真フグのパスタはエロチック

 
鯛の白子を食べたいんだけど、小さかったり鮮度が悪かったり、はたまた値段が高すぎたりと、ナゼか今年は良いものと全くめぐり会えない。

そんな折、たまたま真フグの白子を見つけた。
スーパーで真フグの白子に出会えるのは、そうある事ではない。600円と値段は少し高めだが、量はそこそこあるし、トラフグの白子の事を考えれば超激安だ。買うことにした。

取り敢えずは定番の白子ポン酢をつくる。
酒と昆布だしをあわせたものに白子を沈め、火にかける。弱火でゆっくりと温度を上げてゆき、沸騰する前に火を落とし、あとは余熱で火を通す。

 

 
ポン酢をかけて、葱を散らす。かんずりを切らしていたので一味を振った。

 

 
しかし、期待したほどには旨くなかった…。
不味いってワケじゃないんだけど、鯛の白子やトラフグの白子と比べれば数段落ちると言わざるおえない。なんていうのかなあ…。旨味に奥行きがなく、薄いのである。美味い白子はゆっくりと旨味が舌に広がってゆき、あとを引くような余韻があるのだ。
それに食感も今一つだ。張りがない。良いものは歯を一瞬押し戻すような感覚があり、次の瞬間には諦めたかのようにはんなりと極薄の薄皮が弾けて中身が溢れ出してくる。そして、口の中いっぱいが滋味で凌辱されるのだ。どこか女性の柔肌と肉叢(ししむら)を想起させるところがある。そう、白子はエロチック。官能的な食べ物なのだ。

個人的意見としては、鯛とトラフグの白子が二大巨頭。次に続くのがサバフグの白子かなあ…。その次がタラの白子で、サイテーなのが鮭の白子だ。鮭は身は勿論のこと、卵(イクラ)だって抜群に旨いのに何でじゃろう❓

真フグの白子は、まだ沢山ある。正直言って、この程度の白子ポン酢ばっか食い続けるのは苦痛だ。はてさて、どうしたものか…。

あーでもない、こーでもないと考えあぐねて、翌日出した答えがパスタだった。
でも、通常の太さのスパデッティーニは切らしており、冷製パスタで使われる細麺のカペリーニしかない。
白子のパスタは今まで作ったことがないし、カペリーニというのも不安だ。
しかし、買いに行くのが面倒なので、カペリーニでいくことにした。テキトーに作っても何とかしてしまう、アタシャまあまあ天才なのだ。何とかなるじゃろう。

先ずはフライパンにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れて、弱火でじっくりと油にニンニクの香りを纏わせる。強火でニンニクをキツネ色のカリカリにするのも悪くはないが、アレは日本だけ。本場イタリアには存在しない。

テキトーなところで厚めの輪切りにした白子を投入。
白子の茹で汁も入れて、塩で味を整える。
同時進行でパスタも茹で始める。パスタの茹で時間は標示よりも1分短くする。これは後に炒め混ぜ合わせることを想定してのことだね。

パスタが茹で上がったらフライパンに移し、オリーブオイルを少しづつ入れながら乳化させる。汁気が無くなったら皿に盛り、クレソンを添えて出来上がり。

 

 
( ☆∀☆)マジ、美味い❗❗

ダメな白子が見事に甦った。油と昆布だしが旨味を補い、ニンニクと鷹の爪が味のアクセントとなって絶妙なバランスになっている。程よく潰れた白子がパスタによく絡まるのも堪りまへん(≧∀≦)。細麺にしたのは怪我の功名だったかもしんない。

日は沈み、いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。
官能的なパスタを食いつつ、平成の時代は終わりを迎えようとしている。

 
                  おしまい

 

台湾の蝶31『続・消えたキアゲハ』

 
 
 第31話『続・消えたキアゲハ』

 
(出展 五十嵐 邁『世界のアゲハチョウ』)

 
早くも続編である。
何でかっていうと、幼虫の食草の新たな情報が見つかったからだ。
カッコ悪いことに、内田さんの台湾の蝶に関する著書の存在をすっかり失念していた。内田春男氏と云えば、台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された方だ。それを忘れるだなんて、ブラマヨの吉田風に言えば『どーかしてるぜっ❗』である。
しかも、台湾三部作と言われるシリーズの一冊『常夏の島フォルモサは招く』の古書を去年の秋に買って持っているのである。我ながらド阿呆である。

 

 
その著書によると、内田さんは1988年5月4日に南投県翠峰で2齢幼虫を採集。同年8月10日に台中県石山渓で卵と各齢の幼虫を採集されている。
あちゃま(;゜∇゜)、成長の過程がバラバラじゃないか。と云うことは、一部は第3化として秋に羽化するって事だよね❓

食草はセリ科のモリゼリ Angelica morii となっていた。
えっ❗、Peucedanum formosanum タイワンカラスボウフウ以外にも食草があるの❓
和名と学名からすると、たぶんセリ科植物の1種だろう。キアゲハの基本的な食餌植物と云えばセリ科だから、違和感はない。

巻末資料「台湾産蝶類の食草に関する覚書」には、更に以下のようなものが食草の記録として付記されていた。

 
・ヨロイグサ Angelica dahurica
・ハマトウキ Angelica hirsutiflora
・ニイタカシシウド Angelica morrisonicola
・ミツバ Cryptotaenia canadensis
                (蔡百峻,1988)

 
上3つがセリ科植物で、一番下のミツバも属は違うだろうが、おそらくセリ科であろう。
えっ、ミツバ❓ たぶん吸い物に入っているあのミツバだよね。だとしたら、んなもん何処にでも有りそうじゃないか。それ食ってたら、絶滅なんかしないよね❓

他にも更に別な植物の記録が4つあった。

 
・オランダミツバ Apium graveolens
・コエンドロ Coriandrum sativum
・タイワンカワラボウフウ Peucedanum formosanum
・ニンジン Daucus carota
              (李俊延ほか,1988)

 
ニンジン❓ 勿論「🎵1本で~も人参、2本で~も人参」のニンジンだやね。

前回、食草とした Peucedanum formosanum 臺灣前胡(セリ科カラスボウフウ属)も、ちゃんとあるじゃないか。ひと安心だわさ。
あれれ(/ロ゜)/❓、でも和名はタイワンカラスボウフウではなくて、タイワンカワラボウフウとなっている。考えられるとすれば、内田さんの誤記の可能性が高い。
一応念のために検索してみたら、あっしの方が誤記だった。カワラボウフウが正しい。内田さん、ゴメンナサイ。前回の間違ってる箇所を全部修正しとこっと…。
何か、こういうのってガックリくる。恥ずかしいし、自分が悪いので怒りの持っていきどころがないのだ。

この際だから、今一度日本でのキアゲハの食草を記しておこう。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

ここでもカワラボウフウとなっている。完全にオラのミステイクだ。カワラボウフウだと認識すると、カワラは河原の事だと解る。たぶん河原に生えるボウフウの仲間なんだろね。
とはいえ、ボウフウといっても食用のボウフウ(防風)とはまた違うようだ。ボウフウは正式名をハマボウフウ Glehnia littoralis)といい、同じセリ科だがハマボウフウ属と云う別属でありんす。カワラボウフウは食用ではないれす。

 

 
ボウフウは海岸に生えてて、だいたいは刺身などのあしらい(飾り)や薬味に使われる。

 

 
茎に縦に包丁を入れて水に放つと、くるくると巻くちょいとお洒落な高級野菜だがね。

そういえば、カラスボウフウってカラスが好んで食べるのかな❓なんて事をほんやりと思いつつ、同時にどこか違和感を覚えてたんだよなあ…。
情けない言いワケはこれくらいにするとして、話を本題に戻そう。

OTTOさんがブログ内で食草としたタイワンサイコなるものは入ってない。やはり謎のままだ。
待てよ、臺灣前胡の前胡って、もしかしたら台湾(中国)語で、サイコと読むんだったりして…。
(^-^)vひらめいたねー。おいら、名探偵じゃよ。
でも「胡」って「フー」って読むんじゃなかったっけ? なぜなら中国語圏では蝶のことを蝴蝶と書き、読み方は「フーディエ」の筈だからだ。あまり期待は持てそうにない。

調べたら、名推理ならず。やっぱ見当違いだった。
前胡と書いて「チィェンフー」と読むらしい。
タイワンサイコって、何なの~(T△T)❓
永遠の謎、こりゃ迷宮入りになりそうじゃよ。

謎といえば、気になるのが内田さんが幼虫の食草を発見した年が1988年。蔡氏が新たな食草を発表したのも同じ年の1988年。李氏がまた別の食草を発表したのも同じく1988年だ。そう、全部が1988年なのだ。偶然の一致にしては不自然過ぎやしないか❓(?_?)ミステリーである。
内田さんがセリ科アンジェリカ(アンゼリカ)属の植物から幼虫を発見した事に刺激されて、探査が一挙に進んだという可能性はある。しかし、それ以前から日本や欧州のキアゲハの食草はセリ科だと、とっくに解っていた筈だ。その情報が1988年以前に台湾に伝わっていない筈はない。有り得ないと言い切ってしまってもよい。それがなぜ1988年になって、急に一極集中して発見されたのだ❓そもそも1988年までタイワンキアゲハの食草が未知だったのにも驚きだが、同時に何でそんなに遅くまで解明されなかったのかも謎だ。そこに至るまでには、それなりの物語があった筈でドラマツルギー(註1)を感ぜずにはおられない。
台湾のキアゲハは謎だらけだ。多くの謎を残したまま絶滅するだなんて、ドラマチック過ぎるじゃないか。

謎だ、謎だとばかり言っていてもしようがない。気を取り直して、取り敢えず各植物を上から順に検証していこう。

 
【Angelica morii モリゼリ】

(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
ネットで検索したら、アンジェリカ・モリーという綺麗なパツキン(金髪)の姉ちゃんがいきなり出てきて笑ってしまったよ。
たしかに学名そのままだと人名だよな(笑)。Facebookの名前検索とも繋がってて、見てみたら世界にはアンジェリカ・モリーさんの他にアンジェリカ・モリさん、アンジェリカ森さんとかが結構いて、静岡県にも住んでいたりしたから再度笑ってもうた。

Angelica(アンジェリカ)はセリ科シシウド属の総称。
たぶんだけど、どうせ命名者が自身に縁(ゆかり)のある人物に献名したのだろう。
何かテキトーだなあ…。疲れてくると、ぞんざいにもなる。たとえ献名であってもAngelicaと云う名前にも由来がある筈だ。面倒くさいが検索してみよう。

語源由来図鑑に、その由来がちゃんと記されていた。
『「angelica(アンジェリカ)」は、「天使」を意味するラテン語に由来し、「angel(エンジェル)」と同系。「天使」に由来する理由は、アンジェリカの香りには、心身を強壮するはたらきがあるため、天使がもたらしたものといった喩えからといわれる。』
なるほどね。m(__)m失礼しやしたー。

学名の後ろには”Hayata”とあるので、おそらく記載は「台湾の植物の父」とも呼ばれる早田文蔵氏であろう。
あれっ?、この人の名前ってどっかで出てきたよな。
何だったっけ❓まあいい。思い出せないので、話を前へと進めよう。

標高3000m以上の高山地帯に自生し、台湾特産種のようだ。完全に高山植物だね。
台湾では「玉山當歸」と呼ばれ、食用や薬用として利用されているようだ。玉山とは日本統治時代には新高山と呼ばれていた台湾最高峰(alt.3952m)のことである。たぶん最初に見つかったのが玉山だったんだろね。なるほど、ならば三千メートル以上の高山地帯に自生すると云うのも頷ける。

タイワンキアゲハの垂直分布よりも標高が高いが、台湾は亜熱帯だから利用は可能だろう。日本の標高3千メーターとは環境が違う。まだ森があったりもするのだ。つまり森林限界がもっと上なのである。キアゲハは元々寒帯から温帯に棲むチョウだから、寧ろ丁度いいくらいかもしんない。

(;・ω・)ん❓
でも内田さんが幼虫を見つけたという翠峰の標高は、それほど高くはない筈だ。たぶん2200~2300m前後だったかと思う。3000mには程遠い。おそらく、もっと低い所にも自生しているのだろう。そう考えた方が自然だし、論を進めるのにも都合がいい。

 
【Angelica dahurica ヨロイグサ】

(出展『松江の花図鑑』)

 
大型の多年草で、花期は5~7月。
日本では九州に自生し、根は生薬ビャクシ(白芷)として古くから知られている。主成分はフロクマリン誘導体で、消炎・鎮痛・排膿・肉芽形成作用がある。その消炎と血管拡張の作用から肌を潤し、むくみや痒みをとるとして古来中国の宮廷の女性達により美容に用いられていた。また鎮痛、鎮静の効果のため、五積散などの漢方薬にも配合されている。因みに、同じアンジェリカ属でも、種によって生薬の用法がそれぞれ異なるという。

台湾名は野當歸(ノトウキ)。別名に臺灣當歸(タイワントウキ)、臺灣独活(タイワンウド)がある。

 

 
どうやら野生のものは台湾北部の低山地に分布しているようだ。となると、タイワンキアゲハの分布する台湾中部~中南部からは外れている。とはいえ、薬草園らしき「福星花園」というサイトでも画像が載ってるから、薬草として中部の山地帯でも栽培されているかもしれない。
因みに中国では、海抜200m~1500mの森林地の林縁部、川岸、草原などで見られると云う。

 
【Angelica hirsutiflora ハマトウキ】

(出展『随意窩日誌』)

