vol.26 ヒメシロシタバ 後編
『の・ようなもの』
後編は解説編である。
今回も外国産のカトカラは石塚さんの『世界のカトカラ』、生態面は西尾規孝氏の『日本のCatocala)』のお力をお借りして書きます(註1)。
【ヒメシロシタバ Catocala nagioides ♂】
(2020.8.9 長野県木曽町)
アホみたいにズラリと同じ個体を並べたのは、新しいスマホがちょっとした光の加減で違う色に写るからである。前のスマホまで導入して撮ったが、どうにも上手く撮れないのだ。
そうゆうワケで『世界のカトカラ』の図版画像も載せておく。
(出典『世界のカトカラ』)
【同♀】
(2020.8.9 長野県木曽町)
(出典『世界のカトカラ』)
コシロシタバ(Catocala actaea)に似るが、より小さい。
前翅はコシロシタバと比べて少し幅が狭く、一様に暗褐色のものが多くて斑紋は明瞭でない。しかしコシロシタバと比して中剣紋は明瞭である。腎状紋内側から亜状紋にかけて著しく白化するものがある。
後翅は黒の地色に白い紋が入るが、コシロシタバの白紋よりも短くて第3脈で終わり、白斑と白点との間の黒色が広いことで区別できる。また、後翅の翅頂にはコシロシタバより明瞭な小さな白紋がある。胸背部は前翅と同じ色調、腹部は暗灰褐色である。
各種図鑑を参考に、だいぶ解りやすくまとめたつもりだが、一般の人からすればチンプンカンプンで難解な文章だろう。専門用語か入るのは仕方がないとは思いつつ、昔からどこかでそれに疑問を感じてた。もうちょっと何とか解りやすくならんものかねと思っていたのである。
なので、自分フィーリングで書いてみる。
ヒメシロとコシロを野外でパッと見で区別する方法は、上翅の質感と色である。コシロは上翅がベタな濃紺で、地色が濃い。一方、ヒメシロの上翅はやや淡い茶褐色で、太くて濃い横線が入り、ベタではなく模様に少しコントラストがある。但し、色はくすんでいる。また大きさは、コシロシタバと比べてヒメシロの方が相対的に小さいものが多い。
標本の場合は下翅の白い紋が決め手。その白い紋がヒメシロはコシロと比して短い。また、その下の白点との間隔がコシロよりも離れており、且つ小さくて不鮮明。もしくは今回採れた個体のように消失する。
加えて下翅の肩の部分(横上)に白い紋が目立つ。この白い部分が、コシロは細くて狭い。
何のこっちゃない。自身、感覚的でしか捉えていないから、こうゆうファジーな感じの記述になる。特に前半の上翅の解説なんかは、その傾向がある。
ファジーだと人によりイメージに差異が生じる可能性がある。難解ではあっても、図鑑の記述にはそれなりの意味があるのだね。にしても、何とかならんかね❓(笑)
そのファジーな言葉を画像化しよう。
(ヒメシロシタバ)
(2020.8.9 長野県木曽町)
上のような前翅のものが多いが、白斑がやや発達した下のような個体もいる。
それにヒメシロは翅を閉じた状態だと、上図のように会合部の真ん中やや下に、太い「М」のようなマークが浮かび上がる。
わかりにくいと思われるので、画像を明るくしてみよう。
コレで、さっきよかMの文字が解りやすいだろう。
まだ採ったことがない頃は、図鑑で両種を見て正直こんなのフィールドで直ぐに区別できんのかね❓と感じてた。どうせ下翅は隠れているから一々上翅を上げて下翅の白紋を確認するのは億劫だなと思ってたのだ。けれど実物を見て、慣れればそう判別は難しくはないと体感した。前翅の質感がコシロとは明らかに違うのだ。百聞は一見に如かずである。繰り返すが、コシロはもっと柄にメリハリが無くベタで、色が濃紺な感じだが、ヒメシロは茶色っぽくて、コシロと比べて少しメリハリがあるのだ。
と云うワケで、コシロシタバの画像も貼っつけておく。
(コシロシタバ Catocala actaea)
(2019.7月 奈良市)
(出典『世界のカトカラ』)
前翅中央の白紋が小さいが、ヒメシロよりも白くて目立つ。ヒメシロはココに褐色の鱗粉が混じり、ぼやけたような白に見えるものが多い。また、その下の白点は、あまり離れておらず、大きくハッキリしている。この白点がヒメシロは離れており、しかも小さくて薄い。
裏面画像も添付しておこう。
先ずはヒメシロちゃんから。
(ヒメシロシタバ裏面)
(出典『日本のCatocala』)
腹の感じからすると、多分♀だろう。
自前の展翅画像も付け足しとこう。
(♂裏面)
(♀裏面)
雌雄の見分け方は、以下の通りである。
(裏面♂)
♂は尻先に毛束があり、縦のスリットと産卵管が見受けられない。
横からの画像も貼付しておこう。
♀と比べて腹部は細くて長い個体が多い。また、尻先に毛束があるゆえ鈍角になる。
(同♀)
♀は腹が太くて短い個体が多い傾向にある。
フィールドで雌雄を確実に見極める方法は、この尻先にある。こうして縦にスリットが入り、その下に黄色い産卵管が見えていれば、100%♀と断定して差し支えないだろう。
横から見ると、♀は尻先がやや尖る傾向にある。これは毛が♂と比べて薄いせいだろう。
参考のためコシロシタバの裏面も貼付しておこう。
(コシロシタバ裏面)
生きてる時は青白く見えるが、死んで時間が経てば経つほど白くなる傾向があるような気がする。尚、雌雄の見分け方はヒメシロと同じである。
