2020’青春18切符1daytrip 第四章(2)

 
 第2話 紀州逍遥

 
 2020年 4月10日(中編)

 
道成寺駅で次の電車を待つ。

 

 
特急くろしおがやって来た。
遠くから特急が近づいて来るのって、何だかワクワクする。

 

 
でも引きつけ過ぎて顔が切れてしまった。
さておき、特急くろしおは既に289系が導入されている筈だが、これって287系だよなあ。一挙に全部入れ替わるというワケではないんだね。冷静に考えれば当たり前なんだけどね。

暫くして、反対方向からも特急が来た。

 

 
w(°o°)wあわわっ、今度も287系だけどパンダ仕様じゃないか。
白浜アドベンチャーワールドにはパンダが沢山いるからね。でもコレって全然かわゆくないよね。

 

 
(☉。☉)ゲッ、又しても顔が写ってへーん。
一つ前の画像を拡大したら、正面の顔は確認できるけど、一応借り物の画像を貼り付けておこう。

 

(出典『Wikipedia』)

 
やっぱ全然、可愛くねーや。
ついでだから、最初の顔が切れた別タイプの車両の画像も貼っつけておきまふ。

 

(出典『Wikipedia』)

 
「特急くろしお」については前回に書いたので、気になる人は前回を読みませう。

 

 
駅の歩道橋って何となく好きだ。

 

 
線路が遠くまで見えるし、周りの風景もよく見える。
列車を真正面や真上からも見れるし、到着と出発、人の乗り降りも見える。それが好きなんだろね。

午後1:27の紀伊田辺ゆきの列車に乗る。
さて、次は何処で降りようか❓青春18きっぷなんだから、今日中ならば何処で降りようが自由なのだ。

 

 
視界が広がる。
山々の芽吹きが眩しい。南なだけに照葉樹が多いのだろう。
ここで漸く気づく、この列車って窓が広いぞ。だから視界がバーンと広がったのだ。

 

 
切目駅を過ぎた辺りだったろうか、海が見えた。
ここまで来ると青いね。綺麗だ。
以下、ずっと海〜\(•‿•)/

 

 
水平線が見えた。

 

 
しかも、ずっと目の前が海だ。
贅沢だなあと思う。特急ならアッという間だが、鈍行列車だと各駅に停まるので、落ち着いた気持ちでゆっくりと海を眺められる。何か得した気分だ。世の中、何でもかんでも速くて便利だからいいってワケではないのだ。

 

 
川を越える。
おそらく南部川だろう。

 

 
南部(みなべ)駅は素敵だ。
改札を出る前から海を感じられる。改札の先は海へと続く真っ直ぐな道だ。少し歩けば、すぐ海なのだ。そうゆう駅って無条件に好きだ。心が自然と沸き上がる。
懐かしい…。南部の海はダイビングインストラクター時代に何度も訪れているから思い入れがあるのかな。

 

 
午後2時過ぎに紀伊田辺駅に到着。
駅名を改めて見て違和感を覚える。此処を紀伊田辺と呼ぶ人は関西人でも殆んどいないだろう。皆、単に「田辺」と呼ぶ。
なのに何でわざわざアタマに「紀伊」とつけたのだろう❓
あっ、そっか大阪の東住吉区に「田辺」という地名があったな。そのせいなのかもしれない。
場所は天王寺の南南東にあり、「田辺」の他に「北田辺」「南田辺」「西田辺」「東田辺」という地名があって、東田辺を除いて同じ名称の駅がある。それぞれ路線は違ってて、田辺駅は地下鉄谷町線、北田辺駅は近鉄南大阪線、南田辺駅はJR阪和線、西田辺駅は地下鉄御堂筋線だ。

ここは、その昔「田辺郷」と呼ばれ、庚申街道や下高野街道、難波大道など数多くの歴史街道が交差することから、古来、難波宮の時代から栄えていたそうな。
「田辺」は古くは田部とも書き、飛鳥時代に朝鮮半島から渡来した豪族田辺氏が開発した土地で、隣の平野区も含め付近一帯は渡来系に因む地名が現在も残っている。
杭全神社のある杭全(くまた)地区は杭全荘を開発した坂上(さかのうえ)氏が開発した土地だと言われている。坂上氏は百済(くだら)系の渡来人で、JR東部市場前駅の百済貨物駅や百済大橋などにその名が残っている。補足すると、平安時代には今の生野区から平野区・東住吉区の一帯は百済郡と呼ばれていたようだ。生野区の鶴橋一帯が今もコリアンタウンなのは、それと何らかの関わりが有りそうだにゃ。
また駒川商店街のある駒川は高麗(こま=こうらい)の宛字だとされるし、地下鉄喜連瓜破(きれうりわり)駅の喜連は、高句麗(こうくり)の「高」を略して喜連の字を宛てたとされているみたいだ。
言わずもがなだが、百済、高麗、高句麗は何れも朝鮮の王朝名である。つまりは、古い時代からこの一帯は朝鮮系の渡来人が多く住む土地だったのだろう。

尚、なにわ伝統野菜の一つ「田辺大根」の名称は、此の地に由来する。
余談ついでにもう一つ。ちなみに北田辺は作家の開高健が育った町だ。あの巨匠のもっちゃりとした大阪弁は、田辺の地で培われたのだね。
何で、こんなに詳しいのかというと、何れの場所も自分の育った町から近かったからである。特に東田辺はすぐそこだった。
(・o・)あっ、しまった。いつの間にか脱線してたよ。メンゴメンゴ🙏

改札を出ると、駅構内に↙こんなのがあった。

 

 
田辺といえば南方熊楠だが、あの怪力無双の荒法師 武蔵坊弁慶もそうなの❓
でも弁慶って、田辺と何か関係あったっけ❓
下にある解説を読むと、弁慶の出生地は田辺だという説が最も有力らしい。(・o・;) へぇー、そうなんだ。
あとの人は知らんなあ…。あっ、片山哲は辛うじて知ってる。総理大臣だった人ね。世間一般的にはマイナー総理だけどさ。

インフォメーションで地図を貰い、駅を出る。

 

 
駅舎は残念ながら新しい。
古い駅舎の方が風情があって好きなんだけどなあ。容易に旅情感に浸れるからね。謂うなれば、お浸りロマンチスト増幅装置みたいなものなのだ。

 

 
ふ〜ん、ちゃんと駅前に弁慶さんの銅像まであるのね。
全然、紀州のイメージはないけどなあ。どっちかというと京都や「弁慶の立ち往生」で有名な平泉(岩手県)とかだよね。
いやさっ、でも紀州といえば山岳信仰の地だから、弁慶の出で立ちである山伏とは通ずるところがあるな。

田辺駅で降りて街に出たのには、3つの理由がある。
順番が逆のような気もするが、1つめは物理的な理由からだ。
何も調べてこなかったから目をパチクリしてしまったが、次の普通列車は午後4時50分発。何と3時間近くも間隔があくのである。
「バーカ、そんなの事前に調べとけよ。」と云うツッコミが入りそうだが、断固として受けつけない。それは自分の中での概念だと「旅行」だ。「旅」ではない。そうゆうことを言う人は、一生「旅行」だけしてなさい。旅と旅行とは違うのだ。
旅行は計画ありきのものだが、旅は「予定は未定であって、しばしば変更」流浪のものなのだ。
ことわっておくが、別に「旅行」というスタイルを否定しているワケではない。時と場合によっては、自分もそうゆう形式は使うからね。単にスタンスの違いだ。女の子との旅行は流石に宿は予約するからね。けんど、一人旅だと外国でさえも宿泊の予約は入れない。
とはいえオイラ、デートも綿密に計画を立てることは少なくて、待ち合わせ場所で何処へ行くのかを決めちゃうな人だからなあ…。その後も、その場その場で行き当たりばったりで決めてくからなあ。だから、時に動線が無茶苦茶になる時だってあるもんな。
たぶん、予定調和が嫌いなのだ。計画をこなす事よりも、きっと何が起こるか自分でもわからない、ようはサプライズを期待してる人なのね。
一応、言っとくけど、計画を立てるのが苦手なのではない。立てろと言われれば、完璧に立てられる人でもある。
あれっ(・o・)❓、オラ、何言ってんだろ。そんな偉そうな自慢話なんて、どーでもいいクソみたいな話だわさ。脱線太郎、スマンスマンのプチ反省(◡ ω ◡)なり。

兎に角そんな長い間、駅で待ってるワケにはいかない。気が短いから退屈すぎて死んでしまうわ。
ようは、たとえこの先へ進むにしても、時間つぶしをしなければならないとゆうワケだね。直近にして突発的理由だから、これが最たる理由なのだが、やはり順番が間違ってたような気がするね。
他の理由は、田辺に行きたい居酒屋があったことを思い出したからだ。去年(2019年)、青春18きっぷの旅について書かれた雑誌を見てたら、モデルケースの一つに紀州方面があり、田辺の居酒屋が取り上げられていたのだ。地元の珍しい食材に拘った店で、しかもリーズナブルだと紹介されていた。まあ、これとて降車する10分か15分前に思い出した事なんだけどもね。
あとは田辺市内を観光したことがないし、熊楠が生まれ育った街を見てみたいとゆうのもあった。
なんか、グダグダになってきたな。グダグダついでに、グダグダで続けよう。

ただ、それでも当初は田辺には少し立ち寄るだけのつもりだった。予定では1時間くらい居てから、もう少し先に進んで、また夕刻に田辺まで戻って来て居酒屋に行くつもりだった。でも、このまま此処が今回の旅の往路終着駅になりそうだ。こんなにも先に進む普通列車が無いとは全くの予想外だったからね。時間的にみて、次の5時前の電車には乗れない。物理的に乗れないワケではないが、乗れば夕飯どきに戻って来れない公算か極めて高い。下手したら居酒屋は諦めなくてはいけない。そう考えると、この先へは進めないのだ。
もしも道成寺で下車していなければ、13:10発の新宮ゆきってのに乗れたんだろな…。新宮までは無理としても、周参見、白浜、串本、勝浦、那智の何処かまで行って、そこで過ごしてから夕方に田辺に戻って来るというのが正解だったのかもしれない。
まあ道成寺は道成寺で、それなりに面白かったから後悔はしてないけどね。
結論。今さら考えても仕方ない。ここは腰を据えて田辺をじっくりと回り、堪能しようではないか。

 

 
先ずは居酒屋の位置確認からだ。
情報は去年のものだから移転しているかもしんないし、何か、やんごとなき事由で店を閉めている事だって有り得ないとは言えないのだ。それに、このコロナ禍の御時世だ。休業している事だってあるかもしんない。

繁華街へと向かう。

 

 
『すなっく かっぱ』に『たつまき』。
いきなりパンチの効いたネーミングの店が登場だ。
第一章の福井県敦賀編でも熱を入れて書いたが、実をいうとオジサンはスナックの変てこネーミング愛好家なのである(笑)。

「かっぱ」って、当然あの妖怪の河童のことなのだろうが、何で河童なん❓店主がカッパに似ているのだろうか❓或いは、全身緑色だったりして(-_-;)…。
それとも無類のカッパ好きなのだろうか❓だとしたら、余白があるんだからカッパの絵ぐらい入れてもよさそうなものなのになあ…。
また或いは、I君みたいにむっつりスケベのエロガッパなのだろうか❓
もしくは、店主が事あるごとに、

『尻子玉、抜いたろかぁー❗』

と叫んでるエキセントリックな店だったりしてね。
だとしたら、ちょっと行ってみたいぞ。かなり勇気いるけどさ。

『たつまき』ってのもなあ…。
何で付けたのかよくワカランぞなもし。竜巻の勢いにあやかっているのならば、そこは漢字でしょうに。平仮名に何かしたら弱まって「つむじ風」になっちまうじょ。絵も竜巻って感じじゃなくて、巻きが軽いもんなあ。竜巻を起こすくらいのインパクトのある店を目指しているなら、根本から間違ってやしませんか❓、ねぇ❓
もしも名字が「竜巻さん」だったら、即あやまりますけどー。

 

