vol.23 ノコメキシタバ
ー解説編ー
『お黙りっ❗と、ベラは言った』
【ノコメキシタバ Catocala bella ♂】
【同♀】
(以上4点共 2019.8.6 長野県上田市)
正直、展翅をするとハイモンの方が綺麗だ。
下翅が思ってた以上に黒くて汚いのは致し方ないにしても、売りである前翅のギザギザまでもハッキリしてない。ワシの撮影技術と展翅がイマイチなせいだとはいえ、あまりにも不憫だ。ここは図鑑『世界のカトカラ』の画像をお借りしよう。
(出典 2点共『世界のカトカラ』)
上が♂で、下が♀でやんす。
ちゃんとノコギリ紋がビシッと出てるね。
雌雄の判別は、♂は腹部が細くて尻先に毛束があり、♀は腹部が太くて尻先の毛が少ない。また裏側から見ると尻先にスリットが入り、黄色い産卵管が見える。上の画像の♀なんかは尻先からピッと飛び出ているゆえに表側からでも判別可能だ。
前翅はハイモンキシタバに似るが、より暗い灰褐色で、鋸歯状の横線(ギザギザ)は黒くハッキリしている。
後翅はハイモンキシタバの明るい黄色と比べてオレンジ色に近い黄色で面積が狭い。外縁黒帯は太くて内縁に接する。内側の黒帯はやや幅広い。また後翅の翅頂の黄色紋は明瞭でない。頸部は淡い樺色、胸部は前翅と同様の色調、腹部は灰褐色。また前脚脛節にも針を有する。
【♂裏面】
(2019.8.6 長野県上田市)
(2020.8.9 長野県木曽町)
(♀裏面)
(2019.8.6 長野県上田市)
最近になって新たな画像が出てきて驚いた。2019年に展翅する前に撮った横向き画像である(上から2番目と1番下)。昼間なのでフラッシュは焚かれていない。今年の、ほぼ同じ条件で撮った木曽町のボロ(上から3、4番目)とは色が全然違う。
そっかあ…、鮮度が落ちれば落ちるほど前翅の色が薄くなって白くなるんだ。本来の色は淡い黄色とかクリーム色なんだね。
展翅画像はボロ個体ゆえに黒帯も薄いから、本来的なものではないだろう。なので、他から画像をお借りして貼りつけておこう。
(出典『日本のCatocala』)
参考までにハイモンキシタバの裏面画像も添付しておこう。
【ハイモンキシタバ裏面】
(出典『日本のCatocala』)
ハイモンは下翅の翅頂部の黄紋が広くて、外縁の黒帯が途中で分断される。一方、ノコメは黄色と白のコントラストが強く、翅頂黄紋が小さいので判別は容易である。
尚、ノコメとハイモンは食樹が同じで、見てくれも似ていることから近縁種だと思われがちだが、系統は全く違うとされている。遺伝子解析の結果では、驚いたことに全然似てないナマリキシタバと同じクラスターに入っていて、『世界のカトカラ』でも両者はノコメ、ナマリの順で並べられている。一方ハイモンは、ワモンキシタバ&キララキシタバのグループに入れられている。これまた見た目はあまり似てない。カトカラの遺伝子解析は蝶と違って首を傾げてしまうことが多い。見た目と結果に齟齬が多いのだ。だから、どこまで信用していいのかが分からなくなる。
【学名】Catocala bella Butler, 1877
属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを指している。
小種名の bella(ベラ・ベッラ)は、平嶋義宏氏の『蝶の学名ーその語源と解説』によると「愛らしい、上品な、美しい」という意で、ラテン語のbellusの女性形となっていた。
まあ、これなら納得の語源だね。
ネットで更に調べると、他に「戦争」を意味する第2変化中性名詞 bellum,-īn.の複数・対格と云うのも出てきたが、これは無視してもいいだろう。たかだか蛾に「戦争」チョイスは有り得んだろう。
🎵闇に隠れて生きる
俺たーちゃ、妖怪人間なのさ
人に姿を見せられぬ
獣のようなこの身体
(早く人間になりたーい)
暗い宿命(さだめ)を吹っき飛ばっせー
(ベム!、ベラ!、ベロー!)
