続・カバフキシタバ(後編)

 

『リビドー全開❗逆襲のモラセス』後編

  
2019年 7月4日。

当初は奈良にリベンジしに行く予定だったが、急遽方針を転換して六甲へ。
勘ではあるが、天気予報も含めて考えた結果だ。
予定は未定であって、しばしば変更。虫採りは常にフレキシブルでなくてはならない。特に天候に関してはビビットであるべきだと思う。

今日は下見の時とは違う別ルートを探すも、やっぱり幼虫の食樹であるカマツカの木は見つけられなかった。近くにカバフの記録はあるが、ホンマに此処におるんかいのお❓ このままの流れだと、再び辛酸ナメ子さんになりかねない。見えないけど、恐怖を好物とする性格の悪い小人くんたちが、傍らでクスクス笑いをしてそうだ。テメエら(=`ェ´=)、人の人生に悪さすんじゃねえぞ。

夜がやってきた。
暗い山道を黙々と登る。夜になってもクソ暑い。瞬く間にTシャツが汗でビッチャビチャになる。

午後7時半。
ようやく樹液ポイントに到着した。さあ、今日こそカバフを手ゴメにしてやろう。

が、(◎-◎;)ゲロゲロー。
あろうことか、半月程前にあれほどカトカラが乱舞していたコナラの木の樹液が止まっていた。
(・_・)……。見事なまでに何もいない。嘘でしょ❗❓
三連敗という現実が目の前にグッと迫ってくる。

暫く様子を見てみたが、やっぱ何も飛んで来ーん。
( ̄ロ ̄lll)まさかである。これってさあ、世間的に言うところの、見事に思惑が外れるってヤツだよね…。惨敗の予感は益々濃厚となる。
だが、備え有れば愁いなし。昼間、用心のために別な場所で新たな樹液ポイントを見つけておいた。オデ、だいたいアホだけど、たま~に賢いのである。
僅かな期待を抱き締めて、そちらへと移動する。

Σ(◎-◎;)アキャア━━━。マジかよ❗❓
けんど、糖蜜を吹き掛けるための霧吹きが一回使用しただけで、早々と詰まった。やること為(な)すこと上手くいかない。再び暗雲が垂れ込める。惨敗の予感、ダダ黒モジャモジャだ。

コシュコシュ、コシュコシュ。コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュ、コシュー…、(ノ-_-)ノ~┻━┻ ダアーッ❗何度やっても霧吹きから何も出てこん(#`皿´)❗
気が短い男ゆえ、ダンダンダーン(*`Д´)ノ❗、思わず破壊の衝動に駆られる。
(; ̄ー ̄A 落ち着け~、(; ̄ー ̄A 落ち着け~、俺。

🎵( ̄ー ̄)落ち着いたあ~、お~れ~。
と云うワケで、わりかし簡単に冷静になったワタクシは、一旦アタマの部分を取り外し(ワシの頭やないでぇ~、霧吹きでっせー)、管も抜いてお茶をブッかけてみた。
でもって、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~、Ψ( ̄∇ ̄)Ψこちょこちょ~。魔法の愛撫をしてやる。
Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんか、Ψ( ̄∇ ̄)Ψええんかあ~。

装着しなおして、再度シュコシュコやってみる。
暫くやってたら、ピュッ💦と出た。
❤あっはあ~ん。💕うっふ~ん。とれびあ~ん。
<(`^´)>ふっか~つ❗❗オイラ、🎵\(^o^)/てくにしゃあ~ん。
ぬははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、エロ男の超絶テクニックをナメんなよである。リビドー全開だぜ❗
これで思う存分、ブッカケてやれる。その辺の木を、まみれまみれのヌチョヌチョのネチャネチャにしまくってやらあ。男のリビドー、💥爆発じゃーい❗

だが寄ってくるのは糞キシタバのパタラ(C. patala)とチョコチョコ歩き回る糞ヤガのみ。この歩き回るところが💢癇(かん)に障る。イラッときて、石を投げつけたくなる。
名前はたぶんカラスヨトウって奴だ。ヨトウというのは漢字で書くと「夜盗」らしい。だから泥棒みたく歩き回るのか?、(=`ェ´=)小癪なっ。もしも携帯用殺人レーザービームとかがあったら、1匹1匹ピンポイントで八つ裂きにしてくれるのに(-_-)
人間、焦りが募ると心が荒れてくる。きっと闇の中の今の顔は、焦燥がベットリと貼り付いた醜い顔になっているに違いない。