 
台湾では「濱當歸」と呼ばれている。
台湾北部と北東部の沿岸地域、及び近隣の島々のみに分布し、主に標高100m以下の丘陵地帯、海岸や岩石地形の岩石節理で見られる。
ということは、これもタイワンキアゲハの分布域からは外れている。しかも、主に標高100m以下に見られるというから、いくらなんでも標高が低すぎる。台湾のキアゲハが自然状態で利用しているとは思われない。おそらく飼育時に幼虫に与えたら、単に食したという事だけなのではなかろうか❓

一般的に台湾固有のものと考えられているようだが、日本の Angelica japonica var hirsutiflora と同種のようである。

 
【Angelica japonica var. hirsutiflora】

(出展『nangokuudo』)

 
石垣島で撮られた写真だ。
和名はナンゴクハマウド(南国浜独活)。沖縄地方の海岸地帯に生えてるみたいだ。そういえば、見たことがあるような気もする。

つけ加えると、ハマトウキで検索したらセリ科 マルバトウキ属の Ligusticum hultenii マルバトウキ(円葉当帰)が出てくる。別名がハマトウキだからのようだ。

 
(マルバトウキ)
(出展『素人植物図鑑』)

 
分布は北海道、本州北部である。
ハマトウキやナンゴクハマウドが大きくなるのに対して小さいし、葉の形も著しく違う。何より学名が違うので、これは完全に別種だろう。
和名って必要なものだとは思うけど、混乱を引き起こす素でもあるよね。特に植物と魚は別名が多すぎるわ。

 
【Angelica morrisonicola ニイタカシシウド】
(出展『随意窩日誌』)

(出展『Useful Temperate Plans』)

(出展『随意窩日誌』)

 
検索すると、玉山當歸と出てくる。
あれっ(;・ω・)❗❓、この名前ってモリゼリと同じじゃね❓
写真を見ても同じ植物っぽい。どうやら2つは同物異名であるようだ。つまり、同じものだってワケだね。
おそらくモリゼリ Angelica morii がシノニムになるかと思われる。小種名を morrisonicola としているサイトの方が断然多いからだ。

おいおい、それにしても次々と討ち死にしていっとるやないけー。今のところ台湾のキアゲハの食草として納得できるものは、このニイタカシシウド(モリゼリ)だけじゃないか。

 
【ミツバ Cryptotaenia canadensis】
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
こちらもセリ科ではあるが、ミツバ属に含まれる。
台湾名「鴨兒芹」。他に「山芹菜」の別名がある。
どう見ても日本でもお馴染みの、あのミツバだ。亜種記載くらいはされているのだろうが、ほぼ同じものと考えてよいだろう。生えている場所も日本と同じで、湿った所に生えるとあった。

台湾でも食用として利用されているみたいだ。間違いなく栽培もされているものと思われる。
翻訳が危ういけど、台湾全土に見られ、中部と南部には野生種がある云々的なことも書いてあった。いい感じだ。キアゲハの分布とも合致する。
でも気になるのは、垂直分布はどうやら低山地が中心のようなのだ。利用はしていた可能性はあるが、メインの食草ではないだろう。

 
【オランダミツバ Apium graveolens】
(出展『grttingimages』)

 
皆さん、この植物には見覚えがあるでしょう(^o^)❓
そう。何のこっちゃない。オランダミツバとはセロリの事なのだ。
\(◎o◎)/アタシもコレには面喰らいましたよ。名前からして渡来種とか帰化植物だろうとは思ってはいたが、まさかのセロリなんだもーん。
セロリも同じくセリ科だが、オランダミツバ属に分類されている。

ところで、セロリの花ってどんなんだろ❓
見たことないなあ。にわかに知りたくなってきたよ。

 
(出展『VEGGY DESIGN』)

 
特に変わったところはなく、セリ科らしい花だ。
メチャメチャ変なのを期待してたから残念なりよ。
ついでだから、ミツバの花も調べとくか。

 
(出展『奥行き1mの果樹園』)

 
ミツバが一番セリ科らしくない花だね。
まあ、植物そのもののフォルムが他のセリ科植物とは印象を異にするから、セリ科の異端児くんなのかもしんない。
 
セロリの台湾名は「芹菜」。もしくは「西洋芹菜」なんだそうな。
もちろん野生種ではない。栽培作物である。
でも台湾の蝶の本(図鑑?)『鳳翼蝶衣』でもセロリが食草に挙げられているようだから、幼虫が食べて育つことは間違いなさそうだ。
セロリって高原野菜っぽいよなあ…。意外と食草として有望かもしれない。

調べてみたら、思ったとおりだった。台湾では野外での生育温度は16〜21℃で、高温では育ちにくく、また品質も落ちるために夏場は中高度地で育てるらしい。おー、完全に高原野菜じゃんか!
でもなあ…。ゼッテー、しこたま農薬とか掛かってそうだ。幼虫が食えば、緑色のビートルジュースを吐き出して、憐れ(○_○)悶絶死するに違いない。そうでなくとも、あんなド派手で目立つ幼虫だ。すぐに農家の人に目っけられて💥ブチュじゃよ。食草としては、利用したくとも中々利用できないと云うのが現状だろう。

 
【日本産キアゲハ幼虫】
(出展『あおぞらネット』)

 
でもその半面、メリットもある。もしもキアゲハが再発見されれば、このセロリやミツバ等を代替植物にして育てることが出来る。ガンガン増殖させて野に放せば、また復活するやもしれぬ。
とはいえ、自然ってそんなに甘いもんじゃないし、台湾政府が本腰を入れて保護増殖させるかどうかは疑問だけどさ。
絶滅したのには必ず何らかの原因がある。食草の問題以外にも土壌や気候などの環境変化も要因として考えられうる。それらを解決しなければ、いくら放したところで定着はしないだろう。
考えてみれば、キアゲハが絶滅したのにも拘わらず、モリゼリ(ニイタカシシウド)やタイワンカワラボウフウは絶滅してはいない。多くはない植物なのだろうが、ネットを見る限りでは絶滅に瀕しているワケでもなさそうだ。それに標高が高い方が乱開発されにくい。つまり、食草の減少だけが絶滅の理由ではないと云うことだ。じゃあ、何で絶滅したの❓
(-“”-;)謎すぎる…。

 
【コエンドロ Coriandrum sativum】
(出展『新浪博客』)

 
これも見覚えがあるでしょうよ(^o^)
ヒントは今や日本でもすっかりポピュラーになった野菜で、東南アジアではお馴染みの葉っぱだ。西洋では種(果実)や葉を乾燥させたものが香辛料としてよく使われている。
見当はついたかな❓それでは答えの発表\(^^)/❗
答えはコリアンダー。このヒントで解った人は偉い!
コリアンダーでもピンと来なければ、あの好き嫌いがハッキリする、カメムシ草とも言われる野菜といえば流石に解るじゃろうて。
そうなのだ。巷では女子を中心に中毒者(註2)が増えているというパクチーなのだ。オイラもタイで中毒患者になりましたよん。

パクチー、アローイ( ☆∀☆)❗❗

実をいうと、今アチキの部屋にもあるのじゃよ。

 

 
料理に使うのは勿論だが、時々手で毟って食っている。

中国名は香菜(シャンツァイ)。こちらもポピュラーな名称だね。日本では中国パセリとも呼ばれていたね。
とにかく中国人も昔からコヤツが好きなのさ。とはいえ在来種ではなく、外来のものであろう。原産地は、たしか地中海辺りだったかと思う。

調べたら、台湾全土で栽培されているようだ。まあ普通に消費量を考えれば、そうだわな。
これも高原野菜なのかな❓ でも調べても、今一つよくワカンナイ。高原野菜だとしても、たぶんコレにも農薬が掛かってんだろな…。

そういえば、パクチーの花も見たことないなあ。
興味が湧いてきたから、これも調べちゃおう。

 
(出展『kplant.biodiv.tw』)

 
中々、可愛い花だ。カスミ草の替わりにでもなりそうだな。
それで思い出したけど、そういえば台湾名をまだ書いてなかったね。台湾では「芫荽」と呼ばれているようだ。字が花ではないけど、花っぽい字なんで思い出した。

おっ、そういえばコエンドロという名称の説明もしていなかったね。
えー、このコエンドロが実をいうと、本来の和名なのだ。日本に入ってきたのは意外と古く、鎖国前の時代にはもうあったようで、ポルトガルから伝来したそうな。つまり、コエンドロはポルトガル語なのだ。
用途は刺身の臭みを消すために使われていたという。

ここまできて、あと残りはニンジンとタイワンカワラボウフウだけとなった。
ニンジンは言わずもがなだが、一応調べておこう。

 
【ノラニンジン Daucus carota】
(出展『had0.big.ous.ac.jp』)

(出展『FLOWER PHOTOGRAPH』)

 
セリ科ニンジン属に含まれる一年草。
学名+臺灣で検索したところ、胡蘿蔔=ワイルドキュロットと出てきた。どうやら野生種のノラニンジン(野良人参)の事のようだ。このノラニンジンはヨーロッパ原産の帰化植物で、人参の原種とも言われており、日本のキアゲハも食草として利用している。
一方、ニンジンで検索すると、原産地はアフガニスタンとあった。そこから東西に伝播していったそうだ。東と西でそれぞれ独自に進化、もしくは品種改良されて、西洋ニンジンと東洋系ニンジンとなったとされる。昔は日本でも東洋系ニンジンが食されていたようだが、栽培が難しく、次第に栽培が容易な西洋ニンジンへと移り変わっていったようだ。つまり、今我々日本人がニンジンと呼んで食っているものは、ほぼほぼ西洋ニンジンって事だね。

ニンジンもノラニンジンも基本的には学名は同じみたいなので、台湾のキアゲハがノラニンジンと栽培種のニンジンのどちらを利用していたかはわからない。
ノラニンジンは北海道では結構どこでも見られるそうなので、台湾の高地にも生えていてもオカシクない。
食草として利用されていた可能性はあるだろう。

しかしながら、内田さんは和名をニンジンと書いておられる。そこが引っ掛かる。別な研究者の発表とはいえ、もしそれがノラニンジンであるとするならば、たとえ学名が同じであっても和名をニンジンではなく、ノラニンジンとしていた筈だ。となれば、栽培種のニンジンの可能性の方が高いとは言えまいか?
けど、何も考えずに、単にそのまま書き移しただけかもしんないけど…。

 
【Peucedanum formosanum タイワンカワラボウフウ】
(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウについては、前回書いたので、写真のみ添付しておきます。

ここで漸く思い出したよ。これも早田文蔵氏の記載だわさ。つまりキアゲハの食草であるモリゼリもカワラボウフウも、この方の記載なワケだね。もしかしたら、発見した折に派手派手な幼虫も見ておられたかもしれない。ほんでもって、激引きだったりして(笑)。
植物学者って、昆虫に興味があるのかな❓もちろん人にもよるのだろうが、相対的にはどうなのだろう❓
虫好きは植物に興味があるのは間違いない。その昆虫のホスト植物を知らなければ、採集も儘ならないからだ。必然、興味を持たざるおえない。しかし、植物に興味があるからって、虫のことまで知る必要性はあまりなさそうだ。植物学者で虫好きの人って、あまり聞いたことがないし、むしろ嫌いなんじゃなかろうか❓

 
脱線した。いい加減、まとめに入ろう。
ヨロイグサとハマトウキはタイワンキアゲハの分布と重ならないから、食草として利用されることは殆んど無かったと考えられる。ミツバは垂直分布が低いからメインの食草ではないだろう。
セロリ、コリアンダー(パクチー)、ニンジンは栽培植物で、ムチャクチャ古くから台湾にあったワケではないだろう。それらの流入以前に台湾のキアゲハは存在していた筈だから、本来の食草ではないだろう。また栽培作物ゆえ、農薬の影響で無事に育たないケースも多々あるだろう。メインではなく、あくまで二次的利用だったかと思われる。
これらの理由から、基本的に食草として利用されていたのはニイタカシシウド(モリゼリ)とタイワンカワラボウフウだろう。+ノラニンジンを利用していた可能性もあるってところか。
いずれにせよ、食草の利用範囲が狭かったゆえ、個体数も自然少なかったのだろう。

論をここまで進めといて、遅ればせながら『常夏の島フェルモサは招く』の本文の記述を取り上げよう。
ここまで書いといて、実をいうと巻末の食草のところしか見てなくて、本文を読んでいなかったのだ。パラパラと見て、無いやと思って見過ごしていたのである。
とはいえ、そこには吸蜜に訪れた成虫の生態写真しか載っておらず、残念ながら幼虫写真は無かった。
飼育された筈なのに(;゜∇゜)なぜにぃ~❓
もしかして、飼育に失敗したんちゃうん❓

文章でも幼生期については詳しく触れられていなかった。触れているのは以下の程度で、台湾中部の石山渓に訪れた時のものだ。

「断崖の続くこのあたりを注意すると、いたる場所にモリゼリの株が見え、白い花をつけていた。これは台湾名を山当帰といって薬草になる。(中略)幼虫も比較的多く、それは鳥の糞のように葉の上に止まっていた。高地でもあまり見掛けない蝶であるが、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもないことを知った。」

