続・ワモンキシタバ

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   『欠けゆく月』

  
 2019年 6月28日。

ウスイロキシタバにかまけていたので、中々ワモンを狙いに行けなかった。そして、ようやく本格的に始動したのがこの日だった。
ワモンキシタバの発生は6月中旬からと言われるているのに、もう水無月も終わろうとしている。
狙うにはちょっと遅いかも…と不安が無いではなかった。でも、この時はまだ楽観的だった。カトカラは意外とダラダラと発生する面があるから、まだキレイな個体も採れる筈だと踏んでいたのだ。

去年、ワモンキシタバを採った矢田丘陵方面へ行く。
ここ最近は北ばかり攻めていたから、久し振りの来訪だ。今回も小太郎くんが途中から参戦してくれた。

だが、樹液にはフシキキシタバと普通のキシタバしかやって来ない。となると、考えざるおえない。このまま此処で待つべきか、それとも他へ移動すべきか思案のしどころだ。
此処でグシュグジュと判断できずに時間を浪費すれば、敗北が待っていると感じた。それに、そもそも此処でワモンを採るのは偶発性に頼るしかないとも思っていた。ならば、判断は迅速であるべきだ。判断がトロい奴は、欲しいものを手に入れることは出来ない。残り少ない時間の中で最善の策を尽くそう。

小太郎くんの車で信貴山方面へと移動する。
今回は灯火の方が確率が高いと読んだのだ。理由は確として自分の中にはあるのだが、言葉には出来ない。何となくだ。こういうのを、世間では勘と呼ぶんだろう。

着いたら、建物の三角形の屋根の庇の裏側にらしきものが止まっていた。高さ5mってところか。
でも三角形の屋根だから庇が斜めになっている。角度的に右側から攻めるか左から攻めるか微妙だ。思いあぐねているうちに、左右に動かした網に敏感に反応され、どこかへ飛んで行かれた。(;゜∇゜)あららららら…。
(`ロ´;)ガッデーム❗迷うとロクな事がない。己の判断能力のトロさを呪う。
まあ、ただのクソ夜蛾(ヤガ)だったかもしんないし、ここは気持ちを切り替えて忘れよう。

暫くして、庇の側面に止まっているのを発見。九分九厘、さっきと同じ奴だ。いつの間に( ; ゜Д゜)❓ 二人とも全然気づかなかったよ。

今度は真っ直ぐに網を伸ばし、叩いた。
網に入った感触はある。半信半疑で中を確認する。

d=(^o^)=bイエーッい、やはりワモンキシタバだった。しかも♂は初ゲットである。これで文章が書ける。ホッと胸を撫でおろす。

 

 
しかし、上翅にメリハリがなく、思っていたほどには美しくない。高校生の時に、紹介してもらった女の子が、期待していたほどキレイじゃなかったことを思い出した。

翌日に展翅しても、その印象は変わらなかった。
 

  

 
メリハリが無くて、全体にぼうーっとしてる。
翅こそ破れていないが、鮮度は今一つな気がする。
やはり、遅かったか…。

 
  
 2019年 7月1日。

天気の関係で動けず、とうとう7月に入った。
(`ロ´;)クッソー、思い起こせばウスイロキシタバ探査での初動捜査の失敗が今に響いている。本来ならば一発ビンポイントで探査は終わっていた筈なのだ。そこで我慢して待っていればビンゴだったのに、別ポイントへ移動してしまったのだ。この見切りの早さが結果的にその後の迷走に繋がった。新米刑事イガー、忸怩たる思いだ。ヤバいかも…。ワモンキシタバの♀の逮捕は厳しい状況にある。月が欠けゆくようにチャンスは確実に細まってきている。
でも、あとは翅の破れていない♀さえ採れれば合格ラインだ。それで、次のステージへと進める。前向きに考えよう。真のハンターは強靭な精神力で必ずや何とかする。それが無ければ敗北という名の恥辱にまみれるしかない。

 
この日も同じパターンだった。
小太郎くんと矢田丘陵で樹液に飛来するのを待ったが、来る気配が無いので、諦めて信貴山方面の灯火回りへとシフト・チェンジする。こないだの三日月の形からすれぱ、今夜辺りの月齢は新月に近い筈だ。月が無い夜は灯火への蛾の飛来が多いというから期待しよう。

9時台半ば過ぎだった。闇の奥からカトカラらしきものが、パタパタと真っ直ぐに飛んできた。
緊張が走る。大きさ的に普通の糞キシタバよりは一回り以上小さいし、フシキキシタバならば、もっと裏側の色が明るい。コガタキシタバだってもっと明るかった筈だ。もしかして、( ; ゜Д゜)ワモン❓

そして、そのままペタッと建物の壁に止まった。
高さは2、3mくらい。その特徴的な上翅、間違いない。ワモンキシタバだ。こないだの個体よか大きく見えた。♀❓ もし♀ならば、参戦2回目にしてゲームセットだ。ウスイロで迷走したとかそんなもんは、それで一発チャラにできる。

壁面を軽く叩き、難なくゲット。
しかし、かなりスレた♂だった。
あ〰(~O~;)。

裏返すと、やはりあまり黄色くない。

 