午後8時26分。
樹液に何やら他とは違うカトカラが飛来していた。
でも結構高い位置だし、角度的にも真横に近くてよく見えない。おまけに手前の葉っぱが邪魔で下側が見えづらい。下翅を僅かに開いていそうだが、それも確認できない。持ってる懐中電灯が100均で買ったモノだから、光量が弱いというのも相俟って(註1)、兎に角よくワッカラーン。
でも消去法でいくと、マメキシタバにしては大きいし、パタラにしては小さい。アサマキシタバやフシキキシタバは季節的にもう終わっているし、ウスイロキシタバもそうだろう。ワモンキシタバも関西では終わりかけの時期だ。見たところ鮮度は良さそうだから、コヤツらも除外していいだろう。反対にアミメキシタバやクロシオキシタバには時期的にまだ早い。となると、残るはカバフキシタバとコガタキシタバしかいない。大きさ的にもそれくらいだ。でもコガタキシタバは最近ちょくちょく見ているから、雰囲気的に違うような気がする。ということはカバフ❓だよね❓
けど、そもそもカトカラじゃないと云う可能性もあるなあ…。上翅の見た目は似てるけど、下翅に色鮮やかさが無い糞ヤガの一種かもしれない。ヤガ科全般の知識がないから、それも充分有り得る。採ってはみたものの、下翅がドドメま○こ色でしたーという残念なパターンは往々にしてある事なのだ。

まあここでグダグダ考えていても埒が開かない。
取り敢えず採ってみっか。4m竿をするすると伸ばす。
それなりに緊張感はあるものの、それは通常のもので、過度な緊張感は無い。どうせ糞ヤガだろうという気持ちが心のどこかに有るからだ。きっと連敗で打ちひしがれていて、マイナス思考になっているのだ。糠喜びで、更なる落ち込み簾(すだれ)男になるのは避けたいという深層心理が無意識に働いてるんだろね。

高さを慎重に合わせて、💥叩く。
飛んで逃げた形跡はないから、たぶん網に入った筈だ。竿をすぼめて、中を覗く。

あらま(@ ̄□ ̄@;)❗、カバフやんかあ。
急に緊張感が高まる。今度は何があっても逃すワケにはいかない。もし又やらかしたら、その場で首カッ切って息絶えねばならぬ。慎重に慎重を期して、毒ビンに取り込んだ。

 

 
とはいえ、思っていた程の高揚感はない。何か拍子抜けした感じだ。奈良と京都の惨敗があったから、次の出会いはもっとドラマチックな展開を想像してたからだろう。背水の陣での戦いを覚悟していたのだ。それがまさかのシチュエーション曖昧の棚ボタ的だったから、どこかガッカリ感は否めない。虫採りにロマンとドラマ性を求める者としては、肩スカシを喰らったような気分だ。
それに背中の毛が落武者禿げチョロケになっているのに、途中で気づいちゃったと云うのもあるかもしれない。憧れていた美人さんが実をいうと円形脱毛症だった…。なんて事は万に一つも無いことだろうから、喩えとしては無理があるとは思うけど、そんな感じだ。

 

 

 
そんなに暴れてなかったし、取り込みも早かったのになあ…。何でやのん…❓

でも1頭いるということは複数いる可能性が高い。気を取り直して、糖蜜を集中的に撒いた場所へと移る。

(@ ̄□ ̄@;)あっ❗こっちにもおった。
今度は糖蜜トラップに来てるから、目の高さだ。
楽勝じゃん。テンション⤴上がるうーっ(о´∀`о)
しかし、ネットを構えかけてやめた。この高さだと毒ビンを直接かぶせる事ができる。ならば暴れる時間も短い。さすれば落武者化も防げる可能性が高い。そう踏んだのさ。

ヘッドライト、スイッチ・オーン。
準備万端。毒ビンを持ち、そっと近づく。
幸い、夢中で甘汁を吸っている。油断しているスキに背後からガバッじゃ❗でもって、カクカクカクカク…、手ゴメにしたるぅー(=`ェ´=)

