2020’カトカラ3年生 其の弐(3)

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  vol.25 ナマリキシタバ 第三章

    『嘆きのコロンビーナ』

 
第三章は種の解説編です。
今回もカトカラ界の両巨匠(註1)の『日本のCatocala』と『世界のカトカラ』のお力をガンガンにお借りして書きます。

 
【Catocala columbina yoshihikoi ♀】

 
前翅の稲妻が走ったような模様が美しい。
この上翅の美しさは、カトカラ属屈指のものだと思う。
でも展翅はほぼ完璧なのに、色の写りが不満だ。『兵庫県カトカラ図鑑』の画像みたく綺麗に撮れない。スマホのカメラが勝手に色補正しやがるので、実物の色の再現性が低いのである。それぞれの画像が別方向に美しさの一部だけを際立たせているって感じなのだ。各々の画像のエエとこを足して3で割ったら実物に近づくかもしれない。
まあ所詮は写真なんてどれだけ美しく撮れようとも、己の眼で見る実物、生きてるものや死後間もない姿の美しさには到底かなわないのだ。生命の持つエネルギーが醸し出す、あの輝くような美しさはフィールドで実際に見た者にしか解らない。

そう云う意味では、まだ生態写真の方が標本よりマシかもしれない。標本なんぞ所詮はミイラなのだ。展翅画像は冷凍庫から出したばかりものだから、まだしも生きてた頃の残滓のようなものがあるが、それも時間と共に失われてゆくだろう。

一応、採った直後の画像も貼り付けておこう。
光を当てると、稲妻模様がビカビカに光ったように見える。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
展翅画像とは違う美しさはあるのだけれど、肉眼で見た姿とはコレも少し齟齬がある。もっと稲妻模様が浮き立つが如く光って見えた。自分の網膜に映った映像は仰け反るくらいの美しさだったのだ。

青っぽく写ってるのは、水銀灯の灯りの下だったからなのかもしれない。紫外線が強いのだろう。
それはさておき、たとえ紫外線が強くとも、ここまで青く写るカトカラはあまりいない。日本のカトカラを全種採ったワケではないけれど、他はアズミキシタバ(註2)くらいだろう。

 

(2020.7.26 長野県白馬村)

 
一応、現在のところ日本のカトカラの約85%は採っている。ゆえに残りの種類構成から考えても、こうゆう色に写るのは、この2種だけだ。
と云うことは、この2種だけが地色の色が特別だと言っても差し支えあるまい。素人は疑問に対して素直だから、それが何を意味しているのかをつい考えてしまう。考えられるのは、互いの祖先種が共通で近縁の間柄なのか、幼虫の食樹が同じだからだろう。そのどちらか、もしくは両方が羽の色に反映されているのではないか❓それをまだまだ駆け出しのペーペーの身ながら、不遜にもこの中で解き明かせたらと思う。

そんなデカい口を叩いといて、実をいうとまだ♂は採れてない。お恥ずかしい限りである。
なので、他から画像を拝借致します。

 
【ナマリキシタバ♂】

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 

(出典『www.jpmoth.org』)

 
上と下の写真は出典が違うが、間違いなく同じ個体だろう。
ようするに同じ物でも写真の撮り方によって、こうも色の印象が変わるのである。ワシの写真がああなるのも致し方ないかもね。

♂の特徴は♀よりも腹部が細くて長い。そして尻先に毛束がある。但し、他のカトカラの♂ほど毛の量は多くないと思われる。

一応、小太郎くんに♂の画像を送ってもらった。

 

 
♂もカッコイイ(☆▽☆)
こうゆうの見ると、俄然♂も欲しくなるなあ。

そうゆう体(てい)たらくだから、当然の如く自前の裏面展翅の画像もない。
なので、これまた画像をお借りしよう。

 
【裏面】

(出典『日本のCatocala』)

 
たぶん♀だろうが、ピントがビシッと合ってないし、標本のミイラ化が進んでるので分かりづらいところがある。腹部の先が微妙なのだ。さて、どうしたものか…。

そういや、フィールドでの画像があることを思い出したので貼っつけておく。

 

(2020.8.8 長野県松本市)

 
アズミキシタバと違って、通常のカトカラの♀と同じく尻先に縦のスリットが入り、その下にはハッキリと黄色い産卵管も認められる。アズミはこのスリットが無いように見えるから雌雄の判別でスゲー悩まされるのだ。マジ、ウザい。

そうだ、展翅前に撮った画像もあったわ。

 

 
尻先にスリットが入っているのがシッカリわかるね。
とにかくコレが有れば♀。フィールドで雌雄を確かめるには、この方法が一番有効かつ確実です。

横からの画像もあった。

 

 
腹が太くて短いし、尻先に毛束が無いから間違いなく♀だろね。

 

 
前翅の外側の帯が白っぽいんだね。大概のキシタバ類は地色が全て黄色いから少し毛色が変わってる。また全体的に縁が白いし、後翅の翅頂にある紋も白っぽい。

不完全な翅の開き方ではあるが、表側の写真も出てきた。

 

 
この上翅の色が、一番実物に近いかもしれない。
やっぱ、(´ω`)美しいやねぇ。高貴でエキゾチックだ。

さてさて、私情丸出しの前置きはこれくらいにして、種の解説をしていきませう。

 
 ナマリキシタバ

日本では比較的近年になって発見されたカトカラ(シタバガ属)である。
前翅は、やや青みのある鉛色を帯び、横線は黒く明瞭。後翅は黄色で、中央黒帯は外縁黒帯と繋がらない。外縁黒帯は太く、内縁に接しない。また翅頂の黄斑は明瞭でない。頸部は淡い樺色。胸部は前翅と同じ色調で、腹部は灰褐色。前翅はアズミキシタバに似るが、後翅の斑紋に差異があり(アズミは黒帯が分離する)、地色の黄色にも差異がある(アズミは明るい黄色)。加えてアズミの方が小型なので判別は容易。
またコガタキシタバ(註3)とは後翅の斑紋がよく似るが、前翅の斑紋が全く違い、アズミとは逆に本種よりも大型なので簡単に区別できる。

