明石で寿司を食う

  
明石で寿司を食った。

 

 
魚の棚に行くと、無性に寿司を食いたくなるのだ。
だから毎回、名物の明石焼きはスルーである。並ぶのも嫌だしさ。

魚の棚商店街のメインストリートから少し入った寿司屋『鮨 縁』へ行く。
「縁」と書いて「えにし」と読む。
扉を開けると、店内は静かな音楽が流れるお洒落な空間だった。白木の一枚板のカウンターが奥へと伸びている。席は、そのカウンターのみの8席。
一枚板の白木のカウンターは大好き。頬ずりしたくなるくらい手触りが良いからだ。こういう店は店主の拘りを感じるから期待値も跳ね上がる。
付け台も一枚板で、その向こうが板場になっており、職人の仕事がよく見えるようになっている。所謂(いわゆる)、割烹スタイルだね。こういう劇場型の店は見てて飽きないから楽しい。
聞けば、店のデザインは若い店主御本人とのこと。寿司職人の前は建築関係の仕事をされていたらしい。

日曜日限定の「おまかせ3000円コース」をチョイスした。
先ずはビールで喉を潤し、ガリに手を伸ばす。

 
【ガリ】

 
ガリは2種類ある。ちょっと珍しい。色も濃い。
奥がお馴染みの薄切りの甘酢漬け、手前が棒状のものである。どちらも見た目通りの濃い味で、味の系統は似ている。しかし、食感が違う。特に棒状のはポリポリで、酒のツマミにもなる。これは普通の土生姜(根生姜)ではなく、はじかみなどに使われる谷中生姜(葉生姜)なんだそうな。なるほどね。土生姜よか歯の当たりが柔らかい。

 
【剣先烏賊】

 
トップバッターは剣先いかの昆布〆。
表面に細かく切れ目が入れられており、それがイカの甘さを引き出している。だが、惜しむらくは表側は柔らかいが裏は硬いこと。裏側に隠し包丁が入っていなかったのではないかと思われる。

 
【明石鯛】

 
これも昆布〆だったかな。
噛めば噛むほど、奥から旨みが立ち上がってくる。
明石といえば、鯛。日本一の鯛の名産地だ。だから旨くて当然なのだ。養殖とはひと味もふた味も違う。
昔、東京のお寿司屋さんで聞いたことがある。鯛に関しては圧倒的に西の方が味が良くて、特に明石のものは最上、とても敵わないとおっしゃってた。潮が速いから、ムチャクチャ運動量が多くて身質が格段に良いのだと言う。
そういえば、明石の鯛はよく泳ぐから尻尾の骨が一部ボコッと瘤状に盛り上がってるらしい。

 
【縞鰺】

 
シマアジはカンパチ、ヒラマサ、ハマチ(ブリ)とは親戚関係だが、中でもシマアジが一番好きだ。
コリコリとした歯応えがあって、脂と旨みに上品さがある。しつこくないのだ。
ハマチの養殖モノなんて、脂臭くてダメ。だから最近は全く食わなくなったし、ブリも天然のモノしか食わない。どうにも生臭くて苦手なのだ。昔は好きだったんだけどなあ…。それだけ舌の経験値が上がってるのかなあ、それとも単に歳喰っただけなのかなあ…。

 
【鰯】

 
真鰯は大きいと脂が乗りすぎててしつこいが、これくらいの大きさだと丁度良い塩梅(あんばい)だ。
脂が舌に広がったあと、すうーっと余韻を残して消えてゆく。
これも昆布〆だったっけか?
言い忘れたが、この店はネタには全部仕事がなされている。だからカウンターには醤油は無くて、刷毛で塗られて供される。

 
【甘海老】

 
これも昆布〆。
昆布〆系が続くが、まあ好きだから文句はない。
甘海老の昆布〆といえば、富山を思い出す。金沢や富山は昆布〆文化だから、何でも昆布〆にすると云う印象がある。チーズの昆布〆だって見たことがある。
でも、昆布の旨みが身に移るから利には叶っている。美味いし簡単だから、自分でも珠に家で作る。
因みに、この店ではネタにより昆布の産地を使い分けているそうだ。羅臼や利尻など昆布によって全然味わいか異なってくるらしい。