  
この時期にいる他のカトカラは裏がもっと濃い黄色だから、飛んでいる時に薄黄色っぽいものは本種と思って間違いないだろう。但し、ボロのフシキキシタバもいる事は念頭に入れておきましょうね。

あっ、ゴメン。ウスイロキシタバの事を忘れてたよ。

 
【ウスイロキシタバ Catocala intacta ♀】

 
(裏面)

 
黒帯がウスイロの方が細い。
でも大きさもほぼ同じだし、飛んでいるのを下から見て両者を判別するのは至難の技だろう。カトカラは結構な高速で翅を回して飛んでいる。灯火や樹液に飛来する時はホバリング状態とはいえ、帯は見えてもその細かい形まではハッキリとは見えない。
とはいえ、慣れれば雰囲気で看破できると思うけどさ。

 
粘って、その後小太郎くんの力も借りて2頭を追加。
しかし何れも♂で、やはり鮮度は良ろしくない。
どうやら、やっぱり来るのが遅かったようだ。でも一晩で3頭も採れたという事は、偶産ではない。間違いなく此処には確実にいると言えるだろう。♀ならば、まだ鮮度は良いかもしれぬと期待する。
しかし、結局午後11時15分まで待っても飛んで来ず。失意を抱えて、その場を離脱した。

車窓を闇が擦過してゆく。
同時に想念も擦過してゆく。思えばウスイロの探索に力を注いだのは、場所を何ヵ所も攻める予定だったからだ。その折に、ついでに何処かでワモンも採れるだろうと楽観視していたのである。
でも宝塚市、西宮市、池田市、箕面市、奈良市と回っだが、結局どこでもワモンの姿を見ることは一度としてなかった。やはり西日本では、そうは簡単に採れないカトカラなのかもしれない。その思いを強くした。

気がつけば、さっきまで厚く垂れ込めていた雲の隙間から、細くてちっちゃな月が覗いていた。

 
                  おしまい

 
追伸
翌日、ざっと1時間くらいで文章を書き終えたのだが、その後、記事をアップするために細かい所を直し始めたら、全然しっくりこず。大幅に書き直す破目になってしまった。で、最初の時の5倍以上の時間を要した。死ねばいいのに(#`皿´)、苛々して思いきりスマホを叩きつけてやった。
あっ、またやっちまったな( ; ゜Д゜)と思ったが、今回はたまたまベッドだったのでセーフ。
文章を書くのには、毎度の事ながら疲れる。他人から見ればクソみたいな文章でも、いざ書くとならば、そう簡単ではない。

この日に得たワモンも一応展翅した。

 

 
これは上翅にメリハリがある。
スレているとはいえ、やはり本来は美しいカトカラなのだと納得する。

 

  
触角を怒髪天にしてみた。
クソ展翅だ。(-_-)死ねばいいのに。

だいぶと下翅の黄色が褪せているのだと解る。
新鮮な個体ならば、この黄色がもっと鮮やかで美しいのだろう。

 

 
最後に採ったものは翅が破れていた。
これは型も良く、それなりに触角も決まっているのに残念だ。(-_-)死ねばいいのに。

展翅はこんなもんじゃろう。
去年よりも上翅を下げて、皆が良しとしそうなところで整えた。
とはいえ、思っていた以上に翅が傷んでいるのにショックは隠せない。
このまま♀を探し回っても、良い結果は得られないと思った。それに7月半ばに長野辺りに遠征すれぱ、まだ会える可能性は残されている。とはいえ、そのシチュエーションはあまり嬉しくないか…。狙って採ってこそ、歓喜とカタルシスがあるからね。
まあ、どうでもいい。ワモンは、もう過去だ。ここはスッパリと諦めて、ターゲットをカバフキシタバに絞ることにしよう。

 
追伸の追伸
ワモンキシタバの発生期を6月中旬からと書いたが、確認してみると6月上旬だった。この翅の傷み具合からすると、納得だ。6月上旬には出ていた可能性が高い。発生期を間違えたのは去年唯一採った1頭(♀)が6月26日の採集で、新鮮な個体だったからだろう。だから6月中旬の発生だと勝手に思い込んでしまったんだと思う。
(-_-)死ねばいいのに。

前回、キララキシタバからワモンキシタバが分かれて南下して分布を拡げた云々みたいな事を書いたが、今はその逆ではないかと思い始めている。
つまり、最初にワモンキシタバ有りきで、ワモンからキララキシタバ(Catocala fulminea)が分化したのではなかろうか❓
新しく分化した種の方が、どちらかと云うと環境に対する適応力があるように思われる。ゆえに一挙に分布を拡大したという例も多いような気がする。考えてみれば、ワモンよかキララキシタバの方が分布は広い。キララの原記載はヨーロッパだから、ヨーロッパから東に分布を広げたような気になりがちだが、極東からヨーロッパに分布を拡大した可能性は否定できないと思うんだよね。
 
その後、ワモンキシタバは8月にも採れた。
♀で、しかも鮮度も良い個体だった。

 

 
場所は長野県。これについては色々あったので、別稿で書こうかと思ってます。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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