 
『蝶 Butterfly』。
店主はワタクシと同じく蝶を愛し、趣味としている蝶屋さんなのかなあ…。だったら、いいなあ(. ❛ ∇ ❛.)
で、すげー艶っぽい妙齢の美人さんなら最高なんだけどなあ。
二人して周りの客をほっぽらかして、丁々発止の熱い蝶談義を交わすのだ。
そんなの、リー即で惚れてまうでぇー💖
まあ世の中、そんな奇跡なんて有り得ないと思うけど…。
親しみ安いからか、世に、蝶だのバタフライだのパピヨンなどと云う店名の店はゴマンとあるのだ。ゆめゆめ、あらぬ期待を持ってはならない。
それはそうと、尾突がないね。そうゆう店に有りがちなアゲハチョウのシルエットではない。モルフォチョウ❓にしては微妙にフォルムが違う。詮索はよそう。間違いなく大脱線が待っている。

『磊風八 らいふうや』。
磊落の磊に風と八。店の店風というかコンセプトが豪放磊落って事なのかな❓八(や)は「屋」とかけているのかもしれない。だとしたら、中々に洒落っ気があって凝っている。好きかどうかは別だけど。

 

 
左の『乱舞』に、右の真ん中は『YAMA CHAN』やね。
スナックに有りがちな定番的とも言えるネーミングセンスだ。

『乱舞』と書いて、英語で小さく「RAN-BU」と入れるのも定番手法だ。真ん中を棒線で区切ってるところに悦があるね。
さておき、何故にスナックの名前に大胆にも乱舞なんて大仰ネーミングをしてしまうのだ❓コレもまたスナックならではの、あるある風呂敷デカめパターンだ。
けど、店のドアを開けたら、実をいうとサンバの店で、半ケツのネェーちゃんたちが群がって踊りまくりの、ホントに乱舞しているやもしれぬ。(。◕‿◕。)だったらいいなあ。
それって、間違いなく楽しそうだもんなあ(✿^‿^)

『YAMA CHAN』。
このアダ名を横文字化する手法も多い。普通に「山ちゃん」でいいと思うんだけど、変にカッコつけてネーミングしてしまうのがスナックカルチャーなのだ。

たぶん店主は山田さんか山本さんだろう。
山野さんとか山下さん、山村さん、山川さん、山上さん、山口さんに、山崎さん、山中さん、山森さんかもしんないけどさ。あらま、これだけでもかなりポピュラーなのが揃っているじゃないか。それこそ、他にも山と有りそうだ。失礼、思わずクソ駄洒落を言っちまったよ。
改めて山がつく名字っていっぱいあるんだなあ。山で始まるものだけでも凄い数になりそうなんだから、これに山で終わる名字の中山とか大山や、小山内や小宮山など3文字の山入り名字まで含めるとなると、とんでもない数になりそうだ。

調べてみたら、何と山とつく名字は全部で260種類くらいあるんだとさ。
恐るべし❗、マウンテン名字勢力。

 

 
『スナック 可憐』。
怒られそうだけど、中に入って可憐な女性がいる確率は1000%ないだろう。むしろ、それと正反対のオババがいて、ズケズケと何やかやと説教される確率の方が遥かに高い。
スナック愛好家って、もしかしたらこのギャップを愉しんでいるのかもしれない。自分は、あくまでも「スナック変てこ名前愛好家」であって、スナック愛好家ではないから(スナック好きではある)、その辺りのマニア特有の心情まではワカンナイけどさ。

『スナック ウィ』
何じゃそりゃ❗❓である。
途中、後半部が何らかのアクシデントで欠落しているのではないかと思ったけど、その痕跡は全くない。
一瞬、アフリカの得体の知れない言葉、たとえば呪術師の呪いの言葉じゃないかとさえ思った。それくらい尻切れトンボの違和感がある。
ウィは「ウィ マダーム」とかのフランス語だろうか❓それとも英語の「私たち」を意味する「We」なのだろうか❓どっちにしても意味不明だ。
店主の飼っている九官鳥のQちゃんの口グセとか返事が「ウィ」だったら、納得します。名前なんて本来は付けた本人が満足してさえいればいいのだ。(╯_╰)トホホ…、段々そう思えてきたよ。
とはいえ、しかけたオ○コはやめられないのと同じで最後まで続ける。

 

 
『すなっく 於恋路』。
漢字の部分はオレンジと読む。来夢来人(らいむらいと)とかに代表されるスナック文化定番の宛字ジャンルだ。
「於」の意味から検証しよう。
①おいて。おける。時間や場所を表す。 ②ああ。嘆息・感嘆の声。「於乎(ああ)」
恋をする場所ってことを言いたいのかな❓それとも単に嗚呼という感嘆を表しているのだろうか❓もう恋なんてしないとか。
だとしても、そもそも何でオレンジなん❓そこからして大いなる謎だ。恋とオレンジが繫がらない。
きっと全身オレンジのオバハンが、恋路の難しさに嘆息を連発している店なのだろう。
何かもうヤケクソな感じの無理からコメントになってきたな。己の想像力の貧困さに、嗚呼と嘆かざるおえない。

えー、店々の皆様、勝手な想像を並べ立てて、m(_ _)mすいません。
あたしゃ、アタマがオカシイのです。許してつかあさい。

アホな妄想をしているうちに目的の居酒屋の店前に到着。

 

 
『紀州魚介庵 かんてき』。
にしても予想外のポップな看板だ。オシャレですらある。頑固なクソ親父がやってると勝手に想像していたが、若くて可愛いピチピチGALの店だったりしてね。(◍•ᴗ•◍)❤だったらいいなあー。
いんや、そんなワケあるめぇー。どうせアルバイトに若い娘なんかがいて、その娘に描いてもらったというパターンに違いなかろう。

ちなみに看板の上側の店も気になるね。
『やすらぎの館 彩』かあ…。ワタシもやすらぎたい。彩の膝枕してもらってやすらぎたい。

とにかく、とりあえず目的の店はあった。
大阪がコロナで非常事態宣言になってるから、まだ予断は許さないけど、一応は一安心だ。もしダメなら『蝶 Butterfly』か『やすらぎの館 彩』に行くよ。どっちも閉まってたら、カッパをブン殴って帰る。

さて、あとはどう時間つぶしするかだね。
とりあえず南方熊楠関係だろなあ。

 

 
南方熊楠顕彰館。
熊楠が遺した蔵書・資料等を保存・公開し、熊楠に関する研究を推進、情報発信もしてるとこなんだそうだ。
入場料は350円。安いのか高いのかワカランな。いや、妥当かなあ。とにかく折角ここまで歩いて来たんだから入ろう。

 

 
熊楠を知らない人もいると思うので、解説しておきます。

南方熊楠(みなかた くまぐす 1867~1941)
日本の博物学者、生物学者、民俗学者。
生物学者としては粘菌の研究で知られているが、キノコ、藻類、コケ、シダなどの研究もしており、さらには高等植物や昆虫、小動物の採集も行っていた。そうした生態調査に基づくエコロジー(ecology)的な見地を早くから日本に導入したことでも知られ、博物学、民俗学の分野における近代日本の先駆者的存在である。
和歌山城下に生まれ、大学予備門(現東京大学)退学後に渡米、さらにイギリスに渡って大英博物館で研究を進めた。『ネイチャー』誌に寄稿した多くの論文が掲載されており、その数51本は、現在に至るまで単著としては歴代最高記録であるという。
帰国後は田辺に定住。多くの論文を著し、生涯を在野で過ごした。
フランス語、イタリア語、ドイツ語、ラテン語、英語、スペイン語に長けていた他、漢文の読解力も高く、古今東西の文献を渉猟した。熊楠の学問大系は博物学、民俗学、人類学、植物学、生態学など様々な分野に及んでおり、一つの分野に関連性があるもの全てを知ろうとするものであった。その厖大な知識の網を下敷きとした研究は、曼荼羅にもなぞらえられている。謂わば「知の巨人」である。親交のあった民俗学の父とも呼ばれる柳田國男は、彼を評して「日本人の可能性の極限」とまで称していたという。
また熊楠の言動や性格が奇抜で人並み外れたものであっために奇行も多く、後世に数々の逸話も残している。

隣は南方熊楠邸だ。

 

 
って云うか、南方熊楠顕彰館が邸の隣に建設されたというのが正しい。つまり最初に邸ありきなのだ。

 

 
質素な建物には桜よりもミツバツツジの方がよく似合う。
ふと熊楠に似合う花は何だろうと考える。でも何にも浮かばないし、女性ならまだしも男性を花に見立てるのには無理がある事に気づいて、苦笑いする。

さて、次は何処へ行こうか❓
そういや居酒屋が載っていた雑誌には老舗の蒲鉾屋もあったことを思い出し、スマホでググる。便利な時代になったもんだ。行き当たりばったり度が下がるけどさ…。否、これもまた一つの行き当たりばったりか。

たぶんコレであろうと思われる店に向かって歩く。

 

 
連翹(レンギョウ)だろうか、道すがら黄色い花が咲いていた。
いやゴメン、エニシダ(金雀枝)だわさ。とにかく春だなあって感じだね。
ふと思う。そういや頓挫していた町田町蔵(町田康)が熊楠を演じた映画(註1)って、どうなったのだろう。完成したのかな❓
町田康は芥川賞だけでなく川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、萩原朔太郎賞も受賞しており、今や小説家・詩人として有名だが、その昔は町田町蔵と名乗る伝説のパンクロッカーだったんだよね。INUというパンクバンドのボーカリストで『メシ喰うな!』という曲が多くのミュージシャンに影響を与えた。筋肉少女帯の大槻ケンヂもカヴァーしてた筈だ。
また役者としても評価されていて、石井聰亙監督のカルト映画『爆裂都市 BURST CITY』にも出演していた。たぶんサイドカーの横に乗ってた狂暴でイカれた奴だったと思うけど、間違ってたらゴメンよ。
何で町田町蔵の事にそんなに詳しいのかというと、大学時代の演劇部の後輩が町蔵の妹だったからである。
妹曰く、小さい頃から変人で、家の中でテントを張って生活してたらしい。そういや遠足に行く時は体操服じゃなくて、全身本格的な登山の恰好だったとも言ってたなあ。

蒲鉾屋に着いた。

 

 
「たな梅」。
如何にも老舗と云う店構えだ。
古い木造建築って、ホントいいよね。自然と心が和む。

しかし、中に入ってビックリ。
結構なお値段なのだ。どれも贈答用って感じの高級蒲鉾店でござんした。1、2枚をオヤツがわりに食おうと思ったのだが、そんな気安い値段のものはない。町の蒲鉾屋ってのは、だいたいが店先で揚げてたりするものだが、そうゆう庶民的な気安さは微塵もない。
一瞬、見栄を張って買ったろかと思ったけど、止めておくことにした。遠く離れた土地だ。この期に及んでチンケなプライドは要らんだろう。それにそもそも熱烈な練り物好きでもない。嫌いじゃないけど、小躍りするほど好きなものでもないのだ。だいたい、こうゆう練り物製品ってさあ、高級な魚を使ったからといって仰天する程に旨くなるかといえば、そうでもないんだよね。もちろん上品で旨いんだけど、じゃこ天とか安物の魚を使ったものでも旨いっちゃ旨いもんな。つまり値段の差ほどには、味に無茶苦茶に差があるワケではないんだよなあ。
「明らかに全然違う❗」と、ネスカフェ・ゴールドブレンドの人みたく「違いのワカる男」には叱られても仕方ないけどさ。でも、そこまで練り物愛があるワケではないのです。

時間がまだあるから、天神崎まで行こうかなと思った。
駅からでも歩いて30分くらいで行けると書いてあったからね。今からだと、ちょうど夕日が沈む時間になるかもしれないしね。
天神崎も懐かしい場所だ。ダイビングインストラクター時代に何度か潜ったことがある。風光明媚なロケーションで、日本初のナショナルトラスト運動(註2)が行われた場所としても知られている。熊楠の精神が市民に息づいていたとも言えるね。
そういや南部側からダイビングショップに1回だけ連れて行ってもらったけど、何回も細い道を曲がったんだよね。結構、辿り着くのは大変なのだ。でも一年後、一切の迷いなく辿り着いたから、アシスタントのI君が驚嘆してたんだよな。おっ、そうだ。もう一つI君を驚かせた事があったな。水中に潜ったら、その日はヒオウギガイ(緋扇貝)がわりといたんだけど、何かピピッときたのがあったので、拾ってお客さんの前で開けたら、共生だったのかな❓中に小さなカニがいたんだよね。手品みたいだったので、お客さんもI君も目を丸くしてたっけ。ガイドとしては、プロフェッショナルだよね。
あっ、また自慢話をしてしまったなりよ。でも当時は、そうゆう能力が結構あったんだよね。だから周りを驚かすことが結構あった。あの能力、どこいっちゃたのかなあ❓
懐かしいし、行ってみたい気持ちはあったけど、でも中途半端な時間ではある。行って帰ってきたら、居酒屋の開店時間に間に合わないかもしれない。大阪に帰る時間を考えるならば、8時半くらいの電車に乗らなければ今日中には帰ってこれないのだ。無粋だが、夕日よりも居酒屋に出来るだけ長くいたいというのが本音だ。あるこほる中毒者は一刻も早く酒を呑みたいもんねー。

