台湾の蝶25『淋しき豹柄女』

 
   第25話『豹斑』

 
ヒョウマダラに初めて会ったときは、何じゃこりゃ❗❓と思った。
咄嗟には何者だか解らず、軽いパニックに陥ったのだ。

 
【Timelaea albescens ♀】
(2016.7.5 南投県仁愛郷)

 
(出典『den531.pixnet.net』)

 
(裏面)
(2016.7.5 南投県仁愛郷)

 
和名は、そのヒョウのような模様(斑紋)を表している。
でも豹柄だからって、ヒョウみたいな性質をしているワケではござらん。しなやかだとか敏捷だとか、猛スピードで移動するとか、そういうの一切なし。もちろん獰猛さの欠片(かけら)もない。むしろ、その逆でトロい。飛ぶスピードもフワフワ飛びで遅い。

 
【Timelaea albescens ♂】
(出典『圖錄檢索』)

 
なぜか外で撮った♂の表側写真が無いので、ネットから引っ張ってきた。
雌雄の違いは、♂が全面ほぼオレンジ色で、♀は下翅の内側が白くなる。また、♂と比べて翅が丸みを帯びる。
裏面は一見したところ、素人風情ではコレといった大きな差異は見当たらない。たぶん下の画像が♂の裏側だと思うんだけどなあ…。

 
(裏面)
(2027.6.26 南投県仁愛郷)

 
話は冒頭に戻る。
何じゃこりゃ❗❓とは思いつつも、その存在を全く知らないと云うワケではなかったような気がする。
だが、発作的に3、4日前に突然台湾ゆきを決めて来島したので、頭の中から完全に消えていた。所詮は雑魚キャラなのである。来島にあたって図鑑にザッと目を通したその残像の端に辛うじて引っ掛かっていたにすぎない。
初めての台湾の、初採集日の帰り際に採れたんだったんじゃないかな?もう少し記憶を遡ろう(註1)。
林道から少し奥まったところ、木陰の葉っばに止まっているのがたまたま目に入った。正直、見つけた瞬間は蝶か蛾か判断がつかなかった。でも直感で蛾ではないような気がした。この辺は感覚的なもので、何で解ったかと言われても説明は難しい。そう感じたから、そうとしか言い様がないのだ。センスってのは、そうゆうもんだろ。

あっ、この最後の辺りのくだりは草稿の時点で、確実に酔っ払って書いてるな。面倒くさくなって説明放棄したに違いない。
説明しなおすと、たぶん瞬時にターゲットの特徴を分析したのだろう。蝶には蝶、蛾には蛾の、それぞれ固有の特徴があるのだ。とはいえ、考えたっていうのとは違う。感じたっていう方が近い。感覚的に漠然と何処か雰囲気が違うと感じるのだ。虫捕りをしていると、後から考えて何故あの時ああ判断できたんだと自分でも驚くことはよくある。シックスセンス。第六感みたいなものかな。これは虫捕り以外の他の事でもそうだから、役に立つ事が多い。小さいお子さんをお持ちのお母さんは、是非とも情操教育のために子供に虫捕りをさせて欲しいと思う。変人になる可能性も高いけど…(笑)

のっけから、横道に逸れる悪い癖が出た。話を前に進めよう。
改めて展翅写真を並べてみる。

 
【ヒョウマダラ ♂】

 
【ヒョウマダラ ♀】

 
たぶん完品の♀も採ってる筈なんだけど、写真が無い。
きっと面倒くさくて撮らなかったのだろう。もしくは展翅すらしてなかったりして…。
ぞんざいな扱いだよなあ。完全に雑魚キャラポジションだわさ(笑)。

この属には、他に中国にもう1種類いる。

 
【タイリクヒョウマダラ Timelaea maculata】

 
(出典 上2点とも『新浪博客』)

 

 
(出典 上2点とも『ぷてろんワールド』)

 
似ているが、ヒョウマダラよりも黒斑が小さく、全体的に密な感じがする。上翅中室の斑紋数も多い。裏面の白の入り方も違うと思う。
後述するが、両者が似かよっている事もあって誤同定も多く、分類上、様々な混乱が引き起こされてきた。

それにしても、ヒョウマダラをコムラサキの仲間だと看破した白水先生と三枝先生(註2)は偉いと思う。こんなの、見てくれはどうみてもヒョウモンチョウの仲間だと思うよね。飛び方だって、とてもコムラサキグループの蝶だとは思えないゆるゆる飛びで、胴体も細いしさ。

 
【ホソバヒョウモン Clossana thore】
(2013.6.23 北海道 芽室町 伏美仙峡)