だが、カブしたが紙一重。すんでのところで飛んだ❗
あちゃーΣ(×_×;)、また失敗かよう。俺、この毒ビンを被せるやり方って苦手なんだよネー。いつも、すんでのところで逃げられる。慣れてないから、下手に緊張感とか殺気が出ちゃうんだろなあ。蝶を手で採るのは得意なのになあ…。心を無にするには、対象に対して、それなりの経験値が必要だ。蝶には慣れていても、カトカラに対しての慣れはない。もう少し時間が必要そうだ。

逃したが、飛び方はパタパタ飛びだから目で追える。懐中電灯を拾って、あとを追う。
普段、カトカラはビュンビュン飛びで、かなり飛翔速度が高い。夜空を飛んでいる時などはスズメガの仲間かと見紛うばかりだ。しかし、なぜか樹液や花に飛来する時や、そこを飛び去る時はパタパタ飛びで遅い。ホバリングや方向転換が下手で、なんか鈍クサイ飛び方なのだ。急発進できないというか、トップスピードになるのに時間がかかり、急にスピードを落とす事も出来ないのだろう。
原因は体が重いのかな?とも思ったが、それほど特別に胴体がデカイわけではないのにナゼ❓胴体はスズメガの仲間とさして変わらんぞ。いや、寧ろスズメガよか細いくらいだ。はて…、何でやろ❓
もしかしたら、翅の形と厚さが関係しているのかも…。種類にもよるが、スズメガの方が上翅がより横に長くて、下翅がコンパクトだ。翅も分厚い。その辺に答えがあるのかもしれない。

目で追っていると、10mほど飛んで木の幹に止まった。
今度もわりと低い位置だ。毒ビンを被せる事も出来よう。しかし、位置をシッカリと確認してから網を取りに戻る。毒ビンで採る自信が無かったのだ。今度またハズせば、せっかく気分が乗りかけてたのに再び暗黒ビチャグチョの精神世界に沈みかねない。もうこれ以上、カタルシスが無い日々が続くのは辛いのだ。虫は採れてこそ、面白い。

幹を💥ブッ叩き、なんなくゲット。
しかし、又もや禿げチョロケ。まあ、いいや。採れないよかマシだろ。仕方なく、裏面写真を撮ることにする。

 

 
カバフは、裏も微妙にいいねぇ。
それを三角紙におさめてる時に、またカバフが糖蜜に飛んで来るのが視界に入った。

 

 
今度は、もっとハゲ~(ToT)
これは裏展翅ゆきだろなあ…。

その後も立て続けに飛んできた。
カトカラ国内No.1の稀種であるカバフキシタバを怒濤の20分間で3♂1♀ゲット❗❗
相変わらず無傷の背中フサフサさんは採れてないが、気分は悪かない。カバフの1日最高ゲット数のレコードをも射程内なんじゃないの~(^o^)v

と思ったけど、それでピタッと止まった。その後、11時前くらいまで粘るも飛来なし。
まあ、一日で複数採るのも難しいとされる稀種がこれだけ採れれば、いいだろ。
ところで、1日最高ゲット数っていくつなのだ❓ 最高ゲット数のレコードも射程内とか言っといて、知らんのだ。所詮は何も考えとらんテキトー男の、テキトー発言なのだ(笑)

 
一応、展翅画像も貼付しておこう。

 
【カバフキシタバ ♂】

 
無惨なハゲ度合いだが、カバフは美しい。
カバフキシタバの特徴と云えば、その特異な上翅のデザインだが、下翅も個性的だ。他のキシタバ類に比して下翅が明るい黄色で、しかもその領域が広い。珍しくて個性的で、しかも美しいとあらば、特別な存在とされるのも理解できる。

 
【カバフキシタバ ♀】

 
何か黄色の色が違うような気がするので、撮り直す。

 

 
( ̄~ ̄;)ん~っ、今イチ再現できてないが、まっいっか…。
 
雌雄の見分け方は、♀の方が♂よりも大きく、翅は全体的に丸みがある。また♀は腹部が太くて短く、先っちょの毛束の量も少ない。

 

 
裏展翅もした。
でも酷い写真だな。

 
【裏面】

 
裏面は他のキシタバ類と比べて劇的に違うワケではない。全体的に黄色みが強くて白っぽいところがあまりなく、領域も広い印象がある。但し、一つ一つ仔細に見たワケではない。同定するにあたって、裏を見る必要性がないし、特異とまで言える程の斬新性はないからである。