妖怪人間
ベラで思い出したのが「妖怪人間ベム」の紅一点、ベラ様だ。
子供心にも怖いオバサンだったが、何となくドキドキもしたよね。ケバいんだけどエロくて、幼少のみぎりにも何となくゾワゾワしたような記憶がある。
(以下3点共 出典『原寸画像検索』)
切れ長のツリ目と真っ白な肌に真っ赤な口紅。そして濃いアイシャドウがエロティックというか、艶めかしい感じがした。オッパイがデカくて肉感的なのも、それに拍車をかけていたのではなかろうか❓ いやはや、性の目覚めだねー。( ≧▽≦)σこのこの〜、マセたエロ餓鬼があー。
(左からベム、ベロ、ベラ。)
ほらね、おっぱいデカいっしょ。生地の薄い感じとドレープも男のリビドーを刺激する。
驚いたのは、その年齢だ。ググったら、ベラは20代後半らしい。どう見ても30代半ばから40代の熟女だよなあ。オマケに甲高く笑い、その口調が完全にSMの女王様のそれなのだ。もうエロ過ぎ〜♥️
そういや、このお顔で、
💥ベラのムチは痛いよー。
とか、怖い顔でおっしゃるのである。
腕にブレスレットみたいなのが巻き付いてんだけど、それをビシュッと解くとムチになんだよね。
適当な画像が見つからないので、イラスト画像を貼付しときましょう。
(出典『ニコニコ動画』)
ワシは痛いのヤだから遠慮するが、この表情でビシビシいかれたら、ドMの人は堪らんだろな。
折角ググったんだから、ベラ様の基本情報も付け加えておこ〜っと。
特殊能力満載で、蘇生術や幻術、雷を呼び起こしたり、時には口から冷気も出せる。それらで人を助けたり、悪い奴らを懲らしめるのだ。だが口が悪く、短期で感情が激しいゆえ、時にやり過ぎてベムに諌められたりする事もある。でも心は温かく、人間味あふれる素敵な女性でもある。ベラさん、いい女だす。
変身すると、こんな感じ。
(出典『原寸画像検索』)
シンプルに怖い。
まあ、妖怪人間だかんね。そういや、ベロがよく子供に「おいら、怪しい奴じゃないよ。」と言って話し掛けてたけど、「オマエ、全身真っ赤で変な髪型なんだから充分怪しいっつーの」と子供心にもツッコミ入れてたなあ…。
とはいえ、一応3人とも正義の味方なんだけどなあ…。でもどう見ても悪役キャラだよね。絵のタッチも画面背景もダークだし、鬼太郎とは対極にある異彩を放つアニメだった。今の時代ならば、コンプライアンス的に引っ掛かる描写なりセリフがテンコ盛りだったと思われる。何でもありの昭和は面白い時代だったのだ。何でもかんでも清廉潔白なのは気持ち悪い。
ちなみにアニメのリメイク版(2019年)もあるみたいだけど、エロさが全然足りない。
(出典『TV東京』)
今風だし、何だか女子高生みたいだ。オドロオドロしさが微塵も感じられない。
今どき、エログロは流行らんのだ。(`Д´#)ケッ、何でもかんでもマイルドの薄味にしやがって。昭和は酢いも辛いも包含してた良き時代だったよ。
実写版もあって、ベラを女優の杏が演じている。
(出典『スポニチÂANNEX』)
罵り方とか、かなりいい線いってたけど、如何せん細い。肉感さが足りないから、あんまエロくないのだ。深キョン(深田恭子)のボディラインで、キャラは菜々緒が理想かもね。
そういや、『ダウンタウンのごっつええ感じ』に「妖怪人間」という漫才トリオがいたなあ…。アレ、笑ったよなあ。
(出典『Shoの気ままなライフ』)
松ちゃんがベロ、今田耕司がベム、Youがベラに扮して漫才をやるのだが、これがベタな下ネタで妙に面白かった。
気になる人はYou Tubeに動画があるから探してみてね。
お黙りっ❗いい加減にしなっ。
ベラ様の声とムチの音が聞こえたような気がした。
アカン、何やってんだ俺。どんだけ大脱線しとんねん。
いいかげん、話を学名に戻そう。
記載者はバトラー。バトラーについてはシリーズ前々回のミヤマキシタバの第二章『灰かぶりの黄色きシンデレラ』に解説文がありますので割愛します。気になる人はソチラを見てくだされ。
ちなみに同じ”bella”の小種名を持つものに、チョウ目 タテハチョウ科 ヒメミスジ属の、Lasippa bella(ベラヒメミスジ)がいる。
画像は見つけられなかったが、たぶん見た目は属的にオレンジ色のちびっ子ミスジチョウだろう。
【和名】
