2020’Xmas🎄の献立 その4

 
長々と書いてきたが、漸くメインである。

 

 
マルニの『丸鶏 グリラー・スモーク』。
毎年12月に入ると「酒のやまや」で発売される商品だ。
クリスマスには毎年のようにコレを食ってる。正直、甘辛い鶏のローストは甘過ぎるから、すぐ飽きるしデカいので敬遠してる。けど、このグリラースモークならスモークゆえに甘くないし、丸鶏といっても小さい。2人前くらいの量の大きさで丁度いいのだ。それに値段も700円くらいと、お手頃価格なのも嬉しい。

 

 
今までの献立がクリスマスっぽくなかったので、南天を飾ってクリスマスらしくしてみた。

えー、胸肉の部分に皮の部分を合体させ、バランス良く食っていくのが、最後まで美味しく食べるコツです。
ワッシと手で掴んでカブりつく。

(≧▽≦)相変わらず、安定の旨さだねー。
すかさずシャンパンに手を伸ばす。

 

 
モマンドール エクストラドライ。680円。
サントリーから発売されてる安いシャンパン(スパークリングワイン)だが、辛口で、値段のわりには結構旨い。そして、和食にも合うと謳っているから合わせる料理にあまり悩まなくてすむ。

尚、グリラースモークの骨は捨てずに熱湯で煮出すと出汁がわりになる。

えーと、今回は〆はございやせん。勿論、甘党ではないからデザートもない。
あとはダラダラとチーズを食ってた。

 

 
ゴルゾンゾーラ・ディップ・ドルチェ。
勿論、よくやられている蜂蜜なんぞは掛けない。酒飲みなら、そのまま食うのが王道だ。ゴルゴンゾーラの塩気が酒を呼ぶのである。

食べてみると、ゴルゴンゾーラのわりにはマイルド。クセが強くなくて食べやすい。ゴルゴンゾーラ好きとしては、やや物足りない気もしないではないが、旨いには旨いから文句はない。

大晦日に何でクリスマスの話やねんだが、今年の記事はコレでおしまい。さっ、そろそろ年越し蕎麦でも作ろ〜っと。

皆様、良いお年を。

                       おしまい

 

2020’Xmas🎄の献立(3)赤目芋と鶏の肝煮

 
クリスマスの献立第三弾である。

今日のメインの酒はシャンパン(スパークリングワイン)だから、鶏肝をペースト状にしてパテか何かにしようと思った。
けど、考えてみれば邪魔くさいし、和食にも合うスパークリングっていうんだから、手抜きする事にした。

 

 
鶏の肝煮である。
作り方は簡単。

①肝を軽く水洗いする。
鍋に肝、水、だしの素(昆布かつお)、酒を入れて火にかける。ちなみに鶏の肝は牛や豚のレバーと違って臭みはないから、牛乳なんぞに漬けなくともよい。

②火が通ったら、仕上げに醤油と味醂を加えて火を消し、冷ます。しばらくおいて味を馴染ませたら、粉山椒を振って葱を散らして出来上がり。

(☆▽☆)旨いっ❗
コチラもスパークリングワインとの相性は抜群だ。
我ながら天才じゃないかと思う(笑)。

 

 
スパークリングワインは、モマンドール・エクストラドライ。
値段は680円。値段のわりには旨いと思う。辛口で料理の邪魔をしない。

続けて、赤目芋。
赤目芋と云う名前を知っている人は少ないだろうけど、里芋の仲間である。
(°o°)あー、でも芋の写真を撮り忘れた。なので、画像をお借りしよう。

 

(出典『たべるご』)

 
こうして芽が赤いのが特徴なので、本当は「赤芽芋」と書くのが正解だろう。でも「赤目芋」と書いてあるケースが多いような気がする。他に「大吉芋」なんて呼称もあるが、これは「赤目大吉」という品種があるからかもね。あっ、赤目芋の名称もコレの影響が大かもしれんね。この品種が主流みたいだしさ。

作り方は以下のとおり。例によって調味料は目分量だ。

①先ずは芋の皮を剥く。で、塩を付けて擦する。したら、鍋にそのまま入れて、水(できれば米の研ぎ汁)から下茹でする。これは最初から出汁で煮ると味が入りにくいからだ。串を刺して中まで火が通ったことを確認したら、火を切って煮汁を捨て、軽く水で芋を洗う。

②あとは芋を出汁で煮るだけだ。
出汁は鱧を湯引きした時の煮汁に、昆布(顆粒だしでも可)を入れたものがベースだ。そこに芋、酒ドバドバ、味醂少々、薄口醤油を適当に入れて、さっき言い忘れたけど圧力鍋で煮る。その方が時短になるし、芋がふっくらと仕上がるのだ。

三つ葉を添えて完成。

 

 
(☆▽☆)旨いねぇ〜。柔らかくてホクホクじゃよ。
身質は里芋と比べて粉質でヌメリが少ない。食感はどっちかというと海老芋とかに近いかも。
問題は泡との相性だ。マッシュルームや鶏の肝との相性に心配はなかったが、はたして里芋なんぞに合うのかね❓
すかさず、スパークリングワインを飲む。

✌️(≧▽≦)イケますぅー❗
全然、相性大丈夫っすー。

肝心な事を言い忘れたが、赤目芋の正式名称はセレベス。
昔、日本に帰化したセレベス侯爵が故郷のホゲメネラ王国を懐かしく思い、母国から送らせたものが日本に定着した…。
と云うのは真っ赤なウソでぇー、名前の由来はインドネシアのセレベス島から伝わったとされるからだ。補足しておくと、セレベスは昔の呼び名で現在はスラウェシ島と呼ばれている。
スラウェシといえば、ウォーレシアとも呼ばれ、東洋区とオーストラリア区の間に位置し、島の両側に生物境界線のウォレス線とウェーバー線が引かれている。で、そこにいる生物は変と云うか不思議な進化をしていて、興味深い。

 

(出典『蝶の百科 ぷてろんワールド』)

 
赤いのがウォレス線でオレンジがウェーバー線。
何で2本あるのかというと、最初にウォレスさん(註1)が提唱して、のちにウェーバーさんが淡水魚の分布から『ウォレスさん、アンタそれちゃいまんでー。』と新たな境界線を引いたってワケ。
でもこれはどちらかが間違ってるというワケではなくて、どちらも正しい。どういう事かというと、ある種の生物はウォレス線を境に分布しなくなるけど、別な生物はウェーバー線を境にいなくなるって事だね。だから、明確に1本の線は引けないって事なのさ。
現在ではウォレス線の西側は東洋区、ウェーバー線の東側はオーストラリア区の生物が生息すると云う事で落ち着いているようだ。で、スラウェシ島には東洋区の蝶もオーストラリア区の蝶もいるんだけど、これは最近の研究では東洋区の島とオーストラリア区の島が💥ガチンコで合体して出来たかららしい。
その後、何千万年か何億年かは知らんが、長い年月を経て生物相が融合し、独自に進化していったのではないかと言われているようだ。
実際、スラウェシ島の蝶はとっても変だ。同じ種類でもなぜか他地域のものよりデカくなる傾向があり、翅が尖んがって湾曲化する傾向も強い。あと、黒化といって翅が黒っぽくなる種類も多いのだ。何でそないなるかは、学者はんらも説明できないみたい。

日本にもいるアオスジアゲハは、東アジア〜東南アジア、オーストラリアにもいて、スラウェシの西側、たぶん隣のボルネオ島にもいる。

 
【アオスジアゲハ】

 
前述したようにオーストラリアにもいるから、どちら側からかは分からないが(とは言っても多分アジア側からだろう)、スラウェシに侵入して独自進化してミロンタイマイになったんじゃろうね。

 
【ミロンタイマイ】

(2013.1 バンティンムルン)

 
そういや並べた画像もあったな。

 

 
ねっ、巨大化して前翅が湾曲してるざましょ。
黒化とはまた違うが、青緑の紋も減退していて黒っぽい。

スミナガシも巨大化&湾曲化している。

 
【Dichorragaia nesimachus pelurius】

(2013.1 タナトラジャ&palopo)

 
下のデカいのは、裏展翅である。
それにしても、何で裏展翅なんかしたんだろう❓こんなデカい個体を裏展にするなんて勿体ないよなあ。上の小っちゃいのを裏展にすべきだった。アンテナも気に入らんし、ひっくり返して展翅しなおしてやろうか❓でも、めんどくせーなあ。
今思えば、最初からもうちよっと考えて展翅しておくべきだった。相変わらず、なあ~んも考えていないんである。

フラッシュを焚いたら、こうなった。

 

 
うわっ(;゜∇゜)、色と斑紋にメリハリがスッゲーついた。
光をあてると、こんなに複雑な色柄なんだ…。
おそらくペルリウスっていう亜種だと思うが、やっぱさすがスラウェシ島である。スミナガシもかなり変わっている。巨大化&前翅湾曲の所謂(いわゆる)スラウェシ仕様の特徴を具現化していらっしゃるのだ。こんなに変わっててカッコイイなら、もっと真面目に採るべきだったなあ…。とは言いつつも、珠に見る程度だったけどさ。スミナガシはアジアに広く分布してるけど、日本みたく沢山いるとこは見た事がない。何処でもレアなのだ。

リュウキュウムラサキの仲間にも巨大化した奴がいる。

 

(2013.1 タナトラジャ)

 
下の奴だけど、名前はディオメアムラサキだったかな。場所はタナトラジャだったと思うけど、コレはカッコイイからもっと採りたかった。ちなみに上は比較用のリュウキュウムラサキだす。

 
他にもオビモンアゲハ、アオネアゲハ等々が巨大化&湾曲化している。

 
【ギゴンオビモンアゲハ】

(2013.2 palu)

 
模様はオビモンアゲハと殆んど変わらないが、バカでかい。
オビモンアゲハとは別種だとされているが、どう考えてもオビモンアゲハが進化したものだ。

 
【アオネアゲハ】

(2013.2 palu)

 
コチラも巨大化が著しいが、別種ではなく、亜種扱いになっている。補足しておくと、青色の部分は本当は緑色。光の当たる角度によっては、こうゆう風に青色にも見えるのだ。

 
【アンドラノドルスオナガタイマイ】

(2013.1 palu)

 
模様はオナガタイマイとソックリだが、コチラもアホみたいに大きくて王者の風格がある。
アンドラノドルスは美しい。川の真ん中の水面スレスレを飛ぶ姿は優美にして優雅だ。
だが、優雅とはいっても速いし、岸辺には寄って来ないから採るのは大変だった。

 
【ミリナハレギチョウ】

(2013.1 タナトラジャ)


(2013.1 バンティンムルン&タナトラジャ)

 
ハレギチョウもスラウェシでは湾曲化&巨大化してる。
上は南部のもので下は中部のもの。北に行けば行くほど青くなってゆき、北部では青色になる。で、たぶん別亜種になるんじゃなかったかな。
他には、ベニシロチョウが巨大化プラス翅先トンガリになったオオベニシロチョウなんかも典型的な例だろう。画像は撮ってないから無いけど。

巨大化はしていないが、前翅は湾曲しているのも結構いる。

 

 
左上はシロモンチャイロイチモンジで、右上はクロクモイチモンジ。下はセレベスアサギゴマダラかな。
シロモンもそうだけど、クロクモの湾曲が激しいね。

 

(2013.1 タナトラジャ)

 
また、このように湾曲プラス擬態関係に有りそうなモノも数多くいるから楽しい。
上がユベンタヒメゴマダラで下がイスマレカバマダラ。両方ともマダラチョウの仲間で、おそらく互いに毒があるからミュラー型擬態だね。ようは、こうゆう柄のチョウは毒があると天敵に刷り込ませる機会を増やす作戦だね。
あっ、たぶん前の画像の中のセレベスアサギゴマダラも、おそらくマダラ系の奴に擬態しているものと思われる。

 

(2013.1 palopo)

 
右が、たぶん毒のあるマダラチョウだろう。左は無毒のヒカゲチョウの仲間だ。コチラは毒の無いモノが毒のあるモノに似せるというベイツ型擬態だね。先程、言及したセレベスアサギゴマダラも、このベイツ型にあたる。
このヒカゲには完全に騙された。横から飛び出してきた時は普通種のマダラチョウだと思ったが、咄嗟だったので体がつい反応して、瞬間的に思わず網を振ってしまったのだ。で、網の中を覗いてみて、何じゃこりゃ❓だった。
名前、何だったっけ❓
あっ、そうだ。確かインケルタダマシヒカゲだ。えーと、えーと、もう一つはねー、ビトレアヒメゴマダラだと思う。

そういやブルメイもオビクジャクアゲハが巨大化したものだったよな。

 
【フィリピンオビクジャクアゲハ】

(出典『蝶の標本 麗蝶』)

 
オビクジャクアゲハ(ルリオビアゲハ)はマレー半島で採ってるけど、ボロばっかなので展翅写真を撮ってない。なワケで画像を探したけど、ロクなのが無い。とゆうワケで、ソックリさんのフィリピンオビクジャクの画像を貼付した。それに、この方の展翅はキレイだからね。

ブルメイはオビクジャクと比べて馬鹿デカく、倍近くあるイメージが残っている。

 
【ブルメイアゲハ(オオルリオビアゲハ)】

(2013.1 palopo?タナトラジャ?)

 
タナトラジャでも採ったけど、コレは♀だから多分パロポ産だろう。
そういやタナトラジャからパルまでローカルバスで移動したんだけど、アレはスーパー地獄だった。エアコンどころか扇風機も無いオンボロバスで、しかも超満員で何故か現地のガキがずっとワシの膝の上に乗ってた。で、パルに着いたのは25時間後。オマケに郊外だった。そっから更にバイタク(バイクタクシー)の糞コスい親父と交渉して市内まで行った。もう、泣きっ面に蜂だったよ。
スラウェシ島ってデカいんだよね。確か世界で11番目に大きい島だった筈だ。

辛いことだらけの旅だったけど、スラウェシには、また行きたい。固有の凄い蝶がいっぱいいるのだ。
スラウェシには、およそ557種類の蝶がいて、日本の倍以上の蝶が生息するが、それでも隣のボルネオ島に比べて少なく、反対に1/2倍以下の種類数しかいない。しかし固有種は全体の約45%を占め、その割合は極めて高い。だから面白い。固有種ではなくとも分化が進んでおり、見る蝶、見る蝶が変なのだ。
また、マダラチョウ類の分化が激しく、38種もいて、世界でも有数なマダラチョウのホットスポットとなっている。

 
【コグナトスフタオ】

(裏面)


(2013.1 palu)

 
コグナトスは裏面がカッコイイ。表も悪くないけど、この複雑怪奇な柄が素晴らしい。

 
【アマンダベニボシイナズマ】

(2013.1 バンティンムルン)

 
アマンダもベニボシイナズマの中では、デカい(特に下の♀)。
♂は糞速くて、マッハで飛ぶ。

 
【タンブシシアナオオゴマダラ】

 
怪蝶だ。オオゴマダラの仲間は皆デカい巨人軍団だが、一番デカいバケモノ。これは自分では見た事も採った事もないから、いつか大空を飛ぶ姿を見てみたい。

 
【マルスフタオ】

 
フラッシュを焚くと、こんな感じ。

 

 
下翅のオレンジは傾けるとピンク色になる。幻光色なのだ。
軍神マルスも自分で採ってない。この2つとジョルダンアゲハは採ってないから、やっぱスラウェシには、もう1回行かないとね。

(ㆁωㆁ)あっ、しまった。大脱線じゃよ。
やっぱり虫の事を書き始めると長くなるわ。

芋の話に戻そう。セレベスは親子兼用品種で、親芋、子芋共に食用になり、子芋も大きく、収量が多い事でも知られている。

セレベスの旬は、秋から冬。9月中旬頃からけ1月頃まで出荷されます。食べ頃の旬は11月から12月。
まだ間に合うから、里芋好きは見つけたら買いですぞ。

                         つづく

  
追伸
大晦日だというのに、クリスマスの話を書いているのである。しかし、まだ話は続くのである。

書き忘れたけど、黒化する代表はスジグロカバマダラなんかが代表だ。画像は無いけど、オレンジの部分が黒ずむ。

 
(註1)ウォレスとウォレス線

アルフレッド・ウォレス[1823-1913]
イギリスの探検家。1854年から1862年にかけて東南アジアで生物の研究をしている折り、海峡を境に生物の特徴が変わることに気づき、インドネシアの動物の分布を二つの異なった地域に分ける分布境界線、ウォレス線を特定した(1868年)。生物地理学の父と呼ばれることもあり、ダーウィンとは別なアプローチで自身の自然選択を発見し、ダーウィンに理論の公表を促した。一説によれば、功を焦ったダーウィンが慌てて『進化論』を発表したとも言われる。
今日(こんにち)では、自然選択説の共同発見者であると同時に、進化理論の発展のためにいくつか貢献をした19世紀の主要な進化理論家の一人とされる。その中には自然選択が種分化をどのように促すかというウォレス効果と、警告色の概念が含まれる。
なお、ウォレス線の定義はバリ島とロンボク島(ロンボク海峡)、ボルネオ島とスラウェシ島、ミンダナオ島とモルッカ諸島からスラウェシ島の西側、マカッサル海峡を通り東に走り、フィリピンのミンダナオ島の南に至る線である。

一方、オランダ人の母とドイツ人の父を持つ動物学者マックス・ウェーバー[1852-1937]は貝類や哺乳類の分布の違いを基準に1902年にウェーバー線を提唱した。
この2つの線で生物層が異なるのは、氷期には海面が下降したからだと考えられている。海面下降により、東南アジア半島部からボルネオ島、バリ島までの一帯がスンダランドと呼ばれる陸続きとなっていた。同様に、パプアニューギニアとオーストラリアはサフルランドを形成していた。しかし、スンダランドの東側とサフルランドの西側は陸続きにはならなかったことから、それぞれの生物が交流する事なく独自に進化し、その状態が現在に至るまで続いていると云うワケ。

参考までに言っとくと、ウォレスについてはアメブロのブログ(蝶に魅せられた旅人)に『古代ギリシャの七賢人』と題して書いてる。
またスラウェシのスミナガシに関しては、同じくアメブロの捕虫網の円光シリーズに『墨流し』の回で触れている。

 

2020’Xmas🎄の献立(2)作茸

 
Xmasの献立の第二弾はマッシュルーム。
(・o・)えっ、マッシュルーム❓と思った方もおられるだろうが、コレがシンプルにして驚きの逸品なのだ。

マッシュルームはヨーロッパから導入されたハラタケ科のキノコの食用栽培種で、世界で最も多く食されてるキノコとも言われている。
あまり知られていないけど、マッシュルームの和名は「ツクリタケ」。漢字で書くと「作茸」。正確な語源は分からないが、栽培されたものだからかな❓当時はキノコといえば、生えてると云う概念だから、栽培だと作るというイメージを持ったのかもしれない。
また別称に、日本国内での生産初期の商品名に由来するセイヨウマツタケというのもある。コレは香りがそれだけ強いと云う事からの命名なのだが、世間のマッシュルームに対する印象に「香り」というはワードはあまりないというのが実状だろう。コレについては後ほど種明かしする。

マッシュルームというのは英語で、本来の意味は「キノコ」。だから、椎茸だってエノキだって松茸だってマッシュルームなのである。
外国人からすれば、❓の存在かもね。尚、日本でなぜそう呼ばれるようになったのかは不明。おそらくはアメリカなどから入ってきた時に、さして考えもせずにそう呼ばれていたモノをそのまま名称として使ったんでしょうな。

マッシュルームといえば、白いホワイトマッシュルームがポピュラーだが、種類は他にもあって、オフホワイト、クリーム、ブラウンなどがある。たまにブラウンは見かけるが、他は見た記憶がない。でも、さして興味はなかった。どうせ色の違いは、お日様に当てる光の量の差だけだろうと思っていたからだ。普通のアスパラとホワイトアスパラみたいにね。
しかし調べたらそうじゃなくて、色が違うのは菌そのものが違うからだそうである。別種ってことなのかな❓
因みに味も違うようだ。ホワイトはクセが少なく、すっきりした味わいで、ブラウンは香りが強く、やや味が濃厚だそう。 ブラウンって、そうだったっけ❓あんまし食べた事がないけど、そういった印象は全くない。
他にジャンボマッシュルームってのも珠に見掛けるけど、コレは品種ではなく、普通のマッシュルームを時間をかけて大きく育てたもの。つまり笠の開いた大人なのだ。味は生育期間を長くかけている分、旨味や香りが豊かで肉厚。マッシュルームの美味しさをいっそう強く感じるという。
じゃあ、何でジャンボくんがポピュラーになれないのかというと、おそらく笠の裏の色だ。普通のマッシュくんの開いた奴を見ても分かるが、襞の部分が真っ黒けなのだ。ビョーキだとか腐ってるとかと思われるようなヴィジュアルになる。世の主婦は見た目重視なのである。人と同じで所詮は見てくれ重視なのさ。

ジャンボくんは高いから食べたことない。1個が250円とかするから買えないのだ。たかがマッシュルーム1個にそこまで払う気にはなれなかったのさ。

前置きはコレくらいにしておいて、調理に掛かろう。

フライパンにオリーブオイル、マッシュルームを入れて塩を振り、裏表を軽く焼く。
以上、おしまい。

おいおい、それで終わりかよ❓と言われそうだけど、それでいいのである。

 

 
噛むと、口の中でマッシュルームのエキスが弾け出る。アンタ、小籠包かよ❓と言いたくなるくらいの、驚くほどの液体量が口の中に広がるのである。そして、香りが鼻からスッと抜ける。ちょっと笑けるほど美味い。
すかさず、スパークリングワイン(モマンドール エクストラ ドライ)を飲む。

 

 
(☆▽☆)合いますなあ。
嬉し楽しくて、思わずガッツポーズしちゃったよ。

このシンプル且つ簡単な調理法の種明かしをすると、時間だ。
加熱時間が短いから、中はレアの半生なのだ。だから香りと食感の両方の良さを一度に味わえるのである。つまりマッシュルームは生の食感が良く、オリーブオイルとの相性も良いので、さっと焼くことで生の食感と火を入れた香りとの両方が味わえるというワケ。
因みにマッシュルームは唯一、生でも食えるキノコだから半生でも大丈夫なのだ。生だと、より香りが良いから、イタリアンにはスライスしたものに塩とオリーブオイルをかけただけの料理なんてのもあるしね。

今回はフライパンで焼いたが、オーブンやトースターで焼いてもいい。寧ろそっちの方が簡単で失敗も少ないだろう。
味付けは塩だけのほか、塩&胡椒、醤油をチビッと垂らしてもイケる。また、手をかけるなら、ひき肉や生の海老をすり潰したものに、微塵切りのエシャロットやセロリなどを加えて練り、笠に詰めてオーブンで焼くなんてのも有りですぞ。白ワインやシャンパンなら、コチラの方が見た目にはウケがいいかもね。

付け加えておくと、目利きはなるべく笠が開いていないものを選ぶ。鮮度が良くて旨味も強いからだ。なお、カサが開いた直後も旨い。コチラは香りが強くなるからだすよ。セイヨウマツタケと名付けられたのも頷ける。ただ、日本人の大半がそのマッシュルームの良さを知らないだけなのさ。そうゆうワタクシも、最近になってマッシュくんの本当の実力を知ったんだけどもね。

笠が開いて時間が経ったものはスープや炊き込み御飯にすればいい。出汁がよく出るからだ。それくらいマッシュルームはジューシなのさ。このジューシさ、是非試してケロ🐸

2020年のクリスマスの献立は、まだまだ続く。

                         つづく

 
追伸
言い忘れましたが、焼く時に邪魔なので軸は取り除いて別にして焼きました。オーブンやトースターの場合はひっくり返さないので、取り除く必要はありません。
 
 

2020’Xmas🎄の献立(1)

 
2020年の冬。
コロナ禍がエラい事になってきとる。例年に比べて街のクリスマス色も驚くほどに薄い。こんな時期なのに浮かれんなと云うことなのだろうが、こんな時期にこそクリスマス色濃厚の献立にしてやろうと思った。

となると、先ずは形から入ろう。
クリスマスといえば、シャンパン(スパークリングワイン)でしょう。気分、盛り上げてかないとね。
でもボンビーゆえ、モエ・エ・シャンドンとかヴーヴ・クリコとかは即断念。680円の安いスパークリングワインを買う。

 

 
MOMENT D’OR EXTRA DRY
モマンドール エクストラ ドライ。
サントリーと世界No.1スパークリングワインメーカー「フレシネ社」とが共同開発したスパークリングワインである。
モマンドールとはカタルーニャ語で「金のひととき」を意味し、レモンを思わせるすっきりとした辛口の味わいなんだそうだ。そして、日本食とも相性抜群らしい。
うーむ(-_-;)、そうなのか…。
ならば、考え方も変わってくる。
よし、この「日本食にも相性抜粋」と云う惹句に、急遽大幅方針転換じゃ。クリスマス色濃厚の献立にするだなんて云う、クソみたいな意地をソッコーで捨てちゃる。

この方針転換の伏線と云うか決め手になったのは、さっきチラッと見た半額のコレが気になってたからだ。

 

 
ジャパン・シーフーズの『済州島沖 極みしめサバ』。
4、5日前から売っているのを見て気にはなっていたのだが、値段が980円とお高い。そんな金を出すんやったら、自分で作るわいと思った。そっちの方が値段的に安く上がるし、量的にも2倍にはなるからコスパを考えればバカバカしい。だいちワシが作った方が絶対に美味いに決まってるのだ。
それにそもそも、こうゆう商品って日持ちさせたいが為に酢をキツくしてある。だから、市販のものにはガッカリさせられ続けてきた。たとえ半額の490円でもドボンかも…。

