奈良で念願の蕎麦を食う

 
  
奈良で、やっと念願の蕎麦を食った。

多くの外国人観光客でごった返すメイン通りを左に外れ、土塀に囲まれたひっそりとした道へ入る。そして、依水園の横を通り過ぎる。
店はその先、戒壇院の近くにある。店の隣は奈良を撮り続けた写真家、入江泰吉の旧居だ。
この辺は東大寺の裏道にあたり、人も少なく閑静なところなので昔から好きだ。
だから、その蕎麦屋の前はよく通る。店は20年くらい前からあったような気がするが、なぜか一度も入る機会が無かった。定休日だったり、蕎麦が売り切れて早々と店じまいしていたり、或いは既にお昼を食べてしまったあとだったりと、いつもタイミングが合わなかったのだ。
とはいえ、今日も既に早めの昼食は済ませていた。タイミングがバッチシというワケではない。だから一旦店の前で立ち止まり、暫し迷いはした。でも、今ここで入らないと一生食えないんじゃないかと思った。愚図愚図してるうちに店が閉店したり、遠くへ移転したりするなんて事は往々にしてあるのだ。こういう悪い連鎖は多少無理をしてでも行かないと、断ち切れない。そういう意味では、今が最大のチャンスかもしれないと考えなおした。それに時刻は既に午後2時を過ぎていたから、小腹が空きかけてはいた。で、漸く入る気になったと云うワケ。

 

 
奥に秋を演出する栗とススキが飾られてある。
おっ洒落だね~。

 

 
外観は、大体こんな感じである。
古民家風で、如何にも旨そうな蕎麦屋然とした雰囲気を醸し出している。
だが昔はもっと素っ気ない外観で、見過ごしそうなくらいに周囲と同化していた。そこに、お洒落感は微塵もなく、わびさび感が半端なかった。そういう意味では、どこか緊張を強いられるところがあって、もっと入りづらかったような雰囲気だった気がする。

 

 
このような外国人向けの看板も無かったしね。
そういえば、昔は店の入口に信楽焼のタヌキなんて無かったような気がするぞ。或いは店が前と変わってたりして…。

中へ入る。

 

 
店内はこんな感じで、癒し系の音楽が流れている。
写ってないけど、手前の大きなテーブルには大人数の白人の家族連れがいた。後から外国人カップルも入って来た。外国の人が好んで蕎麦を食う時代がやって来てるのかなあ❓

座ってすぐ、メニューも見ずに「もりそば」を頼む。初めての蕎麦屋では必ず「もりそば」を頼むことにしている。Simple is the best. 蕎麦そのものの旨さを測るには、余計なものはいらない。シンブルが一番だ。

だが、もりそばと言ったら、店員さんに怪訝な顔をされた。どうやら、もりそばが通じてないようなんである。
これは関西では従来「もりそば」とゆう言葉はあまり馴染みがなくて、笊に乗っけられた冷たい蕎麦は大体「ざるそば」と呼ばれてきたからだろう。最近は関西でも江戸スタイルの店が増えてはいるけれど、まだまだ知らない人も多いってワケだね。やはり関東は「そば文化」、関西は「うどん文化」なのだ。
とはいえ、実を言うと蕎麦店の発祥は東京ではなくて大阪なのだ。コレ、東京の人に言うと、大概は怒るか機嫌が悪くなるんだよね。でも、これはれっきとした事実なのだ。嘘だと思うんだったら、ウィキペディアでも何でもいいから、調べてくれたら得心がいくだろう(とはいえ諸説あり)。

話が逸れた。
きょとんとしている店員のオバチャンに、『ざるそばの海苔抜きのことです。とにかく海苔抜いてくれたら、それでいいです。』と言う。
『あのう…、でもうちのざるそばには最初から海苔が入っていません。』
今度は、コッチがきょとんとする番だった。
何だ、この会話のギクシャク感は。ちょっと気持ちがゾワゾワする。
一刻も早くこの変な間を終わらせたくって、『じゃあ、その海苔の入ってないざるそばでいいです。』と早口で返した。

テーブルに座って蕎麦茶を飲みながら、ふと思う。
でもさあ、ざるそばを頼んで、もし海苔が乗っかってなかったら『(#`皿´)おんどれ、海苔乗っかとらんやないけー。何ケチっとんねんワレ。』と怒る客もいるんじゃないか❓いや、絶対いるだろう。そん時は、どう答えるのだろうか❓一々、かくかくしかじか説明するのであろうか❓それって、相当面倒くさくねえか❓ 想像して、再びギクシャク感とゾワゾワ感に包まれる。
けんど、そんな心配をしてどうなるもんでもない。そもそもワシとは関係ない事だ。考えること自体ムダな事に気づいて、想念をシャットアウトした。

テーブルに店の名刺が置いてあるのを見て、初めてこの店が『そば処 喜多原』という名だと知る。こんな名前だったっけ…。

中々、蕎麦が来ない。もりそばの一件といい、一瞬イラッとしかけたが、ふと思い直した。
時間がかかっていると云うことは、「挽きたて」「打ちたて」「湯がきたて」の所謂(いわゆる)「三たて」の可能性がある。だとしたら、期待はかなり持てる。

10分以上待たされて、ようやく蕎麦が運ばれてきた。

 

 
いい感じだ。
旨い蕎麦は佇まいが良い。見た瞬間に旨いことを確信した。

 

 
細くて端整な蕎麦だ。
『先ずは塩で御賞味ください。』と言われたので、素直にそれに従う。ようは最初は蕎麦の香りを楽しめって事だろう。

食べてみる。
なるほどね。言わんとしている事はよく解る。確かに蕎麦の香りが鼻孔からスウーッと抜ける。だがこの食べ方、理解はできるが、あまり好きではない。何か口の中でボソボソするからだ。つゆが無いから、スルッと喉の奥へと入ってゆかないのが何だかもどかしいのだ。蕎麦の香りを楽しみたかったら、蕎麦そのものに鼻をもっていけば、充分に事足りると思うんだよね。それじゃ、ダメなの?

お次は、いよいよ蕎麦の先3分の1ほどをつゆにつけてすする。
(≧▽≦)美味い❗
細いのにコシがあり、心地好い歯触りと共に喉をするりと通ってゆく。喉ごしもいい。
十割蕎麦ではなく、つなぎの小麦粉が入っていそうだ。しかし、割合は二八蕎麦でもないような気がする。小麦粉の量はもっと少なさそうだ。十割と二八の中間なら、エエとこ取りである。ならば理想的じゃないか。

そばつゆも香り高くて、味がしっかりとしている。
おそらく昆布と鰹を合わせたものだろうが、素材は相当良いものを使っているとみえる。

いやはや、今年食った蕎麦の中では断トツ1位の蕎麦だよ。美味くて、あっという間に食べ終えてしまう。満足至極である。

でも、ここでずっと前から思っていた蕎麦に対しての文句を言っちゃおう。
蕎麦って、値段が矢鱈と高くねえか❓
この店は870円だから、このクオリティにしての値とすれば他の店と比して安い。量も他の店と比べて特に少ないワケではないから、良心的と言ってもよい。
それでも思う。真っ当な蕎麦を食わせる店って、量が少ないわりに値段が高いよね。ラーメンやウドンと比べて明らかに量が少ないのだ。だから、冷たい蕎麦だと満腹にならない。で、別で天麩羅なんぞを頼んじまい、気がつけば結構な値段になっている。で、食い終わったあとに、美味かったのに何か気分的にスッキリしないのだ。旨ければ、まだいい。これが値段のわりに不味かったりなんかすると、ホント腹が立つ。
この辺、皆さんはどう思ってるんざましょ。

とはいえ、きっと原材料が高いのだろうとは思う。小麦粉が主体のラーメンやウドンとは違うのだと言われれば口ごもらざるおえないところはある。でも、蕎麦って痩せた土地でも育つというじゃないか。簡単に育てられるなら大量生産できるから、安く提供できないものなのかね❓

最後に蕎麦湯が出てくる。

 

 
つゆが旨いだけに、蕎麦湯も当然の事ながらに旨い。
寛いでいると、オバチャンがテーブルを片付けている中に「すだちそば」らしきものがあることに気づいた。
すだちそば、好きなんだよなあ…。季節的にも今の時期しか食えないものだし、とても気になる。
と云うワケで今更ながらにメニューを所望する。

 

 
右側が冷たい蕎麦で、左側が温かい蕎麦である。思ってた以上にメニュー豊富なんだね。

 

 
ざるそばのところに「蕎麦粉10割+つなぎ1割」と書いてある。やはり十割蕎麦じゃなかったんだね。小麦粉も二八の割合じゃないから、十割蕎麦と二八蕎麦の間と云う見立てはビンゴだったワケだよね。我ながら、中々鋭いじゃないか。
でも待てよ。この記述だと蕎麦粉10割と小麦粉1割となってるから、足せば11割だよね❓オカしかないか❓割合が10対1って意味なのかな❓まあ、美味かったから、どっちだっていいんだけどね。

結構お酒もある。
奈良の辛口といえば『春鹿』だよなあ。酒、呑みたくなってくるわ。
ところで、蕎麦屋で酒飲むって粋な感じがするけど、あれって何でだろうか❓

 

 
結局、すだち蕎麦は頼まなかった。これからムラサキツバメ(註1)の様子も見ないといけないし、若草山でもっとカマツカの木を探さねばならない。結構歩くから腹八分目がよろしかろうと思ったのだ。

外に出て、戒壇院に向かって歩き始める。
あっ、今年の冬に訪れた時は門の修復をしてたけど、もう終わったんだね(註2)。
この階段と門の感じが好きだ。いつ見ても心が落ち着く。

 
【戒壇院】

 
でもそのうち、この辺も観光客だらけになってしまうのかもしれない。それは、きっと良い事なのだろうが、あまり嬉しくないなと思った。

                   おしまい

 
追伸
この店をあとで調べてみたら、色んなことがわかってきた。
まず驚いたのは、食べログか何かに「旧店名 そば処 よし川」とあったことだ。という事は代替わりじゃなくて、店主が前と変わってるって事なのかな❓
オーナーが吉川(芳川?)さんから喜多原(北原?)さんに変わった可能性が高いよね。店の外観の雰囲気が変わったのも、そのせいかもしれない。
だとしたら、「そば処 よし川」の時代に行っとくべきだったなと後悔してる。

ホームページを見ると、やはり「挽きたて」「打ちたて」「湯がきたて」の三たてで、蕎麦は北海道産のものを毎朝石臼で挽き、自家製粉しているようだ。北海道産のソバといえば良質とされ、評価が高い。で、三たてとくれば、なるほど美味いワケだ。納得だよ。

出汁は北海道産の利尻昆布と真昆布、干シイタケと3種類の削り節を使用しているとの事。これまた予想通りで、やはり良い素材を使っている。
因みに、使っている醤油など他の素材については言及されていなかった。

 
(註1)ムラサキツバメ

 
南方系の大型のシジミチョウの仲間で、近年になり、東に分布を拡げている。
奈良公園には幼虫の食樹であるシリブカガシが比較的あり、毎年安定して発生している。
この日は時期が悪く、見る個体はボロばっかだった。

 
(註2)戒壇院の門の修復…
当ブログに、その時の話があります。タイトルは『巨樹と仏像』だったっけかな。ヒマな人は読んで下され。

 

鯛を愛する男

 

 
鯛は美しい。鯛そのものの姿も美しいが、こうして調理された身も美しい。食べれる魚の中で最も美しいのが鯛だと思う。

 

 
ほんのりピンクと透き通る白が組み合わさったヴィジュアルは誰しもの食欲をそそる。セクスィーなのだ。

 

 
外で鯛の刺身や寿司を食う時の基本は、塩と柑橘の果汁である。柑橘ならばレモンでもカボスでもスダチでも何でもよろし。お家で柑橘が無い場合は仕方なくポッカレモンを使ったりもする。それでもそこそこ旨い。何だったら柑橘が無くともいい。それでも旨い。

何で塩かというと、それが一番鯛の風味と旨味を正しく感じられるからである。その時の鉄則は、とにかく噛むことである。最低20回以上、できれば30回くらいは噛みなはれ。そうすると、噛んでるうちに奥から鯛の旨味がググッと立ち上がってくるのである。だから、ヒラメやカレイなど他の白身魚の刺身も概ね塩と柑橘で食す。因みに、ブリの身は白いけど白身魚じゃござんせん。アジやサバと同じ青魚の仲間に入る。脂肪分が多いから、あんなに白いのだ。塩でも食べれないことはないけれど、生臭さが出る。やはり醤油の方が美味しい。

 

  
器は割山椒。あしらいにボウフウを添えて料亭風にカッコつけてみた。

 

 
いわゆる松皮造りと云うヤツである。鯛の皮は旨みたっぷりだから、より強い旨みが感じられる。皮に切れ目をいれておくと、更に旨みは増す。
コチラも飾りにボウフウを使った。茎に縦に切れ目を入れて水に放つと、くるくる巻くのが面白い。お洒落である。
作り方は簡単で、三枚におろして、皮をひかずに布巾なんかをかぶして上から熱湯をかける。してからに、ソッコー氷水につければいいだけ。

 

 
コチラも松皮造りだが、青い実山椒を散らしてみた。勿論、これも塩をつけて食う。
山椒のエッジが効いてて、これまた噛めば噛むほど旨みと甘みが感じられる。

 

 
鯛の黄身漬け。鯛の鮮度があまり良くない時の変化球である。鯛の身に太白胡麻油を塗り、卵の黄身と和えて盛り付ける。白胡麻をふって柚子の皮を添えれば完成。
柚子の皮は千切りにしてもいいし、卸がねで擦って散らしても構わない。お好きにされよし。で、最後に醤油をちょろっとかければ出来上がり。

酒の肴ではあるが、ご飯に乗っけて食っても美味い。

 

 
ちらし寿司風に錦糸玉子も加えてみた。ご飯は酢めしにしたが、ふつうの白飯でもよろし。

 

