2020’カトカラ3年生 その弍(2)

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  vol.25 ナマリキシタバ 第ニ章

       『雷神降臨』

 
 2020年 8月8日

これが最後という気持ちで車に乗り込む。
やがて車は市街を抜け、暗い夜道を走り始めた。
車窓から夜空を見上げると、半分ほど欠けた月が冴えざえと輝いている。ぼんやりと晴れのち曇りだったらいいなと思う。
ふと時計に目をやる。針はもうすぐ午前0時を指そうとしていた。前日の夜中に奈良を出て、小太郎くんと長野へ向かっているのだ。

早朝に目的地に到着。
空は青い。天気予報は微妙だったが快晴だ。スーパー晴れ男の面目躍如といったところである。

この日は久し振りの蝶採りから始まった。
ターゲットはムモンアカシジミ(註1)。長いこと会ってない蝶だ。そして、此処はそのムモンアカを初めて採った地でもある。色んな思い出が詰まってる風景を懐かしい気持ちで眺める。確か駅からここまで歩いて来たんだよね。思った以上に遠くて、思った以上に坂がキツかった事を思い出す。奥まで歩いたらスミナガシが地面で吸水してた事や、その後オナガシジミを探して更に山を登ったのも思い出した。

小太郎くんが長竿で木の枝を叩き、ワテが飛び出した蝶を目で追って止まった場所を確認すると云う役割分担で始まったが、叩き始めて直ぐにオレンジ色の妖精が飛び出した。

 
【ムモンアカシジミ】

 
(☆▽☆)美しいねー。
やっぱ蝶は美しいんだなと改めて思う。
最近は蛾ばっか見てっから物凄く新鮮な気持ちで蝶を見てる自分がいる。蝶採りを始めた頃の気持ちが少し戻ったような気がするよ。やっぱ蝶の方が綺麗だわ。デブじゃないし、毛むくじゃらでもないからね。蝶は可憐なのだ。

蝶って綺麗だよなー。
やっぱ蝶屋に戻ろっかなー。

とボソッと言ったら、隣で小太郎くんが「(•‿•)でしょー。えっ❓、でも五十嵐さん、蝶屋を辞めてたんですかあ❓」と笑いながら返してきた。解っててワザと言ってるんである。
しまったと思って、慌てて返す。

アホー、ワシは蝶屋じゃあー❗蛾屋とちゃう❗

最近は小太郎くんから結構鋭いツッコミが入るんだよなあ(笑)
まあ、カトカラ関連で付き合いも深くなってるから、ツッコミやすくなってんだろね。ワシって、そもそもテキトーな性格だからツッコミどころ満載なとこあるしさ。

蛾屋ちゃう❗とは言ったものの、現状はシッカリ片足を突っ込んでて、半分「蛾屋」である。と云うか正確に言うと「カトカラ屋」なんだけどもね。だから今は蛾屋だと揶揄されると「ちゃう、カトカラ屋じゃ❗」と返すことにしている。蝶屋の蛾屋に対する蔑視、迫害は根強いのである。しかも執拗。
でもさあ、そうゆうのって最近はバカバカしく思えるようになってきたんだよねぇ。そもそも線引きすること自体がナンセンスだと思う。元来、蝶と蛾に上も下も無いんである。これからは堂々と「レピ屋(註2)」と名乗ることにしよう。

とにかくスタートから上々の滑り出しだ。何か今日は良い事が起こりそうな予感がする。
と言いたいところだが、まだ序盤だ。このまま今日一日、いい感じの流れが続くことを祈ろう。

叩くと、大半は高い所に逃げて見失うが、それでも取り敢えず二人共2頭ずつ確保できた。たまに地上に降りてくる奴もいるのである。

午後1時を過ぎると、テリトリー(占有行動)を張り出した。群れ飛ぶオレンジが背景の緑に鮮やかに映える。
今の図鑑ではどうなってるか知らないけど、昔の図鑑にはムモンアカは夕暮れ飛翔性だと書いてあった。けど、そんなの嘘である。それを知ったのも、そういえば此処だったね。
午後1時か2時くらいだったと思う。突然、ひらひらとオレンジ色の鱗翅類が周りを飛び始めた。鱗翅類と書いたのは、蛾だと思ったからだ。過去にそんな色の蛾が昼間に群れ飛んでいた記憶があったからだ。
当時は蛾を毛嫌いしてたから暫く無視してたけど、何となく気まぐれで網に入れてみた。
で、中を見たら、蛾がムモンアカに化けていた。キツネに馬鹿されでもしたかと思って、一瞬(・o・)キョトン顔になった。でも、どう見てもムモンちゃんである。
慌てて他のも採ってみたら、それもムモンアカだったので、そっから先はシッチャカメッチャカになった。急に必死になって網振り回して追っかけだした自分に、自分でも笑ったのを思い出したよ。