 
【コヒョウモン Brenthis ino】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
【ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia】
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
これらは科(亜科)とか属が違うのに、ヒョウマダラによく似てるよね。
実際、長い間ヒョウモンチョウ亜科(Argynninae)とかヒョウモンモドキ属(Melitaea)の仲間だと思われてきた。
ヒョウマダラの分類の変遷史は波瀾万丈とも言うべきもので、まつわる話には事欠かない。
とはいえ、自分の力では到底上手く伝え得ない。ここは先達の優れた論文の力をお借りしようと思う。
長いが、増井さんと猪又さんの論文(註3)から抜粋させて戴こう。

 
「本属は発見以来長い間 Melitaea(ヒョウモンモドキ)、Argynnis(ヒョウモンチョウ)といった草原性のタテハチョウのグループに属すると思われてきた。本属をめぐっては斑紋が一見似ているだけの理由で生じた分類上の混乱に満ちている。このことについては歴史的に少し詳しく述べておく必要があろう。
Timelaea属が草原性タテハチョウグループと分類上近い位置にはないことは、古くからFruhstorfer (1913)が外部形態の点から気づいていたようである。
しかし、その後長い間にわたって本属の分類についてはあまり関心が払われなかったと思われる。ユンクのカタログ(Stichel,1938)やLe Moult(1950)のコムラサキ亜科のRevisionでも本属は見落とされている。台湾産のヒョウマダラが全く意外にもコムラサキ亜科に所属すべきであることを♂交尾器の形態に基づいて最初に指摘したのは白水(1960)である。図示された異様に長いphallusとsaccusはまさしくコムラサキ亜科のものである。台湾産のヒョウマダラがコムラサキ亜科に属することは、この時点ではっきりしたものの、Timelaeaの分類にはまだ問題が2つ残されていた。台湾産ヒョウマダラの学名についてである。
台湾産のヒョウマダラの最初の記録はT.albescens(Miyake,1906)である。
続いて Fruhstorfer(1908)によりfomaosanaという亜種名が与えられたが、種名はalbescensではなく、maculataとされた。
これはSeitz Vo1.9(Fruhstorfer,1913)でも踏襲されており、ここには台湾からの最初の発見者としてH.Sauterの名が記されている。しかし、既にLeech(1892)及びSeitz Vol.1にalbescensとmaculata(タイリクヒョウマダラ)が別種として正しく記載図示されていることから考えるとまことに不注意なことで、後年に与えた影響は大きかった。
平山(1939)や白水(1960)も台湾産ヒョウマダラに対して種名maculataを用いたので、以後も多くの文献がこれに従うことになった。しかし、台湾産のヒョウマダラは明らかに種albescensに帰属すべきものであり、これを指摘したのはNiepelt(1916)、Gabriel(1932)などかあるが、いずれも個人的な出版物において公表されているため普及性に乏しく、少なくとも日本の研究者にはOkano(1984)の指摘で初めて一般化したと言ってよい。
次の問題は、Timelaea属に分類されてきた種nana(Leech,1892 TL:Moupin,Wa −shan,Omei-shan,Chia−kou−hou,Huang-mu-chang)の分類上の所属についてである。Leech
(Pl.23)やSeitz(Vol.1,Pl.71)の図を見れば確かにnanaは上記のヒョウマダラ属と似ているが、本種はそもそもタテハチョウ科ではなく、シジミタテハ科に属する。これが斑紋の類似によってTimelaeaに紛れ込んだものであって、Okano(1985)によりシジミタテハ科の新属Takashia(白水 隆博士への献名による)に移されて整理が終わったのである。
こうした知識をもってヒョウマダラ属2種を眺めてみれば、コムラサキ特有の後翅第2室の眼状紋も黒斑の分離として明瞭であるし、チビコムラサキの♀やキゴマダラグループ(Sephisa属)との斑紋上の類似性も認められる。
幼生期は台湾産と浙江省産のヒョウマダラ(T.albes cens)について知られている。幼虫、蛹ともコムラサキ亜科の特徴を明瞭に表しており、もはや分類上の疑問を差し挟む余地は全くない。
しかしながら、振り返れば、白水(1966)以後も本属
がコムラサキ亜科であることを多くの著者が見落としている上に、種 maculataとalbescensの誤同定が繰り返されているのはまことに残念なことである。例えばD’Abrera(1985)では台湾産ヒョウマダラをヒョウモンチョウ亜科の位置に図示した上、種名 maeulataを宛てているし、塚田(1991)でもコムラサキ亜科全属リストからTimelaeaが欠落している。 最近の中国の図鑑では、西北農学院による陝西省の 図鑑(1978)で種maculataが正しく同定されているものの、ヒョウモンチョウ類の位置に図示されている。王治国らによる河南省の図鑑(1990)では図示されたmaculataがalbescensと誤同定された上、同じくヒョウモンチョウ類の位置に図示されている。こうした原因は、白水隆の名著“原色台湾蝶類大図鑑”が、日本語で書かれていたこと、また、ヒョウマダラがコムラサキ亜科の位置に図示されなかったために多くの人々の注意を引かなかったことによると思われる。せっかく御自身で分類上の位置を定めておきながら、どうしてその位置に図示しなかったかについては、御記憶にないとのことであった(私信)。
なお、本属のコムラサキ亜科における分類上の位置は、久保(1967)と小岩屋(1989)が幼虫の形態に基づいて指摘しているように、Rohana(チビコムラサキ)に近縁と考えられる。」