まさか内田さんも、のちに台湾のキアゲハが絶滅するとは思いもよらなかっただろう。「断崖の続くこの辺りを注意すると、いたる所にモリゼリの株が見え、時期とポイントを押さえれば、さほど少ない種でもない」と云った印象を述べられているが、もしかしたら此所だけがキアゲハの多産地だったのかもしれない。
しかし、石山渓は1999年の大地震により崩壊し、中部横貫公路は長らく寸断されたままだ。
OTTOさんが「タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」と書いた場所は、おそらくこの石山渓のことを指していたのだろう。そして、謎の食草タイワンサイコとは、このモリゼリ(ニイタカシシウド)のことではあるまいか。その可能性は高い。

一応、謎の一部は解決した。
とはいえ、この植物は石山渓だけに生えているワケではない。だから、地震による崖崩れだけがキアゲハの絶滅の理由にはならない。これが一番の謎かもしれない。
だいち現地には人は入れない状態だから、モリゼリが絶滅したかどうかは本当のところはわからないよね❓
誰かドローンを飛ばせば、崖崩れ何のそので、意外とシッカリ生き残ってたりしてね。

  
内田さんが最初にモリゼリ(ニイタカシシウド)で幼虫を見つけられたのは南投県の翠峰だ。
となれば、自分がキアゲハの幻を見たのは、その下の松岡付近だから地理的にはかなり近い。
あながち自分の見た光景は、幻ではなかった可能性もあると云うことだ。

 
                 おしまい

 
 
追伸
本文脱稿後、内田さんの三部作の第1巻にあたる『ランタナの花咲く中を行く』を見る機会を得た。

 

 
そこには、1987年6月27日に松岡で幼虫を採集したと書いてあった。
と云うことは、松岡周辺にもモリゼリが自生していた事になる。つまり、キアゲハも生息していたわけだ。益々、朧げな幻影が輪郭を帯びてきたような気がする。

この『ランタナの花咲く中を行く』を見た折りに、五十嵐 邁 著『世界のアゲハチョウ』を見る機会にも恵まれた。冒頭のキアゲハの写真はそこに載っていたもので、脱稿後、急遽コチラに差し替えた。
その図鑑からは、新たな知見も複数得た。もしかしたら、更なる続編を書くかもしんない。
完全にキアゲハの迷宮のドツボにはまっとるがな。

 
(註1)ドラマツルギー
元々は演劇用語で、ドラマの製作手法。作劇論。演劇論。それがアーヴィング・ゴッフマンによって社会行動学にも応用され、日常生活における社会的相互作用を取り扱う微視的社会学として発展した。その社会学的観察法そのものを指す場合も多い。
もう少し説明すると、人は普段の生活でも自然と何らかの演技をしており、ある一人が行動することによって、他者や世界に影響を及ぼす。逆に世界性や文化性、その他諸々の要因によってある一人の人物の役割や演技に影響を及ぼしている。その相互作用によって社会と個人の関係が成り立っていると捉えることが「ドラマツルギー」である。

(註2)女子を中心に中毒者が…
パクチーサラダとか女子が喜んで食ってるが、タイの人たちがそれを見ると首を傾げるらしい。何でかっていうと、タイではそもそもパクチーは薬味扱いで、料理のメインになることなど考えられないからだ。謂わば、パセリのサラダを喜んで食ってるようなもんなのさ。たしかに、もしパセリだけのサラダを食ってる人がいたら、オカシな人だと思うもんね。

 

台湾の蝶30『消えたキアゲハ』

  
  第30話『消えたキアゲハ』

 
この連載も遂に30回目を迎えた。
ならば、折角だからそれに相応しい蝶を取り上げようと思った。
最初は皆が喜びそうな森の宝石ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)にしようかと考えた。でも、それじゃ普通だ。芸が無い。おいら、ひねくれ者なのだ。
ならばと次に候補として考えたのが、セセリチョウの地味な稀種だった。
でもさあ…、ひねくれ過ぎ。先ずは記事に写真を添付したんだけど、あまりにも地味過ぎて悲しくなっちった。
と云うワケで、どうせなら今回は台湾で採った事が無い蝶に焦点を当ててみることにしませう。

 
(キアゲハ台湾亜種♂ Papilio machaon sylvinus)

 
(同♀ Papilio machaon sylvinus (Hemming,1933))
(出典 2点共『原色台湾蝶類大図鑑』)

 
よりによって普通種のキアゲハ❓
そう訝る向きもいらっしゃるかと思う。日本では南西諸島(奄美大島以南)を除けば全国どこにでもいる普通種だもんね。そう思われても当然でしょう。
だが、ところがどっこい。台湾のキアゲハは弩級の珍品なのである。
とはいっても、初めて台湾に行った時はそんなに珍しいものだとは知らなかった。帰ってきてから、誰かに教えてもらったのである。でも、珍品だよと言われただけで、詳しいことまでは聞いていない。
そんなワケで、ちょいと調べてみることにした。

調べていくうちに驚いたのは、元々少ない蝶だったが、近年は記録が無く、姿を見掛けなくなってからもう何年も経つゆえ絶滅したと考えられているようなのだ。
(|| ゜Д゜)マジかよ❗❓ 珍しいといっても、たかがキアゲハだぞ。世界に最も分布を拡げたアゲハ(Papilio)の一つだ。そんなもん、絶滅するかね❓

先ずは原点に帰って、白水先生の『原色台湾蝶類大図鑑』の中の解説文から読み解いていこう。
だが、図版の写真を撮っているのにも拘わらず、肝心の解説文のコピーが無い。あれれ(・。・;❓、何で❓
暫し考えて、記憶が甦る。キアゲハなんてどうせ普通種だからと思って、コピーを取らなかったのである。仕方なしに図書館へ行き、書庫から図鑑を出して貰ってコピーした。

では、先ずは解説文の一部を抜粋しよう。

「台湾産のキアゲハは日本産とは別の標記の亜属に属する。日本産亜種に較べて小型で尾状突起は細く、夏型においても亜外縁の黒帯が狭く、一見して日本亜種とはかなり著しく感じが異なる。♂♀による色彩斑紋の差異は少なく、夏型♀においても黒鱗の発達は弱く♂と大差がない。(中略)台湾中部より中南部の山地帯~高地帯(大甲渓、霧社方面、阿里山、新高山付近、関山越道路など)に分布するもので、主として1000m以上の標高の地域に発見されるが、大甲渓下流の久良栖付近、約600m(江崎,1932;斎藤,1940)、東勢郡明治温泉付近、約600m(野村,1931;江崎,1932)、高雄州屏東郡関山越道路のビビュウ~濁水、約700~730m(江崎,1932)、高雄州ガニ、約600m(野村,1932)のような低標高の地域でもかなり多くの採集記録が見られる。従来知られる分布の北限は大甲渓、南限は高雄州ガニ。採集記録は1月より11月に亘って見られ、年数回の発生を繰り返すものと思われるが詳細は不明。台湾における食草、幼生期は未知。台湾以外の地域で知られている食草は主としてセリ科で、地域によってはミカン科を食べる場合もある。本種はアゲハチョウ属の中では最も北部にまで分布するもので、旧北区に分布が広く、全ヨーロッパ、アフリカ北西海岸(モロッコ、アルジェリア、チュニス)よりシベリア、ヒマラヤを経て極東の中~北部に亘りさらに北アメリカの北部にも産し、多くの亜種に分類される。原名亜種の基産地はヨーロッパ。」

 
パッと見は、日本産とそんなに変わらないように見えたが、「かなり著しく感じが異なる」とあるではないか。
ならば、較べてみよう。。

 
(日本産キアゲハ♂ Papilio machaon hippocrates)
(2019.4.6 福井県南越前町藤倉山)

 
(同♀ Papilio machaon hippocrates (Felder,1964))
(2017.5.7 東大阪市枚岡公園)

 
何れも春型である。中々に美しい。もしも年1化で稀種なれば、ギフチョウと双璧を為す存在だったろうにと思う。

こうして雌雄を並べてみると、今更ながらに春型の♂と♀の見た目に大きな差がない事に気づく。
たぶん下の個体は♀だと思うが、段々同定に自信が無くなってきたよ。間違ってたらゴメンナサイ。
でも尻の感じからすると(註1)、間違いないかと思うんだよなあ…。それに亜外縁黒帯内の黄色鱗粉帯が♀の方が広いし、下翅の帯の青色鱗粉帯も広い。たぶん同定は合ってるかと思う。

んっ(・。・)❓、それはさておき、図鑑の台湾産と日本産の区別点が言うほど著しく違うとは思えないぞ。言われてみれば亜外縁の黒帯は細いような気もするが、春型の♀に於ては顕著と言う程の差は感じない。台湾産の♀は、帯が結構広くねえか?
それよりも帯の形に違いがあるのではなかろうか?
台湾産は帯の形が内側に向かってギザギザで、特に下方の出っ張りが強い。けど、個体差はありそうだ。
尾状突起の細さも相違は微妙だ。寧ろ、細さよりも長短に差があるように見える。台湾産の方が比較的短いような気がする。
もっと大きな差をあげるとするならば、台湾産は上翅基部の黒色鱗粉の発達が弱い。だから、全体的に明るめの印象をうける。

とはいえ、たったコレだけの個体の検証では何とも言えない。もう少しサンプルが必要だ。

 

(出展 2点共『蝴碟資料』)

 
たぶん、上が♂で下が♀だろう。

 

(出展 2点共『臺灣生命大百科』)

 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA[/caption](出展 『flichr.com』)

 
おそらく上3点とも♂かと思われる。

  

(出展 4点共『圖錄檢索』)

 
こっちは上から順に♂と♀で、下がその裏面である。
尾突の細い太いと上翅亜外縁の黒帯の幅の広さは、正直なところ判別点としては微妙だ。これは標本に春型と夏型が混じっている可能性があるから、こう云う見解にならざるおえないのかもしれない。
しかし、上翅基部の黒色鱗粉は明らかに全個体ともに薄い。勝手に言い切るが、おそらくこの点が最大の日本産との相違点ではないだろうか。

裏面も、もしかしたら区別点になるかもしれない。
日本産の裏面画像も添付してみよう。

 
(春型♂裏面)
(2019.4.6 福井県南越前町藤倉山)

 
台湾産と比べて、日本産の方が後翅のオレンジ色が発達していて美しい。
但し、台湾産の標本はおそらく古いであろうから色褪せている可能性もある。
けれど詳細に見ると、たとえ色褪せていたとしてもオレンジの領域は日本のものよりも狭そうだ。

とはいえ、この2点だけで決めつけるのは乱暴過ぎる。あとで図書館に行って、藤岡大図鑑(註2)で確認が必要だよなあ…。

参考までに言及しておくと、日本産の夏型は全然違う。

 
(キアゲハ夏型♂)

 
(キアゲハ夏型♀)
(出展 2点共『日本産蝶類標準図鑑』)

 
春型と比べて著しく大型化し、後翅の黒帯が太くなる。
♂と♀の違いも一見して区別できるようになる。♀は、だだ黒なのだ。正直、春型と比べてあまり美しくない。
因みに、日本産の夏型がキアゲハの全亜種中で最も巨大化すると誰かに聞いたことがある。最もかどうかはワカンナイけど、何れにせよ最大級ではあろう。
それで改めて思い出したのだが、標本写真では分からないが、日本産と比べて台湾産はかなり小型らしい。その点も大きな違いかもしれない。
台湾産は夏型でも黒っぽくならないようだから、そう云う意味では両者はかなり遺伝的には離れているのかもしれない。そう云えば、白水さんも亜属が違うとか書いてたよね。
とはいえ北海道や中部地方の高地では、夏型が低山地のものほど黒くはならないようだ。実際、北海道や中部地方の高地で採ったキアゲハは黒くはなかった記憶がある。但し、大きさは春型ほど小さくはなかったと云う印象がある。春型と夏型の中間くらいの大きさだったかと思う。

更に情報を求めてネットで検索してみた。
予想通り情報は少なかったが、『OTTOの蝶々ブログ』さんの記事から重要な情報を得ることができた。

「キアゲハは、台湾の蝶愛好者にとっては悲しみと共に思い起こさずにはいられない蝶だ。1999年の大地震の後、台湾高地の生息地から忽然と姿を消してしまった。日本のキアゲハに比べて濃色で、サイズが著しく小さく、狭い台湾の高地帯に特殊な変異を遂げた個体群だった。
タイワンサイコという台湾特産の植物ただ一種を食草としていたため、地震による生息地の崩壊などで、命脈を絶たれたと考えられている。」

 
へぇ~、絶滅してから、もう20年にもなるんだ…。
忽然と姿を消したと云うところに何だか浪漫を掻き立てられる。絶滅した理由はあとでまた考察するとして、先ずは形態の違いに目を向けよう。

日本のキアゲハと比べて濃色であると云う見解は白水図鑑には無かった。でも確かに言われてみれば、貼付した「蝴碟資料」の写真などはかなり黄色く見える。
しかし、そうでもない写真もある。こう云うのって、写真の撮り方にもよるしなあ…。もしくは黒色鱗粉の発達が弱いから、より黄色く(濃色)見えると云う事ってないのかなあ?人によって表現の仕方は違うからさ。捉え方の齟齬だってあるかもね。
でも、結局こう云うのって、両者を並べて写真でも撮らないかぎり、本当のところはワカンナイよね。

サイズは著しく小さいとあるから、やはり大きさは相当小さいのであろう。そうなると日本産の春型と並べれば、両者の印象はかなり異なるのかもしれない。

いつも頼りにしている杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』にもキアゲハについての記述がちゃんとあった。
それによると、1970年代以降に絶滅したとある。
えっ!?、もっと前に絶滅してるの❓
以降というのが引っ掛かるが、この書き方だとそう解釈しちゃうよね…。
まあいい。ここでそれを詮索したところで、あまり意味は無い。絶滅している事には変わりはないのだ。