 
【学名】Catocala columbina Leech, 1900

属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名はラテン語の”columbinus”に由来し、「鳩」または「鳩のような」と云う意味かと思われる。確かに前翅の色柄はハトっぽいちゃハトっぽい。
語尾の「a」はラテン語の名詞の活用語尾で女性名詞だろう。例えば「鼻」は「nasus」と表記するが、この「-us(〜ウス)」で終わる語尾のものの大部分は男性名詞である。同じように「バラ」を意味する「rosa」の「-a(〜ア)」は女性名詞を意味するからね。
余談だが「金」を意味する「aurum」の「-um(〜ウム)」は中性名詞を表すことが多い。

また、英語にcolumbine(カランバイン)という言葉もある。
これは「ハトの、dove-like(ハトのような)」という形容詞みたいだ。ラテン語の”columbinus(ハト)”が、古いフランス語である”colonbin”を経て、14世紀に英語化したものだという。このように英語には個々の動物名に対応して、ラテン語起源の形容詞が別にある。これを外来形容詞と呼ぶそうだ。
「columbine」は少しずつ形を変えて、人名や国名にも使われている。例を挙げておこう。

◆「Columbus(コロンブス)」新大陸の発見者
◆「Colombia(コロンビア)」南米の国
◆「District of Columbia」米国ワシントン市コロンビア特別区
◆「Colombo(コロンボ)」スリランカの首都
◆「Colombo(刑事コロンボ)」TV映画

日本でも企業名や喫茶店の名前などに使われているのをよく見かける。世界的に分布しているハトは人々に馴染み深く、昔から愛される存在だったのかもしれない。平和の象徴でもあるしね。あっ、アレは白い鳩か。じゃ、食べるハト(笑)。ハトはフレンチの高級食材だもんね。

そういや、パリやバルセロナでもいたわ。但し、色柄は日本にいるのと同じだけど顔付きは違ってた。どこか外国人っぽい顔立ちなのだ。人と同じで、住む場所によって顔付きも変わってくるんだろね。
でもオラ、ハトが嫌いだから残念な学名だ。あの首の変な動きや、一応野生動物のクセに緊張感ゼロのゆるさに💢イラッとくるのだ。自転車に乗ってる時などは、ギリギリまでどいてくれないので轢き殺してやろうかと思うことさえある。
それで思い出した。昔、ワシなんかよりも遥かにハトが大嫌いな彼女がいたわ。デート中に、それはそれは恐ろしい憎悪の言葉をハトに投げつけておったわ。そのあまりの口汚さにコチラが引いたくらいだった。

 
【和名】

ナマリキシタバのナマリは、おそらく前翅の色が「鉛色」だからだと思われる。さしづめ漢字にすると「鉛黃下羽」だ。
この名前、嫌いじゃないし、悪いネーミングだとは思わないけど、ツマんないといえばツマんない。何ら捻りがないし、どこか安易さを感じるのだ。蛾には、この「ナマリ」という和名を冠した奴が幾つかいるしね。ナマリキリガとかナマリケンモンとかさ。
それにアズミキシタバの前翅だって鉛色じゃないか。だから雷とか稲妻に因んだ和名でも良かったんじゃないかと思うんだよね。今更こんなこと言っても詮ない話なんだけどもさ。

 
【亜種と近縁種】

(亜種)
◆Catocala columbina columbina Leech, 1990
中国・極東ロシア


(出典『世界のカトカラ』)

 
原記載亜種は大陸のものなんだね。
日本のものと比べて後翅内縁が黄色くなるそうだ。

 
◆Catocala columbina yoshihikoi Ishizuka, 2002
(日本)


(出典『世界のカトカラ』)

 
日本産は別亜種とされ、後翅内縁部が黒化する。
学名の亜種名「yoshihikoi」は、ヨシヒコ氏に献名されたものだろう。おそらく蛾界に貢献された名のある方なのだろうが、元来自分は蝶屋なので蛾界の事はあまり知らない。なので苗字も漢字も不明で、何ヨシヒコさんかはワカランのだ。

ちなみにネットの『ギャラリー・カトカラ全集』には「大陸のものとは別種である可能性が高い。」と書いてあった。だとすれば、学名は亜種名が昇格して”Catocala yoshikoi”となるワケか…。何かつまらんのぉー(´ε` )
できることならば、稲妻や雷などサンダーボルト的な、もっとカッコイイ学名にしてもらえんかのう(´ε` )
例えば「raizin」とか「ikazuchi」「raigeki」とかさ。ちょっとダサいけど「inabikari」でもいいや。一瞬、ラテン語で雷、稲妻を意味する言葉でもいいかもと思ったが、問題ありだと直ぐに気づく。ラテン語の雷といえば「fulminea」だが、でもコレは残念ながら使えない。なぜなら、既にキララキシタバの学名に使われているからだ。キララよか、よっぽどナマリの方が雷っぽいと思うんだけど、まあそこは致し方ないやね。
あっ、でも「fulminea」ってイタリア語だっけか。とはいうものの、イタリア語ってラテン語から派生した言語だもんね。
どっちだっていいや。段々面倒くさくなってきた。たぶんラテン語でも似たような言葉でしょう。