 
ややこしいねぇ。
そのややこしさは今も続いていて、ネットでも両種の同定間違いや学名の間違いをしばしば見かける。いや、ネット社会だからこそ、新たなる混乱の拡散が危ぶまれる。
そのややこしいというワードで、更なるややこしい事を思い出した。この蝶、分類がややこしい上に似たような蛾(ガ)もいるのだ。

 
(2016.7.13 南投県仁愛郷 尖台林道)

 
おそらくシャクガ科のエダシャクの仲間だろう。
飛んでいる時は、大きさといい飛び方といいヒョウマダラとソックリだった。両者が擬態関係にある事を強く疑ったね。
これは蛾がヒョウマダラに似てるんじゃなくて、ヒョウマダラが蛾に似せているというのが正解だろう。
エダシャクの仲間ならば、体内に毒を持っている確率が高い。それにより天敵である鳥から身を守っている。鳥は賢いから食ってみてクソ不味いものは吐き出して二度と食わない。これは最初の1頭は犠牲にはなるが、他は狙われないと云う高度な生き残り戦術なのだ。だから、毒のある者はたいてい捕食者の記憶に強烈に残るような派手な色をしている。つまりヒョウマダラの生き残り戦術は、自身には毒は無いものの、毒のある蛾に我が身を似せる事によってドサクサで生きのびようと云う更なる高等戦術だといえよう。

余談だが、網の上から写真を撮っているのは蛾が怖かったから。当時は蛾が気持ち悪くて近づく事すらままならなかったのである。

次の蛾は、もっとヒョウマダラと似ている。

 
(2017.7.2 南投県仁愛郷 青青高原)

 
一番最初の奴は簡単に見破ったが、コヤツは暫く凝視したよ。大きさも形も、ほぼ同じ。飛び方も同じだった。
参考のために再度ヒョウマダラの画像に御登場願おう。

 

 
とんでもない擬態精度である。下翅に黒斑があるかどうかの違いだけである。
こんなもん、飛んでたら殆んど一緒だ。
ヒョウマダラの♂の表はあまり白くないから、明らかに♀は、より蛾を意識して進化したとしか思えない。
それにしても、似せたいと思ったからって、そこまで似せれるものかね?だとしたら、女の一念、巖(いわお=岩)も砕くってヤツだね。

この蛾の表側のデザインにも驚いた。

 
(2017.7.2 南投県仁愛郷 青青高原)

 
コッチも相当似ている。♀にソックリだ。
豹柄女のフェイク、恐るべし❗❗

余談だが、写真はさっきと違って採集してちゃんと網の上に乗っけて撮ってる。コレはこの年の春に「春の三大蛾(イボタガ・オオシモフリスズメ・エゾヨツメ)」を採りに連れていってもらったので、ある程度の免疫がついていたからだ。とはいえ、持って帰ってきたかどうかは分からない。記憶にないのだ。どうあれ、展翅をしていないのは確かだすな。

一応、蛾の名前も調べてみよっかな。
あ~、また面倒くさいとこに足を踏み入れそうだよ。

 
撒旦豹紋尺蛾
Epobeidia lucifera extranigricans
(Wehrli, 1933)
(出典『圖錄檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
前回のタイワンキゴマダラの回でも擬態相手として紹介した奴だ。学名のLuciferaって、Lucifer由来だよなあ。ルシファーと云えば、魔王サタンの堕天使前の名前だ。台湾名の撤旦は、サタンの宛て字でしょう。
結構、デカそうだ。
裏面の画像をダウンロードできなかったけど、網の中に入れて写真を撮った方の蛾にかなり似ている。大きさ的にどうだったかな?特別大きいという記憶はないんだよね。よくよく見れば翅の尖り方も違うし、たぶんサタンと同一種ではないな。

 
狹翅豹紋尺蛾
Parobeidia gigantearia marginifascia
(Prout, 1914)
(出典『圖錄檢索』)

(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
コヤツもデカそうだ。画像の背景から推察すると、さっきの魔王と大きさ的には変わらないような気がする。
あっ、学名がgiganteariaだ。ギカンティアということは、コレも間違いなく大きいだろう。学名にギガとかメガとかつく奴は99%デカブツなのだ。

