2018′ カトカラ元年 其の12 前編

 
  vol.12 ジョナスキシタバ

   『ジョナス隊長』

 
実を云うと、人生で初めて採ったカトカラはジョナスキシタバだった。
ムラサキシタバを一目見たくて、A木くんにライトトラップに連れていってもらった時の事である。

 

 
場所は兵庫県但馬地方。
日付を確認すると、2017年の9月23日となっている。
行ったのは結構遅かったんだね。

日没後、暗くなってから直ぐにそこそこ大きい蛾が飛んで来て、目の前の地面にボトッと落ちた。
元来が蛾嫌いなので、瞬間Σ( ̄ロ ̄lll)ヒッ❗と思って、一歩後ろに飛び退いた。ワタクシ、それくらい蛾が怖い人だったのである。

落ちた刹那、僅かに羽を開いたので、ちらりと下翅の黄色が見えた。これが世に言うカトカラって奴なのかなと思った。しかし、下翅の黄色いカトカラは似たようなのが沢山いて、素人目にはさっぱりワカラン。興味が無いから尚更である。すかさず、A木くんを呼んだ。

『あっ、ジョナスですね。結構少ないカトカラですよ。』
『ジョ何❓ジョナサン❓』

思わず訊き返した。そんなカタカナのカトカラがいるなんて初耳だったので、何じゃそりゃ❓と思ったのである。

『ジョナサンじゃなくて、ジョナスです。』

なあ~んだ。ジョナサンじゃないのかあ…。ジョナサンだったら「かもめのジョナサン(註1)」みたくで面白いのに…と思ったのをよく憶えている。
でも、蛾は気持ち悪い。怖々でしゃがんで暫く見てた。元より持って帰る気などさらさら無かったのである。
したら、A木くんが言った。

『採らないんですか❓近畿では中々いませんよ。採っといた方がいいですよ。』

そう言われると、虫屋の性(さが)として、何だか急に惜しくなってくる。
で、記念にもなるしと思って、一応持って帰ることにしたんだっけ。でも当時は蛾を素手で触るなんて到底出来なかった筈だ。どうやって〆たとか全然記憶にない。おそらく優しきA木くんが取り込んでくれたのだろう。
当時のジョナスの記憶は他にあまりない。
あるのは、この日はジョナスの飛来が比較的多かったらしく、A木くんが『今年はジョナスの発生が多いのかも。こんなに飛んで来たのは初めてです。』と言っていた事と、ジョナスという言葉の響きが気に入ったので、飛んで来る度に『ジョナ━━━ス❗』とか叫んでた事くらいだ。アホである。

そういや、この日はただキシタバ(註2)=パタラキシタバ(C.patala)も飛んで来て、そっちの方がデカくて下翅も黄色いので、見映えがいいなとか思ったんだよね。今や屑扱いだけど。

 
【Catocala jonasii ジョナスキシタバ♂】
(2017.9.23 兵庫県香美町)

 
その時のジョナスである。
上翅が尖ってるので、比較的簡単に他のキシタバとは区別がつく。あと、尻が長いのも特徴だろう。
何かシャープでソリッドな感じがして、カトカラ特攻隊の隊長みたいだ。だから、この日から勝手に心の中では「ジョナス隊長」と呼んでいる。

展翅は上翅は上がっているものの、自分的にはバランス良く仕上がってると思う。

 
【同♀】

 
♀は♂程には翅先が尖らず、外縁部に丸みがある。腹も短くて太い。
翅形も腹の形も明らかに♂とは違うので、雌雄の判別が一番容易なカトカラかもしれない。

両方並べてみた。

 

 
形はカトカラの中ではカッコイイ方だと思う。
しかし、如何せん下翅の黄色が薄くて、くすんでいる。残念なことに鮮やかさに欠ける黄色なのだ。今一つ人気がないのも、その辺に原因があるんざましょ。