どこにもその命名由来は書かれていないようだが、普通に考えれば、おそらく「鋸の目」。「目」には「〜のように見える」という意味もあるから、すなわち前翅のノコギリの刃みたいなギザギザ模様を指しての命名だろう。ノコギリの事を世間一般では「ノコ」と略すのは通例だからね。それに他に考えうる可能性って、どう考えても無いもんね。
まさかの「野米さん」という人に献名されたとかだとしたら驚きだけどもね。それって面白いけど、即座にヤッさんみたく「怒るで、しかしー。」とツッコミ入れちゃうぞ。
野米さんが蛾類界に大きな足跡を残してたのならともかく、そんな人、聞いたことないもんね。
ふと思う。脈絡なく全然関係ない人の名前を和名に付けちゃったという勇気ある人って過去にいないのかなあ。単にファンだからという理由だけで、ヒバリ(美空ひばり)とかモモエ(山口百恵)、アキナ(中森明菜)、セイコ(松田聖子)、ナナセ(相川七瀬)、あゆ(浜崎あゆみ)なんてアイドルの名前をつけちゃった人とかさ。
もしも自分が超マイナーな虫に興味を持ち、バンバンに新種を見つけたとしたら、フザけた変な名前や意味不明とか難解な和名をいっばい付けてやろうと思う。
【亜種】
◆Catocala bella bella Butler, 1877
(日本)
日本のものは原記載亜種とされる。ホロタイプに指定されている標本は”Yokohama”となっているようだ。だたし、まだ自然が残っていた時代とはいえ、標高的にノコメが横浜に分布していたとは考えられない。神奈川県の記録もないようだしね。おそらく採集されたのは別な地で、その標本が横浜から送られてきたとか、そうゆう事だろう。
異常型として、後翅外縁の黒帯が発達したものや中央黒帯の内側が黒化するものが知られている。
(出典 3点共『世界のカトカラ』)
おそらく、こうゆう型のことを言ってるのであろう。
一番下の黒化が進んだものは長野県となっているが、トリミングの問題であって、本当は群馬県で採られたものである。また一番上のものも同様で、上部の北海道の文字は無視されたし。コチラは逆に長野県産と図鑑ではなってます。
◆Ssp.serenides Staudinger, 1888
(ロシア南東部(沿海州)、中国中北部、朝鮮半島)
大陸のものが別亜種として記載されている。
(出典 2点共『世界のカトカラ』)
図版で見る限りでは、日本のものよりも下翅の黄色が明るめなせいか、黄色の面積が広く見えるね。こっちの方が綺麗だね。
【開翅長】
『原色日本産蛾類図鑑』では、58〜65mm。『日本産蛾類標準図鑑』では、55〜65mm内外となっている。
【分布】 北海道、本州(中部地方以北)
『原色日本産蛾類図鑑』やネットのサイトの多くが分布域に九州を入れているが、これは間違いかと思われる。記録を探せなかったし、最近の図鑑では分布地から外されているからね。
海外では、極東ロシア(アムール・ウスリー)、中国中北部、朝鮮半島に分布する。
標高500mから1700mに見られるが、冷温帯を好む寒冷地性の種で、主に標高1000m前後以上に見られる。食樹であるズミが多く生育する高原地帯では多産し、中部地方の高原では最も普通種のカトカラの一つとされるが、その他のところでは少ない。
低標高の産地は1980年代から減少し始め、1990年代には殆んど見られなくなったという。高原地帯でも以前よりも減少しているところが増えていると聞く。
東北地方での産地は散発的で、古い図鑑だと福島県を北限として東北地方のほぼ全域と北海道南部にわたって分布の空白があるとしている。しかし、その他の地域の北海道には広く分布するという。
w(°o°)wえっ❗❓、同じ寒冷地型のハイモンは東北にも万遍なくいるのに何で❓謎だよね。何かまた変なところに足を突っ込みそうだ。😱ヤバい。またしても長大になる兆候が濃厚だよ。
解りやすいように分布図を貼付しておこう。
(出典『日本のCatocala』)
(出典『世界のカトカラ』)
分布を示す黒塗りされているところが微妙に違うのは『世界のカトカラ』の方が刊行年が少し遅くて、秋田県と宮城県が追加されたのと、上図は分布域を示し、下図は県別の分布図であるせいだろう。下の分布図だと或る県で1頭だけでも記録があれば、その県は塗り潰されるからである。にしても、分布域図でも北海道南部に空白が無いね。多分、北海道南部でも見つかったんじゃろう。そゆ事にしておこう。下手な疑問は抹殺じゃ。
