台湾のカナブン

 
どうも気になるので、去年と今年に台湾で採ったカナブンを一同に集めてみた。

むう~(;゜∀゜)、もしかしてコレって全部別種とちゃうのん?

直感的と云うか、本能的に違うと感じたのだ。
まあ、採った時にも違和感は感じてたんだけど、すっかり忘れてた。今回一同に並べてみて、改めてそう感じたってワケ。

コレは説明し難(にく)いのだが、自分には僅かな差異を敏感に感じとる能力が生まれついてあるらしい。

昔、晩飯をつくる為に女の子と魚屋に行った事がある。忘れもしない。家呑みで鯛しゃぶでもつくろうということになったのだった。
その店には二種類の鯛の刺身が並んでいたのだが、一方は新鮮で、一方はややヘタっている感じだった。
当然、彼女は新鮮な方を選ぶと思っていたのだが、なんと無造作さにヘタっている方を選んだ。
『えっ( ゜o゜)?えっ( ; ゜Д゜)?、何でそっちなん?』と慌てて言った憶えがある。
彼女曰く、『どっちも一緒やん!』だった。
一応、差違を説明したけど、どうやら理解してなさそうだった。多分、彼女には違いが見えていなかったのだろう。そこで初めて、人によって目利きの有る無しというものがあるのだと知った。
芸能人に、「この2つのイチゴ、どっちが美味しいイチゴだと思いますか?」などと問う番組をたまに見かけるが、アレがまさにそう。
あんなのパッと見、映像を通してでも右側が艶々してるし一発でワカルと思うのだが、どうもワカンナイ人にはその艶々が全く見えていないようなのだ。つまり、見えない人には見えない世界というのが厳然とあるのだ。だから、あの時の彼女に罪はないと思う。

ものの本で読んだけど、そういう鋭敏な能力は幼少期に形成されるらしい。豊かな環境とそれを感じ取る本人の感性があってこそ、そういう能力は育まれるようだ。そして、それは大人になってから鍛えようとしても育たないとも書いてあった。きっと、大人になっちゃうと、そういうシナプスが繋がらないんだろね。
そういえば自分のガキの頃はもっぱら外で遊んでて、セミやカブトムシ、カエルだのザリガニだの生き物全般を必死になって追いかけ回していた。それとその鋭敏な能力とやらは無関係ではあるまい。
知らず知らずのうちに、美は生き物の細部に宿ることを学んでいたし、今思えば、その時の風や太陽、草木の匂いが五感を育むのに役立ったのに違いない。

う~ん(_)、のっけからお得意の脱線だ。
久し振りに新しく長文を書くとなると、やっぱり脱線癖がモロに出るね。何を言わんかやが、どんどん逸れてゆく気(け)が自分にはあるようだ。どうやら会話でもその傾向があるらしい。これじゃ、女性同士のオチのない会話と変わらんなあ…。
でもまあ女性とは違って、ちゃんと路線修正してブーメランみたく元の話には戻ってはくるんだけどね。

とにかく、オイラは蝶屋(蝶専門)なので甲虫の事はよくワカンナイ。でも、気になるものは調べたくなる。性格上、昔から何者なのかを特定できないのはイヤなのだ。きっと物事に意味付けを必要とする人種なのだろう(めんどクセー性格だ(笑))。

だが調べようとも、当然ながら台湾の甲虫図鑑なんて持ってない。世の中にそんなものが存在するのかさえもワカンナイ。よしんば有ったとしても、それを閲覧できる手法が全然ワカンナイ。また、たとえ閲覧できたとしても、表記される言語が外国語ならばお手上げだ。

と云うワケで、取り敢えずネットで検索してみた。
だが、そもそもカナブンの中国語名がワカラン。学名もワカンナイからゼロからの手探りだ。ネットでマイナーなものを探す場合、検索するのにもワードセンスが必要だと痛感したよ。

