『西へ西へ、南へ南へ』第3話

  
蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-02 16:42:52

 
       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

      第三番札所 薩摩美食三昧

 

2011年9月10日~9月11日

ほとんど脱水状態、夢遊病者のようにふらふらになりながら駅に着いた。
浴びるように清涼飲料水を2本立て続けに飲む。これで小一時間で4本目だ。こりゃ、ほとんど熱射病かもな。

最初に降りた時にわざわざ写メまで撮ったのに…。
そう思いつつ、時刻表を仰ぎ見る。
宮崎行きの電車は10分程前に出たばかりのようだ。
田舎なので、電車は一時間に一本くらいしかない。無人駅のベンチにへたりこむ。

駅舎の外にぼんやりと目をやる。
黄色いランタナが風に揺れている。
一拍おいて、一陣の風が傍らを通り抜けていった。
涼やかな風だった。もう夏の風じゃないと感じた。秋風だ。
ふと見上げると、空も秋の色だ。青い。季節は人知れずその歩を確実に歩めているのである。

空をぼんやりと眺めていて、発作的に思った。
鹿児島まで行こうと。
遠いが、青春18切符ならば今日中は何処へ行こうが乗り降りは自由だ。
大阪に帰るバス代は宮崎も鹿児島もどうせ同じ額である。だったら、桜島を見たい。

16時09分の都城行きに乗った。
一瞬、いったい鹿児島までどれくらい掛かるんだろうかと軽く後悔した。
だが、宮崎に引き返す気持ちにはなれなかった。何処までも落ちて行きたい。前に進みたい。西へ西へ。

都城で15分待って、鹿児島中央行きの列車に乗り換える。

夕なずむ空に噴煙を上げる桜島は、雄大で男性的だ。
列車は、錦江湾の弓なりになった海岸線をのんびりと進んでゆく。

約3時間後の午後6時55分。鹿児島中央駅にたどり着いた。
これで青春18切符5回分を使いきったことになる。

 

 
通常料金ならば、
JR難波➡佐伯駅までが10500円。
佐伯駅➡田野駅までが3150円。
田野駅➡鹿児島中央駅までが2070円。
計15720円かかる。
青春18切符は5枚つづりで11500円した。ということは、➗5で1枚が2300円という計算になる。それを2枚分使ったから、2300円✖2で4600円。
つまり大阪から九州の端の鹿児島まで来るのに、たったの4600円で済んだってワケだ。・

全身ボロ雑巾の体を引きずり、先ずは観光案内所へ。
土曜とはいえども、都会の鹿児島市内だ。宿の数はそれなりにある筈だ。何処かには泊まれるだろう。とにかく、この汗でべとべとの体を一刻も早く洗い流したい。

案内所で紹介された、駅からすぐそばのビジネスホテルを訪ねた。

ビジネスホテル石原荘。
シングル1泊 3880円(安っ❗)
即決する。
 


 

シャワーを浴び、ビーサン、Tシャツ、サーフパンツに着替える。それだけで、だいぶと生き返った。

案内所のお姉さんにも訊いたが、一応フロントでもお奨めの旨い寿司屋を尋ねた。
錦江湾を見て、絶対に寿司を食おうと決めていたのだ。
ホテル一階にある料亭の女将の超お奨めの寿司屋に行くことにする。女将はこれを差し出しなさいと自分の名刺を渡してくれて、途中まで案内してくれた。
鹿児島の人たちも親切そうだ。

寿司『いっせい』。
入ったらガランとしていて、急に不安になった。
だが、今さら他を探すのはもう面倒臭い。正直、腹ペコでそんな気力の欠片(かけら)も残ってない。

カウンターに座った。
とりあえず、瓶ビールとアテに酢の物を頼む。

お通しの、雲丹の乗っかった木綿豆腐をつつく。
木綿豆腐は疑問だが、雲丹は美味い。

次いで、蛸、赤貝、鯖etc…の酢の物がきた。
最初に口に運んだ針魚(さより)にまず驚かされた。何と昆布締めにしてある。味付けも関西風で、はんなりした薄味だ。あまり期待していなかっただけに、俄然楽しくなってきた。

端向かいに座っていた御夫婦と直ぐに仲良くなる。
さみしがりやは、御夫婦や店の大将とも堰を切ったように、まあ、喋る喋る。

続いておまかせ握り11貫をたのむ。
全て旨かったが、中でも絶品は中トロ、雲丹、鯖、玉子焼き、海老、そして、じゅん菜の椀物だった。

海老は地物のサイマキエビ。上品な甘さだ。
玉子焼きはだし巻き風で変に甘ったるくない。
中トロは肉質の目が細かく、ねっとりと纏わりつくような旨さだ。
椀物は薄い銀あんで、じゅん菜を上手く生かしている。
鯖は韓国・濟州島産で小振りなのに脂が乗っており、甘みと旨みが凄い。
雲丹は阿久津産ムラサキウニ(アカウニ)。旨味と甘みがこれでもかと広がってゆく。そして、口の中で味の余韻が尾を引く逸品だった。淡路島・由良産の高級雲丹よりも美味いんじゃないかと思った。