 
7月5日。

そこそこ満足したとはいえ、やはり落武者ハゲちょろけじゃない完品が欲しい。
と云うワケで、翌日も六甲に出掛けた。

午後8時17分。
最初の1頭が糖蜜に飛んできた。
その後、立て続けに4頭飛来。何れも糖蜜に寄ってきた。京都で採った最初の1頭も飛んできたのは8時半くらいだったし、どうやらカバフは日没直後には飛んで来ないようだ。基本的には8時を過ぎないと現れないと思われる(註2)。

15分程で一旦飛来が止まり、午後9時過ぎに1頭追加。その後、午後9時50分に1頭、10時15分に1頭が飛来して終了。

 


 

 
Ψ( ̄∇ ̄)Ψふはははは…、糖蜜、樹液に完勝❗
周囲には樹液が出ている木が計3本あるが、今日は樹液には1頭も来ず、7頭全てが糖蜜に寄ってきた。オラの作ったモラセス(糖蜜)ってスゴくねっ❓

レシピはテキトー&且つ複雑過ぎて正確なところは、教えたくともお教えできない。だから、たぶん二度と同じものは作れないだろう。
ベースはカルピス➕麦焼酎。そこに酸味として酢を足し、バヤリースオレンジジュースを加えた。しかし、今一つ匂わない。そこに飲み残しのビールを足したが、やっぱ今一つ。もうヤケクソでバナナを皮ごとグジャグジャにして入れてみた。焼酎も増量。これで香りにエッジが立った。イガちゃんスペシャルモラセスの誕生である。
もし真似するなら、ちゃんと濾してから使いましょうね。ワシみたいにエエ加減に作ると、霧吹きが詰まりもうすぞ。

流石に7頭も採れば、落武者じゃないのも採れる。

 

 
仔細に見たら、ナゼにこんなにも禿げチョロケになるのかが、概(おおむ)ね解ってきた。どうやらカバフちゃんの背中の真ん中の毛が元々薄いようなんである。毛が短くて、他と比べてフサフサ度が低いと思うんだよね。だから、すぐ円形脱毛症みたくなるんじゃないのかなあ…。

比較のために、参考として他のキシタバの画像を貼付しておきませう。

 

 
上がアサマキシタバ、下がコガタキシタバである。
毛が長いのが、お解り戴けるかと思う。
たぶん、普通のキシタバやフシキキシタバなんかも長い方だと思われる。
反対に短いタイプは他にもいるかもしれない。ムラサキシタバなんかも禿げちょろけ易いので、短いのかもなあ…。沢山採ったワケではないので、全然言い切れませんけど…。
或いは毛が長いタイプと短いタイプの2系統に分かれるとかないんだろうか❓
でも書いてて、段々自信が無くなってきた。所詮は印象で言っているだけの事で、数多くの個体を検証したワケではない。それに野外品ではジャッジメントの線引きが難しい。検証には不向きだ。こう云うのは、厳密的には各種を飼育、羽化させて比較してこそ、検証可能なものだろう。だから、この件に関しては半分以上は戯れ言として聞き流して戴けると有り難い。
但し、カバフに関してだけは、そこそこ当てはまってると思うんだけどなあ…。

今回も、展翅した画像を貼っておきます。
但し、便宜的に適当に選んだ写真なので、採集日は違うかもしれないです。

 

 
この時期は触角を自然な感じにするのが、マイ・トレンドだったんだろうなあ…。来年は真っ直ぐにしよっと。

 
7月6日

今日こそ、奈良でカバフをシバく予定だった。
しかし天気予報を見ると、生憎(あいにく)そっち方面の天気は思わしくない。どうやら、にわか雨があるようなのだ。雨はヨロシクない。網が濡れて、取り込む時に翅の鱗粉が剥がれてしまい、ボロ化しやすいのだ。当然、背中の毛も禿げ易いだろう。
それで急遽、昨日、一昨日のポイントにチェンジした。まさかの三連続出勤である。
また、7頭のうちの2頭は♀だと思ったのに、全部♂だったというのもある。これでは10♂1♀じゃないか。蝶や蛾は基本的に同柄ならば、♀の方が圧倒的に魅力があるのだ。♀、ぽちぃ~。

カバフは8時を過ぎないと飛来しないことが解ってきたので、今日は出発を30分ほど遅らせた。
今日もまた、エッチらオイラ…、じゃなくてエッチラオッチラと駅から長い坂道を歩く。