普段なら、そう考えて買おうとはしなかっただろう。
けど5年ほど前の9月、対馬にツシマウラボシ(註1)を探しに行った折りに、居酒屋の店主が言ってたことを思い出した。対馬と、その西隣の韓国・済州島の真サバはデカくて脂がのっててムチャクチャ美味いらしい。その時に食ってた鯖の旨さに唸ったら、店主のオヤジが自慢げに教えてくれたのだ。店主曰く、冬の時期の寒サバはもっと旨いらしい。となると、時期的にも今はベターな季節じゃろう。

パッケージの裏を見ると、同じような事が書いてあった。
やはり済州島の真サバはサイズが大きく、脂がのってるようだ。
どうやら済州島と対馬の間には対馬暖流と黄海から流れてくる冷たい海水とが交わり、その一帯では餌となるプランクトンが豊富みたい。だからデカくなって、脂ものるのだね。

プラスα、元ホテルオークラ和食総料理長、星則光氏の監修だという。失礼ながら御名前は存じないが、あの天下のホテルオークラの和食総料理長なのである。その人が「従来のしめサバとは、一線を画す」と言っているのである。酢は醸造酢ではなく、梅干しの漬け汁、砂糖の代わりには蜂蜜を使用し、また後味は仄かに燻製の香りがするとおっしゃってるんである。そりゃ、心も動かされるでしょうに。

エイ、とばかりに買いましたよー\(•‿•)/
とはいえ、コレってシャンパンに合うのかなぁ…。〆鯖そのものの味にも不安はあるが、コッチの心配もある。よく白ワインやシャンパンは魚介類に合うと言われるが、それは火入れしてあるものであって、火が入ってない料理との相性は疑問だ。合うものには抜群に合うが、合わないものには最悪の相性だったりするのだ。ワインによっては、口の中で生臭さが倍加するのである。牡蠣なんて、時に最低の場合がある。

中身は既にカットされてあるので、器に並べるだけ。下に敷いてあった昆布を細切りにして横に添える。念の為に辛子と醤油もスタンばらせた。

 

 
脂がキラッキラだね(´ω`)
先ずは何も付けずにそのまま食べてみよう。

脂がのってて、後から旨味が口にジワリと広がってくる。ワシの作った〆鯖には負けるが、旨いと言える。
(・o・)あっ、酢は強くない。柔らかい酸味だ。これなら許せる。梅酢と蜂蜜を使うと、こんなにも上品になるのね。
すかさずモマンドールを飲む。
(・∀・)あっ、合うね。シャンパンが辛口でキレがあるから違和感が全くない。なるほど、和食に合うと謳っているだけの事はある。

お次は醤油をチコッと付けて食べてみる。
(•‿•)こっちの方が、より旨いかも。

続いて辛子と醤油を付けて食べてみた。
コレも予想どおり旨いね。

最後に辛子を付けーの、昆布も巻きーので醤油を付けて食べてみた。
(☆▽☆)うみゃいねー。シャンパンとも合うし、文句無しだ。
とは言いつつ一言添えると、サバの身が薄い。なので、サバ2枚で食った方が旨い。いや、1枚半か。

とは言っても、サバばっか食ってらんない。
残して、翌日と翌々日に分けて食った。

 

 
やはり、脂キラッキラだね。

 

 
旨いから、お金持ちの人は見つけたら買いましょう。お金持ちじゃない人は、半額なら買いかな。

                         つづく

 
追伸
ヨシノキシタバの最終章に比ぶれば、楽勝だ。ここまで、ものの30分ちょいで書けた。
虫の話を書くのは、大変だすよ。

 
(註1)ツシマウラボシシジミ
学名  Pithecops fulgens tsushimanus

長崎県対馬の上島にのみ分布する日本固有亜種。国外では台湾、中国などに分布する。
かつては沢沿いに普通に見られたが、2000年代後半以降はシカの食害によって分布域が大きく縮小した。現在、日本で最も絶滅が危惧されるチョウとなっている。


(出典『蝶の生態』トリミング)

 
対馬に行った時には既に絶滅状態だった。鹿の食害で食草のヌスビトハギは殆んど生えておらず、やっと見つけた幾つかの場所には1つも飛んでいなかった。自分が行った時の前後くらいから、漸く保護プロジェクトが始まったらしいが、自然界では限りなく絶滅という状態に見えた。
その3年前には相当ヤバイと聞いていたけど、知る限りでは某有名NPO法人は何ら対策を施してはいなかった。
正直言って、他の蝶の保護も失敗してるし、所詮は蝶の素人が営利目的の為に始めた事だから仕方がないのかもしれない。

 

2020’カトカラ三年生 其の四 第三章

 
  vol.27 ヨシノキシタバ 解説編

   『全ての物事は連結する』

 
【ヨシノキシタバ Catocala connexa ♂】


(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
前翅のメリハリがやや発達した♀に似たタイプもいる。

 

(2020.9.5 長野県松本市)

 
詳細に見れば、♂でも前翅の細かいバリエーションが結構あるのかもしれない。もっと沢山採らないとワカンナイけどさ。

 

(2020.8.9 長野県木曽町)


(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 
水銀灯の光の下で見ると、♂はかなり前翅が茶色っぽく見える。また鮮度が良いものは黄色みがあるような気がする。そんなに数は見てないから、あくまでも印象レベルだけど…。とはいえ、こうゆう黄色みを帯びた前翅のカトカラは他にいないので、慣れれば一発でヨシノだと分かるようになる。

 
【同♀】

(2020.8.25 奈良県吉野郡)


(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 

(2020.9.5 長野県松本市)


(2020.9.5 長野県松本市)

 

(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 
♀は前翅の柄に美しいメリハリがあり、時に強く白化する。♀は見た目か♂とは全然違うのだ。こうゆう雌雄の斑紋様式が異なるカトカラは唯一ヨシノだけである。ミヤマキシタバなんかも前翅で見分けられるが(♀の斑紋のメリハリが強い)、ここまで雌雄が異質ではないので、唯一と言っても差し支えないだろう。
♂の前翅は細く、一様に淡暗褐色で斑紋が明瞭でないが、♀の前翅は幅が広く、中央部は白化して横線などの斑紋が明瞭になり、前剣紋も明瞭となる。
とはいえ、♀には変異の幅が結構あって、前翅の色彩やメリハリの強さに差がある。『日本のCatocala』によれば、♀にもメリハリが無いものもいるそうだから判別には注意が必要。
また、珠にゴマシオキシタバにも前翅のメリハリがそれなりにある奴がいるので、コチラも注意が必要である。自分も野外で一、ニ度見間違えた事がある。ゴマシオの記録の中にヨシノが混じっている可能性を示唆している文献もあるくらいだから、間違う人は結構いるのかもしれない。とはいえ捕獲して間近に見れば、間違う事はないというレベルだ。特に写真をやりはる人は、予断で決めつけると恥かきまっせ。くれぐれも、お気をつけあそばせ。

後翅は中央黒帯と外縁黒帯が2ヶ所で繋がり、翅頂の黃紋は明瞭。腹部は、やや黄色みを帯びた淡褐色である。

 
【裏面♀】

 
【裏面♂】

 
♂の画像の後翅の黒帯が細いが、たまたまだろう。沢山の個体を見たワケではないので断言は出来ないが、雌雄の判別には使えなさそうだ。

 


(出典『日本のCatocala』)

 
この一番下の『日本のCatocala』の裏面画像は、意外にもキシタバ(C.patala)の裏面と似ているようにも見える。
一応、確認しとくか。

 
(キシタバ裏面)

(出典『日本のCatocala』)

 
やっぱ柄は似てるわ。まさかである。両種は大きさも翅形も違うから、今まで似てるだなんて概念は全く頭に無かったのだ。違和感もあって、ちょっと驚いたよ(コレが後々、色んな問題に繋がるがキッカケになった)。

自分で展翅した奴は、もっと似てるかも。

 

(2019.6月)

 
両者とも後翅の真ん中の帯が下部でU字型にならなくて、内側の黒帯を欠く。また前翅中央の黒帯の形と太さも似ているし、翅頂の黄紋が下に流れて帯状になっているのも同じ傾向だ。

ちなみに表側は全然似てない。デカくてデブだから間違えようがない。

 

(2019.6月)

 
『日本のCatocala』の図版には、ヨシノとキシタバの標本画像が並んで載せられている。まさかの近縁関係にあるの❓

かと思いきや、他人の空似でやんした。DNA解析の結果を調べてみたら、系統は全く違う。又しても何か頭を悩ますような事が起きるんじゃないかと思ってたから、ε-(´∀`*)ホッとしたよ。でも何にも起こらんのもツマランような気がしないでもない。

 
【変異】

前翅が著しく黒化するものが知られている。

 


(出典『世界のカトカラ』)

 
ハッキリ言って、ヨシノ独特の美しさが消えてしまってる。
こんなの採れても、あんまり嬉しくないや。
とはいえ、標本がある程度揃ってきたら欲しくなるんだろなあ…。ヨシノはバリエーション多そうだしね。特に一番下のタイプなんかは、ちょっと蝶のダンフォルディーフタオっぽくてカッコイイから欲しいかも。いや、とっても欲しい(☆▽☆)

 
(Charaxes durnfordi ダンフォルディーフタオ ♂)

(裏面)

 

(2015.5月 マレー半島南部)

 
蛮王ダンフォルディーについては過去に書いた事かあるから、興味のある人は探してね。
あっ、でもこのワードプレスのブログじゃないや。書いたのはアメブロの方かも…。

確認したら、やっぱりそうだった。
「蝶に魅せられた旅人 ダンフォルディーフタオ」で検索すればヒットします。東南アジア蝶紀行『熱帯の憂鬱、ときどき微笑』と云う連載の中に何編か書いた憶えがある。『発作的台湾蝶紀行』の連載にも登場したかな。あとは『新たなる覇王の降臨』と題して、新亜種についても書いてる筈だ。他にもラノーンのゴッドフレイワモンチョウの話の中で書いたような気もするけど、どうだったっけ❓思い出せないや。

 
【雌雄の判別】

既に前翅で区別できることは書いたが、色彩にメリハリの無い分かり辛いモノもいるようなので、決定的な判別方法を書いておきます。

 
(♀裏面)

 
ズバリ裏面である。
とゆうか、腹部の尻先である。ここに♀は上の画像のように縦にスリットが入っている。プラスそこに黄色い産卵管が見えていたら、間違いなく♀である。また♀は♂よりも腹部が太くて短かいものが多い。

 

 
(♂裏面)

 
このように♂には、尻先にスリットが入らない。
また腹部が細くて長い。そして尻先に毛束がある。この為、♂は尻先が丸くなる。一方♀は毛が少ないので、尖って見える傾向がある。

腹の太さと長さは横から見た方が分かり易いかもしれない。

 

 
♂の方が腹部が長いことがよく解るかと思う。
まあ前翅の表側で、大体ワカルんだけどさ。そうゆう意味ではカトカラの中で雌雄の判別が一番簡単な種かもしれない。有り難いことだ。アズミキシタバなんてワケわからんもんな。

 
【学名】Catocala connexa Butler, 1881

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の”connexa”はラテン語で「結合された、連結された、関連づけられた」といった意味のようである。
多分ここから派生して、英語の”Connection”や”Connect”などに変化していったのだろう。
それで思い出したけど、カトカラの英名は「UNDERWING」。下翅が特徴的だから英語でも「シタバ(下羽)」なんだね。各種の英語名は、この”UNDERWING”の前に某(なにがし)かのその種の特徴を表す言葉が付けられる。例えばムラサキシタバなんかだと「BLUE UNDERWING」となる。
だがヨシノキシタバに英名はないようだ。付けるとしたら、さしづめ「CHAIN UNDERWING」とでもなるんだろうね。でもアミメキシタバの回でも同じようなこと書いた気がするぞ。

おそらく”connexa”と命名した由来は下翅の黒帯が繋がってるからなんだろうけど、そんなカトカラは他に幾つもいる。だから特別感はあまり無い。正直、残念な学名だ。

 
【和名】

和名の由来は最初に奈良県の吉野で発見されたからだろう。
あまりいい加減な事も書けないので、念の為に調べておくことにした。

結果は、やはりそうだった。本種に対して一時用いられていた学名「Catocala rutha Wileman, 1911」はシノニム(同物異名)になって消えてしまったのだが、その”rutha”の模式産地(タイプ標本)が奈良県の吉野で採集されたものなんだそうな。ゆえにヨシノキシタバになったものと思われる。
和名は好き。関西人ゆえに吉野には特別な思い入れがあるのだ。吉野といえば、桜だし、歴史上に度々登場する土地だからね。柿の葉寿司も旨いし(笑)。
そういやお姉ちゃんと桜の時期に泊まったことがあるなあ…。山が淡い薄紅色にぼわっと霞が掛かったような光景には風情がある。吉野の桜はソメイヨシノじゃなくてヤマザクラだから派手ではないけれど、趣きがあるんだよね。最近は歳くったせいか、山桜の方が美しいと感じるようになってきた。来年はコロナ騒動がおさまって、通常の春になればと願う。

 
【旧名,別名,害虫名,同定ミスなど】

ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』の「旧名,別名,害虫名,同定ミス」の欄に「ハイイロキシタバ」とあった。聞き慣れない名前だし、何じゃそりゃ❓である。
でも何の説明もないし、ナゼに灰色なのかも全然もってワカラン。そもそも灰色というよりも茶色じゃないか。あっ、それは♂か。♀なら灰色と言えなくもないか…。にしても片方だけが灰色で「ハイイロ」と名付けるのは問題ありでしょうよ。だいち前翅が灰色のカトカラは他に幾つもいるぞ。ベニシタバやムラサキシタバなんかの方が余っぽど灰色じゃないか。

 
(ベニシタバ)

(2019.9.3 岐阜県高山市 新穂高)

 
(ムラサキシタバ)

(2019.9 長野県松本市)

 
コヤツらは雌雄ともに灰色だしね。とはいえ、コレらにハイイロキシタバなんて付けたら、アホである。オラじゃなくともボロカスだろう。
兎に角そんな和名じゃなくて、ヨシノキシタバで良かったよ。
そういや同じサイトのヒメシロシタバの別名欄に「ヨシノキシタバ」とあったなあ…。勿論、コチラも何の説明もない。カトカラ各種をググッたら、このサイトが必ず上位に出てくるのだが、このようなワケワカラン記述や間違いも多い。みんなで作るって言ってんだから、誰か周りが指摘せえよと思うのだが、アップグレードされてる形跡は全くない。間違った情報を信じ込む人もいるだろうから、マジで何とかした方がいいと思いまっせ。

と、ここまで書いて「ハイイロキシタバ」に関する文献を見つけてしまった。(;´д`)トホホ、要らぬもんを見つけてしまったなりよ。ラビリンスの予感バリバリだ。どうせパンドラの匣に決まってる。開けたらロクな事がないだろう。
チラッと見たけど難解そうだし、それについて書くとなると大変そうだ。長くなりそうなので、コレについては後で検証して末尾の註釈欄にでも書きます。

 
【亜種と近縁種】

国外では中国に分布するとされ、湖南省から記録されている。だが同一種なのかどうかは不明だという。なぜ不明なのかは不明だよ(笑)。でもそこは深堀りしない。ってゆっか、これ以上調べようがないのでスルーなのだ。ただ思うに、そんなの別種とちゃいまんのん❓湖南省は日本から遠いぞ。

Wikipediaによると、シノニム(同物異名)に以下のようなものがあるみたい。

・Ephesia connexa
・Catocala rutha Wileman, 1911

下は吉野で見つかったヤツだね。
ruthaの語源は人名かな❓ ルーサという女性名っぽい。
待てよ、もし中国のものが別種ならば、ヨシノの学名はコレに変わるのか❓それとも、このままなの❓
一応、ruthaの語源を調べとくか。

ググったら、「ヘブライ語の哀れみ深い友情、情、同情、憐れみ、慈悲、不憫、後悔」とゆうのが出てきた。ラテン語じゃなくてヘブライ語❓毎度のラビリンスの予感である。
もしかして元々は”ruth”で、女性名詞の末尾変化で「a」が付加されたのかな❓
一応、ruthでも調べてみよう。

すると出てきたのが「旧約聖書に登場する女性名 Ruth(ルツ)、ボアズの妻、ナオミの義理の娘、ダビデの先祖」と書かれていた。ダビデ以外はよくワカランが、それなりに高貴な感じではある。ちなみに、残念ながらナオミと云う名前の女と付き合ったことはない。しまった、またどうでもいい事を書いてしまった。アタマの中が痒くなるわ。
“connexa”よか”rutha”の方が語源的にはまだしもマシな学名かな。コレが由来なのかはワカランけどね。

参考までに言っとくと、幼虫の食餌植物が同じで、近縁種と思われがちなゴマシオキシタバ(C.nubila)との類縁関係は認められないようだ。

 
(ゴマシオキシタバ Catocala nubila ♀)

(2020.7 長野県白馬村)

 
(同♂)

(2020.8.8 長野県松本市)

 
下の♂は触角を真っ直ぐするのにも飽きてきたので、久し振りの前脚出しいのの、弓なり怒髪天の鬼👹仕様にしてやったわい。原点回帰。蛾は邪悪だからと、最初の頃はこうゆう感じにしていたのだ。コレからは二刀流でいこっかなあ…。

一応、DNA解析も見ておくか。

 

(出典『Bio One complete』)

 
ヨシノは単系統で、他種とはクラスターを形成しておらず、類縁関係のあるカトカラは日本にはいないようだ。
海外に近いものがいるかもと思って探してみたが、見た目で近縁種と言えるものはいなさそうだった。思ってた以上に特異な種なのかもしれない。

 
【開張(mm)】

『原色日本産蛾類図鑑』では、55〜65mm。ネットの『みんなで作る日本産蛾類図鑑』では、50〜57mm。『日本産蛾類標準図鑑』では、52〜58mm内外となっていた。
『原色日本産蛾類図鑑』は古い図鑑なので、65mmというのは無視してもいいだろう。それくらいの大きさのキシタバ類となると、クロシオキシタバ級の大きさになるからね。とはいえ、絶対デカいのがいないとは断言は出来ないけどさ。逆にむしろいて欲しいくらいだ。ナマリキシタバにしろ、このヨシノにしろ、大きさ的には物足りなさを感じてる。前翅がメチャメチャ格好良いだけに惜しいと思うのだ。

 
【分布】 北海道、本州、四国、九州


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上が分布域図で下が県別の分布図である。
稀種のイメージがあるが、こうして改めて見ると割りと満遍なく記録があるんだね。北海道は南西部にしかいなくて、茨城辺りから愛知県にかけての太平洋側に空白地帯があるんだね。北海道なんかは全道にいるとばかり思ってたから、正直なところ県別の分布図には問題ありだと思う。御世話になってる石塚さんには申し訳ないけど、改善の余地ありなんじゃなかろうか。

九州産は本州産と比べて一回り大型だと言われる。また♀の変異が多いことに加え、そのハデハデしさが強烈らしい。
たぶん、こうゆうタイプの事を言ってるんだろね。

 

(2020.8.25 奈良県吉野郡)

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑)

 
上のものの展翅画像はない。なぜなら下翅が破れてたし、その日は最後に完品の♀が採れたので藤岡くんに進呈したのだ。今にして思えば惜しいが、別に懇願されて渋々譲ったワケではなくて、自主的にあげたものだから後悔はしてない。後悔はしてないけど、勿体なかったかもなあ…。だって初めて肉眼で見た♀だったんだもん。だからそれがノーマルタイプで、むしろ最後に採れたものがレアなタイプだと思ったのだ。ゆえに、こうゆう奴は後々いくらでも採れると思っちゃったのさ。我ながら、おバカである。

都道府県別の分布図だと、近畿地方では大阪府と京都府以外に記録がある。京都府は北部にはブナ林があるから発見される可能性は高そうだ。大阪府は北部の妙見山、南部の金剛山や和泉葛城山、大和葛城山にブナ林があるから、見つかる可能性はゼロではないだろう。
とはいえ、今のところ近畿では全般的に分布は局所的で狭い。兵庫県は氷ノ山周辺の山地帯のみにしか記録がないし、紀伊半島南部では一部に残されたブナ林でしか採集記録がない。また個体数も少なく、ゴマシオが灯火に多数飛来するような時でないと採集は難しいと言われている。
記録が少ないゆえか、近畿では樹液に集まるかどうかは不明。噂でも聞いた事がないし、糖蜜もまだ一度も試してない。奈良県吉野郡のポイントは周りが金網付きの崖で、糖蜜を噴きつけるのに適した場所が無かったのだ。

四国では全県に記録があり、中央山地の標高1000m以上のブナ林帯に分布している。
興味深い記述が『高知の自然 Nature Column In Kochi』というブログにあったので、以下に抜粋しよう。

「時には二桁灯火に飛来することもある普通種である。
しかし、標高の低い500mほどの地点でも少ないながら見つかるので、ブナ林から下って移動してきたものと思っていた。
今回発見した場所も標高500mほどの山の中腹である。しかし山頂は800mもなく、ブナはないと思われる。従ってヨシノキシタバはブナ以外の植物も食べている可能性が出てきた。周辺に1000m以上のブナのある山も見あたらないので中央山地から移動してきたとも考えにくい。クロシオキシタバのような移動力があるのだろうか。
この地では初めての発見で、しかも1頭のみなので何ともいえないが、今後注目していく必要を感じた。この山にブナはあるのか調べてみようと思う。(撮影:越知町 2009.7.30)」

四国ではヨシノが普通種だと云うのは驚きだね。しかも標高の低い所でも得られており、別な食樹を利用している可能性まで示唆されている。
俄かには信じ難いので、もしかしたらゴマシオと間違ってんじゃねーの❓と思った。ゴマシオとヨシノとを同定間違いするケースはあるからさ。それにゴマシオはヨシノと同じく食樹はブナだけど、飛翔力があってブナ林から遠く離れた場所でも見つかるからね。
添付されている画像を今一度見てみる。

 

(出典『高知の自然』)

 
茶色いからゴマシオではないね。
でも一瞬、ホントにヨシノ❓というような前翅にメリハリの無い個体画像だが、仔細に見るとヨシノの♂っぽいような気がする。でも黄色っぽくないなあ…。今ひとつピント合ってないしさ。まさかアミメじゃないよね❓でもこの方の文章の内容や言い回しからすれば、どう考えてもド素人にはみえない。同定間違いをするとは思えないのだ。信じよう。
ヨシノだとすれば、コレは生態を改めて考え直す必要性があるかもしれない。後述するが、ヨシノは移動性が低い種だと考えられているからね。

順番が逆になったが、中部地方と関東北部には記録が多い。北陸地方にもそれなりに記録がある。但し豊産すると言われるような産地はないようだ。昔は群馬県の土合で大量に採れたそうだが、今では昔日の面影はないという。
東北地方の記録はそう多くない。だがコレは愛好者が少なくて調査が進んでないせいなのかもしれない。
世界遺産の秋田県白神山地のブナ林には多産はしないのかな❓あまり話は聞かないけど、実際のところどうなのだろう❓豊かなブナ林があるからといって、絶対に生息するとは限らないからね。蝶でも生息条件が揃っているように見えるのに何故か居ない地域はある。理由が絶対ある筈なのに説明不能で、ミステリアスとしか言えない場所が厳然としてあるのだ。生物はとても繊細で、人間が思ってるほど単純ではないのである。

 
【レッドデータブック】

環境省:準絶滅危惧種(NT)
宮城県:準絶滅危惧種(NT)
奈良県:準絶滅危惧種(NT)
兵庫県:Cランク(少ない種・特殊環境の種など)
島根県:情報不足

少ない種だから、もうちょっと指定されても良さそうなものなのにね。人気種のカトカラといえども所詮は蛾なんで迫害されてるのやもしれぬ。

 
【成虫の出現期】

7月下旬から10月中旬まで見られる。
そういや当初は図鑑など多くの文献が「盛夏に現れる」とかアバウトなものばかりで、いつが出始めなのか判断に困った事を思い出したよ。
ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』によると新鮮な個体が得られるのは8月までと書いてある。だが『日本のCatocala』には10月になっても新鮮な個体が燈火に飛来すると書いてあった。これはブナ林の芽吹きが積雪量に強く影響されるからだという。積雪の多い地域では芽吹きが場所によりかなりバラつきがあり、孵化期もそれに伴うからだそうだ。

 
【成虫の生態】

『日本のCatocala』によれば、奥只見で羽化直後のものがヤナギ類の樹液を吸汁しているのが観察されている。しかし個体数と比較して樹液への飛来数は少ないようだ。また吸汁時間帯も日没直後の短時間のみだという。そういえば東日本で糖蜜トラップで採集されたという話を聞いた事がない。樹液にロクに寄って来ないものが糖蜜に来るワケがないと考えられてて、試す人が少ないのかもしれない。或いは試したが全然寄って来なかったという情報が広く流布されているのかもしれない。
しかし、自分の糖蜜にはシッカリ誘引された。
日付は2020年の9月5日。場所は長野県松本市の標高1500m付近。天候は曇り時々晴れ。月齢は17(大潮)。飛来時間はハッキリとは憶えていないが、日没直後ではなかった事だけは確かだ。たぶん午後九時から十時半くらいまでの間だったと思う。そういや採り逃したけど、もう1♀も飛来したな。と云うことはマグレではないという事だ。ヨシノは糖蜜でも採れまっせ〜(・∀・)V
一方、近畿地方以西では岡山県などで糖蜜採集で捕獲できるという。ただ西尾さんも噂話として書いておられるだけだから真偽の程はわからない。少なくとも自分は具体的な話を誰からも聞いた事がないけどね。
どちらにせよ、個体数が少ないとされるカトカラだから、糖蜜採集には向いてない種なのかもしれない。但し個体数が少ないとされるカバフキシタバが糖蜜に一晩で17頭も来た事もあるゆえ、本当のところは分からない。或いはブナ林の中や林縁で撒けば、意外とタコ採りできるかもしれない。

