2018′ カトカラ元年 其の11 第二章

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   Vol.11 シロシタバ act2

  『白き、たおやかな女王』

 
 
うす暗い森の中に足を踏み入れた瞬間だった。
Σ( ̄ロ ̄lll)わちゃっ❗、突然、目の前の木から何かが飛んだ❗
( ̄□ ̄;)デカッ❗❗もしや…と思った次の瞬間、仄暗い中で下翅の白がチラリと見えた。間違いない、白き女王だっ❗❗

しかし、足が固まる。普段ならば即座に反応し、鬼神の如く猛然と走り出すのだが、咄嗟に動けなかった。
目だけで後(あと)を追う。彼女は森の奥へと飛んでゆく。網膜に映る画像がスローモーション化する。
突然訪れたチャンスに驚いて固まってしまったというのもあるが、下手に走って追い掛けると相手に必要以上の恐怖感を与えかねない、これ以上驚かせて本気で逃げられたらマズイと思ったのだ。どうしても採りたいという気持ちが、そう云った慎重な作戦を選ばせたのかもしれない。
それに場所は道なき森の中のキツめの斜面だ。足下が悪過ぎる。追い掛けるにしても飛翔体から目を切ってしまう可能性が高い。一瞬でも目を離してしまえば見失いかねないと判断したのだ。止まった場所をある程度把握できれば、そこからジックリ攻めてけばいい。

彼女は真っ直ぐ森の奥へと向かっている。全身が巨大な目になったかのようになる。しかし、網膜に映るそれはどんどん小さくなってゆく。これ以上離れるとヤバイ。見失う可能性がある。心の中で、止まれ、止まれ、止まってくれと悲痛なまでに念じる。

祈りが通じたのか、やがて途中で大きく右に旋回した。半円を描くような軌道で再び視界に戻ってくる。そして突然、フッと消えた…。

一瞬、見失ったかと思って、(-“”-;)💦焦る。
でも消えたという事は、その周辺の何処かに止まったに違いない。距離は約20mってところか…。その辺りの景色を脳ミソにシッカリと刻み込む。そして、逸る心でザックから網を取り出して組み立て始める。
気持ちを落ち着かせようとするが、組み立ててる間に心がどんどん昂(たか)まってきた。興奮と期待、絶対に結果を出さなくていけないと云うプレッシャー、もし逃がしたら…という怖れと不安、そしてエクスタシーを激しく希求する動物的本能、それらがグジャグジャに交ぜ合わさって溢れ出しそうになる。背中がゾクゾクしてきた。この緊張感、堪んねぇ。久し振りに味わう最高クラスのギリギリ感だ。ワクワクする。

慎重に斜面を登り、距離を詰めてゆく。
やがて近くまでやって来た。目を皿のようにして周辺の木の幹を凝視する。彼女は忍者ばりに木と同化して止まっている筈だ。その木遁の術、見破ってやるぜ。

あれれー?、けどワッカラーンヽ( ´△`)ノ
本当にこの辺に止まったのか❓作戦失敗❓
焦れて一歩踏み出したら、飛んだ❗
\(◎o◎)/ゲッ、何処にいたのだ❓全然ワカランかったぞ。
今度は追い掛けた。危険を感じてか、彼女はスピードを速めてる。コチラもスピードを上げる。ある程度の距離を詰めておかなくては見失いかねない。

止まった❗
よし今度こそ、その隠遁の術を見破ってやる。
しかし、やっぱワカラーン。ワシの眼は節穴か。苛立ってくる。もしかして見失ったか❓
不安に駆られて一歩踏み出したら、また飛びよった。
なしてーε=ε=ε=ε=(ノT_T)ノ。再び追い掛ける。

そして、又しても同じ事を繰り返す。
(ToT)ひぇ~、また飛びやがった❗
走りながら思う。シロシタバって鈍感だと何かに書いてあったけど、全然そんな事ないじゃないか。
それにしても、ワシャ、何をやっとるのだ❓森の妖精の悪戯かよ❓ エンドレスで延々この追いかけっこが続いたりして…。悪い夢でも見てる気分だ。
その間も目は逃すまいと飛ぶ彼女を追尾している。