形態については「日本産亜種に比べて小型で,尾状突起が短い。夏型でも亜外縁の黒帯の幅が狭い」とある。
ここでも小型が強調されている。尾突が短いというは初めて見る記述だが、自分の見立てと同じだから、ちょっと嬉しい。
夏型でも亜外縁の幅が狭いというのは「原色台湾産蝶類大図鑑」にも同じ記述があった。という事は黒帯が細いというのは間違いないのかなあ…?
やっぱ、ここは藤岡大図鑑に御登場と願わねばなるまい。

図鑑にある世界各地の膨大な数のキアゲハの標本写真を見て納得した。確かに台湾産キアゲハの上翅亜外縁の黒帯は他と比べて細い。広く全体から俯瞰で見る巨視的な視線が必要なんだと、今更ながらに痛感したよ。

 
(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』以下、特に出展が記されていない標本写真は同図鑑からお借りしたものです)

 
上から3列目の左側4つが台湾のキアゲハである。
こうして並んでいるのを目(ま)の当たりにすると、確かに黒帯は細いことが解る。
但し、日本産でも細いものはいるようだ。

 

 
真ん中と左が北海道の稚内産で、右が岐阜県のものだ。稚内産は上翅黒帯が細めである。北海道産の画像を拡大してみよう。

 

 
(同 裏面)

 
細いような気はする。
とはいうものの個体変異の範疇であり、台湾産みたいに安定した形質とは言えまい。

それでは、台湾産をクローズアップしてみよう。

 

 
(同裏面)

  
\(◎o◎)/ゲロゲロー。
上翅の基部が黒いのもいるやんけー。左2つは、日本の春型と同じくらい黒っぽいじゃないか。
アタマの中が、ソッコーでグチャグチャだよ。毎度毎度の事ながら、調べれば調べるほど迷宮に迷いこむって、どーよ❓ ったくもー(-“”-;)、サクッと終わらせる予定だったのに、またクソ長い文章になりそうだ。

落ち着け。とにかく先に解説文を見てみよう。
とはいえ、台湾産を論じる前に先ずは極東地域及び日本産のキアゲハから入ろう。キアゲハの分布は北半球全般と広いのだ。さっき学んだばかりじゃないか、俯瞰で見なければ見えてこないものもある。

「極東地域のキアゲハの斑紋の特徴は、夏型の前翅基半の黒色部に黄色鱗粉がのり、黒色部が全般的に広いことで、その点では中央アジアやヨーロッパ地中海周辺型と変わりはない。しかし全般的な傾向として、夏型♀は黒色部がより広く、後翅表面にも基半部が黒くなる傾向が強いことがある。その極限が日本産であるが、朝鮮半島南部もこれに近く、浙江省辺りからかなり黒い夏型も出現する。それでも、中国の西から東へと変異は連続的であるし、分布も中央アジアから天山山脈を経て、ほぼ連続しているので、やはりヨーロッパ大陸と同一の亜種 P.machaon machaon として扱うべきかも知れない。(中略)
日本産の最も大きな特長は、夏型が大型で黒色部が広く、表面では地色の黄色にも黒色鱗粉が混じり黒ずんで見える点である。この特徴は、北海道ではあまり顕著ではなく、♀表面の黒色鱗粉は全体的に少ないが、変異は連続的である。日本産の特徴として他に、♂♀共、また春型夏型共に、前翅表面中央寄りの黒帯が翅底から翅端に向かって、細くなる点がある。
日本産亜種の中で、千島産は北海道産と差異がない。日本列島は地理的には独立しているが、多数の標本で変異を見ると、南では朝鮮半島経由で中国大陸の亜種と連続するし、北ではウスリーの変異と連続する。従って地理変異の連続性を斑紋だけで厳密に見れば、短尾型キアゲハ(タカネキアゲハ Papilio sikkimensis)を除き、ユーラシアのキアゲハは一亜種という立場もあり得る。」

なるほど、キアゲハは変異は多いものの連続的で亜種区分は明確でなく、整理、集約されて然るべきものであると聞いた事があるのは、こういう事だったんだね。

折角だから、タカネキアゲハの画像も添付しておこう。

 
【タカネキアゲハ Papilio sikkimensis】

(同 裏面)

 

(同 裏面)

 
短尾型といっても、長さは一様ではないようだ。
上の個体はチベットNyalam産で、この地域のものが最も尾突が短くなり、小型化もするようだ。
下はパキスタン北部のチットラール地方のものである。タカネキアゲハは変異幅が広く、場所によって随分と印象が変わる。段々面倒くさくなってきたので画像は添付しないが、記載に使われたシッキム地方のものは黒化が進んでいる。

続いて、いよいよ台湾産キアゲハの項である。

「台湾産は小型で前後翅共に表面の外縁に沿う黒帯が細く、その内側が凸凹に富み、後翅亜外縁の黄紋が大きく、翅形も縦長である。春型は夏型より小型で、裏面の翅脈上や前翅表面中室の黒色が顕著である。」

やはり小型であることには間違いなさそうだ。
上翅の黒帯も細いとある。そして、自分の見立て通りのギザギザ(凸凹)とある。
ワシ、結構やるやんか(o^-^o)

後翅亜外縁の黄紋が大きいというのと、翅形が縦長であると云うのは初耳。藤岡図鑑の標本では特に差異があるとは思えないが、台湾のサイトからお借りした標本写真には、その傾向が見られないこともない。
だが例外も多い。ようするに傾向は有りこそすれ、決定的な同定ポイントにはなり得ないと言えよう。
因みに、地色の黄色が濃色であることには触れられていない。こちらも傾向はあるが、例外も多そうだ。

問題は、そんなことよりも上翅基部の黒の濃淡である。けど藤岡図鑑には、それについての言及が無い。
ワシの見立ては見当違い❓
しかし頭から解説文を読むと、概論のところでその謎があっさりと解けた。気持ちが逸っていたゆえ、概論をすっ飛ばして読んでいたのである。

「キアゲハの変異を複雑にしている一つの原因は、第1化と2化以後で斑紋が異なる点である。日本は1化と2化が最も異なる例で、2化は大型で黒色の発現が良く、特に本州以南の♀は著しい。他の地域では日本ほどに差がなく、ヨーロッパでは1化に比べて2化は黒色が黄色の鱗粉で薄く覆われ、外縁の内側が黒で縁取られ、後翅の黒帯が細く、青色が顕著で、腹部の横の黒い線を伴った黄色はより顕著になる。2化のこの傾向は、北方ではあまり目立たないが、南ヨーロッパでは明確になる。
1化春型と2化夏型を比べると、ヨーロッパでは春型の方が「黒い」ということができ、この傾向は世界中ほとんど年2回以上発生する地域では同じである。例外は日本で、春型と比べると、夏型の方が♂♀共に黒い。韓国及び中国南東部の夏型は日本産のように♀が黒化する個体がある一方、日本産の春型のような個体も見られ、個体変異は複雑である。日本とは異なるようであるが、被検標本の数が少ないので確定的なことは未だ言えない。しかしいずれにしろ日本を中心とした極東とそれ以外の世界各地では、春型と夏型の黒さの度合いが逆であって、そのような観点から、日本など極東のキアゲハは特異である。」

まさかの春夏の特徴が逆である。キアゲハの春型は明るい色で夏型は黒っぽいと云う概念に完全に凝り固まっていた。
とはいえ、さすれぱ白水大先生の解説文(原色台湾産蝶類大図鑑)でさえも、その概念の上に立って書かれたものだと云うことになる。これについては杉坂さんも同じである。
いや、丁寧に白水図鑑を読み返すとそうでもない。夏型においても黒帯が太くならないと書いてあるだけで、夏型は黒っぽくはならないとは書いてはいない。
鬼の首でも取ったように息巻いてしまったが、オイラの完全な勇み足である。\(__)反省なりよ。
でも春型と夏型の特徴が逆ならば、ちゃんとそう書くよね?それが書いてないってことは、そういう概念を持ち合わせていなかったとは言えまいか?
まあいい。台湾には日本みたいな黒いタイプはいないと云う事は理解した。1歩前進としよう。

 

(同 裏面)

 
これが春型で、下のが夏型ってワケだやね。

 

(同 裏面)

 
ってことは、藤岡図鑑の基部が黒っぽい2点の個体を除けば、ここに掲載したのは全て夏型の標本写真だったということか…。そりゃ、アッシも上翅基部の濃淡が同定の決定的ポイントだと言っちまいまさー。
けど、少なくとも夏型においては区別に使えるポイントだよね。
それにしても、世に流れている写真は夏型ばっかってのが気になる。どこにも書いてないけど、春型は夏型と比べて個体数が少ないのかな?それとも単なる偶然?
でも、そこには何らかの理由がある筈だと思うんだよね。また謎が増えたよ(;つД`)

裏面だが、台湾産は「翅脈上や前翅表面中室の黒色が顕著である」とある。
一応、比較の為に日本産の裏面写真を貼付しておこう。

 

 
確かに日本と比べて台湾産は黒い。春型は特に黒いわ。夏型もよく見ると黒の線が日本産よりも太い。
けど、冒頭に近い部分で添付した春型の野外写真の裏を見ると、日本のも結構黒いんだよなあ…。産地や個体差もあるんだろなあ…。これまた、そういう傾向があるって考えた方がいいのかもしれない。
 
下翅帯部分のオレンジの発色は、見たところ思っていた通り日本産よりも弱いと言えそうだ。

 
(日本産キアゲハ 夏型裏面)

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

 
何れにせよ、複数の区別点を総合に鑑みて、識別、判断しなければならないって事だろう。

 
【学名】Papilio machaon sylvinus(Hemming, 1933)

属名のPapilio(パピリオ)とはラテン語で「蝶」を意味し、リンネの命名。そして、キアゲハがこの属名の模式種ともなっている。つまり、言うなればキアゲハは蝶の中の蝶であり、ヨーロッパ人の蝶に対するイメージの代表的存在とも言えよう。

小種名のmachaon(マカロン)は、ギリシア神話の英雄マカーオーンが由来。医神アスクレピオスの息子で、テッサリアに領国をもっていたが、兄弟のポダリリオスとともに30艘の船団を率いてトロイア戦争の遠征に軍医として加わり、父より受継いだ医術の才能を生かしてギリシア軍の勝利に貢献したとされる。ペンテシレイア、またはエウリュプロスに討ち取られ,戦死したとされる。

台湾の亜種名の「sylvinus(シルヴィヌス)」は、そのままの綴りで検索しても全くヒットしなかった。
しかしながら、語尾の「nus」はラテン語の人物名によく使われるし、前半部のsylviもラテン語であろう。おそらくこれは森を意味する「silva(シルヴア)」、もしくは同じく森を意味し、ギリシャ神話の美しい清楚な乙女の名前でもある「silvia(シルビア)」が語源だと考えられる。そこから推察すると、学名には「森の神」、或いは「森の女神」といった意味あいが込められているのではないかと思われる。

参考までに、同物異名に以下のようなものがある。
Papilio machaon sylvia(Esaki&Kano,1930)

こちらは「sylvia」となっている。記載者は江崎先生&鹿野博士のゴールデンな組み合わせだわさ。なのにシノニムになっちったのは惜しい。

因みに、日本産の亜種名である「hippocrates(ヒッポクラテス)」は、ギリシア、ローマなど古代の人名で、数学者や医者、僣主(独裁的支配者)などにこの名前の著名人がいるようだ。
そういえば、昔の映画に大森一樹監督の『ヒポクラテスたち』というのがあったなあ…。詳しい内容は憶えてないけど、たしか医者たちの群像劇だったかと思う。従来の日本映画から脱却した日本のヌーヴェルバーグ的な実験的作品として、ある程度の評価はあったのではなかろうか? 中途半端で、全然面白くなかったけどさ。
日本でも「ヒポクラテスの誓い(註3)」が有名だし、数学者でも独裁者でもなく、たぶん医者のヒポクラテスを想定してつけられた名前だろね。
それにしても、マカオン(machaon)といい、キアゲハが何で医者関係の学名なの❓

 
【英名】Swallow tail(スワロウテイル)

ようするにツバメの尻尾(しっぽ)だ。
おそらく長く伸びた尾状突起を指してのことだろう。

欧州でスワロウテイルと云えば、このキアゲハのことを指すことが多いようだ。きっと我々日本人が思う以上に、欧州の人々の心の中にキアゲハの存在は強く浸透しているのだろう。

米国でも同じ呼び名で呼ばれているとばかり思っていたが、実をいうと「Old World Swallowtail」という別な名前が付けられている。
これは北米には、近い関係ではあるが別種のヤンキーアゲハ(Papilio polyxenes)が分布しているからみたいだ(英名 Anise Swallowtail)。この2種を区別するために、アメリカでは普通のキアゲハにOld World Swallowtail(旧世界のアゲハ)という名をわざわざつけたそうだ。

 
【台湾名】金鳳蝶

Lepidoptera 鱗翅目
Papilionidae 鳳蝶科
Papilio 鳳蝶屬

鳳蝶は真正アゲハチョウの仲間を指す言葉のようだから、「金鳳蝶」は、さしづめ金色のアゲハチョウってところかな。
別名に「黄鳳蝶」があるが、こちらは黄色いアゲハチョウって意味だね。
中国語圏では尾っぽのあるアゲハチョウの名前に、だいたいこの「鳳蝶」ってのがつくんだけど、小さな鳳凰みたいで中々ステキだと思う。

