奄美迷走物語 其の五

 
 第5話『(´ε` )何だかなあ…』

 
 2021年 3月23日

 

 
デイゴの花が咲きかけている。
知名瀬トンネルに向かう道の途中で鮮やかな赤が目に入ったので、思わずバイクを停めたのだ。

花が咲くと、こんな感じだ。

 

(出典『FUNPO』)


(出典『okinawaclip.com』)


(出典『てぃだにすま宮古島』)

 
デイゴの花には青空がよく似合う。
ダイビングインストラクター時代に過ごしたサイパンでも咲いてたなあ…。夏になると島の沿岸がオレンジ色に染まるのだ。
戦前、ミクロネシアの島々は日本に統治されていたため、多くの日本人たちが移り住んでいた。そんな故郷を離れた人たちが日本を懐かしみ、この木を南洋桜と呼んでいたと聞いたことがある。

どうせ天気が悪いから蝶は飛びそうにないので、その場で検索ちゃん。

 


(出典『サイパンの花 SEASHORE BLOG』)

 
(・o・;)あれっ❓、何か違うぞ。
てっきりデイゴだと思っていたサイパンの赤い花は、どうやら火炎樹(フレームツリー)という全く違う種類の木のようだ。
でもフレームツリーで検索すると、火炎樹、火焔木、鳳凰木、南洋桜とか色々出てきてワケわからんくなる(註1)。ラチあかんわい。帰ってから再度検索ちゃんだね。気が向いたらの話だけど。

取り敢えず昨日のミカン畑へと向かう。
途中、網を持った爺さんたちがいたので停まって話をする。現地での情報収集は大事だ。聞いといて損はないだろう。

お二人はイワカワシジミ狙いで来たらしい。しかし全く姿を見ずとの事。ついでに去年ここで発生していたシロウラナミシジミの事を訊いたら、すぐ横を指さされた。見ると、川向うに幼虫の食草であるシュクシャが山ほど生えていた。去年の秋に来た時には、その辺で乱舞していたらしい。でも今回は全く見掛けないと言う。

 
【シロウラナミシジミ Jamides alecto】

(2009.11 石垣島)


(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
シロウラナミさんは奄美大島には本来はいない蝶だから、さらに南の島から渡ってきた迷蝶扱いとなる。地球温暖化で、そのまま土着しててもおかしくないんじゃないかと思ってたが、寒さに負けて冬を越せなかったのかもなあ。ターゲットであるアカボシゴマダラやフタオチョウ採りの合間にでもチョチョイと摘んでやろうと思っていたが、アテがハズレた恰好だ。
楽勝と思ってたシロウラナミ如きも採れんのか…(´-﹏-`;)
(´ε` )何だかなあ…。

奥に進むと、もう一人網を持った人がいた。
話を聞くと、蝶も採るけどメインは鳥の写真撮影らしい。蛾もやると言うからアマミキシタバの事を尋ねたら、蛾は蛾でも昼蛾がメインらしくって、モンシロモドキなる蛾をわざわざ見せてくれた。良い人だ。

 
【モンシロモドキ】

(出典『Picuki』)

 
見せて貰っといて申し訳ないが、少しは蝶っぽいもんかと思ったら、どう見ても蛾風情だ。ようは何ら有益な情報は得られなかったというワケだ。(-_-;)何だかなあ…。

ポイントに到着するが、相変わらず空はどんよりだ。昨日ほどではないが気温も低い。予想どおり蝶は何も飛んでいない。

モンシロモドキらしきもん(註2)が飛んで来たので、一応採った。どうせコイツら、曇ってても飛ぶんだろなあ。いまだ蛾には偏見ありなのだ。

 

 
蛾にしてはスタイリッシュな気がしないでもない。
さておき、さっき見せてもらったヤツとは少し違うような気がするぞ。
そういやモンシロモドキにも幾つか種類があると言ってはったなあ。でもどうだっていいや。所詮は蛾なのだ。しかも、こうゆう腹が黄色くて白地に黒い点々がある奴って本能的に気持ち悪いんだよなあ。白と黒に黄色が加わると、とたんに自分にとっては最悪の色の組合せになる。だからユウマダラエダシャク系の蛾を見ると背中がブルッときて、殺意が芽生えるのだ。

 
【ユウマダラエダシャク】

(出典『新・ぼちぼち植物などを』)

 
天気は相変わらずだが、気温が少し上がり始めたのでアゲハ類が飛び始めた。しかし昨日みたいにジャンジャン飛んで来るというワケではなくて散発だ。

 
【アマミカラスアゲハ♂】

 
それに♂はチョボチョボ飛んで来るが、狙いの♀は全然飛んで来ない。プーさん曰く、アマカラは赤い網に寄ってくるというが、フル無視だしさ。よくよく考えてみれば、昔、秋に来た時にも赤網だったけど、寄ってきたという記憶は全然ないもんな。ハッキリと効果があったのはツマベニチョウだけだ。

 
【ツマベニチョウ♂】

 
今回、興味を示すのはモンキアゲハだけだ。かえってそれがウザい。おまんらなんぞ、要らんのだ。
段々、💢イライラしてきた。この場所に来てから、ずっと小バエと云うか目まとい(註3)的なモノどもにタカられっぱなしでストレスが溜まりまくりなのだ。

午後2時。何気に振り返ったら♀が目の前をコチラに向かって飛んで来た。
心が瞬時に沸き立つ。しかし網の柄を目一杯に伸ばしていたから、そのままでは近過ぎて振れない。
けどワシのバッティング技術をナメんなよ💢(-_-メ)❗咄嗟に後ろ足を引いて、野球の内角打ちみたく腕を縮めて左下から右上に振り抜く。
 
∑(=゚ω゚=;)ガビーン❗やってもたー
それでもやっぱ近過ぎて、懐に入られて空振り。しかもスウェーしながら振ったからバランスを崩して後ろ向きに尻餅をついた。
何とも不様な恰好である。それを嘲笑うかのように彼女はゆったりと羽ばたきながら優雅に上へと舞い上がり、やがて梢の向こうへと消えて行った。
そして、それっきり二度と♀は姿を現さなかった。
今思えば一旦スルーして、振り向きざまに後方から網を振るべきであった。柄の長さに合わせて間隔を空けてから落ち着いて振れば何て事なかったのだ。間合いは自分で作るべきものなのだ。それが蝶採りの極意なのだが、まだまだ修行が足らんよ。
ここ数年は蛾のカトカラ採りが中心で、ろくに蝶採りをしとらんからこうなるのだ✿§∞◆〆▲□●♯∌ゴニョゴニョ。我ながら言いワケがましい。自己嫌悪で益々落ち込む。身も心も絶不調だよ。

2時半に諦めて移動。あかざき公園へと向かう。
狙いはアカボシゴマダラとフタオチョウだ。今回のターゲットの蝶に敢えて優先順位をつけるとしたら、1位がイワカワシジミの♀、2位アカボシゴマダラの春型、3位フタオチョウの春型、4位がアマミカラスアゲハの♀という順になる。
奄美大島のイワカワの春型♀は白い紋が発達する特異な型で美しい。2位のアカボシの春型は他の時期のものよりも白くて、翅形も違うから欲しい。3位のフタオは元来がフタオチョウ類大好き男だし、春型は見たことがないからだ。とはいえ、夏型と見た目はあまり変わらないらしいから3位なのだ。アマミカラスアゲハの♀は単に美しいから欲しい。特に春型の♀は美しいからね。これらの採集難易度は自分の中では横一列ってところだろうか。此処ではフタオを除き、それぞれ秋には採っているから基本的な生態は知っているからね。正直、何とでもなると思ってる。強いて言うならば、アカボシの♀だろうか。2011年は♀を採るのにかなり苦労したのだ。滅多に姿を見せないし、採れても鳥のせいで翅が一部損傷していて完品がどうしても採れなかったのだ。ある意味、振り回されたと言ってもいいような状況だったのだ。

 

(出典『SEPT』)

 
一番高台に登る。
アカボシゴマダラは午後3時くらいになると、山頂や尾根で雄同士が縄張り争いをするのだ。奄美大島でのフタオチョウとの遭遇は未体験だが、おそらく同じように縄張り争いをするものと思われる。ようは、それらをイテこましてやろうという算段なのだ。

周囲の木に🍌バナナトラップもかける。アカボシもフタオも成虫の餌は樹液や熟して発酵が始まったフルーツだから、
(☉。☉)おっ❗、こんなとこに甘々の御馳走があるやんけー。(^o^)vラッキ〜
ってな具合で寄ってきたところをテゴメにしてやるつもりなのだ。
ψ(`∇´)ψケケケケケ、悪いオジサンの謀略にハマり、毒牙にかかって何処までも落ちてゆけばいいのだ。
この二段構えの布陣で今度こそ結果を出して、そのまま連勝街道の波に乗ろうじゃないか、🎵フォンテーヌ。

しっかし、3時半になっても飛んで来ん。来る気配すらない。
やっぱ晴れんと飛んで来んかあ…。バナナトラップには蝿一匹来ないし、明日も明後日も天気予報は悪いし、何か絶望的な様相だ。
それに、さっきから矢鱈と手と顔が痒い。
見ると、手の甲がヤバいくらいにパンパンに腫れあがってる。

 

 
顔も痒くて、触るとボコボコだ。きっとケンカでタコ殴りされたみたいになってんだろなあ…。男前が台無しだよ。
たぶん目マトイだと思っていた奴らはブヨだったに違いない。この激しい痒みと腫れあがり、岐阜県にタカネキマダラセセリ(註4)に会いに行った時にボコボコに刺された時と同じ症状だ。

 
【タカネキマダラセセリ】

(出典『Wikipedia』)

 
掻きまくって耳の縁が血だらけになって、揚句にはカサブタでボロボロ。で、当時の彼女に『何それ❓かさぶたデビルイヤーやんか。』と笑われたのだった。だから翌年は万全を期して虫除けクリームを塗りたくって参戦した。おかげで被害はゼロだったんだけど、代わりに現地で会った爺さんに蚊柱ならぬブヨ柱がモウモウと立ってた。そっちに集中攻撃とあいなったワケだね。遠目に見て、アレには笑ったもんな。自分もきっとあんな状態になってんだろなあと思うと、二重にオカシかったよ。

午後4時前。
急に自分のいる場所だけ雲が切れ始めて青空が覗いたと思ったら、サァーと陽が射した。我ながらに、そのスーパー晴れ男振りに驚く。天気予報、関係あらへん人なのだ。とにかく良い兆しだ。今度こそ波に乗れるんじゃないかと期待がボワッと膨らむ。

そして、その5分後くらいだった。
高さ約3メートル、青空をバックに大型の白い蝶が正面から猛スピードで飛んで来た。

(°o°)フタオチョウだ❗しかもメス❗❗

だが、茫然と見送るしかなかった。
突然のことで、何が飛んで来たのか直ぐにはワカランかった。で、フタオだと認識した時には既に頭上を通過しようとしていた。振ったところで間に合わない。そして一直線に背後の東屋を越えて行った。幻のような光景だった。一拍おいて現実に立ち戻り、慌てて反転して追いかけて東屋の向こう側に出るも、しかしその姿は忽然と消えていた…。

(´д`)マジかよ❓

そういや知名瀬で会った爺さんの一人が、このポイントはフタオが飛んで来ても止まらずに通過すると言ってたなあ…。
まあいい。それなら空中でシバけばいいだけの事だ。ワシの鬼神の如き網さばきをナメんなよ(-_-メ)

しかし暫くするとまた曇り始め、二度と飛んでは来なかった。
退屈しのぎでキオビエダシャクでも採ろうかと思うが、突然どこからともなく現れて、止まらずに直ぐにどっかへ飛んで行ってしまう。オマケに飛ぶ位置が高くて、殆んど網が届かない。
キオビエダシャクさえも採れんのかと思うと、何だか情けなくなってきた。(;_;)ベソかきそうだよ。
(´ε` ) 何だかなあ…。

                         つづく

追伸
何だかなあ…の連発である。
でもホント、その時は何度もそんな気持ちになっていたのである。負の連鎖に抗うも、ことごとく返り討ち。どうしようもなかったのだ。

以下、解説編だけど、本文よりも解説の方が圧倒的に長いって、それってどうよ❓
(╯_╰)何だかなあ…。

 
(註1)火炎樹、火焔木、鳳凰木、南洋桜とか出てきて…
調べてみたが、正直ワケわからん。ワカランけどワカランなりに整理して解説しよう。

先ずはデイゴから。
学名 Erythrina variegata。マメ科マメ亜科の落葉高木で、漢字だと梯梧と書くそうだ。
インドからマレー半島が原産。日本では沖縄県が北限とされているが、奄美大島の隣の加計呂麻島の諸鈍海岸には約80本の並木道があるなど、あちらこちらで大木が見られる。これは交易船の航海の目印とするため等で沖縄から植栽されたものだといわれている。
春から初夏にかけて花を咲かせるが、毎年満開となるという保証はなく、年毎の差が大きいそうだ。
近年は、台湾方面から飛来・帰化したとされるコバチの一種デイゴヒメコバチ(Quadrastichus erythrinae)による被害が相次いでおり、問題になっている。このハチはデイゴの葉や幹に産卵して虫こぶを作り、木を弱らせて枯らす場合もあるため、沖縄県では対策を急いでいるらしい。

どうやらフレームツリーと呼ばれている木は2〜3種類あるようで、サイパンのものは火炎樹ではなくて、日本では鳳凰木と呼ばれているモノのようだ。

ホウオウボク(鳳凰木)
学名 Delonix regia。マメ科ジャケツイバラ亜科の落葉高木で、原産はマダガスカル島。樹高は10〜15m。樹形は樹冠が傘状に広がり、葉は細かい羽状複葉。直径10cmほどの5弁で蝶形の緋紅色の花を咲かせる。
熱帯地方では街路樹や公園樹として植えられ、日本でも沖縄県などで導入、植栽されている。しかし、これまたホウオウボククチバという蛾の幼虫による葉の食害が問題となっている。

【ホウオウボククチバ Pericyma cruegeri】

(出典『幻日の雑記帳』)

ヤガ科 シタバ亜科に属するそうだが、汚い蛾だねぇ。
もしワシが被害にあってる街の人だったら、🔥ゴオーッ。確実に憎悪の炎を燃やすね。

ネットを見ていると、ブログなんかは素人が書いているから鳳凰木と火炎樹、フレームツリー等々とかゴッチャになっていて、何が何だかワケわからんくなってる。明らかに間違っている記述も多く、どうみても錯綜状態なのだ。
絶対正しいとは言い切れないが、ここはまだしも信頼できるウィキペディアに頼って書き進めていこう。

次に火炎樹だが、検索すると真っ先に出てくるのがカエンボク(火焔木)だった。

 
【カエンボク】

(出典『Wikipedia』)


(出典『夏の柿の実』)


(出典『かぎけん花図鑑』)