灯火には全国どこでも飛来するようだ。しかし食樹が同じゴマシオキシタバ(C.nubilla)と比べて飛来する数は遥かに少ない。ゴマシオが数十頭に対して1頭くらいの割合でしか会えないと言われている。個人的な見解としてはゴマシオが減っているという噂もあるし、そこまでの比率差はないように思う。にしてもゴマシオより少ないのは確かだし、ゴマシオは飛んて来てもヨシノはやって来ないと云うケースはよくある。
飛来する時間帯は特に突出した傾向はないようだ。日没直後には見た事はないが、8時過ぎくらいから午前2時の間でポツポツ見ている。一応、参考までに大まかな時間を記録しておいたものだけを列記しておく。

8月9日  午後8:15
8月25日 午後9:50、午後11:00、午前1:50
9月5日  午後10:50
9月6日  午後11:30

図鑑等に拠れば、ゴマシオキシタバは発生期後半の9月〜10月になると、発生地のブナ林から遠く離れた場所でも採集されるが、ヨシノは殆んど捕獲されていないそうだ。おそらく移動性は強くない種なのだろう。そう自分も考えていた。しかし前述したように四国ではブナのない低標高地でも見つかっている。食樹も含め、再検討の余地はあるかもしれない。

成虫は昼間、頭を下にして樹幹に静止している。小太郎くんの話によると、ブナ林で見た時はゴマシオと比べて遥かに敏感だったそうな。すぐ飛んで逃げて見失い、採集は困難とのこと。またゴマシオと比べて個体数は遥かに少なかったそうだ。何が原因で、そんなに個体数に差がでるのだろう❓
考えてみたけど、全然もってワカラン。

交尾は午後11時から午前2時の間で観察されている。ただし飼育下での事のようだ。
野外での産卵の観察例は調べた限りでは見つけられなかった。

 
【幼虫の食餌植物】 ブナ科 ブナ属:ブナ

(ブナの葉)

(出典『あきた森づくり活動サポートセンター』)

 
(ブナの樹幹)

(出典『Wikipedia』)

 
(ブナの分布図)

(出典『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』)

 
おぉー、予想はしてたがヨシノキシタバの分布域図とほぼピッタリではないか。よくヨシノは北方系のカトカラだと書かれてあるが、コレを見ると北方系のカトカラというよりも、冷温帯のカトカラとする方が的を得ているのではあるまいか。

おそらくブナを食樹とするフジミドリシジミとも分布は重なるのだろう。

 
(フジミドリシジミ)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
この際だからフジミドリの分布図も確認しておこう。

 

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
コチラも見事なまでにブナの分布図と重なるではないか。
もちろんヨシノの分布とも重なるワケだから、フジミドリの産地で灯火採集すれば採れるんじゃね❓
関西だとヒサマツミドリシジミの産地として有名な兵庫県三川山や京都の杉峠、滋賀の比良山なんかはフジもいるから、採りに行ったついでにナイターすれば得られるかもしんないね。
カトカラ類はゼフィルス(ミドリシジミの仲間)と食樹がカブるものが多い。それらゼフィルスの産地でお目当てのカトカラを探せば、意外と簡単に新たな産地が見つかるんではないかなと思ったりもする。

因みにブナの近縁種であるイヌブナからの幼虫の発見例は無いようだ。フジミドリはイヌブナも利用しているから可能性は有りそうなのにね。まあ、そのうち見つかるかもしんないけど。

西尾氏が長野県上田市でクヌギを与えてみたが、代用食にはならなかったそうだ。但し「地域によっては代用になるかもしれない」とも書いておられる。
氏はイヌブナを試してみた事は無いのかな❓

 
【幼生期の生態】

(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『flickeriver by kobunny』)

 
卵は、まんじゅう型で小型。環状隆起は1重だが発達は弱く、認められない場合もある。形態的に似ているのはヤクシマヒメキシタバだが、横隆起状は細かくて皺状で、間隔が広くて明瞭だという。

孵化はブナの芽吹きに左右され、かなりバラツキかある。雪解けの早い場所と吹き溜まりなど雪が残る場所とではブナの芽吹く時期がズレるからのようだ。

 
(初齢幼虫)

(2齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は壮齢木から巨樹にまで見られ、大木によくいるそうだ。
昼間、中齢幼虫は葉裏や葉柄、枝先に静止しているという。

 
(終齢幼虫)

 
(終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
終齢は6齢で、7月上旬頃に見られる。5〜6齢幼虫は昼間は細枝に静止しており、樹幹にはあまり降りないようである。
幼虫には灰色型と黄緑色の2型がある。黄緑型の個体はゴマシオキシタバに似る。それぞれの型にも色彩の多少の濃淡があり、灰色型の幼虫では白い網目模様が発達する個体がみられる。

一応、ゴマシオキシタバの幼生期と見較べてみよう。

 
(ゴマシオキシタバの卵)

 
(終齢幼虫)

 
(終齢幼虫の頭部)

(出典 以上4点共『日本のCatocala』)

 
顔は違うが、他は確かに似てるね。
DNA解析がされていなかったら、近縁種と考える人もいて当然かもしれない。

蛹に関する生態的知見も見つけられなかった。おそらく地上に降りて落葉の下で蛹化するものと思われる。

                        おしまい

 
註釈を書くために謎のハイイロキシタバの事を追い掛けてたら、大どんでんの驚きの展開になった。でも正直クソ長い。
と云うワケだから、ここまで読んできて疲れた人は一旦休憩しましょうね。もしくは読むのは後日に回しましょうね。

ちょっとブツクサ言わしてもらう。
読む方も大変だろうけど、書いてる方はもっと大変なのだ。
もー(╥﹏╥)、ホント書いてる方はウンザリのゲンナリのグッタリの終わらない無間地獄なのだ。こんな連載なんて始めるんじゃなかったと、つくづく後悔している。勝手に始めといて文句言うなとツッコミが入りそうだけど、もうとてつもなくストレスが溜まっとるのよ。今回は笑いも無いしさ。小ボケの1つもロクにカマしておらんのだ。

 
(註1)ハイイロキシタバ

日本鱗翅学会の会誌『蝶と蛾』の1953年7月号に白井忠治氏が『關西蛾類圖説(1)』と題してヨシノキシタバ、ゴマシオキシタバ、そしてハイイロキシタバの3種について纏めて書いておられる。
相当古い記事なので言い回しが現在とは少し違うし、漢字なんかは旧字だらけだから、読んでると時空を越えた感があって不思議な気分になったよ。古文書好きの人たちの気持ちが何となく解ったような気がするわ。
だいたいは読めるけど、中には首を傾げるような部分もあるから、この先の抜粋した部分は頑張って読んでね。一応、最終的にはチョイと驚きの展開になるゆえ、それまでは我慢して読んでおくんなまし。

 
1,よしのきしたば(新稱(新称?))
Ephesia rutha WILEMAN 1911

■Catocala rutha WILEMAN,Trans.Ent.Soc.Lond,p.239,PL 30.Fig.3.n.sp,(1911)
■Ephesia rutha (WILEMAN),HAMPSON,Cat.Lep, Phal.Vol.XⅡ.pp.146,180(1913)
■Ephesia rutha WILEM.,WARREN cn Seitz,Vol.Ⅲ,p.316(1913).
(■で区切ったが、たぶんコレらは参考文献だと思われる)

威蟲の出現季:8月,10月
國内分布:奈艮縣吉野山,大峯山
分布:日本

種の斑紋解説は難解過ぎて、もうお経の域なので割愛した。
冒頭に下のような各種のデータと図版があったが、図版画像は添付しない。と云うか出来ない。PDFからは物理的に画像を取り込めないのである。それに図版は白黒だ。オマケに画像は小さくて、画質も極めて粗い。どうせ見てもワカラン人だらけだろう。ゴメン。書き疲れて、もう投げやりなのだ。

 
Fig.1. Ephesia rutha WILEMAN, よしのきしたば♀ 奈艮縣吉野山 17.10.1944.
Fig.2,do(同?). ♂ 奈艮縣吉野山 1.10.1943
Fig.3. Ephesia connexa BUTLER はいいろきしたば ♀ 大阪府箕面山 27.8.1939.
Fig.4.do(同?)♂ 大阪府箕面山 27.8.1939
Fig.5. Ephesia nubila BUTLER ごましおきしたば ♀ 奈艮縣吉野山 30.8.1943.

 
解説編で既に触れているが、ヨシノキシタバの最初の学名の小種名は現在の”C.connexa”ではなく、”C.rutha”だったようだ。そして”C.connexa”には「ハイイロキシタバ」なる現在ではほぼ死語になっている和名が宛がわれている。

それはさておき、この時代は和名を平仮名表記してたんだね。そういや江崎さんの『原色日本産蛾類図鑑』も平仮名だったわさ。レトロ感があって、ちょっと新鮮だ。今の時代だと逆にオシャレかもしんない。

種の解説後に附記があった。

(附記1)
本種は吉野山産の1♀ Typeにより學界に發表せられたものであるが其後の報告は恐らく本文が最初であり、然らばFig.1♀は Paratype,Fig.2 ♂はAllotypeとなるわけである。

ここで良い子のために解説をすると、先ず新種を記載する為の基準となる模式標本のことを”holotype”(ホロタイプ)という。そして文中の”paratype”(パラタイプ)とは、従基準標本とか準記載模式標本、副模式標本とか言われるもので、ホロタイプに準ずる標本のことを指す。もしもホロタイプが失われた場合には、このパラタイプがその替わりになるんだったかな。
あと、allotype(アロタイプ)はパラタイプのうちでホロタイプとは異なる性別の標本のことを指す。

(附記2)
既に原著に於て記されたるが如く本種には鑑別を要する近似種として E.connexa BUTLER なる種があり、後者にも又近縁の第3者 E.nubila BUTLER があって、これ等に關しては先識の LEECH,WARREN in Seitz,HAMPSON等の説が必ずしも一致せず初心者をして懊惱せしむる事が多大であった。よって筆者はこの圖説の2と3に於て少しくこれに觸れ先輩の御教示を仰ぎ度いと思う。

補足すると、Fig.2と3はそれぞれヨシノキシタバとハイイロキシタバのことである。
それはそうと、ワイルマンにバトラー、リーチと、古(いにしえ)の錚々たる名前がズラリと並んでいる。蝶屋で、この3人の昆虫学者の名前を知らないとボロカス言われても仕方あるまい。それくらいの存在なのだ。
蝶屋の目線で言うと、バトラーはツマキチョウやウラキンシジミ、ダイセンシジミなどの日本に産する蝶の記載者として知られ、その記載数は21種類にものぼる。またヨシノやカバフキシタバなど日本のカトカラ9種の記載者でもある。なおバトラーについては拙ブログのゴマシオキシタバの回『風のように、雲の如く』と題して書いた文章の中で取り上げた。人物についてはソチラを読んで下され。
リーチは、何といってもギフチョウを最初に記載した人として有名だ。いっぱしの蝶屋ならば、知らない者はいないだろう。たしかミカドアゲハを最初に記載(学名mikadoだっけ…)したのもリーチだったんじゃないかな。たぶんシノニムになってるとは思うけど。あとは珍蝶ゴイシツバメシジミの記載者でもある。カトカラはナマリキシタバ、フシキキシタバ、ウスイロキシタバを記載している。
ワイルマンは日本の蝶だと、先に挙げたミカドアゲハの本土亜種の黃斑型(G.d.albidum(Wileman,1903))にその名があるくらいだが、海外の多くの蝶や蛾を記載している。和名だと台湾のワイルマンシロチョウに、その名が残っている。日本の蛾を幾つか記載しているようだが割愛する。もう完全に脱線しているのだ。これ以上の深堀りは避けねばならぬ。あっ、そうだ。彼はカトカラではヒメシロシタバの記載をしてるんだったね。

前述しているが、ヨシノキシタバの学名の小種名は、この時点では”rutha”だったんだね。そして現在の小種名の”connexa”は次のハイイロキシタバに与えられている。どうゆう経緯で学名が入れ替わったのか探(さぐ)ってゆこう。

 
2,はいいろきしたば
Catocala connexa BUTLER 1881

■Catocala connexa BUTLER,Trans.Ent.Soc.Lond.,p,196(1881)
■Catocala connexa BUTL.,LEECH,Trans.Ent.Soc.Lond.,p.534(1900)
■Catocala Connexa BUTL.はいいろきしたば,松村松年,日本昆蟲總目録Vol.1,p,100(1905)
■Ephesia connexa (BUTL) HAMPSON,Cat.Lep,Phal., Vol.XII,pp.146,187,Pl.201,Fig.13(1913)
■Ephesia connexa BUTL.,WARREN in Seitz,Vol.III,p.317.PL.57,Fig.C,as connexa,nec Butler(1913)

筆者の思考するところでは、このFig.C.as connexaとloc,cit.d、as fasciataの両種はこの書のtextの記述と合致しない點がある。又種々の事情に搬り推察して、恐らくは真正の connexa ではなく却て次に記す ごましおきしたば E.nubila Butlerの一型であろう。

これを見ると、どうやら和名を付けたのは松村松年のようだ。松村さんといえば、日本の近代昆虫学の礎を築いた人であり、日本の昆虫の名前を整理・統一し、和名の命名法を創案した人だ。多くの昆虫に和名を付け、学名に「Matsumura」と付く昆虫も数多い。つまり黎明期に昆虫学の発展に多大なる功績を残された立派な方だ。しかし数多くの昆虫の名前を付けただけに、いい加減なところもあって雑いネーミングも多く、センスもあまり良いとは思えないと云う印象を持っている。だから、このハイイロという名前の色のイメージに、あまり引っ張られない方がいいかもしれない。灰色といっても濃いのから薄いのまであるし、灰色とも茶色とも見える微妙な色もあるからね。

それにしても、昔の論文は文章が難解だなあ…。
さておき、問題はこの幻となったハイイロキシタバだ。これは流石に斑紋についての解説をそのまま載せよう。でも、お経だぜ、ベイベェー。

本種は前述の よしのきしたば に酷似して居るので主として鑑別に資し得る特微のみを記することとする。
體長約24mm。開張50−55mm。前種より華奢である。前翅表面は前種より遙に暗色であって全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす。前横線は亜中襞までは一直線に外斜走するがここで細くなり第1脉上にて内方に突起を出す。途中、中脉迄は内方の暗影と合して一大斑を現わす。中横線は不明、腎状紋は新月形の中心と黒環よりなるが其の周囲は特に濃色であるため不明瞭であって其の下方の第2室に環状紋がある。前横線の外方には程度の差はあるが頗る淡色の廣斜帶を現わす事が多い。後横線は第6脉と第5脉上に2鋭齒を外突せしめ、第1脉上に於て長V字形の突出を内方に送り前横線に接近する。時としてはこの突出は癒合して槍状に突出す。後翅表面の外帶が第1、2脉上にて中帶と連絡するのは幅廣き突出部であって、前種の如き3角形の頂端にて接觸するのとは其の趣きを異にして居る。中帶が亞中襞帶を通遏して後縁帶と連絡する場合には外縁と並行して比較的太いが前種では常に細く遙に翅基に近づいて弧を畫くのが通例である。後角附近にて各帶の離合の状態が種々であるのは前種と同樣である。裹面には變化があるが矢張り横豚紋を有する個體もあって前種に似て居る。

何かの呪文みたいで、こんなの普通の人は元より虫屋でも何言ってのかワカラン人もいるだろう(笑)。耳慣れない専門用語のオンパレードで脳みそ💥クラッシュじゃ。

気になるのは「前種より華奢である。前翅表面は前種より遙に暗色であって全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす。」という箇所。この手のカトカラでヨシノより華奢といえば、ゴマシオくらいしか頭に浮かばない。でも前翅はヨシノよりも遥かに暗色という部分が合致しない。ゴマシオは基本的にヨシノよりも色が薄いからだ。
鉛のような金属光沢があると云うのにも首を傾げてしまう。カトカラに金属光沢とかある奴っていたっけ❓
知る限りでは、カトカラについて述べるのに金属光沢という表現を用いた例は1つもない。
(-_-;)むぅー、でもそう言われてみれば、見方次第ではゴマシオなんかは鉛色と言えるような奴はいるし、金属光沢が僅かながら有ると言えなくもないけど…。
いや待てよ。鉛は鈍色(にびいろ)だから、それはそれでいいのか。でも金属光沢と云えば、普通はタマムシやミドリシジミとかの構造色を持つピッカピッカの奴らを想像しがちだよな。
まあいい。人により、色の表現は微妙に異なるものだ。
となれば、ゴマシオは変異が多いから、そのフォーム(型)の一つをハイイロキシタバとしたのかな❓ 例えば、より前翅が暗色というならば、黒化型とかさ。

 


(出典『世界のカトカラ』)

 
確かに色は暗色になるけど、鉛色には程遠い。

 
成蟲の出現季:7、8、9月
國内分布:大阪府箕面山,奈良縣大峰山,東京都(MARIES,1♂ type)
分布:日本

(附記1)
戸澤氏編箕面山昆蟲目録 no.1136(1932)にはCatocala hymenaea ab.connexa BUTLER,ハイイロキシタバとして出て居るがこの學名の充當には少しく疑問がある。

(附記2)
LEECH(1900)は connexaとnubilaとを同一種と考え後者を前種の異名として取扱って「The type was from Tokio and the specimens in Pryer’s collection from Oiwake」と記し、「LEECH自身此の種が8月に凾館にて普通に産するを經驗し、仙臺にては9月に探集した」と述べて居る。恐らく此の時の之等の標本は全部今日の nubila のみであって眞正のconnexaのただ1頭の1♂typeは看過せられて居た事と筆者は臆測する。

(附記3)
WARREN(in Seitz,1913)は一応は兩者を獨立種として別箇に掲げたがそれでもなを爾者同一種説に左袒し「connexa と nubila とは或る一種の濃淡の二型であってこれを同一種と認めたLEECHの説は正しい」と述べ、nubilaの2圖を connexa として示しているが、HAMPSONは勿論兩者を別種として扱って居る。筆者の知る限りでは connexa の最も混同し易き種は rutha であって nubila と紛れる恐れはない。

(附記4)
筆者はHAMPSONに從って同定をなしたが寡聞にして1 ♂type以外の記事を知らぬのでここに♀♂の2圖を添えた。恐らくFig.3.♀は Allotypeで、Fig.4.♂はParatypeと見做すベきものであろう。

ゴマシオ(C.nubila)だけじゃなく、C.hymenaeaとか又新たな種が参戦してきて、やれ同種だとか別種だとかとなってるから、やはりゴマシオの1型なのかな❓

でもハイイロの産地は吉野山と東京都、大阪府箕面山と書いてある。
もしかしてヨシノの大阪府の記録ってのはコレの事なのか❓【分布】の項に載せた『日本のCatocala』の分布図では大阪府も塗り潰されているが、触れなかったのは疑問に思えたからである。おそらく誤認であろうと考えたのは、大阪府にはフジミドリシジミは居ないからだ。フジがいないのなら、ヨシノだっていないだろう。何故なら、どちらも自然度の高い人里離れた森にいるからさ。

それはさておき、箕面だとしたら、おいおいである。箕面と云えば往年の昆虫採集のメッカではあるが、標高があまりにも低い。箕面山の標高は355mしかないのだ。そんな低い標高に食樹のブナが生えてるとは思えないし、聞いたこともない(イヌブナは有るらしい)。普通に考えれば、ヨシノが棲息しているとは思えん。誤同定しやすいゴマシオキシタバだって棲息している可能性は極めて低いだろう。
じゃあ、この「ハイイロキシタバ」って何者なのだ❓いよいよもってラビリンスである。

 
3,ごましおきしたば
Ephesia nubila BUTLER 1881

■Catocala nubila BUTLER,Trans.Ent.Soc.Lond.,p.196(1881).
■Catocala nubila BuTL.,part.LEECH,Trans.Ent.Soc.Lond.,p.534(1900)
■Catocalan nubila BUTL.,part.松村菘年,日本昆蟲総目録Vo1.1,p.100(1905)
■Ephesia nubila(BUTL.),HAMPSOM,Cat,Lep.PhaL.Vol.XⅡ.pp,146,183,Pl.201.Fig.9(1913)
■Ephesia nubila BUTL.,WARREN in Seitz,Vol.Ⅲ,p.318,Pl.57,Fig.c,Figs.c,d.(as connexa and fasciata)(1913).
■Ephesia nubila BUTL,.ab.mediongra(=ab.1 and 2 HMPS.)WARREN in Seitz,l.c.
■Ephesia nubila BUTLER,ごましおきしたば,河田黨,日本昆蟲圖鑑改訂版,p.774,Fig.2184(1950).

前翅表面は はいいろきしたば に類似して居り、後翅表面は中帶と外帶とは連絡する事はないので前2種の如く黒褐環に囲まれた黄紋を形成する事はない。其の他の點は河田氏の論文を參照せられたい。

成蟲の出現季:奈良縣大峰山, 8、9、10月
國内分布:北海道凾館(LEECH,3♂ 1♀);本州、東京(MARIES,2♂ Type),追分(PRYER,1♂1♀),奈良縣大峰山
分布:日本

(附記1)
此の種の前翅中央部は各樣の色彩ある淡色部を現出する個體があって、この點では一見したところ、よしのきしたばに類似した靦がある。亦前種との闕係に就いてはその項を參照せられたい。

要約するとハイイロとゴマシオは似ており、また前翅が白化しがちなゴマシオはヨシノに似ているって事か…。
但し、ゴマシオの下翅の帯は繋がらないと明記している。コレは何を意味するかと云うと、ハイイロ及びヨシノとゴマシオとでは、この一点で区別できる事を示している。ようはどれだけ前翅が似ていようとも帯が繋がらなければ、ゴマシオだということだ。また「筆者の知る限りでは connexa の最も混同し易き種は rutha であって nubila と紛れる恐れはない。」とも書いてるしね。つまり、白井さんはハイイロはゴマシオとは全くの別物だと考えておられるってワケだね。
ゴマシオじゃないとなれば、ハイイロの正体は何だろう❓

ゴマシオのメリハリのある前翅を持つものはヨシノにやや似ているが、単純に前翅が灰色と考えるならば、アサマキシタバも候補ではないかと一瞬思った。

 
【Catocala streckeri アサマキシタバ ♂】

(2020.5月 大阪府東大阪市枚岡)

 
でもコレは除外していいだろう。後翅の黒帯がゴマシオ同様に繋がっていないので、図版のハイイロとされているものとは明らかに違うからだ。それにそもそもアサマの発生期は5月中旬からで、6月中旬には姿を消す。その時点で有り得んだろう。ハイイロの発生期は7〜9月とされているのだ。
あとは同じ灰色でも質感が違うし、後翅の黄色もくすんだ感じだ。標本を見れば、誰でも一見してアサマとハイイロは別物だと見抜けるだろう。

論文に書いてある事は大体は解るのだが、やはり難解である。旧漢字が読めない人は尚の事だね。論文の文章だけでハイイロキシタバをイメージできる人は相当レベルが高いだろね。ワテの補足でもイメージするのは困難じゃろう。でも寧ろ、かえってワシが混乱させてたりしてね(笑)
(ノ`Д´)ノえーい、やっぱ画像が必要だ。

 

(出典『蝶と蛾』1953年7月号)

 
何で貼付できたのかというと、苦肉の策でPDFの図版をスマホに映して、別なスマホで撮ったのである。
上段左からがヨシノキシタバ♀、♂、下段は3と4がハイイロキシタバの♀と♂。そして右端の5がゴマシオキシタバの♀である。

この画像を見て直ぐにピンときた人は勘がいい。
画像をロクに見ずに、論文をコピペして読みながら書き進めていたが、改めて図版の標本を見て、オラも直ぐにピンときた。

カラーじゃないけど、
コレって、アミメじゃなくなくね❓

もしくは、クロシオじゃなくなくね❓

そもそもヨシノで丸ポッチ的な腎状紋が発達した個体なんて図鑑や文献でも見たことがない。存在しないと言っても過言ではないだろう。3と4は、ヨシノではない事は明白だ。
じゃあ、何でヨシノの学名がハイイロの学名になっちゃったのよー❓

 

(出典『山陰の昆虫』)

 
⑮が腎状紋である。

けど考えてみれば、すっかり忘れてたけどアミメキシタバの前翅の地色もヨシノと同じく基本的に焦げ茶だ。後翅の黒帯が繋がるところも似ている。そしてやや小さめの中型種である。画像のハイイロキシタバも同じような大きさの範囲に見える。
補足しておくと、アミメもヨシノもどちらかと云うと小振りで、大きさは同じか、ややヨシノの方が大きい。いや待てよ、反対のケースもあるな。たまにデカいアミメもいるわ。
とはいえ、全体的にはヨシノの方が大きい。となれば、アミメはヨシノよりも華奢だとも言える。それなら論文の記述とも合致してる。また、ヨシノよりも前翅が遥かに暗色だと云う記述にも合致する。アミメの方が濃い茶色だからね。

 
【アミメキシタバ Catocala hyperconnexa Sugi,1965】

(2018.7 神戸市)


(2019.7 神戸市)

 
こうして前翅は焦げ茶色だから、ヨシノの♂と間違ったのかもしれない。派手な♀とは間違えないだろうが、♂なら有り得るだろう。なので、ここから先はヨシノの前翅(表側)と云えば、特に言及しない限りは♂の事だと思って下され。
しかし自分的には♂でも両者は全然同じようには見えない。前翅の質感が明らかに違うからだ。

 
(♀)

(2019.7 奈良市)


(出典『世界のカトカラ』)

 
(♂)

(2018.7 神戸市)