猶、ネットの『ギャラリー・カトカラ全集』から東北地方の分布の空白について次のようなコメントが見つかった。
「東北地方ではほとんど採れていないのは、日本への侵入経路・時期に由来しているのかもしれない。」
とゆう事はだな。ハイモンとノコメの日本への侵入時期が違うという事か…。何だか面倒くさい事になってきたよ。HSPだけど、答えの見えない迷宮地獄になりそうなのでスルーしてコマしたろか。
でも、気づいたら「日本列島の成り立ち」で検索してた。
やれやれである。
以下、Wikipediaからの抜粋、編集したものである。ここから答えをさぐっていこう。
『現在の日本列島は、主に付加体と呼ばれる海洋で出来た堆積物からなっている。かつて日本付近はユーラシア大陸の端で、古生代には大陸から運ばれてきた砂や泥が堆積していた(現在の北陸北部、岐阜県飛騨地方、山陰北部など)。そこへ、はるか沖合で海洋プレートの上に堆積した珊瑚や放散虫などからなる岩石(石灰岩やチャート)が移動してきて、それが海溝で潜り込むときに、陸からの堆積物と混合しながらアジア大陸のプレートに押しつけられて加わった(付加)、この付加が断続的に現在まで続いたため、日本列島は日本海側が古く太平洋側に行くほど新しい岩盤でできている。
このようなメカニズムで大陸側プレートに海洋プレートが潜り込む中で、主にジュラ紀〜白亜紀に付加した岩盤を骨格に、元からあった4〜5億年前のアジア大陸縁辺の岩盤と、運ばれてきた古いプレートの破片などを巻き込みながら日本列島の原型が形作られた。この時点では日本はまだ列島ではなく、現在の南米のアンデス山脈のような状況だったと考えられる。
その後、中新世になると今度は日本列島が大陸から引き裂かれる地殻変動が発生し、大陸に低地が出来始めた。2100〜1100万年前には更に断裂は大きくなり、西南日本は長崎県対馬南西部付近を中心に時計回りに40〜50度回転し、同時に東北日本は北海道知床半島沖付近を中心に反時計回りに40〜50度回転したとされる。これにより今の日本列島の関東以北は南北に、中部以西は東西に延びる形になった。いわゆる「観音開きモデル説」である。そして、およそ1500万年前には日本海となる大きな窪みが形成され、海が侵入してきて、現在の日本海の大きさまで拡大した。』
途中だが、ここで少しでも理解しやすくするために、日本列島の成り立ちの大まかな図を貼付しておく。
(出典『出雲平野と神戸川をめぐる自然史』)
『1600万年前から1100万年前までは西南日本(今の中部地方以西)のかなり広い範囲は陸地であった。東北日本(今の東北地方)は広く海に覆われ、多島海の状況であった。』
この時期にノコメは西から日本に侵入したって事か❓
しかし、東北地方は大部分が海に沈んでいたから分布を東に拡大できなかったのかもしれない。
『その後、東北日本は太平洋プレートなどによる東西からの圧縮により隆起して陸地となり、現在の奥羽山脈・出羽丘陵が形成されるにいたった。
北海道はもともと東北日本の続き(今の西北海道)と樺太から続く南北性の地塊(中央北海道)および千島弧(東北海道)という三つの地塊が接合して形成されたものである。』
ということは北海道のノコメキシタバは北から侵入して来たのではあるまいか。そして、今の西北海道が東北日本の続きの一部であったのならば、中央北海道や東北海道とは海で隔たれており、それ以上は南下できなかったのではなかろうか。北海道西南部にノコメが分布していないとされるのは、それで何とか説明できそうだ。
『西南日本と東北日本の間は浅い海であったが、この時代以降の堆積物や火山噴出物で次第に満たされながら、東北日本が東から圧縮されることで隆起し中央高地・日本アルプスとなった。』
では何故に西日本のノコメが、この後に分布を東に拡げて東北地方に侵入しなかったのだろう❓食樹であるズミはあるのに何でざましょ❓
考えられるとすれば、フォッサマグナ(深い溝)だ。
ほらほら、やっぱ大げさな話になってきたじゃないか。
『西南日本と東北日本の間の新しい地層をフォッサマグナといい、西縁は糸魚川静岡構造線、東縁は新発田小出構造線と柏崎千葉構造線で、この構造線の両側では全く異なる時代の地層が接している。』
イメージとしては、こんな感じだろうか?