午後7時半、ポイントへと向かう入口に到着。
でも三日目ともなれば落ち着いたもんだ。念入りに全身に虫避けスプレーを散布して、毒瓶二つを両ポケットに捩じ込む。ヘッドライトを装着後、左手に捕虫網と懐中電灯、右手には糖蜜入りの霧吹きを持って夜の山へと入る。

寄って来たがる木にも好みがあるようで、昨日、一昨日を踏まえて、実績のある木を中心に8ヶ所に糖蜜を吹き付けた。辺りに、甘い香りが立ち込める。

2日間で11頭得ているので、気持ちは楽だ。
しかし、不安が全くないワケではない。虫採りに油断は禁物。常に予断は許せぬものなのだ。2日間でそこそこの数を得たからといって、翌日にまた同じように採れるという保証はどこにも無いのである。条件は変わらないのに、なぜだか1頭も採れない、姿さえ見ないということは往々にしてある事なのだ。況(ま)してや珍品で、個体数が少ないと言われているカバフキシタバである。この2日間で採り尽くした可能性も無いワケじゃない。
でも、♀は一つしか採れてないから、これからは♀の時期になってゆく可能性も無きにしも非ずとも考えられる。まだチャンスはある筈だ。

夕焼け空が次第に色を失い、群青色からやがて漆黒の闇へと移りゆく様は、いつ見ても飽きない。このカトカラを待つあいだの時間は、毎回特別な時の流れの中にあると思う。美しい風景と期待や不安が混じった感情が、不思議な感覚を一時(いっとき)与えてくれるのだ。マジックアワーとでも呼びたくなる素敵な時間だ。
少しニュアンスは違うが、これは昼間の蝶採りの時でも基本は同じだ。中学生がデート相手の女の子を待つみたいな気分なのだ。そこには期待と不安、ワクワクとドキドキ、胸を締め付けるようなものがある。
大人になると、そんな心持ちになれる事は滅多に無くなる。この歳になっても、そのワクワクを味わえるのは幸せなことだ。だから、蝶採りにハマったのかもしれない。
但し、待ち人きたらずで、心がズタズタになる事も多いんだけどね。

午後8時過ぎ。
早くも樹液に来ているカバフを発見。今日は飛来が早い。
でも矮小個体の♂だ。驚いたことにマメキシタバくらいしかない。思わず、二度見したよ。
カバフって、大小の個体差が大きい種なのかもしれないないと思う(註3)。

しかし、あとが続かない。
どうやらフライング個体だったようだ。まさか、これでおしまいってワケじゃないよね❓不安が擦過する。

8時22分。糖蜜トラップに漸く1頭が飛来。
この8時半前後が、カバフのゴールデンタイムの口火の時間なのだろう。

昨日、編み出した下コツッの採集方法で、難なくゲット。
そこから怒濤のラッシュが始まった。
9時前まで間断なく糖蜜トラップにやって来て、休む暇も無かった。あっという間に10頭をゲット。
その後も時折飛んできて、そこからあとは数を数えるのも面倒くさくなって、いくつ採ったかわからなくなった。
しかも、最初の矮小個体1頭以外は全部我がスペシャル糖蜜に来たものだ。ほぼ完勝と言っていいだろう。この三日間を合わせれば、モラセス(糖蜜)の圧倒的勝利だ。
ふははははΨ( ̄∇ ̄)Ψ、モラセスの逆襲だぜ❗

 

 
生息地は局所的で個体数も少ないと言われるカバフキシタバを、この日は結局17頭も採ってしまった。
1日で17頭って、それこそレコードじゃねえの❓(註4)

前の2日間も合わせると計28頭だ。
カバフって、ホンマに珍品かいな(;・ω・)❓

 

 
 
7月7日。

カバフをタコ採りしてやったので、溜飲も下がった事だし、この日はお休みにする予定だった。
しかし昨日、調子に乗って小太郎くんに自慢メールを送ってしまった。

小太郎くんは20代後半の若者で、基本的には蝶屋だが、虫全般について詳しい。驚くほど何だって知っているのだ。若いけど、かなりレベルの高いオールラウンダーだ。ゆえに、結構バカにされている(笑)。でも虫歴は向こうの方が長いし、レベルも高いから仕方がないのだ。それにカトカラの最初の先生だしさ。
彼は蛾にもそこそこ詳しくって、カトカラの事も基本的な事はだいたい知っている。最初にカトカラに興味を持ったのも、彼に影響されたところが大きい。中でもカバフの美しさと珍しさについての熱弁は印象に残っている。彼は基本的にカトカラは採らないし、採っても誰かに進呈するみたいだけど、カバフだけは別格らしい。アレだけは、人にはあげないと言ってた。
その彼から案内して下さいと言われて断るワケにはいかない。そう云うワケで、御案内申しあげた。まさか、まさかの四連チャンである。

