続・コガタキシタバ

    『サボる男』

 

2019年6月17日。
ウスイロキシタバを西宮市に探しに行った。
樹液の出ている木を何とか見つけて、そこで待っていたら日没後すぐにフシキキシタバ(註1)がやって来た。
フシキにはとっくに厭きているけど、目的のウスイロは来ないし、退屈だから見映えの良さそうなものを選んで採っていた。
4頭めに採ったヤツを見て、何か違うと感じた。
大きさは同じだが、よく見ると下翅の黒帯が太い。
それに上翅の感じも何となく違う。裏返してみると、こりゃ全然違うなと思った。帯が太くて全体的に黒っぽいのだ。
何だこりゃ( ・◇・)❓

 

 
しばし考えたところで、ようやく思い至った。コレって、もしかしてコガタキシタバじゃなくなくね❓
コガタキシタバは6月下旬発生のイメージだったけど、考えてみれば今はもう6月中旬も後半だ。有り得るよね。

それからは何となく雰囲気の違うものを選んで採ったら、全部同じようなヤツだった。それで確信した。おそらくコヤツらはコガタキシタバで間違いないだろう。

裏側が黒っぽくて、黄色が薄いのがコガタキシタバだと理解した。反対に、全体的に黄色っぽくて黄色と黒のコントラストがハッキリしているのがフシキキシタバだ。慣れると飛んでるのを下から見ても見分けがつく。

 

 
羽を閉じて止まっている時は一瞬どっちか迷う。でも何となく違うと感じたものは、採ってみたら全部コガタだった。この辺は感覚的なもので、センスとしか言い様がない。
そういえば図鑑か何かで、このカトカラは上翅の柄がヴァリエーション豊富であると書いてあったことを思い出した。コガタキシタバは去年1頭しか採ってないから大きなことは言えないけど、少なくとも上翅の真ん中が白いのは100%コガタキシタバだということは知ってる。

あと、樹液を吸汁し始めると下翅を開くので、その黒帯が太ければコガタ、細ければフシキだと考えてほぼ間違いなかろう。

この日は3♂3♀の計6頭が採れた。
その後、池田市の五月山公園、矢田丘陵、京都市左京区、宝塚市などにもいた。正直、どこでもいるという感じだ。
だが西宮市のこの場所を除いては、総じて個体数は少ない。その日見るのは、せいぜい1頭から3頭って感じだった。

 
【コガタキシタバ Catocala praegnax ♂】

 
出始めの新鮮な個体なので、前脚がもふもふである。それを強調してみた。
この前脚を出す出さないは意見の分かれるところだが、オラはそんなのどっちだっていい。気分で出したり出さなかったりする。

  

 
触角を更に怒髪天にしてみた。
👿邪悪な感じになるね。蛾にもだいぶ慣れてきたけど、いまだに蛾=闇の使者➡邪悪というイメージが心のどこかにある。幼少期に刷り込まれた概念は中々払拭できないもんだね。

  

 
今度は触角を横に寝かせてみた。
たぶん、この中間が正解なんだろな。

以上が♂である。
基本的に♂は尻が細くて長く、尻先に毛束がある。

前翅の柄は『世界のカトカラ』によれば、「前翅基部は黒化し、内横線と外横線の間が白化傾向になる個体が多い。」とある。なるほどね。確かにそんな感じだわさ。

ここから下が♀。

 

 
この個体は上翅にメリハリがない。白帯も薄い。

それはそうと、やっぱデブだよなあ。
デブだと蛾感が増すから、好きになれないのかもしんない。

 

 
これもメリハリが弱い。
結構、バリエーションがあるんだね。

 

 
これは少し白帯が出てるかな。
♀って、あんま白帯が出ないのかなあ❓

 

 
あっ、これは出てるなあ…。
どうやら白帯の出る個体は、♂♀関係ないようだね。

 

 
コレなんかはメリハリもハッキリしていて、♂よりも顕著だ。カッコいい。
こんなのばっかだったら、もっと評価されるのにね。図鑑や各種のコメントなど、コガタキシタバを熱烈に褒めるものを見たことがない。あんま、人気ないんだろなあ。アチキもコガタはどうでもいいっちゃ、どうでもいい存在だ。
でも、そう思うと何だか不憫だ。同情するよ。自分がもし、こういう評価や扱いをうけたらキツいなあ…。でも世の中、大部分がそういう人たちだったりもする。
やめとこ。今はそんな事を考えても栓かない。

そうだ、裏展翅もしたな。

 

 
前回に載せた裏展翅はもっと薄い色の印象があるが、より黒っぽくて、黄色と黒のメリハリかある。
カトカラって標本にして時間が経つと色褪せるのかなあ…❓

Σ(゜Д゜)あれぇー、そんな事よりも採ったのって、たったコレだけかあ❓
最初に6頭だよね。で、展翅したのは9頭しかない。
計算が微妙に合わなくねえか❓
けど、3頭は展翅してないのは自分でも知ってる。にしても案外採ってないぞ。他の場所で如何にサボってたかが、如実に表れてる。考えてみれぱ、途中から見ても結構スルーしてたなあ…。
飽き症なのだ。最初の3、4つを採ると、途端に集中力もやる気もなくなる人なのだ。
そういえば皆が憧れる蝶の一つクモツキ(クモマツマキチョウ)でさえも、5分で3頭採って雪渓で寝てたっけ…。

 
【クモマツマキチョウ(雲間褄黄蝶)♂】

 
『イガちゃん、クモツキやで、クモツキ❗ 妖精クモツキにもう飽きたん❓ 信じられへんわー。』

そんなことを言われるような男なのだ。世にいう『イガちゃん3頭伝説』である(笑)。以前から3頭採ったら飽きるイガちゃんと揶揄されていたのだが、それがクモツキでさえもそうだったって話だすな。

またこんな事もあった。
師匠に中国地方にゴマシジミを採りに連れていってもらった時のことだった。
斜面で、その日会った人と何となく立ち話をしていたら、下から師匠の大声が飛んできた。

『こらあー、何サボっとんねん❗喋ってるヒマがあったら採れー❗』
 
立て続けに『おまえ、いくつ採ったんじゃあ❗』という声が飛ぶ。

『10頭でぇーす❗』

『(ー。ー#)それくらいやったら、まあええわ…。』

叱られる事は予想していたので、まあまあ頑張っていたのである。短時間ならば、合格の数字だろう。

みんなにもっと採らなきゃダメだと言われ続け、実際自分でも後でもうちょっと採っとけばよかったと後悔することしきりなので、最近は流石に3頭以上は採るようにはしている。それでも惰性になるのは早い。5頭目辺りからモチベーション急降下。いくつ採ったか、数さえワカンなくなる。

ダメな男である。

 
                おしまい

 
追伸
次回、いよいよシリーズ前半のハイライト、カバフキシタバだっちゃ。そもそもこのカバフとムラサキシタバの事が書きたいから、始めた連載なのである。
シリーズ渾身の一作、乞う御期待❗
まだ一行たりとも書いてないけどー( ̄∇ ̄*)ゞ

 
(註1)フシキキシタバ

(裏面)

(裏面)

 
フシキキシタバの関しての詳しいことは、第1話『不思議のフシキくん』を読んでくだされ。

 
《参考文献》
石塚勝己『世界のカトカラ』 むし社

 

深夜のカプレーゼ

  
昨日?、今日?
日付が変わった深夜に山から帰ってきて、24時間スーパーに寄った。
輸入物のモッツアレラチーズが安くなってたので買う。

 

 
モッツアレラといえば水牛のチーズで、真っ先に頭に浮かぶのがカプレーゼだ。
カプレーゼとは、正式にはインサラータ・カプレーゼ(Insalata Caprese)といい、イタリア南部カンパニア地方のサラダである。直訳すると「カプリ島のサラダ」という意味だ。
幸い冷蔵庫にはフルーツトマトがある。それにその山で採ったばかりの野生のシソもある。これはもう、天の啓示みたいなもんである。
( ・◇・)ん?、何かこのシーンって既視感がなくなくねぇか❓ ドッペルゲンガーとかドッペルゲンゲル的なものをフッと感じたぞ。いやドッペルゲンガーとは違うわ。既視感のことはデジャヴって言うんだったな。
御託はいい。疲れているのだ。とっとと作ろう。

作り方は簡単だ。
トマトとモッツアレラチーズ、生のバジルを交互に盛りつけ、そこにエキストラヴァージン・オリーブオイルと塩、胡椒をかけるだけだ。
で、生のバジルの替わりに同じシソ科のシソを使おうと云うワケである。

とはいえ、雨に祟られ何だかヘトヘトだ。
キレイに交互になんて盛りつけてらんない。良く言えばワイルド、悪く言えばぞんざいに盛りつける。

 

 
疲れてんなあ…。肝心の塩と粗挽き胡椒を振るのを忘れてるよ。

 

 
完成。
赤と緑と白のトリコロールが美しい。何だかイタリア国旗みたいだ。

口に頬張ると、トマトの甘みと酸味、モッツアレラのコクが広がり、そして最後に野生のシソの強い香りが鼻に抜けてゆく。
野生の紫蘇って、こんなにも力強いんだ…。
この料理の主役は、この野性味溢れるシソかもしんない。

窓の外に目をやる。
雨はまだ降り続いている。

『深夜のカプレーゼ。』と呟く。
何だか映画のタイトルみたいだ。
ちょっとだけ、頬がゆるんだ。

 
                 おしまい

 
追伸
今宵もひっそりと生きてきた美しき者の姿を求めて、原始の森へ行こう。

 

2018′ カトカラ元年 その四

  『ワタシ、妊娠したかも…』 

   vol.4 コガタキシタバ

 
 
『ワタシ、妊娠したかも…』と彼女は言った…。

 
正直言うと、コガタキシタバは最初に採った時の記憶があまりない。

 
【コガタキシタバ Catocala praegnax ♀】

 
(裏面)

  
場所は矢田丘陵なのは間違いないが、細かいシチュエーションの記憶が殆んどないのだ。確認すると、日付は7月10日となっている。

小太郎くんが『あっ、コガタキシタバですよ。まだ採ったことないでしょ。採らないんですか?』と言って、『ワカッター、じゃあ一応採っとくー。』的な会話があったような気もするが、定かではない。

当時のFacebookにあげた記事を遡ると、こんな風に書いてあった。

『たぶん、コガタキシバかな?
だとしたら、採ったことがないから素直にちょっと嬉しい。
なのに蝶じゃないから、触角はアグレッシブに天突く怒髪天にしてみた。蛾の展翅は知らない分だけ自由な感性で勝手にやれるからお気楽。』

