2020’カトカラ3年生 其の参

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   vol.26 ヒメシロシタバ 前編

 『天国から降ってきた小さな幸せ』

 
 2019年 8月2日

 

 
青春18切符の旅の二日目である。
大糸線に乗り、白馬駅で降りる。
駅前道路を車の往来がないからと赤信号で渡ったら、そこそこ離れていたポリ公が走ってきてメチャメチャ叱られた。信号無視でここまで声を荒げて叱られた事は無いんじゃないかと云うくらいの勢いだった。コチラが悪いんだから「はぁーい、ごめんなさーい。」と明るく言ったら、モノ凄い顔で睨まれたよ。
そういや渡った先にいたオバサンが「何もあそこまで怒らなくともいいのにねぇ。」と言ってくれたんだよね。
昔は長野県に良いイメージを持っていた。しかし蝶採りを始めるようになって頻繁に訪れるうちに段々嫌いなった。特に北部寄りを旅すると、しばしば腹立つことが多いのだ。たまたま会った人がそうなのかもしれないが、長野県人って、とかく真面目で冗談が通じない。心が狭小な人が多くて、すぐ怒るしさ。それに何か他所者(よそもの)を排除するような雰囲気を感じるのだ。勿論、いい人も沢山いるけどもね。
もしかしたら、自分にとっては食いもんが今イチで、蝶をすぐ採集禁止にするクセに環境の保全が疎かなのも心象を悪くしてるのかもしれない。

 

 
キャンプ場に泊まる。
ここでも嫌な気持ちにさせられたが、本旨とは関係ないので割愛する。

この日のメインターゲットは、まだ採ったことのないアズミキシタバだったが、同じく未採集のヒメシロシタバやノコメキシタバ、ハイモンキシタバもいるようなので、ついでに採れればいいなと思っていた。

 
【アズミキシタバ Catocala koreana】

(2020.7.26 長野県北安曇郡白馬村)

 
中でもヒメシロシタバは何とかなんじゃねぇかと思ってた。
なぜなら白馬村はカシワの木が多く、ハヤシミドリシジミの産地として知られているからである。ハヤシミドリとヒメシロの幼虫は同様にカシワを食樹としているので、ヒメシロも沢山いるだろうと読んだのである。

 
【ハヤシミドリシジミ】

(出典『日本産蝶類標準図鑑』)

 
糖蜜トラップを噴きつけたら、ソッコーでベニシタバが立て続けに飛んできた。エエ感じのスタートだ。
だが、さあこれからという段になって突然激しい雷雨がやって来て、チャンチャン(+_+)。撤退を余儀なくされ、テントの中でずっと雨だれの音を聞いていた。何だかなあ…。

そして、ようやく雨が上がったのは深夜近くの午後10時半だった。木の幹が雨でベチャベチャだし、糖蜜を噴きつけても流れてしまうので諦め、街灯回りすることにした。雨上がりには多くの蛾が飛来すると聞いた事があるからだ。それにアズミは糖蜜で採集されたという話を聞いた事がない。だから、むしろ灯火の方が採れる確率が高いかもしれないと考えたのだ。

歩き回って、何とか沢山の蛾が飛来してる灯火を見つけた。
しかしカトカラは1つもいない。周りにカシワの木も見受けられない。カシワ林が何処にあるか調べておくべきだったと後悔するも後の祭りだ。そもそも長野県くんだりまでハヤシミドリを採りに来た事などないのである。ハヤシくんは近畿地方には殆んどいないけど、中国地方には結構いるし、北海道の銭函では沢山見てる。ゆえに長野のハヤシになんて興味が湧かなかったのである。

だが午前0時を回ったところで力尽きた。いつしか雲はすっかり切れ、夜空には降るように星が瞬いていたからだ。それを恨めしく見上げる。灯火採集は晴天には向かない。条件が良いとされるのは月が隠れる曇りや霧、小雨の日だ。ただし晴れていても月の無い新月ならば好条件とされている。
実際、晴れた途端に虫たちの飛来が激減した。これじゃ粘っても多くは望めないだろう(註1)。昨日に引き続き討ち死に決定である。

 
 2019年 8月6日

旅は続いている。
その後、ヨシノキシタバ狙いで猿倉周辺まで行くが、又しても惨敗。大町市で何とかミヤマキシタバを、上田市でノコメとハイモンを仕留めてどうにか溜飲を下げた。そして意気揚々と松本まで帰って来た。