 
それにしても最後のは酷い展翅だな。まだカトカラ1年生の頃だから蛾の展翅バランスが分からなかったとはいえ、酷い。カトカラなど多くの蛾の前翅は横長なので、蝶の展翅とは勝手が違うのだ。蝶の展翅をする時は触角の角度から翅のバランスを決めていたので、こうゆうバンザイ系になってしまったのである。

アミメには腎状紋が発達しない個体も結構いる。

 

(2019.7 奈良市)

 
或いはコレをヨシノだと思ってしまう人もいるかもしれない。
思い返してみれば、オラだって最初の頃は下翅が黄色いカトカラは、全部とまでは言わないまても、殆んど同じに見えたもんなあ。あんまり偉そうな事は言えないや。

箕面ならば標高的にヨシノやゴマシオが棲息しているとは考えにくいが、アミメなら問題はない。食樹もアラカシ、クヌギ、アベマキだから、低山地なら何処にだって生えてるからね。
だけど、ザッと探したところでは箕面でのアミメの記録は見つけられなかった。(-_-メ)チッ、迷宮からの脱出の糸口がプッツリやんけ。
それにアミメキシタバが発見(記載)されたのは1965年の事だから、白井さんが論文を発表した1953年よりも後のことだ。加えて、記載した杉繁郎御大は小種名を”hyperconnexa”と名付けている。コレはヨシノの小種名である”connexa”を意識しての命名と推察できる。つまり”hyper”はヨシノよりもメチャンコ帯が繋がっているという事を指し示しているのではなかろうか❓そう考えれば、全ての物事が繋がってくる。確かにアミメの方が黒帯が太くてガッツリ繋がってる。

でも疑問が全部解消されたワケではない。
「全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす」と云う記述はどうなるのだ❓アミメは茶色であって、断じて鉛色ではないし、金属光沢もない。
(;)アタマ、オカシクなりそうだよ。

ちょっと待てよ。
ただし左(Fig.3)の黒化型っぽいのは、クロシオに見えなくもない。それに少し大きそうだからね。

 
【クロシオキシタバ Catocala kuangtungensis,1931 ♂】

(2019.7 兵庫県神戸市)

 
一応、ノーマルタイプも載せておく。

 

(2018.7 兵庫県神戸市)

(♀)

(2019.7 兵庫県神戸市)

 
記載は1931年だが、日本で発見されたのは1960年代だ。たしか高知県か静岡県で見つかってる筈だ。これも白井氏が論文を書いた1953年よりも後の発見になるわけだから、存在を知らなくて見誤った可能性ありだ。
とはいえ図版の個体はクロシオにしては後翅の体に近い内側の黒帯が太い。また、帯が繋がる部分も太い。クロシオはそれらがアミメと比べて細いのだ。ゆえに図版はどちらかと云うとアミメに近い。となると、Fig.3も4も両方アミメかな。
アミメとクロシオ、どちらにせよ当時は未記録だったわけだから、白井氏が懊悩したのも理解できる。それに当時はヨシノは元よりゴマシオの食樹も解明されてなかった筈だから、ハイイロ(アミメ)の食樹が判明してるワケないもんね。
白井氏が、もしもこのハイイロを全く別物の新種だと見抜いていれば、大発見だったのにね。惜しいやね。

それはさておき、調べた限りでは箕面にはクロシオの記録もなかった。食樹のウバメガシは有るみたいだけどね。まあ北側の尾根の向こうは池田市で、備長炭と肩を並べる高級木炭の池田炭(菊炭)で有名だ。ゆえにウバメガシ林もあるだろうから、いるとは思うけど…。
ゴメン、いや違うわ。菊炭の原料はウバメガシじゃなくてクヌギだったわ。忘れてたけど、そもそもウバメガシは海岸近くに生える木だったね。だから内陸部では自生しているものをあまり見掛けない。なのでクロシオの分布も主に沿岸部寄りだ。
つまりクロシオが箕面で採集された可能性は低い。箕面でも植樹されたウバメガシや生け垣に使用されているモノはあるだろうが、少なかろう。ウバメガシ林と言えるほど纏まって生えている場所はないものと思われる。となると、やはりハイイロはアミメだった確率の方が高い。
とは言いつつ、内陸部でのクロシオの記録が全くないワケではない。兵庫県猪名川町に記録があるし、去年(2019年)には生駒山地と奈良市の若草山でも採集されている。それに紀伊半島南部では内陸部にも棲息すると聞いている。ちなみに奈良市で採集されたのは7月で、極めて新鮮な個体だった。きっと食樹さえあれば、内陸部でも発生するのだろう。中国のクロシオは内陸部にいるというからね。
また別な可能性もある。クロシオは移動性が強く、秋になると食樹の自生地から遠く離れた場所でも見つかる事がしばしばある。箕面のハイイロキシタバとされたモノも、そういった偶産的なクロシオだった可能性は充分にある。もしくは移動してきたモノが一時的に発生していたのかもしれない。だとすれば、全然ロマンのない話だけどね。
昔は箕面にもウバメガシが自生していて、恒常的に発生していたとかないのかなあ…❓
しかしハイイロキシタバの記録から既に80年くらいが経っている。そして今や箕面は高級住宅地だ。30年程前から開発という名の自然破壊が著しい。稀蝶クロヒカゲモドキやキマダラモドキも絶滅しかかっていて、風前の灯になっている。なれば現在そのハイイロキシタバとおぼしきものが今も棲息しているかどうかを検証・証明する事は、もはや難しい。
やれやれ。結局のところ、出口の見えない迷宮じゃないか。

多分ハイイロキシタバの正体はアミメキシタバだとは思うけれど、一応ゴマシオキシタバの画像も貼り付けておきましょう。
あっ、前半に貼っつけたか。じゃ、別な個体で。

ゴマシオは図版だと下段一番右端の奴ね(Fig.5)。

 
【ゴマシオキシタバ Catocala nubila ♂】

 
ゴマシオは前翅が灰色だからゆえ、それが原因でハイイロキシタバ(C.connexa)と混同されて、話がややこしくなったんじゃないかなと思う。
それはそうと、アミメだったとして、なして前翅が茶色なのに「灰色黃下翅」なの❓ もー、松村さぁ〜ん。

 
【同裏面】

 
【♀】

(2020.7 長野県北安曇郡)

 
コレはわりと前翅にメリハリがある。どうやら♀にその傾向がありそうだが、どうなんだろね。
一応、♂も並べておく。

 
(♂)

(黒化型)

(2019.8 岐阜県白川村)

 
考えてみれば、ゴマシオって変異が多いんだよなあ…。これ以外にも幾つかフォームがある。それがハイイロの同定に更なる混乱を引き起こした原因なんだろね。
とはいえ、前翅は無視してもよい。灰色だからってハイイロキシタバなんて思ってはならんのだ。そこに拘泥するから問題がややこしくなるのである。ヨシノキシタバとの違いは細かくみれば幾つかあるが、一番の差異は後翅だ。ヨシノみたく黒帯が繋がらないので容易に区別できる。そこさえ抑えておけば、間違うことはない。リーチがゴマシオとヨシノを同一種だと考えてたみたいだけど、こんなの簡単に見分けられると思うんだけどなあ…。そう最初から思ってたから、論文の内容を読んで余計に混乱したのだ。
だいち裏面を見れば、んなもん、一発でワカルんでねぇの❓とも思ってた。あまり言及される事はないが、カトカラは裏面でも同定は出来る。むしろ種によっては裏の方が簡単に見分けられる場合もあるからね。と云うワケで、再度ヨシノくんの裏面に登場してもらおう。

 
【ヨシノキシタバ 裏面♀】

【同♂】


(出典『日本のCatocala』)

 
(・o・)あれっ❗❓
改めて見ると、最後の『日本のCatocala』の裏だけ、ちょっと違うぞ。いや、だいぶ違う。下翅の内側(腹部側)に細い黒帯がない。それに上翅翅頂の黄紋が下に伸びている。
確認の為に他の画像を探そう。

 

(出典『wikimedia commons』)

 
やはりヨシノは下翅の内側に細い黒帯があり、翅頂が下部に広がる事はない。とゆうことは『日本のCatocala』のヨシノの裏面はいったい何者なのだ❓
と言いつつも心辺りは無きにしもあらずだけどさ。けど、その前にゴマシオの裏面を確認しておこう。

 
【ゴマシオキシタバ 裏面】


(出典『日本のCatocala』)

 
当初は『日本のCatocala』のゴマシオの裏面画像を見て、予断で「ヨシノとは全然似てない。こんなの裏面をちゃんと見てれば別種だと簡単に分かるじゃないか。リーチでさえもそれに気づかなかったって事なのか…❓おいおい、アンタら、そんなんで大丈夫かよ❓それって節穴ですぜ。」と一度は書いた。だがヨシノの『日本のCatocala』の裏面画像を除外すれば、他は酷似してるわ。これなら両者を同種と考えたのも理解できなくもない。

ではヨシノとゴマシオ両者の裏面の違いは、どこにあるのだろう❓
最初に、ゴマシオは上翅内側の黒い紋が隣の縦の黒帯と繋がるが、ヨシノは繋がらないのが識別点だと思った。しかし『日本のCatocala』のゴマシオの画像は、そこが繋がってない。それで混乱が起きた。で、「結構、個体変異もあるとゆう事なのか…。表は楽勝で判別できるが、裏は意外とムズいぞ。」となってワケワカメになっちったのだ。初見でビンゴだったのにさ。

そこで後翅に目をつけた。
敢えていうなら、ヨシノは下翅の内側に細い縦の黒帯があり、下側外縁の黒帯と後角付近で繋がるところではなかろうか❓一方、ゴマシオは中央の帯と外縁の帯とが繋がらない。
一見すると、ヨシノの♂個体の自前画像も繋がっていないようには見える。しかし鮮度の悪い個体ゆえに細い黒帯が消えかかってるだけで、よく見ると繋がっている(ここで重大な見落としをしていたのだが、それについては後ほど書く)。
他にも識別点は有りそうだが、もっと多数の個体を見ないと何とも言えないから、これくらいにしておきます。

あー、でも念の為に横面画像でも確かめてみよう。

 
【ゴマシオシタバの横面】

 
やはりゴマシオの下翅の黒帯は上と下とで繋がってないね。
一瞬、ゴマシオの方が全体的に帯が細いのかなと思ったが、何の事はない。太いのもおるわ。

 

 
これも繋がっていないのだが、後角の部分が影になってて分かりづらい。
もう1枚、画像を貼っつけておこう。

 

 
やっぱりだ。コレも帯が繋がってないね。
比較のために、もう一度ヨシノの横面画像を貼っつけておきましょう。

 
【ヨシノキシタバの横面】

 
思った通り下翅の右下の部分、後角付近で帯が繋がっている。分かりづらい場合はピンチアウトして拡大して下され。

あっ、もっとハッキリわかる画像もあったわ。

 

 
コレなら繋がってるのがワカルっしょ。
より多数の個体を検証しないといけないのだろうが、たぶんそれで間違いないかと思われる。

続いて、ハイイロの候補の有力としたアミメキシタバ。

 
【アミメキシタバ 裏面】


(出典『日本のCatocala』)

 
ヨシノと似てるわ。違うのは前翅内側の黒紋が隣の黒帯とガッツリ繋がっていることくらいだ。これがヨシノと混同される原因だったのね。表前翅が焦げ茶色で、下翅の黒帯も繋がってるのも合わせれば同種と考えられても致し方ない面はあるかもしれない。やはりハイイロキシタバの正体はアミメキシタバなのではないかな。
ここでヨシノとアミメ(ハイイロ)の裏面の違いを整理しよう。

①アミメは裏面前翅内側の横に広がる黒紋が隣の縦の黒帯と繋がるが、ヨシノは繋がらない。
②アミメは前翅の翅頂の黄紋が小さいか消失しかけるが、ヨシノは明瞭である。
③後翅の翅頂の黄紋が比較的ヨシノの方が大きい傾向にある。
④アミメの後翅中央黒帯先端の曲がりのRが弱いのに対し、ヨシノのRはやや強い。

多数の個体を検証したワケではないので、②③④はあくまでも傾向であって、決定的なものではないかもしれない。しかし、少なくとも①は確実な識別点になるのではないかと思われる。

(´ε` ) もぉー、白井さんはどうして図版に裏面画像を載せてくれてないのだ。それさえ載っけてくれてさえいれば、これ程までに頭を悩まさなくて済むのにさー。
両者の裏面が酷似しているのは認める。でもプロなら裏面を詳細に見れば別物だと直ぐに分かった筈だ。表面の特徴と合わせれば尚の事だ。
(-_-メ)ブッちゃけ言って、画竜点睛を欠くだよ。蛾屋さんはナゼに裏面に対して此れ程までに無頓着なのだ❓意味がワカランよ。

話はまだ終わらない。
そして、第二候補のクロシオちゃん。

 
【クロシオキシタバ 裏面】


(出典『日本のCatocala』)

 
これを見て、最初はこう思った。
(☉。☉)ワオッ❗、ヨシノとソックリじゃないか。
と云うことは図版のハイイロキシタバはクロシオと混同されてたってこと❓でも図版の3と4の黒帯はガッチリ繋がってるからアミメっぽいんだよなあ…。
とは言うものの、白井氏の解説に「全面に鉛樣金屬性の色澤を漂わす」と書いてあったから、(?_?)にはなってたんだよね。
アミメは茶色いから鉛色ではない。一方、クロシオは鉛色とまでは言えないが、青っぽくて、やや金属光沢があるようにも見える。或いは、これが鉛色な見える人もいるかもしれない。少なくとも茶色いアミメよりかはそう見える。
誰か、この標本を探してきて裏面を図示してくんないかな。それで一発で解決しそうだと思うんだけど。

こう最初は書いたのだが、実をいえば自前のヨシノの裏面の標本画像も加えようと表展翅をひっくり返したところでオカシイなと気づいてた。で、その時には既に半分もしやとは思ってた。第六感が走ったのだ。相前後するが、つまり冒頭の自前のヨシノ♀の裏面標本画像は、この為に後から写真を撮って付け足したのである。

この際ハッキリ言おう。

 

 
おそらくこの『日本のCatocala』のヨシノキシタバの裏面画像はクロシオキシタバだ❗

つまり間違った画像が使われている可能性が高い。
西尾さん、毎回『日本のCatocala』の力をお借りしているのにも拘らず、暴露しちゃいました。m(_ _)mごめんなさい。

証明の為に他のサイトからクロシオの裏面画像を引っ張ってこよう。

 

(出典『昆虫漂流記』)

 
ほらね。コチラも下翅の内側には細い黒帯が無い。そして上翅の翅頂の黄紋が下に伸びており、中央の黒帯は太くて下部の先が特徴的な形をしている。たぶん自分の指摘に間違いはないかと思われる。
だから実を言えば、それでも♀だけでは不充分だと思ったので、更に慌ててスレたヨシノの♂を探してきて、急遽、裏面展翅した。それを冒頭と註釈に後で貼り付けたのだ。なので文章の各所に齟齬があるのである。
思い返せば、冒頭でキシタバ(C.patala)の裏面とヨシノの裏面が似ているのに違和感を感じたのも、そのせいなのかもしれない。
キシタバの裏面とヨシノの裏面は似てませーん❗キシタバに似てるのはクロシオでーす❗
そういや野外ではクロシオとキシタバは間違えやすいことを思い出したよ。お恥ずかしい話だが、クロシオの初採集行では夜になるとクロシオが小型のキシタバに見えてきてしまい、挙句には大半を無視してしまった。キシタバなんぞ採らんのじゃ❗で、後日わざわざ採り直しに行ったんだよね。それくらい似ているから、何となく両者は近縁種ではないかと思っていたのだ。今になって、まさかこんな形で裏まで似ていると知らしめられるとはね。ちょっとした青天の霹靂だよ。但しDNA解析では、そんなに近縁って程でもないみたいだけどね。

と、ここまで書いて、更なる重大な事に気づく。
何気に『日本のCatocala』のゴマシオの裏面画像をもう1回見たところで、バキ仰け反る。

 

 
ガビ ━━(゚д゚lll)━━ ン❗❗
何と『日本のCatocala』のゴマシオの画像は帯が繋がっとるやないけー❗❗
たぶんコヤツはゴマシオではない❗❗

じゃあ、コヤツは何のカトカラの裏なのだ❓

(-_-;)コレって、ヨシノキシタバの裏面じゃなくなくね❗❓

西尾さん、(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ゴメンなさーい。又しても暴露しちゃったとですよー。

自前のゴマシオの裏面画像は、前翅内側の黒い紋が隣の黒帯と繋がってるけど、ゴマシオとされる『日本のCatocala』の画像は繋がってない。だからゴマシオではない。むしろ、この前翅内側の黒斑が隣の縦帯とは繋がらない特徴はヨシノのものである。しかも、この『日本のCatocala』のゴマシオ画像は後翅内側に黒帯があり、その帯が下の外縁の黒帯と繋がっている。これは完全にヨシノの特徴である。どっか少し変だなとは思ったのだが、全体に帯の感じが細いから、雰囲気的にゴマシオに見えたのだ。
兎に角、おいおいである。また間違いかよ(´ε` )
だとしたら、秀でた図鑑だから勿体ないよなあ…。しかも2つもだ。裏面画像をちゃんと載せているのは、この図鑑だけだから実に惜しい。西尾さん、この際だから修正のために廉価版の改訂版を出してくんないかなー。

となれば、コレを強固に証明するためには、もっと沢山のゴマシオの裏面を見て確認しなければならない。
しかーし、何故だかネットで探しても裏展翅したゴマシオの画像が全然見つからへーん。普通種なのに何でやねん❓
そんなに蛾の裏面は軽視されてるのかよ(´ε` )
しゃあない。邪魔くさいけど自分で何とかするよ。

 

 
去年に表展翅したものを裏返して撮ったものだが、こんだけ並べりゃ、特徴はもう明白だろう。すなわち前翅内側は基本的に隣の黒帯と繋がる。パッと見は繋がってないように見えるものでも、画像を拡大すれば繋がっているのがお分かりになられるかと思う。ヨシノは内側の黒紋と中央黒帯とが大きく離れており、余程の異常型でもない限りは繋がる事は無いだろう。また中央の黒帯の形もヨシノとは異なる。ヨシノのように黒帯が下部で内側へ向かって強く「くの字(左側の場合)」に湾曲することはない。
後翅は一番内側の細い黒帯を欠き、下側外縁に沿う黒帯とは繋がらない。よって『日本のCatocala』に図示されている裏面画像はゴマシオではないと断言できる。そして、ヨシノだとも断言できる。

解決したのは嬉しいが、お陰でゴマシオキシタバの回を書き直さねばならなくなった。ようはゴマシオの回に間違った裏面画像を貼っつけちゃってる事だからね。
まあ、今年はツートンカラーの型も採れたので、どうせ改訂版を書く予定ではあったんだけどもね。

 

 
で、結局なんだったっけ❓どうやって纏めればいいのだ❓
衝撃の発覚2連発で、着地点というかクロージングを完全に見失ったよ。

頭の中で纏まるまで時間稼ぎをしよう。
ついでに去年発見されて、アミメやクロシオに似ているマホロバキシタバ(C.naganoi mahoroba)の画像も貼り付けておこう。

 
【マホロバキシタバ ♂】


(2020.7月 奈良市)

 
後角付近で黒帯が繋がらないのが特徴。

一応、裏面画像も貼付しておきまーす。
ヒマな人は、見た目が似ていて同所的に生息する可能性のあるアミメやクロシオと見比べてみてね。全然違うからさ。

 
(♀)

(2020.7 奈良市)


(2019.7 奈良市)

 
(♂)

(2019.7 奈良市)

  
コヤツはワタクシと小太郎くんが発見したんだけど、同定は裏が決め手となった。明らかにアミメやクロシオと違うからね。
それで海外のサイトから裏面画像を探してきて、C.naganoi に近いものだと分かったんだよね。誰も気づかなかったのは、裏面をちゃんと見た人がいなかったのだろう。
付け加えると、似ているがヨシノとも違う。前翅内側の黒紋の形が異なるから区別は可能。まあ、表側で充分同定できるけどね。
マホロバに関しては、拙ブログの『真秀ろばの夏』の前・後編を読んで下され。そこに詳しく書いた。

そろそろ結論を言おう。
白井さんのハイイロキシタバとした個体は、たぶんアミメキシタバだろうが、クロシオキシタバの可能性もあるとしか言えない。裏を見ないとワカランのだ。
このブログでは再三再四言ってるけど、ホンマ、蛾を研究する人は裏面をもっと大事にして欲しいよ。
また蛾屋さんの怒りを買うような事を書いちゃったけど、まっいっか。
ところで、何故にヨシノの学名”rutha”が消えて、ハイイロの学名”connexa”が現在のヨシノの学名になったのだ❓
まっ、いっか…。どうせ中国辺りのものが”C.connexa”として既に記載されていた事が後で発覚したんじゃろうて。

赤ん坊はもう疲れたよ。いつまでも壊れた玩具で遊び過ぎたからね。もう、さよならをするよ。

                   おしまいのおしまい

 
とは言うものの、記事のアップ直前で思いとどまった。
調べると「http://ftp.funet.fi/」と云うカトカラ全体の記載について書かれているサイトで以下のような記述を見つけた。

・Catocala connexa Butler, 1881; 196; TL: Japan, Tokyo
・Catocala rutha Wileman, 1911; 239, pl. 30, f. 3; TL: Japan, Yamato, Yoshino

これを見ると、バトラーは日本で採集されたものから記載したことが解る。Tokyoとあるのは、おそらく採集された場所ではなく、ブツが東京から送られてきたからだろう。きっと、この時代はアバウトだったんだろね。バトラーからすれば、遠く離れた極東から送られてきたと云う事実だけで充分だったのだろう。それ以上の詳しい産地には興味が無かったものと思われる。

ワイルマンは既にバトラーによって記載されている事を知らずに吉野産を新種として記載したんだろね。
いや、知ってはいたが、connexaとは別種だと思って記載したのかもしれない。だったら、何故に白井さんは図示したアミメっぽい標本を”connexa ハイイロキシタバ”としたのだろう❓白井さんは何を基準にコレを”connexaとしたのだ❓もしくは誰がそれをハイイロと断定したのだ❓アレッ❗❓、自分でも何言ってんのか段々ワカンなくなってきたぞ。ワシの文章が難解化しとる。

でも白川氏はハイイロキシタバの項で「Fig.3.♀は Allotypeで、Fig.4.♂はParatypeと見做すベきものであろう。」と書いているんだよな。だったら、connexaは現在のヨシノとは見た目が違う事になってしまう。
そもそもコレが何故にタイプ標本だと言えるのだ❓標本の出自について書いてないからワカランぞなもし。しかも、もしタイプ標本ならば、そんな「〜であろう。」なんてファジーな物言いはしない筈だ。タイプ標本ならば、タイプ標本とハッキリ言える筈じゃないか。そもそもタイプ標本だったら、パラタイプであろうとアロタイプであろうが、ホロタイプと同じく、その旨を記したラベルが付いていた筈だ。それ見りゃ、一発でワカルのだ。白川さんは何をもってタイプ標本だとしたのかえ❓
だが、今となってはもう調べようは無さそうだ。とにかく、誰かが間違ってコヤツが”connexa”だと言い出した事から混乱が始まったのだろう。
そうゆう事にしておこう。

けど別な疑問が出てくるんだよね。クソー、全然終わんねぇ。
もしハイイロキシタバがアミメだったとしたら、なぜにアミメキシタバの学名は「Catocala connexa」とはならなかったのだろう❓そして、どうして「Catocala hyperconnexa」になったのだろう❓また、ヨシノキシタバは何故に”rutha”とはならずに、”connexa”になったのだ❓

きっと宇宙人のしわざだ。
もう、そうゆう事にしておこう。

              おしまいのおしまいのおしまい

 
追伸
実をいうと第二章を書いた時点で、ほぼほぼこの最終章も出来上がっていた。先に解説編から書き始めてたからね。しかしハイイロキシタバの事か何となく気になって再度調べたら、ドツボに嵌ってもうた。今回は割りとすんなり書けたのでラッキーだと思ってたけど、最後の最後で落とし穴の迷宮ラビリンスとはね、大どんでん返しだよ。まあ、謎を探究するのはミステリアスで面白いんだけどもね。あっ、タイトルは『吉野ミステリー』とか『吉野孃はミステリアス』とでもすれば良かったかな?面倒くさいから変えないけど。

あんまり沢山採れてないとゆうのもあるが、ヨシノキシタバに対してのモチベーションはまだまだ有る。♀のスゲーのを採りたいよね。コレはたぶん藤岡くんにあげちゃった個体のせいがあるんだと思う。進呈した事に対しては今更どうのこうの言うつもりは全くないが、あのタイプの完品が純粋に欲しいと思うようになったのだ。正直、♀の斑紋の美しさには魅入られる。心は、未だ見ぬ美しき♀を求めているのだ。

これでやっとこさ追いついた。
このカトカラシリーズの連載は、カトカラ採集をしだしてから1年後に始まった。だからずっと1年遅れとか、下手したら2年遅れの話を書いていたのだ。とにかくコレで漸く同じ年の年内に書き終えることができた。
とゆうワケで、これにて今年のカトカラシリーズの連載はおしまい。もし来年新たなカトカラが採れたら、連載再開となる。とはいえ、それなりに難関が残ってるから、どうなるかはワカランけどね。それに今年は念願のナマリとアズミ、そしてヨシノが採れたから、あれ程のモチベーションは、もうありましぇーん。