(出典『日本のCatocala』)
それにしても、パッと見はヒメシロシタバと殆ど同じである。
違いは前翅の翅頂にある。ヒメシロは翅先に小さな白い紋、謂わばホワイトチップがあるが、コシロには白紋が殆んど見受けられない。地味な区別点だが、野外では表側で判断するよりも尻先と、この裏面の白紋で判断する方が寧ろ確実なのではないかと思う。この白紋って盲点じゃなくね❓図鑑とかには書いてなかった筈だからね。
蛾における種の判別についての記述は、大概が表のみで、図鑑でさえも裏面に関して言及される事は少ない。常々これが不満だった。裏面についても書いてくれれば、同定がかなり楽になるからだ。蛾は種類が多いので裏面まで図鑑に載せれば、膨大な紙数になる事は理解できる。でも最近はカトカラやキリガ、ヒトリガなど属や科単位の図鑑も出版されているんだから裏面を載せる事だって可能だと思うんだよね。そこに裏面での判別法も書けば、蛾の図鑑としては画期的な事だと思うんだけどなあ…。誰かがやり始めたら、それが当たり前になるかもよ。
それはさておき、こんなに似てるのにも拘らず、驚きだが近縁種ではないらしい。
それについては、後に別な項で書くつもりだ。気になる人も退屈男の退屈文章に耐えて読み進めて下され。我慢しないと、カタルシスは得られないと言いたいところだが、このあと面白い文章を書く自信はない。だから皆さんがカタルシスを得られなくとも一切責任はとらんけどね。
【学名】 Catocala nagioides Wileman, 1924
属名の「Catocala(カトカラ)」はギリシャ語由来で、kato(下)とkalos(美しい)という2つの言葉を繋ぎ合わせた造語。つまり下翅が美しいことを表している。
小種名の「nagioides」は、語尾に「〜oides」と付く事から「〜のようなもの」「〜に似てる」とかモドキ的な意味であろう。問題は「〜」の部分が何かという事だ。どやつと似てるって言ってんのかね❓
早速、前半分の綴り「nagi」でググッてみる。
ヽ((◎д◎))ゝあちゃまー、生理用品のブランドの「nagi」関連のものがズラズラと並んどるやないけー。こんなの、もし誰かに閲覧履歴を見られれば、確実に変態だと思われるだろう。
やれやれ。早くも迷宮徘徊の予感だ。
次に「nagio」で調べてみるが、頭に出てきたのがアプリケーションソフトウェアの「nagios」。あとはナギオくんとか薙尾(なぎお)さんとかのページばかりだ。焼肉好きでフリマで生計立ててるナギオの逃走劇なんぞに付き合ってるヒマはないのだ。先を探そう。
やっとこさ他のが出てきたと思ったら、ニュージーランドの木とか「衰える」だとかロクなもんしか出てこない。そもそもニュージーランドにカトカラは分布してないし、それに「木」ってどーよ❓食樹であるカシワの学名は”Quercus dentata”だから全然関係ないじゃんか。
「衰える」なんてのもマイナス過ぎて有り得んだろう。学名に、そんな不吉な名前を付けるかね❓普通、ないっしょ。あ〜あ、又しても学名の迷宮に迷い込んどるよ。
もしかして元々は「nagi」という言葉ではなくて、別な言葉が「oides」とクッ付くことによって語尾が変化、消失しているのかもしれない。
勘で『nagia』で検索してみた。
✌️ビンゴ💥❗一発で出たっ❗
(出典『Wikipedia』)
こりゃ、確かにパッと見はヒメシロシタバに似てるわ。
よく見れば、前翅は全然違うけどね。でも、この見てくれだったら「のようなもの」という学名でも納得だね。さすがウィキペディアである。何でも出てくるわい。
けど、絵なんだよなあ…。ここは当然だが、画像でも確かめとかないとイケないやね。
Nagiaは、Erebidae科の属名とあるから、そこを突破口にしてラビリンスから脱け出そう。
(出典『nic.funet.fi』)
絵よりも白紋が大きいね。ヒメシロとのソックリ度は、だいぶ下がったな。もしかしたら、コヤツは絵の奴とは同属の別種、或いは亜種かもしれない。
それはそうと、こんな展翅の仕方もあるんだね。コレはコレでカッコイイかも。今度、試してみよっかな…。
あとはフィールド写真だ。これが似てさえいれば、完全解決だろう。代表種らしき”Catephia alchymista”というのでググッてみる。
あれっ❓、Catephia❓Nagiaじゃないのか…。どうやら属名は変更になってるみたいだね。
(出典『Moths and Butterflies of Europe and North Africa』)
コレならば、野外だと一瞬はヒメシロに見えるね。
「のようなもの」でいいでしょう。完全納得です。
同属の別種みたいなのも出てきた。
(出典『SchmetterlingeundihreÖkologie』)
これなんかは、より見た目はカトカラっぽい。ヒメシロとは別物のカトカラっぽいけどさ。
名前を調べようとして、新しい方の属名”catephia”を入れたところで手が止まる。
日本にも、こういうの居なかったっけ(・o・)❓
コレってナカジロシタバじゃなくね❓
調べてみる。
(ナカジロシタバ Aedia leucomelas (Linnaeus, 1758))
(出典『フォト蔵』)
学名が違うが、近縁種だろう。灯台もと暗しってのは、こうゆう事を言うんだろね。