 
大斑豹紋尺蛾
Obeidia tigrata maxima
(Inoue, 1986)
(出典『gaga.biodiv.tw 』)

(出典『圖錄檢索』)

 
(裏面)
(出典『woodman 秘密花園』)

 
網の中に入れて写真を撮った蛾と似ているが、白い部分の黒斑が大きいね。

因みに香港には、亜種なのかヒョウマダラの♂みたいなのもいる。

 
(出典『以自然為本』)

 
♀ほどではないにせよ、♂だって擬態の精度は高い。きっとこの手の黄色系(&白)のエダシャクは、他にも何種類もいるんだろうなあ。だとしたら、ヒョウマダラってメチャメチャええとこに目をつけたね。毒持ちの似たようなのが沢山いればいるほど、その身は安全だ。生きるためにそこまでしてコムラサキグループの生き方を捨てれるって、ある意味あっぱれだ。
ヒョウマダラは普通種だと言われる。思うに、普通種というのは某(なにがし)かの生存戦略がたまたま大当たりして繁栄した者たちなのだろう。

コイツらも大型種のような気がするなあ…。
だいたい亜種名が「maxima(マキシマ)」って時点でデカいわな。

ここでシナプスが繋がった。
コレって、日本でも中国地方なんかで珠に採れてるキベリゴマフエダシャクに似てねえか❓

調べてみたら、やっぱそうだったよ。

 
キベリゴマフエダシャク
Epobeidia tigrata leopardaria
(Oberthür, 1881)

(出典 2点とも『廿日市の自然観察』)

 
でも、亜種名が違うな。leopardalisか…。
ようするに英語のレパード。豹だね。

(´д`|||)クソー、結構似たような奴がいるなあ。
やっぱ、ややこしいじゃないか、(`ロ´;)バーロー。

 
豹紋尺蛾
Obeidia vagipardata albomarginata Inoue, 2003
(出典『圖錄檢索』)

 
網の中の奴はコレっぽいなあ。
たぶん、コレだろ。そういう事にしておこう。キリがない。
あとは、もう1つの翅のもっと丸っぽい蛾の正体を暴いて、とっとと終わらせよう。

 
波尺蛾與豹紋蝶
Euryobeidia largeteaui (Oberthür, 1884)
(出典『gaga.biodiv.tw』)

 
(*`Д´)ノよっしゃー❗、決定打じゃろう❗❗

 
(出典『nc.biodiv.tw』)

 
大きさもヒョウマダラと同じくらいみたいだし、きっとコレだな。間違いなかろう。
そういえば、居た環境も同じような様子の林道沿いだったわ。いやはや、このミミクリー度はスゴイやね。

しつこく擬態精度に拘ったけど、実際は大きさの大小は擬態効果にはあまり関係ないのではないかと思う。細かい斑紋の違いも関係ないだろう。酷似しているに越したことはないけれど、鳥がそこまで厳密に見て判断しているとは思えない。もし鳥が毒のあるエダシャクを食ったとしよう。それが非常にマズかったら、たぶん大小に関係なく似たようなものは全て食べないだろう。そこまでリスクを冒す必要性は無いからだ。
あなたに質問です。もしAの皿には毒の無いフグが盛られていて、Bの皿には毒のあるフグが盛られていたとしよう。見てくれは少しばかり違うとして、あなた、食べますか❓
んなもん、どっちも選ばんでしょうよ( ̄ヘ ̄メ)

 
【学名】
Timelaea albescens (Oberthür, 1886)

タテハチョウ科 コムラサキ亜科のヒョウマダラ属に分類される。
属名のTimelaea(ティメラエア)はMelitaea(ヒョウモンモドキ属)のアナグラム(言葉あそび)。
小種名のalbescens(アルベスケーンス)は「白くなった」の意で、ラテン語のalbesco(白む)の現在分詞。これは♀の白い部分が目立つことからだろう。
亜種名formosanaは「台湾の」という意味。
前の学名であり、混同されてきたmaculata(マクラータ)は、ラテン語で「斑点のある」を意味する。

因みに『アジア産蝶類生活史図鑑』では、学名が違っていて「Rohana albescens」が採用されている。
この図鑑は、しばしば従来知られている学名とは違うものが採用されているので注意が必要だ。
Rohanaはチビコムラサキの属名である。おそらく幼虫が互いに似ているからだろう。ようするに、幼生期の観点からの分類なのだ。学名が違うのは困るけれど、アプローチとしては面白い。その姿勢は、けっして間違ってはいないと思う。