えー、今回も端々で結果的に蛾屋さんの事をディスる形になっちゃってるけど、許して下され。別に敵視しているワケではないので。

 
追伸の追伸
いやはや、ハイイロキシタバのせいで予想外にどえりゃあ長くなってまっただ。途中で流石に2回に分けようかとも思ったが、そうなると後編は新たに冒頭部分を書き直さなければならないし、文章のレイアウトを変える細かい調整も必要になってくる。タイトルも再考しなくてはならないし、それが邪魔くさくて、そのまま突っ切った。
それはそれで別なストレスが生じてホント、クソみたいに憂鬱になったわ。事実は、好きで長い文章を書いているワケではないのだ。単に下手クソだから、その分長い文章を書かざるおえないだけの話だ。

おしまいのおしまいの前の末文「赤ん坊はもう疲れたよ。いつまでも壊れた玩具(おもちゃ)で遊び過ぎからね。もう、さよならをするよ」は、レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説の金字塔『長いお別れ』(清水俊二 訳)からの引用です。
昔から心がメチャンコ疲弊した時によく呟いていたセリフです。今回、久々に出ちまったよ。

何はともあれ。
皆様、メリークリスマス🎄🎅

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』
◆白井忠治『關西蛾類圖説(1)』日本鱗翅学会『蝶と蛾』1953年7月号

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『wikimedia commons』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』
◆『高知の自然 Nature Column In Kochi』
◆『あきた森づくり活動サポートセンター』
◆『昆虫漂流記』

 

かずつま

 

 
「かずつま」なるものが半額で1個だけ売っていた。
見慣れないものだったから定価で売ってる時から気にはなっていた。けど税抜498円もする。ちょい高いし、そのわりには量も少なそうだったので買わなかったのである。

だいぶ迷ったが、250円だし、1個だけだったので買うことにした。買わないで後悔するよりも買って後悔した方がマシだ。そのかわりマズかったら怒るで💢、しかしー。

 

 
フタを開けたら、意外にも中にソースが入っていた。
しかもチーズのソース。数の子とチーズとは思いもよらない組み合わせだ。そういやパッケージの右上にオレンジ色で「公式カズチー」とか書いてなかったっけ❓何のこっちゃ?と思ってたけど、そうゆう事か…。数の子のツマミだから「かずつま」で数の子チーズだから「カズチー」❓
確認すると小さな字で「かずのこ✕チーズ」とちゃんと書いてあった。他にも小さな字で「つまめるかずのこ」とか「新感覚おつまみ」だとか書いてある。それらに対して微妙に💢イラッとくる。公式というのも引っ掛かるし、どっかイチビってる感じがするのだ。パッケージにオシャレ感を醸し出させてるのもなあ…。悪い予感がする。
ちなみにイチビってる(いちびる)というのは関西弁。意味は自分でググッて調べましょう。
『おまえ、何イチビっとんねん💢、教えろやボケー❗』である(笑)。

 

 
量は思ってた以上に多かった。これくらいの量なら500円でもけっして高くない。250円なら安いくらいだ。
取り敢えず、そのままソースなしで食べてみる。

(☉。☉)❗あっ、ピリッときた。ビックリだ、辛いぞ。ワサビかなあ…。そんな感じのツンとした辛味があるのだ。
しかも味が濃い。予想では薄い出汁的なもので下味がつけてあると思ってたのだ。全然、パンチがある。
コレはコレで充分に旨い。旨いがゆえにチーズソースを使うかどうか迷った。台無しにする可能性は充分にあるからだ。
えーい(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫、ままよ。かけちまえ。ここで掛けななきゃチキン野郎だ。だいちそれじゃカケチーを買った意味がない。そもそも何じゃそりゃ❓と思ったから買ったんだからね。

 

 
(・o・)アレッ、想像してたよりも旨い。チーズそのもの的ソースかと思いきや、マヨネーズチーズだったのだ。マヨネーズなら数の子と合わなくもないから、有りではあると思う。
それはそうと、辛味が消えて、むしろ味が薄くなったような感じになったのは不思議。マヨネーズは、誰かの陰謀のように世の中の全てのモノを中和させるんだろね。靴を煮てマヨネーズを付けて出したら、食う奴だっているだろう。マヨラーはマヨネーズの魔法とか催眠術に掛けられているに違いない。

この味だと白ワインに合いそうだ。でも飲んでるのは、そんな洋風なモノとは思ってなかったから芋焼酎だ。まあ、合わなくもないけど…。
次、売ってるのを見たら、辛口の白ワインも買お〜っと。
でも、ホントいうと何もかけない方が好きかも。何でもかんでもチーズ入れときゃいいと云う今の風潮に抵抗感があるし、何よりも味がチープで単一になる気がしてならない。チーズも又、マヨネーズと同様に全てを支配し、チーズ化させる。そして中毒性が有るとみる。そこにはきっと誰かの陰謀が隠されておるに違いあるまい。

やっぱオラ、出汁に漬けて鰹節を乗っけた普通の数の子の方が百倍いいや。

                       おしまい

 
追伸
この「かずつま」には別な味のバージョンもあるらしいよ。

 

2020’カトカラ3年生 第二章

 
   vol.27 ヨシノキシタバ

    『吉野物語』後編

 
2020年 8月9日

空から神々が降臨した。

 

 
傾いた太陽が、雲の隙間から地上に向かって幾本もの光の階段を下ろしている。久方振りに見るレンブラント光線だ(註1)。
壮麗なる雲の神殿を眺めていると、何となく良い事が起きる予兆なのではないかと思えてきた。

この日の朝から昼は、小太郎くんと長野県松本市の某有名な峠のオオゴマシジミに会いに行った。

 
【オオゴマシジミ】

 
久し振りに見るけど。オオゴマちゃんは可愛いね。やっぱ蝶はいい。
でも5、6年前に突然個体数が減ってからあまり回復はしていないようだ。考えてみれば、その時以来の再会だ。あの時は的場ちゃんと岐阜県の新穂高に行ったのだが1つも見れず、仕方なくこの峠に移動してきたのだった。
そういや入口で奥から戻って来た爺さんに状況を訊いたんだよね。延べ30人近くが入ってるけど、爺さん本人がさっき1頭採っただけで、他は誰も採れてないって言ってたな。で、そのあと自分も1頭採った。実際、奥から戻って来た人たちに尋ねても誰も採れてなかったから、多分この日は爺さんとオラしか採れていなかった筈だ。
今回もワシら以外は誰も採れていなかった。沢山いた頃と環境はほぼ変わってないのにナゼなんだろ❓
正義感が矢鱈と強くて思考力の乏しい写真屋なんかが、乱獲だとか声高に言ってそうだが、いくら採っても翌年には又いくらでもいたそうだから、おそらくメインの理由は他にあるのだろう。一応言っとくけど、採っても蝶は減らないと言っているワケではない。物理的には採ったら確実に減るからね。
あっ、やめとこ。こうゆう話をすると大脱線になるから、この件に関しては今回これ以上は話さない。今後、別な機会にまた話すことも有ろうかと思う。
とにかく、たぶん此処にはもう行かない。絶滅されても困るからね。基本的に蝶を最も愛してるのは蝶屋なのだ。絶滅させてしまえば、自らの首を締めることになる。
話を戻そう。相変わらず食草は腐るほどあったから、種そのものの衰退期にあるのかもしれない。オオウラギンヒョウモンが全国で一斉に衰退したようにね。
或いはアリと共生関係にあるから、アリが何らかの理由で激減したのかもしれない。まあ、理由は一つではなくて複合的なんだろうけどね。

ちなみに、この個体はゴマなしオオゴマといって、斑紋が一部消失した珍しいフォームだ。小太郎くんが羨ましがったので、ノーマルなのと交換してあげたけどね。いつも小太郎くんには世話になっているのだ。それくらいの恩返しは吝(やぶさ)かでない。

午後には奈川村へゆき、これまた久し振りのゴマシジミとの御対面。御対面と書いたのは、奈川村はゴマちゃんが採集禁止だからである。と云うワケで写真だけ撮った。

 
【ゴマシジミ】

 
採っちゃダメなので、小太郎くんは手乗りゴマシジミをやってた。小太郎くんのゴマ愛は強いのだ。

 

 
考えてみれば、一日のうちで両方とも会ったのは初めてだ。まだ昨日からの良い流れが続いているかも。昨日は、これまた久し振りの佳蝶ムモンアカシジミと念願のナマリキシタバに会えたしね、

 
【ムモンアカシジミ】

 
【ナマリキシタバ】

 
奈川から松本市の温泉周辺へ行くか木曽町の高原に行くか迷ったが、木曽町を選択。何となく小太郎くんは温泉に行きたそうだったが、「どっちでもいいですよ。」と言うので遠慮なく木曽町をグイと選ばせて戴いた。なぜなら勘がそっちを指し示していたからだ。自分は自分の勘に絶対的な自信を持っている。だからたいした実力もないのに何処でも良い虫が採れる。引きが強いのは、そうゆう事なのである。
あとは小太郎くんに未採集のミヤマキシタバを採ってもらいたいと云う思いもあった。アズミキシタバとナマリキシタバは小太郎くんのライトトラップのお陰で採れたようなものだ。ゆえに恩返しの気持ちもあった。もっとも小太郎くんはヤンコウスキーキリガの方が欲しかったようだ。それは後々わかる事なんだけどもね。

 
【アズミキシタバ Catocala koreana 】


(2020.7.25 長野県北安曇郡)

 
【ナマリキシタバ Catocala columbina ♀】


(2020.8.8 長野県松本市)

 
【ミヤマキシタバ Catocala ella ♀】


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
目的地周辺には4時くらいに着き、有名なアイスクリーム屋でソフトクリーム食って、ヤマキチョウとツマジロウラジャノメのポイントの様子を見てから灯火採集が出来そうな場所を探した。
そして、冒頭の場所へと辿り着いた。

 

 
やがて夕日は声も無く山並みの向こうへと沈んでいった。
そして今宵も虫たちの夜会が始まる。

 

 
点灯して暫くして、背後から飛んで来たらしいカトカラが目の前で地面にボトッと落ちた。
(ㆁωㆁ)何じゃこりゃ❓と思った次の刹那、脳が理解した。

w(°o°)w小太郎くん、これミヤマやっ❗

小太郎くんも、やや遅れて気づいたようだった。しかし二人のただならぬ殺気が届いたのか、あっという間に飛んで逃げ、何処かへ消えてしまった。

その後、たぶん同じ個体が何度か飛んで来るのだが、落ち着きがなく、直ぐに飛び立ってしまう。
それにしてもエラく早い時間帯での飛来だ。ミヤマの飛来は深夜0時前後からだと聞いていたから意外だった。最初に飛んで来たのは午後8時くらいとかじゃなかったかな。

やっとこさ見つけたのは、東屋の裏側だった。
けれど柱の隙間の変なとこに止まってた。急ぎ小太郎くんを呼んで採ってもらう。
しかし変なとこに止まってたから、背中の毛がズル剥けになって落ち武者みたくなってもうてた。残念である。カトカラ類は直ぐに背中の毛が剥げて、ツルピカハゲ丸になるのである。

午後9時前くらいだったろうか、小太郎くんが東屋の天井にヘバり付いてるカトカラを見て、声を上げた。

あっ❗、ミヤマ❗

(・o・)えっ❗❓、アレってそうだったの❓
そこにカトカラが止まっていたのは知ってたけど、ミヤマには見えなかったのだ。

小太郎くんがスルスルと網を伸ばし、難なくネットイン。
そして、そのまま網を持って車の方へアンモニア注射を打ちに行った。
鮮度が良さそうだったから、何だかε-(´∀`*)ホッとする。
コレで漸くお礼を果たせた気分だ。作戦完了のメデタシ、メデタシである。

と思ってたら、車の方から小太郎くんの声が飛んで来た。

五十嵐さぁ〜ん、コレ、ミヤマと違う〜❗ヨシノでしたー❗

(☉。☉)えっ❗❓、マジー❗❓

 
道理で変だとは思ったのだ。ミヤマなら去年何度も見てるし、気づいてた筈だもんね。慌てて確認しにいく。

\(°o°)/ワオッ❗、コレって30分くらい前に見たぞ❗

飛んて来て白幕に一瞬止まって、アッと思って近づこうとしたら、一瞬にして飛んで逃げたのだ。ミヤマかなと思ったが、にしては茶色くて黄色いなとは思ったのだ。まだヨシノキシタバの実物を見たことが無いから、こうゆう事になっちゃうのね。
(〒﹏〒)クチョー、ヨシノと解っていれば、対応も全然違ってたのにぃ〜。ナマリを採った翌日にヨシノが採れたら、それって2試合連続ホームランの快挙だったのにぃー…。なんだかチャンスに見逃し三振の気分だ。痛恨の失態である。少しでもオカシな奴だと思ったら迷わず採るのがセオリーなのに、サボってきたツケが重要な場面で露呈したわい。

ここでポロッと、情けない一言が口から零れ落ちた。

さっきミヤマを譲ったし、それ譲ってくれへん❓

プライドもへったくれもない。普段はそうゆう事はあまり言わないから自分でも驚く。余程欲しかったのだろう。

いいですよー。オオゴマも交換してくれたし。

小太郎くん、アンタやっぱ良い人だよー。(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ありがとねー。

オマケに、こんな事まで言ってしまった。

コレ、俺が採った事にしてくれへん❓

我ながらサイテーだ。ブログを書くのに、貰ったんじゃ採った事にはならないから、カッコつかないとでも思ったのだろう。

コチラも、一つ返事で「いいですよー。」と言ってくれた。
小太郎くん、アンタ、ホント良い人だよ。

何か複雑な気持ちだが、手のひらに乗せてもらう。

 

 
茶色くて、黄色っぽいねー。こんなカトカラって他にはいないよね。今まで見たカトカラのどれとも違う。

裏面はこんなだった。

 

 
意外な事に、裏面はキシタバ(Catocala patala)に似てる。類縁関係があるとは思えないけどもね。

にしても、まさか此処でヨシノが採れるとは思ってもみなかったよ。棚からボタ餅のような、拍子抜けしたような複雑な気分だ。
何だか告白するつもりがアッチから告ってきた感じだ。あっ、自分で採ってないから、それは違うか…。

この日は特に気象条件が良かったわけでもないのに、わんさか虫が飛んで来た。
まだ採った事のなかったヒメシロシタバも採れたし、この時期には採った事のないオオシロシタバも初めて採れた。オオシロはムラサキシタバを採りに行った時によく見るのだが、いつも時期的に遅くて、ボロしか採った事がなかったのだ。

 
【ヒメシロシタバ Catocala nagioides】

 
【オオシロシタバ Catocala lara】

 
この日やって来たカトカラは、オオシロシタバ、ミヤマキシタバ、ヨシノキシタバ、キシタバ、エゾシロシタバ、ワモンキシタバ、コガタキシタバ、ハイモンキシタバ、ノコメキシタバ、マメキシタバ、コシロシタバ、ヒメシロシタバ、ゴマシオキシタバ、オニベニシタバ、ムラサキシタバと、何と15種類。
だが、なぜか居る筈のジョナスとベニシタバ、シロシタバは飛んで来なかった。もしコレらも来てたら、軽く全カトカラの半数を越える。喜ばしい事だけど、ふと何だか今までしてきた苦労がスカみたいな気分になった。
あっ、でも最初がコレだったとしたら、カトカラに対する興味を直ぐに失くしていたかもしれない。採集はコツコツと1つずつターゲットを落としてゆく方が長く楽しめるからね。1つ1つの物語があるからこそ面白いのだ。色んなタイプのお姉ちゃんを口説き落としてゆくのと同じだ。今日みたいに15種類も採れてしまえば、物語もへったくれもない。

そして、ヤンコウスキーキリガもやって来た。

 

 
自分が見つけたけど小太郎くんが欲しがったので、お譲りもうした。それで小太郎くんがヤンコウスキーが欲しかったんだと判明したワケである。とはいえ温泉方面に行ったからって採れたかどうかはワカンナイけどね。

結局、その後ヨシノは新たに飛んで来ることは無かった。
美しいと言われる♀はお預けになったワケだが、ここは楽しみが残ったと考えよう。今度こそヒリつくような恋がしたい。ヨシノの物語は、まだまだ終わらない。

 
 
2020年 8月25日

この日は、小太郎くんと藤岡くんの3人で紀伊半島南部にやって来た。
狙いはルーミスシジミとヨシノ。昼間にルーミスを採り、夜にはヨシノを採るという2本立てだった。

 

 
しかし、まさかのルーミスを1頭も見ずで終わった。
この日、この三重県の産地には全部で6〜7人が入っていたが、結局誰も採れなかった。どころか誰も見ていない。毎年ルーミスを100頭も採ってるというミスタールーミスの森岡さんでさえも採れていないのだ。その森岡さんの師匠の方も採れてなかった。だから採れなくて当たり前だったのかもしれない。ルーミスはいる時には沢山いるけれど、どんだけ天気が良くても採れない時は全く採れない。超敏感な日もあれば、ゆるゆる飛びで楽勝な日もあるから、不思議な蝶だ。それでもルーミスとは相性が抜群に良くて、誰も採れてなくても自分だけは採れたりするから、あれれ(・o・)❓ではある。来て一つも採れなかったのは初めてなのだ。

 
【ルーミスシジミ】

(2017.8.19 和歌山県新宮市)

 
ルーミスは好きだから残念ではあるけれど、正直ダメージは全く無かった。頭の中はヨシノの♀の事で一杯に埋まっていたのである。その♀さえ採れれば、万々歳なのである。

しかし奈良県のヨシノのポイント近くまで移動してきたら、激しい雨になった。ヤッベーっ😱

けれど雨はやむと分かっていた。己のセンサーがそう告げていたからである。ワシが雨が上がると言ったら上がるのである。昔から肌で天気を読めるという特殊能力が有しておるのだ。それで何度も周りを驚かせてきた。それに、スーパーな晴れ男だから何とかなるっしょ。

予言どおり雨は止み、8時まえくらいにようやく点灯。

 

 
だが、雨のせいでグッと気温が下がった。肌寒いくらいである。不安に駆られる。温度が低いと虫たちの行動力が鈍るから、あまりヨロシクないのだ。

心配したとおり、飛んで来る虫の数はあまり多くない。
カトカラは、キシタバとゴマシオキシタバが飛んで来たくらいだ。

 
【ゴマシオキシタバ Catocala nubila】

 
関西では兵庫県北西部と紀伊半島南部の一部くらいにしかいないけど、どってことないカトカラだ。基本的にボワッとしてて魅力に乏しいのだ。但し変異の幅は広いから、時々めちゃくちゃカッコイイ前翅をした奴がいるけどもね。

 


(2020.9.5 長野県松本市)

 
10時前に、やっとヨシノが飛んで来た。

 

 
でも♂だった。自分で採ったのは初めてだし、和名の由来である吉野で採ったワケだから嬉しくないワケではないけれど、♀が欲しいんだよ、♀がぁー( ̄皿 ̄)ノ

待ってるのは辛い。
恋心が募ってゆく。

11時過ぎになって、やっと待望の♀が飛んで来た。サアーッと緊張感が走る。
でも心は不思議に落ち着いていた。何となく採れそうな気はしていたのである。そっと毒瓶を上から被せる。

 

  
(☆▽☆)ぴゃあ〜❗激美しい❗❗

(´ω`)美人だなあ。初めて♀を見たけど、カトカラ屈指の前翅の美しさと言われてるのがよく解ったよ。小太郎くんもカトカラの中では、このヨシノとナマリ、カバフの前翅がベストスリーと言ってたからね。木曽町で♂を見た時はミヤマキシタバの方がカッコイイじゃねぇかと思ったけど、♀を見たら納得だわさ。

でも、よく見ると羽が破れている。何でやねん(;O;)
完品の♀が欲しかあー(╥﹏╥)

裏面写真も撮っておこう。

 

 
腹先に縦にスリットが入ってるから間違いなく♀だね。

しかし、後が続かない。ガードレール越しに闇を凝視するが、カトカラは何も姿を現さない。刻一刻と時間は削られてゆく。反対に焦燥感は募ってゆく。
藤岡くんは、せっせせっせとアレコレ採っている。彼は基本的に蝶屋だが、蛾や甲虫など何でも採る人だ。生粋の虫好きなのだ。正直、そうゆうのって羨ましいなと思う。だって退屈しないもんね。それに、たとえターゲットが採れなくとも、別なモノが採れれば落胆が中和される。下手したら逆にテンションが上がる事だってあるだろう。ワシも何でも屋になったろうかしら❓
面倒くさがり屋だから、たぶん無理だろうけど…。

午前1時。そろそろ店じまいの時間が近づいてきた。やっても2時までだろう。
そんな時に藤岡くんが飛んでるカトカラを見つけた。裏の感じからすると、ヨシノだろう。藤岡くんは何でワカルんですか❓と訊くけど、慣れればワカルものだ。小太郎くんもワカルしね。けど、或いは何度見てもワカラン人もいるかもしれない。どこがどうのってワケではないのだが、何となく全体的な感じでワカルのだ。

だが、中々寄って来ない。
やっと来たと思ったら、ガードレールの向こう側に落ちやがった。覗くと、辛うじて崖っ縁に止まっている。近づいた途端に飛んで逃げた。そしてパタパタパタ〜。大きく旋回しながら彼方の右奥の谷へと飛んでゆき、やがて見えなくなった。それを茫然と見送る。
チラッと見た感じでは♀っぽく見えた。しかし、あの感じだと二度と戻っては来んだろう…。どんよりとジ・エンド感が広がる。

午前1時45分。風が強くなってきた。
いよいよ終戦の雰囲気が漂ってきたよ。
一応、幕が風で倒れそうになっても大丈夫なように、すぐ傍らに立つ。倒れたら、小太郎くんの激怒されるかもワカランもんね。
やがて、さらに風は強くなり、倒れそうなので手で支えなければならなくなった。こりゃ、もうダメだなと思ってたら、

\(°o°)/ワッ❗
\(☉。☉)/ワッ❗
ヽ((◎д◎))/ワッ❗

タイムリミット、ギリで幕に飛んで来て腰の辺りの高さに止まった❗

(◍•ᴗ•◍)❤ワオッ、メスだっ❗

しかし、風が強いから幕枠から手を離せない。

小太郎くーん、ヾ(・ω・*)ノ来た、来た、来たッ❗

小太郎くんが素早く寄ってきて、枠を持ってくれた。

僕が支えてますから、五十嵐さん、採って下さい❗

ガッテンだ。慌ててポケットから毒瓶を取り出し、フタを開けて近づけようとした瞬間だった。再び強い風が吹き、幕が煽られた。

驚いたお嬢はパタパタパタ〜。
飛んでった…(ㆁωㆁ)


なして、このタイミングで逆神風なのー(ToT)❓

暫く待ったが、戻って来なかった。
完全にジ・エンドだ。
まあいいや…。一応メスは採れたんだから良しとしよう。そう自分を慰めるしかなかった。美人との恋は一筋縄ではいかないものなのね。

屋台をバラし、後片付けも終わって、さあ車に乗ろうとした時だった。
車のボンネットを見て、一瞬その場で固まる。
あろう事か、ヨシノお姉さまがペタッと止まっているではないか。嘘みたいな奇跡的な展開だ。

щ(゜ロ゜щ)おったー❗❗

その声に、小太郎くんと藤岡くんも動きを止める。見て二人とも信じられないと云った顔をしてる。ワシだって信じられんわい。だいたい最後の最後に逆転で採ってしまうような人だが、ここまでギリでチャンスが巡って来た事はそうない。ワシ、どんだけ引きが強いねん。

たぶん、さっき逃げた奴と同じ個体だ。でもどんだけ引きが強かろうとも、ここで逃したら元も子もない。だいちカッコ悪過ぎる。この先二人に、何かにつけて一生言われ続けるだろう。
「あの人、メンタル弱いからなあ〜」と陰で半笑いで誰かに言われるのだけは御免だ。もしここでやらかしたら、ガードレールから崖下にダイブして死んでしまえなのだ。

心頭を滅却して、体から力を抜く。心を水面のように鎮めて毒瓶を上からスッと被せた。

  

 
(☆▽☆)ゲットー❗❗

しかも今度こそ完品だ。
九回裏ツーアウト、フルカウントでの逆転さよならホームランだ。
やっぱオラ、引きだけは強い。

あまりに嬉しくて、藤岡くんに最初に採った♀をプレゼントとしてしまった。藤岡くんから♀は採った事がないと聞いていたからだ。その個体が一番美しかったから勿体なかった気もするけど、大団円のためには致し方なかろう。

帰宅して三角紙を広げて、マジマジと見る。
直ぐに帰らないといけなかったので、じっくりと見る暇が無かったのだ。
ジワジワと喜びが全身に広がってゆく。恋の成就を穏やかな気持ちで噛みしめる。コレがあるから、虫捕りはやめられない。

 
 
2020年 9月5日

9月に入った。この日は長野県松本市まで遠征した。
目的はミヤマシジミと帝王ムラサキシタバである。

 
【ムラサキシタバ Catocala fraxini ♂】

(2019.9 長野県松本市)

 
ムラサキは大好きなカトカラなので、いっぱい飛んで来ることを祈ろう。シーズン最終戦だし、気持ち良く終われることを願おう。

日の傾きが早い。もう秋に入ろうとしているのだ。
6時半には点灯。

 

 
一応、周囲の木に糖蜜も噴きつける。
ムラサキは糖蜜トラップでも採れるからね。

8時くらいだったろうか、わりと早い時間帯に小太郎くんがヨシノを採った。気づいたら、いつの間にか幕に止まっていたそうだ。蛾って、そうゆう事よくある。忍者かよ。
それはさておき、こんなとこにも居たのね。ヨシノの存在なんて全く頭に無かったから、少し驚く。この場所でヨシノの記録は見た事が無かったから、居ないとばかり思っていたのだ。

そして、深夜に入った午後11時前。我が糖蜜トラップにもヨシノ嬢がやって来た。

 