今宵も我がモラセスは鬼のごたる効力を発揮した。
小太郎くんも、その効果を素直に認めたくらいである。ただし、この日は樹液に飛んできたヤツもそれなりにいた。

この日もそこそこの数が飛んできたが、正確な数はわからない。おそらく10頭ちょっとは飛んできたのではないだろうか❓前半は小太郎くんの採集と撮影のサポートをしていたので、正確な数を把握していなかったのである。

 

(写真提供 小太郎くん)

 
小太郎くんが満足したところで、最後に自分も幾つか採ったと思うけど、数は定かではない。それさえもあんまり憶えてないのだ。たぶん、急速にカバフに対して興味を失っていたのだろう。

カバフキシタバは稀種と言われてるけど、それに対しての疑問を明確に自覚したのは、この日からではないかと思う。本当はそれほど珍品ではなくて、意外と何処にでもいるんではないかと思ったのだ。それと同時に、食樹に対しての疑念も芽生えた。自分の目が節穴という可能性もあるが、随分と注意してカマツカの大木を探したつもりだが、結局1本も見つけられなかった。にも拘わらず、こんなにも成虫が採れたのである。
カバフの幼虫はカマツカの大木を好むと言われ、それが個体数の少なさの原因だと推測されてきた。けど、こんだけ採れりゃあ、別に大木じゃなくても発生するんじゃないかと疑ったのである。大木を意識するあまり、小さな木を見逃していた可能性はある。
また、こうも考えた。或いは此処ではカマツカ以外の植物も食樹として利用していて、見つからないのは、そのせいではないかと。
しかし、これはあくまでも推測に過ぎない。大ハズレの可能性もあるからね。

 
7月10日。

漸く奈良のカバフにリベンジする日がやって来た。
カバフに対するモチベーションは、かなり下がっているけど、奈良で享けた仇は奈良で返す❗やられたら、やり返す。それが人生のモットーだからだ。負けたままでは終われない性格なのだ。
とはいえ、返り討ちにされないとも限らない。勝つパーセンテージは少しでも上げておくべきだ。早めに行って、新たに樹液が出ている木を探しておいた。

この日は、家が近い小太郎くんにも声をかけておいた。日没後に合流する。
そこで、あのカトカラのニュー、マホロバキシタバ(註5)と出会ったのである。アミメキシタバともクロシオキシタバとも違う何じゃこりゃ❓のそれで、その日はカバフどころではなくなった。リベンジする事すら、頭から消えていたのである。

 
7月某日。

マホロバの発見で、蛾界の一部が騒然となった。
完全にカバフどころではなくなって、マホロバの分布調査にいそしむ事となる。
でも心の奥底では、通っているうちにそのうち何とかなるだろうと思っていた。それがこの日だった。

樹液の出ている木のそば、別な木に翅を閉じて静止していた。
でも、リベンジという意識はあまりなくて、『あっ、カバフおるやんか。』と云う感じで、さしたる興奮はなかった。特別緊張も無いから、なんなくゲット。

 

 
でも落武者になっとるー( ̄∇ ̄*)ゞ。
せやけどワシのせいちゃいまっせ。最初からやった。やっぱ、カバフは驚く程すぐ禿げチョロけるのねー。

時間は正確には憶えてないけど、たぶん8時は絶対過ぎていたと思う。
因みに、結局この周辺では糖蜜に飛来したものはゼロだった。もっとも、樹液がバンバン出ていたので、あんまり真面目に糖蜜採集やってなかったけどさ。

ここまで書いて、はたと気づいた。
7月某日だなんて、何で日付がハッキリわからんねやろ?と。
それで、上の展翅写真のデータを見直した。すると、何と日付が7月11日となっていた。と云うことはマホロバを見つけた日、つまりリベンジ初日の7月10日に、ちゃんとカバフを採っていたと云うことになる。Facebookに上げた記事もマホロバの記事を最初にあげた翌日(12日)の昼間になっている。12日は、小太郎くんが用事があるとかで、一人で訪れている。となると、10日に採っている可能性が極めて高い。

