台湾の蝶19『水色のさざ波』

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台湾の蝶19 タイワンサザナミシジミ

 
シジミチョウの第2弾は、タイワンサザナミシジミ(台湾漣小灰蝶)。
カレンコウシジミと同じく美麗種揃いのTajuria属に含まれる稀種だ。

 
【Tajuria illurgis タイワンサザナミシジミ♀】
(2017.7.1 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
【同♀】
(2016.7.11 南投県仁愛郷 alt.1900m)

 
あちゃー、♂の画像は撮っていないようだ。
たぶん日陰の無い炎天下に長い間いたからだろう。南国の直射日光は強烈だ。殺人的と言ってもよい。晒され続けていると、思考も弛緩。色んな事が面倒くさくなり、ぞんざいにもなる。皆さん、クソ暑いところでの採集には気を付けましょう。って、(#`皿´)タアーッ❗そんなこたあ、別に言いたかったワケではない。本当は展翅写真があるから、まっ、いっかと言いたかっただけだ。何か、のっけからスベりがちであるが、気を取り直して話を進めよう。

 
【Tajuria illurgis ♂】

 
上翅を上げ過ぎた。50点ってところだな。

 
【Tajuria illurgis ♀】

 
♀の方が全体的に白っぽくて、翅形が丸みを帯びるので雌雄の区別は比較的簡単。但し、♂はクロボシルリシジミの♀に似ているので注意が必要である。

和名タイワンサザナミシジミは、裏面の特徴から名付けられたのだろう。

 
【裏面】

 
ん~、ちょっと分かりづらいか❓
他から画像をお借りしよう。

 
(出典『臺灣生命百科事典』)

 
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
たぶん、下翅の線がさざ波をうったかのように見えるからだろう。
サザナミと云う和名は雅(みやび)で悪くない。しかし、タイワンと云うのが邪魔だ。最初に台湾で発見されたワケではないし、ヒマラヤ方面にもいるから台湾の固有種と云うワケでもない。この和名だと台湾固有種だと云う誤解を生じさせかねないし、タイワンはいらないだろう。単に「サザナミシジミ」とするか、「ミズイロサザナミシジミ」等の方が良いと思うんだけどね。

 
【英名及び台湾名】

英名は、二つあるようだ。

◆The white Royal
◆The double-spot Royal

前者は翅表の特徴からで、後者は裏面由来だろう。
ダブルスポットというのは、並んだ二つの点の事を指しての命名かと思われる。

台湾名は漣紋青灰蝶。
他に淡藍雙尾灰蝶、漣紋小灰蝶、臺灣漣小灰蝶、臺灣漣漪小灰蝶、漣灰蝶の呼び名がある。

  
【学名】Tajuria illurgis(Hewitson,1869)

白水先生は『原色台湾蝶類大図鑑』で、♂交尾器の形態の違いによりTajuria属とは別属とし、新たにCophanta illurgisの名を与えたが、現在はシノニム(同物異名)とされ、使用されない。
他に以下のような記載があるが、何れもシノニムになっている。

◆Iolaus illurgis(Hewitson,1869)
◆Pratapa illurgis(荒木,1949)

 
小種名の「illurgis」の語源は不詳。平嶋義宏氏の『蝶の学名-その語源と解説-』にも載っていなかった。一応ググってみたが、らしきものにはヒットせず。
参考までに言っておくと、「illu」には光ると云う意味があった(illusion イリュージョンに通づる語のようだ)。「rgis」はそのものの言葉は見つからなかったが、「rex rgis 」という言葉がラテン語にあり、王を表すようだ。他に「regina(女王)」などもあり、illuとrginsを組み合わせたものかもしれない。『光の王(女王)』ならば、物凄くカッコイイ学名だよなあ。

台湾の亜種名「tattaka」は、1941年に台湾中部の立鷹(霧社)で発見された1♀によって記載された事に起因すると思われる。

 
【分布と亜種】

(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

 
カレンコウシジミとよく似た飛び離れた分布をしている。但し、ジャワ島やスマトラ島には分布しないようだ。前回にも言ったが、どうしてこんな変わった分布をしているのだろう❓広域の空白地帯がある理由がワカラン。

 
現在、以下の2亜種に分けられている。

◆Tajuria illurgis illurgis(原名亜種)
ブータン、アッサム、インドシナ半島北部、雲南省

◆Tajuria illurgis tattaka
台湾中部

原名亜種は、台湾亜種とは印象がかなり異なる。
ちょっと画像が今イチだが、こんなん⬇

 

    (2点共 出典『Wikipedia 』)

 

(2点共 出典『yutaka.it-n.jp』)

 
何れも♂であるが、青白色の紋が著しく減退しており、一見すると別種っぽいくらいに違う。
裏面も違った印象だ。黒点が目立ち、これならダブルスポットと云う英名も納得できる。
それにしても、探してもまともな画像が出てこない。ネットから拾えないのは、きっと原名亜種もかなりの稀種なんだろな。

杉坂美典さんのブログ『台湾の蝶』によると、中国のでも見つかっているようだ。西蔵區(チベット自治区)と台湾対岸の福建省に分布しており、西蔵區に分布しているものはssp.illurgis illurgis(原名亜種)で,福建省に分布しているものは台湾と同じ亜種(ssp.tataka)だそうである。

 
【生態】
前翅長19~21㎜。
台湾においては中部の山地帯、標高600~3000mの常緑広葉樹林周辺に見られる。
成虫は3月下旬~11月上旬まで見られ、年数回発生するが、主に見られるのは4~8月、特に5月下旬から7月上旬に出会える可能性が高い。とはいえ、個体数は何処でも少ないらしいから、探す人は会えればラッキー程度に思っていた方がいいかもしれない。
♂♀共に花に吸蜜に訪れ、♂は湿地に吸水に集まる。
タイワンソクズの花と照葉樹の白黄色の花で吸蜜しているのを見た。たぶん白っぽくて小さな花が集合したようなものを好むのだろう。