にしても、又しても属名が変わっとんのかあ❓ワケわかんねぇや。
一応、標本画像も確認しておこう。
(出典『日本産蛾類標準図鑑』)
分布は本州、四国、九州、南西諸島。(+_+)何だよー、それって何処にでもいる普通種っぽいじゃないか。
という事は何処かで見てる筈だが、全く印象にない。何でやろか❓と思ったら、開張が33〜40mmしかない。ヒメシロはカトカラにしては小さいが、それでも48〜57mmくらいある。そんなだから、似ているとは露ほども思わず、クソ蛾としてスルーしてたんだろね。少なくとも、日本では「〜のようなもの」ではないだろう。😱ヤバい。説明がつかんくなる。
そうだ、或いはヨーロッパのこの手の仲間は大きいのかもしんない。じゃなくとも見た目のデザインが似てさえいれば、充分「のようなもの」の範疇だったと思いたい。大昔はおおらかで、そこまで物事に厳密的ではなかったのだろう。つまり大きさは重要ではなかった。そうゆう事にしておこう。
ところでコイツ、ヨーロッパにもいるのかな❓
調べてみると、ヨーロッパにもいた。どころか北アフリカ、中央アジア、中国、インドシナ半島、朝鮮半島、台湾、インドネシア、フィリピン、ミクロネシア、フィジーとアホみたいに何処にでもいるじゃないか。オマケに発生は年2〜3化だし、幼虫の食草はサツマイモとノアサガオ(ヒルガオ科)ときてる。その時点で、ド普通種の害虫じゃんか。完全に興味失くしたよ。もうキミなんてどうだっていいわ(ノ ̄皿 ̄)ノ ⌒== ┫
【亜種と近縁種】
見たところ、亜種はいないもよう。
シノニム(同物異名)に以下のようなものがある。
・Ephesia nagioides Wileman, 1924
・Ephesia sancta
・Catocala sancta Butler, 1885 (preocc. Hulst, 1884)
一番下の「Catocala sancta」とゆうのは、Pryerが北海道で1♂2♀を採集し、Butlerが1885年に記載したものだ。
日本のモノは残念ながら無効になったワケだが、「sancta」って語源は何なんだろね❓ あっ、やめとこ。無効になったものを追いかけてもしゃあないがな。更なる迷宮は避けたい。
近縁種かどうかは分からないが、見た目が似たモノが数種いる。既に登場しているが、先ずはコシロシタバから。
【コシロシタバ Catocala actaea】
(出典『世界のカトカラ』)
分布は日本、中国、朝鮮半島、ロシア南東部(沿海州)。
どうやら亜種区分はされていないようだ。
蛾界の偉人である故杉繁郎氏は後翅の斑紋パターンを根拠にコシロシタバの姉妹種としたが(1987′)、明瞭な類縁関係は認められないという。
一応、DNA解析で確認しとくか。
(出典『Bio One complate』)
\(◎o◎)/ゲッ、キシタバ(C.patala)と近縁になっとるやないの。コレだからDNA解析は信用ならんのだ。
(キシタバ Catocala patala ♀)
(2019.6月 大和郡山市)
石塚勝己さんが『世界のカトカラ』で、それについて言及されておられるので一部を抜粋しよう。
「日本産種を中心にしたミトコンドリアDNA ND5の塩基配列では極くわずかではあるがコシロシタバとアミメキシタバに類縁関係が認められた。そしてなんとヒメシロシタバはキシタバ(patala)と極わずかながら類縁関係が認められた。もしこの結果が正しければ、ゲニタリア(交尾器)の相違関係を反映していないことになる。地史的に比較的新しい時期に種分化したものは互いにゲニタリアは似ているが、古い時期に種分化したものはゲニタリアにまで著しい違いが出てくる可能性があるのかもしれないが、全くの謎である。
現時点では、マメキシタバとエゾシロシタバもアミメキシタバとコシロシタバもそれぞれ互いの類縁関係はないと解釈するしかない。後翅の黒化は、北アメリカでは地史的に比較的最近の出来事ではあるが、旧大陸(ユーラシア大陸)ではかなり古い時代にいろいろな系統内で生じたのではないかと思われる。」
(出典『世界のカトカラ』)
マメキシタバとエゾシロシタバは見た目がかなり違うが、幼生期の形態や生態が似ている事から、昔から近縁関係にあることは示唆されていた(註2)。
アミメキシタバとコシロシタバが近縁とは全然考えもしなかったよ。ちなみに幼生期は似てるっちゃ似てるし、似てないちゃ似てない。終齢幼虫の頭部なんかは一見全然違うように見えるのだが、よく見れば模様のパターンは近いものがあるかもしれない。
国外に目を向けよう。
【アサグロシロシタバ Catocala nigricans (Mell, 1938)】
分布 中国
(出典『世界のカトカラ』)
一見ヒメシロシタバやコシロシタバに似るが、後翅の白紋の形が違い、より大型。成虫は夏季に現れるが少ない。食樹は不明だが、ブナ科である可能性が高い。
一応ググッたら、シノニムとして↙こんなのも出てきた。
Catocala actaea nigricans (Mell, 1939) (Shanxi)
どうやら以前は、actaea(コシロシタバ)の亜種扱いになってたようだね。でも前翅の色柄はコシロよりもヒメシロに近いように見える。
