ニホンセセリモドキは小太りくん

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先日(4月4日)、福井県南部にギフチョウを採りに行った(註1)。
その時一緒にいた植村くんが、『あっ、ニホンセセリモドキやあ❗』と叫んだ。
ニホンセセリモドキ❓
どっかで聞いた事があるような名前だなと思った。

よくよく考えてみれば、何年か前に森さんが探していた蛾だ。名前にニホンなんてつく虫は珍しいし、セセリチョウのミヤマセセリに擬態していて、しかも珍品だと聞いていたから憶えていたのだ。

結局その場では見失ったようで、どんなもんかわからずじまいだった。
その後、各々散ってギフチョウ採りにいそしみ、集合場所に戻ってきたら、植村くんが『ニホンセセリモドキ、採れましたあ❗』と嬉しそうに報告してきた。
彼は元々蛾屋(蛾マニア)で、最近蝶屋に転身したのだ。

『指で胴体をなんぼ押しても、アイツ全然死にませわー。』とブツブツ言っている。
(-o-;)えっ❓、蛾って蝶みたいに指で圧死させるの❓普通は毒ビンか何かに放り込んで成仏させるんちゃうのん❓と心の中で思う。
コイツ、蛾好きなクセにそんな事も知らんのか❓
初めて一緒に採集するけど、ようワカランやっちゃのー。もしかしてアホ❓
もちろん、これも心の中の声だ。わざわざ無理いって車を出してもらっているのに、そんなことは口に出して言えないのだ。

その場で実物を見せてくれとは言わなかった。
今はギフチョウの事でアタマの中が一杯なのだ。次のポイントを何処にするかの方が遥かに大事だから、帰りにでも見せてもらえばいいやと思ったのである。

午後、場所を変えて越前市から南条郡南越前町へと移動する。
楽勝ポイントでギフチョウを採っていたら、またまた植村くんが『あっ、ニホンセセリモドキやあ❗』と叫ぶ。
『(;゜∇゜)どれ❓どれ❓どれなの❓』
『あれです、あれ、あれ❗』
植村くんが指さす方向を見る。
何かハエみたいなのが、ジクザクで不規則に飛んでいる。

でも、またしても見失う。
(# ̄З ̄)う~む、小生意気な奴ちゃのう。

間を措かずして、再び植村くんが『そこ、そこ、そこ、そこに飛んでます❗』と言う。
見てると、細い蔓みたいなのの枝先に止まった。
遠めから、あらよっ💥と左から右に振り抜く。

Ψ( ̄∇ ̄)Ψどれどれ~、どんな奴かのう。
オッチャンは網の中を覗く。

んっ( ・◇・)❓
なあ~んや、コツバメやんけー(ー。ー#)
でも、こうして裏返しで翅が下がってると、まるで蛾みたいじゃのう。

因みに表はこんな感じ。

(出展『日本産蝶類標準図鑑』)

コツバメくんの標本はどこかにある筈だが、探すのが面倒なので図鑑から拝借。

(=`ェ´=)ケッ、何かメンドクセーなあと一応写メを撮っていたら、背後から声が飛んできた。
『います、います。ここにいます❗』
植村くんが手招きをする。そろりそろりと近づく。
指さす地面にソイツはいた。虚無僧❓

(出展『一寸の虫にも五分の魂』)

(# ̄З ̄)ガッカリだ。
もっとミヤマセセリに似てるかと思えば、そうでもない。小さいし、触角や雰囲気は所詮は蛾風情だ。
採る気が完全に失せた。というか、元々蝶は好きだけど蛾は気持ち悪くて嫌いなのだ。あんなキショイもん、よう触らんわ(゜ロ゜;ノ)ノ

まあ、とは言いつつも、そんなものは刷り込まれた概念だとは自分でも理解はしている。蝶イコール綺麗。蛾イコール汚い&気持ち悪いと云うのは、所詮は世間の紋切り型の図式に過ぎない。
確かに蛾の方が地味で汚い色のものが多いし、粉こなの鱗粉が舞うというイメージだ(あれって、やだねー。怖いよ)。
触角も蝶に比べて何だか怪しい形だし、それに何よりも胴体が太い。あれが一番ダメだ。気持ち悪過ぎ。あと、主に夜に活動するというのも気持ち悪さを増幅させているのだろう。不吉なのだ。眼とかも赤く光るから怪し怖いよね。
ドクガ(毒蛾)なんぞという触れただけでも死ぬほど痛くて腫れまくるつぅー、邪悪な存在もいるのも怖しい。
だいたい、闇夜の街灯に群がっていると云うのがおぞましいじゃないか。悪の夜会じゃよ。