 
何だ、糖蜜トラップにも、ちゃんと寄って来るじゃないか。
コレで東日本でも糖蜜で採集可能だという事が証明できたよ。

目的のムラサキシタバも、ちゃんと採れた。

 

 
それについては、気分が乗れば別な機会に書くかもしんない。
それなりに新たな発見はあったからね。

この日は計3頭のヨシノキシタバが飛んで来た。
1頭は羽が破れていたので、様子を見に来た小太郎くんの知り合いの若者くんが持って帰った。自分らの採ったものも、破れこそしていないが、鮮度は8月に採ったものよりも落ちる。場所的な事もあろうが、採集適期は8月半ばがベストかもしんない。

日を跨いだ深夜になっても蛾たちの宴は盛況だ。
小太郎くんが用意してくれた折りたたみ椅子に座り、それをぼんやりと眺める。
秋の風がふわりと吹いた。
そして、頬を優しく撫で、ゆっくりと通り過ぎていった。

 
                        おしまい

 
展翅画像を貼り付けておこう。

 
【ヨシノキシタバ Catocala connexa ♂】

 
【同♀】

 
 
追伸
タイトルの『吉野物語』は、「伊勢物語」や「雨月物語」とか古典文学っぽい感じがするから付けてみた。
ベタなタイトルと言われてしまえば、それまでだが、吉野太夫(よしのたゆう)という絶世の美女と謳われた花魁もいるから、それになぞらえたところもある。ヨシノキシタバの♀は美しいからね。

余談だが、よみうりテレビが1988年に制作した同名の朝の連続ドラマがある。奈良県吉野で和紙作りに賭けた女の一代記だというが、見た記憶は全然ない。
他には、吉野にある酒造会社北岡本店が、吉野物語シリーズと銘打って様々な商品を販売されております。

尚、採集記は元々一話完結のつもりで書いていた。しかし、後半部分の2020年を書き終えて2019年の事を書き始めたら、思いの外に筆が進んで長くなってしまった。で、前・後編の2つに分ける事にしたという経緯がある。だから、こうして記事を連日でアップできたってワケ。まあ読んでる人には、どうでもいいような事だとは思うけど。

次回、第三章は種の解説編です。

 
(註1)レンブラント光線

薄明光線(はくめいこうせん)の事。太陽が雲に隠れている時に雲の切れ間、あるいは端から光が漏れ、光線が柱のように放射状に地上へ降り注いで見える現象の俗称。通常とは逆に、雲の切れ間から上空に向かって光が出ることもある。主に地上から見た太陽の角度が低くなる早朝や夕方に見られる現象。
英語では「crepuscular rays」と言い、世界中の人々の間で美しい自然現象として認識されており、狙って写真撮影をする人も多い。
「薄明光線」の他に別名が多数ある。気象現象としては「薄明光線」だが、宗教や芸術などの各分野や地域によって様々な呼び名がある。

・光芒
・天使の梯子(てんしのはしご、angel’s ladder)
・天使の階段(angel’s stairs, angel’s stairway)
・ゴッドレイ(God Ray)
・ヤコブの梯子(Jacob’s ladder)
・レンブラント光線

ヤコブの梯子、天使の梯子という名称は、旧約聖書創世記28章12節に由来する。この記述では、ヤコブが夢の中で雲の切れ間から射す光のような梯子が天から地上に伸び、そこを天使が昇り下りしている光景を見たとされる。この事から、やがて自然現象もそのように呼ばれるようになった。
レンブラント光線という名称は、画家のレンブラントがこれを好んで描いたことに由来する。光の当たる部分と闇の部分との対比が強調され、非日常的な雰囲気や宗教的な神々しさが表現されている。
作家の開高健は、晩年しばしばテレビなどで好んで「レンブラント光線」という言葉を口にした。
宮沢賢治はこの現象を荘厳な「光のパイプオルガン」と称している。

 

2020’カトカラ三年生 其の四 第一章

 
   vol.27 ヨシノキシタバ

    『吉野物語』前編

 
2019年 8月3日

青春18切符の旅の3日目である。
1日目は湖の畔でミヤマキシタバを狙うも惨敗。昨日は白馬村のキャンプ場に移動してアズミキシタバを狙うが、これまた惨敗。そして今日はヨシノキシタバ狙いで山の上に行く予定だ。

ヨシノには密かに憧れている。愛好家の間でも人気が高く、最も美しい前翅を持つカトカラだと評する人もいるくらいだ。また分布は局所的で個体数も少なく、稀種ともされている。石塚さんの『世界のカトカラ』でも★星4つと高評価だ。この★が4つ以上のカトカラは他に6種だけで、カバフキシタバ、ナマリキシタバ、アズミキシタバ、ヤクシマヒメキシタバ、ミヤマキシタバ、ムラサキシタバという綺羅星の如き面々が並んでいる。

ヨシノという名前もいい。ヨシノといえば古来から桜の名所として知られ、また歴史ある土地としても有名な「吉野」が思い起こされるし、麗しき女性の名前も想起される。「佳乃」「吉乃」「愛乃」「美野」「与志乃」など何れも古風で雅びな風情があり、また響きもいい。「よしの」という名前の女性は、だいたい美人と決まっておるのだ。
今宵は、お嬢にめぐり逢えることを心から祈ろう。そして恋に落ちよう。

昼過ぎ、バスターミナルまで行く。
着いたらバスが出たあとで、次の便まで1時間以上もあった。タイミング、最悪だ。
なのでヒマを持て余して、夕飯にする予定だったローソンで買った麻婆豆腐を食ってしまったなりよ。

 

 
この麻婆豆腐、結構旨かった。
最近のコンビニはレベル上がってると聞いていたけど、ホントなのね。普段あまりコンビニで食いもんは買わないし、買っても🍙おにぎりとかサンドイッチくらいだから全然気づかなかったよ。

で、食い終わって突っ伏したんだよね。無駄に待ってる事もそうだけど、惨めな連敗続きとテント生活で身も心も疲弊していたのだ。にも拘らず、今から無謀な計画を敢行しようとしている自分に、何やってんだ俺❓と思って突っ伏したのだった。いい予感が何処にもない。

車窓を流れる風景をぼんやりと眺めていると、心底バカバカしくなってきた。たかだか蛾を採りたいばかりに今から山中の暗闇を一人ウロつくのだ。一般ピーポーからすれば、どう考えても狂気の沙汰だ。しかも当然の事ながら夜のバス便なんてないから、帰りのバスは無いときてる。つまり、行きっぱなしの片道切符なのだ。
戻るには、朝まで過ごして始発のバスに乗るか、歩いてキャンプ場まで帰るかしかない。歩くのなら、下りとはいえ多分1時間半、いや2時間、下手したら3時間くらいかかるかもしれない。車窓から見た限りでは麓まで街灯は皆無だ。夜は真っ暗闇になる事は必定だろう。熊が出たら一巻の終わりである。誰も助けてくれん。(ノД`)シクシク。

猿倉荘に着いたのは午後3時半くらいだったように思う。

 

 
確かに周辺はブナだらけだった。
ブナの森は美しい。何だか人の心をホッとさせるものがある。巨樹も多いし、精霊が宿っているような気がするのである。たぶんヨシノキシタバも精霊に違いない。

 

(画像は別の場所です。)

 
ヨシノキシタバ(Catocala connexa)の食樹はブナだから此処に居ることは確実だろう。
問題は、ヨシノが果たして糖蜜トラップに寄って来るかどうかだ。いくら沢山いようとも糖蜜に寄ってこなくては徒手空拳である。ライトトラップは持ってないのだ。
文献を見ると、東日本では樹液に殆んど寄って来ないらしい。糖蜜トラップでの採集例も知る限りでは無い。よくそれで来たなと自分でも思う。
けど、蛾の生態情報は眉唾で見てる。どこか信頼できないところがあるのだ。だから糖蜜には来ないと言われてても鵜呑みにはしないようにしてる。実際、今まで図鑑とは違う生態を幾つも確認しているしね。従来オオシロシタバは花蜜を好み、樹液にはあまり来ないとされてきたが、糖蜜にはよく集まる。稀種とされ、灯火採集が当たり前のカバフキシタバだって糖蜜でタコ採りしてやったもんね。カバフは樹液よりも糖蜜の方が採れるのだ。ならば、樹液にあまり来ないと言われてるヨシノだって糖蜜なら楽勝かもしれない。ゆえに何とでもなると思ったのさ。とゆうワケで、我がスペシャルレシピの糖蜜だったら、んなもん粉砕じゃい(ノ ̄皿 ̄)ノ❗と意気揚々と信州まで乗り込んで来たのである。

 
【オオシロシタバ Catocala lara】

(2020.8月 長野県木曽町)

 
【カバフキシタバ Catocala mirifica】

(2020.7月 兵庫県宝塚市)

 
蛾の情報を鵜呑みしないのは、情報量が少なすぎるからだ。少ないゆえ、それが本当に事実なのか、それとも間違った情報なのかを見極めることは難しい。
これは蛾の愛好家が少ないからだろうが、それだけではないような気もする。その情報が本当に正しいのかどうか疑問を持って調べるような気概のある輩が少ないような気がするのだ。情報を鵜呑みにして、そこに疑問を持たない蛾屋さんが多い気がしてならない。ネットを見てても、新たな知見を書いている人は少ないように思う。
勿論、そうじゃない人もいるのは知ってはいる。別にディスりたくてディスっているのではない。元々蝶屋のオラが言うと怒りを買うのは解っているが、是非とも奮起して戴きたいのだ。蛾は蝶と比べて判明していない事が多い。自らで新たな発見をし、世に知らしめるチャンスがまだまだある世界だ。つまり、蝶と比べて浪漫がある世界なのだ。情報を鵜呑みにするなんて勿体ないではないか。
蛾屋諸君よ、勃ちなはれ❗エレクトしなければ、虫採りは面白くない❗❗
とはいえ、最近の若手蛾屋の活躍は目を見張るものがある。こんなこと言う必要性は無いかもね。

偉そうなことを宣(のたま)ったが、その新たな地平を切り裂いてやれと云う気持ちも、正直なところ昨日、一昨日の2連敗で足元から揺らぎ始めている。糖蜜に寄って来ないワケではないのだが、関西にいる時みたいに今一つ爆発力がない。東日本では糖蜜があんまし効かんのかもと思い始めていたのである(註1)。
それだけじゃない。ここは標高が1230m以上もある。ヨシノが発生しているかどうかは微妙だ。未発生の可能性も充分に考えられるのだ。バクチ度はかなり高いよなあ…。けんどバクチを打たなきゃ、欲しいものは手に入らない。

 
夜が来るまで、凄く長かった。

 

 
ブナの他にミズナラとかも結構あるし、ゼフィルス(ミドリシジミの仲間)でも採ってヒマを潰そうと思ったが、1匹もおらんのだ。どころか蝶が全くと言っていいほど何もおらん。長野に来てから何やってもダメだ。

 

 
半分ふて腐れて砂利道に仰向けになる。
空が青いなあ…。何だか採れる気が全然しないや。
なのにナゼここにいるのだ❓いる意味あるのか❓益々、自分で自分が何やってんのかワカランくなる。

 
午後7時半。ようやく闇が訪れる。長かった…。

 

 
糖蜜の用意をしていたら、変な蛾がシツコク体に纏わりついて邪魔してきた。何ゆえワシの足に止まるのだ❓
見たこと無い奴のような気がするが、どうせクソ蛾だろう。小馬鹿にしやがって(-_-メ)
何だかなあ…。昔から好きじゃない女に追いかけ回されてる時は調子が悪いのだ。たぶん生体エネルギーが落ちているんだろう。えてして、そうゆう時はオーラが弱まっているから悪い気が入り込みやすい。だからロクでもないものが寄って来るんである。詐欺師など悪い人は弱ってる奴を狙うって言うからね。嫌な予感が過(よ)ぎったよ。

その予感は見事に的中した。
ブナ林では普通種のゴマシオキシタバくらいは、いくら何でも寄って来るだろうと思ってたが、殆ど何も飛んで来んかった。
飛んで来たカトカラは、8時10分に来たコレだけ。

 

 
ゴマシオだと思いつつもヨシノだったらいいなと思って採ったカトカラは、まさかの何とズタボロのキシタバ(C.patala)だった。ボロ過ぎて何者なのかワカランかったのだ。
何で低山地にいるド普通種のキシタバ(註2)が、よりによってこんな所におるのだ❓しかもスーパーにボロ。こんな高い標高で屑キシタバを、それも糞ボロを採るだなんて可能性は確率的にモノ凄く低いものと思われる。ある意味、スゴい引きである。逆説的奇跡だ。
何やってんだ俺(´-﹏-`;)❓やるせない気分を闇に投げつける。

 

 
ヤケクソで、見たことのない蛾を1つだけ採って(註3)、9時半には下山を開始した。

暗い。

 
  

 
とにかく暗い。笑けるほど真っ黒だ。試しに懐中電灯を消したら何も見えなくなった。四方八方がウルトラブラックの世界の中で、遠近感ゼロになる。対象物が何も見えなければ、人間の目は何処にも焦点が合わないのだ。
発狂しそうになったので慌てて灯りを点ける。光の束が何とか闇を押し退ける。コレって、もし何かの突発的トラブルで懐中電灯が壊れたら…。(ㆁωㆁ)死ぬな。持ってる懐中電灯は百均で買ったもので極めて劣悪なる製品なのじゃ。恐ろしいことにしばしばサドンデスしよる。ブラッキャウト(BLACK OUT)❗熊の餌食になる前に発狂死かもな…。

五感を研ぎ澄まして尚も坂を下る。風は死んでいる。自分の歩く音だけが闇に変な感じに強調されて谺する。
一刻も早くこの地獄から脱出したい。そう思うから急ぎたいのたが、さっきから足の指と踵が痛みだしている。新しい登山靴のせいで昨日から靴ズレになっているのだが、それがドンドン酷い状態になっていってるのが自分でもよくわかる。
痛みは更に増してゆき、やがて足を引きずるような歩き方になった。もし今ここで熊に襲われたら走れないなと思う。恐怖に駆られて、慌ててザックから網を出して組み立てる。これを上に掲げておれば、熊だって何者かと恐れをなして近寄って来ないかもしれないと考えたのだ。網の円が顔に見えたら相当デカい生物に見える筈だ。それにもし襲って来たとしても、柄でメッタ打ちのタコ殴りくらいはできる。何なら柄の底で目を突いて潰してやるぜ。どうせ死ぬのなら、相手に襲ったことを後悔させるくらいのダメージを与えてやる。

熊の気配を敏感に嗅ぎとろうと五感をマックスに研ぎ澄ましつつも、同時に目は飛翔物を探している。あわよくばヨシノが飛んでないかと期待もしていたのだ。地獄の沙汰も蛾次第なのである。因果な趣味だよ。

それにしても遠い。歩いても歩いても坂道は延々と続き、漆黒の闇は終わらない。もしや異次元ワールドにでも迷い込んだのでは❓と段々不安になってくる。ここで👽異星人が出現でもしたら、熊よかシャレにならん。発狂寸前男は、ラバウル小唄を口ずさむ。

漸く「おひなたの湯」の灯りが見えてきた。
温泉に入れてもらえんやろけ❓ とっても足が痛いんじゃー。湯治させてくれんかのー(´ε` )
一縷の望みにかけるが、着いたら閉まっていた。宿じゃないんだから、こんな時間にやってるワケがないよね。期待したアタイが馬鹿だったよ。

でもここまで来たら、行きのバスの記憶ではキャンプ場まではそう遠くない筈だ。車での所要時間を徒歩に換算すると、実際はとんでもなく遠かったりするんだけどもね。
それでも此処まで来たら、熊の恐怖もだいぶ薄まった事だし、気持ちはだいぶと楽だ。まだ油断はできないけど…。

取り敢えず、一旦休憩しよう。この場所なら外灯があるから、まさか熊も襲って来んじゃろうて。

靴下を脱ぐと、両足とも血だらけになっていた。
もう身も心も満身創痍である。そして、地獄の3連敗がほぼ確定だ。標高的に採れる確率は絶望的に低い。
ペシャンコになったオニギリを食いながら、深い溜息をつく。心は熊の恐怖から開放された安堵感と惨めな敗北感とがない混ぜになった奇妙な気分だった。
見上げると、星が死ぬほど綺麗だった。涙が出そうになった。

案じたとおり、世の中そんなに甘くなかった。その後もかなり歩いた。やはり車って速いわ。レンタカーを借りるという考えは全然浮かばなかったんだから仕方ないよね。

ボロボロになってキャンプ場に着いたのは、午前0時過ぎだった。ここまで2時間半以上も掛かったワケだ。
後で調べたら、猿倉荘からキャンプ場までは約9Kmだった。普段の自分なら普通に歩いても1時間半もあれば着く距離だ。「飛天狗」とも呼ばれた韋駄天のワタクシだ。本気の高速歩きなら1時間以内で歩けただろう。

酒でも飲みたい気分だが手に入るワケもなく、絶望を抱いて寝袋に潜り込む。やがて、泥のような眠りが訪れた。

翌朝、テントを見たらセミの抜け殻が付いていた。
昨夜は全然気づかなかったが、地面を這って此処まで登ってきて羽化したのだろう。

 

 
何もこんなところで羽化することないじゃないか。周りに他に登れそうな木はいっぱいあるのに何で❓ 何だかセミにまでもバカにされたような気分だった。
コヤツを見て、村を出ようと決心した。これ以上ここに居てもマイナスのスパイラルから脱け出せないだろう。セミにバカにされるような男には、エンドレスにヨシノなんて採れるワケがない。今年はもうヨシノ嬢のことは諦めよう。
珍しく弱気なのは、ヒドいフラれ方で完全に心が折られていたからだ。昔から惚れた女に何度も告るほどの強靭なメンタリティーは持ち合わせていない。

 
                       つづく

 
追伸
この旅での惨敗で、東日本での糖蜜採集の限界を痛いほど知らしめられた。それで2020年は灯火採集へと半分シフトした。結果、蛾屋の皆さんたちが主に灯火採集をする理由も理解したよ。
しかし、今後とも糖蜜採集があまり効果がないとされているカトカラに対してもチャレンジすることはやめないだろう。得られる生態面の情報は灯火採集よりも多いからね。新たな発見があるからこそ面白いのだ。灯火トラップは採集効率はいいかもしれないが、生態面に関しては大した知見は得られない。
とは言いつつ、それでも生態を紐解く鍵は僅かながらも有るとは思う。けれどもネットなんかはユルい孫引きばかりだ。ライトしましたー。何々が飛んで来ましたー。ハイ、おしまい。それじゃ観察眼が無さ過ぎる。何の参考にもならんのだ。詳しい場所を書けとまでは言わないが、せめて日付や飛来時刻、その日の天候や気温、標高くらいは書いておいてくれと思う。もしかして、教えてたまるかの😜アッカンべー精神❓ だったとしたらセコ過ぎる。
まあ、時代だろね。こっちだってホントなら採集地もキッチリ書きたいところだが、周りに止められてるから最近は詳しく書けてないしね。情報が下手に回れば、ルール無視の人間が場を荒らすから明かさないというのは理解できる。でも地名は、よっぽど細かく書かなければ問題ないと思うんだけどなあ…。例えば松本市だけじゃ探しようがないくらい広いけど、その下の郡とか町レベルまではいいんじゃないかと思う。トレジャーハンティングじゃないけど、あまりにヒントが無いと面白くないよね。やる気が起こらないのだ。それじゃ人も育ちまへんで。

ちなみに、この時の青春18切符の旅は連作となっている。
前日譚はアズミキシタバの回に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』と題して書いた。前々日譚はベニシタバの回『薄紅色の天女』の後半部分と繋がってる。後日談は翌日のミヤマキシタバの『突っ伏しDiary』に始まり、以下ナマリキシタバの『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』、ワモンキシタバの『アリストテレスの誤謬』、ハイモンキシタバの『銀灰の蹉跌』、ノコメキシタバの『ギザギザハートの子守唄』、ヒメシロシタバの『天国から降ってきた小さな幸せ』へと順に連なってゆく。それで、この時の旅の全貌が分かる仕掛けになっている。暇な人は読んでみて下され。
次回は後編の2020年の採集記です。

 
(註1)東日本では、あまり糖蜜が効かんのかも…

そんな事はないのだが、そんな傾向も無きにしもあらずというのが現在においての見解である。
この翌日にはミヤマキシタバとベニシタバが糖蜜でけっこう採れた。その翌々日は、多くはないが上田市でワモンキシタバ、ノコメキシタバ、ハイモンキシタバも採れた。その後も長野県や岐阜県ではそれなりの成果を上げてはきた。しかし関西ほどに爆発的成果は上げていない。寄って来るには来るのだが、全体的に数が少ないのだ。
思うに、どうもこれは標高と関係しているのではなかろうか。比較的飛来数の多かったミヤマ、ベニのポイントは標高800mくらいだったが、上田市は1300mだった。他に試した場所の標高は1200〜1700mで、何れも全般的にカトカラの飛来数は多くはなかった。もしかしたら標高1000m、特に1300mをこえると活発に食物摂取をしないのかもしれない。そもそも標高が高ければ高いほど樹液が出ているような木は少なくなる筈だから、或いは花蜜など別なものを主体に摂取しているのかもしれん。まさかの水飲んで生きてたりしてね。

因みに1700mでも結構来たのはオオシロシタバである。花蜜を好むとされてたから、これは意外だった。ムラサキシタバやベニシタバも高い標高でも割りと来る。

 
(註2)ド普通種のキシタバ

あの画像では、どんなカトカラなのかワカランし、どんだけボロかもワカランので、まともな画像も貼っつけておきます。

 
【キシタバ Catocala patala】

 
関西なら何処にでもいるド普通種。それゆえ「ただキシタバ」と呼ばれる事が多い。ただのキシタバだからだ。他に「テブキシタバ」「ブタキシタバ」「クソキシタバ」「クズキシタバ」など更に酷い呼ばれ方もされている。
もし普通種でなければ、そこそこ高い評価をされて然るべきカトカラなのにね。何てったって日本最大のキシタバであり、ユーラシア大陸を含めてもコレに匹敵するキシタバ類は他にタイワンキシタバ(C.formosana)くらいしかいないんである。実際にヨーロッパ辺りでは、かなり評価が高いらしいしね。
そもそも和名も悪い。ただの「キシタバ」だから、それがキシタバ類全般を指しているのか、それとも種そのものを指している言葉なのかが分かりにくいので、こうゆう「タダ」だの「デフ」「クソ」だのをアタマに付されるのである。もしも学名そのままの「パタラキシタバ」や、デカイので「オニキシタバ」とでも名付けられていたならば、ここまでボロカスに言われることはなかったろうに。
今まで折りに触れ言ってるけど、早急に改名して欲しいよ。

おっと言い忘れた。この時はまだカトカラ2年生なので知らなかったが、標高1200mでもキシタバは採れる。但し、数は低地ほどには多くはない。けどライトトラップでの話だから、もしかしたら麓から飛んで来た可能性もある。キシタバは飛翔力あるからネ。でも猿倉のこの個体は麓から飛んで来た可能性は極めて低い。いくらワシのスペシャルな糖蜜の匂いがスゴかろうとも(笑)、麓までは匂いは届かんだろう。ゆえに元々周辺に居たことになる。💢何処にでもいやがって(-_-;)

 
(註3)ヤケクソで見たことのない蛾を一つだけ採って

名前は、ハガタキリバ(Scoliopteryx libatrix)というらしい。
調べた時は最初、芳賀田切羽かと思った。だが芳賀田さんが発見したからではない。正しいのは歯形切羽で、前翅の形からの命名だろう。
開張は約46mm。
分布は北海道、本州、四国、九州と広くて、生息地も丘陵地から比較的高い山地と広い。しかし個体数は何処でも少ないようだ。そこそこ珍しいから初めての出会いだったんだろね。
出現期は5~9月で、春と夏の年2化だそうだ。でもって成虫越冬らしい。そんなに長生きだとは、ちょっと意外だった。
成虫はクヌギやコナラの樹液に集まるみたい。だから糖蜜トラップにも来たんだね(飛来時刻は午後8時)。
幼虫はヤナギ科のバッコヤナギ、カワヤナギ、ポプラの葉を食べるそうだ。という事はベニシタバの生息地にはいる可能性が高そうだ。

雌雄の違いは触角で簡単に見極められるようで、♂だけ触角が鋸歯状になるという。画像に写ってる個体は鋸歯状・櫛状になってないから♀だね。

展翅画像はない。おそらく心が折れてて、展翅する気すら起きなかったのだろう。でも下翅がどんなのか気になる。ネットで展翅画像を探そう。

 

(出典『www.jpmoth.org』)

 
コレが♂のようだね。上翅が美しい。
でも後翅は多くの蛾と同じく地味。もし下翅も美しかったら相当に魅力的だから、蛾の素人のワシでさえも存在くらいは知っていただろう。
まあ下翅の地味さを差し引いても思ってた以上にフォルムはカッコイイ。展翅してやってもいいかもしんない。でも去年のものだし、探すのは大変そうだ。

 
ー参考文献ー

◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆『むしなび』
◆『www.jpmoth.org』

 

そうだ、ソウダガツオを食おう

 
長崎産のソウダガツオが激安で売っていた。

 

 
何と、たったの298円である。しかもピッカピカの鮮度で、半身でこの値段である。
当然、買いであると言いたいところだが、手が止まる。ソウダガツオという名前はあくまでも総称で、分類学的にはヒラソウダガツオとマルソウダガツオという2種類がいて、両者の味には格段の差がある事を思い出したのだ。
確かヒラソウダの方が旨かった筈だ。見分ける方法は上側の模様とかだったよな…。でも、この状態じゃワカラン。上身がひっくり返されてパッキングされておるのだ。