 
丸海の「小鯛ささ漬」である。これが上品な味わいで旨いんだよね。酢があまりキツくないのがよろしい。

 

 
本来は小さな木樽に入っているのだが、最近はこういうパックのものも売られている。でも樽に入っているヤツの方が絶対に美味いと思う。微かに木の香りを纏っているからだ。それにちゃんと笹だって入っている。というか包まれてる。これまた仄かな香りが移るから、よろし。それに笹は腐敗を防ぐという。ゆえに断然樽入りのものをお薦めする。

 

 
これも同じ丸海の「小鯛のささ漬け」だね。言い忘れたが、丸海で使う鯛は真鯛ではない。たぶん連子鯛(キダイ)だったと思う。店のオバハン曰く、笹漬けには連子鯛の方が適しているんだそうな。

 

 
半額だから、つい買ってしまったのだ。
でも、こういうのは本当はお薦めしない。時間が経ったものは酢がまわり過ぎて酸味が強くなり、身もかたくなって格段に味が落ちるのである。安物買いの銭失いになるから、製造してから日が経ってないものを選びましょうね。

実をいうと、今年の春先にオネーチャンと敦賀のお店に行く機会があった。そこで特選の「小鯛の昆布〆」を買って食ったんだけど、ブッ飛んだ。異次元にメチャメチャ旨かったのである。

 

 
これだね。木樽に入ってるってのは、こういう形態の事です。
残念ながら、中の本体の写真を撮り忘れた。それでも、外観の画像を見ているだけで、思い出してヨダレが出てきた。因みにこちらはレンコダイではなく、真鯛を使っている。グレイドアップなのだ。
でもデパートでは売ってないから、敦賀とか小浜のお店に行くしかないんだよねー。

これに感化されて、それっぽいものをつくってみた。身のほど知らずのチャレンジャーなのだ。

先ずは昆布〆をつくる。

 

 
で、それを酢〆にした。

 

 
2回つくった。どっちとも旨かったけど、その丸海の異次元のものには全然敵わなかった。足元にも及ばない。まあ当然だわね。あれよか旨いもんが作れるなら、店出すわ。

 

 
これも昆布〆である。一応昆布〆の作り方を書いておくか。
えー、切り分けた刺身を酒にくぐらせ、軽く塩振って昆布で巻いて一晩おけば出来上がり。塩は振っても振らなくてもよろし。ワシはその日の気分で選ぶ。

それを手巻き寿司にした。

 

 
酢めしをつくり、海苔を焙る。海苔を焙ってる時は何だか楽しい。さあ食うぞという期待値が高まってゆくからだ。

q(^-^q)旨いやんけ。期待値を裏切らない味でおました。

次はイクラを乗っけてみた。

 

 
当然ながらに、(^o^)v美味いねぇ~。
小さくだが、力強くガッツポーズをとっちゃったよ。

 

 
鯛の子と平目の子の煮つけである。

左が鯛の子なのだが、切り方を間違えた。本来は右の平目の子のように小分けに切ってから沸騰直前の出汁に放つ。そうすると花が咲いたようになる。でも、鯛の方はそのままの姿で煮ちゃったのだ。で、切ったら、こないなブサいくになってもうた。

あっ、切る前の画像も出てきた。

 

 
そういえば、あんまり見た目がキレイじゃないから、コレを切ってみたのだ。で、結果さらによろしくなくなっちやったというワケだね。

 
【鯛の子の卵とじ】

 
反省して、今度はちゃんと花型にした。それを卵でとじた。コレ、簡単だけど美味しいんだよね。かやく御飯と一緒に食うと、なお良し。もちろん鯛めしでもよろし。それにしても、よく飽きずに何回も作ったなあ。
余談だが、山椒の粉を振り掛けると、良いアクセントになりもうす。

お次は鯛の白子ポン酢である。ポン酢は「ひろたのポン酢」である。時々浮気するが、5、6年くらい前から概ねこれに落ち着いている。

 

 
赤いのは何れも「かんずり」。
🎵チャッチャチャチャッチャッ、チャッチャチャチャッチャッ、チャッチャー。ウーッ、かんずりぃー❗

アホ過ぎだが、「かんずり」を使う時は、お約束で必ずマンボをやるのだ。誰かが見たら、アホそのものである。
「かんずり」は東北版の柚子胡椒みたいなものだが、トンガリがもっと少なく、味に奥行きがある。

 
【かんずり】

 
でも無くなったので、一味唐辛子で我慢した。

 

 
どんだけ白子食っとんねん(笑)。
だって、美味いし、春から初夏にしか味わえない季節モノなんだもーん。

意外と食べたことのある人は少なそうだが、鯛の白子はマジで美味い。鱈の白子なんて足元にも及ばないくらい旨味とコクがあって、しかも上品なのだ。白子の中ではフグの白子と双璧ではないかと思う。でもトラフグの白子はバカ高いから食える機会はめったとない。となると、コスパ的には断然タイに軍配が上がる。他にフグの白子といえば、マフグやサバフグの白子もあるが、トラフグに比べては安ものの、それでも鯛よりはお高いのだ。

ちょっと話がズレるけど、そういえば昔、大阪は道頓堀、法善寺横丁近くに『南進』という冬だけやってるフグ屋があった。そこのてっちり(フグ鍋)後の〆の白子雑炊が絶品だった。残った鍋汁に白子を入れてグジュグジュに潰す。で、ご飯を入れて、とじた生卵を回しかける。蓋をして1分足らずで、浅葱(あさつき)を散らして出来上がり。思い出して、身悶えしたよ。
嗚呼、でも店はもう無いから二度と食えないんだよなあ…。
ふと、今気づいたけど、鯛の白子でも似たようなもんが出来るんじゃねえか❓何で今までそれに思い付かなかったんだろ❓
来年は、誰かさんと鯛しゃぶをして、何が何でも白子雑炊を作ろう。

 
【鯛めし】

 
鯛めしはアラだけで充分である。鯛は頭が美味いし、骨からは良質な出汁が出るので、寧ろそっちの方が旨いかもしんない。

熱湯をかけ、臭みを取るために、熱湯をかけてから作りまひょ。鱗もそうすれば取れやすくなりまふ。出来ればもうひと手間、それを焼いてから米と炊くと香ばしさが加わり、更によろしい。但し、鯛の頭は骨が多いので、それをあとで取り除くのがホネ。あっ、意図せずダジャレになってしまったなりよ(笑)

 

 
調味液は、水、顆粒の昆布だし、酒、薄口醤油、塩を適当に混ぜたもの。味醂はその日の気分で、入れたり入れなかったりする。

出来上がりは、こんな感じ。

 

 
あれっ❗❓、もう一回つくってるな。

 

 
二杯目は何となく卵の黄身を落としみた。

 

 
で、かき混ぜた。

んー、勿論不味くはないんだけど、いらんことしてもた。鯛めしの良さが生きるかと思いきや、むしろ消えとるやないけー。

 

 
お次は鯛の骨蒸しである。
何じゃいなというと、鯛の頭を昆布を下に敷いて酒ぶっかけて、塩振って蒸すだけですなあ。最初の下処理は鯛めしと同じだが、別に焼かなくともよい。
コレがシンプルだが、メチャンコ美味い。昆布の旨みが溜まらん。もしかしたら、鯛を昆布でくるんだら、もっと旨いかもしれん。自分は邪魔だと思うから用意しないけど、お好みでポン酢につけて食ってもいい。
鯛の頭といえば兜煮もあるが、とにかく断然こっちの方が好みだ。圧倒的に簡単だし、失敗も少ないしね。

こうして並べてみると、意外にも塩焼きも無いなあ…。
コレにはワケが有りそうだ。
思うに、鯛の塩焼きといえば、尾頭つきと云う概念が強すぎるのかもしれない。でも小さい鯛は美味くない。鯛はある程度の大きさにならないと美味くないのだ。でも、そんなデカイ鯛なんぞ家庭では焼けない。そんな焼く道具が無いからだ。かといって、切り身を焼くのは気が進まない。尾頭付きじゃないからだ。何かショボく感じてしまう。

あと、鯛しゃぶや鯛茶漬け、鯛そうめんも無いなあ…。
鯛しゃぶは鍋だし、できれば誰かと食いたい。鯛茶漬けは鯛を胡麻ダレに一晩漬けなければならないから面倒くさいし、茶漬けにする前に白御飯に乗っけたくなる。鯛そうめんも旨いと知ってるけど、作るのが面倒だ。それにビジュアル的に大皿の真ん中に鯛をデーンと飾りたい。そんなの一人暮らしには現実的でない。やっぱ愛媛出身の知人を作って、おうちに呼ばれて皆でワイワイ食べたいよね。できれば、その知人というのは女性であってほしいなあ。

そういえば鯛のソテーとかポワレとか洋風なものが一つもない。別に洋風の鯛料理を否定はしてないけど、自分の中の調理する優先順位としては低いんだろね。何かバターとかで焼くのって勿体ないような気がするんだな。鮮度とか悪けりゃするとは思うけど、そもそもそんな悪い状態の鯛は買わないのだ。ことわざに「腐っても鯛」という言葉があるけれども、鮮度の悪い鯛はやっぱり不味いのだ。
ことわざは何かの喩えだから文句を言っても仕方ないけど、腐った鯛は食えまへん。腐った鯛みたいな人もダメである。腐ってんだから、所詮はダメダメなんである。何か誰かのことを言ってるようで、心苦しいよ。

                   おしまい

 
追伸
お気づきの方もおられるだろうが、過去に書いた『鰹を愛する男』と『鮪を愛する男』の姉妹作である。
元々の目的はその二つと同じで、大量に溜まった画像を一挙に纏めて消すことにある。時々そうして画像を消さないと、ストレージが溜まってメール等が受信できなくなるのだ。
ほぼ毎日、飯は自分で作るので、どうしても写真が増えてしまう。その日の献立をチャチャと書いて記事にあげればいいんだけど、酒飲んで御機嫌なんだから、面倒くさい。で、日々どんどん画像が溜まってゆくというワケである。
だから、多分この魚シリーズはこれからもそれなりに続くと思われる。で、ある程度の魚の種類を書き終えたら、『魚王選手権』をやります(笑)

 

『特別展 昆虫』に行ってきた

 

先日、大阪市自然史博物館で開催されている『特別展 昆虫』に行ってきた。

   

 
網とカブトムシ(アクタエオンゾウカブト)を持って嬉しそうにしてるのは、俳優で虫大好きの香川さんだ。
これも彼の昆活の一環なのだろう。虫はマイナーだから、啓蒙活動ガンガンやってね。
よく彼を批判する虫屋がいるけど、賛成できない。たしかに虫屋としては三流かもしんないけど、香川さんの熱い気持ちはよく解る。言い方は悪いけど、こういう広告塔をやってくれる人には素直に感謝すべきだと思う。我ら虫屋が少しでも市民権を得る為には、こういった有名人がいた方がいい。大局が見えてない細かい事をゴチャゴチャ言うのは、虫屋の最も悪い性向だ。

 

 
この企画は去年、東京で大盛況だったから気になっていたし(44万人以上の動員があったらしい)、今月末には終わってしまうので、博物館の図書室で調べものをするついでに行ってみた。

入口はこんな感じ。

 

 
スタッフに確認してみたら、中で写真を撮るのは基本的にはOKみたい。ナイスだね。何でもかんでも禁止にしたがる最近の風潮からすれば素晴らしいよ。
但し、映像はダメとのこと。たぶん著作権の問題があるからだろう。そこは致し方なかろう。

 

 
入っていきなり、ミツバチの巨大模型があった。
そこそこリアルで、中々良くできてると思う。
こういうのは結構好き。もし本当にこれくらいの大きさのミツバチがいたら、どう戦ってやろうかとマジで考えるのは楽しい。ワシとがっぷり四つで戦っている様を想像したら、何だかo(^o^)oワクワクしてきたよ。
あっ、こんな事、思う人はあんましいないか…❓
脳ミソの基本構造がお子チャマ仕様なのかもしんない。

 

 
日本の国蝶であり、世界最大級のタテハチョウとも言われるオオムラサキだ。
ワタクシの守護蝶でもあるので、個人的には親しみを込めて「ムラさん」と呼んでいる。
でも、この模型はミツバチと比べてクオリティーが低い。何かオモチャ的で多々不満がある。
オモチャとは全然戦う気は起きんわい(=`ェ´=)。回し蹴りで一発粉砕じゃ❗

まず羽の質感が全然表せてない。こんなベタで薄い紫色、ちっとも美しくないわい。ニセモンだ。ちょっと虫を知ってる子供が見ても同感じゃろう。
本来は構造色なんだから、角度によって色が変わるくらいやれよなー。今の技術なら、そう難しくはなくなくねぇか❓

目も死んでる。実物はもっと透明感のある黄色だ。せめてガラス玉とかにしろよなー(・ε・` )

胴体のふさふさの毛も無い。ツルッツルッだわさ。
こんなんだったら巨大化する意味あんのかよ。細かなところをリアルに再現してこそ、「わっ、こうなってんだね。」と解り、驚きと発見があるのだ。そこにこそ、巨大化する意味があるんじゃないのかね。子供たちがそれを自由に触れるようにすれば、なお面白いじゃないか。

 

 
ミンミンゼミじゃ。
緑色の質感が本物と比べてくすんでいるが、コヤツなら充分戦える。
後ろから羽交い締めにして、(ノ-_-)ノ~┻━┻ おりゃーと後ろに倒してやったら、すかさずマシンガンキックの嵐じゃ。

 