今にして思えば、図鑑に夕暮れ飛翔とあったのは、近縁種のアカシジミ、ウラナミアカシジミ、あと少し毛色は変わるがウラキンシジミなんかが夕暮れ飛翔性なので、きっとムモンもそうだろうと予断したのであろう。お粗末だよな。誰もツッコまなかったのかなあ❓
図鑑の記述を鵜呑みにしてはならない。大体は正しい事が書いてあるけれど、常に100%正しいワケではないのだ。所詮は書いた人の主観だもんね。場所によって生態が変わる蝶や蛾は結構いるから、時に疑う気持ちも必要だろう。他に盲点だったと云う事例もある。例えばクロミドリシジミだって、長いあいだ活動時刻は夕暮れ時のみだと信じられてきたが、近年になって夜明け前にも飛翔することが判明したからね。

そういや、ここでは久し振りにルリボシカミキリにも会えた。

 

 
と言っても小太郎くんが採ったもので、それをパチリと撮らしてもらっただけなんだけどもね。
思えば、見るのは滋賀県の霊仙山以来だ。
ルリボシカミキリはとても美しい。この青は特別な青だ。心がパッと開く。よしよし、何か良い感じの流れが持続してるぞ。考えてみれば、今日は八月八日。末広がりの八が二つも並んでいる日なのだ。この先もガンガンに良き事が続くに違いない。ポジティブ妄想一直線。もう何だってプラス材料にしちゃうんだもんねっ。

ムモンアカを採った事がないと云うヨタヨタの爺さんのフォローに入り、何とか採ってもらったところで早めに離脱。飯を食いに行く。
テキトーに台湾食堂に入ったけど、これも当たり。期待以上に旨かった。
その後、夕方に松本へ移動。汗を流しに行く。
スーパー銭湯の入口は人でゴッタ返していた。コロナ禍だから入場制限で入れないかと思ったが、丁度どっと団体客が帰るようで、タイミング良く入る事が出来た。ラッキーである。
色んなタイプの湯舟があって、中々に良き所でござった。お陰でリフレッシュすることができた。気分は変わらず上々だ。
とはいえ、ここから先が本番である。メインターゲットのナマリキシタバが採れなければ、全ては水泡と帰す。このままラッキー街道を走り続けられる事を切に祈ろう。

ナマリには辛酸ナメ太郎。苦々しくも現在に至るまで3年越しの9連敗を喫しており、無様なまでに負け続けている。こんな屈辱を受けたことは海外の蝶だってない。テングアゲハにだって、ここまで煮え湯を飲まされてはいない。結局、採れたからね。一方ナマリ嬢は、何せまだその姿さえも見ていないのだ。完膚なきまでに叩きのめされ、自信は完全に崩壊している。最早どうやったら採れるのかもわからなくなってる状態なのだ。
そんなあまりの敗残者振りに手を差し伸べてくれたのが、小太郎くんだった。

「長野にムモンを採りに行きますけど、後でナマリ採りに付き合ってもいいですよ」

小太郎くんは、今年になって遂に水銀灯のライトトラップを買ったのだ。だから灯火採集がいつでも出来るようになったってワケ。渡りに舟とは、この事だ。即答した。

「行くっ❗行きます❗行きます❗連れてって下せぇ、旦那〜(´ω`)」

千切れんばかりに尻尾を振る。

今思うと、小太郎くんと二人して信州方面に行ってコケた事は一度もない。連戦連勝だ。ゆえにお呼びが掛かったのかもしれない。こないだのアズミキシタバの時も絶好調だったしね。それにオラがムモンアカの詳しいポイントを知ってたというのもあるかもしれない。あっ、それよりもワシがスーパーな晴れ男だからかもね。基本、蝶採りには晴天が絶対条件なのである。