となると、別な方法で時間つぶしせねばならない。

 

 
鬪雞神社(とうけいじんじゃ)。
「鬪鶏神社」「闘鶏神社」とも表記される由緒正しき神社だ。
旧称は田辺宮、新熊野、新熊野雞合大権現。通称は権現さん。

境内に入る。

 

 
創建は允恭天皇8年(419年)。允恭天皇が熊野権現(現在の熊野本宮大社)を勧請(分霊)し、田辺宮と称したのに始まる。
なるほど、屋根の形に見覚えがあるなと思ったのは、そうゆう事なのね。

白河法皇の時代には新たに熊野三所権現を勧請し、平安時代末期の熊野別当・湛快のときに更に天照皇大神以下十一神を勧請して新熊野権現と称して湛快の子の湛増が田辺別当となった。弁慶は湛増の子と伝えられ、その子孫を名乗る大福院から寄進された弁慶の産湯の釜が今も残っている。
なるほど、弁慶の出生地とされているのは、そうゆう事だったのね。

 

 
ゆえに此処にも弁慶の銅像がある。
尚、熊楠はこの神社の娘と結婚している。郷土の有名人二人が闘鶏神社で繋がってるんだね。

本殿に詣でる。

 

 
国生みの女神である伊邪那美命が祀られてるんだね。

 

 
狛犬も神社の歴史の古さを思わせる年季の入りようだ。

田辺は熊野街道の大辺路・中辺路(熊野古道)の分岐点であることから皇族や貴族の熊野詣の際は当社に参籠し、心願成就を祈願した。熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)の全ての祭神を祀る熊野の別宮的な存在であり、鬪雞神社に参詣して三山を遥拝して山中の熊野まで行かずに引き返す人々もいたという。
そういや学生時代に彼女と旅行した時に熊野三山の三社とも行ったんだよな。勝浦、那智、瀞峡、湯の峰温泉と巡ったんだった。
とても綺麗で、賢くて性格の良い女性だった。あの頃が一番幸せだったかもしんない。

『平家物語』などによれば、治承・寿永の乱(源平合戦)の時、湛増は社地の鶏を紅白2色に分けて闘わせ、白の鶏が勝ったことから源氏に味方することを決め、熊野水軍を率いて壇ノ浦へ出陣したという。
このことから「闘鶏権現」や「新熊野雞合大権現」と呼ばれるようになったが、明治の神仏分離の際に「鬪雞神社」を正式な社名とした。
2016年には世界遺産委員会継続会議において、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に追加登録された。
そっか、世界遺産なのか。
余談だが、プロ野球の独立リーグ(BASEBALL FIRST LEAGUE=関西独立リーグ)に2017年より加盟した和歌山ファイティングバーズは、この神社がその名の由来となっている。

神社で、だいぶと時間つぶしができた。
時間が止まったような町並みを眺めながら、ぼおーっとする。学生時代の彼女に想いを馳せる。懐かしさと後悔とで心の中が溢れ出しそうになる。でも今さらアレコレ考えたところでどうにもならない。苦しいだけだ。
立ち上がり、トパーズ色の街を駅に向かって歩き出した。

                        つづく

 
追伸
次回、いよいよシリーズ完結編です。
いよいよって云うか、漸くだけど。

  
(註1)熊楠の映画
山本政志監督『熊楠・KUMAGUSU』。
主演 渡辺哲、町田町蔵。出演 泉谷しげる・室井滋ほか。1991年6月に撮影開始、10月完成予定であったが資金難で中断。2007年10月、弁慶映画祭においてパイロット版が上映された。とゆうことは未完成で終わったみたいだね。
ちなみに、町田の演技は破天荒な熊楠を彷彿とさせるものがあり、高い評価を得ているようだ。

 
(註2)ナショナルトラスト運動
自然環境を経済を優先した開発による破壊から守るため、市民活動によって保護すべき地域を設定して買い上げたり、または自治体に買い上げを求め、次世代に伝えていくために管理・保全してゆく活動。
イギリスのボランティア団体「ナショナル・トラスト」によって行われた活動を原型として世界各地に広がった。

 

Floating in the blue〜青にゆらめく〜

 
今、書いている途中の『青春18切符oneday‐trip 春』の第一章 第5話にスキューバ・ダイビングを始めた頃の写真を使おうと思って探した。

しかし、結局その時代の写真は見つからず、代わりにダイビング・インストラクター時代の面白い写真が出てきた。

 

 
まるで空に浮かんでいるかのようである。

これは下が白い砂地になっているから、こう云う風に写るのだろう。白い雲のようなものは特定できないけど水中の陽だまりかな? それとも何らかの理由でそこだけ砂が白いのかもしれない。
でも当てずっぽうで言ってるだけで、写真を撮った本人の橋本ミホに訊かないと本当のところは分からない。

場所は石垣島か波照間島だったと思う。下が白い砂地で比較的浅瀬のようだから、波照間かな❓
波照間島の海はウルトラスーパーブルーで、港のすぐ横でも透明度が半端ない。世界各地の色んな海に潜ってきたけれど、一番綺麗な海は何処か?と問われれば、この波照間か奄美大島の南部、加計呂麻島の外洋と答えるだろう。それくらい美しい。上記の他にも慶良間諸島、与那国島、久米島、南大東島の海もメチャメチャ青かったけど、波照間と加計呂麻が群を抜いて透きとおっていた。
有名海外リゾートの海は美しいが、日本の海だって世界的にみてもトップクラスに美しいのだ。南西諸島だけに限らず、日本海や北海道の海も美しい。多くの日本人は意外とそのことを知らない。グレートバリアリーフやサイパン、地中海、インドネシアの海にも負けてないのに、日本の海が世界よりも劣っていると勝手に思い込んでいるのである。奥ゆかしいと言われればそれまでだが、日本人は自国の海の美しさをもっと誇るべきだと思う。

画像が暗いので、もう少し明るくしてみよう。

 

 
我ながら、足が長いなあ(笑)。
しかも、上めから撮っててこれだけ長く見えるもんね。
自慢じゃないが手足は長い。昔はカゲで「生意気手長猿」と揶揄されていたくらいなのさ。だからチビだけど速い球が投げられた。高ニで最速135kmが投げられたからね。あっ、腕の長さはスピードにはそれほど関係ないか…。

言っとくけど、腕を組んでいるのはべつにカッコつけているからではない。単に寒いからである。インストラクターともなると、水中で殆んど体力を使わないから寒いのだ。

因みにこの状態は水中でタテにピタリと止まっているのだが、フィンは一切動かしていない。プロは足で水をかかずとも、こうしてホバリングすることができるのである。
この縦に微動だにせず停止するのが中性浮力の究極系である。例えば10円玉を水に沈めるのを想像してみてほしい。10円玉を横にして沈めるのと縦にして沈めるのとでは全く落ちるスピードが違うことは容易に理解できよう。付け加えておくと、お望みとあれば、Floting zazenman 水中浮遊の座禅だって組めた。たまにブリーフィングで「もし貴方たちの日頃の行いが良く、運も良ければ、もしかしたら水中で仏に会えるやもしれません。その時は拝むように。」と言っといたら、拝んでる人、結構いたなあ…。もう教祖様みたいなもんなんである。

ダイビングをやったことがない人もいると思われるので、ここで中性浮力について簡単に説明しておくと、浮きも沈みもしない状態のことをいう。つまりウエイト(重り)など重力で下に引っ張られることもなく、空気による浮力で上に引っ張られているワケでもない両者のバランスが完璧に保たれている状態だ。だから抵抗が無い分、フィンを軽く漕いだだけでもスウーッと前へ進む。あまり力が要らないのだ。初心者ダイバーは、この中性浮力を取れておらず、大概はオーバーウエイトで潜らされる。クソみたいなやり方だが、その方がガイドやインストラクターにとっては管理しやすいからだ。ゆえに初心者ダイバーは下に働く重力に抗って必死になってフィンを動かして進まねばならないのである。謂わば飛行機が落ちない原理と同じだ。飛行機は速いスピードで飛び続けることによって落ちないのである。下から引っ張られてる状態なのに前へ泳ぐって、そんなのしんどいに決まっているのだ。だから折角ライセンスを取ってもやめてしまう人も多い。ウエイトを減らすことをシッカリ教えないダイビングショップはクソだ。

ここまで説明したら、もう少し詳しく書いておこう。さっきタテに止まって水中で微動だにしないと書いたが、実際は数センチから数10センチ単位の上下動はある。見た目には殆んど分かんないけどね。
極意は肺で空気の量を調節しているからだ。種を明かすと、息を吐くと空気が減るので沈みがちになる。反対に息を吸うと浮力が生まれる。但し、水中では数秒のタイムラグがある。簡単に言うと、息を吐き切っても直ぐに沈まないし、息を胸いっぱいに吸っても直ぐには浮かばないと云うことだ。このタイムラグを利用して沈み始める直前に息を吸い始め、浮き始める前に息をゆっくりと吐き始めるのだ。
補足すると、コレは水深にもよるからBCジャケットの助けも借りねばならない。アルキメデスの原理ですな。深く潜れば潜るほど浮力は失われるからね。微調整が必要って事ね。勿論、これらはウエイトを減らしてこその話だ。BCは必要だが、出来るだけ自分の肺でコントロールした方が実感があって楽だからね。

冒頭で「まるで空に浮かんでいるかのようである。」と書いたが、それゆえ中性浮力が完璧に取れていれば、本当に空に浮かんでいるかのような感覚を味わうことができる。宇宙遊泳と言い換えてもよい。今は行われているかどうかワカンナイけど、昔の宇宙飛行士の訓練にはダイビングが必須項目だったらしいからね。感覚的には、無重力にかなり近いんだろう。

水深3M〜5Mの中層でこうして浮かんでいるのが、とても好きだった。青に包まれ、水の流れに任せて揺らめいていると身も心もするすると解(ほど)けてゆく。そして光の束が波に翻弄され、目まぐるしく形を変える様をぼおーっと眺める。それを見てると、いま自分が神々の世界にいるのではないかとさえ思えてくる。天国って、こんな感じかなあと思うのである。

鳥瞰。また体を横にすると鳥の視線も得られるから、空を飛んでいる気分にもなれる。まるで鷹や鷲が上昇気流に乗って辺りを睥睨するかのような王者の気分も味わえるのだ。

 

(出典『マリンダイビング・ウエブ』)

 
潮の流れがある時などは本当に飛んでるみたいだ。しかも、羽ばたかずともいい。

まだダイビングをやった事がない人は、ぜひチャレンジしてみてほしい。世界観が変わるかもしんないよ。

                        おしまい

 
追伸
但し、このタテに完璧に静止できるのはスチールタンクでの話である。アルミタンクだと、段々後ろに倒れてゆく。なぜなら、スチールタンクよりもアルミタンクの方が長いからだ。つまり、両者の重心が違うのである。

 

鬼と名がつく生物

 

前回のオニベニシタバの回で、オニと名がつく昆虫について触れたが、そこで書き切れなかったことを書こうかと思う。

 
【オニベニシタバ】
(2018年7月 奈良県大和郡山市)

 
前半は前回と重複するところもあるから、前回を読んだ人は暫し我慢して読まれたし。

オニと名のつく生物には、デカイとか厳(いか)ついとか凶暴だとかといった意味が込められたものが多い。
例えば、オニカマス(バラクーダ)、オニイトマキエイ(マンタ)、オニオコゼにオニダルマオコゼ、オニヒトデとかオニヤドガリetc…。
あっ、思い浮かんだのは海の生物ばかりだ。これって、ダイビングインストラクター時代の名残だよね。

