?何分?
心臓が💓ドキドキしてくる。

しか~し、9時になっても10時になっても現れず。
辺りは相変わらず細かい霧雨が舞っているのに何故❓
そして、11時になっても音沙汰なし。
巨匠が『今日はアカンのかなあ~?』と呟く。
まさかの御言葉である。頼みにしていた巨匠がそんな弱気なセリフを吐くとは、事態はあまりヨロシクないというか、惨敗のピンチではないか…。

Mさんも、『こんな日もあるよ。虫はなあ、ワシらでもワカラン事だらけなんや。いくら条件が揃ってる時でも、アカン時はあるねん。』とおっしやった。
そりゃ、ワテだって、それなりに蝶採りをしてきたのだ。言わんとしておられる事は充分に承知してますよ。でも、よりによって何でそれが今日なのよー(T_T)

11時半前。
巨匠が『ワシ、もう寝るわ~。』と言い残して、ワゴン車に消えていかはった。
益々、惨敗感が満ちてきた。
セーブしていた酒の量がグッと増えて、ヤケ酒気味になってくる。

12時前。
光の屋台に集まるお客さんは、相変わらずショボショボの面々だ。
退屈すぎて、段々居ても立ってもいられなくなる。
酒を飲みながら、Mさんに『巨匠のライトトラップの様子を見に行ってみません❓』と提案した。
しかし、Mさんからは、『いかへーん。一人で行ってきいや。』と云うニベにもない一言が返ってきた。

 
『ひ、一人でですかあ(◎-◎;)?』

 
『マ、マジっすか(|| ゜Д゜)❓』
声が心なしか震えている。

『でもオイラ、懐中電灯とか持ってないっすよ。』
もしかしたら、「仕方がないから一緒に行ってやっか。」とか言ってくれるんじゃないかという期待を込めての言葉だ。

しかし、Mさんは素っ気なく言った。
『懐中電灯くらいなら、貸したるわー。』

『イヤイヤ、そうじゃなくてー。そんな事ではなくてー、1人だと怖いんですよー。お化けが出たらどうするんですかあ。虫捕りのプロフェショナルの旦那~、頼みますからついてきて下さいよー(T_T)』
と云う言葉が喉元まで出かかったが、グッと呑み込む。
あとでネタにされるに決まってるんである。それは何があっても避けたい。チキンと蔑まれるのは真っ平御免だ。そんなことはプライドが絶対に許さない。

 
『わっかりましたー。(`◇´)ゞアムロ、行っきまーす。』

 
気づいたら、心とは裏腹の言葉が出ていた。
(-。-;)えらいこっちゃである。何かあったらどーするのだ❓
闇の世界に引き摺り込まれるかもしれんし、得体の知れない者に追いかけまわされたあげくに非業の死を遂げるやもしれんのだ。
でも、言ったからには行かねばなるまい。

 
    If I die combat zone.

もしもオイラが死んだなら、誰か骨を拾ってくれ。

 
                   つづく

   
追伸
いやはや、又しても完結せずである。
書いてると、色んな事を思い出してくるのである。
そうなると、自然長くもなる。で、途中で力尽きたと云うワケだ。

次回『闇の絵巻編』、もしくは『魑魅魍魎編』。
いよいよ怪物たちの全貌があらわになります。
乞う、御期待❗

(註1)ぬりかべ?いったんもめん?
両者とも水木しげる大先生の「ケゲゲの鬼太郎」でお馴染みの妖怪さんである。

 
【ぬりかべ】
(出典『matome.navar.jp』)

 
何だかライト・トラップって、ぬりかべと次のいったんもめんを足して2で割ったハイブリッドのようなもんだなあ。

 
【いったんもめん】
(出典『猫八のカッチコロヨ!』)

 
こんなもん、わざわざ画像をダウンロードせんでも自分で書けるがなーと思ったが、やめといた。
フザけた人間なのだ。どうせ鼻毛とか書いちまうんである。
試しに書いてみようか?

 

 
ほらね。

テイッシュの箱に書いたんだけど、フザけてるよねー。

拡大しまあーす。

 

 
やっぱり鼻毛ボーボーにしとります。
さらにフザける。

 

 
今度は脇毛ボーボーである。

最後は何ちゃらワカランことに。

 

 
フザけてるよなー。

 
(註2)映画『シャイニング』
1980年に上映されたアメリカ映画。
巨匠スタンリー・キューブリック監督によるホラー映画の金字塔。キューブリックがホラー映画を作るとこうなるのだ。双子がヤバすぎです。カメラアングル(ローアングル)と三輪車の効果音だけで、あそこまで人を怖がらすかね。
因みに文中の「ジャックは狂ってる…」の羅列は、映画の或るシーンがモチーフになっている。主演のジャック・ニコルソンがタイプライターで打った小説の原稿が、全部同じ文言『All work and no play makes Jack a dullboy.(仕事ばかりで遊ばない。ジャックは今に気が狂う)』と云う言葉て延々と埋め尽くされていたという怖いシーンだ。
そのままの文言では使えないので、短くアレンジしたのが「ジャックは狂ってる…」である。
原作はこれまたホラー小説の巨匠スティーヴン・キングだけど、キングはこの原作を無視した映画を気に入らなかったみたいだ。よほど肚に据えかねたのか、後にわざわざ自分で撮りなおしたくらいなのだ。
たしかに両者は全然違う。映画では父親が主役だが、小説では子供が主役なのである。まあ、どちらも面白いんだけどね。

 

 

2017′ 春の三大蛾祭り 青天の霹靂編

 
何か「ヤマザキ 春のパン祭り」みたいなタイトルである(笑)
えっ❗❓、そんなワケないってか。ヤマザキ伝統のパン祭りを蛾と一緒にすな(-_-#)❗ってか。
おっしゃる通りである。でも、2018年版の続編を既に予定しているので、その時もこの入り方で押し通すつもりだ。

え~とですな。このテーマは去年の春からずっと書こう書こうと思って書きそびれていた文章だ。
何でだろ❓
たぶん、ヤバい内容だからだ。
だから、今回は早々と閲覧注意と警告しておきます。

🎵(;・ω・)ゴブリン、🎵(;・ω・)ゴブリン(註1)
それはもう悪魔のごたる姿、普通の人間なら確実にチビるであろう異界の者が登場するからなのだ。
神は天使や女神のような可憐な生物も創造なされたが、同時に悪魔やモンスターをもこの世に産み落とされたのである。

話は去年、2017年の3月に遡る。
春分の日にインセクト・フェア(昆虫展示即売会)が開催されたのだが、そこで標本商のMさんと話していて、たまたま或る蛾の話題になった。

あれは忘れもしない2010年の春の事だった。
まだ蝶採りを始めて間もない駆け出しの自分が、初めて兵庫県の三田市にギフチョウを採りに訪れた時の事だ。
そのMさんが昼前くらいに車で乗り付けてきた。
ギフチョウを採りに来るには遅い時間帯だったので、
『あれ?、エライ遅い御登場ですねぇ。』と言ったら、Mさんがニヤリと笑って口を開いた。

『ええもん見したろかΨ( ̄∇ ̄)Ψ』

このオッサンがそういう笑い方をした時は要注意である。結構、悪い人なのである。何か企んでいるに違いない。
そして、ゴソゴソと三角罐(註2)からデカい三角紙を取り出してきた。そんなバカでかいギフチョウなんて存在するワケがないから、何を出してきたんだ?と思ったが、それが何なのかは皆目見当がつかなかった。
でもあのニヤリからすると、少なくとも自分にとっては喜ばしいものではないに決まっている。

『実を言うとなあ、コレを探しに行っとってん。』
と言って、Mさんは三角紙の包みをゆっくりと広げられた。

Σ( ̄ロ ̄lll)ウギャ❗
アギャ❗❗(゜ロ゜ノ)ノ

あまりの💥衝撃に飛び退いた。
今思えば、ヒィッ(|| ゜Д゜)と小さな声を漏らしたやもしれぬ。じゃなかったとしても、確実に心の中では悲鳴をあげていた筈だ。

そこには、邪悪そのもの、悪魔の分身の如き姿の巨大な蛾が横たわっていた。
あまりのおぞましさに、背中に⚡電流が走ったね。
何せ蝶は大好きでも、蛾はガキの頃から忌み嫌ってきたのだ。その衝撃度たるものや、凄いものがあった。