場所は去年行って惨敗したところの近くである。
日没直前にポイントに着き、屋台を設置する。時折、風がややキツく吹くのが気になるが、いい感じに曇ってもきた。灯火採集するには晴れよりも曇っている方がいいのだ。まだ天は、オラに味方している。

 

 
点灯したら、グイと気合が入った。
さあ、戦闘開始だ。今日こそ連敗地獄から脱出しようぞ。

でも場所が思ってた程には良い場所ではないんだよね。こんなとこ、本当にいるのかね❓不安が過(よぎ)るが、既に賽は振られた後だ。持ってても一文にもならん不安をうっちゃってコンセントレーションを高める。

小太郎くんがセミの幼虫を拾ってきた。エゾゼミだという。エゾゼミの羽化は見たことがないので楽しみだ。益々、ええ感じで推移してまんがな。

点灯後、早速キシタバ(C.patala)が飛んで来た。小太郎くん言うところのデブキシタバである。何処にでもいるから勿論フル無視である。せめてオニキシタバとでも改名してあげれば、株も少しは上がるのにね。石塚さん、改名してくんねぇかなあ。
次に飛んで来たのはオニベニシタバだった。おいおい、低地性のカトカラばっかじゃないか。不安が首をもたげる。しかし、キシタバは標高1300mで見たことがあるし、オニベニにいたっては標高1700mでも見たことがある。奴ら何処にだっているのだ。大丈夫、大丈夫。気にすんな、前向きでいこう。

午後8時前、見たこと無さそうなのが飛んで来た。
でも直ぐにナマリではないと思った。にしてはデカ過ぎる。

 

 
おそらくオオアオバヤガ(註3)とか云う奴だろう。
たぶん採った事が有る筈だが、緑色でキレイだし、小太郎くんが結構少ない種だと言うので一応採っておく事にした。
でも展翅したら、どうせ下翅はキチャなくて、腹がブッとくてデブなんだろなあ…。

続いてキンキラキンのコガネムシが飛んで来た。

 

 
奇しくも緑色つながりのキンスジコガネ(註4)だ。
宝石みたいに✨キラッキラだね。個人的には日本一美しいコガネムシだと思う。しかもレアな存在。滅多に会えないコガネムシとして知られている。
彼女に会うのも久し振りだ。岐阜県の新穂高にオオイチモンジを採りに行った時以来の御対面である。
何か、ええ感じの流れが続いてんじゃねぇーのー❓

しかし飛んで来るカトカラはキシタバとオニベニばかりで、あとワモンとノコメ、マメキシタバがチョロチョロ。
ワモンは基本的に好きなカトカラだが、そこそこ採った事があるのでモチベーションはとうに下がってる。ノコメにはまだモチベーションがあるが、如何せん時期が遅くてボロ。採る気にもなれない。マメはド普通種なので完無視だ。
その有様に退屈した小太郎くんが車の中で寝てしまった。夜通し運転してたし、ドッと睡魔が押し寄せてきたのだろう。ワシも殆んど寝てないが、眠るワケにはいかない。いつナマリが飛んで来るか分からないのだ。とはいえ、ナマリが飛んで来るという時間帯はまだまだ先なんだけどね。でもマオくんが早い時間帯にも飛んで来ますよと言ってたので、手は抜けないのだ。それに、小太郎くんには申しわけないが、どうしても先に採りたい。もしも彼に先に採られたとしたら、憧れの彼女を目の前でカッ拐(さら)われたような気分になるだろう。そんなの地獄だ。嫉妬の炎で自らを焼き尽くしかねない。

そういや、小太郎くんがエゾゼミと言ってた蝉は、単なるミンミンゼミだった。ロクなカトカラしか飛んで来んし、何か悪い兆しが垣間見えてると言えなくもない。不幸が何処かワシの預かり知れぬところで徐々に育っているのかもしれない。
幸福は窓際の鉢植えの花だ。水をやり、肥料をやり、日々少しずつ育っていってるのが目に見えてハッキリとわかる。一方、不幸は大概が目に見えない場所で、密かに陰湿に育っている。そして、突然おんぶお化けみたいに背中からガバッと覆いかぶさってくるのだ。不幸とは、病気や事故、相手方の浮気のように突然降って湧いてくるものであり、誰しもが対処の仕様がないものなのである(因みに浮気の話は男側の場合であって、女性は敏感なので気づいてらっしゃる)。