 
【分布】
ヨーロッパ全土から極東アジア、アフリカ北部、北アメリカと、広く北半球一帯に分布している。

 
(出展『Butterflycorner』)
 
(出展 杉坂美典『台湾の蝶』)

(出展『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑』)

 
一番上のグレーの部分が全世界のアバウトな分布で、真ん中のピンクの部分がアジアでの分布である。
でも、あまりにざっくりなので、一番下に藤岡図鑑のユーラシア大陸の分布図も追加した。但し、サハラキアゲハやタカネキアゲハの分布も含まれている。

日本の分布の南限は屋久島。沖縄など南西諸島には分布せず、飛び離れて台湾山地に分布し、それが種の南限の一つともなっている。
台湾中部から中南部の標高1000m以上の高地帯で多く見られたが,600m前後の低地帯でも記録がかなりあるようだ。とはいえ移動性が高い蝶なので、渓に沿って下りてくることは充分に考えられる。渓流沿いは気温がそれほど上がらないからだ。おそらく垂直分布の中心は1000m以上に変わりなかろう。発生地も1000m以上だと推測される。
藤岡図鑑に拠れば、大陸の南限記録は中国広東省の九連山及び広西省大瑤山。しかし、安定して分布しているワケではなくて、あくまでも記録に過ぎないと云う可能性もある。藤岡図鑑の分布図には、広東省が入っていないように見受けられるからだ。
また、タイなどインドシナ半島には分布しないとされてきたが、近年ベトナム北部のハザンとドンバンで見つかっているようだ。ここも南限の一つだろう。この地域のキアゲハは尾状突起が極めて細長い特異な型で、分布は雲南省や四川省西部に連なり、ミャンマー北部からインド・アッサム州東端のマニプールにまで達している。

 

 
これは超長尾型とも呼ばれ、尾状突起が長いだけでなく翅形が細長くて前翅は外方に張り出しており、前翅基半の黒色部が広く、後翅中央の翅脈上の黒条が巾広い割には後翅1室の黒色が極めて狭い。
マニプールやシャンステート(ミャンマー)では、この型のキアゲハだけが分布しており、雲南や四川ではこの超長尾型のみならず普通の長尾型及び短尾型(タカネキアゲハ)も分布していて、四川省康定と雲南省Tse-kouでは、この三型全てが見られるという。
これは標高及び食草で棲み分けているものと考えられ、標高2500m付近に超長尾型が分布し、これより高い標高には短尾型が、低い標高には普通の長尾型が棲息するようだ。

 
台湾のキアゲハは、なぜ絶滅したのだろう❓
キアゲハは、分布からも北方系の種類であることは間違いない。となると、南限に分布するキアゲハはギリギリの環境で生きていることになる。だとすると、もしかしたら地球温暖化も絶滅に関係しているのかもしれない。成虫はまだしも、卵や幼虫、蛹などは高温に耐えきれずに衰退していったという事も有り得るかもね。
日本でも最近は熱暑が話題にあがる事が増えてきた。普通種だから誰も気づいていないが、或いは西日本では知らぬうちに数を減らしているのかもしれない。将来的には稀種の一つにならないとも限らないのだ。キアゲハの隠れファンとしては、稀種ともなれば、その美しさが再認識されるだろうから嬉しいような気もする。しかし、それはやっぱ良くないよね。さみしくなる。いつでも会える庶民的な美人さんは貴重なのだ。

 
【亜種】
分布が広く地理的変異も多く、その上にヨーロッパ人が好きな蝶であるがゆえ、極めて多くの亜種名、型名が命名され、100頁にわたる大著さえ出版されているという(Eller,1936)。
Wikipediaに拠れば、37亜種にも分けられている。シノニム(同物異名)も数多くある筈だから、それも含めれば膨大な数にのぼるだろうし、分類の仕方も研究者によってバラバラだろう。と云うワケで、面倒なので並べません。興味のある方は自分で調べたし。

ところで、キアゲハの遺伝子解析はもう済んでるのかな? もし済んでいるならば、分類も少しは整理されているかもしれない。

調べてみたら、あった。くしょー(ToT)、また文章が長くなるやんけ。ウンザリだ。
でも、知ってしまえば書かないワケにはいかない。
論文は以下のタイトルで、最近に発表されたもののようだ。

 
日本列島に分布するキアゲハの遺伝的多様性と系統関係
Genetic variations and phylogenetic relationships among the populations of swallowtail
butterfly, Papilio machaon, in the Japanese Islands. (宮川美紗 2018?)

日本列島および海外のキアゲハを遺伝子解析したもので、本題は日本のキアゲハである。
結果は、世界のキアゲハは遺伝的に異なる5つの集団に分けられるという。内訳はユーラシア大陸、北アメリカ、日本列島及びサハリン、それに別種とされる北アフリカのサハラキアゲハ(Papilio saharae)とチベットのタカネキアゲハ(Papilio sikkimensis)である。

日本列島及びサハリンのキアゲハは、サハラキアゲハ(別名サバクキアゲハ)、タカネキアゲハ、ユーラシア大陸や北アメリカ大陸のキアゲハとは遺伝的に明確に区別されるという。驚いたのは、別種とされるサハラキアゲハとタカネキアゲハもキアゲハと同種だとしているところである。
サハラキアゲハもタカネキアゲハも同所的に普通のキアゲハと混棲するから別種とされてた筈だけど、何で?
でも調べたら、サハラもタカネも分布の端っこでは微妙な個体が見い出されるようだ。どちらとも言えないようなキアゲハとの中間的なものもいるって事ね。
心情的には別種であって欲しいんだけどなあ…。
まあ遺伝子解析が絶対だとは言えない面もある。食草や標高など生態的に違えば、少なくとも両種は別種の途上にはあるだろう。

論文では、日本列島及びサハリンの集団はキアゲハの中で最も早く分岐し、それは約80万年前だと推定している(系統図は載ってなかった)。
へぇ~、意外な結果である。見てくれはそれほど特異な感じはしないのにね。外部形態の進化スピードが遅いタイプってことか?…。

結果を纏めると以下のようになるそうだ。

①日本列島のキアゲハはユーラシア大陸・北アメリカ大陸のキアゲハとは大きく系統が異なるが、サハリンと日本列島の集団は系統的に近縁であることが示された。

②サハリンと日本列島の集団は他のキアゲハ集団より系統的に先に分岐し(隔離され)、現在まで大陸との遺伝的交流はほとんどなかったと考えられる。

③大陸、サハリン、北海道、本州以南の集団の遺伝的構造は互いに有意に異なっていて、集団がタタール海峡、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡によって隔離されていることがわかった。すなわち、オホーツク海沿岸に分布していたハプロタイプの1つが、第四期の陸続きの時期にサハリン、北海道を通って本州以南に変異しながら広がり、海峡成立後にそれぞれの島において特徴的なハプロタイプが短期間で島内に分布を拡大したのち、安定したことが示唆された。

朝鮮半島南部のものは黒化が進んでいて日本の夏型とソックリだから、てっきり朝鮮半島南部のものが日本列島の西側から侵入し、一方、極東ロシア(ハバロフスク地方・沿海州)のものが樺太、千島列島を経由して北海道に侵入したものだとばかり思っていたが、そうじゃないんだね。これまた驚きだ。地史的には南西側も大陸と繋がっていた時代はある筈だけど、その時にナゼ進出して来なかったんだろ❓

オサムシの例なんかにもあるように、外部形態の変化が小さい種においても遺伝的には隔離されてるって事が蝶でも有るんだね。一方、シナカラスアゲハみたいに見た目はかなり特異なのに、ミヤマカラスの亜種に過ぎないという逆の例もあるから、生き物って不思議だよね。

 
【生態】
白水さんと杉坂さんは年数回の発生、1月~11月に記録があったとしている。
とはいえ、春から夏にかけての年2化が基本だろう。加えて、一部が秋に3化として羽化するものと思われる。たぶん、越冬態は日本と同じく蛹であろう。
藤岡図鑑の標本のデータでは、春型は3月中旬、夏型は7月下旬と8月上旬になっていた(何れも1992年の採集)。おそらくその時期が、春夏それぞれの最盛期だったと推測される。
成虫の生態に関しては特に記されているものは無い事から、日本のキアゲハとさしたる違いは無いかと思われる。すなわち、♂は山頂や尾根、草原などの開けた場所で占有活動し、また湿った地面に吸水に集まる。♂♀ともに花に吸蜜に訪れるといったところだろう。

 
【幼虫および食餌植物】

台湾のサイト『DearLep 圖錄檢索』によれば、食樹は Peucedanum formosanum 臺灣前胡。
和名は、調べたら「タイワンカワラボウフウ」となっていた。あれれー❓、「OTTOの蝶々ブログ」では、食樹はタイワンサイコってのになってたぞ。
探してみたけど、タイワンサイコでは該当するものは見つからなかった。ワケわかんねえよ(‘ε’*)

タイワンカワラボウフウは、セリ科のカワラボウフウ属(formosanum)に含まれ、早田文蔵氏によって記載された。亜種はどうやら無いようだ。台湾のサイトには特有種とあるので、おそらく台湾特産の植物だろう。分布は全島中低高海拔山區と書いてある。つまり標高が低い所でも見られるようだ。これは意外だった。ならばキアゲハも低山地でも普通に見られて然りなのにね。
んっ(・。・)?、いや、それは間違いだわさ。
台湾は亜熱帯ということをすっかり失念してたよ。キアゲハは基本的に温帯から寒帯に棲むチョウだ。台湾の低地では暑すぎて生息できないに違いない。沖縄など南西諸島に分布しない事からも、それは窺える。

 
【タイワンカワラボウフウ】
(出展『生物多様性研究中心』)

(出展『福星花園』)

(出展『随意窩日誌』)
 
 
絶滅に瀕している植物かと思いきや、そうでも無さそうだ。特にそういう記述を見つけられなかったと云うのもあるが、ネットで意外と画像が拾えるからだ。
この植物の減少が台湾のキアゲハの絶滅に大きな影響を与えたとばかり思っていたが、そうじゃなかったらワケわかんねぇぞ。
でも、二番目に示した出展の画像は「福星花園」ってあるよね。画像が多いのは一部で栽培しているのかな? それともコレって植物園で、保護・育成してるのかな?

丹念に調べたら、どうやら食用として栽培されてる事がわかってきた。中国でだって栽培されてるようだ。ならば、益々エサにはそんなに困らないんじゃないの? 或いは最近になって栽培され始めたのかもしれない。だとしたら、何てバッドにタイミングの悪い蝶なんだろう。不幸すぎる。

いやいや、待てよ。果たしてそんな結論でいいのか❓
冷静に考えてみれば、栽培されるくらいだから過去を含めてもそんなに珍しい植物だとは思えない。「絶滅危惧種が栽培されて増え、食用となりましたー。めでたし、めでたし」なんて話、聞いた事がない。そもそもが弱くて栽培も難しいから、絶滅危惧種になるんじゃないの?
もしかして食草はこの臺湾前胡ではなくて、OTTOさんの言うとおりタイワンサイコなる植物だったりして…。
でも、ブログの記事内にはタイワンサイコとしか書いてなくて、学名も漢字名も示されていない。他にヒントも無い。だから、これ以上探しようがないのだ。
謎は深まるばかりだよ(-“”-;)

因みに、台湾の北部と東部の沿岸地域には「日本前胡」という極めて近似の植物があるそうだ。

 
【日本前胡】 

(出展 2点共『随意窩日誌』)

 
タイワンカワラボウフウとソックリで、判別は困難らしい。しかし、タイワンカワラボウフウは中高度の海抜で見られるのに対して、沿岸部に自生することから、標高でだいたいの判別ができるそうだ。
そっか…、やっぱタイワンカワラボウフウは低地には基本的に生えてないんだね。
亜熱帯の海岸ともなれば相当クソ暑いだろう。したがって台湾のキアゲハが、この日本前胡を食草として利用するのには無理があろう。
にしても、山には他にもセリ科植物なんて沢山あるだろうに。そちらに食草転換できなかったのかね?