『そ、それ…何でんのん(;゜∇゜)❓』
おずおずと尋ねた。

『これはなあ、オオシモフリスズメって云う日本最大のスズメガで、年一回この時期にしか出てけえへんのや。』

兎に角、この世にそんなものが存在する事すら知らなかった者にとっては、そのインパクトたるや半端なかった。

引き気味に見ていると、Mさんが『大丈夫、大丈夫。アンモニア注射をブチュー打ったったから死んどるわい。』とおっしやった。

蛾もマッドだが、オッサンはもっとマッドである。

恐る恐る近寄り、マジマジと見てみた。
まるでステルス戦闘機みたいな形である。ソリッドで鋭角的、且つ挑戦的な三角形だ。
色は枯れたようなグレー。大きさはネズミ程もある。
いや、下手したらネズミよか大きいやもしれぬ。遠目で見たら、鼠と間違ってもオカシかない大きさだ。
そして、太い触角がより悪魔を彷彿とさせている。
もう邪悪を絵に描いたような存在で、こんなもんが実際に現実世界に存在するとは俄(にわか)には信じがたい。
コレは現実か❓
悪い夢を見ているのではないかと思った。

『コイツなあー。足がまたスゴいねん。爪がスゴくて引き離すのに一苦労や。』
そうMさんは言って、バケモノをひっくり返された。

更なる💥衝撃が走った。
鱗翅類(蝶や蛾のこと)にはあるまじきブッとさだ。
完全に甲虫のソレ、しかも日本最大のカミキリムシであるシロスジカミキリ(註3)クラスのガッシリした脚じゃないか。

 
(出典『Dangerous Insects』)

 
顔は、=3 しゅこ~、=3 しゅこ~のダースベーダーみたいだ。益々もって邪悪じゃよ。
体がもふもふの毛で覆われているのも、蛾嫌いにとっては異様に映る。ドラマや映画で凶悪な悪役が銀狐の毛皮を着ているって設定がたまにあるよね。あれを思い出したよ。

Mさんは更に続ける。
『ほんでなあ、コイツ、捕まえたらキューキューとかチューチューって鳴きよるねんでー。』

(;゜∀゜)鳴くのか❓
この期に及んで、また更なる衝撃波である。
それって、もうネズミやん!えっ、もしやネズミに擬態してるとか❓
とにかく信じられないような輩だ。どこまで人の想像力を裏切りよるねん。

それ以来、その時の記憶がずっと頭から離れなかった。
そういえば、Mさんから聞かされた宇山先生の逸話もあったなあ…。と思ってたら、やっぱりその話題になった。
Mさんが宇山先生をこの蛾の採集に連れていった時の話である。
先生も生きている怪物の姿を見た事がなく、一度連れていってくれと頼んできたらしい。
で、行ったら、灯火にゴブリンが突然正面からブオーンと飛んで来たという。しかし、体が重くて目の前でボトッと落ちた。
Mさんが『ほら宇山さん、来よったでぇー。』
と言って振り向いたら、先生はあまりの恐ろしさに驚愕の表情でジリジリと後ずさりしていったそうだ。
(≧▽≦)爆笑である。
生きている時の魑魅魍魎さは、先生の想像を遥かに越えるものだったのだろう。

ひとしきりそんな昔話をしていたら、突然、Mさんが言い放った。

『おまえ、今年行くかあ?』

衝撃の一言である。
一瞬、(°Д°)たじろいだ。
でも、次の瞬間には、

『行きます。』

と答えていた。

あの戦慄の出会い以来、ずっとゴブリンの事は気になっていたのだ。でも、怖いのと怖いがゆえに見てみたいという二律背反する心理がせめぎあって、ついぞ決断できずにここ数年間を過ごしてきたのだった。
今こそが、その逡巡に終止符を打つ最大の好機なのである。行くっきゃあるまい。

それに、Mさん曰くその場所ならば、これまた異界の使者であるデジタル悪魔、ウルトラマンにも登場するあの恐ろしきダダみたいな出で立ちの「イボタガ」や、蒼き眼を持つメフィスト(註4)「エゾヨツメ」にも同時に会えるというではないか。
オオシモフリスズメ、イボタガ、エゾヨツメをして、蛾業界では『春の三大蛾』と呼び、崇め奉っていると聞いた事がある。その三大スターが一同に集結するのである。期待とおぞましさでブルッときたよ。武者震いなんて、滅多にある事ではない。心臓発作を覚悟して、戦地に赴くっきゃあるまい。

  If I die combat zone.

もしもオイラが死んだら、骨を拾ってくれ。

                   つづく

 
追伸
閲覧注意だなんてビビらせておいて、今回はヤバい画像無しでしたねー(笑)
でも、あえて添付しなかったのだ。そこはホレ、脳内で姿を想像してくれたまえ。で、恐怖も増幅してくれたまえ。ネットで画像なんか探すんじゃないよ(=`ェ´=)
そもそも恐怖映画とかホラー小説なんてものは、最初っからバケモノや殺人鬼はおおっぴらには登場しない。そんなことしたら、怖さ半減なのである。
まあ、そう云うワケだから、次回を楽しみにされたし。あっ、自分でハードルを上げてもた。
えー、ご免なさい。テキトーに考えた言いワケです。
本当は最初は一話完結にするつもりで書いていたのだ。しかし、書いているうちに長くなってしもて、分載することにしたのさ。ならば、画像は後半のクライマックスにもっていこうと思ったワケ。
とはいえ、後編の構想ゼロなのだ。面白く書けるかどうかは自分でも自信が無い。だから、面白くなかったらゴメンね🙏
おいおい、早くも逃げ腰の言いワケかましである。
まあ、何とか面白くなるように鋭意努力させてもらいまっさ。

とはいえ、全く画像が無いよりもチラッと見せといた方が、より効果があるか…。

ではでは。

 
(出典『黄昏あさつき日記』)

 
(´・ω・`)もふぅ~。

ちよっと可愛い過ぎて、邪悪度が今イチだ。
ならば、コレならどうだ。

 
(出典『いもむしうんちは雨の音』)

 
異形(いぎょう)の者である。でも邪悪っぷりは、まだまだこんなものではない。次回はその邪悪なる全貌があらわになりまする。
乞う、ご期待❗

 
(註1)ゴブリン
邪悪な悪意をもった精霊のこと。ヨーロッパの民間伝承やその流れを汲むファンタジー作品に登場する。
しばしば悪魔や鬼の意としても使われる。

 
(註2)三角罐と三角紙
三角罐は三角ケースとも言い、採った蝶や蛾をおさめる三角形の箱のこと。また三角紙は蝶や蛾を包む紙のことである。翅の鱗粉を剥がれにくいようにツルツルのパラフィン紙などで折られている。

 
【三角罐】

 
【三角紙】

 
この三角紙に蝶を入れて、三角罐に収納するって事だね。

 
(註3)シロスジカミキリ
(出典『SNITZ Forum 2000』)

 
フトカミキリ亜科 シロスジカミキリ属。
日本最大級のカミキリムシで、日本全土に分布し、低地から低山地に見られる。成虫は夏季に現れ、主に夜間に活動する。幼虫はブナ科樹木の内部を食害し、栗の害虫としても知られる。幼虫は別名「テッポウムシ」とも呼ばれ、戦時中の食糧難の時代には一部の地域では食用にされていたという。オカン曰く、小さい頃に食べた事があり、大変美味らしい。

 
(註4)メフィスト
ドイツの伝説上の悪魔メフィストフェレスのこと。
16世紀ドイツのファウスト伝説やそれに材を取った文学作品に登場する悪魔で、現代では洗練された悪魔として描かれることが多い。

 

すぐきと千枚漬け(後編)

  
すぐきも好きだけど、千枚漬も好きだ。
でも、関西以外の人はあまり食べた事がないかもしれない。いや、最近は漬け物離れが進んでいるというし、若い子なんかは食べた事がない人も多いかもしれない。
一応、ざっと解説しとくか…。

千枚漬とは京都を代表する漬物の一つで、すぐき、柴漬けと共に京都三大漬け物に数えられる。
現在販売されているものは概ねカブを薄く切って昆布、唐辛子とともに酢漬けにしたものである。
但し、カブといっても京野菜の聖護院蕪(かぶら)を使ったものでないと千枚漬けとは名乗れない。たまにパチもんも見るので、買う時は注意しましょう。

名前の由来は、蕪を薄く切り、樽に漬け込む枚数が千枚以上であるとか、蕪を千枚と言えるほど薄く切って作るからと伝えられている。
御所の料理人であった大黒屋藤三郎が江戸時代に考案したとされる。本来は聖護院蕪をスライスし、塩漬をして余分な水分を取り除き、その後、良質の昆布だけで本漬を行い乳酸発酵をさせたもので、蕪の甘味、乳酸発酵の酸味、昆布の旨味のバランスが良い漬物である。
しかし、第二次世界大戦後は砂糖、酢、調味料を使ったものが大量生産されるようになり、現在の酢漬けの千枚漬が大半を占めるようになった。
聖護院かぶらの生産期(11~3月)に合わせて漬け込みが行われ、販売時期もこの期間に限定される。

そろそろ千枚漬の季節も終わりだね。
もっと食っときゃよかったよ。今冬は2度しか買わなかったのだ。
何でそないな事になったのかというと、なんば高島屋の『大安』が無くなっちやったからである。

 
(出典『大安 ホームページ』)