改めて思うに、海の生物にはオニの名を冠する強烈なキャラが揃ってるなあ。真っ先にコレらが頭に浮かんだのも納得だよ。
因みにオニカマスは、その厳つい風貌と鋭い歯から名付けられたそうな。

 
(出典『暮らしーの』)

 
ダイバーには、オニカマスよりもバラクーダの名で親しまれている。バラクーダって言った方がインパクトがあってカッコイイからかなあ❓音の響きが如何にもヤバそうな奴っぽいしさ。

よく群れで泳いでいるが、あれはそんなにデカくない。デカイにはデカイが、まだまだ小物だ。あんまし恐くない。(#`皿´)うりゃあ~と、時々トルネードに割って入って蹴散らしてやるくらいだもんね。
むしろヤバいのは単独でいる奴だ。バラクーダは老魚になると群れないのだ(註1)。それが超デカくて、超怖い。顔もさらに厳(いか)つくなって、目が合ったらオチンチンがメリ込むくらいに縮こまりまする。ヤのつく自由業の方々でも、モノホンの親分さんクラスの静かな威厳と侠気があるのだ。絶対逆らってはいけないオーラである。
それで思い出した。
昔、サイパンのオブジャンビーチで、とてつもなく馬鹿デカイのにお会いしたことがある。水深3~4mくらいの中層で辺りを睥睨するかのように浮かんでおり、優に2mくらいはあるように見えた。そして、その周りには光の束が後光のように無数に射しており、神々しくさえあった。だが、目だけはギラギラと動いていた。
あまりにも強烈なオーラに、その場で固まり、背中がスウーッと冷たくなったのを憶えている。
その日はアシスタントで入っていて、お客さんの後ろにいたから、頭の中で念仏を唱えたよ。もしも、お客さんに向かって泳ぎ出したら、身を呈してガードに行かなければならない。「生ける魚雷」と言われるくらいのハイスピードで泳ぐそうだし、あの鋭い歯だ。片腕一本くらいは持っていかれるのを覚悟したよ。
まあ、幸いその場にジッとしていてくれたから、何事も起こらなかったけどさ。そういえば、お客さん守るようにして後ろ向きに泳ぎながら遠ざかったんだよね。あの時は、もっと見ていたいような、早くこの場から立ち去りたいような複雑な気分だった。脳内に、その時の映像は今でも鮮明に残ってる。

 
オニイトマキエイ(マンタ)は、そのデカさからの命名だろう。

 
(出典『オーシャンズダイブツアー』)

 
マンタは石垣島とかで見たけど、やっぱデカイだす。
一度に何枚も現れると、中々凄い光景である。

 
(出典『オーシャナ』)

 
この画像なんかを見るとバットマンだな。
ちょー待てよ。まるで角のある鬼の影絵にも見えるじゃないか。デカイからだけではなく、名前の由来はこのツノ的なものと、そのシルエットにも関係があるのかもしれないね。

 
お次は、ブサいく鬼チームだ。
オニオコゼ、オニダルマオコゼは鬼のように醜くくて厳つい。また背鰭に猛毒もあって危険なことからも名付けられたのではなかろうか。たぶんオニカサゴなんかも同じ意味あいからの命名だろう。

 
【オニオコゼ】
(出典『暮らしーの』)

 
異形(いぎょう)のものだ。
バケモノけだしである。

 
(正面)
(出典『庄内使えるサイト』)

 
顔なんて、ブサ怖い。

 
【オニダルマオコゼ】

 
何度か見たけど、コチラはもっと体が丸い。ゆえにダルマさんなのだ。
海底にジッとしてて、殆んど動かない。英名はストーンフイッシュと言うんだっけ?それくらい岩と同化しているのだ。だから、時々誰かが踏んづけてエライことになる。コヤツも背鰭に猛毒があるからね。アホほど足が腫れるらしい。

 
(正面)
(出典 2点共『暮らしーの』)

 
怨念が籠った顔だ。
創造主である神に対する激しい憎悪やもしれぬ。
(#`皿´)ワシをこんなにも醜い姿で世に産み落としやがって…って顔だ。

 
【オニカサゴ】
(出典『HONDA 釣り倶楽部』)

 
前二つほどではないが、コチラもブサいくだ。
背鰭に毒もある。赤いのも鬼っぽい。
猛毒ブサいく三姉妹ってところか…、最悪だよな。
でも彼女たちの名誉のために言っておくと、皮を剥いだ身は透き通るような白だ。でもって、味はメチャメチャ美味い。刺身に良し、鍋に入れて良し、揚げて良しの高級魚だ。
よくオコゼはブサいくな人へのフォローに使われ、「見た目は悪いけど、付き合ってみたら最高のパートナー」みたく言われる。まあ、理解はできるわな。人は見かけで判断しちゃダメだよね。
そういえばアッシの知り合いのお姉さんの友達に、エゲつない三姉妹がいることを思い出したよ。金魚ちゃん、ミッちゃん、イカスミちゃん(全て仮名)っていうんだけど、何れもデブでブサいくで性格が破綻している。因みに長女の金魚ちゃんは性格は悪くないけど極端に内向的で、何を尋ねても要領を得ない。三女のイカスミちゃんは天の邪鬼(あまのじゃく)且つワガママで性格がネジ曲がっている。二女のミッちゃんが一番ヤバくて柄の悪いトラックの運ちゃんみたいだ。とにかく口が悪くて、直ぐに暴力に訴えかけてくる。粗暴で凶暴なのだ。酒飲むと、ロンパリになって目が据わるしね。でもって何かと絡んでくる。ほんと、タチが悪いのだ。顔も表情も似てるから、ゴマモンガラを思い出したよ。

 
【ゴマモンガラ】
(出典『えいこのモルディブここだけの話&どうでもいい話』)

 
コヤツ、シャブ中患者とかキ○ガイみたく、目が完全にイっちゃってるんである。三白眼っていうのかなあ…、白目がちなんである。それがギョロギョロと落ち着きなく左右バラバラに動く。いわゆるロンパリ的な眼なんである。焦点がどこに合っているのか分からないから恐い。
それに泳ぎ方も変だ。真っ直ぐ泳げなくて、右に左にとヨレて急に横倒しになったりする。完全に狂った者の動きだ。しかも体は50㎝以上、大きなものは1m近くもあるというから恐い。形や色柄も変だし、おぞましいとしか言い様がない。もしも、コヤツの名前にオニがついていたとしても納得するよ。

 
(出典『wikimedia』)

 
この魚、一般の人にはあまり知られてないけれど、ダイバーの間では有名でサメやオニカマスよりも恐れられている。サメとかバラクーダは、のべつまくなしには襲ってこないが、ゴマモンガラはムチャクチャ気性が荒くて、無差別に噛みついてくる。アタマ、オカシイんである。ゴツい歯で指を食いちぎられたとか、ウェットスーツを食い破られて血だらけになったなんて話はよく聞いた。実際、自分の知り合いにもレギュレーターホースを食いちぎられたっていう人がいる。
デブでブサいくまではいいけれど、性格まで悪い女の人には、やっぱ近づかないでおこ~っと。

 
オニハタタテダイは、目の上にある小さな突起を鬼の角に見立てているようだ。

 
【オニハタタテダイ】
(出典『沖縄の魚図鑑』)

 
とはいえ、角は小さい。オニというには、ちょいショボい。しかし、オニハタタテダイはチョウチョウウオやハタタテダイを含む近縁の仲間うちでは、かなりデカイ。最大種か、それに近かったような気がする。どちらかというと、そちらがオニと命名された理由なのかもしれない。いや、両方の合わせ技かな?

 
オニヒトデはデカくてトゲトゲだからだろう。

 
【オニヒトデ】
(出典『水槽レンタル神奈川マリブ』)

 
👿悪そう~。
僕、正義の味方ですぅ~と言われても、誰も信じないだろう。それくらい悪の匂いがビンビンである。
そういえぱ、沖縄発特撮ヒーローもん『琉神マブヤー』の敵役に「オニヒトデイビル」ってのがいたなあ…。結構ボケ倒しの憎めない奴だったけどさ。

 
(出典『おもしろ生物図鑑』)

 
色が赤いのも、如何にも鬼的だ。
但し、色には他にもヴァリエーションがあって、下の画像みたいなものや紫色のもいるようだ。

 
(出典『マリンピア日本海』)

 
性格も荒いそうだ。
ふと思ったのだが、トゲトゲは鬼の角だけでなく、鬼の金棒のイメージでもあるのだろう。
まあ、どうみても邪悪以外の何者でもないことを体現してるよな。沖縄の珊瑚とかガリガリ食いまくってたしさ。

 
オニヤドガリは、毛むくじゃらで獰猛だからかな❓

 
【オニヤドカリ】
(出典『日淡こぼれ話』)

 
コヤツも邪悪そのものだ。
色が赤いのも鬼と言われるに相応しい。
そう云えばコイツ、宮古島にダイビングに行った時にいたわ。綺麗な宝貝を水深5~6mで見つけたので拾ったら、デカいヤドカリが宿借りしていた。貝の中身はたぶんコヤツが食って、その貝殻を羽織ったのだろう。強盗殺人みたいなもんだ。やってる事が凶悪なギャングなんである。

 
(出典『極!泳がせ道』)

 
貝殻から出すと、下半身は驚くほど短小だ。ちょっと情けない。巨漢の男が実を云うと…的みたいで笑ったよ。
でもここが美味い。刺身で食うと、エビ・カニ系とホタテ貝を混ぜたような味なのだ。残った頭とかは味噌汁にブチ込むと良いダシが出る。

旨いで思い出したが、こんなのもいたね。

 
【オニエビ】
(出典『休暇村 竹野海岸』)

 
ゴジラエビとかモサエビなんて呼ばれ方もするが、オニエビも含めて全部その土地土地での地方名だ。
正式名称はイバラモエビという。イバラは植物の棘(茨・荊)から来ているし、ゴジラはあの怪獣ゴジラの背鰭からだ。モサは猛者から来ている。オニエビも、その背中のギザギザ由来だろう。
そういえば、兵庫県の香住ではサツキエビと呼ばれていた。これは五月(さつき)の頃によく水揚げがされるからだ。
この時は生きているのを食った。ても期待していた程には美味くなかった事を覚えている。
実をいうと、海老は新鮮だからといって旨いワケではない。車海老の踊り食いなんてのがよくあるが、あんなもんはプリプリの食感がいいだけで、味はたいしたことない。旨味と甘みが足りないのだ。生きてるボタンエビも食ったことがあるけど、同じようなものだった。魚やイカでもそうなんだけど、必ずしも生きているイコールが最上のものではないのだ。美味いと思っている人は、新鮮=美味と云う思い込み、つまり脳で食ってるからなんである。別にそれはそれで間違いではないけどさ。本人が旨いと思っていれば、それでいいってところは否定できないからね。
肝心なことを言い忘れた。死後硬直がとれたばかりの生はメチャメチャ美味い。甘いのだ。甘エビよりも甘い。焼いても天婦羅にしても美味くて、これまた甘みが強い。クッソー、食いてぇー(T△T)

  
 
植物ならば、オニユリ、オニアザミ、オニバス、オニグルミ、オニツツジ辺りが代表ってところかな。

 
【オニユリ】
(出典『Horti』)

 
オニユリの名の由来は、花が大きくて豪快だとか、花の様子が赤鬼に似ているなど諸説あるようだ。

 
【オニツツジ】
(出典『身近な植物図鑑』)

 
オニツツジなんかも由来は同じようなもんだろう。
因みにオニツツジは俗称で、正式名はレンゲツツジという。この植物、実を云うと有毒である。根や葉茎だけでなく、花やその蜜にまでも毒があるとされている。調子に乗って、子供の頃みたいにツツジの蜜をチューチューしたら死にまっせ(笑)
この毒があるというのも、鬼と冠される理由なのかもしれない。

 
オニアザミやオニバスは、その棘(トゲ)と大きさに由来する。

 
【オニアザミ】
(出典『白馬五竜高山植物園』)

 
オニアザミという言葉は、葉の鋸歯の鋭い大型のアザミの仲間の総称としても使用される。最近はアメリカオニアザミという、もっとトゲトゲの奴があちこちに蔓延(はびこ)り始めているようだ。

 
【アメリカオニアザミ】
(出典『ありのままの風景を』)