それはそうと、この日本前胡って和名は何だろ?
サイトには学名が書いてなかったのだ。
ボタンボウフウ(長命草)なのかなあ?(註4)

食草はタイワンカワラボウフウだとして、話を更に前へと進めよう。
「日本産蝶類標準図鑑」に拠れば、日本のキアゲハの幼虫の食餌植物として以下のものがあげられていた。

「ニンジン、ノダケ、ミツバ、ウイキョウ、シシウド、ハナウド、ハマウド、エゾシシウド、オオハナウド、セリ、オカゼリ、イブキゼリ、ドクゼリ、ヤマゼリ、マツバゼリ、ハマニュウ、エゾニュウ、ハマボウフウ、ボダンボウフウ、イブキボウフウ、タカネイブキボウフウ、アメリカボウフウ、ハクサンボウフウ、シラネセンキュウ、カワラボウフウ、イシヅチボウフウ、ミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、ウマノミツバ、イワミツバ、イワテトウキ、シラネニンジン、ノラニンジン、ミヤマニンジン、ヤブジラミ、アシタバ、パセリ、セロリ、トウキ、ミシマサイコ、エゾノヨロイグサなどの各種のセリ科植物を食草とするが、キハダ、サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウ、コクサギ、カラタチなどのミカン科植物や、ギョリュウ(ギョリュウ科)、フジアザミ、コスモス、ベニバナボロギク(キク科)を野外で食べる場合も知られている。」

いやはや、スゴい数だ。セリ科だけでなく、ミカン科やキク科など、科を跨いで多岐にわたっている。
あっ、ボタンボウフウも入ってるね。日本のキアゲハの幼虫は食うんだね。だから、海岸でも珠に飛んでるのを見かけるんだろう。
それにしても、こんなにあるんだったら、台湾のキアゲハも別な植物を利用しても良さそうなもんなんだけどなあ…。
それに考えてみれば、台湾だってニンジンやセロリ、パセリくらいは栽培しているだろう。ミツバやセリ、ウイキョウ、アシタバだって作ってる可能性がある。中には高原で栽培されてるものだってある筈だ(註5)。それ食えばいいじゃんか❗
なのにタイワンカワラボウフウしか食べないって、どゆこと(;・ω・)❓ 不器用だよなあ。そりゃ絶滅もするわ。
いや待てよ。日本のキアゲハと台湾のキアゲハはきっと別な系統なのだろう。遺伝的には、思っている以上に離れている可能性はある。台湾に長く隔離されることにより独自に進化したか、或いは逆に殆ど進化しておらず、原種に近い古い起源のものなのかもしれない。ゆえに食性だって違うという事は考えられる。他の植物を利用したくとも出来ないのかもしれない。例えばタカネキアゲハは普通のキアゲハとは食餌植物が違うようだ。ブータン高地のものはセリ科やミカン科の植物を与えても食べなかったという話もある。本来的には、食性が狭い種なのかもしれない。日本産は早くに分岐し、独自に進化して食性を広げていったと考えられなくもない。

  
【終齢幼虫】
(出展『そらいろネット』)

 
派手派手のガチャピンみたいだな(笑)
そういえば小学生の頃、ニンジン掘りに行った時にコヤツがいて、とてもビックリした記憶がある。ド派手で気持ち悪くて、激引きでしたわΣ( ̄ロ ̄lll)
因みに画像は台湾産のものではなく、日本産のものである。台湾産の幼虫画像が見つけられなかったのだ。藤岡図鑑によると、ヨーロッパ産から日本のものまでは、幼虫形態がほぼ同じだというので使用しやした。

 
【ヨーロッパキアゲハ Papilio machaon machaon】

(同 裏面)

 
原記載に使われたスウェーデン産の標本写真が無かったので、とりあえずスペイン産を図示しておいた。

  
(終齢幼虫)
(出展『pyrgus.de』)

 
たしかに日本のものとさして変わらない。
しかし、アフリカや北米のものは形態的にかなり違うようだ。面倒くさいが、ここまでくれば徹底しようではないか。長いが藤岡図鑑から抜粋要約しよう。
え~いι(`ロ´)ノ、この際だ、幼虫の画像も探してきて添付しちゃうぞー❗

 
「ヨーロッパでは日本と同様にセリ科を広く食するが、ミカン科も食している(Riley&Higgins 1970)。
アフリカのサハラキアゲハはヨーロッパと食性が異なり、ヨーロッパでキアゲハが好むセリ科のFerulacommuやFoenniculum vulareを食わないようで、これがアフリカ産のキアゲハを別種とする根拠の一つとなっている(Larsen 1984)。
アフリカのキアゲハとヨーロッパのキアゲハでは幼虫の色彩のパターンも全く異なり、ヨーロッパ産は日本と殆ど同じであるが、アフリカのサハラキアゲハは白黒の横縞に加え、気門線と背線の両側にオレンジ色の点列があり、キアゲハよりも別種コルシカキアゲハに似ている。」

 
【サハラキアゲハ Papilio saharae】

(同 裏面)

 
少し違うが、見た目は間違いなくキアゲハだね。

 
(終齢幼虫)
(出展『wildisrael.com』)

 
幼虫は見慣れたキアゲハの幼虫とは全然色が違うし、細かいところも違うから、別種とされるのも頷ける。

 
【コルシカキアゲハ Papilio hospiton】

(同 裏面)

 
分布は地中海のコルシカ島とサルディニア島。
従来はワシントン条約の1類に指定され、採集や売買が禁止されていたが、最近1類から外されたと聞いている。島には沢山飛んでるらしいから、解除されたのかなあ?でも、採ってもOKになったのかはワカンナイ。

おぼろ気な記憶だと、キアゲハの中でも原始的であると云う見解を聞いたことがある。言われてみれば、そんな気もするような見てくれではあるよね。

ところで、学名の「hospiton」って、これも医療関係❓病院とかって意味かなあ?
語源はおそらくラテン語の「hospes」だろう。
でも、この言葉は「Hospital」の他にも「Hotel」や「Host」の語源でもあるんだよね。hospesの意味は、客=おもてなし。だから、皆そこから派生した言葉なんだよね。
まっいっか。んな事、どっちだってよくなってきた。

 
【終齢幼虫】
(出展『nkis.info』)

 
確かにキアゲハの幼虫とは全然違うわ。アゲハチックに見えない。まるで蛾の幼虫だ。これまた別種とされて当然だろう。
因みにコレに見た目が近いものに、他にトラフキアゲハ(チチュウカイトラフアゲハ)の幼虫がいる。

 
【トラフキアゲハ Papilio alexanor】
(出展『butterflycorner.net』)

 
分布はイラン付近から中東、ギリシア東岸部、イタリア南端部、シチリア島、フランス・プロヴァンス地方。
パッと見はアメリカ大陸のトラフアゲハに似てるね。

 
(終齢幼虫)
(出展『by Heiner Ziegler』)

 
サハラキアゲハとキアゲハを混ぜたような幼虫だ。
幼虫の食草がキアゲハと同じくセリ科(パセリ、フェンネルなど)で、成虫・幼虫ともにキアゲハに似ている事から、長らく同じキアゲハ種群に入れられてきたようだ。
しかし、遺伝的にはキアゲハともトラフアゲハとも違う独立したモノだという。他に近い種が無く、原始的なものであるらしい。
これはカッコいいし、採ってみたいなあ(*´∀`)

「またラーセンが P.machaon に分類しているアラビア半島・オマーンのキアゲハssp.muetingiはオレンジ色が薄く、ヨーロッパや日本とはかなり違ったものである(Larsen 1983)。
ヒマラヤのキアゲハが飼育された記録は知らないが、ブータンの短尾タカネキアゲハの卵から孵化した1齢幼虫は、セリ科もミカン科も食さなかった(原田基弘 未発表)。」

残念ながら、アラビア半島のssp.muetingiの幼虫とタカネキアゲハの幼虫画像は見つけられなかった。

 
お次は北米のキアゲハ。
 
「アメリカのキアゲハの食性は、キク科Artermisia horregica、A.dracunculus frigidus。セリ科ではHelacleum lanatum、Zizia apteraと2科6種が知られているにすぎない。地域毎に何を食草とするかが異なり、ssp.brevicaudaはセリ科の8種を食し、ミカン科とキク科にも産卵するが、幼虫が食した記録はないようである。アメリカのキアゲハは、ヨーロッパのようにミカン科を食べないが、ヨーロッパでは食わないキク科を主たる食草の一つとしている。
幼虫の色彩と斑紋も多彩な地理変異があり、五十嵐(1979)、タイラ(Tyleret.al.,1994)によると、終齢幼虫の色彩はbrevicaudaが日本と同じ緑と黒なのに対し、aliskaは黒の中にクリーム色の細い縞、oregoniaは黒の中にオレンジ色の縦縞が入り、bairdiiは黒と空色の縞で、黒の中に白の縦縞が入る。幼虫の地理変異の亜種間類似性は、成虫の斑紋の地理変異と一致していない方が多い(Scott 1986)。」

 
【Papilio machaon aliaska】

(同 裏面)

 
分布はアラスカなど北米大陸北部。
この辺りのものは、ユーラシア大陸のキアゲハに近い種類だと考えられてきた。しかし、アメリカ産キアゲハの遺伝子解析について書かれた論文を読んでいないので、どこで線引きがあるとか詳しいことは分からない。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of North America』)

 
見慣れたキアゲハの幼虫とは違うね。
いや~ん(*´∀`)、むちむちのブリブリさんだー。

 
【Papilio machaon Oregonia】

(同 裏面)

 
和名にオレゴンキアゲハの名がある。
オレゴン州の州蝶にも指定されているらしい。

 
(終齢幼虫❓)
(出展『wikimedia』)

 
幼虫はコレかどうかワカンナイ。らしきものを一応載せただけなので、間違ってる可能性もあります。

 
【Papilio machaon bairdii】

(同 裏面)

 
メキシコ国境辺りにまで分布しており、成虫は黒いキアゲハだ。初めて存在を知った時は北米には黒いキアゲハがいるだなんて思いもよらず、かなりの衝撃だった。
しかし、日本でも極く稀に黒いキアゲハが見つかっているから、種に黒くなる遺伝子が元々具(そな)わっているのだろう。何かのキッカケで、そのスイッチが入ると黒化するんだろね。
黒化するのは、毒を持つアオジャコウアゲハに擬態しているからだろうと言われている。北米ではそれがスイッチになったんだね。南へ行けば行くほどアオジャコウが多いので、それに伴って黒いタイプの割合が増えていくらしい。

 
(終齢幼虫)
(出展『Rising Butterflies』)

 
ssp.ariskaの幼虫に似ているね。
数多くの幼虫画像を見ていると、色んなヴァリエーションがあるように見受けられる。北米のキアゲハの幼虫は、同じ場所でも色んなフォーム(型)がいるのかもしれない。各亜種の分布境界地帯辺りでは、中間型も含めて多種多様なタイプが現れる事は考えられる。となると、幼虫形態は同定には参考程度にしかならないかもね。

 
比較の為に、アオジャコウの画像も添付しておこう。

 
【アオジャコウアゲハ Battus philenor】

(同 裏面)
(出展『MABA Fauna』)

 
キアゲハの仲間のみならず、タテハチョウなど多くの種類が、このアオジャコウに擬態しているそうだ。
憧れのダイアナヒョウモンの♀なんかも、コヤツに擬態してんだろなあ…。

キアゲハの幼虫ばっか見てると、段々免疫が出来てきたようで、気持ち悪さがだいぶと薄れてきた。
今や、ちょっと可愛いかも(・。・)、とさえ思い始めている。
 
近縁の別種であるヤンキーキアゲハの幼虫くんも、ついでにいっとこう。
 
「ヤンキーキアゲハ(Papilio polyxenes)の西側亜種であるssp.zelicaonはセリ科及びミカン科を広く食し、スコットは食草としてセリ科46種、ミカン科3種を挙げている。東側亜種(ssp.polyxenes)もセリ科33種、ミカン科4種を食し、キアゲハに比べて食草の選択は広いが、キク科は食さない。」

 
【Papilio polyxenes polyxenes 東側亜種】
(出展『Canadian Biodiversity Infomation Facility』)

(出展『SciELO Colombia』)

 
黄色いのから黒いのまで色んなフォームがあるんだね。

 
(終齢幼虫)
(出展『The Childrens Butterfly Site』)

 
ヤンキーキアゲハ(別名クロキアゲハ・メスグロキアゲハ)もアオジャコウアゲハに擬態しているとされ、分布はさらに南に広く、中南米にまで達している。
キアゲハの中から擬態と暑さに順応したものが、分岐、進化してきたものかもしれないね。

 
【Papilio polyxenes zelicaon 西側亜種】

(同裏面)

 
ユタ州のもので、超キアゲハ的な見た目である。
これを見て、すぐにヤンキーキアゲハだと答えられる人は少ないだろう。

こちらも黒いのがいる。

 

(同 裏面)

 
これまたユタ州のものである。
同所的に黄色いのと黒いのがいるのかよ❓
頭が混乱してきたが、♀がアオジャコウに擬態してて黒くなるって事でいいのかな?

