吸血蛾

 
『2017′ 春の三大蛾祭り』の第4話(最終回)の余談で吸血蛾について少し書いたが、何とも気になる。

 
春の三大蛾第4話(最終回)

  
怪蛾オオシモフリスズメの採集記を書いたんだけど、掴んだら鋭い痛みが走ったので、Σ( ̄ロ ̄lll)ウギャ❗、コイツ噛みつきよったあー。おどれ、もしかして吸血蛾かあ~( ; ゜Д゜)❓と謂ったくだりがあったのである。

で、んなワケなかろうとは思いつつも帰宅後に一応調べてみた。

妄想でした( ̄∇ ̄*)ゞ、勿論そんなワケはなかった。オオシモフリスズメは吸血蛾なんぞではござんせん(痛みの原因は本文を読まれたし)。
だいたい、そんな大型の蛾が人の生き血を吸おうものなら、知らぬ者などいなかろう。そげな恐ろしい奴が、このネット社会に於いて世間の人々の口の端にのぼらないなんて有り得ないのだ。

そもそも吸血蛾なんぞはホラー小説や映画・ドラマの空想世界のもので、現実世界にはいるワケないと思ってた。横溝正史先生の世界だすなあ(註1)。
だが、ついでに吸血蛾、Vampire mothでネットサーフィンをしてたら、コレが驚いたこと現実にいたんである。

「ロシアのシベリア地方に棲む蛾で、2008年に発見されたらしい。この蛾はヨーロッパ中央部から南ヨーロッパに分布する「Calyptra thalictri」という蛾の亜種なんだそうな。若干斑紋に差異が認められるだけで両者の見てくれはほとんど同じだという。だが、ヨーロッパにいる奴は果物の汁を餌としており、血は吸わないとの事。シベリアの過酷な環境が、加速度的に進化を促したのかもしれない。
それにしても、蚊じゃなくて蛾だぜー。そう大きくはない蛾だろうが、蚊よりも遥かに大きい筈だ。となると、当然ながらそこそこの量の血を吸われちゃうってワケだよね❓
ロシア人って、そんなもんに喰いつかれても気づかんのかね❓いくらなんでも鈍感過ぎっしょ(・。・;
何れにせよ、シベリア地方に行かれる予定の方は、お気をつけあそあせ。」

なんて云う解説文らしきものを書いた。
でも、写真も無しで充分とは言えない内容だった。
と云うワケで、今回は写真もちゃんと添付して、もう少し突っ込んで調べてみることにした。

 
(出展『National Geografic News 』)

(出展 上三点共『maghk.com』)

 
もう少し小さいのを想像してたけど、結構大きな蛾だ。こんなのに止まられて血を吸われたら、普通気づくでしょうに(笑)。きっと、普段は人間なんかよりも野生動物や家畜の血を吸ってんだろね。
いや待てよ、ヒル(蛭)みたいに麻酔液みたいなのを注入しといてから、コチラか気づかぬうちにジックリと血を吸いにかかると云う高等ワザを使う手練れやもしれぬ。

どうやら生き血を吸うのはオスだけらしい。これは意外だった。普通は蚊みたいに卵を産む為に栄養が必要なメスが吸血しそうなものなのにね。まあ、オスならばオスの、そこには何らかの吸血理由があるんだろうけどさ。

噛まれた後は皮膚が赤く膨らみ、痛みもあるそうだ。
でも特に表現が強調されてはいないようなので、激烈なる痛みではないと推測する。
痒みに関しては特に記述が無かったように思う。もっともコチラの英語読解力の低さゆえに見つけられなかったやもしれぬ。
今のところ、刺されても病気(感染症)の心配は無いそうだ。しかし、サンプル数は少なそうだから安心は出来ないだろう。後々になって未知の病気が見つかる事だって無いとは言えない。

 
(出展『maghk .com 』)

 
それにしても茶色くて地味な蛾でガッカリだなあ…。
出来ればニシキオオツバメガ(註2)とかド派手絢爛豪華だったり、もしくはタランチュラみたく黒くて毛むくじゃらのゴワゴワした如何にも邪悪です的な姿であって欲しかった。だいたい悪夢のような存在なんてもんは、それなりに特異なキャラというのが相場なのに、茶色一色とは地味過ぎー。全然、想像力が膨らまん。だから恐怖のストーリーが喚起してこない。せいぜい、「恐怖吸血ムササビ男」とかしか思い浮かばんよ。それじゃあ、何だかギャグっぽいもんなあ…。

 
日本語サイト『カラパイア』には、以下のような文章があった。

『フィンランドでは以前にもCalyptra thalictriという血を吸うようになった蛾が発見されているのですが、今回発見された蛾はCalyptra thalictriとは違う進化をしているとフロリダ大学の昆虫学Jennifer Zaspelさんは述べています。
しかし、外見上の差がほとんど見られないため、ロシアの吸血蛾のDNAとの比較分析を来年の1月に行う予定とのこと。果物を食べる蛾が血を吸うようになったのだとすれば、蛾がどのような過程で吸血するようになったのか調べる手がかりになるとZaspelさんは話しています。』

フィンランドで先に吸血蛾が見つかってんのか?
しかも種名はロシアと同じ「Calyptra thalictri 」という学名じゃないか…。だったら、ロシアで新種のVampire mothが見つかったっていう見出しは変だよね。どないなっとんのん❓
上の文章だと、C.thalictriとは違う進化をしていると書いてあると云う事は別種って意味だろ?訳し方にもよるのだろうが、少なくとも亜種って意味だよなあ。
いや、その下の文では外見上の差が殆んど見られないと書いてあるから、別種だとオカシイよね?
となれば、あくまでも亜種の関係なんだけど、現在、両者は違う進化の道筋を辿り始めていると云う意味か?
どちらにせよ、両者の遺伝解析をやるらしいから類縁関係は何れ解明されるだろう。
ところで、このニュースが流れたのはいつだっけ?