も1つ因みにだけど、後翅中央黒帯の内側が著しく黒化する異常型が知られていると何処かに書かれてあったけど、それに相当するような個体の画像は見たことがないなあ…。

 
シノニム(同物異名)に以下のものがある。

◆Ephesia columbina
◆Mormonia bella splendens Mell, 1933

上の”Ephesia”は古い属名である。下の”Mormonia”も古い属名だが、小種名の”bella”で❗❓と思った。bellaといえば、ノコメキシタバの小種名と同じだからである。
ちなみに、その後ろの”splendens”は亜種名で「素晴らしい」という意味だろう。
先ずは、あまり見たことがない属名”Ephesia”から調べてみよう。

Ephesia columbinaでググると下のような絵が出てきた。

 

(出典『Wikipedia』)

 
パッと見、ナマリキシタバに見えなかった。前翅の稲妻のような黄色が目立たなかったからだ。誰なんだ、アンタ❓
でもナマリキシタバの現在の学名”Catocala columbina”でググっても、この絵が出てくる。
まあいい。これ以上は調べようがない。切り替えて次いこう。
Mormonia bella splendensでググる。

結果、Mormonia bellaでは出てこず、「Mormonia」のみでしかヒットしなかった。そこには、こんな絵があった。

 
 
(出典『Wikipedia』)

 
てっきりノコメキシタバっぽい黄色い下翅のが出てくるかと思いきや、驚きの後翅が紅色じゃないか❗頭が混乱する。
コレって、ちょっとオニベニシタバ(註4)に似てねぇか❓
一応、確認しておこう。

 
(オニベニシタバ Catocala dula)

(2019.7.10 奈良市白毫寺)

 
後翅の黒帯の形は違うが、暗めの赤の色調と前翅の柄はオニベニに似ているようにも見える。絵だから、どこまで信用していいのかワカンナイけどさ。

だいたい、そもそも何でナマリキシタバがノコメキシタバ(註5)になって、オニベニになるのだ❓無茶苦茶だ。
そこで、やっと思い出した。アズミキシタバの解説編でDNA解析を見た時は、ナマリの近縁種はノコメだったような気がするぞ。

 

(出典『Bio One complate』)

 
図は拡大できるものの、トリミングしよう。
 

上がノコメで、真ん中がナマリ。そして下が別なクラスターに入ってるオニベニである。やはりノコメとは近縁であることを示唆している。
でも素人目だと、オニベニは元よりノコメにだって全然似てないじゃないか。
しかしだ。よくよく見れば、下翅は似ていると言わざるおえないかもしれん。ノコメの幼虫の食樹もナマリと同じくバラ科(ズミ)だから、近縁関係にあっても不思議ではないのだ。

 
(ノコメキシタバ Catocala bella)

(出典『世界のカトカラ』)

 
そう云う意味では「Mormonia bella」というシノニムは中々の慧眼だったと言えるかもしんないね。この時代に両者が近縁だと見抜いていた可能性がある。

それにしても、この系統図だと下翅の色は系統とは全然関係ないって事になりはしまいか。益々アタマがウニウニになる。
因みにアズミキシタバはこの図のずっと下にあるから、系統的には離れている。と云うことは羽の色は系統が近いからってワケじゃないのか…。
カトカラの分類って、ワケワカメじゃよ(+_+)

 
近縁種とされるものが幾つかある。

 
◆タイワンナマリキシタバ
Catocala okurai Sugi 1965
台湾


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅か緑色を帯びるので区別できるという。
成虫は6〜7月頃に出現するが少ない。食樹は不明だが、バラ科シモツケ属が予想される。
参考までに言っておくと、Wikipediaではナマリキシタバの亜種扱いになっていた。

 
◆オビナシナマリキシタバ
Catocala infasciata(Mell,1936)
中国雲南省・ミャンマー


(出典『世界のカトカラ』)

 
後翅の黒帯が表裏ともに全く消失する特異な種で、棲息地は局地的で稀。
前翅の横線はナマリキシタバに類似し、交尾器も似ているらしい。こんなの素人目には、絶対に近縁種と見破れないだろう。
成虫は6〜7月頃に出現する。これも食樹は不明だが、シモツケ属と推察されている。

 
◆ウスズミナマリキシタバ
Catocala jouga Ishizuka,2003
中国南西部〜ベトナム北部


(出典『世界のカトカラ』)

 
ナマリキシタバに似るが、前翅の色調、後翅黒帯の形状などにより区別できる。成虫は6月頃に出現するが少ない。食樹は不明。

(・o・)んっ❗❓
けどコレって、下翅の外側黒帯が離れているように見えるし、地色が明るめの黄色だからアズミキシタバに似てるぞ。
ホントにアズミとナマリって遠縁なのか❓もう何が何だかワカランよ。ヽ((◎д◎))ゝお手上げー。

 
【分布】本州、四国、小豆島、九州

東北から九州に局地的に分布する。北海道からは記録がない。
国外では中国、ロシア南東部(沿海州)に分布する。
長野県では、同じ食樹を利用し、同一場所に発生するフタスジチョウほどには寒冷地に適応していないとみられ、標高1800m以上のシモツケ群落には発生しないようである。

 

(出典『日本のCatocala』)

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
上の図は分布域を示し、下図は県別の分布を示している。

最初は奥多摩で発見され(それ以前の1956年に滋賀県鈴鹿山地で既に採集はされていた)、長いあいだ大珍品だったが、その後各地で生息が報告された。しかし、その分布は局地的で個体数も少なく、複数得られることは稀なようだ。ゆえに今でも稀種と言ってもいいだろう。『世界のカトカラ』でも珍品度が星★4つになってるしね。
分布が局地的な理由として、食樹の分布との関連性が指摘されている。これは食樹が崖地や岩場のような乾燥を好む植物ゆえ、謂わば本種は生態的に特殊な環境に依存しているからだと言い換えてもいいかもしれない。また、このような環境は防災上の理由でコンクリート化されやすいゆえ、さらに分布を狭めてもいるのだろう。人知れず絶滅している産地もあるに違いない。