 
外来種で、鹿も牛も食べないそうだから激増しているらしい。

 
【オニバス】

(出典 2点共『福原のページ』)

 
葉だけでなく、花や実までトゲトゲなのだ。

 
【オニグルミ】

(2点とも 出典『森と水の郷あきた』)

 
おそらく実ではなく、内部の種(核)が語源だろう。
核面のデコボコが著しく、そのゴツゴツした外観と固さが鬼のようだからだと命名されたと推察する。 

 
 
オニとつく昆虫について書くつもりが、海の生物と植物につい力が入ってしまった。哺乳類と鳥類は駈け足でいこう。

とは言うものの、哺乳類でオニと名のつくものは意外と少ない。ソッコーで片付きそうだ。

 
【アフリカオニネズミ】
(出典『wikipedia』)

 
デカイねぇ~。もう、こんなのウサギじゃん。
コヤツは地雷の除去に貢献しているので、知っている方もおられよう。
タンザニアの団体APOPOはアフリカオニネズミの優れた嗅覚に着目し、その一種であるサバンナアフリカオニネズミを訓練して地雷の探知・除去に役立てる事業を展開している。体重が軽いために地雷に乗っても爆発する可能性が低く、金属探知機よりも高効率で地雷の探索が出来るらしい。凄いぜ、ネズっち。機械よりもネズミの方が優れているなんて、何だか痛快だ。
でも動物虐待だとか言って、正義感を振りかざすバカなのがいそうだなあ…。だったらオマエら、肉も魚も野菜も一生食べんじゃねぇーぞ(#`皿´)

主だったところでは、あと哺乳類はオニテンジクネズミ(カピバラ)くらいだ。これは説明不要だろう。日本にも帰化してるし、動物園でも人気者だもんね。

ところで、何で哺乳類にはオニと名のつく動物が少ないのだろうか❓ 解るような気もするが、いざ答えるとなると明確には答えにくい。まあ、敢えてつける必要もないのだろうとだけ言っておこう。

 
お次は鳥類。

 
【オニオオハシ】
(出典『ナチュマライフ』)

 
オオハシ類の最大種。南米に生息し、その色鮮やかな美しい体色から「アマゾンの宝石」とも呼ばれている。巨大で特徴的な嘴(くちばし)は、体長に占める割合が全鳥類中で最大なんだそうな。

見た目は可愛くて、鬼のようには見えない。おそらくそのグループの最大種ゆえのネーミングだろう。

鳥は他にもオニとつくものが結構多い。
オニゴジュウカラ、オニアオバズク、オニカッコウ、オニヤイロチョウ、オニミズナギドリ、オニクロバンケンモドキ等があるが、如何せんどれもマイナーだ。鳥好き以外で名前を知っている人は少ないだろう。しかも、どれも大型種ではあるが、全然鬼っぽく見えない。厳つくないのだ。強いて鬼っぽいと言えば、オニカッコウぐらいかな。

 
【オニカッコウ】
(出典『wikipedia』)

 
青黒くて目が赤い。ゴツくはないが、精悍な感じだ。
目が紅蓮の炎の如く真っ赤な青鬼に見えなくもない。
だとしたら、由来としてはカッコイイ。
でもおそらくは、名前をつけた人はそんな事までは考えてなくて、単にカッコウ・ホトトギスの仲間の中では大型種だからと云う理由でつけたのだろう。
因みに画像はオスで、メスは茶色い。

 
そろそろ昆虫に行きたいところだが、先ずは他の節足動物から入ろう。

 
【オニサソリ】
(出典『SciELO』)

 
別にオニとつけなくとも、サソリは見てくれがもう全ての種類が十分な鬼的だ。攻撃性が強くて毒もあるから、鬼的要素がほぼ揃っている。
ムカデなんかもそうだろう。因みにオニムカデという和名を持つ種はいないようだ。でも、どっかで聞いたことがあるなあ…と思ったら、ゲームのドラクエ(ドラゴンクエスト)にオニムカデというキャラがいたわ。

 
【オニグモ】
(出典『弘子の写真館』)

 
邪悪だなあ。
オニグモ属最大種にして、属名の基準種でもある。
クモも、そもそも見た目が鬼的だ。なのに、オニグモはそれを強化具現させたかのような存在だわさ。
オニグモ属には数種いて、何れ劣らぬ鬼っぷりである。

 
【キバナオニグモ】
(出典『北の森での散策日記』)

(出典『北海道の生物図鑑』)

 
黄色が入ると、鬼感が増幅されるねー。
野原で遭遇したら、ギョッとするだろう。
鬼とは、そもそもがこの世の者ならざる異形(いぎょう)な存在の総称なのかもしれない。だから、オニとつけるのならば、驚愕される存在であるべきじゃないかと思う。

 
【ヤマシロオニグモ】
(出典『北の森での散策日記』)

 
万歳している👽宇宙人みたいだ。
或いは腹の下の方は、笑っている猫みたいにも見える。

 
【ヤマオニグモ】
(出典『北の森での散策日記』)

 
黒いと邪悪度が増すなあ…。
でもカッコイイっちゃ、カッコイイ。何だかハカイダー(註2)を思い出したよ。

 
【イシサワオニグモ】
(出典『北の森での散策日記』)

 
赤っぽいのも邪悪な感じがする。黄色もそうだけど、赤も警戒色なのである。あたしゃ、危険ですよという印だ。

 
【アカオニグモ】
(出典『まーしーのフォトアルバム』)

 
もっと赤いのもいた。
赤鬼様は毒々しい。しかし、邪悪度も上がるけれど、同時に美しさ度も上がる。見方を変えれば、デザインはポップでさえある。

赤鬼がいるのなら、青鬼もいるんじゃないかと思った。
で、一応調べてみたら、いた。

 
【アオオニグモ】
(出典『博物雑記』)

 
予想に反して青鬼は可愛いかった。
プリプリの白いお尻が、髭のおじさんのコケシ頭みたいだ。邪悪というよりもユーモラスだね。

オニグモって面白いなあ。
ついつい、めっちゃネットサーフィンしてしまったよ。
けど、いつまでこんな事やってんだ?いい加減にクロージングしないとマズイなあ…。

 
長々と書いてきたが、ようするにオニと名がついている生物には、基本的に以下のような特徴があるようだ。

①大きい
②刺(トゲ)、もしくは角がある
③見た目が厳(いか)つい
④凶暴・獰猛である
⑤毒々しい。或いは毒がある
⑥色合いが鬼に似ている
⑦勇壮

思うに、この何れかの特徴を有しているものが、オニと名付けられた模様だ。
言い加えると、①の大きいと⑦の勇壮は重複するところもあるが、大きいからといって勇壮とは限らないので、あえて分けた。

 
扨て、いよいよ昆虫である。
でも書き疲れて、正直どうでもよくなってきた。
と云うワケで、虫のオニ関係は次回後編に回します。

 
                     つづく

 
と、一旦クロージングしたんだけど、後編を書くのならば、導入部でまた前回の流れを汲む説明をしないといけない。それが正直、面倒くさい。しゃあないから、踏ん張って続けて書くことにした。たぶん、前半よか長くなるので、ここまで読んで疲れちゃった人はここで一旦読みのをやめて、二回に分けて読みましょうね(笑)。マジで。

始めるにあたって、今一度鬼の定義を確認しておこう。
ウィキペディアには、こう書いてあった。

『日本語では逞しい妖怪のイメージから「強い」「悪い」「怖い」「ものすごい」「大きな」といった意味の冠詞として使われる場合もある。(中略)。現在、一般的に描かれる鬼は、頭に二本、もしくは一本の角が生え、頭髪は細かく縮れ、口に牙が生え、指に鋭い爪があり、虎の皮の褌(ふんどし)や腰布をつけていて、表面に突起のある金棒を持った大男の姿である。色は赤・青・黒などさまざまで、「赤鬼(あかおに)」「青鬼(あおおに)」「黒鬼(くろおに)」などと呼ばれる。』

OK。自分が指摘したものとだいたい合っている。これを今一度脳ミソにブッ込んで、続きを読まれたし。

さあ、既にどうでもよくはなってきてはいるけれど、本当に言いたいことに向かって書き進めよう。
 
前回、オニシタバの回で書いた要旨はこうだ。
「昆虫でオニといえば、オニヤンマ、オニクワガタ辺りが代表か…。他にもいるようだが、でもこの辺で止(とど)めておく。あまりにもショボい面々揃いなので、更なる脱線、怒気を含む言葉になるのが必至だからだ。コレについては機会があれば、また別稿で書くかもしんない。」
この言葉に対しての異論もあるようなので、理由を書きます。

繰り返すが、昆虫でオニといえばポピュラーなのは、オニヤンマとオニクワガタだろう。

 
【オニヤンマ】
(出典『自然観察日記』)

 
(出典『あにまるじゃんくしょん』)

 
日本最大の勇壮なトンボだから、一般の人でも知っている人は多いだろう。

 
(出典『廿日市市の自然観察』)

 
エメラルドグリーンの眼がとても美しいけど、よく見ると顔は厳(いか)めしい。

 
(出典『メンバラ&身近な自然』)

 
歯もゴツい。
コイツで、あの凶暴なスズメバチなんかもガリガリ食う。オニヤンマは日本有数の肉食昆虫でもあるのだ。
そういえば思い出したよ。随分前に当時の彼女と赤穂方面に旅行に行った時の事だ。龍野市でオニヤンマの巨大なメスが空中でシオヤアブ(註3)をガシッと捕まえて飛んで行った事がある。あれはインパクトあったなあ…。シオヤアブもスズメバチを襲うくらいの凶暴な奴である。その両者が互いに正面から飛んできて、ガチンコで相まみれたのだ。僅かな攻防があった次の瞬間には、アブがバキーッいかれとった。で、そのまま飛んで近くの電線に止まり、ガシガシと囓じり始めた。あまりの迫力に、彼女と二人して震撼。口あんぐりで見てたよ。

和名は、この巨大さと厳つい顔つき、凶暴性から名付けられたのだろう。また、黒と黄色の縞模様から虎皮のパンツを履いた鬼を連想して名づけられたという説もあるようだ。しかし、これはたぶん後付けでしょう。
あっ、二枚目の正面写真も鬼っぽくねえか❓
背中の柄がツリ目で出っ歯の鬼の顔に見えなくもない。これも名前の由来になってないのかなあ❓
とにかく、これだけ鬼の要素が揃っているのである。ネーミングに異論は無かろう。

それに対して、オニクワガタにはガッカリだ。

 
【オニクワガタ】
(出典『THE KAYAKUYA』)

 
たぶん顎の感じが鬼の角みたいだからと名付けられたのだろうが、小さくてマジしょぼい。2、3センチしかないのだ。クワガタといえば、昆虫界のスター軍団だ。デカくてゴツゴツした奴が綺羅星の如くいる。その中にあって、オニクワガタは鬼の名前を冠するのにも拘わらず、どうにも地味なのだ。こんな奴にオニとつけるんなら、タテヅノマルバネクワガタ(註4)とかの方がよっぽど相応しい。断然デカイし、珍しい。今や天然記念物だもんね。
それにオニクワガタはブナ林の中の道をひょこひょこ歩いてるのを時々見かける。結構、普通種なのだ。見ても全然感動がない。

とはいえ、横から見ると確かに鬼的ではある。

 
(出典『フォト蔵』)

 
角の形が鬼を彷彿とさせる。
これならば、オニという名前でもギリギリ許せる範囲内だ。
とはいえ、小さい奴にはあんまりオニとはつけて欲しくないなあ。
オニクワガタというのなら、⬇コレくらいの迫力はあって欲しいものだ。

 
【ローゼンベルグオウゴンオニクワガタ】
(出典『W.B.B-01◆KING◆ブログ』)

 
オウゴンオニクワガタは幾つかの種に分けられているが、この種はインドネシア・ジャワ島に棲むもので、体長は大きなものは80㎜くらいもある。まさに黄金の鬼である。ゴージャス鬼だ。

オニとつくクワガタといえば、コヤツの存在も忘れてはならないだろう。
 
 
【オニツヤクワガタ】
(出典『ゲストハウス プリ/Guest House Puli』)

 
画像は台湾産のオニツヤだ。大きなものだと体長90㎜を軽く越えるものもいるという。

メスでもデカイ。

 

 
メスだってオニクワガタよか遥かにデカイのじゃ。
充分、鬼である。

幼虫がエグい。

 