学名 Spathodea campanulata。
ノウゼンカズラ科に分類される花木。別名アフリカンチューリップ。ジャカランダ、ホウオウボクとあわせ世界三大花木と称される。
西アフリカ原産の常緑高木で、樹高は12〜25mほどになる。一年を通じて釣鐘形の赤みがかったオレンジ色の花を咲かせる。大きく派手な花を枝先に多数咲かせ続けるので、世界中の熱帯域で街路樹や庭園木、観賞目的の花木として広く移入されている。

確かにノウゼンカズラと似ていて、葉の形からマメ科じゃないことがよく分かる。

【ノウゼンカズラ】


(出典『あきた森づくり活動サポートセンター』)

花は夏に咲く。目にすると、いつも妖艶だなあと思う。何だか心がざわつく花なのだ。

再びカエンボクの話に戻る。
本種の有するパイオニア性や多産性、強靭な生命力といった特徴は、いずれも侵略的外来種とされる植物に共通するもので、実際アメリカやオーストラリアなど太平洋各地で野生化している。ICUNでは本種を世界の侵略的外来種ワースト100の1種に選定しており、ハワイなど多数の固有種からなる植物相を有する太平洋の島嶼部の生態系への侵入を懸念している。
日本では植物園の温室等の他、沖縄県や小笠原諸島で庭木等として植栽されているが、野生化の報告は2008年現在までない。耐霜性がないところから、沖縄や小笠原以外の地域での日本国内での野生化の可能性は薄いが、沖縄や特に固有種の多い小笠原で野生化する可能性については注意を要すると考えられ、外来生物法の要注意外来生物リストに掲載されている。

このサイトで、和名の錯綜に対する1つの解答を見つけた。以下に抜粋する。

「カエンボク」という和名は、オーストラリア産のオオバヤドリギ科植物ヌイチア・フロリブンダ(Nuytsia floribunda 英名 Christmas tree,flame tree)や同じくオーストラリア産でアオイ科(旧アオギリ科)のゴウシュウアオギリ(学名 Brachychiton acerifolius 英名 Illawarra flame tree)に対して用いられた例もある。また、同じ三大花木の1種であるホウオウボクを「カエンジュ(火焔樹)」と称することがあり、本種(カエンボク)と取り違われることが度々ある。ちなみに中国語で火焰樹というと本種のことを指す。

だいぶスッキリした。でも、また新手が出てきたなあ。

 
【Nuytsia floribunda】

(出典『オーストラリアン ワイルドライフ』)

真正双子葉類ビャクダン目に属すオオバヤドリギ科に分類される。西オーストラリアに見られる半寄生植物で、根から近くの植物の養分を吸い取って成長し、10mほどの大木になる。
この科は殆んどが半寄生の低木からなり、他の樹木の枝に着生する所謂ヤドリギ類に含まれるのだが、根に寄生するものは特異で、この1種のみのようだ。
南半球の夏の間、クリスマスの頃に鮮やかで明るい黄色やオレンジ色の花が咲かせることから、クリスマスツリー、西オーストラリアのクリスマスツリーなどと呼ばれている。
和名を探したが、オーストラリアン・クリスマスツリーとしか出てこず、とくにはないようだ。

 
【ゴウシュウアオギリ】

(出典『Wikipedia』)


(出典『園芸手帳』)

アオギリ科 ブラキキトン属。オーストラリア東部原産の高さ10~30メートルになる半常緑高木。ベル形の真っ赤な花を咲かせる。和名の「アオギリ」は濃緑色の樹皮に由来する。

最後に南洋桜について調べて終わろう。

 
【ナンヨウザクラ】

(出典『Health Benefits times』)


(出典『Wikipedia』)

ナンヨウザクラ(南洋桜、Muntingia calabura)は熱帯アメリカ(カリブ海沿岸からペルー)原産の常緑高木。クロンキスト体系ではシナノキ科であったが、APG植物分類体系ではナンヨウザクラ科とされる。世界の熱帯各地で観賞用や食用に栽培されている。
花は5弁で白い。果実は円い液果で赤く熟し、香りと甘味があって食べられる。和名は見かけがサクラに似るためで、英語でもジャマイカンチェリーなどと呼ばれるが、サクラとの類縁関係はない。また、同じように熱帯アメリカ原産で広く栽培されるテイキンザクラもしばしば同じく「南洋桜」と呼ばれるが、これはトウダイグサ科でやはりサクラとの類縁関係はない。

おいおい、また新たなもんが出てきたよー。すんなり終わらせてくれないよなー。

 
【テイキンザクラ】

(出典『Wikipedia』)


(出典『花と観葉植物』)

テイキンザクラ(提琴桜 Jatropha integerrima)は西インド諸島(中米)原産の常緑低木。トウダイグサ科ヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)属に分類される。花は5弁で見かけはサクラに似ており、桃色または鮮紅色。
提琴とはバイオリンのことで、葉の形がバイオリンを連想させることに因む。しばしば南洋桜とも呼ばれる。

ネットで見てると、ナンヨウザクラとテイキンザクラもゴッチャになっている。で、日本ではテイキンザクラを南洋桜と呼んでいるケースの方が多いようだ。

やっと終わったと思ったら、このサイトで又しても次なる刺客が現れた。
あとデイゴに似た海紅豆(アメリカデイゴ)も南洋桜と呼ばれるようなのだ。(-_-メ)しゃらくせぇ。

 
【アメリカデイゴ】


(出典『生きもの好きの語る自然誌』)


(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

アメリカデイゴ(亜米利加梯梧 学名 Erythrina crista-galli)は南アメリカ原産のマメ科の落葉低木。和名はカイコウズ(海紅豆)だが、あまり使われておらず、アメリカデイゴと呼ばれることの方が多い。
沖縄県外では奄美群島のほか小笠原諸島にも自生しており、鹿児島県の県木であり、アルゼンチン、ウルグアイの国花でもある。

待てよ。花の蕾は知名瀬近くで見たデイゴと似てねぇか❓
奄美にも自生していて、鹿児島県の県木とあらば、その可能性はあるだろう。
でも、花期は6~9月頃とあるから、違うのかなあ…。まあ、どっちだっていいけど。もう疲れてて、うんざりなのだ。これくらいで勘弁してくれ。

 
(註2)モンシロモドキらしきもん
帰ってから調べてみるとモンシロモドキではなくて、キハラモンシロモドキという別な種類だった。

キハラモンシロモドキ Nyctemera cenis(Cremer,1777)

(2021.3.23 奄美大島 知名瀬林道)

触角は♂が櫛歯状、♀はそうならないから、この個体は♀だね。


(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

【開張】 38〜45mm。
モンシロモドキに似るが、前・後翅の中室に黒紋を欠くこと、腹部は橙黄色と黒の縞模様を呈することで区別できる。
【分布】 屋久島,種子島,トカラ列島,奄美大島,沖縄本島,石垣島,西表島。国外では東南アジアからインドにかけて広く分布する。
【生態】 6,7,8月に得られている。
【幼虫の食餌植物】未知
【亜種】亜種区分はされていない。

あれっ❓、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』には発生期は3月とは書いてなくて、完全に夏じゃないか。どゆ事❓
ネットで調べたら、沖縄本島ではあるが3月の生態写真があった。そのサイトによると、南方からの偶産蛾ではなくて昔からの土着種で、絶滅危惧種なんだそうな。しかも未知となっていた食草もヌマダイコン(キク科)であることが判明しているようだ。蛾は蝶と比べてまだまだ生態が未知なものが多く、書き変えられる事も多いんだろね。

一応、モンシロモドキのことも解説しておく。

モンシロモドキ Nyctemera adversata (Schallel,1788)

(出典『蝶の図鑑』)


(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

【開張】 約48mm
【分布】 本州,四国,九州,対馬,屋久島,トカラ列島,奄美大島,徳之島,沖永良部島,与論島,久米島,宮古島,石垣島,西表島
【出現期】 3~10月
八重山諸島では一年中。
【幼虫の食餌植物】 キク科ヒメジョオン,タケダグサ,サワオグルマ,コウゾリナ,スイゼンジナ,ベニバナボロギク
【生態】昼行性のヒトリガで花によく集まる。ヒラヒラと飛ぶ姿がモンシロチョウのように見えることからモンシロモドキの名前がある。触角は雌雄共に櫛歯状だが、♀では櫛が短い。

モンシロモドキには他にも幾つか種類がいるようだ。

ツマキモンシロモドキ Nyctemera lacticinia (Cremer,1977)
【開張】 40mm内外
【分布】 種子島,屋久島,沖縄本島,大東諸島,宮古島,石垣島,西表島。国外では東南アジアからインドまて広く分布する。日本での記録は土着ではなく、南方からの偶産蛾だと考えられている。
【生態】 5,6,10月に得られている。
【幼虫の食餌植物】 ヨブスマソウ(キク科)

 
ネッタイモンシロモドキ Nyctemera coleta (Stoll,1781)
【開張】 49mm内外
胸・腹部は白色で末端は橙黄色。
【分布】 屋久島,石垣島,西表島で、それぞれ1頭ずつが採集されているだけである。国外ではインドから東南アジア、オーストラリアにかけて分布する。
【幼虫の食餌植物】未知

 
デバリモンシロモドキ Nyctemera carissma (Swinhoe,1908)

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

開張45mm内外。
西表島で1963年の3月に得られた1♂のみが唯一の記録。
国外では台湾、中国、インドシナ半島に分布する。

 
オキナワモンシロモドキ Pitasila okinawensis (Inoue,1982)

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

【開張】 43〜48mm
腹部が白色なので、他のモンシロモドキ区別できる。
【分布】 喜界島,徳之島,沖縄本島,宮古島,石垣島,西表島,波照間島,大東諸島,尖閣諸島。国外からは知られていない。
【生態】 2〜10月に得られている。
【幼虫の食餌植物】 モンパノキ(ムラサキ科)

 
(註3)目まとい、メマトイ

(出典『くまもと自転車紀行』)

誠にもって忌々(いまいま)しい存在だが、特定の昆虫を指すのではなく、人の眼の周りにまとわりつく昆虫の総称とされ、小型のハエを指す場合が多い。代表的な種に春先に山地でシツこく眼にまとわりつくクロメマトイやショウジョウバエ科のマダラメマトイがある。ちなみに画像はクロメマトイで、コイツにタカられるケースが圧倒的に多い。この前も生駒山地でタカられまくってチョウ採りどころではなくなり、ひたすら網に入れてはグシャグシャに網を丸めて潰し続けてた。たぶん300匹くらいはジェノサイド、大量虐殺してやったわい。
眼に飛来するのは涙を舐めるためだと言われ、マダラメマトイは犬や猫、人の眼に寄生するセンチュウ(線虫)の一種である東洋眼虫の媒介者でもある。西日本、特に九州では被害例が多いという。
又あるサイトよれば、コヤツらには虫除けスプレーやハッカ油が効かないらしい。小賢しい限りである。ちなみに吸血はしない。それだけが唯一の救いだが、許せない存在であることには変わりない。思い出してもイラつくわい。

 
(註4)タカネキマダラセセリ


(2014.7.12 岐阜県高山市)

学名 Carterocephalus palaemon (Pallas,1771)
日本では長野県・岐阜県・富山県下の北アルプス(飛騨山脈亜種 ssp.satakei)と山梨県・長野県・静岡県下の南アルプス(赤石山脈亜種 ssp.akaishianus)のみに分布する高山蝶。
標高2000m以上の草原に局地的に棲息する稀少種ゆえに飛騨山脈亜種は長野県で、赤石山脈亜種は全県で採集禁止になっている。
国外ではヨーロッパから東アジア北部と北米大陸北部に広く分布している。ちなみに本文中に貼付した画像はヨーロッパ産のもの。理由は単に写真が綺麗だったからである。
6月下旬から8月にかけて見られ、緑の葉上にチョコンと止まる姿はとても愛らしい。ゆえに個人的にはクモマツマキチョウと並ぶ妖精の化身だと思ってる。
幼虫の食草はイネ科のイワノガリヤスで、成虫になるのに足かけ三年をようする。そんなワケなのか、個体数が多い年と、裏年と呼ばれる数が少ない年とが交互に訪れると言われている。また何年かに一度、極めて個体数が少ない裏裏年というのもあるそうだ。最初に探しに行った時は、この裏裏年で、見事なまでの惨敗を喫した。
なお、タカネキマダラセセリについてはアメブロの方の「蝶に魅せられた旅人」に書いている。捕虫網の円光『奥飛騨慕情』と題した連載モノです。よろしければ、そちらの方も読んでくだされ。

  
ー参考文献ー
◆『Wikipedia』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』

 

奄美迷走物語 其の四

 
 第4話『亜熱帯の夜は恐ろしい』

 
 2021年 3月22日(夜編)

帰りがけにビールを買い、宿でグビグビいく。
(≧▽≦)プハー。やっぱ風呂上がりの🍺ビールって最高だべさー。ましてやサウナの後なんだから尚更だ。
小池くんも御機嫌だから、ここぞとばかりに夜間採集に誘う。
だって一人で夜に金作原なんて行きたくないもーん(;O;)
ねぇねぇ、あんたアマミノクロウサギを見たいんじゃろう❓行こうよ、行こうよー。
そう口説くが、迷っている様子だ。

取り敢えず灯火採集の用意をしていたら、下の階から若い娘二人が上がってきた。噂で東京から可愛い娘が泊まりに来るというのは聞いていたが、どうせブスだろうと思ってた。けど予想に反して結構可愛い。
これで完全に風向きが変わった。しかもゲストハウス主催で彼女たちを囲んでこれから宴会だというじゃないか。すぐに小池くんが夜間採集をキッパリと断ってきたのも仕様がないよね。解るよ、解る。ワシだってホントはそうしたいもん。
しかし、虫屋の性がそうさせない。何としてでもこの旅でアマミキシタバを採らなアカンのだよ。

 

 
コンビニで買ったハンバーグ弁当を食って、意を決して出る。
プライオリティの最上位は虫なのだ。虫屋って、どうしようもないアホだ。阿呆だが、それが虫屋というものなのだ。ハッキリ言ってビョーキだ。カワイコちゃんとの宴会をうっちゃって出てゆくなんて、どう考えても間違ってる。それも夜の山中に一人で行くのである。夜行性の毒蛇ハブが蠢(うごめ)き、悪鬼羅刹が跳梁跋扈しているであろう魑魅魍魎の世界なのだ。そんなところにワザワザ自ら身を投じるだなんて、飛んで火に入る夏の虫。一般ピーポーからすれば、アホを通り越した狂人だろう。

地獄の沙汰も虫次第。
イカれポンチである。

日没時刻は6時半。それまでにはポイントに着いておきたい。森の闇に怯えながらライトトラップを設置するのは、願わくば避けたい。そんな事になれば、生来が大の怖がり屋なんだからチビりかねないのだ。ヽ(`Д´#)ノムキーッ❗、知名瀬トンネルでショートカットじゃ❗フルスロットルで飛ばす。