ニッキュッパッだし、まっいっか。もしマルソウダなら、生利節にでもすりゃあいいや。買お〜っと。

帰ってきて、ソッコーで上身をひっくり返して確認する。

 

 
コレって、どっちだっけ(・o・)❓
模様を見ても、ヒラソウダなのかマルソウダなのかワカラン。久し振りの御対面なので、見分け方を忘れてるわ。所詮は3歩あるけば忘れてしまうニワトリ脳ゆえ、んなモン憶えているワケないんである。

調べようかと思ったが、断面、特に皮の下に脂があるのを見て、たぶんヒラソウダだと思った。写真は撮ったんだから、必要とあらば後で調べりゃいいだろう。

取り敢えず金串を刺し、表面をガスの直火で焼く。
皮目を焼いたら、スゲー脂が出た。美味そうだ。もはやヒラでもマルでもどっちだっていいや。旨けりゃ文句はない。
セオリーならば、ここで氷水につけて素早く冷やすのだが、脂が水で洗い流れそうな気がして、そのまま冷凍庫にブチ込む。
粗熱が取れたら、出しゃあいいんである。真似する人は、くれぐれも出すのを忘れないでね。凍らせてしまうと、味が台無しになるよん。

冷蔵庫で冷やしている間にググッてヒラソウダかマルソウダかを確認しとくか。

漢字で書くと宗田鰹、もしくは騒多鰹となる。
「広辞林」によれば、ソウダガツオの名前の由来は「鰹に似たれば(鰹だそうだ)と言いしを、倒置したる魚名(=カツオに似た魚)」とある。
また、群集して水面にしぶきを立てながら小魚を捕食し、集まって騒ぐ=騒々しいということで、騒々しく騒ぐ鰹としてソウダガツオと呼ばれるようになったという説もある。

画像をネットからお借りしよう。

 
【マルソウダガツオ】

(出典『つりまる』)

 
【ヒラソウダガツオ】 

(出典『ぼうずコンニャクの市場魚貝図鑑』)

 
こりゃ、模様からヒラソウダだな。ヒラソウダの方が旨いし、漁獲高が少なくて珍しいそうだから当りだ。
ヒラソウダはマルソウダに比べて血合いが少なくて脂肪分が多い魚で、関東地方の卸売市場には秋〜初冬に流通するそうだ。だが混獲されるカツオよりも鮮度が落ちやすい(マルソウダも同じ)のが難点みたい。
ただ鮮度保持にさえ注意すれば、とても美味な魚で、産地では刺身用として人気の魚である。新鮮なものは刺身・タタキ(土佐造り)・なめろう・ヅケなど生食で賞味でき、煮付け・竜田揚げ・塩焼き・みりん干し・生利節など加熱調理でも美味である。
本種は晩秋から冬が旬であるが、中でも皮の下に白い脂肪の層があるものは脂が乗って非常に美味で、旬の時期には水温低下に伴い皮下脂肪を増やす。
脂肪云々とあるし、やはりヒラソウダに間違いなかろう。

『隔週刊つり情報』の石川皓章氏は、著書『海の魚大図鑑』(日東書院本社)にて本種を「肉質はマルソウダよりはるかに上等で1kg前後まで育つとかなり美味。特に1.5kg前後まで大型化した個体は同サイズのカツオより美味い」と高く評価している。
ぼうずコンニャク株式会社代表取締役・藤原昌高氏は、本種の食味を以下のように非常に高く評価している。
「寒い時期の刺身は絶品」「刺身は『赤身魚の最高峰』『本マグロを超える』とも評価される」。
そして、味を満点の★星5つの最高評価『究極の美味』としている。そして、サバ・カツオ類ではもっとも旨いと評する声もあるとも書いている。

生での食味も書いてあった。

本種を握り寿司にした場合の味
「カツオより酸味が少なく、皮下の層になった脂の甘み・その下の赤身のうまみは寿司飯と相性抜群。濃厚なのに後味も良く、秋の大型個体は間違いなくマグロ以上にうまい」。
脂が乗っていない時期でもタタキ、カルパッチョにして食べると美味であるほか、タマネギ・春菊と共に切り身を煮込んで食べる炒り焼(魚すき)にも向く。

むちゃくちゃ褒めとるがな。心が逸るよ。
よっしゃ、調理開始だ。
先ずは薬味から切ってゆく。取り敢えず細ねぎを切る。茗荷は今回は無し。買い忘れたのだ。次にニンニクを薄切りにする。
生姜も考えたが、カツオの時もパスなので除外。生姜が合わないと言ってるワケではない。カツオに生姜という定番の図式は鮮度が落ちたカツオの味を誤魔化すためから始まったものと推察する。鮮度が良いものには、生姜は要らんのだ。

そして、いよいよのヒラソウダの切りつけ。
量が多いので、上身と下身、それぞれの半分を使う事にした。
カツオと同じく刺身庖丁で厚めに切り分ける。この厚めに切るというのが重要だ。カツオは厚めの刺身の方が美味いのだ。
でもって、古伊万里に盛り付け、薬味と冷蔵庫で眠っていた黄熟したカボスを添えた。

 

 
当然の如く、先ずは塩のみで食う。

(≧▽≦)美味いねぇー。
もっちりしてて、舌にまとわりつくような感じで旨味が強い。ただ、思っていたほどには脂が乗ってない。程好いといえば程好いし、少し物足りないといえば物足りないような気もする。このへんは好みの分かれるところだろう。
正直な感想を言えば、ブログにも書いたキツネガツオの方が旨かった。また、鮮度の良いカツオには叶わないとも思った。鮮度の落ちるモノや冷凍モノならヒラソウダの方に軍配が上がるけどね。
いや、断定するには早いかもしれない。まだ旬の走りで、この先もっと脂が乗って旨くなってゆくかもしれない。今年は暖かいからね。季節の推移が遅れてる可能性は大だ。

塩のみの次は、塩+薬味。続いて醤油のみ、醤油+薬味の順にローテーションで食っていく。醤油も甲乙つけがたいくらいに旨い。勿論、柑橘系も合う。

この一皿でお腹いっぱい。これ以上は量が多くて食べきれそうにない。残しておいた半分はヅケにしようと思った。
ヒラソウダを調べる過程で、こんな事実も知ったからだ。
「カツオの漁場である三重県伊勢志摩地方では、漁師がカツオ漁の折に獲れたヒラソウダ(カツオより安い)を船上でブツ切りにして醤油に漬け、あらかじめ用意した酢飯と混ぜて即席のまかない料理として食べたが、同地方の郷土料理であるちらし寿司の一種「手こね寿司」はこの漁師料理が起源とされる。」

おいちゃん、この手こね寿司が大好物なのである。それにしても、その手こね寿司の起源がヒラソウダとはねぇ。初めて聞いたよ。最近は手こね寿司もカツオじゃなくて、マグロを使うようになってきて、邪道じゃと立腹していたが、カツオも邪道だったのね。

しかし、自家製の茗荷の甘酢漬けがあった事をすんでのところで思い出した。酢締めにするのも悪くないかも…。ヅケだと、おおよその味が想像つくもんなあ。よし、方針転換だ。
甘酢茗荷を刻み、ラップの上に乗せる。その上にヒラソウダを乗せ、更に上から茗荷を乗っけ、甘酢漬けの汁をチビッとかけてラップして冷蔵庫で一晩寝かせた。

翌日、米を炊いて酢飯を作る。
人肌に冷めたところにヒラソウダと茗荷を盛り付け、三つ葉を飾って完成。

 

 
コレに醤油かけて食った。

酢で〆た分、さっぱりとした味になった。驚くような旨さではないが、充分に旨い。途中で辛子を付けて食ったら、なお旨しだった。

今からが旬だから、見つけたら買いですぞ。

                       おしまい

 
追伸
それにしても酷いセンスの駄洒落タイトルである(笑)
まあいい。センスがないんだから仕方がないのだ。

都会の市場で見掛けることは、まずないので、どうしても食べたい人はネットで探すと見つかると思うよ。
ちなみに売っていたのは「スーパー玉出」だ。このスーパーは珍しい魚が激安で並ぶので、一応スーパー回りのローテーションに入っている。但し、一匹買いや今回のように柵になったものを買われることをオススメする。なぜなら一番鮮度が良くて安いからだ。見てると、鮮度が落ちてきたものから切身にされてゆく傾向があるからだ。

参考までにマルソウダガツオについても書いておく。
『ぼうずコンニャクの市場魚貝図鑑』では、★4つになっていた。かなり評価が高い。但し、脂が少なくて血合いが多いらしい。
そうゆうワケで、マルソウダは主に宗田節の材料にされるようだ。逆にヒラソウダは脂が多くて宗田節の原料には向かないみたい。

ついでだから宗田節についても解説しておこう。
マルソウダはイノシン酸などの旨味成分が多く、濃厚な出汁が取れるため、鰹節と同様の方法で宗田節に加工される。関東風のそばつゆなど濃いめの日本料理に利用されることが多いそうだ。鰹節より濃厚でコクのある風味が特徴で、やや厚めに削った削り節はめんつゆ・タレなどを作るのに用いられる。特に愛知県名古屋以西で好んで利用され、愛知県では同県名物のきしめんに利用されるほか、名産の八丁味噌に合うことからも好まれている。
ソウダガツオの一大産地であり、「市の魚」にも指定されている高知県土佐清水市では、沖合がソウダガツオの産卵場になっており、宗田節の7割以上が生産されている。同市では宗田節は「メジカ節」とも呼ばれ、マルソウダの生利節を燻製にしたものが「姫がつお」として売り出されている。

 
ー参考資料ー

◆ウィキペディア

◆『ぼうずコンニャクの市場魚貝図鑑』

 

2020’カトカラ3年生 其の参(2)

 
  vol.26 ヒメシロシタバ 後編

    『の・ようなもの』

 
後編は解説編である。
今回も外国産のカトカラは石塚さんの『世界のカトカラ』、生態面は西尾規孝氏の『日本のCatocala)』のお力をお借りして書きます(註1)。

 
【ヒメシロシタバ Catocala nagioides ♂】


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
アホみたいにズラリと同じ個体を並べたのは、新しいスマホがちょっとした光の加減で違う色に写るからである。前のスマホまで導入して撮ったが、どうにも上手く撮れないのだ。
そうゆうワケで『世界のカトカラ』の図版画像も載せておく。

 


(出典『世界のカトカラ』)

 
【同♀】


(2020.8.9 長野県木曽町)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
コシロシタバ(Catocala actaea)に似るが、より小さい。
前翅はコシロシタバと比べて少し幅が狭く、一様に暗褐色のものが多くて斑紋は明瞭でない。しかしコシロシタバと比して中剣紋は明瞭である。腎状紋内側から亜状紋にかけて著しく白化するものがある。
後翅は黒の地色に白い紋が入るが、コシロシタバの白紋よりも短くて第3脈で終わり、白斑と白点との間の黒色が広いことで区別できる。また、後翅の翅頂にはコシロシタバより明瞭な小さな白紋がある。胸背部は前翅と同じ色調、腹部は暗灰褐色である。
各種図鑑を参考に、だいぶ解りやすくまとめたつもりだが、一般の人からすればチンプンカンプンで難解な文章だろう。専門用語か入るのは仕方がないとは思いつつ、昔からどこかでそれに疑問を感じてた。もうちょっと何とか解りやすくならんものかねと思っていたのである。
なので、自分フィーリングで書いてみる。

ヒメシロとコシロを野外でパッと見で区別する方法は、上翅の質感と色である。コシロは上翅がベタな濃紺で、地色が濃い。一方、ヒメシロの上翅はやや淡い茶褐色で、太くて濃い横線が入り、ベタではなく模様に少しコントラストがある。但し、色はくすんでいる。また大きさは、コシロシタバと比べてヒメシロの方が相対的に小さいものが多い。
標本の場合は下翅の白い紋が決め手。その白い紋がヒメシロはコシロと比して短い。また、その下の白点との間隔がコシロよりも離れており、且つ小さくて不鮮明。もしくは今回採れた個体のように消失する。
加えて下翅の肩の部分(横上)に白い紋が目立つ。この白い部分が、コシロは細くて狭い。

何のこっちゃない。自身、感覚的でしか捉えていないから、こうゆうファジーな感じの記述になる。特に前半の上翅の解説なんかは、その傾向がある。
ファジーだと人によりイメージに差異が生じる可能性がある。難解ではあっても、図鑑の記述にはそれなりの意味があるのだね。にしても、何とかならんかね❓(笑)

そのファジーな言葉を画像化しよう。

 
(ヒメシロシタバ)


(2020.8.9 長野県木曽町)

 
上のような前翅のものが多いが、白斑がやや発達した下のような個体もいる。

 

 
それにヒメシロは翅を閉じた状態だと、上図のように会合部の真ん中やや下に、太い「М」のようなマークが浮かび上がる。
わかりにくいと思われるので、画像を明るくしてみよう。

 

 
コレで、さっきよかMの文字が解りやすいだろう。

まだ採ったことがない頃は、図鑑で両種を見て正直こんなのフィールドで直ぐに区別できんのかね❓と感じてた。どうせ下翅は隠れているから一々上翅を上げて下翅の白紋を確認するのは億劫だなと思ってたのだ。けれど実物を見て、慣れればそう判別は難しくはないと体感した。前翅の質感がコシロとは明らかに違うのだ。百聞は一見に如かずである。繰り返すが、コシロはもっと柄にメリハリが無くベタで、色が濃紺な感じだが、ヒメシロは茶色っぽくて、コシロと比べて少しメリハリがあるのだ。

と云うワケで、コシロシタバの画像も貼っつけておく。

 
(コシロシタバ Catocala actaea)


(2019.7月 奈良市)

 


(出典『世界のカトカラ』)

  
前翅中央の白紋が小さいが、ヒメシロよりも白くて目立つ。ヒメシロはココに褐色の鱗粉が混じり、ぼやけたような白に見えるものが多い。また、その下の白点は、あまり離れておらず、大きくハッキリしている。この白点がヒメシロは離れており、しかも小さくて薄い。

裏面画像も添付しておこう。
先ずはヒメシロちゃんから。

 
(ヒメシロシタバ裏面)

(出典『日本のCatocala』)

 
腹の感じからすると、多分♀だろう。
自前の展翅画像も付け足しとこう。

 
(♂裏面)

 
(♀裏面)

 
雌雄の見分け方は、以下の通りである。

 
(裏面♂)

 
♂は尻先に毛束があり、縦のスリットと産卵管が見受けられない。
横からの画像も貼付しておこう。

 

 
♀と比べて腹部は細くて長い個体が多い。また、尻先に毛束があるゆえ鈍角になる。

 
(同♀)

 
♀は腹が太くて短い個体が多い傾向にある。
フィールドで雌雄を確実に見極める方法は、この尻先にある。こうして縦にスリットが入り、その下に黄色い産卵管が見えていれば、100%♀と断定して差し支えないだろう。

 

 
横から見ると、♀は尻先がやや尖る傾向にある。これは毛が♂と比べて薄いせいだろう。

 
参考のためコシロシタバの裏面も貼付しておこう。

 
(コシロシタバ裏面)

 
生きてる時は青白く見えるが、死んで時間が経てば経つほど白くなる傾向があるような気がする。尚、雌雄の見分け方はヒメシロと同じである。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
それにしても、パッと見はヒメシロシタバと殆ど同じである。
違いは前翅の翅頂にある。ヒメシロは翅先に小さな白い紋、謂わばホワイトチップがあるが、コシロには白紋が殆んど見受けられない。地味な区別点だが、野外では表側で判断するよりも尻先と、この裏面の白紋で判断する方が寧ろ確実なのではないかと思う。この白紋って盲点じゃなくね❓図鑑とかには書いてなかった筈だからね。
蛾における種の判別についての記述は、大概が表のみで、図鑑でさえも裏面に関して言及される事は少ない。常々これが不満だった。裏面についても書いてくれれば、同定がかなり楽になるからだ。蛾は種類が多いので裏面まで図鑑に載せれば、膨大な紙数になる事は理解できる。でも最近はカトカラやキリガ、ヒトリガなど属や科単位の図鑑も出版されているんだから裏面を載せる事だって可能だと思うんだよね。そこに裏面での判別法も書けば、蛾の図鑑としては画期的な事だと思うんだけどなあ…。誰かがやり始めたら、それが当たり前になるかもよ。

それはさておき、こんなに似てるのにも拘らず、驚きだが近縁種ではないらしい。
それについては、後に別な項で書くつもりだ。気になる人も退屈男の退屈文章に耐えて読み進めて下され。我慢しないと、カタルシスは得られないと言いたいところだが、このあと面白い文章を書く自信はない。だから皆さんがカタルシスを得られなくとも一切責任はとらんけどね。

 
【学名】 Catocala nagioides Wileman, 1924

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の「nagioides」は、語尾に「〜oides」と付く事から「〜のようなもの」「〜に似てる」とかモドキ的な意味であろう。問題は「〜」の部分が何かという事だ。どやつと似てるって言ってんのかね❓
早速、前半分の綴り「nagi」でググッてみる。

ヽ((◎д◎))ゝあちゃまー、生理用品のブランドの「nagi」関連のものがズラズラと並んどるやないけー。こんなの、もし誰かに閲覧履歴を見られれば、確実に変態だと思われるだろう。
やれやれ。早くも迷宮徘徊の予感だ。

次に「nagio」で調べてみるが、頭に出てきたのがアプリケーションソフトウェアの「nagios」。あとはナギオくんとか薙尾(なぎお)さんとかのページばかりだ。焼肉好きでフリマで生計立ててるナギオの逃走劇なんぞに付き合ってるヒマはないのだ。先を探そう。
やっとこさ他のが出てきたと思ったら、ニュージーランドの木とか「衰える」だとかロクなもんしか出てこない。そもそもニュージーランドにカトカラは分布してないし、それに「木」ってどーよ❓食樹であるカシワの学名は”Quercus dentata”だから全然関係ないじゃんか。
「衰える」なんてのもマイナス過ぎて有り得んだろう。学名に、そんな不吉な名前を付けるかね❓普通、ないっしょ。あ〜あ、又しても学名の迷宮に迷い込んどるよ。

もしかして元々は「nagi」という言葉ではなくて、別な言葉が「oides」とクッ付くことによって語尾が変化、消失しているのかもしれない。
勘で『nagia』で検索してみた。


✌️ビンゴ💥❗一発で出たっ❗

 

(出典『Wikipedia』)

 
こりゃ、確かにパッと見はヒメシロシタバに似てるわ。
よく見れば、前翅は全然違うけどね。でも、この見てくれだったら「のようなもの」という学名でも納得だね。さすがウィキペディアである。何でも出てくるわい。
けど、絵なんだよなあ…。ここは当然だが、画像でも確かめとかないとイケないやね。
Nagiaは、Erebidae科の属名とあるから、そこを突破口にしてラビリンスから脱け出そう。

 

(出典『nic.funet.fi』)

 
絵よりも白紋が大きいね。ヒメシロとのソックリ度は、だいぶ下がったな。もしかしたら、コヤツは絵の奴とは同属の別種、或いは亜種かもしれない。
それはそうと、こんな展翅の仕方もあるんだね。コレはコレでカッコイイかも。今度、試してみよっかな…。

あとはフィールド写真だ。これが似てさえいれば、完全解決だろう。代表種らしき”Catephia alchymista”というのでググッてみる。
あれっ❓、Catephia❓Nagiaじゃないのか…。どうやら属名は変更になってるみたいだね。

 

(出典『Moths and Butterflies of Europe and North Africa』)

 
コレならば、野外だと一瞬はヒメシロに見えるね。
「のようなもの」でいいでしょう。完全納得です。

同属の別種みたいなのも出てきた。

 

(出典『SchmetterlingeundihreÖkologie』)

 
これなんかは、より見た目はカトカラっぽい。ヒメシロとは別物のカトカラっぽいけどさ。
名前を調べようとして、新しい方の属名”catephia”を入れたところで手が止まる。
日本にも、こういうの居なかったっけ(・o・)❓

コレってナカジロシタバじゃなくね❓

調べてみる。

 
(ナカジロシタバ Aedia leucomelas (Linnaeus, 1758))

(出典『フォト蔵』)

 
学名が違うが、近縁種だろう。灯台もと暗しってのは、こうゆう事を言うんだろね。
にしても、又しても属名が変わっとんのかあ❓ワケわかんねぇや。
一応、標本画像も確認しておこう。

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑』)

 
分布は本州、四国、九州、南西諸島。(+_+)何だよー、それって何処にでもいる普通種っぽいじゃないか。
という事は何処かで見てる筈だが、全く印象にない。何でやろか❓と思ったら、開張が33〜40mmしかない。ヒメシロはカトカラにしては小さいが、それでも48〜57mmくらいある。そんなだから、似ているとは露ほども思わず、クソ蛾としてスルーしてたんだろね。少なくとも、日本では「〜のようなもの」ではないだろう。😱ヤバい。説明がつかんくなる。
そうだ、或いはヨーロッパのこの手の仲間は大きいのかもしんない。じゃなくとも見た目のデザインが似てさえいれば、充分「のようなもの」の範疇だったと思いたい。大昔はおおらかで、そこまで物事に厳密的ではなかったのだろう。つまり大きさは重要ではなかった。そうゆう事にしておこう。
ところでコイツ、ヨーロッパにもいるのかな❓
調べてみると、ヨーロッパにもいた。どころか北アフリカ、中央アジア、中国、インドシナ半島、朝鮮半島、台湾、インドネシア、フィリピン、ミクロネシア、フィジーとアホみたいに何処にでもいるじゃないか。オマケに発生は年2〜3化だし、幼虫の食草はサツマイモとノアサガオ(ヒルガオ科)ときてる。その時点で、ド普通種の害虫じゃんか。完全に興味失くしたよ。もうキミなんてどうだっていいわ(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫

 
【亜種と近縁種】

見たところ、亜種はいないもよう。
シノニム(同物異名)に以下のようなものがある。

・Ephesia nagioides Wileman, 1924
・Ephesia sancta
・Catocala sancta Butler, 1885 (preocc. Hulst, 1884)

一番下の「Catocala sancta」とゆうのは、Pryerが北海道で1♂2♀を採集し、Butlerが1885年に記載したものだ。
日本のモノは残念ながら無効になったワケだが、「sancta」って語源は何なんだろね❓ あっ、やめとこ。無効になったものを追いかけてもしゃあないがな。更なる迷宮は避けたい。

近縁種かどうかは分からないが、見た目が似たモノが数種いる。既に登場しているが、先ずはコシロシタバから。

 
【コシロシタバ Catocala actaea】

(出典『世界のカトカラ』)

 
分布は日本、中国、朝鮮半島、ロシア南東部(沿海州)。
どうやら亜種区分はされていないようだ。
蛾界の偉人である故杉繁郎氏は後翅の斑紋パターンを根拠にコシロシタバの姉妹種としたが(1987′)、明瞭な類縁関係は認められないという。

一応、DNA解析で確認しとくか。

 

(出典『Bio One complate』)

 

 
\(◎o◎)/ゲッ、キシタバ(C.patala)と近縁になっとるやないの。コレだからDNA解析は信用ならんのだ。

 
(キシタバ Catocala patala ♀)

(2019.6月 大和郡山市)

 
石塚勝己さんが『世界のカトカラ』で、それについて言及されておられるので一部を抜粋しよう。
「日本産種を中心にしたミトコンドリアDNA ND5の塩基配列では極くわずかではあるがコシロシタバとアミメキシタバに類縁関係が認められた。そしてなんとヒメシロシタバはキシタバ(patala)と極わずかながら類縁関係が認められた。もしこの結果が正しければ、ゲニタリア(交尾器)の相違関係を反映していないことになる。地史的に比較的新しい時期に種分化したものは互いにゲニタリアは似ているが、古い時期に種分化したものはゲニタリアにまで著しい違いが出てくる可能性があるのかもしれないが、全くの謎である。
現時点では、マメキシタバとエゾシロシタバもアミメキシタバとコシロシタバもそれぞれ互いの類縁関係はないと解釈するしかない。後翅の黒化は、北アメリカでは地史的に比較的最近の出来事ではあるが、旧大陸(ユーラシア大陸)ではかなり古い時代にいろいろな系統内で生じたのではないかと思われる。」

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
マメキシタバとエゾシロシタバは見た目がかなり違うが、幼生期の形態や生態が似ている事から、昔から近縁関係にあることは示唆されていた(註2)。
アミメキシタバとコシロシタバが近縁とは全然考えもしなかったよ。ちなみに幼生期は似てるっちゃ似てるし、似てないちゃ似てない。終齢幼虫の頭部なんかは一見全然違うように見えるのだが、よく見れば模様のパターンは近いものがあるかもしれない。

国外に目を向けよう。

 
【アサグロシロシタバ Catocala nigricans (Mell, 1938)】
分布 中国

(出典『世界のカトカラ』)

 
一見ヒメシロシタバやコシロシタバに似るが、後翅の白紋の形が違い、より大型。成虫は夏季に現れるが少ない。食樹は不明だが、ブナ科である可能性が高い。

一応ググッたら、シノニムとして↙こんなのも出てきた。

Catocala actaea nigricans (Mell, 1939) (Shanxi)

どうやら以前は、actaea(コシロシタバ)の亜種扱いになってたようだね。でも前翅の色柄はコシロよりもヒメシロに近いように見える。

 
【チベットクロシタバ Catocala xizangensis (Chen, 1991)】
分布 チベット

(出典『世界のカトカラ』)

