2018′ カトカラ元年 その參

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『頭の中でデビルマンの歌が流れてる』

     vol.3 キシタバ

 
 
 2018年 7月4日 黄昏。

いつものように階段を登ってたら(註1)、5Fのエレベータ前の壁に結構大型の蛾が止まっていた。
遠目に見て、どうせ糞フクラスズメだろうと思って近づこうとしたら、飛んだ❗えっ(°Д°)、4mは離れてたのにもう飛ぶの❓
メッチャ敏感やんと思った瞬間に灯火の下で明るい黄色が火花のように明滅した。
!Σ( ̄□ ̄;)WAOっ❗
大阪のド真ん中、難波の自宅マンションにカトカラ❗
嘘やん(@_@;)❗❓こんな都会にカトカラとは驚きざます。
急いで部屋に帰って、興奮しながら殺戮道具の注射器とアンモニア、毒瓶と捕虫網を用意した。

戻ったら、カトカラくんは天井にへばりついていた。
写真を撮ろうかとも思ったが、強烈な逆光だし、いつ住人がエレベーターで昇ってくるやもしれぬ。見つかったら、どう考えても挙動不審の怪しいオジサンだ。
瞬時に悟る。ここは刹那の時間との勝負である。
しかし、一見して手を伸ばしても毒瓶では距離的に届かない。となれば、ネットを出すしかあるまい。
(;゜∇゜)マジっすか❓マンションに虫網男。間違いなく異様な光景だわさ(°Д°)
💓もう心臓はバクバク。💓ドキドキのハラハラだよ。半ば震える手でソッコーで網を組み立てて、エレベーターの階数表示に目をやる。大丈夫だ。1Fに止まったまんまだ。昇ってくる気配はない。いや、そんなのワカンナイぞ。油断大敵だ。いつ昇ってくるやもしれぬ。予断は許さない。

🎵だあーれも知らない 知られちゃいけなーい
🎵デビルマンが だぁーれなのかー
🎵何も言えなーい 話ちゃいけなーい
🎵デビルマンが だぁーれなのかー

頭の中でデビルマンの歌が流れている。
何があっても、この姿をマンションの住人に見せるワケにはいかぬ。驚きと蔑みの冷たい目に晒され、恥にまみれるわけにはいかないのだ。
階数表示を横目に見ながら、💥バチコーン、電光石火で下から網を叩きつけた。
ネットイン❗ 網に蛾を入れたまんま素早く反転する。ソルジャーは機敏でなくては戦場で命を落とす。
撤退❗、てったあーい❗心の中で叫ぶ。
ダッシュで塹壕、いや階段の踊り場へと退却。ここなら上の階からも下の階からもブラインドになって見えない筈だ。もしも誰かがエレベータから降りてきたとしても身を隠せる。
💦あたふた、💦あたふた、慌てて毒瓶に放り込んで、ぷぴゅーε=ε=(ノ≧∇≦ ノ 脱兎の如くその場から逃走だべさ。もうバリバリ犯罪者の気分である。
そこには背徳感とスリル、禁忌を冒す悦楽とが入り交じった興奮がある。そう、悪い事をするのはエクスタシーなのだ。人は悪に惹かれるものなのだ。
あっ、べつに悪りい事はしてねえか( ̄▽ ̄)ゞ

部屋に帰ったら、なんだかバカバカしくなってきて、
笑いが込み上げてきた。大の大人がやってる事にしては、あまりにもアホ過ぎる。
でも、久し振りの面白き((o(^∇^)o))ワクワクでありんした。危地にこそ、アドレナリンやエンドルフィンなどの脳内麻薬物質が溢れる。それこそがエクスタシーだ。虫採りにそれが無くなったら、いつでも辞めてやる所存だ。

コヤツがほぼ何者だかはもう解っているけど、毒瓶の中を改めて確認してみる。
大阪のド真ん中ミナミで捕らえたカトカラは、思ったとおりキシタバだった。

その日のうちに展翅したので、大丈夫かと思いきや、ソッコー触角が折れた。矢張りカトカラの触角は細くて長いので、生展翅でもキチッとお湯なり水なりで濡らしてからでないと折れちゃうのね。
下翅も欠けてることだし、まっ、( ̄▽ ̄)ゞいっか…。

 