昼間に行った金作原に向かう林道に入る。
日は既に沈んでおり、闇が急速に侵食し始めている。林道は薄暗くて、泣きそうなくらい不気味だ。勿論のこと、人っ子一人いない。
場所を昼間のミカン畑に選定する。此処は谷状の地形になっており、三方を山に囲まれているから、広い範囲から虫がやって来ると考えたのだ。

しかし、点灯しても殆んど何も飛んで来ない。
おそらく森から遠すぎて光が届かないのだ。やはりこのライトトラップは開けた場所には向いておらず、林内でしか効力を発揮しないのかもしれない。
1時間後、仕方なく林道に移動して設置し直すことにする。
 
それにしても暗い。試しに灯りを全部消したら、真っ暗けになった。都会の一般ピーポーの殆んどが経験した事がないであろう漆黒の闇だ。小池くんに、この闇を是非とも味わせてやりたかったよ。あのチョーシいい男も慄然として口数が減ったろうに。

 

 
そんな事を想像したら、逆に自分の方が怖くなってきた。
山の中は何処でも真っ暗だが、亜熱帯の原生林は特に闇が濃いような気がする。
(´ω`)アハハ…、もしも、この瞬間に暗闇からヌワッと手が何本も飛び出てきたら、発狂もんだな。林道の奥から行進する軍靴の音が聞こえてきても、その場で気絶だ。恐怖に打ち勝つ一番の方法は意識を失うことなのだ。食われるとか、木に縛りつけられるとか、その後にどうなるかを想像さえしなければ最高の対処法だろう。

何とか設置完了。

 

 
でもさっきよりもマシになったとはいえ、劇的に飛来数が増えたりはしない。ショボい事には変わりはないのだ。やっぱ、何ちゃってライトトラップでは無理があんのかなあ❓

一応、糖蜜も周囲の枝葉に噴き付けたが、前日と同じく何も寄ってこん。或いは黒酢を入れたのは失敗だったかもしれん。普段のレシピどおりにしときゃ良かったよ。

 

 
しかも岸田先生がメッチャ効くと言っていた中国の黒酢だ。そのまんま何も入れずとも効くとマオちゃんも言ってたしさ。他と混ぜるとあんま良くないのかなあ…。悩める男は、暗闇で深く嘆息する。

9時過ぎ、糖蜜トラップの様子を見に行くと、オオトモエ(註1)が来ていた。
何だおまえかよのガッカリだが、ウルトラ退屈なので採ることにした。

 

 
網で採ったから、背中がハゲちょろけたよ。
(´-﹏-`;)何だかなあ…。何やってんだって感じだ。
ワシ、どこまで呪われとんねんと思いつつ、それを三角ケースに収めたその時だった。

ガサガサガサー❗
下の川の茂み付近で音がした。
ウグッ(ㆁωㆁ)、悶絶白目ちゃーん。
心臓が止まりそうになる。
きっと奄美の妖怪、ケンムンだ…(-_-;)

 

(出展『Wikipedia』)

 
背筋から首にかけてが、スゥーっと冷たくなる。 
恐る恐る懐中電灯で、音がした辺りを照らす。
もしも青く光っていたなら、間違いなくケンムン(註2)じゃろう。奴は怪しげに発光していると言われておるのだ。これは燐成分で涎(よだれ)が光るためだとか、指先に火を灯すためだとか、はたまた頭の皿が光るとも頭上の皿の油が燃えているのだとも言われている。
やだなあ…。毛深いらしいし、涎はメチャンコ臭いらしいから絶対友だちになれそうにない。大きさは子供の身の丈ほどだというからボッコボコにシバキ倒してやろうかとも思った。けど顔つきは犬、猫、猿に似ていて、目は真っ赤。目つきが鋭いらしいし、口は尖っているというからなあ…。どう考えてもバケモンだもんなあ…。怯んでボコるどころではなさそうだ。
ならば、タコ🐙を投げつけて追い払うしかない。ケンムンは蛸とシャコ貝をとても嫌っているとどこかに書いてあった筈だ。でも今、んなもん持っているワケがない。持ってたらアタマおかしい人だろう。

色々と想像すればするほど、ドツボにハマってくる。耐えきれず、恐怖のあまり闇に向かって絶叫した。

(`Д´#)ブッ殺ーす❗❗

闇夜に声が奇妙な感じで反響する。
と、同時に再び、ガサガサガサー❗
瞬時にシバキ棒を伸ばし、身構える。向かってきたらメッタ打ちにしてやる所存だ。おどりゃ、(-_-メ)刺し違えてやらあ。

茂みから何かか飛び出した❗
Σ(゚Д゚)ゲロッ❗❗毛むくじゃらだ❗ケンムン❗❓

だが、茂みから出てきたのは2足歩行ではなく4足歩行の生物だった。たぶん哺乳類だ。しかも、あまり大きくない。そうなれば形勢逆転だ。すかさず再度、渾身の怒号を浴びせ掛けてやったら全速力で下流に向かって逃げていった。ダボがっ❗
あの姿は、どう見てもアマミノクロウサギではない。たぶんカタチ的にリュウキュウイノシシ(註3)だわさ…。
( •̀ε•́ )クソ畜生めがぁー、ビックリさせやがってからに。久し振りに肝が凍りついて、チンチンめり込んたよ。
それにしてもイノシシにしてはウリ坊でもないのにかなり小さかった。六甲辺りでよく見るドデカイ奴と比べれば子供みたいなもんだ。そういや、島のイノシシは小さいとタケさんが言ってたなあ。それって所謂ところの、ベルクマンの法則(註4)ってヤツなのかなあ❓

ようやく11時前に大きめの蛾が飛んできた。
たぶんエダシャクの仲間だ。今までずっと何処へ行ってもエダシャクは無視してきたけど、あまりにもヒマなんで採ることにする。それに本土とは別亜種になってる可能性だってあるからね。

 

 
何かコレって見たことあるような気がするぞ。トビモンオオエダシャク(註5)とか云う奴じゃなかったっけ❓
エダシャクなんぞにはコレっぽちも興味がなくて、種名も殆んど知らないけど、コレには見覚えがある。なぜなら、つい最近の3月初めに奈良と大阪の県境に行った時、壁に停まっているのを写真に撮ってFacebookにあげたのだ。したら、カッちゃんだったかなあ…、親切にも名前を教えてくれたのだった。

 

(2021.3.4 大阪府柏原市)

 
あれっ❓、何か違うぞ。待てよ、コレってトビモンオオエダシャクではなくてチャオビトビモンエダシャク(註6)だったんじゃないかな。カッちゃんもそう言ってた気がする。もしかしたら、自分で調べた時にトビモンオオばっか出てきたので、そっちに記憶が引っ張られたのかもしんない。
でも山ん中じゃ電波が届かないので確認しようがない。まあ、どっちだけいいけど。元来が蛾嫌いなのだ。アマミキシタバとハグルマヤママユくらいにしか興味がないのじゃよ。正直、その2つさえ採れればいいのだ。

その後もロクに何も飛んで来ないし、退屈であればあるほど恐怖が頭を掠めがちだ。丑三つ刻には耐えられそうにない。
午前0時前、撤退。
何しに来たかワカラン結果に終わった。
何だかなあ…。

                         つづく

 
追伸
部屋に帰ったら、隣の部屋で小池くんが女の子たちと楽しそうにハシャぐ声が漏れてきた。わざわざ行く気にもなれず、1人缶チューハイを飲みながら後片付けをしていたら、こんな夜更けに若者が部屋に入ってきた。徳之島から来たそうだが、海が荒れてて、船の出発が大幅に遅れたんだそうな。昼間、奄美の海も白波が立ちまくりだったもんなあ。
話を聞くと東京の大学生で、ダイビング部に所属しているという。となれば、元インストラクターとしては饒舌にならざるおえない。
色々話してたら、小池くんが部屋に戻ってきて、『なあ〜んだ帰ってたんですかあ❓全然気づきませんでしたよー。』と調子こいて言う。まあ、そらそうよ。女の子と楽しそうに喋ってたんだから、気づくワケあるまいて。
『一緒に彼女たちと飲みましょうよー。』と言うので、行くことにした。闇に長時間いて、ずっと緊張に晒されてたし、悪夢のような貧果だったから酒でも飲まなきゃやってらんないって気分だったのだ。

女の子二人は、モデルとダンサーだった。
二人とも賢い娘で、男心のくすぐりどころをよく解っていらっしゃる。それでいて根が真面目なのがよくワカル。たぶん、何処へ行ってもモテるタイプだろう。
学生とダイビング談義になって痛飲。オーバードランカーで泥のように眠りに落ちた。何やってんだ、俺❓

 
(註1)オオトモエ

(2021.3月 奄美大島)

 
前々回に解説し忘れていたので、しときます。

ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
トモエガ属(Erebus)

【学名】 Erebus ephesperis (Hübner, 1823)
属名の”Erebus”は、おそらくギリシャ神話の冥界の擬人神エレボス、もしくは暗黒界(現世と地獄の間にある死者の棲家)あたりが由来だろう。たぶん南極の活火山エレバス山も命名の由来は同じだろうね。
小種名の”ephesperis”は、よく分かんないけど、ギリシャ語の”Eσπερίς,=Hesperis へスペリス”で、ギリシア神話に登場する黄昏の女神の事かもしれない。ゴメン、蝶とかカトカラじゃないので、必死になって調べたワケじゃないから正しいかどうかワカンナイですぅー(◡ ω ◡)

【開張】 90〜95mm
和名は前翅に巴模様の目玉があることから名付けられたのだろう。してからに、国内のトモエガ類の中では一際大きいがゆえの命名だろう。
だが本土のモノと比べて、かなり小さいという印象だ。その後、結構な数の個体を見たから断言できる。オオトモエにも春型とかあるのかなあ❓でも聞いた事ないよなあ。或いは亜種なのかな❓とも思ったが、本土のものより外横線の白帯が細くなる傾向があるものの、特に亜種区分は為されていないようだ。これもベルクマンの法則に当て嵌まるのかなあ❓

(本土産オオトモエ)

少し印象が異なるが、前翅の地色と白色条の発達具合には個体変異があるそうだ。個人的には、こうゆう地色が黒っぽい方がカッコイイと思う。

【分布】 北海道南部,本州,四国,九州,対馬,屋久島,トカラ列島,奄美大島,沖縄本島,阿嘉島,慶留間島,伊江島,宮古島,石垣島,西表島,与那国島。尚、関東地方南部以北では偶産との見解がある。
国外では台湾,中国,ボルネオ,インドネシア,マレーシア,ミャンマー,インドなどアジアに広く分布する。

【レッドデータブック】 群馬県:準絶滅危惧
普通種のイメージなだけに、まさかの準絶滅危惧種に指定されてる所があるとは思わなんだ。正気かよ、群馬県。

【成虫の出現期】 3〜10月
本土では4〜9月に見られ、年2化とされるが、おそらく南西諸島では年3化くらいするものと思われる。テキトーに言ってるけど、たぶんあってるだろう。

【幼虫の食餌植物】 ユリ科:サルトリイバラ、シオデ
今まで気にも留めなかったが、食樹はルリタテハと同じサルトリイバラなのね。トゲだらけのウザい植物です。とはいえ、意外と利用されていて、西日本ではこのサルトリイバラの葉で柏餅を巻くところが案外多い。余談だが、柏餅といえば本来はカシワ(ブナ科)の葉で包むのがポピュラーだというイメージがあって「西日本では、サルトリイバラの葉で代用する」という話が流布されているが、実は全くのあべこべであって、サルトリイバラの代用としてカシワの葉を用いる方法が江戸時代に考案されたという一説がある。
普段、甘いもんは食わないから柏餅もほとんど口にした事はない。よって、本音はそんなのどっちだっていいんだけどもね。

【成虫の生態】
夜行性だが、昼間に林内を歩いていると、時々足元から飛び出してビックリさせられることがある。夜間、クヌギやコナラなどの樹液に集まり、糖蜜トラップにもよく来る。その際は敏感で、近づこうとするとソッコー逃げよる。これが٩(๑`^´๑)۶ムカつく。
また灯火にもよく飛来し、大型なので不意に飛んで来ると結構驚かされる。

個人的にはマスカレードと呼んでいる。仮面舞踏会のマスクみたいだからだ。改めて見るとカッコいいデザインだし、大きいので存在感もあるから良い蛾だとは思う。最初は感動したような記憶があるもんね。けれど普通種なので次第にどうでもいい存在になっていった。採る気もないから無視しているのに、やたらと敏感だから💢イラッとくるし、たとえ鮮度が良くても大抵は翅がどっか破れてるのも何だか腹が立つ。逃げる時なんかは直ぐに藪の中に突っ込んでゆくから、普段でも平気でそうゆう所を飛ぶ種なのだろう。

 
(註2)ケンムン

(出展『山口敏太郎の妖怪話』)

ケンムンとは、ケンモン(水蝹)とも呼ばれる奄美諸島に伝わる妖怪のこと。河童や沖縄の精霊であるキジムナーと共通する外観や性質が伝えられている。
髪は黒または赤のオカッパ頭。肌は赤みがかった色で、全身に猿のような体毛がある。相撲好きで人に逢えば挑戦してくると言われる。かつては木こりや薪拾いが荷物を運ぶのを手伝い、有益無害な存在だとされていたが、時代を経るにつれ、一転して危険で害を及ぼす忌避すべき存在となった。

体と不釣合いに足と腕が細長く、膝を立てて座ると頭より膝の方が高くなり、先端が杵状だとされる。頭の皿には力水または油を蓄えている。
変幻自在に姿を変える能力を持っており、見た相手の姿に変化したり、馬や牛に化けたりする。また、植物など周囲の背景に化けて姿を消し、行方をくらますこともできるとも言われている。ミラージュ効果みたいなもんか。まるでプレデターだな。
目撃は稀で、人家や人っ気の多いところを忌避する。月と太陽の間に生まれたと言われ、庶子(妾の子、私生児)だったので天から追放された(太陽の妾の子って何よ?星かよ(笑))。はじめは岩礁に住まわされたが、蛸にイジメられたので太陽に新しい住処を求めたところ、密林の中で暮らすよう諭されてガジュマルの木に住むようになったという。ガジュマルの木の精霊とも言われ、木を切ると祟られると恐れられている。ケンムンの祟りの遭うと目を患い、何かで突かれたかのように腫れ上がり、失明寸前になるという。また、それが原因で時には命を落とすこともあるという。

魚や貝を食料としており、特に魚の目玉を好む。漁が好きで夜になると海辺に現れ、指に灯りをともして岩間で漁をする。漁師が魚を捕りに行くとナゼか魚がよく捕れたが、どの魚も目玉を抜かれていたという伝承が残っている。カタツムリやナメクジも食べる。カタツムリは殻を取って餅のように中身を丸めて食べ、ケンムンの住んでいる木の根元にはカタツムリの殻が大量に落ちているという。
蛸やシャコ貝を大変嫌っており、投げつけると追い払える。或いは虚でも何か別の物を蛸と称して投げるか、投げると脅しても効果がある。また河童同様に皿の水が抜けると力を失う。ゆえに相撲を挑まれた際に逆立ちをしたり、礼をしてみせると、ケンムンもそれを真似るので、皿の中身がこぼれて退散すると言われている。

