カツカレーとくれば、当然次は男のロマン『カツ丼』であろう。
カツカレー用に買った豚肉がもう1枚残っているとあらば、他の選択肢などあろう筈もない。
何てったってカツ丼は「男の浪漫」なのである。男たるもの、カツ丼の一つや2つ作れんでどうする。
さあ、壮大なる物語へと突入じゃ。
①先ずは丼用のかえしをつくる。
鍋でお湯を沸かし、そこに顆粒の鰹だしと昆布だしを加える。もちろん鰹だしだけでもよいのだが、そこが俺流のこだわり。昆布だしを足すことによって、より旨みが引き出されるのだ。
酒、味醂を加え、薄口醤油で味を整える。味がぼやけていると思えば、塩で調整されたし。
②玉ねぎを切る。
薄めと厚めの2種類に切り分ける。これはクタクタとシャキシャキの二つの食感を楽しみたいが為である。
玉ねぎは切ってから15分以上放置する。
いくら放置プレー好きだからといって、玉ねぎまで放置したいと云う変態願望はない。
これは、暫く置くことにより玉ねぎの有効成分である硫化アリルを安定させる為である。こうしておけば加熱しても硫化アリルが壊れないのだ。切ってすぐに熱を入れると成分が壊れてしまう。もちろん玉ねぎを水に晒すなんぞは言語道断。大事な成分が水に流れちゃうよーん。
参考までに言っとくと、硫化アリルには抗酸化作用や血流を良くする働きがあり、ビタミンB1の吸収率を高め、新陳代謝を高めるとも言われている。また、糖尿病の血糖値を下げ、発ガンの抑圧にも効果があるようだ。おまけに中性脂肪と悪玉コレステロールを下げ、体内の有毒物質まで排泄するらしい。
玉ねぎって、どんだけ凄いねん(◎-◎;)❗
③それをかえしに投入し、6割がた火が通ったら一旦火を消してそのまま味をなじませる。
出来ればだが、味をよりなじませる為にそのまま一晩冷蔵庫に安置すれば猶良し。
④トンカツの製造にとりかかる。
これは前回のカツカレーの回に詳しく書いたので、はしょります。
一応、リンク貼っとくか。
カツの準備をしながら、頭の中でカツ丼にまつわる様々な想いが浮かんでは消えてゆく。
昔はうどん屋や定食屋に行けば、必ずと言っていいほどカツ丼とうどんを頼んだものだった。
男一匹ド根性、脇目もふらずに一直線。
男は黙ってカツ丼なのである。
この丼物と麺類の組合せは男の矜持である。
特にカツ丼とうどん(もしくはラーメン)のツートップは、女子供では真似の出来ないボリュームだからこその、男のプライドなのだ。
これは、ただ物量にまかせて相手を圧倒すると云う幼児的且つ単純な発想から来るものだが、男とはそういうものである。つまり、バカなのである。
男は強くなくてはいけない。
ガッツリ食えなければ生きている資格がない。
男たるもの、ワッシワッシとカツ丼をかっこみ、ズルズルと麺をすすり、隣の彼女の目を丸くさせねばならぬのだ。
つまり、カツ丼とは男の食いもんなんである。
でも、ある日突然その黄金の組合せが苦しくなった。
食うのが辛かったのだ。正直、残したいと思った。
その時、悟った。もう自分は若くはないのだと。
謂わば、この黄金タッグは、若者が若者であるがゆえの特権であり、アイデンティティーでもあるのだ。
おいちゃん、この時は打ちひしがれましたなあ…。
俺が俺でなくなった…。自己同一性の崩壊である。
全盛期だった以前の自分とは違うのだという、その現実をまざまざと眼前に突きつけられたようなものだ。
多分、この瞬間にオイラはニイチャンからオッチャンと呼ばれるモノになったのだと思う。
その日は意地で食いきった。しかし、その後何度もトライしたが、結果は同じだった。キツいんである。
やがて、カツ丼の横に控えていたうどんは私の前から去っていった。
good-bye(;_;)/~~~、うどんさん。元気でやってくれ。
友を喪ったような気分だった。
うどんはカツ丼というヒーローを支える強力なサブキャラだったのだ。王将に飛車角、三国志の関羽と張飛みたいなもんである。あっ、これは2つと二人か。
ならば、ルパン三世の次元大介でどうだ。あっ、これも厳密的にはもう一人いるわ、五右衛門が。
じゃあ、キン肉マンのテリーマンでどうだ❗
いい線いってると思うけど、男しか解らんか…。
では『ベルサイユのばら』のオスカルとアンドレの関係でどうだ。これなら女子にも解るというもの。
何?、古い?
確かにそうだ。でも、オジサンは最近のはワカンナイんである。調べれば、そういうのも見つけられるかもしれない。けど、んなもん知るかっ!(ー。ー#)。
若者にはおもねるつもりは全くない。
知りたかったら、便利な世の中なんだからウィキペディアででも調べたまえ。
でもよくよく考えてみれば、うどんはヒーローとそれを支えるサブキャラというよりも恋女房みたいなもんではないだろうか?