 
言わずと知れたオオクワガタ様じゃよ。
デカイと怪獣感増すなあ。ウルトラマンの怪獣アントラーズを思い出したよ。
勿論、コヤツなら戦える。相手にとって不足なしじゃ。

先ずは正面から睨み合い、互いの出方を探りあって円を描くように動く。儀式の如き前哨戦だ。そして次の瞬間、グワシャ❗互いの両手をガッツリ組み合っての力競べじゃ。
(#`皿´)ヌオーッ、ガガカ…、ギギギ…。均衡のなかで、彼奴の最大の武器である屈強な大顎がカチカチ鳴りながらワイの頭部へとググッと迫ってくる。
(|| ゜Д゜)マズイ、ピンチじゃけぇ。だが気持ちは負けてない。どころかコチラも頭を近づけ、おもいきしバチコーン💥、パチキ(頭突き)をカマしてやる。
ダアリャーッ、両者飛び退くように離れる。
( ̄~ ̄;)うぬ~、力勝負では分が悪い。ここはスピード勝負じゃ❗蝶のように舞い、蜂のように刺ーすっ❗軽(かろ)やかなステップで、左右に細かに動きながら、右から左からと千手観音の如くパンチとチョップを、アチョー、アタタタタアーと連続で繰り出す。御陀仏せえや。
(@_@;)痛ってぇ━━━❗❗
わちゃΣ(゜Д゜)、我が手を見ると血だらけじゃないか。お前、硬いよー。反則なくらい硬いよー(T-T)。
クソッ、卑怯な程の防護プロテクターじゃねえか。
ならばコチラも反則の火焔放射器じゃ❗
🔥ゴオーッ、Ψ( ̄∇ ̄)Ψほれほれ~、業火に焼かれるがよいわ。そのまま黒焦げになってしまえ、(*≧∀≦*)ケケケケケケケ…。
しかし、オオクワガタの奴、びくともしない。その黒い甲冑様なもの、熱にも強いのか…。手強い。

その後も、拮抗した攻防は続いた。
そのなかで見えてきた。弱点は足だ❗オオクワガタの脚は体のわりには細い。そこを攻めてバランスを崩させれば勝機はある。でもコイツ、何でオオクワガタなのに立ってるの❓ふつう立ってないっしょ。
この際、細かい事はいい。死ねばもろとも、攻撃をかいくぐって果敢に内側に入り、スライディングして足元をすくう。
ぐらり。バランスを崩して前のめりに倒れてくる。迫って来るそれを巧みに避(よ)け、グワシャーン❗倒れたところをすかさずマウント。馬乗りになって、コレでもかコレでもかと雨あられの如く死ぬほど打撃を加えてやった。
(* ̄○ ̄)ハー、ハー、ゼェー、ゼェー。タコ殴りにしてやったワイ。ざまぁー見さらせ。
奴は、やがて意識を喪い、グッタリとなった。
落ちたな。しゃあー❗、拳を天に突き上げて雄叫びを上げる。イガちゃん、\(^o^)/大勝利ぃ~。おどれら、みんな死ねや~。

何をやっとるんじゃ( ・◇・)❓
妄想が酷い。我ながら、やってる事がアホ過ぎる。フザけるにも程がある。

 

 
ツノゼミだ。
コチラはガラスケースに入った模型で巨大ではない。
しかし、倍率をからすればオオクワガタやミンミンゼミと変わらないかもしれない。それだけ実際の大きさは小さい虫だってことだ。
まあ、コヤツがたとえ更に巨大化したとしても、楽勝で勝てそうだけどね。このワケのワカラン、何に役立っているのかも不明な飾りを掴んで捩じ切ってやれば、闘争心も萎えて大人しくなるじゃろう。勝負有りじゃ。
しかし、まだ予断は許せない。コヤツの意味不明の役割の頭部の飾りから💥ブシャーと毒液が飛び散り、目潰しを喰らうやもしれぬ。
(・┰・)アカン。まだ妄想暴走列車は走り続けとるやないけー。

 

 
この写真はそうでもないけど、平日のわりには結構人が多い。スタッフの数も多い。
正直、美術館じゃないんだから、そんなにスタッフいるか❓とは思う。

 

 
あっ、最近話題の野村ホイホイの実物だ。
画期的なトラップとして、とみに評価が高い。
けど、甲虫や蜂などには良いだろうが、鱗翅類のチョウやガには使えないよなあ…。おそらく、コレだと羽がボロボロになっちまうだろう。何か鱗翅類でも使えるような改造方法はないかえ❓

 

 
コレは蝶だが、甲虫とか他にも標本はそこそこあった。
でも、東京の時よか標本の出展数は減っているらしい。規模が小さくなってるとも聞いてるのは、そのせいかな❓
あんまり詳しいことは知らないけど、東京では標本を供出した人に対して一切ギャラが支払われなかったようだ。当然香川さんにはギャラが支払われているだろう。なのに標本を貸した人間はノーギャラというのはオカシイと思った人たちが何人かいたようだ。そのせいで、大阪では標本を貸す人がだいぶと減ったと聞いている。あくまでもまた聞きの噂話だから間違ってたらゴメンナサイ。話半分程度で聞いて下さればエエかと存じます。
まあ、この業界はアマチュア精神の善意で成り立っているから、標本を無料で提供するのが慣わしではある。しかし、コレは官の大阪市自然史博物館独自のオリジナルの企画ではないようだから、民間の企業の金儲けのイヴェントだろう。主催者の欄に読売新聞社と関西テレビ放送とあるからね。つまり基本的には営利目的だ。ならば、主催者側はギャラを払って然るべきだと思う。

結構、面白かったけど、入場料は¥1400は、ちょっと高いよね。そんなにボルなら、スタッフを削ってでも、標本を提供した人にギャラを支払うのが筋だと思うな。

昨日、酔っ払ってここまで書いたところで力尽きた。
でも朝起きて酔いも醒めると、果たしてここまで勝手な憶測を書いていいものかと考え直した。
このイヴェントには一ミリたりとも全く関わっていないから、裏事情とか本当の事は全く知らないのだ。
だから、何もわかっちゃいない人間の戯れ言だと思って読み流してけれ。
何かトーンダウンのグダグダの終わり方でスンマセン。

 
                   おしまい

  
追伸
今回も青春18切符の回と同じく、当初は写真だけ並べてサラッと最後にコメントを書いて終わる筈だった。
しかし、戦うとか妄想おふざけモードになってから止まらんくなった。おまけに事情を何も知らないのに噛みついてる。ホント、悪い癖だよ。

 

あおはる1day trip その四

 
第5話『やがて淋しき、腹パンパン男』

 
午後8時15分。三ノ宮駅まで戻ってきた。
さてとー、どうすっべかあ。腹パンパンだし、このまま帰ってもいい。って云うか、むしろ帰りたい。
でも、あんなどって事ないジビエでフィナーレってのは納得できないところがある。彦根の伊吹そば、びわ鱒丼から始まって、姫路のえきそば、姫路おでん、そしてジビエと食べてきたが、何かどんどん旨いもんクオリティーが下がってきてるじゃないか。

取り敢えず大阪方面の電車に乗ろう。
あとはその時の気分で決めればいいや。

 

 
電光掲示板に目をやる。
一番上に松井山手ゆきと云うのがあるのに気づいた。
そっかあ…東西線というのもあったなあ。三ノ宮まで繋がってんだね、知らなかったよ。となると、これは普通電車だからパスだが、尼崎か大阪駅で乗り換えれば、その先の京橋、住道、四條畷というのも視野に入ってくる。時間的にも何とか行って帰ってこれるだろう。そういえば住道駅にメチャンコ美味い餃子屋があった筈だ。住道なら時間も稼げるし、餃子くらいならまだ食べれそうだ。
取り敢えずは22分の新快速に乗ろう。乗ってからまた考えればいい。

退屈なので、他にも候補を探してみる。
例えば尼崎で乗り換えて塚本という手もある。そういえば魚が抜群に美味い『春団治』にも長いこと行ってない。行きてぇなあ…。
でもこのお腹いっぱいの状態で春団治に行くのは何とも勿体ない。誰が言ったか忘れたが『空腹こそ、最高の御馳走なり(註1)。』という言葉が、今更ながらに身に染みて理解てきるよ。腹が減っていなくては、どんな美味なるものでもその旨さは半減する。
ならばラーメンってのはどうだ? 最近この街はラーメン激戦区として、つとに有名になってきてると聞いたことがある。でもなあ…、もっと酒飲みてぇんだよ。
ラーメンと酒とは合わないというのが持論だ。
ハイ、ラーメン消えた。塚本、スルー。

大阪駅で環状線に乗り換えて一駅の、福島で降りるという手もある。
福島なら銭湯が駅の近くにあるから、一旦風呂に入って腹を減らすという作戦も可能だ。それに風呂から上がったあとのビールは旨い❗ワシの食欲も酒欲も一挙にV字回復じゃよ\(^o^)/
そのあとに『あやむ屋』で、あの最高の焼鳥が食えたなら、納得至極のフィナーレになる。あやむ屋は予約の取れない店として有名だけど、一人くらいなら入れるかも。いや、大体において運がいい男なのだ。どうせ入れるに決まってるやろ。そう考えたら、段々ぜってー大丈夫って気分になってきた。
まあ、たとえ入れんかったとしても、福島なら旨い店が他にも沢山あるから何とでもなる。

8時51分。大阪駅に着いた。

 

 
そこで、新たなる考えが頭をよぎった。
福島が有りなら、大阪駅を挟んだ一駅向こうの天満というのも有りだ。天満も旨い店がごちゃまんとある。銭湯はやや遠いが、あそこの銭湯はお気に入りの一つだ。天満でも悪かない。
そこで、ハタと思い出した。そういえば天満にはメッチャ行きたい店があるぞ。岡村隆史・なるみの『過ぎるTV』で、ゲストの古田新太が『こんなもん、旨いに決まっとるやないけー。酒、なんぼでも飲めるわ。』と絶賛していたポテサラがあるのだ。
塩雲丹とインカのめざめのポテサラだったっけ…。それと鮭とば酒粕クリームチーズ漬を頼むのが通らしい。それぞれが単一で優れた酒の肴だが、掟破りにもそのポテサラに鮭とばを乗っけるらしいのだ。それがメチャンコ美味らしい。それに、日本酒が反則違反なくらい抜群に合うらしい。
何と云う蠱惑的な酒の肴だ。その魅力には到底抗い難い。これで住道の餃子も福島の絶品焼鳥もフッ飛んだ。
Let it be. なすがままよ。おーしι(`ロ´)ノ、天満へ行こう

乗り換えが上手くいって、8時56分には天満駅に着いた。

 

 
🎵テッテレッテテ~、イガちゃんグルメのーと~。
ここで再びスマホにメモってあるグルメ情報の登場である。
それで店の名前は簡単にわかった。店名は『お酒がススムごはんや1975』。まさに酒を飲む為にアテがあるというネーミングの店だ。期待値が更に跳ね上がる。
でも、ここも三ノ宮のジビエの店と同じく詳しい場所を知らない。
となると、スマホ📲の機内モードを解除してネット検索するしかない。
Σ( ̄ロ ̄lll)ガア━━ン。しかしながら、その時バロムメーターの友情メーターはゼロを指していた❗
何でバロムワンが変身するための友情メーターが出てくるねん❗ どうやら脳ミソがだいぶとワイてきているらしい。移動の連続と腹パンパンなのと、長丁場に疲れているのだ。バロムメーターの事は忘れてくれ。
えー、もとい。スマホの電池は30%を切って25%になっていた。そんな重要な事ちゃんと気づいとけよなー、俺。だから疲れてんだよ、俺。言い訳すんなよ、俺。だって事実だろ、俺。頭の中のイガAとイガBがケンカを始めた。重症だ。やっぱ、アタマわいとるわい。
とにかく機内モードを解除したら、あっという間に電池は無くなるだろう。となれば、相当テキパキとネット検索しなくては店の場所が特定できない。このミッションに失敗すれば、新たなる方針を模索せねばなるまい。

機内モードを解除した。迷惑メールの受信を知らせる音が数珠繋ぎに鳴っている。と同時に見る見るうちに電池容量がどんどん減ってゆく。(@_@;)💦焦る。だが、中々地図が出てこない。ヤキモキする。やっと大まかな地図が出た。
えっΣ(-∀-;)❗、天満じゃなくて天満宮なのー❓と思ったところで、画面がブラックアウト。スマホ様は深い眠りに入られた。
というワケで、ここから先は一切画像が無いので了承されたし。

およその場所は解ったが、細かい場所まではワカラナイ。ギリ、セーフとも言えるし、ギリ、アウトとも言える状況だ。
それにしても、天満ではなくて大阪天満宮と云うのは大きな誤算だった。同じ天満とはつくが天満宮とは結構離れている。天神橋筋商店街を南に下り、地下鉄南森町駅を越えたまだ向こうまで歩かなくてはならないのだ。
なんだよ、天満宮だったら、大阪駅で東西線に乗り換えて大阪天満宮駅で降りた方が余程近いじゃないか。
またしても誤算というか、己の判断ミスである。良くない流れだ。嫌な予感がした。
今更、退けない。それを振り払って、歩き始める。