 
チベットの波密で8月に2♂のみが採集されていると云う大珍品だそうだ。しかし、そんな事よりもその馬鹿デカさと迫力に度肝を抜かれたよ。
とはいえ、この画像では伝わらないんだよなあ…。
(ノ`Д´)ノえーい、全部まとめて載っけてしまえ。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
一番上の列がコシロシタバ、二番目がヒメシロシタバ、最後の列の右下がチベットクロシタバ、残りがアサグロシロシタバである。こうやって一同に会すと各種の大きさがよく解る。コシロシタバだって言うほど小型ではないから、アサグロシロシタバが結構大きいことが想像できる。クロシオキシタバくらいは有りそうだ。そして、チベットクロシタバである。コレで、その馬鹿デカさがよく解るざましょ。

 
【和名】
コシロシタバよりも小さいゆえに名付けられた和名だろう。
昆虫の名前に「ヒメ=姫」と付けば、「コ=小」よりも更に小型なモノに付けられるケースが多いのだ。
まあ、それは別に構わないいいのだが、んな事よりもどこがシロ(白)やねん❗❓
コシロもそうだけど、下翅は白よりも黒の領域の方が遥かに多いからクロシタバやんけ❗まさか裏面を指しての命名由来でもあるまい。もしそうだったら、チャンチャラオカピーだ。そう誰しもが思う、ズッコケ和名だ。シロシタバよか小さいオオシロシタバとか、このシロシタバ系の和名は問題だらけだ。和名を付ける人はもっと考えてから名付けろよなー(´ε` )
名が体を間違って表してるネーミングは屑ネームだ。後々、皆が混乱するような和名を付けんじゃねーよ。今からでもいい、トットと改名なさい。
書いてて、ふと思う。蛾の中では人気の高いカトカラだが、それでも世間的に見ればマイナーな存在だ。蝶屋でも知らない人は結構いたりするからね。だったら今後は蛾の人気も高まってくることが予想される事だし、早めの今のうちに変えたらどうだろ❓ 次の図鑑辺りにガバッと変えても問題は少なかろう。文句を言う人間だってマイナーな今なら少数に違いない。石塚先生、変えるのなら今がチャンスですぜ( ̄ー ̄)ニヤリ(笑)

もし変えるのなら、真っ先にキシタバ(C.patala)を何とかして欲しい。キシタバと聞いて、それが種そのものを指しているのか、それとも下翅が黄色いカトカラの総称を指しているのかを一瞬考えねばならぬのが、誠に邪魔クセーのだ。学名そのままの「パタラキシタバ」か、デカいんだから「オニキシタバ」辺りでエエんでねぇのと思う。変えるとしたらあとは前述したシロシタバ系のオオシロシタバ、コシロシタバ、ヒメシロシタバくらいでいいかな。シロシタバはそのままにしておき、オオシロだけを某かに改名すればいいだろう。シロとオオシロを入れ替えてしまうと余計に混乱が起きそうだからさ。
個人的には他にもゴマシオキシタバとかエゾシロシタバ、ノコメキシタバ、コガタキシタバ、ウスイロキシタバなんかも変えて欲しいけどね。ゴマシオは胡麻塩から来ているのだろうが、ダサい。何か他に替わるものがないのかなと思う。エゾシロは最初に北海道で見つかったからなのだろうが、北海道以外にもいるから実情と合ってない。ノコメは鋸からの由来と思われるが、言うほどノコギリ感は無い。コガタは見た目が似ているキシタバ(C.catocala)よりも小さいからの命名だろうが、したらキシタバをオオキシタバにしないと、何を対象として小型なのか分かりづらい。でもオオキシタバはダサいからオニキシタバにして欲しいなあ。ウスイロもダサい。色は確かに薄いけど、生きてる時は象牙色で美しいのだ。もうちょっとマシな名前に変えてあげて欲しいよ。

名前問題はこれだけでは終わらなかった。
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』の【旧名,別名,害虫名,同定ミスなど】の項目には、何と「ヨシノキシタバ」と書いてあったのだ。ヨシノキシタバは既に存在しているぞ。

 
(ヨシノキシタバ ♀)

(出典『世界のカトカラ』)

 
だいたいがだ、そもそもコレは旧名なのか❓別名なのか❓それとも同定ミスなのか❓しかし、それについては全く言及されていないのだ。まさかの害虫名だったりしてネ。まあ幼虫の食樹はブナなんだから、無いとは思うけどさ。
どうであれ、イカレポンチな話だ。付き合ってらんないや。

 
【開張(mm)】 48〜57mm内外

見た目が似ているコシロシタバよりも小型なものが多く、ある程度は大きさだけで区別できる。
とはいえ、上翅の色、柄、全体的なフォルム、謂わば質感で見極める方が間違いない。この方法は他のカトカラでも有効な手段だ。各種の特徴を質感でインプットしてしまえば間違えることはあまり無くなる。見慣れれば、不思議なもので自然と一見して種類は分かるようになるものだ。わかんない人はセンスが無いと諦めましょう。

 
【分布】 北海道、本州、四国、九州、対馬

海外では、中国東北部、アムール(ロシア南東部)、朝鮮半島に分布する。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上が分布域図で、下が県別の分布図である。この点には留意されたし。例えば淡路島には分布していないが、県別図だと兵庫県だから塗り潰されてしまうという事だ。

見て、いきなり(・o・)アレッ❗❓と思った。四国が空白になっているじゃないか。でも県別分布図の『世界のカトカラ』の解説には、分布に四国も含まれてた筈だぞ。
慌てて確認してみたら、やはりそうだった。四国は入ってる。解説と分布図が違うって、どゆ事❓マジかと思って、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』でも確認してみたが、コチラも四国が含まれている。けど、四国にヒメシロなんて居たっけ❓何だ❓、この予想外の展開は❓こんなとこで躓くとは思いもよらなかったよ。
ならばとネットで検索してみる。
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には四国は含まれていなかった。しかし殆どのブログ記事には四国が含まれている。にも拘らず、それについては特に言及されていない。どうせ大半が孫引きなのだろう。そんな中にあって『昆虫漂流記』というブログだけが「四国の情報は皆無。」と書いてあった。👏パチパチである。

分布は局所的。これは幼虫の食樹であるカシワ林が生育する場所にしか棲息しないためである。ゆえに海岸部や高原のカシワ林に生息地が多い。

北海道では多いのかなと思っていたが、ブログの記事なんかを見てると少ないそうだ。
『世界のカトカラ』の「日本産Catocala都道府県別種類数」という表によれば、東北地方は全県に記録がある。青森県はレッドデータブックではDランク(情報不足)となっているが、ブログ『青森の蝶たち』には、カシワ林に多産すると書かれてあった。
関東地方では茨城県と千葉県に記録が無かったが、近年千葉でも見つかったと聞いている。
甲信越・東海地方で記録が無いのは愛知県だけのようだ。とはいえ、記録の大部分は長野県だ。
西日本では更に分布は局地的になる。近畿地方では兵庫県と京都府のみから記録がある。しかし、分布は極めて局所的で、兵庫県では香美町と宍粟市の2ヶ所のみが知られ、京都府では南丹市や芦生の原生林など北部寄りにしか記録がない。
中国地方は全県に記録がある。岡山県では北部に多く、中部では少ないという。
四国では、調べた限りでは記録が見つけられなかった。『世界のカトカラ』の分布表でも全県に記録がない(という事は解説欄に四国とあるのはやはり間違いだね)。もし見つかるとすれば、瀬戸内の島嶼部だろう。
九州では大分県九重高原、鹿児島県栗野岳の産地が知られている。熊本県にも記録がある。また長崎県対馬でも見つかっている。しかし極めて稀なようで、海岸部に僅かに残るカシワ林のみで採集されている。
食樹が同じであるハヤシミドリシジミ(註3)の生息地を丹念に探っていけば、新たな産地が見つかりそうだ。

 
(ハヤシミドリシジミの分布図)

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
コレがヒメシロシタバの実際の分布に一番近い形なのではないだろうか。

 
【レッドデータブック】

環境省:準絶滅危惧種(NT)
青森県:Dランク(情報不足)
宮城県:絶滅危惧II類(Vu)
山形県:情報不足
福島県:情報不足
石川県:情報不足
群馬県:絶滅危惧I類
栃木県:絶滅危惧II類
埼玉県:R1(希少種1)
山梨県:絶滅危惧II類
大分県:絶滅危惧II類
鹿児島県:絶滅危惧II類

 
【成虫の出現期】

成虫は6月中旬から出現し、10月中旬まで見られるが、新鮮な個体が見られるのは8月上旬まで。
時にコシロシタバと同一場所で混棲するが、その場合はコシロよりも出現期間は短い。

 
【成虫の生態】

クヌギやコナラなどの樹液に好んで集まるが、果実からの吸汁は観察されていない。また、蜜を吸うために花に飛来した例やアブラムシの甘露に集まった例も無いようだ。
尚、糖蜜トラップに誘引されたものは見ていない。しかし糖蜜にも飛来すると聞いたことがあるから、おそらく生息地のカシワ林でトラップを掛ければ寄って来るだろう。

灯火にもよく集まる。
飛来時間は、それほど遅くない。自分の1回だけの経験では午後9時50分頃に最初の飛来があった。以降11時くらいまで飛来が見られた。わりと短時間に纏まって飛んで来た印象がある。ちなみにこの日は全部で10頭近くが飛んで来た。小太郎くん曰く、こんだけ飛んで来たのは初めてで、各地でちょこちょこ見るのだが、何処でも個体数が少ないと聞かされている。そういや文献にも同じような事が書かれてあったわ。
とはいえ、カシワ林の傍らで灯火採集をすると、時に多数が飛来することがあるという。

昼間は樹皮が暗色のカシワなどの樹幹に頭を下にして静止している。コシロシタバは上向きに止まっているから、日中見つけた場合はソレで区別がつく。
驚いて飛ぶと上向きに着地し、数十秒後に姿勢を下向きに変える。但し、コシロシタバほどには敏感ではないという。

この日は、交尾してるのも見れた。

 

(2020.8.9 長野県木曽町)

 
と思ったら、エゾシロシタバであった。ワシの記憶メモリーがいい加減なのがバレたね。お恥ずかしい限りである。
見た感じでは、大きさと翅形からしてマウントしている左側が♂だと思われるが、確認はしてない。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んだ方がいいと云う言葉もあるし、そっとしておいたのだ。
話が逸れたが、多分ヒメシロもこんな形で交尾するのだろう。

交尾は発生期間中に多数回行われ、午後7時半から9時の間に観察されている。面白いのは幼虫がブナ科コナラ属を食樹とするカトカラたちは、このように宵の時間に交尾し、ヤナギ科やバラ科を食樹とするカトカラたちは深夜に交尾を行うとゆう事だ。そういえばブナ科コナラ属のクヌギをホストとするオニベニシタバの交尾を見たのも午後8時とか9時くらいだったわ。ちなみに、このエゾシロシタバの交尾は午後10時前であった。エゾシロの食樹もコナラ属ミズナラだけど、条件から微妙にズレるね。とはいえ範疇に入れてもいいかもしれない。交尾が始まった瞬間を見ているワケではないからね。

この交尾時刻の違いって何か意味あんのかな❓
ヤナギ科&バラ科食のカトカラは樹液や糖蜜に飛来する時刻が遅めの傾向があるから、活動時間が違うのかもしれないね。とはいえ例外もあるからなあ…。

産卵行動は発生後期の8月下旬以降に見られる。
面白いのは食樹のカシワだけでなく、しばしばコナラやミズナラ、クヌギにも産卵を試みる♀が見られることだ。食樹の範囲を広げようとでもしているのだろうか❓とかくカトカラたちの行動には謎が多い。

 
【幼虫の食餌植物】 ブナ科コナラ属:カシワ

食樹はカシワのみが知られるが、他のコナラ属でも代用食になるという。この代用食という言葉、カトカラ以外では蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の飼育法でもよく目にする。ゼフィルスも食樹以外の植物が代用食となるものが多いのだ。オマケに両者はブナ科コナラ属やバラ科を食樹とするものが多いと云う共通点がある。生活史も似ており、卵で越冬し、年1回の発生で成虫が見られる時期も大体同じだ。

幼虫は15〜40年の壮齢木から100年を越える巨木にまで見られ、樹齢はあまり重要ではないようだ。

 
(カシワ・柏)

(出典『あきた森づくり活動サポートセンター』)

 
(葉)

(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
(幹)

(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)

 
カシワ(柏、槲、檞)。
学名 Quercus dentata
ブナ科コナラ属の落葉中高木。
英名 Japanese Emperor Oak, Kashiwa Oak, Daimyo oak。
カシワはハヤシミドリシジミの幼虫の食樹だから、蝶屋の端くれゆえ、それなりに馴染み深かったけど、英名がエンペラーオーク(オーク材の皇帝)とか大名だとか凄い評価されてる木とは全く知らなかったよ。フランス語でも”chêne de Daimyo”。大名なのだ。

日本、朝鮮半島、台湾、中国に分布する。痩せた乾燥地でも生育することから、火山地帯や海岸などに群落が見られることが多い。
葉は大きく、縁に沿って丸く大きな鋸歯があるのが特徴。ドングリはクヌギに似て丸く、殻斗は先が尖って反り返り、包が密生する。秋に枯れた葉が春まで付いたままで、新芽が出るまでは落葉しない。この特性が落葉広葉樹にも拘らず、海岸部に植栽される事になった。日本の海岸線の防風林には一般的にクロマツが用いられるが、北海道の道北や道東など寒冷でクロマツが育たない地域では、防風林を構成する樹種としてカラマツとともにカシワが採用されることがある。ようはカシワは落葉樹だが、秋に葉が枯れても翌年の春に新芽が芽吹くまで葉が落ちることがない。そのため冬季の強風を防ぐ効果を果たしているワケだ。
そういや北海道の銭函にハヤシミドリとカシワアカシジミを採りに行った時に、そのカシワ林の広大さに驚いたっけ…。
今回、初めて知ったけど、そこは石狩砂丘と呼ばれ、世界的規模のカシワの天然海岸林なんだそうだ。

葉には芳香があり、さらに翌年に新芽が出るまで古い葉が落ちない特性から縁起物(=代が途切れない)とされ、柏餅を包むのに用いられたり、家紋や神紋などにも使用されている。
そう、カシワといえば柏餅なのである。
そうゆうワケで一般に馴染み深い事から、多くの市町村が「自治体の木」に指定している。参考までに以下に並べておく。
北海道北見市、石狩市、日高町、池田町、大樹町、幕別町、士幌町、芽室町、本別町、更別村、中札内村。福島県西郷村、千葉県柏市。
北海道が中心だが、結構な数だ。

でも、関西では殆んど見ない木なんだよね。
一応、カシワ林の分布を確認しとくか…。

 
(カシワ林の分布)

(出典『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』)

 
こうして見ると、分布は思ってた以上に局所的だ。稀少なイメージがあるブナなんかよりも余程少ない。ヒメシロの分布が局所的なのは、このカシワの分布が要因になっているのがよく解るね。ヒメシロはカシワ林が無い所には、基本的に居ないカトカラなのだ。

多いと思っていた北海道は沿岸部が中心で意外と少なく、寧ろ青森の方が集中している観がある。ブログ『青森の蝶たち』さんの言ってる事が正しいと理解したよ。
だが、東北地方南部の内陸には広い空白地帯があるね。関東地方と東海地方も殆んど空白だ。
そして信州に分布が集中している。ヒメシロの記録が多いのも頷けるね。
そして、近畿地方も兵庫県西部以外の大部分が空白地帯となっている。そりゃ、ハヤシミドリもヒメシロもおらんわ。
でも関西にはカシワはあまり無いけど、割りと近縁に見えるナラガシワはちょこちょこ有るんだよね。実際、関西では柏餅を包む葉はカシワではなくてナラガシワが使われることの方が多いと聞くしさ。コヤツが代用食にならんのかなあ…。

 
(ナラガシワ)

(出典『葉と枝による植物図鑑』)

 


(出典『旧植物生態研究室(波田研)』)

 
裏側が白いので、風が吹くと遠目でもナラガシワとよく分かる。
これをウラジロミドリシジミやヒロオビミドリシジミの幼虫が食樹として利用している。思うに、ナラガシワが多い兵庫県の三草山とかで、ヒメシロも食樹として利用してるとかないのかね❓可能性は低そうだけどさ。
それよりも、分布図では琵琶湖の東側にカシワが有ることになっている。そっちの方が見つかる可能性が有るんでぇの❓

四国は真っ白だ。一応調べてみたら、全くないワケではないようだ。ある程度まとまって生えているのは小豆島だけで、四国本土には香川県と愛媛県に数本単位で僅かに生えているだけみたい。どうりで食樹を同じくするハヤシミドリシジミの記録も無いワケだね。ゆえにヒメシロシタバは四国には居ないと断言してもいいだろう。もし見つかったとしたら、偶産かカシワ以外の木を利用している事になるね。

中国地方には思っていた以上に多い。この感じだと中国山地の北部に沿って自生していそうだ。

九州は大分県と熊本県の県境、鹿児島県にポツンと分布地がある。どちらもヒメシロの数少ない記録と合致している。でも鹿児島は🔴赤丸になってるから植栽のようだね。
あっ、福岡県にも狭いながら分布地がある。福岡ではヒメシロは未記録の筈だけど、探せば見つかるかもしれない。

分布図の上部には垂直分布の図もある。
これを見ると、沿岸部と標高千メートル前後の高原地帯に分布しているのがよく解る。コレもヒメシロシタバの垂直分布と大体合致していそうだ。

 
【幼生期の生態】

(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 
背の低いまんじゅう型で縦隆起条と横隆起条が目立つ。環状隆起は一重。稀に消失する。
孵化はコシロシタバよりも遅い。これは芽吹きの遅れるカシワに連動して適応したものと考えられる。

 
(1・2齢幼虫)

 
昼間、若齢幼虫は葉裏に静止している。

 
(6齢幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫の終齢は6齢。
終齢になると、太い枝や樹幹に降りてくる。
尚、長野の野外での終齢幼虫の出現期間は5月下旬から6月上旬みたいだ。

形態はコシロシタバに似ている。コシロシタバの方が全体的にくすんでいて、クヌギの古い枝に似ており、各節背面にある1対の黄色の点列が比較的目立つ。本種の方が腹部前方背面の菱形の淡色斑紋が目立ち、淡褐色を帯びた個体が多い。
野外の幼虫には色彩変異があり、全体がかなり暗化したり、淡色化した個体が見られる。

 
(終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
一応、コシロシタバの幼生期も確認しておこう。

 
(コシロシタバの卵)

 
卵は特に似ていて、ルーペで見ても判別できないらしい。

 
(2齢幼虫)

 
若齢幼虫も似てるかも。

 
(終齢幼虫)

 
終齢幼虫も似てるような気がする。
色彩変異はあるが、ヒメシロほどには著しくないそうだ。

 
(終齢幼虫頭部)

(出典 6点共『日本のCatocala』)

 
あっ、顔はかなり違うぞ。
でも色に騙されてはいけない。よくよく見ると、斑紋パターンは近いような気がする。となると、全般的には両者は似てると言ってもいいんじゃないか。
幼生期が似てるという事は近縁種の証拠だと言っていいだろう。それが従来の分類学での見解だ。なのにDNA解析では近縁ではないと云う結果が出ている。こうゆう事があるから、DNA解析って信用できないんだよね。

 
                        おしまい

 
蛹について書き忘れたので追記しておく。

 
(ヒメシロシタバの蛹)

(出典『青森の蝶たち』)

 
と言っても、蛹について言及されているものは殆んど見つけられなかった。どうやらまだ野外では発見されていないようだ。
おそらく他の多くのカトカラと同じく食樹下の落葉の下で蛹化するものと思われる。

 
追伸
今回のタイトルは、今は亡き森田芳光監督の劇場版映画のデビュー作『の・ようなもの』がモチーフになっている。
1981年に公開された落語の世界を題材にしたコメディタッチの青春群像映画で、第3回ヨコハマ映画祭(1981年度)の日本映画ベストテン第1位、作品賞、新人監督賞を受賞している。
出演は秋吉久美子、伊藤克信、尾藤イサオ、麻生えりか、でんでん他。小堺一機、ラビット関根、室井滋、内海桂子・好江、三遊亭楽太郎、エド・はるみなどもチョイ役で出演している。他にも当時の落語関係者や日活ロマンポルノ関係者などが多数出演している。

公開時には観てなくて、東京にいた頃にTVの深夜映画で観た記憶がある。秋吉久美子のトルコ嬢エリザベスが、とてもキュートだった。この時代は、まだソープランドはトルコ風呂と呼ばれてたんだよね。🎵今日は吉原、堀之内〜。中洲、すすきの、ニューヨーク。思わず浅草を愛するビートたけしのタケちゃんマンの歌を口ずさんじゃったよ。
その後、トルコ青年がマスコミに涙ながらに国の恥だからやめてくれと訴えて、結局ソープランドに改称されたんだよなあ。

主人公の駆け出しの落語家が、好きになった女子高生のお父さんの前で一席演じるのだが、才能がないのを見透かされ、終電が終わった深夜の堀切駅から道中づけしながら浅草〜東京駅〜自宅を目指して朝まで歩くシーンはよく憶えている。ナゼかと云うと、自分も堀切菖蒲園駅に住んでいた彼女とケンカして、深夜に同じようなコースを歩いたからだ。
このシーンでは、今では現存しない建物と風景がフィルムに収められている。アサヒビール吾妻橋工場(現在はアサヒビールタワー、リバーピア吾妻橋。以下カッコ内は跡地)、森下仁丹の広告塔、国際劇場(浅草ビューホテル)、かつてのプロレスの聖地で、ジャイアント馬場とアントニオ猪木のデビュー戦が行われた台東区体育館(台東リバーサイドスポーツセンター)などの歴史ある建物だ。残念ながら、オラが歩いた頃には既に全部消えて無くなってたけどね。
関係ないけど、歩いた時に鮮明に憶えているのは金のウンコだ。

 
(アサヒビールタワーと金のウンコ)

(出典『江戸川スポーツ新聞社』)

 
スーパードライホールの上にある金色のウンコみたいなオブジェは、本当はフラムドール(金の炎)という名称で、アサヒビールの燃える心を象徴するとされる。オブジェが炎を表し、その下のホールは聖火台をイメージしたものらしい。
その形状から、みんな「うんこビル」と呼んでたけどね。他には「オタマジャクシ」「練り辛子」「クジラ」「オバケ」「筋斗雲」「黄金の精子」などとも呼ばれていたそうな。

尚、タイトルは三代目三遊亭金馬の十八番(おはこ)の演目「居酒屋」からの引用。

観ていないが、本作の35年後を描いた『の・ようなもの のようなもの』がある。
2011年12月の森田芳光監督の急逝から4年、森田組のスタッフ・キャストが再集結し『の・ようなもの』の35年後を描く本作が制作された(2016年公開)。
監督は『の・ようなもの』以降、助監督として森田作品を支え続け、本作で映画監督デビューした杉山泰一。脚本は、同じく森田作品の助監督を経て、前年『ショートホープ』で監督デビューを飾った堀口正樹。
出演は、主人公の志ん田役に森田芳光監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』の松山ケンイチ。志ん田を振り回しながらも優しく見守るヒロイン役に『間宮兄弟』の北川景子。前作と同じ役で伊藤克信、尾藤イサオ、でんでんらも出演している。また、森田作品ゆかりのキャストも数多く顔を出しているそうだ。

まさか蛾の文章のタイトルで、とうに忘れていた昔の映画や彼女との思い出と邂逅するとは想像だにしてなかったよ。
こういう気持ち、悪かない。

 
(註1)『世界のカトカラ』と『日本のCatocala』

ー『世界のカトカラ』ー

 
2011年にむし社から出版された世界的カトカラ研究者である石塚勝己さんの図鑑。全世界のカトカラの約85%が掲載されている。この図鑑をキッカケにキリガやヒトリガ等の蛾類の属や科単位の図鑑が出版されるようになった。

 
ー『日本のCatocala』ー

 
2010年に自費出版された日本のカトカラの生態について最も詳細に書かれてある図鑑。
発行後、新たにアマミキシタバがカトカラ属に加えられ、ワモンキシタバからキララキシタバが分離された。そしてマホロバキシタバの新発見もあった。他のカトカラも新たな知見があるだろうから、是非とも改訂版を出して戴きたい。無理っぽいけど、切に願う。今ならもっと売れるだろうし、廉価に出版する方法もあると思うんだけどなあ…。

 
(註2)昔から類縁関係にあることは示唆されていた
マメとエゾシロの外見はかなり違うのだが、昔から幼虫の形態と生態が似ていることが知られている。

 
【マメキシタバ Catocala duplicate】

(2019.8月 大阪府四條畷市)

 
【エゾシロシタバ Catocala dissimilis】

(2020.7月 長野県北安曇郡)

 
見た目はヒメシロやコシロに近いから、同じ系統かと思いきや、全然違うらしいんだよね。
この辺の事は拙ブログのマメキシタバの回の『侏儒の舞』か、エゾシロシタバの続編『dissimillisの謎を追え』と題した文章のどちらかに書いたような気がする。すまぬが気になる人はそっちを読んで下され。書いてなかったらゴメンなさい。追ってそのうち書きますから許してくんろ。

 
(註3)ハヤシミドリシジミ

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
シジミチョウ科に属するミドリシジミ(ゼフィルス)の仲間。日本での分布は北海道、本州、九州、佐渡島だが局所的。国外ではロシア南東部、朝鮮半島、中国東北部および中部〜西部に産する。暖地では6月下旬、寒地では7月中旬から見られ、夕刻に活動する。
幼虫の食樹はカシワ(ブナ科)。北海道と長野県では例外的にミズナラから発見された例がある。飼育の場合にはコナラ、アベマキ、ナラガシワ、ミズナラ、クヌギ、アラカシ(全てブナ科)が代用食となる。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』
◆長崎進『ヒメシロシタバの新産地』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『青森の蝶たち』
◆『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『葉と枝による植物図鑑』
◆『旧植物生態研究室(波田研)』