『西へ西へ、南へ南へ』19 さらば、奄美

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蝶に魅せられた旅人アーカイブス
2012-08-31 00:22:19

 

       ー捕虫網の円光ー
      『西へ西へ、南へ南へ』

     (第十五番札所・さらば、奄美)

 
2011年 9月21日

語るにたりない。
語りたくもない。
だが、語らねばならない。

樹間に涌く、無量の感に涙しぼり
地に満つる落葉や雑草にも
無情の声を呑み
天かける白雲に
よしや、骨肉ここに枯れ果つるとも
9月の太陽は燦として
今、天上にある
されば、膝を曲げ、頭を垂れて
奮然、五体の祈りをこめよう
五臓六腑の矢を放とう

(奄美出身・泉芳朗の詩より抜粋、一部改変。)

寒くて、目が覚めた。
昨日の夕方から急激に気温が下がった。暑くて眠れなかったのが嘘のようだ。
いよいよ奄美にも本格的な秋が訪れたみたいだ。

午前7時。最期の仕度をする。
アカボシゴマダラの♀の完品を何としてでも採りたい。いや、採らねばならぬ。

迷ったが、今日も根瀬部に行こう。
上手くいって昼過ぎ迄にカタがつけば、他の場所に転戦するつもりだ。

数えてみれば、奄美にもう12日間もいる。大阪を出て、いつの間にか2週間を越えてしまった。

8時半に小宿の柑橘畑に着いた。
例によって、畑の持ち主のオバアに挨拶して中に入る。

(-“”-;)おらん…。樹液にも来てない。

知名瀬をチラッと経由して、根瀬部へ。
ここでも畑仕事中のおじー、おばーに挨拶する。
奄美の人達は、みな親切だ。

此処が一番早い時間帯から翔んでいると読んだが、矢張り朝昼は翔ばんのか…。

仕方なしに、採るのを半ば無視しがちだったツマベニチョウ(註1)やナガサキアゲハ(註2)、ウスキシロチョウ等をクールにシバき捲る。
昨日は二日酔いのせいでスランプがちだった。ゆえに慎重になりすぎたきらいがある。だから今日は何も考えずに見たら即ネットを振ることにした。
大体、迷うと外す確率が高い。だが、迷わずに済む相手はつまらない。あれほど憧れたツマベニチョウも今や百発百中だ。それはそれで半分悲しいのだが…。

午後1時。待望のアカボシゴマダラの♀が現れた。
木立を抜けて、川の対岸の枝先に止まった。
デカい。明らかに♂よりデカい。しかも、多分完品。
慎重に網を延ばしたが、半分も距離を詰められずに感づかれて翔んでいってしまった。
30分後、近くのエノキの上を滑空しているのを発見。しかし、微妙に届かない。
何だか腹が立ってきたので、♂は全部空中でバスバス、シバいてやった。

夕方4時。最大のチャンスが訪れた。
広場にスウーッと♀が降りてきた。
だが、目の前に停まっていた軽トラが邪魔で躊躇してしまい、結局一度もネットを振らずに終わってしまった。
振らないと入らない。採れるわけがない。
外す事を恐れてただ慎重になっても意味がない。木偶(でく)の坊だ。軽トラをブッ叩いてでもダメ元で振るべきだったのだ。そんな簡単な事も解ってない己の愚かさに反吐が出る。

イワカワシジミも網に入ったのに枝にぶつけてネットがひっくり返り、
(;_;)/~~~バイバーイ。

惨敗。見た蝶で採れなかったのは久し振りだ。心がポッキリ折れて修復できない。
五臓六腑の矢を放つことさえ出来なかった…。

ここは谷状地なので、4時半には日が陰ってしまい、ジ・エンド。

風が冷たい。
秋風が沁みる。

又、奄美に来いとゆうことなのか…。
確かに奄美は、良いところなんだけどね…(ノ_・,)

そして、今日も脇田丸へ。
少し漁があったみたいで、鰹とシビ(キハダマグロ)の良いのが入ったらしく、それを刺身で貰う。

(鰹の刺身(390円))

普段食っている鰹の概念が打ち砕かれた。脂は乗っていないのだが、もちもちの食感で酸味と旨味が渾然一体となっていつまでも口に残るのだ。まるで別物、違う魚みたいだ。

(シビの刺身(390円))

こちらは鰹に比べあっさりしているが、奥にまた違った旨味があって中々のもの。マヨネーズ醤油も合う。

そして、外せないハリセン(アバス)。
実物を見せてもらったが、こっちのは巨大である(あとでよくよく考えたのだが、多分ハリセンボンではなく、ケショウフグかモヨウフグではないだろうか?)。

飲んでいるうちに、段々帰りたくなくなってきた。このまま帰るのも悔しい。
思いつめ始める。
真剣に残る事を考えた。3分の2くらい残る方に傾きかけた。
だが、天気予報を確認して諦めた。
明日の天気は決して良くない。