本州中部では松本市や伊那市など長野県下に産地が多いが、やはり局所的。他に本州では東京都奥多摩町、埼玉県秩父市、新潟県糸魚川市、岐阜県白川村、滋賀県鈴鹿山地、兵庫県宝塚市、奈良県十津川村、岡山県高梁市等の産地が知られている。
四国では香川県高松市、小豆島や徳島県の那賀川上流で分布が確認されている。また九州では熊本県矢部町、大分県宇佐市・国東半島で発見されている。

 
【レッドデータブック】

埼玉県:R1(希少種1)
新潟県:地域個体群(LP)
富山県:準絶滅危惧種
岐阜県:情報不足
奈良県:絶滅危惧種Ⅱ類
岡山県:留意種
広島県:準絶滅危惧種
香川県:準絶滅危惧種
高知県:準絶滅危惧種
長崎県:準絶滅危惧種
大分県:情報不足

結構、多いね。こんだけ指定数が多いカトカラは初めて見るかもしんない。ようはそれだけ珍しい種だって事だわさ。

 
【開張】43〜53mm内外

そもそも大きいカトカラではないが、小豆島産は特に小型だと聞いている。確かに『世界のカトカラ』に図示されているものは明らかに小さい。

 

(出典『世界のカトカラ』)

 
右側が小豆島産である。確かに小さい。だけど左は♀だからなあ。相対的に♀の方が大きいようだし、隣の♀と比べたら小さいのも当たり前だと言えなくもない。
そういえば岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』にも小豆島産が載っていたな。

 

(出典『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』)

 
左が長野県産の♂で真ん中が小豆島産の♂である。やっぱ小さいね。
関西からは比較的行きやすい小豆島を訪れなかったのは、この小ささがネックになっていたからだ。憧れのナマリ嬢にガッカリしたくはなかったのである。

でもコレって『世界のカトカラ』と同じ個体のような気がするぞ。たった1例だけの比較だと、小豆島産は小さいと証明する材料としては弱いじゃないか。
けど、小太郎くんの知り合いが小豆島のナマリは小さいってハッキリ言ってるそうだから、きっと小さいんじゃないかな。
それを確かめに1回くらいは小豆島に行ってもいいかもしんない。小豆島には「島宿 真理」っていう泊まってみたい宿があるしね。

 
【成虫の発生期】 7〜9月

7月中旬から現れ、9月中旬まで見られるが、新鮮な個体は8月上旬までとされる。
長野県の生息地、伊那市(1000m イワシモツケ群落)、松本市(1550m アイズシモツケ群落)では7月末から8月にかけて羽化し、没姿するのは9月上旬。個体によっては9月中旬まで見られ、出現期間は約1ヶ月半。伊那市産を室内飼育(22.5℃)した場合の成虫寿命は3〜4週間であったという。

 
【成虫の生態】

食樹であるシモツケ群落が生育する蛇紋岩、石灰岩などの岩礫地に見られる。長野県では川沿いの浸食された段丘崖や渓谷の安山岩地に生育するアイズシモツケ群落にも発生する。

 

 
たぶん、こういう環境を好むのだろう。

思うに東日本では、食樹を同じくするフタスジチョウの産地と分布が重なる可能性があるから、フタスジの既産地から新たな生息地が見つかる可能性があるのではないか❓
また西日本では、この環境だとベニモンカラスシジミの産地で見つかる可能性が高いように思われる。ベニモンカラスの食樹はシモツケ類ではないが、同じような環境に見られるクロウメモドキだからだ。ベニモンカラスはナマリよりも更に局所的な分布なので、ナマリが居るところ=ベニモンカラスが居るとは言えないが、その逆は有り得ると思う。たぶんベニモンカラスの生息地にはナマリも棲息している可能性が高いのではなかろうか❓そういや実際、紀伊半島や中国地方のべニモンの有名産地には少ないながらもナマリの記録があるしね。これは逆にナマリの既産地からベニモンカラスの新産地が見つかる可能性も秘めていると云うワケだ。チャレンジ精神の有る方には、是非ともベニモンカラスの新産地発見にトライして戴きたい。

おっと、それならばクロツバメシジミと混棲している可能性もあるかもしれない。山地の崖に棲息するクロツも同じような環境を好むのだ。クロツの食樹であるツメレンゲは乾燥した崖に生えるからね。
ちょっと待てよ。クロツは河川敷にもいるから、梓川の下流域とかにもナマリが居たりしてね。ナマリは標高の低いところでも生息するから有り得るかも。
問題は食樹の有無だが、イブキシモツケは関西では標高100〜200mくらいの川沿いでも生えているからね。松本盆地の標高は500〜800mだから可能性はあるかもしんない。

成虫はクサボタンやシャジン類などの花に吸蜜に集まるが、上田市の低地(alt.500〜600m)ではクヌギの樹液にもよく飛来するそうだ。高松市内でも樹液に飛来すると聞いたことがある。しかし、兵庫県(alt.190m)で何度も糖蜜トラップを試してみたが、全く飛来しなかった。マオくんも長野県(alt.700〜800m)の多産地で試したが全く来なかったという。また、竹中氏からは紀伊半島の産地で試したがダメだったと聞かされている。
伊那市などの山地(alt.1050m)では成虫の生息数の割には餌を摂る個体数は少なく、摂る時期も発生後半に限られるという。これについて『日本のCatocala』の著者、西尾規孝氏は「低温のため、高温の低地ほど多くの栄養を必要としないかもしれない。」と書かれておられる。
納得できるような出来ないような微妙な説だ。理解できないワケではないのだが、北海道でもカトカラは樹液に集まるというし、自分も長野県の標高1700mで糖蜜トラップを試しているけど、オオシロシタバ、ムラサキシタバ、ベニシタバがそれなりに飛来した。白骨温泉(alt.1500m)ではムラサキ、ベニ、オオシロ、シロシタバ、ゴマシオキシタバ、ヨシノキシタバが飛来したし、平湯温泉(alt.1250m)ではベニとシロが来た。また開田高原(alt.1330m)ではゴマシオ、エゾシロシタバなどが集まった。確かに低地よりも飛来する個体数は少ないような気もするが、それなりには飛んで来るのだ。だとすれば、ナマリの糖蜜への飛来例を殆んど聞かないのはナゼなのだ❓
(´-﹏-`;)ん〜、やっぱメインの餌は花なのかなあ…❓
でも一度は糖蜜トラップでナマリを仕留めねば、気が済まないところがある。今のところ、我がスペシャル糖蜜で採れてないカトカラは、このナマリとアズミキシタバしかいないのだ。来年こそは、ナマリだって糖蜜で採れるということを証明してやろうと思う。