でも、実をいうと蛾でも綺麗で胴体が細いものもいるし、昼間に活動するものも結構いる。
う~ん、それも解るのだが、キショイもんはキショイのだ。もうその辺は理屈ではない。蛾もヘビやクモがどうしてもダメだというのと同じレベルの代物なのだ。

他のポイントに移動して戻ってきたら、別な人がポイントに入っていた。
ギフチョウが全然採れないと言う。さっきは此処で3人で9つ採った。しかも5分くらいで。運の無い人は運が無いんでしょうなあ。

相変わらず、ニホンセセリモドキがいる。どうやら、こうして日溜まりの地面に止まり、テリトリーを張っているようだ。♀もやって来るのだろう。
オッサンにニホンセセリモドキがいますよと言うと、急に採る気満々になりだした。ギフチョウが採れないと云うのもあるのだろうが、珍品と知っておられる素振りだ。それなりに気合い入ってるもん。

でも、何度も取り逃がしていた。
どうやら網を被せても動かなくて見失ったり、網の横から逃げ出すようなのだ。
見かねて、持っている毒ビンで取り込みを手伝う。特にターゲットは無かったが、貰ったのを何となくザックに放り込んどいて正解だ。

オッサンが喜んでいる。
『珍品やで~Ψ( ̄∇ ̄)Ψ、ニホンセセリモドキ。』

んな事を言われると、一つくらいは持って帰ってもいいような気分になる。
珍しいと言われればやる気が出るって現金な人だよなあ~、俺。それに森さんに御進呈したら喜んで貰えるかもしれないとも考えた。恩を売っておいて損はないのだ。( ̄∇ ̄*)ゞズルいよなあ~、俺。

1頭採った。
でも、蝶みたいに網の底を上に持ち上げても上に行かない。だから、最終的に横から逃げられるのか❓しゃらくせえ野郎だ。
戻ってきた植村くんがアドバイスをくれる。
『そのまま我慢して下さい。歩いて上に登ってゆきますから。』
暫くすると、ホントにちょこちょこ上へ向かって歩きだした。
植村ちゃ~ん、短期間でそこまで見抜いたのか?
アンタ、賢いのかアホなのかワカランわ。
奥に追い込んだところで枠を反転させ、毒ビンを突っ込んで召しとる。毒ビンって重宝だけど、エグいよな。これって、毒ガス💀アウシュビッツやんけ。

おまえ、完全に蛾だな……(-“”-;)
こんなもん、果たして後で展翅するんかのう❓
そのまま冷凍庫で一生フリーズしたままかもな。

それにしても、結構いるぞ。次から次へと飛んで来る。コイツ、本当に珍品なのかね❓

戻ってきた小太郎くんも参戦してきた。
で、彼が採ったのは何だか雰囲気が違う。一回り大きいし、翅の色もちょっと違うような気がする。全体的に色が濃くて、下翅の黄色い紋がオレンジ色なのだ。
『それって、♀じゃねえの❓』

(右♂、左♀?)

裏も何だか違うぞ、♀らしきものの方がオレンジ色が濃いような気がする。

俄然、やる気になった。
でも、なぜか飛んでくるのは♂ばかり。そりゃそうだわな。蝶でも♂に比べて♀はあんまり採れないのだ。

そのうち、陽も陰り出して♂さえも飛んで来なくなった。
まっ、いっか……。
珍しいとはいえ(というか単に誰も探さないから珍品になってるだけじゃないのか?)、所詮は蛾だ。しかも、お世辞にも美しいとは言えない。

帰るためにバラけていた皆に電話で集合をかける。
待ち合わせ場所で待っていると、下からサラリーマン山口さん率いる東京軍団が上がってきた。山口さんはお茶目でイタズラ好きだから大好きだ。
杣山にずっといたらしいが、一人3頭しか採れなかったそうだ。もちろん、杣山型も採れてないそうな。