あれこれ試した末に、ようやく『虎甲蟲金龜子圖鑑』というサイトにヒットした。

先ずはコイツから調べてみよう。

なぜ一番手にもってきたかというと、この赤いカナブンが一番異質だと思ったからだ。
しかし、この赤色が種を分ける決め手ではない。種によっては、同種なのに様々なカラー・ヴァリエーションを持つものがいるからである。日本のカナブンでも色の幅はそれなりにあるようだから、色の重要度はそれほど高くはないだろう。
他と違う種類だと感じたのは、やや大きめというのもあるが、最も気になったところは背中だ。何となく他のカナブンと比べて平べったくなくて、盛り上がった感じに見えたのだ。それに何だか毛深い。

赤いカナブンは他にもいたが、見た目でわりかし簡単に種類を特定できた。

種名は、Torynorrhina pilifera。
台湾名は「毛翅騷金龜」となっている。
字面(じづら)からいって、毛が特徴的な種類なのだろう。たしかに尻の辺りに毛がモゾモゾ生えているから間違いなかろう。ザッと見たところ近似種もいなさそうだ。
因みに、(少)と書いてあったから、普通種ではないと思われる。実際、コレ1頭しか見てないしね。

後から解ったことだが、和名は、まんまのケバネカナブン。亜属名が他のカナブンとは違うし、台湾ではこの亜属はコイツのみの1種しかいない。カナブンの中ではかなり異端児なのではないかと思う。一番異質だと感じたのも頷けるかな。

お次のターゲットはコレ。

黒いカナブンだ。
このカナブンが一番小さい。
そういえば展足してくれた東さんが、『こんなカナブン、台湾にいたかなあ?まるでアフリカ辺りにいるカナブンみたいだね』と言ってたなあ…。もしかして、まさかまさかの新種だったりして(о´∀`о)

黒いカナブンは何種類かあったが、コレも決め手は背中だった。
コチラは逆に背中がどれよりも平べったい。その特徴で種名が特定できた(なあ~んや、新種とちゃうやんけー(# ̄З ̄)、ボケ~)。

種名はたぶん、Thaumastopeus shangaicus。
台湾名は「暗藍扁騷金龜」となっている。
これも、その字面で確信できた。「扁」と云う字は扁平を意味するから、それがこの種の特徴を表しているのは容易に想像できる。
それに、一見して真っ黒だが、角度によれば極濃の藍色にも見えるというのも名前どおりだ。
図鑑には体長も書いてあって、24~25㎜と台湾のカナブン類の中では一番小さいゆえ、間違いないとみた。
和名はワカンナイので、アンコクセイウン(暗黒星雲)ヒラタカナブンと勝手につけちゃおっと(笑)。
いや、コクダン(黒檀)ヒラタカナブンの方がカッコいいか?(笑)。

コレも(少)となっているので、少ない種類なのだろう。1頭しか見かけなかった。

ここで、ふと思った。『虎甲蟲金龜子圖鑑』のみだけでは、その記述が本当に正しいかどうかはわからない。ネットの情報は、その道のプロが書いたとは限らないのだ。間違った情報が流れされている可能性だってある。だから他のサイトも探してみる事にしたっぺよ。

ホイホーイ(*^ー^)ノ♪、ありましたよ~ん。
『台灣産金龜子總科索引(随意窩日誌)』というサイトが見つかりましたよ~。
こっちの方が、より詳細に台灣のコカネムシ科の事が書かれているぞなもし。

おっ(;・ω・)!、コイツ、外来種じゃんか。
2002年に最初に見つかって、どうやらそのまま土着したらしい。
なあーるへそ、だから東さんが「こんなカナブン、台湾にいたかなあ?」と言ったワケだ。
ふ~ん、調べてみないとわからない事ってあるよね。こういったような意外な発見があるのが、調べものをするところの面白さだね。