悪口を言われることが嫌いで、体臭のせいか、山の中で「臭い」と言ったり、屁のことを話されることも嫌がっている。
とはいえ、本来は穏健な性格で、基本的に人に危害を与えることはない。前述した薪を運んでいる人間をケンムンが手伝った話や、蛸にイジメられているケンムンを助けた漁師が、そのお礼に籾を入れなくても米が出てくる宝物を貰ったという話も伝わっている。加計呂麻島では、よく老人が口でケンムンを呼び出して子供に見せたという。
しかし河童と同じように悪戯が好きな者もおり、動物に化けて人を脅かしたり、道案内のふりをして人を道に迷わせたりする。食べ物を盗むこともあり、戦時中に空襲を避けた人々がガジュマルの木の下に疎開したところ、食物をケンムンに食べられたという話がよく聞かれたそうだ。その際、ケンムンは姿を消しており、カチャカチャと食器を鳴らす音だけが聞こえたという。
石を投げることも悪戯の一つで、漁師が海で船を漕いでいたところ、遥か彼方の岸に子供のような姿が見えたと思うと、船のそばに次々と巨大な石が投げ込まれたという話がある。
さらに中には性格の荒い者もおり、子供をさらって魂を抜き取ることがある。魂を抜かれた子供はケンムンと同じようにガジュマルの木に居座り、人が来ると木々の間を飛び移って逃げ回る。このような時は藁を鍋蓋のような形に編んで、その子の頭に乗せて棒で叩くと元に戻るという。時に大人でも意識不明にさせられ、無理矢理カタツムリを食べさせられたり、川に引き込まれることもあるという。
これらの悪戯に対抗するには、前述のように蛸での脅しや、藁を鍋蓋の形に編んで被せる他、家の軒下にトベラの枝や豚足の骨を吊り下げる方法がある。ただしケンムンの悪戯の大部分は人間たちから自分や住処を守ろうとしての行動にすぎないので、悪戯への対抗もケンムンを避ける程度に留めねばならず、あまりに度が過ぎると逆にケンムンに祟られてしまうらしい。
ある女性が、この地の大工の神であるテンゴ(天狗)に求婚された。女性は結婚の条件として、60畳もの屋敷を1日で作ることを求めた。テンゴは二千体の藁人形に命を与え、屋敷を作り上げた。この藁人形たちが後に山や川に住み、ケンムンとなったという説がある。
他の起源説もある。昔、ネブザワという名の猟師が仲間の猟師を殺し、その妻に求愛した。しかし真相を知った妻は、計略を立てて彼を山奥へ誘い込み、釘で木に打ちつけた。ネブザワは神に助けられたが、殺人の罰として半分人間・半分獣の姿に変えられた。全身に毛が生え、手足がやたら細長い奇妙な姿となったという。そして彼は、昼間には木や岩陰の暗がりに隠れ、夜だけ出歩くようになった。これがケンムンの元祖だという。また嫁いびりにあい、五寸釘でガジュマルの木に打ち付けられた女性がケンムンになったとも言われている。

第二次世界大戦以後は、それまでに比べてあまり目撃されなくなったが、その大きな要因は乱開発によってガジュマルなどの住処を失ったためだと言われている。
GHQの命令で奄美大島に仮刑務所が作られる際、多くのガジュマルが伐採されたが、島民はケンムンの祟りを恐れ「マッカーサーの命令だ」と叫びながら伐採したという。後にマッカーサーがアメリカで没した際、島民の間では「ケンムンがいなくなったのは、アメリカに渡ってマッカーサーに祟っていたためだ」と話されていた。その暫く後にまたケンムンが現れ始め「ケンムンがアメリカから帰って来た」と噂が立ったそうである。

調べれば調べるほど、ケンムンに愛着が湧いてきた。考えてみれば、妖怪ってどこか悲哀感があるんだよなあ。そこに惹かれるところがあるのかもしれない。

 
(註3)リュウキュウイノシシ

(出展『沖縄リピート』)

琉球猪。学名:Sus scrofa riukiuanus
南西諸島の一部に分布するイノシシの固有亜種である。

主な分布は奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島、沖縄本島、石垣島、西表島。また上記以外にも慶良間諸島や宮古島にも人為的に移入されている。
奄美群島では元々奄美大島と徳之島にのみ生息していたが、海を渡って加計呂麻島、請島、与路島にまで分布を拡大したと考えられている。

体型は生息する島によって少し異なるが、ニホンイノシシと比較すると概して小さく、頭胴長50〜110cm、体重は20〜50kg程度である。
イノシシの亜種とされるが、頭蓋骨の形状の違い等から別種の原始的なイノシシと考える研究者もいるようだ。また西表島及び石垣島の個体群は、沖縄本島及び奄美群島の個体群と遺伝的に塩基配列が異なる。形態上も上顎骨にある涙骨や口蓋裂の形状が異なり、乳頭の数や位置も相違する事から西表島及び石垣島の個体群を独立した亜種とすることが提唱されている。

雑食性で、シイの実やタケノコ、柑橘類、サツマイモ、サトウキビ等の農作物、昆虫、ミミズ、カタツムリ、ネズミ、ヘビ等の小動物を食べる。近年、奄美群島や八重山列島ではウミガメの卵への食害が問題になっている。
ニホンイノシシの繁殖期が通常年1回であるのに対し、繁殖期は年に2回(10〜12月、4〜5月)ある。

奄美諸島では縄文時代から、西表島でも古くから食用にされ、鍋物(シシ汁)、焼肉、刺身、チャンプルー等の調理法で食されてきた。近年になって個体数が増え、道路や民家周辺にも頻繁に現れるようになったため捕獲され、流通量も増えている。但し、観光客や人口の増加に伴って需要が増大した事により、狩猟圧も高まっており、生息数の減少が懸念されている。

 
(註4)ベルクマンの法則
ドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンにより1847年に発表された学説。
「恒温動物は、しばしば同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が増え、近縁な種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する」というもの。これは体温維持のためで、体重と体表面積の関係から生じるものであるとされている。
具体例としてよく挙げられるものにクマがある。熱帯に分布するマレーグマは体長140cmと最も小型だが、日本からアジアの暖温帯に分布するツキノワグマは130〜200cm、温帯から寒帯に生息するヒグマは150〜300cmになり、北極近辺に住むホッキョクグマは200〜300cmにも達する。
また日本国内のシカは北海道から慶良間諸島まで分布するが、北海道のエゾシカが最大であり、慶良間諸島のケラマジカが最も小柄であるのも例証としてよく挙げられている。

 
(註5)トビモンオオエダシャク

(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

シャクガ科エダシャク亜科に属する大型の蛾。
上の画像のように♂は色調と斑紋に比較的顕著な個体変異があり、ヴァリエーションに富むそうだ。但し基本的な模様の形状は安定しているという。♀は斑紋が不明瞭で、♂よりも淡色である。

【学名】 Biston robustus Butler, 1879
北海道〜屋久島に分布するものは原記載亜種とされるが、奄美大島以南のものは別亜種とされ、Ssp.ryukyuense という亜種名が与えられており(Inoue, 1964)、前・後翅ともに淡い紫色を帯びる。

属名の Biston(ビストン)は、ステファヌス=ビザンティウムの『Ethnica』(6世紀)によれば、古代トラキアの伝説上の人物が由来で、父は軍神アレース、母はネストス川の神の娘であるとされる。
小種名の”robustus”は、ラテン語で「頑丈な」という意味。

【開張】:♂40~70mm、♀65~75mm
♀は♂より大型で,翅の色調が灰色がかっている。また、触角は♂が両櫛歯状,♀は糸状となる。♀は灯火には殆んど飛来しない事から、目にする機会は少ないという。

【成虫の出現期】2月下旬~5月上旬
年1化。各地で春先に出現する。但し奄美以南亜種は11月下旬から1月上旬には姿を見せるようだ。越冬態は蛹。

【分布】
原記載亜種は北海道、本州、伊豆諸島、四国、九州、対馬、種子島、屋久島に分布する。奄美大島以南亜種は奄美の他に沖縄本島、石垣島、西表島等に分布する。
国外では台湾、朝鮮半島、中国東北部、ロシア南東部に分布し、台湾と朝鮮半島〜ロシア南東部のものが、それぞれ別亜種となっているようだ。

【生態】
広葉樹を中心とする各種樹林内とその林縁,公園などに見られる普通種。夜間多くの花に吸蜜に訪れ、♂は頻繁に灯火に飛来する。

【幼虫の食餌植物】
広食性で、ブナ科、ニレ科、バラ科、マメ科、ニシキギ科、カエデ科、ツバキ科、ミズキ科、モクセイ科、スイカズラ科など多くの樹木につく。

【幼虫】

(出典『芋活.com』)

体を伸ばして静止していると、小枝にソックリである。うっかり土瓶を掛けたら落ちて割れたと云う逸話から、別名「土瓶割り」とも言われるそうな。ようは擬態ってヤツなんだけど、枝に化けることにより鳥などの天敵の目を欺いてるんだね。

移動する時は、こんな感じ↙。


(出典『芋活.com』)

いわゆるところの尺取り虫ってヤツでんな。こうやって尺を取るように体を曲げたり伸ばしたりして前へ進むのだ。

更に検索してたら、ウィキペディアの英語版に興味深い記述を見つけた。何と幼虫は視覚的に擬態しているだけでなく、化学的にも擬態しているというのだ。気になって探してみたら、出典である論文らしきものを見つけた。以下、一部抜粋します。

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/seika/nias/h16/nias02005.html
トビモンオオエダシャクの幼虫は化学的にも植物に擬態する

[要約]
餌植物の枝に視覚擬態することで知られているトビモンエダシャク幼虫は体表ワックスの組成でも寄主植物の枝の成分に化学擬態し、天敵であるアリ類からの攻撃を免れている。寄主植物が変わると2回の脱皮を経てトビモンオオエダシャクの体表物質組成が変化する。アリは、植物とそれに化学擬態したエダシャク幼虫を化学的に見分けられない。

[背景・ねらい]
トビモンオオエダシャクの幼虫は外見上植物の枝に良く似た形態と色彩をもち、それによって視覚に頼って餌を探索する鳥類からの捕食を免れている。一方、アリ類は生態系における有力な捕食者であり、視覚よりも嗅覚などの化学感覚によって餌探索をおこなう。しかしながら、トビモンオオエダシャク幼虫をクロヤマアリに遭遇させても、まったく攻撃を受けないことを発見した。

( ゚A゚)へぇーである。

 
(註6)チャオビトビモンエダシャク


(出展『日本産蛾類標準図鑑』)

トビモンオオエダシャクと同じく春に現れるエダシャクで、日本産は亜種 Ssp. hasegawai Inoue, 1955 とされる。
原記載亜種(Biston strataria (Hufnagel, 1767))はヨーロッパ原産で、分布はバルカン諸国、黒海地域から小アジア、コーカサスにまで及ぶ。

【学名】Biston strataria (Hufnagel, 1767)
小種名の”strataria”は、ラテン語の stratum(掛け布団,寝具の意)+aria(接尾辞)。Emmetは、これを翅の形状からの連想に由来すると見なしている。
おそらく日本亜種 ssp.hasegawaiは、人名(長谷川)からの命名だろう。

【分布】 北海道、本州(東北地方から中部地方の山地)
あれっ❗❓、『日本産蛾類標準図鑑』には近畿地方が含まれてないぞ❗もしかしてトビモンオオエダシャクの同定間違い❓
でも、どう見てもチャオビだと思うんだけどなあ…。
ネットで調べたら、広島県や岡山県、四国、そして近畿地方でも記録があるぞ。どゆ事❓
更に調べると『蛾色灯。』というサイトに答えに近い記述があった。それによると、以前はビストン属の中ではレアで出会うのが難しい種類の一つだったが、最近になって目撃例が増えているらしい。個体数が増えてるのかなあ❓…。その流れで西日本でも見つかるようになったのかなあ❓否、にしても短期間でそこまで分布を拡大できるものなのかね❓にわかに信じ難い。また新たなる疑問にブチ当たったよ。

【成虫の出現期】 4月〜5月
本州では4月上旬、北海道では5月上旬から出現するが、産地は限定される。
ヽ((◎д◎))ゝあれれー❓、ワシが採ったのは3月上旬だから、また『日本産蛾類標準図鑑』の記述と相違があるぞー。
確認したら、新しく見つかった産地は3月の目撃例が多い。読み直したら『蛾色灯。』にもそう書いてあった。にしても、急に各地で採れ始めて、しかも発生期が前倒しになってるだなんてミステリーだよなあ。

同時期に現れるトビモンオオエダシャクとの違いは以下の通りである。
①前翅中横線がチャオビは屈曲せず、外横線に近づきながら緩やかな線になるが、トビモンオオでは波状に曲がる。
②チャオビは後翅が前翅よりも淡い色で、中横線がほぼ直線状である。一方、トビモンオオはギザギザになる。
③頭部の周りの毛がトビモンオオでは真っ白になり、チャオビは白くならない。
④静止状態の時はチャオビは三角形、トビモンオオは翅をやや下げて開き気味に静止していることが多い。

(トビモンオオエダシャク静止画像)

(出典『昆虫エクスプローラー』)

こんな感じだ。
比較するのに分かりやすいように、今一度チャオビの静止画像を貼り付けておこう。

やはり止まり方が違うし、頭も白くないからチャオビで間違いないだろう。
とはいえ、確実に同定するために展翅すっか。スゲー、面倒クセーけど。

 

 
三角紙を開いてみて、直ぐに下翅の方が色が淡いことに気づく。間違いなくチャオビだな。写真を撮っておけば証明にはなるから、展翅しなくてもいっか…。邪魔くさいもんな。
でも小太郎くん辺りにお叱りをうけそうなので、やっぱ一応展翅すっか。

 


(2021.3.4 大阪府柏原市)

 
下羽の柄からも、明らかにチャオビトビモンエダシャクの♂だね。

【開張(mm)】♂45〜48mm ♀58mm内外
展翅して気づいたが、トビモンオオエダシャクよりはだいぶと小さいね。

ネットの「蛾色灯。」によると、♀の記録が非常に少なく、未だ国内では片手ほどの状態だという。ホンマかいな。そんなの大珍品っしょ。まあ、採り方が分かれば、珍品でも何でもなくなるんだろうけどね。

【幼虫食餌植物】 不明
とはいえ、ヨーロッパではブナ科、カバノキ科、ヤナギ科、ニレ科など多くの広葉樹につくことが知られており、日本でも広食性の可能性が高い。

 
−参考文献−
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆秋野順治ほか『トビモンオオエダシャクの幼虫は化学的にも植物に擬態する』
◆ウィキペディア
◆『みんなで作る蛾類図鑑』
◆『蛾色灯。』
◆『昆虫エクスプローラー』

 