これだけである。
しかも、展翅写真もこの♀だけしか残されていない。
稀種じゃないから、この1頭しか見てない筈はないんだけど、無いと云うことは興味があまり無かったのだろう。パタラキシタバ(=キシタバ Catocala patala)を小型にしたような奴で、特別個性を感じなかったのかもしれない。
いや、たぶん1頭採れれば充分だと思ったような気がする。デブだしさ。
ワモンキシタバの回で、フシキキシタバ、ワモンキシタバと美しいカトカラが続いたから、完全にカトカラにハマっとか書いたが、よくよく考えてみればアレって嘘である。全くの嘘ではないが、正直ムラサキシタバとカバフキシタバ、シロシタバ、ナマリキシタバ辺りにしか興味はなかった気がする。ようは、根がミーハーなんである。美しいカトカラは採りたいと思ったが、他はどうでもいいやとでも思っていたのだろう。

 
【分類】
ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ属(Catocala) Schrank, 1802

 
【学名】
Catocala praegnax praegnax(Walker,1858)

ネットで最もポピュラーなサイトである jpmoth(みんなで作る日本産蛾類図鑑)では、aegnax が2つ連なってるから、たぶん日本のものが原記載亜種なのだろう。

( ̄▽ ̄;)あれっ❗❓
でも『世界のカトカラ』には「日本のものは亜種 olbiterata Menetries 1864とされる。」とあった。おそらくコチラが正しいかと思われる。
おいおい、jpmoth(みんなで作る日本産蛾類図鑑)っていい加減だなあ。ワモンキシタバの学名も変わってないしさあ。蛾を名前検索したら、大概は一番先に出てくるサイトなのに問題有り有りだよ。

ゲゲッΣ( ̄皿 ̄;;、『原色日本産蛾類図鑑(下)』では、亜種名が esther(Butler)となっている。ワケわかんねえや。
まあ、『世界のカトカラ』が一番新しい図鑑だから、その亜種名が正しいんだろね。それに著者の石塚さんはカトカラの世界的研究者だからね。

「praegnax」の語源をネットで調べてみたら以下のようなものが出てきた。

・妊娠した,(…で)充満して,意味深長な,含蓄のある,示唆的な,工夫に富む。

・ラテン語 prae-(前の)+gnascor(誕生する)+-ans(状態)>genh-(産む)が語源。

・「出産までの状態」がこの単語のコアの意味nation(国家)と同じ語源をもつ。

一番アタマの「意味深長な,含蓄のある,示唆的な,工夫に富む。」辺りが語源と言いたいところだが、圧倒的に出てくるのは妊娠なので、となると「妊娠した」が語源になるのかなあ…❓デブで腹ボテだから❓

 
【和名】
コガタキシタバというが、それほど小さくはない。フシキキシタバなんかと同じくらいの大きさだ。『原色日本産蛾類図鑑(下)』には開張50~58㎜とある。となれば、中型のカトカラだ。
これは多分、パタラキシタバに似ていて、それと比べて小型だからということから名付けられたのだろう。
大きさを除けば、確かにパッと見は両者はよく似ている。少なくとも初心者にはそう見える。

 
【パタラキシタバ Catocala patala 】

 
両者の幼虫の食餌植物(マメ科フジ)も重なるところがあるから、きっと兄弟とか姉妹だと考えたんだろね。
しかし、近年の遺伝子解析の結果、両者に類縁関係はないようだ。他人の空似ってヤツだね。
確かによく見ると、下翅の柄もかなり違う。馬蹄形の形が異なるし、パタラキシタバと比べて帯が細く、橙黄色の部分が広い。あと、上翅の色柄も明らかに違う。コガタキシタバの上翅はバリエーションに富むが、パタラキシタバみたいに緑色を帯びることは基本的にない。
今にして思えば、この頃はまだ初心者で、黄色い下翅のカトカラは全部同じに見えたんだね。だから黄色系のカトカラは、一見して区別できてカッコいいカバフキシタバやナマリキシタバくらいにしか興味がなかった。

因みに、昔は「コガタノキシタバ」という名前だったみたい。実際、自分の見た『原色日本産蛾類図鑑(下)』の古い版でもそうなってた。

 

 
これって名前を耳で聞いたって、それが果たしてコガタノキシタバを指しているのか、それとも小型のキシタバ(パタラキシタバ)を指しているのかがワカンナイ。改名は妥当だね。

 
【分布】
北海道、本州、四国、九州、対馬、種子島、屋久島。
国外では、中国、台湾、朝鮮半島、ロシア沿海州にも分布しているようだ。

 
【レッドデータブック】
滋賀県が要注目種にしている程度なので、そう珍しいものではないと思われる。
しかし『世界のカトカラ』では少ないとあるし、『日本のCatocala』でも同じようなニュアンスの記述があった。
でも近畿地方では、何処にでもそこそこいると云う印象だ。但し、パタラキシタバみたいにクソみたいに沢山いると云うワケではない。どこでも、いくつかは見るって感じだ。これは後述する幼虫の食餌植物と関係があると思われる。

 
【成虫出現期】
『世界のカトカラ』では6月中旬から出現し、9月上旬まで見られるとある。一方、『日本のCatocala』には「近畿地方では6月下旬から既に得られるが、一般には7~8月に多い。」とあった。だが、近畿地方では6月中旬には見られる。
順番で云うと、フシキキシタバに少し遅れて発生する。そして両者が同時に見られる期間も短いながらあるようだ。実際、2019年の6月17日は両方が半々くらい樹液に訪れていた。
また『日本のCatocala』によると、寿命は比較的短く、室内飼育だと3週間だったようである。近畿地方では7月中旬ともなると汚損した個体が多いので、寿命はそんなもんなのかもしれない。

  
【生態】
クヌギやコナラなどの樹液によく集まる。糖蜜トラップにもよく来た。飛来時間は日没後、比較的早く現れる印象があり、深夜まで断続的に飛来する。
成虫は昼間、頭を下にして樹幹に静止しており、飛翔➡着地時は上向きに止まり、しばらくして下向きになるという。
毎度言うが、何で昼間はわざわざ逆さまに止まるの❓
全然、理由が思いつかない。

 
【幼虫の食餌植物】
jpmothには「ブナ科コナラ属:ミズナラ、ナラガシワ(※KD)、マメ科:ハギ属、フジ属」とあった。
やっぱ、jpmoth はダメだな。間違ってはいないが、順番がオカシイ。東日本では最も好むのがマメ科のハギ類で、次に続くのが同じマメ科のフジのようだ。ブナ科を利用しているのは西日本だけで、東日本ではブナ科から幼虫は発見されていないという。また飼育しても幼虫は摂食しないそうだ。
この辺が東日本では個体数が少なく、西日本では多い原因なのかもしれない。

 
全然関係ない話だけど、学名 praegnax の語源を調べてて、突然、フラッシュバックで記憶が甦った。
大学時代の彼女が何でもない会話の途中で、急にワッと泣き出して『ワタシ、妊娠したかも…。』と言った事を思い出した。青天の霹靂。あれはフリーズしたね。
脳が真空状態みたいな感覚で『おまえが産みたいなら、いつでも父親になる覚悟はあるよ。』とか何とか言った覚えがある。
結局、妊娠はしてなかったんだけど、でも今思えば、あの時に彼女が本当に妊娠してて、学生結婚とかしてた方が幸せだったかもしれない。

 
                 おしまい

 
追伸
ものスゴい実験的な入りからの終わりになっちゃいましたなあ。
まあ論文じゃないんだから、こういうのもあっていいだろう。それに、こんなの読んでる人、少ないと思うしさ。

展翅は、この時はそこそこ上手いやんかと思ってたけど、今見ると上翅を上げ過ぎだね。50点。
今年2019年は上翅を少し下げてみた。

 
(2019.6.17 西宮市名塩)

 
結局、怒髪天にはなってるけど(笑)
因みに性別は♂である。♂はデブじゃないのだ。
続いて♀。

 

 
妊娠しとるやないけー(ー。ー#)

 

続・キシタバ

 
  『黄下羽虐待おとこ誕生』

 
2019年、カトカラ二年生のキシタバとの再会は、6月21日だった。

 
【Catocala patala キシタバ♂】

 
場所は大阪府池田市にある五月山公園。
目的はウスイロキシタバの探索だった。しかし全然飛んで来ず、暇をもて余しているところにキシタバが飛んで来た。ワテの糖蜜トラップに誘引されたのである。
それにしても、久し振りに見るとやっぱデカい。

ケッ、ただキシタバか(# ̄З ̄)…と思いつつ、一応採ってやるかと近づいたら、敏感に反応して逃げた。
(#`皿´)クソッ、キシタバ風情が生意気にも逃げやかって。オイちゃん、イラッ(ー。ー#)ときたね。

書いてると何かこのキシタバと云う名前、ウザい。
前回も言ったが、キシタバと云う名前は羽の下が黄色いカトカラの総称としても使われる事が頻繁にあるので、ややこしいのだ。例えば、誰かと採集に行った折りなどは一々「ただキシタバ」とか「普通キシタバ」と言いなおさなければならないケースが多い。これが誠に鬱陶しい。だから最近では「糞キシタバ」と呼んでいる。因みに小太郎くんは「屑キシタバ」って呼んでる。何れにせよ、どこにでもいるから、こないな扱いになる。
んなワケで、以降キシタバのことをその学名である Catocala patala からとって、パタラキシタバと呼ぶことにしよう。ついでに言っとくと、コモンセンスからの「コモンキシタバ」も考えたが、コモンを小紋と取られかねない。オデなんかアホだから、蝶の「コモンタイマイ」のことをずっと「小紋タイマイ」と思ってたもんね。ゆえに却下。

以後、飛んできては逃げ、また飛んできては逃げが三、四度繰り返された。こうなるとハンターの血が🔥燃える。昔からナメられることが死ぬほど嫌いな男なんである。何としてでもシバき倒すと決意した。おどれ、ナメとったらあかんど、Σ( ̄皿 ̄;;シャーき倒したるど、ワレーである。

最後は逃げた瞬間に空中で豪腕の振りでシバキ倒してやった。ワシの鬼神の如き本気の網振りをナメとったらあかんど。おとといきやがれの、ざまあ見さらせである。
その時に採ったものが上の個体である。羽化したてのような新鮮な個体で、まだ前脚がもふもふだったので展翅はその前脚を思いきり出してやった。

