シルビアの迷宮 第四章

 
 第四章 『断崖のシルビア』

 
ボルバキア感染まで辿り着いて、漸くクロージングに入れると思ったら、また要らぬモノを見つけてしまった。

『石川県能登半島産と日本各地産シルビアシジミの比較検討及び1新亜種』(2016’木村富至)という論文だ。シルビア関連の論文を探してて、ブチ当たってしまったなりよ。
もう何も書きたくないのだが、性格がスルーを許さないのだ。我ながら最悪の性格だよ。

そういえば石川県能登半島西部で、シルビアが17年振りに再発見されたとは聞いたことがある(註1)。たぶん、月刊むしの巻頭カラーだろう。
なぜそんなにも再発見に年月がかかったのかというと、生息環境が全然違うんじゃなかったかな。シルビアといえば、普通は河原や河川敷の堤防、田畑の畔、池の土手といった場所が生息地だが、ソヤツは何と海岸沿いの急峻な断崖絶壁近くの僅かな草地に棲んでいる。だから、そんな場所にまさかいるとは誰も思わなかったのだ。それゆえ、ちょっと特異なシルビアとして記憶している。

この論文タイトルからすると、それを亜種として記載したのだろう。いつの間にそんな事になってたのだ。全然知らなかったよ。

気になるので、調べてみた。
どうやら、Zizina emelina terukoae(Kimura 2015?)という亜種名みたいだ。たぶんテルコさんに献名されたんだろね。きっと奥さんなのだろうが、娘さんだったら驚くなあ。
しかし、困ったことに亜種記載されたらしき冒頭にあげた論文の中身が読めない。仕方なしにネットサーフィンしてたら、能登のシルビアについて色々出てきた。

シルビアフリークの間では、河川の堤防や池の周りの斜面に棲むシルビアのことを「土手ビア」と呼び、海岸沿いに棲むシルビアのことを「海ビア」と呼んでいるそうな。
最初は意味が解らず、土手で飲むビールとか海で飲むビールで、シルビアが採れたらそこで祝杯をあげるのがシルビアフリークの習わしなのかと思った。オデ、バカだからさあ、「中々気持ち良さそうだ。さぞかしビールも旨いだろう」なんて思ったのだ。
でもこれは「土手シルビア」と「海シルビア」の略ってこってすなあ。気づいて苦笑いしたよ。
また、田畑周辺のものを「畔ビア」、能登半島のシルビアを「能登ビア」と呼んでいるサイトもあった。

海ビア(能登ビア)が棲んでいるのは、多分こんな環境なのだろう。

 
(出典『Alis』)

 
写真は能登金剛の関野鼻という景勝地のようだ。
テキトーにキレイな写真を貼っ付けて「能登金剛って有名な観光スポットだし、いつか行きたいものだ」とか何だとか書こうとしたところで、突然、⚡電撃に打たれたかのように脳内でシナプスが繋がった。関野鼻といえば、能登で最初にシルビアが見つかった場所と同じ地名じゃないか。能登にこのような変わった地名が2つあるとは思えない。ならば、これは同一の場所だろう。偶々(たまたま)貼っ付けた画像が、まさかのビンゴだったとはね。何だか嬉しいや。

それにしても、こんなとこにいるとは驚きだな。
前述したが、シルビアといえば河川の堤防や田圃の畦、公園や空港など定期的に手入れされる人為的な場所での発生が殆んどだ。それゆえ、生息地は開発や整備で容易に消滅しやすいし、反対に放置されれば、植物が繁茂して植生が変わってしまい、これまた生きてはいけない。だからこそ、絶滅危惧種になっているのだが、ここは逆に人の手が殆んど入っていない環境だ。ある意味、置かれている環境は端っこと端っこなのだ。何かメタファーみたいなものを感じるよ。でもよくよく考えてみたら、結局好む環境は同じく低草地の所謂(いわゆる)シバ草原的環境なんだけどね。
太古の昔、シルビアは元々こういう厳しい環境に棲んでいるチョウだったのかもしれない。後に人間が作る環境に順応して増えていったとも考えられる。しかし、人間社会に順応したがゆえに、現在の土地開発という新たな局面の中で数を減らしていっているのだろう。何だか皮肉だね。プリンセスは時代の波に翻弄される運命なのだ。