最後に、鯖の棒寿司4分の1サイズを特別に作ってもらった。周りをバッテラ(薄い昆布)ではなく、海苔で巻いているのが珍しい。

 

 
見よ、このキメ細かな油の粒❗キラキラ輝いている。
味はトロ鉄火の鯖版というのが近い。が、抜けがいい。スーッと脂が消えてく感じだ。

お代は7000円余り。妥当な額だ。いや、むしろ値段以上に安いと思った。昨日のホテル代が浮いていると思えれば安いものだ。

午前1時、ようやく就寝。
43時間振りの睡眠だ。
目を瞑って即、意識が飛んだ。

 
(部屋から見た風景。)

 
翌朝7時に目が覚めた。深い眠りだった。そのまま9時半まで寝たり覚めたりで、ごろごろしていた。

10時チエックアウト。
クソ重いザックをフロントに預かって貰い、駅ビルに向かう。

本屋でガイドブックを片っ端から手に取る。
まず街全体の地図を頭に入れておきたかった。観光スポットもチエックする。
しかし、当面の一番の興味は昼飯に何を食べるかだ。
一人旅の楽しみは食いもんくらいだ。
蝶採りは甘美ではあっても修行に近い。否、修行そのものであったりもする。

鹿児島といえばラーメン、黒毛和牛、黒豚、薩摩地鶏ってところが有名かな?

ラーメンは早々と除外した。
大阪でも、探せば旨い鹿児島ラーメンの店はあるだろう。
薩摩地鶏には惹かれるが、昼間っから焼鳥というのも何だかイメージが湧かない。
黒毛和牛と黒豚なら、やっぱ黒豚だよなあ…。
鹿児島で黒豚料理といえば、黒豚しゃぶしゃぶ、とんかつ、せいろ蒸しが代表のようだ。
悩んだ末に残った候補は、フロントのお姉さんに紹介された黒豚のしゃぶしゃぶ屋と2軒のトンカツ屋、あとはマスコミで話題の「激安!黒マグロ丼」1000円の店だ。

一軒目のトンカツ屋は発見できず。どうやら通り過ぎてしまったようだ。
マグロ丼の店はまだ開いていなかった。開店まであと15分だけど、このクソ暑いのに待ってらんない。だいち、考えてみれば鹿児島まで来てマグロもないだろう。ここは、やはり王道の黒豚でいこう。

11時半前、『黒かつ亭』には既に行列が出来ていた。
何だよ、この炎天下で並ぶのかよと思ったが、流行ってるんだから確実に美味いもんにはありつける筈だ。並ぶのが大嫌いな男だが、今度いつ鹿児島に来るとも知れぬのだ。我慢しよう。
そう思って煙草に火をつけた。だが、二口くらい吸ったところで、店員の女の子に5人ゴボウ抜きで招き入れられた。
ラッキー(^^)v、さっき一応店に入って、店員の女の子にワザと一人なんですけど空いてます?とジッと目を見て訊いておいて正解だ。女は目で殺すべし(笑)

黒かつ亭ランチ定食 980円をたのむ。
ロースとヒレ両方が楽しめると云う人気No.1定食である。

 

 
ロース、うんまっ( ̄0 ̄;❗❗
豚肉の甘みが半端ねぇ。

満足至極で店を出る。
取り敢えずは、大阪に帰る深夜バスの状況でも確認に行こう。

さっきから何度か目の中にゴミが入り、何だかチカチカする。
ハッ( ̄□ ̄;)❗、駐車中のドロドロの車を見て気付いた。火山灰だ❗
鹿児島は美人が多そうだし、美味い食いもんも一杯あるから住んでもいい町だなと思っていたが、却下。火山灰の降る街は何かと大変そうだ。住めそうもない。

観光しようかとも思ったが、糞暑いし、火山灰が鬱陶しい。体調もまだ完全には戻っていない。再び駅ビルに戻り、涼みながらこれを書いている。

煙草を吸いたくなったので、喫茶店にでも行こうかと考えた。
それで思い出した。そうだ❗、どうせなら鹿児島名物・南国しろくまを食おう。このクソ暑さにはうってつけじゃないか。

だが、適当な喫茶店が見つからない。
とりあえずダイエーで訊いてみたら、店でも売っていると言う。

 

 
南国しろくま(268円)とは、ようするにアイスクリーム?が混じっている練乳のかき氷に金時や缶詰めフルーツが乗っかった氷菓だ。
親の仇(かたき)みたいにカチンコチンに氷らせてあるのが特徴だ。スプーンがまるで役に立たない。

 

 
(><*)ノちびてぇー。
アッタマ、痛てぇー…。
途中から拷問になってきた。結局、蓋をあけてから25分もかかって食べ終えた。恐るべし南国しろくま!!
南極しろくまの間違いなんじゃないの?
あっ、でも南極にはシロクマはいないわ。シロクマの本名はホッキョクグマだもん。

午後4時45分。
男は、何故か鹿児島新港・南埠頭行きのバスに乗っていた。

                  つづく

 
追伸
原文があるんだから、ちよっと手直してして簡単に記事をアップできると思っていたが、そんな事はない。画像を入れなおさなければならないし、文章も細かいところを触りだすとキリがない。意外と手直しには時間がかかるなあ…。