そして、再びカプセルホテルで英気を養う。

 

 
ずっとキャンプ場と野宿のテント生活が続いてて、身も心も疲弊していたから癒やされる。風呂って、日本人には絶対的に必要不可欠だよね。
ココは駅やスーパーからも近いし、何かと便利でオアシスだったよ。

翌日、リフレッシュして松本では有名らしい唐揚げ屋へ行く。

 

 
だがクソ不味かった。その事実を無理からに心の隅へと押しやり、余裕ブッかました体(てい)で安曇野市田沢へ向かう。
ここにカシワの木が結構あってヒメシロがいるらしい。ケンモンキシタバの記録もあるから、上手くいけば一石二鳥だ。両種とも樹液にも好んで集まるようだから、たとえ糖蜜が効かなくとも何とかなりそうだ。楽勝だろ。

しかし散々ぱら歩き回ったにも拘らず、カシワ林が見つからない。ケンモンの食樹であるハルニレも皆無だ。

そして、日が暮れた。

 

 
一応、糖蜜トラップをかけたが、キシタバが来ただけだった。まあ当たり前っちゃ当たり前の結果だ。近くにカシワの木が1本も無いのである。結局ポイントを見つけられなかったのだ。
ダメな時はダメだ。蝶採りの経験でダメな時はどう足掻いてもダメだと知っているのである。虫採りは常にフレキシブルな状況判断が求められる。ダメな場所で粘ったところで、時間と労力の無駄だ。さっさと諦めて転戦するのも虫屋の能力の一つだろう。逆に何としてでも粘るというのも、能力の一つなんだけどもね。但し、その場合は残るべきだという確固たる要因と己を信じる覚悟があっての話なんだけどもね。

だが、早々と8時半には心が折れた。粘る気力もなく、電車で松本に帰った。どう考えても採れる気がしなかったのである。バイオリズムがドン底なのだろう。この悪い流れの中でもミヤマ、ノコメ、ハイモンが採れたんだから、まだ頑張った方じゃないか。そう自分を慰めることくらいしか出来ない。

また居酒屋に入ろうかとも思ったが、どうもそんな気にはなれない。金払って怒るのが目に見えてる気がしたのだ。それくらい、この旅での流れは悪い。今日は大人しくスーパーで惣菜と酒を買って帰ることにした。

 

 
キリンラガーのロング缶2本と氷結レモン。
ヤケ男は(@_@)ベロ酔いする気、満々である。
ツマミは塩唐揚げ、ガーリックチキン、三種チーズのメンチカツ、ポテサラである。

ハッキリ言って、味はどって事ない。マズいとまでは言わないが、旨くもない。まあ予想通りなんだけどもね。
(´-﹏-`;)何だかなあ…。
ダメだぁ…。何もかんも上手くいかねぇ。ドッとテーブルに突っ伏す。この旅、何回目のテーブル突っ伏しだろう。半ば儀式化しつつある。
日程的には、まだ何日かは信州には居れるけど、この辺が潮時だ。もう大阪に帰ろう。ワニ眼で天井を見る。

閑話休題。
 
今にして思えば、まだこの時点でもヒメシロシタバを小物だと小馬鹿にしていたところがある。所詮、見てくれはコシロシタバと変わらんから、モチベーションが今一つ上がらなかったのだ。ゆえにさして固執せずに2日とも早々と諦めたのだろう。
それに、どうせそのうち何処かで序(つい)でに採れると思っていたフシがある。蝶や別のカトカラを採る時に併せて採れるんじゃないかと思ってたのさ。関西では兵庫県の北西部でしか採れないが、その先の中国地方で採れそうだし、長野県だったら本気になれば楽勝だと思ってたのだ。
だがその後、調べ進めるうちに結構珍しいことが段々と解ってきた。分布が思ってた以上に局所的なのだ。
そして極め付きは西尾規孝氏の『日本のCatocala』だった。
その中の稀度指数によれば、当時のカトカラ属全29種の中で、何とヒメシロは7位にランキングされているではないか。

 

(出典『日本のCatocala』)