英名は特に無さそうだ。小さくて地味というのもあるだろうが、おそらくインド・ネパール・パキスタンなどの英語文化圏には生息していないからだろう。
英名をつけるとしたら、何がいいだろう。
例えば『Leopard Baron(豹男爵)』なんてどうだ?
盛りすぎのような気もするが、こういうのは少しくらいジャッキアップしといた方がよろし。タキシードにシルクハット、でも顔はヒョウそのものなんてのを想像しちゃったんだよね。みんなも勝手に英名を想像してみれば?けっこう遊べますよ。
何れにせよ、名前にLeopardがつくのは必至だね。

 
【台湾名】白裳貓蛺蝶

貓蛺蝶というのは、Timelaeaヒョウマダラ属のこと。属名にも、この漢字が使われている。
小さいから豹ではなくて猫なんだね。猫的タテハチョウかあ…。オデ、馬鹿だから、蝶の羽を有した猫がバッサバサ羽ばたいているのを想像したよ。
白裳の白は、この蝶かタイリクヒョウマダラと比べて白いからだろうか?「裳」は古代のスカート、袴(はかま)のこと。
別称としては、他に豹紋蝶、豹斑蛺蝶、白斑蛺、豹紋蛺蝶などがある。

 
【分布と亜種】

亜種は現在のところ、2つに落ちついているようだ。

◆Timelaea albescens albescens
(Oberthür, 1886)名義タイプ亜種
中国

◆Timelaea albescens formosana
(Fruhstorfer, 1908)
台湾亜種

原名亜種 T.albescens albescensは、増井さんたちの論文によると、台湾の対岸から四川省にかけての狭い分布域であろうと述べている。

「大陸における産地は、確実な報告が少なく、Obe
thurによる基産地Chfipa(四川省)、Leech(1892)に述べられたWa−ssu−kow(四川省)のほか、成虫の写真を示した童雪松ら(1986)と幼虫を示した小岩屋(1989)による浙江省での記録以外は採用できない。著者は浙江省の標本しか実見していない。」

杉坂美典さんのブログでは、中国の南西部・中部・南部・東部に分布していると書かれている。
記録は陳西省、山東省、河北省、遼寧省、河南省、四川省、貴州省、広西自治区、湖南省、広東省、福建省にあり、かなり広い。これは、中国での分布調査が進んだせいなのかもしれない。とはいえ、T.maculataとの誤同定も多いから疑わしい記録もあるだろね。
参考までに、杉坂さんの分布図を載せておこう。

 
(出典 杉坂美典『台湾の蝶』)

 
増井さんは狭いと書いていたけど、全然狭くない。
あれっ?、この分布図って何処かで見たような記憶がある。

 

 
『原色台湾蝶類大図鑑』のヒョウマダラの分布図だ。
コレって、学名がT.maculataになってるけど、タイリクヒョウマダラを含めた分布図なのか、それともヒョウマダラだけの分布図として載せたのか、どっちだ?

因みに、こういう分布図も見つけた。

 
(出典『www.jpmoth org』)

 
もうどっちだっていいや。なんだか段々面倒くさくなってきたよ。

( ´△`)あー、やだ、やだ。
更にややこしいのは、ネットで見るといまだに亜種が他にあげられている事である。

◆ssp.obscurior (Hall 1935)

上の分布図にこの亜種の画像があった。

(出典 2点とも『www.jpmoth org』)

真面目に比べたワケじゃないけど、一見してどう違うのかワカラン。どうせ亜種にする程の大きな差違はないでしょう。

◆ssp.orientalis (Belter 1942)

◆ssp.reticulata (Matsumura 1939)

◆ssp.albescens (Oberthür, 1886)

◆ssp.formosana (Fruhstorfer, 1908)

下に記すシノニムと被ってるヤツもあるね。
何れにせよ、記載年代が古いから原名亜種に集約されたのだろう。

シノニム(同物異名)には、以下のようなものがある。

◆Timelaea albescens muliebris
(Fruhstorfer, 1912)

◆Timelaea albescens confluens
(Nire, 1917)

◆Timelaea albescens reticulata
(Matsumura, 1939)

あと、抜けてるけど、シジミタテハのssp.nanaなんかもシノニムかな?それは、maculataのシノニムかえ❓

ssp.muliebrisは冬〜春型で、後翅表裏の白化が顕著なものという(白水,1960,0kano,1984)
台湾産の本種には個体の大きさや、後翅中央部の白化 の程度に変異が大きい。そのために多くのフォーム名が記載されたようだ。