奄美迷走物語 其の三

 
 第3話『ラーメン大好き小池くん』

 
 2021年 3月22日

朝9時に宿の前に出る。
今日泊まる朝仁のゲストハウスのスタッフが宿の前まで迎えに来てくれるのだ。
だが9時15分を過ぎても来ない。LINEすると渋滞で遅れているらしい。南の島なんだから時間にテーゲー(テキトー)なんだろう。気にしない、気にしない。ゆったり気分でいこう。なんくるないさー。

宿のオーナーのオジーがさっきから横で空をしきりに見上げている。何じゃらホイと思って尋ねてみたら、カラスが横の桜の木に来て、車の上を糞だらけにするので近づかせないようにしているという。見ると確かに木は桜の木だ。しかし花は無くて葉っぱが生い茂っている。オジー曰く、奄美大島ではソメイヨシノは生育しなくて、桜といえばヒガンザクラ(註1)なんだそうな。花が咲くのは早く、1月下旬頃から咲き始めて2月中旬には散ってしまうという。ゆえに既に実がなっていて、それをカラスが食いに来るようだ。なるほどね。

9時半過ぎに迎えが来た。
LINEのコメントの感じからだと、もしかして若い娘かと期待していたが、迎えに来たのはオジーだった。若い可愛い女の子だったら、俄然テンションが上がるのになあ。何でもいいから上昇気流に乗っかるキッカケが欲しいよ。

車中でオジーに尋ねたのだが、今年の奄美の3月の天気は例年よりも温かいという。それが吉と出ることを祈ろう。

 

 
ゲストハウス涼風。
此処を拠点にしたのは宿代が安くて何日か泊まれば値引きしてくれる事(1日1980円換算になった)と、泊まるとレンタルバイク代が破格の1500円になるからだ。この島でのレンタルバイクの相場は1日2千円くらいだ。それが何日も続けば結構な額になる。十日だと差額は5千円だもんね。
ちなみに言っとくと、車を借りる事も考えないではなかった。が、離島ではバイクを借りるケースの方が圧倒的に多い。理由は何といっても何処でも簡単に停められるからである。蝶を採集する場所は林道など狭い道のところが多い。必然、車の場合だと、おいそれとはそこいらには駐車できないのだ。一方バイクだと、山に入っている間は網を袈裟がけにして走っているから、飛んでるのを見つけたら素早く端に停めて追いかける事も可能なのだ。つまりフレキシブルってワケ。それに風を感じるのが好きなのだ。風には匂いがある。それは土地土地によって微妙に違ったりする。その風の匂いを嗅ぐと、島に来たって実感が湧いてくるのだ。燃費もいいのも利点だ。ガソリン代は何百円とかの単位なのだ。
難点は雨に弱いことだ。南国は天気が急変しやすいから突然ザァーっと雨が降ってくることが結構あるからね。けれど、それも持ち前の天気センサーが変化を敏感に察知するから大丈夫なのら。だから、実を言うと日本でも海外でも虫採り中にズブ濡れになったことは殆んどない。それに常に素早く雨宿りできる場所を頭に入れながら走ってるからね。
偉そうに御託をつらつらと並べたが、本当は単に車よりバイクの運転の方が好きなだけなんだけどもね。

部屋はドミトリーだ。でもバイクでのユーラシア大陸横断の旅の時にさんざんぱら泊まったし、4、5年前の台湾でもずっとドミトリーだったしね。よほど変な奴と同部屋にでもならなければ大丈夫っしょ。

 

(出展『エアトリ』)

 
ドミ部屋には既に先客がいた。小池くんという東京から来たという明るい青年だ。有給休暇の消化で前日から泊まっているという。大学の後輩の中越とどこか風貌が似ていて、調子のいいところもソックリだ。中越って元気にしてるのかなあ?アホだけど、憎めない奴だったよ。

『名前、ラーメン大好き小池さんでインプットしとくわ。』と言ったら、『それよく言われるんですよー。俺、ラーメン好きなんで全然構わないんですけどねー。』と返してきた。
その会話の流れで、二人してラーメン屋に昼メシを食いに行く事になった。さっきゲストハウスのオジーにお薦めの食いもん屋を尋ねたら、ちょっと前に近所にラーメン屋が開店して毎日行列ができてると教えてくれた。それを言ったら、ラーメン大好きを演出したポーズなのか本気なのかはよくワカランが、小池くんが俄然興味を示したのだ。天気も悪りいし、妥当な選択だろう。

だが、開店時間の11時半に行ったけど閉まっていた。どうやら月曜日は定休日らしい。やっぱ流れ悪いや。
窓に貼ってあるラーメンの写真を見ると、どうやら二郎系のようだ。いわゆる平打ち太麺でモヤシてんこ盛りのガッツリ豚骨醤油ラーメンの系統である。奄美大島で二郎系とはね。全く頭になかったから、ちょっとした驚きだった。きっと島民にとっては、もっと衝撃的だったろうから、行列になるのも頷ける。
後に小池くんが先にこのラーメン屋に行くことになるのだが、彼曰く、やはり二郎系だったそうだ。
『けど二郎系にしては少し味が薄めですね。俺、二郎系についてはウルサイんすよー。テーブルに醤油ダレみたいなのがあるので、それ入れたら丁度良くなりました。』などとノタまう。流石、ラーメン大好き小池さんである。コメントからラーメン偏差値の高さが伺える。調子こいて言ってるだけだと思ってたけど、本当にラーメン好きだったんだね。

戻りしな、道でサソリモドキ(註1)がペシャンコになっていた。

 

 
何かと上手くいかないのは、きっとサソリモドキの呪いのせいじゃよ。全ては極悪非道のヤツの仕業で、悪い方向へいくように裏で手を回してやがるのだ。そうとでも思わなければ、やってらんない。
そういや、初めてサソリモドキを見たのは奄美だった。根瀬部で何気に石をひっくり返したらコヤツが出てきたので、腰を抜かすほど(☉。☉)オッタマゲーになったのだった。見てくれはどうみてもサソリだもんな。(꒪ꇴ꒪|||)⚡日本にもサソリがいるのか❗❓と一瞬パニクったもんね。でもサソリモドキの存在を一応知識としては知っていたから、直ぐに冷静になれたけどもね。
刺したりはしないけれど、超酸っぱい毒液を引っ掛けてくるらしい。それが目や鼻の穴に入るとメッチャクチャ痛いらしく、失明するとかしないとか言われてるようだ。ふにゃふにゃなサソリみたいだけど、それなりに邪悪なのだ。

天気はどんよりで寒いが、雨は降ってないので下見の為にバイクを借りる。小池くんもバイクを借りているし、原生林に行くと言ったら自分も行きたいと言ってきたので、二人して昼飯を食う店を探しがてらのツーリングとあいなった。

先ずは隣町の小宿に行く。
郵便局に入り、オバちゃんに飯食える場所を訊く。それが一番の早道だと思ったのだ。
しかし、教えてもらった店も定休日だった。まあ、たとえ開いていたとしても、島外の者は入店お断りの可能性が高いとオバちゃんに言われてたから、結果は同じだったっぽいけどさ。こんなところにまでコロナの影響が及んでいるんだね。
あと西側方面で飯が食えるとこがある可能性は大浜海浜公園くらいだろう。取り敢えず行ってみてダメならば、名瀬方面に戻るしかあるまい。

海沿いを走る。
とにかく風がべらぼうに強い。走行中にバイクが横風に煽られ、テールが流されて転倒しそうになったくらいだ。

 

 
海浜公園に到着。
プチレストランみたいなのがあったので、そこで飯を食うことにする。 
小池くんは海亀バーガーをオーダー、ワシはカレーを選んだ。小池くんの攻めたオーダーと比べて、あまりにも無難なチョイスだ。せめて激辛にしようとしたら、店員さんにメチャメチャ辛いですよと言われて怯む。で、迷った末に普通の辛口にしただすよ。根性なしである。完全に置きにいってる。昨日から悉くと言っていい程に選択が裏目がちなのだ。冒険回避のチキン野郎にもなろう。

 

 
食った瞬間は辛口で正解だったと思った。しかし直ぐに慣れてきて、物足りなくなってしまう。激辛にすべきだったかも…。調子が悪いと、つい消極的になりがちになるという悪い例だ。らしくないよなあ…。
因みに海亀バーガーは海亀の肉を使ったバーガーではなくて、単にバンズが海亀の形をしているってだけでした。

ビーチに出る。

 

 
なるほどね。此処は日本有数のウミガメの産卵地らしいが、この砂浜ならば、それも納得だ。
それにしても風が強い。海はウサギだらけの白波立ちまくりである。そして、とても寒い。気温は10℃くらいだろう。
こんなとこに居たら、どんどん体温を奪われるわい。とっと移動じゃよ。そそくさと切り上げてバイクの停めてある場所へと戻る。

『(ΦωΦ)フフフ…、こんな事もあろうかと思ったので、ワシャ、手袋を持ってきたのじゃよー。備えあれば憂い無しなのさ。ケケケケケψ(`∇´)ψ』
『えー、マジっすかあ❓』
『ワハハ、頭のデキかキミとは違うのだよ、キミとは。
ψ(`∇´)ψホレホレー、指が凍えて感覚なくなりなはれー。』
🎊🎉チャッチャラ〜❗ヘラヘラ顔でポケットから手袋を取り出す。
(・∀・)ん❓けどポケットから出したモノに違和感があった。
(・o・;)あれっ❓と思って広げてみたら、何と手袋ではなく靴下であった。色が同じ黒で布地の質感も似ていたので、間違えて持ってきてしまったのだ。
『☜(↼↼)備えあれば憂い無しですよねー。』小池くんがニタニタ笑いながら言う。
(+
+)クッソー、やらかし半兵衛じゃよ。やっぱ調子ワリィー。バイオリズム最悪だわさ。

更に隣町の知名瀬まで行き、そこから金作原(きんさくばる)原生林へと向かう。
ここは奄美大島の山々の中でも天然の亜熱帯広葉樹が数多く残っている地域で、生きた化石とも言われる巨大なヒカゲヘゴなどの亜熱帯植物が茂り、国指定天然記念物のアマミノクロウサギやルリカケスなどの稀少な生物も生息している。たぶんフェリエベニボシカミキリやアマミシカクワガタ、アマミマルバネクワガタ(註3)などもいるだろう。

 

(出展『鹿児島県観光サイト どんどんかごしまの旅』)

 
別に自分にとってはそう珍しい景観でもないゆえ写真を撮らなかったので、画像を拝借させて戴いた。この画像のようにシダの化け物みたいなヒカゲへゴ(註4)が繁茂していて、恐竜の闊歩した時代、いわばジュラ紀を思わせるような景観なのだ。

奥に向かって走るにつれ、記憶が甦ってきた。アマミカラスアゲハ(オキナワカラスアゲハ奄美大島亜種)やスミナガシがいたポイントも鮮明に思い出した。

 
【スミナガシ Dichorragia nesimachus okinawaensis♀】

(2011.9月 奄美大島大和村)

 
途中、小池くんがついて来なくなったので少し戻ると、彼は地面をジッと眺めていた。
何してんの❓と尋ねると『糞があるんですよー。コレって天然記念物のアマミノクロウサギのですかねぇ❓』と真顔で訊いてくる。
見ると、確かに鹿みたいなチョコボール的な糞が落ちている。
暫し考えてから答える。
『たぶんクロウサギなんじゃない。シカは奄美大島には居ない筈だし、ネズミとかの糞だと、こんなに大きいワケないからさ。』
奄美には過去3回来ているが、実をいうとアマミノクロウサギは一度も見たことがない。クロウサギは夜行性だから、積極的に夜に山に行かないと会えないのだ。別にそこまでして見たいワケでもなかったから、ずっとスルーしてたのだ。まあ、今回は夜の山を徘徊する事になるから、遭遇する事になりそうだけどさ。

尾根まで辿り着く。ここから先は、今はガイドと一緒じゃないと入れない事になっている。でも入る気などサラサラない。10年前に突っ込んでエラい目にあっているのだ。林道とは名打ってはいるものの、完全に未舗装の普通の山道なのだ。ブッシュだらけのところもあったし、オマケに当時は南側の住用方面に降りる道が全て土砂崩れで通行止めになっていて、かなり先まで進まざるおえず、結局フォレストポリスまで行って漸く海岸に降りることができたのだった。その時、二度と行くかいと心に誓ったもんね。

下りて来ると、晴れ始めた。

 

 
流石のスーパー晴れ男である。
小池くんが『ホントに晴れてきたー。』と驚いている。出発時に彼に向かって『ワシ、スーパー晴れ男やねん。そのうち、ワシらのおるとこだけ晴れるでー。』と宣(のたま)っていたのである。まあ驚いて当然じゃろう。天気予報は悪かったし、どう考えても、今日は晴れ間が出るような空模様ではなかったからね。

谷状の如何にもアゲハたちが集まってきそうなミカン畑で、劇的にパッと周りが明るくなった。景色は一変。光溢れる世界になった。と同時に蝶たちが一斉に飛び始めた。乱舞の様相である。この時期はミカンの花が咲いているので、蝶たちが吸蜜にやって来たのだ。ずっと天気が悪くて寒かったから、お腹すいてたんだね。

今回のターゲットの一つであるアマミカラスアゲハ(註5)も飛んで来た。

 
【アマミカラスアゲハ(オキナワカラスアゲハ奄美亜種)♂】

 
アマミカラスは3月上旬、早い年には2月下旬から発生しているらしいから鮮度が心配だったが、バッチシだ。
春型を見るのは初めてだけど、美しいねぇ。夏型よりも後翅外縁の弦月紋が発達している。でもって沖縄本島のオキナワカラスの春型よりも表面の青が強くて綺麗な気がするぞ。

 
(裏面)

 
裏面の赤紋もカラスアゲハやヤエヤマカラスアゲハと比べて大きい。中には、この赤紋が二重になっている奴もいるらしい。いわゆる異常型だから、かなり稀なものだろうけどね。

しかし晴れ間は10分程で終わり、再び鉛色の空になった。
結局その間に採れたのは、他にモンキアゲハ、ナガサキアゲハ、アオバセセリ、クロセセリのみだった。

 
【モンキアゲハ♂】

【ナガサキアゲハ♂】

【アオバセセリ】

【クロセセリ】

 
(展翅嫌いだから、今もってロクに展翅していないのである。奄美から帰ってきて2週間以上経ったが、やったのはアマミカラスとフタオ、アカボシゴマダラ、蛾3つだけなのだ。)

 
体が冷えているので風呂に行こうという話になった。
銭湯好きとしては、是非とも奄美大島の銭湯には入っておきたいところだ。提案したら、小池くんも銭湯好きらしく即決定。
その場で小池くんがネットで調べてくれる。したら、名瀬に「千代田湯」という銭湯があることがわかった。

 


(出展『鹿児島県公衆浴場業生活衛生同業組合』)

 
昭和レトロな雰囲気があって、いい感じだ。ソソるね。
しかし、電話しても繋がらない。仕方なく他のところを探す。
2軒ほど小池くんが電話すると、そのうちの1つで「銭湯は休業、もしくは廃業になっているのではないか」と云う情報がもたらされた。奄美大島唯一の銭湯に入れないとは無念である。こうして日本全国の銭湯が人知れずひっそりと消えてゆくのだね。嘆かわしいことだ。