立ち話の中でニホンセセリモドキの事が話題になった。そんな折り、軍団の1人の人が『あれじゃないの❓』とおっしやった。
らしきものが5mくらい先で飛んでいる。見ていると、木の蔓の先に止まった。
譲って戴き、💥get。
どうもこの蛾は、日溜まりの地面とか蔓の先がお好きなようだ。

確認してみると、大きくてオレンジの紋が濃い♀らしき個体だった。少し翅が破れているが、この際そんな事はさして気にならない。所詮は蛾だから、取り敢えず♂♀採れたと云う事実さえあれば充分なのだ。

帰ってから、面倒クセーけど展翅してみる事にした。
小さいからすぐに翅が硬くなって展翅できなくなると思ったのだ。今しないと、一生しない可能性大だ。硬くなってからでは、絶対にしないに決まっているのら。軟化展翅なんぞ面倒くさ過ぎる。

小せえし、死ぬほど地味な見てくれだ。
展翅するモチベーションがまるで湧かねえし、上手くやる自信もない。蛾の展翅をするのは初めてなのだ。
あっ、このあいだ300円で買ったナンベイツバメガを展翅したか…。でも、あんなもんは蝶みたいなもんだし、自己採集した蛾という意味では今回が初めてなのだ。

【ナンベイツバメガ】

南米に棲む昼行性の蛾です。
胴体も細いし、優美だ。触角の形を除けばこんなもんは蝶にほぼ等しい。いや、蝶でもこんだけ綺麗な奴はそうはいない。だから、蛾でも許せる。

展翅を始める。
(-o-;)うわっ、胴体太てえ。
な割りに羽小せえー(_;

【Hyblaea fortissma ニホンセセリモドキ】

どうやら蛾の展翅は前脚を前に伸ばすのがトレンドらしい。というワケで伸ばしてみる。(_)メンドクセー。
触角は細くて短いから展翅板に乗らない。下に綿を敷いて整形する。(-。-;)メンドクセー。
蝶と違って羽のバランスもよくワカンねぇ。これであってるのか❓蛾の展翅なんてした事がないから自信ねえっぺよ(´-ω-`)

2頭目はもう面倒くさいので、前肢の整形はパス。

ここまでが間違いなく♂だろう。
そして、♀らしき個体にとりかかる。

一回り大きいし、下翅の紋の色も違う。上翅も丸みがあるから、多分♀に間違いないだろう。

随分と上下両者の間が空いてしまった。
蛾なんて初めて展翅するし、感覚がワカンねぇよ。

それにしても、小太りくんでブッさいくだ。
まるで小っちやいアブラゼミみたいじゃよ。♂はニイニイゼミっぽい。標本にすると全然ミヤマセセリに似てないやんか。これがミヤマセセリに擬態してるって、ちゃんちゃらオカピーやで。
まあ、そこそこ似てれば天敵の鳥は間違えてくれるのかもしれないけどさ。

後日、気になったのでニホンセセリモドキの事を調べてみた。

昼行性の蛾でセセリモドキ科に属し、やはり日本特産種だった。
分布は北海道から九州と広いが、局所的。特に西日本では少なく、分布がかなり限定されるらしい。
驚いた事に羽化は春ではなく、7月らしい。羽化後ほとんど活動することなく、夏から冬を過ごし、翌年の早春3~4月に現れ、求愛・交尾・産卵するようだ。
だったら何で7月に羽化すんのか意味ワカンねえぞ。その間、エサとかどうすんのよ❓別に越冬は蛹でもいいんじゃねえの❓エサいらんし…。
でも、そもそもエサじたい食ってんのか❓謎だわ。
蛾って、口が退化していて、エサを摂らないものもいると聞いた事があるからなあ。

さらに変なのは、♂は後脚にヘアペンシルを持ち、そこからフェロモンを出して♀をおびき寄せるというのだ。

(出展『一寸の虫にも五分の魂』)

下から毛の束みたいに出てるのがそれだろう。
それにしても、こういう生態写真を撮る人は偉いと思う。相当な忍耐と技術が必要に違いない。自分にはとてもじゃないが真似できそうにない。
それにしても、脚からヘアペンシルって驚きだ。蝶にもマダラチョウの仲間のようにヘアペンシルを持つものはいるが、お尻の先っちょにある。体内から出すんだから、それなら性フェロモンとしては理解できる。それがこの期に及んで何で脚なんだ❓蛾界ではそれが普通なのか❓いやいや、そもそも蛾界にヘアペンシルを持つ蛾って、他にどれくらいいるのだ❓まさか、そんな奴がウジャウジャいるワケではあるまいな。蛾はフェロモン軍団❓
とにかく、脚は体の外だぞ、ホンマにフェロモン出とんのかいな❓