 
近所だから、いつもなら他の買い物をした折りに、ついでに買うことが多いのだ。
ならば、他の店の千枚漬を買えばいいではないかと言われそうだが、(# ̄З ̄)👆Non・non・non・no.
千枚漬は店によって全然味が違うのだ。
例えば、大安の差し向かえに『西利』なんかは少し甘めなのだ。西利さんも老舗だがら、好きな人は多いと思う。しかし、残念ながら自分の好みには合わないのである。
自分の中での「千枚漬」とは、昆布でぬるぬるヌメヌメのヤツで、旨みがあって酸味と甘みが強くないものなのだ。大安はそのバランスが良い。
化学調味料は使ってなくて、上質な酢と味醂、塩を控えめに使ってるという感じなのだ。

では、もっと他の千枚漬を探せばいいではないかとも言われそうだが、千枚漬は高いのである。そうおいそれとは、のべつまくなしには試せないのだ。

で、唯一試したのがコレ。

 

 
村上重本店の千枚漬。
コチラも老舗中の老舗である。
たかが漬物なのに、千円もした。
ねっ、高いでしょ。

中身はこんな感じ。

 

 
ヌメヌメのぬるぬるじゃよ。
これなら期待値も上がろうというもの。
昆布が分厚いなあ…。とりあえず細切りにしよう。

盛りつけてみる。

 

 
食ってみる。
Σ(゜Д゜)わっ❗、パンチ効いてる。
クセが強いんじゃあ~。
でも慣れてくると美味い。旨みが強くて、味が濃い。
甘みは調味料の甘みではなく、蕪の甘みだ。変に甘ったるくない。酸味も酢の酸味ではない。乳酸発酵❓
となれば、これが本来の千枚漬け。藤三郎由来の元々の千枚漬ってことか…。
旨いなあ…。千枚漬の概念が少し変わったよ。

だが、デカくて食べにくい。それに一気食いみたくなって、何だか勿体ない。

半分に切った。

 

 
旨かったので、また買った。

 

 

 
千枚漬は、酒の肴というよりも断然ご飯のお友である。
そのまま食ってもいいが、昆布を乗せ、ちょいと醤油を垂らして食うと旨みが増し、益々ご飯にあう。

そういえば、去年の春先に買った千枚漬けがあったなあ…。

 

 
『江州の郷 さくら千枚漬』。

 
桜の葉入りの千枚漬である。
江州といえば、京都ではなく滋賀県じゃないか。
しかも国内産カブ使用とある。その時点で、聖護院蕪を使ってないことは明白だ。完全にまがいモンである。

 

 
やはりというか、これが全然もって旨くなかった。
桜の香りは悪くないのだが、やたらめったらに甘酸っぱいのである。お菓子かよ(=`ェ´=)❓
やはり、千枚漬は「大安」みたく甘みを抑えたものか、元来の製法のものが美味い。

となると、ここも気になるところではある。

 
(出典『老舗もーる』)

 
『千枚漬本家 大藤』である。
何てったって、本家なのである。創業慶応元年。ここが千枚漬けの元祖と言われている店だ。

どうやら壬生菜を使っているのが特徴のようだ。
なあ~んか見たことあるような気がする。食ったことがあるような記憶もある。
だとしても、かなり昔のことだ。たぶん20年以上前だろう。ならば、食べた事がないと言っても差し支えないでしょう。何せ、味の記憶が全然無いのだ。

本家と謳っていて、まさか化学調味料とか酢とか味醂は使ってないだろう。オラの求める千枚漬の筈だ。
よし。来年は、ここの千枚漬を試してみよう。
けど、ここもきっと高いんだろなあ…。
まあ、旨けりゃ全然いいんだけどさ。

                  おしまい

 

すぐきと千枚漬け(前編)

 
時節も終わりかけだが、京の冬の漬物といえば、すぐきと千枚漬けである。
また、この二つは京都の三大漬物にも数えられている。
因みに、あと一つは柴漬けです。こちらは夏を代表する漬物だね。

そんなすぐきと千枚漬けだが、今年度もちょくちょく食っておりました。ワタクシ、こう見えてけっこう漬物好きなのである。

 

 
『御すぐき處なり田』のすぐきである。
すぐきといえば、真っ先に挙げられるのが、この有名店である。なんと創業三百年なのだ。老舗中の老舗だね。

 
(出典『京都の外に住む京都好きのブログ』)

 
如何にも老舗ならではの佇まいだ。
確か、上賀茂神社の門前に在るんだよね。
とは言っても、今回は京都・上賀茂の本店に足を運んだワケではござんせん。なんば・高島屋の全国の厳選品を集めたコーナーで買ったものだ。
値段は忘れたが、けっこう高かった記憶がある。千円足らずだったかなあ…。
調べたら、100gあたり400円だとさ。中々の値段だ。

知らない人もいやはると思うんで、ここでちょっと「すぐき」とは何ぞや云うことを説明しときまひょ。
すぐきと云うのは、漢字で書くと「酸茎」と書きおす。酸茎菜といやはる蕪(かぶら)、まあカブの変種の事どすな、それが原材料どすえ。もともとが賀茂川と高野川の間の三角州でとれた野菜で、最初に植えられたんが「賀茂別雷神社」、今でいうところの「上賀茂神社」どすなあ。
せやから、今でもその一帯がすぐき漬けをつくうてはる店が多いんおすえー。

作り方は、葉っぱごと蕪を塩で漬け込み、乳酸発酵させたもんどす。
塩水で一晩、塩をまぶして一週間。最後に室(むろ)に入れて8日間かけて、じ~っくり発酵させるんどすえ。
長野の木曽地方には「すんま漬け」ゆうて、低温下で無塩乳酸発酵させたお漬けもんがありはりますが、別もんどす。親戚でも何でもおへん。
「すぐき」は京都にしかあらしまへん。

何か京都弁で書いてると、体がなよなよしてくる。それに嫌みな人になった気分で何だかとても疲れる。普通に書こっと。

すぐきといえば、その酸味である。とにかく酸っぱい。独特の発酵臭もあるから、好き嫌いのハッキリする漬物だろう。自分も小さい頃は、その酸味が苦手で嫌いだった。
しかし、大人になってからは好きになった。その酸味が段々クセになってくるのである。
その辺は恋愛事情にも通ずるところがあるだろう。
クセの強い、つまり個性の強い相手は最初のうちは警戒するし、敬遠しがちだ。しかし、ひと度その魅力に嵌まってしまうと、他の普通の人では面白味がなくて満足できなくなる。そんな事、経験ありません❓

何?、ないって。
だとしたら、つまんない恋愛をしてきた人だね…と言いかけて、というかもう言ってるけど、前言撤回。
無い人は不幸だとも言えるし、幸福だとも言えるのである。クセのある相手との恋愛はイレギュラーな事が多いゆえ、展開が読めない。そこに恋愛の醍醐味があるのだが、同時にワケわかんないから不幸な顛末になる確率も高いのだ。そして、そんな変な人ばかりを選んでると、碌な事がない。世間一般の幸せから遠ざかること自明なのだ。

話が逸れた。
テーマはすぐきである。
食すにあたっての注意事項は、葉っぱが硬いこと。だから、細かく刻みましょう。ゆめゆめ野沢菜みたいな切り方はなさらぬよう。硬くて食えませんぞ。

 

 
と言いつつも、( ̄∇ ̄*)ゞえへ。微塵切りになっとらんやないけー。
考え事をしてて、ほおーっとしとったんよ。
だから、一口食ってすぐに切りなおしましたよ(笑)

蕪本体の切り方は自由。沢庵(たくあん)みたいに切ってもいいし、縦に細切りにしてもいい。細かく微塵切りにすれば、「刻みすぐき」となる。
「刻みすぐき」といえば、『土井志ば漬け本舗』。
土井と云う名前が気にくわないが、ここの刻みすぐきが一番好きだ。

すぐきは酒のツマミにもなるけど、やっぱり一番は白いご飯だ。これがマストでしょう。アホみたいに飯が食える。お好みだが、醤油をちょっと垂らして食うのが旨い。ぶぶ漬け(お茶漬け)にしても、美味しおすえ。

えー、オジサマは浅いヤツよりも発酵が進んだ酸っぱいのが好きだ。クセが強いのが好きなんである。
何か、脳内で自分の恋愛遍歴とリンクして走馬灯のように流れたよ(^_^;)
嗚呼、できることなら学生時代に戻って、そこからやり直したい。
あの失恋さえなければ、王道路線のままで終わったのになあ…。

                  つづく

 
追伸
何だか心が塞ぎそう(否、この場合は鬱ぎそうか?)になったので、今回はここまで。
次回、千枚漬けとなります。
 

銀ムツの西京焼き

 
このあいだの『冬の献立 総ざらえ』では、サラッとさわりしか書かなかったから、稿を改めての登場です。

 
【銀ムツの西京焼き】

 
銀ムツと言っても、高級魚のムツとは違い外国産の深海魚である。
正式名称はマジェランアイナメ(マゼランアイナメ)。
故郷はアルゼンチン、チリ、南極周辺で、語源はあのマゼラン海峡からきている。因みにマジェランは英語読みですね。