 
( ̄∇ ̄*)ゞハハハハハ。
上翅がバンザイになってて、我ながら酷い展翅だ。
恥ずかしいかぎりである。思うに去年はまだまだカトカラの展翅のイメージが掴めてなかった。ほぼ蝶の展翅しかしてこなかったから、触角を含む左右上翅の間の空間が空き過ぎるのが何となく嫌だった。それを避けようとして、無意識に必要以上に上翅を上げてしまう傾向があったのだと思われる。

それはそうと、幼虫は何を食ってこんな都会で育ったんじゃ❓ 疑問に思って調べてみたら、食餌植物はフジとコナラみたい。都会には基本的にコナラは無いから、きっとフジだね。近くの公園に藤棚もあるしさ。
どうあれ都会で人間に捕まるなんざー、普通では有り得ない。捕まるパーセンテージは限りなくメッチャメッチャ低い筈だ。つくづく不幸なキシタバくんだよね。合掌。

実を云うとキシタバに出会ったのは、この時が初めてではない。前年の秋に既に会っている。帝王ムラサキシタバに一度くらいは会っておきたいと思ったので、A木にライトトラップに連れていってくれとせがんだのだ。その時に一応は採っている。

とはいえ、人さまのライトトラップにお邪魔して採集したものだ。自身の力ではない。だからカトカラ採りを始めるにあたって、この時のものはカウントしない事にした。だから、vol.3 なのだ。

マンションでキシタバを捕らえてから数日後、矢田丘陵で又もやキシタバに会った。しかも大量の。
樹液の出ている木に行ったら、その周りの樹木の幹にベダベタと止まっていたのだ。数えたら、30近くはいた。この日は午後9時くらいに訪れたから、おそらく1回目の食事を終えて、憩んでいたのだろう。
10時半くらいからまた樹液に集まりだした。これでカトカラの生態の一端が垣間みえてきた。樹液の出ている木の周囲にはカトカラが止まっているケースは多い。採集する時は、樹液に求むターゲットがいなくとも、周囲を探されたし。それで案外採れる。そんな事、図鑑とか文献のどこにも書いてないけど…。

 
樹液ちゅーちゅー( ̄З ̄)、キシタバくん。

 

 
たくさんいると警戒心がゆるまるのか、スマホでも至近距離で写真が撮れる。
この個体は上翅が緑色っぽくて中々美しい。
この日は採ろうと思えば50くらいは採れたけど、4つくらいで飽きた。
後日、別な場所に行っても必ずそこそこの数がいた。ド普通種なんだと納得じゃよ。

しかし黄色系のカトカラの中では世界最大級種なので、国外での評価は高いらしい。
でもなあ…、慣れてくると、あんま魅力ないんだよなあ。どこでもいるから、段々存在がウザくなってきたというのもある。コレクターは普通種をクズみたいな目で見がちなのだ。それを差し引いても魅力をあまり感じない。なぜなら総体的に上翅が美しくないのだ。柄にメリハリが無いし、基本的には地味な茶色のものが多い。また変異幅も少ない。それに何よりデブだ。デブだから蛾感が強まるし、優美さにも欠ける。ようするに、どこか野暮ったいのだ。

 
【学名】
Catocala patala (Felder & Rogenhofer,1874)

おっ、小種名 patala はオラの大好きなチョウ、パタライナズマ(註2)と同じ学名じゃないか。
patala の語源の由来は、最初は小アジアのリュキア地方南西部の地中海沿いにあった古代の港湾・商業都市パタラ(patara)であり、リュキア連邦の首都だとばかり思っていた。しかし、綴りが違うことに気づいた。語尾はraではなく、laなのだ。
で、再度調べなおし。

パーターラ(pātāla)とは、インド神話のプラーナ世界における7つの下界(地底の世界)の総称、またはその一部の名称の事だそうである。
またこの世界はナーガ(Naga)と呼ばれるインドの伝説と神話に登場する上半身が人間の蛇神の棲んでいる世界だともされてるみたいだ。たぶん、語源はこっちだね。キシタバは上翅が緑っぽいのもいるから、案外蛇神さまになぞらえたのかもしれない。