やがて、森の端で止まった。
(=`ェ´=)追い詰めたぜ。ここなら外からの光が入って明るい。てめぇの姿、次こそ暴いてやる。

5メートル程手前で、やっと視認できた。高さは約2メートル。翅を閉じて静かに止まっている。
やっぱデカイ。今年見てきたカトカラの中では断トツの大きさだ。
今度こそテゴメにしてやり、この追いかけっこに終止符を打ってやる。慎重に木の下まで近づき、そっと下から網を伸ばす。
久々に緊張感で💓ドキドキし過ぎて、網を振る前にフッと笑ったよ。たかが虫にここまで必死って滑稽すぎだろ。我ながらアホだ。笑える。
こういう時はハズさない。力が適度に抜けてるからだ。

網の枠で、止まっている下をコツンと軽く叩く。
ハッ( ̄□ ̄;)❗驚いて右に飛んだ。
でも、そこが狙いじゃい❗
筋肉が収縮し、躍動する。
ダアリャアーι(`ロ´)━○、秘技❇カチ上げ斬撃剣❗
その刹那を見逃さず、ネットを空中でブン殴るようにして左から右上へと💥一閃した。

素早く手首を返して網先を捻る。
ネットを斜め上に掲げたまま一瞬静止する。我ながら美しいフォロースルーである。
(* ̄ー ̄)決まったな…。クリーンキャッチした確信がある。

すかさず網に目をやると、しっかり影が見えた。
感情が爆発する。(#`皿´)ダボがあー❗、ざまー見さらせ。まあまあ天才をナメなよ❗

でも心を弛めるにはまだ早い。肝心なのはここからだ。もし網の横から逃亡されでもしたら、全てが水の泡だ。それだけは何としても避けねばならぬ。己の能力の詰めの甘さを呪って、木の幹に千回、血が出るまで頭を激しく叩きつける事となる。

それはヤだ。この際、毒瓶方式は止めて、確実を期して悪魔的伝家の宝刀、ファイナル・ウェポンを登場させよう。

逃げないように、地面に置いた網の枠を膝でおさえながらザックから注射器を取り出す。用意周到、注射器の中には既にアンモニア液が入っている。
狙いをつけてエイやっ、(`Δ´)💉ブスッ❗
Ψ( ̄∇ ̄)Ψケケケケケ…。死神博士、注射針をブッ刺し、悪魔の毒液を注入する。
クワッ❗、彼女は驚いたように一瞬バッと羽を大きく開いた。そして、次の瞬間にはゆっくりと力を失っていき、静かに事切れた。
もし彼女が声を発する事が出来たなら、毒液を注入した瞬間に断末魔の声をあげていたに違いない。心がちょっとだけ痛む。安楽死とはいえ、殺しには変わらない。酷い所業だ。やってる事は所詮はマッドサイエンティスト。こんな方法で生き物を殺(あや)めまくっとるワシって、ろくな死に方せんで(-“”-;)

しかし、憐憫の情よりも喜悦の感情の方が遥かに勝(まさ)る。ゆっくり、じんわりと幸福感が全身に拡がってゆく。
エクスタシーは狩猟にこそある。それが男性にとって最も大きな本能的快楽なのだ。

我、戦いに勝利せり。全身全霊の渾身の戦いだったぜ。アリガトネ。
網から出して、そっと手の平に乗せる。

 
【シロシタバ Catocala nivea 】

 
地ベタにへたり込む。
朝から探し回って、4時半になって漸く拝めたよ。
安堵が更に身体の力を弛めてゆく。

 

 
手にはズッシリとした感触がある。存在感が半端ない。
シロシタバはその立派な大きさもさることながら、この苔(地衣類)みたいな渋い上翅と下翅のビロードのような白の組み合わせが素晴らしい。上品な美しさを醸し出している。たおやかで、どこか気品があるのだ。去年見たものよりも新鮮なだけに、より美しいと感じる。