 

 
羽化したての姿は日本で最も美しいセミとも言われるが、こうやって袋の中で羽化させたものはバックが暗闇じゃないからコントラストが効いてないし、自然状態でもないから神秘性も失われている。何だかなあ…、コレって暗雲の兆しじゃね❓
あっ、でもコレも最終的には緑色になるから緑繋がりじゃないか。だとするならば、ナマリキシタバも緑色だから次に現れるのはナマリだ❗と言いかけて止まる。無理があるなと思ったのである。確かに画像によっては照明の加減で緑色っぽく見えるものもないではないが、基本的には鉛色で、強いて言うならば青みを帯びたグレーなのだ。自分の目で実物を見たことが無いから偉そうなことは言えないけどさ。

何だか段々雲行きが怪しくなってきた。
風も心なしか強くなってきたようだ。背中側の体の芯がキュッとなった。泣きたくなるような、それでいて恐怖にも近いような、どうにも形容し難い感情が擦過する。又しても惨敗するのでは?と云う考えが、前触れもなく去来したのである。(-_-;)ヤバい。良くない兆候だ。不幸の萌芽に敏感になってる。自信を失くしてる証左だ。
でも、良い結果を信じるしかない。せわしなく白布と周囲の地面を懐中電灯で照らしてチェックしてゆく。地面まで念入りにチェックしたのは、前回のアズミキシタバみたく地表に止まっているかもしれないと思ったのだ。

午後8時半過ぎ、いや40分くらいだったろう。
ライトトラップの裏側横で座っていたら、反対サイド正面の地面に何かカトカラらしきものが落ちたように見えた。チラッとしか見えなかったが、何か違和感のようなものを感じた。見たことのない奴のような気がしたのだ。しかし、落ちた辺りは草や蔓みたいなのが繁茂してて、よく見えない。心の内で、もしや…と云う思いと、どうせマメキシタバかクソ蛾だろうという思いが錯綜しつつも立ち上がり、よろよろと近づいていった。

だが、1.5m手前。翅の一部が見えたと思った瞬間、

( ゚д゚ )飛んだ❗

そして、アッΣ( ̄□ ̄ ||❗と思った瞬間には何処かに消えていた。何処に飛んでったのかもワカラン。
その場に固まったまま佇む。地面で一瞬しか見えなかったが、黄色い稲妻のような模様が見えたような気がする。
たぶんナマリだったんじゃないか❓しかし確信は持てない。寝てねぇし、どうしても会いたいという気持ちが強すぎて幻覚が立ち現れたのかもしれないと思ったのだ。だいち、まだ時間的にはナマリの飛来アワーではないのだ。
けれど心は走り出していた。近くに止まっていはしまいかと懸命に探す。確かに見たよね❓見た筈だ。焦燥感と期待感、もしや幻覚ではないかという猜疑心がゴタ混ぜになった気持ちでウロウロする。よほど小太郎くんを起こして報告しようかとも思ったが、やめておく事にした。確証が持てないのに起こすのは気の毒だと思ったのだ。

心が波立ったままの時間が過ぎてゆく。
(-_-メ)チキショーめがっ。蔓草が邪魔で、遠目に見てナマリかどうかちゃんと確認できなかったから採れなかったのだ。どうせクソ蛾だろうと半分思ってぞんざいに近づいたから、驚いて逃げたに違いない。これも全部テメェらのせいだ。怒りに任せて絡まった蔓草を引きちぎり、徹底的に駆逐してやった。ざまー見さらせ、糞ッタレがっ。何だったら🔥火ぃつけて燃やしたろかい(`Д´#)

そんなかんなで、いつの間にかアレから1時間近くが経っていた。でも姿なし。帰ってこない。
やはり幻覚だったのか(ب_ب)❓…。見たという自信が砂の楼閣ように崩れてゆく。
 