何人かの女性の顔が浮かぶ。
しかし、どのオネーチャンも寄り添って支えてくれる恋女房という風情ではない。キャラが濃いんである。
まあ強いて云うなら、ふたりか…。
けれど、どっちとも男をつくられてフラれたんだよね。しかも、つきあっててフラれたのはこの二人のみだ。あ~あ、何だかなあ…。
忘れよう。過去はどうあがいたところで変わらない。
やがて、時を経(ふ)ると、カツ丼そのものさえも段々しんどくなってきた。重いんである。
今でもカツ丼はたまに食うが、以前ほど頼まなくなった。もり蕎麦とか鴨南蛮とか渋い系にいく事が多い。それは、ひとえに胃に重いと云う理由からだれう。
カツ丼を食うには、パワーとエネルギーがいるのだ。
悲しい哉、とにかく、男は黙ってカツ丼ではなくなったのである。
そういえば「男は黙ってカツ丼。」って盛んに言ってたのは、腕力作家の椎名誠だったっけ?
彼はたしか又、こうとも言っていた。
「カツ丼を食えなくなったら、男はおしまいだ。」
きっと若者の時の胃袋よりも消化する力が弱まっているのだろう。消化作用が弱い分、胃に残る滞在時間も長い。だから重く感じるのだろう。
老いは、自分にも確実に進行しているのだ。
哀愁だなあ…。いったい幾つまでカツ丼を食い続ける事が出来るのだろう。
そこでモノローグを一旦中断する。
いよいよ、調理も佳境に入ってきたのだ。
⑤卵2個を割り、素早くかき混ぜる。
この時の注意事項は、あまり卵をかき混ぜすぎない事だ。白身が適度に混ざる方がよい。
そして、さらにもう1個卵を割り、黄身だけを取り出しておく。
⑥カツが揚がるのを見越して、かえしの入った鍋を火にかける。さあ、いくぜ。
⑦ここからは時間との勝負だ。怒濤で突き進まねばならぬ。男の料理は豪快且つスピーディーとすべし。
カツを上げて油をきり、ザクザクと適当な大きさに切り分けたら、素早く鍋に放り込む。連続して三つ葉も投与。間髪入れずに、すかさず卵液の半分量を外側に入れてゆく。少し間をおいて、残りの卵液半量を中心に入れて火を消し、蓋をしめて30秒ほど放置。
卵を二度に分けて入れるのは、火のシッカリ入った所と、生っぽい所とを渾然一体にさせる為だ。卵が固まり過ぎるのはヨロシクない。
⑧その隙に果敢に丼を用意し、御飯をよそう。
で、本体をザッとその上に乗っける。あとは黄身を乗せて山椒を散らせば完成❗
う~ん、何かカツが隠れてしまって、カツ丼なのか何なのかワカランような状態になってしまった…。
カツは後乗せにすれば良かったかなあ?
或いは卵を1個だけにして、カツの存在を際立たせるべきであったか?
それともアタマ抜き(築地辺りで使われる隠語で、カツ丼の上の部分(頭)を取ってしまうことに由来する=カツとじ)と言って、ご飯とカツを別々に盛るという作戦をとるべきであったか?
いやいや、それではカツ丼とは呼べないだろう。そんなの亜流だ。男らしくデンと上に乗っけるのが男子の本懐、カツ丼のカツ丼たる正しき姿だ。
ゴチャゴチャ考えてる暇があったら、とっと食おう。
男は黙ってカツ丼なのだ。
インスタ映えを意識して、つい黄身を潰して写メを撮ってしまう。
卵の黄身ドロリは、アイキャッチとして相当強力だとTVで言ってたからだ(でも、全然「いいね」の数は伸びんかった)。
我ながら情けない。およそ男らしくない行為だ。
気を取り直して、黙ってワッシワッシとカッこむ。
(T□T)グスッ、感無量。
見た目はともかく、味は抜群だ。バリ旨だよ。
味だけで言うなら、卵2個半が正解でしょう。
猪突猛進。
そのまま一気に食いきった。
あらためて思う。
やっぱカツ丼って美味いよなあ(о´∀`о)
体調は万全。胃にもたれるといった症状もない。
俺、まだまだ男のカツ丼人生、続けられそうだ。
おしまい
追伸
ついでにつけ足しておくと、カツ丼のルーツは東京・早稲田の蕎麦屋『三朝庵』だそうな(諸説あり)。
大正時代の事らしい。当時は既にトンカツも庶民の間に広まり始めていたから、時代の中で自然な流れとして誕生したのだろう。
因みにこの店は今も健在で、創業当時と変わらずトンカツは近くの店で買ってきて使用しているそうだ。
親父さん曰く、『うちは蕎麦屋なんだ。トンカツが食いたきゃ、トンカツ屋に行きやがれ。』なのだそうな。
中々、剛毅なオヤジさんだ。好感が持てる。