見た目はこんな感じ。

 
(出典『カロリーSlism』)

アイナメと名打っているが、コレも嘘。
マジェランアイナメはスズキ目の魚だが、アイナメはカサゴ目の魚なのだ。

ホンマもんのムツと比べてみよう。

 
(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
まあ、強引に言えば似てるちゃ似てるけど、やっぱ全然違うわな。
分類学的にも両者は違う。ムツも同じスズキ目だが、ムツ科に属する。一方、マジェランアイナメはノトテニア科という舌を噛みそうな科に属している。
同じスズキ目といっても、目(もく)とあらばその範囲は広汎だ。科が違うだけでも、かなり縁が遠かったりするのである。たぶんコヤツらも相当遠い間柄かと思われる。

じゃあ何で「銀ムツ」という名前なのかというと、コレはもう魚屋の陰謀である。切身にすればムツに似てるから、高級魚ムツの名前にあやかってドサクサで売ってやろうと云う魂胆である。

 
【銀ムツの切身】
(出典『もぐもぐ共和国』)

 
しかし、天罰が下った。お上から、ムツじゃないのにムツと名乗るのはまかりならん。市場が混乱するではないか、(*`Д´)ノバーロー❗❗❗
と云うワケで、銀ムツという表記が2003年に禁止された。
以降、スペイン語の「メロ」と名前を変えて市場に並ぶようになったが、コレがイカンかった。銀ムツだと美味しそうだが、メロでは如何にもマズそうだ。
で、人気急落。スーパーでもいつの間にか姿を見掛けなくなった。

しかし、最近は高級魚として復活しつつある。
アメリカで人気の魚となり、価格が高騰しているようなのだ。日本への入荷量が減ったせいもあるかもしれない。流通が少なければ自然と価格も上がるのが理だ。昔は下魚扱いだったのになあ…。

そして、ほとぼりが冷めたのか、ここ数年前からは百貨店の高級惣菜コーナーなどで再び銀ムツという表記を見掛けるようになってきた。
まだ銀ムツ(メロ)という表記が多いが、某料亭なんかは堂々と銀ムツのみの表記になっていた。

まあ、そんな事はどうでもよろし。
それよりも言いたいのは、嘘ばっかつく忖度野郎の役人どもだ。奴等はクソでバカだ。
そもそも名前を銀ムツからメロなんて名前に変えさせたのが悪い。お陰で安くて美味かった銀ムツが庶民の口に入らなくなったではないか(=`ェ´=)
だいたいムツとか黒ムツなんて高級魚はスーパーに並ぶことなど滅多にないのである。2003年以前だって、状況は今とさして変わらなかったと断言できる。
つまり、市場が混乱するもクソもないのである。厳密主義のバカ学者か、ボケー(#`皿´)
柔軟性の欠片もない。

それに矛盾もある。
例えばシシャモである。
今、スーパーの店頭にシシャモとして売られているのは、実を言うとシシャモではない。
同じキュウリウオ目キュウリウオ科の魚だが、「カラフトシシャモ」と云う別種の魚なのである。
味も全く違う。本当のシシャモの方が遥かに上品で美味い。
役所とか漁業関係者は見た目がソックリだと言うが、
自分からすれば、そんなのはちゃんちゃらオカピーの方便だ。両者は明らかに見た目も違う。カラフトシシャモは銀青色だが、ホンマもんのシシャモは飴色なのである。
形も、よりほっそりとしていてスマートだ。漢字で書くと「柳葉魚」と表される所以は、そこにある。

じゃあ、なぜに偽物が堂々と罷り通るようになったのかと云うと、そこにはこんな背景がある。
以下、面倒くさいので、wikipediaからの抜粋で手を抜く。

『(シシャモは)、世界中でも北海道の太平洋沿岸の一部でしか獲れない。漁獲高の減少のため、キュウリウオや輸入品のカラフトシシャモ(カペリン)が「シシャモ」として食卓に上ることも多く、今日では単に「シシャモ」と言う場合こちらを指すことが一般的である。同じキュウリウオ科に属しているものの、キュウリウオはキュウリウオ属、カラフトシシャモはカラフトシシャモ属の別の魚である。
食味は本ししゃもと大きく異なるが、姿は両者とも非常に似ており漁師以外は外見だけで見分けるのが困難なこと、本シシャモの味を知らない人が多いことを利用し食品偽装の引き金になることがある。
1970年代以降、シシャモの代用魚として輸入が急増したが、資源量の大差から「シシャモ」といえば本種を指し、シシャモは「本シシャモ」などと呼ばれるようになった。 2003年の農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律改訂にともなう販売表示の厳格化を受けた行政指導により、原材料名にはカラフトシシャモと表記される様になったが、商品名は対象外。』

何やかんやと注文をつけてはいるが、ようするにお上もカラフトシシャモをシシャモとして認知する事を完全に容認しているんである。
ホンマもんのシシャモが別にいる事など知らない人が大半を占める現状にあっては、間違いじゃない。方針としてはそれが正しかろう。
だったら、もうメロも銀ムツでいいではないか。どうして、そこんとこ柔軟に対応できないのかね?
それこそ忖度しなさいよ。
あっ、あれは農水省ではなく、財務省とか国交省か…。
え~い(*`Д´)ノ、どうせ役人なんぞ何処も同じじゃわい。大差はなかろう。

怒り疲れたところで、心を鎮めて調理しよう。
といっても市販のものだから、焼くだけ。
けど、でも今や高級魚。真面目に焼こう。
洗うのは❌だが、丁寧に味噌を子削ぎ取りましょうね。味噌がいっぱい付いていたら焦げやすくなるのだ。
原則は遠火の強火だが、家庭では煉瓦やブロックを両脇に置きでもしなければ不可能だ。となると、弱火でじっくり時間をかけて焼くのがよろし。

我ながら、そこそこ上手く焼けたのではないかと思う。
器は織部焼きを出してきた。
久し振りの登場だけど、織部って、(。^。^。)渋くていいねぇ~。

満を持して箸を入れ、口に運ぶ。
いえ~(σ≧▽≦)σ~い。
脂が乗ってムチャクチャ美味い❗❗

久し振りに食うけど、旨いなあ…。
名前はもう、銀ムツでもメロでもどっちだっていいや。とにかく、またスーパーの店頭に庶民価格で並んで欲しいよね。

                 おしまい

 
追伸
言い忘れたけど、ムツとした画像はクロムツです。
昔はムツもクロムツも同種とされていたが、近年、別種に分けられたようだ。ムツも高級魚だけど、クロムツは更に珍重され、超高級魚となっております。
因みにアカムツと云うのもいる。これがあの高級魚ノドグロの本名ですな。

もう1つ言い忘れた。
銀ダラというのもいるが、これも銀ムツとよく混同される。脂が多いので、ムツやクロムツとして売られていた時代もあったようだ。この辺が銀ムツと混同される原因になっているのだろう。

 
【ギンダラ】
(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
だが両者は完全に別種。コチラは見た目がタラに似ているからの命名だが、タラ目とは違いカサゴ目 ギンダラ科に属する。アイナメやホッケに近い種類だ。
マジェランアイナメがアイナメとは遠くて、銀ダラの方がアイナメに近いのである。何か頭がこんがらがってきたよ。
だが、まだややこしいのがいる。これまた切り身の見た目から混同されやすいメルルーサだ。

 
【メルルーサ】
(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』)

 
昔は白ムツという名前で売られていたらしい。
コレが笑っちゃう事にタラ目なんである。つまりタラに一番近い。味も脂っぽくなくて、タラの肉質に似ている。
何だそりゃ❓の名前の混乱振りである。
漁業関係者の人たちよ、いい加減になさい❗
名前をつけるなら、(# ̄З ̄)もっと考えてつけろよなあー。

 

台湾の蝶16 タイワンカラスアゲハ

 
       アゲハチョウ科3

      第16話 『蒼穹の銀河』

 
  
【Papilio dialis タイワンカラスアゲハ♂】
(2017.6 台湾南投県仁愛郷南豊村)

 
実をいうと、野外で撮したタイワンカラスアゲハの写真はこれ1枚しかない。
2017年のものだが、2016年にも採集したのに何故かその時は1枚も写真を撮っていなかったようなのだ。
だいたい2017年だって1枚しか撮っていないというのは解せない。ミステリーだ(-“”-;)……。

にわか探偵は過去に思いを巡らせる。
鋭い洞察力と類い稀なる記憶力、勝手なこじつけで記憶を平気で改竄する妄想力と厚顔力etc…。ご都合主義の権化が、その明晰な頭脳をフル回転して事件を解決してみせようではないか。

