三角形の中の、別な三角形の世界

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奈良県の某駅のホームを歩いていて、足が止まった。
足元に変なもんが見えたのである。

 

(2020.9.22 奈良県大和郡山市)

 
三角形の中に、まるで別な三角形の異次元世界があるみたいだ。一瞬、三角形の窓の黒い闇、その先にはパラレルワールドが在るのではと思った。

コレってナカグロクチバじゃね❓
蝶と違って蛾の種類はあんまよくワカンナイけど、コレは流石に特徴的な姿だけあって記憶の隅にあった。
カトカラ(シタバガ属)とヤママユガ系以外のガは綺麗だとかよほど目を惹くモノでもない限りは採らない主義だけど迷った。
でも、手塚さん(手塚治虫の弟さん)が何年か前に偶産蛾で珍しいみたいなことを話されていたのを思い出して、持ち帰ることにした。

翌日、展翅することにした。

 

 
翅を広げた方がカッコイイ。

 

 
前翅の窓みたいなとこは幾何学模様みたいにも見え、かなり変わったデザインである。シックでスタイリッシュだと言ってもいいだろう。

 
(裏面)

 
裏面は汚いねぇ。
蛾って、裏のデザインが素っ気なくてツマンナイものが多いんだよなあ。前翅は個性的で美しいデザインのものが山といるのに、下翅と裏面が残念な奴ばっかで、誠に惜しい。

展翅してみた。

 

 
カトカラじゃないんで、触角は真っ直ぐにはしない。邪魔くさいからだ。蝶よりも蛾の方が触角を真っ直ぐに整えるのが遥かに難しいのである。

あっ、後翅にも白帯があるんだね。ヤガ科の蛾の下翅は大概が黒とかグレーとか茶色一色だから、まだマシな方だ。カトカラみたく、もっと下翅が美しければ、蛾の評価も少しは上がるのにね。

名前は知ってても、本来的にどんな奴なのかは知らんから一応調べとこう。珍しいというしね。

分類は以下のとおりとなっていた。

ヤガ科(Noctuidae)
シタバガ亜科(Catocalinae)
Grammodes亜属

 
【学名】
Grammodes geometrica (Fabricius, 1775)

小種名の「geometrica」は、英語の「geometric」の語源(ラテン語)だろうから「幾何学的な、幾何学模様のような」といった意味だろう。自分でもそう感じたから、学名的には納得至極である。

 
【開張(mm)】
41〜44mm。
大きさは手のひらに乗っけた画像を既に貼付してあるので、大体の想像はつくかと思う。

 
【分布】
ネット「みんなで作る日本産蛾類図鑑」によると、以下のようになっていた。

「本州,小笠原,四国,九州,対馬,種子島,屋久島,奄美大島,沖縄諸島沖縄本島,沖縄諸島慶留間島,大東諸島南大東島。」

ものスゲー離島が並んどるなあ。しかも南の島ばかりだ。小笠原とか南大東島とかからの記録もある。そんなに飛翔力があんの❓だとしたら、驚きだ。
ようは、九州、沖縄に多く生息する南方系の蛾って事だね。

しかし、ググってると、どうも変だ。関東とかの画像がいっばい出てくんぞー(゜o゜;
その謎は、わりかし早くに解決した。昔の図鑑では本州には生息しておらず、九州以南の分布となっていたようだ。2005年発行の図鑑でも本州にはいないことになっていると、どっかのサイトに書いてあった。
しかし、その後の地球温暖化に伴って急速に北上したらしく、2007年には群馬でも目撃例が出たという。やはり、とんでもなく飛翔力が強いのかもしれない。
で、今の図鑑では関東以南の分布となっているみたい。実際、ネットを見てると、新宿歌舞伎町、井の頭公園なんかからも記録されてる。何だよ、がっかりだな。
ただし個体数は多くなく、ちょっと珍しいみたいな記述もあった。なるほど。手塚さんは昔の知識で話されてたんだね。

海外では、地中海東部からインド、スリランカ、ジャワ、オーストラリアに生息するとされる。結構、どこにでもいるじゃないか。

 
【成虫出現月】
7〜8月と9〜10月。
どうやら年2化みたいだ。けど、何で春にはいないんだろ❓卵での越冬って事かな。

 
【幼虫の食餌植物】

タデ科:イヌタデ
トウダイグサ科:エノキグサ、コミカンソウ、ブラジルコミカンソウ
ミソハギ科:ヒメミソハギ、ホソバヒメミソハギ、サルスベリ
ザクロ科:ザクロ

結構、幅広い食性だね。蛾だから、こんなもんか。蛾は蝶と比べて食性が広い傾向があるからね。

ここで、思い出した。
大阪昆虫同好会の年会誌『Crude』に、手塚さんがナカグロクチバについて書かれた記事があった筈だ。探してみよう。

ありました。2019年のもの(No.63)に『蝶屋の楽蛾記(Ⅴ)』と題した連載中で触れておられる。
それによると、2017年に京都府城陽市の木津川河川敷で1頭だけ発見され、翌年には複数が採集されて発生が確認された。
ネットの画像を見てると、草に止まっているのが多いので、森林性ではなく、草原性の蛾なのかもしれないね。

その後、幼虫も確認され、飼育にも成功したそうだ(食草はエノキグサ)。
文中に、ちょっと興味深い記述があったので、紹介しておく。

「幼虫は順調に成長して蛹化に至ったが、この種のつうじょの生態から考えて蛹化場所は当然土中であろうはずが、2頭の幼虫は食草の葉を数枚綴って簡単な繭を造成してその中で蛹化し、あとの3頭は土中で蛹化するという不規則な経過を示したわ、これは、容器の中という閉鎖環境のために今回に限ってこのようになったのか、あるいは野外の自然環境の下でも一般のヤガ科の多くはそのような多様性を示すのか、調査にはかなりの面倒さを伴いそうである。」

 


(出典『Crude』No.63)

 
そんな事ってあるのね。同じヤガ科のカトカラでは、葉を使って繭らしい繭を作るのはアサマキシタバくらいだけど、このように土中と繭の両刀使いもいたりしてね。
尚、蛹の外観は多少紫色を帯びた濃褐色で、最初は艶っぽいが日時が経過すると外観は白い粉を吹いた状態に変わるそうだ。

                        おしまい

 
追伸
カトカラの事じゃないので、すぐ書けた。ハッキリ言って楽ですなあ。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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