vol.17 ムラサキシタバ
『2019′ 紫への道』
今回も、初期の頃みたいに『続・~』というような続編形体にはせず、2019年版を本編に組み込むことにした。
シロシタバやベニシタバの回と被るところも多々あるけれど、新たに書き直すので、飛ばさずに我慢して読まれたし。尚、フィナーレを書いているうちに長くなったので、2回に分けることにした。そう云う意味でも読んでおいて戴きたい。
2019年 9月2日
8月も青春18切符の旅だったが、懲りもせず、再び長く辛い旅に臨んだ。
大阪駅の人混みは疎らだった。
10時20分くらいの電車に乗る。今回は時刻表をバッチリ見たから、この時間の出発でも大丈夫なのだ。早く出たからといって、早く着くとは限らないのが青春18切符の旅だ。
米原、大垣と乗り継ぎ、岐阜駅で下車。乗換の時間まで30分程あったので、煙草を吸いに外に出る。
駅前の風景を見るのは何十年か振りだ。岐阜駅も随分と変わったなと思う。その頃は勿論こんな高層ビルは建っていなかった。あの頃、岐阜には何しに来たんだっけ?
あっ、そうだ。大学時代の友達の新婚家庭に遊びに行ったんだったわ。岐阜城とか案内してもらったんだよね。
そういえば降りる時にチラと駅の反対側方面も見たが、金津園の寂れた感があまりにも哀れで声を失った。
ソープランドという言葉も、最近はあまり聞かなくなった。
ソープといえば、すすきの、吉原、川崎・堀ノ内、西川口、金津園、雄琴、神戸・福原あたりが有名だったけど、今は寂れてしまっているところも多いという。雄琴なんかは、近年は普通の温泉街へと変貌しつつあると聞いたことがある。
エロの形体も多様化し、変わってきているのだろう。
「泡踊り」なんて言葉も、そのうち死語になりそうだ。いや、もう既になっているかもね。
淋しいが、時代と共に朽ちていくものもある。
ちなみに、物凄く思い入れがあるようなことを書いてるけど、ソープランドには若い頃に1回か2回しか行ったことないんだけどもね。
知らず知らずのうちに、昭和という時代に対するノスタルジーが年々強くなっているのかもしれない。
前回は名古屋で中央本線に乗り換えて長野方面へ行ったが、今回はここで高山本線に乗り換え、飛騨方面へと向かう。
電車は飛騨古川駅まで行くようだ。ということは、今回は途中で乗り継ぎせずに済む。前回のことを思えば、かなり楽だ。乗り換えは気分が変わるから嫌いじゃないけど、時間を喰う。回数が多いと、いつ着くんだと思って、段々気持ちが疲弊してくるのだ。
下呂駅で5分ほど停車した。
下呂といえば、下呂温泉だ。昔、大学を卒業して何年間かは、毎年、大学時代の友だちが集まって旅行してた。でも、ここ下呂温泉が最後となった。
何でかというと、全然面白くなかったからだ。そう記憶している。あまりにツマランかったから、翌年から誰も旅行に行こうとは言わなくなったのだ。で、そのままフェイドアウトとなった。
飛騨萩原駅でも、ちょっとだけ停車時間があった。
正面右側に真っ直ぐな道が奥まで続いているのを見て、突然下車したいと云う強い衝動に駆られた。背後のこんもりとした山との組み合わせが素晴らしく、何ともいい風情の通りで、旅愁を誘う。
旅と旅行とは違う。少なくとも自分の中では明確な線引きがある。スケジュールが予め決まっているものが旅行で、予定は未定であって、しばしば変更、ゆきあたりバッタリというのが旅だと思ってる。
勿論、踏みとどまって降りなかった。今年もムラサキを採らねばならぬのだ。
ふと思う。虫捕りって、色んなことを阻害してるなあ…。虫捕りをしてると、何やかんやと様々なことが犠牲になる。自由も奪われてるような気がしてきたよ。
高山駅が近づいてきた。
突然、フラッシュバックで記憶が甦る。蝶採りを始めて初の遠征が高山方面だった。当時の彼女と平湯温泉に泊まり、新穂高の左俣へオオゴマシジミに会いに行ったのだった。カッコ悪いことに彼女に先にオオゴマを見つけられんだよね。
帰りしなは高山の街も観光したっけ…。その時のあれやこれやの記憶が数珠繋ぎで思い出される。
青春18切符の旅の好きなところは、過去の自分と向きあえることだ。謂わば、ノスタルジィーの旅なのだ。
高山駅に着いて、違和感を覚える。自分の知っている高山駅とは全然違っていたからだ。