今日の支払いは、1370円。

大阪行きの船が着港するのは、午前3時半。
もう、11時半だ。そろそろ帰ろう。

この時間だと帰って用意して、眠らずに港に行った方がいいかもしれない。
みんなに別れを告げた。

さらば、奄美。
良い島だったよ。

                           つづく

(subject)
蝶の画像は原文では写メだったんだけど、今回は割愛しました。なぜなら、この時に撮った画像が無くて、他の産地の写真を使ったからです。でも、ツマベニチョウなんかは亜種だし、ナガサキアゲハも多分どこか(海外?)の比較的白い個体の画像を使ってしまったと思う。理由は、その頃に配信していた人たちは蝶屋ではなく、一般の人たちだったから、まあだいたいどんな蝶だか解ってもらえればいいやと思っていたのです。とはいえ、標本は何処かにあるのだが探し出すのが億劫なので、図鑑から失敬させてもらいまする。

【ツマベニチョウ】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

所謂(いわゆる)、スター蝶の一つ。
南国の女王と言えば、この褄紅蝶である(因みに沖縄本島編で出てくるのは、南海の女王です)。
九州南部から沖縄にかけて分布し、日本のシロチョウ科の中では一番大きくて華やか。
翔ぶスピードも直線的で速く、力強い。ゆえに一般的にハイビスカスなどの花に来た時くらいにしか採るチャンスはない(今回は、結構空中戦でシバいたけど)。
そして、そのハイビスカスに最も似あう蝶でもある。
ツマベニチョウは、初期の八重山編に出てきます。彼女のエピソードはそちらに詳しく書いております、多分。(因みに、この八重山編は店のお客さんに配信されていたもので、このブログには掲載されておりませぬ)。

奄美大島・沖縄本島のものは、前翅の湾曲が強く、♂の橙赤部分が第8室にまで及ぶことにより、それぞれg.liukiuensis、g.conspergataとされてる。
けど、差は軽微だし、個人的には別に亜種にする程の事でもないような気がするんだけどなあ…。

【ナガサキアゲハ(長崎揚羽)♀】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

こっちの♀は沖縄本島と並んで特別に白く、飛んでいる姿はまるで優雅な貴婦人のようだ。
小さい頃は関西では迷蝶で滅多に見る事は出来なかったが、地球温暖化?で分布を拡げており、最近は関東地方くらい迄到達してるんじゃなかろうか?

一応、本土のものも図示しておこう。

(出典『日本産蝶類標準』)

見た目はかなり違うが、亜種区分は特にされておらず、日本産亜種(Papilio memnon thunbergii)として一本化されている。
因みに西表島産のモノが最も白いのだが、絶滅して久しい。

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

そういえば、標本の展示即売会で120万円で売りに出されているのを見た事があったなあ…。

【ウスキシロチョウ】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

日本では南西諸島に広く分布し、本土でも迷蝶として採集される事、しばしばである(特に九州)。
しかし、食樹(ナンバンサイカチ、ハネセンナなど)が無い事から定着はしないようだ(気候的に育たない)。しかし、園芸種ゴールデン・シャワー(オシッコの事ではないからねー。ナンバンサイカチの英名です)が改良されて寒さに強いものが生まれれば、わからない。綺麗な花だから人気が出るに違いない。

(2015年 タイ・チェンマイ)

そうなると、あっという間に日本全国に拡がり、ウスキシロチョウも土着するかもしれない。でも、ウスキシロチョウなんか増えても蝶屋でさえ喜ばないかもしれない。沖縄方面に行けば普通種だし、さしてキレイではないからだ。

【鰹の刺身】
鰹は近海ではあまり獲れないから、輸送の段階でどうしても味が落ちてしまうんだろうと思う。
高知や和歌山の周参見なんかの現地で食べる鰹が旨いのは、比較的近海で獲れるからなのかもしれない。

【シビの刺身】
板前の竹さんにはキハダマグロの別名だと言われたが、シビマグロのこと。味も見た目もキハダマグロとは明らかに違っていたから間違いないだろう。
シビは紫尾の意だと思う。多分、尻尾が特徴的なんだろね。あと、確かマグロそのものをシビと呼ぶ地方があったような気がする。間違えてたら御免なさい。

気になるし、調べてみた。
(@_@;)あちゃー、調べれば調べるほどワケワカンナクなってきた。
取り敢えずシビマグロという種類の魚はいなくて、マグロの地方名、もしくはマグロの若魚なんかをそう呼ぶらしい。しかし、クロマグロの若魚とする記述もあるし、キハダマグロ、ビンナガマグロの若魚とするという説もある。
(# ̄З ̄)何なんだよ、それ。納得いかねえよ。気になって、今晩眠れないじゃないか。
意地になって更に調べると、鹿児島ではキハダマグロやビンナガマグロの若魚をそう呼ぶようだ。
まあ、この見た目と味の記憶からすると、多分ビンナガ(備長)だったと思うんだけどね。因みに、備長を音読みしてビンチョウマグロと呼ぶ所も多いようだ。
魚の地方名ってあり過ぎてワケわかんねえよなー。時々、統一したらどうだと思うのだが、チヌがクロダイになったら、それはそれでまたさみしい。まあ、地方名を無くしたら、何だか味気なくてツマンナイかもしれない。このままでいいやと思う。何でもかんでも統一するのが良いというワケでもあるまい。効率だけが全てではないのだ。

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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