灯火には夜半過ぎに飛来することが多いとされる。
でも自分らのライトトラップには、最初に飛来したのが午後8時40分。以下10時前から10時20分の間、11時過ぎから午前0時過ぎ迄の間で、それ以降は全く姿を現さなかった。
マオくんも早い時間帯でも飛んで来ますよと言っていたから、夜半過ぎに飛来すると云うのは、あくまでもそうゆう傾向があると捉えた方がいいかもしれない。飛来時刻は、その日の気象条件に大きく影響されるのであろう。

アズミキシタバ程ではないが、地這い飛びで灯火にやって来る傾向があり、光源からやや離れた地面にいる事も多かった。しかしアズミみたく特に白布の下部に好んで止まるという事はなかった。アズミと同じく敏感で落ち着きがなく、近づくとすぐ飛び立ち、ムカつく。但し、これらは1回だけの経験なので、それが通常の行動パターンなのかどうかはワカラナイ。
尚、分布は局地的で少ないと言われるが、食樹の群生地では時に多数の個体が灯火に集まる事があるという。

昼間、成虫は頭を下にして石灰岩や安山岩に静止している。前翅は岩肌によく似ていて発見は容易ではないという。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
こんなの、至近距離でも見逃しそうだ。遠目だったら、間違いなく見つけることは至難だろう。
まだ試したことはないが、昼間に生息地の崖を網で叩いて採るという方法もあるらしい。驚いて飛び出したものを採集するようなのだが、また崖に止まったらワカランぞなもし。それに葉っぱに止まってくれることは滅多に無さそうだから、蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)採集よりも難しそうだ。
体力と根性が必要だから、やる人は少ないかもしれないね。だって灯火採集の方が遥かに楽だもん。酒飲めるしさ。
そんなだから蛾屋さんは普段ネットを振ることが殆んどない。採集はライトトラップ&毒瓶が主なのだ。ゆえにハッキリ言って網さばきが下手な人が多い。あっ、しまった。謀らずもディスってしまった。でもマオくんみたいな天才や蝶屋との2足のワラジの青木くんなどは別として、大半の人がそうだと思う。野球、テニス、ゴルフ、卓球、バトミントンetc…、道具を使う球技と同じだ。普段から、また昔からシッカリ振り込んできてないと、対象物をジャストミート、芯で捕えることは出来ないのである。

驚いて飛び立つと、上向きに着地して、瞬時に体を下向きに反転させる。

交尾の情報は極めて少なく、『日本のCatocala』の各種カトカラの交尾を表に纏めたものに、深夜午後11時〜午前2時とあるのしか見たことがない。どうやら飼育下の観察だから、おそらく自然状態ではまだ見つかっていないものと思われる。とはいえ、表には出てないだけかもしれないけどね。

産卵行動についての記述は全く見つけられなかった。
推察だが、おそらく同環境に棲むアズミキシタバのように崖や岩に生える苔類に産卵するものと思われる。

 
【幼虫の食餌植物】
 
バラ科 シモツケ属のイワガサ、イワシモツケ、イブキシモツケ、アイズシモツケ、ミツバイワガサが記録されている。

1981年、増井武彦氏により本種が香川県小豆島でイワガサを食樹にしていることが初めて明らかにされた。それをキッカケに、その後同属のシモツケ種群からも幼虫が発見された。

 
(イワガサ)

(出典『天草の植物観察日記』)


(出典『www.plant.kjmt.jp』)

 
学名 Spiraea blumei
海岸や山地の日当たりの良い岩場などに生育し、高さ1~1.5mになる落葉低木。漢字で書くと「岩傘」。名前の由来は岩場に生えて花序の形が傘に見えることからだそうだ。
分布は本州の近畿以西、四国、九州、朝鮮半島、中国。
若枝は緑色〜褐色で無毛、又はほぼ無毛で稜角がない。枝はしばしば弓なりに曲がる。
葉は互生し、長さ1.5~3.5cm、幅1~3cmの倒卵形~菱状卵形。時に3裂し、不規則な欠刻状の鋸歯がある。表面の脈はやや凹む。葉や葉柄は、ほぼ両面とも無毛。
一見すると同属のイブキシモツケと似るが、若枝や葉裏に毛の無いことから区別される。
花は5月に見られ、白色の5弁花を20~30個ほどつける。

変種にミツバイワガサ(別名タンゴイワガサ)がある。福井県以西の日本海側の海岸の岩場に生育し、兵庫県下ではイワガサと共に見られる。イワガサよりも葉が大きく広卵形。浅く3つに裂ける。

 
(ミツバイワガサ)


(出典『blog花たちとの刻』)

 
この特徴的な葉が名前の由来だろね。
各種図鑑には食樹としての記録は無いが、『兵庫県カトカラ図鑑』には、2012年に兵庫県美方郡新温泉町城山公園で幼虫が発見されていると書かれてある。

 
(イワシモツケ)