その情報をくれた奄美ポートタワーホテルへ行くことにする。
サウナがあって値段もタオル代込みで900円ならば、許せる範囲内だ。

 

(出展『奄美大島ブログ』)


(出展『奄美まるごと情報局』この右奥にサウナがある)

 
湯舟につかって体を洗ったあと、サウナと水風呂の往復を3セット繰り返す。
激アツのサウナでギリギリまで我慢してから水風呂に入って仰向けで浮かぶと、喉の気道がスゥースゥーして超絶気持ちいいんだよねー。
全身、スゲーりら〜っくす。

✧\(´∀`)*/✧整いましたあー。

                         つづく

 
追伸
短くするつもりが、書いてるうちに色々出てきて結局また長文となった。この調子だと、連載がいつ終わるかワカンねぇよなあ…。次の註釈の項も長いしさ。文章を書く時の性格はパラノイアかもしれんわ。
なお、2011年の奄美採集記『西へ西へ、南へ南へ』ではスミナガシは第八番札所「蒼の洗礼」など、アマミカラスアゲハは第十七番札所「無情の雨に」などの回に登場します。あとサソリモドキも何処かの回に登場します。

 
(註1)ヒガンザクラ
その時はてっきり彼岸桜の事かと思ったが、何か違和感があったので調べてみたら全く別物の桜だった。


(出展『奄美まるごと情報局』)



(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

名瀬の宿のオヤジさんは確かにヒガンザクラと言ったが、正式名称は「ヒカンザクラ」。漢字で書くと「緋寒桜」となる。だがネットで見ると、ヒガンザクラと書いてあるものもあり、現地では濁って発音する人も多いのかもしれない。別種のヒガンザクラ(彼岸桜)と混同されやすい事から、最近では「カンヒザクラ(寒緋桜)」と表記される事が増えているようだ。尚、漢字表記は、寒い時期に緋色(鮮やかな赤)の花を咲かせる事からきているものと思われる。
奄美大島や沖縄及び台湾・中国南部に見られるサクラの1種で、日本では最も早く開花する桜の一つ。奄美や沖縄で桜といえばこの種を指し、1月~2月に開花することから「元日桜」との別名もある。また、釣鐘状に咲く花の様子は一般的な桜と異なるため、見慣れぬ者には梅や桃の花と間違われやすいという。
台湾を中心に園芸品種が多く、日本で「~カンザクラ」と呼んでいるものは本種を片親にしているケースが多いそうだ。

ちなみにヒガンザクラ(彼岸桜)の方は、コレね↙。


(出展『PAKUTASO』)



(出展『庭木図鑑 植木ペディア』)

本州中部以西に分布するバラ科の小高木。カンザクラに次いで早期に咲く品種であり、春の彼岸の頃(3月20日前後)に開花するためヒガンザクラと命名された。寒い時季に緋色の花を咲かせるカンヒザクラ(寒緋桜)や母種であるエドヒガン(江戸彼岸桜)との混乱を避けるためコヒガン、コヒガンザクラと呼ぶことも多いようだ。

 
(註2)サソリモドキ

(2011.9.22 奄美大島 根瀬部)

蠍擬。サソリモドキ目に属する節足動物の総称。頑強な触肢と鞭のような尾をもつ捕食者であり、酸性の強烈な匂いを放つ噴出液で自衛をすることが知られる。名に「サソリ」と付くが、ウデムシやクモに近縁であり、サソリとは別系統の生物である。
総称である「サソリモドキ」は、かつては日本産の種(サソリモドキ Typopeltis stimpsonii)の和名として使われてきた。しかし、後に2種が含まれていたことが分かり、それぞれにアマミサソリモドキ、タイワンサソリモドキという新たな和名がつけられた。前者は九州南部から奄美大島、後者は沖縄本島から八重山諸島、台湾に分布している。
英名の「whip scorpion」「vinegaroon」からムチサソリ、ビネガロンとも呼ばれている。ビネガロンには笑ったよ。まるでビネガー(酢)怪獣みたいな名前じやないか。まあ、巨大化すれば、間違いなく怪獣の体だけどさ。酸っぱくて臭い液を街にメチャンコ撒き散らすのだ(笑)。

 
(註3)フェリエベニボシカミキリやアマミシカクワガタ、アマミマルバネクワガタ

【フェリエベニボシカミキリ Rosalia(Eurybatus) ferriei】

(出展『Weblio辞書』)

体長23~31mm。
見た目も美しいが、名前も素敵だ。
我が国に生息する数少ないルリボシカミキリ属4種のうちの1種で(他はルリボシカミキリ・コエレスティスルリボシ・ベニボシカミキリ)、日本では奄美大島のみに見られる固有亜種。2013年に条例により採集禁止種に指定された。
成虫は6月〜7月に見られる。スダジイやイジュなどの太い立ち枯れの木に集まり、林道を飛翔する姿も見られるというが、発生期は短く、個体数もあまり多くないようだ。
名前のフェリエは、明治時代に南西諸島で布教活動をしながら昆虫採集を行い、この地域の昆虫の研究に寄与したフェリエ神父に由来している。

 
【アマミシカクワガタ Rhaetulus recticrnis】

(出展『mushiya.com』) 

体長 ♂18〜48mm ♀19〜32mm。
奄美大島・徳之島・加計呂麻島・請島にのみ分布する固有種。
採集は非常に難しく、数も少ない稀少種とされ、2013年より採集禁止種に指定された。とはいえ2012年以前に採集された親から累代飼育されたものが市場に出回っているようだ。
日本唯一のシカクワガタにして、世界のシカクワガタ属中の最小種。小型〜中型の個体は大アゴが強く湾曲しないが、大型の個体は鹿の如く湾曲する。成虫は5月から9月頃に活動し、標高300m以上の照葉樹林に生息する。スタジイなどの樹液に集まり、灯火や果物トラップにもやって来る。野外では小型個体が多いが、飼育下では菌糸ビン飼育や発酵マット飼育で大型個体を容易に育てることができ、♂には56mmの記録があるそうだ。

 
【アマミマルバネクワガタ Neolucanus protogenetivus】

(出展『六畳一間』)

体長 ♂40-62mm(飼育下では最大68.3mm)。♀は55mm。
奄美大島・徳之島の固有種。請島に亜種ウケジママルバネクワガタがいる。このクワガタの仲間は主に熱帯から亜熱帯に分布し、奄美のマルバネクワガタがその北限種にあたる。
旧タテヅノマルバネクワガタ亜種群の中で最もオスの大顎の発達が悪く、大歯型は極めて稀。
8月中旬から9月下旬にかけて見られ、国産マルバネクワガタ類の中では成虫の出現期が最も早い。とはいえ、奄美のクワガタの中では最も発生時期が遅い種である。
スダジイの老木の樹洞に潜み、その腐朽部のみを食し、樹液には集まらず、灯火にも稀にしか飛来しない。なので人目につかず、大型種であるにも拘らず発見は遅れたようだ。主に夜間、山間部のスダジイの樹上や道路歩行中ものが観察される。
環境省第4次レッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されており、2020年に奄美大島&徳之島の全市町村で条例により捕獲が禁止された。減少した理由として、開発による自然林の消失、それにより大きな樹洞を持つスダジイが減少した事に加え、成虫採集、幼虫採集とその餌となる腐植質採取の横行、林内の乾燥化などが挙げられている。また近年、さらなる減少要因の一つとして、リュウキュウイノシシによる成虫と幼虫の捕食も指摘されている。

奄美大島には固有種や固有亜種が多く、他にも採集禁止に指定されている昆虫が多数いる。漏れがあるかもしれないが、一応以下に並べておきます。
アマミミヤマクワガタ、マルダイコクコガネ、アマミキンモンフタオタマムシ、ヒメフチトリゲンゴロウ、アマミナガゴミムシ、ヨツオビハレギカミキリ、ハネナガチョウトンボ。
甲虫が圧倒的に多いが、奄美大島が世界遺産になったら、もっと採集禁止の種は増えて蝶や蛾も指定される可能性がある。下手したら全ての昆虫が採集禁止にだってなりかねない。
でも、それでいて開発の波は加速するんだろね。世界遺産になったら訪れる観光客は倍加するだろうからさ。当然ホテルの建設ラッシュでしょうよ。禁止にするなら、ちゃんと環境も保護してもらいたいものだね。とはいえ、どうせ経済が優先されるんだろなあ…。木は伐採され、山も削られるだろう。道路は拡張され、森は益々乾燥化する可能性大だ。あの美しい海もきっと間違いなく汚れるぜ。

 
(註4)ヒカゲヘゴ
大型の常緑木生シダで、日本最大のシダ植物である。奄美大島や沖縄本島から八重山諸島にかけての森林部でよく見られる。
高さが平均5~6m、最大で15mほどになる。葉柄から先だけでも2m以上ある。
ヒカゲヘゴはその大きさから古生代に栄えた大型シダ植物を髣髴させるものがあり、その生き残りと呼ばれることもあるが、ヘゴ科の植物はシダ植物の中では比較的新しく、約1億年前に出現したものである。
海外では台湾、中国福建省、フィリピンなどに分布するが、中国では自然状態のものは数少なくなっており、山中に比較的豊富に見られた台湾でも2006年頃より枯死する例が増え、絶滅が危惧されている。

新芽、及び高く成長した幹の芯は食べることができる。新芽は80cm程度に成長したものが食用に適し、茹でて灰汁抜きしたあとに天麩羅や酢の物にして食べる。芯は煮込むと大根のような食感となる。また、煮たヒカゲヘゴの芯は八重山諸島では祭りの際に欠かせない食べ物であり、石垣島などでは水煮したものなどの販売もされている。
もしかして脇田丸でお通しで出たクソ不味い大根は、ヒカゲへゴだったりしてね。

 
(註5)アマミカラスアゲハ
(春型)

(夏型)

アマミカラスアゲハはオキナワカラスアゲハの亜種だが、蝶屋の間では通称アマミカラス、もしくはアマカラという更なる略称で呼ばれている。
なワケで、学名は以下のとおりになる。
Papilio okinawensis amamiensis (Fujioka, 1981)
参考までに言っとくと「Papilio」とはラテン語で「蝶」を意味し、”ぱたぱたする”という意味の「pal」に由来する。
「okinawensis」は「沖縄の」、「amamiensis」は「奄美の」という意味である。
漢字で書くと「奄美鴉揚羽」もしくは「奄美烏揚羽」じゃね。

生態はオキナワカラスアゲハ(Papilio.okinawensis okinawensis Fruhstorfer, 1898)とほぼ変わらないので、ウィキペディアから抜粋、独自編集して解説しときます。

チョウ目アゲハチョウ科アゲハチョウ属に分類される蝶の1種で、2亜種(ssp.okinawensis・ssp.amamiensis)に分けられている。
以前はカラスアゲハ(P.dehaanii)と同種と考えられていたが、交配実験やミトコンドリアDNA解析の結果から現在では別種であると考えられている。だが、bianor(ヤエヤマカラスアゲハ)の亜種とする研究者や ryukyuensis Fujioka,1975 とする見解もある。
このようにカラスアゲハ類の分類は錯綜していて、以前は別種だった polyctor(クジャクアゲハ)が bianorに組み込まれたり、台湾の takasago(タカサゴカラスアゲハ)やトカラカラス(トカラ列島)、ハチジョウカラス(八丈島)とかなんかの位置づけも絡まって複雑な様相を呈している。そういや、どの種にどの学名を宛がうかでも揉めてたんだよね。
この辺のややこしい問題は拙ブログの台湾の蝶シリーズの16 1/2話に『さまよえるカラスアゲハ』と題して詳しく書いたので、興味のある方は読んでくんなまし。

カラスアゲハやヤエヤマカラスアゲハと比べて翅形がボックス型で、四角い印象をうける。翅の表面の地色はより暗く、後翅の青色鱗は基半部のみに見られ、外半部には殆んど見られない。しかし後翅外縁の青色弦月紋(♀の場合は赤色弦月紋)はよく発達する。雌雄の翅の違いはカラスアゲハとほぼ同じで♂の翅は濃い青や緑だが、♀は淡い緑色で、縁に向かうにつれて黄色みを帯びる。そして♂には性標(ビロード状の毛)がある。しかし、この性標がカラスアゲハよりも発達する。因みに♀には性標はなく、後翅の弦月紋は他のカラスアゲハ類と同じく♂よりも発達し、艶やかとなる。
前翅裏面の黄白帯は鮮明で、ほぼ同幅。外縁と平行に走り、ミヤマカラスアゲハに似る。また後翅外縁凹入部の黄白色部は大きく、且つ明瞭である。

アマミカラスはオキナワカラスと比べて表面の青色が強く、前翅裏面黄白帯も発達している。また♀の後翅外縁の赤色弦月紋は更に強く発達する。
ようはアマミカラスの方がオキナワカラスよりも美しいということだ。特に♀は、より美しい。

分布は、奄美群島(奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島)及び沖縄諸島(沖縄本島、渡嘉敷島、座間味島、阿嘉島、久米島)。

第1化(春型)は早い場合には2月から現れ、3月中旬から下旬に最盛期となる。以後10月中・下旬までに年4回ほど発生すると考えられている。成虫は林縁や林道などを飛翔し、各種の花を訪れ、♂は地面に吸水にもやって来る。
幼虫の食草は沖縄諸島ではハマセンダン、奄美群島ではハマセンダンの他にカラスザンショウも報告されている。

 
参考文献
◆『Wikipedia』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』

 

奄美迷走物語 其の2

 
 第2話『沈鬱の名瀬』 後編

 
何となく物事が上手く流れてないなと感じながら店の外に出た。明日は朝仁に移動しなければならないので、取り敢えずはバスの停留所を探しに行く。
けれども郵便局前のバス停が見つからない。地元の人に声をかけて教えてもらったところは確かにバス停ではあったが、朝仁方面ゆきのバスが無いのだ。ワケわかんねー(´-﹏-`;)
なので明日泊まる宿にLINEで訊いてみた。けれど直ぐには返答がない。仕方なく今日の宿に向かって歩く。途中の入舟町が次のバス停であろうから、道すがら探せばいいだろう。

バス停を何とか見つけたところでLINEが入った。近いから明日は名瀬まで迎えに来てくれるという。✌️(•‿•)ラッキー。流れがよくなってきたんじゃないのー。

 

 
「グリーンストア」の前まで来た。
ここは24時間スーパーで、宿からも近いから随分と世話になった。よく酔っ払った帰りに寄って無駄に惣菜とか買って帰ってたよなあ…。

 

 
「旅館 あづま家」。
より色褪せたような気がするが、見覚えのある景観だ。そうそう、周囲の民家と同化してるから見落としそうになるんだったわさ。横の釣具屋の方に、つい目がいっちゃうんだよね。2011年は奄美に船で着いてからの宿探しだったから、ネットで探して電話で場所を聞いたんだけど、もしも釣具屋が目印だと聞かされていなかったら絶対見落としてたと思う。