あっ、尻に毛束があるから、♂だね。彼女じゃなくて彼だ。とはいえ、蝶も蛾も自分にとっては女性だ。擬似恋愛なのだ。だから男に恋焦がれて追い回すって感覚は受け容れ難い。あちき、バイセクシャルの性癖は無いんじゃもーん。

改めて下翅の白を仔細に見る。
その白は、ただの白ではなくて、ベルベットような質感を持つ白だ。滑らかで色に奥行きがある。ふわふわで撫で撫でしたくなるような毛並みに暫し魅入られる。

次に上翅に目を移す。
渋いグレーにエメラルドグリーンの紋が散りばめられている。(≧∀≦)渋カッケー。神秘的ですらある。宇宙を感じるよ。
こんな柄の上翅を持つカトカラは他にはいない。日本のみならす、海外だっていない。ホントの苔みたいだ。ウメノキゴケとかの地衣類にソックリじゃないか。

 
(出展『いきものは おもしろい!』)

 
そりゃ木肌と同化しちやってワカランわな。精度の高い立派な擬態だ。あんた、偉いね。

 
やがて闇が訪れた。
そして、直ぐに2頭目が採れた。今度も♂である。
木の幹に下翅を広げて止まっていたのだ。楽勝でゲット。

その次も同じく下翅を広げて止まっていた。そのまた次も同じ状況だった。2つとも♂である。
もしかしてシロシタバの♂って、夜は下翅を出して止まっているものなのかあ❓或いは♀へのアピールだったりして…。でもそんな事、図鑑にも文献にも一切書いてなかったぞー。

そして、ウワミズザクラの大木で♀も見つけた。
これまた下翅を広げていた。♀もそうなら、♂のアピールとかは関係ないな。けど、だったら何でパンツ丸見えなの❓まさか男前のワシへのアピールではあるまいに。いやいや♂もパンチラなのだ。だからぁー、オラはバイセクシャルじゃないっつーの(# ̄З ̄)

考えてもコレといった意味が他に思いつかないが、とにかくパンチラは目立つ。ここまで5頭のうちの4頭が下翅を開いていた。夜だとシロシタバの見つけ採りは超簡単やないけ。何処にも書いてないけど、ムラサキシタバ(註1)とかも夜に行けば下翅を開いていて、簡単に見っかったりするんじゃねえの~❓

とはいえ、どこにも書いてないと云う事はたまたま今日だけがそう云う生態なのかもしれない。本日はシロシタバのお祭り、年に一度のパンチラフェスティバルなのかもしれない。
もしくは、この場所のシロシタバだけが特異な生態を持っていると云う事も考えられる。
あまり現実的な考えとは思えないけどさ。

そう云えば、もう一つ疑問点がある。
樹液に飛来したのは最後の6頭目だけだった。しかも時間は帰る間際の午後10時過ぎ。それまで他のカトカラは山ほど樹液に来ていたのにだ。マメキシタバ、オニベニキシタバ、パタラキシタバ、コシロキシタバ、この地に生息するであろうカトカラはシロシタバを除いて日没後すぐに全員集合だった。だから不思議感が拭えない。ゲットしたシロシタバのうちの2頭は樹液の出ている木の周辺の木にいたから、日没後すぐに樹液に来てもオカシクない状況だったのに何で❓
シロシタバが樹液に来るのは遅い時間帯なのか❓
これまた文献には、そういった事はどこにも書かれていない。そもそも常に樹液にそんなに夜遅くに飛来するカトカラなんて聞いたことがないし、経験上も憶えがない(註2)。

色々と疑問は残るが、6頭も採れれば御の字だ。気分は頗(すこぶ)るいい。
午後10時15分撤退。谷を下り始めた。

別に書かなくともいい事だけど、帰りはそこそこ大変だった。メインの下り道が崖崩れで通行止めになっていて、他のルートを使わざるおえなかったのだが、この道が精神的にも肉体的にもキツかった。