(出典『www.shinnshu-u-ac.jp』)
フォッサマグナの成り立ちだが、図CとEがそれにあたる。
そういえば、このエリアを境に東と西とでは生物相が異なるって、よく聞くよね。多くの生物種群において、東西日本での遺伝的分化が認められる研究結果が多々あった筈だ。
となれば、中部地方と北海道のノコメキシタバは別種か別亜種の可能性が高いと考えられなくはないか❓でも両者は亜種区分さえされていない。これはどうゆう事なのよ❓
『世界のカトカラ』の著者であり、カトカラの世界的研究者でもある石塚勝己さんは、キララキシタバとワモンキシタバが別種である事を証明するために、ゲニ(ゲニタリア=♂の交尾器の一部)を切りまくって、執念でその差異を見つけたと聞いている。その石塚さんが、この問題を看過するワケがない。きっと調べ済みの筈だ。って事は両者の交尾器に違いを見い出せなかったって事か…。ならば本州産のノコメも北海道産のノコメも全くの同種であるということになってしまう。密かに北海道のものは大陸の亜種”ssp.serenides”じゃねえかと思ってたんだけどねー。
(+_+)くちょー、やっぱ迷宮ラビリンスじゃねえか。
置いといて、ではハイモンキシタバはいつ日本に侵入したのだろうか❓ Wikipediaの記述を続けよう。
『こうして不完全ながらも今日の弧状列島の形として現れたのは、第三紀鮮新世の初め頃であった。その後も、特に氷期の時などには海水準が低下するなどして、大陸と陸続きになることがしばしばあった。例えば、間宮海峡は浅いため、外満州・樺太・北海道はしばしば陸橋で連絡があった。津軽・対馬両海峡は130〜140メートルと深いため、陸橋になった時期は限られていた。』
この時代のどこかでハイモンが日本列島に侵入したのかな❓にしても、ハイモンは一応、日本固有種となっている。どゆこと❓
これは、おそらくニセハイモンキシタバ(C.agitatrix)が日本に渡り、長年隔離されて分化し、別種になったのだろう。その後、陸地化した東北地方、中部地方に分布を拡げ、その過程で北海道のものとも亜種分化したとは考えられないだろうか❓
けれど、そうなればだな、それ以前に日本に侵入していたノコメよりも進化(分化)スピードが早いということになる。って事でいいのかな❓
確かに生物は、それぞれ進化のスピードが同じではない。シーラカンスのように太古の昔から殆んど姿を変えていないものもあれば、ガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチのように島ごとに進化して嘴の形が変わったものもいる。ダーウィン・フィンチは環境に合わせて適応放散的に進化したことの例証として有名だけど、これは種によって進化を促進する因子の有無や多い少ないがあるのかもしれない。
でも進化スピードは、東北地方にノコメキシタバがいない事の理由とは直接関係はない。先に進もう。
『また南西諸島ではトカラ海峡(鹿児島以南)、ケラマ海峡(沖縄島以南)は共に1000メートルを超す水深であり、第四紀後半に陸橋になった可能性はまず考えられない。南西諸島の生物相に固有種が多く、種の数が少ないなどの離島の特徴を示すことは、大陸から離れた時代が極めて古いためと考えられている。陸橋問題では、津軽海峡は鮮新世末まで開いており、対馬海峡は日本海塊開裂時代には開いていたが、その後の中新世末から鮮新世には閉じたと考えられている。
最後の氷期が終わり、マイナス約60mの宗谷海峡が海水面下に没したのは更新世の終末から完新世の初頭、すなわち約1万3000年から1万2000年前である。
中新世前期には、沈み込みによる大陸辺縁の分離が活発化する。鮮新世後期〜更新世前期には、日本海の拡大は終息して島孤は現在に近い配置になっている。更新世の終わり2万年前頃には、ほぼ現在に近い地形であるが、最終氷期最盛期のため海面が低下し日本海と外洋を繋ぐ海峡は非常に狭かった。』
今まで触れなかったが、ここで西から侵入したノコメキシタバが、なぜ中部地方から西には居なくなったかについて考えてみよう。