ここでビールから日本酒へチェンジ。
この店は日本酒が売りでもあるようだ。
当然、辛口をお願いする。

 

 
新潟 青木酒造『鶴齢』。
酒器は切子である。
厚みが無いので薩摩切子ではなく、江戸切子だろう。
涼しげでいいね。切子を見ると、もう夏だなと思う。

 

 
新潟の酒と云えば淡麗辛口だが、フルーティーで辛口というよりかは、どちらかと云うと旨口である。そういえば最近はまた日本酒がブームになってきてるね。ホント、今はスパークリングとか色々ある。ボトルもおよそ日本酒とは思えないものも多い。

 
【鳥貝】

 
子供の頃は、この鳥貝がマイ寿司ネタランキングの最下層だった。見た目がジジむさいし、大して旨くねえし、あの上に塗られた変に甘ったるい煮ツメが嫌いだった。それに何より、噛んでてガムみたいにクチャクチャといつまでも口に残るのが最悪だった。だからか、いつも最後には鳥貝が寿司桶に残っていたという記憶がある。
そういえば、最近は寿司ネタで見ないようになったような気がする。経緯は分からないが、今は高級食材になっているようだ。回転寿司で見ないのも、コストに見あわないからだろう。

小振りの鳥貝だから、どうかと思ったが旨い。
貝の仄かな香りもして、歯切れもいい。久し振りに美味い鳥貝を食ったよ。

 
【鯖寿司】

 
薄い昆布が乗ってるから、関西で言うところの「バッテラ」だね。但し、シャリには色々入っている。
海苔で包み、手渡しされる。この海苔で包むと云う発想がいい。手渡しもアクセントになってて面白い。
けど、鯖は酢で〆過ぎかな。身が硬くなるし、酢もキツく感じるから、もっと生っぽい方が好みなのだ。

 
【漬け鮪】

 
調味液に漬け込んだ時間が絶妙。程好い柔らかさと味の入り方だ。ヅケ鮪は漬け込み時間によって味が大きく変わる。漬け込み過ぎると身が硬くなるし、浅いと調味液が沁みないのだ。

 
【穴子】

 
煮てから炙ったようだ。
でも、申し訳ないが自分好みではない。穴子はとろとろに柔らかくて、口に入れたら溶けるような奴が好きなのだ。

 
【赤だし】

 
出汁が効いてて美味い。
ホッとする。三つ葉以外は具が入ってないというのもいい。余計なものが入っていない方が、かえってシメとしては寿司の味が脳裡に蘇る。

これで三千円は安いと思う。
しかし、誠に残念なのがシャリ。
シャリが赤酢なのは、まあいい。しかし、ちょっと味が濃い。自分はギリ大丈夫だが、酢がキツイと感じる人は多いかもしれない。
一番の問題点はシャリのかたさ。兎に角、かたい。前半は米に芯が残ってるものも多かった。ネタには良い仕事をしてるだけに、物凄く勿体ない。シャリの大きさはシャリ駒で、ネタとのバランスも悪くないしさ。
まあ、大将はまだ若いし、そのうちそれも改善されてゆくだろう。
シャリが改善されたなら、三千円はメチャクチャ安いと思う。

 
船着き場に寄って、たこフェリーの復活を確認し、明石城跡に行った。

 

 
あらら、高速艇になってるのね。
昔のたこフェリーが懐かしい。乗り場も新しく綺麗になってたから、ノスタルジィーの人としてはちょっぴり悲しい。でも、何はともあれ復活したんだから喜ばしい事だ。

明石城跡でベンチに寝転ぶ。
風が渡ってゆく。
正面には駅のフォームが見える。列車を待つ人々も見える。
城から駅がこんなに近くに見える所は無いと思う。そして、駅からお城がこんなに近く見えるところも他には無いと思う。
明石って、素敵なところだ。

 
                  おしまい