お気づきの方もおられるかと思うが、このシリーズ連載は採集した順番になっている。だから、何故にジョナスをトップに持って来ないのだ?そう疑問を持たれた方もいるだろう。しかし自分の中では、この2017年のライトトラップはカウントに入れていない。なぜかと云うと、積極的に採ったワケではないからだ。元々蛾を集めようとは露ほども思っていなかったし、この日に採った何種類かのカトカラも記念品みたいなものだった。だから、これがキッカケとなってカトカラを集めようと思ったワケではない。そういう気は全然起きなかった。だいち、所詮は人のライトトラップで採らして貰ったものである。道具、ポイント、移動手段、全てがA木くんのお膳立てである。自分の力はゼロなのだ。とてもじゃないが、自分で採ったとは言えない。貰ったも同然じゃないか、そう考えている。だから、カウントしないのだ。
覚醒したのは、翌年の2018年になってからだ。それゆえの、このメインタイトル『2018’カトカラ元年』なのである。

 
 
2018年 9月1日

 
この日はムラサキシタバを求めて、アホなのか虫採りの天才なのか分からない植村を焚き付けて、兵庫県但馬方面にライトトラップにやって来た。
植村は、ごっつい光量のライトトラップセットを持っているのだ。そのクセ、カトカラはまだあまり採っていない。たぶん、とこでも採れるド普通種くらいだ。そのクセ、珍品カバフキシタバを採ってたりするから、アホなのか天才なのかワカラン奴なのだ。

 

 
しかし、山ほど蛾は飛んで来たが、カトカラはゴマシオキシタバとジョナスのみだった。しかも、それぞれ1頭のみ。A木くんに連れていってもらったポイントはマズイと思って、別な場所に屋台を構えたのだが、見事にコケた。

 
(2018.9.1 兵庫県香美町)

 
♂である。展翅、下手だなあ…。
この頃は、まだまだ上翅を上げ過ぎていた時代だったんだね。

 
 
2018年 9月7日

この日もムラサキシタバを求めて山梨県にやって来た。
大菩薩山麓に、常時ライトトラップが設置されているペンションがあるのだ。

 

 
すずらんというペンションで、関東方面の虫屋にはお馴染みの宿だ。
そういえば、ペンションのお姉さんには、よくしてもらったなあ。楽しかったし、また行けたらと思う。

 

 
ここにジョナスが1頭飛来した。時間は早いと云うイメージも遅いと云うイメージも無いから、7時台か8時台くらいだったのだろう。

 

 
上は、その時の個体である。これまた♂である。
三晩いたが、飛来したのは全部で2、3頭。持って帰ったのは、この1頭のみだった。他はボロボロだったのだ。

 
 
2019年 7月17日

今回も続編を書かずに、2019年の分も組み込んじゃいます。

奈良市でマホロバキシタバの分布調査をしていた時だった。
樹液の出る木の上部に、変なカトカラが翅を閉じて静止していた。小太郎くんはマホロバだと言ったが、自分的には違うと思った。しかし高さは4m程あったので、よく分からない。

 
取り敢えず網の中に入れてみて、何じゃこりゃ(?_?)
❓❓❓❓❓❓…はてな、はてなの嵐。何者かが分からなかったのだ。見た事があるような気がするのだが、何かワカラナイ。一瞬、ヤガ科の糞ヨトウガかなと思ったが、網の中に入った時に裏がチラリと見えたからカトカラの仲間の筈だ。化けた❓まさかと思い、下翅を覗いて見ると、やっぱり黄色いからカトカラだ。くすんだ黄色だから、アサマキシタバかなと思った。

でも、この辺ではアサマキシタバの時期はとうに終わってる筈だ。5月の中旬に現れて、6月半ば頃には姿を消す。今時いるとは思えない。たとえ居たとしても、ボロボロだろう。こんなに鮮度が良いワケがない。(@_@)わにゃにゃにゃにゃあ~、頭が混乱する。
もしかして、また新種見つけちゃんたのう❓だとしたら、オラって天才じゃないか( ̄∇ ̄*)ゞ

『今、ゴチャゴチャ考えても仕方ないですよー。』とか小太郎くんに言われそうだったし、取り敢えずアンモニア注射をブッ刺し、〆る。

  

 
じっくり見る。
ハッ、Σ( ̄ロ ̄lll)
そこで、ようやく記憶のシナプスが繋がった。

声に出して言う。
『コレって、ジョナスキシタバだわさー❗❗』

 

(2019.7.17 奈良市)