 
(出展『Utah Lepidopterists’Society』)

 
ようするに、西側は色んなタイプが入り乱れてるんだね。コレにキアゲハの亜種も加わってくるから、現地に行ったらワケわかんねぇだろなあ…(-“”-;)

 
(終齢幼虫)
(出展『PBase.com』)

 
ヤンキーキアゲハの幼虫もアメリカのキアゲハの幼虫も一緒じゃん❗
コレって、果たして別種なのー(◎-◎;)❓

調べたら、自然状態でも雑種が見つかるらしい。それ見た事か!と思ったが、雑種が見られるのはあくまで一部の地域であり、多くの地方では交雑しないという。
交配実験でもF1の雑種は作れるものの、第2世代のF2は基本的には出来ないみたいだ(戻し交配は出来るようだ)。と云うことは、かなり近縁ではあるが別種ということか…。

藤岡さんは幼虫に関しては言及していないが、実をいうとアメリカには、もう1種類のキアゲハ系統の蝶がいる。コヤツも間違いなくキアゲハの仲間だろう。

 
【Papilio indra】

(同 裏面)

 
小型で黒いのが特徴だ。
和名にタカネキアゲハを使用しているサイトがあるから、アジアのタカネキアゲハと被っててややこしい。
それはさておき、タカネ(高嶺)とあるし、小型な事からもおそらくは高地に棲む種類だと推測する。何らかの理由で高地に追いやられた(或いは取り残された)ヤンキーキアゲハが独自に進化したものなのかな❓
調べりゃワカルかと思うが、本題からこれ以上脱線したくないので、興味のある人は自分で調べてね。

 
(終齢幼虫)
(出展『Butterflies and Moths of North America』)

 
キアゲハの幼虫に、サハラキアゲハやトラフキアゲハの幼虫のテイストを混ぜたような見た目だ。
緑色とオレンジや黄色の組み合わせは、まだボップな気がして可愛いが、この手の白とかピンクと黒の組み合わせは受け容れ難い。蛇やウミヘビに通ずるところがあるからだ。わたしゃ、ヘビが大の苦手なのさ。
とはいえ、生き物たちの進化の過程を想像させてくれる多様な変化(へんげ)は面白い。興味が尽きない。

 
最後に藤岡さんはこう締め括っておられる。

「以上要するに、キアゲハの斑紋は極めて地理変異に富んでいるが、幼生期の色彩と食性にもそれ以上に複雑な地理変異があり、しかもそれらの大部分は未調査で全容は未知と言えよう。」

そもそもは台湾のキアゲハの話だから、これ以上はツッ込まないけど、ヤンキーキアゲハも含めて全部キアゲハ(P.machaon)だとする学者もいるんだろなあ…。
一方、ヤンキーキアゲハの両亜種をそれぞれ別種としているサイトもあるから、キアゲハの亜種全部とは言わないまでも、相当数を別種だと考えてる研究者もいそうだ。
アジアでさえ頭がこんがらがっているのに、益々ワケわかんないや。
キアゲハの世界って奥深いなあ…。

 
色々書いているうちにフッと思い出した。
不意に微かな記憶が甦ってきたのである。
2016年、初めて台湾を訪れた時の事だった。着いて、二日目が三日目だったと思う。標高1900m付近でアゲハみたいな影を見た記憶が微かに残っている。一瞬の事で、木の梢の向こうにあっという間に消えたし、かなり遠くだったからキアゲハだったと言い切る自信は全く無い。ただのナミアゲハだったかもしれない。或いはオナシアゲハとかリュウキュウアサギマダラとかの他のチョウだった可能性もある。再度強調するが、何せ距離は40、50mくらいは離れていたし、一瞬の出来事だったのだ。それに、当時は台湾でも日本と同じくアゲハやキアゲハは普通種だと思ってるから、ほぼ無視だろう。そんなの真面目に見ていないのだ。だから記憶として鮮明にメモリーされにくい状況にあったとは言えよう。普通種の映像メモリーなんて要らないから、脳ミソはソッコー消去なのだ。
とはいえ、ナミアゲハやオナシアゲハだったとしたら、標高が高過ぎる。両種は垂直分布がもっと低い。その標高でもいる事もあるだろうが、遭遇率は決して高くはない。

じゃあ、あれはいったい何だったのだろう❓
陽炎立つ尾根で、白昼夢でも見ていたのかもしれない。

目を閉じる。
キアゲハの幻影と共に、あの青い空と緑の稜線が瞼の裏にゆっくりと浮かびあがってきた。
今もキアゲハは台湾の山奥の何処かで人知れずひっそりと生きているに違いない。
 

                  おしまい

 
追伸
谷関の道路が開通すれば、きっとキアゲハもマレッパイチモンジも見つかる筈だ。谷関から東側へと抜ける道が何十年振りかに一部開通したと云う噂もある。
幻のマレッパイチモンジとキアゲハに会いにいく旅って、浪漫を感じるなあ…。

冒頭にキアゲハを取り上げた理由をグダグダと書いたが、実を言うともう一つ候補があって、どちらにするか迷っていた。
しかし、福井にギフチョウを採りに行った際に偶々(たまたま)キアゲハに出会い、改めてその美しさに感銘したのがダメ押しとなった。

 

 
普通種である事を除(の)けて純粋な目で見れば、その美しさはギフチョウと甲乙つけ難いと思う。もしも、ギフチョウと同じくらいの珍しさで年1化であったならば、春先の蝶の人気を二分していたかもしれない。個人的には、裏側のデザインと全体のフォルム(翅形)はギフチョウよりも美しいと思う。

今回は書き始めてから完成まで二週間近くかかった。
調べれば調べるほど泥沼化していったんだよね。カラスアゲハの回よりかはマシだったけど、難産だった。最悪である。解説文が多くてストレスが溜まるし、疲れたよ。図鑑の解説文が時に数式に見えたくらいだよ。図鑑の文章は面白味が無くて嫌い。
いつも書きたいから書き始めるんだけど、結局、文章を書くのがバカバカしくなってきて暗擔たる気分になる。こんな文章、所詮は生産性が極めて低いのだ。
赤ん坊はもう疲れたよ、サヨナラをするよ。

  
(註1)尻の感じからすると
キアゲハの♀は♂と較べて尻先が尖る傾向にある。

(註2)藤岡大図鑑
藤岡知夫『日本産蝶類及び世界近縁種大図鑑1』

(註3)ヒポクラテスの誓い
医師の職業倫理について書かれた宣誓文で、世界中の西洋医学教育において長きに亘って教えられてきた。
内容は、金銭的報酬だけを目的に医療を施したり医学を教えたりすることを戒め、人命を尊重し、患者のための医療を施すこと、患者等の秘密を守る義務などについて述べられている。

(註4)前胡=ボタンボウフウなのかなあ?
前胡の学名は、どうやらPeucedanum japonicumみたいだ。で、やっぱ和名はボタンボウフウでした。

ボタンボウフウ Peucedanum japonicum
本州中部以西、四国、九州、琉球、朝鮮南部、中国、フィリピンに分布する。
沖縄県では長命草、サクナと呼び、葉を和え物、薬味などの食用に利用する。

食べたことあるけど、結構美味しかったような記憶がある。台湾では食べないのかなあ?

(註5)高原で栽培されてるものだってある筈だ
セリ科ではないけれど、標高2500mにキャベツ畑があった事を思い出した。だからニンジンやセロリなんかも高地栽培しててもオカシクないと思うんだよね。でも農薬かかってたら、あきまへんなー(_)。
生きのびるのは、そう容易くはないのだ。
 
追伸の追伸
脱稿後、タイワンキアゲハの食草について新たなる情報を得たので、続編を予定しています。

 

初たけのこ

 
実を言うと、10日程前に既に今年初の筍は食べている。
この時期はまだまだお高いので中々買えないのだが、小振りの奴がおつとめ品で¥248だったのだ。

糠を入れ、圧力鍋でコトコトと弱火で1時間半ほど茹でた。最近は鷹の爪は入れない。一度入れ忘れたことがあるんだけど、有っても無くても変わらないと思ったからだ。火を切り、そのまま一晩放置。翌日に調理する。こうした方が、筍の香りが逃げないような気がするからそうしてる。

迷うことなく、若竹煮にした。
獲れたてをそのまま豪快に焚き火にブチ込む焼きタケノコが一番美味いのだが、そんな事は家では中々出来ない。家事になるわい(#`皿´)❗
(;・ω・)「タケノコ焼いても、家焼く」なである。
あっ、それって焼肉だわさ。
だいち、しおつとめ品だ。そこまでする程のクオリティーのタケノコではない。頑張ったところで、努力に味が釣り合わない。となると、若竹煮になるのは自明の理じゃろう。

切り分けた筍を薄味の出汁で、弱火で沸騰させないようにじっくりと煮る。仕上げに生の若布を入れて出来上がり。
でも、丁度そのタイミングで電話がかかってきた。
火を切ってはいたのだが、結果、ワカメがヘドラみたいにドロドロに。

 

 
見てくれは悪くなったが、それはそれで嫌いじゃない。旨みがアップして美味いのだ。
最後に、木の芽を軽く叩いて添える。

ほっこりとした香りと仄かな苦みに舌鼓を打つ。
すかさず、冷やの日本酒を口にふくむ。

春ですなあ……(´∇`)

                 おしまい

 
追伸
翌日はヘドラたけのこを活かして、粒山椒を入れてグチャグチャにしてみた。

 

 
見てくれはさらに悪くなったけど、これが予想外に旨いんだよなあ~(´∇`)

 

2018′ 春の三大蛾祭

 

そろそろ春の三大蛾の季節である。
その前に去年のおさらいをしておこう。
とはいえ、2017年にこの三大蛾については4回にわたる渾身の文章を書いた(註1)。ゆえに今回はサラッといかさせて戴きやす。

去年の記録を紐解くと、計4回出動していた。
1回目は、今日と同じ日付の4月1日にライトトラップに行っている。この日は選抜高校野球の準々決勝を観に行ってて、第4試合の途中でアホの植村に迎えに来てもらい、兵庫県の武田尾方面に行った。

 

 
強力な水銀灯を植村が用意してくれた。
植村くん、あんたはエライ偉い❗

それにしても、蛾を採りたいが為に人里離れた山の中でこんな事してるって、普通の人から見れば、狂気の沙汰だよな。自分がそんな人になるとは思いもよらなかったよ。人生、何があるかわからない。

 
【オオシモフリスズメ♂】

 
デカい。日本最大のスズメガだ。
そして、悪魔的な出で立ちである。
そのバケモン振りに、初対面は畏怖したね。

 

 
でも今や、可愛いとさえ思える。
もふもふだし、ほよ(;・ω・)顔なのである。
おまけにチューチューと鳴くから笑える。
だからと言って、不用意に触ってはなりませぬぞ。
毒があるというワケではないが、脚に鋭いトゲがあるのだ。
そんなことは知らなかったから、掴んだら手に鋭い痛みが走った時は、(|| ゜Д゜)ウワッ❗、コイツ噛みよった━━━❗❗とマジでビビった。

 

 
この日は5、6頭は飛んできたんじゃないかな?
でも、全て♂だった。
実を言うと♀の標本は一つも無い。採ったことは一度だけあるけど、羽が欠けていたのでリリースしたのだ。だから、♀が欲しいのである。

エゾヨツメも飛んできた。
しかし、画像は無い。植村が三大蛾をどれも採ったことがないから譲ったのだ。それに計3つほど飛んできたかと思うが、これも全部♂だった。それも写真を撮らなかった理由だろう。
と云うワケで、2017年の画像を使おうと思ったが、コレまた画像が無い。仕方がないので、裏面と標本写真のみ添付しておきます。

 
【エゾヨツメ♂】

 
青い瞳のエリスちゃんだ(笑)
コバルトブルーが美しい。
腕が白いのも、お嬢の長袖の手袋みたいで可愛い。

実を言うとエゾヨツメの♀も採ったことが無い。
コチラは見たことすらない。だから、何とか♀をゲットするのがこの年の目標だった。

結局、イボタガは一つも飛んで来なかった。
春の三大蛾の中ではイボタガが一番遅れて出てくるのではないかと思う。しかし、場所にも拠るだろうし、あくまでも私見ですので、あまり鵜呑みにはなさらぬように。

  
2回目もライトトラップで、3日後の4月4日だった。
この日も選抜高校野球の決勝戦を観に行ったあとだね。とはいえ、試合終了後から日没まではだいぶ時間があったので一旦家に帰った。で、一眠りして晩飯を食い終わった頃に植村に迎えに来てもらった。場所は同じく武田尾方面である。
今、思い起こすと、植村はイボタガが採れなかったので執念を燃やしていたのだろう。虫屋の鏡である。そうでなくっちゃ、良い虫は採れない。たかが虫捕りだが、根性は必要不可欠な要素なのだ。

 

 
この日はオオシモフリが、ジャンジャン飛んできた。
15頭前後は飛んできたかと思う。でも、又しても全て♂だった。
植村は前年と比べて格段に虫捕りが上手くなっていた。何よりも反応が早い。彼の方が飛んで来た蛾を見つけるのが一瞬だけ早いのだ。この能力に関しては、自分は殆んど人に負けることは無いのだが、この日はやられっぱなしだった。まあ、オイラはどう云うワケか夜目が効かないと云うのはある。夜の運転時などは、遠近感があやふやになるのだ。それに♀以外は興味が無かったというのもある。でも、それを差し引いても彼のポテンシャルは高いと思う。まあ、アホだけど。

待望のイボタガも飛んで来た。

 
【イボタガ♂】

 
計3つか4つ飛んできたかな。
解せないのは、3日前に一つも飛んで来なかったにも拘わらず、完品は一つしか採れなかったことだ。他は羽がやや擦れていたり、切れてたりしていたのだ。
と云うことは、3日前には既に発生していた可能性が高い。じゃあ、何で3日前は飛んでこなかったの❓
虫の考えてることは、よくワカランよ。

一方、エゾヨツメは一つしか飛んで来なかった。
コレまた、どう解釈すればいいのかワカラン。

因みに、イボタガの♀は既に採っていて、完品の標本もある。でも、イボタちゃんは沢山ほしい。三大蛾の中では、コヤツが一番カッコイイと思うからだ。似たような柄の蝶や蛾はいないんじゃないかな。それくらいに個性的でモダンなデザインに牽かれる。

 
3回目は生駒の枚岡公園に外灯回りに一人で出掛けた。日付は4月11日。ターゲットは勿論オオシモフリスズメとエゾヨツメの♀である。
しかし、外灯は殆んどLEDに換わっており、何も飛来しないという惨憺たる状態だった。
唯一、エゾヨツメらしきものが飛んでいるのを豊浦橋で見つけた。しかも♀っぽかった。しかし、まさかそんな高い所を飛ぶものとは思いもしなかったので、長竿を持ってきていなかった。ライトトラップに飛んでくる蛾を見て、奴らは低い所を飛ぶものとばかり思い込んでいたのだ。けれど冷静に考えてみれば、昆虫は光に向かって飛んでくるのである。徐々に引き寄せられて来るから、たとえ高い所を飛んでいるものでも、近づくにつれて自然と高度は下がってゆくのが道理だ。そこに思い至らなかったアタイは、おバカちゃんである。