午後9時50分。
半ば放心したような体(てい)で何気に白布の裏を見たら、見慣れない蛾が止まっていた。もしかして…(・o・)❓
息を呑み、凝(じ)っと見る。

ナマリだっ❗間違いないっ❗❗

雷神降臨❗
そこには、夢にまで見た美しき姿があった。黄色い稲妻がギザギザに光っている。紛うことなきナマリキシタバだ。
目を離さず、ポケットからゆっくりと毒瓶を取り出す。そして息を殺して忍び寄り、瓶のフタを開ける。心臓がバクバクする中、そっと毒瓶を近づける。頼む、ジッしていてくれ。
至近距離まできた。今だ❗と思った。
しかし、被せようとした瞬間だった。

(゚∀゚)飛んだ❗

\(◎o◎)/嘘やん❗(༎ຶ ෴ ༎ຶ)ひぃーっ、やっちまっただよー。

半泣きになりながら、慌てて後を追う。
表側に回った筈だ。素早く辺りを見回す。(-_-メ)チッ、しかし見失った。このまま惨敗で終わったら、発狂しそうだ。
振り返るが、白布にも止まっていない。続いて懐中電灯で地面を照らす。全身にザワザワと悔恨の波が広がってゆくのを必死で拭い去る。

あっ、いたっ❗

ギリ、首の皮一枚つながった。
けれども、1、2歩近づいただけで、
(⑉⊙ȏ⊙)また飛びよった❗

(´ε` )クチョー、どんだけ敏感やねんと思いつつ、ひるまず追いかける。ここで逃したら、大失恋の時みたくショックで1ヶ月間、無口な人になりかねない。

しかし、Σ(ㆁωㆁlll)ガビーン❗

お嬢は、闇の奥へと消えて行った…。

嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だーっ❗

事実を認めたくない自分の中で「嘘だ旋風」が吹き荒れる。

小太郎くんに、この悔しさを話そうかとも思ったが、グイと堪える。話したところでナマリが戻って来るワケではないのだ。だいち、そんな糞ヘタレ振りなんぞ恥ずかしくて話せない。どうせ言い訳のオンパレードだ。
何だかなあ…。まあまあ天才の名折れだよ。もしかして虫捕り下手ッピー男に堕したのかもしれん。最悪の気分だ。

けれど神様は、そんな惨めな我が身を見捨ててはいなかった。
午後10時15分。再びチャンスが巡ってきた。茫然として煙草を吸ってたら、パタパタとまた舞い戻ってきたのだ。
煙草を揉み消し、心を一本の鋼(はがね)にする。イメージは怖いくらいに冷ややかに光る日本刀だ。もしこれで逃したら、腹カッ切ってやる。今度こそ生ぬるい背水の陣なんかじゃない究極の背水の陣でもって対峙すると硬く心に決める。鋭利な刃物の心で斬るっ❗
悠々として急げ。網を持ち、ゆっくりと歩み寄る。
毒瓶なんぞ、もう使わん(-_-メ)❗武士ならば、我が愛刀虎徹で斬り捨ててくれようぞ。そもそも毒ガス攻撃なんて卑怯っぽいから、どこか自分の中で納得いってなかったのだ。網で採ってから毒瓶にブチ込むなら安楽死だと納得できるけど、最初から使う奴は洋の東西を問わず、大抵が二流のセコい敵キャラと決まっておるのだ。そう思おう。でないと、迷いが生じる。
網の柄を握り締め、距離を用心深く詰めてゆく。もしもさっきみたいに飛んだとしたら、怒濤の寄りで懐に踏み込み、シバキ倒してやるつもりだ。

射程内に入った。
静かに網を標的の下に持ってゆく。固唾を呑む。緊張感が半端ない。しかしもう迷わない。白布を網先でコツンと叩く。
予想通り驚いて、右横に飛んだっ❗

テェ────ッ( ̄皿 ̄)ノ❗

👹鬼神の如く網を左から右へとカチ上げる。
ターゲットが空中から一瞬にしてかき消えたのが見えた。すかさず網を折り返し、流れるように膝にかけ、立ったまま素早く毒瓶のフタを開ける。99%斬った手応えがあったから、そこで漸く中を確認しながら毒瓶を網に突っ込む。