ひとしきりフザけたところで、記憶を辿ってゆく。
反芻すると、何となく朧ろ気に思い出してきた。

2016年に初めて台湾に訪れた時は、『発作的台湾蝶紀行』と題してブログを現地発信で連載していた。このタイトルがヒントになってくれた。
三歩あるいたら忘れると言われている鶏アタマのイガちゃんだって、それくらいの事は覚えている。発作的に台湾行きの飛行機のチケットを購入、三日後には台湾へと旅立ったのである。
出発の準備だけで手一杯だった。だから、台湾の蝶の事など碌(ろく)に知らないままに出てきたのである。
ゆえに、カラスアゲハの仲間も流石にホッポアゲハぐらいは知ってはいたが、他のカラスアゲハの事は今イチよくわかっていなかった。
ミヤマカラスアゲハって、台湾にいたっけ❓(註1)とかのレベルである。
そう云うワケで、現地で採っててもカラスアゲハが1種類だけではなさそうだとは思いつつも、どう云う位置づけなのかは理解できていなかったのである。
感覚的には日本本土にいるカラスアゲハとは明らかに違うし、奄美大島や沖縄のものとも違う。一番近い八重山諸島のものとも少し違うような気がしつつ、網に入れていた。でも、深くは考えなかった。
カラスアゲハの分類は錯綜していて、種の分け方が学者によって解釈が違うから誠にややこしいのである。
学名だって二転三転していて、アタイのような頭の出来の悪いのは本能的に脳を凍結するクセがあるのだ。

重ねて言うけど、採ってて見た目ソックリだけど違うのがいるのは何となく解ってはいた。
でもクソ暑くて写真をイチイチ撮るのが面倒くさかったとか、撮ろうとしたら別な蝶が飛んできて後回しになったりとかしたのだろうと推察する。
で、帰ってきて展翅して、明らかに違うのがいると漸くハッキリと認識したと云う次第なのであった。
我ながら、オソマツくんなのである。蝶偏差値二流だから、仕方がないのであ~る。

じゃあ、何で2017年も1枚しか撮らなかったのかと云うと、単純にタイワンカラスアゲハがあんまりいないからなのである。2016年に当然何枚か写真を撮っているであろうと云う思い込みもあったに違いない。だから複数頭採ったのにも拘わらず、これ1枚しか写真が残っていないのかもしれない。
(  ̄▽ ̄)フフフ…。早くも、どうだどうだの御都合主義の言いワケかましである。

『原色台湾蝶類大図鑑』には、恒春半島では極めて稀。埔里周辺、台北ウラル付近では普通とあったが、他の文献(台湾など外国の文献も含む)では少ないという表記が多かった。
台湾には、他にカラスアゲハの仲間がホッポアゲハ、カラスアゲハ(タカサゴカラスアゲハ)、ルリモンアゲハ(タイワンルリモンアゲハ)、オオルリモンアゲハ(ルリモンアゲハ)が棲息しているが、自分の経験ではこのタイワンカラスアゲハが最も個体数が少ないと感じた。♀なんかは滅多に採れないから珍品扱いになっていたと記憶する。
私見だが、台湾のアゲハの中でもその珍しさは5指に入るのではないかと思う。
内訳は、キアゲハ(台湾では大珍品。記録が途絶えていて、既に絶滅したとも言われる)、フトオアゲハ(台湾で最も有名な蝶、且つ現存する最稀種)、モクセイアゲハ(非常に分布が狭い稀種)、コウトウキシタアゲハ(台湾では蘭峽島のみに分布)。この4つが先ずは上げられるだろう。ここまでは異論は少ないと思う。
ランクが二、三段くらい下がって、あと一つをタイワンカラス、コモンタイマイ、アサクラアゲハ、ジャコウアゲハ等がその座を争うといったところだろうか?
でもコモンタイマイなんて、コモンと名前がつくくらいだから、そもそもが庶民派の蝶なんである。大陸に行けば、普通種だ。山ほどいる。
アサクラアゲハもインドシナ半島なら、標高さえ上げれば結構いる所には沢山いる。
ジャコウアゲハなんて、台湾ではいくら珍しかろうとも、所詮はジャコウアゲハ。日本ではその辺にいる。淀川にだって飛んでいるのだ。
でも、タイワンカラスは台湾以外では見たことさえ無い。分布域のインドシナ半島北部でも、足繁く通ったのにも拘わらず、一度もその姿を拝んだことがないのだ。
大陸側でも決して個体数が多い蝶ではないとも聞いたことがある。拠って、タイワンカラスを勝手に五番目の使徒とさせてもらう。

そういうワケで、残念ながら♀は採れていない。
でも、見た目は♂と殆んど変わんないんだよねー。翅形は微妙に異なるものの、♂は上翅に性斑と呼ばれる毛束があるが、♀にはそれが無いという事くらいしか目立った差異はない。
一応、メスの画像を探して添付しておくか…。

しかしながら、ネットでも中々画像が見つからない。
辛うじて杉坂さんのホームページから目っかった。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
台湾には年に何度も行かれていて、膨大な写真を撮っておられる杉坂さんでさえも、1枚しか写真をアップされておられないのである。♀の珍しさは推してはかるべしであろう。

だけど残念なことに、この写真では辛うじて腹の出っ張りでしか♀と認識できないんだよね。

もう少し探してみる。
これが♀かなあ❓

 
(出典『台湾蝴蝶誌』)

 
性斑が無いように見えるんだけど、画像が鮮明ではないので断言は出来ない。
まあどちらにせよ、♂とあんま変わらないのだ。より美麗なものを期待していた身としては、ガッカリ感は否めない。

仕方がないので、♀の標本写真を探してきた。

 
(出典『Theln sectCollecter』)

 
たぶん台湾産で、上が夏型で、下が春型である。
夏と春とでは随分大きさが違うようだ。
因みに夏型は台湾にいるカラスアゲハの仲間の中では一番大きいと思う。少なくとも翅の表面積は一番広いだろう。そのせいか、何か見た目がゴツい感じなのだ。

たまたま、このあいだインセクト・フェア(昆虫展示即売会)があったので、そこで探してみたら、水沼さんのブースで台湾産の♀を目っけた。

 

 
何と、値段は三千円もする。
即売会の蝶の値段をずっと観察してきた結果、外国の蝶は高いものは何十万とはするが、国産の蝶と比べて平均的には安い傾向にある。
1500円ならば、たとえ現地に行っても採れない可能性が高い蝶だ。日本の蝶に比べて安すぎだろ?と思うが、アジアの物価は日本に比べて安い。つまり、単に仕入れ値が安いから、売値も安いのである。
とにかくこの値段からすると、やっぱタイワンカラスの♀は簡単に採れる蝶ではないのである。

それにしても見事に地味だ。
しかし、よくよく見ればカラスアゲハの仲間内では、かなり特異な蝶だなと思う。参考に台湾のカラスアゲハの画像を添付しておきましょう。

 
(2016.7 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

 
比較して、先ずもって違うのが尾状突起である。
タイワンカラスの方が明らかに太い。
そして、尾突起全体に青い鱗粉が広がっている(各写真は拡大できます)。
基本的にカラスアゲハの類は尾突起に1本通った支脈の回りにしか青緑の鱗粉が無く、両縁は黒い。
この尾突にベッタリと鱗粉があるタイプは、カラスアゲハグループ(Achillides)にしては珍しい特徴で、他にはオオルリオビアゲハ(Papilio blumei )くらいしか例が思い浮かばない。

 
【オオルリオビアゲハ】
(2013.2 Indonesia Sulawesi Palopo)

 

次に形である。
コレは標本写真の方が解りやすいだろう。

 
【Papilio dialis tatsuta 台湾亜種♂】
(2016.7 台湾南投県仁愛郷南豊村)

 
コレって完品に近かったのに、展翅中に翅に手がぶつかって鱗粉がゴッソリ剥がれちやったんだよねー。
やっちまったな(ToT)である。胴体に合わせて展翅すると、触角の整形は上手くいくけど、ままこういう事が起こる。

他に無かったかなあ?