(葉)

 
学名 Spiraea nipponica
バラ科シモツケ属の落葉低木。漢字にすると「岩下野」。
日本固有種で、近畿地方以北に分布し、高い山地の日当たりの良い蛇紋岩地や石灰岩地に生育する。
高さ1〜2mになり、よく分枝する。若枝は淡褐色、古い枝は黒褐色を帯びて毛は無い。
葉は変異が多く、狭長楕円形、倒卵形、倒卵円形、広楕円形または楕円形になり、近縁種とされてきたマルバシモツケとナガバシモツケは現在では同種とされている。葉質は厚く、両面とも無毛で裏面は粉白色または淡色。縁は全縁か先端に2〜3個の鈍鋸歯があり、互生する。
花期は5〜7月。5弁花を多数つける。

尚、今のところアズミキシタバの自然界での食樹は、このイワシモツケのみが知られている。但し、飼育した場合は他のシモツケ類でも順調に育つようだ。

 
(イブキシモツケ)

(出典『風の翼』)


(2020.6月 兵庫県武田尾渓谷)


(出典『六甲山系の植物図鑑』)

 
学名 Spiraea dasyantha
「伊吹下野」と書き、名の由来は滋賀県の伊吹山で最初に発見されたため。別名にマンシュウシモツケ(満州下野)、ホソバイブキシモツケ(細葉伊吹下野)、キビノシモツケ(吉備下野)、トウシモツケ(唐下野)がある。
分布は本州の近畿以西、四国、九州。山地や海岸の日当たりの良い岩礫地に生え、高さ1~1.5mになる落葉低木。石灰岩地域の崖に多く、流紋岩質凝灰岩でも見られる。
枝はよく分枝し、やや弓なりに曲がる。若い枝は淡い赤褐色で、褐色の短毛が密に生える。
葉は互生し、長さ1.5~7cm、幅0.7~2cmの卵形~菱状楕円形となる。葉縁は不規則な欠刻状の鋸歯があり、しばしば3浅裂する。葉の質は硬く、葉の表面の脈は凹み、若い葉では軟毛が密に生え、裏面には褐色の毛が密生し、葉脈は隆起する。葉柄は長さ0.2~1.1cmで、ここにも軟毛が生える。
花期は4~6月。花は白色で、5弁花の小さな花を多数つける。

 
(アイズシモツケ)


(出典『Wikipedia』)

 
学名 Spiraea chamaedryfolia
漢字は「会津下野」。由来は福島県の会津地方で発見されたことによる。
日本では北海道、本州の中部地方以北、九州の熊本県に分布し、山地の日当たりのよい崖地や岩場、林縁に生育する。アジアでは東アジア、シベリアに分布する。基本種はヨーロッパからシベリアに分布する。
樹の高さは2mに達する。若枝は赤褐色を帯び、稜角があり、無毛、もしくは白軟毛がある。
葉は互生し、長さ3〜6cm、幅1.5〜3.5cm。形は卵形から広卵形または狭卵形。葉の先端は鋭頭で、基部は円形または広い切形。葉の表面は無毛か短伏毛があり、裏面は若葉時には軟毛があり、のちに無毛となる場合がある。葉の縁には基部以外の部分に鋭い重鋸歯がある。
花期は5〜6月。直径10mmの白色の5弁花を多数咲かせる。

紛らわしいものに、ミツバシモツケがある。
ミツバイワガサの誤表記かと思ったが、実際にそうゆう名前の植物は存在するようだ。しかし、およそシモツケの仲間には見えない。花も葉も全然似てないのだ。

 
(ミツバシモツケ)

(出典『garakuta box』)

 
調べたら、このミツバシモツケは北アメリカ原産のギレニア属の宿根草で、シモツケとは同じバラ科だが別属のようだ。

  
幼虫は、これらシモツケ類の比較的大きな株を好む傾向があるという。
尚、長野県下の飼育例では、ユキヤナギ、コデマリ、ヤブデマリ等の各種シモツケ類の柔らかい葉が幼虫の代用食になるそうだ。

 
【幼生期の生態】

先ずは卵から。

 
(卵)


(出典『日本のCatocala』)

 


(出典『flickriver photos from kobunny 』)

 
ナゼか同じサイトに別な色の卵もあった。

 

 
卵はやや背の高いまんじゅう型で、ベニシタバ、アズミキシタバ、ノコメキシタバに似る。縦隆起条は太く、気孔が明瞭に開口する。この形態は幼虫の食餌植物がバラ科やヤナギ科のカトカラの特徴のようだ。環状隆起は二重前後花弁状紋は2層、横隆起状の間隔は前極側で広く、後極側で狭くなる。

他のカトカラ(オニベニ、ムラサキ、シロ、ゴマシオなど)のように卵が一斉に孵化するのではなく、長期間に渉ってダラダラと孵化する。また孵化時期も他のカトカラよりも遅く、孵化に要する有効積算温度も、より必要なんだそうだ。これについて西尾氏は「日が当たると高温になる岩場表面での生活に適応した現象と思われた。」と推察されておられる。北海道には分布しないというし、寒冷系のカトカラではないんだろうね。
でもだったら、ナゼに武田尾みたいな低山地であれだけ糖蜜トラップを掛けたにも拘らず、1頭も寄って来なかったのだ❓標高が低い分、活発に動く筈だから、エネルギー源も必要だろうに。それに、この時期の武田尾には花なんてロクに咲いてなかったと思う。なんだから樹液とか糖蜜に寄って来るでしょうに。なのに、なして来んの❓キイーッ(`Д´)ノ❗、全くもって解せん。葉っぱの露でも飲んでるとしか思えん。
(´-﹏-`;)むぅ〜、まさか夏眠とかすんじゃねぇだろなあ。