以下、今年採って展翅したものを並べよう。

 

 
これも♂である。採集場所は奈良県大和郡山市。下の4つも同じ場所だ。

メスはこんなん⬇

 

 
デブである。だから糞キシタバ、もといパタラキシタバはあまり好きになれない。いつもより展翅写真か少ないのも、邪魔だからコレだけしか採っていないのである。
それにデカくて何処にでもいるからウザい。ウザい上に、樹液に飛来した時などは他のカトカラを蹴散らすから腹が立つ。
この大和郡山の時も小太郎くんが邪魔だと言って、思いきり指でデコピンしてた。フッ飛んだキシタバは地面でひっくり返って、ビビッ、ビビッと痙攣してた。
キシタバ虐待おとこの誕生である。

『アンタ、酷いことすんなあ。糞キシタバとはいえ、それって虐待やでー。』
『大丈夫ですよ、コイツら。そのうち生き返りますよ。クソ邪魔だから、いいっしょ。』

こないだのカバフキシタバの時も、樹液や糖蜜トラップに来た糞キシタバに指でパチキかましまくっとった。
どうした小太郎くん、何かあったのかね❓ キミの心の中の深い闇を見たような気がするよ。
小太郎くんはマジメで優しく、穏やかな青年とばかり思っていたが、彼にも時に邪悪なものが憑依するのだね。
でも許す。確かにカバフ様を蹴散らす糞キシタバは邪魔だ。退治してよろし。

そして、一昨日の大発見の折りも糞キシタバをことごとくデコピンしてた。挙げ句の果てにはコッチに投げてきやがった。小太郎くん、キミの心の闇はそんなにも深いのか…。

『おいおい、キミの心の闇は、どんだけ深いねん❓』
『いやあ、コレって力の入れ加減がケッコー難しいんですよ。でも、下はあらかた屑キシタバいなくなったでしょ。』

そうなのだ、この日はオラが斜面の上にいて、小太郎くんが下にいたのだ。
確かに見ると、幹の下側にはキシタバは一つもいない。
でも、許す。この日は糞キシタバ、もといパタラキシタバがブンブン飛んでて、それに刺激されて他のカトカラも飛び回って中々止まってくれなかった。スゲー、ウザいから、ブチのめしてくれてケッコー。どんどんおやりなさいだった。

そんな小太郎くんだが、今日は来られないらしい。
ならばオイラも、今日は心を鬼にして黄下羽虐待オトコと化してやるか。
 

                 おしまい

 
追伸
もちろん、そんな悪いことはしません。だってオラ、心の闇なんて無いもーん(⌒‐⌒)

おーっと、裏展翅もしたんだった。

 
【裏面】

 
表は黒帯が太くて黄色い領域が狭いけど、裏はかなり黄色い。だから飛んでるとこを下から見ると、たまーにアケビコノハと間違える。いや、アケビコノハをキシタバと間違えると言った方が正しいか(笑)

 

2018′ カトカラ元年 その參

 

『頭の中でデビルマンの歌が流れてる』

     vol.3 キシタバ

 
 
 2018年 7月4日 黄昏。

いつものように階段を登ってたら(註1)、5Fのエレベータ前の壁に結構大型の蛾が止まっていた。
遠目に見て、どうせ糞フクラスズメだろうと思って近づこうとしたら、飛んだ❗えっ(°Д°)、4mは離れてたのにもう飛ぶの❓
メッチャ敏感やんと思った瞬間に灯火の下で明るい黄色が火花のように明滅した。
!Σ( ̄□ ̄;)WAOっ❗
大阪のド真ん中、難波の自宅マンションにカトカラ❗
嘘やん(@_@;)❗❓こんな都会にカトカラとは驚きざます。
急いで部屋に帰って、興奮しながら殺戮道具の注射器とアンモニア、毒瓶と捕虫網を用意した。

戻ったら、カトカラくんは天井にへばりついていた。
写真を撮ろうかとも思ったが、強烈な逆光だし、いつ住人がエレベーターで昇ってくるやもしれぬ。見つかったら、どう考えても挙動不審の怪しいオジサンだ。
瞬時に悟る。ここは刹那の時間との勝負である。
しかし、一見して手を伸ばしても毒瓶では距離的に届かない。となれば、ネットを出すしかあるまい。
(;゜∇゜)マジっすか❓マンションに虫網男。間違いなく異様な光景だわさ(°Д°)
💓もう心臓はバクバク。💓ドキドキのハラハラだよ。半ば震える手でソッコーで網を組み立てて、エレベーターの階数表示に目をやる。大丈夫だ。1Fに止まったまんまだ。昇ってくる気配はない。いや、そんなのワカンナイぞ。油断大敵だ。いつ昇ってくるやもしれぬ。予断は許さない。

🎵だあーれも知らない 知られちゃいけなーい
🎵デビルマンが だぁーれなのかー
🎵何も言えなーい 話ちゃいけなーい
🎵デビルマンが だぁーれなのかー

頭の中でデビルマンの歌が流れている。
何があっても、この姿をマンションの住人に見せるワケにはいかぬ。驚きと蔑みの冷たい目に晒され、恥にまみれるわけにはいかないのだ。
階数表示を横目に見ながら、💥バチコーン、電光石火で下から網を叩きつけた。
ネットイン❗ 網に蛾を入れたまんま素早く反転する。ソルジャーは機敏でなくては戦場で命を落とす。
撤退❗、てったあーい❗心の中で叫ぶ。
ダッシュで塹壕、いや階段の踊り場へと退却。ここなら上の階からも下の階からもブラインドになって見えない筈だ。もしも誰かがエレベータから降りてきたとしても身を隠せる。
💦あたふた、💦あたふた、慌てて毒瓶に放り込んで、ぷぴゅーε=ε=(ノ≧∇≦ ノ 脱兎の如くその場から逃走だべさ。もうバリバリ犯罪者の気分である。
そこには背徳感とスリル、禁忌を冒す悦楽とが入り交じった興奮がある。そう、悪い事をするのはエクスタシーなのだ。人は悪に惹かれるものなのだ。
あっ、べつに悪りい事はしてねえか( ̄▽ ̄)ゞ

部屋に帰ったら、なんだかバカバカしくなってきて、
笑いが込み上げてきた。大の大人がやってる事にしては、あまりにもアホ過ぎる。
でも、久し振りの面白き((o(^∇^)o))ワクワクでありんした。危地にこそ、アドレナリンやエンドルフィンなどの脳内麻薬物質が溢れる。それこそがエクスタシーだ。虫採りにそれが無くなったら、いつでも辞めてやる所存だ。

コヤツがほぼ何者だかはもう解っているけど、毒瓶の中を改めて確認してみる。
大阪のド真ん中ミナミで捕らえたカトカラは、思ったとおりキシタバだった。

その日のうちに展翅したので、大丈夫かと思いきや、ソッコー触角が折れた。矢張りカトカラの触角は細くて長いので、生展翅でもキチッとお湯なり水なりで濡らしてからでないと折れちゃうのね。
下翅も欠けてることだし、まっ、( ̄▽ ̄)ゞいっか…。

 

 
( ̄∇ ̄*)ゞハハハハハ。
上翅がバンザイになってて、我ながら酷い展翅だ。
恥ずかしいかぎりである。思うに去年はまだまだカトカラの展翅のイメージが掴めてなかった。ほぼ蝶の展翅しかしてこなかったから、触角を含む左右上翅の間の空間が空き過ぎるのが何となく嫌だった。それを避けようとして、無意識に必要以上に上翅を上げてしまう傾向があったのだと思われる。

それはそうと、幼虫は何を食ってこんな都会で育ったんじゃ❓ 疑問に思って調べてみたら、食餌植物はフジとコナラみたい。都会には基本的にコナラは無いから、きっとフジだね。近くの公園に藤棚もあるしさ。
どうあれ都会で人間に捕まるなんざー、普通では有り得ない。捕まるパーセンテージは限りなくメッチャメッチャ低い筈だ。つくづく不幸なキシタバくんだよね。合掌。

実を云うとキシタバに出会ったのは、この時が初めてではない。前年の秋に既に会っている。帝王ムラサキシタバに一度くらいは会っておきたいと思ったので、A木にライトトラップに連れていってくれとせがんだのだ。その時に一応は採っている。

とはいえ、人さまのライトトラップにお邪魔して採集したものだ。自身の力ではない。だからカトカラ採りを始めるにあたって、この時のものはカウントしない事にした。だから、vol.3 なのだ。

マンションでキシタバを捕らえてから数日後、矢田丘陵で又もやキシタバに会った。しかも大量の。
樹液の出ている木に行ったら、その周りの樹木の幹にベダベタと止まっていたのだ。数えたら、30近くはいた。この日は午後9時くらいに訪れたから、おそらく1回目の食事を終えて、憩んでいたのだろう。
10時半くらいからまた樹液に集まりだした。これでカトカラの生態の一端が垣間みえてきた。樹液の出ている木の周囲にはカトカラが止まっているケースは多い。採集する時は、樹液に求むターゲットがいなくとも、周囲を探されたし。それで案外採れる。そんな事、図鑑とか文献のどこにも書いてないけど…。

 
樹液ちゅーちゅー( ̄З ̄)、キシタバくん。

 

 
たくさんいると警戒心がゆるまるのか、スマホでも至近距離で写真が撮れる。
この個体は上翅が緑色っぽくて中々美しい。
この日は採ろうと思えば50くらいは採れたけど、4つくらいで飽きた。
後日、別な場所に行っても必ずそこそこの数がいた。ド普通種なんだと納得じゃよ。

しかし黄色系のカトカラの中では世界最大級種なので、国外での評価は高いらしい。
でもなあ…、慣れてくると、あんま魅力ないんだよなあ。どこでもいるから、段々存在がウザくなってきたというのもある。コレクターは普通種をクズみたいな目で見がちなのだ。それを差し引いても魅力をあまり感じない。なぜなら総体的に上翅が美しくないのだ。柄にメリハリが無いし、基本的には地味な茶色のものが多い。また変異幅も少ない。それに何よりデブだ。デブだから蛾感が強まるし、優美さにも欠ける。ようするに、どこか野暮ったいのだ。

 
【学名】
Catocala patala (Felder & Rogenhofer,1874)

おっ、小種名 patala はオラの大好きなチョウ、パタライナズマ(註2)と同じ学名じゃないか。
patala の語源の由来は、最初は小アジアのリュキア地方南西部の地中海沿いにあった古代の港湾・商業都市パタラ(patara)であり、リュキア連邦の首都だとばかり思っていた。しかし、綴りが違うことに気づいた。語尾はraではなく、laなのだ。
で、再度調べなおし。

パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称の事だそうである。
またこの世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされてるみたいだ。たぶん、語源はこっちだね。キシタバは上翅が緑っぽいのもいるから、案外蛇神さまになぞらえたのかもしれない。

 
【和名】
このキシタバ(黄下翅)という名前は、カトカラの中で下翅が黄色いグループの土台名にもなっているので、おそらくこのグループで最初に和名がつけられた種だと推察される。まあ、基準種みたいなもんだね。
しかし、これがややこしくて、何とかならんもんかなと思う。なぜなら、このキシタバは下翅が黄色いグループの総称としても用いられることも多いからだ。だから、キシタバと書かれたり、言われたりするそれが、はたしてキシタバ(Catocala patala)という種そのものを指すのか、それともキシタバグループ全体(キシタバ類)を指しているのかが解りにくい面が多々あるのだ。
だから、会話では一々「ただキシタバ(ただのキシタバ)」とか「普通キシタバ」などと言わなければならない。
これが誠にもって面倒くさくて、(-_-#)イラッとくる。そのせいか、最近ではクソキシタバと呼んでいる。もういっそのこと、そのクソキシタバとかデブキシタバと呼んだらどうだと思うくらいだ。
まあそれは無理があるにしても、ホント何とかしてほしいよ。その際、下手に凝った名前やメルヘンチックな名前、カッコつけたキラキラネーム、如何にも学者が考えたシャチホコばった名前は何卒よしてもらいたい。
ここはシンプルに学名そのままの「パタラキシタバ」でいいと思う。もしくはド普通種なんだから、「コモンキシタバ」でも構わない。
パタラキシタバかあ…。名前の響きも悪くない。そう聞くと、途端にカッコよく思えてくるから不思議だ。名前は大事だす。

 
【開張(mm)】
69~74㎜。
日本産キシタバグループの最大種。北米大陸を除く旧大陸では、これと肩を並べる大型種はタイワンキシタバ Catocala formosana くらいしかいないようだ。
だから、他のキシタバとの区別は比較的簡単である。とにかくデカいのだ。しかし、たまに矮小個体がいるので、判別方法を一応書いておきますね。
後翅の黒帯はよく発達し太く、外帯の後縁付近で内側に突起し、中央部の黒帯に接する。他のキシタバ類はアミメキシタバとヨシノキシタバを除き、ここが繋がらない。また、アミメキシタバとヨシノキシタバはキシタバと比べて小型で、上翅の柄も違うので容易に判別できる。

 
【分布】
ネットで最もポピュラーなサイトの『みんなで作る日本史蛾類図鑑(www.jpmoth.org)では、本州、四国、九州、対馬、中国、朝鮮、インドとなっていた。
と云うことは学名からすると、原記載はインドかな?
しかし『世界のカトカラ』では北海道南部にも生息すると書かれている。『原色日本産蛾類図鑑(下)』にも北海道は分布域に入っていた。また、『日本のCatocala』でも北海道に分布する旨が書いてある。地球温暖化のせいか、最近は採集記録が増加しており、定着した可能性が高い云々ともあった。
その言葉尻だと、昔は北海道には分布していなかったのかも。にしても、jpmoth の情報って古いって事だよね。もしかしたらワモンキシタバの学名が以前のままになっているのも、そのせいかもなあ。蛾業界の人は、そうゆうこと誰も指摘しないのかなあ…。

 
【成虫出現期】
その www.jpmoth.org では、7月~8月となっている。
『世界のカトカラ』では、6月中旬から出現し、10月下旬まで見られるとある。また、新鮮な個体は7月中旬頃までだが、秋に新鮮な個体が採れることもあるので、あまり盛夏には活動しないのかもしれないと記述されている。
盛夏に活動しないかもしれないかあ…。中部地方以北では、それも有り得るのかもしれないが、少なくとも去年の関西の知見ではそんな兆候は見受けられず、継続していつでも何処にでもいた。今年も果たしてそうなのかは心に留めておこうと思う。
『日本のCatocala』の解説では、長野での羽化時期は7月以降で、10月まで見られ、11月の記録もあるそうだ。因みに、他の論文からの引用で、岡山県では6月下旬から見られるとの付記もある。
またそこには、こういう文章もあった。
「Catocalaの中では出現期は長いが、メスの交尾嚢や翅の新鮮さからみると、9月中旬以降に見られる個体は遅く羽化した個体であることが示唆された。9月から10月まで連日メスを採集して交尾回数と新鮮さを調査したことがあった。10月のメスに比べ、9月上旬に採集した個体の方が汚損していて交尾回数は多かった。」

これは『世界のカトカラ』の秋に新鮮な個体が採れることもあるので、盛夏には活動しない云々に対する答えの一つにはなっていないだろうか❓

今年2019年も含めての自分の感覚としては、6月中旬から姿を見せ、徐々に個体数を増やして7月上、中旬辺りにピークを迎えるといった感じがする。

 
【生態】
樹液にも灯火にも好んで集まるとされる。
自分の経験でも、そのようた。
灯火には結構早い時間帯から集まり、夜遅くまで断続的に飛来する。
樹液には日没後、フシキキシタバやコガタキシタバなんかと比べてやや遅れてやって来ることが多い。また同じ個体が時間を措いて何度も訪れ、驚いて逃げても暫くしたら戻ってくるケースが多い。吸汁時間はわりと長い印象がある。
樹液には日没から夜明け近くまで訪れるが、空が白み始めると一斉に飛び立ち、森の奥へと消えてゆく。その際、近くの樹木に静止するものはいなかった。

『日本のCatocala』に因ると「成虫は日中、頭を下、もしくは上、時に横にして樹幹や暗い岩影、石垣の隙間などに静止している。はっきりした静止時の姿勢はない。着時は上向きに着地し、そのまま静止する。昼間のはっきりした静止姿勢が認められないことは、Catocalaとしてはむしろ異例とみられる。」とある。
たしかに自分が昼間に見た1例は、逆さま向きではなくて左斜め向きに止まっていた。

 
【幼虫の食餌植物】
マメ科 フジ属のフジ。
食樹の樹齢に関係なく付くようだが、古木はあまり好まないらしい。
他にブナ科コナラ属も稀に利用するとされるが、飼育しても育たないケースが結構あるようだ。

 
お粗末ながら、この年のキシタバの展翅を並べて終わりとしよう。

 

 
上が♂で下が♀である。
あっ、これは2017年にA木くんに初めてライトトラップに連れていってもらった時のものだね。
ということは9月に採集したものだね。そのわりには意外と翅が傷んでいない。やはり遅くに羽化するものもいるのだろうか?

それでは、以下2018年のもの。

 
【♂】

 
【♀】

 
いやはや酷い展翅である。
ほぼほぼ形が\(^_^)/バンザイになっとるやないけー。

中ではこれが一番マシかなあ…。

 

 
これも上翅はバンザイだが、バランスはそれほど悪くない。悪魔的な感じがして、これはこれで有りなんじゃないかと云う気がしないでもない。

最後に裏側も載せておこう。

 

 
結構、黄色い。
生態のところで書き忘れたけど、飛翔中でも他の下翅の黄色いカトカラとは区別は割かし容易である。なにしろデカくて黄色い。間違え易いのはクロシオキシタバくらいだろう。あと、カトカラとは違うけど、下からだと一瞬アケビコノハに騙される。

 
【アケビコノハ】

 
表は全然違うけど、裏は一瞬カトカラに見えるのだ。

 
【裏面】
(出典『フォト蔵 monro』)

でも、もっとデカイから違うと気づいて脱力する事、多々ありである。

それはそうと、こうしてキシタバくんを並べてみると、ただデカイだけで面白味の無いカトカラだなあ。
上翅の柄が、とにかく地味。色も汚い。下翅も変化が殆んど綯い。調べてないけど、おそらく日本全国どこでも変わりばえしないじゃないかなあ。亜種レベルに近いものがいるという話も聞かないしね。因みに、これらは全て近畿地方で採集したものである。

もう1つ出てきた。
たぶん9月に山梨に行った時のものだ。

 

 
これは結構いい線いってる。
何でだろう❓ と思ったら、すぐに思い当たった。
そういえばシロシタバの展翅について、とあるトップクラスの甲虫屋さんから上翅を上げ過ぎだという御指摘を戴いた。きっと、そのあとだったからだね。
今にして思えば、有り難き御言葉だった。
秋田さん、感謝してまーす\(^o^)/

一応、今年2019年の最初に展翅したものも、参考までに貼付しておこう。

 

 

 
上が♂で下が♀です。
この辺りが正解かな。

 
                 おしまい

 
《参考文献》
西尾 規孝『日本のCatocala』自費出版
石塚 勝巳『世界のカトカラ』月刊むし社
江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑(下)』保育社

 
追伸
 
(註1)いつものように階段を登ってたら
普段は極力9Fの部屋まで階段を登るようにしている。虫採りは体が資本。それを訛らせないためなのさ。体力が維持できてる間は先鋭的虫採りができる。

 
(註2)パタライナズマ
ユータリア(イナズマチョウ属)の中の緑系イナズマである Limbusa亜属の最大種。インドシナ半島北部などに分布する。

 
【Euthalia patala パタライナズマ】
<img src=”http://iga72.xsrv.jp/wp-con(2016.3 タイ)

 
裏面もカッコイイ。

 

 
♀はオオムラサキと遜色ない。

 

 
コチラの個体はラオス産。
こういうの見ると、また会いたくなってくる。
蝶採りに戻ろっかなあ…。

 

続・ワモンキシタバ

 
   『欠けゆく月』

  
 2019年 6月28日。

ウスイロキシタバにかまけていたので、中々ワモンを狙いに行けなかった。そして、ようやく本格的に始動したのがこの日だった。
ワモンキシタバの発生は6月中旬からと言われるているのに、もう水無月も終わろうとしている。
狙うにはちょっと遅いかも…と不安が無いではなかった。でも、この時はまだ楽観的だった。カトカラは意外とダラダラと発生する面があるから、まだキレイな個体も採れる筈だと踏んでいたのだ。

