太刀魚の旬

 
太刀魚の切り身が安かったので、買うことにした。
その名の通り刀のようなピカピカした銀色とスマートな見た目が名前の由来だろう。
他に、普段は水中で縦にホバリングしている事から立ち魚と呼ばれるようになったと云う説もあるが、昔の人が水中で確認した可能性は低いだろうから、たぶん刀が本来の由来だろう。
このピカピカは鱗ではなく、グアニン質と呼ばれるもの。指で触れただけでもすぐ落ちるほど剥がれやすい。グアニン層から採った銀粉は、かつてはセルロイドに練りこまれて筆箱や下敷きといった文房具、また模造真珠やマニキュアに入れるラメの原料としても使われていたそうだ。

選ぶコツは簡単だ。先ずは表面のギラギラしたグアニンくんがピカピカである事。傷だらけな奴は鮮度が悪い。部位は頭に近い幅が太くて身が厚いところだ。

塩焼きにするかバター焼きにするか迷ったが、あえて面倒くさい方の塩焼きにすることにした。そっちの方が火入れは繊細さを求められるけど、どうしても塩焼きが食べたい気分だったのだ。

グリルが無いので扇状に金串を3本刺し、塩を軽く振ってガスの直火で焼く。距離を離したり、近づけたりして火加減を微妙に調整しながら付きっきりで10分はかけて焼いた。本来は炭火とかグリルで焼くものだから誠にもって面倒クセー。

織部に盛り付ける。
飾りのセリの位置に迷うが、まあこんなもんじゃろう。

 

 
(☆▽☆)💖あはぁ…。
期待通りのバッチシの旨さだ。脂が乗っているけれど、それでいて、しつこくない。マジ美味い。思えば、タチウオはガキの頃からの好物なのだ。

難点なのは骨が多いところ。しかも細くて硬いから、正直食べにくい。敬遠されるのは、その辺に理由が有りそうだ。
だが自分的には魚をキレイに食べられない人は残念な人だ。オヤジが口に入れて、ペッペッ、ペッペッと皿に吐き出してたのを思い出したよ。その姿に殺意を覚えてた記憶も甦った。
まあ、それで魚を食べるのが上手になったワケだから、怪我の功名なんだけどもね。
 
太刀魚の旬は夏だと言われるが、個人的には秋だと思う。
年中美味い魚だと思うけど、特に秋は肥えていて、脂が乗ってて美味なのだ。

そういや、Barを経営してる時に、クルーザーを持っているお客さんがいて、何度か乗せてもらった事がある。その何度かのうちの1回、秋に釣りの名人みたいな人も乗っていた。その人が釣り上げたタチウオをその場で捌いて刺し身にしてくれはった事があった。細切りにして塩を振り、檸檬を絞っただけのものだが、あの旨さは忘れられない。生のタチウオで、あれだけ美味かったものは嘗て無い。皮目を炙らずとも、あれだけ美味いタチウオは後にも先にも無い。余談だが、生きてる時は無茶苦茶美しい。ピカピカ度は更に高くて淡い青色に光っているのだ。

 

(出典『ORETSURI』)

 
とはいえ、タチウオの一番うまい食い方は、火入れしたものである。熱が入ってる方が、より上質な脂を堪能できるからさ。
次、良いものがあったらバター焼きにしよ〜っと。醤油を少し垂らして食うとバリ旨いんだよね。

                       おしまい