 
(2016.7 台湾南投県仁愛郷黄肉渓)

 
コイツは一見完品に見えるけど、よく見ると翅が欠損している。

たぶん去年2017年には完品をいくつか採ってる筈なんだけど、この期に及んでまだ展翅していない。ブログ用に一つくらいは展翅しとけよなー。もう半年以上も過ぎてるのに、山とある採集品が放ったらかしなのである。
だって、展翅嫌いなんだもーん(# ̄З ̄)
サイテーだな、オイラ。

今一度、標本写真を見て戴きたい。
所謂(いわゆる)カラスアゲハの定番のフォームとは感じが違う。ボックス型なのだ。ちよっとナガサキアゲハの翅形に似ているような気もする。

参考までに台湾のカラスアゲハの標本写真も添付しておきましょう。

 
【Papilio bianor ♂】 
(2016.7 台湾南投県仁愛郷)

 
タイワンカラスよりもほっそりとしており、全体的に優美な形だ。コレがカラスアゲハ類の定番の翅形パターンかな。

色も鮮やかな青緑色だ。
それと比べてタイワンカラスは渋い青緑色である。
さっきは地味だとか何だとか悪口を吐(ぬ)かしたが、本当は渋い美しさがあり、好きだ。特に生きている実物は、カラスアゲハなんかよりも余程美しいと思う。

 
(出典『wikimedia』)

 
上の写真が、太陽光の下、最も美しく見える瞬間だ。
下翅の前縁と尾状突起に配された群青は、まるで夜が始まる直前にほんの一時だけ現れる蒼穹のようだ。
そこに散りばめられた粗い鱗粉が、瞬き始めた星々の如く煌めいて見える。銀河だ。

蝶の翅をミクロでじっくり見ていると、時々魅了されてしまい、『鱗粉、ヤッベー(@_@;)』と思う。
そこには、宇宙が存在するのだ。

  
【学名等名称について】
学名 Papilio dialisの小種名「dialis(ディアーリス)」は、ラテン語のユーピテル大神の(形容詞)、ユーピテル大神の神官(名詞)の意。
ユーピテルはローマ神話の最高神にあたり、ギリシヤ神話のゼウスと同一神とされる。その神官なんだから、そこそこ敬意を払われて名付けられ学名なんだね。
亜種名の「tatsuta」については、次項で言及します。

英名は「The Southern Chinese Peacock」。
南中国の孔雀さんだ。

台湾での名称は穹翠鳳蝶。
穹翠鳳蝶の穹は「アーチ、ドーム」という意味と「空、大空」と云う意味があるようだ。
アーチ、ドームは、おそらく裏面に並んだ半月紋を指しての事だろう。
しかし、自分には月のイメージよりも、星のイメージの方がある。前述したが、表面に散りばめられた鱗粉が他の近縁種よりも浮き立って見え、それがまるで夜の始まりの青藍の空に瞬く星々に見えるのだ。

他に南亞翠鳳蝶、臺灣烏鴉鳳蝶と云う別称があるようだ。
南亞翠鳳蝶は南アジアの緑色のアゲハという意味だね。
でも、南アジアと言われてもピンとこない。南アジアといえば、インド、ネパール、パキスタン、ブータン、スリランカ、モルジブを含む地域を指す筈だ。蝶の分布とはピッタリ合わない。

臺灣烏鴉鳳蝶は台湾のカラスアゲハという意味。
つまり和名そのままである。ちよっと面白いのは、台湾や中国では「烏鴉」の二文字でカラスを表すんだね。日本では「烏」一文字でカラスと読むし、「鴉」一文字でもカラスだ。もしかしたら、本来は「烏鴉」で、日本に伝来当初はそのままだったけど、時間の経過と共に変化、略されていったのかもね。

 
【分布と亜種】
台湾以外の分布は、中国南部~南西部、海南島、インドシナ半島北部が知られている。

 
(出典『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
「原色台湾蝶類大図鑑」には以下のような亜種が記されていた。
だが古い図鑑なので、現在はどうなっているのかはわからない。調べたが、文献を見つけられなかったとです。

 
▪P.dialis.schanus ミャンマー・シャン州

▪P.dialis.doddsi トンキン(ベトナム北部)

▪P.dialis.cataleucus 海南島(中国)

▪P.dialis.dialis 中国西部~中部

▪P.dialis.andronicus 台湾

 
気になるのは、台湾の亜種名。
現在は「andronicus」ではなく、「tatsuta」と云う亜種名が使われているようだ。
どうゆう経緯でそうなったのかはよくワカンナイけど、とにかくアンドロニカスはシノニム(同物異名)になってしまっているみたい。
それにしても、「tatsuta」というのの語源が解らない。竜田揚げしか浮かばんわい。もしかして竜田さん、もしくは立田さんという人に献名されたのかな?
だとしたら、ダサい。そもそも献名という方式に疑問を感じる。個人のエゴ丸出しではないか。第三者から見れば、誰かへのゴマスリとかオベンチャラ、個人的センチメンタリズムにしか見えない。本来は、その蝶のキャラにあった名前をつけるのが筋でしょう。
とはいえ、誰かにアナタの名前を学名につけてしんぜましょうと云う申し出があったとしたら、鼻の下を伸ばして『どうぞ、どうぞ。つけて下さいまし。いや、絶対につけて下さい。おねげぇーしますだあー(ToT)』と懇願したゃうんだろなあー。
( ̄∇ ̄*)ゞハハハハ…、プライドの欠片も無い男なのだ。

それはそうと、アンドロニカスというのは、あのシェイクスピアの戯曲『タイタス・アンドロニカス』から来てる筈だよねぇ。
だとしたら、学名の変更は勿体ないよなー。言葉の響きもカッコイイしね。
とはいえ、シェイクスピアの戯曲の中では最も残虐な内容だから、見方によっては汚名返上とも言えるんだけどね。

おっと、書き忘れるところだったわい。
亜種のうち、インドシナ北部の生息するドッドッシー(ssp.dodosi)は尾突が退化していて、一見してかなり印象が異なる。ゆえに別種とする学者もいるようだ。

 
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
ナガサキアゲハとかオナシカラスアゲハに似ている。
確かに、見てくれは別種と言われれば、納得できない事もない。
遺伝子解析とかは、されてるのかな❓
されてたら、きっと同種扱いなんだろなあ…。特に理由は無くて、何となくだけだけど。
因みに、コイツには「ミナミカラスアゲハ」と云う和名が付いているみたい。また南だ。特に南に分布しているワケではないと思うんだけど、何でじゃ❓

 
【生態】
台湾全島の低山地から山地にかけて広く分布するが、個体数は少ない。垂直分布は200m~2700mとされるが、その中心はおそらく1000m以下だろう。
4月上旬に現れ、10月まで見られる。台湾の文献(註3)によると、桃園県の山地では、4月中旬を中心に羽化が始まる。第1化は春型とされ、夏型に比べて遥かに小型。後翅表面前縁の藍色鱗は、より緑色を帯びる。
以後、6月中旬、7月下旬~8月上旬、9月上旬を中心に羽化が見られる。但し、1973年と古い文献なので、現在は少し発生が前倒しになっているかもしれない。

渓流沿いや樹林周辺の明るい所に多く、♂♀共に花に吸蜜に訪れる。♂は午前中に活発に飛び、好んで吸水に集まる。但し、他のカラスアゲハ類に比べて個体数が少なく、他種に紛れて吸水していることが多いので注意が必要。他と比べて大きい個体がいれば、本種の可能性を疑ってかかるべし。
飛翔は他のカラスアゲハ類の中では、ややゆるやかな印象があるが、決してトロいワケではない。むしろ一番敏感かもしれない。吸水中でも、近づくと他のアゲハと比べて反応が早い。

なおタイワンカラスアゲハの採集記は、アメブロの『発作的台湾蝶紀行』の第28話 「イエローミートバレー」他にあります

 
【幼生期及び食餌植物】
『アジア産蝶類生活史図鑑』には、Euodia glauca ハマセンダンとToddalia asiatica サルカケミカンが食餌植物とあった。

台湾では以下のようなものが記録されている。

賊仔樹 Tetradium glabrifolium
吳茱萸 Tetradium ruticarpum
食茱萸 Zanthoxylum ailanthoides

一番上は、カラスザンショウ。
上から2番目は、ゴシュユ。3番目はホソバハマセンダン。何れもミカン科の植物である。
ホッポアゲハと同じく、またもやサルカケミカンもハマセンダンもあげられていないが、まあそこをツッ込んだところで泥沼迷宮じゃろう。カラスアゲハ類全般が食う樹種ならば、幼虫に与えれば食して、問題なく成長するとみられる。

それでは、いつもの幼虫の御披露目タイムだ。
今回もキモかわキューティーちゃんである。

 
【側面】  
(出典『圖録検索』)

 
【側面及び俯瞰図】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
青い紋が顕著になり、中々にお洒落さんだ。
成虫はカラスアゲハ界ではかなり地味な存在なのに、幼虫はこの群の中では最も美しいとは何だか逆説的だ。

 
【正面写真】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
ホッポアゲハ程とぼけた顔ではないが、そこそこ可愛い。でも目つき(頭部側面の眼状紋)が奈良美智(註2)の登場人物みたいで、ややひねくれ顔だ。まあ、写真を撮る角度で、そう見えるだけだと思うけど。

 
【蛹】
(出典『生物多様性資訊入口網』)

 
(出典『圖録検索』)

 
ホッポアゲハの回では冬季越冬時に見られる茶色いタイプの蛹の画像を見つけられ無かったが、コチラは『アジア産蝶類生活史図鑑』に茶色いタイプも載っていた。
でも、面倒クセーので端しょります。卵もアゲハは皆変わりばえしないので添付なしです。