 
これまた鬼なのである。下手したら成虫よりも凶悪な感じがする。

これら3点の画像は台湾中部、埔里で世話になったナベさんにお借りした画像だ。
ナベさんは埔里でゲストハウスを経営する大のクワガタ好きなのだ。2016年、初めて台湾に蝶採りに訪れた折り、ナベさんのゲストハウスに泊まっていたのだが、その時にこれらの画像を興奮気味に見せてくれたのだった。ナベさん曰く、気性が荒く凶暴なんだそうな。
コヤツは実物を是非この目で見てみたい。次に台湾に行くときは本気で探そうと思う。

因みに、ナベさんは渡辺さんではなくて渡部さんで、渡部と書いてワタベと読む。ワタナベさんではないのだ。でも呼びやすいから勝手にナベさんと呼んでたら「間違ってるけど、もうそれでいいですよー(# ̄З ̄)」と言われた。だから、ナベさんでいいのである。

 
どんどん行こう。

 
【オニオサムシ Carabus barysomus 】
(出典『世界のオサムシ大図鑑』井村有希・水沢清行)

 
体長29~50㎜。
分布はインド北西部カシミール地方、パキスタン北東部。
光沢の強い漆黒の地に、顕著な上翅彫刻と亜属中最大の体長を有する。本亜属の基準種でもある。

ピンチアウトして画像の拡大は出来るけど、分かりやすいようにトリミングしよう。

 
【ssp.hazarensis&ssp.huegeli】

 
黒い鬼だ。この点刻が厳つさを増幅させ、鬼感を醸し出している。デカイと云うのも鬼でしょう。オニの名に異論なしだ。
図示したものは原記載亜種(ssp.barysomus)ではなく、左がカガン渓谷亜種(ssp.hazarensis)で、右がスリナガル東方亜種(ssp.huegeli)である。

 
【ssp.heroicus】

 
コチラも同じくオニオサムシだが、最大かつ最も特殊化したものとされる。ピル・バンジャン山脈西部のブーンチ北方の産する亜種で、こっちも負けず劣らずカッコいい。

 
【カシミールオニオサムシ Carabus caschmirensis】
(出典『世界のオサムシ大図鑑』井村・水沢)

 
体長27~38㎜。
これは wittmerorum というパキスタン北部・スワート地方の亜種で、緑青色を帯びており、とても美しい。
カシミールの青鬼だな。因みに、原記載亜種は黒い。

オニオサムシ亜属(Imaibius)は、大半がインド北西部のカシミール地方からパキスタン北部の標高2000~3000mの高所に棲む。背後は7千、8千メーター峰が連なるカラコルム山脈とヒマラヤ山脈だ。そういうところも、鬼が棲むに相応しい異世界って感じでいい。
スリナガルは当時も旅行者には閉ざされていて、結局行けなかった。でもパキスタン北部にはバイクでユーラシア大陸を横断した折りに立ち寄った。標高四千くらいまでは行ったと思う。もし、その頃に虫採りをやってたとしたら、コヤツらも採れたかもしんない。ヨーロッパに始まり、アフリカを経由してアジアまで旅したから、会おうと思えば相当ええ虫に会えてたんだろうなあ…。モロッコの砂漠なんかにも行ったから、ニセマイマイカブリとか、カッコいいゴミムシダマシにも会えたかもしんない。勿体ねー。

 
【オニミスジ Athyma eulimene 】
(2013.1.20 Indonesia Sulawesi Palopo)

 
見よ、怒れる鬼の形相を想起させるこの出で立ちを❗
オオアカミスジなんていう普通過ぎるダサい和名もあるけど、塚田悦造氏が大図鑑『東南アジア島嶼の蝶』で採用しているオニミスジを断固として推す。
なぜなら前翅長が42㎜くらいはあり、ミスジチョウやシロミスジの仲間の中では最大、もしくは最大級の種だからだ。翅も他のミスジチョウと比べて遥かに分厚いし、体も太くて頑健だ。デカくてゴツいのだ。そして飛ぶのもクソ速い。だから、採った時は到底ミスジチョウの仲間には思えなかった。

 

 
背中に光る金緑色が美しい。
何だか、まるで鬼火のようじゃないか。

 
【ミドリオニカミキリ】
(出典『cerambycodea.com』)

 
南米のカミキリムシだが、鬼そのものとも言える見てくれだ。残虐非道の青鬼様なのだ。
大きさは75㎜もあるそうだ。この厳つい顔、そして前胸のトゲトゲ、青緑色にギラギラ輝く感じ。そこに大きさも加わるのだから、鬼と呼ぶに申し分ない。性格も絶対に悪辣凶暴、極悪に違いなかろう。
オニの名がある虫の中では、コイツが一番鬼を具現化させたような存在じゃないかな。カミキリムシだから、肉食じゃないけどさ。

 
外国の昆虫はコレくらいにして、日本のオニと名のつく虫に戻ろう。

 
【オニホソコバネカミキリ】
(出典『リセント[RECENT]』)

 
(出典『ムシトリアミとボク』)

 
見た目が黄色と黒だし、毛むくじゃらなところは鬼と言って差し支えないだろう。カミキリなのにハチに擬態していると云うのも、何となく邪悪っぽい。
学名は Necydalis gigantea。その学名からカミキリ愛好家たちの間では、ギガンティア、ギカンと呼ばれている。ギガンティアとは、ラテン語で「巨大な」を意味する言葉である。その名のとおり、ネキ(=ネキダリス=ホソコバネカミキリ属)の最大種でもある。まさに鬼の名に相応しい。これも異論なし❗

 
オニクワガタはまあ置いておくとしても、ここまではオニと名付けられていることに何ら違和感のない昆虫たちだ。問題はここからである。
とはいえ、問題視しているのはワテだけかもしれん。ゆえに、ここから先の文句たらたらの文章は、あくまでも個人的見解であることをおことわりしておく。

 
【オニユミアシゴミムシダマシ】
(出典『インセクトアイランズ』)

 
体長22.0~31.2㎜。ユミアシゴミムシダマシの中の最大種である。
ユミアシというネーミングはセンスいいなと思う。
奈良の春日山と九州の大隅半島、福江島(五島列島)くらいでしか採れないようだから珍稀度も申し分ない。脚が太く、見た目もガッツリした感じで黒光りしているから、邪悪な黒鬼に見えなくもない。魅力的なのは認めよう。
だが、この見た目が問題だ。他のユミアシゴミムシダマシの仲間と見てくれはあんまし変わんないのである(註5)。つまりオニユミアシだけが特に鬼っぽいワケではないのだ。
あとはオオユミアシゴミムシダマシやアマミユミアシゴミムシダマシと大きさ的には、さほど差はないというのも気にかかる。オニというからには、圧倒的に巨大であって欲しいという願望があるのだ。
とはいえ、オニユミアシは自分の中では一応セーフかな。オニと名乗ってくれても強く反対はしないし、いたらゼッテー採るもん。

 
【オニヒゲナガコバネカミキリ】
(出典『長野県産カミキリ図鑑』)

 
ちっちゃ❗
調べたら、6~14㎜しかない。
ヒゲナガコバネカミキリの仲間では大きいから名付けられたようだけど、オニってのはどうよ❓小さ過ぎやしないか❓
見てくれは鬼っぽいといえば、鬼っぽくはあるけどさ。

 
(出典『吉崎ネット甲虫館』)

 
でも、カッコいいなあ(о´∀`о)

 
【オニヒラタシデムシ】
(出典『東京昆虫館』)

 
オニとつくのに、体長はたった1㎝くらいしかない。
普通のヒラタシデムシ類でも1.5~2㎝くらいはあるのに解せない。
という事は背中の彫刻柄が鬼みたいってことなのかな❓にしても、オニというほどの複雑怪奇な彫刻柄ではない。鬼というほどのインパクトはあらへん。ネーミングに異議ありだ。
まあ、コイツらシデムシ(死出虫)は字の如く動物の死体に集まるから、その意味では鬼的ではある。鬼みたく死肉を屠(ほふ)るのである。気味悪いが、腐敗菌の蔓延を防ぐ掃除屋でもあるから、必要な存在ではあるんだけどもね。

 
【イシガキオニハネカクシ】

どうやらキシモトツノツツハネカクシの石垣島亜種の別称のようだ。でもイシガキオニハネカクシの画像がダウンロードできない。キシモトツノツツハネカクシの画像も見つからない。と云うワケで、ある程度近いであろうフトツノツツハネカクシの画像を添付してお茶を濁しときます。

 
【フトツノツツハネカクシ】
(出典『フォト蔵』)

 
イシガキオニの頭はこんなにデカくはないけど、だいたいこんな感じだ。角もあるし、見てくれは邪悪な感じがしてオニと言ってもいいだろう。
けどさあ、ハネカクシって、そもそも皆さん鬼的な見てくれだよねぇ。

 
(出典『コトバンク』)

 
しかし、如何せんやっぱり小さい。だいたいハネカクシ全体がチビッコだらけなのだ。

 
【ツツオニケシキスイ】
(出典『最上の自然』)

 
オニケシキスイ亜科 ヨツボシケシキスイ亜属に含まれる。
元々ケシキスイは矮小だけれど、4~6㎜くらいしかない。調べた限りでは他にこの亜属にはオニとつくものが2種、オニケシキスイ亜属にコオニと名のつくものが5種類あった。何でオニケシキスイ亜属がコオニで、ヨツボシケシキスイ亜属の奴らがオニケシキスイなのだ❓謎だよ。さっぱりワカランわ。
一瞬、この黒と赤が鬼を連想するゆえのネーミングかなと思ったが、考えてみればヨツボシケシキスイだって赤と黒なのだ。益々ワカランわ。

 
【オニメクラチビゴミムシ】

画像が見つからなかったので、別種のズンドウメクラチビゴミムシの画像を貼っておく。

 
(出典『俺流エンタメ道場』)

 
見た目はどれもこんな感じの形で赤茶色なので、雰囲気は何となく解ってもらえるかと思う。
メクラチビゴミムシはチビゴミムシ亜科のゴミムシのうちで、地下生活に強く適応した結果、複眼を失った一群の総称である。ようするに盲目なのである、
約300種以上が知られ、多くが体長5㎜前後の小さな昆虫だ。
画像は見つけられなかったが、学名は判明した。
Trechiama oni というらしい。小種名が、まんまの「oni=鬼」じゃねえか。よほど鬼っぽい姿なのかとワクワクしたが、そんなに特異なものならば、もっと言及もされている筈だ。しかし、目ぼしい情報がてんで見つからない。画像も見つけられなかった。
ってゆうことは、それほど特筆すべき奇怪な姿ではないのだろう。となると、鬼的要素として考えられるのは、属内最大種である公算が高い。でも、んな矮小なものにまでオニとつける必要性が果たしてあるのだろうか?