 
【生態】
開張50~62mm。台湾では全土に分布し、海岸から2000mを越える高地まで広く見られるが、1000m以下の低山地に多い。4月~10月に亘って数回の発生を繰り返すが、1月でも飛び古した個体を見かけるという。
飛翔は緩やかで、すぐに止まる。♂は路上や崖などに止まるほか、湿地で吸水する。♂♀ともに樹液や腐った果実に集まり、アカメガシワの樹液やギランイヌビワの果実の吸汁を行うことが観察されている(福田 1975)
因みに、自分の記憶ではフルーツトラップには一度も訪れていない。
原色台湾蝶類大図鑑には「樹液に集まる習性からも本種がヒョウモンチョウ亜科の種でないことが推定される」と書いてあるが、台湾のヒョウマダラのサイト(圖錄檢索)を見ると、生態欄に「會訪花」とあった。花に吸蜜に訪れるとしたら、ヒョウモンチョウみたいではないか。俄(にわか)には信じがたい。普通、コムラサキ亜科の蝶は花には訪れない。う~ん、だとしたら、やっぱりコムラサキ亜科のクセに変なやっちゃのう。どんどんグループから離れていって、そのうち別属にまで進化するかもしれんぞ(;゜∇゜)

そう珍しくない普通種みたいだが、産地での個体数は少ないという記述もある。言われてみれば、そんな気もしないでもない。とはいえ、見つけたら楽勝で採れます。

 
【幼虫の食餌植物】
台湾では、Vlmaceae(ニレ科) エノキ属をホストとしている。

・Celtis formosana タイワンエノキ
・Celtis sinensis エノキ
・Celtis nervosa コバノエノキ

幼生期については『アジア産蝶類生活史図鑑』に詳しい解説があるので、一部転載させて戴こう。

【卵】
(出典『随意窩』)

 
♀は2m以下の小型の食樹の葉裏に1個ずつ卵を産みつける。
前回、前々回に取り上げたSephisa キゴマダラ属とは違い、縦に筋が入る如何にもコムラサキ系タイプの卵だ。但し、色はオオムラサキやコムラサキみたいに緑色ではないね。たぶん卵は真っ白。上が紫がかってるのは幼虫の孵化が近いせいだと思う。

【2齢幼虫】
(出典『随意窩』)

 
(о´∀`о)可愛ゆすぅ~。
角(つの)のギザギザ度が強いね。

幼虫は葉の裏面に糸を吐きつけて台座をつくり、頭を葉柄に向けて静止する。越冬は3齢。食樹の枝につく枯葉の巣の中で冬を越す。
越冬幼虫は枯れ葉色に変色するのだろうか?
でも調べた限りでは、緑色のものしか見つけられなかった。

 
【終齢幼虫】
(出典『随意窩』)

 
コムラサキ亜科特有のナメクジ型だが、下ぶくれで、ブサいくでやんの。どーでもいいけど、なんか小さい時は可愛いらしい女の子だったのに、大人になったらブサいくになってましたー。みたいな感じじゃないか。
ともあれ、この形からチビコムラサキに近いと判明したんだね。

 
(出典『My Chat 敷位男女』)

 
顔がダダに似てなくね❓
顔面をアップしてみよう。

 

 
目の辺りが、ダダのブツブツみたいだな。
全然、可愛くねぇよ。

春になると摂食を開始し、幼虫は台座を築いた葉を食わず、他の葉へ移ってこれを食う。これはオオムラサキやゴマダラチョウと同じ習性だね。

蛹化は食樹の低い位置の葉裏で行われる。

 
【蛹】
(出典『随意窩』)

 
コムラサキ亜科典型の蛹だけど、背中がギザギザだあー。こうゆうのって、角の形と連動するのかな?

図鑑では、ヒョウマダラの幼生期について次のようなことを指摘している。
「本種の生活の特徴は「葉裏産卵➡葉裏生活」すなわち全幼生期を通じて葉裏生活(隠れる生活)をすることにある。これは「葉裏産卵➡葉表生活」のHestina ゴマダラチョウ属、「葉表産卵➡葉表生活」(表面に身をさらす生活)のAptura コムラサキ属などと対比すれば興味深い。」

言われてみれば、そうだ。でも何で葉裏型と葉表型があるのだろう?普通に考えれば裏にいた方が天敵に見つかりにくいだろうに。でもエノキの葉っぱは日の光の下では照り映えるから、意外と幼虫はそれと同化して見つかりにくいのかもしれない。

ヒョウマダラは、コムラサキの1種なのにずっとヒョウモンチョウの仲間に入れられたまんまだったり、学名はたらい回しと云うか間違えだらけにされてたりと、何だか不憫だよなあ…。
コムラサキグループからは「おめぇ、俺たちのグループじゃねえだろ?」と言われ、ヒョウモンチョウ軍団からは「おめぇ、ホントにワシらの仲間かあ?」と疑われる図を絵本的に想像してしまったよ。なあ~んか一人ぼっち感があって、淋しいだろね。
あまり注目されてないし、蝶屋からも無視されがちで、愛も足りないよね。ホント、淋しい蝶だよ。
自分だったら、こんな扱いをされたら淋しくって泣いちゃうね。

