『西へ西へ、南へ南へ』第7話

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ー蝶に魅せられた旅人アーカイブス―
2012-08-09 00:18:25

ー捕虫網の円光ー
『西へ西へ、南へ南へ』

第五番札所その3 脇田丸

 

シャワーを浴びて、晩飯を食いに行く。
雨は既に上がっている。夜空を見上げると、雲間からもう星が瞬き始めていた。
南国のスコールというのはザッと降って、そのあとは急速に天気が回復するということが多い。その逆もまた然りで、晴れていたと思ったら、あっという間に空が暗くなってザアーッときたりもする。
だから天候を読むのは難しい。だが、嫌いじゃない。それもまた南国らしさと思えば楽しいものだ。

店が有りそうな方向に向かって歩く。
5分足らずで居酒屋を見つけた。

『海鮮居酒屋・脇田丸』。
名前の最後に丸とついてあるから、漁船を持ってる店か、もしくは昔、漁師をやっていたオヤジの店だろうか❓
勘で、入ることにする。こういう時は直感に身を任す事にしている。大概はそれで上手くいく。今までさんざんぱら飛び込みで店に入ってきているのだ。その経験値が有れば、そう勘は大きく外れない。

入ってみると、カウンターの手前に多種多様な魚たちが並べられていた。

当たりだ。
間違いなく旨いもんを食わせる店だろう。
アカボシゴマダラも採れたし、スコールを上手く掻い潜って宿に帰ってもこれたし、今日のオイラは冴えている。

当然の如くカウンターに座る。
一人旅ならば尚更のことだ。板前の人たちに色々と訊けるし、さみしさも少しは紛れる。

飲み物の注文を取りにきた店員に訊くと、やはり魚屋経営の居酒屋らしい。ちゃんと脇田丸という船も持っているようだ。

カウンターの隣に並べられた魚を物色する。
漁師経営ゆえ、地魚のオンパレードだ。

南国らしい派手な色の魚たちも並ぶ。
元ダイビングインストラクターだっただけに、南国の魚にも詳しい筈だが、ある程度予想はつくものの特定は出来ない。多分、死んだら体色が変わるものが多いからだろう。

メニューを開く。
(@_@;)何じゃこりゃ⁉
メニューにある名詞が理解不能な言葉だらけだじょー。さっぱりワカラン。

基本的にチャレンジャーな性格なので、あえて未知なるものを攻めてゆくことにする。
現地でしか食えない食材との出会いは、いつも新鮮な驚きを与えてくれる。好奇心を刺激されない旅なんてつまらない。

先ずは、刺身の盛り合わせ(690円)から入る。

ラインナップは地鰹、シビ(キハダマグロ若魚)、シマアジ、地蛸、ソデイカ、地マグロ。
美味い❗❗
やる(^_-)≡★ねっ。

お次は揚げ物でいこう。
揚げ物の項を目でなぞってゆく。
変な単語が目に入った。
(・。・;アバス❓
何じゃそりゃ⁉ 語源さえも想像がつかない。
考えても仕方がないので、すかさず板さんに尋ねる。

板さん曰く、アバスとは奄美大島ではフグの事を指すようだ。でも、トラフグは南の海には生息しない筈だ。となると、別の種類の食用フグなのだろう。でも南の海で食えるフグなんてあるのかね❓
気になるので重ねて尋ねたら、ハリセンボンだと云う答えが返ってきた。
ハリセンボン❓
それって、あのトゲトゲで、怒らせるとパンパンに膨らむ奴だよね❓ダイビングインストラクター時代に、よくオモチャにしてた奴だ。
そんなもんを食うなんて聞いた事がないし、それに食べるだけの量の身があるとも思えない。
ホントかよ(-。-;)❓

まあいい。百聞は一見に如かずだ。そのアバスとやらの唐揚げを頼む事にする。

d=(^o^)=bウルトラ絶品❗
歯を心地好く押し返してくる弾力、淡泊ではあるが、滋味あふれる旨みの奥深さ。下手な河豚よりも数10倍旨いぜ。
しかも、たったの390円だ。

三品目は、シマアジのカマの塩焼き(390円)。
この量とこの旨さで、この値段はオカシイだろうが⁉
(=`ェ´=)何か嬉しくて怒っちゃうぞっ。

四品目は、島雲丹(註1)。
こんな南の海で、食えるウニなんていたっけ❓

さばく前の本体を見せてもらった。トゲが白くて短い。何だか饅頭みたいな形をしている。
板さんが、夏場からこの時期にしか出回らない高級ウニだとつけ加える。

記憶が繋がる。
あーっ、これ見たことあるわ。そういえば、沖縄でも奄美でも水中に転がっとったわ。アレって食えるんだ。惜しいことしたなあ…。

やがて、殻付きウニが運ばれてきた。
普段目にするウニよりも色がかなり黄色い。
ちょい引くが、意を決してスプーンで掬い、人生初の島ウニを口に運ぶ。

ハッ(゜〇゜;)❗、美味いぞなもし。
鹿児島で食った阿久津の雲丹には劣るが、このクオリティーで690円は尋常な値段ではない。

思わず、黒糖焼酎・高倉30℃をボトルで頼む。

魚が旨いのは屋久島までだと思っていたが、認識を改めねばなるまい。

板前の兄さんに色々教えて貰いながらの談笑。
意識がどんどん溶けてゆく。

午前0時前、ヘベレケで撤退。
ボトルキープをして、支払いが5千円ちょい。
恐るべし、脇田丸❗彗星の如く現れた店だな。
頼む、大阪に支店を出してくれ!!
出してくれたら、毎日通う。

店の外に出たら、空はいつしか満点の星空になっていた。明日も晴れそうだ。
南国の生暖かい風が、そよと頬を撫でて通り過ぎていった。

 

追伸
結局、二回に分けた事により、オリジナルの文章に大幅に手を入れる事になった。組み替えもしてるし、加筆もかなりした。記事を移すのって思った以上に大変だ。

(註1)島雲丹
島ウニは地方名で、本当の名前はシラヒゲウニという。沖縄では7、8月の夏場に出回り、高値で取引されるらしい。
因みに本文に画像が無いのは、舞い上がって写メを撮り忘れたからです。
一応、ネットで検索した画像を添付しておきます。


(出展『ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑』)

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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