話は変わる。この一連の和名に対して、巷では差別だという批判の声が少なからずあるようだ。過去には改名騒動さえ起こったらしい。
確かに知らない人から見れば、メクラでチビでゴミみたい存在だと言っているように聞こえる。そんなの虫だからって名付けていいのかよ?それって差別だろって事なのだろう。ても、その考え方がメンドくせー野郎だなと思う。
掲げた画像のズンドウメクラチビゴミムシだって、ズンドウ(寸胴)は決して誉め言葉ではない。むしろ、その逆だろう。だからって、何だというのだ。メンドクセー。たかが虫だろ❓虫は悲しんだり傷ついたりはしない。

ウィキペディアには、続けてこうあった。
「和名に差別的に聞こえる要素があるため、日本の昆虫学の研究者の間でも改名すべきか否かで議論が絶えない。」
驚いた事に一般ピーポーではなく、玄人筋からのクレームだったのね。何だそりゃ?である。
クレームをつけている研究者はハッキリ言ってバカだ。言葉に対する感覚がズレている。こういう正義感ぶってる奴に限って、差別を助長していたりするから始末に悪い。所詮は虫なんだから、ありのままでいいのにね。
この手のセンスのない輩どもが、真面目で長ったらしくてクソ面白くもないつまらん和名を乱発しているのだろう。

ウィキペディアでは、それに対して更にこう続けている。
「現在のところ、このグループの研究を日本で牽引してきた上野俊一が、実際の差別と言葉は無関係であり、標準和名は学名に対応しており、変えると混乱を招くとする改名反対の主張を強く行っているため、当面改名されない模様である。」
上野さん、天晴れである。おっしゃる通りだ。
だいたいメクラも盲目も、所詮は同じ意味じゃないか。言い方を変えただけにすぎない。こんなの言葉狩りだろ。メクラという言葉にはそれ相応の歴史があり、その成立過程には様々な物語もあった筈だ。言葉を葬り去るということは過去の歴史をも闇に葬り去るということだ。負の遺産も人類の遺産なのだ。消してしまえば、根本の本当のことはわからなくなる。
そういえば、イザリウオなんかも差別用語だといって、知らぬ間に「カエルアンコウ」にされちゃったんだよねぇ。ようするに、イザリという言葉も葬り去られたワケだが、アレを言葉で説明するの大変だし、面倒くさいぞ。しかも、説明するとなると喋る方も聞く方も妙にリアルな嫌悪感情になるのは避けられんでしょう。
ホント、自主規制とかって馬鹿馬鹿しい。言葉が誕生したのには、それなりの理由があるのだ。

 
【アカオニミツギリゾウムシ】
(出典『昆虫データバンク』)

 
ミツギリゾウムシかぁ…。この仲間は海外で何度か見たけど、変な形だなあと思った記憶がある。コイツはそれよかもっと変な奴だな。触角とか、かなり変わってる。
調べた限りでは分布は狭く、福岡、愛知、奈良、京都の各府県でしか見つかっていないようだ。かなりの稀種なんだね。
灯火に飛来すること以外、生態は未解明だが、アリの巣と関係があるらしい。好蟻性昆虫なのか…、謎だらけだな。何か面白そうだ。

日本では、他にツヤケシオニミツギリゾウムシ、キバナガオニミツギリゾウムシの2種がいるが、これらも稀種のようだ。何れもネットでは五万円の値がついていた。とはいえ情報が少ないから、本当にそれだけの価値があるのかどうかはわからない。生態が分かってないし、探してる人も少ないから、単に需要と供給の問題だけなのかもしれない。

情報が少ないから、語源を探るのも大変だ。それだけマイナーな存在なんだろね。
ツヤケシオニミツギリってのは黒い。キバナガは赤い。勝手に想像すると、日本ではツヤケシが最初に見つかって、次に赤いのが見つかったからアカと名づけたのかな? で、キバナガはその次に見つかり、顎が長いのでキバナガとつけられたと推察する。
しかし記載年を確認したら、アカオニが1963年、ツヤケシが1976年、キバナガが2009年となっていた。見事に読みがハズレましたな。
それにしても何でオニなんだろ?ミツギリゾウムシの中では最大なのかなとも思ったが、たった10㎜くらいしかない。日本にいるミツギリゾウムシには、もっと大きいのが沢山いるから、それも当てはまらない。
オニアカは前胸中央に溝があるのが顕著な事から、セスジミツギリゾウムシという別名がある。もうそっちでいいと思うんだよね。正直、チビッコだし、鬼には見えないもん。

 
【オニコメツキダマシ】
(出典『虫つれづれ@対馬V2』)

 
前胸背の凹凸の彫刻柄が鬼の顔に見えることからついた種名のようである。
でもコレが鬼に見えるって、どんだけ想像力が逞しいねん。大きく張り出した前胸の顔はお地蔵さんにしか見えん。体全体もお地蔵さんやんけー(# ̄З ̄)
しかも、体長は5~11.5㎜と笑けるほど小さい。でもって、ド普通種らしい。
学名 Hylochares harmandi に秘密が隠されているのかと思いきや、そうでもなさそうだ。これはおそらく著名な博物学者のアルマン・ダヴィドに献名されたものだろう。余談だが、アルマンといえば、アルマンオサムシ(ホソヒメクロオサムシ)など多くの昆虫にその名が学名としてつけられている。余談ついでに言っとくと、学名には名前はないけれど、有名なのは中国で博物学調査を行い、ジャイアントパンダの存在をヨーロッパに報じた人物でもありんす。

 
【オニツノキイロチビゴミムシダマシ】
(出典『われら雑甲虫ちっちゃいものクラブ』)

 
ちっちゃ❗
チビとついてあるだけのことはある。

奄美大島にしかいない稀種なんだそうな。奄美って、固有種とか日本ではこの島にしかいないと云う虫が多いよね。フェリエベニボシカミキリとかアカボシゴマダラとかさ。あっ、アカボシゴマダラは今は本土にもクソ品のないクズ外来種がいるな。(# ̄З ̄)死ねばいいのに…。

 
(出典『われら雑甲虫ちっちゃいものクラブ』)

 
まさか触角が鬼に見えるとかじゃないだろうなあ。
だとしたら、無理無理じゃん。
あっ、でもよく見たら角があるわ。

しっかし、クソ長い名前だニャア。どれか1つくらい端折(はしょ)ることが出来なかったのかなあ❓
虫の名前には、とてつもなく長いものが結構ある。アレって、何とかならんのかね❓細かく特徴を現したいのだろうが、かえってワケわかんなくなってないか❓ハッキリ言う。長い和名はダサい。

 
(出典『われら雑甲虫ちっちゃいものクラブ』)

 
( ̄~ ̄;)う~む…。こりゃ、確かに鬼だわさ。
オニの名を認めてもいいような気がしてきた。
でも、それならオニかツノかのどっちか1つにしてもらいたいよね。
けど、オニとするには、やっぱ如何せんちっちゃ過ぎるわ。

 
【オニエグリゴミムシダマシ】
(出典『吉崎ネット甲虫館』)

 
どこがオニなのか、さっぱりわからない。
単に属最大種なのかな❓
でも体長が10.7~12.3㎜しかないし、果たしてオニとつける意味ってあるのかな❓まだまだ昆虫素人にはワカンないや。自分の預かり知らぬ裏事情とかあるのかしら❓

 
【オニツノゴミムシダマシ】
(出典『吉崎ネット甲虫館』)

 
どこに角あるねん(#`皿´)❗と思ったら、ちゃんとある奴も発見。

 
(出典『昆虫採集記』)

 
どうやら角はオスにしか無いようだ。もしくはオスの方が発達してる?

体長は10.8~18.5㎜。コレまた小さい。
属最大種かと思いきや、近縁のミツノゴミムシダマシ(コヅノゴミムシダマシ)の方が13.5~18.5㎜と大きいぞ。昆虫界のオニの基準って何なのさ❓

 
【オニクビカクシゴミムシダマシ】
(出典『吉崎ネット甲虫館』)

 
頭に鬼的突起があるが、申し訳程度だ。鬼というよりも猫耳だ。ネコミミクビカクシゴミムシダマシの方が可愛くて良いのになあ…。
待てよ。そもそもコレって角なのか?小腮か何かじゃないのか❓
まあいい。おそらく猫耳は関係なく、属の最大種なのだろう。けれど、やはり小さい。体長は8.3~10.5㎜しかない。
とはいえ、クビカクシってのは中々秀逸なネーミングかもしんない。特徴をよく捉えていると思う。
 
 
【オニササキリモドキ】
(出典『日本のバッタ・コオロギ・キリギリス』)

 
属の最大種かと思いきや、そうでもないようだ。たった8~10.4㎜しかない。どこがオニやねんである。
調べてゆくと、愛媛県の鬼ヶ城山という地名がボツポツ出てくる。そこで最初に見つかったからなのか❓だとしたら、紛らわしい事この上ない。だったら、オニガシロササキリモドキにしろよなー(# ̄З ̄)
けど、調べるとどうやら基産地は鬼ヶ城山ではなく、篠山という所みたいだ。益々、ワケわかんねえや。
因みに、分布は愛媛県と高知県だけみたい。そこそこ珍しい種なんだろう。しかし、それとオニのネーミングは関係ないんだろなあ…。

 
【オニヒメタニガワカゲロウ】
(出典『ZATTAなホームページ』)

 
鬼なのに姫って、何じゃそりゃ❓である。
オニは主に最大種、ヒメは小型種につけられるのが生物界の常識だが、一般ピーポーにとっては何じゃそりゃ❓である。ミックスされたら、ワケわかんねえだろう。
これはおそらくヒメタニガワカゲロウの最大種であるから、頭にオニとつけられたのだと推測される。
でもヒメタニガワカゲロウというのが、探しても見つからない。フザけんなよである。ヒメは小さいという意味でつけられただけで、属レベルではタニガワカゲロウというワケなんだろね。もう面倒だから確認しないけど。

画像を見てもわかるとおり、葉っぱの大きさと比して大変小さい。ヒメと呼ぶに相応しいと言える。
だとしたら、オニの部分は大きさではなく、その形態によるネーミングではなかろうか?
そういう目で見れば、確かに頭部に突起らしきものがある。それを鬼に模して名付けられた可能性はある。とはいえ、申し訳程度だ。こんなもんがオニと言えるかね。せいぜいツノでよかったんじゃないの~❓

 
【オニヒメテントウ】
(出典『東京23区内の昆虫2』)

 
だからぁー、鬼と姫を一緒にすんなっつーの(# ̄З ̄)
ヒメテントウの最大種らしいが3㎜しかないし、どこがオニやねん。もー、どいつもコイツもチビッコの鬼ばっかじゃねえか。

  
他にもオニヒメハネカクシ(だからぁー、鬼と姫を一緒にすんなよ)、オキナワニセオニハネカクシ、アシナガオニゾウムシ、オニツヤハダチャイロコメツキとか、オニとつく昆虫はまだまだいるけれど、これくらいにしておこう。どうせ皆んなチビだろうしさ。

ようは、簡単に何でもかんでもオニって名前をつけるのはどうかと思うよと言いたいワケ。特にチビッコの虫にオニってつけるのは、もうやめません❓って事なのである。オニとつけるなら、それに相応しい存在であるべきだと思う。オニは鬼らしくである。
それを言うのに、ここまで長い文章を書くのは自分でも御苦労なこったである。( ̄∇ ̄ )ゞまっ、いっか…。

あっ、忘れてたよ。そういえば日本のオサムシにもオニの名を冠したのがいたなあ。

 
【オニクロナガオサムシ】
(出典『世界のオサムシ大図鑑』井村有希・水沢清行)

 
正式には種ではなく、キュウシュウクロナガオサムシの東広島亜種で、その通称がオニクロナガオサムシである。
どうせキュウシュウクロナガオサムシの中で一番デカイから名付けられたんだろうと思っていた。実際、種の中では一番大きいのだが、甲虫屋のAさんから名前の由来を聞いて驚いた。何とオニは人のニックネームから来てるみたいなんである。
これは蛾の著名な研究者、特にシャチホコガの研究で高名な中臣謙太郎氏のアダ名なんだそうである。
長いが、学名を記そう。
Carabus(Leptocarabus)kyushuensis cerberus。
括弧内は、たぶん新たな分類を用いた場合の学名かな?
小種名の cerberus は冥界もしくは地獄の番犬ケルベロス(註6)のことだ。
Aさん曰く、中臣さんの顔が鬼みたいだったからオニの和名がついたそうだ。そんなん有りかいな(笑)。
その鬼に連動して小種名もついたようだ。その辺の事は詳しくは訊いてないけど、或いはケルベロス的な激しい性格の持ち主でいらっしゃるのかもしれない。でも、たとえそうだったとしても、鬼とかケルベロスとかとつけられるのを許した中臣さんは心が広い。

こう云うオニの命名の仕方は想定外だった。目から鱗である。由来が分かりにくい紛らわしいネーミングをすんなよとは思いつつも、でもちょっと愉しい。この由来ならば、納得です。エスプリが効いている。是非残して欲しい和名だよ(註7)。
もしかしたら、他にもコレ的イレギュラーな由来のオニ昆虫もいるかもしれないなあ…。
たぶんいないとは思うけど(笑)。

 
                    おしまい

 
追伸
他人の画像を借りまくりの回になった。自分の画像ってオニベニシタバとオニミスジしかないもんなあ…。ちょっと気が引ける。とにかく、画像を御使用させて戴きました方々、有り難う御座います。礼 m(__)m