(`Д´)ノよっしゃ、居るっ❗

だが、ここからが最後の勝負だ。詰めを誤ったら絶望が待っている。逃げられないように、そして暴れてハゲちょろけにならないように電光石火で毒瓶にブチ込まなくてはならない。
焦る心を封じ込め、全集中。冷静迅速に被せた。

(≧▽≦)ゲット❗❗

思いのほかスッと上手く入ってくれた。

ダア────ッ٩(๑`^´๑)۶❗

拳を夜空に突き上げる。

 

 
やっと採れた…。
指が震える。

 

 
(☆▽☆)激カッコイイ。
まるで鉛色の雷雲に稲妻の光が走ったかのようだ。
深く、長い息を吐き出す。
深窓の令嬢が、遂に我が手に落ちたのだ。幻覚じゃない。
ゆっくりと、全身の隅々にまで多幸感が広がってゆく。

採れて良かったあー…。

心の底から、そう思ったよ。

そして、やっとこさ連敗が止まった瞬間でもあった。突然、体の力が抜けて、その場にヘナヘナとヘタりこみそうになる。

見た感じ、たぶん♀だろうが、念の為に裏返してみる。

 

 
腹が短めで太く、尻先に縦にスリットが入っているし、産卵管も見えるから間違いなく♀だ。

少し迷ったが、車の中で眠っている小太郎くんを起こすことにした。勇者の凱旋の如く雄然と車へと向かう。
心を鎮め、喜びを噛み殺して窓をコツコツ叩く。
目覚めた小太郎くんに親指を立てて、軽く前へと突き出す。
それで、小太郎くんも理解したようだ。

(・o・)えっ、採れたんですか❓

ニヤけそうになるのを抑えて「採れた…。」と一言だけ言う。
そして一拍おいて、心から礼を言う。アンタのお陰だよ、小太郎くん。マジでありがとう。

これをキッカケに小太郎くんにも気合が入ったようだ。
さあ、アズミの時みたく祭りの始まりといこうじゃないか。

午後11時近くに、もう1頭飛んで来た。
小太郎くんを呼んで、コレ、コレと指さす。
勿論、小太郎くんに採ってもらう事にする。小太郎くんのお陰で、やっとこさナマリ様が採れたのだ。譲って当然だろう。
しかし、コヤツも敏感で直ぐに飛んで逃げた。あとはワシの時と同じ繰り返しになった。逃しても、何度も戻ってくるのだが、ことごとく落ち着きがなく、すぐに目の前からパッと飛び立って消えよる。

結構長い攻防が続いた。
お願いだから採ってくれと願う。二人とも採れなきゃ、心の底からは喜べないのだ。気兼ねなく喜びを爆発させたい。

小太郎くんが、やっとこさゲット出来たのは午前0時過ぎだった。♂だった。
しかしその後、ゴールデンタイムに入ったのにも拘わらず、ナマリは1頭も姿を見せなかった。
だから結局1頭ずつしか採れなかった。それでもガッカリ感は全く無かった。1頭だけでも採れたと云う事実だけで充分だった。それだけで幸福感で一杯だったのだ。

午前2時に灯りを落として終了。撤収した。
その後、コンビニまで戻り、缶ビールを買う。
小太郎くんは飲めないゆえ、ひとり駐車場の端に座って飲む。
心地好い苦みが五臓六腑にジンワリと染み渡ってゆく。
ぼんやりと、闇夜に煌々と光るコンビニに目をやる。深夜のコンビニは、とても静かだ。
やがて内側から静かな笑いが、ゆっくりと湧き上がってきた。

                         つづく

 
一応、この日採ったものの展翅画像も貼り付けておきます。
但し、スマホを替えてから展翅画像が上手く撮れなくなった。勝手に変に色補正しよるので、ヤケクソでズラッと並べておきます。

 
【ナマリキシタバ Catocaia columbina ♀】

 
一応、前のスマホでも撮ってみた。それを、Bluetoothで転送したのだが、コッチはコッチで素っ気ないような感じにしか写らない。肉眼だと、もっとメリハリがあるのだが、それが今イチ表現できてないんだよなあ…。これらも自然光で撮ったんだけど、夕方だったからなのかなあ❓…。自然光だと時間帯によって部屋に入る光の量が変わるので、そのせいかもしれない。

 