商店街を歩きながら、色んな事を思い出す。
この辺は歴代の彼女たちと数多く訪れているから、思い出がいっぱいあるのだ。多くは懐かしい思い出だが、苦い思い出もある。
中でも、当時の彼女が発狂して赤信号の道路に突っ込んで車と接触した事件は深く記憶に刻み込まれている。何故そういう行動に走ったのかは本当のところはワカラナイ。彼女が話したがらなかったので、今も謎のままだ。しかし、たぶんベロベロに酔っ払っていた自分が原因だったと思われる。
運転手に謝り倒して、その場を上手く納めたものの、彼女は正気には戻らなかった。わめき散らして再び道路に飛び込もうとするので、必死に止めた。
何があっても目の前で死なせることはできない。だが、如何に説得するも事態はいっこうに変わらず、最終手段として思いきり彼女を引っぱたいた。それで正気に戻るだろうと思ったのだ。後にも先にも妹以外で女性にビンタしたのはこの時だけだ。基本的に、女性に手を上げるのは最低の行為だと思っているからだ。
しかし、結果は更に火に油を注ぐ形になった。
暴れて再び道路に飛び込もうとする彼女を何とか捕まえ、路側帯で倒して上から抱きついて動きを止めた。そして、その状態で全身全霊で宥めた。すぐ横をブンブン車が通過していく。狭い道だから、そのうち二人とも轢かれるかもしれないという危険を感じた。しかし、事態は変わらない。打開策は無く、正直どうしていいのかわからなかった。
その異様な光景を見たドライバーの誰かが通報したのだろう。暫くして、赤色灯をピカピカ光らせたパトカーがやって来た。
警察沙汰になったが、実をいうと心の中ではホッとしていた。どうあれ、これで事態は何らかの方向にはいくだろう。
降りてきたポリさん二人に、必死になって事情を説明したっけ。酔いはとっくに醒めていたから、論理的に説明できたと思う。それでもブタ箱入りは覚悟していた。手を上げたのは事実だからだ。
だが、意外とアッサリ納得してくれた。
『じゃあ、気をつけて帰ってください。』とか何とか言って、パトカーに乗って走り去った。
そこまでは、よく憶えている。でも、そこから後のことは、あまり憶えていない。
おそらくタクシーを止め、彼女をそれに無理矢理乗せて帰らせたのだろう。その後、自分がどうやって帰ったのかは、まるで思い出せない。後悔と自責の念が堂々巡りのように繰り返される。

南森町駅の横を抜け、国道1号線を越える。
そこで暗い後悔のリフレインを断ち切った。
そろそろ目的の店のエリア内だ。全ては終わった話だ。今更、時間は逆回しできない。

チラッと見た地図の記憶を頼りに探す。
でも、道は碁盤の目ではなく、入りくんだ所に店はあった筈だ。それでも方向感覚抜群のオイラだ。その時はまだ、どうせ何とかなるだろうと思っていた。
しかし、何かの呪いに掛けられたかのように何故か見つからない。ぐるぐるとあっちこっち歩き回るうちに、マイナビセンサーは破壊され、やがて頭の中の地図が消えた。九月に入ったとはいえ、まだまだ夜は蒸し暑い。気がつけば、汗だくになっていた。何だか惨めだ。

たまたま何かの商店の中の時計が目に入った。
時刻は10時を過ぎていた。ここいらが潮時だ。諦めて天満駅へと踵を返した。
足取りは重い。魅力的な店が幾つか現れるが、入るのを堪えた。経験上、こういう判断ミス続きの時に下手に動けばかえって傷口を広げてしまうケースは多い。ここは確実を期そうと思った。天満駅そばにある居酒屋『肴や』に行けば鉄板だ。間違いなく旨いもんにありつける筈だ。
一瞬、そこにはその事件の彼女とも行ったことがあることを思い出すが、もういいや。全ては過去の事だ。それにその時の思い出には、少なくとも悪いものはコレっぽっちもない。

しかし、店は閉まっていた…。
まだ10時半前だから、たぶん定休日なのだろう。
力のない笑いが込み上げてきた。そうだ、嘲うがいいさ。ドツボな俺をみんな嘲えぱいい。
これで、気持ちが切れた。もう帰れってことなのだろう。

京橋・天王寺回りの環状線に乗った。
このままいけば、あとは新今宮で大和路線に乗り換えて難波まで帰るだけだ。
途中で意地がブリ返すかと思ったが、もう何処にも行く気にはなれなかった。それに、まだ腹がパンパンなのである。

電車は夜の帳を縫うようにして、ゆっくりと走っている。褪せたような光に照らされた車内は人も疎らで、誰もがおし黙っている。どこか淋しい風景だ。青春18切符の1day trip の旅もそろそろ終焉に近づいていると自覚する。なぜか再び彼女のことを思い出した。
それを押しやり、車窓から外に目をやる。
小さく、呟く。

「いつまでも、あおはるやってんじゃねえよ。」

やがて、電車は光溢れる新今宮駅のフォームに入っていった。

 
                    おしまい

 
追伸
そもそもこの一連の文章を書く目的は、溜まった画像を消すことにあった。だから当初はソリッドな文章で短く纏めるつもりだった。しかし、書いてるうちにどんどん路線が変わってきて、気がつけば恋愛モノローグだらけのオナニー文章になってしまった。
こんな文章に最後までお付き合いして戴いた心の広い御仁には、申し訳ない。ただ、ただ感謝である。

 
(註1)空腹こそ、最高のご馳走なり

古くはローマ帝国時代の哲学者のキケロという人が言ったらしいが、ギリシャの哲学者ソクラテスも「食物の最上の調味料は飢えであり、飲み物のそれは渇である」なんて言葉もある。他にも北大路魯山人であったり、「ドン・キホーテ」の作者、セルバンテスであったり、英国のことわざであったりと、諸説ある。
因みに英語の諺は、“Hunger is the best sauce.”(空腹は最高のソースである。)
和訳は「空腹は最高の調味料である」等、類似のもの多数あり。

 

月刊むし10月号が我が家にやって来た、ヤア❗ヤア❗ヤア❗

  
ポストに郵便物が届いていた。
見ると『月刊むし』だった。一瞬、購読してないのに何で❓と思った。けど、直ぐに解った。10月号に原稿を書いたんだわさ。
やったぜ、タダで貰えるとは思わなかったから嬉ぴーよ~ん\(^o^)/

💓ドキドキしながら、封筒から出す。

 

 
表紙は、かなりカッコイイd=(^o^)=b
幻想的で、お洒落だ。センスいい。
でも、惜しむらくはカトカラではなくて、ヒメヤママユとウチスズメだ。日本で32番目のニューのカトカラの特集号なのになあ…。
(・o・)あっ❗、巻頭の記事も岸田先生と石塚さんの記載文ではない。ヒメアトスカシバとか云う聞いたこともない蛾の幼生期についての記事だ。何故に❓綴じ方の関係で、そうせざるおえなかったのかな❓
まあいい。今の自分にとって、そんなのは些末な事だ。この号が世に出たことの喜びの前では、どって事ない。

でも、嬉しいんだけど、何だか怖いような恥ずかしいような変な気持ちで、まだ中を開いてない。
書いた内容は結構忘れているので、逆にとんでもないおバカ文章炸裂なのではないかと不安になってきたのである。
段々思い出してきたよ。かなりフザけたことを随所に書いた記憶がある。
取り敢えず、3日ほど寝かしてから読も~っと。

誌の発売日は25日の筈だけど、岸田せんせも石塚さんもFacebookに記事を既にあげておられるので、もう解禁という事でもいいのだろう。書いちゃえ。

 
【マホロバキシタバ Catocala naganoi mahoroba】

 
新種ではなく、新亜種になった時はガックリきたけど、周りが新亜種でもスゴい事だとおっしゃるので、そうなのぉー( ̄∇ ̄*)ゞ、じゃ、まっいっかと今は納得している。誰も興味のない矮小昆虫ではないし、あの毒舌家の秋田さんだって悔しがっているんだから、それだけでもう充分なのだ(^-^)v

上が♂で、下が♀である。
特徴は下翅の黒い帯が下部で繋がらない事である。
他の黄色い系統のカトカラはここが繋がるか、もしくは近接しているので、見分けるのは比較的簡単。
因みに、この♂は通常の型とは違い、上翅が蒼っぽい個体。普通は淡い緑色か茶色です。

和名は概ね好評のようで、イガラシキシタバなんてダサい名前をつけなくてよかったよ(笑)

一応、これでホッとした。
三ヶ月くらい箝口令が敷かれてたしね。

この場を借りて、もう一回お礼を言っておこう。関係各位の皆様方、色々と御尽力有難う御座いました。

 
                   おしまい

 
追伸
えー、つーワケで、『2018′ カトカラ元年』の連載を再開します。次の回の内容が、モロこのマホロバの発見と被ってて書けなかったのだ。
けど、まだ一行たりとも書いてないっす。下書きくらい書いとけゃよかったのにと思うが、その日暮らしのキリギリスにはそんな事できるワケがないのだ。

追伸の追伸
マホロバキシタバ関連の記事は、その後に当ブログにて三編書きました。一つは『喋くりまくりイガ十郎』と云うタイトルで、請われて名古屋でマホロバについて講演してきた話です。あと2つは、2019’カトカラ2年生のシリーズ連載、マホロバキシタバ発見記の『真秀ろばの夏』の前・後編です。現時点では、マホロバキシタバについて最も詳しく書かれた文章です。自分で言っちゃったけど、そうなんだから仕方がないのさ(笑)

 

2018′ カトカラ元年 再開の御報せ

  
月刊むしの10月号(9月25日発売)の発行がほぼ確実なったので、無事ニューのカトカラも世に出そう。
関係者の皆様、御尽力有難う御座いました。
というワケで、10月頭には連載再開の予定です。

 

 
とはいえ、まだ一行も書いてないけどさ( ̄∇ ̄*)ゞ

 
追伸
因みに並べたカトカラの種類数と順番は、テキトーです。

 

あおはる1day trip その参

 
第4話『もう食べれましぇーん(ToT)』

 
午後6時半くらいに姫路駅に着いた。
ホームに上がると電車が既に来ており、発車ベルが鳴っていた。で、反射的に乗ってしまった。と同時にドアが閉まった。
でも、閉まったで、しまった。
アホか、サイテーの駄洒落をカマしてる場合ではない。直ぐに気づく。( ̄▽ ̄;)あちゃー、新快速に乗るつもりが普通電車に乗ってまっただよー。新快速は10分後に来ると知っていたのになあ…。疲れて判断能力が鈍ってきてるのかもしれん。
あっ、ちなみに行き先は神戸・大阪方面ね。いくら導線ムチャクチャのドアホ男でも、この時間帯で更に西へは行かんよ。期待してた人、ゴメーン🙏。青春18切符だとはいえ、そんな無謀な事はでけまへん。

あちゃーとは思ったが、どうせ加古川駅で後から来る新快速と接続できるだろうと思い直した。何とかなるさ。
だが、じゃんじゃんに駅に停まる。新快速だと加古川から姫路まであっという間だったけど、間にはこんなにも駅があったんだね。やはり新快速恐るべしである。キミは特急料金を取らない特急だ。偉い❗
けど、同時にこんなだと新快速に余裕で追い抜かれるのではないかと不安になってきた。もしダメだったら加古川で降りてもいいや。18切符は乗り降り自由なんだもんね。行き当たりばったり、上等だぜ。糸の切れた凧みたいに、何処へだって行ってやろうじゃないか。

 

 
6時50分、加古川駅着。
すかさず電光掲示板を見る。

 

 
どうやらまだ新快速は来ていないようだ。
思って間もなく新快速がホームに滑りこんできた。セーフ。これで時間的ロスをせずに済んだ。
さて、次は何処で降りて飯を食おうか❓

明石駅はスルーした。
おでんを食ってからまだそう時間が経っていないのだ。寿司も明石焼きも食えましぇーん(ToT)。だいち、こんな腹いっぱいで寿司食っても旨くあんめぇ。お金が勿体ないだけだ。

次の停車駅は神戸。そして、三ノ宮、芦屋、尼崎、大阪駅と続く。
神戸駅は意外と何もない。降りるなら、そこで鈍行に乗り換えて次の元町駅で降りるよ。元町なら中華街がある。中華は重そうだし、今は食べたいとは思わないけど、中華街には『老祥記』がある。そこの豚まんが、まっこと美味い。しかも小振りだから1個くらいなら余裕で食べれそうだ。そういえば長いこと行ってないし、良い考えかもしんない。
でも待てよ。老祥記って早く店閉まるんじゃなかったっけ❓たぶん夕方までだよね。こりゃ、閉まってるなあ…。

となると、香港麺の『天記』はどうだろうか。
ここの海老ワンタン麺がムチャクチャ美味いのである。たしか、わざわざ香港から本場の麺を取り寄せてるんだよな。細麺でつるっつるっなのよね。でも、もっと美味いのが海老ワンタン。ぷりっぷりっで、これがもう体をよじらんばかりの絶品なのだ。
そういえば当時の彼女が、その海老ワンタンを下にボトッと落っことしたんだよね。あの時の一瞬の沈黙と、その後に漂ったえも言われぬ異様な雰囲気は今でも忘れられない。彼女の醸し出す痛恨ともいえる残念感には、ただならぬものがあったのだ。
可愛そうだから、普段なら『あっ、俺の1個やるわ。』と言いながら丼に移してやるのに、その時は『自己責任やな。』と冷たく言い放った事もよく憶えている。海老ワンタンがあまりに美味だったので、どうしても食べたかったのだ。その海老ワンタンは、別にそれで嫌われてもいいやと思うくらいに美味かったのである。
しかし、店が何年か前に無くなったと誰かに聞かされたことを突然思い出した。ならば、行きたくとも行きようがない。

となると、三ノ宮かあ…。
でも、全然まだ腹は減ってない。特に贔屓にしている店もないしなあ…。
次の芦屋はどうだ❓ けど芦屋で食べたいものなんてこれっぽっちも浮かばない。だいちお金持ちの街 芦屋だ。ここにきて高級料理は無いでしょう。それに三ノ宮から芦屋もすぐた。そんな短時間に腹が減るワケないじゃないか。

お次の尼崎はナゼか殆んど行ったことがないから興味はある。
尼崎城でフィナーレというのも有りかもしれん。けんど尼崎城は最近出来たもので、個人が建てて市に寄贈したものだ。果たして城好きがそんなんでお茶を濁していいものか…。
それに全然尼崎の食いもん屋の情報を持ってない。だったら飛び込みで旨い店を探そうか。いや、普段ならそれでもいいだろう。むしろそういう行き当たりばったりの方が好きだ。けどなあ…、今は腹いっぱいなのである。食べるなら確実に美味い店であるか、前から行ってみたかったとかでないと、食指が全く動かないのである。