今回は頭からケツに順には書かなかった。バラバラに書いて、あとから繋ぎ合わせた。最初に前回の元になる文章を入れて、植物から書き始め、次に海の生物の部分を膨らませていった。あとはオニオサムシの草稿、ついで鳥、戻って哺乳類、クモと書き、オニヤンマからオニツヤクワガタまでを一気に書いた。でもってミドリオニカミキリ、オニホソコバネカミキリを続けて書き、オニミスジを途中に挿入した。で、オニオサムシの稿を完成させた。そこからまた戻ってオニササキリモドキ、オニヒメタニガワカゲロウの項を書いた。してからに、オニクロナガの事とその前にある今回の主題である物言い(文句)を置いた。そして、最後にオニユミアシからゴミムシダマシの項までを順不同でバラバラに書いた。
だから、所々でトーンが微妙に変わっている。こういう書き方は珠にするけど、こごまで継ぎはぎだらけで書いたのは初めてだ。飽きれば別のところを書けばいいので、お陰で長文のわりにはあんまし苦痛ではなかった。でもそのせいで、ウンザリするくらいの長い文章になってしまったけどね。最後まで読んで下さった方には、ただただ感謝である。

 
(註1)バラクーダは老魚なると群れない

当時、先輩インストラクターにはそう聞かされていたのだが、これは間違い。単独行動の奴と群れている奴は別種なんだとさ。単独でいるデカイのがオニカマスで、群れているのはオオカマスだという。大型カマス類には何種類かあるのだが、ダイバーの間では全部ひっくるめてバラクーダと呼ばれている。だから種類が混同されているのだ。ブラックフィンバラクーダとかも、学術的には別種なんだろね。

 
(註2)ハカイダー
(出典『プレミアム バンダイ』)

 
特撮番組『人造人間キカイダー』及び『キカイダー01』に登場した悪役キャラクター。ダーティヒーローだ。
フィギュア、欲しいなあ…。

 
(註3)シオヤアブ
(出典『メンバラ&身近な自然』)

 
双翅目ムシヒキアブ科。体長23~30mm。
時にスズメバチをも襲う。オニヤンマも襲われることがあるみたい。返り討ちにあうことも多いそうだけど。

 
(註4)タテヅノマルバネクワガタ
(出典『気ままに昆虫採集』)

 
以前はチャイロマルバネクワガタ以外の全種全亜種が「タテヅノマルバネクワガタ」として、ひと括りにされていた。
現在はアマミマルバネクワガタ、ウケジママルバネクワガタ、オキナワマルバネクワガタ、ヤエヤママルバネクワガタ、ヨナグニマルバネクワガタの5種類に分けられている。
マルバネクワガタは見たことがない。蝶屋だから夜は虫採りなんかしなかったのだ。そういえば、ヨナグニマルバネは禁止になる前年に与那国島にいて、しかもベストシーズンだった。それ狙いの人も沢山来ていた。今思うと、毎晩呑んだくれてる場合じゃなかったよ。
wikipediaには「今日知られる分類は水沼哲郎氏の熱心な研究によるところが大きい。」とあった。水沼さんは優しくて飄々としたお爺ちゃんだけど、やっぱスゴい人なんだね。

 
(註5)他のユミアシゴミムシダマシとそう変わらない

一見したところ、他の大型ユミアシゴミムシダマシとあまり変わらない。体長もそれほど大きな差はない。

 
【オオユミアシゴミムシダマシ】
(出典『こんなものを見た』)

 
体長21.8~27.9㎜。
そういえば初めてユミアシゴミムシダマシを採ったのは小学生の頃で、場所は長居公園の臨南寺だった。大阪のド真ん中だけど、まだ小規模ながら古い社寺林が残っていた時代だ。一部は原始に近い照葉樹林で、そこにはオオゴキブリやマイマイカブリ、オオゴミムシとかオオスナハラゴミムシなどの大型ゴミムシ、そういえばオオゴモクムシなんかもいた。オニユミアシは古くて豊かな照葉樹林にいるみたいだから、もしかしたらアレはオニユミアシだったりしてね。残念ながら標本は残っていないから確かめようがないけれど。

 
【アマミユミアシゴミムシダマシ】
(出典『インセクトアイランズ』)

 
体長23.8~29.3㎜。
前述したが、オニユミアシは22.0~31.2㎜。つまり大きさはオニユミアシ、アマミユミアシ、オオユミアシの順となる。

 
(註6)ケルベロス
(出典『世界の神話・伝説』)

 
ギリシア神話に登場する犬の怪物。冥界の入口を守護する番犬で、三つの首を持ち、青銅の声で吠える恐るべき猛犬とされる。また、文献によって多少の差異はあるが、三つ首プラス竜の尾と蛇のたてがみを持つ巨大な犬や獅子の姿で描かれることが多い。
学名はラテン語なので、読み方はケルベルス。英語では読みはサーベラスとなる。

 
(註7)是非、残して欲しい和名だよ
実際、消えてゆく和名も多い。特にオサムシは亜種名にも和名をつける慣習があるからだ。オニクロナガも今ではキュウシュウクロナガオサムシ広島県東部亜種と表記される機会が増えている。これは日本産オサムシ図説(井村・水沢, 2013)で、この亜種独自の和名を見直し「(種和名+主要分布地域名)亜種」という方式で和名を記載することが提唱されたからだ。この方式は従来方式の和名が「種を指すのか亜種を指すのか明確でない」という見解からだろう。確かに一見合理的ではある。
しかし、分布地域名の表記をなるべく正確かつ統一的なものしようとするあまり、やたらと長くなっているものが数多く見受けられるのも事実だ。従来の方式ならば、表記も喋るのも短くて済む。オニクロナガで済むところを、一々キュウシュウクロナガオサムシ広島県東部亜種なんて言わなきゃならないなんて、どっちが合理的なのかワカンナイぞ。だいち、今は旧名と新名が混ざくりあって、益々何が何だかワカンなくなってて、かえって混乱を引き起こしてねぇか❓また、従来の和名は紀伊とか阿波なとの旧国名や地域名といった歴史ある地名を冠したものが多く、山河による地理的隔離により亜種分化をしてきたオサムシの和名に相応しいものともなっていた。しかし、それを継承しなかった新名もあり、亜種分化の歴史を掴みずらくしてしまったケースもある。オサムシはその形態よりも地方名がついたものが多い。これは見てくれが似たようなのばっかだからそうなったのだろうが、面白いし、かえって合理的でもある。言葉一つで何処に分布する種なのか解るもんね。形態を必死こいて表そうとして、無機質でクソ長ったらしくなった和名よか、余程こちらの方がいいや。
それとは関係ないけど中臣さんの名前を冠したらしきオサムシが、オニクロナガが以外にもう1つある。チュウゴククロナガオサムシ(キュウシュウクロナガオサムシ中国地方亜種)だ。
学名は Carabus (L.) kyushuensis nakatomii 。もしかしたら、オニクロナガも中臣さんに献じようと思ったが、既に nakatomii を使用しているのでアダ名を使ったのかもしれない。

 

夏が来る

 
先週の月曜日、たまたま『なるみ・岡村の過ぎるTV』(7月10日放送分)を見ていたら、「夏の名曲といえば?」と題して、最初に思い浮かべる曲の街頭アンケートというのをやっていた。
10~20代、30~40代、50代以上の各年代のベスト5を紹介してたんだけど、細かい順位は忘れた。
とにかく10~20代の1位は、湘南乃風の『睡蓮花』だった(ふ~ん、なるほどね)。
次の50代以上の1位は、予想通りのTUBE『シーズン・イン・ザ・サン』(50代以上というのはザックリ過ぎるけど、50代ならば確実に鉄板な曲でしょう)。
そして、最後に30~40代の発表。ここで何となく大黒摩季の『夏が来る』辺りが入ってくるのかなあと思った。だが、予想に反してベスト5にも入っていなかった。
因みに1位はサザンの『真夏の果実』だった。
そういえばユーミンの『真夏の夜の夢』も入っていなかったなあ…。ユーミンにしろ大黒摩季にしろ、40~50代括(くく)りにしないと挙ってこないのかもしれない。

まあいい。人には人それぞれの思い出の曲があるのだ。別に順位なんて関係ない。

大黒摩季の『夏が来る』を聞くと、サイパン時代を思い出す。
まだダイビングインストラクターの見習いをしていた頃は、よく新ちゃんのアシスタントについていたっけ。
新ちゃんは本当は新太郎と云う名で、実家は三宅島のダイビングショップだった。だから、幼少の頃から潜っていたと云うもうダイビングの申し子みたいな子だった。
勘が鋭くて、時々打合せしていたコースとは全然違うコースを選ぶんだけど、彼が泳ぐ先には巨大な一匹狼のバラクーダ(オオオニカマス)とか、まるで戦艦みたいに鎮座するモヨウフグとか、ステルス戦闘機みたいなバカでかいマダラトビエイ等々の大概は大物がいて、よく驚かされたものである。
新ちゃん曰く、海に入って泳ぎだした時にビビッと来るそうである。天才だなと思った。
だが、今では蝶採りの時にたま~にそういう時があるから、そういうのって解らないでもない。言葉で説明するのは難しいんだけど、ようするに野生の勘みたいなもんだね。何となく何か特別な奴がいると感じるのだ。

その新ちゃんが、ファンダイブでオブジャンビーチに向かう時によくこの曲をかけていた。
オブジャンビーチに向かう道は、突然眼下に青い海と空がガアーンと広がる。その時に限ってナゼかこの曲がよくかかったんだけど、もう『夏ぅー❗❗』って感じで最高な気分だった。アップテンポだし、気持ちがメチャンコ盛り上がるのだ。
そういえば、たま~に客が多すぎてダットラ(ダットサン)の荷台に乗せられた事があったなあ…。
仰向けに寝そべって空を眺めながら、この曲を聞いていると『嗚呼、オレって今南国にいるんだよなあ…。夏って最高だなあ。』とよく思ったもんである。
今思えば、とっても幸せな時代だった。

一応、YouTubeの動画を貼っておきます。
青いとこ、クリックです。

夏が来る 大黒摩季

ライブ版より、オリジナル版の方がシックリくるんだけどなあ…。でも、ナゼか貼り付け失敗。
オリジナルが気になる人は、自分で探してみてね。

どこかちよっとバブリーな時代の残り香がする歌詞はコチラ。

あれれ?、ナゼかコレもリンクが貼れないや。
これも申し訳ないけど、気になる人は自分で探してみて。

 
【オブジャンビーチ】
(出典『マリアナ政府観光局』)

サイパンのダイビングポイントといえばグロットだけど、自分が一番好きだったのはオブジャンビーチだった。
ここのポイントはリップカレントと云う特殊な地形で、エントリーもエキジットも波に流され易くて結構緊張感があった。それが程好い刺激になってていい。
もっとも、荒れてる時は客連れてるとマジ怖いんだけどさ。

【オブジャンビーチ・ポイントマップ】
(出典『MSCサイパン』)

奥に進むと白い砂が広がっているから、海がより青く見える。

(出典『Pop photos』)

で、そこにガーデンイール(チンアナゴ)が一杯いて、ゴーゴンとかメデューサの髪みたいにゆらゆらと妖し気に揺らいでいる。それはちよっと不思議な光景で、幻想的と言えなくもない。

そういえばガイドの時はよくダイビング後のレクチャーで、お客さんに『アレは全て地面の下で繋がってて、実を言うと一匹のガーデンイールなのだー。』とかアホみたいな冗談を言ってたなあ…。

【オブジャンビーチのガーデンイール】
OLYMPUS DIGITAL CAMERA/caption

記憶は数珠繋ぎに溢れてくる。
アシスタントの時で海が穏やかな日は、水面近く1~2mの水深でよくホバリングしてたっけ…。
縦に浮き、体の力を一切抜いてぼおーっと海の青を見ていた。その水深が最も海が綺麗に見えるのだ。
それはとてもとても美しい蒼のグラディエーションで、限りなく透明に近いブルーというのはああゆうブルーの事なんじゃないかなと思う。
自分の呼吸音だけが静かに聞こえてて、まるで違う惑星にいるかのようだった。

どれもが懐かしい思い出だ。
またいつかサイパンで潜りたいなと思う。

 
                  おしまい

 
追伸
そういえば、後に相棒の奥さんになる人にこの曲をダビングして貰ったんだっけ…。
多分あのテープ、探せばどっかにある筈。
探してみよっかなあ…。何かオリジナル版をあのテープで聞きたいなあ。

さあ、大好きな夏も半ばを過ぎた。
夏を満喫しなきゃ、損、損。