幼生期の生態は、近縁種のカラスアゲハ(Papilio bianor)と変わらないという。
文献によると、卵から羽化まで約40日間を要するようだ。
以下、例をあげておく。
6.24 産卵。6.28 孵化。7.20 蛹化。8.2 羽化。

イナズマチョウとかは、あまりにも邪悪すぎる姿なので無理だが、アゲハの幼虫だったら、飼ってやってもいいかなあ…(笑)。

                 おしまい

 
 
追伸
今回は完成するまで何やかんやと時間がかかった。
これは書き方を変えてみたからです。いつもは頭から順に書いてゆくのだが、今回は先に各項目を並べて、書きたいところからアトランダムに書いていった。
最初から各部門に分ければ、より効率的に書き進められると思ったからである。
しかし、コレが失敗だった。気分次第でアッチコッチ書くので、各章の連携を無視してズンズン書いてしまった。したら、全体的な整合性が合わなくなってきた。各項目で重複した記述が一杯出てきたのである。そうなれば、当然どっちかを削らなければいけない。
しかし、文章には流れと云うものがあるワケで、そこだけ削ると文脈やレイアウト(構成)がオカシクなってしまうのだ。各章の連結も悪く、全体的な文章の流れもヨロシクなくて、読んでいてもどこか居心地の悪いチグハグな感じなのだ。それを修正しようと四苦八苦しているうちに時間が経ったというワケである。まあ、途中でイヤになって、放り出してた期間もあるんだけどね。

 
(註1)台湾のミヤマカラスアゲハ
今や古典と言ってもいい『原色台湾蝶類大図鑑』には図示・解説されているが、その時点での記録は1935年、台北州新店で採集された1♂のみ。その後、ミヤマカラスに触れた文献ほ殆んど無いようだし、たぶん再発見はされていないと思われる。きっと現在では大陸側(中国)からの迷蝶扱いとされているのだろう。

 
(出典『原色台湾産蝶類大図鑑』)

 
美麗種としてならしているミヤマカラスにしては、汚いのぅー(# ̄З ̄)
見た目、カラスアゲハにしか見えへん。本当にミヤカラなのかなあ?…。交尾器を見ないと、こんなの判断できないよね。
まさか学者が交尾器も見ないで判断するワケはないから、ミヤマカラスで間違いないとは思うけどさ。
けど、標本が残ってて、調べなおしたら案外カラスアゲハだったりしてね( ̄∇ ̄*)

冬の献立 総ざらえ

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蝶は買わない主義。なのだが…

 
一昨日、3月11日はインセクト・フェア(昆虫展示即売会)だった。
インセクト・フェアとは、昆虫の標本を中心に昆虫関連の書籍や道具が売買される虫好きの虫好きによる催しなのだ。
まあ、虫嫌いな一般ピーポーからすれば、(;゜0゜)はあ❓とか、(|| ゜Д゜)へぇー❓の世界である。
自分も蝶に嵌まるまでは、こんなマニアックの世界がこの世に存在するとは夢にも思わなかった。世の中、色んなマニアさんがいるのである。

 

 
画像は去年のものだが(註1)、こんな感じである。
年齢層が異様に高い。
ただでさえマイナーな業界なのに、10年後には益々衰退、風前の灯火になっていること必至でしょうな。
珍しい虫だけでなく、虫好きも今や絶滅危惧種なのだ。

 
基本的には虫(蝶)は買わない主義だ。
蝶は買うもんではなく、自分で採るもんだと思っているからだ。買ってしまうと、自らの足で現地に会いにゆきたいと云うモチベーションが著しく下がるような気がしてならない。もう採ったような気分になってしまうのだ。恋愛なら、妄想変態野郎である。
しかし、憧れの蝶の棲むロケーションに実際に身をおき、生きている実物を見る感動は大きい。そこには心躍る純粋なハンティングの快楽がある。それに、生きた蝶には謂わば生命の輝き、標本を遥かに凌ぐ美しさが具わっているのだ。その珠玉の楽しみを自ら放棄、もしくは薄めてしまうのは勿体ないと思うのだ。
だから、死んだ蝶は買わない主義なのだ。

じゃあ、何で行くのかと云うと、虫仲間と虫談義をする為である。虫の話が出来るのは、虫仲間しかいないのだ。
普通は同じテーマについて喋り続けることは出来ないものだが、誰しもが何時間でも延々と虫の話をしていられる。全然飽きないのである。
これは自分にとっては驚きであった。たとえ文学や映画が好きでも、延々とそれについての話をしようとは思わないからだ。食いもんの話だって無理だ。話は自然と別なジャンルへと移行してゆくのが普通なのである。

そんな蝶は買わない主義の自分だったが、一昨年辺りから蝶をちょぼちょぼ買うようになってきた。
キッカケはヘリボシアオネアゲハである。出谷さんのところのブースで、三角紙標本が300円だか500円だかで売っていたのをつい買ってしまったのである。

 
【Papilio lorquinianus ヘリボシアオネアゲハ】
(実際はもっと緑っぽい。スマホだと何故だかこの色にしか写らへん)

 
分布はニューギニア周辺である。
多分、モルッカ諸島のバカン島(Bachan)のヘリボシだったかと思う。
その辺の事はアメブロに『マリンブルーの肖像』と題して書いた筈だから、興味のある方は読んでみて下され。

マリンブルーの肖像
(青のとこ、クリックすると本文に飛ぶ筈です)

Σ( ̄ロ ̄lll)ゲッ、自分で読んだらキッカケはヘリボシアオネアゲハではなく、チモールの貴婦人オリルスフタオであった。しかも、軍神マルスフタオも買ったので、ヘリボシアオネはオマケにつけてくれたのだ。
人の記憶と云うものは曖昧である。自分の都合のいいように勝手に改竄するなどお手のものなのである。

 
【Charaxes orilus オリルスフタオ♂】

 
この辺の経緯もアメブロにあります。
計5、6回のシリーズものだったかと思う。

蝶を買ってしまった…

そいでもって、その年の冬のフェアにはもう蝶なんて買うまいと決めていたのに、山積み300円均一のアフリカのフタオチョウを前に決意がいとも簡単に消し飛んだ。

 
【Charaxes imperialis❓】 

 
多分、これも『アフリカのフタオチョウ』と題して文章を書いている筈だが、探すのが面倒くさいのでURLは貼りません。興味のある方は、申し訳ないが御自分で見つけて下され。

とにかく、自ら採りに行くことを考えれば、屑みたいな値段である。そう考えたら、なし崩しになってきた。それでも、金額は抑えてきた。二千円を越える蝶は買うまいと自らを戒めていたのだ。
しかし去年、遂に絶対に自分で採りに行くと決めていた魔王クギヌキフタオまでをも買ってしまった。

 
【Polyura dehaanii クギヌキフタオ♂】

【♀裏面】

 
ジャワ島産の1ペアの三角紙標本が1万円五千円だったかと思う。それが値引きして1万3千円にするよと言われたのだ。
昔は1頭何十万もした蝶で、今でも♂1頭で1万円前後、♀ならばその倍くらいの値段はついているのである。
中を開けてみて、その裏面のあまりの複雑怪奇さに一発KOのノックアウト☆(゜o(○=(゜ο゜)o

遂に1万円越えの買い物をしてしまった。
もう、こうなると、一回体を許した処女の気分みたいなものだ。二回目以降はパッカーンである(スイマセン。決して女性蔑視ではありません。あくまでもバカ男の脳内想像です)。

去年の冬にはパンダルスムラサキのペアを買ってしまった。

 
【パンダルスムラサキ】
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
インドネシア・アンボン島のパンダルスだ。
まあ、♂♀ペアで1200円くらいだったから、安い。アンボン島は遠いし、治安がメッチャ悪いと言われているのだ。
でも、まだ展翅もしてないんだよねー。

それで、病気の進行は収まりつつあるのではと思った。
ならば、この機に病気を完治させようと思って今回は臨んだ。何も買うまいと決めたのだ。

その作戦は前半には上手くいっていた。
だが、後半になって病気再発。小原さんのとこに前半には沢山あったシナシボリアゲハの三角紙標本が見る見る減っていくのをみて、心が揺れたのだ。
追い討ちをかけるように、小太郎くんの悪魔の囁き。

『コレ、安いと思いますよー。今度また同じ値段の出物があるかどうかはわかりませんよねΨ( ̄∇ ̄)Ψ』

真面目そうに見えて、案外Ψ( ̄∇ ̄)Ψダークな青年なのである。煽り方が巧みなのだ。
で、結局買いました。
それにしても、若い20代の若者のせいにするだなんて、サイテーだ。病巣は思った以上に自身を蝕んでいそうだ。

 