 
1位がアズミキシタバ。希少度指数は338。
因みに、この希少度数はキシタバの出現メッシュ数339から当該種の出現メッシュ数を引き算した指数である。

以下、並べると次のようになっていた。

2位ヤクシマヒメキシタバ(331)
3位フシキキシタバ(312)
4位カバブキシタバ(311)
5位ナマリキシタバ(310)
6位ミヤマキシタバ(304)
7位ヒメシロシタバ(283)
8位ウスイロキシタバ(278)
8位ケンモンキシタバ(278)

強豪揃いの中での7位は大健闘だろう。ムラサキシタバやヨシノキシタバよりもランクは上なのだ。
ただし、出版年の2009年当時は、まだマホロバキシタバは発見されていなかったし、キララキシタバもワモンキシタバから分離されていなかった。またアマミキシタバもカトカラに組み込まれていなかった。これら分布域の狭い面々を加えれば、ランクは確実に3つ下がるだろう。
あっ、でも今やフシキキシタバ(註2)は普通種レベルに成り下がってる。と云うことは、ツーランクダウンの9位で済むか。

話は逸れるけど、フシキは2009年の時点ではまだ珍品の座に君臨してたんだね。このカトカラ集めが本格的に始まったのはフシキがキッカケだったから何だか複雑な気持ちだよ。たった三年前の話だけど、初めて見た時にフシキは珍しいと教えてもらったし、美しかったからカトカラを集める気になったのだ。
今や見ても何とも思わないが、冷静に見ればフシキはキシタバ類の中でもトップクラスに美しい。なおかつ珍品となれば、心躍る存在だったに違いない。今もそうなら良かったのにと云う気持ちがあるのだ。でも同時に今のように増えてなかったとしたら、そもそもカトカラ集めなんてしていなかった可能性が高い。だから複雑ってワケ。愛ある種類は沢山あった方がいい。

それはさておき、この希少度指数に疑問が無いワケではない。
ウスイロ、ケンモン(278)の後は、以下のような順になっている。

ノコメキシタバ(266)
ヨシノキシタバ(254)
クロシオキシタバ(253)
エゾベニシタバ、コシロシタバ(248)
ハイモンキシタバ(247)
アミメキシタバ(242)
アサマキシタバ(239)
オオシロシタバ(222)
ムラサキシタバ(219)
シロシタバ、ジョナスキシタバ(176)
コガタキシタバ(166)
ワモンキシタバ(160)
マメキシタバ(151)
ベニシタバ(134)
ゴマシオキシタバ(118)
オニベニシタバ(96)
エゾシロシタバ(93)
キシタバ(1)

今にして思えば、これを見てきっとハイモンよりもノコメの方が珍しいと思い込んだんだろうね。でも図鑑等ではノコメよりもハイモンの方が珍しいというのが定説だ。お陰様で、やらかしちまったもんなあ…。ハイモンの方が珍しいと知ってれば、あんなに苦労しなかったのにと思うよ。
希少と言われるムラサキシタバのランクが低いのもアレレ❓と思った。ベニシタバも思いの外に低い。逆にコシロシタバのランクが意外にも高かったりする。
まあ、こうゆうのは東日本に住んでる人と西日本に住んでる人とでは、その稀少度の印象が異なる可能性はあるんだろうけどもね。

 
 
 2020年 7月26日

2020年は何処でヒメシロが採れるかを朧げながらも考えてはいた。しかし、ターゲットの優先順位は下だったから、何かの序でに採れればいいと云う気持ちのままだった。
でも同時にヒメシロなんかが残るのは嫌だなあとも思ってた。最後に残りでもしたら、全然モチベーションが上がらないのは目に見えてる。こうゆうのは、コンプリートが近づくに連れて盛り上がらねば面白くない。

この日は小太郎くんとアズミ狙いで長野県白馬に入った。去年のリベンジである。けれど頭の中はアズミの事で一杯だった。ヒメシロもいるから考えでもなかったが、それも出発前までの事で、現地に着いた時は完全にその存在を忘れてた。

何とかアズミキシタバは採れた。

 

 
結局、ヒメシロは一つも飛んで来なかった。
しかし、それに気づいたのは家に帰ってからだ。申し訳ないけど、姫に対しての想いはその程度なのだ。だって、お姫様にしては地味なんだもーん(・o・)