【チベットクロシタバ Catocala xizangensis (Chen, 1991)】
分布 チベット
(出典『世界のカトカラ』)
チベットの波密で8月に2♂のみが採集されていると云う大珍品だそうだ。しかし、そんな事よりもその馬鹿デカさと迫力に度肝を抜かれたよ。
とはいえ、この画像では伝わらないんだよなあ…。
(ノ`Д´)ノえーい、全部まとめて載っけてしまえ。
(出典『世界のカトカラ』)
一番上の列がコシロシタバ、二番目がヒメシロシタバ、最後の列の右下がチベットクロシタバ、残りがアサグロシロシタバである。こうやって一同に会すと各種の大きさがよく解る。コシロシタバだって言うほど小型ではないから、アサグロシロシタバが結構大きいことが想像できる。クロシオキシタバくらいは有りそうだ。そして、チベットクロシタバである。コレで、その馬鹿デカさがよく解るざましょ。
【和名】
コシロシタバよりも小さいゆえに名付けられた和名だろう。
昆虫の名前に「ヒメ=姫」と付けば、「コ=小」よりも更に小型なモノに付けられるケースが多いのだ。
まあ、それは別に構わないいいのだが、んな事よりもどこがシロ(白)やねん❗❓
コシロもそうだけど、下翅は白よりも黒の領域の方が遥かに多いからクロシタバやんけ❗まさか裏面を指しての命名由来でもあるまい。もしそうだったら、チャンチャラオカピーだ。そう誰しもが思う、ズッコケ和名だ。シロシタバよか小さいオオシロシタバとか、このシロシタバ系の和名は問題だらけだ。和名を付ける人はもっと考えてから名付けろよなー(´ε` )
名が体を間違って表してるネーミングは屑ネームだ。後々、皆が混乱するような和名を付けんじゃねーよ。今からでもいい、トットと改名なさい。
書いてて、ふと思う。蛾の中では人気の高いカトカラだが、それでも世間的に見ればマイナーな存在だ。蝶屋でも知らない人は結構いたりするからね。だったら今後は蛾の人気も高まってくることが予想される事だし、早めの今のうちに変えたらどうだろ❓ 次の図鑑辺りにガバッと変えても問題は少なかろう。文句を言う人間だってマイナーな今なら少数に違いない。石塚先生、変えるのなら今がチャンスですぜ( ̄ー ̄)ニヤリ(笑)
もし変えるのなら、真っ先にキシタバ(C.patala)を何とかして欲しい。キシタバと聞いて、それが種そのものを指しているのか、それとも下翅が黄色いカトカラの総称を指しているのかを一瞬考えねばならぬのが、誠に邪魔クセーのだ。学名そのままの「パタラキシタバ」か、デカいんだから「オニキシタバ」辺りでエエんでねぇのと思う。変えるとしたらあとは前述したシロシタバ系のオオシロシタバ、コシロシタバ、ヒメシロシタバくらいでいいかな。シロシタバはそのままにしておき、オオシロだけを某かに改名すればいいだろう。シロとオオシロを入れ替えてしまうと余計に混乱が起きそうだからさ。
個人的には他にもゴマシオキシタバとかエゾシロシタバ、ノコメキシタバ、コガタキシタバ、ウスイロキシタバなんかも変えて欲しいけどね。ゴマシオは胡麻塩から来ているのだろうが、ダサい。何か他に替わるものがないのかなと思う。エゾシロは最初に北海道で見つかったからなのだろうが、北海道以外にもいるから実情と合ってない。ノコメは鋸からの由来と思われるが、言うほどノコギリ感は無い。コガタは見た目が似ているキシタバ(C.catocala)よりも小さいからの命名だろうが、したらキシタバをオオキシタバにしないと、何を対象として小型なのか分かりづらい。でもオオキシタバはダサいからオニキシタバにして欲しいなあ。ウスイロもダサい。色は確かに薄いけど、生きてる時は象牙色で美しいのだ。もうちょっとマシな名前に変えてあげて欲しいよ。
名前問題はこれだけでは終わらなかった。
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』の【旧名,別名,害虫名,同定ミスなど】の項目には、何と「ヨシノキシタバ」と書いてあったのだ。ヨシノキシタバは既に存在しているぞ。
(ヨシノキシタバ ♀)
(出典『世界のカトカラ』)
だいたいがだ、そもそもコレは旧名なのか❓別名なのか❓それとも同定ミスなのか❓しかし、それについては全く言及されていないのだ。まさかの害虫名だったりしてネ。まあ幼虫の食樹はブナなんだから、無いとは思うけどさ。
どうであれ、イカレポンチな話だ。付き合ってらんないや。
【開張(mm)】 48〜57mm内外
見た目が似ているコシロシタバよりも小型なものが多く、ある程度は大きさだけで区別できる。
とはいえ、上翅の色、柄、全体的なフォルム、謂わば質感で見極める方が間違いない。この方法は他のカトカラでも有効な手段だ。各種の特徴を質感でインプットしてしまえば間違えることはあまり無くなる。見慣れれば、不思議なもので自然と一見して種類は分かるようになるものだ。わかんない人はセンスが無いと諦めましょう。
【分布】 北海道、本州、四国、九州、対馬
海外では、中国東北部、アムール(ロシア南東部)、朝鮮半島に分布する。
(出典『日本のCatocala』)
(出典『世界のカトカラ』)
上が分布域図で、下が県別の分布図である。この点には留意されたし。例えば淡路島には分布していないが、県別図だと兵庫県だから塗り潰されてしまうという事だ。