去年、ワモンキシタバを採った矢田丘陵方面へ行く。
ここ最近は北ばかり攻めていたから、久し振りの来訪だ。今回も小太郎くんが途中から参戦してくれた。

だが、樹液にはフシキキシタバと普通のキシタバしかやって来ない。となると、考えざるおえない。このまま此処で待つべきか、それとも他へ移動すべきか思案のしどころだ。
此処でグシュグジュと判断できずに時間を浪費すれば、敗北が待っていると感じた。それに、そもそも此処でワモンを採るのは偶発性に頼るしかないとも思っていた。ならば、判断は迅速であるべきだ。判断がトロい奴は、欲しいものを手に入れることは出来ない。残り少ない時間の中で最善の策を尽くそう。

小太郎くんの車で信貴山方面へと移動する。
今回は灯火の方が確率が高いと読んだのだ。理由は確として自分の中にはあるのだが、言葉には出来ない。何となくだ。こういうのを、世間では勘と呼ぶんだろう。

着いたら、建物の三角形の屋根の庇の裏側にらしきものが止まっていた。高さ5mってところか。
でも三角形の屋根だから庇が斜めになっている。角度的に右側から攻めるか左から攻めるか微妙だ。思いあぐねているうちに、左右に動かした網に敏感に反応され、どこかへ飛んで行かれた。(;゜∇゜)あららららら…。
(`ロ´;)ガッデーム❗迷うとロクな事がない。己の判断能力のトロさを呪う。
まあ、ただのクソ夜蛾(ヤガ)だったかもしんないし、ここは気持ちを切り替えて忘れよう。

暫くして、庇の側面に止まっているのを発見。九分九厘、さっきと同じ奴だ。いつの間に( ; ゜Д゜)❓ 二人とも全然気づかなかったよ。

今度は真っ直ぐに網を伸ばし、叩いた。
網に入った感触はある。半信半疑で中を確認する。

d=(^o^)=bイエーッい、やはりワモンキシタバだった。しかも♂は初ゲットである。これで文章が書ける。ホッと胸を撫でおろす。

 

 
しかし、上翅にメリハリがなく、思っていたほどには美しくない。高校生の時に、紹介してもらった女の子が、期待していたほどキレイじゃなかったことを思い出した。

翌日に展翅しても、その印象は変わらなかった。
 

  

 
メリハリが無くて、全体にぼうーっとしてる。
翅こそ破れていないが、鮮度は今一つな気がする。
やはり、遅かったか…。

 
  
 2019年 7月1日。

天気の関係で動けず、とうとう7月に入った。
(`ロ´;)クッソー、思い起こせばウスイロキシタバ探査での初動捜査の失敗が今に響いている。本来ならば一発ビンポイントで探査は終わっていた筈なのだ。そこで我慢して待っていればビンゴだったのに、別ポイントへ移動してしまったのだ。この見切りの早さが結果的にその後の迷走に繋がった。新米刑事イガー、忸怩たる思いだ。ヤバいかも…。ワモンキシタバの♀の逮捕は厳しい状況にある。月が欠けゆくようにチャンスは確実に細まってきている。
でも、あとは翅の破れていない♀さえ採れれば合格ラインだ。それで、次のステージへと進める。前向きに考えよう。真のハンターは強靭な精神力で必ずや何とかする。それが無ければ敗北という名の恥辱にまみれるしかない。

 
この日も同じパターンだった。
小太郎くんと矢田丘陵で樹液に飛来するのを待ったが、来る気配が無いので、諦めて信貴山方面の灯火回りへとシフト・チェンジする。こないだの三日月の形からすれぱ、今夜辺りの月齢は新月に近い筈だ。月が無い夜は灯火への蛾の飛来が多いというから期待しよう。

9時台半ば過ぎだった。闇の奥からカトカラらしきものが、パタパタと真っ直ぐに飛んできた。
緊張が走る。大きさ的に普通の糞キシタバよりは一回り以上小さいし、フシキキシタバならば、もっと裏側の色が明るい。コガタキシタバだってもっと明るかった筈だ。もしかして、( ; ゜Д゜)ワモン❓

そして、そのままペタッと建物の壁に止まった。
高さは2、3mくらい。その特徴的な上翅、間違いない。ワモンキシタバだ。こないだの個体よか大きく見えた。♀❓ もし♀ならば、参戦2回目にしてゲームセットだ。ウスイロで迷走したとかそんなもんは、それで一発チャラにできる。

壁面を軽く叩き、難なくゲット。
しかし、かなりスレた♂だった。
あ〰(~O~;)。

裏返すと、やはりあまり黄色くない。

 

  
この時期にいる他のカトカラは裏がもっと濃い黄色だから、飛んでいる時に薄黄色っぽいものは本種と思って間違いないだろう。但し、ボロのフシキキシタバもいる事は念頭に入れておきましょうね。

あっ、ゴメン。ウスイロキシタバの事を忘れてたよ。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
(裏面)

 
黒帯がウスイロの方が細い。
でも大きさもほぼ同じだし、飛んでいるのを下から見て両者を判別するのは至難の技だろう。カトカラは結構な高速で翅を回して飛んでいる。灯火や樹液に飛来する時はホバリング状態とはいえ、帯は見えてもその細かい形まではハッキリとは見えない。
とはいえ、慣れれば雰囲気で看破できると思うけどさ。

 
粘って、その後小太郎くんの力も借りて2頭を追加。
しかし何れも♂で、やはり鮮度は良ろしくない。
どうやら、やっぱり来るのが遅かったようだ。でも一晩で3頭も採れたという事は、偶産ではない。間違いなく此処には確実にいると言えるだろう。♀ならば、まだ鮮度は良いかもしれぬと期待する。
しかし、結局午後11時15分まで待っても飛んで来ず。失意を抱えて、その場を離脱した。

車窓を闇が擦過してゆく。
同時に想念も擦過してゆく。思えばウスイロの探索に力を注いだのは、場所を何ヵ所も攻める予定だったからだ。その折に、ついでに何処かでワモンも採れるだろうと楽観視していたのである。
でも宝塚市、西宮市、池田市、箕面市、奈良市と回っだが、結局どこでもワモンの姿を見ることは一度としてなかった。やはり西日本では、そうは簡単に採れないカトカラなのかもしれない。その思いを強くした。

気がつけば、さっきまで厚く垂れ込めていた雲の隙間から、細くてちっちゃな月が覗いていた。

 
                  おしまい

 
追伸
翌日、ざっと1時間くらいで文章を書き終えたのだが、その後、記事をアップするために細かい所を直し始めたら、全然しっくりこず。大幅に書き直す破目になってしまった。で、最初の時の5倍以上の時間を要した。死ねばいいのに(#`皿´)、苛々して思いきりスマホを叩きつけてやった。
あっ、またやっちまったな( ; ゜Д゜)と思ったが、今回はたまたまベッドだったのでセーフ。
文章を書くのには、毎度の事ながら疲れる。他人から見ればクソみたいな文章でも、いざ書くとならば、そう簡単ではない。

この日に得たワモンも一応展翅した。

 

 
これは上翅にメリハリがある。
スレているとはいえ、やはり本来は美しいカトカラなのだと納得する。

 

  
触角を怒髪天にしてみた。
クソ展翅だ。(-_-)死ねばいいのに。

だいぶと下翅の黄色が褪せているのだと解る。
新鮮な個体ならば、この黄色がもっと鮮やかで美しいのだろう。

 

 
最後に採ったものは翅が破れていた。
これは型も良く、それなりに触角も決まっているのに残念だ。(-_-)死ねばいいのに。

展翅はこんなもんじゃろう。
去年よりも上翅を下げて、皆が良しとしそうなところで整えた。
とはいえ、思っていた以上に翅が傷んでいるのにショックは隠せない。
このまま♀を探し回っても、良い結果は得られないと思った。それに7月半ばに長野辺りに遠征すれぱ、まだ会える可能性は残されている。とはいえ、そのシチュエーションはあまり嬉しくないか…。狙って採ってこそ、歓喜とカタルシスがあるからね。
まあ、どうでもいい。ワモンは、もう過去だ。ここはスッパリと諦めて、ターゲットをカバフキシタバに絞ることにしよう。

 
追伸の追伸
ワモンキシタバの発生期を6月中旬からと書いたが、確認してみると6月上旬だった。この翅の傷み具合からすると、納得だ。6月上旬には出ていた可能性が高い。発生期を間違えたのは去年唯一採った1頭(♀)が6月26日の採集で、新鮮な個体だったからだろう。だから6月中旬の発生だと勝手に思い込んでしまったんだと思う。
(-_-)死ねばいいのに。

前回、キララキシタバからワモンキシタバが分かれて南下して分布を拡げた云々みたいな事を書いたが、今はその逆ではないかと思い始めている。
つまり、最初にワモンキシタバ有りきで、ワモンからキララキシタバ(Catocala fulminea)が分化したのではなかろうか❓
新しく分化した種の方が、どちらかと云うと環境に対する適応力があるように思われる。ゆえに一挙に分布を拡大したという例も多いような気がする。考えてみれば、ワモンよかキララキシタバの方が分布は広い。キララの原記載はヨーロッパだから、ヨーロッパから東に分布を広げたような気になりがちだが、極東からヨーロッパに分布を拡大した可能性は否定できないと思うんだよね。
 
その後、ワモンキシタバは8月にも採れた。
♀で、しかも鮮度も良い個体だった。

 

 
場所は長野県。これについては色々あったので、別稿で書こうかと思ってます。

 

2018′ カトカラ元年 其の弐

 

    『少年の日の思い出』
   vol.2 ワモンキシタバ

 
 
2018年 6月26日。
シンジュサンのまだ♀が採れていないので、再び矢田丘陵方面へと出掛けた。今回も小太郎くんが途中から参戦してくれた。

午後9時から10時の間くらいだったろうか、水銀灯まで来たら、小太郎くんが『あっ、たぶんワモンかな❓』と言って突然左手の建物の壁に近づいて行った。
(・。・)ワモン❓、何じゃそりゃ❓と思いつつ、後ろをついてゆく。

そこには見たことのない渋い柄の蛾が止まっていた。

『これって、もしかしてカトカラ❓』
『あっ、そうです。たぶんワモンキシタバですね。西日本では、けっこう珍だから採っといた方がいいですよ。』

小太郎くんは蝶屋で蛾は集めていないので、何だかよくワカンナイけど有り難く戴いておくことにする。
特に緊張もせず、上から毒瓶を被せる。
でも、さしたる感激はない。この時は絶対に欲しいとか採りたいと云う気持ちが希薄だったからだ。シンジュサン探しのオマケみたいなもんで、まだカトカラを集める気などさらさらなかったのだ。