思うに、氷河期が終わり、気候が温暖になってゆくに伴って西日本に広く分布していたノコメキシタバの生息域は次第に狭められていったのではなかろうか。そこには食樹の減少も関係していただろう。そして、現在のように冷涼な気候の中部地方にのみ生き残ったと考えれば、一応の説明はつく。
けど、これも東北地方にノコメが居ない理由の直接的な理由とは関係ない。フォッサマグナが現在の分布に何らかの影響を与えているとしたら何なのだ❓現在は陸続きなんだから、東北に分布をナゼに拡大しないのだ❓そこには何の障壁があるのだ❓もしくはナゼに移動しようとしないのだ❓移動性が低い種だとか❓けど、だったらそもそも大陸から日本には侵入してないよね。理由が皆目ワカラン。
嗚呼、とまどうペリカンだ。自身の力の無さを痛感して、この辺でステージから降りる。グダグダの結末でスマンが、話を本道に戻して先へ進める。
ノコメの西側の分布は福井県、京都府、大阪府に僅かな記録があるのみで、それ以外の地域からは未知。
大阪府の記録は箕面のようだ。しかし標高が低く、開発も進んでいるので再発見は不可能かと思われる。それにそもそも、本当にいたのかね❓古い記録だから同定間違いなんじゃないかと疑りたくもなる。中国地方で見つかれば、信憑性も出てくるんだけどもね。発見されたらいいのになあ…。
垂直分布はハイモンキシタバよりも高く、ハイモンのように低地の渓谷や湿地には進出していない。ハイモンは名古屋市内でも発見されているが、ノコメは棲息が確認されてないからね。つまりハイモンと比べて、より冷温帯を好む種だと思われる。
【レッドデータブック】
宮城県:絶滅危惧II類(Vu)
東北地方で指定されているのは、宮城県のみである。
秋田県もレッドリストに指定されて然りなのにね。まあ実状はこんなもんだろ。絶滅危惧種とか準絶滅危惧種とかはアテにならんのだ。恣意的なモノもあるしね。
東北地方の他県で近年発見されてないかと調べてみたが、有望そうな岩手県ではズミのある高原や湿原でも全く見られないという。
ネットを見てると「K’s Life list」というサイトに次のような記事があった。
「こうした東北を飛ばして中部山岳と北海道に隔離分布するタイプの蛾は結構多い.亜高山・高山性のものや北東北には少ない針葉樹食いのものに多いが,本種のように普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい.」
へぇ〜、蛾ってそうゆう分布をするのが結構多いんだ。蝶にはいないからね。あと「普通に山地性で食樹もありふれたものでは珍しい。」というのも、へぇーって感じ。
あっ、ちょっと待てぇー。蝶にもおるわ。中部地方と北海道に分布するのに東北地方には分布せえへん、もしくは点在分布しかせえへん奴がおる。シジミチョウ科のアサマシジミがそうだよね。但し、北海道では今や絶滅しかかってるけどね。
考えてみれば、他にもいるわ。コヒオドシ、ベニヒカゲ、クモマベニヒカゲ、フタスジチョウ、ヒョウモンチョウ、コヒョウモン、あとはウラジャノメが一部中国地方にもいるが、近い分布をしている。これはいったい何を意味しているのだ❓
あー、また問題を蒸し返しとるがな。
でも、その分布形態の理由が書いてある記述を見たことないがないし、聞いたこともないぞ。
調べたみたけど、やはり明確に書いてある論文は見つけられなかった。もうウンザリだから、必死には調べてないけど…。
改めて思うに、やはり中部地方のものと北海道のものとでは侵入経路が違うのではなかろうか。中国地方に僅かに残るウラジャノメは、西から侵入したものの生き残りではあるまいか。だとしたら、やはり中国地方でも見つかる可能性はあるかもしれない。でもこれも東北地方には居ない理由にはなってないけどさ。
ゴメン、やっぱリタイア(ㆁωㆁ)
【成虫の出現期】
7月中旬から出現し、9月中旬まで見られる。
『日本のCatocala』によれば、標高の低い場所(500〜800m)では7月上旬から見られ、8月中には没姿するという。また群馬・長野県の1500m以上の高原では8月から現れると書いてあった。
同所的に見られることの多いハイモンキシタバと比べて発生が1週間ほど遅れ、発生初期に両者の出現が重なる。