見て、いきなり(・o・)アレッ❗❓と思った。四国が空白になっているじゃないか。でも県別分布図の『世界のカトカラ』の解説には、分布に四国も含まれてた筈だぞ。
慌てて確認してみたら、やはりそうだった。四国は入ってる。解説と分布図が違うって、どゆ事❓マジかと思って、岸田先生の『日本産蛾類標準図鑑』でも確認してみたが、コチラも四国が含まれている。けど、四国にヒメシロなんて居たっけ❓何だ❓、この予想外の展開は❓こんなとこで躓くとは思いもよらなかったよ。
ならばとネットで検索してみる。
『みんなで作る日本産蛾類図鑑』には四国は含まれていなかった。しかし殆どのブログ記事には四国が含まれている。にも拘らず、それについては特に言及されていない。どうせ大半が孫引きなのだろう。そんな中にあって『昆虫漂流記』というブログだけが「四国の情報は皆無。」と書いてあった。👏パチパチである。
分布は局所的。これは幼虫の食樹であるカシワ林が生育する場所にしか棲息しないためである。ゆえに海岸部や高原のカシワ林に生息地が多い。
北海道では多いのかなと思っていたが、ブログの記事なんかを見てると少ないそうだ。
『世界のカトカラ』の「日本産Catocala都道府県別種類数」という表によれば、東北地方は全県に記録がある。青森県はレッドデータブックではDランク(情報不足)となっているが、ブログ『青森の蝶たち』には、カシワ林に多産すると書かれてあった。
関東地方では茨城県と千葉県に記録が無かったが、近年千葉でも見つかったと聞いている。
甲信越・東海地方で記録が無いのは愛知県だけのようだ。とはいえ、記録の大部分は長野県だ。
西日本では更に分布は局地的になる。近畿地方では兵庫県と京都府のみから記録がある。しかし、分布は極めて局所的で、兵庫県では香美町と宍粟市の2ヶ所のみが知られ、京都府では南丹市や芦生の原生林など北部寄りにしか記録がない。
中国地方は全県に記録がある。岡山県では北部に多く、中部では少ないという。
四国では、調べた限りでは記録が見つけられなかった。『世界のカトカラ』の分布表でも全県に記録がない(という事は解説欄に四国とあるのはやはり間違いだね)。もし見つかるとすれば、瀬戸内の島嶼部だろう。
九州では大分県九重高原、鹿児島県栗野岳の産地が知られている。熊本県にも記録がある。また長崎県対馬でも見つかっている。しかし極めて稀なようで、海岸部に僅かに残るカシワ林のみで採集されている。
食樹が同じであるハヤシミドリシジミ(註3)の生息地を丹念に探っていけば、新たな産地が見つかりそうだ。
(ハヤシミドリシジミの分布図)
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)
コレがヒメシロシタバの実際の分布に一番近い形なのではないだろうか。
【レッドデータブック】
環境省:準絶滅危惧種(NT)
青森県:Dランク(情報不足)
宮城県:絶滅危惧II類(Vu)
山形県:情報不足
福島県:情報不足
石川県:情報不足
群馬県:絶滅危惧I類
栃木県:絶滅危惧II類
埼玉県:R1(希少種1)
山梨県:絶滅危惧II類
大分県:絶滅危惧II類
鹿児島県:絶滅危惧II類
【成虫の出現期】
成虫は6月中旬から出現し、10月中旬まで見られるが、新鮮な個体が見られるのは8月上旬まで。
時にコシロシタバと同一場所で混棲するが、その場合はコシロよりも出現期間は短い。
【成虫の生態】
クヌギやコナラなどの樹液に好んで集まるが、果実からの吸汁は観察されていない。また、蜜を吸うために花に飛来した例やアブラムシの甘露に集まった例も無いようだ。
尚、糖蜜トラップに誘引されたものは見ていない。しかし糖蜜にも飛来すると聞いたことがあるから、おそらく生息地のカシワ林でトラップを掛ければ寄って来るだろう。
灯火にもよく集まる。
飛来時間は、それほど遅くない。自分の1回だけの経験では午後9時50分頃に最初の飛来があった。以降11時くらいまで飛来が見られた。わりと短時間に纏まって飛んで来た印象がある。ちなみにこの日は全部で10頭近くが飛んで来た。小太郎くん曰く、こんだけ飛んで来たのは初めてで、各地でちょこちょこ見るのだが、何処でも個体数が少ないと聞かされている。そういや文献にも同じような事が書かれてあったわ。
とはいえ、カシワ林の傍らで灯火採集をすると、時に多数が飛来することがあるという。
昼間は樹皮が暗色のカシワなどの樹幹に頭を下にして静止している。コシロシタバは上向きに止まっているから、日中見つけた場合はソレで区別がつく。
驚いて飛ぶと上向きに着地し、数十秒後に姿勢を下向きに変える。但し、コシロシタバほどには敏感ではないという。
この日は、交尾してるのも見れた。
(2020.8.9 長野県木曽町)
と思ったら、エゾシロシタバであった。ワシの記憶メモリーがいい加減なのがバレたね。お恥ずかしい限りである。
見た感じでは、大きさと翅形からしてマウントしている左側が♂だと思われるが、確認はしてない。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んだ方がいいと云う言葉もあるし、そっとしておいたのだ。
話が逸れたが、多分ヒメシロもこんな形で交尾するのだろう。