慌てて小太郎くんに電話して確認を取ったら、「その日かその前かはどうかは微妙ですけど、マホロバを採る前だったと思いますよ。」と云う答えが返ってきた。このカバフを採った時には、小太郎くんも一緒にいたのだ。
7月7日に彼と一緒にカバフを採りに行ってから、何処にも行ってない筈だ。ましてや奈良に行っていたとしたら、記憶がないワケがない。たとえパープリンの記憶喪失男だったとしても、小太郎くんが一緒に居たことは間違いないワケだから、それは有り得ない。
たぶん、マホロバの発見が強烈過ぎて、その日カバフを採った記憶がフッ飛んでいるのだ。
その後、なかなか次の1頭が得られなかったので、記憶がソチラに引っ張られたのかもしれない。奇しくも、如何に人間の記憶が曖昧なのかの証左を突きつけられた感じだ。思い込みとは恐ろしい。
何はともあれ、リベンジ一発目でカバフを採ったんだね。俺ってやっぱ、やる時はやる男やんか。何かプライドが強化されたようで、得した気分(о´∀`о)

その後、岸田先生がマホロバの分布調査に送り込んできた刺客、小林真大くんが若草山近辺でもカバフを見つけて、複数採った。そういえば、彼が言ってたなあ。糖蜜にソッコー来たそうだが、樹液には一つも来なかったって。カバフは樹液よりも、モラセス好きなのかもしれない。
自分も、後に赤松の幹に止まっているのを見つけた。カバフは赤松の木が好きで、昼間よく止まっていると聞いてたけど、この時初めて見た。真大くんも赤松の木で見つけたと言っていたから、やはり赤松好きなのだろう。もしかして、アカマツも食樹だったりしてね(笑)。日本のカトカラは基本的に針葉樹を食わないだろうから、それは無いとは思うけど…。
それで思い出したが、若草山近辺にもカマツカの木はそれなりにあるようだ。自分も2本くらい見た。探せば、もっと北や東にもあって、カバフもいるんじゃないかと思う。

自分の六甲でのタコ採り、奈良近辺での採集数、それに松尾さんが兵庫県西部で相当数のカバフを見ていることから、今年は大発生なのではと云う意見もあるようだ。しかし、果たして本当にそうなのかな?と疑問に感じている。それ以外で、他にはあまり例を聞かないからだ。たまたま沢山いる所が見つかって、情報が強調されたにすぎないんじゃないかと思ってる。間違ってたら、ゴメンナサイ。

思ったんだけど、大発生とかではなくて、寧ろ今まであまり調査されてこなかっただけの事ではなかろうか。意外とカバフは何処にでもいて、個体数も思われているほど少なくないのではないか。単にベストな採集方法が分かってなかっただけではないかと云う考えに傾き始めている。
今までカバフがあまり目に触れてこなかったのは、採集を主に外灯に来たものやライトトラップ、或いは昼間に静止しているもの、樹液への飛来に頼ってきたせいではなかろうか❓
カトカラの中でも、カバフは特徴的な上翅をしているから見つけ易いとは言われているが、にしても昼間の見つけ採りは決して効率が良いとは言えないだろう。樹液にも、個体数のわりには寄って来ないのかもしれない。自分の経験値と真大くんの見解を併せれば、樹液で採るよか、糖蜜の方が遥かに有効である可能性はあると思う。
しかし、糖蜜トラップでカバフを採ったという話はあまり聞かない。常識的に考えれば、糖蜜よりも樹液の方に寄ってくると考えるのは当たり前だろう。が、その当たり前が常に正しいとは限らないと云うことだ。
ライトトラップにも、そもそもあまり寄って来ない種なのかもしれない。或いは寄って来るのが遅い時間帯と云うのも有り得る。皆が皆、そんなに夜遅くや明け方までライト・トラップをやってないだろうからね。撤収した後がゴールデンタイムと云う可能性も無くはないか❓

結局、奈良でも六甲でもライトトラップを試してないから、ライトへの飛来に関しては本当のところはわからない。あれだけの数が糖蜜で採れて、ライトトラップにはあまり寄って来なかったとしたら、走光性が低いという可能性がある。
同地で、糖蜜とダブルで試してみたら、事実の一端が見えてくるかもしれない。どちらが有効であるか、来年試す価値はあると思う。
でもさあ( ̄∇ ̄*)ゞ、おいらライトトラップの道具持ってないんだよねー。