 
 2020年 8月9日

前日、やっとの事で念願のナマリキシタバ(註3)を採り、この日は朝から小太郎くんとオオゴマシジミを採りに行った。

 
【オオゴマシジミ】

 
午後には奈川村へ行き、これまた久し振りのゴマシジミとの御対面。御対面と書いたのは、奈川村はゴマちゃんが採集禁止だからである。と云うワケで写真だけ撮った。

 
【ゴマシジミ】

 
そこから松本市の某温泉へ行くか木曽町に行くか迷ったが、木曽町を選択。小太郎くんは某温泉方面に行きたそうだったけど「どっちでもいいですよ。」と言うので遠慮なく木曽町をグイと選ばせて戴いた。なぜなら、勘がソチラを指し示していたからだ。自分は自分の勘に絶対的な自信を持っている。だから、たいした実力も無いのに何処でもいい虫が採れてしまう。引きが強いと言われるのは、そうゆう事なのである。

あとは小太郎くんに未採集のミヤマキシタバを採ってもらいたいと云う気持ちもあった。アズミキシタバとナマリキシタバは小太郎くんのライトトラップのお陰で採れたようなものだ。だから、お返しの気持ちもあった。もっとも小太郎くんはヤンコウスキーキリガの方が欲しかったようだ。コッチじゃなくてアッチに行きたかったのだ。それは後で分かるんだけどもね。

木曽町には夕方4時前に着いた。
で、有名なアイスクリーム屋でソフトクリーム食って、ヤマキチョウとツマジロウラジャノメのポイントの様子を見てから灯火採集が出来そうな場所を探した。
そして、とある場所へと辿り着いた。地名を何かの文献で見たような気がしたのだ。

 

 
やがて夕日は声も無く山並みの向こうへと沈んで行った。
そして今宵も虫たちの夜会が始まる。

午後7時20分、点灯。

 

 
点灯後、暫くしてワサワサと色んなものが飛んで来た。
けど、カトカラはキシタバにエゾシロ、オニベニ、ワモン、ゴマシオetc…と普通種ばかりだった。それでも楽しい。たとえ枯れ木も山の賑わいだったとしても、何も飛んで来ないよりかは百倍マシだ。何かと気が紛れるのである。甲虫なんかは初めて見る奴もいるので、飽きないのだ。

姫との邂逅は唐突だった。
灯火採集が始まって中盤の午後9時45分。背後で小太郎くんの呼ぶ声がした。

五十嵐さぁ〜ん、コレ、ヒメシロですよ。

小太郎くんは1週間ほど前に甲信越のどっかでヒメシロを採っているから、すぐに気づいたようだ。

(・o・)えっ、マジ❓

言われて初めて気づいた。ソイツはさっき見たけど、どうせエゾシロシタバだと思ってスルーしていた奴である。それに、この日のターゲットはミヤマキシタバだったから、頭の中にヒメシロの存在が全く無かった。
いや、全くではない。夕刻にライトトラップを設置する前に小太郎くんが「あっ、こんなとこにもカシワが生えてますよー。もしかしたらヒメシロも居るかもしれませんね。」とは言っていたのである。
勿論、カシワはヒメシロの幼虫の食樹だとは知ってはいた。しかし此処は1300mを超える山の中である。カシワといえば低山地や草原に生える木というイメージがあったから、たまたま生えてるだけだと思ったのだ。ゆえに言われても、そっちまで木を確認にさえ行かなかった。こんな山の上に沢山生えているワケなかろうから、ヒメシロなんておるワケないやろと頭から可能性をソッコー消したのである。

さして緊張することも無く、上から毒瓶を被せる。

 

 
何か、呆気ない形で採ってしまった。
こうゆうのを棚から牡丹餅、「たなぼた」と言うのじゃろう。冥加と言ってもいいかもしれない。

そして、手のひらに乗せて漸く気づく。自分の中で勝手に上翅はコシロシタバと殆んど同じで、下翅を見ないと区別できないものとばかり思ってた。しかし、よく見ると翅の質感がコシロとは異なる。色が少し茶色っぽいし、柄にややメリハリがある気がする。百聞は一見に如かずとは、この事だね。図鑑だけ見ててもワカラナイこともあるのだ。

写真を撮っていたら、小太郎くんが気を利かせてピンセットで上翅を上げてくれた。優しい奴である。

 