何とか上手いこと纏めたかなと思ったが、ちょい待てよ。能登の環境こそが本来のシルビアシジミの生息環境だと思ったが、むしろ海岸部に追いやられて、細々と生きているといった方が正しいような気もしてきたぞ。河原なんかの方が自然だと思う。
でも、こんなのどっちが正しいのか証明できないよなあ…。

それはさておき、何で17年ものあいだ再発見されなかったのだろう❓
最初に発見された1992年の場所は、シルビアがいる典型的な環境だと勝手に想像してた。だからこそ、まさかそんな断崖絶壁にいるとは誰も考えもしなかったゆえ、発見が遅れたんだと思ってた。しかし、再発見された場所は、関野鼻そのものかどうかはわからないにしても、同じ羽咋郡志賀町だ。と云うことは、同じ場所か近い場所ということになる。となれば、探せば、簡単に再発見できたんじゃないかと勘繰りたくもなる。何で❓謎だよ。

もしかして、誰も探していなかったとか❓
ならば、発表された媒体が地方の昆虫同好会の機関誌か何かで、目に触れる機会が少なかったのではないかと考えた。しか~し、報文が載ったのは、調べてみると『蝶研フィールド』だった。刊行されていた時代には、まだ自分は蝶採りを始めていなかったけど、発行元は蝶研出版だ。蝶マニアにはかなり読まれていた雑誌だと云う認識がある。記事を読んだ人は少なくない筈だ。なのに19年もの空白があるなんて不思議だ。単に怠慢で、誰も探さなかったとしか考えられないじゃないか。でも短報だったとしても、特異な生息環境なんだから、それについての何らかの言及はあった筈。言及されていたのなら、そんな特異な場所にいるシルビアだ、好奇心を持つ蝶屋は居て然りだろう。なのに誰も探さなかったの❓或いは、探しても見つけられなかったのか❓けれど、そういう好奇心を持つ蝶屋ならば、経験値もあり、勘も鋭い優れた蝶屋の可能性が高い。にも拘わらず、見つけられなかったのか❓これまた、謎でしかない。
またしても、迷宮のシルビア・ラビリンスである。

こういう煮詰まった時は他の箇所を書いたりしてると、意外と新たな考えが頭に浮かんだりする。あとがきを先に書いてたら、別な理由が浮かんだ。
或いは1頭だけしか採れなかったから、どうせ偶産だと思われたのかもしれない。つまり、相手にされなかったというか、誰もがバカにしてスルーしたのではあるまいか。これって一番可能性があるような気がしてきたぞ。思い込みとか予断はよくないね。

色んなサイトに能登ビアの生態写真も数多くアップされている。

 
(出典『蝶の生態写真-Photograph of Japanese Butterflies-』)

 
良い写真だね。素晴らしいロケーションだ。
自分の知るシルビアの生息環境とは大きく異なるので、やっぱ、ちょっと驚きだよね。

ここのシルビアは分布の北限にあたる(以前までは栃木県さくら市)。或いはシルビアシジミ属(Zizina)全体の北限にあたるかもしれない。
考えてみたら、この場所は他の棲息地とは随分かけ離れている。今一度、現在の分布状況を確認しておこう。

 
(出典『日本のレッドデータ検索システム』)

 
白い部分は未発見の都道府県。グレーの部分が既に絶滅したと考えられる地で、赤が絶滅危惧種Ⅰ類、オレンジは絶滅危惧種Ⅱ類、黄色が準絶滅危惧種に指定されており、緑色がその他である。
絶滅した場所で一番近い県は岐阜県だけど、これは岐阜市なので意外と遠い。反対にこの図では分布しているとされている群馬県は実際には既に絶滅しているようだ。つまり現存している場所だと一番近い生息地は栃木県という事になる。何れにせよ、それだけ飛び離れた場所で、生息環境も異なるとあらば、生態も違い、DNAレベルでも分化が進んでいて、形態的にも独自進化している可能性はある。ゆえの亜種記載になったのかな❓

ネットを見ていると、食草はミヤコグサみたいだ。
正当派シルヴィーちゃんなんだね。たぶん、ボルバキアには感染していなさそうだ。
ネット情報だと、能登のシルビアには他と違う特徴も見い出だされているようだ。能登ビアの斑紋の特徴の一つは、前翅裏面の上から3つ目の紋が横になる事だそうだ。もう少し詳しく言うと、前翅裏亜外縁の黒点列の一番上が内側にずれ、上から3番目が横長になるというのが北限のシルビアの特徴らしい。