大阪駅。
人だらけだし、いつでも行ける。そこで食事をする意味が全く見い出だせない。

ならば、いっそ京都まで行ってやるか。再び大阪を越えて東を目指すなんて素晴らしくバカだよなあ。何なら酔狂も酔狂で彦根まで戻ってやるか。一瞬、考えたが、そこまでいくと酔狂を通り越した本当のバカだ。だいち、そんな事しても誰も褒めてはくれない。もし一人ではなくて、誰か相方がいたなら話は別だけどね。バカバカしい事をやるのは面白い。但し、それも共有できる誰かが居ての話だ。

グダグダ考えてる時に、フッと思い出した。
三ノ宮に前から行きたかったリーズナブルなジビエ専門の店があったよな。そこはどうだ❓まだ食ったことがない熊とか穴熊の肉なら、好奇心で食欲も湧いてくるかもしれない。
ι(`ロ´)ノえ~い、腹は減ってないけど三ノ宮で降りてしまえー。

午後7時21分。三ノ宮駅で降りた。

 

 
駅の北側に出る。
たしかジビエの店はこっち側だったと記憶しているからだ。

 

 
三ノ宮に来るのは久し振りだ。神戸は好きだが、京都と比べて来る機会は少ない。女という生き物は、神戸よりも京都に行きたがるのだ。

店の名前は何だっけか❓ 思い出せない。
ここはドラえもんよろしく、秘策を出すっぺよ。
🎵たらたらったらぁ~、イガちゃんぐるめノ━━ト❗
🎵チヤッチヤッチヤッチヤッチャアー🎺
ここでイガちゃんぐるめノートについて説明しよう。イガちゃんぐるめノートとは、テレビ、雑誌、口コミ等で得たイガちゃんが行ってみたいと思った店を携帯にメモった秘密のノートの事である。しかし、珠に会う昔の彼女などには役に立たないゴミノートと罵られいるのだー(ここまでのくだり、次回予告編みたく口調は早口ね)。

イガちゃんぐるめノートを見たら、店の名前はすぐわかった。『ジビエスタンド inome』。らしき候補は他に無かったから、ここに間違いないだろう。
だが、問題は場所である。詳しい場所はわからないゆえ調べるしかない。頼みの観光案内所は既に閉まっているから、そうなるとネットで検索するしかない。でも機内モードを解除すると、一挙に電池が無くなる可能性がある。つまり迅速に場所を特定しなければならない。
機内モードを解除する。そして、大体の場所を素早く脳にブチ込んで再び機内モードにする。それでも電池は70%台から40%台に落ちた。大量の迷惑メールを受信したせいだ。迷惑メールめ~、クソ忌々しいわい。

店は駅からかなり近かった。地下にあるのは誤算だったが、幸い迷うことなくピンポイントで見つけることができた。

 

 
店の外観はこんな感じ。

 

 
中はこんな感じだ。
店名にスタンドとあるように、立ち呑み形式だ。
奥の壁に黒板があり、そこに本日のメニューが書かれている。丹波篠山産猪のハモンセラーノ、ジビエのリエットとパン、猪のソーセージ スモーク風味、猪のタン塩焼き、鹿のタリアータ(パルメザン添え)、ジビエのパスタ ラグーソース等々、中々に魅力的な品々が並んでおり、テンションが少し上がる。
 
取り敢えずビールを飲もう。

 

 
ビールを飲みながら、何をチョイスするか吟味する。
あんま食えないだろうから、オーダーは慎重を期したいところだ。

 

 
丹波篠山産猪のハモンセラーノ(¥580)。

こりゃビールじゃなくて、赤ワインだよな。
ビールをグッと飲み干す。

  

 
赤のロマーニャをグラスでもらう。
ここで見栄はって高いワインをたのむこともないだろう。

イノシシの生ハムは食ったことがないので、ちょっとお腹が空いてきたような気がしてきた。
イノシシの肉は豚肉よりもクセはあるが、野性味があって美味い。期待感を持って食べてみる。

しかし、味は猪の生ハムだけに野性的で濃いのかな?と思いきや、全然そんな事はない。旨みもコクも足りない。野性味もあまり感じられない。何かスカスカの味だ。

これじゃ、終われない。こんなフィナーレでは納得いかない。もう一品たのもう。

 

 
百日鶏の皮ポン酢(¥180)。
さっきの店で姫路名物ひねぽんを頼まなかった影響だよね。百日鶏(註1)というんだから、飼育期間が長いって事だよね。思えば普通のブロイラーの飼育期間は約40~60日間くらいだから、たしかに長い。
でも食ってみると、思っていたほど固くはない。皮だからか❓あっ、そっかあ、百日鶏は飼育期間は長いが、おばあちゃんのひね鶏とは違うもんな。
ひね鶏の飼育日数は一般的なブロイラーの9倍と聞いたことがある。だとすれば、360日から540日ほどだ。全然飼育期間が違うわ。
味はこれまた期待外れで、どって事ない。
クソー、これでは気持ちよくフィナーレを迎えられないじゃないか。ι(`ロ´)ノえーい、もう一品たのんだれー。

 

 
子ウサギの唐揚げ(¥580)。

ウサギを食うのは超久し振りだ。
東京でまだ役者をやっていた時代、先輩とよく高円寺だっけ中野だっけ?どっちかのビストロによく行ってた。そこはわりかしジビエのメニューもあってウサギもよく食べた。ウサギの肉は鶏肉っぽくて、あまりクセがないから食べやすいのだ。

出てきた料理は思っていたのと違うものだった。
もっとシンプルな普通の唐揚げを想像していたのに、何か洒落たソースが掛かっている。おそらくバルサミコソース辺りだろう。こういうカッコつけたのって全然望んでないんだよなあ…。味を誤魔化しているとしか思えん。

食べてみる。
やっぱバルサミコだ。甘酸っぱい。噛むと最初は鶏肉だが、最後にケダモノ臭が鼻から抜ける。サイテーだ。バルサミコソースを掛けたくなるのも頷けるわ。でも、臭みが誤魔化せてないから意味ないけどね。

(´д`|||)ひょげ~。連続惨敗にガックリだ。と同時に急に激しい満腹感が甦ってきた。腹、パンパンじゃよ。
もう、これ以上食べれましぇーん(ToT)

 
                   つづく

 
追伸
次回、最終回。

 
(註1)百日鶏
後に調べてみたら、「播州百日鶏」というのが正式名らしい。えっ、姫路でつくってんの?と思ったが、産地は兵庫県多可町加美地区らしい。飼育期間は思ってたとおり約百日間だった。
肉質は繊維が細やかで口当たりがよく、肉の締まりがあって歯ごたえも十分。甘みもあるという。機会があれば、今度は皮じゃなくて肉そのものを食ってやろう。

 

あおはる1day trip その弐(後編)

 

『お城とおでんとお菊さん』後編

 
晩飯に何を食うかは、彦根から姫路へと向かう電車の中で既に決めていた。
姫路といえば、今や「姫路おでん」である。それを食う為もあって、彦根からここまで青春18切符で大返してやって来たのだ。
姫路おでんは、以前は関西でもあまり知られていないローカルフードだった。しかし、数年前にTVで紹介されてから脚光を浴び、今やメジャーな食いもんにのし上がってきている。
でも実を言うと、姫路おでんって食ったことないんだよねー。12、3年前に当時のオネーチャンと来た時はまだ姫路おでんなんてもんは全然有名じゃなかったんである。あの時って、いったい何食ったんだろ❓
懸命に考えたみたけど、全然思い出せないや。夏場だったから、おでんなんて絶対食ってないことは確かだ。夏場におでんなんぞ食いたいとホザいたら、彼女にシバかれとるわ。シバかれとったら、いくら健忘症のニワトリおつむのオイラでも覚えているだろう。

帰り道は一本隣の小溝筋の商店街を通った。
TVで見た日本酒の酒造会社が経営している老舗おでん屋というのを探す。しかし、困ったことに店の名前を覚えていない。それでも何とかなるだろうと思ったのだが、どうもそれらしき店が見つからない。仕方がないので、もう1回観光案内所へ行く。そこで訊くのが一番の早道じゃろう。

行くと、受付の若い女性にパンフレットを渡された。

 

 
おでん屋のガイドマップだ。
こんなもん、あったのね。

でも開いてみたら、思ってた以上におでん屋だらけだ。

 

 
(# ̄З ̄)ちっ、裏にまである。

 

 
こりゃ、ワカランわと思って、その若い女性に訊いてみた。

『あのう…、この中でお姉さんのお薦めの店はどこですか❓もしくは一番有名な店はどこです❓あっ、一番老舗の店でもいいです。』
だが、何だか反応が鈍い。
ならばと間髪入れずに『酒造会社がやってる昔からあるおでん屋さんって、どれですかね❓』と訊いてみた。
そこで、漸くその女性が口を開いた。
『そういうことは、一切お答えできません(-_-)』
冷たい声でピシャリと言われた。
(;゜0゜)唖然とする。
言ってることは理解できる。観光案内所の人間が、どこか特定の店に肩入れして紹介するのは不公平だからと云う事たろう。誠にもって正しい意見ではある。
それに人にはそれぞれ好みというものがある。お薦めした店が万人に合うワケではないだろう。あとで、「不味かったやんけ、ボケー(#`皿´)」とも言われかねないのである。
でもさあ、他の場所の観光案内所では結構親身になって色々教えてくれたぞ。
例えば長野県上田市の観光案内所では、旨いそば屋を教えてくれませんか❓と尋ねたら、特にここが美味しい、お薦めだとは言わなかったけれど、ここが昔から有名な老舗店ですとか、ここがいつも行列ができてますとか、ここが有名観光地に近くて便利ですとか、ここが一番コスパがいいですとかとは言ってくれた。つまり特定のオススメは決して言わずに、ちゃんと広く情報は流してくれたのだった。あとは観光客がそこから好きなところを選べばいいのである。これならクレームが出ることもないだろう。賢いですな。

ワタクシの質問一つめと二つめの、お薦めの店はどこですか❓と一番有名な店はどこですか❓は、その若い女性の答えでもいいだろう。なぜなら、多分に個人的意見が入る余地があり、また答えは一つと限定できないからだ。
しかし、一番老舗の店はどこですか❓という質問は、その若い女性当人がちゃんと勉強していれば答えられた筈だ。貴方の好みを訊いているワケではないからだ。単に事実を訊いているだけだ。お薦めを訊いているワケではないのである。二度言うが、それならば、答えられた筈だ。
次の、酒造会社がやってる昔からあるおでん屋さんってのも、彼女の好みやお薦めを訊いているワケではない。もし知っていれば、事実を答えればいいだけのことだ。だが、答えられないと云うのは、どうせ勉強不足で知らないだけなのだろう。
ようは言い方である。上田市の対応がヒントにはなろう。そもそも観光案内所の仕事は接客業である。お客様に情報と云う価値あるサービスを提供してこそ、何ぼのもんなのである。そこには官も民も関係ない。たとえ市というお役所の運営だったとしてもである。
ハッキリ言う。彼女の答え方は全てのお店を公平に扱っていますという一見正当な理由の傘(笠)に甘えた、単なる怠慢行為に過ぎない。もし観光客に対して親身になって相談を聞いているならば、その紋切り型の答えはありえないだろう。
ワテは優れているから(笑)、何とでも解決策を見つけられるからいい様なものの、普通の観光客ならば困惑するだろう。己の力で探せってか❓だったら、パンフレットだけ置いとけや。アンタは、いらん。
(-“”-;)あっ、大人げなく怒ってしまったよ。
スマン、スマン。まだ若いからそれも仕方がないよね。是非この先経験を積んで、いい応対をして下さいな。キミなら、きっと出来るよ。大丈夫d=(^o^)=b

ここまで書いて、そこまで怒ることないじゃん、そんなのネットで調べればいい事じゃんか❓と疑問を持たれた方もいるだろう。おっしゃるとおーりである。
出来ることなら、ワシもそうしたかったとよ。でもスマホが古いのでバッテリーがバカになりかけてて、直ぐに電池が無くなるのだ。だから今日もずっと機内モードにしているのだが、それでも電池が無くなりかけていたのである。もし、ここで機内モードを解除してネット検索したら、迷惑メールがてんこ盛りでやって来て、あっという間に電池切れになることは明白である。そうなったら、姫路おでんの写真が撮れんのじゃよ、もしー。だから観光案内所に頼るしかなかったというワケなのさ。
何かここ書いてたら再び沸々と怒りが湧いてきたわ。

まあいい。怒ったところで問題が解決するワケではない。流そう。そんな事に拘ってても疲れるだけだ。
もうこうなったら自分で探すしかない。おでんガイドマップをガン見する。

丹念に見ていくと、それらしき記述のある店が見つかった。
店の名はどうやら『酒饌亭 灘菊 かっぱ』と云う店のようだ。言われてみれば聞いたことがあるような気もする。
紹介文にはこうあった。
「酒蔵が経営する”姫路おでん”の老舗。姫路駅前でカウンターと太鼓のイスで50年余。大串おでん。”SAKE”一合徳利瓶が名物。

【おでんダネの特徴】
旬の素材・地元の食材を一つ一つ丁寧に仕込んで、こんぶ、かつを、地酒を使った伝承の出汁で煮込みます。

ここまで書いてあるんだったら、教えてくれてもいいやんか❗やっぱあのアマぁ(#`皿´)、知らなかっただけか単に性格が悪いだけだ。地獄に落ちろや、ドブスめがっ❗❗
どーどーどー。幸い見つかったから良いではないか。そう怒る事はない。怒ると体によくないあるよ。

想像はしてたけど、やっぱ店は駅から近かった。
歩いて5分とかからなかった。

 

 
如何にも大衆的な感じがいいねぇ。
最近はお洒落な店よりもぐでんぐでんの酔っ払いのオヤジが好きそうな店に惹かれる。何やらそっちの方が落ち着くのだ。ようするに自分もオジサンになっちったと云うことなのね。

 

 
店舗の上がセクシー系の店なのに、ちょい笑う。
老舗感、大幅減やんか(^○^)