 
(☆▽☆)おー、まごう事なきヒメシロシタバじゃよ。
ここで、やっと採ったという実感がジワジワと湧いてきた。
バカにしてたけど、実物は意外と美しい。コシロよりも何処となく上品な感じがする。小振りで愛らしさもあるから、これなら姫と呼んでもいいかもしんない。黒き姫様だね。
でも待てよ。黒い姫って、どう考えてもイメージ悪いよなあ。普通に考えれば、主人公を窮地に陥れる悪キャラでしょうよ。ならば、黒き夜叉姫ではどうじゃ❓夜叉は鬼のイメージもあるけど、そもそも守護神だからね。

とにかく、これで正直ホッとした。心の隅ではヒメシロだけを探しに行くのは邪魔クセーなと思ってたからね。ラッキーだったよ。
これで懸案事項が又一つ片付いた。喜ばしいことだ。去年の「惨敗街道、絶讃!驀進中\(◎o◎)/=3」とは大違いだ。今年の長野遠征は連戦連勝のラッキー街道邁進中やんけ。ラッキー街道と書いたのは、たまたまラッキーが重なっただけで、何れも首の皮一枚みたいなところがあったからだ。どこかで選択を間違っていれば、惨敗の可能性も充分あったのである。

その後、立て続けに姫は飛んで来た。
で、前翅が違う感じのも採れた。

 

 
白斑がさっきのものよりも発達している。
前翅は変化に富むようだ。但し、微妙な変化みたいだけど。

裏返し写真も撮った。

 

 
腹先に縦にスリットが入ってるから♀だね。
見た目はコシロシタバと殆んど変わらない。違うと云えば、大きさくらいだろうか。ヒメシロの方が小さいし、胴体が細い感じがする。コシロの方がゴツいのだ。

この日は絶好調だった。その後もアホほど虫が飛んで来た。
カトカラは全部で15種類も飛んで来たもんなあ…。そして、まさかのヤンコウスキーキリガさんまでもいらっしゃった。

 
【ヤンコウスキーキリガ Xanthocosmia jankowskii】

 
渋くてエキゾチックな魅力がある。蛾好きの間で評価が高いのも頷ける。小太郎くんのテンションもバーンと上がったしさ。

昔は街灯に群れ飛んでいる蛾を見て、背中が死ぬほど凍りついたものだが、今や蛾の乱舞に心が躍っている自分がいる。
隔世の感である。人生、どこでどうなるかはワカランものだ。

 
                       おしまい

 
参考までに展翅画像と、ヒメシロとの比較のためにコシロシタバの画像も貼っ付けておきます。

 
【ヒメシロシタバ Catocala nagioides ♂】

 
【同♀】

 
♂の尻先は毛が多くて筆状になるが、♀は毛が少ない。

 
【コシロシタバ Catocala actaea】

 
裏面は前翅の先端にヒメシロは白紋が入るが、コシロには無いので判別可能です。

 
【展翅画像♂】

 
【同♀】

 
次回の解説編で詳しく書くが、慣れれば後翅の白紋と前翅の色、大きさで大体の判別はつく。

 
追伸
この文章も各種の話と通底している。2019年の惨敗を基点とするならば、ベニシタバ(『紅、燃ゆる』)、アズミキシタバ(『白馬、わちゃわちゃ狂騒曲』)、ミヤマキシタバ(『突っ伏しDiary』)、ハイモンキシタバ(『銀灰の蹉跌』)、ノコメキシタバ(『ギザギザハートの子守唄』)、ワモンキシタバ(『アリストテレスの誤謬』)、ナマリキシタバ(『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』)の話とも繋がってる。また2020年に繋がる話としては、ミヤマキシタバ(『真夜中の訪問者』)、ナマリキシタバ(『雷神降臨』)がある。そして、多分この先に登場する予定のカトカラとも繋がる事になろう。
散々な旅だったが、今にして思えば、後に繋がる重要な旅でもあったワケだ。諦めなければ、意味のない事なんてない。

