2018′ カトカラ元年 その四

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  『ワタシ、妊娠したかも…』 

   vol.4 コガタキシタバ

 
 
『ワタシ、妊娠したかも…』と彼女は言った…。

 
正直言うと、コガタキシタバは最初に採った時の記憶があまりない。

 
【コガタキシタバ Catocala praegnax ♀】

 
(裏面)

  
場所は矢田丘陵なのは間違いないが、細かいシチュエーションの記憶が殆んどないのだ。確認すると、日付は7月10日となっている。

小太郎くんが『あっ、コガタキシタバですよ。まだ採ったことないでしょ。採らないんですか?』と言って、『ワカッター、じゃあ一応採っとくー。』的な会話があったような気もするが、定かではない。

当時のFacebookにあげた記事を遡ると、こんな風に書いてあった。

『たぶん、コガタキシバかな?
だとしたら、採ったことがないから素直にちょっと嬉しい。
なのに蝶じゃないから、触角はアグレッシブに天突く怒髪天にしてみた。蛾の展翅は知らない分だけ自由な感性で勝手にやれるからお気楽。』

これだけである。
しかも、展翅写真もこの♀だけしか残されていない。
稀種じゃないから、この1頭しか見てない筈はないんだけど、無いと云うことは興味があまり無かったのだろう。パタラキシタバ(=キシタバ Catocala patala)を小型にしたような奴で、特別個性を感じなかったのかもしれない。
いや、たぶん1頭採れれば充分だと思ったような気がする。デブだしさ。
ワモンキシタバの回で、フシキキシタバ、ワモンキシタバと美しいカトカラが続いたから、完全にカトカラにハマっとか書いたが、よくよく考えてみればアレって嘘である。全くの嘘ではないが、正直ムラサキシタバとカバフキシタバ、シロシタバ、ナマリキシタバ辺りにしか興味はなかった気がする。ようは、根がミーハーなんである。美しいカトカラは採りたいと思ったが、他はどうでもいいやとでも思っていたのだろう。

 
【分類】
ヤガ科(Noctuidae) シタバガ亜科(Catocalinae)
カトカラ属(Catocala) Schrank, 1802

 
【学名】
Catocala praegnax praegnax(Walker,1858)

ネットで最もポピュラーなサイトである jpmoth(みんなで作る日本産蛾類図鑑)では、aegnax が2つ連なってるから、たぶん日本のものが原記載亜種なのだろう。

( ̄▽ ̄;)あれっ❗❓
でも『世界のカトカラ』には「日本のものは亜種 olbiterata Menetries 1864とされる。」とあった。おそらくコチラが正しいかと思われる。
おいおい、jpmoth(みんなで作る日本産蛾類図鑑)っていい加減だなあ。ワモンキシタバの学名も変わってないしさあ。蛾を名前検索したら、大概は一番先に出てくるサイトなのに問題有り有りだよ。

ゲゲッΣ( ̄皿 ̄;;、『原色日本産蛾類図鑑(下)』では、亜種名が esther(Butler)となっている。ワケわかんねえや。
まあ、『世界のカトカラ』が一番新しい図鑑だから、その亜種名が正しいんだろね。それに著者の石塚さんはカトカラの世界的研究者だからね。

「praegnax」の語源をネットで調べてみたら以下のようなものが出てきた。

・妊娠した,(…で)充満して,意味深長な,含蓄のある,示唆的な,工夫に富む。

・ラテン語 prae-(前の)+gnascor(誕生する)+-ans(状態)>genh-(産む)が語源。

・「出産までの状態」がこの単語のコアの意味nation(国家)と同じ語源をもつ。

一番アタマの「意味深長な,含蓄のある,示唆的な,工夫に富む。」辺りが語源と言いたいところだが、圧倒的に出てくるのは妊娠なので、となると「妊娠した」が語源になるのかなあ…❓デブで腹ボテだから❓

 
【和名】
コガタキシタバというが、それほど小さくはない。フシキキシタバなんかと同じくらいの大きさだ。『原色日本産蛾類図鑑(下)』には開張50~58㎜とある。となれば、中型のカトカラだ。
これは多分、パタラキシタバに似ていて、それと比べて小型だからということから名付けられたのだろう。
大きさを除けば、確かにパッと見は両者はよく似ている。少なくとも初心者にはそう見える。