 

 
店内はこんな感じ。悪くない。
昭和33年創業というから、もう60年も続いてるって事か。ならば、それなりに期待が持てそうだ。

明るい声のオバチャンに煙草を吸う人用の壁際のカウンター席に座るよう促される。狭い店なんだから、どこだっていっしょだろうにと思うが、便宜上色々あるんだろね。酒飲むのにも面倒くさい世の中になってきたなあ。何かとコンプライアンスで、どんどんツマンナイ世の中になっていってる。まるで何かの寓話みたいだ。5年後、コンプライアンス人間は、みんな原因不明の奇病にかかって口がきけなくなるのさ。

そんな事よりも、先ずはビールである。

  

 
そういえば、今日初めてのビールだ。電車に乗る前に売店で買ったろかいと思ったが、まだおバカになるには早いと思って自重したんだったワ。コンプライアンス的にぃ~。

(≧∀≦)ぷしゅー。
あるこほるが、瞬時に全身の血管の隅々にまで運ばれてゆく。堪んないね。

落ち着いたところで、さてさて問題は何を頼むかだが、先ずは何をおいても姫路おでんである。
ここで姫路おでんとは何ぞやと申しますると、どうやら生姜醤油で食べるおでんのことを「姫路おでん」と呼ぶらしい。姫路には関東煮と呼ばれる濃い味付けのおでんと関西風の薄味のおでんの二種類が存在するが、出汁のベースには全く関係がなくて、生姜醤油で食べるかどうかが姫路おでんか否かの大きな決め手となるらしい。つまり生姜醤油で食べるおでんは全て「姫路おでん」ってワケ。おおらかだけど、ざっくりでんなあ。
姫路を中心に加古川~相生辺りの地域に限定されるもので、2006年に町おこしを考えるグループがその食べ方を「姫路おでん」と名付けたことが始まりのようだ。

ふぅ~ん(´・ω・`)
でもさあ、それって帰りにコンビニでおでん買ってさあ、家で自分で生姜醤油を作って、おでんにソレつけて食べたら「姫路おでん」ってことかあ❓
気せずも根元的な問題に触れてしまう。
そう考えると、果して姫路で今おでん食う意味あんのかえ❓という疑問が俄(にわか)に首をもたげてくる。けんど、強引にシャットアウト。こういう事に徒(いたずら)に疑問を持ってはならない。たとえそうであったとしても、先ずは本場の姫路おでんを食わなければ、姫路おでんの何たるかを己の中に規定できないじゃないか。基準無きものについては論じられないのである。だいち、それでは彦根から此所まで苦労してやって来た意味が瓦解してしまう。o(T□T)o意味ないじゃーん。
ワタシは姫路城を見る事と姫路おでんを食うことを目的に遠路はるばる此所までやって来たのだ。しかと、己にそう言い聞かす。

早速メニューを見る。あった、あった。コレだ。

 

 
TV放送での記憶だと、この店は赤おでんと白おでんってのがあって、それが名物のようだ。コヤツが多分それだね。
ふむふむ。どうやら大串セットというのお得のようだ。取り敢えず姫路おでんの定番そうな赤おでんのセット(¥540)の方をたのむ。

 

 
見た目のルックスが、まるで漫画の中の🍢おでんだ。
赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』のチビ太がいつも手に持ってたのが、この形のおでんだね。それがやがて漫画の世界での典型的なおでんの形となっていったのである。

 
【チビ太】
(出典『越谷秘宝館』)

 
でも実際には、こんな形のおでんは見たことがない。あれはあくまでも象徴としてのおでんであって、この世には存在しないものだとばかり思っていた(註1)。それが今、現実的に目の前にある事に半分カンドーして、半分笑ってしまう。冗談かよ…。確信犯だったら、尊敬するわ。

具は上からスジ肉、玉子、厚揚げ、コンニャク、ごぼ天である。よく見ると、玉子も含めて全部小振りである。チビ太の事を考えての配慮かな。それとも赤塚先生へのオマージュ❓

カウンター周りで生姜醤油を探したが、あれっ?無い。どうやら生姜醤油は既にかかっているようである。この店では、そういうスタイルらしい。
でも自分でおでんを生姜醤油にジャバッとつけて、ヤアと食べるという、既成の概念を打ち破る勇気の瞬間が楽しみたかったなあ…。とはいえ、店にはそれぞれのスタイルというものがある。ましてや、60年もの歴史がある店だ。まあ、そこは致し方なかろう。

取り敢えず左手を腰にあて、チビ太の如くおでん串を右手に掲げ、直立不動で清く正しく食ってみる。コチラも赤塚先生へのオマージュだ。何だかバガバカしくって楽しい。

味はねぇ。よく味が具材にしゅんでる。ちょっと濃いかなと思ったが旨い。
でも破壊的な旨さではない。想像の範囲内だ。普通ちゃ、普通なのだ。因みに、生姜の味は思ったほどしなかった。

ふと、思い出した。以前も書いたことがあるような気がするけど、昔、ショットBarをやっていた頃のお客さんに「おでん」というニックネームの女の子がいた。アダ名はオラがつけた。客の名前が憶えられないニワトリ頭だからだ。とはいえ、言い訳させて戴ければ、当時はいっぱい客がいたから、そうでもしないと憶えられなかったのである。無い知恵の自分なりの苦肉の策だったのだ。
たしか彼女には「おでん」も含めて4つくらいのアダ名候補があった。でも候補といってもアッシが全部考えたもので、他の3つはそれはもう最低の酷いネーミングだったと思う。何でこんな手の込んだ事をしたのかというと、ニックネームをどうしても「おでん」にしたかったのである。
で、この4つの中から彼女に自分で選ばせた。答えは自ずと決まってくる。だって他の3つはサイテーなんだもん。
勿論、そこへ持ってゆくのに、別な布石も打っていた。
『おでんちゅーもんはなあ、万人に愛されとる庶民的な食いもんやないか。おまえの飾らないでいて、みんなに愛されそうな雰囲気にピッタリやないか。おでん、ええと思うでぇ。大丈夫。おでんそのものやなくて、ちゃんも付けたるやん。』とか何とか言いくるめるトークはそのものではない前にはしていたのだ。でも、ついぞ最後まで呼び捨てで、「ちゃん」をつけることは一度たりともなかった。酷い男である。

その「おでん」とは、一度だけ二人で飯を食いに行ったことがある。場所はお洒落系屋台の寿司屋だったと思う。
彼女は可愛いし、オッパイもデカイし、素直な性格の娘だったけど、話は全然弾まなかった。
何だかツマンナかったのである。別に彼女に魅力が無かったワケではない。単にフィーリングが合わなかったのだ。素直なだけで、個性を感じられなかったのである。そういうものは30分も話せばわかることだ。多分、少し変わった女が好きなのかもしれない。ロクでもない相手だとしても、相性が合えば惹かれあってしまうのが恋だとかいうものなのだ。

ひとしきりのモノローグが終えたところで、次は白の方を頼むことにする。
でも酒粕を使っているらしく甘い可能性がある。左党は甘いものは好まない。それにセットだと具は赤おでんと全く同じラインナップのようだ。飽き性の自分が、それに飽きないワケがない。
値段的には損だが、ならばと単品で白のスジ肉(¥250)を頼むことにした。

 

 
酒粕の良い香りがする。自分ところの酒蔵の酒粕だろうから期待は持てそうだ。当然ここは酒粕に絶対合うであろう日本酒を頼むことにした。

 

 
『本醸造なだぎく』。
意外なほどに辛口で、思ってた以上に旨い。

食ってみる。
濃厚だ。酒の味がスゴくする。甘いが、それほど気にならない。でも、そんなに幾つも食えないだろう。単品にしといて正解だ。

すかさず日本酒を飲む。合うねぇ。
あっ、閃いた。ここは一味をかけて、もっと酒との相性を良くしよう。

 

 
うん、いいね。正解だ。

店に来てから、ずっと懐かしい歌謡曲が流れている。
最初に耳に入ってきたのは町田義人の『戦士の休息』だった。🎵男はだ~れも皆 孤独な兵士~ 笑えて死ねる人生~ それさえあればい~い
懐かしい。映画『野性の証明』のテーマ曲だったよね。
次は小椋佳の『さらば青春』。あれっ❓『さらば青春の時』かな❓どっちだっけ❓とにかく、🎵僕は~ 呼び掛けはしな~い 遠く過ぎさるもの~に 僕は~ 呼び掛けはしな~い 傍らをゆくものさえ~ って方だ。
3曲目は尾崎豊の『15の夜』。これは誰でも知っているだろう。🎵盗んだバイクを…ってやつね。
4曲目はキャンディーズの『ハートのエースが出てこない』。言わずと知れた名曲だ。何かよくワカランがとても嬉しくなってきた。やっぱ、昭和の時代は良かったよ。

もう一品くらい頼もうかと思った。でもおでんはもういいや。とすれぱ、姫路名物だそうだが今まで聞いた事もない『ひねぽん』辺りを頼もうか…。ひねぽんのひねは卵を産まなくなった雌鶏(ひね鶏)の事で、ぽんはポン酢の事のようだ。
でもなあ…、ようはメスの親鳥の肉をポン酢で和えたものだろ❓味の想像はだいたいつく。無理して食べるほどのものでもないだろう。それにこれ以上食ったら、次の店で何も入らなくなるかもしれん。ここは思い切って移動することにした。
5曲目のザザンの『チャコの海岸物語』が終わったところで店を出た。さらば、昭和のノスタルジィー。

駅へと向かう。

 

 
既に陽は落ち、黄昏れ時になっていた。
路上ライブの歌声がビルに反響して谺する。
昼間の暑さが嘘のように涼しい。
風が渡ってゆく。何だか、ほっこりする。
そういえば、もう9月も10日なのだ。
秋の気配を感じた。

 
                    つづく

 
追伸
書き出すと言葉が溢れて、サクサク書けない。
理想は昔に書いた『西へ西へ、南へ南へ』の初回と最終回かな。本当はソリッドな文章を書きたいのだ。
次回、最終回。といっても予定としておこう。

 
(註1)この世には存在しないものだと思っていた
赤塚先生の串おでんのモチーフになった店があるようだ。チビ太のおでんは、公式には上からコンニャク、ガンモ、ナルトで、だしは関西風と設定されているが、この店の当時の具は「はんぺん」「揚げボール」「ナルト」だったという。
因みに、コンビニの「サークルKサンクス」が一時期「チビ太のおでん」と称して、この串に刺したおでんを販売していたようだ。
 

あおはる1day trip その弐(前編)

 

『お城とおでんとお菊さん』前編

 
2時50分前に彦根駅に着いた。
長浜・敦賀方面に行くか、それとも醒ヶ井・岐阜方面へ行くかは中に入ってから気分で決めよう。青春18切符なら、どっちへ行こうが自由だ。
あっ、でも考えてみれば、別に彦根で決めなくともいいや。そっち方面に行くならば、乗り換える米原まで行ってからでもまだ変更は可能だ。ひと駅だが都会と違って駅間は長い。それだけあれば考える時間には充分だろう。

 

 
でもこの電光掲示板を見て考えを変えた。
そうだ、姫路へ行こっ\(^o^)/
久し振りに姫路城を見るのだ。そういえば大かがりな改修工事が終えてからの姫路城をまだ見ていない。
おーし、テーマは決まった。本日は城攻めじゃあ~❗彦根城に続き天下の名城 姫路城をも攻め落とすのじゃ❗
ここで、だったら長浜城に行けばいいじゃんと訝る向きもおられよう。だが、悪いがあんなものは城とは言わん❗
なぜならば、現在の天守は30年か40年前に犬山城や伏見城をモデルとして模擬復元されたものなのだ。豊臣秀吉が最初に手にした歴史的由緒ある城ではあるが、でっかい模型には用がないのじゃ❗

それにしても、この新快速というのはスゴいな。始発は米原だろうから、そこから姫路まで乗り換え無しで一発で行けちゃうんだもんな。米原から姫路って相当離れてるぞ。しかも停まる駅はかなり少ないから、特急とかに乗ってるのと変わらん。あの長野や岐阜のクソ遅い、しかも滅多に来ない電車と比べたら、考えられんくらいに素晴らしい存在だ。長野や岐阜の人には申し訳ないけど、都会に生まれ育ったことにつくづく感謝するよ。移動においての時短を都会人の方が圧倒的に享受してるってことだ。ここで田舎と高齢者ドライバーについての話に怒濤の如く入ってゆきそうになるが、やめておこう。長くなるし、それについてはまた別で話す機会もあろう。

それにしても、今度は姫路とは大返しもいいところだ。完全に導線を無視している。しかし予定は未定であって、しばしば変更なのだ。それが旅の醍醐味ってもんだ。スケジュール有りきの旅行とは、そこが決定的に違う。旅と旅行とは似て非なるものなのだ。この話も語り始めたら長くなるので、やめておこう。電車だけに今回は脱線はあきまへん(笑)
しまった、おやじギャグがつい浮かんでしまった。止せばいいのに浮かんだら言ってしまうのがオヤジなのさ。誰にも止められやしない超特急\(^o^)/
あっ、またやっちまった。( ̄∇ ̄*)ゞ失礼しやしたー。

長野みたいにクーラーがたる~い温度ではなく、キンキンに冷えてて快適だったので、車内でいつの間にか爆睡。気がつけば大阪の高槻付近だった。

大阪駅で時間を確認したら、米原から所要時間約1時間15分だった。歩いたら、何日かかんねんである。昔の人は大変だったねー。でも道中は昔の人の方が楽しかったかもなあ…。効率化が進むことが、イコール幸せではない。

尼崎で、一瞬またしても予定を変更しそうになった。乗り換えて、宝塚で有名な玉子サンド食って、それから更に奥の丹波とか篠山まで行ったろかいと思ったのである。だが、何とか踏み堪えた。帰りのことを考えれば、早いし、電車の本数もある東海道線(山陽本線)の方が選択肢は広まる。

