2018′ カトカラ元年 其の11 第三章

 

   vol.11 シロシタバact3
   『パンチラを追え』

 
シロシタバの初採集から中2日後に再び出撃した。
中2日間空いたのは甲子園に高校野球を観に行っていたからなのだ(註1)。

 
2018年 8月22日

   

 
これを買っている時点で、又しても四條畷なのらー。
こないだは思いの外、シロシタバが5♂1♀も採れたので今日もシバくのだ(^o^)v
とは言いつつも、本日は小太郎くんが途中から参戦してくる事になっている。四條畷でシロシタバを採った報告をしたら、行きたいと言ってきたのでホントはその案内ってワケ。ゆえに冒頭のスーパーマーケット フレスコの分厚いカツサンド(註2)も彼の為に買ったものだ。マジで旨いから食ってもらいたいと云う気持ちからだったが、今日は車で来るという事なので(註3)、帰りに駅まで送ってもらうつもりだし、まあその駄賃みたいなもんでもある。あの恐怖に満ちた長く辛い夜の山道を一人で下る事を考えれば安いものだ。

 
今宵は月夜。

 

 
懐中電灯なしでも山道も何とか見える。
夜の山を一人彷徨(さまよ)うのにもすっかり慣れた。人工的な明かりが全く無い世界は恐しくもあり、美しくもある。

謂わば、夜の蛾採りはミステリーである。そして、スリルとサスペンスに満ちている。中でもライトを焚かない夜間採集は暗闇が支配する世界。ホラーであり、スリラーでもある。ミステリーな上にスリルとサスペンスに満ち、更にホラーでもあると云う謂わば全部乗せスペシャルなのである。
ここでふと疑問に思って、ついミステリーとサスペンスとスリラーとホラーの違いについて考えてみた。夜の山に一人いると、想念がどこまでも広がりがちだ。闇と対峙しているうちに、普段ある意識と内奥にある意識との間にある薄い膜のようなもの、心理的障壁や夾雑物が消えるのかもしれない。

その手の映画をAはミステリー映画、Bはサスペンス映画と言ったりする事は多い。それをホラーやスリラーとする人だっているかもしれない。ジャンル分けが人によってバラバラなのだ。自分の中でもそれら似たような言葉がゴッチャになってるところがある。その線引きって、どの辺りにあるのかなと思ったワケ。
したら、急に筆がバッシバッシに走り始めた。でも途中で、こりゃマズイ。大脱線になるのは必至だと気づいて急制動。
脱線ばかりしていては話が全然進まない。徒(いたずら)に長くなるから、それについては最近自分でも反省しているのだ。無駄な文章が多すぎ。
このお題に関しては後日、稿を改めて書けたら書こう。だいち、この日は小太郎くんが後から来たから、全然怖くなかったのだ。それだと論旨にリアリティーを欠きそうだし、タイムリーな話題とは言えまい。

暗闇の世界から暫し離れ、待ち合わせ場所へ行く。
小太郎くんが車でやって来たのは、日没後の7時半から8時の間くらいだった。
この日は小太郎くんには2頭ほど採ってもらったっけかなあ?(註4)。でも最初の1頭しか覚えていない。

一番個体数が多かった森に差し掛かった時だった。
森の入口で、小太郎くんが早くも木に止まっているのを見つけた。三日前、自分が最初に採った個体もその木に止まっていたし、止まっている高さもほぼ同じだったから驚いた。御神木かもと思ったよ。もっとも自分の場合は止まっているのに気づかずに飛んでったけどね。その辺のてんやわんやの件(くだり)は前回に詳しく書いたので、そちらを読んで下され。

記憶は朧ろだけど、下翅は開いていなかったと思う。小太郎くんは、止まっているそれを毒瓶を被せて採ったからだ。ワテの毒瓶を貸したのだが、コンビニで売ってるワンカップ焼酎で作ったものゆえ、大きさ的に翅を閉じて止まっているシロシタバでギリの口径なのだ。もし翅を開いていたなら、鱗粉が傷ついてしまうから網で採っていた筈だ。

 
【毒瓶】

 
でも小太郎くん本人に電話で確認したところ、下翅は少しだが開いていたと言う。清純チラ見せパンチラだったワケだね。言われてみたら、翅を開いていたような気もしてきた。
これで人間の記憶が如何にいい加減で曖昧なのかがよく分かったよ。同じ木だっただけに、時間の経過と共に自分が採った夕方4時半の時の記憶とゴタ混ぜになってしまい、いつのまにか夕方なら翅を閉じていた筈だという概念に支配されてしまったようだ。結構、自分の都合の良いように脳が記憶を改竄してるってことは有るんだろなあ…。