 
                  おしまい

 
追伸
べつにヒョウマダラが淋しいワケじゃない。
ヒョウマダラ本人は、そんなこと露とも思っていないだろう。生きることで精一杯なのだ。そう見えるのは自分の勝手な憶測にすぎない。豹柄て淋しいのは、豹柄を纏った女だけだ。
何でこんなタイトルにしたかと云うと、豹柄を纏った若い女性が淋しいと思ったからだ。正確を期すならば、タイトルは「豹柄女は淋しい」とすべきだったろう。しかし、タイトルを「豹柄女は淋しい」としてしまえば、身も蓋もない。

あれっ❓、おいら何が言いたかったんだろう❓
ようは豹柄は若い女性にとっての武装のアイテムなのだ。
しかし、決して攻撃的ではなく、寧ろ敵から身を守るためのものだ。変な男が近づいて来ないようにしているのである(それを見抜いてアプローチをかける♂もいる)。
豹柄を着ている女にアプローチする男はあまりいない。
そこには、いくつかの理由が考えられる。とりあえず、ここではヒョウ柄のオバチャンは除外して説明する。そこをシッカリ留意しておいて戴きたい。アレはまた別な生き物で生態も違うから、別種と考えるべきなのだ。

①ケバい。

豹柄=派手のイメージだ。金好きのワガママな女というイメージも加味される。
そういう女は、大抵が面倒くさい。押し込みが強かったり、物をねだるのも上手い。近づかないに越したことはない。
そして、一緒に歩いていて恥ずかしい。
『アイツなあ、こないだ豹柄女を連れて歩いとったでぇ~』
こう言われるのがオチである。その場合、決して良い意味では使われない。変な女を連れていたという意味だ。アイツ、騙されとるんちゃうかあ?とか、趣味悪いなあとか、そんな意味が込められている。

②親や友だちに紹介できない。

上記の理由に加えて、家庭的なイメージが無いために周りからの交際反対必至である。男は最終的に家庭的な女を結婚相手に選びたがるのである。

③ヤのつく自由業の恐い人の情婦という可能性

今時、美人局(つつもたせ)なんて流行らないが、後で恐いお兄さんが出てきて、脅される可能性は無きにしもあらずなのである。もしくは前カレがパイオレンス系のお方で、ボコボコにシバかれるというケースも考えられる。さわらぬ神に祟りなし。豹柄女には、常にトラブルのイメージがついてまわるのだ。

④精神的に不安定
ここが「豹柄女は淋しい」という論理に繋がる。
経験上、豹柄女はかまってもらいたい人が多い。それがゆえの豹柄なのだ。常に注目されていたいタイプだ。だから、ちょっとでもぞんざいに扱おうものなら、心が不安定になり、泣いたり喚いたりする女性が多い。かまってもらいたいがゆえのエキセントリックな行動なのだ。豹柄女は淋しいのだ。そして、面倒くさい。

とはいえ、正直言うと豹柄女はそんなに嫌いじゃない。扱いさえ間違わなければ、一緒にいて楽しかったりもする。
そういえば、一時(いっとき)だけど、昔、都会の街が豹柄の姉ちゃんたちで溢れかえったことがある。何事かと思って驚いたけど、これは当時若い女性に絶大なる影響力を持っていたあゆ(浜崎あゆみ)が豹柄の服を着ていたからだと、少しあとで解った。
また豹柄のお姉ちゃんが増えないかなあ。見てる分には楽しいもんね。

邪魔くさいが、一応ヒョウ柄好きのオバチャンたちの事も分析しておこう。さっきの若い豹柄女と被るところがあるが、別種(別物)である。

 
(出典『blog.goo.ne.jp』)

 
47人からなる大阪のニューヒーロー『オバチャーン』なんだとさ。アメちゃんを配りまくるらしい。
強烈やわ。スゴイね。
「オバチャーン」は気になるが、本題に入ろう。

『なぜ、大阪のオバチャンがヒョウ柄が好きなのか』

①派手好き
関西といっても、各府県でフアッション傾向に違いがある。他府県の事は置いといて話を進める。
とにかく大阪のオバチャンは派手好き。派手がカッコイイと思っているのである。目立ってなんぼなのだ。その目立つ最たるアイテムがヒョウ柄なんである。そこには淋しさなんて要素はコレっぽちも無い。
その目立ちたい精神は、同じブランド品でも東京なんかと比べてブランドのロゴ、ドオーンのものを圧倒的にお好みあそばすことでもわかる。上品な神戸や京都のオバサマはドン引きなのだ。