明石駅で又しても誘惑に駆られる。
明石で寿司食って、明石焼きでフィナーレなんてのも有りだ。城だって天守閣こそ無いが、明石城跡ってのがある。でもなあ、明石は今年の初夏に行ったし、行くにしても姫路の後だろう。

 

 
4時15分くらいに姫路駅に到着した。彦根から2時間ちょっととは恐れ入る。恐るべし新快速。

ホームを歩いてて、思い出した。

 

 
そういや姫路といえば「えきそば」である。
日本一の立ち食いそば屋と称されることもある名店だ。久し振りに食べたくなってきた。まだお腹は空いてないのに、誘(いざな)われるようにふらふらと券売機の前へ行き、食券を買い、中へと入る。

 

 
中は典型的な立ち食いそば屋である。
狭い店内はサラリーマンとおぼしきオジサンや近所のオバサンっぽい人、若い兄ちゃんでゴッタ返している。残念ながらピチピチの女子高生はいない。

セルフで水を入れ、食券を厨房内のオジサンに渡したら、何と4秒で出てきた。(゜д゜)どんだけ早いねん。驚き、半笑いになる。えきそば、恐るべし。

 

 
きつねと迷ったが、えきそばといえば天ぷらそばである。こういう場合は王道を外してはならない。経験上、変化球的なものを頼むと失敗する確率が高いと知っているのだ。

ここで、姫路名物「えきそば」を知らない人もいると思われるので、軽くレクチャーしておこう。
簡単に言うと、和風だしにかんすい入りの中華麺という、有りそうで無い禁断の組み合わせの立ち食いそばなのだ。

先ずは軽く汁をすする。
間違いない。ちょっと甘めの和風だしである。万人受けする優しい味だ。人気の秘密はその辺にもあるのだろう。
続いて麺をすする。これまた間違いない、紛れもなく中華麺だ。これがミスマッチかと思いきや、違和感をさほど感じない。全然イケてるのである。
七味を軽く振り、お次は天ぷらを少し囓じってから麺をすする。
この天ぷらがいい。豪華なものではないが、だし汁や麺にモノごっつ合うのである。食べ進めるうちに天ぷらの油が汁に溶け、味が僅かづつ変化してゆくのもいい。

旨かったっす。でも麺類って、けっこう腹に溜まる。
昼飯を食べ過ぎたかもしんない。調子乗って、そば湯を飲み過ぎたのも効いてる。

改札を出て、観光案内所へ行く。
地図を貰うためだ。そこで姫路城までの所要時間を尋ねたら、オバサンにもう姫路城は4時に閉まりましたよと言われる。そんなに早かったっけ❓
でも、そんな事に動じるワタシではない。姫路には来たことがあるから知っている。姫路城は城内に入らずとも城の姿はよく見えるのだ。それに元より入るつもりもなかった。中は知ってるし、見学してる時間が勿体ないと思っていたからだ。

駅正面に出ると、大通りの奥に姫路城が見えた。

 

 
スマホの画像だから小さくしか写っていないけど、肉眼だと、もっと近くにハッキリと見える。姫路城はデカイのだ。

大通りを避け、みゆき通り商店街を北に向かって歩く。先程えきそばを食ったばかりだけど、晩飯を食う場所を物色しながら姫路城を目指そうというワケだ。

城は近くに見えたけど、案外遠い。15分程かかって漸く門に辿り着く。

 

 
大手門をくぐり左に曲がると、直ぐ正面に城が見えた。

 

 
彦根城とは違い、スケールがデカイ。幾つかの天守が組合わされたその姿は勇壮だ。
しかし、威圧感はない。白鷺城とも言われるだけあって、白くて優美なのだ。さすがは世界遺産。コレこそがキャッスルと呼びたくなる。ヨーロッパの名だたる城にも全然負けてない。
でも、惜しむらくは改修工事が完全には終わっていないことだ。手前の櫓がまだ工事中のようである。

先ずは正面左へと回る。

 

 
こっちに城内への入口がある。
思い出した。ここから城を眺めながら近づいてゆくアプローチは素晴らしいの一言に尽きる。早めに来てたら、やっぱ入城してただろう。もし、姫路城に行く機会があったのなら、中にも入ることを強くお薦めする。金を払って入る価値は十二分にある。

姫路城の天守は、江戸時代のままの姿で現在まで残っている12の天守の一つで、その中でも最大の規模を誇っている。世界遺産だけでなく、もちろん国宝である。

今度は右手に回る。

 

 
コチラの方が外から城に近づける。
それにしてもデカイ。高さは石垣が14.85m、大天守が31.5mなので、合計すると約45mにもなる。
見上げる城の、この圧倒的存在感に心を動かされない者などいないだろう。スマホで撮った写真ではそれが全然伝わらなさそうなのがもどかしい。実際はデーン❗と感じで城がダイナミックに迫ってくるのだ。

 

 
傾きかけた陽が、雲に映えて美しい。シルエットの姫路城も悪かない。
気がつけば、辺りには誰もいなくなっていた。暫く静かに城と対峙する。次第に心がゆるりとほどけてゆくのがわかる。わざわざ姫路まで来て良かったよ。

城を出て、広場で煙草を吸う。
そこにレリーフというか説明書きみたいなものがあった。

 

 
揚羽蝶の家紋は我が家系のものでもある。自然と目がいく。
そういや姫路城の城主といえば池田輝政と云うことを失念していたよ。その池田家の家紋がアゲハチョウなのである。姫路城は関ヶ原の戦いの後に城主となった輝政によって今日見られるような大規模な城郭へと拡張されたんだったね。
ところで、小さい頃から揚羽の家紋は平家の流れだと聞かされてきたけど、あれってホントかね?(註1)

その横に、もう一つ説明書きがあった。

 

 
ジャコウアゲハが姫路市の市蝶なんだそうな。
それは知らなかったが、姫路城とジャコウアゲハの話は聞いたことがある。
説明書きを原文そのままに書き移そう。

「姫路城の城主、池田輝政の家紋が揚羽蝶であることや、この蝶の蛹が姫路地方に伝わる幽霊伝説の”お菊”に似ており”お菊虫”と呼ばれていることから麝香揚羽が市の蝶に指定された。」

「”」の使い方に違和感があるが、まあいいだろう。これ以上ゴチャゴチャ言うのは時間の無駄だ。そんな事よりも、この文だけでは説明不充分なので補足しておこう。
ジャコウアゲハが「お菊虫」と言われるのには、もっと深いワケがある。有名な怪談の皿屋敷(さらやしき)が関係しており、ひいては話は東海道四谷怪談にも通ずるのだ。少し長くなりそうだが、出来るだけかいつまんで説明しよう。

怪談 皿屋敷とは、数多くの異聞がある怪談話の総称である。お菊の亡霊が井戸で夜な夜な「いちま~い、にま~い… 」と皿を数えるアレである。で、特に有名なのが、播州姫路が舞台の『播州皿屋敷』と江戸は番町が舞台の『番町皿屋敷』。この二つがよく知られており、映画や歌舞伎、浄瑠璃、文学等々多くの原作になっている。
実際あった話が下敷きとされ、播州もの『播州皿屋敷実録』では戦国時代の出来事だとされるが、史実としてそこまでは遡れないようだ。

異説はあるが、物語の内容は大体こうだ。
『姫路城第九代城主 小寺則職の代(永正16年(1519年)~)、家臣であり城代の要職に就く青山鉄山が主家の乗っ取りを企てていた。これを忠臣 衣笠元信が察知、自分の妾だったお菊という女性を鉄山の家の女中として送り込み、鉄山の謀略を探らせた。そして、元信は鉄山が増位山の花見の席で主家を毒殺しようとしていることを突き止める。元信は花見の席に切り込んで則職を救出、家島に隠れさせる。
乗っ取りに失敗した鉄山は家中に密告者がいたと睨み、家来の町坪弾四郎にその者を探すよう命じた。程なく弾四郎は密告者がお菊であったことを突き止める。以前からお菊に惚れていた弾四郎はこれを好機としてお菊を脅し、妾になれと言い寄る。だが、お菊に拒まれてしまう。それを逆恨みした弾四郎は、お菊が管理を任されていた10枚揃わないと意味のない家宝の毒消しの皿「こもがえの具足皿」のうちの一枚をわざと隠す。そして皿が紛失した責任をお菊になし付ける。お菊は縄で後ろ手に縛られ、松(柳という説も有り)の木に吊るされて激しく折檻される。そして、ついには責め殺されて古井戸に捨てられた。以来、その井戸から夜な夜なお菊が皿を数える声が聞こえたという。
その後、元信らによって鉄山一味は討たれ、姫路城は無事に則職の元に返った。
後に則職はお菊の事を聞き及び、その死を哀れんで姫路城の南西に位置する十二所神社の中に「お菊大明神」として祀ったと言い伝えられている。』

 
【伊藤晴雨「番町皿屋敷」】
(出展『東京銀座ぎゃらりぃ秋華洞』)

 
因みに、この時にお菊が投げ込まれたとされる井戸が「お菊井戸」として現在も姫路城内に存在する。この井戸がいつから存在するのかはハッキリしない。
城外との秘密の連絡経路になっていたため、誰も近づかないように怪談の噂を広めたという説もあるようだが、これも定かではないようだ。過去に本格的な調査をしようとしたこともあったようだが、不気味な空気が流れて中止したという記録があるともいう。
Σ( ̄ロ ̄lll)ゾゾゾッ。

それから約三百年経った寛政7年(1795年)、城下に奇妙な形をした虫が大量発生した。これがまさしく赤い口紅をつけた「お菊さん」が後ろ手に縛られた姿に似ていた。そのことから、お菊さんの祟りだと大騒ぎになった。人々はお菊さんがその身を虫の姿に変えて帰ってきたのだと思ったのである。それ以来、その虫のことを「お菊虫」と呼ぶようになったという。
新たな「お菊伝説」の誕生である。

今では、この虫はジャコウアゲハの蛹ではないかと考えられている。
暁鐘成の『雲錦随筆』では、お菊虫が「まさしく女が後手にくくりつけられたる形態なり」と形容し、その正体は「蛹(よう」であるとし、さらには精緻な挿絵も添えられていたからだ。

 
【ジャコウアゲハの蛹】
(出展『じいさんの日記』)

(出展『あまけろの尼崎ネタ』)

(出展『大阪市とその周辺の蝶』)

 
お菊さんが後ろ手に縛られ、拷問の痛みに体をよじっているようにも見える。色が肌色というのも人間っぽくて、妙に艶かしい。蠱惑的でさえある。縛られて折檻される女性の姿には、倒錯の美がある。エロチックなのだ。何かもう、この蛹が情念の塊みたいに見えてきたよ。

続いて、斜め横から。

 
(出展『昆虫漂流記』)

 
言われてみれば、確かに頭部のオレンジ色の紋が口紅に見えてくる。或いは痛みに堪えかねて、強く唇を噛んで血に染まった様に見えなくもない。

そして、正面からの画。

 
(出展『大阪市とその周辺の蝶』)

 
段々、形が女性の凹凸のある体に見えてくるから不思議である。
この異形とも言えるフォルムもさることながら、日本ではこういう朱色紋が入るアゲハの蛹はない。庭木のミカンやカラタチ、サンショウなどにつく、当時見慣れたであろう他のアゲハチョウたちの蛹とは見た目が明らかに違う。見慣れない蛹だけに、見た人にはインパクト大だ。そういうところも背景としてお菊さんになぞらえやすかったのだろう。もしこれら全部をひっくるめて、この虫は「お菊さん」みたいだと他人に話せば、刷り込まれて誰もがそう見えてくるだろう。そうなると伝播は早い。そして、その見慣れぬものが大発生したとあらば、伝播は爆発的に広がる。因みに、ジャコウアゲハは蛹化時に食草から離れ、壁などの人工物で蛹になることが多い。だから必然、とっても目立つことを付け加えておこう。そんなのが壁一面にバアーッとくっ付いていたとしたら、もうそれは怨念の世界だよね。

以上のような因縁があった事から、ジャコウアゲハが姫路市の市蝶に指定されたようだ。
市には「ジャコウアゲハが飛び交う姫路連絡協議会」なる組織があり、その中には「ジャコウアゲハ倶楽部」と云う市民活動の会もあり、ジャコウアゲハサミットやスケッチ大会、フォトコンテストなどのイヴェントも開催されているようだ。

ついでだから、より理解を深めてもらうためにジャコウアゲハのことをもう少し詳しく説明しておこう。

 
【Byasa alcinous 麝香揚羽(ジャコウアゲハ)♀】

 
春から夏にかけて現れ、年3~4回発生する。成虫は午前8時頃から午後5時頃まで活動する。
決して珍しくはないが、何処にでもいてそうで意外と何処にでもいない蝶である。
分布は石垣島・沖縄地方から本州北部と広い。沖縄地方では離島間で特化が進み、各亜種に分類される。

(裏面)
(三点とも 2018.4.22 大阪市淀川河川敷)

 
画像は何れも♀である。
メスは明るい褐色なのに対し、オスは黒色でビロードのような光沢がある。
♂の画像は撮っていないので、他からお借りしよう。

 
(出展『しょうちゃんの雑記蝶』)

 
これは赤紋が発達する八重山諸島の亜種(ssp.bradanus)のようだ。

 
(裏面)
(出展『蝶一日』)

 
ジャコウアゲハの名前は、オスが腹端から麝香のような匂いを発することに由来する。成分はフェニルアセトアルデヒドで、香りは「蜂蜜のよう」「甘い」「バラの香り」「ヒヤシンスの香り」「みずみずしい」「草の香り」などと表現される。ジャコウはん、どこまで妖艶要素そろえとんねん(°Д°)