さっき画像をお借りした方の写真が素晴らしいので、再び画像をお借りしよう。良い写真ばかりなので覗いてみられることをお勧めします。

蝶の生態写真-Photograph of Japanese Butterflies –

 
【能登半島のシルビアシジミ】
(以下4点共 出典『蝶の生態写真ーPhotograph of japanese Butterfliesー』)

 

 
前翅裏亜外縁の黒点列の上から3番目の黒点は、確かに横長になっている。
地色なんかも、ちょっと白っぽいような気もするね。でも、色に関しては写真の撮り方にもよるから何とも言えない。それに、そもそもが春・秋型と夏型とでは色に違いがある。♂と♀とでも微妙に違ったりするから、軽率に判断は出来ないよな。

次に、他の産地の裏面を並べてみよう。

 
【兵庫県加古川市のシルビア】

 
【和歌山県白浜市のシルビア】
(出典2点共『蝶の生態写真ーPhotograph of japanese butterfliesー
』)

 
黒点列の一番上が内側にズレるというのは微妙だけど、確かに3番目の黒点には言われているような違いはあるね。コチラは横長にはなっていない。
でも他の写真を見てると、能登産でも微妙なのもいるんだよなあ。

 
【能登ビア】
(出典『Gramho』)

 
コレなんかは、言うほど横長ではない。
逆に別産地のものでも、珠に3番目の黒点が横長になる奴も見受けられる。
おいおい、そんなの亜種としての識別点としては使えんぞ。
大丈夫かよ(# ̄З ̄)、ssp.terukoae❓

更にネットサーフィンしていると、幸い論文と同じ著者である木村富至氏がそれ以前に書いた『能登半島産シルビアシジミの形態的特徴と分布について』という論文を見つけることができた。長いが抜粋しよう。

1.重要な固有の特徴

能登半島産は前翅裏面の外中央斑紋列のなす角度が概ね101°以下の鈍角となり、他産地は101°以上の鋭角となる。ただし、能登半島産春型及び他産地産で稀に角度θが101°前後の紛らわしい個体も出現する。その場合は、同じ季節型同士で比較したり、前翅裏面外中央斑紋の並び方、裏面地色や縁毛と斑紋の色、翅形などを総合的に見て両産地を見比べて判断する必要がある。
外中央の斑紋列は、4室〜5室の黒点が外側に張り出し強く角張った弧を描く(他産地は緩く滑らかな弧を描く)。

2、傾向として見られる特徴

〈1〉♂♀共通の傾向的な特徴

縁毛の色は白色で外縁付近が黒褐色となる(他産地は白色で外縁付近が茶褐色になる)。
前翅裏面の外中央の斑紋列のうち4室の斑紋は5室の斑紋の真下か、やや外側に位置する(他産地は4室の斑紋は5室の斑紋のほぼ真下に位置する)。
1C室の黒点は2室の斑紋の真下から外側に位置する(他産地は真下から内側に位置する)。
前翅の翅形は、幅のやや狭い横長が多い(他産地は、やや幅の広い横長が多い)。
前翅後角部は、やや丸みを帯びる(他産地は、やや角張る)。

〈2〉♂の傾向的な特徴

裏面の地色は青白い灰色系(他産地は茶色味を帯びた灰白色系)。
裏面において、外中央と亜基部の斑紋の色は濃い黒灰 色系でその他の斑紋の色は薄い黒褐色系(他産地は茶褐色系)。

〈3〉♀の傾向的な特徴

裏面地色は青灰色系(他産地は白味を帯びた茶褐色系)。
裏面において、外中央と亜基部の斑紋の色は濃い黒灰色系で、その他の斑紋の色は薄い黒褐色系(他産地は暗い茶褐色系)。

3.幼虫形態で見られた特徴

能登半島産は越冬前の幼虫で食草から落下しないという習性が見られた。他産地では一般的に衝撃や吐息を吹きかけると落下すると報告とされ、また飼育した伊丹市産のものも落下した。但し、今後もっと多くの産地(特に山陰地方(島根半島)の岩場に生息する個体群)で検証する必要がある。