実を云うと小タイトルは二転三転、四転五転している。
最初に付けたのは『たなぼたナギオイデス』だった。棚からボタ餅でナギオイデス(ヒメシロシタバ)が採集できたからだ。
でも、内容が読めて凡庸かなと思って『ペニーズ・フロム・ヘヴン』に変えた。何か映画のタイトルっぽくてカッケーかなと思ったのだ。これは棚ボタの英語版で、意味は同じである。
英語で書くと、Pennies from heaven. 単数形の”penny”はアメリカでは1セント硬貨の事だから、訳すと「天国から降ってきた小さな幸せ」という感じかな。
余談だが、ビング・クロスビーやビリー・ホリデイに同じ題名の有名な曲がある。
しかし、コレでも賢い人ならオチが簡単に解ってしまう。もうひと捻り欲しいところだ。なワケで、記事アップ直前に更なる改題をし、『冥加の黒き夜叉姫』とした。
「冥加」は棚ボタの替わりに思いついた言葉で「気づかないうちに授かっている神仏の加護、恩恵。思いがけない幸せ」といった意味がある。
さらに「棚から牡丹餅」の牡丹から日光の輪王寺大猷院の「牡丹門」を思い出した。この門は牡丹の花が多く装飾されていることから別名「牡丹門」とも呼ばれているのだ。

  

(出典『とちぎ旅ネット』)

 

(出典『下野新聞SOON』)

 
別名と書いたのは、正式名称が「夜叉門」だからだ。
寺は3代将軍・徳川家光の霊廟で、夜叉門の名の由来は四夜叉が安置されていることからという。
「夜叉」の発祥はインド神話で、男性はヤクシャ、女性はヤクシニーと呼ばれる。神話の中では、残虐かつ暴力的な悪鬼であったが、仏教に取り入れられて仏法や宝物を守護し、人々に恩恵を与える鬼神、守護神となった。日本では梵語の「yakṣa」が音写されて「夜叉」となったとされる。毘沙門天の眷族(けんぞく)とされ、八部衆の一人にも数えられている。
多くは鬼の形相で、刀などの武器を携えて描かれる。創作の分野においては、妖怪の一種として描かれたり、練達の戦士への称号として夜叉の名が付されたりもする。漫画、アニメ、ゲームの世界では、夜叉そのものよりも、その名を付された創作上の人物に宛がわれることが多い。
と云うワケで、さらに夜叉と高橋留美子の漫画『犬夜叉』とが繋がった。そして、その登場人物であるノミ爺さん「冥加」と繋がった。嘘みたいな円環である。一周回っとるやないけー。

 

(出典『如月まこのブログ「つきりんワールド。」!』)

 
また冥加は、その続編の『半妖の夜叉姫』にも登場する。
そう、姫とも繋がったのである。そして「黒き夜叉姫」は、あの名作漫画『北斗の拳』の登場人物「黒夜叉」ともリンクするのだ。

 

(出典『北斗西斗』)

 
冥加と黒夜叉は、どちらも言ってしまえば主人公を守る役割を担っている。つまり守護神なのだ。
たかだかタイトルを変更しただけで、エラい大袈裟な話になってまっただな(笑)。
でもこのタイトル、どこかシックリこない。また改題してしまうかもしれない。
と書いた15分後には『夜叉姫の冥加』に変えていた。コレとて満足したワケではないけれど、もういいや…。
そしてそして、何と最後の校正で『天国から降ってきた小さな幸せ』というメルヘンチックなタイトルになってまっただよ。もういいや…。

 
(註1)これじゃ粘っても多くは望めないだろう
後で知るのだが、この日は実を云うと新月であった。つまり、たとえ晴れていたとしても絶好の灯火採集日和だったワケだ。だから早々と諦める必要は無かったのである。午前0時前後から1〜2時間は蛾の飛来のゴールデンタイムとも言われているからね。もう少し粘っていたら、結果は違っていたかもしれない。この辺が、オイラの致命的に抜けてるところである。
まあ、この旅での流れは最悪だったから、同じ結果だったとは思うけどね。

 
(註2)フシキキシタバ

【Catocala separans】

 
フシキキシタバについては、2018’カトカラ元年シリーズの連載に『不思議のフシキくん』『ダミアンの闇』『不思議なんて無い』と題して三編の文章を書いた。第1話は、この一連のカトカラ話の最初の物語だ。よろしければ読んでつかあさい。

 
(註3)ナマリキシタバ

【Catocala columbina】

 
カトカラ屈指の美しい前翅を持ち、なお且つ屈指の稀種。
拙ブログに『汝、空想の翼で駆け、現実の山野にゆかん』『雷神降臨』『嘆きのコロンビーナ』の三編がある。

 

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投稿者:

cho-baka

元役者でダイビングインストラクターであり、バーテンダー。 蝶と美食をこよなく愛する男。

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