 
【和名】
このキシタバ(黄下翅)という名前は、カトカラの中で下翅が黄色いグループの土台名にもなっているので、おそらくこのグループで最初に和名がつけられた種だと推察される。まあ、基準種みたいなもんだね。
しかし、これがややこしくて、何とかならんもんかなと思う。なぜなら、このキシタバは下翅が黄色いグループの総称としても用いられることも多いからだ。だから、キシタバと書かれたり、言われたりするそれが、はたしてキシタバ(Catocala patala)という種そのものを指すのか、それともキシタバグループ全体(キシタバ類)を指しているのかが解りにくい面が多々あるのだ。
だから、会話では一々「ただキシタバ(ただのキシタバ)」とか「普通キシタバ」などと言わなければならない。
これが誠にもって面倒くさくて、(-_-#)イラッとくる。そのせいか、最近ではクソキシタバと呼んでいる。もういっそのこと、そのクソキシタバとかデブキシタバと呼んだらどうだと思うくらいだ。
まあそれは無理があるにしても、ホント何とかしてほしいよ。その際、下手に凝った名前やメルヘンチックな名前、カッコつけたキラキラネーム、如何にも学者が考えたシャチホコばった名前は何卒よしてもらいたい。
ここはシンプルに学名そのままの「パタラキシタバ」でいいと思う。もしくはド普通種なんだから、「コモンキシタバ」でも構わない。
パタラキシタバかあ…。名前の響きも悪くない。そう聞くと、途端にカッコよく思えてくるから不思議だ。名前は大事だす。

 
【開張(mm)】
69~74㎜。
日本産キシタバグループの最大種。北米大陸を除く旧大陸では、これと肩を並べる大型種はタイワンキシタバ Catocala formosana くらいしかいないようだ。
だから、他のキシタバとの区別は比較的簡単である。とにかくデカいのだ。しかし、たまに矮小個体がいるので、判別方法を一応書いておきますね。
後翅の黒帯はよく発達し太く、外帯の後縁付近で内側に突起し、中央部の黒帯に接する。他のキシタバ類はアミメキシタバとヨシノキシタバを除き、ここが繋がらない。また、アミメキシタバとヨシノキシタバはキシタバと比べて小型で、上翅の柄も違うので容易に判別できる。

 
【分布】
ネットで最もポピュラーなサイトの『みんなで作る日本史蛾類図鑑(www.jpmoth.org)では、本州、四国、九州、対馬、中国、朝鮮、インドとなっていた。
と云うことは学名からすると、原記載はインドかな?
しかし『世界のカトカラ』では北海道南部にも生息すると書かれている。『原色日本産蛾類図鑑(下)』にも北海道は分布域に入っていた。また、『日本のCatocala』でも北海道に分布する旨が書いてある。地球温暖化のせいか、最近は採集記録が増加しており、定着した可能性が高い云々ともあった。
その言葉尻だと、昔は北海道には分布していなかったのかも。にしても、jpmoth の情報って古いって事だよね。もしかしたらワモンキシタバの学名が以前のままになっているのも、そのせいかもなあ。蛾業界の人は、そうゆうこと誰も指摘しないのかなあ…。

 
【成虫出現期】
その www.jpmoth.org では、7月~8月となっている。
『世界のカトカラ』では、6月中旬から出現し、10月下旬まで見られるとある。また、新鮮な個体は7月中旬頃までだが、秋に新鮮な個体が採れることもあるので、あまり盛夏には活動しないのかもしれないと記述されている。
盛夏に活動しないかもしれないかあ…。中部地方以北では、それも有り得るのかもしれないが、少なくとも去年の関西の知見ではそんな兆候は見受けられず、継続していつでも何処にでもいた。今年も果たしてそうなのかは心に留めておこうと思う。
『日本のCatocala』の解説では、長野での羽化時期は7月以降で、10月まで見られ、11月の記録もあるそうだ。因みに、他の論文からの引用で、岡山県では6月下旬から見られるとの付記もある。
またそこには、こういう文章もあった。
「Catocalaの中では出現期は長いが、メスの交尾嚢や翅の新鮮さからみると、9月中旬以降に見られる個体は遅く羽化した個体であることが示唆された。9月から10月まで連日メスを採集して交尾回数と新鮮さを調査したことがあった。10月のメスに比べ、9月上旬に採集した個体の方が汚損していて交尾回数は多かった。」

これは『世界のカトカラ』の秋に新鮮な個体が採れることもあるので、盛夏には活動しない云々に対する答えの一つにはなっていないだろうか❓

今年2019年も含めての自分の感覚としては、6月中旬から姿を見せ、徐々に個体数を増やして7月上、中旬辺りにピークを迎えるといった感じがする。

 
【生態】
樹液にも灯火にも好んで集まるとされる。
自分の経験でも、そのようた。
灯火には結構早い時間帯から集まり、夜遅くまで断続的に飛来する。
樹液には日没後、フシキキシタバやコガタキシタバなんかと比べてやや遅れてやって来ることが多い。また同じ個体が時間を措いて何度も訪れ、驚いて逃げても暫くしたら戻ってくるケースが多い。吸汁時間はわりと長い印象がある。
樹液には日没から夜明け近くまで訪れるが、空が白み始めると一斉に飛び立ち、森の奥へと消えてゆく。その際、近くの樹木に静止するものはいなかった。