ここで今一度、パンチラ問題について説明しておこう。
シロシタバを含むカトカラ(Catocala)属は、上翅が木肌に似た地味な色だが、下翅は黄色や紅色、紫など鮮やかな色を持つものが多い。しかし、普段は昼でも夜でもその鮮やかな色を隠して木に静止している。これは鳥などの天敵から身を守る為だと言われている。つまり上翅の地味な色柄を木と同化させることによって、天敵の眼を欺くと云う高度な生き残り隠遁術なのだ。
そのせいか、下翅を見せる機会は少ない。飛んでいる時と、樹液などの餌を摂取している時くらいにしか下翅を開かないのだ。あとはイレギュラーな例として、天敵に襲われそうになったら、鮮やかな下翅を見せて威嚇するとも言われている。
これがカトカラ属全般の基本的な生態だろう。それが白き女王様ったら、此処では夜になると樹液を吸ってるワケでもないのに、恥ずかしげもなく御開帳。おおっぴらにおっぴろげていらっしゃる。🎵サービス、サービス(あっ、ここ、エヴァ(ヱヴァンゲリヲン)の次回予告の葛城ミサトの口調ねっ❤)。
しかし、こういう生態は自分の知る限りでは聞いた事がない。どこにも書いていないのだ。だから今日はその生態が、はたしてあの日一日だけのものなのか、それとも通常の行動なのかを確かめるという目的もあった。

因みに止まっていた向きは上向きだった。これは覚えているし、小太郎くんにも確認したから間違いない。
カトカラの多くは昼間は下向きに止まっているが、夜になると上向きに止まる。前回書かなかったけれど、一番最初に採った個体だけが日没前の4時半で、驚いて飛び立ったから不明だが、日没後に見た他の5頭は全て上向きに静止していた。
でも何で昼間は下向きに止まってるんだ❓
逆さになって何の得があるのだ❓そこには何らかの理由がある筈なのだが、全くもってその理由がワカラン。

それにもう一つ疑問点がある。では、いつ下向きから上向きになるのだ❓夕方❓夜❓何時何分❓
また、いつ上向きから下向きになるの❓明け方❓朝❓それとも昼❓
これに関しても詳しく書かれたものを見たことがない。
これら疑問については、おいおい解き明かしていくつもりだ。出歯亀探偵、引き続きパンチラも追うぜ。

この日の2頭目は、たぶん自分が見つけたと思う。
池の畔側で、シロシタバがあまり好まない場所なのか、池側ではその一度だけしか見たことがないから覚えてる。上向きに止まっており、下翅は開いていなかった。
後にも先にも日没後に下翅を開いていないノーパンチラ、貞操の固い個体はコレだけだった。この日は前回にも増して個体数が多く、小太郎くん曰く10頭以上は見たそうだが、木の幹に止まっていたものは全て下翅を開いたパンチラ状態だったそうだ。
その割りには採った記憶があまり無いなあと思ってたら、これも小太郎くんの言で疑問が解けた。なぜかと云うと、殆んどの個体が翅が欠けていたり、破れたものばかりで、スルーやリリースしたからみたい。話を聞いているうちに、そういえばそうだったと思い出したよ。
『ほらね、やっぱり下翅を広げてるでしょ。』と小太郎くんに自慢げに言ったわ。彼もちゃんとそのオラの言動は憶えてたし、それで概ね合ってるだろう。
記憶がだいぶ甦ってきたぞ。そういえばこの日はそれだけいたにも拘わらず、1頭たりとも樹液に飛来しなかった。やはり夜遅くにならないと樹液に来ないのか❓そんなワケあるかいと思うのだが、事実なんだから何らかの理由なり意味なりを考えざるおえない。(T_T)もう謎だらけだよ。

情けないことに鮮明に記憶に残っているのは、帰る間際に採ったものくらいだ。
最後に前回♀が採れたウワミズザクラの大木に寄ったのだが、見たところいないので諦めて帰ろうとして振り向いたら背後の木の枝葉に止まっていたのだ。不意だったから、中々に衝撃的だった。
高さは1.8メートルくらいで、幹ではなくて枝と云うか常緑樹の葉っぱに止まっていたのをよく憶えている。葉っぱに止まってるのは珍しいから、映像記憶として鮮明にメモリーされている。勿論、パンチラ全開だった。
今思えば写真を撮っておけば良かったと悔やまれる。パンチラの証拠写真を撮るなら、高さ、近さは申し分なかったし、絵的にも素晴らしいアングルだったのだ。しかも鈍感な子で、近づいても逃げる素振りは微塵も無かった。謂わば最高の条件が揃ったシャッターチャンスだったのだ。終電の時間が気になっていたのだろうが、写真を撮る時間なんてたかがしれている。勿体ない事をした。