しかし、翌日展翅してみて驚いた。
( ☆∀☆)ワオッ❗、何か渋カッケーぞー。

 
【ワモンキシタバ Catocala xarippe ♀】
(2018.6.26 奈良市中町)

 
【裏面】

 
何となく和のイメージを感じた。水墨画や枯山水を思わせる上翅の柄が、とてもシックだ。前回のフシキキシタバとはまた違った魅力がある。

蛾の展翅などあまりした事がないので、鬼のごたるイカついフォームにしてやったでごわすよ。まだ蛾は自分の中では魑魅魍魎、邪悪なモノと捉えていたから、こないな風にセオリーを無視した形になったのだろう。
チョウの展翅は蝶屋なんだから、誰が見ても綺麗なものに整形したいと思うが、蛾なんてどう思われようと構わないと云う意識があった。だから、そういう他人の目からは解放されてた。たかが、蛾。何を言われても関係ない。つまり自由だった。批判を恐れず、好きに展翅できた。今はそういうワケにはいかないけどさ。

当時の事は詳しく憶えてないが、フシキ、ワモンと美しいカトカラが続き、これでカトカラ熱が一気にヒートアップした気がする。謂わば、このワモンキシタバがキシタバを集めるキッカケの決定打となったかもしれない。
今にして思えば、この順番に意味があった。これがアサマキシタバや普通のキシタバ、マメキシタバなんぞという並びだったら、きっとカトカラには嵌まっていなかっただろう。何事においても順番は大事だ。蝶に嵌まったのも、最初の出会いがギフチョウで、そのあとにキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、スミナガシ、イシガケチョウ、ウラジロミドリシジミ、オオムラサキと云う流れがあったからだと思う。
これって、少し恋愛に似ているかもしれない。女性の好みなんかも出会った順番に影響されてるところはあると思う。いつもながらのチャラい喩えでスンマセン。
でも、本質的には同じだろう。

しかし、標本になったのは、結局この♀1頭のみだった。他に二度ほど樹液に飛来していたものを見ているが、何れもボロだったので持ち帰らなかったのだ。
小太郎くんが言った通り、やはり西日本では分布は広いが個体数は少ないようだ。因みにだが、奈良県では準絶滅危惧種に指定されている。小太郎くん曰く、奈良市ラベルのワモンなんて持ってる人はあまりいないんじゃないかと云うことだ。フシキキシタバの時もそうだったけど、アチキはそういう風に珍しいとか稀だとか貴重だと言われると、途端にカッコよく見えたり、美しく見えたりする性質(たち)みたいだ。ようは、根が珍品好きのミーハーなんである。

それにしても、何で西日本では少ないんだろう❓
中部地方以北の東日本では、わりと何処にでもいるらしい。但し、東日本でも個体数は少なくて、同一地点で一度に多数の個体を得るのは容易ではないようだ。何で❓これまた謎である。
この辺の疑問を解くために、ワモンキシタバについて改めて調べてみることにした。普段は展翅し終わった瞬間に興味を失いがちなので、今回のように存在も知らなかったのに採れた場合はロクに知識を得ようとはしないのだ。テキトー男と言われる所以である。

一通りググってみて、矢鱈とドイツの作家へルマン・ヘッセの『少年の日の思い出(原題Jugendgedenken)』についての記事が多い事に気づく。
勿論、文豪の名作だから読んだことはあるけど、ヤママユ(クジャクヤママユ)の事は何となく記憶はしているけれど、ワモンキシタバなんて出てたっけ❓

この短編小説は1947年から現在に至るまで多くの中学校の国語の教科書に採用されてきたから知っている方も多いだろうが、一応あらすじを載せておこう。

『語り手である「私」のもとを訪れた友人の「僕」が、子供と一緒に最近始めたというチョウやガの標本を見せられる。しかし主人公である「僕」は美しい標本から目をそむける。なぜなら、蝶(蛾)の標本にまつわる辛い記憶があったからだ。やがて「僕」はその少年の頃の辛い思い出を少しづつ語り始める。
「僕」は蝶の収集に情熱を燃やしていた少年の頃、青くて美しいコムラサキ(註1)を捕える。いつもは妹にしか見せなかったが、あまりにも珍しいモノだったので、その展翅した蝶を隣に住むあらゆる面で優等生だが嫌な奴でもあるエーミールに見せた。彼は蝶や蛾に詳しく、その展翅にも長けていたのである。しかし、彼はその珍しさを認めながらも「僕」のその展翅技術の稚拙さを厳しく批評した。
二年後、「僕」が最も熱烈に欲しがっていた美しい蛾クジャクヤママユをエーミールが蛹から羽化させたと聞き、彼の部屋を訪ねる。しかし、エーミールは留守だった。どうしても一目みたいと思った「僕」は、部屋へ勝手に忍び込む。そして、誘惑に負けて展翅板に乗ったクジャクヤママユを盗み出してしまう。すぐに良心と不安から戻そうとするのだが、その時にはクジャクヤママユはポケットの中でバラバラに壊れてしまっていた。一度は逃げ出しだが、罪の意識に耐えきれずに打ち明けた母にも促されて「僕」はエーミールに自分の罪を告白する。そして、お侘びとして大切な自分のコレクションを全て差し出すことを提案した。
だが彼は許さなかった。しかし激高することもなく、ただ冷ややかな目で「僕」を侮蔑する。

「そうか、そうか、つまりきみはそんな奴なんだな。」

そして「僕」の提案を拒絶する。

「結構だよ。僕は、君の集めたやつはもう持ってる。そのうえ、今日また、君がチョウやガをどんな風に取り扱っているか、ということを見ることができたさ。」

その夜、「僕」は家に帰ると、あれほどまでに情熱を注いで作った自分のコレクションのチョウやガを全て指で粉々に握りつぶしてしまう。』

 
【クジャクヤママユ】
(出展『Lepiforum』)

 
なぜ文中にワモンキシタバの記憶が無かったのかという疑問は早々と答えが予想できた。
たぶん自分の読んだ本には、そもそもワモンキシタバの名前が無かったのであろう。これは翻訳が二つあるからだと推測している。ようするに、翻訳者が二人いるのである。最初の翻訳者が高橋健二さん。新たに訳されたのが、その弟子でもある岡田朝雄さんだからだ。
岡田朝雄さんといえば、ドイツ文学者にして虫好きとしても有名である。日本昆虫協会副会長や日本蝶類学会理事を務められてもいるから、虫採りを長くしている者ならば、大概はその名前くらいは知っているだろう。
一方、高橋さんはドイツ文学についてはプロフェッショナルでも、虫についてはド素人だったに違いない。つまり、岡田さんは新訳を手掛けるにあたって、文中に出てくる虫の名前を正確に訳しなおそうと思ったのではないだろうか。それが虫屋の性(さが)だし、そうしなければ虫屋としての沽券にもかかわる。
ヘッセも元々が虫好きだから、モデルに選んだ蝶や蛾には当然意味や意図があった筈だと考えるのが虫屋の目線だ。しかし、虫好きではない高橋さんからは、そういう発想は生まれえない。蝶や蛾に詳しくないので、出てくる蝶や蛾の名前を特定しなかった、もしくは出来なかったのだろう。
ようは出てくる美しい蝶や蛾の名前には、それ自体にそれほど重要性はなく、少年たちにとってそれがとても大切なものだということさえ伝わればいいと云うスタンスだったのだろう。あくまでもメタファーであって、モチーフに過ぎないという扱いだ。だから、それが蝶であろうと蛾であろうと構わないというワケだ。況(ま)してや種名まて特定することに、さしたる意味など無いと考えたのであろう。ゆえに高橋さんは蛾でも蝶と訳されたのだと思われる(註2)。
それはそれで。間違っちゃいないんだけどね。ガと訳すよりもチョウと訳す方が、日本人には馴染みやすく、物語に違和感なく入っていけるからね。そういう計算はあったと思う。
とにかく、蝶や蛾はあくまでもメタファーであって、それがガラス細工など美しくて壊れやすいものだったら何だっていい。それで物語は成立するのである。
繰り返すが、しかしヘッセは虫好きだから、そこに必ず意味を持たせていた筈だ。だからわざわざ登場する蝶や蛾を種名で載せたのである。虫好きの少年たちにとっては何と云う名前の蝶や蛾かは、とても大事なのだ。子供であったとしても、真の虫好きは憧れの虫は死ぬほど欲しいのだ。ヘッセはそこにリアリティーを持たせたかったのだろう。それが虫屋の岡田さんには解ったのである。
そして岡田さんは、作品冒頭の場面で「私」が自慢気に「僕」に見せる、従来は「蝶」と訳されていた箇所に新たにワモンキシタバの名前を入れたのだろう。

これで、なぜ文中にワモンキシタバの記憶が無いのかと云う謎が解けた筈だ。きっと高橋訳では名前が出てこないからである。おそらく自分が読んだのは高橋訳だったのだろう。だからワモンキシタバの記憶が無いのかもしれない。

と、ここまで書いて、一応確認のために高橋訳をネットで探してみた。
\(◎o◎)/ゲロゲロー。
何と高橋訳でも、ちゃんとワモンキシタバの名前があるじゃないか❗❗
Σ( ̄ロ ̄lll)えー、って事はここまで苦労して書いた文章が全部、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダ、ムダー、無駄じゃないか。

名探偵イガーが一所懸命に構築してきた推理の塔が、スローモーションでガラガラと瓦解してゆく。
アメユジュ トテチテ ケンジャー(T△T)

でも、そんな事はあるまいと思いなおす。へっぽこ名探偵は尚も推理する。せっかく書いた文章を消すのはイヤだから、めげないのだ。
💡ピコリン。そっかあ…。もしかしたら、高橋訳自体にいくつかのヴァージョンが存在するのかもしれない。
これは大きな図書館に行って、確かめなければならぬ。(・┰・)メンドクセー。

けんど、その前にジュンク堂書店で問題は解決した。
一応、文庫本の岡田訳を見てみようと思ったのだ。その辺の経緯を岡田さんが、あとがきに書いているかもしれないと思ったのだ。

 
  (出展「Amazon」)