オデ、アタマが悪いので、難しくて今イチわからん。
更に詳しい説明もあるので、それも抜粋しておく。

「能登半島産シルビアシジミシを日本における他産地の個体から区別する最重要地理的変異箇所は、前翅裏面外中央の斑紋の位置にある。具体的には第4室の斑紋の中心からみた第3室と第2室の斑紋の中心の間を結ぶ線と第6室と第5室の斑紋の中心とを結ぶ線が成 す角度θ(以後単に「角度 θ」と称する)が104°以下 (概ね100°以下)が能登半島産であり、他産地は101 °以上(概ね105°以上)の角度になる。標準偏差も小さく他産地とは充分区別できる。但し、線の引き方などにより誤差が、±2.OD程度出る。これらのことを考慮に入れ、春型などの季節型や個体変異を加昧してもこの相違点だけで能登半島産と他産地を少なくとも90 %以上の確率で見分けることができると言える。」

もう何言ってのか全然ワカンナイ。言葉の迷宮じゃよ。
論文には画像もあるので、もう少し解り易いのだが、画像は貼付できないから、今読んでる人はワシより更にワケワカメじゃろう。
何で論文って、こう小難しく書くのだろう?
別にコレは木村氏だけではなくて、他の人も大なり小なりそうだ。木村氏個人を責めているワケではない。もしかして学界(学会?)とかの、「文章は論文らしく難解で格調高くあらねばならぬ」と云う縛りでもあるのかね?小難しい文章でないと、賢く見えないとでも思ってるのかなあ…。

まあいい。そんなことは本題ではない。続けよう。

「ここで間違えてほしくないのは、第6室の外中央斑紋が内側に寄っているのが能登半島の特徴という誤解である。たしかに能登半島産では第6室外中央斑紋が内側に寄る個体が多いがそれほどでもない個体も出現するし、その他の産地でも能登半島産と似たように内側に寄っている個体が出現するので第6室外中央斑紋の位置だけでは角度θを決定する要因になっていない。それでは角度θがこのように能登半島産で安定して狭くなる要因は何かというと実は第6室だけでなく第2室と第3室の外中央斑紋も内側に寄っている。そして、第6室外中央斑紋が内側(外側)に寄ると第2室と第3室の外中央斑紋はその分外側(内側)に寄る傾向がある。つまり角度θは第6室と第2室と第3室の外中央 斑紋の相対的位置関係のバランスにより決定している。この現象は能登半島産もその他の産地も同じである。したがって、第6室外中央斑紋の位置だけで能登半島産を見分けることは難しい。
その他、この能登半島産個体群は一般的な特徴として前翅裏面第4室外中央の斑紋の形状が楕円か横長になるという指摘があるが、山梨、鳥取、岡山、徳島、栃木県産からも多く見られることから能登半島産の特徴とすることは出来ないようだ。」

ようは、巷で言われている能登半島の特徴「前翅裏亜外縁の黒点列の一番上が内側にずれ、上から3番目が横長になる」というのは、亜種としての決定的な相違点ではないと云うことだね。アタマの悪いオイラには、文章が難し過ぎるわ。

「傾向的に見られる相違点としては、縁毛基部の外縁翅脈端付近の色が能登半島産は黒褐色系であり、他産地は茶褐色系である。また、裏面斑紋の色も同様である。この色の違いは汚損した個体では紫外線のため色が劣化したりして見分けにくく、秋型では濃くなるなど季節型の変異などでも見分けにくい。しかし、対象物が小さ過ぎて正確な測定は出来ないものの彩度や明度を考慮してルーペなどで観察すると色が定量的に 表す国際的な尺度の一つであるマンセル表色系(JIS規格のJIS Z 8721を参照)でいうところの色相が違うように見える。その他、第2室と第1C室及び第5室と第4室の黒点の位置関係や翅形(要素が複雑で数値化が難しいし、他産地でも幅の狭い横長の個体が出現する)、裏面地色など総合的に判断するとかなりの確率で見分けることが可能であると思われる。
その他にも他産地では前翅表面第1室外縁付近にはっきりとした白化斑が現れる個体が春型と秋型に出現するが、能登半島産では筆者が被検した個体においてはこの前翅表面第室外縁付近の白化斑がほとんど現れず現れてもかすかに痕跡程度である。」