 

この入口も懐かしい。完全に普通の民家なのだ。

中で宿の婆さんと話す。
今日の客はオラだけみたい。コロナの影響で客は激減したという。宿代は素泊まり2500円の激安だから、前は長期滞在の工事関係の人なんかも結構泊まってた。けれど公共事業も激減しているらしく、コロナとのダブルパンチで客足はサッパリだという。そんなワケだから、息子には早く宿を畳めと言われているとオバアはとつとつ喋る。
何だか悲しくなってくる。次に奄美に来た時には、きっと廃業しちゃってるんだろなあ…。こんなところにまでコロナの影響が及んでるんだね。ホント、コロナ憎しである。
 
渡された鍵は209号室だった。鍵に何となく見覚えがある。
ここは2階が客室になっており、共用の冷蔵庫なんかもあって何かと便利なんだよね。

 

 
部屋には完全に見覚えがあった。
たぶん一番最初の採集行の時には、この部屋に長期間泊まっていたのだ。

 

 
この押し入れもハッキリと記憶がある。
持ち帰ったクチナシの実をタッパーに入れて此処に置いといたら、翌日には美しいイワカワシジミ(註1)が羽化していたのだ。

 
【イワカワシジミ Artipe eryx ♂】

(2011.9.19 奄美大島)

 

(左下の個体はインドシナ半島のもので、他はたぶん日本産)

 
取り敢えず、そのイワカワシジミを探しに行くことにする。
天気は悪くともイワカワだったら採れる可能性がある。食樹であるクチナシの木に止まっていることが多いからね。それにクチナシの実があれば、蛹や幼虫が入っているものがあるかもしれないし、卵が産んであるものだって見つかるかもしれない。

 
【クチナシの実と卵】

 
【幼虫の開けた穿孔跡のある実】

 
だが、丹念に見るも姿無し。
実もどれも黄色く変色してしまっていて、どうみても既に成虫が羽化した後のものだ。しかも時間がだいぶ経っている古いモノのように見える。
最後に民家のクチナシの大木を見に行く。2011年、そこでイワカワの蛹が入っている実を沢山採ったんだよね。そういや家のオジーとオバーがとても親切で、有難いことにわざわざ高枝切り鋏を持ってきて、指定した枝をジャンジャン切り落としてくれたんだよね。

だが、此処も全く姿なし。蛹や幼虫が入っていそうな実は1つも無く、卵が付いてそうな実も全く無かった。そして、家には人の気配がなく、ひっそりとしている。おそらく廃屋になっているのだろう。オジーとオバーは高齢だったので亡くなられたのかもしれない…。
寂寥感に満たされ、佇んで悄然と空を仰ぐ。胸が痛む。
それに此処にイワカワが居なければ、厳しい状況下にあることを受け止めざるおえない。此処が一番有望なイワカワのポイントなのだ。何だかなあ…。

一応、夜に灯火採集する場所の下見にも行く。
あわよくばアカボシゴマダラ(註2)が飛んで来ないかという淡い期待を持ちつつ登山口に取り付く。

 
【アカボシゴマダラ Hestina assimlis ♂】

(2011.9月 奄美大島)

 
懐かしい急坂を登り、山へ上がる。2011年は何度もこの坂を上がったっけ…。宿から近いから、帰りがけによく寄った。
しかし海から近いゆえ尾根にはモロに風が当たっており、平地と比べてかなり強い風が吹いている。勿論、アカボシの姿はない。これだけ風が強いと蝶が飛ぶことなど望むべくもない。
何だかなあ…。

部屋に帰り、ぼんやりとTVを眺める。
いっそライトトラップなんてやめてやろうかと思う。
日が暮れたら、とっと居酒屋「脇田丸」に行って、酒かっくらって板前のタケさんとバカ話でもしたいというのが正直な気持ちだ。そもそも、わざわざ名瀬に一泊したのはその為でもある。脇田丸に行き、タケさんに会い、アバスの唐揚げを食わねば奄美に来たことにはならない。

だが、グッとその誘惑を抑え込み、日暮れ前に灯火採集の仕度をして出る。
こうゆうツマラン場所でトットとアマミキシタバ(註3)を採って、蝶採りに専念したいところだ。ただでさえ夜の山は怖いのに、ここ奄美には本ハブ殿がいらっしゃるのだ。しかも奄美大島の本ハブ(註4)は最強だと言われており、沖縄本島の本ハブよりも巨大で、性格も凶暴。オマケに毒性も強いとされておるのだ。本ハブは夜行性だかんね。オジサン、涙チョチョ切れ(T_T)で、チビりそうじゃよ。

車に轢かれた直後のものだが、コレ見てよ。

 

(2011.9月 奄美大島)

 
蒲生崎だったけど、優に2mはあったんじゃないかな。
太さは軽くワテの手首以上くらいはあったから、もう大蛇と言っても差し支えないようなものだったっすよ。マジでぇー。

あのねー、あまりにも怖いから、今回は流石にワークマンで折りたたみの長靴を買って履いてきたもんねー。

 

 
風が強いので、当初予定していた場所を諦めて、鞍部にライトを設置する。

 

 
フラッシュを焚かないで撮ると下の写真みたいな感じになる。
周りが如何に暗いか御理解戴けるかと思う。街から近くとも、山へ入るとこれだけ暗いのだ。原始林なんかだと、きっともっと真っ暗けなんだろなあ…。ヤだなあ。

 

 
正直、光量がメチャンコしょぼい何ちゃってライトトラップである。でも、コレしか持ってないんじゃもーん。

点灯後に周りの木に糖蜜を霧吹きで吹き付けてゆく。
いつもは普通の酢を使っているが、今回は奮発して効果が高いとされる黒酢をふんだんにブチ込んでやったスペシャルレシピだっぺよ。アマミキシタバは糖蜜トラップやフルーツトラップにも来るということだから、ライトトラップがダメでもコレで何とかなるっしょ。

しかし、何ちゃってライトには笑けるくらい蛾が寄って来んぞなもし。
やっと大きな蛾が来たと思ったら、オオトモエだった。しかも折からの強風に煽られ、(^。^;)あらら…、飛ばされていってもうた。

 
【オオトモエ Erebus ephesperis】

 
別にオオトモエなんぞどうでもいいけど、何か小さかったから亜種かもしんないと考えたのよ。なんで一応採っておこうかなと思ったのさ。

そして糖蜜トラップに至っては全く何も来ん。
何だかなあ…。

午後9時前には一旦諦めて、ライトをそのままにして脇田丸へと向かう。タケさんと話して楽しく過ごせたら、流れも少しは良くなるかもしれない。もしかしたら11時くらいに様子を見に戻ってみたら、死ぬほどアマミキシタバが集まって来ているやもしれぬ。で、とっと撤収。タケさんと飲みに行くのだ。そうだ、吉田拓郎大好きのダメ男フクちゃんも呼ぼう。でもって朝まで痛飲じゃい❗何事も前向きでいこうじゃないか。

 

 
店構えは概ね同じだが、雰囲気が前と少し違う。たぶん暖簾が新しくなっているからだろう。

再会を期待して店内へ入る。
けど、厨房にタケさんの姿が見えない。休みかなあ…。
確認のために店員を呼び止め、訊いてみる。

(ノ゚0゚)ノえーっ❗、タケさんやめたってかあー❗

腱鞘炎になって1年半ほど前にやめて、今は土方をやっているらしい。
呆然としたままヨロヨロとカウンターに座り、オーダーを取りにやって来た店員に力なく生ビールと答える。

 

 
ヤケクソ気味で一気にゴクゴク飲む。
悲しいかなビールだけは何があっても旨い。裏を返せば有難いことだ。まあビール飲んでりゃ、そのうち御機嫌になるだろう。そう思わなきゃ、やってらんない。
でも追い打ちをかけるように、出されたお通しの大根が信じられないくらいにスジだらけだった。史上サイテーにクソ不味くって半泣きになる。

 

 
キレそうになるが、気持ちを切り替えてメニューを見る。

 

 
幸い「アバスの唐揚げ」は、まだメニューにあった。
けれど値段が690円と高なっとるやないけ。前は490円だった筈だよな。
(-_-メ)ったくよー。どこまでも逆風アゲインストじゃないか。
まあいい。アバスさえ食えれば、そんな瑣末事なんぞ簡単に許せる。アバス様はブリブリの歯応えで、味はとっても上品なんだけど旨味があり、下手なフグの唐揚げなんかよりも数段旨い代物なのだ。
言っておくと、アバスとは奄美の方言でハリセンボンの事をいう。但し、厳密的にはハリセンボンそのものではなくて、近縁のネズミフグやイシガキフグとかの大型フグだろう。タケさんにアバスで作ったフグ提灯みたいなのを見せられたけどデカかったもん。ハリセンボンみたく体型は丸くなく、もっと細長かったから間違いないだろう。

やがて待望の「アバスの唐揚げ」が運ばれてきた。

 

 
見た瞬間に悪い予感がした。
見た目が記憶とは全然違くて、あまりヨロシクないのだ。色が悪いし、匂いからすると、おそらく悪い油で揚げたものだろう。しかも揚げ加減は明らかに技術未熟な者の仕事のように見える。盛り付けにも微塵のセンスも感じられない。

食うと案の定だった。
アバスそのもののポテンシャルは悪くないのだが、解体の仕方が悪いから食べにくいし、油っぽくて揚げ方は最低レベルだ。

因みに、タケさんの調理だとこんな感じだった。

 

 
盛り付け的にも如何にも美味そうだし、下に網があるから油切れも良い。っていうか、それ以前にカラッと揚がってた。
怒りを超えて悲しくなってくる。

コレだけではお腹は満たされない。次に何を頼もうかと迷ったが、メニューを眺めていても何ら期待させられるモノがない。お通しとアバスの唐揚げの状態からして、どうせ結果は目に見えている。憤ること確実だ。

さんざん考えた挙句、「漁師めし」を頼むことにした。
刺身系ならば、まだしも失敗は少ないと判断したのである。

 

 
こんなんだったっけ❓
コレも見た目は違ってたような気がするぞ。
まあいい。腹が減ってるから取り敢えず食べよう。醤油をブッかけて食う。
(ー_ー;)……。

 

 
気を取り直して、真ん中の黄身を潰して食べる。
(ー_ー;)……。
何だか甘ったるくて、全然旨くない。何ゆえにこんなにも甘いのだ❓明らかに記憶の味とは違う。
じゃあ、十年前のアレは何だったの❓スマホで、その時の画像を探す。

 

 
あったけど、(・o・)アレっ❓ご飯がないぞ。
でもコレ見て思い出してきた。この時は漁師めしの飯抜きにしてもらって、ツマミにしたんだったわさ。あと、確かこの時は海がシケ続きで魚が入ってこなくて、タケさんが養殖の黒マグロの良いところをふんだんに使ってくれたんだった。量も多くてトロ鉄火みたいになってたんだよね。
この記憶から甘いという疑問も解けた。タケさんが、いつも特別に普通の醤油を出してくれていたのだ。スッカリ忘れてたけど、実を言うとコッチの醤油は砂糖が大量に入っていて、ベタ甘なのだ。人のせいにはできないけど、何か腹立つわ。

腹はそれなりに膨れたが、虚しい。
11時くらいまでは居るつもりだったが、耐えられなくて10時には店を出た。

再び夜の山へと戻る。
勿論、アマミキシタバが大量にやって来るなんて奇跡は起こらず、ショボい蛾が数頭いただけだった。
取り敢えず見たこと無さそうな奴(註5)を投げやり気分で毒瓶にブチ込む。

 

 
暗闇から街を望み見る。

 

 
何処か違う世界、異次元空間に知らないうちに迷い込んだかのような錯覚に陥る。闇はいつでも人間社会との境界を曖昧にする。

やがて風が益々強くなってきた。たぶん風速は軽く10mは越えていて、最大瞬間風速は18mくらいはありそうだ。
༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽逆風烈風やんけ。

 

 
オマケに灯火採集の敵、月まで出てきやがった。

11時半、撤収。
何だかなあ……。

                         つづく

 
追伸
サラッと書くつもりが、どんどん思い出すことが出てきて長くなった。(◡ ω ◡)先が思いやられるよ。
尚、当ブログに『西へ西へ、南へ南へ』という2011年の奄美旅の文章があります。よろしければ、ソチラも読んで下され。
あっ、ついでに言っとくと、イワカワシジミについては第十三番札所『梔子(くちなし)の妖精』の回にて取り上げとります。

 
(註1)イワカワシジミ

【奄美大島産 春型】

 
(裏面)

(出典 2点とも『日本産蝶類標準図鑑』)

 
イワカワシジミは、日本では奄美以南に棲息し(現在は屋久島にも生息するが放蝶由来との噂あり)、蝶好きの間では人気の高い美蝶だ。裏面は日本には他に類を見ない綺麗な翡翠色で、優雅な長い尾っぽを持ち、南国の妖精という言葉がピッタリで可愛らしい。

奄美大島のイワカワシジミは亜種にこそなっていないが、かなり特徴的な姿をしており、表の前翅と後翅の亜外縁に白斑列に表れる。特に第1化の春型の♀の下翅はそれが顕著で、気品があって美しい。

国外ではインドからインドネシア、中国、台湾などの東洋熱帯区に広く分布する。日本でも個体数はそう多くはないが、インドシナ半島では更に少なくて珍品とされているようだ。
とはいえ、ラオスとかタイでちょこちょこ採っているから、ホントなのかな?と思う。因みに日本のイワカワシジミより遥かにデカイゆえ、とても同種とは思えまへん。

 

(2014.4.7 Laos oudmxay)

 
これじゃ、大きさがワカランね。
でも、しっぽ(尾状突起)がより長いのはお解りなられるかと思う。しかも太くて白いし、白帯の領域も明らかに広い。

他にも画像があった筈だから、探してみよう。

 

(2016.4.28 Laos oudmxay )

 
この画像なら、大きさも解って戴けるのではないかと思う。とはいっても、蝶好きな人しかワカランか…。

 

 
これは同日に採った別個体。天女のように美しいね。
どうやらインドシナ半島とかのクチナシの実は大きいから、その分だけデカくなるらしい。噂では超バカみたいにデカイ亜種だか近縁種だかがいるらしい。
意外だったのは、何れも川辺に吸水に来た個体だった事だ。そういえばタイでもそうだった。イワカワが吸水に来るなんて日本では殆んど聞いたことがなかったから驚かされた記憶がある。確か画像の個体は全て3時以降の夕方近くにやって来たような覚えがある。

 
(註2)アカボシゴマダラ
従来、日本では奄美大島と加計呂麻島、徳之島のみに分布していたが、近年になって関東地方で中国の原記載亜種が放蝶され、凄い勢いで分布を拡大している。
この亜種、赤紋がピンクで、しかも輪が醜く崩れているというアカボシゴマダラの名前を穢す許し難いブサいくな奴である。放した者は万死に値すると言いたい。どうせ放すなら、あんなドブスじゃなくて、クロオオムラサキとか放せよなあー。
それはそれで問題あるとは思うけど…(笑)。

