過ぎゆく夏と、鱧の落とし

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まだまだ猛暑が続くが、もうすぐ八月も終わりである。
そういえば今朝がた、赤トンボがベランダの物干し竿に止まっていた。秋の気配だ。赤トンボは真夏には山の頂きにいるけれど、秋になると平地に降りてくるのだ。どれだけ暑かろうとも、季節は静かに、そして確実に前へと進んでいるのだね。

鱧が安く手に入ったので、落としにすることにした。
しかし、名残りのハモというワケではない。祇園祭の影響なのか、世間では鱧と云えば夏の風物詩みたいに言われているが、本当の旬は脂の乗る秋なのだ。

先ずは鱧を適当な大きさに切る。葛粉をまぶすかどうか迷ったが、今回は無しでいくことにした。
水に酒を適量、塩をひとつまみ入れて沸騰させる。そこに鱧を皮目を下にして静かに落とし入れる。
ここからは時間勝負だ。5〜10秒のやや半生状態で湯から取り出し、そのまま小ザルごと冷凍庫にブチ込んで急速に冷やす。一般的には、もう少し茹でてから氷水にブチ込んで冷やすのが常道だろう。けれど何か水っぽくなりそうだし、鱧の旨味も洗い流されるような気がしてならない。なので、最近はこの手法を使う事が多い。ポイントは半生ってとこ。予熱が入ることを計算しての半生取り出しなのだ。

梅肉は、今年の春に和歌山県の道成寺で買った梅干しを使うことにした。

 

 
道成寺ってのは、あの歌舞伎や浄瑠璃で有名な『娘道成寺』の道成寺です。
その梅干しを3つほど包丁で細かく叩く。そこにアルコールを飛ばした煎り酒を加えて混ぜる。そして隠し味に白醤油をチビッと足した。更に砂糖もほんの少し加える。砂糖は甘くて味が強いので、入れ過ぎると味を壊しかねない。だから極力入れないようにしているのだが、梅干しの味をみて必要だと思われたので加えることにした。

器に大葉を敷いて鱧を盛り、茗荷と梅肉を添える。
最後に冷凍庫から山で採ってきた生の実山椒を取り出し、刻んで上から散らしたら出来上がり。

 

 
器は、面倒臭いゆえ普段は滅多に使わないガラス皿を引っ張り出してきた。
これが謂わば夏の名残り。過ぎゆく夏を惜しんでのチョイスだ。

口に入れると、最初に梅肉の酸味がきて、あとから鱧の旨味が追いかけてくる。そして、最後に山椒の香りと痺れがじんわりとやって来る。

今年の夏は、何だか短かったな。

                       おしまい

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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