外に出て驚く。改築されて、メチャメチャお洒落になってるじゃないか。
噴水まで出よるがな。
でも、昔の駅舎の方が好きだ。新しい建物には風情というものがない。
これが昔の駅舎だ。写真を探し出してきて貼付した。
懐かしいなあ。思い出の中の高山駅は全部これなのだ。当時はこんなもん撮ってどうすんだ?と思ったが、写真、撮っておいて良かったよ。
ここで、バスに乗り換える。
8月の時は乗り継ぎが上手くいかず、名古屋駅と中津川駅、松本駅で随分と無駄に時間を過ごしたが、今日はかなりスムーズにいってる。バスの待ち時間も短かかった。
このバスに乗るのも久し振りだ。4、5年程前まてはオオイチモンジに会う為に毎年訪れていたが、いつの間にか足が途絶えていた。
【オオイチモンジ ♀】
(2012.7月 岐阜県高山市)
【♂ 裏面】
(2013.7月 岐阜県高山市)
1時間ほどバスに揺られて、やっと今日の目的地である平湯温泉までやって来た。今回は全部で約8時間の移動だった。何度も言うが、8月の時と比べれば、だいぶ楽だ。
既に陽は沈んだようで、辺りは暗くなり始めている。
常宿だった宿泊施設に入り、温泉に直行。
で、すかさず下の居酒屋でキンキンに冷えた生ビールを頼む。
でも、そのキンキンに冷えた生を飲み、ホルモン焼を食って、やる気をなくす(笑)
嗚呼、蛾採りなんかやめて、このままビール飲んで旨いツマミ食って、ヘラヘラしていたい。
けど行かなきゃ、何しに来たかワカラナイ。重い体を引き摺って出陣の用意をする。
時々、一人で虫を追い求めていると、バカバカしくなってくる。そういえば普通の旅をしなくなってから、もう随分になる。観光なしの旅って、どこか歪(いびつ)だ。
今回の旅のターゲットは、夏に結局会えなかったエゾベニシタバとヨシノキシタバ。そして帝王ムラサキシタバである。ムラサキは去年、白骨温泉で採ったが、翅が少し破れてたし、採れたのは♀1頭のみ。完品が欲しいし、♂も見てみたい。もっと言うと、厭きるくらいにタコ採りしたい。
【Catocala fraxini ムラサキシタバ♀】
本当は一挙に新穂高まで行きたいところだったが、そこまで行ってしまうと、着いた時には完全に夜だ。それに安い宿泊施設はあまりないし、その時間帯は外で飯を食えるところもない。一気にポイントまで行くにしても、夜道を1時間くらいは登らないといけない。移動に疲れた心には、あまりにも過酷だ。根性無しなので、一旦温泉につかって、ビール飲まないとリセットできないのだ。まあ、それでやる気が益々なくなったんだけどもね(笑)
目指すは白谷方面。狙うはエゾベニシタバ。運が良ければムラサキにも会えるかもと期待している。
此処を選んだのは、白谷の下の道路沿いには川が流れており、エゾベニの幼虫の食樹であるヤナギ類がいっぱい生えていたと記憶しているからだ。それに、その近辺でオオイチモンジを見たこともある。ならば、ムラサキに会える可能性だってあると考えたのだ。
今年は果物トラップではなく、糖蜜トラップを用意した。嵩張らないし、ゴミも出ないから導入したのだ。カトカラ2年生ともなれば、如何なアホのオイラでも、それなりに進化しておるのじゃ。
しかし、真っ暗けー。
温泉街を外れると、外灯もニャーい(ФωФ)
ここには妖精クモマツマキチョウを採りに何度か訪れているが、夜はこんなにも真っ暗だなんて予想だにしていなかったよ。
【クモマツマキチョウ(雲間褄黄蝶)♂】
【裏面】(2019.5.26 岐阜県高山市新穂高)
【展翅画像】
そういえば思い出した。白谷では、そのクモツキ採りの折りに熊の親子連れを見てるわ。つまり、此処には確実に森のくまさんがいるのである。
真っ暗だし、熊は黒い。背後から襲われでもしたら、お手上げだ。((((;゜Д゜)))ブルッとくる。
🎵ラララ…星き~れい~、とか何とか口に出して歌ってはみるが、恐い。マジ卍で熊も闇も恐い。
幸い❓なことに川沿いの道に糖蜜トラップを噴きつけるのに適した木がない。道から木が遠いのだ。と云うワケで撤退。温泉街の反対側へ行くことにした。
言っとくけどオラ、チキンじゃないからね(=`ェ´=)