結局、この日の個体は翌日に撮った写真しか残っていない。

 

 
お尻の形からすると、♀だね。
次は、たぶん同じ個体の裏面。

 
【裏面】

 
裏面は生成(きなり)色。所謂オフホワイトだ。表よりも薄汚れた感じで、あんまし綺麗じゃない。

探しても展翅写真がナゼか無い。
なので、前回のものをひと纏めに撮ったのを載せて御茶を濁そう。

 

 
この夜に採集したものは、どうせ面倒クセーからと写真を撮らなかったんだろうね。

 
 
2018年 9月7日

 

 
線路の両側の稲穂が金色に輝いていた。

この日は青春18切符で遠路はるばる山梨県までやって来た。
目的は大菩薩嶺の麓で帝王ムラサキシタバ(註5)を狙う為だ。
とはいえ、ライトトラップなんて持ってないからペンションのライトトラップで何とかならんかなと思ったのである。
このペンションは虫屋の間では有名で、毎夜ライトトラップが焚かれているのだ。

 
【ペンション すずらん】

 
ライトトラップはペンションの裏というか横にあり、巨大である。

 

 
横幅が4メートルくらい、高さは3メートルくらいはあったかなあ。
ここにシロシタバが飛んで来た。時刻は比較的早い時間だったと思う。たぶん7時か8時辺りだったかな。

 
【シロシタバ】

 
スマン、間違い。写真のデータを解析したら9時過ぎに撮られたものだったよ。やっぱり古い記憶というものは当てにならん。

ライトトラップに飛来したものはパンチラなし。
灯りに寄って来るカトカラは、翅を閉じるものが多いようだ。ネットの画像なんかでも閉じているものが多い。中々、翅を開いてくれないというコメントも散見されるから、閉じるのが基本だと思われる。
こうして見ると、上翅の黒いスリットのような柄が目立つね。殆んど下翅を開いているものしか見てないから、あまりそっちには目がいかなかったんだろ。シロシタバの苔(地衣類)みたいな上翅は、世界中のカトカラを見回しても唯一無二だが、この黒いスリットが入るカトカラも他には存在しない。
とは言っても、もはや全然興味が無かった。一回やったら飽きるような酷い男なのだ。
それに何だか小さい。四條畷の奴と比べて断然小さく、細いような気もして重量感をあんま感じない。もう魅力半減なのだ。萎えても致し方なかろう。

翌日の夜にはペンション入口の外灯の柱に鎮座していた。飛来時間は同じく9時くらいだったと思う。
この時もパンチラなし。翅は閉じられていた。
翅がコレも少し欠けていたので、蛾LOVEの高校生に譲ったっけ。いや、もしかしたら別な人だったかもしれない。
ここには3泊したが、見たのはその2頭のみだった。

大菩薩山麓で採ったシロシタバ♂を展翅画像を貼り付けとこっと。

 

 
(・。・;あれれっ❓、翅が破れてないぞ。
おっ、そうか。これまた健忘太郎だ。樹液に来たのも採ったんだわさ。たぶん、それだね。
翅は開いていたと思う。なぜなら閉じていたという記憶がないからだ。樹液を吸ってる時は下翅を開くのが当たり前だから、もし閉じていたならば逆に強く印象に残っている筈だ。それが無いという事は、閉じていなかったという三段論法でしかないんだけどもね。
と云うことはライトトラップに来たものは翅が破れていたのでスルーしたんだね。そう云えば持って帰った記憶は1頭しか無い気がする。

あっ、今さら8月22日に四條畷で採った個体の画像が出てきた。随分と後になって撮られたものだから、気づかなかったのだ。

 

 
カトカラの展翅は何が腹立つかって、時間が経って乾燥が進むと触角に狂いが生じてくる事である。
上の画像なんかは、元々はもっと整っていた筈だ。こんなアッチ向いてホイを良しとするワケないのだ。

 