 
(註3)アマミキシタバ

【Catocala macula】

(出展『日本産蛾類標準図鑑』岸田泰則)

 
開張60〜66mm。国内の他のカトカラ(シタバガ属)よりも前翅長が突出する。
従来は別属とされていたが、現在はカトカラ(Catocala)属に分類されている。
分布は主に奄美大島だが、他に徳之島、屋久島、沖縄本島でも記録がある。そういや去年には九州南部からも記録が出ていた筈だね。国外では台湾、中国南部からインド北部、スリランカ、インドシナ半島、フィリピン、インドネシアに分布する。

 
(註4)奄美大島の本ハブ
何かで読んだけど、奄美大島の本ハブと沖縄本島の本ハブとでは毒の成分が違うらしく、奄美の方が毒性が強いようだ。DNA解析の結果でも両者はかなり古い時代に分岐したようで、近い将来、両者は別種扱いになる可能性もあるという。
あっ、うろ憶えの情報だから、間違ってたらゴメンナサイ。

 
(註5)取り敢えず見たことの無い奴
たぶん上の画像がカワムラトガリバで、下はツマジロエダシャクかな。コレも間違ってたらゴメンナサイ。

 

奄美迷走物語 其の1

 
 第1話『沈鬱の名瀬』前編

 
 2021年 3月21日

 

 
空はたっぷりの水分を孕んで、どんよりと曇っている。
一瞬、嫌な予感が走った。それを慌てて打ち消す。何でもそうだが、強い心を持ち続けることが肝要だ。マイナス思考に囚われてはならない。どんどん悪い方向へと行きかねないからだ。メンタルが壊れれば、良い結果など得られるワケがないのだ。
とはいえ、行先の奄美大島の天候を案じざるおえない。予報は1週間ずっと雨か曇りなのだ。蝶採りはひとえに天気にかかっている。結局のところ、天気如何で大幅に成果は左右されるのだ。

うだうだ考えているうちにバスは関空第2ターミナルへと到着した。相変わらず素っ気なくて、ショボいターミナルだ。店とか何もあらへん。

ピーチの午前10:15発の便に搭乗する。

 

 
(・∀・)あれっ❗❓
ピーチの筈なのに機体カラーがパープルピンクじゃないぞ。この機体カラーってバニラエアっぽいくねぇか❓

 

 
厚い雲を突き抜けると、雲の海が広がっていた。
空の青が濃い。

何気に翼の先に目をやると、バニラエアのマークがある。やはりバニラエアの機体だったのだ。提携とかしてんのかな?まあ、どっちだっていいけど。

12時過ぎ、無事に奄美空港に降り立った。

 

 
奄美に飛行機で来るのは初めてだけど、あまりにも早く着いたんで何だか拍子抜けする。
(・∀・)ん❗❓、違うな。そういや奄美に最初に来たのはダイビングインストラクター時代で、飛行機でだったわ。ダイビングの時と虫採りの時との記憶が完全に切り離されてメモリーされてる。

当初の計画ではレンタルバイクを借りて、先ずは「みなとや」へ行って鶏飯(註1)を食べ、それから蒲生崎の蝶の様子を見に行く予定だった。
「みなとや」は鶏飯発祥の店で、ここの鶏飯がイッチャン美味いのである。そして、蒲生崎にはアカボシゴマダラ、フタオチョウ、イワカワシジミ、アマミカラスアゲハがいる。上手くすれば、初日に今回のターゲットである蝶が全て採れてしまう可能性だってあるのだ。美味いもん食って、蝶もシッカリ採るという幸せ一直線の算段なのさ。密かに引きだけは強いまあまあ天才ならば、それも可能だと思ってた。所詮は。◕‿◕。オホホ星人、基本は根拠のない自信に満ちたオメデタい性格なのさ。
しかし生憎のところ、天気は悪い。奄美でも鉛色の雲が低く垂れ込めている。風も強いし、オマケに気温も低くて肌寒いくらいだ。

諦めてバスに乗り、名瀬へと向かう。

 

 
車窓を懐かしい風景が流れてゆく。考えてみれば、バスで名瀬に向かうのは初めてだ。コチラの記憶は間違いない。インストラクター時代は空港に夏美ちゃんが車で迎えに来てくれたのだ。
夏美ちゃん、可愛かったなあ(´ω`)…。もう結婚して子供とかもいるんだろなあ。ホント、光陰矢の如しだ。
あと2回の虫採りの時は鹿児島からの船便での来訪だったゆえ、名瀬港に着いたもんね。だから奄美初バスなのは間違いない。

1時間程で名瀬の街に入った。
予定では郵便局前で降りるつもりだったが、発作的に「鳥しん」で鶏飯を食おうと思った。でもって急遽、バスの運転手に訊いて末広町で降りることにした。そちらで降車した方が近いと読んだのさ。良い感じだ。ちょっとしたキッカケで流れが変わるから、こうゆう些末にみえる事だって大事なのだ。判断がビシッと決まりだしたら、自然とノッてくるものだ。

だが、少し道に迷った。何だかなあ…。ペースが掴めないとゆうか、ズレを感じる。全てが何か今ひとつ上手くいってないって感じなのだ。
歩いていると、やがて見覚えのある風景になった。
この辺に確かレンタルバイク屋があったんだよなあ。と思ったら、案内の看板があった。しかしマジックで上から棒線が引かれている。どうやら廃業したようだ。だからネットで探しても見つからなかったのね。お陰で計画がだいぶ狂ったんだよなあ…。
いつもなら名瀬を拠点にバイクで動くのだが、そのせいで明日には朝仁に移動しなければならない。

 

 
取り敢えず「鳥しん」に到着。
レンタルバイク屋からは、こんなにも近かったのね。一度も「鳥しん」で鶏飯食べようと思ったことがないから、探したことないのだ。昼間は虫採りで山ん中だし、夜は居酒屋「脇田丸」に入り浸ってたからね。

 

 
屋根の薄汚れたニワトリが怖い。
何だか心まで暗くなるわ。

 

 
店内はガラガラだった。
カウンターに座り、迷わず鶏飯(1200円)をたのむ。
ここ「鳥しん」と「みなとや」「ひさ倉」が奄美大島三大鶏飯店である。鶏飯は何処でも食べられるのだが、どのガイドブックでも、だいたいこの3店が真っ先に出てくるのだ。

最初にお通しみたいなのが出てきた。

 

 
得体のしれない見てくれだ。ゴーヤの素揚げが乗っているのも怪しい。
おそるおそる食べてみると、もろみ味噌(金山寺味噌・なめ味噌)っぽいものだった。
甘いが、味はそこそこ旨い。おそらく店では酒のツマミ的なものとして提供しているのだろう。甘いもん好きではないから酒のツマミとしては敬遠させてもらうけどさ。
初めて食べるが、たぶんコレが蘇鉄味噌とか粒味噌(註2)と呼ばれているものではなかろうか。

 

 
先ずは、この鍋に入った鶏の出汁じる(丸鶏スープ)とお櫃に入った御飯が運ばれてくる。ちなみに御飯は、おかわり自由である。

そして、次にコレが運ばれてきた。

 

 
左上から陳皮(柑橘類(タンカン)を乾燥させた果皮)、鶏肉をほぐしたもの、錦糸玉子、ネギ、パパイヤの漬物、甘辛く煮た椎茸。そして真ん中は海苔である。
コレを御飯の上に乗っけるのだが、「みなとや」と比べて何だかショボい。まずもって鶏肉と陳皮の量が少ないし、椎茸も干し椎茸ではなくて、甘辛く煮たヤツだ。椎茸は特に気にくわないなあ。何でもかんでも甘くしておけばいいと云う昨今の風潮には、断固反対する。

 

 
で、その上から鍋の汁をブッかけて食うのだ。

 

 
まあまあかなあ…。
不味くはないのだが、期待したほどの旨さではない。
「みなとや」では、その旨さに毎回唸ってしまうからガッカリだ。全体的に何かが足りないとゆうか、メリハリがないんだよなあ…。もしかしたら、鶏のスープにパンチが足りないからなのかもしれない。スープ自体は旨いんだけど、どうにも淡白すぎるのだ。
まあ、とはいえ好みの問題だけどもね。「みなとや」よりも「鳥しん」の方が旨いと感じる人だっているだろう。

何だかなあ…。のっけから細かく躓いてる気がする。
鶏飯を食って気分を上げて、良い流れを作ろうと思ったのになあ…。

                         つづく

 
追伸
えー、あまり気が進みませんが、連載開始です。そんなワケで途中で放り出して頓挫するかもです。
ちなみに随分前になるけれども、奄美大島での採集記が当ブログにも有ります。『西へ西へ、南へ南へ』と題した紀行文で、謂わば今回はその続編にあたるってワケかな。 興味のあられる方は読まれたし。今にして思えば、この頃の文体の方が自分的には好きかも。

 
(註1)鶏飯
鹿児島県奄美地方で作られる郷土料理。
鶏飯と書いて「けいはん」と読む。同じく鶏飯と表記されることも多い「とりめし」と同字異読であるために混同されやすいが、それらが炊き込み御飯や丼形式なのに対して出汁茶漬けに近い料理である。
現在、奄美大島で出されている本場の鶏飯は、茶碗に盛った白飯に、ほぐした鶏肉、錦糸卵、椎茸、パパイヤ漬けor沢庵、葱、刻み海苔、陳皮、白胡麻などの具材と薬味を乗せて丸鶏を煮て取ったスープ(鶏ガラではない)をかけて食べる。稀に紅生姜を添える例もある。白飯、具材、薬味、スープは別々の器で出され、お好みの配分で盛り付けて食べる。奄美大島には専門店も複数あり、スープの取り方、素材に地鶏を使うか否かなどの各々の特徴があり、スープの味で料理の味が大きく左右される。
居酒屋など店によっては丼や茶碗に盛ってスープを掛けた状態で客に出す例があり、これも鶏飯と呼ぶことが多いが、鶏飯丼と呼び分けて両方を出す店もある。尚、専門店の鶏飯は茶碗2~3杯分の量があり、白飯も食べ放題ではあるが、鶏飯丼は1杯分だけでお代わりはなく、そのため価格も安い。また奄美域外にもこのような類似の料理があるが、奄美大島の専門店が丸鶏でスープを取っているのに対し、域外では切り分けた鶏肉や鶏がらを使ってスープを取るなど、簡略化している場合が多く、風味に差がある。加えて薬味のパパイヤ漬けやタンカンの皮が島外では入手しづらく、これらの有無も風味に大きく影響する。

奄美大島の鶏飯は、元来は笠利町周辺にかつて存在した郷土料理で、当時はヤマシギやシロハラなどの野鳥を使用していた。江戸時代、島津藩の支配下にあった頃に北部で藩の役人をもてなすために鶏肉が用いられるようになったという。一方、19世紀半ばの島の暮らしを記録した『南島雑話』では、主に豚肉料理についてのみ記述され、鶏飯には触れられていない事から、現在の鶏飯は近代以降に成立したものであるともされる。もともと、奄美大島では正月前に黒豚を捌いて塩漬け肉にし、これと野菜を刻んで炊き込みご飯にした「豚飯」があり、これを鶏肉に代えたものという説もある。また、江戸時代の料理書『名飯部類』『料理網目調味抄』には、茹でた鶏肉を細かく裂いて飯に載せてだし汁をかけるという鶏飯の作り方が載せられており、本土から伝わった料理が奄美大島に残った可能性もあるという。

現在のスタイルの鶏飯は、奄美市笠利町赤木名で1945年に創業した旅館みなとやの館主岩城キネが、開業に際して江戸時代にあった鶏肉の炊き込みご飯にアレンジを加えて供するようにしたのが始まりとされる。
1968年4月に皇太子明仁親王、美智子妃殿下(当時)が奄美大島に来島した際に食したが、その美味しさにおかわりをしたという。その様子が伝えられると地元で観光客の人気を博し、奄美大島を代表する郷土料理となった。

 
(註2)蘇鉄味噌と粒味噌
蘇鉄味噌はソテツの実(雌花の種子)を使って作る味噌で、全国各地の味噌の中でもとりわけ個性的な味噌の1つである。主な産地は奄美諸島や沖縄県の粟国島で、奄美の方言では、なり味噌(なりみそ・なりみす)と呼ばれている。ソテツ(奄美方言すてぃち)の実から取ったデンプンと玄米と大豆を原材料にしており、麹の配合比によってソテツの種子を主原料とするものと玄米を主原料とするものとに分かれる。前者は奄美方言で「しるわーしみす(汁沸かし味噌)」と言い、多くはサツマイモも加えて熟成させ、主に調味料として用い、後者は主になめ味噌として食用にする。塩分は調味用の方が高い。
 
【蘇鉄味噌】

(出展『株式会社ヤマア』)

 
蘇鉄味噌づくりで最も特徴的なのは、微生物の働きでソテツの持つ毒素を取り除く「解毒発酵」が行われていることである。発酵でソテツの実の毒を取り除いてから麹菌を付けていくという独特の製法が用いられている。
特有の風味と甘味があり、奄美や沖縄では古くからお茶請けやツマミとして食べられているようだ。
また、蘇鉄味噌を使った料理も豊富で、魚の身をほぐして混ぜ込んだユーミソや豚の耳や内臓と混ぜたワミソなどがある。

道理で島には至るところにソテツが生えてたワケだ。かなりクロマダラソテツシジミに食害されてたけどさ。

 
【クロマダラソテツシジミ 低温期型♀】

(2018年 和歌山県白浜)

 
参考までに言っておくと、滞在中、クロマダラソテツシジミは1つも見なかった。真面目に探したワケではないが、もし発生していたならば、ソテツの周りでアホみたいな数がチラチラ飛び回ってる筈だから気づかないワケがない。それに吸蜜源のセンダングサの花は何処でも咲いていたから、いたならば1つや2つは目に入っていた筈。おそらく端境期だったのだろう。

奄美大島にはこの他にソテツの実を使わないで作る粒味噌もある。

 
【粒味噌】

(出展『株式会社ヤマア』)

 
粒味噌は島味噌とも呼ばれ、粗めに挽いた大豆を使う奄美の伝統的な味噌。塩分が少なめなのが特徴。見た目は名前のとおり粒々で、お茶うけにされたり、豚味噌や魚味噌、ニガウリ味噌などを作る際にも用いられる。

画像を見ても蘇鉄味噌と粒味噌との違いがワカラン。
見た目、ほぼ同じだもん。よって「鳥しん」で出されたものがどっちなのかは特定できない。白胡麻が振ってあるので、おそらく蘇鉄味噌だと思うんだけど…。でも粒味噌は豚味噌や魚味噌に使われるから、それを作るために店には置いてある筈だからなあ…。まあ、どちらにせよ甘いから、本音はどーだっていいんだけどさ。

-参考文献-
◆Wikipedia