蛹だけでなく、蝶になった成虫の姿もエロチックだ。
頭や体の横側に赤色が配され、毒々しくも妖艶である。赤はお菊さんの怒りを具現化した紅蓮の🔥炎だ。騒動の時に、蛹からこの蝶が一斉に羽化して舞ったのなら、当時の人々は更に驚いて、それこそ黄泉の国から甦った「お菊さん」の化身と思ったやもしれない。その光景はちょっとした幻想夢物語だ。

飛翔はゆるやかで、飛ぶ様は中々に優雅である。そういえば「山女郎」という別名もあったな。女郎とはこれまた妖艶ではないか。女郎に身をやつした「お菊さん」なのだ。どこまでも不幸だねぇ~。
でもそれだけではない。その優雅な飛び方にも理由があって、それが更なる妖艶さを一層際立たせている。
幼虫の餌となる植物はウマノスズクサといい、この草には毒がある。幼虫はその毒を体内に溜め込み、鳥などの天敵から身を守っていると言われている。成虫になってもその毒を体内に持ち続ける事から、やはり鳥に忌避されて襲われない。飛翔がゆるやかなのは、敵に襲われないがゆえの余裕のよっちゃんなのだ。エロティシズムだだ漏れの美しき毒婦には、誰も近づけないのさ。

 
城を振り返る。
目を閉じると、姫路城とその城下を無数の麝香揚羽が飛び交っている光景が浮かんだ。やがて、蝶たちはスローモーションになって、ゆっくりと天に舞い上がっていった。

                    つづく

 
追伸
サクサク終わらせるつもりが、皿屋敷とジャコウアゲハの話になって大脱線してしまった。ゆえに前編と後編に分けざるおえなくなったんだよね。「電車なだけに脱線はあきまへん。」なんぞと云うオヤジギャグをカマしておきながらの大脱線とは世話ないよ(笑)。
タイトルが変なのもそのせい。皿屋敷とジャコウアゲハについて詳しく書く予定は無かったので、最初のタイトルは『お城とおでん』だったのだ。そこに「お菊さん」をつけ加えたってワケ。でも、それなら『お城とお菊さんとおでん』とすべきだよね。それはそうなんだけど、何かそれでは音感がよろしくない。と云うワケで、そのままにしておいた。それに、お城に続いてお菊さんとくれば、頭のいい人ならば、はは~ん、皿屋敷とジャコウアゲハの話だなと気づく。それを防ぐというのもあった。たとえ気づいたとしても順番が変なので、少なくとも攪乱することくらいは出来ると考えたのだ。

余談だが、『東海道四谷怪談』のお岩さんと『皿屋敷』のお菊さんは混同されることが多い。だが、お菊さんは顔半面が爛れていないし、お岩さんは皿を数えない。井戸とも関係がない。なのに、その二つがミックスされて記憶されている方も多いだろう。実際、自分もそうだった。
これは昔、『8時だよ、全員集合』などのドリフ(ドリフターズ)のコントで、志村けんが顔面にお岩さんみたいな瘤を付けて、井戸の側で「いちま~い、にま~い…、一枚たりな~い」とやったからだと言われている。
納得である。子供なんだから、そりゃセットで刷り込まれるわな。

 
(註1)揚羽の家紋は平家の流れだと聞かされてきたけど、あれってホントかね?

ホントです。
ことに平清盛の流れをくむ者が蝶の紋を多用したので、後世に蝶が平家の代表紋になったようだ。しかし、その美しさゆえ他の家も多く用いられている。公家の西洞院、平松、交野の諸氏や戦国時代・江戸時代に祖先を平氏と標榜する家は殆んどが家紋を蝶柄としている。また、清和源氏の流れの中川、池田、逸見、窪田の諸氏、宇多源氏の建部、間宮、喜多村の諸氏、他にも藤原氏を流れとする諸家、平氏の子孫と称した織田氏も木瓜紋と共に蝶紋を使用していた。
たぶん本当は平家とは全然関係ない田舎の豪族の末裔や百姓あがりだとしても、先祖は平家だと名乗るのが流行りだったんだろね。ようするに、平家とその家紋は一種のブランドだったのだろう。

 

天鵞絨(びろうど)の葉巻

 
前回(『あおはる1day trip 其の1~お城とデジタル蛾』)で、ビロードハマキについて少し触れた。それで何となく気になったので、ビロードハマキについて調べてみた。ちょっと面白かったので、この蛾のことを書く気になった。

先ずは、その前回の記事からビロードハマキの部分を抜粋してみよう。いや、どうせなら書きなおそう。

 
表御門跡・馬屋の横だった。
木のベンチに座ろうとしたら、その上で何かがピョンと跳んだ。で、ズズズイと動いた。クソ暑過ぎて頭がぼおーっとしてるし、幻覚でも見たかなと一瞬思った。だが、確かに何かが動いたように見えた。ベンチを凝視する。

 

 
(・。・;何だこりゃ❓
3~4センチ程と小さいが、よく見ると其所にはデジタル模様のカラフルなものが場違い的に静止していた。
はて(゜〇゜;)?????…。暫し固まる。
カラフルなウミウシの仲間(註1)にこんなのって、いなかったっけ❓
いや、でも海の中の生物がこんな所にいる筈がない。
そもそもコレって生き物なのかよ❓
誰かが服を釘とかに引っ掻けて、その千切れた切れ端が偶然にベンチに落ちて、それが風に飛んだとか❓
いやいや、そもそもこんな柄の服を着ている奴なんているのか❓ それにこんなド派手な柄の服なんて、そうは売ってないぞ。
じゃあ、てめえは何者なのだ❓
もしや、まさかの矮小型の👽宇宙人ではあるまいな❓ そのうち喋りだすかもしれん。
アホか俺。それこそ幻覚の白昼夢だ。一刻も早く病院に行った方がいい。
でも、何処かで見たことあるような無いような…。何か記憶の奥底にムズムズするものがある。何だっけ❓えーと、コレ何だっけ…❓そのもどかしさに脳ミソが右往左往する。しかし、何らかの答えを出さねばならない。頭の中でカチャカチャ計算が始まる。そして、脳は矢張り見たことがあるぞと認識した。そして、パラパラと記憶の中の映像の海を辿ってゆく。

一拍おいてから、ようやく思い至った。
シナプスが固有名詞とも繋がった。

(;・ω・)コレって、もしかしてビロードハマキじゃなくなくね❓

蛾に見えないけど、コヤツは蛾だ。葉巻みたいな形をしている蛾の仲間をハマキガというのだ。
記憶が次々と数珠繋ぎに溢れ出す。
だとしたら、蝶採りを始めた2009年とかそれくらいの頃に生駒の枚岡で見た時以来、二度目の遭遇だ。
確かオオムラサキを採りに行った時だから、6月か7月だ。何かの葉っぱの上に止まっていた。この派手な色柄だ、否応なく目に入った。そうだ、蛾だと本能的に感じてΣ( ̄ロ ̄lll)キッショ❗と言って飛び退いたのだった。その頃は大の蛾嫌いだったので、全身オゾ気(け)づいたっけ。走ったねー、悪寒。
でも毒々しくはあるものの、美しいといえば美しい。デザインがドットで構成されているのにも斬新さを感じた。気持ちが悪いっちゃ悪いけど、お洒落ちゃお洒落だ。デジタル模様の生き物がこの世に存在するとは想像だにしていなかったので、衝撃的でもあった。そうだ、己の審美眼がどう扱っていいのか判断出来ずに軽い目眩(めまい)を覚えたような記憶があるぞ。

もちろんその時は持ち帰らなかった。当時は蛾を触るどころか、近づく事さえも出来なかったのだ。
でも気になる存在だったので、名前は後で調べたんだと思う。だから、ビロードハマキと云う名前をちゃんと知っているのだろう。

それにしても、改めて見てもインバクトのある蛾だなあ。伊藤若仲の、あのデジタルな画を想起させられるようなデザインだ。

 
【樹花鳥獣図屏風】
(出典『ART LOVER』)

 
この屏風は方眼紙のように細かい四角の集合体から成っている。江戸時代にドットでモザイク画を描くデジタル的発想って、天才若沖ならではだ。微視的であり、巨視的な稀有な作品と言えよう。

ともかく、こんな蛾を世に産まれ落とせし神のデザインセンスには感服せざるおえんよ。

ベンチの上から毒瓶を被せる。
虫屋の性で、目的が虫採りじゃなくとも虫捕り道具一式は持ってたりするのだ。コレは虫捕りという一種のビョーキだ。このビョーキに罹患すると、救いようのないおバカになるのである。少なくとも世間一般的に見れば、およそ理解されない病理じゃろう。

 

 
んっ、どっちが頭なのじゃ❗❓
一瞬ワカンなくなるが、先がオレンジじゃない方が頭だ。思うに、コッチが頭だと鳥が勘違いして啄んだ隙に逃げるのじゃろう。ビロードちゃん、賢いねー(^o^)
それにしても、一般ピーポーからすれば蛾とは思えないような謎の形だ。自分でも本当に蛾なのか自信が無くなってきて、確認のために裏返してみた。

 

 
やっぱ蛾だな。下翅はどんなんだろ?と思っていたけど、鮮やかな橙(だいだい)色だ。表側は確認してないけど、おそらく蛾にしては綺麗なんじゃなかろうか。
蛾ってのは一部を除き、大体においては下翅が汚ない。上翅はそこそこキレイでも、下翅が汚くてガッカリさせられる事が多い。そこが今一つ蛾の世界に踏み入れられない理由かもしれない。

一応、展翅してみたが、蝶とは違い変な形なのでバランスがワカンナイ。
でも、たぶんコレで合ってんじゃないかな❓

 
【Cerace xanthocosma (Diakonoff,1950)】

 
上翅をもっと上げたい衝動に駆られるが、上辺の基点の位置からすると、これが正しいかと思われる。

触角が右片方ないのは残念だけど、まあいいっしょ。蛾はカトカラとヤママユくらいしか集めてないから、特段執着心はない。

たぶん♂だと思う。♀はもっと白斑が発達するようだ。気になる人はネットに画像が沢山あるので、そちらで見てけれ。

ネットで調べたら、漢字だと「天鵞絨葉巻蛾」と書くそうだ。これはビロードの漢字が「天鵞絨」だからだね。皆さん知ってるとは思うけど、ビロードとは織物の一つで、綿、絹、毛などを細かい毛を立てて織ったものだ。なめらかで艶があるのが特徴である。
ビロードはポルトガル語で、英語圏ではこれをベルベットと呼んでいる。似たような生地にベッチンがあるが、これは別物。

ビロードハマキはビロードの布地ほどには羽に艶がないのに、何でビロードなのかな❓
まあ、ノリみたいなもんで名付けたんだろね。きっと単に美しい様を表現したかっただけなのだろう。厳密的にはそぐわないけど、語感がいいから許す。

以下、ネットで調べた事とその感想を書こうと思う。

【分類】
ハマキガ科(Tortricidae)
ハマキガ亜科(Tortricinae)

日本のハマキガ科の中では最大種のようだ。

 
【学名】
Cerace xanthocosma(Diakonoff,1950)

軽く調べてみたが、よくワカンナイ。
唯一、わかるのは小種名の xanthocosma の一部のみ。おそらく前半部はギリシア語の xanthos(黄色の)で、それに他の語を足した造語であろう。

 
【分布】
従来は、本州(関東南部以西)、四国、九州、対馬、屋久島とされてきたが、近年は北上しており、東北地方にまで分布を拡げているようだ。ようするに元々は南方系の蛾なんだね。
平地から山地にかけて見られるが、主に低山地に分布し、照葉樹林帯を好むようだ。
国外では、樺太、中国(東北部~南西部)にも棲息するという。

 
【成虫発生期】
年2化。6~7月と9~10月に見られる。
へぇー、年2化なんだ。想像してなかったよ。つまり初めて見た奴は夏型で、今回見たのは秋型ってワケだね。

 
【開張】
♂34~40㎜ ♀40~59㎜。
♂より♀の方が大きいんだね。また、6~7月に現れる第1化は、第2化より遥かに大型なんだそうな。

 
【変異】
地理的変異は知られていないが、斑紋には比較的顕著な個体変異があるようだ。

 
【生態】
昼行性で、主に午後に活動するが、飛翔は緩やかで、あまり活発でない。夜間に灯火に飛来することもある。

どこかのサイトには歩くと書いてあったから、ズズズ…ズイと動いたのは錯覚ではなかったのね。

 
【幼虫の食餌植物】
ブナ科コナラ属のアラカシ、アカガシ、シラカシなどのカシ類、ツバキ科のヤブツバキ、ツツジ科のアセビ等の常緑樹のほか、カエデ科カエデ類などの落葉樹。
或るサイトでは、第1化の幼虫が常緑樹、第2化の幼虫が落葉樹を食べる傾向があると書かれていたが、別なサイトでは、1化はカエデを、2化はツツジ科のアセビ、ツバキ科のツバキ、ブナ科カシ属のカシ、カエデ科のイロハモミジ、ヤマモモ科のヤマモモ、モクレン科のオガタマノキを食するという記述もあって、よくワカラナイ。意外と本当は季節によって食性なんて変えてなくて、それぞれの個体が、それぞれ勝手に好きなもんを食べてるだけだったりしてね。

越冬態は幼虫で、食樹の葉を数枚綴って簡単な巣を作り、その中に潜むという。

そういえば思い出したけど、初めて会った翌年から、またビロードハマキには会いたいなと心の底のどこかで思っていたふしがある。枚岡なんかでは、今年も見ないなあと時々思ったからね。
もしビロードハマキにまた会ったなら、今度も採ろう。そして、雌雄完璧な展翅標本を作って、蛾ギライな女に送りつけてやろう。

                   おしまい

 
(註1)カラフルなウミウシの仲間
例えば、こんなんと言いたいところだが、セキュリティの問題で「世界のウミウシ」という素晴らしいサイトの画像が使えなかった。世界のウミウシで検索すれば、カラフルなウミウシが沢山出てきます。
ウミウシは多用で面白い。バリエーションが有り過ぎて分類は相当錯綜しているのではないかと想像するよ。