 
【パタラキシタバ Catocala patala 】

 
両者の幼虫の食餌植物(マメ科フジ)も重なるところがあるから、きっと兄弟とか姉妹だと考えたんだろね。
しかし、近年の遺伝子解析の結果、両者に類縁関係はないようだ。他人の空似ってヤツだね。
確かによく見ると、下翅の柄もかなり違う。馬蹄形の形が異なるし、パタラキシタバと比べて帯が細く、橙黄色の部分が広い。あと、上翅の色柄も明らかに違う。コガタキシタバの上翅はバリエーションに富むが、パタラキシタバみたいに緑色を帯びることは基本的にない。
今にして思えば、この頃はまだ初心者で、黄色い下翅のカトカラは全部同じに見えたんだね。だから黄色系のカトカラは、一見して区別できてカッコいいカバフキシタバやナマリキシタバくらいにしか興味がなかった。

因みに、昔は「コガタノキシタバ」という名前だったみたい。実際、自分の見た『原色日本産蛾類図鑑(下)』の古い版でもそうなってた。

 

 
これって名前を耳で聞いたって、それが果たしてコガタノキシタバを指しているのか、それとも小型のキシタバ(パタラキシタバ)を指しているのかがワカンナイ。改名は妥当だね。

 
【分布】
北海道、本州、四国、九州、対馬、種子島、屋久島。
国外では、中国、台湾、朝鮮半島、ロシア沿海州にも分布しているようだ。

 
【レッドデータブック】
滋賀県が要注目種にしている程度なので、そう珍しいものではないと思われる。
しかし『世界のカトカラ』では少ないとあるし、『日本のCatocala』でも同じようなニュアンスの記述があった。
でも近畿地方では、何処にでもそこそこいると云う印象だ。但し、パタラキシタバみたいにクソみたいに沢山いると云うワケではない。どこでも、いくつかは見るって感じだ。これは後述する幼虫の食餌植物と関係があると思われる。

 
【成虫出現期】
『世界のカトカラ』では6月中旬から出現し、9月上旬まで見られるとある。一方、『日本のCatocala』には「近畿地方では6月下旬から既に得られるが、一般には7~8月に多い。」とあった。だが、近畿地方では6月中旬には見られる。
順番で云うと、フシキキシタバに少し遅れて発生する。そして両者が同時に見られる期間も短いながらあるようだ。実際、2019年の6月17日は両方が半々くらい樹液に訪れていた。
また『日本のCatocala』によると、寿命は比較的短く、室内飼育だと3週間だったようである。近畿地方では7月中旬ともなると汚損した個体が多いので、寿命はそんなもんなのかもしれない。

  
【生態】
クヌギやコナラなどの樹液によく集まる。糖蜜トラップにもよく来た。飛来時間は日没後、比較的早く現れる印象があり、深夜まで断続的に飛来する。
成虫は昼間、頭を下にして樹幹に静止しており、飛翔➡着地時は上向きに止まり、しばらくして下向きになるという。
毎度言うが、何で昼間はわざわざ逆さまに止まるの❓
全然、理由が思いつかない。

 
【幼虫の食餌植物】
jpmothには「ブナ科コナラ属:ミズナラ、ナラガシワ(※KD)、マメ科:ハギ属、フジ属」とあった。
やっぱ、jpmoth はダメだな。間違ってはいないが、順番がオカシイ。東日本では最も好むのがマメ科のハギ類で、次に続くのが同じマメ科のフジのようだ。ブナ科を利用しているのは西日本だけで、東日本ではブナ科から幼虫は発見されていないという。また飼育しても幼虫は摂食しないそうだ。
この辺が東日本では個体数が少なく、西日本では多い原因なのかもしれない。

 
全然関係ない話だけど、学名 praegnax の語源を調べてて、突然、フラッシュバックで記憶が甦った。
大学時代の彼女が何でもない会話の途中で、急にワッと泣き出して『ワタシ、妊娠したかも…。』と言った事を思い出した。青天の霹靂。あれはフリーズしたね。
脳が真空状態みたいな感覚で『おまえが産みたいなら、いつでも父親になる覚悟はあるよ。』とか何とか言った覚えがある。
結局、妊娠はしてなかったんだけど、でも今思えば、あの時に彼女が本当に妊娠してて、学生結婚とかしてた方が幸せだったかもしれない。

 
                 おしまい

 
追伸
ものスゴい実験的な入りからの終わりになっちゃいましたなあ。
まあ論文じゃないんだから、こういうのもあっていいだろう。それに、こんなの読んでる人、少ないと思うしさ。

展翅は、この時はそこそこ上手いやんかと思ってたけど、今見ると上翅を上げ過ぎだね。50点。
今年2019年は上翅を少し下げてみた。

 
(2019.6.17 西宮市名塩)

 
結局、怒髪天にはなってるけど(笑)
因みに性別は♂である。♂はデブじゃないのだ。
続いて♀。

 

 
妊娠しとるやないけー(ー。ー#)

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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