続いては、青いカナブンの登場ですよー。

青いカナブンなんて全くアタマに無かったので、去年初めて採った時は結構感動したなあ…(この時の採集記は、アメブロに連載していた『発作的台湾蝶紀行』の中にあると思う。たぶん、43話?『白水さん大活躍、ワシ虐待おとこ』の回じゃなかったかな?間違ってたらゴメンなさい)。
日本には青色のカナブンは基本的にはいない。唯一、長崎県は五島列島の福江島で稀に見られるくらいだ。だから、青いカナブンには密かに憧れていた。
そもそもワシ、青色に対しての感受性がまっこと強い男だかんねー。青くて綺麗なものには無条件に惹かれる体質なのら。ゆえにスッゴく嬉しかっんだと思うなー。

台湾には、青いカナブンが2種類いるようだ。
と云うか、青色のタイプが出現する種が2種類あると言った方がよいだろう。どうやら種として青色のみのカナブンはおらへんみたい。たぶん青色系のヤツは、劣性遺伝って事になるんだろなあ。

コレは割かし簡単に同定できた。一つはツノカナブン Trigonophorus rothschildi(台灣扇角金龜)という角のある種類だから、自(おの)ずと種名が判明したってワケ。

学名は、Anomalocera olivacea。
台灣名は「細脚騷金龜」。和名にすると、ホソアシカナブンってところか。
どうやらこの「騷金龜」ってのが、台灣ではカナブン類の事を指すみたいだね。
『台灣産金龜子總科索引』で、名前に騷金龜とつく種類を数えてみたら、全部で10種いた。ツノカナブン類も入れると12種類だ。日本にはカナブンの仲間は5、6種類くらいしかいない筈だから、蝶とかと一緒でやっぱり台湾の方が種類数が圧倒的に多いんだね。

(特)と書かれてあるのは、特別珍しいからなのかな?
それとも台湾の特産種って事なのかなあ?
でも、他に(少)とか(普)という記述しかないから、これは個体数の事を表しているというのが妥当な線でしょう。(特)はメッチャ珍しいヤツだということにしておこう。その方が楽しいしね。

問題は、その隣の緑色のヤツ(小さい方の緑)だ。

『虎甲蟲金龜子圖鑑』によれば、コレもホソアシカナブンだと思われるが、何だか青いヤツとは形が違う。青いのはズングリ体形だが、緑のはシュッとしてて、よりホッソリした形なのだ。それに青いヤツの尾端は尖っているけど、緑のはトンガリが無いように見える。

『台灣産金龜子總科索引』の方も見てみる。
でも、形は緑色の方がホソアシカナブンの特徴をよく表しているような気がする。
( ̄ー ̄)ん~、じゃあ青いヤツは何なのだ?メスか?
でも、尾端が尖るのがホソアシの特徴のようだぞ。
となるなと、はあ(゜〇゜;)❓じゃあトンガリが無い緑のヤツは、何者なのだ?

さらに調べていくと、かなり似たような緑色のカナブンがいる事が解ってきた。
Rhomborrhina formosana 台灣緑騷金龜という種類だ。『虎甲蟲金龜子圖鑑』には載ってなかったし、ニャン(ФωФ)だか珍品の匂いがするなあ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
(出展 『台灣産金龜子總科索引』)

あらま( ゜o゜)、けど見た目ほぼ一緒やん!
何じゃそりゃ(?▽?;)顔で読み進めていくと、区別の仕方らしき画像が見つかった。
むう~、どうやら頭の一番先が横一線ではなく、内側にやや湾曲しているのが本種らしい。
早速、見比べてみよう。
( ´△`)アッカーン、真っ直ぐやからホソアシカナブンやあ。

因みに、このホソアシカナブンは『台灣産金龜子總科索引』によると、「本種色系多變 由緑色系最為常見。」と書かれてあるから、たぶん多型色(緑、青、黒など)を呈し、中でも緑色のものが一番多く見られるという事なのだろう。でも、緑色のモノでも2度程しか見ていないから、そう簡単には会えない種類だと思われる。
また「活體具一種特殊的體味」とも書かれていた。
これは、おそらく体から特殊な匂いを放っているという意味だろう。でも、特別何かの匂いがしたという記憶はない。特殊な匂いって、どんなんだろ?美とか好とか云う字は入ってないから、たぶん臭い系だな。