言わんとしてることは何となく解るけど、やはり難解だね。また、エラいとこ突っついてしまったなりよ。

記載論文を読んでないから、あまり偉そうな事は言えないけど、感想的には角度とか色って微妙過ぎてよくワカンナイや。幼虫の形態ではなく、生態ってのも曖昧で微妙だよなあ…。亜種にする程のことなのかなあ…。あまり能登産シルビアが亜種になりましたという噂を聞かなかったのは、亜種として認めてない人が多いのかもしれない。Zizina emelina terukoaeでググっても殆んど出てこないし、あまり使われていない形跡がある。まあ、その辺の亜種か否かの線引きは素人にはよくワカランよ。
とはいえ、実物を見たことないからなあ…。見たら、瞬時にして違うと感じるかもしんない。経験上、野外で見て直感的に違うと感じたものは、どこがどーのとは具体的に説明できないが、帰って調べてみると大概が別種だったり、亜種だったりすることは多い。海外の蝶なんかは、知識まるで無しで行っても大体それであってたもんね。やっぱり「百聞は一見にしかず」なのだ。
そういえば思い出した。まだヒメシルビアがシルビアの亜種だった時代、石垣島で初めてヒメシルビアに御対面した折りに、直感的に違うと感じた。亜種レベルの違うじゃなくて、別種としか思えなかった。これが何でシルビアの亜種なのか感覚的に理解できなかったのだ。
とにかく「百聞は一見にしかず」である。野外で実物を見ないと、何とも言えないと思う。
いつか、能登半島のシルビアには会いに行かないといけないね。

もう、この辺でいっか…。
第一章から延々と続いてきた迷宮ラビリンスに疲れ切って、もうヘトヘトだよ。
とはいえ、第一章の伊丹市でのシルビアの採集行というか、確認に行った折りの話に戻らないと終えることは出来ない。
 
一応、その時のものを展翅してみた。
ちっこくて大変だ。最近、全く展翅してないしさ。

 
【シルビアシジミ♂】

 
♂だけど、思ってた以上に翅が擦れてる。
裏はキレイだったから、新鮮な個体だと思ったんだけどなあ…。展翅も今イチだし、ガックリくるよ。

 
【シルビアシジミ♀】

 
あっ、低温期型の良い型だ。
秋が深まると、♀はだいぶと青くなるのだ。
なのに、頭が歪んどるやないけー。
このクラスの小ささになると、展翅してても小さ過ぎて細かいとこが見えない。なおすの面倒くさいし、もういいや。

シルビアって小さいし、特別キレイではないけれど、今回のアレやコレやで、より深い魅力を感じた。
ミステリアスな存在は素敵だ。また、来年もシルビアには会いに行こう。そう、思う。

                     つづく

 
追伸
これで終わりかと思いきや、そうではないのだよ。まだ、後日談があるのだ。(ToT)ポテチーン。

一応つけ加えておくと、能登半島のシルビアを亜種と認めていないワケではない。木村氏があれだけ細かく調べて書いておられるのだから、きっとそうなのだろう。ただ、強引に軽微な違いをあげて、亜種としたんじゃないかと考える人もいるだろう。
でもさあ、新種や新亜種の記載をする側の気持ちも解るんだよねぇ。自分も経験があるからだ。今年、蛾のカトカラ(ヤガ科シタバガ属)のニューを見つけ出したんだけど(註2)、記載をお頼みした世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんに『おでぇーかん様~、豪腕で何とか新種にしてくんなせぇー。』とか何とか、恥も外聞もなく頼み込んだもんなあ。新種発見と新亜種発見とでは、響きに雲泥の差があると思ったのである。結局、新亜種になっちゃったんだけどね。正直ガックリきたけど、冷静に考えれば、あれは亜種レベルだと思う。だから、納得はしている。
それでも、実を云うと隠蔽種で、DNA解析したら全然違う別種でしたー、とかってなんねぇかなあと時々思ったりもする(笑)。

 
(註1)能登半島のシルビアの再発見
最初の記録は1992年8月18日、石川県羽咋郡志賀町関野鼻にて小松清弘氏によって採集されたものだった(小松,1993・蝶研フィールド)。だが、その後は全く記録がなく、17年後の2009年に西口 隆氏によって再発見され、まとまった数も採れた(西口,2009・フィールドサロン)。

(註2)カトカラのニュー
Catocala naganoi mahoroba マホロバキシタバ。
『月刊むし』の2019年の10月号にて記載された。