『日本のCatocala』に因ると「成虫は日中、頭を下、もしくは上、時に横にして樹幹や暗い岩影、石垣の隙間などに静止している。はっきりした静止時の姿勢はない。着時は上向きに着地し、そのまま静止する。昼間のはっきりした静止姿勢が認められないことは、Catocalaとしてはむしろ異例とみられる。」とある。
たしかに自分が昼間に見た1例は、逆さま向きではなくて左斜め向きに止まっていた。

 
【幼虫の食餌植物】
マメ科 フジ属のフジ。
食樹の樹齢に関係なく付くようだが、古木はあまり好まないらしい。
他にブナ科コナラ属も稀に利用するとされるが、飼育しても育たないケースが結構あるようだ。

 
お粗末ながら、この年のキシタバの展翅を並べて終わりとしよう。

 

 
上が♂で下が♀である。
あっ、これは2017年にA木くんに初めてライトトラップに連れていってもらった時のものだね。
ということは9月に採集したものだね。そのわりには意外と翅が傷んでいない。やはり遅くに羽化するものもいるのだろうか?

それでは、以下2018年のもの。

 
【♂】

 
【♀】

 
いやはや酷い展翅である。
ほぼほぼ形が\(^_^)/バンザイになっとるやないけー。

中ではこれが一番マシかなあ…。

 

 
これも上翅はバンザイだが、バランスはそれほど悪くない。悪魔的な感じがして、これはこれで有りなんじゃないかと云う気がしないでもない。

最後に裏側も載せておこう。

 

 
結構、黄色い。
生態のところで書き忘れたけど、飛翔中でも他の下翅の黄色いカトカラとは区別は割かし容易である。なにしろデカくて黄色い。間違え易いのはクロシオキシタバくらいだろう。あと、カトカラとは違うけど、下からだと一瞬アケビコノハに騙される。

 
【アケビコノハ】

 
表は全然違うけど、裏は一瞬カトカラに見えるのだ。

 
【裏面】
(出典『フォト蔵 monro』)

でも、もっとデカイから違うと気づいて脱力する事、多々ありである。

それはそうと、こうしてキシタバくんを並べてみると、ただデカイだけで面白味の無いカトカラだなあ。
上翅の柄が、とにかく地味。色も汚い。下翅も変化が殆んど綯い。調べてないけど、おそらく日本全国どこでも変わりばえしないじゃないかなあ。亜種レベルに近いものがいるという話も聞かないしね。因みに、これらは全て近畿地方で採集したものである。

もう1つ出てきた。
たぶん9月に山梨に行った時のものだ。

 

 
これは結構いい線いってる。
何でだろう❓ と思ったら、すぐに思い当たった。
そういえばシロシタバの展翅について、とあるトップクラスの甲虫屋さんから上翅を上げ過ぎだという御指摘を戴いた。きっと、そのあとだったからだね。
今にして思えば、有り難き御言葉だった。
秋田さん、感謝してまーす\(^o^)/

一応、今年2019年の最初に展翅したものも、参考までに貼付しておこう。

 

 

 
上が♂で下が♀です。
この辺りが正解かな。

 
                 おしまい

 
《参考文献》
西尾 規孝『日本のCatocala』自費出版
石塚 勝巳『世界のカトカラ』月刊むし社
江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑(下)』保育社

 
追伸
 
(註1)いつものように階段を登ってたら
普段は極力9Fの部屋まで階段を登るようにしている。虫採りは体が資本。それを訛らせないためなのさ。体力が維持できてる間は先鋭的虫採りができる。

 
(註2)パタライナズマ
ユータリア(イナズマチョウ属)の中の緑系イナズマである Limbusa亜属の最大種。インドシナ半島北部などに分布する。

 
【Euthalia patala パタライナズマ】
<img src=”http://iga72.xsrv.jp/wp-con(2016.3 タイ)

 
裏面もカッコイイ。

 

 
♀はオオムラサキと遜色ない。

 

 
コチラの個体はラオス産。
こういうの見ると、また会いたくなってくる。
蝶採りに戻ろっかなあ…。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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