因みに、解説文には成虫は渓流沿いの日溜まりで見られるとあったが、見た場所は渓流沿いではなく、登山道だった。明るくて平坦の所なら何処にでもいるといった感じだった。
ただ、小さいので注意して見ていないと目に入らない。存在を知らないと、それが蛾だとは認識できないのではないかと思う。そんなワケだから珍品となっているのかもしれない。正直、一杯おったぞー。こんなもん、真剣に探せば何処にでもおるんちゃうん❓

食草はムラサキシキブ、コムラサキなどのシソ科(クマツヅラ科から最近移された)で、どうやら毒があるようだ。
ネットで見ると、その事からニホンセセリモドキがミヤマセセリに擬態(ミューラー型擬態)しているのではなくて、ミヤマセセリがニホンセセリモドキに擬態しているのではないかと推察されている方が何人かおられた。
御明察でしょう。ミヤマセセリの食樹はクヌギ、コナラ、カシワなどのブナ科で、毒が無いもんね。
それにしても、ホント擬態関係なのかね❓見れば見るほど、あまり似ているとは思えんのだが…。
でも、森さんはミヤマセセリと飛び方はソックリだと言ってたなあ…。しかし、その日はミヤマセセリを1頭も見なかったからワカンねえや。

後日、兵庫県三田市でミヤマセセリを見たけど、確かに飛び方は似てるっちゃ似てる。けれども明らかに大きさが違うから、見間違えるという事は少なくとも自分には一度たりとも無かった。たとえ同じ場所で両種を見たとしても間違わないだろう。こんな擬態精度で黙らされるかっつうーの( ̄З ̄)

【Erynnis montsnus ミヤマセセリ】

(2017.4.17 兵庫県三田市香下)

上が♂で、下が♀である。
改めて、あんま似てねぇ~。
ホント、擬態なの❓
謎だ。

最後に或る解説文から衝撃的記述を見つける。
何と、そこには「♀は♂と比べて下翅内側の3紋が連続して帯状になる。」とあるではないか。
えっ( ・◇・)❓、確か♀らしき個体は紋が繋がってなかったような気がする。

確認してみる。
ハッ( ̄□||||❗❗
ノ━━ (@_@;) ━━━ッ❗❗
シーサンプーターラバラバ~、繋がってないやんけー。
って事は、これは♂なのか…❓
じゃあ、♂に2つのタイプが有るってこと❓
しっかし、探しても♀の画像が見つからーん。
ん~( ̄▽ ̄;)、謎だ。
ニホンセセリモドキ、謎の小太りくんだよ。

                おしまい

追伸
やはり、ニホンセセリモドキは珍しいらしい。
森さん曰く、今年はたまたま大発生だったようだ。『毎年、福井には来るけど、いつもはあないに沢山おらん。』とおっしやっていた。森さんの言なら間違いないだろう。
それに、後日に武田尾駅で会った神戸大の蛾屋の子にニホンセセリモドキの話をしたら、小さい頃から蛾を追い続けているのにも拘わらず採った事がないって言ってた。彼曰く、珍品らしい。ベテランの蛾屋が言ってるんだから信用に値するだろう。
場所を詳しく教えてあげたら、『明日は用事があるから無理ですけど、明後日には絶対行きます❗』と力強く言っていたから、自分なんぞが思っている以上に珍しいんだろね。

え~、♂か♀か問題だけど、一応ですけど解決つきました。
どうも気になるので、ジュンク堂書店に行って「日本産蛾類標準図鑑」で調べてみたら、ニホンセセリモドキの♀の紋は連なっていなかった。自分の採ったものと似てる。
つまり、♀だと思った個体は矢張り♀である可能性が高い。推察すると、近縁種キオビセセリモドキ Hybleaea pueraと混同されているのではないだろうか❓

【キオビセセリモドキ】

出展
http://www.jpmoth.org/Hyblaeidae/Hyblaea_puera.html

(註1)福井県南部にギフチョウを採りに行った
拙ブログに採集記『2017 春の女神に会いにゆく』があります。そこにもニホンセセリモドキが登場します。

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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