交尾は発生期間中に多数回行われ、午後7時半から9時の間に観察されている。面白いのは幼虫がブナ科コナラ属を食樹とするカトカラたちは、このように宵の時間に交尾し、ヤナギ科やバラ科を食樹とするカトカラたちは深夜に交尾を行うとゆう事だ。そういえばブナ科コナラ属のクヌギをホストとするオニベニシタバの交尾を見たのも午後8時とか9時くらいだったわ。ちなみに、このエゾシロシタバの交尾は午後10時前であった。エゾシロの食樹もコナラ属ミズナラだけど、条件から微妙にズレるね。とはいえ範疇に入れてもいいかもしれない。交尾が始まった瞬間を見ているワケではないからね。
この交尾時刻の違いって何か意味あんのかな❓
ヤナギ科&バラ科食のカトカラは樹液や糖蜜に飛来する時刻が遅めの傾向があるから、活動時間が違うのかもしれないね。とはいえ例外もあるからなあ…。
産卵行動は発生後期の8月下旬以降に見られる。
面白いのは食樹のカシワだけでなく、しばしばコナラやミズナラ、クヌギにも産卵を試みる♀が見られることだ。食樹の範囲を広げようとでもしているのだろうか❓とかくカトカラたちの行動には謎が多い。
【幼虫の食餌植物】 ブナ科コナラ属:カシワ
食樹はカシワのみが知られるが、他のコナラ属でも代用食になるという。この代用食という言葉、カトカラ以外では蝶のゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の飼育法でもよく目にする。ゼフィルスも食樹以外の植物が代用食となるものが多いのだ。オマケに両者はブナ科コナラ属やバラ科を食樹とするものが多いと云う共通点がある。生活史も似ており、卵で越冬し、年1回の発生で成虫が見られる時期も大体同じだ。
幼虫は15〜40年の壮齢木から100年を越える巨木にまで見られ、樹齢はあまり重要ではないようだ。
(カシワ・柏)
(出典『あきた森づくり活動サポートセンター』)
(葉)
(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)
(幹)
(出典『庭木図鑑 植木ペディア』)
カシワ(柏、槲、檞)。
学名 Quercus dentata
ブナ科コナラ属の落葉中高木。
英名 Japanese Emperor Oak, Kashiwa Oak, Daimyo oak。
カシワはハヤシミドリシジミの幼虫の食樹だから、蝶屋の端くれゆえ、それなりに馴染み深かったけど、英名がエンペラーオーク(オーク材の皇帝)とか大名だとか凄い評価されてる木とは全く知らなかったよ。フランス語でも”chêne de Daimyo”。大名なのだ。
日本、朝鮮半島、台湾、中国に分布する。痩せた乾燥地でも生育することから、火山地帯や海岸などに群落が見られることが多い。
葉は大きく、縁に沿って丸く大きな鋸歯があるのが特徴。ドングリはクヌギに似て丸く、殻斗は先が尖って反り返り、包が密生する。秋に枯れた葉が春まで付いたままで、新芽が出るまでは落葉しない。この特性が落葉広葉樹にも拘らず、海岸部に植栽される事になった。日本の海岸線の防風林には一般的にクロマツが用いられるが、北海道の道北や道東など寒冷でクロマツが育たない地域では、防風林を構成する樹種としてカラマツとともにカシワが採用されることがある。ようはカシワは落葉樹だが、秋に葉が枯れても翌年の春に新芽が芽吹くまで葉が落ちることがない。そのため冬季の強風を防ぐ効果を果たしているワケだ。
そういや北海道の銭函にハヤシミドリとカシワアカシジミを採りに行った時に、そのカシワ林の広大さに驚いたっけ…。
今回、初めて知ったけど、そこは石狩砂丘と呼ばれ、世界的規模のカシワの天然海岸林なんだそうだ。
葉には芳香があり、さらに翌年に新芽が出るまで古い葉が落ちない特性から縁起物(=代が途切れない)とされ、柏餅を包むのに用いられたり、家紋や神紋などにも使用されている。
そう、カシワといえば柏餅なのである。
そうゆうワケで一般に馴染み深い事から、多くの市町村が「自治体の木」に指定している。参考までに以下に並べておく。
北海道北見市、石狩市、日高町、池田町、大樹町、幕別町、士幌町、芽室町、本別町、更別村、中札内村。福島県西郷村、千葉県柏市。
北海道が中心だが、結構な数だ。
でも、関西では殆んど見ない木なんだよね。
一応、カシワ林の分布を確認しとくか…。
(カシワ林の分布)
(出典『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』)
こうして見ると、分布は思ってた以上に局所的だ。稀少なイメージがあるブナなんかよりも余程少ない。ヒメシロの分布が局所的なのは、このカシワの分布が要因になっているのがよく解るね。ヒメシロはカシワ林が無い所には、基本的に居ないカトカラなのだ。
多いと思っていた北海道は沿岸部が中心で意外と少なく、寧ろ青森の方が集中している観がある。ブログ『青森の蝶たち』さんの言ってる事が正しいと理解したよ。
だが、東北地方南部の内陸には広い空白地帯があるね。関東地方と東海地方も殆んど空白だ。
そして信州に分布が集中している。ヒメシロの記録が多いのも頷けるね。
そして、近畿地方も兵庫県西部以外の大部分が空白地帯となっている。そりゃ、ハヤシミドリもヒメシロもおらんわ。