 
💥ビンゴ❗あった。
へっぽこ名探偵イガーの面目躍如だぜ。
これで一挙に疑問が氷解した。
早速、あとがきの一部を引用しよう。

「大学院時代、私は高橋先生に教えを受ける機会に恵まれた。大学院の仲間たちと出した”Wohin?”というガリ版刷りの同人雑誌に、私は「ドイツ文学に現れる蝶と蛾」という小論文を書いた。ヘッセ、カロッサ、シュナックなどの作品に出てくる蝶や蛾を、引用文とともに解説したものである。もちろん『少年の日の思い出』も取りあげた。
これが高橋先生の目にとまり、「一度家へ来て、蝶や蛾の話をしてくれないか」と言われた。私は、ドイツから取り寄せた蝶や蛾の標本や図鑑を持ってお伺いした。残念ながらそのときには三種類のクジャクヤママユの標本だけは持っていなかった。私は、中学のときに『少年の日の思い出』を読んだこと、この作品に出てくる蝶や蛾の名前に疑問をもっていたことなどについてお話しし、ヨーロッパ産の蝶や蛾の標本や図鑑をお見せした。そして、Gelbes Ordensband は「黄べにしたば蛾」ではなく「ワモンキシタバ(輪紋黄下翅蛾)であること、Nachtpfauensuge は「楓蚕蛾」よりも「クジャクヤママユ(孔雀山繭蛾)」とした方がよいのではないか、などと申し上げだ。」
先生は私の話を興味深く聞いてくださり、先生がヘッセから直々いただいたという『少年の日の思い出』の原文を見せてくださった。それは前述のように地方新聞の切り抜きであった。それを拝見して、私はそこにひとつミスプリントがあるのを見つけた。ワモンキシタバの学名 fulminea が tulminea になっていたのである。これは誤植であると気づかれぬまま、翻訳では「ツルミネア」、郁文堂のドイツ語テクストでも tulminea となっていた。先生は、訳文も、ドイツ語のテクストも訂正してくださると約束してくださった。」

マジ、(*^3^)/~☆ホッとしたよ。
って事は、高橋訳にもいくつかヴァージョンが有りそうだ。

 
しかし、そのワモンキシタバの学名が近年変わった。
いや、正確にはドイツのものは何ら変わっていない。
スッゲーややこしいんだけど、日本のが変わったのだ。次の学名の項で、それについて記述したいと思う。ホント、スッゲーややこしいから説明すんのヤダなあ…。

 
【学名】Catocala xarippe(Butler, 1877)

〈分類〉
ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ属(Catocala)

2009年12月に、今までワモンキシタバとしていたものの中に2種類が混じっていることが発表された(註3)。
北海道の中央から東部の一部に棲息するワモンキシタバが別種キララキシタバとなり、従来ワモンキシタバに宛てられていた学名 Catocala fulminea が採用された。そして、新たに「kamuifuchi」という亜種名が付与された。これは北海道産のものの方がヨーロッパの原記載亜種に近いと判断されたからだろう。
一方、それ以外のモノは和名をそのままのワモンキシタバとし、以前の学名 Catocala fulminea xarippe の亜種名 xarippe を種名に昇格させた。
これは亜種から種への格上げで新種記載とも取れるが、この学名は既に記載されていて、新種とはならないようだ。
とはいえ、何で新種記載にならないのか今イチ解らんなあ…。普通、こういう場合は新種になる筈だよなあ。
そもそもキララキシタバの和名は新種だけど学名は新種じゃなくて新亜種で、ワモンキシタバは和名がそのままで学名は新種っぽいって、どーよ(# ̄З ̄)❓ワケわかんねえや。
こうなると、キララキシタバは種名(学名)がワモンキシタバで、亜種名がキララキシタバという、益々ややこしい解釈(言い回し)をする人だっていかねない。ホント、学名と和名があるのって面倒クセーよ。でも和名がないと困ることも多いから、致し方ないよね。

でもって、北海道のワモンキシタバが原記載亜種とされ、Catocala xarippe xarippe の学名が与えられた。
フツー、本州・四国のものが原記載亜種に指定されそうなもんだけどなあ…。
でもこれはたぶん日本で最初に Catocala fulminea の亜種として記載された ssp.xarippe の模式標本が北海道産だったからだろうね。
ややこしいなあ、もうー(/≧◇≦\)
説明してるこっちもこんがらがってきたよ。
因みに北海道産ワモンキシタバは後翅黒帯が個体により幾分変異があり、本州・四国産と比べて黒化傾向が強いようだ。

 
(出展「南四国の蛾」)

 
確かに黒いね。
あんま綺麗じゃないけど、カトカラを真剣に集め始めたら欲しくなるんだろなあ…。

そして本州・四国のモノには ssp.okitsuhimenomikoto という新たな亜種名が与えられた。
語源はおそらく奥津姫命(奥津比売命)の事だろう。
奥津姫命は竈(かまど)の神であり、火所を守護する神聖な火の神てもある。これはたぶん下翅の色になぞらえたものだろう。悪くない名前だけど、それにしても矢鱈と綴りが長いよね(笑)

国外には、ロシア・沿海州に亜種 santanensis が産する。語源は語尾に”ensis”とあるから santan と云う所で最初に採られたからではなかろうか❓ラテン語だと、この「ensis」という語尾かつくと「~産の」という場所を表す形容詞になり、生物の学名にはよく用いられるからだ。

種名の xarippe の語源は調べてもわからなかった。植物に類似の学名もなく、ヒントすら掴めなかった。何かと何かを組み合わせた造語かもしれない。
元々の小種名で、今はキララキシタバに使われている fulminea の語源は、たぶんラテン語由来で「稲妻」とか「電撃」といった意味かな。おそらく上翅のデザインから連想されたものと推察される。

因みに、jpmoth(www.jpmoth.org)というネットで最もポピュラーな蛾のサイトでは、学名が変更されておらず、以前のままの Catocala fulminea xarippe となっている。キララキシタバを認めてないって事なのかな❓
だとしたら、業界のドロドロの権力闘争が水面下で暗躍してたりして…。怖いなあ。こんな蛾の門外漢が言いたい放題ばっか書いてると、抹殺されるかもしんないぞー。(@_@;)ヤバイよ、ヤバイよー。

 
【和名】
この文章を書くまでは、ずっとワモンキシタバは「和紋黄下羽」だとばかり思っていた。和のテイストを感じていたからだ。しかし、そうではなくて「輪紋黄下羽」、もしくは「輪紋黄下翅」が正しいようだ。
スマンが間違いに気づくまでは、全然輪状紋に見えなかったよ。正直、気づいたあとでも微妙だなと思う。もっと他に名前のつけようだってあっただろうに…。

 
【分布】
北海道、本州、四国。
九州では見つかっていない。また、四国では香川県のみでしか確認されていない。海外では極東ロシア(ロシア南東部)に分布する。
北海道ではキララキシタバと混棲する場所も多くあるようだ。って云うことは、やはり別種ってことか…。
でもパッと見、特に野外では余程の熟練者でもないかぎり両者の区別は出来ないようだ。中には標本にしても微妙な個体もあるらしい。

遅ればせながら、参考までにキララキシタバの画像も貼付しておこう。

 
《キララキシタバ》
(出展「南四国の蛾」)

 
(出展『昆虫情報センター』)

 
上が♂で、下が♀である。
より黄色い感じはするが、ワモンキシタバとソックリだ。よくこんなの別種だと見抜いたよね。スゴい慧眼だと思う。

石塚勝巳さんの『世界のカトカラ』には、両者を見分ける点が幾つか挙げられていた。

①ワモンは上翅の中央部がキララよりも白くなる傾向がある。
②後翅の内縁がキララより黒くなる傾向がある。
③後翅頂黄色紋はキララよりも淡くなる傾向がある。
④上翅裏面は白化する傾向があり、個体によっては淡黄色になることもあるが、キララのように明らかな黄色とはならない。
⑤ワモンよりもキララの方が相対的に小型である。

結構、微妙だなあ…。傾向があるとか曖昧な言葉が多いしさ。見分けるには、ある程度の経験が必要そうだ。
この程度の差違だと、中には両者を別種と認めない人もいるかもしれないね。
ところで、キララの幼生期って解明されてるのかな❓(註4) 明らかな違いがあれば、間違いなく別種だろうけど、区別がつかなかったら怪しいよね。
それはそうと、遺伝子解析は終わってるのかなあ❓(註5) その結果いかんで、どっちなのかは割りかしハッキリするよね。

成虫の垂直分布は比較的広く、平地から山地までの比較的開けた里山周辺や高原の疎林などに生息している。どうやら標高1500mくらいまではいるようだ。結構、標高の高いところまでいるんだね。

 
【レッドデータリスト】
大阪府、奈良県、香川県では、準絶滅危惧種に指定されている。
自分は奈良県で採ったから、ラッキーな出会いだったんだね。

 
【発生期】
6月中旬頃から出現し、少数が9月まで見られる。

 
【生態】
開張 53~56㎜。
成虫はクヌギやミズナラ、ヤナギなどの樹液によく飛来する。
日中は樹幹に頭を下にして静止している。飛翔して幹に着地した時には上向きに止まるが、瞬間的に体を反転させて下向きとなる。その際、後翅の黄色い斑紋をチラリと見せるという。
とはいえ、夜間は上向きに静止しているんだよなあ。
何で昼間は逆さに止まるんだろね❓
殆んどのカトカラもそうみたいだし、某(なにがし)かの意味があんのかね❓ 例えば、逆さまにならないと寝れないとかさ。ところで、そもそも蛾って眠るのかね❓
考えてみたけど、相応の理由が思いつかないや。

 
【幼虫の食餌植物】
バラ科のズミ、ウメ、スモモ、アンズ、リンゴ、エゾノリンゴ、サクラ類(マメザクラ、ヤマザクラなど)。
『原色日本産蛾類図鑑(下)』では、他にナシ、サンザシも挙げている。

ワモンキシタバが西日本では稀なのは、おそらく幼虫の食樹と関係があるのではないかと推測していた。
基本的な食樹はズミで、ウメやスモモ、アンズなどは、二次的利用ではないかと考えたのだ。関西では、あまりズミやズミの花のことを聞かないからである。つまり、ズミは北方系の植物ではないかと考えたってワケやね。
だが、ズミの事を調べてみたら、見事にアテが外れた。ズミの分布は広く、北海道、本州だけでなく、四国や九州の山地にも自生するようなのである。
いきなり壁にブチ当たって、早々とお手上げとなった。とはいえ、これで匙を投げるのも癪だ。何か糸口を探そう。