最後は一番デカイ奴である。

この画像だと茶色がかって見えるが、実際は緑色の光沢が強いので、別な画像も添付しておこう。

ついでに、もういっちょイッとこう。

何れも同じ個体だが、光の当たり具合で微妙に色が変わるのだ。

ここまでくると、もう消去法で種名は決まってくる。
たぶん、Rhomborrhina splendida 金艷騷金龜。 キンカナブンという事になろう。
キンカナブンは、日本のカナブン(Rhomborrhina japonica)に一番近い種類で、台湾におけるカナブン類の最普通種だ。実際、何処にでもおる。フルーツトラップにアホみたいに群がってきやがるので、マジでクソ邪魔な奴らだ。蝶と一緒に網に入ってしまうと、翅が損傷する元凶になるから忌々(いまいま)しい存在でもある。
そういえば思い出したよ。
キイーッΣ( ̄皿 ̄;;、オドレ、貴重なスミナガシの♀が台無しやないけー。おまんら全員ジェノサイドじゃあ!
オジサン、怒りに任せて鬼神の如く千切っては投げ、千切っては投げしてやったものよ。
ハーハー( ̄▽ ̄)=3、ゼェーゼェー(´△`|||)、この最下層民甲虫どもめがぁー。

そんな糞カナブンどもが群がる中に、今年は一風変わった奴がいた。
それが上記した個体だ。他のキンカナブンに比べて明らかにデカくて、色もキンカナブンのような中途半端な茶色っぽい緑ではなく、光沢の強い緑だったのだ。だから、別種の可能性もあると思ってワザワザ持って帰ってきたのだった。

でも今回調べたところ、キンカナブンに極めて近くて、より大型のカナブンはどうやら台湾にはおらんようなのだ。ってことは、キンカナブンって事にせざるおえない。
(  ̄З ̄)むう~、でも『虎甲蟲金龜子圖鑑』には体長30~32㎜とあるけど、この個体は何と37㎜もあるんだじょー。デカ過ぎじゃろう。
こいつ、ホントにキンカナブンなの?
その大きさを解ってもらう為に、普通サイズのキンカナブンと一緒に並べたいところだが、あちゃー、全部進呈してもうたがなあー。
くちょー(´д`|||)、1つくらい普通のもキープしておくべきだったよ。

コレもさあー、
あの黒いカナブンみたいにさあー、
もしかしてさあー、外来種とちゃうのん(-“”-;)?
 

                   おしまい
 

追伸&補足
一瞬、中国からヒマラヤ辺りのカナブンを調べてみたろかと思たけど、やめた。考えてみれば、ワシそこまでカナブン好きとちゃうもん(・┳・)

補足その1
ケバネカナブンの仲間はチベットとか大陸方面にもいて、そいつらは多色系らしくて青や緑色のもいるらしい。やっぱ、色はアテにならんな。

補足その2
カナブンの英名は、ドローン・ビートルという。
英語で書くと、Dorone beetle。Doroneの綴りは、あの遠隔操作無人航空機のドローンと同じだ。しかし、命名された頃にドローンなんぞは当然まだ存在していない筈なので、別な意味あいから名付けられたかと思われる。
Doroneを辞書でひくと、
①雄の蜂。 ②居候(いそうろう)、のらくら者、ジゴロ(これは雄バチが巣にいても全く働かず、生殖の為のみ存在する事からの由来だろう)。③ブーンという蜂の羽音。
と書いてあった。
多分、③のブーンという蜂の羽音からの命名と推測される。まさかカナブンがジゴロでもなかろう(だったら笑うなあ。カナブンくんの事、断然リスペクトしちゃうよ)。
カナブンの飛翔力は甲虫の中ではかなり強い方だ。実際、飛んでいる時はブーンという羽音がハッキリ聞こえるくらいだから、コレは間違いないだろう。
あっ、ドローンの命名の由来もこの蜂の羽音からじゃないかな?ドローンも飛んでる時は、蜂の羽音みたいな音を出してるもんね。