 
まさか、こんなところにジョナスが居るワケないと思ってるから、全く頭に無かったのだ。
東日本では、ジョナスは普通種に近い扱いだが、西日本では分布が局所的で少ないのだ。ネットとかで見ても、都市近郊のジョナスの記録は殆んど無いのである。近畿地方で確実に産するのは兵庫県の西部から北部にかけてと、紀伊半島南部の標高の高い所にしかいないとされてきたのだ。後々、A木くんに訊いたが、奈良市内で採れた事に驚いてたくらいなのだ。

 
【裏面】

 
翌日にも、写真を撮った。

 

 
展翅したもの↙。

 

 
【同裏面】

 
上翅は下げているが、触角はLet it be.なすがままで整えた。この時期、まだ触角を殊更(ことさら)に真っ直ぐするつもりはなかった。女性の美しい眉を蛾眉と言うが、蛾の触角とはそうゆうものだと思っていたからだ。自然な感じの方が良いんではないかと思ってたんだよね。けんど、この後くらいから段々と触角が真っ直ぐになってゆく。なぜかと云うと、よくよく考えてみれば、カトカラの触角って生きてる時は真っ直ぐなのである。
もー(# ̄З ̄)、そのまま真っ直ぐになっとけよー。何で死んだら曲がるんだよぉ~。

 
                   つづく

 
追伸
予想以上に解説編が長くなってまったので、分けて次回、後編の方に回します。

前回のシロシタバの英名の項で「Snow underwing 」に文句カマしたんだけど、Facebookにて石塚さんから次のようなコメントを戴いた。

「どうでもいいことですが、シロシタバの英名は Hollandが Snowy Underwing と名付けています。yを加えたほうがいいかも。」

Snowyには「雪の、雪的な、雪の降る、雪の多い、雪の積もった、雪におおわれた、雪白(純白)の、清浄な」と云う意味があるから、ワタクシもそれで宜しいかと存じます。「純白の」とか「清浄な」と云う意味も混じっているのがグッドですな。

考えてみれば、と云うか考えてみなくとも、ジョナスを人にエラそうに語れる程には見ていない。たぶんトータルで15頭にも満たないだろう。だから次回の解説編では、キレが悪いかもしんない。それでも果敢に攻めるとこは攻めようと思う。個人的見解はバシバシ言うつもりだ。

  
(註1)かもめのジョナサン
『かもめのジョナサン』(Jonathan Livingston Seagull)は、リチャード・バックによる寓話的小説。1970年にアメリカで出版され、最初は当時のアメリカのヒッピー文化とあいまって口コミで徐々に広がり、1972年6月以降に大ヒットした。日本では1974年に五木寛之の訳で出版され、120万部の大ベストセラーになった(累計270万部以上)。
食べる時間すら惜しんで飛ぶ事に打ち込み、飛ぶとは何かを探究し、「真に飛ぶこと」を求めた1羽のカモメの物語である。
そこに、キリスト教の異端的潮流ニューソートの思想が反映されていると指摘する者や、禅の教えを表しているとする者もいる。読者たちを精神世界の探究、宗教的な探究へと誘(いざな)う一種の自己啓発本のようにも読まれていた。

  
(註2)ただキシタバ
ジョナスキシタバやカバフキシタバ等と、下翅が黄色いカトカラには後ろにキシタバとつけるのが慣例みたいだ。日本には、この黄色い下翅を持つカトカラが圧倒的に多く、キシタバ類を総称してキシタバと呼ぶ事も多い。
しかし、名前の上に何もつかないキシタバ(C.patala)と云うのがいるから、ややこしい。

 
【キシタバ Catocala patala ♀】
(2019.6月 大阪府池田市)

 
黄色いカトカラの基準となった種だからなのだろうが、これがしばしば混同される。種としてのキシタバそのものを指しているのか、黄色いカトカラの総称としてのキシタバを指しているのかが分かりづらいのである。それを避けるために、種としてのキシタバを普通キシタバとか、ただキシタバと呼ぶのである。これが面倒くさい。だからか、口の悪い人間なんぞは、腹立ちまぎれに糞キシタバとか屑キシタバと呼んでいる。ゆえに、呼称にパタラキシタバを提唱しているのだが、何処にでもいて邪魔なので、つい糞キシタバと言ってしまう(笑)