でも関西にはカシワはあまり無いけど、割りと近縁に見えるナラガシワはちょこちょこ有るんだよね。実際、関西では柏餅を包む葉はカシワではなくてナラガシワが使われることの方が多いと聞くしさ。コヤツが代用食にならんのかなあ…。
(ナラガシワ)
(出典『葉と枝による植物図鑑』)
(出典『旧植物生態研究室(波田研)』)
裏側が白いので、風が吹くと遠目でもナラガシワとよく分かる。
これをウラジロミドリシジミやヒロオビミドリシジミの幼虫が食樹として利用している。思うに、ナラガシワが多い兵庫県の三草山とかで、ヒメシロも食樹として利用してるとかないのかね❓可能性は低そうだけどさ。
それよりも、分布図では琵琶湖の東側にカシワが有ることになっている。そっちの方が見つかる可能性が有るんでぇの❓
四国は真っ白だ。一応調べてみたら、全くないワケではないようだ。ある程度まとまって生えているのは小豆島だけで、四国本土には香川県と愛媛県に数本単位で僅かに生えているだけみたい。どうりで食樹を同じくするハヤシミドリシジミの記録も無いワケだね。ゆえにヒメシロシタバは四国には居ないと断言してもいいだろう。もし見つかったとしたら、偶産かカシワ以外の木を利用している事になるね。
中国地方には思っていた以上に多い。この感じだと中国山地の北部に沿って自生していそうだ。
九州は大分県と熊本県の県境、鹿児島県にポツンと分布地がある。どちらもヒメシロの数少ない記録と合致している。でも鹿児島は🔴赤丸になってるから植栽のようだね。
あっ、福岡県にも狭いながら分布地がある。福岡ではヒメシロは未記録の筈だけど、探せば見つかるかもしれない。
分布図の上部には垂直分布の図もある。
これを見ると、沿岸部と標高千メートル前後の高原地帯に分布しているのがよく解る。コレもヒメシロシタバの垂直分布と大体合致していそうだ。
【幼生期の生態】
(卵)
(出典『日本のCatocala』)
背の低いまんじゅう型で縦隆起条と横隆起条が目立つ。環状隆起は一重。稀に消失する。
孵化はコシロシタバよりも遅い。これは芽吹きの遅れるカシワに連動して適応したものと考えられる。
(1・2齢幼虫)
昼間、若齢幼虫は葉裏に静止している。
(6齢幼虫)
(出典『日本のCatocala』)
幼虫の終齢は6齢。
終齢になると、太い枝や樹幹に降りてくる。
尚、長野の野外での終齢幼虫の出現期間は5月下旬から6月上旬みたいだ。
形態はコシロシタバに似ている。コシロシタバの方が全体的にくすんでいて、クヌギの古い枝に似ており、各節背面にある1対の黄色の点列が比較的目立つ。本種の方が腹部前方背面の菱形の淡色斑紋が目立ち、淡褐色を帯びた個体が多い。
野外の幼虫には色彩変異があり、全体がかなり暗化したり、淡色化した個体が見られる。
(終齢幼虫の頭部)
(出典『日本のCatocala』)
一応、コシロシタバの幼生期も確認しておこう。
(コシロシタバの卵)
卵は特に似ていて、ルーペで見ても判別できないらしい。
(2齢幼虫)
若齢幼虫も似てるかも。
(終齢幼虫)
終齢幼虫も似てるような気がする。
色彩変異はあるが、ヒメシロほどには著しくないそうだ。
(終齢幼虫頭部)
(出典 6点共『日本のCatocala』)
あっ、顔はかなり違うぞ。
でも色に騙されてはいけない。よくよく見ると、斑紋パターンは近いような気がする。となると、全般的には両者は似てると言ってもいいんじゃないか。
幼生期が似てるという事は近縁種の証拠だと言っていいだろう。それが従来の分類学での見解だ。なのにDNA解析では近縁ではないと云う結果が出ている。こうゆう事があるから、DNA解析って信用できないんだよね。
おしまい
蛹について書き忘れたので追記しておく。
(ヒメシロシタバの蛹)
(出典『青森の蝶たち』)
と言っても、蛹について言及されているものは殆んど見つけられなかった。どうやらまだ野外では発見されていないようだ。
おそらく他の多くのカトカラと同じく食樹下の落葉の下で蛹化するものと思われる。
追伸
今回のタイトルは、今は亡き森田芳光監督の劇場版映画のデビュー作『の・ようなもの』がモチーフになっている。
1981年に公開された落語の世界を題材にしたコメディタッチの青春群像映画で、第3回ヨコハマ映画祭(1981年度)の日本映画ベストテン第1位、作品賞、新人監督賞を受賞している。
出演は秋吉久美子、伊藤克信、尾藤イサオ、麻生えりか、でんでん他。小堺一機、ラビット関根、室井滋、内海桂子・好江、三遊亭楽太郎、エド・はるみなどもチョイ役で出演している。他にも当時の落語関係者や日活ロマンポルノ関係者などが多数出演している。
公開時には観てなくて、東京にいた頃にTVの深夜映画で観た記憶がある。秋吉久美子のトルコ嬢エリザベスが、とてもキュートだった。この時代は、まだソープランドはトルコ風呂と呼ばれてたんだよね。🎵今日は吉原、堀之内〜。中洲、すすきの、ニューヨーク。思わず浅草を愛するビートたけしのタケちゃんマンの歌を口ずさんじゃったよ。
その後、トルコ青年がマスコミに涙ながらに国の恥だからやめてくれと訴えて、結局ソープランドに改称されたんだよなあ。
主人公の駆け出しの落語家が、好きになった女子高生のお父さんの前で一席演じるのだが、才能がないのを見透かされ、終電が終わった深夜の堀切駅から道中づけしながら浅草〜東京駅〜自宅を目指して朝まで歩くシーンはよく憶えている。ナゼかと云うと、自分も堀切菖蒲園駅に住んでいた彼女とケンカして、深夜に同じようなコースを歩いたからだ。