 
両方とも♀だ。
そういえばコレって、たしか秋田さんに蝶屋的展翅だと指摘されてたので、上翅を下げてみたんだよね。
なるほどで納得したよ。確かに、このバランスの方がシックリくる。
同時に、それで画像が後になって撮られた理由も氷解した。展翅バランスが変わったという事は、きっと山梨の個体よりも後に展翅されたものだ。あんまし記憶に無いけど、後になってから軟化展翅したとしたら、話の辻褄が合う。

あっ、よく見ると前肢がもふもふで可愛い(о´∀`о)

 
                     つづく

 
追伸
この第三章から小タイトルを毎回変えることにした。
と云うわけで、第ニ章にも新たにタイトルをつけて、本文も一部手を入れた。
小タイトルの話が出たので、ついでだから書き忘れていたことを書こう。
第一章の小タイトル『ホワイト・ベルベット』のモチーフはデヴィッド・リンチ監督の映画『ブルー・ベルベット』。通の映画好きならば誰もが知っているリンチの代表作であり、カルトムービーの金字塔の一つだ。エキセントリックにしてファンタジック。そしてスタイリッシュ。何度見ても飽きない。
勿論、怪優デニス・ホッパーのガスマスクとか変態っぷりも光るが、一番好きなのはディーン・ストックウェルが「お菓子のピエロ」を歌うシーンだ。映画のストーリーとは直接関係ないのに、とても心奪われる。
そういえば、これまたストーリーとは直接関係ないローラ・ダーンの尋常じゃない泣きじゃくりっぷりがメチャンコ怖いんだよ。全然怖いシーンじゃないんだけど、何だか矢鱈と怖いのだ。
この映画は闇のシーンが多い。それが夜のカトカラ採集と重なり、夜道を歩いている時に珠にこの映画の事を思い出したりもした。更にそこにシロシタバのベルベッドのような下翅とがリンクしたゆえに思いついたタイトルだろう。まあ、映画へのオマージュだね。

第ニ章の『白き、たおやかな女王』のモチーフは北杜夫の小説『白きたおやかな峰』。但し、インスパイアーされたのは題名だけ。ヒマラヤの高峰に臨む登山家たちの話で、その内容とは全く関係がない。

今回の第三章は特に決まったモチーフはない。パンチラという言葉が気に入ったので、単にタイトルに使いたかっただけだ。カッコつけたがると同時にフザけたい人なのだ。
いや、もとい。あるっちゃある。白い下翅を何度も見ているうちに『まいっちんぐマチコ先生』みたいやのうと思った覚えがある。マチコ先生といえば純白パンティーだ。でもってパンチラなのだ。すっかり忘れていたが、その辺が深層心理にあったのだろう。
一瞬、タイトルを『まいっちんぐマチコ先生』に変えてやろうかと今思ったが、やめとく。フザけ過ぎだと叱られそうなんだもん。

次回のタイトルは未だ考えてないから、どうしょっかなあ…。でも全然思い浮かばない。結構、タイトルを考えるのって大変なんだよね。

 
(註1)高校野球を観に行っていたからだ

準決勝と決勝、2日連続で甲子園に行った。

 

 
そう、大阪桐蔭が春夏連覇した時だね。
但し、決勝戦は入場出来ずに近くの喫茶店でTV観戦してた。満杯で入れなかったのだ。下の画像を拡大すると、外野席までもが売り切れになっていることが分かります。

 

 
そういえば毎年恒例の『(@@;)べろ酔い甲子園』と題したシリーズをこの年は結局書いてないんだよねー。選抜の(@@;)ベロ酔いレポートは書いたんだけどさ。

 
(註2)クソ分厚いカツサンド

スーパー・マーケット フレスコの名物カツサンド。
これについては拙ブログにて『フレスコのカツサンド』と題して書いた。

 
(註3)今日は車で来るということなので

こんな事にまで註釈を付ける必要性は無いと思うが、小太郎くんが遂に車を買ったのだ!何か言いたい。
勿論、この日の帰りは車で送って貰ったのだが、車を買って初めて助手席に乗せたのがオラらしい。物凄く残念そうに言われたよ。アンタ如きにと云う気持ちが言外に溢れてとったわさ。
若い女の子じゃなくてゴメンねー(・┰・)

 
(註4)小太郎くんには2頭ほど採って貰ったのかなあ

本人に確認したら、最初の1頭のみだった。この日は発生も終盤なのかボロばっかだったのだ。

 
(註5)ムラサキシタバ

 
日本におけるカトカラの最大種。しかも、美しくて稀な種なので人気が高い。