そやつは暫く飛んだあと、やがて橋の袂にあるナラガシワの樹の梢に止まった。7、8mはあったかと思う。50センチにも満たないお散歩ネットでは届くワケがないので、その辺に転がっていた倒木の端くれを投げたら見事💥命中❗
元、高校球児を(#`皿´)ナメんなよである。
しかし、羽があるものが落下するワケもなく、驚いて飛び立ち、全速力で闇の奥へと消えて行った。

 

 
肩を落としての帰り道。大阪平野の夜景が、ただただ美しかったのを憶えている。

 
4回目は、翌4月12日。
悔しくてリベンジしたろと思ったのである。しかし、もう一度生駒に出掛けるほどアホではない。水銀灯や蛍光灯も無いのにリベンジも何もあったものではない。昨日、出会えたのは単なる偶然にすぎないと考えるのが妥当だろう。橋の袂で煌々と光を放っていた外灯は、LEDなのである。そいつに寄ってきた可能性は皆無に等しい。偶々(たまたま)、そこを通過する時に出くわしただけだろう。
そういうワケで、まだ水銀灯がまだ残っている箕面の滝へと出掛けた。
ここは水銀灯がそこそこあって、トイレも蛍光灯だから期待が少しは持てる。しかし、飛んで来る蛾の個体数は決して多くはない。

 

 
この日もロクなものは飛んで来ず、唯一持ち帰ったのは10時半に飛んできたイボタガの♀だけだった。

 
【イボタガ♀】

 
それでもイボタガは三大蛾の中で一番好きなので、少しは溜飲が下がった。

この年は、結局エゾヨツメの♀もオオシモフリスズメの♀も会うことさえ出来なかった。今年こそ、シバく所存だ。今週辺り、そろそろ動き出そうかと思う。
誰か、ライトトラップに連れていってくれよー(ToT)

 
                 おしまい

 
追伸
サクッと終わらせる予定だったが、思いの外に長くなってしまった。

因みに、この時の選抜高校野球の記事もあります。
興味がおありの方は、本ブログの野球のカテゴリーの欄から探してみて下さい。

それはそうと、オオシモフリスズメとエゾヨツメの展翅は、ちょっと上翅を上げ過ぎたかなあ…。蛾の展翅は、お手本があまりないから自己流過ぎたかもしれない。今年は、もう少し下げてみよっかな。

(註1)渾身の文章を書いた
『春の三大蛾祭』と題して、当ブログで4回に分けて連載した。
各タイトルは以下の通りである。

第1話「青天の霹靂編」
第2話「悪鬼暗躍編」
第3話「闇の絵巻編」
最終話「魑魅魍魎編」

第1話のみリンク先を貼っておきます。

青天の霹靂編

他は下の関連記事の欄から記事に飛べます。
 

2019′ 平成最後の選抜甲子園 その2

 

『ベロ酔い(@_@;)甲子園』シリーズの第2弾は、大会第6日目である。
今日は第1試合から観る気で朝早く出た。

 

 
バックネット席(中央特別自由席)が、まだ販売されていた。
考えてみれば、去年から外野席ばっかで観戦している。星稜の奥川くんのピッチングも近くで見てみたい事だし、せっかくの機会だから並ぶことにした。

 

 
並んでいる時は目の前でチケットが売り切れたらヤだなあと不安に駆られたが、何とか無事購入できた。
夏はクソ朝日新聞が指定席にしてしまったが、春は従来通りの自由席だ。毎日新聞は偉いよね。
指定席ならば、どれだけお客さんが帰ったとしても席を移動できない。ガラガラなのに、雨が降ってきたとしても屋根の下の席に移れないってことだ。こんなバカバカしい事ってない。売国奴新聞には猛省して戴きたい。

その足でイオンに向かうも、まだやっていなかった。
どうやら10時からみたいだ。ダイエー時代はもっと朝早くからやってたような気がするけどなあ…。
仕方なく駅前のコンビニに寄り、酒を買い込んでから球場へと戻る。

 

 
今日の対戦カード。
けっこう見応えがありそうだ。楽しみなのは智弁和歌山の強打と高松商の試合振り。それと奥川くんのピッチング。あとは美爆音と呼ばれる習志野の応援が、いかほどのものなのかを体験する事くらいかな。

 

 
正面玄関の左から入場する。バックネット席だから入口も近い。V.I.Pは、あんま歩かなくていいのだ。ずっと庶民席だったから、何となく気分がいい。

 

 
スタンド内に入った瞬間に、目の前がパッと開けた。
と同時に応援の音が覆い被さるように迫ってくる。そして、背中を有無を言わさずに這い昇ってくるものがある。甲子園に来たんだなと云う実感がジワジワと湧いてくる。この至福の瞬間を最も味わえるのがバックスタンドだ。これだけでも此処へ来る価値があると思う。

 

 
正面やや左手に席を確保することができた。グランドからかなり近い。

上を見上げる。

 

 
銀傘と青空。
春らしい少し霞んだような空が眩しい。
球春、のたりのたりかなと呟く。

 

 
泡を飲む。
バックネット席ゆえテーブルがあるのが有り難い。
🍺グビッ、🍺グビッ、🍺グビッ。(´∇`)ぷはー。
これまた至福。一挙に半分近くまで飲んでまっただよ。
このビールのロング缶の他にアルコール度数9%のストロング酎ハイを3本用意している。
フフフ( ̄∇ ̄)、本日もベロ酔い(@_@;)体制万全である。

試合は2回裏の熊本西の攻撃に入っていた。
連打のあと、ダブルプレーの間に三塁ランナーが還って1点先制。去年、試合中に選手が亡くなった熊本西には、それを乗り越えて頑張ってほしいよね。こういうチームが優勝したら、とても嬉しい。

しかし、智弁和歌山の強力打線は容赦がない。
3回表に連打であっさり4ー1と逆転。4回には4番東妻が打った瞬間にそれと解るレフトへのホームランなどで一挙7点を奪った。
熊本西が5回に1点を返すも、結果は12ー2で智弁の貫禄勝ちで終わった。

 

 
智弁の応援席は、きっと楽勝気分だったんだろなあ。
結局、相手を追い詰める魔曲「ジョックロック」を最後まで一度も演奏しなかった。

 

 
因みに智弁和歌山の監督は、今年から名将高嶋 仁監督から元阪神タイガースのドラ1中谷 仁に引き継がれた。
あっ、二人とも下の名前が仁なんだね。ダブル仁だとは今の今まで気づかなかったよ。
とにかく、この日が甲子園での初采配だったので、それにも注目してた。何かやらかして、いきなりポンコツ監督の仲間入りすることを密かに期待していたが、特に采配の綻びは無かった。むしろ継投なんかは鮮やかだった。このまま勝利を重ねて名将と謳われるようになれば、全然活躍出来なかったけど、プロ野球に在籍した事は無駄にならなかった事になる。阪神タイガースには殆んど貢献してないけど、その域にまで到達すれば全然許す。今後も精進されよ。

実を云うと試合が終わる前には、席をさらに真ん中寄りに移動させていた。常に良い場所に移動することには吝(やぶさ)かではない。というか、そういう性格なのだ。

 

 
次の試合が始まる前に腹ごなしをすっぺ。

 

 
イオンに寄れなかったので、ツマミを購入することを断念。おにぎりにした。名前も知らないようなローカルコンビニだったから、ろくなツマミしか無かったのだ。
それにしても、酎ハイとおにぎりって絶望的に合わんなあ~(ToT)。悲しくなってくるわ。

 

 
阪神園芸さんの芸術的なグランド整備が始まる。
中でも、この水撒きはいつ見ても惚れ惚れとさせられる。

 

 
無垢なグランドの何と美しきことか。

 

 
スマホのカメラゆえ、広角に写ってしまうから解りづらいと思うが、実際はグランドからかなり近い。前から二段目のブロックの真ん中辺りにいるんである。だから、ピッチャーの球筋までよく解る。それだけ近いと、さすがに真面目に野球を観る。外野で観てる場合は、時に集中力が散漫になるのだ。おまけに人と来ているとあらば、間違いなくアホみたいな妄想高校野球劇場を語り部となり、周りのお客さんの眉をひそめさせるに違いない。

高松商の先発はエース香川くんではなかった。
最近は複数の良いピッチャーを揃えているところが多い。だから、今では継投が当たり前だ。最近、公立校が活躍できないのは、そのせいも有るんだろう。高校野球の長い歴史の中でも、それなりの戦術の変化の推移があるんだね。

1回裏。市和歌山の攻撃。
ぽんぽんと簡単にツーアウトを取ったから、これは中々点が入らないかもと思ってたら、三番打者が左中間にソロホームランを放った。
2回裏には2点適時打で更に追加点をあげ、0ー3。
4回裏のピンチで、高松商がようやくエース香川くんを投入した。しかし、準備の投球練習をしてなかった。軽くキャッチボールを3、4球だけしてマウンドへ。
ヤバイんでねぇのー❓と思ってたら、やはりコントロールが定まらない。で、ワイルドピッチ。エラーも絡んで2点を献上。更にタイムリーヒットも出て、1点追加して0ー6になった。
これはもう準備させていなかった監督の責任だろう。
一方、高松商は4回までノーヒット。ようやく5回に連打でチャンスを作るが無得点。
6回にようやく2点を返し、その後もチャンスをつくるも、そのままのスコアで試合終了。

 

 
スコア以上に見応えがある試合だった。高松商が7安打、市立和歌山が8安打という事からも、両者の力が互角だったことが伺える。
香川くんは、その後は市和歌山打線をゼロに抑えてたから、これはもう監督のせいで負けたと言われても仕方ないよね。

 

 
第3試合の習志野VS星稜戦が始まった。

レッツゴー習志野
(タップすると、YouTubeの映像に飛びます)
 
習志野の応援団の美爆音、聞きしに勝る大音量だ。
しかも、演奏が上手い。あまりのデカイ音に、何か笑けてきたわ。

 

 
奥川くんの球は速い。でも今日は150㎞を超えるボールはない。しかも、高めに抜けるボールが多い。

2回裏に星稜が1点先取した。
それに対して習志野は、4回表にようやく初ヒットを放ち、二死一、二塁のチャンスにポテンヒットで同点に追いつく。この回に出た初ヒットもポテンヒットだったから、星稜には運が無い。
習志野の応援は更にボルテージ上がり、隣の人の声も聞きづらいような状態になる。何とブラスバンド部員が200人もいるそうだ。そりゃ、爆音にもなるわい。

ここで星稜のキャッチャーが、主審と何やら話しだした。何かは解らないが、何かが起きている事には間違いなさそうだ。
でもこの時は習志野の応援の音量がデカ過ぎて野手間の声がけも聞き取れないからと抗議してるんだろうと思ってた。しかし、あとから知ったんだけど、二塁ランナーがサイン盗みをしてると抗議していたようだ。けれど、それは結局は認められなかったみたい。試合後、激怒した星稜の監督が習志野側のインタビュールームに乗り込んで文句を言ったそうだ。しかも、2回も。
その際、習志野の監督が「星稜さんとこも、やってるでしょ。」云々的な事を言ったらしい。逆ギレの酷い言い様である。どこまで本当かは真相は解らないが、あとで習志野の監督の顔を見たら、その言動も有り得るなと思った。人を見た目で判断してはいけないが、そのあまりの悪相振りに驚いた。典型的な悪代官みたいな顔だったのだ。絶対に怒らしてはいけないタイプの人っているでしょ?正にそれ。ヤのつく自由業の方たちとかが持っておられる凶気が間違いなく漂っていらっしゃる。しかも親分クラスの。まあ、強豪チームはどこでもやっていると云うのは聞いたことあるから、習志野の監督にとっては当たり前田のクラッカーだったのかもね(笑)。

少し離れた席のガキンチョが、甲子園カレーを食っている。そのカレーの香りが風に乗って流れてきた。
こうなると、もう溜まらんけんね( ; ゜Д゜)
5回が終わる前にカレーを買いに走る。

 

 
当然の如く辛口である。
甲子園カレーを食ったことが無い人は「たかが球場で売ってるカレーでしょ。単なる名物で、それほど旨いワケないっしょ。」と思っているに違いない。
だが、ナメてはいけない。これが予想外に旨いんである。味を伝えるのは難しいが、普通にメッチャ旨い。コクがあって適度にスパイシーで、万人が旨いと言いそうな絶妙なスタンスなのである。言い換えれば、昔からある普通の喫茶店の、虜になる美味しいカレーって感じ。

 

 
それにしても、カレーに酎ハイは絶望的に合わない。
(_)最悪のカップリングじゃよ。

7回表、習志野の攻撃。この時も二死二塁でボテボテの三塁線のゴロをサードが取れずに1点が入った。奥川くんは、いい当たりのヒットを殆んど打たれていないから気の毒としか言い様がない。
8回裏、星稜は1アウトから二塁打が出た。しかし、牽制球で痛恨のタッチアウト。こういうことしてると、勝利の女神は遠のく。
そして、9回に奥川くんが8番バッターにダメ押しのホームランを打たれてしまう。
で、そのまま負けちゃった。

 

 
やっぱり星稜は、今年も接戦を勝ちきれなかった。
本当に強いチームは、サイン盗みとかモノともせず、へっちゃらで勝つものだ。いちいちそんな事で動じているようでは、星稜の優勝はいつまで経っても無理かもね。

               つづく…予定。