 
                   おしまい

 
追伸
計3話に渉る長々としたクソ文章にお付き合いくださいました方々、御拝読ありがとうございました。
相変わらずフザけまくるは、生意気に意見するわでスンマセンm(__)m

夏の強烈な日射し、荘厳なる夕暮れ、木々を揺らす風、部活動をする学生たちの声と楽器の音、タールのような漆黒の闇、儚く光る蛍たち、溶けそうな蒸し暑さ、糖蜜の甘い香り、帰り道の静まりかえった夜の街、そして灯りの中で明滅するカバフキシタバの鮮やかな黄色。
この長い文章を書いている間、色んな風景や温度、その他もろもろがフラッシュバックした。
来年も、カバフキシタバに会いに行きたい。

 
(註1)100均の懐中電灯
100均の懐中電灯はショボい。でも、敢えて使っている。何でかっつーと、照らしてもカトカラがあまり逃げないからなのである。カトカラは敏感だ。強い光を当てるとビックリして飛びがちなのだ。光量があって性能が良い懐中電灯は素晴らしいと思う。が、性能が良過ぎて、あまりヨロシクないんである。あくまでワタクシ的感想ですが。

 

 
ただしコヤツ、100均だけあってマジしょぼい。すぐに接触不良を起こして調子悪くなるのだ。で、しばしばブラックアウト。ドツいて、また光だすというポンコツ振り。電池が無くなりかけると、驚くほど光量が落ちるしさ。だから、予備電池は必須アイテム。お陰で、初期の頃は夜の山中で懐中電灯が消えかけて半泣きになったことが何度かある。一人ぼっちだったし、チビりそうになった。

 
(註2)8時を過ぎないと現れないと思われる
そんな事、図鑑とか何処にも書いてないけど、少なくとも関西では間違いなかろう。今夏、他人の採集も含めて知っている範囲では、50近い飛来数のうちで例外は一つもない。

 
(註3)カバフって大小の個体差が大きいのかもしれない

展翅した一部を並べてみた。

 

 
特別そうだとは言えないだろうが、それなりにはあると思う。

それよりも気づいたのは、♂と♀の下翅の斑紋の違いである。
今一度、並べてきた展翅写真を見て戴きたい。下翅の真ん中の黒帯が♂の方が細い傾向がある。だから、♂の方が黄色っぽく見える。そんな事、どこにも書いてなかったよね?
とはいえ、微妙なのもいる。同定の際の決定的な相違点とはならないだろうが、その一助にはなると思う。♂か♀なのか微妙な個体の場合には、使えるかもしんない。

 
(註4)それこそレコードじゃねえの❓
調べたら、石塚勝己さんの『世界のカトカラ』によると、島根県で143頭も採れた記録があるらしい。物凄い数だにゃあ。ケタが一桁違うわ。
但し、よくよく見たら外灯(水銀灯)に来たもので、しかも1959年から1960年の二年間での総数のようだ。
成虫の発生期間を少なく見積もって1ヶ月として、2年間で60日としよう。単純に143を60で割ったとしたら、2.83だ。つまり1日3頭も採れていないことになる(それでもスゴい数字とは言える)。となると、1日17頭って、凄くねえか❓レコードも有り得るよね。もちろん単純計算に過ぎないから、天候不順の日だってあるだろうし、飛来日数はもっと少ないかもしれない。けど、カトカラは雨でも全然飛んで来るからね。また、1日3頭ずつコンスタントに飛んで来るワケではなかろう。中には爆発的に集まって来る日もあっただろう。にしても17と云う数字は、かなりいい線いってると思うんだけどなあ。
因みに3日間で28頭だから、それを3で割ると平均は約9である。9×60=540だ。圧勝じゃん❗
小太郎くんと行った日も10頭くらいは採れているから、仮に38÷4としても9.5である。コチラの方がもっと凄いことになる。
まあ、何だかんだ言っても、所詮は机上の理論に過ぎないんだけどね。
とはいえ、少なくとも樹液&糖蜜採集の数としては、レコードに近いんじゃなかろうか❓

 
(註5)マホロバキシタバ

 
学名 Catocala naganoi mahoroba 。
日本で32番目に見つかったカトカラ。詳しいことは『月刊 むし』の10月号を見てくだされ。不肖ワタクシの発見記も有るでござる。