尚、『ギャラリー・カトカラ全集』には「山地帯ではかなり多く、普通種のイメージがあるが、意外と新鮮な個体を採集するのは難しい。出現期の早い時期に採れる個体はしっとりとしており、なかなかのものである。」と書かれてある。
また「この種の素晴らしさが理解できれば、カトカラ愛好者として上位者である。」とも書かれていた。
【成虫の生態】
クヌギ、ミズナラ、ヤナギ、ハルニレなどの樹液に好んで集まる。
糖蜜にも誘引され、高原で見られるカトカラの中では最も糖蜜に集まる種類の一つなんだそうだ。
午後7時半、深夜の午後11時15分と午前0時20分に飛来したのを見ている。
わずかながら、花(アレチマツヨイグサ)での吸蜜やアブラムシの分泌物を吸汁していた例があるようだ。
灯火にも集まる。
見たのは午後9時半以降だったと思われるが、ボロばっかだったので、あまりハッキリとは憶えてない。ナマリキシタバやアズミキシタバなど他のバラ科を食樹とする種は灯火への飛来は遅い傾向があるので、そんなに早くには飛来しないのかもしれない。ただし灯火への飛来は傾向性はあっても、その日の気象条件にかなり左右されるので、何とも言えないところはある。
成虫は昼間、頭を下にしてカラマツなどの樹幹に静止している。驚いて飛翔すると着地時には上向きに止まるが、瞬間的に体を反転させて下向きとなる。その際、後翅の黄色がよく目立つ。
交尾は深夜11時から午前2時の間に観察されている。
羽化後、数日後には交尾・産卵を繰り返すものと思われる。
産卵行動は2001年の8月6日に長野県真田町の標高1250mの高原で確認されている。日没後に1頭の♀が食樹であるズミの根元の樹皮下に産卵しようとしている様子が観察され、翌春にはその木の下の落葉から複数の受精卵が見つかったという。他のカトカラと比べて産卵はアバウトで、食樹周辺の枯葉や枝などに適当に産み付けるそうだ。
【幼虫の食餌植物】
バラ科:ズミ、エゾノコリンゴなどのリンゴ属。他に野生のナシが記録されているが、ナシは暖地性の植物なので、本来の食餌植物ではないと思われる。また、時に栽培されたリンゴでも幼虫が見い出される。
ズミ、エゾノコリンゴについては、ハイモンキシタバの回で詳しく書いたので割愛する。
【幼生期の生態】
毎度の事ではあるが、幼生期については西尾規孝氏の『日本のCatocala』におんぶに抱っこさせてもらおう。
《卵》
(出典『日本のCatocala』)
卵はやや背が高いマンジュウ型で、ナマリキシタバとアズミキシタバに似る。だが隆起条の数が40本以上と多く、横隆起条の間隔が狭くて整然としている。
ちなみにハイモンキシタバの卵とは似てない。食樹が同じで、成虫の見た目が似ていることから両者は兄弟みたいに思われがちだが、遺伝子解析では系統的にはかなり掛け離れている。だから卵が似ていないのは当然なのかもしれない。
それにしても、顕微鏡写真まで撮るなんて西尾氏は凄いな。この『日本のCatocala』は、国内のカトカラにおいては他に追随を許さぬ最高峰の図鑑だと思う。
長野県女神湖(標高1500m)での孵化時期は5月上、中旬。5齡幼虫は6月中旬から7月上旬に見られる。同県上田市(600m)では、6月中旬に5齡幼虫が見られたという。
《幼虫の生態》
幼虫は比較的若い木に発生し、樹齢40年以上の古木にはあまり見られない。
(2齡幼虫)
(出典『日本のCatocala』)
日中、若齡幼虫は葉上や付近の枝に静止している。3〜4齡期の幼虫も枝に静止している。
(5齡幼虫)
(出典『日本のCatocala』)
5齡が終齢。老熟幼虫の昼間の静止場所は枝や樹幹で、地表近くに潜んでいる場合も見受けられる。しかし、ハイモンキシタバほどには樹幹下部には降りないようだ。
高原のズミには多数の幼虫が群れていることかあり、5齡幼虫は昼間でも活動している事があるという。このような群生と摂食習性はハイモンキシタバには観察例がないそうだ。
野外では体色に色彩変異が見られ、側線付近の白い模様が幅広くなるものや全体に白化したものがある。
食樹を同じくするハイモンキシタバとは、顔面の模様が違うことから区別できる。
(5齡幼虫の頭部)
(ハイモンキシタバ5齡幼虫の頭部)