余談だが、ヒョウ柄オバチャンのコメントに「一度ヒョウ柄で味わったゴージャス感がやみつきになってしまった」というのがある。
そっかあ…。ヒョウ柄には中毒性があるのだね。ヒョウ柄は麻薬と一緒なのだ。大阪はヒョウ柄の服が店頭に並ぶことが他府県よりも圧倒的に多い。アレはヒョウ柄オバチャンの購買欲を限りなく掻き立てる店側の作戦なんだね。シャブ漬けの如くヒョウ柄中毒になったオバチャンは、オートマチックに買ってしまうのであろう。大阪ヒョウ柄黒社会だ。

②威嚇
大阪のおばちゃんのヒョウ柄には威嚇の意味がある。
自分を鼓舞する戦闘服でもあろう。
上品ぶる神戸や京都のオバサマに対して「アンタら、なに上品ぶっとんねん。」なんである。

大阪のオバチャンの大半はアクが強くて言いたいことをズケズケ言う。押しが強いのだ。その中で、それに対抗するためには派手な服やアクセサリーが必要なのだ。それがヒョウ柄なのである。ヒョウ柄は着ることによって己の精神をも強化できる、謂わばバトルスーツの役割を担っているのである。
ヒョウ柄を着ているオバチャンにインタビューしたら、次のような答えが返ってきたという。

「テンション上がる」
「闘争心が起こってくる」
「勝てそう」
「怖いものがなくなる」

きっと買い物で値切る時などにも活躍している筈だ。ヒョウ柄のオバチャンがゴリゴリで攻めてきたら、値引きせざるおえないだろう。
そこには、若い女の子が健気(けなげ)に自分を強くみせようとする弱さみたいなものは微塵も存在しない。

③お金持ちに見せたい
ヒョウ柄といえば、本来は毛皮である。数ある毛皮の中でも最高にゴージャスに見えるのがヒョウ柄の毛皮だ。最高級のお金持ちファッションのイメージですな。ヒョウ柄の服は、そのお手軽廉価版なのだ。オバチャンたちは毛皮より安いのにお金持ちに見えるといった理由で着ているんだとさ。でも、それって成金趣味にしか見えないよね。オバチャンたちが望んでいる上品なお金持ちには到底見えまへんえー。

ヒョウ柄ってフェイクだなあ~。
謂わばオバチャンたちも擬態してるんだね。

④スタイルを隠すため
昔と比べて醜くなったスタイルを補うためにオバチャンたちはヒョウ柄を着ると、何かの記事で読んだことがある。心理学的アプローチで、どーのこーのと書いてあった。
うろ憶えだが、要旨はこんな感じだったかと思う。
ヒョウはしなやかなイメージを持ち、ウエストが細く、歩く時にお尻を振って歩いているように見えるため、セクシーさの象徴である。
もう色気がなくなったと感じているオバチャンたちは無意識にヒョウ柄の持つセクシーパワーの助けを借りて、まだまだ私は女性なのよとアピールしているとか何とかって書いてたっけ。
無理矢理なこじつけのような気もしないでもないが、確かに若い女の子はあまりヒョウ柄を着ない。充分に色気があるから必要ないのだとも言える。

そういうヒョウ柄好きの大阪のオバチャンたちだが、最近は減ってきているようだ。マスコミが、あーたらこーたら取り上げるので恥ずかしくなったのかもしれない。だとしたら、残念なことだ。大阪のオバチャンとヒョウ柄は今や文化である。消えてゆくのは寂しい。大阪までもが個性を失って、平準化の波に呑み込まれていく時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。だとしたら、つまんねえ世の中だよなあ。

 
(註1)もう少し記憶を遡ろう
アメブロにある採集記には、ヒョウマダラ関連の記事が4編あります。よろしかったら、読んでくだされ。
下の青文字をクリックすると、記事に飛びます。

発作的台湾蝶紀行6 豹柄女はフェイクなのさ

発作的台湾蝶紀行9『空飛ぶ網』

発作的台湾蝶紀行43『白水さん大活躍、ワシ虐待男』

発作的台湾蝶紀行46『大名様のお通りだーい』

 
(註2)白水先生と三枝先生
九州大学の師弟コンビ、白水隆と三枝豊平両氏のこと。この二人の共同研究という形で、ヒョウマダラがコムラサキだと看破した論文が書かれたようだ。
白水先生は蝶界の巨匠みたいな人だが、数年前にお亡くなりになられた。お会いしたことはないけど、合掌。

 
(註3)増井さんと猪又さんの論文
増井暁夫・猪又敏男『世界のコムラサキ(3)』。
やどりが 148号(1992)

 
(註4)ダダ
(出典『プレミアムバンダイ』)

 
ウルトラマンの怪獣(星人)。
オイチャンは、コレとケロニアが泣くほど怖いのだ。