 
(1・2齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
左が1齡幼虫、右が2齡幼虫。

 
(3齡幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
(5齡幼虫)


(出典『日本のCatocala』)

 
この5齡が終齢となる。

幼虫の体色変異は比較的あり、全体が白化したものや黒化したものが見られる。
3齡前後の幼虫は食餌植物の枝先にいるが、終齢になると日中は葉などの目立つところにはあまりおらず、木の根元や地表近くの枝、枯れてブラ下がった枝にいるようだ。また時に根元付近の岩上や草で見つかることもあるという。
ゆえにビーティング採集よりも、食樹を丹念にルッキングで探す方が効率は良いとされる。

4・5齡幼虫の食痕は、枝先の葉柄部と茎を残す形のようだ。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
アズミキシタバの幼虫と似るが、頭部の模様で区別できる。

 
(ナマリキシタバ終齢幼虫の頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
カトカラの幼虫の判別には、この頭部の特徴が極めて重要なのだという。参考までにアズミキシタバの頭部も載せておこう。

 
(アズミキシタバの幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
似ているが、よく見ると違うね。
ついでだから、アズミの幼生期全般も載せておこう。

 
(アズミキシタバの卵)

(出典『日本のCatocala』)


(出典『flickriver photos from kobunny』)

 
(アズミキシタバの2齢幼虫)

 
(5齢幼虫)

(出典『日本のCatocala』)

 
体色が灰色のナマリと比べて赤みがかるが、他のステージも含めて全般的に似てるね。どちらも2齢幼虫は黒いしさ。やはり幼虫や卵が似ているのは両者の食樹が同じで、成虫の前翅の色が似てるのとも関係があるのかもしれない。
では、下翅が似ていると言われてるコガタキシタバとはどうだろう❓

 
(コガタキシタバの卵)

 
(コガタキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
全然、(@_@)似てねぇー。
まあDNA解析の系統樹でも両者は離れてるからね。

では、DNA解析だと近縁とされているノコメキシタバとではどうだろうか❓

 
(ノコメキシタバの卵)


(出典『日本のCatocala』)

 
ナマリキシタバと比べて隆起状の数が40本以上あること(ナマリは40本未満)で区別できる。またアズミとは隆起状の間隔で判別できる。アズミは間隔が広く、それに比してナマリとノコメは間隔が狭いという。

 
(ノコメキシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala』)

 
幼虫は変異が多そうだから何とも言えないところがあるが、卵と終齢幼虫の頭部は似ている。自分はDNA解析に対しては懐疑的なところがあるが、これはその解析結果と合致していると言ってもいいだろう。

ついでだから、オニベニの幼生期の画像も添付しておこう。

 
(オニベニシタバの卵)

 
 
(オニベニシタバ終齢幼虫)

 
(終齢幼虫頭部)

(出典『日本のCatocala 』)

 
\(◎o◎)/超絶似てねぇー。
コレは完全に別系統であろう。全くもって的外れもいいところである。そもそもオニベニの食樹はバラ科ではない。全然違うクヌギなどのブナ科コナラ属だもんね。違ってて当たり前かもしんない。

来年はナマリさんの終齢幼虫探しをしてもいいかなぁ…。
あまりにも成虫が採れんし、非効率的過ぎるもん。だからか、多くの皆さんは幼虫採集で標本を得ているみたいだ。成虫採りよりも、よっほど楽に新鮮な標本が得られるという。
終齢だと飼育の苦労も少なそうだし、滅多に飼育をしないワシでも何とかなりそうだ。

とはいえ、成虫採りをやめたワケじゃない。
本当の恋は、まだ始まったばかりなのだ。

                        おしまい

 
追伸
書き忘れたが、蛹化場所についての情報も見つけられなかった。おそらく自然状態での蛹は見つかっていないのだろう。
それにしても崖だと何処で蛹化するのだろう❓まさか地面まで降りては来ないだろうから、崖の窪みに溜まった落葉の下辺りで蛹化するんだろね。

今回の第三章もタイトルを付けるのに苦労した。
どれがどの章に対してのモノなのかはハッキリ思い出せないが、以下のような候補のメモがあった。

『稲妻レェドゥン』
『稲妻コロンビーナ』
『雷雲と稲妻』
『雷神を追い求めて』
『雷撃レッド』
『雷(いかづち)の蹉跌』
『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』
『Nの昇天』
『カラビナ 鎖の掟』

とはいえ、メモっといて何で候補としたのか思い出せないものもある。ザッとした草稿は随分前に書いてあったのだ。タイトルは最初に決めてから書き出す場合と書いてる途中で思いつく場合とがあるのだ。
それはそうと、特にレッドと云うのが、よくワカラン。記憶を辿ってみよう。

『稲妻レェドゥン』は、サザンの「稲村ジェーン」がモチーフとなっている。レェドゥン(leaden)の意味は「鉛色の」がベースだが、他に「意気消沈した、重苦しい、陰鬱な」といった意味合いもある。これは、ようは第一章を想定したものだろう。ホント、その通りだったからね。思い出しても辛い9連敗だったよ。
このタイトルのことはすっかり忘れてて、第一章には『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』というタイトルを付けたけど、そんな仰々しいものよりもコチラの方が良かったかもしれない。まだしもこっちの方が少しはセンス有りじゃろう。今からでも改題してやろうかしら。

『雷撃レッド』は、そこからの更なる聯想だったと記憶している。レェドゥン(leaden)でググッたら「reddn(レェドゥン)」というのが出てきた。意味は「赤く染める」だが、他に「赤面させる」「(恥、怒り、興奮などで)赤を赤らめる」という意味合いもある。9連敗もして屈辱的だったから、タイトルとして考えたのだろう。レッドは、たぶんレェドゥンの略をモジったものじゃろう。『電撃レェド』よか『電撃レッド』の方が何となくカッコイイからね。で、雷撃はそのショックを表してるんだろね。