満ち足りた気分は下り道を歩き始めて直ぐにフッ飛んだ。昼間でも一度も歩いた事がない道を歩くのは不安なのに、夜ともなるとその精神的負荷は何倍にもなる。ルートを外れて迷う可能性は格段に上がるし、所要時間も読めない。それに付随して終電に間に合わないかもしれないという焦りも生じてくるからだ。

歩き始めてさして間もなく道は真っ暗となり、ビビった( ̄ロ ̄lll)
辺りは樹木が鬱蒼としており、不気味極まりない。今宵は月が隠れていて、光が全く入ってこないのだ。
👻お化けとか本気で恐いマックス怖がり屋さんとしては、チビりそうな様相である。

おまけにダイソーで買った100円の懐中電灯がチンケ過ぎて半泣きだ。光量が弱いし、接触が悪くて時々消えやがる。その都度叩いて復活させるものの、いつブッ壊れてブラックアウトするかもしれへんと思うと、その恐怖感は尋常じゃない。ユルい性格なので、予備の灯りも持ってないのだ。もしも灯りが消えたら、発狂するか、醜態さらしてワンワン泣き喚きそうだ。
オデ、オデ、ココロガオレソウ。ワタス、キオクソウシツニナリマスデス。サヨウナラ。

道もどんどん悪くなり、石がゴロゴロ転がってて歩きにくい。荒れているのは、あまり人が使わない登山道なのだろう。
勾配もかなりキツくなってきた。そしてステップ幅の短い急な階段になった。コケたら、谷下まで転げ落ちるだろう。確実に大怪我するレベルだ。しかも水が滲み出していて滑りやすいときてる。
泣きたくなる心を懸命に抱きしめる。ここで死ぬわけにはいかんのだ。採ったシロシタバをまだ展翅もしてないのに死ねるか、ボケ。死んでも死にきれんわ。

一時間近く歩いて、ようやく住宅街に通じる暗い舗装路に出た。
大きく息を吐き出し、一旦立ち止まる。そしてペットボトルのお茶を飲む。喉が渇いている事さえ忘れていた自分に、何だか可笑しくなって笑みがこぼれる。

道の奥、眼下には街の灯りが瞬いていた。

                    つづく

 
一応、この日に採ったものの展翅画像を並べておこう。

 

 
上3つが♂で、一番下が♀である。
死んでも死にきれんと言ったわりには、酷い展翅だ。
カトカラ一年生、まだまだ展翅が下手クソだよなあ。上翅を上げ過ぎてるし、触角も整えきれてない。まだマシなのは♀くらいか。

あれっ❓、数が合わないな。全部で6頭なのに4つしか展翅画像がない。
おっ、そうだ。翅が破れてたから、修理用にと敢えて展翅しなかったわ。全然、修理してないけど。

 
追伸
この文章は去年酔っ払って書いていたせいか、徒にダラダラに長くなり収拾がつかなくなった。年が明けて文章を整理しようと思ったが、どこをどう切り捨てていいのかも分かんなくなって一部書き直すのみで断念。ソリッドさがないし、テンポも悪いけど、もう書き直すのが嫌になって、そのままいく事にした。絶不調なので投げた感じだ。まあ、そう云う事もある。そのうち調子が出てくることを祈るしかないね。

パンチラ問題は、このあとの回も引き続き取り上げてゆきます。去年2019年までの知見は全部織り込んでゆくつもり。

 
(註1)ムラサキシタバ
(2019.9 白骨温泉)

 
シロシタバに並ぶ大型のカトカラ。且つ美しく稀なことから人気が高い。他のカトカラは既に連載に登場していて画像も紹介しているが、ムラサキシタバのみ未登場なので貼付しておいたなりよ。

 
(註2)常に樹液に遅く飛来するカトカラなんて…
近畿地方の経験だと大概のカトカラは日没後まもなく現れる。カバフキシタバのみが8時を過ぎないと飛来しない。経験値が低いから何とも言えないが、今のところミヤマキシタバ、ベニシタバ、ムラサキシタバも遅めの時間帯の飛来しか見たことがない。中でもムラサキシタバは9時半以降と遅かった。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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