(出典『日本のCatocala』)
だいぶ違うね。
カトカラの幼虫の同定には、この頭部が一番重要だと言われているのがよく解るね。
室内飼育では、室温が25℃以上になると死亡率が高くなることかあるという。やはり寒冷地性なんだね。
蛹化場所については未知のようだ。
蛾のなかでは人気種のカトカラであっても、蛹に関しての記述は殆どない。野外での蛹化場所が見つかっていないカトカラも多いのだ。その点、蝶と比して研究が遅れてるなと思う。たった32種類なのに食樹がまだ判明していないものだっているのだ(註1)。
最近は東京を中心に関東方面では蛾熱が高まっているともいうし、人海戦術で探せるような時代が来ればいいのにね。蝶みたく分母の人数が多ければ、生態の解明は格段に進むだろう。
こんな一銭にもならない連載を書き続けている理由の半分、いや1/3は、それを後押したい気持ちもあるからだ。ヒントが提示されなければ、人は動かないものだ。
おしまい
追伸
今年は狙って採りに行かなかったけど、来年はハイモンと一緒にシッカリ採ろう。標本が酷くて、こんなんじゃ不満なのだ。
今回のタイトルは全然浮かばなくて悩んだ。細かいところを書き直すうちに、妖怪人間ベラが降臨した。で、突如挿入。それがタイトルのヒントになった。
でもそこから中々決まらなくて、「ベラは言った、お黙りと」に始まり、「お黙り、とベラは言った」「お黙り。とベラはそう言った」「お黙り。と、ベラは言った」「お黙りっ❗そうベラは言った」とマイナーチェンジを繰り返して、最後に「お黙りっ❗と、ベラば言った」に落ち着いた。「、」に拘った結果だ。
けど、いまだもってしてどれが正解なのかはワカラナイ。
(註1)食樹がまだ判明していないものだっているのだ
食樹が見つかっていないのは、ヤクシマヒメキシタバとマホロバキシタバ。但し、ヤクシマヒメキシタバは既にウバメガシで飼育されており、野外でのメインの食樹として有望視されている。けど、そこからは進んでいないようで、未だ自然界では幼虫が発見されていないようだけどもね。蛾の文献は簡単には集められないので、古いものしか見れてないから間違ってたら御免だけど。
新種マホロバキシタバは現地の植物相からしてイチイガシが予想されている。たぶんイチイガシで間違いないかと思われる。卵を含めて幼性期は全くの未知。一応、今年探したけど、見つけられなかった。意外と幼虫探しは難航するかもしれない。なぜならイチイガシは大木が多く、もしも大木を好む種ならば、発見はそう簡単ではないからだ。今のところメス親からの採卵、飼育が成功したという話も聞いていない。2019年には採卵が試みられたけど、産まなかったそうだ。
ちなみにアマミキシタバも食樹が長年判明していなかったが、去年(2019年)に解明されたようだ。候補の植物を片っ端から幼虫に与えた結果、判明したんじゃなかったかな。でも自然状態での発見は為されていないかも…。論文を読んでないので詳細はワカランのだ。ネット情報で辛うじて知っただけで、正確性に欠けるかもしれない。あと知っているのはカトカラ類の基本である年1化ではなく、多化性であると云うことくらいだ。
アマミキシタバは従来カトカラには含まれていなくて、別属である Ulothrichopus属に含まれていた。それが近年になって新たにカトカラ属に加えられたものだ。アフリカに多く生息するこの属をカトカラに含めてしまうと分類に混乱をきたすと、どこかで聞いたことがあるような気がするけど細かいことは分からない。多化性だから、たぶん同じシタバガ亜科のクチバの類とかって考えている人がいるのかもしれないね。でも所詮は蝶屋なので、蛾の属のことは全然ワカリマセンというのが本音だ。
ー参考文献ー
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑』
◆江崎悌三『原色日本産蛾類図鑑』
◆平嶋義宏『蝶の学名-その語源と解説』
インターネット
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆ギャラリー・カトカラ全集
◆Wikipedia
◆K’s Life list