いや、本当はチキンだけど、目的の前ではチキンじゃないぞ。何か言い訳がましいが、そんなに悪い判断ではなかったと思う。だって雰囲気がヤバかったんだもん。心の奥で、やめとけ警告音が鳴ってたんだも~ ん。
糖蜜を噴き付けて、だいぶ経ってから漸くカトカラが飛んで来た。
しかし、エゾベニではない。低い位置、地表近くを飛んでいたので、すぐにベニシタバだと理解した。
けど、トラップには寄り付かず、笹藪の端をチマチマとホバリングしながら飛んでいる。
見たところ♀だ。もしかしたら、卵を産みに来たのかもしれないと思った。でも近くに食樹であるヤナギ類なんてなかったぞ。しばらく見てたが、笹藪の中に入りそうになったので、網を一閃。ゲットしてしまった。
【ベニシタバ】
他には、シロシタバが糖蜜に飛んで来た。
【シロシタバ】
飛来は結構早い時間だと記憶してたけど、確認すると時刻は午後11時09分になってた。
西日本では日没と共にカトカラが樹液や糖蜜トラップに寄って来るけど、ナゼか東日本だと遅い時間の飛来ばかりである。8時半くらいになって、やっと飛んで来るという感じで、日没後すぐの飛来は少ない。一番多いのが夜10時を過ぎてからだ。西と東で違うなんて、そんなワケないと思ってたけど、コレだけ飛来時間が遅い例ばかりだと考えざるおえない。何か要因があんのかなあ…。でも、遅くにやって来るワケってある❓ もし気温が原因だったら、この時期は真夏よりも夜はだいぶと過ごしやすい。だったら、もっと早くに飛んできてもオカシクないじゃないか。それに西日本だと真夏でも日没後にワッと飛んで来るのは何でだ❓ カトカラにも暖地系と寒冷地系があって、それに因るとか❓ となると、西日本にいる寒冷地系カトカラって何だ❓ 段々、自分でもワケがワカンなくなってきた。もう、たまたま偶然に飛来時間が遅いパターンばっか続いただけなんじゃないのう❓ できれば、そうであって欲しいよ。中々、飛んでこないと待ってるのが辛いのだ。オイラ、どんな事であろうと、待つのは大ッ嫌いだかんね。
ベニとシロが1頭ずつだけで、この日は他のクソ蛾さえも殆んど寄り付かずだった。糖蜜のレシピを間違ったやもしれぬ。いい加減に作ったもんなあ…。
ましてやヨシノやエゾベニには糖蜜はあまり効果がないとされている。何で糖蜜や樹液にやって来るカトカラと、そうでないカトカラが居るのだ❓何でかが全然ワカンナイ。
とにかく序盤から劣勢だわさ。
そうだ、ワシってキベリタテハを採りに来たのじゃ。
【キベリタテハ】
カトカラ採りは、そのついでだ。
そゆことにしておこっと( ̄∇ ̄*)ゞ
2019年 9月3日
平湯から新穂高へ移動した。
左俣を登ってゆく。
この時期は、殆んど蝶がいない。退屈過ぎて、途中でキンモンガなんぞを採ってしまう。
【キンモンガ】
本日のターゲットはヨシノキシタバとエゾベニシタバ。あとはムラサキシタバとゴマシオキシタバってところか。
ここは、わさび平小屋付近に大きなブナ林があるし、その下部にはドロノキやヤナギ類もある。わさび平にヨシノがいると聞いたことはないけど、絶対いるじゃろうと思ったのだ。
もしダメでも、このどれかは採れるだろうと読んだのである。併せ採り狙いの、効率重視の男なのだ。
【わさび平小屋】
この右横の奥のサイトにテントを張った。
改めて見ると、周りはブナだらけだ。
こんだけ生えてりゃ、ヨシノもいるだろう。
否が応でも期待値が上がる。
夜まではまだ時間があるので散歩してたら、アサマイチモンジがいた。
遊ぼうと思って、地面に止まってたのを手に移す。
邪気を消して自然体で接すれば、意外と簡単だよん。
不思議なもので、てめぇ、ブッ殺すかんなーとか思うと逃げる。蝶だって殺気は解ってるよね。バッドテイストのオーラには感づくのだ。
蝶採りをしてると、時々、草木などに止まっている蝶と目が合うことがある。そういう時は、蝶の考えてることが手に取るように解る。
『( ; ゜Д゜)えっ!?、もしかして目っかった❓』
『(^_^;)あー、来ないでね。』
『( ; ゜Д゜)あっ、やっぱ近づいて来てるぅー。』
『(/´△`\)来ないで、来ないでー。』
『\(ToT)/きゃあ━━━❗』
パタパタパタ~。
だいたい、こんな感じだ。
まあ、飛ぶ前に💥ネット一閃。大概はスルーせずにシバいてるけどね。