あっ、2008年でねえの。結構、古い。
遺伝子解析から既に10年くらいが経過していることになる。その後、DNA解析の結果はどうなったのだろう?

ネットでこんな記事を見つけた(ブログ「揺りかごから酒場まで☆少額微動隊」)。

『種としてはありふれた、日本にもたくさんいるエグリバ(ヤガ)の仲間で、中南ヨーロッパではCalyptra thalictri(ウスエグリバ)として知られるものの一種のようだという。手を差し出したところ、ちゅーちゅー吸い始めたという。動画、痛そう。
何故血を吸う行動をとるのか?フロリダ大の教授は羽根の模様しか形質的な違いの無い近隣の同種が果実を主食としていることに着目、汁を吸う行動の延長上で、この亜種が鉤爪状の針先を持つ吻口を仲間に・・・生殖行動のときにメスがオスに・・・突き刺し、不足した塩分を補給する、といったことから遺伝的に分化していく途上にあるのではないかという。地理的、羽根の模様、そして行動からいってあきらかに新種なのにDNAの違いがはっきりしていない、未だ種として分化していない、まさに進化の途中にある状態だというのだ。
しかし別の可能性として極端に塩分が少ない土地で(繁殖期のメスにとっては幼虫に)ナトリウムを提供するためやむなく行われてきた行動から発展したものかもしれない。他の種の蝶や蛾にもこういったことを行う習慣があるかもしれないとしている。どっちみち、進化の分かれ道になる可能性は残されるわけだけど。』

何と遺伝的には違いが見られないと云うじゃないか❗
同種の亜種関係で、こんなにも生態が変わるってスゴい例だ。今は進化(分化)の途上にあるって事なんだけど、この新たな生態を獲得してから何年くらいで外部形質も変化して完全な別種になるんだろね?興味が尽きないところだ。でも、別種になってる時には、たぶんワシはとうにこの世からいなくなってるよね。下手したら、別種になるのは何千年後かもしれんもんなあ…。

この記事ではオスではなく、メスが吸血するという前提で書かれている。そっちの方が納得だけど、これはメスで確定なのかなあ?

  
吸血蛾というと、イメージがホラー的だから物凄くビビったけど、よくよく考えてみれば世の中には他にも吸血生物が結構いるんだよなあ…。
ヒルにブヨ、アブ、マダニ、ツツガムシ(ダニ)、ナンキンムシ(トコジラミ)、ヌカカ、ツェツェバエ、スナノミ(ノミの一種)etc…。
マダニやツツガムシ、ツェツェバエなんぞは感染症を引き起こすと致死率が高いし、スナノミは足の裏から皮膚を破って侵入して増殖するというから、現実的には吸血蛾よりもコイツらの方が余程恐ろしいよね。
それにしても、上記のうちヒル、ブヨ、アブ、マダニ、ナンキンムシは、オイラ、既に経験済みなんだよなあ…。
あのおぞましき姿のヒルには何度も血を吸われているし、ブヨやアブにも酷いめにあっている。ブヨのせいで耳がボロボロになった事もあったっけ…。あとで物凄く痛痒くなるんだよね。ヒルはまだ痒いだけだから、ブヨの方が断然に後遺症があるのだ。
マダニにも食いつかれた事が数度ある。慎重に取り除かないと頭が残る。そうなると、感染症になりやすいとか、1年くらい痒みに悩まされるとかって聞いたことがある。食いつかれたら、素人はソッコーで病院に行きましょう。
ナンキンムシに最初に遭遇したのはインドだった。
その時は別な人の部屋だったので被害は無し。でも、ラオスでは酷いめにあった。背中を数百箇所も噛まれて、もう死ぬほど痒くて1週間以上痒みがとれなかった。ナンキンムシ、最悪です。

これらの被害にあうようになったのは、ここ最近の7、8年前からである。蝶採りを始める前までは蚊と虻ぐらいしかお目にかかったことがなかったのだ。
海外に行けば、他にも毒蛇に毒蜘蛛、毒アリ、毒草、それに大型動物の熊とか虎とか豹、オオカミ、野象なんて云う遭遇したら命にかかわるような奴等に会う確率だってケッコーあるのだ。
虫捕りって、最悪の趣味だよなあ…。冷静に考えれば、アホだ。でも、愚かにも恐怖よりも虫を捕りたいと云う欲望の方が勝ってしまうのだ。
虫捕り、やめよっかなあ…。全然、わりにあわないや。

                  おしまい

 
追伸
(註1)横溝正史的世界
横溝さんの推理小説に『吸血蛾』という作品があります。映画化もされました。金田一耕助も出てきまっせ。

 
(出展『Amazon』)

 
(註2)ニシキオオツバメガ
マダガスカル特産の世界一美しいと称される蛾。
体内に毒を持っている。

 

 
因みに裏面はもっとゴージャス。
あっ、そういえばまだ展翅してないや。