 

悶絶、ほぼゼロ円銀杏(ぎんなん)

 
秋に人生で初めて銀杏(ぎんなん)を拾った。
大阪のド真ん中に住んでいるから、イチョウ並木で有名な御堂筋はすぐ近くだし、隣の隣のなにわ筋でも実をつける雌木が結構あることは知っていた。
しかし、拾うことには抵抗感があった。何か貧乏くさいし、恥ずかしい。だいち臭い。だから、採りたい気持ちはあったが、ずっと出来なかった。

だが、シルビアシジミの様子を見に行った折りに、中津付近でたくさん銀杏が落ちている所を見つけた。

 
【シルビアシジミ】

 
採集の帰りだから、ビニール袋の一つや二つは持っている。幸い人通りも少ない場所だったし、どうせ今やボンビー人だ。遂に意を決して拾うことにした。

(σ≧▽≦)σくっせー。
でも一つでも拾えば、死なばもろともだ。むしろヤケクソ魂に火が点いた。たぶん、7、80個は拾った。
何か厭世感スパイスの混じる、やり遂げた感ありぃ~のカタルシスがあったよ。遠くへきたなあ…。

お家に帰って、ジップロックに放り込み、キッチリとファスナーを閉めて冷蔵庫に安置した。

一週間後、冷蔵庫から取り出す。冷蔵庫に入れておいたのは、臭さを少しでも軽減させる為である。
もう一度、シッカリとファスナーが閉まっていることを確認して、果肉をむにゅむにゅと手で潰す。
気持ち良さげな感覚と気持ち悪い感覚とが混淆する変態世界だ。何か微かに💩ウンコのような匂いがしてきて、背中がゾワゾワする。もう変態スカトロワールドだ。意識が朦朧とする。
でも、乗り掛かった船だ。今さら後には引けない。半ベソ気味で作業を続ける。

そして、ある程度、種と果肉に分離したところで、ジップロックの端を少し開け、そこから種を搾り出し、貯めておいたシンクに設置したプラたらいに一つ一つドロップしていく。
そう、ジップロックを使ったのは、少しでも臭さが拡散するのを防ぐためだ。水に落としてるのも、同じ理由だ。できるだけ、空気に触れさせてはイケん。

全部を分離させたところで、ジップロックのファスナーを閉めて、ゴミ箱にドォ━━━ン❗ダンクをカマす。これなら、手も汚れない。臭い匂いは、元から断たなきゃダメッ❗
水を出しっぱなしにして、プラたらいの中で果肉を洗い落とす。それでも臭い。(@_@)悶絶しそうじゃよ。
我慢して、丁寧に洗い落とす。臭い匂いは、元から断たなきゃダメッι(`ロ´)ノ❗

何とか処理を終えて、ザルに移し、\(゜o゜;)/キャアーってな感じでダッシュ💨でベランダに運ぶ。

 

 
こんな感じで、一週間ほど乾燥させれば出来上がり。
しかし、そこは天下無双のエエ加減男。結局3ヶ月近くも、そのまま放置する事となる。

銀杏は包丁の背でブッ叩くと割れる。
いつもなら、それをフライパンで煎り、拾ってきた松葉なんぞをあしらってカッコつけるのだが、メンドクセーので茶封筒に放り込み、テキトーに封をしてレンチン。
パン、パン、パァーン💥爆発したところで、レンジから取り出す。この間、たぶん1、2分。そう、超簡単ギンナン乱暴調理法なのだ。
よければ試してけれ、マジ簡単だから。但し、ギンナンは爆発するので、見てくれに目を瞑らねばならぬ事は覚悟されよ。
あとは、塩を振って出来上がり。

 

 
ちゃんとジックリ煎った方が旨いけど、まあ全然問題ない範囲だ。それなりに旨い。

余ったので、翌日は本しめじ、京揚げを加えて、昆布だしで優しく炊いた。仕上げに三つ葉を散らす。

 

 
はんなり、しみじみと旨い。
冬にして、秋をじんわりと楽しむ。
そういえば、今年はろくに🍁紅葉も愛でてないなあ…。

 
                    おしまい