それにしても、オーラって目に見えないのに、アレって何でワカンだろね。視覚が5原色くらい見える目だったら、可視化できんじゃないか❓
因みに人間は3原色、犬や猫が2原色。鳥や昆虫は4原色であるとされている。
余談だけど、知り合いに占い師のお姉さんがいて、この人の占いがメチャメチャ当たった。店で月1回、そのお姉さんに占いに来て貰ってたんだけど、怖いぐらいに当たるんで、みんなビビってたもんね。
ワシも占ってもらったけど、マジでヤバかった。具体的な事をズバズバ言い当てるのである。普通の占い師みたいに、やたらと「あなた、○○でしょう?」と訊いてきたりはしない。ほぼ断言なのだ。そんな事、何でアンタが知ってるんだ❓ということまで言わはる。
例えば、或るお客さんなんて、「あなたは金属が苦手で、普通のスプーンでカレーを食べるのは嫌でしょう。」とか言われてたのだ。それが当たっているんだから恐い。
寄って来るのは、こうして汗だのミネラルだのを吸いに来るのだが、ワシ、今日は汗をそんなにかいとらんぞ。
頑張って、手のひらまでもってくる。
ほいっ、手乗り蝶の出来上がり~。
でも手乗り蝶をやると、前のサカハチチョウみたく、その後は悲惨な結果になるんじゃないかと云う思いがよぎった。悪いジンクスだ。
でもこういう事を思うじたい、絶不調なのだろう。らしくないや。メンタル弱ってんなあ…。
夕方になって強い雨が降った。悪いジンクスが当たったかなと心配したが、何とか日没前には上がった。
さあ、戦闘開始である。ブナ林を中心に霧吹きで糖蜜を噴き付けていく。
撒き終わったところで、真っ暗になった。
(T_T)マジで恐い。
看板は特に設置されてないが、ここには熊が沢山いる事は周知の事実である。知り合いの目撃例も多い。ワシも此処のすぐ近くで見たことがある。だから、さすがに今日は熊鈴をジャンジャン鳴らしたよ。前日以上に恐怖に怯えながら、夜道を歩き回る。
しかし、ブナ林は不気味なまでに静かで、糖蜜トラップには何も来ん。泣きたくなってくる。
小屋の灯りに寄って来た名前もワカランような蛾を、退屈しのぎについ採ってしまう。末期的症状だ。
渋いなあ…。名前は調べてないから、いまだにワカラズじまいだ。
時間が経っても状況は変わらない。東日本では、糖蜜トラップがカトカラにはあまり通用しないことをヒシヒシと痛感する。ヨシノやエゾベニどころか、ゴマシオ、エゾシロさえも寄って来ん。
やっぱライト・トラップが無いとアカンわ。だいぶと前の回に「灯火採集にばかり頼りきりの蛾屋ってダサい。」と言ったけど、前言撤回。灯火採集は蛾を採るためには必要不可欠のアイテムざんす❗
蛾屋の皆様、m(__)mゴメンなさい。
結局、来たのはベニシタバ2頭のみ。それと、なぜか標高1500mにも桃色クソ蛾ムクゲコノハちゃんが複数飛来した。おまんら、低地の蛾とちゃうんけ❓
それが、コチラは全く採る気もないのに、いっちょまえにも一々敏感に反応して、慌てて飛んで逃げよる。
おどれら、( ̄ヘ ̄メ)ナメとんかである。毒々しいし、形も気持ち悪いからブッ殺したくなる。
【ムクゲコノハ】
ホント、何処にでもおるやっちゃのー(=`ェ´=)
💧涙チョチョギレそうやわ。(*ToT)ダアーッ。
10時半頃に雨が降り始めたので、小屋で雨宿りする。止みそうにない雨だ。たぶんこのまま、降り続けるだろう。ジ・エンドだ。
小屋に前払いしておいたビールを水桶から取り出す。川の水を引いた天然の冷蔵庫だ。
暗闇で飲むビールは苦かった。
テントに入ると同時に、雨は激しくなった。
やがて、テントの下は川となり、凍えながら眠った。
つづく
追伸
( ;∀;)ボロボロの大惨敗でしたねー。
冒頭にも書いたように、本当は2019年版は第三章として一回で終わらせる予定だった。しかし、この翌日のことを書いているうちに色々と思い出してきて、全体的にとても長くなりそうだった。なので一旦書くのをやめて、2つに分けることにしたのである。
次回、いよいよ話は佳境に入る。乞う、御期待あれ❗
因みに、ワードプレスとの契約は先月で切れているので、いつ突然に記事がアップできなくなるか分からない。いつまで経っても次回がアップされないようだったら、アメブロで同じタイトルのサイトを探してね。