このシーンでは、今では現存しない建物と風景がフィルムに収められている。アサヒビール吾妻橋工場(現在はアサヒビールタワー、リバーピア吾妻橋。以下カッコ内は跡地)、森下仁丹の広告塔、国際劇場(浅草ビューホテル)、かつてのプロレスの聖地で、ジャイアント馬場とアントニオ猪木のデビュー戦が行われた台東区体育館(台東リバーサイドスポーツセンター)などの歴史ある建物だ。残念ながら、オラが歩いた頃には既に全部消えて無くなってたけどね。
関係ないけど、歩いた時に鮮明に憶えているのは金のウンコだ。
(アサヒビールタワーと金のウンコ)
(出典『江戸川スポーツ新聞社』)
スーパードライホールの上にある金色のウンコみたいなオブジェは、本当はフラムドール(金の炎)という名称で、アサヒビールの燃える心を象徴するとされる。オブジェが炎を表し、その下のホールは聖火台をイメージしたものらしい。
その形状から、みんな「うんこビル」と呼んでたけどね。他には「オタマジャクシ」「練り辛子」「クジラ」「オバケ」「筋斗雲」「黄金の精子」などとも呼ばれていたそうな。
尚、タイトルは三代目三遊亭金馬の十八番(おはこ)の演目「居酒屋」からの引用。
観ていないが、本作の35年後を描いた『の・ようなもの のようなもの』がある。
2011年12月の森田芳光監督の急逝から4年、森田組のスタッフ・キャストが再集結し『の・ようなもの』の35年後を描く本作が制作された(2016年公開)。
監督は『の・ようなもの』以降、助監督として森田作品を支え続け、本作で映画監督デビューした杉山泰一。脚本は、同じく森田作品の助監督を経て、前年『ショートホープ』で監督デビューを飾った堀口正樹。
出演は、主人公の志ん田役に森田芳光監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』の松山ケンイチ。志ん田を振り回しながらも優しく見守るヒロイン役に『間宮兄弟』の北川景子。前作と同じ役で伊藤克信、尾藤イサオ、でんでんらも出演している。また、森田作品ゆかりのキャストも数多く顔を出しているそうだ。
まさか蛾の文章のタイトルで、とうに忘れていた昔の映画や彼女との思い出と邂逅するとは想像だにしてなかったよ。
こういう気持ち、悪かない。
(註1)『世界のカトカラ』と『日本のCatocala』
ー『世界のカトカラ』ー
2011年にむし社から出版された世界的カトカラ研究者である石塚勝己さんの図鑑。全世界のカトカラの約85%が掲載されている。この図鑑をキッカケにキリガやヒトリガ等の蛾類の属や科単位の図鑑が出版されるようになった。
ー『日本のCatocala』ー
2010年に自費出版された日本のカトカラの生態について最も詳細に書かれてある図鑑。
発行後、新たにアマミキシタバがカトカラ属に加えられ、ワモンキシタバからキララキシタバが分離された。そしてマホロバキシタバの新発見もあった。他のカトカラも新たな知見があるだろうから、是非とも改訂版を出して戴きたい。無理っぽいけど、切に願う。今ならもっと売れるだろうし、廉価に出版する方法もあると思うんだけどなあ…。
(註2)昔から類縁関係にあることは示唆されていた
マメとエゾシロの外見はかなり違うのだが、昔から幼虫の形態と生態が似ていることが知られている。
【マメキシタバ Catocala duplicate】
(2019.8月 大阪府四條畷市)
【エゾシロシタバ Catocala dissimilis】
(2020.7月 長野県北安曇郡)
見た目はヒメシロやコシロに近いから、同じ系統かと思いきや、全然違うらしいんだよね。
この辺の事は拙ブログのマメキシタバの回の『侏儒の舞』か、エゾシロシタバの続編『dissimillisの謎を追え』と題した文章のどちらかに書いたような気がする。すまぬが気になる人はそっちを読んで下され。書いてなかったらゴメンなさい。追ってそのうち書きますから許してくんろ。
(註3)ハヤシミドリシジミ
(出典『日本産蝶類標準図鑑』)
シジミチョウ科に属するミドリシジミ(ゼフィルス)の仲間。日本での分布は北海道、本州、九州、佐渡島だが局所的。国外ではロシア南東部、朝鮮半島、中国東北部および中部〜西部に産する。暖地では6月下旬、寒地では7月中旬から見られ、夕刻に活動する。
幼虫の食樹はカシワ(ブナ科)。北海道と長野県では例外的にミズナラから発見された例がある。飼育の場合にはコナラ、アベマキ、ナラガシワ、ミズナラ、クヌギ、アラカシ(全てブナ科)が代用食となる。
ー参考文献ー
◆西尾規孝『日本のCatocala』
◆石塚勝己『世界のカトカラ』
◆岸田泰則『日本産蛾類標準図鑑Ⅱ』
◆江崎俤三『原色日本産蛾類図鑑』
◆長崎進『ヒメシロシタバの新産地』
◆白水隆『日本産蝶類標準図鑑』
(ネット)
◆『ギャラリー・カトカラ全集』カトカラ同好会
◆『みんなで作る日本産蛾類図鑑』
◆『Wikipedia』
◆『兵庫県カトカラ図鑑』きべりはむし
◆『青森の蝶たち』
◆『植物社会学ルルベデータベースに基づく植物分布図』
◆『庭木図鑑 植木ペディア』
◆『葉と枝による植物図鑑』
◆『旧植物生態研究室(波田研)』