 
翌朝、納得いかないので、もう1回撮り直した。
コレらが一番近いかな。どれが良いのか分からないので、ズラッと並べておきまっさ。

 

 
採ったはいいが、3ヶ月も冷凍庫にブチ込んだままだった。
更に言うと、たった1頭の戦利品なのに行方不明になってた。小太郎くんに「どっかいったかもしれへーん。」と言ったら、冷ややかに「そんなの知りませんよー。」と言われたわ(笑)

そうゆうワケで、たった1頭の稲妻姫なので気合入れて展翅したでござんすよ。
まあ、ほぼほぼ完璧でしょう。
来年は、♂を採らなきゃなあ。
小太郎くん、来年もヨロシクね(^_-)-☆

 
ーお詫びー
前回、小太郎くんの言として、五平餅は元々は三河地方発祥のもので、長野県のパクリだと書いたが、小太郎くんから次のような指摘があった。
「あ、五平餅を愛知発祥だと言ったことはありません。飯田からの流れで地元の三河でもよく売られてるだけですよ。
名古屋名物は他のパクリが多いとは言ったけど。」

睡魔で、話がゴチャゴチャにミックスされてしまったようだ。
長野県の皆様、並びに飯田市の皆様、悪口雑言を撒き散らして、どうもすいませんでした。
よく調べずに書いて、ごめんなさいm(_ )m
あと、小太郎くんもm(
_)mごめんなさいでしたー。

 
追伸
今年最大の収穫は、このナマリキシタバだった。この一夜の事は、一生忘れないだろう。
でも、言ったようにこの1頭しか採れてないんだよね。来年はタコ採りして、深窓の令嬢から近所の煙草屋の姉ちゃんにまで引き摺り下ろしてやれと思ってる。もう1回言っちゃうけど、小太郎くん、(^_-)-☆来年もヨロシクねっ❗

尚、この話は翌日のミヤマキシタバの回(第二章「真夜中の訪問者」)に続いています。また、まだ書いてない別なカトカラの話にも繋がってゆく事になろうかと思う。

えー、次回は種の解説編っす。

 
(註1)ムモンアカシジミ

【Shirozuna jonasi ♂】

 
久し振りに蝶を展翅したら、バランスが分かんなくなった(笑)
もっと前翅を上げたいんだけど、そうすると、頭が埋まっちゃうしさあ…。結局、触角重視でこうなった。

一応、種の解説をしておこう。

鱗翅目シジミチョウ科に属するチョウ。
中国北部、朝鮮半島、アムール、ウスリー、日本に分布する。日本では北海道と東北地方から中部地方に分布し、近畿地方、四国、九州および南西諸島には生息しない(滋賀県米原市と広島県安芸太田町は除く)。冷温帯から暖温帯の人里近くの雑木林に棲息するが、発生は局地的で、個体数も少ない。これは1本~数本の特定の発生木に依存している場合が多いためで、宅地造成などの犠牲にもなりやすい。木が切られたら、姿を消すのである。
午後から夕刻にかけて占有活動し、ヒメジョオンなどの花にも吸蜜に訪れる。しかし発生木から遠く離れることは少ない。
翅の開張は40ミリ内外。和名の由来は、日本産の他のアカシジミ類(アカシジミ、ウラナミアカシジミ、チョウセンアカシジミ)と比べて、表翅の黒い紋が目立たない事からきている。
年1回の発生で、7月下旬から現れ、9月まで見られる。他のアカシジミ類に比べると発生期は遅く、8月でも新鮮な個体が多い。
卵は主としてブナ科のカシワ、ミズナラ、コナラ、クヌギ、アベマキ等に産み付けられ、卵で越冬する。幼虫は日本のチョウの中では特異な半肉食性で、これらの樹木に寄生するアブラムシやカイガラムシなどの動物性食物を摂るが、2齢からは葉を食べることもある。但し、その量は多くない。
蟻(クサアリ)との関係も密接で、幼虫は好蟻性の揮発物質を分泌してアリを誘引し、外敵から身を守ってもらっている。分布が局所的なのは、このアリとの共生関係がなくてはならないからだろう。