杉坂美典さんのブログには、次のような記述があった。

「非常に速く飛ぶ。早朝や日中は,ほとんど活動せず,♂は,夕方の3時半頃から活動を始め,4時半頃まで活発に占有行動をする様子を観察することができた。」

占有行動は見た事はないが、採集したのは何れも4時前後以降なので、その時間帯辺りから活動するのだろう。飛翔は速いと云うが、たぶん占有行動時のことを指しておられるのだろう。自分の見た範囲では、特に速く飛ぶといったような姿は見受けられなかった。但し、それなりに敏感。近づくと、だいたい網を振る前に飛び立った。とは云うものの、すぐ近くの葉や花にとまる。

成虫が記録されている産地は仁愛郷眉渓、阿里山、八仙山、マレッパ、谷関、碧緑神木など。

参考までに言っとくと、旧ブログに2016年の採集記があります(発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ❗』)。
前半部と最後の解説部分に登場しますんで、よろしければ併せて読んで下され(リンク先は記事の最後の方に貼り付けておきます)。
 
(・。・;あらあら、一応確認のために再読してみると、朝9時くらいに採れとるやないけー。朝や日中は活動しないと聞いていたが、朝も活動するのね。
記憶というものは概して曖昧なものだ。採ったのは夕方近くだとばかり思い込んでいたが、2017年の記憶とゴッチャになったのかもしれぬ。
思うに、生態について書かれたものをそのまま鵜呑みしてはならないね。同じ蝶でもそれぞれの地方や標高によって生態が変わるケースも珠にある。書く人によって観察視点も違うだろう。思い込みが強すぎると視野が狭くなりかちだ。気をつけよっと。

 
【幼虫の食餌植物】
台湾においてはTaxillus nigrans ニンドウバノヤドリギが知られており、他に以下のようなものが記録されている。

木蘭桑寄生 Scurrula limprichtii
大葉桑寄生 Scurrula liquidambaricolus
忍冬葉桑寄生 Taxillus lonicerifolius lonicerifolius
杜鵑桑寄生 Taxillus rhododendricolius
李棟山桑寄生 Taxillus ritozanensis
蓮華池寄生 Taxillus tsaii

 
【卵】
(出典 内田春雄『常夏の島フォルモサは招く』)

 
卵の写真は「アジア産蝶類生活史図鑑」にも載っていなかったし、ネットで検索しても画像が見つからなかった。知る限り卵の画像はこの内田さんの著書のみ。
内田さんは台湾の蝶の幼生期の解明に多大なる功績を残された。このタイワンサザナミシジミの幼生期を最初に解明したのもたぶん氏だと思われる。
Tajuria属の卵もゼフィルスみたいに種によってデザインが違うんだろうが、素人にはワカラン。スンマセン。詳しくは解説できましぇん。

 
【終齢幼虫】
(出典『アジア産蝶類生活史図鑑』)

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

 
何れも上からと横からの写真だ。
「アジア産蝶類生活史図鑑」によると、越冬態は幼虫で、齢数は一定ではないが4月頃になると終齢幼虫と蛹だけが見られるという。

コレまたボコボコで変な形だ。怪獣みたい。
他の同属が平滑なので、白水先生が別属としたのはもしかしたら正解なのかもしれない。遺伝子解析とかは、もう済んでいるのかな❓もしまだなら、分類が変わる可能性はあるかもね。
色も地味だ。これは食樹の色に準じているのではないかと、内田春雄先生が『常夏の島フォルモサは招く』の中で推察されている。カレンコウシジミの食樹カオヤドリギは緑色だが、タイワンサザナミの食樹ニンドウバノヤドリギは茶色っぽいらしい。また、内田さんの言によると、幼虫は若齢の時は花芽(蕾)を食し、3齢になってから漸く葉を食べ始めるという。

 
【蛹】
   (出典『臺灣生命大百科』)

(出典『常夏の島フォルモサは招く』)

 
カレンコウシジミもそうだったが、垂蛹の形をとる。
コレまた色が地味だし、形も素人目には特異と云う程の特徴はない。

 
タイワンサザナミシジミも真面目に探した事はない。
他の蝶を狙ってる時に偶然採れるって感じだ。でも何となく採り方は解ったような気がする。次回、台湾を訪れる時はタコ採りしてやろうかと思っている。稀種と云うが、採り方さえ判れば結構採れるんじゃないかと思う。
でも沢山採っちゃえば、美人もその辺のブスと同じになる。やっぱ、このままでいいや。自身の中で、タイワンサザナミシジミは永遠の美蝶の儘でいい。
 
                  おしまい

 
追伸
アメブロの採集記のリンク先を貼っておきます。

発作的台湾蝶紀行32『(-“”-;)ヤッチマッタナ❗』
https://www.google.com/amp/s/gamp.ameblo.jp/iga72/entry-12199315255.html?source=images

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

「台湾の蝶19『水色のさざ波』」への1件のフィードバック

  1. 杉坂美典です。たまたまネット検索していましたら,貴殿のブログを拝見しました。とてもよく調べられておられ,感心しました。しかも,私のホームページの内容も引用されており,感謝いたします。さて,メールを差し上げましたのは,掲載されている写真のことです。ネット上で公開されている写真は,例え出典を明記しても,著作権法違反となります。民事・刑事での判例も数多く出ています。もし,ご存じないようでしたら,ぜひ,調べてください。出典先が企業ですと,多大な費用を請求された判例もあります。一度ご確認ください。私のホームページの写真は,ご自由にお使いください。今後もよろしくお願いいたします。

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