食樹にはリンゴやエゾリンゴも挙げられている。
これらは北方系のものだろう。日本での栽培は主に長野から北だし、原産地は北部コーカサス地方が有力視されているから、これは間違いないだろう。
調べたところ、ズミはリンゴの台木としても用いられるようだ。少々乱暴なモノ言いだが、ズミはリンゴと近縁なのかもしれない。となると、ズミも基本的には北方系の植物ではあるまいか? だから九州など西方にも自生はするが、数は少ないのではなかろうか?
う~ん、でもなあ…。ウメなんかは何処にでもあるもんなあ…。それを代用として積極的に利用すればいいだけの話だもんね。生物にとっては生きる為なら、そんな事はお茶の子さいさいじゃろう。ヤマザクラだって何処にでもあるから、そっちを食べるという作戦だってあるじゃないか。再び壁にブチ当たる。

マメザクラに糸口を探す。
しかし、富士山近辺やその山麓、箱根近辺等に自生する桜の野生種の一つで、フジザクラやハコネザクラとも言うらしい。
箱根じゃ、どうしようもない。
(ノ-_-)ノ~┻━┻えーい、食樹からのアプローチは捨てじゃ。

従来はワモンキシタバとされてきたけど、今はキララキシタバと呼ばれているものは、間違いなく北方系の種だろう。なぜなら原記載はヨーロッパだからだ。ヨーロッパは緯度が高いし、気候的には亜寒帯の地域が多い。また、この種はシベリアにも分布している。つまり、キララキシタバは北方系の種だ。ワモンキシタバはキララキシタバと極めて近い間柄だから、ワモンキシタバも元々は北方系の種ではなかろうか。もしかしたら、ワモンキシタバはキララキシタバから分化して、南に分布を拡げたのかもしれない。だから本来は暑さに弱い種とはいえまいか。その証拠に九州には分布していない。
アカン、誰でも考えつきそうな事しか言えんわ。
スマン、これくらいで許してくれ(/´△`\)
何処でも個体数が少ないという謎も残ってるが、スマン、これも許してくれ。全然、その理由が浮かばないや。

 
ここまで書いてきて、和名がもう一つあることを知った。
旧名か別名なのかは定かではないが、他に「モクメキシタバ」と云う和名もあるようだ。モクメは木目の事だろう。なるほどね。上翅は確かに木目調だ。一瞬、コチラの方が説得力あるかもと思ったが、響きがダサいので、個人的な好みとしては、まだワモンキシタバの方がいいや。
和名って、一つの種に複数つけられてる例が結構あるけれど、アレって何ざましょ❓それって、何だか和名って勝手につけても構わさそうじゃないか。ルールが有りそうで無いぞ。ワシら素人は、時々そのせいで翻弄されとるやないけー。
そういえば思い出した。昔、まだ蝶採りを始めた頃の話だ。周りのお爺ちゃんたちが、ダイセン、ダイセンって言うので、何じゃそりゃ❓と思った事があった。持ってる蝶のポケット図鑑には、そんな名前の蝶は載っている記憶がなかったからだ。
おそるおそる『ダイセンって何すか❓』と尋ねてみると、『ダイセンはダイセンじゃ❗』とキレ気味に言われた。
『でも、そんな蝶は僕の持ってる図鑑には載ってなかったと思うんですけどー。』と言ったら、ようやく意味が呑み込めたようで、穏やかな顔になって『あー、あれかあ。ダイセンシジミの名前を誰か学者が勝手にダサい名前に変えよったんや。えーと、何っつったかなあ? おー、そうそうウラミスジシジミや。あんなクッサイ名前、誰も使っとらんでぇー。』

オイラもウラミスジシジミはダサい名前だと思う。ダイセンシジミの方が百万倍カッコイイ。それ以来、自分もダイセンシジミの方を使っている。もしもウラミスジシジミなんて名前を使っている奴がいたら、間違いなく『てめぇー、トーシロかよ。』と思うだろう。
そういえば、あれから十年が経つが、ウラミスジシジミと云う名前を使っている蝶屋に会ったことは、まだ一度もない。ようするに全然支持されていないって事だ。そういうのって、名前を元に戻すべきだと思う。新しく蝶の図鑑を出す人は、断固として「ダイセンシジミ」で押し通してほしいね。

あっ、まじい。こんな事と書いたら、何か誤解されそうだ。えー、上の文章はべつにワモンキシタバやキララキシタバの命名に対して、暗に批判しているのではごさりませぬ。ダイセンシジミの話とは関係ない。意図して含みを持たせて書いたワケじゃなくて、単にたまたま話の流れで書いただけだ。
とはいえ、これまた流れだから、ついでに言っとくか。
正直、今後『少年の日の思い出』の中のワモンキシタバの扱いがどうなるかは気になる。学名に従えば、文中のカトカラはワモンキシタバからキララキシタバに訂正されなければならない。それはやめて欲しいという願いはある。
ドイツでは、Catocala fulminea は「黄色いリボン(Gelbe Ordensband)」と呼ばれている。その称号は和名のワモンキシタバに与えたいと思っちゃうんだよね。キララキシタバの方が黄色いけど、後発のポッと出の名前だから、それに黄色いリボンという素敵な称号を奪われるのは耐えられないところがある。
けんど、虫屋には厳密主義者が多いんだよなあ。オカシイ、変えろとか言い出しそうな輩(やから)が絶対いそうだ。文学での世界の事だから、そこは別モノだとして、そっとしておいてほしい。
とはいえ、キララキシタバにした方が綺羅星とか✴キラキラのイメージを喚起させて、より美麗な蛾を想像させるから読者にとっても良いじゃないかという意見もあろう。その意見も解らないではない。確かにそうかもしれない。
でもなあ…、何とかワモンキシタバのままにしといて欲しいんだよなあ…。ノスタルジィーと云うか、心情的に変えて欲しくない。それが偽らざる気持ちだ。

 
                 おしまい

 
追伸
流石に今年2019年はアグレッシブな展翅はやめて、フツーに展翅した。

 

 
画像は同じ個体で、♂です。
正直、何か真ともすぎてツマラナイ。
って云うか、♂が思っていた程にはカッコ良くないからかなあ…。上翅にメリハリがない。
けど、この一つだけじゃ何とも言えない。
ウスイロキシタバにかまけてて、やっと一昨日にワモンを探しに行ったので、これっきゃ無いのだ。でも、また採れるかどうかは微妙。ウスイロを追っかけている時に一度くらいは会えるだろうと思っていたが、全然だった。やはり西日本では少ないのかもしれない。

 
(註1)青くて美しいコムラサキ

【Apatura iris イリスコムラサキ♂】

 
ドイツには、Apatura iris イリスコムラサキと Apatura iria イリアコムラサキ(タイリクコムラサキ)という2種類のコムラサキが分布しているので、文中のコムラサキがそのどちらを指しているかは特定できないようだ。
しかし、より美しいのは昔はチョウセンコムラサキと呼ばれていたイリスの方なので、勝手にそっちだと解釈して画像を添付した。たまたま自分で展翅したものが展翅板にあったので、都合がよかったというのもあるけどさ。
オスの翅は構造色になっており、光の当たる角度により紫色の幻光を放つ。
因みに日本にもコムラサキの仲間はいて、そちらが見た目はイリアに近いかな…。テキトーに言ってるけど。

 
【コムラサキ Apatura metis ♂】

 
(註2)高橋さんは蛾でも蝶と訳された
因みに、高橋さんが作品中で「チョウ」と訳しているドイツ語は「Schmetterling」及び「Falter」で、どちらもチョウとガをまとめて指す言葉である。このような概念を持つ言葉は「鱗翅目」などの専門用語を除けば、一般的な日本語には存在しない。このチョウとガを区別せずに一括りにした言葉はスペイン語やロシア語にもあり、ほぼ100%がチョウと訳されるフランス語の”Papillon”(パピヨン)もチョウとガの両方の意味が含まれている。つまり、ヨーロッパの人たちは日常的にチョウとガを区別していないと云うことだ。日本みたいにチョウは美しく、ガは汚なくて邪悪なモノという概念はなく、そこには美しいか美しくないかの観点しかないと思われる。おそらく欧州のコレクターも両者を学術的には区別していても、概念としては鱗翅類と云う大きな枠組みでチョウもガも同等なものとして捉えているのかもしれない。日本では蝶屋はチョウだけをコレクトし、蛾屋はガだけをコレクトしている人が多いことを考えれば、欧米とは大きな認識の差がある。チョウは好きでも、ガは大嫌いというコレクターは多い。自分もその一人だった。
何かと誉めそやされる蝶と比べて、日本人全般の蛾に対する心情は極めて悪い。殆んどの種は色が汚ないし、胴体も太い。主に夜に活動するのも不気味だし、粉を撒き散らして飛ぶのも気持ち悪い。部屋に飛び込んできて、狂ったように暴れまわる姿は恐怖でしかない。かく言うワタクシも最近まではそうだった。
だから、一般の人たちがこのヘッセの短編を読んで、少年たちが蛾を美しく素晴らしい宝物と捉えて、自慢や嫉妬を生むものとして描かれていることに、驚きや違和感を抱く人も多いと思われる。実際、ネットでこの小説を読んだ人の感想には、蛾に対する憎悪の念が数多く出てくる。それくらい蛾は世間に嫌われている。
あまりのクソミソの罵詈雑言に、蛾に同情したよ。

 
(註3)2種類が混じっていることが判明した
石塚 勝己『日本に2種いた,ワモンキシタバ』日本蛾類学会。
論文は読んでないっす。

 
(註4)キララキシタバの幼生期
ざっと調べた限りでは、まだ解明されていないようだ。
何れにせよ、幼虫の食餌植物はワモンキシタバと同じでバラ科であろう。
でも別種とされてから、もう10年くらいにもなるのに未だ解明されてないの?解せないよなあ…。
まさかバラ科とは全然違う科の植物ってワケはないよね❓だったら、面白いよね。完全に別種、いやヨーロッパの Catocala fulminea はバラ科食いと判明しているから新種の可能性も出てくるよね。

 
(註5)遺伝子解析は終わってるのかなあ?
『世界のカトカラ』によると、野中勝・新川勉両氏が遺伝子解析を行っており、結果も出ているようだ。だが、論文は探しても見つけられなかった。
遺伝子解析については引き続き追っていこうと思う。解り次第、また別稿で書きます。
でも、もしかしたら『世界のカトカラ』に系統図があるかもしれない。その頃は系統に興味が無かったから、その辺は真面目に見てなかった可能性はある。そのうちまた堺の図書館まで行って確認しなきゃなあ…。

 
《参考文献》
西尾 規孝『日本のCatocala』自費出版
石塚 勝巳『世界のカトカラ』月刊むし社
江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑(下)』保育社