『雷神を追い求めて』『雷(いかづち)の蹉跌』『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も又、第一章の為に考えられたものだ。

一番最初の『雷神を追い求めて』は、タイトルまんまの意味だろうから説明不要でしょう。
とはいえ、もしかしたらどっかでプルーストの長編小説「失われた時を求めて」を意識したものだったのかもしれない。どちらもクソ長いものだからさ。でもきっと良いアレンジが浮かばなかったんだろう。その辺の事は全く記憶に無いけど。どうあれ、このままじゃベタ過ぎて使えないもんね。

『雷(いかづち)の蹉跌』は、挫折を表している。そんなに悪くないタイトルだと思うが、蹉跌の文字はハイモンキシタバの回(『銀灰(ぎんかい)の蹉跌』)で使ったのでカブるのを避けた。

『イカロスが幾たりも来ては落っこちる』も挫折の日々を表している。翼を得たイカロスが調子ブッこいて太陽に向かって飛ぶのだが、蝋(ろう)で作られた翼ゆえ、やがて太陽の熱に溶かされて墜死するという神話が下敷きになっている。
このイカロス神話で思い出したのが、梶井基次郎の短編小説「Kの昇天ー或はKの溺死ー」。その中の一節「イカルスが幾人も来ては落っこちる。」を思い出し、そこに少し手を加えてタイトルとした。
尚、イカロス(イーカロス)は古代ギリシア語の表記で、ラテン語読みだとイカルスと表記される。
余談だが、このギリシア神話の物語は人間の傲慢さやテクノロジーを批判するものとして有名である。

その「Kの昇天」からモロにパクったのが『Nの昇天』。
Nとは勿論ナマリキシタバの頭文字のNである。これは第二章に流用しようとした。結局使わなかったのはタイトルにするには色々と文章に仕掛けが必要だったからである。伏線となる文章を散りばめないとタイトルが薄っぺらくなっちゃうからね。けど、そんな筆力は持ち合わせていないので断念。

『雷雲と稲妻』も第二章を意識してのタイトルだ。
でもコレとて、そのまんまだと薄っぺらいから仕掛けが必要となる。けど同じく筆力なしゆえの断念だったね。

『カラビナ 鎖の掟』。
何だかVシネマのタイトルみたいだ(笑)。たぶんコレというモノが浮かばなくて、ヤケクソ気味で捻り出したのだろう。そもそも学名はコロンビナなのにね。頭の中でコロンビナとカラビナが鎖のように絡まってたんだろうけど、どうやって鳩からカラビナに持っていこうとしてたんだろ?かなりの力技が必要だから謎です。まさかのダジャレで何とかしようとしてたりしてね(笑)
これは何章に宛がわれたとかは、特に無かったように思う。

まあ、こんな屑ブログでも、タイトルを付けるのにはそれなりの苦労があるんである。

最後に今回のタイトル『嘆きのコロンビーナ』について少し触れて終わりにしよう。
嘆いているのは、コロンビーナ(ナマリキシタバ)ではない。ワタクシ自身だ。トラップに来ないことに嘆き、灯火に来ないことに嘆き、どうやって採ればいいのか分からなくなって嘆き、飛んで来たはいいが翻弄されまくって嘆き、上手く展翅写真が撮れずに嘆きで、全面嘆きだらけだったのだ。
そして、この今書いている文章にだって嘆いている。何度も何度も書き直しているのだ。一度完成してからも、解体、組み替えを繰り返している。つまりナマリキシタバの採集と同じく出口の見えないドン底状態に陥っていたのである。いつもにも増して時間と労力を費やしておったのだ。まあ、時間と労力を費やしたからって、優れたものになるとは限らないけどね。
やれやれだよ。

 
(註1)カトカラ界の両巨匠
世界的なカトカラ研究者である石塚勝己さんと日本のカトカラの生態解明に多くの足跡を残された西尾規孝さんのこと。
それぞれ『世界のカトカラ』『日本のCatocala』という蛾界に多大なる影響を与えた著書がある。

 
【世界のカトカラ】

 
【日本のCatocala】

 
どちらもカトカラを深く知るには必読の書である。

 
(註2)アズミキシタバ


(2020.7.26 長野県北安曇郡)

 
日本では長野県白馬村と新潟県奥只見にのみ棲息する最小のカトカラ。幼虫の食樹はイワシモツケ。
アズミキシタバについては、拙ブログに「2020’カトカラ3年生 其の壱」に『白馬わちゃわちゃ狂騒曲』『黃衣の侏儒』と題して2篇の文章を書いている。

 
(註3)コガタキシタバ

(2020.6月 兵庫県西宮市)

 
低地の雑木林に広く見られるが、同じマメ科を食樹とするキシタバ(C.patala)よりも個体数は少なく、見る機会はそれほど多くはない。稀種と言われていたフシキキシタバの方が寧ろ多いくらいだ。
コガタキシタバについては過去に『ワタシ、妊娠したかも』、その続編『サボる男』という2篇を書いた。それにしても、両方ともフザけたタイトルだよなあ。内容は全然もって覚えてないけど…。

 
(註4)オニベニシタバ
低地の雑木林に棲む下翅が紅色系統のカトカラ。
オニベニシタバについては本ブログの「2018’カトカラ元年」シリーズの其の8に『嗤う鬼』と題した文章がある。

 
(註5)ノコメキシタバ
主に高原に生息するカトカラ。
本ブログに『ギザギザハートの子守唄』『お黙りっ❗と、ベラは言った』という文章がありんす。

 
ー参考文献ー

◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』

(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『天草の植物観察日記』
◆『六甲山系の植物図鑑』
◆『風の翼』
◆『blog花たちとの刻』
◆『garakuta box』

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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