 
(註2)レピ屋
「レピ」とは、レピドプテラ(Lepidoptera=鱗翅目)の略。つまりは「蝶と蛾」の両方を指す言葉である。元来、蝶が好きな人は「蝶屋」、蛾が好きな人は「蛾屋」と呼ばれるが、両方好きなのでレピ屋というワケだね。ガ好きの人がよく使う言葉だそうだ。気持ち、解るような気がするよ(笑)。
実を云うと、このレピ屋という言葉、一年ほど前に知った言葉である。甲虫屋として高名な秋田さんが使っていたので「レピ屋って何すかあ?」と訊いたら、「おまえさん、レピ屋も知らんで新種(マホロバキシタバの事)見つけたんかい!」と笑われたのであった。
一応、レピドプテラという言葉くらいは如何にワシがアホでも知ってはいた。しかしレピという言葉とレピドプテラという言葉が頭の中で繋がらなかったのだ。(≧▽≦)クソーって感じ。

 
(註3)オオアオバヤガ
探したら、やっぱり過去に採ってた。

 
【Anaplectoides virens】


(2018.9月 兵庫県ハチ北高原)

 
我ながら酷い展翅だ。
前翅が上がり気味で、逆に後翅が下がり気味でブサいくだ。触角の角度も上向き過ぎるし、オマケにグニャグニャだ。
それでも蛾屋の展翅よかマシな気がするが、やっぱり許せないので冷凍庫に安置されていた今回採ったオオアオバヤガを探し出してきた。
怒られると思うが、蛾屋の展翅レベルは蝶屋と比べて相対的にも、また総体的にも低い。おそらく蛾屋の人口数が少ないからだろう。多分、展翅をとやかく言う人間が少ないのだと思われる。
一方、蝶屋は数が多いだけに、あーだこーだと云う人間も多いから厳しい目に晒される。とかく五月蝿(うるさ)い人が多いのだ。で、自然と全体的にレベルが上がると云うワケ。
自分も蝶採りを始めた頃はあまり気にしていなかったが、周りにとやかく言う人が多いので次第に影響されるようになっていった。一旦気になると、パラノイア的気質があるゆえに、以来ものスゴく気になる人になってしまった。半分はそんな自分を愚かだと解っているのだが、元来が負けず嫌いで馬鹿にされたくない人なので何処吹く風とはなれないのだ。その辺が我ながら小さいと思う。完璧主義者って窮屈でしかないのだ。岸田先生くらい大らかでありたいもんだね。

そうゆうワケで、新たに展翅したのがコレ↙。

 

 
こうしてキッチリ展翅すると、渋カッコイイ。
美しいと言ってもいいかもしれない。これなら雌雄揃えてやってもいいやと思う。
でも♂か♀かが今イチわかんない。たぶん♂だと思うけど。

 
(註4)キンスジコガネ

【Mimela holosericea】

(2015.7.20 岐阜県高山市新穂高)

 
北海道から九州まで分布する大型の美しいコガネムシの仲間。
低山地〜山地の豊かな森に生息し、大型の美しい種でありながらも目にすることは稀で、分布が広いのにも拘わらず何れの地方でも珍しくて個体数も少ないとされる。
本種を含むスジコガネ属は日本から11種が知られているが、深いメタリックグリーンに粗い溝が点刻され、まるで宝石のような美しい姿をしているので容易に区別できる。上翅の縦隆条は第1条だけが幅広く明瞭であるが、時にこの第1条もほとんど消失する。腹面は緑色光沢のある銅赤色で、長い細毛が疎らに生えている。脚は黄褐色で、各脚の爪は先端に切れ込みを欠く。

成虫は針葉樹の葉、幼虫は根を食する。成虫は7~8月頃に見られ,針葉樹を食害しているものを見るよりも日暮れ前に林道などを低く飛翔しているものが捕えられることの方が多い。
灯火にも飛来するが,夕暮れの薄明かりの時間帯だけで、深夜には来ない。尚、灯火に飛来するものは♀が多いという。

個体数は少ないというが、真っ昼間に沢山採ったことがある。山の中の明るい砂利道を歩いていたら、低空飛行しているのが結構いて、テキトーに摘んでたら、いつの間にか全部で10頭くらいになっていた。
でも、その日だけで、翌日には殆んど見なくなり、翌々日には全く見掛けなくなった。

 
 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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