 
3頭で1800円。♂3頭だが、1つ600円と考えれば激安である。中国は、というか漢民族とはソリが合わないので中国に行く気にはなれない。無礼者に対して怒ってばかりだと疲れるのである。そう考えれば安い買い物だ。
あ~、でも経費とか考え出したら、益々買う方に走るよね。でも、そこには浪漫が無いんだよなあ…。
蝶採りとは、浪漫である。そう言い続けてきた身としては、肩身が狭い。

何だかグズグズ言ってるよなあ。ちよっとカッコ悪い。
何れにせよ、禁断の領域に足を踏み入れてしまってるよね。

ウンナンシボリアゲハも売っていたが、コレは触角が折れていたので、何とか踏みとどまった。
喉元まで『マケてくれんかのうー( ̄З ̄)』という言葉がせり上がってきていたが、言って値下がりしたら買わざるおえないと思い、全力でブレーキをかけた。
けど、今度耐えれるかは自信がない。考えてみれば、シボリアゲハは既に持っているのだ。これがよろしくない。

 
【シボリアゲハ】

 
ミャンマーに行かれた人のお土産の三角紙標本を、自分で展翅したものだ。
これがあるゆえに、シボリアゲハ4種類をコンプリートしたいと思ってしまったんだね。
コレクターという人種は、蝶に限らず同じカテゴリーのものをコンプリートしないと気が済まないように出来ているのだ。ビョーキである。

一応実物はどんなものなのか気になるので、中を開けて確認してみる。

 

 
尾状突起が長く、優美だ。
しかし、思ったほどには色があんまり綺麗ではない。近縁のギフチョウっぽい裏面を想像していたので、何だかガッカリだ。ギフチョウよりもホソオチョウに近いのかもしれない。あの蛾みたいな奴に近いかと思うとモチベーションが下がるよ。

 
【ギフチョウ裏面】
(2017.4 兵庫県三田市)

 
【同表面】

 
【ホソオチョウ 夏型♀】

 
【同裏面】
(2016.9 大阪市淀川河川敷。上が♀)

 
でも、表はそんなこと無いよね❓
けど、どんなだっけ❓
画像を探してくる。

 
【Bhutanis thaidina シナシボリアゲハ】
(出典『ゆのはな虫屋』)

ついでにウンナンシボリアゲハの画像も添付しておこう。

 
【Bhutanis mansfieldi ウンナンシボリアゲハ】
(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
良かった。表は美しい。
安心したところで、タッパーに放り込む。
おいおい、展翅せんのかぁーい❗❓
ハハハ( ̄∇ ̄*)ゞ、展翅が嫌いなのである。パンダルスムラサキどころか、去年台湾で採った蝶もろくすっぽ展翅してないんである。
とは言っても、シボリアゲハとシナシボリアゲハを並べて見てみたい。
そのうち気が向いたら展翅します。展翅したら、ブログには書きますネ。

                 おしまい

 
追伸
何だか、よう意図のワカランような文章を書いてしまった。
次回の蝶の話は、台湾の蝶シリーズの予定。アゲハのどれかです。

(註1)画像は去年のものだが
去年は『虫マニアはデビルマンの歌を歌う』と題して文章を書きました。

虫マニアはデビルマンの歌を歌う

自分で書いたのを忘れてて、思わず笑ってしもうた。
 
 

さらば、星野

 
昨日、3月10日(土)に甲子園で星野仙一の追悼試合が行われた。

 
(出典『デイリースポーツ』)

 
全員、星野が監督時代だった背番号「77」をつけてのオープン戦である。
この背番号は巨人のV9監督であり、打撃の神様とも言われた川上哲治への、星野のオマージュだ。
星野は中日の選手時代にエースナンバー「20」をつけて活躍し、打倒巨人に燃えに燃える男だったことは有名な話である。

この憎悪は1968年のドラフトに遡る。
当時、明治大学のエースだった星野は巨人のスカウトに1位指名すると明言されていた。
しかし、蓋を開ければ、巨人は星野ではなく、島野修(武相高校)を指名した。
『星と島の間違いじゃないか❓』という、その時の星野の語録が残っている。よほど悔しかったのではないかと思う。

この裏切られた一件以来、星野は巨人に対して異常なまでの敵意を持って挑むようになったと言われている。 

じゃあ、なぜに憎っくき巨人の川上の背番号を背負うようになったのかというと、現役を引退したNHKの解説者時代に、川上と一緒に仕事をするようになったのがキッカケであるらしい。
星野は川上に直接、なぜ自分を指名しなかったのか❓と訊いたそうである。
川上は直前にスカウトから『星野は肩を壊している。』と報告を受けて指名を回避したと答えたそうだ(実際には肩を壊してはいない)。
徳川家康、たぬきオヤジ川上のことだから、その言動は怪しいところだが、それを聞いた星野はわだかまりが一切消えたという。
以降、川上に監督術の薫陶を受け、77番を背負うようになったのである。

 
2002年、星野が阪神タイガースの監督に就任した時は期待した。
鬼と言われた星野が、腐ったぬるま湯体質の阪神を根本から変えてくれるのではないかと思ったのである。
そして、翌年の2003年には見事にチームにチャンピオンフラッグをもたらしてくれた。

ガキの頃から今に至るまで、生粋の阪神ファンだったけど、あの年は阪神タイガースにではなく、星野に恋していた。
鬼なんだけど、情のある指揮官だと云うのが俺たちファンにも充分に伝わったからである。当然、選手にはもっと伝わっていただろう。
優勝を決めた時、殊勲の一打を打った赤星をクチャクチャに抱きしめたシーンが忘れられない。

死のロードに連敗しまくった時は半泣きになったけど、それでも星野で優勝できなければ文句は一切無かった。男に惚れるとは、そういう事である。

でも、優勝してから監督をやめるだなんて卑怯だ。カッコ良すぎだ。
そうだ。優勝した翌日に、ファンへの感謝をスポーツ誌全紙にポケットマネーで全面広告をうったんだよね。とにかく粋な男なんである。
しかも、各紙違うコメントだった。益々、粋である。
そんなもん、絶対に惚れてまうで。

そういえば、往年の阪神のスター、田淵をコーチとして呼び戻してくれたのも嬉しかった。盟友とはいえ、それだけでも感謝だ。一生、田淵の縦縞のユニフォームは見られないと思っていたからね。
阪神タイガースというのは酷い球団で、生え抜きのスターを全盛期が過ぎたら、酷い扱いでクズみたいにチームから追い出してきた。田淵、江夏、掛布。みんなそうだった。
愛してはいるが、ホント、クソみたいな球団なのである。

考えてみれば、そもそも星野が当時広島カープに在籍していたアニキ(金本)を、勝つために半ば強引に引っ張ってきたのである。それが今やアニキは阪神の監督。星野がいなければ、金本監督の誕生は無かっただろう。そして、その金本がいなかったら、掛布の二軍監督も有り得なかったに違いない。
掛布の縦縞姿は、一生見れないと思っていたのだ。コレも嬉しかった。
それもコレも、結局は星野が監督になったからがゆえの流れなのである。

御堂筋の優勝パレードには行った。
力一杯手を振り、『ホシノー、有り難う❗』と叫んだのを憶えている。
このあと、神戸に行ってパレードをすると知っていたので、アタマを使って先をよみ、バスの駐車場に先回りしたっけ。
そうだ。で、席の一番前にいた星野さんが、バスが出発した時に、絶叫して手を振るオイラに向かって手を振り返してくれたのだ。
少なくとも、その場には西井さんとあと2、3人にしか居なかったし、オラが一番前にいたから、間違いなく自分に向けて手を振ってくれたのだと思う。

 
実をいうと、この文章は星野仙一がこの世を去った時の年始からずっと書こうと思って書けなかった文章だ。
各局で放映されていた追悼のドキュメンタリーは全部みた。その度に、アホみたいにダダ泣きした。
で、結局書けなかった。
そして、今日が書く最後のチャンスだと思って書いた。

 
(出典『デイリースポーツ』)

 
試合は、奇跡的に阪神側のスコアボードに「1001」の数字が並んだ。1001=仙一である。
きっと偶然だけど、そうは思いたくはない。
星野のメッセージだ。
試合結果はドロー。勝ちきれなかった。
星野の叱咤激励が聞こえてきそうである。

『おまえら、詰めが甘いんじゃ、ボケーッ❗』

それが星野さんの最後のメッセージだったんじゃないかと思う。
コレで選手が奮起しなければ、また万年最下位だ。
いや、そんな事はあるまい。コレで奮起しないでどうする。星野の顔に泥を塗るんじゃないよ。気合い入れていけや、ボケッ(#`皿´)

 

 

 
さらば、星野。

今年、阪神タイガースは優勝します。

 
                 おしまい

 
追伸
最後の笑顔はテレビ番組からのものだ(ご免なさい。どの番組かワカリマセン)。
とにかく、柔和な笑顔だ。子供のように屈託がない。
この画像を添付して、また泣いた。
なんて素敵な笑顔だろう。
人蕩(たら)しの天才だね。

星野さん、御冥福をお祈りします。